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千載和歌集(冷泉家時雨亭文庫蔵)
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千載和歌集のデータベース

千載和歌集とは

  • 七番目の勅撰和歌集であり、後白河院によって撰集が院宣され、撰者は藤原俊成としなり
  • 1188年に完成。

    千載和歌集の構成

    春上 春下 秋上 秋下 離別 羈旅 哀傷
    76 59 90 76 85 89 22 47 61 35
    % 5.8 4.5 6.9 5.8 6.5 6.8 1.7 3.6 4.7 2.7
    恋一 恋二 恋三 恋四 恋五 雑上 雑中 雑下 釈教 神祇
    63 76 60 64 55 93 108 42 54 33
    % 4.8 5.8 4.6 4.9 4.2 7.2 8.3 3.2 4.1 2.5
    • 巻二十から成り、全1288首、及び、異本歌の2首。

    千載和歌集 言の葉データベース

    「かな」は原文と同様に濁点を付けておりませんので、例えば「郭公(ほととぎす)」を検索したいときは、「ほとときす」と入力してください。

    歌番号よみ人
    1はるのくるあしたのはらをみわたせは霞もけふそたちはしめける
    はるのくる あしたのはらを みわたせは かすみもけふそ たちはしめける
    源俊頼朝臣春上
    2みむろ山たににや春のたちぬらむ雪のした水いはたたくなり
    みむろやま たににやはるの たちぬらむ ゆきのしたみつ いはたたくなり
    中納言国信春上
    3雪ふかきいはのかけ道あとたゆるよし野の里も春はきにけり
    ゆきふかき いはのかけみち あとたゆる よしののさとも はるはきにけり
    待賢門院堀河春上
    4みちたゆといとひしものを山さとにきゆるはをしきこその雪かな
    みちたゆと いとひしものを やまさとに きゆるはをしき こそのゆきかな
    前中納言匡房春上
    5春たては雪のした水うちとけて谷のうくひすいまそ鳴くなる
    はるたては ゆきのしたみつ うちとけて たにのうくひす いまそなくなる
    藤原顕綱朝臣春上
    6山さとのかきねに春やしるからんかすまぬさきに鴬のなく
    やまさとの かきねにはるや しるからむ かすまぬさきに うくひすのなく
    大納言隆国春上
    7煙かとむろのやしまをみしほとにやかても空のかすみぬるかな
    けふりかと むろのやしまを みしほとに やかてもそらの かすみぬるかな
    源俊頼朝臣春上
    8かすみしく春のしほちをみわたせはみとりをわくるおきつしら浪
    かすみしく はるのしほちを みわたせは みとりをわくる おきつしらなみ
    摂政前右大臣春上
    9わきも子か袖ふるやまも春きてそ霞のころもたちわたりける
    わきもこか そてふるやまも はるきてそ かすみのころも たちわたりける
    前中納言匡房春上
    10春くれはすきのしるしもみえぬかな霞そたてるみわの山もと
    はるくれは すきのしるしも みえぬかな かすみそたてる みわのやまもと
    刑部卿頼輔春上
    11みわたせはそことしるしの杉もなし霞のうちやみわの山もと
    みわたせは そことしるしの すきもなし かすみのうちや みわのやまもと
    左兵衛督隆房春上
    12ときはなる松もや春をしりぬらんはつねをいはふ人にひかれて
    ときはなる まつもやはるを しりぬらむ はつねをいはふ ひとにひかれて
    待賢門院堀河春上
    13うらやまし雪のした草かきわけてたれをとふひのわかななるらん
    うらやまし ゆきのしたくさ かきわけて たれをとふひの わかななるらむ
    治部卿通俊春上
    14かすか野の雪をわかなにつみそへてけふさへ袖のしほれぬるかな
    かすかのの ゆきをわかなに つみそへて けふさへそての しをれぬるかな
    源俊頼朝臣春上
    15さきそむる梅のたちえにふる雪のかさなるかすをとへとこそおもへ
    さきそむる うめのたちえに ふるゆきの かさなるかすを とへとこそおもへ
    権中納言俊忠春上
    16むめかえに心もゆきてかさなるをしらてや人のとへといふらん
    うめかえに こころもゆきて かさなるを しらてやひとの とへといふらむ
    源俊頼朝臣春上
    17むめかえにふりつむ雪は鴬のはかせにちるも花かとそみる
    うめかえに ふりつむゆきは うくひすの はかせにちるも はなかとそみる
    左京大夫顕輔春上
    18かをる香のたえせぬ春はむめの花ふきくる風やのとけかるらん
    かをるかの たえせぬはるは うめのはな ふきくるかせや のとけかるらむ
    久我前太政大臣春上
    19いまよりはむめさくやとは心せんまたぬにきます人も有りけり
    いまよりは うめさくやとは こころせむ またぬにきます ひともありけり
    大納言師頼春上
    20にほひもてわかはそわかむ梅のはなそれともみえぬ春のよの月
    にほひもて わかはそわかむ うめのはな それともみえぬ はるのよのつき
    前中納言匡房春上
    21むめの花をりてかさしにさしつれは衣におつる雪かとそみる
    うめのはな をりてかさしに さしつれは ころもにおつる ゆきかとそみる
    大炊御門右大臣春上
    22むめかかにおとろかれつつ春のよのやみこそ人はあくからしけれ
    うめかかに おとろかれつつ はるのよの やみこそひとは あくからしけれ
    和泉式部春上
    23さ夜ふけて風やふくらん花のかのにほふここちのそらにするかな
    さよふけて かせやふくらむ はなのかの にほふここちの そらにするかな
    藤原道信朝臣春上
    24はるの夜はのきはのむめをもる月のひかりもかをる心ちこそすれ
    はるのよは のきはのうめを もるつきの ひかりもかをる ここちこそすれ
    皇太后宮大夫俊成春上
    25春のよはふきまふ風のうつり香を木ことにむめとおもひけるかな
    はるのよは ふきまふかせの うつりかを きことにうめと おもひけるかな
    崇徳院御製春上
    26むめかかはおのかかきねをあくかれてまやのあたりにひまもとむなり
    うめかかは おのかかきねを あくかれて まやのあたりに ひまもとむなり
    源俊頼朝臣春上
    27むめかかにこゑうつりせは鴬のなく一えたはをらましものを
    うめかかに こゑうつりせは うくひすの なくひとえたは をらましものを
    右大臣春上
    28梅かえの花にこつたふうくひすのこゑさへにほふ春の曙
    うめかえの はなにこつたふ うくひすの こゑさへにほふ はるのあけほの
    仁和寺法親王(守覚)春上
    29風わたるのきはのむめに鴬のなきてこつたふ春のあけほの
    かせわたる のきはのうめに うくひすの なきてこつたふ はるのあけほの
    権大納言実家春上
    30むかしよりちららむやとのむめの花わくる心は色にみゆらん
    むかしより ちらさぬやとの うめのはな わくるこころは いろにみゆらむ
    大納言定房春上
    31よも山にこのめ春さめふりぬれはかそいろはとや花のたのまん
    よもやまに このめはるさめ ふりぬれは かそいろはとや はなのたのまむ
    前中納言匡房春上
    32はるさめのふりそめしよりかたをかのすそ野の原そあさみとりなる
    はるさめの ふりそめしより かたをかの すそののはらそ あさみとりなる
    藤原基俊春上
    33つれつれとふれは涙の南なるを春の物とや人はみるらん
    つれつれと ふれはなみたの あめなるを はるのものとや ひとはみるらむ
    和泉式部春上
    34み山木のかけののしたの下わらひもえいつれともしる人もなし
    みやまきの かけののしたの したわらひ もえいつれとも しるひともなし
    藤原基俊春上
    35みこもりにあしのわかはやもえぬらん玉江のぬまをあさる春こま
    みこもりに あしのわかはや もえぬらむ たまえのぬまを あさるはるこま
    藤原清輔朝臣春上
    36春くれはたのむのかりもいまはとてかへる雲ちにおもひたつなり
    はるくれは たのむのかりも いまはとて かへるくもちに おもひたつなり
    源俊頼朝臣春上
    37なかむれはかすめるそらのうき雲とひとつになりぬかへるかりかね
    なかむれは かすめるそらの うきくもと ひとつになりぬ かへるかりかね
    左近中将良経春上
    38あまつそらひとつにみゆるこしの海の浪をわけてもかへる雁かね
    あまつそら ひとつにみゆる こしのうみの なみをわけても かへるかりかね
    前右京権大夫頼政春上
    39かへるかりいく雲ゐともしらねとも心はかりをたくへてそやる
    かへるかり いくくもゐとも しらねとも こころはかりを たくへてそやる
    祝部宿禰成仲春上
    40春はなほはなのにほひもさもあらはあれたた身にしむは曙のそら
    はるはなほ はなのにほひも さもあらはあれ たたみにしむは あけほののそら
    藤原季通朝臣春上
    41あさゆふに花まつころはおもひねの夢のうちにそさきはしめける
    あさゆふに はなまつころは おもひねの ゆめのうちにそ さきはしめける
    崇徳院御製春上
    42いつかたに花さきぬらんとおもふよりよもの山辺にちる心かな
    いつかたに はなさきぬらむと おもふより よものやまへに ちるこころかな
    待賢門院堀川春上
    43山さくらたつぬときくにさそはれぬ老のこころのあくかるるかな
    やまさくら たつぬときくに さそはれぬ おいのこころの あくかるるかな
    京極前太政大臣春上
    44かけきよき花のかかみとみゆるかなのとかにすめるしら川の水
    かけきよき はなのかかみと みゆるかな のとかにすめる しらかはのみつ
    花園左おほいまうちきみ春上
    45よろつ代の花のためしやけふならんむかしもかかる春しなけれは
    よろつよの はなのためしや けふならむ むかしもかかる はるしなけれは
    徳大寺左大臣(于時左兵衛督)春上
    46たつねつる花のあたりになりにけりにほふにしるし春の山かせ
    たつねつる はなのあたりに なりにけり にほふにしるし はるのやまかせ
    崇徳院御製春上
    47かへるさをいそかぬほとの道ならはのとかにみねの花はみてまし
    かへるさを いそかぬほとの みちならは のとかにみねの はなはみてまし
    法性寺入道前太政大臣春上
    48山さくらにほふあたりの春かすみ風をはよそにたちへたてなん
    やまさくら にほふあたりの はるかすみ かせをはよそに たちへたてなむ
    中納言女王春上
    49花ゆゑにかからぬ山そなかりける心ははるのかすみならねと
    はなゆゑに かからぬやまそ なかりける こころははるの かすみならねと
    藤原顕綱朝臣春上
    50さくら花おほくの春にあひぬれと昨日けふをやためしにはせん
    さくらはな おほくのはるに あひぬれと きのふけふをや ためしにはせむ
    京極前太政大臣春上
    51はなさかりはるの山へをみわたせはそらさヘにほふ心ちこそすれ
    はなさかり はるのやまへを みわたせは そらさへにほふ ここちこそすれ
    後二条関白内大臣春上
    52さきにほふ花のあたりは春なからたえせぬやとのみゆきとそみる
    さきにほふ はなのあたりは はるなから たえせぬやとの みゆきとそみる
    右衛門督基忠春上
    53たつねきてたをるさくらのあキふに花のたもとのぬれぬ日そなき
    たつねきて たをるさくらの あさつゆに はなのたもとの ぬれぬひそなき
    中院右のおほいまうちきみ春上
    54かりにたにいとふ心やなからましちらぬ花さくこの世なりせは
    かりにたに いとふこころや なからまし ちらぬはなさく このよなりせは
    右大臣春上
    55みな人の心にそむるさくら花いくしほ年にいろまさるらん
    みなひとの こころにそむる さくらはな いくしほとしに いろまさるらむ
    前左衛門督公光春上
    56かつらきやたかまの山のさくら花雲井のよそにみてや過きなん
    かつらきや たかまのやまの さくらはな くもゐのよそに みてやすきなむ
    左京大夫顕輔春上
    57山さくらかすみこめたるありかをはつらきものから風そしらする
    やまさくら かすみこめたる ありかをは つらきものから かせそしらする
    前参議教長春上
    58神かきのみむろの山は春きてそ花のしらゆふかけてみえける
    かみかきの みむろのやまは はるきてそ はなのしらゆふ かけてみえける
    藤原清輔朝臣春上
    59よもすから花のにほひをおもひやる心やみねにたひねしつらん
    よもすから はなのにほひを おもひやる こころやみねに たひねしつらむ
    仁和寺後入道法親王(覚性)春上
    60さきぬやとしらぬ山ちにたつねいるわれをは花のしをるなりけり
    さきぬやと しらぬやまちに たつねいる われをははなの しをるなりけり
    摂政前右大臣春上
    61くれはてぬかへさはおくれ山さくらたかためにきてまとふとかしる
    くれはてぬ かへさはおくれ やまさくら たかためにきて まとふとかしる
    源俊頼朝臣春上
    62花ゆゑにしらぬ山路はなけれともまとふは春の心なりけり
    はなゆゑに しらぬやまちは なけれとも まとふははるの こころなりけり
    道因法師俗名(敦頼)春上
    63としをへておなしさくらの花の色をそめます物は心なりけり
    としをへて おなしさくらの はなのいろを そめますものは こころなりけり
    藤原公時朝臣春上
    64花さかりよもの山へにあくかれて春は心のみにそはぬかな
    はなさかり よものやまへに あくかれて はるはこころの みにそはぬかな
    藤原公衡朝臣春上
    65よし野川みかさはさしもまさらしをあをねをこすや花のしら浪
    よしのかは みかさはさしも まさらしを あをねをこすや はなのしらなみ
    顕昭法師春上
    66ささ浪やしかのみやこはあれにしをむかしなからの山さくらかな
    ささなみや しかのみやこは あれにしを むかしなからの やまさくらかな
    読人知らず春上
    67ささ浪や志賀の花そのみるたひにむかしの人の心をそしる
    ささなみや しかのはなその みるたひに むかしのひとの こころをそしる
    祝部宿禰成仲春上
    68たかさこのをのへの桜さきぬれはこすゑにかくるおきつ白浪
    たかさこの をのへのさくら さきぬれは こすゑにかくる おきつしらなみ
    賀茂成保春上
    69おしなへて花のさかりに成りにけり山のはことにかかるしら雲
    おしなへて はなのさかりに なりにけり やまのはことに かかるしらくも
    西行法師春上
    70芳野やまはなのさかりになりぬれはたたぬ時なきみねのしら雲
    よしのやま はなのさかりに なりぬれは たたぬときなき みねのしらくも
    藤原為業(法名寂念)春上
    71春をへてにほひをそふる山さくら花はおいこそさかりなりけれ
    はるをへて にほひをそふる やまさくら はなはおいこそ さかりなりけれ
    源仲正春上
    72しら雲とみねのさくらはみゆれとも月のひかりはへたてさりけり
    しらくもと みねのさくらは みゆれとも つきのひかりは へたてさりけり
    待賢門院堀河春上
    73花の色にひかりさしそふはるの夜そこのまの月はみるへかりける
    はなのいろに ひかりさしそふ はるのよそ このまのつきは みるへかりける
    上西門院兵衛春上
    74をはつせの花のさかりをみわたせは霞にまかふみねのしら雲
    をはつせの はなのさかりを みわたせは かすみにまかふ みねのしらくも
    太宰大弐重家春上
    75ささ浪やなからの山のみねつつきみせはや人に花のさかりを
    ささなみや なからのやまの みねつつき みせはやひとに はなのさかりを
    藤原範綱春上
    76御よしのの花のさかりをけふみれはこしのしらねに春かせそふく
    みよしのの はなのさかりを けふみれは こしのしらねに はるかせそふく
    皇太后宮大夫俊成(法名釈河)春上
    77さきしよりちるまてみれは木のもとに花も日かすもつもりぬるかな
    さきしより ちるまてみれは このもとに はなもひかすも つもりぬるかな
    白河院御製春下
    78いけ水にみきはのさくらちりしきて浪の花こそさかりなりけれ
    いけみつに みきはのさくら ちりしきて なみのはなこそ さかりなりけれ
    院御製春下
    79しら雲とみねにはみえてさくら花ちれはふもとの雪にそ有りける
    しらくもと みねにはみえて さくらはな ちれはふもとの ゆきにそありける
    大宮前のおほきおほいまうちきみ春下
    80よし野やま花はなかはにちりにけりたえたえのこるみねのしら雲
    よしのやま はなはなかはに ちりにけり たえたえのこる みねのしらくも
    藤原季通朝臣春下
    81山さくらをしむこころのいくたひかちる木のもとにゆきかかるらん
    やまさくら をしむこころの いくたひか ちるこのもとに ゆきかかるらむ
    内侍周防春下
    82はるさめにちる花みれはかきくらしみそれし空の心ちこそすれ
    はるさめに ちるはなみれは かきくらし みそれしそらの ここちこそすれ
    大納言長家春下
    83ふめはをしふまてはゆかんかたもなし心つくしの山さくらかな
    ふめはをし ふまてはゆかむ かたもなし こころつくしの やまさくらかな
    上東門院赤染衛門春下
    84山さくらちちに心のくたくるはちる花ことにそふにや有るらん
    やまさくら ちちにこころの くたくるは ちるはなことに そふにやあるらむ
    前中納言匡房春下
    85はなのちる木のしたかけはおのつからそめぬさくらの衣をそきる
    はなのちる このしたかけは おのつから そめぬさくらの ころもをそきる
    藤原仲実朝臣春下
    86春をへて花ちらましやおく山のかせをさくらの心とおもはは
    はるをへて はなちらましや おくやまの かせをさくらの こころとおもはは
    藤原基俊春下
    87あらしふくしかの山辺のさくら花ちれは雲井にささ浪そたつ
    あらしふく しかのやまへの さくらはな ちれはくもゐに ささなみそたつ
    右兵衛督公行春下
    88春かせに志賀の山こえ花ちれはみねにそうらの浪はたちける
    はるかせに しかのやまこえ はなちれは みねにそうらの なみはたちける
    前参議親隆春下
    89さくらさくひらの山かせ吹くままに花になりゆくしかのうら浪
    さくらさく ひらのやまかせ ふくままに はなになりゆく しかのうらなみ
    左近中将良経春下
    90ちりかかる花のにしきはきたれともかへらむことそわすられにける
    ちりかかる はなのにしきは きたれとも かへらむことそ わすられにける
    右近大将実房春下
    91あかなくに袖につつめはちる花をうれしとおもふになりぬへきかな
    あかなくに そてにつつめは ちるはなを うれしとおもふに なりぬへきかな
    権大納言実国春下
    92さくら花うき身にかふるためしあらはいきてちるをはをしまさらまし
    さくらはな うきみにかふる ためしあらは いきてちるをは をしまさらまし
    権中納言通親春下
    93みよしのの山した風やはらふらむこすゑにかへる花のしら雪
    みよしのの やましたかせや はらふらむ こすゑにかへる はなのしらゆき
    俊恵法師春下
    94ひとえたはをりてかへらむ山さくら風にのみやはちらしはつへき
    ひとえたは をりてかへらむ やまさくら かせにのみやは ちらしはつへき
    源有房春下
    95ちる花を身にかふはかりおもへともかなはてとしの老いにけるかな
    ちるはなを みにかふはかり おもへとも かなはてとしの おいにけるかな
    遣因法師春下
    96あかなくにちりぬる花のおもかけや風にしられぬさくらなるらん
    あかなくに ちりぬるはなの おもかけや かせにしられぬ さくらなるらむ
    賀盛法師春下
    97山さくらちるをみてこそおもひしれたつねぬ人は心ありけり
    やまさくら ちるをみてこそ おもひしれ たつねぬひとは こころありけり
    源仲綱春下
    98よそにてそきくへかりけるさくら花めのまへにてもちらしつるかな
    よそにてそ きくへかりける さくらはな めのまへにても ちらしつるかな
    道命法師春下
    99さくらちる水のおもにはせきとむる花のしからみかくへかりけり
    さくらちる みつのおもには せきとむる はなのしからみ かくへかりけり
    能因法師春下
    100山かせにちりつむ花のなかれすはいかてしらまし谷のした水
    やまかせに ちりつむはなの なかれすは いかてしらまし たにのしたみつ
    花薗左大臣春下
    101花のみなちりてののちそ山さとのはらはぬ庭はみるへかりける
    はなのみな ちりてののちそ やまさとの はらはぬにはは みるへかりける
    前大納言俊実春下
    102ふるさとは花こそいととしのはるれちりぬるのちはとふ人もなし
    ふるさとは はなこそいとと しのはるれ ちりぬるのちは とふひともなし
    藤原基俊春下
    103吹くかせをなこそのせきとおもへともみちもせにちる山桜かな
    ふくかせを なこそのせきと おもへとも みちもせにちる やまさくらかな
    源義家朝臣春下
    104したさゆるひむろの山のおそさくらきえのこりける雪かとそみる
    したさゆる ひむろのやまの おそさくら きえのこりける ゆきかとそみる
    源仲正春下
    105かかみ山ひかりは花のみせけれはちりつみてこそさひしかりけれ
    かかみやま ひかりははなの みせけれは ちりつみてこそ さひしかりけれ
    前参議親隆春下
    106心なきわか身なれとも津の国のなにはの春にたへすも有るかな
    こころなき わかみなれとも つのくにの なにはのはるに たへすもあるかな
    藤原季通朝臣春下
    107おもふことちえにやしけきよふこ鳥しのたのもりのかたに鳴くなり
    おもふこと ちえにやしけき よふことり しのたのもりの かたになくなり
    前中納言匡房春下
    108こよひねてつみてかへらむすみれ草をののしはふは露しけくとも
    こよひねて つみてかへらむ すみれくさ をののしはふは つゆしけくとも
    中納言国信春下
    109ききすなくいはたのをののつほすみれしめさすはかり成りにけるかな
    ききすなく いはたのをのの つほすみれ しめさすはかり なりにけるかな
    修埋大夫顕季春下
    110道とほみいる野の原のつほすみれ春のかたみにつみてかへらん
    みちとほみ いるののはらの つほすみれ はるのかたみに つみてかへらむ
    源顕国春下
    111はるふかみ井ての河水かけそははいくへかみえむ山ふきのはな
    はるふかみ ゐてのかはみつ かけそはは いくへかみえむ やまふきのはな
    前中納言匡房春下
    112山ふきのはなさきにけりかはつなくゐてのさと人いまや問はまし
    やまふきの はなさきにけり かはつなく ゐてのさとひと いまやとはまし
    藤原基俊春下
    113ここのへにやへ山ふきをうつしてはゐてのかはつの心をそくむ
    ここのへに やへやまふきを うつしては ゐてのかはつの こころをそくむ
    二条太皇大后宮肥後春下
    114よし野川きしのやまふきさきぬれはそこにそふかき色はみえける
    よしのかは きしのやまふき さきぬれは そこにそふかき いろはみえける
    藤原範綱春下
    115くちなしの色にそすめる山ふきの花のしたゆくゐ手のかはみつ
    くちなしの いろにそすめる やまふきの はなのしたゆく ゐてのかはみつ
    藤原定経春下
    116いかなれは春をかさねてみつれともやへにのみさく山吹のはな
    いかなれは はるをかさねて みつれとも やへにのみさく やまふきのはな
    惟宗広言春下
    117やまふきの花のつまとはきかねともうつろふなへに鳴くかはつかな
    やまふきの はなのつまとは きかねとも うつろふなへに なくかはつかな
    藤原清輔朝臣春下
    118いつかたににほひますらむふちの花はると夏とのきしをへたてて
    いつかたに にほひますらむ ふちのはな はるとなつとの きしをへたてて
    康資王母春下
    119ここのへにさけるをみれはふちの花こきむらさきの雲そたちける
    ここのへに さけるをみれは ふちのはな こきむらさきの くもそたちける
    中納言祐家春下
    120としふれとかはらぬ松をたのみてやかかりそめけんいけの藤なみ
    としふれと かはらぬまつを たのみてや かかりそめけむ いけのふちなみ
    大炊御門右大臣春下
    121われもまた春とともにやかへらましあすはかりをはここにくらして
    われもまた はるとともにや かへらまし あすはかりをは ここにくらして
    二条院御製春下
    122花はねに鳥はふるすにかへるなり春のとまりをしる人そなき
    はなはねに とりはふるすに かへるなり はるのとまりを しるひとそなき
    崇徳院御製春下
    123いのちあらは又もあひなむ春なれとしのひかたくてくらすけふかな
    いのちあらは またもあひみむ はるなれと しのひかたくて くらすけふかな
    中務卿具平のみこ春下
    124なかむれはおもひやるへきかたそなき春のかきりの夕くれのそら
    なかむれは おもひやるへき かたそなき はるのかきりの ゆふくれのそら
    式子内親王春下
    125くれてゆく春はのこりもなきものををしむ心のつきせさるらん
    くれてゆく はるはのこりも なきものを をしむこころの つきせさるらむ
    大納言隆季春下
    126いり日さす山のはさヘそうらめしきくれすは春のかへらましやは
    いりひさす やまのはさへそ うらめしき くれすははるの かへらましやは
    久我内のおほいまうちきみ春下
    127いくかへりけふにわか身のあひぬらんをしきは春のすくるのみかは
    いくかへり けふにわかみの あひぬらむ をしきははるの すくるのみかは
    藤原定成春下
    128身のうさも花みしほとはわすられき春のわかれをなけくのみかは
    みのうさも はなみしほとは わすられき はるのわかれを なけくのみかは
    源仲綱春下
    129いつかたと春のゆくへはしらねともをしむ心のさきにたつらん
    いつかたと はるのゆくへは しらねとも をしむこころの さきにたつらむ
    藤原経家朝臣春下
    130もろともにおなしみやこは出てしかとつひには春にわかれぬるかな
    もろともに おなしみやこは いてしかと つひにははるに わかれぬるかな
    琳賢法師春下
    131花はみなよものあらしにさそはれてひとりや春のけふはゆくらん
    はなはみな よものあらしに さそはれて ひとりやはるの けふはゆくらむ
    法印静賢春下
    132はなのはるかさなるかひそなかりけるちらぬ日かすのそははこそあらめ
    はなのはる かさなるかひそ なかりける ちらぬひかすの そははこそあらめ
    権大僧都範玄春下
    133をしめともかひもなきさに春くれて浪とともにそたちわかれぬる
    をしめとも かひもなきさに はるくれて なみとともにそ たちわかれぬる
    前大僧正覚忠春下
    134つねよりもけふのくるるををしむかないまいくたひの春としらねは
    つねよりも けふのくるるを をしむかな いまいくたひの はるとしらねは
    前中納言匡房春下
    135けふくれぬはなのちりしもかくそありし二たひ春は物をおもふよ
    けふくれぬ はなのちりしも かくそありし ふたたひはるは ものをおもふよ
    河内春下
    136夏ころもはなのたもとにぬきかへて春のかたみもとまらさりけり
    なつころも はなのたもとに ぬきかへて はるのかたみも とまらさりけり
    前中納言匡房
    137けふかふるせみの羽ころもきてみれはたもとに夏はたつにそ有りける
    けふかふる せみのはころも きてみれは たもとになつは たつにそありける
    藤原基俊
    138あかてゆく春のわかれにいにしへの人やうつきといひはしめけん
    あかてゆく はるのわかれに いにしへの ひとやうつきと いひはしめけむ
    藤原実清朝臣
    139むらむらにさけるかきねの卯のはなはこのまの月の心ちこそすれ
    むらむらに さけるかきねの うのはなは このまのつきの ここちこそすれ
    左京大夫顕輔
    140ゆふつくよほのめく影もうの花のさけるわたりはさやけかりけり
    ゆふつくよ ほのめくかけも うのはなの さけるわたりは さやけかりけり
    右近大将実房
    141玉川とおとにききしは卯花を露のかきれる名にこそ有りけれ
    たまかはと おとにききしは うのはなを つゆのかされる なにこそありけれ
    仁和寺後入道法親王(覚性)
    142みてすくる人しなけれは卯のはなのさけるかきねや白川の関
    みてすくる ひとしなけれは うのはなの さけるかきねや しらかはのせき
    藤原季通朝臣
    143卯のはなのよそめなりけり山さとのかきねはかりにふれるしら雪
    うのはなの よそめなりけり やまさとの かきねはかりに ふれるしらゆき
    賀茂政平
    144うの花のかきねとのみやおもはまししつのふせやに煙たたすは
    うのはなの かきねとのみや おもはまし しつのふせやに けふりたたすは
    藤原敦経朝臣
    145やきすてしふるののを野のまくすはら玉まくはかり成りにけるかな
    やきすてし ふるののをのの まくすはら たままくはかり なりにけるかな
    藤原定通
    146あふひ草てる日は神のこころかはかけさすかたにまつなひくらん
    あふひくさ てるひはかみの こころかは かけさすかたに まつなひくらむ
    藤原基俊
    147神山のふもとになれしあふひ草ひきわかれても年そへにける
    かみやまの ふもとになれし あふひくさ ひきわかれても としそへにける
    前斎院式子内親王
    148ほとときすまつはひさしき夏のよをねぬにあけぬと誰かいひけん
    ほとときす まつはひさしき なつのよを ねぬにあけぬと たれかいひけむ
    按察使公通
    149ふたこゑときかてややまむ時鳥まつにねぬ夜のかすはつもりて
    ふたこゑと きかてややまむ ほとときす まつにねぬよの かすはつもりて
    藤原道経
    150ほとときすしのふるころは山ひこのこたふる声もほのかにそする
    ほとときす しのふるころは やまひこの こたふるこゑも ほのかにそする
    賀茂重保
    151あやしきはまつ人からかほとときすなかぬにさへもぬるる袖かな
    あやしきは まつひとからか ほとときす なかぬにさへも ぬるるそてかな
    道命法師
    152ねさめするたよりにきけは郭公つらき人をも待つへかりけり
    ねさめする たよりにきけは ほとときす つらきひとをも まつへかりけり
    康資王母
    153ほとときす又もやなくとまたれつつきく夜しもこそねられさりけれ
    ほとときす またもやなくと またれつつ きくよしもこそ ねられさりけれ
    刑部卿頼輔母
    154またてきく人にとははや郭公さてもはつねやうれしかるらん
    またてきく ひとにとははや ほとときす さてもはつねや うれしかるらむ
    覚盛法師
    155たつねてもきくへきものを時鳥人たのめなる夜はの一声
    たつねても きくへきものを ほとときす ひとたのめなる よはのひとこゑ
    前参議教長
    156おもひやる心もつきぬほとときす雲のいくへの外になくらん
    おもひやる こころもつきぬ ほとときす くものいくへの ほかになくらむ
    権大納言実家
    157ほとときすなほはつこゑをしのふ山ゆふゐる雲のそこに鳴くなり
    ほとときす なほはつこゑを しのふやま ゆふゐるくもの そこになくなり
    仁和寺法親王(守覚)
    158かさこしをゆふこえくれはほとときすふもとの雲のそこに鳴くなり
    かさこしを ゆふこえくれは ほとときす ふもとのくもの そこになくなり
    藤原清輔朝臣
    159ひとこゑはさやかに鳴きてほとときす雲ちはるかにとほさかるなり
    ひとこゑは さやかになきて ほとときす くもちはるかに とほさかるなり
    前右京権大夫頼政
    160おもふことなき身なりせはほとときす夢にきく夜もあらましものを
    おもふこと なきみなりせは ほとときす ゆめにきくよも あらましものを
    摂政前右大臣
    161ほとときす鳴きつるかたをなかむれはたたあり明の月そのこれる
    ほとときす なきつるかたを なかむれは たたありあけの つきそのこれる
    右のおほいまうちきみ
    162なこりなくすきぬなるかなほとときすこそかたらひしやととしらすや
    なこりなく すきぬなるかな ほとときす こそかたらひし やととしらすや
    権大納言実国
    163夕つくよいるさの山のこかくれにほのかにもなくほとときすかな
    ゆふつくよ いるさのやまの こかくれに ほのかにもなく ほとときすかな
    権大納言宗家
    164ほとときすききもわかれぬ一こゑによものそらをもなかめつるかな
    ほとときす ききもわかれぬ ひとこゑに よものそらをも なかめつるかな
    前左衡門督公光
    165すきぬるか夜はのねさめの時鳥こゑはまくらにある心ちして
    すきぬるか よはのねさめの ほとときす こゑはまくらに あるここちして
    皇太后宮大夫俊成
    166よをかさねねぬよりほかにほとときすいかに待ちてか二こゑはきく
    よをかさね ねぬよりほかに ほとときす いかにまちてか ひとこゑはきく
    道因法師
    167心をそつくしはてつるほとときすほのめくよひの村雨のそら
    こころをそ つくしはてつる ほとときす ほのめくよひの むらさめのそら
    権中納言長方
    168みやこ人ひきなつくしそあやめ草たひねのとこの枕はかりは
    みやこひと ひきなつくしそ あやめくさ たひねのとこの まくらはかりは
    前中納言雅頼
    169さみたれにぬれぬれひかむあやめ草ぬまのいはかき浪もこそこせ
    さみたれに ぬれぬれひかむ あやめくさ ぬまのいはかき なみもこそこせ
    摂政前右大臣
    170のきちかくけふしもきなく郭公ねをやあやめにそへてふくらん
    のきちかく けふしもきなく ほとときす ねをやあやめに そへてふくらむ
    内大臣
    171たたならぬ花たちはなのにほひかなよそふる袖はたれとなけれと
    たたならぬ はなたちはなの にほひかな よそふるそては たれとなけれと
    枇杷殿皇太后宮五節
    172風にちるはなたちはなに袖しめてわかおもふいもか手枕にせん
    かせにちる はなたちはなに そてしめて わかおもふいもか たまくらにせむ
    藤原基俊
    173うき雲のいさよふよひの村雨におひ風しるくにほふたちはな
    うきくもの いさよふよひの むらさめに おひかせしるく にほふたちはな
    藤原家基
    174わかやとの花たちはなにふく風をたか里よりとたれなかむらん
    わかやとの はなたちはなに ふくかせを たかさとよりと たれなかむらむ
    左大弁親宗
    175をりしもあれ花たちはなのかをるかなむかしをみつる夢の枕に
    をりしもあれ はなたちはなの かをるかな むかしをみつる ゆめのまくらに
    藤原公衡朝臣
    176五月雨にはなたちはなのかをる夜は月すむ秋もさもあらはあれ
    さみたれに はなたちはなの かをるよは つきすむあきも さもあらはあれ
    崇徳院御製
    177さみたれにおもひこそやれいにしへの草のいほりの夜はのさひしさ
    さみたれに おもひこそやれ いにしへの くさのいほりの よはのさひしさ
    延久三親王輔仁
    178いととしくしつのいほりのいふせきに卯のはなくたし五月雨そする
    いととしく しつのいほりの いふせきに うのはなくたし さみたれそふる
    藤原基俊
    179おほつかないつかはるへきわひ人のおもふ心やさみたれの空
    おほつかな いつかはるへき わひひとの おもふこころや さみたれのそら
    源俊頼朝臣
    180五月雨にあささはぬまの花かつみかつみるままにかくれゆくかな
    さみたれに あささはぬまの はなかつみ かつみるままに かくれゆくかな
    藤原顕仲朝臣
    181さみたれの日かすへぬれはかりつみししつやのこすけくちやしぬらん
    さみたれの ひかすへぬれは かりつみし しつやのこすけ くちやしぬらむ
    左京大夫顕輔
    182五月雨にみつのみつかさまさるらしみをのしるしもみえすなりゆく
    さみたれに みつのみつかさ まさるらし みをのしるしも みえすなりゆく
    前参議親隆
    183さみたれはたくもの煙うちしめりしほたれまさるすまのうら人
    さみたれは たくものけふり うちしめり しほたれまさる すまのうらひと
    皇太后宮大夫俊成
    184時しもあれ水のみこもをかりあけてほさてくたしつ五月雨のそら
    ときしもあれ みつのみこもを かりあけて ほさてくたしつ さみたれのそら
    藤原清輔朝臣
    185さみたれはあまのもしほ木くちにけりうらへに煙たえてほとへぬ
    さみたれは あまのもしほき くちにけり うらへにけふり たえてほとへぬ
    待賢門院安芸
    186五月雨にむろの八島をみわたせは煙はなみのうへよりそたつ
    さみたれに むろのやしまを みわたせは けふりはなみの うへよりそたつ
    源行頼朝臣
    187さみたれはとまのしつくに袖ぬれてあなしほとけの浪のうきねや
    さみたれは とまのしつくに そてぬれて あなしほとけの なみのうきねや
    源仲正
    188五月雨の雲のはれまに月さえて山ほとときす空に鳴くなり
    さみたれの くものはれまに つきさえて やまほとときす そらになくなり
    賀茂成保
    189をちかへりぬるともきなけ郭公いまいくかかはさみたれのそら
    をちかへり ぬるともきなけ ほとときす いまいくかかは さみたれのそら
    按察使資賢
    190あふさかの山ほとときすなのるなりせきもる神やそらにとふらん
    あふさかの やまほとときす なのるなり せきもるかみや そらにとふらむ
    中納言師時
    191いにしへを恋ひつつひとりこえくれはなきあふ山のほとときすかな
    いにしへを こひつつひとり こえくれは なきあふやまの ほとときすかな
    律師慶暹
    192なとてかくおもひそめけん時鳥ゆきのみやまの法のすゑかは
    なとてかく おもひそめけむ ほとときす ゆきのみやまの のりのすゑかは
    源俊頼朝臣
    193五月やみふたむら山のほとときす嶺つつきなくこゑをきくかな
    さつきやみ ふたむらやまの ほとときす みねつつきなく こゑをきくかな
    権中納言俊忠
    194ともしするみやきか原のした露にしのふもちすりかわくよそなき
    ともしする みやきかはらの したつゆに しのふもちすり かわくよそなき
    前中納言匡房
    195五月やみさやまの嶺にともす火は雲のたえまのほしかとそみる
    さつきやみ さやまのみねに ともすひは くものたえまの ほしかとそみる
    修埋大夫顕季
    196さつきやみしけきは山にたつしかはともしにのみそ人にしらるる
    さつきやみ しけきはやまに たつしかは ともしにのみそ ひとにしらるる
    藤原顕綱朝臣
    197ともしするほくしの松もきえなくにと山の雲のあけわたるらん
    ともしする ほくしのまつも きえなくに とやまのくもの あけわたるらむ
    大蔵卿行宗
    198ともしするほくしの松ももえつきてかへるにまよふしもつやみかな
    ともしする ほくしのまつも もえつきて かへるにまよふ しもつやみかな
    源仲正
    199山ふかみほくしのまつはつきぬれとしかにおもひをなほかくるかな
    やまふかみ ほくしのまつは つきぬれと しかにおもひを なほかくるかな
    読人知らず
    200ともしするほくしをまつとおもへはやあひみてしかの身をはかふらん
    ともしする ほくしをまつと おもへはや あひみてしかの みをはかふらむ
    賀茂重保
    201むかしわかあつめしものをおもひいててみなれかほにもくる蛍かな
    むかしわか あつめしものを おもひいてて みなれかほにも くるほたるかな
    藤原季通朝臣
    202あはれにもみさをにもゆる蛍かなこゑたてつへきこの世とおもふに
    あはれにも みさをにもゆる ほたるかな こゑたてつへき このよとおもふに
    源俊頼朝臣
    203あさりせし水のみさひにとちられてひしのうきはにかはつなくなり
    あさりせし みつのみさひに とちられて ひしのうきはに かはつなくなり
    源俊頼朝臣
    204夏ふかみ玉えにしけるあしの葉のそよくや船のかよふなるらん
    なつふかみ たまえにしける あしのはの そよくやふねの かよふなるらむ
    法性寺入道前太政大臣
    205はやせ川みをさかのはるうかひ舟まつこの世にもいかかくるしき
    はやせかは みをさかのほる うかひふね まつこのよにも いかかくるしき
    崇徳院御製
    206みるかなほこの世の物とおほえぬはからなてしこの花にそ有りける
    みるかなほ このよのものと おほえぬは からなてしこの はなにそありける
    和泉式部
    207とこ夏のはなもわすれて秋かせを松のかけにてけふは暮れぬる
    とこなつの はなもわすれて あきかせを まつのかけにて けふはくれぬる
    中務卿具平親王
    208春あきものちのかたみはなきものをひむろそ冬のなこりなりける
    はるあきも のちのかたみは なきものを ひむろそふゆの なこりなりける
    仁和寺後入道法親王(覚性)
    209あたりさへすすしかりけりひむろ山まかせし水のこほるのみかは
    あたりさへ すすしかりけり ひむろやま まかせしみつの こほるのみかは
    大炊御門右大臣
    210山かけやいはもるし水おとさえて夏のほかなるひくらしのこゑ
    やまかけや いはもるしみつ おとさへて なつのほかなる ひくらしのこゑ
    法印慈円
    211夕されは玉ゐるかすもみえねともせきのを川のおとそすすしき
    ゆふされは たまゐるかすも みえねとも せきのをかはの おとそすすしき
    藤原道経
    212いはまもるし水をやとにせきとめてほかより夏をすくしつるかな
    いはまもる しみつをやとに せきとめて ほかよりなつを すくしつるかな
    俊恵法師
    213さらぬたにひかりすすしき夏の夜の月をし水にやとしてそみる
    さらぬたに ひかりすすしき なつのよの つきをしみつに やとしてそみる
    顕昭法師
    214せきとむる山した水にみかくれてすみけるものを秋のけしきは
    せきとむる やましたみつに みかくれて すみけるものを あきのけしきは
    法眼実快
    215われなからほとなき夜はやをしからむなほ山のはにあり明の月
    われなから ほとなきよはや をしからむ なほやまのはに ありあけのつき
    藤原経家朝臣
    216夏のよの月のひかりはさしなからいかにあけぬるあまの戸ならん
    なつのよの つきのひかりは さしなから いかにあけぬる あまのとならむ
    祝部宿禰成仲
    217夕たちのまたはれやらぬ雲まよりおなし空ともみえぬ月かな
    ゆふたちの またはれやらぬ くもまより おなしそらとも みえぬつきかな
    俊恵法師
    218小萩はらまた花さかぬみやきののしかやこよひの月になくらん
    こはきはら またはなさかぬ みやきのの しかやこよひの つきになくらむ
    藤原敦仲
    219夏ころもすそのの原をわけゆけはおりたかへたる萩か花すり
    なつころも すそののはらを わけゆけは をりたかへたる はきかはなすり
    顕昭法師
    220あきかせは浪とともにやこえぬらんまたきすすしきすゑの松山
    あきかせは なみとともにや こえぬらむ またきすすしき すゑのまつやま
    藤原親盛
    221いはたたく谷の水のみおとつれて夏にしられぬみ山へのさと
    いはたたく たにのみつのみ おとつれて なつにしられぬ みやまへのさと
    前参議教長
    222いはまよりおちくるたきのしら糸はむすはてみるもすすしかりけり
    いはまより おちくるたきの しらいとは むすはてみるも すすしかりけり
    藤原盛方朝臣
    223けふくれはあさのたちえにゆふかけて夏みな月のみそきをそする
    けふくれは あさのたちえに ゆふかけて なつみなつきの みそきをそする
    藤原季通朝臣
    224いつとてもをしくやはあらぬとし月をみそきにすつる夏のくれかな
    いつとても をしくやはあらぬ としつきを みそきにすつる なつのくれかな
    皇太后宮大夫俊成
    225みそきする川せにさよやふけぬらんかへるたもとに秋かせそふく
    みそきする かはせにさよや ふけぬらむ かへるたもとに あきかせそふく
    読人知らず
    226あききぬとききつるからにわかやとの荻のはかせの吹きかはるらん
    あききぬと ききつるからに わかやとの をきのはかせの ふきかはるらむ
    侍従乳母秋上
    227あさちふの露けくもあるか秋きぬとめにはさやかにみえけるものを
    あさちふの つゆけくもあるか あききぬと めにはさやかに みえけるものを
    仁和寺法親王(守覚)秋上
    228秋のくるけしきのもりのした風にたちそふ物はあはれなりけり
    あきのくる けしきのもりの したかせに たちそふものは あはれなりけり
    待賢門院堀川秋上
    229やへむくらさしこもりにしよもきふにいかてか秋のわけてきつらん
    やへむくら さしこもりにし よもきふに いかてかあきの わけてきつらむ
    皇太后宮大夫俊成秋上
    230秋はきぬとしもなかはにすきぬとや荻ふくかせのおとろかすらん
    あきはきぬ としもなかはに すきぬとや をきふくかせの おとろかすらむ
    寂然法師秋上
    231この葉たに色つくほとはあるものを秋かせふけはちる涙かな
    このはたに いろつくほとは あるものを あきかせふけは ちるなみたかな
    読人知らず秋上
    232神山の松ふくかせもけふよりは色はかはらておとそ身にしむ
    かみやまの まつふくかせも けふよりは いろはかはらて おとそみにしむ
    賀茂重政秋上
    233物ことにあきのけしきはしるけれとまつ身にしむは荻のうは風
    ものことに あきのけしきは しるけれと まつみにしむは をきのうはかせ
    大蔵卿行宗秋上
    234あきかせや涙もよほすつまならむおとつれしより袖のかわかぬ
    あきかせや なみたもよほす つまならむ おとつれしより そてのかわかぬ
    源俊頼朝臣秋上
    235たなはたの心のうちやいかならむまちこしけふの夕くれのそら
    たなはたの こころのうちや いかならむ まちこしけふの ゆふくれのそら
    摂政前右大臣秋上
    236たなはたのあまつひれふく秋かせにやそのふなつをみふねいつらし
    たなはたの あまつひれふく あきかせに やそのふなつを みふねいつらし
    大納言隆季秋上
    237たなはたのあまのはころもかさねてもあかぬ契やなほむすふらん
    たなはたの あまのはころも かさねても あかぬちきりや なほむすふらむ
    二条太皇太后宮肥後秋上
    238こひこひてこよひはかりやたなはたの枕にちりのつもらさるらん
    こひこひて こよひはかりや たなはたの まくらにちりの つもらさるらむ
    河内秋上
    239七夕のあまのかはらのいはまくらかはしもはてすあけぬこの夜は
    たなはたの あまのかはらの いはまくら かはしもはてす あけぬこのよは
    源俊頼朝臣秋上
    240たなはたに花そめころもぬきかせはあか月露のかへすなりけり
    たなはたに はなそめころも ぬきかせは あかつきつゆの かくすなりけり
    崇徳院御製秋上
    241あまの川心をくみておもふにも袖こそぬるれ暁のそら
    あまのかは こころをくみて おもふにも そてこそぬるれ あかつきのそら
    土御門右のおほいまうちきみ秋上
    242秋くれはおもひみたるるかるかやのした葉や人の心なるらん
    あきくれは おもひみたるる かるかやの したはやひとの こころなるらむ
    大納言師頼秋上
    243おしなへて草はのうへをふく風にまつしたをるる野へのかるかや
    おしなへて くさはのうへを ふくかせに まつしたをるる のへのかるかや
    延久三親王家甲斐秋上
    244ふみしたきあさゆくしかやすきつらむしとろにみゆる野ちのかるかや
    ふみしたき あさゆくしかや すきつらむ しとろにみゆる のちのかるかや
    藤原道経秋上
    245秋きぬとかせもつけてし山さとになほほのめかす花すすきかな
    あききぬと かせもつけてし やまさとに なほほのめかす はなすすきかな
    法印静賢秋上
    246いかなれはうははをわたる秋かせにしたをれすらむ野へのかるかや
    いかなれは うははをわたる あきかせに したをれすらむ のへのかるかや
    読人知らず秋上
    247人もかなみせもきかせも萩の花さく夕かけのひくらしのこゑ
    ひともかな みせもきかせも はきのはな さくゆふかけの ひくらしのこゑ
    和泉式部秋上
    248あき山のふもとをこむる家ゐにはすそ野のはきそまかきなりける
    あきやまの ふもとをこむる いへゐには すそののはきそ まかきなりける
    藤原伊家秋上
    249宮城ののはきやをしかのつまならん花さきしより声の色なる
    みやきのの はきやをしかの つまならむ はなさきしより こゑのいろなる
    藤原基俊秋上
    250心をはちくさの色にそむれとも袖にうつるは萩かはなすり
    こころをは ちくさのいろに そむれとも そてにうつるは はきかはなすり
    長覚法師秋上
    251露しけきあしたのはらのをみなへしひとえたをらん袖はぬるとも
    つゆしけき あしたのはらの をみなへし ひとえたをらむ そてはぬるとも
    大納言師順秋上
    252をみなへしなひくをみれは秋かせの吹きくるすゑもなつかしきかな
    をみなへし なひくをみれは あきかせの ふきくるすゑも なつかしきかな
    前中納言雅兼秋上
    253女郎花涙に露やおきそふるたをれはいとと袖のしをるる
    をみなへし なみたにつゆや おきそふる たをれはいとと そてのしをるる
    前左衛門督公光秋上
    254ふく風にをれふしぬれはをみなへしまかきそ花の枕なりける
    ふくかせに をれふしぬれは をみなへし まかきそはなの まくらなりける
    藤原行家秋上
    255夕されはかやかしけみになきかはすむしのねをさへわけつつそ行く
    ゆふされは かやかしけみに なきかはす むしのねをさへ わけつつそゆく
    藤原盛方朝臣秋上
    256さまさまに心そとまるみやき野の花のいろいろむしのこゑこゑ
    さまさまに こころそとまる みやきのの はなのいろいろ むしのこゑこゑ
    源俊頼朝臣秋上
    257秋くれはやとにとまるをたひねにて野へこそつねのすみかなりけれ
    あきくれは やとにとまるを たひねにて のへこそつねの すみかなりけれ
    源俊頼朝臣秋上
    258野わきするのへのけしきをみる時は心なき人あらしとそおもふ
    のわきする のへのけしきを みるときは こころなきひと あらしとそおもふ
    藤原季通朝臣秋上
    259夕されは野へのあきかせ身にしみてうつら鳴くなりふか草のさと
    ゆふされは のへのあきかせ みにしみて うつらなくなり ふかくさのさと
    皇太后宮大夫俊成秋上
    260なにとなく物そかなしきすかはらやふしみのさとの秋の夕くれ
    なにとなく ものそかなしき すかはらや ふしみのさとの あきのゆふくれ
    源俊頼朝臣秋上
    261さまさまの花をはやとにうつしうゑつしかのねさそへ野への秋風
    さまさまの はなをはやとに うつしうゑつ しかのねさそへ のへのあきかせ
    摂政前右大臣秋上
    262秋のののちくさの色にうつろへは花そかへりて露をそめける
    あきののの ちくさのいろに うつろへは はなそかへりて つゆをそめける
    仁和寺法親王(守覚)秋上
    263草木まて秋のあはれをしのへはや野にも山にもつゆこはるらん
    くさきまて あきのあはれを しのへはや のにもやまにも つゆこほるらむ
    法印慈円秋上
    264はかなさをわか身のうへによそふれはたもとにかかる秋の夕露
    はかなさを わかみのうへに よそふれは たもとにかかる あきのゆふつゆ
    待賢門院堀河秋上
    265たつたひめかさしの玉のををよわみみたれにけりとみゆるしら露
    たつたひめ かさしのたまの ををよわみ みたれにけりと みゆるしらつゆ
    藤原清輔朝臣秋上
    266夕まくれをきふくかせのおときけはたもとよりこそ露はこはるれ
    ゆふまくれ をきふくかせの おときけは たもとよりこそ つゆはこほるれ
    藤原季経朝臣秋上
    267おほかたの露にはなにのなるならむたもとにおくは涙なりけり
    おほかたの つゆにはなにの なるならむ たもとにおくは なみたなりけり
    西行法師秋上
    268花すすきまねくはさかとしりなからととまる物は心なりけり
    はなすすき まねくはさかと しりなから ととまるものは こころなりけり
    道命法師秋上
    269時しもあれ秋ふるさとにきてみれは庭は野へともなりにけるかな
    ときしもあれ あきふるさとに きてみれは にははのへとも なりにけるかな
    前大納言公任秋上
    270やとかれていくかもあらぬにしかのなく秋ののへともなりにけるかな
    やとかれて いくかもあらぬに しかのなく あきののへとも なりにけるかな
    小弁秋上
    271いまはしもほにいてぬらむ東路のいはたのをののしののをすすき
    いまはしも ほにいてぬらむ あつまちの いはたのをのの しののをすすき
    藤原伊家秋上
    272夕されはをののあさちふ玉ちりて心くたくる風のおとかな
    ゆふされは をののあさちふ たまちりて こころくたくる かせのおとかな
    摂政前右大臣秋上
    273ときはなるあをはの山も秋くれは色こそかへねさひしかりけり
    ときはなる あをはのやまも あきくれは いろこそかへね さひしかりけり
    前大僧正覚忠秋上
    274秋のよの心をつくすはしめとてほのかにみゆる夕つくよかな
    あきのよの こころをつくす はしめとて ほのかにみゆる ゆふつくよかな
    権大納言実家秋上
    275あきの月たかねの雲のあなたにてはれゆく空のくるるまちけり
    あきのつき たかねのくもの あなたにて はれゆくそらの くるるまちけり
    法性寺入道前太政大臣秋上
    276こからしの雲ふきはらふたかねよりさえても月のすみのほるかな
    こからしの くもふきはらふ たかねより さえてもつきの すみのほるかな
    源俊頼朝臣秋上
    277いつこにも月はわかしをいかなれはさやけかるらむさらしなのやま
    いつこにも つきはわかしを いかなれは さやけかるらむ さらしなのやま
    隆源法師秋上
    278出てぬより月みよとこそさえにけれをはすて山のゆふくれの空
    いてぬより つきみよとこそ さえにけれ をはすてやまの ゆふくれのそら
    藤原隆信朝臣秋上
    279くまもなきみそらに秋の月すめは庭には冬のこほりをそしく
    くまもなき みそらにあきの つきすめは にはにはふゆの こほりをそしく
    前中納言雅頼秋上
    280月みれははるかにおもふさらしなの山も心のうちにそありける
    つきみれは はるかにおもふ さらしなの やまもこころの うちにそありける
    右のおほいまうちきみ秋上
    281あすもこむ野ちの玉川はきこえて色なる浪に月やとりけり
    あすもこむ のちのたまかは はきこえて いろなるなみに つきやとりけり
    源俊頼朝臣秋上
    282玉よするうらわの風にそらはれてひかりをかはす秋のよの月
    たまよする うらわのかせに そらはれて ひかりをかはす あきのよのつき
    崇徳院御製秋上
    283さよふけてふしのたかねにすむ月は煙はかりやくもりなるへき
    さよふけて ふしのたかねに すむつきは けふりはかりや くもりなるへき
    大炊御門右大臣秋上
    284石はしるみつのしら玉かすみえてきよたき川にすめる月影
    いしはしる みつのしらたま かすみえて きよたきかはに すめるつきかけ
    皇太后宮大夫俊成秋上
    285しほかまのうらふくかせに霧はれてやそ島かけてすめる月かけ
    しほかまの うらふくかせに きりはれて やそしまかけて すめるつきかけ
    藤原清輔朝臣秋上
    286おもひくまなくてもとしのへぬるかなものいひかはせ秋のよの月
    おもひくま なくてもとしの へぬるかな ものいひかはせ あきのよのつき
    源俊頼朝臣秋上
    287山のはにますみのかかみかけたりとみゆるは月のいつるなりけり
    やまのはに ますみのかかみ かけたりと みゆるはつきの いつるなりけり
    藤原基俊秋上
    288秋のよやあまのかはせはこほるらむ月のひかりのさえまさるかな
    あきのよや あまのかはせは こほるらむ つきのひかりの さえまさるかな
    藤原道経秋上
    289とほさかるおとはせねとも月きよみ氷とみゆるしかのうら浪
    とほさかる おとはせねとも つききよみ こほりとみゆる しかのうらなみ
    太宰大弐重家秋上
    290つねよりも身にそしみける秋の野に月すむ夜はの荻のうはかせ
    つねよりも みにそしみける あきののに つきすむよはの をきのうはかせ
    右衛門督頼実秋上
    291なかめやる心のはてそなかりけるあかしのおきにすめる月影
    なかめやる こころのはてそ なかりける あかしのおきに すめるつきかけ
    俊恵法師秋上
    292やほかゆくはまのまさこをしきかへて玉になしつる秋のよの月
    やほかゆく はまのまさこを しきかへて たまになしつる あきのよのつき
    権中納言長方秋上
    293いしまゆくみたらし川のおとさえて月やむすはぬこほりなるらん
    いしまゆく みたらしかはの おとさえて つきやむすはぬ こほりなるらむ
    藤原公時朝臣秋上
    294月かけはきえぬこほりとみえなからささ浪よするしかのからさき
    つきかけは きえぬこほりと みえなから ささなみよする しかのからさき
    藤原顕家朝臣秋上
    295てる月のかけさえぬれはあさちはら雪のしたにもむしはなきけり
    てるつきの かけさえぬれは あさちはら ゆきのしたにも むしはなきけり
    頼円法師秋上
    296あさちはらはすゑにむすふ露ことにひかりをわけてやとる月かけ
    あさちはら はすゑにむすふ つゆことに ひかりをわけて やとるつきかけ
    藤原親盛秋上
    297ふけにけるわかよの秋そあはれなるかたふく月は又もいてなん
    ふけにける わかよのあきそ あはれなる かたふくつきは またもいてなむ
    藤原清輔朝臣秋上
    298身のうさの秋はわするる物ならはなみたくもらて月はみてまし
    みのうさの あきはわするる ものならは なみたくもらて つきはみてまし
    刑部卿頼輔秋上
    299おほかたの秋のあはれをおもひやれ月に心はあくかれぬとも
    おほかたの あきのあはれを おもひやれ つきにこころは あくかれぬとも
    紫式部秋上
    300たくひなくつらしとそおもふ秋のよの月をのこしてあくるしののめ
    たくひなく つらしとそおもふ あきのよの つきをのこして あくるしののめ
    前大納言成通秋上
    301てる月のたひねのとこやしもとゆふかつらき山のたに川のみつ
    てるつきの たひねのとこや しもとゆふ かつらきやまの たにかはのみつ
    源俊頼朝臣秋上
    302はるかなるもろこしまてもゆく物は秋のねさめの心なりけり
    はるかなる もろこしまても ゆくものは あきのねさめの こころなりけり
    大弐三位秋下
    303山さとはさひしかりけりこからしのふく夕くれのひくらしのこゑ
    やまさとは さひしかりけり こからしの ふくゆふくれの ひくらしのこゑ
    藤原仲実朝臣秋下
    304秋のよは松をはらはぬ風たにもかなしきことのねをたてすやは
    あきのよは まつをはらはぬ かせたにも かなしきことの ねをたてすやは
    藤原季通朝臣秋下
    305露さむみうらかれもてく秋ののにさひしくもある風のおとかな
    つゆさむみ うらかれもてく あきののに さひしくもある かせのおとかな
    藤原時昌秋下
    306夕くれはをのの萩はらふく風にさひしくもあるか鹿のなくなる
    ゆふされは をののはきはら ふくかせに さひしくもあるか しかのなくなる
    藤原正家朝臣秋下
    307みむろやまおろすあらしのさひしきにつまよふしかの声たくふなり
    みむろやま おろすあらしの さひしきに つまとふしかの こゑたくふなり
    二条太皇大后宮肥後秋下
    308そまかたにみちやまとへるさをしかのつまとふ声のしけくも有るかな
    そまかたに みちやまとへる さをしかの つまとふこゑの しけくもあるかな
    大納言公実秋下
    309秋のよはおなしをのへになくしかのふけゆくままにちかくなるかな
    あきのよは おなしをのへに なくしかの ふけゆくままに ちかくなるかな
    輔仁のみこ秋下
    310さをしかのなくねは野へにきこゆれとなみたはとこの物にそ有りける
    さをしかの なくねはのへに きこゆれと なみたはとこの ものにそありける
    源俊頼朝臣秋下
    311さらぬたにゆふへさひしき山里の露のまかきにをしか鳴くなり
    さらぬたに ゆふへさひしき やまさとの きりのまかきに をしかなくなり
    待賢門院堀河秋下
    312みなと川うきねのとこにきこゆなりいく田のおくのさをしかのこゑ
    みなとかは うきねのとこに きこゆなり いくたのおくの さをしかのこゑ
    刑部卿範兼秋下
    313うきねするゐなのみなとにきこゆなりしかのねおろすみねの松かせ
    うきねする ゐなのみなとに きこゆなり しかのねおろす みねのまつかせ
    藤原隆信朝臣秋下
    314夜をこめてあかしのせとをこきいつれははるかにおくるさをしかのこゑ
    よをこめて あかしのせとを こきいつれは はるかにおくる さをしかのこゑ
    俊恵法師秋下
    315みなと川夜ふねこきいつるおひかせに鹿のこゑさへせとわたるなり
    みなとかは よふねこきいつる おひかせに しかのこゑさへ せとわたるなり
    道因法師秋下
    316宮城ののこはきかはらをゆくほとは鹿のねをさへわけてきくかな
    みやきのの こはきかはらを ゆくほとは しかのねをさへ わけてきくかな
    覚延法師秋下
    317さをしかのつまよふこゑもいかなれや夕はわきてかなしかるらん
    さをしかの つまよふこゑも いかなれや ゆふへはわきて かなしかるらむ
    左京大夫修範秋下
    318きくままにかたしく袖のぬるるかなしかのこゑには露やそふらん
    きくままに かたしくそての ぬるるかな しかのこゑには つゆやそふらむ
    右京大夫季能秋下
    319山さとのあかつきかたのしかのねは夜はのあはれのかきりなりけり
    やまさとの あかつきかたの しかのねは よはのあはれの かきりなりけり
    法印慈円秋下
    320よそにたに身にしむくれのしかのねにいかなる妻かつれなかるらん
    よそにたに みにしむくれの しかのねを いかなるつまか つれなかるらむ
    俊恵法師秋下
    321夕まくれさてもや秋はかなしきと鹿のねきかぬ人にとははや
    ゆふまくれ さてもやあきは かなしきと しかのねきかぬ ひとにとははや
    道因法師秋下
    322つねよりも秋のゆふへをあはれとはしかのねにてやおもひそめけん
    つねよりも あきのゆふへを あはれとは しかのねにてや おもひそめけむ
    賀茂政平秋下
    323さひしさをなににたとへんをしかなくみ山のさとのあけかたのそら
    さひしさを なににたとへむ をしかなく みやまのさとの あけかたのそら
    惟宗広言秋下
    324いかはかり露けかるらんさをしかのつまこひかぬるをのの草ふし
    いかはかり つゆけかるらむ さをしかの つまこひかぬる をののくさふし
    長覚法師秋下
    325をのへより門田にかよふ秋かせにいなはをわたるさをしかのこゑ
    をのへより かとたにかよふ あきかせに いなはをわたる さをしかのこゑ
    寂蓮法師秋下
    326おとろかすおとこそよるのを山田は人なきよりもさひしかりけれ
    おとろかす おとこそよるの をやまたは ひとなきよりも さひしかりけれ
    読人知らず秋下
    327わか門のおくてのひたにおとろきてむろのかり田にしきそたつなる
    わかかとの おくてのひたに おとろきて むろのかりたに しきそたつなる
    源兼昌秋下
    328むしのねはあさちかもとにうつもれて秋はすゑはの色にそ有りける
    むしのねは あさちかもとに うつもれて あきはすゑはの いろにそありける
    寂蓮法師秋下
    329秋のよのあはれはたれもしるものをわれのみとなくきりきりすかな
    あきのよの あはれはたれも しるものを われのみとなく きりきりすかな
    藤原兼宗朝臣秋下
    330さまさまのあさちかはらのむしのねをあはれひとつにききそなしつる
    さまさまの あさちかはらの むしのねを あはれひとつに ききそなしつる
    左近中将良経秋下
    331夜をかさねこゑよわりゆくむしのねに秋のくれぬるほとをしるかな
    よをかさね こゑよわりゆく むしのねに あきのくれぬる ほとをしるかな
    大炊御門右大臣秋下
    332秋ふかくなりにけらしなきりきりすゆかのあたりにこゑきこゆなり
    あきふかく なりにけらしな きりきりす ゆかのあたりに こゑきこゆなり
    花山院御製秋下
    333さりともとおもふこころもむしのねもよわりはてぬる秋のくれかな
    さりともと おもふこころも むしのねも よわりはてぬる あきのくれかな
    皇太后宮大夫俊成秋下
    334むしのねもまれになりゆくあたし野にひとり秋なる月のかけかな
    むしのねも まれになりゆく あたしのに ひとりあきなる つきのかけかな
    (仁和寺)道性法親王秋下
    335草も木もあきのすゑははみえゆくに月こそ色もかはらさりけれ
    くさもきも あきのすゑはは みえゆくに つきこそいろも かはらさりけれ
    式子内親王秋下
    336すむ水にさやけき影のうつれはやこよひの月の名になかるらん
    すむみつに さやけきかけの うつれはや こよひのつきの なになかるらむ
    大宮右大臣秋下
    337秋の月ちちに心をくたききてこよひ一よにたへすも有るかな
    あきのつき ちちにこころを くたききて こよひひとよに たへすもあるかな
    読人知らず秋下
    338さよふけてきぬたのおとそたゆむなる月をみつつや衣うつらん
    さよふけて きぬたのおとそ たゆむなる つきをみつつや ころもうつらむ
    仁和寺後入道法親王(覚性)秋下
    339恋ひつつやいもかうつらむから衣きぬたのおとのそらになるまて
    こひつつや いもかうつらむ からころも きぬたのおとの そらになるまて
    大納言公実秋下
    340松かせのおとたに秋はさひしきに衣うつなり玉川のさと
    まつかせの おとたにあきは さひしきに ころもうつなり たまかはのさと
    源俊頼朝臣秋下
    341たかためにいかにうてはかから衣ちたひやちたひ声のうらむる
    たかために いかにうてはか からころも ちたひやちたひ こゑのうらむる
    藤原基俊秋下
    342衣うつおとをきくにそしられぬる里とほからぬ草枕とは
    ころもうつ おとをきくにそ しられぬる さととほからぬ くさまくらとは
    俊盛法師秋下
    343夕きりや秋のあはれをこめつらむわけいる袖に露のおきそふ
    ゆふきりや あきのあはれを こめつらむ わけいるそてに つゆのおきそふ
    法橋宗円秋下
    344秋ふかみたそかれ時のふちはかまにほふはなのる心ちこそすれ
    あきふかみ たそかれときの ふちはかま にほふはなのる ここちこそすれ
    崇徳院御製秋下
    345いかにしていはまもみえぬ夕暮にとなせのいかたおちてきつらん
    いかにして いはまもみえぬ ゆふきりに となせのいかた おちてきつらむ
    前参犠親隆秋下
    346けさみれはさなから霜をいたたきておきなさひゆく白菊の花
    けさみれは さなからしもを いたたきて おきなさひゆく しらきくのはな
    藤原基俊秋下
    347しら菊のはにおく露にやとらすは花とそみましてらす月影
    しらきくの はにおくつゆに やとらすは はなとそみまし てらすつきかけ
    内のおほいまうちきみ秋下
    348雪ならはまかきにのみはつもらしとおもひとくにそ白菊の花
    ゆきならは まかきにのみは つもらしと おもひとくにそ しらきくのはな
    前大僧正行慶秋下
    349朝な朝な籬のきくのうつろへは露さへ色のかはり行くかな
    あさなあさな まかきのきくの うつろへは つゆさへいろの かはりゆくかな
    祐盛法師秋下
    350さえわたる光を霜にまかへてや月にうつろふ白きくのはな
    さえわたる ひかりをしもに まかへてや つきにうつろふ しらきくのはな
    藤原家隆秋下
    351ことことにかなしかりけりむへしこそ秋の心をうれへといひけれ
    ことことに かなしかりけり うへしこそ あきのこころを うれへといひけれ
    藤原季通朝臣秋下
    352秋にあへすさこそはくすの色つかめあなうらめしの風のけしきや
    あきにあへす さこそはくすの いろつかめ あなうらめしの かせのけしきや
    藤原基俊秋下
    353はつ時雨ふるほともなくしもとゆふかつらき山は色つきにけり
    はつしくれ ふるほともなく しもとゆふ かつらきやまは いろつきにけり
    仁和寺後入道法親王(覚性)秋下
    354むら雲の時雨れてそむる紅葉ははうすくこくこそ色にみえけれ
    むらくもの しくれてそむる もみちはは うすくこくこそ いろにみえけれ
    覚延法師秋下
    355しくれ行くよものこすゑの色よりも秋は夕のかはるなりけり
    しくれゆく よものこすゑの いろよりも あきはゆふへの かはるなりけり
    藤原定家秋下
    356おほろけの色とや人のおもふらむをくらの山をてらす紅葉は
    おほろけの いろとやひとの おもふらむ をくらのやまを てらすもみちは
    道命法師秋下
    357君みんと心やしけんたつたひめ紅葉の錦いろをつくせり
    きみみむと こころやしけむ たつたひめ もみちのにしき いろをつくせり
    小弁秋下
    358故郷にとふ人あらはもみちはのちりなん後をまてとこたへよ
    ふるさとに とふひとあらは もみちはの ちりなむのちを まてとこたへよ
    素意法師秋下
    359山ひめにちへのにしきをたむけてもちる紅葉はをいかてととめん
    やまひめに ちへのにしきを たむけても ちるもみちはを いかてととめむ
    左京大夫顕輔秋下
    360紅葉はに月の光をさしそへてこれやあかちの錦なるらん
    もみちはに つきのひかりを さしそへて これやあかちの にしきなるらむ
    院御製秋下
    361山おろしにうらつたひする紅葉かないかかはすへきすまのせきもり
    やまおろしに うらつたひする もみちかな いかかはすへき すまのせきもり
    右大臣秋下
    362清見かた関にとまらてゆく船は嵐のさそふこのはなりけり
    きよみかた せきにとまらて ゆくふねは あらしのさそふ このはなりけり
    右近大将実房秋下
    363もみちはをせきもる神にたむけおきてあふ坂山をすくる木からし
    もみちはを せきもるかみに たむけおきて あふさかやまを すくるこからし
    権中納言実守秋下
    364紅葉はのみなくれなゐにちりしけは名のみなりけり白川の関
    もみちはの みなくれなゐに ちりしけは なのみなりけり しらかはのせき
    左大弁親宗秋下
    365みやこにはまた青葉にてみしかとももみちちりしく白川のせき
    みやこには またあをはにて みしかとも もみちちりしく しらかはのせき
    前右京権大夫頼政秋下
    366ささ波やひらのたかねの山おろしもみちをうみの物となしつる
    ささなみや ひらのたかねの やまおろし もみちをうみの ものとなしつる
    刑部卿範兼秋下
    367たつた山松のむらたちなかりせはいつくかのこるみとりならまし
    たつたやま まつのむらたち なかりせは いつくかのこる みとりならまし
    藤原清輔朝臣秋下
    368秋といへはいはたのをののははそ原時雨もまたす紅葉しにけり
    あきといへは いはたのをのの ははそはら しくれもまたす もみちしにけり
    覚盛法師秋下
    369庭のおもにちりてつもれる紅葉はは九重にしく錦なりけり
    にはのおもに ちりてつもれる もみちはは ここのへにしく にしきなりけり
    藤原公重朝臣秋下
    370けふみれは嵐の山はおほゐ川もみち吹きおろす名にこそ有りけれ
    けふみれは あらしのやまは おほゐかは もみちふきおろす なにこそありけれ
    俊恵法師秋下
    371おほゐかはなかれておつる紅葉かなさそふは峰の嵐のみかは
    おほゐかは なかれておつる もみちかな さそふはみねの あらしのみかは
    道因法師秋下
    372今そしる手向の山はもみち葉のぬさとちりかふ名こそ有りけれ
    いまそしる たむけのやまは もみちはの ぬさとちりかふ なにこそありけれ
    藤原清輔朝臣秋下
    373たつた山ふもとの里はとほけれと嵐のつてに紅葉をそみる
    たつたやま ふもとのさとは とほけれと あらしのつてに もみちをそみる
    祝部成仲秋下
    374吹きみたるははそか原をみわたせは色なき風も紅葉しにけり
    ふきみたる ははそかはらを みわたせは いろなきかせも もみちしにけり
    賀茂成保秋下
    375色かへぬ松ふく風のおとはしてちるはははそのもみちなりけり
    いろかへぬ まつふくかせの おとはして ちるはははその もみちなりけり
    藤原朝仲秋下
    376ふるさとの庭はこのはに色かへてかはらの松そみとりなりける
    ふるさとの にははこのはに いろかへて かはらぬまつそ みとりなりける
    惟宗広言秋下
    377ちりつもる木のはも風にさそはれて庭にも秋のくれにけるかな
    ちりつもる このはもかせに さそはれて にはにもあきの くれにけるかな
    法橋慈弁秋下
    378秋の田にもみちちりける山さとをこともおろかにおもひけるかな
    あきのたに もみちちりける やまさとを こともおろかに おもひけるかな
    源俊頼朝臣秋下
    379ちりかかる谷のを川の色つくはこのはや水の時雨なるらん
    ちりかかる たにのをかはの いろつくは このはやみつの しくれなるらむ
    摂政前右大臣秋下
    380くれてゆく秋をは水やさそふらむ紅葉なかれぬ山河そなき
    くれてゆく あきをはみつや さそふらむ もみちなかれぬ やまかはそなき
    後三条内大臣秋下
    381紅葉はのちり行くかたをたつぬれは秋も嵐のこゑのみそする
    もみちはの ちりゆくかたを たつぬれは あきもあらしの こゑのみそする
    崇徳院御製秋下
    382さらぬたに心ほそきを山さとのかねさへ秋のくれをつくなり
    さらぬたに こころほそきを やまさとの かねさへあきの くれをつくなり
    前大僧正覚忠秋下
    383からにしきぬさにたちもて行く秋もけふやたむけの山ちこゆらん
    からにしき ぬさにたちもて ゆくあきも けふやたむけの やまちこゆらむ
    瞻西上人秋下
    384あけぬともなほ秋風はおとつれて野へのけしきよおもかはりすな
    あけぬとも なほあきかせは おとつれて のへのけしきよ おもかはりすな
    源俊頼朝臣秋下
    385たつた山ちるもみちはをきてみれは秋はふもとにかへるなりけり
    たつたやま ちるもみちはを きてみれは あきはふもとに かへるなりけり
    前中納言匡房秋下
    386こよひまて秋はかきれとさためける神代もさらにうらめしきかな
    こよひまて あきはかきれと さためける かみよもさらに うらめしきかな
    花薗左大臣家小大進秋下
    387昨日こそ秋はくれしかいつのまにいはまの水のうすこほるらん
    きのふこそ あきはくれしか いつのまに いはまのみつの うすこほるらむ
    大納言公実
    388いかはかりあきのなこりをなかめましけさはこのはに嵐ふかすは
    いかはかり あきのなこりを なかめまし けさはこのはに あらしふかすは
    源俊頼朝臣
    389いつみ川水のみわたのふしつけにしはまのこほる冬はきにけり
    いつみかは みつのみわたの ふしつけに しはまもこほる ふゆはきにけり
    藤原仲実朝臣
    390ひまもなくちるもみちはにうつもれて庭のけしきも冬こもりけり
    ひまもなく ちるもみちはに うつもれて にはのけしきも ふゆこもりけり
    崇徳院御製
    391さまさまの草葉もいまは霜かれぬ野へより冬やたちてきつらん
    さまさまの くさはもいまは しもかれぬ のへよりふゆや たちてきつらむ
    大炊御門右大臣
    392すむ水を心なしとはたれかいふこほりそ冬のはしめをもしる
    すむみつを こころなしとは たれかいふ こほりそふゆの はしめをもしる
    大納言隆季
    393秋のうちはあはれしらせし風のおとのはけしさそふる冬はきにけり
    あきのうちは あはれしらせし かせのおとの はけしさそふる ふゆはきにけり
    前参議教長
    394わきも子かうはものすそのみつなみにけさこそ冬はたちはしめけれ
    わきもこか うはものすその みつなみに けさこそふゆは たちはしめけれ
    花薗左大臣家小大進
    395いつのまにかけひの水のこほるらむさこそ嵐のおとのかはらめ
    いつのまに かけひのみつの こほるらむ さこそあらしの おとのかはらめ
    藤原孝善
    396と山ふく貴のかせのおときけはまたきに冬のおくそしらるる
    とやまふく あらしのかせの おときけは またきにふゆの おくそしらるる
    和泉式部
    397はつ霜やおきはしむらん暁のかねのおとこそほのきこゆなれ
    はつしもや おきはしむらむ あかつきの かねのおとこそ ほのきこゆなれ
    大炊御門右大臣
    398たかさこのをのへのかねのおとすなり暁かけて霜やおくらん
    たかさこの をのへのかねの おとすなり あかつきかけて しもやおくらむ
    前中納言匡房
    399ひさきおふるをののあさちにおく霜のしろきをみれは夜やふけぬらん
    ひさきおふる をののあさちに おくしもの しろきをみれは よやふけぬらむ
    藤原基俊
    400冬きては一よふたよを玉ささのはわけの霜のところせきまて
    ふゆきては ひとよふたよを たまささの はわけのしもの ところせきまて
    藤原定家
    401霜さえてかれ行くをののをかへなるならのひろはに時雨ふるなり
    しもさえて かれゆくをのの をかへなる ならのひろはに しくれふるなり
    藤原基俊
    402ねさめしてたれかきくらん此ころのこのはにかかる夜半のしくれを
    ねさめして たれかきくらむ このころの このはにかかる よはのしくれを
    馬内侍
    403おとにさへたもとをぬらす時雨かなまきのいたやの夜はのねさめに
    おとにさへ たもとをぬらす しくれかな まきのいたやの よはのねさめに
    源定信(法名道舜)
    404まはらなるまきのいたやにおとはしてもらぬ時雨やこのはなるらん
    まはらなる まきのいたやに おとはして もらぬしくれや このはなるらむ
    皇太后宮大夫俊成
    405木葉ちるとはかりききてやみなましもらて時雨の山めくりせは
    このはちる とはかりききて やみなまし もらてしくれの やまめくりせは
    仁和寺後入道法親王(覚性)
    406ひとりねの涙やそらにかよふらむ時雨にくもるあり明の月
    ひとりねの なみたやそらに かよふらむ しくれにくもる ありあけのつき
    摂政前右大臣
    407うたたねは夢やうつつにかよふらむさめてもおなし時雨をそきく
    うたたねは ゆめやうつつに かよふらむ さめてもおなし しくれをそきく
    藤原隆信朝臣
    408山めくる雲のしたにや成りぬらんすそ野の原にしくれすくなり
    やまめくる くものしたにや なりぬらむ すそののはらに しくれすくなり
    前右京権大夫頼政
    409時雨れゆくをちのと山のみねつつきうつりもあへす雲かくるらん
    しくれゆく をちのとやまの みねつつき うつりもあへす くもかくるらむ
    源師光
    410あらしふくひらのたかねのねわたしにあはれしくるる神無月かな
    あらしふく ひらのたかねの ねわたしに あはれしくるる かみなつきかな
    道因法師
    411み山辺の時雨れてわたるかすことにかことかましき玉かしはかな
    みやまへの しくれてわたる かすことに かことかましき たまかしはかな
    中納言国信
    412このはのみちるかとおもひし時雨には涙もたへぬ物にそ有りける
    このはのみ ちるかとおもひし しくれには なみたもたへぬ ものにそありける
    源俊頼朝臣
    413ふりはへて人もとひこぬ山さとは時雨はかりそすきかてにする
    ふりはへて ひともとひこぬ やまさとは しくれはかりそ すきかてにする
    二条太皇大后宮肥後
    414時雨れつるまやののきはのほとなきにやかてさしいる月のかけかな
    しくれつる まやののきはの ほとなきに やかてさしいる つきのかけかな
    藤原定家
    415玉つさに涙のかかる心ちしてしくるるそらに雁のなくなる
    たまつさに なみたのかかる ここちして しくるるそらに かりのなくなる
    読人知らず
    416みねこえにならのはつたひおとつれてやかて軒はに時雨きにけり
    みねこえに ならのはつたひ おとつれて やかてのきはに しくれきにけり
    源仲頼
    417暁のねさめにすくる時雨こそもらても人の袖ぬらしけれ
    あかつきの ねさめにすくる しくれこそ もらてもひとの そてぬらしけれ
    紀康宗
    418ちりはててのちさへ風をいとふかなもみちをふけるみ山へのさと
    ちりはてて のちさへかせを いとふかな もみちをふける みやまへのさと
    藤原盛雅
    419都たにさひしさまさる木からしにみねの松かせおもひこそやれ
    みやこたに さひしさまさる こからしに みねのまつかせ おもひこそやれ
    中納言定頼女
    420あさほらけうちの河霧たえたえにあらはれわたるせせの網代木
    あさほらけ うちのかはきり たえたえに あらはれわたる せせのあしろき
    中納言定頼
    421やかたをのましろのたかを引きすゑてうたのとたちをかりくらしつる
    やかたをの ましろのたかを ひきすゑて うたのとたちを かりくらしつる
    藤原仲実朝臣
    422ふる雪にゆくへも見えすはし鷹のをふさのすすのおとはかりして
    ふるゆきに ゆくへもみえす はしたかの をふさのすすの おとはかりして
    隆源法師
    423夕まくれ山かたつきてたつ鳥のはおとにたかをあはせつるかな
    ゆふまくれ やまかたつきて たつとりの はおとにたかを あはせつるかな
    源俊頼朝臣
    424いもかりとさほの川へをわかゆけはさよかふけぬる千鳥なくなり
    いもかりと さほのかはへを わかゆけは さよかふけぬる ちとりなくなり
    藤原長能
    425すまのせき有明のそらになく千鳥かたふく月はなれもかなしき
    すまのせき ありあけのそらに なくちとり かたふくつきは なれもかなしき
    皇太后宮大夫俊成
    426いはこゆるあら磯なみにたつ千とり心ならてやうらつたふらん
    いはこゆる あらいそなみに たつちとり こころならすや うらつたふらむ
    道因法師
    427霜さえてさ夜もなかゐのうらさむみ明けやらすとや千鳥鳴くらん
    しもさえて さよもなかゐの うらさむみ あけやらすとや ちとりなくらむ
    法印静賢
    428しもかれのなにはのあしのほのほのとあくる湊に千とり鳴くなり
    しもかれの なにはのあしの ほのほのと あくるみなとに ちとりなくなり
    賀茂成保
    429かたみにやうはけの霜をはらふらむともねのをしのもろこゑになく
    かたみにや うはけのしもを はらふらむ ともねのをしの もろこゑになく
    源親房
    430水鳥をみつのうへとやよそにみむ我もうきたる世をすくしつつ
    みつとりを みつのうへとや よそにみむ われもうきたる よをすくしつつ
    紫式部
    431みつ鳥の玉ものとこのうき枕ふかきおもひはたれかまされる
    みつとりの たまものとこの うきまくら ふかきおもひは たれかまされる
    前中納言匡房
    432このころのをしのうきねそあはれなるうはけの霜よ下のこほりよ
    このころの をしのうきねそ あはれなる うはけのしもよ したのこほりよ
    崇徳院御製
    433なにはかたいりえをめくるあしかもの玉ものふねにうきねすらしも
    なにはかた いりえをめくる あしかもの たまものふねに うきねすらしも
    左京大夫顕輔
    434をし鳥のうきねのとこやあれぬらんつららゐにけりこやの池水
    をしとりの うきねのとこや あれぬらむ つららゐにけり こやのいけみつ
    権中納言経房
    435かものゐるいりえのあしは霜かれておのれのみこそあをはなりけれ
    かものゐる いりえのあしは しもかれて おのれのみこそ あをはなりけれ
    道因法師
    436おく霜をはらひかねてやしをれふすかつみかしたにをしのなくらん
    おくしもを はらひかねてや しをれふす かつみかしたに をしのなくらむ
    賀茂重保
    437あしかものすたく入えの月かけはこほりそ浪のかすにくたくる
    あしかもの すたくいりえの つきかけは こほりそなみの かすにくたくる
    前左衛門督公光
    438夜をかさねむすふ氷のしたにさヘ心ふかくもやとる月かな
    よをかさね むすふこほりの したにさへ こころふかくも やとるつきかな
    平実重
    439いつくにか月はひかりをととむらんやとりし水も氷ゐにけり
    いつくにか つきはひかりを ととむらむ やとりしみつも こほりゐにけり
    左大弁親宗
    440冬くれはゆくてに人はくまねともこほりそむすふ山の井の水
    ふゆくれは ゆくてにひとは くまねとも こほりそむすふ やまのゐのみつ
    藤原成家朝臣
    441月のすむそらには雲もなかりけりうつりし水はこほりへたてて
    つきのすむ そらにはくもも なかりけり うつりしみつは こほりへたてて
    道因法師
    442つららゐてみかける影のみゆるかなまことにいまや玉川の水
    つららゐて みかけるかけの みゆるかな まことにいまや たまかはのみつ
    崇徳院御製
    443月さゆる氷のうへにあられふり心くたくる玉川のさと
    つきさゆる こほりのうへに あられふり こころくたくる たまかはのさと
    皇太后宮大夫俊成
    444さゆる夜のまきのいたやのひとりねに心くたけと霰ふるなり
    さゆるよの まきのいたやの ひとりねに こころくたけと あられふるなり
    左近中将良経
    445朝戸あけてみるそさひしきかた岡のならのひろはにふれるしらゆき
    あさとあけて みるそさひしき かたをかの ならのひろはに ふれるしらゆき
    大納言経信
    446夜をこめて谷の戸ほそに風さむみかねてそしるきみねのはつ雪
    よをこめて たにのとほそに かせさむみ かねてそしるき みねのはつゆき
    崇徳院御製
    447さえわたるよはのけしきにみやまへの雪のふかさを空にしるかな
    さえわたる よはのけしきに みやまへの ゆきのふかさを そらにしるかな
    藤原季通朝臣
    448きゆるをや都の人はをしむらんけさ山さとにはらふしら雪
    きゆるをや みやこのひとは をしむらむ けさやまさとに はらふしらゆき
    藤原清輔朝臣
    449霜かれのまかきのうちの雪みれはきくよりのちの花も有りけり
    しもかれの まかきのうちの ゆきみれは きくよりのちの はなもありけり
    藤原資隆朝臣
    450たとへてもいはむかたなし月かけにうす雲かけてふれるしら雪
    たとへても いはむかたなし つきかけに うすくもかけて ふれるしらゆき
    仁和寺後入道法親王(覚性)
    451み山ちはかつふる雪にうつもれていかてかこまのあとをたつねん
    みやまちは かつふるゆきに うつもれて いかてかこまの あとをたつねむ
    前参議教長
    452おしなへて山のしら雪つもれともしるきはこしのたかねなりけり
    おしなへて やまのしらゆき つもれとも しるきはこしの たかねなりけり
    治部卿通俊
    453と山にはしはのしたはもちりはててをちのたかねに雪ふりにけり
    とやまには しはのしたはも ちりはてて をちのたかねに ゆきふりにけり
    藤原顕綱朝臣
    454雪ふれは谷のかけはしうつもれて梢そ冬の山ちなりける
    ゆきふれは たにのかけはし うつもれて こすゑそふゆの やまちなりける
    源俊頼朝臣
    455雪つもるみねにふふきやわたるらむこしのみそらにまよふしら雲
    ゆきつもる みねにふふきや わたるらむ こしのみそらに まよふしらくも
    二条院御製
    456浪かけはみきはの雪もきえなまし心ありてもこほる池かな
    なみかけは みきはのゆきも きえなまし こころありても こほるいけかな
    仁和寺法親王(守覚)
    457山さとのかきねは雪にうつもれて野へとひとつに成りにけるかな
    やまさとの かきねはゆきに うつもれて のへとひとつに なりにけるかな
    右のおほいまうちきみ
    458あともたえしをりも雪にうつもれてかへる山ちにまとひぬるかな
    あともたえ しをりもゆきに うつもれて かへるやまちに まとひぬるかな
    右近大将実房
    459こえかねていまそこし路をかへる山雪ふる時の名にこそ有りけれ
    こえかねて いまそこしちを かへるやま ゆきふるときの なにこそありけれ
    前右京権大夫頼政
    460浪まよりみえしけしきそかはりぬる雪ふりにけり松かうら島
    なみまより みえしけしきそ かはりぬる ゆきふりにけり まつかうらしま
    顕昭法師
    461ふふきするなからの山をみわたせはをのへをこゆるしかのうらなみ
    ふふきする なからのやまを みわたせは をのへをこゆる しかのうらなみ
    藤原良清
    462ふる雪にのきはの竹もうつもれて友こそなけれ冬の山さと
    ふるゆきに のきはのたけも うつもれて ともこそなけれ ふゆのやまさと
    読人不知
    463こまのあとはかつふる雪にうつもれておくるる人や道まとふらん
    こまのあとは かつふるゆきに うつもれて おくるるひとや みちまとふらむ
    西住法師
    464くれ竹のをれふすおとのなかりせは夜ふかき雪をいかてしらまし
    くれたけの をれふすおとの なかりせは よふかきゆきを いかてしらまし
    坂上明兼
    465ましはかるをののほそ道あとたえてふかくも雪のなりにけるかな
    ましはかる をののほそみち あとたえて ふかくもゆきの なりにけるかな
    藤原為季
    466雪ふれは木木のこすゑにさきそむるえたよりほかの花もちりけり
    ゆきふれは ききのこすゑに さきそむる えたよりほかの はなもちりけり
    俊恵法師
    467ふるままに跡たえぬれはすすか山雪こそせきのとさしなりけれ
    ふるままに あとたえぬれは すすかやま ゆきこそせきの とさしなりけれ
    内大臣
    468山さとのかきねの梅はさきにけりかはかりこそは春もにほはめ
    やまさとの かきねのうめは さきにけり かはかりこそは はるもにほはめ
    天台座主明快
    469かきくらしこし路もみえすふる雪にいかてかとしのかへり行くらん
    かきくらし こしちもみえす ふるゆきに いかてかとしの かへりゆくらむ
    前大納言実長
    470さりともとなけきなけきてすくしつるとしもこよひにくれはてにけり
    さりともと なけきなけきて すくしつる としもこよひに くれはてにけり
    前左衛門督公光
    471あはれにもくれゆくとしのひかすかなかへらむことは夜のまとおもふに
    あはれにも くれゆくとしの ひかすかな かへらむことは よのまとおもふに
    相模
    472かすならぬ身にはつもらぬとしならはけふのくれをもなけかさらまし
    かすならぬ みにはつもらぬ としならは けふのくれをも なけかさらまし
    惟宗広言
    473をしめともはかなくくれてゆく年のしのふむかしにかへらましかは
    をしめとも はかなくくれて ゆくとしの しのふむかしに かへらましかは
    源光行
    474一とせははかなき夢のここちしてくれぬるけふそおとろかれける
    ひととせは はかなきゆめの ここちして くれぬるけふそ おとろかれける
    前律師俊宗
    475みやこにておくりむかふといそきしをしらてや年のけふはくれなん
    みやこにて おくりむかふと いそきしを しりてやとしの けふはくれなむ
    民部卿親範
    476むかしみし心はかりをしるへにておもひそおくるいきの松原
    むかしみし こころはかりを しるへにて おもひそおくる いきのまつはら
    藤原実方朝臣離別
    477わかれよりまさりてをしき命かなきみに二たひあはむとおもへは
    わかれより まさりてをしき いのちかな きみにふたたひ あはむとおもへは
    前太納言公任離別
    478なきよわるまかきの虫もとめかたき秋のわかれやかなしかるらん
    なきよわる まかきのむしも とめかたき あきのわかれや かなしかるらむ
    紫式部離別
    479かへりこむほともさためぬわかれちは都のてふりおもひいてにせよ
    かへりこむ ほともさためぬ わかれちは みやこのてふり おもひいてにせよ
    大納言公実離別
    480行すゑをまつへき身こそおいにけれ別はみちのとほきのみかは
    ゆくすゑを まつへきみこそ おいにけれ わかれはみちの とほきのみかは
    前中納言匡房離別
    481わするなよかへる山ちにあとたえて日かすは雪のふりつもるとも
    わするなよ かへるやまちに あとたえて ひかすはゆきの ふりつもるとも
    源俊頼朝臣離別
    482かへりこむほとをはいつといひおかし定なき身は人たのめなり
    かへりこむ ほとをはいつと いひおかし さためなきみは ひとたのめなり
    大僧正行尊離別
    483たのむれと心かはりてかへりこはこれそやかての別なるへき
    たのむれと こころかはりて かへりこは これそやかての わかれなるへき
    左京大夫顕輔離別
    484かきりあらむ道こそあらめこの世にて別るへしとはおもはさりしを
    かきりあらむ みちこそあらめ このよにて わかるへしとは おもはさりしを
    上西門院兵衛離別
    485行くきみをととめまほしくおもふかな我も恋しき都なれとも
    ゆくきみを ととめまほしく おもふかな われもこひしき みやこなれとも
    藤原経衡離別
    486年へたる人の心をおもひやれ君たにこふる花の都を
    としへたる ひとのこころを おもひやれ きみたにこふる はなのみやこを
    太宰大弐資通離別
    487もろともに行人もなき別ちに涙はかりそとまらさりける
    もろともに ゆくひともなき わかれちに なみたはかりそ とまらさりける
    道命法師離別
    488なからへてあるへき身としおもはねはわするなとたにえこそちきらね
    なからへて あるへきみとし おもはねは わするなとたに えこそちきらね
    天台座主源心離別
    489あはれとしおもはむ人は別れしを心は身よりほかのものかは
    あはれとし おもはむひとは わかれしを こころはみより ほかのものかは
    読人不知離別
    490別れてもおなしみやこにありしかはいとこのたひの心ちやはせし
    わかれても おなしみやこに ありしかは いとこのたひの ここちやはせし
    和泉式部離別
    491しのへともこのわかれちをおもふにはから紅の涙こそふれ
    しのへとも このわかれちを おもふには からくれなゐの なみたこそふれ
    成尋法師母離別
    492心をもきみをもやとにととめおきて涙とともにいつるたひかな
    こころをも きみをもやとに ととめおきて なみたとともに いつるたひかな
    僧都覚雅離別
    493まてといひてたのめし秋もすきぬれは帰る山ちの名そかひもなき
    まてといひて たのめしあきも すきぬれは かへるやまちの なそかひもなき
    西住法師離別
    494をしへおくかたみをふかくしのはなん身はあを海の浪になかれぬ
    をしへおく かたみをふかく しのはなむ みはあをうみの なみになかれぬ
    入道前太政大臣離別
    495あらすのみなりゆくたひの別ちにてなれしことのねこそかはらね
    あらすのみ なりゆくたひの わかれちに てなれしことの ねこそかはらね
    右大臣離別
    496わするなよをはすて山の月みても都をいつるあり明のそら
    わするなよ をはすてやまの つきみても みやこをいつる ありあけのそら
    右衛門督頼実離別
    497わかれても心へたつなたひころもいくへかさなる山ちなりとも
    わかれても こころへたつな たひころも いくへかさなる やまちなりとも
    藤原定家離別
    498有明の月もしみつにやとりけりこよひはこえしあふ坂のせき
    ありあけの つきもしみつに やとりけり こよひはこえし あふさかのせき
    藤原範永朝臣羈旅
    499はりまちやすまのせきやのいたひさし月もれとてやまはらなるらん
    はりまちや すまのせきやの いたひさし つきもれとてや まはらなるらむ
    中納言師俊羈旅
    500あたら夜をいせのはま荻をりしきていも恋しらにみつる月かな
    あたらよを いせのはまをき をりしきて いもこひしらに みつるつきかな
    藤原基俊羈旅
    501浪のうへにあり明の月をみましやはすまのせきやにとまらさりせは
    なみのうへに ありあけのつきを みましやは すまのせきやに とまらさりせは
    中納言国信羈旅
    502よなよなのたひねのとこに風さえてはつ雪ふれるさやの中山
    よなよなの たひねのとこに かせさえて はつゆきふれる さやのなかやま
    八条前太政大臣羈旅
    503水のうへにうきねをしてそおもひしるかかれはをしも鳴くにそ有りける
    みつのうへに うきねをしてそ おもひしる かかれはをしも なくにそありける
    和泉式部羈旅
    504おもふことなくてそみましよさの海のあまのはしたて都なりせは
    おもふこと なくてそみまし よさのうみの あまのはしたて みやこなりせは
    赤染衛門羈旅
    505宮木ひくあつさの杣をかきわけてなにはのうらをとほさかりぬる
    みやきひく あつさのそまを かきわけて なにはのうらを とほさかりぬる
    能因法師羈旅
    506すみのえにまつらむとのみなけきつつ心つくしにとしをふるかな
    すみのえに まつらむとのみ なけきつつ こころつくしに としをふるかな
    津守有基羈旅
    507わかれゆく都のかたの恋しきにいさむすひみむ忘井の水
    わかれゆく みやこのかたの こひしきに いさむすひみむ わすれゐのみつ
    斎宮甲斐羈旅
    508さ夜ふかき雲ゐに雁もおとすなりわれひとりやは旅の空なる
    さよふかき くもゐのかりも おとすなり われひとりやは たひのそらなる
    源雅光羈旅
    509かり衣そての涙にやとる夜は月もたひねの心ちこそすれ
    かりころも そてのなみたに やとるよは つきもたひねの ここちこそすれ
    崇徳院御製羈旅
    510松かねの枕もなにかあたならむ玉のゆかとてつねのとこかは
    まつかねの まくらもなにか あたならむ たまのゆかとて つねのとこかは
    崇徳院御製羈旅
    511花さきし野へのけしきも,かれぬこれにてそしる旅の日かすは
    はなさきし のへのけしきも しもかれぬ これにてそしる たひのひかすは
    大炊御門右大臣羈旅
    512さらしなやをはすて山に月みると都にたれかわれをしるらん
    さらしなや をはすてやまに つきみると みやこにたれか われをしるらむ
    藤原季通朝臣羈旅
    513道すから心もそらになかめやるみやこの山の雲かくれぬる
    みちすから こころもそらに なかめやる みやこのやまの くもかくれぬる
    待賢門院堀川羈旅
    514ささのはをゆふ暮なからをりしけは玉ちるたひのくさ枕かな
    ささのはを ゆふつゆなから をりしけは たまちるたひの くさまくらかな
    同院安芸羈旅
    515うらつたふいそのとまやのかち枕ききもならはぬ浪のおとかな
    うらつたふ いそのとまやの かちまくら ききもならはぬ なみのおとかな
    皇太后宮大夫俊成羈旅
    516わたのはらはるかに浪をへたてきて都にいてし月をみるかな
    わたのはら はるかになみを へたてきて みやこにいてし つきをみるかな
    西行法師羈旅
    517さためなきうき世の中としりぬれはいつこも旅の心ちこそすれ
    さためなき うきよのなかと しりぬれは いつこもたひの ここちこそすれ
    高野法親王(覚法)羈旅
    518おほつかないかになるみのはてならむ行へもしらぬたひのかなしさ
    おほつかな いかになるみの はてならむ ゆくへもしらぬ たひのかなしさ
    前中納言師仲羈旅
    519日をへつつゆくにはるけき道なれとすゑをみやことおもはましかは
    ひをへつつ ゆくにはるけき みちなれと すゑをみやこと おもはましかは
    左京大夫修範羈旅
    520かくはかりあはれならしをしくるとも磯の松かねまくらならすは
    かくはかり あはれならしを しくるとも いそのまつかね まくらならすは
    読人不知羈旅
    521月みれはまつ都こそこひしけれまつらんとおもふ人はなけれと
    つきみれは まつみやここそ こひしけれ まつらむとおもふ ひとはなけれと
    道因法師羈旅
    522あふさかの関には人もなかりけりいはまの水のもるにまかせて
    あふさかの せきにはひとも なかりけり いはまのみつの もるにまかせて
    祝部成仲羈旅
    523こえて行くともやなからむあふ坂のせきのし水のかけはなれなは
    こえてゆく ともやなからむ あふさかの せきのしみつの かけはなれなは
    大納言定房羈旅
    524たひ衣あさたつをのの露しけみしほりもあへすしのふもちすり
    たひころも あさたつをのの つゆしけみ しほりもあへす しのふもちすり
    前大僧正覚忠羈旅
    525風のおとにわきそかねまし松かねのまくらにもらぬ時雨なりせは
    かせのおとに わきそかねまし まつかねの まくらにもらぬ しくれなりせは
    右近大将実房羈旅
    526もしほ草しきつのうらのねさめには時雨にのみや袖はぬれける
    もしほくさ しきつのうらの ねさめには しくれにのみや そてはぬれける
    俊恵法師羈旅
    527玉もふくいそやかしたにもる時雨たひねのそてもしほたれよとや
    たまもふく いそやかしたに もるしくれ たひねのそても しほたれよとや
    源仲綱羈旅
    528草枕おなしたひねの袖にまた夜はのしくれもやとはかりけり
    くさまくら おなしたひねの そてにまた よはのしくれも やとはかりけり
    太皇太后宮小侍従羈旅
    529はるはるとつもりのおきをこきゆけはきしの松かせとほさかるなり
    はるはると つもりのおきを こきゆけは きしのまつかせ とほさかるなり
    摂政前右大臣羈旅
    530わたのはらしほちはるかにみわたせは雲と浪とはひとつなりけり
    わたのはら しほちはるかに みわたせは くもとなみとは ひとつなりけり
    刑部卿頼輔羈旅
    531あはれなる野しまかさきのいほりかな露おく袖に浪もかけけり
    あはれなる のしまかさきの いほりかな つゆおくそてに なみもかけけり
    皇太后宮大夫俊成羈旅
    532よしさらは磯のとまやに旅ねせん浪かけすとてぬれぬ袖かは
    よしさらは いそのとまやに たひねせむ なみかけすとて ぬれぬそてかは
    仁和寺法親王(守覚)羈旅
    533たひのよに又たひねして草まくらゆめのうちにも夢をみるかな
    たひのよに またたひねして くさまくら ゆめのうちにも ゆめをみるかな
    法印慈円羈旅
    534草まくらかりねの夢にいくたひかなれし都にゆきかへるらん
    くさまくら かりねのゆめに いくたひか なれしみやこに ゆきかへるらむ
    左兵衛督隆房羈旅
    535いつもかく有あけの月のあけかたは物やかなしきすまの関守
    いつもかく ありあけのつきの あけかたは ものやかなしき すまのせきもり
    法眼兼覚羈旅
    536たひねするすまのうらちのさよ千とりこゑこそ袖の浪はかけけれ
    たひねする すまのうらちの さよちとり こゑこそそての なみはかけけれ
    藤原家隆羈旅
    537かくしつつつひにとまらむよもきふのおもひしらるる草枕かな
    かくしつつ つひにとまらむ よもきふの おもひしらるる くさまくらかな
    円玄法師羈旅
    538たひねするこのした露の袖にまた時雨ふるなりさよの中山
    たひねする このしたつゆの そてにまた しくれふるなり さよのなかやま
    律師覚弁羈旅
    539たひねするいほりをすくるむら時雨なこりまてこそ袖はぬれけれ
    たひねする いほりをすくる むらしくれ なこりまてこそ そてはぬれけれ
    藤原資忠羈旅
    540あられもるふはのせきやにたひねして夢をもえこそとほささりけれ
    あられもる ふはのせきやに たひねして ゆめをもえこそ とほささりけれ
    大中臣親守羈旅
    541かくはかりうき身のほともわすられて猶恋しきは都なりけり
    かくはかり うきみのほとも わすられて なほこひしきは みやこなりけり
    平康頼(法名性照)羈旅
    542さつまかたおきの小島にわれありとおやにはつけよやへのしほかせ
    さつまかた おきのこしまに われありと おやにはつけよ やへのしほかせ
    平康頼(法名性照)羈旅
    543あつまちも年もすゑにや成りぬらん雪ふりにけり白川のせき
    あつまちも としもすゑにや なりぬらむ ゆきふりにけり しらかはのせき
    僧都印性羈旅
    544いはねふみ嶺のしひしはをりしきて雲にやとかるゆふくれのそら
    いはねふみ みねのしひしは をりしきて くもにやとかる ゆふくれのそら
    寂蓮法師羈旅
    545春くれはちりにし花もさきにけりあはれ別のかからましかは
    はるくれは ちりにしはなも さきにけり あはれわかれの かからましかは
    中務卿具平親王哀傷
    546行きかへり春やあはれとおもふらん契りし人の又もあはねは
    ゆきかへり はるやあはれと おもふらむ ちりにしひとの またもあはねは
    大納言公任哀傷
    547うゑおきし人のかたみとみぬたにもやとのさくらをたれかをしまぬ
    うゑおきし ひとのかたみと みぬたにも やとのさくらを たれかをしまぬ
    藤原範永朝臣哀傷
    548をしきかなかたみにきたるふち衣たた此ころにくちはてぬへし
    をしきかな かたみにきたる ふちころも たたこのころに くちはてぬへし
    和泉式部哀傷
    549くちなしのそのにやわか身入りにけんおもふことをもいはてやみぬる
    くちなしの そのにやわかみ いりにけむ おもふことをも いはてやみぬる
    藤原道信朝臣哀傷
    550おもひかねきのふのそらをなかむれはそれかとみゆる雲たにもなし
    おもひかね きのふのそらを なかむれは それかとみゆる くもたにもなし
    藤原頼孝哀傷
    551うつつとも夢ともえこそわきはてねいつれの時をいつれとかせん
    うつつとも ゆめともえこそ わきはてね いつれのときを いつれとかせむ
    花山院御製哀傷
    552さくら花みるにもかなし中中にことしの春はさかすそあらまし
    さくらはな みるにもかなし なかなかに ことしのはるは さかすそあらまし
    源道済哀傷
    553おくれしとおもへとしなぬわかみかなひとりやしらぬ道をゆくらん
    おくれしと おもへとしなぬ わかみかな ひとりやしらぬ みちをゆくらむ
    道命法師哀傷
    554おいらくの命のあまりなかくして君に二たひわかれぬるかな
    おいらくの いのちのあまり なかくして きみにふたたひ わかれぬるかな
    藤原長能哀傷
    555一こゑも君につけなんほとときすこの五月雨はやみにまとふと
    ひとこゑも きみにつけなむ ほとときす このさみたれは やみにまとふと
    上東門院哀傷
    556あやめ草なみたの玉にぬきかへてをりならぬねを猶そかけつる
    あやめくさ なみたのたまに ぬきかへて をりならぬねを なほそかけつる
    弁乳母哀傷
    557玉ぬきしあやめのくさはありなからよとのはあれん物とやはみし
    たまぬきし あやめのくさは ありなから よとのはあれむ ものとやはみし
    江侍従哀傷
    558かなしさをかつはおもひもなくさめよたれもつひにはとまるへきかは
    かなしさを かつはおもひも なくさめよ たれもつひには とまるへきかは
    大弐三位哀傷
    559たれもみなとまるへきにはあらねともおくるるほとは猶そかなしき
    たれもみな とまるへきには あらねとも おくるるほとは なほそかなしき
    大納言長家哀傷
    560おほかたにさやけからぬか月かけは涙くもらぬ人にみせはや
    おほかたに さやけからぬか つきかけは なみたくもらぬ ひとにみせはや
    承香殿女御哀傷
    561かなしさにそへても物のかなしきはわかれのうちの別なりけり
    かなしさに そへてもものの かなしきは わかれのうちの わかれなりけり
    小弁命帰哀傷
    562うきもののさすかにをしきことしかなとほさかりなん君か別に
    うきものの さすかにをしき ことしかな とほさかりなむ きみかわかれに
    前中宮宣旨哀傷
    563かなしさはいととそまさる別れにしことしもけふをかき、りとおもへは
    かなしさは いととそまさる わかれにし ことしもけふを かきりとおもへは
    大納言長家哀傷
    564いつかたの雲ちとしらはたつねましつらはなれけん雁かゆくへを
    いつかたの くもちとしらは たつねまし つらはなれけむ かりかゆくへを
    紫式部哀傷
    565としをへて君かみなれしますかかみむかしの影はとまらさりけり
    としをへて きみかみなれし ますかかみ むかしのかけは とまらさりけり
    藤原道信朝臣哀傷
    566つねよりもまたぬれそひしたもとかなむかしをかけておちし涙に
    つねよりも またぬれそひし たもとかな むかしをかけて おちしなみたに
    赤染衛門哀傷
    567うつつともおもひわかれてすくるまにみしよの夢をなにかたりけん
    うつつとも おもひわかれて すくるまに みしよのゆめを なにかたりけむ
    上東門院哀傷
    568みやこへとおもふにつけてかなしきはたれかはいまは我をまつらん
    みやこへと おもふにつけて かなしきは たれかはいまは われをまつらむ
    源実基朝臣哀傷
    569もろともに春の花をはみしものを人におくるる秋そかなしき
    もろともに はるのはなをは みしものを ひとにおくるる あきそかなしき
    平雅康哀傷
    570花とみし人はほとなくちりにけりわかみも風をまつとしらなん
    はなとみし ひとはほとなく ちりにけり わかみもかせを まつとしらなむ
    前中納言匡房哀傷
    571かわくまもなきすみそめのたもとかなくちなはなにをかたみにもせん
    かわくよも なきすみそめの たもとかな くちなはなにを かたみにもせむ
    藤原顕綱朝臣哀傷
    572すみそめのたもとにかかるねをみれはあやめもしらぬ涙なりけり
    すみそめの たもとにかかる ねをみれは あやめもしらぬ なみたなりけり
    権中納言俊忠哀傷
    573あやめ草うきねをみても涙のみかくらん袖をおもひこそやれ
    あやめくさ うきねをみても なみたのみ かからむそてを おもひこそやれ
    中納言国信哀傷
    574おもひやれむなしきとこをうちはらひむかしをしのふ袖のしつくを
    おもひやれ むなしきとこを うちはらひ むかしをしのふ そてのしつくを
    藤原基俊哀傷
    575むねにみつおもひをたにもはるかさて煙とならむことそかなしき
    むねにみつ おもひをたにも はるかさて けふりとならむ ことそかなしき
    贈皇太后★子哀傷
    576もろともに有明の月をみしものをいかなるやみに君まとふらん
    もろともに ありあけのつきを みしものを いかなるやみに きみまとふらむ
    藤原有信朝臣哀傷
    577うちならすかねのおとにやなかき夜もあけぬなりとはおもひしるらん
    うちならす かねのおとにや なかきよも あけぬなりとは おもひしるらむ
    慶範法師哀傷
    578かきりありて人はかたかたわかるとも涙をたにもととめてしかな
    かきりありて ひとはかたかた わかるとも なみたをたにも ととめてしかな
    崇徳院御製哀傷
    579ちりちりにわかるるけふのかなしさに涙しもこそとまらさりけれ
    ちりちりに わかるるけふの かなしさに なみたしもこそ とまらさりけれ
    上西門院兵衛哀傷
    580かなしさをこれよりけにやおもはましかねてならはぬ別なりせは
    かなしさを これよりけにや おもはまし かねてならはぬ わかれなりせは
    静厳法師哀傷
    581すみ染の色はいつれもかはらぬをぬれぬや君か衣なるらん
    すみそめの いろはいつれも かはらぬを ぬれぬやきみか ころもなるらむ
    天台座主勝範哀傷
    582つねよりもむつましきかなほとときすしての山ちのともとおもへは
    つねよりも むつましきかな ほとときす してのやまちの ともとおもへは
    鳥羽院御製哀傷
    583心さしふかくそめてしふちころもきつる日かすのあさくもあるかな
    こころさし ふかくそめてし ふちころも きつるひかすの あさくもあるかな
    久我内のおほいまうちきみ哀傷
    584たくひなくうきことみえしやとなれとそもわかるるはかなしかりけり
    たくひなく うきことみえし やとなれと そもわかるるは かなしかりけり
    大宮前おほきおほいまうち君哀傷
    585かそふれはむかしかたりに成りにけり別はいまの心ちすれとも
    かそふれは むかしかたりに なりにけり わかれはいまの ここちすれとも
    花薗左大臣の室哀傷
    586たなはたにことしはかさぬしひしはの袖しもことに露けかりけり
    たなはたに ことしはかさぬ しひしはの そてしもことに つゆけかりけり
    大納言実家哀傷
    587しひしはの露けき袖は七夕もかさぬにつけてあはれとやみん
    しひしはの つゆけきそては たなはたも かさぬにつけて あはれとやみむ
    三位(右大臣母)哀傷
    588故郷にけふこさりせはほとときすたれかむかしを恋ひてなかまし
    ふるさとに けふこさりせは ほとときす たれとむかしを こひてなかまし
    仁和寺後入道法親王(覚性)哀傷
    589つねにみし君かみゆきをけふとへはかへらぬたひときくそかなしき
    つねにみし きみかみゆきを けふとへは かへらぬたひと きくそかなしき
    法印澄憲哀傷
    590をしへおくそのことのはをみるたひに又とふかたのなきそかなしき
    をしへおく そのことのはを みるたひに またとふかたの なきそかなしき
    右大臣哀傷
    591とりへ山おもひやるこそかなしけれひとりやこけの下にくちなん
    とりへやま おもひやるこそ かなしけれ ひとりやこけの したにくちなむ
    民部卿成範哀傷
    592かきり有りて二重はきねはふち衣なみたはかりをかさねつるかな
    かきりありて ふたへはきねは ふちころも なみたはかりを かさねつるかな
    藤原貞憲朝臣哀傷
    593三とせまてなれしは夢の心ちしてけふそうつつの別なりける
    みとせまて なれしはゆめの ここちして けふそうつつの わかれなりける
    右京大夫季能哀傷
    594いりぬるかあかぬ別のかなしさをおもひしれとや山のはの月
    いりぬるか あかぬわかれの かなしさを おもひしれとや やまのはのつき
    僧都印性哀傷
    595野へみれはむかしのあとやたれならむその世もしらぬ苔のしたかな
    のへみれは むかしのあとや たれならむ そのよもしらぬ こけのしたかな
    左京大夫修範哀傷
    596なにことのふかき思ひにいつみ川そこの玉もとしつみはてけん
    なにことの ふかきおもひに いつみかは そこのたまもと しつみはてけむ
    僧都範玄哀傷
    597おもひきやけふうちならすかねのおとにつたへしふえのねをそへんとは
    おもひきや けふうちならす かねのおとに つたへしふえの ねをそへむとは
    法印成清哀傷
    598さきたたむことをうしとそおもひしにおくれても又かなしかりけり
    さきたたむ ことをうしとそ おもひしに おくれてもまた かなしかりけり
    静縁法師哀傷
    599まつらむとおもははいかにいそかましあとをみにたにまとふ心を
    まつらむと おもははいかに いそかまし あとをみにたに まとふこころを
    藤原親盛哀傷
    600山のはにたなひく雲やゆくへなくなりし煙のかたみなるらん
    やまのはに たなひくくもや ゆくへなく なりしけふりの かたみなるらむ
    覚蓮法師(俗名隆行)哀傷
    601年をへてむかしをしのふ心のみうきにつけてもふかくさのさと
    としをへて むかしをしのふ こころのみ うきにつけても ふかくさのさと
    法眼長真哀傷
    602たらちめやとまりて我ををしまましかはるにかはる命なりせは
    たらちめや とまりてわれを をしままし かはるにかはる いのちなりせは
    顕昭法師哀傷
    603もろともになかめなかめて秋の月ひとりにならむことそかなしき
    もろともに なかめなかめて あきのつき ひとりにならむ ことそかなしき
    西行法師哀傷
    604みたれすとをはりきくこそうれしけれさても別はなくさまねとも
    みたれすと をはりきくこそ うれしけれ さてもわかれは なくさまねとも
    寂然法師哀傷
    605この世にて又あふましきかなしさにすすめし人そ心みたれし
    このよにて またあふましき かなしさに すすめしひとそ こころみたれし
    西行法師哀傷
    606いく千代とかきらさりけるくれ竹や君かよはひのたくひなるらん
    いくちよと かきらさりける くれたけや きみかよはひの たくひなるらむ
    院御製
    607うゑてみる籬の竹のふしことにこもれる千代は君そかそへん
    うゑてみる まかきのたけの ふしことに こもれるちよは きみそかそへむ
    後三条内大臣
    608わか友と君かみかきのくれ竹は千代にいく世のかけをそふらん
    わかともと きみかみかきの くれたけは ちよにいくよの かけをそふらむ
    皇太后宮大夫俊成
    609君か代はあまのかこ山いつる日のてらむかきりはつきしとそ思ふ
    きみかよは あまのかこやま いつるひの てらむかきりは つきしとそおもふ
    大宮前太政大臣
    610君かためみたらし川を若水にむすふや千代のはしめなるらん
    きみかため みたらしかはを わかみつに むすふやちよの はしめなるらむ
    源俊頼朝臣
    611千とせまてをりてみるへきさくら花こすゑはるかにさきそめにけり
    ちとせまて をりてみるへき さくらはな こすゑはるかに さきそめにけり
    堀河院御製
    612ほりうゑしわかきのむめにさく花は年もかきらぬにほひなりけり
    ほりうゑし わかきのうめに さくはなは としもかきらぬ にほひなりけり
    大納言忠教
    613千とせすむ池のみきはのやへさくらかけさヘそこにかさねてそみる
    ちとせすむ いけのみきはの やへさくら かけさへそこに かさねてそみる
    権中納言俊忠
    614神代よりひさしかれとやうこきなきいはねに松のたねをまきけん
    かみよより ひさしかれとや うこきなき いはねにまつの たねをまきけむ
    源俊頼朝臣
    615おちたきつやそうち川のはやきせにいはこす浪は千代の数かも
    おちたきつ やそうちかはの はやきせに いはこすなみは ちよのかすかも
    源俊頼朝臣
    616ちはやふるいつきの宮のありす川松とともにそかけはすむへき
    ちはやふる いつきのみやの ありすかは まつとともにそ かけはすむへき
    京極前太政大臣
    617行すゑをまつそひさしき君かへん千よのはしめの子日とおもへは
    ゆくすゑを まつそひさしき きみかへむ ちよのはしめの ねのひとおもへは
    二条太皇大后宮肥後
    618おく山のやつをのつはき君か代にいくたひかけをかへんとすらん
    おくやまの やつをのつはき きみかよに いくたひかけを かへむとすらむ
    藤原基俊
    619君か代をなか月にしもしら菊のさくや千とせのしるしなるらん
    きみかよを なかつきにしも しらきくの さくやちとせの しるしなるらむ
    法性寺入道前太政大臣
    620やへきくのにほふにしるし君か代は千とせの秋をかさぬへしとは
    やへきくの にほひにしるし きみかよは ちとせのあきを かさぬへしとは
    花薗左大臣
    621ちはやふる神代のことも人ならは問はましものをしらきくのはな
    ちはやふる かみよのことも ひとならは とはましものを しらきくのはな
    八条前太政大臣
    622ふく風も木木のえたをはならさねと山はやちよのこゑそきこゆる
    ふくかせも ききのえたをは ならさねと やまはやちよの こゑそきこゆる
    崇徳院御製
    623千代ふへきはしめの春としりかほにけしきことなる花さくらかな
    ちよふへき はしめのはると しりかほに けしきことなる はなさくらかな
    左大臣
    624しら雲にはねうちつけてとふたつのはるかに千代のおもほゆるかな
    しらくもに はねうちつけて とふたつの はるかにちよの おもほゆるかな
    二条院御製
    625うこきなくなほ万代そたのむへきはこやの山のみねの松かけ
    うこきなく なほよろつよそ たのむへき はこやのやまの みねのまつかけ
    式子内親王
    626ももちたひうらしまの子はかへるともはこやの山はときはなるへし
    ももちたひ うらしまのこは かへるとも はこやのやまは ときはなるへし
    皇太后宮大夫俊成
    627いく千代とかきらぬたつのこゑすなり雲井のちかきやとのしるしに
    いくちよと かきらぬたつの こゑすなり くもゐのちかき やとのしるしに
    大炊御門右大臣
    628千とせふるをのへの小松うつしうゑて万代まてのともとこそみめ
    ちとせふる をのへのこまつ うつしうゑて よろつよまての ともとこそみめ
    入道前関白太政大臣
    629万代もすむへきやとにうゑつれは松こそ君かかけをたのまめ
    よろつよも すむへきやとに うゑつれは まつこそきみか かけをたのまめ
    源通能朝臣
    630ふえのねの万代まてときこえしを山もこたふる心ちせしかな
    ふえのねの よろつよまてと きこえしを やまもこたふる ここちせしかな
    右おほいまうちきみ
    631むれてゐるたつのけしきにしるきかな千とせすむへきやとの池水
    むれてゐる たつのけしきに しるきかな ちとせすむへき やとのいけみつ
    修埋大夫顕季
    632みつかきのかつらをうつすやとなれは月みむことそひさしかるへき
    みつかきの かつらをうつす やとなれは つきみむことそ ひさしかるへき
    賀茂成助
    633君か代にくらへていはは松山のまつのはかすはすくなかりけり
    きみかよに くらへていはは まつやまの まつのはかすは すくなかりけり
    藤原孝善
    634千代とのみおなしことをそしらふなるなかたの山のみねの松かせ
    ちよとのみ おなしことをそ しらふなる なかたのやまの みねのまつかせ
    善滋為政
    635ちはやふる神田のさとのいねなれは月日とともにひさしかるへし
    ちはやふる かみたのさとの いねなれは つきひとともに ひさしかるへし
    前中納言匡房
    636すへらきのすゑさかゆへきしるしにはこたかくそなるわか松のもり
    すめらきの すゑさかゆへき しるしには こたかくそなる わかまつのもり
    宮内卿永範
    637君か代のかすにはしかしかきりなきちさかのうらのまさこなりとも
    きみかよの かすにはしかし かきりなき ちさかのうらの まさこなりとも
    参議俊憲
    638あめつちのきはめもしらぬ御代なれは雲田のむらのいねをこそつけ
    あめつちの きはめもしらぬ みよなれは くもたのむらの いねをこそつけ
    刑部卿範兼
    639霜ふれとさかえこそませ君か代にあふさか山のせきの杉もり
    しもふれと さかえこそませ きみかよに あふさかやまの せきのすきもり
    宮内卿永範
    640ときはなるみかみの山のすきむらややほ万代のしるしなるらん
    ときはなる みかみのやまの すきむらや やほよろつよの しるしなるらむ
    藤原季経朝臣
    641なにはえのもにうつもるる玉かしはあらはれてたに人をこひはや
    なにはえの もにうつもるる たまかしは あらはれてたに ひとをこひはや
    源俊頼朝臣十一恋一
    642またしらぬ人をはしめてこふるかなおもふ心よみちしるへせよ
    またしらぬ ひとをはしめて こふるかな おもぬこころよ みちしるへせよ
    前太后宮肥後十一恋一
    643わりなしやおもふ心の色ならはこれそそれともいはましものを
    わりなしや おもふこころの いろならは これそそれとも いはましものを
    河内十一恋一
    644おもふよりいつしかぬるるたもとかな涙そ恋のしるへなりける
    おもふより いつしかぬるる たもとかな なみたそこひの しるへなりける
    後二条関白家筑前十一恋一
    645もくつ火のいそまをわくるいさり船ほのかなりしにおもひそめてき
    もくつひの いそまをわくる いさりふね ほのかなりしに おもひそめてき
    藤原長能十一恋一
    646いかにせんおもひを人にそめなから色に出てしとしのふ心を
    いかにせむ おもひをひとに そめなから いろにいてしと しのふこころを
    延久三親王(輔仁)十一恋一
    647ひとめみし人はたれともしら雲のうはのそらなる恋もするかな
    ひとめみし ひとはたれとも しらくもの うはのそらなる こひもするかな
    徳大寺左大臣十一恋一
    648つつめとも涙にそてのあらはれて恋すと人にしられぬるかな
    つつめとも なみたにそての あらはれて こひすとひとに しられぬるかな
    中院右大臣十一恋一
    649つつめともたへぬ思ひになりぬれは問はすかたりのせまほしきかな
    つつめとも たへぬおもひに なりぬれは とはすかたりの せまほしきかな
    大納言成通十一恋一
    650おほかたの恋する人にききなれてよのつねのとや君おもふらん
    おほかたの こひするひとに ききなれて よのつねのとや きみおもふらむ
    大炊御門右大臣十一恋一
    651思へともいはての山に年をへてくちやはてなん谷の埋木
    おもへとも いはてのやまに としをへて くちやはてなむ たにのうもれき
    左京大夫顕輔十一恋一
    652たかさこのをのへの松にふくかせのおとにのみやはききわたるへき
    たかさこの をのへのまつに ふくかせの おとにのみやは ききわたるへき
    左京大夫顕輔十一恋一
    653あらいそのいはにくたくる浪なれやつれなき人にかくる心は
    あらいその いはにくたくる なみなれや つれなきひとに かくるこころは
    待賢門院堀河十一恋一
    654いはまゆく山のした水せきわひてもらす心のほとをしらなん
    いはまゆく やましたみつを せきわひて もらすこころの ほとをしらなむ
    上西門院兵衛十一恋一
    655みこもりにいはてふるやのしのふ草しのふとたにもしらせてしかな
    みこもりに いはてふるやの しのふくさ しのふとたにも しらせてしかな
    藤原基俊十一恋一
    656おもふこといはまにまきし松のたね千代とちきらむ今はねさせよ
    おもふこと いはまにまきし まつのたね ちよとちきらむ いまはねさせよ
    藤原長能十一恋一
    657おほつかなうるまの島の人なれやわかことのはをしらぬかほなる
    おほつかな うるまのしまの ひとなれや わかことのはを しらぬかほなる
    前大納言公任十一恋一
    658人しれす物おもふころの袖みれは雨も涙もわかれさりけり
    ひとしれす ものおもふころの そてみれは あめもなみたも わかれさりけり
    堀河右大臣十一恋一
    659たちしよりはれすも物を思ふかななき名や野への霞なるらん
    たちしより はれすもものを おもふかな なきなやのへの かすみなるらむ
    源俊頼朝臣十一恋一
    660なけきあまりしらせそめつることのはも思ふはかりはいはれさりけり
    なけきあまり しらせそめつる ことのはも おもふはかりは いはれさりけり
    源明賢朝臣十一恋一
    661人しれぬこのはのしたのむもれ水おもふ心をかきなかさはや
    ひとしれぬ このはのしたの うもれみつ おもふこころを かきなかさはや
    右のおほいまうちきみ十一恋一
    662恋しともいはぬにぬるるたもとかな心をしるは涙なりけり
    こひしとも いはぬにぬるる たもとかな こころをしるは なみたなりけり
    久我内大臣十一恋一
    663おもへともいはてしのふのすり衣こころのうちにみたれぬるかな
    おもへとも いはてしのふの すりころも こころのうちに みたれぬるかな
    前右京権大夫頼政十一恋一
    664みちのくのしのふもちすりしのひつつ色には出てしみたれもそする
    みちのくの しのふもちすり しのひつつ いろにはいてし みたれもそする
    寂然法師十一恋一
    665なにはめのすくもたく火のしたこかれうへはつれなきわかみなりけり
    なにはめの すくもたくひの したこかれ うへはつれなき わかみなりけり
    藤原清輔朝臣十一恋一
    666こひしなは世のはかなきにいひおきてなきあとまても人にしられし
    こひしなは よのはかなきに いひおきて なきあとまても ひとにしられし
    刑部卿頼輔十一恋一
    667人しれぬ涙の川のみなかみやいはての山の谷のした水
    ひとしれぬ なみたのかはの みなかみや いはてのやまの たにのしたみつ
    顕昭法師十一恋一
    668いかにせむみかきかはらにつむせりのねにのみなけとしる人のなき
    いかにせむ みかきかはらに つむせりの ねにのみなけと しるひとのなき
    読人知らず十一恋一
    669つれもなき人の心やあふさかのせきちへたつるかすみなるらん
    つれもなき ひとのこころや あふさかの せきちへたつる かすみなるらむ
    賀茂重保十一恋一
    670涙川うきねのとりとなりぬれと人にはえこそみなれさりけれ
    なみたかは うきねのとりと なりぬれと ひとにはえこそ みなれさりけれ
    藤原清輔朝臣十一恋一
    671わか恋はをはな吹きこす秋かせのおとにはたてしみにはしむとも
    わかこひは をはなふきこす あきかせの おとにはたてし みにはしむとも
    源通能朝臣十一恋一
    672世をいとふはしとおもひしかよひちにあやなく人を恋ひわたるかな
    よをいとふ はしとおもひし かよひちに あやなくひとを こひわたるかな
    仁昭法師十一恋一
    673たよりあらはあまのつり舟ことつてむ人をみるめにもとめわひぬる
    たよりあらは あまのつりふね ことつてむ ひとをみるめに もとめわひぬる
    花薗左大臣十一恋一
    674またもなくたたひとすちに君思ふ恋ちにまとふ我やなになる
    またもなく たたひとすちに きみおもふ こひちにまとふ われやなになる
    大宮前太政大臣十一恋一
    675君こふるみはおほそらにあらねとも月日をおほくすくしつるかな
    きみこふる みはおほそらに あらねとも つきひをおほく すくしつるかな
    前中納言伊房十一恋一
    676ことのねにかよひそめぬる心かな松ふく風にあらぬ身なれと
    ことのねに かよひそめぬる こころかな まつふくかせに あらぬみなれと
    二条院御製十一恋一
    677はかなしや枕さためぬうたたねにほのかにまよふ夢のかよひち
    はかなしや まくらさためぬ うたたねに ほのかにまよふ ゆめのかよひち
    式子内親王十一恋一
    678さきにたつ涙とならは人しれす恋ちにまとふ道しるへせよ
    さきにたつ なみたとならは ひとしれす こひちにまとふ みちしるへせよ
    右大臣十一恋一
    679なからへはつらき心もかはるやとさためなき世をたのむはかりそ
    なからへは つらきこころも かはるやと さためなきよを たのむはかりそ
    刑部卿頼輔十一恋一
    680もらさはやしのひはつへき涙かは袖のしからみかくとはかりも
    もらさはや しのひはつへき なみたかは そてのしからみ かくとはかりは
    源有房十一恋一
    681恋しさをうきみなりとてつつみしはいつまてありし心なるらん
    こひしさを うきみなりとて つつみしは いつまてありし こころなるらむ
    源師光十一恋一
    682たのめとやいなとやいかにいな舟のしはしとまちしほともへにけり
    たのめとや いなとやいかに いなふねの しはしとまちし ほともへにけり
    藤原惟規十一恋一
    683かくはかり色に出てしとしのへともみゆらむものをたへぬけしきは
    かくはかり いろにいてしと しのへとも みゆらむものを たへぬけしきは
    賢智法師十一恋一
    684人しれすおもふこころはふかみくさ花さきてこそ色にいてけれ
    ひとしれす おもふこころは ふかみくさ はなさきてこそ いろにいてけれ
    賀茂重保十一恋一
    685ひをへつつしけさはまさるおもひ草あふことのはのなとなかるらん
    ひをへつつ しけさはまさる おもひくさ あふことのはの なとなかるらむ
    津守国光十一恋一
    686おつれとものきにしられぬ玉水は恋のなかめのしつくなりけり
    おつれとも のきにしられぬ たまみつは こひのなかめの しつくなりけり
    大中臣清文十一恋一
    687人しれすおもひそめてし心こそいまは涙の色となりけれ
    ひとしれす おもひそめてし こころこそ いまはなみたの いろとなりけれ
    源季貞十一恋一
    688色見えぬ心のほとをしらするはたもとをそむる涙なりけり
    いろみえぬ こころのほとを しらするは たもとをそむる なみたなりけり
    祐盛法師十一恋一
    689わかとこはしのふのおくのますけはら露かかりてもしる人のなき
    わかとこは しのふのおくの ますけはら つゆかかりても しるひとのなき
    大中臣定雅十一恋一
    690君こふる涙しくれとふりぬれはしのふの山も色つきにけり
    きみこふる なみたしくれと ふりぬれは しのふのやまも いろつきにけり
    祝部宿禰成仲十一恋一
    691いかにせむしのふの山のしたもみちしくるるままに色のまさるを
    いかにせむ しのふのやまの したもみち しくるるままに いろのまさるを
    二条院前皇后宮常陸十一恋一
    692いつしかと袖にしくれのそそくかなおもひは冬のはしめならねと
    いつしかと そてにしくれの そそくかな おもひはふゆの はしめならねと
    賀茂重延十一恋一
    693あさましやおさふる袖のしたくくる涙のすゑを人やみつらん
    あさましや おさふるそての したくくる なみたのすゑを ひとやみつらむ
    前右京権大夫頼政十一恋一
    694しのひねのたもとは色にいてにけり心にもにぬわか涙かな
    しのひねの たもとはいろに いてにけり こころにもにぬ わかなみたかな
    皇嘉門院別当十一恋一
    695おなしくはかさねてしほれぬれ衣さてもほすへきなき名ならしを
    おなしくは かさねてしほれ ぬれころも さてもほすへき なきなならしを
    左兵衛督隆房十一恋一
    696なかれてもすすきやするとぬれ衣人はきすともみにはならさし
    なかれても すすきやすると ぬれころも ひとはきすとも みにはならさし
    読人知らず十一恋一
    697人めをはつつむとおもふにせきかねて袖にあまるは涙なりけり
    ひとめをは つつむとおもふに せきかねて そてにあまるは なみたなりけり
    権大納言宗家十一恋一
    698つれなさにいはてたえなんと思ふこそあひみぬさきの別なりけれ
    つれなさに いはてたえなむと おもふこそ あひみぬさきの わかれなりけれ
    右京大夫季能十一恋一
    699よそ人にとはれぬるかな君にこそみせはやと思ふ袖のしつくを
    よそひとに とはれぬるかな きみにこそ みせはやとおもふ そてのしつくを
    法眼実快十一恋一
    700つれなくそ夢にもみゆるさよ衣うらみんとては返しやはせし
    つれなくそ ゆめにもみゆる さよころも うらみむとては かへしやはせし
    藤原伊綱十一恋一
    701おもひいつるそのなくさめもありなましあひみて後のつらさなりせは
    おもひいつる そのなくさめも ありなまし あひみてのちの つらさなりせは
    藤原季経朝臣十一恋一
    702ともしするは山かすそのした露やいるより袖はかくしをるらん
    ともしする はやまかすその したつゆや いるよりそては かくしをるらむ
    皇太后宮大夫俊成十一恋一
    703いかにせんむろのや島にやともかな恋のけふりをそらにまかへん
    いかにせむ むろのやしまに やともかな こひのけふりを そらにまかへむ
    皇太后宮大夫俊成十一恋一
    704おもひあまり人にとははやみなせ川むすはぬ水に袖はぬるやと
    おもひあまり ひとにとははや みなせかは むすはぬみつに そてはぬるやと
    大納言公実十二恋二
    705はかなくも人に心をつくすかなみのためにこそ思ひそめしか
    はかなくも ひとにこころを つくすかな みのためにこそ おもひそめしか
    花薗左大臣十二恋二
    706恋ひそめし人はかくこそつれなけれわか涙しも色かはるらん
    こひそめし ひとはかくこそ つれなけれ わかなみたしも いろかはるらむ
    二条太皇太后宮大弐十二恋二
    707かかりける涙と人もみるはかりしはらし袖よくちはてねたた
    かかりける なみたとひとも みるはかり しほらしそてよ くちはてねたた
    前中納言雅兼十二恋二
    708うかりける人をはつせの山おろしよはけしかれとはいのらぬものを
    うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はけしかれとは いのらぬものを
    源俊頼朝臣十二恋二
    709うれしくはのちの心を神もきけひくしめなはのたえしとそおもふ
    うれしくは のちのこころを かみもきけ ひくしめなはの たえしとそおもふ
    修埋大夫顕季十二恋二
    710むすひおくふしみのさとの草枕とけてやみぬるたひにも有るかな
    むすひおく ふしみのさとの くさまくら とけてやみぬる たひにもあるかな
    藤原顕仲朝臣十二恋二
    711こひこひてかひもなきさにおきつ浪よせてはやかて立ちかへれとや
    こひこひて かひもなきさに おきつなみ よせてはやかて たちかへれとや
    権中納言俊忠十二恋二
    712いかてわれつれなき人に身をかへて恋しきほとを思ひしらせん
    いかてわれ つれなきひとに みをかへて こひしきほとを おもひしらせむ
    徳大寺左大臣十二恋二
    713玉もかるのしまの浦のあまたにもいとかく袖はぬるるものかは
    たまもかる のしまのうらの あまたにも いとかくそては ぬるるものかは
    源雅光十二恋二
    714あふことをその年月とちきらねは命や恋のかきりなるらん
    あふことを そのとしつきと ちきらねは いのちやこひの かきりなるらむ
    藤原重基十二恋二
    715恋ひわたる涙の川にみをなけんこの世ならてもあふせありやと
    こひわたる なみたのかはに みをなけむ このよならても あふせありやと
    藤原宗兼朝臣十二恋二
    716みちのくのとつなのはしにくるつなのたえすも人にいひわたるかな
    みちのくの とつなのはしに くるつなの たえすもひとに いひわたるかな
    前参議親隆十二恋二
    717こひわたるけふの涙にくらふれはきのふの袖はぬれしものかは
    こひわたる けふのなみたに くらふれは きのふのそては ぬれしものかは
    院御製十二恋二
    718あさまたき露をさなからささめかるしつか袖たにかくはぬれしを
    あさまたき つゆをさなから ささめかる しつかそてたに かくはぬれしを
    右おほいまうちきみ十二恋二
    719しほたるるいせをのあまやわれならんさらはみるめをかるよしもかな
    しほたるる いせをのあまや われならむ さらはみるめを かるよしもかな
    権大納言実国十二恋二
    720よしさらはあふとみつるになくさまんさむるうつつも夢ならぬかは
    よしさらは あふとみつるに なくさまむ さむるうつつも ゆめならぬかは
    権大納言実家十二恋二
    721いかはかりおもふとしりてつらからんあはれ涙の色をみせはや
    いかはかり おもふとしりて つらからむ あはれなみたの いろをみせはや
    右衛門督頼実十二恋二
    722恋ひしなん命を誰にゆつりおきてつれなき人のはてをみせまし
    こひしなむ いのちをたれに ゆつりおきて つれなきひとの はてをみせまし
    俊恵法師十二恋二
    723せきかぬる涙の川のはやきせはあふよりほかのしからみそなき
    せきかぬる なみたのかはの はやきせは あふよりほかの しからみそなき
    前右京権大夫頼政十二恋二
    724わか恋はとしふるかひもなかりけりうらやましきはうちのはし守
    わかこひは としふるかひも なかりけり うらやましきは うちのはしもり
    藤原顕方十二恋二
    725なれてのちしなん別のかなしきに命にかへぬあふこともかな
    なれてのち しなむわかれの かなしきに いのちにかへぬ あふこともかな
    道因法師十二恋二
    726にしききの千つかにかきりなかりせは猶こりすまにたてましものを
    にしききの ちつかにかきり なかりせは なほこりすまに たてましものを
    賀茂重保十二恋二
    727いかはかり恋ちはとほき物なれはとしはゆけともあふよなからん
    いかはかり こひちはとほき ものなれは としはゆけとも あふよなからむ
    前参議教長十二恋二
    728なれてのちつらからましにくらふれはなき名はことのかすならぬかな
    なれてのち つらからましに くらふれは なきなはことの かすならぬかな
    三宮家越後十二恋二
    729あひみむとおもひなよりそしら浪のたちけん名たにをしきみきはを
    あひみむと おもひなよりそ しらなみの たちけむなたに をしきみきはを
    法性寺入道前太政大臣家参川十二恋二
    730恋ひしなんみはをしからすあふことにかへんほとまてと思ふはかりそ
    こひしなむ みはをしからす あふことに かへむほとまてと おもふはかりそ
    道因法師十二恋二
    731いまはさはあひみむまてはかたくとも命とならむことのはもかな
    いまはさは あひみむまては かたくとも いのちとならむ ことのはもかな
    左京大夫顕輔十二恋二
    732一かたになひくもしほの煙かなつれなき人のかからましかは
    ひとかたに なひくもしほの けふりかな つれなきひとの かからましかは
    平忠盛朝臣十二恋二
    733恋ひわひぬちぬのますらをならなくにいくたの川にみをやなけまし
    こひわひぬ ちぬのますらを ならなくに いくたのかはに みをやなけまし
    藤原道経十二恋二
    734命をはあふにかへんとおもひしを恋ひしぬとたにしらせてしかな
    いのちをは あふにかへむと おもひしを こひしぬとたに しらせてしかな
    寂超法師十二恋二
    735こひしとも又つらしともおもひやる心いつれかさきにたつらん
    こひしとも またつらしとも おもひやる こころいつれか さきにたつらむ
    源師光十二恋二
    736あふならぬ恋なくさめのあらはこそつれなしとてもおもひたえなめ
    あふならぬ こひなくさめの あらはこそ つれなしとても おもひたえなめ
    道因法師十二恋二
    737つれなさにいまは思ひもたえなましこの世ひとつの契なりせは
    つれなさに いまはおもひも たえなまし このよひとつの ちきりなりせは
    顕昭法師十二恋二
    738うたたねの夢にあひみて後よりは人もたのめぬくれそまたるる
    うたたねの ゆめにあひみて のちよりは ひともたのめぬ くれそまたるる
    源慶法師十二恋二
    739あはれとも枕はかりやおもふらむ涙たえせぬよはのけしきを
    あはれとも まくらはかりや おもふらむ なみたたえせぬ よはのけしきを
    朝恵法師十二恋二
    740衣手におつる涙の色なくは露とも人にいはましものを
    ころもてに おつるなみたの いろなくは つゆともひとに いはましものを
    二条院内侍参川十二恋二
    741おもふことしのふにいととそふ物はかすならぬみのなけきなりけり
    おもふこと しのふにいとと そふものは かすならぬみの なけきなりけり
    殷富門院大輔十二恋二
    742行きかへる心に人のなるれはやあひみぬさきに恋しかるらん
    ゆきかへる こころにひとの なるれはや あひみぬさきに こひしかるらむ
    摂政前右大臣十二恋二
    743あふことをさりともとのみおもふかなふしみのさとの名をたのみつつ
    あふことを さりともとのみ おもふかな ふしみのさとの なをたのみつつ
    左衛門督家通十二恋二
    744なとやかくさもくれかたきおほそらそわかまつことはありとしらすや
    なとやかく さもくれかたき おほそらそ わかまつことは ありとしらすや
    二条院御製十二恋二
    745袖の色は人のとふまてなりもせよふかきおもひを君したのまは
    そてのいろは ひとのとふまて なりもせよ ふかきおもひを きみしたのまは
    式子内親王十二恋二
    746秋はをし契はまたるとにかくに心にかかるくれのそらかな
    あきはをし ちきりはまたる とにかくに こころにかかる くれのそらかな
    左近中将良経十二恋二
    747恋をのみしくるる空のうき雲はくもりもあへす袖ぬらしけり
    こひをのみ しくるるそらの うきくもは くもりもあへす そてぬらしけり
    藤原成家朝臣十二恋二
    748いそかくれかきはやれとももしほ草たちくる浪にあらはれやせん
    いそかくれ かきはやれとも もしほくさ たちくるなみに あらはれやせむ
    藤原家実十二恋二
    749くれにともちきりてたれかかへるらんおもひたえたる曙の空
    くれにとも ちきりてたれか かへるらむ おもひたえたる あけほののそら
    藤原家隆十二恋二
    750契りおくそのことのはにみをかへてのちの世にたにあひみてしかな
    ちきりおく そのことのはに みをかへて のちのよにたに あひみてしかな
    読人知らず十二恋二
    751誰ゆゑかあくかれにけん雲まよりみし月かけはひとりならしを
    たれゆゑか あくかれにけむ くもまより みしつきかけは ひとりならしを
    殷富門院尾張十二恋二
    752こえやらて恋ちにまよふあふ坂や世を出てはてぬせきとなるらん
    こえやらて こひちにまよふ あふさかや よをいてはてぬ せきとなるらむ
    藤原家基十二恋二
    753たまくらのうへにみたるるあさねかみしたにとけすと人はしらしな
    たまくらの うへにみたるる あさねかみ したにとけすと ひとはしらしな
    西住法師十二恋二
    754わか袖のしほのみちひるうらならは涙のよらぬをりもあらまし
    わかそての しほのみちひる うらならは なみたのよらぬ をりもあらまし
    前右京権大夫頼政十二恋二
    755しほたるる袖のひるまはありやともあはてのうらのあまにとははや
    しほたるる そてのひるまは ありやとも あはてのうらの あまにとははや
    法印静賢十二恋二
    756おもひきや夢を此世のちきりにてさむる別をなけくへしとは
    おもひきや ゆめをこのよの ちきりにて さむるわかれを なけくへしとは
    俊恵法師十二恋二
    757われゆゑの涙とこれをよそにみはあはれなるへき袖のうへかな
    われゆゑの なみたとこれを よそにみは あはれなるへき そてのうへかな
    藤原隆信朝臣十二恋二
    758あふことのかくかたけれはつれもなき人の心やいは木なるらん
    あふことの かくかたけれは つれもなき ひとのこころや いはきなるらむ
    賀茂政平十二恋二
    759恋ひしなん涙のはてやわたり川ふかきなかれとならんとすらん
    こひしなむ なみたのはてや わたりかは ふかきなかれと ならむとすらむ
    源光行十二恋二
    760わか袖はしほひにみえぬおきの石の人こそしらねかわくまそなき
    わかそては しほひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまそなき
    二条院讃岐十二恋二
    761かかりけるなけきはなにのむくいそとしる人あらはとはましものを
    かかりける なけきはなにの むくひそと しるひとあらは とはましものを
    民部卿成範十二恋二
    762恋ひしなんことそはかなきわたり河あふせありとはきかぬものゆゑ
    こひしなむ ことそはかなき わたりかは あふせありとは きかぬものゆゑ
    大宰大弐重家十二恋二
    763いもかあたりなかるる川のせによらはあわとなりてもきえんとそ思ふ
    いもかあたり なかるるかはの せによらは あわとなりても きえむとそおもふ
    刑部卿範兼十二恋二
    764(ツネフ)
    はかなしな心つくしに年をへていつともしらぬあふの松原
    権中納言経房十二恋二
    765おもひねの夢たにみえてあけぬれはあはても鳥のねこそつらけれ
    おもひねの ゆめたにみえて あけぬれは あはてもとりの ねこそつらけれ
    寂蓮法師十二恋二
    766よもすから物思ふころはあけやらぬねやのひまさへつれなかりけり
    よもすから ものおもふころは あけやらぬ ねやのひまさへ つれなかりけり
    俊恵法師十二恋二
    767いたつらにしをるる袖をあさ露にかへるたもととおもはましかは
    いたつらに しをるるそてを あさつゆに かへるたもとと おもはましかは
    俊恵法師十二恋二
    768恋ゆゑはさもあらぬ人そうらめしきわれよそならはとはましものを
    こひゆゑは さもあらぬひとそ うらめしき われよそならは とはましものを
    菅原是忠十二恋二
    769おもひせく心のうちのしからみもたへすなりゆく涙川かな
    おもひせく こころのうちの しからみも たへすなりゆく なみたかはかな
    藤原親盛十二恋二
    770おのつからつらき心もかはるやとまちみむほとの命ともかな
    おのつから つらきこころも かはるやと まちみむほとの いのちともかな
    静縁法師十二恋二
    771わすらるるうき名はさても立ちにけり心のうちはおもひわけとも
    わすらるる うきなはさても たちにけり こころのうちは おもひわけとも
    大江維順女十二恋二
    772よとともにつれなき人を恋くさの露こほれます秋のゆふかせ
    よとともに つれなきひとを こひくさの つゆこほれます あきのゆふかせ
    藤原顕家朝臣十二恋二
    773恋しさをいかかはすへきおもへともみはかすならす人はつれなし
    こひしさを いかかはすへき おもへとも みはかすならす ひとはつれなし
    源師光十二恋二
    774こひしなは我ゆゑとたにおもひ出てよさこそはつらき心なりとも
    こひしなは われゆゑとたに おもひいてよ さこそはつらき こころなりとも
    権大納言実国十二恋二
    775ひたすらにうらみしもせしさきの世にあふまてこそはちきらさりけめ
    ひたすらに うらみしもせし さきのよに あふまてこそは ちきらさりけめ
    左衛門督家通十二恋二
    776ますかかみ心もうつるものならはさりともいまはあはれとやみん
    ますかかみ こころもうつる ものならは さりともいまは あはれとやみむ
    藤原公衡朝臣十二恋二
    777いましはしそらたのめにもなくさめておもひたえぬるよひの玉つさ
    いましはし そらたのめにも なくさめて おもひたえぬる よひのたまつさ
    権中納言通親十二恋二
    778そま川のあさからすこそ契りしかなとこのくれをひきたかふらん
    そまかはの あさからすこそ ちきりしか なとこのくれを ひきたかふらむ
    藤原盛方朝臣十二恋二
    779おもひきやしちのはしかきかきつめてもも夜もおなしまろねせんとは
    おもひきや しちのはしかき かきつめて ももよもおなし まろねせむとは
    皇太后宮大夫俊成十二恋二
    780ちきりこしことのたかふそたのもしきつらさもかくやかはるとおもへは
    ちきりこし ことのたかふそ たのもしき つらさもかくや かはるとおもへは
    藤原実方朝臣十三恋三
    781しらしかしおもひも出てぬ心にはかくわすられすわれなけくとも
    しらしかし おもひもいてぬ こころには かくわすられす われなけくとも
    相模十三恋三
    782つれもなくなりぬる人の玉つさをうき思出のかたみともせし
    つれもなく なりぬるひとの たまつさを うきおもひての かたみともせし
    藤原長能十三恋三
    783やはらかにぬる夜もなくて別れぬるよよの手枕いつかわすれん
    やはらかに ぬるよもなくて わかれぬる よよのたまくら いつかわすれむ
    藤原長能十三恋三
    784たなはたにかしつとおもひしあふことをそのよなき名のたちにけるかな
    たなはたに かしつとおもひし あふことを そのよなきなの たちにけるかな
    小大君十三恋三
    785うらめしやむすほほれたる下ひものとけぬやなにの心なるらん
    うらめしや むすほほれたる したひもの とけぬやなにの こころなるらむ
    宇治前太政大臣十三恋三
    786したひもは人のこふるにとくなれはたかつらきにかむすほほるらん
    したひもは ひとのこふるに とくなれは たかつらきにか むすほほるらむ
    弁乳母十三恋三
    787ひとりぬるわれにてしりぬ池水につかはぬをしのおもふ心を
    ひとりぬる われにてしりぬ いけみつに つかはぬをしの おもふこころを
    太納言公実十三恋三
    788恋をのみしつのをたまきくるしきはあはて年ふる思ひなりけり
    こひをのみ しつのをたまき くるしきは あはてとしふる おもひなりけり
    中納言師時十三恋三
    789あさてほすあつまをとめのかやむしろしきしのひてもすくすころかな
    あさてほす あつまをとめの かやむしろ しきしのひても すくすころかな
    源俊頼朝臣十三恋三
    790よとともに行かたもなき心かな恋はみちなき物にそ有りける
    よとともに ゆくかたもなき こころかな こひはみちなき ものにそありける
    修理大夫顕季十三恋三
    791旅衣涙のいろのしるけれは露にもえこそかこたさりけり
    たひころも なみたのいろの しるけれは つゆにもえこそ かこたさりけり
    僧都覚雅十三恋三
    792みつしほにすゑはをあらふなかれあしの君をそおもふうきみしつみみ
    みつしほに すゑはをあらふ なかれあしの きみをそおもふ うきみしつみみ
    大納言公実十三恋三
    793わか恋はあまのかるもにみたれつつかわく時なき浪のしたくさ
    わかこひは あまのかるもに みたれつつ かわくときなき なみのしたくさ
    権中納言俊忠十三恋三
    794なほさりにみわの杉とはをしへおきてたつぬる時はあはぬ君かな
    なほさりに みわのすきとは をしへおきて たつぬるときは あはぬきみかな
    藤原時昌十三恋三
    795たのめこし野へのみちしは夏ふかしいつくなるらんもすの草くき
    たのめこし のへのみちしは なつふかし いつくなるらむ もすのくさくき
    皇太后宮大夫俊成十三恋三
    796冬の日を春よりなかくなす物はこひつつくらす心なりけり
    ふゆのひを はるよりなかく なすものは こひつつくらす こころなりけり
    法性寺入道前太政大臣十三恋三
    797よろつ代をちきりそめつるしるしにはかつかつけふのくれそひさしき
    よろつよを ちきりそめつる しるしには かつかつけふの くれそひさしき
    院御製十三恋三
    798けさとはぬつらさに物はおもひしれわれもさこそはうらみかねしか
    けさとはぬ つらさにものは おもひしれ われもさこそは うらみかねしか
    院御製十三恋三
    799かねてよりおもひしことそふししはのこるはかりなるなけきせんとは
    かねてより おもひしことそ ふししはの こるはかりなる なけきせむとは
    待賢門院加賀十三恋三
    800恋しさはあふをかきりとききしかとさてしもいととおもひそひけり
    こひしさは あふをかきりと ききしかと さてしもいとと おもひそひけり
    前参議教長十三恋三
    801よそにしてもときし人にいつしかと袖のしつくをとはるへきかな
    よそにして もときしひとに いつしかと そてのしつくを とはるへきかな
    左京大夫顕輔十三恋三
    802なかからむ心もしらすくろかみのみたれてけさは物をこそおもへ
    なかからむ こころもしらす くろかみの みたれてけさは ものをこそおもへ
    待賢門院堀川十三恋三
    803よひのまもまつに心やなくさむといまこんとたにたのめおかなん
    よひのまも まつにこころや なくさむと いまこむとたに たのめおかなむ
    上西門院兵衛十三恋三
    804そなれ木のそなれそなれてふす苔のまほならすともあひみてしかな
    そなれきの そなれそなれて ふすこけの まほならすとも あひみてしかな
    待賢門院のあき十三恋三
    805人はいさあかぬよとこにととめつるわか心こそわれをまつらめ
    ひとはいさ あかぬよとこに ととめつる わかこころこそ われをまつらめ
    前右京権大夫頼政十三恋三
    806おもへたたいりやらさりしあり明の月よりさきにいてし心を
    おもへたた いりやらさりし ありあけの つきよりさきに いてしこころを
    権中納言通親十三恋三
    807なにはえのあしのかりねの一よゆゑみをつくしてや恋ひわたるへき
    なにはえの あしのかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや こひわたるへき
    皇嘉門院別当十三恋三
    808こひこひてあふうれしさをつつむへき袖は涙にくちはてにけり
    こひこひて あふうれしさを つつむへき そてはなみたに くちはてにけり
    藤原公衡朝臣十三恋三
    809君やそれありしつらさはたれなれはうらみけるさへ今はくやしき
    きみやそれ ありしつらさは たれなれは うらみけるさへ いまはくやしき
    藤原隆信朝臣十三恋三
    810すかたこそねさめのとこにみえすとも契りしことのうつつなりせは
    すかたこそ ねさめのとこに みえすとも ちきりしことの うつつなりせは
    参議俊憲十三恋三
    811あつまやのあさ木のはしらわれなからいつふしなれて恋しかるらん
    あつまやの あさきのはしら われなから いつふしなれて こひしかるらむ
    前斎院新肥前十三恋三
    812つつめともまくらは恋をしりぬらん涙かからぬ夜はしなけれは
    つつめとも まくらはこひを しりぬらむ なみたかからぬ よはしなけれは
    久我内大臣十三恋三
    813恋すれはもゆるほたるもなくせみもわかみの外の物とやはみる
    こひすれは もゆるほたるも なくせみも わかみのほかの ものとやはみる
    前中納言雅頼十三恋三
    814ひきかけて涙を人につつむまにうらやくちなん夜はの衣は
    ひきかけて なみたをひとに つつむまに うらやくちなむ よはのころもは
    右大臣十三恋三
    815しほたるるいせをのあまの袖たにもほすなるひまはありとこそきけ
    しほたるる いせをのあまの そてたにも ほすなるひまは ありとこそきけ
    前参議親隆十三恋三
    816しはしこそぬるるたもともしほりしか涙にいまはまかせてそみる
    しはしこそ ぬるるたもとも しほりしか なみたにいまは まかせてそみる
    藤原清輔朝臣十三恋三
    817よしさらは涙にくちねから衣ほすも人めをしのふかきりそ
    よしさらは なみたにくちね からころも ほすもひとめを しのふかきりそ
    顕昭法師十三恋三
    818おもひわひさても命はあるものをうきにたへぬは涙なりけり
    おもひわひ さてもいのちは あるものを うきにたへぬは なみたなりけり
    道因法師十三恋三
    819かすならぬみにも心のありかほにひとりも月をなかめつるかな
    かすならぬ みにもこころの ありかほに ひとりもつきを なかめつるかな
    遊女戸戸十三恋三
    820涙にやくちはてなましから衣袖のひるまとたのめさりせは
    なみたにや くちはてなまし からころも そてのひるまと たのめさりせは
    中原清重十三恋三
    821かれはつるをささかふしをおもふにもすくなかりけるよよのかすかな
    かれはつる をささかふしを おもふにも すくなかりける よよのかすかな
    藤原成親十三恋三
    822わけきつるをささか露のしけけれはあふ道にさへぬるる袖かな
    わけきつる をささかつゆの しけけれは あふみちにさへ ぬるるそてかな
    藤原伊経十三恋三
    823おきてゆく涙のかかる草まくら露しけしとや人のあやめん
    おきてゆく なみたのかかる くさまくら つゆしけしとや ひとのあやめむ
    読人知らず十三恋三
    824涙をもしのふるころのわか袖にあやなく月のやとりぬるかな
    なみたをも しのふるころの わかそてに あやなくつきの やとりぬるかな
    読人知らず十三恋三
    825しのひかねいまは我とや名のらまし思ひすつへきけしきならねは
    しのひかね いまはわれとや なのらまし おもひすつへき けしきならねは
    内大臣十三恋三
    826しられてもいとはれぬへきみならすは名をさへ人につつむへしやは
    しられても いとはれぬへき みならすは なをさへひとに つつむへしやは
    左近中将良経十三恋三
    827いつくよりふきくるかせのちらしけんたれもしのふのもりのことのは
    いつくより ふきくるかせの ちらしけむ たれもしのふの もりのことのは
    左兵衛督隆房十三恋三
    828おもひかね夢にみゆやとかへさすはうらさへ袖はぬらささらまし
    おもひかね ゆめにみゆやと かへさすは うらさへそては ぬらささらまし
    前右京権大夫頼政十三恋三
    829くり返しくやしき物は君にしもおもひよりけんしつのをたまき
    くりかへし くやしきものは きみにしも おもひよりけむ しつのをたまき
    源師光十三恋三
    830いとはるるみをうしとてや心さへわれをはなれて君にそふらん
    いとはるる みをうしとてや こころさへ われをはなれて きみにそふらむ
    藤原隆親十三恋三
    831あちきなくいはて心をつくすかなつつむ人めも人のためかは
    あちきなく いはてこころを つくすかな つつむひとめも ひとのためかは
    源光行十三恋三
    832くれなゐにしをれし袖もくちはてぬあらはや人に色もみすへき
    くれなゐに しをれしそても くちはてぬ あらはやひとに いろもみすへき
    皇太后宮若水十三恋三
    833命こそおのかものからうかりけれあれはそ人をつらしともみる
    いのちこそ おのかものから うかりけれ あれはそひとを つらしともみる
    皇嘉門院尾張十三恋三
    834なにとかやしのふにはあらてふるさとの軒はにしける草の名そうき
    なにとかや しのふにはあらて ふるさとの のきはにしける くさのなそうき
    右近中将忠良十三恋三
    835みし夢のさめぬやかてのうつつにてけふとたのめしくれをまたはや
    みしゆめの さめぬやかての うつつにて けふとたのめし くれをまたはや
    太皇太后宮小侍従十三恋三
    836しるらめやおつる涙の露ともにわかれのとこにきえてこふとは
    しるらめや おつるなみたの つゆともに わかれのとこに きえてこふとは
    二条院御製十三恋三
    837またしらぬ露おく袖をおもひやれかことはかりのとこの涙に
    またしらぬ つゆおくそてを おもひやれ かことはかりの とこのなみたに
    読人知らず十三恋三
    838かへりつるなこりのそらをなかむれはなくさめかたき有明の月
    かへりつる なこりのそらを なかむれは なくさめかたき ありあけのつき
    摂政前右大臣十三恋三
    839わするなよよよの契をすかはらやふしみのさとの有明の空
    わするなよ よよのちきりを すかはらや ふしみのさとの ありあけのそら
    皇太后宮大夫俊成十三恋三
    840いかにしてよるの心をなくさめむひるはなかめにさてもくらしつ
    いかにして よるのこころを なくさめむ ひるはなかめに さてもくらしつ
    和泉式部十四恋四
    841これもみなさそなむかしの契そとおもふものからあさましきかな
    これもみな さそなむかしの ちきりそと おもふものから あさましきかな
    和泉式部十四恋四
    842よそにては中中さてもありにしをうたて物おもふ昨日けふかな
    よそにては なかなかさても ありにしを うたてものおもふ きのふけふかな
    花山院御製十四恋四
    843おもひいててたれをか人のたつねましうきにたへたる命ならすは
    おもひいてて たれをかひとの たつねまし うきにたへたる いのちならすは
    小式部十四恋四
    844まつとてもかはかりこそはあらましかおもひもかけぬ秋の夕くれ
    まつとても かはかりこそは あらましか おもひもかけぬ あきのゆふくれ
    和泉式部十四恋四
    845ほとふれは人はわすれてやみぬらん契りしことをなほたのむかな
    ほとふれは ひとはわすれて やみぬらむ ちきりしことを なほたのむかな
    和泉式部十四恋四
    846たけのはに玉ぬく露にあらねともまた夜をこめておきにけるかな
    たけのはに たまぬくつゆに あらねとも またよをこめて おきにけるかな
    藤原実方朝臣十四恋四
    847このまよりひれふる袖をよそにみていかかはすへきまつらさよ姫
    このまより ひれふるそてを よそにみて いかかはすへき まつらさよひめ
    藤原基俊十四恋四
    848まふしさすしつをのみにもたへかねてはとふく秋のこゑたてつなり
    まふしさす しつをのみにも たへかねて はとふくあきの こゑたてつなり
    藤原仲実朝臣十四恋四
    849吹く風にたへぬこすゑの花よりもととめかたきは涙なりけり
    ふくかせに たへぬこすゑの はなよりも ととめかたきは なみたなりけり
    源雅光十四恋四
    850あひみむといひわたりしは行すゑの物おもふことのはしにそ有りける
    あひみむと いひわたりしは ゆくすゑの ものおもふことの はしにそありける
    大納言成通十四恋四
    851恋ひわひてあはれとはかりうちなけくことよりほかのなくさめそなき
    こひわひて あはれとはかり うちなけく ことよりほかの なくさめそなき
    伊与三位(藤原敦兼朝臣母)十四恋四
    852たちかへる人をもなにかうらみまし恋しさをたにととめさりせは
    たちかへる ひとをもなにか うらみまし こひしさをたに ととめさりせは
    権中納言師時十四恋四
    853うつらなくしつやにおふる玉こすけかりにのみきてかへる君かな
    うつらなく しつやにおふる たまこすけ かりにのみきて かへるきみかな
    藤原道経十四恋四
    854わかれてはかたみなりける玉つさをなくさむはかりかきもおかせて
    わかれては かたみなりける たまつさを なくさむはかり かきもおかせて
    久我内大臣十四恋四
    855我かそての涙やにほの海ならんかりにも人をみるめなけれは
    わかそての なみたやにほの うみならむ かりにもひとを みるめなけれは
    上西門院兵衛十四恋四
    856あつまやのをかやの軒のしのふ草しのひもあへすしける思ひに
    あつまやの をかやののきの しのふくさ しのひもあへす しけるおもひに
    前参議親隆十四恋四
    857恋をのみしかまのいちにたつ民のたえぬおもひにみをやかへてん
    こひをのみ しかまのいちに たつたみの たえぬおもひに みをやかへてむ
    皇太后宮大夫俊成十四恋四
    858こひをのみすかたの池にみ草ゐてすまてやみなん名こそをしけれ
    こひをのみ すかたのいけに みくさゐて すまてやみなむ なこそをしけれ
    待賢門院安芸十四恋四
    859露ふかきあさまののらにをかやかるしつのたもともかくはぬれしを
    つゆふかき あさまののらに をかやかる しつのたもとも かくはぬれしを
    藤原清輔朝臣十四恋四
    860あふことはいなさほそえのみをつくしふかきしるしもなきよなりけり
    あふことは いなさほそえの みをつくし ふかきしるしも なきよなりけり
    藤原清輔朝臣十四恋四
    861人つてはさしもやはともおもふらむみせはや君になれるすかたを
    ひとつては さしもやはとも おもふらむ みせはやきみに なれるすかたを
    顕昭法師十四恋四
    862あさましやさのみはいかにしなのなるきそちのはしのかけわたるらん
    あさましや さのみはいかに しなのなる きそちのはしの かけわたるらむ
    平実重十四恋四
    863人のうへとおもははいかにもとかましつらきもしらすこふる心を
    ひとのうへと おもははいかに もとかまし つらきもしらす こふるこころを
    平実重十四恋四
    864契りしももろともにこそちきりしかわすれはわれもわすれましかは
    ちきりしも もろともにこそ ちきりしか わすれはわれも わすれましかは
    参議為通十四恋四
    865君にのみしたのおもひはかはしまの水の心はあさからなくに
    きみにのみ したのおもひは かはしまの みつのこころは あさからなくに
    従三位季行十四恋四
    866おもひきやとしのつもるはわすられて恋にいのちのたへん物とは
    おもひきや としのつもるは わすられて こひにいのちの たへむものとは
    院御製十四恋四
    867なけきあまりうきみそいまはなつかしき君ゆゑ物をおもふと思へは
    なけきあまり うきみそいまは なつかしき きみゆゑものを おもふとおもへは
    藤原季通朝臣十四恋四
    868水くきはこれをかきりとかきつめてせきあへぬ物は涙なりけり
    みつくきは これをかきりと かきつめて せきあへぬものは なみたなりけり
    前右京権大夫頼政十四恋四
    869たれもよもまたききそめし鴬の君にのみこそおとしはしむれ
    たれもよも またききそめし うくひすの きみにのみこそ おとしはしむれ
    二条院御製十四恋四
    870鴬はなへてみやこになれぬらんふるすにねをはわれのみそなく
    うくひすは なへてみやこに なれぬらむ ふるすにねをは われのみそなく
    読人知らず十四恋四
    871みせはやなつゆのゆかりの玉かつら心にかけてしのふけしきを
    みせはやな つゆのゆかりの たまかつら こころにかけて しのふけしきを
    読人知らず十四恋四
    872あふさかの名をわすれにし中なれとせきやられぬは涙なりけり
    あふさかの なをわすれにし なかなれと せきやられぬは なみたなりけり
    読人知らず十四恋四
    873月まつと人にはいひてなかむれはなくさめかたき夕くれのそら
    つきまつと ひとにはいひて なかむれは なくさめかたき ゆふくれのそら
    刑部卿範兼十四恋四
    874あしのやのかりそめふしは津国のなからへゆけとわすれさりけり
    あしのやの かりそめふしは つのくにの なからへゆけと わすれさりけり
    藤原為真十四恋四
    875しらさりき雲ゐのよそにみし月のかけをたもとにやとすへしとは
    しらさりき くもゐのよそに みしつきの かけをたもとに やとすへしとは
    西行法師十四恋四
    876あふとみしその夜の夢のさめてあれななかきねふりはうかるへけれと
    あふとみし そのよのゆめの さめてあれな なかきねふりは うかるへけれと
    西行法師十四恋四
    877秋かせのうき人よりもつらきかな恋せよとてはふかさらめとも
    あきかせの うきひとよりも つらきかな こひせよとては ふかさらめとも
    空人法師十四恋四
    878心さへわれにもあらすなりにけり恋はすかたのかはるのみかは
    こころさへ われにもあらす なりにけり こひはすかたの かはるのみかは
    源仲綱十四恋四
    879まちかねてさよもふけひのうらかせにたのめぬ浪のおとのみそする
    まちかねて さよもふけひの うらかせに たのめぬなみの おとのみそする
    二条院内侍参河十四恋四
    880ひとよとてよかれし床のさむしろにやかてもちりのつもりぬるかな
    ひとよとて よかれしとこの さむしろに やかてもちりの つもりぬるかな
    さぬき十四恋四
    881なからへてかはる心をみるよりもあふに命をかへてましかは
    なからへて かはるこころを みるよりも あふにいのちを かへてましかは
    摂政前右大臣十四恋四
    882あふ事のありしところしかはらすは心をたにもやらましものを
    あふことの ありしところし かはらすは こころをたにも やらましものを
    前中納言雅頼十四恋四
    883うつりかになにしみにけんさよころもわすれぬつまとなりけるものを
    うつりかに なにしみにけむ さよころも わすれぬつまと なりけるものを
    権中納言経房十四恋四
    884わすれぬやしのふやいかにあはぬまのかたみとききしあけくれの空
    わすれぬや しのふやいかに あはぬまの かたみとききし あけくれのそら
    右近中将忠良十四恋四
    885おもひかねなほ恋ちにそかへりぬるうらみはすゑもとほらさりけり
    おもひかね なほこひちにそ かへりぬる うらみはすゑも とほらさりけり
    俊恵法師十四恋四
    886みせはやなをしまのあまの袖たにもぬれにそぬれし色はかはらす
    みせはやな をしまのあまの そてたにも ぬれにそぬれし いろはかはらす
    殷富門院大輔十四恋四
    887山しろのみつののさとにいもをおきていくたひよとに舟よはふらん
    やましろの みつののさとに いもをおきて いくたひよとに ふねよはふらむ
    前右京権大夫頼政十四恋四
    888人しれすむすひそめてし若草のはなのさかりもすきやしぬらん
    ひとしれす むすひそめてし わかくさの はなのさかりも すきやしぬらむ
    藤原隆信朝臣十四恋四
    889いかなれはなかれはたえぬ中川にあふせのかすのすくなかるらん
    いかなれは なかれはたえぬ なかかはに あふせのかすの すくなかるらむ
    藤原顕家朝臣十四恋四
    890すみなれしさのの中川せたえしてなかれかはるは涙なりけり
    すみなれし さののなかかは せたえして なかれかはるは なみたなりけり
    源仲綱十四恋四
    891いまさらに恋しといふもたのまれすこれも心のかはるとおもへは
    いまさらに こひしといふも たのまれす これもこころの かはるとおもへは
    二条院讃岐十四恋四
    892こひそめし心の色のなになれはおもひかへすにかへらさるらん
    こひそめし こころのいろの なになれは おもひかへすに かへらさるらむ
    太皇太后宮小侍従十四恋四
    893伊勢しまやいちしのうらのあまたにもかつかぬ袖はぬるるものかは
    いせしまや いちしのうらの あまたにも かつかぬそては ぬるるものかは
    道因法師十四恋四
    894おもひきやうかりし夜はの鳥のねをまつことにしてあかすへしとは
    おもひきや うかりしよはの とりのねを まつことにして あかすへしとは
    俊恵法師十四恋四
    895から衣かへしてはねし夏のよはゆめにもあかて人わかれけり
    からころも かへしてはねし なつのよは ゆめにもあかて ひとわかれけり
    俊恵法師十四恋四
    896みのうさをおもひしらてややみなましあひみぬさきのつらさなりせは
    みのうさを おもひしらてや やみなまし あひみぬさきの つらさなりせは
    法印静賢十四恋四
    897あふことはみをかへてともまつへきをよよをへたてんほとそかなしき
    あふことは みをかへてとも まつへきを よよをへたてむ ほとそかなしき
    皇太后宮大夫俊成十四恋四
    898おもひねの夢になくさむ恋なれはあはねとくれのそらそまたるる
    おもひねの ゆめになくさむ こひなれは あはねとくれの そらそまたるる
    摂政家丹後十四恋四
    899恋ひわひてうちぬるよひの夢にたにあふとは人のみえはこそあらめ
    こひわひて うちぬるよひの ゆめにたに あふとはひとの みえはこそあらめ
    民部卿成範十四恋四
    900わひつつはなれたに君にとこなれよかはさぬ夜はの枕なりとも
    わひつつは なれたにきみに とこなれよ かはさぬよはの まくらなりとも
    権大納言実家十四恋四
    901なけきつつかはさぬ夜はのつもるには枕もうとくならぬものかは
    なけきつつ かはさぬよはの つもるには まくらもうとく ならぬものかは
    読人知らず十四恋四
    902これはみなおもひしことそなれしよりあはれなこりをいかにせんとは
    これはみな おもひしことそ なれしより あはれなこりを いかにせむとは
    右近中将忠良十四恋四
    903しぬとても心をわくる物ならは君にのこしてなほや恋ひまし
    しぬとても こころをわくる ものならは きみにのこして なほやこひまし
    権中納言通親十四恋四
    904うたたねにはかなくさめし夢をたに此世に又はみてややみなん
    うたたねに はかなくさめし ゆめをたに このよにまたは みてややみなむ
    相模十五恋五
    905ねをなけは袖はくちてもうせぬめりなほうきことそつきせさりける
    ねをなけは そてはくちても うせぬめり なほうきことそ つきせさりける
    和泉式部十五恋五
    906ともかくもいははなへてになりぬへしねになきてこそみすへかりけれ
    ともかくも いははなへてに なりぬへし ねになきてこそ みすへかりけれ
    和泉式部十五恋五
    907あり明の月見すひまにおきていにし人のなこりをなかめしものを
    ありあけの つきみすひまに おきていにし ひとのなこりを なかめしものを
    和泉式部十五恋五
    908わするるはうきよのつねとおもふにもみをやるかたのなきそわひぬる
    わするるは うきよのつねと おもふにも みをやるかたの なきそわひぬる
    紫式部十五恋五
    909ちはやふるかものやしろの神もきけ君わすれすはわれもわすれし
    ちはやふる かものやしろの かみもきけ きみわすれすは われもわすれし
    馬内侍十五恋五
    910うたかひし命はかりはありなからちきりし中のたえぬへきかな
    うたかひし いのちはかりは ありなから ちきりしなかの たえぬへきかな
    大弐三位十五恋五
    911かり人はとかめもやせん草しけみあやしき鳥のあとのみたれを
    かりひとは とかめもやせむ くさしけみ あやしきとりの あとのみたれを
    相模十五恋五
    912山よりもふかきところをたつねみはわか心にそ人はいるへき
    やまよりも ふかきところを たつねみは わかこころにそ ひとはいるへき
    大納言斉信十五恋五
    913いにしへもこえみてしかはあふさかはふみたかふへき中の道かは
    いにしへも こえみてしかは あふさかは ふみたかふへき なかのみちかは
    藤原経衡十五恋五
    914かりにそといはぬさきよりたのまれすたちとまるへき心ならねは
    かりにそと いはぬさきより たのまれす たちとまるへき こころならねは
    赤染衛門十五恋五
    915人こころなにをたのみてみなせ川せきのふるくひくちはてぬらん
    ひとこころ なにをたのみて みなせかは せせのふるくひ くちはてぬらむ
    藤原基俊十五恋五
    916うらみすはわすれぬ人もありなましおもひしらてそあるへかりける
    うらみすは わすれぬひとも ありなまし おもひしらてそ あるへかりける
    隆源法師十五恋五
    917まことにやみとせもまたてやましろのふしみの里ににひ枕する
    まことにや みとせもまたて やましろの ふしみのさとに にひまくらする
    中院右大臣十五恋五
    918うき人をしのふへしとはおもひきやわか心さへなとかはるらん
    うきひとを しのふへしとは おもひきや わかこころさへ なとかはるらむ
    待賢門院堀河十五恋五
    919うかりけるよよの契を思ふにもつらきはいまのこころのみかは
    うかりける よよのちきりを おもふにも つらきはいまの こころのみかは
    上西門院兵衛十五恋五
    920しるなれはいかに枕のおもふらんちりのみつもるとこのけしきを
    しるなれは いかにまくらの おもふらむ ちりのみつもる とこのけしきを
    前参議親隆十五恋五
    921はかなくもこむよをかねて契るかなふたたひおなし身ともならしを
    はかなくも こむよをかねて ちきるかな ふたたひおなし みともならしを
    右大臣十五恋五
    922おもひいてよ夕の雲もたなひかはこれやなけきにたへぬ煙と
    おもひいてよ ゆふへのくもも たなひかは これやなけきに たへぬけふりと
    右近中将忠良十五恋五
    923恋ひしなはうかれん玉よしはしたにわかおもふ人のつまにととまれ
    こひしなは うかれむたまよ しはしたに わかおもふひとの つまにととまれ
    左兵衛督隆房十五恋五
    924君こふとうきぬる玉のさ夜ふけていかなるつまにむすはれぬらん
    きみこふと うきぬるたまの さよふけて いかなるつまに むすはれぬらむ
    太皇大后宮小侍従十五恋五
    925きみこふる心のやみをわひつつは此世はかりとおもはましかは
    きみこふる こころのやみを わひつつは このよはかりと おもはましかは
    二条院讃岐十五恋五
    926かはりゆくけしきをみてもいける身の命をあたにおもひけるかか
    かはりゆく けしきをみても いけるみの いのちをあたに おもひけるかな
    殷富門院大輔十五恋五
    927君やあらぬわか身やあらぬおほつかなたのめしことのみなかはりぬる
    きみやあらぬ わかみやあらぬ おほつかな たのめしことの みなかはりぬる
    俊恵法師十五恋五
    928物おもへともかからぬ人もあるものをあはれなりける身のちきりかな
    ものおもへとも かからぬひとも あるものを あはれなりける みのちきりかな
    西行法師十五恋五
    929なけけとて月やは物をおもはするかこちかほなるわか涙かな
    なけけとて つきやはものを おもはする かこちかほなる わかなみたかな
    西行法師十五恋五
    930久かたの月ゆゑにやは恋ひそめしなかむれはまつぬるるそてかな
    ひさかたの つきゆゑにやは こひそめし なかむれはまつ ぬるるそてかな
    寂超法師十五恋五
    931つらしともうらむるかたそなかりけるうきをいとふは君ひとりかは
    つらしとも うらむるかたそ なかりける うきをいとふは きみひとりかは
    祐盛法師十五恋五
    932おもひしる心のなきをなけくかなうき身ゆゑこそ人もつらけれ
    おもひしる こころのなきを なけくかな うきみゆゑこそ ひともつらけれ
    藤原隆親十五恋五
    933思ふをもわするる人はさもあらはあれうきをしのはぬ心ともかな
    おもふをも わするるひとは さもあらはあれ うきをしのはぬ こころともかな
    源有房十五恋五
    934はかなくそ後のよまてとちきりけるまたきにたにもかはる心を
    はかなくそ のちのよまてと ちきりける またきにたにも かはるこころを
    惟宗広言十五恋五
    935いとはるるそのゆかりにていかなれは恋はわか身をはなれさるらん
    いとはるる そのゆかりにて いかなれは こひはわかみを はなれさるらむ
    源仲頼十五恋五
    936おもひあまりうちぬるよひのまほろしも浪ちをわけてゆきかよひけり
    おもひあまり うちぬるよひの まほろしも なみちをわけて ゆきかよひけり
    鴨長明十五恋五
    937としふれとうき身はさらにかはらしをつらさもおなしつらさなるらん
    としふれと うきみはさらに かはらしを つらさもおなし つらさなるらむ
    土御門前斎院中将十五恋五
    938なけくまにかかみの影もおとろへぬ契りしことのかはるのみかは
    なけくまに かかみのかけも おとろへぬ ちきりしことの かはるのみかは
    崇徳院御製十五恋五
    939としふれとあはれにたへぬ涙かな恋しき人のかからましかは
    としふれと あはれにたへぬ なみたかな こひしきひとの かからましかは
    左京大夫顕輔十五恋五
    940いまはたたおさふる袖もくちはてて心のままにおつるなみたか
    いまはたた おさふるそても くちはてて こころのままに おつるなみたか
    藤原季通朝臣十五恋五
    941おく山のいはかきぬまのうきぬなはふかき恋ちになにみたれけん
    おくやまの いはかきぬまの うきぬなは ふかきこひちに なにみたれけむ
    皇太后宮大夫俊成十五恋五
    942しきしのふとこたにたへぬ涙にも恋はくちせぬ物にそ有りける
    しきしのふ とこたにたへぬ なみたにも こひはくちせぬ ものにそありける
    皇太后宮大夫俊成十五恋五
    943あさゆふにみるめをかつくあまたにもうらみはたえぬ物とこそきけ
    あさゆふに みるめをかつく あまたにも うらみはたえぬ ものとこそきけ
    藤原清輔朝臣十五恋五
    944なにせんにそらたのめとてうらみけんおもひたえたる暮もありけり
    なにせむに そらたのめとて うらみけむ おもひたえたる くれもありけり
    上西門院兵衛十五恋五
    945なほさりのそらたのめとてまちし夜のくるしかりしそいまは恋しき
    なほさりの そらたのめとて まちしよの くるしかりしそ いまはこひしき
    殷富門院大輔十五恋五
    946をしみかねけにいひしらぬ別かな月もいまはのあり明のそら
    をしみかね けにしひしらぬ わかれかな つきもいまはの ありあけのそら
    摂政前右大臣十五恋五
    947恋ひわふる心はそらにうきぬれと涙のそこに身はしつむかな
    こひわふる こころはそらに うきぬれと なみたのそこに みはしつむかな
    右近大将実房十五恋五
    948おもひかねこゆるせきちに夜をふかみやこゑの鳥にねをそそへつる
    おもひかね こゆるせきちに よをふかみ やこゑのとりに ねをそそへつる
    前中納言雅頼十五恋五
    949世にしらぬ秋の別にうちそへて人やりならす物そかなしき
    よにしらぬ あきのわかれに うちそへて ひとやりならす ものそかなしき
    権中納言通親十五恋五
    950契りしにあらすなるとのはまちとりあとたにみせぬうらみをそする
    ちきりしに あらすなるとの はまちとり あとたにみせぬ うらみをそする
    藤原経家朝臣十五恋五
    951しかはかり契りし中もかはりけるこのよに人をたのみけるかな
    しかはかり ちきりしなかも かはりける このよにひとを たのみけるかな
    藤原定家十五恋五
    952秋の夜を物おもふことのかきりとはひとりねさめの枕にそしる
    あきのよを ものおもふことの かきりとは ひとりねさめの まくらにそしる
    顕昭法師十五恋五
    953よしさらは君に心はつくしてん又も恋しき人もこそあれ
    よしさらは きみにこころは つくしてむ またもこひしき ひともこそあれ
    前参議教長十五恋五
    954なき人をおもひ出てたる夕くれはうらみしことそくやしかりける
    なきひとを おもひいてたる ゆふくれは うらみしことそ くやしかりける
    仁和寺後入道法親王(覚性)十五恋五
    955これをみよむつ田のよとにさてさしてしをれししつのあさ衣かは
    これをみよ むつたのよとに さてさして しをれししつの あさころもかは
    源俊頼朝臣十五恋五
    956ささめかるあれ田のさはにたつたみも身のためにこそ袖はぬるらめ
    ささめかる あれたのさはに たつたみも みのためにこそ そてもぬるらめ
    源俊頼朝臣十五恋五
    957ささのはにあられふる夜のさむけきにひとりはねなん物とやはおもふ
    ささのはに あられふるよの さむけきに ひとりはねなむ ものとやはおもふ
    馬内侍十五恋五
    958うらむへき心はかりはあるものをなきになしてもとはぬ君かな
    うらむへき こころはかりは あるものを なきになしても とはぬきみかな
    和泉式部十五恋五
    959かそへしる人なかりせはおく山のたにの松とやとしをつままし
    かそへしる ひとなかりせは おくやまの たにのまつとや としをつままし
    法成寺入道前太政大臣十六雑上
    960ふえ竹のよふかきこゑそきこゆなるきしの松かせふきやそふらん
    ふえたけの よふかきこゑそ きこゆなる みねのまつかせ ふきやそふらむ
    大納言斉信十六雑上
    961うはこほりあはにむすへるひもなれはかさす日かけにゆるふはかりを
    うはこほり あはにむすへる ひもなれは かさすひかけに ゆるむはかりそ
    皇后宮清少納言十六雑上
    962たかさとの春のたよりにうくひすの霞にとつるやとをとふらん
    たかさとの はるのたよりに うくひすの かすみにとつる やとをとふらむ
    紫式部十六雑上
    963いもとねておきゆくあさの道よりも中中もののおもはしきかな
    いもとねて おきゆくあさの みちよりも なかなかものの おもはしきかな
    藤原道信朝臣十六雑上
    964春のよの夕はかりなるたまくらにかひなくたたん名こそをしけれ
    はるのよの ゆめはかりなる たまくらに かひなくたたむ なこそをしけれ
    周防内侍十六雑上
    965契ありてはるの夜ふかきたまくらをいかかかひなき夢になすへき
    ちきりありて はるのよふかき たまくらを いかかかひなき ゆめになすへき
    大納言忠家十六雑上
    966いかにしてすきにしかたをすくしけんくらしわつらふ昨日けふかな
    いかにして すきにしかたを すくしけむ くらしわつらふ きのふけふかな
    皇后宮定子十六雑上
    967雲のうへもくらしかねける春の日をところからともなかめつるかな
    くものうへも くらしかねける はるのひを ところからとも なかめつるかな
    清少納言十六雑上
    968あひみむとおもひしことをたかふれはつらきかたにもさためつるかな
    あひみむと おもひしことを たかふれは つらきかたにも さためつるかな
    選子内親王十六雑上
    969みそきせしかもの川なみたちかへりはやくみしせに袖はぬれきや
    みそきせし かものかはなみ たちかへり はやくみしせに そてはぬれきや
    大斎院中将十六雑上
    970ちはやふるいつきの宮のたひねにはあふひそ草の枕なりけり
    ちはやふる いつきのみやの たひねには あふひそくさの まくらなりけり
    藤原実方朝臣十六雑上
    971かをるかによそふるよりはほとときすきかはやおなしこゑやしたると
    かをるかに よそふるよりは ほとときす きかはやおなし こゑやしたると
    和泉式部十六雑上
    972昨日まてみたらし河にせしみそきしかのうら浪たちそかはれる
    きのふまて みたらしかはに せしみそき しかのうらなみ たちそかはれる
    八条前太政大臣十六雑上
    973みたらしやかけたえはつる心ちしてしかの浪ちに袖そぬれこし
    みたらしや かけたえはつる ここちして しかのなみちに そてそぬれこし
    式子内親王十六雑上
    974やとせまて手ならしたりしあつさ弓かへるをみるにねそなかれける
    やとせまて てならしたりし あつさゆみ かへるをみるに ねそなかれける
    大宮前太政大臣十六雑上
    975なにかそれおもひすつへきあつさ弓又ひきかへす時もありなん
    なにかそれ おもひすつへき あつさゆみ またひきかへす ときもありなむ
    中院右大臣十六雑上
    976きのふみししのふもちすりたれならん心のほとそかきりしられぬ
    きのふみし しのふもちすり たれならむ こころのほとそ かきりしられぬ
    左京大夫顕輔十六雑上
    977露しけきよもきかなかの虫のねをおほろけにてや人のたつねん
    つゆしけき よもきかなかの むしのねを おほろけにてや ひとのたつねむ
    紫式部十六雑上
    978人しれぬおほうち山のやまもりはこかくれてのみ月をみるかな
    ひとしれぬ おほうちやまの やまもりは こかくれてのみ つきをみるかな
    前右京権大夫頼政十六雑上
    979秋をへて光をませとおもひしにおもはぬ月のかけにもあるかな
    あきをへて ひかりをませと おもひしに おもはぬつきの かけにもあるかな
    権中納言実綱十六雑上
    980とふ人におもひよそへてみる月のくもるはかへる心ちこそすれ
    とふひとに おもひよそへて みるつきの くもるはかへる ここちこそすれ
    仁和寺後入道法親王(覚性)十六雑上
    981ささ浪やくにつみかみのうらさひてふるき都に月ひとりすむ
    ささなみや くにつみかみの うらさひて ふるきみやこに つきひとりすむ
    法性寺入道前太政大臣十六雑上
    982あまの川空ゆく月はひとつにてやとらぬ水のいかてなからん
    あまのかは そらゆくつきは ひとつにて やとらぬみつの いかてなからむ
    法性寺入道前太政大臣十六雑上
    983ひとりゐて月をなかむる秋のよはなにことをかはおもひのこさん
    ひとりゐて つきをなかむる あきのよは なにことをかは おもひのこさむ
    中務卿具平親王十六雑上
    984物おもはぬ人もやこよひなかむらんねられぬままに月をみるかな
    ものおもはぬ ひともやこよひ なかむらむ ねられぬままに つきをみるかな
    赤染衛門十六雑上
    985なかめつつむかしも月はみしものをかくやは袖のひまなかるへき
    なかめつつ むかしもつきは みしものを かくやはそての ひまなかるへき
    相模十六雑上
    986ひとりのみあはれなるかと我ならぬ人にこよひの月をみせはや
    ひとりのみ あはれなるかと われならぬ ひとにこよひの つきをみせはや
    和泉式部十六雑上
    987かくはかりうき世の中のおもひ出てにみよともすめる夜はの月かな
    かくはかり うきよのなかの おもひいてに みよともすめる よはのつきかな
    久我内大臣十六雑上
    988すみわひて身をかくすへき山さとにあまりくまなき夜はの月かな
    すみわひて みをかくすへき やまさとに あまりくまなき よはのつきかな
    皇太后宮大夫俊成十六雑上
    989はりまかたすまの月夜めそらさえてゑしまかさきに雪ふりにけり
    はりまかた すまのつきよめ そらさえて ゑしまかさきに ゆきふりにけり
    前参議親隆十六雑上
    990さよちとりふけひのうらにおとつれてゑしまかいそに月かたふきぬ
    さよちとり ふけひのうらに おとつれて ゑしまかいそに つきかたふきぬ
    藤原家基十六雑上
    991いかたおろすきよたき川にすむ月はさをにさはらぬ氷なりけり
    いかたおろす きよたきかはに すむつきは さをにさはらぬ こほりなりけり
    俊恵法師十六雑上
    992あまのはらすめるけしきはのとかにてはやくも月の西へゆくかな
    あまのはら すめるけしきは のとかにて はやくもつきの にしへゆくかな
    賀茂成保十六雑上
    993さひしさにあはれもいととまさりけりひとりそ月はみるへかりける
    さひしさに あはれもいとと まさりけり ひとりそつきは みるへかりける
    顕昭法師十六雑上
    994いまよりはふけ行くまてに月はみしそのこととなく涙おちけり
    いまよりは ふけゆくまてに つきはみし そのこととなく なみたおちけり
    藤原清輔朝臣十六雑上
    995もろともにみし人いかになりにけん月はむかしにかはらさりけり
    もろともに みしひといかに なりにけむ つきはむかしに かはらさりけり
    登蓮法師十六雑上
    996あかなくに又もこのよにめくりこはおもかはりすな山のはの月
    あかなくに またもこのよに めくりこは おもかはりすな やまのはのつき
    法印静賢十六雑上
    997はかなくもわかよのふけをしらすしていさよふ月をまちわたるかな
    はかなくも わかよのふけを しらすして いさよふつきを まちわたるかな
    源仲正十六雑上
    998さきたちし人はやみにやまよふらんいつまて我も月をなかめん
    さきたちし ひとはやみにや まよふらむ いつまてわれも つきをなかめむ
    源仲綱十六雑上
    999のこりなくわかよふけぬとおもふにもかたふく月にすむ心かな
    のこりなく わかよふけぬと おもふにも かたふくつきに すむこころかな
    待賢門院堀河十六雑上
    1000うき雲のかかるほとたにあるものをかくれなはてそあり明の月
    うきくもの かかるほとたに あるものを かくれなはてそ ありあけのつき
    近衛院御製十六雑上
    1001このまもるあり明の月のおくらすはひとりや山のみねを出てまし
    このまもる ありあけのつきの おくらすは ひとりややまの みねをいてまし
    仁和寺後入道法親王(覚性)十六雑上
    1002ことのねを雪にしらふときこゆなり月さゆる夜のみねの松かせ
    ことのねを ゆきにしらふと きこゆなり つきさゆるよの みねのまつかせ
    道性法親王十六雑上
    1003あかていらんなこりをいととおもへとやかたふくままにすめる月かな
    あかていらむ なこりをいとと おもへとや かたふくままに すめるつきかな
    権中納言長方十六雑上
    1004いかにせんさらてうきよはなくさますたのみし月も涙おちけり
    いかにせむ さらてうきよは なくさます たのみしつきも なみたおちけり
    藤原定家十六雑上
    1005山ふかき松のあらしを身にしめてたれかねさめに月をみるらん
    やまふかき まつのあらしを みにしめて たれかねさめに つきをみるらむ
    藤原家隆十六雑上
    1006まつほとはいとと心そなくさまぬをはすて山のあり明の月
    まつほとは いととこころそ なくさまぬ をはすてやまの ありあけのつき
    八条院六条十六雑上
    1007よをいとふ心は月をしたへはや山のはにのみおもひいるらん
    よをいとふ こころはつきを したへはや やまのはにのみ おもひいるらむ
    法印実修十六雑上
    1008さひしさも月みるほとはなくさみぬいりなんのちをとふ人もかな
    さひしさも つきみるほとは なくさみぬ いりなむのちを とふひともかな
    藤原隆親十六雑上
    1009霜さゆるにはのこのはをふみわけて月はみるやととふ人もかな
    しもさゆる にはのこのはを ふみわけて つきはみるやと とふひともかな
    西行法師十六雑上
    1010すみなれしやとをはいてて西へゆく月をしたひて山にこそいれ
    すみなれし やとをはいてて にしへゆく つきをしたひて やまにこそいれ
    平実重十六雑上
    1011ふるさとのいたゐのし水みくさゐて月さへすます成りにけるかな
    ふるさとの いたゐのしみつ みくさゐて つきさへすます なりにけるかな
    俊恵法師十六雑上
    1012さもこそはかけととむへき世ならねとあとなき水にやとる月かな
    さもこそは かけととむへき よならねと あとなきみつに やとるつきかな
    藤原家基十六雑上
    1013なにとなくなかむるそてのかわかぬは月のかつらの露やおくらん
    なにとなく なかむるそての かわかぬは つきのかつらの つゆやおくらむ
    藤原親盛十六雑上
    1014ましはふくやとのあられに夢さめてあり明かたの月をみるかな
    ましはふく やとのあられに ゆめさめて ありあけかたの つきをみるかな
    大江公景十六雑上
    1015あし曳の山のはちかくすむとてもまたてやはみるあり明の月
    あしひきの やまのはちかく すむとても またてやはみる ありあけのつき
    静蓮法師十六雑上
    1016もろともに秋をやしのふ霜かれのをきのうははをてらす月かけ
    もろともに あきをやしのふ しもかれの をきのうははを てらすつきかけ
    紀康宗十六雑上
    1017ますけおふる山した水にやとる夜は月さへ草のいほりをそさす
    ますけおふる やましたみつに やとるよは つきさへくさの いほりをそさす
    法眼長真十六雑上
    1018ふかきよの露ふきむすふこからしにそらさえのほる山のはの月
    ふかきよの つゆふきむすふ こからしに そらさえのほる やまのはのつき
    藤原為忠朝臣十六雑上
    1019山かせにまやのあしふきあれにけり枕にやとる夜はの月影
    やまかせに まやのあしふき あれにけり まくらにやとる よはのつきかけ
    覚延法師十六雑上
    1020やまふかみたれ又かかるすまひしてま木のはわくる月をみるらん
    やまふかみ たれまたかかる すまひして まきのはわくる つきをみるらむ
    法印慈円十六雑上
    1021月影のいりぬるあとにおもふかなまよはむやみのゆくすゑの空
    つきかけの いりぬるあとに おもふかな まよはむやみの ゆくすゑのそら
    法印慈円十六雑上
    1022此世にて六そちはなれぬ秋の月しての山ちもおもかはりすな
    このよにて むそちはなれぬ あきのつき してのやまちも おもかはりすな
    俊恵法師十六雑上
    1023こむよには心のうちにあらはさんあかてやみぬる月のひかりを
    こむよには こころのうちに あらはさむ あかてやみぬる つきのひかりを
    西行法師十六雑上
    1024いかなれはしつみなからにとしをへてよよの雲ゐの月をみつらん
    いかなれは しつみなからに としをへて よよのくもゐの つきをみつらむ
    皇太后宮大夫俊成十六雑上
    1025からくににしつみし人もわかことくみよまてあはぬなけきをそせし
    からくにに しつみしひとも わかことく みよまてあはぬ なけきをそせし
    藤原基優十六雑上
    1026契りおきしさせもか露をいのちにてあはれことしの秋もいぬめり
    ちきりおきし させもかつゆを いのちにて あはれことしの あきもいぬめり
    藤原基優十六雑上
    1027よのなかのありしにもあらすなりゆけは涙さへこそ色かはりけれ
    よのなかの ありしにもあらす なりゆけは なみたさへこそ いろかはりけれ
    源俊頼朝臣十六雑上
    1028すききにし四そちの春のゆめのよはうきよりほかのおもひいてそなき
    すききにし よそちのはるの ゆめのよは うきよりほかの おもひいてそなき
    覚審法師十六雑上
    1029はかなしなうき身なからもすきぬへき此世をさヘもしのひかぬらん
    はかなしな うきみなからも すきぬへき このよをさへも しのひかぬらむ
    経因法師十六雑上
    1030ゆくすゑをおもへはかなしつの国のなからのはしも名はのこりけり
    ゆくすゑを おもへはかなし つのくにの なからのはしも なはのこりけり
    源俊頼朝臣十六雑上
    1031なにこともかはりゆくめる世の中にむかしなからのはしはしらかな
    なにことも かはりゆくめる よのなかに むかしなからの はしはしらかな
    道命法師十六雑上
    1032けふみれはなからのはしはあともなしむかしありきとききわたれとも
    けふみれは なからのはしは あともなし むかしありきと ききわたれとも
    道因法師十六雑上
    1033人こころあらすなれともすみよしの松のけしきはかはらさりけり
    ひとこころ あらすなれとも すみよしの まつのけしきは かはらさりけり
    津守景基十六雑上
    1034しら雲にまかひやせましよしの山おちくるたきのおとせさりせは
    しらくもに まかひやせまし よしのやま おちくるたきの おとせさりせは
    中納言経忠十六雑上
    1035たきのおとはたえてひさしく成りぬれとなこそなかれて猶きこえけれ
    たきのおとは たえてひさしく なりぬれと なこそなかれて なほきこえけれ
    前大納言公任十六雑上
    1036ぬけはちるぬかねはみたるあし引の山よりおつるたきのしら玉
    ぬけはちる ぬかねはみたる あしひきの やまよりおつる たきのしらたま
    藤原長能十六雑上
    1037水の色のたたしら雲とみゆるかなたれさらしけんぬのひきのたき
    みつのいろの たたしらくもと みゆるかな たれさらしけむ ぬのひきのたき
    六条右大臣十六雑上
    1038あしたつにのりてかよへるやとなれはあとたに人はみえぬなりけり
    あしたつに のりてかよへる やとなれは あとたにひとは みえぬなりけり
    能因法師十六雑上
    1039山人のむかしのあとをきてみれはむなしきゆかをはらふ谷かせ
    やまひとの むかしのあとを きてみれは むなしきゆかを はらふたにかせ
    藤原清輔朝臣十六雑上
    1040おとにのみききしはことのかすならて名よりもたかきぬのひきの滝
    おとにのみ ききしはことの かすならて なよりもたかき ぬのひきのたき
    藤原良清十六雑上
    1041たえすたつむろのやしまの煙かないかにつきせぬおもひなるらん
    たえすたつ むろのやしまの けふりかな いかにつきせぬ おもひなるらむ
    藤原顕方十六雑上
    1042かつらきやわたしもはてぬものゆゑにくめのいははしこけおひにけり
    かつらきや わたしもはてぬ ものゆゑに くめのいははし こけおひにけり
    大納言師頼十六雑上
    1043いはおろすかたこそなけれいせの海のしほせにかかるあまのつり舟
    いはおろす かたこそなけれ いせのうみの しほせにかかる あまのつりふね
    権中納言俊忠十六雑上
    1044玉もかるいらこかさきのいはねまついく代まてにかとしのへぬらん
    たまもかる いらこかさきの いはねまつ いくよまてにか としのへぬらむ
    修埋大夫顕季十六雑上
    1045しほみては野しまかさきのさゆりはに浪こすかせのふかぬ日そなき
    しほみては のしまかさきの さゆりはに なみこすかせの ふかぬひそなき
    源俊頼朝臣十六雑上
    1046けふこそはみやこのかたの山のはもみえすなるをのおきに出てぬれ
    けふこそは みやこのかたの やまのはも みえすなるをの おきにいてぬれ
    権大納言実家十六雑上
    1047はりまかたすまのはれまにみわたせは浪は雲ゐのものにそありける
    はりまかた すまのはれまに みわたせは なみはくもゐの ものにそありける
    権中納言実宗十六雑上
    1048はるはるとおまへのおきをみわたせはくもゐにまかふあまのつり舟
    はるはると おまへのおきを みわたせは くもゐにまかふ あまのつりふね
    右衛門督頼実十六雑上
    1049なにはかたしほちはるかにみわたせは霞にうかふおきのつり舟
    なにはかた しほちはるかに みわたせは かすみにうかふ おきのつりふね
    円玄法師十六雑上
    1050春かすみゑしまかさきをこめつれは浪のかくともみえぬけさかな
    はるかすみ ゑしまかさきを こめつれは なみのかくとも みえぬけさかな
    藤原重綱十六雑上
    1051ゆくとしは浪とともにやかへるらんおもかはりせぬわかの浦かな
    ゆくとしは なみとともにや かへるらむ おもかはりせぬ わかのうらかな
    祝部宿禰成仲十六雑上
    1052心あらはにほひをそへよさくら花のちの春をはいつかみるへき
    こころあらは にほひをそへよ さくらはな のちのはるをは いつかみるへき
    鳥羽院御製十七雑中
    1053はかなさをうらみもはてしさくら花うき世はたれも心ならねは
    はかなさを うらみもはてし さくらはな うきよはたれも こころならねは
    仁和寺後入道法親王(覚性)十七雑中
    1054やともやとはなもむかしににほへともぬしなき色はさひしかりけり
    やともやと はなもむかしに にほへとも ぬしなきいろは さひしかりけり
    僧正尋範十七雑中
    1055いにしへにかはらさりけり山さくら花は我をはいかかみるらん
    いにしへに かはらさりけり やまさくら はなはわれをは いかかみるらむ
    前中納言基長十七雑中
    1056雲のうへの春こそさらにわすられね花はかすにもおもひ出てしを
    くものうへの はるこそさらに わすられね はなはかすにも おもひいてしを
    皇太后宮大夫俊成十七雑中
    1057あまたたひゆきあふさかのせき水に今はかきりのかけそかなしき
    あまたたひ ゆきあふさかの せきみつに いまはかきりの かけそかなしき
    東三条院十七雑中
    1058いまはとていりなん後そおもほゆる山ちをふかみとふ人もなし
    いまはとて いりなむのちそ おもほゆる やまちをふかみ とふひともなし
    前大納言公任十七雑中
    1059うき世をはみねのかすみやへたつらんなほ山さとはすみよかりけり
    うきよをは みねのかすみや へたつらむ なほやまさとは すみよかりけり
    前大納言公任十七雑中
    1060花さかぬたにのそこにもすまなくにふかくも物をおもふ春かな
    はなさかぬ たにのそこにも すまなくに ふかくもものを おもふはるかな
    和泉式部十七雑中
    1061たにのとをとちやはてつる鴬のまつにおとせて春のくれぬる
    たにのとを とちやはてつる うくひすの まつにおとせて はるのくれぬる
    法成寺入道前太政大臣十七雑中
    1062かくてたになほあはれなるおく山に君こぬよよをおもひしらなん
    かくてたに なほあはれなる おくやまに きみこぬよよを おもひしらなむ
    道命法師十七雑中
    1063としことに涙の川にうかへともみはなけられぬ物にそありける
    としことに なみたのかはに うかへとも みはなけられぬ ものにそありける
    大江公資十七雑中
    1064おもふことなくてや春をすくさましうき世へたつるかすみなりせは
    おもふこと なくてやはるを すくさまし うきよへたつる かすみなりせは
    源仲正十七雑中
    1065ちるをみてかへる心やさくら花むかしにかはるしるしなるらん
    ちるをみて かへるこころや さくらはな むかしにかはる しるしなるらむ
    西行法師十七雑中
    1066はなにそむ心のいかてのこりけんすてはててきとおもふわか身に
    はなにそむ こころのいかて のこりけむ すてはててきと おもふわかみに
    西行法師十七雑中
    1067ほとけにはさくらの花をたてまつれわかのちのよを人とふらはは
    ほとけには さくらのはなを たてまつれ わかのちのよを ひととふらはは
    西行法師十七雑中
    1068この春そおもひはかへすさくら花むなしき色にそめしこころを
    このはるそ おもひはかへす さくらはな むなしきいろに そめしこころを
    寂然法師十七雑中
    1069よのなかをつねなき物とおもはすはいかてか花のちるにたへまし
    よのなかを つねなきものと おもはすは いかてかはなの ちるにたへまし
    寂然法師十七雑中
    1070かくはかりうき世のすゑにいかにしてはるはさくらのなほにほふらん
    かくはかり うきよのすゑに いかにして はるはさくらの なほにほふらむ
    読人不知十七雑中
    1071ふりにけりむかしをしらはさくら花ちりのすゑをもあはれとはみよ
    ふりにけり むかしをしらは さくらはな ちりのすゑをも あはれとはみよ
    皇太后宮大夫俊成十七雑中
    1072山さくら花をあるしとおもはすは人をまつへきしはのいほかは
    やまさくら はなをあるしと おもはすは ひとをまつへき しはのいほかは
    源定宗朝臣十七雑中
    1073いつくにてかせをも世をもうらみましよしののおくも花はちるなり
    いつくにて かせをもよをも うらみまし よしののおくも はなはちるなり
    藤原定家十七雑中
    1074ふかくおもふことしかなははこむ世にも花みる身とやならんとすらん
    ふかくおもふ ことしかなはは こむよにも はなみるみとや ならむとすらむ
    源季広十七雑中
    1075老かよにやとにさくらをうつしうゑてなほこころみに花をまつかな
    おいかよに やとにさくらを うつしうゑて なほこころみに はなをまつかな
    源師教朝臣十七雑中
    1076くらゐ山はなをまつこそひさしけれはるの宮こにとしはへしかと
    くらゐやま はなをまつこそ ひさしけれ はるのみやこに としはへしかと
    権中納言実守十七雑中
    1077かすか山まつにたのみをかくるかなふちのすゑはのかすならねとも
    かすかやま まつにたのみを かくるかな ふちのすゑはの かすならねとも
    右兵衛督公行十七雑中
    1078物おもふ心や身にもさきたちてうき世をいてんしるへなるへき
    ものおもふ こころやみにも さきたちて うきよをいてむ しるへなるへき
    前左衛門督公光十七雑中
    1079かすならてとしへぬる身はいまさらに世をうしとたにおもはさりけり
    かすならて としへぬるみは いまさらに よをうしとたに おもはさりけり
    俊恵法師十七雑中
    1080いつとても身のうきことはかはらねとむかしはおいをなけきやはせし
    いつとても みのうきことは かはらねと むかしはおいを なけきやはせし
    道因法師十七雑中
    1081いにしへもそこにしつみし身なれともなほ恋しきはしら川のみつ
    いにしへも そこにしつみし みなれとも なほこひしきは しらかはのみつ
    藤原家基(法名素覚)十七雑中
    1082あはれてふ人もなき身をうしとてもわれさへいかかいとひはつへき
    あはれてふ ひともなきみを うしとても われさへいかか いとひはつへき
    藤原盛方朝臣十七雑中
    1083かすならぬ身をうき雲のはれぬかなさすかに家のかせはふけとも
    かすならぬ みをうきくもの はれぬかな さすかにいへの かせはふけとも
    中原師尚十七雑中
    1084おもひやれとよにあまれるともし火のかかけかねたる心ほそさを
    おもひやれ とよにあまれる ともしひの かかけかねたる こころほそさを
    大江匡範十七雑中
    1085よのうさをおもひしのふと人もみよかくてふるやの軒のけしきを
    よのうさを おもひしのふと ひともみよ かくてふるやの のきのけしきを
    藤原公重朝臣十七雑中
    1086ひく人もなくてすてたるあつさ弓心つよきもかひなかりけり
    ひくひとも なくてすてたる あつさゆみ こころつよきも かひなかりけり
    菅原是忠十七雑中
    1087いかてわれひまゆくこまを引きとめてむかしにかへる道をたつねん
    いかてわれ ひまゆくこまを ひきとめて むかしにかへる みちをたつねむ
    二条院参川内侍十七雑中
    1088今はたたいけらぬ物にみをなしてうまれぬのちの世にもふるかな
    いまはたた いけらぬものに みをなして うまれぬのちの よにもふるかな
    源師光十七雑中
    1089いかにせむいせのはまをきみかくれておもはぬいその浪にくちなは
    いかにせむ いせのはまをき みかくれて おもはぬいその なみにくちなは
    源俊重十七雑中
    1090ま木のとをみ山おろしにたたかれてとふにつけてもぬるる袖かな
    まきのとを みやまおろしに たたかれて とふにつけても ぬるるそてかな
    源俊頼朝臣十七雑中
    1091をやま国のいほにたくひのありなしにたつ煙もや雲となるらん
    をやまたの いほにたくひの ありなしに たつけふりもや くもとなるらむ
    橘盛長十七雑中
    1092山さとのしはをりをりにたつ煙人まれなりとそらにしるかな
    やまさとの しはをりをりに たつけふり ひとまれなりと そらにしるかな
    二条太皇大后宮肥後十七雑中
    1093秋はつるかれののむしのこゑたえはありやなしやを人のとへかし
    あきはつる かれののむしの こゑたえは ありやなしやを ひとのとへかし
    藤原基俊十七雑中
    1094この世にはすむへきほとやつきぬらんよのつねならす物のかなしき
    このよには すむへきほとや つきぬらむ よのつねならす もののかなしき
    藤原道信朝臣十七雑中
    1095いのちあらはいかさまにせんよをしらぬむしたに秋はなきにこそなけ
    いのちあらは いかさまにせむ よをしらぬ むしたにあきは なきにこそなけ
    和泉式部十七雑中
    1096かすならて心に身をはまかせねと身にしたかふは心なりけり
    かすならて こころにみをは まかせねと みにしたかふは こころなりけり
    紫式部十七雑中
    1097あはれともたれかはわれをおもひいてむある世にたにもとふ人もなし
    あはれとも たれかはわれを おもひいてむ あるよにたにも とふひともなし
    藤原兼房朝臣十七雑中
    1098ふるさとのいたまのかせにねさめしてたにのあらしをおもひこそやれ
    ふるさとの いたまのかせに ねさめして たにのあらしを おもひこそやれ
    中納言定頼十七雑中
    1099たにかせの身にしむことに古郷のこのもとをこそおもひやりつれ
    たにかせの みにしむことに ふるさとの このもとをこそ おもひやりつれ
    前大納言公任十七雑中
    1100いにしへはおもひかけきやとりかはしかくきん物とのりの衣を
    いにしへは おもひかけきや とりかはし かくきむものと のりのころもを
    法成寺入道前太政大臣十七雑中
    1101おなしとし契しあれは君かきるのりの衣をたちおくれめや
    おなしとし ちきりしあれは きみかきる のりのころもを たちおくれめや
    入道大納言公任十七雑中
    1102むかしみし松のこすゑはそれなからむくらのかとをさしてけるかな
    むかしみし まつのこすゑは それなから むくらのかとを さしてけるかな
    弁乳母十七雑中
    1103山さとのかけひの水のこほれるはおときくよりもさひしかりけり
    やまさとの かけひのみつの こほれるは おときくよりも さひしかりけり
    輔仁のみこ十七雑中
    1104やまさとのさひしきやとのすみかにもかけひの水のとくるをそまつ
    やまさとの さひしきやとの すみかにも かけひのみつの とくるをそまつ
    聡子内親王十七雑中
    1105このもとにかきあつめたることのはをわかれし秋のかたみとそみる
    このもとに かきあつめたる ことのはを わかれしあきの かたみとそみる
    太皇大后宮十七雑中
    1106このもとはかくことのはをみるたひにたのみしかけのなきそかなしき
    このもとは かくことのはを みるたひに たのみしかけの なきそかなしき
    大納言実家十七雑中
    1107あとたえてよをのかるへき道なれやいはさへこけの衣きてけり
    あとたえて よをのかるへき みちなれや いはさへこけの ころもきてけり
    仁和寺法親王(守覚)十七雑中
    1108思ひいてのあらは心もとまりなんいとひやすきはうき世なりけり
    おもひいての あらはこころも とまりなむ いとひやすきは うきよなりけり
    仁和寺法親王(守覚)十七雑中
    1109やとりするいはやのとこのこけむしろいくよになりぬねこそいられね
    やとりする いはやのとこの こけむしろ いくよになりぬ ねこそいられね
    前大僧正覚忠十七雑中
    1110身のほとをしらすと人やおもふらんかくうきなからとしをへぬれは
    みのほとを しらすとひとや おもふらむ かくうきなから としをへぬれは
    大納言宗家十七雑中
    1111そむかはやまことの道はしらすともうき世をいとふしるしはかりに
    そむかはや まことのみちは しらすとも うきよをいとふ しるしはかりに
    右近中将忠良十七雑中
    1112そま川におろすいかたのうきなからすきゆく物は我か身なりけり
    そまかはに おろすいかたの うきなから すきゆくものは わかみなりけり
    二条太皇太后宮別当十七雑中
    1113おのつからあれはあるよになからへてをしむと人にみえぬへきかな
    おのつから あれはあるよに なからへて をしむとひとに みえぬへきかな
    藤原定家十七雑中
    1114うしとてもいとひもはてぬよのなかを中中なににおもひしりけん
    うしとても いとひもはてぬ よのなかを なかなかなにに おもひしりけむ
    摂政家丹後十七雑中
    1115のほるへき道にそまとふくらゐ山これよりおくのしるへなけれは
    のほるへき みちにそまとふ くらゐやま これよりおくの しるへなけれは
    法印倫円十七雑中
    1116もろ人の花さくはるをよそにみてなほしくるるはしひしはのそて
    もろひとの はなさくはるを よそにみて なほしくるるは しひしはのそて
    中納言長方十七雑中
    1117うきせにもうれしきせにもさきにたつ涙はおなし涙なりけり
    うきせにも うれしきせにも さきにたつ なみたはおなし なみたなりけり
    藤原顕方十七雑中
    1118このせにもしつむときくは涙川なかれしよりもなほまさりけり
    このせにも しつむときけは なみたかは なかれしよりも なほまさりけり
    前左兵衛督惟方十七雑中
    1119かくはかりうき身なれともすてはてむとおもふになれはかなしかりけり
    かくはかり うきみなれとも すてはてむと おもふになれは かなしかりけり
    空人法師十七雑中
    1120おもひきやしかのうら浪たちかへり又あふ身ともならむものとは
    おもひきや しかのうらなみ たちかへり またあふみとも ならむものとは
    平康頼十七雑中
    1121かくはかりうきよのなかをしのひてもまつへきことのすゑにあるかは
    かくはかり うきよのなかを しのひても まつへきことの すゑにあるかは
    登蓮法師十七雑中
    1122おもひかねあくかれいててゆくみちはあゆく草はに露そこほるる
    おもひかね あくかれいてて ゆくみちは あゆくくさはに つゆそこほるる
    覚禅法師十七雑中
    1123夢とのみこの世のことのみゆるかなさむへきほとはいつとなけれと
    ゆめとのみ このよのことの みゆるかな さむへきほとは いつとなけれと
    権僧正永縁十七雑中
    1124この世をは雲のはやしにかとてして煙とならん夕をそまつ
    このよをは くものはやしに かとてして けふりとならむ ゆふへをそまつ
    良暹法師十七雑中
    1125うきことのまとろむほとはわすられてさむれは夢の心ちこそすれ
    うきことの まとろむほとは わすられて さむれはゆめの ここちこそすれ
    読人知らず十七雑中
    1126いつくとも身をやるかたのしられねはうしとみつつもなからふるかな
    いつくとも みをやるかたの しられねは うしとみつつも なからふるかな
    紫式部十七雑中
    1127うき夢はなこりまてこそかなしけれ此世ののちもなほやなけかん
    うきゆめは なこりまてこそ かなしけれ このよののちも なほやなけかむ
    皇太后宮大夫俊成十七雑中
    1128うつつをもうつつといかかさたむへき夢にも夢をみすはこそあらめ
    うつつをも うつつといかか さたむへき ゆめにもゆめを みすはこそあらめ
    藤原季通朝臣十七雑中
    1129いとひてもなほしのはるるわか身かな二たひくへき此世ならねは
    いとひても なほしのはるる わかみかな ふたたひくへき このよならねは
    藤原季通朝臣十七雑中
    1130これや夢いつれかうつつはかなさをおもひわかてもすきぬへきかな
    これやゆめ いつれかうつつ はかなさを おもひわかても すきぬへきかな
    上西門院兵衛十七雑中
    1131あすしらぬみむろのきしのねなし草なにあたし世におひはしめけん
    あすしらぬ みむろのきしの ねなしくさ なにあたしよに おひはしめけむ
    花薗左大臣家小大進十七雑中
    1132をしからぬ命そさらにをしまるる君かみやこにかへりくるまて
    をしからぬ いのちそさらに をしまるる きみかみやこに かへりくるまて
    前大納言成通十七雑中
    1133うき世をはすてて入りにし山なれときみかとふにやいてんとすらん
    うきよをは すてていりにし やまなれと きみかとふにや いてむとすらむ
    前大僧正覚忠十七雑中
    1134いはそそく水よりほかにおとせねは心ひとつをすましてそきく
    いはそそく みつよりほかに おとせねは こころひとつに すましてそきく
    仁和寺法親王(守覚)十七雑中
    1135たれもみな露の身そかしとおもふにも心とまりし草のいほかな
    たれもみな つゆのみそかしと おもふにも こころとまりし くさのいほかな
    権大納言実国十七雑中
    1136なほさりにかへるたもとはかはらねと心はかりそすみそめのそて
    なほさりに かへるたもとは かはらねと こころはかりそ すみそめのそて
    藤原公衡朝臣十七雑中
    1137おほけなくうき世のたみにおほふかなわかたつそまにすみそめのそて
    おほけなく うきよのたみに おほふかな わかたつそまに すみそめのそて
    法印慈円十七雑中
    1138さひしさをうきよにかへてしのはすはひとりきくへき松のかせかは
    さひしさを うきよにかへて しのはすは ひとりきくへき まつのかせかは
    寂蓮法師十七雑中
    1139つくつくとおもへはかなしあかつきのねさめも夢をみるにそ有りける
    つくつくと おもへはかなし あかつきの ねさめもゆめを みるにそありける
    殷富門院大輔十七雑中
    1140まとろみてさてもやみなはいかかせんねさめそあらぬ命なりける
    まとろみて さてもやみなは いかかせむ ねさめそあらぬ いのちなりける
    西住法師十七雑中
    1141さきたつをみるはなほこそかなしけれおくれはつへきこのよならねと
    さきたつを みるはなほこそ かなしけれ おくれはつへき このよならねと
    六条院宣旨十七雑中
    1142いまはとてかきなすことのはてのをに心ほそくもなりまさるかな
    いまはとて かきなすことの はてのをの こころほそくも なりまさるかな
    二条太皇大后宮式部十七雑中
    1143おほゐ川となせのたきに身をなけてはやくと人にいはせてしかな
    おほゐかは となせのたきに みをなけて はやくとひとに いはせてしかな
    空人法師十七雑中
    1144とりへ山きみたつぬともくちはててこけのしたにはこたへさらまし
    とりへやま きみたつぬとも くちはてて こけのしたには こたへさらまし
    大江公景十七雑中
    1145わけわひていとひし庭のよもきふもかれぬとおもふはあはれなりけり
    わけわひて いとひしにはの よもきふも かれぬとおもふは あはれなりけり
    法眼兼覚十七雑中
    1146世のなかのうきはいまこそうれしけれおもひしらすはいとはましやは
    よのなかの うきはいまこそ うれしけれ おもひしらすは いとはましやは
    寂蓮法師十七雑中
    1147よをそむき草のいほりにすみ染のころもの色はかへるものかは
    よをそむき くさのいほりに すみそめの ころものいろは かへるものかは
    覚俊上人十七雑中
    1148おもひやれならはぬ山にすみ染の袖につゆおく秋のけしきを
    おもひやれ ならはぬやまに すみそめの そてにつゆおく あきのけしきを
    源通清十七雑中
    1149あかつきのあらしにたくふかねのおとを心のそこにこたへてそきく
    あかつきの あらしにたくふ かねのおとを こころのそこに こたへてそきく
    西行法師十七雑中
    1150いつくにか身をかくさましいとひいててうきよにふかき山なかりせは
    いつくにか みをかくさまし いとひいてて うきよにふかき やまなかりせは
    西行法師十七雑中
    1151世のなかよみちこそなけれおもひいる山のおくにもしかそなくなる
    よのなかよ みちこそなけれ おもひいる やまのおくにも しかそなくなる
    皇太后宮大夫俊成十七雑中
    1152おもふことあり明かたのしかのねはなほ山ふかく家ゐせよとや
    おもふこと ありあけかたの しかのねは なほやまふかく いへゐせよとや
    藤原良清十七雑中
    1153みる夢のすきにしかたをさそひきてさむる枕もむかしなりせは
    みるゆめの すきにしかたを さそひきて さむるまくらも むかしなりせは
    藤原宗隆十七雑中
    1154はつせ山いりあひのかねをきくたひに昔のとほくなるそかなしき
    はつせやま いりあひのかねを きくたひに むかしのとほく なるそかなしき
    藤原有家朝臣十七雑中
    1155ちりつもるこけのしたにもさくら花をしむ心やなほのこるらん
    ちりつもる こけのしたにも さくらはな をしむこころや なほのこるらむ
    権中納言通親十七雑中
    1156うれしさをかへすかへすもつつむへきこけのたもとのせはくも有るかな
    うれしさを かへすかへすも つつむへき こけのたもとの せはくもあるかな
    入道前中納言雅兼十七雑中
    1157うれしさをよその袖まてつつむかなたちかへりぬるあまのはころも
    うれしさを よそのそてまて つつむかな たちかへりぬる あまのはころも
    藤原季経朝臣十七雑中
    1158あしたつの雲ちまよひしとしくれて霞をさへやへたてはつへき
    あしたつの くもちまよひし としくれて かすみをさへや へたてはつへき
    皇太后宮大夫俊成十七雑中
    1159あしたつはかすみをわけてかへるなりまよひし雲ちけふやはるらん
    あしたつは かすみをわけて かへるなり まよひしくもち けふやはるらむ
    藤原定長朝臣十七雑中
    1160もかみ川せせのいはかとわきかへりおもふこころはおほかれと行かたもなくせかれつつそこのみくつとなることはもにすむ虫のわれからとおもひしらすはなけれともいはてはえこそなきさなるかたわれ舟のうつもれてひく人もなきなけきすと浪のたちゐにあふけともむなしき空はみとりにていふこともなきかなしさにねをのみなけはからころもおさふる袖もくちはてぬなにことにかはあはれともおもはん人にあふみなるうちいてのはまのうちいてつついふともたれかささかにのいかさまにてもかきつかんことをはのきにふくかせのはけしきころとしりなからうはの空にもをしふへきあつさのそまにみや木ひきみかきかはらにせりつみしむかしをよそにききしかとわか身のうへになりはてぬさすかに御代のはしめより雲のうへにはかよへともなにはのことも久かたの月のかつらしをられねはうけらか花のさきなからひらけぬことのいふせさによもの山へにあくかれてこのもかのもにたちましりうつふしそめのあさころも花のたもとにぬきかへて後のよをたにとおもへともおもふ人人ほたしにてゆくへきかたもまとはれぬかかるうき身のつれもなくへにける年をかそふれはいつつのとをになりにけりいま行すゑはいなつまのひかりのまにもさためなしたとへはひとりなからへてすきにしはかりすくすとも夢にゆめみる心ちしてひまゆく駒にことならしさらにもいはしふゆかれのをはなかすゑの露なれはあらしをたにもまたすしてもとのしつくとなりはてんほとをはいつとしりてかはくれにとたにもしつむへきかくのみつねにあらそひてなほふるさとにすみのえのしほにたたよふうつせかひうつし心もうせはててあるにもあらぬよのなかに又なにことをみくまののうらのはまゆふかさねつつうきにたヘたるためしにはなるをの松のつれつれといたつらことをかきつめてあはれしれらん行すゑの人のためにはおのつからしのはれぬへき身なれともはかなきことも雲とりのあやにかなはぬくせなれはこれもさこそはみなしくりくち葉かしたにうつもれめそれにつけてもつのくにのいく田のもりのいくたひかあまのたくなはくり返し心にそはぬ身をうらむらん
    もかみかは せせのいはかと わきかへり おもふこころは おほかれと ゆくかたもなく せかれつつ そこのみくつと なることは もにすむむしの われからと おもひしらすは なけれとも いはてはえこそ なきさなる かたわれふねの うつもれて ひくひともなき なけきすと なみのたちゐに あふけとも むなしきそらは みとりにて いふこともなき かなしさに ねをのみなけは からころも おさふるそても くちはてぬ なにことにかは あはれとも おもはむひとに あふみなる うちいてのはまの うちいてつつ いふともたれか ささかにの いかさまにても かきつかむ ことをはのきに ふくかせの はけしきころと しりなから うはのそらにも をしふへき あつさのそまに みやきひき みかきかはらに せりつみし むかしをよそに ききしかと わかみのうへに なりはてぬ さかすにみよの はしめより くものうへには かよへとも なにはのことも ひさかたの つきのかつらし をられねは うけらかはなの さきなから ひらけぬことの いふせさに よものやまへに あくかれて このもかのもに たちましり うつふしそめの あさころも はなのたもとに ぬきかへて のちのよをたにと おもへとも おもふひとひと ほたしにて ゆくへきかたも まとはれぬ かかるうきみの つれもなく へにけるとしを かそふれは いつつのとをに なりにけり いまゆくすゑは いなつまの ひかりのまにも さためなし たとへはひとり なからへて すきにしはかり すくすとも ゆめにゆめみる ここちして ひまゆくこまに ことならし さらにもいはし ふゆかれの をはなかすゑの つゆなれは あらしをたにも またすして もとのしつくと なりはてむ ほとをはいつと しりてかは くれにとたにも しつむへき かくのみつねに あらそひて なほふるさとに すみのえの しほにたたよふ うつせかひ うつしこころも うせはてて あるにもあらぬ よのなかに またなにことを みくまのの うらのはまゆふ かさねつつ うきにたへたる ためしには なるをのまつの つれつれと いたつらことを かきつめて あはれしれらむ ゆくすゑの ひとのためには おのつから しのはれぬへき みなれとも はかなきことも くもとりの あやにかなはぬ くせなれは これもさこそは みなしくり くちはかしたに うつもれめ それにつけても つのくにの いくたのもりの いくたひか あまのたくなは くりかへし こころにそはぬ みをうらむらむ
    源俊頼朝臣十八雑下
    1161よのなかはうき身にそへるかけなれやおもひすつれとはなれさりけり
    よのなかは うきみにそへる かけなれや おもひすつれと はなれさりけり
    源俊頼朝臣十八雑下
    1162しきしまや大和のうたのつたはりをきけははるかに久かたのあまつ神世にはしまりてみそもしあまりひともしはいつもの宮のや雲よりおこりけるとそしるすなるそれより後はもも草のことのはしけくちりちりに風につけつつきこゆれとちかきためしにほりかはのなかれをくみてささ浪のよりくる人にあつらへてつたなきことははまちとりあとをすゑまてととめしとおもひなからもつのくにのなにはのうらのなにとなくふねのさすかに此ことをしのひならひしなこりにてよの人ききははつかしのもりもやせんとおもへともこころにもあらすかきつらねつる
    しきしまや やまとのうたの つたはりを きけははるかに ひさかたの あまつかみよに はしまりて みそもしあまり ひともしは いつものみやの やくもより おこりけるとそ しるすなる それよりのちは ももくさの ことのはしけく ちりちりに かせにつけつつ きこゆれと ちかきためしに ほりかはの なかれをくみて ささなみの よりくるひとに あつらへて つたなきことは はまちとり あとをすゑまて ととめしと おもひなからも つのくにの なにはのうらの なにとなく ふねのさすかに このことを しのひならひし なこりにて よのひとききは はつかしの もりもやせむと おもへとも こころにもあらす かきつらねつる
    崇徳院御製十八雑下
    1163ときしらぬ谷のむもれ木くちはててむかしの春の恋しさになにのあやめもわかすのみかはらぬ月のかけみてもしくれにぬるる袖のうらにしほたれまさるあまころもあはれをかけてとふ人もなみにたたよふつり舟のこきはなれにし世なれとも君に心をかけしよりしけきうれへもわすれくさわすれかほにてすみのえの松のちとせのはるはるとこすゑはるかにさかゆへきときはのかけをたのむにもなくさのはまのなくさみてふるのやしろのそのかみに色ふかからてわすれにしもみちのしたはのこるやとおいその杜にたつぬれといまはあらしにたくひつつしもかれかれにおとろへてかきあつめたる水くきにあさき心のかくれなくなかれての名ををし鳥のうきためしにやならんとすらん
    ときしらぬ たにのうもれき くちはてて むかしのはるの こひしさに なにのあやめも わかすのみ かはらぬつきの かけみても しくれにぬるる そてのうらに しほたれまさる あまころも あはれをかけて とふひとも なみにたたよふ つりふねの こきはなれにし よなれとも きみにこころを かけしより しけきうれへも わすれくさ わすれかほにて すみのえの まつのちとせの はるはると こすゑはるかに さかゆへき ときはのかけを たのむにも なくさのはまの なくさみて ふるのやしろの そのかみに いろふかからて わすれにし もみちのしたは のこるやと おいそのもりに たつぬれと いまはあらしに たくひつつ しもかれかれに おとろへて かきあつめたる みつくきに あさきこころの かくれなく なかれてのなを をしとりの うきためしにや ならむとすらむ
    待賢門院堀河十八雑下
    1164あつまちのやへの霞をわけきてもきみにあはねはなほへたてたる心ちこそすれ
    あつまちの やへのかすみを わけきても きみにあはねは なほへたてたる ここちこそすれ
    源仲正十八雑下
    1165かきたえしままのつきはしふみみれはへたてたるかすみもはれてむかへるかこと
    かきたえし ままのつきはし ふみみれは へたてたる かすみもはれて むかへるかこと
    源俊頼朝臣十八雑下
    1166あつまちののしまかさきのはまかせに我かひもゆひしいもかかほのみおもかけにみゆ
    あつまちの のしまかさきの はまかせに わかひもゆひし いもかかほのみ おもかけにみゆ
    左京大夫顕輔十八雑下
    1167こまなめていさみにゆかんたつた川しら浪よするきしのあたりを
    こまなへて いさみにゆかむ たつたかは しらなみよする きしのあたりを
    源雅重朝臣十八雑下
    1168なにとなく物そかなしきあきかせのみにしむよはのたひのねさめは
    なにとなく ものそかなしき あきかせの みにしむよはの たひのねさめは
    仁上法師十八雑下
    1169夜のほとにかりそめ人やきたりけんよとのみこものけさみたれたる
    よのほとに かりそめひとや きたりけむ よとのみこもの けさみたれたる
    いつみしきふ十八雑下
    1170あとたえてとふへき人もおもほえすたれかはけさの雪をわけこん
    あとたえて とふへきひとも おもほえす たれかはけさの ゆきをわけこむ
    中納言定頼十八雑下
    1171さかきははもみちもせしを神かきのからくれなゐにみえわたるかな
    さかきはは もみちもせしを かみかきの からくれなゐに みえわたるかな
    大弐三位十八雑下
    1172いけもふりつつみくつれて水もなしむへかつまたに鳥のゐさらん
    いけもふり つつみくつれて みつもなし うへかつまたに とりもゐさらむ
    二条太皇大后宮肥後十八雑下
    1173わかこまをしはしとかるかやましろのこはたのさとにありとこたへよ
    わかこまを しはしとかるか やましろの こはたのさとに ありとこたへよ
    源俊頼朝臣十八雑下
    1174みくら山ま木のやたててすむたみはとしをつむともくちしとそ思ふ
    みくらやま まきのやたてて すむたみは としをつむとも くちしとそおもふ
    源俊頼朝臣十八雑下
    1175よとともに心をかけてたのめともわれからかみのかたきしるしか
    よとともに こころをかけて たのめとも われからかみの かたきしるしか
    源俊頼朝臣十八雑下
    1176秋ののにたれをさそはむ行きかへりひとりははきをみるかひもなし
    あきののに たれをさそはむ ゆきかへり ひとりははきを みるかひもなし
    刑部卿頼輔母十八雑下
    1177あきは霧きりすきぬれは雪ふりてはるるまもなきみ山へのさと
    あきはきり きりすきぬれは ゆきふりて はるるまもなき みやまへのさと
    待賢門院堀川十八雑下
    1178いなり山しるしのすきの年ふりてみつのみやしろ神さひにけり
    いなりやま しるしのすきの としふりて みつのみやしろ かみさひにけり
    僧都有慶十八雑下
    1179名にしおははつねはゆるきのもりにしもいかてかさきのいはやすくぬる
    なにしおはは つねはゆるきの もりにしも いかてかさきの いはやすくぬる
    登蓮法師十八雑下
    1180あやしくも花のあたりにふせるかなをらはとかむる人やあるとて
    あやしくも はなのあたりに ふせるかな をらはとかめむ ひとやあるとて
    道命法師十八雑下
    1181うの花よいてことことしかけしまの浪もさこそはいはをこえしか
    うのはなよ いてことことし かけしまの なみもさこそは いはをこえしか
    源俊頼朝臣十八雑下
    1182けふかくるたもとにねさせあやめ草うきはわか身にありとしらすや
    けふかくる たもとにねさせ あやめくさ うきはわかみに ありとしらすや
    道因法師十八雑下
    1183ともししてはこねの山にあけにけりふたよりみよりあふとせしまに
    ともしして はこねのやまに あけにけり ふたよりみより あふとせしまに
    橘俊綱朝臣十八雑下
    1184夏のうちははたかくれてもあらすしておりたちにけるむしのこゑかな
    なつのうちは はたかくれても あらすして おりたちにける むしのこゑかな
    江侍従十八雑下
    1185あきくれは秋のけしきもみえけるは時ならぬ身となににいふらん
    あきくれは あきのけしきも みえけるは ときならぬみと なににいふらむ
    輔仁のみこ十八雑下
    1186あさ露を日たけてみれはあともなしはきのうらはに物やとはまし
    あさつゆを ひたけてみれは あともなし はきのうらはに ものやとはまし
    藤原為頼朝臣十八雑下
    1187つはなおひしをののしはふのあさ露をぬきちらしける玉かとそみる
    つはなおひし をののしはふの あさつゆを ぬきちらしける たまかとそみる
    花薗左大臣家小大進十八雑下
    1188おちにきとかたらはかたれをみなへしこよひは花のかけにやとらん
    おちにきと かたらはかたれ をみなへし こよひははなの かけにやとらむ
    僧都範玄十八雑下
    1189くれの秋ことにさやけき月かけはとよにあまりてみよとなりけり
    くれのあき ことにさやけき つきかけは とよにあまりて みよとなりけり
    賀茂政平十八雑下
    1190いたひさしさすやかややの時雨こそおとしおとせぬかたはわくなれ
    いたひさし さすやかややの しくれこそ おとしおとせぬ かたはわくなれ
    顕昭法師十八雑下
    1191ふえ竹のあなあさましのよの中やありしやふしのかきりなるらん
    ふえたけの あなあさましの よのなかや ありしやふしの かきりなるらむ
    藤原基俊十八雑下
    1192したひくる恋のやつこのたひにても身のくせなれやゆふととろきは
    したひくる こひのやつこの たひにても みのくせなれや ゆふととろきは
    源俊頼朝臣十八雑下
    1193あふことのなけきのつもるくるしさをおへかし人のこりはつるまて
    あふことの なけきのつもる くるしさを おへかしひとの こりはつるまて
    待賢門院堀河十八雑下
    1194人のあしをつむにてしりぬわかかたへふみおこせよとおもふなるへし
    ひとのあしを つむにてしりぬ わかかたへ ふみおこせよと おもふなるへし
    良喜法師十八雑下
    1195おそろしやきそのかけちのまろ木はしふみみるたひにおちぬへきかな
    おそろしや きそのかけちの まろきはし ふみみるたひに おちぬへきかな
    空人法師十八雑下
    1196ふえ竹のこちくとなににおもひけんとなりにおとはせしにそ有りける
    ふえたけの こちくとなにに おもひけむ となりにおとは せしにそありける
    心覚法師十八雑下
    1197やつはしのわたりにけふもとまるかなここにすむへきみかはとおもへと
    やつはしの わたりにけふも とまるかな ここにすむへき みかはとおもへと
    道因法師十八雑下
    1198つらしとてさてはよもわれ山からすかしらはしろくなる世なりとも
    つらしとて さてはよもわれ やまからす かしらはしろく なるよなりとも
    安性法師(俗名時元)十八雑下
    1199かみにおけるもしはまことのもしなれはうたもよみちをたすけさらめや
    かみにおける もしはまことの もしなれは うたもよみちを たすけさらめや
    源俊頼朝臣十八雑下
    1200けふも又むまのかひこそふきつなれひつしのあゆみちかつきぬらん
    けふもまた うまのかひこそ ふきつなれ ひつしのあゆみ ちかつきぬらむ
    赤染衛門十八雑下
    1201こくらくははるけきほととききしかとつとめていたるところなりけり
    こくらくは はるけきほとと ききしかと つとめていたる ところなりけり
    空也上人十八雑下
    1202ここにきえかしこにむすふ水のあわのうきよにめくる身にこそ有りけれ
    ここにきえ かしこにむすふ みつのあわの うきよにめくる みにこそありけれ
    前大納言公任十九釈教
    1203さためなき身はうき雲によそへつつはてはそれにそなりはてぬへき
    さためなき みはうきくもに よそへつつ はてはそれにそ なりはてぬへき
    前大納言公任十九釈教
    1204世の中はみなほとけなりおしなへていつれのものとわくそはかなき
    よのなかは みなほとけなり おしなへて いつれのものと わくそはかなき
    花山院御製十九釈教
    1205おほそらの雨はわきてもそそかねとうるふ草木はおのかしなしな
    おほそらの あめはわきても そそかねと うるふくさきは おのかしなしな
    僧都源信十九釈教
    1206もとめてもかかるはちすの露をおきてうきよに又はかへるものかは
    もとめても かかるはちすの つゆをおきて うきよにまたは かへるものかは
    清少納言十九釈教
    1207月かけのつねにすむなる山のはをへたつる雲のなからましかは
    つきかけの つねにすむなる やまのはを へたつるくもの なからましかは
    藤原国房十九釈教
    1208いる月をみるとや人はおもふらん心をかけてにしにむかへは
    いるつきを みるとやひとは おもふらむ こころをかけて にしにむかへは
    堀川入道左大臣十九釈教
    1209たききつき煙もすみてさりにけんこれやなこりとみるそかなしき
    たききつき けふりもすみて さりにけむ これやなこりと みるそかなしき
    瞻西上人十九釈教
    1210夢さめんその暁をまつほとのやみをもてらせのりのともし火
    ゆめさめむ そのあかつきを まつほとの やみをもてらせ のりのともしひ
    藤原敦家朝臣十九釈教
    1211よをてらすほとけのしるしありけれはまたともし火もきえぬなりけり
    よをてらす ほとけのしるし ありけれは またともしひも きえぬなりけり
    前大僧正覚忠十九釈教
    1212みるままに涙そおつるかきりなき命にかはるすかたとおもへは
    みるままに なみたそおつる かきりなき いのちにかはる すかたとおもへは
    前大僧正覚忠十九釈教
    1213ちとせまてむすひし水も露はかりわか身のためとおもひやはせし
    ちとせまて むすひしみつも つゆはかり わかみのためと おもひやはせし
    僧都覚雅十九釈教
    1214うれしくそ名をたもつたにあたならぬみのりの花にみをむすひける
    うれしくそ なをたもつたに あたならぬ みのりのはなに みをむすひける
    前大僧正快修十九釈教
    1215わひ人の心のうちをよそなからしるやさとりのひかりなるらん
    わひひとの こころのうちを よそなから しるやさとりの ひかりなるらむ
    源俊頼朝臣十九釈教
    1216ちかひをはちひろのうみにたとふなり露もたのまはかすにいりなん
    ちかひをは ちひろのうみに たとふなり つゆもたのまは かすにいりなむ
    崇徳院御製十九釈教
    1217はかなくそみよのほとけとおもひけるわかみひとつにありとしらすて
    はかなくそ みよのほとけと おもひける わかみひとつに ありとしらすて
    前参議教長十九釈教
    1218てる月の心の水にすみぬれはやかてこの身にひかりをそさす
    てるつきの こころのみつに すみぬれは やかてこのみに ひかりをそさす
    前参議教長十九釈教
    1219かへりてもいりそわつらふまきのとをまとひいてにし心ならひに
    かへりても いりそわつらふ まきのとを まとひいてにし こころならひに
    前大僧正覚忠十九釈教
    1220ふる雪はたにのとほそをうつむともみよのほとけのひやてらすらん
    ふるゆきは たにのとほそを うつむとも みよのほとけの ひやてらすらむ
    崇徳院御製十九釈教
    1221てらすなるみよのほとけのあさひにはふる雪よりもつみやきゆらん
    てらすなる みよのほとけの あさひには ふるゆきよりも つみやきゆらむ
    仁和寺後入道法親王(覚性)十九釈教
    1222ふるさとをひとりわかるるゆふへにもおくるは月のかけとこそきけ
    ふるさとを ひとりわかるる ゆふへにも おくるはつきの かけとこそきけ
    式子内親王十九釈教
    1223人ことにかはるはゆめのまとひにてさむれはおなしこころなりけり
    ひとことに かはるはゆめの まとひにて さむれはおなし こころなりけり
    摂政前右大臣十九釈教
    1224すめはみゆにこれはかくるさためなきこのみや水にやとる月かけ
    すめはみゆ にこれはかくる さためなき このみやみつに やとるつきかけ
    宮内卿永範十九釈教
    1225いととしくむかしのあとやたえなんとおもふもかなしけさのしら雪
    いととしく むかしのあとや たえなむと おみふもかなし けさのしらゆき
    法印慈円十九釈教
    1226君か名そなほあらはれんふる雪にむかしのあとはうつもれぬとも
    きみかなそ なほあらはれむ ふるゆきに むかしのあとは うつもれぬとも
    尊円法師十九釈教
    1227ひとりのみくるしきうみをわたるとやそこをさとらぬ人はみるらん
    ひとりのみ くるしきうみを わたるとや そこをさとらぬ ひとはみるらむ
    左近中将良経十九釈教
    1228くれ竹のむなしととけることのははみよの仏のははとこそきけ
    くれたけの むなしととける ことのはは みよのほとけの ははとこそきけ
    藤原隆信朝臣十九釈教
    1229むなしきも色なるものとさとれとやはるのみそらのみとりなるらん
    むなしきも いろなるものと さとれとや はるのみそらの みとりなるらむ
    摂政家丹後十九釈教
    1230なかき夜もむなしき物としりぬれははやくあけぬる心ちこそすれ
    なかきよも むなしきものと しりぬれは はやくあけぬる ここちこそすれ
    前中納言師仲十九釈教
    1231わしの山月をいりぬとみる人はくらきにまよふ心なりけり
    わしのやま つきをいりぬと みるひとは くらきにまよふ こころなりけり
    西行法師十九釈教
    1232いさきよきいけにかけこそうかひぬれしつみやせんとおもふわかみを
    いさきよき いけにかけこそ うかひぬれ しつみやせむと おもふわかみを
    神祇伯顕仲十九釈教
    1233くちはつる袖にはいかかつつまましむなしととけるみのりならすは
    くちはつる そてにはいかか つつままし むなしととける みのりならすは
    寂超法師十九釈教
    1234みるほとはゆめも夢ともしられねはうつつもいまはうつつとおもはし
    みるほとは ゆめもゆめとも しられねは うつつもいまは うつつとおもはし
    藤原資隆朝臣十九釈教
    1235おとろかぬわか心こそうかりけれはかなき世をは夢とみなから
    おとろかぬ わかこころこそ うかりけれ はかなきよをは ゆめとみなから
    登蓮法師十九釈教
    1236暁をたかのの山にまつほとやこけのしたにもあり明の月
    あかつきを たかののやまに まつほとや こけのしたにも ありあけのつき
    寂蓮法師十九釈教
    1237おもひとくこころひとつになりぬれはこほりも水もへたてさりけり
    おもひとく こころひとつに なりぬれは こほりもみつも へたてさりけり
    式子内親王家中将十九釈教
    1238たのもしきちかひは春にあらねともかれにしえたも花そさきける
    たのもしき ちかひははるに あらねとも かれにしえたも はなそさきける
    前大納言時忠十九釈教
    1239春ことになけきしものをのりのにはちるかうれしき花もありけり
    はることに なけきしものを のりのには ちるかうれしき はなもありけり
    藤原伊綱十九釈教
    1240みくさのみしけきにこりとみしかともさても月すむえにこそ有りけれ
    みくさのみ しけきにこりと みしかとも さてもつきすむ えにこそありけれ
    左京大夫季能十九釈教
    1241むさしののほりかねの井もあるものをうれしく水のちかつきにける
    むさしのの ほりかねのゐも あるものを うれしくみつの ちかつきにける
    皇太后宮大夫俊成十九釈教
    1242たに水をむすへはうつるかけのみやちとせをおくる友となりけん
    たにみつを むすへはうつる かけのみや ちとせをおくる ともとなりけむ
    顕昭法師十九釈教
    1243くちはててあやふくみえしをはたたのいたたのはしもいまわたすなり
    くちはてて あやふくみえし をはたたの いたたのはしも いまわたすなり
    法橋泰覚十九釈教
    1244うらみけるけしきやそらにみえつらんをはすて山をてらす月かけ
    うらみける けしきやそらに みえつらむ をはすてやまを てらすつきかけ
    藤原敦仲十九釈教
    1245日のひかり月のかけとそてらしけるくらき心のやみはれよとて
    ひのひかり つきのかけとそ てらしける くらきこころの やみはれよとて
    蓮上法師(俗名成実)十九釈教
    1246さらにまた花そふりしくわしの山のりのむしろのくれかたのそら
    さらにまた はなそふりしく わしのやま のりのむしろの くれかたのそら
    皇太后宮大夫俊成十九釈教
    1247まちいてていかにうれしくおもほえんはつかあまりの山のはの月
    まちいてて いかにうれしく おもほえむ はつかあまりの やまのはのつき
    中原有安十九釈教
    1248あさまたきみのりのにはにふる雪はそらより花のちるかとそみる
    あさまたき みのりのにはに ふるゆきは そらよりはなの ちるかとそみる
    中原清重十九釈教
    1249もち月の雲かくれけんいにしへのあはれをけふのそらにしるかな
    もちつきの くもかくれけむ いにしへの あはれをけふの そらにしるかな
    恵章法師十九釈教
    1250きよくすむ心のそこをかかみにてやかてそうつる色もすかたも
    きよくすむ こころのそこを かかみにて やかてそうつる いろもすかたも
    俊秀法師十九釈教
    1251けふりたにしはしたなひけ鳥へ山たちわかれにしかたみともみん
    けふりたに しはしたなひけ とりへやま たちわかれにし かたみともみむ
    寂然法師十九釈教
    1252とりのねも浪のおとにそかよふなるおなし御のりをとけはなりけり
    とりのねも なみのおとにそ かよふなる おなしみのりを きけはなりけり
    平康頼十九釈教
    1253よをすくふあとはむかしにかはらねとはしめたてけん時をしそ思ふ
    よをすくふ あとはむかしに かはらねと はしめたてけむ ときをしそおもふ
    藤原定長朝臣十九釈教
    1254つねならぬためしは夜はのけふりにてきえぬなこりをみるそうれしき
    つねならぬ ためしはよはの けふりにて きえぬなこりを みるそうれしき
    天台座主明雲十九釈教
    1255みな人をわたさむとおもふ心こそ極楽へゆくしるへなりけれ
    みなひとを わたさむとおもふ こころこそ こくらくへゆく しるへなりけれ
    律師永観十九釈教
    1256みかさ山さしてきにけりいそのかみふるきみゆきのあとをたつねて
    みかさやま さしてきにけり いそのかみ ふるきみゆきの あとをたつねて
    上東門院二十神祇
    1257すみよしのなみも心をよせけれはむへそみきはにたちまさりける
    すみよしの なみもこころを よせけれは うへそみきはに たちまさりける
    大納言経輔二十神祇
    1258おもふことくみてかなふる神なれはしほやにあとをたるるなりけり
    おもふこと くみてかなふる かみなれは しほやにあとを たるるなりけり
    後三条内大臣二十神祇
    1259みちのへのちりに光をやはらけて神もほとけのなのるなりけり
    みちのへの ちりにひかりを やはらけて かみもほとけの なのるなりけり
    崇徳院御製二十神祇
    1260あめのしたのとけかれとやさかきはをみかさの山にさしはしめけん
    あめのした のとけかれとや さかきはを みかさのやまに さしはしめけむ
    藤原清輔朝臣二十神祇
    1261神世よりつもりのうらにみやゐしてへぬらんとしのかきりしらすも
    かみよより つもりのうらに みやゐして へぬらむとしの かきりしらすも
    大納言隆季二十神祇
    1262かそふれはやとせへにけりあはれわかしつみしことはきのふと思ふに
    かそふれは やとせへにけり あはれわか しつみしことは きのふとおもふに
    右おほいまうちきみ二十神祇
    1263いたつらにふりぬる身をもすみよしの松はさりともあはれしるらん
    いたつらに ふりぬるみをも すみよしの まつはさりとも あはれしるらむ
    皇太后宮大夫俊成二十神祇
    1264ふりにける松ものいははとひてましむかしもかくやすみのえの月
    ふりにける まつものいはは とひてまし むかしもかくや すみのえのつき
    右大臣二十神祇
    1265すみよしのまつのゆきあひのひまよりも月さえぬれは霜はおきけり
    すみよしの まつのゆきあひの ひまよりも つきさえぬれは しもはおきけり
    俊恵法師二十神祇
    1266おしなへて雪のしらゆふかけてけりいつれさか木のこすゑなるらん
    おしなへて ゆきのしらゆふ かけてけり いつれさかきの こすゑなるらむ
    権大納言実国二十神祇
    1267めつらしくみゆきをみわの神ならはしるしありまのいてゆなるへし
    めつらしく みゆきをみわの かみならは しるしありまの いてゆなるへし
    按察使資賢二十神祇
    1268うれしくも神のちかひをしるへにて心をおこす門にいりぬる
    うれしくも かみのちかひを しるへにて こころをおこす かとにいりぬる
    権中納言経房二十神祇
    1269すきかえをかすみこむれとみわの山神のしるしはかくれさりけり
    すきかえを かすみこむれと みわのやま かみのしるしは かくれさりけり
    僧都範玄二十神祇
    1270いままてになとしつむらんきふねかはかはかりはやき神をたのむを
    いままてに なとしつむらむ きふねかは かはかりはやき かみをたのむを
    平実重二十神祇
    1271さりともとたのみそかくるゆふたすきわかかたをかの神と思へは
    さりともと たのみそかくる ゆふたすき わかかたをかの かみとおもへは
    賀茂政平二十神祇
    1272さりともとたのむ心は神さひてひさしくなりぬかものみつかき
    さりともと たのむこころは かみさひて ひさしくなりぬ かものみつかき
    式子内親王二十神祇
    1273君をいのるねかひをそらにみてたまへわけいかつちの神ならはかみ
    きみをいのる ねかひをそらに みてたまへ わけいかつちの かみならはかみ
    賀茂重保二十神祇
    1274きふね川たまちるせせのいは浪に氷をくたく秋のよの月
    きふねかは たまちるせせの いはなみに こほりをくたく あきのよのつき
    皇太后宮大夫俊成二十神祇
    1275わかたのむ日よしのかけはおく山のしはの戸まてもさささらめやは
    わかたのむ ひよしのかけは おくやまの しはのとまても さささらめやは
    法印慈円二十神祇
    1276いつとなくわしのたかねにすむ月のひかりをやとすしかのからさき
    いつとなく わしのたかねに すむつきの ひかりをやとす しかのからさき
    法橋性憲二十神祇
    1277みゆきするたかねのかたに雲はれてそらにひよしのしるしをそみる
    みゆきする たかねのかたに くもはれて そらにひよしの しるしをそみる
    中原師尚二十神祇
    1278ふかくいりて神ちのおくをたつぬれは又うへもなきみねの松かせ
    ふかくいりて かみちのおくを たつぬれは またうへもなき みねのまつかせ
    西行法師二十神祇
    1279月よみの神してらさはあた雲のかかるうきよもはれさらめやは
    つきよみの かみしてらさは あたくもの かかるうきよも はれさらめやは
    大中臣為定二十神祇
    1280いはし水きよきなかれのたえせねはやとる月さへくまなかりけり
    いはしみつ きよきなかれの たえせねは やとるつきさへ くまなかりけり
    能蓮法師二十神祇
    1281ときはなる神なひ山のさかきはをさしてそいのるよろつよのため
    ときはなる かみなひやまの さかきはを さしてそいのる よろつよのため
    藤原義忠朝臣二十神祇
    1282うこきなく千代をそいのるいはや山とるさか木はの色かへすして
    うこきなく ちよをそいのる いはややま とるさかきはの いろかへすして
    藤原経衡二十神祇
    1283いにしへの神の御代よりもろかみのいのるいはひはきみかよのため
    いにしへの かみのみよより もろかみの いのるいはひは きみかよのため
    前中納言匡房二十神祇
    1284神うくるとよのあかりにゆふそののひかけかつらそはへまさりける
    かみうくる とよのあかりに ゆふそのの ひかけかつらそ はへまさりける
    宮内卿永範二十神祇
    1285すへらきをやほよろつよの神もみなときはにまもる山の名そこれ
    すめらきを やほよろつよの かみもみな ときはにまもる やまのなそこれ
    宮内卿永範二十神祇
    1286みしめゆふかたにとりかけ神なひの山のさかきをかさしにそする
    みしまゆふ かたにとりかけ かみなひの やまのさかきを かさしにそする
    権中納言兼光二十神祇
    1287もろ神の心にいまそかなふらし君をやちよといのるよことは
    もろかみの こころにいまそ かなふらし きみをやちよと いのるよことは
    藤原季経朝臣二十神祇
    1288千とせ山神のよませるさかきはのさかえまさるはきみかためとか
    ちとせやま かみのよませる さかきはの さかえまさるは きみかためとか
    藤原光範朝臣二十神祇
    1289暁になりやしぬらん月影のきよきかはらにちとりなくなり
    あかつきに なりやしぬらむ つきかけの きよきかはらに ちとりなくなり
    右大臣異本歌
    1290君すめはここも雲ゐの月なれとなほ恋しきは宮こなりけり
    きみすめは ここもくもゐの つきなれと なほこひしきは みやこなりけり
    左馬頭行盛異本歌

    ※読人(作者)についてはできる限り正確に整えておりますが、誤りもある可能性があります。ご了承ください。

    ※御製歌は〇〇院としています。〇〇天皇の歌となります。

    円位法師は西行法師に統一しています。

    ※作者検索をしたいときは、藤原、源といったいわゆる氏を除いた名のみで検索することをおすすめいたします。

    ※濁点につきましては原文通り加えておりません。時間的余裕があれば書き加えてまいります。