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新古今和歌集(冷泉家時雨亭文庫蔵)
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新古今和歌集のデータベース

やまと歌は、むかし天地ひらけはじめて、人のしわざいまださだまらざりし時、葦原中つ國の言の葉として、稻田姬、素鵞の里よりぞ傳はりける。しかありしよりこのかた、その道さかりにおこり、そのながれいまに絕ゆることなくして、色にふけり心をのぶるなかだちとし、世を治め民を和らぐる道とせり。

新古今和歌集 – 仮名序

新古今和歌集とは

  • 新古今和歌集は古今から続く、八代集最後の勅撰和歌集であり、後鳥羽院の勅命により編纂された。
  • 源通具・六条有家・藤原定家・藤原家隆・飛鳥井雅経・寂蓮の6人が撰者となり、1205年成立。
  • 巻二十から成り、全約1970首(伝本によって異なる)

新古今和歌集の構成

春上 春下 秋上 秋下 哀傷 離別 羈旅
98 76 110 152 114 156 50 100 39 94
% 4.9 3.8 5.5 7.6 5.7 7.8 2.5 5 1.9 4.7
恋一 恋二 恋三 恋四 恋五 雑上 雑中 雑下 釈教
91 68 85 102 100 152 103 161 64 63
% 4.6 3.4 4.2 5.1 5 7.6 5.2 8.1 3.2 3.1
  • 巻二十から成り、全1978首。

新古今和歌集 言の葉データベース

「かな」は原文と同様に濁点を付けておりませんので、例えば「郭公(ほととぎす)」を検索したいときは、「ほとときす」と入力してください。

歌番号よみ人
1みよしのは山もかすみてしらゆきのふりにしさとに春はきにけり
みよしのは やまもかすみて しらゆきの ふりにしさとに はるはきにけり
久我建通(後京極摂政)春 上
2ほのほのとはるこそそらにきにけらしあまのかく山かすみたなひく
ほのほのと はるこそそらに きにけらし あまのかくやま かすみたなひく
太上天皇春 上
3山ふかみ春ともしらぬ松のとにたえたえかかる雪のたまみつ
やまふかみ はるともしらぬ まつのとに たえたえかかる ゆきのたまみつ
式子内親王春 上
4かきくらしなをふるさとのゆきのうちにあとこそ見えね春はきにけり
かきくらし なほふるさとの ゆきのうちに あとこそみえね はるはきにけり
後鳥羽院宮内卿春 上
5けふといへはもろこしまてもゆく春をみやこにのみとおもひけるかな
けふといへは もろこしまても ゆくはるを みやこにのみと おもひけるかな
皇太后宮大夫俊成春 上
6春といへはかすみにけりなきのふまてなみまに見えしあはちしま山
はるといへは かすみにけりな きのふまて なみまにみえし あはちしまやま
俊恵法師春 上
7いはまとちしこほりもけさはとけそめてこけのしたみつみちもとむらん
いはまとちし こほりもけさは とけそめて こけのしたみつ みちもとむらむ
西行法師春 上
8風ませに雪はふりつつしかすかに霞たなひき春はきにけり
かせませに ゆきはふりつつ しかすかに かすみたなひき はるはきにけり
読人知らず春 上
9ときはいま春になりぬとみゆきふるとをき山へにかすみたなひく
ときはいま はるになりぬと みゆきふる とほきやまへに かすみたなひく
読人知らず春 上
10かすかののしたもえわたるくさのうへにつれなくみゆる春のあは雪
かすかのの したもえわたる くさのうへに つれなくみゆる はるのあはゆき
権中納言国信春 上
11あすからはわかなつまむとしめしのにきのふもけふも雪はふりつつ
あすからは わかなつまむと しめしのに きのふもけふも ゆきはふりつつ
山辺赤人春 上
12かすかののくさはみとりになりにけりわかなつまむとたれかしめけん
かすかのの くさはみとりに なりにけり わかなつまむと たれかしめけむ
壬生忠見春 上
13わかなつむそてとそ見ゆるかすかののとふひののへの雪のむらきえ
わかなつむ そてとそみゆる かすかのの とふひののへの ゆきのむらきえ
前参議教長春 上
14ゆきて見ぬ人もしのへとはるの野のかたみにつめるわかななりけり
ゆきてみぬ ひともしのへと はるののの かたみにつめる わかななりけり
紀貫之春 上
15さはにおふるわかなならねといたつらにとしをつむにもそてはぬれけり
さはにおふる わかなならねと いたつらに としをつむにも そてはぬれけり
皇太后宮大夫俊成春 上
16ささなみやしかのはままつふりにけりたかよにひけるねの日なるらん
ささなみや しかのはままつ ふりにけり たかよにひける ねのひなるらむ
読人知らず春 上
17たにかはのうちいつるなみもこゑたてつ鴬さそへはるの山かせ
たにかはの うちいつるなみも こゑたてつ うくひすさそへ はるのやまかせ
藤原家隆朝臣春 上
18鴬のなけともいまたふるゆきにすきの葉しろきあふさかの山
うくひすの なけともいまた ふるゆきに すきのはしろき あふさかのやま
太上天皇春 上
19春きては花とも見よとかたをかの松のうは葉にあは雪そふる
はるきては はなともみよと かたをかの まつのうははに あはゆきそふる
藤原仲実朝臣春 上
20まきもくのひはらのいまたくもらねはこまつかはらにあは雪そふる
まきもくの ひはらのいまた くもらねは こまつかはらに あはゆきそふる
中納言家持春 上
21いまさらにゆきふらめやもかけろふのもゆるはるひとなりにしものを
いまさらに ゆきふらめやも かけろふの もゆるはるひと なりにしものを
読人知らず春 上
22いつれをか花とはわかむふるさとのかすかのはらにまたきえぬ雪
いつれをか はなともわかむ ふるさとの かすかのはらに またきえぬゆき
凡河内躬恒春 上
23そらはなをかすみもやらす風さえて雪けにくもる春のよの月
そらはなほ かすみもやらす かせさえて ゆきけにくもる はるのよのつき
久我建通(後京極摂政)春 上
24やまふかみなをかけさむし春の月そらかきくもり雪はふりつつ
やまふかみ なほかけさむし はるのつき そらかきくもり ゆきはふりつつ
嘉陽門院越前春 上
25みしまえやしももまたひぬあしの葉につのくむほとの春風そ吹
みしまえや しももまたひぬ あしのはに つのくむほとの はるかせそふく
左衛門督通光春 上
26ゆふつくよしほみちくらしなにはえのあしのわか葉にこゆるしらなみ
ゆふつくよ しほみちくらし なにはえの あしのわかはに こゆるしらなみ
藤原秀能春 上
27ふりつみしたかねのみゆきとけにけりきよたき河の水のしらなみ
ふりつみし たかねのみゆき とけにけり きよたきかはの みつのしらなみ
西行法師春 上
28むめかえにものうきほとにちるゆきを花ともいはし春のなたてに
うめかえに ものうきほとに ちるゆきを はなともいはし はるのなたてに
源重之春 上
29あつさゆみはる山ちかくいゑゐしてたえすききつる鴬のこゑ
あつさゆみ はるやまちかく いへゐして たえすききつる うくひすのこゑ
山辺赤人春 上
30むめかえになきてうつろふうくひすのはねしろたへにあはゆきそふる
うめかえに なきてうつろふ うくひすの はねしろたへに あはゆきそふる
読人知らず春 上
31鴬のなみたのつららうちとけてふるすなからや春をしるらん
うくひすの なみたのつらら うちとけて ふるすなからや はるをしるらむ
惟明親王春 上
32いはそそくたるみのうへのさわらひのもえいつる春になりにけるかな
いはそそく たるみのうへの さわらひの もえいつるはるに なりにけるかな
志貴皇子春 上
33あまのはらふしのけふりの春の色のかすみになひくあけほののそら
あまのはら ふしのけふりの はるのいろの かすみになひく あけほののそら
前大僧正慈円春 上
34あさかすみふかく見ゆるやけふりたつむろのやしまのわたりなるらん
あさかすみ ふかくみゆるや けふりたつ むろのやしまの わたりなるらむ
藤原清輔朝臣春 上
35なこのうみのかすみのまよりなかむれはいる日をあらふおきつしらなみ
なこのうみの かすみのまより なかむれは いりひをあらふ おきつしらなみ
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)春 上
36見わたせは山もとかすむみなせかはゆふへはあきとなにおもひけん
みわたせは やまもとかすむ みなせかは ゆふへはあきと なにおもひけむ
太上天皇春 上
37かすみたつすゑの松山ほのほのとなみにはなるるよこ雲のそら
かすみたつ すゑのまつやま ほのほのと なみにはなるる よこくものそら
藤原家隆朝臣春 上
38春のよの夢のうきはしとたえしてみねにわかるるよこ雲のそら
はるのよの ゆめのうきはし とたえして みねにわかるる よこくものそら
藤原定家朝臣春 上
39しるらめやかすみのそらをなかめつつ花もにほはぬ春をなけくと
しるらめや かすみのそらを なかめつつ はなもにほはぬ はるをなけくと
中務春 上
40おほそらはむめのにほひにかすみつつくもりもはてぬ春のよの月
おほそらは うめのにほひに かすみつつ くもりもはてぬ はるのよのつき
藤原定家朝臣春 上
41おられけりくれなゐにほふむめのはなけさしろたへに雪はふれれと
をられけり くれなゐにほふ うめのはな けさしろたへに ゆきはふりつつ
藤原頼通春 上
42あるしをはたれともわかす春はたたかきねのむめをたつねてそみる
あるしをは たれともわかす はるはたた かきねのうめを たつねてそみる
藤原敦家朝臣春 上
43心あらはとはましものをむめかかにたか袖よりかにほひきつらん
こころあらは とはましものを うめかかに たかさとよりか にほひきつらむ
源俊頼朝臣春 上
44むめの花にほひをうつす袖のうへにのきもる月のかけそあらそふ
うめのはな にほひをうつす そてのうへに のきもるつきの かけそあらそふ
藤原定家朝臣春 上
45むめかかにむかしをとへは春の月こたへぬかけそ袖にうつれる
うめかかに むかしをとへは はるのつき こたへぬかけそ そてにうつれる
藤原家隆朝臣春 上
46むめの花たか袖ふれしにほひそと春やむかしの月にとははや
うめのはな たかそてふれし にほひそと はるやむかしの つきにとははや
右衛門督通具春 上
47むめの花あかぬ色香もむかしにておなしかたみの春のよの月
うめのはな あかぬいろかも むかしにて おなしかたみの はるのよのつき
皇太后宮大夫俊成女春 上
48見ぬ人によそへて見つるむめの花ちりなんのちのなくさめそなき
みぬひとに よそへてみつる うめのはな ちりなむのちの なくさめそなき
権中納言定頼春 上
49春ことに心をしむる花のえにたかなをさりの袖かふれつる
はることに こころをしむる はなのえに たかなほさりの そてかふれつる
大弐三位春 上
50むめちらす風もこえてやふきつらんかほれる雪のそてにみたるる
うめちらす かせもこえてや ふきつらむ かをれるゆきの そてにみたるる
康資王母春 上
51とめこかしむめさかりなるわかやとをうときも人はおりにこそよれ
とめこかし うめさかりなる わかやとを うときもひとは をりにこそよれ
西行法師春 上
52なかめつるけふはむかしになりぬとものきはのむめはわれをわするな
なかめつる けふはむかしに なりぬとも のきはのうめは われをわするな
式子内親王春 上
53ちりぬれはにほひはかりをむめの花ありとや袖に春風のふく
ちりぬれは にほひはかりを うめのはな ありとやそてに はるかせのふく
藤原有家朝臣春 上
54ひとりのみなかめてちりぬむめの花しるはかりなる人はとひこす
ひとりのみ なかめてちりぬ うめのはな しるはかりなる ひとはとひこす
八条院高倉春 上
55てりもせすくもりもはてぬはるのよのおほろ月よにしく物そなき
てりもせす くもりもはてぬ はるのよの おほろつきよに しくものそなき
大江千里春 上
56あさみとり花もひとつにかすみつつおほろに見ゆる春のよの月
あさみとり はなもひとつに かすみつつ おほろにみゆる はるのよのつき
菅原孝標女春 上
57なにはかたかすまぬなみもかすみけりうつるもくもるおほろ月よに
なにはかた かすまぬなみも かすみけり うつるもくもる おほろつきよに
源具親春 上
58いまはとてたのむのかりもうちわひぬおほろ月よのあけほののそら
いまはとて たのむのかりも うちわひぬ おほろつきよの あけほののそら
寂蓮法師春 上
59きく人そなみたはおつるかへるかりなきてゆくなるあけほののそら
きくひとそ なみたはおつる かへるかり なきてゆくなる あけほののそら
皇太后宮大夫俊成春 上
60ふるさとにかへるかりかねさよふけて雲ちにまよふ声きこゆなり
ふるさとに かへるかりかね さよふけて くもちにまよふ こえきこゆなり
読人知らず春 上
61わするなよたのむのさはをたつかりもいな葉の風の秋のゆふくれ
わするなよ たのむのさはを たつかりも いなはのかせの あきのゆふくれ
久我建通(後京極摂政)春 上
62かへるかりいまはの心ありあけに月と花との名こそおしけれ
かへるかり いまはのこころ ありあけに つきとはなとの なこそをしけれ
読人知らず春 上
63しもまよふそらにしほれしかりかねのかへるつはさに春雨そふる
しもまよふ そらにしをれし かりかねの かへるつはさに はるさめそふる
藤原定家朝臣春 上
64つくつくと春のなかめのさひしきはしのふにつたふのきの玉水
つくつくと はるのなかめの さひしきは しのふにつたふ のきのたまみつ
大僧正行慶春 上
65水のおもにあやをりみたる春雨や山のみとりをなへてそむらん
みつのおもに あやおりみたる はるさめや やまのみとりを なへてそむらむ
伊勢春 上
66ときはなる山のいはねにむすこけのそめぬみとりに春雨そふる
ときはなる やまのいはねに むすこけの そめぬみとりに はるさめそふる
久我建通(後京極摂政)春 上
67雨ふれはを田のますらをいとまあれやなはしろ水をそらにまかせて
あめふれは をたのますらを いとまあれや なはしろみつを そらにまかせて
勝命法師春 上
68春さめのふりそめしよりあをやきのいとのみとりそ色まさりける
はるさめの ふりそめしより あをやきの いとのみとりそ いろまさりける
凡河内躬恒春 上
69うちなひき春はきにけりあをやきのかけふむみちに人のやすらふ
うちなひき はるはきにけり あをやきの かけふむみちそ ひとのやすらふ
大宰大弐高遠春 上
70みよしののおほかはのへのふるやなきかけこそ見えね春めきにけり
みよしのの おほかはのへの ふるやなき かけこそみえね はるめきにけり
輔仁親王春 上
71あらしふくきしのやなきのいなむしろおりしくなみにまかせてそみる
あらしふく きしのやなきの いなむしろ おりしくなみに まかせてそみる
崇徳院御哥春 上
72たかせさすむつたのよとのやなきはらみとりもふかくかすむ春かな
たかせさす むつたのよとの やなきはら みとりもふかく かすむはるかな
権中納言公経春 上
73春風のかすみふきとくたえまよりみたれてなひくあをやきのいと
はるかせの かすみふきとく たえまより みたれてなひく あをやきのいと
殷富門院大輔春 上
74しらくものたえまになひくあをやきのかつらき山に春風そふく
しらくもの たえまになひく あをやきの かつらきやまに はるかせそふく
藤原雅経春 上
75あをやきのいとにたまぬく白つゆのしらすいくよの春かへぬらん
あをやきの いとにたまぬく しらつゆの しらすいくよの はるかへぬらむ
藤原有家朝臣春 上
76うすくこき野辺のみとりのわかくさにあとまて見ゆる雪のむらきえ
うすくこき のへのみとりの わかくさに あとまてみゆる ゆきのむらきえ
後鳥羽院宮内卿春 上
77あらを田のこそのふるあとのふるよもきいまは春へとひこはへにけり
あらをたの こそのふるあとの ふるよもき いまははるへと ひこはえにけり
曽祢好忠春 上
78やかすともくさはもえなんかすか野をたた春の日にまかせたらなん
やかすとも くさはもえなむ かすかのを たたはるのひに まかせたらなむ
壬生忠見春 上
79よしの山さくらかえたにゆきちりて花をそけなるとしにもあるかな
よしのやま さくらかえたに ゆきちりて はなおそけなる としにもあるかな
西行法師春 上
80桜花さかはまつ見んとおもふまに日かすへにけり春の山さと
さくらはな さかはまつみむと おもふまに ひかすへにけり はるのやまさと
藤原隆時朝臣春 上
81わかこころ春の山へにあくかれてなかなかし日をけふもくらしつ
わかこころ はるのやまへに あくかれて なかなかしひを けふもくらしつ
紀貫之春 上
82おもふとちそこともしらすゆきくれぬ花のやとかせ野への鴬
おもふとち そこともしらす ゆきくれぬ はなのやとかせ のへのうくひす
藤原家隆朝臣春 上
83いまさくらさきぬと見えてうすくもり春にかすめるよのけしきかな
いまさくら さきぬとみえて うすくもり はるにかすめる よのけしきかな
式子内親王春 上
84ふしておもひおきてなかむる春雨に花のしたひもいかにとくらん
ふしておもひ おきてなかむる はるさめに はなのしたひも いかにとくらむ
読人知らず春 上
85ゆかむ人こん人しのへ春かすみたつたの山のはつさくら花
ゆかむひと こむひとしのへ はるかすみ たつたのやまの はつさくらはな
中納言家持春 上
86よしの山こそのしほりのみちかへてまた見ぬかたの花をたつねん
よしのやま こそのしをりの みちかへて またみぬかたの はなをたつねむ
西行法師春 上
87かつらきやたかまの桜さきにけりたつたのおくにかかる白雲
かつらきや たかまのさくら さきにけり たつたのおくに かかるしらくも
寂蓮法師春 上
88いその神ふるき宮こをきてみれはむかしかさしし花さきにけり
いそのかみ ふるきみやこを きてみれは むかしかさしし はなさきにけり
読人知らず春 上
89春にのみとしはあらなんあらを田をかへすかへすも花をみるへく
はるにのみ としはあらなむ あらをたを かへすかへすも はなをみるへく
源公忠朝臣春 上
90白雲のたつたの山のやへ桜いつれを花とわきておりけん
しらくもの たつたのやまの やへさくら いつれをはなと わきてをりけむ
道命法師春 上
91しらくもの春はかさねてたつた山をくらのみねに花にほふらし
しらくもの はるはかさねて たつたやま をくらのみねに はなにほふらし
藤原定家朝臣春 上
92よしの山花やさかりににほふらんふるさとさえぬ峰の白雪
よしのやま はなやさかりに にほふらむ ふるさとさえぬ みねのしらゆき
藤原家衡朝臣春 上
93いはねふみかさなる山をわけすてて花もいくへのあとのしら雲
いはねふみ かさなるやまを わけすてて はなもいくへの あとのしらくも
藤原雅経春 上
94たつねきて花にくらせるこのまよりまつとしもなき山の葉の月
たつねきて はなにくらせる このまより まつとしもなき やまのはのつき
読人知らず春 上
95ちりちらす人もたつねぬふるさとのつゆけき花に春風そふく
ちりちらす ひともたつねぬ ふるさとの つゆけきはなに はるかせそふく
前大僧正慈円春 上
96いその神ふるののさくらたれうへて春はわすれぬかたみなるらん
いそのかみ ふるののさくら たれうゑて はるはわすれぬ かたみなるらむ
右衛門督通具春 上
97花そ見るみちのしはくさふみわけてよしのの宮の春のあけほの
はなそみる みちのしはくさ ふみわけて よしののみやの はるのあけほの
正三位季能春 上
98あさ日かけにほへる山のさくら花つれなくきえぬ雪かとそ見る
あさひかけ にほへるやまの さくらはな つれなくきえぬ ゆきかとそみる
藤原有家朝臣春 上
99さくらさくとを山とりのしたりおのなかなかし日もあかぬ色かな
さくらさく とほやまとりの したりをの なかなかしひも あかぬいろかな
太上天皇春 下
100いくとせの春に心をつくしきぬあはれとおもへみよしのの花
いくとせの はるにこころを つくしきぬ あはれとおもへ みよしののはな
皇太后宮大夫俊成春 下
101はかなくてすきにしかたをかそふれは花にものおもふ春そへにける
はかなくて すきにしかたを かそふれは はなにものおもふ はるそへにける
式子内親王春 下
102白雲のたなひく山のやま桜いつれを花とゆきておらまし
しらくもの たなひくやまの やへさくら いつれをはなと ゆきてをらまし
藤原師実春 下
103はなの色にあまきるかすみたちまよひそらさへにほふ山桜かな
はなのいろに あまきるかすみ たちまよひ そらさへにほふ やまさくらかな
権大納言長家春 下
104ももしきの大宮人はいとまあれやさくらかさしてけふもくらしつ
ももしきの おほみやひとは いとまあれや さくらかさして けふもくらしつ
赤人春 下
105花にあかぬなけきはいつもせしかともけふのこよひににる時はなし
はなにあかぬ なけきはいつも せしかとも けふのこよひに にるときはなし
在原業平朝臣春 下
106いもやすくねられさりけり春の夜は花のちるのみ夢に見えつつ
いもやすく ねられさりけり はるのよは はなのちるのみ ゆめにみえつつ
凡河内躬恒春 下
107山さくらちりてみゆきにまかひなはいつれか花と春にとはなん
やまさくら ちりてみゆきに まかひなは いつれかはなと はるにとはなむ
伊勢春 下
108わかやとのものなりなから桜はなちるをはえこそととめさりけれ
わかやとの ものなりなから さくらはな ちるをはえこそ ととめさりけれ
紀貫之春 下
109かすみたつ春の山へにさくらはなあかすちるとや鴬のなく
かすみたつ はるのやまへに さくらはな あかすちるとや うくひすのなく
読人知らず春 下
110春雨はいたくなふりそ桜花また見ぬ人にちらまくもおし
はるさめは いたくなふりそ さくらはな またみぬひとに ちらまくもをし
赤人春 下
111花のかにころもはふかくなりにけりこのしたかけの風のまにまに
はなのかに ころもはふかく なりにけり このしたかけの かせのまにまに
紀貫之春 下
112風かよふねさめの袖の花のかにかほるまくらの春のよの夢
かせかよふ ねさめのそての はなのかに かをるまくらの はるのよのゆめ
皇太后宮大夫俊成女春 下
113このほとはしるもしらぬもたまほこのゆきかふ袖は花のかそする
このほとは しるもしらぬも たまほこの ゆきかふそては はなのかそする
藤原家隆朝臣春 下
114またや見んかたののみのの桜かり花の雪ちる春のあけほの
またやみむ かたののみのの さくらかり はなのゆきちる はるのあけほの
皇太后宮大夫俊成春 下
115ちりちらすおほつかなきは春かすみたなひく山の桜なりけり
ちりちらす おほつかなきは はるかすみ たなひくやまの さくらなりけり
祝部成仲春 下
116やまさとの春のゆふくれきてみれはいりあひのかねに花そちりける
やまさとの はるのゆふくれ きてみれは いりあひのかねに はなそちりける
能因法師春 下
117さくらちる春の山へはうかりけりよをのかれにとこしかひもなく
さくらちる はるのやまへは うかりけり よをのかれにと こしかひもなく
恵慶法師春 下
118山さくら花のした風ふきにけりこのもとことの雪のむらきえ
やまさくら はなのしたかせ ふきにけり このもとことの ゆきのむらきえ
康資王母春 下
119はるさめのそほふるそらのをやみせすおつる涙に花そちりける
はるさめの そほふるそらの をやみせす おつるなみたに はなそちりける
源重之春 下
120かりかねのかへるは風やさそふらんすきゆく峯の花ものこらぬ
かりかねの かへるはかせや さそふらむ すきゆくみねの はなものこらぬ
読人知らず春 下
121時しもあれたのむのかりのわかれさへ花ちるころのみよしののさと
ときしもあれ たのむのかりの わかれさへ はなちるころの みよしののさと
源具親春 下
122山ふかみすきのむらたちみえぬまておのへの風に花のちるかな
やまふかみ すきのむらたち みえぬまて をのへのかせに はなのちるかな
大納言経信春 下
123このしたのこけのみとりもみえぬまてやへちりしける山桜かな
このしたの こけのみとりも みえぬまて やへちりしける やまさくらかな
大納言師頼春 下
124ふもとまておのへの桜ちりこすはたなひく雲とみてやすきまし
ふもとまて をのへのさくら ちりこすは たなひくくもと みてやすきまし
左京大夫顕輔春 下
125はなちれはとふ人まれになりはてていとひし風のをとのみそする
はなちれは とふひとまれに なりはてて いとひしかせの おとのみそする
刑部卿範兼春 下
126なかむとて花にもいたくなれぬれはちるわかれこそかなしかりけれ
なかむとて はなにもいたく なれぬれは ちるわかれこそ かなしかりけれ
西行法師春 下
127山さとのにはよりほかのみちもかな花ちりぬやと人もこそとへ
やまさとの にはよりほかの みちもかな はなちりぬやと ひともこそとへ
嘉陽門院越前春 下
128花さそふひらの山風ふきにけりこきゆくふねのあとみゆるまて
はなさそふ ひらのやまかせ ふきにけり こきゆくふねの あとみゆるまて
後鳥羽院宮内卿春 下
129あふさかやこすゑのはなをふくからにあらしそかすむせきのすき村
あふさかや こすゑのはなを ふくからに あらしそかすむ せきのすきむら
後鳥羽院宮内卿春 下
130山たかみ峯のあらしにちる花の月にあまきるあけかたのそら
やまたかみ みねのあらしに ちるはなの つきにあまきる あけかたのそら
二条院讃岐春 下
131やまたかみいはねの桜ちるときはあまのはころもなつるとそみる
やまたかみ いはねのさくら ちるときは あまのはころも なつるとそみる
崇徳院御哥春 下
132ちりまかふはなのよそめはよしの山あらしにさはくみねの白雲
ちりまかふ はなのよそめは よしのやま あらしにさわく みねのしらくも
刑部卿頼輔春 下
133みよしののたかねの桜ちりにけりあらしもしろき春のあけほの
みよしのの たかねのさくら ちりにけり あらしもしろき はるのあけほの
太上天皇春 下
134さくら色の庭のはる風あともなしとははそ人の雪とたにみん
さくらいろの にはのはるかせ あともなし とははそひとの ゆきとたにみむ
藤原定家朝臣春 下
135けふたにも庭をさかりとうつる花きえすはありとも雪かともみよ
けふたにも にはをさかりと うつるはな きえすはありとも ゆきかともみよ
太上天皇春 下
136さそはれぬ人のためとやのこりけんあすよりさきの花の白雪
さそはれぬ ひとのためとや のこりけむ あすよりさきの はなのしらゆき
久我建通(後京極摂政)春 下
137やへにほふのきはのさくらうつろひぬ風よりさきにとふ人もかな
やへにほふ のきはのさくら うつろひぬ かせよりさきに とふひともかな
式子内親王春 下
138つらきかなうつろふまてにやへさくらとへともいはてすくる心は
つらきかな うつろふまてに やへさくら とへともいはて すくるこころは
惟明親王春 下
139さくら花夢かうつつか白雲のたえてつねなきみねの春風
さくらはな ゆめかうつつか しらくもの たえてつねなき みねのはるかせ
藤原家隆朝臣春 下
140うらみすやうきよを花のいとひつつさそふ風あらはとおもひけるをは
うらみすや うきよをはなの いとひつつ さそふかせあらはと おもひけるをは
皇太后宮大夫俊成女春 下
141はかなさをほかにもいはし桜花さきてはちりぬあはれよの中
はかなさを ほかにもいはし さくらはな さきてはちりぬ あはれよのなか
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)春 下
142なかむへきのこりの春をかそふれは花とともにもちる涙かな
なかむへき のこりのはるを かそふれは はなとともにも ちるなみたかな
俊恵法師春 下
143花もまたわかれん春はおもひいてよさきちるたひの心つくしを
はなもまた わかれむはるは おもひいてよ さきちるたひの こころつくしを
殷富門院大輔春 下
144ちる花のわすれかたみのみねの雲そをたにのこせ春の山風
ちるはなの わすれかたみの みねのくも そをたにのこせ はるのやまかせ
左近中将良平春 下
145はなさそふなこりを雲にふきとめてしはしはにほへ春の山かせ
はなさそふ なこりをくもに ふきとめて しはしはにほへ はるのやまかせ
藤原雅経春 下
146おしめともちりはてぬれは桜花いまはこすゑをなかむはかりそ
をしめとも ちりはてぬれは さくらはな いまはこすゑを なかむはかりそ
後白河院御哥春 下
147よしの山はなのふるさとあとたえてむなしきえたに春風そふく
よしのやま はなのふるさと あとたえて むなしきえたに はるかせそふく
久我建通(後京極摂政)春 下
148ふるさとのはなのさかりはすきぬれとおもかけさらぬ春のそらかな
ふるさとの はなのさかりは すきぬれと おもかけさらぬ はるのそらかな
大納言経信春 下
149花はちりその色となくなかむれはむなしきそらに春雨そふる
はなはちり そのいろとなく なかむれは むなしきそらに はるさめそふる
式子内親王春 下
150たかたにかあすはのこさん山さくらこほれてにほへけふのかたみに
たかたにか あすはのこさむ やまさくら こほれてにほへ けふのかたみに
清原元輔春 下
151から人のふねをうかへてあそふてふけふそわかせこ花かつらせよ
からひとの ふねをうかへて あそふてふ けふそわかせこ はなかつらせよ
中納言家持春 下
152花なかすせをもみるへきみか月のわれていりぬる山のをちかた
はななかす せをもみるへき みかつきの われていりぬる やまのをちかた
坂上是則春 下
153たつねつるはなもわか身もおとろへてのちの春ともえこそちきらね
たつねつる はなもわかみも おとろへて のちのはるとも えこそちきらね
良暹法師春 下
154おもひたつとりはふるすもたのむらんなれぬる花のあとのゆふくれ
おもひたつ とりはふるすも たのむらむ なれぬるはなの あとのゆふくれ
寂蓮法師春 下
155ちりにけりあはれうらみのたれなれは花のあととふ春の山風
ちりにけり あはれうらみの たれなれは はなのあととふ はるのやまかせ
読人知らず春 下
156春ふかくたつねいるさの山の葉にほの見し雲の色そのこれる
はるふかく たつねいるさの やまのはに ほのみしくもの いろそのこれる
権中納言公経春 下
157はつせ山うつろふ花に春くれてまかひし雲そみねにのこれる
はつせやま うつろふはなに はるくれて まかひしくもそ みねにのこれる
久我建通(後京極摂政)春 下
158よしのかはきしの山ふきさきにけりみねのさくらはちりはてぬらん
よしのかは きしのやまふき さきにけり みねのさくらは ちりはてぬらむ
藤原家隆朝臣春 下
159こまとめてなを水かはんやまふきの花のつゆそふ井ての玉河
こまとめて なほみつかはむ やまふきの はなのつゆそふ ゐてのたまかは
皇太后宮大夫俊成春 下
160いはねこすきよたき河のはやけれはなみおりかくるきしの山ふき
いはねこす きよたきかはの はやけれは なみをりかくる きしのやまふき
権中納言国信春 下
161かはつなくかみなひかはにかけみえていまか(か=や)さくらん山ふきの花
かはつなく かみなひかはに かけみえて いまかさくらむ やまふきのはな
厚見王春 下
162あしひきの山ふきの花ちりにけり井てのかはつはいまやなくらん
あしひきの やまふきのはな ちりにけり ゐてのかはつは いまやなくらむ
藤原興風春 下
163かくてこそ見まくほしけれよろつよをかけてにほへるふちなみの花
かくてこそ みまくほしけれ よろつよを かけてにほへる ふちなみのはな
延喜御哥春 下
164まとゐして見れともあかぬふちなみのたたまくおしきけふにもあるかな
まとゐして みれともあかぬ ふちなみの たたまくをしき けふにもあるかな
天暦御哥春 下
165くれぬとはおもふものからふちなみのさけるやとには春そひさしき
くれぬとは おもふものから ふちのはな さけるやとには はるそひさしき
紀貫之春 下
166みとりなる松にかかれるふちなれとをのかころとそ花はさきける
みとりなる まつにかかれる ふちなれと おのかころとそ はなはさきける
読人知らず春 下
167ちりのこる花もやあるとうちむれてみ山かくれをたつねてしかな
ちりのこる はなもやあると うちむれて みやまかくれを たつねてしかな
藤原道信朝臣春 下
168このもとのすみかもいまはあれぬへし春しくれなはたれかとひこん
このもとの すみかもいまは あれぬへし はるしくれなは たれかとひこむ
大僧正行尊春 下
169くれてゆく春のみなとはしらねともかすみにおつるうちのしはふね
くれてゆく はるのみなとは しらねとも かすみにおつる うちのしはふね
寂蓮法師春 下
170こぬまても花ゆへ人のまたれつる春もくれぬるみ山辺のさと
こぬまても はなゆゑひとの またれつる はるもくれぬる みやまへのさと
藤原伊綱春 下
171いその神ふるのわさたをうちかへしうらみかねたる春のくれかな
いそのかみ ふるのわさたを うちかへし うらみかねたる はるのくれかな
皇太后宮大夫俊成女春 下
172まてといふにとまらぬものとしりなからしひてそおしき春のわかれは
まてといふに とまらぬものと しりなから しひてそをしき はるのわかれは
読人知らず春 下
173しはのとにさすや日かけのなこりなく春くれかかる山の葉の雲
しはのとを さすやひかけの なこりなく はるくれかかる やまのはのくも
後鳥羽院宮内卿春 下
174あすよりはしかの花そのまれにたにたれかはとはん春のふるさと
あすよりは しかのはなその まれにたに たれかはとはむ はるのふるさと
久我建通(後京極摂政)春 下
175春すきてなつきにけらししろたへのころもほすてふあまのかく山
はるすきて なつきにけらし しろたへの ころもほすてふ あまのかくやま
持統天皇御哥
176おしめともとまらぬはるもあるものをいはぬにきたる夏衣かな
をしめとも とまらぬはるも あるものを いはぬにきたる なつころもかな
素性法師
177ちりはてて花のかけなきこのもとにたつことやすきなつころもかな
ちりはてて はなのかけなき このもとに たつことやすき なつころもかな
前大僧正慈円
178なつころもきていくかにかなりぬらんのこれる花はけふもちりつつ
なつころも きていくかにか なりぬらむ のこれるはなは けふもちりつつ
源道済
179おりふしもうつれはかへつよのなかの人の心の花そめのそて
をりふしも うつれはかへつ よのなかの ひとのこころの はなそめのそて
皇太后宮大夫俊成女
180うの花のむらむらさけるかきねをは雲まの月のかけかとそみる
うのはなの むらむらさける かきねをは くもまのつきの かけかとそみる
白河院御哥
181うの花のさきぬるときはしろたへのなみもてゆへるかきねとそみる
うのはなの さきぬるときは しろたへの なみもてゆへる かきねとそみる
大宰大弐重家
182わすれめやあふひをくさにひきむすひかりねののへのつゆのあけほの
わすれめや あふひをくさに ひきむすひ かりねののへの つゆのあけほの
式子内親王
183いかなれはそのかみ山のあふひくさとしはふれともふた葉なるらん
いかなれは そのかみやまの あふひくさ としはふれとも ふたはなるらむ
太皇太后宮小侍従
184のへはいまたあさかのぬまにかるくさのかつ見るままにしけるころかな
のへはいまた あさかのぬまに かるくさの かつみるままに しけるころかな
藤原雅経朝臣
185さくらあさのをふのしたくさしけれたたあかてわかれし花の名なれは
さくらあさの をふのしたくさ しけれたた あかてわかれし はなのななれは
待賢門院安芸
186花ちりし庭のこの葉もしけりあひてあまてる月のかけそまれなる
はなちりし にはのこのはも しけりあひて あまてるつきの かけそまれなる
曽祢好忠
187かりにくとうらみし人のたえにしをくさ葉につけてしのふころかな
かりにくと うらみしひとの たえにしを くさはにつけて しのふころかな
読人知らず
188なつくさはしけりにけりなたまほこのみちゆき人もむすふはかりに
なつくさは しけりにけりな たまほこの みちゆくひとも むすふはかりに
藤原元真
189夏草はしけりにけれとほとときすなとわかやとに一声もせぬ
なつくさは しけりにけれと ほとときす なとわかやとに ひとこゑもせぬ
延喜御哥
190なくこゑをえやはしのはぬほとときすはつうの花のかけにかくれて
なくこゑを えやはしのはぬ ほとときす はつうのはなの かけにかくれて
柿本人麻呂(人麿)
191ほとときす声まつほとはかたをかのもりのしつくにたちやぬれまし
ほとときす こゑまつほとは かたをかの もりのしつくに たちやぬれまし
紫式部
192ほとときすみ山いつなるはつこゑをいつれのやとのたれかきくらん
ほとときす みやまいつなる はつこゑを いつれのやとの たれかきくらむ
弁乳母
193さ月山うの花月よほとときすきけともあかす又なかんかも
さつきやま うのはなつきよ ほとときす きけともあかす またなかむかも
読人知らず
194をのかつまこひつつなくやさ月やみ神なひ山のやま郭公
おのかつま こひつつなくや さつきやみ かみなひやまの やまほとときす
読人知らず
195ほとときす一声なきていぬるよはいかてか人のいをやすくぬる
ほとときす ひとこゑなきて いぬるよは いかてかひとの いをやすくぬる
中納言家持
196ほとときすなきつついつるあしひきの山となてしこさきにけらしも
ほとときす なきつついつる あしひきの やまとなてしこ さきにけらしも
大中臣能宣朝臣
197ふた声となきつときかはほとときすころもかたしきうたたねはせん
ふたこゑと なきつときかは ほとときす ころもかたしき うたたねはせむ
大納言経信
198郭公またうちとけぬしのひねはこぬ人をまつわれのみそきく
ほとときす またうちとけぬ しのひねは こぬひとをまつ われのみそきく
白河院御哥
199ききてしもなをそねられぬほとときすまちしよころ(ろ+の)心ならひに
ききてしも なほそねられぬ ほとときす まちしよころの こころならひに
源有仁(花園左大臣)
200うの花のかきねならねとほとときす月のかつらのかけになくなり
うのはなの かきねならねと ほとときす つきのかつらの かけになくなり
前中納言匡房
201むかしおもふくさのいほりのよるの雨になみたなそへそ山郭公
むかしおもふ くさのいほりの よるのあめに なみたなそへそ やまほとときす
皇太后宮大夫俊成
202雨そそくはなたち花に風すきて山郭公雲になくなり
あめそそく はなたちはなに かせすきて やまほとときす くもになくなり
読人知らず
203きかてたたねなましものを郭公中々なりやよはの一声
きかてたた ねなましものを ほとときす なかなかなりや よはのひとこゑ
相模
204たかさともとひもやくるとほとときす心のかきりまちそわひにし
たかさとに とひもやくると ほとときす こころのかきり まちそわひにし
紫式部
205よをかさねまちかね山の郭公くもゐのよそに一こゑそきく
よをかさね まちかねやまの ほとときす くもゐのよそに ひとこゑそきく
周防内侍
206ふた声ときかすはいてしほとときすいくよあかしのとまりなりとも
ふたこゑと きかすはいてし ほとときす いくよあかしの とまりなりとも
按察使公通
207ほとときすなを一声はおもひいてよおいそのもりのよはのむかしを
ほとときす なほひとこゑは おもひいてよ おいそのもりの よはのむかしを
民部卿範光
208一声はおもひそあへぬほとときすたそかれ時の雲のまよひに
ひとこゑは おもひそあへぬ ほとときす たそかれときの くものまよひに
八条院高倉
209ありあけのつれなくみえし月はいてぬ山ほとときすまつよなからに
ありあけの つれなくみえし つきはいてぬ やまほとときす まつよなからに
久我建通(後京極摂政)
210わか心いかにせよとてほとときす雲まの月のかけになくらん
わかこころ いかにせよとて ほとときす くもまのつきの かけになくらむ
皇太后宮大夫俊成
211ほとときすなきているさの山の葉は月ゆへよりもうらめしきかな
ほとときす なきているさの やまのはは つきゆゑよりも うらめしきかな
前太政大臣
212ありあけの月はまたぬにいてぬれとなを山ふかきほとときすかな
ありあけの つきはまたぬに いてぬれと なほやまふかき ほとときすかな
権中納言親宗
213すきにけりしのたのもりのほとときすたえぬしつくを袖にのこして
すきにけり しのたのもりの ほとときす たえぬしつくを そてにのこして
藤原保季朝臣
214いかにせんこぬよあまたのほとときすまたしとおもへはむらさめのそら
いかにせむ こぬよあまたの ほとときす またしとおもへは むらさめのそら
藤原家隆朝臣
215こゑはしてくもちにむせふほとときす涙やそそくよゐのむらさめ
こゑはして くもちにむせふ ほとときす なみたやそそく よひのむらさめ
式子内親王
216ほとときすなをうとまれぬ心かななかなくさとのよそのゆふくれ
ほとときす なほうとまれぬ こころかな なかなくさとの よそのゆふくれ
権中納言公経
217きかすともここをせにせんほとときす山田のはらのすきのむらたち
きかすとも ここをせにせむ ほとときす やまたのはらの すきのむらたち
西行法師
218郭公ふかきみねよりいてにけりと山のすそに声のおちくる
ほとときす ふかきみねより いてにけり とやまのすそに こゑのおちくる
読人知らず
219をささふくしつのまろやのかりのとをあけかたになく郭公かな
をささふく しつのまろやの かりのとを あけかたになく ほとときすかな
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)
220うちしめりあやめそかほるほとときすなくやさ月の雨のゆふくれ
うちしめり あやめそかをる ほとときす なくやさつきの あめのゆふくれ
久我建通(後京極摂政)
221けふは又あやめのねさへかけそへてみたれそまさる袖の白玉
けふはまた あやめのねさへ かけそへて みたれそまさる そてのしらたま
皇太后宮大夫俊成
222あかなくにちりにし花のいろいろはのこりにけりな君かたもとに
あかなくに ちりにしはなの いろいろは のこりにけりな きみかたもとに
大納言経信
223なへてよのうきになかるるあやめくさけふまてかかるねはいかかみる
なへてよの うきになかるる あやめくさ けふまてかかる ねはいかかみる
上東門院小少将
224なにこととあやめはわかてけふもなをたもとにあまるねこそたえせね
なにことと あやめはわかて けふもなほ たもとにあまる ねこそたえせね
紫式部
225さなへとる山田のかけひもりにけりひくしめなわにつゆそこほるる
さなへとる やまたのかけひ もりにけり ひくしめなはに つゆそこほるる
大納言経信
226を山たにひくしめなわのうちはへてくちやしぬらんさみたれの比
をやまたに ひくしめなはの うちはへて くちやしぬらむ さみたれのころ
久我建通(後京極摂政)
227いかはかりたこのもすそもそほつらんくもまも見えぬころのさみたれ
いかはかり たこのもすそも そほつらむ くもまもみえぬ ころのさみたれ
伊勢大輔
228みしまえのいりえのまこも雨ふれはいととしほれてかる人もなし
みしまえの いりえのまこも あめふれは いととしをれて かるひともなし
大納言経信
229まこもかるよとのさは水ふかけれとそこまて月のかけはすみけり
まこもかる よとのさはみつ ふかけれと そこまてつきの かけはすみけり
前中納言匡房
230たまかしはしけりにけりなさみたれに葉もりの神のしめはふるまて
たまかしは しけりにけりな さみたれに はもりのかみの しめはふるまて
藤原基俊
231さみたれはおふのかはらのまこもくさからてやなみのしたにくちなん
さみたれは おふのかはらの まこもくさ からてやなみの したにくちなむ
九条兼実(入道前関白太政大臣)
232たまほこのみちゆき人のことつてもたえてほとふるさみたれの空
たまほこの みちゆくひとの ことつても たえてほとふる さみたれのそら
藤原定家朝臣
233さみたれの雲のたえまをなかめつつまとよりにしに月をまつかな
さみたれの くものたえまを なかめつつ まとよりにしに つきをまつかな
荒木田氏良
234あふちさくそともの木かけつゆをちてさみたれはるる風わたるなり
あふちさく そとものこかけ つゆおちて さみたれはるる かせわたるなり
前大納言忠良
235さみたれの月はつれなきみ山よりひとりもいつるほとときすかな
さみたれの つきはつれなき みやまより ひとりもいつる ほとときすかな
藤原定家朝臣
236ほとときす雲井のよそにすきぬなりはれぬおもひのさみたれの比
ほとときす くもゐのよそに すきぬなり はれぬおもひの さみたれのころ
太上天皇
237五月雨の雲まの月のはれゆくをしはしまちけるほとときすかな
さみたれの くもまのつきの はれゆくを しはしまちける ほとときすかな
二条院讃岐
238たれかまたはなたちはなにおもひいてんわれもむかしの人となりなは
たれかまた はなたちはなに おもひいてむ われもむかしの ひととなりなは
皇太后宮大夫俊成
239ゆくすゑをたれしのへとてゆふ風にちきりかをかんやとのたち花
ゆくすゑを たれしのへとて ゆふかせに ちきりかおかむ やとのたちはな
右衛門督通具
240かへりこぬむかしをいまとおもひねの夢の枕ににほふたちはな
かへりこぬ むかしをいまと おもひねの ゆめのまくらに にほふたちはな
式子内親王
241たちはなの花ちるのきのしのふ草むかしをかけてつゆそこほるる
たちはなの はなちるのきの しのふくさ むかしをかけて つゆそこほるる
前大納言忠良
242さ月やみみしかきよはのうたたねにはなたち花の袖にすすしき
さつきやみ みしかきよはの うたたねに はなたちはなの そてにすすしき
前大僧正慈円
243たつぬへき人はのきはのふるさとにそれかとかほるにはのたちはな
たつぬへき ひとはのきはの ふるさとに それかとかをる にはのたちはな
読人知らず
244ほとときすはなたちはなのかをとめてなくはむかしの人やこひしき
ほとときす はなたちはなの かをとめて なくはむかしの ひとやこひしき
読人知らず
245たちはなのにほふあたりのうたたねは夢もむかしの袖のかそする
たちはなの にほふあたりの うたたねは ゆめもむかしの そてのかそする
皇太后宮大夫俊成女
246ことしより花さきそむるたちはなのいかてむかしの香ににほふらん
ことしより はなさきそむる たちはなの いかてむかしの かににほふらむ
藤原家隆朝臣
247ゆふくれはいつれの雲のなこりとてはなたち花に風のふくらん
ゆふくれは いつれのくもの なこりとて はなたちはなに かせのふくらむ
藤原定家朝臣
248ほとときすさ月みな月わきかねてやすらふ声そそらにきこゆる
ほとときす さつきみなつき わきかねて やすらふこゑそ そらにきこゆる
権中納言国信
249庭のおもは月もらぬまてなりにけりこすゑに夏のかけしけりつつ
にはのおもは つきもらぬまて なりにけり こすゑになつの かけしけりつつ
白河院御哥
250わかやとのそともにたてるならの葉のしけみにすすむ夏はきにけり
わかやとの そともにたてる ならのはの しけみにすすむ なつはきにけり
恵慶法師
251うかひふねあはれとそおもふもののふのやそうちかはのゆふやみのそら
うかひふね あはれとそみる もののふの やそうちかはの ゆふやみのそら
前大僧正慈円
252うかひ舟たかせさしこすほとなれやむすほほれゆくかかりひのかけ
うかひふね たかせさしこす ほとなれや むすほほれゆく かかりひのかけ
寂蓮法師
253おほ井かはかかりさしゆくうかひ舟いくせに夏のよをあかすらん
おほゐかは かかりさしゆく うかひふね いくせになつの よをあかすらむ
皇太后宮大夫俊成
254ひさかたの中なる河のうかひ舟いかにちきりてやみをまつらん
ひさかたの なかなるかはの うかひふね いかにちきりて やみをまつらむ
藤原定家朝臣
255いさりひのむかしのひかりほのみえてあしやのさとにとふ蛍かな
いさりひの むかしのひかり ほのみえて あしやのさとに とふほたるかな
久我建通(後京極摂政)
256まとちかき竹の葉すさふ風のをとにいととみしかきうたたねの夢
まとちかき たけのはすさふ かせのおとに いととみしかき うたたねのゆめ
式子内親王
257まとちかきいささむらたけ風ふけは秋におとろく夏のよの夢
まとちかき いささむらたけ かせふけは あきにおとろく なつのよのゆめ
春宮大夫公継
258むすふてにかけみたれゆく山の井のあかても月のかたふきにける
むすふてに かけみたれゆく やまのゐの あかてもつきの かたふきにける
前大僧正慈円
259きよみかた月はつれなきあまのとをまたてもしらむ浪のうへかな
きよみかた つきはつれなき あまのとを またてもしらむ なみのうへかな
権大納言通光
260かさねてもすすしかりけり夏ころもうすきたもとにやとる月かけ
かさねても すすしかりけり なつころも うすきたもとに やとるつきかけ
久我建通(後京極摂政)
261すすしさは秋やかへりてはつせかはふるかはのへのすきのしたかけ
すすしさは あきやかへりて はつせかは ふるかはのへの すきのしたかけ
有家朝臣
262みちのへにしみつなかるるやなきかけしはしとてこそたちとまりつれ
みちのへに しみつなかるる やなきかけ しはしとてこそ たちとまりつれ
西行法師
263よられつるのもせの草のかけろひてすすしくくもる夕立の空
よられつる のもせのくさの かけろひて すすしくくもる ゆふたちのそら
読人知らず
264をのつからすすしくもあるか夏衣日もゆふくれの雨のなこりに
おのつから すすしくもあるか なつころも ひもゆふくれの あめのなこりに
藤原清輔朝臣
265つゆすかる庭のたまささうちなひきひとむらすきぬゆふたちの雲
つゆすかる にはのたまささ うちなひき ひとむらすきぬ ゆふたちのくも
権中納言公経
266とをちにはゆふたちすらしひさかたのあまのかく山くもかくれゆく
とほちには ゆふたちすらし ひさかたの あまのかくやま くもかくれゆく
源俊頼朝臣
267にはのおもはまたかはかぬにゆふたちのそらさりけなくすめる月かな
にはのおもは またかわかぬに ゆふたちの そらさりけなく すめるつきかな
従三位頼政
268ゆふたちの雲もとまらぬ夏の日のかたふく山にひくらしのこゑ
ゆふたちの くももとまらぬ なつのひの かたふくやまに ひくらしのこゑ
式子内親王
269ゆふつくひさすやいほりのしはのとにさひしくもあるかひくらしのこゑ
ゆふつくひ さすやいほりの しはのとに さひしくもあるか ひくらしのこゑ
前大納言忠良
270秋ちかきけしきのもりになくせみの涙のつゆや下葉そむらん
あきちかき けしきのもりに なくせみの なみたのつゆや したはそむらむ
久我建通(後京極摂政)
271なくせみのこゑもすすしきゆふくれに秋をかけたるもりの下露
なくせみの こゑもすすしき ゆふくれに あきをかけたる もりのしたつゆ
二条院讃岐
272いつちとかよるは蛍ののほるらんゆくかたしらぬ草の枕に
いつちとか よるはほたるの のほるらむ ゆくかたしらぬ くさのまくらに
壬生忠見
273ほたるとふ野沢にしけるあしのねのよなよなしたにかよふ秋風
ほたるとふ のさはにしける あしのねの よなよなしたに かよふあきかせ
久我建通(後京極摂政)
274ひさきおふるかた山かけにしのひつつふきけるものを秋のゆふかせ
ひさきおふる かたやまかけに しのひつつ ふきけるものを あきのゆふかせ
俊恵法師
275しらつゆのたまもてゆへるませのうちにひかりさへそふとこ夏の花
しらつゆの たまもてゆへる ませのうちに ひかりさへそふ とこなつのはな
高倉院御哥
276白露のなさけをきけることの葉やほのほの見えしゆふかほの花
しらつゆの なさけおきける ことのはや ほのほのみえし ゆふかほのはな
前太政大臣
277たそかれののきはのおきにともすれはほにいてぬ秋そしたにこととふ
たそかれの のきはのをきに ともすれは ほにいてぬあきそ したにこととふ
式子内親王
278雲まよふゆふへに秋をこめなから風もほにいてぬおきのうへかな
くもまよふ ゆふへにあきを こめなから かせもほにいてぬ をきのうへかな
前大僧正慈円
279山さとのみねのあまくもとたえしてゆふへすすしきまきのしたつゆ
やまさとの みねのあまくも とたえして ゆふへすすしき まきのしたつゆ
太上天皇
280いは井くむあたりのをささたまこえてかつかつむすふ秋のゆふつゆ
いはゐくむ あたりのをささ たまこえて かつかつむすふ あきのゆふつゆ
九条兼実(入道前関白太政大臣)
281かたえさすおふのうらなしはつ秋になりもならすも風そ身にしむ
かたえさす をふのうらなし はつあきに なりもならすも かせそみにしむ
後鳥羽院宮内卿
282夏ころもかたへすすしくなりぬなりよやふけぬらんゆきあひのそら
なつころも かたへすすしく なりぬなり よやふけぬらむ ゆきあひのそら
前大僧正慈円
283なつはつるあふきと秋のしらつゆといつれかまつはをかんとすらん
なつはつる あふきとあきの しらつゆと いつれかまつは おかむとすらむ
壬生忠峯
284みそきする河のせみれはからころも日もゆふくれに浪そたちける
みそきする かはのせみれは からころも ひもゆふくれに なみそたちける
紀貫之
285神なひのみむろの山のくすかつらうらふきかへす秋はきにけり
かみなひの みむろのやまの くすかつら うらふきかへす あきはきにけり
中納言家持秋 上
286いつしかとおきの葉むけのかたよりにそそや秋とそ風もきこゆる
いつしかと をきのはむけの かたよりに そらやあきとそ かせもきこゆる
崇徳院御哥秋 上
287このねぬるよのまに秋はきにけらしあさけの風のきのふにもにぬ
このねぬる よのまにあきは きにけらし あさけのかせの きのふにもにぬ
藤原季通朝臣秋 上
288いつもきくふもとのさととおもへともきのふにかはる山おろしの風
いつもきく ふもとのさとと おもへとも きのふにかはる やまおろしのかせ
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)秋 上
289きのふたにとはんとおもひしつのくにのいく田のもりに秋はきにけり
きのふたに とはむとおもひし つのくにの いくたのもりに あきはきにけり
藤原家隆朝臣秋 上
290ふく風の色こそ見えねたかさこのおのへの松に秋はきにけり
ふくかせの いろこそみえね たかさこの をのへのまつに あきはきにけり
藤原秀能秋 上
291ふしみ山松のかけより見わたせはあくる田のもに秋風そふく
ふしみやま まつのかけより みわたせは あくるたのもに あきかせそふく
皇太后宮大夫俊成秋 上
292あけぬるか衣手さむしすかはらやふしみのさとの秋のはつ風
あけぬるか ころもてさむし すかはらや ふしみのさとの あきのはつかせ
家隆朝臣秋 上
293ふかくさのつゆのよすかを契にてさとをはかれす秋はきにけり
ふかくさの つゆのよすかを ちきりにて さとをはかれす あきはきにけり
久我建通(後京極摂政)秋 上
294あはれまたいかにしのはん袖のつゆ野はらの風に秋はきにけり
あはれまた いかにしのはむ そてのつゆ のはらのかせに あきはきにけり
右衛門督通具秋 上
295しきたへの枕のうへにすきぬなりつゆをたつぬる秋のはつ風
しきたへの まくらのうへに すきぬなり つゆをたつぬる あきのはつかせ
源具親秋 上
296みつくきのをかのくす葉もいろつきてけさうらかなし秋のはつ風
みつくきの をかのくすはも いろつきて けさうらかなし あきのはつかせ
顕昭法師秋 上
297秋はたた心よりをくゆふつゆを袖のほかともおもひけるかな
あきはたた こころよりおく ゆふつゆを そてのほかとも おもひけるかな
嘉陽門院越前秋 上
298きのふまてよそにしのひししたおきのすゑ葉のつゆに秋風そ吹
きのふまて よそにしのひし したをきの すゑはのつゆに あきかせそふく
藤原雅経秋 上
299をしなへてものをおもはぬ人にさへ心をつくる秋のはつ風
おしなへて ものをおもはぬ ひとにさへ こころをつくる あきのはつかせ
西行法師秋 上
300あはれいかに草葉のつゆのこほるらん秋風たちぬみやきののはら
あはれいかに くさはのつゆの こほるらむ あきかせたちぬ みやきののはら
読人知らず秋 上
301みしふつきうへし山田にひたはへて又袖ぬらす秋はきにけり
みしふつき うゑしやまたに ひたはへて またそてぬらす あきはきにけり
皇太后宮大夫俊成秋 上
302あさきりやたつたの山のさとならて秋きにけりとたれかしらまし
あさきりや たつたのやまの さとならて あききにけりと たれかしらまし
藤原道長(法成寺入道前摂政太政大臣)秋 上
303ゆふくれはおきふく風のをとまさるいまはたいかにねさめせられん
ゆふくれは をきふくかせの おとまさる いまはたいかに ねさめせられむ
中務卿具平親王秋 上
304ゆふされはおきの葉むけをふくかせにことそともなく涙おちけり
ゆふくれは をきのはむけを ふくかせに ことそともなく なみたおちけり
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)秋 上
305おきの葉も契ありてや秋風のをとつれそむるつまとなりけん
をきのはも ちきりありてや あきかせの おとつれそむる つまとなりけむ
皇太后宮大夫俊成秋 上
306秋きぬと松ふく風もしらせけりかならすおきのうは葉ならねと
あききぬと まつふくかせも しらせけり かならすをきの うははならねと
七条院権大夫秋 上
307日をへつつをとこそまされいつみなるしのたのもりのちえの秋風
ひをへつつ おとこそまされ いつみなる しのたのもりの ちえのあきかせ
藤原経衡秋 上
308うたたねのあさけのそてにかはるなりならすあふきの秋のはつ風
うたたねの あさけのそてに かはるなり ならすあふきの あきのはつかせ
式子内親王秋 上
309てもたゆくならすあふきのをきところわするはかりに秋風そふく
てもたゆく ならすあふきの おきところ わするはかりに あきかせそふく
相模秋 上
310秋風はふきむすへともしらつゆのみたれてをかぬ草の葉そなき
あきかせは ふきむすへとも しらつゆの みたれておかぬ くさのはそなき
大弐三位秋 上
311あさほらけおきのうは葉のつゆみれはややはたさむし秋のはつ風
あさほらけ をきのうははの つゆみれは ややはたさむし あきのはつかせ
曽祢好忠秋 上
312ふきむすふ風はむかしの秋なからありしにもにぬ袖のつゆかな
ふきむすふ かせはむかしの あきなから ありしにもにぬ そてのつゆかな
小野小町秋 上
313おほそらをわれもなかめてひこほしのつままつよさへひとりかもねん
おほそらを われもなかめて ひこほしの つままつよさへ ひとりかもねむ
紀貫之秋 上
314このゆふへふりつる雨はひこほしのとわたるふねのかいのしつくか
このゆふへ ふりつるあめは ひこほしの とわたるふねの かいのしつくか
赤人秋 上
315としをへてすむへきやとのいけみつはほしあひのかけもおもなれやせん
としをへて すむへきやとの いけみつは ほしあひのかけも おもなれやせむ
権大納言長家秋 上
316袖ひちてわかてにむすふ水のおもにあまつほしあひのそらをみるかな
そてひちて わかてにむすふ みつのおもに あまつほしあひの そらをみるかな
藤原長能秋 上
317雲間よりほしあひのそらを見わたせはしつ心なきあまの河なみ
くもまより ほしあひのそらを みわたせは しつこころなき あまのかはなみ
祭主輔親秋 上
318たなはたのあまのは衣うちかさねぬるよすすしき秋風そふく
たなはたの あまのはころも うちかさね ぬるよすすしき あきかせそふく
大宰大弐高遠秋 上
319たなはたの衣のつまは心してふきなかへしそ秋のはつ風
たなはたの ころものつまは こころして ふきなかへしそ あきのはつかせ
小弁秋 上
320たなはたのとわたる舟のかちの葉にいく秋かきつ露の玉つさ
たなはたの とわたるふねの かちのはに いくあきかきつ つゆのたまつさ
皇太后宮大夫俊成秋 上
321なかむれは衣手すすしひさかたのあまのかはらの秋のゆふくれ
なかむれは ころもてすすし ひさかたの あまのかはらの あきのゆふくれ
式子内親王秋 上
322いかはかり身にしみぬらんたなはたのつままつよゐのあまの河風
いかはかり みにしみぬらむ たなはたの つままつよひの あまのかはかせ
九条兼実(入道前関白太政大臣)秋 上
323ほしあひのゆふへすすしきあまのかはもみちのはしをわたる秋風
ほしあひの ゆふへすすしき あまのかは もみちのはしを わたるあきかせ
権中納言公経秋 上
324たなはたのあふせたえせぬあまのかはいかなる秋かわたりそめけん
たなはたの あふせたえせぬ あまのかは いかなるあきか わたりそめけむ
待賢門院堀河秋 上
325わくらはにあまの河なみよるなからあくるそらにはまかせすもかな
わくらはに あまのかはなみ よるなから あくるそらには まかせすもかな
女御徽子女王秋 上
326いととしく思ひけぬへしたなはたのわかれの袖にをけるしらつゆ
いととしく おもひけぬへし たなはたの わかれのそてに おけるしらつゆ
大中臣能宣朝臣秋 上
327たなはたはいまやわかるるあまのかは河きりたちてちとりなくなり
たなはたは いまやわかるる あまのかは かはきりたちて ちとりなくなり
紀貫之秋 上
328河水に鹿のしからみかけてけりうきてなかれぬ秋はきの花
かはみつに しかのしからみ かけてけり うきてなかれぬ あきはきのはな
前中納言匡房秋 上
329かり衣われとはすらしつゆふかき野はらのはきの花にまかせて
かりころも われとはすらし つゆしけき のはらのはきの はなにまかせて
従三位頼政秋 上
330秋はきをおらてはすきしつき草の花すり衣つゆにぬるとも
あきはきを をらてはすきし つきくさの はなすりころも つゆにぬるとも
権僧正永縁秋 上
331はきか花ま袖にかけてたかまとのおのへの宮にひれふるやたれ
はきかはな まそてにかけて たかまとの をのへのみやに ひれふるやたれ
顕昭法師秋 上
332をくつゆもしつ心なく秋風にみたれてさけるまののはきはら
おくつゆも しつこころなく あきかせに みたれてさける まののはきはら
祐子内親王家紀伊秋 上
333秋はきのさきちる野辺のゆふつゆにぬれつつきませよはふけぬとも
あきはきの さきちるのへの ゆふつゆに ぬれつつきませ よはふけぬとも
柿本人麻呂(人麿)秋 上
334さをしかのあさたつ野辺の秋はきにたまとみるまてをけるしらつゆ
さをしかの あさたつのへの あきはきに たまとみるまて おけるしらつゆ
中納言家持秋 上
335秋の野をわけゆくつゆにうつりつつわか衣手は花のかそする
あきののを わけゆくつゆに うつりつつ わかころもては はなのかそする
凡河内躬恒秋 上
336たれをかもまつちの山のをみなへし秋とちきれる人そあるらし
たれをかも まつちのやまの をみなへし あきとちきれる ひとそあるらし
小野小町秋 上
337をみなへし野辺のふるさとおもひいててやとりし虫の声やこひしき
をみなへし のへのふるさと おもひいてて やとりしむしの こゑやこひしき
藤原元真秋 上
338ゆふされは玉ちるのへのをみなへしまくらさためぬ秋風そふく
ゆふされは たまちるのへの をみなへし まくらさためぬ あきかせそふく
左近中将良平秋 上
339ふちはかまぬしはたれともしらつゆのこほれてにほふ野辺の秋風
ふちはかま ぬしはたれとも しらつゆの こほれてにほふ のへのあきかせ
公猷法師秋 上
340うすきりのまかきの花のあさしめり秋はゆふへとたれかいひけん
うすきりの まかきのはなの あさしめり あきはゆふへと たれかいひけむ
清輔朝臣秋 上
341いとかくや袖はしほれし野辺にいててむかしも秋の花はみしかと
いとかくや そてはしをれし のへにいてて むかしもあきの はなはみしかと
皇太后宮大夫俊成秋 上
342花見にと人やりならぬのへにきて心のかきりつくしつるかな
はなみにと ひとやりならぬ のへにきて こころのかきり つくしつるかな
大納言経信秋 上
343をきて見んとおもひしほとにかれにけりつゆよりけなるあさかほの花
おきてみむと おもひしほとに かれにけり つゆよりけなる あさかほのはな
曽祢好忠秋 上
344山かつのかきほにさけるあさかほはしののめならてあふよしもなし
やまかつの かきほにさける あさかほは しののめならて あふよしもなし
紀貫之秋 上
345うらかるるあさちかはらのかるかやのみたれてものをおもふころかな
うらかるる あさちかはらの かるかやの みたれてものを おもふころかな
坂上是則秋 上
346さをしかのいるののすすきはつお花いつしかいもかたまくらにせん
さをしかの いるののすすき はつをはな いつしかいもか たまくらにせむ
柿本人麻呂(人麿)秋 上
347をくら山ふもとののへの花すすきほのかに見ゆる秋の夕くれ
をくらやま ふもとののへの はなすすき ほのかにみゆる あきのゆふくれ
読人知らず秋 上
348ほのかにも風はふかなん花すすきむすほほれつつつゆにぬるとも
ほのかにも かせはふかなむ はなすすき むすほほれつつ つゆにぬるとも
女御徽子女王秋 上
349花すすき又つゆふかしほにいててなかめしとおもふ秋のさかりを
はなすすき またつゆふかし ほにいてては なかめしとおもふ あきのさかりを
式子内親王秋 上
350野辺ことにをとつれわたるあき風をあたにもなひく花すすき哉
のへことに おとつれわたる あきかせを あたにもなひく はなすすきかな
八条院六条秋 上
351あけぬとて野辺より山にいる鹿のあとふきをくる萩の下風
あけぬとて のへよりやまに いるしかの あとふきおくる はきのしたかせ
左衛門督通光秋 上
352身にとまるおもひをおきのうははにてこの比かなし夕くれの空
みにとまる おもひををきの うははにて このころかなし ゆふくれのそら
前大僧正慈円秋 上
353身のほとをおもひつつくるゆふくれのおきのうははに風わたるなり
みのほとを おもひつつくる ゆふくれの をきのうははに かせわたるなり
大蔵卿行宗秋 上
354秋はたたものをこそおもへつゆかかるおきのうへふく風につけても
あきはたた ものをこそおもへ つゆかかる をきのうへふく かせにつけても
源重之女秋 上
355秋風のややはたさむくふくなへにおきのうは葉のをとそかなしき
あきかせの ややはたさむく ふくなへに をきのうははの おとそかなしき
藤原基俊秋 上
356おきの葉にふけはあらしの秋なるをまちけるよはのさを鹿の声
をきのはに ふけはあらしの あきなるを まちけるよはの さをしかのこゑ
久我建通(後京極摂政)秋 上
357をしなへておもひしことのかすかすになを色まさる秋のゆふくれ
おしなへて おもひしことの かすかすに なほいろまさる あきのゆふくれ
読人知らず秋 上
358くれかかるむなしきそらの秋をみておほえすたまる袖のつゆかな
くれかかる むなしきそらの あきをみて おほえすたまる そてのつゆかな
読人知らず秋 上
359ものおもはてかかるつゆやは袖にをくなかめてけりな秋のゆふくれ
ものおもはて かかるつゆやは そてにおく なかめてけりな あきのゆふくれ
読人知らず秋 上
360み山ちやいつより秋の色ならん見さりし雲のゆふくれのそら
みやまちや いつよりあきの いろならむ みさりしくもの ゆふくれのそら
前大僧正慈円秋 上
361さひしさはその色としもなかりけりま木たつ山の秋のゆふくれ
さひしさは そのいろとしも なかりけり まきたつやまの あきのゆふくれ
寂蓮法師秋 上
362こころなき身にも哀はしられけりしきたつさはの秋のゆふくれ
こころなき みにもあはれは しられけり しきたつさはの あきのゆふくれ
西行法師秋 上
363見わたせは花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋のゆふくれ
みわたせは はなももみちも なかりけり うらのとまやの あきのゆふくれ
藤原定家朝臣秋 上
364たへてやはおもひありともいかかせんむくらのやとの秋のゆふくれ
たへてやは おもひありとも いかかせむ むくらのやとの あきのゆふくれ
藤原雅経秋 上
365おもふことさしてそれとはなきものを秋のゆふへを心にそとふ
おもふこと さしてそれとは なきものを あきのゆふへを こころにそとふ
後鳥羽院宮内卿秋 上
366秋風のいたりいたらぬ袖はあらしたたわれからのつゆのゆふくれ
あきかせの いたりいたらぬ そてはあらし たたわれからの つゆのゆふくれ
鴨長明秋 上
367おほつかな秋はいかなるゆへのあれはすすろにもののかなしかるらん
おほつかな あきはいかなる ゆゑのあれは すすろにものの かなしかるらむ
西行法師秋 上
368それなからむかしにもあらぬ秋風にいととなかめをしつのをたまき
それなから むかしにもあらぬ あきかせに いととなかめを しつのをたまき
式子内親王秋 上
369ひくらしのなくゆふくれそうかりけるいつもつきせぬ思なれとも
ひくらしの なくゆふくれそ うかりける いつもつきせぬ おもひなれとも
藤原長能秋 上
370秋くれはときはの山の松風もうつるはかりに身にそしみける
あきくれは ときはのやまの まつかせも うつるはかりに みにそしみける
和泉式部秋 上
371秋風のよそにふきくるをとは山なにの草木かのとけかるへき
あきかせの よもにふきくる おとはやま なにのくさきか のとけかるへき
曽祢好忠秋 上
372暁のつゆはなみたもととまらてうらむる風の声そのこれる
あかつきの つゆはなみたも ととまらて うらむるかせの こゑそのこれる
相模秋 上
373たかまとののちのしのはらすゑさはきそそやこからしけふふきぬなり
たかまとの のちのしのはら すゑさわき そそやこからし けふふきぬなり
藤原基俊秋 上
374ふかくさのさとの月かけさひしさもすみこしままののへの秋風
ふかくさの さとのつきかけ さひしさも すみこしままの のへのあきかせ
右衛門督通具秋 上
375おほあらきのもりの木のまをもりかねて人たのめなる秋のよの月
おほあらきの もりのこのまを もりかねて ひとたのめなる あきのよのつき
皇太后宮大夫俊成女秋 上
376ありあけの月まつやとは(は=の)袖のうへに人たのめなるよゐのいなつま
ありあけの つきまつやとの そてのうへに ひとたのめなる よひのいなつま
藤原家隆朝臣秋 上
377風わたるあさちかすゑのつゆにたにやとりもはてぬよゐのいなつま
かせわたる あさちかすゑの つゆにたに やとりもはてぬ よひのいなつま
藤原有家朝臣秋 上
378むさし野やゆけとも秋のはてそなきいかなる風かすゑにふくらん
むさしのや ゆけともあきの はてそなき いかなるかせか すゑにふくらむ
左衛門督通光秋 上
379いつまてかなみたくもらて月は見し秋まちえても秋そこひしき
いつまてか なみたくもらて つきはみし あきまちえても あきそこひしき
前大僧正慈円秋 上
380なかめわひぬ秋よりほかのやともかな野にも山にも月やすむらん
なかめわひぬ あきよりほかの やともかな のにもやまにも つきやすむらむ
式子内親王秋 上
381月かけのはつ秋風とふけゆけは心つくしにものをこそおもへ
つきかけの はつあきかせと ふけゆけは こころつくしに ものをこそおもへ
円融院御哥秋 上
382あしひきの山のあなたにすむ人はまたてや秋の月をみるらん
あしひきの やまのあなたに すむひとは またてやあきの つきをみるらむ
三条院御哥秋 上
383しきしまやたかまと山のくもまより光さしそふゆみはりの月
しきしまや たかまとやまの くもまより ひかりさしそふ ゆみはりのつき
堀河院御哥秋 上
384人よりも心のかきりなかめつる月はたれともわかしものゆへ
ひとよりも こころのかきり なかめつる つきはたれとも わかしものゆゑ
藤原頼宗(堀河右大臣)秋 上
385あやなくもくもらぬよゐをいとふかなしのふのさとの秋のよの月
あやなくも くもらぬよひを いとふかな しのふのさとの あきのよのつき
橘為仲朝臣秋 上
386風ふけはたまちるはきのしたつゆにはかなくやとる野辺の月かな
かせふけは たまちるはきの したつゆに はかなくやとる のへのつきかな
藤原道長(法成寺入道前摂政太政大臣)秋 上
387こよひたれすすふく風を身にしめてよしののたけの月をみるらん
こよひたれ すすふくかせを みにしめて よしののたけに つきをみるらむ
従三位頼政秋 上
388月みれはおもひそあへぬ山たかみいつれのとしの雪にかあるらん
つきみれは おもひそあへぬ やまたかみ いつれのとしの ゆきにかあるらむ
大宰大弐重家秋 上
389にほのうみや月の光のうつろへはなみの花にも秋はみえけり
にほのうみや つきのひかりの うつろへは なみのはなにも あきはみえけり
藤原家隆朝臣秋 上
390ふけゆかはけふりもあらししほかまのうらみなはてそ秋のよの月
ふけゆかは けふりもあらし しほかまの うらみなはてそ あきのよのつき
前大僧正慈円秋 上
391ことはりの秋にはあへぬなみたかな月のかつらもかはるひかりに
ことわりの あきにはあへぬ なみたかな つきのかつらも かはるひかりに
皇太后宮大夫俊成女秋 上
392なかめつつおもふもさひしひさかたの月のみやこのあけかたのそら
なかめつつ おもふもさひし ひさかたの つきのみやこの あけかたのそら
家隆朝臣秋 上
393ふるさとのもとあらのこはきさきしより夜な夜な庭の月そうつろふ
ふるさとの もとあらのこはき さきしより よなよなにはの つきそうつろふ
久我建通(後京極摂政)秋 上
394時しもあれふるさと人はをともせてみやまの月に秋風そふく
ときしもあれ ふるさとひとは おともせて みやまのつきに あきかせそふく
読人知らず秋 上
395ふかからぬとやまのいほのねさめたにさそな木のまの月はさひしき
ふかからぬ とやまのいほの ねさめたに さそなこのまの つきはさひしき
読人知らず秋 上
396月はなをもらぬこのまもすみよしの松をつくして秋風そふく
つきはなほ もらぬこのまも すみよしの まつをつくして あきかせそふく
寂蓮法師秋 上
397なかむれはちちにものおもふ月に又わか身ひとつの峯の松風
なかむれは ちちにものおもふ つきにまた わかみひとつの みねのまつかせ
鴨長明秋 上
398あしひきの山ちのこけのつゆのうへにねさめ夜ふかき月をみるかな
あしひきの やまちのこけの つゆのうへに ねさめよふかき つきをみるかな
藤原秀能秋 上
399心あるをしまのあまのたもとかな月やとれとはぬれぬものから
こころある をしまのあまの たもとかな つきやとれとは ぬれぬものから
後鳥羽院宮内卿秋 上
400わすれしななにはの秋のよはのそらことうらにすむ月はみるとも
わすれしな なにはのあきの よはのそら ことうらにすむ つきはみるとも
宜秋門院丹後秋 上
401松しまやしほくむあまの秋のそて月はものおもふならひのみかは
まつしまや しほくむあまの あきのそて つきはものおもふ ならひのみかは
鴨長明秋 上
402こととはんのしまかさきのあま衣なみと月とにいかかしほるる
こととはむ のしまかさきの あまころも なみとつきとに いかかしをるる
七条院大納言秋 上
403秋のよの月やをしまのあまのはらあけかたちかきおきのつり舟
あきのよの つきやをしまの あまのはら あけかたちかき おきのつりふね
藤原家隆朝臣秋 上
404うき身にはなかむるかひもなかりけり心にくもる秋のよの月
うきみには なかむるかひも なかりけり こころにくもる あきのよのつき
前大僧正慈円秋 上
405いつくにかこよひの月のくもるへきをくらの山もなをやかふらん
いつくにか こよひのつきの くもるへき をくらのやまも なをやかふらむ
大江千里秋 上
406こころこそあくかれにけれ秋のよの夜ふかき月をひとりみしより
こころこそ あくかれにけれ あきのよの よふかきつきを ひとりみしより
源道済秋 上
407かはらしなしるもしらぬも秋のよの月まつほとの心はかりは
かはらしな しるもしらぬも あきのよの つきまつほとの こころはかりは
上東門院小少将秋 上
408たのめたる人はなけれと秋のよは月見てぬへき心ちこそせね
たのめたる ひとはなけれと あきのよは つきみてぬへき ここちこそせね
和泉式部秋 上
409見る人の袖をそしほる秋の夜は月にいかなるかけかそふらん
みるひとの そてをそしほる あきのよは つきにいかなる かけかそふらむ
藤原範永朝臣秋 上
410身にそへるかけとこそみれ秋の月袖にうつらぬおりしなけれは
みにそへる かけとこそみれ あきのつき そてにうつらぬ をりしなけれは
相模秋 上
411月かけのすみわたるかなあまのはら雲ふきはらふよはのあらしに
つきかけの すみわたるかな あまのはら くもふきはらふ よはのあらしに
大納言経信秋 上
412たつた山よはにあらしの松ふけは雲にはうときみねの月かけ
たつたやま よはにあらしの まつふけは くもにはうとき みねのつきかけ
左衛門督通光秋 上
413秋風にたなひく雲のたえまよりもれいつる月のかけのさやけさ
あきかせに たなひくくもの たえまより もれいつるつきの かけのさやけさ
左京大夫顕輔秋 上
414山の葉に雲のよこきるよゐのまはいてても月そなをまたれける
やまのはに くものよこきる よひのまは いててもつきそ なほまたれける
道因法師秋 上
415なかめつつおもふにぬるるたもとかないくよかはみん秋のよの月
なかめつつ おもふもぬるる たもとかな いくよかはみむ あきのよのつき
殷富門院大輔秋 上
416よゐのまにさてもねぬへき月ならは山の葉ちかきものはおもはし
よひのまに さてもねぬへき つきならは やまのはちかき ものはおもはし
式子内親王秋 上
417ふくるまてなかむれはこそかなしけれおもひもいれし秋のよの月
ふくるまて なかむれはこそ かなしけれ おもひもいれし あきのよのつき
読人知らず秋 上
418雲はみなはらひはてたる秋風を松にのこして月をみるかな
くもはみな はらひはてたる あきかせを まつにのこして つきをみるかな
久我建通(後京極摂政)秋 上
419月たにもなくさめかたき秋のよの心もしらぬ松の風かな
つきたにも なくさめかたき あきのよの こころもしらぬ まつのかせかな
読人知らず秋 上
420さむしろやまつよの秋の風ふけて月をかたしくうちのはしひめ
さむしろや まつよのあきの かせふけて つきをかたしく うちのはしひめ
定家朝臣秋 上
421秋のよのなかきかひこそなかりけれまつにふけぬるありあけの月
あきのよの なかきかひこそ なかりけれ まつにふけぬる ありあけのつき
右大将忠経秋 上
422ゆくすゑはそらもひとつのむさし野にくさのはらよりいつる月かけ
ゆくすゑは そらもひとつの むさしのに くさのはらより いつるつきかけ
久我建通(後京極摂政)秋 上
423月をなをまつらんものかむらさめのはれゆく雲のすゑのさと人
つきをなほ まつらむものか むらさめの はれゆくくもの すゑのさとひと
後鳥羽院宮内卿秋 上
424秋のよはやとかる月もつゆなから袖にふきこすおきのうは風
あきのよは やとかるつきも つゆなから そてにふきこす をきのうはかせ
右衛門督通具秋 上
425秋の月しのにやとかるかけたけてをささかはらにつゆふけにけり
あきのつき しのにやとかる かけたけて をささかはらに つゆふけにけり
源家長秋 上
426風わたる山田のいほをもる月やほなみにむすふこほりなるらん
かせわたる やまたのいほを もるつきや ほなみにむすふ こほりなるらむ
前太政大臣秋 上
427かりのくるふしみのをたに夢さめてねぬよのいほに月をみるかな
かりのくる ふしみのをたに ゆめさめて ねぬよのいほに つきをみるかな
前大僧正慈円秋 上
428いな葉ふく風にまかせてすむいほは月そまことにもりあかしける
いなはふく かせにまかせて すむいほは つきそまことに もりあかしける
皇太后宮大夫俊成女秋 上
429あくかれてねぬよのちりのつもるまて月にはらはぬとこのさむしろ
あくかれて ねぬよのちりの つもるまて つきにはらはぬ とこのさむしろ
読人知らず秋 上
430秋の田のかりねのとこのいなむしろ月やとれともしけるつゆかな
あきのたの かりねのとこの いなむしろ つきやとれとも しけるつゆかな
大中臣定雅秋 上
431あきの田にいほさすしつのとまをあらみ月とともにやもりあかすらん
あきのたに いほさすしつの とまをあらみ つきとともにや もりあかすらむ
左京大夫顕輔秋 上
432秋の色はまかきにうとくなりゆけとたまくらなるるねやの月かけ
あきのいろは まかきにうとく なりゆけと たまくらなるる ねやのつきかけ
式子内親王秋 上
433あきのつゆやたもとにいたくむすふらんなかきよあかすやとる月かな
あきのつゆや たもとにいたく むすふらむ なかきよあかす やとるつきかな
太上天皇秋 上
434さらにまたくれをたのめとあけにけり月はつれなき秋のよの空
さらにまた くれをたのめと あけにけり つきはつれなき あきのよのそら
左衛門督通光秋 上
435おほかたに秋のねさめのつゆけくはまたたか袖にありあけの月
おほかたに あきのねさめの つゆけくは またたかそてに ありあけのつき
二条院讃岐秋 上
436はらひかねさこそはつゆのしけからめやとるか月の袖のせはきに
はらひかね さこそはつゆの しけからめ やとるかつきの そてのせはきに
藤原雅経秋 上
437したもみちかつちる山のゆふしくれぬれてやひとり鹿のなくらん
したもみち かつちるやまの ゆふしくれ ぬれてやひとり しかのなくらむ
藤原家隆朝臣秋 下
438山おろしに鹿のねたかくきこゆなりおのへの月にさよやふけぬる
やまおろしに しかのねたかく きこゆなり をのへのつきに さよやふけぬる
三条実房(入道左大臣)秋 下
439野わきせしをののくさふしあれはててみ山にふかきさをしかの声
のわきせし をののくさふし あれはてて みやまにふかき さをしかのこゑ
寂蓮法師秋 下
440あらしふくまくすかはらになくしかはうらみてのみやつまをこふらん
あらしふく まくすかはらに なくしかは うらみてのみや つまをこふらむ
俊恵法師秋 下
441つまこふる鹿のたちとをたつぬれはさ山かすそに秋風そふく
つまこふる しかのたちとを たつぬれは さやまかすそに あきかせそふく
前中納言匡房秋 下
442み山への松のこすゑをわたるなりあらしにやとすさをしかの声
みやまへの まつのこすゑを わたるなり あらしにやとす さをしかのこゑ
惟明親王秋 下
443われならぬ人もあはれやまさるらん鹿なく山の秋の夕くれ
われならぬ ひともあはれや まさるらむ しかなくやまの あきのゆふくれ
源師房秋 下
444たくへくる松のあらしやたゆむらんおのへにかへるさを鹿のこゑ
たくへくる まつのあらしや たゆむらむ をのへにかへる さをしかのこゑ
久我建通(後京極摂政)秋 下
445なくしかのこゑにめさめてしのふかな見はてぬ夢の秋の思を
なくしかの こゑにめさめて しのふかな みはてぬゆめの あきのおもひを
前大僧正慈円秋 下
446よもすからつまとふ鹿のなくなへにこはきかはらのつゆそこほるる
よもすから つまとふしかの なくなへに こはきかはらの つゆそこほるる
権中納言俊忠秋 下
447ねさめしてひさしくなりぬ秋の夜はあけやしぬらん鹿そなくなる
ねさめして ひさしくなりぬ あきのよは あけやしぬらむ しかそなくなる
源道済秋 下
448を山たのいほちかくなくしかのねにおとろかされておとろかすかな
をやまたの いほちかくなく しかのねに おとろかされて おとろかすかな
西行法師秋 下
449山さとのいな葉の風にねさめしてよふかく鹿のこゑをきくかな
やまさとの いなはのかせに ねさめして よふかくしかの こゑをきくかな
中宮大夫師忠秋 下
450ひとりねやいととさひしきさをしかのあさふすをののくすのうら風
ひとりねや いととさひしき さをしかの あさふすをのの くすのうらかせ
藤原顕綱朝臣秋 下
451たつた山こすゑまはらになるままにふかくもしかのそよくなるかな
たつたやま こすゑまはらに なるままに ふかくもしかの そよくなるかな
俊恵法師秋 下
452すきてゆく秋のかたみにさをしかのをのかなくねもおしくやあるらん
すきてゆく あきのかたみに さをしかの おのかなくねも をしくやあるらむ
権大納言長家秋 下
453わきてなといほもる袖のしほるらんいな葉にかきる秋の風かは
わきてなと いほもるそての しをるらむ いなはにかきる あきのかせかは
前大僧正慈円秋 下
454秋田もるかりいほつくりわかをれは衣手さむしつゆそをきける
あきたもる かりいほつくり わかをれは ころもてさむし つゆそおきける
読人知らず秋 下
455秋くれはあさけの風の手をさむみ山田のひたをまかせてそきく
あきくれは あさけのかせの てをさむみ やまたのひたを まかせてそきく
前中納言匡房秋 下
456ほとときすなくさみたれにうへし田をかりかねさむみ秋そくれぬる
ほとときす なくさみたれに うゑしたを かりかねさむみ あきそくれぬる
善滋為政朝臣秋 下
457いまよりは秋風さむくなりぬへしいかてかひとりなかきよをねん
いまよりは あきかせさむく なりぬへし いかてかひとり なかきよをねむ
中納言家持秋 下
458秋されは雁のは風にしもふりてさむきよなよなしくれさへふる
あきされは かりのはかせに しもふりて さむきよなよな しくれさへふる
柿本人麻呂(人麿)秋 下
459さをしかのつまとふ山のをかへなるわさ田はからししもはをくとも
さをしかの つまとふやまの をかへなる わさたはからし しもはおくとも
読人知らず秋 下
460かりてほす山田のいねは袖ひちてうへしさなへとみえすもあるかな
かりてほす やまたのいねは そてひちて うゑしさなへと みえすもあるかな
紀貫之秋 下
461草葉にはたまとみえつつわひ人の袖の涙の秋のしらつゆ
くさはには たまとみえつつ わひひとの そてのなみたの あきのしらつゆ
久我建通(後京極摂政)秋 下
462わかやとのおはなかすゑにしらつゆのをきし日よりそ秋風もふく
わかやとの をはなかすゑに しらつゆの おきしひよりそ あきかせもふく
中納言家持秋 下
463秋といへは契をきてやむすふらんあさちかはらのけさのしらつゆ
あきといへは ちきりおきてや むすふらむ あさちかはらの けさのしらつゆ
恵慶法師秋 下
464秋されはをくしらつゆにわかやとのあさちかうは葉色つきにけり
あきされは おくしらつゆに わかやとの あさちかうはは いろつきにけり
柿本人麻呂(人麿)秋 下
465おほつかな野にも山にもしらつゆのなにことをかはおもひをくらん
おほつかな のにもやまにも しらつゆの なにことをかは おもひおくらむ
天暦御哥秋 下
466つゆしけみ野辺をわけつつから衣ぬれてそかへる花のしつくに
つゆしけみ のへをわけつつ からころも ぬれてそかへる はなのしつくに
藤原頼宗(堀河右大臣)秋 下
467庭のおもにしけるよもきにことよせて心のままにをけるつゆかな
にはのおもに しけるよもきに ことよせて こころのままに おけるつゆかな
基俊秋 下
468秋の野のくさ葉をしなみをくつゆにぬれてや人のたつねゆくらん
あきののの くさはおしなひ おくつゆに ぬれてやひとの たつねゆくらむ
藤原長実秋 下
469ものおもふ袖よりつゆやならひけん秋風ふけはたへぬ物とは
ものおもふ そてよりつゆや ならひけむ あきかせふけは たへぬものとは
寂蓮法師秋 下
470つゆは袖にものおもふころはさそなをくかならす秋のならひならねと
つゆはそてに ものおもふころは さそなおく かならすあきの ならひならねと
太上天皇秋 下
471野はらよりつゆのゆかりをたつねきてわか衣手に秋風そふく
のはらより つゆのゆかりを たつねきて わかころもてに あきかせそふく
読人知らず秋 下
472きりきりすよさむに秋のなるままによはるか声のとをさかりゆく
きりきりす よさむにあきの なるままに よわるかこゑの とほさかりゆく
西行法師秋 下
473むしのねもなかきよあかぬふるさとになをおもひそふ松風そふく
むしのねも なかきよあかぬ ふるさとに なほおもひそふ まつかせそふく
家隆朝臣秋 下
474あともなき庭のあさちにむすほほれつゆのそこなる松むしのこゑ
あともなき にはのあさちに むすほほれ つゆのそこなる まつむしのこゑ
式子内親王秋 下
475秋風は身にしむはかりふきにけりいまやうつらんいもかさ衣
あきかせは みにしむはかり ふきにけり いまやうつらむ いもかさころも
藤原輔尹朝臣秋 下
476衣うつをとはまくらにすかはらやふしみの夢をいくよのこしつ
ころもうつ おとはまくらに すかはらや ふしみのゆめを いくよのこしつ
前大僧正慈円秋 下
477ころもうつね山のいほのしはしはもしらぬ夢ちにむすふたまくら
ころもうつ ねやまのいほの しはしはも しらぬゆめちに むすふたまくら
権中納言公経秋 下
478さとはあれて月やあらぬとうらみてもたれあさちふに衣うつらん
さとはあれて つきやあらぬと うらみても たれあさちふに ころもうつらむ
久我建通(後京極摂政)秋 下
479まとろまてなかめよとてのすさひかなあさのさ衣月にうつこゑ
まとろまて なかめよとての すさひかな あさのさころも つきにうつこゑ
後鳥羽院宮内卿秋 下
480秋とたにわすれんとおもふ月かけをさもあやにくにうつ衣かな
あきとたに わすれむとおもふ つきかけを さもあやにくに うつころもかな
定家朝臣秋 下
481ふるさとに衣うつとはゆくかりやたひのそらにもなきてつくらん
ふるさとに ころもうつとは ゆくかりや たひのそらにも なきてつくらむ
大納言経信秋 下
482雁なきてふく風さむみから衣君まちかてにうたぬよそなき
かりなきて ふくかせさむみ からころも きみまちかてに うたぬよそなき
紀貫之秋 下
483みよしのの山の秋風さよふけてふるさとさむく衣うつなり
みよしのの やまのあきかせ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり
藤原雅経秋 下
484ちたひうつきぬたのをとに夢さめてものおもふ袖のつゆそくたくる
ちたひうつ きぬたのおとに ゆめさめて ものおもふそての つゆそくたくる
式子内親王秋 下
485ふけにけり山のはちかく月さえてとをちのさとに衣うつ声
ふけにけり やまのはちかく つきさえて とをちのさとに ころもうつこゑ
読人知らず秋 下
486秋はつるさよふけかたの月みれは袖ものこらすつゆそをきける
あきはつる さよふけかたの つきみれは そてものこらす つゆそおきける
道信朝臣秋 下
487ひとりぬる山とりのおのしたりおにしもをきまよふとこの月かけ
ひとりぬる やまとりのをの したりをに しもおきまよふ とこのつきかけ
藤原定家朝臣秋 下
488ひとめ見し野辺のけしきはうらかれてつゆのよすかにやとる月かな
ひとめみし のへのけしきは うらかれて つゆのよすかに やとるつきかな
寂蓮法師秋 下
489秋の夜は衣さむしろかさねても月の光にしく物そなき
あきのよは ころもさむしろ かさねても つきのひかりに しくものそなき
大納言経信秋 下
490あきのよははや長月になりにけりことはりなりやねさめせらるる
あきのよは はやなかつきに なりにけり ことわりなりや ねさめせらるる
華山院御哥秋 下
491むらさめのつゆもまたひぬまきの葉にきりたちのほる秋の夕くれ
むらさめの つゆもまたひぬ まきのはに きりたちのほる あきのゆふくれ
寂蓮法師秋 下
492さひしさはみやまの秋のあさくもりきりにしほるるまきのしたつゆ
さひしさは みやまのあきの あさくもり きりにしをるる まきのしたつゆ
太上天皇秋 下
493あけほのや河せのなみのたかせ舟くたすか人の袖の秋きり
あけほのや かはせのなみの たかせふね くたすかひとの そてのあききり
左衛門督通光秋 下
494ふもとをはうちの河きりたちこめて雲井に見ゆる朝日山かな
ふもとをは うちのかはきり たちこめて くもゐにみゆる あさひやまかな
権大納言公実秋 下
495山さとにきりのまかきのへたてすはをちかた人の袖もみてまし
やまさとに きりのまかきの へたてすは をちかたひとの そてもみてまし
曽祢好忠秋 下
496なくかりのねをのみそきくをくら山きりたちはるる時しなけれは
なくかりの ねをのみそきく をくらやま きりたちはるる ときしなけれは
清原深養父秋 下
497かきほなるおきの葉そよき秋風のふくなるなへに雁そなくなる
かきほなる をきのはそよき あきかせの ふくなるなへに かりそなくなる
柿本人麻呂(人麿)秋 下
498秋風に山とひこゆるかりかねのいやとをさかり雲かくれつつ
あきかせに やまとひこゆる かりかねの いやとほさかり くもかくれつつ
読人知らず秋 下
499はつかりのは風すすしくなるなへにたれかたひねの衣かへさぬ
はつかりの はかせすすしく なるなへに たれかたひねの ころもかへさぬ
凡河内躬恒秋 下
500かりかねは風にきおひてすくれともわかまつ人のことつてもなし
かりかねは かせにきほひて すくれとも わかまつひとの ことつてもなし
読人知らず秋 下
501よこ雲の風にわかるるしののめに山とひこゆるはつかりの声
よこくもの かせにわかるる しののめに やまとひこゆる はつかりのこゑ
西行法師秋 下
502白雲をつはさにかけてゆくかりのかと田のおものともしたふなる
しらくもを つはさにかけて ゆくかりの かとたのおもの ともしたふなり
読人知らず秋 下
503おほえ山かたふく月のかけさえてとは田のおもにおつるかりかね
おほえやま かたふくつきの かけさえて とはたのおもに おつるかりかね
前大僧正慈円秋 下
504むら雲や雁のはかせにはれぬらん声きくそらにすめる月かけ
むらくもや かりのはかせに はれぬらむ こゑきくそらに すめるつきかけ
朝恵法師秋 下
505ふきまよふ雲井をわたるはつかりのつはさにならすよもの秋風
ふきまよふ くもゐをわたる はつかりの つはさにならす よものあきかせ
皇太后宮大夫俊成女秋 下
506秋風の袖にふきまく峯の雲をつはさにかけて雁もなくなり
あきかせの そてにふきまく みねのくもを つはさにかけて かりもなくなり
家隆朝臣秋 下
507霜をまつまかきのきくのよゐのまにをきまよふ色は山の葉の月
しもをまつ まかきのきくの よひのまに おきまよふいろは やまのはのつき
後鳥羽院宮内卿秋 下
508ここのへにうつろひぬともきくの花もとのまかきをおもひわするな
ここのへに うつろひぬとも きくのはな もとのまかきを おもひわするな
源有仁(花園左大臣)室秋 下
509いまよりは又さくはなもなきものをいたくなをきそきくのうへのつゆ
いまよりは またさくはなも なきものを いたくなおきそ きくのうへのつゆ
権中納言定頼秋 下
510秋風にしほるる野への花よりもむしのねいたくかれにけるかな
あきかせに しをるるのへの はなよりも むしのねいたく かれにけるかな
中務卿具平親王秋 下
511ねさめする袖さへさむく秋のよのあらしふくなり松むしのこゑ
ねさめする そてさへさむく あきのよの あらしふくなり まつむしのこゑ
大江嘉言秋 下
512秋をへてあはれもつゆもふかくさのさととふものはうつらなりけり
あきをへて あはれもつゆも ふかくさの さととふものは うつらなりけり
前大僧正慈円秋 下
513いり日さすふもとのおはなうちなひきたか秋風にうつらなくらん
いりひさす ふもとのをはな うちなひき たかあきかせに うつらなくらむ
左衛門督通光秋 下
514あたにちるつゆのまくらにふしわひてうつらなくなりとこの山風
あたにちる つゆのまくらに ふしわひて うつらなくなり とこのやまかせ
皇太后宮大夫俊成女秋 下
515とふ人もあらしふきそふ秋はきてこの葉にうつむやとのみちしは
とふひとも あらしふきそふ あきはきて このはにうつむ やとのみちしは
読人知らず秋 下
516色かはるつゆをは袖にをきまよひうらかれてゆく野辺の秋かな
いろかはる つゆをはそてに おきまよひ うらかれてゆく のへのあきかせ
読人知らず秋 下
517あきふけぬなけやしもよのきりきりすややかけさむしよもきふの月
あきふけぬ なけやしもよの きりきりす ややかけさむし よもきふのつき
太上天皇秋 下
518きりきりすなくやしもよのさむしろに衣かたしきひとりかもねん
きりきりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねむ
久我建通(後京極摂政)秋 下
519ねさめする長月のよのとこさむみけさふく風にしもやをくらん
ねさめする なかつきのよの とこさむみ けさふくかせに しもやおくらむ
春宮権大夫公継秋 下
520秋ふかきあはちの嶋のありあけにかたふく月ををくる浦風
あきふかき あはちのしまの ありあけに かたふくつきを おくるうらかせ
前大僧正慈円秋 下
521なか月もいくありあけになりぬらんあさちの月のいととさひゆく
なかつきも いくありあけに なりぬらむ あさちのつきの いととさひゆく
読人知らず秋 下
522かささきの雲のかけはし秋くれて夜半には霜やさえわたるらん
かささきの くものかけはし あきくれて よはにはしもや さえわたるらむ
寂蓮法師秋 下
523いつのまにもみちしぬらん山桜きのふか花のちるをおしみし
いつのまに もみちしぬらむ やまさくら きのふかはなの ちるををしみし
中務卿具平親王秋 下
524うすきりのたちまふ山のもみちははさやかならねとそれとみえけり
うすきりの たちまふやまの もみちはは さやかならねと それとみえけり
高倉院御哥秋 下
525神なひのみむろのこすゑいかならんなへての山もしくれする比
かみなひの みむろのこすゑ いかならむ なへてのやまも しくれするころ
八条院高倉秋 下
526すすか河ふかき木の葉に日かすへて山田のはらの時雨をそきく
すすかかは ふかきこのはに ひかすへて やまたのはらの しくれをそきく
太上天皇秋 下
527心とやもみちはすらんたつた山松はしくれにぬれぬものかは
こころとや もみちはすらむ たつたやま まつはしくれに ぬれぬものかは
皇太后宮大夫俊成秋 下
528おもふことなくてそ見ましもみちはをあらしの山のふもとならすは
おもふこと なくてやみまし もみちはを あらしのやまの ふもとならすは
藤原輔尹朝臣秋 下
529いり日さすさほの山へのははそはらくもらぬ雨とこの葉ふりつつ
いりひさす さほのやまへの ははそはら くもらぬあめと このはふりつつ
曽祢好忠秋 下
530たつた山あらしや峯によはるらんわたらぬ水もにしきたえけり
たつたやま あらしやみねに よわるらむ わたらぬみつも にしきたえけり
後鳥羽院宮内卿秋 下
531ははそはらしつくも色やかはるらんもりのした草秋ふけにけり
ははそはら しつくもいろや かはるらむ もりのしたくさ あきふけにけり
久我建通(後京極摂政)秋 下
532時わかぬなみさへ色にいつみかはははそのもりに嵐ふくらし
ときわかぬ なみさへいろに いつみかは ははそのもりに あらしふくらし
定家朝臣秋 下
533ふるさとはちるもみち葉にうつもれてのきのしのふに秋風そふく
ふるさとは ちるもみちはに うつもれて のきのしのふに あきかせそふく
俊頼朝臣秋 下
534きりの葉もふみわけかたくなりにけりかならす人をまつとなけれと
きりのはも ふみわけかたく なりにけり かならすひとを まつとなけれと
式子内親王秋 下
535人はこす風にこのははちりはててよなよなむしはこゑよはるなり
ひとはこす かせにこのはは ちりはてて よなよなむしは こゑよわるなり
曽祢好忠秋 下
536もみちはのいろにまかせてときは木も風にうつろふ秋の山かな
もみちはの いろにまかせて ときはきも かせにうつろふ あきのやまかな
春宮大夫公継秋 下
537つゆ時雨もる山かけのしたもみちぬるともおらん秋のかたみに
つゆしくれ もるやまかけの したもみち ぬるともをらむ あきのかたみに
家隆朝臣秋 下
538松にはふまさのはかつらちりにけりと山の秋は風すさふらん
まつにはふ まさきのかつら ちりにけり とやまのあきは かせすさふらむ
西行法師秋 下
539うつらなくかた野にたてるはしもみちちりぬはかりに秋風そふく
うつらなく かたのにたてる はしもみち ちらぬはかりに あきかせそふく
前参議親隆秋 下
540ちりかかるもみちの色はふかけれとわたれはにこる山かはの水
ちりかかる もみちのいろは ふかけれと わたれはにこる やまかはのみつ
二条院讃岐秋 下
541あすか河もみちはなかるかつらきの山の秋風ふきそしくらし
あすかかは もみちはなかる かつらきの やまのあきかせ ふきそしくらし
柿本人麻呂(人麿)秋 下
542あすか河せせになみよるくれなゐやかつらき山のこからしの風
あすかかは せせになみよる くれなゐや かつらきやまの こからしのかせ
権中納言長方秋 下
543もみちはをさこそあらしのはらふらめこの山本も雨とふるなり
もみちはを さこそあらしの はらふらめ このやまもとも あめとふるなり
権中納言公経秋 下
544たつたひめいまはのころのあき風に時雨をいそく人の袖かな
たつたひめ いまはのころの あきかせに しくれをいそく ひとのそてかな
久我建通(後京極摂政)秋 下
545ゆく秋のかたみなるへきもみちははあすはしくれとふりやまかはん
ゆくあきの かたみなるへき もみちはも あすはしくれと ふりやまかはむ
権中納言兼宗秋 下
546うちむれてちるもみちはをたつぬれは山ちよりこそ秋はゆきけれ
うちむれて ちるもみちはを たつぬれは やまちよりこそ あきはゆきけれ
前大納言公任秋 下
547夏草のかりそめにとてこしやともなにはの浦に秋そくれぬる
なつくさの かりそめにとて こしやとも なにはのうらに あきそくれぬる
能因法師秋 下
548かくしつつくれぬる秋とおいぬれとしかすかになを物そかなしき
かくしつつ くれぬるあきと おいぬれと しかすかになほ ものそかなしき
読人知らず秋 下
549身にかへていささは秋をおしみみんさらてももろきつゆのいのちを
みにかへて いささはあきを をしみみむ さらてももろき つゆのいのちを
守覚法親王秋 下
550なへてよのおしさにそへておしむかな秋より後の秋のかきりを
なへてよの をしさにそへて をしむかな あきよりのちの あきのかきりを
前太政大臣秋 下
551をきあかす秋のわかれのそてのつゆ霜こそむすへ冬やきぬらん
おきあかす あきのわかれの そてのつゆ しもこそむすへ ふゆやきぬらむ
皇太后宮大夫俊成
552神な月風にもみちのちるときはそこはかとなく物そかなしき
かみなつき かせにもみちの ちるときは そこはかとなく ものそかなしき
藤原高光
553なとりかはやなせの浪そさはくなるもみちやいととよりてせくらん
なとりかは やなせのなみそ さわくなる もみちやいとと よりてせくらむ
源重之
554いかたしよまてこととはんみなかみはいかはかりふく山のあらしそ
いかたしよ まてこととはむ みなかみは いかはかりふく やまのあらしそ
藤原資宗朝臣
555ちりかかるもみちなかれぬ大井かはいつれ井せきの水のしからみ
ちりかかる もみちなかれぬ おほゐかは いつれゐせきの みつのしからみ
大納言経信
556たかせ舟しふくはかりにもみちはのなかれてくたる大井河かな
たかせふね しふくはかりに もみちはの なかれてくたる おほゐかはかな
藤原家経朝臣
557日くるれはあふ人もなしまさきちる峯のあらしのをとはかりして
ひくるれは あふひともなし まさきちる みねのあらしの おとはかりして
俊頼朝臣
558をのつからをとする物は庭のおもにこの葉ふきまく谷のゆふ風
おのつから おとするものは にはのおもに このはふりしく たにのゆふかせ
清輔朝臣
559木の葉ちるやとにかたしく袖の色をありともしらてゆく嵐かな
このはちる やとにかたしく そてのいろを ありともしらて ゆくあらしかな
前大僧正慈円
560このはちるしくれやまかふわか袖にもろき涙のいろとみるまて
このはちる しくれやまかふ わかそてに もろきなみたの いろとみるまて
右衛門督通具
561うつりゆく雲に嵐のこゑすなりちるかまさ木のかつらきの山
うつりゆく くもにあらしの こゑすなり ちるかまさきの かつらきのやま
藤原雅経
562はつ時雨しのふの山のもみちはをあらしふけとはそめすや有けん
はつしくれ しのふのやまの もみちはを あらしふけとは そめすやありけむ
七条院大納言
563しくれつつ袖もほしあへすあしひきの山のこの葉に嵐ふく比
しくれつつ そてもほしあへす あしひきの やまのこのはに あらしふくころ
信濃
564山さとの風すさましきゆふくれに木の葉みたれて物そかなしき
やまさとの かせすさましき ゆふくれに このはみたれて ものそかなしき
藤原秀能
565冬のきて山もあらはに木のはふりのこる松さへ峯にさひしき
ふゆのきて やまもあらはに このはふり のこるまつさへ みねにさひしき
祝部成茂
566からにしき秋のかたみやたつた山ちりあへぬえたに嵐ふくなり
からにしき あきのかたみや たつたやま ちりあへぬえたに あらしふくなり
後鳥羽院宮内卿
567時雨かときけはこの葉のふる物をそれにもぬるるわかたもとかな
しくれかと きけはこのはの ふるものを それともぬるる わかたもとかな
藤原資隆朝臣
568時しもあれ冬ははもりの神な月まはらになりぬもりのかしは木
ときしもあれ ふゆははもりの かみなつき まはらになりぬ もりのかしはき
法眼慶算
569いつのまにそらのけしきのかはるらんはけしきけさのこからしの風
いつのまに そらのけしきの かはるらむ はけしきけさの こからしのかせ
津守国基
570月をまつたかねの雲ははれにけり心あるへきはつしくれかな
つきをまつ たかねのくもは はれにけり こころあるへき はつしくれかな
西行法師
571神な月木々のこの葉はちりはてて庭にそ風のをとはきこゆる
かみなつき ききのこのはは ちりはてて にはにそかせの おとはきこゆる
前大僧正覚忠
572しはのとにいり日のかけはさしなからいかにしくるる山辺なるらん
しはのとに いりひのかけは さしなから いかにしくるる やまへなるらむ
清輔朝臣
573雲はれてのちもしくるるしはのとや山風はらふ松のした露
くもはれて のちもしくるる しはのとや やまかせはらふ まつのしたつゆ
藤原隆信朝臣
574神無月しくれふるらしさほ山のまさきのかつら色まさりゆく
かみなつき しくれふるらし さほやまの まさきのかつら いろまさりゆく
読人知らず
575こからしのをとに時雨をききわかてもみちにぬるるたもととそ見る
こからしの おとにしくれを ききわかて もみちにぬるる たもととそみる
中務卿具平親王
576しくれふるをとはすれともくれたけのなとよとともにいろもかはらぬ
しくれふる おとはすれとも くれたけの なとよとともに いろもかはらぬ
中納言兼輔
577しくれの雨そめかねてけり山しろのときはのもりのまきの下葉は
しくれのあめ そめかねてけり やましろの ときはのもりの まきのしたはは
能因法師
578冬をあさみまたくしくれと思しをたえさりけりな老の涙も
ふゆをあさみ またきしくれを おもひしを たえさりけりな おいのなみたも
清原元輔
579まはらなるしはのいほりにたひねして時雨にぬるるさよ衣かな
まはらなる しはのいほりに たひねして しくれにぬるる さよころもかな
後白河院御哥
580やよしくれ物思袖のなかりせはこの葉の後になにをそめまし
やよしくれ ものおもふそての なかりせは このはののちに なにをそめまし
前大僧正慈円
581ふかみとりあらそひかねていかならんまなく時雨のふるの神すき
ふかみとり あらそひかねて いかならむ まなくしくれの ふるのかみすき
太上天皇
582しくれの雨まなくしふれはま木の葉もあらそひかねて色つきにけり
しくれのあめ まなくしふれは まきのはも あらそひかねて いろつきにけり
柿本人麻呂(人麿)
583世中になをもふるかなしくれつつ雲間の月のいてやとおもへと
よのなかに なほもふるかな しくれつつ くもまのつきの いてやとおもへは
和泉式部
584おりこそあれなかめにかかるうき雲の袖もひとつにうちしくれつつ
をりこそあれ なかめにかかる うきくもの そてもひとつに うちしくれつつ
二条院讃岐
585あきしのやと山のさとやしくるらんいこまのたけに雲のかかれる
あきしのや とやまのさとや しくるらむ いこまのたけに くものかかれる
西行法師
586はれくもり時雨はさためなき物をふりはてぬるはわか身なりけり
はれくもり しくれはさため なきものを ふりはてぬるは わかみなりけり
道因法師
587いまは又ちらてもまかふ時雨かなひとりふりゆく庭の松風
いまはまた ちらてもまかふ しくれかな ひとりふりゆく にはのまつかせ
源具親
588みよしのの山かきくもり雪ふれはふもとのさとはうちしくれつつ
みよしのの やまかきくもり ゆきふれは ふもとのさとは うちしくれつつ
俊恵法師
589まきのやに時雨のをとのかはるかなもみちやふかくちりつもるらん
まきのやに しくれのおとの かはるかな もみちやふかく ちりつもるらむ
三条実房(入道左大臣)
590世にふるはくるしき物をま木のやにやすくもすくるはつ時雨かな
よにふるは くるしきものを まきのやに やすくもすくる はつしくれかな
二条院讃岐
591ほの/\とありあけの月の月かけにもみちふきおろす山おろしの風
ほのほのと ありあけのつきの つきかけに もみちふきおろす やまおろしのかせ
源信明朝臣
592もみち葉をなにおしみけん木のまよりもりくる月はこよひこそみれ
もみちはを なにをしみけむ このまより もりくるつきは こよひこそみれ
中務卿具平親王
593ふきはらふあらしののちのたかねよりこの葉くもらて月やいつらん
ふきはらふ あらしののちの たかねより このはくもらて つきやいつらむ
宜秋門院丹後
594霜こほる袖にもかけはのこりけりつゆよりなれしありあけの月
しもこほる そてにもかけは のこりけり つゆよりなれし ありあけのつき
右衛門督通具
595なかめつついくたひ袖にくもるらん時雨にふくる有あけの月
なかめつつ いくたひそてに くもるらむ しくれにふくる ありあけのつき
藤原家隆朝臣
596さためなくしくるるそらのむら雲にいくたひおなし月をまつらん
さためなく しくるるそらの むらくもに いくたひおなし つきをまつらむ
源泰光
597いまよりは木の葉かくれもなけれともしくれにのこるむら雲の月
いまよりは このはかくれも なけれとも しくれにのこる むらくものつき
源具親
598はれくもるかけをみやこにさきたててしくるとつくる山の葉の月
はれくもる かけをみやこに さきたてて しくるとつくる やまのはのつき
読人知らず
599たえ/\にさとわく月のひかりかなしくれををくる夜はのむらくも
たえたえに さとわくつきの ひかりかな しくれをかくる よはのむらくも
寂蓮法師
600いまはとてねなまし物をしくれつるそらとも見えすすめる月かな
いまはとて ねなましものを しくれつる そらともみえす すめるつきかな
良暹法師
601つゆしものよはにおきゐて冬のよの月みるほとに袖はこほりぬ
つゆしもの よはにおきゐて ふゆのよの つきみるほとに そてはこほりぬ
曽祢好忠
602もみちははをのかそめたる色そかしよそけにをけるけさの霜かな
もみちはは おのかそめたる いろそかし よそけにおける けさのしもかな
前大僧正慈円
603をくら山ふもとのさとにこの葉ちれはこすゑにはるる月をみるかな
をくらやま ふもとのさとに このはちれは こすゑにはるる つきをみるかな
西行法師
604秋の色をはらひはててやひさかたの月のかつらにこからしの風
あきのいろを はらひはててや ひさかたの つきのかつらに こからしのかせ
雅経
605風さむみ木の葉はれゆくよな/\にのこるくまなき庭の月かけ
かせさむみ このははれゆく よなよなに のこるくまなき にはのつきかけ
式子内親王
606わかかとのかり田のねやにふすしきのとこあらはなる冬のよの月
わかかとの かりたのねやに ふすしきの とこあらはなる ふゆのよのつき
殷富門院大輔
607冬かれのもりのくち葉の霜のうへにおちたる月のかけのさむけさ
ふゆかれの もりのくちはの しものうへに おちたるつきの かけのさむけさ
清輔朝臣
608さえわひてさむるまくらにかけみれは霜ふかきよの有あけの月
さえわひて さむるまくらに かけみれは しもふかきよの ありあけのつき
皇太后宮大夫俊成女
609霜むすふ袖のかたしきうちとけてねぬよの月のかけそさむけき
しもむすふ そてのかたしき うちとけて ねぬよのつきの かけそさむけき
右衛門督通具
610かけとめしつゆのやとりを思いてて霜にあととふあさちふの月
かけとめし つゆのやとりを おもひいてて しもにあととふ あさちふのつき
雅経
611かたしきの袖をや霜にかさぬらん月によかるるうちのはしひめ
かたしきの そてをやしもに かさぬらむ つきによかるる うちのはしひめ
法印幸清
612なつかりのおきのふるえはかれにけりむれゐし鳥はそらにやあるらん
なつかりの をきのふるえは かれにけり むれゐしとりは そらにやあるらむ
源重之
613さよふけて声さへさむきあしたつはいくへの霜かをきまさるらん
さよふけて こゑさへさむき あしたつは いくへのしもか おきまさるらむ
道信朝臣
614冬のよのなかきををくる袖ぬれぬ暁かたのよものあらしに
ふゆのよの なかきをおくる そてぬれぬ あかつきかたの よものあらしに
太上天皇
615ささの葉はみ山もさやにうちそよきこほれる霜を吹嵐かな
ささのはは みやまもさやに うちそよき こほれるしもを ふくあらしかな
久我建通(後京極摂政)
616君こすはひとりやねなんささの葉のみ山もそよにさやく霜よを
きみこすは ひとりやねなむ ささのはの みやまもそよに さやくしもよを
清輔朝臣
617霜かれはそこともみえぬ草のはらたれにとはまし秋のなこりを
しもかれは そこともみえぬ くさのはら たれにとはまし あきのなこりを
皇太后宮大夫俊成女
618しもさゆる山田のくろのむらすすきかる人なしみのこるころかな
しもさゆる やまたのくろの むらすすき かるひとなしに のこるころかな
前大僧正慈円
619くさのうへにここら玉ゐし白露をした葉の霜とむすふ冬かな
くさのうへに ここらたまゐし しらつゆを したはのしもと むすふふゆかな
好忠
620かささきのわたせるはしにをくしものしろきを見れはよそふけにける
かささきの わたせるはしに おくしもの しろきをみれは よそふけにける
中納言家持
621しくれつつかれゆく野辺の花なれは霜のまかきににほふいろかな
しくれつつ かれゆくのへの はななれは しものまかきに にほふいろかな
延喜御哥
622菊の花たおりては見しはつ霜のをきなからこそ色まさりけれ
きくのはな たをりてはみし はつしもの おきなからこそ いろまさりけれ
中納言兼輔
623かけさへにいまはと菊のうつろふは浪の底にも霜やをくらん
かけさへに いまはときくの うつろふは なみのそこにも しもやおくらむ
坂上是則
624野辺見れはお花かもとのおもひ草かれゆく冬になりそしにける
のへみれは をはなかもとの おもひくさ かれゆくふゆに なりそしにける
和泉式部
625つのくにのなにはの春は夢なれやあしのかれ葉に風わたる也
つのくにの なにはのはるは ゆめなれや あしのかれはに かせわたるなり
西行法師
626冬ふかくなりにけらしななにはえのあお葉ましらぬあしの村立
ふゆふかく なりにけらしな なにはえの あをはましらぬ あしのむらたち
大納言成通
627さひしさにたへたる人の又もあれないほりならへん冬の山さと
さひしさに たへたるひとの またもあれな いほりならへむ ふゆのやまさと
西行法師
628あつまちのみちの冬くさしけりあひてあとたに見えぬ忘水かな
あつまちの みちのふゆくさ しけりあひて あとたにみえぬ わすれみつかな
康資王母
629むかしおもふさよのねさめのとこさえて涙もこほる袖の上かな
むかしおもふ さよのねさめの とこさえて なみたもこほる そてのうへかな
守覚法親王
630たちぬるる山のしつくもをとたえてま木のした葉にたるひしにけり
たちぬるる やまのしつくも おとたえて まきのしたはに たるひしにけり
読人知らず
631かつこほりかつはくたくる山かはのいはまにむせふ暁の声
かつこほり かつはくたくる やまかはの いはまにむすふ あかつきのこゑ
皇太后宮大夫俊成
632きえかへりいはまにまよふ水のあはのしはしやとかるうす氷かな
きえかへり いはまにまよふ みつのあわの しはしやとかる うすこほりかな
久我建通(後京極摂政)
633まくらにも袖にもなみたつららゐてむすはぬ夢をとふ嵐かな
まくらにも そてにもなみた つららゐて むすはぬゆめを とふあらしかな
読人知らず
634みなかみやたえ/\こほるいはまよりきよたき河にのこる白浪
みなかみや たえたえこほる いはまより きよたきかはに のこるしらなみ
読人知らず
635かたしきの袖の氷もむすほほれとけてねぬよの夢そみしかき
かたしきの そてのこほりも むすほほれ とけてねぬよの ゆめそみしかき
読人知らず
636はしひめのかたしき衣さむしろにまつよむなしきうちのあけほの
はしひめの かたしきころも さむしろに まつよむなしき うちのあけほの
太上天皇
637あしろ木にいさよふ浪のをとふけてひとりやねぬるうちのはしひめ
あしろきに いさよふなみの おとふけて ひとりやねぬる うちのはしひめ
前大僧正慈円
638見るままに冬はきにけりかものゐるいりえのみきはうすこほりつつ
みるままに ふゆはきにけり かものゐる いりえのみきは うすこほりつつ
式子内親王
639しかのうらやとをさかりゆく浪間よりこほりていつる有あけの月
しかのうらや とほさかりゆく なみまより こほりていつる ありあけのつき
藤原家隆朝臣
640ひとり見るいけの氷にすむ月のやかてそてにもうつりぬるかな
ひとりみる いけのこほりに すむつきの やかてそてにも うつりぬるかな
皇太后宮大夫俊成
641うはたまのよのふけゆけはひさきおふるきよきかはらにちとりなく也
うはたまの よのふけゆけは ひさきおふる きよきかはらに ちとりなくなり
赤人
642ゆくさきはさよふけぬれとちとりなくさほのかはらはすきうかりけり
ゆくさきは さよふけぬれと ちとりなく さほのかはらは すきうかりけり
伊勢大輔
643ゆふされはしほ風こしてみちのくののたの玉河ちとりなくなり
ゆふされは しほかせこして みちのくの のたのたまかは ちとりなくなり
能因法師
644白浪にはねうちかはしはまちとりかなしき声はよるの一声
しらなみに はねうちかはし はまちとり かなしきものは よはのひとこゑ
重之
645ゆふなきにとわたるちとりなみまより見ゆるこ嶋の雲にきえぬる
ゆふなきに とわたるちとり なみまより みゆるこしまの くもにきえぬる
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)
646浦風にふきあけのはまのはまちとり浪たちくらし夜はになくなり
うらかせに ふきあけのはまの はまちとり なみたちくらし よはになくなり
祐子内親王家紀伊
647月そすむたれかはここにきのくにやふきあけのちとりひとりなく也
つきそすむ たれかはここに きのくにや ふきあけのちとり ひとりなくなり
久我建通(後京極摂政)
648さよちとり声こそちかくなるみかたかたふく月にしほやみつらん
さよちとり こゑこそちかく なるみかた かたふくつきに しほやみつらむ
正三位季能
649風ふけはよそになるみのかたおもひおもはぬ浪になくちとりかな
かせふけは よそになるみの かたおもひ おもはぬなみに なくちとりかな
藤原秀能
650浦人の日もゆふくれになるみかたかへる袖よりちとりなくなり
うらひとの ひもゆふくれに なるみかた かへるそてより ちとりなくなり
権大納言通光
651風さゆるとしまかいそのむらちとりたちゐは浪の心なりけり
かせさゆる をしまかいその むらちとり たちゐはなみの こころなりけり
正三位季経
652はかなしやさてもいくよかゆく水にかすかきわふるをしのひとりね
はかなしや さてもいくよか ゆくみつに かすかきわふる をしのひとりね
雅経
653水鳥のかものうきねのうきなから浪のまくらにいくよねぬらん
みつとりの かものうきねの うきなから なみのまくらに いくよへぬらむ
前斎宮河内
654よしのなるなつみの河のかはよとにかもそなくなる山かけにして
よしのなる なつみのかはの かはよとに かもそなくなる やまかけにして
湯原王
655ねやのうへにかたえさしおほひそともなる葉ひろかしはに霰ふる也
ねやのうへに かたえさしおほひ そともなる はひろかしはに あられふるなり
能因法師
656ささなみやしかのからさき風さえてひらのたかねにあられふる也
ささなみや しかのからさき かせさえて ひらのたかねに あられふるなり
藤原道長(法成寺入道前摂政太政大臣)
657やたののにあさちいろつくあらち山みねのあは雪さむくそあるらし
やたののに あさちいろつく あらちやま みねのあはゆき さむくあるらし
柿本人麻呂(人麿)
658つねよりもしのやののきそうつもるるけふは宮こにはつ雪やふる
つねよりも しのやののきそ うつもるる けふはみやこに はつゆきやふる
瞻西聖人
659ふる雪にまことにしのやいかならんけふはみやこにあとたにもなし
ふるゆきに まことにしのや いかならむ けふはみやこに あとたにもなし
基俊
660はつ雪のふるの神すきうつもれてしめゆふ野辺は冬こもりせり
はつゆきの ふるのかみすき うつもれて しめゆふのへは ふゆこもりせり
権中納言長方
661ふれはかくうさのみまさる世をしらてあれたる庭につもるはつ雪
ふれはかく うさのみまさる よをしらて あれたるにはに つもるはつゆき
紫式部
662さむしろのよはの衣手さえ/\てはつ雪しろしをかのへの松
さむしろの よはのころもて さえさえて はつゆきしろし をかのへのまつ
式子内親王
663ふりそむるけさたに人のまたれつるみ山のさとの雪の夕くれ
ふりそむる けさたにひとの またれつる みやまのさとの ゆきのゆふくれ
寂蓮法師
664けふはもし君もやとふとなかむれとまたあともなき庭の雪哉
けふはもし きみもやとふと なかむれと またあともなき にはのゆきかな
皇太后宮大夫俊成
665いまそきく心はあともなかりけり雪かきわけておもひやれとも
いまそきく こころはあとも なかりけり ゆきかきわけて おもひやれとも
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)
666白山にとしふる雪やつもるらんよはにかたしくたもとさゆなり
しらやまも としふるゆきや つもるらむ よはにかたしく たもとさゆなり
前大納言公任
667あけやらぬねさめのとこにきこゆなりまかきの竹の雪のしたおれ
あけやらぬ ねさめのとこに きこゆなり まかきのたけの ゆきのしたをれ
刑部卿範兼
668をとは山さやかに見ゆる白雪をあけぬとつくるとりのこゑかな
おとはやま さやかにみする しらゆきを あけぬとつくる とりのこゑかな
高倉院御哥
669山さとはみちもやみえすなりぬらんもみちとともに雪のふりぬる
やまさとは みちもやみえす なりぬらむ もみちとともに ゆきのふりぬる
藤原家経朝臣
670さひしさをいかにせよとてをかへなるならの葉したり雪のふるらん
さひしさを いかにせよとて をかへなる ならのはしたり ゆきのふるらむ
藤原国房
671こまとめて袖うちはらふかけもなしさののわたりの雪のゆふくれ
こまとめて そてうちはらふ かけもなし さののわたりの ゆきのゆふくれ
定家朝臣
672まつ人のふもとのみちはたえぬらんのきはのすきに雪をもるなり
まつひとの ふもとのみちは たえぬらむ のきはのすきに ゆきおもるなり
読人知らず
673夢かよふみちさへたえぬくれ竹のふしみのさとの雪のしたをれ
ゆめかよふ みちさへたえぬ くれたけの ふしみのさとの ゆきのしたをれ
有家朝臣
674ふる雪にたくものけふりかきたえてさひしくもあるかしほかまのうら
ふるゆきに たくものけむり かききえて さひしくもあるか しほかまのうら
九条兼実(入道前関白太政大臣)
675たこの浦にうちいてて見れはしろたへのふしのたかねに雪はふりつつ
たこのうらに うちいててみれは しろたへの ふしのたかねに ゆきはふりつつ
赤人
676雪のみやふりぬとおもふ山さとにわれもおほくのとしそつもれる
ゆきのみや ふりぬとはおもふ やまさとに われもおほくの としそつもれる
紀貫之
677雪ふれはみねのまさかきうつもれて月にみかけるあまのかく山
ゆきふれは みねのまさかき うつもれて つきにみかける あまのかくやま
皇太后宮大夫俊成
678かきくもりあまきる雪のふるさとをつもらぬさきにとふ人もかな
かきくもり あまきるゆきの ふるさとを つもらぬさきに とふひともかな
太皇太后宮小侍従
679庭の雪にわかあとつけていてつるをとはれにけりと人やみるらん
にはのゆきに わかあとつけて いてつるを とはれにけりと ひとやみるらむ
前大僧正慈円
680なかむれはわか山のはに雪しろし宮この人よ哀とも見よ
なかむれは わかやまのはに ゆきしろし みやこのひとよ あはれともみよ
読人知らず
681冬くさのかれにし人のいまさらに雪ふみわけて見えん物かは
ふゆくさの かれにしひとの いまさらに ゆきふみわけて みえむものかは
曽祢好忠
682たつねきてみちわけわふる人もあらしいくへもつもれ庭の白雪
たつねきて みちわけわふる ひともあらし いくへもつもれ にはのしらゆき
寂然法師
683このころは花も紅葉もえたになししはしなきえそ松のしらゆき
このころは はなももみちも えたになし しはしなきえそ まつのしらゆき
太上天皇
684草も木もふりまかへたる雪もよに春まつむめの花のかそする
くさもきも ふりまかへたる ゆきもよに はるまつうめの はなのかそする
右衛門督通具
685みかりするかた野のみのにふるあられあなかままたき鳥もこそたて
みかりする かたののみのに ふるあられ あなかままたき とりもこそたて
崇徳院御哥
686みかりすととたちのはらをあさりつつかたのの野辺にけふもくらしつ
みかりすと とたちのはらを あさりつつ かたのののへに けふもくらしつ
藤原道長(法成寺入道前摂政太政大臣)
687みかり野はかつふる雪にうつもれてとたちもみえす草かくれつつ
みかりのは かつふるゆきに うつもれて とたちもみえす くさかくれつつ
前中納言匡房
688かりくらしかたののましはおりしきてよとの河せの月をみるかな
かりくらし かたののましは をりしきて よとのかはせの つきをみるかな
左近中将公衡
689中/\にきえはきえなてうつみ火のいきてかひなき世にもある哉
なかなかに きえはきえなて うつみひの いきてかひなき よにもふるかな
権僧正永縁
690ひかすふる雪けにまさるすみかまのけふりもさむし大原のさと
ひかすふる ゆきけにまさる すみかまの けふりもさむし おほはらのさと
式子内親王
691をのつからいはぬをしたふ人やあるとやすらふほとにとしのくれぬる
おのつから いはぬをしたふ ひとやあると やすらふほとに としのくれぬる
西行法師
692かへりては身にそふ物としりなからくれゆくとしをなにしたふらん
かへりては みにそふものと しりなから くれゆくとしを なにしたふらむ
上西門院兵衛
693へたてゆくよよのおもかけかきくらし雪とふりぬるとしのくれかな
へたてゆく よよのおもかけ かきくらし ゆきにふりぬる としのくれかな
皇太后宮大夫俊成女
694あたらしきとしやわか身をとめくらんひまゆくこまにみちをまかせて
あたらしき としやわかみを とめくらむ ひまゆくこまに みちをまかせて
大納言隆季
695なけきつつことしもくれぬつゆのいのちいけるはかりを思いてにして
なけきつつ ことしもくれぬ つゆのいのち いけるはかりを おもひいてにして
俊恵法師
696おもひやれやそちのとしのくれなれはいかはかりかは物はかなしき
おもひやれ やそちのとしの くれなれは いかはかりかは ものはかなしき
太皇太后宮小侍従
697むかしおもふ庭にうき木をつみをきて見しよにもにぬとしのくれかな
むかしおもふ にはにうききを つみおきて みしにもあらぬ としのくれかな
西行法師
698いその神ふる野のをささしもをへてひとよはかりにのこるとしかな
いそのかみ ふるののをささ しもをへて ひとよはかりに のこるとしかな
久我建通(後京極摂政)
699としのあけてうきよの夢のさむへくはくるともけふはいとはさらまし
としのあけて うきよのゆめの さむへくは くるともけふは いとはさらまし
前大僧正慈円
700あさことのあか井の水にとしくれてわかよのほとのくまれぬるかな
あさことの あかゐのみつに としくれて わかよのほとの くまれぬるかな
権律師隆聖
701いそかれぬとしのくれこそあはれなれむかしはよそにききし春かは
いそかれぬ としのくれこそ あはれなれ むかしはよそに ききしはるかは
三条実房(入道左大臣)
702かそふれはとしののこりもなかりけりおいぬるはかりかなしきはなし
かそふれは としののこりも なかりけり おいぬるはかり かなしきはなし
和泉式部
703いしはしるはつせのかはのなみまくらはやくもとしのくれにけるかな
いしはしる はつせのかはの なみまくら はやくもとしの くれにけるかな
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)
704ゆくとしををしまのあまのぬれ衣かさねて袖になみやかくらん
ゆくとしを をしまのあまの ぬれころも かさねてそてに なみやかくらむ
有家朝臣
705おいのなみこえける身こそあはれなれことしも今はすゑの松山
おいのなみ こえけるみこそ あはれなれ ことしもいまは すゑのまつやま
寂蓮法師
706けふことにけふやかきりとおしめとも又もことしにあひにけるかな
けふことに けふやかきりと をしめとも またもことしに あひにけるかな
皇太后宮大夫俊成
707たかきやにのほりて見れはけふりたつたみのかまとはにきはひにけり
たかきやに のほりてみれは けふりたつ たみのかまとは にきはひにけり
仁徳天皇御哥
708はつ春のはつねのけふのたまははきてにとるからにゆらく玉のを
はつはるの はつねのけふの たまははき てにとるからに ゆらくたまのを
読人知らず
709ねのひしてしめつるのへのひめこ松ひかてやちよのかけをまたまし
ねのひして しめつるのへの ひめこまつ ひかてやちよの かけをまたまし
藤原清正
710君かよのとしのかすをはしろたへのはまのまさことたれかしきけん
きみかよの としのかすをは しろたへの はまのまさこと たれかしきけむ
紀貫之
711わかなおふるのへといふのへを君かためよろつよしめてつまんとそ思
わかなおふる のへといふのへを きみかため よろつよしめて つまむとそおもふ
読人知らず
712ゆふたすきちとせをかけてあしひきの山あゐのいろはかはらさりけり
ゆふたすき ちとせをかけて あしひきの やまあゐのいろは かはらさりけり
読人知らず
713君かよにあふへき春のおほけれはちるとも桜あくまてそみん
きみかよに あふへきはるの おほけれと ちるともさくら あくまてそみむ
源師房
714すみの江のはまのまさこをふむたつはひさしきあとをとむるなりけり
すみのえの はまのまさこを ふむたつは ひさしきあとを とむるなりけり
伊勢
715としことにおいそふ竹のよよをへてかはらぬいろをたれとかはみん
としことに おひそふたけの よよをへて かはらぬいろを たれとかはみむ
紀貫之
716ちとせふるおのへの松は秋風の声こそかはれいろはかはらす
ちとせふる をのへのまつは あきかせの こゑこそかはれ いろはかはらす
躬恒
717山河の菊のしたみついかなれはなかれて人の老をせくらん
やまかはの きくのしたみつ いかなれは なかれてひとの おいをせくらむ
興風
718いのりつつなを長月のきくの花いつれの秋かうへてみさらん
いのりつつ なほなかつきの きくのはな いつれのあきか うゑてみさらむ
紀貫之
719山人のおるそてにほふきくのつゆうちはらふにもちよはへぬへし
やまひとの をるそてにほふ きくのつゆ うちはらふにも ちよはへぬへし
皇太后宮大夫俊成
720神な月もみちもしらぬときは木によろつよかかれ峯の白雲
かみなつき もみちもしらぬ ときはきに よろつよかかれ みねのしらくも
清原元輔
721山風はふけとふかねと白浪のよするいはねはひさしかりけり
やまかせは ふけとふかねと しらなみの よするいはねは ひさしかりけり
伊勢
722くもりなくちとせにすめる水のおもにやとれる月のかけものとけし
くもりなく ちとせにすめる みつのおもに やとれるつきの かけものとけし
紫式部
723池水のよよにひさしくすみぬれは底の玉もも光みえけり
いけみつの よよにひさしく すみぬれは そこのたまもも ひかりみえけり
伊勢大輔
724きみかよのちとせのかすもかくれなくくもらぬそらの光にそ見る
きみかよの ちとせのかすも かくれなく くもらぬそらの ひかりにそみる
源顕房(六条右大臣)
725すみの江においそふ松のえたことにきみかちとせのかすそこもれる
すみのえに おひそふまつの えたことに きみかちとせの かすそこもれる
前大納言隆国
726よろつよを松のを山のかけしけみ君をそいのるときはかきはに
よろつよを まつのをやまの かけしけみ きみをそいのる ときはかきはに
康資王母
727あひをひのをしほの山のこ松はらいまよりちよのかけをまたなん
あひおひの をしほのやまの こまつはら いまよりちよの かけをまたなむ
大弐三位
728ねの日するみかきのうちのこ松はらちよをはほかの物とやはみる
ねのひする みかきのうちの こまつはら ちよをはほかの ものとやはみる
大納言経信
729ねの日する野辺のこ松をうつしうへてとしのをなかく君そひくへき
ねのひする のへのこまつを うつしうゑて としのをなかく きみそひくへき
権中納言通俊
730君かよはひさしかるへしわたらひやいすすのかはのなかれたえせて
きみかよは ひさしかるへし わたらひや いすすのかはの なかれたえせて
前中納言匡房
731とき葉なる松にかかれるこけなれは年のをなかきしるへとそ思
ときはなる まつにかかれる こけなれは としのをなかき しるへとそおもふ
読人知らず
732きみかよにあへるはたれもうれしきを花はいろにもいてにけるかな
きみかよに あへるはたれも うれしきを はなはいろにも いてにけるかな
刑部卿範兼
733身にかへて花もおしまし君かよにみるへき春のかきりなけれは
みにかへて はなもをしまし きみかよに みるへきはるの かきりなけれは
参河内侍
734あめのしためくむくさ木のめもはるにかきりもしらぬみよのすゑすゑ
あめのした めくむくさきの めもはるに かきりもしらぬ みよのすゑすゑ
式子内親王
735をしなへてこのめも春のあさみとり松にそちよの色はこもれる
おしなへて このめもはるの あさみとり まつにそちよの いろもこもれる
久我建通(後京極摂政)
736しき嶋ややまとしまねも神よより君かためとやかためをきけん
しきしまや やまとしまねも かみよより きみかためとや かためおきけむ
読人知らず
737ぬれてほすたまくしのはのつゆしもにあまてるひかりいくよへぬらん
ぬれてほす たまくしのはの つゆしもに あまてるひかり いくよへぬらむ
読人知らず
738きみかよはちよともささしあまのとやいつる月日のかきりなけれは
きみかよは ちよともささし あまのとや いつるつきひの かきりなけれは
皇太后宮大夫俊成
739わかみちをまもらはきみをまもるらんよはひはゆつれすみよしの松
わかみちを まもらはきみを まもるらむ よはひはゆつれ すみよしのまつ
定家朝臣
740たかさこの松もむかしになりぬへしなをゆくすゑは秋のよの月
たかさこの まつもむかしに なりぬへし なほゆくすゑは あきのよのつき
寂蓮法師
741もしほくさかくともつきしきみかよのかすによみをくわかの浦浪
もしほくさ かくともつきし きみかよの かすによみおく わかのうらなみ
源家長
742うれしさやかたしく袖につつむらんけふまちえたるうちのはしひめ
うれしさや かたしくそてに つつむらむ けふまちえたる うちのはしひめ
前大納言隆房
743としへたるうちのはしもりこととはんいくよになりぬ水のみなかみ
としへたる うちのはしもり こととはむ いくよになりぬ みつのみなかみ
清輔朝臣
744ななそちにみつのはままつおいぬれとちよののこりは猶そはるけき
ななそちに みつのはままつ おいぬれは ちよののこりは なほそはるけき
読人知らず
745やをかゆくはまのまさこを君かよのかすにとらなんおきつ嶋もり
やほかゆく はまのまさこを きみかよの かすにとらなむ おきつしまもり
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)
746かすか山宮このみなみしかそおもふきたのふちなみ春にあへとは
かすかやま みやこのみなみ しかそおもふ きたのふちなみ はるにあへとは
久我建通(後京極摂政)
747ときはなるきひの中山をしなへてちとせを松のふかきいろかな
ときはなる きひのなかやま おしなへて ちとせをまつの ふかきいろかな
読人知らず
748あかねさすあさひのさとのひかけ草とよのあかりのかさしなるへし
あかねさす あさひのさとの ひかけくさ とよのあかりの かさしなるへし
祭主輔親
749すへらきをときはかきはにもる山の山人ならし山かつらせり
すめらきを ときはかきはに もるやまの やまひとならし やまかつらせり
式部大輔資業
750とやかへるたかのを山のたまつはきしもをはふともいろはかはらし
とやかへる たかのをやまの たまつはき しもをはふとも いろはかはらし
前中納言匡房
751くもりなきかかみの山の月をみてあきらけきよをそらにしる哉
くもりなき かかみのやまの つきをみて あきらけきよを そらにしるかな
宮内卿永範
752おほえ山こえていくののすゑとをみみちある世にもあひにけるかな
おほえやま こえていくのの すゑとほみ みちあるよにも あひにけるかな
刑部卿範兼
753あふみのやさかたのいねをかけつみてみちあるみよのはしめにそつく
あふみのや さかたのいねを かけつみて みちあるみよの はしめにそつく
皇太后宮大夫俊成
754神世世りけふのためとややつかほになかたのいねのしなひそめけん
かみよより けふのためとや やつかほに なかたのいねの しなひそめけむ
権中納言兼光
755たちよれはすすしかりけり水鳥のあおはの山の松のゆふ風
たちよれは すすしかりけり みつとりの あをはのやまの まつのゆふかせ
式部大輔光範
756ときはなる松井の水をむすふてのしつくことにそちよはみえける
ときはなる まつゐのみつを むすふての しつくことにそ ちよはみえける
権中納言資実
757すえのつゆもとのしつくやよの中のをくれさきたつためしなるらん
すゑのつゆ もとのしつくや よのなかの おくれさきたつ ためしなるらむ
僧正遍昭哀傷
758あはれなりわか身のはてやあさみとりつゐには野辺のかすみとおもへは
あはれなり わかみのはてや あさみとり つひにはのへの かすみとおもへは
小野小町哀傷
759さくらちる春のすゑにはなりにけりあままもしらぬなかめせしまに
さくらちる はるのすゑには なりにけり あままもしらぬ なかめせしまに
中納言兼輔哀傷
760すみそめのころもうきよの花さかりおりわすれてもおりてけるかな
すみそめの ころもうきよの はなさかり をりわすれても をりてけるかな
実方朝臣哀傷
761あかさりし花をや春もこひつらんありし昔を思ひいてつつ
あかさりし はなをやはるも こひつらむ ありしむかしを おもひいてつつ
道信朝臣哀傷
762花さくらまたさかりにてちりにけんなけきのもとを思こそやれ
はなさくら またさかりにて ちりにけむ なけきのもとを おもひこそやれ
成尋法師哀傷
763花見んとうへけん人もなきやとのさくらはこその春そさかまし
はなみむと うゑけむひとも なきやとの さくらはこその はるそさかまし
大江嘉言哀傷
764たれもみな花の宮こにちりはててひとりしくるる秋の山さと
たれもみな はなのみやこに ちりはてて ひとりしくるる あきのやまさと
左京大夫顕輔哀傷
765花見てはいとといゑちそいそかれぬまつらんと思人しなけれは
はなみては いとといへちそ いそかれぬ まつらむとおもふ ひとしなけれは
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)哀傷
766春霞かすみしそらのなこりさへけふをかきりのわかれなりけり
はるかすみ かすみしそらの なこりさへ けふをかきりの わかれなりけり
久我建通(後京極摂政)哀傷
767たちのほるけふりをたにも見るへきにかすみにまかふ春のあけほの
たちのほる けふりをたにも みるへきに かすみにまかふ はるのあけほの
前左兵衛督惟方哀傷
768かたみとて見れはなけきのふかみ草なに中々のにほひなるらん
かたみとて みれはなけきの ふかみくさ なになかなかの にほひなるらむ
大宰大弐重家哀傷
769あやめくさたれしのへとかうへをきてよもきかもとのつゆときえけん
あやめくさ たれしのへとか うゑおきて よもきかもとの つゆときえけむ
高陽院木綿四手哀傷
770けふくれとあやめもしらぬたもとかなむかしをこふるねのみかかりて
けふくれと あやめもしらぬ たもとかな むかしをこふる ねのみかかりて
上西門院兵衛哀傷
771あやめ草ひきたかへたるたもとにはむかしをこふるねそかかりける
あやめくさ ひきたかへたる たもとには むかしをこふる ねそかかりける
九条院哀傷
772さもこそはおなしたもとのいろならめかはらぬねをもかけてける哉
さもこそは おなしたもとの いろならめ かはらぬねをも かけてけるかな
皇嘉門院哀傷
773よそなれとおなし心そかよふへきたれも思ひのひとつならねは
よそなれと おなしこころそ かよふへき たれもおもひの ひとつならねは
藤原実資哀傷
774ひとりにもあらぬ思はなき人もたひのそらにやかなしかるらん
ひとりにも あらぬおもひは なきひとも たひのそらにや かなしかるらむ
藤原為頼朝臣哀傷
775をくと見しつゆもありけりはかなくてきえにし人をなににたとへん
おくとみし つゆもありけり はかなくて きえにしひとを なににたとへむ
和泉式部哀傷
776おもひきやはかなくをきし袖のうへのつゆをかたみにかけん物とは
おもひきや はかなくおきし そてのうへの つゆをかたみに かけむものとは
上東門院哀傷
777あさちはらはかなくきえし草のうへのつゆをかたみと思かけきや
あさちはら はかなくおきし くさのうへの つゆをかたみと おもひかけきや
周防内侍哀傷
778袖にさへ秋のゆふへはしられけりきえしあさちかつゆをかけつつ
そてにさへ あきのゆふへは しられけり きえしあさちか つゆをかけつつ
女御徽子女王哀傷
779秋風のつゆのやとりに君ををきてちりをいてぬることそかなしき
あきかせの つゆのやとりに きみをおきて ちりをいてぬる ことそかなしき
一条院御哥哀傷
780わかれけんなこりの袖もかはかぬにをきやそふらん秋のゆふつゆ
わかれけむ なこりのつゆも かわかぬに おきやそふらむ あきのゆふつゆ
大弐三位哀傷
781をきそふるつゆとともにはきえもせてなみたにのみもうきしつむかな
おきそふる つゆとともには きえもせて なみたにのみも うきしつむかな
読人知らず哀傷
782をみなへしみるに心はなくさまていととむかしの秋そこひしき
をみなへし みるにこころは なくさまて いととむかしの あきそこひしき
清慎公哀傷
783ねさめする身をふきとおす風のをとをむかしは袖のよそにききけん
ねさめする みをふきとほす かせのおとに むかしはそての よそにききけむ
和泉式部哀傷
784袖ぬらす萩のうははのつゆはかりむかしわすれぬむしのねそする
そてぬらす はきのうははの つゆはかり むかしわすれぬ むしのねそする
藤原忠実哀傷
785さらてたにつゆけきさかののへにきてむかしのあとにしほれぬるかな
さらてたに つゆけきさかの のへにきて むかしのあとに しをれぬるかな
権中納言俊忠哀傷
786かなしさは秋のさか野のきりきりすなをふるさとにねをやなくらん
かなしさは あきのさかのの きりきりす なほふるさとに ねをやなくらむ
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)哀傷
787今はさはうきよのさかののへをこそつゆきえはてしあととしのはめ
いまはさは うきよのさかの のへをこそ つゆきえはてし あととしのはめ
皇太后宮大夫俊成女哀傷
788たまゆらのつゆも涙もととまらすなき人こふるやとの秋風
たまゆらの つゆもなみたも ととまらす なきひとこふる やとのあきかせ
定家朝臣哀傷
789つゆをたにいまはかたみのふちころもあたにも袖をふくあらしかな
つゆをたに いまはかたみの ふちころも あたにもそてを ふくあらしかな
藤原秀能哀傷
790秋ふかきねさめにいかかおもひいつるはかなく見えし春のよの夢
あきふかき ねさめにいかか おもひいつる はかなくみえし はるのよのゆめ
殷富門院大輔哀傷
791見し夢をわするる時はなけれとも秋のねさめはけにそかなしき
みしゆめを わするるときは なけれとも あきのねさめは けにそかなしき
源師房哀傷
792なれし秋のふけしよとこはそれなから心のそこの夢そかなしき
なれしあきの ふけしよとこは それなから こころのそこの ゆめそかなしき
大納言実家哀傷
793くちもせぬその名はかりをととめをきてかれ野のすすきかたみとそみる
くちもせぬ そのなはかりを ととめおきて かれののすすき かたみにそみる
西行法師哀傷
794ふるさとをこふる涙やひとりゆくともなき山のみちしはのつゆ
ふるさとを こふるなみたや ひとりゆく ともなきやまの みちしはのつゆ
前大僧正慈円哀傷
795うきよにはいまはあらしの山かせにこれやなれゆくはしめなるらん
うきよには いまはあらしの やまかせに これやなれゆく はしめなるらむ
皇太后宮大夫俊成哀傷
796まれにくる夜はもかなしき松風をたえすやこけのしたにきくらん
まれにくる よはもかなしき まつかせを たえすやこけの したにきくらむ
読人知らず哀傷
797ものおもへはいろなき風もなかりけり身にしむ秋の心ならひに
ものおもへは いろなきかせも なかりけり みにしむあきの こころならひに
源雅実哀傷
798ふるさとをわかれし秋をかそふれはやとせになりぬありあけの月
ふるさとを わかれしあきを かそふれは やとせになりぬ ありあけのつき
読人知らず哀傷
799いのちあれはことしの秋も月はみつわかれし人にあふよなきかな
いのちあれは ことしのあきも つきはみつ わかれしひとに あふよなきかな
能因法師哀傷
800けふこすはみてややままし山さとのもみちも人もつねならぬよに
けふこすは みてややままし やまさとの もみちもひとも つねならぬよに
前大納言公任哀傷
801おもひいつるおりたくしはのゆふけふりむせふもうれし忘かたみに
おもひいつる をりたくしはの ゆふけふり むせふもうれし わすれかたみに
太上天皇哀傷
802おもひいつるおりたくしはときくからにたくひしられぬゆふけふりかな
おもひいつる をりたくしはと きくからに たくひしられぬ ゆふけふりかな
前大僧正慈円哀傷
803なき人のかたみの雲やしほ(ほ=く)るらんゆふへの雨にいろはみえねと
なきひとの かたみのくもや しをるらむ ゆふへのあめに いろはみえねと
太上天皇哀傷
804神な月しくるるころもいかなれやそらにすきにし秋の宮人
かみなつき しくるるころも いかなれや そらにすきにし あきのみやひと
相模哀傷
805てすさひのはかなきあとと見しかとも長かたみになりにけるかな
てすさひの はかなきあとと みしかとも なかきかたみに なりにけるかな
源師房女哀傷
806たつねてもあとはかくてもみつくきのゆくゑもしらぬ昔なりけり
たつねても あとはかくても みつくきの ゆくへもしらぬ むかしなりけり
馬内侍哀傷
807いにしへのなきになかるる水くきのあとこそ袖のうらによりけれ
いにしへの なきになかるる みつくきは あとこそそての うらによりけれ
女御徽子女王哀傷
808ほしもあへぬころものやみにくらされて月ともいはすまとひぬるかな
ほしもあへぬ ころものやみに くらされて つきともいはす まとひぬるかな
道信朝臣哀傷
809みなそこにちちのひかりはうつれともむかしのかけはみえすそ有ける
みなそこに ちちのひかりは うつれとも むかしのかけは みえすそありける
東三条院哀傷
810ものをのみおもひねさめのまくらにはなみたかからぬ暁そなき
ものをのみ おもひねさめの まくらには なみたかからぬ あかつきそなき
源信明朝臣哀傷
811あふこともいまはなきねの夢ならていつかは君を又はみるへき
あふことも いまはなきねの ゆめならて いつかはきみを またはみるへき
上東門院哀傷
812うしとてはいてにしいゑをいてぬなりなとふるさとにわか帰けん
うしとては いてにしいへを いてぬなり なとふるさとに わかかへりけむ
女御藤原生子<大二条関白/女>哀傷
813はかなしといふにもいととなみたのみかかるこのよをたのみけるかな
はかなしと いふにもいとと なみたのみ かかるこのよを たのみけるかな
源道済哀傷
814ふるさとにゆく人もかなつけやらんしらぬ山ちにひとりまとふと
ふるさとに ゆくひともかな つけやらむ しらぬやまちに ひとりまとふと
読人知らず哀傷
815たまのをの長ためしにひく人もきゆれはつゆにことならぬかな
たまのをの なかきためしに ひくひとも きゆれはつゆに ことならぬかな
権大納言長家哀傷
816こひわふとききにたにきけかねのをとにうちわすらるる時のまそなき
こひわふと ききにたにきけ かねのおとに うちわすらるる ときのまそなき
和泉式部哀傷
817たれかよになからへて見んかきとめしあとはきえせぬかたみなれとも
たれかよに なからへてみむ かきとめし あとはきえせぬ かたみなれとも
紫式部哀傷
818なき人をしのふることもいつまてそけふの哀はあすのわか身を
なきひとを しのふることも いつまてそ けふのあはれは あすのわかみを
加賀少納言哀傷
819なき人のあとをたにとてきてみれはあらぬさとにもなりにけるかな
なきひとの あとをたにとて きてみれは あらぬさとにも なりにけるかな
律師慶暹哀傷
820見し人のけふりになりしゆふへより名そむつましきしほかまのうら
みしひとの けふりになりし ゆふへより なそむつましき しほかまのうら
紫式部哀傷
821あはれきみいかなる野辺のけふりにてむなしきそらの雲と成けん
あはれきみ いかなるのへの けふりにて むなしきそらの くもとなりけむ
弁乳母哀傷
822おもへきみもえしけふりにまかひなてたちをくれたる春のかすみを
おもへきみ もえしけふりに まかひなて たちおくれたる はるのかすみを
源三位哀傷
823あはれ人けふのいのちをしらませはなにはのあしにちきらさらまし
あはれひと けふのいのちを しらませは なにはのあしに ちきらさらまし
能因法師哀傷
824よもすからむかしのことをみつるかなかたるやうつつありしよや夢
よもすから むかしのことを みつるかな かたるやうつつ ありしよやゆめ
大江匡衡朝臣哀傷
825うつりけんむかしのかけやのこるとて見るにおもひのますかかみかな
うつりけむ むかしのかけや のこるとて みるにおもひの ますかかみかな
新少将哀傷
826かきとむることの葉のみそ水くきのなかれてとまるかたみなりける
かきとむる ことのはのみそ みつくきの なかれてとまる かたみなりける
按察使公通哀傷
827ありすかはおなしなかれはかはらねと見しやむかしのかけそわすれぬ
ありすかは おなしなかれは かはらねと みしやむかしの かけそわすれぬ
源雅定哀傷
828かきりなき思のほとの夢のうちはおとろかさしとなけきこしかな
かきりなき おもひのほかの ゆめのうちは おとろかさしと なけきこしかな
皇太后宮大夫俊成哀傷
829見し夢にやかてまきれぬわか身こそとはるるけふもまつかなしけれ
みしゆめに やかてまきれぬ わかみこそ とはるるけふも まつかなしけれ
久我建通(後京極摂政)哀傷
830世中は見しもききしもはかなくてむなしきそらのけふりなりけり
よのなかは みしもききしも はかなくて むなしきそらは けふりなりけり
清輔朝臣哀傷
831いつなけきいつおもふへきことなれはのちのよしらて人のすむ(む=く)らん
いつなけき いつおもふへき ことなれは のちのよしらて ひとのすくらむ
西行法師哀傷
832みな人のしりかほにしてしらぬかなかならすしぬるならひありとは
みなひとの しりかほにして しらぬかな かならすしぬる ならひありとは
前大僧正慈円哀傷
833きのふみし人はいかにとおとろけとなを長よの夢にそ有ける
きのふみし ひとはいかにと おとろけと なほなかきよの ゆめにそありける
読人知らず哀傷
834よもきふにいつかをくへきつゆの身はけふのゆふくれあすのあけほの
よもきふに いつかおくへき つゆのみは けふのゆふくれ あすのあけほの
読人知らず哀傷
835われもいつそあらましかはと見し人をしのふとすれはいととそひゆく
われもいつそ あらましかはと みしひとを しのふとすれと いととそひゆく
読人知らず哀傷
836たつねきていかにあはれとなかむらんあとなき山の峯のしら雲
たつねきて いかにあはれと なかむらむ あとなきやまの みねのしらくも
寂蓮法師哀傷
837なきあとのおもかけをのみ身にそへてさこそは人のこひしかるらめ
なきあとの おもかけをのみ みにそへて さこそはひとの こひしかるらめ
西行法師哀傷
838哀ともこころにおもふほとはかりいはれぬへくはとひこそはせめ
あはれとも こころにおもふ ほとはかり いはれぬへくは とひこそはせめ
読人知らず哀傷
839つくつくとおもへはかなしいつまてか人のあはれをよそにきくへき
つくつくと おもへはかなし いつまてか ひとのあはれを よそにきくへき
三条実房(入道左大臣)哀傷
840をくれゐてみるそかなしきはかなさをうき身のあととなにたのみけむ
おくれゐて みるそかなしき はかなさを うきみのあとと なにたのみけむ
源師房哀傷
841そこはかと思つつけて来てみれはことしのけふも袖はぬれけり
そこはかと おもひつつけて きてみれは ことしのけふも そてはぬれけり
前大僧正慈円哀傷
842たれもみな涙のあめにせきかねぬそらもいかかはつれなかるへき
たれもみな なみたのあめに せきかねぬ そらもいかかは つれなかるへき
右大将忠経哀傷
843見し人はよにもなきさのもしほ草かきをくたひに袖そしほるる
みしひとは よにもなきさの もしほくさ かきおくたひに そてそしをるる
法橋行遍哀傷
844あらさらんのちしのへとや袖のかをはなたちはなにととめをきけん
あらさらむ のちしのへとや そてのかを はなたちはなに ととめおきけむ
祝部成仲哀傷
845ありしよにしはしも見てはなかりしを哀とはかりいひてやみぬる
ありしよに しはしもみては なかりしを あはれとはかり いひてやみぬる
藤原兼房朝臣哀傷
846とへかしなかたしくふちの衣手になみたのかかる秋のねさめを
とへかしな かたしくふちの ころもてに なみたのかかる あきのねさめを
権中納言通俊哀傷
847君なくてよるかたもなきあをやきのいととうきよそ思みたるる
きみなくて よるかたもなき あをやきの いととうきよそ おもひみたるる
権中納言国信哀傷
848いつのまに身を山かつになしはてて宮こをたひと思ふなるらん
いつのまに みをやまかつに なしはてて みやこをたひと おもふなるらむ
左京大夫顕輔哀傷
849ひさかたのあめにしほるる君ゆへに月日もしらてこひわたるらん
ひさかたの あめにしをるる きみゆゑに つきひもしらて こひわたるらむ
柿本人麻呂(人麿)哀傷
850あるはなくなきはかすそふ世中にあはれいつれの日まてなけかん
あるはなく なきはかすそふ よのなかに あはれいつれの ひまてなけかむ
小野小町哀傷
851白玉かなにそと人のとひし時つゆとこたへてけなまし物を
しらたまか なにそとひとの とひしとき つゆとこたへて けなましものを
業平朝臣哀傷
852としふれはかくもありけりすみそめのこはおもふてふそれかあらぬか
としふれは かくもありけり すみそめの こはおもふてふ それかあらぬか
延喜御哥哀傷
853なき人をしのひかねては忘草おほかるやとにやとりをそする
なきひとを しのひかねては わすれくさ おほかるやとに やとりをそする
中納言兼輔哀傷
854くやしくそのちにあはんと契けるけふをかきりといはまし物を
くやしくそ のちにあはむと ちきりける けふをかきりと いはましものを
藤原季縄哀傷
855すみそめのそてはそらにもかさなくにしほりもあへすつゆそこほるる
すみそめの そてはそらにも かさなくに しほりもあへす つゆそこほるる
中務卿具平親王哀傷
856くれぬまの身をはおもはて人のよのあはれをしるそかつははかなき
くれぬまの みをはおもはて ひとのよの あはれをしるそ かつははかなき
紫式部哀傷
857たまほこのみちの山風さむからはかたみかてらにきなんとそおもふ
たまほこの みちのやまかせ さむからは かたみかてらに きなむとそおもふ
紀貫之離別
858わすれなん世にもこしちのかへる山いつはた人にあはむとすらん
わすれなむ よにもこしちの かへるやま いつはたひとに あはむとすらむ
伊勢離別
859きたへゆく雁のつはさにことつてよ雲のうはかきかきたえすして
きたへゆく かりのつはさに ことつてよ くものうはかき かきたえすして
紫式部離別
860秋きりのたつたひころもをきて見よつゆはかりなるかたみなりとも
あききりの たつたひころも おきてみよ つゆはかりなる かたみなりとも
大中臣能宣朝臣離別
861見てたにもあかぬ心をたまほこのみちのおくまて人のゆくらん
みてたにも あかぬこころを たまほこの みちのおくまて ひとのゆくらむ
紀貫之離別
862あふさかの関にわかやとなかりせはわかるる人はたのまさらまし
あふさかの せきにわかやと なかりせは わかるるひとは たのまさらまし
中納言兼輔離別
863きならせと思しものをたひころもたつ日をしらすなりにける哉
きならせと おもひしものを たひころも たつひをしらす なりにけるかな
読人知らず離別
864これやさは雲のはたてにをるときくたつことしらぬあまのは衣
これやさは くものはたてに おるときく たつことしらぬ あまのはころも
寂昭法師離別
865衣河見なれし人のわかれにはたもとまてこそ浪はたちけれ
ころもかは みなれしひとの わかれには たもとまてこそ なみはたちけれ
源重之離別
866ゆくすゑにあふくま河のなかりせはいかにかせましけふのわかれを
ゆくすゑに あふくまかはの なかりせは いかにかせまし けふのわかれを
高階経重朝臣離別
867君に又あふくま河をまつへきにのこりすくなきわれそかなしき
きみにまた あふくまかはを まつへきに のこりすくなき われそかなしき
藤原範永朝臣離別
868すすしさはいきの松はらまさるともそふるあふきの風なわすれそ
すすしさは いきのまつはら まさるとも そふるあふきの かせなわすれそ
枇杷皇太后宮離別
869神な月まれのみゆきにさそはれてけふわかれなはいつかあひみん
かみなつき まれのみゆきに さそはれて けふわかれなは いつかあひみむ
藤原恒佐離別
870わかれてののちもあひみんとおもへともこれをいつれの時とかはしる
わかれての のちもあひみむと おもへとも これをいつれの ときとかはしる
大江千里離別
871もろこしもあめのしたにそありときくてる日のもとをわすれさらなん
もろこしも あめのしたにそ ありときく てるひのもとを わすれさらなむ
読人知らず離別
872わかれちはこれやかきりのたひならんさらにいくへき心ちこそせね
わかれちは これやかきりの たひならむ さらにいくへき ここちこそせね
道命法師離別
873あまのかはそらにきえにしふなてにはわれそまさりてけさはかなしき
あまのかは そらにきこえし ふなてには われそまさりて けさはかなしき
加賀左衛門離別
874わかれちはいつもなけきのたえせぬにいととかなしき秋のゆふくれ
わかれちは いつもなけきの たえせぬに いととかなしき あきのゆふくれ
中納言隆家離別
875ととまらんことは心にかなへともいかにかせまし秋のさそふを
ととまらむ ことはこころに かなへとも いかにかせまし あきのさそふを
実方朝臣離別
876宮こをは秋とともにそたちそめしよとの河きりいくよへたてつ
みやこをは あきとともにそ たちそめし よとのかはきり いくよへたてつ
前中納言匡房離別
877思いてはおなしそらとは月をみよほとは雲井にめくりあふまて
おもひいてて おなしそらとは つきをみよ ほとはくもゐに めくりあふまて
後三条院御哥離別
878かへりこんほとおもふにもたけくまのまつわか身こそいたくおいぬれ
かへりこむ ほとおもふにも たけくまの まつわかみこそ いたくおいぬれ
基俊離別
879おもへともさためなきよのはかなさにいつをまてともえこそたのめね
おもへとも さためなきよの はかなさに いつをまてとも えこそたのめね
大僧正行尊離別
880契をくことこそさらになかりしかかねて思しわかれならねは
ちきりおく ことこそさらに なかりしか かねておもひし わかれならねは
読人知らず離別
881かりそめのわかれとけふをおもへともいさやまことのたひにもあるらん
かりそめの わかれとけふを おもへとも いさやまことの たひにもあるらむ
俊恵法師離別
882かへりこんほとをや人にちきらまししのはれぬへきわか身なりせは
かへりこむ ほとをやひとに ちきらまし しのはれぬへき わかみなりせは
登蓮法師離別
883たれとしもしらぬわかれのかなしきはまつらのおきをいつるふな人
たれとしも しらぬわかれの かなしきは まつらのおきを いつるふなひと
藤原隆信朝臣離別
884はるはると君かわくへきしらなみをあやしやとまる袖にかけつる
はるはると きみかわくへき しらなみを あやしやとまる そてにかけつる
俊恵法師離別
885君いなは月まつとてもなかめやらんあつまのかたのゆふくれの空
きみいなは つきまつとても なかめやらむ あつまのかたの ゆふくれのそら
西行法師離別
886たのめをかん君もこころやなくさむとかへらん事はいつとなくとも
たのめおかむ きみもこころや なくさむと かへらむことは いつとなくとも
読人知らず離別
887さりともとなをあふことをたのむかなしての山ちをこえぬわかれは
さりともと なほあふことも たのむかな してのやまちを こえぬわかれは
読人知らず離別
888かへりこんほとをちきらむとおもへともおいぬる身こそさためかたけれ
かへりこむ ほとをちきらむと おもへとも おいぬるみこそ さためかたけれ
道因法師離別
889かりそめのたひのわかれとしのふれとおいは涙もえこそととめね
かりそめの たひのわかれと しのふれと おいはなみたも えこそととめね
皇太后宮大夫俊成離別
890わかれにし人はまたもやみわの山すきにしかたを今になさはや
わかれにし ひとはまたもや みわのやま すきにしかたを いまになさはや
祝部成仲離別
891わするなよやとるたもとはかはるともかたみにしほるよはの月かけ
わするなよ やとるたもとは かはるとも かたみにしほる よはのつきかけ
定家朝臣離別
892なこりおもふたもとにかねてしられけりわかるるたひのゆくすゑのつゆ
なこりおもふ たもとにかねて しられけり わかるるたひの ゆくすゑのつゆ
惟明親王離別
893宮こをは心をそらにいてぬとも月みんたひに思をこせよ
みやこをは こころのそらに いてぬとも つきみむたひに おもひおこせよ
読人知らず離別
894わかれちは雲井のよそになりぬともそなたの風のたよりすくすな
わかれちは くもゐのよそに なりぬとも そなたのかせの たよりすくすな
大蔵卿行宗離別
895いろふかくそめたるたひのかり衣かへらんまてのかたみともみよ
いろふかく そめたるたひの かりころも かへらむまての かたみともみよ
藤原顕綱朝臣離別
896とふとりのあすかのさとををきていなは君かあたりはみえすかもあらん
とふとりの あすかのさとを おきていなは きみかあたりは みえすかもあらむ
元明天皇御哥羈旅
897いもにこひわかの松はらみわたせはしほひのかたにたつなきわたる
いもにこひ わかのまつはら みわたせは しほひのかたに たつなきわたる
聖武天皇御哥羈旅
898いさこともはや日のもとへおほとものみつのはま松まちこひぬらん
いさことも はやひのもとへ おほともの みつのはままつ まちこひぬらむ
山上憶良羈旅
899あまさかるひなのなかちをこきくれはあかしのとより山としまみゆ
あまさかる ひなのなかちを こきくれは あかしのとより やまとしまみゆ
柿本人麻呂(人麿)羈旅
900ささの葉は(は=のイ)み山もそよにみたるな(な=めイ)りわれはいもおもふわかれきぬれは
ささのはは みやまもそよに みたるなり われはいもおもふ わかれきぬれは
読人知らず羈旅
901ここにありてつくしやいつこ白雲のたなひく山のにしにあるらし
ここにありて つくしやいつこ しらくもの たなひくやまの にしにあるらし
大納言旅人羈旅
902あさきりにぬれにし衣ほさすしてひとりや君か山ちこゆらん
あさきりに ぬれにしころも ほさすして ひとりやきみか やまちこゆらむ
読人知らず羈旅
903しなのなるあさまのたけに立けふりをちこち人のみやはとかめね
しなのなる あさまのたけに たつけふり をちこちひとの みやはとかめぬ
業平朝臣羈旅
904するかなるうつの山辺のうつつにも夢にも人にあはぬなりけり
するかなる うつのやまへの うつつにも ゆめにもひとに あはぬなりけり
読人知らず羈旅
905草まくらゆふ風さむくなりにけり衣うつなるやとやからまし
くさまくら ゆふかせさむく なりにけり ころもうつなる やとやからまし
紀貫之羈旅
906白雲のたなひきわたるあしひきの山のかけはしけふやこえなん
しらくもの たなひきわたる あしひきの やまのかけはし けふやこえなむ
読人知らず羈旅
907あつまちのさやのなか山さやかにも見えぬ雲ゐによをやつくさん
あつまちや さやのなかやま さやかにも みえぬくもゐに よをやつくさむ
壬生忠峯羈旅
908人をなをうらみつへしや宮こ鳥ありやとたにもとふをきかねは
ひとをなほ うらみつへしや みやことり ありやとたにも とふをきかねは
女御徽子女王羈旅
909またしらぬふるさと人はけふまてにこんとたのめしわれをまつらん
またしらぬ ふるさとひとは けふまてに こむとたのめし われをまつらむ
菅原輔昭羈旅
910しなかとりゐな野をゆけはありま山ゆふきりたちぬやとはなくして
しなかとり ゐなのをゆけは ありまやま ゆふきりたちぬ やとはなくして
読人知らず羈旅
911神風のいせのはまおきおりふせ(ふせ=しきイ)てたひねやすらんあらきはまへに
かみかせや いせのはまをき をりふせて たひねやすらむ あらきはまへに
読人知らず羈旅
912ふるさとのたひねの夢にみえつるはうらみやすらんまたととはねは
ふるさとの たひねのゆめに みえつるは うらみやすらむ またととはねは
橘良利羈旅
913たちなからこよひはあけぬそのはらやふせやといふもかひなかりけり
たちなから こよひはあけぬ そのはらや ふせやといふも かひなかりけり
藤原輔尹朝臣羈旅
914宮こにてこしちのそらをなかめつつ雲井といひしほとにきにけり
みやこにて こしちのそらを なかめつつ くもゐといひし ほとにきにけり
御形宣旨羈旅
915たひ衣たちゆくなみちとをけれはいさしら雲のほともしられす
たひころも たちゆくなみち とほけれは いさしらくもの ほともしられす
法橋[大+周]然羈旅
916ふねなからこよひはかりはたひねせんしきつの浪に夢はさむとも
ふねなから こよひはかりは たひねせむ しきつのなみに ゆめはさむとも
実方朝臣羈旅
917わかことくわれをたつねはあまを舟人もなきさのあととこたへよ
わかことく われをたつねは あまをふね ひともなきさの あととこたえよ
大僧正行尊羈旅
918かきくもりゆふたつ浪のあらけれはうきたる舟そしつ心なき
かきくもり ゆふたつなみの あらけれは うきたるふねそ しつこころなき
紫式部羈旅
919さよふけてあしのすゑこす浦風にあはれうちそふ浪のをとかな
さよふけて あしのすゑこす うらかせに あはれうちそふ なみのおとかな
京極関白家肥後羈旅
920たひねして暁かたの鹿のねにいな葉をしなみ秋風そふく
たひねして あかつきかたの しかのねに いなはおしなひ あきかせそふく
大納言経信羈旅
921わきもこかたひねの衣うすきほとよきてふかなんよはの山風
わきもこか たひねのころも うすきほと よきてふかなむ よはのやまかせ
恵慶法師羈旅
922あしの葉をかりふくしつの山さとに衣かたしきたひねをそする
あしのはを かりふくしつの やまさとに ころもかたしき たひねをそする
左近中将隆綱羈旅
923ありしよのたひはたひともあらさりきひとりつゆけき草枕かな
ありしよの たひはたひとも あらさりき ひとりつゆけき くさまくらかな
赤染衛門羈旅
924山ちにてそをちにけりなしらつゆのあか月をきの木々のしつくに
やまちにて そほちにけりな しらつゆの あかつきおきの ききのしつくに
権中納言国信羈旅
925草枕たひねの人は心せよありあけの月もかたふきにけり
くさまくら たひねのひとは こころせよ ありあけのつきも かたふきにけり
大納言師頼羈旅
926いそなれぬ心そたへぬたひねするあしのまろやにかかる白浪
いそなれぬ こころそたへぬ たひねする あしのまろやに かかるしらなみ
源師賢朝臣羈旅
927たひねするあしのまろやのさむけれはつま木こりつむ舟いそく也
たひねする あしのまろやの さむけれは つまきこりつむ ふねいそくなり
大納言経信羈旅
928みやまちにけさやいてつるたひ人のかさしろたへに雪つもりつつ
みやまちに けさやいてつる たひひとの かさしろたへに ゆきつもりつつ
読人知らず羈旅
929松かねにお花かりしきよもすからかたしく袖に雪はふりつつ
まつかねに をはなかりしき よもすから かたしくそてに ゆきはふりつつ
修理大夫顕季羈旅
930見し人もとふの浦風をとせぬにつれなくすめる秋のよの月
みしひとも とふのうらかせ おとせぬに つれなくすめる あきのよのつき
橘為仲朝臣羈旅
931草枕ほとそへにける宮こいてていくよかたひの月にねぬらん
くさまくら ほとそへにける みやこいてて いくよかたひの つきにねぬらむ
大江嘉言羈旅
932なつかりのあしのかりねもあはれなりたまえの月のあけかたの空
なつかりの あしのかりねも あはれなり たまえのつきの あけかたのそら
皇太后宮大夫俊成羈旅
933たちかへり又もきて見ん松嶋やをしまのとまや浪にあらすな
たちかへり またもきてみむ まつしまや をしまのとまや なみにあらすな
読人知らず羈旅
934こととへよ思おきつのはまちとりなくなくいてしあとの月かけ
こととへよ おもひおきつの はまちとり なくなくいてし あとのつきかけ
藤原定家朝臣羈旅
935野辺のつゆ浦わのなみをかこちてもゆくゑもしらぬ袖の月かけ
のへのつゆ うらわのなみを かこちても ゆくへもしらぬ そてのつきかけ
藤原家隆朝臣羈旅
936もろともにいてしそらこそわすられね宮この山のありあけの月
もろともに いてしそらこそ わすられね みやこのやまの ありあけのつき
久我建通(後京極摂政)羈旅
937宮こにて月をあはれとおもひしはかすにもあらぬすさひなりけり
みやこにて つきをあはれと おもひしは かすにもあらぬ すさひなりけり
西行法師羈旅
938月見はと契をきてしふるさとの人もやこよひ袖ぬらすらん
つきみはと ちきりていてし ふるさとの ひともやこよひ そてぬらすらむ
読人知らず羈旅
939あけは又こゆへき山のみねなれやそらゆく月のすゑの白雲
あけはまた こゆへきやまの みねなれや そらゆくつきの すゑのしらくも
家隆朝臣羈旅
940ふるさとのけふのおもかけさそひこと月にそちきるさよのなか山
ふるさとの けふのおもかけ さそひこと つきにそちきる さよのなかやま
藤原雅経羈旅
941わすれしとちきりていてしおもかけは見ゆらん物をふるさとの月
わすれしと ちきりていてし おもかけは みゆらむものを ふるさとのつき
久我建通(後京極摂政)羈旅
942あつまちのよはのなかめをかたらなん宮この山にかかる月かけ
あつまちの よはのなかめを かたらなむ みやこのやまに かかるつきかけ
前大僧正慈円羈旅
943いくよかは月を哀となかめきてなみにおりしくいせのはまおき
いくよかは つきをあはれと なかめきて なみにをりしく いせのはまをき
嘉陽門院越前羈旅
944しらさりしやそせの浪をわけすきてかたしく物はいせのはまおき
しらさりし やそせのなみを わけすきて かたしくものは いせのはまをき
宜秋門院丹後羈旅
945風すさみいせのはまおきわけゆけは衣かりかね浪になくなり
かせさむみ いせのはまをき わけゆけは ころもかりかね なみになくなり
前中納言匡房羈旅
946いそなれて心もとけぬこもまくらあらくなかけそ水のしら浪
いそなれて こころもとけぬ こもまくら あらくなかけそ みつのしらなみ
権中納言定頼羈旅
947ゆくすゑはいまいくよとかいはしろのをかのかやねにまくらむすはん
ゆくすゑは いまいくよとか いはしろの をかのかやねに まくらむすはむ
式子内親王羈旅
948松かねのをしまかいそのさよまくらいたくなぬれそあまの袖かは
まつかねの をしまかいその さよまくら いたくなぬれそ あまのそてかは
読人知らず羈旅
949かくしてもあかせはいくよすきぬらん山ちの苔のつゆのむしろに
かくしても あかせはいくよ すきぬらむ やまちのこけの つゆのむしろに
皇太后宮大夫俊成女羈旅
950白雲のかかるたひねもならはぬにふかき山路に日はくれにけり
しらくもの かかるたひねも ならはぬに ふかきやまちに ひはくれにけり
権僧正永縁羈旅
951ゆふ日さすあさちかはらのたひ人はあはれいつくにやとをと(と=かイ)るらん
ゆふひさす あさちかはらの たひひとは あはれいくよに やとをかるらむ
大納言経信羈旅
952いつくにかこよひはやとをかり衣ひもゆふくれのみねのあらしに
いつくにか こよひはやとを かりころも ひもゆふくれの みねのあらしに
定家朝臣羈旅
953たひ人の袖ふきかへす秋風にゆふひさひしき山のかけはし
たひひとの そてふきかへす あきかせに ゆふひさひしき やまのかけはし
読人知らず羈旅
954ふるさとにききしあらしの声もにすわすれね人をさやの中山
ふるさとに ききしあらしの こゑもにす わすれぬひとを さやのなかやま
家隆朝臣羈旅
955しら雲のいくへのみねをこえぬらむなれぬ嵐に袖をまかせて
しらくもの いくへのみねを こえぬらむ なれぬあらしに そてをまかせて
雅経羈旅
956けふは又しらぬのはらにゆきくれぬいつれの山か月はいつらむ
けふはまた しらぬのはらに ゆきくれぬ いつれのやまか つきはいつらむ
源家長羈旅
957ふるさともあきはゆふへをかたみにてかせのみをくるをののしのはら
ふるさとも あきはゆふへを かたみとて かせのみおくる をののしのはら
皇太后宮大夫俊成女羈旅
958いたつらにたつやあさまのゆふけふりさととひかぬるをちこちの山
いたつらに たつやあさまの ゆふけふり さととひかぬる をちこちのやま
雅経朝臣羈旅
959みやこをはあまつそらともきかさりきなになかむらん雲のはたてを
みやこをは あまつそらとも きかさりき なになかむらむ くものはたてを
宜秋門院丹後羈旅
960くさまくらゆふへのそらを人とははなきてもつけよはつかりのこゑ
くさまくら ゆふへのそらを ひととはは なきてもつけよ はつかりのこゑ
藤原秀能羈旅
961ふしわひぬしののをささのかりまくらはかなの露やひと夜はかりに
ふしわひぬ しののをささの かりまくら はかなのつゆや ひとよはかりに
有家朝臣羈旅
962岩かねのとこに嵐をかたしきてひとりやねなんさよの中山
いはかねの とこにあらしを かたしきて ひとりやねなむ さよのなかやま
読人知らず羈旅
963たれとなきやとの夕を契にてかはるあるしをいく夜とふらむ
たれとなき やとのゆふへを ちきりにて かはるあるしを いくよとふらむ
藤原業清羈旅
964まくらとていつれの草にちきるらんゆくをかきりの野辺の夕暮
まくらとて いつれのくさに ちきるらむ ゆくをかきりの のへのゆふくれ
鴨長明羈旅
965道のへの草のあを葉に駒とめてなを故郷をかへりみるかな
みちのへの くさのあをはに こまとめて なほふるさとを かへりみるかな
民部卿成範羈旅
966はつせやまゆふこえくれて宿とへはみわのひはらに秋かせそ吹
はつせやま ゆふこえくれて やととへは みわのひはらに あきかせそふく
禅性法師羈旅
967さらぬ(ぬ=てイ)たに秋のたひねはかなしきに松にふくなりとこの山風
さらぬたに あきのたひねは かなしきに まつにふくなり とこのやまかせ
藤原秀能羈旅
968わすれなむまつとなつけそ中々にいなはの山のみねのあきかせ
わすれなむ まつとなつけそ なかなかに いなはのやまの みねのあきかせ
藤原定家朝臣羈旅
969ちきらねとひと夜はすきぬきよみかた浪にわかるるあかつきのくも
ちきらねと ひとよはすきぬ きよみかた なみにわかるる あかつきのくも
家隆朝臣羈旅
970ふるさとにたのめし人もすゑの松まつらむ袖に浪やこすらむ
ふるさとに たのめしひとも すゑのまつ まつらむそてに なみやこすらむ
読人知らず羈旅
971日をへつつ都しのふの浦さひて浪よりほかのおとつれもなし
ひをへつつ みやこしのふの うらさひて なみよりほかの おとつれもなし
九条兼実(入道前関白太政大臣)羈旅
972さすらふる我身にしあれはきさかたやあまのとま屋にあまたたひねぬ
さすらふる わかみにしあれは きさかたや あまのとまやに あまたたひねぬ
藤原顕仲朝臣羈旅
973難波人あし火たく屋に宿かりてすすろに袖のしほたるるかな
なにはひと あしひたくやに やとかりて すすろにそての しほたるるかな
皇太后宮大夫俊成羈旅
974又こえむ人もとまらはあはれしれわか折しける峯の椎柴
またこえむ ひともとまらは あはれしれ わかをりしける みねのしひしは
僧正雅縁羈旅
975道すから富士の煙もわかさりきはるるまもなき空のけしきに
みちすから ふしのけふりも わかさりき はるるまもなき そらのけしきに
前右大将頼朝羈旅
976世中はうきふししけししの原や旅にしあれはいも夢にみゆ
よのなかは うきふししけし しのはらや たひにしあれは いもゆめにみゆ
読人知らず羈旅
977おほつかな都にすまぬみやこ鳥こととふ人にいかかこたへし
おほつかな みやこにすまぬ みやことり こととふひとに いかかこたへし
宜秋門院丹後羈旅
978世中をいとふまてこそかたからめかりのやとりをおしむ君かな
よのなかを いとふまてこそ かたからめ かりのやとりをも をしむきみかな
西行法師羈旅
979よをいとふ人としきけはかりの宿に心とむなと思ふはかりそ
よをいとふ ひととしきけは かりのやとに こころとむなと おもふはかりそ
遊女妙羈旅
980袖にふけさそな旅ねの夢も見し思ふ方よりかよふうら風
そてにふけ さそなたひねの ゆめはみし おもふかたより かよふうらかせ
定家朝臣羈旅
981旅ねする夢路はゆるせうつの山関とはきかすもる人もなし
たひねする ゆめちはゆるせ うつのやま せきとはきかす もるひともなし
藤原家隆朝臣羈旅
982都にもいまや衣をうつの山夕霜はらふつたのしたみち
みやこにも いまやころもを うつのやま ゆふしもはらふ つたのしたみち
定家朝臣羈旅
983袖にしも月かかれとは契をかす涙はしるやうつの山こえ
そてにしも つきかかれとは ちきりおかす なみたはしるや うつのやまこえ
鴨長明羈旅
984立田山秋ゆく人の袖を見よ木木の梢はしくれさりけり
たつたやま あきゆくひとの そてをみよ ききのこすゑは しくれさりけり
前大僧正慈円羈旅
985さとりゆくまことのみちに入ぬれは恋しかるへきふるさともなし
さとりゆく まことのみちに いりぬれは こひしかるへき ふるさともなし
読人知らず羈旅
986故郷にかへらむことはあすか川わたらぬさきに淵瀬たかふな
ふるさとへ かへらむことは あすかかは わたらぬさきに ふちせたかふな
素覚法師羈旅
987年たけて又こゆへしと思きや命なりけりさやの中山
としたけて またこゆへしと おもひきや いのちなりけり さやのなかやま
西行法師羈旅
988思ひをく人の心にしたはれて露わくる袖のかへりぬるかな
おもひおく ひとのこころに したはれて つゆわくるそての かへりぬるかな
読人知らず羈旅
989見るままに山風あらくしくるめり都もいまや夜さむなるらむ
みるままに やまかせあらく しくるめり みやこもいまは よさむなるらむ
太上天皇羈旅
990よそにのみ見てややみなんかつらきやたかまの山のみねの白雲
よそにのみ みてややみなむ かつらきや たかまのやまの みねのしらくも
読人知らず十一恋一
991をとにのみありとききこしみよしのの瀧はけふこそ袖におちけれ
おとにのみ ありとききこし みよしのの たきはけふこそ そてにおちけれ
読人知らず十一恋一
992あしひきの山田もるいほにをくか火のしたこかれつつわかこふらくは
あしひきの やまたもるいほに おくかひの したこかれつつ わかこふらくは
柿本人麻呂(人麿)十一恋一
993いその神ふるのわさ田のほにはいてす心のうちにこひやわたらん
いそのかみ ふるのわさたの ほにはいてす こころのうちに こひやわたらむ
読人知らず十一恋一
994かすか野のわかむらさきのすり衣しのふのみたれかきりしられす
かすかのの わかむらさきの すりころも しのふのみたれ かきりしられす
在原業平朝臣十一恋一
995むらさきの色にこころはあらねともふかくそ人をおもひそめつる
むらさきの いろにこころは あらねとも ふかくそひとを おもひそめつる
延喜御哥十一恋一
996みかのはらわきてなかるるいつみかはいつみきとてかこひしかるらん
みかのはら わきてなかるる いつみかは いつみきとてか こひしかるらむ
中納言兼輔十一恋一
997そのはらやふせやにおふるははききのありとは見えてあはぬきみかな
そのはらや ふせやにおふる ははききの ありとはみえて あはぬきみかな
坂上是則十一恋一
998としをへておもふ心のしるしにそそらもたよりの風はふきける
としをへて おもふこころの しるしにそ そらもたよりの かせはふきける
藤原高光十一恋一
999とし月はわか身にそへてすきぬれと思ふこころのゆかすもあるかな
としつきは わかみにそへて すきぬれと おもふこころの ゆかすもあるかな
源高明十一恋一
1000もろともにあはれといはす人しれぬとはすかたりをわれのみやせん
もろともに あはれといはすは ひとしれぬ とはすかたりを われのみやせむ
大納言俊賢母十一恋一
1001人つてにしらせてしかなかくれぬのみこもりにのみこひやわたらん
ひとつてに しらせてしかな かくれぬの みこもりにのみ こひやわたらむ
中納言朝忠十一恋一
1002みこもりのぬまのいはかきつつめともいかなるひまにぬるるたもとそ
みこもりの ぬまのいはかき つつめとも いかなるひまに ぬるるたもとそ
大宰大弐高遠十一恋一
1003から衣袖に人めはつつめともこほるるものは涙なりけり
からころも そてにひとめは つつめとも こほるるものは なみたなりけり
謙徳公十一恋一
1004あまつそらとよのあかりに見し人のなをおもかけのしひてこひしき
あまつそら とよのあかりに みしひとの なほおもかけの しひてこひしき
前大納言公任十一恋一
1005あらたまのとしにまかせて見るよりはわれこそこえめあふさかの関
あらたまの としにまかせて みるよりは われこそこえめ あふさかのせき
謙徳公十一恋一
1006わかやとはそこともなにかをしふへきいはてこそ見めたつねけりやと
わかやとは そこともなにか をしふへき いはてこそみめ たつねけりやと
本院侍従十一恋一
1007わかおもひそらのけふりとなりぬれは雲井なからもなをたつねてん
わかおもひ そらのけふりと なりぬれは くもゐなからも なほたつねてむ
忠義公十一恋一
1008しるしなきけふりを雲にまかへつつ夜をへてふしの山ともえなん
しるしなき けふりをくもに まかへつつ よをへてふしの やまともえなむ
紀貫之十一恋一
1009けふりたつおもひならねと人しれすわひてはふしのねをのみそなく
けふりたつ おもひならねと ひとしれす わひてはふしの ねをのみそなく
深養父十一恋一
1010風ふけはむろのやしまのゆふけふり心のそらにたちにけるかな
かせふけは むろのやしまの ゆふけふり こころのそらに たちにけるかな
藤原惟成十一恋一
1011白雲のみねにしもなとかよふらんおなしみかさの山のふもとを
しらくもの みねにしもなと かよふらむ おなしみかさの やまのふもとを
藤原義孝十一恋一
1012けふもまたかくやいふきのさしもくささらはわれのみもえやわたらん
けふもまた かくやいふきの さしもくさ さらはわれのみ もえやわたらむ
和泉式部十一恋一
1013つくは山は山しけ山しけけれとおもひいるにはさはらさりけり
つくはやま はやましけやま しけけれと おもひいるには さはらさりけり
源重之十一恋一
1014われならぬ人に心をつくは山したにかよはんみちたにやなき
われならぬ ひとにこころを つくはやま したにかよはむ みちたにやなき
大中臣能宣朝臣十一恋一
1015人しれすおもふ心はあしひきの山した水のわきやかへらん
ひとしれす おもふこころは あしひきの やましたみつの わきやかへらむ
大江匡衡朝臣十一恋一
1016にほふらんかすみのうちの桜花おもひやりてもおしき春かな
にほふらむ かすみのうちの さくらはな おもひやりても をしきはるかな
清原元輔十一恋一
1017いくかへりさきちる花をなかめつつものおもひくらす春にあふらん
いくかへり さきちるはなを なかめつつ ものおもひくらす はるにあふらむ
能宣朝臣十一恋一
1018おく山のみねとひこゆるはつかりのはつかにたにも見てややみなん
おくやまの みねとひこゆる はつかりの はつかにたにも みてややみなむ
躬恒十一恋一
1019おほそらをわたる春日のかけなれやよそにのみしてのとけかるらん
おほそらを わたるはるひの かけなれや よそにのみして のとけかるらむ
亭子院御哥十一恋一
1020春風のふくにもまさるなみたかなわかみなかみも氷とくらし
はるかせの ふくにもまさる なみたかな わかみなかみに こほりとくらし
謙徳公十一恋一
1021水のうへにうきたるとりのあともなくおほつかなさをおもふ比かな
みつのうへに うきたるとりの あともなく おほつかなさを おもふころかな
読人知らず十一恋一
1022かたをかの雪まにねさすわか草のほのかに見てし人そこひしき
かたをかの ゆきまにねさす わかくさの ほのかにみてし ひとそこひしき
曽祢好忠十一恋一
1023あとをたに草のはつかに見てしかなむすふはかりのほとならすとも
あとをたに くさのはつかに みてしかな むすふはかりの ほとならすとも
和泉式部十一恋一
1024しものうへにあとふみつくるはまちとりゆくゑもなしとねをのみそなく
しものうへに あとふみつくる はまちとり ゆくへもなしと ねをのみそなく
興風十一恋一
1025秋はきのえたもとををにをくつゆのけさきえぬとも色にいてめや
あきはきの えたもとををに おくつゆの けさきえぬとも いろにいてめや
中納言家持十一恋一
1026あき風にみたれてものはおもへともはきのした葉のいろはかはらす
あきかせに みたれてものは おもへとも はきのしたはの いろはかはらす
藤原高光十一恋一
1027わかこひもいまはいろにやいてなましのきのしのふももみちしにけり
わかこひも いまはいろにや いてなまし のきのしのふも もみちしにけり
源有仁(花園左大臣)十一恋一
1028いその神ふるの神すきふりぬれといろにはいてすつゆも時雨も
いそのかみ ふるのかみすき ふりぬれと いろにはいてす つゆもしくれも
久我建通(後京極摂政)十一恋一
1029わかこひはまきのした葉にもるしくれぬるとも袖のいろにいてめや
わかこひは まきのしたはに もるしくれ ぬるともそての いろにいてめや
太上天皇十一恋一
1030わかこひは松をしくれのそめかねてまくすかはらに風さはくなり
わかこひは まつをしくれの そめかねて まくすかはらに かせさわくなり
前大僧正慈円十一恋一
1031うつせみのなくねやよそにもりのつゆほしあへぬ袖を人のとふまて
うつせみの なくねやよそに もりのつゆ ほしあへぬそてを ひとのとふまて
久我建通(後京極摂政)十一恋一
1032おもひあれは袖にほたるをつつみてもいははや物をとふ人はなし
おもひあれは そてにほたるを つつみても いははやものを とふひとはなし
寂蓮法師十一恋一
1033思つつへにけるとしのかひやなきたたあらましのゆふくれの空
おもひつつ へにけるとしの かひやなき たたあらましの ゆふくれのそら
太上天皇十一恋一
1034たまのをよたえなはたえねなからへはしのふることのよはりもそする
たまのをよ たえなはたえね なからへは しのふることの よわりもそする
式子内親王十一恋一
1035わすれてはうちなけかるるゆふへかなわれのみしりてすくる月日を
わすれては うちなけかるる ゆふへかな われのみしりて すくるつきひを
読人知らず十一恋一
1036わかこひはしる人もなしせくとこの涙もらすなつけのを枕
わかこひは しるひともなし せくとこの なみたもらすな つけのをまくら
読人知らず十一恋一
1037しのふるに心のひまはなけれともなをもる物はなみたなりけり
しのふるに こころのひまは なけれとも なほもるものは なみたなりけり
九条兼実(入道前関白太政大臣)十一恋一
1038つらけれとうらみんとはたおもほえすなをゆくさきをたのむ心に
つらけれと うらみむとはた おもほえす なほゆくさきを たのむこころに
謙徳公十一恋一
1039雨もこそはたのまはもらめたのますはおもはぬ人と見てをやみなん
あめこそは たのまはもらめ たのますは おもはぬひとと みてをやみなむ
読人知らず十一恋一
1040風ふけはとはになみこすいそなれやわか衣手のかはく時なき
かせふけは とはになみこす いそなれや わかころもての かわくときなき
紀貫之十一恋一
1041すまのあまのなみかけ衣よそにのみきくはわか身になりにけるかな
すまのあまの なみかけころも よそにのみ きくはわかみに なりにけるかな
道信朝臣十一恋一
1042ぬまことに袖そぬれぬるあやめくさ心ににたるねをもとむとて
ぬまことに そてそぬれぬる あやめくさ こころににたる ねをもとむとて
三条院女蔵人左近十一恋一
1043ほとときすいつかとまちしあやめくさけふはいかなるねにかなくへき
ほとときす いつかとまちし あやめくさ けふはいかなる ねにかなくへき
前大納言公任十一恋一
1044さみたれはそらおほれするほとときすときになくねは人もとかめす
さみたれは そらおほれする ほとときす ときになくねは ひともとかめす
馬内侍十一恋一
1045ほとときす声をきけと花のえにまたふみなれぬ物をこそおもへ
ほとときす こゑをはきけと はなのえに またふみなれぬ ものをこそおもへ
藤原道長(法成寺入道前摂政太政大臣)十一恋一
1046ほとときすしのふるものをかしは木のもりても声のきこえける哉
ほとときす しのふるものを かしはきの もりてもこゑの きこえけるかな
馬内侍十一恋一
1047こころのみそらになりつつほとときす人たのめなるねこそなかるれ
こころのみ そらになりつつ ほとときす ひとたのめなる ねこそなかるれ
読人知らず十一恋一
1048みくまのの浦よりをちにこく舟のわれをはよそにへたてつるかな
みくまのの うらよりをちに こくふねの われをはよそに へたてつるかな
伊勢十一恋一
1049なにはかたみしかきあしのふしのまもあはてこのよをすくしてよとや
なにはかた みしかきあしの ふしのまも あはてこのよを すくしてよとや
読人知らず十一恋一
1050みかりするかりはのをののならしはのなれはまさらてこひそまされる
みかりする かりはのをのの ならしはの なれはまさらて こひそまされる
柿本人麻呂(人麿)十一恋一
1051うとはまのうとくのみやはよをはへんなみのよるよるあひ見てしかな
うとはまの うとくのみやは よをはへむ なみのよるよる あひみてしかな
読人知らず十一恋一
1052あつまちのみちのはてなるひたちおひのかことはかりもあはんとそ思
あつまちの みちのはてなる ひたちおひの かことはかりも あはむとそおもふ
読人知らず十一恋一
1053にこりえのすまんことこそかたからめいかてほのかにかけをみせまし
にこりえの すまむことこそ かたからめ いかてほのかに かけをみせまし
読人知らず十一恋一
1054しくれふる冬のこの葉のかはかすそものおもふ人の袖はありける
しくれふる ふゆのこのはの かわかすそ ものおもふひとの そてはありける
読人知らず十一恋一
1055ありとのみをとにききつつをとは河わたらは袖にかけもみえなん
ありとのみ おとにききつつ おとはかは わたらはそてに かけもみえなむ
読人知らず十一恋一
1056水くきのをかの木の葉をふきかへしたれかは君をこひんと思し
みつくきの をかのこのはを ふきかへし たれかはきみを こひむとおもひし
読人知らず十一恋一
1057わか袖にあとふみつけよはまちとりあふことかたし見てもしのはん
わかそてに あとふみつけよ はまちとり あふことかたし みてもしのはむ
読人知らず十一恋一
1058冬のよのなみたにこほるわか袖の心とけすも見ゆるきみかな
ふゆのよの なみたにこほる わかそての こころとけすも みゆるきみかな
中納言兼輔十一恋一
1059しも氷心もとけぬ冬のいけによふけてそなくをしの一声
しもこほり こころもとけぬ ふゆのいけに よふけてそなく をしのひとこゑ
藤原元真十一恋一
1060なみたかは身もうくはかりなかるれときえぬは人の思なりけり
なみたかは みもうくはかり なかるれと きえぬはひとの おもひなりけり
読人知らず十一恋一
1061いかにせんくめちのはしのなかそらにわたしもはてぬ身とやなりなん
いかにせむ くめちのはしの なかそらに わたしもはてぬ みとやなりなむ
実方朝臣十一恋一
1062たれそこのみわのひはらもしらなくに心のすきのわれをたつぬる
たれそこの みわのひはらも しらなくに こころのすきの われをたつぬる
読人知らず十一恋一
1063わかこひはいはぬはかりそなにはなるあしのしのやのしたにこそたけ
わかこひは いはぬはかりそ なにはなる あしのしのやの したにこそたけ
小弁十一恋一
1064わかこひはありそのうみの風をいたみしきりによするなみのまもなし
わかこひは ありそのうみの かせをいたみ しきりによする なみのまもなし
伊勢十一恋一
1065すまのうらにあまのこりつむもしほ木のからくもしたにもえわたる哉
すまのうらに あまのこりつむ もしほきの からくもしたに もえわたるかな
藤原清正十一恋一
1066あるかひもなきさによする白浪のまなくものおもふわか身なりけり
あるかひも なきさによする しらなみの まなくものおもふ わかみなりけり
源景明十一恋一
1067あしひきの山したたきついはなみの心くたけて人そこひしき
あしひきの やましたたきつ いはなみの こころくたけて ひとそこひしき
紀貫之十一恋一
1068あしひきのやましたしけき夏草のふかくも君をおもふ比かな
あしひきの やましたしけき なつくさの ふかくもきみを おもふころかな
読人知らず十一恋一
1069をしかふす夏野のくさのみちをなみしけきこひちにまとふ比かな
をしかふす なつののくさの みちをなみ しけきこひちに まとふころかな
坂上是則十一恋一
1070かやり火のさよふけかたのしたこかれくるしやわか身人しれすのみ
かやりひの さよふけかたの したこかれ くるしやわかみ ひとしれすのみ
曽祢好忠十一恋一
1071ゆらのとをわたるふな人かちをたえゆくゑもしらぬ恋のみちかも
ゆらのとを わたるふなひと かちをたえ ゆくへもしらぬ こひのみちかも
曽根好忠十一恋一
1072おひ風にやへのしほちをゆくふねのほのかにたにもあひみてしかな
おひかせに やへのしほちを ゆくふねの ほのかにたにも あひみてしかな
権中納言師時十一恋一
1073かちをたえゆらのみなとによる舟のたよりもしらぬおきつしほ風
かちをたえ ゆらのみなとに よるふねの たよりもしらぬ おきつしほかせ
久我建通(後京極摂政)十一恋一
1074しるへせよあとなきなみにこく舟のゆくゑもしらぬやへのしほ風
しるへせよ あとなきなみに こくふねの ゆくへもしらぬ やへのしほかせ
式子内親王十一恋一
1075きのくにやゆらのみなとにひろふてふたまさかにたにあひみてしかな
きのくにや ゆらのみなとに ひろふてふ たまさかにたに あひみてしかな
権中納言長方十一恋一
1076つれもなき人の心のうきにはふあしのしたねのねをこそはなけ
つれもなき ひとのこころの うきにはふ あしのしたねの ねをこそはなけ
権中納言師俊十一恋一
1077なには人いかなるえにかくちはてんあふことなみに身をつくしつつ
なにはひと いかなるえにか くちはてむ あふことなみに みをつくしつつ
久我建通(後京極摂政)十一恋一
1078あまのかるみるめをなみにまかへつつなくさのはまをたつねわひぬる
あまのかる みるめをなみに まかへつつ なくさのはまを たつねわひぬる
皇太后宮大夫俊成十一恋一
1079あふまてのみるめかるへきかたそなきまたなみなれぬいそのあま人
あふまての みるめかるへき かたそなき またなみなれぬ いそのあまひと
相模十一恋一
1080みるめかるかたやいつくそさほさしてわれにをしへよあまのつり舟
みるめかる かたやいつくそ さをさして われにをしへよ あまのつりふね
業平朝臣十一恋一
1081したもえにおもひきえなんけふりたにあとなき雲のはてそかなしき
したもえに おもひきえなむ けふりたに あとなきくもの はてそかなしき
皇太后宮大夫俊成女十二恋二
1082なひかしなあまのもしほひたきそめてけふりはそらにくゆりわふとも
なひかしな あまのもしほひ たきそめて けふりはそらに くゆりわふとも
藤原定家朝臣十二恋二
1083こひをのみすまのうら人もしほたれほしあへぬ袖のはてをしらはや
こひをのみ すまのうらひと もしほたれ ほしあへぬそての はてをしらはや
久我建通(後京極摂政)十二恋二
1084みるめこそいりぬるいその草ならめ袖さへなみのしたにくちぬる
みるめこそ いりぬるいその くさならめ そてさへなみの したにくちぬる
二条院讃岐十二恋二
1085君こふとなるみのうらのはまひさきしほれてのみもとしをふるかな
きみこふと なるみのうらの はまひさき しをれてのみも としをふるかな
俊頼朝臣十二恋二
1086しるらめや木の葉ふりしくたに水のいはまにもらすしたの心を
しるらめや このはふりしく たにみつの いはまにもらす したのこころを
前太政大臣十二恋二
1087もらすなよ雲ゐるみねのはつ時雨この葉はしたにいろかはるとも
もらすなよ くもゐるみねの はつしくれ このははしたに いろかはるとも
久我建通(後京極摂政)十二恋二
1088かくとたにおもふ心をいはせ山したゆく水の草かくれつつ
かくとたに おもふこころを いはせやま したゆくみつの くさかくれつつ
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)十二恋二
1089もらさはやおもふ心をさてのみはえそ山しろの井てのしからみ
もらさはや おもふこころを さてのみは えそやましろの ゐてのしからみ
殷富門院大輔十二恋二
1090こひしともいははこころのゆくへきにくるしや人めつつむおもひは
こひしとも いははこころの ゆくへきに くるしやひとめ つつむおもひは
近衛院御哥十二恋二
1091人しれぬこひにわか身はしつめともみるめにうくは涙なりけり
ひとしれぬ こひにわかみは しつめとも みるめにうくは なみたなりけり
源有仁(花園左大臣)十二恋二
1092ものおもふといはぬはかりはしのふともいかかはすへき袖のしつくを
ものおもふと いはぬはかりは しのふとも いかかはすへき そてのしつくを
神祇伯顕仲十二恋二
1093人しれすくるしき物はしのふ山したはふくすのうらみなりけり
ひとしれす くるしきものは しのふやま したはふくすの うらみなりけり
清輔朝臣十二恋二
1094きえねたたしのふの山のみねの雲かかる心のあともなきまて
きえねたた しのふのやまの みねのくも かかるこころの あともなきまて
雅経十二恋二
1095かきりあれはしのふの山のふもとにもおち葉かうへのつゆそいろつく
かきりあれは しのふのやまの ふもとにも おちはかうへの つゆそいろつく
左衛門督通光十二恋二
1096うちはへてくるしきものは人めのみしのふの浦のあまのたくなは
うちはへて くるしきものは ひとめのみ しのふのうらの あまのたくなは
二条院讃岐十二恋二
1097しのはしよいしまつたひのたにかはもせをせくにこそ水まさりけれ
しのはしよ いしまつたひの たにかはも せをせくにこそ みつまさりけれ
春宮権大夫公継十二恋二
1098人もまたふみみぬ山のいはかくれなかるる水を袖にせくかな
ひともまた ふみみぬやまの いはかくれ なかるるみつを そてにせくかな
信濃十二恋二
1099はるかなるいはのはさまにひとりゐて人めおもはて物おもははや
はるかなる いはのはさまに ひとりゐて ひとめおもはて ものおもははや
西行法師十二恋二
1100かすならぬ心のとかになしはてししらせてこそは身をもうらみめ
かすならぬ こころのとかに なしはてし しらせてこそは みをもうらみめ
読人知らず十二恋二
1101草ふかきなつ野わけゆくさをしかのねをこそたてねつゆそこほるる
くさふかき なつのわけゆく さをしかの ねをこそたてね つゆそこほるる
久我建通(後京極摂政)十二恋二
1102のちのよをなけく涙といひなしてしほりやせましすみそめの袖
のちのよを なけくなみたと いひなして しほりやせまし すみそめのそて
大宰大弐重家十二恋二
1103たまつさのかよふはかりになくさめて後のよまてのうらみのこすな
たまつさの かよふはかりに なくさめて のちのよまての うらみのこすな
読人知らず十二恋二
1104ためしあれはなかめはそれとしりなからおほつかなきは心なりけり
ためしあれは なかめはそれと しりなから おほつかなきは こころなりけり
読人知らず十二恋二
1105いはぬより心やゆきてしるへするなかむるかたを人のとふまて
いはぬより こころやゆきて しるへする なかむるかたを ひとのとふまて
前大納言隆房十二恋二
1106なかめわひそれとはなしに物そおもふ雲のはたての夕くれの空
なかめわひ それとはなしに ものそおもふ くものはたての ゆふくれのそら
左衛門督通光十二恋二
1107おもひあまりそなたのそらをなかむれはかすみをわけて春雨そふる
おもひあまり そなたのそらを なかむれは かすみをわけて はるさめそふる
皇太后宮大夫俊成十二恋二
1108山かつのあさのさ衣おさをあらみあはて月日やすきふけるいほ
やまかつの あさのさころも をさをあらみ あはてつきひや すきふけるいほ
久我建通(後京極摂政)十二恋二
1109おもへともいはて月日はすきのかとさすかにいかかしのひはつへき
おもへとも いはてつきひは すきのかと さすかにいかか しのひはつへき
藤原忠定十二恋二
1110あふことはかた野の里のささのいほしのに露ちるよはのとこかな
あふことは かたののさとの ささのいほ しのにつゆちる よはのとこかな
皇太后宮大夫俊成十二恋二
1111ちらすなよしのの葉くさのかりにてもつゆかかるへき袖のうへかは
ちらすなよ しののはくさの かりにても つゆかるるへき そてのうへかは
読人知らず十二恋二
1112白玉かつゆかととはん人もかなものおもふ袖をさしてこたへん
しらたまか つゆかととはむ ひともかな ものおもふそてを さしてこたへむ
藤原元真十二恋二
1113いつまてもいのちもしらぬ世中につらきなけきのやますもあるかな
いつまての いのちもしらぬ よのなかに つらきなけきの やますもあるかな
藤原義孝十二恋二
1114わかこひはちきのかたそきかたくのみゆきあはてとしのつもりぬるかな
わかこひは ちきのかたそき かたくのみ ゆきあはてとしの つもりぬるかな
徳大寺公能十二恋二
1115いつとなくしほやくあまのとまひさしひさしくなりぬあはぬ思は
いつとなく しほやくあまの とまひさし ひさしくなりぬ あはぬおもひは
藤原基輔朝臣十二恋二
1116もしほやくあまのいそやのゆふけふりたつなもくるし思たえなて
もしほやく あまのいそやの ゆふけふり たつなもくるし おもひたえなて
藤原秀能十二恋二
1117すまのあまの袖にふきこすしほ風のなるとはすれとてにもたまらす
すまのあまの そてにふきこす しほかせの なるとはすれと てにもたまらす
定家朝臣十二恋二
1118ありとてもあはぬためしのなとりかはくちたにはてねせせのむもれ木
ありとても あはぬためしの なとりかは くちたにはてね せせのうもれき
寂蓮法師十二恋二
1119なけかすよいまはたおなしなとりかはせせのむもれ木くちはてぬとも
なけかすよ いまはたおなし なとりかは せせのうもれき くちはてぬとも
久我建通(後京極摂政)十二恋二
1120なみたかはたきつ心のはやきせをしからみかけてせく袖そなき
なみたかは たきつこころの はやきせを しからみかけて せくそてそなき
二条院讃岐十二恋二
1121よそなからあやしとたにもおもへかしこひせぬ人の袖のいろかは
よそなから あやしとたにも おもへかし こひせぬひとの そてのいろかは
高松院右衛門佐十二恋二
1122しのひあまりおつる涙をせきかへしをさふる袖ようきなもらすな
しのひあまり おつるなみたを せきかへし おさふるそてよ うきなもらすな
読人知らず十二恋二
1123くれなゐに涙のいろのなりゆくをいくしほまてと君にとははや
くれなゐに なみたのいろの なりゆくを いくしほまてと われにとははや
道因法師十二恋二
1124夢にても見ゆらんものをなけきつつうちぬるよゐの袖のけしきは
ゆめにても みゆらむものを なけきつつ うちぬるよひの そてのけしきは
式子内親王十二恋二
1125さめてのち夢なりけりとおもふにもあふはなこりのをしくやはあらぬ
さめてのち ゆめなりけりと おもふにも あふはなこりの をしくやはあらぬ
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)十二恋二
1126身にそへるそのおもかけのきえななん夢なりけりとわするはかりに
みにそへる そのおもかけも きえななむ ゆめなりけりと わするはかりに
久我建通(後京極摂政)十二恋二
1127夢のうちにあふとみえつるねさめこそつれなきよりも袖はぬれけれ
ゆめのうちに あふとみえつる ねさめこそ つれなきよりも そてはぬれけれ
大納言実宗十二恋二
1128たのめをきしあさちかつゆに秋かけてこの葉ふりしくやとのかよひち
たのめおきし あさちかつゆに あきかけて このはふりしく やとのかよひち
前大納言忠良十二恋二
1129しのひあまりあまのかはせにことよせんせめては秋をわすれたにすな
しのひあまり あまのかはせに ことよせむ せめてはあきを わすれたにすな
正三位経家十二恋二
1130たのめてもはるけかるへきかへる山いくへの雲のうちにまつらん
たのめても はるけかるへき かへるやま いくへのくもの したにまつらむ
賀茂重政十二恋二
1131あふことはいつといふきのみねにおふるさしもたえせぬ思なりけり
あふことは いつといふきの みねにおふる さしもたえせぬ おもひなりけり
中宮大夫家房十二恋二
1132ふしのねのけふりもなをそたちのほるうへなきものはおもひなりけり
ふしのねの けふりもなほそ たちのほる うへなきものは おもひなりけり
家隆朝臣十二恋二
1133なき名のみたつたの山にたつ雲のゆくゑもしらぬなかめをそする
なきなのみ たつたのやまに たつくもの ゆくへもしらぬ なかめをそする
権中納言俊忠十二恋二
1134あふことのむなしきそらのうき雲は身をしる雨のたよりなりけり
あふことの むなしきそらの うきくもは みをしるあめの たよりなりけり
惟明親王十二恋二
1135わかこひはあふをかきりのたのみたにゆくゑもしらぬそらのうき雲
わかこひは あふをかきりの たのみたに ゆくへもしらぬ そらのうきくも
右衛門督通具十二恋二
1136おもかけのかすめる月そやとりける春やむかしの袖のなみたに
おもかけの かすめるつきそ やとりける はるやむかしの そてのなみたに
皇太后宮大夫俊成女十二恋二
1137とこのしもまくらの氷きえわひぬむすひもをかぬ人の契に
とこのしも まくらのこほり きえわひぬ むすひもおかぬ ひとのちきりに
定家朝臣十二恋二
1138つれなさのたくひまてやはつらからぬ月をもめてしありあけの空
つれなさの たくひまてやは つらからぬ つきをもめてし ありあけのそら
有家朝臣十二恋二
1139袖のうへにたれゆへ月はやとるそとよそになしても人のとへかし
そてのうへに たれゆゑつきは やとるそと よそになしても ひとのとへかし
藤原秀能十二恋二
1140夏引のてひきのいとのとしへてもたえぬ思にむすほほれつつ
なつひきの てひきのいとの としへても たえぬおもひに むすほほれつつ
嘉陽門院越前十二恋二
1141いく夜われ浪にしほれてきふねかはそてに玉ちる物おもふらん
いくよわれ なみにしをれて きふねかは そてにたまちる ものおもふらむ
久我建通(後京極摂政)十二恋二
1142としもへぬいのる契ははつせ山おのへのかねのよその夕くれ
としもへぬ いのるちきりは はつせやま をのへのかねの よそのゆふくれ
定家朝臣十二恋二
1143うき身をはわれたにいとふいとへたたそをたにおなし心とおもはん
うきみをは われたにいとふ いとへたた そをたにおなし こころとおもはむ
皇太后宮大夫俊成十二恋二
1144こひしなんおなしうき名をいかにしてあふにかへつと人にいはれん
こひしなむ おなしうきなを いかにして あふにかへつと ひとにいはれむ
権中納言長方十二恋二
1145あすしらぬいのちをそおもふをのつからあらはあふよをまつにつけても
あすしらぬ いのちをそおもふ おのつから あらはあふよを まつにつけても
殷富門院大輔十二恋二
1146つれもなき人の心はうつせみのむなしきこひに身をやかへてん
つれもなき ひとのこころは うつせみの むなしきこひに みをやかへてむ
八条院高倉十二恋二
1147なにとなくさすかにおしきいのちかなありへは人や思しるとて
なにとなく さすかにをしき いのちかな ありへはひとや おもひしるとて
西行法師十二恋二
1148おもひしる人ありけりのよなりせはつきせす身をはうらみさらまし
おもひしる ひとありあけの よなりせは つきせぬみをは うらみさらまし
読人知らず十二恋二
1149わすれしのゆくすゑまてはかたけれはけふをかきりのいのちともかな
わすれしの ゆくすゑまては かたけれは けふをかきりの いのちともかな
儀同三司母十三恋三
1150かきりなくむすひをきつる草枕いつこのたひをおもひわすれん
かきりなく むすひおきつる くさまくら いつこのたひを おもひわすれむ
謙徳公十三恋三
1151おもふにはしのふることそまけにけるあふにしかへはさもあらはあれ
おもふには しのふることそ まけにける あふにしかへは さもあらはあれ
業平朝臣十三恋三
1152昨日まてあふにしかへはと思しをけふはいのちのおしくもあるかな
きのふまて あふにしかへはと おもひしを けふはいのちの をしくもあるかな
廉義公十三恋三
1153あふことをけふまつかえのたむけ草いくよしほるるそてとかはしる
あふことを けふまつかえの たむけくさ いくよしをるる そてとかはしる
式子内親王十三恋三
1154こひしさにけふそたつぬるおく山の日かけのつゆに袖はぬれつつ
こひしさに けふそたつぬる おくやまの ひかけのつゆに そてはぬれつつ
源正清朝臣十三恋三
1155あふまてのいのちもかなとおもひしはくやしかりけるわか心かな
あすまての いのちもかなと おもひしは くやしかりける わかこころかな
西行法師十三恋三
1156人心うす花そめのかり衣さてたにあらて(て=はイ)色やかはらん
ひとこころ うすはなそめの かりころも さてたにあらて いろやかはらむ
三条院女蔵人左近十三恋三
1157あひみてもかひなかりけりうはたまのはかなき夢におとるうつつは
あひみても かひなかりけり うはたまの はかなきゆめに おとるうつつは
興風十三恋三
1158なかなかのものおもひそめてねぬるよははかなき夢もえやはみえける
なかなかに ものおもひそめて ねぬるよは はかなきゆめも えやはみえける
実方朝臣十三恋三
1159夢とても人にかたるなしるといへはたまくらならぬ枕たにせす
ゆめとても ひとにかたるな しるといへは たまくらならぬ まくらたにせす
伊勢十三恋三
1160まくらたにしらねはいはし見しままに君かたるなよ春のよの夢
まくらたに しらねはいはし みしままに きみかたるなよ はるのよのゆめ
和泉式部十三恋三
1161わすれても人にかたるなうたたねのゆめみてのちもなかからしよを
わすれても ひとにかたるな うたたねの ゆめみてのちも なからへしよを
馬内侍十三恋三
1162つらかりしおほくのとしはわすられてひとよの夢をあはれとそみし
つらかりし おほくのとしは わすられて ひとよのゆめを あはれとそみし
藤原範永朝臣十三恋三
1163けさよりはいととおもひをたきましてなけきこりつむあふさかの山
けさよりは いととおもひを たきまして なけきこりつむ あふさかのやま
高倉院御哥十三恋三
1164あしのやのしつはたおひのかたむすひ心やすくもうちとくるかな
あしのやの しつはたおひの かたむすひ こころやすくも うちとくるかな
俊頼朝臣十三恋三
1165かりそめにふしみののへの草枕つゆかかりきと人にかたるな
かりそめに ふしみののへの くさまくら つゆけかりきと ひとにかたるな
読人知らず十三恋三
1166いかにせんくすのうらふく秋風にした葉のつゆのかくれなき身を
いかにせむ くすのうらふく あきかせに したはのつゆの かくれなきみを
相模十三恋三
1167あけかたきふたみのうらによるなみのそてのみぬれておきつしま人
あけかたき ふたみのうらに よるなみの そてのみぬれて おきつしまひと
実方朝臣十三恋三
1168あふことのあけぬよなからあけぬれはわれこそかへれ心やはゆく
あふことの あけぬよなから あけぬれは われこそかへれ こころやはゆく
伊勢十三恋三
1169秋のよのありあけの月のいるまてにやすらひかねてかへりにしかな
あきのよの ありあけのつきの いるまてに やすらひかねて かへりにしかな
大宰帥敦道親王十三恋三
1170心にもあらぬわか身のゆきかへりみちのそらにてきえぬへき哉
こころにも あらぬわかみの ゆきかへり みちのそらにて きえぬへきかな
道信朝臣十三恋三
1171はかなくもあけにけるかなあさつゆのおきての後そきえまさりける
はかなくも あけにけるかな あさつゆの おきてののちそ きえまさりける
延喜御哥十三恋三
1172あさつゆのおきつるそらもおもほえすきえかへりつる心まとひに
あさつゆの おきつるそらも おもほえす きえかへりつる こころまとひに
更衣源周子十三恋三
1173をきそふるつゆやいかなるつゆならんいまはきえねとおもふわか身を
おきそふる つゆやいかなる つゆならむ いまはきえねと おもふわかみを
円融院御哥十三恋三
1174おもひいてていまはけぬへしよもすからおきうかりつるきくのうへの露
おもひいてて いまはけぬへし よもすから おきうかりつる きくのうへのつゆ
謙徳公十三恋三
1175うはたまのよるの衣をたちなからかへる物とはいまそしりぬる
うはたまの よるのころもを たちなから かへるものとは いまそしりぬる
清慎公十三恋三
1176みしかよののこりすくなくふけゆけはかねて物うきあかつきの空
みしかよの のこりすくなく ふけゆけは かねてものうき あかつきのそら
藤原清正十三恋三
1177あくといへはしつ心なきはるのよの夢とや君をよるのみはみん
あくといへは しつこころなき はるのよの ゆめとやきみを よるのみはみむ
大納言清蔭十三恋三
1178けさはしもなけきもすらんいたつらに春のよひとよ夢をたにみて
けさはしも なけきもすらむ いたつらに はるのよひとよ ゆめをたにみて
和泉式部十三恋三
1179心からしはしとつつむものからにしきのはねかきつらきけさかな
こころから しはしとつつむ ものからに しきのはねかき つらきけさかな
赤染衛門十三恋三
1180わひつつも君か心にかなふとてけさもたもとをほしそわつらふ
わひつつも きみかこころに かなふとて けさもたもとを ほしそわつらふ
久我建通(後京極摂政)十三恋三
1181たまくらにかせるたもとのつゆけきはあけぬとつくる涙なりけり
たまくらに かせるたもとの つゆけきは あけぬとつくる なみたなりけり
亭子院御哥十三恋三
1182しはしまてまた夜はふかしなか月のありあけの月は人まとふ也
しはしまて またよはふかし なかつきの ありあけのつきは ひとまとふなり
藤原惟成十三恋三
1183おきて見は袖のみぬれていととしく草葉の玉のかすやまさらん
おきてみは そてのみぬれて いととしく くさはのたまの かすやまさらむ
実方朝臣十三恋三
1184あけぬれとまたきぬきぬになりやらて人の袖をもぬらしつるかな
あけぬれと またきぬきぬに なりやらて ひとのそてをも ぬらしつるかな
二条院讃岐十三恋三
1185おもかけのわするましきわかれかななこりを人の月にととめて
おもかけの わすらるましき わかれかな なこりをひとの つきにととめて
西行法師十三恋三
1186またもこん秋をたのむのかりたにもなきてそかへる春のあけほの
またもこむ あきをたのむの かりたにも なきてそかへる はるのあけほの
久我建通(後京極摂政)十三恋三
1187たれゆきて君につけましみちしはのつゆもろともにきえなましかは
たれゆきて きみにつけまし みちしはの つゆもろともに きえなましかは
賀茂成助十三恋三
1188きえかへりあるかなきかのわか身かなうらみてかへるみちしはのつゆ
きえかへり あるかなきかの わかみかな うらみてかへる みちしはのつゆ
左大将朝光十三恋三
1189あさほらけおきつるしものきえかへりくれまつほとの袖をみせはや
あさほらけ おきつるしもの きえかへり くれまつほとの そてをみせはや
華山院御哥十三恋三
1190庭におふるゆふかけ草のしたつゆやくれをまつまの涙なるらん
にはにおふる ゆふかけくさの したつゆや くれをまつまの なみたなるらむ
藤原道経十三恋三
1191まつよゐにふけゆくかねのこゑきけはあかぬわかれのとりは物かは
まつよひの ふけゆくかねの こゑきけは あかぬわかれの とりはものかは
太皇太后宮小侍従十三恋三
1192これも又なかきわかれになりやせんくれをまつへきいのちならねは
これもまた なかきわかれに なりやせむ くれをまつへき いのちならねは
藤原知家十三恋三
1193ありあけはおもひいてあれやよこ雲のたたよはれつるしののめのそら
ありあけは おもひいてあれや よこくもの たたよはれつる しののめのそら
西行法師十三恋三
1194大井かは井せきの水のわくらはにけふはたのめしくれにやはあらぬ
おほゐかは ゐせきのみつの わくらはに けふはたのめし くれにやはあらぬ
清原元輔十三恋三
1195ゆふくれにいのちかけたるかけろふのありやあらすやとふもはかなし
ゆふくれに いのちかけたる かけろふの ありやあらすや とふもはかなし
読人知らず十三恋三
1196あちきなくつらきあらしの声もうしなとゆふくれにまちならひけん
あちきなく つらきあらしの こゑもうし なとゆふくれに まちならひけむ
定家朝臣十三恋三
1197たのめすは人はまつちの山なりとねなまし物をいさよひの月
たのめすは ひとをまつちの やまなりと ねなましものを いさよひのつき
太上天皇十三恋三
1198なにゆへと思もいれぬゆふへたにまちいてし物を山のはの月
なにゆゑと おもひもいれぬ ゆふへたに まちいてしものを やまのはのつき
久我建通(後京極摂政)十三恋三
1199きくやいかにうはのそらなる風たにもまつにおとするならひありとは
きくやいかに うはのそらなる かせたにも まつにおとする ならひありとは
後鳥羽院宮内卿十三恋三
1200人はこて風のけしきもふけぬるにあはれに雁のをとつれてゆく
ひとはこて かせのけしきも ふけぬるに あはれにかりの おとつれてゆく
西行法師十三恋三
1201いかかふく身にしむ色のかはるかなたのむるくれの松風の声
いかかふく みにしむいろの かはるかな たのむるくれの まつかせのこゑ
八条院高倉十三恋三
1202たのめをく人もなからの山にたにさよふけぬれは松風の声
たのめおく ひともなからの やまにたに さよふけぬれは まつかせのこゑ
鴨長明十三恋三
1203いまこんとたのめしことをわすれすはこのゆふくれの月やまつらん
いまこむと たのめしことを わすれすは このゆふくれの つきやまつらむ
藤原秀能十三恋三
1204君まつとねやへもいらぬまきのとにいたくなふけそ山の葉の月
きみまつと ねやへもいらぬ まきのとに いたくなふけそ やまのはのつき
式子内親王十三恋三
1205たのめぬに君くやとまつよゐのまのふけゆかてたたあけなましかは
たのめぬに きみくやとまつ よひのまの ふけゆかてたた あけなましかは
西行法師十三恋三
1206かへるさの物とや人のなかむらんまつよなからのありあけの月
かへるさの ものとやひとの なかむらむ まつよなからの ありあけのつき
定家朝臣十三恋三
1207きみこんといひしよことにすきぬれはたのまぬもののこひつつそふる
きみこむと いひしよことに すきぬれは たのまぬものの こひつつそふる
読人知らず十三恋三
1208衣手に山おろしふきてさむき夜を君きまさすはひとりかもねん
ころもてに やまおろしふきて さむきよを きみきまさすは ひとりかもねむ
柿本人麻呂(人麿)十三恋三
1209あふことはこれやかきりのたひならん草の枕も霜かれにけり
あふことは これやかきりの たひならむ くさのまくらも しもかれにけり
馬内侍十三恋三
1210なれゆくはうき世なれはやすまのあまのしほやき衣まとをなるらん
なれゆくは うきよなれはや すまのあまの しほやきころも まとほなるらむ
女御徽子女王十三恋三
1211きりふかき秋の野中のわすれ水たえまかちなる比にもあるかな
きりふかき あきののなかの わすれみつ たえまかちなる ころにもあるかな
坂上是則十三恋三
1212世のつねの秋風ならはおきの葉にそよとはかりのをとはしてまし
よのつねの あきかせならは をきのはに そよとはかりの おとはしてまし
安法々師女十三恋三
1213あしひきの山のかけ草むすひをきてこひやわたらんあふよしをなみ
あしひきの やまのかけくさ むすひおきて こひやわたらむ あふよしをなみ
中納言家持十三恋三
1214あつまちにかるてふかやのみたれつつつかのまもなくこひやわたらん
あつまちに かるてふかやの みたれつつ つかのまもなく こひやわたらむ
延喜御哥十三恋三
1215むすひをきしたもとたに見ぬ花すすきかるともかれしきみしとかすは
むすひおきし たもとたにみぬ はなすすき かるともかれし きみしとかすは
権中納言敦忠十三恋三
1216霜のうへにけさふる雪のさむけれはかさねて人をつらしとそ思
しものうへに けさふるゆきの さむけれは かさねてひとを つらしとそおもふ
源重之十三恋三
1217ひとりふすあれたるやとのとこのうへにあはれいくよのねさめしつらん
ひとりふす あれたるやとの とこのうへに あはれいくよの ねさめしつらむ
安法々師女十三恋三
1218やましろのよとのわかこもかりにきて袖ぬれぬとはかこたさらなん
やましろの よとのわかこも かりにきて そてぬれぬとは かこたさらなむ
重之十三恋三
1219かけておもふ人もなけれとゆふされはおもかけたえぬ玉かつらかな
かけておもふ ひともなけれと ゆふされは おもかけたえぬ たまかつらかな
紀貫之十三恋三
1220いつはりをたたすのもりのゆふたすきかけつつちかへわれをおもはは
いつはりを たたすのもりの ゆふたすき かけつつちかへ われをおもはは
平定文十三恋三
1221いかはかりうれしからましもろともにこひらるる身もくるしかりせは
いかはかり うれしからまし もろともに こひらるるみも くるしかりせは
鳥羽院御哥十三恋三
1222われはかりつらきをしのふ人やあるといまよにあらは思ひあはせよ
われはかり つらきをしのふ ひとやあると いまよにあらは おもひあはせむ
九条兼実(入道前関白太政大臣)十三恋三
1223たたたのめたとへは人のいつはりをかさねてこそは又もうらみめ
たたたのめ たとへはひとの いつはりを かさねてこそは またもうらみめ
前大僧正慈円十三恋三
1224つらしとはおもふ物からふししはのしはしもこりぬ心なりけり
つらしとは おもふものから ふししはの しはしもこりぬ こころなりけり
右衛門督家通十三恋三
1225たのめこしことの葉はかりととめをきてあさちかつゆときえなましかは
たのめこし ことのははかり ととめおきて あさちかつゆと きえなましかは
読人知らず十三恋三
1226あはれにもたれかはつゆもおもはましきえのこるへきわか身ならねは
あはれにも たれかはつゆも おもはまし きえのこるへき わかみならねは
久我建通(後京極摂政)十三恋三
1227つらきをもうらみぬわれにならふなようき身をしらぬ人もこそあれ
つらきをも うらみぬわれに ならふなよ うきみをしらぬ ひともこそあれ
太皇太后宮小侍従十三恋三
1228なにかいとふよもなからへしさのみやはうきにたへたるいのちなるへき
なにかいとふ よもなからへし さのみやは うきにたへたる いのちなるへき
殷富門院大輔十三恋三
1229こひしなんいのちは猶もおしきかなおなしよにあるかひはなけれと
こひしなむ いのちはなほも をしきかな おなしよにある かひはなけれと
刑部卿頼輔十三恋三
1230あはれとて人の心のなさけあれなかすならぬにはよらぬなけきを
あはれとて ひとのこころの なさけあれは かすならぬには よらぬなけきを
西行法師十三恋三
1231身をしれは人のとかとはおもはぬにうらみかほにもぬるる袖かな
みをしれは ひとのとかとは おもはぬに うらみかほにも ぬるるそてかな
読人知らず十三恋三
1232よしさらはのちのよとたにたのめをけつらさにたへぬ身ともこそなれ
よしさらは のちのよとたに たのめおけ つらさにたへぬ みともこそなれ
皇太后宮大夫俊成十三恋三
1233たのめをかんたたさはかりを契にてうきよの中の夢になしてよ
たのめおかむ たたさはかりを ちきりにて うきよのなかの ゆめになしてよ
藤原定家朝臣母十三恋三
1234よゐよゐにきみをあはれとおもひつつ人にはいはてねをのみそなく
よひよひに きみをあはれと おもひつつ ひとにはいはて ねをのみそなく
清慎公十四恋四
1235君たにもおもひいてけるよゐよゐをまつはいかなる心ちかはする
きみたにも おもひいてける よひよひを まつはいかなる ここちかはする
読人知らず十四恋四
1236こひしさにしぬるいのちを思いててとふ人あらはなしとこたへよ
こひしさに しぬるいのちを おもひいてて とふひとあらは なしとこたへよ
読人知らず十四恋四
1237わかれては昨日けふこそへたてつれちよをへたる心ちのみする
わかれては きのふけふこそ へたてつれ ちよしもへたる ここちのみする
謙徳公十四恋四
1238きのふともけふともしらす今はとてわかれしほとの心まとひに
きのふとも けふともしらす いまはとて わかれしほとの こころまよひに
恵子女王<贈皇后宮母>十四恋四
1239たえぬるかかけたに見えはとふへきにかたみの水はみくさゐにけり
たえぬるか かけたにみえは とふへきを かたみのみつは みくさゐにけり
右大将道綱母十四恋四
1240かたかたにひきわかれつつあやめくさあらぬねをやはかけんとおもひし
かたかたに ひきわかれつつ あやめくさ あらぬねをやは かけむとおもひし
陽明門院十四恋四
1241ことの葉のうつろふたにもあるものをいとと時雨のふりまさるらん
ことのはの うつろふたにも あるものを いととしくれの ふりまさるらむ
伊勢十四恋四
1242ふく風につけてもとはんささかにのかよひしみちはそらにたゆとも
ふくかせに つけてもとはむ ささかにの かよひしみちは そらにたゆとも
右大将道綱母十四恋四
1243くすの葉にあらぬわか身も秋風のふくにつけつつうらみつる哉
くすのはに あらぬわかみも あきかせの ふくにつけつつ うらみつるかな
天暦御哥十四恋四
1244霜さやく野辺のくさはにあらねともなとか人めのかれまさるらん
しもさやく のへのくさはに あらねとも なとかひとめの かれまさるらむ
延喜御哥十四恋四
1245あさちおふる野へやかるらん山かつのかきほのくさは色もかはらす
あさちおふる のへやかるらむ やまかつの かきほのくさは いろもかはらす
読人知らず十四恋四
1246かすむらんほとをもしらすしくれつつすきにし秋のもみちをそみる
かすむらむ ほとをもしらす しくれつつ すきにしあきの もみちをそみる
女御徽子女王十四恋四
1247いまこんとたのめつつふることの葉そときはに見ゆるもみちなりける
いまこむと たのめつつふる ことのはそ ときはにみゆる もみちなりける
天暦御哥十四恋四
1248たまほこのみちははるかにあらねともうたて雲井にまとふ比かな
たまほこの みちははるかに あらねとも うたてくもゐに まとふころかな
朱雀院御哥十四恋四
1249思ひやる心はそらにあるものをなとか雲ゐにあひみさるらん
おもひやる こころはそらに あるものを なとかくもゐに あひみさるらむ
女御熈子女王十四恋四
1250春雨のふりしく比かあをやきのいととみたれて人そこひしき
はるさめの ふりしくころか あをやきの いとみたれつつ ひとそこひしき
後朱雀院御哥十四恋四
1251あをやきのいとみたれたるこのころは一すちにしも思よられし
あをやきの いとみたれたる このころは ひとすちにしも おもひよられし
女御藤原生子十四恋四
1252あをやきのいとはかたかたなひくともおもひそめてん色はかはらし
あをやきの いとはかたかた なひくとも おもひそめてむ いろそかはらし
後朱雀院御哥十四恋四
1253あさみとりふかくもあらぬあをやきはいろかはらしといかかたのまん
あさみとり ふかくもあらぬ あをやきは いろかはらしと いかかたのまむ
女御生子十四恋四
1254いにしへのあふひと人はとかむともなをそのかみのけふそわすれぬ
いにしへの あふひとひとは とかむとも なほそのかみの けふそわすれぬ
実方朝臣十四恋四
1255かれにけるあふひのみこそかなしけれ哀と見すやかものみつかき
かれにける あふひのみこそ かなしけれ あはれとみすや かものみつかき
読人知らず十四恋四
1256あふことをはつかに見えし月かけのおほろけにやはあはれとはおもふ
あふことを はつかにみえし つきかけの おほろけにやは あはれともおもふ
天暦御哥十四恋四
1257さらしなやをはすて山のありあけのつきすもものを思ふ比かな
さらしなや をはすてやまの ありあけの つきすもものを おもふころかな
伊勢十四恋四
1258いつとても哀とおもふをねぬるよの月はおほろけなくなくそみし
いつとても あはれとおもふを ねぬるよの つきはおほろけ なくなくそみし
中務十四恋四
1259さらしなの山よりほかにてる月もなくさめかねつこのころの空
さらしなの やまよりほかに てるつきも なくさめかねつ このころのそら
躬恒十四恋四
1260あまのとををしあけかたの月みれはうき人しもそこひしかりける
あまのとを おしあけかたの つきみれは うきひとしもそ こひしかりける
読人知らず十四恋四
1261ほの見えし月をこひしとかへるさの雲ちの浪にぬれてこしかな
ほのみえし つきをこひしと かへるさの くもちのなみに ぬれてこしかな
読人知らず十四恋四
1262いるかたはさやかなりける月かけをうはのそらにもまちしよゐかな
いるかたは さやかなりける つきかけを うはのそらにも まちしよひかな
紫式部十四恋四
1263さしてゆく山の葉もみなかきくもり心のそらにきえし月かけ
さしてゆく やまのはもみな かきくもり こころのそらに きえしつきかけ
読人知らず十四恋四
1264いまはとてわかれしほとの月をたになみたにくれてなかめやはせし
いまはとて わかれしほとの つきをたに なみたにくれて なかめやはせし
藤原経衡十四恋四
1265おもかけのわすれぬ人によそへつついるをそしたふ秋のよの月
おもかけの わすれぬひとに よそへつつ いるをそしたふ あきのよのつき
京極関白家肥後十四恋四
1266うき人の月はなにそのゆかりそとおもひなからもうちなかめつつ
うきひとの つきはなにその ゆかりそと おもひなからも うちなかめつつ
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)十四恋四
1267月のみやうわのそらなるかたみにておもひもいては心かよはん
つきのみや うはのそらなる かたみにて おもひもいては こころかよはむ
西行法師十四恋四
1268くまもなきおりしも人を思いてて心と月をやつしつるかな
くまもなき をりしもひとを おもひいてて こころとつきを やつしつるかな
読人知らず十四恋四
1269ものおもひてなかむるころの月のいろにいかはかりなる哀そむらん
ものおもひて なかむるころの つきのいろに いかはかりなる あはれそむらむ
読人知らず十四恋四
1270くもれかしなかむるからにかなしきは月におほゆる人のおもかけ
くもれかし なかむるからに かなしきは つきにおほゆる ひとのおもかけ
八条院高倉十四恋四
1271わすらるる身をしる袖のむら雨につれなく山の月はいてけり
わすらるる みをしるそての むらさめに つれなくやまの つきはいてけり
太上天皇十四恋四
1272めくりあはんかきりはいつとしらねとも月なへたてそよそのうき雲
めくりあはむ かきりはいつと しらねとも つきなへたてそ よそのうきくも
久我建通(後京極摂政)十四恋四
1273わかなみたもとめて袖にやとれ月さりとて人のかけは見ねとも
わかなみた もとめてそてに やとれつき さりとてひとの かけはみえねと
読人知らず十四恋四
1274こひわふる涙やそらにくもるらんひかりもかはるねやの月かけ
こひわたる なみたやそらに くもるらむ ひかりもかはる ねやのつきかけ
権中納言公経十四恋四
1275いくめくりそらゆく月もへたてきぬ契し中はよそのうき雲
いくめくり そらゆくつきも へたてきぬ ちきりしなかは よそのうきくも
左衛門督通光十四恋四
1276いまこんと契しことは夢なから見しよににたる有あけの月
いまこむと ちきりしことは ゆめなから みしよににたる ありあけのつき
右衛門督通具十四恋四
1277わすれしといひしはかりのなこりとてそのよの月はめくりきにけり
わすれしと いひしはかりの なこりとて そのよのつきは めくりきにけり
有家朝臣十四恋四
1278おもひいててよなよな月にたつねすはまてとちきりし中やたえなん
おもひいてて よなよなつきに たつねすは まてとちきりし なかやたえなむ
久我建通(後京極摂政)十四恋四
1279わするなよいまは心のかはるともなれしそのよの有明の月
わするなよ いまはこころの かはるとも なれしそのよの ありあけのつき
家隆朝臣十四恋四
1280そのままに松の嵐もかはらぬをわすれやしぬるふけしよの月
そのままに まつのあらしも かはらぬを わすれやしぬる ふけしよのつき
法眼宗円十四恋四
1281人そうきたのめぬ月はめくりきてむかしわすれぬよもきふのやと
ひとそうき たのめぬつきは めくりきて むかしわすれぬ よもきふのやと
藤原秀能十四恋四
1282わくらはにまちつるよゐもふけにけりさやは契し山のはの月
わくらはに まちつるよひも ふけにけり さやはちきりし やまのはのつき
久我建通(後京極摂政)十四恋四
1283こぬ人をまつとはなくてまつよゐのふけゆくそらの月もうらめし
こぬひとを まつとはなくて まつよひの ふけゆくそらの つきもうらめし
有家朝臣十四恋四
1284松山と契し人はつれなくて袖こすなみにのこる月かけ
まつやまと ちきりしひとは つれなくて そてこすなみに のこるつきかけ
定家朝臣十四恋四
1285ならひこしたかいつはりもまたしらてまつとせしまの庭のよもきふ
ならひこし たかいつはりも またしらて まつとせしまの にはのよもきふ
皇太后宮大夫俊成女十四恋四
1286あとたえてあさちかすゑになりにけりたのめしやとのにはのしら露
あとたえて あさちかすゑに なりにけり たのめしやとの にはのしらつゆ
二条院讃岐十四恋四
1287こぬ人をおもひたえたる庭のおものよもきかすゑそまつにまされる
こぬひとを おもひたえたる にはのおもの よもきかすゑそ まつにまされる
寂蓮法師十四恋四
1288たつねても袖にかくへきかたそなきふかきよもきの露のかことを
たつねても そてにかくへき かたそなき ふかきよもきの つゆのかことを
左衛門督通光十四恋四
1289かたみとてほのふみわけしあともなしこしはむかしの庭のおきはら
かたみとて ほのふみわけし あともなし こしはむかしの にはのをきはら
藤原保季朝臣十四恋四
1290なこりをは庭のあさちにととめをきてたれゆへ君かすみうかれけん
なこりをは にはのあさちに ととめおきて たれゆゑきみか すみうかれけむ
法橋行遍十四恋四
1291わすれすはなれし袖もやこほるらんねぬよのとこのしものさむしろ
わすれすは なれしそてもや こほるらむ ねぬよのとこの しものさむしろ
定家朝臣十四恋四
1292風ふかはみねにわかれん雲をたにありしなこりのかたみともみよ
かせふかは みねにわかれむ くもをたに ありしなこりの かたみともみよ
家隆朝臣十四恋四
1293いはさりきいまこんまてのそらの雲月日へたてて物おもへとは
いはさりき いまこむまての そらのくも つきひへたてて ものおもへとは
久我建通(後京極摂政)十四恋四
1294おもひいてよたかかねことのすゑならんきのふの雲のあとの山風
おもひいてよ たかかねことの すゑならむ きのふのくもの あとのやまかせ
家隆朝臣十四恋四
1295わすれゆく人ゆへそらをなかむれはたえたえにこそ雲もみえけれ
わすれゆく ひとゆゑそらを なかむれは たえたえにこそ くももみえけれ
刑部卿範兼十四恋四
1296わすれなはいけらん物かとおもひしにそれもかなはぬこの世なりけり
わすれなは いけらむものかと おもひしに それもかなはぬ このよなりけり
殷富門院大輔十四恋四
1297〈墨〉°うとくなる人をなにとてうらむらんしられすしらぬおりもありしに
うとくなる ひとをなにとて うらむらむ しられすしらぬ をりもありしに
西行法師十四恋四
1298〈墨〉°今そしるおもひいてよと契しはわすれんとてのなさけなりけり
いまそしる おもひいてよと ちきりしは わすれむとての なさけなりけり
読人知らず十四恋四
1299あひ見しはむかしかたりのうつつにてそのかねことを夢になせとや
あひみしは むかしかたりの うつつにて そのかねことを ゆめになせとや
源師房十四恋四
1300あはれなる心のやみのゆかりとも見しよの夢をたれかさためん
あはれなそ こころのやみの ゆかりとも みしよのゆめを たれかさためむ
権中納言公経十四恋四
1301ちきりきやあかぬわかれに露をきし暁はかりかたみなれとは
ちきりきや あかぬわかれに つゆおきし あかつきはかり かたみなれとは
右衛門督通具十四恋四
1302うらみわひまたしいまはの身なれともおもひなれにし夕くれの空
うらみわひ またしいまはの みなれとも おもひなれにし ゆふくれのそら
寂蓮法師十四恋四
1303わすれしのことの葉いかになりにけんたのめしくれは秋風そふく
わすれしの ことのはいかに なりにけむ たのめしくれは あきかせそふく
宜秋門院丹後十四恋四
1304おもひかねうちぬるよゐもありなましふきたにすさへ庭の松風
おもひかね うちぬるよひも ありなまし ふきたにすさへ にはのまつかせ
久我建通(後京極摂政)十四恋四
1305さらてたにうらみんとおもふわきもこか衣のすそに秋風そふく
さらてたに うらみむとおもふ わきもこか ころものすそに あきかせそふく
有家朝臣十四恋四
1306心にはいつもあきなるねさめかな身にしむ風のいくよともなく
こころには いつもあきなる ねさめかな みにしむかせの いくよともなく
読人知らず十四恋四
1307あはれとてとふ人のなとなかるらんものおもふやとのおきのうは風
あはれとて とふひとのなと なかるらむ ものおもふやとの をきのうはかせ
西行法師十四恋四
1308わかこひは今をかきりとゆふまくれおきふく風のをとつれてゆく
わかこひは いまをかきりと ゆふまくれ をきふくかせの おとつれてゆく
俊恵法師十四恋四
1309いまはたた心のほかにきく物をしらすかほなるおきのうは風
いまはたた こころのほかに きくものを しらすかほなる をきのうはかせ
式子内親王十四恋四
1310いつもきく物とや人の思らんこぬゆふくれの秋風のこゑ
いつもきく ものとやひとの おもふらむ こぬゆふくれの あきかせのこゑ
久我建通(後京極摂政)十四恋四
1311心あらはふかすもあらなんよゐよゐに人まつやとの庭の松風
こころあらは ふかすもあらなむ よひよひに ひとまつやとの にはのまつかせ
前大僧正慈円十四恋四
1312さとはあれぬ(ぬ=て)むなしきとこのあたりまて身はならはしの秋風そ吹
さとはあれぬ むなしきとこの あたりまて みはならはしの あきかせそふく
寂蓮法師十四恋四
1313さとはあれぬおのへの宮のをのつからまちこしよゐも昔なりけり
さとはあれぬ をのへのみやの おのつから まちこしよひも むかしなりけり
太上天皇十四恋四
1314ものおもはてたたおほかたのつゆにたにぬるれはぬるる秋のたもとを
ものおもはて たたおほかたの つゆにたに ぬるれはぬるる あきのたもとを
有家朝臣十四恋四
1315草枕むすひさためんかたしらすならはぬ野への夢のかよひち
くさまくら むすひさためむ かたしらす ならはぬのへの ゆめのかよひち
雅経十四恋四
1316さてもなをとはれぬ秋のゆふは山雲ふく風もみねにみゆらん
さてもなほ とはれぬあきの ゆふはやま くもふくかせの みねにみゆらむ
家隆朝臣十四恋四
1317おもひいるふかき心のたよりまて見しはそれともなき山ち哉
おもひいる ふかきこころの たよりまて みしはそれとも なきやまちかな
藤原秀能十四恋四
1318なかめても哀とおもへおほかたのそらたにかなし秋の夕くれ
なかめても あはれとおもへ おほかたの そらたにかなし あきのゆふくれ
鴨長明十四恋四
1319ことの葉のうつりし秋もすきぬれはわか身時雨とふる涙かな
ことのはの うつりしあきも すきぬれは わかみしくれと ふるなみたかな
右衛門督通具十四恋四
1320きえわひぬうつろふ人の秋のいろに身をこからしのもりの白露
きえわひぬ うつろふひとの あきのいろに みをこからしの もりのしたつゆ
定家朝臣十四恋四
1321こぬ人を秋のけしきやふけぬらんうらみによはる松むしのこゑ
こぬひとを あきのけしきや ふけぬらむ うらみによわる まつむしのこゑ
寂蓮法師十四恋四
1322わかこひは庭のむら萩うらかれて人をも身をも秋の夕くれ
わかこひは にはのむらはき うらかれて ひとをもみをも あきのゆふくれ
前大僧正慈円十四恋四
1323袖のつゆもあらぬ色にそきえかへるうつれはかはるなけきせしまに
そてのつゆも あらぬいろにそ きえかへる うつれはかはる なけきせしまに
太上天皇十四恋四
1324むせふともしらしな心かはらやにわれのみけたぬしたのけふりは
むせふとも しらしなこころ かはらやに われのみけたぬ したのけふりは
定家朝臣十四恋四
1325しられしなおなし袖にはかよふともたか夕くれとたのむ秋風
しられしな おなしそてには かよふとも たかゆふくれと たのむあきかせ
家隆朝臣十四恋四
1326つゆはらふねさめは秋のむかしにて見はてぬ夢にのこるおもかけ
つゆはらふ ねさめはあきの むかしにて みはてぬゆめに のこるおもかけ
皇太后宮大夫俊成女十四恋四
1327心こそゆくゑもしらねみわの山すきの木すゑの夕くれの空
こころこそ ゆくへもしらね みわのやま すきのこすゑの ゆふくれのそら
前大僧正慈円十四恋四
1328さりともとまちし月日そうつりゆく心の花の色にまかせて
さりともと まちしつきひそ うつりゆく こころのはなの いろにまかせて
式子内親王十四恋四
1329いきてよもあすまて人もつらからしこの夕くれをとははとへかし
いきてよも あすまてひとは つらからし このゆふくれを とははとへかし
読人知らず十四恋四
1330暁のなみたやそらにたくふらん袖におちくるかねのおと哉
あかつきの なみたやそらに たくふらむ そてにおちくる かねのおとかな
前大僧正慈円十四恋四
1331つくつくとおもひあかしのうらちとりなみのまくらになくなくそきく
つくつくと おもひあかしの うらちとり なみのまくらに なくなくそきく
権中納言公経十四恋四
1332たつねみるつらき心のおくのうみよしほひのかたのいふかひもなし
たつねみる つらきこころの おくのうみよ しほひのかたの いふかひもなし
定家朝臣十四恋四
1333見し人のおもかけとめよきよみかた袖にせきもる浪のかよひち
みしひとの おもかけとめよ きよみかた そてにせきもる なみのかよひち
雅経十四恋四
1334ふりにけり時雨は袖に秋かけていひしはかりをまつとせしまに
ふりにけり しくれはそてに あきかけて いひしはかりを まつとせしまに
皇太后宮大夫俊成女十四恋四
1335かよひこしやとのみちしはかれかれにあとなき霜のむすほほれつつ
かよひこし やとのみちしは かれかれに あとなきしもの むすほほれつつ
読人知らず十四恋四
1336しろたへの袖のわかれにつゆおちて身にしむいろの秋風そふく
しろたへの そてのわかれに つゆおちて みにしむいろの あきかせそふく
藤原定家朝臣十五恋五
1337思いる身はふかくさのあきのつゆたのめしすゑやこからしの風
おもひいる みはふかくさの あきのつゆ たのめしすゑや こからしのかせ
藤原家隆朝臣十五恋五
1338野辺のつゆはいろもなくてやこほれつるそてよりすくるおきのうは風
のへのつゆは いろもなくてや こほれつる そてよりすくる をきのうはかせ
前大僧正慈円十五恋五
1339こひわひて野辺のつゆとはきえぬともたれか草葉を哀とはみん
こひわひて のへのつゆとは きえぬとも たれかくさはを あはれとはみむ
左近中将公衡十五恋五
1340とへかしなお花かもとのおもひくさしほるる野辺のつゆはいかにと
とへかしな をはなかもとの おもひくさ しをるるのへの つゆはいかにと
右衛門督通具十五恋五
1341よのまにもきゆへき物をつゆしものいかにしのへとたのめをくらん
よのまにも きゆへきものを つゆしもの いかにしのへと たのめおくらむ
権中納言俊忠十五恋五
1342あたなりとおもひしかとも君よりはものわすれせぬ袖のうはつゆ
あたなりと おもひしかとも きみよりは ものわすれせぬ そてのうはつゆ
道信朝臣十五恋五
1343おなしくはわか身もつゆときえななんきえなはつらきことの葉も見し〈朱〉/
おなしくは わかみもつゆと きえななむ きえなはつらき ことのはもみし
藤原元真十五恋五
1344いまこんといふことの葉もかれゆくによな〳〵つゆのなににをくらん
いまこむと いふことのはも かれゆくに よなよなつゆの なににおくらむ
和泉式部十五恋五
1345あたことのはにをくつゆのきえにしをある物とてや人のとふらん
あたことの はにおくつゆの きえにしを あるものとてや ひとのとふらむ
藤原長能十五恋五
1346うちはへていやはねらるる宮木ののこはきかした葉いろにいてしより
うちはへて いやはねらるる みやきのの こはきかしたは いろにいてしより
読人知らず十五恋五
1347はきの葉やつゆのけしきもうちつけにもとよりかはる心ある物を
はきのはや つゆのけしきも うちつけに もとよりかはる こころあるものを
藤原惟成十五恋五
1348よもすからきえかへりつるわか身かななみたのつゆにむすほほれつつ
よもすから きえかへりつる わかみかな なみたのつゆに むすほほれつつ
華山院御哥十五恋五
1349君かせぬわかたまくらは草なれやなみたのつゆのよな〳〵そをく
きみかせぬ わかたまくらは くさなれや なみたのつゆの よなよなそおく
光孝天皇御哥十五恋五
1350つゆはかりをくらん袖はたのまれすなみたの河のたきつせなれは
つゆはかり おくらむそては たのまれす なみたのかはの たきつせなれは
読人知らず十五恋五
1351思ひやるよそのむら雲しくれつつあたちのはらにもみちしぬらん
おもひやる よそのむらくも しくれつつ あたちのはらに もみちしぬらむ
重之十五恋五
1352身にちかくきにけるものを色かはる秋をはよそにおもひしかとも
みにちかく きにけるものを いろかはる あきをはよそに おもひしかとも
源顕房(六条右大臣)室十五恋五
1353色かはるはきのした葉を見てもまつ人の心の秋そしらるる
いろかはる はきのしたはを みてもまつ ひとのこころの あきそしらるる
相模十五恋五
1354いなつまはてらさぬよゐもなかりけりいつらほのかにみえしかけろふ
いなつまは てらさぬよひも なかりけり いつらほのかに みえしかけろふ
読人知らず十五恋五
1355人しれぬねさめの涙ふりみちてさもしくれつるよはのそらかな
ひとしれぬ ねさめのなみた ふりみちて さもしくれつる よはのそらかな
謙徳公十五恋五
1356なみたのみうきいつるあまのつりさほのなかきよすからこひつつそぬる
なみたのみ うきいつるあまの つりさをの なかきよすから こひつつそぬる
光孝天皇御哥十五恋五
1357まくらのみうくとおもひしなみたかはいまはわか身のしつむなりけり
まくらのみ うくとおもひし なみたかは いまはわかみの しつむなりけり
坂上是則十五恋五
1358おもほえす袖にみなとのさはくかなもろこし舟のよりしはかりに
おもほえす そてにみなとの さわくかな もろこしふねの よりしはかりに
読人知らず十五恋五
1359いもか袖わかれし日よりしろたへの衣かたしきこひつつそぬる
いもかそて わかれしひより しろたへの ころもかたしき こひつつそぬる
読人知らず十五恋五
1360あふことのなみのした草みかくれてしつ(つ+心歟)なくねこそなかるれ
あふことの なみのしたくさ みかくれて しつこころなく ねこそなかるれ
読人知らず十五恋五
1361うらにたくもしほの煙なひかめやよものかたより風(風+は歟)ふくとも
うらにたく もしほのけふり なひかめや よものかたより かせはふくとも
読人知らず十五恋五
1362わするらんとおもふ心のうたかひにありしよりけに物そかなしき
わするらむと おもふこころの うたかひに ありしよりけに ものそかなしき
読人知らず十五恋五
1363うきなから人をはえしもわすれねはかつうらみつつなをそこひしき
うきなから ひとをはえしも わすれねは かつうらみつつ なほそこひしき
読人知らず十五恋五
1364いのちをはあたなるものとききしかとつらきかためは長もあるかな
いのちをは あたなるものと ききしかと つらきかためは なかくもあるかな
読人知らず十五恋五
1365いつかたにゆきかくれなんよの中に身のあれはこそ人もつらけれ
いつかたに ゆきかくれなむ よのなかに みのあれはこそ ひともつらけれ
読人知らず十五恋五
1366いままてにわすれぬ人はよにもあらしをのかさま〳〵としのへぬれは
いままてに わすれぬひとは よにもあらし おのかさまさま としのへぬれは
読人知らず十五恋五
1367たま水をてにむすひてもこころみんぬるくはいしの中もたのまし
たまみつを てにむすひても こころみむ ぬるくはいしの なかもたのまし
読人知らず十五恋五
1368山しろの井ての玉水てにくみてたのみしかひもなきよなりけり
やましろの ゐてのたまみつ てにくみて たのみしかひも なきよなりけり
読人知らず十五恋五
1369君かあたり見つつををらんいこま山雲なかくしそ雨はふるとも
きみかあたり みつつををらむ いこまやま くもなかくしそ あめはふるとも
読人知らず十五恋五
1370なかそらに立ゐる雲のあともなく身のはかなくもなりぬへきかな
なかそらに たちゐるくもの あともなく みのはかなくも なりぬへきかな
読人知らず十五恋五
1371雲のゐるとを山とりのよそにてもありとしきけはわひつつそぬる
くものゐる とほやまとりの よそにても ありとしきけは わひつつそぬる
読人知らず十五恋五
1372ひるはきてよるはわかるる山とりのかけ見る時そねはなかれける
ひるはきて よるはわかるる やまとりの かけみるときそ ねはなかれける
読人知らず十五恋五
1373われもしかなきてそ人にこひられしいまこそよそに声をのみきけ
われもしか なきてそひとに こひられし いまこそよそに こゑをのみきけ
読人知らず十五恋五
1374夏野ゆくをしかのつののつかのまもわすれすおもへいもか心を
なつのゆく をしかのつのの つかのまも わすれすおもへ いもかこころを
柿本人麻呂(人麿)十五恋五
1375夏草のつゆわけ衣きもせぬになとわか袖のかはく時なき
なつくさの つゆわけころも きもせぬに なとわかそての かわくときなき
読人知らず十五恋五
1376みそきするならのをかはの河風にいのりそわたるしたにたえしと
みそきする ならのをかはの かはかせに いのりそわたる したにたえしと
八代女王十五恋五
1377うらみつつぬるよの袖のかはかぬはまくらのしたにしほやみつらん
うらみつつ ぬるよのそての かわかぬは まくらのしたに しほやみつらむ
清原深養父十五恋五
1378あし辺よりみちくるしほのいやましにおもふか君をわすれかねつる
あしへより みちくるしほの いやましに おもふかきみか わすれかねつる
山口女王十五恋五
1379しほかまのまへにうきたるうきしまのうきておもひのあるよなりけり
しほかまの まへにうきたる うきしまの うきておもひの あるよなりけり
読人知らず十五恋五
1380いかにねて見えしなるらんうたたねの夢より後は物をこそおもへ
いかにねて みえしなるらむ うたたねの ゆめよりのちは ものをこそおもへ
赤染衛門十五恋五
1381うちとけてねぬものゆへに夢を見てものおもひまさる比にもあるかな
うちとけて ねぬものゆゑに ゆめをみて ものおもひまさる こころにもあるかな
参議篁十五恋五
1382春のよの夢にありつと見えつれはおもひたえにし人そまたるる
はるのよの ゆめにあひつと みえつれは おもひたえにし ひとそまたるる
伊勢十五恋五
1383はるのよの夢のしるしはつらくとも見しはかりたにあらはたのまん
はるのよの ゆめのしなしは つらくとも みしはかりたに あらはたのまむ
盛明親王十五恋五
1384ぬる夢にうつつのうさもわすられておもひなくさむほとそはかなき
ぬるゆめに うつつのうさも わすられて おもひなくさむ ほとそはかなき
女御徽子女王十五恋五
1385かくはかりねてあかしつる春のよにいかに見えつる夢にかあるらん
かくはかり ねてあかしつる はるのよに いかにみえつる ゆめにかあるらむ
能宣朝臣十五恋五
1386なみたかは身もうきぬへきねさめかなはかなき夢のなこりはかりに
なみたかは みもうきぬへき ねさめかな はかなきゆめの なこりはかりに
寂蓮法師十五恋五
1387あふと見てことそともなくあけぬなりはかなの夢の忘かたみや
あふとみて ことそともなく あけぬなり はかなのゆめの わすれかたみや
家隆朝臣十五恋五
1388ゆかちかしあなかまよはのきり〳〵す夢にも人のみえもこそすれ
ゆかちかし あなかまよはの きりきりす ゆめにもひとの みえもこそすれ
基俊十五恋五
1389あはれなりうたたねにのみ見しゆめの長きおもひにむすほほれなん
あはれなり うたたねにのみ みしゆめの なかきおもひに むすほほれなむ
皇太后宮大夫俊成十五恋五
1390かきやりしそのくろかみのすちことにうちふすほとはおもかけそたつ
かきやりし そのくろかみの すちことに うちふすほとは おもかけそたつ
定家朝臣十五恋五
1391夢かとよ見しおもかけもちきりしもわすれすなからうつつならねは
ゆめかとよ みしおもかけも ちきりしも わすれすなから うつつならねは
皇太后宮大夫俊成女十五恋五
1392はかなくそしらぬいのちをなけきこしわかかねことのかかりけるよに
はかなくそ しらぬいのちを なけきこし わかかねことの かかりけるよに
式子内親王十五恋五
1393すきにけるよよの契もわすられていとふうき身のはてそはかなき
すきにける よよのちきりも わすられて いとふうきみの はてそはかなき
十五恋五
1394おもひわひ見しおもかけはさてをきてこひせさりけんおりそこひしき
おもひわひ みしおもかけは さておきて こひせさりけむ をりそこひしき
皇太后宮大夫俊成十五恋五
1395なかれいてんうき名にしはしよとむかなもとめぬ袖のふちはあれとも
なかれいてむ うきなにしはし よとむかな もとめぬそての ふちはあれとも
相模十五恋五
1396つらからはこひしきことはわすれなてそへてはなとかしつ心なき
つらからは こひしきことは わすれなて そへてはなとか しつこころなき
馬内侍十五恋五
1397きみしまれみちのゆききをさたむらんすきにし人をかつ忘つつ
きみしまれ みちのゆききを さたむらむ すきにしひとを かつわすれつつ
読人知らず十五恋五
1398花さかぬくち木のそまのそま人のいかなるくれに思ひいつらん
はなさかぬ くちきのそまの そまひとの いかなるくれに おもひいつらむ
藤原仲文十五恋五
1399をのつからさこそはあれとおもふまにまことに人のとはすなりぬる
おのつから さこそはあれと おもふまに まことにひとの とはすなりぬる
大納言経信母十五恋五
1400ならはねは人のとはぬもつらからてくやしきにこそ袖はぬれけれ
ならはねは ひとのとはぬも つらからて くやしきにこそ そてはぬれけれ
前中納言教盛母十五恋五
1401なけかしなおもへは人につらかりしこのよなからのむくひなりけり
なけかしな おもへはひとに つらかりし このよなからの むくひなりけり
皇嘉門院尾張十五恋五
1402いかにしていかにこのよにありへはかしはしもものをおもはさるへき
いかにして いかにこのよに ありへはか しはしもものを おもはさるへき
和泉式部十五恋五
1403うれしくはわするることもありなましつらきそなかきかたみなりける
うれしくは わするることも ありなまし つらきそなかき かたみなりける
深養父十五恋五
1404あふことのかたみをたにも見(見=え歟)てしかな人はたゆともみつつしのはん
あふことの かたみをたにも みてしかな ひとはたゆとも みつつしのはむ
素性法師十五恋五
1405わか身こそあらぬかとのみたとらるれとふへき人にわすられしより
わかみこそ あらぬかとのみ たとらるれ とふへきひとに わすられしより
小野小町十五恋五
1406かつらきやくめちにわたすいははしのたえにし中となりやはてなん
かつらきや くめちにわたす いははしの たえにしなかと なりやはてなむ
能宣朝臣十五恋五
1407今はともおもひなたえそ野中なる水のなかれはゆきてたつねん
いまはとも おもひなたえそ のなかなる みつのなかれは ゆきてたつねむ
祭主輔親十五恋五
1408おもひいつやみののを山のひとつ松契しことはいつもわすれす
おもひいつや みののをやまの ひとつまつ ちきりしことは いつもわすれす
伊勢十五恋五
1409いてていにしあとたにいまたかはらぬにたかかよひちと今はなるらん
いてていにし あとたにいまた かはらぬに たかかよひちと いまはなるらむ
業平朝臣十五恋五
1410むめの花かをのみ袖にととめをきてわかおもふ人はをとつれもせぬ
うめのはな かをのみそてに ととめおきて わかおもふひとは おとつれもせぬ
読人知らず十五恋五
1411あまのはらそこともしらぬおほそらにおほつかなさをなけきつるかな
あまのはら そこともしらぬ おほそらに おほつかなさを なけきつるかな
天暦御哥十五恋五
1412なけくらん心をそらに見てしかなたつあさきりに身をやなさまし
なけくらむ こころをそらに みてしかな たつあさきりに みをやなさまし
女御徽子女王十五恋五
1413あはすしてふるころをひのあまたあれははるけきそらになかめをそする
あはすして ふるころほひの あまたあれは はるけきそらに なかめをそする
光孝天皇御哥十五恋五
1414おもひやる心もそらに白雲のいてたつかたをしらせやはせぬ
おもひやる こころもそらに しらくもの いてたつかたを しらせやはせぬ
兵部卿致平親王十五恋五
1415雲井よりとを山とりのなきてゆく声ほのかなるこひもするかな
くもゐより とほやまとりの なきてゆく こゑほのかなる こひもするかな
躬恒十五恋五
1416雲ゐなる雁たになきてくる秋になとかは人のをとつれもせぬ
くもゐなる かりたになきて くるあきに なとかはひとの おとつれもせぬ
延喜御哥十五恋五
1417春ゆきて秋まてとやはおもひけんかりにはあらす契し物を
はるゆきて あきまてとやは おもひけむ かりにはあらす ちきりしものを
天暦御哥十五恋五
1418はつかりのはつかにききしことつても雲ちにたえてわふる比かな
はつかりの はつかにききし ことつても くもちにたえて わふるころかな
源高明十五恋五
1419をみころもこそはかりこそなれさらめけふの日かけのかけてたにとへ
をみころも こそはかりこそ なれさらめ けふのひかけの かけてたにとへ
藤原惟成十五恋五
1420すみよしのこひわすれ草たねたえてなきよにあへるわれそかなしき
すみよしの こひわすれくさ たねたえて なきよにあへる われそかなしき
藤原元真十五恋五
1421水のうへのはかなきかすもおもほえすふかき心しそこにとまれは〈朱〉/
みつのうへの はかなきかすも おもほえす ふかきこころし そこにとまれは
天暦御哥十五恋五
1422なかきよのつきぬなけきのたえさらはなににいのちをかへてわすれん
なかきよの つきぬなけきの たえさらは なににいのちを かへてわすれむ
謙徳公十五恋五
1423心にもまかせさりけるいのちもてたのめもをかしつねならぬよを
こころにも まかせさりける いのちもて たのめもおかし つねならぬよを
権中納言敦忠十五恋五
1424世のうきも人のつらきもしのふるにこひしきにこそ思ひわひぬれ
よのうきも ひとのつらきも しのふるに こひしきにこそ おもひわひぬれ
藤原元真十五恋五
1425かすならはかからましやはよの中にいとかなしきはしつのをたまき
かすならは かからましやは よのなかに いとかなしきは しつのをたまき
参議篁十五恋五
1426人ならはおもふ心をいひてましよしやさこそはしつのをたまき
ひとならは おもふこころを いひてまし よしやさこそは しつのをたまき
藤原惟成十五恋五
1427わかよはひおとろへゆけはしろたへの袖のなれにし君をしそ思
わかよはひ おとろへゆけは しろたへの そてのなれにし きみをしそおもふ
読人知らず十五恋五
1428いまよりはあはしとすれやしろたへのわか衣手のかはく時なき
いまよりは あはしとすれや しろたへの わかころもての かわくときなき
読人知らず十五恋五
1429たまくしけあけまくおしきあたら夜を衣てかれてひとりかもねん
たまくしけ あけまくをしき あたらよを ころもてかれて ひとりかもねむ
読人知らず十五恋五
1430あふことをおほつかなくてすくすかな草葉のつゆのをきかはるまて
あふことを おほつかなくて すくすかな くさはのつゆの おきかはるまて
読人知らず十五恋五
1431秋の田のほむけの風のかたよりにわれは物おもふつれなきものを
あきのたの ほむけのかせの かたよりに われはものおもふ つれなきものを
読人知らず十五恋五
1432はしたかの野もりのかかみえてしかなおもひおもはすよそなからみん
はしたかの のもりのかかみ えてしかな おもひおもはす よそなからみむ
読人知らず十五恋五
1433おほよとの松はつらくもあらなくにうらみてのみもかへるなみかな
おほよとの まつはつらくも あらなくに うらみてのみも かへるなみかな
読人知らず十五恋五
1434白浪はたちさはくともこりすまのうらのみるめはからんとそおもふ
しらなみは たちさわくとも こりすまの うらのみるめは からむとそおもふ
読人知らず十五恋五
1435さしてゆくかたはみなとのうらたかみうらみてかへるあまのつりふね
さしてゆく かたはみなとの うらたかみ うらみてかへる あまのつりふね
読人知らず十五恋五
1436としくれしなみたのつららとけにけりこけの袖にも春やたつらん
としくれし なみたのつらら とけにけり こけのそてにも はるやたつらむ
皇太后宮大夫俊成十六雑上
1437山かけやさらては庭にあともなし春そきにける雪のむらきえ
やまかけや さらてはにはに あともなし はるそきにける ゆきのむらきえ
藤原有家朝臣十六雑上
1438あはれなりむかしの人をおもふにはきのふの野へにみゆきせましや
あはれなり むかしのひとを おもふには きのふののへに みゆきせましや
源雅信十六雑上
1439ひきかへて野辺のけしきは見えしかとむかしをこふる松はなかりき
ひきかへて のへのけしきは みえしかと むかしをこふる まつはなかりき
円融院御哥十六雑上
1440春くれは袖の氷もとけにけりもりくる月のやとるはかりに
はるくれは そてのこほりも とけにけり もりくるつきの やとるはかりに
大僧正行尊十六雑上
1441たにふかみ春のひかりのをそけれは雪につつめる鴬の声
たにふかみ はるのひかりの おそけれは ゆきにつつめる うくひすのこゑ
久我建通(後京極摂政)十六雑上
1442ふるゆきにいろまとはせるむめの花うくひすのみやわきてしのはん
ふるゆきに いろまとはせる うめのはな うくひすのみや わきてしのはむ
読人知らず十六雑上
1443をそくとくつゐにさきぬるむめの花たかうへをきしたねにかあるらん
おそくとく つひにさきぬる うめのはな たかうゑおきし たねにかあるらむ
貞信公十六雑上
1444ももしきにかはらぬものは梅の花おりてかさせるにほひなりけり
ももしきに かはらぬものは うめのはな をりてかさせる にほひなりけり
源公忠朝臣十六雑上
1445いろかをはおもひもいれすむめの花つねならぬよによそへてそみる
いろかをは おもひもいれす うめのはな つねならぬよに よそへてそみる
華山院御哥十六雑上
1446むめの花なににほふらんみる人のいろをもかをもわすれぬるよに
うめのはな なににほふらむ みるひとの いろをもかをも わすれぬるよに
大弐三位十六雑上
1447はるかすみたなひきわたるおりにこそかかる山辺のかひもありけれ
はるかすみ たなひきわたる をりにこそ かかるやまへは かひもありけれ
東三条入道前摂政太政大臣十六雑上
1448むらさきの雲にもあらて春かすみたなひく山のかひはなにそも
むらさきの くもにもあらて はるかすみ たなひくやまの かひはなにそも
円融院御哥十六雑上
1449みちのへのくち木の柳春くれはあはれむかしとしのはれそする
みちのへの くちきのやなき はるくれは あはれむかしと しのはれそする
久我建通(後京極摂政)十六雑上
1450むかし見し春はむかしの春なからわか身ひとつのあらすもあるかな
むかしみし はるはむかしの はるなから わかみひとつの あらすもあるかな
深養父十六雑上
1451かきこしに見るあた人のいへさくら花ちりはかりゆきておらはや
かきこしに みるあたひとの いへさくら はなちるはかり ゆきてをらはや
円融院御哥十六雑上
1452おりにことおもひやすらん花さくらありしみゆきの春をこひつつ
をりにこと おもひやすらむ はなさくら ありしみゆきの はるをこひつつ
左大将朝光十六雑上
1453よろつよをふるにかひあるやとなれはみゆきと見えて花そちりける
よろつよを ふるにかひある やとなれや みゆきとみえて はなそちりくる
京極関白家肥後十六雑上
1454えたことのすゑまてにほふ花なれはちるもみゆきとみゆるなるらん
えたことの すゑまてにほふ はななれは ちるもみゆきと みゆるなるらむ
藤原師通十六雑上
1455春をへてみゆきになるる花のかけふりゆく身をもあはれとや思
はるをへて みゆきになるる はなのかけ ふりゆくみをも あはれとやおもふ
藤原定家朝臣十六雑上
1456なれ〳〵て見しはなこりの春そともなとしらかはの花のしたかけ
なれなれて みしはなこりの はるそとも なとしらかはの はなのしたかけ
藤原雅経朝臣十六雑上
1457ふるさととおもひなはてそ花さくらかかるみゆきにあふよありけり
ふるさとと おもひなはてそ はなさくら かかるみゆきに あふよありけり
読人知らず十六雑上
1458いさやまた月日のゆくもしらぬ身は花の春ともけふこそは見れ
いさやまた つきひのゆくも しらぬみは はなのはるとも けふこそはみれ
源師光十六雑上
1459おる人のそれなるからにあちきなく見しわかやとの花のかそする
をるひとの それなるからに あちきなく みしわかやとの はなのかそする
和泉式部十六雑上
1460見ても又またも見まくのほしかりし花のさかりはすきやしぬらん
みてもまた またもみまくの ほしかりし はなのさかりは すきやしぬらむ
藤原高光十六雑上
1461おいにけるしらかも花ももろともにけふのみゆきにゆきとみえけり
おいにける しらかもはなも もろともに けふのみゆきに ゆきとみえけり
藤原顕光(堀河左大臣)十六雑上
1462さくら花おりてみしにもかはらぬにちらぬはかりそしるしなりける
さくらはな をりてみしにも かはらぬに ちらぬはかりそ しるしなりける
大納言忠家十六雑上
1463さもあらはあれくれゆく春も雲のうへにちることしらぬ花しにほはは
さもあらはあれ くれゆくはるも くものうへに ちることしらぬ はなしにほはは
大納言経信十六雑上
1464桜花すきゆく春のともとてや風のをとせぬよにもちるらん
さくらはな すきゆくはるの ともとてや かせのおとせぬ よるもちるらむ
大納言忠教十六雑上
1465おしめともつねならぬよの花なれはいまはこの身をにしにもとめん
をしめとも つねならぬよの はななれは いまはこのみを にしにもとめむ
鳥羽院御哥十六雑上
1466いまはわれよしのの山の花をこそやとの物とも見るへかりけれ
いまはわれ よしののやまの はなをこそ やとのものとも みるへかりけれ
皇太后宮大夫俊成十六雑上
1467春くれはなをこのよこそしのはるれいつかはかかる花をみるへき
はるくれは なほこのよこそ しのはるれ いつかはかかる はなをみるへき
読人知らず十六雑上
1468てる月も雲のよそにそゆきめくる花そこのよのひかりなりける
てるつきも くものよそにそ ゆきめくる はなそこのよの ひかりなりける
読人知らず十六雑上
1469見せはやなしかのからさきふもとなるなからの山の春のけしきを
みせはやな しかのからさき ふもとなる なからのやまの はるのけしきを
前大僧正慈円十六雑上
1470しはのとににほはん花はさもあらはあれなかめてけりなうらめしの身や
しはのとに にほはむはなは さもあらはあれ なかめてけりな うらめしのみや
読人知らず十六雑上
1471世中をおもへはなへてちる花のわか身をさてもいつちかもせん
よのなかを おもへはなへて ちるはなの わかみをさても いつちかもせむ
西行法師十六雑上
1472身はとめつ心はをくる山さくら風のたよりにおもひをこせよ
みはとめつ こころはおくる やまさくら かせのたよりに おもひおこせよ
安法々師十六雑上
1473さくらあさのおふのうらなみたちかへり見れともあかす山なしの花
さくらあさの をふのうらなみ たちかへり みれともあかす やまなしのはな
俊頼朝臣十六雑上
1474白浪のこゆらんすゑの松山は花とや見ゆる春のよの月
しらなみの こゆらむすゑの まつやまは はなとやみゆる はるのよのつき
加賀左衛門十六雑上
1475おほつかなかすみたつらんたけくまの松のくまもるはるのよの月
おほつかな かすみたつらむ たけくまの まつのくまもる はるのよのつき
読人知らず十六雑上
1476世をいとふよしののおくのよふこ鳥ふかき心のほとやしるらん
よをいとふ よしののおくの よふことり ふかきこころの ほとやしるらむ
法印幸清十六雑上
1477おりにあへはこれもさすかにあはれなりおたのかはつのゆふくれの声
をりにあへは これもさすかに あはれなり をたのかはつの ゆふくれのこゑ
前大納言忠良十六雑上
1478春の雨のあまねきみよをたのむかな霜にかれゆく草葉もらすな
はるのあめの あまねきみよを たのむかな しもにかれゆく くさはもらすな
有家朝臣十六雑上
1479すへらきのこたかきかけにかくれてもなを春雨にぬれんとそおもふ
すめらきの こたかきかけに かくれても なほはるさめに ぬれむとそおもふ
藤原実行(八条前太政大臣)十六雑上
1480やへなからいろもかはらぬ山ふきのなとここのへにさかすなりにし
やへなから いろもかはらぬ やまふきの なとここのへに さかすなりにし
実方朝臣十六雑上
1481ここのへにあらてやへさく山ふきのいはぬいろをはしる人もなし
ここのへに あらてやへさく やまふきの いはぬいろをは しるひともなし
円融院御哥十六雑上
1482をのかなみにおなしすゑ葉そしほれぬるふちさくたこのうらめしの身や
おのかなみに おなしすゑはそ しをれぬる ふちさくたこの うらめしのみや
前大僧正慈円十六雑上
1483から衣花のたもとにぬきかへよわれこそ春のいろはたちつれ
からころも はなのたもとに ぬきかへよ われこそはるの いろはたちつれ
藤原道長(法成寺入道前摂政太政大臣)十六雑上
1484唐衣たちかはりぬる春のよにいかてか花のいろをみるへき
からころも たちかはりぬる はるのよに いかてかはなの いろをみるへき
上東門院十六雑上
1485神世にはありもやしけんさくら花けふのかさしにおれるためしは
かみよには ありもやしけむ さくらはな けふのかさしに をれるためしは
紫式部十六雑上
1486ほとときすそのかみ山のたひ枕ほのかたらひしそらそわすれぬ
ほとときす そのかみやまの たひまくら ほのかたらひし そらそわすれぬ
式子内親王十六雑上
1487たちいつるなこり有明の月かけにいととかたらふほとときすかな
たちいつる なこりありあけの つきかけに いととかたらふ ほとときすかな
読人知らず十六雑上
1488いくちよとかきらぬ君かみよなれとなをおしまるるけさのあけほの
いくちよと かきらぬきみか みよなれは なほをしまるる けさのあけほの
左衛門督家通十六雑上
1489むめかえにおりたかへたるほとときす声のあやめもたれかわくへき
うめかえに をりたかへたる ほとときす こゑのあやめも たれかわくへき
三条院女蔵人左近十六雑上
1490うちわたすをちかた人にこととへとこたへぬからにしるき花かな
うちわたす をちかたひとに こととへと こたへぬからに しるきはなかな
小弁十六雑上
1491五月雨のそらたにすめる月かけになみたの雨ははるるまもなし
さみたれの そらたにすめる つきかけに なみたのあめは はるるまもなし
赤染衛門十六雑上
1492さみたれはまやののきはのあまそそきあまりなるまてぬるる袖かな
さみたれは まやののきはの あまそそき あまりなるまて ぬるるそてかな
皇太后宮大夫俊成十六雑上
1493ひとりぬるやとのとこなつあさな〳〵なみたのつゆにぬれぬ日そなき
ひとりぬる やとのとこなつ あさなあさな なみたのつゆに ぬれぬひそなき
華山院御哥十六雑上
1494よそへつつ見れとつゆたになくさますいかにかすへきなてしこの花
よそへつつ みれとつゆたに なくさます いかにかすへき なてしこのはな
恵子女王十六雑上
1495おもひあらはこよひのそらはとひてまし見えしや月のひかりなりけん
おもひあらは こよひのそらは とひてまし みえしやつきの ひかりなりけむ
和泉式部十六雑上
1496おもひあれはつゆはたもとにまかふとも秋のはしめをたれにとはまし
おもひあれは つゆはたもとに まかふかと あきのはしめを たれにとはまし
七条院大納言十六雑上
1497袖のうらのなみふきかへす秋風に雲のうへまてすすしからなん
そてのうらの なみふきかへす あきかせに くものうへまて すすしからなむ
中務十六雑上
1498秋やくるつゆやまかふとおもふまてあるはなみたのふるにそ有ける
あきやくる つゆやまかふと おもふまて あるはなみたの ふるにそありける
紀有常朝臣十六雑上
1499めくりあひて見しやそれともわかぬまに雲かくれにしよはの月かけ
めくりあひて みしやそれとも わかぬまに くもかくれにし よはのつきかけ
紫式部十六雑上
1500月かけの山の葉わけてかくれなはそむくうきよをわれやなかめん
つきかけの やまのはわけて かくれなは そむくうきよを われやなかめむ
三条院御哥十六雑上
1501山のはをいてかてにする月まつとねぬよのいたくふけにける哉
やまのはを いてかてにする つきまつと ねぬよのいたく ふけにけるかな
藤原為時十六雑上
1502うき雲はたちかくせともひまもりてそらゆく月のみえもするかな
うきくもは たちかくせとも ひまもりて そらゆくつきの みえもするかな
伊勢大輔十六雑上
1503うきくもにかくれてとこそおもひしかねたくも月のひまもりにける
うきくもに かくれてとこそ おもひしか ねたくもつきの ひまもりにける
参議正光十六雑上
1504月をなとまたれのみすとおもひけんけに山の葉はいてうかりけり
つきをなと またれのみすと おもひけむ けにやまのはは いてうかりけり
刑部卿範兼十六雑上
1505おもひいつる人もあらしの山の葉にひとりそいりし在曙の月
おもひいつる ひともあらしの やまのはに ひとりそいりし ありあけのつき
法印静賢十六雑上
1506わかのうらにいゑの風こそなけれともなみふくいろは月にみえけり
わかのうらに いへのかせこそ なけれとも なみふくいろは つきにみえけり
民部卿範光十六雑上
1507よもすから浦こく舟はあともなし月そのこれるしかのからさき
よもすから うらこくふねは あともなし つきそのこれる しかのからさき
宜秋門院丹後十六雑上
1508山のはにおもひもいらしよのなかはとてもかくてもありあけの月
やまのはに おもひもいらし よのなかは とてもかくても ありあけのつき
藤原盛方朝臣十六雑上
1509わすれしよわするなとたにいひてまし雲井の月の心ありせは
わすれしよ わするなとたに いひてまし くもゐのつきの こころありせは
皇太后宮大夫俊成十六雑上
1510いかにして袖にひかりのやとるらん雲井の月はへたててし身を
いかにして そてにひかりの やとるらむ くもゐのつきは へたてこしみを
読人知らず十六雑上
1511心にはわするる時もなかりけりみよのむかしの雲のうへの月
こころには わするるときも なかりけり みよのむかしの くものうへのつき
左近中将公衡十六雑上
1512むかし見しくも井をめくる秋の月いまいくとせか袖にやとさん
むかしみし くもゐをめくる あきのつき いまいくとせか そてにやとさむ
二条院讃岐十六雑上
1513うき身よになからへはなをおもひいてよたもとにちきるありあけの月
うきみよに なからへはなほ おもひいてよ たもとにちきる ありあけのつき
藤原経通朝臣十六雑上
1514宮こにも人やまつらんいし山のみねにのこれる秋のよの月
みやこにも ひとやまつらむ いしやまの みねにのこれる あきのよのつき
藤原長能十六雑上
1515あはちにてあはとはるかに見し月のちかきこよひは所からかも
あはちにて あはとはるかに みしつきの ちかきこよひは こころからかも
躬恒十六雑上
1516いたつらにねてはあかせともろともに君かこぬよの月は見さりき
いたつらに ねてはあかせと もろともに きみかこぬよの つきはみさりき
源道済十六雑上
1517あまのはらはるかにひとりなかむれはたもとに月のいてにけるかな
あまのはら はるかにひとり なかむれは たもとにつきの いてにけるかな
増基法師十六雑上
1518たのめこし人をまつちの山かせにさよふけしかは月も入にき
たのめこし ひとをまつちの やまかせに さよふけしかは つきもいりにき
読人知らず十六雑上
1519月見はといひしはかりの人はこてまきのとたたく庭の松風
つきみはと いひしはかりの ひとはこて まきのとたたく にはのまつかせ
久我建通(後京極摂政)十六雑上
1520山さとに月はみるやと人はこすそらゆく風そこの葉をもとふ
やまさとに つきはみるやと ひとはこす そらゆくかせそ このはをもとふ
前大僧正慈円十六雑上
1521在あけの月のゆくゑをなかめてそ野寺のかねはきくへかりける
ありあけの つきのゆくへを なかめてそ のてらのかねは きくへかりける
読人知らず十六雑上
1522山の葉をいてても松のこのまより心つくしのありあけの月
やまのはを いててもまつの このまより こころつくしの ありあけのつき
藤原業清十六雑上
1523よもすからひとりみ山のまきの葉にくもるもすめるありあけの月
よもすから ひとりみやまの まきのはに くもるもすめる ありあけのつき
鴨長明十六雑上
1524おく山のこの葉のおつる秋風にたえ〳〵みねの雲そのこれる
おくやまの このはのおつる あきかせに たえたえみねの くもそのこれる
藤原秀能十六雑上
1525月すめはよものうき雲そらにきえてみ山かくれにゆくあらしかな
つきすめは よものうきくも そらにきえて みやまかくれに ゆくあらしかな
読人知らず十六雑上
1526なかめわひぬしはのあみとのあけかたに山のはちかくのこる月かけ
なかめわひぬ しはのあみとの あけかたに やまのはちかく のこるつきかけ
猷円法師十六雑上
1527あかつきの月みんとしもおもはねと見し人ゆへになかめられつつ
あかつきの つきみむとしも おもはねと みしひとゆゑに なかめられつつ
華山院御哥十六雑上
1528ありあけの月はかりこそかよひけれくる人なしのやとの庭にも
ありあけの つきはかりこそ かよひけれ くるひとなしの やとのにはにも
伊勢大輔十六雑上
1529すみなれし人かけもせぬわかやとに在曙の月のいくよともなく
すみなれし ひとかけもせぬ わかやとに ありあけのつきの いくよともなく
和泉式部十六雑上
1530すむ人もあるかなきかのやとならしあしまの月のもるにまかせて
すむひとも あるかなきかの やとならし あしまのつきの もるにまかせて
大納言経信十六雑上
1531おもひきやわかれし秋にめくりあひて又もこのよの月をみんとは
おもひきや わかれしあきに めくりあひて またもこのよの つきをみむとは
皇太后宮大夫俊成十六雑上
1532月を見て心うかれしいにしへの秋にもさらにめくりあひぬる
つきをみて こころうかれし いにしへの あきにもさらに めくりあひぬる
西行法師十六雑上
1533よもすから月こそそてにやとりけれむかしの秋をおもひいつれは
よもすから つきこそそてに やとりけれ むかしのあきを おもひいつれは
読人知らず十六雑上
1534月のいろに心をきよくそめましや宮こをいてぬわか身なりせは
つきのいろに こころをきよく そめましや みやこをいてぬ わかみなりせは
読人知らず十六雑上
1535すつとならはうきよをいとふしるしあらんわれみはくもれ秋のよの月
すつとならは うきよをいとふ しるしあらむ われみはくもる あきのよのつき
読人知らず十六雑上
1536ふけにけるわか身のかけをおもふまにはるかに月のかたふきにける
ふけにける わかみのかけを おもふまに はるかにつきの かたふきにける
読人知らず十六雑上
1537なかめしてすきにしかたをおもふまに峯よりみねに月はうつりぬ
なかめして すきにしかたを おもふまに みねよりみねに つきはうつりぬ
入道親王覚性十六雑上
1538あきのよの月に心をなくさめてうきよにとしのつもりぬるかな
あきのよの つきにこころを なくさめて うきよにとしの つもりぬるかな
藤原道経十六雑上
1539秋をへて月をなかむる身となれりいそちのやみをなになけくらん
あきをへて つきをなかめむ みとなれり いそちのやみを なになけくらむ
前大僧正慈円十六雑上
1540なかめてもむそちの秋はすきにけりおもへはかなし山の葉の月
なかめても むそちのあきは すきにけり おもへはかなし やまのはのつき
藤原隆信朝臣十六雑上
1541心ある人のみあきの月をみはなにをうき身のおもひいてにせん
こころある ひとのみあきの つきをみは なにをうきみの おもひいてにせむ
源光行十六雑上
1542身のうさを月やあらぬとなかむれはむかしなからのかけそもりくる
みのうさを つきやあらぬと なかむれは むかしなからの かけそもりくる
二条院讃岐十六雑上
1543ありあけの月よりほかはたれをかは山ちのともと契をくへき
ありあけの つきよりほかに たれをかは やまちのともと ちきりおくへき
寂超法師十六雑上
1544宮こなるあれたるやとにむなしくや月にたつぬる人かへるらん
みやこなる あれたるやとに むなしくや つきにたつぬる ひとかへるらむ
大江嘉言十六雑上
1545おもひやれなにをしのふとなけれともみやこおほゆるありあけの月
おもひやれ なにをしのふと なけれとも みやこおほゆる ありあけのつき
惟明親王十六雑上
1546ありあけのおなしなかめはきみもとへみやこのほかも秋の山さと
ありあけの おなしなかめは きみもとへ みやこのほかも あきのやまさと
式子内親王十六雑上
1547あまのとををしあけかたの雲間より神よの月のかけそのこれる
あまのとを おしあけかたの くもまより かみよのつきの かけそのこれる
久我建通(後京極摂政)十六雑上
1548雲をのみつらきものとてあかすよの月よこすゑにをちかたの山
くもをのみ つらきものとて あかすよの つきよこすゑに をちかたのやま
右大将忠経十六雑上
1549いりやらて夜をおしむ月のやすらひにほのほのあくる山のはそうき
いりやらて よををしむつきの やすらひに ほのほのあくる やまのはそうき
藤原保季朝臣十六雑上
1550あやしくそかへさは月のくもりにしむかしかたりによやふけにけん
あやしくそ かへさはつきの くもりにし むかしかたりに よやふけにけむ
法橋行遍十六雑上
1551ふるさとのやともる月にこととはんわれをはしるやむかしすみきと
ふるさとの やともるつきに こととはむ われをはしるや むかしすみきと
寂超法師十六雑上
1552すたきけんむかしの人はかけたえてやともるものはありあけの月
すたきけむ むかしのひとは かけたえて やともるものは ありあけのつき
平忠盛朝臣十六雑上
1553やへむくらしけれるやとは人もなしまはらに月のかけそすみける
やへむくら しけれるやとは ひともなし まはらにつきの かけそすみける
前中納言匡房十六雑上
1554かもめゐるふちえのうらのおきつすによふねいさよふ月のさやけさ
かもめゐる ふちえのうらの おきつすに よふねいさよふ つきのさやけさ
神祇伯顕仲十六雑上
1555なにはかたしほひにあさるあしたつも月かたふけは声のうらむる
なにはかた しほひにあさる あしたつも つきかたふけは こゑのうらむる
俊恵法師十六雑上
1556わかのうらに月のいてしほのさすままによるなくつるの声そかなしき
わかのうらに つきのてしほの さすままに よるなくつるの こゑそかなしき
前大僧正慈円十六雑上
1557もしほくむ袖の月かけをのつからよそにあかさぬすまのうら人
もしほくむ そてのつきかけ おのつから よそにあかさぬ すまのうらひと
定家朝臣十六雑上
1558あかしかた色なき人の袖を見よすすろに月もやとる物かは
あかしかた いろなきひとの そてをみよ すすろにつきも やとるものかは
藤原秀能十六雑上
1559なかめよとおもはてしもやかへるらん月まつなみのあまのつり舟
なかめよと おもはてしもや かへるらむ つきまつなみの あまのつりふね
具親十六雑上
1560しめをきていまやとおもふ秋山のよもきかもとにまつむしのなく
しめおきて いまやとおもふ あきやまの よもきかもとに まつむしのなく
皇太后宮大夫俊成十六雑上
1561あれわたる秋の庭こそあはれなれましてきえなん露のゆふくれ
あれわたる あきのにはこそ あはれなれ ましてきえなむ つゆのゆふくれ
読人知らず十六雑上
1562雲かかるとを山はたの秋されはおもひやるたにかなしき物を
くもかかる とほやまはたの あきされは おもひやるたに かなしきものを
西行法師十六雑上
1563風そよくしののをささのかりのよをおもふねさめにつゆそこほるる
かせそよく しののをささの かりのよを おもふねさめに つゆそこほるる
守覚法親王十六雑上
1564あさちふや袖にくちにし秋の霜わすれぬ夢をふく嵐かな
あさちふや そてにくちにし あきのしも わすれぬゆめを ふくあらしかな
左衛門督通光十六雑上
1565くすの葉にうらみにかへる夢のよをわすれかたみの野への秋風
くすのはの うらみにかへる ゆめのよを わすれかたみの のへのあきかせ
皇太后宮大夫俊成女十六雑上
1566しら露はをきにけらしな宮木ののもとあらのこはきすゑたわむまて
しらつゆは おきにけらしな みやきのの もとあらのはきの すゑたわむまて
祝部允仲十六雑上
1567をみなへしさかりの色をみるからにつゆのわきける身こそしらるれ
をみなへし さかりのいろを みるからに つゆのわきける みこそしらるれ
紫式部十六雑上
1568白露はわきてもをかしをみなへし心からにや色のそむらん
しらつゆは わきてもおかし をみなへし こころからにや いろのそむらむ
藤原道長(法成寺入道前摂政太政大臣)十六雑上
1569山さとにくすはひかかる松かきのひまなく物は秋そかなしき
やまさとに くすはひかかる まつかきの ひまなくものは あきそかなしき
曽祢好忠十六雑上
1570ももとせの秋のあらしはすくしきぬいつれのくれの露ときえなん
ももとせの あきのあらしは すくしきぬ いつれのくれの つゆときえなむ
安法々師十六雑上
1571秋はつるはつかの山のさひしきに在あけの月をたれとみるらん
あきはつる はつかのやまの さひしきに ありあけのつきを たれとみるらむ
前中納言匡房十六雑上
1572花すすき秋のすゑ葉になりぬれはことそともなくつゆそこほるる
はなすすき あきのすゑはに なりぬれは ことそともなく つゆそこほるる
大蔵卿行宗十六雑上
1573夜はにふくあらしにつけておもふかな宮こもかくや秋はさひしき
よはにふく あらしにつけて おもふかな みやこもかくや あきはさひしき
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)十六雑上
1574世中にあきはてぬれは宮こにもいまはあらしのをとのみそする
よのなかに あきはてぬれは みやこにも いまはあらしの おとのみそする
前中納言顕長十六雑上
1575うつろふは心のほかのあきなれはいまはよそにそきくのうへのつゆ
うつろふは こころのほかの あきなれは いまはよそにそ きくのうへのつゆ
冷泉院御哥十六雑上
1576たのもしなのの宮人のうふる花しくるる月にあへすなるとも
たのもしな ののみやひとの ううるはな しくるるつきに あへすなるとも
源順十六雑上
1577山かはのいはゆく水もこほりしてひとりくたくる峯のまつ風
やまかはの いはゆくみつも こほりして ひとりくたくる みねのまつかせ
読人知らず十六雑上
1578あさことにみきはのこほりふみわけて君につかふるみちそかしこき
あさことに みきはのこほり ふみわけて きみにつかふる みちそかしこき
源師房十六雑上
1579君かよにあふくまかはのむもれ木もこほりのしたに春をまちけり
きみかよに あふくまかはの うもれきも こほりのしたに はるをまちけり
家隆朝臣十六雑上
1580あともなく雪ふるさとはあれにけりいつれむかしのかきねなるらん
あともなく ゆきふるさとは あれにけり いつれむかしの かきねなるらむ
赤染衛門十六雑上
1581つゆのいのちきえなましかはかくはかりふる白雪をなかめましやは
つゆのいのち きえなましかは かくはかり ふるしらゆきを なかめましやは
後白河院御哥十六雑上
1582そま山やこすゑにをもるゆきをれにたえぬなけきの身をくたくらん
そまやまの こすゑにおもる ゆきをれに たえぬなけきの みをくたくらむ
皇太后宮大夫俊成十六雑上
1583時すきてしもにきえにし花なれとけふはむかしの心ちこそすれ
ときすきて しもにきえにし はななれと けふはむかしの ここちこそすれ
朱雀院御哥十六雑上
1584ほともなくさめぬる夢の中なれとそのよににたる花の色かな
ほともなく さめぬるゆめの うちなれと そのよににたる はなのいろかな
前大納言公任十六雑上
1585見し夢をいつれのよそとおもふまにおりをわすれぬ花のかなしさ
みしゆめを いつれのよそと おもふまに をりをわすれぬ はなのかなしさ
御形宣旨十六雑上
1586おいぬとも又もあはんとゆくとしになみたのたまをたむけつるかな
おいぬとも またもあはむと ゆくとしに なみたのたまを たむけつるかな
皇太后宮大夫俊成十六雑上
1587おほかたにすくる月日となかめしはわか身にとしのつもるなりけり
おほかたに すくるつきひを なかめしは わかみにとしの つもるなりけり
慈覚大師十六雑上
1588白なみのはま松かえのたむけくさいくよまてにかとしのへぬらん
しらなみの はままつかえの たむけくさ いくよまてにか としのへぬらむ
河島皇子十七雑中
1589山しろのいは田のをののははそはら見つつや君か山ちこゆらん
やましろの いはたのをのの ははそはら みつつやきみか やまちこゆらむ
式部卿宇合十七雑中
1590あしのやのなたのしほやきいとまなみつけのをくしもささすきにけり
あしのやの なたのしほやき いとまなみ つけのをくしも ささすきにけり
在原業平朝臣十七雑中
1591はるるよのはしかかはへの蛍かもわかすむかたのあまのたくひか
はるるよの ほしかかはへの ほたるかも わかすむかたに あまのたくひか
読人知らず十七雑中
1592しかのあまのしほやくけふり風をいたみたちはのほらて山にたなひく
しかのあまの しほやくけふり かせをいたみ たちはのほらて やまにたなひく
読人知らず十七雑中
1593なにはめの衣ほすとてかりてたくあしひのけふりたたぬ日そなき
なにはめの ころもほすとて かりてたく あしひのけふり たたぬひそなき
紀貫之十七雑中
1594としふれはくちこそまされはしはしらむかしなからの名たにかはらて
としふれは くちこそまされ はしはしら むかしなからの なたにかはらて
忠岑十七雑中
1595春の日のなからのはまに舟とめていつれかはしととへとこたへぬ
はるのひの なからのはまに ふねとめて いつれかはしと とへとこたへぬ
恵慶法師十七雑中
1596くちにけるなからのはしをきてみれはあしのかれ葉に秋風そ吹
くちにける なからのはしを きてみれは あしのかれはに あきかせそふく
徳大寺実定(後徳大寺左大臣)十七雑中
1597おきつ風よはにふくらしなにはかたあか月かけてなみそよすなる
おきつかせ よはにふくらし なにはかた あかつきかけて なみそよすなる
権中納言定頼十七雑中
1598すまの浦のなきたるあさはめもはるにかすみにまかふあまのつり舟
すまのうらの なきたるあさは めもはるに かすみにまかふ あまのつりふね
藤原孝善十七雑中
1599秋風のせきふきこゆるたひことに声うちそふるすまのうら浪
あきかせの せきふきこゆる たひことに こゑうちそふる すまのうらなみ
壬生忠見十七雑中
1600すまの関夢をとおさぬなみのをとをおもひもよらてやとをかりける
すまのせき ゆめをとほさぬ なみのおとを おもひもよらて やとをかりけり
前大僧正慈円十七雑中
1601人すまぬふわのせきやのいたひさしあれにしのちはたた秋の風
ひとすまぬ ふはのせきやの いたひさし あれにしのちは たたあきのかせ
久我建通(後京極摂政)十七雑中
1602あまを舟とまふきかへす浦風にひとりあかしの月をこそ見れ
あまをふね とまふきかへす うらかせに ひとりあかしの つきをこそみれ
俊頼朝臣十七雑中
1603わかのうらを松の葉こしになかむれはこすゑによするあまのつり舟
わかのうらを まつのはこしに なかむれは こすゑによする あまのつりふね
寂蓮法師十七雑中
1604みつのえのよしのの宮は神さひてよはひたけたる浦の松風
みつのえの よしののみやは かみさひて よはひたけたる うらのまつかせ
正三位季能十七雑中
1605いまさらにすみうしとてもいかかせんなたのしほやのゆふくれの空
いまさらに すみうしとても いかならむ なたのしほやの ゆふくれのそら
藤原秀能十七雑中
1606おほよとのうらにたつなみかへらすは松のかはらぬいろをみましや
おほよとの うらにたつなみ かへらすは まつのかはらぬ いろをみましや
女御徽子女王十七雑中
1607まつ人は心ゆくともすみよしのさとにとのみはおもはさらなん
まつひとは こころゆくとも すみよしの さとにとのみは おもはさらなむ
後冷泉院御哥十七雑中
1608すみよしの松はまつともおもほえて君かちとせのかけそこひしき
すみよしの まつはまつとも おもほえて きみかちとせの かけそこひしき
大弐三位十七雑中
1609うちよする浪のこゑにてしるきかなふきあけのはまの秋のはつ風
うちよする なみのこゑにて しるきかな ふきあけのはまの あきのはつかせ
祝部成仲十七雑中
1610おきつかせ夜さむになれやたこのうらのあまのもしほ火たきまさるらん
おきつかせ よさむになれや たこのうら あまのもしほひ たきすさふらむ
嘉陽門院越前十七雑中
1611見わたせはかすみのうちもかすみけりけふりたなひくしほかまのうら
みわたせは かすみのうちも かすみけり けふりたなひく しほかまのうら
家隆朝臣十七雑中
1612けふとてやいそなつむらんいせしまやいちしのうらのあまのをとめこ
けふとてや いそなつむらむ いせしまや いちしのうらの あまのをとめこ
皇太后宮大夫俊成十七雑中
1613すすか山うきよをよそにふりすてていかになりゆくわか身なるらん
すすかやま うきよをよそに ふりすてて いかになりゆく わかみなるらむ
西行法師十七雑中
1614世中をこころたかくもいとふかなふしのけふりを身のおもひにて
よのなかを こころたかくも いとふかな ふしのけふりを みのおもひにて
前大僧正慈円十七雑中
1615風になひくふしのけふりのそらにきえてゆくゑもしらぬわか思哉
かせになひく ふしのけふりの そらにきえて ゆくへもしらぬ わかこころかな
西行法師十七雑中
1616時しらぬ山はふしのねいつとてかかのこまたらに雪のふるらん
ときしらぬ やまはふしのね いつとてか かのこまたらに ゆきのふるらむ
業平朝臣十七雑中
1617春秋もしらぬときはの山さとはすむ人さへやおもかはりせぬ
はるあきも しらぬときはの やまさとは すむひとさへや おもかはりせぬ
在原元方十七雑中
1618花ならてたたしはのとをさして思こころのおくもみよしのの山
はなならて たたしはのとを さしておもふ こころのおくも みよしののやま
前大僧正慈円十七雑中
1619よしの山やかていてしとおもふ身を花ちりなはと人やまつらん
よしのやま やかていてしと おもふみを はなちりなはと ひとやまつらむ
西行法師十七雑中
1620いとひてもなをいとはしきよなりけりよしののおくの秋の夕くれ
いとひても なほいとはしき よなりけり よしののおくの あきのゆふくれ
藤原家衡朝臣十七雑中
1621ひとすちになれなはさてもすきのいほによなよなかはる風のをとかな
ひとすちに なれなはさても すきのいほに よなよなかはる かせのおとかな
右衛門督通具十七雑中
1622たれかはとおもひたえてもまつにのみをとつれてゆく風はうらめし
たれかはと おもひたえても まつにのみ おとつれてゆく かせはうらめし
有家朝臣十七雑中
1623山さとはよのうきよりはすみわひぬことのほかなる峯の嵐に
やまさとは よのうきよりも すみわひぬ ことのほかなる みねのあらしに
宜秋門院丹後十七雑中
1624滝のをと松のあらしもなれぬれはうちぬるほとの夢はみせけり
たきのおと まつのあらしも なれぬれは うちぬるほとの ゆめはみてまし
家隆朝臣十七雑中
1625ことしけきよをのかれにしみ山へにあらしの風も心してふけ
ことしけき よをのかれにし みやまへに あらしのかせも こころしてふけ
寂然法師十七雑中
1626おく山のこけの衣にくらへ見よいつれかつゆのをきまさるとも
おくやまの こけのころもに くらへみよ いつれかつゆの おきまさるとも
権大納言師氏十七雑中
1627白つゆのあしたゆふへにおく山のこけの衣は風もさはらす
しらつゆの あしたゆふへに おくやまの こけのころもは かせもさはらす
如覚十七雑中
1628世中をそむきにとてはこしかともなをうきことはおほはらのさと
よのなかを そむきにとては こしかとも なほうきことは おほはらのさと
読人知らず十七雑中
1629身をはかつをしほの山とおもひつついかにさためて人のいりけん
みをはかつ をしほのやまと おもひつつ いかにさためて ひとのいりけむ
能宣朝臣十七雑中
1630こけのいほりさしてきつれと君まさてかへるみ山のみちのつゆけさ
こけのいほり さしてきつれと きみまさて かへるみやまの みちのつゆけさ
恵慶法師十七雑中
1631あれはてて風もさはらぬこけのいほにわれはなくともつゆはもりけん
あれはてて かせもさはらぬ こけのいほに われはなくとも つゆはもりけむ
読人知らず十七雑中
1632山ふかくさこそ心はかよふともすまてあはれをしらんものかは
やまふかく さこそこころは かよふとも すまてあはれを しらむものかは
西行法師十七雑中
1633やまかけにすまぬこころはいかなれやおしまれている月もあるよに
やまかけに すまぬこころは いかなれや をしまれている つきもあるよに
読人知らず十七雑中
1634たちいててつま木おりこしかたをかのふかき山ちとなりにけるかな
たちいてて つまきをりこし かたをかの ふかきやまちと なりにけるかな
寂蓮法師十七雑中
1635おく山のをとろかしたもふみわけてみちあるよそと人にしらせん
おくやまの おとろかしたも ふみわけて みちあるよそと ひとにしらせむ
太上天皇十七雑中
1636なからへて猶きみかよを松山のまつとせしまにとしそへにける
なからへて なほきみかよを まつやまの まつとせしまに としそへにける
二条院讃岐十七雑中
1637いまはとてつま木こるへきやとの松ちよをは君と猶いのる哉
いまはとて つまきこるへき やとのまつ ちよをはきみと なほいのるかな
皇太后宮大夫俊成十七雑中
1638われなからおもふかものをとはかりに袖にしくるる庭の松風
われなから おもふかものを とはかりに そてにしくるる にはのまつかせ
有家朝臣十七雑中
1639世をそむくところとかきくおく山はものおもひにそいるへかりける
よをそむく ところとかきく おくやまは ものおもひにそ いるへかりける
道命法師十七雑中
1640世をそむくかたはいつくにありぬへしおほはら山はすみよかりきや
よをそむく かたはいつくに ありぬへし おほはらやまは すみよかりきや
和泉式部十七雑中
1641おもふことおほはら山のすみかまはいととなけきのかすをこそつめ
おもふこと おほはらやまの すみかまは いととなけきの かすをこそつめ
少将井尼十七雑中
1642たれすみて哀しるらん山さとの雨ふりすさむゆふくれの空
たれすみて あはれしるらむ やまさとの あめふりすさふ ゆふくれのそら
西行法師十七雑中
1643しほりせてなを山ふかくわけいらんうきこときかぬ所ありやと
しをりせて なほやまふかく わけいらむ うきこときかぬ ところありやと
読人知らず十七雑中
1644かさしおるみわのしけ山かきわけてあはれとそおもふすきたてるかと
かさしをる みわのしけやま かきわけて あはれとそおもふ すきたてるかと
殷富門院大輔十七雑中
1645いつとなきをくらの山のかけをみてくれぬと人のいそくなる哉
いつとなく をくらのやまの かけをみて くれぬとひとの いそくなるかな
道命法師十七雑中
1646さかの山ちよのふるみちあととめてまたつゆわくるもち月のこま
さかのやま ちよのふるみち あととめて またつゆわくる もちつきのこま
定家朝臣十七雑中
1647さほかはのなかれひさしき身なれともうきせにあひてしつみぬる哉
さほかはの なかれひさしき みなれとも うきせにあひて しつみぬるかな
藤原忠実十七雑中
1648かかるせもありけるものをうちかはのたえぬはかりもなけきけるかな
かはるせも ありけるものを うちかはの たえぬはかりも なけきけるかな
東三条入道前摂政太政大臣十七雑中
1649むかしよりたえせぬ河のすゑなれはよとむはかりをなになけくらん
むかしより たえせぬかはの すゑなれは よとむはかりを なになけくらむ
円融院御哥十七雑中
1650もののふのやそ氏かはのあしろ木にいさよふ浪のゆくゑしらすも
もののふの やそうちかはの あしろきに いさよふなみの ゆくへしらすも
柿本人麻呂(人麿)十七雑中
1651わかよをはけふかあすかとまつかひのなみたの瀧といつれたかけん
わかよをは けふかあすかと まつかひの なみたのたきと いつれたかけむ
中納言行平十七雑中
1652みなかみのそらにみゆるは白雲のたつにまかへるぬのひきの瀧
みなかみの そらにみゆるは しらくもの たつにまかへる ぬのひきのたき
藤原師通十七雑中
1653ひさかたのあまつをとめか夏衣くも井にさらすぬのひきのたき
ひさかたの あまつをとめか なつころも くもゐにさらす ぬのひきのたき
有家朝臣十七雑中
1654むかしきくあまのかはらをたつねきてあとなきみつをなかむはかりそ
むかしきく あまのかはらを たつねきて あとなきみつを なかむはかりそ
久我建通(後京極摂政)十七雑中
1655あまのかはかよふうききにこととはんもみちのはしはちるやちらすや
あまのかは かよふうききに こととはむ もみちのはしは ちるやちらすや
実方朝臣十七雑中
1656ま木のいたもこけむすはかりなりにけりいくよへぬらんせたのなかはし
まきのいたも こけむすはかり なりにけり いくよへぬらむ せたのなかはし
前中納言匡房十七雑中
1657さためなき名にはたてれとあすかかははやくわたりしせにこそ有けれ
さためなき なにはたてれと あすかかは はやくわたりし せにこそありけれ
中務十七雑中
1658山さとにひとりなかめておもふかなよにすむ人の心つよさを
やまさとに ひとりなかめて おもふかな よにすむひとの こころつよさを
前大僧正慈円十七雑中
1659やまさとにうきよいとはんとももかなくやしくすきし昔かたらん
やまさとに うきよいとはむ とももかな くやしくすきし むかしかたらむ
西行法師十七雑中
1660山さとは人こさせしとおもはねととはるることそうとくなりゆく
やまさとは ひとこさせしと おもはねと とはるることそ うとくなりゆく
読人知らず十七雑中
1661草のいほをいとひても又いかかせんつゆのいのちのかかるかきりは
くさのいほを いとひてもまた いかかせむ つゆのいのちの かかるかきりは
前大僧正慈円十七雑中
1662わくらはになとかは人のとはさらんをとなし河にすむ身なりとも
わくらはに なとかはひとの とはさらむ おとなしかはに すむみなりとも
大僧正行尊十七雑中
1663世をそむく山のみなみの松風にこけのころもやよさむなるらん
よをそむく やまのみなみの まつかせに こけのころもや よさむなるらむ
安法々師十七雑中
1664いつかわれこけのたもとにつゆをきてしらぬ山ちの月をみるへき
いつかわれ こけのたもとに つゆおきて しらぬやまちの つきをみるへき
家隆朝臣十七雑中
1665いまはわれ松のはしらのすきのいほにとつへき物をこけふかき袖
いまはわれ まつのはしらの すきのいほに とつへきものを こけふかきそて
式子内親王十七雑中
1666しきみつむ山ちのつゆにぬれにけり暁おきのすみ染のそて
しきみつむ やまちのつゆに ぬれにけり あかつきおきの すみそめのそて
太皇太后宮小侍従十七雑中
1667わすれしの人たにとはぬ山ちかな桜は雪にふりかはれとも
わすれしの ひとたにとはぬ やまちかな さくらはゆきに ふりかはれとも
久我建通(後京極摂政)十七雑中
1668かけやとすつゆのみしけくなりはてて草にやつるるふるさとの月
かけやとす つゆのみしけく なりはてて くさにやつるる ふるさとのつき
雅経十七雑中
1669けふりたえてやく人もなきすみかまのあとのなけきをたれかこるらん
けふりたえて やくひともなき すみかまの あとのなけきを たれかこるらむ
賀茂重保十七雑中
1670やそちあまりにしのむかへをまちかねてすみあらしたるしはのいほりそ
やそちあまり にしのむかへを まちかねて すみあらしたる しはのいほりそ
西日法師十七雑中
1671山さとにとひくる人のことくさはこのすまゐこそうらやましけれ
やまさとに とひくるひとの ことくさは このすまひこそ うらやましけれ
前大僧正慈円十七雑中
1672おののえのくちしむかしはとをけれとありしにもあらぬよをもふる哉
をののえの くちしむかしは とほけれと ありしにあらぬ よをもふるかな
式子内親王十七雑中
1673いかにせんしつかそのふのおくのたけかきこもるとも世中そかし
いかにせむ しつかそのふの おくのたけ かきこもるとも よのなかそかし
皇太后宮大夫俊成十七雑中
1674あけくれはむかしをのみそしのふくさ葉すゑのつゆに袖ぬらしつつ
あけくれは むかしをのみそ しのふくさ はすゑのつゆに そてぬらしつつ
祝部成仲十七雑中
1675をかの辺のさとのあるしをたつぬれは人はこたへす山をろしの風
をかのへの さとのあるしを たつぬれは ひとはこたへす やまおろしのかせ
前大僧正慈円十七雑中
1676ふるはたのそはのたつきにゐるはとのともよふ声のすこきゆふくれ
ふるはたの そはのたつきに ゐるはとの ともよふこゑの すこきゆふくれ
西行法師十七雑中
1677山かつのかたをかかけてしむる野のさかひにたてる玉のを柳
やまかつの かたをかかけて しむるのの さかひにたてる たまのをやなき
読人知らず十七雑中
1678しけきのをいくひとむらにわけなしてさらにむかしをしのひかへさん
しけきのを いくひとむらに わけなして さらにむかしを しのひかへさむ
読人知らず十七雑中
1679むかし見し庭のこ松にとしふりて嵐のをとをこすゑにそきく
むかしみし にはのこまつに としふりて あらしのおとを こすゑにそきく
読人知らず十七雑中
1680すみなれしわかふるさとはこのころやあさちかはらにうつらなくらん
すみなれし わかふるさとは このころや あさちかはらに うつらなくらむ
大僧正行尊十七雑中
1681ふるさとはあさちかすゑになりはてて月にのこれる人のおもかけ
ふるさとは あさちかすゑに なりはてて つきにのこれる ひとのおもかけ
久我建通(後京極摂政)十七雑中
1682これや見しむかしすみけんあとならんよもきかつゆに月のかかれる
これやみし むかしすみけむ あとならむ よもきかつゆに つきのかかれる
西行法師十七雑中
1683かけにとてたちかくるれはから衣ぬれぬ雨ふる松のこゑかな
かけにとて たちかくるれは からころも ぬれぬあめふる まつのこゑかな
紀貫之十七雑中
1684いそのかみふりにし人をたつぬれはあれたるやとにすみれつみけり
いそのかみ ふりにしひとを たつぬれは あれたるやとに すみれつみけり
能因法師十七雑中
1685いにしへをおもひやりてそこひわたるあれたるやとのこけのいしはし
いにしへを おもひやりてそ こひわたる あれたるやとの こけのいしはし
恵慶法師十七雑中
1686わくらはにとはれし人もむかしにてそれより庭のあとはたえにき
わくらはに とはれしひとも むかしにて それよりにはの あとはたえにき
定家朝臣十七雑中
1687なけきこる身は山なからすくせかしうきよの中になにかへるらん
なけきこる みはやまなから すくせかし うきよのなかに なにかへるらむ
赤染衛門十七雑中
1688秋されはかり人こゆるたつた山たちてもゐてもものをしそおもふ
あきされは かりひとこゆる たつたやま たちてもゐても ものをしそおもふ
柿本人麻呂(人麿) 十七雑中
1689あさくらやきのまろとのにわかをれはなのりをしつつゆくはたかこそ
あさくらや きのまろとのに わかをれは なのりをしつつ ゆくはたかこそ
天智天皇御哥十七雑中
1690あしひきのこなたかなたにみちはあれと宮こへいさといふ人そなき
あしひきの こなたかなたに みちはあれと みやこへいさと いふひとそなき
久我建通(後京極摂政)十七雑中
1691あまのはらあかねさしいつるひかりにはいつれのぬまかさえのこるへき
あまのはら あかねさしいつる ひかりには いつれのぬまか さえのこるへき
読人知らず十八雑下
1692つきことになかるとおもひしますかかみにしのうみにもとまらさりけり
つきことに なかるとおもひし ますかかみ にしのそらにも とまらさりけり
読人知らず十八雑下
1693山わかれとひゆく雲のかへりくるかけみる時は猶たのまれぬ
やまわかれ とひゆくくもの かへりくる かけみるときは なほたのまれぬ
読人知らず十八雑下
1694きりたちててる日の本はみえすとも身はまとはれしよるへありやと
きりたちて てるひのもとは みえすとも みはまとはれし よるへありやと
読人知らず十八雑下
1695花とちり玉と見えつつあさむけは雪ふるさとそ夢に見えける
はなとちり たまとみえつつ あさむけは ゆきふるさとそ ゆめにみえける
読人知らず十八雑下
1696おいぬとて松はみとりそまさりけるわかくろかみの雪のさむさに
おいぬとて まつはみとりそ まさりける わかくろかみの ゆきのさむさに
読人知らず十八雑下
1697つくしにも紫おふる野辺はあれとなき名かなしふ人そきこえぬ
つくしにも むらさきおふる のへはあれと なきなかなしむ ひとそきこえぬ
読人知らず十八雑下
1698かるかやの関もりにのみ見えつるは人もゆるさぬ道へなりけり
かるかやの せきもりにのみ みえつるは ひともゆるさぬ みちへなりけり
読人知らず十八雑下
1699うみならすたたへる水の底まてにきよき心は月そてらさん
うみならす たたへるみつの そこまてに きよきこころは つきそてらさむ
読人知らず十八雑下
1700ひこほしのゆきあひをまつかささきのとわたるはしを我にかさなん
ひこほしの ゆきあひをまつ かささきの わたせるはしを われにかさなむ
読人知らず十八雑下
1701なかれ木とたつ白浪とやくしほといつれかからきわたつみのそこ
なかれきと たつしらなみと やくしほと いつれかからき わたつみのそこ
読人知らず十八雑下
1702ささなみのひら山風のうみふけはつりするあまの袖かへるみゆ
ささなみの ひらやまかせの うみふけは つりするあまの そてかへるみゆ
読人知らず十八雑下
1703白浪のよするなきさによをつくすあまのこなれはやともさためす
しらなみの よするなきさに よをつくす あまのこなれは やともさためす
読人知らず十八雑下
1704舟のうち浪のうへにそ老にけるあまのしわさもいとまなのよや
ふねのうち なみのしたにそ おいにける あまのしわさも いとまなのよや
久我建通(後京極摂政)十八雑下
1705さすらふる身はさためたるかたもなしうきたる舟のなみにまかせて
さすらふる みはさためたる かたもなし うきたるふねの なみにまかせて
前中納言匡房十八雑下
1706いかにせん身をうきふねのにををもみつゐのとまりやいつこなるらん
いかにせむ みをうきふねの にをおもみ つひのとまりや いつくなるらむ
増賀上人十八雑下
1707あしかものさはくいり江の水のえのよにすみかたきわか身なりけり
あしかもの さわくいりえの みつのえの よにすみかたき わかみなりけり
柿本人麻呂(人麿)十八雑下
1708あしかものは風になひくうき草のさためなきよをたれかたのまん
あしかもの はかせになひく うきくさの さためなきよを たれかたのまむ
能宣朝臣十八雑下
1709おいにけるなきさの松のふかみとりしつめるかけをよそにやはみる
おいにける なきさのまつの ふかみとり しつめるかけを よそにやはみる
十八雑下
1710葦引の山した水にかけみれはまゆしろたへにわれ老にけり
あしひきの やましたみつに かけみれは まゆしろたへに われおいにけり
能因法師十八雑下
1711なれ見てし花のたもとをうちかへしのりの衣をたちそかへつる
なれみてし はなのたもとを うちかへし のりのころもを たちそかへつる
藤原道長(法成寺入道前摂政太政大臣)十八雑下
1712そのかみの玉のかつらをうちかへしいまは衣のうらをたのまん
そのかみの たまのかさしを うちかへし いまはころもの うらをたのまむ
東三条院十八雑下
1713つきもせぬひかりのまにもまきれなておいてかへれるかみのつれなさ
つきもせぬ ひかりのまにも まきれなて おいてかへれる かみのつれなさ
冷泉院太皇太后宮十八雑下
1714かはるらん衣のいろをおもひやるなみたやうらの玉にまかはん
かはるらむ ころものいろを おもひやる なみたやうらの たまにまかはむ
枇杷皇太后宮十八雑下
1715まかふらんころものたまにみたれつつなをまたさめぬ心ちこそすれ
まかふらむ ころものたまに みたれつつ なほまたさめぬ ここちこそすれ
上東門院十八雑下
1716しほのまによものうらうらたつぬれといまはわか身のいふかひもなし
しほのまに よものうらうら たつぬれと いまはわかみの いふかひもなし
和泉式部十八雑下
1717いにしへのあまやけふりとなりぬらん人めも見えぬしほかまのうら
いにしへの あまやけふりと なりぬらむ ひとめもみえぬ しほかまのうら
一条院皇后宮十八雑下
1718宮こより雲のやへたつおく山のよかはの水はすみよかるらん
みやこより くものやへたつ おくやまの よかはのみつは すみよかるらむ
天暦御哥十八雑下
1719ももしきのうちのみつねにこひしくて雲のやへたつ山はすみうし
ももしきの うちのみつねに こひしくて くものやへたつ やまはすみうし
如覚十八雑下
1720夢かともなにかおもはんうきよをはそむかさりけんほとそくやしき
ゆめかとも なにかおもはむ うきよをは そむかさりけむ ほとそくやしき
惟喬親王十八雑下
1721雲井とふ雁のねちかきすまゐにもなをたまつさはかけすやありけん
くもゐとふ かりのねちかき すまひにも なほたまつさは かけすやありけむ
女御徽子女王十八雑下
1722白露はをきてかはれとももしきのうつろふ秋は物そかなしき
しらつゆは おきてかはれと ももしきの うつろふあきは ものそかなしき
伊勢十八雑下
1723あまつ風ふけゐのうらにゐるたつのなとか雲井にかへらさるへき
あまつかせ ふけひのうらに ゐるたつの なとかくもゐに かへらさるへき
藤原清正十八雑下
1724いにしへのなれし雲井をしのふとやかすみをわけて君たつねけん
いにしへの なれしくもゐを しのふとや かすみをわけて きみたつねけむ
読人知らず十八雑下
1725おほよとのうらにかりほすみるめたにかすみにたへてかへるかりかね
おほよとの うらにかりほす みるめたに かすみにたえて かへるかりかね
定家朝臣十八雑下
1726はまちとりふみをくあとのつもりなはかひあるうらにあはさらめやは
はまちとり ふみおくあとの つもりなは かひあるうらに あはさらめやは
後白河院御哥十八雑下
1727瀧つせに人の心を見ることはむかしにいまもかはらさりけり
たきつせに ひとのこころを みることは むかしにいまも かはらさりけり
後朱雀院御哥十八雑下
1728あさからぬ心そみゆるをとはかはせきいれし水のなかれならねと
あさからぬ こころそみゆる おとはかは せきいれしみつの なかれならねと
周防内侍十八雑下
1729ことの葉の中をなくなくたつぬれはむかしの人にあひみつる哉
ことのはの なかをなくなく たつぬれは むかしのひとに あひみつるかな
壬生忠見十八雑下
1730ひとりねのこよひもあけぬたれとしもたのまはこそはこぬもうらみめ
ひとりねの こよひもあけぬ たれとしも たのまはこそは こぬもうらみめ
藤原為忠朝臣十八雑下
1731くさわけてたちゐるそてのうれしさにたへすなみたのつゆそこほるる
くさわけて たちゐるそての うれしさに たえすなみたの つゆそこほるる
赤染衛門十八雑下
1732うれしさはわすれやはするしのふくさしのふる物を秋の夕くれ
うれしさは わすれやはする しのふくさ しのふるものを あきのゆふくれ
伊勢大輔十八雑下
1733秋風のをとせさりせは白露ののきのしのふにかからましやは
あきかせの おとせさりせは しらつゆの のきのしのふに かからましやは
大納言経信十八雑下
1734しのふくさいかなるつゆかをきつらんけさはねもみなあらはれにけり
しのふくさ いかなるつゆか おきつらむ けさはねもみな あらはれにけり
右大将済時十八雑下
1735あさちふをたつねさりせはしのふくさおもひをきけんつゆを見ましや
あさちふを たつねさりせは しのふくさ おもひおきけむ つゆをみましや
左大将朝光十八雑下
1736なからへんとしもおもはぬつゆの身のさすかにきえんことをこそおもへ
なからへむ としもおもはぬ つゆのみの さすかにきえむ ことをこそおもへ
読人知らず十八雑下
1737つゆの身のきえはわれこそさきたためをくれん物かもりの下草
つゆのみの きえはわれこそ さきたため おくれむものか もりのしたくさ
小馬命婦十八雑下
1738いのちさへあらは見つへき身のはてをしのはん人のなきそかなしき
いのちさへ あらはみつへき みのはてを しのはむひとの なきそかなしき
和泉式部十八雑下
1739さためなきむかしかたりをかそふれはわか身もかすにいりぬへき哉
さためなき むかしかたりを かそふれは わかみもかすに いりぬへきかな
大僧正行尊十八雑下
1740世中のはれゆくそらにふる霜のうき身はかりそをき所なき
よのなかの はれゆくそらに ふるしもの うきみはかりそ おきところなき
前大僧正慈円十八雑下
1741たのみこしわかふるてらのこけのしたにいつしかくちん名こそおしけれ
たのみこし わかふるてらの こけのしたに いつかくちなむ なこそをしけれ
読人知らず十八雑下
1742くりかへしわか身のとかをもとむれは君もなきよにめくるなりけり
くりかへし わかみのとかを もとむれは きみもなきよに めくるなりけり
大僧正行尊十八雑下
1743うしといひてよをひたふるにそむかねは物おもひしらぬ身とやなりなん
うしといひて よをひたふるに そむかねは ものおもひしらぬ みとやなりなむ
清原元輔十八雑下
1744そむけともあめのしたをしはなれねはいつくにもふる涙なりけり
そむけとも あめのしたをし はなれねは いつくにもふる なみたなりけり
読人知らず十八雑下
1745おほそらにてる日のいろをいさめてもあめのしたにはたれかすむへき
おほそらに てるひのいろを いさめても あめのしたには たれかすむへき
女蔵人内匠十八雑下
1746かくしつつゆふへの雲となりもせは哀かけてもたれかしのはん
かくしつつ ゆふへのくもと なりもせは あはれかけても たれかしのはむ
周防内侍十八雑下
1747おもはねとよをそむかんといふ人のおなしかすにやわれもなるらん
おもはねと よをそむかむと いふひとの おなしかすにや われもなりなむ
前大僧正慈円十八雑下
1748かすならぬ身をも心のもちかほにうかれては又かへりきにけり
かすならぬ みをもこころの もちかほに うかれてはまた かへりきにけり
西行法師十八雑下
1749をろかなる心のひくにまかせてもさてさはいかにつゐのおもひは
おろかなる こころのひくに まかせても さてさはいかに つひのおもひは
読人知らず十八雑下
1750とし月をいかてわか身にをくりけん昨日の人もけふはなきよに
としつきを いかてわかみに おくりけむ きのふのひとも けふはなきよに
読人知らず十八雑下
1751うけかたき人のすかたにうかひいててこりすやたれも又しつむへき
うけかたき ひとのすかたに うかひいてて こりすやたれも またしつむへき
読人知らず十八雑下
1752そむきてもなをうき物はよなりけり身をはなれたる心ならねは
そむきても なほうきものは よなりけり みをはなれたる こころならねは
寂蓮法師十八雑下
1753身のうさをおもひしらすはいかかせんいとひなからも猶すくす哉
みのうさを おもひしらすは いかかせむ いとひなからも なほすくすかな
読人知らず十八雑下
1754なにことをおもふ人そと人とははこたへぬさきに袖そぬるへき
なにことを おもふひとそと ひととはは こたへぬさきに そてそぬるへき
前大僧正慈円十八雑下
1755いたつらにすきにしことやなけかれんうけかたき身の夕暮のそら
いたつらに すきにしことや なけかれむ うけかたきみの ゆふくれのそら
読人知らず十八雑下
1756うちたえてよにふる身にはあらねともあらぬすちにもつみそかなしき
うちたえて よにふるみには あらねとも あらぬすちにも つみそかなしき
読人知らず十八雑下
1757山さとに契しいほやあれぬらんまたれんとたにおもはさりしを
やまさとに ちきりしいほや あれぬらむ またれむとたに おもはさりしを
読人知らず十八雑下
1758袖にをく露をはつゆとしのへともなれゆく月やいろをしるらん
そてにおく つゆをはつゆと しのへとも なれゆくつきや いろをしるらむ
右衛門督通具十八雑下
1759君かよにあはすはなにを玉のをのなかくとまてはおしまれし身を
きみかよに あはすはなにを たまのをの なかくとまては をしまれしみを
定家朝臣十八雑下
1760おほかたの秋のねさめのなかき夜も君をそいのる身をおもふとて
おほかたの あきのねさめの なかきよも きみをそいのる みをおもふとて
家隆朝臣十八雑下
1761わかのうらやおきつしほあひにうかひいつるあはれわか身のよるへしらせよ
わかのうらや おきつしほあひに うかひいつる あはれわかみの よるへしらせよ
読人知らず十八雑下
1762その山とちきらぬ月も秋風もすすむる袖につゆこほれつつ
そのやまと ちきらぬつきも あきかせも すすむるそてに つゆこほれつつ
読人知らず十八雑下
1763君かよにあへるはかりの道はあれと身をはたのますゆくすゑの空
きみかよに あへるはかりの みちはあれと みをはたのます ゆくすゑのそら
雅経朝臣十八雑下
1764おしむともなみたに月も心からなれぬる袖に秋をうらみて
をしむとも なみたにつきも こころから なれぬるそてに あきをうらみて
皇太后宮大夫俊成女十八雑下
1765うきしつみこんよはさてもいかにそと心にとひてこたへかねぬる
うきしつみ こむよはさても いかにそと こころにとひて こたへかねぬる
久我建通(後京極摂政)十八雑下
1766われなから心のはてをしらぬかなすてられぬよの又いとはしき
われなから こころのはてを しらぬかな すてられぬよの またいとはしき
読人知らず十八雑下
1767をしかへし物をおもふはくるしきにしらすかほにてよをやすきまし
おしかへし ものをおもふは くるしきに しらすかほにて よをやすきまし
読人知らず十八雑下
1768なからへてよにすむかひはなけれともうきにかへたる命なりけり
なからへて よにすむかひは なけれとも うきにかへたる いのちなりけり
守覚法親王十八雑下
1769世をすつる心はなをそなかりけるうきをうしとはおもひしれとも
よをすつる こころはなほそ なかりける うきをうしとは おもひしれとも
権中納言兼宗十八雑下
1770すてやらぬわか身そつらきさりともとおもふ心にみちをまかせて
すてやらぬ わかみそつらき さりともと おもふこころに みちをまかせて
左近中将公衡十八雑下
1771うきなからあれはあるよにふるさとの夢をうつつにさましかねても
うきなから あれはあるよに ふるさとの ゆめをうつつに さましかねても
読人知らず十八雑下
1772うきなから猶おしまるるいのちかな後のよとてもたのみなけれは
うきなから なほをしまるる いのちかな のちのよとても たのみなけれは
源師光十八雑下
1773さりともとたのむ心のゆくすゑもおもへはしらぬよにまかすらん
さりともと たのむこころの ゆくすゑも おもへはしらぬ よにまかすらむ
賀茂重保十八雑下
1774つくつくとおもへはやすきよの中を心となけくわか身なりけり
つくつくと おもへはやすき よのなかを こころとなけく わかみなりけり
荒木田長延十八雑下
1775河舟ののほりわつらふつなてなわくるしくてのみよをわたる哉
かはふねの のほりわつらふ つなてなは くるしくてのみ よをわたるかな
刑部卿頼輔十八雑下
1776おいらくの月日はいととはやせかはかへらぬなみにぬるる袖かな
おいらくの つきひはいとと はやせかは かへらぬなみに ぬるるそてかな
大僧都覚弁十八雑下
1777かきなかすことの葉をたにしつむなよ身こそかくても山河の水
かきなかす ことのはをたに しつむなよ みこそかくても やまかはのみつ
藤原行能十八雑下
1778見れはまついとと涙そもろかつらいかに契てかけはなれけん
みれはまつ いととなみたそ もろかつら いかにちきりて かけはなれけむ
鴨長明十八雑下
1779おなしくはあれないにしへおもひいてのなけれはとてもしのはすもなし
おなしくは あれないにしへ おもひいての なけれはとても しのはすもなし
源季景十八雑下
1780いつくにもすまれすはたたすまてあらんしはのいほりのしはしなるよに
いつくにも すまれすはたた すまてあらむ しはのいほりの しはしなるよに
西行法師十八雑下
1781月のゆく山に心ををくりいれてやみなるあとの身をいかにせん
つきのゆく やまにこころを おくりいれて やみなるあとの みをいかにせむ
読人知らず十八雑下
1782おもふことなととふ人のなかるらんあふけはそらに月そさやけき
おもふことを なととふひとの なかるらむ あふけはそらに つきそさやけき
前大僧正慈円十八雑下
1783いかにしていままてよには在曙のつきせぬ物をいとふ心は
いかにして いままてよには ありあけの つきせぬものを いとふこころは
読人知らず十八雑下
1784うきよいてし月日のかけのめくりきてかはらぬ道を又てらすらん
うきよいてし つきひのかけの めくりきて かはらぬみちを またてらすらむ
読人知らず十八雑下
1785人しれすそなたをしのふ心をはかたふく月にたくへてそやる
ひとしれす そなたをしのふ こころをは かたふくつきに たくへてそやる
承仁法親王十八雑下
1786みちのくのいはてしのふはえそしらぬかきつくしてよつほのいしふみ
みちのくの いはてしのふは えそしらぬ かきつくしてよ つほのいしふみ
前右大将頼朝十八雑下
1787けふまては人をなけきてくれにけりいつ身のうへにならんとすらん
けふまては ひとをなけきて くれにけり いつみのうへに ならむとすらむ
大江嘉言十八雑下
1788みちしはのつゆにあらそふわか身かないつれかまつはきえんとすらん
みちしはの つゆにあらそふ わかみかな いつれかまつは きえむとすらむ
清慎公十八雑下
1789なにとかやかへにおふなる草のなよそれにもたくふわか身なりけり
なにとかや かへにおふなる くさのなよ それにもたくふ わかみなりけり
皇嘉門院十八雑下
1790こしかたをさなから夢になしつれはさむるうつつのなきそかなしき
こしかたを さなからゆめに なしつれは さむるうつつの なきそかなしき
権中納言資実十八雑下
1791ちとせふる松たにくつるよの中にけふともしらてたてるわれかな
ちとせふる まつたにくつる よのなかに けふともしらて たてるわれかな
性空上人十八雑下
1792かすならてよにすみの江のみをつくしいつをまつともなき身なりけり
かすならて よにすみのえの みをつくし いつをまつとも なきみなりけり
後頼朝臣十八雑下
1793うきなからひさしくそよをすきにける哀やかけしすみよしの松
うきなから ひさしくそよを すきにける あはれやかけし すみよしのまつ
皇太后宮大夫俊成十八雑下
1794かすか山たにのむもれ木くちぬとも君につけこせみねの松風
かすかやま たにのうもれき くちぬとも きみにつけこせ みねのまつかせ
家隆朝臣十八雑下
1795なにとなくきけは涙そこほれぬるこけのたもとにかよふ松風
なにとなく きけはなみたそ こほれぬる こけのたもとに かよふまつかせ
宜秋門院丹後十八雑下
1796みな人のそむきはてぬるよの中にふるのやしろの身をいかにせん
みなひとの そむきはてぬる よのなかに ふるのやしろの みをいかにせむ
女御徽子女王十八雑下
1797衣ての山井の水にかけみえし猶そのかみの春そこひしき
ころもての やまゐのみつに かけみえし なほそのかみの はるそこひしき
実方朝臣十八雑下
1798いにしへの山井の衣なかりせはわすらるる身となりやしなまし
いにしへの やまゐのころも なかりせは わすらるるみと なりやしなまし
道信朝臣十八雑下
1799たちなからきてたに見せよをみ衣あかぬむかしの忘かたみに
たちなから きてたにみせよ をみころも あかぬむかしの わすれかたみに
加賀朝臣十八雑下
1800秋の夜のあか月かたのきりきりすひとつてならてきかまし物を
あきのよの あかつきかたの きりきりす ひとつてならて きかましものを
天暦御哥十八雑下
1801なかめつつわかおもふことはひくらしにのきのしつくのたゆるよもなし
なかめつつ わかおもふことは ひくらしに のきのしつくの たゆるまもなし
中務卿具平親王十八雑下
1802こからしの風にもみちて人しれすうきことの葉のつもる比かな
こからしの かせにもみちて ひとしれす うきことのはの つもるころかな
小野小町十八雑下
1803嵐ふくみねのもみちの日にそへてもろくなりゆくわか涙哉
あらしふく みねのもみちの ひにそへて もろくなりゆく わかなみたかな
皇太后宮大夫俊成十八雑下
1804うたたねはおきふく風におとろけとなかき夢ちそさむる時なき
うたたねは をきふくかせに おとろけと なかきゆめちそ さむるときなき
崇徳院御哥十八雑下
1805竹の葉に風ふきよはるゆふくれのものの哀は秋としもなし
たけのはに かせふきよわる ゆふくれの もののあはれは あきとしもなし
後鳥羽院宮内卿十八雑下
1806ゆふくれは雲のけしきをみるからになかめしとおもふ心こそつけ
ゆふくれは くものけしきを みるからに なかめしとおもふ こころこそつけ
和泉式部十八雑下
1807くれぬめりいくかをかくてすきぬらん入あひのかねのつくつくとして
くれぬなり いくかをかくて すきぬらむ いりあひのかねの つくつくとして
読人知らず十八雑下
1808またれつる入あひのかねのをとすなりあすもやあらはきかんとすらん
またれつる いりあひのかねの おとすなり あすもやあらは きかむとすらむ
西行法師十八雑下
1809あか月とつけの枕をそはたててきくもかなしき鐘のをと哉
あかつきと つけのまくらを そはたてて きくもかなしき かねのおとかな
皇太后宮大夫俊成十八雑下
1810あか月のゆふつけとりそ哀なるなかきねふりをおもふ枕に
あかつきの ゆふつけとりそ あはれなる なかきねふりを おもふまくらに
式子内親王十八雑下
1811かくはかりうきをしのひてなからへはこれよりまさる物もこそおもへ
かくはかり うきをしのひて なからへは これよりまさる ものをこそおもへ
和泉式部十八雑下
1812たらちねのいさめし物をつれつれとなかむるをたにとふ人もなし
たらちねの いさめしものを つれつれと なかむるをたに とふひともなし
読人知らず十八雑下
1813あはれとてはくくみたてしいにしへはよをそむけともおもはさりけん
あはれとて はくくみたてし いにしへは よをそむけとも おもはさりけむ
大僧正行尊十八雑下
1814くらゐ山あとをたつねてのほれともこをおもふみちに猶まよひぬる
くらゐやま あとをたつねて のほれとも こをおもふみちに なほまよひぬる
源師房十八雑下
1815むかしたにむかしとおもひしたらちねのなをこひしきそはかなかりける
むかしたに むかしとおもひし たらちねの なほこひしきそ はかなかりける
皇太后宮大夫俊成十八雑下
1816ささかにのいとかかりける身のほとをおもへは夢の心ちこそすれ
ささかにの いとかかりける みのほとを おもへはゆめの ここちこそすれ
俊頼朝臣十八雑下
1817ささかにのそらにすかくもおなしことまたきやとにもいくよかはへん
ささかにの そらにすかくも おなしこと またきやとりも いくよかはへむ
僧正遍昭十八雑下
1818ひかりまつえたにかかれるつゆのいのちきえはてねとやはるのつれなき
ひかりまつ えたにかかれる つゆのいのち きえはてねとや はるのつれなき
源高明十八雑下
1819あらくふく風はいかにと宮木ののこはきかうへを人のとへかし
あらくふく かせはいかにと みやきのの こはきかうへを ひとのとへかし
赤染衛門十八雑下
1820うつろはてしはししのたのもりをみよかへりもそするくすのうら風
うつろはて しはししのたの もりをみよ かへりもそする くすのうらかせ
読人知らず十八雑下
1821秋風はすこくふけともくすの葉のうらみかほには見えしとそおもふ
あきかせは すこくふくとも くすのはの うらみかほには みえしとそおもふ
和泉式部十八雑下
1822をささはら風まつ露のきえやらすこのひとふしをおもひをくかな
をささはら かせまつつゆの きえやらす このひとふしを おもひおくかな
皇太后宮大夫俊成十八雑下
1823世中をいまはの心つくからにすきにしかたそいととこひしき
よのなかを いまはのこころ つくからに すきにしかたそ いととこひしき
前大僧正慈円十八雑下
1824よをいとふ心のふかくなるままにすくる月日をうちかそへつつ
よをいとふ こころのふかく なるままに すくるつきひを うちかそへつつ
読人知らず十八雑下
1825ひとかたにおもひとりにし心にはなをそむかるる身をいかにせん
ひとかたに おもひとりにし こころには なほそむかるる みをいかにせむ
読人知らず十八雑下
1826なにゆへにこのよをふかくいとふそと人のとへかしやすくこたへん
なにゆゑに このよをふかく いとふそと ひとのとへかし やすくこたへむ
読人知らず十八雑下
1827おもふへきわか後のよはあるかなきかなけれはこそはこのよにはすめ
おもふへき わかのちのよは あるかなきか なけれはこそは このよにはすめ
読人知らず十八雑下
1828世をいとふ名をたにもさはととめをきてかすならぬ身のおもひいてにせん
よをいとふ なをたにもさは ととめおきて かすならぬみの おもひいてにせむ
西行法師十八雑下
1829身のうさをおもひしらてややみなましそむくならひのなきよなりせは
みのうさを おもひしらてや やみなまし そむくならひの なきよなりせは
読人知らず十八雑下
1830いかかすへきよにあらはやはよをもすててあなうのよやとさらにおもはん
いかかすへき よにあらはやは よをもすてて あなうのよやと さらにおもはむ
読人知らず十八雑下
1831なに事にとまる心のありけれはさらにしも又よのいとはしき
なにことに とまるこころの ありけれは さらにしもまた よのいとはしき
読人知らず十八雑下
1832むかしよりはなれかたきはうきよかなかたみにしのふ中ならねとも
むかしより はなれかたきは うきよかな かたみにしのふ なかならねとも
九条兼実(入道前関白太政大臣)十八雑下
1833おもひいててもしもたつぬる人もあらはありとないひそさためなきよに
おもひいてて もしもたつぬる ひともあらは ありとないひそ さためなきよに
大僧正行尊十八雑下
1834かすならぬ身をなにゆへにうらみけんとてもかくてもすくしけるよを
かすならぬ みをなにゆゑに うらみけむ とてもかくても すくしけるよを
読人知らず十八雑下
1835いつかわれみ山のさとのさひしきにあるしとなりて人にとはれん
いつかわれ みやまのさとの さひしきに あるしとなりて ひとにとはれむ
前大僧正慈円十八雑下
1836うき身には山田のをしねをしこめてよをひたすらにうらみわひぬる
うきみには やまたのおしね おしこめて よをひたすらに うらみわひぬる
俊頼朝臣十八雑下
1837しつのをのあさなあさなにこりつむるしはしのほともありかたのよや
しつのをの あさなあさなに こりつむる しはしのほとも ありかたのよや
山田法師十八雑下
1838かすならぬ身はなき物になしはてつたかためにかはよをもうらみん
かすならぬ みはなきものに なしはてつ たかためにかは よをもうらみむ
寂蓮法師十八雑下
1839たのみありて今ゆくすゑをまつ人やすくる月日をなけかさるらん
たのみありて いまゆくすゑを まつひとや すくるつきひを なけかさるらむ
法橋行遍十八雑下
1840なからへていけるをいかにもとかましうき身のほとをよそにおもはは
なからへて いけるをいかに もとかまし うきみのほとを よそにおもはは
源師光十八雑下
1841うきよをはいつる日ことにいとへともいつかは月のいるかたを見ん
うきよをは いつるひことに いとへとも いつかはつきの いるかたをみむ
八条院高倉十八雑下
1842なさけありしむかしのみ猶しのはれてなからへまうき世にもふるかな
なさけありし むかしのみなほ しのはれて なからへまうき よにもふるかな
西行法師十八雑下
1843なからへは又このころやしのはれんうしと見しよそ今はこひしき
なからへは またこのころや しのはれむ うしとみしよそ いまはこひしき
清輔朝臣十八雑下
1844すゑのよもこのなさけのみかはらすと見し夢なくはよそにきかまし
すゑのよも このなさけのみ かはらすと みしゆめなくは よそにきかまし
西行法師十八雑下
1845ゆくすゑはわれをもしのふ人やあらんむかしをおもふ心ならひに
ゆくすゑは われをもしのふ ひとやあらむ むかしをおもふ こころならひに
皇太后宮大夫俊成十八雑下
1846世中をおもひつらねてなかむれはむなしきそらにきゆる白雲
よのなかを おもひつらねて なかむれは むなしきそらに きゆるしらくも
皇太后宮大夫俊成十八雑下
1847くるるまもまつへきよかはあたしののすゑはのつゆに嵐たつ也
くるるまも まつへきよかは あたしのの すゑはのつゆに あらしたつなり
式子内親王十八雑下
1848つのくにのなからふへくもあらぬかなみしかきあしのよにこそ有けれ
つのくにの なからふへくも あらぬかな みしかきあしの よにこそありけれ
華山院御哥十八雑下
1849風はやみおきの葉ことにをくつゆのをくれさきたつほとのはかなさ
かせはやみ をきのはことに おくつゆの おくれさきたつ ほとのはかなさ
中務卿具平親王十八雑下
1850秋風になひくあさちのすゑことにをく白露のあはれ世中
あきかせに なひくあさちの すゑことに おくしらつゆの あはれよのなか
蝉丸十八雑下
1851よの中はとてもかくてもおなしことみやもわらやもはてしなけれは
よのなかは とてもかくても おなしこと みやもわらやも はてしなけれは
読人知らず十八雑下
1852しるらめやけふのねの日のひめこ松おひんすゑまてさかゆへしとは
しるらめや けふのねのひの ひめこまつ おひむすゑまて さかゆへしとは
読人知らず十九神祇
1853なさけなくおる人つらしわかやとのあるしわすれぬ梅のたちえを
なさけなく をるひとつらし わかやとの あるしわすれぬ うめのたちえを
読人知らず十九神祇
1854ふたらくのみなみのきしにたうたてていまそさかえんきたのふちなみ
ふたらくの みなみのきしに たうたてて いまそさかえむ きたのふちなみ
読人知らず十九神祇
1855夜やさむき衣やうすきかたそきのゆきあひのまより霜やをくらん
よやさむき ころもやうすき かたそきの ゆきあひのまより しもやおくらむ
読人知らず十九神祇
1856いかはかりとしはへねともすみの江の松そふたたひおひかはりぬる
いかはかり としはへねとも すみのえの まつそふたたひ おひかはりぬる
読人知らず十九神祇
1857むつましと君はしらなみみつかきのひさしきよよりいはひそめてき
むつましと きみはしらなみ みつかきの ひさしきよより いはひそめてき
読人知らず十九神祇
1858人しれすいまやいまやとちはやふる神さふるまて君をこそまて
ひとしれす いまやいまやと ちはやふる かみさふるまて きみをこそまて
読人知らず十九神祇
1859みちとをしほともはるかにへたたれりおもひをこせよわれもわすれし
みちとほし ほともはるかに へたたれり おもひおこせよ われもわすれし
読人知らず十九神祇
1860おもふこと身にあまるまてなる瀧のしはしよとむをなにうらむらん
おもふこと みにあまるまて なるたきの しはしよとむを なにうらむらむ
読人知らず十九神祇
1861われたのむ人いたつらになしはては又雲わけてのほるはかりそ
われたのむ ひといたつらに なしはては またくもわけて のほるはかりそ
読人知らず十九神祇
1862かかみにもかけみたらしの水のおもにうつるはかりの心とをしれ
かかみにも かけみたらしの みつのおもに うつるはかりの こころとをしれ
読人知らず十九神祇
1863ありきつつきつつ見れともいさきよき人の心をわれわすれめや
ありきつつ きつつみれとも いさきよき ひとのこころを われわすれめや
読人知らず十九神祇
1864にしのうみたつ白浪のうへにしてなにすくすらんかりのこのよを
にしのうみ たつしらなみの うへにして なにすくすらむ かりのこのよを
読人知らず十九神祇
1865しらなみにたまよりひめのこしことはなきさやつゐにとまりなりけん
しらなみに たまよりひめの こしことは なきさやつひの とまりなりけむ
大江千古十九神祇
1866ひさかたのあめのやへ雲ふりわけてくたりし君をわれそむかへし
ひさかたの あめのやへくも ふりわけて くたりしきみを われそむかへし
紀淑望十九神祇
1867とひかけるあまのいはふねたつねてそあきつしまには宮はしめける
とひかける あまのいはふね たつねてそ あきつしまには みやはしめける
三統理平十九神祇
1868やまとかもうみにあらしのにしふかはいつれのうらにみ舟つなかん
やまとかも うみにあらしの にしふかは いつれのうらに みふねつなかむ
読人知らず十九神祇
1869をく霜にいろもかはらぬさかき葉のかをやは人のとめてきつらん
おくしもに いろもかはらぬ さかきはの かをやはひとの とめてきつらむ
紀貫之十九神祇
1870宮人のすれるころもにゆふたすきかけて心をたれによすらん
みやひとの すれるころもに ゆふたすき かけてこころを たれによすらむ
読人知らず十九神祇
1871神風やみもすそ河のそのかみに契しことのすゑをたかふな
かみかせや みもすそかはの そのかみよ ちきりしことの すゑをたかふな
久我建通(後京極摂政)十九神祇
1872契ありてけふみやかはのゆふかつらなかきよまてもかけてたのまん
ちきりありて けふみやかはの ゆふかつら なかきよまても かけてたのまむ
藤原定家朝臣十九神祇
1873うれしさも哀もいかにこたへましふるさと人にとはれましかは
うれしさも あはれもいかに こたへまし ふるさとひとに とはれましかは
読人知らず十九神祇
1874神風やいすす河浪かすしらすすむへきみよに又かへりこん
かみかせや いすすかはなみ かすしらす すむへきみよに またかへりこむ
春宮権大夫公継十九神祇
1875なかめはや神ちの山に雲きえてゆふへのそらをいてん月かけ
なかめはや かみちのやまに くもきえて ゆふへのそらを いてむつきかけ
太上天皇十九神祇
1876神かせやとよみてくらになひくしてかけてあふくといふもかしこし
かみかせや とよみてくらに なひくして かけてあふくと いふもかしこし
読人知らず十九神祇
1877宮はしらしたついはねにしきたててつゆもくもらぬ日のみかけ哉
みやはしら したついはねに しきたてて つゆもくもらぬ ひのみかけかな
西行法師十九神祇
1878神ち山月さやかなるちかひありてあめのしたをはてらすなりけり
かみちやま つきさやかなる ちかひありて あめのしたをは てらすなりけり
読人知らず十九神祇
1879さやかなるわしのたかねの雲井よりかけやはらくる月よみのもり
さやかなる わしのたかねの くもゐより かけやはらくる つきよみのもり
読人知らず十九神祇
1880やはらくるひかりにあまるかけなれやいすすかはらの秋のよの月
やはらくる ひかりにあまる かけなれや いすすかはらの あきのよのつき
前大僧正慈円十九神祇
1881たちかへり又も見まくのほしきかなみもすそかはのせせの白浪
たちかへり またもみまくの ほしきかな みもすそかはの せせのしらなみ
源雅定十九神祇
1882神風やいすすのかはの宮はしらいくちよすめとたちはしめけん
かみかせや いすすのかはの みやはしら いくちよすめと たてはしめけむ
皇太后宮大夫俊成十九神祇
1883神風やたまくしの葉をとりかさしうちとの宮に君をこそいのれ
かみかせや たまくしのはを とりかはし うちとのみやに きみをこそいのれ
俊恵法師十九神祇
1884神かせや山田のはらのさかき葉に心のしめをかけぬ日そなき
かみかせや やまたのはらの さかきはに こころのしめを かけぬひそなき
嘉陽門院越前十九神祇
1885いすす河そらやまたきに秋の声したついはねの松の夕風
いすすかは そらやまたきに あきのこゑ したついはねの まつのゆふかせ
大中臣明親十九神祇
1886ちはやふるかしゐの宮のあやすきは神のみそきにたてるなりけり
ちはやふる かしひのみやの あやすきは かみのみそきに たてるなりけり
読人知らず十九神祇
1887さかき葉にそのいふかひはなけれとも神に心をかけぬまそなき
さかきはに そのゆふかひは なけれとも かみにこころを かけぬまそなき
法印成清十九神祇
1888としをへてうきかけをのみみたらしのかはるよもなき身をいかにせん
としをへて うきかけをのみ みたらしの かはるよもなき みをいかにせむ
周防内侍十九神祇
1889月さゆるみたらし河にかけみえてこほりにすれる山あゐの袖
つきさゆる みたらしかはに かけみえて こほりにすれる やまあゐのそて
皇太后宮大夫俊成十九神祇
1890ゆふしての風にみたるるをとさえて庭しろたへに雪そつもれる
ゆふしての かせにみたるる おとさえて にはしろたへに ゆきそつもれる
按察使公通十九神祇
1891君をいのる心のいろを人とははたたすの宮のあけの玉かき
きみをいのる こころのいろを ひととはは たたすのみやの あけのたまかき
前大僧正慈円十九神祇
1892あとたれし神にあふひのなかりせはなににたのみをかけてすきまし
あとたれし かみにあふひの なかりせは なににたのみを かけてすきまし
賀茂重保十九神祇
1893おほみ田のうるおふはかりせきかけて井せきにおとせかはかみの神
おほみたの うるほふはかり せきかけて ゐせきにおとせ かはかみのかみ
賀茂幸平十九神祇
1894いしかはのせみのをかはのきよけれは月もなかれをたつねてそすむ
いしかはや せみのをかはの きよけれは つきもなかれを たつねてそすむ
鴨長明十九神祇
1895よろつよをいのりそかくるゆふたすきかすかの山の峯の嵐に
よろつよを いのりそかくる ゆふたすき かすかのやまの みねのあらしに
中納言資仲十九神祇
1896けふまつる神の心やなひくらんしてに浪たつさほのかは風
けふまつる かみのこころや なひくらむ してになみたつ さほのかはかせ
九条兼実(入道前関白太政大臣)十九神祇
1897あめのしたみかさの山のかけならてたのむかたなき身とはしらすや
あめのした みかさのやまの かけならて たのむかたなき みとはしらすや
読人知らず十九神祇
1898かすか野のをとろのみちのむもれ水すゑたに神のしるしあらはせ
かすかのの おとろのみちの うもれみつ すゑたにかみの しるしあらはせ
読人知らず十九神祇
1899ちよまても心してふけもみちはを神もをしほの山おろしの風
ちよまても こころしてふけ もみちはを かみもをしほの やまおろしのかせ
藤原伊家十九神祇
1900をしほ山神のしるしを松の葉にちきりしいろはかへる物かは
をしほやま かみのしるしを まつのはに ちきりしはるは かへるものかは
前大僧正慈円十九神祇
1901やはらくるかけそふもとにくもりなきもとの光はみねにすめとも
やはらくる かけそふもとに くもりなき もとのひかりは みねにすめとも
読人知らず十九神祇
1902わかたのむななのやしろのゆふたすきかけてもむつの道にかへすな
わかたのむ ななのやしろの ゆふたすき かけてもむつの みちにかへすな
読人知らず十九神祇
1903をしなへて日よしのかけはくもらぬになみたあやしき昨日けふかな
おしなへて ひよしのかけは くもらぬに なみたあやしき きのふけふかな
読人知らず十九神祇
1904もろ人のねかひをみつのはま風に心すすしきしてのをとかな
もろともの ねかひをみつの はまかせに こころすすしき してのおとかな
読人知らず十九神祇
1905さめぬれはおもひあはせてねをそなく心つくしの古の夢
さめぬれは おもひあはせて ねをそなく こころつくしの いにしへのゆめ
読人知らず十九神祇
1906さきにほふ花のけしきをみるからに神の心そそらにしらるる
さきにほふ はなのけしきを みるからに かみのこころそ そらにしらるる
白河院御哥十九神祇
1907いはにむすこけふみならすみくまのの山のかひあるゆくすゑもかな
いはにむす こけふみならす みくまのの やまのかひある ゆくすゑもかな
太上天皇十九神祇
1908くまのかはくたすはやせのみなれさほさすかみなれぬ浪のかよひち
くまのかは くたすはやせの みなれさを さすかみなれぬ なみのかよひち
読人知らず十九神祇
1909たちのほるしほやのけふりうら風になひくを神の心とも哉
たちのほる しほやのけふり うらかせに なひくをかみの こころともかな
徳大寺実定十九神祇
1910いはしろの神はしるらんしるへせよたのむうきよの夢のゆくすゑ
いはしろの かみはしるらむ しるへせよ たのむうきよの ゆめのゆくすゑ
読人知らず十九神祇
1911契あれはうれしきかかるおりにあひぬわするな神もゆくすゑの空
ちきりあれは うれしきかかる をりにあひぬ わするなかみも ゆくすゑのそら
太上天皇十九神祇
1912としふともこしの白山わすれすはかしらの雪を哀とも見よ
としふとも こしのしらやま わすれすは かしらのゆきを あはれともみよ
左京大夫顕輔十九神祇
1913すみよしのはま松かえに風ふけはなみのしらゆふかけぬまそなき
すみよしの はままつかえに かせふけは なみのしらゆふ かけぬまそなき
藤原道経十九神祇
1914さかき葉の霜うちはらひかれすのみすめとそいのる神のみまへに
さかきはの しもうちはらひ かれすのみ すめともいのる かみのみまへに
能宣朝臣十九神祇
1915河やしろしのにおりはへほす衣いかにほせはかなぬかひさらん
かはやしろ しのにをりはへ ほすころも いかにほせはか なぬかひさらむ
紀貫之十九神祇
1916なをたのめしめちかはらのさせも草わかよの中にあらんかきりは
なほたのめ しめちかはらの させもくさ わかよのなかに あらむかきりは
読人知らず二十釈教
1917なにかおもふなにをかなけく世中はたたあさかほの花のうへの露
なにかおもふ なにとかなけく よのなかは たたあさかほの はなのうへのつゆ
読人知らず二十釈教
1918山ふかくとしふるわれもあるものをいつちか月のいててゆくらん
やまふかく としふるわれも あるものを いつちかつきの いててゆくらむ
読人知らず二十釈教
1919あしそよくしほせの浪のいつまてかうきよの中にうかひわたらん
あしそよく しほせのなみの いつまてか うきよのなかに うかひわたらむ
行基菩薩二十釈教
1920阿耨多羅三藐三菩提のほとけたちわかたつそまに冥加あらせたまへ
あのくたら さみやさほたの ほとけたち わかたつそまに みやうかあらせたまへ
伝教大師二十釈教
1921のりの舟さしてゆく身そもろもろの神もほとけもわれをみそなへ
のりのふね さしてゆくみそ もろもろの かみもほとけも われをみそなへ
智証大師二十釈教
1922しるへある時にたにゆけこくらくのみちにまとへる世中の人
しるへある ときにたにゆけ こくらくの みちにまとへる よのなかのひと
読人知らず二十釈教
1923寂寞のこけのいはと(と=屋イ)のしつけきになみたの雨のふらぬ日そなき
しやくまくの こけのいはとの しつけきに なみたのあめの ふらぬひそなき
日蔵上人二十釈教
1924南無阿弥陀ほとけのみてにかくるいとのをはりみたれぬ心ともかな
なむあみた ほとけのみてに かくるいとの をはりみたれぬ こころともかな
法円上人二十釈教
1925われたにもまつこくらくにむまなれはしるもしらぬもみなむかへてん
われたにも まつこくらくに うまれなは しるもしらぬも みなむかへてむ
僧都源信二十釈教
1926にこりなきかめ井の水をむすひあけて心のちりをすすきつる哉
にこりなき かめゐのみつを むすひあけて こころのちりを すすきつるかな
上東門院二十釈教
1927わたつうみのそこよりきつるほともなくこの身なからに身をそきはむる
わたつうみの そこよりきつる ほともなく このみなからに みをそきはむる
藤原道長(法成寺入道前摂政太政大臣)二十釈教
1928かすならぬいのちはなにかおしからんのりとくほとをしのふはかりそ
かすならぬ いのちはなにか をしからむ のりとくほとを しのふはかりそ
大納言斉信二十釈教
1929紫の雲のはやしを見わたせはのりにあふちの花さきにけり
むらさきの くものはやしを みわたせは のりにあふちの はなさきにけり
京極関白家肥後二十釈教
1930たにかはのなかれしきよくすみぬれはくまなき月のかけもうかひぬ
たにかはの なかれしきよく すみぬれは くまなきつきの かけもうかひぬ
京極関白家肥後二十釈教
1931ねかはくはしはしやみちにやすらひてかかけやせまし法のともし火
ねかはくは しはしやみちに やすらひて かかけやせまし のりのともしひ
前大僧正慈円二十釈教
1932とくみのきくのしらつゆよるはをきてつとめてきえんことをしそおもふ
とくみのり きくのしらつゆ よるはおきて つとめてきえむ ことをしそおもふ
読人知らず二十釈教
1933極楽へまたわか心ゆきつかすひつしのあゆみしはしととまれ
こくらくへ またわかこころ ゆきつかす ひつしのあゆみ しはしととまれ
読人知らず二十釈教
1934わか心なをはれやらぬ秋きりにほのかに見ゆる在曙の月
わかこころ なほはれやらぬ あききりに ほのかにみゆる ありあけのつき
権僧正公胤二十釈教
1935おく山にひとりうきよはさとりにきつねなきいろを風になかめて
おくやまに ひとりうきよは さとりにき つねなきいろを かせになかめて
久我建通(後京極摂政)二十釈教
1936いろにのみそめし心のくやしきをむなしととけるのりのうれしさ
いろにのみ そめしこころの くやしきは むなしととける のりのうれしさ
太皇太后宮小侍従二十釈教
1937むらさきの雲ちにさそふことのねにうきよをはらふ峯の松風
むらさきの くもちにさそふ ことのねに うきよをはらふ みねのまつかせ
寂蓮法師二十釈教
1938これやこのうきよのほかの春ならん花のとほそのあけほのの空
これやこの うきよのほかの はるならむ はなのとほその あけほののそら
読人知らず二十釈教
1939春秋にかきらぬ花にをくつゆはをくれさきたつうらみやはある
はるあきも かきらぬはなに おくつゆは おくれさきたつ うらみやはある
読人知らず二十釈教
1940たちかへりくるしきうみにをくあみもふかきえにこそ心ひくらめ
たちかへり くるしきうみに おくあみも ふかきえにこそ こころひくらめ
読人知らず二十釈教
1941いつくにもわかのりならぬのりやあるとそらふく風にとへとこたへぬ
いつくにも わかのりならぬ のりやあると そらふくかせに とへとこたへぬ
前大僧正慈円二十釈教
1942おもふなようきよの中をいてはててやとるおくにもやとは有けり
おもふなよ うきよのなかを いてはてて やとるおくにも やとはありけり
読人知らず二十釈教
1943わしの山けふきくのりのみちならてかへらぬやとにゆく人そなき
わしのやま けふきくのりの みちならて かへらぬやとに ゆくひとそなき
読人知らず二十釈教
1944をしなへてむなしきそらとおもひしにふちさきぬれは紫の雲
おしなへて むなしきそらと おもひしに ふちさきぬれは むらさきのくも
読人知らず二十釈教
1945をしなへてうき身はさこそなるみかたみちひるしほのかはるのみかは
おしなへて うきみはさこそ なるみかた みちひるしほの かはるのみかは
崇徳院御哥二十釈教
1946あさ日さすみねのつつきはめくめともまた霜ふかしたにのかけ草
あさひさす みねのつつきは めくめとも またしもふかし たにのかけくさ
読人知らず二十釈教
1947そこきよく心の水をすまさすはいかかさとりのはちすをもみん
そこきよく こころのみつを すまさすは いかかさとりの はちすをもみむ
九条兼実(入道前関白太政大臣)二十釈教
1948さらすとていくよもあらしいさやさはのりにかへつる命とおもはん
さらすとて いくよもあらし いさやさは のりにかへつる いのちとおもはむ
正三位経家二十釈教
1949ふかきよのまとうつ雨にをとせぬはうきよをのきのしのふなりけり
ふかきよの まとうつあめに おとせぬは うきよをのきの しのふなりけり
寂蓮法師二十釈教
1950いにしへの鹿なく野辺のいほりにも心の月はくもらさりけん
いにしへの しかなくのへの いほりにも こころのつきは くもらさりけむ
前大僧正慈円二十釈教
1951みちのへのほたるはかりをしるへにてひとりそいつる夕やみの空
みちのへの ほたるはかりを しるへにて ひとりそいつる ゆふやみのそら
寂然法師二十釈教
1952雲はれてむなしきそらにすみなからうきよの中をめくる月哉
くもはれて むなしきそらに すみなから うきよのなかを めくるつきかな
読人知らず二十釈教
1953ふく風にはなたち花やにほふらんむかしおほゆるけふの庭哉
ふくかせに はなたちはなや にほふらむ むかしおほゆる けふのにはかな
読人知らず二十釈教
1954やみふかきこのもとことに契をきてあさたつきりのあとのつゆけさ
やみふかき このもとことに ちきりおきて あさたつきりの あとのつゆけさ
読人知らず二十釈教
1955けふすきぬいのちもしかとおとろかす入あひのかねの声そかなしき
けふすきぬ いのちもしかと おとろかす いりあひのかねの こゑそかなしき
読人知らず二十釈教
1956草ふかきかりはのをのをたちいててともまとはせる鹿そなくなる
くさふかき かりはのをのを たちいてて ともまとはせる しかそなくなる
素覚法師二十釈教
1957そむかすはいつれのよにかめくりあひておもひけりとも人にしられん
そむかすは いつれのよにか めくりあひて おもひけりとも ひとにしられむ
寂然法師二十釈教
1958あひみてもみねにわかるる白雲のかかるこのよのいとはしき哉
あひみても みねにわかるる しらくもの かかるこのよの いとはしきかな
源季広二十釈教
1959をとにきく君かりいつかいきの松まつらんものを心つくしに
おとにきく きみかりいつか いきのまつ まつらむものを こころつくしに
寂然法師二十釈教
1960わかれにしそのおもかけのこひしき夢にも見えよ山の葉の月
わかれにし そのおもかけの こひしきに ゆめにもみえよ やまのはのつき
読人知らず二十釈教
1961わたつうみのふかきにしつむいさりせてたもつかひあるのりをもとめよ
わたつうみの ふかきにしつむ いさりせて たもつかひある のりをもとめよ
読人知らず二十釈教
1962うきくさのひとはなりともいそかくれおもひなかけそおきつ白浪
うきくさの ひとはなりとも いそかくれ おもひなかけそ おきつしらなみ
読人知らず二十釈教
1963さらぬたにをもきかうへにさよころもわかつまならぬつまなかさねそ
さらぬたに おもきかうへの さよころも わかつまならぬ つまなかさねそ
読人知らず二十釈教
1964はなのもとつゆのなさけはほともあらしゑいなすすめそ春の山風
はなのもと つゆのなさけは ほともあらし ゑひなすすめそ はるのやまかせ
読人知らず二十釈教
1965うきをなをむかしのゆへとおもはすはいかにこのよをうらみはてまし
うきもなほ むかしのゆゑと おもはすは いかにこのよを うらみはてまし
二条院讃岐二十釈教
1966わたすへきかすもかきらぬはしはしらいかにたてけるちかひなるらん
わたすへき かすもかきらぬ はしはしら いかにたてける ちかひなるらむ
皇太后宮大夫俊成二十釈教
1967いまそこれいり日を見てもおもひこしみたのみくにの夕くれの空
いまそこれ いりひをみても おもひこし みたのみくにの ゆふくれのそら
読人知らず二十釈教
1968いにしへのおのへのかねににたるかなきしうつ浪の暁の声
いにしへの をのへのかねに にたるかな きしうつなみの あかつきのこゑ
読人知らず二十釈教
1969しつかなるあか月ことに見わたせはまたふかきよの夢そかなしき
しつかなる あかつきことに みわたせは またふかきよの ゆめそかなしき
式子内親王二十釈教
1970あふことをいつくにとてかちきるへきうき身のゆかんかたをしらねは
あふことを いつくにてとか ちきるへき うきみのゆかむ かたをしらねは
選子内親王二十釈教
1971玉かけし衣のうらをかへしてそをろかなりける心をはしる
たまかけし ころものうらを かへしてそ おろかなりける こころをはしる
僧都源信二十釈教
1972夢やゆめうつつや夢とわかぬかないかなるよにかさめんとすらん
ゆめやゆめ うつつやゆめと わかぬかな いかなるよにか さめむとすらむ
赤染衛門二十釈教
1973つねよりもけふのけふりのたよりにやにしをはるかにおもひやるらん
つねよりも けふのけふりの たよりにや にしをはるかに おもひやるらむ
相模二十釈教
1974けふはいととなみたにくれぬにしの山おもひいり日のかけをなかめて
けふはいとと なみたにくれぬ にしのやま おもひいりひの かけをなかめて
伊勢大輔二十釈教
1975にしへゆくしるへとおもふ月かけのそらたのめこそかひなかりけれ
にしへゆく しるへとおもふ つきかけの そらたのめこそ かひなかりけれ
待賢門院堀河二十釈教
1976たちいらて雲まをわけし月かけはまたぬけしきやそらにみえけん
たちいらて くもまをわけし つきかけは またぬけしきや そらにみえけむ
西行法師二十釈教
1977むかし見し月のひかりをしるへにてこよひや君かにしへゆくらん
むかしみし つきのひかりを しるへにて こよひやきみか にしへゆくらむ
瞻西上人二十釈教
1978やみはれて心のそらにすむ月はにしの山へやちかくなるらん
やみはれて こころのそらに すむつきは にしのやまへや ちかくなるらむ
西行法師二十釈教

※読人(作者)についてはできる限り正確に整えておりますが、誤りもある可能性があります。ご了承ください。

※御製歌は〇〇院としています。〇〇天皇の歌となります。

※作者検索をしたいときは、藤原、源といったいわゆる氏を除いた名のみで検索することをおすすめいたします。

人麿は柿本人麻呂(人麿)としています。

※濁点につきましては原文通り加えておりません。時間的余裕があれば書き加えてまいります。