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古今和歌集のデータベース
古今和歌集とは
やまと歌は、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける 世の中にある人、ことわざ繁きものなれば、心に思ふ事を、見るもの聞くものにつけて、言ひ出せるなり 花に鳴くうぐひす、水に住む蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける 力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女のなかをもやはらげ、猛き武士の心をも慰むるは、歌なり。
古今和歌集仮名序
- 古今和歌集は醍醐天皇の勅命により、905年に騒擾された我が国初の勅撰和歌集。
- 撰者は、紀友則、紀貫之、凡河内躬恒、壬生忠岑の4人であり、中でも紀貫之が最も大きな役割りを果たした。
- 905年に完成。
- 撰者の紀貫之がそうであったこともあって、全体として優美、理知的な作品が多いことが古今の特徴である。
- 国宝指定の写本の情報はこちら
古今和歌集の構成
春上 | 春下 | 夏 | 秋上 | 秋下 | 冬 | 賀 | 離別 | 羈旅 | 物名 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
数 | 68 | 67 | 33 | 80 | 65 | 29 | 22 | 41 | 16 | 47 |
% | 6.1 | 6 | 3 | 7.2 | 5.9 | 2.6 | 2 | 3.7 | 1.4 | 4.2 |
恋一 | 恋二 | 恋三 | 恋四 | 恋五 | 哀傷 | 雑上 | 雑下 | 雑体 | 大歌所 | |
数 | 83 | 64 | 61 | 70 | 82 | 34 | 70 | 68 | 68 |
32 |
% | 7.5 | 5.8 | 5.5 | 6.3 | 7.4 | 3 | 6.3 | 6.1 | 6.1 | 2.9 |
- 巻二十から成り、全1111首(うち、巻一から二十までで1100)
古今和歌集 言の葉データベース
「かな」は原文と同様に濁点を付けておりませんので、例えば「ほととぎす」を検索したいときは、「ほとときす」と入力してください。
順 | 歌 | よみ人 | 巻 | 種 |
---|---|---|---|---|
1 | 年の内に 春はきにけり ひととせを 去年とや言はむ 今年とや言はむ としのうちに はるはきにけり ひととせを こそとやいはむ ことしとやいはむ | 在原元方 | 一 | 春歌上 |
2 | 袖ひちて むすびし水の こほれるを 春立つ今日の 風やとくらむ そてひちて むすひしみつの こほれるを はるたつけふの かせやとくらむ | 紀貫之 | 一 | 春歌上 |
3 | 春霞 立てるやいづこ み吉野の 吉野の山に 雪は降りつつ はるかすみ たてるやいつこ みよしのの よしののやまに ゆきはふりつつ | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
4 | 雪の内に 春はきにけり うぐひすの こほれる涙 今やとくらむ ゆきのうちに はるはきにけり うくひすの こほれるなみた いまやとくらむ | 二条后 | 一 | 春歌上 |
5 | 梅が枝に きゐるうぐひす 春かけて 鳴けども今だ 雪は降りつつ うめかえに きゐるうくひす はるかけて なけともいまた ゆきはふりつつ | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
6 | 春たてば 花とや見らむ 白雪の かかれる枝に うぐひすの鳴く はるたては はなとやみらむ しらゆきの かかれるえたに うくひすそなく | 素性法師 | 一 | 春歌上 |
7 | 心ざし 深く染めてし 折りければ 消えあへぬ雪の 花と見ゆらむ こころさし ふかくそめてし をりけれは きえあへぬゆきの はなとみゆらむ | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
8 | 春の日の 光に当たる 我なれど かしらの雪と なるぞわびしき はるのひの ひかりにあたる われなれと かしらのゆきと なるそわひしき | 文屋康秀 | 一 | 春歌上 |
9 | 霞立ち 木の芽もはるの 雪降れば 花なき里も 花ぞ散りける かすみたち このめもはるの ゆきふれは はななきさとも はなそちりける | 紀貫之 | 一 | 春歌上 |
10 | 春やとき 花やおそきと 聞きわかむ うぐひすだにも 鳴かずもあるかな はるやとき はなやおそきと ききわかむ うくひすたにも なかすもあるかな | 藤原言直 | 一 | 春歌上 |
11 | 春きぬと 人は言へども うぐひすの 鳴かぬかぎりは あらじとぞ思ふ はるきぬと ひとはいへとも うくひすの なかぬかきりは あらしとそおもふ | 壬生忠岑 | 一 | 春歌上 |
12 | 谷風に とくる氷の ひまごとに うち出づる浪や 春の初花 たにかせに とくるこほりの ひまことに うちいつるなみや はるのはつはな | 源当純 | 一 | 春歌上 |
13 | 花の香を 風のたよりに たぐへてぞ うぐひすさそふ しるべにはやる はなのかを かせのたよりに たくへてそ うくひすさそふ しるへにはやる | 紀友則 | 一 | 春歌上 |
14 | うぐひすの 谷よりいづる 声なくは 春くることを 誰か知らまし うくひすの たによりいつる こゑなくは はるくることを たれかしらまし | 大江千里 | 一 | 春歌上 |
15 | 春たてど 花も匂はぬ 山里は ものうかるねに うぐひすぞ鳴く はるたてと はなもにほはぬ やまさとは ものうかるねに うくひすそなく | 在原棟梁 | 一 | 春歌上 |
16 | 野辺近く いへゐしせれば うぐひすの 鳴くなる声は 朝な朝な聞く のへちかく いへゐしせれは うくひすの なくなるこゑは あさなあさなきく | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
17 | 春日野は 今日はな焼きそ 若草の つまもこもれり 我もこもれり かすかのは けふはなやきそ わかくさの つまもこもれり われもこもれり | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
18 | 春日野の とぶひの野守 いでて見よ 今いくかありて 若菜つみてむ かすかのの とふひののもり いててみよ いまいくかありて わかなつみてむ | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
19 | み山には 松の雪だに 消えなくに みやこは野辺の 若菜つみけり みやまには まつのゆきたに きえなくに みやこはのへの わかなつみけり | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
20 | 梓弓 押してはるさめ 今日降りぬ 明日さへ降らば 若菜つみてむ あつさゆみ おしてはるさめ けふふりぬ あすさへふらは わかなつみてむ | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
21 | 君がため 春の野にいでて 若菜つむ 我が衣手に 雪は降りつつ きみかため はるののにいてて わかなつむ わかころもてに ゆきはふりつつ #百人一首 | 仁和帝(光孝天皇) | 一 | 春歌上 |
22 | 春日野の 若菜つみにや 白妙の 袖ふりはへて 人のゆくらむ かすかのの わかなつみにや しろたへの そてふりはへて ひとのゆくらむ | 紀貫之 | 一 | 春歌上 |
23 | 春の着る 霞の衣 ぬきを薄み 山風にこそ 乱るべらなれ はるのきる かすみのころも ぬきをうすみ やまかせにこそ みたるへらなれ | 在原行平 | 一 | 春歌上 |
24 | ときはなる 松の緑も 春くれば 今ひとしほの 色まさりけり ときはなる まつのみとりも はるくれは いまひとしほの いろまさりけり | 源宗于 | 一 | 春歌上 |
25 | 我が背子が 衣はるさめ ふるごとに 野辺の緑ぞ 色まさりける わかせこか ころもはるさめ ふることに のへのみとりそ いろまさりける | 紀貫之 | 一 | 春歌上 |
26 | 青柳の 糸よりかくる 春しもぞ 乱れて花の ほころびにける あをやきの いとよりかくる はるしもそ みたれてはなの ほころひにける | 紀貫之 | 一 | 春歌上 |
27 | 浅緑 糸よりかけて 白露を 珠にもぬける 春の柳か あさみとり いとよりかけて しらつゆを たまにもぬける はるのやなきか | 僧正遍照 | 一 | 春歌上 |
28 | ももちどり さへづる春は ものごとに あらたまれども 我ぞふりゆく ももちとり さへつるはるは ものことに あらたまれとも われそふりゆく | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
29 | をちこちの たづきも知らぬ 山なかに おぼつかなくも 呼子鳥かな をちこちの たつきもしらぬ やまなかに おほつかなくも よふことりかな | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
30 | 春くれば 雁かへるなり 白雲の 道ゆきぶりに ことやつてまし はるくれは かりかへるなり しらくもの みちゆきふりに ことやつてまし | 凡河内躬恒 | 一 | 春歌上 |
31 | 春霞 立つを見捨てて ゆく雁は 花なき里に 住みやならへる はるかすみ たつをみすてて ゆくかりは はななきさとに すみやならへる | 伊勢 | 一 | 春歌上 |
32 | 折りつれば 袖こそ匂へ 梅の花 ありとやここに うぐひすの鳴く をりつれは そてこそにほへ うめのはな ありとやここに うくひすのなく | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
33 | 色よりも 香こそあはれと 思ほゆれ たが袖ふれし 宿の梅ぞも いろよりも かこそあはれと おもほゆれ たかそてふれし やとのうめそも | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
34 | 宿近く 梅の花植ゑじ あぢきなく 待つ人の香に あやまたれけり やとちかく うめのはなうゑし あちきなく まつひとのかに あやまたれけり | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
35 | 梅の花 立ち寄るばかり ありしより 人のとがむる 香にぞしみぬる うめのはな たちよるはかり ありしより ひとのとかむる かにそしみぬる | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
36 | うぐひすの 笠にぬふてふ 梅の花 折りてかざさむ 老いかくるやと うくひすの かさにぬふといふ うめのはな をりてかささむ おいかくるやと | 東三条左大臣 | 一 | 春歌上 |
37 | よそにのみ あはれとぞ見し 梅の花 あかぬ色かは 折りてなりけり よそにのみ あはれとそみし うめのはな あかぬいろかは をりてなりけり | 素性法師 | 一 | 春歌上 |
38 | 君ならで 誰にか見せむ 梅の花 色をも香かをも 知る人ぞ知る きみならて たれにかみせむ うめのはな いろをもかをも しるひとそしる | 紀友則 | 一 | 春歌上 |
39 | 梅の花 匂ふ春べは くらぶ山 闇に越ゆれど しるくぞありける うめのはな にほふはるへは くらふやま やみにこゆれと しるくそありける | 紀貫之 | 一 | 春歌上 |
40 | 月夜には それとも見えず 梅の花 香をたづねてぞ 知るべかりける つきよには それともみえす うめのはな かをたつねてそ しるへかりける | 凡河内躬恒 | 一 | 春歌上 |
41 | 春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそ見えね 香やは隠るる はるのよの やみはあやなし うめのはな いろこそみえね かやはかくるる | 凡河内躬恒 | 一 | 春歌上 |
42 | 人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香に匂ひける ひとはいさ こころもしらす ふるさとは はなそむかしの かににほひける #百人一首 | 紀貫之 | 一 | 春歌上 |
43 | 春ごとに 流るる川を 花と見て 折られぬ水に 袖や濡れなむ はることに なかるるかはを はなとみて をられぬみつに そてやぬれなむ | 伊勢 | 一 | 春歌上 |
44 | 年をへて 花の鏡と なる水は 散りかかるをや 曇ると言ふらむ としをへて はなのかかみと なるみつは ちりかかるをや くもるといふらむ | 伊勢 | 一 | 春歌上 |
45 | くるとあくと 目かれぬものを 梅の花 いつの人まに うつろひぬらむ くるとあくと めかれぬものを うめのはな いつのひとまに うつろひぬらむ | 紀貫之 | 一 | 春歌上 |
46 | 梅が香を 袖にうつして とどめては 春はすぐとも 形見ならまし うめかかを そてにうつして ととめては はるはすくとも かたみならまし | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
47 | 散ると見て あるべきものを 梅の花 うたて匂ひの 袖にとまれる ちるとみて あるへきものを うめのはな うたてにほひの そてにとまれる | 素性法師 | 一 | 春歌上 |
48 | 散りぬとも 香をだに残せ 梅の花 恋しき時の 思ひ出にせむ ちりぬとも かをたにのこせ うめのはな こひしきときの おもひいてにせむ | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
49 | 今年より 春知りそむる 桜花 散ると言ふことは ならはざらなむ ことしより はるしりそむる さくらはな ちるといふことは ならはさらなむ | 紀貫之 | 一 | 春歌上 |
50 | 山高み 人もすさめぬ 桜花 いたくなわびそ 我見はやさむ やまたかみ ひともすさへぬ さくらはな いたくなわひそ われみはやさむ | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
51 | 山桜 我が見にくれば 春霞 峰にもをにも 立ち隠しつつ やまさくら わかみにくれは はるかすみ みねにもをにも たちかくしつつ | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
52 | 年ふれば よはひは老いぬ しかはあれど 花をし見れば 物思ひもなし としふれは よはひはおいぬ しかはあれと はなをしみれは ものおもひもなし | 前太政大臣 | 一 | 春歌上 |
53 | 世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし よのなかに たえてさくらの なかりせは はるのこころは のとけからまし | 在原業平 | 一 | 春歌上 |
54 | 石ばしる 滝なくもがな 桜花 手折りてもこむ 見ぬ人のため いしはしる たきなくもかな さくらはな たをりてもこむ みぬひとのため | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
55 | 見てのみや 人にかたらむ 桜花 手ごとに折りて いへづとにせむ みてのみや ひとにかたらむ さくらはな てことにをりて いへつとにせむ | 素性法師 | 一 | 春歌上 |
56 | 見渡せば 柳桜を こきまぜて みやこぞ春の 錦なりける みわたせは やなきさくらを こきませて みやこそはるの にしきなりける | 素性法師 | 一 | 春歌上 |
57 | 色も香も 同じ昔に さくらめど 年ふる人ぞ あらたまりける いろもかも おなしむかしに さくらめと としふるひとそ あらたまりける | 紀友則 | 一 | 春歌上 |
58 | 誰しかも とめて折りつる 春霞 立ち隠すらむ 山の桜を たれしかも とめてをりつる はるかすみ たちかくすらむ やまのさくらを | 紀貫之 | 一 | 春歌上 |
59 | 桜花 さきにけらしな あしひきの 山のかひより 見ゆる白雲 さくらはな さきにけらしな あしひきの やまのかひより みゆるしらくも | 紀貫之 | 一 | 春歌上 |
60 | み吉野の 山辺にさける 桜花 雪かとのみぞ あやまたれける みよしのの やまへにさける さくらはな ゆきかとのみそ あやまたれける | 紀友則 | 一 | 春歌上 |
61 | 桜花 春くははれる 年だにも 人の心に あかれやはせぬ さくらはな はるくははれる としたにも ひとのこころに あかれやはせぬ | 伊勢 | 一 | 春歌上 |
62 | あだなりと 名にこそたてれ 桜花 年にまれなる 人も待ちけり あたなりと なにこそたてれ さくらはな としにまれなる ひともまちけり | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
63 | 今日こずは 明日は雪とぞ 降りなまし 消えずはありとも 花と見ましや けふこすは あすはゆきとそ ふりなまし きえすはありとも はなとみましや | 在原業平 | 一 | 春歌上 |
64 | 散りぬれば 恋ふれどしるし なきものを 今日こそ桜 折らば折りてめ ちりぬれは こふれとしるし なきものを けふこそさくら をらはをりてめ | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
65 | 折りとらば 惜しげにもあるか 桜花 いざ宿かりて 散るまでは見む をりとらは をしけにもあるか さくらはな いさやとかりて ちるまてはみむ | 読人知らず | 一 | 春歌上 |
66 | 桜色に 衣は深く 染めて着む 花の散りなむ のちの形見に さくらいろに ころもはふかく そめてきむ はなのちりなむ のちのかたみに | 紀有朋 | 一 | 春歌上 |
67 | 我が宿の 花見がてらに くる人は 散りなむのちぞ 恋しかるべき わかやとの はなみかてらに くるひとは ちりなむのちそ こひしかるへき | 凡河内躬恒 | 一 | 春歌上 |
68 | 見る人も なき山里の 桜花 ほかの散りなむ のちぞ咲かまし みるひとも なきやまさとの さくらはな ほかのちりなむ のちそさかまし | 伊勢 | 一 | 春歌上 |
69 | 春霞 たなびく山の 桜花 うつろはむとや 色かはりゆく はるかすみ たなひくやまの さくらはな うつろはむとや いろかはりゆく | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
70 | 待てと言ふに 散らでしとまる ものならば 何を桜に 思ひまさまし まてといふに ちらてしとまる ものならは なにをさくらに おもひまさまし | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
71 | 残りなく 散るぞめでたき 桜花 ありて世の中 はての憂ければ のこりなく ちるそめてたき さくらはな ありてよのなか はてのうけれは | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
72 | この里に 旅寝しぬべし 桜花 散りのまがひに 家路忘れて このさとに たひねしぬへし さくらはな ちりのまかひに いへちわすれて | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
73 | 空蝉の 世にも似たるか 花桜 咲くと見しまに かつ散りにけり うつせみの よにもにたるか はなさくら さくとみしまに かつちりにけり | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
74 | 桜花 散らば散らなむ 散らずとて ふるさと人の きても見なくに さくらはな ちらはちらなむ ちらすとて ふるさとひとの きてもみなくに | 惟喬親王 | 二 | 春歌下 |
75 | 桜散る 花のところは 春ながら 雪ぞ降りつつ 消えがてにする さくらちる はなのところは はるなから ゆきそふりつつ きえかてにする | 承均法師 | 二 | 春歌下 |
76 | 花散らす 風の宿りは 誰か知る 我に教へよ 行きてうらみむ はなちらす かせのやとりは たれかしる われにをしへよ ゆきてうらみむ | 素性法師 | 二 | 春歌下 |
77 | いざ桜 我も散りなむ ひとさかり ありなば人に うきめ見えなむ いささくら われもちりなむ ひとさかり ありなはひとに うきめみえなむ | 承均法師 | 二 | 春歌下 |
78 | ひと目見し 君もや来ると 桜花 今日は待ちみて 散らば散らなむ ひとめみし きみもやくると さくらはな けふはまちみて ちらはちらなむ | 紀貫之 | 二 | 春歌下 |
79 | 春霞 何隠すらむ 桜花 散る間をだにも 見るべきものを はるかすみ なにかくすらむ さくらはな ちるまをたにも みるへきものを | 紀貫之 | 二 | 春歌下 |
80 | たれこめて 春のゆくへも 知らぬ間に 待ちし桜も うつろひにけり たれこめて はるのゆくへも しらぬまに まちしさくらも うつろひにけり | 藤原因香 | 二 | 春歌下 |
81 | 枝よりも あだに散りにし 花なれば 落ちても水の 泡とこそなれ えたよりも あたにちりにし はななれは おちてもみつの あわとこそなれ | 菅野高世 | 二 | 春歌下 |
82 | ことならば 咲かずやはあらぬ 桜花 見る我さへに しづ心なし ことならは さかすやはあらぬ さくらはな みるわれさへに しつこころなし | 紀貫之 | 二 | 春歌下 |
83 | 桜花 とく散りぬとも 思ほえず 人の心ぞ 風も吹きあへぬ さくらはな とくちりぬとも おもほえす ひとのこころそ かせもふきあへぬ | 紀貫之 | 二 | 春歌下 |
84 | 久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ ひさかたの ひかりのとけき はるのひに しつこころなく はなのちるらむ #百人一首 | 紀友則 | 二 | 春歌下 |
85 | 春風は 花のあたりを よぎて吹け 心づからや うつろふと見む はるかせは はなのあたりを よきてふけ こころつからや うつろふとみむ | 藤原好風 | 二 | 春歌下 |
86 | 雪とのみ 降るだにあるを 桜花 いかに散れとか 風の吹くらむ ゆきとのみ ふるたにあるを さくらはな いかにちれとか かせのふくらむ | 凡河内躬恒 | 二 | 春歌下 |
87 | 山高み 見つつ我がこし 桜花 風は心に まかすべらなり やまたかみ みつつわかこし さくらはな かせはこころに まかすへらなり | 紀貫之 | 二 | 春歌下 |
88 | 春雨の 降るは涙か 桜花 散るを惜しまぬ 人しなければ はるさめの ふるはなみたか さくらはな ちるををしまぬ ひとしなけれは | 大友黒主 | 二 | 春歌下 |
89 | 桜花 散りぬる風の なごりには 水なき空に 浪ぞたちける さくらはな ちりぬるかせの なこりには みつなきそらに なみそたちける | 紀貫之 | 二 | 春歌下 |
90 | ふるさとと なりにし奈良の みやこにも 色はかはらず 花は咲きけり ふるさとと なりにしならの みやこにも いろはかはらす はなはさきけり | 奈良帝 | 二 | 春歌下 |
91 | 花の色は 霞にこめて 見せずとも 香をだにぬすめ 春の山風 はなのいろは かすみにこめて みせすとも かをたにぬすめ はるのやまかせ | 良岑宗貞 | 二 | 春歌下 |
92 | 花の木も 今はほり植ゑじ 春たてば うつろふ色に 人ならひけり はなのきも いまはほりうゑし はるたては うつろふいろに ひとならひけり | 素性法師 | 二 | 春歌下 |
93 | 春の色の いたりいたらぬ 里はあらじ 咲ける咲かざる 花の見ゆらむ はるのいろの いたりいたらぬ さとはあらし さけるさかさる はなのみゆらむ | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
94 | 三輪山を しかも隠すか 春霞 人に知られぬ 花や咲くらむ みわやまを しかもかくすか はるかすみ ひとにしられぬ はなやさくらむ | 紀貫之 | 二 | 春歌下 |
95 | いざ今日は 春の山辺に まじりなむ 暮れなばなげの 花のかげかは いさけふは はるのやまへに ましりなむ くれなはなけの はなのかけかは | 素性法師 | 二 | 春歌下 |
96 | いつまでか 野辺に心の あくがれむ 花し散らずは 千代もへぬべし いつまてか のへにこころの あくかれむ はなしちらすは ちよもへぬへし | 素性法師 | 二 | 春歌下 |
97 | 春ごとに 花のさかりは ありなめど あひ見むことは 命なりけり はることに はなのさかりは ありなめと あひみむことは いのちなりけり | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
98 | 花のごと 世のつねならば すぐしてし 昔はまたも かへりきなまし はなのこと よのつねならは すくしてし むかしはまたも かへりきなまし | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
99 | 吹く風に あつらへつくる ものならば このひともとは よぎよと言はまし ふくかせに あつらへつくる ものならは このひともとは よきよといはまし | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
100 | 待つ人も 来ぬものゆゑに うぐひすの 鳴きつる花を 折りてけるかな まつひとも こぬものゆゑに うくひすの なきつるはなを をりてけるかな | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
101 | 咲く花は ちぐさながらに あだなれど 誰かは春を うらみはてたる さくはなは ちくさなからに あたなれと たれかははるを うらみはてたる | 藤原興風 | 二 | 春歌下 |
102 | 春霞 色のちぐさに 見えつるは たなびく山の 花のかげかも はるかすみ いろのちくさに みえつるは たなひくやまの はなのかけかも | 藤原興風 | 二 | 春歌下 |
103 | 霞立つ 春の山辺は 遠けれど 吹きくる風は 花の香ぞする かすみたつ はるのやまへは とほけれと ふきくるかせは はなのかそする | 在原元方 | 二 | 春歌下 |
104 | 花見れば 心さへにぞ うつりける 色にはいでじ 人もこそ知れ はなみれは こころさへにそ うつりける いろにはいてし ひともこそしれ | 凡河内躬恒 | 二 | 春歌下 |
105 | うぐひすの 鳴く野辺ごとに 来て見れば うつろふ花に 風ぞ吹きける うくひすの なくのへことに きてみれは うつろふはなに かせそふきける | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
106 | 吹く風を 鳴きてうらみよ うぐひすは 我やは花に 手だにふれたる ふくかせを なきてうらみよ うくひすは われやははなに てたにふれたる | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
107 | 散る花の なくにしとまる ものならば 我うぐひすに おとらましやは ちるはなの なくにしとまる ものならは われうくひすに おとらましやは | 春澄洽子 | 二 | 春歌下 |
108 | 花の散る ことやわびしき 春霞 たつたの山の うぐひすの声 はなのちる ことやわひしき はるかすみ たつたのやまの うくひすのこゑ | 藤原後蔭 | 二 | 春歌下 |
109 | こづたへば おのが羽かぜに 散る花を 誰におほせて ここら鳴くらむ こつたへは おのかはかせに ちるはなを たれにおほせて ここらなくらむ | 素性法師 | 二 | 春歌下 |
110 | しるしなき 音をも鳴くかな うぐひすの 今年のみ散る 花ならなくに しるしなき ねをもなくかな うくひすの ことしのみちる はなならなくに | 凡河内躬恒 | 二 | 春歌下 |
111 | 駒なめて いざ見にゆかむ ふるさとは 雪とのみこそ 花は散るらめ こまなへて いさみにゆかむ ふるさとは ゆきとのみこそ はなはちるらめ | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
112 | 散る花を 何かうらみむ 世の中に 我が身も共に あらむものかは ちるはなを なにかうらみむ よのなかに わかみもともに あらむものかは | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
113 | 花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに はなのいろは うつりにけりな いたつらに わかみよにふる なかめせしまに #百人一首 | 小野小町 | 二 | 春歌下 |
114 | 惜しと思ふ 心は糸に よられなむ 散る花ごとに ぬきてとどめむ をしとおもふ こころはいとに よられなむ ちるはなことに ぬきてととめむ | 素性法師 | 二 | 春歌下 |
115 | 梓弓 はるの山辺を 越えくれば 道もさりあへず 花ぞ散りける あつさゆみ はるのやまへを こえくれは みちもさりあへす はなそちりける | 紀貫之 | 二 | 春歌下 |
116 | 春の野に 若菜つまむと こしものを 散りかふ花に 道は惑ひぬ はるののに わかなつまむと こしものを ちりかふはなに みちはまとひぬ | 紀貫之 | 二 | 春歌下 |
117 | 宿りして 春の山辺に 寝たる夜は 夢の内にも 花ぞ散りける やとりして はるのやまへに ねたるよは ゆめのうちにも はなそちりける | 紀貫之 | 二 | 春歌下 |
118 | 吹く風と 谷の水とし なかりせば み山隠れの 花を見ましや ふくかせと たにのみつとし なかりせは みやまかくれの はなをみましや | 紀貫之 | 二 | 春歌下 |
119 | よそに見て かへらむ人に 藤の花 はひまつはれよ 枝は折るとも よそにみて かへらむひとに ふちのはな はひまつはれよ えたはをるとも | 僧正遍照 | 二 | 春歌下 |
120 | 我が宿に 咲ける藤波 立ち返り すぎがてにのみ 人の見るらむ わかやとに さけるふちなみ たちかへり すきかてにのみ ひとのみるらむ | 凡河内躬恒 | 二 | 春歌下 |
121 | 今もかも 咲き匂ふらむ 橘の こじまのさきの 山吹の花 いまもかも さきにほふらむ たちはなの こしまのさきの やまふきのはな | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
122 | 春雨に 匂へる色も あかなくに 香さへなつかし 山吹の花 はるさめに にほへるいろも あかなくに かさへなつかし やまふきのはな | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
123 | 山吹は あやなな咲きそ 花見むと 植ゑけむ君が 今宵来なくに やまふきは あやななさきそ はなみむと うゑけむきみか こよひこなくに | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
124 | 吉野川 岸の山吹 吹く風に 底の影さへ うつろひにけり よしのかは きしのやまふき ふくかせに そこのかけさへ うつろひにけり | 紀貫之 | 二 | 春歌下 |
125 | かはづなく ゐでの山吹 散りにけり 花のさかりに あはましものを かはつなく ゐてのやまふき ちりにけり はなのさかりに あはましものを | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
126 | おもふどち 春の山辺に うちむれて そことも言はぬ 旅寝してしか おもふとち はるのやまへに うちむれて そこともいはぬ たひねしてしか | 素性法師 | 二 | 春歌下 |
127 | 梓弓 春たちしより 年月の いるがごとくも 思ほゆるかな あつさゆみ はるたちしより としつきの いるかことくも おもほゆるかな | 凡河内躬恒 | 二 | 春歌下 |
128 | 鳴きとむる 花しなければ うぐひすも はてはものうく なりぬべらなり なきとむる はなしなけれは うくひすも はてはものうく なりぬへらなり | 紀貫之 | 二 | 春歌下 |
129 | 花散れる 水のまにまに とめくれば 山には春も なくなりにけり はなちれる みつのまにまに とめくれは やまにははるも なくなりにけり | 清原深養父 | 二 | 春歌下 |
130 | 惜しめども とどまらなくに 春霞 かへる道にし たちぬと思へば をしめとも ととまらなくに はるかすみ かへるみちにし たちぬとおもへは | 在原元方 | 二 | 春歌下 |
131 | 声絶えず 鳴けやうぐひす ひととせに ふたたびとだに 来べき春かは こゑたえす なけやうくひす ひととせに ふたたひとたに くへきはるかは | 藤原興風 | 二 | 春歌下 |
132 | とどむべき ものとはなしに はかなくも 散る花ごとに たぐふ心か ととむへき ものとはなしに はかなくも ちるはなことに たくふこころか | 凡河内躬恒 | 二 | 春歌下 |
133 | 濡れつつぞ しひて折りつる 年の内に 春はいくかも あらじと思へば ぬれつつそ しひてをりつる としのうちに はるはいくかも あらしとおもへは | 在原業平 | 二 | 春歌下 |
134 | 今日のみと 春を思はぬ 時だにも 立つことやすき 花のかげかは けふのみと はるをおもはぬ ときたにも たつことやすき はなのかけかは | 凡河内躬恒 | 二 | 春歌下 |
135 | 我が宿の 池の藤波 咲きにけり 山郭公 いつか来鳴かむ わかやとの いけのふちなみ さきにけり やまほとときす いつかきなかむ | 読人知らず | 二 | 春歌下 |
136 | あはれてふ ことをあまたに やらじとや 春におくれて ひとり咲くらむ あはれてふ ことをあまたに やらしとや はるにおくれて ひとりさくらむ | 紀利貞 | 三 | 夏歌 |
137 | 五月待つ 山郭公 うちはぶき 今も鳴かなむ 去年のふる声 さつきまつ やまほとときす うちはふき いまもなかなむ こそのふるこゑ | 読人知らず | 三 | 夏歌 |
138 | 五月こば 鳴きもふりなむ 郭公 まだしきほどの 声を聞かばや さつきこは なきもふりなむ ほとときす またしきほとの こゑをきかはや | 伊勢 | 三 | 夏歌 |
139 | 五月待つ 花橘の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする さつきまつ はなたちはなの かをかけは むかしのひとの そてのかそする | 読人知らず | 三 | 夏歌 |
140 | いつの間に 五月来ぬらむ あしひきの 山郭公 今ぞ鳴くなる いつのまに さつききぬらむ あしひきの やまほとときす いまそなくなる | 読人知らず | 三 | 夏歌 |
141 | 今朝き鳴き いまだ旅なる 郭公 花橘に 宿はからなむ けさきなき いまたたひなる ほとときす はなたちはなに やとはからなむ | 読人知らず | 三 | 夏歌 |
142 | 音羽山 今朝越えくれば 郭公 梢はるかに 今ぞ鳴くなる おとはやま けさこえくれは ほとときす こすゑはるかに いまそなくなる | 紀友則 | 三 | 夏歌 |
143 | 郭公 初声聞けば あぢきなく 主さだまらぬ 恋せらるはた ほとときす はつこゑきけは あちきなく ぬしさたまらぬ こひせらるはた | 素性法師 | 三 | 夏歌 |
144 | いそのかみ ふるきみやこの 郭公 声ばかりこそ 昔なりけれ いそのかみ ふるきみやこの ほとときす こゑはかりこそ むかしなりけれ | 素性法師 | 三 | 夏歌 |
145 | 夏山に 鳴く郭公 心あらば 物思ふ我に 声な聞かせそ なつやまに なくほとときす こころあらは ものおもふわれに こゑなきかせそ | 読人知らず | 三 | 夏歌 |
146 | 郭公 鳴く声聞けば 別れにし ふるさとさへぞ 恋しかりける ほとときす なくこゑきけは わかれにし ふるさとさへそ こひしかりける | 読人知らず | 三 | 夏歌 |
147 | 郭公 なが鳴く里の あまたあれば なほうとまれぬ 思ふものから ほとときす なかなくさとの あまたあれは なほうとまれぬ おもふものから | 読人知らず | 三 | 夏歌 |
148 | 思ひいづる ときはの山の 郭公 唐紅の ふりいでてぞ鳴く おもひいつる ときはのやまの ほとときす からくれなゐの ふりいててそなく | 読人知らず | 三 | 夏歌 |
149 | 声はして 涙は見えぬ 郭公 我が衣手の ひつをからなむ こゑはして なみたはみえぬ ほとときす わかころもての ひつをからなむ | 読人知らず | 三 | 夏歌 |
150 | あしひきの 山郭公 をりはへて 誰かまさると 音をのみぞ鳴く あしひきの やまほとときす をりはへて たれかまさると ねをのみそなく | 読人知らず | 三 | 夏歌 |
151 | 今さらに 山へかへるな 郭公 声のかぎりは 我が宿に鳴け いまさらに やまへかへるな ほとときす こゑのかきりは わかやとになけ | 読人知らず | 三 | 夏歌 |
152 | やよやまて 山郭公 ことづてむ 我れ世の中に 住みわびぬとよ やよやまて やまほとときす ことつてむ われよのなかに すみわひぬとよ | 三国町 | 三 | 夏歌 |
153 | 五月雨に 物思ひをれば 郭公 夜深く鳴きて いづち行くらむ さみたれに ものおもひをれは ほとときす よふかくなきて いつちゆくらむ | 紀友則 | 三 | 夏歌 |
154 | 夜や暗き 道や惑へる 郭公 我が宿をしも すぎがてに鳴く よやくらき みちやまとへる ほとときす わかやとをしも すきかてになく | 紀友則 | 三 | 夏歌 |
155 | 宿りせし 花橘も 枯れなくに など郭公 声絶えぬらむ やとりせし はなたちはなも かれなくに なとほとときす こゑたえぬらむ | 大江千里 | 三 | 夏歌 |
156 | 夏の夜の ふすかとすれば 郭公 鳴くひと声に 明くるしののめ なつのよの ふすかとすれは ほとときす なくひとこゑに あくるしののめ | 紀貫之 | 三 | 夏歌 |
157 | くるるかと 見れば明けぬる 夏の夜を あかずとや鳴く 山郭公 くるるかと みれはあけぬる なつのよを あかすとやなく やまほとときす | 壬生忠岑 | 三 | 夏歌 |
158 | 夏山に 恋しき人や 入りにけむ 声ふりたてて 鳴く郭公 なつやまに こひしきひとや いりにけむ こゑふりたてて なくほとときす | 紀秋岑 | 三 | 夏歌 |
159 | 去年の夏 鳴きふるしてし 郭公 それかあらぬか 声のかはらぬ こそのなつ なきふるしてし ほとときす それかあらぬか こゑのかはらぬ | 読人知らず | 三 | 夏歌 |
160 | 五月雨の 空もとどろに 郭公 何を憂しとか 夜ただ鳴くらむ さみたれの そらもととろに ほとときす なにをうしとか よたたなくらむ | 紀貫之 | 三 | 夏歌 |
161 | 郭公 声も聞こえず 山彦は ほかになく音を 答へやはせぬ ほとときす こゑもきこえす やまひこは ほかになくねを こたへやはせぬ | 凡河内躬恒 | 三 | 夏歌 |
162 | 郭公 人まつ山に 鳴くなれば 我うちつけに 恋ひまさりけり ほとときす ひとまつやまに なくなれは われうちつけに こひまさりけり | 紀貫之 | 三 | 夏歌 |
163 | 昔べや 今も恋しき 郭公 ふるさとにしも 鳴きてきつらむ むかしへや いまもこひしき ほとときす ふるさとにしも なきてきつらむ | 壬生忠岑 | 三 | 夏歌 |
164 | 郭公 我とはなしに 卯の花の うき世の中に 鳴き渡るらむ ほとときす われとはなしに うのはなの うきよのなかに なきわたるらむ | 凡河内躬恒 | 三 | 夏歌 |
165 | はちす葉の にごりにしまぬ 心もて 何かは露を 珠とあざむく はちすはの にこりにしまぬ こころもて なにかはつゆを たまとあさむく | 僧正遍照 | 三 | 夏歌 |
166 | 夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ なつのよは またよひなから あけぬるを くものいつこに つきやとるらむ #百人一首 | 清原深養父 | 三 | 夏歌 |
167 | 塵をだに すゑじとぞ思ふ 咲きしより 妹と我が寝る 常夏の花 ちりをたに すゑしとそおもふ さきしより いもとわかぬる とこなつのはな | 凡河内躬恒 | 三 | 夏歌 |
168 | 夏と秋と 行きかふ空の かよひぢは かたへ涼しき 風や吹くらむ なつとあきと ゆきかふそらの かよひちは かたへすすしき かせやふくらむ | 凡河内躬恒 | 三 | 夏歌 |
169 | 秋きぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる あききぬと めにはさやかに みえねとも かせのおとにそ おとろかれぬる | 藤原敏行 | 四 | 秋歌上 |
170 | 川風の 涼しくもあるか うちよする 浪とともにや 秋は立つらむ かはかせの すすしくもあるか うちよする なみとともにや あきはたつらむ | 紀貫之 | 四 | 秋歌上 |
171 | 我が背子が 衣の裾を 吹き返し うらめづらしき 秋の初風 わかせこか ころものすそを ふきかへし うらめつらしき あきのはつかせ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
172 | 昨日こそ 早苗とりしか いつの間に 稲葉そよぎて 秋風の吹く きのふこそ さなへとりしか いつのまに いなはそよきて あきかせのふく | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
173 | 秋風の 吹きにし日より 久方の 天の河原に 立たぬ日はなし あきかせの ふきにしひより ひさかたの あまのかはらに たたぬひはなし | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
174 | 久方の 天の河原の 渡し守 君渡りなば かぢかくしてよ ひさかたの あまのかはらの わたしもり きみわたりなは かちかくしてよ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
175 | 天の河 紅葉を橋に わたせばや 七夕つめの 秋をしも待つ あまのかは もみちをはしに わたせはや たなはたつめの あきをしもまつ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
176 | 恋ひ恋ひて あふ夜は今宵 天の河 霧立ちわたり 明けずもあらなむ こひこひて あふよはこよひ あまのかは きりたちわたり あけすもあらなむ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
177 | 天の河 浅瀬しら浪 たどりつつ 渡りはてねば 明けぞしにける あまのかは あさせしらなみ たとりつつ わたりはてねは あけそしにける | 紀友則 | 四 | 秋歌上 |
178 | 契りけむ 心ぞつらき 七夕の 年にひとたび あふはあふかは ちきりけむ こころそつらき たなはたの としにひとたひ あふはあふかは | 藤原興風 | 四 | 秋歌上 |
179 | 年ごとに あふとはすれど 七夕の 寝る夜の数ぞ 少なかりける としことに あふとはすれと たなはたの ぬるよのかすそ すくなかりける | 凡河内躬恒 | 四 | 秋歌上 |
180 | 七夕に かしつる糸の うちはへて 年のを長く 恋ひや渡らむ たなはたに かしつるいとの うちはへて としのをなかく こひやわたらむ | 凡河内躬恒 | 四 | 秋歌上 |
181 | 今宵こむ 人にはあはじ 七夕の 久しきほどに 待ちもこそすれ こよひこむ ひとにはあはし たなはたの ひさしきほとに まちもこそすれ | 素性法師 | 四 | 秋歌上 |
182 | 今はとて 別るる時は 天の河 渡らぬ先に 袖ぞひちぬる いまはとて わかるるときは あまのかは わたらぬさきに そてそひちぬる | 源宗于 | 四 | 秋歌上 |
183 | 今日よりは 今こむ年の 昨日をぞ いつしかとのみ 待ち渡るべき けふよりは いまこむとしの きのふをそ いつしかとのみ まちわたるへき | 壬生忠岑 | 四 | 秋歌上 |
184 | 木の間より もりくる月の 影見れば 心づくしの 秋はきにけり このまより もりくるつきの かけみれは こころつくしの あきはきにけり | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
185 | おほかたの 秋くるからに 我が身こそ かなしきものと 思ひ知りぬれ おほかたの あきくるからに わかみこそ かなしきものと おもひしりぬれ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
186 | 我がために くる秋にしも あらなくに 虫の音聞けば まづぞかなしき わかために くるあきにしも あらなくに むしのねきけは まつそかなしき | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
187 | ものごとに 秋ぞかなしき もみぢつつ うつろひゆくを かぎりと思へば ものことに あきそかなしき もみちつつ うつろひゆくを かきりとおもへは | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
188 | ひとり寝る 床は草葉に あらねども 秋くる宵は 露けかりけり ひとりぬる とこはくさはに あらねとも あきくるよひは つゆけかりけり | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
189 | いつはとは 時はわかねど 秋の夜ぞ 物思ふことの かぎりなりける いつはとは ときはわかねと あきのよそ ものおもふことの かきりなりける | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
190 | かくばかり 惜しと思ふ夜を いたづらに 寝て明かすらむ 人さへぞうき かくはかり をしとおもふよを いたつらに ねてあかすらむ ひとさへそうき | 凡河内躬恒 | 四 | 秋歌上 |
191 | 白雲に 羽うちかはし 飛ぶ雁の 数さへ見ゆる 秋の夜の月 しらくもに はねうちかはし とふかりの かすさへみゆる あきのよのつき | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
192 | 小夜中と 夜はふけぬらし 雁がねの 聞こゆる空に 月渡る見ゆ さよなかと よはふけぬらし かりかねの きこゆるそらに つきわたるみゆ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
193 | 月見れば ちぢにものこそ かなしけれ 我が身ひとつの 秋にはあらねど つきみれは ちちにものこそ かなしけれ わかみひとつの あきにはあらねと #百人一首 | 大江千里 | 四 | 秋歌上 |
194 | 久方の 月の桂も 秋はなほ もみぢすればや 照りまさるらむ ひさかたの つきのかつらも あきはなほ もみちすれはや てりまさるらむ | 壬生忠岑 | 四 | 秋歌上 |
195 | 秋の夜の 月の光し あかければ くらぶの山も 越えぬべらなり あきのよの つきのひかりし あかけれは くらふのやまも こえぬへらなり | 在原元方 | 四 | 秋歌上 |
196 | きりぎりす いたくな鳴きそ 秋の夜の 長き思ひは 我ぞまされる きりきりす いたくななきそ あきのよの なかきおもひは われそまされる | 藤原忠房 | 四 | 秋歌上 |
197 | 秋の夜の 明くるも知らず 鳴く虫は 我がごとものや かなしかるらむ あきのよの あくるもしらす なくむしは わかことものや かなしかるらむ | 藤原敏行 | 四 | 秋歌上 |
198 | 秋萩も 色づきぬれば きりぎりす 我が寝ぬごとや 夜はかなしき あきはきも いろつきぬれは きりきりす わかねぬことや よるはかなしき | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
199 | 秋の夜は 露こそことに 寒からし 草むらごとに 虫のわぶれば あきのよは つゆこそことに さむからし くさむらことに むしのわふれは | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
200 | 君しのぶ 草にやつるる ふるさとは 松虫の音ぞ かなしかりける きみしのふ くさにやつるる ふるさとは まつむしのねそ かなしかりける | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
201 | 秋の野に 道も惑ひぬ 松虫の 声する方に 宿やからまし あきののに みちもまとひぬ まつむしの こゑするかたに やとやからまし | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
202 | 秋の野に 人まつ虫の 声すなり 我かとゆきて いざとぶらはむ あきののに ひとまつむしの こゑすなり われかとゆきて いさとふらはむ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
203 | もみぢ葉の 散りてつもれる 我が宿に 誰をまつ虫 ここら鳴くらむ もみちはの ちりてつもれる わかやとに たれをまつむし ここらなくらむ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
204 | ひぐらしの 鳴きつるなへに 日は暮れぬと 思ふは山の かげにぞありける ひくらしの なきつるなへに ひはくれぬと おもふはやまの かけにそありける | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
205 | ひぐらしの 鳴く山里の 夕暮れは 風よりほかに とふ人もなし ひくらしの なくやまさとの ゆふくれは かせよりほかに とふひともなし | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
206 | 待つ人に あらぬものから 初雁の 今朝鳴く声の めづらしきかな まつひとに あらぬものから はつかりの けさなくこゑの めつらしきかな | 在原元方 | 四 | 秋歌上 |
207 | 秋風に 初雁がねぞ 聞こゆなる たがたまづさを かけてきつらむ あきかせに はつかりかねそ きこゆなる たかたまつさを かけてきつらむ | 紀友則 | 四 | 秋歌上 |
208 | 我が門に いなおほせ鳥の 鳴くなへに 今朝吹く風に 雁はきにけり わかかとに いなおほせとりの なくなへに けさふくかせに かりはきにけり | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
209 | いとはやも 鳴きぬる雁か 白露の 色どる木ぎも もみぢあへなくに いとはやも なきぬるかりか しらつゆの いろとるききも もみちあへなくに | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
210 | 春霞 かすみていにし 雁がねは 今ぞ鳴くなる 秋霧の上に はるかすみ かすみていにし かりかねは いまそなくなる あききりのうへに | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
211 | 夜を寒み 衣かりがね 鳴くなへに 萩の下葉も うつろひにけり よをさむみ ころもかりかね なくなへに はきのしたはも うつろひにけり | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
212 | 秋風に 声を帆にあげて くる舟は 天の門渡る 雁にぞありける あきかせに こゑをほにあけて くるふねは あまのとわたる かりにそありける | 藤原菅根 | 四 | 秋歌上 |
213 | 憂きことを 思ひつらねて 雁がねの 鳴きこそわたれ 秋の夜な夜な うきことを おもひつらねて かりかねの なきこそわたれ あきのよなよな | 凡河内躬恒 | 四 | 秋歌上 |
214 | 山里は 秋こそことに わびしけれ 鹿の鳴く音に 目を覚ましつつ やまさとは あきこそことに わひしけれ しかのなくねに めをさましつつ | 壬生忠岑 | 四 | 秋歌上 |
215 | 奥山に もみぢ踏みわけ 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋はかなしき おくやまに もみちふみわけ なくしかの こゑきくときそ あきはかなしき #百人一首 | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
216 | 秋萩に うらびれをれば あしひきの 山下とよみ 鹿の鳴くらむ あきはきに うらひれをれは あしひきの やましたとよみ しかのなくらむ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
217 | 秋萩を しがらみふせて 鳴く鹿の 目には見えずて 音のさやけさ あきはきを しからみふせて なくしかの めにはみえすて おとのさやけさ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
218 | 秋萩の 花咲きにけり 高砂の 尾上の鹿は 今や鳴くらむ あきはきの はなさきにけり たかさこの をのへのしかは いまやなくらむ | 藤原敏行 | 四 | 秋歌上 |
219 | 秋萩の 古枝に咲ける 花見れば もとの心は 忘れざりけり あきはきの ふるえにさける はなみれは もとのこころは わすれさりけり | 凡河内躬恒 | 四 | 秋歌上 |
220 | 秋萩の 下葉色づく 今よりや ひとりある人の いねがてにする あきはきの したはいろつく いまよりや ひとりあるひとの いねかてにする | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
221 | 鳴き渡る 雁の涙や 落ちつらむ 物思ふ宿の 萩の上の露 なきわたる かりのなみたや おちつらむ ものおもふやとの はきのうへのつゆ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
222 | 萩の露 玉にぬかむと とればけぬ よし見む人は 枝ながら見よ はきのつゆ たまにぬかむと とれはけぬ よしみむひとは えたなからみよ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
223 | 折りてみば 落ちぞしぬべき 秋萩の 枝もたわわに 置ける白露 をりてみは おちそしぬへき あきはきの えたもたわわに おけるしらつゆ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
224 | 萩が花 散るらむ小野の 露霜に 濡れてをゆかむ 小夜はふくとも はきかはな ちるらむをのの つゆしもに ぬれてをゆかむ さよはふくとも | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
225 | 秋の野に 置く白露は 玉なれや つらぬきかくる くもの糸すぢ あきののに おくしらつゆは たまなれや つらぬきかくる くものいとすち | 文屋朝康 | 四 | 秋歌上 |
226 | 名にめでて 折れるばかりぞ 女郎花 我おちにきと 人にかたるな なにめてて をれるはかりそ をみなへし われおちにきと ひとにかたるな | 僧正遍照 | 四 | 秋歌上 |
227 | 女郎花 憂しと見つつぞ ゆきすぐる 男山にし 立てりと思へば をみなへし うしとみつつそ ゆきすくる をとこやまにし たてりとおもへは | 布留今道 | 四 | 秋歌上 |
228 | 秋の野に 宿りはすべし 女郎花 名をむつまじみ 旅ならなくに あきののに やとりはすへし をみなへし なをむつましみ たひならなくに | 藤原敏行 | 四 | 秋歌上 |
229 | 女郎花 おほかる野辺に 宿りせば あやなくあだの 名をやたちなむ をみなへし おほかるのへに やとりせは あやなくあたの なをやたちなむ | 小野美材 | 四 | 秋歌上 |
230 | 女郎花 秋の野風に うちなびき 心ひとつを 誰によすらむ をみなへし あきののかせに うちなひき こころひとつを たれによすらむ | 左大臣 | 四 | 秋歌上 |
231 | 秋ならで あふことかたき 女郎花 天の河原に おひぬものゆゑ あきならて あふことかたき をみなへし あまのかはらに おひぬものゆゑ | 藤原定方 | 四 | 秋歌上 |
232 | たが秋に あらぬものゆゑ 女郎花 なぞ色にいでて まだきうつろふ たかあきに あらぬものゆゑ をみなへし なそいろにいてて またきうつろふ | 紀貫之 | 四 | 秋歌上 |
233 | つま恋ふる 鹿ぞ鳴くなる 女郎花 おのがすむ野の 花と知らずや つまこふる しかそなくなる をみなへし おのかすむのの はなとしらすや | 凡河内躬恒 | 四 | 秋歌上 |
234 | 女郎花 吹きすぎてくる 秋風は 目には見えねど 香こそしるけれ をみなへし ふきすきてくる あきかせは めにはみえねと かこそしるけれ | 凡河内躬恒 | 四 | 秋歌上 |
235 | 人の見る ことやくるしき 女郎花 秋霧にのみ 立ち隠るらむ ひとのみる ことやくるしき をみなへし あききりにのみ たちかくるらむ | 壬生忠岑 | 四 | 秋歌上 |
236 | ひとりのみ ながむるよりは 女郎花 我が住む宿に 植ゑて見ましを ひとりのみ なかむるよりは をみなへし わかすむやとに うゑてみましを | 壬生忠岑 | 四 | 秋歌上 |
237 | 女郎花 うしろめたくも 見ゆるかな 荒れたる宿に ひとり立てれば をみなへし うしろめたくも みゆるかな あれたるやとに ひとりたてれは | 兼覧王 | 四 | 秋歌上 |
238 | 花にあかで 何かへるらむ 女郎花 おほかる野辺に 寝なましものを はなにあかて なにかへるらむ をみなへし おほかるのへに ねなましものを | 平貞文 | 四 | 秋歌上 |
239 | なに人か 来て脱ぎかけし 藤ばかま 来る秋ごとに 野辺を匂はす なにひとか きてぬきかけし ふちはかま くるあきことに のへをにほはす | 藤原敏行 | 四 | 秋歌上 |
240 | 宿りせし 人の形見か 藤ばかま 忘られがたき 香に匂ひつつ やとりせし ひとのかたみか ふちはかま わすられかたき かににほひつつ | 紀貫之 | 四 | 秋歌上 |
241 | 主知らぬ 香こそ匂へれ 秋の野に たが脱ぎかけし 藤ばかまぞも ぬししらぬ かこそにほへれ あきののに たかぬきかけし ふちはかまそも | 素性法師 | 四 | 秋歌上 |
242 | 今よりは 植ゑてだに見じ 花薄 穂にいづる秋は わびしかりけり いまよりは うゑてたにみし はなすすき ほにいつるあきは わひしかりけり | 平貞文 | 四 | 秋歌上 |
243 | 秋の野の 草の袂か 花薄 穂にいでてまねく 袖と見ゆらむ あきののの くさのたもとか はなすすき ほにいててまねく そてとみゆらむ | 在原棟梁 | 四 | 秋歌上 |
244 | 我のみや あはれと思はむ きりぎりす 鳴く夕影の 大和撫子 われのみや あはれとおもはむ きりきりす なくゆふかけの やまとなてしこ | 素性法師 | 四 | 秋歌上 |
245 | 緑なる ひとつ草とぞ 春は見し 秋は色いろの 花にぞありける みとりなる ひとつくさとそ はるはみし あきはいろいろの はなにそありける | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
246 | ももくさの 花のひもとく 秋の野に 思ひたはれむ 人なとがめそ ももくさの はなのひもとく あきののを おもひたはれむ ひとなとかめそ | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
247 | 月草に 衣はすらむ 朝露に 濡れてののちは うつろひぬとも つきくさに ころもはすらむ あさつゆに ぬれてののちは うつろひぬとも | 読人知らず | 四 | 秋歌上 |
248 | 里は荒れて 人はふりにし 宿なれや 庭もまがきも 秋の野らなる さとはあれて ひとはふりにし やとなれや にはもまかきも あきののらなる | 僧正遍照 | 四 | 秋歌上 |
249 | 吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐と言ふらむ ふくからに あきのくさきの しをるれは うへやまかせを あらしといふらむ #百人一首 | 文屋康秀 | 五 | 秋歌下 |
250 | 草も木も 色かはれども わたつみの 浪の花にぞ 秋なかりける くさもきも いろかはれとも わたつうみの なみのはなにそ あきなかりける | 文屋康秀 | 五 | 秋歌下 |
251 | 紅葉せぬ ときはの山は 吹く風の 音にや秋を 聞き渡るらむ もみちせぬ ときはのやまは ふくかせの おとにやあきを ききわたるらむ | 紀淑望 | 五 | 秋歌下 |
252 | 霧立ちて 雁ぞ鳴くなる 片岡の 朝の原は もみぢしぬらむ きりたちて かりそなくなる かたをかの あしたのはらは もみちしぬらむ | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
253 | 神無月 時雨もいまだ 降らなくに かねてうつろふ 神なびのもり かみなつき しくれもいまた ふらなくに かねてうつろふ かみなひのもり | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
254 | ちはやぶる 神なび山の もみぢ葉に 思ひはかけじ うつろふものを ちはやふる かみなひやまの もみちはに おもひはかけし うつろふものを | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
255 | 同じ枝を わきて木の葉の うつろふは 西こそ秋の はじめなりけれ おなしえを わきてこのはの うつろふは にしこそあきの はしめなりけれ | 藤原勝臣 | 五 | 秋歌下 |
256 | 秋風の 吹きにし日より 音羽山 峰の梢も 色づきにけり あきかせの ふきにしひより おとはやま みねのこすゑも いろつきにけり | 紀貫之 | 五 | 秋歌下 |
257 | 白露の 色はひとつを いかにして 秋の木の葉を ちぢに染むらむ しらつゆの いろはひとつを いかにして あきのこのはを ちちにそむらむ | 藤原敏行 | 五 | 秋歌下 |
258 | 秋の夜の 露をば露と 置きながら 雁の涙や 野辺を染むらむ あきのよの つゆをはつゆと おきなから かりのなみたや のへをそむらむ | 壬生忠岑 | 五 | 秋歌下 |
259 | 秋の露 色いろことに 置けばこそ 山の木の葉の ちぐさなるらめ あきのつゆ いろいろことに おけはこそ やまのこのはの ちくさなるらめ | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
260 | 白露も 時雨もいたく もる山は 下葉残らず 色づきにけり しらつゆも しくれもいたく もるやまは したはのこらす いろつきにけり | 紀貫之 | 五 | 秋歌下 |
261 | 雨降れど 露ももらじを 笠取りの 山はいかでか もみぢ染めけむ あめふれと つゆももらしを かさとりの やまはいかてか もみちそめけむ | 在原元方 | 五 | 秋歌下 |
262 | ちはやぶる 神のいがきに はふくずも 秋にはあへず うつろひにけり ちはやふる かみのいかきに はふくすも あきにはあへす うつろひにけり | 紀貫之 | 五 | 秋歌下 |
263 | 雨降れば 笠取り山の もみぢ葉は 行きかふ人の 袖さへぞてる あめふれは かさとりやまの もみちはは ゆきかふひとの そてさへそてる | 壬生忠岑 | 五 | 秋歌下 |
264 | 散らねども かねてぞ惜しき もみぢ葉は 今はかぎりの 色と見つれば ちらねとも かねてそをしき もみちはは いまはかきりの いろとみつれは | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
265 | 誰がための 錦なればか 秋霧の 佐保の山辺を 立ち隠すらむ たかための にしきなれはか あききりの さほのやまへを たちかくすらむ | 紀友則 | 五 | 秋歌下 |
266 | 秋霧は 今朝はな立ちそ 佐保山の ははそのもみぢ よそにても見む あききりは けさはなたちそ さほやまの ははそのもみち よそにてもみむ | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
267 | 佐保山の ははその色は 薄けれど 秋は深くも なりにけるかな さほやまの ははそのいろは うすけれと あきはふかくも なりにけるかな | 坂上是則 | 五 | 秋歌下 |
268 | 植ゑし植ゑば 秋なき時や 咲かざらむ 花こそ散らめ 根さへ枯れめや うゑしうゑは あきなきときや さかさらむ はなこそちらめ ねさへかれめや | 在原業平 | 五 | 秋歌下 |
269 | 久方の 雲の上にて 見る菊は 天つ星とぞ あやまたれける ひさかたの くものうへにて みるきくは あまつほしとそ あやまたれける | 藤原敏行 | 五 | 秋歌下 |
270 | 露ながら 折りてかざさむ 菊の花 老いせぬ秋の 久しかるべく つゆなから をりてかささむ きくのはな おいせぬあきの ひさしかるへく | 紀友則 | 五 | 秋歌下 |
271 | 植ゑし時 花待ちどほに ありし菊 うつろふ秋に あはむとや見し うゑしとき はなまちとほに ありしきく うつろふあきに あはむとやみし | 大江千里 | 五 | 秋歌下 |
272 | 秋風の 吹き上げに立てる 白菊は 花かあらぬか 浪のよするか あきかせの ふきあけにたてる しらきくは はなかあらぬか なみのよするか | 菅原朝臣 | 五 | 秋歌下 |
273 | 濡れてほす 山路の菊の 露の間に いつか千歳を 我はへにけむ ぬれてほす やまちのきくの つゆのまに いつかちとせを われはへにけむ | 素性法師 | 五 | 秋歌下 |
274 | 花見つつ 人待つ時は 白妙の 袖かとのみぞ あやまたれける はなみつつ ひとまつときは しろたへの そてかとのみそ あやまたれける | 紀友則 | 五 | 秋歌下 |
275 | ひともとと 思ひし菊を 大沢の 池の底にも 誰か植ゑけむ ひともとと おもひしきくを おほさはの いけのそこにも たれかうゑけむ | 紀友則 | 五 | 秋歌下 |
276 | 秋の菊 匂ふかぎりは かざしてむ 花より先と 知らぬ我が身を あきのきく にほふかきりは かさしてむ はなよりさきと しらぬわかみを | 紀貫之 | 五 | 秋歌下 |
277 | 心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置き惑はせる 白菊の花 こころあてに をらはやをらむ はつしもの おきまとはせる しらきくのはな #百人一首 | 凡河内躬恒 | 五 | 秋歌下 |
278 | 色かはる 秋の菊をば ひととせに ふたたび匂ふ 花とこそ見れ いろかはる あきのきくをは ひととせに ふたたひにほふ はなとこそみれ | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
279 | 秋をおきて 時こそありけれ 菊の花 うつろふからに 色のまされば あきをおきて ときこそありけれ きくのはな うつろふからに いろのまされは | 平貞文 | 五 | 秋歌下 |
280 | 咲きそめし 宿しかはれば 菊の花 色さへにこそ うつろひにけれ さきそめし やとしかはれは きくのはな いろさへにこそ うつろひにけれ | 紀貫之 | 五 | 秋歌下 |
281 | 佐保山の ははそのもみぢ 散りぬべみ 夜さへ見よと 照らす月影 さほやまの ははそのもみち ちりぬへみ よるさへみよと てらすつきかけ | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
282 | 奥山の いはがきもみぢ 散りぬべし 照る日の光 見る時なくて おくやまの いはかきもみち ちりぬへし てるひのひかり みるときなくて | 藤原関雄 | 五 | 秋歌下 |
283 | 竜田川 もみぢ乱れて 流るめり 渡らば錦 中や絶えなむ たつたかは もみちみたれて なかるめり わたらはにしき なかやたえなむ | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
284 | 竜田川 もみぢ葉流る 神なびの みむろの山に 時雨降るらし たつたかは もみちはなかる かみなひの みむろのやまに しくれふるらし | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
285 | 恋しくは 見てもしのばむ もみぢ葉を 吹きな散らしそ 山おろしの風 こひしくは みてもしのはむ もみちはを ふきなちらしそ やまおろしのかせ | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
286 | 秋風に あへず散りぬる もみぢ葉の ゆくへさだめぬ 我ぞかなしき あきかせに あへすちりぬる もみちはの ゆくへさためぬ われそかなしき | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
287 | 秋は来ぬ 紅葉は宿に 降りしきぬ 道踏みわけて とふ人はなし あきはきぬ もみちはやとに ふりしきぬ みちふみわけて とふひとはなし | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
288 | 踏みわけて さらにやとはむ もみぢ葉の 降り隠してし 道と見ながら ふみわけて さらにやとはむ もみちはの ふりかくしてし みちとみなから | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
289 | 秋の月 山辺さやかに 照らせるは 落つるもみぢの 数を見よとか あきのつき やまへさやかに てらせるは おつるもみちの かすをみよとか | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
290 | 吹く風の 色のちぐさに 見えつるは 秋の木の葉の 散ればなりけり ふくかせの いろのちくさに みえつるは あきのこのはの ちれはなりけり | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
291 | 霜のたて 露のぬきこそ 弱からし 山の錦の おればかつ散る しものたて つゆのぬきこそ よわからし やまのにしきの おれはかつちる | 藤原関雄 | 五 | 秋歌下 |
292 | わび人の わきて立ち寄る 木のもとは たのむかげなく もみぢ散りけり わひひとの わきてたちよる このもとは たのむかけなく もみちちりけり | 僧正遍照 | 五 | 秋歌下 |
293 | もみぢ葉の 流れてとまる みなとには 紅深き 浪や立つらむ もみちはの なかれてとまる みなとには くれなゐふかき なみやたつらむ | 素性法師 | 五 | 秋歌下 |
294 | ちはやぶる 神世もきかず 竜田川 唐紅に 水くくるとは ちはやふる かみよもきかす たつたかは からくれなゐに みつくくるとは #百人一首 | 在原業平 | 五 | 秋歌下 |
295 | 我がきつる 方も知られず くらぶ山 木ぎの木の葉の 散るとまがふに わかきつる かたもしられす くらふやま ききのこのはの ちるとまかふに | 藤原敏行 | 五 | 秋歌下 |
296 | 神なびの みむろの山を 秋ゆけば 錦たちきる 心地こそすれ かみなひの みむろのやまを あきゆけは にしきたちきる ここちこそすれ | 壬生忠岑 | 五 | 秋歌下 |
297 | 見る人も なくて散りぬる 奥山の 紅葉は夜の 錦なりけり みるひとも なくてちりぬる おくやまの もみちはよるの にしきなりけり | 紀貫之 | 五 | 秋歌下 |
298 | 竜田姫 たむくる神の あればこそ 秋の木の葉の ぬさと散るらめ たつたひめ たむくるかみの あれはこそ あきのこのはの ぬさとちるらめ | 兼覧王 | 五 | 秋歌下 |
299 | 秋の山 紅葉をぬさと たむくれば 住む我さへぞ 旅心地する あきのやま もみちをぬさと たむくれは すむわれさへそ たひここちする | 紀貫之 | 五 | 秋歌下 |
300 | 神なびの 山をすぎ行く 秋なれば 竜田川にぞ ぬさはたむくる かみなひの やまをすきゆく あきなれは たつたかはにそ ぬさはたむくる | 清原深養父 | 五 | 秋歌下 |
301 | 白浪に 秋の木の葉の 浮かべるを 海人の流せる 舟かとぞ見る しらなみに あきのこのはの うかへるを あまのなかせる ふねかとそみる | 藤原興風 | 五 | 秋歌下 |
302 | もみぢ葉の 流れざりせば 竜田川 水の秋をば 誰か知らまし もみちはの なかれさりせは たつたかは みつのあきをは たれかしらまし | 坂上是則 | 五 | 秋歌下 |
303 | 山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり やまかはに かせのかけたる しからみは なかれもあへぬ もみちなりけり #百人一首 | 春道列樹 | 五 | 秋歌下 |
304 | 風吹けば 落つるもみぢ葉 水清み 散らぬ影さへ 底に見えつつ かせふけは おつるもみちは みつきよみ ちらぬかけさへ そこにみえつつ | 凡河内躬恒 | 五 | 秋歌下 |
305 | 立ち止まり 見てをわたらむ もみぢ葉は 雨と降るとも 水はまさらじ たちとまり みてをわたらむ もみちはは あめとふるとも みつはまさらし | 凡河内躬恒 | 五 | 秋歌下 |
306 | 山田もる 秋のかりいほに 置く露は いなおほせ鳥の 涙なりけり やまたもる あきのかりいほに おくつゆは いなおほせとりの なみたなりけり | 壬生忠岑 | 五 | 秋歌下 |
307 | 穂にもいでぬ 山田をもると 藤衣 稲葉の露に 濡れぬ日ぞなき ほにもいてぬ やまたをもると ふちころも いなはのつゆに ぬれぬひそなき | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
308 | 刈れる田に おふるひつちの 穂にいでぬは 世を今さらに あきはてぬとか かれるたに おふるひつちの ほにいてぬは よをいまさらに あきはてぬとか | 読人知らず | 五 | 秋歌下 |
309 | もみぢ葉は 袖にこき入れて もていでなむ 秋はかぎりと 見む人のため もみちはは そてにこきいれて もていてなむ あきはかきりと みむひとのため | 素性法師 | 五 | 秋歌下 |
310 | み山より 落ちくる水の 色見てぞ 秋はかぎりと 思ひ知りぬる みやまより おちくるみつの いろみてそ あきはかきりと おもひしりぬる | 藤原興風 | 五 | 秋歌下 |
311 | 年ごとに もみぢ葉流す 竜田川 みなとや秋の とまりなるらむ としことに もみちはなかす たつたかは みなとやあきの とまりなるらむ | 紀貫之 | 五 | 秋歌下 |
312 | 夕月夜 小倉の山に 鳴く鹿の 声の内にや 秋は暮るらむ ゆふつくよ をくらのやまに なくしかの こゑのうちにや あきはくるらむ | 紀貫之 | 五 | 秋歌下 |
313 | 道知らば たづねもゆかむ もみぢ葉を ぬさとたむけて 秋はいにけり みちしらは たつねもゆかむ もみちはを ぬさとたむけて あきはいにけり | 凡河内躬恒 | 五 | 秋歌下 |
314 | 竜田川 錦おりかく 神無月 時雨の雨を たてぬきにして たつたかは にしきおりかく かみなつき しくれのあめを たてぬきにして | 読人知らず | 六 | 冬歌 |
315 | 山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人目も草も 枯れぬと思へば やまさとは ふゆそさひしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもへは #百人一首 | 源宗于 | 六 | 冬歌 |
316 | 大空の 月の光し 清ければ 影見し水ぞ まづこほりける おほそらの つきのひかりし きよけれは かけみしみつそ まつこほりける | 読人知らず | 六 | 冬歌 |
317 | 夕されば 衣手寒し み吉野の 吉野の山に み雪降るらし ゆふされは ころもてさむし みよしのの よしののやまに みゆきふるらし | 読人知らず | 六 | 冬歌 |
318 | 今よりは つぎて降らなむ 我が宿の 薄おしなみ 降れる白雪 いまよりは つきてふらなむ わかやとの すすきおしなひ ふれるしらゆき | 読人知らず | 六 | 冬歌 |
319 | 降る雪は かつぞけぬらし あしひきの 山のたぎつ瀬 音まさるなり ふるゆきは かつそけぬらし あしひきの やまのたきつせ おとまさるなり | 読人知らず | 六 | 冬歌 |
320 | この川に もみぢ葉流る 奥山の 雪げの水ぞ 今まさるらし このかはに もみちはなかる おくやまの ゆきけのみつそ いままさるらし | 読人知らず | 六 | 冬歌 |
321 | ふるさとは 吉野の山し 近ければ ひと日もみ雪 降らぬ日はなし ふるさとは よしののやまし ちかけれは ひとひもみゆき ふらぬひはなし | 読人知らず | 六 | 冬歌 |
322 | 我が宿は 雪降りしきて 道もなし 踏みわけてとふ 人しなければ わかやとは ゆきふりしきて みちもなし ふみわけてとふ ひとしなけれは | 読人知らず | 六 | 冬歌 |
323 | 雪降れば 冬ごもりせる 草も木も 春に知られぬ 花ぞ咲きける ゆきふれは ふゆこもりせる くさもきも はるにしられぬ はなそさきける | 紀貫之 | 六 | 冬歌 |
324 | 白雪の ところもわかず 降りしけば 巌にも咲く 花とこそ見れ しらゆきの ところもわかす ふりしけは いはほにもさく はなとこそみれ | 紀秋岑 | 六 | 冬歌 |
325 | み吉野の 山の白雪 つもるらし ふるさと寒く なりまさるなり みよしのの やまのしらゆき つもるらし ふるさとさむく なりまさるなり | 坂上是則 | 六 | 冬歌 |
326 | 浦近く 降りくる雪は 白浪の 末の松山 越すかとぞ見る うらちかく ふりくるゆきは しらなみの すゑのまつやま こすかとそみる | 藤原興風 | 六 | 冬歌 |
327 | み吉野の 山の白雪 踏みわけて 入りにし人の おとづれもせぬ みよしのの やまのしらゆき ふみわけて いりにしひとの おとつれもせぬ | 壬生忠岑 | 六 | 冬歌 |
328 | 白雪の 降りてつもれる 山里は 住む人さへや 思ひ消ゆらむ しらゆきの ふりてつもれる やまさとは すむひとさへや おもひきゆらむ | 壬生忠岑 | 六 | 冬歌 |
329 | 雪降りて 人もかよはぬ 道なれや あとはかもなく 思ひ消ゆらむ ゆきふりて ひともかよはぬ みちなれや あとはかもなく おもひきゆらむ | 凡河内躬恒 | 六 | 冬歌 |
330 | 冬ながら 空より花の 散りくるは 雲のあなたは 春にやあるらむ ふゆなから そらよりはなの ちりくるは くものあなたは はるにやあるらむ | 清原深養父 | 六 | 冬歌 |
331 | 冬ごもり 思ひかけぬを 木の間より 花と見るまで 雪ぞ降りける ふゆこもり おもひかけぬを このまより はなとみるまて ゆきそふりける | 紀貫之 | 六 | 冬歌 |
332 | 朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪 あさほらけ ありあけのつきと みるまてに よしののさとに ふれるしらゆき #百人一首 | 坂上是則 | 六 | 冬歌 |
333 | 消ぬがうへに またも降りしけ 春霞 立ちなばみ雪 まれにこそ見め けぬかうへに またもふりしけ はるかすみ たちなはみゆき まれにこそみめ | 読人知らず | 六 | 冬歌 |
334 | 梅の花 それとも見えず 久方の あまぎる雪の なべて降れれば うめのはな それともみえす ひさかたの あまきるゆきの なへてふれれは | 読人知らず | 六 | 冬歌 |
335 | 花の色は 雪にまじりて 見えずとも 香をだに匂へ 人の知るべく はなのいろは ゆきにましりて みえすとも かをたににほへ ひとのしるへく | 小野篁 | 六 | 冬歌 |
336 | 梅の香の 降りおける雪に まがひせば 誰かことごと わきて折らまし うめのかの ふりおけるゆきに まかひせは たれかことこと わきてをらまし | 紀貫之 | 六 | 冬歌 |
337 | 雪降れば 木ごとに花ぞ 咲きにける いづれを梅と わきて折らまし ゆきふれは きことにはなそ さきにける いつれをうめと わきてをらまし | 紀友則 | 六 | 冬歌 |
338 | 我が待たぬ 年はきぬれど 冬草の 枯れにし人は おとづれもせず わかまたぬ としはきぬれと ふゆくさの かれにしひとは おとつれもせす | 凡河内躬恒 | 六 | 冬歌 |
339 | あらたまの 年の終りに なるごとに 雪も我が身も ふりまさりつつ あらたまの としのをはりに なることに ゆきもわかみも ふりまさりつつ | 在原元方 | 六 | 冬歌 |
340 | 雪降りて 年の暮れぬる 時にこそ つひにもみぢぬ 松も見えけれ ゆきふりて としのくれぬる ときにこそ つひにもみちぬ まつもみえけれ | 読人知らず | 六 | 冬歌 |
341 | 昨日と言ひ 今日とくらして 明日香河 流れて早き 月日なりけり きのふといひ けふとくらして あすかかは なかれてはやき つきひなりけり | 春道列樹 | 六 | 冬歌 |
342 | ゆく年の 惜しくもあるかな ます鏡 見る影さへに くれぬと思へば ゆくとしの をしくもあるかな ますかかみ みるかけさへに くれぬとおもへは | 紀貫之 | 六 | 冬歌 |
343 | 我が君は 千代に八千代に さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで わかきみは ちよにやちよに さされいしの いはほとなりて こけのむすまて | 読人知らず | 七 | 賀歌 |
344 | わたつみの 浜の真砂を かぞへつつ 君が千歳の あり数にせむ わたつうみの はまのまさこを かそへつつ きみかちとせの ありかすにせむ | 読人知らず | 七 | 賀歌 |
345 | しほの山 さしでの磯に 住む千鳥 君が御代をば 八千代とぞ鳴く しほのやま さしてのいそに すむちとり きみかみよをは やちよとそなく | 読人知らず | 七 | 賀歌 |
346 | 我がよはひ 君が八千代に とりそへて とどめおきては 思ひ出でにせよ わかよはひ きみかやちよに とりそへて ととめおきては おもひいてにせよ | 読人知らず | 七 | 賀歌 |
347 | かくしつつ とにもかくにも ながらへて 君が八千代に あふよしもがな かくしつつ とにもかくにも なからへて きみかやちよに あふよしもかな | 仁和帝 | 七 | 賀歌 |
348 | ちはやぶる 神や切りけむ つくからに 千歳の坂も 越えぬべらなり ちはやふる かみやきりけむ つくからに ちとせのさかも こえぬへらなり | 僧正遍照 | 七 | 賀歌 |
349 | 桜花 散りかひくもれ 老いらくの 来むと言ふなる 道まがふがに さくらはな ちりかひくもれ おいらくの こむといふなる みちまかふかに | 在原業平 | 七 | 賀歌 |
350 | 亀の尾の 山の岩根を とめておつる 滝の白玉 千代の数かも かめのをの やまのいはねを とめておつる たきのしらたま ちよのかすかも | 紀惟岳 | 七 | 賀歌 |
351 | いたづらに すぐす月日は 思ほえで 花見てくらす 春ぞ少なき いたつらに すくすつきひは おもほえて はなみてくらす はるそすくなき | 藤原興風 | 七 | 賀歌 |
352 | 春くれば 宿にまづ咲く 梅の花 君が千歳の かざしとぞ見る はるくれは やとにまつさく うめのはな きみかちとせの かさしとそみる | 紀貫之 | 七 | 賀歌 |
353 | いにしへに ありきあらずは 知らねども 千歳のためし 君にはじめむ いにしへに ありきあらすは しらねとも ちとせのためし きみにはしめむ | 素性法師 | 七 | 賀歌 |
354 | ふして思ひ おきて数ふる 万代は 神ぞ知るらむ 我が君のため ふしておもひ おきてかそふる よろつよは かみそしるらむ わかきみのため | 素性法師 | 七 | 賀歌 |
355 | 鶴亀も 千歳の後は 知らなくに あかぬ心に まかせはててむ つるかめも ちとせののちは しらなくに あかぬこころに まかせはててむ | 在原滋春 | 七 | 賀歌 |
356 | 万代を 松にぞ君を 祝ひつる 千歳のかげに 住まむと思へば よろつよを まつにそきみを いはひつる ちとせのかけに すまむとおもへは | 素性法師 | 七 | 賀歌 |
357 | 春日野に 若菜つみつつ 万代を 祝ふ心は 神ぞ知るらむ かすかのに わかなつみつつ よろつよを いはふこころは かみそしるらむ | 素性法師 | 七 | 賀歌 |
358 | 山高み 雲ゐに見ゆる 桜花 心のゆきて 折らぬ日ぞなき やまたかみ くもゐにみゆる さくらはな こころのゆきて をらぬひそなき | 凡河内躬恒 | 七 | 賀歌 |
359 | めづらしき 声ならなくに 郭公 ここらの年を あかずもあるかな めつらしき こゑならなくに ほとときす ここらのとしを あかすもあるかな | 紀友則 | 七 | 賀歌 |
360 | 住の江の 松を秋風 吹くからに 声うちそふる 沖つ白浪 すみのえの まつをあきかせ ふくからに こゑうちそふる おきつしらなみ | 凡河内躬恒 | 七 | 賀歌 |
361 | 千鳥鳴く 佐保の河霧 立ちぬらし 山の木の葉も 色まさりゆく ちとりなく さほのかはきり たちぬらし やまのこのはも いろまさりゆく | 壬生忠岑 | 七 | 賀歌 |
362 | 秋くれど 色もかはらぬ ときは山 よそのもみぢを 風ぞかしける あきくれと いろもかはらぬ ときはやま よそのもみちを かせそかしける | 読人知らず | 七 | 賀歌 |
363 | 白雪の 降りしく時は み吉野の 山下風に 花ぞ散りける しらゆきの ふりしくときは みよしのの やましたかせに はなそちりける | 紀貫之 | 七 | 賀歌 |
364 | 峰高き 春日の山に いづる日は 曇る時なく 照らすべらなり みねたかき かすかのやまに いつるひは くもるときなく てらすへらなり | 藤原因香 | 七 | 賀歌 |
365 | 立ち別れ いなばの山の 峰におふる 松とし聞かば 今かへりこむ たちわかれ いなはのやまの みねにおふる まつとしきかは いまかへりこむ #百人一首 | 在原行平 | 八 | 離別歌 |
366 | すがるなく 秋の萩原 朝たちて 旅行く人を いつとか待たむ すかるなく あきのはきはら あさたちて たひゆくひとを いつとかまたむ | 読人知らず | 八 | 離別歌 |
367 | かぎりなき 雲ゐのよそに わかるとも 人を心に おくらさむやは かきりなき くもゐのよそに わかるとも ひとをこころに おくらさむやは | 読人知らず | 八 | 離別歌 |
368 | たらちねの 親のまもりと あひそふる 心ばかりは せきなとどめそ たらちねの おやのまもりと あひそふる こころはかりは せきなととめそ | 小野千古母 | 八 | 離別歌 |
369 | 今日別れ 明日はあふみと 思へども 夜やふけぬらむ 袖の露けき けふわかれ あすはあふみと おもへとも よやふけぬらむ そてのつゆけき | 紀利貞 | 八 | 離別歌 |
370 | かへる山 ありとは聞けど 春霞 立ち別れなば 恋しかるべし かへるやま ありとはきけと はるかすみ たちわかれなは こひしかるへし | 紀利貞 | 八 | 離別歌 |
371 | 惜しむから 恋しきものを 白雲の たちなむのちは なに心地せむ をしむから こひしきものを しらくもの たちなむのちは なにここちせむ | 紀貫之 | 八 | 離別歌 |
372 | 別れては ほどをへだつと 思へばや かつ見ながらに かねて恋しき わかれては ほとをへたつと おもへはや かつみなからに かねてこひしき | 在原滋春 | 八 | 離別歌 |
373 | 思へども 身をしわけねば 目に見えぬ 心を君に たぐへてぞやる おもへとも みをしわけねは めにみえぬ こころをきみに たくへてそやる | 伊香子淳行 | 八 | 離別歌 |
374 | あふ坂の 関しまさしき ものならば あかず別るる 君をとどめよ あふさかの せきしまさしき ものならは あかすわかるる きみをととめよ | 難波万雄 | 八 | 離別歌 |
375 | 唐衣 たつ日は聞かじ 朝露の 置きてしゆけば けぬべきものを からころも たつひはきかし あさつゆの おきてしゆけは けぬへきものを | 読人知らず | 八 | 離別歌 |
376 | 朝なげに 見べき君とし たのまねば 思ひたちぬる 草枕なり あさなけに みへききみとし たのまねは おもひたちぬる くさまくらなり | 寵 | 八 | 離別歌 |
377 | えぞ知らぬ 今こころみよ 命あらば 我や忘るる 人やとはぬと えそしらぬ いまこころみよ いのちあらは われやわするる ひとやとはぬと | 読人知らず | 八 | 離別歌 |
378 | 雲ゐにも かよふ心の おくれねば わかると人に 見ゆばかりなり くもゐにも かよふこころの おくれねは わかるとひとに みゆはかりなり | 清原深養父 | 八 | 離別歌 |
379 | 白雲の こなたかなたに 立ち別れ 心をぬさと くだく旅かな しらくもの こなたかなたに たちわかれ こころをぬさと くたくたひかな | 良岑秀崇 | 八 | 離別歌 |
380 | 白雲の 八重にかさなる をちにても 思はむ人に 心へだつな しらくもの やへにかさなる をちにても おもはむひとに こころへたつな | 紀貫之 | 八 | 離別歌 |
381 | 別れてふ ことは色にも あらなくに 心にしみて わびしかるらむ わかれてふ ことはいろにも あらなくに こころにしみて わひしかるらむ | 紀貫之 | 八 | 離別歌 |
382 | かへる山 なにぞはありて あるかひは きてもとまらぬ 名にこそありけれ かへるやま なにそはありて あるかひは きてもとまらぬ なにこそありけれ | 凡河内躬恒 | 八 | 離別歌 |
383 | よそにのみ 恋ひや渡らむ 白山の 雪見るべくも あらぬ我が身は よそにのみ こひやわたらむ しらやまの ゆきみるへくも あらぬわかみは | 凡河内躬恒 | 八 | 離別歌 |
384 | 音羽山 こだかく鳴きて 郭公 君が別れを 惜しむべらなり おとはやま こたかくなきて ほとときす きみかわかれを をしむへらなり | 紀貫之 | 八 | 離別歌 |
385 | もろともに なきてとどめよ きりぎりす 秋の別れは 惜しくやはあらぬ もろともに なきてととめよ きりきりす あきのわかれは をしくやはあらぬ | 藤原兼茂 | 八 | 離別歌 |
386 | 秋霧の 共に立ちいでて 別れなば はれぬ思ひに 恋やわたらむ あききりの ともにたちいてて わかれなは はれぬおもひに こひやわたらむ | 平元規 | 八 | 離別歌 |
387 | 命だに 心にかなふ ものならば なにか別れの かなしからまし いのちたに こころにかなふ ものならは なにかわかれの かなしからまし | 白女 | 八 | 離別歌 |
388 | 人やりの 道ならなくに おほかたは いき憂しといひて いざ帰りなむ ひとやりの みちならなくに おほかたは いきうしといひて いさかへりなむ | 源実 | 八 | 離別歌 |
389 | したはれて きにし心の 身にしあれば 帰るさまには 道も知られず したはれて きにしこころの みにしあれは かへるさまには みちもしられす | 藤原兼茂 | 八 | 離別歌 |
390 | かつ越えて 別れもゆくか あふ坂は 人だのめなる 名にこそありけれ かつこえて わかれもゆくか あふさかは ひとたのめなる なにこそありけれ | 紀貫之 | 八 | 離別歌 |
391 | 君がゆく 越の白山 知らねども 雪のまにまに あとはたづねむ きみかゆく こしのしらやま しらねとも ゆきのまにまに あとはたつねむ | 藤原兼輔 | 八 | 離別歌 |
392 | 夕暮れの まがきは山と 見えななむ 夜は越えじと 宿りとるべく ゆふくれの まかきはやまと みえななむ よるはこえしと やとりとるへく | 僧正遍照 | 八 | 離別歌 |
393 | 別れをば 山の桜に まかせてむ とめむとめじは 花のまにまに わかれをは やまのさくらに まかせてむ とめむとめしは はなのまにまに | 幽仙法師 | 八 | 離別歌 |
394 | 山風に 桜吹きまき 乱れなむ 花のまぎれに 君とまるべく やまかせに さくらふきまき みたれなむ はなのまきれに たちとまるへく | 僧正遍照 | 八 | 離別歌 |
395 | ことならば 君とまるべく 匂はなむ かへすは花の うきにやはあらぬ ことならは きみとまるへく にほはなむ かへすははなの うきにやはあらぬ | 幽仙法師 | 八 | 離別歌 |
396 | あかずして 別るる涙 滝にそふ 水まさるとや しもは見るらむ あかすして わかるるなみた たきにそふ みつまさるとや しもはみるらむ | 兼芸法師 | 八 | 離別歌 |
397 | 秋萩の 花をば雨に 濡らせども 君をばまして 惜しとこそ思へ あきはきの はなをはあめに ぬらせとも きみをはまして をしとこそおもへ | 紀貫之 | 八 | 離別歌 |
398 | 惜しむらむ 人の心を 知らぬまに 秋の時雨と 身ぞふりにける をしむらむ ひとのこころを しらぬまに あきのしくれと みそふりにける | 兼覧王 | 八 | 離別歌 |
399 | 別るれど うれしくもあるか 今宵より あひ見ぬ先に 何を恋ひまし わかるれと うれしくもあるか こよひより あひみぬさきに なにをこひまし | 凡河内躬恒 | 八 | 離別歌 |
400 | あかずして 別るる袖の 白玉を 君が形見と つつみてぞ行く あかすして わかるるそての しらたまを きみかかたみと つつみてそゆく | 読人知らず | 八 | 離別歌 |
401 | かぎりなく 思ふ涙に そほちぬる 袖はかわかじ あはむ日までに かきりなく おもふなみたに そほちぬる そてはかわかし あはむひまてに | 読人知らず | 八 | 離別歌 |
402 | かきくらし ことはふらなむ 春雨に 濡衣きせて 君をとどめむ かきくらし ことはふらなむ はるさめに ぬれきぬきせて きみをととめむ | 読人知らず | 八 | 離別歌 |
403 | しひて行く 人をとどめむ 桜花 いづれを道と 惑ふまで散れ しひてゆく ひとをととめむ さくらはな いつれをみちと まよふまてちれ | 読人知らず | 八 | 離別歌 |
404 | むすぶ手の しづくに濁る 山の井の あかでも人に 別れぬるかな むすふての しつくににこる やまのゐの あかてもひとに わかれぬるかな | 紀貫之 | 八 | 離別歌 |
405 | 下の帯の 道はかたがた 別るとも 行きめぐりても あはむとぞ思ふ したのおひの みちはかたかた わかるとも ゆきめくりても あはむとそおもふ | 紀友則 | 八 | 離別歌 |
406 | 天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に いでし月かも あまのはら ふりさけみれは かすかなる みかさのやまに いてしつきかも #百人一首 | 安倍仲麻呂 | 九 | 羇旅歌 |
407 | わたの原 八十島かけて こぎいでぬと 人には告げよ 海人の釣り舟 わたのはら やそしまかけて こきいてぬと ひとにはつけよ あまのつりふね #百人一首 | 小野篁 | 九 | 羇旅歌 |
408 | みやこいでて けふみかの原 いづみ川 川風寒し 衣かせ山 みやこいてて けふみかのはら いつみかは かはかせさむし ころもかせやま | 読人知らず | 九 | 羇旅歌 |
409 | ほのぼのと 明石の浦の 朝霧に 島隠れ行く 舟をしぞ思ふ ほのほのと あかしのうらの あさきりに しまかくれゆく ふねをしそおもふ | 読人知らず | 九 | 羇旅歌 |
410 | 唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ からころも きつつなれにし つましあれは はるはるきぬる たひをしそおもふ | 在原業平 | 九 | 羇旅歌 |
411 | 名にしおはば いざ言問はむ みやこ鳥 我が思ふ人は ありやなしやと なにしおはは いさこととはむ みやことり わかおもふひとは ありやなしやと | 在原業平 | 九 | 羇旅歌 |
412 | 北へ行く 雁ぞ鳴くなる つれてこし 数はたらでぞ かへるべらなる きたへゆく かりそなくなる つれてこし かすはたらてそ かへるへらなる | 読人知らず | 九 | 羇旅歌 |
413 | 山かくす 春の霞ぞ うらめしき いづれみやこの さかひなるらむ やまかくす はるのかすみそ うらめしき いつれみやこの さかひなるらむ | 乙 | 九 | 羇旅歌 |
414 | 消えはつる 時しなければ 越路なる 白山の名は 雪にぞありける きえはつる ときしなけれは こしちなる しらやまのなは ゆきにそありける | 凡河内躬恒 | 九 | 羇旅歌 |
415 | 糸による ものならなくに 別れぢの 心細くも 思ほゆるかな いとによる ものならなくに わかれちの こころほそくも おもほゆるかな | 紀貫之 | 九 | 羇旅歌 |
416 | 夜を寒み 置く初霜を はらひつつ 草の枕に あまた旅寝ぬ よをさむみ おくはつしもを はらひつつ くさのまくらに あまたたひねぬ | 凡河内躬恒 | 九 | 羇旅歌 |
417 | 夕月夜 おぼつかなきを 玉くしげ ふたみのうらは あけてこそ見め ゆふつくよ おほつかなきを たまくしけ ふたみのうらは あけてこそみめ | 藤原兼輔 | 九 | 羇旅歌 |
418 | かりくらし 七夕つめに 宿からむ 天の河原に 我はきにけり かりくらし たなはたつめに やとからむ あまのかはらに われはきにけり | 在原業平 | 九 | 羇旅歌 |
419 | ひととせに ひとたびきます 君まてば 宿かす人も あらじとぞ思ふ ひととせに ひとたひきます きみまては やとかすひとも あらしとそおもふ | 紀有常 | 九 | 羇旅歌 |
420 | このたびは ぬさもとりあへず たむけ山 紅葉の錦 神のまにまに このたひは ぬさもとりあへす たむけやま もみちのにしき かみのまにまに #百人一首 | 菅原朝臣 | 九 | 羇旅歌 |
421 | たむけには つづりの袖も 切るべきに 紅葉にあける 神やかへさむ たむけには つつりのそても きるへきに もみちにあける かみやかへさむ | 素性法師 | 九 | 羇旅歌 |
422 | 心から 花のしづくに そほちつつ うくひすとのみ 鳥の鳴くらむ こころから はなのしつくに そほちつつ うくひすとのみ とりのなくらむ | 藤原敏行 | 十 | 物名 |
423 | くべきほど 時すぎぬれや 待ちわびて 鳴くなる声の 人をとよむる くへきほと ときすきぬれや まちわひて なくなるこゑの ひとをとよむる | 藤原敏行 | 十 | 物名 |
424 | 浪の打つ 瀬見れば玉ぞ 乱れける 拾はば袖に はかなからむや なみのうつ せみれはたまそ みたれける ひろははそてに はかなからむや | 在原滋春 | 十 | 物名 |
425 | 袂より はなれて玉を つつまめや これなむそれと うつせ見むかし たもとより はなれてたまを つつまめや これなむそれと うつせみむかし | 壬生忠岑 | 十 | 物名 |
426 | あなうめに つねなるべくも 見えぬかな 恋しかるべき 香は匂ひつつ あなうめに つねなるへくも みえぬかな こひしかるへき かはにほひつつ | 読人知らず | 十 | 物名 |
427 | かづけども 浪のなかには さぐられで 風吹くごとに 浮き沈む玉 かつけとも なみのなかには さくられて かせふくことに うきしつむたま | 紀貫之 | 十 | 物名 |
428 | 今いくか 春しなければ うぐひすも ものはながめて 思ふべらなり いまいくか はるしなけれは うくひすも ものはなかめて おもふへらなり | 紀貫之 | 十 | 物名 |
429 | あふからも ものはなほこそ かなしけれ 別れむことを かねて思へば あふからも ものはなほこそ かなしけれ わかれむことを かねておもへは | 清原深養父 | 十 | 物名 |
430 | あしひきの 山たちはなれ 行く雲の 宿りさだめぬ 世にこそありけれ あしひきの やまたちはなれ ゆくくもの やとりさためぬ よにこそありけれ | 小野滋蔭 | 十 | 物名 |
431 | み吉野の 吉野の滝に 浮かびいづる 泡をかたまの 消ゆと見つらむ みよしのの よしののたきに うかひいつる あわをかたまの きゆとみつらむ | 紀友則 | 十 | 物名 |
432 | 秋はきぬ いまやまがきの きりぎりす 夜な夜な鳴かむ 風の寒さに あきはきぬ いまやまかきの きりきりす よなよななかむ かせのさむさに | 読人知らず | 十 | 物名 |
433 | かくばかり あふ日のまれに なる人を いかがつらしと 思はざるべき かくはかり あふひのまれに なるひとを いかかつらしと おもはさるへき | 読人知らず | 十 | 物名 |
434 | 人目ゆゑ のちにあふ日の はるけくは 我がつらきにや 思ひなされむ ひとめゆゑ のちにあふひの はるけくは わかつらきにや おもひなされむ | 読人知らず | 十 | 物名 |
435 | 散りぬれば のちはあくたに なる花を 思ひ知らずも 惑ふてふかな ちりぬれは のちはあくたに なるはなを おもひしらすも まとふてふかな | 僧正遍照 | 十 | 物名 |
436 | 我はけさ うひにぞ見つる 花の色を あだなるものと 言ふべかりけり われはけさ うひにそみつる はなのいろを あたなるものと いふへかりけり | 紀貫之 | 十 | 物名 |
437 | 白露を 玉にぬくとや ささがにの 花にも葉にも いとをみなへし しらつゆを たまにぬくやと ささかにの はなにもはにも いとをみなへし | 紀友則 | 十 | 物名 |
438 | 朝露を わけそほちつつ 花見むと 今ぞ野山を みなへしりぬる あさつゆを わけそほちつつ はなみむと いまそのやまを みなへしりぬる | 紀友則 | 十 | 物名 |
439 | をぐら山 峰たちならし 鳴く鹿の へにけむ秋を 知る人ぞなき をくらやま みねたちならし なくしかの へにけむあきを しるひとそなき | 紀貫之 | 十 | 物名 |
440 | 秋ちかう 野はなりにけり 白露の おける草葉も 色かはりゆく あきちかう のはなりにけり しらつゆの おけるくさはも いろかはりゆく | 紀友則 | 十 | 物名 |
441 | ふりはへて いざふるさとの 花見むと こしを匂ひぞ うつろひにける ふりはへて いさふるさとの はなみむと こしをにほひそ うつろひにける | 読人知らず | 十 | 物名 |
442 | 我が宿の 花ふみしだく とりうたむ 野はなければや ここにしもくる わかやとの はなふみしたく とりうたむ のはなけれはや ここにしもくる | 紀友則 | 十 | 物名 |
443 | ありと見て たのむぞかたき 空蝉の 世をばなしとや 思ひなしてむ ありとみて たのむそかたき うつせみの よをはなしとや おもひなしてむ | 読人知らず | 十 | 物名 |
444 | うちつけに こしとや花の 色を見む 置く白露の 染むるばかりを うちつけに こしとやはなの いろをみむ おくしらつゆの そむるはかりを | 矢田部名実 | 十 | 物名 |
445 | 花の木に あらざらめども 咲きにけり ふりにしこの身 なる時もがな はなのきに あらさらめとも さきにけり ふりにしこのみ なるときもかな | 文屋康秀 | 十 | 物名 |
446 | 山高み つねに嵐の 吹く里は 匂ひもあへず 花ぞ散りける やまたかみ つねにあらしの ふくさとは にほひもあへす はなそちりける | 紀利貞 | 十 | 物名 |
447 | 郭公 峰の雲にや まじりにし ありとは聞けど 見るよしもなき ほとときす みねのくもにや ましりにし ありとはきけと みるよしもなき | 平篤行 | 十 | 物名 |
448 | 空蝉の 殻は木ごとに とどむれど 魂のゆくへを 見ぬぞかなしき うつせみの からはきことに ととむれと たまのゆくへを みぬそかなしき | 読人知らず | 十 | 物名 |
449 | うばたまの 夢になにかは なぐさまむ うつつにだにも あかぬ心を うはたまの ゆめになにかは なくさまむ うつつにたにも あかぬこころは | 清原深養父 | 十 | 物名 |
450 | 花の色は ただひとさかり 濃けれども 返す返すぞ 露は染めける はなのいろは たたひとさかり こけれとも かへすかへすそ つゆはそめける | 高向利春 | 十 | 物名 |
451 | 命とて 露をたのむに かたければ ものわびしらに 鳴く野辺の虫 いのちとて つゆをたのむに かたけれは ものわひしらに なくのへのむし | 在原滋春 | 十 | 物名 |
452 | 小夜ふけて なかばたけゆく 久方の 月吹きかへせ 秋の山風 さよふけて なかはたけゆく ひさかたの つきふきかへせ あきのやまかせ | 景式王 | 十 | 物名 |
453 | 煙たち もゆとも見えぬ 草の葉を 誰かわらびと 名づけそめけむ けふりたち もゆともみえぬ くさのはを たれかわらひと なつけそめけむ | 真静法師 | 十 | 物名 |
454 | いささめに 時まつまにぞ 日はへぬる 心ばせをば 人に見えつつ いささめに ときまつまにそ ひはへぬる こころはせをは ひとにみえつつ | 紀乳母 | 十 | 物名 |
455 | あぢきなし なげきなつめそ うきことに あひくる身をば 捨てぬものから あちきなし なけきなつめそ うきことに あひくるみをは すてぬものから | 兵衛 | 十 | 物名 |
456 | 浪の音の 今朝からことに 聞こゆるは 春のしらべや あらたまるらむ なみのおとの けさからことに きこゆるは はるのしらへや あらたまるらむ | 安倍清行 | 十 | 物名 |
457 | かぢにあたる 浪のしづくを 春なれば いかが咲き散る 花と見ざらむ かちにあたる なみのしつくを はるなれは いかかさきちる はなとみさらむ | 兼覧王 | 十 | 物名 |
458 | かの方に いつから先に わたりけむ 浪ぢはあとも 残らざりけり かのかたに いつからさきに わたりけむ なみちはあとも のこらさりけり | 阿保経覧 | 十 | 物名 |
459 | 浪の花 沖から咲きて 散りくめり 水の春とは 風やなるらむ なみのはな おきからさきて ちりくめり みつのはるとは かせやなるらむ | 伊勢 | 十 | 物名 |
460 | うばたまの 我が黒髪や かはるらむ 鏡のかげに 降れる白雪 うはたまの わかくろかみや かはるらむ かかみのかけに ふれるしらゆき | 紀貫之 | 十 | 物名 |
461 | あしひきの 山辺にをれば 白雲の いかにせよとか 晴るる時なき あしひきの やまへにをれは しらくもの いかにせよとか はるるときなき | 紀貫之 | 十 | 物名 |
462 | 夏草の 上はしげれる 沼水の 行く方のなき 我が心かな なつくさの うへはしけれる ぬまみつの ゆくかたのなき わかこころかな | 壬生忠岑 | 十 | 物名 |
463 | 秋くれば 月の桂の 実やはなる 光を花と 散らすばかりを あきくれは つきのかつらの みやはなる ひかりをはなと ちらすはかりを | 源恵 | 十 | 物名 |
464 | 花ごとに あかず散らしし 風なれば いくそばく我が 憂しとかは思ふ はなことに あかすちらしし かせなれは いくそはくわか うしとかはおもふ | 読人知らず | 十 | 物名 |
465 | 春霞 なかしかよひぢ なかりせば 秋くる雁は かへらざらまし はるかすみ なかしかよひち なかりせは あきくるかりは かへらさらまし | 在原滋春 | 十 | 物名 |
466 | 流れいづる 方だに見えぬ 涙川 おきひむ時や 底は知られむ なかれいつる かたたにみえぬ なみたかは おきひむときや そこはしられむ | 都良香 | 十 | 物名 |
467 | のちまきの おくれておふる 苗なれど あだにはならぬ たのみとぞ聞く のちまきの おくれておふる なへなれと あたにはならぬ たのみとそきく | 大江千里 | 十 | 物名 |
468 | 花の中 目にあくやとて わけゆけば 心ぞともに 散りぬべらなる はなのなか めにあくやとて わけゆけは こころそともに ちりぬへらなる | 僧正聖宝 | 十 | 物名 |
469 | 郭公 鳴くや五月の あやめ草 あやめも知らぬ 恋もするかな ほとときす なくやさつきの あやめくさ あやめもしらぬ こひもするかな | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
470 | 音にのみ きくの白露 夜はおきて 昼は思ひに あへずけぬべし おとにのみ きくのしらつゆ よるはおきて ひるはおもひに あへすけぬへし | 素性法師 | 十一 | 恋歌一 |
471 | 吉野川 岩波高く 行く水の 早くぞ人を 思ひそめてし よしのかは いはなみたかく ゆくみつの はやくそひとを おもひそめてし | 紀貫之 | 十一 | 恋歌一 |
472 | 白浪の あとなき方に 行く舟も 風ぞたよりの しるべなりける しらなみの あとなきかたに ゆくふねも かせそたよりの しるへなりける | 藤原勝臣 | 十一 | 恋歌一 |
473 | 音羽山 音に聞きつつ あふ坂の 関のこなたに 年をふるかな おとはやま おとにききつつ あふさかの せきのこなたに としをふるかな | 在原元方 | 十一 | 恋歌一 |
474 | 立ち返り あはれとぞ思ふ よそにても 人に心を 沖つ白浪 たちかへり あはれとそおもふ よそにても ひとにこころを おきつしらなみ | 在原元方 | 十一 | 恋歌一 |
475 | 世の中は かくこそありけれ 吹く風の 目に見ぬ人も 恋しかりけり よのなかは かくこそありけれ ふくかせの めにみぬひとも こひしかりけり | 紀貫之 | 十一 | 恋歌一 |
476 | 見ずもあらず 見もせぬ人の 恋しくは あやなく今日や ながめくらさむ みすもあらす みもせぬひとの こひしくは あやなくけふや なかめくらさむ | 在原業平 | 十一 | 恋歌一 |
477 | 知る知らぬ なにかあやなく わきて言はむ 思ひのみこそ しるべなりけれ しるしらぬ なにかあやなく わきていはむ おもひのみこそ しるへなりけれ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
478 | 春日野の 雪間をわけて おひいでくる 草のはつかに 見えし君はも かすかのの ゆきまをわけて おひいてくる くさのはつかに みえしきみはも | 壬生忠岑 | 十一 | 恋歌一 |
479 | 山桜 霞の間より ほのかにも 見てし人こそ 恋しかりけれ やまさくら かすみのまより ほのかにも みてしひとこそ こひしかりけれ | 紀貫之 | 十一 | 恋歌一 |
480 | たよりにも あらぬ思ひの あやしきは 心を人に つくるなりけり たよりにも あらぬおもひの あやしきは こころをひとに つくるなりけり | 在原元方 | 十一 | 恋歌一 |
481 | 初雁の はつかに声を 聞きしより 中空にのみ 物を思ふかな はつかりの はつかにこゑを ききしより なかそらにのみ ものをおもふかな | 凡河内躬恒 | 十一 | 恋歌一 |
482 | あふことは 雲ゐはるかに なる神の 音に聞きつつ 恋ひ渡るかな あふことは くもゐはるかに なるかみの おとにききつつ こひわたるかな | 紀貫之 | 十一 | 恋歌一 |
483 | 片糸を こなたかなたに よりかけて あはずはなにを 玉の緒にせむ かたいとを こなたかなたに よりかけて あはすはなにを たまのをにせむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
484 | 夕暮れは 雲のはたてに 物ぞ思ふ 天つ空なる 人を恋ふとて ゆふくれは くものはたてに ものそおもふ あまつそらなる ひとをこふとて | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
485 | かりこもの 思ひ乱れて 我が恋ふと 妹知るらめや 人しつげずは かりこもの おもひみたれて わかこふと いもしるらめや ひとしつけすは | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
486 | つれもなき 人をやねたく 白露の 置くとはなげき 寝とはしのばむ つれもなき ひとをやねたく しらつゆの おくとはなけき ぬとはしのはむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
487 | ちはやぶる 賀茂のやしろの ゆふだすき ひと日も君を かけぬ日はなし ちはやふる かものやしろの ゆふたすき ひとひもきみを かけぬひはなし | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
488 | 我が恋は むなしき空に 満ちぬらし 思ひやれども 行く方もなし わかこひは むなしきそらに みちぬらし おもひやれとも ゆくかたもなし | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
489 | 駿河なる 田子の浦浪 立たぬ日は あれども君を 恋ひぬ日ぞなき するかなる たこのうらなみ たたぬひは あれともきみを こひぬひはなし | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
490 | 夕月夜 さすやをかべの 松の葉の いつともわかぬ 恋もするかな ゆふつくよ さすやをかへの まつのはの いつともわかぬ こひもするかな | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
491 | あしひきの 山下水の 木隠れて たぎつ心を せきぞかねつる あしひきの やましたみつの こかくれて たきつこころを せきそかねつる | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
492 | 吉野川 岩切りとほし 行く水の 音にはたてじ 恋は死ぬとも よしのかは いはきりとほし ゆくみつの おとにはたてし こひはしぬとも | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
493 | たぎつ瀬の なかにも淀は ありてふを など我が恋の 淵瀬ともなき たきつせの なかにもよとは ありてふを なとわかこひの ふちせともなき | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
494 | 山高み 下ゆく水の 下にのみ 流れて恋ひむ 恋は死ぬとも やまたかみ したゆくみつの したにのみ なかれてこひむ こひはしぬとも | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
495 | 思ひいづる ときはの山の 岩つつじ 言はねばこそあれ 恋しきものを おもひいつる ときはのやまの いはつつし いはねはこそあれ こひしきものを | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
496 | 人知れず 思へば苦し 紅の 末摘花の 色にいでなむ ひとしれす おもへはくるし くれなゐの すゑつむはなの いろにいてなむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
497 | 秋の野の 尾花にまじり 咲く花の 色にや恋ひむ あふよしをなみ あきののの をはなにましり さくはなの いろにやこひむ あふよしをなみ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
498 | 我が園の 梅のほつえに うぐひすの 音に鳴きぬべき 恋もするかな わかそのの うめのほつえに うくひすの ねになきぬへき こひもするかな | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
499 | あしひきの 山郭公 我がごとや 君に恋ひつつ いねがてにする あしひきの やまほとときす わかことや きみにこひつつ いねかてにする | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
500 | 夏なれば 宿にふすぶる かやり火の いつまで我が身 下もえをせむ なつなれは やとにふすふる かやりひの いつまてわかみ したもえにせむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
501 | 恋せじと みたらし川に せしみそぎ 神はうけずぞ なりにけらしも こひせしと みたらしかはに せしみそき かみはうけすそ なりにけらしも | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
502 | あはれてふ ことだになくは なにをかは 恋の乱れの つかねをにせむ あはれてふ ことたになくは なにをかは こひのみたれの つかねをにせむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
503 | 思ふには 忍ぶることぞ 負けにける 色にはいでじと 思ひしものを おもふには しのふることそ まけにける いろにはいてしと おもひしものを | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
504 | 我が恋を 人知るらめや しきたへの 枕のみこそ 知らば知るらめ わかこひを ひとしるらめや しきたへの まくらのみこそ しらはしるらめ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
505 | あさぢふの 小野のしの原 しのぶとも 人知るらめや 言ふ人なしに あさちふの をののしのはら しのふとも ひとしるらめや いふひとなしに | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
506 | 人知れぬ 思ひやなぞと 葦垣の まぢかけれども あふよしのなき ひとしれぬ おもひやなそと あしかきの まちかけれとも あふよしのなき | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
507 | 思ふとも 恋ふともあはむ ものなれや ゆふてもたゆく とくる下紐 おもふとも こふともあはむ ものなれや ゆふてもたゆく とくるしたひも | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
508 | いで我を 人なとがめそ おほ舟の ゆたのたゆたに 物思ふころぞ いてわれを ひとなとかめそ おほふねの ゆたのたゆたに ものおもふころそ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
509 | 伊勢の海に 釣りする海人の うけなれや 心ひとつを 定めかねつる いせのうみに つりするあまの うけなれや こころひとつを ささめかねつる | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
510 | 伊勢の海の 海人の釣り縄 うちはへて くるしとのみや 思ひわたらむ いせのうみの あまのつりなは うちはへて くるしとのみや おもひわたらむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
511 | 涙川 なに水上を 尋ねけむ 物思ふ時の 我が身なりけり なみたかは なにみなかみを たつねけむ ものおもふときの わかみなりけり | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
512 | 種しあれば 岩にも松は おひにけり 恋をし恋ひば あはざらめやは たねしあれは いはにもまつは おひにけり こひをしこひは あはさらめやは | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
513 | 朝な朝な 立つ河霧の 空にのみ うきて思ひの ある世なりけり あさなあさな たつかはきりの そらにのみ うきておもひの あるよなりけり | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
514 | 忘らるる 時しなければ あしたづの 思ひ乱れて 音をのみぞ鳴く わすらるる ときしなけれは あしたつの おもひみたれて ねをのみそなく | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
515 | 唐衣 日も夕暮れに なる時は 返す返すぞ 人は恋しき からころも ひもゆふくれに なるときは かへすかへすそ ひとはこひしき | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
516 | よひよひに 枕さだめむ 方もなし いかに寝し夜か 夢に見えけむ よひよひに まくらさためむ かたもなし いかにねしよか ゆめにみえけむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
517 | 恋しきに 命をかふる ものならば 死にはやすくぞ あるべかりける こひしきに いのちをかふる ものならは しにはやすくそ あるへかりける | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
518 | 人の身も ならはしものを あはずして いざこころみむ 恋ひや死ぬると ひとのみも ならはしものを あはすして いさこころみむ こひやしぬると | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
519 | 忍ぶれば 苦しきものを 人知れず 思ふてふこと 誰にかたらむ しのふれは くるしきものを ひとしれす おもふてふこと たれにかたらむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
520 | こむ世にも はやなりななむ 目の前に つれなき人を 昔と思はむ こむよにも はやなりななむ めのまへに つれなきひとを むかしとおもはむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
521 | つれもなき 人を恋ふとて 山彦の 答へするまで なげきつるかな つれもなき ひとをこふとて やまひこの こたへするまて なけきつるかな | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
522 | 行く水に 数かくよりも はかなきは 思はぬ人を 思ふなりけり ゆくみつに かすかくよりも はかなきは おもはぬひとを おもふなりけり | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
523 | 人を思ふ 心は我に あらねばや 身の惑ふだに 知られざるらむ ひとをおもふ こころはわれに あらねはや みのまよふたに しられさるらむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
524 | 思ひやる さかひはるかに なりやする 惑ふ夢ぢに あふ人のなき おもひやる さかひはるかに なりやする まとふゆめちに あふひとのなき | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
525 | 夢の内に あひ見むことを たのみつつ くらせる宵は 寝む方もなし ゆめのうちに あひみむことを たのみつつ くらせるよひは ねむかたもなし | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
526 | 恋ひ死ねと するわざならし むばたまの 夜はすがらに 夢に見えつつ こひしねと するわさならし うはたまの よるはすからに ゆめにみえつつ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
527 | 涙川 枕流るる うきねには 夢もさだかに 見えずぞありける なみたかは まくらなかるる うきねには ゆめもさたかに みえすそありける | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
528 | 恋すれば 我が身は影と なりにけり さりとて人に そはぬものゆゑ こひすれは わかみはかけと なりにけり さりとてひとに そはぬものゆゑ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
529 | かがり火に あらぬ我が身の なぞもかく 涙の川に 浮きてもゆらむ かかりひに あらぬわかみの なそもかく なみたのかはに うきてもゆらむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
530 | かがり火の 影となる身の わびしきは ながれて下に もゆるなりけり かかりひの かけとなるみの わひしきは なかれてしたに もゆるなりけり | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
531 | はやき瀬に みるめおひせば 我が袖の 涙の川に 植ゑましものを はやきせに みるめおひせは わかそての なみたのかはに うゑましものを | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
532 | 沖へにも よらぬ玉藻の 浪の上に 乱れてのみや 恋ひ渡りなむ おきへにも よらぬたまもの なみのうへに みたれてのみや こひわたりなむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
533 | 葦鴨の 騒ぐ入江の 白浪の 知らずや人を かく恋ひむとは あしかもの さわくいりえの しらなみの しらすやひとを かくこひむとは | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
534 | 人知れぬ 思ひをつねに するがなる 富士の山こそ 我が身なりけれ ひとしれぬ おもひをつねに するかなる ふしのやまこそ わかみなりけれ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
535 | とぶ鳥の 声も聞こえぬ 奥山の 深き心を 人は知らなむ とふとりの こゑもきこえぬ おくやまの ふかきこころを ひとはしらなむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
536 | あふ坂の ゆふつけ鳥も 我がごとく 人や恋しき 音のみ鳴くらむ あふさかの ゆふつけとりも わかことく ひとやこひしき ねのみなくらむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
537 | あふ坂の 関に流るる 岩清水 言はで心に 思ひこそすれ あふさかの せきになかるる いはしみつ いはてこころに おもひこそすれ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
538 | 浮草の 上はしげれる 淵なれや 深き心を 知る人のなき うきくさの うへはしけれる ふちなれや ふかきこころを しるひとのなき | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
539 | うちわびて よばはむ声に 山彦の 答へぬ山は あらじとぞ思ふ うちわひて よははむこゑに やまひこの こたへぬやまは あらしとそおもふ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
540 | 心がへ するものにもが 片恋は 苦しきものと 人に知らせむ こころかへ するものにもか かたこひは くるしきものと ひとにしらせむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
541 | よそにして 恋ふれば苦し 入れ紐の 同じ心に いざ結びてむ よそにして こふれはくるし いれひもの おなしこころに いさむすひてむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
542 | 春たてば 消ゆる氷の 残りなく 君が心は 我にとけなむ はるたては きゆるこほりの のこりなく きみかこころは われにとけなむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
543 | 明けたてば 蝉のをりはへ なきくらし 夜は蛍の もえこそわたれ あけたては せみのをりはへ なきくらし よるはほたるの もえこそわたれ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
544 | 夏虫の 身をいたづらに なすことも ひとつ思ひに よりてなりけり なつむしの みをいたつらに なすことも ひとつおもひに よりてなりけり | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
545 | 夕されば いとどひがたき 我が袖に 秋の露さへ 置きそはりつつ ゆふくれは いととひかたき わかそてに あきのつゆさへ おきそはりつつ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
546 | いつとても 恋しからずは あらねども 秋の夕べは あやしかりけり いつとても こひしからすは あらねとも あきのゆふへは あやしかりけり | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
547 | 秋の田の 穂にこそ人を 恋ひざらめ などか心に 忘れしもせむ あきのたの ほにこそひとを こひさらめ なとかこころに わすれしもせむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
548 | 秋の田の 穂の上を照らす 稲妻の 光の間にも 我や忘るる あきのたの ほのうへをてらす いなつまの ひかりのまにも われやわするる | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
549 | 人目もる 我かはあやな 花薄 などか穂にいでて 恋ひずしもあらむ ひとめもる われかはあやな はなすすき なとかほにいてて こひすしもあらむ | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
550 | 淡雪の たまればかてに くだけつつ 我が物思ひの しげきころかな あはゆきの たまれはかてに くたけつつ わかものおもひの しけきころかな | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
551 | 奥山の 菅の根しのぎ 降る雪の けぬとか言はむ 恋のしげきに おくやまの すかのねしのき ふるゆきの けぬとかいはむ こひのしけきに | 読人知らず | 十一 | 恋歌一 |
552 | 思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを おもひつつ ぬれはやひとの みえつらむ ゆめとしりせは さめさらましを | 小野小町 | 十二 | 恋歌二 |
553 | うたたねに 恋しき人を 見てしより 夢てふものは たのみそめてき うたたねに こひしきひとを みてしより ゆめてふものは たのみそめてき | 小野小町 | 十二 | 恋歌二 |
554 | いとせめて 恋しき時は むばたまの 夜の衣を 返してぞきる いとせめて こひしきときは うはたまの よるのころもを かへしてそきる | 小野小町 | 十二 | 恋歌二 |
555 | 秋風の 身に寒ければ つれもなき 人をぞたのむ 暮るる夜ごとに あきかせの みにさむけれは つれもなき ひとをそたのむ くるるよことに | 素性法師 | 十二 | 恋歌二 |
556 | つつめども 袖にたまらぬ 白玉は 人を見ぬ目の 涙なりけり つつめとも そてにたまらぬ しらたまは ひとをみぬめの なみたなりけり | 安倍清行 | 十二 | 恋歌二 |
557 | おろかなる 涙ぞ袖に 玉はなす 我はせきあへず たぎつ瀬なれば おろかなる なみたそそてに たまはなす われはせきあへす たきつせなれは | 小野小町 | 十二 | 恋歌二 |
558 | 恋わびて うちぬるなかに 行きかよふ 夢のただぢは うつつならなむ こひわひて うちぬるなかに ゆきかよふ ゆめのたたちは うつつならなむ | 藤原敏行 | 十二 | 恋歌二 |
559 | 住の江の 岸による浪 よるさへや 夢のかよひぢ 人目よぐらむ すみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひち ひとめよくらむ #百人一首 | 藤原敏行 | 十二 | 恋歌二 |
560 | 我が恋は み山隠れの 草なれや しげさまされど 知る人のなき わかこひは みやまかくれの くさなれや しけさまされと しるひとのなき | 小野美材 | 十二 | 恋歌二 |
561 | 宵の間も はかなく見ゆる 夏虫に 惑ひまされる 恋もするかな よひのまも はかなくみゆる なつむしに まよひまされる こひもするかな | 紀友則 | 十二 | 恋歌二 |
562 | 夕されば 蛍よりけに もゆれども 光見ねばや 人のつれなき ゆふされは ほたるよりけに もゆれとも ひかりみねはや ひとのつれなき | 紀友則 | 十二 | 恋歌二 |
563 | 笹の葉に 置く霜よりも ひとり寝る 我が衣手ぞ さえまさりける ささのはに おくしもよりも ひとりぬる わかころもてそ さえまさりける | 紀友則 | 十二 | 恋歌二 |
564 | 我が宿の 菊の垣根に 置く霜の 消えかへりてぞ 恋しかりける わかやとの きくのかきねに おくしもの きえかへりてそ こひしかりける | 紀友則 | 十二 | 恋歌二 |
565 | 川の瀬に なびく玉藻の み隠れて 人に知られぬ 恋もするかな かはのせに なひくたまもの みかくれて ひとにしられぬ こひもするかな | 紀友則 | 十二 | 恋歌二 |
566 | かきくらし 降る白雪の 下ぎえに 消えて物思ふ ころにもあるかな かきくらし ふるしらゆきの したきえに きえてものおもふ ころにもあるかな | 壬生忠岑 | 十二 | 恋歌二 |
567 | 君恋ふる 涙の床に 満ちぬれば みをつくしとぞ 我はなりぬる きみこふる なみたのとこに みちぬれは みをつくしとそ われはなりぬる | 藤原興風 | 十二 | 恋歌二 |
568 | 死ぬる命 生きもやすると こころみに 玉の緒ばかり あはむと言はなむ しぬるいのち いきもやすると こころみに たまのをはかり あはむといはなむ | 藤原興風 | 十二 | 恋歌二 |
569 | わびぬれば しひて忘れむと 思へども 夢と言ふものぞ 人だのめなる わひぬれは しひてわすれむと おもへとも ゆめといふものそ ひとたのめなる | 藤原興風 | 十二 | 恋歌二 |
570 | わりなくも 寝ても覚めても 恋しきか 心をいづち やらば忘れむ わりなくも ねてもさめても こひしきか こころをいつち やらはわすれむ | 読人知らず | 十二 | 恋歌二 |
571 | 恋しきに わびてたましひ 惑ひなば むなしき殻の 名にや残らむ こひしきに わひてたましひ まよひなは むなしきからの なにやのこらむ | 読人知らず | 十二 | 恋歌二 |
572 | 君恋ふる 涙しなくは 唐衣 胸のあたりは 色もえなまし きみこふる なみたしなくは からころも むねのあたりは いろもえなまし | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
573 | 世とともに 流れてぞ行く 涙川 冬もこほらぬ みなわなりけり よとともに なかれてそゆく なみたかは ふゆもこほらぬ みなわなりけり | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
574 | 夢ぢにも 露や置くらむ 夜もすがら かよへる袖の ひちてかわかぬ ゆめちにも つゆやおくらむ よもすから かよへるそての ひちてかわかぬ | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
575 | はかなくて 夢にも人を 見つる夜は あしたの床ぞ 起きうかりける はかなくて ゆめにもひとを みつるよは あしたのとこそ おきうかりける | 素性法師 | 十二 | 恋歌二 |
576 | いつはりの 涙なりせば 唐衣 しのびに袖は しぼらざらまし いつはりの なみたなりせは からころも しのひにそては しほらさらまし | 藤原忠房 | 十二 | 恋歌二 |
577 | ねになきて ひちにしかども 春雨に 濡れにし袖と とはば答へむ ねになきて ひちにしかとも はるさめに ぬれにしそてと とははこたへむ | 大江千里 | 十二 | 恋歌二 |
578 | 我がごとく ものやかなしき 郭公 時ぞともなく 夜ただ鳴くらむ わかことく ものやかなしき ほとときす ときそともなく よたたなくらむ | 藤原敏行 | 十二 | 恋歌二 |
579 | 五月山 梢を高み 郭公 鳴く音空なる 恋もするかな さつきやま こすゑをたかみ ほとときす なくねそらなる こひもするかな | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
580 | 秋霧の 晴るる時なき 心には たちゐの空も 思ほえなくに あききりの はるるときなき こころには たちゐのそらも おもほえなくに | 凡河内躬恒 | 十二 | 恋歌二 |
581 | 虫のごと 声にたてては なかねども 涙のみこそ 下に流るれ むしのこと こゑにたてては なかねとも なみたのみこそ したになかるれ | 清原深養父 | 十二 | 恋歌二 |
582 | 秋なれば 山とよむまで 鳴く鹿に 我おとらめや ひとり寝る夜は あきなれは やまとよむまて なくしかに われおとらめや ひとりぬるよは | 読人知らず | 十二 | 恋歌二 |
583 | 秋の野に 乱れて咲ける 花の色の ちぐさに物を 思ふころかな あきののに みたれてさける はなのいろの ちくさにものを おもふころかな | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
584 | ひとりして 物を思へば 秋の夜の 稲葉のそよと 言ふ人のなき ひとりして ものをおもへは あきのよの いなはのそよと いふひとのなき | 凡河内躬恒 | 十二 | 恋歌二 |
585 | 人を思ふ 心は雁に あらねども 雲ゐにのみも なき渡るかな ひとをおもふ こころはかりに あらねとも くもゐにのみも なきわたるかな | 清原深養父 | 十二 | 恋歌二 |
586 | 秋風に かきなす琴の 声にさへ はかなく人の 恋しかるらむ あきかせに かきなすことの こゑにさへ はかなくひとの こひしかるらむ | 壬生忠岑 | 十二 | 恋歌二 |
587 | まこも刈る 淀の沢水 雨降れば 常よりことに まさる我が恋 まこもかる よとのさはみつ あめふれは つねよりことに まさるわかこひ | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
588 | 越えぬ間は 吉野の山の 桜花 人づてにのみ 聞き渡るかな こえぬまは よしののやまの さくらはな ひとつてにのみ ききわたるかな | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
589 | 露ならぬ 心を花に 置きそめて 風吹くごとに 物思ひぞつく つゆならぬ こころをはなに おきそめて かせふくことに ものおもひそつく | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
590 | 我が恋に くらぶの山の 桜花 間なく散るとも 数はまさらじ わかこひに くらふのやまの さくらはな まなくちるとも かすはまさらし | 坂上是則 | 十二 | 恋歌二 |
591 | 冬川の 上はこほれる 我なれや 下に流れて 恋ひ渡るらむ ふゆかはの うへはこほれる われなれや したになかれて こひわたるらむ | 宗岳大頼 | 十二 | 恋歌二 |
592 | たぎつ瀬に 根ざしとどめぬ 浮草の 浮きたる恋も 我はするかな たきつせに ねさしととめぬ うきくさの うきたるこひも われはするかな | 壬生忠岑 | 十二 | 恋歌二 |
593 | よひよひに 脱ぎて我が寝る かり衣 かけて思はぬ 時の間もなし よひよひに ぬきてわかぬる かりころも かけておもはぬ ときのまもなし | 紀友則 | 十二 | 恋歌二 |
594 | 東ぢの 小夜の中山 なかなかに なにしか人を 思ひそめけむ あつまちの さやのなかやま なかなかに なにしかひとを おもひそめけむ | 紀友則 | 十二 | 恋歌二 |
595 | しきたへの 枕の下に 海はあれど 人をみるめは おひずぞありける しきたへの まくらのしたに うみはあれと ひとをみるめは おひすそありける | 紀友則 | 十二 | 恋歌二 |
596 | 年をへて 消えぬ思ひは ありながら 夜の袂は なほこほりけり としをへて きえぬおもひは ありなから よるのたもとは なほこほりけり | 紀友則 | 十二 | 恋歌二 |
597 | 我が恋は 知らぬ山ぢに あらなくに 惑ふ心ぞ わびしかりける わかこひは しらぬやまちに あらなくに まよふこころそ わひしかりける | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
598 | 紅の ふりいでつつ なく涙には 袂のみこそ 色まさりけれ くれなゐの ふりいてつつなく なみたには たもとのみこそ いろまさりけれ | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
599 | 白玉と 見えし涙も 年ふれば 唐紅に うつろひにけり しらたまと みえしなみたも としふれは からくれなゐに うつろひにけり | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
600 | 夏虫を 何か言ひけむ 心から 我も思ひに もえぬべらなり なつむしを なにかいひけむ こころから われもおもひに もえぬへらなり | 凡河内躬恒 | 十二 | 恋歌二 |
601 | 風吹けば 峰にわかるる 白雲の 絶えてつれなき 君が心か かせふけは みねにわかるる しらくもの たえてつれなき きみかこころか | 壬生忠岑 | 十二 | 恋歌二 |
602 | 月影に 我が身をかふる ものならば つれなき人も あはれとや見む つきかけに わかみをかふる ものならは つれなきひとも あはれとやみむ | 壬生忠岑 | 十二 | 恋歌二 |
603 | 恋ひ死なば たが名はたたじ 世の中の 常なきものと 言ひはなすとも こひしなは たかなはたたし よのなかの つねなきものと いひはなすとも | 清原深養父 | 十二 | 恋歌二 |
604 | 津の国の 難波の葦の 芽もはるに しげき我が恋 人知るらめや つのくにの なにはのあしの めもはるに しけきわかこひ ひとしるらめや | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
605 | 手もふれで 月日へにける 白真弓 おきふし夜は いこそ寝られね てもふれて つきひへにける しらまゆみ おきふしよるは いこそねられね | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
606 | 人知れぬ 思ひのみこそ わびしけれ 我がなげきをば 我のみぞ知る ひとしれぬ おもひのみこそ わひしけれ わかなけきをは われのみそしる | 紀貫之 | 十二 | 恋歌二 |
607 | ことにいでて 言はぬばかりぞ みなせ川 下にかよひて 恋しきものを ことにいてて いはぬはかりそ みなせかは したにかよひて こひしきものを | 紀友則 | 十二 | 恋歌二 |
608 | 君をのみ 思ひねに寝し 夢なれば 我が心から 見つるなりけり きみをのみ おもひねにねし ゆめなれは わかこころから みつるなりけり | 凡河内躬恒 | 十二 | 恋歌二 |
609 | 命にも まさりて惜しく あるものは 見はてぬ夢の さむるなりけり いのちにも まさりてをしく あるものは みはてぬゆめの さむるなりけり | 壬生忠岑 | 十二 | 恋歌二 |
610 | 梓弓 ひけば本末 我が方に よるこそまされ 恋の心は あつさゆみ ひけはもとすゑ わかかたに よるこそまされ こひのこころは | 春道列樹 | 十二 | 恋歌二 |
611 | 我が恋は ゆくへも知らず はてもなし あふをかぎりと 思ふばかりぞ わかこひは ゆくへもしらす はてもなし あふをかきりと おもふはかりそ | 凡河内躬恒 | 十二 | 恋歌二 |
612 | 我のみぞ かなしかりける 彦星も あはですぐせる 年しなければ われのみそ かなしかりける ひこほしも あはてすくせる とししなけれは | 凡河内躬恒 | 十二 | 恋歌二 |
613 | 今ははや 恋ひ死なましを あひ見むと たのめしことぞ 命なりける いまははや こひしなましを あひみむと たのめしことそ いのちなりける | 清原深養父 | 十二 | 恋歌二 |
614 | たのめつつ あはで年ふる いつはりに こりぬ心を 人は知らなむ たのめつつ あはてとしふる いつはりに こりぬこころを ひとはしらなむ | 凡河内躬恒 | 十二 | 恋歌二 |
615 | 命やは なにぞは露の あだものを あふにしかへば 惜しからなくに いのちやは なにそはつゆの あたものを あふにしかへは をしからなくに | 紀友則 | 十二 | 恋歌二 |
616 | 起きもせず 寝もせで夜を 明かしては 春のものとて ながめくらしつ おきもせす ねもせてよるを あかしては はるのものとて なかめくらしつ | 在原業平 | 十三 | 恋歌三 |
617 | つれづれの ながめにまさる 涙川 袖のみ濡れて あふよしもなし つれつれの なかめにまさる なみたかは そてのみぬれて あふよしもなし | 藤原敏行 | 十三 | 恋歌三 |
618 | 浅みこそ 袖はひつらめ 涙川 身さへ流ると 聞かばたのまむ あさみこそ そてはひつらめ なみたかは みさへなかると きかはたのまむ | 在原業平 | 十三 | 恋歌三 |
619 | よるべなみ 身をこそ遠く へだてつれ 心は君が 影となりにき よるへなみ みをこそとほく へたてつれ こころはきみか かけとなりにき | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
620 | いたづらに 行きてはきぬる ものゆゑに 見まくほしさに いざなはれつつ いたつらに ゆきてはきぬる ものゆゑに みまくほしさに いさなはれつつ | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
621 | あはぬ夜の 降る白雪と つもりなば 我さへともに けぬべきものを あはぬよの ふるしらゆきと つもりなは われさへともに けぬへきものを | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
622 | 秋の野に 笹わけし朝の 袖よりも あはでこし夜ぞ ひちまさりける あきののに ささわけしあさの そてよりも あはてこしよそ ひちまさりける | 在原業平 | 十三 | 恋歌三 |
623 | みるめなき 我が身を浦と 知らねばや かれなで海人の 足たゆくくる みるめなき わかみをうらと しらねはや かれなてあまの あしたゆくくる | 小野小町 | 十三 | 恋歌三 |
624 | あはずして 今宵明けなば 春の日の 長くや人を つらしと思はむ あはすして こよひあけなは はるのひの なかくやひとを つらしとおもはむ | 源宗于 | 十三 | 恋歌三 |
625 | 有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきはかり うきものはなし #百人一首 | 壬生忠岑 | 十三 | 恋歌三 |
626 | あふことの なぎさにしよる 浪なれば うらみてのみぞ 立ち返りける あふことの なきさにしよる なみなれは うらみてのみそ たちかへりける | 在原元方 | 十三 | 恋歌三 |
627 | かねてより 風に先立つ 浪なれや あふことなきに まだき立つらむ かねてより かせにさきたつ なみなれや あふことなきに またきたつらむ | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
628 | 陸奥に ありと言ふなる 名取川 なき名とりては くるしかりけり みちのくに ありといふなる なとりかは なきなとりては くるしかりけり | 壬生忠岑 | 十三 | 恋歌三 |
629 | あやなくて まだきなき名の 竜田川 渡らでやまむ ものならなくに あやなくて またきなきなの たつたかは わたらてやまむ ものならなくに | 御春有輔 | 十三 | 恋歌三 |
630 | 人はいさ 我はなき名の 惜しければ 昔も今も 知らずとを言はむ ひとはいさ われはなきなの をしけれは むかしもいまも しらすとをいはむ | 在原元方 | 十三 | 恋歌三 |
631 | こりずまに またもなき名は 立ちぬべし 人にくからぬ 世にしすまへば こりすまに またもなきなは たちぬへし ひとにくからぬ よにしすまへは | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
632 | 人知れぬ 我がかよひぢの 関守は よひよひごとに うちも寝ななむ ひとしれぬ わかかよひちの せきもりは よひよひことに うちもねななむ | 在原業平 | 十三 | 恋歌三 |
633 | しのぶれど 恋しき時は あしひきの 山より月の いでてこそくれ しのふれと こひしきときは あしひきの やまよりつきの いててこそくれ | 紀貫之 | 十三 | 恋歌三 |
634 | 恋ひ恋ひて まれに今宵ぞ あふ坂の ゆふつけ鳥は 鳴かずもあらなむ こひこひて まれにこよひそ あふさかの ゆふつけとりは なかすもあらなむ | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
635 | 秋の夜も 名のみなりけり あふと言へば ことぞともなく 明けぬるものを あきのよも なのみなりけり あふといへは ことそともなく あけぬるものを | 小野小町 | 十三 | 恋歌三 |
636 | 長しとも 思ひぞはてぬ 昔より あふ人からの 秋の夜なれば なかしとも おもひそはてぬ むかしより あふひとからの あきのよなれは | 凡河内躬恒 | 十三 | 恋歌三 |
637 | しののめの ほがらほがらと 明けゆけば おのがきぬぎぬ なるぞかなしき しののめの ほからほからと あけゆけは おのかきぬきぬ なるそかなしき | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
638 | 明けぬとて いまはの心 つくからに など言ひ知らぬ 思ひそふらむ あけぬとて いまはのこころ つくからに なといひしらぬ おもひそふらむ | 藤原国経 | 十三 | 恋歌三 |
639 | 明けぬとて かへる道には こきたれて 雨も涙も 降りそほちつつ あけぬとて かへるみちには こきたれて あめもなみたも ふりそほちつつ | 藤原敏行 | 十三 | 恋歌三 |
640 | しののめの 別れを惜しみ 我ぞまづ 鳥より先に なきはじめつる しののめの わかれををしみ われそまつ とりよりさきに なきはしめつる | 寵 | 十三 | 恋歌三 |
641 | 郭公 夢かうつつか 朝露の おきて別れし 暁の声 ほとときす ゆめかうつつか あさつゆの おきてわかれし あかつきのこゑ | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
642 | 玉くしげ あけば君が名 立ちぬべみ 夜深くこしを 人見けむかも たまくしけ あけはきみかな たちぬへみ よふかくこしを ひとみけむかも | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
643 | 今朝はしも おきけむ方も 知らざりつ 思ひいづるぞ 消えてかなしき けさはしも おきけむかたも しらさりつ おもひいつるそ きえてかなしき | 大江千里 | 十三 | 恋歌三 |
644 | 寝ぬる夜の 夢をはかなみ まどろめば いやはかなにも なりまさるかな ねぬるよの ゆめをはかなみ まとろめは いやはかなにも なりまさるかな | 在原業平 | 十三 | 恋歌三 |
645 | 君やこし 我や行きけむ 思ほえず 夢かうつつか 寝てかさめてか きみやこし われやゆきけむ おもほえす ゆめかうつつか ねてかさめてか | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
646 | かきくらす 心の闇に 惑ひにき 夢うつつとは 世人さだめよ かきくらす こころのやみに まよひにき ゆめうつつとは よひとさためよ | 在原業平 | 十三 | 恋歌三 |
647 | むばたまの 闇のうつつは さだかなる 夢にいくらも まさらざりけり うはたまの やみのうつつは さたかなる ゆめにいくらも まさらさりけり | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
648 | 小夜ふけて 天の門渡る 月影に あかずも君を あひ見つるかな さよふけて あまのとわたる つきかけに あかすもきみを あひみつるかな | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
649 | 君が名も 我が名も立てじ 難波なる みつとも言ふな あひきとも言はじ きみかなも わかなもたてし なにはなる みつともいふな あひきともいはし | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
650 | 名取川 瀬ぜのむもれ木 あらはれば いかにせむとか あひ見そめけむ なとりかは せせのうもれき あらはれは いかにせむとか あひみそめけむ | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
651 | 吉野川 水の心は はやくとも 滝の音には 立てじとぞ思ふ よしのかは みつのこころは はやくとも たきのおとには たてしとそおもふ | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
652 | 恋しくは したにを思へ 紫の ねずりの衣 色にいづなゆめ こひしくは したにをおもへ むらさきの ねすりのころも いろにいつなゆめ | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
653 | 花薄 穂にいでて恋ひば 名を惜しみ 下ゆふ紐の むすぼほれつつ はなすすき ほにいててこひは なををしみ したゆふひもの むすほほれつつ | 小野春風 | 十三 | 恋歌三 |
654 | おもふどち ひとりひとりが 恋ひ死なば 誰によそへて 藤衣着む おもふとち ひとりひとりか こひしなは たれによそへて ふちころもきむ | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
655 | 泣き恋ふる 涙に袖の そほちなば 脱ぎかへがてら 夜こそはきめ なきこふる なみたにそての そほちなは ぬきかへかてら よるこそはきめ | 橘清樹 | 十三 | 恋歌三 |
656 | うつつには さもこそあらめ 夢にさへ 人目をもると 見るがわびしさ うつつには さもこそあらめ ゆめにさへ ひとめをよくと みるかわひしさ | 小野小町 | 十三 | 恋歌三 |
657 | かぎりなき 思ひのままに 夜も来む 夢ぢをさへに 人はとがめじ かきりなき おもひのままに よるもこむ ゆめちをさへに ひとはとかめし | 小野小町 | 十三 | 恋歌三 |
658 | 夢ぢには 足も休めず かよへども うつつにひと目 見しごとはあらず ゆめちには あしもやすめす かよへとも うつつにひとめ みしことはあらす | 小野小町 | 十三 | 恋歌三 |
659 | 思へども 人目つつみの 高ければ 川と見ながら えこそ渡らね おもへとも ひとめつつみの たかけれは かはとみなから えこそわたらね | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
660 | たぎつ瀬の はやき心を 何しかも 人目つつみの せきとどむらむ たきつせの はやきこころを なにしかも ひとめつつみの せきととむらむ | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
661 | 紅の 色にはいでじ 隠れ沼の 下にかよひて 恋は死ぬとも くれなゐの いろにはいてし かくれぬの したにかよひて こひはしぬとも | 紀友則 | 十三 | 恋歌三 |
662 | 冬の池に すむにほ鳥の つれもなく そこにかよふと 人に知らすな ふゆのいけに すむにほとりの つれもなく そこにかよふと ひとにしらすな | 凡河内躬恒 | 十三 | 恋歌三 |
663 | 笹の葉に 置く初霜の 夜を寒み しみはつくとも 色にいでめや ささのはに おくはつしもの よをさむみ しみはつくとも いろにいてめや | 凡河内躬恒 | 十三 | 恋歌三 |
664 | 山しなの 音羽の山の 音にだに 人の知るべく 我が恋めかも やましなの おとはのやまの おとにたに ひとのしるへく わかこひめかも | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
665 | みつ潮の 流れひるまを あひがたみ みるめのうらに よるをこそ待て みつしほの なかれひるまを あひかたみ みるめのうらに よるをこそまて | 清原深養父 | 十三 | 恋歌三 |
666 | 白川の 知らずともいはじ 底清み 流れて世よに すまむと思へば しらかはの しらすともいはし そこきよみ なかれてよよに すまむとおもへは | 平貞文 | 十三 | 恋歌三 |
667 | 下にのみ 恋ふれば苦し 玉の緒の 絶えて乱れむ 人なとがめそ したにのみ こふれはくるし たまのをの たえてみたれむ ひとなとかめそ | 紀友則 | 十三 | 恋歌三 |
668 | 我が恋を しのびかねては あしひきの 山橘の 色にいでぬべし わかこひを しのひかねては あしひきの やまたちはなの いろにいてぬへし | 紀友則 | 十三 | 恋歌三 |
669 | おほかたは 我が名もみなと こぎいでなむ 世をうみべたに みるめすくなし おほかたは わかなもみなと こきいてなむ よをうみへたに みるめすくなし | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
670 | 枕より また知る人も なき恋を 涙せきあへず もらしつるかな まくらより またしるひとも なきこひを なみたせきあへす もらしつるかな | 平貞文 | 十三 | 恋歌三 |
671 | 風吹けば 浪うつ岸の 松なれや ねにあらはれて 泣きぬべらなり かせふけは なみうつきしの まつなれや ねにあらはれて なきぬへらなり | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
672 | 池にすむ 名ををし鳥の 水を浅み かくるとすれど あらはれにけり いけにすむ なををしとりの みつをあさみ かくるとすれと あらはれにけり | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
673 | あふことは 玉の緒ばかり 名の立つは 吉野の川の たぎつ瀬のごと あふことは たまのをはかり なのたつは よしののかはの たきつせのこと | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
674 | むら鳥の 立ちにし我が名 いまさらに ことなしぶとも しるしあらめや むらとりの たちにしわかな いまさらに ことなしむとも しるしあらめや | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
675 | 君により 我が名は花に 春霞 野にも山にも 立ち満ちにけり きみにより わかなははなに はるかすみ のにもやまにも たちみちにけり | 読人知らず | 十三 | 恋歌三 |
676 | 知ると言へば 枕だにせで 寝しものを 塵ならぬ名の 空に立つらむ しるといへは まくらたにせて ねしものを ちりならぬなの そらにたつらむ | 伊勢 | 十三 | 恋歌三 |
677 | 陸奥の 安積の沼の 花かつみ かつ見る人に 恋ひや渡らむ みちのくの あさかのぬまの はなかつみ かつみるひとに こひやわたらむ | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
678 | あひ見ずは 恋しきことも なからまし 音にぞ人を 聞くべかりける あひみすは こひしきことも なからまし おとにそひとを きくへかりける | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
679 | いそのかみ ふるのなか道 なかなかに 見ずは恋しと 思はましやは いそのかみ ふるのなかみち なかなかに みすはこひしと おもはましやは | 紀貫之 | 十四 | 恋歌四 |
680 | 君と言へば 見まれ見ずまれ 富士の嶺の めづらしげなく もゆる我が恋 きみてへは みまれみすまれ ふしのねの めつらしけなく もゆるわかこひ | 藤原忠行 | 十四 | 恋歌四 |
681 | 夢にだに 見ゆとは見えじ 朝な朝な 我が面影に はづる身なれば ゆめにたに みゆとはみえし あさなあさな わかおもかけに はつるみなれは | 伊勢 | 十四 | 恋歌四 |
682 | 石間ゆく 水の白浪 立ち返り かくこそは見め あかずもあるかな いしまゆく みつのしらなみ たちかへり かくこそはみめ あかすもあるかな | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
683 | 伊勢の海人の 朝な夕なに かづくてふ みるめに人を あくよしもがな いせのあまの あさなゆふなに かつくてふ みるめにひとを あくよしもかな | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
684 | 春霞 たなびく山の 桜花 見れどもあかぬ 君にもあるかな はるかすみ たなひくやまの さくらはな みれともあかぬ きみにもあるかな | 紀友則 | 十四 | 恋歌四 |
685 | 心をぞ わりなきものと 思ひぬる 見るものからや 恋しかるべき こころをそ わりなきものと おもひぬる みるものからや こひしかるへき | 清原深養父 | 十四 | 恋歌四 |
686 | 枯れはてむ のちをば知らで 夏草の 深くも人の 思ほゆるかな かれはてむ のちをはしらて なつくさの ふかくもひとの おもほゆるかな | 凡河内躬恒 | 十四 | 恋歌四 |
687 | 飛鳥川 淵は瀬になる 世なりとも 思ひそめてむ 人は忘れじ あすかかは ふちはせになる よなりとも おもひそめてむ ひとはわすれし | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
688 | 思ふてふ 言の葉のみや 秋をへて 色もかはらぬ ものにはあるらむ おもふてふ ことのはのみや あきをへて いろもかはらぬ ものにはあるらむ | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
689 | さむしろに 衣かたしき 今宵もや 我を待つらむ 宇治の橋姫 さむしろに ころもかたしき こよひもや われをまつらむ うちのはしひめ | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
690 | 君やこむ 我やゆかむの いさよひに 真木の板戸も ささず寝にけり きみやこむ われやゆかむの いさよひに まきのいたとも ささすねにけり | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
691 | 今こむと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ちいでつるかな いまこむと いひしはかりに なかつきの ありあけのつきを まちいてつるかな #百人一首 | 素性法師 | 十四 | 恋歌四 |
692 | 月夜よし 夜よしと人に つげやらば こてふににたり 待たずしもあらず つきよよし よよしとひとに つけやらは こてふににたり またすしもあらす | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
693 | 君こずは ねやへもいらじ 濃紫 我がもとゆひに 霜は置くとも きみこすは ねやへもいらし こむらさき わかもとゆひに しもはおくとも | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
694 | 宮城野の もとあらの小萩 露を重み 風を待つごと 君をこそ待て みやきのの もとあらのこはき つゆをおもみ かせをまつこと きみをこそまて | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
695 | あな恋し 今も見てしか 山がつの かきほにさける 大和撫子 あなこひし いまもみてしか やまかつの かきほにさける やまとなてしこ | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
696 | 津の国の なには思はず 山しろの とはにあひ見む ことをのみこそ つのくにの なにはおもはす やましろの とはにあひみむ ことをのみこそ | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
697 | 敷島や 大和にはあらぬ 唐衣 ころもへずして あふよしもがな しきしまや やまとにはあらぬ からころも ころもへすして あふよしもかな | 紀貫之 | 十四 | 恋歌四 |
698 | 恋しとは たが名づけけむ ことならむ 死ぬとぞただに 言ふべかりける こひしとは たかなつけけむ ことならむ しぬとそたたに いふへかりける | 清原深養父 | 十四 | 恋歌四 |
699 | み吉野の 大川のべの 藤波の なみに思はば 我が恋めやは みよしのの おほかはのへの ふちなみの なみにおもはは わかこひめやは | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
700 | かく恋ひむ ものとは我も 思ひにき 心のうらぞ まさしかりける かくこひむ ものとはわれも おもひにき こころのうらそ まさしかりける | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
701 | 天の原 ふみとどろかし なる神も 思ふなかをば さくるものかは あまのはら ふみととろかし なるかみも おもふなかをは さくるものかは | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
702 | 梓弓 ひき野のつづら 末つひに 我が思ふ人に ことのしげけむ あつさゆみ ひきののつつら すゑつひに わかおもふひとに ことのしけけむ | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
703 | 夏引きの 手引きの糸を くりかへし ことしげくとも 絶えむと思ふな なつひきの てひきのいとを くりかへし こしとけくとも たえむとおもふな | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
704 | 里人の ことは夏野の しげくとも 枯れ行く君に あはざらめやは さとひとの ことはなつのの しけくとも かれゆくきみに あはさらめやは | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
705 | かずかずに 思ひ思はず とひがたみ 身を知る雨は 降りぞまされる かすかすに おもひおもはす とひかたみ みをしるあめは ふりそまされる | 在原業平 | 十四 | 恋歌四 |
706 | おほぬさの ひくてあまたに なりぬれば 思へどえこそ たのまざりけれ おほぬさの ひくてあまたに なりぬれは おもへとえこそ たのまさりけれ | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
707 | おほぬさと 名にこそたてれ 流れても つひによる瀬は ありてふものを おほぬさと なにこそたてれ なかれても つひによるせは ありてふものを | 在原業平 | 十四 | 恋歌四 |
708 | 須磨の海人の 塩やく煙 風をいたみ 思はぬ方に たなびきにけり すまのあまの しほやくけふり かせをいたみ おもはぬかたに たなひきにけり | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
709 | 玉かづら はふ木あまたに なりぬれば 絶えぬ心の うれしげもなし たまかつら はふきあまたに なりぬれは たえぬこころの うれしけもなし | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
710 | たが里に 夜がれをしてか 郭公 ただここにしも 寝たる声する たかさとに よかれをしてか ほとときす たたここにしも ねたるこゑする | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
711 | いで人は ことのみぞよき 月草の うつし心は 色ことにして いてひとは ことのみそよき つきくさの うつしこころは いろことにして | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
712 | いつはりの なき世なりせば いかばかり 人の言の葉 うれしからまし いつはりの なきよなりせは いかはかり ひとのことのは うれしからまし | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
713 | いつはりと 思ふものから 今さらに たがまことをか 我はたのまむ いつはりと おもふものから いまさらに たかまことをか われはたのまむ | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
714 | 秋風に 山の木の葉の うつろへば 人の心も いかがとぞ思ふ あきかせに やまのこのはの うつろへは ひとのこころも いかかとそおもふ | 素性法師 | 十四 | 恋歌四 |
715 | 蝉の声 聞けばかなしな 夏衣 薄くや人の ならむと思へば せみのこゑ きけはかなしな なつころも うすくやひとの ならむとおもへは | 紀友則 | 十四 | 恋歌四 |
716 | 空蝉の 世の人ごとの しげければ 忘れぬものの かれぬべらなり うつせみの よのひとことの しけけれは わすれぬものの かれぬへらなり | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
717 | あかでこそ 思はむなかは 離れなめ そをだにのちの 忘れ形見に あかてこそ おもはむなかは はなれなめ そをたにのちの わすれかたみに | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
718 | 忘れなむと 思ふ心の つくからに ありしよりけに まづぞ恋しき わすれなむと おもふこころの つくからに ありしよりけに まつそこひしき | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
719 | 忘れなむ 我をうらむな 郭公 人の秋には あはむともせず わすれなむ われをうらむな ほとときす ひとのあきには あはむともせす | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
720 | 絶えずゆく 飛鳥の川の よどみなば 心あるとや 人の思はむ たえすゆく あすかのかはの よとみなは こころあるとや ひとのおもはむ | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
721 | 淀川の よどむと人は 見るらめど 流れて深き 心あるものを よとかはの よとむとひとは みるらめと なかれてふかき こころあるものを | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
722 | そこひなき 淵やは騒ぐ 山川の 浅き瀬にこそ あだ浪はたて そこひなき ふちやはさわく やまかはの あさきせにこそ あたなみはたて | 素性法師 | 十四 | 恋歌四 |
723 | 紅の 初花染めの 色深く 思ひし心 我忘れめや くれなゐの はつはなそめの いろふかく おもひしこころ われわすれめや | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
724 | 陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れむと思ふ 我ならなくに みちのくの しのふもちすり たれゆゑに みたれむとおもふ われならなくに #百人一首 | 河原左大臣 | 十四 | 恋歌四 |
725 | 思ふより いかにせよとか 秋風に なびくあさぢの 色ことになる おもふより いかにせよとか あきかせに なひくあさちの いろことになる | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
726 | ちぢの色に うつろふらめど 知らなくに 心し秋の もみぢならねば ちちのいろに うつろふらめと しらなくに こころしあきの もみちならねは | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
727 | 海人の住む 里のしるべに あらなくに うらみむとのみ 人の言ふらむ あまのすむ さとのしるへに あらなくに うらみむとのみ ひとのいふらむ | 小野小町 | 十四 | 恋歌四 |
728 | 曇り日の 影としなれる 我なれば 目にこそ見えね 身をば離れず くもりひの かけとしなれる われなれは めにこそみえね みをははなれす | 下野雄宗 | 十四 | 恋歌四 |
729 | 色もなき 心を人に 染めしより うつろはむとは 思ほえなくに いろもなき こころをひとに そめしより うつろはむとは おもほえなくに | 紀貫之 | 十四 | 恋歌四 |
730 | めづらしき 人を見むとや しかもせぬ 我が下紐の とけ渡るらむ めつらしき ひとをみむとや しかもせぬ わかしたひもの とけわたるらむ | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
731 | かげろふの それかあらぬか 春雨の 降る日となれば 袖ぞ濡れぬる かけろふの それかあらぬか はるさめの ふるひとなれは そてそぬれぬる | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
732 | 堀江こぐ 棚なし小舟 こぎかへり 同じ人にや 恋ひ渡りなむ ほりえこく たななしをふね こきかへり おなしひとにや こひわたりなむ | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
733 | わたつみと 荒れにし床を 今さらに はらはば袖や 泡と浮きなむ わたつみと あれにしとこを いまさらに はらははそてや あわとうきなむ | 伊勢 | 十四 | 恋歌四 |
734 | いにしへに なほ立ち返る 心かな 恋しきことに もの忘れせで いにしへに なほたちかへる こころかな こひしきことに ものわすれせて | 紀貫之 | 十四 | 恋歌四 |
735 | 思ひいでて 恋しき時は 初雁の なきて渡ると 人知るらめや おもひいてて こひしきときは はつかりの なきてわたると ひとしるらめや | 大友黒主 | 十四 | 恋歌四 |
736 | たのめこし 言の葉今は かへしてむ 我が身ふるれば 置きどころなし たのめこし ことのはいまは かへしてむ わかみふるれは おきところなし | 藤原因香 | 十四 | 恋歌四 |
737 | 今はとて かへす言の葉 拾ひおきて おのがものから 形見とや見む いまはとて かへすことのは ひろひおきて おのかものから かたみとやみむ | 近院右大臣 | 十四 | 恋歌四 |
738 | 玉ぼこの 道はつねにも 惑はなむ 人をとふとも 我かと思はむ たまほこの みちはつねにも まとはなむ ひとをとふとも われかとおもはむ | 藤原因香 | 十四 | 恋歌四 |
739 | 待てと言はば 寝てもゆかなむ しひて行く 駒のあし折れ 前の棚橋 まてといはは ねてもゆかなむ しひてゆく こまのあしをれ まへのたなはし | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
740 | あふ坂の ゆふつけ鳥に あらばこそ 君がゆききを なくなくも見め あふさかの ゆふつけとりに あらはこそ きみかゆききを なくなくもみめ | 閑院 | 十四 | 恋歌四 |
741 | ふるさとに あらぬものから 我がために 人の心の 荒れて見ゆらむ ふるさとに あらぬものから わかために ひとのこころの あれてみゆらむ | 伊勢 | 十四 | 恋歌四 |
742 | 山がつの かきほにはへる あをつづら 人はくれども ことづてもなし やまかつの かきほにはへる あをつつら ひとはくれとも ことつてもなし | 寵 | 十四 | 恋歌四 |
743 | 大空は 恋しき人の 形見かは 物思ふごとに ながめらるらむ おほそらは こひしきひとの かたみかは ものおもふことに なかめらるらむ | 酒井人真 | 十四 | 恋歌四 |
744 | あふまでの 形見も我は 何せむに 見ても心の なぐさまなくに あふまての かたみもわれは なにせむに みてもこころの なくさまなくに | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
745 | あふまでの 形見とてこそ とどめけめ 涙に浮ぶ 藻屑なりけり あふまての かたみとてこそ ととめけめ なみたにうかふ もくつなりけり | 藤原興風 | 十四 | 恋歌四 |
746 | 形見こそ 今はあたなれ これなくは 忘るる時も あらましものを かたみこそ いまはあたなれ これなくは わするるときも あらましものを | 読人知らず | 十四 | 恋歌四 |
747 | 月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ 我が身ひとつは もとの身にして つきやあらぬ はるやむかしの はるならぬ わかみひとつは もとのみにして | 在原業平 | 十五 | 恋歌五 |
748 | 花薄 我こそ下に 思ひしか 穂にいでて人に 結ばれにけり はなすすき われこそしたに おもひしか ほにいててひとに むすはれにけり | 藤原仲平 | 十五 | 恋歌五 |
749 | よそにのみ 聞かましものを 音羽川 渡るとなしに 見なれそめけむ よそにのみ きかましものを おとはかは わたるとなしに みなれそめけむ | 藤原兼輔 | 十五 | 恋歌五 |
750 | 我がごとく 我を思はむ 人もがな さてもや憂きと 世をこころみむ わかことく われをおもはむ ひともかな さてもやうきと よをこころみむ | 凡河内躬恒 | 十五 | 恋歌五 |
751 | 久方の 天つ空にも すまなくに 人はよそにぞ 思ふべらなる ひさかたの あまつそらにも すまなくに ひとはよそにそ おもふへらなる | 在原元方 | 十五 | 恋歌五 |
752 | 見てもまた またも見まくの ほしければ なるるを人は いとふべらなり みてもまた またもみまくの ほしけれは なるるをひとは いとふへらなり | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
753 | 雲もなく なぎたる朝の 我なれや いとはれてのみ 世をばへぬらむ くももなく なきたるあさの われなれや いとはれてのみ よをはへぬらむ | 紀友則 | 十五 | 恋歌五 |
754 | 花がたみ 目ならぶ人の あまたあれば 忘られぬらむ 数ならぬ身は はなかたみ めならふひとの あまたあれは わすられぬらむ かすならぬみは | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
755 | うきめのみ おひて流るる 浦なれば かりにのみこそ 海人は寄るらめ うきめのみ おひてなかるる うらなれは かりにのみこそ あまはよるらめ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
756 | あひにあひて 物思ふころの 我が袖に 宿る月さへ 濡るるかほなる あひにあひて ものおもふころの わかそてに やとるつきさへ ぬるるかほなる | 伊勢 | 十五 | 恋歌五 |
757 | 秋ならで 置く白露は 寝ざめする 我が手枕の しづくなりけり あきならて おくしらつゆは ねさめする わかたまくらの しつくなりけり | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
758 | 須磨の海人の 塩やき衣 をさをあらみ まどほにあれや 君がきまさぬ すまのあまの しほやきころも をさをあらみ まとほにあれや きみかきまさぬ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
759 | 山しろの 淀のわかごも かりにだに 来ぬ人たのむ 我ぞはかなき やましろの よとのわかこも かりにたに こぬひとたのむ われそはかなき | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
760 | あひ見ねば 恋こそまされ みなせ川 何に深めて 思ひそめけむ あひみねは こひこそまされ みなせかは なににふかめて おもひそめけむ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
761 | 暁の しぎの羽がき ももはがき 君が来ぬ夜は 我ぞ数かく あかつきの しきのはねかき ももはかき きみかこぬよは われそかすかく | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
762 | 玉かづら 今は絶ゆとや 吹く風の 音にも人の 聞こえざるらむ たまかつら いまはたゆとや ふくかせの おとにもひとの きこえさるらむ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
763 | 我が袖に まだき時雨の 降りぬるは 君が心に 秋や来ぬらむ わかそてに またきしくれの ふりぬるは きみかこころに あきやきぬらむ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
764 | 山の井の 浅き心も 思はぬに 影ばかりのみ 人の見ゆらむ やまのゐの あさきこころも おもはぬに かけはかりのみ ひとのみゆらむ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
765 | 忘れ草 種とらましを あふことの いとかくかたき ものと知りせば わすれくさ たねとらましを あふことの いとかくかたき ものとしりせは | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
766 | 恋ふれども あふ夜のなきは 忘れ草 夢ぢにさへや おひしげるらむ こふれとも あふよのなきは わすれくさ ゆめちにさへや おひしけるらむ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
767 | 夢にだに あふことかたく なりゆくは 我やいを寝ぬ 人や忘るる ゆめにたに あふことかたく なりゆくは われやいをねぬ ひとやわするる | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
768 | もろこしも 夢に見しかば 近かりき 思はぬなかぞ はるけかりける もろこしも ゆめにみしかは ちかかりき おもはぬなかそ はるけかりける | 兼芸法師 | 十五 | 恋歌五 |
769 | ひとりのみ ながめふるやの つまなれば 人をしのぶの 草ぞおひける ひとりのみ なかめふるやの つまなれは ひとをしのふの くさそおひける | 貞登 | 十五 | 恋歌五 |
770 | 我が宿は 道もなきまで 荒れにけり つれなき人を 待つとせしまに わかやとは みちもなきまて あれにけり つれなきひとを まつとせしまに | 僧正遍照 | 十五 | 恋歌五 |
771 | 今こむと 言ひて別れし あしたより 思ひくらしの 音をのみぞ鳴く いまこむと いひてわかれし あしたより おもひくらしの ねをのみそなく | 僧正遍照 | 十五 | 恋歌五 |
772 | こめやとは 思ふものから ひぐらしの 鳴く夕暮れは 立ち待たれつつ こめやとは おもふものから ひくらしの なくゆふくれは たちまたれつつ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
773 | 今しはと わびにしものを ささがにの 衣にかかり 我をたのむる いましはと わひにしものを ささかにの ころもにかかり われをたのむる | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
774 | 今はこじと 思ふものから 忘れつつ 待たるることの まだもやまぬか いまはこしと おもふものから わすれつつ またるることの またもやまぬか | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
775 | 月夜には 来ぬ人待たる かきくもり 雨も降らなむ わびつつも寝む つきよには こぬひとまたる かきくもり あめもふらなむ わひつつもねむ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
776 | 植ゑていにし 秋田刈るまで 見え来ねば 今朝初雁の 音にぞなきぬる うゑていにし あきたかるまて みえこねは けさはつかりの ねにそなきぬる | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
777 | 来ぬ人を 待つ夕暮れの 秋風は いかに吹けばか わびしかるらむ こぬひとを まつゆふくれの あきかせは いかにふけはか わひしかるらむ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
778 | 久しくも なりにけるかな 住の江の 松は苦しき ものにぞありける ひさしくも なりにけるかな すみのえの まつはくるしき ものにそありける | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
779 | 住の江の 松ほどひさに なりぬれば あしたづの音に なかぬ日はなし すみのえの まつほとひさに なりぬれは あしたつのねに なかぬひはなし | 兼覧王 | 十五 | 恋歌五 |
780 | 三輪の山 いかに待ち見む 年ふとも たづぬる人も あらじと思へば みわのやま いかにまちみむ としふとも たつぬるひとも あらしとおもへは | 伊勢 | 十五 | 恋歌五 |
781 | 吹きまよふ 野風を寒み 秋萩の うつりもゆくか 人の心の ふきまよふ のかせをさむみ あきはきの うつりもゆくか ひとのこころの | 雲林院親王 | 十五 | 恋歌五 |
782 | 今はとて 我が身時雨に ふりぬれば 言の葉さへに うつろひにけり いまはとて わかみしくれに ふりぬれは ことのはさへに うつろひにけり | 小野小町 | 十五 | 恋歌五 |
783 | 人を思ふ 心の木の葉に あらばこそ 風のまにまに 散りも乱れめ ひとをおもふ こころのこのはに あらはこそ かせのまにまに ちりもみたれめ | 小野貞樹 | 十五 | 恋歌五 |
784 | 天雲の よそにも人の なりゆくか さすがに目には 見ゆるものから あまくもの よそにもひとの なりゆくか さすかにめには みゆるものから | 紀有常女 | 十五 | 恋歌五 |
785 | 行きかへり 空にのみして ふることは 我がゐる山の 風はやみなり ゆきかへり そらにのみして ふることは わかゐるやまの かせはやみなり | 在原業平 | 十五 | 恋歌五 |
786 | 唐衣 なれば身にこそ まつはれめ かけてのみやは 恋ひむと思ひし からころも なれはみにこそ まつはれめ かけてのみやは こひむとおもひし | 景式王 | 十五 | 恋歌五 |
787 | 秋風は 身をわけてしも 吹かなくに 人の心の 空になるらむ あきかせは みをわけてしも ふかなくに ひとのこころの そらになるらむ | 紀友則 | 十五 | 恋歌五 |
788 | つれもなく なりゆく人の 言の葉ぞ 秋より先の もみぢなりける つれもなく なりゆくひとの ことのはそ あきよりさきの もみちなりける | 源宗于 | 十五 | 恋歌五 |
789 | 死出の山 麓を見てぞ かへりにし つらき人より まづ越えじとて してのやま ふもとをみてそ かへりにし つらきひとより まつこえしとて | 兵衛 | 十五 | 恋歌五 |
790 | 時すぎて 枯れゆく小野の あさぢには 今は思ひぞ 絶えずもえける ときすきて かれゆくをのの あさちには いまはおもひそ たえすもえける | 小野小町姉 | 十五 | 恋歌五 |
791 | 冬枯れの 野辺と我が身を 思ひせば もえても春を 待たましものを ふゆかれの のへとわかみを おもひせは もえてもはるを またましものを | 伊勢 | 十五 | 恋歌五 |
792 | 水の泡の 消えてうき身と 言ひながら 流れてなほも たのまるるかな みつのあわの きえてうきみと いひなから なかれてなほも たのまるるかな | 紀友則 | 十五 | 恋歌五 |
793 | みなせ川 ありて行く水 なくはこそ つひに我が身を 絶えぬと思はめ みなせかは ありてゆくみつ なくはこそ つひにわかみを たえぬとおもはめ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
794 | 吉野川 よしや人こそ つらからめ はやく言ひてし ことは忘れじ よしのかは よしやひとこそ つらからめ はやくいひてし ことはわすれし | 凡河内躬恒 | 十五 | 恋歌五 |
795 | 世の中の 人の心は 花染めの うつろひやすき 色にぞありける よのなかの ひとのこころは はなそめの うつろひやすき いろにそありける | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
796 | 心こそ うたてにくけれ 染めざらば うつろふことも 惜しからましや こころこそ うたてにくけれ そめさらは うつろふことも をしからましや | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
797 | 色見えで うつろふものは 世の中の 人の心の 花にぞありける いろみえて うつろふものは よのなかの ひとのこころの はなにそありける | 小野小町 | 十五 | 恋歌五 |
798 | 我のみや 世をうぐひすと なきわびむ 人の心の 花と散りなば われのみや よをうくひすと なきわひむ ひとのこころの はなとちりなは | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
799 | 思ふとも かれなむ人を いかがせむ あかず散りぬる 花とこそ見め おもふとも かれなむひとを いかかせむ あかすちりぬる はなとこそみめ | 素性法師 | 十五 | 恋歌五 |
800 | 今はとて 君がかれなば 我が宿の 花をばひとり 見てやしのばむ いまはとて きみかかれなは わかやとの はなをはひとり みてやしのはむ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
801 | 忘れ草 枯れもやすると つれもなき 人の心に 霜は置かなむ わすれくさ かれもやすると つれもなき ひとのこころに しもはおかなむ | 源宗于 | 十五 | 恋歌五 |
802 | 忘れ草 何をか種と 思ひしは つれなき人の 心なりけり わすれくさ なにをかたねと おもひしは つれなきひとの こころなりけり | 素性法師 | 十五 | 恋歌五 |
803 | 秋の田の いねてふことも かけなくに 何を憂しとか 人のかるらむ あきのたの いねてふことも かけなくに なにをうしとか ひとのかるらむ | 兼芸法師 | 十五 | 恋歌五 |
804 | 初雁の 鳴きこそ渡れ 世の中の 人の心の 秋し憂ければ はつかりの なきこそわたれ よのなかの ひとのこころの あきしうけれは | 紀貫之 | 十五 | 恋歌五 |
805 | あはれとも 憂しとも物を 思ふ時 などか涙の いとなかるらむ あはれとも うしともものを おもふとき なにかなみたの いとなかるらむ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
806 | 身を憂しと 思ふに消えぬ ものなれば かくてもへぬる 世にこそありけれ みをうしと おもふにきえぬ ものなれは かくてもへぬる よにこそありけれ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
807 | 海人の刈る 藻にすむ虫の 我からと ねをこそなかめ 世をばうらみじ あまのかる もにすむむしの われからと ねをこそなかめ よをはうらみし | 藤原直子 | 十五 | 恋歌五 |
808 | あひ見ぬも 憂きも我が身の 唐衣 思ひ知らずも とくる紐かな あひみぬも うきもわかみの からころも おもひしらすも とくるひもかな | 因幡 | 十五 | 恋歌五 |
809 | つれなきを 今は恋ひじと 思へども 心弱くも 落つる涙か つれなきを いまはこひしと おもへとも こころよわくも おつるなみたか | 菅野忠臣 | 十五 | 恋歌五 |
810 | 人知れず 絶えなましかば わびつつも なき名ぞとだに 言はましものを ひとしれす たえなましかは わひつつも なきなそとたに いはましものを | 伊勢 | 十五 | 恋歌五 |
811 | それをだに 思ふこととて 我が宿を 見きとな言ひそ 人の聞かくに それをたに おもふこととて わかやとを みきとないひそ ひとのきかくに | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
812 | あふことの もはら絶えぬる 時にこそ 人の恋しき ことも知りけれ あふことの もはらたえぬる ときにこそ ひとのこひしき こともしりけれ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
813 | わびはつる 時さへものの かなしきは いづこをしのぶ 涙なるらむ わひはつる ときさへものの かなしきは いつこをしのふ なみたなるらむ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
814 | うらみても 泣きても言はむ 方ぞなき 鏡に見ゆる 影ならずして うらみても なきてもいはむ かたそなき かかみにみゆる かけならすして | 藤原興風 | 十五 | 恋歌五 |
815 | 夕されば 人なき床を うちはらひ なげかむためと なれる我が身か ゆふされは ひとなきとこを うちはらひ なけかむためと なれるわかみか | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
816 | わたつみの 我が身こす浪 立ち返り 海人の住むてふ うらみつるかな わたつみの わかみこすなみ たちかへり あまのすむてふ うらみつるかな | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
817 | あらを田を あらすきかへし かへしても 人の心を 見てこそやまめ あらをたを あらすきかへし かへしても ひとのこころを みてこそやまめ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
818 | ありそ海の 浜の真砂と たのめしは 忘るることの 数にぞありける ありそうみの はまのまさこと たのめしは わするることの かすにそありける | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
819 | 葦辺より 雲ゐをさして 行く雁の いや遠ざかる 我が身かなしも あしへより くもゐをさして ゆくかりの いやとほさかる わかみかなしも | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
820 | 時雨つつ もみづるよりも 言の葉の 心の秋に あふぞわびしき しくれつつ もみつるよりも ことのはの こころのあきに あふそわひしき | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
821 | 秋風の 吹きと吹きぬる 武蔵野は なべて草葉の 色かはりけり あきかせの ふきとふきぬる むさしのは なへてくさはの いろかはりけり | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
822 | 秋風に あふたのみこそ かなしけれ 我が身むなしく なりぬと思へば あきかせに あふたのみこそ かなしけれ わかみむなしく なりぬとおもへは | 小野小町 | 十五 | 恋歌五 |
823 | 秋風の 吹き裏返す くずの葉の うらみてもなほ うらめしきかな あきかせの ふきうらかへす くすのはの うらみてもなほ うらめしきかな | 平貞文 | 十五 | 恋歌五 |
824 | 秋と言へば よそにぞ聞きし あだ人の 我をふるせる 名にこそありけれ あきといへは よそにそききし あたひとの われをふるせる なにこそありけれ | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
825 | 忘らるる 身を宇治橋の なか絶えて 人もかよはぬ 年ぞへにける わすらるる みをうちはしの なかたえて ひともかよはぬ としそへにける | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
826 | あふことを 長柄の橋の ながらへて 恋ひ渡る間に 年ぞへにける あふことを なからのはしの なからへて こひわたるまに としそへにける | 坂上是則 | 十五 | 恋歌五 |
827 | 浮きながら けぬる泡とも なりななむ 流れてとだに たのまれぬ身は うきなから けぬるあわとも なりななむ なかれてとたに たのまれぬみは | 紀友則 | 十五 | 恋歌五 |
828 | 流れては 妹背の山の なかに落つる 吉野の川の よしや世の中 なかれては いもせのやまの なかにおつる よしののかはの よしやよのなか | 読人知らず | 十五 | 恋歌五 |
829 | 泣く涙 雨と降らなむ わたり川 水まさりなば かへりくるがに なくなみた あめとふらなむ わたりかは みつまさりなは かへりくるかに | 小野篁 | 十六 | 哀傷歌 |
830 | 血の涙 落ちてぞたぎつ 白川は 君が世までの 名にこそありけれ ちのなみた おちてそたきつ しらかはは きみかよまての なにこそありけれ | 素性法師 | 十六 | 哀傷歌 |
831 | 空蝉は 殻を見つつも なぐさめつ 深草の山 煙だにたて うつせみは からをみつつも なくさめつ ふかくさのやま けふりたにたて | 僧都勝延 | 十六 | 哀傷歌 |
832 | 深草の 野辺の桜し 心あらば 今年ばかりは 墨染めに咲け ふかくさの のへのさくらし こころあらは ことしはかりは すみそめにさけ | 上野岑雄 | 十六 | 哀傷歌 |
833 | 寝ても見ゆ 寝でも見えけり おほかたは 空蝉の世ぞ 夢にはありける ねてもみゆ ねてもみえけり おほかたは うつせみのよそ ゆめにはありける | 紀友則 | 十六 | 哀傷歌 |
834 | 夢とこそ 言ふべかりけれ 世の中に うつつあるものと 思ひけるかな ゆめとこそ いふへかりけれ よのなかに うつつあるものと おもひけるかな | 紀貫之 | 十六 | 哀傷歌 |
835 | 寝るが内に 見るをのみやは 夢と言はむ はかなき世をも うつつとは見ず ぬるかうちに みるをのみやは ゆめといはむ はかなきよをも うつつとはみす | 壬生忠岑 | 十六 | 哀傷歌 |
836 | 瀬をせけば 淵となりても 淀みけり 別れを止むる しがらみぞなき せをせけは ふちとなりても よとみけり わかれをとむる しからみそなき | 壬生忠岑 | 十六 | 哀傷歌 |
837 | 先立たぬ くいのやちたび かなしきは 流るる水の かへり来ぬなり さきたたぬ くいのやちたひ かなしきは なかるるみつの かへりこぬなり | 閑院 | 十六 | 哀傷歌 |
838 | 明日知らぬ 我が身と思へど 暮れぬ間の 今日は人こそ かなしかりけれ あすしらぬ わかみとおもへと くれぬまの けふはひとこそ かなしかりけれ | 紀貫之 | 十六 | 哀傷歌 |
839 | 時しもあれ 秋やは人の 別るべき あるを見るだに 恋しきものを ときしもあれ あきやはひとの わかるへき あるをみるたに こひしきものを | 壬生忠岑 | 十六 | 哀傷歌 |
840 | 神無月 時雨に濡るる もみぢ葉は ただわび人の 袂なりけり かみなつき しくれにぬるる もみちはは たたわひひとの たもとなりけり | 凡河内躬恒 | 十六 | 哀傷歌 |
841 | 藤衣 はつるる糸は わび人の 涙の玉の 緒とぞなりける ふちころも はつるるいとは わひひとの なみたのたまの をとそなりける | 壬生忠岑 | 十六 | 哀傷歌 |
842 | 朝露の おくての山田 かりそめに うき世の中を 思ひぬるかな あさつゆの おくてのやまた かりそめに うきよのなかを おもひぬるかな | 紀貫之 | 十六 | 哀傷歌 |
843 | 墨染めの 君が袂は 雲なれや 絶えず涙の 雨とのみ降る すみそめの きみかたもとは くもなれや たえすなみたの あめとのみふる | 壬生忠岑 | 十六 | 哀傷歌 |
844 | あしひきの 山辺に今は 墨染めの 衣の袖は ひる時もなし あしひきの やまへにいまは すみそめの ころものそての ひるときもなし | 読人知らず | 十六 | 哀傷歌 |
845 | 水の面に しづく花の色 さやかにも 君が御影の 思ほゆるかな みつのおもに しつくはなのいろ さやかにも きみかみかけの おもほゆるかな | 小野篁 | 十六 | 哀傷歌 |
846 | 草深き 霞の谷に かげ隠し 照る日の暮れし 今日にやはあらぬ くさふかき かすみのたにに かけかくし てるひのくれし けふにやはあらぬ | 文屋康秀 | 十六 | 哀傷歌 |
847 | みな人は 花の衣に なりぬなり 苔の袂よ 乾きだにせよ みなひとは はなのころもに なりぬなり こけのたもとよ かわきたにせよ | 僧正遍照 | 十六 | 哀傷歌 |
848 | うちつけに さびしくもあるか もみぢ葉も 主なき宿は 色なかりけり うちつけに さひしくもあるか もみちはも ぬしなきやとは いろなかりけり | 近院右大臣 | 十六 | 哀傷歌 |
849 | 郭公 今朝鳴く声に おどろけば 君に別れし 時にぞありける ほとときす けさなくこゑに おとろけは きみにわかれし ときにそありける | 紀貫之 | 十六 | 哀傷歌 |
850 | 花よりも 人こそあだに なりにけれ いづれを先に 恋ひむとか見し はなよりも ひとこそあたに なりにけれ いつれをさきに こひむとかみし | 紀茂行 | 十六 | 哀傷歌 |
851 | 色も香も 昔の濃さに 匂へども 植ゑけむ人の 影ぞ恋しき いろもかも むかしのこさに にほへとも うゑけむひとの かけそこひしき | 紀貫之 | 十六 | 哀傷歌 |
852 | 君まさで 煙絶えにし 塩釜の うらさびしくも 見え渡るかな きみまさて けふりたえにし しほかまの うらさひしくも みえわたるかな | 紀貫之 | 十六 | 哀傷歌 |
853 | 君が植ゑし ひとむら薄 虫の音の しげき野辺とも なりにけるかな きみかうゑし ひとむらすすき むしのねの しけきのへとも なりにけるかな | 御春有輔 | 十六 | 哀傷歌 |
854 | ことならば 言の葉さへも 消えななむ 見れば涙の 滝まさりけり ことならは ことのはさへも きえななむ みれはなみたの たきまさりけり | 紀友則 | 十六 | 哀傷歌 |
855 | なき人の 宿にかよはば 郭公 かけて音にのみ なくとつげなむ なきひとの やとにかよはは ほとときす かけてねにのみ なくとつけなむ | 読人知らず | 十六 | 哀傷歌 |
856 | 誰見よと 花咲けるらむ 白雲の たつ野とはやく なりにしものを たれみよと はなさけるらむ しらくもの たつのとはやく なりにしものを | 読人知らず | 十六 | 哀傷歌 |
857 | かずかずに 我を忘れぬ ものならば 山の霞を あはれとは見よ かすかすに われをわすれぬ ものならは やまのかすみを あはれとはみよ | 読人知らず | 十六 | 哀傷歌 |
858 | 声をだに 聞かで別るる たまよりも なき床に寝む 君ぞかなしき こゑをたに きかてわかるる たまよりも なきとこにねむ きみそかなしき | 読人知らず | 十六 | 哀傷歌 |
859 | もみぢ葉を 風にまかせて 見るよりも はかなきものは 命なりけり もみちはを かせにまかせて みるよりも はかなきものは いのちなりけり | 大江千里 | 十六 | 哀傷歌 |
860 | 露をなど あだなるものと 思ひけむ 我が身も草に 置かぬばかりを つゆをなと あたなるものと おもひけむ わかみもくさに おかぬはかりを | 藤原惟幹 | 十六 | 哀傷歌 |
861 | つひにゆく 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは 思はざりしを つひにゆく みちとはかねて ききしかと きのふけふとは おもはさりしを | 在原業平 | 十六 | 哀傷歌 |
862 | かりそめの 行きかひぢとぞ 思ひこし 今はかぎりの 門出なりけり かりそめの ゆきかひちとそ おもひこし いまはかきりの かとてなりけり | 在原滋春 | 十六 | 哀傷歌 |
863 | 我が上に 露ぞ置くなる 天の河 と渡る舟の 櫂のしづくか わかうへに つゆそおくなる あまのかは とわたるふねの かいのしつくか | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
864 | おもふどち まとゐせる夜は 唐錦 たたまく惜しき ものにぞありける おもふとち まとゐせるよは からにしき たたまくをしき ものにそありける | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
865 | うれしきを 何につつまむ 唐衣 袂ゆたかに たてと言はましを うれしきを なににつつまむ からころも たもとゆたかに たてといはましを | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
866 | かぎりなき 君がためにと 折る花は 時しもわかぬ ものにぞありける かきりなき きみかためにと をるはなは ときしもわかぬ ものにそありける | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
867 | 紫の ひともとゆゑに 武蔵野の 草はみながら あはれとぞ見る むらさきの ひともとゆゑに むさしのの くさはみなから あはれとそみる | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
868 | 紫の 色濃き時は めもはるに 野なる草木ぞ 別れざりける むらさきの いろこきときは めもはるに のなるくさきそ わかれさりける | 在原業平 | 十七 | 雑歌上 |
869 | 色なしと 人や見るらむ 昔より 深き心に 染めてしものを いろなしと ひとやみるらむ むかしより ふかきこころに そめてしものを | 近院右大臣 | 十七 | 雑歌上 |
870 | 日の光 藪しわかねば いそのかみ ふりにし里に 花も咲きけり ひのひかり やふしわかねは いそのかみ ふりにしさとに はなもさきけり | 布留今道 | 十七 | 雑歌上 |
871 | 大原や をしほの山も 今日こそは 神世のことも 思ひいづらめ おほはらや をしほのやまも けふこそは かみよのことも おもひいつらめ | 在原業平 | 十七 | 雑歌上 |
872 | 天つ風 雲のかよひぢ 吹きとぢよ 乙女の姿 しばしとどめむ あまつかせ くものかよひち ふきとちよ をとめのすかた しはしととめむ #百人一首 | 良岑宗貞 | 十七 | 雑歌上 |
873 | 主や誰 問へど白玉 言はなくに さらばなべてや あはれと思はむ ぬしやたれ とへとしらたま いはなくに さらはなへてや あはれとおもはむ | 河原左大臣 | 十七 | 雑歌上 |
874 | 玉だれの こがめやいづら こよろぎの 磯の浪わけ 沖にいでにけり たまたれの こかめやいつら こよろきの いそのなみわけ おきにいてにけり | 藤原敏行 | 十七 | 雑歌上 |
875 | かたちこそ み山隠れの 朽ち木なれ 心は花に なさばなりなむ かたちこそ みやまかくれの くちきなれ こころははなに なさはなりなむ | 兼芸法師 | 十七 | 雑歌上 |
876 | 蝉の羽の 夜の衣は 薄けれど 移り香濃くも 匂ひぬるかな せみのはの よるのころもは うすけれと うつりかこくも にほひぬるかな | 紀友則 | 十七 | 雑歌上 |
877 | 遅くいづる 月にもあるかな あしひきの 山のあなたも 惜しむべらなり おそくいつる つきにもあるかな あしひきの やまのあなたも をしむへらなり | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
878 | 我が心 なぐさめかねつ 更級や をばすて山に 照る月を見て わかこころ なくさめかねつ さらしなや をはすてやまに てるつきをみて | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
879 | おほかたは 月をもめでじ これぞこの つもれば人の 老いとなるもの おほかたは つきをもめてし これそこの つもれはひとの おいとなるもの | 在原業平 | 十七 | 雑歌上 |
880 | かつ見れば うとくもあるかな 月影の いたらぬ里も あらじと思へば かつみれと うとくもあるかな つきかけの いたらぬさとも あらしとおもへは | 紀貫之 | 十七 | 雑歌上 |
881 | ふたつなき ものと思ひしを 水底に 山の端ならで いづる月影 ふたつなき ものとおもひしを みなそこに やまのはならて いつるつきかけ | 紀貫之 | 十七 | 雑歌上 |
882 | 天の河 雲のみをにて はやければ 光とどめず 月ぞ流るる あまのかは くものみをにて はやけれは ひかりととめす つきそなかるる | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
883 | あかずして 月の隠るる 山もとは あなたおもてぞ 恋しかりける あかすして つきのかくるる やまもとは あなたおもてそ こひしかりける | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
884 | あかなくに まだきも月の 隠るるか 山の端逃げて 入れずもあらなむ あかなくに またきもつきの かくるるか やまのはにけて いれすもあらなむ | 在原業平 | 十七 | 雑歌上 |
885 | 大空を 照りゆく月し 清ければ 雲隠せども 光けなくに おほそらを てりゆくつきし きよけれは くもかくせとも ひかりけなくに | 尼敬信 | 十七 | 雑歌上 |
886 | いそのかみ ふるから小野の もとかしは もとの心は 忘られなくに いそのかみ ふるからをのの もとかしは もとのこころは わすられなくに | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
887 | いにしへの 野中の清水 ぬるけれど もとの心を 知る人ぞくむ いにしへの のなかのしみつ ぬるけれと もとのこころを しるひとそくむ | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
888 | いにしへの しづのをだまき いやしきも よきもさかりは ありしものなり いにしへの しつのをたまき いやしきも よきもさかりは ありしものなり | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
889 | 今こそあれ 我も昔は 男山 さかゆく時も ありこしものを いまこそあれ われもむかしは をとこやま さかゆくときも ありこしものを | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
890 | 世の中に ふりぬるものは 津の国の 長柄の橋と 我となりけり よのなかに ふりぬるものは つのくにの なからのはしと われとなりけり | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
891 | 笹の葉に 降りつむ雪の うれを重み もとくだちゆく 我がさかりはも ささのはに ふりつむゆきの うれをおもみ もとくたちゆく わかさかりはも | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
892 | 大荒木の もりの下草 おいぬれば 駒もすさめず かる人もなし おほあらきの もりのしたくさ おいぬれは こまもすさへす かるひともなし | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
893 | かぞふれば とまらぬものを 年といひて 今年はいたく 老いぞしにける かそふれは とまらぬものを としといひて ことしはいたく おいそしにける | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
894 | おしてるや 難波の水に 焼く塩の からくも我は 老いにけるかな おしてるや なにはのみつに やくしほの からくもわれは おいにけるかな | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
895 | 老いらくの 来むと知りせば 門さして なしと答へて あはざらましを おいらくの こむとしりせは かとさして なしとこたへて あはさらましを | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
896 | さかさまに 年もゆかなむ とりもあへず すぐる齢や ともにかへると さかさまに としもゆかなむ とりもあへす すくるよはひや ともにかへると | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
897 | とりとむる ものにしあらねば 年月を あはれあなうと すぐしつるかな とりとむる ものにしあらねは としつきを あはれあなうと すくしつるかな | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
898 | とどめあへず むべも年とは いはれけり しかもつれなく すぐる齢か ととめあへす うへもとしとは いはれけり しかもつれなく すくるよはひか | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
899 | 鏡山 いざ立ち寄りて 見てゆかむ 年へぬる身は 老いやしぬると かかみやま いさたちよりて みてゆかむ としへぬるみは おいやしぬると | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
900 | 老いぬれば さらぬ別れも ありと言へば いよいよ見まく ほしき君かな おいぬれは さらぬわかれも ありといへは いよいよみまく ほしききみかな | 業平朝臣母 | 十七 | 雑歌上 |
901 | 世の中に さらぬ別れの なくもがな 千代もとなげく 人の子のため よのなかに さらぬわかれの なくもかな ちよもとなけく ひとのこのため | 在原業平 | 十七 | 雑歌上 |
902 | 白雪の 八重降りしける かへる山 かへるがへるも 老いにけるかな しらゆきの やへふりしける かへるやま かへるかへるも おいにけるかな | 在原棟梁 | 十七 | 雑歌上 |
903 | 老いぬとて などか我が身を せめきけむ 老いずは今日に あはましものか おいぬとて なとかわかみを せめきけむ おいすはけふに あはましものか | 藤原敏行 | 十七 | 雑歌上 |
904 | ちはやぶる 宇治の橋守 なれをしぞ あはれとは思ふ 年のへぬれば ちはやふる うちのはしもり なれをしそ あはれとはおもふ としのへぬれは | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
905 | 我見ても 久しくなりぬ 住の江の 岸の姫松 幾世へぬらむ われみても ひさしくなりぬ すみのえの きしのひめまつ いくよへぬらむ | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
906 | 住吉の 岸の姫松 人ならば 幾世かへしと 問はましものを すみよしの きしのひめまつ ひとならは いくよかへしと とはましものを | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
907 | 梓弓 磯辺の小松 たが世にか よろづ世かねて 種をまきけむ あつさゆみ いそへのこまつ たかよにか よろつよかねて たねをまきけむ | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
908 | かくしつつ 世をやつくさむ 高砂の 尾上に立てる 松ならなくに かくしつつ よをやつくさむ たかさこの をのへにたてる まつならなくに | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
909 | 誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに たれをかも しるひとにせむ たかさこの まつもむかしの ともならなくに #百人一首 | 藤原興風 | 十七 | 雑歌上 |
910 | わたつみの 沖つ潮あひに 浮かぶ泡の 消えぬものから 寄る方もなし わたつうみの おきつしほあひに うかふあわの きえぬものから よるかたもなし | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
911 | わたつみの かざしにさせる 白妙の 浪もてゆへる 淡路島山 わたつうみの かさしにさせる しろたへの なみもてゆへる あはちしまやま | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
912 | わたの原 寄せくる浪の しばしばも 見まくのほしき 玉津島かも わたのはら よせくるなみの しはしはも みまくのほしき たまつしまかも | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
913 | 難波潟 潮満ちくらし 雨衣 たみのの島に たづ鳴き渡る なにはかた しほみちくらし あまころも たみののしまに たつなきわたる | 読人知らず | 十七 | 雑歌上 |
914 | 君を思ひ おきつの浜に 鳴くたづの 尋ねくればぞ ありとだに聞く きみをおもひ おきつのはまに なくたつの たつねくれはそ ありとたにきく | 藤原忠房 | 十七 | 雑歌上 |
915 | 沖つ浪 たかしの浜の 浜松の 名にこそ君を 待ちわたりつれ おきつなみ たかしのはまの はままつの なにこそきみを まちわたりつれ | 紀貫之 | 十七 | 雑歌上 |
916 | 難波潟 おふる玉藻を かりそめの 海人とぞ我は なりぬべらなる なにはかた おふるたまもを かりそめの あまとそわれは なりぬへらなる | 紀貫之 | 十七 | 雑歌上 |
917 | 住吉と 海人は告ぐとも 長居すな 人忘れ草 おふと言ふなり すみよしと あまはつくとも なかゐすな ひとわすれくさ おふといふなり | 壬生忠岑 | 十七 | 雑歌上 |
918 | 雨により たみのの島を 今日ゆけど 名には隠れぬ ものにぞありける あめにより たみののしまを けふゆけと なにはかくれぬ ものにそありける | 紀貫之 | 十七 | 雑歌上 |
919 | あしたづの 立てる川辺を 吹く風に 寄せてかへらぬ 浪かとぞ見る あしたつの たてるかはへを ふくかせに よせてかへらぬ なみかとそみる | 紀貫之 | 十七 | 雑歌上 |
920 | 水の上に 浮かべる舟の 君ならば ここぞとまりと 言はましものを みつのうへに うかへるふねの きみならは ここそとまりと いはましものを | 伊勢 | 十七 | 雑歌上 |
921 | みやこまで ひびきかよへる からことは 浪のをすげて 風ぞひきける みやこまて ひひきかよへる からことは なみのをすけて かせそひきける | 真静法師 | 十七 | 雑歌上 |
922 | こき散らす 滝の白玉 拾ひおきて 世の憂き時の 涙にぞかる こきちらす たきのしらいと ひろひおきて よのうきときの なみたにそかる | 在原行平 | 十七 | 雑歌上 |
923 | ぬき乱る 人こそあるらし 白玉の まなくも散るか 袖のせばきに ぬきみたる ひとこそあるらし しらたまの まなくもちるか そてのせはきに | 在原業平 | 十七 | 雑歌上 |
924 | 誰がために 引きてさらせる 布なれや 世をへて見れど とる人もなき たかために ひきてさらせる ぬのなれや よをへてみれと とるひとのなき | 承均法師 | 十七 | 雑歌上 |
925 | 清滝の 瀬ぜの白糸 くりためて 山わけごろも 織りて着ましを きよたきの せせのしらいと くりためて やまわけころも おりてきましを | 神退法師 | 十七 | 雑歌上 |
926 | たちぬはぬ 衣着し人も なきものを なに山姫の 布さらすらむ たちぬはぬ きぬきしひとも なきものを なにやまひめの ぬのさらすらむ | 伊勢 | 十七 | 雑歌上 |
927 | 主なくて さらせる布を 七夕に 我が心とや 今日はかさまし ぬしなくて さらせるぬのを たなはたに わかこころとや けふはかさまし | 橘長盛 | 十七 | 雑歌上 |
928 | 落ちたぎつ 滝の水上 年つもり 老いにけらしな 黒き筋なし おちたきつ たきのみなかみ としつもり おいにけらしな くろきすちなし | 壬生忠岑 | 十七 | 雑歌上 |
929 | 風吹けど ところも去らぬ 白雲は 世をへて落つる 水にぞありける かせふけと ところもさらぬ しらくもは よをへておつる みつにそありける | 凡河内躬恒 | 十七 | 雑歌上 |
930 | 思ひせく 心の内の 滝なれや 落つとは見れど 音の聞こえぬ おもひせく こころのうちの たきなれや おつとはみれと おとのきこえぬ | 三条町 | 十七 | 雑歌上 |
931 | 咲きそめし 時よりのちは うちはへて 世は春なれや 色の常なる さきそめし ときよりのちは うちはへて よははるなれや いろのつねなる | 紀貫之 | 十七 | 雑歌上 |
932 | かりてほす 山田の稲の こきたれて なきこそわたれ 秋の憂ければ かりてほす やまたのいねの こきたれて なきこそわたれ あきのうけれは | 坂上是則 | 十七 | 雑歌上 |
933 | 世の中は 何か常なる 飛鳥川 昨日の淵ぞ 今日は瀬になる よのなかは なにかつねなる あすかかは きのふのふちそ けふはせになる | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
934 | 幾世しも あらじ我が身を なぞもかく 海人の刈る藻に 思ひ乱るる いくよしも あらしわかみを なそもかく あまのかるもに おもひみたるる | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
935 | 雁の来る 峰の朝霧 晴れずのみ 思ひつきせぬ 世の中の憂さ かりのくる みねのあさきり はれすのみ おもひつきせぬ よのなかのうさ | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
936 | しかりとて そむかれなくに ことしあれば まづなげかれぬ あなう世の中 しかりとて そむかれなくに ことしあれは まつなけかれぬ あなうよのなか | 小野篁 | 十八 | 雑歌下 |
937 | みやこ人 いかがと問はば 山高み 晴れぬ雲ゐに わぶと答へよ みやこひと いかかととはは やまたかみ はれぬくもゐに わふとこたへよ | 小野貞樹 | 十八 | 雑歌下 |
938 | わびぬれば 身を浮草の 根を絶えて さそふ水あらば いなむとぞ思ふ わひぬれは みをうきくさの ねをたえて さそふみつあらは いなむとそおもふ | 小野小町 | 十八 | 雑歌下 |
939 | あはれてふ ことこそうたて 世の中を 思ひはなれぬ ほだしなりけれ あはれてふ ことこそうたて よのなかを おもひはなれぬ ほたしなりけれ | 小野小町 | 十八 | 雑歌下 |
940 | あはれてふ 言の葉ごとに 置く露は 昔を恋ふる 涙なりけり あはれてふ ことのはことに おくつゆは むかしをこふる なみたなりけり | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
941 | 世の中の うきもつらきも 告げなくに まづ知るものは 涙なりけり よのなかの うきもつらきも つけなくに まつしるものは なみたなりけり | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
942 | 世の中は 夢かうつつか うつつとも 夢とも知らず ありてなければ よのなかは ゆめかうつつか うつつとも ゆめともしらす ありてなけれは | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
943 | 世の中に いづら我が身の ありてなし あはれとや言はむ あなうとや言はむ よのなかに いつらわかみの ありてなし あはれとやいはむ あなうとやいはむ | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
944 | 山里は もののわびしき ことこそあれ 世の憂きよりは 住みよかりけり やまさとは もののさひしき ことこそあれ よのうきよりは すみよかりけり | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
945 | 白雲の 絶えずたなびく 峰にだに 住めば住みぬる 世にこそありけれ しらくもの たえすたなひく みねにたに すめはすみぬる よにこそありけれ | 惟喬親王 | 十八 | 雑歌下 |
946 | 知りにけむ 聞きてもいとへ 世の中は 浪の騒ぎに 風ぞしくめる しりにけむ ききてもいとへ よのなかは なみのさわきに かせそしくめる | 布留今道 | 十八 | 雑歌下 |
947 | いづこにか 世をばいとはむ 心こそ 野にも山にも 惑ふべらなれ いつこにか よをはいとはむ こころこそ のにもやまにも まとふへらなれ | 素性法師 | 十八 | 雑歌下 |
948 | 世の中は 昔よりやは うかりけむ 我が身ひとつの ためになれるか よのなかは むかしよりやは うかりけむ わかみひとつの ためになれるか | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
949 | 世の中を いとふ山辺の 草木とや あなうの花の 色にいでにけむ よのなかを いとふやまへの くさきとや あなうのはなの いろにいてにけむ | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
950 | み吉野の 山のあなたに 宿もがな 世の憂き時の 隠れがにせむ みよしのの やまのあなたに やともかな よのうきときの かくれかにせむ | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
951 | 世にふれば 憂さこそまされ み吉野の 岩のかけ道 踏みならしてむ よにふれは うさこそまされ みよしのの いはのかけみち ふみならしてむ | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
952 | いかならむ 巌の中に 住まばかは 世の憂きことの 聞こえこざらむ いかならむ いはほのうちに すまはかは よのうきことの きこえこさらむ | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
953 | あしひきの 山のまにまに 隠れなむ うき世の中は あるかひもなし あしひきの やまのまにまに かくれなむ うきよのなかは あるかひもなし | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
954 | 世の中の うけくにあきぬ 奥山の 木の葉に降れる 雪やけなまし よのなかの うけくにあきぬ おくやまの このはにふれる ゆきやけなまし | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
955 | 世のうきめ 見えぬ山ぢへ 入らむには 思ふ人こそ ほだしなりけれ よのうきめ みえぬやまちへ いらむには おもふひとこそ ほたしなりけれ | 物部吉名 | 十八 | 雑歌下 |
956 | 世を捨てて 山にいる人 山にても なほ憂き時は いづち行くらむ よをすてて やまにいるひと やまにても なほうきときは いつちゆくらむ | 凡河内躬恒 | 十八 | 雑歌下 |
957 | 今さらに なにおひいづらむ 竹の子の うき節しげき 世とは知らずや いまさらに なにおひいつらむ たけのこの うきふししけき よとはしらすや | 凡河内躬恒 | 十八 | 雑歌下 |
958 | 世にふれば 言の葉しげき 呉竹の うき節ごとに うぐひすぞ鳴く よにふれは ことのはしけき くれたけの うきふしことに うくひすそなく | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
959 | 木にもあらず 草にもあらぬ 竹のよの 端に我が身は なりぬべらなり きにもあらす くさにもあらぬ たけのよの はしにわかみは なりぬへらなり | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
960 | 我が身から うき世の中と 名づけつつ 人のためさへ かなしかるらむ わかみから うきよのなかと なけきつつ ひとのためさへ かなしかるらむ | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
961 | 思ひきや ひなの別れに おとろへて 海人の縄たき いさりせむとは おもひきや ひなのわかれに おとろへて あまのなはたき いさりせむとは | 小野篁 | 十八 | 雑歌下 |
962 | わくらばに 問ふ人あらば 須磨の浦に 藻塩たれつつ わぶと答へよ わくらはに とふひとあらは すまのうらに もしほたれつつ わふとこたへよ | 在原行平 | 十八 | 雑歌下 |
963 | 天彦の おとづれじとぞ 今は思ふ 我か人かと 身をたどる世に あまひこの おとつれしとそ いまはおもふ われかひとかと みをたとるよに | 小野春風 | 十八 | 雑歌下 |
964 | うき世には 門させりとも 見えなくに などか我が身の いでがてにする うきよには かとさせりとも みえなくに なとかわかみの いてかてにする | 平貞文 | 十八 | 雑歌下 |
965 | ありはてぬ 命待つ間の ほどばかり うきことしげく 思はずもがな ありはてぬ いのちまつまの ほとはかり うきことしけく おもはすもかな | 平貞文 | 十八 | 雑歌下 |
966 | つくばねの 木のもとごとに 立ちぞ寄る 春のみ山の かげを恋つつ つくはねの このもとことに たちそよる はるのみやまの かけをこひつつ | 宮道潔興 | 十八 | 雑歌下 |
967 | 光なき 谷には春も よそなれば 咲きてとく散る 物思ひもなし ひかりなき たににははるも よそなれは さきてとくちる ものおもひもなし | 清原深養父 | 十八 | 雑歌下 |
968 | 久方の 中におひたる 里なれば 光をのみぞ たのむべらなる ひさかたの うちにおひたる さとなれは ひかりをのみそ たのむへらなる | 伊勢 | 十八 | 雑歌下 |
969 | 今ぞ知る 苦しきものと 人待たむ 里をばかれず 問ふべかりけり いまそしる くるしきものと ひとまたむ さとをはかれす とふへかりけり | 在原業平 | 十八 | 雑歌下 |
970 | 忘れては 夢かとぞ思ふ 思ひきや 雪踏みわけて 君を見むとは わすれては ゆめかとそおもふ おもひきや ゆきふみわけて きみをみむとは | 在原業平 | 十八 | 雑歌下 |
971 | 年をへて 住みこし里を いでていなば いとど深草 野とやなりなむ としをへて すみこしさとを いてていなは いととふかくさ のとやなりなむ | 在原業平 | 十八 | 雑歌下 |
972 | 野とならば うづらとなきて 年はへむ かりにだにやは 君がこざらむ のとならは うつらとなきて としはへむ かりにたにやは きみかこさらむ | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
973 | 我を君 難波の浦に ありしかば うきめをみつの 海人となりにき われをきみ なにはのうらに ありしかは うきめをみつの あまとなりにき | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
974 | 難波潟 うらむべきまも 思ほえず いづこをみつの 海人とかはなる なにはかた うらむへきまも おもほえす いつこをみつの あまとかはなる | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
975 | 今さらに 問ふべき人も 思ほえず 八重むぐらして 門させりてへ いまさらに とふへきひとも おもほえす やへむくらして かとさせりてへ | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
976 | 水の面に おふる五月の 浮草の うきことあれや 根を絶えて来ぬ みつのおもに おふるさつきの うきくさの うきことあれや ねをたえてこぬ | 凡河内躬恒 | 十八 | 雑歌下 |
977 | 身を捨てて ゆきやしにけむ 思ふより 外なるものは 心なりけり みをすてて ゆきやしにけむ おもふより ほかなるものは こころなりけり | 凡河内躬恒 | 十八 | 雑歌下 |
978 | 君が思ひ 雪とつもらば たのまれず 春よりのちは あらじと思へば きみかおもひ ゆきとつもらは たのまれす はるよりのちは あらしとおもへは | 凡河内躬恒 | 十八 | 雑歌下 |
979 | 君をのみ 思ひこしぢの 白山は いつかは雪の 消ゆる時ある きみをのみ おもひこしちの しらやまは いつかはゆきの きゆるときある | 宗岳大頼 | 十八 | 雑歌下 |
980 | 思ひやる 越の白山 知らねども ひと夜も夢に 越えぬ夜ぞなき おもひやる こしのしらやま しらねとも ひとよもゆめに こえぬよそなき | 紀貫之 | 十八 | 雑歌下 |
981 | いざここに 我が世はへなむ 菅原や 伏見の里の 荒れまくも惜し いさここに わかよはへなむ すかはらや ふしみのさとの あれまくもをし | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
982 | 我が庵は 三輪の山もと 恋しくは とぶらひきませ 杉たてる門 わかいほは みわのやまもと こひしくは とふらひきませ すきたてるかと | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
983 | 我が庵は みやこのたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人は言ふなり わかいほは みやこのたつみ しかそすむ よをうちやまと ひとはいふなり #百人一首 | 喜撰法師 | 十八 | 雑歌下 |
984 | 荒れにけり あはれ幾世の 宿なれや 住みけむ人の おとづれもせぬ あれにけり あはれいくよの やとなれや すみけむひとの おとつれもせぬ | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
985 | わび人の 住むべき宿と 見るなへに 嘆きくははる 琴の音ぞする わひひとの すむへきやとと みるなへに なけきくははる ことのねそする | 良岑宗貞 | 十八 | 雑歌下 |
986 | 人ふるす 里をいとひて こしかども 奈良のみやこも うき名なりけり ひとふるす さとをいとひて こしかとも ならのみやこも うきななりけり | 二条 | 十八 | 雑歌下 |
987 | 世の中は いづれかさして 我がならむ 行きとまるをぞ 宿とさだむる よのなかは いつれかさして わかならむ ゆきとまるをそ やととさたむる | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
988 | あふ坂の 嵐の風は 寒けれど ゆくへ知らねば わびつつぞ寝る あふさかの あらしのかせは さむけれと ゆくへしらねは わひつつそぬる | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
989 | 風の上に ありかさだめぬ 塵の身は ゆくへも知らず なりぬべらなり かせのうへに ありかさためぬ ちりのみは ゆくへもしらす なりぬへらなり | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
990 | 飛鳥川 淵にもあらぬ 我が宿も 瀬にかはりゆく ものにぞありける あすかかは ふちにもあらぬ わかやとも せにかはりゆく ものにそありける | 伊勢 | 十八 | 雑歌下 |
991 | ふるさとは 見しごともあらず 斧の柄の 朽ちしところぞ 恋しかりける ふるさとは みしこともあらす をののえの くちしところそ こひしかりける | 紀友則 | 十八 | 雑歌下 |
992 | あかざりし 袖の中にや 入りにけむ 我がたましひの なき心地する あかさりし そてのなかにや いりにけむ わかたましひの なきここちする | 陸奥 | 十八 | 雑歌下 |
993 | なよ竹の よ長き上に 初霜の おきゐて物を 思ふころかな なよたけの よなかきうへに はつしもの おきゐてものを おもふころかな | 藤原忠房 | 十八 | 雑歌下 |
994 | 風吹けば 沖つ白浪 たつた山 夜半にや君が ひとりこゆらむ かせふけは おきつしらなみ たつたやま よはにやきみか ひとりこゆらむ | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
995 | たがみそぎ ゆふつけ鳥か 唐衣 たつたの山に をりはへて鳴く たかみそき ゆふつけとりか からころも たつたのやまに をりはへてなく | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
996 | 忘られむ 時しのべとぞ 浜千鳥 ゆくへも知らぬ 跡をとどむる わすられむ ときしのへとそ はまちとり ゆくへもしらぬ あとをととむる | 読人知らず | 十八 | 雑歌下 |
997 | 神無月 時雨降りおける ならの葉の 名におふ宮の ふることぞこれ かみなつき しくれふりおける ならのはの なにおふみやの ふることそこれ | 文屋有季 | 十八 | 雑歌下 |
998 | あしたづの ひとりおくれて 鳴く声は 雲の上まで 聞こえつがなむ あしたつの ひとりおくれて なくこゑは くものうへまて きこえつかなむ | 大江千里 | 十八 | 雑歌下 |
999 | 人知れず 思ふ心は 春霞 たちいでて君が 目にも見えなむ ひとしれす おもふこころは はるかすみ たちいててきみか めにもみえなむ | 藤原勝臣 | 十八 | 雑歌下 |
1000 | 山川の 音にのみ聞く ももしきを 身をはやながら 見るよしもがな やまかはの おとにのみきく ももしきを みをはやなから みるよしもかな | 伊勢 | 十八 | 雑歌下 |
1001 | あふことの まれなる色に 思ひそめ 我が身は常に 天雲の 晴るる時なく 富士の嶺の もえつつとはに 思へども あふことかたし 何しかも 人をうらみむ わたつみの 沖を深めて 思ひてし 思ひは今は いたづらに なりぬべらなり ゆく水の 絶ゆる時なく かくなわに 思ひ乱れて 降る雪の けなばけぬべく 思へども えぶの身なれば なほやまず 思ひは深し あしひきの 山下水の 木隠れて たぎつ心を 誰にかも あひかたらはむ 色にいでば 人知りぬべみ 墨染めの 夕べになれば ひとりゐて あはれあはれと なげきあまり せむすべなみに 庭にいでて 立ちやすらへば 白妙の 衣の袖に 置く露の けなばけぬべく 思へども なほなげかれぬ 春霞 よそにも人に あはむと思へば あふことの まれなるいろに おもひそめ わかみはつねに あまくもの はるるときなく ふしのねの もえつつとはに おもへとも あふことかたし なにしかも ひとをうらみむ わたつみの おきをふかめて おもひてし おもひをいまは いたつらに なりぬへらなり ゆくみつの たゆるときなく かくなわに おもひみたれて ふるゆきの けなはけぬへく おもへとも えふのみなれは なほやます おもひはふかし あしひきの やましたみつの こかくれて たきつこころを たれにかも あひかたらはむ いろにいては ひとしりぬへみ すみそめの ゆふへになれは ひとりゐて あはれあはれと なけきあまり せむすへなみに にはにいてて たちやすらへは しろたへの ころものそてに おくつゆの けなはけぬへく おもへとも なほなけかれぬ はるかすみ よそにもひとに あはむとおもへは | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1002 | ちはやぶる 神の御代より 呉竹の 世よにも絶えず 天彦の 音羽の山の 春霞 思ひ乱れて 五月雨の 空もとどろに 小夜ふけて 山郭公 鳴くごとに 誰も寝ざめて 唐錦 竜田の山の もみぢ葉を 見てのみしのぶ 神無月 時雨しぐれて 冬の夜の 庭もはだれに 降る雪の なほ消えかへり 年ごとに 時につけつつ あはれてふ ことを言ひつつ 君をのみ 千代にと祝ふ 世の人の 思ひするがの 富士の嶺の もゆる思ひも あかずして わかるる涙 藤衣 おれる心も 八千草の 言の葉ごとに すべらぎの おほせかしこみ まきまきの 中につくすと 伊勢の海の 浦のしほ貝 拾ひ集め 取れりとすれど 玉の緒の 短き心 思ひあへず なほあらたまの 年をへて 大宮にのみ 久方の 昼夜わかず つかふとて かへりみもせぬ 我が宿の しのぶ草おふる 板間あらみ ふる春雨の もりやしぬらむ ちはやふる かみのみよより くれたけの よよにもたえす あまひこの おとはのやまの はるかすみ おもひみたれて さみたれの そらもととろに さよふけて やまほとときす なくことに たれもねさめて からにしき たつたのやまの もみちはを みてのみしのふ かみなつき しくれしくれて ふゆのよの にはもはたれに ふるゆきの なほきえかへり としことに ときにつけつつ あはれてふ ことをいひつつ きみをのみ ちよにといはふ よのひとの おもひするかの ふしのねの もゆるおもひも あかすして わかるるなみた ふちころも おれるこころも やちくさの ことのはことに すめらきの おほせかしこみ まきまきの うちにつくすと いせのうみの うらのしほかひ ひろひあつめ とれりとすれと たまのをの みしかきこころ おもひあへす なほあらたまの としをへて おほみやにのみ ひさかたの ひるよるわかす つかふとて かへりみもせぬ わかやとの しのふくさおふる いたまあらみ ふるはるさめの もりやしぬらむ | 紀貫之 | 十九 | 雑体 |
1003 | 呉竹の 世よのふること なかりせば いかほの沼の いかにして 思ふ心を のばへまし あはれむかしべ ありきてふ 人麿こそは うれしけれ 身はしもながら 言の葉を あまつ空まで 聞こえあげ 末の世までの あととなし 今もおほせの くだれるは 塵につげとや 塵の身に つもれることを とはるらむ これを思へば けだものの 雲に吠えけむ 心地して ちぢのなさけも 思ほえず ひとつ心ぞ ほこらしき かくはあれども 照る光 近きまもりの 身なりしを 誰かは秋の くる方に あざむきいでて み垣より とのへもる身の み垣もり をさをさしくも 思ほえず ここのかさねの 中にては 嵐の風も 聞かざりき 今は野山し 近ければ 春は霞に たなびかれ 夏は空蝉 鳴きくらし 秋は時雨に 袖をかし 冬は霜にぞ せめらるる かかるわびしき 身ながらに つもれる年を しるせれば いつつのむつに なりにけり これにそはれる わたくしの 老いの数さへ やよければ 身はいやしくて 年たかき ことの苦しさ 隠しつつ 長柄の橋の ながらへて 難波の浦に たつ浪の 浪のしわにや おぼほれむ さすがに命 惜しければ 越の国なる 白山の かしらは白く なりぬとも 音羽の滝の 音に聞く 老いず死なずの 薬もが 君が八千代を 若えつつ見む くれたけの よよのふること なかりせは いかほのぬまの いかにして おもふこころを のはへまし あはれむかしへ ありきてふ ひとまろこそは うれしけれ みはしもなから ことのはを あまつそらまて きこえあけ すゑのよよまて あととなし いまもおほせの くたれるは ちりにつけとや ちりのみに つもれることを とはるらむ これをおもへは けたものの くもにほえけむ ここちして ちちのなさけも おもほえす ひとつこころそ ほこらしき かくはあれとも てるひかり ちかきまもりの みなりしを たれかはあきの くるかたに あさむきいてて みかきもり とのへもるみの みかきより をさをさしくも おもほえす ここのかさねの なかにては あらしのかせも きかさりき いまはのやまし ちかけれは はるはかすみに たなひかれ なつはうつせみ なきくらし あきはしくれに そてをかし ふゆはしもにそ せめらるる かかるわひしき みなからに つもれるとしを しるせれは いつつのむつに なりにけり これにそはれる わたくしの おいのかすさへ やよけれは みはいやしくて としたかき ことのくるしさ かくしつつ なからのはしの なからへて なにはのうらに たつなみの なみのしわにや おほほれむ さすかにいのち をしけれは こしのくになる しらやまの かしらはしろく なりぬとも おとはのたきの おとにきく おいすしなすの くすりかも きみかやちよを わかえつつみむ | 壬生忠岑 | 十九 | 雑体 |
1004 | 君が代に あふ坂山の 岩清水 こ隠れたりと 思ひけるかな きみかよに あふさかやまの いはしみつ こかくれたりと おもひけるかな | 壬生忠岑 | 十九 | 雑体 |
1005 | ちはやぶる 神無月とや 今朝よりは 雲りもあへず 初時雨 紅葉と共に ふるさとの 吉野の山の 山嵐も 寒く日ごとに なりゆけば 玉の緒とけて こき散らし あられ乱れて 霜こほり いや固まれる 庭の面に むらむら見ゆる 冬草の 上に降りしく 白雪の つもりつもりて あらたまの 年をあまたも すぐしつるかな ちはやふる かみなつきとや けさよりは くもりもあへす はつしくれ もみちとともに ふるさとの よしののやまの やまあらしも さむくひことに なりゆけは たまのをとけて こきちらし あられみたれて しもこほり いやかたまれる にはのおもに むらむらみゆる ふゆくさの うへにふりしく しらゆきの つもりつもりて あらたまの としをあまたも すくしつるかな | 凡河内躬恒 | 十九 | 雑体 |
1006 | 沖つ浪 荒れのみまさる 宮の内は 年へて住みし 伊勢の海人も 舟流したる 心地して よらむ方なく かなしきに 涙の色の 紅は 我らが中の 時雨にて 秋のもみぢと 人びとは おのが散りぢり 別れなば たのむかげなく なりはてて とまるものとは 花薄 君なき庭に 群れ立ちて 空をまねかば 初雁の なきわたりつつ よそにこそ見め おきつなみ あれのみまさる みやのうちは としへてすみし いせのあまも ふねなかしたる ここちして よらむかたなく かなしきに なみたのいろの くれなゐは われらかなかの しくれにて あきのもみちと ひとひとは おのかちりちり わかれなは たのむかけなく なりはてて とまるものとは はなすすき きみなきにはに むれたちて そらをまかねは はつかりの なきわたりつつ よそにこそみめ | 伊勢 | 十九 | 雑体 |
1007 | うちわたす をち方人に もの申す我 そのそこに 白く咲けるは 何の花ぞも うちわたす をちかたひとに ものまうすわれ そのそこに しろくさけるは なにのはなそも | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1008 | 春されば 野辺にまづ咲く 見れどあかぬ花 まひなしに ただ名のるべき 花の名なれや はるされは のへにまつさく みれとあかぬはな まひなしに たたなのるへき はなのななれや | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1009 | 初瀬川 ふる川の辺に ふたもとある杉 年をへて またもあひ見む ふたもとある杉 はつせかは ふるかはのへに ふたもとあるすき としをへて またもあひみむ ふたもとあるすき | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1010 | 君がさす 三笠の山の もみぢ葉の色 神無月 時雨の雨の 染めるなりけり きみかさす みかさのやまの もみちはのいろ かみなつき しくれのあめの そめるなりけり | 紀貫之 | 十九 | 雑体 |
1011 | 梅の花 見にこそきつれ うぐひすの ひとくひとくと いとひしもをる うめのはな みにこそきつれ うくひすの ひとくひとくと いとひしもをる | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1012 | 山吹の 花色衣 主や誰 問へど答へず くちなしにして やまふきの はないろころも ぬしやたれ とへとこたへす くちなしにして | 素性法師 | 十九 | 雑体 |
1013 | いくばくの 田をつくればか 郭公 しでの田をさを 朝な朝な呼ぶ いくはくの たをつくれはか ほとときす してのたをさを あさなあさなよふ | 藤原敏行 | 十九 | 雑体 |
1014 | いつしかと またく心を 脛にあげて 天の河原を 今日や渡らむ いつしかと またくこころを はきにあけて あまのかはらを けふやわたらむ | 藤原兼輔 | 十九 | 雑体 |
1015 | むつごとも まだつきなくに 明けぬめり いづらは秋の 長してふ夜は むつことも またつきなくに あけぬめり いつらはあきの なかしてふよは | 凡河内躬恒 | 十九 | 雑体 |
1016 | 秋の野に なまめきたてる 女郎花 あなかしかまし 花もひと時 あきののに なまめきたてる をみなへし あなかしかまし はなもひととき | 僧正遍照 | 十九 | 雑体 |
1017 | 秋くれば 野辺にたはるる 女郎花 いづれの人か つまで見るべき あきくれは のへにたはるる をみなへし いつれのひとか つまてみるへき | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1018 | 秋霧の 晴れて曇れば 女郎花 花の姿ぞ 見え隠れする あききりの はれてくもれは をみなへし はなのすかたそ みえかくれする | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1019 | 花と見て 折らむとすれば 女郎花 うたたあるさまの 名にこそありけれ はなとみて をらむとすれは をみなへし うたたあるさまの なにこそありけれ | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1020 | 秋風に ほころびぬらし 藤ばかま つづりさせてふ きりぎりす鳴く あきかせに ほころひぬらし ふちはかま つつりさせてふ きりきりすなく | 在原棟梁 | 十九 | 雑体 |
1021 | 冬ながら 春のとなりの 近ければ 中垣よりぞ 花は散りける ふゆなから はるのとなりの ちかけれは なかかきよりそ はなはちりける | 清原深養父 | 十九 | 雑体 |
1022 | いそのかみ ふりにし恋の かみさびて たたるに我は いぞ寝かねつる いそのかみ ふりにしこひの かみさひて たたるにわれは いそねかねつる | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1023 | 枕より あとより恋の せめくれば せむ方なみぞ 床なかにをる まくらより あとよりこひの せめくれは せむかたなみそ とこなかにをる | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1024 | 恋しきが 方も方こそ ありと聞け たてれをれども なき心地かな こひしきか かたもかたこそ ありときけ たてれをれとも なきここちかな | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1025 | ありぬやと こころみがてら あひ見ねば たはぶれにくき までぞ恋しき ありぬやと こころみかてら あひみねは たはふれにくき まてそこひしき | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1026 | 耳なしの 山のくちなし えてしかな 思ひの色の 下染めにせむ みみなしの やまのくちなし えてしかな おもひのいろの したそめにせむ | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1027 | あしひきの 山田のそほづ おのれさへ 我をほしてふ うれはしきこと あしひきの やまたのそほつ おのれさへ われをほしてふ うれはしきこと | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1028 | 富士の嶺の ならぬ思ひに もえばもえ 神だにけたぬ むなし煙を ふしのねの ならぬおもひに もえはもえ かみたにけたぬ むなしけふりを | 紀乳母 | 十九 | 雑体 |
1029 | あひ見まく 星は数なく ありながら 人に月なみ 惑ひこそすれ あひみまく ほしはかすなく ありなから ひとにつきなみ まよひこそすれ | 紀有朋 | 十九 | 雑体 |
1030 | 人にあはむ 月のなきには 思ひおきて 胸はしり火に 心やけをり ひとにあはむ つきのなきには おもひおきて むねはしりひに こころやけをり | 小野小町 | 十九 | 雑体 |
1031 | 春霞 たなびく野辺の 若菜にも なりみてしかな 人もつむやと はるかすみ たなひくのへの わかなにも なりみてしかな ひともつむやと | 藤原興風 | 十九 | 雑体 |
1032 | 思へども なほうとまれぬ 春霞 かからぬ山も あらじと思へば おもへとも なほうとまれぬ はるかすみ かからぬやまも あらしとおもへは | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1033 | 春の野の しげき草葉の 妻恋ひに 飛び立つきじの ほろろとぞ鳴く はるののの しけきくさはの つまこひに とひたつきしの ほろろとそなく | 平貞文 | 十九 | 雑体 |
1034 | 秋の野に 妻なき鹿の 年をへて なぞ我が恋の かひよとぞ鳴く あきののに つまなきしかの としをへて なそわかこひの かひよとそなく | 紀淑人 | 十九 | 雑体 |
1035 | 蝉の羽の 一重に薄き 夏衣 なればよりなむ ものにやはあらぬ せみのはの ひとへにうすき なつころも なれはよりなむ ものにやはあらぬ | 凡河内躬恒 | 十九 | 雑体 |
1036 | 隠れ沼の 下よりおふる ねぬなはの ねぬなは立てじ くるないとひそ かくれぬの したよりおふる ねぬなはの ねぬなはたてし くるないとひそ | 壬生忠岑 | 十九 | 雑体 |
1037 | ことならば 思はずとやは 言ひはてぬ なぞ世の中の 玉だすきなる ことならは おもはすとやは いひはてぬ なそよのなかの たまたすきなる | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1038 | 思ふてふ 人の心の くまごとに 立ち隠れつつ 見るよしもがな おもふてふ ひとのこころの くまことに たちかくれつつ みるよしもかな | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1039 | 思へども 思はずとのみ 言ふなれば いなや思はじ 思ふかひなし おもへとも おもはすとのみ いふなれは いなやおもはし おもふかひなし | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1040 | 我をのみ 思ふと言はば あるべきを いでや心は おほぬさにして われをのみ おもふといはは あるへきを いてやこころは おほぬさにして | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1041 | 我を思ふ 人を思はぬ むくいにや 我が思ふ人の 我を思はぬ われをおもふ ひとをおもはぬ むくひにや わかおもふひとの われをおもはぬ | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1042 | 思ひけむ 人をぞ共に 思はまし まさしやむくい なかりけりやは おもひけむ ひとをそともに おもはまし まさしやむくひ なかりけりやは | 清原深養父 | 十九 | 雑体 |
1043 | いでてゆかむ 人をとどめむ よしなきに となりの方に 鼻もひぬかな いててゆかむ ひとをととめむ よしなきに となりのかたに はなもひぬかな | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1044 | 紅に 染めし心も たのまれず 人をあくには うつるてふなり くれなゐに そめしこころも たのまれす ひとをあくには うつるてふなり | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1045 | いとはるる 我が身は春の 駒なれや 野がひがてらに 放ち捨てつつ いとはるる わかみははるの こまなれや のかひかてらに はなちすてつる | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1046 | うぐひすの 去年の宿りの ふるすとや 我には人の つれなかるらむ うくひすの こそのやとりの ふるすとや われにはひとの つれなかるらむ | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1047 | さかしらに 夏は人まね 笹の葉の さやぐ霜夜を 我がひとり寝る さかしらに なつはひとまね ささのはの さやくしもよを わかひとりぬる | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1048 | あふことの 今ははつかに なりぬれば 夜深からでは 月なかりけり あふことの いまははつかに なりぬれは よふかからては つきなかりけり | 平中興 | 十九 | 雑体 |
1049 | もろこしの 吉野の山に こもるとも おくれむと思ふ 我ならなくに もろこしの よしののやまに こもるとも おくれむとおもふ われならなくに | 左大臣 | 十九 | 雑体 |
1050 | 雲はれぬ 浅間の山の あさましや 人の心を 見てこそやまめ くもはれぬ あさまのやまの あさましや ひとのこころを みてこそやまめ | 平中興 | 十九 | 雑体 |
1051 | 難波なる 長柄の橋も つくるなり 今は我が身を 何にたとへむ なにはなる なからのはしも つくるなり いまはわかみを なににたとへむ | 伊勢 | 十九 | 雑体 |
1052 | まめなれど 何ぞはよけく 刈るかやの 乱れてあれど あしけくもなし まめなれと なにそはよけく かるかやの みたれてあれと あしけくもなし | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1053 | 何かその 名の立つことの 惜しからむ 知りて惑ふは 我ひとりかは なにかその なのたつことの をしからむ しりてまとふは われひとりかは | 藤原興風 | 十九 | 雑体 |
1054 | よそながら 我が身に糸の よると言へば ただいつはりに すぐばかりなり よそなから わかみにいとの よるといへは たたいつはりに すくはかりなり | 久曽 | 十九 | 雑体 |
1055 | ねぎことを さのみ聞きけむ やしろこそ はてはなげきの もりとなるらめ ねきことを さのみききけむ やしろこそ はてはなけきの もりとなるらめ | 讃岐 | 十九 | 雑体 |
1056 | なげきこる 山とし高く なりぬれば つらづゑのみぞ まづつかれける なけきこる やまとしたかく なりぬれは つらつゑのみそ まつつかれける | 大輔 | 十九 | 雑体 |
1057 | なげきをば こりのみつみて あしひきの 山のかひなく なりぬべらなり なけきをは こりのみつみて あしひきの やまのかひなく なりぬへらなり | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1058 | 人恋ふる ことを重荷と になひもて あふごなきこそ わびしかりけれ ひとこふる ことをおもにと になひもて あふこなきこそ わひしかりけれ | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1059 | 宵の間に いでて入りぬる 三日月の われて物思ふ ころにもあるかな よひのまに いてていりぬる みかつきの われてものおもふ ころにもあるかな | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1060 | そゑにとて とすればかかり かくすれば あな言ひ知らず あふさきるさに そゑにとて とすれはかかり かくすれは あないひしらす あふさきるさに | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1061 | 世の中の うきたびごとに 身を投げば 深き谷こそ 浅くなりなめ よのなかの うきたひことに みをなけは ふかきたにこそ あさくなりなめ | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1062 | 世の中は いかにくるしと 思ふらむ ここらの人に うらみらるれば よのなかは いかにくるしと おもふらむ ここらのひとに うらみらるれは | 在原元方 | 十九 | 雑体 |
1063 | 何をして 身のいたづらに 老いぬらむ 年の思はむ ことぞやさしき なにをして みのいたつらに おいぬらむ としのおもはむ ことそやさしき | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1064 | 身は捨てつ 心をだにも はふらさじ つひにはいかが なると知るべく みはすてつ こころをたにも はふらさし つひにはいかか なるとしるへく | 藤原興風 | 十九 | 雑体 |
1065 | 白雪の ともに我が身は 降りぬれど 心は消えぬ ものにぞありける しらゆきの ともにわかみは ふりぬれと こころはきえぬ ものにそありける | 大江千里 | 十九 | 雑体 |
1066 | 梅の花 咲きてののちの 身なればや すきものとのみ 人の言ふらむ うめのはな さきてののちの みなれはや すきものとのみ ひとのいふらむ | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1067 | わびしらに ましらな鳴きそ あしひきの 山のかひある 今日にやはあらぬ わひしらに ましらななきそ あしひきの やまのかひある けふにやはあらぬ | 凡河内躬恒 | 十九 | 雑体 |
1068 | 世をいとひ 木のもとごとに 立ち寄りて うつぶし染めの 麻の衣なり よをいとひ このもとことに たちよりて うつふしそめの あさのきぬなり | 読人知らず | 十九 | 雑体 |
1069 | 新しき 年のはじめに かくしこそ 千歳をかねて 楽しきをつめ あたらしき としのはしめに かくしこそ ちとせをかねて たのしきをつめ | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌 |
1070 | しもとゆふ かづらき山に 降る雪の 間なく時なく 思ほゆるかな しもとゆふ かつらきやまに ふるゆきの まなくときなく おもほゆるかな | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌 |
1071 | 近江より 朝立ちくれば うねの野に たづぞ鳴くなる 明けぬこの夜は あふみより あさたちくれは うねののに たつそなくなる あけぬこのよは | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌 |
1072 | 水くきの 岡のやかたに 妹とあれと 寝ての朝けの 霜の降りはも みつくきの をかのやかたに いもとあれと ねてのあさけの しものふりはも | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌 |
1073 | しはつ山 うちいでて見れば 笠ゆひの 島こぎ隠る 棚なし小舟 しはつやま うちいててみれは かさゆひの しまこきかくる たななしをふね | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌 |
1074 | 神がきの みむろの山の さかき葉は 神のみまへに しげりあひにけり かみかきの みむろのやまの さかきはは かみのみまへに しけりあひにけり | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/神遊びの歌 |
1075 | 霜やたび 置けど枯れせぬ さかき葉の たち栄ゆべき 神のきねかも しもやたひ おけとかれせぬ さかきはの たちさかゆへき かみのきねかも | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/神遊びの歌 |
1076 | まきもくの あなしの山の 山びとと 人も見るがに 山かづらせよ まきもくの あなしのやまの やまひとと ひともみるかに やまかつらせよ | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/神遊びの歌 |
1077 | み山には あられ降るらし と山なる まさきのかづら 色づきにけり みやまには あられふるらし とやまなる まさきのかつら いろつきにけり | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/神遊びの歌 |
1078 | 陸奥の 安達の真弓 我が引かば 末さへよりこ しのびしのびに みちのくの あたちのまゆみ わかひかは すゑさへよりこ しのひしのひに | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/神遊びの歌 |
1079 | 我が門の いたゐの清水 里遠み 人しくまねば み草おひにけり わかかとの いたゐのしみつ さととほみ ひとしくまねは みくさおひにけり | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/神遊びの歌 |
1080 | ささのくま ひのくま川に 駒とめて しばし水かへ かげをだに見む ささのくま ひのくまかはに こまとめて しはしみつかへ かけをたにみむ | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/神遊びの歌 |
1081 | 青柳を 片糸によりて うぐひすの ぬふてふ笠は 梅の花笠 あをやきを かたいとによりて うくひすの ぬふてふかさは うめのはなかさ | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/神遊びの歌 |
1082 | まがねふく 吉備の中山 帯にせる 細谷川の 音のさやけさ まかねふく きひのなかやま おひにせる ほそたにかはの おとのさやけさ | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/神遊びの歌 |
1083 | みまさかや 久米のさら山 さらさらに 我が名は立てじ 万代までに みまさかや くめのさらやま さらさらに わかなはたてし よろつよまてに | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/神遊びの歌 |
1084 | 美濃の国 せきの藤川 絶えずして 君につかへむ 万代までに みののくに せきのふちかは たえすして きみにつかへむ よろつよまてに | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/神遊びの歌 |
1085 | 君が代は かぎりもあらじ 長浜の 真砂の数は 読みつくすとも きみかよは かきりもあらし なかはまの まさこのかすは よみつくすとも | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/神遊びの歌 |
1086 | 近江のや 鏡の山を 立てたれば かねてぞ見ゆる 君が千歳は あふみのや かかみのやまを たてたれは かねてそみゆる きみかちとせは | 大友黒主 | 二十 | 大歌所御歌/神遊びの歌 |
1087 | 阿武隈に 霧立ちくもり 明けぬとも 君をばやらじ 待てばすべなし あふくまに きりたちくもり あけぬとも きみをはやらし まてはすへなし | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
1088 | 陸奥は いづくはあれど 塩釜の 浦こぐ舟の 綱手かなしも みちのくは いつくはあれと しほかまの うらこくふねの つなてかなしも | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
1089 | 我が背子を みやこにやりて 塩釜の まがきの島の 松ぞ恋しき わかせこを みやこにやりて しほかまの まかきのしまの まつそこひしき | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
1090 | をぐろさき みつの小島の 人ならば みやこのつとに いざと言はましを をくろさき みつのこしまの ひとならは みやこのつとに いさといはましを | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
1091 | みさぶらひ みかさと申せ 宮城野の この下露は 雨にまされり みさふらひ みかさとまうせ みやきのの このしたつゆは あめにまされり | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
1092 | 最上川 のぼればくだる 稲舟の いなにはあらず この月ばかり もかみかは のほれはくたる いなふねの いなにはあらす このつきはかり | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
1093 | 君をおきて あだし心を 我がもたば 末の松山 浪も越えなむ きみをおきて あたしこころを わかもたは すゑのまつやま なみもこえなむ | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
1094 | こよろぎの 磯たちならし 磯菜つむ めざしぬらすな 沖にをれ浪 こよろきの いそたちならし いそなつむ めさしぬらすな おきにをれなみ | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
1095 | つくばねの このもかのもに かげはあれど 君が御影に ますかげはなし つくはねの このもかのもに かけはあれと きみかみかけに ますかけはなし | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
1096 | つくばねの 峰のもみぢ葉 落ちつもり 知るも知らぬも なべてかなしも つくはねの みねのもみちは おちつもり しるもしらぬも なへてかなしも | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
1097 | 甲斐がねを さやにも見しか けけれなく 横ほりふせる 小夜の中山 かひかねを さやにもみしか けけれなく よこほりふせる さやのなかやま | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
1098 | 甲斐がねを ねこし山こし 吹く風を 人にもがもや ことづてやらむ かひかねを ねこしやまこし ふくかせを ひとにもかもや ことつてやらむ | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
1099 | をふのうらに 片枝さしおほひ なる梨の なりもならずも 寝てかたらはむ をふのうらに かたえさしおほひ なるなしの なりもならすも ねてかたらはむ | 読人知らず | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
1100 | ちはやぶる 賀茂のやしろの 姫小松 よろづ世ふとも 色はかはらじ ちはやふる かものやしろの ひめこまつ よろつよふとも いろはかはらし | 藤原敏行 | 二十 | 大歌所御歌/東歌 |
※読人(作者)についてはできる限り正確に整えておりますが、誤りもある可能性があります。ご了承ください。
※作者検索をしたいときは、藤原、源といったいわゆる氏を除いた名のみで検索することをおすすめいたします。
※濁点につきましては原文通り加えておりません。