後撰和歌集の一覧検索データベース 作者や単語の検索と並び替え

スポンサーリンク

八代古今後撰拾遺後拾遺金葉詞花千載新古今百人一首六歌仙三十六歌仙枕詞動詞光る君へ

後撰和歌集(冷泉家時雨亭文庫蔵)
スポンサーリンク

後撰和歌集のデータベース

後撰和歌集とは

  • 二番目の勅撰和歌集であり、村上天皇によって撰集が下命され、撰者は源順みなもとのしたごろう大中臣能宣おおなかとみのよしのぶ清原元輔きよはらのもとすけ坂上望城さかのうえのもちき紀時文きのときぶみ(梨壺の五人と呼ばれた)
  • 紀時文は紀貫之の子である。
  • 958年に完成。

後撰和歌集の構成

春上 春中 春下 秋上 秋中 秋下 恋一 恋二
46 34 66 70 54 80 92 64 94 99
% 3.2 2.3 4.6 4.9 3.7 5.6 6.4 4.4 6.5 6.9
恋三 恋四 恋五

恋六

雑一 雑二 雑三

雑四

離別

羈旅

慶賀

哀傷

95 96 103 81 50 70 55 54 64 58
% 6.6 6.7 7.2 5.6 3.5 4.9 3.8 3.7 4.4 4
  • 巻二十から成り、全1425首

後撰和歌集 言の葉データベース

「かな」は原文と同様に濁点を付けておりませんので、例えば「郭公(ほととぎす)」を検索したいときは、「ほとときす」と入力してください。

歌番号よみ人
1ふる雪のみのしろ衣うちきつつ春きにけりとおとろかれぬる
ふるゆきの みのしろころも うちきつつ はるきにけりと おとろかれぬる
藤原敏行朝臣春上
2春立つとききつるからにかすか山消えあへぬ雪の花とみゆらむ
はるたつと ききつるからに かすかやま きえあへぬゆきの はなとみゆらむ
凡河内躬恒春上
3けふよりは荻のやけ原かきわけて若菜つみにと誰をさそはん
けふよりは をきのやけはら かきわけて わかなつみにと たれをさそはむ
兼盛王春上
4白雲のうへしるけふそ春雨のふるにかひある身とはしりぬる
しらくもの うへしるけふそ はるさめの ふるにかひある みとはしりぬる
読人知らず春上
5松もひきわかなもつます成りぬるをいつしか桜はやもさかなむ
まつもひき わかなもつます なりぬるを いつしかさくら はやもさかなむ
左太臣(実頼)春上
6松にくる人しなけれは春の野のわかなも何もかひなかりけり
まつにくる ひとしなけれは はるののの わかなもなにも かひなかりけり
朱雀院春上
7君のみや野辺に小松を引きにゆく我もかたみにつまんわかなを
きみのみや のへにこまつを ひきにゆく われもかたみに つまむわかなを
読人知らず春上
8霞立つかすかののへのわかなにもなり見てしかな人もつむやと
かすみたつ かすかののへの わかなにも なりみてしかな ひともつむやと
読人知らず春上
9春ののに心をたにもやらぬ身はわかなはつまて年をこそつめ
はるののに こころをたにも やらぬみは わかなはつまて としをこそつめ
躬恒春上
10ふるさとののへ見にゆくといふめるをいさもろともにわかなつみてん
ふるさとの のへみにゆくと いふめるを いさもろともに わかなつみてむ
行明規王春上
11水のおもにあや吹きみたる春風や池の氷をけふはとくらむ
みつのおもに あやふきみたる はるかせや いけのこほりを けふはとくらむ
紀友則春上
12吹く風や春たちきぬとつけつらん枝にこもれる花さきにけり
ふくかせや はるたちきぬと つけつらむ えたにこもれる はなさきにけり
読人知らず春上
13かすかのにおふるわかなを見てしより心をつねに思ひやるかな
かすかのに おふるわかなを みてしより こころをつねに おもひやるかな
躬恒春上
14もえいつるこのめを見てもねをそなくかれにし枝の春をしらねは
もえいつる このめをみても ねをそなく かれにしえたの はるをしらねは
兼覧王女春上
15いつのまに霞立つらんかすかのの雪たにとけぬ冬とみしまに
いつのまに かすみたつらむ かすかのの ゆきたにとけぬ ふゆとみしまに
読人知らず春上
16なほさりに折りつるものを梅花こきかに我や衣そめてむ
なほさりに をりつるものを うめのはな こきかにわれや ころもそめてむ
閑院左大臣春上
17やとちかくうつしてうゑしかひもなくまちとほにのみにほふ花かな
やとちかく うつしてうゑし かひもなく まちとほにのみ にほふはなかな
藤原兼輔朝臣春上
18春霞たなひきにけり久方の月の桂も花やさくらむ
はるかすみ たなひきにけり ひさかたの つきのかつらも はなやさくらむ
紀貫之春上
19いつことも春のひかりはわかなくにまたみよしのの山は雪ふる
いつことも はなのひかりは わかなくに またみよしのの やまはゆきふる
躬恒春上
20白玉をつつむ袖のみなかるるは春は涙もさえぬなりけり
しらたまを つつむそてのみ なかるるは はるはなみたも さえぬなりけり
伊勢春上
21春立ちてわか身ふりぬるなかめには人の心の花もちりけり
はるたちて わかみふりぬる なかめには ひとのこころの はなもちりけり
読人知らず春上
22わかせこに見せむと思ひし梅花それとも見えす雪のふれれは
わかせこに みせむとおもひし うめのはな それともみえす ゆきのふれれは
読人知らず春上
23きて見へき人もあらしなわかやとの梅のはつ花をりつくしてむ
きてみへき ひともあらしな わかやとの うめのはつはな をりつくしてむ
読人知らず春上
24ことならは折りつくしてむ梅花わかまつ人のきても見なくに
ことならは をりつくしてむ うめのはな わかまつひとの きてもみなくに
読人知らず春上
25吹く風にちらすもあらなんむめの花わか狩衣ひとよやとさむ
ふくかせに ちらすもあらなむ うめのはな わかかりころも ひとよやとさむ
読人知らず春上
26わかやとの梅のはつ花ひるは雪よるは月とも見えまかふかな
わかやとの うめのはつはな ひるはゆき よるはつきとも みえまかふかな
読人知らず春上
27梅花よそなから見むわきもこかとかむはかりのかにもこそしめ
うめのはな よそなからみむ わきもこか とかむはかりの かにもこそしめ
読人知らず春上
28むめの花をれはこほれぬわか袖ににほひかうつせ家つとにせん
うめのはな をれはこほれぬ わかそてに にほひかうつせ いへつとにせむ
素性法師春上
29心もてをるかはあやな梅花かをとめてたにとふ人のなき
こころもて をるかはあやな うめのはな かをとめてたに とふひとのなき
読人知らず春上
30人心うさこそまされはるたてはとまらすきゆるゆきかくれなん
ひとこころ うさこそまされ はるたては とまらすきゆる ゆきかくれなむ
読人知らず春上
31梅花かをふきかくる春風に心をそめは人やとかめむ
うめのはな かをふきかくる はるかせに こころをそめは ひとやとかめむ
読人知らず春上
32春雨のふらはの山にましりなん梅の花かさありといふなり
はるさめの ふらはのやまに ましりなむ うめのはなかさ ありといふなり
読人知らず春上
33かきくらし雪はふりつつしかすかにわか家のそのに鴬そなく
かきくらし ゆきはふりつつ しかすかに わかいへのそのに うくひすそなく
読人知らず春上
34谷さむみいまたすたたぬ鴬のなくこゑわかみ人のすさめぬ
たにさむみ いまたすたたぬ うくひすの なくこゑわかみ ひとのすさへぬ
読人知らず春上
35鴬のなきつるこゑにさそはれて花のもとにそ我はきにける
うくひすの なきつるこゑに さそはれて はなのもとにそ われはきにける
読人知らず春上
36花たにもまたさかなくに鴬のなくひとこゑを春とおもはむ
はなたにも またさかなくに うくひすの なくひとこゑを はるとおもはむ
読人知らず春上
37君かため山田のさはにゑくつむとぬれにし袖は今もかわかす
きみかため やまたのさはに ゑくつむと ぬれにしそては いまもかわかす
読人知らず春上
38梅花今はさかりになりぬらんたのめし人のおとつれもせぬ
うめのはな いまはさかりに なりぬらむ たのめしひとの おとつれもせぬ
朱雀院の兵部卿のみこ春上
39春雨にいかにそ梅やにほふらんわか見る枝は色もかはらす
はるさめに いかにそうめや にほふらむ わかみるえたは いろもかはらす
紀長谷雄朝臣春上
40梅花ちるてふなへに春雨のふりてつつなくうくひすのこゑ
うめのはな ちるてふなへに はるさめの ふりてつつなく うくひすのこゑ
読人知らず春上
41いもか家のはひいりにたてるあをやきに今やなくらん鴬の声
いもかいへの はひいりにたてる あをやきに いまやなくらむ うくひすのこゑ
躬恒春上
42ふか緑ときはの松の影にゐてうつろふ花をよそにこそ見れ
ふかみとり ときはのまつの かけにゐて うつろふはなを よそにこそみれ
坂上是則春上
43花の色はちらぬまはかりふるさとにつねには松のみとりなりけり
はなのいろは ちらぬまはかり ふるさとに つねにはまつの みとりなりけり
藤原雅正春上
44紅に色をはかへて梅花かそことことににほはさりける
くれなゐに いろをはかへて うめのはな かそことことに にほはさりける
躬恒春上
45ふる雪はかつもけななむ梅花ちるにまとはす折りてかささん
ふるゆきは かつもけななむ うめのはな ちるにまとはす をりてかささむ
紀貫之春上
46春ことにさきまさるへき花なれはことしをもまたあかすとそ見る
はることに さきまさるへき はななれは ことしをもまた あかすとそみる
紀貫之春上
47うゑし時花見むとしもおもはぬにさきちる見れはよはひ老いにけり
うゑしとき はなみむとしも おもはぬに さきちるみれは よはひおいにけり
藤原扶幹朝臣春中
48竹ちかくよとこねはせし鴬のなく声きけはあさいせられす
たけちかく よとこねはせし うくひすの なくこゑきけは あさいせられす
藤原伊衡朝臣春中
49いその神ふるの山への桜花うゑけむ時をしる人そなき
いそのかみ ふるのやまへの さくらはな うゑけむときを しるひとそなき
僧正遍昭春中
50山守はいははいはなん高砂のをのへの桜折りてかささむ
やまもりは いははいはなむ たかさこの をのへのさくら をりてかささむ
素性法師春中
51さくらはな色はひとしき枝なれとかたみに見れはなくさまなくに
さくらはな いろはひとしき えたなれと かたみにみれは なくさまなくに
読人知らず春中
52見ぬ人のかたみかてらはをらさりき身になすらへる花にしあらねは
みぬひとの かたみかてらは をらさりき みになすらへる はなにしあらねは
伊勢春中
53吹く風をならしの山の桜花のとけくそ見るちらしとおもへは
ふくかせを ならしのやまの さくらはな のとけくそみる ちらしとおもへは
読人知らず春中
54桜花けふよく見てむくれ竹のひとよのほとにちりもこそすれ
さくらはな けふよくみてむ くれたけの ひとよのほとに ちりもこそすれ
坂上是則春中
55さくらはなにほふともなく春くれはなとか歎のしけりのみする
さくらはな にほふともなく はるくれは なとかなけきの しけりのみする
読人知らず春中
56けふ桜しつくにわか身いさぬれむかこめにさそふ風のこぬまに
けふさくら しつくにわかみ いさぬれむ かこめにさそふ かせのこぬまに
河原左大臣(融)春中
57さくら花ぬしをわすれぬ物ならはふきこむ風に事つてはせよ
さくらはな ぬしをわすれぬ ものならは ふきこむかせに ことつてはせよ
菅原右大臣春中
58あをやきのいとよりはへておるはたをいつれの山の鴬かきる
あをやきの いとよりはへて おるはたを いつれのやまの うくひすかきる
伊勢春中
59あひおもはてうつろふ色を見るものを花にしられぬなかめするかな
あひおもはて うつろふいろを みるものを はなにしられぬ なかめするかな
凡河内躬恒春中
60帰る雁雲ちにまとふ声すなり霞ふきとけこのめはる風
かへるかり くもちにまとふ こゑすなり かすみふきとけ このめはるかせ
読人知らず春中
61さきさかす我になつけそさくら花人つてにやはきかんと思ひし
さきさかす われになつけそ さくらはな ひとつてにやは きかむとおもひし
大将御息所春中
62春くれはこかくれおほきゆふつくよおほつかなしも花かけにして
はるくれは こかくれおほき ゆふつくよ おほつかなしも はなかけにして
読人知らず春中
63立渡る霞のみかは山高み見ゆる桜の色もひとつを
たちわたる かすみのみかは やまたかみ みゆるさくらの いろもひとつを
読人知らず春中
64おほそらにおほふはかりの袖もかな春さく花を風にまかせし
おほそらに おほふはかりの そてもかな はるさくはなを かせにまかせし
読人知らず春中
65なけきさへ春をしるこそわひしけれもゆとは人に見えぬものから
なけきさへ はるをしるこそ わひしけれ もゆとはひとに みえぬものから
読人知らず春中
66もえ渡る歎は春のさかなれはおほかたにこそあはれとも見れ
もえわたる なけきははるの さかなれは おほかたにこそ あはれともみれ
読人知らず春中
67あをやきのいとつれなくもなりゆくかいかなるすちに思ひよらまし
あをやきの いとつれなくも なりゆくか いかなるすちに おもひよらまし
藤原師尹朝臣春中
68山さとにちりなましかは桜花にほふさかりもしられさらまし
やまさとに ちりなましかは さくらはな にほふさかりも しられさらまし
藤原師尹朝臣春中
69匂こき花のかもてそしられけるうゑて見るらんひとの心は
にほひこき はなのかもてそ しられける うゑてみるらむ ひとのこころは
衛門のみやすん所春中
70時しもあれ花のさかりにつらけれはおもはぬ山にいりやしなまし
ときしもあれ はなのさかりに つらけれは おもはぬやまに いりやしなまし
藤原朝忠朝臣春中
71わかためにおもはぬ山のおとにのみ花さかりゆく春をうらみむ
わかために おもはぬやまの おとにのみ はなさかりゆく はるをうらみむ
小弐春中
72春の池の玉もに遊ふにほとりのあしのいとなきこひもするかな
はるのいけの たまもにあそふ にほとりの あしのいとなき こひもするかな
宮道高風春中
73山風の花のかかとふふもとには春の霞そほたしなりける
やまかせの はなのかかとふ ふもとには はるのかすみそ ほたしなりける
藤原興風春中
74春さめの世にふりにたる心にも猶あたらしく花をこそおもへ
はるさめの よにふりにたる こころにも なほあたらしく はなをこそおもへ
読人知らず春中
75はる霞たちてくもゐになりゆくはかりの心のかはるなるへし
はるかすみ たちてくもゐに なりゆくは かりのこころの かはるなるへし
読人知らず春中
76ねられぬをしひてわかぬる春の夜の夢をうつつになすよしもかな
ねられぬを しひてわかぬる はるのよの ゆめをうつつに なすよしもかな
読人知らず春中
77わかやとの桜の色はうすくとも花のさかりはきてもをらなむ
わかやとの さくらのいろは うすくとも はなのさかりは きてもをらなむ
読人知らず春中
78年をへて花のたよりに事とははいととあたなる名をや立ちなん
としをへて はなのたよりに こととはは いととあたなる なをやたちなむ
兼覧王春中
79わかやとの花にななきそ喚子鳥よふかひ有りて君もこなくに
わかやとの はなにななきそ よふことり よふかひありて きみもこなくに
春道列樹春中
80ふりぬとていたくなわひそはるさめのたたにやむへき物ならなくに
ふりぬとて いたくなわひそ はるさめの たたにやむへき ものならなくに
紀貫之春中
81鴬のなくなる声は昔にてわか身ひとつのあらすもあるかな
うくひすの なくなるこゑは むかしにて わかみひとつの あらすもあるかな
藤原顕忠朝臣母春下
82ひさしかれあたにちるなとさくら花かめにさせれとうつろひにけり
ひさしかれ あたにちるなと さくらはな かめにさせれと うつろひにけり
紀貫之春下
83千世ふへきかめにさせれと桜花とまらん事は常にやはあらぬ
ちよふへき かめにさせれと さくらはな とまらむことは つねにやはあらぬ
中務春下
84ちりぬへき花の限はおしなへていつれともなくをしき春かな
ちりぬへき はなのかきりは おしなへて いつれともなく をしきはるかな
読人知らず春下
85かきこしにちりくる花を見るよりはねこめに風の吹きもこさなん
かきこしに ちりくるはなを みるよりは ねこめにかせの ふきもこさなむ
伊勢春下
86春の日のなかき思ひはわすれしを人の心に秋やたつらむ
はるのひの なかきおもひは わすれしを ひとのこころに あきやたつらむ
読人知らず春下
87よそにても花見ることにねをそなくわか身にうとき春のつらさに
よそにても はなみることに ねをそなく わかみにうとき はるのつらさに
読人知らず春下
88風をたにまちてそ花のちりなまし心つからにうつろふかうさ
かせをたに まちてそはなの ちりなまし こころつからに うつろふかうさ
紀貫之春下
89わかやとにすみれの花のおほかれはきやとる人やあるとまつかな
わかやとに すみれのはなの おほけれは きやとるひとや あるとまつかな
読人知らず春下
90山高み霞をわけてちる花を雪とやよその人は見るらん
やまたかみ かすみをわけて ちるはなを ゆきとやよその ひとはみるらむ
読人知らず春下
91吹く風のさそふ物とはしりなからちりぬる花のしひてこひしき
ふくかせの さそふものとは しりなから ちりぬるはなの しひてこひしき
読人知らず春下
92うちはへてはるはさはかりのとけきを花の心やなにいそくらん
うちはへて はるはさはかり のとけきを はなのこころや なにいそくらむ
深養父春下
93わかやとの歎ははるもしらなくに何にか花をくらへても見む
わかやとの なけきははるも しらなくに なににかはなを くらへてもみむ
こわかきみ春下
94はるの日の影そふ池のかかみには柳のまゆそまつは見えける
はるのひの かけそふいけの かかみには やなきのまゆそ まつはみえける
読人知らず春下
95かくなからちらて世をやはつくしてぬ花のときはもありと見るへく
かくなから ちらてよをやは つくしてぬ はなのときはも ありとみるへく
読人知らず春下
96かさせとも老もかくれぬこの春そ花のおもてはふせつへらなる
かさせとも おいもかくれぬ このはるそ はなのおもては ふせつへらなる
凡河内躬恒春下
97ひととせにかさなる春のあらはこそふたたひ花を見むとたのまめ
ひととせに かさなるはるの あらはこそ ふたたひはなも みむとたのまめ
読人知らず春下
98春くれはさくてふことをぬれきぬにきするはかりの花にそありける
はるくれは さくてふことを ぬれきぬに きするはかりの はなにそありける
紀貫之春下
99春霞たちなから見し花ゆゑにふみとめてけるあとのくやしさ
はるかすみ たちなからみし はなゆゑに ふみとめてける あとのくやしさ
読人知らず春下
100はる日さす藤のうらはのうらとけて君しおもはは我もたのまん
はるひさす ふちのうらはの うらとけて きみしおもはは われもたのまむ
読人知らず春下
101鴬に身をあひかへはちるまてもわか物にして花は見てまし
うくひすに みをあひかへは ちるまても わかものにして はなはみてまし
伊勢春下
102花の色は昔なからに見し人の心のみこそうつろひにけれ
はなのいろは むかしなからに みしひとの こころのみこそ うつろひにけれ
元良親王春下
103あたら夜の月と花とをおなしくはあはれしれらん人に見せはや
あたらよの つきとはなとを おなしくは こころしれらむ ひとにみせはや
源信明春下
104宮こ人きてもをらなんかはつなくあかたのゐとの山吹の花
みやこひと きてもをらなむ かはつなく あかたのゐとの やまふきのはな
橘のきんひらか女春下
105今よりは風にまかせむ桜花ちるこのもとに君とまりけり
いまよりは かせにまかせむ さくらはな ちるこのもとに きみとまりけり
読人知らず春下
106風にしも何かまかせんさくら花匂あかぬにちるはうかりき
かせにしも なにかまかせむ さくらはな にほひあかぬに ちるはうかりき
藤原敦忠朝臣春下
107常よりも春へになれはさくら河花の浪こそまなくよすらめ
つねよりも はるへになれは さくらかは はなのなみこそ まなくよすらめ
紀貫之春下
108わかきたるひとへ衣は山吹のやへの色にもおとらさりけり
わかきたる ひとへころもは やまふきの やへのいろにも おとらさりけり
兼輔朝臣春下
109ひととせにふたたひさかぬ花なれはむへちることを人はいひけり
ひととせに ふたたひさかぬ はななれは うへちることを ひとはいひけり
在原元方春下
110春さめの花の枝より流れこは猶こそぬれめかもやうつると
はるさめの はなのえたより なかれこは なほこそぬれめ かもやうつると
藤原敏行朝臣春下
111はる深き色にもあるかな住の江のそこも緑に見ゆるはま松
はるふかき いろにもあるかな すみのえの そこもみとりに みゆるはままつ
読人知らず春下
112春くれは花見にと思ふ心こそのへの霞とともにたちけれ
はるくれは はなみにとおもふ こころこそ のへのかすみと ともにたちけれ
典侍よるかの朝臣春下
113我をこそとふにうからめ春霞花につけてもたちよらぬかな
われをこそ とふにうからめ はるかすみ はなにつけても たちよらぬかな
読人知らず春下
114たちよらぬ春の霞をたのまれよ花のあたりと見れはなるらん
たちよらぬ はるのかすみを たのまれよ はなのあたりと みれはなるらむ
源清蔭朝臣春下
115君見よと尋ねてをれる山さくらふりにし色と思はさらなん
きみみよと たつねてをれる やまさくら ふりにしいろと おもはさらなむ
伊勢春下
116神さひてふりにし里にすむ人は都ににほふ花をたに見す
かみさひて ふりにしさとに すむひとは みやこににほふ はなをたにみす
読人知らず春下
117み吉野のよしのの山の桜花白雲とのみ見えまかひつつ
みよしのの よしののやまの さくらはな しらくもとのみ みえまかひつつ
読人知らず春下
118山さくらさきぬる時は常よりも峰の白雲たちまさりけり
やまさくら さきぬるときは つねよりも みねのしらくも たちまさりけり
読人知らず春下
119白雲と見えつるものをさくら花けふはちるとや色ことになる
しらくもと みえつるものを さくらはな けふはちるとや いろことになる
紀貫之春下
120わかやとの影ともたのむ藤の花たちよりくとも浪にをらるな
わかやとの かけともたのむ ふちのはな たちよりくとも なみにをらるな
読人知らず春下
121花さかりまたもすきぬに吉野河影にうつろふ岸の山吹
はなさかり またもすきぬに よしのかは かけにうつろふ きしのやまふき
読人知らず春下
122しのひかねなきてかはつの惜むをもしらすうつろふ山吹の花
しのひかね なきてかはつの をしむをも しらすうつろふ やまふきのはな
読人知らず春下
123折りつれはたふさにけかるたてなからみよの仏に花たてまつる
をりつれは たふさにけかる たてなから みよのほとけに はなたてまつる
僧正遍昭春下
124みなそこの色さへ深き松かえにちとせをかねてさける藤波
みなそこの いろさへふかき まつかえに ちとせをかねて さけるふちなみ
読人知らず春下
125限なき名におふふちの花なれはそこひもしらぬ色のふかさか
かきりなき なにおふふちの はななれは そこひもしらぬ いろのふかさか
三条右大臣(定方)春下
126色深くにほひし事は藤浪のたちもかへらて君とまれとか
いろふかく にほひしことは ふちなみの たちもかへらて きみとまれとか
藤原兼輔朝臣春下
127さをさせとふかさもしらぬふちなれは色をは人もしらしとそ思ふ
さをさせと ふかさもしらぬ ふちなれは いろをはひとも しらしとそおもふ
紀貫之春下
128昨日見し花のかほとてけさみれはねてこそさらに色まさりけれ
きのふみし はなのかほとて けさみれは ねてこそさらに いろまさりけれ
三条右大臣(定方)春下
129ひと夜のみねてしかへらは藤の花心とけたる色見せんやは
ひとよのみ ねてしかへらは ふちのはな こころとけたる いろみせむやは
藤原兼輔朝臣春下
130あさほらけしたゆく水はあさけれと深くそ花の色は見えける
あさほらけ したゆくみつは あさけれと ふかくそはなの いろはみえける
紀貫之春下
131鴬の糸によるてふ玉柳ふきなみたりそ春の山かせ
うくひすの いとによるてふ たまやなき ふきなみたりそ はるのやまかせ
読人知らず春下
132いつのまにちりはてぬらん桜花おもかけにのみ色を見せつつ
いつのまに ちりはてぬらむ さくらはな おもかけにのみ いろをみせつつ
躬恒春下
133ちることのうきもわすれてあはれてふ事をさくらにやとしつるかな
ちることの うきもわすれて あはれてふ ことをさくらに やとしつるかな
源仲宣朝臣春下
134桜色にきたる衣のふかけれはすくる春日もをしけくもなし
さくらいろに きたるころもの ふかけれは すくるはるひも をしけくもなし
読人知らず春下
135あまりさへありてゆくへき年たにも春にかならすあふよしもかな
あまりさへ ありてゆくへき としたにも はるにかならす あふよしもかな
紀貫之春下
136つねよりものとけかるへき春なれはひかりに人のあはさらめやは
つねよりも のとけかるへき はるなれは ひかりにひとの あはさらめやは
左太臣(実頼)春下
137君こすて年はくれにき立ちかへり春さへけふに成りにけるかな
きみこすて としはくれにき たちかへり はるさへけふに なりにけるかな
藤原雅正春下
138ともにこそ花をも見めとまつ人のこぬものゆゑにをしきはるかな
ともにこそ はなをもみめと まつひとの こぬものゆゑに をしきはるかな
藤原雅正春下
139きみにたにとはれてふれは藤の花たそかれ時もしらすそ有りける
きみにたに とはれてふれは ふちのはな たそかれときも しらすそありける
紀貫之春下
140やへむくら心の内にふかけれは花見にゆかんいてたちもせす
やへむくら こころのうちに ふかけれは はなみにゆかむ いてたちもせす
紀貫之春下
141をしめとも春の限のけふの又ゆふくれにさへなりにけるかな
をしめとも はるのかきりの けふのまた ゆふくれにさへ なりにけるかな
読人知らず春下
142ゆくさきををしみし春のあすよりはきにし方にもなりぬへきかな
ゆくさきを をしみしはるの あすよりは きにしかたにも なりぬへきかな
躬恒春下
143ゆくさきになりもやするとたのみしを春の限はけふにそ有りける
ゆくさきに なりもやすると たのみしを はるのかきりは けふにそありける
紀貫之春下
144花しあらは何かははるのをしからんくるともけふはなけかさらまし
はなしあらは なにかははるの をしからむ くるともけふは なけかさらまし
読人知らず春下
145くれて又あすとたになきはるの日を花の影にてけふはくらさむ
くれてまた あすとたになき はるのひを はなのかけにて けふはくらさむ
躬恒春下
146又もこむ時そとおもへとたのまれぬわか身にしあれはをしきはるかな
またもこむ ときそとおもへと たのまれぬ わかみにしあれは をしきはるかな
紀貫之春下
147今日よりは夏の衣に成りぬれときるひとさへはかはらさりけり
けふよりは なつのころもに なりぬれと きるひとさへは かはらさりけり
読人知らず
148卯花のさけるかきねの月きよみいねすきけとやなくほとときす
うのはなの さけるかきねの つききよみ いねすきけとや なくほとときす
読人知らず
149郭公きゐるかきねはちかなからまちとほにのみ声のきこえぬ
ほとときす きゐるかきねは ちかなから まちとほにのみ こゑのきこえぬ
読人知らず
150ほとときす声まつほとはとほからてしのひになくをきかぬなるらん
ほとときす こゑまつほとは とほからて しのひになくを きかぬなるらむ
読人知らず
151うらめしき君かかきねの卯花はうしと見つつも猶たのむかな
うらめしき きみかかきねの うのはなは うしとみつつも なほたのむかな
読人知らず
152うき物と思ひしりなは卯花のさけるかきねもたつねさらまし
うきものと おもひしりなは うのはなの さけるかきねも たつねさらまし
読人知らず
153時わかすふれる雪かと見るまてにかきねもたわにさける卯花
ときわかす ふれるゆきかと みるまてに かきねもたわに さけるうのはな
読人知らず
154白妙ににほふかきねの卯花のうくもきてとふ人のなきかな
しろたへに にほふかきねの うのはなの うくもきてとふ ひとのなきかな
読人知らず
155時わかす月か雪かとみるまてにかきねのままにさける卯花
ときわかす つきかゆきかと みるまてに かきねのままに さけるうのはな
読人知らず
156鳴きわひぬいつちかゆかん郭公猶卯花の影ははなれし
なきわひぬ いつちかゆかむ ほとときす なほうのはなの かけははなれし
読人知らず
157あひ見しもまた見ぬこひも郭公月になくよそよににさりける
あひみしも またみぬこひも ほとときす つきになくよそ よににさりける
読人知らず
158有りとのみおとはの山の郭公ききにきこえてあはすもあるかな
ありとのみ おとはのやまの ほとときす ききにきこえて あはすもあるかな
読人知らず
159こかくれてさ月まつとも郭公はねならはしに枝うつりせよ
こかくれて さつきまつとも ほとときす はねならはしに えたうつりせよ
伊勢
160いひそめし昔のやとの杜若色はかりこそかたみなりけれ
いひそめし むかしのやとの かきつはた いろはかりこそ かたみなりけれ
良岑義方朝臣
161ゆきかへるやそうち人の玉かつらかけてそたのむ葵てふ名を
ゆきかへる やそうちひとの たまかつら かけてそたのむ あふひてふなを
読人知らず
162ゆふたすきかけてもいふなあた人の葵てふなはみそきにそせし
ゆふたすき かけてもいふな あたひとの あふひてふなは みそきにそせし
読人知らず
163このころはさみたれちかみ郭公思ひみたれてなかぬ日そなき
このころは さみたれちかみ ほとときす おもひみたれて なかぬひそなき
読人知らず
164まつ人は誰ならなくにほとときす思ひの外になかはうからん
まつひとは たれならなくに ほとときす おもひのほかに なかはうからむ
読人知らず
165にほひつつちりにし花そおもほゆる夏は緑の葉のみしけれは
にほひつつ ちりにしはなそ おもほゆる なつはみとりの はのみしけれは
読人知らず
166さみたれに春の宮人くる時は郭公をやうくひすにせん
さみたれに はるのみやひと くるときは ほとときすをや うくひすにせむ
大春日師範
167みしか夜のふけゆくままに白妙の峰の松風ふくかとそきく
みしかよの ふけゆくままに たかさこの みねのまつかせ ふくかとそきく
藤原兼輔朝臣
168葦引の山した水はゆきかよひことのねにさへなかるへらなり
あしひきの やましたみつは ゆきかよひ ことのねにさへ なかるへらなり
紀貫之
169夏の夜はあふ名のみして敷妙のちりはらふまにあけそしにける
なつのよは あふなのみして しきたへの ちりはらふまに あけそしにける
藤原高経朝臣
170夢よりもはかなき物は夏の夜の暁かたの別なりけり
ゆめよりも はかなきものは なつのよの あかつきかたの わかれなりけり
壬生忠岑
171よそなから思ひしよりも夏の夜の見はてぬ夢そはかなかりける
よそなから おもひしよりも なつのよの みはてぬゆめそ はかなかりける
読人知らず
172ふた声と聞くとはなしに郭公夜深くめをもさましつるかな
ふたこゑと きくとはなしに ほとときす よふかくめをも さましつるかな
伊勢
173あふと見し夢にならひて夏の日のくれかたきをも歎きつるかな
あふとみし ゆめにならひて なつのひの くれかたきをも なけきつるかな
藤原安国
174うとまるる心しなくは郭公あかぬ別にけさはけなまし
うとまるる こころしなくは ほとときす あかぬわかれに けさはけなまし
読人知らず
175折りはへてねをのみそなく郭公しけきなけきの枝ことにゐて
をりはへて ねをのみそなく ほとときす しけきなけきの えたことにゐて
読人知らず
176ほとときすきては旅とや鳴渡る我は別のをしき宮こを
ほとときす きてはたひとや なきわたる われはわかれの をしきみやこを
読人知らず
177独ゐて物思ふ我を郭公ここにしもなく心あるらし
ひとりゐて ものおもふわれを ほとときす ここにしもなく こころあるらし
読人知らず
178玉匣あけつるほとのほとときすたたふたこゑもなきてこしかな
たまくしけ あけつるほとの ほとときす たたふたこゑも なきてこしかな
読人知らず
179かすならぬわか身山への郭公このはかくれのこゑはきこゆや
かすならぬ わかみやまへの ほとときす このはかくれの こゑはきこゆや
読人知らず
180とこ夏に鳴きてもへなんほとときすしけきみ山になに帰るらむ
とこなつに なきてもへなむ ほとときす しけきみやまに なにかへるらむ
読人知らず
181ふすからにまつそわひしき郭公なきもはてぬにあくるよなれは
ふすからに まつそわひしき ほとときす なきもはてぬに あくるよなれは
読人知らず
182さみたれになかめくらせる月なれはさやにも見えすくもかくれつつ
さみたれに なかめくらせる つきなれは さやにもみえす くもかくれつつ
あるしの女
183ふた葉よりわかしめゆひしなてしこの花のさかりを人にをらすな
ふたはより わかしめゆひし なてしこの はなのさかりを ひとにをらすな
読人知らず
184葦引の山郭公うちはへて誰かまさるとねをのみそなく
あしひきの やまほとときす うちはへて たれかまさると ねをのみそなく
読人知らず
185つれつれとなかむる空の郭公とふにつけてそねはなかれける
つれつれと なかむるそらの ほとときす とふにつけてそ ねはなかれける
読人知らず
186色かへぬ花橘に郭公ちよをならせるこゑきこゆなり
いろかへぬ はなたちはなに ほとときす ちよをならせる こゑきこゆなり
読人知らず
187たひねしてつまこひすらし郭公神なひ山にさよふけてなく
たひねして つまこひすらし ほとときす かむなひやまに さよふけてなく
読人知らず
188夏の夜にこひしき人のかをとめは花橘そしるへなりける
なつのよに こひしきひとの かをとめは はなたちはなそ しるへなりける
読人知らず
189郭公はつかなるねをききそめてあらぬもそれとおほめかれつつ
ほとときす はつかなるねを ききそめて あらぬもそれと おほめかれつつ
伊勢
190さみたれのつつける年のなかめには物思ひあへる我そわひしき
さみたれの つつけるとしの なかめには ものおもひあへる われそわひしき
読人知らず
191郭公ひとこゑにあくる夏の夜の暁かたやあふこなるらむ
ほとときす ひとこゑにあくる なつのよの あかつきかたや あふこなるらむ
読人知らず
192うちはへてねをなきくらす空蝉のむなしきこひも我はするかな
うちはへて ねをなきくらす うつせみの むなしきこひも われはするかな
読人知らず
193常もなき夏の草はにおくつゆをいのちとたのむせみのはかなさ
つねもなき なつのくさはに おくつゆを いのちとたのむ せみのはかなさ
読人知らず
194やへむくらしけきやとには夏虫の声より外に問ふ人もなし
やへむくら しけきやとには なつむしの こゑよりほかに とふひともなし
読人知らず
195うつせみのこゑきくからに物そ思ふ我も空しき世にしすまへは
うつせみの こゑきくからに ものそおもふ われもむなしき よにしすまへは
読人知らず
196如何せむをくらの山の郭公おほつかなしとねをのみそなく
いかかせむ をくらのやまの ほとときす おほつかなしと ねをのみそなく
藤原師尹朝臣
197郭公暁かたのひとこゑはうき世中をすくすなりけり
ほとときす あかつきかたの ひとこゑは うきよのなかを すくすなりけり
読人知らず
198ひとしれすわかしめしののとこなつは花さきぬへき時そきにける
ひとしれす わかしめしのの とこなつは はなさきぬへき ときそきにける
読人知らず
199わかやとのかきねにうゑしなてしこは花にさかなんよそへつつ見む
わかやとの かきねにうゑし なてしこは はなにさかなむ よそへつつみむ
読人知らず
200常夏の花をたに見はことなしにすくす月日もみしかかりなん
とこなつの はなをたにみは ことなしに すくすつきひも みしかかりなむ
読人知らず
201常夏に思ひそめては人しれぬ心の程は色に見えなん
とこなつに おもひそめては ひとしれぬ こころのほとは いろにみえなむ
読人知らず
202色といへはこきもうすきもたのまれす山となてしこちる世なしやは
いろといへは こきもうすきも たのまれす やまとなてしこ ちるよなしやは
読人知らず
203なてしこはいつれともなくにほへともおくれてさくはあはれなりけり
なてしこは いつれともなく にほへとも おくれてさくは あはれなりけり
太政大臣(忠平)
204なてしこの花ちりかたになりにけりわかまつ秋そちかくなるらし
なてしこの はなちりかたに なりにけり わかまつあきそ ちかくなるらし
読人知らず
205夜ひなからひるにもあらなん夏なれはまちくらすまのほとなかるへく
よひなから ひるにもあらなむ なつなれは まちくらすまの ほとなかるへき
読人知らず
206夏の夜の月は程なくあけぬれは朝のまをそかこちよせつる
なつのよの つきはほとなく あけぬれは あしたのまをそ かこちよせつる
読人知らず
207鵲の峰飛ひこえてなきゆけは夏の夜渡る月そかくるる
かささきの みねとひこえて なきゆけは なつのよわたる つきそかくるる
読人知らず
208秋ちかみ夏はてゆけは郭公なく声かたき心ちこそすれ
あきちかみ なつはてゆけは ほとときす なくこゑかたき ここちこそすれ
読人知らず
209つつめともかくれぬ物は夏虫の身よりあまれる思ひなりけり
つつめとも かくれぬものは なつむしの みよりあまれる おもひなりけり
読人知らず
210あまの河水まさるらし夏の夜は流るる月のよとむまもなし
あまのかは みつまさるらし なつのよは なかるるつきの よとむまもなし
読人知らず
211花もちり郭公さへいぬるまて君にもゆかすなりにけるかな
はなもちり ほとときすさへ いぬるまて きみにもゆかす なりにけるかな
紀貫之
212はな鳥の色をもねをもいたつらに物うかる身はすくすのみなり
はなとりの いろをもねをも いたつらに ものうかるみは すくすのみなり
藤原雅正
213夏虫の身をたきすてて玉しあらは我とまねはむ人めもる身そ
なつむしの みをたきすてて たましあらは われとまねはむ ひとめもるみそ
読人知らず
214今夜かくなかむる袖のつゆけきは月の霜をや秋とみつらん
こよひかく なかむるそての つゆけきは つきのしもをや あきとみつらむ
読人知らず
215かも河のみなそこすみててる月をゆきて見むとや夏はらへする
かもかはの みなそこすみて てるつきを ゆきてみむとや なつはらへする
読人知らず
216たなはたはあまのかはらをななかへりのちのみそかをみそきにはせよ
たなはたは あまのかはらを ななかへり のちのみそかを みそきにはせよ
読人知らず
217にはかにも風のすすしくなりぬるか秋立つ日とはむへもいひけり
にはかにも かせのすすしく なりぬるか あきたつひとは うへもいひけり
読人知らず秋上
218打ちつけに物そ悲しきこのはちる秋の始をけふそとおもへは
うちつけに ものそかなしき このはちる あきのはしめを けふそとおもへは
読人知らず秋上
219たのめこし君はつれなし秋風はけふよりふきぬわか身かなしも
たのめこし きみはつれなし あきかせは けふよりふきぬ わかみかなしも
読人知らず秋上
220いととしく物思ふやとの荻の葉に秋とつけつる風のわひしさ
いととしく ものおもふやとの をきのはに あきとつけつる かせのわひしき
読人知らず秋上
221秋風のうちふきそむるゆふくれはそらに心そわひしかりける
あきかせの うちふきそむる ゆふくれは そらにこころそ わひしかりける
読人知らず秋上
222露わけしたもとほすまもなきものをなと秋風のまたきふくらん
つゆわけし たもとほすまも なきものを なとあきかせの またきふくらむ
大江千里秋上
223秋はきを色とる風の吹きぬれはひとの心もうたかはれけり
あきはきを いろとるかせの ふきぬれは ひとのこころも うたかはれけり
読人知らず秋上
224あき萩を色とる風は吹きぬとも心はかれし草はならねは
あきはきを いろとるかせは ふきぬとも こころはかれし くさはならねは
在原業平朝臣秋上
225あふことはたなはたつめにひとしくてたちぬふわさはあへすそありける
あふことは たなはたつめに ひとしくて たちぬふわさは あへすそありける
閑院秋上
226天河渡らむそらもおもほえすたえぬ別と思ふものから
あまのかは わたらむそらも おもほえす たえぬわかれと おもふものから
読人知らず秋上
227雨ふりて水まさりけり天河こよひはよそにこひむとやみし
あめふりて みつまさりけり あまのかは こよひはよそに こひむとやみし
源中正秋上
228水まさり浅きせしらすなりぬともあまのと渡る舟もなしやは
みつまさり あさきせしらす なりぬとも あまのとわたる ふねもなしやは
読人知らず秋上
229織女もあふよありけり天河この渡にはわたるせもなし
たなはたも あふよありけり あまのかは このわたりには わたるせもなし
藤原兼三秋上
230ひこほしのまれにあふよのとこ夏は打ちはらへともつゆけかりけり
ひこほしの まれにあふよの とこなつは うちはらへとも つゆけかりけり
読人知らず秋上
231こひこひてあはむと思ふゆふくれはたなはたつめもかくそあるらし
こひこひて あはむとおもふ ゆふくれは たなはたつめも かくそあるらし
読人知らず秋上
232たくひなき物とは我そなりぬへきたなはたつめは人めやはもる
たくひなき ものとはわれそ なりぬへき たなはたつめは ひとめやはもる
読人知らず秋上
233あまの河流れてこひはうくもそあるあはれと思ふせにはやく見む
あまのかは なかれてこひは うくもそある あはれとおもふ せにはやくみむ
読人知らず秋上
234玉蔓たえぬものからあらたまの年の渡はたたひとよのみ
たまかつら たえぬものから あらたまの としのわたりは たたひとよのみ
読人知らず秋上
235秋の夜の心もしるくたなはたのあへるこよひはあけすもあらなん
あきのよの こころもしるく たなはたの あへるこよひは あけすもあらなむ
読人知らず秋上
236契りけん事のは今は返してむ年のわたりによりぬるものを
ちきりけむ ことのはいまは かへしてむ としのわたりに よりぬるものを
読人知らず秋上
237逢ふ事の今夜過きなは織女におとりやしなんこひはまさりて
あふことの こよひすきなは たなはたに おとりやしなむ こひはまさりて
藤原敦忠朝臣秋上
238織女のあまのとわたるこよひさへをち方人のつれなかるらむ
たなはたの あまのとわたる こよひさへ をちかちひとの つれなかるらむ
読人知らず秋上
239天河とほき渡はなけれとも君かふなては年にこそまて
あまのかは とほきわたりは なけれとも きみかふなては としにこそまて
読人知らず秋上
240あまの河いはこす浪のたちゐつつ秋のなぬかのけふをしそまつ
あまのかは いはこすなみの たちゐつつ あきのなぬかの けふをしそまつ
読人知らず秋上
241けふよりはあまの河原はあせななんそこひともなくたたわたりなん
けふよりは あまのかはらは あせななむ そこひともなく たたわたりなむ
紀友則秋上
242天河流れてこふるたなはたの涙なるらし秋のしらつゆ
あまのかは なかれてこふる たなはたの なみたなるらし あきのしらつゆ
読人知らず秋上
243あまの河せせの白浪たかけれとたたわたりきぬまつにくるしみ
あまのかは せせのしらなみ たかけれと たたわたりきぬ まつにくるしみ
読人知らず秋上
244秋くれは河霧わたる天河かはかみ見つつこふる日のおほき
あきくれは かはきりわたる あまのかは かはかみみつつ こふるひのおほき
読人知らず秋上
245天河こひしきせにそ渡りぬるたきつ涙に袖はぬれつつ
あまのかは こひしきせにそ わたりぬる たきつなみたに そてはぬれつつ
読人知らず秋上
246織女の年とはいはし天河雲たちわたりいさみたれなん
たなはたの としとはいはし あまのかは くもたちわたり いさみたれなむ
読人知らず秋上
247秋の夜のあかぬ別をたなはたはたてぬきにこそ思ふへらなれ
あきのよの あかぬわかれを たなはたは たてぬきにこそ おもふへらなれ
凡河内躬恒秋上
248たなはたの帰る朝の天河舟もかよはぬ浪もたたなん
たなはたの かへるあしたの あまのかは ふねもかよはぬ なみもたたなむ
藤原兼輔朝臣秋上
249あさとあけてなかめやすらんたなはたはあかぬ別のそらをこひつつ
あさとあけて なかめやすらむ たなはたは あかぬわかれの そらをこひつつ
紀貫之秋上
250秋風のふけはさすかにわひしきは世のことわりと思ふものから
あきかせの ふけはさすかに わひしきは よのことわりと おもふものから
読人知らず秋上
251松虫のはつこゑさそふ秋風はおとは山よりふきそめにけり
まつむしの はつこゑさそふ あきかせは おとはやまより ふきそめにけり
読人知らず秋上
252ゆく蛍雲のうへまていぬへくは秋風ふくと雁につけこせ
ゆくほたる くものうへまて いぬへくは あきかせふくと かりにつけこせ
在原業平朝臣秋上
253秋風の草葉そよきてふくなへにほのかにしつるひくらしのこゑ
あきかせの くさはそよきて ふくなへに ほのかにしつる ひくらしのこゑ
読人知らず秋上
254ひくらしの声きく山のちかけれやなきつるなへにいり日さすらん
ひくらしの こゑきくやまの ちかけれや なきつるなへに いりひさすらむ
紀貫之秋上
255ひくらしのこゑきくからに松虫の名にのみ人を思ふころかな
ひくらしの こゑきくからに まつむしの なにのみひとを おもふころかな
紀貫之秋上
256心有りてなきもしつるかひくらしのいつれももののあきてうけれは
こころありて なきもしつるか ひくらしの いつれもものの あきてうけれは
紀貫之秋上
257秋風の吹きくるよひは蛬草のねことにこゑみたれけり
あきかせの ふきくるよひは きりきりす くさのねことに こゑみたれけり
紀貫之秋上
258わかことく物やかなしききりきりす草のやとりにこゑたえすなく
わかことく ものやかなしき きりきりす くさのやとりに こゑたえすなく
紀貫之秋上
259こむといひしほとやすきぬる秋ののに誰松虫そこゑのかなしき
こむといひし ほとやすきぬる あきののに たれまつむしそ こゑのかなしき
紀貫之秋上
260秋ののにきやとる人もおもほえすたれを松虫ここらなくらん
あきののに きやとるひとも おもほえす たれをまつむし ここらなくらむ
紀貫之秋上
261あき風のややふきしけはのをさむみわひしき声に松虫そ鳴く
あきかせの ややふきしけは のをさむみ わひしきこゑに まつむしそなく
紀貫之秋上
262秋くれは野もせに虫のおりみたるこゑのあやをはたれかきるらん
あきくれは のもせにむしの おりみたる こゑのあやをは たれかきるらむ
藤原元善朝臣秋上
263風さむみなく秋虫の涙こそくさは色とるつゆとおくらめ
かせさむみ なくあきむしの なみたこそ くさはいろとる つゆとおくらめ
読人知らず秋上
264秋風の吹きしく松は山なから浪立帰るおとそきこゆる
あきかせの ふきしくまつは やまなから なみたちかへる おとそきこゆる
読人知らず秋上
265松のねに風のしらへをまかせては竜田姫こそ秋はひくらし
まつのねに かせのしらへを まかせては たつたひめこそ あきはひくらし
壬生忠岑秋上
266山里の物さひしさは荻のはのなひくことにそ思ひやらるる
やまさとの ものさひしきは をきのはの なひくことにそ おもひやらるる
左太臣(実頼)秋上
267ほにはいてぬいかにかせまし花すすき身を秋風にすてやはててん
ほにはいてぬ いかにかせまし はなすすき みをあきかせに すてやはててむ
小野道風朝臣秋上
268あけくらしまもるたのみをからせつつたもとそほつの身とそ成りぬる
あけくらし まもるたのみを からせつつ たもとそほつの みとそなりぬる
読人知らず秋上
269心もておふる山田のひつちほは君まもらねとかる人もなし
こころもて おふるやまたの ひつちほは きみまもらねと かるひともなし
読人知らず秋上
270草のいとにぬく白玉と見えつるは秋のむすへるつゆにそ有りける
くさのいとに ぬくしらたまと みえつるは あきのむすへる つゆにそありける
藤原守文秋上
271秋霧の立ちぬる時はくらふ山おほつかなくそ見え渡りける
あききりの たちぬるときは くらふやま おほつかなくそ みえわたりける
紀貫之秋中
272花見にといてにしものを秋の野の霧に迷ひてけふはくらしつ
はなみにと いてにしものを あきののの きりにまよひて けふはくらしつ
紀貫之秋中
273浦ちかくたつ秋きりはもしほやく煙とのみそ見えわたりける
うらちかく たつあききりは もしほやく けふりとのみそ みえわたりける
読人知らず秋中
274をるからにわかなはたちぬ女郎花いさおなしくははなはなに見む
をるからに わかなはたちぬ をみなへし いさおなしくは はなはなにみむ
藤原興風秋中
275秋の野の露におかるる女郎花はらふ人なみぬれつつやふる
あきののの つゆにおかるる をみなへし はらふひとなみ ぬれつつやふる
読人知らず秋中
276をみなへし花の心のあたなれは秋にのみこそあひわたりけれ
をみなへし はなのこころの あたなれは あきにのみこそ あひわたりけれ
読人知らず秋中
277さみたれにぬれにし袖にいととしくつゆおきそふる秋のわひしさ
さみたれに ぬれにしそてに いととしく つゆおきそふる あきのわひしさ
近江更衣秋中
278おほかたも秋はわひしき時なれとつゆけかるらん袖をしそ思ふ
おほかたも あきはわひしき ときなれと つゆけかるらむ そてをしそおもふ
延喜御製秋中
279白露のかはるもなにかをしからんありてののちもややうきものを
しらつゆの かはるもなにか をしからむ ありてののちも ややうきものを
法皇御製秋中
280うゑたてて君かしめゆふ花なれは玉と見えてやつゆもおくらん
うゑたてて きみかしめゆふ はななれは たまとみえてや つゆもおくらむ
伊勢秋中
281折りて見る袖さへぬるるをみなへしつゆけき物と今やしるらん
をりてみる そてさへぬるる をみなへし つゆけきものと いまやしるらむ
右大臣(師輔)秋中
282よろつよにかからんつゆををみなへしなに思ふとかまたきぬるらん
よろつよに かからむつゆを をみなへし なにおもふとか またきぬるらむ
大輔秋中
283おきあかすつゆのよなよなへにけれはまたきぬるともおもはさりけり
おきあかす つゆのよなよな へにけれは またきぬるとも おもはさりけり
右大臣(師輔)秋中
284今ははや打ちとけぬへき白露の心おくまてよをやへにける
いまははや うちとけぬへき しらつゆの こころおくまて よをやへにける
大輔秋中
285白露のうへはつれなくおきゐつつ萩のしたはの色をこそ見れ
しらつゆの うへはつれなく おきゐつつ はきのしたはの いろをこそみれ
読人知らず秋中
286心なき身はくさはにもあらなくに秋くる風にうたかはるらん
こころなき みはくさはにも あらなくに あきくるかせに うたかはるらむ
伊勢秋中
287人はいさ事そともなきなかめにそ我はつゆけき秋もしらるる
ひとはいさ ことそともなき なかめにそ われはつゆけき あきもしらるる
読人知らず秋中
288花すすきほにいつる事もなきやとは昔忍ふの草をこそ見れ
はなすすき ほにいつることも なきやとは むかししのふの くさをこそみれ
中宮宣旨秋中
289やともせにうゑなめつつそ我は見るまねくをはなに人やとまると
やともせに うゑなへつつそ われはみる まねくをはなに ひとやとまると
伊勢秋中
290秋の夜をいたつらにのみおきあかす露はわか身のうへにそ有りける
あきのよを いたつらにのみ おきあかす つゆはわかみの うへにそありける
読人知らず秋中
291おほかたにおく白露も今よりは心してこそみるへかりけれ
おほかたに おくしらつゆも いまよりは こころしてこそ みるへかりけれ
読人知らず秋中
292露ならぬわか身と思へと秋の夜をかくこそあかせおきゐなからに
つゆならぬ わかみとおもへと あきのよを かくこそあかせ おきゐなからに
右大臣(師輔)秋中
293白露のおくにあまたの声すれは花の色色有りとしらなん
しらつゆの おくにあまたの こゑすれは はなのいろいろ ありとしらなむ
読人知らず秋中
294くれはては月も待つへし女郎花雨やめてとは思はさらなん
くれはては つきもまつへし をみなへし あめやめてとは おもはさらなむ
左太臣(実頼)秋中
295秋の田のかりほのやとのにほふまてさける秋はきみれとあかぬかも
あきのたの かりほのやとの にほふまて さけるあきはき みれとあかぬかも
読人知らず秋中
296秋のよをまとろますのみあかす身は夢ちとたにそたのまさりける
あきのよを まとろますのみ あかすみは ゆめちとたにそ たのまさりける
読人知らず秋中
297時雨ふりふりなは人に見せもあへすちりなはをしみをれる秋はき
しくれふり ふりなはひとに みせもあへす ちりなはをしみ をれるあきはき
読人知らず秋中
298往還り折りてかささむあさなあさな鹿立ちならすのへの秋はき
ゆきかへり をりてかささむ あさなあさな しかたちならす のへのあきはき
紀貫之秋中
299わかやとの庭の秋はきちりぬめりのちみむ人やくやしと思はむ
わかやとの にはのあきはき ちりぬめり のちみむひとや くやしとおもはむ
むねゆきの朝臣秋中
300白露のおかまく惜しき秋萩を折りてはさらに我やかくさん
しらつゆの おかまくをしき あきはきを をりてはさらに われやかくさむ
読人知らず秋中
301秋はきの色つく秋を徒にあまたかそへて老いそしにける
あきはきの いろつくあきを いたつらに あまたかそへて おいそしにける
紀貫之秋中
302秋の田のかりほのいほのとまをあらみわか衣手はつゆにぬれつつ
あきのたの かりほのいほの とまをあらみ わかころもては つゆにぬれつつ
天智天皇御製秋中
303わか袖に露そおくなる天河雲のしからみ浪やこすらん
わかそてに つゆそおくなる あまのかは くものしからみ なみやこすらむ
読人知らず秋中
304秋はきの枝もとををになり行くは白露おもくおけはなりけり
あきはきの えたもとををに なりゆくは しらつゆおもく おけはなりけり
読人知らず秋中
305わかやとのを花かうへの白露をけたすて玉にぬく物にもか
わかやとの をはなかうへの しらつゆを けたすてたまに ぬくものにもか
読人知らず秋中
306さを鹿の立ちならすをのの秋はきにおける白露我もけぬへし
さをしかの たちならすをのの あきはきに おけるしらつゆ われもけぬへし
紀貫之秋中
307秋の野の草はいととも見えなくにおくしらつゆを玉とぬくらん
あきののの くさはいととも みえなくに おくしらつゆを たまとぬくらむ
紀貫之秋中
308白露に風の吹敷く秋ののはつらぬきとめぬ玉そちりける
しらつゆに かせのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまそちりける
文屋朝康秋中
309秋ののにおく白露をけさ見れは玉やしけるとおとろかれつつ
あきののに おくしらつゆを けさみれは たまやしけると おとろかれつつ
壬生忠岑秋中
310おくからにちくさの色になるものを白露とのみ人のいふらん
おくからに ちくさのいろに なるものを しらつゆとのみ ひとのいふらむ
読人知らず秋中
311白玉の秋のこのはにやとれると見ゆるはつゆのはかるなりけり
しらたまの あきのこのはに やとれると みゆるはつゆの はかるなりけり
読人知らず秋中
312秋ののにおく白露のきえさらは玉にぬきてもかけてみてまし
あきののに おくしらつゆの きえさらは たまにぬきても かけてみてまし
読人知らず秋中
313唐衣袖くつるまておくつゆはわか身を秋ののとや見るらん
からころも そてくつるまて おくつゆは わかみをあきの のとやみるらむ
読人知らず秋中
314おほそらにわか袖ひとつあらなくにかなしくつゆやわきておくらん
おほそらに わかそてひとつ あらなくに かなしくつゆや わきておくらむ
読人知らず秋中
315あさことにおくつゆそてにうけためて世のうき時の涙にそかる
あさことに おくつゆそてに うけためて よのうきときの なみたにそかる
読人知らず秋中
316秋の野の草もわけぬをわか袖の物思ふなへにつゆけかるらん
あきののの くさもわけぬを わかそての ものおもふなへに つゆけかるらむ
紀貫之秋中
317いく世へてのちかわすれんちりぬへきのへの秋はきみかく月よを
いくよへて のちかわすれむ ちりぬへき のへのあきはき みかくつきよを
深養父秋中
318秋の夜の月の影こそこのまよりおちは衣と身にうつりけれ
あきのよの つきのかけこそ このまより おちはころもと みにうつりけれ
読人知らず秋中
319袖にうつる月の光は秋ことに今夜かはらぬ影とみえつつ
そてにうつる つきのひかりは あきことに こよひかはらぬ かけとみえつつ
読人知らず秋中
320秋のよの月にかさなる雲はれてひかりさやかに見るよしもかな
あきのよの つきにかさなる くもはれて ひかりさやかに みるよしもかな
読人知らず秋中
321秋の池の月のうへにこく船なれは桂の枝にさをやさはらん
あきのいけの つきのうへにこく ふねなれは かつらのえたに さをやさはらむ
小野美材秋中
322あきの海にうつれる月を立ちかへり浪はあらへと色もかはらす
あきのうみに うつれるつきを たちかへり なみはあらへと いろもかはらす
深養父秋中
323秋の夜の月の光はきよけれと人の心のくまはてらさす
あきのよの つきのひかりは きよけれと ひとのこころの くまはてらさす
読人知らず秋中
324あきの月常にかくてる物ならはやみにふる身はましらさらまし
あきのつき つねにかくてる ものならは やみにふるみは ましらさらまし
読人知らず秋中
325いつとても月見ぬ秋はなきものをわきて今夜のめつらしきかな
いつとても つきみぬあきは なきものを わきてこよひの めつらしきかな
藤原雅正秋中
326月影はおなしひかりの秋のよをわきて見ゆるは心なりけり
つきかけは おなしひかりの あきのよを わきてみゆるは こころなりけり
読人知らず秋中
327そらとほみ秋やよくらん久方の月のかつらの色もかはらぬ
そらとほみ あきやよくらむ ひさかたの つきのかつらの いろもかはらぬ
紀淑光朝臣秋中
328衣手はさむくもあらねと月影をたまらぬ秋の雪とこそ見れ
ころもては さむくもあらねと つきかけを たまらぬあきの ゆきとこそみれ
紀貫之秋中
329あまの河しからみかけてととめなんあかすなかるる月やよとむと
あまのかは しからみかけて ととめなむ あかすなかるる つきやよとむと
読人知らず秋中
330秋風に浪やたつらん天河わたるせもなく月のなかるる
あきかせに なみやたつらむ あまのかは わたるせもなく つきのなかるる
読人知らず秋中
331あきくれは思ふ心そみたれつつまつもみちはとちりまさりける
あきくれは おもふこころそ みたれつつ まつもみちはと ちりまさりける
読人知らず秋中
332きえかへり物思ふ秋の衣こそ涙の河の紅葉なりけれ
きえかへり ものおもふあきの ころもこそ なみたのかはの もみちなりけれ
深養父秋中
333吹く風に深きたのみのむなしくは秋の心をあさしとおもはむ
ふくかせに ふかきたのみの むなしくは あきのこころを あさしとおもはむ
読人知らず秋中
334秋の夜は人をしつめてつれつれとかきなすことのねにそなきぬる
あきのよは ひとをしつめて つれつれと かきなすことの ねにそなきぬる
読人知らず秋中
335ぬきとむる秋しなけれは白露のちくさにおける玉もかひなし
ぬきとむる あきしなけれは しらつゆの ちくさにおける たまもかひなし
藤原清正秋中
336秋風にいととふけゆく月影をたちなかくしそあまの河きり
あきかせに いととふけゆく つきかけを たちなかくしそ あまのかはきり
藤原清正秋中
337をみなへしにほへる秋のむさしのは常よりも猶むつましきかな
をみなへし にほへるあきの むさしのは つねよりもなほ むつましきかな
紀貫之秋中
338秋霧のはるるはうれしをみなへし立ちよる人やあらんと思へは
あききりの はるるはうれし をみなへし たちよるひとや あらむとおもへは
兼覧王秋中
339をみなへし草むらことにむれたつは誰松虫の声に迷ふそ
をみなへし くさむらことに むれたつは たれまつむしの こゑにまよふそ
読人知らず秋中
340女郎花ひる見てましを秋の夜の月の光は雲かくれつつ
をみなへし ひるみてましを あきのよの つきのひかりは くもかくれつつ
読人知らず秋中
341をみなへし花のさかりにあき風のふくゆふくれを誰にかたらん
をみなへし はなのさかりに あきかせの ふくゆふくれを たれにかたらむ
読人知らず秋中
342白妙の衣かたしき女郎花さけるのへにそこよひねにける
しろたへの ころもかたしき をみなへし さけるのへにそ こよひねにける
紀貫之秋中
343名にしおへはしひてたのまん女郎花はなの心の秋はうくとも
なにしおへは しひてたのまむ をみなへし はなのこころの あきはうくとも
紀貫之秋中
344織女ににたるものかな女郎花秋よりほかにあふ時もなし
たなはたに にたるものかな をみなへし あきよりほかに あふときもなし
躬恒秋中
345秋の野によるもやねなんをみなへし花の名をのみ思ひかけつつ
あきののに よるもやねなむ をみなへし はなのなをのみ おもひかけつつ
読人知らず秋中
346をみなへし色にもあるかな松虫をもとにやとして誰をまつらん
をみなへし いろにもあるかな まつむしを もとにやとして たれをまつらむ
読人知らず秋中
347女郎花にほふさかりを見る時そわかおいらくはくやしかりける
をみなへし にほふさかりを みるときそ わかおいらくは くやしかりける
読人知らず秋中
348をみなへし花のなならぬ物ならは何かは君かかさしにもせん
をみなへし はなのなならぬ ものならは なにかはきみか かさしにもせむ
三条右大臣(定方)秋中
349女郎花折りけん袖のふしことにすきにし君を思ひいてやせし
をみなへし をりけむそての ふしことに すきにしきみを おもひいてやせし
枇杷左大臣秋中
350をみなへしをりもをらすもいにしへをさらにかくへき物ならなくに
をみなへし をりもをらすも いにしへを さらにかくへき ものならなくに
伊勢秋中
351ふち袴きる人なみや立ちなからしくれの雨にぬらしそめつる
ふちはかま きるひとなみや たちなから しくれのあめに ぬらしそめつる
読人知らず秋下
352秋風にあひとしあへは花すすきいつれともなくほにそいてける
あきかせに あひとしあへは はなすすき いつれともなく ほにそいてける
読人知らず秋下
353花すすきそよともすれは秋風のふくかとそきくひとりぬるよは
はなすすき そよともすれは あきかせの ふくかとそきく ひとりぬるよは
在原棟梁秋下
354はなすすきほにいてやすき草なれは身にならんとはたのまれなくに
はなすすき ほにいてやすき くさなれは みにならむとは たのまれなくに
読人知らず秋下
355秋風にさそはれわたる雁かねは雲ゐはるかにけふそきこゆる
あきかせに さそはれわたる かりかねは くもゐはるかに けふそきこゆる
読人知らず秋下
356秋のよに雁かもなきてわたるなりわか思ふ人の事つてやせし
あきのよに かりかもなきて わたるなり わかおもふひとの ことつてやせし
紀貫之秋下
357あき風に雲とひわけてくるかりの千世にかはらぬ声きこゆなり
あきかせに きりとひわけて くるかりの ちよにかはらぬ こゑきこゆなり
紀貫之秋下
358物思ふと月日のゆくもしらさりつかりこそなきて秋とつけつれ
ものおもふと つきひのゆくも しらさりつ かりこそなきて あきとつけけれ
読人知らず秋下
359かりかねのなきつるなへに唐衣たつたの山はもみちしにけり
かりかねの なきつるなへに からころも たつたのやまは もみちしにけり
読人知らず秋下
360秋風にさそはれ渡るかりかねは物思ふ人のやとをよかなん
あきかせに さそはれわたる かりかねは ものおもふひとの やとをよかなむ
読人知らず秋下
361誰きけと鳴く雁金そわかやとのを花か末を過きかてにして
たれきけと なくかりかねそ わかやとの をはなかすゑを すきかてにして
読人知らず秋下
362往還りここもかしこも旅なれやくる秋ことにかりかりとなく
ゆきかへり ここもかしこも たひなれや くるあきことに かりかりとなく
読人知らず秋下
363秋ことにくれとかへれはたのまぬを声にたてつつかりとのみなく
あきことに くれとかへれは たのまぬを こゑにたてつつ かりとのみなく
読人知らず秋下
364ひたすらにわかおもはなくにおのれさへかりかりとのみなきわたるらん
ひたすらに わかおもはなくに おのれさへ かりかりとのみ なきわたるらむ
読人知らず秋下
365年ことに雲ちまとはぬかりかねは心つからや秋をしるらん
としことに くもちまとはぬ かりかねは こころつからや あきをしるらむ
躬恒秋下
366天河かりそとわたるさほ山のこすゑはむへも色つきにけり
あまのかは かりそとわたる さほやまの こすゑはうへも いろつきにけり
読人知らず秋下
367秋きりのたちのの駒をひく時は心にのりて君そこひしき
あききりの たちののこまを ひくときは こころにのりて きみそこひしき
藤原忠房朝臣秋下
368いその神ふるのの草も秋は猶色ことにこそあらたまりけれ
いそのかみ ふるののくさも あきはなほ いろことにこそ あらたまりけれ
在原元方秋下
369秋の野の錦のことも見ゆるかな色なきつゆはそめしと思ふに
あきののの にしきのことも みゆるかな いろなきつゆは そめしとおもふに
読人知らず秋下
370あきののにいかなるつゆのおきつめはちちの草はの色かはるらん
あきののに いかなるつゆの おきつめは ちちのくさはの いろかはるらむ
読人知らず秋下
371いつれをかわきてしのはん秋ののにうつろはんとて色かはる草
いつれをか わきてしのはむ あきののに うつろはむとて いろかはるくさ
読人知らず秋下
372声たててなきそしぬへき秋きりに友まとはせるしかにはあらねと
こゑたてて なきそしぬへき あききりに ともまとはせる しかにはあらねと
紀友則秋下
373誰きけと声白妙にさをしかのなかなかしよをひとりなくらん
たれきけと こゑたかさこに さをしかの なかなかしよを ひとりなくらむ
読人知らず秋下
374打ちはへて影とそたのむ峰の松色とる秋の風にうつるな
うちはへて かけとそたのむ みねのまつ いろとるあきの かせにうつるな
読人知らず秋下
375はつしくれふれは山へそおもほゆるいつれの方かまつもみつらん
はつしくれ ふれはやまへそ おもほゆる いつれのかたか まつもみつらむ
読人知らず秋下
376いもかひもとくとむすふとたつた山今そ紅葉の錦おりける
いもかひも とくとむすふと たつたやま いまそもみちの にしきおりける
読人知らず秋下
377雁なきて寒き朝の露ならし竜田の山をもみたす物は
かりなきて さむきあしたの つゆならし たつたのやまを もみたすものは
読人知らず秋下
378見ることに秋にもなるかなたつたひめもみちそむとや山もきるらん
みることに あきにもなるかな たつたひめ もみちそむとや やまもきるらむ
読人知らず秋下
379梓弓いるさの山は秋きりのあたることにや色まさるらむ
あつさゆみ いるさのやまは あききりの あたることにや いろまさるらむ
源宗于朝臣秋下
380君と我いもせの山も秋くれは色かはりぬる物にそありける
きみとわれ いもせのやまも あきくれは いろかはりぬる ものにそありける
読人知らず秋下
381おそくとく色つく山のもみちははおくれさきたつつゆやおくらん
おそくとく いろつくやまの もみちはは おくれさきたつ つゆやおくらむ
元方秋下
382かくはかりもみつる色のこけれはや錦たつたの山といふらん
かくはかり もみつるいろの こけれはや にしきたつたの やまといふらむ
紀友則秋下
383唐衣たつたの山のもみちはは物思ふ人のたもとなりけり
からころも たつたのやまの もみちはは ものおもふひとの たもとなりけり
読人知らず秋下
384葦引の山の山もりもる山も紅葉せさする秋はきにけり
あしひきの やまのやまもり もるやまも もみちせさする あきはきにけり
紀貫之秋下
385唐錦たつたの山も今よりはもみちなからにときはならなん
からにしき たつたのやまも いまよりは もみちなからに ときはならなむ
紀貫之秋下
386から衣たつたの山のもみちはははた物もなき錦なりけり
からころも たつたのやまの もみちはは はたものもなき にしきなりけり
紀貫之秋下
387いく木ともえこそ見わかね秋山のもみちのにしきよそにたてれは
いくきとも えこそみわかね あきやまの もみちのにしき よそにたてれは
壬生忠岑秋下
388秋風のうち吹くからに山ものもなへて錦におりかへすかな
あきかせの うちふくからに やまものも なへてにしきに おりかへすかな
読人知らず秋下
389なとさらに秋かととはむからにしきたつたの山の紅葉するよを
なとさらに あきかととはむ からにしき たつたのやまの もみちするよを
読人知らず秋下
390あたなりと我は見なくにもみちはを色のかはれる秋しなけれは
あたなりと われはみなくに もみちはを いろのかはれる あきしなけれは
読人知らず秋下
391玉かつら葛木山のもみちははおもかけにのみみえわたるかな
たまかつら かつらきやまの もみちはは おもかけにのみ みえわたるかな
紀貫之秋下
392秋霧のたちしかくせはもみちははおほつかなくてちりぬへらなり
あききりの たちしかくせは もみちはは おほつかなくて ちりぬへらなり
紀貫之秋下
393かかみやま山かきくもりしくるれともみちあかくそ秋は見えける
かかみやま やまかきくもり しくるれと もみちあかくそ あきはみえける
素性法師秋下
394かすしらす君かよはひをのはへつつなたたるやとのつゆとならなん
かすしらす きみかよはひを のはへつつ なたたるやとの つゆとならなむ
伊勢秋下
395露たにも名たたるやとの菊ならは花のあるしやいくよなるらん
つゆたにも なたたるやとの きくならは はなのあるしや いくよなるらむ
藤原雅正秋下
396菊のうへにおきゐるへくもあらなくにちとせの身をもつゆになすかな
きくのうへに おきゐるへくも あらなくに ちとせのみをも つゆになすかな
伊勢秋下
397きくの花長月ことにさきくれはひさしき心秋やしるらむ
きくのはな なかつきことに さきくれは ひさしきこころ あきやしるらむ
読人知らず秋下
398名にしおへはなか月ことに君かためかきねの菊はにほへとそ思ふ
なにしおへは なかつきことに きみかため かきねのきくは にほへとそおもふ
読人知らず秋下
399旧里をわかれてさける菊の花たひなからこそにほふへらなれ
ふるさとを わかれてさける きくのはな たひなからこそ にほふへらなれ
読人知らず秋下
400何に菊色そめかへしにほふらん花もてはやす君もこなくに
なににきく いろそめかへし にほふらむ はなもてはやす きみもこなくに
読人知らず秋下
401もみちはのちりくる見れは長月のありあけの月の桂なるらし
もみちはの ちりくるみれは なかつきの ありあけのつきの かつらなるらし
読人知らず秋下
402いくちはたおれはか秋の山ことに風にみたるる鏡なるらむ
いくちはた おれはかあきの やまことに かせにみたるる にしきなるらむ
読人知らず秋下
403なほさりに秋の山へをこえくれはおらぬ錦をきぬ人そなき
なほさりに あきのやまへを こえくれは おらぬにしきを きぬひとそなき
読人知らず秋下
404もみちはをわけつつゆけは錦きて家に帰ると人や見るらん
もみちはを わけつつゆけは にしききて いへにかへると ひとやみるらむ
読人知らず秋下
405うちむれていさわきもこかかかみ山こえてもみちのちらんかけ見む
うちむれて いさわきもこか かかみやま こえてもみちの ちらむかけみむ
紀貫之秋下
406山かせのふきのまにまにもみちははこのもかのもにちりぬへらなり
やまかせの ふきのまにまに もみちはは このもかのもに ちりぬへらなり
読人知らず秋下
407秋の夜に雨ときこえてふりつるは風にみたるる紅葉なりけり
あきのよに あめときこえて ふりつるは かせにみたるる もみちなりけり
読人知らず秋下
408立ちよりて見るへき人のあれはこそ秋の林ににしきしくらめ
たちよりて みるへきひとの あれはこそ あきのはやしに にしきしくらめ
読人知らず秋下
409このもとにおらぬ錦のつもれるは雲の林のもみちなりけり
このもとに おらぬにしきの つもれるは くものはやしの もみちなりけり
読人知らず秋下
410秋風にちるもみちははをみなへしやとにおりしく錦なりけり
あきかせに ちるもみちはは をみなへし やとにおりしく にしきなりけり
読人知らず秋下
411葦引の山のもみちはちりにけり嵐のさきに見てましものを
あしひきの やまのもみちは ちりにけり あらしのさきに みてましものを
読人知らず秋下
412もみちはのふりしく秋の山へこそたちてくやしきにしきなりけれ
もみちはの ふりしくあきの やまへこそ たちてくやしき にしきなりけれ
読人知らず秋下
413たつた河色紅になりにけり山のもみちそ今はちるらし
たつたかは いろくれなゐに なりにけり やまのもみちそ いまはちるらし
読人知らず秋下
414竜田河秋にしなれは山ちかみなかるる水も紅葉しにけり
たつたかは あきにしなれは やまちかみ なかるるみつも もみちしにけり
紀貫之秋下
415もみちはのなかるる秋は河ことに錦あらふと人やみるらむ
もみちはの なかるるあきは かはことに にしきあらふと ひとやみるらむ
読人知らず秋下
416たつた河秋は水なくあせななんあかぬ紅葉のなかるれはをし
たつたかは あきはみつなく あせななむ あかぬもみちの なかるれはをし
読人知らず秋下
417浪わけて見るよしもかなわたつみのそこのみるめももみちちるやと
なみわけて みるよしもかな わたつみの そこのみるめも もみちちるやと
文屋朝康秋下
418このはちる浦に浪たつ秋なれはもみちに花もさきまかひけり
このはちる うらになみたつ あきなれは もみちにはなも さきまかひけり
藤原興風秋下
419わたつみの神にたむくる山姫のぬさをそ人はもみちといひける
わたつみの かみにたむくる やまひめの ぬさをそひとは もみちといひける
読人知らず秋下
420ひくらしの声もいとなくきこゆるは秋ゆふくれになれはなりけり
ひくらしの こゑもいとなく きこゆるは あきゆふくれに なれはなりけり
紀貫之秋下
421風のおとの限と秋やせめつらんふきくることに声のわひしき
かせのおとの かきりとあきや せめつらむ ふきくることに こゑのわひしき
読人知らず秋下
422もみちはにたまれるかりのなみたには月の影こそ移るへらなれ
もみちはに たまれるかりの なみたには つきのかけこそ うつるへらなれ
読人知らず秋下
423おほかたの秋のそらたにわひしきに物思ひそふる君にもあるかな
おほかたの あきのそらたに わひしきに ものおもひそふる きみにもあるかな
右近秋下
424わかことく物思ひけらししらつゆのよをいたつらにおきあかしつつ
わかことく ものおもひけらし しらつゆの よをいたつらに おきあかしつつ
読人知らず秋下
425秋ふかみよそにのみきくしらつゆのたかことのはにかかるなるらん
あきふかみ よそにのみきく しらつゆの たかことのはに かかるなるらむ
平伊望朝臣女秋下
426とふことの秋しもまれにきこゆるはかりにや我を人のたのめし
とふことの あきしもまれに きこゆるは かりにやわれを ひとのたのめし
むかしの承香殿のあこき秋下
427君こふと涙にぬるるわか袖と秋のもみちといつれまされり
きみこふと なみたにぬるる わかそてと あきのもみちと いつれまさけり
みなもとのととのふ秋下
428てる月の秋しもことにさやけきはちるもみちはをよるもみよとか
てるつきの あきしもことに さやけきは ちるもみちはを よるもみよとか
読人知らず秋下
429なとわか身したはもみちと成りにけんおなしなけきの枝にこそあれ
なとわかみ したはもみちと なりにけむ おなしなけきの えたにこそあれ
読人知らず秋下
430あかからは見るへきものをかりかねのいつこはかりになきてゆくらん
あかからは みるへきものを かりかねの いつこはかりに なきてゆくらむ
源わたす秋下
431徒に露におかるる花かとて心もしらぬ人やをりけん
いたつらに つゆにおかるる はなかとて こころもしらぬ ひとやをりけむ
読人知らず秋下
432枝も葉もうつろふ秋の花みれははてはかけなくなりぬへらなり
えたもはも うつろふあきの はなみれは はてはかけなく なりぬへらなり
藤原忠行秋下
433しつくもてよはひのふてふ花なれはちよの秋にそ影はしけらん
しつくもて よはひのふてふ はななれは ちよのあきにそ かけはしけらむ
紀友則秋下
434秋の月ひかりさやけみもみちはのおつる影さへ見えわたるかな
あきのつき ひかりさやけみ もみちはの おつるかけさへ みえわたるかな
紀貫之秋下
435秋ことにつらをはなれぬかりかねは春帰るともかへらさらなん
あきことに つらをはなれぬ かりかねは はるかへるとも かへらさらなむ
読人知らず秋下
436みな人にをられにけりと菊の花君かためにそつゆはおきける
みなひとに をられにけりと きくのはな きみかためにそ つゆはおきける
読人知らず秋下
437吹く風にまかする舟や秋のよの月のうへよりけふはこくらん
ふくかせに まかするふねや あきのよの つきのうへより けふはこくらむ
読人知らず秋下
438もみちははちるこのもとにとまりけり過行く秋やいつちなるらむ
もみちはは ちるこのもとに とまりけり すきゆくあきや いつちなるらむ
読人知らず秋下
439思ひいてて問ふにはあらし秋はつる色の限を見するなるらん
おもひいてて とふにはあらし あきはつる いろのかきりを みするなるらむ
読人知らず秋下
440宇治山の紅葉を見すは長月のすきゆくひをもしらすそあらまし
うちやまの もみちをみすは なかつきの すきゆくひをも しらすそあらまし
ちかぬかむすめ秋下
441長月の在明の月はありなからはかなく秋はすきぬへらなり
なかつきの ありあけのつきは ありなから はかなくあきは すきぬへらなり
紀貫之秋下
442いつ方に夜はなりぬらんおほつかなあけぬかきりは秋そとおもはん
いつかたに よはなりぬらむ おほつかな あけぬかきりは あきそとおもはむ
躬恒秋下
443はつ時雨ふれは山へそおもほゆるいつれの方かまつもみつらん
はつしくれ ふれはやまへそ おもほゆる いつれのかたか まつもみつらむ
読人知らず
444はつしくれふるほともなくさほ山の梢あまねくうつろひにけり
はつしくれ ふるほともなく さほやまの こすゑあまねく うつろひにけり
読人知らず
445神な月ふりみふらすみ定なき時雨そ冬の始なりける
かみなつき ふりみふらすみ さためなき しくれそふゆの はしめなりける
読人知らず
446冬くれはさほの河せにゐるたつもひとりねかたきねをそなくなる
ふゆくれは さほのかはせに ゐるたつも ひとりねかたき ねをそなくなる
読人知らず
447ひとりぬる人のきかくに神な月にはかにもふるはつ時雨かな
ひとりぬる ひとのきかくに かみなつき にはかにもふる はつしくれかな
読人知らず
448秋はてて時雨ふりぬる我なれはちることのはをなにかうらみむ
あきはてて しくれふりぬる われなれは ちることのはを なにかうらみむ
読人知らず
449吹く風は色も見えねと冬くれはひとりぬるよの身にそしみける
ふくかせは いろもみえねと ふゆくれは ひとりぬるよの みにそしみける
読人知らず
450秋はててわか身しくれにふりぬれは事の葉さへにうつろひにけり
あきはてて わかみしくれに ふりぬれは ことのはさへに うつろひにけり
読人知らず
451神な月時雨とともにかみなひのもりのこのははふりにこそふれ
かみなつき しくれとともに かみなひの もりのこのはは ふりにこそふれ
読人知らず
452たのむ木もかれはてぬれは神な月時雨にのみもぬるるころかな
たのむきも かれはてぬれは かみなつき しくれにのみも ぬるるころかな
読人知らず
453神な月時雨はかりを身にそへてしらぬ山ちに入るそかなしき
かみなつき しくれはかりを みにそへて しらぬやまちに いるそかなしき
増基法師
454もみちははをしき錦と見しかとも時雨とともにふりててそこし
もみちはは をしきにしきと みしかとも しくれとともに ふりててそこし
藤原忠房朝臣
455もみちはも時雨もつらしまれにきてかへらん人をふりやととめぬ
もみちはも しくれもつらし まれにきて かへらむひとを ふりやととめぬ
大江千古
456神な月限とや思ふもみちはのやむ時もなくよるさへにふる
かみなつき かきりとやおもふ もみちはの やむときもなく よるさへにふる
読人知らず
457ちはやふる神かき山のさか木はは時雨に色もかはらさりけり
ちはやふる かみかきやまの さかきはは しくれにいろも かはらさりけり
読人知らず
458人すますあれたるやとをきて見れは今そこのはは錦おりける
ひとすます あれたるやとを きてみれは いまそこのはは にしきおりける
枇杷左大臣
459涙さへ時雨にそひてふるさとは紅葉の色もこさまさりけり
なみたさへ しくれにそひて ふるさとは もみちのいろも こさまさりけり
伊勢
460冬の池の鴨のうはけにおくしものきえて物思ふころにもあるかな
ふゆのいけの かものうはけに おくしもの きえてものおもふ ころにもあるかな
読人知らず
461神な月時雨ふるにもくるる日を君まつほとはなかしとそ思ふ
かみなつき しくれふるにも くるるひを きみまつほとは なかしとそおもふ
読人知らず
462身をわけて霜やおくらむあた人の事のはさへにかれもゆくかな
みをわけて しもやおくらむ あたひとの ことのはさへに かれもゆくかな
読人知らず
463人しれす君につけてしわか袖のけさしもとけすこほるなるへし
ひとしれす きみにつけてし わかそての けさしもとけす こほるなるへし
読人知らず
464かきくらし霰ふりしけ白玉をしける庭とも人のみるへく
かきくらし あられふりしけ しらたまを しけるにはとも ひとのみるへく
読人知らず
465神な月しくるる時そみよしのの山のみゆきもふり始めける
かみなつき しくるるときそ みよしのの やまのみゆきも ふりはしめける
読人知らず
466けさの嵐寒くもあるかな葦引の山かきくもり雪そふるらし
けさのあらし さむくもあるかな あしひきの やまかきくもり ゆきそふるらし
読人知らず
467くろかみのしろくなりゆく身にしあれはまつはつ雪をあはれとそみる
くろかみの しろくなりゆく みにしあれは まつはつゆきを あはれとそみる
読人知らず
468霰ふるみ山のさとのわひしきはきてたはやすくとふ人そなき
あられふる みやまのさとの わひしきは きてたはやすく とふひとそなき
読人知らず
469ちはやふる神な月こそかなしけれわか身時雨にふりぬと思へは
ちはやふる かみなつきこそ かなしけれ わかみしくれに ふりぬとおもへは
読人知らず
470しら山に雪ふりぬれはあとたえて今はこしちに人もかよはす
しらやまに ゆきふりぬれは あとたえて いまはこしちに ひともかよはす
読人知らず
471ふりそめて友まつゆきはむはたまのわかくろかみのかはるなりけり
ふりそめて ともまつゆきは うはたまの わかくろかみの かはるなりけり
紀貫之
472くろかみの色ふりかふる白雪のまちいつる友はうとくそ有りける
くろかみの いろふりかはる しらゆきの まちいつるともは うとくそありける
藤原兼輔朝臣
473くろかみと雪とのなかのうきみれはともかかみをもつらしとそ思ふ
くろかみと ゆきとのなかの うきみれは ともかかみをも つらしとそおもふ
紀貫之
474年ことにしらかのかすをますかかみ見るにそ雪の友はしりける
としことに しらかのかすを ますかかみ みるにそゆきの ともはしりける
藤原兼輔朝臣
475年ふれと色もかはらぬ松かえにかかれる雪を花とこそ見れ
としふれと いろもかはらぬ まつかえに かかれるゆきを はなとこそみれ
読人知らず
476霜かれの枝となわひそ白雪のきえぬ限は花とこそみれ
しもかれの えたとなわひそ しらゆきの きえぬかきりは はなとこそみれ
読人知らず
477氷こそ今はすらしもみよしのの山のたきつせこゑもきこえす
こほりこそ いまはすらしも みよしのの やまのたきつせ こゑもきこえす
読人知らず
478夜をさむみねさめてきけはをしそなく払ひもあへす霜やおくらん
よをさむみ ねさめてきけは をしそなく はらひもあへす しもやおくらむ
読人知らず
479かつきえてそらにみたるるあはゆきは物思ふ人の心なりけり
かつきえて そらもみたるる あはゆきは ものおもふひとの こころなりけり
藤原かけもと
480白雪のふりはへてこそとはさらめとくるたよりをすくささらなん
しらゆきの ふりはへてこそ とはさらめ とくるたよりを すくささらなむ
読人知らず
481思ひつつねなくにあくる冬の夜の袖の氷はとけすもあるかな
おもひつつ ねなくにあくる ふゆのよの そてのこほりは とけすもあるかな
読人知らず
482荒玉の年を渡りてあるかうへにふりつむ雪のたえぬしら山
あらたまの としをわたりて あるかうへに ふりつむゆきの たえぬしらやま
読人知らず
483まこもかるほり江にうきてぬるかもの今夜の霜にいかにわふらん
まこもかる ほりえにうきて ぬるかもの こよひのしもに いかにわふらむ
読人知らず
484白雲のおりゐる山とみえつるはふりつむ雪のきえぬなりけり
しらくもの おりゐるやまと みえつるは ふりつるゆきの きえぬなりけり
読人知らず
485ふるさとの雪は花とそふりつもるなかむる我も思ひきえつつ
ふるさとの ゆきははなとそ ふりつもる なかむるわれも おもひきえつつ
読人知らず
486なかれゆく水こほりぬる冬さへや猶うき草のあとはととめぬ
なかれゆく みつこほりぬる ふゆさへや なほうきくさの あとはととめぬ
読人知らず
487心あてに見はこそわかめ白雪のいつれか花のちるにたかへる
こころあてに みはこそわかめ しらゆきの いつれかはなの ちるにたかへる
読人知らず
488天河冬は氷にとちたれやいしまにたきつおとたにもせぬ
あまのかは ふゆはこほりに とちたれや いしまにたきつ おとたにもせぬ
読人知らず
489おしなへて雪のふれれはわかやとのすきを尋ねて問ふ人もなし
おしなへて ゆきのふれれは わかやとの すきをたつねて とふひともなし
読人知らず
490冬の池の水になかるるあしかものうきねなからにいくよへぬらん
ふゆのいけの みつになかるる あしかもの うきねなからに いくよへぬらむ
読人知らず
491山ちかみめつらしけなくふる雪のしろくやならん年つもりなは
やまちかみ めつらしけなく ふるゆきの しろくやならむ としつもりなは
読人知らず
492松の葉にかかれる雪のそれをこそ冬の花とはいふへかりけれ
まつのはに かかれるゆきの それをこそ ふゆのはなとは いふへかりけれ
読人知らず
493ふる雪はきえてもしはしとまらなん花ももみちも枝になきころ
ふるゆきは きえてもしはし とまらなむ はなももみちも えたになきころ
読人知らず
494涙河身なくはかりのふちはあれと氷とけねはゆく方もなし
なみたかは みなくはかりの ふちはあれと こほりとけねは ゆくかたもなし
読人知らず
495ふる雪に物思ふわか身おとらめやつもりつもりてきえぬはかりそ
ふるゆきに ものおもふわかみ おとらめや つもりつもりて きえぬはかりそ
読人知らず
496よるならは月とそみましわかやとの庭白妙にふりつもる雪
よるならは つきとそみまし わかやとの にはしろたへに ふりつもるゆき
読人知らず
497むめかえにふりおける雪を春ちかみめのうちつけに花かとそ見る
うめかえに ふりおけるゆきを はるちかみ めのうちつけに はなかとそみる
読人知らず
498いつしかと山の桜もわかことく年のこなたにはるをまつらん
いつしかと やまのさくらも わかことく としのこなたに はるをまつらむ
読人知らず
499年深くふりつむ雪を見る時そこしのしらねにすむ心ちする
としふかく ふりつむゆきを みるときそ こしのしらねに すむここちする
読人知らず
500としくれて春あけかたになりぬれは花のためしにまかふ白雪
としくれて はるあけかたに なりぬれは はなのためしに まかふしらゆき
読人知らず
501春ちかくふる白雪はをくら山峰にそ花のさかりなりける
はるちかく ふるしらゆきは をくらやま みねにそはなの さかりなりける
読人知らず
502冬の池にすむにほ鳥のつれもなくしたにかよはん人にしらすな
ふゆのいけに すむにほとりの つれもなく したにかよはむ ひとにしらすな
読人知らず
503むはたまのよるのみふれる白雪はてる月影のつもるなりけり
うはたまの よるのみふれる しらゆきは てるつきかけの つもるなりけり
読人知らず
504この月の年のあまりにたらさらはうくひすははやなきそしなまし
このつきの としのあまりに たらさらは うくひすははや なきそしなまし
読人知らず
505関こゆる道とはなしにちかなから年にさはりて春をまつかな
せきこゆる みちとはなしに ちかなから としにさはりて はるをまつかな
読人知らず
506物思ふとすくる月日もしらぬまにことしはけふにはてぬとかきく
ものおもふと すくるつきひも しらぬまに ことしはけふに はてぬとかきく
藤原敦忠朝臣
507あつまちのさやの中山中中にあひ見てのちそわひしかりける
あつまちの さやのなかやま なかなかに あひみてのちそ わひしかりける
源宗于朝臣恋一
508暁と何かいひけんわかるれは夜ひもいとこそわひしかりけれ
あかつきと なにかいひけむ わかるれは よひもいとこそ わひしかりけれ
紀貫之恋一
509まとろまぬかへにも人を見つるかなまさしからなん春の夜の夢
まとろまぬ かへにもひとを みつるかな まさしからなむ はるのよのゆめ
するか恋一
510くやくやとまつゆふくれと今はとてかへる朝といつれまされり
くやくやと まつゆふくれと いまはとて かへるあしたと いつれまされり
元良のみこ恋一
511ゆふくれは松にもかかる白露のおくる朝やきえははつらむ
ゆふくれは まつにもかかる しらつゆの おくるあしたや きえははつらむ
藤原かつみ恋一
512うち返し君そこひしきやまとなるふるのわさ田の思ひいてつつ
うちかへし きみそこひしき やまとなる ふるのわさたの おもひいてつつ
読人知らず恋一
513秋の田のいねてふ事をかけしかは思ひいつるかうれしけもなし
あきのたの いねてふことを かけしかは おもひいつるか うれしけもなし
読人知らず恋一
514人こふる心はかりはそれなから我はわれにもあらぬなりけり
ひとこふる こころはかりは それなから われはわれにも あらぬなりけり
読人知らず恋一
515おもひかはたえすなかるる水のあわのうたかた人にあはてきえめや
おもひかは たえすなかるる みつのあわの うたかたひとに あはてきえめや
伊勢恋一
516思ひやる心はつねにかよへとも相坂の関こえすもあるかな
おもひやる こころはつねに かよへとも あふさかのせき こえすもあるかな
読人知らず恋一
517きえはててやみぬはかりか年をへて君を思ひのしるしなけれは
きえはてて やみぬはかりか としをへて きみをおもひの しるしなけれは
読人知らず恋一
518おもひたにしるしなしてふわか身にそあはぬなけきのかすはもえける
おもひたに しるしなしてふ わかみにそ あはぬなけきの かすはもえける
読人知らず恋一
519ほしかてにぬれぬへきかな唐衣かわくたもとの世世になけれは
ほしかてに ぬれぬへきかな からころも かわくたもとの よよになけれは
読人知らず恋一
520世とともにあふくま河のとほけれはそこなる影をみぬそわひしき
よとともに あふくまかはの とほけれは そこなるかけを みぬそわひしき
読人知らず恋一
521わかことくあひ思ふ人のなき時は深き心もかひなかりけり
わかことく あひおもふひとの なきときは ふかきこころも かひなかりけり
読人知らず恋一
522いつしかとわか松山に今はとてこゆなる浪にぬるる袖かな
いつしかと わかまつやまに いまはとて こゆなるなみに ぬるるそてかな
読人知らず恋一
523ひとことはまことなりけりしたひものとけぬにしるき心と思へは
ひとことは まことなりけり したひもの とけぬにしるき こころとおもへは
読人知らず恋一
524結ひおきしわかしたひもの今まてにとけぬは人のこひぬなりけり
むすひおきし わかしたひもの いままてに とけぬはひとの こひぬなりけり
読人知らず恋一
525ほかのせはふかくなるらしあすかかは昨日のふちそわか身なりける
ほかのせは ふかくなるらし あすかかは きのふのふちそ わかみなりける
読人知らず恋一
526ふちせともいさやしら浪立ちさわくわか身ひとつはよる方もなし
ふちせとも いさやしらなみ たちさわく わかみひとつは よるかたもなし
読人知らず恋一
527ひかりまつつゆに心をおける身はきえかへりつつ世をそうらむる
ひかりまつ つゆにこころを おけるみは きえかへりつつ よをそうらむる
読人知らず恋一
528しほみたぬうみときけはや世とともにみるめなくして年のへぬらん
しほみたぬ うみときけはや よとともに みるめなくして としのへぬらむ
読人知らず恋一
529唐衣きて帰りにしさよすからあはれと思ふをうらむらんはた
からころも きてかへりにし さよすから あはれとおもふを うらむらむはた
桂のみこ恋一
530影たにも見えすなりゆく山の井はあさきより又水やたえにし
かけたにも みえすなりゆく やまのゐは あさきよりまた みつやたえにし
きのめのと恋一
531浅してふ事をゆゆしみ山の井はほりし濁に影は見えぬそ
あさしてふ ことをゆゆしみ やまのゐは ほりしにこりに かけはみえぬそ
平定文恋一
532いくたひかいくたの浦に立帰り浪にわか身を打ちぬらすらん
いくたひか いくたのうらに たちかへり なみにわかみを うちぬらすらむ
読人知らず恋一
533立帰りぬれてはひぬるしほなれはいくたの浦のさかとこそ見れ
たちかへり ぬれてはひぬる しほなれは いくたのうらの さかとこそみれ
読人知らず恋一
534逢ふ事はいとと雲井のおほそらにたつ名のみしてやみぬはかりか
あふことは いととくもゐの おほそらに たつなのみして やみぬはかりか
読人知らず恋一
535よそなからやまんともせす逢ふ事は今こそ雲のたえまなるらめ
よそなから やまむともせす あふことは いまこそくもの たえまなるらめ
読人知らず恋一
536今のみとたのむなれとも白雲のたえまはいつかあらんとすらん
いまのみと たのむなれとも しらくもの たえまはいつか あらむとすらむ
読人知らず恋一
537をやみせす雨さへふれは沢水のまさるらんともおもほゆるかな
をやみせす あめさへふれは さはみつの まさるらむとも おもほゆるかな
読人知らず恋一
538夢にたに見る事そなき年をへて心のとかにぬるよなけれは
ゆめにたに みることそなき としをへて こころのとかに ぬるよなけれは
読人知らず恋一
539見そめすてあらましものを唐衣たつ名のみしてきるよなきかな
みそめすて あらましものを からころも たつなのみして きるよなきかな
読人知らず恋一
540枯れはつる花の心はつらからて時すきにける身をそうらむる
かれはつる はなのこころは つらからて ときすきにける みをそうらむる
読人知らず恋一
541あたにこそちるとみるらめ君にみなうつろひにたる花の心を
あたにこそ ちるとみるらめ きみにみな うつろひにたる はなのこころを
読人知らず恋一
542こむといひし月日をすくすをはすての山のはつらき物にそ有りける
こむといひし つきひをすくす をはすての やまのはつらき ものにそありける
読人知らず恋一
543月日をもかそへけるかな君こふるかすをもしらぬわか身なになり
つきひをも かそへけるかな きみこふる かすをもしらぬ わかみなになり
読人知らず恋一
544このめはるはるの山田を打返し思ひやみにし人そこひしき
このめはる はるのやまたを うちかへし おもひやみにし ひとそこひしき
読人知らず恋一
545ころをへてあひ見ぬ時は白玉の涙も春は色まさりけり
ころをへて あひみぬときは しらたまの なみたもはるは いろまさりけり
贈太攻大臣(時平)恋一
546人こふる涙は春そぬるみけるたえぬおもひのわかすなるへし
ひとこふる なみたははるそ ぬるみける たえぬおもひの わかすなるへし
伊勢恋一
547つらしともいかか怨みむ郭公わかやとちかくなく声はせて
つらしとも いかかうらみむ ほとときす わかやとちかく なくこゑはせて
源たのむかむすめ恋一
548里ことに鳴きこそ渡れ郭公すみか定めぬ君たつぬとて
さとことに なきこそわたれ ほとときす すみかさためぬ きみたつぬとて
敦慶親王恋一
549かすならぬみ山かくれの郭公人しれぬねをなきつつそふる
かすならぬ みやまかくれの ほとときす ひとしれぬねを なきつつそふる
春道列樹恋一
550逢ふ事のかた糸そとはしりなから玉のをはかり何によりけん
あふことの かたいとそとは しりなから たまのをはかり なにによりけむ
これたたのみこ恋一
551思ふとはいふものからにともすれはわするる草の花にやはあらぬ
おもふとは いふものからに ともすれは わするるくさの はなにやはあらぬ
読人知らず恋一
552うゑてみる我はわすれてあたひとにまつわすらるる花にそ有りける
うゑてみる われはわすれて あたひとに まつわすらるる はなにそありける
たいふのこといふ人恋一
553浦わかすみるめかるてふあまの身は何かなにはの方へしもゆく
うらわかす みるめかるてふ あまのみは なにかなにはの かたへしもゆく
土左恋一
554君を思ふふかさくらへにつのくにのほり江見にゆく我にやはあらぬ
きみをおもふ ふかさくらへに つのくにの ほりえみにゆく われにやはあらぬ
平定文恋一
555いかてかく心ひとつをふたしへにうくもつらくもなしてみすらん
いかてかく こころひとつを ふたしへに うくもつらくも なしてみすらむ
伊勢恋一
556ともすれは玉にくらへしますかかみひとのたからと見るそ悲しき
ともすれは たまにくらへし ますかかみ ひとのたからと みるそかなしき
読人知らず恋一
557いはせ山谷のした水うちしのひ人のみぬまは流れてそふる
いはせやま たにのしたみつ うちしのひ ひとのみぬまは なかれてそふる
読人知らず恋一
558うれしけに君かたのめし事のははかたみにくめる水にそ有りける
うれしけに きみかたのめし ことのはは かたみにくめる みつにそありける
読人知らず恋一
559ゆきやらぬ夢ちにまとふたもとにはあまつそらなき露そおきける
ゆきやらぬ ゆめちにまとふ たもとには あまつそらなき つゆそおきける
読人知らず恋一
560身ははやくならの宮こと成りにしを恋しきことのまたもふりぬか
みははやく ならのみやこと なりにしを こひしきことの またもふりぬか
読人知らず恋一
561住吉の岸の白浪よるよるはあまのよそめに見るそ悲しき
すみよしの きしのしらなみ よるよるは あまのよそめに みるそかなしき
読人知らず恋一
562君こふとぬれにし袖のかわかぬは思ひの外にあれはなりけり
きみこふと ぬれにしそての かわかぬは おもひのほかに あれはなりけり
読人知らず恋一
563あはさりし時いかなりし物とてかたたいまのまも見ねは恋しき
あはさりし ときいかなりし ものとてか たたいまのまも みねはこひしき
読人知らず恋一
564世中にしのふるこひのわひしきはあひてののちのあはぬなりけり
よのなかに しのふるこひの わひしきは あひてののちの あはぬなりけり
読人知らず恋一
565恋をのみ常にするかの山なれはふしのねにのみなかぬ日はなし
こひをのみ つねにするかの やまなれは ふしのねにのみ なかぬひはなし
読人知らず恋一
566君によりわか身そつらき玉たれの見すは恋しとおもはましやは
きみにより わかみそつらき たまたれの みすはこひしと おもはましやは
読人知らず恋一
567今そしるあかぬ別の暁は君をこひちにぬるる物とは
いまそしる あかぬわかれの あかつきは きみをこひちに ぬるるものとは
読人知らず恋一
568よそにふる雨とこそきけおほつかな何をか人のこひちといふらん
よそにふる あめとこそきけ おほつかな なにをかひとの こひちといふらむ
読人知らず恋一
569たえはつる物とは見つつささかにのいとをたのめる心ほそさよ
たえはつる ものとはみつつ ささかにの いとをたのめる こころほそさよ
読人知らず恋一
570うちわたし長き心はやつはしのくもてに思ふ事はたえせし
うちわたし なかきこころは やつはしの くもてにおもふ ことはたえせし
読人知らず恋一
571思ふ人おもはぬ人の思ふ人おもはさらなん思ひしるへく
おもふひと おもはぬひとの おもふひと おもはさらなむ おもひしるへく
読人知らず恋一
572こからしのもりのした草風はやみ人のなけきはおひそひにけり
こからしの もりのしたくさ かせはやみ ひとのなけきは おひそひにけり
読人知らず恋一
573別をは悲しき物とききしかとうしろやすくもおもほゆるかな
わかれをは かなしきものと ききしかと うしろやすくも おもほゆるかな
読人知らず恋一
574なきたむるた本こほれるけさみれは心とけても君をおもはす
なきたむる たもとこほれる けさみれは こころとけても きみをおもはす
読人知らず恋一
575身をわけてあらまほしくそおもほゆる人はくるしといひけるものを
みをわけて あらまほしくそ おもほゆる ひとはくるしと いひけるものを
読人知らず恋一
576雲井にて人をこひしと思ふかな我は葦へのたつならなくに
くもゐにて ひとをこひしと おもふかな われはあしへの たつならなくに
読人知らず恋一
577あさちふのをののしの原忍ふれとあまりてなとか人のこひしき
あさちふの をののしのはら しのふれと あまりてなとか ひとのこひしき
源ひとしの朝臣恋一
578雨やまぬのきの玉水かすしらす恋しき事のまさるころかな
あめやまぬ のきのたまみつ かすしらす こひしきことの まさるころかな
兼盛王恋一
579伊勢の海にはへてもあまるたくなはの長き心は我そまされる
いせのうみに はへてもあまる たくなはの なかきこころは われそまされる
読人知らず恋一
580色にいてて恋すてふ名そたちぬへき涙にそむる袖のこけれは
いろにいてて こひすてふなそ たちぬへき なみたにそむる そてのこけれは
読人知らず恋一
581かくこふる物としりせはよるはおきてあくれはきゆるつゆならましを
かくこふる ものとしりせは よるはおきて あくれはきゆる つゆならましを
読人知らず恋一
582あひも見す歎きもそめす有りし時思ふ事こそ身になかりしか
あひもみす なけきもそめす ありしとき おもふことこそ みになかりしか
読人知らず恋一
583こひのことわりなき物はなかりけりかつむつれつつかつそ恋しき
こひのこと わりなきものは なかりけり かつむつれつつ かつそこひしき
読人知らず恋一
584わたつ海に深き心のなかりせは何かは君を怨みしもせん
わたつうみに ふかきこころの なかりせは なにかはきみを うらみしもせむ
読人知らず恋一
585みな神にいのるかひなく涙河うきても人をよそに見るかな
みなかみに いのるかひなく なみたかは うきてもひとを よそにみるかな
読人知らず恋一
586いのりけるみな神さへそうらめしきけふより外に影の見えねは
いのりける みなかみさへそ うらめしき けふよりほかに かけのみえねは
読人知らず恋一
587色深く染めした本のいととしくなみたにさへもこさまさるかな
いろふかく そめしたもとの いととしく なみたにさへも こさまさるかな
右大臣(師輔)恋一
588見る時は事そともなく見ぬ時はこと有りかほに恋しきやなそ
みるときは ことそともなく みぬときは ことありかほに こひしきやなそ
読人知らず恋一
589山さとのまきのいたともさささりきたのめし人をまちしよひより
やまさとの まきのいたとも さささりき たのめしひとを まちしよひより
読人知らず恋一
590ゆく方もなくせかれたる山水のいはまほしくもおもほゆるかな
ゆくかたも なくせかれたる やまみつの いはまほしくも おもほゆるかな
読人知らず恋一
591人のうへのこととしいへはしらぬかな君も恋する折もこそあれ
ひとのうへの こととしいへは しらぬかな きみもこひする をりもこそあれ
読人知らず恋一
592つらからはおなし心につらからんつれなき人をこひんともせす
つらからは おなしこころに つらからむ つれなきひとを こひむともせす
読人知らず恋一
593人しれす思ふ心はおほしまのなるとはなしになけくころかな
ひとしれす おもふこころは おほしまの なるとはなしに なけくころかな
読人知らず恋一
594はかなくておなし心になりにしを思ふかことは思ふらんやそ
はかなくて おなしこころに なりにしを おもふかことは おもふらむやそ
中務恋一
595わひしさをおなし心ときくからにわか身をすてて君そかなしき
わひしさを おなしこころと きくからに わかみをすてて きみそかなしき
源信明恋一
596定なくあたにちりぬる花よりはときはの松の色をやは見ぬ
さためなく あたにちりぬる はなよりは ときはのまつの いろをやはみぬ
源信明恋一
597住吉のわか身なりせは年ふとも松より外の色を見ましや
すみよしの わかみなりせは としふとも まつよりほかの いろをみましや
読人知らず恋一
598うつつにもはかなきことのあやしきはねなくにゆめの見ゆるなりけり
うつつにも はかなきことの あやしきは ねなくにゆめの みゆるなりけり
読人知らず恋一
599白浪のよるよる岸に立ちよりてねも見しものをすみよしの松
しらなみの よるよるきしに たちよりて ねもみしものを すみよしのまつ
読人知らず恋一
600なからへてあらぬまてにも事のはのふかきはいかにあはれなりけり
なからへて あらぬまてにも ことのはの ふかきはいかに あはれなりけり
読人知らず恋一
601人を見て思ふおもひもあるものをそらにこふるそはかなかりける
ひとをみて おもふおもひも あるものを そらにこふるそ はかなかりける
藤原忠房朝臣恋二
602ひとりのみおもへはくるし如何しておなし心に人ををしへむ
ひとりのみ おもへはくるし いかにして おなしこころに ひとををしへむ
壬生忠岑恋二
603わか心いつならひてか見ぬ人を思ひやりつつこひしかるらん
わかこころ いつならひてか みぬひとを おもひやりつつ こひしかるらむ
紀友則恋二
604葉をわかみほにこそいてね花すすきしたの心にむすはさらめや
はをわかみ ほにこそいてね はなすすき したのこころに むすはさらめや
源中正恋二
605あしひきの山したしけくはふくすの尋ねてこふる我としらすや
あしひきの やましたしけく はふくすの たつねてこふる われとしらすや
兼覧王恋二
606かくれぬに忍ひわひぬるわか身かなゐてのかはつと成りやしなまし
かくれぬに しのひわひぬる わかみかな ゐてのかはつと なりやしなまし
忠房朝臣恋二
607あふくまのきりとはなしに終夜立渡りつつ世をもふるかな
あふくまの きりとはなしに よもすから たちわたりつつ よをもふるかな
藤原輔文恋二
608あやしくもいとふにはゆる心かないかにしてかは思ひやむへき
あやしくも いとふにはゆる こころかな いかにしてかは おもひやむへき
読人知らず恋二
609ともかくもいふ事のはの見えぬかないつらはつゆのかかり所は
ともかくも いふことのはの みえぬかな いつらはつゆの かかりところは
本院右京恋二
610わひ人のそほつてふなる涙河おりたちてこそぬれ渡りけれ
わひひとの そほつてふなる なみたかは おりたちてこそ ぬれわたりけれ
橘敏仲恋二
611ふちせとも心もしらす涙河おりやたつへきそてのぬるるに
ふちせとも こころもしらす なみたかは おりやたつへき そてのぬるるに
大輔恋二
612心みに猶おりたたむなみたかはうれしきせにも流れあふやと
こころみに なほおりたたむ なみたかは うれしきせにも なかれあふやと
とし中恋二
613かかりける人の心をしらつゆのおける物ともたのみけるかな
かかりける ひとのこころを しらつゆの おけるものとも たのみけるかな
藤原敦忠朝臣恋二
614鴬の雲井にわひてなくこゑを春のさかとそ我はききつる
うくひすの くもゐにわひて なくこゑを はるのさかとそ われはききつる
藤原顕忠朝臣恋二
615かくはかり常なき世とはしりなから人をはるかに何たのみけん
かくはかり つねなきよとは しりなから ひとをはるかに なにたのみけむ
平時望朝臣恋二
616わかかとのひとむらすすきかりかはん君かてなれのこまもこぬかな
わかかとの ひとむらすすき かりかはむ きみかてなれの こまもこぬかな
こまちかあね恋二
617世を海のあわときえぬる身にしあれは怨むる事そかすなかりける
よをうみの あわときえぬる みにしあれは うらむることそ かすなかりける
枇杷左太臣恋二
618わたつみとたのめし事もあせぬれは我そわか身のうらはうらむる
わたつみと たのめしことも あせぬれは われそわかみの うらはうらむる
伊勢恋二
619あつまちのさののふな橋かけてのみ思渡るをしる人のなき
あつまちの さののふなはし かけてのみ おもひわたるを しるひとのなさ
源ひとしの朝臣恋二
620ふしてぬる夢ちにたにもあはぬ身は猶あさましきうつつとそ思ふ
ふしてぬる ゆめちにたにも あはぬみは なほあさましき うつつとそおもふ
紀良谷雄朝臣恋二
621あまのとをあけぬあけぬといひなしてそらなきしつる鳥のこゑかな
あまのとを あけぬあけぬと いひなして そらなきしつる とりのこゑかな
読人知らず恋二
622終夜ぬれてわひつる唐衣相坂山にみちまとひして
よもすから ぬれてわひつる からころも あふさかやまに みちまとひして
読人知らず恋二
623おもへともあやなしとのみいはるれはよるの錦の心ちこそすれ
おもへとも あやなしとのみ いはるれは よるのにしきの ここちこそすれ
読人知らず恋二
624おとにのみききこしみわの山よりもすきのかすをは我そ見えにし
おとにのみ ききこしみわの やまよりも すきのかすをは われそみえにし
読人知らず恋二
625なにはかたかりつむあしのあしつつのひとへも君を我やへたつる
なにはかた かりつむあしの あしつつの ひとへもきみを われやへたつる
藤原兼輔朝臣恋二
626わかことや君もこふらん白露のおきてもねてもそてそかわかぬ
わかことや きみもこふらむ しらつゆの おきてもねても そてそかわかぬ
読人知らず恋二
627つらくともあらんとそ思ふよそにても人やけぬるときかまほしさに
つらくとも あらむとそおもふ よそにても ひとやけぬると きかまほしさに
読人知らず恋二
628くれぬとてねてゆくへくもあらなくにたとるたとるもかへるまされり
くれぬとて ねてゆくへくも あらなくに たとるたとるも かへるまされり
在原業平朝臣恋二
629わりなしといふこそかつはうれしけれおろかならすと見えぬとおもへは
わりなしと いふこそかつは うれしけれ おろかならすと みえぬとおもへは
元良のみこ恋二
630わかこひをしらんと思ははたこの浦に立つらん浪のかすをかそへよ
わかこひを しらむとおもはは たこのうらに たつらむなみの かすをかそへよ
藤原興風恋二
631色ならは移るはかりも染めてまし思ふ心をえやは見せける
いろならは うつるはかりも そめてまし おもふこころを えやはみせける
紀貫之恋二
632葦引の山ひはすともふみかよふあとをも見ぬはくるしきものを
あしひきの やまひはすとも ふみかよふ あとをもみぬは くるしきものを
大江朝綱朝臣恋二
633おほかたはなそやわかなのをしからん昔のつまと人にかたらむ
おほかたは なそやわかなの をしからむ むかしのつまと ひとにかたらむ
貞元のみこ恋二
634人はいさ我はなきなのをしけれは昔も今もしらすとをいはん
ひとはいさ われはなきなの をしけれは むかしもいまも しらすとをいはむ
おほつふね恋二
635跡みれは心なくさのはまちとり今は声こそきかまほしけれ
あとみれは こころなくさの はまちとり いまはこゑこそ きかまほしけれ
読人知らず恋二
636河と見てわたらぬ中になかるるはいはて物思ふ涙なりけり
かはとみて わたらぬなかに なかるるは いはてものおもふ なみたなりけり
読人知らず恋二
637あまくもになきゆく雁のおとにのみきき渡りつつあふよしもなし
あまくもに なきゆくかりの おとにのみ ききわたりつつ あふよしもなし
橘公頼朝臣恋二
638住の江の浪にはあらねとよとともに心を君によせわたるかな
すみのえの なみにはあらねと よとともに こころをきみに よせわたるかな
紀貫之恋二
639見ぬほとに年のかはれはあふことのいやはるはるにおもほゆるかな
みぬほとに としのかはれは あふことの いやはるはるに おもほゆるかな
読人知らず恋二
640けふすきはしなましものを夢にてもいつこをはかと君かとはまし
けふすきは しなましものを ゆめにても いつこをはかと きみかとはまし
中将更衣恋二
641うつつにそとふへかりける夢とのみ迷ひしほとやはるけかりけん
うつつにそ とふへかりける ゆめとのみ まよひしほとや はるけかりけむ
延喜御製恋二
642流れてはゆく方もなし涙河わか身のうらや限なるらむ
なかれては ゆくかたもなし なみたかは わかみのうらや かきりなるらむ
藤原千かぬ恋二
643わか恋のかすにしとらは白妙のはまのまさこもつきぬへらなり
わかこひの かすにしとらは しろたへの はまのまさこも つきぬへらなり
在原棟梁恋二
644涙にも思ひのきゆる物ならせいとかくむねはこかささらまし
なみたにも おもひのきゆる ものならは いとかくむねは こかささらまし
紀貫之恋二
645しるしなき思ひやなそとあしたつのねになくまてにあはすわひしき
しるしなき おもひやなそと あしたつの ねになくまてに あはすわひしき
坂上是則恋二
646たまのをのたえてみしかきいのちもて年月なかきこひもするかな
たまのをの たえてみしかき いのちもて としつきなかき こひもするかな
紀貫之恋二
647我のみやもえてきえなんよとともに思ひもならぬふしのねのこと
われのみや もえてきえなむ よとともに おもひもならぬ ふしのねのこと
平定文恋二
648ふしのねのもえわたるともいかかせむけちこそしらね水ならぬ身は
ふしのねの もえわたるとも いかかせむ けちこそしらね みつならぬみは
きのめのと恋二
649わひわたるわか身はつゆをおなしくは君かかきねの草にきえなん
わひわたる わかみはつゆを おなしくは きみかかきねの くさにきえなむ
紀貫之恋二
650みるめかるなきさやいつこあふこなみ立ちよる方もしらぬわか身は
みるめかる なきさやいつこ あふこなみ たちよるかたも しらぬわかみは
在原元方恋二
651なるとよりさしいたされし舟よりも我そよるへもなき心地せし
なるとより さしいたされし ふねよりも われそよるへも なきここちせし
藤原滋幹恋二
652高砂の峰の白雲かかりける人の心をたのみけるかな
たかさこの みねのしらくも かかりける ひとのこころを たのみけるかな
読人知らず恋二
653よそにのみ松ははかなき住の江のゆきてさへこそ見まくほしけれ
よそにのみ まつははかなき すみのえの ゆきてさへこそ みまくほしけれ
延喜御製恋二
654かけろふに見しはかりにやはまちとりゆくへもしらぬ恋にまとはん
かけろふに みしはかりにや はまちとり ゆくへもしらぬ こひにまとはむ
源ひとしの朝臣恋二
655わたつみのそこのありかはしりなからかつきていらん浪のまそなき
わたつみの そこのありかは しりなから かつきていらむ なみのまそなき
藤原兼茂朝臣恋二
656つらしとも思ひそはてぬ涙河流れて人をたのむ心は
つらしとも おもひそはてぬ なみたかは なかれてひとを たのむこころは
橘実利朝臣恋二
657流れてと何たのむらん涙河影見ゆへくもおもほえなくに
なかれてと なにたのむらむ なみたかは かけみゆへくも おもほえなくに
読人知らず恋二
658何事を今はたのまんちはやふる神もたすけぬわか身なりけり
なにことを いまはたのまむ ちはやふる かみもたすけぬ わかみなりけり
平定文恋二
659ちはやふる神もみみこそなれぬらしさまさまいのる年もへぬれは
ちはやふる かみもみみこそ なれぬらし さまさまいのる としもへぬれは
おほつふね恋二
660怨みても身こそつらけれ唐衣きていたつらにかへすとおもへは
うらみても みこそつらけれ からころも きていたつらに かへすとおもへは
紀貫之恋二
661住吉の松にたちよる白浪のかへるをりにやねはなかるらむ
すみよしの まつにたちよる しらなみの かへるをりにや ねはなかるらむ
壬生忠岑恋二
662おもはむとたのめし事もあるものをなきなをたててたたにわすれね
おもはむと たのめしことも あるものを なきなをたてて たたにわすれね
読人知らず恋二
663かすかののとふひののもり見しものをなきなといははつみもこそうれ
かすかのの とふひののもり みしものを なきなといはは つみもこそうれ
読人知らず恋二
664わすられて思ふなけきのしけるをや身をはつかしのもりといふらん
わすられて おもふなけきの しけるをや みをはつかしの もりといふらむ
読人知らず恋二
665おもはんとたのめし人は有りときくいひし事のはいつちいにけん
おもはむと たのめしひとは ありときく いひしことのは いつちいにけむ
右近恋二
666さても猶まかきの島の有りけれはたちよりぬへくおもほゆるかな
さてもなほ まかきのしまの ありけれは たちよりぬへく おもほゆるかな
源清蔭朝臣恋二
667これはかく怨み所もなきものをうしろめたくはおもはさらなん
これはかく うらみところも なきものを うしろめたくは おもはさらなむ
読人知らず恋二
668思ひきやあひ見ぬことをいつよりとかそふはかりになさん物とは
おもひきや あひみぬことを いつよりと かそふはかりに なさむものとは
源信明恋二
669世のつねのねをしなかねは逢ふ事の涙の色もことにそありける
よのつねの ねをしなかねは あふことの なみたのいろも ことにそありける
藤原治方恋二
670白浪のよするいそまをこく舟のかちとりあへぬ恋もするかな
しらなみの よするいそまを こくふねの かちとりあへぬ こひもするかな
大伴黒主恋二
671こひしさはねぬになくさむともなきにあやしくあはぬめをもみるかな
こひしさは ねぬになくさむ ともなきに あやしくあはぬ めをもみるかな
源うかふ恋二
672ひさしくも恋ひわたるかなすみのえの岸に年ふる松ならなくに
ひさしくも こひわたるかな すみのえの きしにとしふる まつならなくに
源すくる恋二
673逢ふ事の世世をへたつるくれ竹のふしのかすなき恋もするかな
あふことの よよをへたつる くれたけの ふしのかすなき こひもするかな
藤原清正恋二
674今はてふ心つくはの山見れはこすゑよりこそ色かはりけれ
いまはてふ こころつくはの やまみれは こすゑよりこそ いろかはりけれ
読人知らず恋二
675かへりけんそらもしられすをはすての山よりいてし月を見しまに
かへりけむ そらもしられす をはすての やまよりいてし つきをみしまに
源重光朝臣恋二
676ふりとけぬ君かゆきけのしつくゆゑたもとにとけぬ氷しにけり
ふりとけぬ きみかゆきけの しつくゆゑ たもとにとけぬ こほりしにけり
きよたたか母恋二
677かた時も見ねはこひしき君をおきてあやしやいくよほかにねぬらん
かたときも みねはこひしき きみをおきて あやしやいくよ ほかにねぬらむ
藤原有文朝臣恋二
678思ひやる心にたくふ身なりせはひとひにちたひ君はみてまし
おもひやる こころにたくふ みなりせは ひとひにちたひ きみはみてまし
大江千古恋二
679逢ふ事はとほ山とりのかり衣きてはかひなきねをのみそなく
あふことは とほやまとりの かりころも きてはかひなき ねをのみそなく
元良親王恋二
680深くのみ思ふ心はあしのねのわけても人にあはんとそ思ふ
ふかくのみ おもふこころは あしのねの わけてもひとに あはむとそおもふ
敦慶親王恋二
681いさり火のよるはほのかにかくしつつ有りへはこひのしたにけぬへし
いさりひの よるはほのかに かくしつつ ありへはこひの したにけぬへし
藤原忠国恋二
682たちよらは影ふむはかりちかけれと誰かなこその関をすゑけん
たちよらは かけふむはかり ちかけれと たれかなこその せきをすゑけむ
小八条御息所恋二
683わか袖はなにたつすゑの松山かそらより浪のこえぬ日はなし
わかそては なにたつすゑの まつやまか そらよりなみの こえぬひはなし
土左恋二
684ひとりねのわひしきままにおきゐつつ月をあはれといみそかねつる
ひとりねの わひしきままに おきゐつつ つきをあはれと いみそかねつる
読人知らず恋二
685唐錦をしきわかなはたちはてて如何せよとか今はつれなき
からにしき をしきわかなは たちはてて いかにせよとか いまはつれなき
読人知らず恋二
686人つてにいふ事のはの中よりそ思ひつくはの山は見えける
ひとつてに いふことのはの うちよりそ おもひつくはの やまはみえける
読人知らず恋二
687たよりにもあらぬ思ひのあやしきは心を人につくるなりけり
たよりにも あらぬおもひの あやしきは こころをひとに つくるなりけり
紀貫之恋二
688人つまに心あやなくかけはしのあやふき道はこひにそ有りける
ひとつまに こころあやなく かけはしの あやふきみちは こひにそありける
読人知らず恋二
689いはて思ふ心ありそのはま風にたつしら浪のよるそわひしき
いはておもふ こころありその はまかせに たつしらなみの よるそわひしき
読人知らず恋二
690ひとりのみこふれはくるしよふことりこゑになきいてて君にきかせん
ひとりのみ こふれはくるし よふことり こゑになきいてて きみにきかせむ
読人知らず恋二
691ふしなくて君かたえにししらいとはよりつきかたき物にそ有りける
ふしなくて きみかたえにし しらいとは よりつきかたき ものにそありける
読人知らず恋二
692草枕このたひへつる年月のうきは帰りてうれしからなん
くさまくら このたひへつる としつきの うきはかへりて うれしからなむ
読人知らず恋二
693いてしより見えすなりにし月影は又山のはに入りやしにけん
いてしより みえすなりにし つきかけは またやまのはに いりやしにけむ
読人知らず恋二
694あしひきの山におふてふもろかつらもろともにこそいらまほしけれ
あしひきの やまにおふてふ もろかつら もろともにこそ いらまほしけれ
読人知らず恋二
695はま千鳥たのむをしれとふみそむるあとうちけつな我をこす浪
はまちとり たのむをしれと ふみそむる あとうちけつな われをこすなみ
平定文恋二
696ゆく水のせことにふまんあとゆゑにたのむしるしをいつれとかみん
ゆくみつの せことにふまむ あとゆゑに たのむしるしを いつれとかみむ
おほつ舟恋二
697つまにおふることなしくさを見るからにたのむ心そかすまさりける
つまにおふる ことなしくさを みるからに たのむこころそ かすまさりける
源もろあきらの朝臣恋二
698おくつゆのかかる物とはおもへともかれせぬ物はなてしこのはな
おくつゆの かかるものとは おもへとも かれせぬものは なてしこのはな
源もろあきらの朝臣恋二
699かれすともいかかたのまむなてしこの花はときはのいろにしあらねは
かれすとも いかかたのまむ なてしこの はなはときはの いろにしあらねは
源もろあきらの朝臣恋二
700名にしおはは相坂山のさねかつら人にしられてくるよしもかな
なにしおはは あふさかやまの さねかつら ひとにしられて くるよしもかな
三条右大臣(定方)十一恋三
701こひしとは更にもいはししたひものとけむを人はそれとしらなん
こひしとは さらにもいはし したひもの とけむをひとは それとしらなむ
在原元方十一恋三
702したひものしるしとするもとけなくにかたるかことはあらすもあるかな
したひもの しるしとするも とけなくに かたるかことは あらすもあるかな
読人知らず十一恋三
703うつつにもはかなき事のわひしきはねなくに夢と思ふなりけり
うつつにも はかなきことの わひしきは ねなくにゆめと おもふなりけり
読人知らず十一恋三
704たむけせぬ別れする身のわひしきは人めを旅と思ふなりけり
たむけせぬ わかれするみの わひしきは ひとめをたひと おもふなりけり
紀貫之十一恋三
705やとかへてまつにも見えすなりぬれはつらき所のおほくもあるかな
やとかへて まつにもみえす なりぬれは つらきところの おほくもあるかな
読人知らず十一恋三
706おもはむとたのめし人はかはらしをとはれぬ我やあらぬなるらん
おもはむと たのめしひとは かはらしを とはれぬわれや あらぬなるらむ
読人知らず十一恋三
707いたつらにたひたひしぬといふめれはあふには何をかへんとすらん
いたつらに たひたひしぬと いふめれは あふにはなにを かへむとすらむ
中務十一恋三
708しぬしぬときくきくたにもあひみねはいのちをいつのよにかのこさん
しぬしぬと きくきくたにも あひみねは いのちをいつの よにかのこさむ
源信明十一恋三
709ゑにかける鳥とも人を見てしかなおなし所をつねにとふへく
ゑにかける とりともひとを みてしかな おなしところを つねにとふへく
本院侍従十一恋三
710昔せしわかかね事の悲しきは如何ちきりしなこりなるらん
むかしせし わかかねことの かなしきは いかにちきりし なこりなるらむ
平定文十一恋三
711うつつにて誰契りけん定なき夢ちに迷ふ我はわれかは
うつつにて たれちきりけむ さためなき ゆめちにまよふ われはわれかは
読人知らず十一恋三
712くれはとりあやに恋しく有りしかはふたむら山もこえすなりにき
くれはとり あやにこひしく ありしかは ふたむらやまも こえすなりにき
清原諸実十一恋三
713唐衣たつををしみし心こそふたむら山のせきとなりけめ
からころも たつををしみし こころこそ ふたむらやまの せきとなりけめ
読人知らず十一恋三
714夢かとも思ふへけれとおほつかなねぬにみしかはわきそかねつる
ゆめかとも おもふへけれと おほつかな ねぬにみしかは わきそかねつる
きよなりか女十一恋三
715そらしらぬ雨にもぬるるわか身かなみかさの山をよそにききつつ
そらしらぬ あめにもぬるる わかみかな みかさのやまを よそにききつつ
読人知らず十一恋三
716もろともにをるともなしに打ちとけて見えにけるかなあさかほの花
もろともに をるともなしに うちとけて みえにけるかな あさかほのはな
読人知らず十一恋三
717ももしきはをののえくたす山なれや入りにし人のおとつれもせぬ
ももしきは をののえくたす やまなれや いりにしひとの おとつれもせぬ
読人知らず十一恋三
718すすか山いせをのあまのすて衣しほなれたりと人やみるらん
すすかやま いせをのあまの すてころも しほなれたりと ひとやみるらむ
藤原伊尹十一恋三
719いかて我人にもとはん暁のあかぬ別やなにににたりと
いかてわれ ひとにもとはむ あかつきの あかぬわかれや なにににたりと
紀貫之十一恋三
720恋しきにきえかへりつつあさつゆのけさはおきゐん心地こそせね
こひしきに きえかへりつつ あさつゆの けさはおきゐむ ここちこそせね
在原行平朝臣十一恋三
721しののめにあかて別れした本をそつゆやわけしと人はとかむる
しののめに あかてわかれし たもとをそ つゆやわけしと ひとはとかむる
読人知らず十一恋三
722こひしきも思ひこめつつあるものを人にしらるる涙なになり
こひしきも おもひこめつつ あるものを ひとにしらるる なみたなになり
平中興十一恋三
723相坂のこのしたつゆにぬれしよりわか衣手は今もかわかす
あふさかの このしたつゆに ぬれしより わかころもては いまもかわかす
藤原兼輔朝臣十一恋三
724君を思ふ心を人にこゆるきのいそのたまもやいまもからまし
きみをおもふ こころをひとに こゆるきの いそのたまもや いまもからまし
躬恒十一恋三
725なき名そと人にはいひて有りぬへし心のとははいかかこたへん
なきなそと ひとにはいひて ありぬへし こころのとはは いかかこたへむ
読人知らず十一恋三
726きよけれと玉ならぬ身のわひしきはみかける物にいはぬなりけり
きよけれと たまならぬみの わひしきは みかけるものに いはぬなりけり
伊勢十一恋三
727逢ふ事をいさほにいてなんしのすすき忍ひはつへき物ならなくに
あふことを いさほにいてなむ しのすすき しのひはつへき ものならなくに
藤原敦忠朝臣十一恋三
728あひみてもわかるる事のなかりせはかつかつ物はおもはさらまし
あひみても わかるることの なかりせは かつかつものは おもはさらまし
読人知らず十一恋三
729いつのまにこひしかるらん唐衣ぬれにし袖のひるまはかりに
いつのまに こひしかるらむ からころも ぬれにしそての ひるまはかりに
閑院左大臣十一恋三
730別れつるほともへなくに白浪の立帰りても見まくほしきか
わかれつる ほともへなくに しらなみの たちかへりても みまくほしきか
紀貫之十一恋三
731人しれぬ身はいそけとも年をへてなとこえかたき相坂の関
ひとしれぬ みはいそけとも としをへて なとこえかたき あふさかのせき
藤原伊尹十一恋三
732あつまちにゆきかふ人にあらぬ身はいつかはこえむ相坂の関
あつまちに ゆきかふひとに あらぬみは いつかはこえむ あふさかのせき
小野好古朝臣女十一恋三
733つれもなき人にまけしとせし程に我もあたなは立ちそしにける
つれもなき ひとにまけしと せしほとに われもあたなは たちそしにける
藤原清正十一恋三
734つらからぬ中にあるこそうとしといへ隔てはててしきぬにやはあらぬ
つらからぬ なかにあるこそ うとしといへ へたてはててし きぬにやはあらぬ
小野遠興かむすめ十一恋三
735ときはなる日かけのかつらけふしこそ心の色にふかく見えけれ
ときはなる ひかけのかつら けふしこそ こころのいろに ふかくみえけれ
もろまさの朝臣十一恋三
736誰となくかかるおほみにふかからん色をときはにいかかたのまん
たれとなく かかるおほみに ふかからむ いろをときはに いかかたのまむ
閑院のおほい君十一恋三
737講となくおほろに見えし月影にわける心を思ひしらなん
たれとなく おほろにみえし つきかけに わけるこころを おもひしらなむ
藤原清正十一恋三
738春をたにまたてなきぬる鴬はふるすはかりの心なりけり
はるをたに またてなきぬる うくひすは ふるすはかりの こころなりけり
本院兵衛十一恋三
739ゆふされはわか身のみこそかなしけれいつれの方に枕さためむ
ゆふされは わかみのみこそ かなしけれ いつれのかたに まくらさためむ
かねもちの朝臣女十一恋三
740夢にたにまたみえなくにこひしきはいつにならへる心なるらん
ゆめにたに またみえなくに こひしきは いつにならへる こころなるらむ
在原元方十一恋三
741思ふてふ事をそねたくふるしける君にのみこそいふへかりけれ
おもふてふ ことをそねたく ふるしける きみにのみこそ いふへかりけれ
壬生忠岑十一恋三
742あな恋しゆきてや見ましつのくにの今も有りてふ浦のはつ島
あなこひし ゆきてやみまし つのくにの いまもありてふ うらのはつしま
戒仙法師十一恋三
743月かへて君をは見むといひしかと日たにへたてすこひしきものを
つきかへて きみをはみむと いひしかと ひたにへたてす こひしきものを
紀貫之十一恋三
744伊勢の海にしほやくあまの藤衣なるとはすれとあはぬ君かな
いせのうみに しほやくあまの ふちころも なるとはすれと あはぬきみかな
躬恒十一恋三
745わたのそこかつきてしらん君かため思ふ心のふかさくらへに
わたのそこ かつきてしらむ きみかため おもふこころの ふかさくらへに
坂上是則十一恋三
746唐衣かけてたのまぬ時そなき人のつまとは思ふものから
からころも かけてたのまぬ ときそなき ひとのつまとは おもふものから
右近十一恋三
747あらかりし浪の心はつらけれとすこしによせしこゑそこひしき
あらかりし なみのこころは つらけれと すこしによせし こゑそこひしき
藤原守正十一恋三
748いつ方に立ちかくれつつ見よとてかおもひくまなく人のなりゆく
いつかたに たちかくれつつ みよとてか おもひくまなく ひとのなりゆく
藤原のちかけの朝臣十一恋三
749つらきをもうきをもよそに見しかともわか身にちかき世にこそ有りけれ
つらきをも うきをもよそに みしかとも わかみにちかき よにこそありけれ
土左十一恋三
750ふちはせになりかはるてふあすかかは渡り見てこそしるへかりけれ
ふちはせに なりかはるてふ あすかかは わたりみてこそ しるへかりけれ
在原元方十一恋三
751いとはるる身をうれはしみいつしかとあすか河をもたのむへらなり
いとはるる みをうれはしみ いつしかと あすかかはをも たのむへらなり
伊勢十一恋三
752あすか河せきてととむる物ならはふちせになると何かいはせん
あすかかは せきてととむる ものならは ふちせになると なにかいはせむ
贈太攻大臣(時平)十一恋三
753葦たつの沢辺に年はへぬれとも心は雲のうへにのみこそ
あしたつの さはへにとしは へぬれとも こころはくもの うへにのみこそ
右大臣(師輔)十一恋三
754あしたつのくもゐにかかる心あらは世をへてさはにすますそあらまし
あしたつの くもゐにかかる こころあらは よをへてさはに すますそあらまし
女四のみこ十一恋三
755松山につらきなからも浪こさむ事はさすかに悲しきものを
まつやまに つらきなからも なみこさむ ことはさすかに かなしきものを
贈太攻大臣(時平)十一恋三
756夜ひのまにはやなくさめよいその神ふりにしとこもうちはらふへく
よひのまに はやなくさめよ いそのかみ ふりにしとこも うちはらふへく
枇杷左大臣十一恋三
757わたつみとあれにしとこを今更にはらはは袖やあわとうきなん
わたつみと あれにしとこを いまさらに はらははそてや あわとうきなむ
伊勢十一恋三
758しほのまにあさりするあまもおのか世世かひ有りとこそ思ふへらなれ
しほのまに あさりするあまも おのかよよ かひありとこそ おもふへらなれ
紀長谷雄朝臣十一恋三
759あちきなくなとか松山浪こさむ事をはさらに思ひはなるる
あちきなく なとかまつやま なみこさむ ことをはさらに おもひはなるる
贈太攻大臣(時平)十一恋三
760岸もなくしほしみちなは松山をしたにて浪はこさんとそ思ふ
きしもなく しほしみちなは まつやまを したにてなみは こさむとそおもふ
伊勢十一恋三
761世とともになけきこりつむ身にしあれはなそやまもりのあるかひもなき
よとともに なけきこりつむ みにしあれは なそやまもりの あるかひもなき
在原業平のむすめいまき十一恋三
762ひとしれぬわか物思ひの涙をは袖につけてそ見すへかりける
ひとしれぬ わかものおもひの なみたをは そてにつけてそ みすへかりける
読人知らず十一恋三
763山のはにかかる思ひのたえさらは雲井なからもあはれとおもはん
やまのはに かかるおもひの たえさらは くもゐなからも あはれとおもはむ
藤原真忠かいもうと十一恋三
764なきなかす涙のいととそひぬれははかなきみつも袖ぬらしけり
なきなかす なみたのいとと そひぬれは はかなきみつも そてぬらしけり
もろうちの朝臣十一恋三
765夢のことはかなき物はなかりけりなにとて人にあふとみつらん
ゆめのこと はかなきものは なかりけり なにとてひとに あふとみつらむ
源たのむ十一恋三
766思ひねのよなよな夢に逢ふ事をたたかた時のうつつともかな
おもひねの よなよなゆめに あふことを たたかたときの うつつともかな
読人知らず十一恋三
767時のまのうつつをしのふ心こそはかなきゆめにまさらさりけれ
ときのまの うつつをしのふ こころこそ はかなきゆめに まさらさりけれ
読人知らず十一恋三
768玉津島ふかき入江をこく舟のうきたるこひも我はするかな
たまつしま ふかきいりえを こくふねの うきたるこひも われはするかな
大伴黒主十一恋三
769つのくにのなにはたたまくをしみこそすくもたくひのしたにこかるれ
つのくにの なにはたたまく をしみこそ すくもたくひの したにこかるれ
紀内親王十一恋三
770夢ちにもやとかす人のあらませはねさめにつゆははらはさらまし
ゆめちにも やとかすひとの あらませは ねさめにつゆは はらはさらまし
読人知らず十一恋三
771涙河なかすねさめもあるものをはらふはかりのつゆやなになり
なみたかは なかすねさめも あるものを はらふはかりの つゆやなになり
読人知らず十一恋三
772みるめかる方そあふみになしときく玉もをさへやあまはかつかぬ
みるめかる かたそあふみに なしときく たまもをさへや あまはかつかぬ
読人知らず十一恋三
773名のみして逢ふ事浪のしけきまにいつかたまもをあまはかつかん
なのみして あふことなみの しけきまに いつかたまもを あまはかつかむ
読人知らず十一恋三
774葛木やくめちのはしにあらはこそ思ふ心をなかそらにせめ
かつらきや くめちのはしに あらはこそ おもふこころを なかそらにせめ
読人知らず十一恋三
775かくれぬにすむをしとりのこゑたえすなけとかひなき物にそ有りける
かくれぬに すむをしとりの こゑたえす なけとかひなき ものにそありける
右大臣(師輔)十一恋三
776つくはねの峰よりおつるみなの河恋そつもりて淵となりける
つくはねの みねよりおつる みなのかは こひそつもりて ふちとなりける
陽成院御製十一恋三
777かりかねのくもゐはるかにきこえしは今は限のこゑにそありける
かりかねの くもゐはるかに きこえしは いまはかきりの こゑにそありける
読人知らず十一恋三
778今はとて行きかへりぬるこゑならはおひ風にてもきこえましやは
いまはとて ゆきかへりぬる こゑならは おひかせにても きこえましやは
兼覧王十一恋三
779心からうきたる舟にのりそめてひと日も浪にぬれぬ日そなき
こころから うきたるふねに のりそめて ひとひもなみに ぬれぬひそなき
小野小町十一恋三
780忘れなんと思ふ心のやすからはつれなき人をうらみましやは
わすれなむと おもふこころの やすからは つれなきひとを うらみましやは
読人知らず十一恋三
781ちはやふる神ひきかけてちかひてしこともゆゆしくあらかふなゆめ
ちはやふる かみひきかけて ちかひてし こともゆゆしく あらかふなゆめ
藤原滋幹十一恋三
782おもひには我こそいりてまとはるれあやなく君や涼しかるへき
おもひには われこそいりて まとはるれ あやなくきみや すすしかるへき
右大臣(師輔)十一恋三
783あらたまの年もこえぬる松山の浪の心はいかかなるらむ
あらたまの としもこえぬる まつやまの なみのこころは いかかなるらむ
元平のみこのむすめ十一恋三
784わかためはいととあさくやなりぬらん野中のし水ふかさまされは
わかためは いととあさくや なりぬらむ のなかのしみつ ふかさまされは
読人知らず十一恋三
785あふみちをしるへなくてもみてしかな関のこなたはわひしかりけり
あふみちを しるへなくても みてしかな せきのこなたは わひしかりけり
源中正十一恋三
786道しらてやみやはしなぬ相坂の関のあなたは海といふなり
みちしらて やみやはしなぬ あふさかの せきのあなたは うみといふなり
しもつけ十一恋三
787つれなきを思ひしのふのさねかつらはてはくるをも厭ふなりけり
つれなきを おもひしのふの さねかつら はてはくるをも いとふなりけり
読人知らず十一恋三
788今更に思ひいてしとしのふるをこひしきにこそわすれわひぬれ
いまさらに おもひいてしと しのふるを こひしきにこそ わすれわひぬれ
左太臣(実頼)十一恋三
789わかためは見るかひもなし忘草わするはかりのこひにしあらねは
わかためは みるかひもなし わすれくさ わするはかりの こひにしあらねは
紀長谷雄朝臣十一恋三
790あひ見てもつつむ思ひのわひしきは人まにのみそねはなかれける
あひみても つつむおもひの わひしきは ひとまにのみそ ねはなかれける
藤原ありよし十一恋三
791を山田のなはしろ水はたえぬとも心の池のいひははなたし
をやまたの なはしろみつは たえぬとも こころのいけの いひははなたし
読人知らず十一恋三
792千世へむと契りおきてし姫松のねさしそめてしやとはわすれし
ちよへむと ちきりおきてし ひめまつの ねさしそめてし やとはわすれし
読人知らず十一恋三
793これを見よ人もすさめぬ恋すとてねをなくむしのなれるすかたを
これをみよ ひともすさへぬ こひすとて ねをなくむしの なれるすかたを
源重光朝臣十一恋三
794あひみてはなくさむやとそ思ひしになこりしもこそこひしかりけれ
あひみては なくさむやとそ おもひしに なこりしもこそ こひしかりけれ
坂上是則十一恋三
795わか恋のかすをかそへはあまの原くもりふたかりふる雨のこと
わかこひの かすをかそへは あまのはら くもりふたかり ふるあめのこと
藤原敏行朝臣十二恋四
796打返し見まくそほしき故郷のやまとなてしこ色やかはれる
うちかへし みまくそほしき ふるさとの やまとなてしこ いろやかはれる
読人知らず十二恋四
797やまひこのこゑにたてても年はへぬわか物思ひをしらぬ人きけ
やまひこの こゑにたてても としはへぬ わかものおもひを しらぬひときけ
枇杷左大臣十二恋四
798玉もかるあまにはあらねとわたつみのそこひもしらす入る心かな
たまもかる あまにはあらねと わたつみの そこひもしらす いるこころかな
紀友則十二恋四
799みるもなくめもなき海のいそにいててかへるかへるも怨みつるかな
みるもなく めもなきうみの いそにいてて かへるかへるも うらみつるかな
紀友則十二恋四
800こりすまの浦の白浪立ちいててよるほともなくかへるはかりか
こりすまの うらのしらなみ たちいてて よるほともなく かへるはかりか
読人知らず十二恋四
801関こえてあはつのもりのあはすともし水にみえしかけをわするな
せきこえて あはつのもりの あはすとも しみつにみえし かけをわするな
読人知らず十二恋四
802ちかけれは何かはしるし相坂の関の外そと思ひたえなん
ちかけれは なにかはしるし あふさかの せきのほかそと おもひたえなむ
読人知らず十二恋四
803今はとてこすゑにかかる空蝉のからを見むとは思はさりしを
いまはとて こすゑにかかる うつせみの からをみむとは おもはさりしを
平なかきかむすめ十二恋四
804わすらるる身をうつせみの唐衣返すはつらき心なりけり
わすらるる みをうつせみの からころも かへすはつらき こころなりけり
源巨城十二恋四
805影にたに見えもやするとたのみつるかひなくこひをます鏡かな
かけにたに みえもやすると たのみつる かひなくこひを ますかかみかな
読人知らず十二恋四
806葦引の山田のそほつうちわひてひとりかへるのねをそなきぬる
あしひきの やまたのそほつ うちわひて ひとりかへるの ねをそなきぬる
読人知らず十二恋四
807たねはあれと逢ふ事かたきいはのうへの松にて年をふるはかひなし
たねはあれと あふことかたき いはのうへの まつにてとしを ふるはかひなし
読人知らず十二恋四
808ひたすらにいとひはてぬる物ならはよしのの山にゆくへしられし
ひたすらに いとひはてぬる ものならは よしののやまに ゆくへしられし
贈太攻大臣(時平)十二恋四
809わかやととたのむ吉野に君しいらはおなしかさしをさしこそはせめ
わかやとと たのむよしのに きみしいらは おなしかさしを さしこそはせめ
伊勢十二恋四
810紅に袖をのみこそ染めてけれ君をうらむる涙かかりて
くれなゐに そてをのみこそ そめてけれ きみをうらむる なみたかかりて
読人知らず十二恋四
811紅に涙うつるとききしをはなといつはりとわか思ひけん
くれなゐに なみたうつると ききしをは なといつはりと われおもひけむ
読人知らず十二恋四
812くれなゐに涙しこくは緑なる袖も紅葉と見えましものを
くれなゐに なみたしこくは みとりなる そてももみちと みえましものを
読人知らず十二恋四
813いにしへの野中のし水見るからにさしくむ物は涙なりけり
いにしへの のなかのしみつ みるからに さしくむものは なみたなりけり
読人知らず十二恋四
814あまくものはるるよもなくふる物は袖のみぬるる涙なりけり
あまくもの はるるよもなく ふるものは そてのみぬるる なみたなりけり
読人知らず十二恋四
815逢ふ事のかたふたかりて君こすは思ふ心のたかふはかりそ
あふことの かたふたかりて きみこすは おもふこころの たかふはかりそ
読人知らず十二恋四
816ときはにとたのめし事は松ほとのひさしかるへき名にこそありけれ
ときはにと たのめしことは まつほとの ひさしかるへき なにこそありけれ
読人知らず十二恋四
817こさまさる涙の色もかひそなき見すへき人のこの世ならねは
こさまさる なみたのいろも かひそなき みすへきひとの このよならねは
読人知らず十二恋四
818住吉の岸にきよするおきつ浪まなくかけてもおもほゆるかな
すみよしの きしにきよする おきつなみ まなくかけても おもほゆるかな
読人知らず十二恋四
819すみの江のめにちかからは岸にゐて浪のかすをもよむへきものを
すみのえの めにちかからは きしにゐて なみのかすをも よむへきものを
伊勢十二恋四
820こひてへむと思ふ心のわりなさはしにてもしれよわすれかたみに
こひてへむと おもふこころの わりなさは しにてもしれよ わすれかたみに
伊勢十二恋四
821もしもやとあひ見む事をたのますはかくふるほとにまつそけなまし
もしもやと あひみむことを たのますは かくふるほとに まつそけなまし
贈太攻大臣(時平)十二恋四
822あふとたにかたみにみゆる物ならはわするるほともあらましものを
あふとたに かたみにみゆる ものならは わするるほとも あらましものを
読人知らず十二恋四
823おとにのみ声をきくかなあしひきの山した水にあらぬものから
おとにのみ こゑをきくかな あしひきの やましたみつに あらぬものから
読人知らず十二恋四
824秋とてや今は限の立ちぬらんおもひにあへぬ物ならなくに
あきとてや いまはかきりの たちぬらむ おもひにあへぬ ものならなくに
伊勢十二恋四
825見し夢の思ひいてらるるよひことにいはぬをしるは涙なりけり
みしゆめの おもひいてらるる よひことに いはぬをしるは なみたなりけり
伊勢十二恋四
826白露のおきてあひ見ぬ事よりはきぬ返しつつねなんとそ思ふ
しらつゆの おきてあひみぬ ことよりは きぬかへしつつ ねなむとそおもふ
読人知らず十二恋四
827事のははなけなる物といひなからおもはぬためは君もしるらん
ことのはは なけなるものと いひなから おもはぬためは きみもしるらむ
読人知らず十二恋四
828白浪の打ちいつるはまのはまちとり跡やたつぬるしるへなるらん
しらなみの うちいつるはまの はまちとり あとやたつぬる しるへなるらむ
朝忠朝臣十二恋四
829おほしまに水をはこひしはや舟のはやくも人にあひみてしかな
おほしまに みつをはこひし はやふねの はやくもひとに あひみてしかな
大江朝綱朝臣十二恋四
830ひたふるに思ひなわひそふるさるる人の心はそれそよのつね
ひたふるに おもひなわひそ ふるさるる ひとのこころは それそよのつね
贈太攻大臣(時平)十二恋四
831世のつねの人の心をまたみねはなにかこのたひけぬへきものを
よのつねの ひとのこころを またみねは なにかこのたひ けぬへきものを
伊勢十二恋四
832すみそめのくらまの山にいる人はたとるたとるも帰りきななん
すみそめの くらまのやまに いるひとは たとるたとるも かへりきななむ
平なかきかむすめ十二恋四
833日をへても影に見ゆるはたまかつらつらきなからもたえぬなりけり
ひをへても かけにみゆるは たまかつら つらきなからも たえぬなりけり
伊勢十二恋四
834高砂の松を緑と見し事はしたのもみちをしらぬなりけり
たかさこの まつをみとりと みしことは したのもみちを しらぬなりけり
読人知らず十二恋四
835時わかね松の緑も限なきおもひには猶色やもゆらん
ときわかぬ まつのみとりも かきりなき おもひにはなほ いろやもゆらむ
読人知らず十二恋四
836水鳥のはかなきあとに年をへてかよふはかりのえにこそ有りけれ
みつとりの はかなきあとに としをへて かよふはかりの えにこそありけれ
読人知らず十二恋四
837浪のうへに跡やは見ゆる水鳥のうきてへぬらん年はかすかは
なみのうへに あとやはみゆる みつとりの うきてへぬらむ としはかすかは
読人知らず十二恋四
838流れよるせせの白浪あさけれはとまるいな舟かへるなるへし
なかれよる せせのしらなみ あさけれは とまるいなふね かへるなるへし
読人知らず十二恋四
839もかみ河ふかきにもあへすいな舟の心かるくも帰るなるかな
もかみかは ふかきにもあへす いなふねの こころかろくも かへるなるかな
三条右大臣(定方)十二恋四
840花すすきほにいつる事もなきものをまたき吹きぬる秋の風かな
はなすすき ほにいつることも なきものを またきふきぬる あきのかせかな
読人知らず十二恋四
841またさりし秋はきぬれとみし人の心はよそになりもゆくかな
またさりし あきはきぬれと みしひとの こころはよそに なりもゆくかな
なかきかむすめ十二恋四
842君を思ふ心なかさは秋の夜にいつれまさるとそらにしらなん
きみをおもふ こころなかさは あきのよに いつれまさると そらにしらなむ
源是茂朝臣十二恋四
843鏡山あけてきつれは秋きりのけさやたつらんあふみてふなは
かかみやま あけてきつれは あききりの けさやたつらむ あふみてふなは
坂上つねかけ十二恋四
844枝もなく人にをらるる女郎花ねをたにのこせうゑしわかため
えたもなく ひとにをらるる をみなへし ねをたにのこせ うゑしわかため
平まれよの朝臣十二恋四
845秋の田のかりそめふしもしてけるかいたつらいねをなににつままし
あきのたの かりそめふしも してけるか いたつらいねを なににつままし
藤原成国十二恋四
846秋風の吹くにつけてもとはぬかな荻の葉ならはおとはしてまし
あきかせの ふくにつけても とはぬかな をきのはならは おとはしてまし
中務十二恋四
847君見すていく世へぬらん年月のふるとともにもおつるなみたか
きみみすて いくよへぬらむ としつきの ふるとともにも おつるなみたか
読人知らず十二恋四
848中中に思ひかけては唐衣身になれぬをそうらむへらなる
なかなかに おもひかけては からころも みになれぬをそ うらむへらなる
読人知らず十二恋四
849怨むともかけてこそみめ唐衣身になれぬれはふりぬとかきく
うらむとも かけてこそみめ からころも みになれぬれは ふりぬとかきく
読人知らず十二恋四
850なけけともかひなかりけり世中になににくやしく思ひそめけむ
なけけとも かひなかりけり よのなかに なににくやしく おもひそめけむ
読人知らず十二恋四
851こぬ人を松のえにふる白雪のきえこそかへれくゆる思ひに
こぬひとを まつのえにふる しらゆきの きえこそかへれ くゆるおもひに
承香殿中納言十二恋四
852菊の花うつる心をおくしもにかへりぬへくもおもほゆるかな
きくのはな うつるこころを おくしもに かへりぬへくも おもほゆるかな
読人知らず十二恋四
853今はとてうつりはてにし菊の花かへる色をはたれかみるへき
いまはとて うつりはてにし きくのはな かへるいろをは たれかみるへき
読人知らず十二恋四
854なかめしてもりもわひぬる人めかないつかくもまのあらんとすらん
なかめして もりもわひぬる ひとめかな いつかくもまの あらむとすらむ
読人知らず十二恋四
855おなしくは君とならひの池にこそ身をなけつとも人にきかせめ
おなしくは きみとならひの いけにこそ みをなけつとも ひとにきかせめ
読人知らず十二恋四
856かけろふのほのめきつれはゆふくれの夢かとのみそ身をたとりつる
かけろふの ほのめきつれは ゆふくれの ゆめかとのみそ みをたとりつる
読人知らず十二恋四
857ほのみてもめなれにけりときくからにふしかへりこそしなまほしけれ
ほのみても めなれにけりと きくからに ふしかへりこそ しなまほしけれ
読人知らず十二恋四
858あふみてふ方のしるへもえてしかな見るめなきことゆきてうらみん
あふみてふ かたのしるへも えてしかな みるめなきこと ゆきてうらみむ
源よしの朝臣十二恋四
859相坂の関ともらるる我なれは近江てふらん方もしられす
あふさかの せきともらるる われなれは あふみてふらむ かたもしられす
春澄善縄朝臣女十二恋四
860葦引の山した水のこかくれてたきつ心をせきそかねつる
あしひきの やましたみつの こかくれて たきつこころを せきそかねつる
よしの朝臣十二恋四
861こかくれてたきつ山水いつれかはめにしも見ゆるおとにこそきけ
こかくれて たきつやまみつ いつれかは めにしもみゆる おとにこそきけ
読人知らず十二恋四
862暁のなからましかは白露のおきてわひしき別せましや
あかつきの なからましかは しらつゆの おきてわひしき わかれせましや
紀貫之十二恋四
863おきて行く人の心をしらつゆの我こそまつは思ひきえぬれ
おきてゆく ひとのこころを しらつゆの われこそまつは おもひきえぬれ
読人知らず十二恋四
864高砂の松といひつつ年をへてかはらぬ色ときかはたのまむ
たかさこの まつといひつつ としをへて かはらぬいろと きかはたのまむ
読人知らず十二恋四
865風をいたみくゆる煙のたちいてても猶こりすまのうらそこひしき
かせをいたみ くゆるけふりの たちいてても なほこりすまの うらそこひしき
紀貫之十二恋四
866いはねともわか限なき心をは雲ゐにとほき人もしらなん
いはねとも わかかきりなき こころをは くもゐにとほき ひともしらなむ
読人知らず十二恋四
867君かねにくらふの山の郭公いつれあたなるこゑまさるらん
きみかねに くらふのやまの ほとときす いつれあたなる こゑまさるらむ
読人知らず十二恋四
868こひてぬる夢ちにかよふたましひのなるるかひなくうとききみかな
こひてぬる ゆめちにかよふ たましひの なるるかひなく うとききみかな
読人知らず十二恋四
869かかり火にあらぬおもひのいかなれは涙の河にうきてもゆらん
かかりひに あらぬおもひの いかなれは なみたのかはに うきてもゆらむ
読人知らず十二恋四
870まちくらす日はすかのねにおもほえてあふよしもなとたまのをならん
まちくらす ひはすかのねに おもほえて あふよしもなと たまのをならむ
読人知らず十二恋四
871はかなかる夢のしるしにはかられてうつつにまくる身とやなりなん
はかなかる ゆめのしるしに はかられて うつつにまくる みとやなりなむ
読人知らず十二恋四
872思ひねの夢といひてもやみなまし中中なにに有りとしりけん
おもひねの ゆめといひても やみなまし なかなかなにに ありとしりけむ
読人知らず十二恋四
873いつしかのねになきかへりこしかとものへのあさちは色つきにけり
いつしかの ねになきかへり こしかとも のへのあさちは いろつきにけり
忠房朝臣十二恋四
874ひきまゆのかくふたこもりせまほしみくはこきたれてなくを見せはや
ひきまゆの かくふたこもり せまほしみ くはこきたれて なくをみせはや
忠房朝臣十二恋四
875関山の峰のすきむらすきゆけと近江は猶そはるけかりける
せきやまの みねのすきむら すきゆけと あふみはなほそ はるけかりける
読人知らず十二恋四
876思ひいてておとつれしける山ひこのこたへにこりぬ心なになり
おもひいてて おとつれしける やまひこの こたへにこりぬ こころなになり
読人知らず十二恋四
877まとろまぬものからうたてしかすかにうつつにもあらぬ心地のみする
まとろまぬ ものからうたて しかすかに うつつにもあらぬ ここちのみする
読人知らず十二恋四
878うつつにもあらぬ心は夢なれや見てもはかなき物を思へは
うつつにも あらぬこころは ゆめなれや みてもはかなき ものをおもへは
読人知らず十二恋四
879限なく思ひいり日のともにのみ西の山へをなかめやるかな
かきりなく おもひいりひの ともにのみ にしのやまへを なかめやるかな
小野道風朝臣十二恋四
880君かなの立つにとかなき身なりせはおほよそ人になしてみましや
きみかなの たつにとかなき みなりせは おほよそひとに なしてみましや
忠房朝臣十二恋四
881たえぬると見れはあひぬる白雲のいとおほよそにおもはすもかな
たえぬると みれはあひぬる しらくもの いとおほよそに おもはすもかな
女五のみこ十二恋四
882けふそへにくれさらめやはとおもへともたへぬは人の心なりけり
けふそへに くれさらめやはと おもへとも たへぬはひとの こころなりけり
藤原敦忠朝臣十二恋四
883いとかくてやみぬるよりはいなつまのひかりのまにも君をみてしか
いとかくて やみぬるよりは いなつまの ひかりのまにも きみをみてしか
大輔十二恋四
884いたつらに立帰りにし白浪のなこりに袖のひる時もなし
いたつらに たちかへりにし しらなみの なこりにそての ひるときもなし
朝忠朝臣十二恋四
885何にかは袖のぬるらん白浪のなこり有りけも見えぬ心を
なににかは そてのぬるらむ しらなみの なこりありけも みえぬこころを
大輔十二恋四
886ちかひても猶思ふにはまけにけりたかためをしきいのちならねは
ちかひても なほおもふには まけにけり たかためをしき いのちならねは
蔵内侍十二恋四
887なにはめにみつとはなしにあしのねのよのみしかくてあくるわひしさ
なにはめに みつとはなしに あしのねの よのみしかくて あくるわひしさ
道風十二恋四
888かへるへき方もおほえす涙河いつれかわたるあさせなるらむ
かへるへき かたもおほえす なみたかは いつれかわたる あさせなるらむ
道風十二恋四
889涙河いかなるせよりかへりけん見なるるみをもあやしかりしを
なみたかは いかなるせより かへりけむ みなるるみをも あやしかりしを
大輔十二恋四
890池水のいひいつる事のかたけれはみこもりなからとしそへにける
いけみつの いひいつることの かたけれは みこもりなから としそへにける
藤原敦忠朝臣十二恋四
891伊勢の海に遊ふあまともなりにしか浪かきわけてみるめかつかむ
いせのうみに あそふあまとも なりにしか なみかきわけて みるめかつかむ
在原業平朝臣十三恋五
892おほろけのあまやはかつくいせの海の浪高き浦におふるみるめは
おほろけの あまやはかつく いせのうみの なみたかきうらに おふるみるめは
伊勢十三恋五
893つらしとやいひはててまし白露の人に心はおかしと思ふを
つらしとや いひはててまし しらつゆの ひとにこころは おかしとおもふを
読人知らず十三恋五
894なからへは人の心も見るへきに露の命そ悲しかりける
なからへは ひとのこころも みるへきに つゆのいのちそ かなしかりける
読人知らず十三恋五
895ひとりぬる時はまたるる鳥のねもまれにあふよはわひしかりけり
ひとりぬる ときはまたるる とりのねも まれにあふよは わひしかりけり
小野小町かあね十三恋五
896空蝉のむなしくからになるまてもわすれんと思ふ我ならなくに
うつせみの むなしきからに なるまても わすれむとおもふ われならなくに
深養父十三恋五
897いつまてのはかなき人の事のはか心の秋の風をまつらむ
いつまての はかなきひとの ことのはか こころのあきの かせをまつらむ
読人知らず十三恋五
898うたたねの夢はかりなる逢ふ事を秋のよすから思ひつるかな
うたたねの ゆめはかりなる あふことを あきのよすから おもひつるかな
読人知らず十三恋五
899秋の夜の草のとさしのわひしきはあくれとあけぬ物にそ有りける
あきのよの くさのとさしの わひしきは あくれとあけぬ ものにそありける
藤原兼輔朝臣十三恋五
900いふからにつらさそまさる秋のよの草のとさしにさはるへしやは
いふからに つらさそまさる あきのよの くさのとさしに さはるへしやは
読人知らず十三恋五
901人しれす物思ふころのわか袖は秋の草はにおとらさりけり
ひとしれす ものおもふころの わかそては あきのくさはに おとらさりけり
さたかすのみこ十三恋五
902しつはたに思ひみたれて秋の夜のあくるもしらすなけきつるかな
しつはたに おもひみたれて あきのよの あくるもしらす なけきつるかな
贈太攻大臣(時平)十三恋五
903はちすはのうへはつれなきうらにこそ物あらかひはつくといふなれ
はちすはの うへはつれなき うらにこそ ものあらかひは つくといふなれ
読人知らず十三恋五
904ふりやめはあとたに見えぬうたかたのきえてはかなきよをたのむかな
ふりやめは あとたにみえぬ うたかたの きえてはかなき よをたのむかな
読人知らず十三恋五
905あはてのみあまたのよをもかへるかな人めのしけき相坂にきて
あはてのみ あまたのよをも かへるかな ひとめのしけき あふさかにきて
読人知らず十三恋五
906なひく方有りけるものをなよ竹の世にへぬ物と思ひけるかな
なひくかた ありけるものを なよたけの よにへぬものと おもひけるかな
読人知らず十三恋五
907ねになけは人わらへなりくれ竹の世にへぬをたにかちぬとおもはん
ねになけは ひとわらへなり くれたけの よにへぬをたに かちぬとおもはむ
読人知らず十三恋五
908伊勢のあまと君しなりなはおなしくは恋しきほとにみるめからせよ
いせのあまと きみしなりなは おなしくは こひしきほとに みるめからせよ
読人知らず十三恋五
909こひしくは影をたに見てなくさめよわかうちとけてしのふかほなり
こひしくは かけをたにみて なくさめよ わかうちとけて しのふかほなり
一条十三恋五
910影見れはいとと心そまとはるるちかからぬけのうときなりけり
かけみれは いととこころそ まとはるる ちかからぬけの うときなりけり
伊勢十三恋五
911人ことのうきをもしらすありかせし昔なからのわか身ともかな
ひとことの うきをもしらす ありかせし むかしなからの わかみともかな
読人知らず十三恋五
912郭公なつきそめてしかひもなくこゑをよそにもききわたるかな
ほとときす なつきそめてし かひもなく こゑをよそにも ききわたるかな
読人知らず十三恋五
913つねよりもおきうかりつる暁はつゆさへかかる物にそ有りける
つねよりも おきうかりつる あかつきは つゆさへかかる ものにそありける
読人知らず十三恋五
914おく霜の暁おきをおもはすは君かよとのによかれせましや
おくしもの あかつきおきを おもはすは きみかよとのに よかれせましや
読人知らず十三恋五
915霜おかぬ春よりのちのなかめにもいつかは君かよかれせさりし
しもおかぬ はるよりのちの なかめにも いつかはきみか よかれせさりし
読人知らず十三恋五
916伊勢の海のあまのまてかたいとまなみなからへにける身をそうらむる
いせのうみの あまのまてかた いとまなみ なからへにける みをそうらむる
源英明朝臣十三恋五
917逢ふ事のかたのへとてそ我はゆく身をおなしなに思ひなしつつ
あふことの かたのへとてそ われはゆく みをおなしなに おもひなしつつ
藤原ためよ十三恋五
918君かあたり雲井に見つつ宮ち山うちこえゆかん道もしらなく
きみかあたり くもゐにみつつ みやちやま うちこえゆかむ みちもしらなく
読人知らず十三恋五
919思ふてふ事のはいかになつかしなのちうき物とおもはすもかな
おもふてふ ことのはいかに なつかしな のちうきものと おもはすもかな
俊子十三恋五
920思ふてふ事こそうけれくれ竹のよにふる人のいはぬなけれは
おもふてふ ことこそうけれ くれたけの よにふるひとの いはぬなけれは
兼茂る朝臣のむすめ十三恋五
921おもはむと我をたのめし事のはは忘草とそ今はなるらし
おもはむと われをたのめし ことのはは わすれくさとそ いまはなるらし
読人知らず十三恋五
922今まてもきえて有りつるつゆの身はおくへきやとのあれはなりけり
いままても きえてありつる つゆのみは おくへきやとの あれはなりけり
読人知らず十三恋五
923事のはもみな霜かれに成りゆくはつゆのやとりもあらしとそ思ふ
ことのはも みなしもかれに なりゆくは つゆのやとりも あらしとそおもふ
読人知らず十三恋五
924忘れむといひし事にもあらなくに今は限と思ふものかは
わすれむと いひしことにも あらなくに いまはかきりと おもふものかは
読人知らず十三恋五
925うつつにはふせとねられすおきかへり昨日の夢をいつかわすれん
うつつには ふせとねられす おきかへり きのふのゆめを いつかわすれむ
読人知らず十三恋五
926ささらなみまなくたつめる浦をこそ世にあさしともみつつわすれめ
ささらなみ まなくたつめる うらをこそ よにあさしとも みつつわすれめ
読人知らず十三恋五
927伊勢の海のちひろのはまにひろふとも今は何てふかひかあるへき
いせのうみの ちひろのはまに ひろふとも いまはなにてふ かひかあるへき
藤原敦忠朝臣十三恋五
928わすれねといひしにかなふ君なれととはぬはつらき物にそ有りける
わすれねと いひしにかなふ きみなれと とはぬはつらき ものにそありける
本院のくら十三恋五
929春霞はかなくたちてわかるとも風より外に誰かとふへき
はるかすみ はかなくたちて わかるとも かせよりほかに たれかとふへき
読人知らず十三恋五
930めにみえぬ風に心をたくへつつやらは霞のわかれこそせめ
めにみえぬ かせにこころを たくへつつ やらはかすみの わかれこそせめ
伊勢十三恋五
931ふか緑染めけん松のえにしあらはうすき袖にも浪はよせてん
ふかみとり そめけむまつの えにしあらは うすきそてにも なみはよせてむ
さたもとのみこ十三恋五
932松山のすゑこす浪のえにしあらは君か袖にはあともとまらし
まつやまの すゑこすなみの えにしあらは きみかそてには あともとまらし
土左十三恋五
933深く思ひそめつといひし事のははいつか秋風ふきてちりぬる
ふかくおもひ そめつといひし ことのはは いつかあきかせ ふきてちりぬる
贈太攻大臣(時平)十三恋五
934人をのみうらむるよりは心からこれいまさりしつみとおもはん
ひとをのみ うらむるよりは こころから これいまさりし つみとおもはむ
読人知らず十三恋五
935葦引の山したしけくゆく水の流れてかくしとははたのまん
あしひきの やましたしけく ゆくみつの なかれてかくし とははたのまむ
読人知らず十三恋五
936わひはつる時さへ物のかなしきはいつこを忍ふ心なるらん
わひはつる ときさへものの かなしきは いつこをしのふ こころなるらむ
伊勢十三恋五
937いなせともいひはなたれすうき物は身を心ともせぬ世なりけり
いなせとも いひはなたれす うきものは みをこころとも せぬよなりけり
伊勢十三恋五
938こすやあらんきやせんとのみ河岸の松の心を思ひやらなん
こすやあらむ きやせむとのみ かはきしの まつのこころを おもひやらなむ
読人知らず十三恋五
939しひてゆくこまのあしをるはしをたになとわかやとにわたささりけん
しひてゆく こまのあしをる はしをたに なとわかやとに わたささりけむ
読人知らず十三恋五
940年をへていけるかひなきわか身をは何かは人に有りとしられん
としをへて いけるかひなき わかみをは なにかはひとに ありとしられむ
読人知らず十三恋五
941あさりする時そわひしき人しれすなにはの浦にすまふわか身は
あさりする ときそわひしき ひとしれす なにはのうらに すまふわかみは
読人知らず十三恋五
942なかめつつ人まつよひのよふことりいつ方へとか行きかへるらむ
なかめつつ ひとまつよひの よふことり いつかたへとか ゆきかへるらむ
寛湛法師母十三恋五
943人ことのたのみかたさはなにはなるあしのうらはのうらみつへしな
ひとことの たのみかたさは なにはなる あしのうらはの うらみつへしな
読人知らず十三恋五
944人はかる心のくまはきたなくてきよきなきさをいかてすきけん
ひとはかる こころのくまは きたなくて きよきなきさを いかてすきけむ
少将内侍十三恋五
945たかためにわれかいのちを長浜の浦にやとりをしつつかはこし
たかために われかいのちを なかはまの うらにやとりを しつつかはこし
藤原兼輔朝臣十三恋五
946せきもあへす淵にそ迷ふ涙河わたるてふせをしるよしもかな
せきもあへす ふちにそまよふ なみたかは わたるてふせを しるよしもかな
読人知らず十三恋五
947淵なから人かよはさし涙河わたらはあさきせをもこそ見れ
ふちなから ひとかよはさし なみたかは わたらはあさき せをもこそみれ
読人知らず十三恋五
948きて帰る名をのみそ立つ唐衣したゆふひもの心とけねは
きてかへる なをのみそたつ からころも したゆふひもの こころとけねは
読人知らず十三恋五
949たえぬとも何思ひけん涙河流れあふせも有りけるものを
たえぬとも なにおもひけむ なみたかは なかれあふせも ありけるものを
内侍たひらけい子十三恋五
950今ははやみ山をいてて郭公けちかきこゑを我にきかせよ
いまははや みやまをいてて ほとときす けちかきこゑを われにきかせよ
左太臣(実頼)十三恋五
951人はいさみ山かくれの郭公ならはぬさとはすみうかるへし
ひとはいさ みやまかくれの ほとときす ならはぬさとは すみうかるへし
大輔十三恋五
952有りしたにうかりしものをあかすとていつこにそふるつらさなるらん
ありしたに うかりしものを あかすとて いつこにそふる つらさなるらむ
中務十三恋五
953思ひわひ君かつらきにたちよらは雨も人めももらささらなん
おもひわひ きみかつらきに たちよらは あめもひとめも もらささらなむ
左太臣(実頼)十三恋五
954ふえ竹の本のふるねはかはるともおのかよよにはならすもあらなん
ふえたけの もとのふるねは かはるとも おのかよよには ならすもあらなむ
読人知らず十三恋五
955めも見えす涙の雨のしくるれは身のぬれきぬはひるよしもなし
めもみえす なみたのあめの しくるれは みのぬれきぬは ひるよしもなし
よしふるの朝臣十三恋五
956にくからぬ人のきせけんぬれきぬは思ひにあへす今かわきなん
にくからぬ ひとのきせけむ ぬれきぬは おもひにあへす いまかわきなむ
中将内侍十三恋五
957おほかたはせとたにかけしあまの河ふかき心をふちとたのまん
おほかたは せとたにかけし あまのかは ふかきこころを ふちとたのまむ
小野道風十三恋五
958淵とてもたのみやはする天河年にひとたひわたるてふせを
ふちとても たのみやはする あまのかは としにひとたひ わたるてふせを
読人知らず十三恋五
959身のならん事をもしらすこく舟は浪の心もつつまさりけり
みのならむ ことをもしらす こくふねは なみのこころも つつまさりけり
きよかけの朝臣十三恋五
960わひぬれは今はたおなしなにはなる身をつくしてもあはんとそ思ふ
わひぬれは いまはたおなし なにはなる みをつくしても あはむとそおもふ
元良親王十三恋五
961如何してかく思ふてふ事をたに人つてならて君にかたらん
いかにして かくおもふてふ ことをたに ひとつてならて きみにかたらむ
藤原敦忠朝臣十三恋五
962もろともにいさといはすはしての山こゆともこさむ物ならなくに
もろともに いさといはすは してのやま こゆともこさむ ものならなくに
朝忠朝臣十三恋五
963かくはかりふかき色にもうつろふを猶きみきくの花といはなん
かくはかり ふかきいろにも うつろふを なほきみきくの はなといはなむ
きよかけの朝臣十三恋五
964いさやまた人の心も白露のおくにもとにも袖のみそひつ
いさやまた ひとのこころも しらつゆの おくにもとにも そてのみそひつ
読人知らず十三恋五
965よるしほのみちくるそらもおもほえすあふこと浪に帰ると思へは
よるしほの みちくるそらも おもほえす あふことなみに かへるとおもへは
読人知らず十三恋五
966かすならぬ身は山のはにあらねともおほくの月をすくしつるかな
かすならぬ みはやまのはに あらねとも おほくのつきを すくしつるかな
読人知らず十三恋五
967たのめつつあはて年ふるいつはりにこりぬ心を人はしらなん
たのめつつ あはてとしふる いつはりに こりぬこころを ひとはしらなむ
在原業平朝臣十三恋五
968夏虫のしるしる迷ふおもひをはこりぬかなしとたれかみさらん
なつむしの しるしるまよふ おもひをは こりぬかなしと たれかみさらむ
伊勢十三恋五
969打ちわひてよははむ声に山ひこのこたへぬそらはあらしとそ思ふ
うちわひて よははむこゑに やまひこの こたへぬやまは あらしとそおもふ
読人知らず十三恋五
970山ひこのこゑのまにまにとひゆかはむなしきそらにゆきやかへらん
やまひこの こゑのまにまに とひゆかは むなしきそらに ゆきやかへらむ
読人知らず十三恋五
971荒玉の年の三とせはうつせみのむなしきねをやなきてくらさむ
あらたまの としのみとせは うつせみの むなしきねをや なきてくらさむ
読人知らず十三恋五
972流れいつる涙の河のゆくすゑはつひに近江のうみとたのまん
なかれいつる なみたのかはの ゆくすゑは つひにあふみの うみとたのまむ
読人知らず十三恋五
973雨ふれとふらねとぬるるわか袖のかかるおもひにかわかぬやなそ
あめふれと ふらねとぬるる わかそての かかるおもひに かわかぬやなそ
読人知らず十三恋五
974露はかりぬるらん袖のかわかぬは君か思ひのほとやすくなき
つゆはかり ぬるらむそての かわかぬは きみかおもひの ほとやすくなき
読人知らず十三恋五
975常よりもまとふまとふそ帰りつるあふ道もなきやとにゆきつつ
つねよりも まとふまとふそ かへりつる あふみちもなき やとにゆきつつ
読人知らず十三恋五
976ぬれつつもくると見えしは夏引のてひきにたえぬいとにや有りけん
ぬれつつも くるとみえしは なつひきの てひきにたえぬ いとにやありけむ
読人知らず十三恋五
977かすならぬ身はうき草となりななんつれなき人によるへしられし
かすならぬ みはうきくさと なりななむ つれなきひとに よるへしられし
読人知らず十三恋五
978ゆふやみは道も見えねと旧里は本こし駒にまかせてそくる
ゆふやみは みちもみえねと ふるさとは もとこしこまに まかせてそくる
読人知らず十三恋五
979駒にこそまかせたりけれあやなくも心のくると思ひけるかな
こまにこそ まかせたりけれ あやなくも こころのくると おもひけるかな
読人知らず十三恋五
980いつ方に事つてやりてかりかねのあふことまれに今はなるらん
いつかたに ことつてやりて かりかねの あふことまれに いまはなるらむ
読人知らず十三恋五
981有りとたにきくへきものを相坂の関のあなたそはるけかりける
ありとたに きくへきものを あふさかの せきのあなたそ はるけかりける
読人知らず十三恋五
982関もりかあらたまるてふ相坂のゆふつけ鳥はなきつつそゆく
せきもりか あらたまるてふ あふさかの ゆふつけとりは なきつつそゆく
読人知らず十三恋五
983ゆき帰りきてもきかなん相坂の関にかはれる人も有りやと
ゆきかへり きてもきなかむ あふさかの せきにかはれる ひともありやと
読人知らず十三恋五
984もる人のあるとはきけと相坂のせきもととめぬわかなみたかな
もるひとの あるとはきけと あふさかの せきもととめぬ わかなみたかな
読人知らず十三恋五
985葛木やくめちにわたすいははしの中中にても帰りぬるかな
かつらきや くめちにわたす いははしの なかなかにても かへりぬるかな
読人知らず十三恋五
986中たえてくる人もなきかつらきのくめちのはしはいまもあやふし
なかたえて くるひともなき かつらきの くめちのはしは いまもあやふし
読人知らず十三恋五
987白雲のみなひとむらに見えしかとたちいてて君を思ひそめてき
しらくもの みなひとむらに みえしかと たちいててきみを おもひそめてき
藤原有好十三恋五
988よそなれと心はかりはかけたるをなとかおもひにかわかさるらん
よそなれと こころはかりは かけたるを なとかおもひに かわかさるらむ
読人知らず十三恋五
989わかこひのきゆるまもなくくるしきはあはぬ歎やもえわたるらん
わかこひの きゆるまもなく くるしきは あはぬなけきや もえわたるらむ
読人知らず十三恋五
990きえすのみもゆる思ひはとほけれと身もこかれぬる物にそ有りける
きえすのみ もゆるおもひは とほけれと みもこかれぬる ものにそありける
読人知らず十三恋五
991うへにのみおろかにもゆるかやり火のよにもそこには思ひこかれし
うへにのみ おろかにもゆる かやりひの よにもそこには おもひこかれし
読人知らず十三恋五
992河とのみわたるを見るになくさまてくるしきことそいやまさりなる
かはとのみ わたるをみるに なくさまて くるしきことそ いやまさりなる
読人知らず十三恋五
993水まさる心地のみしてわかためにうれしきせをは見せしとやする
みつまさる ここちのみして わかために うれしきせをは みせしとやする
読人知らず十三恋五
994逢ふ事をよとに有りてふみつのもりつらしと君を見つるころかな
あふことを よとにありてふ みつのもり つらしときみを みつるころかな
読人知らず十四恋六
995みつのもりもるこのころのなかめには怨みもあへすよとの河浪
みつのもり もるこのころの なかめには うらみもあへす よとのかはなみ
読人知らず十四恋六
996うき世とは思ふものからあまのとのあくるはつらき物にそ有りける
うきよとは おもふものから あまのとの あくるはつらき ものにそありける
読人知らず十四恋六
997うらむれとこふれと君かよとともにしらすかほにてつれなかるらん
うらむれと こふれときみか よとともに しらすかほにて つれなかるらむ
読人知らず十四恋六
998怨むともこふともいかか雲井よりはるけき人をそらにしるへき
うらむとも こふともいかか くもゐより はるけきひとを そらにしるへき
読人知らず十四恋六
999しつはたにへつるほとなり白糸のたえぬる身とはおもはさらなん
しつはたに へつるほとなり しらいとの たえぬるみとは おもはさらなむ
読人知らず十四恋六
1000へつるよりうすくなりにししつはたのいとはたえてもかひやなからん
へつるより うすくなりにし しつはたの いとはたえても かひやなからむ
読人知らず十四恋六
1001くる事は常ならすともたまかつらたのみはたえしと思ふ心あり
くることは つねならすとも たまかつら たのみはたえしと おもふこころあり
読人知らず十四恋六
1002玉鬘たのめくる日のかすはあれとたえたえにてはかひなかりけり
たまかつら たのめくるひの かすはあれと たえたえにては かひなかりけり
読人知らず十四恋六
1003いにしへの心はなくや成りにけんたのめしことのたえてとしふる
いにしへの こころはなくや なりにけむ たのめしことの たえてとしふる
読人知らず十四恋六
1004いにしへも今も心のなけれはそうきをもしらて年をのみふる
いにしへも いまもこころの なけれはそ うきをもしらて としをのみふる
読人知らず十四恋六
1005たえたりし昔たに見しうちはしを今はわたるとおとにのみきく
たえたりし むかしたにみし うちはしを いまはわたると おとにのみきく
読人知らず十四恋六
1006わすられて年ふるさとの郭公なににひとこゑなきてゆくらん
わすられて としふるさとの ほとときす なににひとこゑ なきてゆくらむ
読人知らず十四恋六
1007とふやとてすきなきやとにきにけれとこひしきことそしるへなりける
とふやとて すきなきやとに きにけれと こひしきことそ しるへなりける
読人知らず十四恋六
1008露のいのちいつともしらぬ世中になとかつらしと思ひおかるる
つゆのいのち いつともしらぬ よのなかに なとかつらしと おもひおかるる
読人知らず十四恋六
1009かり人のたつぬるしかはいなひのにあはてのみこそあらまほしけれ
かりひとの たつぬるしかは いなみのに あはてのみこそ あらまほしけれ
読人知らず十四恋六
1010を山田の水ならなくにかくはかり流れそめてはたえんものかは
をやまたの みつならなくに かくはかり なかれそめては たえむものかは
右大臣(師輔)十四恋六
1011月にたにまつほとおほくすきぬれは雨もよにこしとおもほゆるかな
つきにたに まつほとおほく すきぬれは あめもよにこしと おもほゆるかな
在原業平のむすめいまき十四恋六
1012思ひつつまたいひそめぬわかこひをおなし心にしらせてしかな
おもひつつ またいひそめぬ わかこひを おなしこころに しらせてしかな
読人知らず十四恋六
1013あすか河心の内になかるれはそこのしからみいつかよとまん
あすかかは こころのうちに なかるれは そこのしからみ いつかよとまむ
読人知らず十四恋六
1014ふしのねをよそにそききし今はわか思ひにもゆる煙なりけり
ふしのねを よそにそききし いまはわか おもひにもゆる けふりなりけり
朝綱朝臣十四恋六
1015しるしなき思ひとそきくふしのねもかことはかりの煙なるらん
しるしなき おもひとそきく ふしのねも かことはかりの けふりなるらむ
読人知らず十四恋六
1016いひさしてととめらるなる池水の波いつかたに思ひよるらん
いひさして ととめらるなる いけみつの なみいつかたに おもひよるらむ
読人知らず十四恋六
1017しられしなわかひとしれぬ心もて君を思ひのなかにもゆとは
しられしな わかひとしれぬ こころもて きみをおもひの なかにもゆとは
読人知らず十四恋六
1018あふはかりなくてのみふるわかこひを人めにかくる事のわひしさ
あふはかり なくてのみふる わかこひを ひとめにかくる ことのわひしさ
読人知らず十四恋六
1019夏衣身にはなるともわかためにうすき心はかけすもあらなん
なつころも みにはなるとも わかために うすきこころは かけすもあらなむ
読人知らず十四恋六
1020いかにして事かたらはん郭公歎のしたになけはかひなし
いかにして ことかたらはむ ほとときす なけきのしたに なけはかひなし
読人知らず十四恋六
1021思ひつつへにける年をしるへにてなれぬる物は心なりけり
おもひつつ へにけるとしを しるへにて なれぬるものは こころなりけり
読人知らず十四恋六
1022我ならぬ人住の江の岸にいててなにはの方を怨みつるかな
われならぬ ひとすみのえの きしにいてて なにはのかたを うらみつるかな
源ととのふ十四恋六
1023にこりゆく水には影の見えはこそあしまよふえをととめても見め
にこりゆく みつにはかけの みえはこそ あしまよふえを ととめてもみめ
読人知らず十四恋六
1024菅原や伏見の里のあれしよりかよひし人の跡もたえにき
すかはらや ふしみのさとの あれしより かよひしひとの あともたえにき
読人知らず十四恋六
1025ちはやふる神にもあらぬわかなかの雲井遥に成りもゆくかな
ちはやふる かみにもあらぬ わかなかの くもゐはるかに なりもゆくかな
読人知らず十四恋六
1026千早振神にも何にたとふらんおのれくもゐに人をなしつつ
ちはやふる かみにもなにに たとふらむ おのれくもゐに ひとをなしつつ
読人知らず十四恋六
1027うきしつみふちせにさわくにほとりはそこものとかにあらしとそ思ふ
うきしつみ ふちせにさわく にほとりは そこものとかに あらしとそおもふ
敦慶親王十四恋六
1028松山に浪たかきおとそきこゆなる我よりこゆる人はあらしを
まつやまに なみたかきおとそ きこゆなる われよりこゆる ひとはあらしを
藤原守文十四恋六
1029さしてこと思ひしものをみかさ山かひなく雨のもりにけるかな
さしてこと おもひしものを みかさやま かひなくあめの もりにけるかな
読人知らず十四恋六
1030もるめのみあまたみゆれはみかさ山しるしるいかかさしてゆくへき
もるめのみ あまたみゆれは みかさやま しるしるいかか さしてゆくへき
読人知らず十四恋六
1031なくさむることのはにたにかからすは今もけぬへき露の命を
なくさむる ことのはにたに かからすは いまもけぬへき つゆのいのちを
読人知らず十四恋六
1032ひとしれすまつにねられぬ晨明の月にさへこそあさむかれけれ
ひとしれす まつにねられぬ ありあけの つきにさへこそ あさむかれけれ
兵衛十四恋六
1033竜田河たちなは君か名ををしみいはせのもりのいはしとそ思ふ
たつたかは たちなはきみか なををしみ いはせのもりの いはしとそおもふ
元方十四恋六
1034うたののはみみなし山かよふこ鳥よふこゑにたにこたへさるらん
うたののは みみなしやまか よふことり よふこゑにたに こたへさるらむ
読人知らず十四恋六
1035耳なしの山ならすともよふことり何かはきかん時ならぬねを
みみなしの やまならすとも よふことり なにかはきかむ ときならぬねを
女五のみこ十四恋六
1036こひわひてしぬてふことはまたなきを世のためしにもなりぬへきかな
こひわひて しぬてふことは またなきを よのためしにも なりぬへきかな
壬生忠岑十四恋六
1037影見れはおくへいりける君によりなとか涙のとへはいつらむ
かけみれは おくへいりける きみにより なとかなみたの とへはいつらむ
読人知らず十四恋六
1038しらさりし時たにこえし相坂をなと今更にわれ迷ふらん
しらさりし ときたにこえし あふさかを なといまさらに われまよふらむ
読人知らず十四恋六
1039あかすして枕のうへに別れにしゆめちを又もたつねてしかな
あかすして まくらのうへに わかれにし ゆめちをまたも たつねてしかな
藤原かけもと十四恋六
1040おともせすなりもゆくかなすすか山こゆてふなのみたかくたちつつ
おともせす なりもゆくかな すすかやま こゆてふなのみ たかくたちつつ
読人知らず十四恋六
1041こえぬてふ名をなうらみそすすか山いととまちかくならんと思ふを
こえぬてふ なをなうらみそ すすかやま いととまちかく ならむとおもふを
読人知らず十四恋六
1042わかためにかつはつらしと見山木のこりともこりぬかかるこひせし
わかために かつはつらしと みやまきの こりともこりぬ かかるこひせし
読人知らず十四恋六
1043あふこなき身とはしるしる恋すとて歎こりつむ人はよきかは
あふこなき みとはしるしる こひすとて なけきこりつむ ひとはよきかは
読人知らず十四恋六
1044あさことに露はおけとも人こふるわか事のはは色もかはらす
あさことに つゆはおけとも ひとこふる わかことのはは いろもかはらす
戒仙法師十四恋六
1045まちかくてつらきを見るはうけれともうきはものかはこひしきよりは
まちかくて つらきをみるは うけれとも うきはものかは こひしきよりは
読人知らず十四恋六
1046つくしなる思ひそめ河わたりなは水やまさらんよとむ時なく
つくしなる おもひそめかは わたりなは みつやまさらむ よとむときなく
藤原さねたた十四恋六
1047渡りてはあたになるてふ染河の心つくしになりもこそすれ
わたりては あたになるてふ そめかはの こころつくしに なりもこそすれ
読人知らず十四恋六
1048花さかりすくしし人はつらけれと事のはをさへかくしやはせん
はなさかり すくししひとは つらけれと ことのはをさへ かくしやはせむ
読人知らず十四恋六
1049とふことをまつに月日はこゆるきのいそにやいてて今はうらみん
とふことを まつにつきひは こゆるきの いそにやいてて いまはうらみむ
右近十四恋六
1050忘草名をもゆゆしみかりにてもおふてふやとはゆきてたに見し
わすれくさ なをもゆゆしみ かりにても おふてふやとは ゆきてたにみし
読人知らず十四恋六
1051うきことのしけきやとには忘草うゑてたにみし秋そわひしき
うきことの しけきやとには わすれくさ うゑてたにみし あきそわひしき
読人知らず十四恋六
1052かすしらぬ思ひは君にあるものをおき所なき心地こそすれ
かすしらぬ おもひはきみに あるものを おきところなき ここちこそすれ
読人知らず十四恋六
1053おき所なき思ひとしききつれは我にいくらもあらしとそ思ふ
おきところ なきおもひとし ききつれは われにいくらも あらしとそおもふ
読人知らず十四恋六
1054わかたちてきるこそうけれ夏衣おほかたとのみ見へきうすさを
わかたちて きるこそうけれ なつころも おほかたとのみ みへきうすさを
南院式部卿のみこのむすめ十四恋六
1055やへむくらさしてし門を今更に何にくやしくあけてまちけん
やへむくら さしてしかとを いまさらに なににくやしく あけてまちけむ
読人知らず十四恋六
1056さをしかのつまなきこひを高砂のをのへのこ松ききもいれなん
さをしかの つまなきこひを たかさこの をのへのこまつ ききもいれなむ
源庶明朝臣十四恋六
1057さをしかの声高砂にきこえしはつまなき時のねにこそ有りけれ
さをしかの こゑたかさこに きこえしは つまなきときの ねにこそありけれ
読人知らず十四恋六
1058せきもあへす涙の河のせをはやみかからん物と思ひやはせし
せきもあへす なみたのかはの せをはやみ かからむものと おもひやはせし
読人知らず十四恋六
1059せをはやみたえすなかるる水よりもたえせぬ物はこひにそ有りける
せをはやみ たえすなかるる みつよりも たえせぬものは こひにそありける
読人知らず十四恋六
1060こふれともあふよなき身は忘草夢ちにさへやおひしけるらん
こふれとも あふよなきみは わすれくさ ゆめちにさへや おひしけるらむ
読人知らず十四恋六
1061世中のうきはなへてもなかりけりたのむ限そ怨みられける
よのなかの うきはなへても なかりけり たのむかきりそ うらみられける
読人知らず十四恋六
1062ゆふされは思ひそしけきまつ人のこむやこしやの定なけれは
ゆふされは おもひそしけき まつひとの こむやこしやの さためなけれは
読人知らず十四恋六
1063いとはれてかへりこしちのしら山はいらぬに迷ふ物にそ有りける
いとはれて かへりこしちの しらやまは いらぬにまよふ ものにそありける
源よしの朝臣十四恋六
1064人浪にあらぬわか身はなにはなるあしのねのみそしたになかるる
ひとなみに あらぬわかみは なにはなる あしのねのみそ したになかるる
読人知らず十四恋六
1065白雲のゆくへき山はさたまらす思ふ方にも風はよせなん
しらくもの ゆくへきやまは さたまらす おもふかたにも かせはよせなむ
読人知らず十四恋六
1066世中に猶有あけの月なくてやみに迷ふをとはぬつらしな
よのなかに なほありあけの つきなくて やみにまよふを とはぬつらしな
読人知らず十四恋六
1067あすか河せきてととむる物ならはふちせになるとなとかいはれん
あすかかは せきてととむる ものならは ふちせになると なとかいはれむ
贈太攻大臣(時平)十四恋六
1068身をつめはあはれとそ思ふはつ雪のふりぬることもたれにいはまし
みをつめは あはれとそおもふ はつゆきの ふりぬることも たれにいはまし
右近十四恋六
1069冬なれと君かかきほにさきけれはむへとこ夏にこひしかりけり
ふゆなれと きみかかきほに さきけれは うへとこなつに こひしかりけり
読人知らず十四恋六
1070白雪のけさはつもれる思ひかなあはてふる夜のほともへなくに
しらゆきの けさはつもれる おもひかな あはてふるよの ほともへなくに
兼輔朝臣十四恋六
1071しらゆきのつもる思ひもたのまれす春よりのちはあらしとおもへは
しらゆきの つもるおもひも たのまれす はるよりのちは あらしとおもへは
読人知らず十四恋六
1072わかこひし君かあたりをはなれねはふる白雪もそらにきゆらん
わかこひし きみかあたりを はなれねは ふるしらゆきも そらにきゆらむ
読人知らず十四恋六
1073山かくれきえせぬ雪のわひしきは君まつのはにかかりてそふる
やまかくれ きえせぬゆきの わひしきは きみまつのはに かかりてそふる
読人知らず十四恋六
1074あらたまの年はけふあすこえぬへし相坂山を我やおくれん
あらたまの としはけふあす こえぬへし あふさかやまを われやおくれむ
藤原ときふる十四恋六
1075嵯峨の山みゆきたえにしせり河の千世のふるみちあとは有りけり
さかのやま みゆきたえにし せりかはの ちよのふるみち あとはありけり
在原行平朝臣十五雑一
1076おきなさひ人なとかめそ狩衣けふはかりとそたつもなくなる
おきなさひ ひとなとかめそ かりころも けふはかりとそ たつもなくなる
在原行平朝臣十五雑一
1077今まてになとかは花のさかすしてよそとせあまり年きりはする
いままてに なとかははなの さかすして よそとせあまり としきりはする
贈太攻大臣(時平)十五雑一
1078はるはるのかすはわすれす有りなから花さかぬ木をなににうゑけん
はるはるの かすはわすれす ありなから はなさかぬきを なににうゑけむ
紀友則十五雑一
1079世とともに峰へふもとへおりのほりゆく雲の身は我にそ有りける
よとともに みねへふもとへ おりのほり ゆくくものみは われにそありける
平中興十五雑一
1080事しけししはしはたてれよひのまにおけらんつゆはいててはらはん
ことしけし しはしはたてれ よひのまに おけらむつゆは いててはらはむ
嵯峨后十五雑一
1081てる月をまさ木のつなによりかけてあかすわかるる人をつなかん
てるつきを まさきのつなに よりかけて あかすわかるる ひとをつなかむ
河原左大臣(融)十五雑一
1082限なきおもひのつなのなくはこそまさきのかつらよりもなやまめ
かきりなき おもひのつなの なくはこそ まさきのかつら よりもなやまめ
在原行平朝臣十五雑一
1083すみわひぬ今は限と山さとにつまきこるへきやともとめてむ
すみわひぬ いまはかきりと やまさとに つまきこるへき やともとめてむ
在原業平朝臣十五雑一
1084葦引の山におひたるしらかしのしらしな人をくち木なりとも
あしひきの やまにおひたる しらかしの しらしなひとを くちきなりとも
躬恒十五雑一
1085伊勢の海のつりのうけなるさまなれとふかき心はそこにしつめり
いせのうみの つりのうけなる さまなれと ふかきこころは そこにしつめり
躬恒十五雑一
1086白河のたきのいと見まほしけれとみたりに人はよせしものをや
しらかはの たきのいとみま ほしけれと みたりにひとは よせしものをや
中務十五雑一
1087しらかはのたきのいとなみみたれつつよるをそ人はまつといふなる
しらかはの たきのいとなみ みたれつつ よるをそひとは まつといふなる
太政大臣(忠平)十五雑一
1088はちすはのはひにそ人は思ふらん世にはこひちの中におひつつ
はちすはの はひにそひとは おもふらむ よにはこひちの なかにおひつつ
読人知らず十五雑一
1089これやこのゆくも帰るも別れつつしるもしらぬもあふさかの関
これやこの ゆくもかへるも わかれつつ しるもしらぬも あふさかのせき
蝉丸十五雑一
1090あまのすむ浦こく舟のかちをなみ世を海わたる我そ悲しき
あまのすむ うらこくふねの かちをなみ よをうみわたる われそかなしき
小野小町十五雑一
1091浜千鳥かひなかりけりつれもなきひとのあたりはなきわたれとも
はまちとり かひなかりけり つれもなき ひとのあたりは なきわたれとも
読人知らず十五雑一
1092このみゆきちとせかへても見てしかなかかる山ふし時にあふへく
このみゆき ちとせかへても みてしかな かかるやまふし ときにあふへく
素性法師十五雑一
1093おとにきく松かうらしまけふそ見るむへも心あるあまはすみけり
おとにきく まつかうらしま けふそみる うへもこころある あまはすみけり
素性法師十五雑一
1094我のみは立ちもかへらぬ暁にわきてもおける袖のつゆかな
われのみは たちもかへらぬ あかつきに わきてもおける そてのつゆかな
右衛門十五雑一
1095しほといへはなくてもからき世中にいかてあへたるたたみなるらん
しほといへは なくてもからき よのなかに いかてあへたる たたみなるらむ
忠見十五雑一
1096住吉の岸ともいはしおきつ浪猶うちかけようらはなくとも
すみよしの きしともいはし おきつなみ なほうちかけよ うらはなくとも
藤原元輔十五雑一
1097事のはにたえせぬつゆはおくらんや昔おほゆるまとゐしたれは
ことのはに たえせぬつゆは おくらむや むかしおほゆる まとゐしたれは
七条のきさき十五雑一
1098海とのみまとゐの中はなりぬめりそなからあらぬかけのみゆれは
うみとのみ まとゐのなかは なりぬめり そなからあらぬ かけのみゆれは
伊勢十五雑一
1099何せんにへたのみるめを思ひけんおきつたまもをかつく身にして
なにせむに へたのみるめを おもひけむ おきつたまもを かつくみにして
大伴黒主十五雑一
1100ひるなれや見そまかへつる月影をけふとやいはむきのふとやいはん
ひるなれや みそまかへつる つきかけを けふとやいはむ きのふとやいはむ
躬恒十五雑一
1101くやしくそあまつをとめとなりにける雲ちたつぬる人もなきよに
くやしくそ あまつをとめと なりにける くもちたつぬる ひともなきよに
藤原滋包かむすめ十五雑一
1102人のおやの心はやみにあらねとも子を思ふ道にまとひぬるかな
ひとのおやの こころはやみに あらねとも こをおもふみちに まとひぬるかな
藤原兼輔朝臣十五雑一
1103なにはかた何にもあらすみをつくしふかき心のしるしはかりそ
なにはかた なににもあらす みをつくし ふかきこころの しるしはかりそ
大江玉淵朝臣女十五雑一
1104あけてたに何にかは見むみつのえのうらしまのこを思ひやりつつ
あけてたに なににかはみむ みつのえの うらしまのこを おもひやりつつ
中務十五雑一
1105年をへてにこりたにせぬさひえには玉も帰りて今そすむへき
としをへて にこりたにせぬ さひえには たまもかへりて いまそすむへき
壬生忠岑十五雑一
1106旧里のみかさの山はとほけれと声は昔のうとからぬかな
ふるさとの みかさのやまは とほけれと こゑはむかしの うとからぬかな
藤原兼輔朝臣十五雑一
1107ひきてうゑし人はむへこそ老いにけれ松のこたかく成りにけるかな
ひきうゑし ひとはうへこそ おいにけれ まつのこたかく なりにけるかな
躬恒十五雑一
1108を山田のおとろかしにもこさりしをいとひたふるににけしきみかな
をやまたの おとろかしにも こさりしを いとひたふるに にけしきみかな
読人知らず十五雑一
1109いかてかの年きりもせぬたねもかなあれたるやとにうゑて見るへく
いかてかの としきりもせぬ たねもかな あれたるやとに うゑてみるへく
むすめの女御十五雑一
1110春ことに行きてのみみむ年きりもせすといふたねはおひぬとかきく
はることに ゆきてのみみむ としきりも せすといふたねは おひぬとかきく
斎宮のみこ十五雑一
1111思ひきや君か衣をぬきかへてこき紫の色をきむとは
おもひきや きみかころもを ぬきかへて こきむらさきの いろをきむとは
右大臣(師輔)十五雑一
1112いにしへも契りてけりなうちはふきとひ立ちぬへしあまのは衣
いにしへも ちきりてけりな うちはふき とひたちぬへし あまのはころも
庶明朝臣十五雑一
1113ふるさとのならの宮この始よりなれにけりともみゆる衣か
ふるさとの ならのみやこの はしめより なれにけりとも みゆるころもか
大輔十五雑一
1114ふりぬとて思ひもすてし唐衣よそへてあやな怨みもそする
ふりぬとて おもひもすてし からころも よそへてあやな うらみもそする
雅正十五雑一
1115流れての世をもたのます水のうへのあわにきえぬるうき身とおもへは
なかれての よをもたのます みつのうへの あわにきえぬる うきみとおもへは
大江千里十五雑一
1116むはたまのこよひはかりそあけ衣あけなは人をよそにこそ見め
うはたまの こよひはかりそ あけころも あけなはひとを よそにこそみめ
藤原兼輔朝臣十五雑一
1117人わたす事たになきをなにしかもなからのはしと身のなりぬらん
ひとわたす ことたになきを なにしかも なからのはしと みのなりぬらむ
七条后十五雑一
1118ふるる身は涙の中にみゆれはやなからのはしにあやまたるらん
ふるるみは なみたのうちに みゆれはや なからのはしに あやまたるらむ
伊勢十五雑一
1119ひとりのみなかめてとしをふるさとのあれたるさまをいかに見るらむ
ひとりのみ なかめてとしを ふるさとの あれたるさまを いかにみるらむ
敦慶親王十五雑一
1120まめなれとあたなはたちぬたはれしまよる白浪をぬれきぬにきて
まめなれと あたなはたちぬ たはれしま よるしらなみを ぬれきぬにきて
朝綱朝臣十五雑一
1121年をへてたのむかひなしときはなる松のこすゑも色かはりゆく
としをへて たのむかひなし ときはなる まつのこすゑも いろかはりゆく
読人知らず十五雑一
1122へたてける人の心のうきはしをあやふきまてもふみみつるかな
へたてける ひとのこころの うきはしを あやふきまても ふみみつるかな
四条御息所女十五雑一
1123玉匣ふたとせあはぬ君かみをあけなからやはあらむと思ひし
たまくしけ ふたとせあはぬ きみかみを あけなからやは あらむとおもひし
源公忠朝臣十五雑一
1124あけなから年ふることは玉匣身のいたつらになれはなりけり
あけなから としふることは たまくしけ みのいたつらに なれはなりけり
小野好古朝臣十五雑一
1125たのまれぬうき世中を歎きつつ日かけにおふる身を如何せん
たのまれぬ うきよのなかを なけきつつ ひかけにおふる みをいかにせむ
在原業平朝臣十六雑二
1126相坂のゆふつけになく鳥のねをききとかめすそ行きすきにける
あふさかの ゆふつけになく とりのねを ききとかめすそ ゆきすきにける
藤原敏行朝臣十六雑二
1127み山よりひひききこゆるひくらしの声をこひしみ今もけぬへし
みやまより ひひききこゆる ひくらしの こゑをこひしみ いまもけぬへし
宣旨十六雑二
1128ひくらしの声を恋しみけぬへくはみ山とほりにはやもきねかし
ひくらしの こゑをこひしみ けぬへくは みやまとほりに はやもきねかし
贈太攻大臣(時平)十六雑二
1129ちかはれしかもの河原に駒とめてしはし水かへ影をたに見む
ちかはれし かものかはらに こまとめて しはしみつかへ かけをたにみむ
朝綱朝臣の母十六雑二
1130わかのりし事をうしとやきえにけん草はにかかる露の命は
わかのりし ことをうしとや きえにけむ くさはにかかる つゆのいのちは
閑院のこ十六雑二
1131かくてのみやむへきものかちはやふるかもの社のよろつ世を見む
かくてのみ やむへきものか ちはやふる かものやしろの よろつよをみむ
三条右大臣(定方)十六雑二
1132みこしをかいくその世世に年をへてけふのみ行をまちてみつらん
みこしをか いくそのよよに としをへて けふのみゆきを まちてみつらむ
枇杷左大臣十六雑二
1133いつれをか雨ともわかむ山ふしのおつる涙もふりにこそふれ
いつれをか あめともわかむ やまふしの おつるなみたも ふりにこそふれ
読人知らず十六雑二
1134思ひにはきゆる物そとしりなからけさしもおきてなににきつらん
おもひには きゆるものそと しりなから けさしもおきて なににきつらむ
藤原興風十六雑二
1135めつらしや昔なからの山の井はしつめる影そくちはてにける
めつらしや むかしなからの やまのゐは しつめるかけそ くちはてにける
読人知らず十六雑二
1136うち河の浪にみなれし君ませは我もあしろによりぬへきかな
うちかはの なみにみなれし きみませは われもあしろに よりぬへきかな
大江興俊十六雑二
1137吹きいつるね所たかくきこゆなりはつ秋風はいさてならさし
ふきいつる ねところたかく きこゆなり はつあきかせは いさてならさし
小弐のめのと十六雑二
1138心してまれに吹きつる秋風を山おろしにはなさしとそ思ふ
こころして まれにふきつる あきかせを やまおろしには なさしとそおもふ
大輔十六雑二
1139はかなくてたえなんくものいとゆゑに何にかおほくかかんとそ思ふ
はかなくて たえなむくもの いとゆゑに なににかおほく かかむとそおもふ
読人知らず十六雑二
1140昔よりくらまの山といひけるはわかこと人もよるやこえけん
むかしより くらまのやまと いひけるは わかことひとも よるやこえけむ
亭子院にいまあことめしける人十六雑二
1141雲井ちのはるけきほとのそら事はいかなる風の吹きてつけけん
くもゐちの はるけきほとの そらことは いかなるかせの ふきてつけけむ
読人知らず十六雑二
1142あま雲のうきたることとききしかと猶そ心はそらになりにし
あまくもの うきたることと ききしかと なほそこころは そらになりにし
読人知らず十六雑二
1143やれはをしやらねは人に見えぬへしなくなくも猶かへすまされり
やれはをし やらねはひとに みえぬへし なくなくもなほ かへすまされり
元良親王十六雑二
1144もち月のこまよりおそくいてつれはたとるたとるそ山はこえつる
もちつきの こまよりおそく いてつれは たとるたとるそ やまはこえつる
素性法師十六雑二
1145よろつ世を契りし事のいたつらに人わらへにもなりぬへきかな
よろつよを ちきりしことの いたつらに ひとわらへにも なりぬへきかな
藤原敦敏十六雑二
1146かけていへはゆゆしきものを万代と契りし事やかなはさるへき
かけていへは ゆゆしきものを よろつよと ちきりしことや かなはさるへき
大輔十六雑二
1147ちると見てそてにうくれとたまらぬはあれたる浪の花にそ有りける
ちるとみて そてにうくれと たまらぬは あれたるなみの はなにそありける
読人知らず十六雑二
1148たちさわく浪まをわけてかつきてしおきのもくつをいつかわすれん
たちさわく なみまをわけて かつきてし おきのもくつを いつかわすれむ
読人知らず十六雑二
1149かつきいてしおきのもくつをわすれすはそこのみるめを我にからせよ
かつきいてし おきのもくつを わすれすは そこのみるめを われにからせよ
輔臣朝臣十六雑二
1150限なく思ふ心はつくはねのこのもやいかかあらんとすらん
かきりなく おもふこころは つくはねの このもやいかか あらむとすらむ
読人知らず十六雑二
1151思ひいててとふ事のはをたれみまし身の白雲と成りなましかは
おもひいてて とふことのはを たれみまし みのしらくもと なりなましかは
読人知らず十六雑二
1152わすれなんと思ふ心のつくからに事のはさへやいへはゆゆしき
わすれなむと おもふこころの つくからに ことのはさへや いへはゆゆしき
読人知らず十六雑二
1153かくれゐてわかうきさまを水のうへのあわともはやく思ひきえなん
かくれゐて わかうきさまを みつのうへの あわともはやく おもひきえなむ
読人知らず十六雑二
1154人心いさやしら浪たかけれはよらむなきさそかねてかなしき
ひとこころ いさやしらなみ たかけれは よらむなきさそ かねてかなしき
読人知らず十六雑二
1155なほき木にまかれる枝もあるものをけをふききすをいふかわりなさ
なほききに まかれるえたも あるものを けをふききすを いふかわりなさ
高津内親王十六雑二
1156うつろはぬ心のふかく有りけれはここらちる花春にあへること
うつろはぬ こころのふかく ありけれは ここらちるはな はるにあへること
嵯峨后十六雑二
1157玉たれのあみめのまよりふく風のさむくはそへていれん思ひを
たまたれの あみめのまより ふくかせの さむくはそへて いれむおもひを
読人知らず十六雑二
1158白浪のうちさわかれてたちしかは身をうしほにそ袖はぬれにし
しらなみの うちさわかれて たちしかは みをうしほにそ そてはぬれにし
読人知らず十六雑二
1159とりもあへすたちさわかれしあた浪にあやなく何に袖のぬれけん
とりもあへす たちさわかれし あたなみに あやなくなにに そてのぬれけむ
読人知らず十六雑二
1160たたちともたのまさらなん身にちかき衣の関もありといふなり
たたちとも たのまさらなむ みにちかき ころものせきも ありといふなり
読人知らず十六雑二
1161あはぬまに恋しき道もしりにしをなとうれしきに迷ふ心そ
あはぬまに こひしきみちも しりにしを なとうれしきに まよふこころそ
読人知らず十六雑二
1162いかなりしふしにかいとのみたれけんしひてくれともとけすみゆるは
いかなりし ふしにかいとの みたれけむ しひてくれとも とけすみゆるは
読人知らず十六雑二
1163身なくとも人にしられし世中にしられぬ山をしるよしもかな
みなくとも ひとにしられし よのなかに しられぬやまを しるよしもかな
賀朝法師十六雑二
1164世中にしられぬ山に身なくとも谷の心やいはておもはむ
よのなかに しられぬやまに みなくとも たにのこころや いはておもはむ
読人知らず十六雑二
1165おとにのみききてはやましあさくともいさくみみてん山の井の水
おとにのみ ききてはやまし あさくとも いさくみみてむ やまのゐのみつ
読人知らず十六雑二
1166しての山たとるたとるもこえななてうき世中になにかへりけん
してのやま たとるたとるも こえななて うきよのなかに なにかへりけむ
読人知らず十六雑二
1167かすならぬ身をもちににて吉野山高き歎を思ひこりぬる
かすならぬ みをもちににて よしのやま たかきなけきを おもひこりぬる
読人知らず十六雑二
1168吉野山こえん事こそかたからめこらむ歎のかすはしりなん
よしのやま こえむことこそ かたからめ こらむなけきの かすはしりなむ
読人知らず十六雑二
1169かすならぬ身におくよひの白玉は光見えさす物にそ有りける
かすならぬ みにおくよひの しらたまは ひかりみえさす ものにそありける
武蔵十六雑二
1170なにはかたみきはのあしのおいかよに怨みてそふる人の心を
なにはかた みきはのあしの おいかよに うらみてそふる ひとのこころを
読人知らず十六雑二
1171わするとは怨みさらなんはしたかのとかへる山のしひはもみちす
わするとは うらみさらなむ はしたかの とかへるやまの しひはもみちす
読人知らず十六雑二
1172をちこちの人めまれなる山里に家ゐせんとは思ひきや君
をちこちの ひとめまれなる やまさとに いへゐせむとは おもひきやきみ
読人知らず十六雑二
1173身をうしと人しれぬ世を尋ねこし雲のやへ立つ山にやはあらぬ
みをうしと ひとしれぬよを たつねこし くものやへたつ やまにやはあらぬ
読人知らず十六雑二
1174あさなけに世のうきことをしのひつつなかめせしまに年はへにけり
あさなけに よのうきことを しのひつつ なかめせしまに としはへにけり
土左十六雑二
1175春やこし秋やゆきけんおほつかな影の朽木と世をすくす身は
はるやこし あきやゆきけむ おほつかな かけのくちきと よをすくすみは
閑院十六雑二
1176世中はうき物なれや人ことのとにもかくにもきこえくるしき
よのなかは うきものなれや ひとことの とにもかくにも きこえくるしき
紀貫之十六雑二
1177武蔵野は袖ひつはかりわけしかとわか紫はたつねわひにき
むさしのは そてひつはかり わけしかと わかむらさきは たつねわひにき
読人知らず十六雑二
1178おほあらきのもりの草とやなりにけむかりにたにきてとふ人のなき
おほあらきの もりのくさとや なりにけむ かりにたにきて とふひとのなき
壬生忠岑十六雑二
1179あはれてふ事こそつねのくちのはにかかるや人を思ふなるらん
あはれてふ ことこそつねの くちのはに かかるやひとを おもふなるらむ
読人知らず十六雑二
1180吹く風のしたのちりにもあらなくにさもたちやすきわかなきなかな
ふくかせの したのちりにも あらなくに さもたちやすき わかなきなかな
伊勢十六雑二
1181ふるさとのさほの河水けふも猶かくてあふせはうれしかりけり
ふるさとの さほのかはみつ けふもなほ かくてあふせは うれしかりけり
閑院左大臣十六雑二
1182わかやとをいつならしてかならのはをならしかほにはをりにおこする
わかやとを いつならしてか ならのはを ならしかほには をりにおこする
俊子十六雑二
1183ならの葉のはもりの神のましけるをしらてそをりしたたりなさるな
ならのはの はもりのかみの ましけるを しらてそをりし たたりなさるな
枇杷左大臣十六雑二
1184帰りては声やたかはむふえ竹のつらきひとよのかたみと思へは
かへりては こゑやたかはむ ふえたけの つらきひとよの かたみとおもへは
読人知らず十六雑二
1185ひとふしに怨みなはてそ笛竹のこゑの内にも思ふ心あり
ひとふしに うらみなはてそ ふえたけの こゑのうちにも おもふこころあり
読人知らず十六雑二
1186人につくたよりたになしおほあらきのもりのしたなる草の身なれは
ひとにつく たよりたになし おほあらきの もりのしたなる くさのみなれは
躬恒十六雑二
1187結ひおきしかたみのこたになかりせは何に忍の草をつままし
むすひおきし かたみのこたに なかりせは なににしのふの くさをつままし
兼忠朝臣母のめのと十六雑二
1188うれしきもうきも心はひとつにてわかれぬ物は涙なりけり
うれしきも うきもこころは ひとつにて わかれぬものは なみたなりけり
読人知らず十六雑二
1189をしからてかなしき物は身なりけりうき世そむかん方をしらねは
をしからて かなしきものは みなりけり うきよそむかむ かたをしらねは
紀貫之十六雑二
1190思ひいつる時そかなしき世中はそら行く雲のはてをしらねは
おもひいつる ときそかなしき よのなかは そらゆくくもの はてをしらねは
読人知らず十六雑二
1191あはれともうしともいはしかけろふのあるかなきかにけぬるよなれは
あはれとも うしともいはし かけろふの あるかなきかに けぬるよなれは
読人知らず十六雑二
1192あはれてふ事になくさむ世中をなとか昔といひてすくらん
あはれてふ ことになくさむ よのなかを なとかむかしと いひてすくらむ
読人知らず十六雑二
1193物思ふと行きても見ねはたかかたのあまのとまやはくちやしぬらん
ものおもふと ゆきてもみねは たかかたの あまのとまやは くちやしぬらむ
読人知らず十六雑二
1194夢にたにうれしとも見はうつつにてわひしきよりは猶まさりなん
ゆめにたに うれしともみは うつつにて わひしきよりは なほまさりなむ
躬恒十六雑二
1195いはのうへに旅ねをすれはいとさむし音の衣を我にかさなん
いはのうへに たひねをすれは いとさむし こけのころもを われにかさなむ
小野小町十七雑三
1196世をそむく苔の衣はたたひとへかさねはうとしいさふたりねん
よをそむく こけのころもは たたひとへ かさねはうとし いさふたりねむ
僧正遍昭十七雑三
1197逢ふ事の年きりしぬるなけきには身のかすならぬ物にそ有りける
あふことの としきりしぬる なけきには みのかすならぬ ものにそありける
せかゐのきみ十七雑三
1198あた人もなきにはあらす有りなからわか身にはまたききそならはぬ
あたひとも なきにはあらす ありなから わかみにはまた ききそならはぬ
左太臣(実頼)十七雑三
1199宮人とならまほしきを女郎花のへよりきりのたちいててそくる
みやひとと ならまほしきを をみなへし のへよりきりの たちいててそくる
読人知らず十七雑三
1200わか身にもあらぬわか身の悲しきに心もことに成りやしにけん
わかみにも あらぬわかみの かなしきに こころもことに なりやしにけむ
大輔十七雑三
1201世中をしらすなからもつのくにのなには立ちぬる物にそ有りける
よのなかを しらすなからも つのくにの なにはたちぬる ものにそありける
読人知らず十七雑三
1202よとともにわかぬれきぬとなる物はわふる涙のきするなりけり
よとともに わかぬれきぬと なるものは わふるなみたの きするなりけり
読人知らず十七雑三
1203うけれとも悲しきものをひたふるに我をや人の思ひすつらん
うけれとも かなしきものを ひたふるに われをやひとの おもひすつらむ
大輔十七雑三
1204悲しきもうきもしりにしひとつ名をたれをわくとか思ひすつへき
かなしきも うきもしりにし ひとつなを たれをわくとか おもひすつへき
読人知らず十七雑三
1205道しらぬ物ならなくにあしひきの山ふみ迷ふ人もありけり
みちしらぬ ものならなくに あしひきの やまふみまよふ ひともありけり
大輔十七雑三
1206しらかしの雪もきえにし葦引の山ちを誰かふみ迷ふへき
しらかしの ゆきもきえにし あしひきの やまちをたれか ふみまよふへき
藤原敦忠朝臣十七雑三
1207いふ事のたかはぬ物にあらませは後うき事ときこえさらまし
いふことの たかはぬものに あらませは のちうきことと きこえさらまし
読人知らず十七雑三
1208おも影をあひ見しかすになす時は心のみこそしつめられけれ
おもかけを あひみしかすに なすときは こころのみこそ しつめられけれ
伊勢十七雑三
1209ぬきとめぬかみのすちもてあやしくもへにける年のかすをしるかな
ぬきとめぬ かみのすちもて あやしくも へにけるとしの かすをしるかな
伊勢十七雑三
1210浪かすにあらぬ身なれは住吉の岸にもよらすなりやはてなん
なみかすに あらぬみなれは すみよしの きしにもよらす なりやはてなむ
読人知らず十七雑三
1211つきもせすうき事のはのおほかるをはやく嵐の風もふかなむ
つきもせす うきことのはの おほかるを はやくあらしの かせもふかなむ
読人知らず十七雑三
1212島かくれ有そにかよふあしたつのふみおく跡は浪もけたなん
しまかくれ ありそにかよふ あしたつの ふみおくあとは なみもけたなむ
読人知らず十七雑三
1213身ははやくなき物のこと成りにしをきえせぬ物は心なりけり
みははやく なきもののこと なりにしを きえせぬものは こころなりけり
伊勢十七雑三
1214むつましきいもせの山の中にさへへたつる雲のはれすもあるかな
むつましき いもせのやまの なかにさへ へたつるくもの はれすもあるかな
読人知らず十七雑三
1215わかためにおきにくかりしはしたかの人のてに有りときくはまことか
わかために おきにくかりし はしたかの ひとのてにありと きくはまことか
読人知らず十七雑三
1216声にたてていはねとしるしくちなしの色はわかためうすきなりけり
こゑにたてて いはねとしるし くちなしの いろはわかため うすきなりけり
読人知らず十七雑三
1217たきつせのはやからぬをそ怨みつる見すともおとにきかんとおもへは
たきつせの はやからぬをそ うらみつる みすともおとに きかむとおもへは
読人知らず十七雑三
1218みな人にふみみせけりなみなせ河その渡こそまつはあさけれ
みなひとに ふみみせけりな みなせかは そのわたりこそ まつはあさけれ
読人知らず十七雑三
1219年ふれはわかくろかみもしら河のみつはくむまて老いにけるかな
としふれは わかくろかみも しらかはの みつはくむまて おいにけるかな
ひかきの嫗十七雑三
1220かさすともたちとたちなんなきなをは事なし草のかひやなからん
かさすとも たちとたちなむ なきなをは ことなしくさの かひやなからむ
紀貫之十七雑三
1221帰りくる道にそけさは迷ふらんこれになすらふ花なきものを
かへりくる みちにそけさは まよふらむ これになすらふ はななきものを
紀貫之十七雑三
1222おほそらに行きかふ鳥の雲ちをそ人のふみみぬ物といふなる
おほそらに ゆきかふとりの くもちをそ ひとのふみみぬ ものといふなる
読人知らず十七雑三
1223きのくにのなくさのはまは君なれや事のいふかひ有りとききつる
きのくにの なくさのはまは きみなれや ことのいふかひ ありとききつる
読人知らず十七雑三
1224浪にのみぬれつるものを吹く風のたよりうれしきあまのつり舟
なみにのみ ぬれつるものを ふくかせの たよりうれしき あまのつりふね
紀貫之十七雑三
1225緑なる松ほとすきはいかてかはしたははかりももみちせさらん
みとりなる まつほとすきは いかてかは したははかりも もみちせさらむ
読人知らず十七雑三
1226思いての煙やまさんなき人のほとけになれるこのみみは君
おもひいての けふりやまさむ なきひとの ほとけになれる このみみはきみ
真延法師十七雑三
1227道なれるこの身尋ねて心さし有りと見るにそねをはましける
みちなれる このみたつねて こころさし ありとみるにそ ねをはましける
右大臣(師輔)十七雑三
1228いつこにも身をははなれぬ影しあれはふすとこことにひとりやはぬる
いつこにも みをははなれぬ かけしあれは ふすとこことに ひとりやはぬる
読人知らず十七雑三
1229風霜に色も心もかはらねはあるしににたるうゑ木なりけり
かせしもに いろもこころも かはらねは あるしににたる うゑきなりけり
真延法師十七雑三
1230山深みあるしににたるうゑ木をは見えぬ色とそいふへかりける
やまふかみ あるしににたる うゑきをは みえぬいろとそ いふへかりける
行明のみこ十七雑三
1231大井河うかへる舟のかかり火にをくらの山も名のみなりけり
おほゐかは うかへるふねの かかりひに をくらのやまも なのみなりけり
在原業平朝臣十七雑三
1232明日香河わか身ひとつのふちせゆゑなへての世をも怨みつるかな
あすかかは わかみひとつの ふちせゆゑ なへてのよをも うらみつるかな
読人知らず十七雑三
1233世中をいとひかてらにこしかともうき身なからの山にそ有りける
よのなかを いとひかてらに こしかとも うきみなからの やまにそありける
読人知らず十七雑三
1234したにのみはひ渡りつるあしのねのうれしき雨にあらはるるかな
したにのみ はひわたりつる あしのねの うれしきあめに あらはるるかな
読人知らず十七雑三
1235たきつせに誰白玉をみたりけんひろふとせしに袖はひちにき
たきつせに たれしらたまを みたりけむ ひろふとせしに そてはひちにき
読人知らず十七雑三
1236いつのまにふりつもるらんみよしのの山のかひよりくつれおつる雪
いつのまに ふりつもるらむ みよしのの やまのかひより くつれおつるゆき
源昇朝臣十七雑三
1237宮のたきむへも名におひてきこえけりおつるしらあわの玉とひひけは
みやのたき うへもなにおひて きこえけり おつるしらあわの たまとひひけは
法皇御製十七雑三
1238今更に我はかへらしたき見つつよへときかすととははこたへよ
いまさらに われはかへらし たきみつつ よへときかすと とははこたへよ
僧正遍昭十七雑三
1239滝つせのうつまきことにとめくれと猶尋ねくる世のうきめかな
たきつせの うつまきことに とめくれと なほたつねくる よのうきめかな
読人知らず十七雑三
1240たらちめはかかれとてしもむはたまのわかくろかみをなてすや有りけん
たらちめは かかれとてしも うはたまの わかくろかみを なてすやありけむ
僧正遍昭十七雑三
1241栽ゑし時契りやしけんたけくまの松をふたたひあひみつるかな
うゑしとき ちきりやしけむ たけくまの まつをふたたひ あひみつるかな
藤原もとよしの朝臣十七雑三
1242菅原や伏見のくれに見わたせは霞にまかふをはつせの山
すかはらや ふしみのくれに みわたせは かすみにまかふ をはつせのやま
読人知らず十七雑三
1243事のはもなくてへにける年月にこの春たにも花はさかなん
ことのはも なくてへにける としつきに このはるたにも はなはさかなむ
読人知らず十七雑三
1244なにはつをけふこそみつの浦ことにこれやこの世をうみわたる舟
なにはつを けふこそみつの うらことに これやこのよを うみわたるふね
在原業平朝臣十七雑三
1245白雲のきやとる峰のこ松原枝しけけれや日のひかりみぬ
しらくもの きやとるみねの こまつはら えたしけけれや ひのひかりみぬ
文屋康秀十七雑三
1246身にさむくあらぬものからわひしきは人の心の嵐なりけり
みにさむく あらぬものから わひしきは ひとのこころの あらしなりけり
土左十七雑三
1247なからへは人の心も見るへきをつゆのいのちそかなしかりける
なからへは ひとのこころも みるへきを つゆのいのちそ かなしかりける
土左十七雑三
1248もろともにいさとはいはてしての山いかてかひとりこえんとはせし
もろともに いさとはいはて してのやま いかてかひとり こえむとはせし
閑院大君十七雑三
1249おしなへて峰もたひらになりななん山のはなくは月もかくれし
おしなへて みねもたひらに なりななむ やまのはなくは つきもかくれし
かむつけのみねを十七雑三
1250わかやとにあひやとりしてすむかはつよるになれはや物は悲しき
わかやとに あひやとりして すむかはつ よるになれはや ものはかなしき
読人知らず十八雑四
1251玉江こくあしかりを舟さしわけて誰をたれとか我は定めん
たまえこく あしかりをふね さしわけて たれをたれとか われはさためむ
読人知らず十八雑四
1252みちのくのをふちのこまものかふにはあれこそまされなつくものかは
みちのくの をふちのこまも のかふには あれこそまされ なつくものかは
読人知らず十八雑四
1253いつくとて尋ねきつらん玉かつら我は昔の我ならなくに
いつくとて たつねきつらむ たまかつら われはむかしの われならなくに
源善朝臣十八雑四
1254あさことに見し宮こちのたえぬれは事あやまりにとふ人もなし
あさことに みしみやこちの たえぬれは ことあやまりに とふひともなし
読人知らず十八雑四
1255いつしかとまつちの山の桜花まちてもよそにきくかかなしさ
いつしかと まつちのやまの さくらはな まちてもよそに きくかかなしさ
読人知らず十八雑四
1256いせわたる河は袖よりなかるれととふにとはれぬ身はうせぬめり
いせわたる かははそてより なかるれと とふにとはれぬ みはうきぬめり
伊勢十八雑四
1257人めたに見えぬ山ちに立つ雲をたれすみかまの煙といふらん
ひとめたに みえぬやまちに たつくもを たれすみかまの けふりといふらむ
北辺左大臣十八雑四
1258あすか河淵せにかはる心とはみなかみしもの人もいふめり
あすかかは ふちせにかはる こころとは みなかみしもの ひともいふめり
伊勢十八雑四
1259今こむといひしはかりをいのちにてまつにけぬへしさくさめのとし
いまこむと いひしはかりを いのちにて まつにけぬへし さくさめのとし
読人知らず十八雑四
1260かすならぬ身のみ物うくおもほえてまたるるまてもなりにけるかな
かすならぬ みのみものうく おもほえて またるるまても なりにけるかな
読人知らず十八雑四
1261有りと聞くおとはの山の郭公何かくるらんなくこゑはして
ありときく おとはのやまの ほとときす なにかくるらむ なくこゑはして
読人知らず十八雑四
1262あしのうらのいときたなくも見ゆるかな浪はよりてもあらはさりけり
あしのうらの いときたなくも みゆるかな なみはよりても あらはさりけり
読人知らず十八雑四
1263人心たとへて見れは白露のきゆるまもなほひさしかりけり
ひとこころ たとへてみれは しらつゆの きゆるまもなほ ひさしかりけり
読人知らず十八雑四
1264世中といひつるものかかけろふのあるかなきかのほとにそ有りける
よのなかと いひつるものか かけろふの あるかなきかの ほとにそありける
読人知らず十八雑四
1265かくはかり別のやすき世中につねとたのめる我そはかなき
かくはかり わかれのやすき よのなかに つねとたのめる われそはかなき
読人知らず十八雑四
1266ちりに立つわかなきよめんももしきの人の心をまくらともかな
ちりにたつ わかなきよめむ ももしきの ひとのこころを まくらともかな
伊勢十八雑四
1267うき事をしのふる雨のしたにしてわかぬれきぬはほせとかわかす
うきことを しのふるあめの したにして わかぬれきぬは ほせとかわかす
こまちかむまこ十八雑四
1268逢ふ事のかたみのこゑのたかけれはわかなくねとも人はきかなん
あふことの かたみのこゑの たかけれは わかなくねとも ひとはきかなむ
読人知らず十八雑四
1269涙のみしる身のうさもかたるへくなけく心をまくらにもかな
なみたのみ しるみのうさも かたるへく なけくこころを まくらにもかな
読人知らず十八雑四
1270あひにあひて物思ふころのわか袖はやとる月さへぬるるかほなる
あひにあひて ものおもふころの わかそては やとるつきさへ ぬるるかほなる
伊勢十八雑四
1271あはれてふ事にしるしはなけれともいはてはえこそあらぬ物なれ
あはれてふ ことにしるしは なけれとも いはてはえこそ あらぬものなれ
紀貫之十八雑四
1272うつろはぬなになかれたるかは竹のいつれの世にか秋をしるへき
うつろはぬ なになかれたる かはたけの いつれのよにか あきをしるへき
読人知らず十八雑四
1273ふかき思ひそめつといひし事のははいつか秋風ふきてちりぬる
ふかきおもひ そめつといひし ことのはは いつかあきかせ ふきてちりぬる
贈太攻大臣(時平)十八雑四
1274心なき身は草木にもあらなくに秋くる風にうたかはるらむ
こころなき みはくさきにも あらなくに あきくるかせに うたかはるらむ
伊勢十八雑四
1275身のうきをしれははしたになりぬへみおもひはむねのこかれのみする
みのうきを しれははしたに なりぬへみ おもひはむねの こかれのみする
伊勢十八雑四
1276雲ちをもしらぬ我さへもろこゑにけふはかりとそなきかへりぬる
くもちをも しらぬわれさへ もろこゑに けふはかりとそ なきかへりぬる
読人知らず十八雑四
1277またきからおもひこきいろにそめむとやわか紫のねをたつぬらん
またきから おもひこきいろに そめむとや わかむらさきの ねをたつぬらむ
読人知らず十八雑四
1278見えもせぬ深き心をかたりては人にかちぬと思ふものかは
みえもせぬ ふかきこころを かたりては ひとにかちぬと おもふものかは
伊勢十八雑四
1279伊勢の海に年へてすみしあまなれとかかるみるめはかつかさりしを
いせのうみに としへてすみし あまなれと かかるみるめは かつかさりしを
伊勢十八雑四
1280あしひきの山の山鳥かひもなし峰の白雲たちしよらねは
あしひきの やまのやまとり かひもなし みねのしらくも たちしよらねは
兼輔朝臣十八雑四
1281我ならぬ草葉もものは思ひけり袖より外におけるしらつゆ
われならぬ くさはもものは おもひけり そてよりほかに おけるしらつゆ
ふちはらのたたくに十八雑四
1282人心嵐の風のさむけれはこのめも見えす枝そしをるる
ひとこころ あらしのかせの さむけれは このめもみえす えたそしをるる
伊勢十八雑四
1283うきなから人をわすれん事かたみわか心こそかはらさりけれ
うきなから ひとをわすれむ ことかたみ わかこころこそ かはらさりけれ
読人知らず十八雑四
1284うたたねのとこにとまれる白玉は君かおきけるつゆにやあるらん
うたたねの とこにとまれる しらたまは きみかおきける つゆにやあるらむ
源ひとしの朝臣十八雑四
1285かひもなき草の枕におくつゆの何にきえなておちとまりけん
かひもなき くさのまくらに おくつゆの なににきえなて おちとまりけむ
読人知らず十八雑四
1286思ひやる方もしられすくるしきは心まとひのつねにやあるらむ
おもひやる かたもしられす くるしきは こころまとひの つねにやあるらむ
読人知らず十八雑四
1287鈴虫におとらぬねこそなかれけれ昔の秋を思ひやりつつ
すすむしに おとらぬねこそ なかれけれ むかしのあきを おもひやりつつ
左太臣(実頼)十八雑四
1288ゆふくれのさひしき物は槿の花をたのめるやとにそ有りける
ゆふくれの さひしきものは あさかほの はなをたのめる やとにそありける
読人知らず十八雑四
1289ははそ山峰の嵐の風をいたみふることのはをかきそあつむる
ははそやま みねのあらしの かせをいたみ ふることのはを かきそあつむる
紀貫之十八雑四
1290世中をいとひてあまのすむ方もうきめのみこそ見えわたりけれ
よのなかを いとひてあまの すむかたも うきめのみこそ みえわたりけれ
こまちかあね十八雑四
1291山河のおとにのみきくももしきを身をはやなから見るよしもかな
やまかはの おとにのみきく ももしきを みをはやなから みるよしもかな
伊勢十八雑四
1292世中はいかにやいかに風のおとをきくにも今は物やかなしき
よのなかは いかにやいかに かせのおとを きくにもいまは ものやかなしき
読人知らず十八雑四
1293よのなかはいさともいさや風のおとは秋に秋そふ心地こそすれ
よのなかは いさともいさや かせのおとは あきにあきそふ ここちこそすれ
伊勢十八雑四
1294たとへくるつゆとひとしき身にしあらはわか思ひにもきえんとやする
たとへくる つゆとひとしき みにしあらは わかおもひにも きえむとやする
読人知らず十八雑四
1295ささかにのそらにすかけるいとよりも心ほそしやたえぬとおもへは
ささかにの そらにすかける いとよりも こころほそしや たえぬとおもへは
読人知らず十八雑四
1296風ふけはたえぬと見ゆるくものいも又かきつかてやむとやはきく
かせふけは たえぬとみゆる くものいも またかきつかて やむとやはきく
読人知らず十八雑四
1297名にたちてふしみのさとといふ事はもみちをとこにしけはなりけり
なにたちて ふしみのさとと いふことは もみちをとこに しけはなりけり
読人知らず十八雑四
1298我も思ふ人もわするなありそ海の浦吹く風のやむ時もなく
われもおもふ ひともわするな ありそうみの うらふくかせの やむときもなく
ひとしきこのみこ十八雑四
1299あしひきの山したとよみなくとりもわかことたえす物思ふらめや
あしひきの やましたとよみ なくとりも わかことたえす ものおもふらめや
山田法師十八雑四
1300今はとて秋はてられし身なれともきりたち人をえやはわするる
いまはとて あきはてられし みなれとも きりたちひとを えやはわするる
読人知らず十八雑四
1301思ひいててきつるもしるくもみちはの色は昔にかはらさりけり
おもひいてて きつるもしるく もみちはの いろはむかしに かはらさりけり
藤原兼輔朝臣十八雑四
1302峰高み行きても見へきもみちはをわかゐなからもかさしつるかな
みねたかみ ゆきてもみへき もみちはを わかゐなからも かさしつるかな
坂上是則十八雑四
1303まつ人はきぬときけともあらたまのとしのみこゆるあふさかのせき
まつひとは きぬときけとも あらたまの としのみこゆる あふさかのせき
読人知らず十八雑四
1304をりをりに打ちてたく火の煙あらは心さすかをしのへとそ思ふ
をりをりに うちてたくひの けふりあらは こころさすかを しのへとそおもふ
紀貫之十九離別羈旅
1305あた人のたむけにをれるさくら花相坂まてはちらすもあらなん
あたひとの たむけにをれる さくらはな あふさかまては ちらすもあらなむ
読人知らず十九離別羈旅
1306思ひやる心はかりはさはらしを何へたつらん峰の白雲
おもひやる こころはかりは さはらしを なにへたつらむ みねのしらくも
橘直幹十九離別羈旅
1307ふたみ山ともにこえねとますかかみそこなる影をたくへてそやる
ふたみやま ともにこえねと ますかかみ そこなるかけを たくへてそやる
読人知らず十九離別羈旅
1308しなのなるあさまの山ももゆなれはふしのけふりのかひやなからん
しなのなる あさまのやまも もゆなれは ふしのけふりの かひやなからむ
読人知らず十九離別羈旅
1309このたひも我をわすれぬ物ならはうち見むたひに思ひいてなん
このたひも われをわすれぬ ものならは うちみむたひに おもひいてなむ
読人知らず十九離別羈旅
1310打ちすてて君しいなはのつゆの身はきえぬはかりそ有りとたのむな
うちすてて きみしいなはの つゆのみは きえぬはかりそ ありとたのむな
読人知らず十九離別羈旅
1311をしと思ふ心はなくてこのたひはゆく馬にむちをおほせつるかな
をしとおもふ こころはなくて このたひは ゆくうまにむちを おほせつるかな
読人知らず十九離別羈旅
1312君か手をかれゆく秋のすゑにしものかひにはなつむまそかなしき
きみかてを かれゆくあきの すゑにしも のかひにはなつ うまそかなしき
むま十九離別羈旅
1313今はとて立帰りゆくふるさとのふはのせきちにみやこわするな
いまはとて たちかへりゆく ふるさとの ふはのせきちに みやこわするな
藤原清正十九離別羈旅
1314身をわくる事のかたさにます鏡影はかりをそ君にそへつる
みをわくる ことのかたさに ますかかみ かけはかりをそ きみにそへつる
おほくほののりよし十九離別羈旅
1315はつかりの我もそらなるほとなれは君も物うきたひにやあるらん
はつかりの われもそらなる ほとなれは きみもものうき たひにやあるらむ
読人知らず十九離別羈旅
1316いとせめてこひしきたひの唐衣ほとなくかへす人もあらなん
いとせめて こひしきたひの からころも ほとなくかへす ひともあらなむ
源公忠朝臣十九離別羈旅
1317唐衣たつ日をよそにきく人はかへすはかりのほともこひしを
からころも たつひをよそに きくひとは かへすはかりの ほともこひしを
読人知らず十九離別羈旅
1318こひしくは事つてもせむかへるさのかりかねはまつわかやとになけ
こひしくは ことつてもせむ かへるさの かりかねはまつ わかやとになけ
読人知らず十九離別羈旅
1319別れてはいつあひみんと思ふらん限あるよのいのちともなし
わかれては いつあひみむと おもふらむ かきりあるよの いのちともなし
伊勢十九離別羈旅
1320そむかれぬ松のちとせのほとよりもともともとたにしたはれそせし
そむかれぬ まつのちとせの ほとよりも ともともとたに したはれそせし
読人知らず十九離別羈旅
1321ともともとしたふ涙のそふ水はいかなる色に見えてゆくらん
ともともと したふなみたの そふみつは いかなるいろに みえてゆくらむ
読人知らず十九離別羈旅
1322わかるれとあひもをしまぬももしきを見さらん事やなにかかなしき
わかるれと あひもをしまぬ ももしきを みさらむことや なにかかなしき
伊勢十九離別羈旅
1323身ひとつにあらぬはかりをおしなへてゆきめくりてもなとかみさらん
みひとつに あらぬはかりを おしなへて ゆきめくりても なとかみさらむ
亭子のみかと十九離別羈旅
1324別れゆく道のくもゐになりゆけはとまる心もそらにこそなれ
わかれゆく みちのくもゐに なりゆけは とまるこころも そらにこそなれ
読人知らず十九離別羈旅
1325いかて猶かさとり山に身をなしてつゆけきたひにそはんとそ思ふ
いかてなほ かさとりやまに みをなして つゆけきたひに そはむとそおもふ
読人知らず十九離別羈旅
1326かさとりの山とたのみし君をおきて涙の雨にぬれつつそゆく
かさとりの やまとたのみし きみをおきて なみたのあめに ぬれつつそゆく
宗于朝臣のむすめ十九離別羈旅
1327君かゆく方に有りてふ涙河まつは袖にそ流るへらなる
きみかゆく かたにありてふ なみたかは まつはそてにそ なかるへらなる
読人知らず十九離別羈旅
1328袖ぬれて別はすとも唐衣ゆくとないひそきたりとを見む
そてぬれて わかれはすとも からころも ゆくとないひそ きたりとをみむ
読人知らず十九離別羈旅
1329別ちは心もゆかす唐衣きれは涙そさきにたちける
わかれちは こころもゆかす からころも きれはなみたそ さきにたちける
読人知らず十九離別羈旅
1330そへてやる扇の風し心あらはわか思ふ人の手をなはなれそ
そへてやる あふきのかせし こころあらは わかおもふひとの てをなはなれそ
読人知らず十九離別羈旅
1331君をのみしのふのさとへゆくものをあひつの山のはるけきやなそ
きみをのみ しのふのさとへ ゆくものを あひつのやまの はるけきやなそ
藤原滋幹かむすめ十九離別羈旅
1332年をへてあひみる人の別にはをしき物こそいのちなりけれ
としをへて あひみるひとの わかれには をしきものこそ いのちなりけれ
小野好古朝臣十九離別羈旅
1333ゆくさきをしらぬ涙の悲しきはたためのまへにおつるなりけり
ゆくさきを しらぬなみたの かなしきは たためのまへに おつるなりけり
源のわたる十九離別羈旅
1334わするなといふになかるる涙河うきなをすすくせともならなん
わするなと いふになかるる なみたかは うきなをすすく せともならなむ
たかとほかめ十九離別羈旅
1335我をのみ思ひつるかの浦ならはかへるの山はまとはさらまし
われをのみ おもひつるかの うらならは かへるのやまは まとはさらまし
読人知らず十九離別羈旅
1336君をのみいつはたと思ひこしなれはゆききの道ははるけからしを
きみをのみ いつはたとおもひ こしなれは ゆききのみちは はるけからしを
読人知らず十九離別羈旅
1337秋ふかくたひゆく人のたむけにはもみちにまさるぬさなかりけり
あきふかく たひゆくひとの たむけには もみちにまさる ぬさなかりけり
読人知らず十九離別羈旅
1338もみちはをぬさとたむけてちらしつつ秋とともにやゆかんとすらん
もみちはを ぬさとたむけて ちらしつつ あきとともにや ゆかむとすらむ
大輔十九離別羈旅
1339まちわひてこひしくならはたつぬへくあとなき水のうへならてゆけ
まちわひて こひしくならは たつぬへく あとなきみつの うへならてゆけ
伊勢十九離別羈旅
1340こむといひてわかるるたにもあるものをしられぬけさのましてわひしさ
こむといひて わかるるたにも あるものを しられぬけさの ましてわひしき
贈太攻大臣(時平)十九離別羈旅
1341さらはよと別れし時にいはませは我も涙におほほれなまし
さらはよと わかれしときに いはませは われもなみたに おほほれなまし
伊勢十九離別羈旅
1342春霞はかなくたちてわかるとも風より外にたれかとふへき
はるかすみ はかなくたちて わかるとも かせよりほかに たれかとふへき
読人知らず十九離別羈旅
1343めにみえぬ風に心をたくへつつやらはかすみのわかれこそせめ
めにみえぬ かせにこころを たくへつつ やらはかすみの わかれこそせめ
伊勢十九離別羈旅
1344君か世はつるのこほりにあえてきね定なきよのうたかひもなく
きみかよは つるのこほりに あえてきね さためなきよの うたかひもなく
伊勢十九離別羈旅
1345おくれすそ心にのりてこかるへき浪にもとめよ舟みえすとも
おくれすそ こころにのりて こかるへき なみにもとめよ ふねみえすとも
伊勢十九離別羈旅
1346舟なくはあまのかはまてもとめてむこきつつしほのなかにきえすは
ふねなくは あまのかはまて もとめてむ こきつつしほの なかにきえすは
読人知らず十九離別羈旅
1347かねてより涙そ袖をうちぬらすうかへる舟にのらむと思へは
かねてより なみたそそてを うちぬらす うかへるふねに のらむとおもへは
読人知らず十九離別羈旅
1348おさへつつ我は袖にそせきとむる舟こすしほになさしとおもへは
おさへつつ われはそてにそ せきとむる ふねこすしほに なさしとおもへは
伊勢十九離別羈旅
1349わすれしとことにむすひてわかるれはあひ見むまては思ひみたるな
わすれしと ことにむすひて わかるれは あひみむまては おもひみたるな
紀貫之十九離別羈旅
1350はつせ河わたるせさへやにこるらん世にすみかたきわか身と思へは
はつせかは わたるせさへや にこるらむ よにすみかたき わかみとおもへは
読人知らず十九離別羈旅
1351名にしおははあたにそ思ふたはれしま浪のぬれきぬいくよきつらん
なにしおはは あたにそおもふ たはれしま なみのぬれきぬ いくよきつらむ
読人知らず十九離別羈旅
1352いととしくすきゆく方のこひしきにうら山しくも帰る浪かな
いととしく すきゆくかたの こひしきに うらやましくも かへるなみかな
在原業平朝臣十九離別羈旅
1353宮こまておとにふりくる白山はゆきつきかたき所なりけり
みやこまて おとにふりくる しらやまは ゆきつきかたき ところなりけり
読人知らず十九離別羈旅
1354山さとの草はのつゆもしけからんみのしろ衣ぬはすともきよ
やまさとの くさはのつゆも しけからむ みのしろころも ぬはすともきよ
中原宗興十九離別羈旅
1355宮こにて山のはに見し月なれと海よりいてて海にこそいれ
みやこにて やまのはにみし つきなれと うみよりいてて うみにこそいれ
紀貫之十九離別羈旅
1356水ひきのしらいとはへておるはたは旅の衣にたちやかさねん
みつひきの しらいとはへて おるはたは たひのころもに たちやかさねむ
菅原右大臣十九離別羈旅
1357ひくらしの山ちをくらみさよふけてこのすゑことにもみちてらせる
ひくらしの やまちをくらみ さよふけて このすゑことに もみちてらせる
菅原右大臣十九離別羈旅
1358草枕たひとなりなは山のへにしらくもならぬ我ややとらむ
くさまくら たひとなりなは やまのへに しらくもならぬ われややとらむ
伊勢十九離別羈旅
1359水もせにうきぬる時はしからみのうちのとのとも見えぬもみちは
みつもせに うきたるときは しからみの うちのとのとも みえぬもみちは
伊勢十九離別羈旅
1360花さきてみならぬ物はわたつうみのかさしにさせるおきつ白浪
はなさきて みならぬものは わたつうみの かさしにさせる おきつしらなみ
小野小町十九離別羈旅
1361あしからのせきの山ちをゆく人はしるもしらぬもうとからぬかな
あしからの せきのやまちを ゆくひとは しるもしらぬも うとからぬかな
真静法師十九離別羈旅
1362人ことにけふけふとのみこひらるる宮こちかくも成りにけるかな
ひとことに けふけふとのみ こひらるる みやこちかくも なりにけるかな
僧正聖宝十九離別羈旅
1363てる月のなかるる見れはあまのかはいつるみなとは海にそ有りける
てるつきの なかるるみれは あまのかは いつるみなとは うみにそありける
紀貫之十九離別羈旅
1364草枕紅葉むしろにかへたらは心をくたく物ならましや
くさまくら もみちむしろに かへたらは こころをくたく ものならましや
亭子院御製十九離別羈旅
1365思ふ人ありてかへれはいつしかのつままつよひのこゑそかなしき
おもふひと ありてかへれは いつしかの つままつよひの こゑそかなしき
読人知らず十九離別羈旅
1366草枕ゆふてはかりはなになれやつゆもなみたもおきかへりつつ
くさまくら ゆふてはかりは なになれや つゆもなみたも おきかへりつつ
読人知らず十九離別羈旅
1367秋山にまとふ心をみやたきのたきのしらあわにけちやはててむ
あきやまに まとふこころを みやたきの たきのしらあわに けちやはててむ
素性法師十九離別羈旅
1368よろつ世の霜にもかれぬ白菊をうしろやすくもかさしつるかな
よろつよの しもにもかれぬ しらきくを うしろやすくも かさしつるかな
藤原伊衡朝臣二十慶賀哀傷
1369雲わくるあまの羽衣うちきては君かちとせにあはさらめやは
くもわくる あまのはころも うちきては きみかちとせに あはさらめやは
典侍あきらけい子二十慶賀哀傷
1370ことしよりわかなにそへておいのよにうれしき事をつまむとそ思ふ
ことしより わかなにそへて おいのよに うれしきことを つまむとそおもふ
太政大臣(忠平)二十慶賀哀傷
1371ことのねも竹もちとせのこゑするは人の思ひにかよふなりけり
ことのねも たけもちとせの こゑするは ひとのおもひに かよふなりけり
紀貫之二十慶賀哀傷
1372ももとせといはふを我はききなから思ふかためはあかすそ有りける
ももとせと いはふをわれは ききなから おもふかためは あかすそありける
読人知らず二十慶賀哀傷
1373おほはらやをしほの山のこ松原はやこたかかれちよの影みん
おほはらや をしほのやまの こまつはら はやこたかかれ ちよのかけみむ
紀貫之二十慶賀哀傷
1374打ちよする浪の花こそさきにけれちよ松風やはるになるらん
うちよする なみのはなこそ さきにけれ ちよまつかせや はるになるらむ
読人知らず二十慶賀哀傷
1375君かため松のちとせもつきぬへしこれよりまさん神の世もかな
きみかため まつのちとせも つきぬへし これよりまさむ かみのよもかな
読人知らず二十慶賀哀傷
1376ももとせにやそとせそへていのりくる玉のしるしを君みさらめや
ももとせに やそとせそへて いのりくる たまのしるしを きみみさらめや
ゆいせい法師二十慶賀哀傷
1377けふそくをおさへてまさへよろつよに花のさかりを心しつかに
けふそくを おさへてまさへ よろつよに はなのさかりを こころしつかに
僧都仁教二十慶賀哀傷
1378君かためいはふ心のふかけれはひしりのみよのあとならへとそ
きみかため いはふこころの ふかけれは ひしりのみよの あとならへとそ
太政大臣(忠平)二十慶賀哀傷
1379をしへおくことたかはすはゆくすゑの道とほくともあとはまとはし
をしへおく ことたかはすは ゆくすゑの みちとほくとも あとはまとはし
村上院御製二十慶賀哀傷
1380山人のこれるたききは君かためおほくの年をつまんとそ思ふ
やまひとの これるたききは きみかため おほくのとしを つまむとそおもふ
太政大臣(忠平)二十慶賀哀傷
1381年のかすつまんとすなるおもににはいととこつけをこりもそへなん
としのかす つまむとすなる おもにには いととこつけを こりもそへなむ
村上院御製二十慶賀哀傷
1382君かためうつしてううるくれ竹にちよもこもれる心地こそすれ
きみかため うつしてううる くれたけに ちよもこもれる ここちこそすれ
藤原清正二十慶賀哀傷
1383をののえのくちむもしらす君か世のつきんかきりはうちこころみよ
をののえの くちむもしらす きみかよの つきむかきりは うちこころみよ
命婦いさきよき子二十慶賀哀傷
1384なみたてる松の緑の枝わかすをりつつちよを誰とかは見む
なみたてる まつのみとりの えたわかす をりつつちよを たれとかはみむ
右大臣(師輔)二十慶賀哀傷
1385いはふこと有りとなるへしけふなれと年のこなたにはるもきにけり
いはふこと ありとなるへし けふなれと としのこなたに はるもきにけり
紀貫之二十慶賀哀傷
1386またしらぬ人も有りけるあつまちに我も行きてそすむへかりける
またしらぬ ひともありけり あつまちに われもゆきてそ すむへかりける
左太臣(実頼)二十慶賀哀傷
1387春の夜の夢のなかにも思ひきや君なきやとをゆきてみんとは
はるのよの ゆめのなかにも おもひきや きみなきやとを ゆきてみむとは
太政大臣(忠平)二十慶賀哀傷
1388やと見れはねてもさめてもこひしくて夢うつつともわかれさりけり
やとみれは ねてもさめても こひしくて ゆめうつつとも わかれさりけり
読人知らず二十慶賀哀傷
1389はかなくて世にふるよりは山しなの宮の草木とならましものを
はかなくて よにふるよりは やましなの みやのくさきと ならましものを
三条右大臣(定方)二十慶賀哀傷
1390山しなの宮の草木と君ならは我はしつくにぬるはかりなり
やましなの みやのくさきと きみならは われはしつくに ぬるはかりなり
藤原兼輔朝臣二十慶賀哀傷
1391わかれにしほとをはてともおもほえすこひしきことの限なけれは
わかれにし ほとをはてとも おもほえす こひしきことの かきりなけれは
時望朝臣妻二十慶賀哀傷
1392たねもなき花たにちらぬやともあるをなとかかたみのこたになからん
たねもなき はなたにちらぬ やともあるを なとかかたみの こたになからむ
右大臣(師輔)二十慶賀哀傷
1393結ひおきしたねならねともみるからにいとと忍の草をつむかな
むすひおきし たねならねとも みるからに いととしのふの くさをつむかな
内侍のかみ二十慶賀哀傷
1394ここらよをきくか中にもかなしきは人の涙もつきやしぬらん
ここらよを きくかうちにも かなしきは ひとのなみたも つきやしぬらむ
伊勢二十慶賀哀傷
1395聞く人もあはれてふなる別にはいとと涙そつきせさりける
きくひとも あはれてふなる わかれには いととなみたそ つきせさりける
読人知らず二十慶賀哀傷
1396いたつらにけふやくれなんあたらしき春の始は昔なからに
いたつらに けふやくれなむ あたらしき はるのはしめは むかしなからに
三条右大臣(定方)二十慶賀哀傷
1397なく涙ふりにし年の衣手はあたらしきにもかはらさりけり
なくなみた ふりにしとしの ころもては あたらしきにも かはらさりけり
藤原兼輔朝臣二十慶賀哀傷
1398人の世の思ひにかなふ物ならはわか身は君におくれましやは
ひとのよの おもひにかなふ ものならは わかみはきみに おくれましやは
三条右大臣(定方)二十慶賀哀傷
1399ねぬ夢に昔のかへを見つるよりうつつに物そかなしかりける
ねぬゆめに むかしのかへを みつるより うつつにものそ かなしかりける
藤原兼輔朝臣二十慶賀哀傷
1400ゆふされはねにゆくをしのひとりしてつまこひすなるこゑのかなしさ
ゆふされは ねになくをしの ひとりして つまこひすなる こゑのかなしさ
閑院左大臣二十慶賀哀傷
1401をみなへしかれにしのへにすむ人はまつさく花をまたてとも見す
をみなへし かれにしのへに すむひとは まつさくはなを またてともみす
太政大臣(忠平)二十慶賀哀傷
1402なき人の影たに見えぬやり水のそこは涙になかしてそこし
なきひとの かけたにみえぬ やりみつの そこはなみたに なかしてそこし
伊勢二十慶賀哀傷
1403ひとりゆく事こそうけれふるさとのならのならひてみし人もなみ
ひとりゆく ことこそうけれ ふるさとの ならのならひて みしひともなみ
伊勢二十慶賀哀傷
1404すみそめのこきもうすきも見る時はかさねて物そかなしかりける
すみそめの こきもうすきも みるときは かさねてものそ かなしかりける
京極御息所二十慶賀哀傷
1405昨日まてちよとちきりし君をわかしての山ちにたつぬへきかな
きのふまて ちよとちきりし きみをわか してのやまちに たつぬへきかな
右大臣(師輔)二十慶賀哀傷
1406あらたまの年こえくらしつねもなきはつ鴬のねにそなかるる
あらたまの としこえくらし つねもなき はつうくひすの ねにそなかるる
はるかみの朝臣のむすめ二十慶賀哀傷
1407ねにたててなかぬ日はなし鴬の昔の春を思ひやりつつ
ねにたてて なかぬひはなし うくひすの むかしのはるを おもひやりつつ
大輔二十慶賀哀傷
1408もろともにおきゐし秋のつゆはかりかからん物と思ひかけきや
もろともに おきゐしあきの つゆはかり かからむものと おもひかけきや
玄上朝臣女二十慶賀哀傷
1409世中のかなしき事を菊のうへにおく白露そ涙なりける
よのなかの かなしきことを きくのうへに おくしらつゆそ なみたなりける
藤原守文二十慶賀哀傷
1410きくにたにつゆけかるらん人のよをめにみし袖を思ひやらなん
きくにたに つゆけかるらむ ひとのよを めにみしそてを おもひやらなむ
藤原清正二十慶賀哀傷
1411ひきうゑしふたはの松は有りなから君かちとせのなきそ悲しき
ひきうゑし ふたはのまつは ありなから きみかちとせの なきそかなしき
紀貫之二十慶賀哀傷
1412君まさて年はへぬれとふるさとにつきせぬ物は涙なりけり
きみまさて としはへぬれと ふるさとに つきせぬものは なみたなりけり
読人知らず二十慶賀哀傷
1413すきにける人を秋しも問ふからに袖はもみちの色にこそなれ
すきにける ひとをあきしも とふからに そてはもみちの いろにこそなれ
戒仙法師二十慶賀哀傷
1414袖かわく時なかりつるわか身にはふるを雨ともおもはさりけり
そてかわく ときなかりつる わかみには ふるをあめとも おもはさりけり
読人知らず二十慶賀哀傷
1415ふるさとに君はいつらとまちとははいつれのそらの霞といはまし
ふるさとに きみはいつらと まちとはは いつれのそらの かすみといはまし
読人知らず二十慶賀哀傷
1416君かいにし方やいつれそ白雲のぬしなきやとと見るかかなしさ
きみかいにし かたやいつれそ しらくもの ぬしなきやとと みるかかなしさ
藤原清正二十慶賀哀傷
1417わひ人のたもとに君かうつりせは藤の花とそ色は見えまし
わひひとの たもとにきみか うつりせは ふちのはなとそ いろはみえまし
読人知らず二十慶賀哀傷
1418よそにをる袖たにひちし藤衣涙に花も見えすそあらまし
よそにをる そてたにひちし ふちころも なみたにはなも みえすそあらまし
読人知らず二十慶賀哀傷
1419ほともなく誰もおくれぬ世なれともとまるはゆくをかなしとそみる
ほともなく たれもおくれぬ よなれとも とまるはゆくを かなしとそみる
伊勢二十慶賀哀傷
1420時のまもなくさめつらんさめぬまは夢にたに見ぬわれそかなしき
ときのまも なくさめつらむ さめぬまは ゆめにたにみぬ われそかなしき
玄上朝臣女二十慶賀哀傷
1421かなしさのなくさむへくもあらさりつゆめのうちにも夢とみゆれは
かなしさの なくさむへくも あらさりつ ゆめのうちにも ゆめとみゆれは
大輔二十慶賀哀傷
1422かけてたにわか身のうへと思ひきやこむ年春の花をみしとは
かけてたに わかみのうへと おもひきや こむとしはるの はなをみしとは
伊勢二十慶賀哀傷
1423なくこゑにそひて涙はのほらねと雲のうへよりあめとふるらん
なくこゑに そひてなみたは のほらねと くものうへより あめとふるらむ
伊勢二十慶賀哀傷
1424なき人のともにし帰る年ならはくれゆくけふはうれしからまし
なきひとの ともにしかへる としならは くれゆくけふは うれしからまし
藤原兼輔朝臣二十慶賀哀傷
1425こふるまに年のくれなはなき人の別やいとととほくなりなん
こふるまに としのくれなは なきひとの わかれやいとと とほくなりなむ
紀貫之二十慶賀哀傷

※読人(作者)についてはできる限り正確に整えておりますが、誤りもある可能性があります。ご了承ください。

※作者検索をしたいときは、藤原、源といったいわゆる氏を除いた名のみで検索することをおすすめいたします。

※御製歌は〇〇院としています。〇〇天皇の歌となります。

※濁点につきましては原文通り加えておりません。時間的余裕があれば書き加えてまいります。