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後拾遺和歌集(冷泉家時雨亭文庫蔵)
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後拾遺和歌集のデータベース

後拾遺和歌集とは

  • 四番目の勅撰和歌集であり、白河天皇によって下命され、撰者は藤原通俊みちとし
  • 和泉式部、相模、赤染衛門、紫式部などの女流歌人、藤原一門など源氏物語に代表される平安王朝文学の栄えた時期の歌を多数収める。
  • 1086年に完成。

    後拾遺和歌集の構成

    春上 春下 秋上 秋下 羈旅 哀傷
    127 37 70 100 42 48 36 39 35 69
    % 10.4 3 5.7 8.2 3.4 3.9 2.9 3.2 2.8 5.6
    恋一 恋二 恋三 恋四 雑一 雑二 雑三 雑四 雑五 雑六
    60 51 55 62 71 68 70 58 61 59
    % 4.9 4.1 4.5 5 5.8 5.5 5.7 4.7 5 4.8
    • 巻二十から成り、全1218首。

    後拾遺和歌集 言の葉データベース

    「かな」は原文と同様に濁点を付けておりませんので、例えば「郭公(ほととぎす)」を検索したいときは、「ほとときす」と入力してください。

    歌番号よみ人
    1いかにねておくるあしたにいふことぞ昨日をこぞと今日を今年と
    いかにねておくるあしたにいふことそきのふをこそとけふをことしと
    小大君春上
    2いでてみよ今は霞も立ちぬらむ春はこれよりあくとこそきけ
    いててみよいまはかすみもたちぬらむはるはこれよりすくとこそきけ
    光朝法師母春上
    3東路は勿来の関もあるものをいかでか春のこえてきつらむ
    あつまちはなこそのせきもあるものをいかてかはるのこえてきつらむ
    源師賢春上
    4あふさかの関をや春もこえつらむ音羽の山のけさはかすめる
    あふさかのせきをやはるもこえつらむおとはのやまのけさはかすめる
    橘俊綱春上
    5春のくる道のしるべはみ吉野の山にたなびく霞なりけり
    はるのくるみちのしるへはみよしののやまにたなひくかすみなりけり
    能宣春上
    6人しれずいりぬとおもひしかひもなく年も山路をこゆるなりけり
    ひとしれすいりぬとおもひしかひもなくとしもやまちをこゆるなりけり
    能宣春上
    7雪ふりて道ふみまどふ山里にいかにしてかは春のきつらむ
    ゆきふりてみちふみまとふやまさとにいかにしてかははるのきつらむ
    兼盛春上
    8新しき春はくれども身にとまる年はかへらぬものにぞありける
    あたらしきはるはくれともみにとまるとしはかへらぬものにそありける
    加賀左衛門春上
    9たづのすむ澤べの蘆のしたねとけ汀もえいづる春はきにけり
    たつのすむさはへのあしのしたねとけみきはもえいつるはるはきにけり
    能宣春上
    10み吉野は春のけしきにかすめどもむすぼほれたる雪の下草
    みよしのははるのけしきにかすめともむすほほれたるゆきのしたくさ
    紫式部春上
    11谷川の氷もいまだきえあへぬに峯の霞はたなびきにけり
    たにかはのこほりもいまたきえあへぬにみねのかすみはたなひきにけり
    藤原長能春上
    12春ごとに野辺のけしきの変わらぬはおなじ霞やたちかへるらむ
    はることにのへのけしきのかはらぬはおなしかすみやたちかへるらむ
    藤原隆経春上
    13春霞たつやおそきと山川の岩間をくぐる音きこゆなり
    はるかすみたつやおそきとやまかはのいはまをくくるおときこゆなり
    和泉式部春上
    14むらさきの袖をつらねてきたるかな春たつことはこれぞうれしき
    むらさきのそてをつらねてきたるかなはるたつことはこれそうれしき
    赤染衛門春上
    15むれてくる大宮人は春をへてかはらずながらめづらしきかな
    むれてくるおほみやひとははるをへてかはらすなからめつらしきかな
    小弁春上
    16むらさきもあけもみどりもうれしきは春のはじめにきたるなりけり
    むらさきもあけもみとりもうれしきははるのはしめにきたるなりけり
    藤原輔伊春上
    17君ませとやりつる使きにけらし野辺の雉子はとりやしつらむ
    きみませとやりつるつかひきにけらしのへのききすはとりやしつらむ
    藤原道長春上
    18春たちてふる白雪を鶯の花ちりぬとやいそぎいづらむ
    はるたちてふるしらゆきをうくひすのはなちりぬとやいそきいつらむ
    読人知らず春上
    19山たかみ雪ふるすより鶯の出づるはつねはけふぞ聞きつる
    やまたかみゆきふるすよりうくひすのいつるはつねはけふそなくなる
    能宣春上
    20ふるさとへ行く人あらばことづてむけふ鶯の初音ききつと
    ふるさとへゆくひとあらはことつてむけふうくひすのはつねききつと
    源兼澄春上
    21ふりつもる雪きえがたき山里に春をしらする鶯のこゑ
    ふりつもるゆききえかたきやまさとにはるをしらするうくひすのこゑ
    読人知らず春上
    22鶯のなくねばかりぞきこえける春のいたらぬ人のやどにも
    うくひすのなくねはかりそきこえけるはるのいたらぬひとのやとにも
    清原元輔春上
    23たづねつる宿は霞にうづもれて谷のうぐひす一こゑぞする
    たつねつるやとはかすみにうつもれてたにのうくひすひとこゑそする
    藤原範永春上
    24千歳へむやどの子の日の松をこそほかのためしにひかむとすらめ
    ちとせへむやとのねのひのまつをこそほかのためしにひかむとすらめ
    清原元輔春上
    25ひきつれてけふは子の日の松にまたいま千歳をぞ野べにいでつる
    ひきつれてけふはねのひのまつにまたいまちとせをそのへにいてつる
    和泉式部春上
    26春の野にいでぬ子の日はもろ人の心ばかりをやるにぞありける
    はるののにいてぬねのひはもろひとのこころはかりをやるにそありける
    読人知らず春上
    27けふは君いかなる野辺に子の日て人のまつをばしらぬなるらむ
    けふはきみいかなるのへにねのひしてひとのまつをはしらぬなるらむ
    賀茂成助春上
    28袖かけてひきぞやられぬ小松原いづれともなきちよのけしきに
    そてかけてひきそやられぬこまつはらいつれともなきちよのけしきに
    右大臣北方春上
    29とまりにし子の日の松をけふよりはひかぬためしにひかるべきかな
    とまりにしねのひのまつをけふよりはひかぬためしにひかるへきかな
    藤原頼宗春上
    30あさみどり野辺の霞のたなびくにけふの小松をまかせつるかな
    あさみとりのへのかすみのたなひくにけふのこまつをまかせつるかな
    源経信春上
    31君が代にひきくらぶれば子の日する松の千歳もかずならぬかな
    きみかよにひきくらふれはねのひするまつのちとせもかすならぬかな
    左近中将公実春上
    32人はみな野辺の小松を引きにゆくけふの若菜は雪やつむらむ
    ひとはみなのへのこまつをひきにゆくけさのわかなはゆきやつむらむ
    伊勢大輔春上
    33卯づゑつきつままほしきは玉さかに君が飛火の若菜なりけり
    うつゑつきつままほしきはたまさかにきみかとふひのわかななりけり
    伊勢大輔春上
    34白雪のまだふるさとの春日野にいざうちはらひ若菜つみみむ
    しらゆきのまたふるさとのかすかのにいさうちはらひわかなつみてむ
    能宣春上
    35春日野は雪のみつむとみしかどもおひいづるものは若菜なりけり
    かすかのはゆきのみつむとみしかともおひいつるものはわかななりけり
    和泉式部春上
    36摘みにくる人はたれともなかりけりわがしめし野の若菜なれども
    つみにくるひとはたれともなかりけりわかしめしののわかななれとも
    中原頼成妻春上
    37かずしらずかさなるとしを鶯の聲する方のわかなともがな
    かすしらすかさなるとしをうくひすのこゑするかたのわかなともかな
    藤三位春上
    38山たかみ都の春をみわたせばただ一むらの霞なりけり
    やまたかみみやこのはるをみわたせはたたひとむらのかすみなりけり
    大江正言春上
    39よそにては霞たなびくふるさとの都の春はみるべかりける
    よそにてそかすみたなひくふるさとのみやこのはるはみるへかりける
    能因法師春上
    40春はまづ霞にまがふ山里をたちよりてとふ人のなきかな
    はるはまつかすみにまかふやまさとをたちよりてとふひとのなきかな
    選子内親王春上
    41はるばるとやへのしほぢにおく網をたなびくものは霞なりけり
    はるはるとやへのしほちにおくあみをたなひくものはかすみなりけり
    藤原節信春上
    42三島江につのぐみわたる蘆のねの一夜のほどに春めきにけり
    みしまえにつのくみわたるあしのねのひとよのほとにはるめきにけり
    曾禰好忠春上
    43心あらむ人にみせばや津の国の難波わたりの春のけしきを
    こころあらむひとにみせはやつのくにのなにはわたりのはるのけしきを
    能因法師春上
    44難波潟うら吹く風に浪たてばつのぐむ蘆のみえみみえずみ
    なにはかたうらふくかせになみたてはつのくむあしのみえみみえすみ
    読人知らず春上
    45あはづののすぐろの薄つのぐめば冬たちなづむ駒ぞいばゆる
    あはつののすくろのすすきつのくめはふゆたちなつむこまそいはゆる
    権僧正静圓春上
    46たちはなれ沢辺になるる春駒はおのがかげをや友とみるらむ
    たちはなれさはへになるるはるこまはおのかかけをやともとみるらむ
    源兼長春上
    47狩にこば行きてもみまし片岡のあしたの原にきぎす鳴くなり
    かりにこはゆきてもみましかたをかのあしたのはらにききすなくなり
    藤原長能春上
    48秋までの命もしらず春の野に萩のふるえをやくときくかな
    あきまてのあはれもしらすはるののにはきのふるねをやくとやくかな
    和泉式部春上
    49花ならでをらまほしきは難波江の蘆のわかばにふれる白雪
    はなならてをらまほしきはなにはえのあしのわかはにふれるしらゆき
    藤原範永春上
    50梅が香をたよりの風や吹きつらむ春めづらしく君がきませる
    うめかかをたよりのかせやふきつらむはるめつらしくきみかきませる
    平兼盛春上
    51梅の花にほふあたりの夕暮はあやなく人にあやまたれつつ
    うめのはなにほふあたりのゆふくれはあやなくひとにあやまたれつつ
    大中臣能宣春上
    52春の夜のやみにしなれば匂ひくる梅よりほかの花なかりけり
    はるのよのやみにしあれはにほひくるうめよりほかのはななかりけり
    藤原公任春上
    53梅の香をよはの嵐の吹きためてまきの板戸のあくるまちけり
    うめのかをよはのあらしのふきためてまきのいたとのあくるまちけり
    大江嘉言春上
    54梅の花かはことどとに匂はねど薄く濃くこそ色は咲きけれ
    うめのはなかはことことににほはねとうすくこくこそいろはさきけれ
    清原元輔春上
    55わかやどの垣根の梅のうつり香にひとりねもせぬ心地こそすれ
    わかやとのかきねのうめのうつりかにひとりねもせぬここちこそすれ
    読人知らず春上
    56わかやどの梅のさかりにくる人はどとろくばかり袖ぞにほへる
    わかやとのうめのさかりにくるひとはおとろくはかりそてそにほへる
    藤原公任春上
    57春はただ我が宿にのみ梅さかばかれにし人もみにときなまし
    はるはたたわかやとにのみうめさかはかれにしひともみにときなまし
    和泉式部春上
    58梅の花かきねににほふ山里は行きかふ人の心をぞみる
    うめのはなかきねににほふやまさとはゆきかふひとのこころをそみる
    賀茂成助春上
    59梅の花かばかりにほふ春の夜のやみは風こそうれしかりけれ
    うめのはなかはかりにほふはるのよのやみはかせこそうれしかりけれ
    藤原顕綱春上
    60梅が枝を折ればつづれる衣手に思ひもかけぬ移り香ぞする
    うめかえををれはつつれるころもてにおもひもかけぬうつりかそする
    素意法師春上
    61かばかりのにほひなりとも梅の花しづの垣根を思ひわするな
    かはかりのにほひなりともうめのはなしつのかきねをおもひわするな
    弁乳母春上
    62わがやどにうゑぬばかりぞ梅の花あるじなりともかばかりぞみむ
    わかやとにうゑぬはかりそうめのはなあるしなりともかはかりそみむ
    大江嘉言春上
    63風ふけばをちの垣根の梅の花かはわがやどの物にぞありける
    かせふけはをちのかきねのうめのはなかはわかやとのものにそありける
    清基法師春上
    64たづねくる人にもみせむ梅の花ちるとも水にながれざらなむ
    たつねくるひとにもみせむうめのはなちるともみつになかれさらなむ
    藤原経衡春上
    65すゑむすぶ人のてさへや匂ふらむ梅のした行く水のながれは
    すゑむすふひとのてさへやにほふらむうめのしたゆくみつのなかれは
    平経章春上
    66おもひやれ霞こめたる山里に花まつほどの春のつれづれ
    おもひやれかすみこめたるやまさとのはなまつほとのはるのつれつれ
    上東門院中将春上
    67ほにいでて秋とみしまに小山田をまたうちかへす春もきにけり
    ほにいててあきとみしまにをやまたをまたうちかへすはるもきにけり
    小弁春上
    68かへるかり雲井はるかになりぬなりまたこむ秋も遠しとおもふに
    かへるかりくもゐはるかになりぬなりまたこむあきもとほしとおもふに
    赤染衛門春上
    69行き帰る旅に年ふるかりがねはいくその春をよそにみるらむ
    ゆきかへるたひにとしふるかりかねはいくそのはるをよそにみるらむ
    藤原道信春上
    70とどまらぬ心ぞ見えむ帰るかり花のさかりを人にかたるな
    ととまらぬこころそみえむかへるかりはなのさかりをひとにかたるな
    馬内侍春上
    71うすずみにかく玉づさと見ゆるかな霞める空にかへるかりがね
    うすすみにかくたまつさとみゆるかなかすめるそらにかへるかりかね
    津守国基春上
    72をりしもあれいかにちぎりてかりがねの花の盛りに帰りそめけむ
    をりしもあれいかにちきりてかりかねのはなのさかりにかへりそめけむ
    弁乳母春上
    73かりがねぞけふ帰るなる小山田の苗代水のひきもとめなむ
    かりかねそけふかへるなるをやまたのなはしろみつのひきもとめなむ
    能宣春上
    74あらたまの年をへつつも青柳の糸はいづれのはるかたゆべき
    あらたまのとしをへつつもあをやきのいとはいつれのはるかたゆへき
    坂上望城春上
    75池水のみくさもとらで青柳のはらふしづえにまかせてぞみる
    いけみつのみくさもとらてあをやきのはらふしつえにまかせてそみる
    藤原経衡春上
    76あさみどりみだれてなびく青柳の色にぞ春の風もみえける
    あさみとりみたれてなひくあをやきのいろにそはるのかせもみえける
    藤原元真春上
    77春霞へだつる山の麓までおもひもしらずゆく心かな
    はるかすみへたつるやまのふもとまておもひしらすもゆくこころかな
    藤原孝善春上
    78山ざくら見に行く道をへだつれば人の心ぞかすみなりける
    やまさくらみにゆくみちをへたつれはひとのこころそかすみなりける
    藤原隆経春上
    79うらやましいる身ともがな梓弓ふしみの里の花のまどゐに
    うらやましいるみともかなあつさゆみふしみのさとのはなのまとゐに
    皇后宮美作春上
    80小萩さく秋まであらば思ひいでむ嵯峨野をやきし春はその日と
    こはきさくあきまてあらはおもひいてむさかのをやきしはるはそのひと
    賀茂成助春上
    81桜花さかばちりなむとおもふよりかねても風のいとはしきかな
    さくらはなさかはちりなむとおもふよりかねてもかせのいとはしきかな
    永源法師春上
    82梅が香を桜の花ににほはせて柳がえだにさかせてしがな
    うめかかをさくらのはなににほはせてやなきかえたにさかせてしかな
    中原致時春上
    83明けばまづたづねにゆかむ山櫻こればかりだに人に遅れじ
    あけはまつたつねにゆかむやまさくらこれはかりたにひとにおくれし
    橘元任春上
    84折らばをし折らではいかが山櫻けふをすぐさず君にみすべき
    をらはをしをらてはいかかやまさくらけふをすくさすきみにみすへき
    源雅通春上
    85をらでただかたりにかたれ山櫻風にちるだにをしきにほひを
    をらてたたかたりにかたれやまさくらかせにちるたにをしきにほひを
    盛少将春上
    86思ひやる心ばかりはさくら花たづぬる人におくれやはする
    おもひやるこころはかりはさくらはなたつぬるひとにおくれやはする
    一宮駿河春上
    87あくがるる心ばかりは山桜たづぬる人にたぐへてぞやる
    あくかるるこころはかりはやまさくらたつぬるひとにたくへてそやる
    右大臣北方春上
    88今こむとちぎりし人のおなじくは花の盛りをすぐさざらなむ
    いまこむとちきりしひとのおなしくははなのさかりをすくささらなむ
    源兼澄春上
    89いづれをかわきてをらまし山桜こころうつらぬえだしなければ
    いつれをかわきてをらましやまさくらこころうつらぬえたしなけれは
    祭主輔親春上
    90行きとまる所ぞ春はなかりける花に心のあかぬかぎりは
    ゆきとまるところそはるはなかりけるはなにこころのあかぬかきりは
    菅原為言春上
    91やまざくら心のままにたづねきてかへさぞ道のほどはしらるる
    やまさくらこころのままにたつねきてかへさそみちのほとはしらるる
    小弁春上
    92にほふらむ花のみやこのこひしくてをるにものうき山ざくらかな
    にほふらむはなのみやこのこひしくてをるにものうきやまさくらかな
    上東門院中将春上
    93東路の人にとはばや白川の関にもかくや花はにほふと
    あつまちのひとにとははやしらかはのせきにもかくやはなはにほふと
    藤原長家春上
    94見るからに花の名だての身なれども心は雲のうへまでそゆく
    みるからにはなのなたてのみなれともこころはくものうへまてそゆく
    高岳頼言春上
    95春ごとに見るとはすれど桜花あかでもとしのつもりぬるかな
    はることにみるとはすれとさくらはなあかてもとしのつもりぬるかな
    大貮實政春上
    96さくら花にほふなごりに大かたの春さへをしくおもほゆるかな
    さくらはなにほふなこりにおほかたのはるさへをしくおもほゆるかな
    能宣春上
    97道とほみ行きてはみねどさくら花こころをやりてけふはかへりぬ
    みちとほみゆきてはみねとさくらはなこころをやりてけふはくらしつ
    平兼盛春上
    98さくら咲く春はよるだになかりせば夢にもものは思はざらまし
    さくらさくはるはよるたになかりせはゆめにもものはおもはさらまし
    能因法師春上
    99うゑおきし人なき宿の桜花にほひばかりぞかはらざりける
    うゑおきしひとなきやとのさくらはなにほひはかりそかはらさりける
    読人知らず春上
    100みやこ人いかにととはば見せもせむかの山ざくら一枝もがな
    みやこひといかかととははみせもせむこのやまさくらひとえたもかな
    和泉式部春上
    101人も見ぬ宿に桜をうゑたれば花もてやつす身とぞなりぬる
    ひともみぬやとにさくらをうゑたれははなもてやつすみとそなりぬる
    和泉式部春上
    102わかやどの桜はかひもなかりけりあるじからこそ人も見にくれ
    わかやとのさくらはかひもなかりけりあるしからこそひともみにくれ
    和泉式部春上
    103花見にと人は山べに入りはてて春はみやこぞさびしかりける
    はなみにとひとはやまへにいりはててはるはみやこそさひしかりける
    道命法師春上
    104世の中をなになげかまし山ざくら花見るほどの心なりせば
    よのなかをなになけかましやまさくらはなみるほとのこころなりせは
    紫式部春上
    105花みてぞ身うきことも忘らるる春はかぎりのなからましかば
    はなみてそみのうきこともわすらるるはるはかきりのなからましかは
    西園寺公経春上
    106わがやどの梢ばかりとみしほどに四方の山べに春はきにけり
    わかやとのこすゑはかりとみしほとによものやまへにはるはきにけり
    源顕基春上
    107おもひつつ夢にぞ見つる桜花春はねざめのなからましかば
    おもひつつゆめにそみつるさくらはなはるはねさめのなからましかは
    藤原元真春上
    108春のうちはちらぬ桜とみてしがなさてもや風のうしろめたきに
    はるのうちはちらぬさくらとみてしかなさてもやかせのうしろめたなき
    右大弁通俊春上
    109花みると家路におそく帰るかな待ちどきすぐと妹やいふらむ
    はなみるといへちにおそくかへるかなまちときすくといもやいふらむ
    平兼盛春上
    110ひととせにふたたびもこぬ春なればいとなくけふは花をこそみれ
    ひととせにふたたひもこぬはるなれはいとなくけふははなをこそみれ
    平兼盛春上
    111うらやまし春の宮人うちむれておのがものとや花を見るらむ
    うらやましはるのみやひとうちむれておのかものとやはなをみるらむ
    良暹法師春上
    112山ざくら白雲にのみまがへばや春の心の空になるらむ
    やまさくらしらくもにのみまかへはやはるのこころのそらになるらむ
    源縁法師春上
    113いにしへの花みし人はたづねしを老は春にもしられざりけり
    いにしへのはなみしひとはたつねしをおいははるにもしられさりけり
    藤原齊信春上
    114桜花さかりになればふるさとのむぐらのかどもさされざりけり
    さくらはなさかりになれはふるさとのむくらのかともさされさりけり
    藤原定頼春上
    115よそながらをしきさくらのにほひかな誰わがやどの花とみるらむ
    よそなからをしきさくらのにほひかなたれわかやとのはなとみるらむ
    坂上定成春上
    116春ごとにみれどもあかず山櫻年にや花の咲きまさるらむ
    はることにみれともあかすやまさくらとしにやはなのさきまさるらむ
    源縁法師春上
    117世の中を思ひすててし身なれども心よわしと花にみえける
    よのなかをおもひすててしみなれともこころよわしとはなにみえける
    能因法師春上
    118よよふとも我わすれめや桜花苔のたもとにちりてかかりし
    よよふともわれわすれめやさくらはなこけのたもとにちりてかかりし
    能因法師春上
    119なにごとを春のかたみに思はましけふ白川の花見ざりせば
    なにことをはるのかたみにおもはましけふしらかはのはなみさりせは
    伊賀少将春上
    120高砂の尾上の桜さきにけり外山のかすみたたずもあらなむ
    たかさこのをのへのさくらさきにけりとやまのかすみたたすもあらなむ
    大江匡房春上
    121吉野山八重たつ峯の白雲にかさねてみゆる花ざくらかな
    よしのやまやへたつみねのしらくもにかさねてみゆるはなさくらかな
    藤原清家春上
    122おもひおくことなからまし庭桜ちりての後の舟出なりせば
    おもひおくことなからましにはさくらちりてののちのふなてなりせは
    藤原通宗春上
    123とふ人も宿にはあらじ山ざくらちらでかへりし春しなければ
    とふひともやとにはあらしやまさくらちらてかへりしはるしなけれは
    良暹法師春上
    124ちるまでは旅寝をせなむ木のもとに帰らば花のなだてなるべし
    ちるまてはたひねをせなむこのもとにかへらははなのなたてなるへし
    加賀左衛門春上
    125ちりはてて後やかへらむふるさとも忘られぬべき山ざくらかな
    ちりはててのちやかへらむふるさともわすられぬへきやまさくらかな
    源道済春上
    126わが宿に咲きみちにけり桜花ほかには春もあらじとぞおもふ
    わかやとにさきみちにけりさくらはなほかにははるもあらしとそおもふ
    源道済春上
    127花もみなちりなむのちは我が宿になににつけてか人をまつべき
    はなもみなちりなむのちはわかやとになににつけてかひとをまつへき
    具平親王春上
    128みちよへてなりけるものをなどてかは桃としもはた名づけそめけむ
    みちよへてなりけるものをなとてかはももとしもはたなつけそめけむ
    花山院春下
    129あかざらばちよまでかざせ桃の花はなもかはらじ春もたえねば
    あかさらはちよまてかさせもものはなはなもかはらしはるもたえねは
    清原元輔春下
    130ふるさとの花のものいふ世なりせばいかに昔のことをとはまし
    ふるさとのはなのものいふよなりせはいかにむかしのことをとはまし
    出羽弁春下
    131桜花あかぬあまりに思ふかな散らずば人や惜しまざらまし
    さくらはなあかぬあまりにおもふかなちらすはひとやをしまさらまし
    藤原頼宗春下
    132惜しめども散りもとまらぬ花ゆゑに春は山辺をすみかにぞする
    をしめともちりもとまらぬはなゆゑにはるはやまへをすみかにそする
    内大臣春下
    133ももとせに散らずもあらなむ桜花あかぬ心はいつかたゆべき
    よとともにちらすもあらなむさくらはなあかぬこころはいつかたゆへき
    平兼盛春下
    134桜花まだきな散りそ何により春をば人の惜しむとか知る
    さくらはなまたきなちりそなにによりはるをはひとのをしむならぬに
    大中臣能宣春下
    135山里に散りはてぬべき花ゆゑに誰とはなくて人ぞまたるる
    やまさとにちりはてぬへきはなゆゑにたれとはなくてひとそまたるる
    源道済春下
    136しめゆひしそのかみならば桜花をしまれつつやけふはちらまし
    しめゆひしそのかみならはさくらはなをしまれつつやけふはちらまし
    右大弁通俊春下
    137桜花道みえぬまで散りにけりいかがはすべき志賀の山ごえ
    さくらはなみちみえぬまてちりにけりいかかはすへきしかのやまこえ
    橘成元春下
    138桜ちるとなりにいとふ春風は花なき宿ぞうれしかりける
    さくらちるとなりにいとふはるかせははななきやとそうれしかりける
    坂上定成春下
    139花のかげたたまくをしきこよひかな錦をさらす庭とみえつつ
    はなのかけたたまくをしきこよひかなにしきをさらすにはとみえつつ
    清原元輔春下
    140をしむにはちりもとまらで桜花あかぬ心ぞときはなりける
    をしむにはちりもとまらてさくらはなあかぬこころそときはなりける
    藤原通宗春下
    141心らものをこそおもへ山ざくら尋ねざりせば散るを見ましや
    こころからものをこそおもへやまさくらたつねさりせはちるをみましや
    永源法師春下
    142うらやましいかなる花か散りにけむ物おもふ身しもよには残りて
    うらやましいかなるはなかちりにけむものおもふみしもよにはのこりて
    土御門御匣殿春下
    143ふく風ぞおもへばつらき桜花こころとちれる春しなければ
    ふくかせそおもへはつらきさくらはなこころとちれるはるしなけれは
    大貮三位春下
    144年をへて花に心をくだくかな惜しむにとまる春はなけれど
    としをへてはなにこころをくたくかなをしむにとまるはるはなけれと
    藤原定頼春下
    145ここにこぬ人もみよとて桜花水の心にまかせてぞやる
    ここにこぬひともみよとてさくらはなみつのこころにまかせてそやる
    大江嘉言春下
    146行く末もせきとどめばや白川の水とともにぞ春もゆきける
    ゆくすゑをせきととめはやしらかはのみつとともにそはるもゆきける
    源師房春下
    147おくれても咲くべき花は咲きにけり身をかぎりともおもひけるかな
    おくれてもさくへきはなはさきにけりみをかきりともおもひけるかな
    藤原為時春下
    148風だにもふきはらはずば庭桜ちるとも春のうちはみてまし
    かせたにもふきはらはすはにはさくらちるともはるのほとはみてまし
    和泉式部春下
    149野辺みれば弥生の月のはつるまでまだうら若きさいたづまかな
    のへみれはやよひのつきのはつかまてまたうらわかきさいたつまかな
    藤原義孝春下
    150岩つつじ折りもてぞ見るせこがきし紅染めの色ににたれば
    いはつつしをりもてそみるせこかきしくれなゐそめのいろににたれは
    和泉式部春下
    151わぎもこが紅染めの色とみてなづさはれぬる岩つつじかな
    わきもこかくれなゐそめのいろとみてなつさはれぬるいはつつしかな
    藤原義孝春下
    152藤の花さかりとなれば庭の面におもひもかけぬ浪ぞたちける
    ふちのはなさかりとなれはにはのおもにおもひもかけぬなみそたちける
    大中臣能宣春下
    153むらさきにやしほそめたる藤の花池にはひさすものにぞありける
    むらさきにやしほそめたるふちのはないけにはひさすものにそありける
    斎宮女御春下
    154藤の花をりてかざせばこむらさき我がもとゆひの色やそふらむ
    ふちのはなをりてかさせはこむらさきわかもとゆひのいろやそふらむ
    源為善春下
    155水底もむらさきふかくみゆるかな岸のいはねにかかるふぢなみ
    みなそこもむらさきふかくみゆるかなきしのいはねにかかるふちなみ
    大納言實季春下
    156すみの江の松のみどりもむらさきの色にぞかくる岸の藤なみ
    すみのえのまつのみとりもむらさきのいろにそかくるきしのふちなみ
    読人知らず春下
    157道とほし井手へもゆかじこの里も八重やはさかぬ山吹の花
    みちとほみゐてへもゆかしこのさともやへやはさかぬやまふきのはな
    藤原伊家春下
    158沼水にかはづなくなりむべしこそ岸の山吹さかりなりけれ
    ぬまみつにかはつなくなりうへしこそきしのやまふきさかりなりけれ
    大貮高遠春下
    159みがくれてすだくかはづのもろ聲にさわぎぞわたる井手のうき草
    みかくれてすたくかはつのもろこゑにさわきそわたるゐてのかはなみ
    良暹法師春下
    160聲たえずさへづれのべの百千鳥のこりすくなき春にやはあらぬ
    こゑたえすさへつれのへのももちとりのこりすくなきはるにやはあらぬ
    藤原長能春下
    161われひとりきくものならばよぶこ鳥ふた聲まではなかせざらまし
    われひとりきくものならはよふことりふたこゑまてはなかせさらまし
    法圓法師春下
    162ほととぎすおもひもかけぬ春なけばことしぞまたで初音ききつる
    ほとときすおもひもかけぬはるなけはことしそまたてはつねききつる
    藤原定頼春下
    163ほととぎすなかずばなかずいかにして暮れ行く春をまたもくはへむ
    ほとときすなかすはなかすいかにしてくれゆくはるをまたもくはへむ
    大中臣能宣春下
    164おもひいづる事のみしげき野辺にきてまた春にさへ別れぬるかな
    おもひいつることのみしけきのへにきてまたはるにさへわかれぬるかな
    永胤法師春下
    165桜色に染めし衣をぬぎかへて山ほととぎすけふよりぞまつ
    さくらいろにそめしころもをぬきかへてやまほとときすけふよりそまつ
    和泉式部
    166きのふまでをしみし花は忘られてけふはまたるるほととぎすかな
    きのふまてをしみしはなもわすられてけふはまたるるほとときすかな
    藤原明衡
    167わがやどの梢の夏になるときは生駒の山ぞみえずなりける
    わかやとのこすゑのなつになるときはいこまのやまそみえすなりぬる
    能因法師
    168夏草はむすぶばかりになりにけり野かひし駒やあくがれぬらむ
    なつくさはむすふはかりになりにけりのかひしこまやあくかれぬらむ
    源重之
    169さかきとる卯月になれば神山の楢のはがしはもとつはもなし
    さかきとるうつきになれはかみやまのならのはかしはもとつはもなし
    曾禰好忠
    170八重しげるむぐらの門のいぶせきにさらずや何をたたく水鶏ぞ
    やへしけるむくらのかとのいふせさにささすやなにをたたくくひなそ
    大中臣輔弘
    171あとたえてくる人もなき山里に我のみみよとさける卯の花
    あとたえてとふひともなきやまさとにわれのみみよとさけるうのはな
    藤原通宗
    172白浪の音せでたつとみえつるは卯の花さける垣根なりけり
    しらなみのおとせてたつとみえつるはうのはなさけるかきねなりけり
    読人知らず
    173月影を色にてさける卯の花はあけばありあけのここちこそせめ
    つきかけをいろにてさけるうのはなはあけはありあけのここちこそせめ
    読人知らず
    174卯の花のさけるあたりは時ならぬ雪ふる里の垣根とぞみる
    うのはなのさけるあたりはときならぬゆきふるさとのかきねとそみる
    大中臣能宣
    175みわたせばなみのしがらみかけてけり卯の花さける玉川の里
    みわたせはなみのしからみかけてけりうのはなさけるたまかはのさと
    相模
    176卯の花のさけるかきねは白浪の立田の川のゐせきとぞみる
    うのはなのさけるさかりはしらなみのたつたのかはのゐせきとそみる
    伊勢大輔
    177雪とのみあやまたれつつ卯の花に冬ごもれりとみゆる山里
    ゆきとのみあやまたれつつうのはなにふゆこもれりとみゆるやまさと
    源道済
    178わがやどのかきねなすぎそほととぎすいづれの里もおなじ卯の花
    わかやとのかきねなすきそほとときすいつれのさともおなしうのはな
    元慶法師
    179ほととぎすわれはまたでぞこころみるおもふことのみたがふ身なれば
    ほとときすわれはまたてそこころみるおもふことのみたかふみなれは
    慶範法師
    180ほととぎすたづぬばかりのなのみしてきかずばさてや宿にかへらむ
    ほとときすたつぬはかりのなのみしてきかすはさてややとにかへらむ
    藤原頼宗
    181ここにわがきかまほしきをあしひきの山ほととぎすいかになくらむ
    ここにわかきかまほしきをあしひきのやまほとときすいかになくらむ
    藤原尚忠
    182あしひきの山ほととぎすのみならずおほかた鳥のこゑもきこえず
    あしひきのやまほとときすのみならすおほかたとりのこゑもきこえす
    道命法師
    183きかばやなその神山のほととぎすありし昔のおなじこゑかと
    きかはやなそのかみやまのほとときすありしむかしのおなしこゑかと
    皇后宮美作
    184ほととぎすなのりしてこそしらるなれたづねぬ人につげややらまし
    ほとときすなのりしてこそしらるなれたつねぬひとにつけややらまし
    備前典侍
    185ききすてて君が来にけむほととぎすたづねにわれは山路こえみむ
    ききすててきみかきにけむほとときすたつねにわれはやまちこえみむ
    大中臣能宣
    186このころはねてのみぞまつほととぎすしばしみやこのものがたりせよ
    このころはねてのみそまつほとときすしはしみやこのものかたりせよ
    増基法師
    187宵のまはまどろみなましほととぎす明けてきなくとかねてしりせば
    よひのまはまとろみなましほとときすあけてきなくとかねてしりせは
    橘資成
    188ききつともきかずともなくほととぎす心まどはす小夜のひとこゑ
    ききつともきかすともなくほとときすこころまとはすさよのひとこゑ
    伊勢大輔
    189夜だにあけば尋ねてきかむほととぎす信太の杜のかたになくなり
    よたにあけはたつねてきかむほとときすしのたのもりのかたになくなり
    能因法師
    190夏の夜はさてもやなくとほととぎすふたこゑきける人にとはばや
    なつのよはさてもやねぬとほとときすふたこゑきけるひとにとははや
    藤原兼房
    191ねぬよこそ數つもりぬれほととぎすきくほどもなきひとこゑにより
    ねぬよこそかすつもりぬれほとときすきくほともなきひとこゑにより
    小弁
    192ありあけの月だにあれや郭公ただひとこゑのゆくかたもみむ
    ありあけのつきたにあれやほとときすたたひとこゑのゆくかたもみむ
    藤原頼通
    193なかぬ夜もなく夜も更にほととぎすまつとてやすくいやはねらるる
    なかぬよもなくよもさらにほとときすまつとてやすくいやはねらるる
    赤染衛門
    194夜もすがら待ちつるものをほととぎすまただになかで過ぎぬなるかな
    よもすからまちつるものをほとときすまたたになかてすきぬなるかな
    赤染衛門
    195東路おもひいでにせむほととぎすおいそのもりの夜半の一聲
    あつまちのおもひいてにせむほとときすおいそのもりのよはのひとこゑ
    大江公資
    196ききつるや初音なるらむほととぎす老いはねざめぞうれしかりける
    ききつるやはつねなるらむほとときすおいはねさめそうれしかりける
    法橋忠命
    197いづかたとききだにわかずほととぎすただひとこゑのこころまよひに
    いつかたとききたにわかすほとときすたたひとこゑのこころまとひに
    大江嘉言
    198ほととぎす待つ程とこそ思ひつれききての後もねられざりけり
    ほとときすまつほととこそおもひつれききてののちもねられさりけり
    道命法師
    199ほととぎす夜ふかき聲をきくのみぞ物思ふ人のとり所なる
    ほとときすよふかきこゑをきくのみそものおもふひとのとりところなる
    道命法師
    200一こゑもききがたかりしほととぎすともになく身となりにけるかな
    ひとこゑもききかたかりしほとときすともになくみとなりにけるかな
    律師長済
    201ほととぎす来鳴かぬよひのしるからば寝る夜もひとよあらましものを
    ほとときすきなかぬよひのしるからはぬるよもひとよあらましものを
    能因法師
    202またぬ夜もまつ夜も聞きつほととぎす花たちばなの匂ふあたりは
    またぬよもまつよもききつほとときすはなたちはなのにほふあたりは
    大弐三位
    203ねてのみや人はまつらむほととぎす物思ふやどは聞かぬ夜ぞなき
    ねてのみやひとはまつらむほとときすものおもふやとはきかぬよそなき
    小弁
    204御田屋守けふはさつきになりにけりいそげや早苗おいもこそすれ
    みたやもりけふはさつきになりにけりいそけやさなへおいもこそすれ
    曾禰好忠
    205五月雨に日も暮れぬめり道遠み山田の早苗とりもはてぬに
    さみたれにひもくれぬめりみちとほみやまたのさなへとりもはてぬに
    藤原隆資
    206五月雨はみづのみまきのまこも草かりほすひまもあらじとぞおもふ
    さみたれはみつのみまきのまこもくさかりほすひまもあらしとそおもふ
    相模
    207さみだれはみえしをざさの原もなし浅香の沼の心地のみして
    さみたれはみえしをささのはらもなしあさかのぬまのここちのみして
    藤原範永
    208つれづれと音たえせぬは五月雨の軒のあやめの雫なりけり
    つれつれとおとたえせぬはさみたれののきのあやめのしつくなりけり
    橘俊綱
    209五月雨のをやむけしきの見えぬかなにはたづみのみ數まさりつつ
    さみたれのをやむけしきのみえぬかなにはたつみのみかすまさりつつ
    叡覺法師
    210香をとめてとふ人あるをあやめ草あやしく駒のすさめざりけり
    かをとめてとふひとあるをあやめくさあやしくこまのすさへさりける
    恵慶法師
    211つくま江の底の深さをよそながらひけるあやめのねにてしるかな
    つくまえのそこのふかさをよそなからひけるあやめのねにてしるかな
    良暹法師
    212ねやの上に根ざしとどめよあやめ草たづねてひくも同じよどのを
    ねやのうへにねさしととめよあやめくさたつねてひくもおなしよとのを
    大中臣輔弘
    213けふもけふあやめもあやめ変らぬに宿こそありし宿とおぼえね
    けふもけふあやめもあやめかはらぬにやとこそありしやととおほえね
    伊勢大輔
    214さみだれの空なつかしく匂ふかな花たちばなに風や吹くらむ
    さみたれのそらなつかしくにほふかなはなたちはなにかせやふくらむ
    相模
    215昔をば花たちばなのなかりせばなににつけてか思ひいでまし
    むかしをははなたちはなのなかりせはなににつけてかおもひいてまし
    大貮高遠
    216おともせで思ひにもゆる蛍こそ鳴く虫よりも哀れなりけれ
    おともせておもひにもゆるほたるこそなくむしよりもあはれなりけれ
    源重之
    217澤水に空なる星の映るかと見ゆるは夜半の蛍なりけり
    さはみつにそらなるほしのうつるかとみゆるはよはのほたるなりけり
    藤原良経
    218ひとへなる蝉のはごろも夏はなほうすしといへどあつくぞありける
    ひとへなるせみのはころもなつはなほうすしといへとあつくそありける
    能因法師
    219夏刈りの玉江のあしをふみしだき群れゐる鳥のたつ空ぞなき
    なつかりのたまえのあしをふみしたきむれゐるとりのたつそらそなき
    源重之
    220なつごろも立田河原の柳かげ涼みにきつつならすころかな
    なつころもたつたかはらのやなきかけすすみにきつつならすころかな
    曾禰好忠
    221夏の日になるまできえぬ冬こほり春立つ風やよきて吹くらむ
    なつのひになるまてきえぬふゆこほりはるたつかせやよきてふきけむ
    源頼實
    222夏の夜の月はほどなくいりぬともやどれる水に影はとめなむ
    なつのよのつきはほとなくいりぬともやとれるみつにかけをとめなむ
    源師房
    223何をかはあくるしるしと思ふべきひるもかはらぬ夏の夜の月
    なにをかはあくるしるしとおもふへきひるにかはらぬなつのよのつき
    大貮資通
    224夏の夜もすずしかりけり月影は庭しろたへの霜とみえつつ
    なつのよもすすしかりけりつきかけはにはしろたへのしもとみえつつ
    藤原長家
    225とこなつの匂へる庭はから國におれる錦もしかじとぞ見る
    とこなつのにほへるにははからくににおれるにしきもしかしとそおもふ
    藤原定頼
    226いかならむこよひの雨にとこなつの今朝だに露のおもげなりる
    いかならむこよひのあめにとこなつのけさたにつゆのおもけなりつる
    能因法師
    227きてみよと妹が家路につげやらむわれひとりぬるとこなつの花
    きてみよといもかいへちにつけやらむわかひとりぬるとこなつのはな
    曾禰好忠
    228夏ふかくなりぞしにける大荒木の杜の下草なべて人かる
    なつふかくなりそしにけるおほあらきのもりのしたくさなへてひとかる
    平兼盛
    229ほどもなく夏の涼しくなりぬるは人にしられで秋やきぬらむ
    ほともなくなつのすすしくなりぬるはひとにしられてあきやきぬらむ
    藤原頼宗
    230夏の夜のありあけの月をみるほどに秋をもまたで風ぞすずしき
    なつのよのありあけのつきをみるほとにあきをもまたてかせそすすしき
    内大臣師通
    231夏山のならのはそよぐ夕暮れはことしも秋のここちこそすれ
    なつやまのならのはそよくゆふくれはことしもあきのここちこそすれ
    源頼綱
    232紅葉せばあかくなりなむ小倉山秋まつほどのなにこそありけれ
    もみちせはあかくなりなむをくらやまあきまつほとのなにこそありけれ
    大中臣能宣
    233小夜ふかき岩井の水の音きけばむすばぬ袖もすずしかりけり
    さよふかきいつみのみつのおときけはむすはぬそてもすすしかりけり
    源師賢
    234みなかみもあらぶる心あらじかし浪もなごしのみそぎしつれば
    みなかみもあらふるこころあらしかしなみもなこしのはらへしつれは
    伊勢大輔
    235うちつけにたもとすずしくおぼゆるは衣に秋はきたるなりけり
    うちつけにたもとすすしくおほゆるはころもにあきはきたるなりけり
    読人知らず秋上
    236あさぢはら玉まく葛のうら風のうらがなしかる秋は来にけり
    あさちはらたままくくすのうらかせのうらかなしかるあきはきにけり
    恵慶法師秋上
    237おほかたの秋くるからに身に近くならすあふぎの風ぞすずしき
    おほかたのあきくるからにみにちかくならすあふきのかせそすすしき
    藤原為頼秋上
    238ひととせの過ぎつるよりも七夕のこよひをいかにあかしかぬらむ
    ひととせのすきつるよりもたなはたのこよひをいかにあかしかぬらむ
    小弁秋上
    239いとどしく露けかるらむたなばたのねぬ夜にあへる天の羽衣
    いととしくつゆけかるらむたなはたのねぬよにあへるあまのはころも
    大江佐経秋上
    240たなばたはあさひくいとのみだれつつとくとやけふの暮をまつらむ
    たなはたはあさひくいとのみたれつつとくとやけふのくれをまつらむ
    小左近秋上
    241たなばたは雲の衣を引きかさねかへさでぬるやこよひなるらむ
    たなはたはくものころもをひきかさねかへさてぬるやこよひなるらむ
    藤原頼宗秋上
    242天の河とわたる舟のかぢのはにおもふことをもかきつくるかな
    あまのかはとわたるふねのかちのはにおもふことをもかきつくるかな
    上總乳母秋上
    243秋の夜を長きものとは星合の影みぬ人のいふにぞありける
    あきのよをなかきものとはほしあひのかけみぬひとのいふにそありける
    能因法師秋上
    244七夕のあふ夜の數のわびつつも来る月ごとの七日なりせば
    たなはたのあふよのかすのわひつつもくるつきことのなぬかなりせは
    橘元任秋上
    245待ちえたる一夜ばかりを七夕のあひ見ぬほどと思はましかば
    まちえたるひとよはかりをたなはたのあひみぬよはとおもはましかは
    藤原通房秋上
    246忘れにし人にみせばや天の河いまれしほしの心ながさを
    わすれにしひとにみせはやあまのかはいまれしほしのこころなかさを
    新左衛門秋上
    247たまさかにあふことよりも七夕はけふまつるをやめづらしとみる
    たまさかにあふことよりもたなはたはけふまつるをやめつらしとみる
    小弁秋上
    248いそぎつつ我こそきつれ山里にいつよりすめる秋の月ぞも
    いそきつつわれこそきつれやまさとにいつよりすめるあきのつきそも
    藤原家経秋上
    249忘れにし人もとひけり秋の夜は月いでばとこそ待つべかりけれ
    わすれにしひともとひけりあきのよはつきいてはとこそまつへかりけれ
    左近中将公実秋上
    250秋の夜の月みにいでて夜は更けぬ我も有明のいらであかさむ
    あきのよのつきみにいててよはふけぬわれもありあけのいらてあかさむ
    大弐高遠秋上
    251にごりなく千世をかぞへてすむ水に光をそふる秋の夜の月
    にこりなくちよをかそへてすむみつにひかりをそふるあきのよのつき
    平兼盛秋上
    252大空の月の光しあかければまきの板戸も秋はさされず
    おほそらのつきのひかりしあかけれはまきのいたともあきはさされす
    源為善秋上
    253すだきけむ昔の人もなきやどにただかげするは秋の夜の月
    すたきけむむかしのひともなきやとにたたかけするはあきのよのつき
    恵慶法師秋上
    254身をつめばいるもをしまじ秋の月やまのあなたの人もまつらむ
    みをつめはいるもをしましあきのつきやまのあなたのひともまつらむ
    永源法師秋上
    255よそなりし雲の上にて見る時も秋の月にはあかずぞありける
    よそなりしくものうへにてみるときもあきのつきにはあかすそありける
    源道済秋上
    256いつもみる月ぞと思へど秋の夜はいかなる影をそふるなるらん
    いつもみるつきそとおもへとあきのよはいかなるかけをそふるなるらむ
    藤原長能秋上
    257すむとても幾夜もあらじ世の中にくもりがちなる秋の夜の月
    すむとてもいくよもすましよのなかにくもりかちなるあきのよのつき
    藤原公任秋上
    258すむ人もなき山里の秋の夜は月のひかりもさびしかりけり
    すむひともなきやまさとのあきのよはつきのひかりもさひしかりけり
    藤原範永秋上
    259とふ人も暮るればかへる山里にもろともにすむ秋の夜の月
    とふひともくるれはかへるやまさとにもろともにすむあきのよのつき
    素意法師秋上
    260しろたへの衣の袖を霜かとてはらへば月の光なりけり
    しろたへのころものそてをしもかとてはらへはつきのひかりなりけり
    藤原國行秋上
    261いにしへの月かかりせば葛城の神はよるともちぎらざらまし
    いにしへのつきかかりせはかつらきのかみはよるともちきらさらまし
    惟宗為経秋上
    262夜もすがら空すむ月を眺むれば秋は明くるも知られざりけり
    よもすからそらすむつきをなかむれはあきはあくるもしられさりけり
    藤原頼宗秋上
    263うきままに厭ひし身こそ惜しまるれ有ればぞ見ける秋の夜の月
    うきままにいとひしみこそをしまるれあれはそみけるあきのよのつき
    藤原隆成秋上
    264こよひこそよにある人はゆかしけれいづこもかくや月を見るらん
    こよひこそよにあるひとはゆかしけれいつこもかくやつきをみるらむ
    赤染衛門秋上
    265秋もあきこよひもこよひ月もつき所もところみる君もきみ
    あきもあきこよひもこよひつきもつきところもところみるきみもきみ
    読人知らず秋上
    266いろいろの花のひもとく夕暮に千世松むしのこゑぞきこゆる
    いろいろのはなのひもとくゆふくれにちよまつむしのこゑそきこゆる
    清原元輔秋上
    267とやかへりわがてならししはし鷹のくるときこゆる鈴虫の聲
    とやかへりわかてならししはしたかのくるときこゆるすすむしのこゑ
    大江公資秋上
    268年へぬる秋にもあかず鈴虫のふり行くままに聲のまされば
    としへぬるあきにもあかすすすむしのふりゆくままにこゑのまされは
    藤原公任秋上
    269たづねくる人もあらなん年をへてわがふるさとのすずむしの聲
    たつねくるひともあらなむとしをへてわかふるさとのすすむしのこゑ
    四條中宮秋上
    270ふるさとは浅茅が原と荒れ果てて夜すがら虫の音をのみぞなく
    ふるさとはあさちかはらとあれはててよすからむしのねをのみそなく
    道命法師秋上
    271あさぢふの秋の夕暮なくむしは我がごとしたにものや悲しき
    あさちふのあきのゆふくれなくむしはわかことしたにものやかなしき
    平兼盛秋上
    272秋風に聲よわり行く鈴虫のつひにはいかがならんとすらん
    あきかせにこゑよわりゆくすすむしのつひにはいかかならむとすらむ
    大江匡衡秋上
    273なけやなけ蓬が袖のきりぎりす過ぎ行く秋はげにぞかなしき
    なけやなけよもきかそまのきりきりすすきゆくあきはけにそかなしき
    曾禰好忠秋上
    274わぎもこがかけてまつらん玉づさをかきつらねたる初雁の聲
    わきもこかかけてまつらむたまつさをかきつらねたるはつかりのこゑ
    藤原長能秋上
    275おきもゐぬわがとこよこそ悲しけれ春かへりにし雁も鳴くなり
    おきもゐぬわかとこよこそかなしけれはるかへりにしかりもなくなり
    赤染衛門秋上
    276さよふかく旅の空にてなくかりはおのが羽風や夜寒なるらん
    さよふかくたひのそらにてなくかりはおのかはかせやよさむなるらむ
    伊勢大輔秋上
    277さして行く道も忘れてかりがねのきこゆるかたに心をぞやる
    さしてゆくみちもわすれてかりかねのきこゆるかたにこころをそやる
    白河院秋上
    278あふさかの関の杉むら引くほどはをぶちにみゆる望月の駒
    あふさかのせきのすきむらひくほとはをふちにみゆるもちつきのこま
    良暹法師秋上
    279みちのくのあだちの駒はなづめどもけふ逢坂の関まではきぬ
    みちのくのあたちのこまはなつめともけふあふさかのせきまてはきぬ
    源縁法師秋上
    280望月の駒引く時はあふさかの木の下やみも見えずぞありける
    もちつきのこまひくときはあふさかのこのしたやみもみえすそありける
    惠慶法師秋上
    281暮れゆけば浅茅が原の虫の音もをのへの鹿も聲たてつなり
    くれゆけはあさちかはらのむしのねもをのへのしかもこゑたてつなり
    源頼家秋上
    282鹿の音に秋をしるかな高砂のをのへの松はみどりなれども
    しかのねにあきをしるかなたかさこのをのへのまつはみとりなれとも
    秋上
    283かひもなき心地こそすれさを鹿のたつ聲もせぬ萩のにしきは
    かひもなきここちこそすれさをしかのたつこゑもせぬはきのにしきは
    白河院秋上
    284秋はぎのさくにしもなど鹿の鳴くうつろふ花はおのが妻かも
    あきはきのさくにしもなとしかのなくうつろふはなはおのかつまかも
    大中臣能宣秋上
    285秋萩をしがらみふする鹿の音をねたきものからまづぞききつる
    あきはきをしからみふするしかのねをねたきものからまつそききつる
    源為善秋上
    286籬なる萩の下葉の色を見て思ひやりつつ鹿ぞ鳴くなる
    まかきなるはきのしたはのもみちみておもひやりつるしかそなくなる
    安法法師秋上
    287秋はなほ我が身ならねど高砂のをのへの鹿の妻ぞこふらし
    あきはなほわかみならねとたかさこのをのへのしかもつまそこふらし
    能因法師秋上
    288こよひこそ鹿のね近くきこゆなれやがて垣根は秋の野なれば
    こよひこそしかのねちかくきこゆなれやかてかきほはあきののなれは
    叡覚法師秋上
    289宮城野に妻とふ鹿ぞさけぶなる本あらの萩に露やさむけき
    みやきのにつまよふしかそさけふなるもとあらのはきにつゆやさむけき
    藤原長能秋上
    290秋霧の晴れせぬみねに立つ鹿は聲ばかりこそ人にしらるれ
    あききりのはれせぬみねにたつしかはこゑはかりこそひとにしらるれ
    大弐三位秋上
    291鹿の音ぞ寝覚めの床にきこゆなるをのの草臥露や置くらん
    しかのねそねさめのとこにかよふなるをののくさふしつゆやおくらむ
    藤原家経秋上
    292小倉山たちどもみえぬ夕霧に妻まどはせる鹿ぞなくなる
    をくらやまたちともみえぬゆふきりにつままとはせるしかそなくなる
    江侍従秋上
    293晴れずのみ物ぞ悲しき秋霧は心のうちに立つにやあるらん
    はれすのみものそかなしきあききりはこころのうちにたつにやあるらむ
    和泉式部秋上
    294のこりなき命を惜しと思ふかな宿の秋はぎ散りはつるまで
    のこりなきいのちををしとおもふかなやとのあきはきちりはつるまて
    天台座主源心秋上
    295おきあかし見つつながむる萩の上の露ふきみだる秋の夜の風
    おきあかしみつつなかむるはきのうへのつゆふきみたるあきのよのかせ
    伊勢大輔秋上
    296思ふことなけれどぬれぬ我が袖はうたたある野邊の萩の露かな
    おもふことなけれとぬれぬわかそてはうたたあるのへのはきのつゆかな
    能因法師秋上
    297まだ宵にねたる萩かなおなじえにやがて置きゐる露もこそあれ
    またよひにねたるはきかなおなしえにやかておきゐるつゆもこそあれ
    新左衛門秋上
    298人しれず物をや思ふ秋萩のねたるかほにて露ぞこぼるる
    ひとしれすものをやおもふあきはきのねたるかほにてつゆそこほるる
    中納言女王秋上
    299かぎりあらん仲ははかなくなりぬとも露けき萩の上をだにとへ
    かきりあらむなかははかなくなりぬともつゆけきはきのうへをたにとへ
    和泉式部秋上
    300白露も心おきてや思ふらんぬしもたづねぬ宿の秋萩
    しらつゆもこころおきてやおもふらむぬしもたつねぬやとのあきはき
    筑前乳母秋上
    301おく露にたわむ枝だにあるものをいかでか折らん宿の秋萩
    おくつゆにたわむえたたにあるものをいかてかをらむやとのあきはき
    橘則長秋上
    302君なくて荒れたる宿の浅茅生に鶉なくなり秋の夕暮
    きみなくてあれたるやとのあさちふにうつらなくなりあきのゆふくれ
    源時綱秋上
    303秋風にしたばや寒くなりぬらん小萩が原に鶉なくなり
    あきかせにしたはやさむくなりぬらむこはきかはらにうつらなくなり
    藤原通宗秋上
    304けさきつる野原の露に我ぬれぬうつりやしぬる萩が花ずり
    けさきつるのはらのつゆにわれぬれぬうつりやしぬるはきかはなすり
    藤原範永秋上
    305いはれ野の萩のあさ露分け行けば恋せし袖の心地こそすれ
    いはれののはきのあさつゆわけゆけはこひせしそてのここちこそすれ
    素意法師秋上
    306ささがにのすがく浅茅の末ごとに乱れてぬける白露の玉
    ささかにのすかくあさちのすゑことにみたれてぬけるしらつゆのたま
    藤原長能秋上
    307いかにして玉にもぬかん夕されば荻の葉分けにむすぶ白露
    いかにしてたまにもぬかむゆふされはをきのはわきにむすふしらつゆ
    橘為義秋上
    308袖ふれば露こぼれけり秋の野はまくりでにてぞ行くべかりける
    そてふれはつゆこほれけりあきののはまくりてにてそゆくへかりける
    良暹法師秋上
    309秋の野は折るべき花もなかりけりこぼれて消えん露の惜しさに
    あきののはをるへきはなもなかりけりこほれてきえむつゆのをしさに
    源親範秋上
    310草の上におきてぞあかす秋の夜の露ことならぬ我が身と思へば
    くさのうへにおきてそあかすあきのののつゆことならぬわかみとおもへは
    大中臣能宣秋上
    311をみなへしかげをうつせば心なき水も色なる物にぞありける
    をみなへしかけをうつせはこころなきみつもいろなるものにそありける
    藤原頼宗秋上
    312女郎花多かるのべにけふしもあれうしろめたくも思ひやるかな
    をみなへしおほかるのへにけふしまれうしろめたくもおもひやるかな
    橘則長秋上
    313秋風に折れじとすまふ女郎花いくたび野邊におきふしぬらん
    あきかせにをれしとすまふをみなへしいくたひのへにおきふしぬらむ
    前律師慶暹秋上
    314秋の野に狩ぞ暮れぬる女郎花こよひばかりは宿もかさなん
    あきののにかりそくれぬるをみなへしこよひはかりのやともかさなむ
    清原元輔秋上
    315宿ごとにおなじのべをやうつすらんおもがはりせぬ女郎花かな
    やとことにおなしのへをやうつすらむおもかはりせぬをみなへしかな
    白河院秋上
    316よそにのみ見つつはゆかじ女郎花をらむ袂は露にぬるとも
    よそにのみみつつはゆかしをみなへしをらむたもとはつゆにぬるとも
    源道済秋上
    317ありとても頼むべきかは世の中をしらするものはあさがほの花
    ありとてもたのむへきかはよのなかをしらするものはあさかほのはな
    和泉式部秋上
    318いとどしくなぐさめがたき夕暮に秋とおぼゆる風ぞ吹くなる
    いととしくなくさめかたきゆふくれにあきとおほゆるかせそふくなる
    源道済秋上
    319さらでだにあやしきほどの夕暮に荻ふく風の音ぞきこゆる
    さらてたにあやしきほとのゆふくれにをきふくかせのおとそきこゆる
    斎宮女御秋上
    320荻のはに吹き過ぎて行く秋風のまたたが里におどろかすらん
    をきのはにふきすきてゆくあきかせのまたたかさとをおとろかすらむ
    読人知らず秋上
    321さりともと思ひし人は音もせで荻のうはばに風ぞ吹くなる
    さりともとおもひしひとはおともせてをきのうははにかせそふくなる
    三條小右近秋上
    322荻のはに人頼めなる風の音を我が身にしめてあかしつるかな
    をきのはにひとたのめなるかせのおとをわかみにしめてあかしつるかな
    僧都實誓秋上
    323をぎ風もやや吹きそむるこゑすなりあはれ秋こそふかくなるらし
    をきのかせもややふきそむるこゑすなりあはれあきこそふかくなるらし
    藤原長能秋上
    324明けぬるか川瀬の霧のたえだえに遠ち方人の袖のみゆるは
    あけぬるかかはせのきりのたえまよりをちかたひとのそてのみゆるは
    源経信母秋上
    325さだめなき風のふかずば花すすき心となびく方はみてまし
    さためなきかせのふかすははなすすきこころとなひくかたはみてまし
    藤原経衡秋上
    326さらでだに心のとまる秋の野にいとどもまねく花すすきかな
    さらてたにこころのとまるあきののにいとともまねくはなすすきかな
    源師賢秋上
    327ことしよりうゑはじめたるわが宿の花はいづれの秋か見ざらん
    ことしよりうゑはしめつるわかやとのはなはいつれのあきかみさらむ
    清原元輔秋上
    328水のいろに花の匂ひをけふそへて千年の秋のためしとぞみる
    みつのいろにはなのにほひをけふそへてちとせのあきのためしとそみる
    大中臣能宣秋上
    329我が宿に秋ののべをばうつせりと花見にゆかむ人につげばや
    わかやとにあきののへをはうつせりとはなみにゆかむひとにつけはや
    藤原師実秋上
    330あさゆふに思ふ心は露なれやかからぬ花のうへしなければ
    あさゆふにおもふこころはつゆなれやかからぬはなのうへしなけれは
    良暹法師秋上
    331我が宿に千草の花をうゑつれば鹿の音のみや野邊にのこらん
    わかやとにちくさのはなをうゑつれはしかのねのみやのへにのこらむ
    源頼家秋上
    332わがやどに花をのこさずうつし植ゑて鹿の音きかぬ野邊となしつる
    わかやとにはなをのこさすうつしうゑてしかのねきかぬのへとなしつる
    源頼実秋上
    333寂しさに宿を立ち出でてながむればいづくもおなじ秋の夕暮
    さひしさにやとをたちいててなかむれはいつくもおなしあきのゆふくれ
    良暹法師秋上
    334なにしかは人もきてみんいとどしく物思ひまさる秋の山里
    なにしかはひともきてみむいととしくものおもひまさるあきのやまさと
    和泉式部秋上
    335唐衣ながきよすがらうつ聲に我さへねでも明かしつるかな
    からころもなかきよすからうつこゑにわれさへねてもあかしつるかな
    源資綱秋下
    336小夜更けてこころしてうつ聲きけば急がぬ人もねられざりけり
    さよふけてころもしてうつこゑきけはいそかぬひともねられさりけり
    伊勢大輔秋下
    337うたたねに夜や更けぬらん唐衣うつ聲たかくなりまさるなり
    うたたねによやふけぬらむからころもうつこゑたかくなりまさるなり
    藤原兼房秋下
    338菅のねのながながしてふ秋の夜は月みぬ人のいふにぞありける
    すかのねのなかなかしといふあきのよはつきみぬひとのいふにそありける
    藤原長能秋下
    339月はよしはげしき風の音さへぞ身にしむばかり秋はかなしき
    つきはよしはけしきかせのおとさへそみにしむはかりあきはかなしき
    斎院中務秋下
    340山里のしづの松垣ひまをあらみいたくな吹きそこがらしの風
    やまさとのしつのまつかきひまをあらみいたくなふきそこからしのかせ
    大宮越前秋下
    341見渡せば紅葉しにけり山里はねたくぞけふはひとりきにける
    みわたせはもみちしにけりやまさとにねたくそけふはひとりきにける
    源道済秋下
    342いかなればおなじ時雨に紅葉するははその杜の薄くこからん
    いかなれはおなししくれにもみちするははそのもりのうすくこからむ
    藤原頼宗秋下
    343日をへつつ深くなり行くもみぢばの色にぞ秋のほどはしらるる
    ひをへつつふかくなりゆくもみちはのいろにそあきのほとはしりぬる
    藤原経衡秋下
    344このころは木々の梢に紅葉して鹿こそはなけ秋の山里
    このころはききのこすゑにもみちしてしかこそはなけあきのやまさと
    上東門院中将秋下
    345ふるさとはまだ遠けれどもみぢばの色に心のとまりぬるかな
    ふるさとはまたとほけれともみちはのいろにこころのとまりぬるかな
    藤原兼房秋下
    346いかなれば船木の山のもみぢばの秋はすぐれどこがれざるらん
    いかなれはふなきのやまのもみちはのあきはすくれとこかれさるらむ
    右大辨通俊秋下
    347うゑおきしあるじはなくて菊の花おのれひとりぞ露けかりける
    うゑおきしあるしはなくてきくのはなおのれひとりそつゆけかりける
    惠慶法師秋下
    348つらからん方こそあらめ君ならでたれにか見せん白菊の花
    つらからむかたこそあらめきみならてたれにかみせむしらきくのはな
    大弐三位秋下
    349めもかれず見つつくらさん白菊の花より後の花しなければ
    めもかれすみつつくらさむしらきくのはなよりのちのはなしなけれは
    伊勢大輔秋下
    350むらさきにやしほそめたる菊の花うつろふ色と誰かいひけん
    むらさきにやしほそめたるきくのはなうつろふいろとたれかいひけむ
    藤原義忠秋下
    351あさまだき八重さく菊の九重にみゆるは霜のおけるなりけり
    あさまたきやへさくきくのここのへにみゆるはしものおけはなりけり
    藤原長房秋下
    352きくにだに心は移る花の色を見に行く人はかへりしもせじ
    きくにたにこころはうつるはなのいろをみにゆくひとはかへりしもせし
    赤染衛門秋下
    353うすくこく色ぞ見えける菊の花露や心のわきて置くらん
    うすくこくいろそみえけるきくのはなつゆやこころをわきておくらむ
    清原元輔秋下
    354狩に来ん人に折らるな菊の花うつろひはてむ末までもみん
    かりにこむひとにをらるなきくのはなうつろひはてむすゑまてもみむ
    大中臣能宣秋下
    355白菊のうつろひ行くぞあはれなるかくしつつこそ人も枯れしか
    しらきくのうつろひゆくそあはれなるかくしつつこそひともかれしか
    良暹法師秋下
    356植ゑおきし人の心は白菊の花よりさきにうつろひにけり
    うゑおきしひとのこころはしらきくのはなよりさきにうつろひにけり
    藤原経衡秋下
    357我のみやかかると思へばふるさとの籬の菊もうつろひにけり
    われのみやかかるとおもへはふるさとのまかきにきくもうつろひにけり
    藤原定頼秋下
    358むらさきにうつろひにひしを置く露のなほ白菊とみするなりけり
    むらさきにうつろひにしをおくしものなほしらきくとみするなりけり
    源資綱秋下
    359山里の紅葉見にとや思ふらん散りはててこそとふべかりけれ
    やまさとのもみちみにとやおもふらむちりはててこそとふへかりけれ
    藤原公任秋下
    360からにしき色見えまがふもみぢばの散る木のもとは立ち憂かりけり
    からにしきいろみえまかふもみちはのちるこのもとはたちうかりけり
    平兼盛秋下
    361紅葉ちるころなりけりな山里のことぞともなく袖のぬるるは
    もみちちるころなりけりなやまさとのことそともなくそてのぬるるは
    清原元輔秋下
    362もみぢばの雨とふるなる木の間よりあやなく月の影ぞもりくる
    もみちはのあめとふるなるこのまよりあやなくつきのかけそもりくる
    白河院秋下
    363もみぢちる秋の山邊はしらかしの下ばかりこそ道はみえけれ
    もみちちるあきのやまへはしらかしのしたはかりこそみちはみえけれ
    法印清成秋下
    364水上にもみぢながれて大井河むらごにみゆる瀧の白絲
    みなかみにもみちなかれておほゐかはむらこにみゆるたきのしらいと
    藤原頼宗秋下
    365水もなく見えこそわたれ大井河きしのもみぢば雨とふれども
    みつもなくみえこそわたれおほゐかはきしのもみちはあめとふれとも
    藤原定頼秋下
    366嵐吹く三室の山のもみぢばは立田の川のにしきなりけり
    あらしふくみむろのやまのもみちははたつたのかはのにしきなりけり
    能因法師秋下
    367見しよりも荒れぞしにける磯の上秋は時雨のふりまさりつつ
    みしよりもあれそしにけるいそのかみあきはしくれのふりまさりつつ
    藤原範永秋下
    368秋の夜は山田のいほに稲妻の光のみこそもりあかしけれ
    あきのよはやまたのいほにいなつまのひかりのみこそもりあかしけれ
    伊勢大輔秋下
    369宿近き山田のひたにてもかけで吹く秋風にまかせてぞみる
    やとちかきやまたのひたにてもかけてふくあきかせにまかせてそみる
    源頼家秋下
    370秋の田になみよる稲は山川の水ひきかけし早苗なりけり
    あきのたになみよるいねはやまかはのみつひきうゑしさなへなりけり
    相模秋下
    371夕日さす裾野のすすき方よりにまねくや秋を送るなるらん
    ゆふひさすすそののすすきかたよりにまねくやあきをおくるなるらむ
    源頼綱秋下
    372あすよりはいとど時雨やふりそはん暮れ行く秋を惜しむ袂に
    あすよりはいととしくれやふりそはむくれゆくあきををしむたもとに
    藤原範永秋下
    373明けはてば野邊をまづ見ん花薄まねくけしきは秋にかはらじ
    あけはてはのへをまつみむはなすすきまねくけしきはあきにかはらし
    藤原範永秋下
    374秋はただけふばかりぞとながむれば夕暮れにさへなりにけるかな
    あきはたたけふはかりそとなかむれはゆふくれにさへなりにけるかな
    法眼源賢秋下
    375としつもる人こそいとど惜しまるれ今日なかりなる秋の夕暮
    としつもるひとこそいととをしまるれけふはかりなるあきのゆふくれ
    大貮資通秋下
    376夜もすがら眺めてだにもなぐさまん明けてみるべき秋の空かは
    よもすからなかめてたにもなくさめむあけてみるへきあきのそらかは
    源兼長秋下
    377おちつもる紅葉をみれば大井川ゐぜきに秋もとまるなりけり
    おちつもるもみちをみれはおほゐかはゐせきにあきもとまるなりけり
    藤原公任
    378たむけにもすべきもみぢの錦こそ神無月にはかひなかりけれ
    たむけにもすへきもみちのにしきこそかみなつきにはかひなかりけれ
    大僧正深覚
    379大井川ふるきながれを尋ねきてあらしの山のもみぢをぞみる
    おほゐかはふるきなかれをたつねきてあらしのやまのもみちをそみる
    白河院
    380あはれにもたえず音する時雨かなとふべき人もとはぬすみかを
    あはれにもたえすおとするしくれかなとふへきひともとはぬすみかに
    藤原兼房
    381神無月ふかくなりゆくこずゑよりしぐれてわたるみやまべの里
    かみなつきふかくなりゆくこすゑよりしくれてわたるみやまへのさと
    永胤法師
    382木の葉ちる宿はききわくことぞなき時雨する夜も時雨せぬよも
    このはちるやとはききわくことそなきしくれするよもしくれせぬよも
    源頼実
    383もみぢちる音は時雨のここちしてこずゑの空はくもらざりけり
    もみちちるおとはしくれのここちしてこすゑのそらはくもらさりけり
    藤原家経
    384かみなづきねざめにきけば山里のあらしのこゑは木の葉なりけり
    かみなつきねさめにきけはやまさとのあらしのこゑはこのはなりけり
    能因法師
    385網代木に紅葉こきまぜよる氷魚は錦をあらふ心地こそすれ
    あしろきにもみちこきませよるひをはにしきをあらふここちこそすれ
    橘義通
    386宇治河の早く網代はなかりけりなにによりてか日をば暮さむ
    うちかはのはやくあしろはなかりけりなにによりてかひをはくらさむ
    中宮内侍
    387霧はれぬあやの河べになく千鳥こゑにや友の行くかたをしる
    きりはれぬあやのかはへになくちとりこゑにやとものゆくかたをしる
    藤原孝善
    388佐保河のきりのあなたになく千鳥こゑはへだてぬものにぞありける
    さほかはのきりのあなたになくちとりこゑはへたてぬものにそありける
    藤原頼宗
    389なにはがたあさみつしほにたつ千鳥浦づたひする声きこゆなり
    なにはかたあさみつしほにたつちとりうらつたひするこゑきこゆなり
    相模
    390さびしさに煙をだにもたたじとて柴をりくぶる冬の山里
    さひしさにけふりをたにもたたしとてしはをりくふるふゆのやまさと
    和泉式部
    391山の端はなのみなりけり見る人の心にぞいる冬の夜の月
    やまのははなのみなりけりみるひとのこころにそいるふゆのよのつき
    大弐三位
    392冬の夜にいくたびばかりねざめして物おもふやどのひましらむらむ
    ふゆのよにいくたひはかりねさめしてものおもふやとのひましらむらむ
    増基法師
    393とやかへるしらふの鷹のこゐをなみ雪げの空にあはせつるかな
    とやかへるしらふのたかのこゐをなみゆきけのそらにあはせつるかな
    藤原長家
    394打ち拂ふ雪もやまなむみ狩野のすすきのあともたづぬばかりに
    うちはらふゆきもやまなむみかりののききすのあともたつぬはかりに
    能因法師
    395萩原も霜枯れにけりみ狩野はあさるきぎすのかくれなきまで
    はきはらもしもかれにけりみかりのはあさるききすのかくれなきまて
    律師長濟
    396霜枯れの草のとざしはあだなれどなべての人をいるるものかは
    しもかれのくさのとさしはあたなれとなへてのひとをいるるものかは
    能宣
    397霜がれは一つ色にぞなりにける千種にみえし野邊にはあらずや
    しもかれはひとついろにそなりにけるちくさにみえしのへにあらすや
    少輔
    398おちつもる庭の木の葉を夜のほどに拂ひてけりと見する朝霜
    おちつもるにはのこのはをよのほとにはらひてけりとみするあさしも
    読人知らず
    399杉の板をまばらにふける閨の上におどろくばかり霰ふるらし
    すきのいたをまはらにふけるねやのうへにおとろくはかりあられふるらし
    大江公資
    400とふ人もなぎ蘆ぶきの我が宿は降る霰さへ音せざりけり
    とふひともなきあしふきのわかやとはふるあられさへおとせさりけり
    橘俊綱
    401都にも初雪ふれば小野山のまきの炭がま焼きまさるらん
    みやこにもはつゆきふれはをのやまのまきのすみかまたきまさるらむ
    相模
    402埋火のあたりは春の心地して散りくる雪を花とこそみれ
    うつみひのあたりははるのここちしてちりくるゆきをはなとこそみれ
    素意法師
    403淡雪も松の上にし降りぬれば久しく消えぬものにぞありける
    あはゆきもまつのうへにしふりぬれはひさしくきえぬものにそありける
    藤原國行
    404いづ方と甲斐の白根はしらねども雪ふるごとに思ひこそやれ
    いつかたとかひのしらねはしらねともゆきふることにおもひこそやれ
    紀伊式部
    405もみぢゆゑ心の中にしめゆひし山の高嶺は雪ふりにけり
    もみちゆゑこころのうちにしめゆひしやまのたかねはゆきふりにけり
    能因法師
    406あさぼらけ雪ふる空を見渡せば山の端ごとに月ぞのこれる
    あさほらけゆきふるそらをみわたせはやまのはことにつきそのこれる
    源道済
    407こし道も見えず雪こそ降りにけれ今や解くると人やまつらん
    こしみちもみえすゆきこそふりにけれいまやとくるとひとはまつらむ
    慶尋法師
    408いかばかり降る雪なればしなが鳥ゐなのしば山道まどふらん
    いかはかりふるゆきなれはしなかとりゐなのしはやまみちまとふらむ
    藤原國房
    409ひとりぬる草の枕は冴ゆれども降り積む雪を拂はでぞみる
    ひとりぬるくさのまくらはさゆれともふりつむゆきをはらはてそみる
    津守國基
    410春やくる人やとふとも待たれけりけさ山里の雪をながめて
    はるやくるひとやとふともまたれけりけさやまさとのゆきをなかめて
    赤染衛門
    411雪ふかき道にぞしるき山里は我よりさきに人こざりけり
    ゆきふかきみちにそしるきやまさとはわれよりさきにひとこさりけり
    藤原経衡
    412山里は雪こそ深くなりにけれ訪はでも年の暮れにけるかな
    やまさとはゆきこそふかくなりにけれとはてもとしのくれにけるかな
    源頼家
    413おもひやれ雪も山路も深くして跡たえにける人のすみかを
    おもひやれゆきもやまちもふかくしてあとたえにけるひとのすみかを
    信寂法師
    414こりつみてまきのすみやくけをぬるみ大原山の雪のむらぎえ
    こりつめてまきのすみやくけをぬるみおほはらやまのゆきのむらきえ
    和泉式部
    415我が宿に降りしく雪を春よまだ年越えぬ間の花とこそみれ
    わかやとにふりしくゆきをはるにまたとしこえぬまのはなとこそみれ
    清原元輔
    416同じくぞ雪つもるらんと思へども君ふる里はまづぞとはるる
    おなしくそゆきつもるらむとおもへともきみふるさとはまつそとはるる
    藤原道長
    417ふる雪は年とともにぞ積もりけるいづれか高くなりまさるらん
    ふるゆきはとしとともにそつもりけるいつれかたかくなりまさるらむ
    藤原公任
    418さむしろはむべ冴えけらし隠れ沼の蘆間の氷ひとへしにけり
    さむしろはうへさえけらしかくれぬのあしまのこほりひとへしにけり
    頼慶法師
    419小夜更くるままに汀や氷るらん遠ざかり行く志賀の浦浪
    さよふくるままにみきはやこほるらむとほさかりゆくしかのうらなみ
    快覚法師
    420鴎こそよがれにけらし猪名野なる昆陽の池水うは氷りせり
    かもめこそよかれにけらしゐなのなるこやのいけみつうはこほりせり
    僧都長算
    421岩間には氷のくさび打ちてけり玉ゐし水も今はもりこず
    いはまにはこほりのくさひうちてけりたまゐしみつもいまはもりこす
    曾禰好忠
    422むばたまの夜をへて氷る原の池は春とともにや波もたつべき
    うはたまのよをへてこほるはらのいけははるとともにやなみもたつへき
    藤原孝善
    423白妙にかしらのかみはなりにけり我が身に年の雪つもりつつ
    しろたへにかしらのかみはなりにけりわかみにとしのゆきつもりつつ
    藤原明衡
    424都へは年とともにぞ帰るべきやがて春をもむかへがてらに
    みやこへはとしとともにそかへるへきやかてはるをもむかへかてらに
    源為善
    425けふとくる氷にかへて結ぶらし千歳の春にあはむちぎりを
    けふとくるこほりにかへてむすふらしちとせのはるにあはむちきりを
    426朽ちもせぬ長柄の橋のはし柱ひさしきことの見えもするかな
    くちもせぬなからのはしのはしはしらひさしきほとのみえもするかな
    兼盛
    427武蔵野を霧の晴れ間に見渡せば行く末とほき心地こそすれ
    むさしのをきりのたえまにみわたせはゆくすゑとほきここちこそすれ
    兼盛
    428霞さへたなびく野辺の松なれば空にぞ君が千代しらるる
    かすみさへたなひくのへのまつなれはそらにそきみかちよはしらるる
    源兼澄
    429君をいのる年の久しくなりぬれば老いの坂ゆく杖ぞうれしき
    きみをいのるとしのひさしくなりぬれはおいのさかゆくつゑそうれしき
    前律師慶暹
    430春秋もしらで年ふる我が身かな松と鶴との年をかぞへて
    はるもあきもしらてとしふるわかみかなまつとつるとのとしをかそへて
    兼盛
    431ひともとの松のしるしぞたのもしきふた心なき千世とみつれば
    ひともとのまつのしるしそたのもしきふたこころなきちよとみつれは
    源兼澄
    432君が代をなににたとへむときはなる松の緑も千代をこそふれ
    きみかよをなににたとへむときはなるまつのみとりもちよをこそふれ
    読人知らず
    433めづらしき光さしそふさかづきはもちながらこそ千世もめぐらめ
    めつらしきひかりさしそふさかつきはもちなからこそちよもめくらめ
    紫式部
    434いとけなき衣の袖はせばくとも劫のいしをばなでつくしてむ
    いとけなきころものそてはせはくともこふのうへをはなてつくしてむ
    藤原公任
    435君が代はかぎりもあらじ浜椿ふたたび色はあらたまるとも
    きみかよはかきりもあらしはまつはきふたたひいろはあらたまるとも
    読人知らず
    436これもまた千代のけしきのしるきかな生ひそふ松の双葉ながらに
    これもまたちよのけしきのしるきかなおひそふまつのふたはなからに
    源顕房
    437ひめこまつ大原山のたねなればちとせはここにまかせてをみむ
    ひめこまつおほはらやまのたねなれはちとせはたたにまかせてをみむ
    清原元輔
    438雲の上に昇らむまでもみてしがな鶴の毛ごろも年ふとならば
    くものうへにのほらむまてもみてしかなつるのけころもとしふとならは
    赤染衛門
    439千代をいのる心のうちのすずしきはたえせぬ家の風にぞありける
    ちよをいのるこころのうちのすすしきはたえせぬいへのかせにそありける
    赤染衛門
    440ちとせふる双葉の松にかけてこそ藤のわかえもはるひ栄えめ
    ちとせふるふたはのまつにかけてこそふちのわかえもはるひさかえめ
    源顕房
    441おもふこといまはなきかな撫子の花さくばかりなりぬとおもへば
    おもふこといまはなきかななてしこのはなさくはかりなりぬとおもへは
    花山院
    442君みればちりもくもらでよろづ代のよはひをのみもます鏡かな
    きみみれはちりもくもらてよろつよのよはひをのみもますかかみかな
    伊勢大輔
    443くもりなき鏡の光ますますも照さむ影にかくれざらめや
    くもりなきかかみのひかりますますもてらさむかけにかくれさらめや
    藤原能信
    444おもひやれまだ鶴のこのおひさきを千世もとなづる袖のせばさを
    おもひやれまたつるのこのおひさきをちよもとなつるそてのせはさを
    藤三位
    445よろづよをかぞへむものは紀の國のちひろのはまの真砂なりけり
    よろつよをかそへむものはきのくにのちひろのはまのまさこなりけり
    清原元輔
    446住吉の浦の玉藻をむすびあげて渚の松の影をこそみめ
    すみよしのうらのたまもをむすひあけてなきさのまつのかけをこそみめ
    清原元輔
    447いろいろにあまた千歳のみゆるかな小松が原にたづやむれゐる
    いろいろにあまたちとせのみゆるかなこまつかはらにたつやむれゐる
    源重之
    448かたがたの親の親どち祝ふめり子のこの千代を思ひこそやれ
    かたかたのおやのおやとちいはふめりこのこのちよをおもひこそやれ
    藤原保昌
    449君が代は千代にひとたびゐるちりの白雲かかる山となるまで
    きみかよはちよにひとたひゐるちりのしらくもかかるやまとなるまて
    大江嘉言
    450君が代はつきじとぞおもふ神風やみもすそ河のすまむかぎりは
    きみかよはつきしとそおもふかみかせやみもすそかはのすまむかきりは
    源経信
    451思ひやれやそうぢ人の君が為ひとつ心にいのるいのりを
    おもひやれやそうちひとのきみかためひとつこころにいのるいのりを
    藤原為盛女
    452かすが山いはねの松は君がためちとせのみかはよろづよぞへむ
    かすかやまいはねのまつはきみかためちとせのみかはよろつよそへむ
    能因法師
    453君が代はしらたま椿八千代ともなににかぞへむ限りなければ
    きみかよはしらたまつはきやちよともなににかそへむかきりなけれは
    式部大輔資業
    454岩くぐる瀧の白糸たえせでぞ久しくよよにへつつみるべき
    いはくくるたきのしらいとたえせてそひさしくよよにへつつみるへき
    後冷泉院
    455君すめばにごれる水もなかりけり汀のたづも心してゐよ
    きみすめはにこれるみつもなかりけりみきはのたつもこころしてゐよ
    小大君
    456ことしだに鏡と見ゆる池水の千代へてすまむ影ぞゆかしき
    ことしたにかかみとみゆるいけみつのちよへてすまむかけそゆかしき
    藤原範永
    457ちよをへむ君がかざせる藤の花松にかかれる心地こそすれ
    ちとせへむきみかかさせるふちのはなまつにかかれるここちこそすれ
    良暹法師
    458よろつよに千代のかさねてみゆるかな亀のをかなる松のみどりは
    よろつよにちよのかさねてみゆるかなかめのをかなるまつのみとりは
    式部大輔資業
    459動きなき大倉山をたてたればをさまれるよぞ久しかるべき
    うこきなきおほくらやまをたてたれはをさまれるよそひさしかるへき
    式部大輔資業
    460紫の雲のよそなる身なれどもたつときくこそうれしかりけれ
    むらさきのくものよそなるみなれともたつときくこそうれしかりけれ
    江侍従
    461もみぢ見む残りの秋もすくなきに君ながゐせば誰とをらまし
    もみちみむのこりのあきもすくなきにきみなかゐせはたれとをらまし
    恵慶法師
    462をしむべき都の紅葉まだちらぬ秋のうちにはかへらざらめや
    をしむへきみやこのもみちまたちらぬあきのうちにはかへらさらめや
    祭主輔親
    463つねならばあはでかへるも歎かじをみやこいづとか人のつげける
    つねならはあはてかへるもなけかしをみやこいつとかひとのつけける
    源道済
    464みやこ出づるけさばかりだにはつかにもあひみて人を別れましかば
    みやこいつるけさはかりたにはつかにもあひみてひとをわかれましかは
    増基法師
    465別れての四年の春の春ごとに花のみやこを思ひおこせよ
    わかれてのよとせのはるのはることにはなのみやこをおもひおこせよ
    藤原道信
    466あふさかの関うちこゆる程もなくけさはみやこの人ぞこひしき
    あふさかのせきうちこゆるほともなくけさはみやこのひとそこひしき
    藤原惟規
    467よのつねにおもふ別れの旅ならば心見えなる手向けせましや
    よのつねにおもふわかれのたひならはこころみえなるたまけせましや
    藤原長能
    468行く春とともにたちぬるふな道を祈りかけたる藤なみの花
    ゆくはるとともにたちぬるふなみちをいのりかけたるふちなみのはな
    選子内親王
    469祈りつつちよをかけたる藤なみにいきの松こそ思ひやらるれ
    いのりつつちよをかけたるふちなみにいきのまつこそおもひやらるれ
    筑後守藤原為正
    470たれがよもわがよもしらぬ世の中にまつほどいかがあらむとすらむ
    たれかよもわかよもしらぬよのなかにまつほといかかあらむとすらむ
    藤原道信
    471君をのみたのむたひなる心には行く末とほくおもほゆるかな
    きみをのみたのむたひなるこころにはゆくすゑとほくおもほゆるかな
    藤原倫寧
    472我をのみたのむといはば行く末の松のちよをも君こそはみめ
    われをのみたのむといははゆくすゑのまつのちよをもきみこそはみめ
    入道摂政
    473山のはに月かげみえば思ひ出でよ秋風ふかば我も忘れじ
    やまのはにつきかけみえはおもひいてよあきかせふかはわれもわすれし
    堪圓法師
    474たびたびのちよをはるかに君やへむ末の松よりいきの松まて
    たひたひのちよをはるかにきみやみむすゑのまつよりいきのまつまて
    相模
    475いとはしきわが命さへゆく人のかへらむまでとをしくなりぬる
    いとはしきわかいのちさへゆくひとのかへらむまてとをしくなりぬる
    相模
    476命あらば今かへりこむ津の国の難波ほり江の蘆のうら葉に
    いのちあらはいまかへりこむつのくにのなにはほりえのあしのうらはに
    大江嘉言
    477かりそめの別れとおもへど白河のせきとどめぬは涙なりけり
    かりそめのわかれとおもへとしらかはのせきととめぬはなみたなりけり
    藤原定頼
    478別れ路にたつけふよりもかへるさを哀れくもゐにきかむとすらむ
    わかれちにたつけふよりもかへるさをあはれくもゐにきかむとすらむ
    橘則長
    479誰よりも我ぞかなしきめぐりみむ程をまつべき命ならねば
    ゆくよりもわれそかなしきめくりあはむほとをまつへきいのちならねは
    慶範法師
    480別るべきなかとしるしる睦まじくならひにけるぞけふはくやしき
    わかるへきなかとしるしるむつましくならひにけるそけふはくやしき
    読人知らず
    481名残ある命と思はば友綱の又もやくるとまたましものを
    なこりあるいのちとおもははともつなのまたもやくるとまたましものを
    良勢法師
    482春は花秋は月にとちぎりつつけふを別れとおもはざりける
    はるははなあきはつきにとちきりつつけふをわかれとおもはさりける
    藤原家経
    483思へただたのめていにし春だにも花の盛りはいかがまたまし
    おもへたたたのめていにしはるたにもはなのさかりはいかかまたれし
    源兼長
    484おもひいでよ道は遙かになりぬとも心のうちは山もへだてじし
    おもひいてよみちははるかになりぬともこころのうちはやまもへたてし
    源道済
    485とまるべき道にはあらず中々にあはでぞけふはあるべかりける
    とまるへきみちにはあらすなかなかにあはてそけふはあるへかりける
    源道済
    486松山の松のうら風吹きよせばひろひてしのべこひわすれ貝
    まつやまのまつのうらかせふきよせはひろひてしのへこひわすれかひ
    藤原定頼
    487たたぬよりしぼりもあへぬ衣手にまだきなかけそ松がうらなみ
    たたぬよりしほりもあへぬころもてにまたきなかけそまつかうらなみ
    源光成
    488かくしつつ多くの人はをしみきぬ我をおくらむ事はいつぞも
    かくしつつおほくのひとはをしみきぬわれをおくらむことはいつそは
    源兼澄
    489暮れて行く年とともにぞ別れぬる道にや春はあはむとすらむ
    くれてゆくとしとともにそわかれぬるみちにやはるはあはむとすらむ
    源為善
    490あふさかの関ぢこゆともみやこなる人に心のかよはざらめや
    あふさかのせきちこゆともみやこなるひとにこころのかよはさらめや
    祭主輔親
    491行く人もとまるもいかにおもふらむ別れてのちの又の別れを
    ゆくひともとまるもいかにおもふらむわかれてのちのまたのわかれを
    赤染衛門
    492いづちともしらぬ別れのたびなれどいかで涙のさきにたつらむ
    いつちともしらぬわかれのたひなれといかてなみたのさきにたつらむ
    中原頼成
    493あふことは雲井はるかにへだつとも心かよはぬ程はあらじを
    あふことはくもゐはるかにへたつともこころかよはぬほとはあらしを
    祭主輔親
    494帰りては誰を見むとかおもふらむ老いて久しき人はありやは
    かへりてはたれをみむとかおもふらむおいてひさしきひとはありやは
    藤原節信
    495筑紫舟まだともづなもとかなくにさしいづるものは涙なりけり
    つくしふねまたともつなもとかなくにさしいつるものはなみたなりけり
    連敏法師
    496ふるさとの花のみやこに住み侘びて八雲たつてふ出雲へぞ行く
    ふるさとのはなのみやこにすみわひてやくもたつてふいつもへそゆく
    大江正言
    497天の河のちのけふだにはるけきをいつともしらぬ舟出かなしな
    あまのかはのちのけふたにはるけきをいつともしらぬふなてかなしな
    藤原公任
    498そのほどとちぎれる旅の別れだに逢ふ事まれにありとこそきけ
    そのほととちきれるたひのわかれたにあふことまれにありとこそきけ
    寂昭法師
    499いかばかり空をあふぎてなげくらむいく雲井ともしらぬ別れを
    いかはかりそらをあふきてなけくらむいくくもゐともしらぬわかれを
    読人知らず
    500逢坂の関とはきけどはしり井の水をばえこそとどめざりけれ
    あふさかのせきとはきけとはしりゐのみつをはえこそととめさりけれ
    藤原兼通羈旅
    501ゆく道の紅葉の色も見るべきを霧とともにやいそぎたつべき
    ゆくみちのもみちのいろもみるへきをきりとともにやいそきたつへき
    藤原公任羈旅
    502霧わけていそぎたちなむ紅葉ばの色にみえなば道もゆかれじ
    きりわけていそきたちなむもみちはのいろしみえなはみちもゆかれし
    藤原定頼羈旅
    503たびの空よはの煙とのぼりなばあまのもしほ火たくかとやみむ
    たひのそらよはのけふりとのほりなはあまのもしほひたくかとやみむ
    花山院羈旅
    504みやこにてふきあげの浜を人とはばけふ見るばかりいかがかたらむ
    みやこにてふきあけのはまをひととははけふみるはかりいかかかたらむ
    懐圓法師羈旅
    505山のはにさはるかとこそ思ひしか峯にてもなほ月ぞまたるる
    やまのはにさはるかとこそおもひしかみねにてもなほつきそまたるる
    少輔羈旅
    506すぎがてにおぼゆるものは蘆間かな堀江のほどは綱手ゆるめよ
    すきかてにおほゆるものはあしまかなほりえのほとはつなてゆるめよ
    藤原國行羈旅
    507蘆の屋のこやの渡りに日は暮れぬいづちゆくらむ駒にまかせて
    あしのやのこやのわたりにひはくれぬいつちゆくらむこまにまかせて
    能因法師羈旅
    508みやこのみかへり見られて東路をこまの心にまかせてぞ行く
    みやこのみかへりみられてあつまちをこまのこころにまかせてそゆく
    増基法師羈旅
    509こととはばありのまにまに都鳥みやこのことを我にきかせよ
    こととははありのまにまにみやことりみやこのことをわれにきかせよ
    和泉式部羈旅
    510鏡山こゆるけふしも春雨のかきくもりやはふるべかりける
    かかみやまこゆるけふしもはるさめのかきくもりやはふるへかりける
    恵慶法師羈旅
    511こえはてば都も遠くなりぬべし関の夕風しばしすずまむ
    こえはてはみやこもとほくなりぬへしせきのゆふかせしはしすすまむ
    赤染衛門羈旅
    512けふばかり霞まざらなむあかで行くみやこの山はそれとだにみむ
    けふはかりかすまさらなむあかてゆくみやこのやまはそれとたにみむ
    増基法師羈旅
    513わたのべや大江のきしにやどりして雲井にみゆる生駒山かな
    わたのへやおほえのきしにやとりしてくもゐにみゆるいこまやまかな
    良暹法師羈旅
    514しらくものうへよりみゆるあしひきの山のたかねやみさかなるらむ
    しらくものうへよりみゆるあしひきのやまのたかねやみさかなるらむ
    能因法師羈旅
    515東路にここをうるまといふことは ゆきかふ人のあればなりけり
    あつまちにここをうるまといふことはゆきかふひとのあれはなりけり
    源重之羈旅
    516あつまぢの浜名の橋をきてみれは昔こひしきわたりなりけり
    あつまちのはまなのはしをきてみれはむかしこひしきわたりなりけり
    大江廣経羈旅
    517おもふ人ありとなけれどふるさとはしかすがにこそ恋しかりけれ
    おもふひとありとなけれとふるさとはしかすかにこそこひしかりけれ
    能因法師羈旅
    518みやこをば霞とともに立ちしかど秋風ぞふく白川の関
    みやこをはかすみとともにたちしかとあきかせそふくしらかはのせき
    能因法師羈旅
    519世の中はかくてもへけりきさがたのあまの苫屋を我が宿にして
    よのなかはかくてもへけりきさかたのあまのとまやをわかやとにして
    能因法師羈旅
    520須磨の浦をけふすぎ行くときし方へ帰る浪にやことをつてまし
    すまのうらをけふすきゆくとこしかたへかへるなみにやことをつてまし
    大中臣能宣羈旅
    521風ふけば藻塩の煙うちなびき我もおもはぬかたにこそゆけ
    かせふけはもしほのけふりうちなひきわれもおもはぬかたにこそゆけ
    大貮高遠羈旅
    522月影はたびの空とてかはらねどなほみやこのみこひしきやなぞ
    つきかけはたひのそらとてかはらねとなほみやこのみこひしきやなそ
    花山院羈旅
    523おぼつかなみやこの空やいかならむこよひあかしの月をみるにも
    おほつかなみやこのそらやいかならむこよひあかしのつきをみるにも
    源資綱羈旅
    524ながむらむあかしのうらのけしきにて都の月を空にしらなむ
    なかむらむあかしのうらのけしきにてみやこのつきはそらにしらなむ
    繪式部羈旅
    525月はかく雲井なれども見るものをあはれみやこのかからましかば
    つきはかくくもゐなれともみるものをあはれみやこのかからましかは
    康資王母羈旅
    526都にて山のはに見し月影をこよひはなみのうへにこそまて
    みやこにてやまのはにみしつきかけをこよひはなみのうへにこそまて
    橘為義羈旅
    527都いでて雲井はるかにきたれども猶にしにこそ月は入りけれ
    みやこいててくもゐはるかにきたれともなほにしにこそつきはいりけれ
    藤原國行羈旅
    528なぬかにもあまりにけりな便りあらばかぞへきかせよ沖の嶋守
    なぬかにもあまりにけりなたよりあらはかそへきかせよおきのしまもり
    源高明羈旅
    529ものをおもふ心のやみしくらければあかしの浦もかひなかりけり
    ものをおもふこころのやみしくらけれはあかしのうらもかひなかりけり
    帥前内大臣羈旅
    530さもこそは都のほかにやどりせめうたて露けき草枕かな
    さもこそはみやこのほかにやとりせめうたてつゆけきくさまくらかな
    藤原隆家羈旅
    531いそぎつつ舟出ぞしつる年の内に花のみやこの春にあふべく
    いそきつつふなてそしつるとしのうちにはなのみやこのはるにあふへく
    式部大輔資業羈旅
    532あなし吹くせとのしほあひに舟出して早くぞ過ぐるさやかた山を
    あなしふくせとのしほあひにふなてしてはやくそすくるさやかたやまを
    右大弁通俊羈旅
    533これやこの月見るたびに思ひやる姨捨山のふもとなりけり
    これやこのつきみるたひにおもひやるをはすてやまのふもとなりける
    橘為伸羈旅
    534見わたせばみやこは近くなりぬらむ過ぎぬる山は霞へだてつ
    みわたせはみやこはちかくなりぬらむすきぬるやまはかすみへたてつ
    源道済羈旅
    535さよ更けて嶺のあらしやいかならむ汀の浪の聲まさるなり
    さよふけてみねのあらしやいかならむみきはのなみのこゑまさるなり
    源道済哀傷
    536夜もすがら契りしことを忘れずばこひむ涙のいろぞゆかしき
    よもすからちきりしことをわすれすはこひむなみたのいろそゆかしき
    読人知らず哀傷
    537しる人もなき別れ路に今はとて心ぼそくもいそぎたつかな
    しるひともなきわかれちにいまはとてこころほそくもいそきたつかな
    読人知らず哀傷
    538ありしこそ限りなりけれあふことをなどのちのよと契らざりけむ
    ありしこそかきりなりけれあふことをなとのちのよとちきらさりけむ
    源兼長哀傷
    539たちのぼるけぶりにつけておもふかないつまたわれを人のかくみむ
    たちのほるけふりにつけておもふかないつまたわれをひとのかくみむ
    和泉式部哀傷
    540などてかく雲がくるらむかくばかりのどかにすめる月もあるよに
    なとてかくくもかくれけむかくはかりのとかにすめるつきもあるよに
    命婦乳母哀傷
    541むらさきの雲のかけても思ひきや春の霞になしてみむとは
    むらさきのくものかけてもおもひきやはるのかすみになしてみむとは
    藤原朝光哀傷
    542おくれじと常のみゆきは急ぎしを煙にそはぬたびのかなしさ
    おくれしとつねのみゆきはいそきしをけふりにそはぬたひのかなしさ
    大納言行成哀傷
    543のべまでに心一つは通へどもわがみゆきとはしらずやありけむ
    のへまてにこころひとつはかよへともわかみゆきとはしらすやあるらむ
    一條院哀傷
    544たきぎつき雪ふりしけるとりべ野はつるの林の心地こそすれ
    たききつきゆきふりしけるとりへのはつるのはやしのここちこそすれ
    法橋忠命哀傷
    545はれずこそかなしかりけれ鳥部山たちかへりつるけさの霞は
    はれすこそかなしかりけれとりへやまたちかへりつるけさのかすみは
    小侍従命婦哀傷
    546いにしへの薪もけふの君がよもつきはてぬるを見るぞ悲しき
    いにしへのたききもけふのきみかよもつきはてぬるをみるそかなしき
    小侍従命婦哀傷
    547時しもあれ春のなかばにあやまたぬよはの煙はうたがひもなし
    ときしもあれはるのなかはにあやまたぬよはのけふりはうたかひもなし
    相模哀傷
    548そなはれし玉のをぐしをさしながら哀れかなしき秋にあひぬる
    そなはれしたまのをくしをさしなからあはれかなしきあきにあひぬる
    山田中務哀傷
    549とはばやと思ひやるだに露けきをいかにぞ君が袖はくちぬや
    とははやとおもひやるたにつゆけきをいかにそきみかそてはくちぬや
    相模哀傷
    550涙河ながるるみをとしらねばや袖ばかりをば人のとふらむ
    なみたかはなかるるみをとしらねはやそてはかりをはひとのとふらむ
    大和宣旨哀傷
    551いかばかり君なげくらむ數ならぬ身だにしぐれし秋のあはれを
    いかはかりきみなけくらむかすならぬみたにしくれしあきのあはれを
    前中宮出雲哀傷
    552よそにきく袖も露けき柏木のもとのしづくを思ひこそやれ
    よそにきくそてもつゆけきかしはきのもとのしつくをおもひこそやれ
    小左近哀傷
    553主なしとこたふる人はなけれども宿の気色ぞいふにまされる
    ぬしなしとこたふるひとはなけれともやとのけしきそいふにまされる
    能因法師哀傷
    554いかばかりさびしかるらむ木枯しの吹きにし宿の秋のゆふぐれ
    いかはかりさひしかるらむこからしのふきにしやとのあきのゆふくれ
    右大臣北方哀傷
    555山ざとのははその紅葉散り木のもといかに寂しかるらむ
    やまてらのははそのもみちちりにけりこのもといかにさひしかるらむ
    読人知らず哀傷
    556おもふらむ別れし人の悲しさはけふまでふべき心地やはせし
    おもふらむわかれしひとのかなしさはけふまてふへきここちやはせし
    源隆国哀傷
    557かなしさのたぐひになにを思はまし別れをしれる君なかりせば
    かなしさのたくひになにをおもはましわかれをしれるきみなかりせは
    出羽辨哀傷
    558をしまるる人なくなどてなりにけむ捨てたる身だにあればあるよに
    をしまるるひとなくなとてなりにけむすてたるみたにあれはあるよに
    中宮内侍哀傷
    559宵のまの空の煙となりにきとあまのはらからなどかつげこぬ
    よひのまのそらのけふりとなりにきとあまのはらからなとかつけこぬ
    源順哀傷
    560思ひいづや思ひいづるに悲しきは別れながらのわかれなりけり
    おもひいつやおもひいつるにかなしきはわかれなからのわかれなりけり
    橘季通哀傷
    561思ひやれかねて別れしくやしさにそへてかなしき心づくしを
    おもひやれかねてわかれしくやしさにそへてかなしきこころつくしを
    式部命婦哀傷
    562五月雨にあらぬけふさへ晴れせねば空も悲しき事やしるらむ
    さみたれにあらぬけふさへはれせぬはそらもかなしきことやしるらむ
    周防内侍哀傷
    563あだにかくおつとおもひしむば玉の髪こそ長き形見なりけれ
    あたにかくおつとおもひしうはたまのかみこそなかきかたみなりけれ
    藤原定頼母哀傷
    564うたたねのこのよの夢のはかなきにさめぬやがての命ともがな
    うたたねのこのよのゆめのはかなきにさめぬやかてのいのちともかな
    藤原実方哀傷
    565夢みずとなげきし人をほどもなく又わが夢にみぬぞかなしき
    ゆめみすとなけきしひとをほともなくまたわかゆめにみぬそかなしき
    藤原相如女哀傷
    566契りありてこのよに又もうまるとも面がはりしてみもや忘れむ
    ちきりありてこのよにまたはうまるともおもかはりしてみもやわすれむ
    藤原実方哀傷
    567今はとてとびわかるめるむら鳥の古巣にひとりながむべきかな
    いまはとてとひわかるめるむらとりのふるすにひとりなかむへきかな
    藤原義孝哀傷
    568とどめおきて誰をあはれとおもふらむこはまさるらむこはまさりけり
    ととめおきてたれをあはれとおもふらむこはまさるらむこはまさりけり
    和泉式部哀傷
    569見るままに露ぞこぼるる遅れにし心もしらぬ撫子の花
    みるままにつゆそこほるるおくれにしこころもしらぬなてしこのはな
    上東門院哀傷
    570見むといひし人ははかなく消えにしを独り露けき秋の花かな
    みむといひしひとははかなくきえにしをひとりつゆけきあきのはなかな
    藤原実方哀傷
    571別れにしそのさみだれの空よりも雪ふればこそ恋しかりけれ
    わかれにしそのさみたれのそらよりもゆきふれはこそこひしかりけれ
    大江匡房哀傷
    572なにしかは今はいそがむ都には待つべき人もなくなりにけり
    なにしにかいまはいそかむみやこにはまつへきひともなくなりにけり
    大江嘉言哀傷
    573今はただそよその事と思ひいでて忘るばかりの憂き事もがな
    いまはたたそよそのこととおもひいててわするはかりのうきこともかな
    和泉式部哀傷
    574捨てはてむと思ふさへこそ悲しけれ君になれにし我が身と思へば
    すてはてむとおもふさへこそかなしけれきみになれにしわかみとおもへは
    和泉式部哀傷
    575なき人のくるよときけど君もなし我がすむやどやたまなきの里
    なきひとのくるよときけときみもなしわかすむやとやたまなきのさと
    和泉式部哀傷
    576別れにし人は来べくもあらなくにいかに振舞ふささがにぞこは
    わかれにしひとはくへきもあらなくにいかにふるまふささかにそこは
    源師房女哀傷
    577こひしさにぬる夜なけれど世の中のはかなき時は夢とこそみれ
    こひしさにぬるよなけれとよのなかのはかなきときはゆめとこそみれ
    大貮高遠哀傷
    578ゆゆしさに包めどあまる涙かなかけじとおもふ旅のころもに
    ゆゆしさにつつめとあまるなみたかなかけしとおもふたひのころもに
    源道成哀傷
    579のりのためつみける花を数々に今はこのよのかたみとぞおもふ
    のりのためつみけるはなをかすかすにいまはこのよのかたみとそおもふ
    選子内親王哀傷
    580ふかさこそ藤のたもとはまさるらめ涙はおなじ色にこそしめ
    ふかさこそふちのたもとはまさるらめなみたはおなしいろにこそしめ
    伊勢大輔哀傷
    581君のみや花のいろにもたちかへで袂の露はおなじ秋なる
    きみのみやはなのいろにもたちかへてたもとのつゆはおなしあきなる
    康資王母哀傷
    582墨染の袂はいとどこひぢにてあやめの草のねやしげるらむ
    すみそめのたもとはいととこひちにてあやめのくさのねやしけるらむ
    美作三位哀傷
    583これをだに形見とおもふを都には葉がへやしつるしひしばの袖
    これをたにかたみとおもふをみやこにははかへやしつるしひしはのそて
    一條院哀傷
    584こぞよりも色こそこけれ萩の花なみだの雨のかかる秋には
    こそよりもいろこそこけれはきのはななみたのあめのかかるあきには
    麗景殿前女御哀傷
    585別れにしその日ばかりは巡りきて生きもかへらぬ人ぞこひしき
    わかれにしそのひはかりはめくりきていきもかへらぬひとそかなしき
    伊勢大輔哀傷
    586年をへてなれたる人も別れにしこぞは今年のけふにぞありける
    としをへてなれたるひともわかれにしこそはことしのけふにそありける
    紀時文哀傷
    587わかれけむ心をくみて涙川おもひやるかなこぞのけふをも
    わかれけむこころをくみてなみたかはおもひやるかなこそのけふをも
    清原元輔哀傷
    588我が身には悲しきことの尽きせねば昨日をはてと思はざりけり
    わかみにはかなしきことのつきせねはきのふをはてとおもはさりけり
    江侍従哀傷
    589おもひかねかたみにそめし墨染の衣にさへも別れぬるかな
    おもひかねかたみにそめしすみそめのころもにさへもわかれぬるかな
    平棟仲哀傷
    590うすくこく衣のいろはかはれどもおなじ涙のかかる袖かな
    うすくこくころものいろはかはれともおなしなみたのかかるそてかな
    平教成哀傷
    591うきながらかたみにみつる藤衣はては涙にながしつるかな
    うきなからかたみにみつるふちころもはてはなみたになかしつるかな
    藤原定輔女哀傷
    592きえにける衛士のたく火の跡をみて煙となりし君ぞかなしき
    きえにけるゑしのたくひのあとをみてけふりとなりしきみそかなしき
    赤染衛門哀傷
    593いかにしてうつしとめけむ雲井にてあかずかくれし月の光を
    いかにしてうつしとめけむくもゐにてあかすわかれしつきのひかりを
    出羽辨哀傷
    594ひとりこそあれ行くとこは歎きつれ主なき宿はまたもありけり
    ひとりこそあれゆくとこはなけきつれぬしなきやとはまたもありけり
    赤染衛門哀傷
    595いにしへになにはの事はかはらねど涙のかかる旅はなかりき
    いにしへになにはのことはかはらねとなみたのかかるたひはなかりき
    源信宗哀傷
    596思ひやるあはれなにはのうらさびて蘆の浮き寝はさぞながれけむ
    おもひやるあはれなにはのうらさひてあしのうきねはさそなかれけむ
    伊勢大輔哀傷
    597年ごとにむかしは遠くなりゆけど憂かりし秋は又もきにけり
    としことにむかしはとほくなりゆけとうかりしあきはまたもきにけり
    源重之哀傷
    598しかばかり契りしものをわたり川かへるほどには忘るべしやは
    しかはかりちきりしものをわたりかはかへるほとにはわするへしやは
    藤原義孝哀傷
    599時雨とは千草の花ぞ散りまがふなにふるさとに袖ぬらすらむ
    しくれとはちくさのはなそちりまかふなにふるさとのそてぬらすらむ
    藤原義孝哀傷
    600着てなれし衣の袖もかわかぬに別れし秋になりにけるかな
    きてなれしころものそてもかわかぬにわかれしあきになりにけるかな
    藤原義孝哀傷
    601あふことをみな暮ごとにいでたてど夢路ならではかひなかりけり
    あふことをみなくれことにいてたてとゆめちならてはかひなかりけり
    読人知らず哀傷
    602なくなくも君にはつげつなき人のまたかへり事いかがいはまし
    なくなくもきみにはつけつなきひとのまたかへりこといかかいはまし
    読人知らず哀傷
    603さきにたつ涙を道のしるべにて我こそ行きていはまほしけれ
    さきにたつなみたをみちのしるへにてわれこそゆきていはまほしけれ
    読人知らず哀傷
    604ほのかにもしらせてしがな春霞かすみのうちにおもふ心を
    ほのかにもしらせてしかなはるかすみかすみのうちにおもふこころを
    後朱雀院十一恋一
    605木の葉ちる山の下水うづもれて流れもやらぬものをこそおもへ
    このはちるやまのしたみつうつもれてなかれもやらぬものをこそおもへ
    叡覚法師十一恋一
    606いかなればしらぬに生ふるうきぬなは苦しやこころ人しれずのみ
    いかなれはしらぬにおふるうきぬなはくるしやこころひとしれすのみ
    馬内侍十一恋一
    607かくなむとあまの漁火ほのめかせ磯辺の浪のをりもよからば
    かくなむとあまのいさりひほのめかせいそへのなみのをりもよからは
    源頼光十一恋一
    608おきつ浪うちいでむことぞつつましき思ひよるべき汀ならねば
    おきつなみうちいてむことそつつましきおもひよるへきみきはならねは
    源頼家母十一恋一
    609霜がれの冬野にたてるむらすすきほのめかさばや思ふこころを
    しもかれのふゆのにたてるむらすすきほのめかさはやおもふこころを
    平経章十一恋一
    610しのびつつやみなむよりは思ふことありけるとだに人にしらせむ
    しのひつつやみなむよりはおもふことありけるとたにひとにしらせむ
    大江嘉言十一恋一
    611おぼめくなたれともなくて宵々に夢にみえけむ我ぞそのひと
    おほめくなたれともなくてよひよひにゆめにみえけむわれそそのひと
    和泉式部十一恋一
    612かくとだにえやは伊吹のさしも草さしもしらじなもゆるおもひを
    かくとたにえやはいふきのさしもくささしもしらしなもゆるおもひを
    藤原実方十一恋一
    613なき名たつ人だに世にはあるものを君恋ふる身としられぬぞ憂き
    なきなたつひとたによにはあるものをきみこふるみとしられぬそうき
    實源法師十一恋一
    614年もへぬながつきの夜の月影の有明がたの空をこひつつ
    としもへぬなかつきのよのつきかけのありあけかたのそらをこひつつ
    源則成十一恋一
    615汲みてしる人もあらなむ夏山の木のした水は草かくれつつ
    くみてしるひともあらなむなつやまのこのしたみつはくさかくれつつ
    藤原長能十一恋一
    616小舟さしわたのはらからしるべせよいづれかあまの玉藻刈る浦
    をふねさしわたのはらからしるへせよいつれかあまのたまもかるうら
    読人知らず十一恋一
    617ひとりしてながむる宿のつまに生ふる忍ぶとだにもしらせてしかな
    ひとりしてなかむるやとのつまにおふるしのふとたにもしらせてしかな
    藤原通頼十一恋一
    618おもひあまりいひいづる程に數ならぬ身をさへ人にしられぬるかな
    おもひあまりいひいつるほとにかすならぬみをさへひとにしられぬるかな
    道命法師十一恋一
    619しのすすき忍びもあへぬ心にて今日はほにいづる秋としらなむ
    しのすすきしのひもあへぬこころにてけふはほにいつるあきとしらなむ
    祭主輔親十一恋一
    620いはぬまはまだしらじかし限りなく我がおもふべき人はわれとも
    いはぬまはまたしらしかしかきりなくわかおもふへきひとはわれとも
    藤原兼房十一恋一
    621わぎもこが袖ふりかけし移り香の今朝は身にしむものをこそおもへ
    わきもこかそてふりかけしうつりかのけさはみにしむものをこそおもへ
    源兼澄十一恋一
    622雲の上にさばかりさしし日影にも君がつららはとけずなりにき
    くものうへにさはかりさししひかりにもきみかつららはとけすなりにき
    藤原公成十一恋一
    623年へつる山した水のうすこほりけふ春風にうちもとけなむ
    としへつるやましたみつのうすこほりけふはるかせにうちもとけなむ
    藤原良通十一恋一
    624氷とも人の心を思はばやけふ立つ春の風ぞとくやと
    こほりともひとのこころをおもははやけさたつはるのかせにとくへく
    能因法師十一恋一
    625みつしほのひるまだになき浦なれやかよふ千鳥の跡もみえぬは
    みつしほのひるまたになきうらなれやかよふちとりのあともみえぬは
    祭主輔親十一恋一
    626しほたるるわが身のかたはつれなくてこと浦にこそ煙たつなれ
    しほたるるわかみのかたはつれなくてことうらにこそけふりたちけれ
    道命法師十一恋一
    627おもひわび昨日やまべに入りしかどふみみぬ道はゆかれざりけり
    おもひわひきのふやまへにいりしかとふみみぬみちはゆかれさりけり
    道命法師十一恋一
    628雲井にて契りし中はたなばたをうらやむばかりなりにけるかな
    くもゐにてちきりしなかはたなはたをうらやむはかりなりにけるかな
    藤原公任十一恋一
    629あふことのいつとなきには織女の別るるさへぞうらやまれける
    あふことのいつとなきにはたなはたのわかるるさへそうらやまれける
    藤原隆資十一恋一
    630逢ふことのとどこほるまはいかばかり身にさへしみて歎くとかしる
    あふことのととこほるまはいかはかりみにさへしみてなけくとかしる
    馬内侍十一恋一
    631鴫のふす刈田にたてる稲茎の否とは人のいはずもあらなん
    しきのふすかりたにたてるいなくきのいなとはひとのいはすもあらなむ
    藤原顕季十一恋一
    632あふさかの名をも頼まじ恋すればせきの清水に袖もぬれけり
    あふさかのなをもたのましこひすれはせきのしみつにそてもぬれけり
    白河院十一恋一
    633逢ふことはさもこそ人めかたからめ心ばかりはとけてみえなん
    あふことはさもこそひとめかたからめこころはかりはとけてみえなむ
    道命法師十一恋一
    634思ふらんしるしだになき下紐に心ばかりのなにかとくべき
    おもふらむしるしたになきしたひもにこころはかりのなにかとくへき
    読人知らず十一恋一
    635下きゆる雪間の草のめづらしく我が思ふ人に逢ひ見てしがな
    したきゆるゆきまのくさのめつらしくわかおもふひとにあひみてしかな
    和泉式部十一恋一
    636奥山のまきの葉しろく降る雪のいつとくべしとみえぬ君かな
    おくやまのまきのはしのきふるゆきのいつとくへしとみえぬきみかな
    源頼綱十一恋一
    637うれしきを忘るる人もあるものを辛きをこふる我や何なる
    うれしきをわするるひともあるものをつらきをこふるわれやなになり
    源政成十一恋一
    638恋ひそめし心をのみぞ恨みつる人のつらさをわれになしつつ
    こひそめしこころをのみそうらみつるひとのつらさをわれになしつつ
    平兼盛十一恋一
    639いかにせんかけても今はたのまじと思ふにいとどぬるる袂を
    いかにせむかけてもいまはたのましとおもふにいととぬるるたもとを
    藤原為時十一恋一
    640あふことのなきよりかねてつらければさてもあらましぬるる袖かな
    あふことのなきよりかねてつらけれはさもあらましにぬるるそてかな
    相模十一恋一
    641まてといひし秋もなかばになりぬるを頼めかおきし露はいかにぞ
    まてといひしあきもなかはになりぬるをたのめかおきしつゆはいかにそ
    大中臣能宣十一恋一
    642逢ふまでとせめて命の惜しければ恋こそ人の命なりけれ
    あふまてとせめていのちのをしけれはこひこそひとのいのりなりけれ
    藤原頼宗十一恋一
    643つきもせず恋に涙をながすかなこやななくりの出湯なるらん
    つきもせすこひになみたをわかすかなこやななくりのいてゆなるらむ
    相模十一恋一
    644あふみにかありといふなるみくりくる人苦しめのつくま江の沼
    あふみにかありといふなるみくりくるひとくるしめのつくまえのぬま
    藤原道信十一恋一
    645こひしてふことをしらでややみなましつれなき人のなき世なりせば
    こひしてふことをしらてややみなましつれなきひとのなきよなりせは
    永源法師十一恋一
    646つれもなき人もあはれといひてまし恋する程を知らせだにせば
    つれもなきひともあはれといひてましこひするほとをしらせたにせは
    赤染衛門十一恋一
    647身をすてて深き淵にも入りぬべし底の心の知らまほしさに
    みをすててふかきふちにもいりぬへしそこのこころのしらまほしさに
    源道済十一恋一
    648こひこひてあふとも夢にみつる夜はいとど寝覚めぞわびしかりける
    こひこひてあふともゆめにみつるよはいととねさめそわひしかりける
    大中臣能宣十一恋一
    649唐衣むすびしひもはさしながら袂ははやく朽ちにしものを
    からころもむすひしひもはさしなからたもとははやくくちにしものを
    大中臣能宣十一恋一
    650朽ちにける袖のしるしは下紐のとくるになどか知らせざりけん
    くちにけるそてのしるしはしたひものとくるになとかしらせさりけむ
    読人知らず十一恋一
    651錦木はたてながらこそ朽ちにけれけふのほそ布胸あはじとや
    にしききはたてなからこそくちにけれけふのほそぬのむねあはしとや
    能因法師十一恋一
    652須磨の蜑の浦こぐ船の跡もなく見ぬ人こふる我やなになり
    すまのあまのうらこくふねのあともなくみぬひとこふるわれやなになり
    源高明十一恋一
    653さりともと思ふ心にひかされて今まで世にもふるわが身かな
    さりともとおもふこころにひかされていままてよにもふるわかみかな
    源高明十一恋一
    654たのむるに命ののぶる物ならば千年もかくてあらんとや思ふ
    たのむるにいのちののふるものならはちとせもかくてあらむとやおもふ
    藤原実頼女十一恋一
    655思ひしる人もこそあれあぢきなくつれなき恋に身をやかへてん
    おもひしるひともこそあれあちきなくつれなきこひにみをやかへてむ
    小辨十一恋一
    656人しれず逢ふをまつまに恋ひ死なば何にかへたる命とかいはん
    ひとしれすあふをまつまにこひしなはなににかへたるいのちとかいはむ
    平兼盛十一恋一
    657恋ひ死なん命はことのかずならでつれなき人の果ぞゆかしき
    こひしなむいのちはことのかすならてつれなきひとのはてそゆかしき
    永成法師十一恋一
    658つれなくてやみぬる人に今はただ恋ひ死ぬとだにきかせてしがな
    つれなくてやみぬるひとにいまはたたこひしぬとたにきかせてしかな
    中原政義十一恋一
    659あさねがみ乱れて恋ぞしどろなる逢ふ由もがな元結にせん
    あさねかみみたれてこひそしとろなるあふよしもかなもとゆひにせむ
    良暹法師十一恋一
    660唐衣そでしの浦のうつせ貝むなしき恋に年のへぬらむ
    からころもそてしのうらのうつせかひむなしきこひにとしのへぬらむ
    藤原國房十一恋一
    661われが身はと帰る鷹となりにけり年はふれどももとは忘れず
    われかみはとかへるたかとなりにけりとしはふれともこひはわすれす
    左大臣俊房十一恋一
    662年を経て葉がへぬ山の椎柴やつれなき人の心なるらん
    としをへてはかへぬやまのしひしはやつれなきひとのこころなるらむ
    源顕房十一恋一
    663嬉しとも思ふべかりし今日しもぞいとど歎きのそふ心地する
    うれしともおもふへかりしけふしもそいととなけきのそふここちする
    道命法師十一恋一
    664ほどもなく恋ふる心は何なれや知らでだにこそ年は経にしか
    ほともなくこふるこころはなになれやしらてたにこそとしはへにしか
    祭主輔親十二恋二
    665いにしへの人さへ今朝はつらきかな明くればなどか帰りそめけん
    いにしへのひとさへけさはつらきかなあくれはなとかかへりそめけむ
    源頼綱十二恋二
    666夜をこめてかへる空こそなかりけれうらやましきは有明の月
    よをこめてかへるそらこそなかりつれうらやましきはありあけのつき
    永源法師十二恋二
    667暮るる間は千歳を過ぐす心地して待つはまことに久しかりけり
    くるるまのちとせをすくすここちしてまつはまことにひさしかりけり
    藤原隆方十二恋二
    668けふよりはとく呉竹の節ごとに夜はながかれと思ほゆるかな
    けふよりはとくくれたけのふしことによはなかかれとおもほゆるかな
    源定季十二恋二
    669君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな
    きみかためをしからさりしいのちさへなかくもかなとおもひけるかな
    藤原義孝十二恋二
    670けふくるる程待つだにも久しきにいかで心をかけてすぎけん
    けふくるるほとまつたにもひさしきにいかてこころをかけてすきけむ
    伊勢大輔十二恋二
    671かへるさの道やはかはる変らねど解くるにまどふ今朝の淡雪
    かへるさのみちやはかはるかはらねととくるにまとふけさのあはゆき
    藤原道信十二恋二
    672明けぬれば暮るる物とは知りながら猶恨めしき朝ぼらけかな
    あけぬれはくるるものとはしりなからなほうらめしきあさほらけかな
    藤原道信十二恋二
    673千賀の浦に浪よせかくる心地してひるまなくてもくらしつるかな
    ちかのうらになみよせまさるここちしてひるまなくてもくらしつるかな
    藤原道信十二恋二
    674逢ひ見ての後こそ恋はまさりけれつれなき人をいまは恨みじ
    あひみてののちこそこひはまさりけれつれなきひとをいまはうらみし
    永源法師十二恋二
    675うつつにて夢ばかりなる逢ふ事をうつつばかりの夢になさばや
    うつつにてゆめはかりなるあふことをうつつはかりのゆめになさはや
    源高明十二恋二
    676たまさかにゆき逢坂の関守は夜をとほさぬぞ侘しかりける
    たまさかにゆきあふさかのせきもりはよをとほさぬそわひしかりける
    藤原道信十二恋二
    677知る人もなくてやみぬる逢ふことをいかでなみだの袖にもるらん
    しるひともなくてやみぬるあふことをいかてなみたのそてにもるらむ
    清原元輔十二恋二
    678頼むるを頼むべきにはあらねども待つとはなくて待たれもやせん
    たのむるにたのむへきにはあらねともまつとはなくてまたれもやせむ
    相模十二恋二
    679眺めつつ事ありがほに暮しても必ず夢にみえばこそあらめ
    なかめつつことありかほにくらしてもかならすゆめにみえはこそあらめ
    相模十二恋二
    680やすらはで寝なましものを小夜更けてかたぶくまでの月をみしかな
    やすらはてねなましものをさよふけてかたふくまてのつきをみしかな
    赤染衛門十二恋二
    681おきながらあかしつるかなともねせぬ鴨の上毛の霜ならなくに
    おきなからあかしつるかなともねせぬかものうはけのしもならなくに
    和泉式部十二恋二
    682夕露を浅茅が上とみしものを袖におきても明かしつるかな
    ゆふつゆをあさちかうへとみしものをそてにおきてもあかしつるかな
    大輔命婦十二恋二
    683いかにせんあなあやにくの春の日や夜半のけしきのかからましかば
    いかにせむあなあやにくのはるのひやよはのけしきのかからましかは
    藤原隆経十二恋二
    684むばたまの夜半のけしきはさもあらばあれ人の心を春日ともがな
    うはたまのよはのけしきはさもあらはあれひとのこころのはるひともかな
    童木十二恋二
    685淀野へとみまくさ刈りに行く人も暮れにはただに帰るものかは
    よとのへとみまくさかりにゆくひともくれにはたたにかへるものかは
    源重之十二恋二
    686帰りしは我が身ひとつと思ひしを涙さへこそとまらざりけれ
    かへりしはわかみひとつとおもひしをなみたさへこそとまらさりしか
    源師賢十二恋二
    687あま雲のかへるばかりのむら雨に所せきまで濡れし袖かな
    あまくものかへるはかりのむらさめにところせきまてぬれしそてかな
    読人知らず十二恋二
    688わが恋は天の原なる月なれや暮るれば出づる影をのみみる
    わかこひはあまのはらなるつきなれやくるれはいつるかけをのみみる
    一宮紀伊十二恋二
    689過ぎて行く月をもなにか恨むべき待つわが身こそあはれなりけり
    すきてゆくつきをもなにかうらむへきまつわかみこそあはれなりけれ
    読人知らず十二恋二
    690杉たてる門ならませば訪ひてまし心のまつはいかがしるべき
    すきたてるかとならませはとひてましこころのまつはいかかしるへき
    大貮高遠十二恋二
    691津の國のこやとも人をいふべきにひまこそなけれ蘆の八重葺き
    つのくにのこやともひとをいふへきにひまこそなけれあしのやへふき
    和泉式部十二恋二
    692人目のみしげき深山の青つづら苦しき世をも思ひ侘びぬる
    ひとめのみしけきみやまのあをつつらくるしきよをそおもひわひぬる
    高階章行女十二恋二
    693来ぬも憂く来るも苦しき靑つづらいかなる方に思ひ絶えなん
    こぬもうくくるもくるしきあをつつらいかなるかたにおもひたえなむ
    読人知らず十二恋二
    694しるらめや身こそ人目をはばかりの関に涙はとまらざりけり
    しるらめやみこそひとめをははかりのせきになみたはとまらさりけり
    読人知らず十二恋二
    695もろともにいつかとくべきあふことのかた結びなる夜半の下紐
    もろともにいつかとくへきあふことのかたむすひなるよはのしたひも
    相模十二恋二
    696淵やさは瀬にはなりける明日香川浅きを深くなす世なりせば
    ふちやさはせにはなりけるあすかかはあさきをふかくなすよなりせは
    赤染衛門十二恋二
    697あひみではありぬべしやとこころみる程は苦しきものにぞありける
    あひみてはありぬへしやとこころみるほとはくるしきものにそありける
    読人知らず十二恋二
    698わが心こころにもあらでつらからば夜がれん床の形見ともせよ
    わかこころこころにもあらてつらからはよかれむとこのかたみともせよ
    源顕房十二恋二
    699来ぬまでも待たましものを中々に頼む方なきこの夕占かな
    こぬまてもまたましものをなかなかにたのむかたなきこのゆふけかな
    読人知らず十二恋二
    700きえ返り露もまだひぬ袖の上に今朝はしぐるる空もわりなし
    きえかへりつゆもまたひぬそてのうへにけさはしくるるそらもわりなし
    藤原道綱母十二恋二
    701あかつきの露は枕に置きけるを草葉のうへとなに思ひけん
    あかつきのつゆはまくらにおきけるをくさはのうへとなにおもひけむ
    高内侍十二恋二
    702きのふけふ歎くばかりの心地せば明日に我が身や逢はじとすらん
    きのふけふなけくはかりのここちせはあすにわかみやあはしとすらむ
    相模十二恋二
    703見し人に忘れられてふる袖ににこそ身をしる雨はいつもをやまね
    みしひとにわすられてふるそてにこそみをしるあめはいつもをやまね
    和泉式部十二恋二
    704忘らるる身をしる雨はふらねども袖ばかりこそ乾かざりけれ
    わすらるるみをしるあめはふらねともそてはかりこそかわかさりけれ
    読人知らず十二恋二
    705こえにける浪をばしらで末の松ちよまでとのみ頼みけるかな
    こえにけるなみをはしらてすゑのまつちよまてとのみたのみけるかな
    藤原能通十二恋二
    706浦風になびきにけりな里のあまの焚く藻のけぶり心よわさは
    うらかせになひきにけりなさとのあまのたくものけふりこころよわさは
    藤原實方十二恋二
    707忘れずよまた忘れずよかはらやの下焚くけぶり下むせびつつ
    わすれすよまたわすれすよかはらやのしたたくけふりしたむせひつつ
    藤原實方十二恋二
    708風の音の身にしむばかり聞ゆるは我が身に秋や近くなるらん
    かせのおとのみにしむはかりきこゆるはわかみにあきやちかくなるらむ
    読人知らず十二恋二
    709ありま山ゐなの篠原風ふけばいでそよ人を忘れやはする
    ありまやまゐなのささはらかせふけはいてそよひとをわすれやはする
    大貮三位十二恋二
    710恨むとも今はみえじと思ふこそせめてつらさのあまりなりけれ
    うらむともいまはみえしとおもふこそせめてつらさのあまりなりけれ
    赤染衛門十二恋二
    711今宵さへあらばかくこそ思ほえめ今日暮れぬまの命ともがな
    こよひさへあらはかくこそおもほえめけふくれぬまのいのちともかな
    和泉式部十二恋二
    712あすならば忘らるる身になりぬべし今日をすぐさぬ命ともがな
    あすならはわすらるるみになりぬへしけふをすくさぬいのちともかな
    赤染衛門十二恋二
    713いとふとは知らぬにあらず知りながら心にもあらぬ心なりけり
    いとふとはしらぬにあらすしりなからこころにもあらぬこころなりけり
    藤原長能十二恋二
    714あふことは七夕つめにかしつれど渡らまほしきかささぎの橋
    あふことはたなはたつめにかしつれとわたらまほしきかささきのはし
    後冷泉院十二恋二
    715あやめ草かけしたもとのねを絶えて更に恋路にまよふころかな
    あやめくさかけしたもとのねをたえてさらにこひちにまとふころかな
    後朱雀院十三恋三
    716藤衣はつるる袖の絲よわみたえてあひみぬほどぞわりなき
    ふちころもはつるるそてのいとよわみたえてあひみぬほとそわりなき
    清原元輔十三恋三
    717みるめこそ近江のうみにかたからめ吹きだに通へ志賀の浦風
    みるめこそあふみのうみにかたからめふきたにかよへしかのうらかせ
    伊勢大輔十三恋三
    718秋風になびきながらも葛の葉のうらめしくのみなどかみゆらん
    あきかせになひきなからもくすのはのうらめしくのみなとかみゆらむ
    叡覺法師十三恋三
    719こひしきになにはのこともおもほえずたれ住吉の松といひけん
    こひしきになにはのこともおもほえすたれすみよしのまつといひけむ
    大江匡衡十三恋三
    720わが思ふ都の花の遠さゆゑ君もしづえのしづ心あらじ
    わかおもふみやこのはなのとふさゆゑきみもしつえのしつこころあらし
    祭主輔親十三恋三
    721かたしきの衣のすそは氷りつついかですぐさむ解くる春まで
    かたしきのころものそてはこほりつついかてすくさむとくるはるまて
    光朝法師母十三恋三
    722恋しさは思ひやるだになぐさむを心におとる身こそつらけれ
    こひしさはおもひやるたになくさむをこころにおとるみこそつらけれ
    藤原國房十三恋三
    723いづ方をわれながめましたまさかにゆき逢坂の関なかりせば
    いつかたをわれなかめましたまさかにゆきあふさかのせきなかりせは
    大中臣能宣十三恋三
    724ゆきかへり後にあふともこの度はこれより越ゆる物思ひぞなき
    ゆきかへりのちにあふともこのたひはこれよりこゆるものおもひそなき
    読人知らず十三恋三
    725東路の旅の空をぞおもひやるそなたにいづる月をながめて
    あつまちのたひのそらをそおもひやるそなたにいつるつきをなかめて
    源経信十三恋三
    726思ひやれしらぬ雲路も入る方の月よりほかのながめやはある
    おもひやれしらぬくもちもいるかたのつきよりほかのなかめやはする
    康資王母十三恋三
    727帰るべき程をかぞへて待つ人は過ぐる月日ぞうれしかりける
    かへるへきほとをかそへてまつひとはすくるつきひそうれしかりける
    源隆綱十三恋三
    728あづまやの茅が下にし乱るればいさや月日の行くもしられず
    あつまやのかやかしたにしみたるれはいさやつきひのゆくもしられす
    康資王母十三恋三
    729霜枯れの茅が下をれとにかくに思ひみだれて過ぐすころかな
    しもかれのかやかしたをれとにかくにおもひみたれてすくすころかな
    藤原惟規十三恋三
    730かひなきは猶人知れず逢ふことの遙かなるみのうらみなりけり
    かひなきはなほひとしれすあふことのはるかなるみのうらみなりけり
    増基法師十三恋三
    731思ひやる心の空にゆきかへりおぼつかなさをかたらましかば
    おもひやるこころのそらにゆきかへりおほつかなさをかたらましかは
    右大辨通俊十三恋三
    732心をば生田のもりにかくれども恋しきにこそしぬべかりけれ
    こころをはいくたのもりにかくれともこひしきにこそしぬへかりけれ
    読人知らず十三恋三
    733頼めしを待つに日數の過ぎぬれば玉の緒よわみたえぬべきかな
    たのめしをまつにひころのすきぬれはたまのをよわみたえぬへきかな
    律師慶意十三恋三
    734あさましや見しは夢かととふ程に驚かすにもなりぬべきかな
    あさましやみしはゆめかととふほとにおとろかすにもなりぬへきかな
    読人知らず十三恋三
    735はるばると野中に見ゆる忘れ水絶えま絶えまを歎くころかな
    はるはるとのなかにみゆるわすれみつたえまたえまをなけくころかな
    大和宣旨十三恋三
    736いかばかり嬉しからまし面影に見ゆるばかりの逢ふ夜なりせば
    いかはかりうれしからましおもかけにみゆるはかりのあふよなりせは
    藤原忠家十三恋三
    737わがやどの軒のしのぶにことよせてやがてもしげる忘れ草かな
    わかやとののきのしのふにことよせてやかてもしけるわすれくさかな
    読人知らず十三恋三
    738逢ふことを今はかぎりと三輪の山杉の過ぎにし方ぞこひしき
    あふことをいまはかきりとみわのやますきのすきにしかたそこひしき
    皇太后宮陸奥十三恋三
    739杉村といひてしるしもなかりけり人のたづねぬ三輪の山もと
    すきむらといひてしるしもなかりけりひともたつねぬみわのやまもと
    読人知らず十三恋三
    740住吉の岸ならねども人知れぬ心のうちの松ぞ侘しき
    すみよしのきしならねともひとしれぬこころのうちのまつそわひしき
    相模十三恋三
    741逢坂の関の清水や濁るらん入りにし人のかげもみえぬは
    あふさかのせきのしみつやにこるらむいりにしひとのかけのみえぬは
    僧都遍救十三恋三
    742なみだやはまたもあふべきつまならん泣くよりほかの慰めぞなき
    なみたやはまたもあふへきつまならむなくよりほかのなくさめそなき
    藤原道雅十三恋三
    743よそ人になりはてぬとや思ふらん恨むるからに忘れやはする
    よそひとになりはてぬとやおもふらむうらむるからにわすれやはする
    前律師慶暹十三恋三
    744つらしとも思ひしらでぞやみなまし我もはてなき心なりせば
    つらしともおもひしらてそやみなましわれもはてなきこころなりせは
    大中臣輔弘十三恋三
    745なかなかに憂かりしままにやみにせば忘るる程になりもしなまし
    なかなかにうかりしままにやみにせはわするるほとになりもしなまし
    和泉式部十三恋三
    746憂き世をもまたたれにかはなぐさめん思ひしらずもとはぬ君かな
    うきよをもまたたれにかはなくさめむおもひしらすもとはぬきみかな
    和泉式部十三恋三
    747あふまでや限りなるらんと思ひしを恋はつきせぬものにぞありける
    あふまてやかきりなるらむとおもひしをこひはつきせぬものにそありける
    源政成十三恋三
    748逢坂は東路とこそききしかど心づくしのせきにぞありける
    あふさかはあつまちとこそききしかとこころつくしのせきにそありける
    藤原道雅十三恋三
    749榊葉やゆふしでかけしそのかみにおしかへしても渡るころかな
    さかきはのゆふしてかけしそのかみにおしかへしてもにたるころかな
    藤原道雅十三恋三
    750今はただ思ひたえなんとばかりを人づてならでいふ由もがな
    いまはたたおもひたえなむとはかりをひとつてならていふよしもかな
    藤原道雅十三恋三
    751みちのくの緒絶の橋やこれならん踏みみ踏まずみ心まどはす
    みちのくのをたえのはしやこれならむふみみふますみこころまとはす
    藤原道雅十三恋三
    752恋ひしさも忘れやはするなかなかに心さわがす志賀の浦浪
    こひしさもわすれやはするなかなかにこころさわかすしかのうらなみ
    藤原経輔十三恋三
    753来じとだにいはで絶えなば憂かりける人のまことをいかでしらまし
    こしとたにいはてたえなはうかりけるひとのまことをいかてしらまし
    相模十三恋三
    754ただ袖に君かさぬらん唐衣夜な夜なわれにかたしかせつつ
    たかそてにきみかさぬらむからころもよなよなわれにかたしかせつつ
    相模十三恋三
    755黒髪の乱れてしらずうちふせばまづかきやりし人ぞ恋しき
    くろかみのみたれもしらすうちふせはまつかきやりしひとそこひしき
    和泉式部十三恋三
    756移り香の薄くなりゆく薫物のくゆる思ひに消えぬべきかな
    うつりかのうすくなりゆくたきもののくゆるおもひにきえぬへきかな
    清原元輔十三恋三
    757なきながす涙にたへでたえぬればはなだの帯の心地こそすれ
    なきなかすなみたにたへてたえぬれははなたのおひのここちこそすれ
    和泉式部十三恋三
    758なかたゆるかづらき山の岩ばしはふみみることもかたくぞありける
    なかたゆるかつらきやまのいははしはふみみることもかたくそありける
    相模十三恋三
    759忘れなんと思ふさへこそ思ふこと叶はぬ身には叶はざりけれ
    わすれなむとおもふさへこそおもふことかなはぬみにはかなはさりけれ
    大貮良基十三恋三
    760忘れなんと思ふに濡るる袂かな心ながきは涙なりけり
    わすれなむとおもふにぬるるたもとかなこころなかきはなみたなりけり
    高橋良成十三恋三
    761いかばかり覚束なさを歎かましこの世のつねと思ひなさずば
    いかはかりおほつかなさをなけかましこのよのつねとおもひなさすは
    藤原忠家母十三恋三
    762あふことのただひたぶるの夢ならばおなじ枕にまたもねなまし
    あふことのたたひたふるのゆめならはおなしまくらにまたもねなまし
    權僧正静圓十三恋三
    763あらざらむこの世のほかのおもひでに今ひとたびの逢ふこともがな
    あらさらむこのよのほかのおもひいてにいまひとたひのあふこともかな
    和泉式部十三恋三
    764都にも恋しきことのおほかれば猶このたびはいかんとぞ思ふ
    みやこにもこひしきひとのおほかれはなほこのたひはいかむとそおもふ
    藤原惟規十三恋三
    765契りしにあらぬつらさも逢ふことの無きにはえこそ恨みざりけれ
    ちきりしにあらぬつらさもあふことのなきにはえこそうらみさりけれ
    周防内侍十三恋三
    766忘れなんそれも恨みず思ふらん恋ふらんとだに思ひおこせよ
    わすれなむそれもうらみすおもふらむこふらむとたにおもひおこせは
    源高明十三恋三
    767年の内に逢はぬためしの名を立ててわれ七夕にいまるべきかな
    としのうちにあはぬためしのなをたててわれたなはたにいまるへきかな
    藤原道信十三恋三
    768七夕をもどかしとのみ我が見しも果ては逢ひ見ぬためしとぞなる
    たなはたをもとかしとみしわかみしもはてはあひみぬためしにそなる
    増基法師十三恋三
    769蜘蛛手さへかきたえにけるささがにの命を今は何にかけまし
    くもてさへかきたえにけるささかにのいのちをいまはなににかけまし
    馬内侍十三恋三
    770契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山浪こさじとは
    ちきりきなかたみにそてをしほりつつすゑのまつやまなみこさしとは
    清原元輔十四恋四
    771蘆のねのうき身の程と知りぬれば恨みぬ袖も波は立ちけり
    あしのねのうきみのほととしりぬれはうらみぬそてもなみはたちけり
    公圓法師母十四恋四
    772逢ひ見しを嬉しきことと思ひしは帰りて後の歎きなりけり
    あひみしをうれしきこととおもひしはかへりてのちのなけきなりけり
    道命法師十四恋四
    773深山木のこりやしぬらんと思ふ間にいとど思ひの燃えまさるかな
    みやまきのこりやしぬらむとおもふまにいととおもひのもえまさるかな
    藤原元眞十四恋四
    774岩代の杜のいはじと思へども雫に濡るる身をいかにせん
    いはしろのもりのいはしとおもへともしつくにぬるるみをいかにせむ
    惠慶法師十四恋四
    775あぢきなし我が身にまさる物やあると恋せし人をもどきしものを
    あちきなしわかみにまさるものやあるとこひせしひとをもときしものを
    曾禰好忠十四恋四
    776われといかにつれなくなりて試みんつらき人こそ忘れがたけれ
    われといかてつれなくなりてこころみむつらきひとこそわすれかたけれ
    和泉式部十四恋四
    777怪しくもあらはれぬべき袂かな忍びねにのみ濡らすと思へば
    あやしくもあらはれぬへきたもとかなしのひねにのみなくとおもふを
    相模十四恋四
    778うちしのびなくとせしかど君こふる涙はいろにいでにけるかな
    うちしのひなくとせしかときみこふるなみたはいろにいてにけるかな
    源高明十四恋四
    779こひすとも涙の色のなかりせばしばしは人に知られざらまし
    こひすともなみたのいろのなかりせはしはしはひとにしられさらまし
    辨乳母十四恋四
    780人知れぬ恋にし死なばおほかたの世のはかなきと人や思はん
    ひとしれぬこひにししなはおほかたのよのはかなきとひとやおもはむ
    源道済十四恋四
    781人知れずかほには袖をおほいつつ泣くばかりをぞ慰めにする
    ひとしれすかほにはそてをおほひつつなくはかりをそなくさめにする
    藤原頼宗十四恋四
    782思ひ侘び返す衣の袂より散るや涙の氷なるらん
    おもひわひかへすころものたもとよりちるやなみたのこほりなるらむ
    藤原國房十四恋四
    783なぐさむる心はなくて夜もすがら返す衣のうらぞぬれける
    なくさむるこころはなくてよもすからかへすころものうらそぬれつる
    清原元輔十四恋四
    784世の中にあらばぞ人のつらからんと思ふにしもぞものは悲しき
    よのなかにあらはそひとのつらからむとおもふにしもそものはかなしき
    読人知らず十四恋四
    785夜な夜なは目のみ覚めつつ思ひやる心やゆきて驚かすらん
    よなよなはめのみさめつつおもひやるこころやゆきておとろかすらむ
    道命法師十四恋四
    786思ふてふことはいはでも思ひけり辛きも今は辛しと思はじ
    おもふてふことはいはてもおもひけりつらきもいまはつらしとおもはし
    平兼盛十四恋四
    787おもひやる方なきままに忘れ行く人の心ぞうらやまれける
    おもひやるかたなきままにわすれゆくひとのこころそうらやまれける
    中原頼成妻十四恋四
    788閨ちかき梅の匂ひに朝な朝なあやしくこひのまさるころかな
    ねやちかきうめのにほひにあさなあさなあやしくこひのまさるころかな
    能因法師十四恋四
    789あやうしと見ゆるとだえのまろ橋のまろなどかかる物おもふらん
    あやふしとみゆるとたえのまろはしのまろなとかかるものおもふらむ
    相模十四恋四
    790世の中に恋てふ色はなけれども深く身にしむ物にぞありける
    よのなかにこひてふいろはなけれともふかくみにしむものにそありける
    和泉式部十四恋四
    791ささがにのいづくに人はありとだに心細くも知らでふるかな
    ささかにのいつこにひとをありとたにこころほそくもしらてふるかな
    清原元輔十四恋四
    792こひしさの憂きにまぎるる物ならば又ふたたびと君を見ましや
    こひしさのうきにまきるるものならはまたふたたひときみをみましや
    大貮三位十四恋四
    793あればこそ人もつらけれあやしきは命もがなと頼むなりけり
    あれはこそひともつらけれあやしきはいのちもかなとたのむなりけり
    藤原有親十四恋四
    794庭のおもの萩のうへにて知りぬらん物思ふ人の夜半の袂は
    にはのおものはきのうへにてしりぬらむものおもふひとのよはのたもとは
    源道済十四恋四
    795我が袖を秋の草葉にくらべばやいづれか露のおきはまさると
    わかそてをあきのくさはにくらへはやいつれかつゆのおきはまさると
    相模十四恋四
    796ありそうみの濱の真砂をみなもがなひとりぬる夜の數にとるべく
    ありそうみのはまのまさこをみなもかなひとりぬるよのかすにとるへく
    相模十四恋四
    797かぞふれば空なる星もしるものを何をつらさの數にとらまし
    かそふれはそらなるほしもしるものをなにをつらさのかすにおかまし
    藤原長能十四恋四
    798つれづれと思へば長き春の日に頼むこととはながめをぞする
    つれつれとおもへはなかきはるのひにたのむこととはなかめをそする
    藤原道信十四恋四
    799ひたすらに軒のあやめのつくづくと思へばねのみかかる袖かな
    ひたすらにのきのあやめのつくつくとおもへはねのみかかるそてかな
    和泉式部十四恋四
    800たぐひなき憂き身なりけり思ひしる人だにあらばとひこそはせめ
    たくひなくうきみなりけりおもひしるひとたにあらはとひこそはせめ
    和泉式部十四恋四
    801君こふる心はちぢに砕くれど一つもうせぬものにぞありける
    きみこふるこころはちちにくたくれとひとつもうせぬものにそありける
    和泉式部十四恋四
    802なみだ川おなじ身よりは流るれど恋をば消たぬものにぞありける
    なみたかはおなしみよりはなかるれとこひをはけたぬものにそありける
    和泉式部十四恋四
    803わが恋はます田の池のうきぬなは苦しくてのみ年をふるかな
    わかこひはますたのいけのうきぬなはくるしくてのみとしをふるかな
    小辨十四恋四
    804おほかたにふるとぞみえし五月雨は物思ふ袖の名にこそありけれ
    おほかたにふるとそみえしさみたれはものおもふそてのなにこそありけれ
    源道済十四恋四
    805よそにふる人は雨とや思ふらん我が目に近き袖のしづくを
    よそにふるひとはあめとやおもふらむわかめにちかきそてのしつくを
    源高明十四恋四
    806日にそへて憂きことのみも増るかな暮れてはやがて明けずもあらなん
    ひにそへてうきことのみもまさるかなくれてはやかてあけすもあらなむ
    源高明十四恋四
    807君こふと且は消えつつ程ふるをかくてもいける身とやみるらん
    きみこふとかつはきえつつふるほとをかくてもいけるみとやみるらむ
    藤原元眞十四恋四
    808恋しさの忘られぬべき物ならば何にかいける身をも恨みん
    こひしさのわすられぬへきものならはなににかいけるみをもうらみむ
    藤原元眞十四恋四
    809恋しさを忍びもあへずうつせみのうつし心も無くなりにけり
    こひしさをしのひもあへぬうつせみのうつしこころもなくなりにけり
    大和宣旨十四恋四
    810君がため落つる涙の玉ならば貫きかけてみせましものを
    きみかためおつるなみたのたまならはつらぬきかけてみせましものを
    源経信十四恋四
    811契りあらば思ふがごとぞ思はまし怪しや何のむくいなるらん
    ちきりあらはおもふかことそおもはましあやしやなにのむくひなるらむ
    源高明十四恋四
    812けふしなばあすまで物は思はじと思ふにだにもかなはぬぞ憂き
    けふしなはあすまてものはおもはしとおもふにたにもかなはぬそうき
    源高明十四恋四
    813思ひには露の命ぞ消えぬべき言の葉にだにかけよかし君
    おもひにはつゆのいのちそきえぬへきことのはにたにかけよかしきみ
    藤原兼家十四恋四
    814やくとのみ枕の下にしほたれてけぶりたえせぬとこの浦かな
    やくとのみまくらのうへにしほたれてけふりたえせぬとこのうらかな
    相模十四恋四
    815恨み侘び干さぬ袖だにあるものを恋に朽ちなん名こそ惜しけれ
    うらみわひほさぬそてたにあるものをこひにくちなむなこそをしけれ
    相模十四恋四
    816かみなづき夜半の時雨にことよせて片しく袖を干しぞわづらふ
    かみなつきよはのしくれにことよせてかたしくそてをほしそわつらふ
    相模十四恋四
    817さまざまに思ふ心はあるものをおしひたすらに濡るる袖かな
    さまさまにおもふこころはあるものをおしひたすらにぬるるそてかな
    和泉式部十四恋四
    818わが心かはらんものかかはらやの下たくけぶりわきかへりつつ
    わかこころかはらむものかかはらやのしたたくけふりわきかへりつつ
    藤原長能十四恋四
    819うちはへてくゆるも苦しいかでなほ世にすみがまの煙たゆらん
    うちはへてくゆるもくるしいかてなほよにすみかまのけふりたえなむ
    藤原範永女十四恋四
    820人の身も恋ひはかへつ夏蟲のあらはにもゆとみえぬばかりぞ
    ひとのみもこひにはかへつなつむしのあらはにもゆとみえぬはかりそ
    和泉式部十四恋四
    821かるもかき臥す猪の床のいを安みさこそねざらめかからずもがな
    かるもかきふすゐのとこのいをやすみさこそねさらめかからすもかな
    和泉式部十四恋四
    822わが恋は春の山邊につけてしをもえても君が目にもみえなん
    わかこひははるのやまへにつけてしをもえいててきみかめにもみえなむ
    藤原兼家十四恋四
    823春の野につくる思ひのあまたあればいづれを君がもゆるとかみん
    はるののにつくるおもひのあまたあれはいつれをきみかもゆとかはみむ
    藤原道綱母十四恋四
    824春日野は名のみなりけり我が身こそ飛火ならねどもえ渡りけれ
    かすかのはなのみなりけりわかみこそとふひならねともえわたりけれ
    藤原兼家十四恋四
    825いつとなく心空なる我が恋や富士のたかねにかかる白雲
    いつとなくこころそらなるわかこひやふしのたかねにかかるしらくも
    相模十四恋四
    826うしとても更に思ひぞかへされぬ恋はうらなきものにぞありける
    うしとてもさらにおもひそかへされぬこひはうらなきものにそありける
    藤原頼宗十四恋四
    827松嶋や雄島の磯にあさりせしあまの袖こそかくは濡れしか
    まつしまやをしまのいそにあさりせしあまのそてこそかくはぬれしか
    源重之十四恋四
    828かぎりぞと思ふにつきぬ涙かなおさふる袖も朽ちにばかりに
    かきりそとおもふにつきぬなみたかなおさふるそてもくちぬはかりに
    盛少将十四恋四
    829かきくらし雲間もみえぬ五月雨はたえず物思ふ我が身なりけり
    かきくらしくもまもみえぬさみたれはたえすものおもふわかみなりけり
    藤原長能十四恋四
    830涙こそあふみの海となりにけれ見るめなしてふながめせしまに
    なみたこそあふみのうみとなりにけれみるめなしてふなかめせしまに
    相模十四恋四
    831白露も夢もこの世もまぼろしもたとへていはば久しかりけり
    しらつゆもゆめもこのよもまほろしもたとへていへはひさしかりけり
    和泉式部十四恋四
    832年ふればあれのみまさる宿のうちに心ながくもすめる月かな
    としふれはあれのみまさるやとのうちにこころなかくもすめるつきかな
    善滋為政十五雑一
    833月影のいるを惜しむもくるしきに西には山のなからましかば
    つきかけのいるををしむもくるしきににしにはやまのなからましかは
    宇治忠信女十五雑一
    834われひとりながむとおもひし山里に思ふことなき月もすみけり
    われひとりなかむとおもひしやまさとにおもふことなきつきもすみけり
    藤原為時十五雑一
    835みなれさをとらでぞくだす高瀬舟月の光のさすにまかせて
    みなれさをとらてそくたすたかせふねつきのひかりのさすにまかせて
    源師賢十五雑一
    836月影のかたぶくままに池水をにしへながると思ひけるかな
    つきかけのかたふくままにいけみつをにしへなかるとおもひけるかな
    良暹法師十五雑一
    837月影は山のはいづるよひよりも更け行く空ぞてりまさりける
    つきかけはやまのはいつるよひよりもふけゆくそらそてりまさりける
    藤原長房十五雑一
    838しきたへのまくらの塵やつもるらむ月のさかりはいこそねられね
    しきたへのまくらのちりやつもるらむつきのさかりはいこそねられね
    源頼家十五雑一
    839池水はあまの川にやかよふらむ空なる月のそこにみゆるは
    いけみつはあまのかはにやかよふらむそらなるつきのそこにみゆるは
    懐圓法師十五雑一
    840いづかたへ行くとも月のみえぬかなたなびく雲の空になければ
    いつかたへゆくともつきのみえぬかなたなひくくものそらになけれは
    永胤法師十五雑一
    841いつよりも曇りなきよの月なればみる人さへに入りがたきかな
    いつよりもくもりなきよのつきなれはみるひとさへにいりかたきかな
    江侍従十五雑一
    842山のはのかからましかば池水に入れども月はかくれざりけり
    やまのはのかからましかはいけみつにいれともつきはかくれさりけり
    藤原頼宗十五雑一
    843やどごとにかはらぬものは山のはの月まつほどのこころなりけり
    やとことにかはらぬものはやまのはのつきまつほとのこころなりけり
    加賀左衛門十五雑一
    844我ひとり眺めてのみやあかさまし今宵の月のおぼろなりせば
    われひとりなかめてのみやあかさましこよひのつきのおほろなりせは
    永源法師十五雑一
    845岩間よりながるる水ははやけれどうつれる月の影ぞのどけき
    いはまよりなかるるみつははやけれとうつれるつきのかけそのとけき
    後冷泉院十五雑一
    846板間あらみあれたる宿の寂しきは心にもあらぬ月をみるかな
    いたまあらみあれたるやとのさひしきはこころにもあらぬつきをみるかな
    弾正尹清仁親王十五雑一
    847雨ふれば閨の板間もふきつらむもりくる月はうれしかりしを
    あめふれはねやのいたまもふきつらむもりくるつきはうれしかりしを
    藤原定頼十五雑一
    848月みてはたれもこころぞなぐさまぬ姨捨山のふもとならねど
    つきみてはたれもこころそなくさまぬをはすてやまのふもとならねと
    藤原範永十五雑一
    849かくばかり隈なき月をおなじくは心のはれて見るよしもがな
    かくはかりくまなきつきをおなしくはこころもはれてみるよしもかな
    賀茂成助十五雑一
    850すみなるる都の月のさやけきになにか鞍馬の山は恋しき
    すみなるるみやこのつきのさやけきになにかくらまのやまはこひしき
    齋院中務十五雑一
    851もろともに山のは出でし月なれば都ながらも忘れやはする
    もろともにやまのはいてしつきなれはみやこなからもわすれやはする
    齋院中将十五雑一
    852天の原月はかはらぬ空ながらありしむかしの世をやこふらむ
    あまのはらつきはかはらぬそらなからありしむかしのよをやこふらむ
    清原元輔十五雑一
    853いつとても変らぬ秋の月みればただいにしへの空ぞ恋しき
    いつとてもかはらぬあきのつきみれはたたいにしへのそらそこひしき
    藤原實綱十五雑一
    854つねよりもさやけき秋の月をみてあはれ恋しき雲のうへかな
    つねよりもさやけきあきのつきをみてあはれこひしきくものうへかな
    源師光十五雑一
    855もろともに眺めし人も我もなき宿にはひとり月やすむらむ
    もろともになかめしひともわれもなきやとにはつきやひとりすむらむ
    藤原長家十五雑一
    856月みれば山のはたかくなりにけりいでばといひし人にみせばや
    つきみれはやまのはたかくなりにけりいてはといひしひとにみせはや
    江侍従十五雑一
    857山のはに入りぬる月のわれならば憂き世の中にまたはいでじを
    やまのはにいりぬるつきのわれならはうきよのなかにまたはいてしを
    源為善十五雑一
    858むかし見し月の影にもにたるかな我とともにや山をいでけむ
    むかしみしつきのかけにもにたるかなわれとともにややまをいてけむ
    聖梵法師十五雑一
    859いりぬとて人のいそぎし月影は出でての後も久しくぞみし
    いりぬとてひとのいそきしつきかけはいててののちもひさしくそみし
    赤染衛門十五雑一
    860心にもあらでうき世にながらへば恋しかるべき夜半の月かな
    こころにもあらてうきよになからへはこひしかるへきよはのつきかな
    三條院十五雑一
    861いまはただ雲ゐの月をながめつつめぐりあふべき程もしられず
    いまはたたくもゐのつきをなかめつつめくりあふへきほともしられす
    陽明門院十五雑一
    862なほざりの空だのめせで哀れにもまつにかならずいづる月かな
    なほさりのそらたのめせてあはれにもまつにかならすいつるつきかな
    小弁十五雑一
    863頼めずば待たでぬる夜ぞかさねましたれゆゑか見る有明の月
    たのめすはまたてぬるよそかさねましたれゆゑかみるありあけのつき
    小式部内侍十五雑一
    864たれとてかあれたる宿といひながら月よりほかの人をいるべき
    たれとてかあれたるやとといひなからつきよりほかのひとをいるへき
    読人知らず十五雑一
    865よしさらばまたれぬ身をばおきながら月みぬ君は名こそをしけれ
    よしさらはまたれぬみをはおきなからつきみぬきみかなこそをしけれ
    藤原隆方十五雑一
    866ながむれば月かたぶきぬ哀れわがこの世のほどもかばかりぞかし
    なかむれはつきかたふきぬあはれわかこのよのほともかはかりそかし
    僧正深覚十五雑一
    867山のはに隠れな果てそ秋の月このよをだにも闇にまどはじ
    やまのはにかくれなはてそあきのつきこのよをたにもやみにまとはし
    藤原範永十五雑一
    868もろともにおなじうき世にすむ月のうらやましくも西へ行くかな
    もろともにおなしうきよにすむつきのうらやましくもにしへゆくかな
    中原長國妻十五雑一
    869いかがせむ山のはにだにとどまらで心の空にいづる月をば
    いかかせむやまのはにたにととまらてこころのそらにいつるつきをは
    藤原道綱母十五雑一
    870曇る夜の月とわが身の行く末とおばつかなさはいづれまされり
    くもるよのつきとわかみのゆくすゑとおほつかなさはいつれまされり
    藤原道綱母十五雑一
    871隠れ沼に生ふる菖蒲のうきねして果はつれなくなる心かな
    かくれぬにおふるあやめのうきねしてはてはつれなくなるこころかな
    斎宮女御十五雑一
    872川かみやあらふの池のうきぬなはうきことあれやくる人もなし
    かはかみやあちふのいけのうきぬなはうきことあれやくるひともなし
    曾禰好忠十五雑一
    873あらはれて恨みやせまし隠れ沼の汀によせし浪のこころを
    あらはれてうらみやせましかくれぬのみきはによせしなみのこころを
    小式部内侍十五雑一
    874岸とほみただよふ浪はなかぞらによる方もなきなげきをぞせし
    きしとほみたたよふなみはなかそらによるかたもなきなけきをそせし
    小弁十五雑一
    875ひきすつる岩かきぬまのあやめ草思ひしらずもけふにあふかな
    ひきすつるいはかきぬまのあやめくさおもひしらすもけふにあふかな
    小弁十五雑一
    876ゆかばこそあはずもあらめ帚木のありとばかりはおとづれよかし
    ゆかはこそあはてもあらめははききのありとはかりはおとつれよかし
    馬内侍十五雑一
    877おもひいでてとふ言の葉をたれみましつらきに堪へぬ命なりせば
    おもひいててとふことのはをたれみましつらきにたへぬいのちなりせは
    読人知らず十五雑一
    878山里をたづねてとふと思ひしはつらき心をみするなりけり
    やまさとをたつねてとふとおもひしはつらきこころをみするなりけり
    中務典侍十五雑一
    879夢のごとおぼめかれゆく世の中にいつとはむとかおとづれもせぬ
    ゆめのことおほめかれゆくよのなかにいつとはむとかおとつれもせぬ
    斎宮女御十五雑一
    880ふみみてもものおもふ身とぞなりにける眞野の継橋とだえのみして
    ふみみてもものおもふみとそなりにけるまののつきはしとたえのみして
    相模十五雑一
    881野飼はねどあれゆく駒をいかがせむ森の下草さかりならねば
    のかはねとあれゆくこまをいかかせむもりのしたくささかりならねは
    相模十五雑一
    882いたづらに身はなりぬともつらからぬ人ゆゑとだに思はましかば
    いたつらにみはなりぬともつらからぬひとゆゑとたにおもはましかは
    読人知らず十五雑一
    883あるが上に又ぬぎかくる唐衣いかがみさをもつくりあふべき
    あるかうへにまたぬきかくるからころもいかかみさをもつくりあふへき
    大江匡衡十五雑一
    884わりなしや心にかなふ涙だに身のうき時はとまりやはする
    わりなしやこころにかなふなみたたにみのうきときはとまりやはする
    源雅通女十五雑一
    885わするなよわするときかばみ熊野の浦の浜木綿恨みかさねむ
    わするなよわするときかはみくまののうらのはまゆふうらみかさねむ
    道命法師十五雑一
    886忘れじといひつる中は忘れけり忘れむとこそいふべかりけれ
    わすれしといひつるなかはわすれけりわすれむとこそいふへかりけれ
    道命法師十五雑一
    887ものいはで人の心をみるほどにやがてとはれでやみぬべきかな
    ものいはてひとのこころをみるからにやかてとはれてやみぬへきかな
    道命法師十五雑一
    888天の河おなじながれとききながらわたらむことのなほぞ悲しき
    あまのかはおなしなかれとききなからわたらむことのなほそかなしき
    周防内侍十五雑一
    889この頃の夜半のねざめは思ひやるいかなる鴛鴦か霜はらふらむ
    このころのよはのねさめはおもひやるいかなるをしかしもははらはむ
    小大君十五雑一
    890おもひきや秋の夜風の寒けきにいもなき床にひとりねむとは
    おもひきやあきのよかせのさむけきにいもなきとこにひとりねむとは
    清原元輔十五雑一
    891いかなれば花のにほひもかはらぬを過ぎにし春の恋しかるらむ
    いかなれやはなのにほひもかはらぬをすきにしはるのこひしかるらむ
    具平親王十五雑一
    892すみぞめにあけの衣をかさねきて涙のいろのふたへなるかな
    すみそめにあけのころもをかさねきてなみたのいろのふたへなるかな
    祭主輔親十五雑一
    893浅茅原あれたるやどはむかし見し人をしのぶのわたりなりけり
    あさちはらあれたるやとはむかしみしひとをしのふのわたりなりけり
    能因法師十五雑一
    894なき人はおとづれもせで琴の緒をたちし月日ぞかへり来にける
    なきひとはおとつれもせてことのををたちしつきひそかへりきにける
    藤原道綱母十五雑一
    895しぐるれどかひなかりけり埋もれ木は色づく方ぞ人もとひける
    しくるれとかひなかりけりうもれきはいろつくかたそひともとひける
    源経隆十五雑一
    896人しれずおつる涙の音をせば夜半の時雨におとらざらまし
    ひとしれすおつるなみたのおとをせはよはのしくれにおとらさらまし
    少将井尼十五雑一
    897こぞのけふ別れし星も逢ひぬめりなどたぐひなきわが身なるらむ
    こそのけふわかれしほしもあひぬめりなとたくひなきわかみなるらむ
    後朱雀院十五雑一
    898はかなさによそへてみれば桜花をりしらぬにやならむとすらむ
    はかなさによそへてみれとさくらはなをりしらぬにやならむとすらむ
    小左近十五雑一
    899形見ぞと思はで花を見しだにも風をいとはぬ春はなかりき
    かたみそとおもはてはなをみしにたにかせをいとはぬはるはなかりき
    辨乳母十五雑一
    900かずならぬ身のうきことは世の中になきうちにだにいらぬなりけり
    かすならぬみのうきことはよのなかになきうちにたにいらぬなりけり
    小辨十五雑一
    901かれはつる浅茅がうへの霜よりもけぬべき程を今かとぞ待つ
    かれはつるあさちかうへのしもよりもけぬへきほとをいまかとそまつ
    斎宮女御十五雑一
    902いにしへをこふる寝覚めやまさるらむききもならはぬ峰の嵐に
    いにしへをこふるねさめやまさるらむききもならはぬみねのあらしに
    藤原範永十五雑一
    903かしは木の杜の下草くれごとに猶たのめとやもるをみるみる
    かしはきのもりのしたくさくれことになほたのめとやもるをみるみる
    藤原道綱母十六雑二
    904まつ程のすぎのみゆけば大井川たのむる暮もいかがとぞ思ふ
    まつほとのすきのみゆけはおほゐかはたのむるくれをいかかとそおもふ
    馬内侍十六雑二
    905浅き瀬をこす筏士の綱よわみ猶この暮もあやうかりけり
    あさきせをこすいかたしのつなよわみなほこのくれもあやふかりけり
    読人知らず十六雑二
    906ひとりぬる人やしるらむ秋の夜を長しとたれか君に告げつる
    ひとりぬるひとやしるらむあきのよをなかしとたれかきみにつけつる
    高内侍十六雑二
    907春霞たちいでむこともおもほえず浅みどりなる空のけしきに
    はるかすみたちいてむこともおもほえすあさみとりなるそらのけしきに
    新左衛門十六雑二
    908その色の草ともみえずかれにしをいかにいひてかけふはかくべき
    そのいろのくさともみえすかれにしをいかにいひてかけふはかくへき
    小馬命婦十六雑二
    909ふしにけりさしも思はば笛竹のおとをぞせまし夜更けたりとも
    ふしにけりさしもおもはてふえたけのおとをそせましよふけたりとも
    和泉式部十六雑二
    910やすらはでたつにたてうき真木の戸をさしも思はぬ人もありけり
    やすらはてたつにたてうきまきのとをさしもおもはぬひともありけり
    和泉式部十六雑二
    911人しらでねたさもねたしむらさきのねずりの衣うはぎにもせむ
    ひとしらてねたさもねたしむらさきのねすりのころもうはきにをきむ
    藤原頼宗十六雑二
    912ぬれぎぬと人にはいはむ紫のねずりの衣うはぎなりとも
    ぬれきぬとひとにはいはむむらさきのねすりのころもうはきなりとも
    和泉式部十六雑二
    913秋霧はたち隠せども萩原に鹿ふしけりと今朝みつるかな
    あききりはたちかくせともはきはらにしかふしけりとけさみつるかな
    兵衛内侍十六雑二
    914朝な朝なおきつつみれば白菊の霜にぞいたくうつろひにける
    あさなあさなおきつつみれはしらきくのしもにそいたくうつろひにける
    左兵衛督公信十六雑二
    915逢坂の関に心はかよはねど見し東路は猶ぞこひしき
    あふさかのせきにこころはかよはねとみしあつまちはなほそこひしき
    相模十六雑二
    916ねぬ縄のねぬ名のいたく立ちぬればなほ大澤のいけらしやよに
    ねぬなはのねぬなのおほくたちぬれはなほおほさはのいけらしやよに
    読人知らず十六雑二
    917すむ人のかれ行くやどは時わかず草木も秋の色にぞありける
    すむひとのかれゆくやとはときわかすくさきもあきのいろにそありける
    藤原兼平母十六雑二
    918あかつきの鐘のこゑこそきこゆなれこれを入あひと思はましかば
    あかつきのかねのこゑこそきこゆなれこれをいりあひとおもはましかは
    小一條院十六雑二
    919いづくにかきても隠れむ隔てつる心の隈のあらばこそあらめ
    いつくにかきてもかくれむへたてたるこころのくまのあらはこそあらめ
    和泉式部十六雑二
    920やすらひにまきの戸こそはささざらめいかに明けぬる冬の夜ならむ
    やすらひにまきのとこそはさささらめいかにあけつるふゆのよならむ
    和泉式部十六雑二
    921青柳のいとになき名ぞたちにけるよるくる人は我ならねども
    あをやきのいとになきなそたちにけるよるくるひとはわれならねとも
    藤原顕綱十六雑二
    922まだ咲かぬまがきの菊もあるものをいかなる宿にうつろひぬらむ
    またさかぬまかきのきくもあるものをいかなるやとにうつろひにけむ
    後三條院十六雑二
    923たまくしげ身はよそよそになりぬともふたり契りしことな忘れそ
    たまくしけみはよそよそになりぬともふたりちきりしことなわすれそ
    馬内侍十六雑二
    924いづかたに行くとばかりはつげてましとふべき人のある身と思はば
    いつかたへゆくとはかりはつけてましとふへきひとのあるみとおもはは
    和泉式部十六雑二
    925かくばかり忍ぶる雨を人とはばなににぬれたる袖といふらむ
    かはかりにしのふるあめをひととははなににぬれたるそてといふらむ
    和泉式部十六雑二
    926空になる人の心はささがにのいかにけふ又かくてくらさむ
    そらになるひとのこころにささかにのいかにけふまたかくてくらさむ
    和泉式部十六雑二
    927三笠山さしはなれぬとききしかど雨もよにとは思ひしものを
    みかさやまさしはなれぬといひしかとあめもよにとはおもひしものを
    和泉式部十六雑二
    928歎かじなつひにすまじき別れかはこはある世にと思ふばかりを
    なけかしなつひにすましきわかれかはこれはあるよにとおもふはかりそ
    読人知らず十六雑二
    929いにしへのきならし衣いまさらにそのものごしのとけずしもあらじ
    いにしへのきならしころもいまさらにそのものこしのとけすしもあらし
    藤原定頼十六雑二
    930まことにや空になき名のふりぬらむあまてる神のくもりなきよに
    まことにやそらになきなのふりぬらむあまてるかみのくもりなきよに
    相模十六雑二
    931こりぬらむ仇なる人に忘られてわれならはさむ思ふためしは
    こりぬらむあたなるひとにわすられてわれならはさむおもふためしは
    藤原長能十六雑二
    932春雨のふるめかしくもつぐるかなはや柏木のもりにしものを
    はるさめのふるめかしくもつくるかなはやかしはきのもりにしものを
    馬内侍十六雑二
    933いにしへの常世の國やかはりにしもろこしばかり遠くみゆるは
    いにしへのとこよのくにやかはりにしもろこしはかりとほくみゆるは
    清原元輔十六雑二
    934わたの原たつ白浪のいかなれば名残ひさしく見ゆるなるらむ
    わたのはらたつしらなみのいかなれはなこりひさしくみゆるなるらむ
    右兵衛督朝任十六雑二
    935風はただ思はぬかたに吹きしかどわたの原たつ浪はなかりき
    かせはたたおもはぬかたにふきしかとわたのはらたつなみもなかりき
    赤染衛門十六雑二
    936人しれず心ながくや時雨るらむ更けゆく秋の夜半の寝覚めに
    ひとしれすこころなからやしくるらむふけゆくあきのよはのねさめに
    相模十六雑二
    937逢坂の関のあなたもまだみねば東のこともしられざりけり
    あふさかのせきのあなたもまたみねはあつまのこともしられさりけり
    大江匡衡十六雑二
    938かきくもれ時雨るとならば神無月こころそらなる人やとまると
    かきくもれしくるとならはかみなつきけしきそらなるひとやとまると
    馬内侍十六雑二
    939夜をこめて鳥の空音ははかるともよに逢坂の関はゆるさじ
    よをこめてとりのそらねにはかるともよにあふさかのせきはゆるさし
    清少納言十六雑二
    940ふるさとの三輪の山辺を尋ぬれど杉まの月の影だにもなし
    ふるさとのみわのやまへをたつぬれとすきまのつきのかけたにもなし
    素意法師十六雑二
    941東路のそのはらからはきたりとも逢坂まではこさじとぞおもふ
    あつまちのそのはらからはきたりともあふさかまてはこさしとそおもふ
    相模十六雑二
    942ちらさじと思ふあまりに桜花ことのはをさへ惜しみつるかな
    ちらさしとおもふあまりにさくらはなことのはをさへをしみつるかな
    兵衛姫君十六雑二
    943さらでだに岩間の水はもるものを氷とけなば名こそながれめ
    さらてたにいはまのみつはもるものをこほりとけなはなこそなかれめ
    下野十六雑二
    944祈りけむ事は夢にて限りてよさても逢ふてふ名こそ惜しけれ
    いのりけむことはゆめにてかきりてよさてもあふてふなこそをしけれ
    四條宰相十六雑二
    945近きだにきかぬ禊をなにかそのから神まではとほくいのらむ
    ちかきたにきかぬみそきをなにかそのからかみまてはとほくいのらむ
    少将内侍十六雑二
    946忘るるも苦しくもあらずねぬなはのねたくと思ふ事しなければ
    わするるもくるしくもあらすねぬなはのねたくもとおもふことしなけれは
    伊賀少将十六雑二
    947ならされぬみそののうりとしりながらよひあかつきとたつぞ露けき
    ならされぬみそののうりとしりなからよひあかつきとたつそつゆけき
    藤原義孝十六雑二
    948おひたつをまつと頼めしかひもなく浪こすべしときくはまことか
    おひたつをまつとたのめしかひもなくなみこすへしときくはまことか
    藤原朝光十六雑二
    949いつしかとまちしかひなく秋風にそよとばかりもをぎの音せぬ
    いつしかとまちしかひなくあきかせにそよとはかりもをきのおとせぬ
    源道済十六雑二
    950君はまだしらざりけりな秋の夜のこのまの月ははつかにぞみる
    きみはまたしらさりけりなあきのよのこのまのつきははつかにそみる
    和泉式部十六雑二
    951さもこそは心くらべにまけざらめ早くもみえし駒のあしかな
    さもこそはこころくらへにまけさらめはやくもみえしこまのあしかな
    相模十六雑二
    952おのづからわが忘るるになりにけり人の心をこころ見しまに
    おのつからわかわするるになりにけりひとのこころをこころみしまに
    中原長國十六雑二
    953恨みずばいかでか人にとはれましうきもうれしきものにぞありける
    うらみすはいかてかひとにとはれましうきもうれしきものにそありける
    律師朝範十六雑二
    954綱たえてはなれはてにしみちのくのをぶちの駒をきのふみしかな
    つなたえてはなれはてにしみちのくのをふちのこまをきのふみしかな
    相模十六雑二
    955言の葉につけてもなどかとはざらむ蓬の宿もわかぬあらしを
    ことのはにつけてもなとかとはさらむよもきのやともわかぬあらしを
    相模十六雑二
    956八重ぶきのひまだにあらば蘆のやにおとせぬ風はあらじとをしれ
    やへふきのひまたにあらはあしのやにおとせぬかせはあらしとをしれ
    藤原定頼十六雑二
    957わりなしや身はここのへのうちながらとへとは人の恨むべしやは
    わりなしやみはここのへのうちなからとへとはひとのうらむへしやは
    藤原実方十六雑二
    958しばしこそ思ひもいでめ津の國のながらへゆかば今わすれなむ
    しはしこそおもひもいてめつのくにのなからへゆかはいまわすれなむ
    中宮内侍十六雑二
    959これもさはあしかりけりな津の國のこやことづくるはじめなるらむ
    これもさはあしかりけりやつのくにのこやことつくるはしめなるらむ
    上總大輔十六雑二
    960心えつあまのたくなはうちはへてくるをくるしと思ふなるべし
    こころえつあまのたくなはうちはへてくるをくるしとおもふなるへし
    土御門御くしげどの十六雑二
    961かずならぬ人をのがひの心にはうしともものをおもはざらなむ
    かすならぬひとをのかひのこころにはうしともものをおもはさらなむ
    祭主輔親十六雑二
    962磯なるる人はあまたに聞こゆるを誰がなのりそをかりて答へむ
    いそなるるひとはあまたにきこゆるをたかなのりそをかりてこたへむ
    大貮成章十六雑二
    963とへとしも思はぬ八重の山吹をゆるすといはばをりにこむとや
    とへとしもおもはぬやへのやまふきをゆるすといははをりにこむとや
    和泉式部十六雑二
    964あぢきなく思ひこそやれつれづれとひとりやゐでの山吹の花
    あちきなくおもひこそやれつれつれとひとりやゐてのやまふきのはな
    和泉式部十六雑二
    965ねぬ縄の苦しきほどのたえまかとたゆるをしらで思ひけるかな
    ねぬなはのくるしきほとのたえまかとたゆるをしらておもひけるかな
    少将内侍十六雑二
    966行く末を流れてなににたのみけむ絶えけるものを中河の水
    ゆくすゑをなかれてなににたのみけむたえけるものをなかかはのみつ
    式部命婦十六雑二
    967長しとて明けずやはあらむ秋の夜はまてかし真木のとばかりをだに
    なかしとてあけすやはあらむあきのよはまてかしまきのとはかりをたに
    和泉式部十六雑二
    968天の原はるかに渡る月だにもいづるは人にしらせこそすれ
    あまのはらはるかにわたるつきたにもいつるはひとにしらせこそすれ
    藤原道信十六雑二
    969うきこともまだ白雲の山のはにかかるやつらきこころなるらむ
    うきこともまたしらくものやまのはにかかるやつらきこころなるらむ
    藤原元真十六雑二
    970ふく風になびく浅茅は我なれや人のこころのあきをしらする
    かせふくになひくあさちはわれなれやひとのこころのあきをしらする
    斎宮女御十六雑二
    971たれかまた年へぬる身をふりすてて吉備の中山こえむとすらむ
    たれかまたとしへぬるみをふりすててきひのなかやまこえむとすらむ
    清原元輔十七雑三
    972春ごとにわすられにける埋もれ木は花の都をおもひこそやれ
    はることにわすられにけるうもれきははなのみやこをおもひこそやれ
    源重之十七雑三
    973河舟にのりて心の行くときはしづめる身ともおもほえぬかな
    かはふねにのりてこころのゆくときはしつめるみともおもほえぬかな
    大江匡衡十七雑三
    974よのなかをきくにたもとのぬるるかな涙はよそのものにぞありける
    よのなかをきくにたもとのぬるるかななみたはよそのものにそありける
    大江為基十七雑三
    975いたづらになりぬる人のまたもあらばいひあはせてぞねをばなかまし
    いたつらになりぬるひとのまたもあらはいひあはせてそねをはなかまし
    藤原國行十七雑三
    976みちのくのあだちのま弓ひくやとて君にわが身をまかせつるかな
    みちのくのあたちのまゆみひくやとてきみにわかみをまかせつるかな
    源重之十七雑三
    977雲の上にひかりかくれしゆふべより幾夜といふに月を見つらむ
    くものうへにひかりかくれしゆふへよりいくよといふにつきをみるらむ
    天台座主明快十七雑三
    978かぎりあればあまの羽衣ぬぎかへておりぞわづらふ雲のかけはし
    かきりあれはあまのはころもぬきかへておりそわつらふくものかけはし
    源経任十七雑三
    979うれしといふことはなべてになりぬればいはで思ふに程ぞへにける
    うれしといふことはなへてになりぬれはいはておもふにほとそへにける
    周防内侍十七雑三
    980澤水におりゐるたづはとしふともなれし雲井ぞこひしかるべき
    さはみつにおりゐるたつはとしふともなれしくもゐそこひしかるへき
    橘為伸十七雑三
    981思ひきや衣の色はみどりにてみよまで竹をかざすべしとは
    おもひきやころものいろをみとりにてみよまてたけをかさすへしとは
    橘俊宗十七雑三
    982おしなべてさく白菊はやへやへの花の霜とぞみえわたりける
    おしなへてさくしらきくはやへやへのはなのしもとそみえわたりける
    藤原公任十七雑三
    983まつことのあるとや人の思ふらむ心にもあらでながらふる身を
    まつことのあるとやひとのおもふらむこころにもあらてなからふるみを
    藤原兼綱十七雑三
    984君をだにうかべてしがな涙川しづむなかにもふちせありやと
    きみをたにうかへてしかななみたかはしつむなかにもふちせありやと
    藤原元真十七雑三
    985我のみと思ひしかども高砂のをのへの松もまだたてりけり
    われのみとおもひこしかとたかさこのをのへのまつもまたたてりけり
    藤原義定十七雑三
    986世の中を今はかぎりと思ふには君こひしくやならむとすらむ
    よのなかをいまはかきりとおもふにはきみこひしくやならむとすらむ
    平兼盛十七雑三
    987もみぢするかつらの中に住吉の松のみひとりみどりなるかな
    もみちするかつらのなかにすみよしのまつのみひとりみとりなるかな
    津守國基十七雑三
    988われ舟のしづみぬる身の悲しきは渚によする浪さへぞなき
    われふねのしつみぬるみのかなしきはなきさによするなみさへそなき
    藤原基長十七雑三
    989たづねつる雪のあしたのはなれ駒きみばかりこそ跡をしるらめ
    たつねつるゆきのあしたのはなれこまきみはかりこそあとをしるらめ
    源兼俊母十七雑三
    990雲居までたちのぼるべき煙かと見えし思ひのほかにもあるかな
    くもゐまてたちのほるへきけふりかとみしはおもひのほかにもあるかな
    堀河女御十七雑三
    991松風は色やみどりにふきつらむもの思ふ人の身にぞしみぬる
    まつかせはいろやみとりにふきつらむものおもふひとのみにそしみける
    堀河女御十七雑三
    992世の中を思ひ乱れてつくづくと眺むる宿に松風ぞ吹く
    よのなかをおもひみたれてつくつくとなかむるやとにまつかせそふく
    源道済十七雑三
    993心には月見むとしも思はねどうきには空ぞながめられける
    こころにはつきみむとしもおもはねとうきにはそらそなかめられける
    藤原為任十七雑三
    994世の中のうきにおひたるあやめ草けふは袂にねぞかかりける
    よのなかのうきにおひたるあやめくさけふはたもとにねそかかりける
    藤原隆家十七雑三
    995けふとてもあやめしられぬ袂にはひきたがへたるねをやかくらむ
    けふまてもあやめしられぬたもとにはひきたかへたるねをやかくらむ
    小弁十七雑三
    996五月闇ここひのもりのほととぎす人しれずのみなきゐたるかな
    さつきやみここひのもりのほとときすひとしれすのみなきわたるかな
    藤原兼房十七雑三
    997ほととぎすここひの森に啼く聲はきくよぞ人の袖もぬれけり
    ほとときすここひのもりになくこゑはきくよそひとのそてもぬれけり
    大弐三位十七雑三
    998すめらぎもあらひとかみもなごむまでなきけるもりのほととぎすかな
    すめらきもあらひとかみもなこむまてなきけるもりのほとときすかな
    素意法師十七雑三
    999ことわりやいかでか鹿のなかざらむこよひばかりの命とおもへば
    ことわりやいかてかしかのなかさらむこよひはかりのいのちとおもへは
    和泉式部十七雑三
    1000松風も岸うつ浪ももろともにむかしにあらぬ聲のするかな
    まつかせもきしうつなみももろともにむかしにあらぬおとのするかな
    恵慶法師十七雑三
    1001しぬばかり歎きにこそは歎きしか生きてとふべき身にしあらねば
    しぬはかりなけきにこそはなけきしかいきてとふへきみにしあらねは
    小式部内侍十七雑三
    1002大空に風まつほどのくものいの心ぼそさを思ひやらなむ
    おほそらにかせまつほとのくものいのこころほそさをおもひやらなむ
    斎宮女御十七雑三
    1003思ひやるわが衣手はささがにのくもらぬ空に雨のみぞふる
    おもひやるわかころもてはささかにのくもらぬそらにあめのみそふる
    東三條院十七雑三
    1004なきかずにおもひなしてやとはざらむまだ有明の月まつものを
    なきかすにおもひなしてやとはさらむまたありあけのつきまつものを
    伊勢大輔十七雑三
    1005ちるをこそあはれとみしか梅の花はなや今年は人をしのばむ
    ちるをこそあはれとみしかうめのはなはなやことしはひとをしのはむ
    小大君十七雑三
    1006とへかしな幾夜もあらじ露の身をしばしも言のはにやかかると
    とへかしないくよもあらしつゆのみをしはしもことのはにやかかると
    読人知らず十七雑三
    1007ものをのみ思ひしほどにはかなくて浅茅が末によはなりにけり
    ものをのみおもひしほとにはかなくてあさちかすゑによはなりにけり
    和泉式部十七雑三
    1008しのぶべき人もなき身はあるをりにあはれあはれといひやおかまし
    しのふへきひともなきみはあるをりにあはれあはれといひやおかまし
    和泉式部十七雑三
    1009いかなれば同じ色にておつれども涙はめにもとまらざるらむ
    いかなれはおなしいろにておつれともなみたはめにもとまらさるらむ
    和泉式部十七雑三
    1010常よりもはかなきころの夕暮れになくなる人ぞかぞへられける
    つねよりもはかなきころのゆふくれはなくなるひとそかそへられける
    藤原頼宗十七雑三
    1011草の葉におかぬばかりの露の身はいつその數にいらむとすらむ
    くさのはにおかぬはかりのつゆのみはいつそのかすにいらむとすらむ
    藤原定頼十七雑三
    1012消えもあへずはかなきほどの露ばかりありやなしやと人のとへかし
    きえもあへすはかなきころのつゆはかりありやなしやとひとのとへかし
    赤染衛門十七雑三
    1013世の中をなににたとへむ秋の田をほのかにてらすよひのいなづま
    よのなかをなににたとへむあきのたをほのかにてらすよひのいなつま
    源順十七雑三
    1014明けぬなり賀茂の河瀬に千鳥鳴くけふもはかなく暮れむとすらむ
    あけぬなりかものかはせにちとりなくけふもはかなくくれむとすらむ
    圓松法師十七雑三
    1015恋しくば夢にも人をみるべきに窓うつ雨にめをさましつつ
    こひしくはゆめにもひとをみるへきをまとうつあめにめをさましつつ
    大貮高遠十七雑三
    1016なげきこしみちの露にもまさりけりなれにし里をこふる涙は
    なけきこしみちのつゆにもまさりけりなれにしさとをこふるなみたは
    赤染衛門十七雑三
    1017思ひきや古き都をたちはなれ胡の國人にならむものとは
    おもひきやふるきみやこをたちはなれこのくにひとにならむものとは
    僧都懐壽十七雑三
    1018みる度に鏡の影のつらきかなかからざりせばかからましやは
    みるからにかかみのかけのつらきかなかからさりせはかからましやは
    懐圓法師十七雑三
    1019いにしへはつらくきこえし鳥のねのうれしきさへぞものは悲しき
    いにしへはつらくきこえしとりのねのうれしきさへそものはかなしき
    ゐでのあま十七雑三
    1020ともすれば四方の山辺にあくがれし心に身をもまかせつるかな
    ともすれはよものやまへにあくかれしこころにみをもまかせつるかな
    増基法師十七雑三
    1021しかすがにかなしきものは世の中をうきたつほどの心なりけり
    しかすかにかなしきものはよのなかをうきたつほとのこころなりけり
    馬内侍十七雑三
    1022なにかその身のいろにしもたけからむ心を深き山にすませよ
    なにかそのみのいるにしもたけからむこころをふかきやまにすませよ
    藤原長能十七雑三
    1023まことにや同じ道には入りにけるひとりは西へゆかじと思ふに
    まことにやおなしみちにはいりにけるひとりはにしへゆかしとおもふに
    律師長濟十七雑三
    1024いかでかく花の袂をたちかへてうらなる玉をわすれざりけむ
    いかてかくはなのたもとをたちかへてうらなるたまをわすれさりけむ
    加賀左衛門十七雑三
    1025かけてだに衣のうらに玉ありとしらで過ぎけむ方ぞくやしき
    かけてたにころものうらにたまありとしらてすきけむかたそくやしき
    中宮内侍十七雑三
    1026きみすらもまことの道に入りぬなりひとりや長きやみにまどはむ
    きみすらもまことのみちにいりぬなりひとりやなかきやみにまとはむ
    選子内親王十七雑三
    1027けふとしも思ひやはせし麻衣なみだの玉のかかるべしとは
    けふとしもおもひやはせしあさころもなみたのたまのかかるへしとは
    読人知らず十七雑三
    1028思ふにもいふにもあまる事なれや衣の玉のあらはるる日は
    おもふにもいふにもあまることなれやころものたまのあらはるるひは
    伊勢大輔十七雑三
    1029世を捨てて宿を出でにし身なれどもなほ恋しきは昔なりけり
    よをすててやとをいてにしみなれともなほこひしきはむかしなりけり
    源顕基十七雑三
    1030ときのまも恋しきことの慰まば世はふたたびもそむかざらまし
    ときのまもこひしきことのなくさまはよはふたたひもそむかさらまし
    上東門院十七雑三
    1031思ひしる人もありける世の中をいつをいつとてすぐすなるらむ
    おもひしるひともありけるよのなかをいつをいつとてすくすなるらむ
    藤原公任十七雑三
    1032君に人なれなならひそ奥山に入りての後はわびしかりけり
    きみにひとなれなならひそおくやまにいりてののちはわひしかりけり
    藤原統理十七雑三
    1033忘られず思ひいでつつ山人をしかぞこひしくわれも眺むる
    わすられすおもひいてつつやまひとをしかそこひしくわれもなかむる
    御三条院十七雑三
    1034見し人もわすれのみ行くふるさとに心ながくもきたる春かな
    みしひともわすれのみゆくふるさとにこころなかくもきたるはるかな
    藤原義懐十七雑三
    1035谷風になれずといかが思ふらむ心ははやくすみにしものを
    たにかせになれすといかかおもふらむこころははやくすみにしものを
    藤原公任十七雑三
    1036水草ゐしおぼろの清水底すみて心に月の影はうかぶや
    みくさゐしおほろのしみつそこすみてこころにつきのかけはうかふや
    素意法師十七雑三
    1037程へてや月もうかばむ大原やおぼろの清水すむなばかりに
    ほとへてやつきもうかはむおほはらやおほろのしみつすむなはかりそ
    良暹法師十七雑三
    1038思ひやる心さへこそさびしけれ大原山のあきのゆふぐれ
    おもひやるこころさへこそさひしけれおほはらやまのあきのゆふくれ
    藤原國房十七雑三
    1039思はずにいるとはみえき梓弓かへらばかへれ人のためかは
    おもはすにいるとはみえきあつさゆみかへらはかへれひとのためかは
    律師朝範十七雑三
    1040思ひやれとふ人もなき山里のかけひの水のこころぼそさを
    おもひやれとふひともなきやまさとのかけひのみつのこころほそさを
    上東門院中将十七雑三
    1041武隈の松はふたきを都人いかがととはばみきとこたへむ
    たけくまのまつはふたきをみやこひといかかととははみきとこたへむ
    橘季通十八雑四
    1042武隈の松はこのたび跡もなしちとせをへてや我はきつらむ
    たけくまのまつはこのたひあともなしちとせをへてやわれはきつらむ
    能因法師十八雑四
    1043里人のくむだに今はなかるべし岩井の清水みくさゐにけり
    さとひとのくむたにいまはなかるへしいはゐのしみつみくさゐにけり
    大江嘉言十八雑四
    1044年へたる松だになくば浅茅原なにかむかしのしるしならまし
    としへたるまつたになくはあさちはらなにかむかしのしるしならまし
    江侍従十八雑四
    1045年をへてみる人もなきふるさとにかはらぬ松ぞあるじならまし
    としをへてみるひともなきふるさとにかはらぬまつそあるしならまし
    左衛門督北方十八雑四
    1046君がうゑし松ばかりこそ残りけれいづれの春の子の日なりけむ
    きみかうゑしまつはかりこそのこりけれいつれのはるのねのひなりけむ
    源為善十八雑四
    1047誰をけふまつとはいはむかくばかり忘るるなかのねたげなるよに
    たれをけふまつとはいはむかくはかりわするるなかのねたけなるよに
    馬内侍十八雑四
    1048みどりにて色もかはらぬ呉竹はよのながきをや秋としるらむ
    みとりにていろもかはらぬくれたけはよのなかきをやあきとしるらむ
    藤原師経十八雑四
    1049いはしろのをのへの風に年ふれど松のみどりはかはらざりけり
    いはしろのをのへのかせにとしふれとまつのみとりはかはらさりけり
    前太宰帥資仲十八雑四
    1050よろづよの秋をもしらですぎきたる葉がへぬ谷の岩根松かな
    よろつよのあきをもしらてすききたるはかへぬたにのいはねまつかな
    白河院十八雑四
    1051み山木をねりぞもてゆふしづのをは猶こりずまの心とぞみる
    みやまきをねりそもてゆふしつのをはなほこりすまのこころとそみる
    藤原義孝十八雑四
    1052旅寝する宿はみ山にとぢられて正木のかづらくる人もなし
    たひねするやとはみやまにとちられてまさきのかつらくるひともなし
    源経信十八雑四
    1053鳥もゐで幾代へぬらむ勝間田の池にはいゐのあとだにもなし
    とりもゐていくよへぬらむかつまたのいけにはいひのあとたにもなし
    藤原範永十八雑四
    1054たちのぼるもしほの煙たえせねば空にもしるき須磨の浦かな
    たちのほるもしほのけふりたえせねはそらにもしるきすまのうらかな
    藤原経衡十八雑四
    1055くる人もなき奥山の瀧の絲は水のわくにぞまかせたりける
    くるひともなきおくやまのたきのいとはみつのわくにそまかせたりける
    藤原定頼十八雑四
    1056ものいはばとふべきものを桃の花いくよかへたる瀧の白絲
    ものいははとふへきものをもものはないくよかへたるたきのしらいと
    辨乳母十八雑四
    1057せきれたるなこそ流れてとまるともたえずみるべき瀧の絲かは
    せきれたるなこそなかれてとまるらむたえすみるへきたきのいとかは
    藤原兼房十八雑四
    1058あせにける今だにかかる瀧つ瀬の早くぞ人はみるべかりける
    あせにけるいまたにかかりたきつせのはやくそひとはみるへかりける
    赤染衛門十八雑四
    1059年毎にせくとはすれど大井川むかしのなこそ猶ながれけれ
    としことにせくとはすれとおほゐかはむかしのなこそなほなかれけれ
    源道済十八雑四
    1060さきの日に桂の宿を見しゆゑはけふ月の輪にくべきなりけり
    さきのひにかつらのやとをみしゆゑはけふつきのわにくへきなりけり
    祭主輔親十八雑四
    1061いづるゆのわくにかかれる白絲はくる人たえぬものにぞありける
    いつるゆのわくにかかれるしらいとはくるひとたえぬものにそありける
    源重之十八雑四
    1062住吉の神はあはれと思ふらむむなしき舟をさしてきたれば
    すみよしのかみはあはれとおもふらむむなしきふねをさしてきたれは
    後三條院十八雑四
    1063おきつ風吹きにけらしな住吉の松のしづえをあらふ白浪
    おきつかせふきにけらしなすみよしのまつのしつえをあらふしらなみ
    源経信十八雑四
    1064住吉の浦風いたく吹きぬらし岸うつ浪の聲しきるなり
    すみよしのうらかせいたくふきぬらしきしうつなみのこゑしきるなり
    惠慶法師十八雑四
    1065松みればたちうきものを住の江のいかなる浪かしづ心なき
    まつみれはたちうきものをすみのえのいかなるなみかしつこころなき
    藤原為長十八雑四
    1066忘れ草つみてかへらむ住吉のきし方のよは思ひでもなし
    わすれくさつみてかへらむすみよしのきしかたのよはおもひいてもなし
    平棟伸十八雑四
    1067おもふこと神はしるらむ住吉の岸の白浪たが世なりとも
    おもふことかみはしるらむすみよしのきしのしらなみたよせなりとも
    源頼實十八雑四
    1068ときかけつ衣の玉は住吉の神さびにける松のこずゑに
    ときかけつころものたまはすみのえのかみさひにけるまつのこすゑに
    増基法師十八雑四
    1069たのみては久しくなりぬ住吉のまづこのたびのしるしみせなむ
    たのみてはひさしくなりぬすみよしのまつこのたひのしるしみせなむ
    赤染衛門十八雑四
    1070都いでて秋より冬になりぬれば久しき旅の心地こそすれ
    みやこいててあきよりふゆになりぬれはひさしきたひのここちこそすれ
    上東門院新宰相十八雑四
    1071よろづよをすめる亀井の水やさはとみの小川の流れなるらむ
    よろつよをすめるかめゐのみつはさはとみのをかはのなかれなるらむ
    辨乳母十八雑四
    1072橋柱なからましかば流れての名をこそきかめあとをみましや
    はしはしらなからましかはなかれてのなをこそきかめあとをみましや
    藤原公任十八雑四
    1073わればかり長柄の橋は朽ちにけり難波の事もふるる悲しさ
    われはかりなからのはしはくちにけりなにはのこともふるるかなしさ
    赤染衛門十八雑四
    1074いにしへにふり行く身こそ哀れなれ昔ながらの橋をみるにも
    いにしへにふりゆくみこそあはれなれむかしなからのはしをみるにも
    伊勢大輔十八雑四
    1075名に高き錦の浦をきてみればかづかぬあまはすくなかりけり
    なにたかきにしきのうらをきてみれはかつかぬあまはすくなかりけり
    道命法師十八雑四
    1076山がらすかしらもしろくなりにけり我が帰るべき時やきぬらむ
    やまからすかしらもしろくなりにけりわかかへるへきときやきぬらむ
    増基法師十八雑四
    1077わかれ行く舟は綱手にまかすれど心は君がかたにこそひけ
    わかれゆくふねはつなてにまかすれとこころはきみかかたにこそひけ
    藤原孝善十八雑四
    1078道すがらおちぬばかりにふる袖の袂に何をつつむなるらむ
    みちすからおちぬはかりにふるそてのたもとになにをつつむなるらむ
    読人知らず十八雑四
    1079ゆふだすき袂にかけて祈りこし神のしるしをけふみつるかな
    ゆふたすきたもとにかけていのりこしかみのしるしをけふみつるかな
    読人知らず十八雑四
    1080ととのへし賀茂の社のゆふだすき帰るあしたぞ乱れたりける
    ととのへしかものやしろのゆふたすきかへるあしたそみたれたりける
    安法法師十八雑四
    1081あけぬよの心地ながらにやみにしをあさくらといひし聲はきききや
    あけぬよのここちなからにやみにしをあさくらといひしこゑはきききや
    読人知らず十八雑四
    1082ひとりのみきのまろどのにあらませばなのらで闇にまよはましやは
    ひとりのみきのまろとのにあらませはなのらてやみにかへらましやは
    藤原実方十八雑四
    1083なのりせば人しりぬべしなのらずばきのまろ殿をいかで過ぎまし
    なのりせはひとしりぬへしなのらすはきのまろとのをいかてすきまし
    赤染衛門十八雑四
    1084ひと巻にちぢの黄金をこめたれば人こそなけれ聲は残れり
    ひとまきにちちのこかねをこめたれはひとこそなけれこゑはのこれり
    恵慶法師十八雑四
    1085いにしへのちぢの黄金はかぎりあるをあふばかりなき君が玉章
    いにしへのちちのこかねはかきりあるをあふはかりなききみかたまつさ
    紀時文十八雑四
    1086かへしけむ昔の人の玉章をききてぞそそぐ老の涙は
    かへしけむむかしのひとのたまつさをききてそそそくおいのなみたは
    清原元輔十八雑四
    1087花のしべ紅葉の下葉かきつめて木のもとよりやちらむとすらむ
    はなのしへもみちのしたはかきつめてこのもとよりやちらむとすらむ
    祭主輔親十八雑四
    1088尋ねずばかきやる方やなからまし昔のながれみくさつもりて
    たつねすはかきやるかたやなからましむかしのなかれみくさつもりて
    康資王母十八雑四
    1089いにしへの家の風こそうれしけれかかる言の葉ちりくと思へば
    いにしへのいへのかせこそうれしけれかかることのはちりくとおもへは
    後三條院越前十八雑四
    1090秋風にあふ言の葉やちりぬらむその夜の月のもりにけるかな
    あきかせにあふことのはやちりにけむそのよのつきのもりにけるかな
    後三條院十八雑四
    1091まことにや姨捨山の月はみるよも更級と思ふわたりを
    まことにやをはすてやまのつきはみるよにさらしなとおもふわたりを
    赤染衛門十八雑四
    1092たえやせむいのちぞしらぬ水無瀬川よしながれても心みよ君
    たえやせむいのちそしらぬみなせかはよしなかれてもこころみよきみ
    読人知らず十八雑四
    1093いはぬまをつつみしほどにくちなしの色にやみえし山吹の花
    いはぬまはつつみしほとにくちなしのいろにやみえしやまふきのはな
    規子内親王十八雑四
    1094うれしさをけふは何にか包むらむ朽ち果てにきとみえし袂を
    うれしさをけふはなににかつつむらむくちはてにきとみえしたもとを
    藤原孝善十八雑四
    1095かたらへばなぐさむこともあるものを忘れやしなむ恋のまぎれに
    かたらへはなくさむこともあるものをわすれやしなむこひのまきれに
    和泉式部十八雑四
    1096忍び音をききこそわたれほととぎす通ふ垣根のかくれなければ
    しのひねをききこそわたれほとときすかよふかきねのかくれなけれは
    六院齋院宣旨十八雑四
    1097うかりけるみのふの浦のうつせ貝むなしき名のみたつはきききや
    うかりけるみのふのうらのうつせかひむなしきなのみたつはきききや
    馬内侍十八雑四
    1098おぼつかなつくまの神のためならばいくつかなべの數はいるべき
    おほつかなつくまのかみのためならはいくつかなへのかすはいるへき
    藤原顕綱十八雑四
    1099春ごとの子の日は多くすぎつれどかかる二葉の松はみざりき
    はることのねのひはおほくすきつれとかかるふたはのまつはみさりき
    出羽辨十九雑五
    1100しのびねの涙なかけそかくばかりせばしと思ふころの袂に
    しのひねのなみたなかけそかくはかりせはしとおもふころのたもとに
    大弐三位十九雑五
    1101春の日に帰らざりせばいにしへの袂ながらや朽ち果てなまし
    はるのひにかへらさりせはいにしへのたもとなからやくちはてなまし
    出羽辨十九雑五
    1102花盛り春の山辺のあけぼのに思ひわするなあきのゆふぐれ
    はなさかりはるのみやまのあけほのにおもひわするなあきのゆふくれ
    源為善十九雑五
    1103よろづよを君がまもりと祈りつつ太刀つくりえのしるしとをみよ
    よろつよをきみかまもりといのりつつたちつくりえのしるしとをみよ
    藤原道長十九雑五
    1104いにしへのちかきまもりをこふるまにこれはしのぶるしるしなりけり
    いにしへのちかきまもりをこふるまにこれはしのふるしるしなりけり
    御三条院十九雑五
    1105ちちにつけ思ひぞいづる昔をばのどけかれとも君ぞいはまし
    ちちにつけおもひそいつるむかしをはのとけかれともきみそいはまし
    藤原為光十九雑五
    1106高砂と高くないひそ昔きくをのへのしらべまづぞ恋しき
    たかさこのたかくないひそむかしきくをのへのしらへまつそこひしき
    源相方十九雑五
    1107ひかりいづる葵の影をみてしかば年へにけるもうれしかりけり
    ひかりいつるあふひのかけをみてしかはとしへにけるもうれしかりけり
    選子内親王十九雑五
    1108もろかづら二葉ながらも君にかく葵や神のしるしなるらむ
    もろかつらふたはなからもきみにかくあふひやかみのしるしなるらむ
    藤原道長十九雑五
    1109みゆきせし賀茂の川波かへるさにたちやよるとてまちあかしつる
    みゆきせしかものかはなみかへるさにたちやよるとそまちあかしつる
    選子内親王十九雑五
    1110みゆきとか世にはふらせて今はただこずゑの桜ちらすなりけり
    みゆきとかよにはふらせていまはたたこすゑのさくらちらすなりけり
    上東門院中将十九雑五
    1111ゆふしでや繁き木の間をもる月のおぼろげならでみえし影かは
    ゆふしてやしけきこのまをもるつきのおほろけならてみえしかけかは
    六條齋院宣旨十九雑五
    1112わかなつむ春日の原に雪ふれば心づかひをけふさへぞやる
    わかなつむかすかのはらにゆきふれはこころつかひをけふさへそやる
    藤原道長十九雑五
    1113身をつみておぼつかなきは雪やまぬ春日の野辺の若菜なりけり
    みをつみておほつかなきはゆきやまぬかすかののへのわかななりけり
    藤原公任十九雑五
    1114三笠山春日の原の朝霧にかへりたつらむ今朝をこそまて
    みかさやまかすかのはらのあさきりにかへりたつらむけさをこそまて
    藤原公任十九雑五
    1115年つもるかしらの雪は大空のひかりにあたるけふぞうれしき
    としつもるかしらのゆきはおほそらのひかりにあたるけふそうれしき
    伊勢大輔十九雑五
    1116年をへてすめる清水に影みればみづはくむまで老いぞしにける
    としをへてすめるしみつにかけみれはみつはくむまておいそしにける
    源重之十九雑五
    1117春来れどきえせぬものは年をへてかしらにつもる雪にぞありける
    はるくれときえせぬものはとしをへてかしらにつもるゆきにそありける
    花山院十九雑五
    1118よにとよむ豊の禊をよそにして小鹽の山のみゆきをや見し
    よにとよむとよのみそきをよそにしてをしほのやまのみゆきをやみし
    伊勢大輔十九雑五
    1119小鹽山こずゑもみえず降りつみしそやすべらぎのみゆきなるらむ
    をしほやまこすゑもみえすふりつみしそやすめらきのみゆきなるらむ
    少将井尼十九雑五
    1120早く見し山井の水のうす氷うちとけざまはかはらざりけり
    はやくみしやまゐのみつのうすこほりうちとけさまはかはらさりけり
    伊勢大輔十九雑五
    1121多かりし豊の宮人さしわけてしるき日影をあはれとぞみし
    おほかりしとよのみやひとさしわけてしるきひかけをあはれとそみし
    読人知らず十九雑五
    1122ひかげ草かがやく影やまがひけむますみの鏡くもらぬものを
    ひかけくさかかやくかけやまかひけむますみのかかみくもらぬものを
    藤原長能十九雑五
    1123神代よりすれる衣といひながら又かさねても珍しきかな
    かみよよりすれるころもといひなからまたかさねてもめつらしきかな
    選子内親王十九雑五
    1124あしひきの山井の水は氷れるをいかなる紐のとくるなるらむ
    あしひきのやまゐのみつはこほれるをいかなるひものとくるなるらむ
    藤原実方十九雑五
    1125まことにやあまた重ねしをみ衣豊のあかりのかくれなきよに
    まことにやあまたかさねしをみころもとよのあかりのかくれなきよに
    源頼家十九雑五
    1126思ひきやわがしめゆひし撫子を人のまがきの花とみむとは
    おもひきやわかしめゆひしなてしこをひとのまかきのはなとみむとは
    法眼源賢十九雑五
    1127信濃なるその原にこそあらねどもわが帚木と今はたのまむ
    しなのなるそのはらにこそあらねともわかははききといまはたのまむ
    平正家十九雑五
    1128都へといきの松原いきかへり君がちとせにあはむとすらむ
    みやこへといきのまつはらゆきかへりきみかちとせにあはむとすらむ
    源重之十九雑五
    1129そのかみの人は残らじ箱崎の松ばかりこそわれをしるらめ
    そのかみのひとはのこらしはこさきのまつはかりこそわれをしるらめ
    中将尼十九雑五
    1130こつかみの浦に年へてよる浪もおなじ所にかへるなりけり
    こつかみのうらにとしへてよるなみもおなしところにかへるなりけり
    藤原基房十九雑五
    1131老いの波よせじと人はいとふともまつらむものをわかの浦には
    おいのなみよせしとひとはいとふともまつらむものをわかのうらには
    連敏法師十九雑五
    1132うちむれし駒もおとせぬ秋の野は草かれゆけど見る人もなし
    うちむれしこまもおとせぬあきののはくさかれゆけとみるひともなし
    源兼長十九雑五
    1133にほひきや都の花は東路の東風のかへしの風につけしは
    にほひきやみやこのはなはあつまちのこちのかへしのかせにつけしは
    源兼俊母十九雑五
    1134吹き返す東風の返しは身にしみき都の花のしるべとおもふに
    ふきかへすこちのかへしはみにしみきみやこのはなのしるへとおもふに
    康資王母十九雑五
    1135とりわきて我が身に露や置きつらむ花よりさきにまづぞうつろふ
    とりわきてわかみにつゆやおきつらむはなよりさきにまつそうつろふ
    大貮高遠十九雑五
    1136やすらはで思ひたちにし東路にありけるものかはらからの関
    やすらはておもひたちにしあつまちにありけるものかははかりのせき
    藤原実方十九雑五
    1137みちのくの安達の真弓君にこそ思ひためたる事はかたらめ
    みちのくのあたちのまゆみきみにこそおもひためたることはかたらめ
    藤原実方十九雑五
    1138都にはたれをか君は思ひいづる都の人はきみをこふめり
    みやこにはたれをかきみはおもひいつるみやこのひとはきみをこふめり
    大江匡衡十九雑五
    1139忘られぬ人の中には忘れぬをまつらむ人のなかにまつやは
    わすられぬひとのなかにはわすれぬをまつらむひとのなかにまつやは
    藤原実方十九雑五
    1140ありてやはおとせざるべき津の国の今ぞ生田の杜といひしは
    ありてやはおとせさるへきつのくにのいまそいくたのもりといひしは
    赤染衛門十九雑五
    1141きのふまで神に心をかけしかどけふこそ法にあふひなりけれ
    きのふまてかみにこころをかけしかとけふこそのりにあふひなりけれ
    相模十九雑五
    1142帰るさをまち心みよかくながらよもただにては山しなの里
    かへるさをまちこころみよかくなからよもたたにてはやましなのさと
    和泉式部十九雑五
    1143ふかき海のちかひはしらず三笠山こころたかくもみえしきみかな
    ふかきうみのちかひはしらすみかさやまこころたかくもみえしきみかな
    藤原頼宗十九雑五
    1144こも枕かりの旅寝にあかさばや入江の蘆の一夜ばかりを
    こもまくらかりのたひねにあかさはやいりえのあしのひとよはかりを
    伊勢大輔十九雑五
    1145日も暮れぬ人も帰りぬ山里はみねの嵐のおとばかりして
    ひもくれぬひともかへりぬやまさとはみねのあらしのおとはかりして
    源頼實十九雑五
    1146みやこ人くるれば帰る今よりは伏見の里の名をもたのまじ
    みやこひとくるれはかへるいまよりはふしみのさとのなをもたのまし
    橘俊綱十九雑五
    1147杉もすぎ宿もむかしの宿ながらかはるは人の心なりけり
    すきもすきやともむかしのやとなからかはるはひとのこころなりけり
    読人知らず十九雑五
    1148思ひきやふるさと人に身をなして花のたよりに山を見むとは
    おもひきやふるさとひとにみをなしてはなのたよりにやまをみむとは
    蓮仲法師十九雑五
    1149たえにける僅かなるねを繰り返しかつらのをこそきかまほしけれ
    たえにけるはつかなるねをくりかへしかつらのをこそきかまほしけれ
    大中臣能宣十九雑五
    1150いつかまたこちくなるべき鶯のさへづりそめし夜半の笛竹
    いつかまたこちくなるへきうくひすのさへつりそめしよはのふえたけ
    相模十九雑五
    1151を鹿ふすしげみにはへる葛の葉のうらさびしげにみゆる山里
    をしかふすしけみにはへるくすのはのうらさひしけにみゆるやまさと
    大中臣能宣十九雑五
    1152つねならぬ山の桜にこころいりて池のはちすをいひなはなちそ
    つねならぬやまのさくらにこころいりていけのはちすをいひなはなちそ
    源重之十九雑五
    1153もちながらちよも巡らむさか月の清き光はさしもかけなむ
    もちなからちよもめくらむさかつきのきよきひかりはさしもかけなむ
    藤原為頼十九雑五
    1154七重八重花はさけども山吹のみの一つだになきぞかなしき
    ななへやへはなはさけともやまふきのみのひとつたになきそあやしき
    兼明親王十九雑五
    1155かづきするあまのあり家をそこなりと夢いふなとやめをくはせけむ
    かつきするあまのありかをそこなりとゆめいふなとやめをくはせけむ
    清少納言十九雑五
    1156たらちねははかなくてこそやみにしかこはいづことてたちとまるらむ
    たらちねははかなくてこそやみにしかこはいつことてたちとまるらむ
    源頼俊十九雑五
    1157思へどもいかにならひし道なればしらぬ境にまどふなるらむ
    おもへともいかにならひしみちなれはしらぬさかひにまとふなるらむ
    慶範法師十九雑五
    1158浅茅生にあれにけれどもふるさとの松はこだかくなりにけるかな
    あさちふにあれにけれともふるさとのまつはこたかくなりにけるかな
    帥前内大臣十九雑五
    1159いにしへのまゆとしめにもあらねども君はみま草とりてかふとか
    いにしへのまゆとしめにもあらねともきみはみまくさとりてかふとか
    天台座主教圓十九雑五
    1160盃にさやけき影のみえぬれば塵のおこりはあらじとをしれ
    さかつきにさやけきかけのみえぬれはちりのおそりはあらしとをしれ
    読人知らず二十雑六
    1161おほぢ父うまご輔親三代までにいただきまつるすめらおほむかみ
    おほちちちうまこすけちかみよまてにいたたきまつるすめらおほむかみ
    祭主輔親二十雑六
    1162ものおもへば澤の蛍をわが身よりあくがれいづる玉かとぞみる
    ものおもへはさはのほたるをわかみよりあくかれにけるたまかとそみる
    和泉式部二十雑六
    1163奥山にたきぎておつる瀧つ瀬に玉ちるばかりものな思ひそ
    おくやまにたきりておつるたきつせにたまちるはかりものなおもひそ
    御返し二十雑六
    1164白妙のとよみてぐらをとりもちていはひぞ初むる紫の野に
    しろたへのとよみてくらをとりもちていはひそそむるむらさきののに
    藤原長能二十雑六
    1165今よりはあらぶる心ましますな花の都にやしろさだめつ
    いまよりはあらふるこころましますなはなのみやこにやしろさためつ
    藤原長能二十雑六
    1166いなり山みづの玉垣うちたたきわかねぎ事を神もこたへよ
    いなりやまみつのたまかきうちたたきわかねきことをかみもこたへよ
    恵慶法師二十雑六
    1167住吉の松さへかはるものならばなにか昔のしるしならまし
    すみよしのまつさへかはるものならはなにかむかしのしるしならまし
    山口重如二十雑六
    1168ちはやふる松のをやまの影みればけふぞちとせのはじめなりける
    ちはやふるまつのをやまのかけみれはけふそちとせのはしめなりける
    源兼澄二十雑六
    1169あきらけき日吉の御神君がため山のかひあるよろづ代やへむ
    あきらけきひよしのみかみきみかためやまのかひあるよろつよやへむ
    大貮實政二十雑六
    1170ちはやふる神のそのなる姫小松よろづよふべきはじめなりけり
    ちはやふるかみのそのなるひめこまつよろつよふへきはしめなりけり
    藤原経衡二十雑六
    1171榊葉にふる白雪はきえぬめり神の心も今やとくらむ
    さかきはにふるしらゆきはきえぬめりかみのこころはいまやとくらむ
    藤原伊房二十雑六
    1172有度浜にあまの羽衣むかしきてふりけむ袖やけふのはふりこ
    うとはまにあまのはころもむかしきてふりけむそてやけふのはふりこ
    能因法師二十雑六
    1173天の下はぐくむ神のみぞなればゆたけにぞたつみづの広前
    あめのしたはくくむかみのみそなれはゆたけにそたつみつのひろまへ
    読人知らず二十雑六
    1174ここにしもわきて出でけむ岩清水神の心を汲みもしらばや
    ここにしもわきていてけむいはしみつかみのこころをくみてしらはや
    増基法師二十雑六
    1175住吉の松のしづえに神さびてみどりにみゆるあけの玉垣
    すみよしのまつのしつえにかみさひてみとりにみゆるあけのたまかき
    蓮仲法師二十雑六
    1176さもこそは宿はかはらめ住吉の松さへ椙になりにけるかな
    さもこそはやとはかはらめすみよしのまつさへすきになりにけるかな
    読人知らず二十雑六
    1177おもふことなるかはかみにあとたれてきふねは人を渡すなりけり
    おもふことなるかはかみにあとたれてきふねはひとをわたすなりけり
    藤原時房二十雑六
    1178けふ祭る三笠の山の神ませばあめのしたには君ぞさかえむ
    けふまつるみかさのやまのかみませはあめのしたにはきみそさかえむ
    藤原範永二十雑六
    1179いにしへの別れの庭にあへりともけふの涙ぞなみだならまし
    いにしへのわかれのにはにあへりともけふのなみたそなみたならまし
    光源法師二十雑六
    1180つねよりもけふの霞ぞあはれなる薪つきにし煙とおもへば
    つねよりもけふのかすみそあはれなるたききつきにしけふりとおもへは
    前律師慶暹二十雑六
    1181いかなれば今宵の月のさ夜中に照らしもはてで入りしなるらむ
    いかなれはこよひのつきのさよなかにてらしもはてていりしなるらむ
    慶範法師二十雑六
    1182世をてらす月かくれにしさ夜中は哀れやみにや皆まどひけむ
    よをてらすつきかくれにしさよなかはあはれやみにやみなまとひけむ
    伊勢大輔二十雑六
    1183山のはに入りにし夜半の月なれど名残りはまだにさやけかりけり
    やまのはにいりにしよはのつきなれとなこりはまたにさやけかりけり
    読人知らず二十雑六
    1184つもるらむ塵をもいかではらはまし法にあふぎの風のうれしさ
    つもるらむちりをもいかてはらはましのりにあふきのかせのうれしさ
    伊勢大輔二十雑六
    1185八重菊に蓮の露をおきそへて九しなまでうつろはしつる
    やへきくにはちすのつゆをおきそへてここのしなまてうつろはしつる
    弁乳母二十雑六
    1186さきがたき御法の花におく露ややがて衣の玉となるらむ
    さきかたきみのりのはなにおくつゆややかてころものたまとなるらむ
    康資王母二十雑六
    1187もろともに三つの車にのりしかどわれは一味の雨にぬれにき
    もろともにみつのくるまにのりしかとわれはいちみのあめにぬれにき
    読人知らず二十雑六
    1188月のわに心をかけしゆふべよりよろづのことを夢とみるかな
    つきのわにこころをかけしゆふへよりよろつのことをゆめとみるかな
    僧都覚超二十雑六
    1189風ふけばまづ破れぬる草の葉によそふるからに袖ぞ露けき
    かせふけはまつやふれぬるくさのはによそふるからにそてそつゆけき
    藤原公任二十雑六
    1190つねならぬ我が身は水の月なれば世にすみとけむ事もおぼえず
    つねならぬわかみはみつのつきなれはよにすみとけむこともおもはす
    小弁二十雑六
    1191ちる花を惜しまばとまれ世の中は心のほかのものとやはきく
    ちるはなををしまはとまれよのなかはこころのほかのものとやはきく
    伊勢大輔二十雑六
    1192こしらへてかりのやどりにやすめずばまことの道をいかでしらまし
    こしらへてかりのやとりにやすめすはまことのみちをいかてしらまし
    赤染衛門二十雑六
    1193道とほみ中空にてやかへらまし思へばかりの宿ぞうれしき
    みちとほみなかそらにてやかへらましおもへはかりのやとそうれしき
    康資王母二十雑六
    1194衣なる玉ともかけてしらざりきゑひさめてこそ嬉しかりけれ
    ころもなるたまともかけてしらさりきゑひさめてこそうれしかりけれ
    赤染衛門二十雑六
    1195鷲の山へだつる雲やふかからむ常にすむなる月を見ぬかな
    わしのやまへたつるくもやふかからむつねにすむなるつきをみぬかな
    康資王母二十雑六
    1196世を救ふうちにはたれかいらざらむ普き門は人しささねば
    よをすくふうちにはたれかいらさらむあまねきかとはひとしささねは
    藤原公任二十雑六
    1197津の国の難波のことか法ならぬ遊びたはぶれまてとこそきけ
    つのくにのなにはのことかのりならぬあそひたはふれまてとこそきけ
    遊女宮木二十雑六
    1198笛のねの春おもしろく聞ゆるは花ちりたりと吹けばなりけり
    ふえのねのはるおもしろくきこゆるははなちりたりとふけはなりけり
    読人知らず二十雑六
    1199武隈の松はふた木をみ木といふはよくよめるにはあらぬなるべし
    たけくまのまつはふたきをみきといふはよくよめるにはあらぬなるへし
    僧正深覚二十雑六
    1200さかざらば桜を人の折らましや桜のあだは桜なりけり
    さかさらはさくらをひとのをらましやさくらのあたはさくらなりけり
    源道済二十雑六
    1201まだちらぬ花もやあると尋ねみむあなかま暫し風にしらすな
    またちらぬはなもやあるとたつねみむあなかましはしかせにしらすな
    藤原実方二十雑六
    1202桃の花宿にたてれはあるじさへすけるものとや人のみるらむ
    もものはなやとにたてれはあるしさへすけるものとやひとのみるらむ
    大江嘉言二十雑六
    1203みかの夜のもちひはくはじわづらはしきけば淀野にははこつむなり
    みかのよのもちひはくはしわつらはしきけはよとのにははこつむなり
    藤原実方二十雑六
    1204思ふ事みなつきねとて麻のはをきりにきりても祓へつるかな
    おもふことみなつきねとてあさのはをきりにきりてもはらへつるかな
    和泉式部二十雑六
    1205君がかす夜の衣をたなばたは返しやしつるひるくさしとて
    きみかかすよるのころもをたなはたはかへしやしつるひるくさしとて
    皇太后宮陸奥二十雑六
    1206もみぢばは錦とみゆとききしかどめもあやにこそけふはなりぬれ
    もみちははにしきとみゆとききしかとめもあやにこそけふはちりぬれ
    藤原頼宗二十雑六
    1207おちつもる庭をだにとてみるものをうたて嵐のはきにはくかな
    おちつもるにはをたにとてみるものをうたてあらしのはきにはくかな
    増基法師二十雑六
    1208こころざし大原山の炭ならば思ひをそへておこすばかりぞ
    こころさしおほはらやまのすみならはおもひをそへておこすはかりそ
    読人知らず二十雑六
    1209雲井にていかであふぎと思ひしにてかくばかりもなりにけるかな
    くもゐにていかてあふきとおもひしにてかくはかりもなりにけるかな
    天台座主源心二十雑六
    1210はかなくも忘られにける扇かなおちたりけりと人もこそみれ
    はかなくもわすられにけるあふきかなおちたりけりとひともこそみれ
    和泉式部二十雑六
    1211さなくてもねられぬものをいとどしくつき驚かす鐘の音かな
    さならてもねられぬものをいととしくつきおとろかすかねのおとかな
    和泉式部二十雑六
    1212忘れてもあるべきものをこの頃の月夜よいたく人なすかせそ
    わすれてもあるへきものをこのころのつきよよいたくひとなすかせそ
    藤原義孝二十雑六
    1213道芝やおどろの髪にならされて移れる香こそ草枕なれ
    みちしはやおとろのかみにならされてうつれるかこそくさまくらなれ
    小大君二十雑六
    1214まけかたのはづかしげなる朝顔を鏡草にもみせてけるかな
    まけかたのはつかしけなるあさかほをかかみくさにもみせてけるかな
    読人知らず二十雑六
    1215思ひいづることもあらじとみえつれどやといふにこそ驚かれぬれ
    おもひいつることもあらしとみえつれとやといふにこそおとろかれぬれ
    藤原道綱母二十雑六
    1216白浪のたちながらだに長門なる豊浦の里のとよられよかし
    しらなみのたちなからたになかとなるとよらのさとのとよられよかし
    能因法師二十雑六
    1217はかなくも思ひけるかな乳もなくて博士の家の乳母せむとは
    はかなくもおもひけるかなちもなくてはかせのいへのめのとせむとは
    大江匡衡二十雑六
    1218さもあらばあれ大和心しかしこくば細ちにつけてあらすばかりぞ
    さもあらはあれやまとこころしかしこくはほそちにつけてあらすはかりそ
    赤染衛門二十雑六

    ※読人(作者)についてはできる限り正確に整えておりますが、誤りもある可能性があります。ご了承ください。官位ではなく本名で掲載しています。

    ※作者検索をしたいときは、藤原、源といったいわゆる氏を除いた名のみで検索することをおすすめいたします。

    ※濁点につきましては原文通り加えておりません。時間的余裕があれば書き加えてまいります。

    ※検索機能のために歌の句切れについては間隔を開けずに掲載しております。一部の歌で一つの言葉を2つの句に渡ってよまれることがあるためです。