八代古今後撰拾遺後拾遺金葉詞花千載新古今百人一首六歌仙枕詞動詞
小倉百人一首、35番札についての説明ページです。読み札(絵札)は「フリガナ付き」、取り札は「ひらがな書き」の共に縦書き。縦横比率も実物そっくりの札で百人一首を紹介します。品詞分解も大きな字と縦書きで読みやすく。
百人一首 35番 「人はいさ 心もしらず ふるさとは」
作者 紀貫之について
- 「きのつらゆき」、三十六歌仙。
- 866年-945年。
- 古今和歌集の撰者であり、歴史上最高の歌人の一人。
- 土佐日記の作者。
- 高度な技巧と知性、感性が融合した稀代の歌人である。
歌の解説
古今集春上42 「初瀬にまうづるごとに宿りける人の家に、ひさしく宿らで、程へてのちにいたりければ、かの家のあるじ、「かくさだかになむやどりはある」と、言ひいだして侍りければ、そこにたてりける梅の花を折りてよめる」
紀貫之
人はいさ
心もしらず
ふるさとは
花ぞ昔の
香ににほひける
人はいさ
心もしらず
ふるさとは
花ぞ昔の
香ににほひける
はなそむかしのかににほひける
- 題訳:初瀬観音参りをするたびに宿泊していた人の家に、久しぶりに訪れみると、主人が「このように宿はあるのに。」と言ったので、そこに植えてあった梅の花を折りとってよんだ歌。
- ひらがな:ひとはいさ こころもしらす ふるさとは はなそむかしの かににほひける
- 現代仮名遣い(読み方):ひとはいさ こころもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににおいける
- 漢字書き:人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香に匂ひける
- 現代語訳:さぁ、どうでしょうか、私のことをご存じなくそのようにおっしゃるけれど、この宿の、梅の花は私の心をよく知っていてくれて、変わらぬ香りで私を迎えてくれています。
- 意味と解説:貫之が宿を素通りして帰ってしまうと勘違いしていた主人は愚痴をこぼします。対して、忙しさから長い間訪れることのできなかった貫之は歌を返します。素通りしていたのではなく、訪れたくても訪れることができなかったという貫之の事情を梅の花はよくわかってくれて、かわらない香りで迎えてくれる。という内容。主人は女性であると推測される。
- ここでいう「ふるさと」は旧都奈良というわけではなく、この宿のことを指している。
- 題(詞書)にて梅と書かれてはいるが、「花、香、匂ひ」から梅と推測できる。
- 初瀬観音とは奈良県桜井市初瀬にある長谷寺をいう。[長谷寺の国宝情報]
- 主人は貫之の歌に対して、「花だにも 同じ心に さくものを 植ゑたる人の 心知らなむ」(貫之集)と返している。意味は「梅の花が同じ心を持っているのなら、それを植えた私の心も知ってもらいたい。」となる。
- 主人の歌は、「愚痴を言ったように聞こえたかもしれませんが、私の本心はあなたに会いたかったのですよ。」という意を込めた歌なのでしょう。詞書と貫之の歌のみでは、なんだか嫌味の言い合いのように感じてしまいますが、主人の返歌によって綺麗にまとまります。
- 梅の香りはよく歌に詠まれ、たとえば、「散りぬとも 香をだに残せ 梅の花 恋しき時の 思ひ出にせむ」(古今48)などがあります。意は「散ってしまっても、香りだけでも残してほしい、梅の花よ。恋しいときに、思い出にしようと思うから。」
- 梅の香りは恋心や女性の象徴として用いられることも多く、この百人一首35番歌で梅の香り(梅を女性と考える)と主人(女性)を対比しているとも読み取れます。「梅の花は変わらず迎えてくれるのに、あなたときたら・・」と。もちろん、貫之と主人はこのような歌を返し合える旧知の親しい仲でありましょう。
- 貫之の技量を考えれば、単なる皮肉の言い合いではなく、上記のような意味ではなかろうかと推測され、また、そう考えたほうがこの歌の魅力が高まるのではないでしょうか。
- まとめると、①宿に久しぶりに訪れる紀貫之、②「宿はあるのに」と愚痴を言われ、③本歌を詠って返す、④主人は「あなたに会いたかったのですよ」と答える。
品詞分解
二句切れ、係り結び(ぞ→ける)
人はいさ心も知らずふるさとは
花ぞ昔の香ににほひける
花ぞ昔の香ににほひける
競技カルタ攻略
ひとは→はなそ (人は、花そ、貫之さん)
ひとはいさ こころもしらす → はなそむかしの かににほひける
百人一首 言の葉データベース
札番 | 歌/上の句と下の句(読み札) | 下の句(取り札) | よみ人 |
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1 解説 | あきのたの かりほのいほの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ 秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ #後撰集秋 | わかころもてはつゆにぬれつつ | 天智天皇 |
2 解説 | はるすぎて なつきにけらし しろたへの ころもほすてふ あまのかぐやま 春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山 #新古今集夏 #奈良県橿原市 #二句切れ #枕詞 #体言止め | ころもほすてふあまのかくやま | 持統天皇 |
3 解説 | あしびきの やまどりのをの しだりをの ながながしよを ひとりかもねむ あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかもねむ #拾遺集恋 #枕詞 #序詞 #係り結び | なかなかしよをひとりかもねむ | 柿本人麿 |
4 解説 | たごのうらに うちいでてみれば しろたへの ふじのたかねに ゆきはふりつつ 田子の浦に 打出でてみれば 白妙の ふじの高嶺に 雪は降りつつ #新古今集冬 #静岡県静岡市清水区由比 #枕詞 | ふしのたかねにゆきはふりつつ | 山部赤人 |
5 解説 | おくやまに もみぢふみわけ なくしかの こゑきくときぞ あきはかなしき 奥山に 紅葉ふみ分け なく鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき #古今集秋 #係り結び | こゑきくときそあきはかなしき | 猿丸太夫 |
6 | かさゝぎの わたせるはしに おくしもの しろきをみれば よぞふけにける かさゝぎの 渡せる橋に おく霜の しろきを見れば 夜ぞふけにける #新古今集冬 #見立て #係り結び | しろきをみれはよそふけにける | 中納言家持 |
7 | あまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも 天の原 ふりさけ見れば 春日なる みかさの山に 出でし月かも #古今集羇旅 | みかさのやまにいてしつきかも | 阿倍仲麻呂 |
8 解説 | わがいほは みやこのたつみ しかぞすむ よをうぢやまと ひとはいふなり わが庵は 都のたつみ しかぞ住む 世をうぢ山と 人はいふなり #古今集雑 #三句切れ #掛詞 #係り結び #京都府宇治市 | よをうちやまとひとはいふなり | 喜撰法師 |
9 解説 | はなのいろは うつりにけりな いたづらに わがみよにふる ながめせしまに 花の色は 移りにけりな 徒に 我が身世にふる ながめせしまに #古今集春 #二句切れ #掛詞 #倒置法 | わかみよにふるなかめせしまに | 小野小町 |
10 解説 | これやこの ゆくもかへるも わかれては しるもしらぬも あふさかのせき これや此の 行くも帰るも 別かれては 知るも知らぬも 逢坂の関 #後撰集雑 #掛詞 #体言止め #滋賀県大津市 | しるもしらぬもあふさかのせき | 蝉丸 |
11 | わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと ひとにはつげよ あまのつりぶね わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人にはつげよ 海人の釣舟 #古今集羇旅 #四句切 #擬人法 #体言止め | ひとにはつけよあまのつりふね | 参議篁 |
12 解説 | あまつかぜ くものかよひぢ ふきとぢよ をとめのすがた しばしとどめむ 天つ風 雲のかよひぢ 吹きとぢよ をとめの姿 しばし留めむ #古今集雑 #三句切れ #見立て | をとめのすかたしはしととめむ | 僧正遍昭 |
13 | つくばねの みねよりおつる みなのがは こひぞつもりて ふちとなりぬる 筑波嶺の 峯より落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる #茨城県つくば市 #後撰集恋 #序詞 #係り結び | こひそつもりてふちとなりぬる | 陽成院 |
14 | みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに みだれそめにし われならなくに 陸奥の しのぶもぢずり 誰故に みだれ初めにし 我ならなくに #福島県福島市 #古今集恋 #四句切れ #序詞 #縁語 #倒置法 | みたれそめにしわれならなくに | 河原左大臣 |
15 解説 | きみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ 君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪は降りつつ #古今集春上 | わかころもてにゆきはふりつつ | 光孝天皇 |
16 | たちわかれ いなばのやまの みねにおふる まつとしきかば いまかへりこむ 立ち別れ いなばの山の 嶺におふる まつとし聞かば 今帰り来む #鳥取県鳥取市 #古今集離別 #掛詞 | まつとしきかはいまかへりこむ | 中納言行平 |
17 解説 | ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みづくくるとは ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 唐紅に 水くくるとは #古今集秋 #二句切れ #枕詞 #擬人法 #見立て #倒置法 #奈良県生駒郡斑鳩町 | からくれなゐにみつくくるとは | 在原業平朝臣 |
18 | すみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ 住の江の 岸に寄る浪 よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむ #大阪府大阪市住吉区 #古今集恋 #序詞 #係り結び | ゆめのかよひちひとめよくらむ | 藤原敏行朝臣 |
19 | なにはがた みじかきあしの ふしのまも あはでこのよを すぐしてよとや 難波潟 短き葦の ふしのまも あはで此の世を すぐしてよとや #大阪府大阪市 #新古今集恋 #序詞 #掛詞 #縁語 #係り結び | あはてこのよをすくしてよとや | 伊勢 |
20 | わびぬれば いまはたおなじ なにはなる みをつくしても あはむとぞおもふ 侘びぬれば 今はた同じ 難波なる 身をつくしても 逢はむとぞ思ふ #大阪府大阪市 #後撰集恋 #二句切れ #掛詞 #係り結び | みをつくしてもあはむとそおもふ | 元良親王 |
21 | いまこむと いひしばかりに ながつきの ありあけのつきを まちいでつるかな 今来むと いひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな #古今集恋 | ありあけのつきをまちいてつるかな | 素性法師 |
22 解説 | ふくからに あきのくさきの しをるれば むべやまかぜを あらしといふらむ 吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を あらしといふらむ #古今集秋 #掛詞 | むへやまかせをあらしといふらむ | 文屋康秀 |
23 | つきみれば ちゞにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど 月見れば 千々に物こそ 悲しけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど #古今集秋 #三句切れ #倒置法 #係り結び | わかみひとつのあきにはあらねと | 大江千里 |
24 解説 | このたびは ぬさもとりあへず たむけやま もみぢのにしき かみのまにまに このたびは 幣もとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに #二句切れ #見立て | もみちのにしきかみのまにまに | 菅家 |
25 解説 | なにしおはば あふさかやまの さねかづら ひとにしられで くるよしもがな 名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人にしられで くるよしもがな #後撰集恋 #掛詞 #縁語 #滋賀県大津市 | ひとにしられてくるよしもかな | 三条右大臣 |
26 解説 | をぐらやま みねのもみぢば こゝろあらば いまひとたびの みゆきまたなむ 小倉山 峯の紅葉ば 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ #京都府京都市右京区 #擬人法 #拾遺集秋 | いまひとたひのみゆきまたなむ | 貞信公 |
27 | みかのはら わきてながるる いづみがは いつみきとてか こひしかるらむ みかの原 わきて流るる 泉川 いつみきとてか 恋しかるらむ #新古今集恋 #序詞 #掛詞 #縁語 #係り結び #京都府木津川市 | いつみきとてかこひしかるらむ | 中納言兼輔 |
28 | やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもへば 山里は 冬ぞ寂しさ まさりける 人目も草も かれぬと思へば #古今集冬 #三句切れ #掛詞 #倒置法 #係り結び | ひとめもくさもかれぬとおもへは | 源宗行朝臣 |
29 | こゝろあてに をらばやをらむ はつしもの おきまどはせる しらぎくのはな 心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花 #古今集秋 #二句切れ #倒置法 #体言止め #係り結び | おきまとはせるしらきくのはな | 凡河内躬恒 |
30 | ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし 有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし #古今集恋 | あかつきはかりうきものはなし | 壬生忠岑 |
31 解説 | あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき 朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪 #奈良県吉野郡吉野町 #体言止め | よしののさとにふれるしらゆき | 坂上是則 |
32 | やまがはに かぜのかけたる しがらみは ながれもあへぬ もみぢなりけり 山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり #古今集秋 #擬人法 #見立て | なかれもあへぬもみちなりけり | 春道列樹 |
33 解説 | ひさかたの ひかりのどけき はるのひに しづごころなく はなのちるらむ ひさかたの 光のどけき 春の日に しづごころなく 花の散るらむ #古今集春 #枕詞 #擬人法 | しつこころなくはなのちるらむ | 紀友則 |
34 | たれをかも しるひとにせむ たかさごの まつもむかしの ともならなくに 誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに #兵庫県高砂市 #二句切れ #倒置法 #係り結び | まつもむかしのともならなくに | 藤原興風 |
35 解説 | ひとはいさ こゝろもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににほひける 人はいさ 心もしらず ふるさとは 花ぞ昔の 香に匂ひける #古今集春 #二句切れ #係り結び | はなそむかしのかににほひける | 紀貫之 |
36 | なつのよは まだよひながら あけぬるを くものいづこに つきやどるらむ 夏の夜は まだ宵ながら あけぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ #古今集夏 #擬人法 | くものいつこにつきやとるらむ | 清原深養父 |
37 | しらつゆに かぜのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまぞちりける 白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける #後撰集秋 #見立て #係り結び | つらぬきとめぬたまそちりける | 文屋朝康 |
38 | わすらるる みをばおもはず ちかひてし ひとのいのちの をしくもあるかな 忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな #拾遺集恋 #二句切れ | ひとのいのちのをしくもあるかな | 右近 |
39 解説 | あさぢふの をののしのはら しのぶれど あまりてなどか ひとのこひしき 浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しき #後撰集恋 #序詞 #係り結び | あまりてなとかひとのこひしき | 参議等 |
40 解説 | しのぶれど いろにいでにけり わがこひは ものやおもふと ひとのとふまで しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで #拾遺集恋 #二句切れ #倒置法 #係り結び | ものやおもふとひとのとふまて | 平兼盛 |
41 | こひすてふ わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもひそめしか 恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか #宮城県多賀城市 | ひとしれすこそおもひそめしか | 壬生忠見 |
42 | ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ すゑのまつやま なみこさじとは 契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 浪こさじとは | すゑのまつやまなみこさしとは | 清原元輔 |
43 | あひみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもはざりけり 逢ひみての 後の心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり | むかしはものをおもはさりけり | 権中納言敦忠 |
44 | あふことの たえてしなくば なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし 逢ふことの 絶えてしなくば なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし | ひとをもみをもうらみさらまし | 中納言朝忠 |
45 | あはれとも いふべきひとは おもほえで みのいたづらに なりぬべきかな 哀れとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな | みのいたつらになりぬへきかな | 謙徳公 |
46 | ゆらのとを わたるふなびと かぢをたえ ゆくへもしらぬ こひのみちかな 由良の門を わたる舟人 梶をたえ 行方もしらぬ 恋の道かな | ゆくへもしらぬこひのみちかな | 曽根好忠 |
47 | やへむぐら しげれるやどの さびしきに ひとこそみえね あきはきにけり 八重葎 しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋はきにけり | ひとこそみえねあきはきにけり | 恵慶法師 |
48 | かぜをいたみ いはうつなみの おのれのみ くだけてものを おもふころかな 風をいたみ 岩うつ浪の おのれのみ 砕けてものを 思ふ頃かな | くたけてものをおもふころかな | 源重之 |
49 | みかきもり ゑじのたくひの よるはもえ ひるはきえつつ ものをこそおもへ 御垣守 衛士のたく火の 夜はもえ 昼は消えつつ ものをこそ思へ | ひるはきえつつものをこそおもへ | 大中臣能宣朝臣 |
50 解説 | きみがため をしからざりし いのちさへ ながくもがなと おもひけるかな 君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな #後拾遺恋 | なかくもかなとおもひけるかな | 藤原義孝 |
51 | かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもひを かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな もゆる思ひを #滋賀県米原市 | さしもしらしなもゆるおもひを | 藤原実方朝臣 |
52 解説 | あけぬれば くるるものとは しりながら なほうらめしき あさぼらけかな 明けぬれば くるるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな #後拾遺恋 | なほうらめしきあさほらけかな | 藤原道信朝臣 |
53 | なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる 嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くるまは いかに久しき ものとかは知る | いかにひさしきものとかはしる | 右大将道綱母 |
54 | わすれじの ゆくすゑまでは かたければ けふをかぎりの いのちともがな 忘れじの 行末までは 難ければ 今日を限りの 命ともがな | けふをかきりのいのちともかな | 儀同三司母 |
55 | たきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なほきこえけれ 瀧の音は たえて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞えけれ | なこそなかれてなほきこえけれ | 大納言公任 |
56 解説 | あらざらむ このよのほかの おもひでに いまひとたびの あふこともがな あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな #後拾遺集恋三 | いまひとたひのあふこともかな | 和泉式部 |
57 解説 | めぐりあひて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし よはのつきかな めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな #新古今集雑 #縁語 #係り結び | くもかくれにしよはのつきかな | 紫式部 |
58 | ありまやま ゐなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする 有馬山 猪名のささ原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする | いてそよひとをわすれやはする | 大弐三位 |
59 | やすらはで ねなましものを さよふけて かたぶくまでの つきをみしかな やすらはで 寝なましものを 小夜更けて 傾くまでの 月を見しかな | かたふくまてのつきをみしかな | 赤染衛門 |
60 解説 | おほえやま いくののみちの とほければ まだふみもみず あまのはしだて 大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立 #金葉集雑 #掛詞 #縁語 #倒置法 #体言止め #京都府宮津市 #京都府福知山市 | またふみもみすあまのはしたて | 小式部内侍 |
61 | いにしへの ならのみやこの やへざくら けふここのへに にほひぬるかな 古への 奈良の都の 八重ざくら 今日九重に 匂ひぬるかな | けふここのへににほひぬるかな | 伊勢大輔 |
62 解説 | よをこめて とりのそらねは はかるとも よにあふさかの せきはゆるさじ 夜をこめて 鳥のそら音は はかるとも 世に逢坂の 関はゆるさじ #後拾遺集雑 #掛詞 #滋賀県大津市 | よにあふさかのせきはゆるさし | 清少納言 |
63 | いまはただ おもひたえなむ とばかりを ひとづてならで いふよしもがな 今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな | ひとつてならていふよしもかな | 左京大夫道雅 |
64 解説 | あさぼらけ うぢのかはぎり たえだえに あらはれわたる せぜのあじろぎ 朝ぼらけ 宇治の川霧 絶えだえに あらはれ渡る 瀬々の網代木 #京都府宇治市 #千載集冬 #体言止め | あらはれわたるせせのあしろき | 権中納言定頼 |
65 | うらみわび ほさぬそでだに あるものを こひにくちなむ なこそをしけれ 恨み侘び ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ | こひにくちなむなこそをしけれ | 相模 |
66 | もろともに あはれとおもへ やまざくら はなよりほかに しるひともなし 諸共に あはれと思へ 山ざくら 花よりほかに 知る人もなし | はなよりほかにしるひともなし | 前大僧正行尊 |
67 | はるのよの ゆめばかりなる たまくらに かひなくたたむ なこそをしけれ 春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ | かひなくたたむなこそをしけれ | 周防内侍 |
68 | こゝろにも あらでうきよに ながらへば こひしかるべき よはのつきかな 心にも あらで憂世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな | こひしかるへきよはのつきかな | 三条院 |
69 解説 | あらしふく みむろのやまの もみぢばは たつたのかはの にしきなりけり 嵐ふく 三室の山の もみぢ葉は 竜田の川の 錦なりけり #後拾遺秋 #見立て #歌枕 #本歌取り #奈良県生駒郡斑鳩町 | たつたのかはのにしきなりけり | 能因法師 |
70 | さびしさに やどをたちいでて ながむれば いづくもおなじ あきのゆふぐれ 寂しさに 宿を立ち出でて 眺むれば いづくも同じ 秋の夕暮れ | いつくもおなしあきのゆふくれ | 良暹法師 |
71 | ゆふされば かどたのいなば おとづれて あしのまろやに あきかぜぞふく 夕されば 門田の稲葉 おとづれて あしのまろやに 秋風ぞ吹く | あしのまろやにあきかせそふく | 大納言経信 |
72 | おとにきく たかしのはまの あだなみは かけじやそでの ぬれもこそすれ 音に聞く 高師の浜の あだ浪は かけじや袖の ぬれもこそすれ | かけしやそてのぬれもこそすれ | 祐子内親王家紀伊 |
73 | たかさごの をのへのさくら さきにけり とやまのかすみ たたずもあらなむ 高砂の 尾の上の桜 咲きにけり 外山の霞 立たずもあらなむ | とやまのかすみたたすもあらなむ | 権中納言匡房 |
74 | うかりける ひとをはつせの やまおろし はげしかれとは いのらぬものを うかりける 人を初瀬の 山おろし はげしかれとは 祈らぬものを | はけしかれとはいのらぬものを | 源俊頼朝臣 |
75 | ちぎりおきし させもがつゆを いのちにて あはれことしの あきもいぬめり 契りおきし させもが露を 命にて あはれ今年の 秋も去ぬめり | あはれことしのあきもいぬめり | 藤原基俊 |
76 解説 | わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの くもゐにまがふ おきつしらなみ わたの原 漕ぎ出でて見れば 久方の 雲居にまがふ 沖つ白浪 #詞花集雑 #枕詞 #体言止め | くもゐにまかふおきつしらなみ | 法性寺入道前関白太政大臣 |
77 解説 | せをはやみ いはにせかるる たきがはの われてもすゑに あはむとぞおもふ 瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ #詞花集恋 #序詞 #係り結び | われてもすゑにあはむとそおもふ | 崇徳院 |
78 解説 | あはぢしま かよふちどりの なくこゑに いくよねざめぬ すまのせきもり 淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に いく夜寝覚めぬ 須磨の関守 #兵庫県神戸市 #金葉集冬 #四句切れ #倒置法 #体言止め | いくよねさめぬすまのせきもり | 源兼昌 |
79 | あきかぜに たなびくくもの たえまより もれいづるつきの かげのさやけさ 秋風に たなびく雲の 絶間より もれ出づる月の 影のさやけさ | もれいつるつきのかけのさやけさ | 左京大夫顕輔 |
80 | ながからむ こころもしらず くろかみの みだれてけさは ものをこそおもへ ながからむ 心も知らず 黒髪の みだれて今朝は ものをこそ思へ | みたれてけさはものをこそおもへ | 待賢門院堀河 |
81 解説 | ほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有明の 月ぞ残れる #千載集夏 #係り結び | たたありあけのつきそのこれる | 後徳大寺左大臣(藤原実定) |
82 | おもひわび さてもいのちは あるものを うきにたへぬは なみだなりけり 思ひわび さても命は あるものを 憂きに堪へぬは 涙なりけり | うきにたへぬはなみたなりけり | 道因法師 |
83 | よのなかよ みちこそなけれ おもひいる やまのおくにも しかぞなくなる 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる | やまのおくにもしかそなくなる | 皇太后宮大夫俊成 |
84 | ながらへば またこのごろや しのばれむ うしとみしよぞ いまはこひしき ながらへば また此の頃や しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき | うしとみしよそいまはこひしき | 藤原清輔朝臣 |
85 | よもすがら ものおもふころは あけやらで ねやのひまさへ つれなかりけり 夜もすがら もの思ふ頃は 明けやらで ねやのひまさへ つれなかりけり | ねやのひまさへつれなかりけり | 俊恵法師 |
86 | なげけとて つきやはものを おもはする かこちがほなる わがなみだかな 嘆けとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな | かこちかほなるわかなみたかな | 西行法師 |
87 解説 | むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆふぐれ 村雨の 露もまだひぬ 槙の葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ #新古今集秋下 #体言止め | きりたちのほるあきのゆふくれ | 寂蓮法師 |
88 | なにはえの あしのかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや こひわたるべき 難波江の あしのかりねの 一夜ゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき | みをつくしてやこひわたるへき | 皇嘉門院別当 |
89 | たまのをよ たえなばたえね ながらへば しのぶることの よはりもぞする 玉の緒よ たえなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする | しのふることのよはりもそする | 式子内親王 |
90 | みせばやな をじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかはらず 見せばやな 雄島のあまの 袖だにも 濡れにぞ濡れし 色はかはらず #宮城県松島町 | ぬれにそぬれしいろはかはらす | 殷富門院大輔 |
91 解説 | きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねむ きりぎりす なくや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む #新古今集秋 #掛詞 #本歌取り #係り結び | ころもかたしきひとりかもねむ | 後京極摂政前太政大臣 |
92 | わがそでは しほひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまもなし わが袖は 汐干に見えぬ 沖の石の 人こそ知らね 乾く間もなし | ひとこそしらねかわくまもなし | 二条院讃岐 |
93 解説 | よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのをぶねの つなでかなしも 世の中は 常にもがもな 渚こぐ 海人の小舟の 綱手かなしも #新勅撰集羇旅 #二句切れ #本歌取り | あまのをふねのつなてかなしも | 鎌倉右大臣(源実朝) |
94 解説 | みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり み吉野の 山の秋風 小夜更けて ふるさと寒く 衣うつなり #新古今集秋 #奈良県吉野町 #本歌取り | ふるさとさむくころもうつなり | 参議雅経 |
95 | おほけなく うきよのたみに おほふかな わがたつそまに すみぞめのそで おほけなく うき世の民に おほふかな 我が立つ杣に 墨染の袖 | わかたつそまにすみそめのそて | 前大僧正慈圓 |
96 | はなさそふ あらしのにはの ゆきならで ふりゆくものは わがみなりけり 花さそふ あらしの庭の 雪ならで ふりゆくものは 我が身なりけり | ふりゆくものはわかみなりけり | 入道前太政大臣 |
97 解説 | こぬひとを まつほのうらの ゆふなぎに やくやもしほの みもこがれつつ 来ぬ人を 松帆の浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ #新勅撰集恋 #序詞 #掛詞 #縁語 #本歌取り #兵庫県淡路市 | やくやもしほのみもこかれつつ | 権中納言定家 |
98 | かぜそよぐ ならのをがはの ゆふぐれは みそぎぞなつの しるしなりける 風そよぐ 楢の小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける | みそきそなつのしるしなりける | 従二位家隆 |
99 | ひともをし ひともうらめし あぢきなく よをおもふゆゑに ものおもふみは 人もをし 人もうらめし あぢきなく 世を思ふ故に もの思ふ身は | よをおもふゆゑにものおもふみは | 後鳥羽院 |
100 | ももしきや ふるきのきばの しのぶにも なほあまりある むかしなりけり 百敷や 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり | なほあまりあるむかしなりけり | 順徳院 |