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拾遺和歌集(大阪青山歴史文学博物館蔵)
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拾遺和歌集のデータベース

拾遺和歌集とは

  • 拾遺和歌集は古今、後撰に次ぐ三番目の勅撰和歌集であり、一条天皇の代(1005~1009年頃)に編纂された。

    拾遺和歌集の構成

    物名 雑上 雑下

    神楽歌

    78 59 77 48 38 53 78 77 67 45
    % 5.7 4.3 5.6 3.5 2.7 3.8 5.7 5.6 4.9 3.3
    恋一 恋二 恋三 恋四 恋五 雑春 雑秋 雑賀 雑恋

    哀傷

    77 79 72 76 75 82 77 51 64 78
    % 5.6 5.8 5.2 5.5 5.5 6 5.6 3.7 4.7 5.7
    • 巻二十の全1351首(異本9歌を掲載)

    拾遺和歌集 言の葉データベース

    「かな」は原文と同様に濁点を付けておりませんので、例えば「郭公(ほととぎす)」を検索したいときは、「ほとときす」と入力してください。

    歌番号よみ人
    1はるたつといふはかりにや三吉野の山もかすみてけさは見ゆらん
    はるたつと いふはかりにや みよしのの やまもかすみて けさはみゆらむ
    壬生忠岑
    2春霞たてるを見れは荒玉の年は山よりこゆるなりけり
    はるかすみ たてるをみれは あらたまの としはやまより こゆるなりけり
    紀文幹
    3昨日こそ年はくれしか春霞かすかの山にはやたちにけり
    きのふこそ としはくれしか はるかすみ かすかのやまに はやたちにけり
    山部赤人
    4吉野山峯の白雪いつきえてけさは霞の立ちかはるらん
    よしのやま みねのしらゆき いつきえて けさはかすみの たちかはるらむ
    源重之
    5あらたまの年立帰る朝よりまたるる物はうくひすのこゑ
    あらたまの としたちかへる あしたより またるるものは うくひすのこゑ
    素性法師
    6氷たにとまらぬ春の谷風にまたうちとけぬ鴬の声
    こほりたに とまらぬはるの たにかせに またうちとけぬ うくひすのこゑ
    源順
    7春立ちて朝の原の雪見れはまたふる年の心地こそすれ
    はるたちて あしたのはらの ゆきみれは またふるとしの ここちこそすれ
    平祐挙
    8春立ちて猶ふる宮は梅の花さくほともなくちるかとそ見る
    はるたちて なほふるゆきは うめのはな さくほともなく ちるかとそみる
    凡河内躬恒
    9わかやとの梅にならひてみよしのの山の雪をも花とこそ見れ
    わかやとの うめにならひて みよしのの やまのゆきをも はなとこそみれ
    読人知らず
    10鴬の声なかりせは雪きえぬ山さといかてはるをしらまし
    うくひすの こゑなかりせは ゆききえぬ やまさといかて はるをしらまし
    中納言朝忠
    11うちきらし雪はふりつつしかすかにわか家のそのに鴬そなく
    うちきらし ゆきはふりつつ しかすかに わかいへのそのに うくひすそなく
    大伴家持
    12梅の花それとも見えす久方のあまきるこのなへてふれれは
    うめのはな それともみえす ひさかたの あまきるゆきの なへてふれれは
    柿本人麻呂(人麿)
    13むめかえにふりかかりてそ白雪の花のたよりにをらるへらなる
    うめかえに ふりかかりてそ しらゆきの はなのたよりに をらるへらなる
    紀貫之
    14ふる雪に色はまかひぬ梅の花かにこそにたる物なかりけれ
    ふるゆきに いろはまかひぬ うめのはな かにこそにたる ものなかりけれ
    凡河内躬恒
    15わかやとの梅のたちえや見えつらん思ひの外に君かきませる
    わかやとの うめのたちえや みえつらむ おもひのほかに きみかきませる
    平兼盛
    16かをとめてたれをらさらん梅の花あやなし霞たちなかくしそ
    かをとめて たれをらさらむ うめのはな あやなしかすみ たちなかくしそ
    凡河内躬恒
    17白妙のいもか衣にむめの花色をもかをもわきそかねつる
    しろたへの いもかころもに うめのはな いろをもかをも わきそかねつる
    紀貫之
    18あすからはわかなつまむとかたをかの朝の原はけふそやくめる
    あすからは わかなつまむと かたをかの あしたのはらは けふそやくめる
    柿本人麻呂(人麿)
    19野辺見れはわかなつみけりむへしこそかきねの草もはるめきにけれ
    のへみれは わかなつみけり うへしこそ かきねのくさも はるめきにけれ
    紀貫之
    20かすか野におほくの年はつみつれとおいせぬ物はわかななりけり
    かすかのに おほくのとしは つみつれと おいせぬものは わかななりけり
    円融院御製
    21春ののにあさるききすのつまこひにおのかありかを人にしれつつ
    はるののに あさるききすの つまこひに おのかありかを ひとにしれつつ
    大伴家持
    22松のうへになく鴬のこゑをこそはつねの日とはいふへかりけれ
    まつのうへに なくうくひすの こゑをこそ はつねのひとは いふへかりけれ
    宮内
    23子の日するのへにこ松のなかりせは千世のためしになにをひかまし
    ねのひする のへにこまつの なかりせは ちよのためしに なにをひかまし
    壬生忠岑
    24ちとせまてかきれる松もけふよりは君にひかれて万代やへむ
    ちとせまて かきれるまつも けふよりは きみにひかれて よろつよやへむ
    大中臣能宣
    25梅の花またちらねともゆく水のそこにうつれるかけそ見えける
    うめのはな またちらねとも ゆくみつの そこにうつれる かけそみえける
    紀貫之
    26つみたむることのかたきは鴬の声するのへのわかななりけり
    つみたむる ことのかたきは うくひすの こゑするのへの わかななりけり
    読人知らず
    27梅の花よそなから見むわきもこかとかむはかりのかにもこそしめ
    うめのはな よそなからみむ わきもこか とかむはかりの かにもこそしめ
    読人知らず
    28袖たれていさわかそのにうくひすのこつたひちらす梅の花見む
    そてたれて いさわかそのに うくひすの こつたひちらす うめのはなみむ
    読人知らず
    29あさまたきおきてそ見つる梅の花夜のまの風のうしろめたさに
    あさまたき おきてそみつる うめのはな よのまのかせの うしろめたさに
    兵部卿元良親王
    30吹く風をなにいとひけん梅の花ちりくる時そかはまさりける
    ふくかせを なにいとひけむ うめのはな ちりくるときそ かはまさりける
    凡河内躬恒
    31匂をは風にそふとも梅の花色さへあやなあたにちらすな
    にほひをは かせにそふとも うめのはな いろさへあやな あたにちらすな
    大中臣能宣
    32ともすれは風のよるにそ青柳のいとは中中みたれそめける
    ともすれは かせのよるにそ あをやきの いとはなかなか みたれそめける
    読人知らず
    33ちかくてそ色もまされるあをやきの糸はよりてそ見るへかりける
    ちかくてそ いろもまされる あをやきの いとはよりてそ みるへかりける
    大中臣能宣
    34青柳の花田のいとをよりあはせてたえすもなくか鴬のこゑ
    あをやきの はなたのいとを よりあはせて たえすもなくか うくひすのこゑ
    凡河内躬恒
    35花見にはむれてゆけとも青柳の糸のもとにはくる人もなし
    はなみには むれてゆけとも あをやきの いとのもとには くるひともなし
    読人知らず
    36さけはちるさかねはこひし山桜思ひたえせぬ花のうへかな
    さけはちる さかねはこひし やまさくら おもひたえせぬ はなのうへかな
    中務
    37吉野山たえす霞のたなひくは人にしられぬ花やさくらん
    よしのやま たえすかすみの たなひくは ひとにしられぬ はなやさくらむ
    中務
    38さきさかすよそにても見む山さくら峯の白雲たちなかくしそ
    さきさかす よそにてもみむ やまさくら みねのしらくも たちなかくしそ
    読人知らず
    39吹く風にあらそひかねてあしひきの山の桜はほころひにけり
    ふくかせに あらそひかねて あしひきの やまのさくらは ほころひにけり
    読人知らず
    40浅緑のへの霞はつつめともこほれてにほふ花さくらかな
    あさみとり のへのかすみは つつめとも こほれてにほふ はなさくらかな
    読人知らず
    41吉野山きえせぬ雪と見えつるは峯つつきさくさくらなりけり
    よしのやま きえせぬゆきと みえつるは みねつつきさく さくらなりけり
    読人知らず
    42春霞立ちなへたてそ花さかりみてたにあかぬ山のさくらを
    はるかすみ たちなへたてそ はなさかり みてたにあかぬ やまのさくらを
    清原元輔
    43はるは猶我にてしりぬ花さかり心のとけき人はあらしな
    はるはなほ われにてしりぬ はなさかり こころのとけき ひとはあらしな
    壬生忠岑
    44さきそめていく世へぬらんさくら花色をは人にあかす見せつつ
    さきそめて いくよへぬらむ さくらはな いろをはひとに あかすみせつつ
    藤原千景
    45春くれはまつそうち見るいその神めつらしけなき山田なれとも
    はるくれは まつそうちみる いそのかみ めつらしけなき やまたなれとも
    壬生忠見
    46はるくれは山田の氷打ちとけて人の心にまかすへらなり
    はるくれは やまたのこほり うちとけて ひとのこころに まかすへらなり
    在原元方
    47春の田を人にまかせて我はたた花に心をつくるころかな
    はるのたを ひとにまかせて われはたた はなにこころを つくるころかな
    斎宮内侍
    48あたなれとさくらのみこそ旧里の昔なからの物には有りけれ
    あたなれと さくらのみこそ ふるさとの むかしなからの ものにはありけれ
    紀貫之
    49ちりちらすきかまほしきをふるさとの花見て帰る人もあはなん
    ちりちらす きかまほしきを ふるさとの はなみてかへる ひともあはなむ
    伊勢
    50さくらかり雨はふりきぬおなしくはぬるとも花の影にかくれむ
    さくらかり あめはふりきぬ おなしくは ぬるともはなの かけにかくれむ
    読人知らず
    51とふ人もあらしと思ひし山さとに花のたよりに人め見るかな
    とふひとも あらしとおもひし やまさとに はなのたよりに ひとめみるかな
    清原元輔
    52花の木をうゑしもしるく春くれはわかやとすきて行く人そなき
    はなのきを うゑしもしるく はるくれは わかやとすきて ゆくひとそなき
    平兼盛
    53さくら色にわか身は深く成りぬらん心にしめて花ををしめは
    さくらいろに わかみはふかく なりぬらむ こころにしめて はなををしめは
    読人知らず
    54身にかへてあやなく花を惜むかないけらはのちのはるもこそあれ
    みにかへて あやなくはなを をしむかな いけらはのちの はるもこそあれ
    藤原長能
    55見れとあかぬ花のさかりに帰る雁猶ふるさとのはるやこひしき
    みれとあかぬ はなのさかりに かへるかり なほふるさとの はるやこひしき
    読人知らず
    56ふるさとの霞とひわけゆくかりはたひのそらにやはるをくらさむ
    ふるさとの かすみとひわけ ゆくかりは たひのそらにや はるをくらさむ
    読人知らず
    57ちりぬへき花見る時はすかのねのなかきはる日もみしかかりけり
    ちりぬへき はなみるときは すかのねの なかきはるひも みしかかりけり
    藤原清正
    58つけやらんまにもちりなはさくら花いつはり人に我やなりなん
    つけやらむ まにもちりなは さくらはな いつはりひとに われやなりなむ
    読人知らず
    59ちりそむる花を見すててかへらめやおほつかなしといもはまつとも
    ちりそむる はなをみすてて かへらめや おほつかなしと いもはまつとも
    大中臣能宣
    60見もはててゆくとおもへはちる花につけて心のそらになるかな
    みもはてて ゆくとおもへは ちるはなに つけてこころの そらになるかな
    読人知らず
    61あさことにわかはくやとのにはさくら花ちるほとはてもふれて見む
    あさことに わかはくやとの にはさくら はなちるほとは てもふれてみむ
    読人知らず
    62あさちはらぬしなきやとの桜花心やすくや風にちるらん
    あさちはら ぬしなきやとの さくらはな こころやすくや かせにちるらむ
    恵慶法師
    63春ふかくなりぬと思ふをさくら花ちるこのもとはまた雪そふる
    はるふかく なりぬとおもふを さくらはな ちるこのもとは またゆきそふる
    紀貫之
    64さくらちるこのした風はさむからてそらにしられぬゆきそふりける
    さくらちる このしたかせは さむからて そらにしられぬ ゆきそふりける
    紀貫之
    65あしひきの山ちにちれる桜花きえせぬはるの雪かとそ見る
    あしひきの やまちにちれる さくらはな きえせぬはるの ゆきかとそみる
    読人知らず
    66あしひきの山かくれなるさくら花ちりのこれりと風にしらるな
    あしひきの やまかくれなる さくらはな ちりのこれりと かせにしらるな
    小弐命婦
    67いはまをもわけくるたきの水をいかてちりつむ花のせきととむらん
    いはまをも わけくるたきの みつをいかて ちりつむはなの せきととむらむ
    読人知らず
    68春ふかみゐてのかは浪たちかへり見てこそゆかめ山吹の花
    はるふかみ ゐてのかはなみ たちかへり みてこそゆかめ やまふきのはな
    源順
    69山吹の花のさかりにゐてにきてこのさと人になりぬへきかな
    やまふきの はなのさかりに ゐてにきて このさとひとに なりぬへきかな
    恵慶法師
    70物もいはてなかめてそふる山吹の花に心そうつろひぬらん
    ものもいはて なかめてそふる やまふきの はなにこころそ うつろひぬらむ
    清原元輔
    71さは水にかはつなくなり山吹のうつろふ影やそこに見ゆらん
    さはみつに かはつなくなり やまふきの うつろふかけや そこにみゆらむ
    読人知らず
    72わかやとのやへ山吹はひとへたにちりのこらなんはるのかたみに
    わかやとの やへやまふきは ひとへたに ちりのこらなむ はるのかたみに
    読人知らず
    73花の色をうつしととめよ鏡山春よりのちの影や見ゆると
    はなのいろを うつしととめよ かかみやま はるよりのちの かけやみゆると
    坂上是則
    74春霞たちわかれゆく山みちは花こそぬさとちりまかひけれ
    はるかすみ たちわかれゆく やまみちは はなこそぬさと ちりまかひけれ
    読人知らず
    75年の内はみな春なからくれななん花見てたにもうきよすくさん
    としのうちは みなはるなから くれななむ はなみてたにも うきよすくさむ
    読人知らず
    76風ふけは方もさためすちる花をいつ方へゆくはるとかは見む
    かせふけは かたもさためす ちるはなを いつかたへゆく はるとかはみむ
    紀貫之
    77花もみなちりぬるやとは行く春のふるさととこそなりぬへらなれ
    はなもみな ちりぬるやとは ゆくはるの ふるさととこそ なりぬへらなれ
    紀貫之
    78つねよりものとけかりつるはるなれとけふのくるるはあかすそありける
    つねよりも のとけかりつる はるなれと けふのくるるは あかすそありける
    凡河内躬恒
    79なくこゑはまたきかねともせみのはのうすき衣はたちそきてける
    なくこゑは またきかねとも せみのはの うすきころもは たちそきてける
    大中臣能宣
    80わかやとのかきねやはるをへたつらん夏きにけりと見ゆる卯の花
    わかやとの かきねやはるを へたつらむ なつきにけりと みゆるうのはな
    源順
    81花の色にそめしたもとのをしけれは衣かへうきけふにもあるかな
    はなのいろに そめしたもとの をしけれは ころもかへうき けふにもあるかな
    源重之
    82花ちるといとひしものを夏衣たつやおそきと風をまつかな
    はなちると いとひしものを なつころも たつやおそきと かせをまつかな
    盛明のみこ
    83夏にこそさきかかりけれふちの花松にとのみも思ひけるかな
    なつにこそ さきかかりけれ ふちのはな まつにとのみも おもひけるかな
    源重之
    84住吉の岸のふちなみわかやとの松のこすゑに色はまさらし
    すみよしの きしのふちなみ わかやとの まつのこすゑに いろはまさらし
    平兼盛
    85紫のふちさく松のこすゑにはもとのみとりもみえすそありける
    むらさきの ふちさくまつの こすゑには もとのみとりも みえすそありける
    源順
    86うすくこくみたれてさける藤の花ひとしき色はあらしとそ思ふ
    うすくこく みたれてさける ふちのはな ひとしきいろは あらしとそおもふ
    小野宮太政大臣
    87手もふれてをしむかひなく藤の花そこにうつれは浪そをりける
    てもふれて をしむかひなく ふちのはな そこにうつれは なみそをりける
    凡河内躬恒
    88たこの浦のそこさへにほふ藤浪をかさしてゆかん見ぬ人のため
    たこのうらの そこさへにほふ ふちなみを かさしてゆかむ みぬひとのため
    柿本人麻呂(人麿)
    89卯の花をちりにしむめにまかへてや夏のかきねに鴬のなく
    うのはなを ちりにしうめに まかへてや なつのかきねに うくひすのなく
    平公誠
    90うの花のさけるかきねはみちのくのまかきのしまの浪かとそ見る
    うのはなの さけるかきねは みちのくの まかきのしまの なみかとそみる
    読人知らず
    91神まつる卯月にさける卯の花はしろくもきねかしらけたるかな
    かみまつる うつきにさける うのはなは しろくもきねか しらけたるかな
    凡河内躬恒
    92かみまつるやとの卯の花白妙のみてくらかとそあやまたれける
    かみまつる やとのうのはな しろたへの みてくらかとそ あやまたれける
    紀貫之
    93山かつのかきねにさける卯の花はたか白妙の衣かけしそ
    やまかつの かきねにさける うのはなは たかしろたへの ころもかけしそ
    読人知らず
    94時わかすふれる雪かと見るまてにかきねもたわにさける卯の花
    ときわかす ふれるゆきかと みるまてに かきねもたわに さけるうのはな
    読人知らず
    95春かけてきかむともこそ思ひしか山郭公おそくなくらん
    はるかけて きかむともこそ おもひしか やまほとときす おそくなくらむ
    読人知らず
    96はつこゑのきかまほしさに郭公夜深くめをもさましつるかな
    はつこゑの きかまほしさに ほとときす よふかくめをも さましつるかな
    読人知らず
    97家にきてなにをかたらむあしひきの山郭公ひとこゑもかな
    いへにきて なにをかたらむ あしひきの やまほとときす ひとこゑもかな
    久米広縄
    98山さとにしる人もかな郭公なきぬときかはつけにくるかに
    やまさとに しるひともかな ほとときす なきぬときかは つけにくるかに
    紀貫之
    99やまさとにやとらさりせは郭公きく人もなきねをやなかまし
    やまさとに やとらさりせは ほとときす きくひともなき ねをやなかまし
    読人知らず
    100髣髴にそ鳴渡るなる郭公み山をいつるけさのはつ声
    ほのかにそ なきわたるなる ほとときす みやまをいつる けさのはつこゑ
    坂上望城
    101み山いてて夜はにやきつる郭公暁かけてこゑのきこゆる
    みやまいてて よはにやきつる ほとときす あかつきかけて こゑのきこゆる
    平兼盛
    102宮こ人ねてまつらめや郭公今そ山へをなきていつなる
    みやこひと ねてまつらめや ほとときす いまそやまへを なきていつなる
    藤原道綱母
    103山かつと人はいへとも郭公まつはつこゑは我のみそきく
    やまかつと ひとはいへとも ほとときす まつはつこゑは われのみそきく
    坂上是則
    104さ夜ふけてねさめさりせは郭公人つてにこそきくへかりけれ
    さよふけて ねさめさりせは ほとときす ひとつてにこそ きくへかりけれ
    壬生忠見
    105ふたこゑときくとはなしに郭公夜深くめをもさましつるかな
    ふたこゑと きくとはなしに ほとときす よふかくめをも さましつるかな
    伊勢
    106行きやらて山ちくらしつほとときす今ひとこゑのきかまほしさに
    ゆきやらて やまちくらしつ ほとときす いまひとこゑの きかまほしさに
    源公忠朝臣
    107このさとにいかなる人かいへゐして山郭公たえすきくらむ
    このさとに いかなるひとか いへゐして やまほとときす たえすきくらむ
    紀貫之
    108さみたれはちかくなるらしよと河のあやめの草もみくさおひにけり
    さみたれは ちかくなるらし よとかはの あやめのくさも みくさおひにけり
    読人知らず
    109昨日まてよそに思ひしあやめ草けふわかやとのつまと見るかな
    きのふまて よそにおもひし あやめくさ けふわかやとの つまとみるかな
    大中臣能宣
    110けふ見れは玉のうてなもなかりけりあやめの草のいほりのみして
    けふみれは たまのうてなも なかりけり あやめのくさの いほりのみして
    読人知らず
    111葦引の山郭公けふとてやあやめの草のねにたててなく
    あしひきの やまほとときす けふとてや あやめのくさの ねにたててなく
    延喜御製
    112たかそてに思ひよそへて郭公花橘のえたになくらん
    たかそてに おもひよそへて ほとときす はなたちはなの えたになくらむ
    読人知らず
    113いつ方になきてゆくらむ郭公よとのわたりのまたよふかきに
    いつかたに なきてゆくらむ ほとときす よとのわたりの またよふかきに
    壬生忠見
    114しけることまこものおふるよとのにはつゆのやとりを人そかりける
    しけること まこものおふる よとのには つゆのやとりを ひとそかりける
    壬生忠見
    115かの方にはやこきよせよ郭公道になきつと人にかたらん
    かのかたに はやこきよせよ ほとときす みちになきつと ひとにかたらむ
    紀貫之
    116郭公をちかへりなけうなゐこかうちたれかみのさみたれのそら
    ほとときす をちかへりなけ うなゐこか うちたれかみの さみたれのそら
    凡河内躬恒
    117なけやなけたか田の山の郭公このさみたれにこゑなをしみそ
    なけやなけ たかたのやまの ほとときす このさみたれに こゑなをしみそ
    読人知らず
    118さみたれはいこそねられね郭公夜ふかくなかむこゑをまつとて
    さみたれは いこそねられね ほとときす よふかくなかむ こゑをまつとて
    読人知らず
    119うたて人おもはむものをほとときすよるしもなとかわかやとになく
    うたてひと おもはむものを ほとときす よるしもなとか わかやとになく
    読人知らず
    120郭公いたくななきそひとりゐていのねられぬにきけはくるしも
    ほとときす いたくななきそ ひとりゐて いのねられぬに きけはくるしも
    大伴坂上郎女
    121夏の夜の心をしれるほとときすはやもなかなんあけもこそすれ
    なつのよの こころをしれる ほとときす はやもなかなむ あけもこそすれ
    中務
    122なつのよは浦島のこかはこなれやはかなくあけてくやしかるらん
    なつのよは うらしまのこか はこなれや はかなくあけて くやしかるらむ
    中務
    123なつくれは深草山の郭公なくこゑしけくなりまさるなり
    なつくれは ふかくさやまの ほとときす なくこゑしけく なりまさるなり
    読人知らず
    124さ月やみくらはし山の郭公おほつかなくもなきわたるかな
    さつきやみ くらはしやまの ほとときす おほつかなくも なきわたるかな
    藤原実方朝臣
    125郭公なくやさ月のみしかよもひとりしぬれはあかしかねつも
    ほとときす なくやさつきの みしかよも ひとりしぬれは あかしかねつも
    読人知らず
    126ほとときす松につけてやともしする人も山へによをあかすらん
    ほとときす まつにつけてや ともしする ひともやまへに よをあかすらむ
    源順
    127さ月山このしたやみにともす火はしかのたちとのしるへなりけり
    さつきやま このしたやみに ともすひは しかのたちとの しるへなりけり
    紀貫之
    128あやしくもしかのたちとの見えぬかなをくらの山に我やきぬらん
    あやしくも しかのたちとの みえぬかな をくらのやまに われやきぬらむ
    平兼盛
    129ゆくすゑはまたとほけれと夏山のこのしたかけそたちうかりける
    ゆくすゑは またとほけれと なつやまの このしたかけそ たちうかりける
    凡河内躬恒
    130夏山の影をしけみやたまほこの道行く人も立ちとまるらん
    なつやまの かけをしけみや たまほこの みちゆくひとも たちとまるらむ
    紀貫之
    131松影のいはゐの水をむすひあけて夏なきとしと思ひけるかな
    まつかけの いはゐのみつを むすひあけて なつなきとしと おもひけるかな
    恵慶法師
    132いつこにもさきはすらめとわかやとの山となてしこたれに見せまし
    いつこにも さきはすらめと わかやとの やまとなてしこ たれにみせまし
    伊勢
    133そこきよみなかるる河のさやかにもはらふることを神はきかなん
    そこきよみ なかるるかはの さやかにも はらふることを かみはきかなむ
    読人知らず
    134さはへなすあらふる神もおしなへてけふはなこしの祓なりけり
    さはへなす あらふるかみも おしなへて けふはなこしの はらへなりけり
    藤原長能
    135もみちせはあかくなりなんをくら山秋まつほとのなにこそありけれ
    もみちせは あかくなりなむ をくらやま あきまつほとの なにこそありけれ
    読人知らず
    136おほあらきのもりのした草しけりあひて深くも夏のなりにけるかな
    おほあらきの もりのしたくさ しけりあひて ふかくもなつの なりにけるかな
    壬生忠岑
    137夏衣またひとへなるうたたねに心してふけ秋のはつ風
    なつころも またひとへなる うたたねに こころしてふけ あきのはつかせ
    安法法師
    138秋はきぬ竜田の山も見てしかなしくれぬさきに色やかはると
    あきはきぬ たつたのやまも みてしかな しくれぬさきに いろやかはると
    読人知らず
    139荻の葉のそよくねとこそ秋風の人にしらるる始なりけれ
    をきのはの そよくおとこそ あきかせの ひとにしらるる はしめなりけれ
    紀貫之
    140やへむくらしけれるやとのさひしきに人こそ見えね秋はきにけり
    やへむくら しけれるやとの さひしきに ひとこそみえね あきはきにけり
    #百人一首
    恵慶法師
    141秋立ちていく日もあらねとこのねぬるあさけの風はたもとすすしも
    あきたちて いくかもあらねと このねぬる あさけのかせは たもとすすしも
    安貴玉
    142ひこほしのつままつよひの秋思に我さへあやな人そこひしき
    ひこほしの つままつよひの あきかせに われさへあやな ひとそこひしき
    凡河内躬恒
    143秋風に夜のふけゆけはあまの河かはせに浪のたちゐこそまて
    あきかせに よのふけゆけは あまのかは かはせになみの たちゐこそまて
    紀貫之
    144あまの河とほき渡にあらねとも君かふなては年にこそまて
    あまのかは とほきわたりに あらねとも きみかふなては としにこそまて
    柿本人麻呂(人麿)
    145天の河こその渡のうつろへはあさせふむまに夜そふけにける
    あまのかは こそのわたりの うつろへは あさせふむまに よそふけにける
    柿本人麻呂(人麿)
    146さ夜ふけてあまの河をそいてて見る思ふさまなる雲や渡ると
    さよふけて あまのかはをそ いててみる おもふさまなる くもやわたると
    読人知らず
    147ひこほしの思ひますらん事よりも見る我くるしよのふけゆけは
    ひこほしの おもひますらむ ことよりも みるわれくるし よのふけゆけは
    湯原玉
    148年に有りてひとよいもにあふひこほしも我にまさりて思ふらんやそ
    としにありて ひとよいもにあふ ひこほしも われにまさりて おもふらむやそ
    柿本人麻呂(人麿)
    149たなはたにぬきてかしつる唐衣いとと涙に袖やぬるらん
    たなはたに ぬきてかしつる からころも いととなみたに そてやぬるらむ
    紀貫之
    150ひととせにひとよとおもへとたなはたのあひ見む秋の限なきかな
    ひととせに ひとよとおもへと たなはたの あひみむあきの かきりなきかな
    紀貫之
    151いたつらにすくる月日をたなはたのあふよのかすと思はましかは
    いたつらに すくるつきひを たなはたの あふよのかすと おもはましかは
    恵慶法師
    152いととしくいもねさるらんと思ふかなけふのこよひにあへるたなはた
    いととしく いもねさるらむと おもふかな けふのこよひに あへるたなはた
    清原元輔
    153あひ見てもあはてもなけくたなはたはいつか心ののとけかるへき
    あひみても あはてもなけく たなはたは いつかこころの のとけかるへき
    読人知らず
    154わかいのる事はひとつそ天の河そらにしりてもたかへさらなん
    わかいのる ことはひとつそ あまのかは そらにしりても たかへさらなむ
    読人知らず
    155君こすは誰に見せましわかやとのかきねにさける槿の花
    きみこすは たれにみせまし わかやとの かきねにさける あさかほのはな
    読人知らず
    156女郎花おほかるのへに花すすきいつれをさしてまねくなるらん
    をみなへし おほかるのへに はなすすき いつれをさして まねくなるらむ
    読人知らず
    157手もたゆくうゑしもしるく女郎花色ゆゑ君かやとりぬるかな
    てもたゆく うゑしもしるく をみなへし いろゆゑきみか やとりぬるかな
    読人知らず
    158くちなしの色をそたのむ女郎花はなにめてつと人にかたるな
    くちなしの いろをそたのむ をみなへし はなにめてつと ひとにかたるな
    小野宮太政大臣
    159女郎花にほふあたりにむつるれはあやなくつゆや心おくらん
    をみなへし にほふあたりに むつるれは あやなくつゆや こころおくらむ
    大中臣能宣
    160白露のおくつまにする女郎花あなわつらはし人なてふれそ
    しらつゆの おくつまにする をみなへし あなわつらはし ひとなてふれそ
    読人知らず
    161日くらしに見れともあかぬをみなへしのへにやこよひたひねしなまし
    ひくらしに みれともあかぬ をみなへし のへにやこよひ たひねしなまし
    藤原長能
    162荻の葉もややうちそよくほとなるをなとかりかねのおとなかるらん
    をきのはも ややうちそよく ほとなるを なとかりかねの おとなかるらむ
    恵慶法師
    163かりにとてくへかりけりや秋の野の花見るほとに日もくれぬへし
    かりにとて くへかりけりや あきののの はなみるほとに ひもくれぬへし
    読人知らず
    164秋の野の花のなたてに女郎花かりにのみこむ人にをらるな
    あきののの はなのなたてに をみなへし かりにのみこむ ひとにをらるな
    読人知らず
    165かりにとて我はきつれとをみなへし見るに心そ思ひつきぬる
    かりにとて われはきつれと をみなへし みるにこころそ おもひつきぬる
    紀貫之
    166かりにのみ人の見ゆれはをみなへし花のたもとそつゆけかりける
    かりにのみ ひとのみゆれは をみなへし はなのたもとそ つゆけかりける
    紀貫之
    167栽ゑたてて君かしめゆふ花なれは玉と見えてやつゆもおくらん
    うゑたてて きみかしめゆふ はななれは たまとみえてや つゆもおくらむ
    伊勢
    168こてすくす秋はなけれとはつかりのきくたひことにめつらしきかな
    こてすくす あきはなけれと はつかりの きくたひことに めつらしきかな
    読人知らず
    169相坂の関のいはかとふみならし山たちいつるきりはらのこま
    あふさかの せきのいはかと ふみならし やまたちいつる きりはらのこま
    大弐高遠
    170あふさかの関のし水に影見えて今やひくらんもち月のこま
    あふさかの せきのしみつに かけみえて いまやひくらむ もちつきのこま
    紀貫之
    171水のおもにてる月浪をかそふれはこよひそ秋のもなかなりける
    みつのおもに てるつきなみを かそふれは こよひそあきの もなかなりける
    源順
    172秋の月浪のそこにそいてにけるまつらん山のかひやなからん
    あきのつき なみのそこにそ いてにける まつらむやまの かひやなからむ
    大中臣能宣
    173あきの月西にあるかと見えつるはふけゆくよはの影にそ有りける
    あきのつき にしにあるかと みえつるは ふけゆくよはの かけにそありける
    源景明
    174あかすのみおもほえむをはいかかせんかくこそは見め秋のよの月
    あかすのみ おもほえむをは いかかせむ かくこそはみめ あきのよのつき
    清原元輔
    175ここにたにひかりさやけき秋の月雲のうへこそ思ひやらるれ
    ここにたに ひかりさやけき あきのつき くものうへこそ おもひやらるれ
    藤原経臣
    176いつこにか今夜の月の見えさらんあかぬは人の心なりけり
    いつこにか こよひのつきの みえさらむ あかぬはひとの こころなりけり
    凡河内躬恒
    177終夜見てをあかさむ秋の月こよひのそらにくもなからなん
    よもすから みてをあかさむ あきのつき こよひのそらに くもなからなむ
    平兼盛
    178おほつかないつこなるらん虫のねをたつねは草の露やみたれん
    おほつかな いつこなるらむ むしのねを たつねはくさの つゆやみたれむ
    藤原為頼
    179いつこにも草の枕をすすむしはここをたひとも思はさらなん
    いつこにも くさのまくらを すすむしは ここをたひとも おもはさらなむ
    伊勢
    180秋くれははたおる虫のあるなへに唐錦にも見ゆるのへかな
    あきくれは はたおるむしの あるなへに からにしきにも みゆるのへかな
    紀貫之
    181契りけん程や過きぬる秋ののに人松虫の声のたえせぬ
    ちきりけむ ほとやすきぬる あきののに ひとまつむしの こゑのたえせぬ
    読人知らず
    182露けくてわか衣手はぬれぬとも折りてをゆかん秋はきの花
    つゆけくて わかころもては ぬれぬとも をりてをゆかむ あきはきのはな
    凡河内躬恒
    183うつろはむ事たに惜しき秋萩ををれぬはかりもおける露かな
    うつろはむ ことたにをしき あきはきを をれぬはかりも おけるつゆかな
    伊勢
    184わかやとの菊の白露けふことにいく世つもりて淵となるらん
    わかやとの きくのしらつゆ けふことに いくよつもりて ふちとなるらむ
    清原元輔
    185長月のここぬかことにつむ菊の花もかひなくおいにけるかな
    なかつきの ここぬかことに つむきくの はなもかひなく おいにけるかな
    凡河内躬恒
    186千鳥なくさほの河きり立ちぬらし山のこのはも色かはり行く
    ちとりなく さほのかはきり たちぬらし やまのこのはも いろかはりゆく
    壬生忠岑
    187風さむみわかから衣うつ時そ萩のしたはもいろまさりける
    かせさむみ わかからころも うつときそ はきのしたはも いろまさりける
    紀貫之
    188神なひのみむろの山をけふみれはした草かけて色つきにけり
    かみなひの みむろのやまを けふみれは したくさかけて いろつきにけり
    曾禰好忠
    189紅葉せぬときはの山は吹く風のおとにや秋をききわたるらん
    もみちせぬ ときはのやまは ふくかせの おとにやあきを ききわたるらむ
    大中臣能宣
    190もみちせぬときはの山にすむしかはおのれなきてや秋をしるらん
    もみちせぬ ときはのやまに すむしかは おのれなきてや あきをしるらむ
    大中臣能宣
    191秋風の打吹くことに高砂のをのへのしかのなかぬ日そなき
    あきかせの うちふくことに たかさこの をのへのしかの なかぬひそなき
    読人知らず
    192あきかせをそむくものから花すすきゆく方をなとまねくなるらん
    あきかせを そむくものから はなすすき ゆくかたをなと まねくなるらむ
    読人知らず
    193もみち見にやとれる我としらねはやさほの河きりたちかくすらん
    もみちみに やとれるわれと しらねはや さほのかはきり たちかくすらむ
    恵慶法師
    194もみちはの色をしそへてなかるれはあさくも見えす山河の水
    もみちはの いろをしそへて なかるれは あさくもみえす やまかはのみつ
    読人知らず
    195もみち葉をけふは猶見むくれぬともをくらの山の名にはさはらし
    もみちはを けふはなほみむ くれぬとも をくらのやまの なにはさはらし
    大中臣能宣
    196秋きりのたたまくをしき山ちかなもみちの錦おりつもりつつ
    あききりの たたまくをしき やまちかな もみちのにしき おりつもりつつ
    読人しらす
    197水のあやに紅葉の鏡かさねつつ河せに浪のたたぬ日そなき
    みつのあやに もみちのにしき かさねつつ かはせになみの たたぬひそなき
    健守法師
    198名をきけは昔なからの山なれとしくるる秋は色まさりけり
    なをきけは むかしなからの やまなれと しくるるあきは いろまさりけり
    源順
    199昨日よりけふはまされるもみちはのあすの色をは見てややみなん
    きのふより けふはまされる もみちはの あすのいろをは みてややみなむ
    恵慶法師
    200もみち葉を手ことにをりてかへりなん風の心もうしろめたきに
    もみちはを てことにをりて かへりなむ かせのこころも うしろめたきに
    源延光朝臣
    201枝なから見てをかへらんもみちははをらんほとにもちりもこそすれ
    えたなから みてをかへらむ もみちはは をらむほとにも ちりもこそすれ
    源兼光
    202河霧のふもとをこめて立ちぬれはそらにそ秋の山は見えける
    かはきりの ふもとをこめて たちぬれは そらにそあきの やまはみえける
    深養父
    203水うみに秋の山へをうつしてははたはりひろき錦とそ見る
    みつうみに あきのやまへを うつしては はたはりひろき にしきとそみる
    法橋観教
    204今よりは紅葉のもとにやとりせしをしむに旅の日かすへぬへし
    いまよりは もみちのもとに やとりせし をしむにたひの ひかすへぬへし
    恵慶法師
    205とふ人も今はあらしの山かせに人松虫のこゑそかなしき
    とふひとも いまはあらしの やまかせに ひとまつむしの こゑそかなしき
    読人知らず
    206ちりぬへき山の紅葉を秋きりのやすくも見せす立ちかくすらん
    ちりぬへき やまのもみちを あききりの やすくもみせす たちかくすらむ
    紀貫之
    207秋山のあらしのこゑをきく時はこのはならねと物そかなしき
    あきやまの あらしのこゑを きくときは このはならねと ものそかなしき
    僧正遍昭
    208あきの夜に雨ときこえてふる物は風にしたかふ紅葉なりけり
    あきのよに あめときこえて ふるものは かせにしたかふ もみちなりけり
    紀貫之
    209心もてちらんたにこそをしからめなとか紅葉に風の吹くらん
    こころもて ちらむたにこそ をしからめ なとかもみちに かせのふくらむ
    紀貫之
    210あさまたき嵐の山のさむけれは紅葉の錦きぬ人そなき
    あさまたき あらしのやまの さむけれは もみちのにしき きぬひとそなき
    右衛門督公任
    211秋きりの峯にもをにもたつ山はもみちの錦たまらさりけり
    あききりの みねにもをにも たつやまは もみちのにしき たまらさりけり
    大中臣能宣
    212いろいろのこのはなかるる大井河しもは桂のもみちとや見ん
    いろいろの このはなかるる おほゐかは しもはかつらの もみちとやみむ
    壬生忠岑
    213まねくとて立ちもとまらぬ秋ゆゑにあはれかたよる花すすきかな
    まねくとて たちもとまらぬ あきゆゑに あはれかたよる はなすすきかな
    曾禰好忠
    214くれてゆく秋のかたみにおく物はわかもとゆひのしもにそ有りける
    くれてゆく あきのかたみに おくものは わかもとゆひの しもにそありける
    平兼盛
    215あしひきの山かきくもりしくるれと紅葉はいととてりまさりけり
    あしひきの やまかきくもり しくるれと もみちはいとと てりまさりけり
    紀貫之
    216綱代木にかけつつ洗ふ唐錦日をへてよする紅葉なりけり
    あしろきに かけつつあらふ からにしき ひをへてよする もみちなりけり
    読人知らず
    217かきくらししくるるそらをなかめつつ思ひこそやれ神なひのもり
    かきくらし しくるるそらを なかめつつ おもひこそやれ かみなひのもり
    紀貫之
    218神な月時雨しぬらしくすのはのうらこかるねに鹿もなくなり
    かみなつき しくれしぬらし くすのはの うちこかるねに しかもなくなり
    読人知らず
    219竜田河もみち葉なかる神なひのみむろの山に時雨ふるらし
    たつたかは もみちはなかる かみなひの みむろのやまに しくれふるらし
    柿本人麻呂(人麿)
    220唐錦枝にひとむらのこれるは秋のかたみをたたぬなりけり
    からにしき えたにひとむら のこれるは あきのかたみを たたぬなりけり
    僧正遍昭
    221流れくるもみち葉見れはからにしき滝のいともておれるなりけり
    なかれくる もみちはみれは からにしき たきのいともて おれるなりけり
    紀貫之
    222時雨ゆゑかつくたもとをよそ人はもみちをはらふ袖かとや見ん
    しくれゆゑ かつくたもとを よそひとは もみちをはらふ そてかとやみむ
    平兼盛
    223あしのはにかくれてすみしつのくにのこやもあらはに冬はきにけり
    あしのはに かくれてすみし つのくにの こやもあらはに ふゆはきにけり
    源重之
    224思ひかねいもかりゆけは冬の夜の河風さむみちとりなくなり
    おもひかね いもかりゆけは ふゆのよの かはかせさむみ ちとりなくなり
    紀貫之
    225ひねもすに見れともあかぬもみちははいかなる山の嵐なるらん
    ひねもすに みれともあかぬ もみちはは いかなるやまの あらしなるらむ
    読人知らず
    226夜をさむみねさめてきけはをしとりの浦山しくもみなるなるかな
    よをさむみ ねさめてきけは をしとりの うらやましくも みなるなるかな
    読人知らず
    227水鳥のしたやすからぬ思ひにはあたりの水もこほらさりけり
    みつとりの したやすからぬ おもひには あたりのみつも こほらさりけり
    読人知らず
    228夜をさむみねさめてきけはをしそなく払ひもあへす霜やおくらん
    よをさむみ ねさめてきけは をしそなく はらひもあへす しもやおくらむ
    読人知らず
    229霜のうへにふるはつゆきのあさ氷とけすも物を思ふころかな
    しものうへに ふるはつゆきの あさこほり とけすもものを おもふころかな
    読人知らず
    230しもおかぬ袖たにさゆる冬の夜にかものうはけを思ひこそやれ
    しもおかぬ そてたにさゆる ふゆのよに かものうはけを おもひこそやれ
    右衛門督公任
    231池水や氷とくらむあしかもの夜ふかくこゑのさわくなるかな
    いけみつや こほりとくらむ あしかもの よふかくこゑの さわくなるかな
    たちはなのゆきより
    232とひかよふをしのはかせのさむけれは池の氷そさえまさりける
    とひかよふ をしのはかせの さむけれは いけのこほりそ さえまさりける
    紀友則
    233水のうへに思ひしものを冬の夜の氷は袖の物にそ有りける
    みつのうへに おもひしものを ふゆのよの こほりはそての ものにそありける
    読人知らず
    234ふしつけしよとの渡をけさ見れはとけんこもなく氷しにけり
    ふしつけし よとのわたりを けさみれは とけむこもなく こほりしにけり
    平兼盛
    235冬さむみこほらぬ水はなけれとも吉野のたきはたゆるよもなし
    ふゆさむみ こほらぬみつは なけれとも よしののたきは たゆるよもなし
    読人知らず
    236ふゆされは嵐のこゑもたかさこの松につけてそきくへかりける
    ふゆされは あらしのこゑも たかさこの まつにつけてそ きくへかりける
    大中臣能宣
    237高砂の松にすむつる冬くれはをのへの霜やおきまさるらん
    たかさこの まつにすむつる ふゆくれは をのへのしもや おきまさるらむ
    清原元輔
    238ゆふされはさほのかはらの河きりに友まとはせる千鳥なくなり
    ゆふされは さほのかはらの かはきりに ともまとはせる ちとりなくなり
    紀友則
    239浦ちかくふりくる雪はしら浪の末の松山こすかとそ見る
    うらちかく ふりくるゆきは しらなみの すゑのまつやま こすかとそみる
    柿本人麻呂(人麿)
    240冬の夜の池の氷のさやけきは月の光のみかくなりけり
    ふゆのよの いけのこほりの さやけきは つきのひかりの みかくなりけり
    清原元輔
    241ふゆの池のうへは氷にとちられていかてか月のそこに入るらん
    ふゆのいけの うへはこほりに とちられて いかてかつきの そこにいるらむ
    読人知らず
    242あまの原そらさへさえや渡るらん氷と見ゆる冬の夜の月
    あまのはら そらさへさえや わたるらむ こほりとみゆる ふゆのよのつき
    恵慶法師
    243宮こにてめつらしと見るはつ雪はよしのの山にふりやしぬらん
    みやこにて めつらしとみる はつゆきは よしののやまに ふりやしぬらむ
    源景明
    244ふるほともはかなく見ゆるあはゆきのうら山しくも打ちとくるかな
    ふるほとも はかなくみゆる あはゆきの うらやましくも うちとくるかな
    清原元輔
    245あしひきの山ゐにふれる白雪はすれる衣の心地こそすれ
    あしひきの やまゐにふれる しらゆきは すれるころもの ここちこそすれ
    伊勢
    246よるならは月とそ見ましわかやとの庭しろたへにふれるしらゆき
    よるならは つきとそみまし わかやとの にはしろたへに ふれるしらゆき
    紀貫之
    247わかやとの雪につけてそふるさとのよしのの山は思ひやらるる
    わかやとの ゆきにつけてそ ふるさとの よしののやまは おもひやらるる
    大中臣能宣
    248我ひとりこしの山ちにこしかとも雪ふりにける跡を見るかな
    われひとり こしのやまちに こしかとも ゆきふりにける あとをみるかな
    藤原佐忠朝臣
    249年ふれはこしのしら山おいにけりおほくの冬の雪つもりつつ
    としふれは こしのしらやま おいにけり おほくのふゆの ゆきつもりつつ
    壬生忠見
    250見わたせは松のはしろきよしの山いくよつもれる雪にかあるらん
    みわたせは まつのはしろき よしのやま いくよつもれる ゆきにかあるらむ
    平兼盛
    251山さとは雪ふりつみて道もなしけふこむ人をあはれとは見む
    やまさとは ゆきふりつみて みちもなし けふこむひとを あはれとはみむ
    平兼盛
    252あしひきの山ちもしらすしらかしの枝にもはにも雪のふれれは
    あしひきの やまちもしらす しらかしの えたにもはにも ゆきのふれれは
    柿本人麻呂(人麿)
    253白雪のふりしく時はみよしのの山した風に花そちりける
    しらゆきの ふりしくときは みよしのの やましたかせに はなそちりける
    紀貫之
    254人しれす春をこそまてはらふへき人なきやとにふれるしらゆき
    ひとしれす はるをこそまて はらふへき ひとなきやとに ふれるしらゆき
    平兼盛
    255あたらしきはるさへちかくなりゆけはふりのみまさる年の雪かな
    あたらしき はるさへちかく なりゆけは ふりのみまさる としのゆきかな
    大中臣能宣
    256梅かえにふりつむ雪はひととせにふたたひさける花かとそ見る
    うめかえに ふりつむゆきは ひととせに ふたたひさける はなかとそみる
    右衛門督公任
    257おきあかす霜とともにやけさはみな冬の夜ふかきつみもけぬらん
    おきあかす しもとともにや けさはみな ふゆのよふかき つみもけぬらむ
    大中臣能宣
    258年の内につもれるつみはかきくらしふる白雪とともにきえなん
    としのうちに つもれるつみは かきくらし ふるしらゆきと ともにきえなむ
    紀貫之
    259雪ふかき山ちになににかへるらん春まつ花のかけにとまらて
    ゆきふかき やまちになにに かへるらむ はるまつはなの かけにとまらて
    大中臣能宣
    260人はいさをかしやすらん冬くれは年のみつもるゆきとこそ見れ
    ひとはいさ をかしやすらむ ふゆくれは としのみつもる ゆきとこそみれ
    平兼盛
    261かそふれはわか身につもる年月を送り迎ふとなにいそくらん
    かそふれは わかみにつもる としつきを おくりむかふと なにいそくらむ
    平兼盛
    262ゆきつもるおのか年をはしらすしてはるをはあすときくそうれしき
    ゆきつもる おのかとしをは しらすして はるをはあすと きくそうれしき
    源重之
    263よろつ世の始とけふをいのりおきて今行末は神そしるらん
    よろつよの はしめとけふを いのりおきて いまゆくすゑは かみそしるらむ
    中納言朝忠
    264ちはやふるひらのの松の枝しけみ千世もやちよも色はかはらし
    ちはやふる ひらののまつの えたしけみ ちよもやちよも いろはかはらし
    大中臣能宣
    265かまふののたまのを山にすむつるの千とせは君かみよのかすなり
    かまふのの たまのをやまに すむつるの ちとせはきみか みよのかすなり
    読人知らず
    266あさまたききりふのをかにたつきしは千世の日つきの始なりけり
    あさまたき きりふのをかに たつきしは ちよのひつきの はしめなりけり
    清原元輔
    267ふたはよりたのもしきかなかすか山こたかき松のたねそとおもへは
    ふたはより たのもしきかな かすかやま こたかきまつの たねそとおもへは
    大中臣能宣
    268君かへむやほよろつ世をかそふれはかつかつけふそなぬかなりける
    きみかへむ やほよろつよを かそふれは かつかつけふそ なぬかなりける
    大中臣能宣
    269ことしおひの松はなぬかになりにけりのこりの程を思ひこそやれ
    ことしおひの まつはなぬかに なりにけり のこりのほとを おもひこそやれ
    平兼盛
    270千とせともかすはさためす世の中に限なき身と人もいふへく
    ちとせとも かすはさためす よのなかに かきりなきみと ひともいふへく
    大中臣能宣
    271老いぬれはおなし事こそせられけれきみはちよませきみはちよませ
    おいぬれは おなしことこそ せられけれ きみはちよませ きみはちよませ
    源順
    272ゆひそむるはつもとゆひのこむらさき衣の色にうつれとそ思ふ
    ゆひそむる はつもとゆひの こむらさき ころものいろに うつれとそおもふ
    大中臣能宣
    273山しなの山のいはねに松をうゑてときはかきはにいのりつるかな
    やましなの やまのいはねに まつをうゑて ときはかきはに いのりつるかな
    平兼盛
    274声たかくみかさの山そよはふなるあめのしたこそたのしかるらし
    こゑたかく みかさのやまそ よはふなる あめのしたこそ たのしかるらし
    仲算法師
    275色かへぬ松と竹とのすゑの世をいつれひさしと君のみそ見む
    いろかへぬ まつとたけとの すゑのよを いつれひさしと きみのみそみむ
    斎宮内侍
    276ひとふしに千世をこめたる杖なれはつくともつきし君かよはひは
    ひとふしに ちよをこめたる つゑなれは つくともつきし きみかよはひは
    大中臣頼基
    277君か世をなににたとへんさされいしのいはほとならんほともあかねは
    きみかよを なににたとへむ さされいしの いはほとならむ ほともあかねは
    清原元輔
    278あをやきの緑の糸をくり返しいくらはかりのはるをへぬらん
    あをやきの みとりのいとを くりかへし いくらはかりの はるをへぬらむ
    清原元輔
    279わかやとにさけるさくらの花さかりちとせ見るともあかしとそ思ふ
    わかやとに さけるさくらの はなさかり ちとせみるとも あかしとそおもふ
    平兼盛
    280君かためけふきる竹の杖なれはまたもつきせぬ世世そこもれる
    きみかため けふきるたけの つゑなれは またもつきせぬ よよそこもれる
    大中臣能宣
    281位山峯まてつける杖なれと今よろつよのさかのためなり
    くらゐやま みねまてつける つゑなれと いまよろつよの さかのためなり
    大中臣能宣
    282吹く風によその紅葉はちりくれと君かときはの影そのとけき
    ふくかせに よそのもみちは ちりくれと きみかときはの かけそのとけき
    小野好古朝臣
    283よろつ世も猶こそあかね君かため思ふ心のかきりなけれは
    よろつよも なほこそあかね きみかため おもふこころの かきりなけれは
    源公忠朝臣
    284おほそらにむれたるたつのさしなから思ふ心のありけなるかな
    おほそらに むれたるたつの さしなから おもふこころの ありけなるかな
    伊勢
    285春の野のわかなならねときみかため年のかすをもつまんとそ思ふ
    はるののの わかなならねと きみかため としのかすをも つまむとそおもふ
    伊勢
    286さくら花今夜かさしにさしなからかくてちとせの春をこそへめ
    さくらはな こよひかさしに さしなから かくてちとせの はるをこそへめ
    九条右大臣
    287かつ見つつちとせの春をすくすともいつかは花の色にあくへき
    かつみつつ ちとせのはるを すくすとも いつかははなの いろにあくへき
    読人知らず
    288みちとせになるてふもものことしより花さく春にあひにけるかな
    みちとせに なるてふももの ことしより はなさくはるに あひにけるかな
    凡河内躬恒
    289めつらしきちよのはしめの子の日にはまつけふをこそひくへかりけれ
    めつらしき ちよのはしめの ねのひには まつけふをこそ ひくへかりけれ
    藤原のふかた
    290ゆくすゑも子の日の松のためしには君かちとせをひかむとそ思ふ
    ゆくすゑも ねのひのまつの ためしには きみかちとせを ひかむとそおもふ
    三条太政大臣
    291松をのみときはと思ふに世とともになかす泉もみとりなりけり
    まつをのみ ときはとおもふに よとともに なかすいつみも みとりなりけり
    紀貫之
    292みな月のなこしのはらへする人は千とせのいのちのふといふなり
    みなつきの なこしのはらへ するひとは ちとせのいのち のふといふなり
    読人知らず
    293みそきして思ふ事をそ祈りつるやほよろつよの神のまにまに
    みそきして おもふことをそ いのりつる やほよろつよの かみのまにまに
    参議伊衡
    294よろつ世にかはらぬ花の色なれはいつれの秋かきみか見さらん
    よろつよに かはらぬはなの いろなれは いつれのあきか きみかみさらむ
    小野宮太政大臣
    295ちとせとそ草むらことにきこゆなるこや松虫のこゑにはあるらん
    ちとせとそ くさむらことに きこゆなる こやまつむしの こゑにはあるらむ
    平兼盛
    296たか年のかすとかは見むゆきかへり千鳥なくなるはまのまさこを
    たかとしの かすとかはみむ ゆきかへり ちとりなくなる はまのまさこを
    紀貫之
    297おひそむるねよりそしるきふえ竹のすゑの世なかくならん物とは
    おひそむる ねよりそしるき ふえたけの すゑのよなかく ならむものとは
    大中臣能宣
    298千とせともなにかいのらんうらにすむたつのうへをそ見るへかりける
    ちとせとも なにかいのらむ うらにすむ たつのうへをそ みるへかりける
    伊勢
    299きみか世はあまのは衣まれにきてなつともつきぬいはほならなん
    きみかよは あまのはころも まれにきて なつともつきぬ いはほならなむ
    読人知らず
    300うこきなきいはほのはてもきみそ見むをとめのそてのなてつくすまて
    うこきなき いはほのはても きみそみむ をとめのそての なてつくすまて
    清原元輔
    301春霞たつあか月を見るからに心そそらになりぬへらなる
    はるかすみ たつあかつきを みるからに こころそそらに なりぬへらなる
    読人知らず
    302さくら花つゆにぬれたるかほみれはなきて別れし人そこひしき
    さくらはな つゆにぬれたる かほみれは なきてわかれし ひとそこひしき
    読人知らず
    303ちる花は道見えぬまてうつまなんわかるる人もたちやとまると
    ちるはなは みちみえぬまて うつまなむ わかるるひとも たちやとまると
    読人知らず
    304かりかねの帰るをきけはわかれちは雲井はるかに思ふはかりそ
    かりかねの かへるをきけは わかれちは くもゐはるかに おもふはかりそ
    曾禰好忠
    305夏衣たちわかるへき今夜こそひとへにをしき思ひそひぬれ
    なつころも たちわかるへき こよひこそ ひとへにをしき おもひそひぬれ
    村上院御製
    306わするなよわかれちにおふるくすのはの秋風ふかは今帰りこむ
    わするなよ わかれちにおふる くすのはの あきかせふかは いまかへりこむ
    読人知らず
    307別てふ事は誰かは始めけんくるしき物としらすやありけん
    わかれてふ ことはたれかは はしめけむ くるしきものと しらすやありけむ
    読人知らず
    308時しもあれ秋しも人のわかるれはいととたもとそつゆけかりける
    ときしもあれ あきしもひとの わかるれは いととたもとそ つゆけかりける
    読人知らず
    309君か世を長月とたにおもはすはいかに別のかなしからまし
    きみかよを なかつきとたに おもはすは いかにわかれの かなしからまし
    村上院御製
    310露にたにあてしと思ひし人しもそ時雨ふるころたひにゆきける
    つゆにたに あてしとおもひし ひとしもそ しくれふるころ たひにゆきける
    壬生忠見
    311わかれちをへたつる雲のためにこそ扇の風をやらまほしけれ
    わかれちを へたつるくもの ためにこそ あふきのかせを やらまほしけれ
    大中臣能宣
    312別れてはあはむあはしそ定なきこのゆふくれや限なるらん
    わかれては あはむあはしそ さためなき このゆふくれや かきりなるらむ
    読人知らず
    313わかれちはこひしき人のふみなれややらてのみこそ見まくほしけれ
    わかれちは こひしきひとの ふみなれや やらてのみこそ みまくほしけれ
    読人知らず
    314別れゆくけふはまとひぬあふさかは帰りこむ日のなにこそ有りけれ
    わかれゆく けふはまとひぬ あふさかは かへりこむひの なにこそありけれ
    紀貫之
    315ゆくすゑのいのちもしらぬ別ちはけふ相坂やかきりなるらん
    ゆくすゑの いのちもしらぬ わかれちは けふあふさかや かきりなるらむ
    大中臣能宣
    316惜むともなきものゆゑにしかすかの渡ときけはたたならぬかな
    をしむとも なきものゆゑに しかすかの わたりときけは たたならぬかな
    赤染衛門
    317もろともにゆかぬみかはのやつはしはこひしとのみや思ひわたらん
    もろともに ゆかぬみかはの やつはしは こひしとのみや おもひわたらむ
    源のよしたねの妻
    318別ちはわたせるはしもなきものをいかてかつねにこひ渡るへき
    わかれちは わたせるはしも なきものを いかてかつねに こひわたるへき
    源順
    319月影はあかす見るともさらしなの山のふもとになかゐすな君
    つきかけは あかすみるとも さらしなの やまのふもとに なかゐすなきみ
    紀貫之
    320わかるれは心をのみそつくしくしさしてあふへきほとをしらねは
    わかるれは こころをのみそ つくしくし さしてあふへき ほとをしらねは
    村上院御製
    321ゆく人をととめかたみのから衣たつよりそてのつゆけかるらん
    ゆくひとを ととめかたみの からころも たつよりそての つゆけかるらむ
    読人知らず
    322をしむともかたしやわかれ心なる涙をたにもえやはととむる
    をしむとも かたしやわかれ こころなる なみたをたにも えやはととむる
    御めのと少納言
    323あつまちの草はをわけん人よりもおくるる袖そまつはつゆけき
    あつまちの くさはをわけむ ひとよりも おくるるそてそ まつはつゆけき
    女蔵人参河
    324わかるれはまつ涙こそさきにたていかておくるる袖のぬるらん
    わかるれは まつなみたこそ さきにたて いかておくるる そてのぬるらむ
    読人知らず
    325わかるるををしとそ思ふつる木はの身をよりくたく心ちのみして
    わかるるを をしとそおもふ つるきはの みをよりくたく ここちのみして
    読人知らず
    326旅人の露はらふへき唐衣またきも袖のぬれにけるかな
    たひひとの つゆはらふへき からころも またきもそての ぬれにけるかな
    三条太皇太后宮
    327あまたにはぬひかさねねと唐衣思ふ心はちへにそありける
    あまたには ぬひかさねねと からころも おもふこころは ちへにそありける
    紀貫之
    328とほくゆく人のためにはわかそての涙の玉もをしからなくに
    とほくゆく ひとのためには わかそての なみたのたまも をしからなくに
    紀貫之
    329惜むとてとまる事こそかたからめわか衣手をほしてたにゆけ
    をしむとて とまることこそ かたからめ わかころもてを ほしてたにゆけ
    読人知らず
    330糸による物ならなくにわかれちは心ほそくもおもほゆるかな
    いとによる ものならなくに わかれちは こころほそくも おもほゆるかな
    紀貫之
    331かめ山にいくくすりのみ有りけれはととむる方もなき別かな
    かめやまに いくくすりのみ ありけれは ととむるかたも なきわかれかな
    戒秀法師
    332思ふ人ある方へゆくわかれちを惜む心そかつはわりなき
    おもふひと あるかたへゆく わかれちを をしむこころそ かつはわりなき
    藤原清正
    333いかはかり思ふらむとか思ふらんおいてわかるるとほきわかれを
    いかはかり おもふらむとか おもふらむ おいてわかるる とほきわかれを
    清原元輔
    334君はよし行末とほしとまる身のまつほといかかあらむとすらん
    きみはよし ゆくすゑとほし とまるみの まつほといかか あらむとすらむ
    源満中朝臣
    335おくれゐてわかこひをれは白雲のたなひく山をけふやこゆらん
    おくれゐて わかこひをれは しらくもの たなひくやまを けふやこゆらむ
    読人知らず
    336命をそいかならむとは思ひこしいきてわかるる世にこそ有りけれ
    いのちをそ いかならむとは おもひこし いきてわかるる よにこそありけれ
    右衛門
    337昔見しいきの松原事とははわすれぬ人も有りとこたへよ
    むかしみし いきのまつはら こととはは わすれぬひとも ありとこたへよ
    橘倚平
    338たけくまの松を見つつやなくさめん君かちとせの影にならひて
    たけくまの まつをみつつや なくさめむ きみかちとせの かけにならひて
    藤原為順
    339たよりあらはいかて宮こへつけやらむけふ白河の関はこえぬと
    たよりあらは いかてみやこへ つけやらむ けふしらかはの せきはこえぬと
    平兼盛
    340あつまちのこのしたくらくなりゆかは宮この月をこひさらめやは
    あつまちの このしたくらく なりゆかは みやこのつきを こひさらめやは
    右衛門督公任
    341たひゆかはそてこそぬるれもる山のしつくにのみはおほせさらなん
    たひゆかは そてこそぬるれ もるやまの しつくにのみは おほせさらなむ
    読人知らず
    342しほみてるほとにゆきかふ旅人やはまなのはしとなつけそめけん
    しほみてる ほとにゆきかふ たひひとや はまなのはしと なつけそめけむ
    平兼盛
    343雨によりたみののしまをわけゆけと名にはかくれぬ物にそ有りける
    あめにより たみののしまを わけゆけと なにはかくれぬ ものにそありける
    紀貫之
    344郭公ねくらなからのこゑきけは草の枕そつゆけかりける
    ほとときす ねくらなからの こゑきけは くさのまくらそ つゆけかりける
    伊勢
    345草枕我のみならすかりかねもたひのそらにそなき渡るなる
    くさまくら われのみならす かりかねも たひのそらにそ なきわたるなる
    大中臣能宣
    346君をのみこひつつたひの草枕つゆしけからぬあか月そなき
    きみをのみ こひつつたひの くさまくら つゆしけからぬ あかつきそなき
    読人知らず
    347はるかなるたひのそらにもおくれねはうら山しきは秋のよの月
    はるかなる たひのそらにも おくれねは うらやましきは あきのよのつき
    平兼盛
    348をみなへし我にやとかせいなみののいなといふともここをすきめや
    をみなへし われにやとかせ いなみのの いなといふとも ここをすきめや
    大中臣能宣
    349ふなちには草の枕もむすはねはおきなからこそ夢も見えけれ
    ふなちには くさのまくらも むすはねは おきなからこそ ゆめもみえけれ
    源重之
    350思ひいてもなきふるさとの山なれとかくれゆくはたあはれなりけり
    おもひいても なきふるさとの やまなれと かくれゆくはた あはれなりけり
    弓削嘉言
    351君かすむやとのこすゑのゆくゆくとかくるるまてにかへりみしはや
    きみかすむ やとのこすゑの ゆくゆくと かくるるまてに かへりみしはや
    贈太政大臣
    352浪のうへに見えしこしまのしまかくれゆくそらもなしきみにわかれて
    なみのうへに みえしこしまの しまかくれ ゆくそらもなし きみにわかれて
    かなをか
    353あまとふやかりのつかひにいつしかもならのみやこにことつてやらん
    あまとふや かりのつかひに いつしかも ならのみやこに ことつてやらむ
    柿本人麻呂(人麿)
    354うくひすのすつくる枝を折りつれはこうはいかてかうまむとすらん
    うくひすの すつくるえたを をりつれは こをはいかてか うまむとすらむ
    読人知らず物名
    355花の色をあらはにめてはあためきぬいさくらやみになりてかささむ
    はなのいろを あらはにめては あためきぬ いさくらやみに なりてかささむ
    読人知らず物名
    356たひのいはやなきとこにもねられけり草の枕につゆはおけとも
    たひのいは やなきとこにも ねられけり くさのまくらに つゆはおけとも
    藤原輔相物名
    357なくこゑはあまたすれとも鴬にまさるとりのはなくこそ有りけれ
    なくこゑは あまたすれとも うくひすに まさるとりのは なくこそありけれ
    藤原輔相物名
    358わたつ海のおきなかにひのはなれいててもゆと見ゆるはあまのいさりか
    わたつうみの おきなかにひの はなれいてて もゆとみゆるは あまのいさりか
    伊勢物名
    359こき色かいつはたうすくうつろはむ花に心もつけさらんかも
    こきいろか いつはたうすく うつろはむ はなにこころも つけさらむかも
    読人知らず物名
    360紫の色にはさくなむさしのの草のゆかりと人もこそ見れ
    むらさきの いろにはさくな むさしのの くさのゆかりと ひともこそみれ
    藤原高光物名
    361うゑて見る君たにしらぬ花の名を我しもつけん事のあやしさ
    うゑてみる きみたにしらぬ はなのなを われしもつけむ ことのあやしさ
    読人知らず物名
    362河かみに今よりうたむあしろにはまつもみちはやよらむとすらん
    かはかみに いまよりうたむ あしろには まつもみちはや よらむとすらむ
    読人知らず物名
    363あた人のまかきちかうな花うゑそにほひもあへす折りつくしけり
    あたひとの まかきちかうな はなうゑそ にほひもあへす をりつくしけり
    読人知らず物名
    364わかやとの花の葉にのみぬるてふのいかなるあさかほかよりはくる
    わかやとの はなのはにのみ ぬるてふの いかなるあさか ほかよりはくる
    読人知らず物名
    365忘れにし人のさらにもこひしきかむけにこしとは思ふものから
    わすれにし ひとのさらにも こひしきか むけにこしとは おもふものから
    読人知らず物名
    366秋ののに花てふ花を折りつれはわひしらにこそ虫もなきけれ
    あきののに はなてふはなを をりつれは わひしらにこそ むしもなきけれ
    読人知らず物名
    367白露のかかるかやかてきえさらは草はそたまのくしけならまし
    しらつゆの かかるかやかて きえさらは くさはそたまの くしけならまし
    壬生忠岑物名
    368山河はきのはなかれすあさきせをせけはふちとそ秋はなるらん
    やまかはは きのはなかれす あさきせを せけはふちとそ あきはなるらむ
    壬生忠岑物名
    369たきつせのなかにたまつむしらなみは流るる水ををにそぬきける
    たきつせの なかにたまつむ しらなみは なかるるみつを をにそぬきける
    壬生忠岑物名
    370今こむといひて別れしあしたよりおもひくらしのねをのみそなく
    いまこむと いひてわかれし あしたより おもひくらしの ねをのみそなく
    壬生忠岑物名
    371そま人は宮木ひくらしあしひきの山の山ひこ声とよむなり
    そまひとは みやきひくらし あしひきの やまのやまひこ こゑとよむなり
    紀貫之物名
    372松のねは秋のしらへにきこゆなりたかくせめあけて鳥そひくらし
    まつのねは あきのしらへに きこゆなり たかくせめあけて かせそひくらし
    紀貫之物名
    373あたなりとひともときくるのへしもそ花のあたりをすきかてにする
    あたなりと ひともときくる ものしもそ はなのあたりを すきかてにする
    藤原輔相物名
    374鴬のすはうこけともぬしもなし風にまかせていつちいぬらん
    うくひすの すはうこけとも ぬしもなし かせにまかせて いつちいぬらむ
    藤原輔相物名
    375ふるみちに我やまとはむいにしへの野中の草はしけりあひにけり
    ふるみちに われやまとはむ いにしへの のなかのくさは しけりあひにけり
    藤原輔相物名
    376すみよしのをかの松かささしつれは雨はふるともいなみのはきし
    すみよしの をかのまつかさ さしつれは あめはふるとも いなみのはきし
    藤原輔相物名
    377白浪のうちかくるすのかわかぬにわかたもとこそおとらさりけれ
    しらなみの うちかくるすの かわかぬに わかたもとこそ おとらさりけれ
    藤原輔相物名
    378水もなく舟もかよはぬこのしまにいかてかあまのなまめかるらん
    みつもなく ふねもかよはぬ このしまに いかてかあまの なまめかるらむ
    藤原輔相物名
    379うゑていにし人もみなくに秋はきのたれ見よとかは花のさきけむ
    うゑていにし ひともみなくに あきはきの たれみよとかは はなのさきけむ
    在原元方物名
    380あしひきの山辺にをれは白雲のいかにせよとかはるる時なき
    あしひきの やまへにをれは しらくもの いかにせよとか はるるときなき
    紀貫之物名
    381つくしよりここまてくれとつともなしたちのをかはのはしのみそある
    つくしより ここまてくれと つともなし たちのをかはの はしのみそある
    在原業平朝臣物名
    382身をすてて山に入りにし我なれはくまのくらはむこともおほえす
    みをすてて やまにいりにし われなれは くまのくらはむ こともおほえす
    読人知らず物名
    383鳥のこはまたひななからたちていぬかひの見ゆるはすもりなりけり
    とりのこは またひななから たちていぬ かひのみゆるは すもりなりけり
    読人知らず物名
    384くきもはもみな緑なるふかせりはあらふねのみやしろく見ゆらん
    くきもはも みなみとりなる ふかせりは あらふねのみや しろくみゆらむ
    藤原輔相物名
    385あたなりなとりのこほりにおりゐるはしたよりとくる事はしらぬか
    あたなりな とりのこほりに おりゐるは したよりとくる ことはしらぬか
    源重之物名
    386おほつかな雲のかよひち見てしかなとりのみゆけはあとはかもなし
    おほつかな くものかよひち みてしかな とりのみゆけは あとはかもなし
    平兼盛物名
    387あかすしてわかれし人のすむさとはさはこの見ゆる山のあなたか
    あかすして わかれしひとの すむさとは さはこのみゆる やまのあなたか
    読人知らず物名
    388かかり火の所さためす見えつるは流れつつのみたけはなりけり
    かかりひの ところさためす みえつるは なかれつつのみ たけはなりけり
    紀輔時物名
    389神なひのみむろのきしやくつるらん竜田の河の水のにこれる
    かみなひの みむろのきしや くつるらむ たつたのかはの みつのにこれる
    高向草春物名
    390いかりゐのいしをくくみてかみこしはきさのきにこそおとらさりけれ
    いかりゐの いしをくくみて かみこしは きさのきにこそ おとらさりけれ
    藤原輔相物名
    391五月雨にならぬ限は郭公なにかはなかむしのふはかりに
    さみたれに ならぬかきりは ほとときす なにかはなかむ しのふはかりに
    仙慶法師物名
    392心さしふかき時にはそこのももかつきいてぬる物にそ有りける
    こころさし ふかきときには そこのもも かつきいてぬる ものにそありける
    藤原輔相物名
    393おもかけにしはしは見ゆる君なれと恋しき事そ時そともなき
    おもかけに しはしはみゆる きみなれと こひしきことそ ときそともなき
    読人知らず物名
    394いにしへはおこれりしかとわひぬれはとねりかきぬも今はきつへし
    いにしへは おこれりしかと わひぬれは とねりかきぬも いまはきつへし
    藤原輔相物名
    395池をはりこめたる水のおほかれはいひのくちよりあまるなるへし
    いけをはり こめたるみつの おほかれは いひのくちより あまるなるへし
    藤原輔相物名
    396あしひきの山した水にぬれにけりその火まつたけ衣あふらん
    あしひきの やましたみつに ぬれにけり そのひまつたけ ころもあふらむ
    藤原輔相物名
    397いとへともつらきかたみを見る時はまつたけからぬねこそなかるれ
    いとへとも つらきかたみを みるときは まつたけからぬ ねこそなかるれ
    藤原輔相物名
    398山たかみ花の色をも見るへきににくくたちぬる春かすみかな
    やまたかみ はなのいろをも みるへきに にくくたちぬる はるかすみかな
    藤原輔相物名
    399野を見れは春めきにけりあをつつらこにやくまましわかなつむへく
    のをみれは はるめきにけり あをつつら こにやくままし わかなつむへく
    藤原輔相物名
    400いさりせしあまのをしへしいつくそやしまめくるとてありといひしは
    いさりせし あまのをしへし いつくそや しまめくるとて ありといひしは
    高岳相如物名
    401河きしのをとりおるへき所あらはうきにしにせぬ身はなけてまし
    かはきしの をとりおるへき ところあらは うきにしにせぬ みはなけてまし
    藤原輔相物名
    402もみちはに衣の色はしみにけり秋のやまからめくりこしまに
    もみちはに ころものいろは しみにけり あきのやまから めくりこしまに
    藤原輔相物名
    403なにとかやくきのすかたはおもほえてあやしく花の名こそわするれ
    なにとかや くきのすかたは おもほえて あやしくはなの なこそわするれ
    藤原輔相物名
    404わか心あやしくあたに春くれは花につく身となとてなりけん
    わかこころ あやしくあたに はるくれは はなにつくみと なとてなりけむ
    大伴黒主物名
    405さく花に思ひつくみのあちきなさ身にいたつきのいるもしらすて
    さくはなに おもひつくみの あちきなさ みにいたつきの いるもしらすて
    大伴黒主物名
    406なにはつはくらめにのみそ舟はつく朝の風のさためなけれは
    なにはつは くらめにのみそ ふねはつく あしたのかせの さためなけれは
    藤原輔相物名
    407みよしのもわかなつむらんわきもこかひはらかすみて日かすへぬれは
    みよしのも わかなつむらむ わきもこか ひはらかすみて ひかすへぬれは
    清原元輔物名
    408あしきぬはさけからみてそ人はきるひろやたらぬと思ふなるへし
    あしきぬは さけからみてそ ひとはきる ひろやたらぬと おもふなるへし
    藤原輔相物名
    409雲まよひほしのあゆくと見えつるは蛍のそらにとふにそ有りける
    くもまよひ ほしのあゆくと みえつるは ほたるのそらに とふにそありける
    藤原輔相物名
    410はしたかのをきゑにせんとかまへたるおしあゆかすなねすみとるへく
    はしたかの をきゑにせむと かまへたる おしあゆかすな ねすみとるへく
    藤原輔相物名
    411わきもこか身をすてしよりさるさはの池のつつみやきみはこひしき
    わきもこか みをすてしより さるさはの いけのつつみや きみはこひしき
    藤原輔相物名
    412この家はうるかいりても見てしかなあるしなからもかはんとそ思ふ
    このいへは うるかいりても みてしかな あるしなからも かはむとそおもふ
    源重之物名
    413あつまにてやしなはれたる人のこはしたたみてこそ物はいひけれ
    あつまにて やしなはれたる ひとのこは したたみてこそ ものはいひけれ
    読人知らず物名
    414春風のけさはやけれは鴬の花の衣もほころひにけり
    はるかせの けさはやけれは うくひすの はなのころもも ほころひにけり
    読人知らず物名
    415霞わけいまかり帰る物ならは秋くるまてはこひやわたらん
    かすみわけ いまかりかへる ものならは あきくるまては こひやわたらむ
    読人知らず物名
    416思ふとちところもかへすすみへなんたちはなれなはこひしかるへし
    おもふとち ところもかへす すみへなむ たちはなれなは こひしかるへし
    藤原輔相物名
    417あしひきの山のこのはのおちくちはいろのをしきそあはれなりける
    あしひきの やまのこのはの おちくちは いろのをしきそ あはれなりける
    藤原輔相物名
    418つのくにのなにはわたりにつくる田はあしかなへかとえこそ見わかね
    つのくにの なにはわたりに つくるたは あしかなへかと えこそみわかね
    藤原輔相物名
    419たかかひのまたもこなくにつなきいぬのはなれていかむなくるまつほと
    たかかひの またもこなくに つなきいぬの はなれてゆかむ なくるまつほと
    藤原輔相物名
    420ことそともききたにわかすわりなくも人のいかるかにけやしなまし
    ことそとも ききたにわかす わりなくも ひとのいかるか にけやしなまし
    凡河内躬恒物名
    421年をへて君をのみこそねすみつれことはらにやはこをはうむへき
    としをへて きみをのみこそ ねすみつれ ことはらにやは こをはうむへき
    藤原輔相物名
    422久方のつきのきぬをはきたれともひかりはそはぬわか身なりけり
    ひさかたの つきのきぬをは きたれとも ひかりはそはぬ わかみなりけり
    藤原輔相物名
    423世とともにしほやくあまのたえせねはなきさのきのはこかれてそちる
    よとともに しほやくあまの たえせねは なきさのきのは こかれてそちる
    藤原輔相物名
    424鴬のなかむしろには我そなく花のにほひやしはしとまると
    うくひすの なかむしろには われそなく はなのにほひや しはしとまると
    藤原輔相物名
    425そこへうのかは浪わけていりぬるかまつほとすきて見えすもあるかな
    そこへうの かはなみわけて いりぬるか まつほとすきて みえすもあるかな
    藤原輔相物名
    426かのかはのむかはきすきてふかからはわたらてたたにかへるはかりそ
    かのかはの むかはきすきて ふかからは わたらてたたに かへるはかりそ
    藤原輔相物名
    427かのえさる舟まてしはし事とはんおきのしらなみまたたたぬまに
    かのえさる ふねまてしはし こととはむ おきのしらなみ またたたぬまに
    藤原輔相物名
    428さをしかの友まとはせる声すなりつまやこひしき秋の山へに
    さをしかの ともまとはせる こゑすなり つまやこひしき あきのやまへに
    恵慶法師物名
    429ひと夜ねてうしとらこそは思ひけめうきなたつみそわひしかりける
    ひとよねて うしとらこそは おもひけめ うきなたつみそ わひしかりける
    読人知らず物名
    430むまれよりひつしつくれは山にさるひとりいぬるにひとゐていませ
    うまれより ひつしつくれは やまにさる ひとりいぬるに ひとゐていませ
    読人知らず物名
    431秋風のよもの山よりおのかししふくにちりぬるもみちかなしな
    あきかせの よものやまより おのかしし ふくにちりぬる もみちかなしな
    藤原輔相物名
    432世にふるに物思ふとしもなけれとも月にいくたひなかめしつらん
    よにふるに ものおもふとしも なけれとも つきにいくたひ なかめしつらむ
    中務卿具平親王雑上
    433思ふ事有りとはなしに久方の月よとなれはねられさりけり
    おもふこと ありとはなしに ひさかたの つきよとなれは ねられさりけり
    紀貫之雑上
    434なかむるに物思ふ事のなくさむは月はうき世の外よりやゆく
    なかむるに ものおもふことの なくさむは つきはうきよの ほかよりやゆく
    大江為基雑上
    435かくはかりへかたく見ゆる世の中にうら山しくもすめる月かな
    かくはかり へかたくみゆる よのなかに うらやましくも すめるつきかな
    藤原高光雑上
    436ありあけの月のひかりをまつほとにわか世のいたくふけにけるかな
    ありあけの つきのひかりを まつほとに わかよのいたく ふけにけるかな
    藤原仲文雑上
    437くもゐにてあひかたらはぬ月たにもわかやとすきてゆく時はなし
    くもゐにて あひかたらはぬ つきたにも わかやとすきて ゆくときはなし
    伊勢雑上
    438もち月のこまよりおそくいてつれはたとるたとるそ山はこえつる
    もちつきの こまよりおそく いてつれは たとるたとるそ やまはこえつる
    素性法師雑上
    439つねよりもてりまさるかな山のはの紅葉をわけていつる月影
    つねよりも てりまさるかな やまのはの もみちをわけて いつるつきかけ
    紀貫之雑上
    440久方のあまつそらなる月なれといつれの水に影やとるらん
    ひさかたの あまつそらなる つきなれと いつれのみつに かけやとるらむ
    凡河内躬恒雑上
    441みなそこにやとる月たにうかへるを沈むやなにのみくつなるらん
    みなそこに やとるつきたに うかへるを しつむやなにの みくつなるらむ
    左大将済時雑上
    442水のおもに月の沈むを見さりせは我ひとりとや思ひはてまし
    みつのおもに つきのしつむを みさりせは われひとりとや おもひはてまし
    式部大輔文時雑上
    443年ことにたえぬ渡やつもりつついととふかくは身をしつむらん
    としことに たえぬなみたや つもりつつ いととふかくは みをしつむらむ
    清原元輔雑上
    444ほともなく泉はかりに沈む身はいかなるつみのふかきなるらん
    ほともなく いつみはかりに しつむみは いかなるつみの ふかきなるらむ
    源順雑上
    445おとは河せきいれておとすたきつせに人の心の見えもするかな
    おとはかは せきいれておとす たきつせに ひとのこころの みえもするかな
    伊勢雑上
    446君かくるやとにたえせぬたきのいとはへて見まほしき物にそ有りける
    きみかくる やとにたえせぬ たきのいと はへてみまほしき ものにそありける
    中務雑上
    447なかれくる滝のしらいとたえすしていくらの玉の緒とかなるらん
    なかれくる たきのしらいと たえすして いくらのたまの をとかなるらむ
    紀貫之雑上
    448流れくるたきのいとこそよわからしぬけとみたれておつる白玉
    なかれくる たきのいとこそ よわからし ぬけとみたれて おつるしらたま
    紀貫之雑上
    449たきの糸はたえてひさしく成りぬれと名こそ流れて猶きこえけれ
    たきのいとは たえてひさしく なりぬれと なこそなかれて なほきこえけれ
    右衛門督公任雑上
    450おほそらをなかめそくらす吹く風のおとはすれともめにも見えねは
    おほそらを なかめそくらす ふくかせの おとはすれとも めにもみえねは
    凡河内躬恒雑上
    451ことのねに峯の松風かよふらしいつれのをよりしらへそめけん
    ことのねに みねのまつかせ かよふらし いつれのをより しらへそめけむ
    承香殿女御雑上
    452松風のおとにみたるることのねをひけは子の日の心地こそすれ
    まつかせの おとにみたるる ことのねを ひけはねのひの ここちこそすれ
    承香殿女御雑上
    453をのへなる松のこすゑは打ちなひき浪の声にそ風もふきける
    をのへなる まつのこすゑは うちなひき なみのこゑにそ かせもふきける
    壬生忠見雑上
    454雨ふると吹く松風はきこゆれと池のみきははまさらさりけり
    あめふると ふくまつかせは きこゆれと いけのみきはは まさらさりけり
    紀貫之雑上
    455大井河かはへの松に事とはむかかるみゆきやありし昔も
    おほゐかは かはへのまつに こととはむ かかるみゆきや ありしむかしも
    紀貫之雑上
    456おとにのみきき渡りつる住吉の松のちとせをけふ見つるかな
    おとにのみ ききわたりつる すみよしの まつのちとせを けふみつるかな
    紀貫之雑上
    457海にのみひちたる松のふかみとりいくしほとかはしるへかるらん
    うみにのみ ひちたるまつの ふかみとり いくしほとかは しるへかるらむ
    伊勢雑上
    458わたつみの浪にもぬれぬうきしまの松に心をよせてたのまん
    わたつみの なみにもぬれぬ うきしまの まつにこころを よせてたのまむ
    大中臣能宣雑上
    459かこのしま松原こしになくたつのあななかなかしきく人なしに
    かこのしま まつはらこしに なくたつの あななかなかし きくひとなしに
    読人知らず雑上
    460いかて猶わか身にかへてたけくまの松ともならむ行人のため
    いかてなほ わかみにかへて たけくまの まつともならむ ゆくひとのため
    大中臣能宣雑上
    461行末のしるしはかりにのこるへき松さへいたくおいにけるかな
    ゆくすゑの しるしはかりに のこるへき まつさへいたく おいにけるかな
    源道済雑上
    462世の中を住吉としもおもはぬになにをまつとてわか身へぬらん
    よのなかを すみよしとしも おもはぬに なにをまつとて わかみへぬらむ
    読人知らず雑上
    463いたつらに世にふる物と高砂の松も我をや友と見るらん
    いたつらに よにふるものと たかさこの まつもわれをや ともとみるらむ
    紀貫之雑上
    464世とともにあかしの浦の松原は浪をのみこそよるとしるらめ
    よとともに あかしのうらの まつはらは なみをのみこそ よるとしるらめ
    源為憲雑上
    465もかり舟今そなきさにきよすなるみきはのたつのこゑさわくなり
    もかりふね いまそなきさに きよすなる みきはのたつの こゑさわくなり
    読人知らず雑上
    466うちしのひいさすみの江の忘草わすれて人のまたやつまぬと
    うちしのひ いさすみのえの わすれくさ わすれてひとの またやつまぬと
    読人知らず雑上
    467あさほらけひくらしのこゑきこゆなりこやあけくれと人のいふらん
    あさほらけ ひくらしのこゑ きこゆなり こやあけくれと ひとのいふらむ
    左大将済時雑上
    468あしまより見ゆるなからのはしはしら昔のあとのしろへなりけり
    あしまより みゆるなからの はしはしら むかしのあとの しるへなりけり
    藤原清正雑上
    469けふまてと見るに涙のますかかみなれにし影を人にかたるな
    けふまてと みるになみたの ますかかみ なれにしかけを ひとにかたるな
    読人知らず雑上
    470わするなよほとは雲ゐに成りぬともそら行く月の廻りあふまて
    わするなよ ほとはくもゐに なりぬとも そらゆくつきの めくりあふまて
    読人知らず雑上
    471年月は昔にあらす成りゆけとこひしきことはかはらさりけり
    としつきは むかしにあらす なりゆけと こひしきことは かはらさりけり
    紀貫之雑上
    472昔わか折りし桂のかひもなし月の林のめしにいらねは
    むかしわか をりしかつらの かひもなし つきのはやしの めしにいらねは
    藤原後生雑上
    473久方の月の桂もをるはかり家の風をもふかせてしかな
    ひさかたの つきのかつらも をるはかり いへのかせをも ふかせてしかな
    菅原道真母雑上
    474月草に衣はすらんあさつゆにぬれてののちはうつろひぬとも
    つきくさに ころもはすらむ あさつゆに ぬれてののちは うつろひぬとも
    柿本人麻呂(人麿)雑上
    475ちちわくに人はいふともおりてきむわかはた物にしろきあさきぬ
    ちちわくに ひとはいふとも おりてきむ わかはたものに しろきあさきぬ
    柿本人麻呂(人麿)雑上
    476久方のあめにはきぬをあやしくもわか衣手のひる時もなき
    ひさかたの あめにはきぬを あやしくも わかころもての ひるときもなき
    柿本人麻呂(人麿)雑上
    477白浪はたてと衣にかさならすあかしもすまもおのかうらうら
    しらなみは たてところもに かさならす あかしもすまも おのかうらうら
    柿本人麻呂(人麿)雑上
    478ゆふされは衣手さむしわきもこかときあらひ衣行きてはやきむ
    ゆふされは ころもてさむし わきもこか ときあらひころも ゆきてはやきむ
    柿本人麻呂(人麿)雑上
    479あまつほし道もやとりも有りなからそらにうきてもおもほゆるかな
    あまつほし みちもやとりも ありなから そらにうきても おもほゆるかな
    贈太政大臣雑上
    480なかれ木も三とせ有りてはあひ見てん世のうき事そかへらさりける
    なかれきも みとせありては あひみてむ よのうきことそ かへらさりける
    贈太政大臣雑上
    481うき世にはかとさせりとも見えなくになとかわか身のいてかてにする
    うきよには かとさせりとも みえなくに なとかわかみの いてかてにする
    平定文雑上
    482木にもおひすはねもならへてなにしかも浪ちへたてて君をきくらん
    きにもおひす はねもならへて なにしかも なみちへたてて きみをきくらむ
    伊勢雑上
    483ささなみやあふみの宮は名のみして霞たなひき宮きもりなし
    ささなみや あふみのみやは なのみして かすみたなひき みやきもりなし
    柿本人麻呂(人麿)雑上
    484暁のねさめの千鳥たかためかさほのかはらにをちかへりなく
    あかつきの ねさめのちとり たかためか さほのかはらに をちかへりなく
    大中臣能宣雑上
    485あさからぬちきりむすへる心ははたむけの神そしるへかりける
    あさからぬ ちきりむすへる こころはは たむけのかみそ しるへかりける
    大中臣能宣雑上
    486みわの山しるしのすきは有りなからをしへし人はなくていくよそ
    みわのやま しるしのすきは ありなから をしへしひとは なくていくよそ
    清原元輔雑上
    487おきつしま雲井の岸を行きかへりふみかよはさむまはろしもかな
    おきつしま くもゐのきしを ゆきかへり ふみかよはさむ まほろしもかな
    肥前雑上
    488そらの海に雲の浪たち月の舟里の林にこきかくる見ゆ
    そらのうみに くものなみたち つきのふね ほしのはやしに こきかくるみゆ
    柿本人麻呂(人麿)雑上
    489河のせのうつまく見れは玉もかるちりみたれたるかはの舟かも
    かはのせの うつまくみれは たまもかる ちりみたれたる かはのふねかも
    柿本人麻呂(人麿)雑上
    490なる神のおとにのみきくまきもくのひはらの山をけふ見つるかな
    なるかみの おとにのみきく まきもくの ひはらのやまを けふみつるかな
    柿本人麻呂(人麿)雑上
    491いにしへに有りけむ人もわかことやみわのひはらにかさし折りけん
    いにしへに ありけむひとも わかことや みわのひはらに かさしをりけむ
    柿本人麻呂(人麿)雑上
    492人しれすこゆと思ふらしあしひきの山した水にかけは見えつつ
    ひとしれす こゆとおもふらし あしひきの やましたみつに かけはみえつつ
    紀貫之雑上
    493おふの海にふなのりすらんわきもこかあかものすそにしほみつらんか
    をふのうみに ふなのりすらむ わきもこか あかものすそに しほみつらむか
    柿本人麻呂(人麿)雑上
    494思ふ事なるといふなるすすか山こえてうれしきさかひとそきく
    おもふこと なるといふなる すすかやま こえてうれしき さかひとそきく
    村上院御製雑上
    495世にふれは又もこえけりすすか山昔の今になるにやあるらん
    よにふれは またもこえけり すすかやま むかしのいまに なるにやあらむ
    承香殿女御雑上
    496あすかかはしからみわたしせかませはなかるる水ものとけからまし
    あすかかは しからみわたし せかませは なかるるみつも のとけからまし
    柿本人麻呂(人麿)雑上
    497おくれゐてなくなるよりはあしたつのなとかよはひをゆつらさりけん
    おくれゐて なくなるよりは あしたつの なとかよはひを ゆつらさりけむ
    小野宮太政大臣雑上
    498年をへてたちならしつるあしたつのいかなる方にあとととむらん
    としをへて たちならしつる あしたつの いかなるかたに あとととむらむ
    愛宮雑上
    499ゆくすゑの忍草にも有りやとてつゆのかたみもおかんとそ思ふ
    ゆくすゑの しのふくさにも ありやとて つゆのかたみも おかむとそおもふ
    清原元輔雑上
    500うゑて見る草葉そ世をはしらせけるおきてはきゆるけさの朝露
    うゑてみる くさはそよをは しらせける おきてはきゆる けさのあさつゆ
    中務雑上
    501露のいのちをしとにはあらす君を又見てやと思ふそかなしかりける
    つゆのいのち をしとにはあらす きみをまた みてやとおもふそ かなしかりける
    弓削嘉言雑上
    502をしからぬいのちやさらにのひぬらんをはりの煙しむるのへにて
    をしからぬ いのちやさらに のひぬらむ をはりのけふり しむるのへにて
    清原元輔雑上
    503限なき涙のつゆにむすはれて人のしもとはなるにやあるらん
    かきりなき なみたのつゆに むすはれて ひとのしもとは なるにやあるらむ
    佐伯清忠雑上
    504うき世には行きかくれなてかきくもりふるは思ひのほかにもあるかな
    うきよには ゆきかくれなて かきくもり ふるはおもひの ほかにもあるかな
    清原元輔雑上
    505わひ人はうき世の中にいけらしと思ふ事さへかなはさりけり
    わひひとは うきよのなかに いけらしと おもふことさへ かなはさりけり
    源景明雑上
    506世の中にあらぬ所もえてしかな年ふりにたるかたちかくさむ
    よのなかに あらぬところも えてしかな としふりにたる かたちかくさむ
    読人知らず雑上
    507世の中をかくいひいひのはてはてはいかにやいかにならむとすらん
    よのなかを かくいひいひの はてはては いかにやいかに ならむとすらむ
    読人知らず雑上
    508いにしへのとらのたくひに身をなけはさかとはかりはとはむとそ思ふ
    いにしへの とらのたくひに みをなけは さかとはかりは とはむとそおもふ
    読人知らず雑上
    509春秋に思ひみたれてわきかねつ時につけつつうつる心は
    はるあきに おもひみたれて わきかねつ ときにつけつつ うつるこころは
    紀貫之雑下
    510おほかたの秋に心はよせしかと花見る時はいつれともなし
    おほかたの あきにこころは よせしかそ はなみるときは いつれともなし
    承香殿のとしこ雑下
    511春はたた花のひとへにさくはかり物のあはれは秋そまされる
    はるはたた はなのひとへに さくはかり もののあはれは あきそまされる
    読人知らず雑下
    512折からにいつれともなき鳥のねもいかかさためむ時ならぬ身は
    をりからに いつれともなき とりのねも いかかさためむ ときならぬみは
    大納言朝光雑下
    513白露はうへよりおくをいかなれは萩のしたはのまつもみつらん
    しらつゆは うへよりおくを いかなれは はきのしたはの まつもみつらむ
    参譲伊衡雑下
    514さをしかのしからみふする秋萩はしたはやうへになりかへるらん
    さをしかの しからみふする あきはきは したはやうへに なりかへるらむ
    凡河内躬恒雑下
    515秋はきはまつさすえよりうつろふをつゆのわくとは思はさらなむ
    あきはきは まつさすえより うつろふを つゆのわくとは おもはさらなむ
    壬生忠岑雑下
    516ちとせふる松のしたはのいろつくはたかしたかみにかけてかへすそ
    ちとせふる まつのしたはの いろつくは たかしたかみに かけてかへすそ
    これひら雑下
    517松といへとちとせの秋にあひくれはしのひにおつるしたはなりけり
    まつといへと ちとせのあきに あひくれは しのひにおつる したはなりけり
    凡河内躬恒雑下
    518白妙のしろき月をも紅の色をもなとかあかしといふらん
    しろたへの しろきつきをも くれなゐの いろをもなとか あかしといふらむ
    これひら雑下
    519昔よりいひしきにける事なれは我らはいかか今はさためん
    むかしより いひしきにける ことなれは われらはいかか いまはさためむ
    凡河内躬恒雑下
    520かけ見れはひかりなきをも衣ぬふいとをもなとかよるといふらん
    かけみれは ひかりなきをも ころもぬふ いとをもなとか よるといふらむ
    これひら雑下
    521むはたまのよるはこひしき人にあひていとをもよれはあふとやは見ぬ
    うはたまの よるはこひしき ひとにあひて いとをもよれは あふとやはみぬ
    凡河内躬恒雑下
    522よるひるのかすはみそちにあまらぬをなと長月といひはしめけん
    よるひるの かすはみそちに あまらぬを なとなかつきと いひはしめけむ
    伊衡雑下
    523秋ふかみこひする人のあかしかね夜を長月といふにやあるらん
    あきふかみ こひするひとの あかしかね よをなかつきと いふにやあるらむ
    凡河内躬恒雑下
    524水のあわやたねとなるらんうきくさのまく人なみのうへにおふれは
    みつのあわや たねとなるらむ うきくさの まくひとなみの うへにおふれは
    読人知らず雑下
    525たねなくてなき物草はおひにけりまくてふ事はあらしとそ思ふ
    たねなくて なきものくさは おひにけり まくてふことは あらしとそおもふ
    恵慶法師雑下
    526わか事はえもいはしろの結松ちとせをふともたれかとくへき
    わかことは えもいはしろの むすひまつ ちとせをふとも たれかとくへき
    曾禰好忠雑下
    527あしひきの山のこてらにすむ人はわかいふこともかなはさりけり
    あしひきの やまのこてらに すむひとは わかいふことも かなはさりけり
    読人知らず雑下
    528山ならぬすみかあまたにきく人の野ふしにとくも成りにけるかな
    やまならぬ すみかあまたに きくひとの のふしにとくも なりにけるかな
    源経房朝臣雑下
    529やまふしものふしもかくて心みつ今はとねりのねやそゆかしき
    やまふしも のふしもかくて こころみつ いまはとねりの ねやそゆかしき
    健守法師雑下
    530わたつ海はあまの舟こそありときけのりたかへてもこきいてたるかな
    わたつうみは あまのふねこそ ありときけ のりたかへても こきいてたるかな
    藤原道綱母雑下
    531勅なれはいともかしこし鴬のやとはととははいかかこたへむ
    ちよくなれは いともかしこし うくひすの やとはととはは いかかこたへむ
    読人知らず雑下
    532いなをらしつゆにたもとのぬれたらは物思ひけりと人もこそ見れ
    いなをらし つゆにたもとの ぬれたらは ものおもひけりと ひともこそみれ
    寿玄法師雑下
    533あつさゆみはるかに見ゆる山のはをいかてか月のさして入るらん
    あつさゆみ はるかにみゆる やまのはを いかてかつきの さしているらむ
    大中臣能宣雑下
    534そらめをそ君はみたらし河の水あさしやふかしそれは我かは
    そらめをそ きみはみたらし かはのみつ あさしやふかし それはわれかは
    伊勢雑下
    535かをさしてむまといふ人ありけれはかもをもをしと思ふなるへし
    かをさして うまといふひと ありけれは かもをもをしと おもふなるへし
    藤原仲文雑下
    536なしといへはをしむかもとや思ふらんしかやむまとそいふへかりける
    なしといへは をしむかもとや おもふらむ しかやうまとそ いふへかりける
    大中臣能宣雑下
    537なにはえのあしのはなけのましれるはつのくにかひのこまにやあるらん
    なにはえの あしのはなけの ましれるは つのくにかひの こまにやあるらむ
    恵慶法師雑下
    538難波かたしけりあへるはきみかよにあしかるわさをせねはなるへし
    なにはかた しけりあへるは きみかよに あしかるわさを せねはなるへし
    壬生忠見雑下
    539宮こにはすみわひはててつのくにの住吉ときくさとにこそゆけ
    みやこには すみわひはてて つのくにの すみよしときく さとにこそゆけ
    壬生忠見雑下
    540君なくてあしかりけりと思ふにもいととなにはの浦そすみうき
    きみなくて あしかりけりと おもふにも いととなにはの うらそすみうき
    読人知らず雑下
    541あしからしよからむとてそわかれけんなにかなにはの浦はすみうき
    あしからし よからむとてそ わかれけむ なにかなにはの うらはすみうき
    読人知らず雑下
    542なき人のかたみと思ふにあやしきはゑみても袖のぬるるなりけり
    なきひとの かたみとおもふに あやしきは ゑみてもそての ぬるるなりけり
    麗景殿みやのきみ雑下
    543みつせ河渡るみさをもなかりけりなにに衣をぬきてかくらん
    みつせかは わたるみさをも なかりけり なににころもを ぬきてかくらむ
    菅原道雅女雑下
    544かくしこそ春の始はうれしけれつらきは秋のをはりなりけり
    かくしこそ はるのはしめは うれしけれ つらきはあきの をはりなりけり
    皇太后宮権大夫国章雑下
    545おやのおやとおもはましかはとひてましわかこのこにはあらぬなるへし
    おやのおやと おもはましかは とひてまし わかこのこには あらぬなるへし
    源重之の叔母雑下
    546山高みゆふ日かくれぬあさち原後見むためにしめゆはましを
    やまたかみ ゆふひかくれぬ あさちはら のちみむために しめゆはましを
    柿本人麻呂(人麿)雑下
    547名のみして山は三笠もなかりけりあさ日ゆふ日のさすをいふかも
    なのみして やまはみかさも なかりけり あさひゆふひの さすをいふかも
    紀貫之雑下
    548なのみしてなれるも見えす梅津河ゐせきの水ももれはなりけり
    なのみして なれるもみえす うめつかは ゐせきのみつも もれはなりけり
    読人知らず雑下
    549名にはいへとくろくも見えすうるし河さすかに渡る水はぬるめり
    なにはいへと くろくもみえす うるしかは さすかにわたる みつはぬるめり
    読人知らず雑下
    550世の中にあやしき物は雨ふれと大原河のひるにそありける
    よのなかに あやしきものは あめふれと おほはらかはの ひるにそありける
    恵慶法師雑下
    551河柳いとはみとりにあるものをいつれかあけの衣なるらん
    かはやなき いとはみとりに あるものを いつれかあけの ころもなるらむ
    仲文雑下
    552しら浪の打ちやかへすとまつほとにはまのまさこのかすそつもれる
    しらなみの うちやかへすと まつほとに はまのまさこの かすそつもれる
    村上院御製雑下
    553いつしかとあけて見たれははま千鳥跡あることにあとのなきかな
    いつしかと あけてみたれは はまちとり あとあることに あとのなきかな
    小野宮太政大臣雑下
    554ととめてもなににかはせん浜千鳥ふりぬるあとは浪にきえつつ
    ととめても なににかはせむ はまちとり ふりぬるあとは なみにきえつつ
    右大将実資雑下
    555みなそこのわくはかりにやくくるらんよる人もなきたきのしらいと
    みなそこの わくはかりにや くくるらむ よるひともなき たきのいらいと
    読人知らず雑下
    556おとにきくつつみのたきをうち見れはたた山河のなるにそ有りける
    おとにきく つつみのたきを うちみれは たたやまかはの なるにそありける
    読人知らず雑下
    557おとにきくこまの渡のうりつくりとなりかくなりなる心かな
    おとにきく こまのわたりの うりつくり となりかくなり なるこころかな
    三位国章雑下
    558さためなくなるなるうりのつら見てもたちやよりこむこまのすきもの
    さためなく なるなるうりの つらみても たちやよりこむ こまのすきもの
    大納言朝光雑下
    559みちのくのあたちのはらのくろつかにおにこもれりときくはまことか
    みちのくの あたちのはらの くろつかに おにこもれりと いふはまことか
    平兼盛雑下
    560ぬす人のたつたの山に入りにけりおなしかさしの名にやけかれん
    ぬすひとの たつたのやまに いりにけり おなしかさしの なにやけかれむ
    藤原為順雑下
    561なき名のみたつたの山のふもとには世にもあらしの風もふかなん
    なきなのみ たつたのやまの ふもとには よにもあらしの かせもふかなむ
    藤原為順雑下
    562なき名のみたかをの山といひたつる君はあたこの峯にやあるらん
    なきなのみ たかをのやまと いひたつる きみはあたこの みねにやあるらむ
    八条のおほいきみ雑下
    563いにしへものほりやしけんよしの山やまよりたかきよはひなる人
    いにしへも のほりやしけむ よしのやま やまよりたかき よはひなるひと
    清原元輔雑下
    564おいはてて雪の山をはいたたけとしもと見るにそ身はひえにける
    おいはてて ゆきのやまをは いたたけと しもとみるにそ みはひえにける
    読人知らず雑下
    565ますかかみそこなるかけにむかひゐて見る時にこそしらぬおきなにあふ心地すれ
    ますかかみ そこなるかけに むかひゐて みるときにこそ しらぬおきなに あふここちすれ
    読人知らず雑下
    566ますかかみみしかと思ふいもにあはむかもたまのをのたえたるこひのしけきこのころ
    ますかかみ みしかとおもふ いもにあはむかも たまのをの たえたるこひの しけきこのころ
    柿本人麻呂(人麿)雑下
    567かのをかに草かるをのこしかなかりそありつつもきみかきまさむみまくさにせん
    かのをかに くさかるをのこ しかなかりそ ありつつも きみかきまさむ みまくさにせむ
    柿本人麻呂(人麿)雑下
    568あつさゆみおもはすにしていりにしをさもねたくひきととめてそふすへかりける
    あつさゆみ おもはすにして いりにしを さもねたく ひきととめてそ ふすへかりける
    源かけあきら雑下
    569ちはやふるわかおほきみのきこしめすあめのしたなる草の葉もうるひにたりと山河のすめるかうちとみこころをよしののくにの花さかり秋つののへに宮はしらふとしきましてももしきの大宮人は舟ならへあさ河わたりふなくらへゆふかはわたりこの河のたゆる事なくこの山のいやたかからしたま水のたきつの宮こ見れとあかぬかも
    ちはやふる わかおほきみの きこしめす あめのしたなる くさのはも うるひにたりと やまかはの すめるかふちと みこころを よしののくにの はなさかり あきつののへに みやはしら ふとしきまして ももしきの おほみやひとは ふねならへ あさかはわたり ふなくらへ ゆふかはわたり このかはの たゆることなく このやまの いやたかからし たまみつの たきつのみやこ みれとあかぬかも
    柿本人麻呂(人麿)雑下
    570見れとあかぬよしのの河の流れてもたゆる時なく行きかへり見む
    みれとあかぬ よしののかはの なかれても たゆるときなく ゆきかへりみむ
    柿本人麻呂(人麿)雑下
    571あらたまの年のはたちにたらさりし時はの山の山さむみ風もさはらぬふち衣ふたたひたちしあさきりに心もそらにまとひそめみなしこ草になりしより物思ふことの葉をしけみけぬへきつゆのよるはおきて夏はみきはにもえわたるほたるをそてにひろひつつ冬は花かと見えまかひこのもかのもにふりつもる雪をたもとにあつめつつふみみていてし道は猶身のうきにのみ有りけれはここもかしこもあしねはふしたにのみこそしつみけれたれここのつのさは水になくたつのねを久方のくものうへまてかくれなみたかくきこゆるかひありていひなかしけん人は猶かひもなきさにみつしほの世にはからくてすみの江の松はいたつらおいぬれとみとりの衣ぬきすてむはるはいつともしらなみのなみちにいたくゆきかよひゆもとりあへすなりにける舟のわれをしきみしらはあはれいまたにしつめしとあまのつりなはうちはへてひくとしきかは物はおもはし
    あらたまの としのはたちに たらさりし ときはのやまの やまさむみ かせもさはらぬ ふちころも ふたたひたちし あさきりに こころもそらに まとひそめ みなしこくさに なりしより ものおもふことの はをしけみ けぬへきつゆの よるはおきて なつはみきはに もえわたる ほたるをそてに ひろひつつ ふゆははなかと みえまかひ このもかのもに ふりつもる ゆきをたもとに あつめつつ ふみみていてし みちはなほ みのうきにのみ ありけれは ここもかしこも あしねはふ したにのみこそ しつみけれ たれここのつの さはみつに なくたつのねを ひさかたの くものうへまて かくれなみ たかくきこゆる かひありて いひなかしけむ ひとはなほ かひもなきさに みつしほの よにはからくて すみのえの まつはいたつら おいぬれと みとりのころも ぬきすてむ はるはいつとも しらなみの なみちにいたく ゆきかよひ ゆもとりあへす なりにける ふねのわれをし きみしらは あはれいまたに しつめしと あまのつりなは うちはへて ひくとしきかは ものはおもはし
    源順雑下
    572世の中をおもへはくるしわするれはえもわすられすたれもみなおなしみ山の松かえとかるる事なくすへらきのちよもやちよもつかへんとたかきたのみをかくれぬのしたよりねさすあやめくさあやなき身にも人なみにかかる心を思ひつつ世にふるゆきをきみはしも冬はとりつみ夏は又草のほたるをあつめつつひかりさやけき久方の月のかつらををるまてに時雨にそほちつゆにぬれへにけむそてのふかみとりいろあせかたに今はなりかつしたはよりくれなゐにうつろひはてん秋にあははまつひらけなん花よりもこたかきかけとあふかれん物とこそ見ししほかまのうらさひしけになそもかく世をしも思ひなすのゆのたきるゆゑをもかまへつつわか身を人の身になしておもひくらへよももしきにあかしくらしてとこ夏のくもゐはるけきみな人におくれてなひく我もあるらし
    よのなかを おもへはくるし わするれは えもわすられす たれもみな おなしみやまの まつかえと かるることなく すめらきの ちよもやちよも つかへむと たかきたのみを かくれぬの したよりねさす あやめくさ あやなきみにも ひとなみに かかるこころを おもひつつ よにふるゆきを きみはしも ふゆはとりつみ なつはまた くさのほたるを あつめつつ ひかりさやけき ひさかたの つきのかつらを をるまてに しくれにそほち つゆにぬれ へにけむそての ふかみとり いろあせかたに いまはなり かつしたはより くれなゐに うつろひはてむ あきにあはは まつひらけなむ はなよりも こたかきかけと あふかれむ ものとこそみし しほかまの うらさひしけに なそもかく よをしもおもひ なすのゆの たきるゆゑをも かまへつつ わかみをひとの みになして おもひくらへよ ももしきに あかしくらして とこなつの くもゐはるけき みなひとに おくれてなひく われもあるらし
    大中臣能宣雑下
    573今はともいはさりしかとやをとめのたつやかすかのふるさとにかへりやくるとまつち山まつほとすきてかりかねの雲のよそにもきこえねは我はむなしきたまつさをかくてもたゆくむすひおきてつてやる風のたよりたになきさにきゐるゆふちとりうらみはふかくみつしほにそてのみいととぬれつつそあともおもはぬきみによりかひなきこひになにしかも我のみひとりうきふねのこかれてよにはわたるらんとさへそはてはかやり火のくゆる心もつきぬへく思ひなるまておとつれすおほつかなくてかへれともけふみつくきのあとみれはちきりし事は君も又わすれさりけりしかしあらはたれもうきよのあさつゆにひかりまつまの身にしあれはおもはしいかてとこ夏の花のうつろふ秋もなくおなしあたりにすみの江のきしのひめ松ねをむすひ世世をへつつもしもゆきのふるにもぬれぬなかとなりなむ
    いまはとも いはさりしかと やをとめの たつやかすかの ふるさとに かへりやくると まつちやま まつほとすきて かりかねの くものよそにも きこえねは われはむなしき たまつさを かくてもたゆく むすひおきて つてやるかせの たよりたに なきさにきゐる ゆふちとり うらみはふかく みつしほに そてのみいとと ぬれつつそ あともおもはぬ きみにより かひなきこひに なにしかも われのみひとり うきふねの こかれてよには わたるらむ とさへそはては かやりひの くゆるこころも つきぬへく おもひなるまて おとつれす おほつかなくて かへれとも けふみつくきの あとみれは ちきりしことは きみもまた わすれさりけり しかしあらは たれもうきよの あさつゆに ひかりまつまの みにしあれは おもはしいかて とこなつの はなのうつろふ あきもなく おなしあたりに すみのえの きしのひめまつ ねをむすひ よよをへつつも しもゆきの ふるにもぬれぬ なかとなりなむ
    読人知らず雑下
    574あはれわれいつつの宮の宮人とそのかすならぬ身をなしておもひし事はかけまくもかしこけれともたのもしきかけにふたたひおくれたるふたはの草を吹く風のあらき方にはあてしとてせはきたもとをふせきつつちりもすゑしとみかきてはたまのひかりをたれか見むと思ふ心におほけなくかみつえたをはさしこえて花さく春の宮人となりし時ははいかはかりしけきかけとかたのまれしすゑの世まてと思ひつつここのかさねのそのなかにいつきすゑしもことてしもたれならなくにを山田を人にまかせて我はたたたもとそほつに身をなしてふたはるみはるすくしつつその秋冬のあさきりのたえまにたにもと思ひしを峯の白雲よこさまにたちかはりぬと見てしかは身をかきりとはおもひにきいのちあらはとたのみしは人におくるるななりけり思ふもしるし山河のみなしもなりしもろ人もうこかぬきしにまもりあけてしつむみくつのはてはてはかきなかされし神な月うすき氷にとちられてとまれる方もなきわふるなみたしつみてかそふれは冬も三月になりにけりなかきよなよなしきたへのふさすやすますあけくらしおもへとも猶かなしきはやそうち人もあたら世のためしなりとそさわくなるましてかすかのすきむらにいまたかれたる枝はあらし大原野辺のつほすみれつみをかしある物ならはてる日も見よといふことを年のをはりにきよめすはわか身そつひにくちぬへきたにのむもれ木春くともさてややみなむ年の内に春吹く風も心あらはそての氷をとけとふかなむ
    あはれわれ いつつのみやの みやひとと そのかすならぬ みをなして おもひしことは かけまくも かしこけれとも たのもしき かけにふたたひ おくれたる ふたはのくさを ふくかせの あらきかたには あてしとて せはきたもとを ふせきつつ ちりもすゑしと みかきては たまのひかりを たれかみむと おもふこころに おほけなく かみつえたをは さしこえて はなさくはるの みやひとと なりしときはは いかはかり しけきかけとか たのまれし すゑのよまてと おもひつつ ここのかさねの そのなかに いつきすゑしも ことてしも たれならなくに をやまたを ひとにまかせて われはたた たもとそほつに みをなして ふたはるみはる すくしつつ そのあきふゆの あさきりの たえまにたにもと おもひしを みねのしらくも よこさまに たちかはりぬと みてしかは みをかきりとは おもひにき いのちあらはと たのみしは ひとにおくるる ななりけり おもふもしるし やまかはの みなしもなりし もろひとも うこかぬきしに まもりあけて しつむみくつの はてはては かきなかされし かみなつき うすきこほりに とちられて とまれるかたも なきわふる なみたしつみて かそふれは ふゆもみつきに なりにけり なかきよなよな しきたへの ふさすやすます あけくらし おもへともなほ かなしきは やそうちひとも あたらよの ためしなりとそ さわくなる ましてかすかの すきむらに いまたかれたる えたはあらし おほはらのへの つほすみれ つみをかしある ものならは てるひもみよと いふことを としのをはりに きよめすは わかみそつひに くちぬへき たにのうもれき はるくとも さてややみなむ としのうちに はるふくかせも こころあらは そてのこほりを とけとふかなむ
    東三条太政大臣雑下
    575如何せむわか身くたれるいな舟のしはしはかりのいのちたえすは
    いかにせむ わかみくたれる いなふねの しはしはかりの いのちたえすは
    東三条太政大臣雑下
    576さかきはにゆふしてかけてたか世にか神のみまへにいはひそめけん
    さかきはに ゆふしてかけて たかよにか かみのみまへに いはひそめけむ
    不記神楽歌
    577さか木葉のかをかくはしみとめくれはやそうち人そまとゐせりける
    さかきはの かをかくはしみ とめくれは やそうちひとそ まとゐせりける
    不記神楽歌
    578みてくらにならましものをすへ神のみてにとられてなつさはましを
    みてくらに ならましものを すめかみの みてにとられて なつさはましを
    不記神楽歌
    579みてくらはわかにはあらすあめにますとよをかひめの宮のみてくら
    みてくらは わかにはあらす あめにます とよをかひめの みやのみてくら
    不記神楽歌
    580あふさかをけさこえくれは山人のちとせつけとてきれるつゑなり
    あふさかを けさこえくれは やまひとの ちとせつけとて きれるつゑなり
    不記神楽歌
    581よも山の人のたからにするゆみを神のみまへにけふたてまつる
    よもやまの ひとのたからに するゆみを かみのみまへに けふたてまつる
    不記神楽歌
    582いその神ふるやをとこのたちもかなくみのをしてて宮ちかよはむ
    いそのかみ ふるやをとこの たちもかな くみのをしてて みやちかよはむ
    不記神楽歌
    583銀のめぬきのたちをさけはきてならの宮こをねるやたかこそ
    しろかねの めぬきのたちを さけはきて ならのみやこを ねるやたかこそ
    不記神楽歌
    584わか駒ははやくゆかなんあさひこかやへさすをかのたまささのうへに
    わかこまは はやくゆかなむ あさひこか やへさすをかの たまささのうへに
    不記神楽歌
    585さいはりに衣はそめん雨ふれとうつろひかたしふかくそめては
    さいはりに ころもはそめむ あめふれと うつろひかたし ふかくそめては
    不記神楽歌
    586しなかとりゐなのふし原とひわたるしきかはねおとおもしろきかな
    しなかとり ゐなのふしはら とひわたる しきかはねおと おもしろきかな
    不記神楽歌
    587住吉のきしもせさらんものゆゑにねたくや人に松といはれむ
    すみよしの きしもせさらむ ものゆゑに ねたくやひとに まつといはれむ
    不記神楽歌
    588ゆふたすきかくるたもとはわつらはしゆたけにとけてあらむとをしれ
    ゆふたすき かくるたもとは わつらはし ゆたけにとけて あらむとをしれ
    不記神楽歌
    589あまくたるあら人神のあひおひをおもへはひさし住吉の松
    あまくたる あらひとかみの あひおひを おもへはひさし すみよしのまつ
    安法法師神楽歌
    590我とはは神世の事もこたへなん昔をしれるすみよしのまつ
    われとはは かみよのことも こたへなむ むかしをしれる すみよしのまつ
    恵慶法師神楽歌
    591いく世にかかたりつたへむはこさきの松のちとせのひとつならねは
    いくよにか かたりつたへむ はこさきの まつのちとせの ひとつならねは
    源重之神楽歌
    592おひしけれひらのの原のあやすきよこき紫にたちかさぬへく
    おひしけれ ひらののはらの あやすきよ こきむらさきに たちかさぬへく
    清原元輔神楽歌
    593ねきかくるひえの社のゆふたすきくさのかきはもことやめてきけ
    ねきかくる ひえのやしろの ゆふたすき くさのかきはも ことやめてきけ
    僧都実因神楽歌
    594おほよとのみそきいくよになりぬらん神さひにたる浦のひめ松
    おほよとの みそきいくよに なりぬらむ かみさひにたる うらのひめまつ
    源兼澄神楽歌
    595みそきするけふからさきにおろすあみは神のうけひくしるしなりけり
    みそきする けふからさきに おろすあみは かみのうけひく しるしなりけり
    平祐挙神楽歌
    596ちはやふる神のたもてるいのちをはたれかためにか長くと思はん
    ちはやふる かみのたもてる いのちをは たれかためにか なかくとおもはむ
    柿本人麻呂(人麿)神楽歌
    597千早振かみも思ひのあれはこそ年へてふしの山ももゆらめ
    ちはやふる かみもおもひの あれはこそ としへてふしの やまももゆらめ
    柿本人麻呂(人麿)神楽歌
    598君か世のなからの山のかひありとのとけき雲のゐる時そ見る
    きみかよの なからのやまの かひありと のとけきくもの ゐるときそみる
    大中臣能宣神楽歌
    599ささなみのなからの山のなからへてたのしかるへき君かみよかな
    ささなみの なからのやまの なからへて たのしかるへき きみかみよかな
    大中臣能宣神楽歌
    600うこきなきいはくら山にきみかよをはこひおきつつちよをこそつめ
    うこきなき いはくらやまに きみかよを はこひおきつつ ちよをこそつめ
    読人知らず神楽歌
    601ちはやふるみ神の山のさか木ははさかえそまさるすゑの世まてに
    ちはやふる みかみのやまの さかきはは さかえそまさる すゑのよまてに
    大中臣能宣神楽歌
    602万代の色もかはらぬさか木ははみかみの山におふるなりけり
    よろつよの いろもかはらぬ さかきはは みかみのやまに おふるなりけり
    読人知らず神楽歌
    603よろつ世をみかみの山のひひくにはやす河の水すみそあひにける
    よろつよを みかみのやまの ひひくには やすかはのみつ すみそあひにける
    清原元輔神楽歌
    604みつきつむおほくら山はときはにていろもかはらすよろつ世そへむ
    みつきつむ おほくらやまは ときはにて いろもかはらす よろつよそへむ
    大中臣能宣神楽歌
    605たかしまやみをの中山そまたててつくりかさねよちよのなみくら
    たかしまや みをのなかやま そまたてて つくりかさねよ ちよのなみくら
    読人知らず神楽歌
    606みかきける心もしるく鏡山くもりなきよにあふかたのしさ
    みかきける こころもしるく かかみやま くもりなきよに あふかたのしさ
    大中臣能宣神楽歌
    607ちとせふる松かさきにはむれゐつつたつさへあそふ心あるらし
    ちとせふる まつかさきには むれゐつつ たつさへあそふ こころあるらし
    清原元輔神楽歌
    608ととこほる時もあらしな近江なるおもののはまのあまのひつきは
    ととこほる ときもあらしな あふみなる おもののはまの あまのひつきは
    平兼盛神楽歌
    609ことしよりちとせの山はこゑたえす君かみよをそいのるへらなる
    ことしより ちとせのやまは こゑたえす きみかみよをそ いのるへらなる
    大中臣能宣神楽歌
    610近江なるいやたか山のさか木にて君かちよをはいのりかささん
    あふみなる いやたかやまの さかきにて きみかちよをは いのりかささむ
    平兼盛神楽歌
    611いのりくるみかみの山のかひしあれはちとせの影にかくてつかへん
    いのりくる みかみのやまの かひしあれは ちとせのかけに かくてつかへむ
    大中臣能宣神楽歌
    612けふよりはいはくら山に万代をうこきなくのみつまむとそ思ふ
    けふよりは いはくらやまに よろつよを うこきなくのみ つまむとそおもふ
    大中臣能宣神楽歌
    613万代をあきらけく見むかかみ山ちとせのほとはちりもくもらし
    よろつよを あきらけくみむ かかみやま ちとせのほとは ちりもくもらし
    中務神楽歌
    614年もよしこかひもえたりおほくにのさとたのもしくおもほゆるかな
    としもよし こかひもえたり おほくにの さとたのもしく おもほゆるかな
    平兼盛神楽歌
    615名にたてるよしたのさとの杖なれはつくともつきし君かよろつ世
    なにたてる よしたのさとの つゑなれは つくともつきし きみかよろつよ
    平兼盛神楽歌
    616泉河のとけき水のそこ見れはことしはかけそすみまさりける
    いつみかは のとけきみつの そこみれは ことしはかけそ すみまさりける
    平兼盛神楽歌
    617つるのすむ松かさきにはならへたる千世のためしを見するなりけり
    つるのすむ まつかさきには ならへたる ちよのためしを みするなりけり
    平兼盛神楽歌
    618あしひきの山のさかきはときはなるかけにさかゆる神のきねかな
    あしひきの やまのさかきは ときはなる かけにさかゆる かみのきねかな
    紀貫之神楽歌
    619おほなむちすくなみ神のつくれりし妹背の山を見るそうれしき
    おほなむち すくなみかみの つくれりし いもせのやまを みるそうれしき
    柿本人麻呂(人麿)神楽歌
    620めつらしきけふのかすかのやをとめを神もうれしとしのはさらめや
    めつらしき けふのかすかの やをとめを かみもうれしと しのはさらめや
    藤原忠房神楽歌
    621こひすてふわか名はまたき立ちにけり人しれすこそ思ひそめしか
    こひすてふ わかなはまたき たちにけり ひとしれすこそ おもひそめしか
    #百人一首
    壬生忠見十一恋一
    622しのふれと色にいてにけりわか恋は物や思ふと人のとふまて
    しのふれと いろにいてにけり わかこひは ものやおもふと ひとのとふまて
    #百人一首
    平兼盛十一恋一
    623いろならはうつるはかりもそめてまし思ふ心をしる人のなさ
    いろならは うつるはかりも そめてまし おもふこころを しるひとのなき
    紀貫之十一恋一
    624しのふるも誰ゆゑならぬ物なれは今は何かは君にへたてむ
    しのふるも たれゆゑならぬ ものなれは いまはなにかは きみにへたてむ
    平公誠十一恋一
    625なけきあまりつひに色にそいてぬへきいはぬを人のしらはこそあらめ
    なけきあまり つひにいろにそ いてぬへき いはぬをひとの しらはこそあらめ
    読人知らず十一恋一
    626あふことを松にて年のへぬるかな身は住の江におひぬものゆゑ
    あふことを まつにてとしの へぬるかな みはすみのえに おひぬものゆゑ
    読人知らず十一恋一
    627おとにきく人に心をつくはねのみねとこひしききみにもあるかな
    おとにきく ひとにこころを つくはねの みねとこひしき きみにもあるかな
    読人知らず十一恋一
    628あまくものやへ雲かくれなる神のおとにのみやはきき渡るへき
    あまくもの やへくもかくれ なるかみの おとにのみやは ききわたるへき
    柿本人麻呂(人麿)十一恋一
    629見ぬ人のこひしきやなそおほつかな誰とかしらむゆめに見ゆとも
    みぬひとの こひしきやなそ おほつかな たれとかしらむ ゆめにみゆとも
    読人知らず十一恋一
    630夢よりそ恋しき人を見そめつる今はあはする人もあらなん
    ゆめよりそ こひしきひとを みそめつる いまはあはする ひともあらなむ
    読人知らず十一恋一
    631かくてのみありその浦の浜千鳥よそになきつつこひやわたらむ
    かくてのみ ありそのうらの はまちとり よそになきつつ こひやわたらむ
    読人知らず十一恋一
    632よそにのみ見てやはこひむ紅のすゑつむ花のいろにいてすは
    よそにのみ みてやはこひむ くれなゐの すゑつむはなの いろにいてすは
    読人知らず十一恋一
    633身にしみて思ふ心の年ふれはつひに色にもいてぬへきかな
    みにしみて おもふこころの としふれは つひにいろにも いてぬへきかな
    権中納言敦忠十一恋一
    634いかてかはしらせそむへき人しれす思ふ心のいろにいてすは
    いかてかは しらせそむへき ひとしれす おもふこころの いろにいてすは
    くにまさ十一恋一
    635いかてかはかく思ふてふ事をたに人つてならてきみにしらせむ
    いかてかは かくおもふてふ ことをたに ひとつてならて きみにしらせむ
    権中納言敦忠十一恋一
    636あなこひしはつかに人をみつのあわのきえかへるともしらせてしかな
    あなこひし はつかにひとを みつのあわの きえかへるとも しらせてしかな
    小野宮太政大臣十一恋一
    637なかからしと思ふ心は水のあわによそふる人のたのまれぬかな
    なかからしと おもふこころは みつのあわに よそふるひとの たのまれぬかな
    つつみの中納言のみやす所十一恋一
    638みなといつるあまのを舟のいかりなはくるしき物とこひをしりぬる
    みなといつる あまのをふねの いかりなは くるしきものと こひをしりぬる
    読人知らず十一恋一
    639大井河くたすいかたのみなれさを見なれぬ人もこひしかりけり
    おほゐかは くたすいかたの みなれさを みなれぬひとも こひしかりけり
    読人知らず十一恋一
    640みなそこにおふるたまものうちなひき心をよせてこふるこのころ
    みなそこに おふるたまもの うちなひき こころをよせて こふるこのころ
    柿本人麻呂(人麿)十一恋一
    641おとにのみききつるこひを人しれすつれなき人にならひぬるかな
    おとにのみ ききつるこひを ひとしれす つれなきひとに ならひぬるかな
    読人知らず十一恋一
    642如何せむいのちはかきりあるものをこひはわすれす人はつれなし
    いかにせむ いのちはかきり あるものを こひはわすれす ひとはつれなし
    読人知らず十一恋一
    643山ひこもこたへぬ山のよふことり我ひとりのみなきやわたらむ
    やまひこも こたへぬやまの よふことり われひとりのみ なきやわたらむ
    読人知らず十一恋一
    644やまひこは君にもにたる心かな我こゑせねはおとつれもせす
    やまひこは きみにもにたる こころかな わかこゑせねは おとつれもせす
    読人知らず十一恋一
    645あしひきの山したとよみ行く水の時そともなくこひ渡るかな
    あしひきの やましたとよみ ゆくみつの ときそともなく こひわたるかな
    読人知らず十一恋一
    646いかにしてしはしわすれんいのちたにあらはあふよのありもこそすれ
    いかにして しはしわすれむ いのちたに あらはあふよの ありもこそすれ
    読人知らず十一恋一
    647ぬきみたる涙の玉もとまるやとたまのをはかりあはむといはなん
    ぬきみたる なみたのたまも とまるやと たまのをはかり あはむといはなむ
    読人知らず十一恋一
    648いはのうへにおふるこ松もひきつれと猶ねかたきは君にそ有りける
    いはのうへに おふるこまつも ひきつれと なほねかたきは きみにそありける
    読人知らず十一恋一
    649たなはたもあふよありけりあまの河この渡にはわたるせもなし
    たなはたも あふよありけり あまのかは このわたりには わたるせもなし
    読人知らず十一恋一
    650さはにのみ年はへぬれとあしたつの心は雲のうへにのみこそ
    さはにのみ としはへぬれと あしたつの こころはくもの うへにのみこそ
    九条右大臣十一恋一
    651おほそらはくもらさりけり神な月時雨ここちは我のみそする
    おほそらは くもらさりけり かみなつき しくれここちは われのみそする
    読人知らず十一恋一
    652しのふれと猶しひてこそおもほゆれ恋といふ物の身をしさらねは
    しのふれと なほしひてこそ おもほゆれ こひといふものの みをしさらねは
    読人知らず十一恋一
    653あはれともおもはしものをしらゆきのしたにきえつつ猶もふるかな
    あはれとも おもはしものを しらゆきの したにきえつつ なほもふるかな
    読人知らず十一恋一
    654ほともなくきえぬる雪はかひもなし身をつみてこそあはれとおもはめ
    ほともなく きえぬるゆきは かひもなし みをつみてこそ あはれとおもはめ
    中務十一恋一
    655よそなからあひ見ぬほとにこひしなは何にかへたるいのちとかいはむ
    よそなから あひみぬほとに こひしなは なににかへたる いのちとかいはむ
    読人知らず十一恋一
    656いつとてかわかこひやまむちはやふるあさまのたけのけふりたゆとも
    いつとてか わかこひやまむ ちはやふる あさまのたけの けふりたゆとも
    読人知らず十一恋一
    657おほはらの神もしるらむわかこひはけふ氏人の心やらなむ
    おほはらの かみもしるらむ わかこひは けふうちひとの こころやらなむ
    一条摂政十一恋一
    658さか木はの春さす枝のあまたあれはとかむる神もあらしとそおもふ
    さかきはの はるさすえたの あまたあれは とかむるかみも あらしとそおもふ
    読人知らず十一恋一
    659あめつちの神そしるらん君かため思ふ心のかきりなけれは
    あめつちの かみそしるらむ きみかため おもふこころの かきりなけれは
    読人知らず十一恋一
    660海もあさし山もほとなしわかこひをなにによそへて君にいはまし
    うみもあさし やまもほとなし わかこひを なにによそへて きみにいはまし
    読人知らず十一恋一
    661おく山のいはかきぬまのみこもりにこひや渡らんあふよしをなみ
    おくやまの いはかきぬまの みこもりに こひやわたらむ あふよしをなみ
    柿本人麻呂(人麿)十一恋一
    662あまた見しとよのみそきのもろ人の君しも物を思はするかな
    あまたみし とよのみそきの もろひとの きみしもものを おもはするかな
    寛祐法師十一恋一
    663たますたれいとのたえまに人を見てすける心は思ひかけてき
    たますたれ いとのたえまに ひとをみて すけるこころは おもひかけてき
    読人知らず十一恋一
    664たまたれのすける心と見てしよりつらしてふ事かけぬ日はなし
    たまたれの すけるこころと みてしより つらしてふこと かけぬひはなし
    読人知らず十一恋一
    665我こそや見ぬ人こふるやまひすれあふ日ならてはやむくすりなし
    われこそや みぬひとこふる やまひすれ あふひならては やむくすりなし
    読人知らず十一恋一
    666玉江こくこもかり舟のさしはへて浪まもあらはよらむとそ思ふ
    たまえこく こもかりふねの さしはへて なみまもあらは よらむとそおもふ
    読人知らず十一恋一
    667みるめかるあまとはなしに君こふるわか衣手のかわく時なき
    みるめかる あまとはなしに きみこふる わかころもての かわくときなき
    読人知らず十一恋一
    668みくまのの浦のはまゆふももへなる心はおもへとたたにあはぬかも
    みくまのの うらのはまゆふ ももへなる こころはおもへと たたにあはぬかも
    柿本人麻呂(人麿)十一恋一
    669あさなあさなけつれはつもるおちかみのみたれて物を思ふころかな
    あさなあさな けつれはつもる おちかみの みたれてものを おもふころかな
    紀貫之十一恋一
    670わかためはたなゐのし水ぬるけれと猶かきやらむさてはすむやと
    わかためは たなゐのしみつ ぬるけれと なほかきやらむ さてはすむやと
    藤原実方朝臣十一恋一
    671かきやらはにこりこそせめあさきせのみくつはたれかすませても見む
    かきやらは にこりこそせめ あさきせの みくつはたれか すませてもみむ
    読人知らず十一恋一
    672ひとしれぬ心の内を見せたらは今まてつらき人はあらしな
    ひとしれぬ こころのうちを みせたらは いままてつらき ひとはあらしな
    読人知らず十一恋一
    673人しれぬ思ひは年もへにけれと我のみしるはかひなかりけり
    ひとしれぬ おもひはとしも へにけれと われのみしるは かひなかりけり
    小野宮太政大臣十一恋一
    674ひとしれぬ涙に袖は朽ちにけりあふよもあらはなににつつまむ
    ひとしれぬ なみたにそては くちにけり あふよもあらは なににつつまむ
    読人知らず十一恋一
    675君はたた袖はかりをやくたすらん逢ふには身をもかふとこそきけ
    きみはたた そてはかりをや くたすらむ あふにはみをも かふとこそきけ
    読人知らず十一恋一
    676ひとしれすおつる涙はつのくにのなかすと見えて袖そくちぬる
    ひとしれす おつるなみたは つのくにの なかすとみえて そてそくちぬる
    読人知らず十一恋一
    677恋といへはおなしなにこそ思ふらめいかてわか身を人にしらせん
    こひといへは おなしなにこそ おもふらめ いかてわかみを ひとにしらせむ
    読人知らず十一恋一
    678あふ事のたえてしなくは中中に人をも身をも怨みさらまし
    あふことの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみさらまし
    #百人一首
    中納言朝忠十一恋一
    679逢ふ事はかたゐさりするみとりこのたたむ月にもあはしとやする
    あふことは かたゐさりする みとりこの たたむつきにも あはしとやする
    平兼盛十一恋一
    680あふことを月日にそへてまつ時はけふ行末になりねとそ思ふ
    あふことを つきひにそへて まつときは けふゆくすゑに なりねとそおもふ
    読人知らず十一恋一
    681あふ事をいつともしらて君かいはむ時はの山の松そくるしき
    あふことを いつともしらて きみかいはむ ときはのやまの まつそくるしき
    読人知らず十一恋一
    682いのちをは逢ふにかふとかききしかと我やためしにあはぬしにせん
    いのちをは あふにかふとか ききしかと われやためしに あはぬしにせむ
    読人知らず十一恋一
    683行末はつひにすきつつ道ふウの年月なきそわひしかりける
    ゆくすゑは つひにすきつつ あふことの としつきなきそ わひしかりける
    紀貫之十一恋一
    684いきたれはこひする事のくるしきを猶いのちをはあふにかへてん
    いきたれは こひすることの くるしきを なほいのちをは あふにかへてむ
    読人知らず十一恋一
    685こひしなむのちはなにせんいける日のためこそ人の見まくほしけれ
    こひしなむ のちはなにせむ いけるひの ためこそひとの みまくほしけれ
    大伴百世十一恋一
    686あはれとしきみたにいははこひわひてしなんいのちもをしからなくに
    あはれとし きみたにいはは こひわひて しなむいのちも をしからなくに
    源経基十一恋一
    687ひとしれす思ふ心をととめつついくたひ君かやとをすくらん
    ひとしれす おもふこころを ととめつつ いくたひきみか やとをすくらむ
    読人知らず十一恋一
    688しくれにも雨にもあらて君こふる年のふるにも袖はぬれけり
    しくれにも あめにもあらて きみこふる としのふるにも そてはぬれけり
    読人知らず十一恋一
    689露はかりたのめしほとのすきゆけはきえぬはかりの心地こそすれ
    つゆはかり たのめしほとの すきゆけは きえぬはかりの ここちこそすれ
    菅原輔昭十一恋一
    690つゆはかりたのむることもなきものをあやしやなにに思ひおきけん
    つゆはかり たのむることも なきものを あやしやなにに おもひおきけむ
    読人知らず十一恋一
    691流れてとたのむるよりは山河のこひしきせせにわたりやはせぬ
    なかれてと たのむるよりは やまかはの こひしきせせに わたりやはせぬ
    読人知らず十一恋一
    692あひ見てはしにせぬ身とそなりぬへきたのむるにたにのふるいのちは
    あひみては しにせぬみとそ なりぬへき たのむるにたに のふるいのちは
    読人知らず十一恋一
    693いかてかと思ふ心のある時はおほめくさへそうれしかりける
    いかてかと おもふこころの あるときは おほめくさへそ うれしかりける
    読人知らず十一恋一
    694わひつつも昨日はかりはすくしてきけふやわか身のかきりなるらん
    わひつつも きのふはかりは すくしてき けふやわかみの かきりなるらむ
    読人知らず十一恋一
    695こひつつもけふはくらしつ霞立つあすのはる日をいかてくらさん
    こひつつも けふはくらしつ かすみたつ あすのはるひを いかてくらさむ
    柿本人麻呂(人麿)十一恋一
    696恋ひつつもけふは有りなんたまくしけあけんあしたをいかてくらさむ
    こひつつも けふはありなむ たまくしけ あけむあしたを いかてくらさむ
    柿本人麻呂(人麿)十一恋一
    697君をのみ思ひかけこのたまくしけあけたつことにこひぬ日はなし
    きみをのみ おもひかけこの たまくしけ あけたつことに こひぬひはなし
    読人知らず十一恋一
    698春の野におふるなきなのわひしきは身をつみてたに人のしらぬよ
    はるののに おふるなきなの わひしきは みをつみてたに ひとのしらぬよ
    読人知らず十二恋二
    699なき名のみたつたの山のあをつつら又くる人も見えぬ所に
    なきなのみ たつたのやまの あをつつら またくるひとも みえぬところに
    読人知らず十二恋二
    700無き名のみたつの市とはさわけともいさまた人をうるよしもなし
    なきなのみ たつのいちとは さわけとも いさまたひとを うるよしもなし
    柿本人麻呂(人麿)十二恋二
    701なき事をいはれの池のうきぬなはくるしき物は世にこそ有りけれ
    なきことを いはれのいけの うきぬなは くるしきものは よにこそありけれ
    読人知らず十二恋二
    702竹の葉におきゐる事のまろひあひてぬるとはなしに立つわかなかな
    たけのはに おきゐるつゆの まろひあひて ぬるとはなしに たつわかなかな
    柿本人麻呂(人麿)十二恋二
    703あちきなやわかなはたちて唐衣身にもならさてやみぬへきかな
    あちきなや わかなはたちて からころも みにもならさて やみぬへきかな
    読人知らず十二恋二
    704唐衣我はかたなのふれなくにまつたつ物はなき名なりけり
    からころも われはかたなの ふれなくに まつたつものは なきななりけり
    読人知らず十二恋二
    705そめ河にやとかる浪のはやけれはなき名立つとも今は怨みし
    そめかはに やとかるなみの はやけれは なきなたつとも いまはうらみし
    源重之十二恋二
    706こはた河こはたかいひし事のはそなきなすすかむたきつせもなし
    こはたかは こはたかいひし ことのはそ なきなすすかむ たきつせもなし
    読人知らず十二恋二
    707君か名の立つにとかなき身なりせはおほよそ人になして見ましや
    きみかなの たつにとかなき みなりせは おほよそひとに なしてみましや
    藤原忠房朝臣十二恋二
    708夢かとも思ふへけれとねやはせしなにそ心にわすれかたきは
    ゆめかとも おもふへけれと ねやはせし なにそこころに わすれかたきは
    読人知らず十二恋二
    709ゆめよゆめこひしき人にあひ見すなさめてののちにわひしかりけり
    ゆめよゆめ こひしきひとに あひみすな さめてののちに わひしかりけり
    読人知らず十二恋二
    710あひ見てののちの心にくらふれは昔は物もおもはさりけり
    あひみての のちのこころに くらふれは むかしはものも おもはさりけり
    #百人一首
    権中納言敦忠十二恋二
    711あひみてはなくさむやとそ思ひしをなこりしもこそこひしかりけれ
    あひみては なくさむやとそ おもひしを なこりしもこそ こひしかりけれ
    坂上是則十二恋二
    712あひ見てもありにしものをいつのまにならひて人のこひしかるらん
    あひみても ありにしものを いつのまに ならひてひとの こひしかるらむ
    読人知らず十二恋二
    713わか恋は猶あひ見てもなくさますいやまさりなる心地のみして
    わかこひは なほあひみても なくさます いやまさりなる ここちのみして
    読人知らず十二恋二
    714逢ふ事をまちし月日のほとよりもけふのくれこそひさしかりけれ
    あふことを まちしつきひの ほとよりも けふのくれこそ ひさしかりけれ
    大中臣能宣十二恋二
    715暁のなからましかは白露のおきてわひしき別せましや
    あかつきの なからましかは しらつゆの おきてわひしき わかれせましや
    紀貫之十二恋二
    716あひ見ても猶なくさまぬ心かないくちよねてかこひのさむへき
    あひみても なほなくさまぬ こころかな いくちよねてか こひのさむへき
    紀貫之十二恋二
    717むはたまのこよひなあけそあけゆかはあさゆく君をまつくるしきに
    うはたまの こよひなあけそ あけゆかは あさゆくきみを まつくるしきに
    柿本人麻呂(人麿)十二恋二
    718ひとりねし時はまたれし鳥のねもまれにあふよはわひしかりけり
    ひとりねし ときはまたれし とりのねも まれにあふよは わひしかりけり
    読人知らず十二恋二
    719葛木や我やはくめのはしつくりあけゆくほとは物をこそおもへ
    かつらきや われやはくめの はしつくり あけゆくほとは ものをこそおもへ
    読人知らず十二恋二
    720あさまたき露わけきつる衣手のひるまはかりにこひしきやなそ
    あさまたき つゆわけきつる ころもての ひるまはかりに こひしきやなそ
    平行時十二恋二
    721ふたつなき心は君におきつるを又ほともなくこひしきやなそ
    ふたつなき こころはきみに おきつるを またほともなく こひしきやなそ
    大納言源きよかけ十二恋二
    722いつしかとくれをまつまのおほそらはくもるさへこそうれしかりけれ
    いつしかと くれをまつまの おほそらは くもるさへこそ うれしかりけれ
    読人知らず十二恋二
    723日のうちに物をふたたひ思ふかなとくあけぬるとおそくくるると
    ひのうちに ものをふたたひ おもふかな とくあけぬると おそくくるると
    大江為基十二恋二
    724ももはかきはねかくしきもわかことく朝わひしきかすはまさらし
    ももはかき はねかくしきも わかことく あしたわひしき かすはまさらし
    紀貫之十二恋二
    725うつつにも夢にも人によるしあへはくれゆくはかりうれしきはなし
    うつつにも ゆめにもひとに よるしあへは くれゆくはかり うれしきはなし
    読人知らず十二恋二
    726暁の別の道をおもはすはくれ行くそらはうれしからまし
    あかつきの わかれのみちを おもはすは くれゆくそらは うれしからまし
    読人知らず十二恋二
    727君こふる涙のこほる冬の夜は心とけたるいやはねらるる
    きみこふる なみたのこほる ふゆのよは こころとけたる いやはねらるる
    読人知らず十二恋二
    728かからても有りにしものをしらゆきのひとひもふれはまさるわかこひ
    かからても ありにしものを しらゆきの ひとひもふれは まさるわかこひ
    在原業平朝臣十二恋二
    729あさこほりとくるまもなききみによりなとてそほつるたもとなるらん
    あさこほり とくるまもなき きみにより なとてそほつる たもとなるらむ
    大中臣能宣十二恋二
    730身をつめは露をあはれと思ふかな暁ことにいかておくらん
    みをつめは つゆをあはれと おもふかな あかつきことに いかておくらむ
    読人知らず十二恋二
    731うしと思ふものから人のこひしきはいつこをしのふ心なるらん
    うしとおもふ ものからひとの こひしきは いつこをしのふ こころなるらむ
    読人知らず十二恋二
    732よそにても有りにしものを花すすきほのかに見てそ人は恋しき
    よそにても ありにしものを はなすすき ほのかにみてそ ひとはこひしき
    読人知らず十二恋二
    733夢よりもはかなきものはかけろふのほのかに見えしかけにそありける
    ゆめよりも はかなきものは かけろふの ほのかにみえし かけにそありける
    読人知らず十二恋二
    734ゆめのことなとかよるしも君を見むくるるまつまもさためなきよを
    ゆめのこと なとかよるしも きみをみむ くるるまつまも さためなきよを
    壬生忠見十二恋二
    735こひしきを何につけてかなくさめむ夢たに見えすぬる夜なけれは
    こひしきを なににつけてか なくさめむ ゆめたにみえす ぬるよなけれは
    源順十二恋二
    736あけくれのそらにそ我は迷ひぬる思ふ心のゆかぬまにまに
    あけくれの そらにそわれは まよひぬる おもふこころの ゆかぬまにまに
    源順十二恋二
    737たまほこのとほ道もこそ人はゆけなと時のまも見ねはこひしき
    たまほこの とほみちもこそ ひとはゆけ なとときのまも みぬはこひしき
    紀貫之十二恋二
    738身にこひのあまりにしかはしのふれと人のしるらん事そわひしき
    みにこひの あまりにしかは しのふれと ひとのしるらむ ことそわひしき
    読人知らず十二恋二
    739しのひつつおもへはくるしすみの江の松のねなからあらはれなはや
    しのひつつ おもへはくるし すみのえの まつのねなから あらはれなはや
    読人知らず十二恋二
    740住吉の松ならねともひさしくも君とねぬよのなりにけるかな
    すみよしの まつならねとも ひさしくも きみとねぬよの なりにけるかな
    大納言きよかけ十二恋二
    741ひさしくもおもほえねとも住吉の松やふたたひおひかはるらん
    ひさしくも おもほえねとも すみよしの まつやふたたひ おひかはるらむ
    忠房かむすめ十二恋二
    742なにせむに結ひそめけんいはしろの松はひさしき物としるしる
    なにせむに むすひそめけむ いはしろの まつはひさしき ものとしるしる
    読人知らず十二恋二
    743かた岸の松のうきねとしのひしはされはよつひにあらはれにけり
    かたきしの まつのうきねと しのひしは されはよつひに あらはれにけり
    読人知らず十二恋二
    744あひ見てはいくひささにもあらねとも年月のことおもほゆるかな
    あひみては いくひささにも あらねとも としつきのこと おもほゆるかな
    柿本人麻呂(人麿)十二恋二
    745年をへて思ひ思ひてあひぬれは月日のみこそうれしかりけれ
    としをへて おもひおもひて あひぬれは つきひのみこそ うれしかりけれ
    柿本人麻呂(人麿)十二恋二
    746すきいたもてふけるいたまのあはさらは如何せんとかわかねそめけん
    すきいたもて ふけるいたまの あはさらは いかにせむとか わかねそめけむ
    柿本人麻呂(人麿)十二恋二
    747こぬかなとしはしは人におもはせんあはてかへりしよひのねたさに
    こぬかなと しはしはひとに おもはせむ あはてかへりし よひのねたさに
    読人知らず十二恋二
    748秋霧のはれぬ朝のおほそらを見るかことくも見えぬ君かな
    あききりの はれぬあしたの おほそらを みるかことくも みえぬきみかな
    読人知らず十二恋二
    749恋ひわひぬねをたになかむ声たてていつこなるらんおとなしのさと
    こひわひぬ ねをたになかむ こゑたてて いつこなるらむ おとなしのさと
    読人知らず十二恋二
    750おとなしのかはとそつひに流れけるいはて物思ふ人の渡は
    おとなしの かはとそつひに なかれける いはてものおもふ ひとのなみたは
    清原元輔十二恋二
    751風さむみ声よわり行く虫よりもいはて物思ふ我そまされる
    かせさむみ こゑよわりゆく むしよりも いはてものおもふ われそまされる
    読人知らず十二恋二
    752しかのあまのつりにともせるいさり火のほのかにいもを見るよしもかな
    しかのあまの つりにともせる いさりひの ほのかにいもを みるよしもかな
    読人知らず十二恋二
    753恋するはくるしき物としらすへく人をわか身にしはしなさはや
    こひするは くるしきものと しらすへく ひとをわかみに しはしなさはや
    読人知らず十二恋二
    754しるや君しらすはいかにつらからむわかかくはかり思ふ心を
    しるやきみ しらすはいかに つらからむ わかかくはかり おもふこころを
    読人知らず十二恋二
    755あすしらぬわか身なりとも怨みおかむこの世にてのみやましと思へは
    あすしらぬ わかみなりとも うらみおかむ このよにてのみ やましとおもへは
    大中臣能宣十二恋二
    756思ふなと君はいへともあふ事をいつとしりてかわかこひさらん
    おもふなと きみはいへとも あふことを いつとしりてか わかこひさらむ
    柿本人麻呂(人麿)十二恋二
    757おもふらむ心の内をしらぬ身はしぬはかりにもあらしとそ思ふ
    おもふらむ こころのうちを しらぬみは しぬはかりにも あらしとそおもふ
    源順十二恋二
    758かくれぬのそこの心そうらめしきいかにせよとてつれなかるらん
    かくれぬの そこのこころそ うらめしき いかにせよとて つれなかるらむ
    一条摂政十二恋二
    759我なからさももとかしき心かなおもはぬ人はなにかこひしき
    われなから さももとかしき こころかな おもはぬひとは なにかこひしき
    読人知らず十二恋二
    760草かくれかれにし水はぬるくともむすひしそては今もかわかす
    くさかくれ かれにしみつは ぬるくとも むすひしそては いまもかわかす
    清原元輔十二恋二
    761わか思ふ人は草葉のつゆなれやかくれは抽のまつそほつらむ
    わかおもふ ひとはくさはの つゆなれや かくれはそての まつそほつらむ
    読人知らず十二恋二
    762たもとよりおつる涙はみちのくの衣河とそいふへかりける
    たもとより おつるなみたは みちのくの ころもかはとそ いふへかりける
    読人知らず十二恋二
    763衣をやぬきてやらまし涙のみかかりけりとも人の見るへく
    ころもをや ぬきてやらまし なみたのみ かかりけりとも ひとのみるへく
    読人知らず十二恋二
    764人めをもつつまぬ物と思ひせは袖の涙のかからましやは
    ひとめをも つつまぬものと おもひせは そてのなみたの かからましやは
    実方朝臣十二恋二
    765礒神ふるとも雨にさはらめやあはむといもにいひてしものを
    いそのかみ ふるともあめに さはらめや あはむといもに いひてしものを
    大伴方見十二恋二
    766わひぬれは今はたおなしなにはなる身をつくしてもあはむとそ思ふ
    わひぬれは いまはたおなし なにはなる みをつくしても あはむとそおもふ
    兵部卿元良親王十二恋二
    767いつかともおもはぬさはのあやめ草たたつくつくとねこそなかるれ
    いつかとも おもはぬさはの あやめくさ たたつくつくと ねこそなかるれ
    読人知らず十二恋二
    768おふれともこまもすさめぬあやめ草かりにも人のこぬかわひしさ
    おふれとも こまもすさへぬ あやめくさ かりにもひとの こぬかわひしさ
    凡河内躬恒十二恋二
    769かやり火は物思ふ人の心かも夏のよすからしたにもゆらん
    かやりひは ものおもふひとの こころかも なつのよすから したにもゆらむ
    大中臣能宣十二恋二
    770しのふれはくるしかりけりしのすすき秋のさかりになりやしなまし
    しのふれは くるしかりけり しのすすき あきのさかりに なりやしなまし
    勝観法師十二恋二
    771思ひきやわかまつ人はよそなからたなはたつめのあふを見むとは
    おもひきや わかまつひとは よそなから たなはたつめの あふをみむとは
    読人知らず十二恋二
    772けふさへやよそに見るへきひこほしのたちならすらんあまのかはなみ
    けふさへや よそにみるへき ひこほしの たちならすらむ あまのかはなみ
    読人知らず十二恋二
    773わひぬれはつねはゆゆしきたなはたもうらやまれぬる物にそ有りける
    わひぬれは つねはゆゆしき たなはたも うらやまれぬる ものにそありける
    読人知らず十二恋二
    774露たにもなからましかは秋の夜に誰とおきゐて人をまたまし
    つゆたにも なからましかは あきのよに たれとおきゐて ひとをまたまし
    読人知らず十二恋二
    775今更にとふへき人もおもほえすやへむくらしてかとさせりてへ
    いまさらに とふへきひとも おもほえす やへむくらして かとさせりてへ
    読人知らず十二恋二
    776秋はわか心のつゆにあらねとも物なけかしきころにもあるかな
    あきはわか こころのつゆに あらねとも ものなけかしき ころにもあるかな
    読人知らず十二恋二
    777あしひきの山した風もさむけきにこよひも又やわかひとりねん
    あしひきの やましたかせも さむけきに こよひもまたや わかひとりねむ
    読人知らず一三恋三
    778葦引の山鳥の尾のしたりをのなかなかし夜をひとりかもねむ
    あしひきの やまとりのをの したりをの なかなかしよを ひとりかもねむ
    #百人一首
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    779あしひきの葛木山にゐる事のたちてもゐても君をこそおもへ
    あしひきの かつらきやまに ゐるくもの たちてもゐても きみをこそおもへ
    読人知らず一三恋三
    780あしひきの山の山すけやますのみ見ねはこひしききみにもあるかな
    あしひきの やまのやますけ やますのみ みねはこひしき きみにもあるかな
    読人知らず一三恋三
    781あしひきの山こえくれてやとからはいもたちまちていねさらむかも
    あしひきの やまこえくれて やとからは いもたちまちて いねさらむかも
    石上乙麿一三恋三
    782あしひきの山よりいつる月まつと人にはいひて君をこそまて
    あしひきの やまよりいつる つきまつと ひとにはいひて きみをこそまて
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    783みか月のさやかに見えす雲隠見まくそほしきうたてこのころ
    みかつきの さやかにみえす くもかくれ みまくそほしき うたてこのころ
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    784逢ふ事はかたわれ月の雲かくれおほろけにやは人のこひしき
    あふことは かたわれつきの くもかくれ おほろけにやは ひとのこひしき
    読人知らず一三恋三
    785秋の夜の月かも君はくもかくれしはしも見ねはここらこひしき
    あきのよの つきかもきみは くもかくれ しはしもみねは ここらこひしき
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    786秋の夜の月見るとのみおきゐつつ今夜もねてや我はかへらん
    あきのよの つきみるとのみ おきゐつつ こよひもねてや われはかへらむ
    平兼盛一三恋三
    787こひしさはおなし心にあらすとも今夜の月を君見さらめや
    こひしさは おなしこころに あらすとも こよひのつきを きみみさらめや
    源信明一三恋三
    788さやかにも見るへき月を我はたた涙にくもるをりそおほかる
    さやかにも みるへきつきを われはたた なみたにくもる をりそおほかる
    中務一三恋三
    789久方のあまてる月もかくれ行く何によそへてきみをしのはむ
    ひさかたの あまてるつきも かくれゆく なにによそへて きみをしのはむ
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    790宮こにて見しにかはらぬ月影をなくさめにてもあかすころかな
    みやこにて みしにかはらぬ つきかけを なくさめにても あかすころかな
    読人知らず一三恋三
    791てる月も影みなそこにうつりけりにたる物なきこひもするかな
    てるつきも かけみなそこに うつりけり にたるものなき こひもするかな
    紀貫之一三恋三
    792今夜君いかなるさとの月を見て宮こにたれを思ひいつらむ
    こよひきみ いかなるさとの つきをみて みやこにたれを おもひいつらむ
    中宮内侍一三恋三
    793月かけをわか身にかふる物ならはおもはぬ人もあはれとや見む
    つきかけを わかみにかふる ものならは おもはぬひとも あはれとやみむ
    壬生忠岑一三恋三
    794ひとりぬるやとには月の見えさらは恋しき事のかすはまさらし
    ひとりぬる やとにはつきの みえさらは こひしきことの かすはまさらし
    源順一三恋三
    795長月の在明の月の有りつつも君しきまさは我こひめやも
    なかつきの ありあけのつきの ありつつも きみしきまさは わかこひめやも
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    796ことならはやみにそあらまし秋のよのなそ月かけの人たのめなる
    ことならは やみにそあらまし あきのよの なそつきかけの ひとたのめなる
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    797ふらぬ夜の心をしらておほそらの雨をつらしと思ひけるかな
    ふらぬよの こころをしらて おほそらの あめをつらしと おもひけるかな
    春宮左近一三恋三
    798衣たになかに有りしはうとかりきあはぬ夜をさへへたてつるかな
    ころもたに なかにありしは うとかりき あはぬよをさへ へたてつるかな
    読人知らず一三恋三
    799なかき夜も人をつらしと思ふにはねなくにあくる物にそ有りける
    なかきよも ひとをつらしと おもふには ねなくにあくる ものにそありける
    読人知らず一三恋三
    800わすれなん今はとはしと思ひつつぬる夜しもこそゆめに見えけれ
    わすれなむ いまはとはしと おもひつつ ぬるよしもこそ ゆめにみえけれ
    読人知らず一三恋三
    801よるとてもねられさりけり人しれすねさめのこひにおとろかれつつ
    よるとても ねられさりけり ひとしれす ねさめのこひに おとろかれつつ
    読人知らず一三恋三
    802むはたまのいもかくろかみこよひもやわかなきとこになひきいてぬらん
    うはたまの いもかくろかみ こよひもや わかなきとこに なひきいてぬらむ
    読人知らず一三恋三
    803わかせこかありかもしらてねたる夜はあか月かたの枕さひしも
    わかせこか ありかもしらて ねたるよは あかつきかたの まくらさひしも
    読人知らず一三恋三
    804いかなりし時くれ竹のひと夜たにいたつらふしをくるしといふらん
    いかなりし ときくれたけの ひとよたに いたつらふしを くるしといふらむ
    読人知らず一三恋三
    805いかならんをりふしにかはくれ竹のよるはこひしき人にあひ見む
    いかならむ をりふしにかは くれたけの よるはこひしき ひとにあひみむ
    読人知らず一三恋三
    806まさしてふやそのちまたにゆふけとふうらまさにせよいもにあふへく
    まさしてふ やそのちまたに ゆふけとふ うらまさにせよ いもにあふへく
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    807ゆふけとふうらにもよくありこよひたにこさらむきみをいつかまつへき
    ゆふけとふ うらにもよくあり こよひたに こさらむきみを いつかまつへき
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    808夢をたにいかてかたみに見てしかなあはてぬるよのなくさめにせん
    ゆめをたに いかてかたみに みてしかな あはてぬるよの なくさめにせむ
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    809うつつにはあふことかたし玉の緒のよるはたえせすゆめに見えなん
    うつつには あふことかたし たまのをの よるはたえせす ゆめにみえなむ
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    810いにしへをいかてかとのみ思ふ身に今夜のゆめを春になさはや
    いにしへを いかてかとのみ おもふみに こよひのゆめを はるになさはや
    ひろはたのみやす所一三恋三
    811わすらるる時しなけれは春の田を返す返すそ人はこひしき
    わすらるる ときしなけれは はるのたを かへすかへすそ ひとはこひしき
    紀貫之一三恋三
    812あつさゆみ春のあら田をうち返し思ひやみにし人そこひしき
    あつさゆみ はるのあらたを うちかへし おもひやみにし ひとそこひしき
    読人知らず一三恋三
    813かのをかにはきかるをのこなはをなみねるやねりそのくたけてそ思ふ
    かのをかに はきかるをのこ なはをなみ ねるやねりその くたけてそおもふ
    凡河内躬恒一三恋三
    814春くれは柳のいともとけにけりむすほほれたるわか心かな
    はるくれは やなきのいとも とけにけり むすほほれたる わかこころかな
    読人知らず一三恋三
    815いつ方によるとかは見むあをやきのいとさためなき人の心を
    いつかたに よるとかはみむ あをやきの いとさためなき ひとのこころを
    読人知らず一三恋三
    816まきもくのひはらの霞立返りかくこそは見めあかぬ君かな
    まきもくの ひはらのかすみ たちかへり かくこそはみめ あかぬきみかな
    読人知らず一三恋三
    817なかめやる山へはいととかすみつつおほつかなさのまさる春かな
    なかめやる やまへはいとと かすみつつ おほつかなさの まさるはるかな
    藤原清隆娘一三恋三
    818わかせこをきませの山とひとはいへと君もきまさぬ山のなならし
    わかせこを きませのやまと ひとはいへと きみもきまさぬ やまのなならし
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    819我か背子をならしの岡のよふことり君よひかへせ夜のふけぬ時
    わかせこを ならしのをかの よふことり きみよひかへせ よのふけぬとき
    山部赤人一三恋三
    820こぬ人をまつちの山の郭公おなし心にねこそなかるれ
    こぬひとを まつちのやまの ほとときす おなしこころに ねこそなかるれ
    読人知らず一三恋三
    821しののめになきこそわたれ時鳥物思ふやとはしるくやあるらん
    しののめに なきこそわたれ ほとときす ものおもふやとは しるくやあるらむ
    読人知らず一三恋三
    822たたくとてやとのつまとをあけたれは人もこすゑのくひななりけり
    たたくとて やとのつまとを あけたれは ひともこすゑの くひななりけり
    読人知らず一三恋三
    823夏衣うすきなからそたのまるるひとへなるしも身にちかけれは
    なつころも うすきなからそ たのまるる ひとへなるしも みにちかけれは
    読人知らず一三恋三
    824かりてほすよとのまこもの雨ふれはつかねもあへぬこひもするかな
    かりてほす よとのまこもの あめふれは つかぬもあへぬ こひもするかな
    読人知らず一三恋三
    825みな月のつちさへさけててる日にもわかそてひめやいもにあはすして
    みなつきの つちさへさけて てるひにも わかそてひめや いもにあはすして
    読人知らず一三恋三
    826なる神のしはしうこきてそらくもり雨もふらなん君とまるへく
    なるかみの しはしうこきて そらくもり あめもふらなむ きみとまるへく
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    827人ことは夏野の草のしけくとも君と我としたつさはりなは
    ひとことは なつののくさの しけくとも きみとわれとし たつさはりなは
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    828野も山もしけりあひぬる夏なれと人のつらさは事のはもなし
    のもやまも しけりあひぬる なつなれと ひとのつらさは ことのはもなし
    読人知らず一三恋三
    829夏草のしけみにおふるまろこすけまろかまろねよいくよへぬらん
    なつくさの しけみにおふる まろこすけ まろかまろねよ いくよへぬらむ
    読人知らず一三恋三
    830山かつのかきほにおふるなてしこに思ひよそへぬ時のまそなき
    やまかつの かきほにおふる なてしこに おもひよそへぬ ときのまそなき
    村上院御製一三恋三
    831思ひしる人に見せはやよもすからわかとこ夏におきゐたるつゆ
    おもひしる ひとにみせはや よもすから わかとこなつに おきゐたるつゆ
    清原元輔一三恋三
    832秋の野の草葉もわけぬわか袖のつゆけくのみもなりまさるかな
    あきののの くさはもわけぬ わかそての つゆけくのみも なりまさるかな
    読人知らず一三恋三
    833わかせこかきまさぬよひの秋風はこぬ人よりもうらめしきかな
    わかせこか きまさぬよひの あきかせは こぬひとよりも うらめしきかな
    曾禰好忠一三恋三
    834うら山しあさひにあたる白露をわか身と今はなすよしもかな
    うらやまし あさひにあたる しらつゆを わかみといまは なすよしもかな
    読人知らず一三恋三
    835秋の田のほのうへにおけるしらつゆのけぬへく我はおもほゆるかな
    あきのたの ほのうへにおける しらつゆの けぬへくわれは おもほゆるかな
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    836住吉の岸を田にほりまきしいねのかるほとまてもあはぬきみかな
    すみよしの きしをたにほり まきしいねの かるほとまても あはぬきみかな
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    837こひしくはかたみにせむとわかやとにうゑし秋はき今さかりなり
    こひしくは かたみにせむと わかやとに うゑしあきはき いまさかりなり
    山部赤人一三恋三
    838秋はきのしたはを見すはわすらるる人の心をいかてしらまし
    あきはきの したはをみすは わすらるる ひとのこころを いかてしらまし
    広平親王一三恋三
    839しめゆはぬのへの秋はき風ふけはとふしかくふし物をこそ思へ
    しめゆはぬ のへのあきはき かせふけは とふしかくふし ものをこそおもへ
    読人知らず一三恋三
    840うつろふはしたははかりと見しほとにやかても秋になりにけるかな
    うつろふは したははかりと みしほとに やかてもあきに なりにけるかな
    中宮内侍一三恋三
    841事の葉も霜にはあへすかれにけりこや秋はつるしるしなるらん
    ことのはも しもにはあへす かれにけり こやあきはつる しるしなるらむ
    大中臣能宣一三恋三
    842色もなき心を人にそめしよりうつろはむとはわかおもはなくに
    いろもなき こころをひとに そめしより うつろはむとは わかおもはなくに
    紀貫之一三恋三
    843かすならぬ身をうち河のあしろ木におほくの日をもすくしつるかな
    かすならぬ みをうちかはの あしろきに おほくのひをも すくしつるかな
    読人知らず一三恋三
    844したもみちするをはしらて松の木のうへの緑をたのみけるかな
    したもみち するをはしらて まつのきの うへのみとりを たのみけるかな
    読人知らず一三恋三
    845わかせこをわかこひをれはわかやとの草さへ思ひうらかれにけり
    わかせこを わかこひをれは わかやとの くささへおもひ うらかれにけり
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    846霜のうへにふるはつ雪のあさ氷とけすも物を思ふころかな
    しものうへに ふるはつゆきの あさこほり とけすもものを おもふころかな
    読人知らず一三恋三
    847三吉野の雪にこもれる山人もふる道とめてねをやなくらん
    みよしのの ゆきにこもれる やまひとも ふるみちとめて ねをやなくらむ
    源景明一三恋三
    848たのめつつこぬ夜あまたに成りぬれはまたしと思ふそまつにまされる
    たのめつつ こぬよあまたに なりぬれは またしとおもふそ まつにまされる
    柿本人麻呂(人麿)一三恋三
    849あさねかみ我はけつらしうつくしき人のた枕ふれてしものを
    あさねかみ われはけつらし うつくしき ひとのたまくら ふれてしものを
    柿本人麻呂(人麿)一四恋四
    850時のまも心はそらになるものをいかてすくしし昔なるらむ
    ときのまも こころはそらに なるものを いかてすくしし むかしなるらむ
    藤原実方朝臣一四恋四
    851しらなみのうちしきりつつ今夜さへいかてかひとりぬるとかやきみ
    しらなみの うちしきりつつ こよひさへ いかてかひとり ぬるとかやきみ
    読人知らず一四恋四
    852如何してけふをくらさむこゆるきのいそきいててもかひなかりけり
    いかにして けふをくらさむ こゆるきの いそきいてても かひなかりけり
    小弐命婦一四恋四
    853みなといりの葦わけを舟さはりおほみわか思ふ人にあはぬころかな
    みなといりの あしわけをふね さはりおほみ わかおもふひとに あはぬころかな
    柿本人麻呂(人麿)一四恋四
    854いはしろのの中にたてる結松心もとけす昔おもへは
    いはしろの のなかにたてる むすひまつ こころもとけす むかしおもへは
    柿本人麻呂(人麿)一四恋四
    855わかやとははりまかたにもあらなくにあかしもはてて人のゆくらん
    わかやとは はりまかたにも あらなくに あかしもはてて ひとのゆくらむ
    読人知らず一四恋四
    856浪まより見ゆるこ舟の浜ひさ木ひさしく成りぬ君にあはすて
    なみまより みゆるこしまの はまひさき ひさしくなりぬ きみにあはすて
    読人知らず一四恋四
    857ますかかみ手にとりもちてあさなあさな見れともきみにあく時そなき
    ますかかみ てにとりもちて あさなあさな みれともきみに あくときそなき
    柿本人麻呂(人麿)一四恋四
    858みな人のかさにぬふてふ有ますけありてののちもあはんとそ思ふ
    みなひとの かさにぬふてふ ありますけ ありてののちも あはむとそおもふ
    柿本人麻呂(人麿)一四恋四
    859いかほのやいかほのぬまのいかにして恋しき人を今ひとめみむ
    いかほのや いかほのぬまの いかにして こひしきひとを いまひとめみむ
    読人知らず一四恋四
    860玉河にさらすてつくりさらさらに昔の人のこひしきやなそ
    たまかはに さらすてつくり さらさらに むかしのひとの こひしきやなそ
    読人知らず一四恋四
    861身ははやくならの都になりにしをこひしき事のふりせさるらん
    みははやく ならのみやこに なりにしを こひしきことの ふりせさるらむ
    読人知らず一四恋四
    862いその神ふりにしこひのかみさひてたたるに我はねきそかねつる
    いそのかみ ふりにしこひの かみさひて たたるにわれは ねきそかねつる
    藤原忠房朝臣一四恋四
    863いかはかり苦しきものそ葛木のくめちのはしの中のたえまは
    いかはかり くるしきものそ かつらきの くめちのはしの なかのたえまは
    読人知らず一四恋四
    864限なく思ひなからの橋柱思ひなからに中やたえなん
    かきりなく おもひなからの はしはしら おもひなからに なかやたえなむ
    読人知らず一四恋四
    865中中にいひもはなたてしなのなるきそちのはしのかけたるやなそ
    なかなかに いひもはなたて しなのなる きそちのはしの かけたるやなそ
    源頼光一四恋四
    866すきたてるやとをそ人はたつねける心の松はかひなかりけり
    すきたてる やとをそひとは たつねける こころのまつは かひなかりけり
    読人知らず一四恋四
    867いその神ふるの社のゆふたすきかけてのみやはこひむと思ひし
    いそのかみ ふるのやしろの ゆふたすき かけてのみやは こひむとおもひし
    読人知らず一四恋四
    868我やうき人やつらきとちはやふる神てふ神にとひ見てしかな
    われやうき ひとやつらきと ちはやふる かみてふかみに とひみてしかな
    読人知らず一四恋四
    869住吉のあら人神にちかひてもわするる君か心とそきく
    すみよしの あらひとかみに ちかひても わするるきみか こころとそきく
    読人知らず一四恋四
    870わすらるる身をはおもはすちかひてし人のいのちのをしくもあるかな
    わすらるる みをはおもはす ちかひてし ひとのいのちの をしくもあるかな
    #百人一首
    右近一四恋四
    871何せむに命をかけてちかひけんいかはやと思ふをりも有りけり
    なにせむに いのちをかけて ちかひけむ いかはやとおもふ をりもありけり
    実方朝臣一四恋四
    872ちりひちのかすにもあらぬ我ゆゑに思ひわふらんいもかかなしさ
    ちりひちの かすにもあらぬ われゆゑに おもひわふらむ いもかかなしさ
    読人知らず一四恋四
    873こひこひて後もあはむとなくさむる心しなくはいのちあらめや
    こひこひて のちもあはむと なくさむる こころしなくは いのちあらめや
    柿本人麻呂(人麿)一四恋四
    874かくはかりこひしき物としらませはよそに見るへくありけるものを
    かくはかり こひしきものと しらませは よそにみるへく ありけるものを
    柿本人麻呂(人麿)一四恋四
    875涙河のとかにたにもなかれなんこひしき人の影や見ゆると
    なみたかは のとかにたにも なかれなむ こひしきひとの かけやみゆると
    読人知らず一四恋四
    876涙河おつるみなかみはやけれはせきそかねつるそてのしからみ
    なみたかは おつるみなかみ はやけれは せきそかねつる そてのしからみ
    紀貫之一四恋四
    877なみた河そこのみくつとなりはててこひしきせせに流れこそすれ
    なみたかは そてのみくつと なりはてて こひしきせせに なかれこそすれ
    源順一四恋四
    878人しれすおつる涙のつもりつつかすかくはかりなりにけるかな
    ひとしれす おつるなみたの つもりつつ かすかくはかり なりにけるかな
    藤原惟成一四恋四
    879かつ見つつ影はなれゆく水のおもにかくかすならぬ身をいかにせん
    かつみつつ かけはなれゆく みつのおもに かくかすならぬ みをいかにせむ
    承香殿女御一四恋四
    880さをしかのつめたにひちぬ山河のあさましきまてとはぬ君かな
    さをしかの つめたにひちぬ やまかはの あさましきまて とはぬきみかな
    読人知らず一四恋四
    881浅猿やこのしたかけのいはし水いくその人の影を見つらん
    あさましや このしたかけの いはしみつ いくそのひとの かけをみつらむ
    読人知らず一四恋四
    882行く水のあわならはこそきえかへり人のふちせを流れても見め
    ゆくみつの あわならはこそ きえかへり ひとのふちせを なかれてもみめ
    読人知らず一四恋四
    883つのくにのほり江のふかく思ふとも我はなにはのなにとたに見す
    つのくにの ほりえのふかく おもふとも われはなにはの なにとたにみす
    読人知らず一四恋四
    884つのくにのいくたの池のいくたひかつらき心を我に見すらん
    つのくにの いくたのいけの いくたひか つらきこころを われにみすらむ
    読人知らず一四恋四
    885つのくにのなには渡につくるなるこやといはなんゆきて見るへく
    つのくにの なにはわたりに つくるなる こやといはなむ ゆきてみるへく
    読人知らず一四恋四
    886たひひとのかやかりおほひつくるてふまろやは人を思ひわするる
    たひひとの かやかりおほひ つくるてふ まろやはひとを おもひわするる
    読人知らず一四恋四
    887なには人あし火たくやはすすたれとおのかつまこそとこめつらなれ
    なにはひと あしひたくやは すすたれと おのかつまこそ とこめつらなれ
    柿本人麻呂(人麿)一四恋四
    888住吉の岸におひたる忘草見すやあらましこひはしぬとも
    すみよしの きしにおひたる わすれくさ みすやあらまし こひはしぬとも
    読人知らず一四恋四
    889やほかゆくはまのまさことわかこひといつれまされりおきつしまもり
    やほかゆく はまのまさこと わかこひと いつれまされり おきつしまもり
    読人知らず一四恋四
    890さしなから人の心を見くまののうらのはまゆふいくへなるらん
    さしなから ひとのこころを みくまのの うらのはまゆふ いくへなるらむ
    平兼盛一四恋四
    891世の人のおよはぬ物はふしのねのくもゐにたかき思ひなりけり
    よのひとの およはぬものは ふしのねの くもゐにたかき おもひなりけり
    村上院御製一四恋四
    892わかこひのあらはに見ゆる物ならはみやこのふしといはれなましを
    わかこひの あらはにみゆる ものならは みやこのふしと いはれなましを
    読人知らず一四恋四
    893あしねはふうきはうへこそつれなけれしたはえならす思ふ心を
    あしねはふ うきはうへこそ つれなけれ したはえならす おもふこころを
    読人知らず一四恋四
    894ねぬなはのくるしかるらん人よりも我そます田のいけるかひなき
    ねぬなはの くるしかるらむ ひとよりも われそますたの いけるかひなき
    読人知らず一四恋四
    895たらちねのおやのかふこのまゆこもりいふせくもあるかいもにあはすして
    たらちねの おやのかふこの まゆこもり いふせくもあるか いもにあはすて
    柿本人麻呂(人麿)一四恋四
    896いさやまたこひてふ事もしらなくにこやそなるらんいこそねられね
    いさやまた こひてふことも しらなくに こやそなるらむ いこそねられね
    読人知らず一四恋四
    897たらちねのおやのいさめしうたたねは物思ふ時のわさにそ有りける
    たらちねの おやのいさめし うたたねは おもおもふときの わさにそありける
    読人知らず一四恋四
    898うちとなくなれもしなまし玉すたれたれ年月をへたてそめけん
    うちとなく なれもしなまし たまたれの たれとしつきを へたてそめけむ
    中務一四恋四
    899うかりけるふしをはすててしらいとの今くる人と思ひなさなん
    うかりける ふしをはすてて しらいとの いまくるひとと おもひなさなむ
    紀貫之一四恋四
    900思ふとていとこそ人になれさらめしかならひてそ見ねはこひしき
    おもふとて いとこそひとに なれさらめ しかならひてそ みねはこひしき
    読人知らず一四恋四
    901た枕のすきまの風もさむかりき身はならはしの物にそ有りける
    たまくらの すきまのかせも さむかりき みはならはしの ものにそありける
    読人知らず一四恋四
    902吹く風に雲のはたてはととむともいかかたのまん人の心は
    ふくかせに くものはたては ととむとも いかかたのまむ ひとのこころは
    読人知らず一四恋四
    903わか草にととめもあへぬこまよりもなつけわひぬる人の心か
    わかくさに ととめもあへぬ こまよりも なつけわひぬる ひとのこころか
    読人知らず一四恋四
    904あふことのかたかひしたるみちのくのこまほしくのみおもほゆるかな
    あふことの かたかひしたる みちのくの こまほしくのみ おもほゆるかな
    読人知らず一四恋四
    905みちのくのあたちの原のしらまゆみ心こはくも見ゆるきみかな
    みちのくの あたちのはらの しらまゆみ こころこはくも みゆるきみかな
    読人知らず一四恋四
    906年月の行くらん方もおもほえす秋のはつかに人の見ゆれは
    としつきの ゆくらむかたも おもほえす あきのはつかに ひとのみゆれは
    伊勢一四恋四
    907思ひきやあひ見ぬほとの年月をかそふはかりにならん物とは
    おもひきや あひみぬほとの としつきを かそふはかりに ならむものとは
    伊勢一四恋四
    908遥なる程にもかよふ心かなさりとて人のしらぬものゆゑ
    はるかなる ほとにもかよふ こころかな さりとてひとの しらぬものゆゑ
    伊勢一四恋四
    909雲井なる人を遥に思ふにはわか心さへそらにこそなれ
    くもゐなる ひとをはるかに おもふには わかこころさへ そらにこそなれ
    源経基一四恋四
    910よそに有りてくもゐに見ゆるいもか家に早くいたらむあゆめくろこま
    よそにありて くもゐにみゆる いもかいへに はやくいたらむ あゆめくろこま
    柿本人麻呂(人麿)一四恋四
    911わかかへるみちのくろこま心あらは君はこすともおのれいななけ
    わかかへる みちのくろこま こころあらは きみはこすとも おのれいななけ
    読人知らず一四恋四
    912歎きつつ独ぬる夜のあくるまはいかにひさしき物とかはしる
    なけきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる
    #百人一首
    藤原道綱母一四恋四
    913なけ木こる人いる山のをののえのほとほとしくもなりにけるかな
    なけきこる ひといるやまの をののえの ほとほとしくも なりにけるかな
    読人知らず一四恋四
    914ひとにたにしらせていりしおく山に恋しさいかてたつねきつらん
    ひとにたに しらせていりし おくやまに こひしさいかて たつねきつらむ
    読人知らず一四恋四
    915影たえておほつかなさのますかかみ見すはわか身のうさもしられし
    かけたえて おほつかなさの ますかかみ みすはわかみの うさもしられし
    くにもち一四恋四
    916思ひます人しなけれはますかかみうつれる影とねをのみそなく
    おもひます ひとしなけれは ますかかみ うつれるかけと ねをのみそなく
    読人知らず一四恋四
    917わか袖のぬるるを人のとかめすはねをたにやすくなくへきものを
    わかそての ぬるるをひとの とかめすは ねをたにやすく なくへきものを
    読人知らず一四恋四
    918かすならぬ身はたたにたにおもほえていかにせよとかなかめらるらん
    かすならぬ みはたたにたに おもほえて いかにせよとか なかめらるらむ
    こまの命婦一四恋四
    919夢にさへ人のつれなく見えつれはねてもさめても物をこそおもへ
    ゆめにさへ ひとのつれなく みえつれは ねてもさめても ものをこそおもへ
    読人知らず一四恋四
    920見る夢のうつつになるはよのつねそうつつのゆめになるそかなしき
    みるゆめの うつつになるは よのつねそ うつつのゆめに なるそかなしき
    読人知らず一四恋四
    921逢ふ事は夢の中にもうれしくてねさめのこひそわひしかりける
    あふことは ゆめのうちにも うれしくて ねさめのこひそ わひしかりける
    読人知らず一四恋四
    922わすれしよゆめとちきりし事のははうつつにつらき心なりけり
    わすれしよ ゆめとちきりし ことのはは うつつにつらき こころなりけり
    読人知らず一四恋四
    923あたらしと何にいのちを思ひけんわすれはふるくなりぬへき身を
    あたらしと なににいのちを おもひけむ わすれはふるく なりぬへきみを
    読人知らず一四恋四
    924ちはやふる神のいかきもこえぬへし今はわか身のをしけくもなし
    ちはやふる かみのいかきも こえぬへし いまはわかみの をしけくもなし
    柿本人麻呂(人麿)一四恋四
    925なく涙世はみな海となりななんおなしなきさに流れよるへく
    なくなみた よはみなうみと なりななむ おなしなきさに なかれよるへく
    善祐法師母一五恋五
    926住吉の岸にむかへるあはち島あはれと君をいはぬ日そなき
    すみよしの きしにむかへる あはちしま あはれときみを いはぬひそなき
    柿本人麻呂(人麿)一五恋五
    927すてはてむいのちを今はたのまれよあふへきことのこの世ならねは
    すてはてむ いのちをいまは たのまれよ あふへきことの このよならねは
    読人知らず一五恋五
    928いきしなん事の心にかなひせはふたたひ物はおもはさらまし
    いきしなむ ことのこころに かなひせは ふたたひものは おもはさらまし
    読人知らず一五恋五
    929もえはててはひとなりなん時にこそ人を思ひのやまむこにせめ
    もえはてて はひとなりなむ ときにこそ ひとをおもひの やまむこにせめ
    読人知らず一五恋五
    930いつ方にゆきかくれなん世の中に身のあれはこそ人もつらけれ
    いつかたに ゆきかくれなむ よのなかに みのあれはこそ ひともつらけれ
    読人知らず一五恋五
    931有りへむと思ひもかけぬ世の中はなかなか身をそなけかさりける
    ありへむと おもひもかけぬ よのなかは なかなかみをそ なけかさりける
    読人知らず一五恋五
    932いつはりと思ふものから今さらにたかまことをか我はたのまむ
    いつはりと おもふものから いまさらに たかまことをか われはたのまむ
    読人知らず一五恋五
    933世の中のうきもつらきもしのふれは思ひしらすと人や見るらん
    よのなかの うきもつらきも しのふれは おもひしらすと ひとやみるらむ
    読人知らず一五恋五
    934ひたふるにしなはなにかはさもあらはあれいきてかひなき物思ふ身は
    ひたふるに しなはなにかは さもあらはあれ いきてかひなき ものおもふみは
    読人知らず一五恋五
    935恋するにしにする物にあらませはちたひそ我はしにかへらまし
    こひするに しにするものに あらませは ちたひそわれは しにかへらまし
    柿本人麻呂(人麿)一五恋五
    936こひてしねこひてしねとやわきもこかわか家の門をすきてゆくらん
    こひてしね こひてしねとや わきもこか わかいへのかとを すきてゆくらむ
    柿本人麻呂(人麿)一五恋五
    937こひしなはこひもしねとや玉桙の道ゆき人に事つてもなき
    こひしなは こひもしねとや たまほこの みちゆきひとに ことつてもなき
    柿本人麻呂(人麿)一五恋五
    938恋しきをなくさめかねてすかはらや伏見にきてもねられさりけり
    こひしきを なくさめかねて すかはらや ふしみにきても ねられさりけり
    源重之一五恋五
    939こひしきは色にいてても見えなくにいかなる時かむねにしむらん
    こひしきは いろにいてても みえなくに いかなるときか むねにしむらむ
    読人しらす一五恋五
    940しのはむにしのはれぬへきこひならはつらきにつけてやみもしなまし
    しのはむに しのはれぬへき こひならは つらきにつけて やみもしなまし
    読人しらす一五恋五
    941いかていかてこふる心をなくさめてのちの世まての物をおもはし
    いかていかて こふるこころを なくさめて のちのよまての ものをおもはし
    大中臣能宣一五恋五
    942限なく思ふ心のふかけれはつらきもしらぬものにそありける
    かきりなく おもふこころの ふかけれは つらきもしらぬ ものにそありける
    読人知らず一五恋五
    943わりなしやしひてもたのむ心かなつらしとかつは思ふものから
    わりなしや しひてもたのむ こころかな つらしとかつは おもふものから
    読人知らず一五恋五
    944うしと思ふものから人のこひしきはいつこをしのふ心なるらん
    うしとおもふ ものからひとの こひしきは いつこをしのふ こころなるらむ
    読人知らず一五恋五
    945身のうきを人のつらきと思ふこそ我ともいはしわりなかりけれ
    みのうきを ひとのつらきと おもふこそ われともいはし わりなかりけれ
    読人知らず一五恋五
    946つらしとは思ふものからこひしきは我にかなはぬ心なりけり
    つらしとは おもふものから こひしきは われにかなはぬ こころなりけり
    読人知らず一五恋五
    947つらきをも思ひしるやはわかためにつらき人しも我をうらむる
    つらきをも おもひしるやは わかために つらきひとしも われをうらむる
    読人知らず一五恋五
    948心をはつらき物そといひおきてかはらしと思ふかほそこひしき
    こころをは つらきものそと いひおきて かはらしとおもふ かほそこひしき
    読人知らず一五恋五
    949あさましや見しかとたにもおもはぬにかはらぬかほそ心ならまし
    あさましや みしかとたにも おもはぬに かはらぬかほそ こころならまし
    読人知らず一五恋五
    950あはれともいふへき人はおもほえて身のいたつらに成りぬへきかな
    あはれとも いふへきひとは おもほえて みのいたつらに なりぬへきかな
    #百人一首
    一条摂政一五恋五
    951さもこそはあひ見むことのかたからめわすれすとたにいふ人のなき
    さもこそは あひみむことの かたからめ わすれすとたに いふひとのなき
    伊勢一五恋五
    952あふことのなけきの本をたつぬれはひとりねよりそおひはしめける
    あふことの なけきのもとを たつぬれは ひとりねよりそ おひはしめける
    藤原有時一五恋五
    953おほかたのわか身ひとつのうきからになへての世をも怨みつるかな
    おほかたの わかみひとつの うきからに なへてのよをも うらみつるかな
    紀貫之一五恋五
    954あらちをのかるやのさきに立つしかもいと我はかり物はおもはし
    あらちをの かるやのさきに たつしかも いとわれはかり ものはおもはし
    柿本人麻呂(人麿)一五恋五
    955荒磯の外ゆく浪の外心我はおもはしこひはしぬとも
    あらいその ほかゆくなみの ほかこころ われはおもはし こひはしぬとも
    柿本人麻呂(人麿)一五恋五
    956かきくもり雨ふる河のささらなみまなくも人のこひらるるかな
    かきくもり あめふるかはの ささらなみ まなくもひとの こひらるるかな
    柿本人麻呂(人麿)一五恋五
    957わかことや雲の中にも思ふらむ雨もなみたもふりにこそふれ
    わかことや くものうちにも おもふらむ あめもなみたも ふりにこそふれ
    柿本人麻呂(人麿)一五恋五
    958ふる雨にいててもぬれぬわかそてのかけにゐなからひちまさるかな
    ふるあめに いててもぬれぬ わかそての かけにゐなから ひちまさるかな
    紀貫之一五恋五
    959これをたにかきそわつらふ雨とふる涙をのこふいとまなけれは
    これをたに かきそわつらふ あめとふる なみたをぬくふ いとまなけれは
    読人知らず一五恋五
    960君こふる我もひさしくなりぬれは袖に涙もふりぬへらなり
    きみこふる われもひさしく なりぬれは そてになみたも ふりぬへらなり
    読人知らず一五恋五
    961きみこふる涙のかかる袖のうらはいはほなりともくちそしぬへき
    きみこふる なみたのかかる そてのうらは いはほなりとも くちそしぬへき
    読人知らず一五恋五
    962またしらぬおもひにもゆるわか身かなさるはなみたの河の中にて
    またしらぬ おもひにもゆる わかみかな さるはなみたの かはのうちにて
    読人知らず一五恋五
    963風をいたみおもはぬ方にとまりするあまのを舟もかくやわふらん
    かせをいたみ おもはぬかたに とまりする あまのをふねも かくやわふらむ
    源景明一五恋五
    964せをはやみたえすなかるる水よりもつきせぬ物は涙なりけり
    せをはやみ たえすなかるる みつよりも つきせぬものは なみたなりけり
    読人知らず一五恋五
    965わかことく物思ふ人はいにしへも今ゆくすゑもあらしとそ思ふ
    わかことく ものおもふひとは いにしへも いまゆくすゑも あらしとそおもふ
    読人知らず一五恋五
    966くろかみにしろかみましりおふるまてかかるこひにはいまたあはさるに
    くろかみに しろかみましり おふるまて かかるこひには いまたあはさるに
    大伴坂上郎女一五恋五
    967しほみては入りぬるいその草なれや見らくすくなくこふらくのおほき
    しほみては いりぬるいその くさなれや みらくすくなく こふらくのおほき
    大伴坂上郎女一五恋五
    968しかのあまのつりにともせるいさり火のほのかに人を見るよしもかな
    しかのあまの つりにともせる いさりひの ほのかにひとを みるよしもかな
    大伴坂上郎女一五恋五
    969いはねふみかさなる山はなけれともあはぬ日かすをこひやわたらん
    いはねふみ かさなるやまは なけれとも あはぬひかすを こひやわたらむ
    大伴坂上郎女一五恋五
    970なけ木こる山ちは人もしらなくにわか心のみつねにゆくらん
    なけきこる やまちはひとも しらなくに わかこころのみ つねにゆくらむ
    藤原有時一五恋五
    971限なき思ひのそらにみちぬれはいくその煙雲となるらん
    かきりなき おもひのそらに みちぬれは いくそのけふり くもとなるらむ
    円融院一五恋五
    972そらにみつ思ひの煙雲ならはなかむる人のめにそ見えまし
    そらにみつ おもひのけふり くもならは なかむるひとの めにそみえまし
    少将更衣一五恋五
    973おもはすはつれなき事もつらからしたのめは人を怨みつるかな
    おもはすは つれなきことも つらからし たのめはひとを うらみつるかな
    読人知らず一五恋五
    974つらけれとうらむる限ありけれは物はいはれてねこそなかるれ
    つらけれと うらむるかきり ありけれは ものはいはれて ねこそなかるれ
    読人知らず一五恋五
    975紅のやしほの衣かくしあらは思ひそめすそあるへかりける
    くれなゐの やしほのころも かくしあらは おもひそめすそ あるへかりける
    読人知らず一五恋五
    976ほのかにも我をみしまのあくた火のあくとや人のおとつれもせぬ
    ほのかにも われをみしまの あくたひの あくとやひとの おとつれもせぬ
    読人知らず一五恋五
    977人をとくあくた河てふつのくにの名にはたかはぬ物にそ有りける
    ひとをとく あくたかはてふ つのくにの なにはたかはぬ ものにそありける
    承香殿中納言一五恋五
    978限なく思ひそめてし紅の人をあくにそかへらさりける
    かきりなく おもひそめてし くれなゐの ひとをあくにそ かへらさりける
    読人知らず一五恋五
    979ありそ海の浦とたのめしなこり浪うちよせてけるわすれかひかな
    ありそうみの うらとたのめし なこりなみ うちよせてける わすれかひかな
    読人知らず一五恋五
    980つらけれと人にはいはすいはみかた怨そふかき心ひとつに
    つらけれと ひとにはいはす いはみかた うらみそふかき こころひとつに
    読人知らず一五恋五
    981怨みぬもうたかはしくそおもほゆるたのむ心のなきかとおもへは
    うらみぬも うたかはしくそ おもほゆる たのむこころの なきかとおもへは
    読人知らず一五恋五
    982近江なる打出のはまのうちいてつつ怨みやせまし人の心を
    あふみなる うちてのはまの うちいてつつ うらみやせまし ひとのこころを
    読人知らず一五恋五
    983渡つ海のふかき心は有りなからうらみられぬる物にそ有りける
    わたつうみの ふかきこころは ありなから うらみられぬる ものにそありける
    読人知らず一五恋五
    984かすならぬ身は心たになからなん思ひしらすは怨みさるへく
    かすならぬ みはこころたに なからなむ おもひしらすは うらみさるへく
    読人知らず一五恋五
    985怨みてののちさへ人のつらからはいかにいひてかねをもなかまし
    うらみての のちさへひとの つらからは いかにいひてか ねをもなかまし
    読人知らず一五恋五
    986きみを猶怨みつるかなあまのかるもにすむむしの名を忘れつつ
    きみをなほ うらみつるかな あまのかる もにすむむしの なをわすれつつ
    閑院大君一五恋五
    987あまのかるもにすむむしのなはきけとたた我からのつらきなりけり
    あまのかる もにすむむしの なはきけと たたわれからの つらきなりけり
    読人知らず一五恋五
    988こひわひぬかなしき事もなくさめんいつれなかすのはまへなるらん
    こひわひぬ かなしきことも なくさめむ いつれなかすの はまへなるらむ
    読人知らず一五恋五
    989かくはかりうしと思ふにこひしきは我さへ心ふたつ有りけり
    かくはかり うしとおもふに こひしきは われさへこころ ふたつありけり
    読人知らず一五恋五
    990とにかくに物はおもはすひたたくみうつすみなはのたたひとすちに
    とにかくに ものはおもはす ひたたくみ うつすみなはの たたひとすちに
    柿本人麻呂(人麿)一五恋五
    991いにしへをさらにかけしと思へともあやしくめにもみつなみたかな
    いにしへを さらにかけしと おもへとも あやしくめにも みつなみたかな
    村上院御製一五恋五
    992逢ふ事は心にもあらてほとふともさやは契りし忘れはてねと
    あふことは こころにもあらて ほとふとも さやはちきりし わすれはてねと
    平忠依一五恋五
    993わするるかいささは我も忘れなん人にしたかふ心とならは
    わするるか いささはわれも わすれなむ ひとにしたかふ こころとならは
    読人知らず一五恋五
    994わすれぬる君は中中つらからていままていける身をそ怨むる
    わすれぬる きみはなかなか つらからて いままていける みをそうらむる
    読人知らず一五恋五
    995我はかり我をおもはむ人もかなさてもやうきと世を心みん
    われはかり われをおもはむ ひともかな さてもやうきと よをこころみむ
    読人知らず一五恋五
    996あやしくも厭ふにはゆる心かないかにしてかは思ひたゆへき
    あやしくも いとふにはゆる こころかな いかにしてかは おもひたゆへき
    読人知らず一五恋五
    997おもふ事なすこそ神のかたからめしはしわするる心つけなん
    おもふこと なすこそかみの かたからめ しはしわするる こころつけなむ
    読人知らず一五恋五
    998高砂にわかなくこゑは成りにけり宮この人はききやつくらん
    たかさこに わかなくこゑは なりにけり みやこのひとは ききやつくらむ
    読人知らず一五恋五
    999かしまなるつくまの神のつくつくとわか身ひとつにこひをつみつる
    かしまなる つくまのかみの つくつくと わかみひとつに こひをつみつる
    読人知らず一五恋五
    1000春立つと思ふ心はうれしくて今ひととせのおいそそひける
    はるたつと おもふこころは うれしくて いまひととせの おいそそひける
    凡河内躬恒一六雑春
    1001あたらしき年はくれともいたつらにわか身のみこそふりまさりけれ
    あたらしき としはくれとも いたつらに わかみのみこそ ふりまさりけれ
    読人知らず一六雑春
    1002あたらしきとしにはあれとも鴬のなくねさへにはかはらさりけり
    あたらしき としにはあれとも うくひすの なくねさへには かはらさりけり
    読人知らず一六雑春
    1003年月のゆくへもしらぬ山かつはたきのおとにやはるをしるらん
    としつきの ゆくへもしらぬ やまかつは たきのおとにや はるをしるらむ
    右近一六雑春
    1004春くれは滝のしらいといかなれやむすへとも猶あわに見ゆらん
    はるくれは たきのしらいと いかなれや むすへともなほ あわにみゆらむ
    紀貫之一六雑春
    1005あかさりし君かにほひのこひしさに梅の花をそけさは折りつる
    あかさりし きみかにほひの こひしさに うめのはなをそ けさはをりつる
    中務卿具平親王一六雑春
    1006こちふかはにほひおこせよ梅の花あるしなしとて春をわするな
    こちふかは にほひおこせよ うめのはな あるしなしとて はるをわするな
    贈太政大臣一六雑春
    1007梅の花雪よりさきにさきしかと見る人まれに雪のふりつつ
    うめのはな はるよりさきに さきしかと みるひとまれに ゆきのふりつつ
    読人知らず一六雑春
    1008いにし年ねこしてうゑしわかやとのわか木の梅は花さきにけり
    いにしとし ねこしてうゑし わかやとの わかきのうめは はなさきにけり
    安倍広庭一六雑春
    1009花の色はあかす見るとも鴬のねくらの枝に手ななふれそも
    はなのいろは あかすみるとも うくひすの ねくらのえたに てななふれそも
    一条摂政一六雑春
    1010折りて見るかひもあるかな梅の花けふここのへのにほひまさりて
    をりてみる かひもあるかな うめのはな けふここのへの にほひまさりて
    源寛信朝臣一六雑春
    1011かさしてはしらかにまかふ梅の花今はいつれをぬかむとすらん
    かさしては しらかにまかふ うめのはな いまはいつれを ぬかむとすらむ
    参議伊衡一六雑春
    1012かそふれとおほつかなきをわかやとの梅こそ春のかすをしるらめ
    かそふれと おほつかなきを わかやとの うめこそはるの かすをしるらめ
    紀貫之一六雑春
    1013年ことにさきはかはれと梅の花あはれなるかはうせすそありける
    としことに さきはかはれと うめのはな あはれなるかは うせすそありける
    読人知らず一六雑春
    1014梅かえをかりにきてをる人やあるとのへの霞はたちかくすかも
    うめかえを かりにきてをる ひとやあると のへのかすみは たちかくすかも
    源順一六雑春
    1015春きてそ人もとひける山さとは花こそやとのあるしなりけれ
    はるきてそ ひともとひける やまさとは はなこそやとの あるしなりけれ
    右衛門督公任一六雑春
    1016おほつかなくらまの山の道しらて霞の中にまとふけふかな
    おほつかな くらまのやまの みちしらて かすみのうちに まとふけふかな
    安法法師一六雑春
    1017思ふ事ありてこそゆけはるかすみ道さまたけにたちなかくしそ
    おもふこと ありてこそゆけ はるかすみ みちさまたけに たちなかくしそ
    紀貫之一六雑春
    1018たこの浦に霞のふかく見ゆるかなもしほのけふりたちやそふらん
    たこのうらに かすみのふかく みゆるかな もしほのけふり たちやそふらむ
    大中臣能宣一六雑春
    1019思ふ事いはてやみなん春霞山ちもちかしたちもこそきけ
    おもふこと いはてやみなむ はるかすみ やまちもちかし たちもこそきけ
    読人知らず一六雑春
    1020かすかののをきのやけはらあさるとも見えぬなきなをおほすなるかな
    かすかのの をきのやけはら あさるとも みえぬなきなを おほすなるかな
    中宮内侍一六雑春
    1021雪をうすみかきねにつめるからなつななつさはまくのほしききみかな
    ゆきをうすみ かきねにつめる からなつな なつさはまくの ほしききみかな
    藤原長能一六雑春
    1022たれにより松をもひかん鴬のはつねかひなきけふにもあるかな
    たれにより まつをもひかむ うくひすの はつねかひなき けふにもあるかな
    右衛門督公任一六雑春
    1023ひきて見る子の日の松はほとなきをいかてこもれるちよにかあるらん
    ひきてみる ねのひのまつは ほとなきを いかてこもれる ちよにかあるらむ
    恵慶法師一六雑春
    1024しめてこそちとせの春はきつつ見め松をてたゆくなにかひくへき
    しめてこそ ちとせのはるは きつつみめ まつをてたゆく なにかひくへき
    読人知らず一六雑春
    1025ひともとの松のちとせもひさしきにいつきの宮そ思ひやらるる
    ひともとの まつのちとせも ひさしきに いつきのみやそ おもひやらるる
    源順一六雑春
    1026おいの世にかかるみゆきは有りきやとこたかき峯の松にとははや
    おいのよに かかるみゆきは ありきやと こたかきみねの まつにとははや
    清原元輔一六雑春
    1027松ならは引く人けふは有りなまし袖の緑そかひなかりける
    まつならは ひくひとけふは ありなまし そてのみとりそ かひなかりける
    大中臣能宣一六雑春
    1028引く人もなくてやみぬるみよしのの松は子の日をよそにこそきけ
    ひくひとも なくてやみぬる みよしのの まつはねのひを よそにこそきけ
    清原元輔一六雑春
    1029ひく人もなしと思ひしあつさゆみ今そうれしきもろやしつれは
    ひくひとも なしとおもひし あつさゆみ いまそうれしき もろやしつれは
    源順一六雑春
    1030さきし時猶こそ見しかももの花ちれはをしくそ思ひなりぬる
    さきしとき なほこそみしか もものはな ちれはをしくそ おもひなりぬる
    読人知らず一六雑春
    1031山さとの家ゐは霞こめたれとかきねの柳すゑはとに見ゆ
    やまさとの いへゐはかすみ こめたれと かきねのやなき すゑはとにみゆ
    弓削嘉言一六雑春
    1032はるののにところもとむといふなるはふたりぬはかりみてたりやきみ
    はるののに ところもとむと いふなるは ふたりぬはかり みてたりやきみ
    賀朝法師一六雑春
    1033春ののにほるほる見れとなかりけり世に所せき人のためには
    はるののに ほるほるみれと なかりけり よにところせき ひとのためには
    読人知らず一六雑春
    1034かきくらし雪もふらなん桜花またさかぬまはよそへても見む
    かきくらし ゆきもふらなむ さくらはな またさかぬまは よそへてもみむ
    読人知らず一六雑春
    1035はる風は花のなきまにふきはてねさきなは思ひなくて見るへく
    はるかせは はなのなきまに ふきはてね さきなはおもひ なくてみるへく
    読人知らず一六雑春
    1036さかさらむ物とはなしにさくら花おもかけにのみまたき見ゆらん
    さかさらむ ものとはなしに さくらはな おもかけにのみ またきみゆらむ
    凡河内躬恒一六雑春
    1037いつこにかこのころ花のさかさらむ所からこそたつねられけれ
    いつこにか このころはなの さかさらむ こころからこそ たつねられけれ
    読人知らず一六雑春
    1038さくら花わかやとにのみ有りと見はなき物くさはおもはさらまし
    さくらはな わかやとにのみ ありとみは なきものくさは おもはさらまし
    凡河内躬恒一六雑春
    1039もろともにをりしはるのみこひしくてひとり見まうき花さかりかな
    もろともに をりしはるのみ こひしくて ひとりみまうき はなさかりかな
    読人知らず一六雑春
    1040もろともに我しをらねは桜花思ひやりてやはるをくらさん
    もろともに われしをらねは さくらはな おもひやりてや はるをくらさむ
    壬生忠見一六雑春
    1041霞立つ山のあなたの桜花思ひやりてやはるをくらさむ
    かすみたつ やまのあなたの さくらはな おもひやりてや はるをくらさむ
    御導師浄蔵一六雑春
    1042をち方の花も見るへく白浪のともにや我もたちわたらまし
    をちかたの はなもみるへく しらなみの ともにやわれも たちわたらまし
    紀貫之一六雑春
    1043まてといははいともかしこし花山にしはしとなかん鳥のねもかな
    まてといはは いともかしこし はなやまに しはしとなかむ とりのねもかな
    僧正遍昭一六雑春
    1044鴬のなきつるなへにかすかののけふのみゆきを花とこそ見れ
    うくひすの なきつるなへに かすかのの けふのみゆきを はなとこそみれ
    藤原忠房朝臣一六雑春
    1045ふるさとにさくとわひつるさくら花ことしそ君に見えぬへらなる
    ふるさとに さくとわひつる さくらはな ことしそきみに みえぬへらなる
    藤原忠房朝臣一六雑春
    1046春霞かすかののへに立ちわたりみちても見ゆるみやこ人かな
    はるかすみ かすかののへに たちわたり みちてもみゆる みやこひとかな
    藤原忠房朝臣一六雑春
    1047世の中にうれしき物は思ふとち花見てすくす心なりけり
    よのなかに うれしきものは おもふとち はなみてすくす こころなりけり
    平兼盛一六雑春
    1048さくら花そこなるかけそをしまるるしつめる人のはるとおもへは
    さくらはな そこなるかけそ をしまるる しつめるひとの はるとおもへは
    清原元輔一六雑春
    1049あつまちののちの雪まをわけてきてあはれ宮この花を見るかな
    あつまちの のちのゆきまを わけてきて あはれみやこの はなをみるかな
    藤原長能一六雑春
    1050ひのもとにさけるさくらの色見れは人のくににもあらしとそ思ふ
    ひのもとに さけるさくらの はなみれは ひとのくににも あらしとそおもふ
    兼盛弟一六雑春
    1051み山木のふたはみつはにもゆるまてきえせぬ雪と見えもするかな
    みやまきの ふたはみつはに もゆるまて きえせぬゆきと みえもするかな
    平きむさね一六雑春
    1052かた山にはたやくをのこかの見ゆるみ山さくらはよきてはたやけ
    かたやまに はたやくをのこ かのみゆる みやまさくらは よきてはたやけ
    藤原長能一六雑春
    1053うしろめたいかてかへらん山さくらあかぬにほひを風にまかせて
    うしろめた いかてかへらむ やまさくら あかぬにほひを かせにまかせて
    読人知らず一六雑春
    1054ひさしかれあたにちるなとさくら花かめにさせれとうつろひにけり
    ひさしかれ あたにちるなと さくらはな かめにさせれと うつろひにけり
    紀貫之一六雑春
    1055とのもりのとものみやつこ心あらはこの巻はかりあさきよめすな
    とのもりの とものみやつこ こころあらは このはるはかり あさきよめすな
    源公忠朝臣一六雑春
    1056さくら花みかさの山のかけしあれは雪とふれともぬれしとそ思ふ
    さくらはな みかさのやまの かけしあれは ゆきとふれとも ぬれしとそおもふ
    読人知らず一六雑春
    1057年ことに春のなかめはせしかとも身さへふるともおもはさりしを
    としことに はるのなかめは せしかとも みさへふるとも おもはさりしを
    読人知らず一六雑春
    1058としことに春はくれとも池水におふるぬなははたえすそ有りける
    としことに はるはくれとも いけみつに おふるぬなはは たえすそありける
    源順一六雑春
    1059春風はのとけかるへしやへよりもかさねてにほへ山吹の花
    はるかせは のとけかるへし やへよりも かさねてにほへ やまふきのはな
    菅原輔昭一六雑春
    1060浦人はかすみをあみにむすへはや浪の花をもとめてひくらん
    うらひとは かすみをあみに むすへはや なみのはなをも とめてひくらむ
    菅原輔昭一六雑春
    1061やな見れは河風いたくふく時そ浪の花さへおちまさりける
    やなみれは かはかせいたく ふくときそ なみのはなさへ おちまさりける
    紀貫之一六雑春
    1062このまよりちりくる花をあつさゆみえやはととめぬはるのかたみに
    このまより ちりくるはなを あつさゆみ えやはととめぬ はるのかたみに
    一条のきみ一六雑春
    1063春すきてちりはてにける梅の花たたかはかりそ枝にのこれる
    はるすきて ちりはてにける うめのはな たたかはかりそ えたにのこれる
    藤原高光一六雑春
    1064谷の戸をとちやはてつる鴬のまつにおとせてはるもすきぬる
    たにのとを とちやはてつる うくひすの まつにおとせて はるもすきぬる
    藤原道長一六雑春
    1065ゆきかへる春をもしらす花さかぬみ山かくれのうくひすのこゑ
    ゆきかへる はるをもしらす はなさかぬ みやまかくれの うくひすのこゑ
    右衛門督公任一六雑春
    1066春はをし郭公はたきかまほし思ひわつらふしつ心かな
    はるはをし ほとときすはた きかまほし おもひわつらふ しつこころかな
    清原元輔一六雑春
    1067松風のふかむ限はうちはへてたゆへくもあらすさけるふちなみ
    まつかせの ふかむかきりは うちはへて たゆへくもあらす さけるふちなみ
    紀貫之一六雑春
    1068ふちの花宮の内には紫のくもかとのみそあやまたれける
    ふちのはな みやのうちには むらさきの くもかとのみそ あやまたれける
    皇太后宮権大夫国章一六雑春
    1069紫の雲とそ見ゆる藤の花いかなるやとのしるしなるらん
    むらさきの くもとそみゆる ふちのはな いかなるやとの しるしなるらむ
    右衛門督公任一六雑春
    1070むらさきの色しこけれはふちの花松のみとりもうつろひにけり
    むらさきの いろしこけれは ふちのはな まつのみとりも うつろひにけり
    読人しらす一六雑春
    1071郭公かよふかきねの卯の花のうきことあれや君かきまさぬ
    ほとときす かよふかきねの うのはなの うきことあれや きみかきまさぬ
    柿本人麻呂(人麿)一六雑春
    1072卯の花のさけるかきねにやとりせしねぬにあけぬとおとろかれけり
    うのはなの さけるかきねに やとりせし ねぬにあけぬと おとろかれけり
    源重之一六雑春
    1073年をへてみ山かくれの郭公きく人もなきねをのみそなく
    としをへて みやまかくれの ほとときす きくひともなき ねをのみそなく
    実方朝臣一六雑春
    1074声たててなくといふとも郭公たもとはぬれしそらねなりけり
    こゑたてて なくといふとも ほとときす たもとはぬれし そらねなりけり
    読人知らず一六雑春
    1075かくはかりまつとしらはや郭公こすゑたかくもなきわたるかな
    かくはかり まつとしらはや ほとときす こすゑたかくも なきわたるかな
    清原元輔一六雑春
    1076あしひきの山郭公さとなれてたそかれ時になのりすらしも
    あしひきの やまほとときす さとなれて たそかれときに なのりすらしも
    大中臣輔親一六雑春
    1077ふるさとのならしのをかに郭公事つてやりきいかにつけきや
    ふるさとの ならしのをかに ほとときす ことつてやりき いかにつけきや
    大伴像見一六雑春
    1078終夜もゆるほたるをけさ見れは草のはことにつゆそおきける
    よもすから もゆるほたるを けさみれは くさのはことに つゆそおきける
    健守法師一六雑春
    1079とこ夏の花をし見れはうちはへてすくる月日のかすもしられす
    とこなつの はなをしみれは うちはへて すくるつきひの かすもしられす
    紀貫之一六雑春
    1080しはしたにかけにかくれぬ時は猶うなたれぬへきなてしこの花
    しはしたに かけにかくれぬ ときはなほ うなたれぬへき なてしこのはな
    贈皇后宮一六雑春
    1081いたつらにおいぬへらなりおほあらきのもりのしたなる草葉ならねと
    いたつらに おいぬへらなり おほあらきの もりのしたなる くさはならねと
    凡河内躬恒一六雑春
    1082たなはたはそらにしるらんささかにのいとかくはかりまつる心を
    たなはたは そらにしるらむ ささかにの いとかくはかり まつるこころを
    源したかふ一七雑秋
    1083たなはたのあかぬ別もゆゆしきをけふしもなとか君かきませる
    たなはたの あかぬわかれも ゆゆしきを けふしもなとか きみかきませる
    平兼盛一七雑秋
    1084あさとあけてなかめやすらん織女のあかぬ別のそらをこひつつ
    あさとあけて なかめやすらむ たなはたの あかぬわかれの そらをこひつつ
    紀貫之一七雑秋
    1085わたしもりはや舟かくせひととせにふたたひきます君ならなくに
    わたしもり はやふねかくせ ひととせに ふたたひきます きみならなくに
    柿本人麻呂(人麿)一七雑秋
    1086織女のうらやましきに天の河こよひはかりはおりやたたまし
    たなはたの うらやましきに あまのかは こよひはかりは おりやたたまし
    村上院御製一七雑秋
    1087世をうみてわかかすいとはたなはたの涙の玉のをとやなるらん
    よをうみて わかかすいとは たなはたの なみたのたまの をとやなるらむ
    読人知らず一七雑秋
    1088あまの河河辺すすしきたなはたに扇の風を猶やかさまし
    あまのかは かはへすすしき たなはたに あふきのかせを なほやかさまし
    中務一七雑秋
    1089天の河扇の風にきりはれてそらすみわたる鵲のはし
    あまのかは あふきのかせに きりはれて そらすみわたる かささきのはし
    清原元輔一七雑秋
    1090ことのねはなそやかひなきたなはたのあかぬ別をひきしとめねは
    ことのねは なそやかひなき たなはたの あかぬわかれを ひきしとめねは
    源順一七雑秋
    1091水のあやをおりたちてきむぬきちらしたなはたつめに衣かすよは
    みつのあやを おりたちてきむ ぬきちらし たなはたつめに ころもかすよは
    平定文一七雑秋
    1092秋風よたなはたつめに事とはんいかなる世にかあはんとすらん
    あきかせよ たなはたつめに こととはむ いかなるよにか あはむとすらむ
    藤原義孝一七雑秋
    1093天の河のちのけふたにはるけきをいつともしらぬふなてかなしな
    あまのかは のちのけふたに はるけきを いつともしらぬ ふなてかなしな
    右衛門督公任一七雑秋
    1094あひ見すてひとひも君にならはねはたなはたよりも我そまされる
    あひみすて ひとひもきみに ならはねは たなはたよりも われそまされる
    紀貫之一七雑秋
    1095むつましきいもせの山としらねはやはつ秋きりの立ちへたつらん
    むつましき いもせのやまと しらねはや はつあききりの たちへたつらむ
    読人知らず一七雑秋
    1096もしほやく煙になるるすまのあまは秋立つ霧もわかすやあるらん
    もしほやく けふりになるる すまのあまは あきたつきりも わかすやあるらむ
    読人知らず一七雑秋
    1097ゆく水の岸ににほへる女郎花しのひに浪や思ひかくらん
    ゆくみつの きしににほへる をみなへし しのひになみや おもひかくらむ
    源重之一七雑秋
    1098ここにしも何にほふらんをみなへし人の物いひさかにくきよに
    ここにしも なににほふらむ をみなへし ひとのものいひ さかにくきよに
    僧正遍昭一七雑秋
    1099秋の野の花の色色とりすゑてわか衣手にうつしてしかな
    あきののの はなのいろいろ とりすゑて わかころもてに うつしてしかな
    読人知らず一七雑秋
    1100ふなをかのの中にたてるをみなへしわたさぬ人はあらしとそ思ふ
    ふなをかの のなかにたてる をみなへし わたさぬひとは あらしとそおもふ
    読人知らず一七雑秋
    1101家つとにあまたの花もをるへきにねたくもたかをすゑてけるかな
    いへつとに あまたのはなも をるへきに ねたくもたかを すゑてけるかな
    平兼盛一七雑秋
    1102をくら山みね立ちならしなくしかのへにける秋をしる人のなき
    をくらやま みねたちならし なくしかの へにけるあきを しるひとそなき
    紀貫之一七雑秋
    1103こてふにもにたる物かな花すすきこひしき人に見すへかりけり
    こてふにも にたるものかな はなすすき こひしきひとに みすへかりけり
    紀貫之一七雑秋
    1104帰りにし雁そなくなるむへ人はうき世の中をそむきかぬらん
    かへりにし かりそなくなる うへひとは うきよのなかを そむきかぬらむ
    大中臣能宣一七雑秋
    1105九重の内たにあかき月影にあれたるやとを思ひこそやれ
    ここのへの うちたにあかき つきかけに あれたるやとを おもひこそやれ
    善滋為政一七雑秋
    1106ももしきの大宮なからやそしまを見る心地する秋のよの月
    ももしきの おほみやなから やそしまを みるここちする あきのよのつき
    読人知らず一七雑秋
    1107水のおもにやとれる月ののとけきはなみゐて人のねぬよなれはか
    みつのおもに やとれるつきの のとけきは なみゐてひとの ねぬよなれはか
    源順一七雑秋
    1108はしり井のほとをしらはや相坂の関ひきこゆるゆふかけのこま
    はしりゐの ほとをしらはや あふさかの せきひきこゆる ゆふかけのこま
    清原元輔一七雑秋
    1109虫ならぬ人もおとせぬわかやとに秋ののへとて君はきにけり
    むしならぬ ひともおとせぬ わかやとに あきののへとて きみはきにけり
    曾禰好忠一七雑秋
    1110庭草にむらさめふりてひくらしのなくこゑきけは秋はきにけり
    にはくさに むらさめふりて ひくらしの なくこゑきけは あきはきにけり
    柿本人麻呂(人麿)一七雑秋
    1111秋風は吹きなやふりそわかやとのあはらかくせるくものすかきを
    あきかせは ふきなやふりそ わかやとの あはらかくせる くものすかきを
    曾禰好忠一七雑秋
    1112住の江の松を秋風ふくからに声うちそふるおきつしら浪
    すみのえの まつをあきかせ ふくからに こゑうちそふる おきつしらなみ
    凡河内躬恒一七雑秋
    1113秋風のさむくふくなるわかやとのあさちかもとにひくらしもなく
    あきかせの さむくふくなる わかやとの あさちかもとに ひくらしもなく
    柿本人麻呂(人麿)一七雑秋
    1114あき風し日ことにふけはわかやとのをかのこのはは色つきにけり
    あきかせし ひことにふけは わかやとの をかのこのはは いろつきにけり
    柿本人麻呂(人麿)一七雑秋
    1115秋きりのたなひくをのの萩の花今やちるらんいまたあかなくに
    あききりの たなひくをのの はきのはな いまやちるらむ いまたあかなくに
    柿本人麻呂(人麿)一七雑秋
    1116秋はきのしたはにつけてめにちかくよそなる人の心をそみる
    あきはきの したはにつけて めにちかく よそなるひとの こころをそみる
    一七雑秋
    1117世の中の人に心をそめしかは草葉にいろも見えしとそ思ふ
    よのなかの ひとにこころを そめしかは くさはにいろも みえしとそおもふ
    紀貫之一七雑秋
    1118このころのあか月つゆにわかやとの萩のしたはは色つきにけり
    このころの あかつきつゆに わかやとの はきのしたはは いろつきにけり
    柿本人麻呂(人麿)一七雑秋
    1119夜をさむみ衣かりかねなくなへにはきのしたはは色つきにけり
    よをさむみ ころもかりかね なくなへに はきのしたはは いろつきにけり
    柿本人麻呂(人麿)一七雑秋
    1120かの見ゆる池辺にたてるそかきくのしけみさえたの色のてこらさ
    かのみゆる いけへにたてる そかきくの しけみさえたの いろのてこらさ
    読人知らず一七雑秋
    1121吹く風にちる物ならは菊の花くもゐなりとも色は見てまし
    ふくかせに ちるものならは きくのはな くもゐなりとも いろはみてまし
    壬生忠見一七雑秋
    1122おいか世にうき事きかぬ菊たにもうつろふ色は有りけりと見よ
    おいかよに うきこときかぬ きくたにも うつろふいろは ありけりとみよ
    読人知らず一七雑秋
    1123わきもこかあかもぬらしてうゑし田をかりてをさめむくらなしのはま
    わきもこか あかもぬらして うゑしたを かりてをさめむ くらなしのはま
    柿本人麻呂(人麿)一七雑秋
    1124秋ことにかりつるいねはつみつれと老いにける身そおき所なき
    あきことに かりつるいねは つみつれと おいにけるみそ おきところなき
    壬生忠見一七雑秋
    1125かりてほす山田の稲をほしわひてまもるかりいほにいくよへぬらん
    かりてほす やまたのいねを ほしわひて まもるかりいほに いくよへぬらむ
    凡河内躬恒一七雑秋
    1126おく山にたてらましかはなきさこくふな木も今は紅葉しなまし
    おくやまに たてらましかは なきさこく ふなきもいまは もみちしなまし
    恵慶法師一七雑秋
    1127久方の月をさやけみもみちはのこさもうすさもわきつへらなり
    ひさかたの つきをさやけみ もみちはの こさもうすさも わきつへらなり
    読人知らず一七雑秋
    1128小倉山峯のもみちは心あらは今ひとたひのみゆきまたなん
    をくらやま みねのもみちは こころあらは いまひとたひの みゆきまたなむ
    #百人一首
    小一条太政大臣一七雑秋
    1129ふるさとにかへると見てやたつたひめ紅葉の錦そらにきすらん
    ふるさとに かへるとみてや たつたひめ もみちのにしき そらにきすらむ
    大中臣能宣一七雑秋
    1130白浪はふるさとなれやもみちはのにしきをきつつ立帰るらん
    しらなみは ふるさとなれや もみちはの にしきをきつつ たちかへるらむ
    読人知らず一七雑秋
    1131もみちはのなかるる時はたけ河のふちのみとりも色かはるらむ
    もみちはの なかるるときは たけかはの ふちのみとりも いろかはるらむ
    凡河内躬恒一七雑秋
    1132水のおもの深く浅くも見ゆるかな紅葉の色やふちせなるらん
    みつのおもの ふかくあさくも みゆるかな もみちのいろや ふちせなるらむ
    凡河内躬恒一七雑秋
    1133月影のたなかみ河にきよけれは綱代にひをのよるも見えけり
    つきかけの たなかみかはに きよけれは あしろにひをの よるもみえけり
    清原元輔一七雑秋
    1134いかて猶あしろのひをに事とはむなにによりてか我をとはぬと
    いかてなほ あしろのひをに こととはむ なにによりてか われをとはぬと
    修理一七雑秋
    1135はふりこかいはふ社のもみちはもしめをはこえてちるといふものを
    はふりこか いはふやしろの もみちはも しめをはこえて ちるといふものを
    読人知らず一七雑秋
    1136いかなれはもみちにもまたあかなくに秋はてぬとはけふをいふらん
    いかなれは もみちにもまた あかなくに あきはてぬとは けふをいふらむ
    源順一七雑秋
    1137秋もまたとほくもあらぬにいかて猶たちかへれともつけにやらまし
    あきもまた とほくもあらぬに いかてなほ たちかへれとも つけにやらまし
    清原元輔一七雑秋
    1138そま山にたつけふりこそ神な月時雨をくたすくもとなりけれ
    そまやまに たつけふりこそ かみなつき しくれをくたす くもとなりけれ
    大中臣能宣一七雑秋
    1139名をきけは昔なからの山なれとしくるるころは色かはりけり
    なをきけは むかしなからの やまなれと しくるるころは いろかはりけり
    源順一七雑秋
    1140もみちはやたもとなるらん神な月しくるることに色のまされは
    もみちはや たもとなるらむ かみなつき しくるることに いろのまされは
    凡河内躬恒一七雑秋
    1141しくれつつふりにしやとの言の葉はかきあつむれととまらさりけり
    しくれつつ ふりにしやとの ことのはは かきあつむれと とまらさりけり
    中務一七雑秋
    1142昔より名たかきやとの事のははこの本にこそおちつもるてへ
    むかしより なたかきやとの ことのはは このもとにこそ おちつもるてへ
    村上院御製一七雑秋
    1143山かつのかきほわたりをいかにそとしもかれかれにとふ人もなし
    やまかつの かきほわたりを いかにそと しもかれかれに とふひともなし
    権中納言義懐娘一七雑秋
    1144み山木をあさなゆふなにこりつめてさむさをこふるをののすみやき
    みやまきを あさなゆふなに こりつめて さむさをこふる をののすみやき
    曾禰好忠一七雑秋
    1145にほとりの氷の関にとちられて玉ものやとをかれやしぬらん
    にほとりの こほりのせきに とちられて たまものやとを かれやしぬらむ
    曾禰好忠一七雑秋
    1146いさかくてをりあかしてん冬の月春の花にもおとらさりけり
    いさかくて をりあかしてむ ふゆのつき はるのはなにも おとらさりけり
    清原元輔一七雑秋
    1147限なくとくとはすれと葦引の山井の水は猶そこほれる
    かきりなく とくとはすれと あしひきの やまゐのみつは なほそこほれる
    東宮女蔵人左近一七雑秋
    1148ありあけの心地こそすれ杯に日かけもそひていてぬとおもへは
    ありあけの ここちこそすれ さかつきに ひかけもそひて いてぬとおもへは
    大中臣能宣一七雑秋
    1149あしひきの山ゐにすれる衣をは神につかふるしるしとそ思ふ
    あしひきの やまゐにすれる ころもをは かみにつかふる しるしとそおもふ
    紀貫之一七雑秋
    1150ちはやふる神のいかきに事ふりてそらよりかかるゆふにそありける
    ちはやふる かみのいかきに ゆきふりて そらよりかかる ゆふにそありける
    読人知らず一七雑秋
    1151ひとりねはくるしき物とこりよとや旅なる夜しも雪のふるらん
    ひとりねは くるしきものと こりよとや たひなるよしも ゆきのふるらむ
    紀貫之一七雑秋
    1152わたつみもゆきけの水はまさりけりをちのしましま見えすなりゆく
    わたつみも ゆきけのみつは まさりけり をちのしましま みえすなりゆく
    中務卿具平親王一七雑秋
    1153もとゆひにふりそふ雪のしつくには枕のしたに浪そたちける
    もとゆひに ふりそふゆきの しつくには まくらのしたに なみそたちける
    中務卿具平親王一七雑秋
    1154さわらひやしたにもゆらんしもかれののはらの煙春めきにけり
    さわらひや したにもゆらむ しもかれの のはらのけふり はるめきにけり
    藤原通頼一七雑秋
    1155霜かれに見えこし梅はさきにけり春にはわか身あはむとはすや
    しもかれに みえこしうめは さきにけり はるにはわかみ あはむとはすや
    紀貫之一七雑秋
    1156梅の花匂の深く見えつるは春の隣のちかきなりけり
    うめのはな にほひのふかく みえつるは はるのとなりの ちかきなりけり
    三統元夏一七雑秋
    1157むめもみな春ちかしとてさくものをまつ時もなき我やなになる
    うめもみな はるちかしとて さくものを まつときもなき われやなになる
    紀貫之一七雑秋
    1158むはたまのわかくろかみに年くれてかかみのかけにふれるしらゆき
    うはたまの わかくろかみに としくれて かかみのかけに ふれるしらゆき
    紀貫之一七雑秋
    1159昨日よりをちをはしらすももとせの春の始はけふにそ有りける
    きのふより をちをはしらす ももとせの はるのはしめは けふにそありけ
    紀貫之一八雑賀
    1160はるはると雲井をさして行く舟の行末とほくおもほゆるかな
    はるはると くもゐをさして ゆくふねの ゆくすゑとほく おもほゆるかな
    伊勢一八雑賀
    1161花の色もときはならなんなよ竹のなかきよにおくつゆしかからは
    はなのいろも ときはならなむ なよたけの なかきよにおく つゆしかからは
    清原元輔一八雑賀
    1162よろつ世をかそへむ物はきのくにのちひろのはまのまさこなりけり
    よろつよを かそへむものは きのくにの ちひろのはまの まさこなりけり
    清原元輔一八雑賀
    1163こけむさはひろひもかへむさされいしのかすをみなとるよはひいくよそ
    こけむさは ひろひもかへむ さされいしの かすをみなとる よはひいくよそ
    読人知らず一八雑賀
    1164松のねにいつる泉の水なれはおなしき物をたえしとそ思ふ
    まつのねに いつるいつみの みつなれは おなしきものを たえしとそおもふ
    紀貫之一八雑賀
    1165いはのうへの松にたとへむきみきみは世にまれらなるたねそとおもへは
    いはのうへの まつにたとへむ きみきみは よにまれらなる たねそとおもへは
    藤原道長一八雑賀
    1166松かえのかよへる枝をとくらにてすたてらるへきつるのひなかな
    まつかえの かよへるえたを とくらにて すたてらるへき つるのひなかな
    清原元輔一八雑賀
    1167まつの苔ちとせをかねておひしけれつるのかひこのすとも見るへく
    まつのこけ ちとせをかねて おひしけれ つるのかひこの すともみるへく
    清原元輔一八雑賀
    1168我のみやこもたるてへは高砂のをのへにたてる松もこもたり
    われのみや こもたるてへは たかさこの をのへにたてる まつもこもたり
    読人知らず一八雑賀
    1169いく世へしいそへの松そ昔よりたちよる浪やかすはしるらん
    いくよへし いそへのまつそ むかしより たちよるなみや かすはしるらむ
    紀貫之一八雑賀
    1170こ紫たなひく事をしるへにて位の山の峯をたつねん
    こむらさき たなひくくもを しるへにて くらゐのやまの みねをたつねむ
    清原元輔一八雑賀
    1171ももしきにちとせの事はおほかれとけふの君はためつらしきかな
    ももしきに ちとせのことは おほかれと けふのきみはた めつらしきかな
    参議好古一八雑賀
    1172心さしふかきみきはにかるこもはちとせのさ月いつかわすれん
    こころさし ふかきみきはに かるこもは ちとせのさつき いつかわすれむ
    藤原道綱母一八雑賀
    1173ちとせへん君しいまさはすへらきのあめのしたこそうしろやすけれ
    ちとせへむ きみしいまさは すめらきの あめのしたこそ うしろやすけれ
    清原元輔一八雑賀
    1174きみか世に今いくたひかかくしつつうれしき事にあはんとすらん
    きみかよに いまいくたひか かくしつつ うれしきことに あはむとすらむ
    右衛門督公任一八雑賀
    1175すみそむるすゑの心の見ゆるかなみきはの松のかけをうつせは
    すみそむる すゑのこころの みゆるかな みきはのまつの かけをうつせは
    右衛門督公任一八雑賀
    1176ちとせふる霜のつるをはおきなからひさしき物は君にそありける
    ちとせふる しものつるをは おきなから ひさしきものは きみにそありける
    権中納言敦忠一八雑賀
    1177しらゆきはふりかくせともちよまてに竹のみとりはかはらさりけり
    しらゆきは ふりかくせとも ちよまてに たけのみとりは かはらさりけり
    紀貫之一八雑賀
    1178世の中にことなる事はあらすともとみはたしてむいのちなかくは
    よのなかに ことなることは あらすとも とみはたしてむ いのちなかくは
    清原元輔一八雑賀
    1179流俗のいろにはあらす梅の花 珍重すへき物とこそ見れ
    りうそくの いろにはあらす うめのはな ちむちようすへき ものとこそみれ
    右大将実資 むねかたの朝臣一八雑賀
    1180春はもえ秋はこかるるかまと山 かすみもきりもけふりとそ見る
    はるはもえ あきはこかるる かまとやま かすみもきりも けふりとそみる
    清原元輔一八雑賀
    1181思ひたちぬるけふにもあるかな かからてもありにしものをはるかすみ
    おもひたちぬる けふにもあるかな かからても ありにしものを はるかすみ
    藤原忠君朝臣娘一八雑賀
    1182くらすへしやはいままてにきみ とふやとそ我もまちつるはるの日を
    くらすへしやは いままてにきみ とふやとそ われもまちつる はるのひを
    源計子一八雑賀
    1183さ夜ふけて今はねふたくなりにけり 夢にあふへき人やまつらん
    さよふけて いまはねふたく なりにけり ゆめにあふへき ひとやまつらむ
    村上院御製一八雑賀
    1184人心うしみついまはたのましよ 夢に見ゆやとねそすきにける
    ひとこころ うしみついまは たのましよ ゆめにみゆやと ねそすきにける
    女 良岑宗貞一八雑賀
    1185ひきよせはたたにはよらて春こまの綱引するそなはたつときく
    ひきよせは たたにはよらて はるこまの つなひきするそ なはたつときく
    平定文一八雑賀
    1186花の木はまかきちかくはうゑて見しうつろふ色に人ならひけり
    はなのきは まかきちかくは うゑてみし うつろふいろに ひとならひけり
    読人知らず一八雑賀
    1187夏は扇冬は火をけに身をなしてつれなき人によりもつかはや
    なつはあふき ふゆはひをけに みをなして つれなきひとに よりもつかはや
    読人知らず一八雑賀
    1188こひするに仏になるといはませは我そ浄土のあるしならまし
    こひするに ほとけになると いはませは われそしやうとの あるしならまし
    読人知らず一八雑賀
    1189唐衣たつよりおつる水ならてわか袖ぬらす物やなになる
    からころも たつよりおつる みつならて わかそてぬらす ものやなになる
    読人知らず一八雑賀
    1190つらからは人にかたらむしきたへの枕かはしてひとよねにきと
    つらからは ひとにかたらむ しきたへの まくらかはして ひとよねにきと
    藤原義孝一八雑賀
    1191あやしくもわかぬれきぬをきたるかなみかさの山を人にかられて
    あやしくも われぬれきぬを きたるかな みかさのやまを ひとにかられて
    藤原義孝一八雑賀
    1192かくれみのかくれかさをもえてしかなきたりと人にしられさるへく
    かくれみの かくれかさをも えてしかな きたりとひとに しられさるへく
    平公誠一八雑賀
    1193心ありてとふにはあらす世の中にありやなしやのきかまほしきそ
    こころありて とふにはあらす よのなかに ありやなしやの きかまほしきそ
    読人知らず一八雑賀
    1194きみとはていくよへぬらん色かへぬ竹のふるねのおひかはるまて
    きみとはて いくよへぬらむ いろかへぬ たけのふるねの おひかはるまて
    読人知らず一八雑賀
    1195こぬ人をしたにまちつつ久方の月をあはれといはぬよそなき
    こぬひとを したにまちつつ ひさかたの つきをあはれと いはぬよそなき
    紀貫之一八雑賀
    1196あつさゆみひきみひかすみこすはこすこはこそをなそよそにこそ見め
    あつさゆみ ひきみひかすみ こすはこす こはこそをなそ よそにこそみめ
    柿本人麻呂(人麿)一八雑賀
    1197くれはとく行きてかたらむあふ時のとをちのさとのすみうかりしも
    くれはとく ゆきてかたらむ あふことの とをちのさとの すみうかりしも
    一条摂政一八雑賀
    1198おろかにもおもはましかはあつまちのふせやといひしのへにねなまし
    おろかにも おもはましかは あつまちの ふせやといひし のへにねなまし
    読人知らず一八雑賀
    1199あともなきかつら木山をふみみれはわかわたしこしかたはしかもし
    あともなき かつらきやまを ふみみれは わかわたしこし かたはしかもし
    読人知らず一八雑賀
    1200かきつくる心見えなるあとなれと見てもしのはむ人やあるとて
    かきつくる こころみえなる あとなれと みてもしのはむ ひとやあるとて
    読人知らず一八雑賀
    1201いははしのよるの契もたえぬへしあくるわひしき葛木の神
    いははしの よるのちきりも たえぬへし あくるわひしき かつらきのかみ
    春宮女蔵人左近一八雑賀
    1202うたかはしほかにわたせるふみみれは我やとたえにならむとすらん
    うたかはし ほかにわたせる ふみみれは われやとたえに ならむとすらむ
    藤原道綱母一八雑賀
    1203いかてかはたつねきつらん蓬ふの人もかよはぬわかやとのみち
    いかてかは たつねきつらむ よもきふの ひともかよはぬ わかやとのみち
    読人知らず一八雑賀
    1204雨ならてもる人もなきわかやとをあさちかはらと見るそかなしき
    あめならて もるひともなき わかやとを あさちかはらと みるそかなしき
    承香殿女御一八雑賀
    1205いにしへはたかふるさとそおほつかなやともる雨にとひてしらはや
    いにしへは たかふるさとそ おほつかな やともるあめに とひてしらはや
    大納言朝光一八雑賀
    1206夢とのみ思ひなりにし世の中をなに今更におとろかすらん
    ゆめとのみ おもひなりにし よのなかを なにいまさらに おとろかすらむ
    高階成忠女一八雑賀
    1207人も見ぬ所に昔きみとわかせぬわさわさをせしそこひしき
    ひともみぬ ところにむかし きみとわか せぬわさわさを せしそこひしき
    源公忠朝臣一八雑賀
    1208けふまてはいきの松原いきたれとわか身のうさになけきてそふる
    けふまては いきのまつはら いきたれと わかみのうさに なけきてそふる
    藤原後生か女一八雑賀
    1209いきたるかしぬるかいかにおもほえす身よりほかなるたまくしけかな
    いきたるか しぬるかいかに おもほえす みよりほかなる たまくしけかな
    則忠朝臣女一八雑賀
    1210をとめこか袖ふる山のみつかきのひさしきよより思ひそめてき
    をとめこか そてふるやまの みつかきの ひさしきよより おもひそめてき
    柿本人麻呂(人麿)一九雑恋
    1211いなり山社のかすを人とははつれなき人をみつとこたへむ
    いなりやま やしろのかすを ひととはは つれなきひとを みつとこたへむ
    平定文一九雑恋
    1212みしま江の玉江のあしをしめしよりおのかとそ思ふいまたからねと
    みしまえの たまえのあしを しめしより おのかとそおもふ いまたからねと
    柿本人麻呂(人麿)一九雑恋
    1213あたなりとあたにはいかかさたむらん人の心を人はしるやは
    あたなりと あたにはいかか さたむらむ ひとのこころを ひとはしるやは
    大中臣能宣一九雑恋
    1214すくろくのいちはにたてるひとつまのあはてやみなん物にやはあらぬ
    すくろくの いちはにたてる ひとつまの あはてやみなむ ものにやはあらぬ
    読人知らず一九雑恋
    1215ぬれきぬをいかかきさらん世の人はあめのしたにしすまんかきりは
    ぬれきぬを いかかきさらむ よのひとは あめのしたにし すまむかきりは
    読人知らず一九雑恋
    1216あめのしたのかるる人のなけれはやきてしぬれきぬひるよしもなき
    あめのした のかるるひとの なけれはや きてしぬれきぬ ひるよしもなし
    贈太政大臣一九雑恋
    1217いつくとも所定めぬ白雲のかからぬ山はあらしとそ思ふ
    いつくとも ところさためぬ しらくもの かからぬやまは あらしとそおもふ
    読人知らず一九雑恋
    1218白雲のかかるそら事する人を山のふもとによせてけるかな
    しらくもの かかるそらこと するひとを やまのふもとに よせてけるかな
    読人知らず一九雑恋
    1219いつしかもつくまのまつりはやせなんつれなき人のなへのかす見む
    いつしかも つくまのまつり はやせなむ つれなきひとの なへのかすみむ
    読人知らず一九雑恋
    1220人しれぬ人まちかほに見ゆめるはたかたのめたるこよひなるらん
    ひとしれぬ ひとまちかほに みゆめるは たかたのめたる こよひなるらむ
    小野宮太政大臣一九雑恋
    1221池水のそこにあらてはねぬなはのくる人もなしまつ人もなし
    いけみつの そこにあらては ねぬなはの くるひともなし まつひともなし
    明日香采女一九雑恋
    1222人しれすたのめし事は柏木のもりやしにけむ世にふりにけり
    ひとしれす たのめしことは かしはきの もりやしにけむ よにふりにけり
    右近一九雑恋
    1223秋はきの花もうゑおかぬやとなれはしかたちよらむ所たになし
    あきはきの はなもうゑおかぬ やとなれは しかたちよらむ ところたになし
    読人知らず一九雑恋
    1224こゆるきのいそきてきつるかひもなくまたこそたてれおきつしらなみ
    こゆるきの いそきてきつる かひもなく またこそたてれ おきつしらなみ
    読人知らず一九雑恋
    1225しのひつつよるこそきしか唐衣ひとや見むとはおもはさりしを
    しのひつつ よるこそきしか からころも ひとやみむとは おもはさりしを
    読人知らず一九雑恋
    1226宮つくるひたのたくみのてをのおとほとほとしかるめをも見しかな
    みやつくる ひたのたくみの てをのおと ほとほとしかる めをもみしかな
    くにもち一九雑恋
    1227有りとてもいく世かはふるからくにのとらふすのへに身をもなけてん
    ありとても いくよかはふる からくにの とらふすのへに みをもなけてむ
    読人知らず一九雑恋
    1228むすふ手のしつくににこる山の井のあかても人に別れぬるかな
    むすふての しつくににこる やまのゐの あかてもひとに わかれぬるかな
    紀貫之一九雑恋
    1229家なからわかるる時は山の井のにこりしよりもわひしかりけり
    いへなから わかるるときは やまのゐの にこりしよりも わひしかりけり
    紀貫之一九雑恋
    1230はしたかのとかへる山のしひしはのはかへはすともきみはかへせし
    はしたかの とかへるやまの しひしはの はかへはすとも きみはかへせし
    読人知らず一九雑恋
    1231あやまちのあるかなきかをしらぬ身はいとふににたる心ちこそすれ
    あやまちの あるかなきかを しらぬみは いとふににたる ここちこそすれ
    読人知らず一九雑恋
    1232ゆく水のあわならはこそきえかへり人のふちせを流れても見め
    ゆくみつの あわならはこそ きえかへり ひとのふちせを なかれてもみめ
    読人知らず一九雑恋
    1233ともかくもいひはなたれよ池水のふかさあささをたれかしるへき
    ともかくも いひはなたれよ いけみつの ふかさあささを たれかしるへき
    読人知らず一九雑恋
    1234そめ河をわたらん人のいかてかは色になるてふ事のなからん
    そめかはを わたらむひとの いかてかは いろになるてふ ことのなからむ
    在原業平朝臣一九雑恋
    1235ちはやふるかもの河辺のふちなみはかけてわするる時のなきかな
    ちはやふる かものかはへの ふちなみは かけてわするる ときのなきかな
    兵衛一九雑恋
    1236世の中はいかかはせまししけ山のあをはのすきのしるしたになし
    よのなかは いかかはせまし しけやまの あをはのすきの しるしたになし
    読人知らず一九雑恋
    1237むもれ木は中むしはむといふめれはくめちのはしは心してゆけ
    うもれきは なかむしはむと いふめれは くめちのはしは こころしてゆけ
    読人知らず一九雑恋
    1238世の中はいさともいさや風のおとは秋に秋そふ心地こそすれ
    よのなかは いさともいさや かせのおとは あきにあきそふ ここちこそすれ
    読人知らず一九雑恋
    1239いはみなるたかまの山のこのまよりわかふるそてをいも見けんかも
    いはみなる たかまのやまの このまより わかふるそてを いもみけむかも
    柿本人麻呂(人麿)一九雑恋
    1240おきつ浪たかしのはまのはま松のなにこそきみをまちわたりつれ
    おきつなみ たかしのはまの はままつの なにこそきみを まちわたりつれ
    紀貫之一九雑恋
    1241君をのみ思ひやりつつ神よりも心のそらになりしよひかな
    きみをのみ おもひやりつつ かみよりも こころのそらに なりしよひかな
    村上院御製一九雑恋
    1242思ひやるこしのしら山しらねともひと夜も夢にこえぬ日そなき
    おもひやる こしのしらやま しらねとも ひとよもゆめに こえぬひそなき
    紀貫之一九雑恋
    1243山しなのこはたの里に馬はあれとかちよりそくる君を思へは
    やましなの こはたのさとに うまはあれと かちよりそくる きみをおもへは
    柿本人麻呂(人麿)一九雑恋
    1244春日山雲井かくれてとほけれと家はおもはす君をこそおもへ
    かすかやま くもゐかくれて とほけれと いへはおもはす きみをこそおもへ
    柿本人麻呂(人麿)一九雑恋
    1245わかせこをこふるもくるしいとまあらはひろひてゆかむ恋忘かひ
    わかせこを こふるもくるし いとまあらは ひろひてゆかむ こひわすれかひ
    大伴坂上郎女一九雑恋
    1246旧里をこふるたもともかわかぬに又しほたるるあまも有りけり
    ふるさとを こふるたもとも かわかぬに またしほたるる あまもありけり
    恵慶法師一九雑恋
    1247しほたるる身は我とのみ思へともよそなるたつもねをそなくなる
    しほたるる みはわれのみと おもへとも よそなるたつも ねをそなくなる
    大中臣頼基一九雑恋
    1248つれつれと思へはうきにおふるあしのはかなき世をはいかかたのまむ
    つれつれと おもへはうきに おふるあしの はかなきよをは いかかたのまむ
    読人知らず一九雑恋
    1249定なき人の心にくらふれはたたうきしまは名のみなりけり
    さためなき ひとのこころに くらふれは たたうきしまは なのみなりけり
    源順一九雑恋
    1250ひとりのみ年へけるにもおとらしをかすならぬ身のあるはあるかは
    ひとりのみ としへけるにも おとらしを かすならぬみの あるはあるかは
    清原元輔一九雑恋
    1251風はやみ峯のくすはのともすれはあやかりやすき人のこころか
    かせはやみ みねのくすはの ともすれは あやかりやすき ひとのこころか
    読人知らず一九雑恋
    1252久方のあめのふるひをたたひとり山へにをれはむもれたりけり
    ひさかたの あめのふるひを たたひとり やまへにをれは うもれたりけり
    中納言家持一九雑恋
    1253雨ふりて庭にたまれるにこり水たかすまはかはかけの見ゆへき
    あめふりて にはにたまれる にこりみつ たかすまはかは かけのみゆへき
    読人知らず一九雑恋
    1254世とともに雨ふるやとの庭たつみすまぬに影は見ゆるものかは
    よとともに あめふるやとの にはたつみ すまぬにかけは みゆるものかは
    読人知らず一九雑恋
    1255あふ事のかくてやつひにやみの夜の思ひもいてぬ人のためには
    あふことの かくてやつひに やみのよの おもひもいてぬ ひとのためには
    太皇太后宮一九雑恋
    1256いはしろの野中にたてるむすひ松心もとけす昔おもへは
    いはしろの のなかにたてる むすひまつ こころもとけす むかしおもへは
    柿本人麻呂(人麿)一九雑恋
    1257けふかともあすともしらぬ白菊のしらすいく世をふへきわか身そ
    けふかとも あすともしらぬ しらきくの しらすいくよを ふへきわかみそ
    読人知らず一九雑恋
    1258涙河水まされはやしきたへの枕のうきてとまらさるらん
    なみたかは みつまされはや しきたへの まくらのうきて とまらさるらむ
    まさのふ一九雑恋
    1259世の中を常なき物とききしかとつらきことこそひさしかりけれ
    よのなかを つねなきものと ききしかと つらきことこそ ひさしかりけれ
    按察のみやす所一九雑恋
    1260つらきをはつねなき物と思ひつつひさしき事をたのみやはせぬ
    つらきをは つねなきものと おもひつつ ひさしきことを たのみやはせぬ
    延喜御製一九雑恋
    1261我こそはにくくもあらめわかやとの花見にたにも君かきまさぬ
    われこそは にくくもあらめ わかやとの はなみにたにも きみかきまさぬ
    伊勢一九雑恋
    1262いはみかたなにかはつらきつらからは怨みかてらにきても見よかし
    いはみかた なにかはつらき つらからは うらみかてらに きてもみよかし
    読人知らず一九雑恋
    1263それならぬ事もありしをわすれねといひしはかりをみみにとめけん
    それならぬ こともありしを わすれねと いひしはかりを みみにとめけむ
    本院侍従一九雑恋
    1264みかりするこまのつまつくあをつつら君こそ我はほたしなりけれ
    みかりする こまのつまつく あをつつら きみこそわれは ほたしなりけれ
    読人知らず一九雑恋
    1265君見れはむすふの神そうらめしきつれなき人をなにつくりけん
    きみみれは むすふのかみそ うらめしき つれなきひとを なにつくりけむ
    読人知らず一九雑恋
    1266いつれをかしるしとおもはむみわの山有りとしあるはすきにそありける
    いつれをか しるしとおもはむ みわのやま ありとしあるは すきにそありける
    紀貫之一九雑恋
    1267我といへはいなりの神もつらきかな人のためとはいのらさりしを
    われといへは いなりのかみも つらきかな ひとのためとは いのらさりしを
    藤原長能一九雑恋
    1268滝の水かへりてすまはいなり山なぬかのほれるしるしとおもはん
    たきのみつ かへりてすまは いなりやま なぬかのほれる しるしとおもはむ
    読人知らず一九雑恋
    1269思ひいててとふにはあらす秋はつる色の限を見するなりけり
    おもひいてて とふにはあらす あきはつる いろのかきりを みするなりけり
    読人知らず一九雑恋
    1270ゆゆしとていむとも今はかひもあらしうきをは風につけてやみなん
    ゆゆしとて いむともいまは かひもあらし うきをはかせに つけてやみなむ
    読人知らず一九雑恋
    1271ひとりして世をしつくさは高砂の松のときはもかひなかりけり
    ひとりして よをしつくさは たかさこの まつのときはも かひなかりけり
    紀貫之一九雑恋
    1272玉もかるあまのゆき方さすさをの長くや人を怨渡らん
    たまもかる あまのゆきかた さすさをの なかくやひとを うらみわたらむ
    紀貫之一九雑恋
    1273たのめつつ別れし人をまつほとに年さへせめてうらめしきかな
    たのめつつ わかれしひとを まつほとに としさへせめて うらめしきかな
    紀貫之一九雑恋
    1274さくら花のとけかりけりなき人をこふる涙そまつはおちける
    さくらはな のとけかりけり なきひとを こふるなみたそ まつはおちける
    小野宮太政大臣二十哀傷
    1275おもかけに色のみのこる桜花いく世の春をこひむとすらん
    おもかけに いろのみのこる さくらはな いくよのはるを こひむとすらむ
    平兼盛二十哀傷
    1276花の色もやとも昔のそれなからかはれる物は露にそ有りける
    はなのいろも やともむかしの それなから かはれるものは つゆにそありける
    清原元輔二十哀傷
    1277桜花にほふものから露けきはこのめも物を思ふなるへし
    さくらはな にほふものから つゆけきは このめもものを おもふなるへし
    大中臣能宣二十哀傷
    1278君まさはまつそをらまし桜花風のたよりにきくそかなしき
    きみまさは まつそをらまし さくらはな かせのたよりに きくそかなしき
    大納言延光二十哀傷
    1279いにしへはちるをや人の惜みけん花こそ今は昔こふらし
    いにしへは ちるをやひとの をしみけむ はなこそいまは むかしこふらし
    一条摂改二十哀傷
    1280さ月きてなかめまされはあやめ草思ひたえにしねこそなかるれ
    さつききて なかめまされは あやめくさ おもひたえにし ねこそなかるれ
    女蔵人兵庫二十哀傷
    1281しのへとやあやめもしらぬ心にもなかからぬよのうきにうゑけん
    しのへとや あやめもしらぬ こころにも なかからぬよの うきにうゑけむ
    粟田右大臣二十哀傷
    1282ここにたにつれつれになく郭公ましてここひのもりはいかにそ
    ここにたに つれつれになく ほとときす ましてここひの もりはいかにそ
    右大臣二十哀傷
    1283あさかほを何はかなしと思ひけん人をも花はさこそ見るらめ
    あさかほを なにはかなしと おもひけむ ひとをもはなは さこそみるらめ
    藤原道信朝臣二十哀傷
    1284時ならてははその紅葉ちりにけりいかにこのもとさひしかるらん
    ときならて ははそのもみち ちりにけり いかにこのもと さひしかるらむ
    村上院御製二十哀傷
    1285思ひきや秋のよ風のさむけきにいもなきとこにひとりねむとは
    おもひきや あきのよかせの さむけきに いもなきとこに ひとりねむとは
    大弐国章二十哀傷
    1286秋風になひく草葉のつゆよりもきえにし人をなににたとへん
    あきかせに なひくくさはの つゆよりも きえにしひとを なににたとへむ
    村上院御製二十哀傷
    1287こそ見てし秋の月夜はてらせともあひ見しいもはいやとほさかり
    こそみてし あきのつきよは てらせとも あひみしいもは いやとほさかり
    柿本人麻呂(人麿)二十哀傷
    1288君なくて立つあさきりは麻衣池さへきるそかなしかりける
    きみなくて たつあさきりは ふちころも いけさへきるそ かなしかりける
    権中納言敦忠二十哀傷
    1289わきもこかねくたれかみをさるさはの池のたまもと見るそかなしき
    わきもこか ねくたれかみを さるさはの いけのたまもと みるそかなしき
    柿本人麻呂(人麿)二十哀傷
    1290心にもあらぬうき世にすみそめの衣の袖のぬれぬ日そなき
    こころにも あらぬうきよに すみそめの ころものそての ぬれぬひそなき
    読人知らず二十哀傷
    1291ふち衣はらへてすつる涙河きしにもまさる水そなかるる
    ふちころも はらへてすつる なみたかは きしにもまさる みつそなかるる
    読人知らず二十哀傷
    1292藤衣はつるるいとはきみこふる涙の玉のをとやなるらん
    ふちころも はつるるいとは きみこふる なみたのたまの をとやなるらむ
    読人知らず二十哀傷
    1293限あれはけふぬきすてつ藤衣はてなき物は涙なりけり
    かきりあれは けふぬきすてつ ふちころも はてなきものは なみたなりけり
    藤原道信朝臣二十哀傷
    1294人なししむねのちふさをほむらにてやくすみそめの衣きよきみ
    ひとなしし むねのちふさを ほむらにて やくすみそめの ころもきよきみ
    としのふの母二十哀傷
    1295藤衣あひ見るへしと思ひせはまつにかかりてなくさめてまし
    ふちころも あひみるへしと おもひせは まつにかかりて なくさめてまし
    大江為基二十哀傷
    1296年ふれといかなる人かとこふりてあひ思ふ人にわかれさるらん
    としふれと いかなるひとか とこふりて あひおもふひとに わかれさるらむ
    大江為基二十哀傷
    1297墨染の衣の袖は雲なれや涙の雨のたえすふるらん
    すみそめの ころものそては くもなれや なみたのあめの たえすふるらむ
    読人知らず二十哀傷
    1298あまといへといかなるあまの身なれはか世ににぬしほをたれわたるらん
    あまといへと いかなるあまの みなれはか よににぬしほを たれわたるらむ
    読人知らず二十哀傷
    1299世の中にあらましかはと思ふ人なきかおほくも成りにけるかな
    よのなかに あらましかはと おもふひと なきかおほくも なりにけるかな
    藤原為頼二十哀傷
    1300常ならぬ世はうき身こそかなしけれそのかすにたにいらしとおもへは
    つねならぬ よはうきみこそ かなしけれ そのかすにたに いらしとおもへは
    右衛門督公任二十哀傷
    1301なき人もあるかつらきを思ふにも色わかれぬは涙なりけり
    なきひとも あるかつらきを おもふにも いろわかれぬは なみたなりけり
    伊勢二十哀傷
    1302うつくしと思ひしいもを夢に見ておきてさくるになきそかなしき
    うつくしと おもひしいもを ゆめにみて おきてさくるに なきそかなしき
    読人知らず二十哀傷
    1303思ひやるここひのもりのしつくにはよそなる人の袖もぬれけり
    おもひやる ここひのもりの しつくには よそなるひとの そてもぬれけり
    清原元輔二十哀傷
    1304なよ竹のわかこの世をはしらすしておほしたてつと思ひけるかな
    なよたけの わかこのよをは しらすして おほしたてつと おもひけるかな
    平兼盛二十哀傷
    1305我のみやこの世はうきとおもへとも君もなけくと聞くそかなしき
    われのみや このよはうきと おもへとも きみもなけくと きくそかなしき
    藤原共政朝臣妻二十哀傷
    1306うき世にはある身もうしとなけきつつ涙のみこそふるここちすれ
    うきよには あるみもうしと なけきつつ なみたのみこそ ふるここちすれ
    大納言朝光二十哀傷
    1307しての山こえてきつらん郭公こひしき人のうへかたらなん
    してのやま こえてきつらむ ほとときす こひしきひとの うへかたらなむ
    伊勢二十哀傷
    1308思ふよりいふはおろかに成りぬれはたとへていはん事のはそなき
    おもふより いふはおろかに なりぬれは たとへていはむ ことのはそなき
    平定文二十哀傷
    1309こふるまに年のくれなはなき人の別やいとととほくなりなん
    こふるまに としのくれなは なきひとの わかれやいとと とほくなりなむ
    紀貫之二十哀傷
    1310如何せん忍の草もつみわひぬかたみと見えしこたになけれは
    いかにせむ しのふのくさも つみわひぬ かたみとみえし こたになけれは
    読人知らず二十哀傷
    1311春は花秋は紅葉とちりはててたちかくるへきこのもともなし
    はるははな あきはもみちと ちりはてて たちかくるへき このもともなし
    読人知らず二十哀傷
    1312わすられてしはしまとろむほともかないつかはきみをゆめならて見ん
    わすられて しはしまとろむ ほともかな いつかはきみを ゆめならてみむ
    中務二十哀傷
    1313うきなからきえせぬ物は身なりけりうら山しきは水のあわかな
    うきなから きえせぬものは みなりけり うらやましきは みつのあわかな
    中務二十哀傷
    1314世の中をかくいひいひのはてはてはいかにやいかにならむとすらん
    よのなかを かくいひいひの はてはては いかにやいかに ならむとすらむ
    読人知らず二十哀傷
    1315ささなみのしかのてこらかまかりにし河せの道を見れはかなしも
    ささなみの しかのてこらか まかりにし かはせのみちを みれはかなしも
    柿本人麻呂(人麿)二十哀傷
    1316おきつ浪よるあらいそをしきたへの枕とまきてなれる君かも
    おきつなみ よるあらいそを しきたへの まくらとまきて なれるきみかも
    柿本人麻呂(人麿)二十哀傷
    1317あすしらぬわか身とおもへとくれぬまのけふは人こそかなしかりけれ
    あすしらぬ わかみとおもへと くれぬまの けふはひとこそ かなしかりけれ
    紀貫之二十哀傷
    1318夢とこそいふへかりけれ世の中はうつつある物と思ひけるかな
    ゆめとこそ いふへかりけれ よのなかは うつつあるものと おもひけるかな
    紀貫之二十哀傷
    1319家にいきてわかやを見れはたまささのほかにおきけるいもかこまくら
    いへにゆきて わかやをみれは たまささの ほかにおきける いもかこまくら
    柿本人麻呂(人麿)二十哀傷
    1320まきもくの山へひひきてゆく水のみなわのことによをはわか見る
    まきもくの やまへひひきて ゆくみつの みなわのことに よをはわかみる
    柿本人麻呂(人麿)二十哀傷
    1321いも山のいはねにおける我をかもしらすていもかまちつつあらん
    いもやまの いはねにおける われをかも しらすていもか まちつつあらむ
    柿本人麻呂(人麿)二十哀傷
    1322手に結ふ水にやとれる月影のあるかなきかの世にこそありけれ
    てにむすふ みつにやとれる つきかけの あるかなきかの よにこそありけれ
    紀貫之二十哀傷
    1323くれ竹のわか世はことに成りぬともねはたえせすもなかるへきかな
    くれたけの わかよはことに なりぬとも ねはたえせすも なかるへきかな
    御製二十哀傷
    1324とりへ山たににけふりのもえたたははかなく見えし我としらなん
    とりへやま たににけふりの もえたたは はかなくみえし われとしらなむ
    読人知らず二十哀傷
    1325みな人のいのちをつゆにたとふるは草むらことにおけはなりけり
    みなひとの いのちをつゆに たとふるは くさむらことに おけはなりけり
    すけきよ二十哀傷
    1326草枕人はたれとかいひおきしつひのすみかはの山とそ見る
    くさまくら ひとはたれとか いひおきし つひのすみかは のやまとそみる
    源順二十哀傷
    1327世の中をなににたとへむあさほらけこきゆく舟のあとのしら浪
    よのなかを なににたとへむ あさほらけ こきゆくふねの あとのしらなみ
    沙弥満誓二十哀傷
    1328契あれはかはねなれともあひぬるを我をはたれかとはんとすらん
    ちきりあれは かはねなれとも あひぬるを われをはたれか とはむとすらむ
    源相方朝臣二十哀傷
    1329山寺の入あひのかねのこゑことにけふもくれぬときくそかなしき
    やまてらの いりあひのかねの こゑことに けふもくれぬと きくそかなしき
    読人知らず二十哀傷
    1330うき世をはそむかはけふもそむきなんあすもありとはたのむへき身か
    うきよをは そむかはけふも そむきなむ あすもありとは たのむへきみか
    慶滋保胤二十哀傷
    1331世の中に牛の車のなかりせは思ひの家をいかていてまし
    よのなかに うしのくるまの なかりせは おもひのいへを いかていてまし
    読人知らず二十哀傷
    1332世の中にふるそはかなき白雪のかつはきえぬる物としるしる
    よのなかに ふるそはかなき しらゆきの かつはきえぬる ものとしるしる
    藤原高光二十哀傷
    1333すみそめの色は我のみと思ひしをうき世をそむく人もあるとか
    すみそめの いろはわれのみと おもひしを うきよをそむく ひともあるとか
    大中臣能宣二十哀傷
    1334すみそめの衣と見れはよそなからもろともにきる色にそ有りける
    すみそめの ころもとみれは よそなから もろともにきる いろにそありける
    読人知らず二十哀傷
    1335思ひしる人も有りける世の中をいつをいつとてすくすなるらん
    おもひしる ひともありける よのなかを いつをいつとて すくすなるらむ
    右衛門督公任二十哀傷
    1336ささなみやしかのうら風いかはかり心の内の源しかるらん
    ささなみや しかのうらかせ いかはかり こころのうちの すすしかるらむ
    右衛門督公任二十哀傷
    1337こふつくすみたらし河のかめなれはのりのうききにあはぬなりけり
    こふつくす みたらしかはの かめなれは のりのうききに あはぬなりけり
    斎院二十哀傷
    1338いつしかと君にと思ひしわかなをはのりの道にそけふはつみつる
    いつしかと きみにとおもひし わかなをは のりのみちにそ けふはつみつる
    村上院御製二十哀傷
    1339たき木こる事は昨日につきにしをいさをののえはここにくたさん
    たききこる ことはきのふに つきにしを いさをののえは ここにくたさむ
    藤原道綱母二十哀傷
    1340けふよりは露のいのちもをしからす蓮のうへのたまとちきれは
    けふよりは つゆのいのちも をしからす はちすのうへの たまとちきれは
    実方朝臣二十哀傷
    1341あさことにはらふちりたにあるものをいまいくよとてたゆむなるらん
    あさことに はらふちりたに あるものを いまいくよとて たゆむなるらむ
    夢想歌二十哀傷
    1342暗きより暗き道にそ入りぬへき遥に照せ山のはの月
    くらきより くらきみちにそ いりぬへき はるかにてらせ やまのはのつき
    雅致女式部二十哀傷
    1343極楽ははるけきほととききしかとつとめていたるところなりけり
    こくらくは はるけきほとと ききしかと つとめていたる ところなりけり
    仙慶法師二十哀傷
    1344ひとたひも南無阿弥陀仏といふ人の蓮の上にのほらぬはなし
    ひとたひも なむあみたふつと いふひとの はちすのうへに のほらぬはなし
    空也上人二十哀傷
    1345みそちあまりふたつのすかたそなへたるむかしの人のふめるあとそこれ
    みそちあまり ふたつのすかた そなへたる むかしのひとの ふめるあとそこれ
    光明皇后二十哀傷
    1346法華経をわかえし事はたき木こりなつみ水くみつかへてそえし
    ほけきやうを わかえしことは たききこり なつみみつくみ つかへてそえし
    大僧正行基二十哀傷
    1347ももくさにやそくさそへてたまひてしちふさのむくいけふそわかする
    ももくさに やそくさそへて たまひてし ちふさのむくひ けふそわかする
    大僧正行基二十哀傷
    1348霊山の釈迦のみまへにちきりてし真如くちせすあひ見つるかな
    りやうせむの しやかのみまへに ちきりてし しむによくちせす あひみつるかな
    大僧正行基二十哀傷
    1349かひらゑにともにちきりしかひありて文殊のみかほあひ見つるかな
    かひらゑに ともにちきりし かひありて もむしゆのみかほ あひみつるかな
    婆羅門僧正二十哀傷
    1350しなてるやかたをか山にいひにうゑてふせるたひ人あはれおやなし
    しなてるや かたをかやまに いひにうゑて ふせるたひひと あはれおやなし
    聖徳太子二十哀傷
    1351いかるかやとみのを河のたえはこそわかおほきみのみなをわすれめ
    いかるかや とみのをかはの たえはこそ わかおほきみの みなをわすれめ
    読人知らず二十哀傷
    1352我はあすはのみやつまむさはのせり水はこほりてくきし見えねは
    われはあす はのみやつまむ さはのせり みつはこほりて くきしみえねは
    藤原輔相他巻異本歌
    1353むまよりはひつしはかりはあるものをとりにいぬるかかゐてきぬらむ
    うまよりは ひつしはかりは あるものを とりにいぬるか かひてきぬらむ
    読人知らず他巻異本歌
    1354うしと思ふ心をしはしなくさめむ後によひとをあはれと思はむ
    うしとおもふ こころをしはし なくさめむ のちによひとを あはれとおもはむ
    読人知らず他巻異本歌
    1355かも山のいはねしまきてあるわれをしらぬかいもかまちつつあらむ
    かもやまの いはねしまきて あるわれを しらぬかいもか まちつつあらむ
    柿本人麻呂(人麿)他巻異本歌
    1356日くるれはまつ人もきぬからいともよるをはあふといふはかりなり
    ひくるれは まつひともきぬ からいとも よるをはあふと いふはかりなり
    式部他巻異本歌
    1357よもやまのまほりにたのむあつさゆみ神のたからにいましつるかな
    よのなかの まもりにたのむ あつさゆみ かみのたからに いましつるかな
    不記他巻異本歌
    1358わかくさのいもものりたりわれものりふねかたふくなふなかせふくな
    わかくさの いもものりたり われものり ふねかたふくな ふなかせふくな
    不記他巻異本歌
    1359このこにて心をさなくとはすともおやのおやにてうらむへしやは
    このこにて こころをさなく とはすとも おやのおやにて うらむへしやは
    源重之他巻異本歌
    1360夢のうちの花に心をつけてこそこのよのなかはおもひしらるれ
    ゆめのうちの はなにこころを つけてこそ このよのなかは おもひしらるれ
    読人知らず他巻異本歌

    ※読人(作者)についてはできる限り正確に整えておりますが、誤りもある可能性があります。ご了承ください。

    ※御製歌は〇〇院としています。〇〇天皇の歌となります。

    ※作者検索をしたいときは、藤原、源といったいわゆる氏を除いた名のみで検索することをおすすめいたします。

    人麿は柿本人麻呂(人麿)としています。

    ※濁点につきましては原文通り加えておりません。時間的余裕があれば書き加えてまいります。