八代古今後撰拾遺後拾遺金葉詞花千載新古今百人一首六歌仙三十六歌仙枕詞動詞光る君へ
八代集のデータベース
八代集とは
- 古今和歌集から始まり、新古今までの8つの勅撰和歌集をいう。
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歌集名 成立 下命 撰者 特徴 古今和歌集 905年? 醍醐天皇 紀友則、紀貫之など 優美、理知的。雅。最も評価が高い。 後撰和歌集 958年? 村上天皇 清原元輔、大中臣能宣など 贈答歌が多い。 拾遺和歌集 1004~1012年? 花山院 藤原公任? 歌合、屏風歌。優美。 後拾遺和歌集 1086年 白河天皇 藤原通俊 和泉式部ら女流歌人が多い。 金葉和歌集 1127年 白河院 源俊頼 この時代の歌が多い。 詞花和歌集 1151年? 崇徳院 藤原顕輔 多様。清らか。 千載和歌集 1188年? 後白河院 藤原俊成 幽幻体。本歌取り。 新古今和歌集 1205年? 後鳥羽院 藤原定家、藤原家隆など 技巧的。収めた時代は広い。
八代集 言の葉データベース
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歌集 | 番号 | 歌 | 読人 | 種 |
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1-古今 | 1 | 年の内に 春はきにけり ひととせを 去年とや言はむ 今年とや言はむ としのうちに はるはきにけり ひととせを こそとやいはむ ことしとやいはむ | 在原元方 | 春上 |
1-古今 | 2 | 袖ひちて むすびし水の こほれるを 春立つ今日の 風やとくらむ そてひちて むすひしみつの こほれるを はるたつけふの かせやとくらむ | 紀貫之 | 春上 |
1-古今 | 3 | 春霞 立てるやいづこ み吉野の 吉野の山に 雪は降りつつ はるかすみ たてるやいつこ みよしのの よしののやまに ゆきはふりつつ | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 4 | 雪の内に 春はきにけり うぐひすの こほれる涙 今やとくらむ ゆきのうちに はるはきにけり うくひすの こほれるなみた いまやとくらむ | 二条后 | 春上 |
1-古今 | 5 | 梅が枝に きゐるうぐひす 春かけて 鳴けども今だ 雪は降りつつ うめかえに きゐるうくひす はるかけて なけともいまた ゆきはふりつつ | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 6 | 春たてば 花とや見らむ 白雪の かかれる枝に うぐひすの鳴く はるたては はなとやみらむ しらゆきの かかれるえたに うくひすそなく | 素性法師 | 春上 |
1-古今 | 7 | 心ざし 深く染めてし 折りければ 消えあへぬ雪の 花と見ゆらむ こころさし ふかくそめてし をりけれは きえあへぬゆきの はなとみゆらむ | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 8 | 春の日の 光に当たる 我なれど かしらの雪と なるぞわびしき はるのひの ひかりにあたる われなれと かしらのゆきと なるそわひしき | 文屋康秀 | 春上 |
1-古今 | 9 | 霞立ち 木の芽もはるの 雪降れば 花なき里も 花ぞ散りける かすみたち このめもはるの ゆきふれは はななきさとも はなそちりける | 紀貫之 | 春上 |
1-古今 | 10 | 春やとき 花やおそきと 聞きわかむ うぐひすだにも 鳴かずもあるかな はるやとき はなやおそきと ききわかむ うくひすたにも なかすもあるかな | 藤原言直 | 春上 |
1-古今 | 11 | 春きぬと 人は言へども うぐひすの 鳴かぬかぎりは あらじとぞ思ふ はるきぬと ひとはいへとも うくひすの なかぬかきりは あらしとそおもふ | 壬生忠岑 | 春上 |
1-古今 | 12 | 谷風に とくる氷の ひまごとに うち出づる浪や 春の初花 たにかせに とくるこほりの ひまことに うちいつるなみや はるのはつはな | 源当純 | 春上 |
1-古今 | 13 | 花の香を 風のたよりに たぐへてぞ うぐひすさそふ しるべにはやる はなのかを かせのたよりに たくへてそ うくひすさそふ しるへにはやる | 紀友則 | 春上 |
1-古今 | 14 | うぐひすの 谷よりいづる 声なくは 春くることを 誰か知らまし うくひすの たによりいつる こゑなくは はるくることを たれかしらまし | 大江千里 | 春上 |
1-古今 | 15 | 春たてど 花も匂はぬ 山里は ものうかるねに うぐひすぞ鳴く はるたてと はなもにほはぬ やまさとは ものうかるねに うくひすそなく | 在原棟梁 | 春上 |
1-古今 | 16 | 野辺近く いへゐしせれば うぐひすの 鳴くなる声は 朝な朝な聞く のへちかく いへゐしせれは うくひすの なくなるこゑは あさなあさなきく | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 17 | 春日野は 今日はな焼きそ 若草の つまもこもれり 我もこもれり かすかのは けふはなやきそ わかくさの つまもこもれり われもこもれり | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 18 | 春日野の とぶひの野守 いでて見よ 今いくかありて 若菜つみてむ かすかのの とふひののもり いててみよ いまいくかありて わかなつみてむ | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 19 | み山には 松の雪だに 消えなくに みやこは野辺の 若菜つみけり みやまには まつのゆきたに きえなくに みやこはのへの わかなつみけり | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 20 | 梓弓 押してはるさめ 今日降りぬ 明日さへ降らば 若菜つみてむ あつさゆみ おしてはるさめ けふふりぬ あすさへふらは わかなつみてむ | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 21 | 君がため 春の野にいでて 若菜つむ 我が衣手に 雪は降りつつ きみかため はるののにいてて わかなつむ わかころもてに ゆきはふりつつ | 仁和帝 | 春上 |
1-古今 | 22 | 春日野の 若菜つみにや 白妙の 袖ふりはへて 人のゆくらむ かすかのの わかなつみにや しろたへの そてふりはへて ひとのゆくらむ | 紀貫之 | 春上 |
1-古今 | 23 | 春の着る 霞の衣 ぬきを薄み 山風にこそ 乱るべらなれ はるのきる かすみのころも ぬきをうすみ やまかせにこそ みたるへらなれ | 在原行平 | 春上 |
1-古今 | 24 | ときはなる 松の緑も 春くれば 今ひとしほの 色まさりけり ときはなる まつのみとりも はるくれは いまひとしほの いろまさりけり | 源宗于 | 春上 |
1-古今 | 25 | 我が背子が 衣はるさめ ふるごとに 野辺の緑ぞ 色まさりける わかせこか ころもはるさめ ふることに のへのみとりそ いろまさりける | 紀貫之 | 春上 |
1-古今 | 26 | 青柳の 糸よりかくる 春しもぞ 乱れて花の ほころびにける あをやきの いとよりかくる はるしもそ みたれてはなの ほころひにける | 紀貫之 | 春上 |
1-古今 | 27 | 浅緑 糸よりかけて 白露を 珠にもぬける 春の柳か あさみとり いとよりかけて しらつゆを たまにもぬける はるのやなきか | 僧正遍昭 | 春上 |
1-古今 | 28 | ももちどり さへづる春は ものごとに あらたまれども 我ぞふりゆく ももちとり さへつるはるは ものことに あらたまれとも われそふりゆく | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 29 | をちこちの たづきも知らぬ 山なかに おぼつかなくも 呼子鳥かな をちこちの たつきもしらぬ やまなかに おほつかなくも よふことりかな | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 30 | 春くれば 雁かへるなり 白雲の 道ゆきぶりに ことやつてまし はるくれは かりかへるなり しらくもの みちゆきふりに ことやつてまし | 凡河内躬恒 | 春上 |
1-古今 | 31 | 春霞 立つを見捨てて ゆく雁は 花なき里に 住みやならへる はるかすみ たつをみすてて ゆくかりは はななきさとに すみやならへる | 伊勢 | 春上 |
1-古今 | 32 | 折りつれば 袖こそ匂へ 梅の花 ありとやここに うぐひすの鳴く をりつれは そてこそにほへ うめのはな ありとやここに うくひすのなく | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 33 | 色よりも 香こそあはれと 思ほゆれ たが袖ふれし 宿の梅ぞも いろよりも かこそあはれと おもほゆれ たかそてふれし やとのうめそも | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 34 | 宿近く 梅の花植ゑじ あぢきなく 待つ人の香に あやまたれけり やとちかく うめのはなうゑし あちきなく まつひとのかに あやまたれけり | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 35 | 梅の花 立ち寄るばかり ありしより 人のとがむる 香にぞしみぬる うめのはな たちよるはかり ありしより ひとのとかむる かにそしみぬる | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 36 | うぐひすの 笠にぬふてふ 梅の花 折りてかざさむ 老いかくるやと うくひすの かさにぬふといふ うめのはな をりてかささむ おいかくるやと | 東三条左大臣 | 春上 |
1-古今 | 37 | よそにのみ あはれとぞ見し 梅の花 あかぬ色かは 折りてなりけり よそにのみ あはれとそみし うめのはな あかぬいろかは をりてなりけり | 素性法師 | 春上 |
1-古今 | 38 | 君ならで 誰にか見せむ 梅の花 色をも香かをも 知る人ぞ知る きみならて たれにかみせむ うめのはな いろをもかをも しるひとそしる | 紀友則 | 春上 |
1-古今 | 39 | 梅の花 匂ふ春べは くらぶ山 闇に越ゆれど しるくぞありける うめのはな にほふはるへは くらふやま やみにこゆれと しるくそありける | 紀貫之 | 春上 |
1-古今 | 40 | 月夜には それとも見えず 梅の花 香をたづねてぞ 知るべかりける つきよには それともみえす うめのはな かをたつねてそ しるへかりける | 凡河内躬恒 | 春上 |
1-古今 | 41 | 春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそ見えね 香やは隠るる はるのよの やみはあやなし うめのはな いろこそみえね かやはかくるる | 凡河内躬恒 | 春上 |
1-古今 | 42 | 人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香に匂ひける ひとはいさ こころもしらす ふるさとは はなそむかしの かににほひける | 紀貫之 | 春上 |
1-古今 | 43 | 春ごとに 流るる川を 花と見て 折られぬ水に 袖や濡れなむ はることに なかるるかはを はなとみて をられぬみつに そてやぬれなむ | 伊勢 | 春上 |
1-古今 | 44 | 年をへて 花の鏡と なる水は 散りかかるをや 曇ると言ふらむ としをへて はなのかかみと なるみつは ちりかかるをや くもるといふらむ | 伊勢 | 春上 |
1-古今 | 45 | くるとあくと 目かれぬものを 梅の花 いつの人まに うつろひぬらむ くるとあくと めかれぬものを うめのはな いつのひとまに うつろひぬらむ | 紀貫之 | 春上 |
1-古今 | 46 | 梅が香を 袖にうつして とどめては 春はすぐとも 形見ならまし うめかかを そてにうつして ととめては はるはすくとも かたみならまし | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 47 | 散ると見て あるべきものを 梅の花 うたて匂ひの 袖にとまれる ちるとみて あるへきものを うめのはな うたてにほひの そてにとまれる | 素性法師 | 春上 |
1-古今 | 48 | 散りぬとも 香をだに残せ 梅の花 恋しき時の 思ひ出にせむ ちりぬとも かをたにのこせ うめのはな こひしきときの おもひいてにせむ | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 49 | 今年より 春知りそむる 桜花 散ると言ふことは ならはざらなむ ことしより はるしりそむる さくらはな ちるといふことは ならはさらなむ | 紀貫之 | 春上 |
1-古今 | 50 | 山高み 人もすさめぬ 桜花 いたくなわびそ 我見はやさむ やまたかみ ひともすさへぬ さくらはな いたくなわひそ われみはやさむ | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 51 | 山桜 我が見にくれば 春霞 峰にもをにも 立ち隠しつつ やまさくら わかみにくれは はるかすみ みねにもをにも たちかくしつつ | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 52 | 年ふれば よはひは老いぬ しかはあれど 花をし見れば 物思ひもなし としふれは よはひはおいぬ しかはあれと はなをしみれは ものおもひもなし | 前太政大臣 | 春上 |
1-古今 | 53 | 世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし よのなかに たえてさくらの なかりせは はるのこころは のとけからまし | 在原業平 | 春上 |
1-古今 | 54 | 石ばしる 滝なくもがな 桜花 手折りてもこむ 見ぬ人のため いしはしる たきなくもかな さくらはな たをりてもこむ みぬひとのため | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 55 | 見てのみや 人にかたらむ 桜花 手ごとに折りて いへづとにせむ みてのみや ひとにかたらむ さくらはな てことにをりて いへつとにせむ | 素性法師 | 春上 |
1-古今 | 56 | 見渡せば 柳桜を こきまぜて みやこぞ春の 錦なりける みわたせは やなきさくらを こきませて みやこそはるの にしきなりける | 素性法師 | 春上 |
1-古今 | 57 | 色も香も 同じ昔に さくらめど 年ふる人ぞ あらたまりける いろもかも おなしむかしに さくらめと としふるひとそ あらたまりける | 紀友則 | 春上 |
1-古今 | 58 | 誰しかも とめて折りつる 春霞 立ち隠すらむ 山の桜を たれしかも とめてをりつる はるかすみ たちかくすらむ やまのさくらを | 紀貫之 | 春上 |
1-古今 | 59 | 桜花 さきにけらしな あしひきの 山のかひより 見ゆる白雲 さくらはな さきにけらしな あしひきの やまのかひより みゆるしらくも | 紀貫之 | 春上 |
1-古今 | 60 | み吉野の 山辺にさける 桜花 雪かとのみぞ あやまたれける みよしのの やまへにさける さくらはな ゆきかとのみそ あやまたれける | 紀友則 | 春上 |
1-古今 | 61 | 桜花 春くははれる 年だにも 人の心に あかれやはせぬ さくらはな はるくははれる としたにも ひとのこころに あかれやはせぬ | 伊勢 | 春上 |
1-古今 | 62 | あだなりと 名にこそたてれ 桜花 年にまれなる 人も待ちけり あたなりと なにこそたてれ さくらはな としにまれなる ひともまちけり | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 63 | 今日こずは 明日は雪とぞ 降りなまし 消えずはありとも 花と見ましや けふこすは あすはゆきとそ ふりなまし きえすはありとも はなとみましや | 在原業平 | 春上 |
1-古今 | 64 | 散りぬれば 恋ふれどしるし なきものを 今日こそ桜 折らば折りてめ ちりぬれは こふれとしるし なきものを けふこそさくら をらはをりてめ | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 65 | 折りとらば 惜しげにもあるか 桜花 いざ宿かりて 散るまでは見む をりとらは をしけにもあるか さくらはな いさやとかりて ちるまてはみむ | 読人知らず | 春上 |
1-古今 | 66 | 桜色に 衣は深く 染めて着む 花の散りなむ のちの形見に さくらいろに ころもはふかく そめてきむ はなのちりなむ のちのかたみに | 紀有朋 | 春上 |
1-古今 | 67 | 我が宿の 花見がてらに くる人は 散りなむのちぞ 恋しかるべき わかやとの はなみかてらに くるひとは ちりなむのちそ こひしかるへき | 凡河内躬恒 | 春上 |
1-古今 | 68 | 見る人も なき山里の 桜花 ほかの散りなむ のちぞ咲かまし みるひとも なきやまさとの さくらはな ほかのちりなむ のちそさかまし | 伊勢 | 春上 |
1-古今 | 69 | 春霞 たなびく山の 桜花 うつろはむとや 色かはりゆく はるかすみ たなひくやまの さくらはな うつろはむとや いろかはりゆく | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 70 | 待てと言ふに 散らでしとまる ものならば 何を桜に 思ひまさまし まてといふに ちらてしとまる ものならは なにをさくらに おもひまさまし | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 71 | 残りなく 散るぞめでたき 桜花 ありて世の中 はての憂ければ のこりなく ちるそめてたき さくらはな ありてよのなか はてのうけれは | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 72 | この里に 旅寝しぬべし 桜花 散りのまがひに 家路忘れて このさとに たひねしぬへし さくらはな ちりのまかひに いへちわすれて | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 73 | 空蝉の 世にも似たるか 花桜 咲くと見しまに かつ散りにけり うつせみの よにもにたるか はなさくら さくとみしまに かつちりにけり | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 74 | 桜花 散らば散らなむ 散らずとて ふるさと人の きても見なくに さくらはな ちらはちらなむ ちらすとて ふるさとひとの きてもみなくに | 惟喬親王 | 春下 |
1-古今 | 75 | 桜散る 花のところは 春ながら 雪ぞ降りつつ 消えがてにする さくらちる はなのところは はるなから ゆきそふりつつ きえかてにする | 承均法師 | 春下 |
1-古今 | 76 | 花散らす 風の宿りは 誰か知る 我に教へよ 行きてうらみむ はなちらす かせのやとりは たれかしる われにをしへよ ゆきてうらみむ | 素性法師 | 春下 |
1-古今 | 77 | いざ桜 我も散りなむ ひとさかり ありなば人に うきめ見えなむ いささくら われもちりなむ ひとさかり ありなはひとに うきめみえなむ | 承均法師 | 春下 |
1-古今 | 78 | ひと目見し 君もや来ると 桜花 今日は待ちみて 散らば散らなむ ひとめみし きみもやくると さくらはな けふはまちみて ちらはちらなむ | 紀貫之 | 春下 |
1-古今 | 79 | 春霞 何隠すらむ 桜花 散る間をだにも 見るべきものを はるかすみ なにかくすらむ さくらはな ちるまをたにも みるへきものを | 紀貫之 | 春下 |
1-古今 | 80 | たれこめて 春のゆくへも 知らぬ間に 待ちし桜も うつろひにけり たれこめて はるのゆくへも しらぬまに まちしさくらも うつろひにけり | 藤原因香 | 春下 |
1-古今 | 81 | 枝よりも あだに散りにし 花なれば 落ちても水の 泡とこそなれ えたよりも あたにちりにし はななれは おちてもみつの あわとこそなれ | 菅野高世 | 春下 |
1-古今 | 82 | ことならば 咲かずやはあらぬ 桜花 見る我さへに しづ心なし ことならは さかすやはあらぬ さくらはな みるわれさへに しつこころなし | 紀貫之 | 春下 |
1-古今 | 83 | 桜花 とく散りぬとも 思ほえず 人の心ぞ 風も吹きあへぬ さくらはな とくちりぬとも おもほえす ひとのこころそ かせもふきあへぬ | 紀貫之 | 春下 |
1-古今 | 84 | 久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ ひさかたの ひかりのとけき はるのひに しつこころなく はなのちるらむ | 紀友則 | 春下 |
1-古今 | 85 | 春風は 花のあたりを よぎて吹け 心づからや うつろふと見む はるかせは はなのあたりを よきてふけ こころつからや うつろふとみむ | 藤原好風 | 春下 |
1-古今 | 86 | 雪とのみ 降るだにあるを 桜花 いかに散れとか 風の吹くらむ ゆきとのみ ふるたにあるを さくらはな いかにちれとか かせのふくらむ | 凡河内躬恒 | 春下 |
1-古今 | 87 | 山高み 見つつ我がこし 桜花 風は心に まかすべらなり やまたかみ みつつわかこし さくらはな かせはこころに まかすへらなり | 紀貫之 | 春下 |
1-古今 | 88 | 春雨の 降るは涙か 桜花 散るを惜しまぬ 人しなければ はるさめの ふるはなみたか さくらはな ちるををしまぬ ひとしなけれは | 大友黒主 | 春下 |
1-古今 | 89 | 桜花 散りぬる風の なごりには 水なき空に 浪ぞたちける さくらはな ちりぬるかせの なこりには みつなきそらに なみそたちける | 紀貫之 | 春下 |
1-古今 | 90 | ふるさとと なりにし奈良の みやこにも 色はかはらず 花は咲きけり ふるさとと なりにしならの みやこにも いろはかはらす はなはさきけり | 奈良帝 | 春下 |
1-古今 | 91 | 花の色は 霞にこめて 見せずとも 香をだにぬすめ 春の山風 はなのいろは かすみにこめて みせすとも かをたにぬすめ はるのやまかせ | 良岑宗貞 | 春下 |
1-古今 | 92 | 花の木も 今はほり植ゑじ 春たてば うつろふ色に 人ならひけり はなのきも いまはほりうゑし はるたては うつろふいろに ひとならひけり | 素性法師 | 春下 |
1-古今 | 93 | 春の色の いたりいたらぬ 里はあらじ 咲ける咲かざる 花の見ゆらむ はるのいろの いたりいたらぬ さとはあらし さけるさかさる はなのみゆらむ | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 94 | 三輪山を しかも隠すか 春霞 人に知られぬ 花や咲くらむ みわやまを しかもかくすか はるかすみ ひとにしられぬ はなやさくらむ | 紀貫之 | 春下 |
1-古今 | 95 | いざ今日は 春の山辺に まじりなむ 暮れなばなげの 花のかげかは いさけふは はるのやまへに ましりなむ くれなはなけの はなのかけかは | 素性法師 | 春下 |
1-古今 | 96 | いつまでか 野辺に心の あくがれむ 花し散らずは 千代もへぬべし いつまてか のへにこころの あくかれむ はなしちらすは ちよもへぬへし | 素性法師 | 春下 |
1-古今 | 97 | 春ごとに 花のさかりは ありなめど あひ見むことは 命なりけり はることに はなのさかりは ありなめと あひみむことは いのちなりけり | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 98 | 花のごと 世のつねならば すぐしてし 昔はまたも かへりきなまし はなのこと よのつねならは すくしてし むかしはまたも かへりきなまし | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 99 | 吹く風に あつらへつくる ものならば このひともとは よぎよと言はまし ふくかせに あつらへつくる ものならは このひともとは よきよといはまし | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 100 | 待つ人も 来ぬものゆゑに うぐひすの 鳴きつる花を 折りてけるかな まつひとも こぬものゆゑに うくひすの なきつるはなを をりてけるかな | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 101 | 咲く花は ちぐさながらに あだなれど 誰かは春を うらみはてたる さくはなは ちくさなからに あたなれと たれかははるを うらみはてたる | 藤原興風 | 春下 |
1-古今 | 102 | 春霞 色のちぐさに 見えつるは たなびく山の 花のかげかも はるかすみ いろのちくさに みえつるは たなひくやまの はなのかけかも | 藤原興風 | 春下 |
1-古今 | 103 | 霞立つ 春の山辺は 遠けれど 吹きくる風は 花の香ぞする かすみたつ はるのやまへは とほけれと ふきくるかせは はなのかそする | 在原元方 | 春下 |
1-古今 | 104 | 花見れば 心さへにぞ うつりける 色にはいでじ 人もこそ知れ はなみれは こころさへにそ うつりける いろにはいてし ひともこそしれ | 凡河内躬恒 | 春下 |
1-古今 | 105 | うぐひすの 鳴く野辺ごとに 来て見れば うつろふ花に 風ぞ吹きける うくひすの なくのへことに きてみれは うつろふはなに かせそふきける | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 106 | 吹く風を 鳴きてうらみよ うぐひすは 我やは花に 手だにふれたる ふくかせを なきてうらみよ うくひすは われやははなに てたにふれたる | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 107 | 散る花の なくにしとまる ものならば 我うぐひすに おとらましやは ちるはなの なくにしとまる ものならは われうくひすに おとらましやは | 春澄洽子 | 春下 |
1-古今 | 108 | 花の散る ことやわびしき 春霞 たつたの山の うぐひすの声 はなのちる ことやわひしき はるかすみ たつたのやまの うくひすのこゑ | 藤原後蔭 | 春下 |
1-古今 | 109 | こづたへば おのが羽かぜに 散る花を 誰におほせて ここら鳴くらむ こつたへは おのかはかせに ちるはなを たれにおほせて ここらなくらむ | 素性法師 | 春下 |
1-古今 | 110 | しるしなき 音をも鳴くかな うぐひすの 今年のみ散る 花ならなくに しるしなき ねをもなくかな うくひすの ことしのみちる はなならなくに | 凡河内躬恒 | 春下 |
1-古今 | 111 | 駒なめて いざ見にゆかむ ふるさとは 雪とのみこそ 花は散るらめ こまなへて いさみにゆかむ ふるさとは ゆきとのみこそ はなはちるらめ | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 112 | 散る花を 何かうらみむ 世の中に 我が身も共に あらむものかは ちるはなを なにかうらみむ よのなかに わかみもともに あらむものかは | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 113 | 花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに はなのいろは うつりにけりな いたつらに わかみよにふる なかめせしまに | 小野小町 | 春下 |
1-古今 | 114 | 惜しと思ふ 心は糸に よられなむ 散る花ごとに ぬきてとどめむ をしとおもふ こころはいとに よられなむ ちるはなことに ぬきてととめむ | 素性法師 | 春下 |
1-古今 | 115 | 梓弓 はるの山辺を 越えくれば 道もさりあへず 花ぞ散りける あつさゆみ はるのやまへを こえくれは みちもさりあへす はなそちりける | 紀貫之 | 春下 |
1-古今 | 116 | 春の野に 若菜つまむと こしものを 散りかふ花に 道は惑ひぬ はるののに わかなつまむと こしものを ちりかふはなに みちはまとひぬ | 紀貫之 | 春下 |
1-古今 | 117 | 宿りして 春の山辺に 寝たる夜は 夢の内にも 花ぞ散りける やとりして はるのやまへに ねたるよは ゆめのうちにも はなそちりける | 紀貫之 | 春下 |
1-古今 | 118 | 吹く風と 谷の水とし なかりせば み山隠れの 花を見ましや ふくかせと たにのみつとし なかりせは みやまかくれの はなをみましや | 紀貫之 | 春下 |
1-古今 | 119 | よそに見て かへらむ人に 藤の花 はひまつはれよ 枝は折るとも よそにみて かへらむひとに ふちのはな はひまつはれよ えたはをるとも | 僧正遍昭 | 春下 |
1-古今 | 120 | 我が宿に 咲ける藤波 立ち返り すぎがてにのみ 人の見るらむ わかやとに さけるふちなみ たちかへり すきかてにのみ ひとのみるらむ | 凡河内躬恒 | 春下 |
1-古今 | 121 | 今もかも 咲き匂ふらむ 橘の こじまのさきの 山吹の花 いまもかも さきにほふらむ たちはなの こしまのさきの やまふきのはな | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 122 | 春雨に 匂へる色も あかなくに 香さへなつかし 山吹の花 はるさめに にほへるいろも あかなくに かさへなつかし やまふきのはな | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 123 | 山吹は あやなな咲きそ 花見むと 植ゑけむ君が 今宵来なくに やまふきは あやななさきそ はなみむと うゑけむきみか こよひこなくに | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 124 | 吉野川 岸の山吹 吹く風に 底の影さへ うつろひにけり よしのかは きしのやまふき ふくかせに そこのかけさへ うつろひにけり | 紀貫之 | 春下 |
1-古今 | 125 | かはづなく ゐでの山吹 散りにけり 花のさかりに あはましものを かはつなく ゐてのやまふき ちりにけり はなのさかりに あはましものを | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 126 | おもふどち 春の山辺に うちむれて そことも言はぬ 旅寝してしか おもふとち はるのやまへに うちむれて そこともいはぬ たひねしてしか | 素性法師 | 春下 |
1-古今 | 127 | 梓弓 春たちしより 年月の いるがごとくも 思ほゆるかな あつさゆみ はるたちしより としつきの いるかことくも おもほゆるかな | 凡河内躬恒 | 春下 |
1-古今 | 128 | 鳴きとむる 花しなければ うぐひすも はてはものうく なりぬべらなり なきとむる はなしなけれは うくひすも はてはものうく なりぬへらなり | 紀貫之 | 春下 |
1-古今 | 129 | 花散れる 水のまにまに とめくれば 山には春も なくなりにけり はなちれる みつのまにまに とめくれは やまにははるも なくなりにけり | 清原深養父 | 春下 |
1-古今 | 130 | 惜しめども とどまらなくに 春霞 かへる道にし たちぬと思へば をしめとも ととまらなくに はるかすみ かへるみちにし たちぬとおもへは | 在原元方 | 春下 |
1-古今 | 131 | 声絶えず 鳴けやうぐひす ひととせに ふたたびとだに 来べき春かは こゑたえす なけやうくひす ひととせに ふたたひとたに くへきはるかは | 藤原興風 | 春下 |
1-古今 | 132 | とどむべき ものとはなしに はかなくも 散る花ごとに たぐふ心か ととむへき ものとはなしに はかなくも ちるはなことに たくふこころか | 凡河内躬恒 | 春下 |
1-古今 | 133 | 濡れつつぞ しひて折りつる 年の内に 春はいくかも あらじと思へば ぬれつつそ しひてをりつる としのうちに はるはいくかも あらしとおもへは | 在原業平 | 春下 |
1-古今 | 134 | 今日のみと 春を思はぬ 時だにも 立つことやすき 花のかげかは けふのみと はるをおもはぬ ときたにも たつことやすき はなのかけかは | 凡河内躬恒 | 春下 |
1-古今 | 135 | 我が宿の 池の藤波 咲きにけり 山郭公 いつか来鳴かむ わかやとの いけのふちなみ さきにけり やまほとときす いつかきなかむ | 読人知らず | 春下 |
1-古今 | 136 | あはれてふ ことをあまたに やらじとや 春におくれて ひとり咲くらむ あはれてふ ことをあまたに やらしとや はるにおくれて ひとりさくらむ | 紀利貞 | 夏 |
1-古今 | 137 | 五月待つ 山郭公 うちはぶき 今も鳴かなむ 去年のふる声 さつきまつ やまほとときす うちはふき いまもなかなむ こそのふるこゑ | 読人知らず | 夏 |
1-古今 | 138 | 五月こば 鳴きもふりなむ 郭公 まだしきほどの 声を聞かばや さつきこは なきもふりなむ ほとときす またしきほとの こゑをきかはや | 伊勢 | 夏 |
1-古今 | 139 | 五月待つ 花橘の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする さつきまつ はなたちはなの かをかけは むかしのひとの そてのかそする | 読人知らず | 夏 |
1-古今 | 140 | いつの間に 五月来ぬらむ あしひきの 山郭公 今ぞ鳴くなる いつのまに さつききぬらむ あしひきの やまほとときす いまそなくなる | 読人知らず | 夏 |
1-古今 | 141 | 今朝き鳴き いまだ旅なる 郭公 花橘に 宿はからなむ けさきなき いまたたひなる ほとときす はなたちはなに やとはからなむ | 読人知らず | 夏 |
1-古今 | 142 | 音羽山 今朝越えくれば 郭公 梢はるかに 今ぞ鳴くなる おとはやま けさこえくれは ほとときす こすゑはるかに いまそなくなる | 紀友則 | 夏 |
1-古今 | 143 | 郭公 初声聞けば あぢきなく 主さだまらぬ 恋せらるはた ほとときす はつこゑきけは あちきなく ぬしさたまらぬ こひせらるはた | 素性法師 | 夏 |
1-古今 | 144 | いそのかみ ふるきみやこの 郭公 声ばかりこそ 昔なりけれ いそのかみ ふるきみやこの ほとときす こゑはかりこそ むかしなりけれ | 素性法師 | 夏 |
1-古今 | 145 | 夏山に 鳴く郭公 心あらば 物思ふ我に 声な聞かせそ なつやまに なくほとときす こころあらは ものおもふわれに こゑなきかせそ | 読人知らず | 夏 |
1-古今 | 146 | 郭公 鳴く声聞けば 別れにし ふるさとさへぞ 恋しかりける ほとときす なくこゑきけは わかれにし ふるさとさへそ こひしかりける | 読人知らず | 夏 |
1-古今 | 147 | 郭公 なが鳴く里の あまたあれば なほうとまれぬ 思ふものから ほとときす なかなくさとの あまたあれは なほうとまれぬ おもふものから | 読人知らず | 夏 |
1-古今 | 148 | 思ひいづる ときはの山の 郭公 唐紅の ふりいでてぞ鳴く おもひいつる ときはのやまの ほとときす からくれなゐの ふりいててそなく | 読人知らず | 夏 |
1-古今 | 149 | 声はして 涙は見えぬ 郭公 我が衣手の ひつをからなむ こゑはして なみたはみえぬ ほとときす わかころもての ひつをからなむ | 読人知らず | 夏 |
1-古今 | 150 | あしひきの 山郭公 をりはへて 誰かまさると 音をのみぞ鳴く あしひきの やまほとときす をりはへて たれかまさると ねをのみそなく | 読人知らず | 夏 |
1-古今 | 151 | 今さらに 山へかへるな 郭公 声のかぎりは 我が宿に鳴け いまさらに やまへかへるな ほとときす こゑのかきりは わかやとになけ | 読人知らず | 夏 |
1-古今 | 152 | やよやまて 山郭公 ことづてむ 我れ世の中に 住みわびぬとよ やよやまて やまほとときす ことつてむ われよのなかに すみわひぬとよ | 三国町 | 夏 |
1-古今 | 153 | 五月雨に 物思ひをれば 郭公 夜深く鳴きて いづち行くらむ さみたれに ものおもひをれは ほとときす よふかくなきて いつちゆくらむ | 紀友則 | 夏 |
1-古今 | 154 | 夜や暗き 道や惑へる 郭公 我が宿をしも すぎがてに鳴く よやくらき みちやまとへる ほとときす わかやとをしも すきかてになく | 紀友則 | 夏 |
1-古今 | 155 | 宿りせし 花橘も 枯れなくに など郭公 声絶えぬらむ やとりせし はなたちはなも かれなくに なとほとときす こゑたえぬらむ | 大江千里 | 夏 |
1-古今 | 156 | 夏の夜の ふすかとすれば 郭公 鳴くひと声に 明くるしののめ なつのよの ふすかとすれは ほとときす なくひとこゑに あくるしののめ | 紀貫之 | 夏 |
1-古今 | 157 | くるるかと 見れば明けぬる 夏の夜を あかずとや鳴く 山郭公 くるるかと みれはあけぬる なつのよを あかすとやなく やまほとときす | 壬生忠岑 | 夏 |
1-古今 | 158 | 夏山に 恋しき人や 入りにけむ 声ふりたてて 鳴く郭公 なつやまに こひしきひとや いりにけむ こゑふりたてて なくほとときす | 紀秋岑 | 夏 |
1-古今 | 159 | 去年の夏 鳴きふるしてし 郭公 それかあらぬか 声のかはらぬ こそのなつ なきふるしてし ほとときす それかあらぬか こゑのかはらぬ | 読人知らず | 夏 |
1-古今 | 160 | 五月雨の 空もとどろに 郭公 何を憂しとか 夜ただ鳴くらむ さみたれの そらもととろに ほとときす なにをうしとか よたたなくらむ | 紀貫之 | 夏 |
1-古今 | 161 | 郭公 声も聞こえず 山彦は ほかになく音を 答へやはせぬ ほとときす こゑもきこえす やまひこは ほかになくねを こたへやはせぬ | 凡河内躬恒 | 夏 |
1-古今 | 162 | 郭公 人まつ山に 鳴くなれば 我うちつけに 恋ひまさりけり ほとときす ひとまつやまに なくなれは われうちつけに こひまさりけり | 紀貫之 | 夏 |
1-古今 | 163 | 昔べや 今も恋しき 郭公 ふるさとにしも 鳴きてきつらむ むかしへや いまもこひしき ほとときす ふるさとにしも なきてきつらむ | 壬生忠岑 | 夏 |
1-古今 | 164 | 郭公 我とはなしに 卯の花の うき世の中に 鳴き渡るらむ ほとときす われとはなしに うのはなの うきよのなかに なきわたるらむ | 凡河内躬恒 | 夏 |
1-古今 | 165 | はちす葉の にごりにしまぬ 心もて 何かは露を 珠とあざむく はちすはの にこりにしまぬ こころもて なにかはつゆを たまとあさむく | 僧正遍昭 | 夏 |
1-古今 | 166 | 夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ なつのよは またよひなから あけぬるを くものいつこに つきやとるらむ | 清原深養父 | 夏 |
1-古今 | 167 | 塵をだに すゑじとぞ思ふ 咲きしより 妹と我が寝る 常夏の花 ちりをたに すゑしとそおもふ さきしより いもとわかぬる とこなつのはな | 凡河内躬恒 | 夏 |
1-古今 | 168 | 夏と秋と 行きかふ空の かよひぢは かたへ涼しき 風や吹くらむ なつとあきと ゆきかふそらの かよひちは かたへすすしき かせやふくらむ | 凡河内躬恒 | 夏 |
1-古今 | 169 | 秋きぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる あききぬと めにはさやかに みえねとも かせのおとにそ おとろかれぬる | 藤原敏行 | 秋上 |
1-古今 | 170 | 川風の 涼しくもあるか うちよする 浪とともにや 秋は立つらむ かはかせの すすしくもあるか うちよする なみとともにや あきはたつらむ | 紀貫之 | 秋上 |
1-古今 | 171 | 我が背子が 衣の裾を 吹き返し うらめづらしき 秋の初風 わかせこか ころものすそを ふきかへし うらめつらしき あきのはつかせ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 172 | 昨日こそ 早苗とりしか いつの間に 稲葉そよぎて 秋風の吹く きのふこそ さなへとりしか いつのまに いなはそよきて あきかせのふく | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 173 | 秋風の 吹きにし日より 久方の 天の河原に 立たぬ日はなし あきかせの ふきにしひより ひさかたの あまのかはらに たたぬひはなし | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 174 | 久方の 天の河原の 渡し守 君渡りなば かぢかくしてよ ひさかたの あまのかはらの わたしもり きみわたりなは かちかくしてよ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 175 | 天の河 紅葉を橋に わたせばや 七夕つめの 秋をしも待つ あまのかは もみちをはしに わたせはや たなはたつめの あきをしもまつ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 176 | 恋ひ恋ひて あふ夜は今宵 天の河 霧立ちわたり 明けずもあらなむ こひこひて あふよはこよひ あまのかは きりたちわたり あけすもあらなむ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 177 | 天の河 浅瀬しら浪 たどりつつ 渡りはてねば 明けぞしにける あまのかは あさせしらなみ たとりつつ わたりはてねは あけそしにける | 紀友則 | 秋上 |
1-古今 | 178 | 契りけむ 心ぞつらき 七夕の 年にひとたび あふはあふかは ちきりけむ こころそつらき たなはたの としにひとたひ あふはあふかは | 藤原興風 | 秋上 |
1-古今 | 179 | 年ごとに あふとはすれど 七夕の 寝る夜の数ぞ 少なかりける としことに あふとはすれと たなはたの ぬるよのかすそ すくなかりける | 凡河内躬恒 | 秋上 |
1-古今 | 180 | 七夕に かしつる糸の うちはへて 年のを長く 恋ひや渡らむ たなはたに かしつるいとの うちはへて としのをなかく こひやわたらむ | 凡河内躬恒 | 秋上 |
1-古今 | 181 | 今宵こむ 人にはあはじ 七夕の 久しきほどに 待ちもこそすれ こよひこむ ひとにはあはし たなはたの ひさしきほとに まちもこそすれ | 素性法師 | 秋上 |
1-古今 | 182 | 今はとて 別るる時は 天の河 渡らぬ先に 袖ぞひちぬる いまはとて わかるるときは あまのかは わたらぬさきに そてそひちぬる | 源宗于 | 秋上 |
1-古今 | 183 | 今日よりは 今こむ年の 昨日をぞ いつしかとのみ 待ち渡るべき けふよりは いまこむとしの きのふをそ いつしかとのみ まちわたるへき | 壬生忠岑 | 秋上 |
1-古今 | 184 | 木の間より もりくる月の 影見れば 心づくしの 秋はきにけり このまより もりくるつきの かけみれは こころつくしの あきはきにけり | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 185 | おほかたの 秋くるからに 我が身こそ かなしきものと 思ひ知りぬれ おほかたの あきくるからに わかみこそ かなしきものと おもひしりぬれ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 186 | 我がために くる秋にしも あらなくに 虫の音聞けば まづぞかなしき わかために くるあきにしも あらなくに むしのねきけは まつそかなしき | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 187 | ものごとに 秋ぞかなしき もみぢつつ うつろひゆくを かぎりと思へば ものことに あきそかなしき もみちつつ うつろひゆくを かきりとおもへは | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 188 | ひとり寝る 床は草葉に あらねども 秋くる宵は 露けかりけり ひとりぬる とこはくさはに あらねとも あきくるよひは つゆけかりけり | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 189 | いつはとは 時はわかねど 秋の夜ぞ 物思ふことの かぎりなりける いつはとは ときはわかねと あきのよそ ものおもふことの かきりなりける | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 190 | かくばかり 惜しと思ふ夜を いたづらに 寝て明かすらむ 人さへぞうき かくはかり をしとおもふよを いたつらに ねてあかすらむ ひとさへそうき | 凡河内躬恒 | 秋上 |
1-古今 | 191 | 白雲に 羽うちかはし 飛ぶ雁の 数さへ見ゆる 秋の夜の月 しらくもに はねうちかはし とふかりの かすさへみゆる あきのよのつき | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 192 | 小夜中と 夜はふけぬらし 雁がねの 聞こゆる空に 月渡る見ゆ さよなかと よはふけぬらし かりかねの きこゆるそらに つきわたるみゆ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 193 | 月見れば ちぢにものこそ かなしけれ 我が身ひとつの 秋にはあらねど つきみれは ちちにものこそ かなしけれ わかみひとつの あきにはあらねと | 大江千里 | 秋上 |
1-古今 | 194 | 久方の 月の桂も 秋はなほ もみぢすればや 照りまさるらむ ひさかたの つきのかつらも あきはなほ もみちすれはや てりまさるらむ | 壬生忠岑 | 秋上 |
1-古今 | 195 | 秋の夜の 月の光し あかければ くらぶの山も 越えぬべらなり あきのよの つきのひかりし あかけれは くらふのやまも こえぬへらなり | 在原元方 | 秋上 |
1-古今 | 196 | きりぎりす いたくな鳴きそ 秋の夜の 長き思ひは 我ぞまされる きりきりす いたくななきそ あきのよの なかきおもひは われそまされる | 藤原忠房 | 秋上 |
1-古今 | 197 | 秋の夜の 明くるも知らず 鳴く虫は 我がごとものや かなしかるらむ あきのよの あくるもしらす なくむしは わかことものや かなしかるらむ | 藤原敏行 | 秋上 |
1-古今 | 198 | 秋萩も 色づきぬれば きりぎりす 我が寝ぬごとや 夜はかなしき あきはきも いろつきぬれは きりきりす わかねぬことや よるはかなしき | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 199 | 秋の夜は 露こそことに 寒からし 草むらごとに 虫のわぶれば あきのよは つゆこそことに さむからし くさむらことに むしのわふれは | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 200 | 君しのぶ 草にやつるる ふるさとは 松虫の音ぞ かなしかりける きみしのふ くさにやつるる ふるさとは まつむしのねそ かなしかりける | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 201 | 秋の野に 道も惑ひぬ 松虫の 声する方に 宿やからまし あきののに みちもまとひぬ まつむしの こゑするかたに やとやからまし | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 202 | 秋の野に 人まつ虫の 声すなり 我かとゆきて いざとぶらはむ あきののに ひとまつむしの こゑすなり われかとゆきて いさとふらはむ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 203 | もみぢ葉の 散りてつもれる 我が宿に 誰をまつ虫 ここら鳴くらむ もみちはの ちりてつもれる わかやとに たれをまつむし ここらなくらむ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 204 | ひぐらしの 鳴きつるなへに 日は暮れぬと 思ふは山の かげにぞありける ひくらしの なきつるなへに ひはくれぬと おもふはやまの かけにそありける | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 205 | ひぐらしの 鳴く山里の 夕暮れは 風よりほかに とふ人もなし ひくらしの なくやまさとの ゆふくれは かせよりほかに とふひともなし | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 206 | 待つ人に あらぬものから 初雁の 今朝鳴く声の めづらしきかな まつひとに あらぬものから はつかりの けさなくこゑの めつらしきかな | 在原元方 | 秋上 |
1-古今 | 207 | 秋風に 初雁がねぞ 聞こゆなる たがたまづさを かけてきつらむ あきかせに はつかりかねそ きこゆなる たかたまつさを かけてきつらむ | 紀友則 | 秋上 |
1-古今 | 208 | 我が門に いなおほせ鳥の 鳴くなへに 今朝吹く風に 雁はきにけり わかかとに いなおほせとりの なくなへに けさふくかせに かりはきにけり | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 209 | いとはやも 鳴きぬる雁か 白露の 色どる木ぎも もみぢあへなくに いとはやも なきぬるかりか しらつゆの いろとるききも もみちあへなくに | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 210 | 春霞 かすみていにし 雁がねは 今ぞ鳴くなる 秋霧の上に はるかすみ かすみていにし かりかねは いまそなくなる あききりのうへに | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 211 | 夜を寒み 衣かりがね 鳴くなへに 萩の下葉も うつろひにけり よをさむみ ころもかりかね なくなへに はきのしたはも うつろひにけり | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 212 | 秋風に 声を帆にあげて くる舟は 天の門渡る 雁にぞありける あきかせに こゑをほにあけて くるふねは あまのとわたる かりにそありける | 藤原菅根 | 秋上 |
1-古今 | 213 | 憂きことを 思ひつらねて 雁がねの 鳴きこそわたれ 秋の夜な夜な うきことを おもひつらねて かりかねの なきこそわたれ あきのよなよな | 凡河内躬恒 | 秋上 |
1-古今 | 214 | 山里は 秋こそことに わびしけれ 鹿の鳴く音に 目を覚ましつつ やまさとは あきこそことに わひしけれ しかのなくねに めをさましつつ | 壬生忠岑 | 秋上 |
1-古今 | 215 | 奥山に もみぢ踏みわけ 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋はかなしき おくやまに もみちふみわけ なくしかの こゑきくときそ あきはかなしき | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 216 | 秋萩に うらびれをれば あしひきの 山下とよみ 鹿の鳴くらむ あきはきに うらひれをれは あしひきの やましたとよみ しかのなくらむ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 217 | 秋萩を しがらみふせて 鳴く鹿の 目には見えずて 音のさやけさ あきはきを しからみふせて なくしかの めにはみえすて おとのさやけさ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 218 | 秋萩の 花咲きにけり 高砂の 尾上の鹿は 今や鳴くらむ あきはきの はなさきにけり たかさこの をのへのしかは いまやなくらむ | 藤原敏行 | 秋上 |
1-古今 | 219 | 秋萩の 古枝に咲ける 花見れば もとの心は 忘れざりけり あきはきの ふるえにさける はなみれは もとのこころは わすれさりけり | 凡河内躬恒 | 秋上 |
1-古今 | 220 | 秋萩の 下葉色づく 今よりや ひとりある人の いねがてにする あきはきの したはいろつく いまよりや ひとりあるひとの いねかてにする | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 221 | 鳴き渡る 雁の涙や 落ちつらむ 物思ふ宿の 萩の上の露 なきわたる かりのなみたや おちつらむ ものおもふやとの はきのうへのつゆ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 222 | 萩の露 玉にぬかむと とればけぬ よし見む人は 枝ながら見よ はきのつゆ たまにぬかむと とれはけぬ よしみむひとは えたなからみよ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 223 | 折りてみば 落ちぞしぬべき 秋萩の 枝もたわわに 置ける白露 をりてみは おちそしぬへき あきはきの えたもたわわに おけるしらつゆ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 224 | 萩が花 散るらむ小野の 露霜に 濡れてをゆかむ 小夜はふくとも はきかはな ちるらむをのの つゆしもに ぬれてをゆかむ さよはふくとも | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 225 | 秋の野に 置く白露は 玉なれや つらぬきかくる くもの糸すぢ あきののに おくしらつゆは たまなれや つらぬきかくる くものいとすち | 文屋朝康 | 秋上 |
1-古今 | 226 | 名にめでて 折れるばかりぞ 女郎花 我おちにきと 人にかたるな なにめてて をれるはかりそ をみなへし われおちにきと ひとにかたるな | 僧正遍昭 | 秋上 |
1-古今 | 227 | 女郎花 憂しと見つつぞ ゆきすぐる 男山にし 立てりと思へば をみなへし うしとみつつそ ゆきすくる をとこやまにし たてりとおもへは | 布留今道 | 秋上 |
1-古今 | 228 | 秋の野に 宿りはすべし 女郎花 名をむつまじみ 旅ならなくに あきののに やとりはすへし をみなへし なをむつましみ たひならなくに | 藤原敏行 | 秋上 |
1-古今 | 229 | 女郎花 おほかる野辺に 宿りせば あやなくあだの 名をやたちなむ をみなへし おほかるのへに やとりせは あやなくあたの なをやたちなむ | 小野美材 | 秋上 |
1-古今 | 230 | 女郎花 秋の野風に うちなびき 心ひとつを 誰によすらむ をみなへし あきののかせに うちなひき こころひとつを たれによすらむ | 左大臣 | 秋上 |
1-古今 | 231 | 秋ならで あふことかたき 女郎花 天の河原に おひぬものゆゑ あきならて あふことかたき をみなへし あまのかはらに おひぬものゆゑ | 藤原定方 | 秋上 |
1-古今 | 232 | たが秋に あらぬものゆゑ 女郎花 なぞ色にいでて まだきうつろふ たかあきに あらぬものゆゑ をみなへし なそいろにいてて またきうつろふ | 紀貫之 | 秋上 |
1-古今 | 233 | つま恋ふる 鹿ぞ鳴くなる 女郎花 おのがすむ野の 花と知らずや つまこふる しかそなくなる をみなへし おのかすむのの はなとしらすや | 凡河内躬恒 | 秋上 |
1-古今 | 234 | 女郎花 吹きすぎてくる 秋風は 目には見えねど 香こそしるけれ をみなへし ふきすきてくる あきかせは めにはみえねと かこそしるけれ | 凡河内躬恒 | 秋上 |
1-古今 | 235 | 人の見る ことやくるしき 女郎花 秋霧にのみ 立ち隠るらむ ひとのみる ことやくるしき をみなへし あききりにのみ たちかくるらむ | 壬生忠岑 | 秋上 |
1-古今 | 236 | ひとりのみ ながむるよりは 女郎花 我が住む宿に 植ゑて見ましを ひとりのみ なかむるよりは をみなへし わかすむやとに うゑてみましを | 壬生忠岑 | 秋上 |
1-古今 | 237 | 女郎花 うしろめたくも 見ゆるかな 荒れたる宿に ひとり立てれば をみなへし うしろめたくも みゆるかな あれたるやとに ひとりたてれは | 兼覧王 | 秋上 |
1-古今 | 238 | 花にあかで 何かへるらむ 女郎花 おほかる野辺に 寝なましものを はなにあかて なにかへるらむ をみなへし おほかるのへに ねなましものを | 平貞文 | 秋上 |
1-古今 | 239 | なに人か 来て脱ぎかけし 藤ばかま 来る秋ごとに 野辺を匂はす なにひとか きてぬきかけし ふちはかま くるあきことに のへをにほはす | 藤原敏行 | 秋上 |
1-古今 | 240 | 宿りせし 人の形見か 藤ばかま 忘られがたき 香に匂ひつつ やとりせし ひとのかたみか ふちはかま わすられかたき かににほひつつ | 紀貫之 | 秋上 |
1-古今 | 241 | 主知らぬ 香こそ匂へれ 秋の野に たが脱ぎかけし 藤ばかまぞも ぬししらぬ かこそにほへれ あきののに たかぬきかけし ふちはかまそも | 素性法師 | 秋上 |
1-古今 | 242 | 今よりは 植ゑてだに見じ 花薄 穂にいづる秋は わびしかりけり いまよりは うゑてたにみし はなすすき ほにいつるあきは わひしかりけり | 平貞文 | 秋上 |
1-古今 | 243 | 秋の野の 草の袂か 花薄 穂にいでてまねく 袖と見ゆらむ あきののの くさのたもとか はなすすき ほにいててまねく そてとみゆらむ | 在原棟梁 | 秋上 |
1-古今 | 244 | 我のみや あはれと思はむ きりぎりす 鳴く夕影の 大和撫子 われのみや あはれとおもはむ きりきりす なくゆふかけの やまとなてしこ | 素性法師 | 秋上 |
1-古今 | 245 | 緑なる ひとつ草とぞ 春は見し 秋は色いろの 花にぞありける みとりなる ひとつくさとそ はるはみし あきはいろいろの はなにそありける | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 246 | ももくさの 花のひもとく 秋の野に 思ひたはれむ 人なとがめそ ももくさの はなのひもとく あきののを おもひたはれむ ひとなとかめそ | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 247 | 月草に 衣はすらむ 朝露に 濡れてののちは うつろひぬとも つきくさに ころもはすらむ あさつゆに ぬれてののちは うつろひぬとも | 読人知らず | 秋上 |
1-古今 | 248 | 里は荒れて 人はふりにし 宿なれや 庭もまがきも 秋の野らなる さとはあれて ひとはふりにし やとなれや にはもまかきも あきののらなる | 僧正遍昭 | 秋上 |
1-古今 | 249 | 吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐と言ふらむ ふくからに あきのくさきの しをるれは うへやまかせを あらしといふらむ | 文屋康秀 | 秋下 |
1-古今 | 250 | 草も木も 色かはれども わたつみの 浪の花にぞ 秋なかりける くさもきも いろかはれとも わたつうみの なみのはなにそ あきなかりける | 文屋康秀 | 秋下 |
1-古今 | 251 | 紅葉せぬ ときはの山は 吹く風の 音にや秋を 聞き渡るらむ もみちせぬ ときはのやまは ふくかせの おとにやあきを ききわたるらむ | 紀淑望 | 秋下 |
1-古今 | 252 | 霧立ちて 雁ぞ鳴くなる 片岡の 朝の原は もみぢしぬらむ きりたちて かりそなくなる かたをかの あしたのはらは もみちしぬらむ | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 253 | 神無月 時雨もいまだ 降らなくに かねてうつろふ 神なびのもり かみなつき しくれもいまた ふらなくに かねてうつろふ かみなひのもり | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 254 | ちはやぶる 神なび山の もみぢ葉に 思ひはかけじ うつろふものを ちはやふる かみなひやまの もみちはに おもひはかけし うつろふものを | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 255 | 同じ枝を わきて木の葉の うつろふは 西こそ秋の はじめなりけれ おなしえを わきてこのはの うつろふは にしこそあきの はしめなりけれ | 藤原勝臣 | 秋下 |
1-古今 | 256 | 秋風の 吹きにし日より 音羽山 峰の梢も 色づきにけり あきかせの ふきにしひより おとはやま みねのこすゑも いろつきにけり | 紀貫之 | 秋下 |
1-古今 | 257 | 白露の 色はひとつを いかにして 秋の木の葉を ちぢに染むらむ しらつゆの いろはひとつを いかにして あきのこのはを ちちにそむらむ | 藤原敏行 | 秋下 |
1-古今 | 258 | 秋の夜の 露をば露と 置きながら 雁の涙や 野辺を染むらむ あきのよの つゆをはつゆと おきなから かりのなみたや のへをそむらむ | 壬生忠岑 | 秋下 |
1-古今 | 259 | 秋の露 色いろことに 置けばこそ 山の木の葉の ちぐさなるらめ あきのつゆ いろいろことに おけはこそ やまのこのはの ちくさなるらめ | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 260 | 白露も 時雨もいたく もる山は 下葉残らず 色づきにけり しらつゆも しくれもいたく もるやまは したはのこらす いろつきにけり | 紀貫之 | 秋下 |
1-古今 | 261 | 雨降れど 露ももらじを 笠取りの 山はいかでか もみぢ染めけむ あめふれと つゆももらしを かさとりの やまはいかてか もみちそめけむ | 在原元方 | 秋下 |
1-古今 | 262 | ちはやぶる 神のいがきに はふくずも 秋にはあへず うつろひにけり ちはやふる かみのいかきに はふくすも あきにはあへす うつろひにけり | 紀貫之 | 秋下 |
1-古今 | 263 | 雨降れば 笠取り山の もみぢ葉は 行きかふ人の 袖さへぞてる あめふれは かさとりやまの もみちはは ゆきかふひとの そてさへそてる | 壬生忠岑 | 秋下 |
1-古今 | 264 | 散らねども かねてぞ惜しき もみぢ葉は 今はかぎりの 色と見つれば ちらねとも かねてそをしき もみちはは いまはかきりの いろとみつれは | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 265 | 誰がための 錦なればか 秋霧の 佐保の山辺を 立ち隠すらむ たかための にしきなれはか あききりの さほのやまへを たちかくすらむ | 紀友則 | 秋下 |
1-古今 | 266 | 秋霧は 今朝はな立ちそ 佐保山の ははそのもみぢ よそにても見む あききりは けさはなたちそ さほやまの ははそのもみち よそにてもみむ | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 267 | 佐保山の ははその色は 薄けれど 秋は深くも なりにけるかな さほやまの ははそのいろは うすけれと あきはふかくも なりにけるかな | 坂上是則 | 秋下 |
1-古今 | 268 | 植ゑし植ゑば 秋なき時や 咲かざらむ 花こそ散らめ 根さへ枯れめや うゑしうゑは あきなきときや さかさらむ はなこそちらめ ねさへかれめや | 在原業平 | 秋下 |
1-古今 | 269 | 久方の 雲の上にて 見る菊は 天つ星とぞ あやまたれける ひさかたの くものうへにて みるきくは あまつほしとそ あやまたれける | 藤原敏行 | 秋下 |
1-古今 | 270 | 露ながら 折りてかざさむ 菊の花 老いせぬ秋の 久しかるべく つゆなから をりてかささむ きくのはな おいせぬあきの ひさしかるへく | 紀友則 | 秋下 |
1-古今 | 271 | 植ゑし時 花待ちどほに ありし菊 うつろふ秋に あはむとや見し うゑしとき はなまちとほに ありしきく うつろふあきに あはむとやみし | 大江千里 | 秋下 |
1-古今 | 272 | 秋風の 吹き上げに立てる 白菊は 花かあらぬか 浪のよするか あきかせの ふきあけにたてる しらきくは はなかあらぬか なみのよするか | 菅原 | 秋下 |
1-古今 | 273 | 濡れてほす 山路の菊の 露の間に いつか千歳を 我はへにけむ ぬれてほす やまちのきくの つゆのまに いつかちとせを われはへにけむ | 素性法師 | 秋下 |
1-古今 | 274 | 花見つつ 人待つ時は 白妙の 袖かとのみぞ あやまたれける はなみつつ ひとまつときは しろたへの そてかとのみそ あやまたれける | 紀友則 | 秋下 |
1-古今 | 275 | ひともとと 思ひし菊を 大沢の 池の底にも 誰か植ゑけむ ひともとと おもひしきくを おほさはの いけのそこにも たれかうゑけむ | 紀友則 | 秋下 |
1-古今 | 276 | 秋の菊 匂ふかぎりは かざしてむ 花より先と 知らぬ我が身を あきのきく にほふかきりは かさしてむ はなよりさきと しらぬわかみを | 紀貫之 | 秋下 |
1-古今 | 277 | 心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置き惑はせる 白菊の花 こころあてに をらはやをらむ はつしもの おきまとはせる しらきくのはな | 凡河内躬恒 | 秋下 |
1-古今 | 278 | 色かはる 秋の菊をば ひととせに ふたたび匂ふ 花とこそ見れ いろかはる あきのきくをは ひととせに ふたたひにほふ はなとこそみれ | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 279 | 秋をおきて 時こそありけれ 菊の花 うつろふからに 色のまされば あきをおきて ときこそありけれ きくのはな うつろふからに いろのまされは | 平貞文 | 秋下 |
1-古今 | 280 | 咲きそめし 宿しかはれば 菊の花 色さへにこそ うつろひにけれ さきそめし やとしかはれは きくのはな いろさへにこそ うつろひにけれ | 紀貫之 | 秋下 |
1-古今 | 281 | 佐保山の ははそのもみぢ 散りぬべみ 夜さへ見よと 照らす月影 さほやまの ははそのもみち ちりぬへみ よるさへみよと てらすつきかけ | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 282 | 奥山の いはがきもみぢ 散りぬべし 照る日の光 見る時なくて おくやまの いはかきもみち ちりぬへし てるひのひかり みるときなくて | 藤原関雄 | 秋下 |
1-古今 | 283 | 竜田川 もみぢ乱れて 流るめり 渡らば錦 中や絶えなむ たつたかは もみちみたれて なかるめり わたらはにしき なかやたえなむ | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 284 | 竜田川 もみぢ葉流る 神なびの みむろの山に 時雨降るらし たつたかは もみちはなかる かみなひの みむろのやまに しくれふるらし | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 285 | 恋しくは 見てもしのばむ もみぢ葉を 吹きな散らしそ 山おろしの風 こひしくは みてもしのはむ もみちはを ふきなちらしそ やまおろしのかせ | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 286 | 秋風に あへず散りぬる もみぢ葉の ゆくへさだめぬ 我ぞかなしき あきかせに あへすちりぬる もみちはの ゆくへさためぬ われそかなしき | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 287 | 秋は来ぬ 紅葉は宿に 降りしきぬ 道踏みわけて とふ人はなし あきはきぬ もみちはやとに ふりしきぬ みちふみわけて とふひとはなし | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 288 | 踏みわけて さらにやとはむ もみぢ葉の 降り隠してし 道と見ながら ふみわけて さらにやとはむ もみちはの ふりかくしてし みちとみなから | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 289 | 秋の月 山辺さやかに 照らせるは 落つるもみぢの 数を見よとか あきのつき やまへさやかに てらせるは おつるもみちの かすをみよとか | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 290 | 吹く風の 色のちぐさに 見えつるは 秋の木の葉の 散ればなりけり ふくかせの いろのちくさに みえつるは あきのこのはの ちれはなりけり | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 291 | 霜のたて 露のぬきこそ 弱からし 山の錦の おればかつ散る しものたて つゆのぬきこそ よわからし やまのにしきの おれはかつちる | 藤原関雄 | 秋下 |
1-古今 | 292 | わび人の わきて立ち寄る 木のもとは たのむかげなく もみぢ散りけり わひひとの わきてたちよる このもとは たのむかけなく もみちちりけり | 僧正遍昭 | 秋下 |
1-古今 | 293 | もみぢ葉の 流れてとまる みなとには 紅深き 浪や立つらむ もみちはの なかれてとまる みなとには くれなゐふかき なみやたつらむ | 素性法師 | 秋下 |
1-古今 | 294 | ちはやぶる 神世もきかず 竜田川 唐紅に 水くくるとは ちはやふる かみよもきかす たつたかは からくれなゐに みつくくるとは | 在原業平 | 秋下 |
1-古今 | 295 | 我がきつる 方も知られず くらぶ山 木ぎの木の葉の 散るとまがふに わかきつる かたもしられす くらふやま ききのこのはの ちるとまかふに | 藤原敏行 | 秋下 |
1-古今 | 296 | 神なびの みむろの山を 秋ゆけば 錦たちきる 心地こそすれ かみなひの みむろのやまを あきゆけは にしきたちきる ここちこそすれ | 壬生忠岑 | 秋下 |
1-古今 | 297 | 見る人も なくて散りぬる 奥山の 紅葉は夜の 錦なりけり みるひとも なくてちりぬる おくやまの もみちはよるの にしきなりけり | 紀貫之 | 秋下 |
1-古今 | 298 | 竜田姫 たむくる神の あればこそ 秋の木の葉の ぬさと散るらめ たつたひめ たむくるかみの あれはこそ あきのこのはの ぬさとちるらめ | 兼覧王 | 秋下 |
1-古今 | 299 | 秋の山 紅葉をぬさと たむくれば 住む我さへぞ 旅心地する あきのやま もみちをぬさと たむくれは すむわれさへそ たひここちする | 紀貫之 | 秋下 |
1-古今 | 300 | 神なびの 山をすぎ行く 秋なれば 竜田川にぞ ぬさはたむくる かみなひの やまをすきゆく あきなれは たつたかはにそ ぬさはたむくる | 清原深養父 | 秋下 |
1-古今 | 301 | 白浪に 秋の木の葉の 浮かべるを 海人の流せる 舟かとぞ見る しらなみに あきのこのはの うかへるを あまのなかせる ふねかとそみる | 藤原興風 | 秋下 |
1-古今 | 302 | もみぢ葉の 流れざりせば 竜田川 水の秋をば 誰か知らまし もみちはの なかれさりせは たつたかは みつのあきをは たれかしらまし | 坂上是則 | 秋下 |
1-古今 | 303 | 山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり やまかはに かせのかけたる しからみは なかれもあへぬ もみちなりけり | 春道列樹 | 秋下 |
1-古今 | 304 | 風吹けば 落つるもみぢ葉 水清み 散らぬ影さへ 底に見えつつ かせふけは おつるもみちは みつきよみ ちらぬかけさへ そこにみえつつ | 凡河内躬恒 | 秋下 |
1-古今 | 305 | 立ち止まり 見てをわたらむ もみぢ葉は 雨と降るとも 水はまさらじ たちとまり みてをわたらむ もみちはは あめとふるとも みつはまさらし | 凡河内躬恒 | 秋下 |
1-古今 | 306 | 山田もる 秋のかりいほに 置く露は いなおほせ鳥の 涙なりけり やまたもる あきのかりいほに おくつゆは いなおほせとりの なみたなりけり | 壬生忠岑 | 秋下 |
1-古今 | 307 | 穂にもいでぬ 山田をもると 藤衣 稲葉の露に 濡れぬ日ぞなき ほにもいてぬ やまたをもると ふちころも いなはのつゆに ぬれぬひそなき | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 308 | 刈れる田に おふるひつちの 穂にいでぬは 世を今さらに あきはてぬとか かれるたに おふるひつちの ほにいてぬは よをいまさらに あきはてぬとか | 読人知らず | 秋下 |
1-古今 | 309 | もみぢ葉は 袖にこき入れて もていでなむ 秋はかぎりと 見む人のため もみちはは そてにこきいれて もていてなむ あきはかきりと みむひとのため | 素性法師 | 秋下 |
1-古今 | 310 | み山より 落ちくる水の 色見てぞ 秋はかぎりと 思ひ知りぬる みやまより おちくるみつの いろみてそ あきはかきりと おもひしりぬる | 藤原興風 | 秋下 |
1-古今 | 311 | 年ごとに もみぢ葉流す 竜田川 みなとや秋の とまりなるらむ としことに もみちはなかす たつたかは みなとやあきの とまりなるらむ | 紀貫之 | 秋下 |
1-古今 | 312 | 夕月夜 小倉の山に 鳴く鹿の 声の内にや 秋は暮るらむ ゆふつくよ をくらのやまに なくしかの こゑのうちにや あきはくるらむ | 紀貫之 | 秋下 |
1-古今 | 313 | 道知らば たづねもゆかむ もみぢ葉を ぬさとたむけて 秋はいにけり みちしらは たつねもゆかむ もみちはを ぬさとたむけて あきはいにけり | 凡河内躬恒 | 秋下 |
1-古今 | 314 | 竜田川 錦おりかく 神無月 時雨の雨を たてぬきにして たつたかは にしきおりかく かみなつき しくれのあめを たてぬきにして | 読人知らず | 冬 |
1-古今 | 315 | 山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人目も草も 枯れぬと思へば やまさとは ふゆそさひしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもへは | 源宗于 | 冬 |
1-古今 | 316 | 大空の 月の光し 清ければ 影見し水ぞ まづこほりける おほそらの つきのひかりし きよけれは かけみしみつそ まつこほりける | 読人知らず | 冬 |
1-古今 | 317 | 夕されば 衣手寒し み吉野の 吉野の山に み雪降るらし ゆふされは ころもてさむし みよしのの よしののやまに みゆきふるらし | 読人知らず | 冬 |
1-古今 | 318 | 今よりは つぎて降らなむ 我が宿の 薄おしなみ 降れる白雪 いまよりは つきてふらなむ わかやとの すすきおしなひ ふれるしらゆき | 読人知らず | 冬 |
1-古今 | 319 | 降る雪は かつぞけぬらし あしひきの 山のたぎつ瀬 音まさるなり ふるゆきは かつそけぬらし あしひきの やまのたきつせ おとまさるなり | 読人知らず | 冬 |
1-古今 | 320 | この川に もみぢ葉流る 奥山の 雪げの水ぞ 今まさるらし このかはに もみちはなかる おくやまの ゆきけのみつそ いままさるらし | 読人知らず | 冬 |
1-古今 | 321 | ふるさとは 吉野の山し 近ければ ひと日もみ雪 降らぬ日はなし ふるさとは よしののやまし ちかけれは ひとひもみゆき ふらぬひはなし | 読人知らず | 冬 |
1-古今 | 322 | 我が宿は 雪降りしきて 道もなし 踏みわけてとふ 人しなければ わかやとは ゆきふりしきて みちもなし ふみわけてとふ ひとしなけれは | 読人知らず | 冬 |
1-古今 | 323 | 雪降れば 冬ごもりせる 草も木も 春に知られぬ 花ぞ咲きける ゆきふれは ふゆこもりせる くさもきも はるにしられぬ はなそさきける | 紀貫之 | 冬 |
1-古今 | 324 | 白雪の ところもわかず 降りしけば 巌にも咲く 花とこそ見れ しらゆきの ところもわかす ふりしけは いはほにもさく はなとこそみれ | 紀秋岑 | 冬 |
1-古今 | 325 | み吉野の 山の白雪 つもるらし ふるさと寒く なりまさるなり みよしのの やまのしらゆき つもるらし ふるさとさむく なりまさるなり | 坂上是則 | 冬 |
1-古今 | 326 | 浦近く 降りくる雪は 白浪の 末の松山 越すかとぞ見る うらちかく ふりくるゆきは しらなみの すゑのまつやま こすかとそみる | 藤原興風 | 冬 |
1-古今 | 327 | み吉野の 山の白雪 踏みわけて 入りにし人の おとづれもせぬ みよしのの やまのしらゆき ふみわけて いりにしひとの おとつれもせぬ | 壬生忠岑 | 冬 |
1-古今 | 328 | 白雪の 降りてつもれる 山里は 住む人さへや 思ひ消ゆらむ しらゆきの ふりてつもれる やまさとは すむひとさへや おもひきゆらむ | 壬生忠岑 | 冬 |
1-古今 | 329 | 雪降りて 人もかよはぬ 道なれや あとはかもなく 思ひ消ゆらむ ゆきふりて ひともかよはぬ みちなれや あとはかもなく おもひきゆらむ | 凡河内躬恒 | 冬 |
1-古今 | 330 | 冬ながら 空より花の 散りくるは 雲のあなたは 春にやあるらむ ふゆなから そらよりはなの ちりくるは くものあなたは はるにやあるらむ | 清原深養父 | 冬 |
1-古今 | 331 | 冬ごもり 思ひかけぬを 木の間より 花と見るまで 雪ぞ降りける ふゆこもり おもひかけぬを このまより はなとみるまて ゆきそふりける | 紀貫之 | 冬 |
1-古今 | 332 | 朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪 あさほらけ ありあけのつきと みるまてに よしののさとに ふれるしらゆき | 坂上是則 | 冬 |
1-古今 | 333 | 消ぬがうへに またも降りしけ 春霞 立ちなばみ雪 まれにこそ見め けぬかうへに またもふりしけ はるかすみ たちなはみゆき まれにこそみめ | 読人知らず | 冬 |
1-古今 | 334 | 梅の花 それとも見えず 久方の あまぎる雪の なべて降れれば うめのはな それともみえす ひさかたの あまきるゆきの なへてふれれは | 読人知らず | 冬 |
1-古今 | 335 | 花の色は 雪にまじりて 見えずとも 香をだに匂へ 人の知るべく はなのいろは ゆきにましりて みえすとも かをたににほへ ひとのしるへく | 小野篁 | 冬 |
1-古今 | 336 | 梅の香の 降りおける雪に まがひせば 誰かことごと わきて折らまし うめのかの ふりおけるゆきに まかひせは たれかことこと わきてをらまし | 紀貫之 | 冬 |
1-古今 | 337 | 雪降れば 木ごとに花ぞ 咲きにける いづれを梅と わきて折らまし ゆきふれは きことにはなそ さきにける いつれをうめと わきてをらまし | 紀友則 | 冬 |
1-古今 | 338 | 我が待たぬ 年はきぬれど 冬草の 枯れにし人は おとづれもせず わかまたぬ としはきぬれと ふゆくさの かれにしひとは おとつれもせす | 凡河内躬恒 | 冬 |
1-古今 | 339 | あらたまの 年の終りに なるごとに 雪も我が身も ふりまさりつつ あらたまの としのをはりに なることに ゆきもわかみも ふりまさりつつ | 在原元方 | 冬 |
1-古今 | 340 | 雪降りて 年の暮れぬる 時にこそ つひにもみぢぬ 松も見えけれ ゆきふりて としのくれぬる ときにこそ つひにもみちぬ まつもみえけれ | 読人知らず | 冬 |
1-古今 | 341 | 昨日と言ひ 今日とくらして 明日香河 流れて早き 月日なりけり きのふといひ けふとくらして あすかかは なかれてはやき つきひなりけり | 春道列樹 | 冬 |
1-古今 | 342 | ゆく年の 惜しくもあるかな ます鏡 見る影さへに くれぬと思へば ゆくとしの をしくもあるかな ますかかみ みるかけさへに くれぬとおもへは | 紀貫之 | 冬 |
1-古今 | 343 | 我が君は 千代に八千代に さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで わかきみは ちよにやちよに さされいしの いはほとなりて こけのむすまて | 読人知らず | 賀 |
1-古今 | 344 | わたつみの 浜の真砂を かぞへつつ 君が千歳の あり数にせむ わたつうみの はまのまさこを かそへつつ きみかちとせの ありかすにせむ | 読人知らず | 賀 |
1-古今 | 345 | しほの山 さしでの磯に 住む千鳥 君が御代をば 八千代とぞ鳴く しほのやま さしてのいそに すむちとり きみかみよをは やちよとそなく | 読人知らず | 賀 |
1-古今 | 346 | 我がよはひ 君が八千代に とりそへて とどめおきては 思ひ出でにせよ わかよはひ きみかやちよに とりそへて ととめおきては おもひいてにせよ | 読人知らず | 賀 |
1-古今 | 347 | かくしつつ とにもかくにも ながらへて 君が八千代に あふよしもがな かくしつつ とにもかくにも なからへて きみかやちよに あふよしもかな | 仁和帝 | 賀 |
1-古今 | 348 | ちはやぶる 神や切りけむ つくからに 千歳の坂も 越えぬべらなり ちはやふる かみやきりけむ つくからに ちとせのさかも こえぬへらなり | 僧正遍昭 | 賀 |
1-古今 | 349 | 桜花 散りかひくもれ 老いらくの 来むと言ふなる 道まがふがに さくらはな ちりかひくもれ おいらくの こむといふなる みちまかふかに | 在原業平 | 賀 |
1-古今 | 350 | 亀の尾の 山の岩根を とめておつる 滝の白玉 千代の数かも かめのをの やまのいはねを とめておつる たきのしらたま ちよのかすかも | 紀惟岳 | 賀 |
1-古今 | 351 | いたづらに すぐす月日は 思ほえで 花見てくらす 春ぞ少なき いたつらに すくすつきひは おもほえて はなみてくらす はるそすくなき | 藤原興風 | 賀 |
1-古今 | 352 | 春くれば 宿にまづ咲く 梅の花 君が千歳の かざしとぞ見る はるくれは やとにまつさく うめのはな きみかちとせの かさしとそみる | 紀貫之 | 賀 |
1-古今 | 353 | いにしへに ありきあらずは 知らねども 千歳のためし 君にはじめむ いにしへに ありきあらすは しらねとも ちとせのためし きみにはしめむ | 素性法師 | 賀 |
1-古今 | 354 | ふして思ひ おきて数ふる 万代は 神ぞ知るらむ 我が君のため ふしておもひ おきてかそふる よろつよは かみそしるらむ わかきみのため | 素性法師 | 賀 |
1-古今 | 355 | 鶴亀も 千歳の後は 知らなくに あかぬ心に まかせはててむ つるかめも ちとせののちは しらなくに あかぬこころに まかせはててむ | 在原滋春 | 賀 |
1-古今 | 356 | 万代を 松にぞ君を 祝ひつる 千歳のかげに 住まむと思へば よろつよを まつにそきみを いはひつる ちとせのかけに すまむとおもへは | 素性法師 | 賀 |
1-古今 | 357 | 春日野に 若菜つみつつ 万代を 祝ふ心は 神ぞ知るらむ かすかのに わかなつみつつ よろつよを いはふこころは かみそしるらむ | 素性法師 | 賀 |
1-古今 | 358 | 山高み 雲ゐに見ゆる 桜花 心のゆきて 折らぬ日ぞなき やまたかみ くもゐにみゆる さくらはな こころのゆきて をらぬひそなき | 凡河内躬恒 | 賀 |
1-古今 | 359 | めづらしき 声ならなくに 郭公 ここらの年を あかずもあるかな めつらしき こゑならなくに ほとときす ここらのとしを あかすもあるかな | 紀友則 | 賀 |
1-古今 | 360 | 住の江の 松を秋風 吹くからに 声うちそふる 沖つ白浪 すみのえの まつをあきかせ ふくからに こゑうちそふる おきつしらなみ | 凡河内躬恒 | 賀 |
1-古今 | 361 | 千鳥鳴く 佐保の河霧 立ちぬらし 山の木の葉も 色まさりゆく ちとりなく さほのかはきり たちぬらし やまのこのはも いろまさりゆく | 壬生忠岑 | 賀 |
1-古今 | 362 | 秋くれど 色もかはらぬ ときは山 よそのもみぢを 風ぞかしける あきくれと いろもかはらぬ ときはやま よそのもみちを かせそかしける | 読人知らず | 賀 |
1-古今 | 363 | 白雪の 降りしく時は み吉野の 山下風に 花ぞ散りける しらゆきの ふりしくときは みよしのの やましたかせに はなそちりける | 紀貫之 | 賀 |
1-古今 | 364 | 峰高き 春日の山に いづる日は 曇る時なく 照らすべらなり みねたかき かすかのやまに いつるひは くもるときなく てらすへらなり | 藤原因香 | 賀 |
1-古今 | 365 | 立ち別れ いなばの山の 峰におふる 松とし聞かば 今かへりこむ たちわかれ いなはのやまの みねにおふる まつとしきかは いまかへりこむ | 在原行平 | 離別 |
1-古今 | 366 | すがるなく 秋の萩原 朝たちて 旅行く人を いつとか待たむ すかるなく あきのはきはら あさたちて たひゆくひとを いつとかまたむ | 読人知らず | 離別 |
1-古今 | 367 | かぎりなき 雲ゐのよそに わかるとも 人を心に おくらさむやは かきりなき くもゐのよそに わかるとも ひとをこころに おくらさむやは | 読人知らず | 離別 |
1-古今 | 368 | たらちねの 親のまもりと あひそふる 心ばかりは せきなとどめそ たらちねの おやのまもりと あひそふる こころはかりは せきなととめそ | 小野千古母 | 離別 |
1-古今 | 369 | 今日別れ 明日はあふみと 思へども 夜やふけぬらむ 袖の露けき けふわかれ あすはあふみと おもへとも よやふけぬらむ そてのつゆけき | 紀利貞 | 離別 |
1-古今 | 370 | かへる山 ありとは聞けど 春霞 立ち別れなば 恋しかるべし かへるやま ありとはきけと はるかすみ たちわかれなは こひしかるへし | 紀利貞 | 離別 |
1-古今 | 371 | 惜しむから 恋しきものを 白雲の たちなむのちは なに心地せむ をしむから こひしきものを しらくもの たちなむのちは なにここちせむ | 紀貫之 | 離別 |
1-古今 | 372 | 別れては ほどをへだつと 思へばや かつ見ながらに かねて恋しき わかれては ほとをへたつと おもへはや かつみなからに かねてこひしき | 在原滋春 | 離別 |
1-古今 | 373 | 思へども 身をしわけねば 目に見えぬ 心を君に たぐへてぞやる おもへとも みをしわけねは めにみえぬ こころをきみに たくへてそやる | 伊香子淳行 | 離別 |
1-古今 | 374 | あふ坂の 関しまさしき ものならば あかず別るる 君をとどめよ あふさかの せきしまさしき ものならは あかすわかるる きみをととめよ | 難波万雄 | 離別 |
1-古今 | 375 | 唐衣 たつ日は聞かじ 朝露の 置きてしゆけば けぬべきものを からころも たつひはきかし あさつゆの おきてしゆけは けぬへきものを | 読人知らず | 離別 |
1-古今 | 376 | 朝なげに 見べき君とし たのまねば 思ひたちぬる 草枕なり あさなけに みへききみとし たのまねは おもひたちぬる くさまくらなり | 寵 | 離別 |
1-古今 | 377 | えぞ知らぬ 今こころみよ 命あらば 我や忘るる 人やとはぬと えそしらぬ いまこころみよ いのちあらは われやわするる ひとやとはぬと | 読人知らず | 離別 |
1-古今 | 378 | 雲ゐにも かよふ心の おくれねば わかると人に 見ゆばかりなり くもゐにも かよふこころの おくれねは わかるとひとに みゆはかりなり | 清原深養父 | 離別 |
1-古今 | 379 | 白雲の こなたかなたに 立ち別れ 心をぬさと くだく旅かな しらくもの こなたかなたに たちわかれ こころをぬさと くたくたひかな | 良岑秀崇 | 離別 |
1-古今 | 380 | 白雲の 八重にかさなる をちにても 思はむ人に 心へだつな しらくもの やへにかさなる をちにても おもはむひとに こころへたつな | 紀貫之 | 離別 |
1-古今 | 381 | 別れてふ ことは色にも あらなくに 心にしみて わびしかるらむ わかれてふ ことはいろにも あらなくに こころにしみて わひしかるらむ | 紀貫之 | 離別 |
1-古今 | 382 | かへる山 なにぞはありて あるかひは きてもとまらぬ 名にこそありけれ かへるやま なにそはありて あるかひは きてもとまらぬ なにこそありけれ | 凡河内躬恒 | 離別 |
1-古今 | 383 | よそにのみ 恋ひや渡らむ 白山の 雪見るべくも あらぬ我が身は よそにのみ こひやわたらむ しらやまの ゆきみるへくも あらぬわかみは | 凡河内躬恒 | 離別 |
1-古今 | 384 | 音羽山 こだかく鳴きて 郭公 君が別れを 惜しむべらなり おとはやま こたかくなきて ほとときす きみかわかれを をしむへらなり | 紀貫之 | 離別 |
1-古今 | 385 | もろともに なきてとどめよ きりぎりす 秋の別れは 惜しくやはあらぬ もろともに なきてととめよ きりきりす あきのわかれは をしくやはあらぬ | 藤原兼茂 | 離別 |
1-古今 | 386 | 秋霧の 共に立ちいでて 別れなば はれぬ思ひに 恋やわたらむ あききりの ともにたちいてて わかれなは はれぬおもひに こひやわたらむ | 平元規 | 離別 |
1-古今 | 387 | 命だに 心にかなふ ものならば なにか別れの かなしからまし いのちたに こころにかなふ ものならは なにかわかれの かなしからまし | 白女 | 離別 |
1-古今 | 388 | 人やりの 道ならなくに おほかたは いき憂しといひて いざ帰りなむ ひとやりの みちならなくに おほかたは いきうしといひて いさかへりなむ | 源実 | 離別 |
1-古今 | 389 | したはれて きにし心の 身にしあれば 帰るさまには 道も知られず したはれて きにしこころの みにしあれは かへるさまには みちもしられす | 藤原兼茂 | 離別 |
1-古今 | 390 | かつ越えて 別れもゆくか あふ坂は 人だのめなる 名にこそありけれ かつこえて わかれもゆくか あふさかは ひとたのめなる なにこそありけれ | 紀貫之 | 離別 |
1-古今 | 391 | 君がゆく 越の白山 知らねども 雪のまにまに あとはたづねむ きみかゆく こしのしらやま しらねとも ゆきのまにまに あとはたつねむ | 藤原兼輔 | 離別 |
1-古今 | 392 | 夕暮れの まがきは山と 見えななむ 夜は越えじと 宿りとるべく ゆふくれの まかきはやまと みえななむ よるはこえしと やとりとるへく | 僧正遍昭 | 離別 |
1-古今 | 393 | 別れをば 山の桜に まかせてむ とめむとめじは 花のまにまに わかれをは やまのさくらに まかせてむ とめむとめしは はなのまにまに | 幽仙法師 | 離別 |
1-古今 | 394 | 山風に 桜吹きまき 乱れなむ 花のまぎれに 君とまるべく やまかせに さくらふきまき みたれなむ はなのまきれに たちとまるへく | 僧正遍昭 | 離別 |
1-古今 | 395 | ことならば 君とまるべく 匂はなむ かへすは花の うきにやはあらぬ ことならは きみとまるへく にほはなむ かへすははなの うきにやはあらぬ | 幽仙法師 | 離別 |
1-古今 | 396 | あかずして 別るる涙 滝にそふ 水まさるとや しもは見るらむ あかすして わかるるなみた たきにそふ みつまさるとや しもはみるらむ | 兼芸法師 | 離別 |
1-古今 | 397 | 秋萩の 花をば雨に 濡らせども 君をばまして 惜しとこそ思へ あきはきの はなをはあめに ぬらせとも きみをはまして をしとこそおもへ | 紀貫之 | 離別 |
1-古今 | 398 | 惜しむらむ 人の心を 知らぬまに 秋の時雨と 身ぞふりにける をしむらむ ひとのこころを しらぬまに あきのしくれと みそふりにける | 兼覧王 | 離別 |
1-古今 | 399 | 別るれど うれしくもあるか 今宵より あひ見ぬ先に 何を恋ひまし わかるれと うれしくもあるか こよひより あひみぬさきに なにをこひまし | 凡河内躬恒 | 離別 |
1-古今 | 400 | あかずして 別るる袖の 白玉を 君が形見と つつみてぞ行く あかすして わかるるそての しらたまを きみかかたみと つつみてそゆく | 読人知らず | 離別 |
1-古今 | 401 | かぎりなく 思ふ涙に そほちぬる 袖はかわかじ あはむ日までに かきりなく おもふなみたに そほちぬる そてはかわかし あはむひまてに | 読人知らず | 離別 |
1-古今 | 402 | かきくらし ことはふらなむ 春雨に 濡衣きせて 君をとどめむ かきくらし ことはふらなむ はるさめに ぬれきぬきせて きみをととめむ | 読人知らず | 離別 |
1-古今 | 403 | しひて行く 人をとどめむ 桜花 いづれを道と 惑ふまで散れ しひてゆく ひとをととめむ さくらはな いつれをみちと まよふまてちれ | 読人知らず | 離別 |
1-古今 | 404 | むすぶ手の しづくに濁る 山の井の あかでも人に 別れぬるかな むすふての しつくににこる やまのゐの あかてもひとに わかれぬるかな | 紀貫之 | 離別 |
1-古今 | 405 | 下の帯の 道はかたがた 別るとも 行きめぐりても あはむとぞ思ふ したのおひの みちはかたかた わかるとも ゆきめくりても あはむとそおもふ | 紀友則 | 離別 |
1-古今 | 406 | 天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に いでし月かも あまのはら ふりさけみれは かすかなる みかさのやまに いてしつきかも | 安倍仲麻呂 | 羇旅 |
1-古今 | 407 | わたの原 八十島かけて こぎいでぬと 人には告げよ 海人の釣り舟 わたのはら やそしまかけて こきいてぬと ひとにはつけよ あまのつりふね | 小野篁 | 羇旅 |
1-古今 | 408 | みやこいでて けふみかの原 いづみ川 川風寒し 衣かせ山 みやこいてて けふみかのはら いつみかは かはかせさむし ころもかせやま | 読人知らず | 羇旅 |
1-古今 | 409 | ほのぼのと 明石の浦の 朝霧に 島隠れ行く 舟をしぞ思ふ ほのほのと あかしのうらの あさきりに しまかくれゆく ふねをしそおもふ | 読人知らず | 羇旅 |
1-古今 | 410 | 唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ からころも きつつなれにし つましあれは はるはるきぬる たひをしそおもふ | 在原業平 | 羇旅 |
1-古今 | 411 | 名にしおはば いざ言問はむ みやこ鳥 我が思ふ人は ありやなしやと なにしおはは いさこととはむ みやことり わかおもふひとは ありやなしやと | 在原業平 | 羇旅 |
1-古今 | 412 | 北へ行く 雁ぞ鳴くなる つれてこし 数はたらでぞ かへるべらなる きたへゆく かりそなくなる つれてこし かすはたらてそ かへるへらなる | 読人知らず | 羇旅 |
1-古今 | 413 | 山かくす 春の霞ぞ うらめしき いづれみやこの さかひなるらむ やまかくす はるのかすみそ うらめしき いつれみやこの さかひなるらむ | 乙 | 羇旅 |
1-古今 | 414 | 消えはつる 時しなければ 越路なる 白山の名は 雪にぞありける きえはつる ときしなけれは こしちなる しらやまのなは ゆきにそありける | 凡河内躬恒 | 羇旅 |
1-古今 | 415 | 糸による ものならなくに 別れぢの 心細くも 思ほゆるかな いとによる ものならなくに わかれちの こころほそくも おもほゆるかな | 紀貫之 | 羇旅 |
1-古今 | 416 | 夜を寒み 置く初霜を はらひつつ 草の枕に あまた旅寝ぬ よをさむみ おくはつしもを はらひつつ くさのまくらに あまたたひねぬ | 凡河内躬恒 | 羇旅 |
1-古今 | 417 | 夕月夜 おぼつかなきを 玉くしげ ふたみのうらは あけてこそ見め ゆふつくよ おほつかなきを たまくしけ ふたみのうらは あけてこそみめ | 藤原兼輔 | 羇旅 |
1-古今 | 418 | かりくらし 七夕つめに 宿からむ 天の河原に 我はきにけり かりくらし たなはたつめに やとからむ あまのかはらに われはきにけり | 在原業平 | 羇旅 |
1-古今 | 419 | ひととせに ひとたびきます 君まてば 宿かす人も あらじとぞ思ふ ひととせに ひとたひきます きみまては やとかすひとも あらしとそおもふ | 紀有常 | 羇旅 |
1-古今 | 420 | このたびは ぬさもとりあへず たむけ山 紅葉の錦 神のまにまに このたひは ぬさもとりあへす たむけやま もみちのにしき かみのまにまに | 菅原 | 羇旅 |
1-古今 | 421 | たむけには つづりの袖も 切るべきに 紅葉にあける 神やかへさむ たむけには つつりのそても きるへきに もみちにあける かみやかへさむ | 素性法師 | 羇旅 |
1-古今 | 422 | 心から 花のしづくに そほちつつ うくひすとのみ 鳥の鳴くらむ こころから はなのしつくに そほちつつ うくひすとのみ とりのなくらむ | 藤原敏行 | 物名 |
1-古今 | 423 | くべきほど 時すぎぬれや 待ちわびて 鳴くなる声の 人をとよむる くへきほと ときすきぬれや まちわひて なくなるこゑの ひとをとよむる | 藤原敏行 | 物名 |
1-古今 | 424 | 浪の打つ 瀬見れば玉ぞ 乱れける 拾はば袖に はかなからむや なみのうつ せみれはたまそ みたれける ひろははそてに はかなからむや | 在原滋春 | 物名 |
1-古今 | 425 | 袂より はなれて玉を つつまめや これなむそれと うつせ見むかし たもとより はなれてたまを つつまめや これなむそれと うつせみむかし | 壬生忠岑 | 物名 |
1-古今 | 426 | あなうめに つねなるべくも 見えぬかな 恋しかるべき 香は匂ひつつ あなうめに つねなるへくも みえぬかな こひしかるへき かはにほひつつ | 読人知らず | 物名 |
1-古今 | 427 | かづけども 浪のなかには さぐられで 風吹くごとに 浮き沈む玉 かつけとも なみのなかには さくられて かせふくことに うきしつむたま | 紀貫之 | 物名 |
1-古今 | 428 | 今いくか 春しなければ うぐひすも ものはながめて 思ふべらなり いまいくか はるしなけれは うくひすも ものはなかめて おもふへらなり | 紀貫之 | 物名 |
1-古今 | 429 | あふからも ものはなほこそ かなしけれ 別れむことを かねて思へば あふからも ものはなほこそ かなしけれ わかれむことを かねておもへは | 清原深養父 | 物名 |
1-古今 | 430 | あしひきの 山たちはなれ 行く雲の 宿りさだめぬ 世にこそありけれ あしひきの やまたちはなれ ゆくくもの やとりさためぬ よにこそありけれ | 小野滋蔭 | 物名 |
1-古今 | 431 | み吉野の 吉野の滝に 浮かびいづる 泡をかたまの 消ゆと見つらむ みよしのの よしののたきに うかひいつる あわをかたまの きゆとみつらむ | 紀友則 | 物名 |
1-古今 | 432 | 秋はきぬ いまやまがきの きりぎりす 夜な夜な鳴かむ 風の寒さに あきはきぬ いまやまかきの きりきりす よなよななかむ かせのさむさに | 読人知らず | 物名 |
1-古今 | 433 | かくばかり あふ日のまれに なる人を いかがつらしと 思はざるべき かくはかり あふひのまれに なるひとを いかかつらしと おもはさるへき | 読人知らず | 物名 |
1-古今 | 434 | 人目ゆゑ のちにあふ日の はるけくは 我がつらきにや 思ひなされむ ひとめゆゑ のちにあふひの はるけくは わかつらきにや おもひなされむ | 読人知らず | 物名 |
1-古今 | 435 | 散りぬれば のちはあくたに なる花を 思ひ知らずも 惑ふてふかな ちりぬれは のちはあくたに なるはなを おもひしらすも まとふてふかな | 僧正遍昭 | 物名 |
1-古今 | 436 | 我はけさ うひにぞ見つる 花の色を あだなるものと 言ふべかりけり われはけさ うひにそみつる はなのいろを あたなるものと いふへかりけり | 紀貫之 | 物名 |
1-古今 | 437 | 白露を 玉にぬくとや ささがにの 花にも葉にも いとをみなへし しらつゆを たまにぬくやと ささかにの はなにもはにも いとをみなへし | 紀友則 | 物名 |
1-古今 | 438 | 朝露を わけそほちつつ 花見むと 今ぞ野山を みなへしりぬる あさつゆを わけそほちつつ はなみむと いまそのやまを みなへしりぬる | 紀友則 | 物名 |
1-古今 | 439 | をぐら山 峰たちならし 鳴く鹿の へにけむ秋を 知る人ぞなき をくらやま みねたちならし なくしかの へにけむあきを しるひとそなき | 紀貫之 | 物名 |
1-古今 | 440 | 秋ちかう 野はなりにけり 白露の おける草葉も 色かはりゆく あきちかう のはなりにけり しらつゆの おけるくさはも いろかはりゆく | 紀友則 | 物名 |
1-古今 | 441 | ふりはへて いざふるさとの 花見むと こしを匂ひぞ うつろひにける ふりはへて いさふるさとの はなみむと こしをにほひそ うつろひにける | 読人知らず | 物名 |
1-古今 | 442 | 我が宿の 花ふみしだく とりうたむ 野はなければや ここにしもくる わかやとの はなふみしたく とりうたむ のはなけれはや ここにしもくる | 紀友則 | 物名 |
1-古今 | 443 | ありと見て たのむぞかたき 空蝉の 世をばなしとや 思ひなしてむ ありとみて たのむそかたき うつせみの よをはなしとや おもひなしてむ | 読人知らず | 物名 |
1-古今 | 444 | うちつけに こしとや花の 色を見む 置く白露の 染むるばかりを うちつけに こしとやはなの いろをみむ おくしらつゆの そむるはかりを | 矢田部名実 | 物名 |
1-古今 | 445 | 花の木に あらざらめども 咲きにけり ふりにしこの身 なる時もがな はなのきに あらさらめとも さきにけり ふりにしこのみ なるときもかな | 文屋康秀 | 物名 |
1-古今 | 446 | 山高み つねに嵐の 吹く里は 匂ひもあへず 花ぞ散りける やまたかみ つねにあらしの ふくさとは にほひもあへす はなそちりける | 紀利貞 | 物名 |
1-古今 | 447 | 郭公 峰の雲にや まじりにし ありとは聞けど 見るよしもなき ほとときす みねのくもにや ましりにし ありとはきけと みるよしもなき | 平篤行 | 物名 |
1-古今 | 448 | 空蝉の 殻は木ごとに とどむれど 魂のゆくへを 見ぬぞかなしき うつせみの からはきことに ととむれと たまのゆくへを みぬそかなしき | 読人知らず | 物名 |
1-古今 | 449 | うばたまの 夢になにかは なぐさまむ うつつにだにも あかぬ心を うはたまの ゆめになにかは なくさまむ うつつにたにも あかぬこころは | 清原深養父 | 物名 |
1-古今 | 450 | 花の色は ただひとさかり 濃けれども 返す返すぞ 露は染めける はなのいろは たたひとさかり こけれとも かへすかへすそ つゆはそめける | 高向利春 | 物名 |
1-古今 | 451 | 命とて 露をたのむに かたければ ものわびしらに 鳴く野辺の虫 いのちとて つゆをたのむに かたけれは ものわひしらに なくのへのむし | 在原滋春 | 物名 |
1-古今 | 452 | 小夜ふけて なかばたけゆく 久方の 月吹きかへせ 秋の山風 さよふけて なかはたけゆく ひさかたの つきふきかへせ あきのやまかせ | 景式王 | 物名 |
1-古今 | 453 | 煙たち もゆとも見えぬ 草の葉を 誰かわらびと 名づけそめけむ けふりたち もゆともみえぬ くさのはを たれかわらひと なつけそめけむ | 真静法師 | 物名 |
1-古今 | 454 | いささめに 時まつまにぞ 日はへぬる 心ばせをば 人に見えつつ いささめに ときまつまにそ ひはへぬる こころはせをは ひとにみえつつ | 紀乳母 | 物名 |
1-古今 | 455 | あぢきなし なげきなつめそ うきことに あひくる身をば 捨てぬものから あちきなし なけきなつめそ うきことに あひくるみをは すてぬものから | 兵衛 | 物名 |
1-古今 | 456 | 浪の音の 今朝からことに 聞こゆるは 春のしらべや あらたまるらむ なみのおとの けさからことに きこゆるは はるのしらへや あらたまるらむ | 安倍清行 | 物名 |
1-古今 | 457 | かぢにあたる 浪のしづくを 春なれば いかが咲き散る 花と見ざらむ かちにあたる なみのしつくを はるなれは いかかさきちる はなとみさらむ | 兼覧王 | 物名 |
1-古今 | 458 | かの方に いつから先に わたりけむ 浪ぢはあとも 残らざりけり かのかたに いつからさきに わたりけむ なみちはあとも のこらさりけり | 阿保経覧 | 物名 |
1-古今 | 459 | 浪の花 沖から咲きて 散りくめり 水の春とは 風やなるらむ なみのはな おきからさきて ちりくめり みつのはるとは かせやなるらむ | 伊勢 | 物名 |
1-古今 | 460 | うばたまの 我が黒髪や かはるらむ 鏡のかげに 降れる白雪 うはたまの わかくろかみや かはるらむ かかみのかけに ふれるしらゆき | 紀貫之 | 物名 |
1-古今 | 461 | あしひきの 山辺にをれば 白雲の いかにせよとか 晴るる時なき あしひきの やまへにをれは しらくもの いかにせよとか はるるときなき | 紀貫之 | 物名 |
1-古今 | 462 | 夏草の 上はしげれる 沼水の 行く方のなき 我が心かな なつくさの うへはしけれる ぬまみつの ゆくかたのなき わかこころかな | 壬生忠岑 | 物名 |
1-古今 | 463 | 秋くれば 月の桂の 実やはなる 光を花と 散らすばかりを あきくれは つきのかつらの みやはなる ひかりをはなと ちらすはかりを | 源恵 | 物名 |
1-古今 | 464 | 花ごとに あかず散らしし 風なれば いくそばく我が 憂しとかは思ふ はなことに あかすちらしし かせなれは いくそはくわか うしとかはおもふ | 読人知らず | 物名 |
1-古今 | 465 | 春霞 なかしかよひぢ なかりせば 秋くる雁は かへらざらまし はるかすみ なかしかよひち なかりせは あきくるかりは かへらさらまし | 在原滋春 | 物名 |
1-古今 | 466 | 流れいづる 方だに見えぬ 涙川 おきひむ時や 底は知られむ なかれいつる かたたにみえぬ なみたかは おきひむときや そこはしられむ | 都良香 | 物名 |
1-古今 | 467 | のちまきの おくれておふる 苗なれど あだにはならぬ たのみとぞ聞く のちまきの おくれておふる なへなれと あたにはならぬ たのみとそきく | 大江千里 | 物名 |
1-古今 | 468 | 花の中 目にあくやとて わけゆけば 心ぞともに 散りぬべらなる はなのなか めにあくやとて わけゆけは こころそともに ちりぬへらなる | 僧正聖宝 | 物名 |
1-古今 | 469 | 郭公 鳴くや五月の あやめ草 あやめも知らぬ 恋もするかな ほとときす なくやさつきの あやめくさ あやめもしらぬ こひもするかな | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 470 | 音にのみ きくの白露 夜はおきて 昼は思ひに あへずけぬべし おとにのみ きくのしらつゆ よるはおきて ひるはおもひに あへすけぬへし | 素性法師 | 恋一 |
1-古今 | 471 | 吉野川 岩波高く 行く水の 早くぞ人を 思ひそめてし よしのかは いはなみたかく ゆくみつの はやくそひとを おもひそめてし | 紀貫之 | 恋一 |
1-古今 | 472 | 白浪の あとなき方に 行く舟も 風ぞたよりの しるべなりける しらなみの あとなきかたに ゆくふねも かせそたよりの しるへなりける | 藤原勝臣 | 恋一 |
1-古今 | 473 | 音羽山 音に聞きつつ あふ坂の 関のこなたに 年をふるかな おとはやま おとにききつつ あふさかの せきのこなたに としをふるかな | 在原元方 | 恋一 |
1-古今 | 474 | 立ち返り あはれとぞ思ふ よそにても 人に心を 沖つ白浪 たちかへり あはれとそおもふ よそにても ひとにこころを おきつしらなみ | 在原元方 | 恋一 |
1-古今 | 475 | 世の中は かくこそありけれ 吹く風の 目に見ぬ人も 恋しかりけり よのなかは かくこそありけれ ふくかせの めにみぬひとも こひしかりけり | 紀貫之 | 恋一 |
1-古今 | 476 | 見ずもあらず 見もせぬ人の 恋しくは あやなく今日や ながめくらさむ みすもあらす みもせぬひとの こひしくは あやなくけふや なかめくらさむ | 在原業平 | 恋一 |
1-古今 | 477 | 知る知らぬ なにかあやなく わきて言はむ 思ひのみこそ しるべなりけれ しるしらぬ なにかあやなく わきていはむ おもひのみこそ しるへなりけれ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 478 | 春日野の 雪間をわけて おひいでくる 草のはつかに 見えし君はも かすかのの ゆきまをわけて おひいてくる くさのはつかに みえしきみはも | 壬生忠岑 | 恋一 |
1-古今 | 479 | 山桜 霞の間より ほのかにも 見てし人こそ 恋しかりけれ やまさくら かすみのまより ほのかにも みてしひとこそ こひしかりけれ | 紀貫之 | 恋一 |
1-古今 | 480 | たよりにも あらぬ思ひの あやしきは 心を人に つくるなりけり たよりにも あらぬおもひの あやしきは こころをひとに つくるなりけり | 在原元方 | 恋一 |
1-古今 | 481 | 初雁の はつかに声を 聞きしより 中空にのみ 物を思ふかな はつかりの はつかにこゑを ききしより なかそらにのみ ものをおもふかな | 凡河内躬恒 | 恋一 |
1-古今 | 482 | あふことは 雲ゐはるかに なる神の 音に聞きつつ 恋ひ渡るかな あふことは くもゐはるかに なるかみの おとにききつつ こひわたるかな | 紀貫之 | 恋一 |
1-古今 | 483 | 片糸を こなたかなたに よりかけて あはずはなにを 玉の緒にせむ かたいとを こなたかなたに よりかけて あはすはなにを たまのをにせむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 484 | 夕暮れは 雲のはたてに 物ぞ思ふ 天つ空なる 人を恋ふとて ゆふくれは くものはたてに ものそおもふ あまつそらなる ひとをこふとて | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 485 | かりこもの 思ひ乱れて 我が恋ふと 妹知るらめや 人しつげずは かりこもの おもひみたれて わかこふと いもしるらめや ひとしつけすは | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 486 | つれもなき 人をやねたく 白露の 置くとはなげき 寝とはしのばむ つれもなき ひとをやねたく しらつゆの おくとはなけき ぬとはしのはむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 487 | ちはやぶる 賀茂のやしろの ゆふだすき ひと日も君を かけぬ日はなし ちはやふる かものやしろの ゆふたすき ひとひもきみを かけぬひはなし | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 488 | 我が恋は むなしき空に 満ちぬらし 思ひやれども 行く方もなし わかこひは むなしきそらに みちぬらし おもひやれとも ゆくかたもなし | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 489 | 駿河なる 田子の浦浪 立たぬ日は あれども君を 恋ひぬ日ぞなき するかなる たこのうらなみ たたぬひは あれともきみを こひぬひはなし | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 490 | 夕月夜 さすやをかべの 松の葉の いつともわかぬ 恋もするかな ゆふつくよ さすやをかへの まつのはの いつともわかぬ こひもするかな | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 491 | あしひきの 山下水の 木隠れて たぎつ心を せきぞかねつる あしひきの やましたみつの こかくれて たきつこころを せきそかねつる | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 492 | 吉野川 岩切りとほし 行く水の 音にはたてじ 恋は死ぬとも よしのかは いはきりとほし ゆくみつの おとにはたてし こひはしぬとも | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 493 | たぎつ瀬の なかにも淀は ありてふを など我が恋の 淵瀬ともなき たきつせの なかにもよとは ありてふを なとわかこひの ふちせともなき | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 494 | 山高み 下ゆく水の 下にのみ 流れて恋ひむ 恋は死ぬとも やまたかみ したゆくみつの したにのみ なかれてこひむ こひはしぬとも | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 495 | 思ひいづる ときはの山の 岩つつじ 言はねばこそあれ 恋しきものを おもひいつる ときはのやまの いはつつし いはねはこそあれ こひしきものを | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 496 | 人知れず 思へば苦し 紅の 末摘花の 色にいでなむ ひとしれす おもへはくるし くれなゐの すゑつむはなの いろにいてなむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 497 | 秋の野の 尾花にまじり 咲く花の 色にや恋ひむ あふよしをなみ あきののの をはなにましり さくはなの いろにやこひむ あふよしをなみ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 498 | 我が園の 梅のほつえに うぐひすの 音に鳴きぬべき 恋もするかな わかそのの うめのほつえに うくひすの ねになきぬへき こひもするかな | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 499 | あしひきの 山郭公 我がごとや 君に恋ひつつ いねがてにする あしひきの やまほとときす わかことや きみにこひつつ いねかてにする | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 500 | 夏なれば 宿にふすぶる かやり火の いつまで我が身 下もえをせむ なつなれは やとにふすふる かやりひの いつまてわかみ したもえにせむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 501 | 恋せじと みたらし川に せしみそぎ 神はうけずぞ なりにけらしも こひせしと みたらしかはに せしみそき かみはうけすそ なりにけらしも | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 502 | あはれてふ ことだになくは なにをかは 恋の乱れの つかねをにせむ あはれてふ ことたになくは なにをかは こひのみたれの つかねをにせむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 503 | 思ふには 忍ぶることぞ 負けにける 色にはいでじと 思ひしものを おもふには しのふることそ まけにける いろにはいてしと おもひしものを | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 504 | 我が恋を 人知るらめや しきたへの 枕のみこそ 知らば知るらめ わかこひを ひとしるらめや しきたへの まくらのみこそ しらはしるらめ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 505 | あさぢふの 小野のしの原 しのぶとも 人知るらめや 言ふ人なしに あさちふの をののしのはら しのふとも ひとしるらめや いふひとなしに | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 506 | 人知れぬ 思ひやなぞと 葦垣の まぢかけれども あふよしのなき ひとしれぬ おもひやなそと あしかきの まちかけれとも あふよしのなき | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 507 | 思ふとも 恋ふともあはむ ものなれや ゆふてもたゆく とくる下紐 おもふとも こふともあはむ ものなれや ゆふてもたゆく とくるしたひも | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 508 | いで我を 人なとがめそ おほ舟の ゆたのたゆたに 物思ふころぞ いてわれを ひとなとかめそ おほふねの ゆたのたゆたに ものおもふころそ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 509 | 伊勢の海に 釣りする海人の うけなれや 心ひとつを 定めかねつる いせのうみに つりするあまの うけなれや こころひとつを ささめかねつる | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 510 | 伊勢の海の 海人の釣り縄 うちはへて くるしとのみや 思ひわたらむ いせのうみの あまのつりなは うちはへて くるしとのみや おもひわたらむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 511 | 涙川 なに水上を 尋ねけむ 物思ふ時の 我が身なりけり なみたかは なにみなかみを たつねけむ ものおもふときの わかみなりけり | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 512 | 種しあれば 岩にも松は おひにけり 恋をし恋ひば あはざらめやは たねしあれは いはにもまつは おひにけり こひをしこひは あはさらめやは | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 513 | 朝な朝な 立つ河霧の 空にのみ うきて思ひの ある世なりけり あさなあさな たつかはきりの そらにのみ うきておもひの あるよなりけり | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 514 | 忘らるる 時しなければ あしたづの 思ひ乱れて 音をのみぞ鳴く わすらるる ときしなけれは あしたつの おもひみたれて ねをのみそなく | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 515 | 唐衣 日も夕暮れに なる時は 返す返すぞ 人は恋しき からころも ひもゆふくれに なるときは かへすかへすそ ひとはこひしき | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 516 | よひよひに 枕さだめむ 方もなし いかに寝し夜か 夢に見えけむ よひよひに まくらさためむ かたもなし いかにねしよか ゆめにみえけむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 517 | 恋しきに 命をかふる ものならば 死にはやすくぞ あるべかりける こひしきに いのちをかふる ものならは しにはやすくそ あるへかりける | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 518 | 人の身も ならはしものを あはずして いざこころみむ 恋ひや死ぬると ひとのみも ならはしものを あはすして いさこころみむ こひやしぬると | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 519 | 忍ぶれば 苦しきものを 人知れず 思ふてふこと 誰にかたらむ しのふれは くるしきものを ひとしれす おもふてふこと たれにかたらむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 520 | こむ世にも はやなりななむ 目の前に つれなき人を 昔と思はむ こむよにも はやなりななむ めのまへに つれなきひとを むかしとおもはむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 521 | つれもなき 人を恋ふとて 山彦の 答へするまで なげきつるかな つれもなき ひとをこふとて やまひこの こたへするまて なけきつるかな | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 522 | 行く水に 数かくよりも はかなきは 思はぬ人を 思ふなりけり ゆくみつに かすかくよりも はかなきは おもはぬひとを おもふなりけり | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 523 | 人を思ふ 心は我に あらねばや 身の惑ふだに 知られざるらむ ひとをおもふ こころはわれに あらねはや みのまよふたに しられさるらむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 524 | 思ひやる さかひはるかに なりやする 惑ふ夢ぢに あふ人のなき おもひやる さかひはるかに なりやする まとふゆめちに あふひとのなき | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 525 | 夢の内に あひ見むことを たのみつつ くらせる宵は 寝む方もなし ゆめのうちに あひみむことを たのみつつ くらせるよひは ねむかたもなし | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 526 | 恋ひ死ねと するわざならし むばたまの 夜はすがらに 夢に見えつつ こひしねと するわさならし うはたまの よるはすからに ゆめにみえつつ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 527 | 涙川 枕流るる うきねには 夢もさだかに 見えずぞありける なみたかは まくらなかるる うきねには ゆめもさたかに みえすそありける | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 528 | 恋すれば 我が身は影と なりにけり さりとて人に そはぬものゆゑ こひすれは わかみはかけと なりにけり さりとてひとに そはぬものゆゑ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 529 | かがり火に あらぬ我が身の なぞもかく 涙の川に 浮きてもゆらむ かかりひに あらぬわかみの なそもかく なみたのかはに うきてもゆらむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 530 | かがり火の 影となる身の わびしきは ながれて下に もゆるなりけり かかりひの かけとなるみの わひしきは なかれてしたに もゆるなりけり | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 531 | はやき瀬に みるめおひせば 我が袖の 涙の川に 植ゑましものを はやきせに みるめおひせは わかそての なみたのかはに うゑましものを | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 532 | 沖へにも よらぬ玉藻の 浪の上に 乱れてのみや 恋ひ渡りなむ おきへにも よらぬたまもの なみのうへに みたれてのみや こひわたりなむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 533 | 葦鴨の 騒ぐ入江の 白浪の 知らずや人を かく恋ひむとは あしかもの さわくいりえの しらなみの しらすやひとを かくこひむとは | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 534 | 人知れぬ 思ひをつねに するがなる 富士の山こそ 我が身なりけれ ひとしれぬ おもひをつねに するかなる ふしのやまこそ わかみなりけれ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 535 | とぶ鳥の 声も聞こえぬ 奥山の 深き心を 人は知らなむ とふとりの こゑもきこえぬ おくやまの ふかきこころを ひとはしらなむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 536 | あふ坂の ゆふつけ鳥も 我がごとく 人や恋しき 音のみ鳴くらむ あふさかの ゆふつけとりも わかことく ひとやこひしき ねのみなくらむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 537 | あふ坂の 関に流るる 岩清水 言はで心に 思ひこそすれ あふさかの せきになかるる いはしみつ いはてこころに おもひこそすれ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 538 | 浮草の 上はしげれる 淵なれや 深き心を 知る人のなき うきくさの うへはしけれる ふちなれや ふかきこころを しるひとのなき | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 539 | うちわびて よばはむ声に 山彦の 答へぬ山は あらじとぞ思ふ うちわひて よははむこゑに やまひこの こたへぬやまは あらしとそおもふ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 540 | 心がへ するものにもが 片恋は 苦しきものと 人に知らせむ こころかへ するものにもか かたこひは くるしきものと ひとにしらせむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 541 | よそにして 恋ふれば苦し 入れ紐の 同じ心に いざ結びてむ よそにして こふれはくるし いれひもの おなしこころに いさむすひてむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 542 | 春たてば 消ゆる氷の 残りなく 君が心は 我にとけなむ はるたては きゆるこほりの のこりなく きみかこころは われにとけなむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 543 | 明けたてば 蝉のをりはへ なきくらし 夜は蛍の もえこそわたれ あけたては せみのをりはへ なきくらし よるはほたるの もえこそわたれ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 544 | 夏虫の 身をいたづらに なすことも ひとつ思ひに よりてなりけり なつむしの みをいたつらに なすことも ひとつおもひに よりてなりけり | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 545 | 夕されば いとどひがたき 我が袖に 秋の露さへ 置きそはりつつ ゆふくれは いととひかたき わかそてに あきのつゆさへ おきそはりつつ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 546 | いつとても 恋しからずは あらねども 秋の夕べは あやしかりけり いつとても こひしからすは あらねとも あきのゆふへは あやしかりけり | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 547 | 秋の田の 穂にこそ人を 恋ひざらめ などか心に 忘れしもせむ あきのたの ほにこそひとを こひさらめ なとかこころに わすれしもせむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 548 | 秋の田の 穂の上を照らす 稲妻の 光の間にも 我や忘るる あきのたの ほのうへをてらす いなつまの ひかりのまにも われやわするる | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 549 | 人目もる 我かはあやな 花薄 などか穂にいでて 恋ひずしもあらむ ひとめもる われかはあやな はなすすき なとかほにいてて こひすしもあらむ | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 550 | 淡雪の たまればかてに くだけつつ 我が物思ひの しげきころかな あはゆきの たまれはかてに くたけつつ わかものおもひの しけきころかな | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 551 | 奥山の 菅の根しのぎ 降る雪の けぬとか言はむ 恋のしげきに おくやまの すかのねしのき ふるゆきの けぬとかいはむ こひのしけきに | 読人知らず | 恋一 |
1-古今 | 552 | 思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを おもひつつ ぬれはやひとの みえつらむ ゆめとしりせは さめさらましを | 小野小町 | 恋二 |
1-古今 | 553 | うたたねに 恋しき人を 見てしより 夢てふものは たのみそめてき うたたねに こひしきひとを みてしより ゆめてふものは たのみそめてき | 小野小町 | 恋二 |
1-古今 | 554 | いとせめて 恋しき時は むばたまの 夜の衣を 返してぞきる いとせめて こひしきときは うはたまの よるのころもを かへしてそきる | 小野小町 | 恋二 |
1-古今 | 555 | 秋風の 身に寒ければ つれもなき 人をぞたのむ 暮るる夜ごとに あきかせの みにさむけれは つれもなき ひとをそたのむ くるるよことに | 素性法師 | 恋二 |
1-古今 | 556 | つつめども 袖にたまらぬ 白玉は 人を見ぬ目の 涙なりけり つつめとも そてにたまらぬ しらたまは ひとをみぬめの なみたなりけり | 安倍清行 | 恋二 |
1-古今 | 557 | おろかなる 涙ぞ袖に 玉はなす 我はせきあへず たぎつ瀬なれば おろかなる なみたそそてに たまはなす われはせきあへす たきつせなれは | 小野小町 | 恋二 |
1-古今 | 558 | 恋わびて うちぬるなかに 行きかよふ 夢のただぢは うつつならなむ こひわひて うちぬるなかに ゆきかよふ ゆめのたたちは うつつならなむ | 藤原敏行 | 恋二 |
1-古今 | 559 | 住の江の 岸による浪 よるさへや 夢のかよひぢ 人目よぐらむ すみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひち ひとめよくらむ | 藤原敏行 | 恋二 |
1-古今 | 560 | 我が恋は み山隠れの 草なれや しげさまされど 知る人のなき わかこひは みやまかくれの くさなれや しけさまされと しるひとのなき | 小野美材 | 恋二 |
1-古今 | 561 | 宵の間も はかなく見ゆる 夏虫に 惑ひまされる 恋もするかな よひのまも はかなくみゆる なつむしに まよひまされる こひもするかな | 紀友則 | 恋二 |
1-古今 | 562 | 夕されば 蛍よりけに もゆれども 光見ねばや 人のつれなき ゆふされは ほたるよりけに もゆれとも ひかりみねはや ひとのつれなき | 紀友則 | 恋二 |
1-古今 | 563 | 笹の葉に 置く霜よりも ひとり寝る 我が衣手ぞ さえまさりける ささのはに おくしもよりも ひとりぬる わかころもてそ さえまさりける | 紀友則 | 恋二 |
1-古今 | 564 | 我が宿の 菊の垣根に 置く霜の 消えかへりてぞ 恋しかりける わかやとの きくのかきねに おくしもの きえかへりてそ こひしかりける | 紀友則 | 恋二 |
1-古今 | 565 | 川の瀬に なびく玉藻の み隠れて 人に知られぬ 恋もするかな かはのせに なひくたまもの みかくれて ひとにしられぬ こひもするかな | 紀友則 | 恋二 |
1-古今 | 566 | かきくらし 降る白雪の 下ぎえに 消えて物思ふ ころにもあるかな かきくらし ふるしらゆきの したきえに きえてものおもふ ころにもあるかな | 壬生忠岑 | 恋二 |
1-古今 | 567 | 君恋ふる 涙の床に 満ちぬれば みをつくしとぞ 我はなりぬる きみこふる なみたのとこに みちぬれは みをつくしとそ われはなりぬる | 藤原興風 | 恋二 |
1-古今 | 568 | 死ぬる命 生きもやすると こころみに 玉の緒ばかり あはむと言はなむ しぬるいのち いきもやすると こころみに たまのをはかり あはむといはなむ | 藤原興風 | 恋二 |
1-古今 | 569 | わびぬれば しひて忘れむと 思へども 夢と言ふものぞ 人だのめなる わひぬれは しひてわすれむと おもへとも ゆめといふものそ ひとたのめなる | 藤原興風 | 恋二 |
1-古今 | 570 | わりなくも 寝ても覚めても 恋しきか 心をいづち やらば忘れむ わりなくも ねてもさめても こひしきか こころをいつち やらはわすれむ | 読人知らず | 恋二 |
1-古今 | 571 | 恋しきに わびてたましひ 惑ひなば むなしき殻の 名にや残らむ こひしきに わひてたましひ まよひなは むなしきからの なにやのこらむ | 読人知らず | 恋二 |
1-古今 | 572 | 君恋ふる 涙しなくは 唐衣 胸のあたりは 色もえなまし きみこふる なみたしなくは からころも むねのあたりは いろもえなまし | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 573 | 世とともに 流れてぞ行く 涙川 冬もこほらぬ みなわなりけり よとともに なかれてそゆく なみたかは ふゆもこほらぬ みなわなりけり | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 574 | 夢ぢにも 露や置くらむ 夜もすがら かよへる袖の ひちてかわかぬ ゆめちにも つゆやおくらむ よもすから かよへるそての ひちてかわかぬ | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 575 | はかなくて 夢にも人を 見つる夜は あしたの床ぞ 起きうかりける はかなくて ゆめにもひとを みつるよは あしたのとこそ おきうかりける | 素性法師 | 恋二 |
1-古今 | 576 | いつはりの 涙なりせば 唐衣 しのびに袖は しぼらざらまし いつはりの なみたなりせは からころも しのひにそては しほらさらまし | 藤原忠房 | 恋二 |
1-古今 | 577 | ねになきて ひちにしかども 春雨に 濡れにし袖と とはば答へむ ねになきて ひちにしかとも はるさめに ぬれにしそてと とははこたへむ | 大江千里 | 恋二 |
1-古今 | 578 | 我がごとく ものやかなしき 郭公 時ぞともなく 夜ただ鳴くらむ わかことく ものやかなしき ほとときす ときそともなく よたたなくらむ | 藤原敏行 | 恋二 |
1-古今 | 579 | 五月山 梢を高み 郭公 鳴く音空なる 恋もするかな さつきやま こすゑをたかみ ほとときす なくねそらなる こひもするかな | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 580 | 秋霧の 晴るる時なき 心には たちゐの空も 思ほえなくに あききりの はるるときなき こころには たちゐのそらも おもほえなくに | 凡河内躬恒 | 恋二 |
1-古今 | 581 | 虫のごと 声にたてては なかねども 涙のみこそ 下に流るれ むしのこと こゑにたてては なかねとも なみたのみこそ したになかるれ | 清原深養父 | 恋二 |
1-古今 | 582 | 秋なれば 山とよむまで 鳴く鹿に 我おとらめや ひとり寝る夜は あきなれは やまとよむまて なくしかに われおとらめや ひとりぬるよは | 読人知らず | 恋二 |
1-古今 | 583 | 秋の野に 乱れて咲ける 花の色の ちぐさに物を 思ふころかな あきののに みたれてさける はなのいろの ちくさにものを おもふころかな | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 584 | ひとりして 物を思へば 秋の夜の 稲葉のそよと 言ふ人のなき ひとりして ものをおもへは あきのよの いなはのそよと いふひとのなき | 凡河内躬恒 | 恋二 |
1-古今 | 585 | 人を思ふ 心は雁に あらねども 雲ゐにのみも なき渡るかな ひとをおもふ こころはかりに あらねとも くもゐにのみも なきわたるかな | 清原深養父 | 恋二 |
1-古今 | 586 | 秋風に かきなす琴の 声にさへ はかなく人の 恋しかるらむ あきかせに かきなすことの こゑにさへ はかなくひとの こひしかるらむ | 壬生忠岑 | 恋二 |
1-古今 | 587 | まこも刈る 淀の沢水 雨降れば 常よりことに まさる我が恋 まこもかる よとのさはみつ あめふれは つねよりことに まさるわかこひ | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 588 | 越えぬ間は 吉野の山の 桜花 人づてにのみ 聞き渡るかな こえぬまは よしののやまの さくらはな ひとつてにのみ ききわたるかな | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 589 | 露ならぬ 心を花に 置きそめて 風吹くごとに 物思ひぞつく つゆならぬ こころをはなに おきそめて かせふくことに ものおもひそつく | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 590 | 我が恋に くらぶの山の 桜花 間なく散るとも 数はまさらじ わかこひに くらふのやまの さくらはな まなくちるとも かすはまさらし | 坂上是則 | 恋二 |
1-古今 | 591 | 冬川の 上はこほれる 我なれや 下に流れて 恋ひ渡るらむ ふゆかはの うへはこほれる われなれや したになかれて こひわたるらむ | 宗岳大頼 | 恋二 |
1-古今 | 592 | たぎつ瀬に 根ざしとどめぬ 浮草の 浮きたる恋も 我はするかな たきつせに ねさしととめぬ うきくさの うきたるこひも われはするかな | 壬生忠岑 | 恋二 |
1-古今 | 593 | よひよひに 脱ぎて我が寝る かり衣 かけて思はぬ 時の間もなし よひよひに ぬきてわかぬる かりころも かけておもはぬ ときのまもなし | 紀友則 | 恋二 |
1-古今 | 594 | 東ぢの 小夜の中山 なかなかに なにしか人を 思ひそめけむ あつまちの さやのなかやま なかなかに なにしかひとを おもひそめけむ | 紀友則 | 恋二 |
1-古今 | 595 | しきたへの 枕の下に 海はあれど 人をみるめは おひずぞありける しきたへの まくらのしたに うみはあれと ひとをみるめは おひすそありける | 紀友則 | 恋二 |
1-古今 | 596 | 年をへて 消えぬ思ひは ありながら 夜の袂は なほこほりけり としをへて きえぬおもひは ありなから よるのたもとは なほこほりけり | 紀友則 | 恋二 |
1-古今 | 597 | 我が恋は 知らぬ山ぢに あらなくに 惑ふ心ぞ わびしかりける わかこひは しらぬやまちに あらなくに まよふこころそ わひしかりける | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 598 | 紅の ふりいでつつ なく涙には 袂のみこそ 色まさりけれ くれなゐの ふりいてつつなく なみたには たもとのみこそ いろまさりけれ | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 599 | 白玉と 見えし涙も 年ふれば 唐紅に うつろひにけり しらたまと みえしなみたも としふれは からくれなゐに うつろひにけり | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 600 | 夏虫を 何か言ひけむ 心から 我も思ひに もえぬべらなり なつむしを なにかいひけむ こころから われもおもひに もえぬへらなり | 凡河内躬恒 | 恋二 |
1-古今 | 601 | 風吹けば 峰にわかるる 白雲の 絶えてつれなき 君が心か かせふけは みねにわかるる しらくもの たえてつれなき きみかこころか | 壬生忠岑 | 恋二 |
1-古今 | 602 | 月影に 我が身をかふる ものならば つれなき人も あはれとや見む つきかけに わかみをかふる ものならは つれなきひとも あはれとやみむ | 壬生忠岑 | 恋二 |
1-古今 | 603 | 恋ひ死なば たが名はたたじ 世の中の 常なきものと 言ひはなすとも こひしなは たかなはたたし よのなかの つねなきものと いひはなすとも | 清原深養父 | 恋二 |
1-古今 | 604 | 津の国の 難波の葦の 芽もはるに しげき我が恋 人知るらめや つのくにの なにはのあしの めもはるに しけきわかこひ ひとしるらめや | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 605 | 手もふれで 月日へにける 白真弓 おきふし夜は いこそ寝られね てもふれて つきひへにける しらまゆみ おきふしよるは いこそねられね | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 606 | 人知れぬ 思ひのみこそ わびしけれ 我がなげきをば 我のみぞ知る ひとしれぬ おもひのみこそ わひしけれ わかなけきをは われのみそしる | 紀貫之 | 恋二 |
1-古今 | 607 | ことにいでて 言はぬばかりぞ みなせ川 下にかよひて 恋しきものを ことにいてて いはぬはかりそ みなせかは したにかよひて こひしきものを | 紀友則 | 恋二 |
1-古今 | 608 | 君をのみ 思ひねに寝し 夢なれば 我が心から 見つるなりけり きみをのみ おもひねにねし ゆめなれは わかこころから みつるなりけり | 凡河内躬恒 | 恋二 |
1-古今 | 609 | 命にも まさりて惜しく あるものは 見はてぬ夢の さむるなりけり いのちにも まさりてをしく あるものは みはてぬゆめの さむるなりけり | 壬生忠岑 | 恋二 |
1-古今 | 610 | 梓弓 ひけば本末 我が方に よるこそまされ 恋の心は あつさゆみ ひけはもとすゑ わかかたに よるこそまされ こひのこころは | 春道列樹 | 恋二 |
1-古今 | 611 | 我が恋は ゆくへも知らず はてもなし あふをかぎりと 思ふばかりぞ わかこひは ゆくへもしらす はてもなし あふをかきりと おもふはかりそ | 凡河内躬恒 | 恋二 |
1-古今 | 612 | 我のみぞ かなしかりける 彦星も あはですぐせる 年しなければ われのみそ かなしかりける ひこほしも あはてすくせる とししなけれは | 凡河内躬恒 | 恋二 |
1-古今 | 613 | 今ははや 恋ひ死なましを あひ見むと たのめしことぞ 命なりける いまははや こひしなましを あひみむと たのめしことそ いのちなりける | 清原深養父 | 恋二 |
1-古今 | 614 | たのめつつ あはで年ふる いつはりに こりぬ心を 人は知らなむ たのめつつ あはてとしふる いつはりに こりぬこころを ひとはしらなむ | 凡河内躬恒 | 恋二 |
1-古今 | 615 | 命やは なにぞは露の あだものを あふにしかへば 惜しからなくに いのちやは なにそはつゆの あたものを あふにしかへは をしからなくに | 紀友則 | 恋二 |
1-古今 | 616 | 起きもせず 寝もせで夜を 明かしては 春のものとて ながめくらしつ おきもせす ねもせてよるを あかしては はるのものとて なかめくらしつ | 在原業平 | 恋三 |
1-古今 | 617 | つれづれの ながめにまさる 涙川 袖のみ濡れて あふよしもなし つれつれの なかめにまさる なみたかは そてのみぬれて あふよしもなし | 藤原敏行 | 恋三 |
1-古今 | 618 | 浅みこそ 袖はひつらめ 涙川 身さへ流ると 聞かばたのまむ あさみこそ そてはひつらめ なみたかは みさへなかると きかはたのまむ | 在原業平 | 恋三 |
1-古今 | 619 | よるべなみ 身をこそ遠く へだてつれ 心は君が 影となりにき よるへなみ みをこそとほく へたてつれ こころはきみか かけとなりにき | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 620 | いたづらに 行きてはきぬる ものゆゑに 見まくほしさに いざなはれつつ いたつらに ゆきてはきぬる ものゆゑに みまくほしさに いさなはれつつ | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 621 | あはぬ夜の 降る白雪と つもりなば 我さへともに けぬべきものを あはぬよの ふるしらゆきと つもりなは われさへともに けぬへきものを | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 622 | 秋の野に 笹わけし朝の 袖よりも あはでこし夜ぞ ひちまさりける あきののに ささわけしあさの そてよりも あはてこしよそ ひちまさりける | 在原業平 | 恋三 |
1-古今 | 623 | みるめなき 我が身を浦と 知らねばや かれなで海人の 足たゆくくる みるめなき わかみをうらと しらねはや かれなてあまの あしたゆくくる | 小野小町 | 恋三 |
1-古今 | 624 | あはずして 今宵明けなば 春の日の 長くや人を つらしと思はむ あはすして こよひあけなは はるのひの なかくやひとを つらしとおもはむ | 源宗于 | 恋三 |
1-古今 | 625 | 有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきはかり うきものはなし | 壬生忠岑 | 恋三 |
1-古今 | 626 | あふことの なぎさにしよる 浪なれば うらみてのみぞ 立ち返りける あふことの なきさにしよる なみなれは うらみてのみそ たちかへりける | 在原元方 | 恋三 |
1-古今 | 627 | かねてより 風に先立つ 浪なれや あふことなきに まだき立つらむ かねてより かせにさきたつ なみなれや あふことなきに またきたつらむ | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 628 | 陸奥に ありと言ふなる 名取川 なき名とりては くるしかりけり みちのくに ありといふなる なとりかは なきなとりては くるしかりけり | 壬生忠岑 | 恋三 |
1-古今 | 629 | あやなくて まだきなき名の 竜田川 渡らでやまむ ものならなくに あやなくて またきなきなの たつたかは わたらてやまむ ものならなくに | 御春有輔 | 恋三 |
1-古今 | 630 | 人はいさ 我はなき名の 惜しければ 昔も今も 知らずとを言はむ ひとはいさ われはなきなの をしけれは むかしもいまも しらすとをいはむ | 在原元方 | 恋三 |
1-古今 | 631 | こりずまに またもなき名は 立ちぬべし 人にくからぬ 世にしすまへば こりすまに またもなきなは たちぬへし ひとにくからぬ よにしすまへは | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 632 | 人知れぬ 我がかよひぢの 関守は よひよひごとに うちも寝ななむ ひとしれぬ わかかよひちの せきもりは よひよひことに うちもねななむ | 在原業平 | 恋三 |
1-古今 | 633 | しのぶれど 恋しき時は あしひきの 山より月の いでてこそくれ しのふれと こひしきときは あしひきの やまよりつきの いててこそくれ | 紀貫之 | 恋三 |
1-古今 | 634 | 恋ひ恋ひて まれに今宵ぞ あふ坂の ゆふつけ鳥は 鳴かずもあらなむ こひこひて まれにこよひそ あふさかの ゆふつけとりは なかすもあらなむ | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 635 | 秋の夜も 名のみなりけり あふと言へば ことぞともなく 明けぬるものを あきのよも なのみなりけり あふといへは ことそともなく あけぬるものを | 小野小町 | 恋三 |
1-古今 | 636 | 長しとも 思ひぞはてぬ 昔より あふ人からの 秋の夜なれば なかしとも おもひそはてぬ むかしより あふひとからの あきのよなれは | 凡河内躬恒 | 恋三 |
1-古今 | 637 | しののめの ほがらほがらと 明けゆけば おのがきぬぎぬ なるぞかなしき しののめの ほからほからと あけゆけは おのかきぬきぬ なるそかなしき | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 638 | 明けぬとて いまはの心 つくからに など言ひ知らぬ 思ひそふらむ あけぬとて いまはのこころ つくからに なといひしらぬ おもひそふらむ | 藤原国経 | 恋三 |
1-古今 | 639 | 明けぬとて かへる道には こきたれて 雨も涙も 降りそほちつつ あけぬとて かへるみちには こきたれて あめもなみたも ふりそほちつつ | 藤原敏行 | 恋三 |
1-古今 | 640 | しののめの 別れを惜しみ 我ぞまづ 鳥より先に なきはじめつる しののめの わかれををしみ われそまつ とりよりさきに なきはしめつる | 寵 | 恋三 |
1-古今 | 641 | 郭公 夢かうつつか 朝露の おきて別れし 暁の声 ほとときす ゆめかうつつか あさつゆの おきてわかれし あかつきのこゑ | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 642 | 玉くしげ あけば君が名 立ちぬべみ 夜深くこしを 人見けむかも たまくしけ あけはきみかな たちぬへみ よふかくこしを ひとみけむかも | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 643 | 今朝はしも おきけむ方も 知らざりつ 思ひいづるぞ 消えてかなしき けさはしも おきけむかたも しらさりつ おもひいつるそ きえてかなしき | 大江千里 | 恋三 |
1-古今 | 644 | 寝ぬる夜の 夢をはかなみ まどろめば いやはかなにも なりまさるかな ねぬるよの ゆめをはかなみ まとろめは いやはかなにも なりまさるかな | 在原業平 | 恋三 |
1-古今 | 645 | 君やこし 我や行きけむ 思ほえず 夢かうつつか 寝てかさめてか きみやこし われやゆきけむ おもほえす ゆめかうつつか ねてかさめてか | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 646 | かきくらす 心の闇に 惑ひにき 夢うつつとは 世人さだめよ かきくらす こころのやみに まよひにき ゆめうつつとは よひとさためよ | 在原業平 | 恋三 |
1-古今 | 647 | むばたまの 闇のうつつは さだかなる 夢にいくらも まさらざりけり うはたまの やみのうつつは さたかなる ゆめにいくらも まさらさりけり | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 648 | 小夜ふけて 天の門渡る 月影に あかずも君を あひ見つるかな さよふけて あまのとわたる つきかけに あかすもきみを あひみつるかな | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 649 | 君が名も 我が名も立てじ 難波なる みつとも言ふな あひきとも言はじ きみかなも わかなもたてし なにはなる みつともいふな あひきともいはし | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 650 | 名取川 瀬ぜのむもれ木 あらはれば いかにせむとか あひ見そめけむ なとりかは せせのうもれき あらはれは いかにせむとか あひみそめけむ | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 651 | 吉野川 水の心は はやくとも 滝の音には 立てじとぞ思ふ よしのかは みつのこころは はやくとも たきのおとには たてしとそおもふ | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 652 | 恋しくは したにを思へ 紫の ねずりの衣 色にいづなゆめ こひしくは したにをおもへ むらさきの ねすりのころも いろにいつなゆめ | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 653 | 花薄 穂にいでて恋ひば 名を惜しみ 下ゆふ紐の むすぼほれつつ はなすすき ほにいててこひは なををしみ したゆふひもの むすほほれつつ | 小野春風 | 恋三 |
1-古今 | 654 | おもふどち ひとりひとりが 恋ひ死なば 誰によそへて 藤衣着む おもふとち ひとりひとりか こひしなは たれによそへて ふちころもきむ | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 655 | 泣き恋ふる 涙に袖の そほちなば 脱ぎかへがてら 夜こそはきめ なきこふる なみたにそての そほちなは ぬきかへかてら よるこそはきめ | 橘清樹 | 恋三 |
1-古今 | 656 | うつつには さもこそあらめ 夢にさへ 人目をもると 見るがわびしさ うつつには さもこそあらめ ゆめにさへ ひとめをよくと みるかわひしさ | 小野小町 | 恋三 |
1-古今 | 657 | かぎりなき 思ひのままに 夜も来む 夢ぢをさへに 人はとがめじ かきりなき おもひのままに よるもこむ ゆめちをさへに ひとはとかめし | 小野小町 | 恋三 |
1-古今 | 658 | 夢ぢには 足も休めず かよへども うつつにひと目 見しごとはあらず ゆめちには あしもやすめす かよへとも うつつにひとめ みしことはあらす | 小野小町 | 恋三 |
1-古今 | 659 | 思へども 人目つつみの 高ければ 川と見ながら えこそ渡らね おもへとも ひとめつつみの たかけれは かはとみなから えこそわたらね | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 660 | たぎつ瀬の はやき心を 何しかも 人目つつみの せきとどむらむ たきつせの はやきこころを なにしかも ひとめつつみの せきととむらむ | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 661 | 紅の 色にはいでじ 隠れ沼の 下にかよひて 恋は死ぬとも くれなゐの いろにはいてし かくれぬの したにかよひて こひはしぬとも | 紀友則 | 恋三 |
1-古今 | 662 | 冬の池に すむにほ鳥の つれもなく そこにかよふと 人に知らすな ふゆのいけに すむにほとりの つれもなく そこにかよふと ひとにしらすな | 凡河内躬恒 | 恋三 |
1-古今 | 663 | 笹の葉に 置く初霜の 夜を寒み しみはつくとも 色にいでめや ささのはに おくはつしもの よをさむみ しみはつくとも いろにいてめや | 凡河内躬恒 | 恋三 |
1-古今 | 664 | 山しなの 音羽の山の 音にだに 人の知るべく 我が恋めかも やましなの おとはのやまの おとにたに ひとのしるへく わかこひめかも | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 665 | みつ潮の 流れひるまを あひがたみ みるめのうらに よるをこそ待て みつしほの なかれひるまを あひかたみ みるめのうらに よるをこそまて | 清原深養父 | 恋三 |
1-古今 | 666 | 白川の 知らずともいはじ 底清み 流れて世よに すまむと思へば しらかはの しらすともいはし そこきよみ なかれてよよに すまむとおもへは | 平貞文 | 恋三 |
1-古今 | 667 | 下にのみ 恋ふれば苦し 玉の緒の 絶えて乱れむ 人なとがめそ したにのみ こふれはくるし たまのをの たえてみたれむ ひとなとかめそ | 紀友則 | 恋三 |
1-古今 | 668 | 我が恋を しのびかねては あしひきの 山橘の 色にいでぬべし わかこひを しのひかねては あしひきの やまたちはなの いろにいてぬへし | 紀友則 | 恋三 |
1-古今 | 669 | おほかたは 我が名もみなと こぎいでなむ 世をうみべたに みるめすくなし おほかたは わかなもみなと こきいてなむ よをうみへたに みるめすくなし | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 670 | 枕より また知る人も なき恋を 涙せきあへず もらしつるかな まくらより またしるひとも なきこひを なみたせきあへす もらしつるかな | 平貞文 | 恋三 |
1-古今 | 671 | 風吹けば 浪うつ岸の 松なれや ねにあらはれて 泣きぬべらなり かせふけは なみうつきしの まつなれや ねにあらはれて なきぬへらなり | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 672 | 池にすむ 名ををし鳥の 水を浅み かくるとすれど あらはれにけり いけにすむ なををしとりの みつをあさみ かくるとすれと あらはれにけり | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 673 | あふことは 玉の緒ばかり 名の立つは 吉野の川の たぎつ瀬のごと あふことは たまのをはかり なのたつは よしののかはの たきつせのこと | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 674 | むら鳥の 立ちにし我が名 いまさらに ことなしぶとも しるしあらめや むらとりの たちにしわかな いまさらに ことなしむとも しるしあらめや | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 675 | 君により 我が名は花に 春霞 野にも山にも 立ち満ちにけり きみにより わかなははなに はるかすみ のにもやまにも たちみちにけり | 読人知らず | 恋三 |
1-古今 | 676 | 知ると言へば 枕だにせで 寝しものを 塵ならぬ名の 空に立つらむ しるといへは まくらたにせて ねしものを ちりならぬなの そらにたつらむ | 伊勢 | 恋三 |
1-古今 | 677 | 陸奥の 安積の沼の 花かつみ かつ見る人に 恋ひや渡らむ みちのくの あさかのぬまの はなかつみ かつみるひとに こひやわたらむ | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 678 | あひ見ずは 恋しきことも なからまし 音にぞ人を 聞くべかりける あひみすは こひしきことも なからまし おとにそひとを きくへかりける | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 679 | いそのかみ ふるのなか道 なかなかに 見ずは恋しと 思はましやは いそのかみ ふるのなかみち なかなかに みすはこひしと おもはましやは | 紀貫之 | 恋四 |
1-古今 | 680 | 君と言へば 見まれ見ずまれ 富士の嶺の めづらしげなく もゆる我が恋 きみてへは みまれみすまれ ふしのねの めつらしけなく もゆるわかこひ | 藤原忠行 | 恋四 |
1-古今 | 681 | 夢にだに 見ゆとは見えじ 朝な朝な 我が面影に はづる身なれば ゆめにたに みゆとはみえし あさなあさな わかおもかけに はつるみなれは | 伊勢 | 恋四 |
1-古今 | 682 | 石間ゆく 水の白浪 立ち返り かくこそは見め あかずもあるかな いしまゆく みつのしらなみ たちかへり かくこそはみめ あかすもあるかな | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 683 | 伊勢の海人の 朝な夕なに かづくてふ みるめに人を あくよしもがな いせのあまの あさなゆふなに かつくてふ みるめにひとを あくよしもかな | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 684 | 春霞 たなびく山の 桜花 見れどもあかぬ 君にもあるかな はるかすみ たなひくやまの さくらはな みれともあかぬ きみにもあるかな | 紀友則 | 恋四 |
1-古今 | 685 | 心をぞ わりなきものと 思ひぬる 見るものからや 恋しかるべき こころをそ わりなきものと おもひぬる みるものからや こひしかるへき | 清原深養父 | 恋四 |
1-古今 | 686 | 枯れはてむ のちをば知らで 夏草の 深くも人の 思ほゆるかな かれはてむ のちをはしらて なつくさの ふかくもひとの おもほゆるかな | 凡河内躬恒 | 恋四 |
1-古今 | 687 | 飛鳥川 淵は瀬になる 世なりとも 思ひそめてむ 人は忘れじ あすかかは ふちはせになる よなりとも おもひそめてむ ひとはわすれし | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 688 | 思ふてふ 言の葉のみや 秋をへて 色もかはらぬ ものにはあるらむ おもふてふ ことのはのみや あきをへて いろもかはらぬ ものにはあるらむ | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 689 | さむしろに 衣かたしき 今宵もや 我を待つらむ 宇治の橋姫 さむしろに ころもかたしき こよひもや われをまつらむ うちのはしひめ | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 690 | 君やこむ 我やゆかむの いさよひに 真木の板戸も ささず寝にけり きみやこむ われやゆかむの いさよひに まきのいたとも ささすねにけり | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 691 | 今こむと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ちいでつるかな いまこむと いひしはかりに なかつきの ありあけのつきを まちいてつるかな | 素性法師 | 恋四 |
1-古今 | 692 | 月夜よし 夜よしと人に つげやらば こてふににたり 待たずしもあらず つきよよし よよしとひとに つけやらは こてふににたり またすしもあらす | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 693 | 君こずは ねやへもいらじ 濃紫 我がもとゆひに 霜は置くとも きみこすは ねやへもいらし こむらさき わかもとゆひに しもはおくとも | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 694 | 宮城野の もとあらの小萩 露を重み 風を待つごと 君をこそ待て みやきのの もとあらのこはき つゆをおもみ かせをまつこと きみをこそまて | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 695 | あな恋し 今も見てしか 山がつの かきほにさける 大和撫子 あなこひし いまもみてしか やまかつの かきほにさける やまとなてしこ | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 696 | 津の国の なには思はず 山しろの とはにあひ見む ことをのみこそ つのくにの なにはおもはす やましろの とはにあひみむ ことをのみこそ | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 697 | 敷島や 大和にはあらぬ 唐衣 ころもへずして あふよしもがな しきしまや やまとにはあらぬ からころも ころもへすして あふよしもかな | 紀貫之 | 恋四 |
1-古今 | 698 | 恋しとは たが名づけけむ ことならむ 死ぬとぞただに 言ふべかりける こひしとは たかなつけけむ ことならむ しぬとそたたに いふへかりける | 清原深養父 | 恋四 |
1-古今 | 699 | み吉野の 大川のべの 藤波の なみに思はば 我が恋めやは みよしのの おほかはのへの ふちなみの なみにおもはは わかこひめやは | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 700 | かく恋ひむ ものとは我も 思ひにき 心のうらぞ まさしかりける かくこひむ ものとはわれも おもひにき こころのうらそ まさしかりける | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 701 | 天の原 ふみとどろかし なる神も 思ふなかをば さくるものかは あまのはら ふみととろかし なるかみも おもふなかをは さくるものかは | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 702 | 梓弓 ひき野のつづら 末つひに 我が思ふ人に ことのしげけむ あつさゆみ ひきののつつら すゑつひに わかおもふひとに ことのしけけむ | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 703 | 夏引きの 手引きの糸を くりかへし ことしげくとも 絶えむと思ふな なつひきの てひきのいとを くりかへし こしとけくとも たえむとおもふな | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 704 | 里人の ことは夏野の しげくとも 枯れ行く君に あはざらめやは さとひとの ことはなつのの しけくとも かれゆくきみに あはさらめやは | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 705 | かずかずに 思ひ思はず とひがたみ 身を知る雨は 降りぞまされる かすかすに おもひおもはす とひかたみ みをしるあめは ふりそまされる | 在原業平 | 恋四 |
1-古今 | 706 | おほぬさの ひくてあまたに なりぬれば 思へどえこそ たのまざりけれ おほぬさの ひくてあまたに なりぬれは おもへとえこそ たのまさりけれ | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 707 | おほぬさと 名にこそたてれ 流れても つひによる瀬は ありてふものを おほぬさと なにこそたてれ なかれても つひによるせは ありてふものを | 在原業平 | 恋四 |
1-古今 | 708 | 須磨の海人の 塩やく煙 風をいたみ 思はぬ方に たなびきにけり すまのあまの しほやくけふり かせをいたみ おもはぬかたに たなひきにけり | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 709 | 玉かづら はふ木あまたに なりぬれば 絶えぬ心の うれしげもなし たまかつら はふきあまたに なりぬれは たえぬこころの うれしけもなし | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 710 | たが里に 夜がれをしてか 郭公 ただここにしも 寝たる声する たかさとに よかれをしてか ほとときす たたここにしも ねたるこゑする | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 711 | いで人は ことのみぞよき 月草の うつし心は 色ことにして いてひとは ことのみそよき つきくさの うつしこころは いろことにして | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 712 | いつはりの なき世なりせば いかばかり 人の言の葉 うれしからまし いつはりの なきよなりせは いかはかり ひとのことのは うれしからまし | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 713 | いつはりと 思ふものから 今さらに たがまことをか 我はたのまむ いつはりと おもふものから いまさらに たかまことをか われはたのまむ | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 714 | 秋風に 山の木の葉の うつろへば 人の心も いかがとぞ思ふ あきかせに やまのこのはの うつろへは ひとのこころも いかかとそおもふ | 素性法師 | 恋四 |
1-古今 | 715 | 蝉の声 聞けばかなしな 夏衣 薄くや人の ならむと思へば せみのこゑ きけはかなしな なつころも うすくやひとの ならむとおもへは | 紀友則 | 恋四 |
1-古今 | 716 | 空蝉の 世の人ごとの しげければ 忘れぬものの かれぬべらなり うつせみの よのひとことの しけけれは わすれぬものの かれぬへらなり | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 717 | あかでこそ 思はむなかは 離れなめ そをだにのちの 忘れ形見に あかてこそ おもはむなかは はなれなめ そをたにのちの わすれかたみに | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 718 | 忘れなむと 思ふ心の つくからに ありしよりけに まづぞ恋しき わすれなむと おもふこころの つくからに ありしよりけに まつそこひしき | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 719 | 忘れなむ 我をうらむな 郭公 人の秋には あはむともせず わすれなむ われをうらむな ほとときす ひとのあきには あはむともせす | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 720 | 絶えずゆく 飛鳥の川の よどみなば 心あるとや 人の思はむ たえすゆく あすかのかはの よとみなは こころあるとや ひとのおもはむ | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 721 | 淀川の よどむと人は 見るらめど 流れて深き 心あるものを よとかはの よとむとひとは みるらめと なかれてふかき こころあるものを | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 722 | そこひなき 淵やは騒ぐ 山川の 浅き瀬にこそ あだ浪はたて そこひなき ふちやはさわく やまかはの あさきせにこそ あたなみはたて | 素性法師 | 恋四 |
1-古今 | 723 | 紅の 初花染めの 色深く 思ひし心 我忘れめや くれなゐの はつはなそめの いろふかく おもひしこころ われわすれめや | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 724 | 陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れむと思ふ 我ならなくに みちのくの しのふもちすり たれゆゑに みたれむとおもふ われならなくに | 源融 | 恋四 |
1-古今 | 725 | 思ふより いかにせよとか 秋風に なびくあさぢの 色ことになる おもふより いかにせよとか あきかせに なひくあさちの いろことになる | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 726 | ちぢの色に うつろふらめど 知らなくに 心し秋の もみぢならねば ちちのいろに うつろふらめと しらなくに こころしあきの もみちならねは | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 727 | 海人の住む 里のしるべに あらなくに うらみむとのみ 人の言ふらむ あまのすむ さとのしるへに あらなくに うらみむとのみ ひとのいふらむ | 小野小町 | 恋四 |
1-古今 | 728 | 曇り日の 影としなれる 我なれば 目にこそ見えね 身をば離れず くもりひの かけとしなれる われなれは めにこそみえね みをははなれす | 下野雄宗 | 恋四 |
1-古今 | 729 | 色もなき 心を人に 染めしより うつろはむとは 思ほえなくに いろもなき こころをひとに そめしより うつろはむとは おもほえなくに | 紀貫之 | 恋四 |
1-古今 | 730 | めづらしき 人を見むとや しかもせぬ 我が下紐の とけ渡るらむ めつらしき ひとをみむとや しかもせぬ わかしたひもの とけわたるらむ | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 731 | かげろふの それかあらぬか 春雨の 降る日となれば 袖ぞ濡れぬる かけろふの それかあらぬか はるさめの ふるひとなれは そてそぬれぬる | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 732 | 堀江こぐ 棚なし小舟 こぎかへり 同じ人にや 恋ひ渡りなむ ほりえこく たななしをふね こきかへり おなしひとにや こひわたりなむ | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 733 | わたつみと 荒れにし床を 今さらに はらはば袖や 泡と浮きなむ わたつみと あれにしとこを いまさらに はらははそてや あわとうきなむ | 伊勢 | 恋四 |
1-古今 | 734 | いにしへに なほ立ち返る 心かな 恋しきことに もの忘れせで いにしへに なほたちかへる こころかな こひしきことに ものわすれせて | 紀貫之 | 恋四 |
1-古今 | 735 | 思ひいでて 恋しき時は 初雁の なきて渡ると 人知るらめや おもひいてて こひしきときは はつかりの なきてわたると ひとしるらめや | 大友黒主 | 恋四 |
1-古今 | 736 | たのめこし 言の葉今は かへしてむ 我が身ふるれば 置きどころなし たのめこし ことのはいまは かへしてむ わかみふるれは おきところなし | 藤原因香 | 恋四 |
1-古今 | 737 | 今はとて かへす言の葉 拾ひおきて おのがものから 形見とや見む いまはとて かへすことのは ひろひおきて おのかものから かたみとやみむ | 源能有 | 恋四 |
1-古今 | 738 | 玉ぼこの 道はつねにも 惑はなむ 人をとふとも 我かと思はむ たまほこの みちはつねにも まとはなむ ひとをとふとも われかとおもはむ | 藤原因香 | 恋四 |
1-古今 | 739 | 待てと言はば 寝てもゆかなむ しひて行く 駒のあし折れ 前の棚橋 まてといはは ねてもゆかなむ しひてゆく こまのあしをれ まへのたなはし | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 740 | あふ坂の ゆふつけ鳥に あらばこそ 君がゆききを なくなくも見め あふさかの ゆふつけとりに あらはこそ きみかゆききを なくなくもみめ | 閑院 | 恋四 |
1-古今 | 741 | ふるさとに あらぬものから 我がために 人の心の 荒れて見ゆらむ ふるさとに あらぬものから わかために ひとのこころの あれてみゆらむ | 伊勢 | 恋四 |
1-古今 | 742 | 山がつの かきほにはへる あをつづら 人はくれども ことづてもなし やまかつの かきほにはへる あをつつら ひとはくれとも ことつてもなし | 寵 | 恋四 |
1-古今 | 743 | 大空は 恋しき人の 形見かは 物思ふごとに ながめらるらむ おほそらは こひしきひとの かたみかは ものおもふことに なかめらるらむ | 酒井人真 | 恋四 |
1-古今 | 744 | あふまでの 形見も我は 何せむに 見ても心の なぐさまなくに あふまての かたみもわれは なにせむに みてもこころの なくさまなくに | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 745 | あふまでの 形見とてこそ とどめけめ 涙に浮ぶ 藻屑なりけり あふまての かたみとてこそ ととめけめ なみたにうかふ もくつなりけり | 藤原興風 | 恋四 |
1-古今 | 746 | 形見こそ 今はあたなれ これなくは 忘るる時も あらましものを かたみこそ いまはあたなれ これなくは わするるときも あらましものを | 読人知らず | 恋四 |
1-古今 | 747 | 月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ 我が身ひとつは もとの身にして つきやあらぬ はるやむかしの はるならぬ わかみひとつは もとのみにして | 在原業平 | 恋五 |
1-古今 | 748 | 花薄 我こそ下に 思ひしか 穂にいでて人に 結ばれにけり はなすすき われこそしたに おもひしか ほにいててひとに むすはれにけり | 藤原仲平 | 恋五 |
1-古今 | 749 | よそにのみ 聞かましものを 音羽川 渡るとなしに 見なれそめけむ よそにのみ きかましものを おとはかは わたるとなしに みなれそめけむ | 藤原兼輔 | 恋五 |
1-古今 | 750 | 我がごとく 我を思はむ 人もがな さてもや憂きと 世をこころみむ わかことく われをおもはむ ひともかな さてもやうきと よをこころみむ | 凡河内躬恒 | 恋五 |
1-古今 | 751 | 久方の 天つ空にも すまなくに 人はよそにぞ 思ふべらなる ひさかたの あまつそらにも すまなくに ひとはよそにそ おもふへらなる | 在原元方 | 恋五 |
1-古今 | 752 | 見てもまた またも見まくの ほしければ なるるを人は いとふべらなり みてもまた またもみまくの ほしけれは なるるをひとは いとふへらなり | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 753 | 雲もなく なぎたる朝の 我なれや いとはれてのみ 世をばへぬらむ くももなく なきたるあさの われなれや いとはれてのみ よをはへぬらむ | 紀友則 | 恋五 |
1-古今 | 754 | 花がたみ 目ならぶ人の あまたあれば 忘られぬらむ 数ならぬ身は はなかたみ めならふひとの あまたあれは わすられぬらむ かすならぬみは | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 755 | うきめのみ おひて流るる 浦なれば かりにのみこそ 海人は寄るらめ うきめのみ おひてなかるる うらなれは かりにのみこそ あまはよるらめ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 756 | あひにあひて 物思ふころの 我が袖に 宿る月さへ 濡るるかほなる あひにあひて ものおもふころの わかそてに やとるつきさへ ぬるるかほなる | 伊勢 | 恋五 |
1-古今 | 757 | 秋ならで 置く白露は 寝ざめする 我が手枕の しづくなりけり あきならて おくしらつゆは ねさめする わかたまくらの しつくなりけり | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 758 | 須磨の海人の 塩やき衣 をさをあらみ まどほにあれや 君がきまさぬ すまのあまの しほやきころも をさをあらみ まとほにあれや きみかきまさぬ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 759 | 山しろの 淀のわかごも かりにだに 来ぬ人たのむ 我ぞはかなき やましろの よとのわかこも かりにたに こぬひとたのむ われそはかなき | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 760 | あひ見ねば 恋こそまされ みなせ川 何に深めて 思ひそめけむ あひみねは こひこそまされ みなせかは なににふかめて おもひそめけむ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 761 | 暁の しぎの羽がき ももはがき 君が来ぬ夜は 我ぞ数かく あかつきの しきのはねかき ももはかき きみかこぬよは われそかすかく | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 762 | 玉かづら 今は絶ゆとや 吹く風の 音にも人の 聞こえざるらむ たまかつら いまはたゆとや ふくかせの おとにもひとの きこえさるらむ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 763 | 我が袖に まだき時雨の 降りぬるは 君が心に 秋や来ぬらむ わかそてに またきしくれの ふりぬるは きみかこころに あきやきぬらむ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 764 | 山の井の 浅き心も 思はぬに 影ばかりのみ 人の見ゆらむ やまのゐの あさきこころも おもはぬに かけはかりのみ ひとのみゆらむ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 765 | 忘れ草 種とらましを あふことの いとかくかたき ものと知りせば わすれくさ たねとらましを あふことの いとかくかたき ものとしりせは | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 766 | 恋ふれども あふ夜のなきは 忘れ草 夢ぢにさへや おひしげるらむ こふれとも あふよのなきは わすれくさ ゆめちにさへや おひしけるらむ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 767 | 夢にだに あふことかたく なりゆくは 我やいを寝ぬ 人や忘るる ゆめにたに あふことかたく なりゆくは われやいをねぬ ひとやわするる | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 768 | もろこしも 夢に見しかば 近かりき 思はぬなかぞ はるけかりける もろこしも ゆめにみしかは ちかかりき おもはぬなかそ はるけかりける | 兼芸法師 | 恋五 |
1-古今 | 769 | ひとりのみ ながめふるやの つまなれば 人をしのぶの 草ぞおひける ひとりのみ なかめふるやの つまなれは ひとをしのふの くさそおひける | 貞登 | 恋五 |
1-古今 | 770 | 我が宿は 道もなきまで 荒れにけり つれなき人を 待つとせしまに わかやとは みちもなきまて あれにけり つれなきひとを まつとせしまに | 僧正遍昭 | 恋五 |
1-古今 | 771 | 今こむと 言ひて別れし あしたより 思ひくらしの 音をのみぞ鳴く いまこむと いひてわかれし あしたより おもひくらしの ねをのみそなく | 僧正遍昭 | 恋五 |
1-古今 | 772 | こめやとは 思ふものから ひぐらしの 鳴く夕暮れは 立ち待たれつつ こめやとは おもふものから ひくらしの なくゆふくれは たちまたれつつ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 773 | 今しはと わびにしものを ささがにの 衣にかかり 我をたのむる いましはと わひにしものを ささかにの ころもにかかり われをたのむる | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 774 | 今はこじと 思ふものから 忘れつつ 待たるることの まだもやまぬか いまはこしと おもふものから わすれつつ またるることの またもやまぬか | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 775 | 月夜には 来ぬ人待たる かきくもり 雨も降らなむ わびつつも寝む つきよには こぬひとまたる かきくもり あめもふらなむ わひつつもねむ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 776 | 植ゑていにし 秋田刈るまで 見え来ねば 今朝初雁の 音にぞなきぬる うゑていにし あきたかるまて みえこねは けさはつかりの ねにそなきぬる | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 777 | 来ぬ人を 待つ夕暮れの 秋風は いかに吹けばか わびしかるらむ こぬひとを まつゆふくれの あきかせは いかにふけはか わひしかるらむ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 778 | 久しくも なりにけるかな 住の江の 松は苦しき ものにぞありける ひさしくも なりにけるかな すみのえの まつはくるしき ものにそありける | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 779 | 住の江の 松ほどひさに なりぬれば あしたづの音に なかぬ日はなし すみのえの まつほとひさに なりぬれは あしたつのねに なかぬひはなし | 兼覧王 | 恋五 |
1-古今 | 780 | 三輪の山 いかに待ち見む 年ふとも たづぬる人も あらじと思へば みわのやま いかにまちみむ としふとも たつぬるひとも あらしとおもへは | 伊勢 | 恋五 |
1-古今 | 781 | 吹きまよふ 野風を寒み 秋萩の うつりもゆくか 人の心の ふきまよふ のかせをさむみ あきはきの うつりもゆくか ひとのこころの | 雲林院親王 | 恋五 |
1-古今 | 782 | 今はとて 我が身時雨に ふりぬれば 言の葉さへに うつろひにけり いまはとて わかみしくれに ふりぬれは ことのはさへに うつろひにけり | 小野小町 | 恋五 |
1-古今 | 783 | 人を思ふ 心の木の葉に あらばこそ 風のまにまに 散りも乱れめ ひとをおもふ こころのこのはに あらはこそ かせのまにまに ちりもみたれめ | 小野貞樹 | 恋五 |
1-古今 | 784 | 天雲の よそにも人の なりゆくか さすがに目には 見ゆるものから あまくもの よそにもひとの なりゆくか さすかにめには みゆるものから | 紀有常女 | 恋五 |
1-古今 | 785 | 行きかへり 空にのみして ふることは 我がゐる山の 風はやみなり ゆきかへり そらにのみして ふることは わかゐるやまの かせはやみなり | 在原業平 | 恋五 |
1-古今 | 786 | 唐衣 なれば身にこそ まつはれめ かけてのみやは 恋ひむと思ひし からころも なれはみにこそ まつはれめ かけてのみやは こひむとおもひし | 景式王 | 恋五 |
1-古今 | 787 | 秋風は 身をわけてしも 吹かなくに 人の心の 空になるらむ あきかせは みをわけてしも ふかなくに ひとのこころの そらになるらむ | 紀友則 | 恋五 |
1-古今 | 788 | つれもなく なりゆく人の 言の葉ぞ 秋より先の もみぢなりける つれもなく なりゆくひとの ことのはそ あきよりさきの もみちなりける | 源宗于 | 恋五 |
1-古今 | 789 | 死出の山 麓を見てぞ かへりにし つらき人より まづ越えじとて してのやま ふもとをみてそ かへりにし つらきひとより まつこえしとて | 兵衛 | 恋五 |
1-古今 | 790 | 時すぎて 枯れゆく小野の あさぢには 今は思ひぞ 絶えずもえける ときすきて かれゆくをのの あさちには いまはおもひそ たえすもえける | 小野小町姉 | 恋五 |
1-古今 | 791 | 冬枯れの 野辺と我が身を 思ひせば もえても春を 待たましものを ふゆかれの のへとわかみを おもひせは もえてもはるを またましものを | 伊勢 | 恋五 |
1-古今 | 792 | 水の泡の 消えてうき身と 言ひながら 流れてなほも たのまるるかな みつのあわの きえてうきみと いひなから なかれてなほも たのまるるかな | 紀友則 | 恋五 |
1-古今 | 793 | みなせ川 ありて行く水 なくはこそ つひに我が身を 絶えぬと思はめ みなせかは ありてゆくみつ なくはこそ つひにわかみを たえぬとおもはめ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 794 | 吉野川 よしや人こそ つらからめ はやく言ひてし ことは忘れじ よしのかは よしやひとこそ つらからめ はやくいひてし ことはわすれし | 凡河内躬恒 | 恋五 |
1-古今 | 795 | 世の中の 人の心は 花染めの うつろひやすき 色にぞありける よのなかの ひとのこころは はなそめの うつろひやすき いろにそありける | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 796 | 心こそ うたてにくけれ 染めざらば うつろふことも 惜しからましや こころこそ うたてにくけれ そめさらは うつろふことも をしからましや | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 797 | 色見えで うつろふものは 世の中の 人の心の 花にぞありける いろみえて うつろふものは よのなかの ひとのこころの はなにそありける | 小野小町 | 恋五 |
1-古今 | 798 | 我のみや 世をうぐひすと なきわびむ 人の心の 花と散りなば われのみや よをうくひすと なきわひむ ひとのこころの はなとちりなは | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 799 | 思ふとも かれなむ人を いかがせむ あかず散りぬる 花とこそ見め おもふとも かれなむひとを いかかせむ あかすちりぬる はなとこそみめ | 素性法師 | 恋五 |
1-古今 | 800 | 今はとて 君がかれなば 我が宿の 花をばひとり 見てやしのばむ いまはとて きみかかれなは わかやとの はなをはひとり みてやしのはむ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 801 | 忘れ草 枯れもやすると つれもなき 人の心に 霜は置かなむ わすれくさ かれもやすると つれもなき ひとのこころに しもはおかなむ | 源宗于 | 恋五 |
1-古今 | 802 | 忘れ草 何をか種と 思ひしは つれなき人の 心なりけり わすれくさ なにをかたねと おもひしは つれなきひとの こころなりけり | 素性法師 | 恋五 |
1-古今 | 803 | 秋の田の いねてふことも かけなくに 何を憂しとか 人のかるらむ あきのたの いねてふことも かけなくに なにをうしとか ひとのかるらむ | 兼芸法師 | 恋五 |
1-古今 | 804 | 初雁の 鳴きこそ渡れ 世の中の 人の心の 秋し憂ければ はつかりの なきこそわたれ よのなかの ひとのこころの あきしうけれは | 紀貫之 | 恋五 |
1-古今 | 805 | あはれとも 憂しとも物を 思ふ時 などか涙の いとなかるらむ あはれとも うしともものを おもふとき なにかなみたの いとなかるらむ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 806 | 身を憂しと 思ふに消えぬ ものなれば かくてもへぬる 世にこそありけれ みをうしと おもふにきえぬ ものなれは かくてもへぬる よにこそありけれ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 807 | 海人の刈る 藻にすむ虫の 我からと ねをこそなかめ 世をばうらみじ あまのかる もにすむむしの われからと ねをこそなかめ よをはうらみし | 藤原直子 | 恋五 |
1-古今 | 808 | あひ見ぬも 憂きも我が身の 唐衣 思ひ知らずも とくる紐かな あひみぬも うきもわかみの からころも おもひしらすも とくるひもかな | 因幡 | 恋五 |
1-古今 | 809 | つれなきを 今は恋ひじと 思へども 心弱くも 落つる涙か つれなきを いまはこひしと おもへとも こころよわくも おつるなみたか | 菅野忠臣 | 恋五 |
1-古今 | 810 | 人知れず 絶えなましかば わびつつも なき名ぞとだに 言はましものを ひとしれす たえなましかは わひつつも なきなそとたに いはましものを | 伊勢 | 恋五 |
1-古今 | 811 | それをだに 思ふこととて 我が宿を 見きとな言ひそ 人の聞かくに それをたに おもふこととて わかやとを みきとないひそ ひとのきかくに | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 812 | あふことの もはら絶えぬる 時にこそ 人の恋しき ことも知りけれ あふことの もはらたえぬる ときにこそ ひとのこひしき こともしりけれ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 813 | わびはつる 時さへものの かなしきは いづこをしのぶ 涙なるらむ わひはつる ときさへものの かなしきは いつこをしのふ なみたなるらむ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 814 | うらみても 泣きても言はむ 方ぞなき 鏡に見ゆる 影ならずして うらみても なきてもいはむ かたそなき かかみにみゆる かけならすして | 藤原興風 | 恋五 |
1-古今 | 815 | 夕されば 人なき床を うちはらひ なげかむためと なれる我が身か ゆふされは ひとなきとこを うちはらひ なけかむためと なれるわかみか | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 816 | わたつみの 我が身こす浪 立ち返り 海人の住むてふ うらみつるかな わたつみの わかみこすなみ たちかへり あまのすむてふ うらみつるかな | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 817 | あらを田を あらすきかへし かへしても 人の心を 見てこそやまめ あらをたを あらすきかへし かへしても ひとのこころを みてこそやまめ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 818 | ありそ海の 浜の真砂と たのめしは 忘るることの 数にぞありける ありそうみの はまのまさこと たのめしは わするることの かすにそありける | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 819 | 葦辺より 雲ゐをさして 行く雁の いや遠ざかる 我が身かなしも あしへより くもゐをさして ゆくかりの いやとほさかる わかみかなしも | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 820 | 時雨つつ もみづるよりも 言の葉の 心の秋に あふぞわびしき しくれつつ もみつるよりも ことのはの こころのあきに あふそわひしき | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 821 | 秋風の 吹きと吹きぬる 武蔵野は なべて草葉の 色かはりけり あきかせの ふきとふきぬる むさしのは なへてくさはの いろかはりけり | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 822 | 秋風に あふたのみこそ かなしけれ 我が身むなしく なりぬと思へば あきかせに あふたのみこそ かなしけれ わかみむなしく なりぬとおもへは | 小野小町 | 恋五 |
1-古今 | 823 | 秋風の 吹き裏返す くずの葉の うらみてもなほ うらめしきかな あきかせの ふきうらかへす くすのはの うらみてもなほ うらめしきかな | 平貞文 | 恋五 |
1-古今 | 824 | 秋と言へば よそにぞ聞きし あだ人の 我をふるせる 名にこそありけれ あきといへは よそにそききし あたひとの われをふるせる なにこそありけれ | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 825 | 忘らるる 身を宇治橋の なか絶えて 人もかよはぬ 年ぞへにける わすらるる みをうちはしの なかたえて ひともかよはぬ としそへにける | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 826 | あふことを 長柄の橋の ながらへて 恋ひ渡る間に 年ぞへにける あふことを なからのはしの なからへて こひわたるまに としそへにける | 坂上是則 | 恋五 |
1-古今 | 827 | 浮きながら けぬる泡とも なりななむ 流れてとだに たのまれぬ身は うきなから けぬるあわとも なりななむ なかれてとたに たのまれぬみは | 紀友則 | 恋五 |
1-古今 | 828 | 流れては 妹背の山の なかに落つる 吉野の川の よしや世の中 なかれては いもせのやまの なかにおつる よしののかはの よしやよのなか | 読人知らず | 恋五 |
1-古今 | 829 | 泣く涙 雨と降らなむ わたり川 水まさりなば かへりくるがに なくなみた あめとふらなむ わたりかは みつまさりなは かへりくるかに | 小野篁 | 哀傷 |
1-古今 | 830 | 血の涙 落ちてぞたぎつ 白川は 君が世までの 名にこそありけれ ちのなみた おちてそたきつ しらかはは きみかよまての なにこそありけれ | 素性法師 | 哀傷 |
1-古今 | 831 | 空蝉は 殻を見つつも なぐさめつ 深草の山 煙だにたて うつせみは からをみつつも なくさめつ ふかくさのやま けふりたにたて | 僧都勝延 | 哀傷 |
1-古今 | 832 | 深草の 野辺の桜し 心あらば 今年ばかりは 墨染めに咲け ふかくさの のへのさくらし こころあらは ことしはかりは すみそめにさけ | 上野岑雄 | 哀傷 |
1-古今 | 833 | 寝ても見ゆ 寝でも見えけり おほかたは 空蝉の世ぞ 夢にはありける ねてもみゆ ねてもみえけり おほかたは うつせみのよそ ゆめにはありける | 紀友則 | 哀傷 |
1-古今 | 834 | 夢とこそ 言ふべかりけれ 世の中に うつつあるものと 思ひけるかな ゆめとこそ いふへかりけれ よのなかに うつつあるものと おもひけるかな | 紀貫之 | 哀傷 |
1-古今 | 835 | 寝るが内に 見るをのみやは 夢と言はむ はかなき世をも うつつとは見ず ぬるかうちに みるをのみやは ゆめといはむ はかなきよをも うつつとはみす | 壬生忠岑 | 哀傷 |
1-古今 | 836 | 瀬をせけば 淵となりても 淀みけり 別れを止むる しがらみぞなき せをせけは ふちとなりても よとみけり わかれをとむる しからみそなき | 壬生忠岑 | 哀傷 |
1-古今 | 837 | 先立たぬ くいのやちたび かなしきは 流るる水の かへり来ぬなり さきたたぬ くいのやちたひ かなしきは なかるるみつの かへりこぬなり | 閑院 | 哀傷 |
1-古今 | 838 | 明日知らぬ 我が身と思へど 暮れぬ間の 今日は人こそ かなしかりけれ あすしらぬ わかみとおもへと くれぬまの けふはひとこそ かなしかりけれ | 紀貫之 | 哀傷 |
1-古今 | 839 | 時しもあれ 秋やは人の 別るべき あるを見るだに 恋しきものを ときしもあれ あきやはひとの わかるへき あるをみるたに こひしきものを | 壬生忠岑 | 哀傷 |
1-古今 | 840 | 神無月 時雨に濡るる もみぢ葉は ただわび人の 袂なりけり かみなつき しくれにぬるる もみちはは たたわひひとの たもとなりけり | 凡河内躬恒 | 哀傷 |
1-古今 | 841 | 藤衣 はつるる糸は わび人の 涙の玉の 緒とぞなりける ふちころも はつるるいとは わひひとの なみたのたまの をとそなりける | 壬生忠岑 | 哀傷 |
1-古今 | 842 | 朝露の おくての山田 かりそめに うき世の中を 思ひぬるかな あさつゆの おくてのやまた かりそめに うきよのなかを おもひぬるかな | 紀貫之 | 哀傷 |
1-古今 | 843 | 墨染めの 君が袂は 雲なれや 絶えず涙の 雨とのみ降る すみそめの きみかたもとは くもなれや たえすなみたの あめとのみふる | 壬生忠岑 | 哀傷 |
1-古今 | 844 | あしひきの 山辺に今は 墨染めの 衣の袖は ひる時もなし あしひきの やまへにいまは すみそめの ころものそての ひるときもなし | 読人知らず | 哀傷 |
1-古今 | 845 | 水の面に しづく花の色 さやかにも 君が御影の 思ほゆるかな みつのおもに しつくはなのいろ さやかにも きみかみかけの おもほゆるかな | 小野篁 | 哀傷 |
1-古今 | 846 | 草深き 霞の谷に かげ隠し 照る日の暮れし 今日にやはあらぬ くさふかき かすみのたにに かけかくし てるひのくれし けふにやはあらぬ | 文屋康秀 | 哀傷 |
1-古今 | 847 | みな人は 花の衣に なりぬなり 苔の袂よ 乾きだにせよ みなひとは はなのころもに なりぬなり こけのたもとよ かわきたにせよ | 僧正遍昭 | 哀傷 |
1-古今 | 848 | うちつけに さびしくもあるか もみぢ葉も 主なき宿は 色なかりけり うちつけに さひしくもあるか もみちはも ぬしなきやとは いろなかりけり | 源能有 | 哀傷 |
1-古今 | 849 | 郭公 今朝鳴く声に おどろけば 君に別れし 時にぞありける ほとときす けさなくこゑに おとろけは きみにわかれし ときにそありける | 紀貫之 | 哀傷 |
1-古今 | 850 | 花よりも 人こそあだに なりにけれ いづれを先に 恋ひむとか見し はなよりも ひとこそあたに なりにけれ いつれをさきに こひむとかみし | 紀茂行 | 哀傷 |
1-古今 | 851 | 色も香も 昔の濃さに 匂へども 植ゑけむ人の 影ぞ恋しき いろもかも むかしのこさに にほへとも うゑけむひとの かけそこひしき | 紀貫之 | 哀傷 |
1-古今 | 852 | 君まさで 煙絶えにし 塩釜の うらさびしくも 見え渡るかな きみまさて けふりたえにし しほかまの うらさひしくも みえわたるかな | 紀貫之 | 哀傷 |
1-古今 | 853 | 君が植ゑし ひとむら薄 虫の音の しげき野辺とも なりにけるかな きみかうゑし ひとむらすすき むしのねの しけきのへとも なりにけるかな | 御春有輔 | 哀傷 |
1-古今 | 854 | ことならば 言の葉さへも 消えななむ 見れば涙の 滝まさりけり ことならは ことのはさへも きえななむ みれはなみたの たきまさりけり | 紀友則 | 哀傷 |
1-古今 | 855 | なき人の 宿にかよはば 郭公 かけて音にのみ なくとつげなむ なきひとの やとにかよはは ほとときす かけてねにのみ なくとつけなむ | 読人知らず | 哀傷 |
1-古今 | 856 | 誰見よと 花咲けるらむ 白雲の たつ野とはやく なりにしものを たれみよと はなさけるらむ しらくもの たつのとはやく なりにしものを | 読人知らず | 哀傷 |
1-古今 | 857 | かずかずに 我を忘れぬ ものならば 山の霞を あはれとは見よ かすかすに われをわすれぬ ものならは やまのかすみを あはれとはみよ | 読人知らず | 哀傷 |
1-古今 | 858 | 声をだに 聞かで別るる たまよりも なき床に寝む 君ぞかなしき こゑをたに きかてわかるる たまよりも なきとこにねむ きみそかなしき | 読人知らず | 哀傷 |
1-古今 | 859 | もみぢ葉を 風にまかせて 見るよりも はかなきものは 命なりけり もみちはを かせにまかせて みるよりも はかなきものは いのちなりけり | 大江千里 | 哀傷 |
1-古今 | 860 | 露をなど あだなるものと 思ひけむ 我が身も草に 置かぬばかりを つゆをなと あたなるものと おもひけむ わかみもくさに おかぬはかりを | 藤原惟幹 | 哀傷 |
1-古今 | 861 | つひにゆく 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは 思はざりしを つひにゆく みちとはかねて ききしかと きのふけふとは おもはさりしを | 在原業平 | 哀傷 |
1-古今 | 862 | かりそめの 行きかひぢとぞ 思ひこし 今はかぎりの 門出なりけり かりそめの ゆきかひちとそ おもひこし いまはかきりの かとてなりけり | 在原滋春 | 哀傷 |
1-古今 | 863 | 我が上に 露ぞ置くなる 天の河 と渡る舟の 櫂のしづくか わかうへに つゆそおくなる あまのかは とわたるふねの かいのしつくか | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 864 | おもふどち まとゐせる夜は 唐錦 たたまく惜しき ものにぞありける おもふとち まとゐせるよは からにしき たたまくをしき ものにそありける | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 865 | うれしきを 何につつまむ 唐衣 袂ゆたかに たてと言はましを うれしきを なににつつまむ からころも たもとゆたかに たてといはましを | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 866 | かぎりなき 君がためにと 折る花は 時しもわかぬ ものにぞありける かきりなき きみかためにと をるはなは ときしもわかぬ ものにそありける | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 867 | 紫の ひともとゆゑに 武蔵野の 草はみながら あはれとぞ見る むらさきの ひともとゆゑに むさしのの くさはみなから あはれとそみる | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 868 | 紫の 色濃き時は めもはるに 野なる草木ぞ 別れざりける むらさきの いろこきときは めもはるに のなるくさきそ わかれさりける | 在原業平 | 雑上 |
1-古今 | 869 | 色なしと 人や見るらむ 昔より 深き心に 染めてしものを いろなしと ひとやみるらむ むかしより ふかきこころに そめてしものを | 源能有 | 雑上 |
1-古今 | 870 | 日の光 藪しわかねば いそのかみ ふりにし里に 花も咲きけり ひのひかり やふしわかねは いそのかみ ふりにしさとに はなもさきけり | 布留今道 | 雑上 |
1-古今 | 871 | 大原や をしほの山も 今日こそは 神世のことも 思ひいづらめ おほはらや をしほのやまも けふこそは かみよのことも おもひいつらめ | 在原業平 | 雑上 |
1-古今 | 872 | 天つ風 雲のかよひぢ 吹きとぢよ 乙女の姿 しばしとどめむ あまつかせ くものかよひち ふきとちよ をとめのすかた しはしととめむ | 良岑宗貞 | 雑上 |
1-古今 | 873 | 主や誰 問へど白玉 言はなくに さらばなべてや あはれと思はむ ぬしやたれ とへとしらたま いはなくに さらはなへてや あはれとおもはむ | 源融 | 雑上 |
1-古今 | 874 | 玉だれの こがめやいづら こよろぎの 磯の浪わけ 沖にいでにけり たまたれの こかめやいつら こよろきの いそのなみわけ おきにいてにけり | 藤原敏行 | 雑上 |
1-古今 | 875 | かたちこそ み山隠れの 朽ち木なれ 心は花に なさばなりなむ かたちこそ みやまかくれの くちきなれ こころははなに なさはなりなむ | 兼芸法師 | 雑上 |
1-古今 | 876 | 蝉の羽の 夜の衣は 薄けれど 移り香濃くも 匂ひぬるかな せみのはの よるのころもは うすけれと うつりかこくも にほひぬるかな | 紀友則 | 雑上 |
1-古今 | 877 | 遅くいづる 月にもあるかな あしひきの 山のあなたも 惜しむべらなり おそくいつる つきにもあるかな あしひきの やまのあなたも をしむへらなり | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 878 | 我が心 なぐさめかねつ 更級や をばすて山に 照る月を見て わかこころ なくさめかねつ さらしなや をはすてやまに てるつきをみて | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 879 | おほかたは 月をもめでじ これぞこの つもれば人の 老いとなるもの おほかたは つきをもめてし これそこの つもれはひとの おいとなるもの | 在原業平 | 雑上 |
1-古今 | 880 | かつ見れば うとくもあるかな 月影の いたらぬ里も あらじと思へば かつみれと うとくもあるかな つきかけの いたらぬさとも あらしとおもへは | 紀貫之 | 雑上 |
1-古今 | 881 | ふたつなき ものと思ひしを 水底に 山の端ならで いづる月影 ふたつなき ものとおもひしを みなそこに やまのはならて いつるつきかけ | 紀貫之 | 雑上 |
1-古今 | 882 | 天の河 雲のみをにて はやければ 光とどめず 月ぞ流るる あまのかは くものみをにて はやけれは ひかりととめす つきそなかるる | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 883 | あかずして 月の隠るる 山もとは あなたおもてぞ 恋しかりける あかすして つきのかくるる やまもとは あなたおもてそ こひしかりける | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 884 | あかなくに まだきも月の 隠るるか 山の端逃げて 入れずもあらなむ あかなくに またきもつきの かくるるか やまのはにけて いれすもあらなむ | 在原業平 | 雑上 |
1-古今 | 885 | 大空を 照りゆく月し 清ければ 雲隠せども 光けなくに おほそらを てりゆくつきし きよけれは くもかくせとも ひかりけなくに | 尼敬信 | 雑上 |
1-古今 | 886 | いそのかみ ふるから小野の もとかしは もとの心は 忘られなくに いそのかみ ふるからをのの もとかしは もとのこころは わすられなくに | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 887 | いにしへの 野中の清水 ぬるけれど もとの心を 知る人ぞくむ いにしへの のなかのしみつ ぬるけれと もとのこころを しるひとそくむ | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 888 | いにしへの しづのをだまき いやしきも よきもさかりは ありしものなり いにしへの しつのをたまき いやしきも よきもさかりは ありしものなり | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 889 | 今こそあれ 我も昔は 男山 さかゆく時も ありこしものを いまこそあれ われもむかしは をとこやま さかゆくときも ありこしものを | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 890 | 世の中に ふりぬるものは 津の国の 長柄の橋と 我となりけり よのなかに ふりぬるものは つのくにの なからのはしと われとなりけり | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 891 | 笹の葉に 降りつむ雪の うれを重み もとくだちゆく 我がさかりはも ささのはに ふりつむゆきの うれをおもみ もとくたちゆく わかさかりはも | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 892 | 大荒木の もりの下草 おいぬれば 駒もすさめず かる人もなし おほあらきの もりのしたくさ おいぬれは こまもすさへす かるひともなし | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 893 | かぞふれば とまらぬものを 年といひて 今年はいたく 老いぞしにける かそふれは とまらぬものを としといひて ことしはいたく おいそしにける | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 894 | おしてるや 難波の水に 焼く塩の からくも我は 老いにけるかな おしてるや なにはのみつに やくしほの からくもわれは おいにけるかな | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 895 | 老いらくの 来むと知りせば 門さして なしと答へて あはざらましを おいらくの こむとしりせは かとさして なしとこたへて あはさらましを | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 896 | さかさまに 年もゆかなむ とりもあへず すぐる齢や ともにかへると さかさまに としもゆかなむ とりもあへす すくるよはひや ともにかへると | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 897 | とりとむる ものにしあらねば 年月を あはれあなうと すぐしつるかな とりとむる ものにしあらねは としつきを あはれあなうと すくしつるかな | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 898 | とどめあへず むべも年とは いはれけり しかもつれなく すぐる齢か ととめあへす うへもとしとは いはれけり しかもつれなく すくるよはひか | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 899 | 鏡山 いざ立ち寄りて 見てゆかむ 年へぬる身は 老いやしぬると かかみやま いさたちよりて みてゆかむ としへぬるみは おいやしぬると | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 900 | 老いぬれば さらぬ別れも ありと言へば いよいよ見まく ほしき君かな おいぬれは さらぬわかれも ありといへは いよいよみまく ほしききみかな | 業平母 | 雑上 |
1-古今 | 901 | 世の中に さらぬ別れの なくもがな 千代もとなげく 人の子のため よのなかに さらぬわかれの なくもかな ちよもとなけく ひとのこのため | 在原業平 | 雑上 |
1-古今 | 902 | 白雪の 八重降りしける かへる山 かへるがへるも 老いにけるかな しらゆきの やへふりしける かへるやま かへるかへるも おいにけるかな | 在原棟梁 | 雑上 |
1-古今 | 903 | 老いぬとて などか我が身を せめきけむ 老いずは今日に あはましものか おいぬとて なとかわかみを せめきけむ おいすはけふに あはましものか | 藤原敏行 | 雑上 |
1-古今 | 904 | ちはやぶる 宇治の橋守 なれをしぞ あはれとは思ふ 年のへぬれば ちはやふる うちのはしもり なれをしそ あはれとはおもふ としのへぬれは | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 905 | 我見ても 久しくなりぬ 住の江の 岸の姫松 幾世へぬらむ われみても ひさしくなりぬ すみのえの きしのひめまつ いくよへぬらむ | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 906 | 住吉の 岸の姫松 人ならば 幾世かへしと 問はましものを すみよしの きしのひめまつ ひとならは いくよかへしと とはましものを | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 907 | 梓弓 磯辺の小松 たが世にか よろづ世かねて 種をまきけむ あつさゆみ いそへのこまつ たかよにか よろつよかねて たねをまきけむ | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 908 | かくしつつ 世をやつくさむ 高砂の 尾上に立てる 松ならなくに かくしつつ よをやつくさむ たかさこの をのへにたてる まつならなくに | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 909 | 誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに たれをかも しるひとにせむ たかさこの まつもむかしの ともならなくに | 藤原興風 | 雑上 |
1-古今 | 910 | わたつみの 沖つ潮あひに 浮かぶ泡の 消えぬものから 寄る方もなし わたつうみの おきつしほあひに うかふあわの きえぬものから よるかたもなし | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 911 | わたつみの かざしにさせる 白妙の 浪もてゆへる 淡路島山 わたつうみの かさしにさせる しろたへの なみもてゆへる あはちしまやま | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 912 | わたの原 寄せくる浪の しばしばも 見まくのほしき 玉津島かも わたのはら よせくるなみの しはしはも みまくのほしき たまつしまかも | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 913 | 難波潟 潮満ちくらし 雨衣 たみのの島に たづ鳴き渡る なにはかた しほみちくらし あまころも たみののしまに たつなきわたる | 読人知らず | 雑上 |
1-古今 | 914 | 君を思ひ おきつの浜に 鳴くたづの 尋ねくればぞ ありとだに聞く きみをおもひ おきつのはまに なくたつの たつねくれはそ ありとたにきく | 藤原忠房 | 雑上 |
1-古今 | 915 | 沖つ浪 たかしの浜の 浜松の 名にこそ君を 待ちわたりつれ おきつなみ たかしのはまの はままつの なにこそきみを まちわたりつれ | 紀貫之 | 雑上 |
1-古今 | 916 | 難波潟 おふる玉藻を かりそめの 海人とぞ我は なりぬべらなる なにはかた おふるたまもを かりそめの あまとそわれは なりぬへらなる | 紀貫之 | 雑上 |
1-古今 | 917 | 住吉と 海人は告ぐとも 長居すな 人忘れ草 おふと言ふなり すみよしと あまはつくとも なかゐすな ひとわすれくさ おふといふなり | 壬生忠岑 | 雑上 |
1-古今 | 918 | 雨により たみのの島を 今日ゆけど 名には隠れぬ ものにぞありける あめにより たみののしまを けふゆけと なにはかくれぬ ものにそありける | 紀貫之 | 雑上 |
1-古今 | 919 | あしたづの 立てる川辺を 吹く風に 寄せてかへらぬ 浪かとぞ見る あしたつの たてるかはへを ふくかせに よせてかへらぬ なみかとそみる | 紀貫之 | 雑上 |
1-古今 | 920 | 水の上に 浮かべる舟の 君ならば ここぞとまりと 言はましものを みつのうへに うかへるふねの きみならは ここそとまりと いはましものを | 伊勢 | 雑上 |
1-古今 | 921 | みやこまで ひびきかよへる からことは 浪のをすげて 風ぞひきける みやこまて ひひきかよへる からことは なみのをすけて かせそひきける | 真静法師 | 雑上 |
1-古今 | 922 | こき散らす 滝の白玉 拾ひおきて 世の憂き時の 涙にぞかる こきちらす たきのしらいと ひろひおきて よのうきときの なみたにそかる | 在原行平 | 雑上 |
1-古今 | 923 | ぬき乱る 人こそあるらし 白玉の まなくも散るか 袖のせばきに ぬきみたる ひとこそあるらし しらたまの まなくもちるか そてのせはきに | 在原業平 | 雑上 |
1-古今 | 924 | 誰がために 引きてさらせる 布なれや 世をへて見れど とる人もなき たかために ひきてさらせる ぬのなれや よをへてみれと とるひとのなき | 承均法師 | 雑上 |
1-古今 | 925 | 清滝の 瀬ぜの白糸 くりためて 山わけごろも 織りて着ましを きよたきの せせのしらいと くりためて やまわけころも おりてきましを | 神退法師 | 雑上 |
1-古今 | 926 | たちぬはぬ 衣着し人も なきものを なに山姫の 布さらすらむ たちぬはぬ きぬきしひとも なきものを なにやまひめの ぬのさらすらむ | 伊勢 | 雑上 |
1-古今 | 927 | 主なくて さらせる布を 七夕に 我が心とや 今日はかさまし ぬしなくて さらせるぬのを たなはたに わかこころとや けふはかさまし | 橘長盛 | 雑上 |
1-古今 | 928 | 落ちたぎつ 滝の水上 年つもり 老いにけらしな 黒き筋なし おちたきつ たきのみなかみ としつもり おいにけらしな くろきすちなし | 壬生忠岑 | 雑上 |
1-古今 | 929 | 風吹けど ところも去らぬ 白雲は 世をへて落つる 水にぞありける かせふけと ところもさらぬ しらくもは よをへておつる みつにそありける | 凡河内躬恒 | 雑上 |
1-古今 | 930 | 思ひせく 心の内の 滝なれや 落つとは見れど 音の聞こえぬ おもひせく こころのうちの たきなれや おつとはみれと おとのきこえぬ | 三条町 | 雑上 |
1-古今 | 931 | 咲きそめし 時よりのちは うちはへて 世は春なれや 色の常なる さきそめし ときよりのちは うちはへて よははるなれや いろのつねなる | 紀貫之 | 雑上 |
1-古今 | 932 | かりてほす 山田の稲の こきたれて なきこそわたれ 秋の憂ければ かりてほす やまたのいねの こきたれて なきこそわたれ あきのうけれは | 坂上是則 | 雑上 |
1-古今 | 933 | 世の中は 何か常なる 飛鳥川 昨日の淵ぞ 今日は瀬になる よのなかは なにかつねなる あすかかは きのふのふちそ けふはせになる | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 934 | 幾世しも あらじ我が身を なぞもかく 海人の刈る藻に 思ひ乱るる いくよしも あらしわかみを なそもかく あまのかるもに おもひみたるる | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 935 | 雁の来る 峰の朝霧 晴れずのみ 思ひつきせぬ 世の中の憂さ かりのくる みねのあさきり はれすのみ おもひつきせぬ よのなかのうさ | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 936 | しかりとて そむかれなくに ことしあれば まづなげかれぬ あなう世の中 しかりとて そむかれなくに ことしあれは まつなけかれぬ あなうよのなか | 小野篁 | 雑下 |
1-古今 | 937 | みやこ人 いかがと問はば 山高み 晴れぬ雲ゐに わぶと答へよ みやこひと いかかととはは やまたかみ はれぬくもゐに わふとこたへよ | 小野貞樹 | 雑下 |
1-古今 | 938 | わびぬれば 身を浮草の 根を絶えて さそふ水あらば いなむとぞ思ふ わひぬれは みをうきくさの ねをたえて さそふみつあらは いなむとそおもふ | 小野小町 | 雑下 |
1-古今 | 939 | あはれてふ ことこそうたて 世の中を 思ひはなれぬ ほだしなりけれ あはれてふ ことこそうたて よのなかを おもひはなれぬ ほたしなりけれ | 小野小町 | 雑下 |
1-古今 | 940 | あはれてふ 言の葉ごとに 置く露は 昔を恋ふる 涙なりけり あはれてふ ことのはことに おくつゆは むかしをこふる なみたなりけり | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 941 | 世の中の うきもつらきも 告げなくに まづ知るものは 涙なりけり よのなかの うきもつらきも つけなくに まつしるものは なみたなりけり | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 942 | 世の中は 夢かうつつか うつつとも 夢とも知らず ありてなければ よのなかは ゆめかうつつか うつつとも ゆめともしらす ありてなけれは | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 943 | 世の中に いづら我が身の ありてなし あはれとや言はむ あなうとや言はむ よのなかに いつらわかみの ありてなし あはれとやいはむ あなうとやいはむ | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 944 | 山里は もののわびしき ことこそあれ 世の憂きよりは 住みよかりけり やまさとは もののさひしき ことこそあれ よのうきよりは すみよかりけり | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 945 | 白雲の 絶えずたなびく 峰にだに 住めば住みぬる 世にこそありけれ しらくもの たえすたなひく みねにたに すめはすみぬる よにこそありけれ | 惟喬親王 | 雑下 |
1-古今 | 946 | 知りにけむ 聞きてもいとへ 世の中は 浪の騒ぎに 風ぞしくめる しりにけむ ききてもいとへ よのなかは なみのさわきに かせそしくめる | 布留今道 | 雑下 |
1-古今 | 947 | いづこにか 世をばいとはむ 心こそ 野にも山にも 惑ふべらなれ いつこにか よをはいとはむ こころこそ のにもやまにも まとふへらなれ | 素性法師 | 雑下 |
1-古今 | 948 | 世の中は 昔よりやは うかりけむ 我が身ひとつの ためになれるか よのなかは むかしよりやは うかりけむ わかみひとつの ためになれるか | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 949 | 世の中を いとふ山辺の 草木とや あなうの花の 色にいでにけむ よのなかを いとふやまへの くさきとや あなうのはなの いろにいてにけむ | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 950 | み吉野の 山のあなたに 宿もがな 世の憂き時の 隠れがにせむ みよしのの やまのあなたに やともかな よのうきときの かくれかにせむ | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 951 | 世にふれば 憂さこそまされ み吉野の 岩のかけ道 踏みならしてむ よにふれは うさこそまされ みよしのの いはのかけみち ふみならしてむ | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 952 | いかならむ 巌の中に 住まばかは 世の憂きことの 聞こえこざらむ いかならむ いはほのうちに すまはかは よのうきことの きこえこさらむ | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 953 | あしひきの 山のまにまに 隠れなむ うき世の中は あるかひもなし あしひきの やまのまにまに かくれなむ うきよのなかは あるかひもなし | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 954 | 世の中の うけくにあきぬ 奥山の 木の葉に降れる 雪やけなまし よのなかの うけくにあきぬ おくやまの このはにふれる ゆきやけなまし | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 955 | 世のうきめ 見えぬ山ぢへ 入らむには 思ふ人こそ ほだしなりけれ よのうきめ みえぬやまちへ いらむには おもふひとこそ ほたしなりけれ | 物部吉名 | 雑下 |
1-古今 | 956 | 世を捨てて 山にいる人 山にても なほ憂き時は いづち行くらむ よをすてて やまにいるひと やまにても なほうきときは いつちゆくらむ | 凡河内躬恒 | 雑下 |
1-古今 | 957 | 今さらに なにおひいづらむ 竹の子の うき節しげき 世とは知らずや いまさらに なにおひいつらむ たけのこの うきふししけき よとはしらすや | 凡河内躬恒 | 雑下 |
1-古今 | 958 | 世にふれば 言の葉しげき 呉竹の うき節ごとに うぐひすぞ鳴く よにふれは ことのはしけき くれたけの うきふしことに うくひすそなく | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 959 | 木にもあらず 草にもあらぬ 竹のよの 端に我が身は なりぬべらなり きにもあらす くさにもあらぬ たけのよの はしにわかみは なりぬへらなり | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 960 | 我が身から うき世の中と 名づけつつ 人のためさへ かなしかるらむ わかみから うきよのなかと なけきつつ ひとのためさへ かなしかるらむ | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 961 | 思ひきや ひなの別れに おとろへて 海人の縄たき いさりせむとは おもひきや ひなのわかれに おとろへて あまのなはたき いさりせむとは | 小野篁 | 雑下 |
1-古今 | 962 | わくらばに 問ふ人あらば 須磨の浦に 藻塩たれつつ わぶと答へよ わくらはに とふひとあらは すまのうらに もしほたれつつ わふとこたへよ | 在原行平 | 雑下 |
1-古今 | 963 | 天彦の おとづれじとぞ 今は思ふ 我か人かと 身をたどる世に あまひこの おとつれしとそ いまはおもふ われかひとかと みをたとるよに | 小野春風 | 雑下 |
1-古今 | 964 | うき世には 門させりとも 見えなくに などか我が身の いでがてにする うきよには かとさせりとも みえなくに なとかわかみの いてかてにする | 平貞文 | 雑下 |
1-古今 | 965 | ありはてぬ 命待つ間の ほどばかり うきことしげく 思はずもがな ありはてぬ いのちまつまの ほとはかり うきことしけく おもはすもかな | 平貞文 | 雑下 |
1-古今 | 966 | つくばねの 木のもとごとに 立ちぞ寄る 春のみ山の かげを恋つつ つくはねの このもとことに たちそよる はるのみやまの かけをこひつつ | 宮道潔興 | 雑下 |
1-古今 | 967 | 光なき 谷には春も よそなれば 咲きてとく散る 物思ひもなし ひかりなき たににははるも よそなれは さきてとくちる ものおもひもなし | 清原深養父 | 雑下 |
1-古今 | 968 | 久方の 中におひたる 里なれば 光をのみぞ たのむべらなる ひさかたの うちにおひたる さとなれは ひかりをのみそ たのむへらなる | 伊勢 | 雑下 |
1-古今 | 969 | 今ぞ知る 苦しきものと 人待たむ 里をばかれず 問ふべかりけり いまそしる くるしきものと ひとまたむ さとをはかれす とふへかりけり | 在原業平 | 雑下 |
1-古今 | 970 | 忘れては 夢かとぞ思ふ 思ひきや 雪踏みわけて 君を見むとは わすれては ゆめかとそおもふ おもひきや ゆきふみわけて きみをみむとは | 在原業平 | 雑下 |
1-古今 | 971 | 年をへて 住みこし里を いでていなば いとど深草 野とやなりなむ としをへて すみこしさとを いてていなは いととふかくさ のとやなりなむ | 在原業平 | 雑下 |
1-古今 | 972 | 野とならば うづらとなきて 年はへむ かりにだにやは 君がこざらむ のとならは うつらとなきて としはへむ かりにたにやは きみかこさらむ | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 973 | 我を君 難波の浦に ありしかば うきめをみつの 海人となりにき われをきみ なにはのうらに ありしかは うきめをみつの あまとなりにき | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 974 | 難波潟 うらむべきまも 思ほえず いづこをみつの 海人とかはなる なにはかた うらむへきまも おもほえす いつこをみつの あまとかはなる | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 975 | 今さらに 問ふべき人も 思ほえず 八重むぐらして 門させりてへ いまさらに とふへきひとも おもほえす やへむくらして かとさせりてへ | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 976 | 水の面に おふる五月の 浮草の うきことあれや 根を絶えて来ぬ みつのおもに おふるさつきの うきくさの うきことあれや ねをたえてこぬ | 凡河内躬恒 | 雑下 |
1-古今 | 977 | 身を捨てて ゆきやしにけむ 思ふより 外なるものは 心なりけり みをすてて ゆきやしにけむ おもふより ほかなるものは こころなりけり | 凡河内躬恒 | 雑下 |
1-古今 | 978 | 君が思ひ 雪とつもらば たのまれず 春よりのちは あらじと思へば きみかおもひ ゆきとつもらは たのまれす はるよりのちは あらしとおもへは | 凡河内躬恒 | 雑下 |
1-古今 | 979 | 君をのみ 思ひこしぢの 白山は いつかは雪の 消ゆる時ある きみをのみ おもひこしちの しらやまは いつかはゆきの きゆるときある | 宗岳大頼 | 雑下 |
1-古今 | 980 | 思ひやる 越の白山 知らねども ひと夜も夢に 越えぬ夜ぞなき おもひやる こしのしらやま しらねとも ひとよもゆめに こえぬよそなき | 紀貫之 | 雑下 |
1-古今 | 981 | いざここに 我が世はへなむ 菅原や 伏見の里の 荒れまくも惜し いさここに わかよはへなむ すかはらや ふしみのさとの あれまくもをし | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 982 | 我が庵は 三輪の山もと 恋しくは とぶらひきませ 杉たてる門 わかいほは みわのやまもと こひしくは とふらひきませ すきたてるかと | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 983 | 我が庵は みやこのたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人は言ふなり わかいほは みやこのたつみ しかそすむ よをうちやまと ひとはいふなり | 喜撰法師 | 雑下 |
1-古今 | 984 | 荒れにけり あはれ幾世の 宿なれや 住みけむ人の おとづれもせぬ あれにけり あはれいくよの やとなれや すみけむひとの おとつれもせぬ | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 985 | わび人の 住むべき宿と 見るなへに 嘆きくははる 琴の音ぞする わひひとの すむへきやとと みるなへに なけきくははる ことのねそする | 良岑宗貞 | 雑下 |
1-古今 | 986 | 人ふるす 里をいとひて こしかども 奈良のみやこも うき名なりけり ひとふるす さとをいとひて こしかとも ならのみやこも うきななりけり | 二条 | 雑下 |
1-古今 | 987 | 世の中は いづれかさして 我がならむ 行きとまるをぞ 宿とさだむる よのなかは いつれかさして わかならむ ゆきとまるをそ やととさたむる | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 988 | あふ坂の 嵐の風は 寒けれど ゆくへ知らねば わびつつぞ寝る あふさかの あらしのかせは さむけれと ゆくへしらねは わひつつそぬる | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 989 | 風の上に ありかさだめぬ 塵の身は ゆくへも知らず なりぬべらなり かせのうへに ありかさためぬ ちりのみは ゆくへもしらす なりぬへらなり | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 990 | 飛鳥川 淵にもあらぬ 我が宿も 瀬にかはりゆく ものにぞありける あすかかは ふちにもあらぬ わかやとも せにかはりゆく ものにそありける | 伊勢 | 雑下 |
1-古今 | 991 | ふるさとは 見しごともあらず 斧の柄の 朽ちしところぞ 恋しかりける ふるさとは みしこともあらす をののえの くちしところそ こひしかりける | 紀友則 | 雑下 |
1-古今 | 992 | あかざりし 袖の中にや 入りにけむ 我がたましひの なき心地する あかさりし そてのなかにや いりにけむ わかたましひの なきここちする | 陸奥 | 雑下 |
1-古今 | 993 | なよ竹の よ長き上に 初霜の おきゐて物を 思ふころかな なよたけの よなかきうへに はつしもの おきゐてものを おもふころかな | 藤原忠房 | 雑下 |
1-古今 | 994 | 風吹けば 沖つ白浪 たつた山 夜半にや君が ひとりこゆらむ かせふけは おきつしらなみ たつたやま よはにやきみか ひとりこゆらむ | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 995 | たがみそぎ ゆふつけ鳥か 唐衣 たつたの山に をりはへて鳴く たかみそき ゆふつけとりか からころも たつたのやまに をりはへてなく | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 996 | 忘られむ 時しのべとぞ 浜千鳥 ゆくへも知らぬ 跡をとどむる わすられむ ときしのへとそ はまちとり ゆくへもしらぬ あとをととむる | 読人知らず | 雑下 |
1-古今 | 997 | 神無月 時雨降りおける ならの葉の 名におふ宮の ふることぞこれ かみなつき しくれふりおける ならのはの なにおふみやの ふることそこれ | 文屋有季 | 雑下 |
1-古今 | 998 | あしたづの ひとりおくれて 鳴く声は 雲の上まで 聞こえつがなむ あしたつの ひとりおくれて なくこゑは くものうへまて きこえつかなむ | 大江千里 | 雑下 |
1-古今 | 999 | 人知れず 思ふ心は 春霞 たちいでて君が 目にも見えなむ ひとしれす おもふこころは はるかすみ たちいててきみか めにもみえなむ | 藤原勝臣 | 雑下 |
1-古今 | 1000 | 山川の 音にのみ聞く ももしきを 身をはやながら 見るよしもがな やまかはの おとにのみきく ももしきを みをはやなから みるよしもかな | 伊勢 | 雑下 |
1-古今 | 1001 | あふことの まれなる色に 思ひそめ 我が身は常に 天雲の 晴るる時なく 富士の嶺の もえつつとはに 思へども あふことかたし 何しかも 人をうらみむ わたつみの 沖を深めて 思ひてし 思ひは今は いたづらに なりぬべらなり ゆく水の 絶ゆる時なく かくなわに 思ひ乱れて 降る雪の けなばけぬべく 思へども えぶの身なれば なほやまず 思ひは深し あしひきの 山下水の 木隠れて たぎつ心を 誰にかも あひかたらはむ 色にいでば 人知りぬべみ 墨染めの 夕べになれば ひとりゐて あはれあはれと なげきあまり せむすべなみに 庭にいでて 立ちやすらへば 白妙の 衣の袖に 置く露の けなばけぬべく 思へども なほなげかれぬ 春霞 よそにも人に あはむと思へば あふことの まれなるいろに おもひそめ わかみはつねに あまくもの はるるときなく ふしのねの もえつつとはに おもへとも あふことかたし なにしかも ひとをうらみむ わたつみの おきをふかめて おもひてし おもひをいまは いたつらに なりぬへらなり ゆくみつの たゆるときなく かくなわに おもひみたれて ふるゆきの けなはけぬへく おもへとも えふのみなれは なほやます おもひはふかし あしひきの やましたみつの こかくれて たきつこころを たれにかも あひかたらはむ いろにいては ひとしりぬへみ すみそめの ゆふへになれは ひとりゐて あはれあはれと なけきあまり せむすへなみに にはにいてて たちやすらへは しろたへの ころものそてに おくつゆの けなはけぬへく おもへとも なほなけかれぬ はるかすみ よそにもひとに あはむとおもへは | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1002 | ちはやぶる 神の御代より 呉竹の 世よにも絶えず 天彦の 音羽の山の 春霞 思ひ乱れて 五月雨の 空もとどろに 小夜ふけて 山郭公 鳴くごとに 誰も寝ざめて 唐錦 竜田の山の もみぢ葉を 見てのみしのぶ 神無月 時雨しぐれて 冬の夜の 庭もはだれに 降る雪の なほ消えかへり 年ごとに 時につけつつ あはれてふ ことを言ひつつ 君をのみ 千代にと祝ふ 世の人の 思ひするがの 富士の嶺の もゆる思ひも あかずして わかるる涙 藤衣 おれる心も 八千草の 言の葉ごとに すべらぎの おほせかしこみ まきまきの 中につくすと 伊勢の海の 浦のしほ貝 拾ひ集め 取れりとすれど 玉の緒の 短き心 思ひあへず なほあらたまの 年をへて 大宮にのみ 久方の 昼夜わかず つかふとて かへりみもせぬ 我が宿の しのぶ草おふる 板間あらみ ふる春雨の もりやしぬらむ ちはやふる かみのみよより くれたけの よよにもたえす あまひこの おとはのやまの はるかすみ おもひみたれて さみたれの そらもととろに さよふけて やまほとときす なくことに たれもねさめて からにしき たつたのやまの もみちはを みてのみしのふ かみなつき しくれしくれて ふゆのよの にはもはたれに ふるゆきの なほきえかへり としことに ときにつけつつ あはれてふ ことをいひつつ きみをのみ ちよにといはふ よのひとの おもひするかの ふしのねの もゆるおもひも あかすして わかるるなみた ふちころも おれるこころも やちくさの ことのはことに すめらきの おほせかしこみ まきまきの うちにつくすと いせのうみの うらのしほかひ ひろひあつめ とれりとすれと たまのをの みしかきこころ おもひあへす なほあらたまの としをへて おほみやにのみ ひさかたの ひるよるわかす つかふとて かへりみもせぬ わかやとの しのふくさおふる いたまあらみ ふるはるさめの もりやしぬらむ | 紀貫之 | 雑体 |
1-古今 | 1003 | 呉竹の 世よのふること なかりせば いかほの沼の いかにして 思ふ心を のばへまし あはれむかしべ ありきてふ 人麿こそは うれしけれ 身はしもながら 言の葉を あまつ空まで 聞こえあげ 末の世までの あととなし 今もおほせの くだれるは 塵につげとや 塵の身に つもれることを とはるらむ これを思へば けだものの 雲に吠えけむ 心地して ちぢのなさけも 思ほえず ひとつ心ぞ ほこらしき かくはあれども 照る光 近きまもりの 身なりしを 誰かは秋の くる方に あざむきいでて み垣より とのへもる身の み垣もり をさをさしくも 思ほえず ここのかさねの 中にては 嵐の風も 聞かざりき 今は野山し 近ければ 春は霞に たなびかれ 夏は空蝉 鳴きくらし 秋は時雨に 袖をかし 冬は霜にぞ せめらるる かかるわびしき 身ながらに つもれる年を しるせれば いつつのむつに なりにけり これにそはれる わたくしの 老いの数さへ やよければ 身はいやしくて 年たかき ことの苦しさ 隠しつつ 長柄の橋の ながらへて 難波の浦に たつ浪の 浪のしわにや おぼほれむ さすがに命 惜しければ 越の国なる 白山の かしらは白く なりぬとも 音羽の滝の 音に聞く 老いず死なずの 薬もが 君が八千代を 若えつつ見む くれたけの よよのふること なかりせは いかほのぬまの いかにして おもふこころを のはへまし あはれむかしへ ありきてふ ひとまろこそは うれしけれ みはしもなから ことのはを あまつそらまて きこえあけ すゑのよよまて あととなし いまもおほせの くたれるは ちりにつけとや ちりのみに つもれることを とはるらむ これをおもへは けたものの くもにほえけむ ここちして ちちのなさけも おもほえす ひとつこころそ ほこらしき かくはあれとも てるひかり ちかきまもりの みなりしを たれかはあきの くるかたに あさむきいてて みかきもり とのへもるみの みかきより をさをさしくも おもほえす ここのかさねの なかにては あらしのかせも きかさりき いまはのやまし ちかけれは はるはかすみに たなひかれ なつはうつせみ なきくらし あきはしくれに そてをかし ふゆはしもにそ せめらるる かかるわひしき みなからに つもれるとしを しるせれは いつつのむつに なりにけり これにそはれる わたくしの おいのかすさへ やよけれは みはいやしくて としたかき ことのくるしさ かくしつつ なからのはしの なからへて なにはのうらに たつなみの なみのしわにや おほほれむ さすかにいのち をしけれは こしのくになる しらやまの かしらはしろく なりぬとも おとはのたきの おとにきく おいすしなすの くすりかも きみかやちよを わかえつつみむ | 壬生忠岑 | 雑体 |
1-古今 | 1004 | 君が代に あふ坂山の 岩清水 こ隠れたりと 思ひけるかな きみかよに あふさかやまの いはしみつ こかくれたりと おもひけるかな | 壬生忠岑 | 雑体 |
1-古今 | 1005 | ちはやぶる 神無月とや 今朝よりは 雲りもあへず 初時雨 紅葉と共に ふるさとの 吉野の山の 山嵐も 寒く日ごとに なりゆけば 玉の緒とけて こき散らし あられ乱れて 霜こほり いや固まれる 庭の面に むらむら見ゆる 冬草の 上に降りしく 白雪の つもりつもりて あらたまの 年をあまたも すぐしつるかな ちはやふる かみなつきとや けさよりは くもりもあへす はつしくれ もみちとともに ふるさとの よしののやまの やまあらしも さむくひことに なりゆけは たまのをとけて こきちらし あられみたれて しもこほり いやかたまれる にはのおもに むらむらみゆる ふゆくさの うへにふりしく しらゆきの つもりつもりて あらたまの としをあまたも すくしつるかな | 凡河内躬恒 | 雑体 |
1-古今 | 1006 | 沖つ浪 荒れのみまさる 宮の内は 年へて住みし 伊勢の海人も 舟流したる 心地して よらむ方なく かなしきに 涙の色の 紅は 我らが中の 時雨にて 秋のもみぢと 人びとは おのが散りぢり 別れなば たのむかげなく なりはてて とまるものとは 花薄 君なき庭に 群れ立ちて 空をまねかば 初雁の なきわたりつつ よそにこそ見め おきつなみ あれのみまさる みやのうちは としへてすみし いせのあまも ふねなかしたる ここちして よらむかたなく かなしきに なみたのいろの くれなゐは われらかなかの しくれにて あきのもみちと ひとひとは おのかちりちり わかれなは たのむかけなく なりはてて とまるものとは はなすすき きみなきにはに むれたちて そらをまかねは はつかりの なきわたりつつ よそにこそみめ | 伊勢 | 雑体 |
1-古今 | 1007 | うちわたす をち方人に もの申す我 そのそこに 白く咲けるは 何の花ぞも うちわたす をちかたひとに ものまうすわれ そのそこに しろくさけるは なにのはなそも | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1008 | 春されば 野辺にまづ咲く 見れどあかぬ花 まひなしに ただ名のるべき 花の名なれや はるされは のへにまつさく みれとあかぬはな まひなしに たたなのるへき はなのななれや | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1009 | 初瀬川 ふる川の辺に ふたもとある杉 年をへて またもあひ見む ふたもとある杉 はつせかは ふるかはのへに ふたもとあるすき としをへて またもあひみむ ふたもとあるすき | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1010 | 君がさす 三笠の山の もみぢ葉の色 神無月 時雨の雨の 染めるなりけり きみかさす みかさのやまの もみちはのいろ かみなつき しくれのあめの そめるなりけり | 紀貫之 | 雑体 |
1-古今 | 1011 | 梅の花 見にこそきつれ うぐひすの ひとくひとくと いとひしもをる うめのはな みにこそきつれ うくひすの ひとくひとくと いとひしもをる | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1012 | 山吹の 花色衣 主や誰 問へど答へず くちなしにして やまふきの はないろころも ぬしやたれ とへとこたへす くちなしにして | 素性法師 | 雑体 |
1-古今 | 1013 | いくばくの 田をつくればか 郭公 しでの田をさを 朝な朝な呼ぶ いくはくの たをつくれはか ほとときす してのたをさを あさなあさなよふ | 藤原敏行 | 雑体 |
1-古今 | 1014 | いつしかと またく心を 脛にあげて 天の河原を 今日や渡らむ いつしかと またくこころを はきにあけて あまのかはらを けふやわたらむ | 藤原兼輔 | 雑体 |
1-古今 | 1015 | むつごとも まだつきなくに 明けぬめり いづらは秋の 長してふ夜は むつことも またつきなくに あけぬめり いつらはあきの なかしてふよは | 凡河内躬恒 | 雑体 |
1-古今 | 1016 | 秋の野に なまめきたてる 女郎花 あなかしかまし 花もひと時 あきののに なまめきたてる をみなへし あなかしかまし はなもひととき | 僧正遍昭 | 雑体 |
1-古今 | 1017 | 秋くれば 野辺にたはるる 女郎花 いづれの人か つまで見るべき あきくれは のへにたはるる をみなへし いつれのひとか つまてみるへき | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1018 | 秋霧の 晴れて曇れば 女郎花 花の姿ぞ 見え隠れする あききりの はれてくもれは をみなへし はなのすかたそ みえかくれする | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1019 | 花と見て 折らむとすれば 女郎花 うたたあるさまの 名にこそありけれ はなとみて をらむとすれは をみなへし うたたあるさまの なにこそありけれ | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1020 | 秋風に ほころびぬらし 藤ばかま つづりさせてふ きりぎりす鳴く あきかせに ほころひぬらし ふちはかま つつりさせてふ きりきりすなく | 在原棟梁 | 雑体 |
1-古今 | 1021 | 冬ながら 春のとなりの 近ければ 中垣よりぞ 花は散りける ふゆなから はるのとなりの ちかけれは なかかきよりそ はなはちりける | 清原深養父 | 雑体 |
1-古今 | 1022 | いそのかみ ふりにし恋の かみさびて たたるに我は いぞ寝かねつる いそのかみ ふりにしこひの かみさひて たたるにわれは いそねかねつる | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1023 | 枕より あとより恋の せめくれば せむ方なみぞ 床なかにをる まくらより あとよりこひの せめくれは せむかたなみそ とこなかにをる | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1024 | 恋しきが 方も方こそ ありと聞け たてれをれども なき心地かな こひしきか かたもかたこそ ありときけ たてれをれとも なきここちかな | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1025 | ありぬやと こころみがてら あひ見ねば たはぶれにくき までぞ恋しき ありぬやと こころみかてら あひみねは たはふれにくき まてそこひしき | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1026 | 耳なしの 山のくちなし えてしかな 思ひの色の 下染めにせむ みみなしの やまのくちなし えてしかな おもひのいろの したそめにせむ | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1027 | あしひきの 山田のそほづ おのれさへ 我をほしてふ うれはしきこと あしひきの やまたのそほつ おのれさへ われをほしてふ うれはしきこと | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1028 | 富士の嶺の ならぬ思ひに もえばもえ 神だにけたぬ むなし煙を ふしのねの ならぬおもひに もえはもえ かみたにけたぬ むなしけふりを | 紀乳母 | 雑体 |
1-古今 | 1029 | あひ見まく 星は数なく ありながら 人に月なみ 惑ひこそすれ あひみまく ほしはかすなく ありなから ひとにつきなみ まよひこそすれ | 紀有朋 | 雑体 |
1-古今 | 1030 | 人にあはむ 月のなきには 思ひおきて 胸はしり火に 心やけをり ひとにあはむ つきのなきには おもひおきて むねはしりひに こころやけをり | 小野小町 | 雑体 |
1-古今 | 1031 | 春霞 たなびく野辺の 若菜にも なりみてしかな 人もつむやと はるかすみ たなひくのへの わかなにも なりみてしかな ひともつむやと | 藤原興風 | 雑体 |
1-古今 | 1032 | 思へども なほうとまれぬ 春霞 かからぬ山も あらじと思へば おもへとも なほうとまれぬ はるかすみ かからぬやまも あらしとおもへは | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1033 | 春の野の しげき草葉の 妻恋ひに 飛び立つきじの ほろろとぞ鳴く はるののの しけきくさはの つまこひに とひたつきしの ほろろとそなく | 平貞文 | 雑体 |
1-古今 | 1034 | 秋の野に 妻なき鹿の 年をへて なぞ我が恋の かひよとぞ鳴く あきののに つまなきしかの としをへて なそわかこひの かひよとそなく | 紀淑人 | 雑体 |
1-古今 | 1035 | 蝉の羽の 一重に薄き 夏衣 なればよりなむ ものにやはあらぬ せみのはの ひとへにうすき なつころも なれはよりなむ ものにやはあらぬ | 凡河内躬恒 | 雑体 |
1-古今 | 1036 | 隠れ沼の 下よりおふる ねぬなはの ねぬなは立てじ くるないとひそ かくれぬの したよりおふる ねぬなはの ねぬなはたてし くるないとひそ | 壬生忠岑 | 雑体 |
1-古今 | 1037 | ことならば 思はずとやは 言ひはてぬ なぞ世の中の 玉だすきなる ことならは おもはすとやは いひはてぬ なそよのなかの たまたすきなる | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1038 | 思ふてふ 人の心の くまごとに 立ち隠れつつ 見るよしもがな おもふてふ ひとのこころの くまことに たちかくれつつ みるよしもかな | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1039 | 思へども 思はずとのみ 言ふなれば いなや思はじ 思ふかひなし おもへとも おもはすとのみ いふなれは いなやおもはし おもふかひなし | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1040 | 我をのみ 思ふと言はば あるべきを いでや心は おほぬさにして われをのみ おもふといはは あるへきを いてやこころは おほぬさにして | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1041 | 我を思ふ 人を思はぬ むくいにや 我が思ふ人の 我を思はぬ われをおもふ ひとをおもはぬ むくひにや わかおもふひとの われをおもはぬ | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1042 | 思ひけむ 人をぞ共に 思はまし まさしやむくい なかりけりやは おもひけむ ひとをそともに おもはまし まさしやむくひ なかりけりやは | 清原深養父 | 雑体 |
1-古今 | 1043 | いでてゆかむ 人をとどめむ よしなきに となりの方に 鼻もひぬかな いててゆかむ ひとをととめむ よしなきに となりのかたに はなもひぬかな | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1044 | 紅に 染めし心も たのまれず 人をあくには うつるてふなり くれなゐに そめしこころも たのまれす ひとをあくには うつるてふなり | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1045 | いとはるる 我が身は春の 駒なれや 野がひがてらに 放ち捨てつつ いとはるる わかみははるの こまなれや のかひかてらに はなちすてつる | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1046 | うぐひすの 去年の宿りの ふるすとや 我には人の つれなかるらむ うくひすの こそのやとりの ふるすとや われにはひとの つれなかるらむ | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1047 | さかしらに 夏は人まね 笹の葉の さやぐ霜夜を 我がひとり寝る さかしらに なつはひとまね ささのはの さやくしもよを わかひとりぬる | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1048 | あふことの 今ははつかに なりぬれば 夜深からでは 月なかりけり あふことの いまははつかに なりぬれは よふかからては つきなかりけり | 平中興 | 雑体 |
1-古今 | 1049 | もろこしの 吉野の山に こもるとも おくれむと思ふ 我ならなくに もろこしの よしののやまに こもるとも おくれむとおもふ われならなくに | 左大臣 | 雑体 |
1-古今 | 1050 | 雲はれぬ 浅間の山の あさましや 人の心を 見てこそやまめ くもはれぬ あさまのやまの あさましや ひとのこころを みてこそやまめ | 平中興 | 雑体 |
1-古今 | 1051 | 難波なる 長柄の橋も つくるなり 今は我が身を 何にたとへむ なにはなる なからのはしも つくるなり いまはわかみを なににたとへむ | 伊勢 | 雑体 |
1-古今 | 1052 | まめなれど 何ぞはよけく 刈るかやの 乱れてあれど あしけくもなし まめなれと なにそはよけく かるかやの みたれてあれと あしけくもなし | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1053 | 何かその 名の立つことの 惜しからむ 知りて惑ふは 我ひとりかは なにかその なのたつことの をしからむ しりてまとふは われひとりかは | 藤原興風 | 雑体 |
1-古今 | 1054 | よそながら 我が身に糸の よると言へば ただいつはりに すぐばかりなり よそなから わかみにいとの よるといへは たたいつはりに すくはかりなり | 久曽 | 雑体 |
1-古今 | 1055 | ねぎことを さのみ聞きけむ やしろこそ はてはなげきの もりとなるらめ ねきことを さのみききけむ やしろこそ はてはなけきの もりとなるらめ | 讃岐 | 雑体 |
1-古今 | 1056 | なげきこる 山とし高く なりぬれば つらづゑのみぞ まづつかれける なけきこる やまとしたかく なりぬれは つらつゑのみそ まつつかれける | 大輔 | 雑体 |
1-古今 | 1057 | なげきをば こりのみつみて あしひきの 山のかひなく なりぬべらなり なけきをは こりのみつみて あしひきの やまのかひなく なりぬへらなり | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1058 | 人恋ふる ことを重荷と になひもて あふごなきこそ わびしかりけれ ひとこふる ことをおもにと になひもて あふこなきこそ わひしかりけれ | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1059 | 宵の間に いでて入りぬる 三日月の われて物思ふ ころにもあるかな よひのまに いてていりぬる みかつきの われてものおもふ ころにもあるかな | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1060 | そゑにとて とすればかかり かくすれば あな言ひ知らず あふさきるさに そゑにとて とすれはかかり かくすれは あないひしらす あふさきるさに | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1061 | 世の中の うきたびごとに 身を投げば 深き谷こそ 浅くなりなめ よのなかの うきたひことに みをなけは ふかきたにこそ あさくなりなめ | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1062 | 世の中は いかにくるしと 思ふらむ ここらの人に うらみらるれば よのなかは いかにくるしと おもふらむ ここらのひとに うらみらるれは | 在原元方 | 雑体 |
1-古今 | 1063 | 何をして 身のいたづらに 老いぬらむ 年の思はむ ことぞやさしき なにをして みのいたつらに おいぬらむ としのおもはむ ことそやさしき | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1064 | 身は捨てつ 心をだにも はふらさじ つひにはいかが なると知るべく みはすてつ こころをたにも はふらさし つひにはいかか なるとしるへく | 藤原興風 | 雑体 |
1-古今 | 1065 | 白雪の ともに我が身は 降りぬれど 心は消えぬ ものにぞありける しらゆきの ともにわかみは ふりぬれと こころはきえぬ ものにそありける | 大江千里 | 雑体 |
1-古今 | 1066 | 梅の花 咲きてののちの 身なればや すきものとのみ 人の言ふらむ うめのはな さきてののちの みなれはや すきものとのみ ひとのいふらむ | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1067 | わびしらに ましらな鳴きそ あしひきの 山のかひある 今日にやはあらぬ わひしらに ましらななきそ あしひきの やまのかひある けふにやはあらぬ | 凡河内躬恒 | 雑体 |
1-古今 | 1068 | 世をいとひ 木のもとごとに 立ち寄りて うつぶし染めの 麻の衣なり よをいとひ このもとことに たちよりて うつふしそめの あさのきぬなり | 読人知らず | 雑体 |
1-古今 | 1069 | 新しき 年のはじめに かくしこそ 千歳をかねて 楽しきをつめ あたらしき としのはしめに かくしこそ ちとせをかねて たのしきをつめ | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1070 | しもとゆふ かづらき山に 降る雪の 間なく時なく 思ほゆるかな しもとゆふ かつらきやまに ふるゆきの まなくときなく おもほゆるかな | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1071 | 近江より 朝立ちくれば うねの野に たづぞ鳴くなる 明けぬこの夜は あふみより あさたちくれは うねののに たつそなくなる あけぬこのよは | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1072 | 水くきの 岡のやかたに 妹とあれと 寝ての朝けの 霜の降りはも みつくきの をかのやかたに いもとあれと ねてのあさけの しものふりはも | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1073 | しはつ山 うちいでて見れば 笠ゆひの 島こぎ隠る 棚なし小舟 しはつやま うちいててみれは かさゆひの しまこきかくる たななしをふね | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1074 | 神がきの みむろの山の さかき葉は 神のみまへに しげりあひにけり かみかきの みむろのやまの さかきはは かみのみまへに しけりあひにけり | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1075 | 霜やたび 置けど枯れせぬ さかき葉の たち栄ゆべき 神のきねかも しもやたひ おけとかれせぬ さかきはの たちさかゆへき かみのきねかも | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1076 | まきもくの あなしの山の 山びとと 人も見るがに 山かづらせよ まきもくの あなしのやまの やまひとと ひともみるかに やまかつらせよ | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1077 | み山には あられ降るらし と山なる まさきのかづら 色づきにけり みやまには あられふるらし とやまなる まさきのかつら いろつきにけり | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1078 | 陸奥の 安達の真弓 我が引かば 末さへよりこ しのびしのびに みちのくの あたちのまゆみ わかひかは すゑさへよりこ しのひしのひに | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1079 | 我が門の いたゐの清水 里遠み 人しくまねば み草おひにけり わかかとの いたゐのしみつ さととほみ ひとしくまねは みくさおひにけり | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1080 | ささのくま ひのくま川に 駒とめて しばし水かへ かげをだに見む ささのくま ひのくまかはに こまとめて しはしみつかへ かけをたにみむ | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1081 | 青柳を 片糸によりて うぐひすの ぬふてふ笠は 梅の花笠 あをやきを かたいとによりて うくひすの ぬふてふかさは うめのはなかさ | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1082 | まがねふく 吉備の中山 帯にせる 細谷川の 音のさやけさ まかねふく きひのなかやま おひにせる ほそたにかはの おとのさやけさ | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1083 | みまさかや 久米のさら山 さらさらに 我が名は立てじ 万代までに みまさかや くめのさらやま さらさらに わかなはたてし よろつよまてに | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1084 | 美濃の国 せきの藤川 絶えずして 君につかへむ 万代までに みののくに せきのふちかは たえすして きみにつかへむ よろつよまてに | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1085 | 君が代は かぎりもあらじ 長浜の 真砂の数は 読みつくすとも きみかよは かきりもあらし なかはまの まさこのかすは よみつくすとも | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1086 | 近江のや 鏡の山を 立てたれば かねてぞ見ゆる 君が千歳は あふみのや かかみのやまを たてたれは かねてそみゆる きみかちとせは | 大友黒主 | 大短所御歌 |
1-古今 | 1087 | 阿武隈に 霧立ちくもり 明けぬとも 君をばやらじ 待てばすべなし あふくまに きりたちくもり あけぬとも きみをはやらし まてはすへなし | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1088 | 陸奥は いづくはあれど 塩釜の 浦こぐ舟の 綱手かなしも みちのくは いつくはあれと しほかまの うらこくふねの つなてかなしも | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1089 | 我が背子を みやこにやりて 塩釜の まがきの島の 松ぞ恋しき わかせこを みやこにやりて しほかまの まかきのしまの まつそこひしき | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1090 | をぐろさき みつの小島の 人ならば みやこのつとに いざと言はましを をくろさき みつのこしまの ひとならは みやこのつとに いさといはましを | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1091 | みさぶらひ みかさと申せ 宮城野の この下露は 雨にまされり みさふらひ みかさとまうせ みやきのの このしたつゆは あめにまされり | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1092 | 最上川 のぼればくだる 稲舟の いなにはあらず この月ばかり もかみかは のほれはくたる いなふねの いなにはあらす このつきはかり | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1093 | 君をおきて あだし心を 我がもたば 末の松山 浪も越えなむ きみをおきて あたしこころを わかもたは すゑのまつやま なみもこえなむ | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1094 | こよろぎの 磯たちならし 磯菜つむ めざしぬらすな 沖にをれ浪 こよろきの いそたちならし いそなつむ めさしぬらすな おきにをれなみ | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1095 | つくばねの このもかのもに かげはあれど 君が御影に ますかげはなし つくはねの このもかのもに かけはあれと きみかみかけに ますかけはなし | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1096 | つくばねの 峰のもみぢ葉 落ちつもり 知るも知らぬも なべてかなしも つくはねの みねのもみちは おちつもり しるもしらぬも なへてかなしも | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1097 | 甲斐がねを さやにも見しか けけれなく 横ほりふせる 小夜の中山 かひかねを さやにもみしか けけれなく よこほりふせる さやのなかやま | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1098 | 甲斐がねを ねこし山こし 吹く風を 人にもがもや ことづてやらむ かひかねを ねこしやまこし ふくかせを ひとにもかもや ことつてやらむ | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1099 | をふのうらに 片枝さしおほひ なる梨の なりもならずも 寝てかたらはむ をふのうらに かたえさしおほひ なるなしの なりもならすも ねてかたらはむ | 読人知らず | 大短所御歌 |
1-古今 | 1100 | ちはやぶる 賀茂のやしろの 姫小松 よろづ世ふとも 色はかはらじ ちはやふる かものやしろの ひめこまつ よろつよふとも いろはかはらし | 藤原敏行 | 大短所御歌 |
2-後撰 | 1 | ふる雪のみのしろ衣うちきつつ春きにけりとおとろかれぬる ふるゆきの みのしろころも うちきつつ はるきにけりと おとろかれぬる | 藤原敏行 | 春上 |
2-後撰 | 2 | 春立つとききつるからにかすか山消えあへぬ雪の花とみゆらむ はるたつと ききつるからに かすかやま きえあへぬゆきの はなとみゆらむ | 凡河内躬恒 | 春上 |
2-後撰 | 3 | けふよりは荻のやけ原かきわけて若菜つみにと誰をさそはん けふよりは をきのやけはら かきわけて わかなつみにと たれをさそはむ | 兼盛王 | 春上 |
2-後撰 | 4 | 白雲のうへしるけふそ春雨のふるにかひある身とはしりぬる しらくもの うへしるけふそ はるさめの ふるにかひある みとはしりぬる | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 5 | 松もひきわかなもつます成りぬるをいつしか桜はやもさかなむ まつもひき わかなもつます なりぬるを いつしかさくら はやもさかなむ | 左太臣(実頼) | 春上 |
2-後撰 | 6 | 松にくる人しなけれは春の野のわかなも何もかひなかりけり まつにくる ひとしなけれは はるののの わかなもなにも かひなかりけり | 朱雀院 | 春上 |
2-後撰 | 7 | 君のみや野辺に小松を引きにゆく我もかたみにつまんわかなを きみのみや のへにこまつを ひきにゆく われもかたみに つまむわかなを | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 8 | 霞立つかすかののへのわかなにもなり見てしかな人もつむやと かすみたつ かすかののへの わかなにも なりみてしかな ひともつむやと | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 9 | 春ののに心をたにもやらぬ身はわかなはつまて年をこそつめ はるののに こころをたにも やらぬみは わかなはつまて としをこそつめ | 躬恒 | 春上 |
2-後撰 | 10 | ふるさとののへ見にゆくといふめるをいさもろともにわかなつみてん ふるさとの のへみにゆくと いふめるを いさもろともに わかなつみてむ | 行明規王 | 春上 |
2-後撰 | 11 | 水のおもにあや吹きみたる春風や池の氷をけふはとくらむ みつのおもに あやふきみたる はるかせや いけのこほりを けふはとくらむ | 紀友則 | 春上 |
2-後撰 | 12 | 吹く風や春たちきぬとつけつらん枝にこもれる花さきにけり ふくかせや はるたちきぬと つけつらむ えたにこもれる はなさきにけり | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 13 | かすかのにおふるわかなを見てしより心をつねに思ひやるかな かすかのに おふるわかなを みてしより こころをつねに おもひやるかな | 躬恒 | 春上 |
2-後撰 | 14 | もえいつるこのめを見てもねをそなくかれにし枝の春をしらねは もえいつる このめをみても ねをそなく かれにしえたの はるをしらねは | 兼覧王女 | 春上 |
2-後撰 | 15 | いつのまに霞立つらんかすかのの雪たにとけぬ冬とみしまに いつのまに かすみたつらむ かすかのの ゆきたにとけぬ ふゆとみしまに | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 16 | なほさりに折りつるものを梅花こきかに我や衣そめてむ なほさりに をりつるものを うめのはな こきかにわれや ころもそめてむ | 藤原冬嗣 | 春上 |
2-後撰 | 17 | やとちかくうつしてうゑしかひもなくまちとほにのみにほふ花かな やとちかく うつしてうゑし かひもなく まちとほにのみ にほふはなかな | 藤原兼輔 | 春上 |
2-後撰 | 18 | 春霞たなひきにけり久方の月の桂も花やさくらむ はるかすみ たなひきにけり ひさかたの つきのかつらも はなやさくらむ | 紀貫之 | 春上 |
2-後撰 | 19 | いつことも春のひかりはわかなくにまたみよしのの山は雪ふる いつことも はなのひかりは わかなくに またみよしのの やまはゆきふる | 躬恒 | 春上 |
2-後撰 | 20 | 白玉をつつむ袖のみなかるるは春は涙もさえぬなりけり しらたまを つつむそてのみ なかるるは はるはなみたも さえぬなりけり | 伊勢 | 春上 |
2-後撰 | 21 | 春立ちてわか身ふりぬるなかめには人の心の花もちりけり はるたちて わかみふりぬる なかめには ひとのこころの はなもちりけり | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 22 | わかせこに見せむと思ひし梅花それとも見えす雪のふれれは わかせこに みせむとおもひし うめのはな それともみえす ゆきのふれれは | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 23 | きて見へき人もあらしなわかやとの梅のはつ花をりつくしてむ きてみへき ひともあらしな わかやとの うめのはつはな をりつくしてむ | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 24 | ことならは折りつくしてむ梅花わかまつ人のきても見なくに ことならは をりつくしてむ うめのはな わかまつひとの きてもみなくに | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 25 | 吹く風にちらすもあらなんむめの花わか狩衣ひとよやとさむ ふくかせに ちらすもあらなむ うめのはな わかかりころも ひとよやとさむ | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 26 | わかやとの梅のはつ花ひるは雪よるは月とも見えまかふかな わかやとの うめのはつはな ひるはゆき よるはつきとも みえまかふかな | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 27 | 梅花よそなから見むわきもこかとかむはかりのかにもこそしめ うめのはな よそなからみむ わきもこか とかむはかりの かにもこそしめ | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 28 | むめの花をれはこほれぬわか袖ににほひかうつせ家つとにせん うめのはな をれはこほれぬ わかそてに にほひかうつせ いへつとにせむ | 素性法師 | 春上 |
2-後撰 | 29 | 心もてをるかはあやな梅花かをとめてたにとふ人のなき こころもて をるかはあやな うめのはな かをとめてたに とふひとのなき | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 30 | 人心うさこそまされはるたてはとまらすきゆるゆきかくれなん ひとこころ うさこそまされ はるたては とまらすきゆる ゆきかくれなむ | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 31 | 梅花かをふきかくる春風に心をそめは人やとかめむ うめのはな かをふきかくる はるかせに こころをそめは ひとやとかめむ | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 32 | 春雨のふらはの山にましりなん梅の花かさありといふなり はるさめの ふらはのやまに ましりなむ うめのはなかさ ありといふなり | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 33 | かきくらし雪はふりつつしかすかにわか家のそのに鴬そなく かきくらし ゆきはふりつつ しかすかに わかいへのそのに うくひすそなく | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 34 | 谷さむみいまたすたたぬ鴬のなくこゑわかみ人のすさめぬ たにさむみ いまたすたたぬ うくひすの なくこゑわかみ ひとのすさへぬ | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 35 | 鴬のなきつるこゑにさそはれて花のもとにそ我はきにける うくひすの なきつるこゑに さそはれて はなのもとにそ われはきにける | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 36 | 花たにもまたさかなくに鴬のなくひとこゑを春とおもはむ はなたにも またさかなくに うくひすの なくひとこゑを はるとおもはむ | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 37 | 君かため山田のさはにゑくつむとぬれにし袖は今もかわかす きみかため やまたのさはに ゑくつむと ぬれにしそては いまもかわかす | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 38 | 梅花今はさかりになりぬらんたのめし人のおとつれもせぬ うめのはな いまはさかりに なりぬらむ たのめしひとの おとつれもせぬ | 朱雀院の兵部卿のみこ | 春上 |
2-後撰 | 39 | 春雨にいかにそ梅やにほふらんわか見る枝は色もかはらす はるさめに いかにそうめや にほふらむ わかみるえたは いろもかはらす | 紀長谷雄 | 春上 |
2-後撰 | 40 | 梅花ちるてふなへに春雨のふりてつつなくうくひすのこゑ うめのはな ちるてふなへに はるさめの ふりてつつなく うくひすのこゑ | 読人知らず | 春上 |
2-後撰 | 41 | いもか家のはひいりにたてるあをやきに今やなくらん鴬の声 いもかいへの はひいりにたてる あをやきに いまやなくらむ うくひすのこゑ | 躬恒 | 春上 |
2-後撰 | 42 | ふか緑ときはの松の影にゐてうつろふ花をよそにこそ見れ ふかみとり ときはのまつの かけにゐて うつろふはなを よそにこそみれ | 坂上是則 | 春上 |
2-後撰 | 43 | 花の色はちらぬまはかりふるさとにつねには松のみとりなりけり はなのいろは ちらぬまはかり ふるさとに つねにはまつの みとりなりけり | 藤原雅正 | 春上 |
2-後撰 | 44 | 紅に色をはかへて梅花かそことことににほはさりける くれなゐに いろをはかへて うめのはな かそことことに にほはさりける | 躬恒 | 春上 |
2-後撰 | 45 | ふる雪はかつもけななむ梅花ちるにまとはす折りてかささん ふるゆきは かつもけななむ うめのはな ちるにまとはす をりてかささむ | 紀貫之 | 春上 |
2-後撰 | 46 | 春ことにさきまさるへき花なれはことしをもまたあかすとそ見る はることに さきまさるへき はななれは ことしをもまた あかすとそみる | 紀貫之 | 春上 |
2-後撰 | 47 | うゑし時花見むとしもおもはぬにさきちる見れはよはひ老いにけり うゑしとき はなみむとしも おもはぬに さきちるみれは よはひおいにけり | 藤原扶幹 | 春中 |
2-後撰 | 48 | 竹ちかくよとこねはせし鴬のなく声きけはあさいせられす たけちかく よとこねはせし うくひすの なくこゑきけは あさいせられす | 藤原伊衡 | 春中 |
2-後撰 | 49 | いその神ふるの山への桜花うゑけむ時をしる人そなき いそのかみ ふるのやまへの さくらはな うゑけむときを しるひとそなき | 僧正遍昭 | 春中 |
2-後撰 | 50 | 山守はいははいはなん高砂のをのへの桜折りてかささむ やまもりは いははいはなむ たかさこの をのへのさくら をりてかささむ | 素性法師 | 春中 |
2-後撰 | 51 | さくらはな色はひとしき枝なれとかたみに見れはなくさまなくに さくらはな いろはひとしき えたなれと かたみにみれは なくさまなくに | 読人知らず | 春中 |
2-後撰 | 52 | 見ぬ人のかたみかてらはをらさりき身になすらへる花にしあらねは みぬひとの かたみかてらは をらさりき みになすらへる はなにしあらねは | 伊勢 | 春中 |
2-後撰 | 53 | 吹く風をならしの山の桜花のとけくそ見るちらしとおもへは ふくかせを ならしのやまの さくらはな のとけくそみる ちらしとおもへは | 読人知らず | 春中 |
2-後撰 | 54 | 桜花けふよく見てむくれ竹のひとよのほとにちりもこそすれ さくらはな けふよくみてむ くれたけの ひとよのほとに ちりもこそすれ | 坂上是則 | 春中 |
2-後撰 | 55 | さくらはなにほふともなく春くれはなとか歎のしけりのみする さくらはな にほふともなく はるくれは なとかなけきの しけりのみする | 読人知らず | 春中 |
2-後撰 | 56 | けふ桜しつくにわか身いさぬれむかこめにさそふ風のこぬまに けふさくら しつくにわかみ いさぬれむ かこめにさそふ かせのこぬまに | 源融 | 春中 |
2-後撰 | 57 | さくら花ぬしをわすれぬ物ならはふきこむ風に事つてはせよ さくらはな ぬしをわすれぬ ものならは ふきこむかせに ことつてはせよ | 菅原道真 | 春中 |
2-後撰 | 58 | あをやきのいとよりはへておるはたをいつれの山の鴬かきる あをやきの いとよりはへて おるはたを いつれのやまの うくひすかきる | 伊勢 | 春中 |
2-後撰 | 59 | あひおもはてうつろふ色を見るものを花にしられぬなかめするかな あひおもはて うつろふいろを みるものを はなにしられぬ なかめするかな | 凡河内躬恒 | 春中 |
2-後撰 | 60 | 帰る雁雲ちにまとふ声すなり霞ふきとけこのめはる風 かへるかり くもちにまとふ こゑすなり かすみふきとけ このめはるかせ | 読人知らず | 春中 |
2-後撰 | 61 | さきさかす我になつけそさくら花人つてにやはきかんと思ひし さきさかす われになつけそ さくらはな ひとつてにやは きかむとおもひし | 大将御息所 | 春中 |
2-後撰 | 62 | 春くれはこかくれおほきゆふつくよおほつかなしも花かけにして はるくれは こかくれおほき ゆふつくよ おほつかなしも はなかけにして | 読人知らず | 春中 |
2-後撰 | 63 | 立渡る霞のみかは山高み見ゆる桜の色もひとつを たちわたる かすみのみかは やまたかみ みゆるさくらの いろもひとつを | 読人知らず | 春中 |
2-後撰 | 64 | おほそらにおほふはかりの袖もかな春さく花を風にまかせし おほそらに おほふはかりの そてもかな はるさくはなを かせにまかせし | 読人知らず | 春中 |
2-後撰 | 65 | なけきさへ春をしるこそわひしけれもゆとは人に見えぬものから なけきさへ はるをしるこそ わひしけれ もゆとはひとに みえぬものから | 読人知らず | 春中 |
2-後撰 | 66 | もえ渡る歎は春のさかなれはおほかたにこそあはれとも見れ もえわたる なけきははるの さかなれは おほかたにこそ あはれともみれ | 読人知らず | 春中 |
2-後撰 | 67 | あをやきのいとつれなくもなりゆくかいかなるすちに思ひよらまし あをやきの いとつれなくも なりゆくか いかなるすちに おもひよらまし | 藤原師尹 | 春中 |
2-後撰 | 68 | 山さとにちりなましかは桜花にほふさかりもしられさらまし やまさとに ちりなましかは さくらはな にほふさかりも しられさらまし | 藤原師尹 | 春中 |
2-後撰 | 69 | 匂こき花のかもてそしられけるうゑて見るらんひとの心は にほひこき はなのかもてそ しられける うゑてみるらむ ひとのこころは | 衛門のみやすん所 | 春中 |
2-後撰 | 70 | 時しもあれ花のさかりにつらけれはおもはぬ山にいりやしなまし ときしもあれ はなのさかりに つらけれは おもはぬやまに いりやしなまし | 藤原朝忠 | 春中 |
2-後撰 | 71 | わかためにおもはぬ山のおとにのみ花さかりゆく春をうらみむ わかために おもはぬやまの おとにのみ はなさかりゆく はるをうらみむ | 小弐 | 春中 |
2-後撰 | 72 | 春の池の玉もに遊ふにほとりのあしのいとなきこひもするかな はるのいけの たまもにあそふ にほとりの あしのいとなき こひもするかな | 宮道高風 | 春中 |
2-後撰 | 73 | 山風の花のかかとふふもとには春の霞そほたしなりける やまかせの はなのかかとふ ふもとには はるのかすみそ ほたしなりける | 藤原興風 | 春中 |
2-後撰 | 74 | 春さめの世にふりにたる心にも猶あたらしく花をこそおもへ はるさめの よにふりにたる こころにも なほあたらしく はなをこそおもへ | 読人知らず | 春中 |
2-後撰 | 75 | はる霞たちてくもゐになりゆくはかりの心のかはるなるへし はるかすみ たちてくもゐに なりゆくは かりのこころの かはるなるへし | 読人知らず | 春中 |
2-後撰 | 76 | ねられぬをしひてわかぬる春の夜の夢をうつつになすよしもかな ねられぬを しひてわかぬる はるのよの ゆめをうつつに なすよしもかな | 読人知らず | 春中 |
2-後撰 | 77 | わかやとの桜の色はうすくとも花のさかりはきてもをらなむ わかやとの さくらのいろは うすくとも はなのさかりは きてもをらなむ | 読人知らず | 春中 |
2-後撰 | 78 | 年をへて花のたよりに事とははいととあたなる名をや立ちなん としをへて はなのたよりに こととはは いととあたなる なをやたちなむ | 兼覧王 | 春中 |
2-後撰 | 79 | わかやとの花にななきそ喚子鳥よふかひ有りて君もこなくに わかやとの はなにななきそ よふことり よふかひありて きみもこなくに | 春道列樹 | 春中 |
2-後撰 | 80 | ふりぬとていたくなわひそはるさめのたたにやむへき物ならなくに ふりぬとて いたくなわひそ はるさめの たたにやむへき ものならなくに | 紀貫之 | 春中 |
2-後撰 | 81 | 鴬のなくなる声は昔にてわか身ひとつのあらすもあるかな うくひすの なくなるこゑは むかしにて わかみひとつの あらすもあるかな | 藤原顕忠母 | 春下 |
2-後撰 | 82 | ひさしかれあたにちるなとさくら花かめにさせれとうつろひにけり ひさしかれ あたにちるなと さくらはな かめにさせれと うつろひにけり | 紀貫之 | 春下 |
2-後撰 | 83 | 千世ふへきかめにさせれと桜花とまらん事は常にやはあらぬ ちよふへき かめにさせれと さくらはな とまらむことは つねにやはあらぬ | 中務 | 春下 |
2-後撰 | 84 | ちりぬへき花の限はおしなへていつれともなくをしき春かな ちりぬへき はなのかきりは おしなへて いつれともなく をしきはるかな | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 85 | かきこしにちりくる花を見るよりはねこめに風の吹きもこさなん かきこしに ちりくるはなを みるよりは ねこめにかせの ふきもこさなむ | 伊勢 | 春下 |
2-後撰 | 86 | 春の日のなかき思ひはわすれしを人の心に秋やたつらむ はるのひの なかきおもひは わすれしを ひとのこころに あきやたつらむ | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 87 | よそにても花見ることにねをそなくわか身にうとき春のつらさに よそにても はなみることに ねをそなく わかみにうとき はるのつらさに | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 88 | 風をたにまちてそ花のちりなまし心つからにうつろふかうさ かせをたに まちてそはなの ちりなまし こころつからに うつろふかうさ | 紀貫之 | 春下 |
2-後撰 | 89 | わかやとにすみれの花のおほかれはきやとる人やあるとまつかな わかやとに すみれのはなの おほけれは きやとるひとや あるとまつかな | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 90 | 山高み霞をわけてちる花を雪とやよその人は見るらん やまたかみ かすみをわけて ちるはなを ゆきとやよその ひとはみるらむ | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 91 | 吹く風のさそふ物とはしりなからちりぬる花のしひてこひしき ふくかせの さそふものとは しりなから ちりぬるはなの しひてこひしき | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 92 | うちはへてはるはさはかりのとけきを花の心やなにいそくらん うちはへて はるはさはかり のとけきを はなのこころや なにいそくらむ | 深養父 | 春下 |
2-後撰 | 93 | わかやとの歎ははるもしらなくに何にか花をくらへても見む わかやとの なけきははるも しらなくに なににかはなを くらへてもみむ | こわかきみ | 春下 |
2-後撰 | 94 | はるの日の影そふ池のかかみには柳のまゆそまつは見えける はるのひの かけそふいけの かかみには やなきのまゆそ まつはみえける | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 95 | かくなからちらて世をやはつくしてぬ花のときはもありと見るへく かくなから ちらてよをやは つくしてぬ はなのときはも ありとみるへく | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 96 | かさせとも老もかくれぬこの春そ花のおもてはふせつへらなる かさせとも おいもかくれぬ このはるそ はなのおもては ふせつへらなる | 凡河内躬恒 | 春下 |
2-後撰 | 97 | ひととせにかさなる春のあらはこそふたたひ花を見むとたのまめ ひととせに かさなるはるの あらはこそ ふたたひはなも みむとたのまめ | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 98 | 春くれはさくてふことをぬれきぬにきするはかりの花にそありける はるくれは さくてふことを ぬれきぬに きするはかりの はなにそありける | 紀貫之 | 春下 |
2-後撰 | 99 | 春霞たちなから見し花ゆゑにふみとめてけるあとのくやしさ はるかすみ たちなからみし はなゆゑに ふみとめてける あとのくやしさ | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 100 | はる日さす藤のうらはのうらとけて君しおもはは我もたのまん はるひさす ふちのうらはの うらとけて きみしおもはは われもたのまむ | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 101 | 鴬に身をあひかへはちるまてもわか物にして花は見てまし うくひすに みをあひかへは ちるまても わかものにして はなはみてまし | 伊勢 | 春下 |
2-後撰 | 102 | 花の色は昔なからに見し人の心のみこそうつろひにけれ はなのいろは むかしなからに みしひとの こころのみこそ うつろひにけれ | 元良親王 | 春下 |
2-後撰 | 103 | あたら夜の月と花とをおなしくはあはれしれらん人に見せはや あたらよの つきとはなとを おなしくは こころしれらむ ひとにみせはや | 源信明 | 春下 |
2-後撰 | 104 | 宮こ人きてもをらなんかはつなくあかたのゐとの山吹の花 みやこひと きてもをらなむ かはつなく あかたのゐとの やまふきのはな | 橘のきんひらか女 | 春下 |
2-後撰 | 105 | 今よりは風にまかせむ桜花ちるこのもとに君とまりけり いまよりは かせにまかせむ さくらはな ちるこのもとに きみとまりけり | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 106 | 風にしも何かまかせんさくら花匂あかぬにちるはうかりき かせにしも なにかまかせむ さくらはな にほひあかぬに ちるはうかりき | 藤原敦忠 | 春下 |
2-後撰 | 107 | 常よりも春へになれはさくら河花の浪こそまなくよすらめ つねよりも はるへになれは さくらかは はなのなみこそ まなくよすらめ | 紀貫之 | 春下 |
2-後撰 | 108 | わかきたるひとへ衣は山吹のやへの色にもおとらさりけり わかきたる ひとへころもは やまふきの やへのいろにも おとらさりけり | 兼輔 | 春下 |
2-後撰 | 109 | ひととせにふたたひさかぬ花なれはむへちることを人はいひけり ひととせに ふたたひさかぬ はななれは うへちることを ひとはいひけり | 在原元方 | 春下 |
2-後撰 | 110 | 春さめの花の枝より流れこは猶こそぬれめかもやうつると はるさめの はなのえたより なかれこは なほこそぬれめ かもやうつると | 藤原敏行 | 春下 |
2-後撰 | 111 | はる深き色にもあるかな住の江のそこも緑に見ゆるはま松 はるふかき いろにもあるかな すみのえの そこもみとりに みゆるはままつ | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 112 | 春くれは花見にと思ふ心こそのへの霞とともにたちけれ はるくれは はなみにとおもふ こころこそ のへのかすみと ともにたちけれ | 典侍よるかの | 春下 |
2-後撰 | 113 | 我をこそとふにうからめ春霞花につけてもたちよらぬかな われをこそ とふにうからめ はるかすみ はなにつけても たちよらぬかな | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 114 | たちよらぬ春の霞をたのまれよ花のあたりと見れはなるらん たちよらぬ はるのかすみを たのまれよ はなのあたりと みれはなるらむ | 源清蔭 | 春下 |
2-後撰 | 115 | 君見よと尋ねてをれる山さくらふりにし色と思はさらなん きみみよと たつねてをれる やまさくら ふりにしいろと おもはさらなむ | 伊勢 | 春下 |
2-後撰 | 116 | 神さひてふりにし里にすむ人は都ににほふ花をたに見す かみさひて ふりにしさとに すむひとは みやこににほふ はなをたにみす | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 117 | み吉野のよしのの山の桜花白雲とのみ見えまかひつつ みよしのの よしののやまの さくらはな しらくもとのみ みえまかひつつ | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 118 | 山さくらさきぬる時は常よりも峰の白雲たちまさりけり やまさくら さきぬるときは つねよりも みねのしらくも たちまさりけり | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 119 | 白雲と見えつるものをさくら花けふはちるとや色ことになる しらくもと みえつるものを さくらはな けふはちるとや いろことになる | 紀貫之 | 春下 |
2-後撰 | 120 | わかやとの影ともたのむ藤の花たちよりくとも浪にをらるな わかやとの かけともたのむ ふちのはな たちよりくとも なみにをらるな | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 121 | 花さかりまたもすきぬに吉野河影にうつろふ岸の山吹 はなさかり またもすきぬに よしのかは かけにうつろふ きしのやまふき | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 122 | しのひかねなきてかはつの惜むをもしらすうつろふ山吹の花 しのひかね なきてかはつの をしむをも しらすうつろふ やまふきのはな | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 123 | 折りつれはたふさにけかるたてなからみよの仏に花たてまつる をりつれは たふさにけかる たてなから みよのほとけに はなたてまつる | 僧正遍昭 | 春下 |
2-後撰 | 124 | みなそこの色さへ深き松かえにちとせをかねてさける藤波 みなそこの いろさへふかき まつかえに ちとせをかねて さけるふちなみ | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 125 | 限なき名におふふちの花なれはそこひもしらぬ色のふかさか かきりなき なにおふふちの はななれは そこひもしらぬ いろのふかさか | 藤原定方 | 春下 |
2-後撰 | 126 | 色深くにほひし事は藤浪のたちもかへらて君とまれとか いろふかく にほひしことは ふちなみの たちもかへらて きみとまれとか | 藤原兼輔 | 春下 |
2-後撰 | 127 | さをさせとふかさもしらぬふちなれは色をは人もしらしとそ思ふ さをさせと ふかさもしらぬ ふちなれは いろをはひとも しらしとそおもふ | 紀貫之 | 春下 |
2-後撰 | 128 | 昨日見し花のかほとてけさみれはねてこそさらに色まさりけれ きのふみし はなのかほとて けさみれは ねてこそさらに いろまさりけれ | 藤原定方 | 春下 |
2-後撰 | 129 | ひと夜のみねてしかへらは藤の花心とけたる色見せんやは ひとよのみ ねてしかへらは ふちのはな こころとけたる いろみせむやは | 藤原兼輔 | 春下 |
2-後撰 | 130 | あさほらけしたゆく水はあさけれと深くそ花の色は見えける あさほらけ したゆくみつは あさけれと ふかくそはなの いろはみえける | 紀貫之 | 春下 |
2-後撰 | 131 | 鴬の糸によるてふ玉柳ふきなみたりそ春の山かせ うくひすの いとによるてふ たまやなき ふきなみたりそ はるのやまかせ | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 132 | いつのまにちりはてぬらん桜花おもかけにのみ色を見せつつ いつのまに ちりはてぬらむ さくらはな おもかけにのみ いろをみせつつ | 躬恒 | 春下 |
2-後撰 | 133 | ちることのうきもわすれてあはれてふ事をさくらにやとしつるかな ちることの うきもわすれて あはれてふ ことをさくらに やとしつるかな | 源仲宣 | 春下 |
2-後撰 | 134 | 桜色にきたる衣のふかけれはすくる春日もをしけくもなし さくらいろに きたるころもの ふかけれは すくるはるひも をしけくもなし | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 135 | あまりさへありてゆくへき年たにも春にかならすあふよしもかな あまりさへ ありてゆくへき としたにも はるにかならす あふよしもかな | 紀貫之 | 春下 |
2-後撰 | 136 | つねよりものとけかるへき春なれはひかりに人のあはさらめやは つねよりも のとけかるへき はるなれは ひかりにひとの あはさらめやは | 左太臣(実頼) | 春下 |
2-後撰 | 137 | 君こすて年はくれにき立ちかへり春さへけふに成りにけるかな きみこすて としはくれにき たちかへり はるさへけふに なりにけるかな | 藤原雅正 | 春下 |
2-後撰 | 138 | ともにこそ花をも見めとまつ人のこぬものゆゑにをしきはるかな ともにこそ はなをもみめと まつひとの こぬものゆゑに をしきはるかな | 藤原雅正 | 春下 |
2-後撰 | 139 | きみにたにとはれてふれは藤の花たそかれ時もしらすそ有りける きみにたに とはれてふれは ふちのはな たそかれときも しらすそありける | 紀貫之 | 春下 |
2-後撰 | 140 | やへむくら心の内にふかけれは花見にゆかんいてたちもせす やへむくら こころのうちに ふかけれは はなみにゆかむ いてたちもせす | 紀貫之 | 春下 |
2-後撰 | 141 | をしめとも春の限のけふの又ゆふくれにさへなりにけるかな をしめとも はるのかきりの けふのまた ゆふくれにさへ なりにけるかな | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 142 | ゆくさきををしみし春のあすよりはきにし方にもなりぬへきかな ゆくさきを をしみしはるの あすよりは きにしかたにも なりぬへきかな | 躬恒 | 春下 |
2-後撰 | 143 | ゆくさきになりもやするとたのみしを春の限はけふにそ有りける ゆくさきに なりもやすると たのみしを はるのかきりは けふにそありける | 紀貫之 | 春下 |
2-後撰 | 144 | 花しあらは何かははるのをしからんくるともけふはなけかさらまし はなしあらは なにかははるの をしからむ くるともけふは なけかさらまし | 読人知らず | 春下 |
2-後撰 | 145 | くれて又あすとたになきはるの日を花の影にてけふはくらさむ くれてまた あすとたになき はるのひを はなのかけにて けふはくらさむ | 躬恒 | 春下 |
2-後撰 | 146 | 又もこむ時そとおもへとたのまれぬわか身にしあれはをしきはるかな またもこむ ときそとおもへと たのまれぬ わかみにしあれは をしきはるかな | 紀貫之 | 春下 |
2-後撰 | 147 | 今日よりは夏の衣に成りぬれときるひとさへはかはらさりけり けふよりは なつのころもに なりぬれと きるひとさへは かはらさりけり | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 148 | 卯花のさけるかきねの月きよみいねすきけとやなくほとときす うのはなの さけるかきねの つききよみ いねすきけとや なくほとときす | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 149 | 郭公きゐるかきねはちかなからまちとほにのみ声のきこえぬ ほとときす きゐるかきねは ちかなから まちとほにのみ こゑのきこえぬ | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 150 | ほとときす声まつほとはとほからてしのひになくをきかぬなるらん ほとときす こゑまつほとは とほからて しのひになくを きかぬなるらむ | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 151 | うらめしき君かかきねの卯花はうしと見つつも猶たのむかな うらめしき きみかかきねの うのはなは うしとみつつも なほたのむかな | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 152 | うき物と思ひしりなは卯花のさけるかきねもたつねさらまし うきものと おもひしりなは うのはなの さけるかきねも たつねさらまし | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 153 | 時わかすふれる雪かと見るまてにかきねもたわにさける卯花 ときわかす ふれるゆきかと みるまてに かきねもたわに さけるうのはな | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 154 | 白妙ににほふかきねの卯花のうくもきてとふ人のなきかな しろたへに にほふかきねの うのはなの うくもきてとふ ひとのなきかな | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 155 | 時わかす月か雪かとみるまてにかきねのままにさける卯花 ときわかす つきかゆきかと みるまてに かきねのままに さけるうのはな | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 156 | 鳴きわひぬいつちかゆかん郭公猶卯花の影ははなれし なきわひぬ いつちかゆかむ ほとときす なほうのはなの かけははなれし | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 157 | あひ見しもまた見ぬこひも郭公月になくよそよににさりける あひみしも またみぬこひも ほとときす つきになくよそ よににさりける | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 158 | 有りとのみおとはの山の郭公ききにきこえてあはすもあるかな ありとのみ おとはのやまの ほとときす ききにきこえて あはすもあるかな | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 159 | こかくれてさ月まつとも郭公はねならはしに枝うつりせよ こかくれて さつきまつとも ほとときす はねならはしに えたうつりせよ | 伊勢 | 夏 |
2-後撰 | 160 | いひそめし昔のやとの杜若色はかりこそかたみなりけれ いひそめし むかしのやとの かきつはた いろはかりこそ かたみなりけれ | 良岑義方 | 夏 |
2-後撰 | 161 | ゆきかへるやそうち人の玉かつらかけてそたのむ葵てふ名を ゆきかへる やそうちひとの たまかつら かけてそたのむ あふひてふなを | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 162 | ゆふたすきかけてもいふなあた人の葵てふなはみそきにそせし ゆふたすき かけてもいふな あたひとの あふひてふなは みそきにそせし | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 163 | このころはさみたれちかみ郭公思ひみたれてなかぬ日そなき このころは さみたれちかみ ほとときす おもひみたれて なかぬひそなき | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 164 | まつ人は誰ならなくにほとときす思ひの外になかはうからん まつひとは たれならなくに ほとときす おもひのほかに なかはうからむ | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 165 | にほひつつちりにし花そおもほゆる夏は緑の葉のみしけれは にほひつつ ちりにしはなそ おもほゆる なつはみとりの はのみしけれは | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 166 | さみたれに春の宮人くる時は郭公をやうくひすにせん さみたれに はるのみやひと くるときは ほとときすをや うくひすにせむ | 大春日師範 | 夏 |
2-後撰 | 167 | みしか夜のふけゆくままに白妙の峰の松風ふくかとそきく みしかよの ふけゆくままに たかさこの みねのまつかせ ふくかとそきく | 藤原兼輔 | 夏 |
2-後撰 | 168 | 葦引の山した水はゆきかよひことのねにさへなかるへらなり あしひきの やましたみつは ゆきかよひ ことのねにさへ なかるへらなり | 紀貫之 | 夏 |
2-後撰 | 169 | 夏の夜はあふ名のみして敷妙のちりはらふまにあけそしにける なつのよは あふなのみして しきたへの ちりはらふまに あけそしにける | 藤原高経 | 夏 |
2-後撰 | 170 | 夢よりもはかなき物は夏の夜の暁かたの別なりけり ゆめよりも はかなきものは なつのよの あかつきかたの わかれなりけり | 壬生忠岑 | 夏 |
2-後撰 | 171 | よそなから思ひしよりも夏の夜の見はてぬ夢そはかなかりける よそなから おもひしよりも なつのよの みはてぬゆめそ はかなかりける | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 172 | ふた声と聞くとはなしに郭公夜深くめをもさましつるかな ふたこゑと きくとはなしに ほとときす よふかくめをも さましつるかな | 伊勢 | 夏 |
2-後撰 | 173 | あふと見し夢にならひて夏の日のくれかたきをも歎きつるかな あふとみし ゆめにならひて なつのひの くれかたきをも なけきつるかな | 藤原安国 | 夏 |
2-後撰 | 174 | うとまるる心しなくは郭公あかぬ別にけさはけなまし うとまるる こころしなくは ほとときす あかぬわかれに けさはけなまし | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 175 | 折りはへてねをのみそなく郭公しけきなけきの枝ことにゐて をりはへて ねをのみそなく ほとときす しけきなけきの えたことにゐて | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 176 | ほとときすきては旅とや鳴渡る我は別のをしき宮こを ほとときす きてはたひとや なきわたる われはわかれの をしきみやこを | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 177 | 独ゐて物思ふ我を郭公ここにしもなく心あるらし ひとりゐて ものおもふわれを ほとときす ここにしもなく こころあるらし | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 178 | 玉匣あけつるほとのほとときすたたふたこゑもなきてこしかな たまくしけ あけつるほとの ほとときす たたふたこゑも なきてこしかな | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 179 | かすならぬわか身山への郭公このはかくれのこゑはきこゆや かすならぬ わかみやまへの ほとときす このはかくれの こゑはきこゆや | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 180 | とこ夏に鳴きてもへなんほとときすしけきみ山になに帰るらむ とこなつに なきてもへなむ ほとときす しけきみやまに なにかへるらむ | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 181 | ふすからにまつそわひしき郭公なきもはてぬにあくるよなれは ふすからに まつそわひしき ほとときす なきもはてぬに あくるよなれは | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 182 | さみたれになかめくらせる月なれはさやにも見えすくもかくれつつ さみたれに なかめくらせる つきなれは さやにもみえす くもかくれつつ | あるしの女 | 夏 |
2-後撰 | 183 | ふた葉よりわかしめゆひしなてしこの花のさかりを人にをらすな ふたはより わかしめゆひし なてしこの はなのさかりを ひとにをらすな | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 184 | 葦引の山郭公うちはへて誰かまさるとねをのみそなく あしひきの やまほとときす うちはへて たれかまさると ねをのみそなく | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 185 | つれつれとなかむる空の郭公とふにつけてそねはなかれける つれつれと なかむるそらの ほとときす とふにつけてそ ねはなかれける | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 186 | 色かへぬ花橘に郭公ちよをならせるこゑきこゆなり いろかへぬ はなたちはなに ほとときす ちよをならせる こゑきこゆなり | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 187 | たひねしてつまこひすらし郭公神なひ山にさよふけてなく たひねして つまこひすらし ほとときす かむなひやまに さよふけてなく | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 188 | 夏の夜にこひしき人のかをとめは花橘そしるへなりける なつのよに こひしきひとの かをとめは はなたちはなそ しるへなりける | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 189 | 郭公はつかなるねをききそめてあらぬもそれとおほめかれつつ ほとときす はつかなるねを ききそめて あらぬもそれと おほめかれつつ | 伊勢 | 夏 |
2-後撰 | 190 | さみたれのつつける年のなかめには物思ひあへる我そわひしき さみたれの つつけるとしの なかめには ものおもひあへる われそわひしき | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 191 | 郭公ひとこゑにあくる夏の夜の暁かたやあふこなるらむ ほとときす ひとこゑにあくる なつのよの あかつきかたや あふこなるらむ | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 192 | うちはへてねをなきくらす空蝉のむなしきこひも我はするかな うちはへて ねをなきくらす うつせみの むなしきこひも われはするかな | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 193 | 常もなき夏の草はにおくつゆをいのちとたのむせみのはかなさ つねもなき なつのくさはに おくつゆを いのちとたのむ せみのはかなさ | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 194 | やへむくらしけきやとには夏虫の声より外に問ふ人もなし やへむくら しけきやとには なつむしの こゑよりほかに とふひともなし | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 195 | うつせみのこゑきくからに物そ思ふ我も空しき世にしすまへは うつせみの こゑきくからに ものそおもふ われもむなしき よにしすまへは | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 196 | 如何せむをくらの山の郭公おほつかなしとねをのみそなく いかかせむ をくらのやまの ほとときす おほつかなしと ねをのみそなく | 藤原師尹 | 夏 |
2-後撰 | 197 | 郭公暁かたのひとこゑはうき世中をすくすなりけり ほとときす あかつきかたの ひとこゑは うきよのなかを すくすなりけり | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 198 | ひとしれすわかしめしののとこなつは花さきぬへき時そきにける ひとしれす わかしめしのの とこなつは はなさきぬへき ときそきにける | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 199 | わかやとのかきねにうゑしなてしこは花にさかなんよそへつつ見む わかやとの かきねにうゑし なてしこは はなにさかなむ よそへつつみむ | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 200 | 常夏の花をたに見はことなしにすくす月日もみしかかりなん とこなつの はなをたにみは ことなしに すくすつきひも みしかかりなむ | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 201 | 常夏に思ひそめては人しれぬ心の程は色に見えなん とこなつに おもひそめては ひとしれぬ こころのほとは いろにみえなむ | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 202 | 色といへはこきもうすきもたのまれす山となてしこちる世なしやは いろといへは こきもうすきも たのまれす やまとなてしこ ちるよなしやは | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 203 | なてしこはいつれともなくにほへともおくれてさくはあはれなりけり なてしこは いつれともなく にほへとも おくれてさくは あはれなりけり | 藤原忠平 | 夏 |
2-後撰 | 204 | なてしこの花ちりかたになりにけりわかまつ秋そちかくなるらし なてしこの はなちりかたに なりにけり わかまつあきそ ちかくなるらし | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 205 | 夜ひなからひるにもあらなん夏なれはまちくらすまのほとなかるへく よひなから ひるにもあらなむ なつなれは まちくらすまの ほとなかるへき | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 206 | 夏の夜の月は程なくあけぬれは朝のまをそかこちよせつる なつのよの つきはほとなく あけぬれは あしたのまをそ かこちよせつる | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 207 | 鵲の峰飛ひこえてなきゆけは夏の夜渡る月そかくるる かささきの みねとひこえて なきゆけは なつのよわたる つきそかくるる | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 208 | 秋ちかみ夏はてゆけは郭公なく声かたき心ちこそすれ あきちかみ なつはてゆけは ほとときす なくこゑかたき ここちこそすれ | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 209 | つつめともかくれぬ物は夏虫の身よりあまれる思ひなりけり つつめとも かくれぬものは なつむしの みよりあまれる おもひなりけり | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 210 | あまの河水まさるらし夏の夜は流るる月のよとむまもなし あまのかは みつまさるらし なつのよは なかるるつきの よとむまもなし | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 211 | 花もちり郭公さへいぬるまて君にもゆかすなりにけるかな はなもちり ほとときすさへ いぬるまて きみにもゆかす なりにけるかな | 紀貫之 | 夏 |
2-後撰 | 212 | はな鳥の色をもねをもいたつらに物うかる身はすくすのみなり はなとりの いろをもねをも いたつらに ものうかるみは すくすのみなり | 藤原雅正 | 夏 |
2-後撰 | 213 | 夏虫の身をたきすてて玉しあらは我とまねはむ人めもる身そ なつむしの みをたきすてて たましあらは われとまねはむ ひとめもるみそ | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 214 | 今夜かくなかむる袖のつゆけきは月の霜をや秋とみつらん こよひかく なかむるそての つゆけきは つきのしもをや あきとみつらむ | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 215 | かも河のみなそこすみててる月をゆきて見むとや夏はらへする かもかはの みなそこすみて てるつきを ゆきてみむとや なつはらへする | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 216 | たなはたはあまのかはらをななかへりのちのみそかをみそきにはせよ たなはたは あまのかはらを ななかへり のちのみそかを みそきにはせよ | 読人知らず | 夏 |
2-後撰 | 217 | にはかにも風のすすしくなりぬるか秋立つ日とはむへもいひけり にはかにも かせのすすしく なりぬるか あきたつひとは うへもいひけり | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 218 | 打ちつけに物そ悲しきこのはちる秋の始をけふそとおもへは うちつけに ものそかなしき このはちる あきのはしめを けふそとおもへは | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 219 | たのめこし君はつれなし秋風はけふよりふきぬわか身かなしも たのめこし きみはつれなし あきかせは けふよりふきぬ わかみかなしも | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 220 | いととしく物思ふやとの荻の葉に秋とつけつる風のわひしさ いととしく ものおもふやとの をきのはに あきとつけつる かせのわひしき | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 221 | 秋風のうちふきそむるゆふくれはそらに心そわひしかりける あきかせの うちふきそむる ゆふくれは そらにこころそ わひしかりける | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 222 | 露わけしたもとほすまもなきものをなと秋風のまたきふくらん つゆわけし たもとほすまも なきものを なとあきかせの またきふくらむ | 大江千里 | 秋上 |
2-後撰 | 223 | 秋はきを色とる風の吹きぬれはひとの心もうたかはれけり あきはきを いろとるかせの ふきぬれは ひとのこころも うたかはれけり | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 224 | あき萩を色とる風は吹きぬとも心はかれし草はならねは あきはきを いろとるかせは ふきぬとも こころはかれし くさはならねは | 在原業平 | 秋上 |
2-後撰 | 225 | あふことはたなはたつめにひとしくてたちぬふわさはあへすそありける あふことは たなはたつめに ひとしくて たちぬふわさは あへすそありける | 閑院 | 秋上 |
2-後撰 | 226 | 天河渡らむそらもおもほえすたえぬ別と思ふものから あまのかは わたらむそらも おもほえす たえぬわかれと おもふものから | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 227 | 雨ふりて水まさりけり天河こよひはよそにこひむとやみし あめふりて みつまさりけり あまのかは こよひはよそに こひむとやみし | 源中正 | 秋上 |
2-後撰 | 228 | 水まさり浅きせしらすなりぬともあまのと渡る舟もなしやは みつまさり あさきせしらす なりぬとも あまのとわたる ふねもなしやは | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 229 | 織女もあふよありけり天河この渡にはわたるせもなし たなはたも あふよありけり あまのかは このわたりには わたるせもなし | 藤原兼三 | 秋上 |
2-後撰 | 230 | ひこほしのまれにあふよのとこ夏は打ちはらへともつゆけかりけり ひこほしの まれにあふよの とこなつは うちはらへとも つゆけかりけり | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 231 | こひこひてあはむと思ふゆふくれはたなはたつめもかくそあるらし こひこひて あはむとおもふ ゆふくれは たなはたつめも かくそあるらし | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 232 | たくひなき物とは我そなりぬへきたなはたつめは人めやはもる たくひなき ものとはわれそ なりぬへき たなはたつめは ひとめやはもる | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 233 | あまの河流れてこひはうくもそあるあはれと思ふせにはやく見む あまのかは なかれてこひは うくもそある あはれとおもふ せにはやくみむ | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 234 | 玉蔓たえぬものからあらたまの年の渡はたたひとよのみ たまかつら たえぬものから あらたまの としのわたりは たたひとよのみ | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 235 | 秋の夜の心もしるくたなはたのあへるこよひはあけすもあらなん あきのよの こころもしるく たなはたの あへるこよひは あけすもあらなむ | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 236 | 契りけん事のは今は返してむ年のわたりによりぬるものを ちきりけむ ことのはいまは かへしてむ としのわたりに よりぬるものを | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 237 | 逢ふ事の今夜過きなは織女におとりやしなんこひはまさりて あふことの こよひすきなは たなはたに おとりやしなむ こひはまさりて | 藤原敦忠 | 秋上 |
2-後撰 | 238 | 織女のあまのとわたるこよひさへをち方人のつれなかるらむ たなはたの あまのとわたる こよひさへ をちかちひとの つれなかるらむ | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 239 | 天河とほき渡はなけれとも君かふなては年にこそまて あまのかは とほきわたりは なけれとも きみかふなては としにこそまて | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 240 | あまの河いはこす浪のたちゐつつ秋のなぬかのけふをしそまつ あまのかは いはこすなみの たちゐつつ あきのなぬかの けふをしそまつ | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 241 | けふよりはあまの河原はあせななんそこひともなくたたわたりなん けふよりは あまのかはらは あせななむ そこひともなく たたわたりなむ | 紀友則 | 秋上 |
2-後撰 | 242 | 天河流れてこふるたなはたの涙なるらし秋のしらつゆ あまのかは なかれてこふる たなはたの なみたなるらし あきのしらつゆ | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 243 | あまの河せせの白浪たかけれとたたわたりきぬまつにくるしみ あまのかは せせのしらなみ たかけれと たたわたりきぬ まつにくるしみ | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 244 | 秋くれは河霧わたる天河かはかみ見つつこふる日のおほき あきくれは かはきりわたる あまのかは かはかみみつつ こふるひのおほき | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 245 | 天河こひしきせにそ渡りぬるたきつ涙に袖はぬれつつ あまのかは こひしきせにそ わたりぬる たきつなみたに そてはぬれつつ | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 246 | 織女の年とはいはし天河雲たちわたりいさみたれなん たなはたの としとはいはし あまのかは くもたちわたり いさみたれなむ | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 247 | 秋の夜のあかぬ別をたなはたはたてぬきにこそ思ふへらなれ あきのよの あかぬわかれを たなはたは たてぬきにこそ おもふへらなれ | 凡河内躬恒 | 秋上 |
2-後撰 | 248 | たなはたの帰る朝の天河舟もかよはぬ浪もたたなん たなはたの かへるあしたの あまのかは ふねもかよはぬ なみもたたなむ | 藤原兼輔 | 秋上 |
2-後撰 | 249 | あさとあけてなかめやすらんたなはたはあかぬ別のそらをこひつつ あさとあけて なかめやすらむ たなはたは あかぬわかれの そらをこひつつ | 紀貫之 | 秋上 |
2-後撰 | 250 | 秋風のふけはさすかにわひしきは世のことわりと思ふものから あきかせの ふけはさすかに わひしきは よのことわりと おもふものから | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 251 | 松虫のはつこゑさそふ秋風はおとは山よりふきそめにけり まつむしの はつこゑさそふ あきかせは おとはやまより ふきそめにけり | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 252 | ゆく蛍雲のうへまていぬへくは秋風ふくと雁につけこせ ゆくほたる くものうへまて いぬへくは あきかせふくと かりにつけこせ | 在原業平 | 秋上 |
2-後撰 | 253 | 秋風の草葉そよきてふくなへにほのかにしつるひくらしのこゑ あきかせの くさはそよきて ふくなへに ほのかにしつる ひくらしのこゑ | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 254 | ひくらしの声きく山のちかけれやなきつるなへにいり日さすらん ひくらしの こゑきくやまの ちかけれや なきつるなへに いりひさすらむ | 紀貫之 | 秋上 |
2-後撰 | 255 | ひくらしのこゑきくからに松虫の名にのみ人を思ふころかな ひくらしの こゑきくからに まつむしの なにのみひとを おもふころかな | 紀貫之 | 秋上 |
2-後撰 | 256 | 心有りてなきもしつるかひくらしのいつれももののあきてうけれは こころありて なきもしつるか ひくらしの いつれもものの あきてうけれは | 紀貫之 | 秋上 |
2-後撰 | 257 | 秋風の吹きくるよひは蛬草のねことにこゑみたれけり あきかせの ふきくるよひは きりきりす くさのねことに こゑみたれけり | 紀貫之 | 秋上 |
2-後撰 | 258 | わかことく物やかなしききりきりす草のやとりにこゑたえすなく わかことく ものやかなしき きりきりす くさのやとりに こゑたえすなく | 紀貫之 | 秋上 |
2-後撰 | 259 | こむといひしほとやすきぬる秋ののに誰松虫そこゑのかなしき こむといひし ほとやすきぬる あきののに たれまつむしそ こゑのかなしき | 紀貫之 | 秋上 |
2-後撰 | 260 | 秋ののにきやとる人もおもほえすたれを松虫ここらなくらん あきののに きやとるひとも おもほえす たれをまつむし ここらなくらむ | 紀貫之 | 秋上 |
2-後撰 | 261 | あき風のややふきしけはのをさむみわひしき声に松虫そ鳴く あきかせの ややふきしけは のをさむみ わひしきこゑに まつむしそなく | 紀貫之 | 秋上 |
2-後撰 | 262 | 秋くれは野もせに虫のおりみたるこゑのあやをはたれかきるらん あきくれは のもせにむしの おりみたる こゑのあやをは たれかきるらむ | 藤原元善 | 秋上 |
2-後撰 | 263 | 風さむみなく秋虫の涙こそくさは色とるつゆとおくらめ かせさむみ なくあきむしの なみたこそ くさはいろとる つゆとおくらめ | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 264 | 秋風の吹きしく松は山なから浪立帰るおとそきこゆる あきかせの ふきしくまつは やまなから なみたちかへる おとそきこゆる | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 265 | 松のねに風のしらへをまかせては竜田姫こそ秋はひくらし まつのねに かせのしらへを まかせては たつたひめこそ あきはひくらし | 壬生忠岑 | 秋上 |
2-後撰 | 266 | 山里の物さひしさは荻のはのなひくことにそ思ひやらるる やまさとの ものさひしきは をきのはの なひくことにそ おもひやらるる | 左太臣(実頼) | 秋上 |
2-後撰 | 267 | ほにはいてぬいかにかせまし花すすき身を秋風にすてやはててん ほにはいてぬ いかにかせまし はなすすき みをあきかせに すてやはててむ | 小野道風 | 秋上 |
2-後撰 | 268 | あけくらしまもるたのみをからせつつたもとそほつの身とそ成りぬる あけくらし まもるたのみを からせつつ たもとそほつの みとそなりぬる | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 269 | 心もておふる山田のひつちほは君まもらねとかる人もなし こころもて おふるやまたの ひつちほは きみまもらねと かるひともなし | 読人知らず | 秋上 |
2-後撰 | 270 | 草のいとにぬく白玉と見えつるは秋のむすへるつゆにそ有りける くさのいとに ぬくしらたまと みえつるは あきのむすへる つゆにそありける | 藤原守文 | 秋上 |
2-後撰 | 271 | 秋霧の立ちぬる時はくらふ山おほつかなくそ見え渡りける あききりの たちぬるときは くらふやま おほつかなくそ みえわたりける | 紀貫之 | 秋中 |
2-後撰 | 272 | 花見にといてにしものを秋の野の霧に迷ひてけふはくらしつ はなみにと いてにしものを あきののの きりにまよひて けふはくらしつ | 紀貫之 | 秋中 |
2-後撰 | 273 | 浦ちかくたつ秋きりはもしほやく煙とのみそ見えわたりける うらちかく たつあききりは もしほやく けふりとのみそ みえわたりける | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 274 | をるからにわかなはたちぬ女郎花いさおなしくははなはなに見む をるからに わかなはたちぬ をみなへし いさおなしくは はなはなにみむ | 藤原興風 | 秋中 |
2-後撰 | 275 | 秋の野の露におかるる女郎花はらふ人なみぬれつつやふる あきののの つゆにおかるる をみなへし はらふひとなみ ぬれつつやふる | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 276 | をみなへし花の心のあたなれは秋にのみこそあひわたりけれ をみなへし はなのこころの あたなれは あきにのみこそ あひわたりけれ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 277 | さみたれにぬれにし袖にいととしくつゆおきそふる秋のわひしさ さみたれに ぬれにしそてに いととしく つゆおきそふる あきのわひしさ | 近江更衣 | 秋中 |
2-後撰 | 278 | おほかたも秋はわひしき時なれとつゆけかるらん袖をしそ思ふ おほかたも あきはわひしき ときなれと つゆけかるらむ そてをしそおもふ | 延喜 | 秋中 |
2-後撰 | 279 | 白露のかはるもなにかをしからんありてののちもややうきものを しらつゆの かはるもなにか をしからむ ありてののちも ややうきものを | 法皇 | 秋中 |
2-後撰 | 280 | うゑたてて君かしめゆふ花なれは玉と見えてやつゆもおくらん うゑたてて きみかしめゆふ はななれは たまとみえてや つゆもおくらむ | 伊勢 | 秋中 |
2-後撰 | 281 | 折りて見る袖さへぬるるをみなへしつゆけき物と今やしるらん をりてみる そてさへぬるる をみなへし つゆけきものと いまやしるらむ | 藤原師輔 | 秋中 |
2-後撰 | 282 | よろつよにかからんつゆををみなへしなに思ふとかまたきぬるらん よろつよに かからむつゆを をみなへし なにおもふとか またきぬるらむ | 大輔 | 秋中 |
2-後撰 | 283 | おきあかすつゆのよなよなへにけれはまたきぬるともおもはさりけり おきあかす つゆのよなよな へにけれは またきぬるとも おもはさりけり | 藤原師輔 | 秋中 |
2-後撰 | 284 | 今ははや打ちとけぬへき白露の心おくまてよをやへにける いまははや うちとけぬへき しらつゆの こころおくまて よをやへにける | 大輔 | 秋中 |
2-後撰 | 285 | 白露のうへはつれなくおきゐつつ萩のしたはの色をこそ見れ しらつゆの うへはつれなく おきゐつつ はきのしたはの いろをこそみれ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 286 | 心なき身はくさはにもあらなくに秋くる風にうたかはるらん こころなき みはくさはにも あらなくに あきくるかせに うたかはるらむ | 伊勢 | 秋中 |
2-後撰 | 287 | 人はいさ事そともなきなかめにそ我はつゆけき秋もしらるる ひとはいさ ことそともなき なかめにそ われはつゆけき あきもしらるる | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 288 | 花すすきほにいつる事もなきやとは昔忍ふの草をこそ見れ はなすすき ほにいつることも なきやとは むかししのふの くさをこそみれ | 中宮宣旨 | 秋中 |
2-後撰 | 289 | やともせにうゑなめつつそ我は見るまねくをはなに人やとまると やともせに うゑなへつつそ われはみる まねくをはなに ひとやとまると | 伊勢 | 秋中 |
2-後撰 | 290 | 秋の夜をいたつらにのみおきあかす露はわか身のうへにそ有りける あきのよを いたつらにのみ おきあかす つゆはわかみの うへにそありける | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 291 | おほかたにおく白露も今よりは心してこそみるへかりけれ おほかたに おくしらつゆも いまよりは こころしてこそ みるへかりけれ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 292 | 露ならぬわか身と思へと秋の夜をかくこそあかせおきゐなからに つゆならぬ わかみとおもへと あきのよを かくこそあかせ おきゐなからに | 藤原師輔 | 秋中 |
2-後撰 | 293 | 白露のおくにあまたの声すれは花の色色有りとしらなん しらつゆの おくにあまたの こゑすれは はなのいろいろ ありとしらなむ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 294 | くれはては月も待つへし女郎花雨やめてとは思はさらなん くれはては つきもまつへし をみなへし あめやめてとは おもはさらなむ | 左太臣(実頼) | 秋中 |
2-後撰 | 295 | 秋の田のかりほのやとのにほふまてさける秋はきみれとあかぬかも あきのたの かりほのやとの にほふまて さけるあきはき みれとあかぬかも | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 296 | 秋のよをまとろますのみあかす身は夢ちとたにそたのまさりける あきのよを まとろますのみ あかすみは ゆめちとたにそ たのまさりける | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 297 | 時雨ふりふりなは人に見せもあへすちりなはをしみをれる秋はき しくれふり ふりなはひとに みせもあへす ちりなはをしみ をれるあきはき | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 298 | 往還り折りてかささむあさなあさな鹿立ちならすのへの秋はき ゆきかへり をりてかささむ あさなあさな しかたちならす のへのあきはき | 紀貫之 | 秋中 |
2-後撰 | 299 | わかやとの庭の秋はきちりぬめりのちみむ人やくやしと思はむ わかやとの にはのあきはき ちりぬめり のちみむひとや くやしとおもはむ | むねゆきの | 秋中 |
2-後撰 | 300 | 白露のおかまく惜しき秋萩を折りてはさらに我やかくさん しらつゆの おかまくをしき あきはきを をりてはさらに われやかくさむ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 301 | 秋はきの色つく秋を徒にあまたかそへて老いそしにける あきはきの いろつくあきを いたつらに あまたかそへて おいそしにける | 紀貫之 | 秋中 |
2-後撰 | 302 | 秋の田のかりほのいほのとまをあらみわか衣手はつゆにぬれつつ あきのたの かりほのいほの とまをあらみ わかころもては つゆにぬれつつ | 天智天皇 | 秋中 |
2-後撰 | 303 | わか袖に露そおくなる天河雲のしからみ浪やこすらん わかそてに つゆそおくなる あまのかは くものしからみ なみやこすらむ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 304 | 秋はきの枝もとををになり行くは白露おもくおけはなりけり あきはきの えたもとををに なりゆくは しらつゆおもく おけはなりけり | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 305 | わかやとのを花かうへの白露をけたすて玉にぬく物にもか わかやとの をはなかうへの しらつゆを けたすてたまに ぬくものにもか | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 306 | さを鹿の立ちならすをのの秋はきにおける白露我もけぬへし さをしかの たちならすをのの あきはきに おけるしらつゆ われもけぬへし | 紀貫之 | 秋中 |
2-後撰 | 307 | 秋の野の草はいととも見えなくにおくしらつゆを玉とぬくらん あきののの くさはいととも みえなくに おくしらつゆを たまとぬくらむ | 紀貫之 | 秋中 |
2-後撰 | 308 | 白露に風の吹敷く秋ののはつらぬきとめぬ玉そちりける しらつゆに かせのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまそちりける | 文屋朝康 | 秋中 |
2-後撰 | 309 | 秋ののにおく白露をけさ見れは玉やしけるとおとろかれつつ あきののに おくしらつゆを けさみれは たまやしけると おとろかれつつ | 壬生忠岑 | 秋中 |
2-後撰 | 310 | おくからにちくさの色になるものを白露とのみ人のいふらん おくからに ちくさのいろに なるものを しらつゆとのみ ひとのいふらむ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 311 | 白玉の秋のこのはにやとれると見ゆるはつゆのはかるなりけり しらたまの あきのこのはに やとれると みゆるはつゆの はかるなりけり | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 312 | 秋ののにおく白露のきえさらは玉にぬきてもかけてみてまし あきののに おくしらつゆの きえさらは たまにぬきても かけてみてまし | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 313 | 唐衣袖くつるまておくつゆはわか身を秋ののとや見るらん からころも そてくつるまて おくつゆは わかみをあきの のとやみるらむ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 314 | おほそらにわか袖ひとつあらなくにかなしくつゆやわきておくらん おほそらに わかそてひとつ あらなくに かなしくつゆや わきておくらむ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 315 | あさことにおくつゆそてにうけためて世のうき時の涙にそかる あさことに おくつゆそてに うけためて よのうきときの なみたにそかる | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 316 | 秋の野の草もわけぬをわか袖の物思ふなへにつゆけかるらん あきののの くさもわけぬを わかそての ものおもふなへに つゆけかるらむ | 紀貫之 | 秋中 |
2-後撰 | 317 | いく世へてのちかわすれんちりぬへきのへの秋はきみかく月よを いくよへて のちかわすれむ ちりぬへき のへのあきはき みかくつきよを | 深養父 | 秋中 |
2-後撰 | 318 | 秋の夜の月の影こそこのまよりおちは衣と身にうつりけれ あきのよの つきのかけこそ このまより おちはころもと みにうつりけれ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 319 | 袖にうつる月の光は秋ことに今夜かはらぬ影とみえつつ そてにうつる つきのひかりは あきことに こよひかはらぬ かけとみえつつ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 320 | 秋のよの月にかさなる雲はれてひかりさやかに見るよしもかな あきのよの つきにかさなる くもはれて ひかりさやかに みるよしもかな | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 321 | 秋の池の月のうへにこく船なれは桂の枝にさをやさはらん あきのいけの つきのうへにこく ふねなれは かつらのえたに さをやさはらむ | 小野美材 | 秋中 |
2-後撰 | 322 | あきの海にうつれる月を立ちかへり浪はあらへと色もかはらす あきのうみに うつれるつきを たちかへり なみはあらへと いろもかはらす | 深養父 | 秋中 |
2-後撰 | 323 | 秋の夜の月の光はきよけれと人の心のくまはてらさす あきのよの つきのひかりは きよけれと ひとのこころの くまはてらさす | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 324 | あきの月常にかくてる物ならはやみにふる身はましらさらまし あきのつき つねにかくてる ものならは やみにふるみは ましらさらまし | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 325 | いつとても月見ぬ秋はなきものをわきて今夜のめつらしきかな いつとても つきみぬあきは なきものを わきてこよひの めつらしきかな | 藤原雅正 | 秋中 |
2-後撰 | 326 | 月影はおなしひかりの秋のよをわきて見ゆるは心なりけり つきかけは おなしひかりの あきのよを わきてみゆるは こころなりけり | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 327 | そらとほみ秋やよくらん久方の月のかつらの色もかはらぬ そらとほみ あきやよくらむ ひさかたの つきのかつらの いろもかはらぬ | 紀淑光 | 秋中 |
2-後撰 | 328 | 衣手はさむくもあらねと月影をたまらぬ秋の雪とこそ見れ ころもては さむくもあらねと つきかけを たまらぬあきの ゆきとこそみれ | 紀貫之 | 秋中 |
2-後撰 | 329 | あまの河しからみかけてととめなんあかすなかるる月やよとむと あまのかは しからみかけて ととめなむ あかすなかるる つきやよとむと | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 330 | 秋風に浪やたつらん天河わたるせもなく月のなかるる あきかせに なみやたつらむ あまのかは わたるせもなく つきのなかるる | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 331 | あきくれは思ふ心そみたれつつまつもみちはとちりまさりける あきくれは おもふこころそ みたれつつ まつもみちはと ちりまさりける | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 332 | きえかへり物思ふ秋の衣こそ涙の河の紅葉なりけれ きえかへり ものおもふあきの ころもこそ なみたのかはの もみちなりけれ | 深養父 | 秋中 |
2-後撰 | 333 | 吹く風に深きたのみのむなしくは秋の心をあさしとおもはむ ふくかせに ふかきたのみの むなしくは あきのこころを あさしとおもはむ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 334 | 秋の夜は人をしつめてつれつれとかきなすことのねにそなきぬる あきのよは ひとをしつめて つれつれと かきなすことの ねにそなきぬる | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 335 | ぬきとむる秋しなけれは白露のちくさにおける玉もかひなし ぬきとむる あきしなけれは しらつゆの ちくさにおける たまもかひなし | 藤原清正 | 秋中 |
2-後撰 | 336 | 秋風にいととふけゆく月影をたちなかくしそあまの河きり あきかせに いととふけゆく つきかけを たちなかくしそ あまのかはきり | 藤原清正 | 秋中 |
2-後撰 | 337 | をみなへしにほへる秋のむさしのは常よりも猶むつましきかな をみなへし にほへるあきの むさしのは つねよりもなほ むつましきかな | 紀貫之 | 秋中 |
2-後撰 | 338 | 秋霧のはるるはうれしをみなへし立ちよる人やあらんと思へは あききりの はるるはうれし をみなへし たちよるひとや あらむとおもへは | 兼覧王 | 秋中 |
2-後撰 | 339 | をみなへし草むらことにむれたつは誰松虫の声に迷ふそ をみなへし くさむらことに むれたつは たれまつむしの こゑにまよふそ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 340 | 女郎花ひる見てましを秋の夜の月の光は雲かくれつつ をみなへし ひるみてましを あきのよの つきのひかりは くもかくれつつ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 341 | をみなへし花のさかりにあき風のふくゆふくれを誰にかたらん をみなへし はなのさかりに あきかせの ふくゆふくれを たれにかたらむ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 342 | 白妙の衣かたしき女郎花さけるのへにそこよひねにける しろたへの ころもかたしき をみなへし さけるのへにそ こよひねにける | 紀貫之 | 秋中 |
2-後撰 | 343 | 名にしおへはしひてたのまん女郎花はなの心の秋はうくとも なにしおへは しひてたのまむ をみなへし はなのこころの あきはうくとも | 紀貫之 | 秋中 |
2-後撰 | 344 | 織女ににたるものかな女郎花秋よりほかにあふ時もなし たなはたに にたるものかな をみなへし あきよりほかに あふときもなし | 躬恒 | 秋中 |
2-後撰 | 345 | 秋の野によるもやねなんをみなへし花の名をのみ思ひかけつつ あきののに よるもやねなむ をみなへし はなのなをのみ おもひかけつつ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 346 | をみなへし色にもあるかな松虫をもとにやとして誰をまつらん をみなへし いろにもあるかな まつむしを もとにやとして たれをまつらむ | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 347 | 女郎花にほふさかりを見る時そわかおいらくはくやしかりける をみなへし にほふさかりを みるときそ わかおいらくは くやしかりける | 読人知らず | 秋中 |
2-後撰 | 348 | をみなへし花のなならぬ物ならは何かは君かかさしにもせん をみなへし はなのなならぬ ものならは なにかはきみか かさしにもせむ | 藤原定方 | 秋中 |
2-後撰 | 349 | 女郎花折りけん袖のふしことにすきにし君を思ひいてやせし をみなへし をりけむそての ふしことに すきにしきみを おもひいてやせし | 藤原仲平 | 秋中 |
2-後撰 | 350 | をみなへしをりもをらすもいにしへをさらにかくへき物ならなくに をみなへし をりもをらすも いにしへを さらにかくへき ものならなくに | 伊勢 | 秋中 |
2-後撰 | 351 | ふち袴きる人なみや立ちなからしくれの雨にぬらしそめつる ふちはかま きるひとなみや たちなから しくれのあめに ぬらしそめつる | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 352 | 秋風にあひとしあへは花すすきいつれともなくほにそいてける あきかせに あひとしあへは はなすすき いつれともなく ほにそいてける | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 353 | 花すすきそよともすれは秋風のふくかとそきくひとりぬるよは はなすすき そよともすれは あきかせの ふくかとそきく ひとりぬるよは | 在原棟梁 | 秋下 |
2-後撰 | 354 | はなすすきほにいてやすき草なれは身にならんとはたのまれなくに はなすすき ほにいてやすき くさなれは みにならむとは たのまれなくに | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 355 | 秋風にさそはれわたる雁かねは雲ゐはるかにけふそきこゆる あきかせに さそはれわたる かりかねは くもゐはるかに けふそきこゆる | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 356 | 秋のよに雁かもなきてわたるなりわか思ふ人の事つてやせし あきのよに かりかもなきて わたるなり わかおもふひとの ことつてやせし | 紀貫之 | 秋下 |
2-後撰 | 357 | あき風に雲とひわけてくるかりの千世にかはらぬ声きこゆなり あきかせに きりとひわけて くるかりの ちよにかはらぬ こゑきこゆなり | 紀貫之 | 秋下 |
2-後撰 | 358 | 物思ふと月日のゆくもしらさりつかりこそなきて秋とつけつれ ものおもふと つきひのゆくも しらさりつ かりこそなきて あきとつけけれ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 359 | かりかねのなきつるなへに唐衣たつたの山はもみちしにけり かりかねの なきつるなへに からころも たつたのやまは もみちしにけり | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 360 | 秋風にさそはれ渡るかりかねは物思ふ人のやとをよかなん あきかせに さそはれわたる かりかねは ものおもふひとの やとをよかなむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 361 | 誰きけと鳴く雁金そわかやとのを花か末を過きかてにして たれきけと なくかりかねそ わかやとの をはなかすゑを すきかてにして | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 362 | 往還りここもかしこも旅なれやくる秋ことにかりかりとなく ゆきかへり ここもかしこも たひなれや くるあきことに かりかりとなく | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 363 | 秋ことにくれとかへれはたのまぬを声にたてつつかりとのみなく あきことに くれとかへれは たのまぬを こゑにたてつつ かりとのみなく | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 364 | ひたすらにわかおもはなくにおのれさへかりかりとのみなきわたるらん ひたすらに わかおもはなくに おのれさへ かりかりとのみ なきわたるらむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 365 | 年ことに雲ちまとはぬかりかねは心つからや秋をしるらん としことに くもちまとはぬ かりかねは こころつからや あきをしるらむ | 躬恒 | 秋下 |
2-後撰 | 366 | 天河かりそとわたるさほ山のこすゑはむへも色つきにけり あまのかは かりそとわたる さほやまの こすゑはうへも いろつきにけり | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 367 | 秋きりのたちのの駒をひく時は心にのりて君そこひしき あききりの たちののこまを ひくときは こころにのりて きみそこひしき | 藤原忠房 | 秋下 |
2-後撰 | 368 | いその神ふるのの草も秋は猶色ことにこそあらたまりけれ いそのかみ ふるののくさも あきはなほ いろことにこそ あらたまりけれ | 在原元方 | 秋下 |
2-後撰 | 369 | 秋の野の錦のことも見ゆるかな色なきつゆはそめしと思ふに あきののの にしきのことも みゆるかな いろなきつゆは そめしとおもふに | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 370 | あきののにいかなるつゆのおきつめはちちの草はの色かはるらん あきののに いかなるつゆの おきつめは ちちのくさはの いろかはるらむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 371 | いつれをかわきてしのはん秋ののにうつろはんとて色かはる草 いつれをか わきてしのはむ あきののに うつろはむとて いろかはるくさ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 372 | 声たててなきそしぬへき秋きりに友まとはせるしかにはあらねと こゑたてて なきそしぬへき あききりに ともまとはせる しかにはあらねと | 紀友則 | 秋下 |
2-後撰 | 373 | 誰きけと声白妙にさをしかのなかなかしよをひとりなくらん たれきけと こゑたかさこに さをしかの なかなかしよを ひとりなくらむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 374 | 打ちはへて影とそたのむ峰の松色とる秋の風にうつるな うちはへて かけとそたのむ みねのまつ いろとるあきの かせにうつるな | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 375 | はつしくれふれは山へそおもほゆるいつれの方かまつもみつらん はつしくれ ふれはやまへそ おもほゆる いつれのかたか まつもみつらむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 376 | いもかひもとくとむすふとたつた山今そ紅葉の錦おりける いもかひも とくとむすふと たつたやま いまそもみちの にしきおりける | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 377 | 雁なきて寒き朝の露ならし竜田の山をもみたす物は かりなきて さむきあしたの つゆならし たつたのやまを もみたすものは | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 378 | 見ることに秋にもなるかなたつたひめもみちそむとや山もきるらん みることに あきにもなるかな たつたひめ もみちそむとや やまもきるらむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 379 | 梓弓いるさの山は秋きりのあたることにや色まさるらむ あつさゆみ いるさのやまは あききりの あたることにや いろまさるらむ | 源宗于 | 秋下 |
2-後撰 | 380 | 君と我いもせの山も秋くれは色かはりぬる物にそありける きみとわれ いもせのやまも あきくれは いろかはりぬる ものにそありける | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 381 | おそくとく色つく山のもみちははおくれさきたつつゆやおくらん おそくとく いろつくやまの もみちはは おくれさきたつ つゆやおくらむ | 元方 | 秋下 |
2-後撰 | 382 | かくはかりもみつる色のこけれはや錦たつたの山といふらん かくはかり もみつるいろの こけれはや にしきたつたの やまといふらむ | 紀友則 | 秋下 |
2-後撰 | 383 | 唐衣たつたの山のもみちはは物思ふ人のたもとなりけり からころも たつたのやまの もみちはは ものおもふひとの たもとなりけり | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 384 | 葦引の山の山もりもる山も紅葉せさする秋はきにけり あしひきの やまのやまもり もるやまも もみちせさする あきはきにけり | 紀貫之 | 秋下 |
2-後撰 | 385 | 唐錦たつたの山も今よりはもみちなからにときはならなん からにしき たつたのやまも いまよりは もみちなからに ときはならなむ | 紀貫之 | 秋下 |
2-後撰 | 386 | から衣たつたの山のもみちはははた物もなき錦なりけり からころも たつたのやまの もみちはは はたものもなき にしきなりけり | 紀貫之 | 秋下 |
2-後撰 | 387 | いく木ともえこそ見わかね秋山のもみちのにしきよそにたてれは いくきとも えこそみわかね あきやまの もみちのにしき よそにたてれは | 壬生忠岑 | 秋下 |
2-後撰 | 388 | 秋風のうち吹くからに山ものもなへて錦におりかへすかな あきかせの うちふくからに やまものも なへてにしきに おりかへすかな | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 389 | なとさらに秋かととはむからにしきたつたの山の紅葉するよを なとさらに あきかととはむ からにしき たつたのやまの もみちするよを | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 390 | あたなりと我は見なくにもみちはを色のかはれる秋しなけれは あたなりと われはみなくに もみちはを いろのかはれる あきしなけれは | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 391 | 玉かつら葛木山のもみちははおもかけにのみみえわたるかな たまかつら かつらきやまの もみちはは おもかけにのみ みえわたるかな | 紀貫之 | 秋下 |
2-後撰 | 392 | 秋霧のたちしかくせはもみちははおほつかなくてちりぬへらなり あききりの たちしかくせは もみちはは おほつかなくて ちりぬへらなり | 紀貫之 | 秋下 |
2-後撰 | 393 | かかみやま山かきくもりしくるれともみちあかくそ秋は見えける かかみやま やまかきくもり しくるれと もみちあかくそ あきはみえける | 素性法師 | 秋下 |
2-後撰 | 394 | かすしらす君かよはひをのはへつつなたたるやとのつゆとならなん かすしらす きみかよはひを のはへつつ なたたるやとの つゆとならなむ | 伊勢 | 秋下 |
2-後撰 | 395 | 露たにも名たたるやとの菊ならは花のあるしやいくよなるらん つゆたにも なたたるやとの きくならは はなのあるしや いくよなるらむ | 藤原雅正 | 秋下 |
2-後撰 | 396 | 菊のうへにおきゐるへくもあらなくにちとせの身をもつゆになすかな きくのうへに おきゐるへくも あらなくに ちとせのみをも つゆになすかな | 伊勢 | 秋下 |
2-後撰 | 397 | きくの花長月ことにさきくれはひさしき心秋やしるらむ きくのはな なかつきことに さきくれは ひさしきこころ あきやしるらむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 398 | 名にしおへはなか月ことに君かためかきねの菊はにほへとそ思ふ なにしおへは なかつきことに きみかため かきねのきくは にほへとそおもふ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 399 | 旧里をわかれてさける菊の花たひなからこそにほふへらなれ ふるさとを わかれてさける きくのはな たひなからこそ にほふへらなれ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 400 | 何に菊色そめかへしにほふらん花もてはやす君もこなくに なににきく いろそめかへし にほふらむ はなもてはやす きみもこなくに | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 401 | もみちはのちりくる見れは長月のありあけの月の桂なるらし もみちはの ちりくるみれは なかつきの ありあけのつきの かつらなるらし | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 402 | いくちはたおれはか秋の山ことに風にみたるる鏡なるらむ いくちはた おれはかあきの やまことに かせにみたるる にしきなるらむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 403 | なほさりに秋の山へをこえくれはおらぬ錦をきぬ人そなき なほさりに あきのやまへを こえくれは おらぬにしきを きぬひとそなき | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 404 | もみちはをわけつつゆけは錦きて家に帰ると人や見るらん もみちはを わけつつゆけは にしききて いへにかへると ひとやみるらむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 405 | うちむれていさわきもこかかかみ山こえてもみちのちらんかけ見む うちむれて いさわきもこか かかみやま こえてもみちの ちらむかけみむ | 紀貫之 | 秋下 |
2-後撰 | 406 | 山かせのふきのまにまにもみちははこのもかのもにちりぬへらなり やまかせの ふきのまにまに もみちはは このもかのもに ちりぬへらなり | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 407 | 秋の夜に雨ときこえてふりつるは風にみたるる紅葉なりけり あきのよに あめときこえて ふりつるは かせにみたるる もみちなりけり | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 408 | 立ちよりて見るへき人のあれはこそ秋の林ににしきしくらめ たちよりて みるへきひとの あれはこそ あきのはやしに にしきしくらめ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 409 | このもとにおらぬ錦のつもれるは雲の林のもみちなりけり このもとに おらぬにしきの つもれるは くものはやしの もみちなりけり | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 410 | 秋風にちるもみちははをみなへしやとにおりしく錦なりけり あきかせに ちるもみちはは をみなへし やとにおりしく にしきなりけり | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 411 | 葦引の山のもみちはちりにけり嵐のさきに見てましものを あしひきの やまのもみちは ちりにけり あらしのさきに みてましものを | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 412 | もみちはのふりしく秋の山へこそたちてくやしきにしきなりけれ もみちはの ふりしくあきの やまへこそ たちてくやしき にしきなりけれ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 413 | たつた河色紅になりにけり山のもみちそ今はちるらし たつたかは いろくれなゐに なりにけり やまのもみちそ いまはちるらし | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 414 | 竜田河秋にしなれは山ちかみなかるる水も紅葉しにけり たつたかは あきにしなれは やまちかみ なかるるみつも もみちしにけり | 紀貫之 | 秋下 |
2-後撰 | 415 | もみちはのなかるる秋は河ことに錦あらふと人やみるらむ もみちはの なかるるあきは かはことに にしきあらふと ひとやみるらむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 416 | たつた河秋は水なくあせななんあかぬ紅葉のなかるれはをし たつたかは あきはみつなく あせななむ あかぬもみちの なかるれはをし | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 417 | 浪わけて見るよしもかなわたつみのそこのみるめももみちちるやと なみわけて みるよしもかな わたつみの そこのみるめも もみちちるやと | 文屋朝康 | 秋下 |
2-後撰 | 418 | このはちる浦に浪たつ秋なれはもみちに花もさきまかひけり このはちる うらになみたつ あきなれは もみちにはなも さきまかひけり | 藤原興風 | 秋下 |
2-後撰 | 419 | わたつみの神にたむくる山姫のぬさをそ人はもみちといひける わたつみの かみにたむくる やまひめの ぬさをそひとは もみちといひける | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 420 | ひくらしの声もいとなくきこゆるは秋ゆふくれになれはなりけり ひくらしの こゑもいとなく きこゆるは あきゆふくれに なれはなりけり | 紀貫之 | 秋下 |
2-後撰 | 421 | 風のおとの限と秋やせめつらんふきくることに声のわひしき かせのおとの かきりとあきや せめつらむ ふきくることに こゑのわひしき | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 422 | もみちはにたまれるかりのなみたには月の影こそ移るへらなれ もみちはに たまれるかりの なみたには つきのかけこそ うつるへらなれ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 423 | おほかたの秋のそらたにわひしきに物思ひそふる君にもあるかな おほかたの あきのそらたに わひしきに ものおもひそふる きみにもあるかな | 右近 | 秋下 |
2-後撰 | 424 | わかことく物思ひけらししらつゆのよをいたつらにおきあかしつつ わかことく ものおもひけらし しらつゆの よをいたつらに おきあかしつつ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 425 | 秋ふかみよそにのみきくしらつゆのたかことのはにかかるなるらん あきふかみ よそにのみきく しらつゆの たかことのはに かかるなるらむ | 平伊望女 | 秋下 |
2-後撰 | 426 | とふことの秋しもまれにきこゆるはかりにや我を人のたのめし とふことの あきしもまれに きこゆるは かりにやわれを ひとのたのめし | むかしの承香殿のあこき | 秋下 |
2-後撰 | 427 | 君こふと涙にぬるるわか袖と秋のもみちといつれまされり きみこふと なみたにぬるる わかそてと あきのもみちと いつれまさけり | みなもとのととのふ | 秋下 |
2-後撰 | 428 | てる月の秋しもことにさやけきはちるもみちはをよるもみよとか てるつきの あきしもことに さやけきは ちるもみちはを よるもみよとか | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 429 | なとわか身したはもみちと成りにけんおなしなけきの枝にこそあれ なとわかみ したはもみちと なりにけむ おなしなけきの えたにこそあれ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 430 | あかからは見るへきものをかりかねのいつこはかりになきてゆくらん あかからは みるへきものを かりかねの いつこはかりに なきてゆくらむ | 源わたす | 秋下 |
2-後撰 | 431 | 徒に露におかるる花かとて心もしらぬ人やをりけん いたつらに つゆにおかるる はなかとて こころもしらぬ ひとやをりけむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 432 | 枝も葉もうつろふ秋の花みれははてはかけなくなりぬへらなり えたもはも うつろふあきの はなみれは はてはかけなく なりぬへらなり | 藤原忠行 | 秋下 |
2-後撰 | 433 | しつくもてよはひのふてふ花なれはちよの秋にそ影はしけらん しつくもて よはひのふてふ はななれは ちよのあきにそ かけはしけらむ | 紀友則 | 秋下 |
2-後撰 | 434 | 秋の月ひかりさやけみもみちはのおつる影さへ見えわたるかな あきのつき ひかりさやけみ もみちはの おつるかけさへ みえわたるかな | 紀貫之 | 秋下 |
2-後撰 | 435 | 秋ことにつらをはなれぬかりかねは春帰るともかへらさらなん あきことに つらをはなれぬ かりかねは はるかへるとも かへらさらなむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 436 | みな人にをられにけりと菊の花君かためにそつゆはおきける みなひとに をられにけりと きくのはな きみかためにそ つゆはおきける | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 437 | 吹く風にまかする舟や秋のよの月のうへよりけふはこくらん ふくかせに まかするふねや あきのよの つきのうへより けふはこくらむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 438 | もみちははちるこのもとにとまりけり過行く秋やいつちなるらむ もみちはは ちるこのもとに とまりけり すきゆくあきや いつちなるらむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 439 | 思ひいてて問ふにはあらし秋はつる色の限を見するなるらん おもひいてて とふにはあらし あきはつる いろのかきりを みするなるらむ | 読人知らず | 秋下 |
2-後撰 | 440 | 宇治山の紅葉を見すは長月のすきゆくひをもしらすそあらまし うちやまの もみちをみすは なかつきの すきゆくひをも しらすそあらまし | ちかぬかむすめ | 秋下 |
2-後撰 | 441 | 長月の在明の月はありなからはかなく秋はすきぬへらなり なかつきの ありあけのつきは ありなから はかなくあきは すきぬへらなり | 紀貫之 | 秋下 |
2-後撰 | 442 | いつ方に夜はなりぬらんおほつかなあけぬかきりは秋そとおもはん いつかたに よはなりぬらむ おほつかな あけぬかきりは あきそとおもはむ | 躬恒 | 秋下 |
2-後撰 | 443 | はつ時雨ふれは山へそおもほゆるいつれの方かまつもみつらん はつしくれ ふれはやまへそ おもほゆる いつれのかたか まつもみつらむ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 444 | はつしくれふるほともなくさほ山の梢あまねくうつろひにけり はつしくれ ふるほともなく さほやまの こすゑあまねく うつろひにけり | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 445 | 神な月ふりみふらすみ定なき時雨そ冬の始なりける かみなつき ふりみふらすみ さためなき しくれそふゆの はしめなりける | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 446 | 冬くれはさほの河せにゐるたつもひとりねかたきねをそなくなる ふゆくれは さほのかはせに ゐるたつも ひとりねかたき ねをそなくなる | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 447 | ひとりぬる人のきかくに神な月にはかにもふるはつ時雨かな ひとりぬる ひとのきかくに かみなつき にはかにもふる はつしくれかな | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 448 | 秋はてて時雨ふりぬる我なれはちることのはをなにかうらみむ あきはてて しくれふりぬる われなれは ちることのはを なにかうらみむ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 449 | 吹く風は色も見えねと冬くれはひとりぬるよの身にそしみける ふくかせは いろもみえねと ふゆくれは ひとりぬるよの みにそしみける | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 450 | 秋はててわか身しくれにふりぬれは事の葉さへにうつろひにけり あきはてて わかみしくれに ふりぬれは ことのはさへに うつろひにけり | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 451 | 神な月時雨とともにかみなひのもりのこのははふりにこそふれ かみなつき しくれとともに かみなひの もりのこのはは ふりにこそふれ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 452 | たのむ木もかれはてぬれは神な月時雨にのみもぬるるころかな たのむきも かれはてぬれは かみなつき しくれにのみも ぬるるころかな | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 453 | 神な月時雨はかりを身にそへてしらぬ山ちに入るそかなしき かみなつき しくれはかりを みにそへて しらぬやまちに いるそかなしき | 増基法師 | 冬 |
2-後撰 | 454 | もみちははをしき錦と見しかとも時雨とともにふりててそこし もみちはは をしきにしきと みしかとも しくれとともに ふりててそこし | 藤原忠房 | 冬 |
2-後撰 | 455 | もみちはも時雨もつらしまれにきてかへらん人をふりやととめぬ もみちはも しくれもつらし まれにきて かへらむひとを ふりやととめぬ | 大江千古 | 冬 |
2-後撰 | 456 | 神な月限とや思ふもみちはのやむ時もなくよるさへにふる かみなつき かきりとやおもふ もみちはの やむときもなく よるさへにふる | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 457 | ちはやふる神かき山のさか木はは時雨に色もかはらさりけり ちはやふる かみかきやまの さかきはは しくれにいろも かはらさりけり | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 458 | 人すますあれたるやとをきて見れは今そこのはは錦おりける ひとすます あれたるやとを きてみれは いまそこのはは にしきおりける | 藤原仲平 | 冬 |
2-後撰 | 459 | 涙さへ時雨にそひてふるさとは紅葉の色もこさまさりけり なみたさへ しくれにそひて ふるさとは もみちのいろも こさまさりけり | 伊勢 | 冬 |
2-後撰 | 460 | 冬の池の鴨のうはけにおくしものきえて物思ふころにもあるかな ふゆのいけの かものうはけに おくしもの きえてものおもふ ころにもあるかな | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 461 | 神な月時雨ふるにもくるる日を君まつほとはなかしとそ思ふ かみなつき しくれふるにも くるるひを きみまつほとは なかしとそおもふ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 462 | 身をわけて霜やおくらむあた人の事のはさへにかれもゆくかな みをわけて しもやおくらむ あたひとの ことのはさへに かれもゆくかな | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 463 | 人しれす君につけてしわか袖のけさしもとけすこほるなるへし ひとしれす きみにつけてし わかそての けさしもとけす こほるなるへし | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 464 | かきくらし霰ふりしけ白玉をしける庭とも人のみるへく かきくらし あられふりしけ しらたまを しけるにはとも ひとのみるへく | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 465 | 神な月しくるる時そみよしのの山のみゆきもふり始めける かみなつき しくるるときそ みよしのの やまのみゆきも ふりはしめける | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 466 | けさの嵐寒くもあるかな葦引の山かきくもり雪そふるらし けさのあらし さむくもあるかな あしひきの やまかきくもり ゆきそふるらし | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 467 | くろかみのしろくなりゆく身にしあれはまつはつ雪をあはれとそみる くろかみの しろくなりゆく みにしあれは まつはつゆきを あはれとそみる | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 468 | 霰ふるみ山のさとのわひしきはきてたはやすくとふ人そなき あられふる みやまのさとの わひしきは きてたはやすく とふひとそなき | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 469 | ちはやふる神な月こそかなしけれわか身時雨にふりぬと思へは ちはやふる かみなつきこそ かなしけれ わかみしくれに ふりぬとおもへは | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 470 | しら山に雪ふりぬれはあとたえて今はこしちに人もかよはす しらやまに ゆきふりぬれは あとたえて いまはこしちに ひともかよはす | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 471 | ふりそめて友まつゆきはむはたまのわかくろかみのかはるなりけり ふりそめて ともまつゆきは うはたまの わかくろかみの かはるなりけり | 紀貫之 | 冬 |
2-後撰 | 472 | くろかみの色ふりかふる白雪のまちいつる友はうとくそ有りける くろかみの いろふりかはる しらゆきの まちいつるともは うとくそありける | 藤原兼輔 | 冬 |
2-後撰 | 473 | くろかみと雪とのなかのうきみれはともかかみをもつらしとそ思ふ くろかみと ゆきとのなかの うきみれは ともかかみをも つらしとそおもふ | 紀貫之 | 冬 |
2-後撰 | 474 | 年ことにしらかのかすをますかかみ見るにそ雪の友はしりける としことに しらかのかすを ますかかみ みるにそゆきの ともはしりける | 藤原兼輔 | 冬 |
2-後撰 | 475 | 年ふれと色もかはらぬ松かえにかかれる雪を花とこそ見れ としふれと いろもかはらぬ まつかえに かかれるゆきを はなとこそみれ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 476 | 霜かれの枝となわひそ白雪のきえぬ限は花とこそみれ しもかれの えたとなわひそ しらゆきの きえぬかきりは はなとこそみれ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 477 | 氷こそ今はすらしもみよしのの山のたきつせこゑもきこえす こほりこそ いまはすらしも みよしのの やまのたきつせ こゑもきこえす | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 478 | 夜をさむみねさめてきけはをしそなく払ひもあへす霜やおくらん よをさむみ ねさめてきけは をしそなく はらひもあへす しもやおくらむ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 479 | かつきえてそらにみたるるあはゆきは物思ふ人の心なりけり かつきえて そらもみたるる あはゆきは ものおもふひとの こころなりけり | 藤原かけもと | 冬 |
2-後撰 | 480 | 白雪のふりはへてこそとはさらめとくるたよりをすくささらなん しらゆきの ふりはへてこそ とはさらめ とくるたよりを すくささらなむ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 481 | 思ひつつねなくにあくる冬の夜の袖の氷はとけすもあるかな おもひつつ ねなくにあくる ふゆのよの そてのこほりは とけすもあるかな | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 482 | 荒玉の年を渡りてあるかうへにふりつむ雪のたえぬしら山 あらたまの としをわたりて あるかうへに ふりつむゆきの たえぬしらやま | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 483 | まこもかるほり江にうきてぬるかもの今夜の霜にいかにわふらん まこもかる ほりえにうきて ぬるかもの こよひのしもに いかにわふらむ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 484 | 白雲のおりゐる山とみえつるはふりつむ雪のきえぬなりけり しらくもの おりゐるやまと みえつるは ふりつるゆきの きえぬなりけり | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 485 | ふるさとの雪は花とそふりつもるなかむる我も思ひきえつつ ふるさとの ゆきははなとそ ふりつもる なかむるわれも おもひきえつつ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 486 | なかれゆく水こほりぬる冬さへや猶うき草のあとはととめぬ なかれゆく みつこほりぬる ふゆさへや なほうきくさの あとはととめぬ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 487 | 心あてに見はこそわかめ白雪のいつれか花のちるにたかへる こころあてに みはこそわかめ しらゆきの いつれかはなの ちるにたかへる | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 488 | 天河冬は氷にとちたれやいしまにたきつおとたにもせぬ あまのかは ふゆはこほりに とちたれや いしまにたきつ おとたにもせぬ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 489 | おしなへて雪のふれれはわかやとのすきを尋ねて問ふ人もなし おしなへて ゆきのふれれは わかやとの すきをたつねて とふひともなし | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 490 | 冬の池の水になかるるあしかものうきねなからにいくよへぬらん ふゆのいけの みつになかるる あしかもの うきねなからに いくよへぬらむ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 491 | 山ちかみめつらしけなくふる雪のしろくやならん年つもりなは やまちかみ めつらしけなく ふるゆきの しろくやならむ としつもりなは | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 492 | 松の葉にかかれる雪のそれをこそ冬の花とはいふへかりけれ まつのはに かかれるゆきの それをこそ ふゆのはなとは いふへかりけれ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 493 | ふる雪はきえてもしはしとまらなん花ももみちも枝になきころ ふるゆきは きえてもしはし とまらなむ はなももみちも えたになきころ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 494 | 涙河身なくはかりのふちはあれと氷とけねはゆく方もなし なみたかは みなくはかりの ふちはあれと こほりとけねは ゆくかたもなし | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 495 | ふる雪に物思ふわか身おとらめやつもりつもりてきえぬはかりそ ふるゆきに ものおもふわかみ おとらめや つもりつもりて きえぬはかりそ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 496 | よるならは月とそみましわかやとの庭白妙にふりつもる雪 よるならは つきとそみまし わかやとの にはしろたへに ふりつもるゆき | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 497 | むめかえにふりおける雪を春ちかみめのうちつけに花かとそ見る うめかえに ふりおけるゆきを はるちかみ めのうちつけに はなかとそみる | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 498 | いつしかと山の桜もわかことく年のこなたにはるをまつらん いつしかと やまのさくらも わかことく としのこなたに はるをまつらむ | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 499 | 年深くふりつむ雪を見る時そこしのしらねにすむ心ちする としふかく ふりつむゆきを みるときそ こしのしらねに すむここちする | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 500 | としくれて春あけかたになりぬれは花のためしにまかふ白雪 としくれて はるあけかたに なりぬれは はなのためしに まかふしらゆき | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 501 | 春ちかくふる白雪はをくら山峰にそ花のさかりなりける はるちかく ふるしらゆきは をくらやま みねにそはなの さかりなりける | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 502 | 冬の池にすむにほ鳥のつれもなくしたにかよはん人にしらすな ふゆのいけに すむにほとりの つれもなく したにかよはむ ひとにしらすな | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 503 | むはたまのよるのみふれる白雪はてる月影のつもるなりけり うはたまの よるのみふれる しらゆきは てるつきかけの つもるなりけり | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 504 | この月の年のあまりにたらさらはうくひすははやなきそしなまし このつきの としのあまりに たらさらは うくひすははや なきそしなまし | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 505 | 関こゆる道とはなしにちかなから年にさはりて春をまつかな せきこゆる みちとはなしに ちかなから としにさはりて はるをまつかな | 読人知らず | 冬 |
2-後撰 | 506 | 物思ふとすくる月日もしらぬまにことしはけふにはてぬとかきく ものおもふと すくるつきひも しらぬまに ことしはけふに はてぬとかきく | 藤原敦忠 | 冬 |
2-後撰 | 507 | あつまちのさやの中山中中にあひ見てのちそわひしかりける あつまちの さやのなかやま なかなかに あひみてのちそ わひしかりける | 源宗于 | 恋一 |
2-後撰 | 508 | 暁と何かいひけんわかるれは夜ひもいとこそわひしかりけれ あかつきと なにかいひけむ わかるれは よひもいとこそ わひしかりけれ | 紀貫之 | 恋一 |
2-後撰 | 509 | まとろまぬかへにも人を見つるかなまさしからなん春の夜の夢 まとろまぬ かへにもひとを みつるかな まさしからなむ はるのよのゆめ | するか | 恋一 |
2-後撰 | 510 | くやくやとまつゆふくれと今はとてかへる朝といつれまされり くやくやと まつゆふくれと いまはとて かへるあしたと いつれまされり | 元良のみこ | 恋一 |
2-後撰 | 511 | ゆふくれは松にもかかる白露のおくる朝やきえははつらむ ゆふくれは まつにもかかる しらつゆの おくるあしたや きえははつらむ | 藤原かつみ | 恋一 |
2-後撰 | 512 | うち返し君そこひしきやまとなるふるのわさ田の思ひいてつつ うちかへし きみそこひしき やまとなる ふるのわさたの おもひいてつつ | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 513 | 秋の田のいねてふ事をかけしかは思ひいつるかうれしけもなし あきのたの いねてふことを かけしかは おもひいつるか うれしけもなし | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 514 | 人こふる心はかりはそれなから我はわれにもあらぬなりけり ひとこふる こころはかりは それなから われはわれにも あらぬなりけり | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 515 | おもひかはたえすなかるる水のあわのうたかた人にあはてきえめや おもひかは たえすなかるる みつのあわの うたかたひとに あはてきえめや | 伊勢 | 恋一 |
2-後撰 | 516 | 思ひやる心はつねにかよへとも相坂の関こえすもあるかな おもひやる こころはつねに かよへとも あふさかのせき こえすもあるかな | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 517 | きえはててやみぬはかりか年をへて君を思ひのしるしなけれは きえはてて やみぬはかりか としをへて きみをおもひの しるしなけれは | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 518 | おもひたにしるしなしてふわか身にそあはぬなけきのかすはもえける おもひたに しるしなしてふ わかみにそ あはぬなけきの かすはもえける | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 519 | ほしかてにぬれぬへきかな唐衣かわくたもとの世世になけれは ほしかてに ぬれぬへきかな からころも かわくたもとの よよになけれは | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 520 | 世とともにあふくま河のとほけれはそこなる影をみぬそわひしき よとともに あふくまかはの とほけれは そこなるかけを みぬそわひしき | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 521 | わかことくあひ思ふ人のなき時は深き心もかひなかりけり わかことく あひおもふひとの なきときは ふかきこころも かひなかりけり | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 522 | いつしかとわか松山に今はとてこゆなる浪にぬるる袖かな いつしかと わかまつやまに いまはとて こゆなるなみに ぬるるそてかな | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 523 | ひとことはまことなりけりしたひものとけぬにしるき心と思へは ひとことは まことなりけり したひもの とけぬにしるき こころとおもへは | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 524 | 結ひおきしわかしたひもの今まてにとけぬは人のこひぬなりけり むすひおきし わかしたひもの いままてに とけぬはひとの こひぬなりけり | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 525 | ほかのせはふかくなるらしあすかかは昨日のふちそわか身なりける ほかのせは ふかくなるらし あすかかは きのふのふちそ わかみなりける | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 526 | ふちせともいさやしら浪立ちさわくわか身ひとつはよる方もなし ふちせとも いさやしらなみ たちさわく わかみひとつは よるかたもなし | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 527 | ひかりまつつゆに心をおける身はきえかへりつつ世をそうらむる ひかりまつ つゆにこころを おけるみは きえかへりつつ よをそうらむる | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 528 | しほみたぬうみときけはや世とともにみるめなくして年のへぬらん しほみたぬ うみときけはや よとともに みるめなくして としのへぬらむ | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 529 | 唐衣きて帰りにしさよすからあはれと思ふをうらむらんはた からころも きてかへりにし さよすから あはれとおもふを うらむらむはた | 桂のみこ | 恋一 |
2-後撰 | 530 | 影たにも見えすなりゆく山の井はあさきより又水やたえにし かけたにも みえすなりゆく やまのゐは あさきよりまた みつやたえにし | きのめのと | 恋一 |
2-後撰 | 531 | 浅してふ事をゆゆしみ山の井はほりし濁に影は見えぬそ あさしてふ ことをゆゆしみ やまのゐは ほりしにこりに かけはみえぬそ | 平定文 | 恋一 |
2-後撰 | 532 | いくたひかいくたの浦に立帰り浪にわか身を打ちぬらすらん いくたひか いくたのうらに たちかへり なみにわかみを うちぬらすらむ | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 533 | 立帰りぬれてはひぬるしほなれはいくたの浦のさかとこそ見れ たちかへり ぬれてはひぬる しほなれは いくたのうらの さかとこそみれ | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 534 | 逢ふ事はいとと雲井のおほそらにたつ名のみしてやみぬはかりか あふことは いととくもゐの おほそらに たつなのみして やみぬはかりか | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 535 | よそなからやまんともせす逢ふ事は今こそ雲のたえまなるらめ よそなから やまむともせす あふことは いまこそくもの たえまなるらめ | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 536 | 今のみとたのむなれとも白雲のたえまはいつかあらんとすらん いまのみと たのむなれとも しらくもの たえまはいつか あらむとすらむ | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 537 | をやみせす雨さへふれは沢水のまさるらんともおもほゆるかな をやみせす あめさへふれは さはみつの まさるらむとも おもほゆるかな | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 538 | 夢にたに見る事そなき年をへて心のとかにぬるよなけれは ゆめにたに みることそなき としをへて こころのとかに ぬるよなけれは | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 539 | 見そめすてあらましものを唐衣たつ名のみしてきるよなきかな みそめすて あらましものを からころも たつなのみして きるよなきかな | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 540 | 枯れはつる花の心はつらからて時すきにける身をそうらむる かれはつる はなのこころは つらからて ときすきにける みをそうらむる | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 541 | あたにこそちるとみるらめ君にみなうつろひにたる花の心を あたにこそ ちるとみるらめ きみにみな うつろひにたる はなのこころを | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 542 | こむといひし月日をすくすをはすての山のはつらき物にそ有りける こむといひし つきひをすくす をはすての やまのはつらき ものにそありける | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 543 | 月日をもかそへけるかな君こふるかすをもしらぬわか身なになり つきひをも かそへけるかな きみこふる かすをもしらぬ わかみなになり | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 544 | このめはるはるの山田を打返し思ひやみにし人そこひしき このめはる はるのやまたを うちかへし おもひやみにし ひとそこひしき | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 545 | ころをへてあひ見ぬ時は白玉の涙も春は色まさりけり ころをへて あひみぬときは しらたまの なみたもはるは いろまさりけり | 藤原時平 | 恋一 |
2-後撰 | 546 | 人こふる涙は春そぬるみけるたえぬおもひのわかすなるへし ひとこふる なみたははるそ ぬるみける たえぬおもひの わかすなるへし | 伊勢 | 恋一 |
2-後撰 | 547 | つらしともいかか怨みむ郭公わかやとちかくなく声はせて つらしとも いかかうらみむ ほとときす わかやとちかく なくこゑはせて | 源たのむかむすめ | 恋一 |
2-後撰 | 548 | 里ことに鳴きこそ渡れ郭公すみか定めぬ君たつぬとて さとことに なきこそわたれ ほとときす すみかさためぬ きみたつぬとて | 敦慶親王 | 恋一 |
2-後撰 | 549 | かすならぬみ山かくれの郭公人しれぬねをなきつつそふる かすならぬ みやまかくれの ほとときす ひとしれぬねを なきつつそふる | 春道列樹 | 恋一 |
2-後撰 | 550 | 逢ふ事のかた糸そとはしりなから玉のをはかり何によりけん あふことの かたいとそとは しりなから たまのをはかり なにによりけむ | これたたのみこ | 恋一 |
2-後撰 | 551 | 思ふとはいふものからにともすれはわするる草の花にやはあらぬ おもふとは いふものからに ともすれは わするるくさの はなにやはあらぬ | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 552 | うゑてみる我はわすれてあたひとにまつわすらるる花にそ有りける うゑてみる われはわすれて あたひとに まつわすらるる はなにそありける | たいふのこといふ人 | 恋一 |
2-後撰 | 553 | 浦わかすみるめかるてふあまの身は何かなにはの方へしもゆく うらわかす みるめかるてふ あまのみは なにかなにはの かたへしもゆく | 土左 | 恋一 |
2-後撰 | 554 | 君を思ふふかさくらへにつのくにのほり江見にゆく我にやはあらぬ きみをおもふ ふかさくらへに つのくにの ほりえみにゆく われにやはあらぬ | 平定文 | 恋一 |
2-後撰 | 555 | いかてかく心ひとつをふたしへにうくもつらくもなしてみすらん いかてかく こころひとつを ふたしへに うくもつらくも なしてみすらむ | 伊勢 | 恋一 |
2-後撰 | 556 | ともすれは玉にくらへしますかかみひとのたからと見るそ悲しき ともすれは たまにくらへし ますかかみ ひとのたからと みるそかなしき | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 557 | いはせ山谷のした水うちしのひ人のみぬまは流れてそふる いはせやま たにのしたみつ うちしのひ ひとのみぬまは なかれてそふる | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 558 | うれしけに君かたのめし事のははかたみにくめる水にそ有りける うれしけに きみかたのめし ことのはは かたみにくめる みつにそありける | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 559 | ゆきやらぬ夢ちにまとふたもとにはあまつそらなき露そおきける ゆきやらぬ ゆめちにまとふ たもとには あまつそらなき つゆそおきける | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 560 | 身ははやくならの宮こと成りにしを恋しきことのまたもふりぬか みははやく ならのみやこと なりにしを こひしきことの またもふりぬか | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 561 | 住吉の岸の白浪よるよるはあまのよそめに見るそ悲しき すみよしの きしのしらなみ よるよるは あまのよそめに みるそかなしき | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 562 | 君こふとぬれにし袖のかわかぬは思ひの外にあれはなりけり きみこふと ぬれにしそての かわかぬは おもひのほかに あれはなりけり | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 563 | あはさりし時いかなりし物とてかたたいまのまも見ねは恋しき あはさりし ときいかなりし ものとてか たたいまのまも みねはこひしき | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 564 | 世中にしのふるこひのわひしきはあひてののちのあはぬなりけり よのなかに しのふるこひの わひしきは あひてののちの あはぬなりけり | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 565 | 恋をのみ常にするかの山なれはふしのねにのみなかぬ日はなし こひをのみ つねにするかの やまなれは ふしのねにのみ なかぬひはなし | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 566 | 君によりわか身そつらき玉たれの見すは恋しとおもはましやは きみにより わかみそつらき たまたれの みすはこひしと おもはましやは | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 567 | 今そしるあかぬ別の暁は君をこひちにぬるる物とは いまそしる あかぬわかれの あかつきは きみをこひちに ぬるるものとは | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 568 | よそにふる雨とこそきけおほつかな何をか人のこひちといふらん よそにふる あめとこそきけ おほつかな なにをかひとの こひちといふらむ | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 569 | たえはつる物とは見つつささかにのいとをたのめる心ほそさよ たえはつる ものとはみつつ ささかにの いとをたのめる こころほそさよ | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 570 | うちわたし長き心はやつはしのくもてに思ふ事はたえせし うちわたし なかきこころは やつはしの くもてにおもふ ことはたえせし | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 571 | 思ふ人おもはぬ人の思ふ人おもはさらなん思ひしるへく おもふひと おもはぬひとの おもふひと おもはさらなむ おもひしるへく | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 572 | こからしのもりのした草風はやみ人のなけきはおひそひにけり こからしの もりのしたくさ かせはやみ ひとのなけきは おひそひにけり | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 573 | 別をは悲しき物とききしかとうしろやすくもおもほゆるかな わかれをは かなしきものと ききしかと うしろやすくも おもほゆるかな | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 574 | なきたむるた本こほれるけさみれは心とけても君をおもはす なきたむる たもとこほれる けさみれは こころとけても きみをおもはす | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 575 | 身をわけてあらまほしくそおもほゆる人はくるしといひけるものを みをわけて あらまほしくそ おもほゆる ひとはくるしと いひけるものを | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 576 | 雲井にて人をこひしと思ふかな我は葦へのたつならなくに くもゐにて ひとをこひしと おもふかな われはあしへの たつならなくに | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 577 | あさちふのをののしの原忍ふれとあまりてなとか人のこひしき あさちふの をののしのはら しのふれと あまりてなとか ひとのこひしき | 源ひとしの | 恋一 |
2-後撰 | 578 | 雨やまぬのきの玉水かすしらす恋しき事のまさるころかな あめやまぬ のきのたまみつ かすしらす こひしきことの まさるころかな | 兼盛王 | 恋一 |
2-後撰 | 579 | 伊勢の海にはへてもあまるたくなはの長き心は我そまされる いせのうみに はへてもあまる たくなはの なかきこころは われそまされる | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 580 | 色にいてて恋すてふ名そたちぬへき涙にそむる袖のこけれは いろにいてて こひすてふなそ たちぬへき なみたにそむる そてのこけれは | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 581 | かくこふる物としりせはよるはおきてあくれはきゆるつゆならましを かくこふる ものとしりせは よるはおきて あくれはきゆる つゆならましを | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 582 | あひも見す歎きもそめす有りし時思ふ事こそ身になかりしか あひもみす なけきもそめす ありしとき おもふことこそ みになかりしか | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 583 | こひのことわりなき物はなかりけりかつむつれつつかつそ恋しき こひのこと わりなきものは なかりけり かつむつれつつ かつそこひしき | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 584 | わたつ海に深き心のなかりせは何かは君を怨みしもせん わたつうみに ふかきこころの なかりせは なにかはきみを うらみしもせむ | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 585 | みな神にいのるかひなく涙河うきても人をよそに見るかな みなかみに いのるかひなく なみたかは うきてもひとを よそにみるかな | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 586 | いのりけるみな神さへそうらめしきけふより外に影の見えねは いのりける みなかみさへそ うらめしき けふよりほかに かけのみえねは | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 587 | 色深く染めした本のいととしくなみたにさへもこさまさるかな いろふかく そめしたもとの いととしく なみたにさへも こさまさるかな | 藤原師輔 | 恋一 |
2-後撰 | 588 | 見る時は事そともなく見ぬ時はこと有りかほに恋しきやなそ みるときは ことそともなく みぬときは ことありかほに こひしきやなそ | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 589 | 山さとのまきのいたともさささりきたのめし人をまちしよひより やまさとの まきのいたとも さささりき たのめしひとを まちしよひより | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 590 | ゆく方もなくせかれたる山水のいはまほしくもおもほゆるかな ゆくかたも なくせかれたる やまみつの いはまほしくも おもほゆるかな | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 591 | 人のうへのこととしいへはしらぬかな君も恋する折もこそあれ ひとのうへの こととしいへは しらぬかな きみもこひする をりもこそあれ | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 592 | つらからはおなし心につらからんつれなき人をこひんともせす つらからは おなしこころに つらからむ つれなきひとを こひむともせす | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 593 | 人しれす思ふ心はおほしまのなるとはなしになけくころかな ひとしれす おもふこころは おほしまの なるとはなしに なけくころかな | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 594 | はかなくておなし心になりにしを思ふかことは思ふらんやそ はかなくて おなしこころに なりにしを おもふかことは おもふらむやそ | 中務 | 恋一 |
2-後撰 | 595 | わひしさをおなし心ときくからにわか身をすてて君そかなしき わひしさを おなしこころと きくからに わかみをすてて きみそかなしき | 源信明 | 恋一 |
2-後撰 | 596 | 定なくあたにちりぬる花よりはときはの松の色をやは見ぬ さためなく あたにちりぬる はなよりは ときはのまつの いろをやはみぬ | 源信明 | 恋一 |
2-後撰 | 597 | 住吉のわか身なりせは年ふとも松より外の色を見ましや すみよしの わかみなりせは としふとも まつよりほかの いろをみましや | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 598 | うつつにもはかなきことのあやしきはねなくにゆめの見ゆるなりけり うつつにも はかなきことの あやしきは ねなくにゆめの みゆるなりけり | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 599 | 白浪のよるよる岸に立ちよりてねも見しものをすみよしの松 しらなみの よるよるきしに たちよりて ねもみしものを すみよしのまつ | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 600 | なからへてあらぬまてにも事のはのふかきはいかにあはれなりけり なからへて あらぬまてにも ことのはの ふかきはいかに あはれなりけり | 読人知らず | 恋一 |
2-後撰 | 601 | 人を見て思ふおもひもあるものをそらにこふるそはかなかりける ひとをみて おもふおもひも あるものを そらにこふるそ はかなかりける | 藤原忠房 | 恋二 |
2-後撰 | 602 | ひとりのみおもへはくるし如何しておなし心に人ををしへむ ひとりのみ おもへはくるし いかにして おなしこころに ひとををしへむ | 壬生忠岑 | 恋二 |
2-後撰 | 603 | わか心いつならひてか見ぬ人を思ひやりつつこひしかるらん わかこころ いつならひてか みぬひとを おもひやりつつ こひしかるらむ | 紀友則 | 恋二 |
2-後撰 | 604 | 葉をわかみほにこそいてね花すすきしたの心にむすはさらめや はをわかみ ほにこそいてね はなすすき したのこころに むすはさらめや | 源中正 | 恋二 |
2-後撰 | 605 | あしひきの山したしけくはふくすの尋ねてこふる我としらすや あしひきの やましたしけく はふくすの たつねてこふる われとしらすや | 兼覧王 | 恋二 |
2-後撰 | 606 | かくれぬに忍ひわひぬるわか身かなゐてのかはつと成りやしなまし かくれぬに しのひわひぬる わかみかな ゐてのかはつと なりやしなまし | 忠房 | 恋二 |
2-後撰 | 607 | あふくまのきりとはなしに終夜立渡りつつ世をもふるかな あふくまの きりとはなしに よもすから たちわたりつつ よをもふるかな | 藤原輔文 | 恋二 |
2-後撰 | 608 | あやしくもいとふにはゆる心かないかにしてかは思ひやむへき あやしくも いとふにはゆる こころかな いかにしてかは おもひやむへき | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 609 | ともかくもいふ事のはの見えぬかないつらはつゆのかかり所は ともかくも いふことのはの みえぬかな いつらはつゆの かかりところは | 本院右京 | 恋二 |
2-後撰 | 610 | わひ人のそほつてふなる涙河おりたちてこそぬれ渡りけれ わひひとの そほつてふなる なみたかは おりたちてこそ ぬれわたりけれ | 橘敏仲 | 恋二 |
2-後撰 | 611 | ふちせとも心もしらす涙河おりやたつへきそてのぬるるに ふちせとも こころもしらす なみたかは おりやたつへき そてのぬるるに | 大輔 | 恋二 |
2-後撰 | 612 | 心みに猶おりたたむなみたかはうれしきせにも流れあふやと こころみに なほおりたたむ なみたかは うれしきせにも なかれあふやと | とし中 | 恋二 |
2-後撰 | 613 | かかりける人の心をしらつゆのおける物ともたのみけるかな かかりける ひとのこころを しらつゆの おけるものとも たのみけるかな | 藤原敦忠 | 恋二 |
2-後撰 | 614 | 鴬の雲井にわひてなくこゑを春のさかとそ我はききつる うくひすの くもゐにわひて なくこゑを はるのさかとそ われはききつる | 藤原顕忠 | 恋二 |
2-後撰 | 615 | かくはかり常なき世とはしりなから人をはるかに何たのみけん かくはかり つねなきよとは しりなから ひとをはるかに なにたのみけむ | 平時望 | 恋二 |
2-後撰 | 616 | わかかとのひとむらすすきかりかはん君かてなれのこまもこぬかな わかかとの ひとむらすすき かりかはむ きみかてなれの こまもこぬかな | こまちかあね | 恋二 |
2-後撰 | 617 | 世を海のあわときえぬる身にしあれは怨むる事そかすなかりける よをうみの あわときえぬる みにしあれは うらむることそ かすなかりける | 枇杷左太臣 | 恋二 |
2-後撰 | 618 | わたつみとたのめし事もあせぬれは我そわか身のうらはうらむる わたつみと たのめしことも あせぬれは われそわかみの うらはうらむる | 伊勢 | 恋二 |
2-後撰 | 619 | あつまちのさののふな橋かけてのみ思渡るをしる人のなき あつまちの さののふなはし かけてのみ おもひわたるを しるひとのなさ | 源ひとしの | 恋二 |
2-後撰 | 620 | ふしてぬる夢ちにたにもあはぬ身は猶あさましきうつつとそ思ふ ふしてぬる ゆめちにたにも あはぬみは なほあさましき うつつとそおもふ | 紀良谷雄 | 恋二 |
2-後撰 | 621 | あまのとをあけぬあけぬといひなしてそらなきしつる鳥のこゑかな あまのとを あけぬあけぬと いひなして そらなきしつる とりのこゑかな | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 622 | 終夜ぬれてわひつる唐衣相坂山にみちまとひして よもすから ぬれてわひつる からころも あふさかやまに みちまとひして | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 623 | おもへともあやなしとのみいはるれはよるの錦の心ちこそすれ おもへとも あやなしとのみ いはるれは よるのにしきの ここちこそすれ | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 624 | おとにのみききこしみわの山よりもすきのかすをは我そ見えにし おとにのみ ききこしみわの やまよりも すきのかすをは われそみえにし | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 625 | なにはかたかりつむあしのあしつつのひとへも君を我やへたつる なにはかた かりつむあしの あしつつの ひとへもきみを われやへたつる | 藤原兼輔 | 恋二 |
2-後撰 | 626 | わかことや君もこふらん白露のおきてもねてもそてそかわかぬ わかことや きみもこふらむ しらつゆの おきてもねても そてそかわかぬ | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 627 | つらくともあらんとそ思ふよそにても人やけぬるときかまほしさに つらくとも あらむとそおもふ よそにても ひとやけぬると きかまほしさに | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 628 | くれぬとてねてゆくへくもあらなくにたとるたとるもかへるまされり くれぬとて ねてゆくへくも あらなくに たとるたとるも かへるまされり | 在原業平 | 恋二 |
2-後撰 | 629 | わりなしといふこそかつはうれしけれおろかならすと見えぬとおもへは わりなしと いふこそかつは うれしけれ おろかならすと みえぬとおもへは | 元良のみこ | 恋二 |
2-後撰 | 630 | わかこひをしらんと思ははたこの浦に立つらん浪のかすをかそへよ わかこひを しらむとおもはは たこのうらに たつらむなみの かすをかそへよ | 藤原興風 | 恋二 |
2-後撰 | 631 | 色ならは移るはかりも染めてまし思ふ心をえやは見せける いろならは うつるはかりも そめてまし おもふこころを えやはみせける | 紀貫之 | 恋二 |
2-後撰 | 632 | 葦引の山ひはすともふみかよふあとをも見ぬはくるしきものを あしひきの やまひはすとも ふみかよふ あとをもみぬは くるしきものを | 大江朝綱 | 恋二 |
2-後撰 | 633 | おほかたはなそやわかなのをしからん昔のつまと人にかたらむ おほかたは なそやわかなの をしからむ むかしのつまと ひとにかたらむ | 貞元のみこ | 恋二 |
2-後撰 | 634 | 人はいさ我はなきなのをしけれは昔も今もしらすとをいはん ひとはいさ われはなきなの をしけれは むかしもいまも しらすとをいはむ | おほつふね | 恋二 |
2-後撰 | 635 | 跡みれは心なくさのはまちとり今は声こそきかまほしけれ あとみれは こころなくさの はまちとり いまはこゑこそ きかまほしけれ | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 636 | 河と見てわたらぬ中になかるるはいはて物思ふ涙なりけり かはとみて わたらぬなかに なかるるは いはてものおもふ なみたなりけり | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 637 | あまくもになきゆく雁のおとにのみきき渡りつつあふよしもなし あまくもに なきゆくかりの おとにのみ ききわたりつつ あふよしもなし | 橘公頼 | 恋二 |
2-後撰 | 638 | 住の江の浪にはあらねとよとともに心を君によせわたるかな すみのえの なみにはあらねと よとともに こころをきみに よせわたるかな | 紀貫之 | 恋二 |
2-後撰 | 639 | 見ぬほとに年のかはれはあふことのいやはるはるにおもほゆるかな みぬほとに としのかはれは あふことの いやはるはるに おもほゆるかな | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 640 | けふすきはしなましものを夢にてもいつこをはかと君かとはまし けふすきは しなましものを ゆめにても いつこをはかと きみかとはまし | 中将更衣 | 恋二 |
2-後撰 | 641 | うつつにそとふへかりける夢とのみ迷ひしほとやはるけかりけん うつつにそ とふへかりける ゆめとのみ まよひしほとや はるけかりけむ | 延喜 | 恋二 |
2-後撰 | 642 | 流れてはゆく方もなし涙河わか身のうらや限なるらむ なかれては ゆくかたもなし なみたかは わかみのうらや かきりなるらむ | 藤原千かぬ | 恋二 |
2-後撰 | 643 | わか恋のかすにしとらは白妙のはまのまさこもつきぬへらなり わかこひの かすにしとらは しろたへの はまのまさこも つきぬへらなり | 在原棟梁 | 恋二 |
2-後撰 | 644 | 涙にも思ひのきゆる物ならせいとかくむねはこかささらまし なみたにも おもひのきゆる ものならは いとかくむねは こかささらまし | 紀貫之 | 恋二 |
2-後撰 | 645 | しるしなき思ひやなそとあしたつのねになくまてにあはすわひしき しるしなき おもひやなそと あしたつの ねになくまてに あはすわひしき | 坂上是則 | 恋二 |
2-後撰 | 646 | たまのをのたえてみしかきいのちもて年月なかきこひもするかな たまのをの たえてみしかき いのちもて としつきなかき こひもするかな | 紀貫之 | 恋二 |
2-後撰 | 647 | 我のみやもえてきえなんよとともに思ひもならぬふしのねのこと われのみや もえてきえなむ よとともに おもひもならぬ ふしのねのこと | 平定文 | 恋二 |
2-後撰 | 648 | ふしのねのもえわたるともいかかせむけちこそしらね水ならぬ身は ふしのねの もえわたるとも いかかせむ けちこそしらね みつならぬみは | きのめのと | 恋二 |
2-後撰 | 649 | わひわたるわか身はつゆをおなしくは君かかきねの草にきえなん わひわたる わかみはつゆを おなしくは きみかかきねの くさにきえなむ | 紀貫之 | 恋二 |
2-後撰 | 650 | みるめかるなきさやいつこあふこなみ立ちよる方もしらぬわか身は みるめかる なきさやいつこ あふこなみ たちよるかたも しらぬわかみは | 在原元方 | 恋二 |
2-後撰 | 651 | なるとよりさしいたされし舟よりも我そよるへもなき心地せし なるとより さしいたされし ふねよりも われそよるへも なきここちせし | 藤原滋幹 | 恋二 |
2-後撰 | 652 | 高砂の峰の白雲かかりける人の心をたのみけるかな たかさこの みねのしらくも かかりける ひとのこころを たのみけるかな | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 653 | よそにのみ松ははかなき住の江のゆきてさへこそ見まくほしけれ よそにのみ まつははかなき すみのえの ゆきてさへこそ みまくほしけれ | 延喜 | 恋二 |
2-後撰 | 654 | かけろふに見しはかりにやはまちとりゆくへもしらぬ恋にまとはん かけろふに みしはかりにや はまちとり ゆくへもしらぬ こひにまとはむ | 源ひとしの | 恋二 |
2-後撰 | 655 | わたつみのそこのありかはしりなからかつきていらん浪のまそなき わたつみの そこのありかは しりなから かつきていらむ なみのまそなき | 藤原兼茂 | 恋二 |
2-後撰 | 656 | つらしとも思ひそはてぬ涙河流れて人をたのむ心は つらしとも おもひそはてぬ なみたかは なかれてひとを たのむこころは | 橘実利 | 恋二 |
2-後撰 | 657 | 流れてと何たのむらん涙河影見ゆへくもおもほえなくに なかれてと なにたのむらむ なみたかは かけみゆへくも おもほえなくに | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 658 | 何事を今はたのまんちはやふる神もたすけぬわか身なりけり なにことを いまはたのまむ ちはやふる かみもたすけぬ わかみなりけり | 平定文 | 恋二 |
2-後撰 | 659 | ちはやふる神もみみこそなれぬらしさまさまいのる年もへぬれは ちはやふる かみもみみこそ なれぬらし さまさまいのる としもへぬれは | おほつふね | 恋二 |
2-後撰 | 660 | 怨みても身こそつらけれ唐衣きていたつらにかへすとおもへは うらみても みこそつらけれ からころも きていたつらに かへすとおもへは | 紀貫之 | 恋二 |
2-後撰 | 661 | 住吉の松にたちよる白浪のかへるをりにやねはなかるらむ すみよしの まつにたちよる しらなみの かへるをりにや ねはなかるらむ | 壬生忠岑 | 恋二 |
2-後撰 | 662 | おもはむとたのめし事もあるものをなきなをたててたたにわすれね おもはむと たのめしことも あるものを なきなをたてて たたにわすれね | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 663 | かすかののとふひののもり見しものをなきなといははつみもこそうれ かすかのの とふひののもり みしものを なきなといはは つみもこそうれ | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 664 | わすられて思ふなけきのしけるをや身をはつかしのもりといふらん わすられて おもふなけきの しけるをや みをはつかしの もりといふらむ | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 665 | おもはんとたのめし人は有りときくいひし事のはいつちいにけん おもはむと たのめしひとは ありときく いひしことのは いつちいにけむ | 右近 | 恋二 |
2-後撰 | 666 | さても猶まかきの島の有りけれはたちよりぬへくおもほゆるかな さてもなほ まかきのしまの ありけれは たちよりぬへく おもほゆるかな | 源清蔭 | 恋二 |
2-後撰 | 667 | これはかく怨み所もなきものをうしろめたくはおもはさらなん これはかく うらみところも なきものを うしろめたくは おもはさらなむ | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 668 | 思ひきやあひ見ぬことをいつよりとかそふはかりになさん物とは おもひきや あひみぬことを いつよりと かそふはかりに なさむものとは | 源信明 | 恋二 |
2-後撰 | 669 | 世のつねのねをしなかねは逢ふ事の涙の色もことにそありける よのつねの ねをしなかねは あふことの なみたのいろも ことにそありける | 藤原治方 | 恋二 |
2-後撰 | 670 | 白浪のよするいそまをこく舟のかちとりあへぬ恋もするかな しらなみの よするいそまを こくふねの かちとりあへぬ こひもするかな | 大伴黒主 | 恋二 |
2-後撰 | 671 | こひしさはねぬになくさむともなきにあやしくあはぬめをもみるかな こひしさは ねぬになくさむ ともなきに あやしくあはぬ めをもみるかな | 源うかふ | 恋二 |
2-後撰 | 672 | ひさしくも恋ひわたるかなすみのえの岸に年ふる松ならなくに ひさしくも こひわたるかな すみのえの きしにとしふる まつならなくに | 源すくる | 恋二 |
2-後撰 | 673 | 逢ふ事の世世をへたつるくれ竹のふしのかすなき恋もするかな あふことの よよをへたつる くれたけの ふしのかすなき こひもするかな | 藤原清正 | 恋二 |
2-後撰 | 674 | 今はてふ心つくはの山見れはこすゑよりこそ色かはりけれ いまはてふ こころつくはの やまみれは こすゑよりこそ いろかはりけれ | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 675 | かへりけんそらもしられすをはすての山よりいてし月を見しまに かへりけむ そらもしられす をはすての やまよりいてし つきをみしまに | 源重光 | 恋二 |
2-後撰 | 676 | ふりとけぬ君かゆきけのしつくゆゑたもとにとけぬ氷しにけり ふりとけぬ きみかゆきけの しつくゆゑ たもとにとけぬ こほりしにけり | きよたたか母 | 恋二 |
2-後撰 | 677 | かた時も見ねはこひしき君をおきてあやしやいくよほかにねぬらん かたときも みねはこひしき きみをおきて あやしやいくよ ほかにねぬらむ | 藤原有文 | 恋二 |
2-後撰 | 678 | 思ひやる心にたくふ身なりせはひとひにちたひ君はみてまし おもひやる こころにたくふ みなりせは ひとひにちたひ きみはみてまし | 大江千古 | 恋二 |
2-後撰 | 679 | 逢ふ事はとほ山とりのかり衣きてはかひなきねをのみそなく あふことは とほやまとりの かりころも きてはかひなき ねをのみそなく | 元良親王 | 恋二 |
2-後撰 | 680 | 深くのみ思ふ心はあしのねのわけても人にあはんとそ思ふ ふかくのみ おもふこころは あしのねの わけてもひとに あはむとそおもふ | 敦慶親王 | 恋二 |
2-後撰 | 681 | いさり火のよるはほのかにかくしつつ有りへはこひのしたにけぬへし いさりひの よるはほのかに かくしつつ ありへはこひの したにけぬへし | 藤原忠国 | 恋二 |
2-後撰 | 682 | たちよらは影ふむはかりちかけれと誰かなこその関をすゑけん たちよらは かけふむはかり ちかけれと たれかなこその せきをすゑけむ | 小八条御息所 | 恋二 |
2-後撰 | 683 | わか袖はなにたつすゑの松山かそらより浪のこえぬ日はなし わかそては なにたつすゑの まつやまか そらよりなみの こえぬひはなし | 土左 | 恋二 |
2-後撰 | 684 | ひとりねのわひしきままにおきゐつつ月をあはれといみそかねつる ひとりねの わひしきままに おきゐつつ つきをあはれと いみそかねつる | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 685 | 唐錦をしきわかなはたちはてて如何せよとか今はつれなき からにしき をしきわかなは たちはてて いかにせよとか いまはつれなき | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 686 | 人つてにいふ事のはの中よりそ思ひつくはの山は見えける ひとつてに いふことのはの うちよりそ おもひつくはの やまはみえける | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 687 | たよりにもあらぬ思ひのあやしきは心を人につくるなりけり たよりにも あらぬおもひの あやしきは こころをひとに つくるなりけり | 紀貫之 | 恋二 |
2-後撰 | 688 | 人つまに心あやなくかけはしのあやふき道はこひにそ有りける ひとつまに こころあやなく かけはしの あやふきみちは こひにそありける | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 689 | いはて思ふ心ありそのはま風にたつしら浪のよるそわひしき いはておもふ こころありその はまかせに たつしらなみの よるそわひしき | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 690 | ひとりのみこふれはくるしよふことりこゑになきいてて君にきかせん ひとりのみ こふれはくるし よふことり こゑになきいてて きみにきかせむ | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 691 | ふしなくて君かたえにししらいとはよりつきかたき物にそ有りける ふしなくて きみかたえにし しらいとは よりつきかたき ものにそありける | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 692 | 草枕このたひへつる年月のうきは帰りてうれしからなん くさまくら このたひへつる としつきの うきはかへりて うれしからなむ | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 693 | いてしより見えすなりにし月影は又山のはに入りやしにけん いてしより みえすなりにし つきかけは またやまのはに いりやしにけむ | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 694 | あしひきの山におふてふもろかつらもろともにこそいらまほしけれ あしひきの やまにおふてふ もろかつら もろともにこそ いらまほしけれ | 読人知らず | 恋二 |
2-後撰 | 695 | はま千鳥たのむをしれとふみそむるあとうちけつな我をこす浪 はまちとり たのむをしれと ふみそむる あとうちけつな われをこすなみ | 平定文 | 恋二 |
2-後撰 | 696 | ゆく水のせことにふまんあとゆゑにたのむしるしをいつれとかみん ゆくみつの せことにふまむ あとゆゑに たのむしるしを いつれとかみむ | おほつ舟 | 恋二 |
2-後撰 | 697 | つまにおふることなしくさを見るからにたのむ心そかすまさりける つまにおふる ことなしくさを みるからに たのむこころそ かすまさりける | 源もろあきらの | 恋二 |
2-後撰 | 698 | おくつゆのかかる物とはおもへともかれせぬ物はなてしこのはな おくつゆの かかるものとは おもへとも かれせぬものは なてしこのはな | 源もろあきらの | 恋二 |
2-後撰 | 699 | かれすともいかかたのまむなてしこの花はときはのいろにしあらねは かれすとも いかかたのまむ なてしこの はなはときはの いろにしあらねは | 源もろあきらの | 恋二 |
2-後撰 | 700 | 名にしおはは相坂山のさねかつら人にしられてくるよしもかな なにしおはは あふさかやまの さねかつら ひとにしられて くるよしもかな | 藤原定方 | 恋三 |
2-後撰 | 701 | こひしとは更にもいはししたひものとけむを人はそれとしらなん こひしとは さらにもいはし したひもの とけむをひとは それとしらなむ | 在原元方 | 恋三 |
2-後撰 | 702 | したひものしるしとするもとけなくにかたるかことはあらすもあるかな したひもの しるしとするも とけなくに かたるかことは あらすもあるかな | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 703 | うつつにもはかなき事のわひしきはねなくに夢と思ふなりけり うつつにも はかなきことの わひしきは ねなくにゆめと おもふなりけり | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 704 | たむけせぬ別れする身のわひしきは人めを旅と思ふなりけり たむけせぬ わかれするみの わひしきは ひとめをたひと おもふなりけり | 紀貫之 | 恋三 |
2-後撰 | 705 | やとかへてまつにも見えすなりぬれはつらき所のおほくもあるかな やとかへて まつにもみえす なりぬれは つらきところの おほくもあるかな | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 706 | おもはむとたのめし人はかはらしをとはれぬ我やあらぬなるらん おもはむと たのめしひとは かはらしを とはれぬわれや あらぬなるらむ | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 707 | いたつらにたひたひしぬといふめれはあふには何をかへんとすらん いたつらに たひたひしぬと いふめれは あふにはなにを かへむとすらむ | 中務 | 恋三 |
2-後撰 | 708 | しぬしぬときくきくたにもあひみねはいのちをいつのよにかのこさん しぬしぬと きくきくたにも あひみねは いのちをいつの よにかのこさむ | 源信明 | 恋三 |
2-後撰 | 709 | ゑにかける鳥とも人を見てしかなおなし所をつねにとふへく ゑにかける とりともひとを みてしかな おなしところを つねにとふへく | 本院侍従 | 恋三 |
2-後撰 | 710 | 昔せしわかかね事の悲しきは如何ちきりしなこりなるらん むかしせし わかかねことの かなしきは いかにちきりし なこりなるらむ | 平定文 | 恋三 |
2-後撰 | 711 | うつつにて誰契りけん定なき夢ちに迷ふ我はわれかは うつつにて たれちきりけむ さためなき ゆめちにまよふ われはわれかは | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 712 | くれはとりあやに恋しく有りしかはふたむら山もこえすなりにき くれはとり あやにこひしく ありしかは ふたむらやまも こえすなりにき | 清原諸実 | 恋三 |
2-後撰 | 713 | 唐衣たつををしみし心こそふたむら山のせきとなりけめ からころも たつををしみし こころこそ ふたむらやまの せきとなりけめ | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 714 | 夢かとも思ふへけれとおほつかなねぬにみしかはわきそかねつる ゆめかとも おもふへけれと おほつかな ねぬにみしかは わきそかねつる | きよなりか女 | 恋三 |
2-後撰 | 715 | そらしらぬ雨にもぬるるわか身かなみかさの山をよそにききつつ そらしらぬ あめにもぬるる わかみかな みかさのやまを よそにききつつ | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 716 | もろともにをるともなしに打ちとけて見えにけるかなあさかほの花 もろともに をるともなしに うちとけて みえにけるかな あさかほのはな | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 717 | ももしきはをののえくたす山なれや入りにし人のおとつれもせぬ ももしきは をののえくたす やまなれや いりにしひとの おとつれもせぬ | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 718 | すすか山いせをのあまのすて衣しほなれたりと人やみるらん すすかやま いせをのあまの すてころも しほなれたりと ひとやみるらむ | 藤原伊尹 | 恋三 |
2-後撰 | 719 | いかて我人にもとはん暁のあかぬ別やなにににたりと いかてわれ ひとにもとはむ あかつきの あかぬわかれや なにににたりと | 紀貫之 | 恋三 |
2-後撰 | 720 | 恋しきにきえかへりつつあさつゆのけさはおきゐん心地こそせね こひしきに きえかへりつつ あさつゆの けさはおきゐむ ここちこそせね | 在原行平 | 恋三 |
2-後撰 | 721 | しののめにあかて別れした本をそつゆやわけしと人はとかむる しののめに あかてわかれし たもとをそ つゆやわけしと ひとはとかむる | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 722 | こひしきも思ひこめつつあるものを人にしらるる涙なになり こひしきも おもひこめつつ あるものを ひとにしらるる なみたなになり | 平中興 | 恋三 |
2-後撰 | 723 | 相坂のこのしたつゆにぬれしよりわか衣手は今もかわかす あふさかの このしたつゆに ぬれしより わかころもては いまもかわかす | 藤原兼輔 | 恋三 |
2-後撰 | 724 | 君を思ふ心を人にこゆるきのいそのたまもやいまもからまし きみをおもふ こころをひとに こゆるきの いそのたまもや いまもからまし | 躬恒 | 恋三 |
2-後撰 | 725 | なき名そと人にはいひて有りぬへし心のとははいかかこたへん なきなそと ひとにはいひて ありぬへし こころのとはは いかかこたへむ | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 726 | きよけれと玉ならぬ身のわひしきはみかける物にいはぬなりけり きよけれと たまならぬみの わひしきは みかけるものに いはぬなりけり | 伊勢 | 恋三 |
2-後撰 | 727 | 逢ふ事をいさほにいてなんしのすすき忍ひはつへき物ならなくに あふことを いさほにいてなむ しのすすき しのひはつへき ものならなくに | 藤原敦忠 | 恋三 |
2-後撰 | 728 | あひみてもわかるる事のなかりせはかつかつ物はおもはさらまし あひみても わかるることの なかりせは かつかつものは おもはさらまし | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 729 | いつのまにこひしかるらん唐衣ぬれにし袖のひるまはかりに いつのまに こひしかるらむ からころも ぬれにしそての ひるまはかりに | 藤原冬嗣 | 恋三 |
2-後撰 | 730 | 別れつるほともへなくに白浪の立帰りても見まくほしきか わかれつる ほともへなくに しらなみの たちかへりても みまくほしきか | 紀貫之 | 恋三 |
2-後撰 | 731 | 人しれぬ身はいそけとも年をへてなとこえかたき相坂の関 ひとしれぬ みはいそけとも としをへて なとこえかたき あふさかのせき | 藤原伊尹 | 恋三 |
2-後撰 | 732 | あつまちにゆきかふ人にあらぬ身はいつかはこえむ相坂の関 あつまちに ゆきかふひとに あらぬみは いつかはこえむ あふさかのせき | 小野好古女 | 恋三 |
2-後撰 | 733 | つれもなき人にまけしとせし程に我もあたなは立ちそしにける つれもなき ひとにまけしと せしほとに われもあたなは たちそしにける | 藤原清正 | 恋三 |
2-後撰 | 734 | つらからぬ中にあるこそうとしといへ隔てはててしきぬにやはあらぬ つらからぬ なかにあるこそ うとしといへ へたてはててし きぬにやはあらぬ | 小野遠興かむすめ | 恋三 |
2-後撰 | 735 | ときはなる日かけのかつらけふしこそ心の色にふかく見えけれ ときはなる ひかけのかつら けふしこそ こころのいろに ふかくみえけれ | もろまさの | 恋三 |
2-後撰 | 736 | 誰となくかかるおほみにふかからん色をときはにいかかたのまん たれとなく かかるおほみに ふかからむ いろをときはに いかかたのまむ | 閑院のおほい君 | 恋三 |
2-後撰 | 737 | 講となくおほろに見えし月影にわける心を思ひしらなん たれとなく おほろにみえし つきかけに わけるこころを おもひしらなむ | 藤原清正 | 恋三 |
2-後撰 | 738 | 春をたにまたてなきぬる鴬はふるすはかりの心なりけり はるをたに またてなきぬる うくひすは ふるすはかりの こころなりけり | 本院兵衛 | 恋三 |
2-後撰 | 739 | ゆふされはわか身のみこそかなしけれいつれの方に枕さためむ ゆふされは わかみのみこそ かなしけれ いつれのかたに まくらさためむ | かねもちの女 | 恋三 |
2-後撰 | 740 | 夢にたにまたみえなくにこひしきはいつにならへる心なるらん ゆめにたに またみえなくに こひしきは いつにならへる こころなるらむ | 在原元方 | 恋三 |
2-後撰 | 741 | 思ふてふ事をそねたくふるしける君にのみこそいふへかりけれ おもふてふ ことをそねたく ふるしける きみにのみこそ いふへかりけれ | 壬生忠岑 | 恋三 |
2-後撰 | 742 | あな恋しゆきてや見ましつのくにの今も有りてふ浦のはつ島 あなこひし ゆきてやみまし つのくにの いまもありてふ うらのはつしま | 戒仙法師 | 恋三 |
2-後撰 | 743 | 月かへて君をは見むといひしかと日たにへたてすこひしきものを つきかへて きみをはみむと いひしかと ひたにへたてす こひしきものを | 紀貫之 | 恋三 |
2-後撰 | 744 | 伊勢の海にしほやくあまの藤衣なるとはすれとあはぬ君かな いせのうみに しほやくあまの ふちころも なるとはすれと あはぬきみかな | 躬恒 | 恋三 |
2-後撰 | 745 | わたのそこかつきてしらん君かため思ふ心のふかさくらへに わたのそこ かつきてしらむ きみかため おもふこころの ふかさくらへに | 坂上是則 | 恋三 |
2-後撰 | 746 | 唐衣かけてたのまぬ時そなき人のつまとは思ふものから からころも かけてたのまぬ ときそなき ひとのつまとは おもふものから | 右近 | 恋三 |
2-後撰 | 747 | あらかりし浪の心はつらけれとすこしによせしこゑそこひしき あらかりし なみのこころは つらけれと すこしによせし こゑそこひしき | 藤原守正 | 恋三 |
2-後撰 | 748 | いつ方に立ちかくれつつ見よとてかおもひくまなく人のなりゆく いつかたに たちかくれつつ みよとてか おもひくまなく ひとのなりゆく | 藤原のちかけの | 恋三 |
2-後撰 | 749 | つらきをもうきをもよそに見しかともわか身にちかき世にこそ有りけれ つらきをも うきをもよそに みしかとも わかみにちかき よにこそありけれ | 土左 | 恋三 |
2-後撰 | 750 | ふちはせになりかはるてふあすかかは渡り見てこそしるへかりけれ ふちはせに なりかはるてふ あすかかは わたりみてこそ しるへかりけれ | 在原元方 | 恋三 |
2-後撰 | 751 | いとはるる身をうれはしみいつしかとあすか河をもたのむへらなり いとはるる みをうれはしみ いつしかと あすかかはをも たのむへらなり | 伊勢 | 恋三 |
2-後撰 | 752 | あすか河せきてととむる物ならはふちせになると何かいはせん あすかかは せきてととむる ものならは ふちせになると なにかいはせむ | 藤原時平 | 恋三 |
2-後撰 | 753 | 葦たつの沢辺に年はへぬれとも心は雲のうへにのみこそ あしたつの さはへにとしは へぬれとも こころはくもの うへにのみこそ | 藤原師輔 | 恋三 |
2-後撰 | 754 | あしたつのくもゐにかかる心あらは世をへてさはにすますそあらまし あしたつの くもゐにかかる こころあらは よをへてさはに すますそあらまし | 女四のみこ | 恋三 |
2-後撰 | 755 | 松山につらきなからも浪こさむ事はさすかに悲しきものを まつやまに つらきなからも なみこさむ ことはさすかに かなしきものを | 藤原時平 | 恋三 |
2-後撰 | 756 | 夜ひのまにはやなくさめよいその神ふりにしとこもうちはらふへく よひのまに はやなくさめよ いそのかみ ふりにしとこも うちはらふへく | 藤原仲平 | 恋三 |
2-後撰 | 757 | わたつみとあれにしとこを今更にはらはは袖やあわとうきなん わたつみと あれにしとこを いまさらに はらははそてや あわとうきなむ | 伊勢 | 恋三 |
2-後撰 | 758 | しほのまにあさりするあまもおのか世世かひ有りとこそ思ふへらなれ しほのまに あさりするあまも おのかよよ かひありとこそ おもふへらなれ | 紀長谷雄 | 恋三 |
2-後撰 | 759 | あちきなくなとか松山浪こさむ事をはさらに思ひはなるる あちきなく なとかまつやま なみこさむ ことをはさらに おもひはなるる | 藤原時平 | 恋三 |
2-後撰 | 760 | 岸もなくしほしみちなは松山をしたにて浪はこさんとそ思ふ きしもなく しほしみちなは まつやまを したにてなみは こさむとそおもふ | 伊勢 | 恋三 |
2-後撰 | 761 | 世とともになけきこりつむ身にしあれはなそやまもりのあるかひもなき よとともに なけきこりつむ みにしあれは なそやまもりの あるかひもなき | 在原業平のむすめいまき | 恋三 |
2-後撰 | 762 | ひとしれぬわか物思ひの涙をは袖につけてそ見すへかりける ひとしれぬ わかものおもひの なみたをは そてにつけてそ みすへかりける | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 763 | 山のはにかかる思ひのたえさらは雲井なからもあはれとおもはん やまのはに かかるおもひの たえさらは くもゐなからも あはれとおもはむ | 藤原真忠かいもうと | 恋三 |
2-後撰 | 764 | なきなかす涙のいととそひぬれははかなきみつも袖ぬらしけり なきなかす なみたのいとと そひぬれは はかなきみつも そてぬらしけり | もろうちの | 恋三 |
2-後撰 | 765 | 夢のことはかなき物はなかりけりなにとて人にあふとみつらん ゆめのこと はかなきものは なかりけり なにとてひとに あふとみつらむ | 源たのむ | 恋三 |
2-後撰 | 766 | 思ひねのよなよな夢に逢ふ事をたたかた時のうつつともかな おもひねの よなよなゆめに あふことを たたかたときの うつつともかな | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 767 | 時のまのうつつをしのふ心こそはかなきゆめにまさらさりけれ ときのまの うつつをしのふ こころこそ はかなきゆめに まさらさりけれ | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 768 | 玉津島ふかき入江をこく舟のうきたるこひも我はするかな たまつしま ふかきいりえを こくふねの うきたるこひも われはするかな | 大伴黒主 | 恋三 |
2-後撰 | 769 | つのくにのなにはたたまくをしみこそすくもたくひのしたにこかるれ つのくにの なにはたたまく をしみこそ すくもたくひの したにこかるれ | 紀内親王 | 恋三 |
2-後撰 | 770 | 夢ちにもやとかす人のあらませはねさめにつゆははらはさらまし ゆめちにも やとかすひとの あらませは ねさめにつゆは はらはさらまし | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 771 | 涙河なかすねさめもあるものをはらふはかりのつゆやなになり なみたかは なかすねさめも あるものを はらふはかりの つゆやなになり | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 772 | みるめかる方そあふみになしときく玉もをさへやあまはかつかぬ みるめかる かたそあふみに なしときく たまもをさへや あまはかつかぬ | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 773 | 名のみして逢ふ事浪のしけきまにいつかたまもをあまはかつかん なのみして あふことなみの しけきまに いつかたまもを あまはかつかむ | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 774 | 葛木やくめちのはしにあらはこそ思ふ心をなかそらにせめ かつらきや くめちのはしに あらはこそ おもふこころを なかそらにせめ | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 775 | かくれぬにすむをしとりのこゑたえすなけとかひなき物にそ有りける かくれぬに すむをしとりの こゑたえす なけとかひなき ものにそありける | 藤原師輔 | 恋三 |
2-後撰 | 776 | つくはねの峰よりおつるみなの河恋そつもりて淵となりける つくはねの みねよりおつる みなのかは こひそつもりて ふちとなりける | 陽成院 | 恋三 |
2-後撰 | 777 | かりかねのくもゐはるかにきこえしは今は限のこゑにそありける かりかねの くもゐはるかに きこえしは いまはかきりの こゑにそありける | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 778 | 今はとて行きかへりぬるこゑならはおひ風にてもきこえましやは いまはとて ゆきかへりぬる こゑならは おひかせにても きこえましやは | 兼覧王 | 恋三 |
2-後撰 | 779 | 心からうきたる舟にのりそめてひと日も浪にぬれぬ日そなき こころから うきたるふねに のりそめて ひとひもなみに ぬれぬひそなき | 小野小町 | 恋三 |
2-後撰 | 780 | 忘れなんと思ふ心のやすからはつれなき人をうらみましやは わすれなむと おもふこころの やすからは つれなきひとを うらみましやは | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 781 | ちはやふる神ひきかけてちかひてしこともゆゆしくあらかふなゆめ ちはやふる かみひきかけて ちかひてし こともゆゆしく あらかふなゆめ | 藤原滋幹 | 恋三 |
2-後撰 | 782 | おもひには我こそいりてまとはるれあやなく君や涼しかるへき おもひには われこそいりて まとはるれ あやなくきみや すすしかるへき | 藤原師輔 | 恋三 |
2-後撰 | 783 | あらたまの年もこえぬる松山の浪の心はいかかなるらむ あらたまの としもこえぬる まつやまの なみのこころは いかかなるらむ | 元平のみこのむすめ | 恋三 |
2-後撰 | 784 | わかためはいととあさくやなりぬらん野中のし水ふかさまされは わかためは いととあさくや なりぬらむ のなかのしみつ ふかさまされは | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 785 | あふみちをしるへなくてもみてしかな関のこなたはわひしかりけり あふみちを しるへなくても みてしかな せきのこなたは わひしかりけり | 源中正 | 恋三 |
2-後撰 | 786 | 道しらてやみやはしなぬ相坂の関のあなたは海といふなり みちしらて やみやはしなぬ あふさかの せきのあなたは うみといふなり | しもつけ | 恋三 |
2-後撰 | 787 | つれなきを思ひしのふのさねかつらはてはくるをも厭ふなりけり つれなきを おもひしのふの さねかつら はてはくるをも いとふなりけり | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 788 | 今更に思ひいてしとしのふるをこひしきにこそわすれわひぬれ いまさらに おもひいてしと しのふるを こひしきにこそ わすれわひぬれ | 左太臣(実頼) | 恋三 |
2-後撰 | 789 | わかためは見るかひもなし忘草わするはかりのこひにしあらねは わかためは みるかひもなし わすれくさ わするはかりの こひにしあらねは | 紀長谷雄 | 恋三 |
2-後撰 | 790 | あひ見てもつつむ思ひのわひしきは人まにのみそねはなかれける あひみても つつむおもひの わひしきは ひとまにのみそ ねはなかれける | 藤原ありよし | 恋三 |
2-後撰 | 791 | を山田のなはしろ水はたえぬとも心の池のいひははなたし をやまたの なはしろみつは たえぬとも こころのいけの いひははなたし | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 792 | 千世へむと契りおきてし姫松のねさしそめてしやとはわすれし ちよへむと ちきりおきてし ひめまつの ねさしそめてし やとはわすれし | 読人知らず | 恋三 |
2-後撰 | 793 | これを見よ人もすさめぬ恋すとてねをなくむしのなれるすかたを これをみよ ひともすさへぬ こひすとて ねをなくむしの なれるすかたを | 源重光 | 恋三 |
2-後撰 | 794 | あひみてはなくさむやとそ思ひしになこりしもこそこひしかりけれ あひみては なくさむやとそ おもひしに なこりしもこそ こひしかりけれ | 坂上是則 | 恋三 |
2-後撰 | 795 | わか恋のかすをかそへはあまの原くもりふたかりふる雨のこと わかこひの かすをかそへは あまのはら くもりふたかり ふるあめのこと | 藤原敏行 | 恋四 |
2-後撰 | 796 | 打返し見まくそほしき故郷のやまとなてしこ色やかはれる うちかへし みまくそほしき ふるさとの やまとなてしこ いろやかはれる | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 797 | やまひこのこゑにたてても年はへぬわか物思ひをしらぬ人きけ やまひこの こゑにたてても としはへぬ わかものおもひを しらぬひときけ | 藤原仲平 | 恋四 |
2-後撰 | 798 | 玉もかるあまにはあらねとわたつみのそこひもしらす入る心かな たまもかる あまにはあらねと わたつみの そこひもしらす いるこころかな | 紀友則 | 恋四 |
2-後撰 | 799 | みるもなくめもなき海のいそにいててかへるかへるも怨みつるかな みるもなく めもなきうみの いそにいてて かへるかへるも うらみつるかな | 紀友則 | 恋四 |
2-後撰 | 800 | こりすまの浦の白浪立ちいててよるほともなくかへるはかりか こりすまの うらのしらなみ たちいてて よるほともなく かへるはかりか | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 801 | 関こえてあはつのもりのあはすともし水にみえしかけをわするな せきこえて あはつのもりの あはすとも しみつにみえし かけをわするな | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 802 | ちかけれは何かはしるし相坂の関の外そと思ひたえなん ちかけれは なにかはしるし あふさかの せきのほかそと おもひたえなむ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 803 | 今はとてこすゑにかかる空蝉のからを見むとは思はさりしを いまはとて こすゑにかかる うつせみの からをみむとは おもはさりしを | 平なかきかむすめ | 恋四 |
2-後撰 | 804 | わすらるる身をうつせみの唐衣返すはつらき心なりけり わすらるる みをうつせみの からころも かへすはつらき こころなりけり | 源巨城 | 恋四 |
2-後撰 | 805 | 影にたに見えもやするとたのみつるかひなくこひをます鏡かな かけにたに みえもやすると たのみつる かひなくこひを ますかかみかな | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 806 | 葦引の山田のそほつうちわひてひとりかへるのねをそなきぬる あしひきの やまたのそほつ うちわひて ひとりかへるの ねをそなきぬる | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 807 | たねはあれと逢ふ事かたきいはのうへの松にて年をふるはかひなし たねはあれと あふことかたき いはのうへの まつにてとしを ふるはかひなし | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 808 | ひたすらにいとひはてぬる物ならはよしのの山にゆくへしられし ひたすらに いとひはてぬる ものならは よしののやまに ゆくへしられし | 藤原時平 | 恋四 |
2-後撰 | 809 | わかやととたのむ吉野に君しいらはおなしかさしをさしこそはせめ わかやとと たのむよしのに きみしいらは おなしかさしを さしこそはせめ | 伊勢 | 恋四 |
2-後撰 | 810 | 紅に袖をのみこそ染めてけれ君をうらむる涙かかりて くれなゐに そてをのみこそ そめてけれ きみをうらむる なみたかかりて | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 811 | 紅に涙うつるとききしをはなといつはりとわか思ひけん くれなゐに なみたうつると ききしをは なといつはりと われおもひけむ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 812 | くれなゐに涙しこくは緑なる袖も紅葉と見えましものを くれなゐに なみたしこくは みとりなる そてももみちと みえましものを | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 813 | いにしへの野中のし水見るからにさしくむ物は涙なりけり いにしへの のなかのしみつ みるからに さしくむものは なみたなりけり | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 814 | あまくものはるるよもなくふる物は袖のみぬるる涙なりけり あまくもの はるるよもなく ふるものは そてのみぬるる なみたなりけり | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 815 | 逢ふ事のかたふたかりて君こすは思ふ心のたかふはかりそ あふことの かたふたかりて きみこすは おもふこころの たかふはかりそ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 816 | ときはにとたのめし事は松ほとのひさしかるへき名にこそありけれ ときはにと たのめしことは まつほとの ひさしかるへき なにこそありけれ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 817 | こさまさる涙の色もかひそなき見すへき人のこの世ならねは こさまさる なみたのいろも かひそなき みすへきひとの このよならねは | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 818 | 住吉の岸にきよするおきつ浪まなくかけてもおもほゆるかな すみよしの きしにきよする おきつなみ まなくかけても おもほゆるかな | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 819 | すみの江のめにちかからは岸にゐて浪のかすをもよむへきものを すみのえの めにちかからは きしにゐて なみのかすをも よむへきものを | 伊勢 | 恋四 |
2-後撰 | 820 | こひてへむと思ふ心のわりなさはしにてもしれよわすれかたみに こひてへむと おもふこころの わりなさは しにてもしれよ わすれかたみに | 伊勢 | 恋四 |
2-後撰 | 821 | もしもやとあひ見む事をたのますはかくふるほとにまつそけなまし もしもやと あひみむことを たのますは かくふるほとに まつそけなまし | 藤原時平 | 恋四 |
2-後撰 | 822 | あふとたにかたみにみゆる物ならはわするるほともあらましものを あふとたに かたみにみゆる ものならは わするるほとも あらましものを | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 823 | おとにのみ声をきくかなあしひきの山した水にあらぬものから おとにのみ こゑをきくかな あしひきの やましたみつに あらぬものから | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 824 | 秋とてや今は限の立ちぬらんおもひにあへぬ物ならなくに あきとてや いまはかきりの たちぬらむ おもひにあへぬ ものならなくに | 伊勢 | 恋四 |
2-後撰 | 825 | 見し夢の思ひいてらるるよひことにいはぬをしるは涙なりけり みしゆめの おもひいてらるる よひことに いはぬをしるは なみたなりけり | 伊勢 | 恋四 |
2-後撰 | 826 | 白露のおきてあひ見ぬ事よりはきぬ返しつつねなんとそ思ふ しらつゆの おきてあひみぬ ことよりは きぬかへしつつ ねなむとそおもふ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 827 | 事のははなけなる物といひなからおもはぬためは君もしるらん ことのはは なけなるものと いひなから おもはぬためは きみもしるらむ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 828 | 白浪の打ちいつるはまのはまちとり跡やたつぬるしるへなるらん しらなみの うちいつるはまの はまちとり あとやたつぬる しるへなるらむ | 朝忠 | 恋四 |
2-後撰 | 829 | おほしまに水をはこひしはや舟のはやくも人にあひみてしかな おほしまに みつをはこひし はやふねの はやくもひとに あひみてしかな | 大江朝綱 | 恋四 |
2-後撰 | 830 | ひたふるに思ひなわひそふるさるる人の心はそれそよのつね ひたふるに おもひなわひそ ふるさるる ひとのこころは それそよのつね | 藤原時平 | 恋四 |
2-後撰 | 831 | 世のつねの人の心をまたみねはなにかこのたひけぬへきものを よのつねの ひとのこころを またみねは なにかこのたひ けぬへきものを | 伊勢 | 恋四 |
2-後撰 | 832 | すみそめのくらまの山にいる人はたとるたとるも帰りきななん すみそめの くらまのやまに いるひとは たとるたとるも かへりきななむ | 平なかきかむすめ | 恋四 |
2-後撰 | 833 | 日をへても影に見ゆるはたまかつらつらきなからもたえぬなりけり ひをへても かけにみゆるは たまかつら つらきなからも たえぬなりけり | 伊勢 | 恋四 |
2-後撰 | 834 | 高砂の松を緑と見し事はしたのもみちをしらぬなりけり たかさこの まつをみとりと みしことは したのもみちを しらぬなりけり | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 835 | 時わかね松の緑も限なきおもひには猶色やもゆらん ときわかぬ まつのみとりも かきりなき おもひにはなほ いろやもゆらむ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 836 | 水鳥のはかなきあとに年をへてかよふはかりのえにこそ有りけれ みつとりの はかなきあとに としをへて かよふはかりの えにこそありけれ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 837 | 浪のうへに跡やは見ゆる水鳥のうきてへぬらん年はかすかは なみのうへに あとやはみゆる みつとりの うきてへぬらむ としはかすかは | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 838 | 流れよるせせの白浪あさけれはとまるいな舟かへるなるへし なかれよる せせのしらなみ あさけれは とまるいなふね かへるなるへし | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 839 | もかみ河ふかきにもあへすいな舟の心かるくも帰るなるかな もかみかは ふかきにもあへす いなふねの こころかろくも かへるなるかな | 藤原定方 | 恋四 |
2-後撰 | 840 | 花すすきほにいつる事もなきものをまたき吹きぬる秋の風かな はなすすき ほにいつることも なきものを またきふきぬる あきのかせかな | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 841 | またさりし秋はきぬれとみし人の心はよそになりもゆくかな またさりし あきはきぬれと みしひとの こころはよそに なりもゆくかな | なかきかむすめ | 恋四 |
2-後撰 | 842 | 君を思ふ心なかさは秋の夜にいつれまさるとそらにしらなん きみをおもふ こころなかさは あきのよに いつれまさると そらにしらなむ | 源是茂 | 恋四 |
2-後撰 | 843 | 鏡山あけてきつれは秋きりのけさやたつらんあふみてふなは かかみやま あけてきつれは あききりの けさやたつらむ あふみてふなは | 坂上つねかけ | 恋四 |
2-後撰 | 844 | 枝もなく人にをらるる女郎花ねをたにのこせうゑしわかため えたもなく ひとにをらるる をみなへし ねをたにのこせ うゑしわかため | 平まれよの | 恋四 |
2-後撰 | 845 | 秋の田のかりそめふしもしてけるかいたつらいねをなににつままし あきのたの かりそめふしも してけるか いたつらいねを なににつままし | 藤原成国 | 恋四 |
2-後撰 | 846 | 秋風の吹くにつけてもとはぬかな荻の葉ならはおとはしてまし あきかせの ふくにつけても とはぬかな をきのはならは おとはしてまし | 中務 | 恋四 |
2-後撰 | 847 | 君見すていく世へぬらん年月のふるとともにもおつるなみたか きみみすて いくよへぬらむ としつきの ふるとともにも おつるなみたか | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 848 | 中中に思ひかけては唐衣身になれぬをそうらむへらなる なかなかに おもひかけては からころも みになれぬをそ うらむへらなる | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 849 | 怨むともかけてこそみめ唐衣身になれぬれはふりぬとかきく うらむとも かけてこそみめ からころも みになれぬれは ふりぬとかきく | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 850 | なけけともかひなかりけり世中になににくやしく思ひそめけむ なけけとも かひなかりけり よのなかに なににくやしく おもひそめけむ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 851 | こぬ人を松のえにふる白雪のきえこそかへれくゆる思ひに こぬひとを まつのえにふる しらゆきの きえこそかへれ くゆるおもひに | 承香殿中納言 | 恋四 |
2-後撰 | 852 | 菊の花うつる心をおくしもにかへりぬへくもおもほゆるかな きくのはな うつるこころを おくしもに かへりぬへくも おもほゆるかな | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 853 | 今はとてうつりはてにし菊の花かへる色をはたれかみるへき いまはとて うつりはてにし きくのはな かへるいろをは たれかみるへき | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 854 | なかめしてもりもわひぬる人めかないつかくもまのあらんとすらん なかめして もりもわひぬる ひとめかな いつかくもまの あらむとすらむ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 855 | おなしくは君とならひの池にこそ身をなけつとも人にきかせめ おなしくは きみとならひの いけにこそ みをなけつとも ひとにきかせめ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 856 | かけろふのほのめきつれはゆふくれの夢かとのみそ身をたとりつる かけろふの ほのめきつれは ゆふくれの ゆめかとのみそ みをたとりつる | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 857 | ほのみてもめなれにけりときくからにふしかへりこそしなまほしけれ ほのみても めなれにけりと きくからに ふしかへりこそ しなまほしけれ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 858 | あふみてふ方のしるへもえてしかな見るめなきことゆきてうらみん あふみてふ かたのしるへも えてしかな みるめなきこと ゆきてうらみむ | 源よしの | 恋四 |
2-後撰 | 859 | 相坂の関ともらるる我なれは近江てふらん方もしられす あふさかの せきともらるる われなれは あふみてふらむ かたもしられす | 春澄善縄女 | 恋四 |
2-後撰 | 860 | 葦引の山した水のこかくれてたきつ心をせきそかねつる あしひきの やましたみつの こかくれて たきつこころを せきそかねつる | よしの | 恋四 |
2-後撰 | 861 | こかくれてたきつ山水いつれかはめにしも見ゆるおとにこそきけ こかくれて たきつやまみつ いつれかは めにしもみゆる おとにこそきけ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 862 | 暁のなからましかは白露のおきてわひしき別せましや あかつきの なからましかは しらつゆの おきてわひしき わかれせましや | 紀貫之 | 恋四 |
2-後撰 | 863 | おきて行く人の心をしらつゆの我こそまつは思ひきえぬれ おきてゆく ひとのこころを しらつゆの われこそまつは おもひきえぬれ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 864 | 高砂の松といひつつ年をへてかはらぬ色ときかはたのまむ たかさこの まつといひつつ としをへて かはらぬいろと きかはたのまむ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 865 | 風をいたみくゆる煙のたちいてても猶こりすまのうらそこひしき かせをいたみ くゆるけふりの たちいてても なほこりすまの うらそこひしき | 紀貫之 | 恋四 |
2-後撰 | 866 | いはねともわか限なき心をは雲ゐにとほき人もしらなん いはねとも わかかきりなき こころをは くもゐにとほき ひともしらなむ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 867 | 君かねにくらふの山の郭公いつれあたなるこゑまさるらん きみかねに くらふのやまの ほとときす いつれあたなる こゑまさるらむ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 868 | こひてぬる夢ちにかよふたましひのなるるかひなくうとききみかな こひてぬる ゆめちにかよふ たましひの なるるかひなく うとききみかな | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 869 | かかり火にあらぬおもひのいかなれは涙の河にうきてもゆらん かかりひに あらぬおもひの いかなれは なみたのかはに うきてもゆらむ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 870 | まちくらす日はすかのねにおもほえてあふよしもなとたまのをならん まちくらす ひはすかのねに おもほえて あふよしもなと たまのをならむ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 871 | はかなかる夢のしるしにはかられてうつつにまくる身とやなりなん はかなかる ゆめのしるしに はかられて うつつにまくる みとやなりなむ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 872 | 思ひねの夢といひてもやみなまし中中なにに有りとしりけん おもひねの ゆめといひても やみなまし なかなかなにに ありとしりけむ | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 873 | いつしかのねになきかへりこしかとものへのあさちは色つきにけり いつしかの ねになきかへり こしかとも のへのあさちは いろつきにけり | 忠房 | 恋四 |
2-後撰 | 874 | ひきまゆのかくふたこもりせまほしみくはこきたれてなくを見せはや ひきまゆの かくふたこもり せまほしみ くはこきたれて なくをみせはや | 忠房 | 恋四 |
2-後撰 | 875 | 関山の峰のすきむらすきゆけと近江は猶そはるけかりける せきやまの みねのすきむら すきゆけと あふみはなほそ はるけかりける | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 876 | 思ひいてておとつれしける山ひこのこたへにこりぬ心なになり おもひいてて おとつれしける やまひこの こたへにこりぬ こころなになり | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 877 | まとろまぬものからうたてしかすかにうつつにもあらぬ心地のみする まとろまぬ ものからうたて しかすかに うつつにもあらぬ ここちのみする | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 878 | うつつにもあらぬ心は夢なれや見てもはかなき物を思へは うつつにも あらぬこころは ゆめなれや みてもはかなき ものをおもへは | 読人知らず | 恋四 |
2-後撰 | 879 | 限なく思ひいり日のともにのみ西の山へをなかめやるかな かきりなく おもひいりひの ともにのみ にしのやまへを なかめやるかな | 小野道風 | 恋四 |
2-後撰 | 880 | 君かなの立つにとかなき身なりせはおほよそ人になしてみましや きみかなの たつにとかなき みなりせは おほよそひとに なしてみましや | 忠房 | 恋四 |
2-後撰 | 881 | たえぬると見れはあひぬる白雲のいとおほよそにおもはすもかな たえぬると みれはあひぬる しらくもの いとおほよそに おもはすもかな | 女五のみこ | 恋四 |
2-後撰 | 882 | けふそへにくれさらめやはとおもへともたへぬは人の心なりけり けふそへに くれさらめやはと おもへとも たへぬはひとの こころなりけり | 藤原敦忠 | 恋四 |
2-後撰 | 883 | いとかくてやみぬるよりはいなつまのひかりのまにも君をみてしか いとかくて やみぬるよりは いなつまの ひかりのまにも きみをみてしか | 大輔 | 恋四 |
2-後撰 | 884 | いたつらに立帰りにし白浪のなこりに袖のひる時もなし いたつらに たちかへりにし しらなみの なこりにそての ひるときもなし | 朝忠 | 恋四 |
2-後撰 | 885 | 何にかは袖のぬるらん白浪のなこり有りけも見えぬ心を なににかは そてのぬるらむ しらなみの なこりありけも みえぬこころを | 大輔 | 恋四 |
2-後撰 | 886 | ちかひても猶思ふにはまけにけりたかためをしきいのちならねは ちかひても なほおもふには まけにけり たかためをしき いのちならねは | 蔵内侍 | 恋四 |
2-後撰 | 887 | なにはめにみつとはなしにあしのねのよのみしかくてあくるわひしさ なにはめに みつとはなしに あしのねの よのみしかくて あくるわひしさ | 道風 | 恋四 |
2-後撰 | 888 | かへるへき方もおほえす涙河いつれかわたるあさせなるらむ かへるへき かたもおほえす なみたかは いつれかわたる あさせなるらむ | 道風 | 恋四 |
2-後撰 | 889 | 涙河いかなるせよりかへりけん見なるるみをもあやしかりしを なみたかは いかなるせより かへりけむ みなるるみをも あやしかりしを | 大輔 | 恋四 |
2-後撰 | 890 | 池水のいひいつる事のかたけれはみこもりなからとしそへにける いけみつの いひいつることの かたけれは みこもりなから としそへにける | 藤原敦忠 | 恋四 |
2-後撰 | 891 | 伊勢の海に遊ふあまともなりにしか浪かきわけてみるめかつかむ いせのうみに あそふあまとも なりにしか なみかきわけて みるめかつかむ | 在原業平 | 恋五 |
2-後撰 | 892 | おほろけのあまやはかつくいせの海の浪高き浦におふるみるめは おほろけの あまやはかつく いせのうみの なみたかきうらに おふるみるめは | 伊勢 | 恋五 |
2-後撰 | 893 | つらしとやいひはててまし白露の人に心はおかしと思ふを つらしとや いひはててまし しらつゆの ひとにこころは おかしとおもふを | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 894 | なからへは人の心も見るへきに露の命そ悲しかりける なからへは ひとのこころも みるへきに つゆのいのちそ かなしかりける | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 895 | ひとりぬる時はまたるる鳥のねもまれにあふよはわひしかりけり ひとりぬる ときはまたるる とりのねも まれにあふよは わひしかりけり | 小野小町かあね | 恋五 |
2-後撰 | 896 | 空蝉のむなしくからになるまてもわすれんと思ふ我ならなくに うつせみの むなしきからに なるまても わすれむとおもふ われならなくに | 深養父 | 恋五 |
2-後撰 | 897 | いつまてのはかなき人の事のはか心の秋の風をまつらむ いつまての はかなきひとの ことのはか こころのあきの かせをまつらむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 898 | うたたねの夢はかりなる逢ふ事を秋のよすから思ひつるかな うたたねの ゆめはかりなる あふことを あきのよすから おもひつるかな | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 899 | 秋の夜の草のとさしのわひしきはあくれとあけぬ物にそ有りける あきのよの くさのとさしの わひしきは あくれとあけぬ ものにそありける | 藤原兼輔 | 恋五 |
2-後撰 | 900 | いふからにつらさそまさる秋のよの草のとさしにさはるへしやは いふからに つらさそまさる あきのよの くさのとさしに さはるへしやは | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 901 | 人しれす物思ふころのわか袖は秋の草はにおとらさりけり ひとしれす ものおもふころの わかそては あきのくさはに おとらさりけり | さたかすのみこ | 恋五 |
2-後撰 | 902 | しつはたに思ひみたれて秋の夜のあくるもしらすなけきつるかな しつはたに おもひみたれて あきのよの あくるもしらす なけきつるかな | 藤原時平 | 恋五 |
2-後撰 | 903 | はちすはのうへはつれなきうらにこそ物あらかひはつくといふなれ はちすはの うへはつれなき うらにこそ ものあらかひは つくといふなれ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 904 | ふりやめはあとたに見えぬうたかたのきえてはかなきよをたのむかな ふりやめは あとたにみえぬ うたかたの きえてはかなき よをたのむかな | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 905 | あはてのみあまたのよをもかへるかな人めのしけき相坂にきて あはてのみ あまたのよをも かへるかな ひとめのしけき あふさかにきて | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 906 | なひく方有りけるものをなよ竹の世にへぬ物と思ひけるかな なひくかた ありけるものを なよたけの よにへぬものと おもひけるかな | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 907 | ねになけは人わらへなりくれ竹の世にへぬをたにかちぬとおもはん ねになけは ひとわらへなり くれたけの よにへぬをたに かちぬとおもはむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 908 | 伊勢のあまと君しなりなはおなしくは恋しきほとにみるめからせよ いせのあまと きみしなりなは おなしくは こひしきほとに みるめからせよ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 909 | こひしくは影をたに見てなくさめよわかうちとけてしのふかほなり こひしくは かけをたにみて なくさめよ わかうちとけて しのふかほなり | 一条 | 恋五 |
2-後撰 | 910 | 影見れはいとと心そまとはるるちかからぬけのうときなりけり かけみれは いととこころそ まとはるる ちかからぬけの うときなりけり | 伊勢 | 恋五 |
2-後撰 | 911 | 人ことのうきをもしらすありかせし昔なからのわか身ともかな ひとことの うきをもしらす ありかせし むかしなからの わかみともかな | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 912 | 郭公なつきそめてしかひもなくこゑをよそにもききわたるかな ほとときす なつきそめてし かひもなく こゑをよそにも ききわたるかな | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 913 | つねよりもおきうかりつる暁はつゆさへかかる物にそ有りける つねよりも おきうかりつる あかつきは つゆさへかかる ものにそありける | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 914 | おく霜の暁おきをおもはすは君かよとのによかれせましや おくしもの あかつきおきを おもはすは きみかよとのに よかれせましや | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 915 | 霜おかぬ春よりのちのなかめにもいつかは君かよかれせさりし しもおかぬ はるよりのちの なかめにも いつかはきみか よかれせさりし | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 916 | 伊勢の海のあまのまてかたいとまなみなからへにける身をそうらむる いせのうみの あまのまてかた いとまなみ なからへにける みをそうらむる | 源英明 | 恋五 |
2-後撰 | 917 | 逢ふ事のかたのへとてそ我はゆく身をおなしなに思ひなしつつ あふことの かたのへとてそ われはゆく みをおなしなに おもひなしつつ | 藤原ためよ | 恋五 |
2-後撰 | 918 | 君かあたり雲井に見つつ宮ち山うちこえゆかん道もしらなく きみかあたり くもゐにみつつ みやちやま うちこえゆかむ みちもしらなく | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 919 | 思ふてふ事のはいかになつかしなのちうき物とおもはすもかな おもふてふ ことのはいかに なつかしな のちうきものと おもはすもかな | 俊子 | 恋五 |
2-後撰 | 920 | 思ふてふ事こそうけれくれ竹のよにふる人のいはぬなけれは おもふてふ ことこそうけれ くれたけの よにふるひとの いはぬなけれは | 兼茂るのむすめ | 恋五 |
2-後撰 | 921 | おもはむと我をたのめし事のはは忘草とそ今はなるらし おもはむと われをたのめし ことのはは わすれくさとそ いまはなるらし | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 922 | 今まてもきえて有りつるつゆの身はおくへきやとのあれはなりけり いままても きえてありつる つゆのみは おくへきやとの あれはなりけり | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 923 | 事のはもみな霜かれに成りゆくはつゆのやとりもあらしとそ思ふ ことのはも みなしもかれに なりゆくは つゆのやとりも あらしとそおもふ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 924 | 忘れむといひし事にもあらなくに今は限と思ふものかは わすれむと いひしことにも あらなくに いまはかきりと おもふものかは | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 925 | うつつにはふせとねられすおきかへり昨日の夢をいつかわすれん うつつには ふせとねられす おきかへり きのふのゆめを いつかわすれむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 926 | ささらなみまなくたつめる浦をこそ世にあさしともみつつわすれめ ささらなみ まなくたつめる うらをこそ よにあさしとも みつつわすれめ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 927 | 伊勢の海のちひろのはまにひろふとも今は何てふかひかあるへき いせのうみの ちひろのはまに ひろふとも いまはなにてふ かひかあるへき | 藤原敦忠 | 恋五 |
2-後撰 | 928 | わすれねといひしにかなふ君なれととはぬはつらき物にそ有りける わすれねと いひしにかなふ きみなれと とはぬはつらき ものにそありける | 本院のくら | 恋五 |
2-後撰 | 929 | 春霞はかなくたちてわかるとも風より外に誰かとふへき はるかすみ はかなくたちて わかるとも かせよりほかに たれかとふへき | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 930 | めにみえぬ風に心をたくへつつやらは霞のわかれこそせめ めにみえぬ かせにこころを たくへつつ やらはかすみの わかれこそせめ | 伊勢 | 恋五 |
2-後撰 | 931 | ふか緑染めけん松のえにしあらはうすき袖にも浪はよせてん ふかみとり そめけむまつの えにしあらは うすきそてにも なみはよせてむ | さたもとのみこ | 恋五 |
2-後撰 | 932 | 松山のすゑこす浪のえにしあらは君か袖にはあともとまらし まつやまの すゑこすなみの えにしあらは きみかそてには あともとまらし | 土左 | 恋五 |
2-後撰 | 933 | 深く思ひそめつといひし事のははいつか秋風ふきてちりぬる ふかくおもひ そめつといひし ことのはは いつかあきかせ ふきてちりぬる | 藤原時平 | 恋五 |
2-後撰 | 934 | 人をのみうらむるよりは心からこれいまさりしつみとおもはん ひとをのみ うらむるよりは こころから これいまさりし つみとおもはむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 935 | 葦引の山したしけくゆく水の流れてかくしとははたのまん あしひきの やましたしけく ゆくみつの なかれてかくし とははたのまむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 936 | わひはつる時さへ物のかなしきはいつこを忍ふ心なるらん わひはつる ときさへものの かなしきは いつこをしのふ こころなるらむ | 伊勢 | 恋五 |
2-後撰 | 937 | いなせともいひはなたれすうき物は身を心ともせぬ世なりけり いなせとも いひはなたれす うきものは みをこころとも せぬよなりけり | 伊勢 | 恋五 |
2-後撰 | 938 | こすやあらんきやせんとのみ河岸の松の心を思ひやらなん こすやあらむ きやせむとのみ かはきしの まつのこころを おもひやらなむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 939 | しひてゆくこまのあしをるはしをたになとわかやとにわたささりけん しひてゆく こまのあしをる はしをたに なとわかやとに わたささりけむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 940 | 年をへていけるかひなきわか身をは何かは人に有りとしられん としをへて いけるかひなき わかみをは なにかはひとに ありとしられむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 941 | あさりする時そわひしき人しれすなにはの浦にすまふわか身は あさりする ときそわひしき ひとしれす なにはのうらに すまふわかみは | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 942 | なかめつつ人まつよひのよふことりいつ方へとか行きかへるらむ なかめつつ ひとまつよひの よふことり いつかたへとか ゆきかへるらむ | 寛湛法師母 | 恋五 |
2-後撰 | 943 | 人ことのたのみかたさはなにはなるあしのうらはのうらみつへしな ひとことの たのみかたさは なにはなる あしのうらはの うらみつへしな | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 944 | 人はかる心のくまはきたなくてきよきなきさをいかてすきけん ひとはかる こころのくまは きたなくて きよきなきさを いかてすきけむ | 少将内侍 | 恋五 |
2-後撰 | 945 | たかためにわれかいのちを長浜の浦にやとりをしつつかはこし たかために われかいのちを なかはまの うらにやとりを しつつかはこし | 藤原兼輔 | 恋五 |
2-後撰 | 946 | せきもあへす淵にそ迷ふ涙河わたるてふせをしるよしもかな せきもあへす ふちにそまよふ なみたかは わたるてふせを しるよしもかな | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 947 | 淵なから人かよはさし涙河わたらはあさきせをもこそ見れ ふちなから ひとかよはさし なみたかは わたらはあさき せをもこそみれ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 948 | きて帰る名をのみそ立つ唐衣したゆふひもの心とけねは きてかへる なをのみそたつ からころも したゆふひもの こころとけねは | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 949 | たえぬとも何思ひけん涙河流れあふせも有りけるものを たえぬとも なにおもひけむ なみたかは なかれあふせも ありけるものを | 内侍たひらけい子 | 恋五 |
2-後撰 | 950 | 今ははやみ山をいてて郭公けちかきこゑを我にきかせよ いまははや みやまをいてて ほとときす けちかきこゑを われにきかせよ | 左太臣(実頼) | 恋五 |
2-後撰 | 951 | 人はいさみ山かくれの郭公ならはぬさとはすみうかるへし ひとはいさ みやまかくれの ほとときす ならはぬさとは すみうかるへし | 大輔 | 恋五 |
2-後撰 | 952 | 有りしたにうかりしものをあかすとていつこにそふるつらさなるらん ありしたに うかりしものを あかすとて いつこにそふる つらさなるらむ | 中務 | 恋五 |
2-後撰 | 953 | 思ひわひ君かつらきにたちよらは雨も人めももらささらなん おもひわひ きみかつらきに たちよらは あめもひとめも もらささらなむ | 左太臣(実頼) | 恋五 |
2-後撰 | 954 | ふえ竹の本のふるねはかはるともおのかよよにはならすもあらなん ふえたけの もとのふるねは かはるとも おのかよよには ならすもあらなむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 955 | めも見えす涙の雨のしくるれは身のぬれきぬはひるよしもなし めもみえす なみたのあめの しくるれは みのぬれきぬは ひるよしもなし | よしふるの | 恋五 |
2-後撰 | 956 | にくからぬ人のきせけんぬれきぬは思ひにあへす今かわきなん にくからぬ ひとのきせけむ ぬれきぬは おもひにあへす いまかわきなむ | 中将内侍 | 恋五 |
2-後撰 | 957 | おほかたはせとたにかけしあまの河ふかき心をふちとたのまん おほかたは せとたにかけし あまのかは ふかきこころを ふちとたのまむ | 小野道風 | 恋五 |
2-後撰 | 958 | 淵とてもたのみやはする天河年にひとたひわたるてふせを ふちとても たのみやはする あまのかは としにひとたひ わたるてふせを | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 959 | 身のならん事をもしらすこく舟は浪の心もつつまさりけり みのならむ ことをもしらす こくふねは なみのこころも つつまさりけり | きよかけの | 恋五 |
2-後撰 | 960 | わひぬれは今はたおなしなにはなる身をつくしてもあはんとそ思ふ わひぬれは いまはたおなし なにはなる みをつくしても あはむとそおもふ | 元良親王 | 恋五 |
2-後撰 | 961 | 如何してかく思ふてふ事をたに人つてならて君にかたらん いかにして かくおもふてふ ことをたに ひとつてならて きみにかたらむ | 藤原敦忠 | 恋五 |
2-後撰 | 962 | もろともにいさといはすはしての山こゆともこさむ物ならなくに もろともに いさといはすは してのやま こゆともこさむ ものならなくに | 朝忠 | 恋五 |
2-後撰 | 963 | かくはかりふかき色にもうつろふを猶きみきくの花といはなん かくはかり ふかきいろにも うつろふを なほきみきくの はなといはなむ | きよかけの | 恋五 |
2-後撰 | 964 | いさやまた人の心も白露のおくにもとにも袖のみそひつ いさやまた ひとのこころも しらつゆの おくにもとにも そてのみそひつ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 965 | よるしほのみちくるそらもおもほえすあふこと浪に帰ると思へは よるしほの みちくるそらも おもほえす あふことなみに かへるとおもへは | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 966 | かすならぬ身は山のはにあらねともおほくの月をすくしつるかな かすならぬ みはやまのはに あらねとも おほくのつきを すくしつるかな | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 967 | たのめつつあはて年ふるいつはりにこりぬ心を人はしらなん たのめつつ あはてとしふる いつはりに こりぬこころを ひとはしらなむ | 在原業平 | 恋五 |
2-後撰 | 968 | 夏虫のしるしる迷ふおもひをはこりぬかなしとたれかみさらん なつむしの しるしるまよふ おもひをは こりぬかなしと たれかみさらむ | 伊勢 | 恋五 |
2-後撰 | 969 | 打ちわひてよははむ声に山ひこのこたへぬそらはあらしとそ思ふ うちわひて よははむこゑに やまひこの こたへぬやまは あらしとそおもふ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 970 | 山ひこのこゑのまにまにとひゆかはむなしきそらにゆきやかへらん やまひこの こゑのまにまに とひゆかは むなしきそらに ゆきやかへらむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 971 | 荒玉の年の三とせはうつせみのむなしきねをやなきてくらさむ あらたまの としのみとせは うつせみの むなしきねをや なきてくらさむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 972 | 流れいつる涙の河のゆくすゑはつひに近江のうみとたのまん なかれいつる なみたのかはの ゆくすゑは つひにあふみの うみとたのまむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 973 | 雨ふれとふらねとぬるるわか袖のかかるおもひにかわかぬやなそ あめふれと ふらねとぬるる わかそての かかるおもひに かわかぬやなそ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 974 | 露はかりぬるらん袖のかわかぬは君か思ひのほとやすくなき つゆはかり ぬるらむそての かわかぬは きみかおもひの ほとやすくなき | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 975 | 常よりもまとふまとふそ帰りつるあふ道もなきやとにゆきつつ つねよりも まとふまとふそ かへりつる あふみちもなき やとにゆきつつ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 976 | ぬれつつもくると見えしは夏引のてひきにたえぬいとにや有りけん ぬれつつも くるとみえしは なつひきの てひきにたえぬ いとにやありけむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 977 | かすならぬ身はうき草となりななんつれなき人によるへしられし かすならぬ みはうきくさと なりななむ つれなきひとに よるへしられし | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 978 | ゆふやみは道も見えねと旧里は本こし駒にまかせてそくる ゆふやみは みちもみえねと ふるさとは もとこしこまに まかせてそくる | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 979 | 駒にこそまかせたりけれあやなくも心のくると思ひけるかな こまにこそ まかせたりけれ あやなくも こころのくると おもひけるかな | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 980 | いつ方に事つてやりてかりかねのあふことまれに今はなるらん いつかたに ことつてやりて かりかねの あふことまれに いまはなるらむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 981 | 有りとたにきくへきものを相坂の関のあなたそはるけかりける ありとたに きくへきものを あふさかの せきのあなたそ はるけかりける | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 982 | 関もりかあらたまるてふ相坂のゆふつけ鳥はなきつつそゆく せきもりか あらたまるてふ あふさかの ゆふつけとりは なきつつそゆく | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 983 | ゆき帰りきてもきかなん相坂の関にかはれる人も有りやと ゆきかへり きてもきなかむ あふさかの せきにかはれる ひともありやと | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 984 | もる人のあるとはきけと相坂のせきもととめぬわかなみたかな もるひとの あるとはきけと あふさかの せきもととめぬ わかなみたかな | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 985 | 葛木やくめちにわたすいははしの中中にても帰りぬるかな かつらきや くめちにわたす いははしの なかなかにても かへりぬるかな | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 986 | 中たえてくる人もなきかつらきのくめちのはしはいまもあやふし なかたえて くるひともなき かつらきの くめちのはしは いまもあやふし | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 987 | 白雲のみなひとむらに見えしかとたちいてて君を思ひそめてき しらくもの みなひとむらに みえしかと たちいててきみを おもひそめてき | 藤原有好 | 恋五 |
2-後撰 | 988 | よそなれと心はかりはかけたるをなとかおもひにかわかさるらん よそなれと こころはかりは かけたるを なとかおもひに かわかさるらむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 989 | わかこひのきゆるまもなくくるしきはあはぬ歎やもえわたるらん わかこひの きゆるまもなく くるしきは あはぬなけきや もえわたるらむ | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 990 | きえすのみもゆる思ひはとほけれと身もこかれぬる物にそ有りける きえすのみ もゆるおもひは とほけれと みもこかれぬる ものにそありける | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 991 | うへにのみおろかにもゆるかやり火のよにもそこには思ひこかれし うへにのみ おろかにもゆる かやりひの よにもそこには おもひこかれし | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 992 | 河とのみわたるを見るになくさまてくるしきことそいやまさりなる かはとのみ わたるをみるに なくさまて くるしきことそ いやまさりなる | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 993 | 水まさる心地のみしてわかためにうれしきせをは見せしとやする みつまさる ここちのみして わかために うれしきせをは みせしとやする | 読人知らず | 恋五 |
2-後撰 | 994 | 逢ふ事をよとに有りてふみつのもりつらしと君を見つるころかな あふことを よとにありてふ みつのもり つらしときみを みつるころかな | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 995 | みつのもりもるこのころのなかめには怨みもあへすよとの河浪 みつのもり もるこのころの なかめには うらみもあへす よとのかはなみ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 996 | うき世とは思ふものからあまのとのあくるはつらき物にそ有りける うきよとは おもふものから あまのとの あくるはつらき ものにそありける | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 997 | うらむれとこふれと君かよとともにしらすかほにてつれなかるらん うらむれと こふれときみか よとともに しらすかほにて つれなかるらむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 998 | 怨むともこふともいかか雲井よりはるけき人をそらにしるへき うらむとも こふともいかか くもゐより はるけきひとを そらにしるへき | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 999 | しつはたにへつるほとなり白糸のたえぬる身とはおもはさらなん しつはたに へつるほとなり しらいとの たえぬるみとは おもはさらなむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1000 | へつるよりうすくなりにししつはたのいとはたえてもかひやなからん へつるより うすくなりにし しつはたの いとはたえても かひやなからむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1001 | くる事は常ならすともたまかつらたのみはたえしと思ふ心あり くることは つねならすとも たまかつら たのみはたえしと おもふこころあり | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1002 | 玉鬘たのめくる日のかすはあれとたえたえにてはかひなかりけり たまかつら たのめくるひの かすはあれと たえたえにては かひなかりけり | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1003 | いにしへの心はなくや成りにけんたのめしことのたえてとしふる いにしへの こころはなくや なりにけむ たのめしことの たえてとしふる | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1004 | いにしへも今も心のなけれはそうきをもしらて年をのみふる いにしへも いまもこころの なけれはそ うきをもしらて としをのみふる | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1005 | たえたりし昔たに見しうちはしを今はわたるとおとにのみきく たえたりし むかしたにみし うちはしを いまはわたると おとにのみきく | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1006 | わすられて年ふるさとの郭公なににひとこゑなきてゆくらん わすられて としふるさとの ほとときす なににひとこゑ なきてゆくらむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1007 | とふやとてすきなきやとにきにけれとこひしきことそしるへなりける とふやとて すきなきやとに きにけれと こひしきことそ しるへなりける | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1008 | 露のいのちいつともしらぬ世中になとかつらしと思ひおかるる つゆのいのち いつともしらぬ よのなかに なとかつらしと おもひおかるる | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1009 | かり人のたつぬるしかはいなひのにあはてのみこそあらまほしけれ かりひとの たつぬるしかは いなみのに あはてのみこそ あらまほしけれ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1010 | を山田の水ならなくにかくはかり流れそめてはたえんものかは をやまたの みつならなくに かくはかり なかれそめては たえむものかは | 藤原師輔 | 恋六 |
2-後撰 | 1011 | 月にたにまつほとおほくすきぬれは雨もよにこしとおもほゆるかな つきにたに まつほとおほく すきぬれは あめもよにこしと おもほゆるかな | 在原業平のむすめいまき | 恋六 |
2-後撰 | 1012 | 思ひつつまたいひそめぬわかこひをおなし心にしらせてしかな おもひつつ またいひそめぬ わかこひを おなしこころに しらせてしかな | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1013 | あすか河心の内になかるれはそこのしからみいつかよとまん あすかかは こころのうちに なかるれは そこのしからみ いつかよとまむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1014 | ふしのねをよそにそききし今はわか思ひにもゆる煙なりけり ふしのねを よそにそききし いまはわか おもひにもゆる けふりなりけり | 朝綱 | 恋六 |
2-後撰 | 1015 | しるしなき思ひとそきくふしのねもかことはかりの煙なるらん しるしなき おもひとそきく ふしのねも かことはかりの けふりなるらむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1016 | いひさしてととめらるなる池水の波いつかたに思ひよるらん いひさして ととめらるなる いけみつの なみいつかたに おもひよるらむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1017 | しられしなわかひとしれぬ心もて君を思ひのなかにもゆとは しられしな わかひとしれぬ こころもて きみをおもひの なかにもゆとは | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1018 | あふはかりなくてのみふるわかこひを人めにかくる事のわひしさ あふはかり なくてのみふる わかこひを ひとめにかくる ことのわひしさ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1019 | 夏衣身にはなるともわかためにうすき心はかけすもあらなん なつころも みにはなるとも わかために うすきこころは かけすもあらなむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1020 | いかにして事かたらはん郭公歎のしたになけはかひなし いかにして ことかたらはむ ほとときす なけきのしたに なけはかひなし | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1021 | 思ひつつへにける年をしるへにてなれぬる物は心なりけり おもひつつ へにけるとしを しるへにて なれぬるものは こころなりけり | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1022 | 我ならぬ人住の江の岸にいててなにはの方を怨みつるかな われならぬ ひとすみのえの きしにいてて なにはのかたを うらみつるかな | 源ととのふ | 恋六 |
2-後撰 | 1023 | にこりゆく水には影の見えはこそあしまよふえをととめても見め にこりゆく みつにはかけの みえはこそ あしまよふえを ととめてもみめ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1024 | 菅原や伏見の里のあれしよりかよひし人の跡もたえにき すかはらや ふしみのさとの あれしより かよひしひとの あともたえにき | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1025 | ちはやふる神にもあらぬわかなかの雲井遥に成りもゆくかな ちはやふる かみにもあらぬ わかなかの くもゐはるかに なりもゆくかな | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1026 | 千早振神にも何にたとふらんおのれくもゐに人をなしつつ ちはやふる かみにもなにに たとふらむ おのれくもゐに ひとをなしつつ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1027 | うきしつみふちせにさわくにほとりはそこものとかにあらしとそ思ふ うきしつみ ふちせにさわく にほとりは そこものとかに あらしとそおもふ | 敦慶親王 | 恋六 |
2-後撰 | 1028 | 松山に浪たかきおとそきこゆなる我よりこゆる人はあらしを まつやまに なみたかきおとそ きこゆなる われよりこゆる ひとはあらしを | 藤原守文 | 恋六 |
2-後撰 | 1029 | さしてこと思ひしものをみかさ山かひなく雨のもりにけるかな さしてこと おもひしものを みかさやま かひなくあめの もりにけるかな | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1030 | もるめのみあまたみゆれはみかさ山しるしるいかかさしてゆくへき もるめのみ あまたみゆれは みかさやま しるしるいかか さしてゆくへき | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1031 | なくさむることのはにたにかからすは今もけぬへき露の命を なくさむる ことのはにたに かからすは いまもけぬへき つゆのいのちを | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1032 | ひとしれすまつにねられぬ晨明の月にさへこそあさむかれけれ ひとしれす まつにねられぬ ありあけの つきにさへこそ あさむかれけれ | 兵衛 | 恋六 |
2-後撰 | 1033 | 竜田河たちなは君か名ををしみいはせのもりのいはしとそ思ふ たつたかは たちなはきみか なををしみ いはせのもりの いはしとそおもふ | 元方 | 恋六 |
2-後撰 | 1034 | うたののはみみなし山かよふこ鳥よふこゑにたにこたへさるらん うたののは みみなしやまか よふことり よふこゑにたに こたへさるらむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1035 | 耳なしの山ならすともよふことり何かはきかん時ならぬねを みみなしの やまならすとも よふことり なにかはきかむ ときならぬねを | 女五のみこ | 恋六 |
2-後撰 | 1036 | こひわひてしぬてふことはまたなきを世のためしにもなりぬへきかな こひわひて しぬてふことは またなきを よのためしにも なりぬへきかな | 壬生忠岑 | 恋六 |
2-後撰 | 1037 | 影見れはおくへいりける君によりなとか涙のとへはいつらむ かけみれは おくへいりける きみにより なとかなみたの とへはいつらむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1038 | しらさりし時たにこえし相坂をなと今更にわれ迷ふらん しらさりし ときたにこえし あふさかを なといまさらに われまよふらむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1039 | あかすして枕のうへに別れにしゆめちを又もたつねてしかな あかすして まくらのうへに わかれにし ゆめちをまたも たつねてしかな | 藤原かけもと | 恋六 |
2-後撰 | 1040 | おともせすなりもゆくかなすすか山こゆてふなのみたかくたちつつ おともせす なりもゆくかな すすかやま こゆてふなのみ たかくたちつつ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1041 | こえぬてふ名をなうらみそすすか山いととまちかくならんと思ふを こえぬてふ なをなうらみそ すすかやま いととまちかく ならむとおもふを | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1042 | わかためにかつはつらしと見山木のこりともこりぬかかるこひせし わかために かつはつらしと みやまきの こりともこりぬ かかるこひせし | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1043 | あふこなき身とはしるしる恋すとて歎こりつむ人はよきかは あふこなき みとはしるしる こひすとて なけきこりつむ ひとはよきかは | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1044 | あさことに露はおけとも人こふるわか事のはは色もかはらす あさことに つゆはおけとも ひとこふる わかことのはは いろもかはらす | 戒仙法師 | 恋六 |
2-後撰 | 1045 | まちかくてつらきを見るはうけれともうきはものかはこひしきよりは まちかくて つらきをみるは うけれとも うきはものかは こひしきよりは | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1046 | つくしなる思ひそめ河わたりなは水やまさらんよとむ時なく つくしなる おもひそめかは わたりなは みつやまさらむ よとむときなく | 藤原さねたた | 恋六 |
2-後撰 | 1047 | 渡りてはあたになるてふ染河の心つくしになりもこそすれ わたりては あたになるてふ そめかはの こころつくしに なりもこそすれ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1048 | 花さかりすくしし人はつらけれと事のはをさへかくしやはせん はなさかり すくししひとは つらけれと ことのはをさへ かくしやはせむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1049 | とふことをまつに月日はこゆるきのいそにやいてて今はうらみん とふことを まつにつきひは こゆるきの いそにやいてて いまはうらみむ | 右近 | 恋六 |
2-後撰 | 1050 | 忘草名をもゆゆしみかりにてもおふてふやとはゆきてたに見し わすれくさ なをもゆゆしみ かりにても おふてふやとは ゆきてたにみし | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1051 | うきことのしけきやとには忘草うゑてたにみし秋そわひしき うきことの しけきやとには わすれくさ うゑてたにみし あきそわひしき | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1052 | かすしらぬ思ひは君にあるものをおき所なき心地こそすれ かすしらぬ おもひはきみに あるものを おきところなき ここちこそすれ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1053 | おき所なき思ひとしききつれは我にいくらもあらしとそ思ふ おきところ なきおもひとし ききつれは われにいくらも あらしとそおもふ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1054 | わかたちてきるこそうけれ夏衣おほかたとのみ見へきうすさを わかたちて きるこそうけれ なつころも おほかたとのみ みへきうすさを | 貞保親王皇子娘 | 恋六 |
2-後撰 | 1055 | やへむくらさしてし門を今更に何にくやしくあけてまちけん やへむくら さしてしかとを いまさらに なににくやしく あけてまちけむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1056 | さをしかのつまなきこひを高砂のをのへのこ松ききもいれなん さをしかの つまなきこひを たかさこの をのへのこまつ ききもいれなむ | 源庶明 | 恋六 |
2-後撰 | 1057 | さをしかの声高砂にきこえしはつまなき時のねにこそ有りけれ さをしかの こゑたかさこに きこえしは つまなきときの ねにこそありけれ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1058 | せきもあへす涙の河のせをはやみかからん物と思ひやはせし せきもあへす なみたのかはの せをはやみ かからむものと おもひやはせし | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1059 | せをはやみたえすなかるる水よりもたえせぬ物はこひにそ有りける せをはやみ たえすなかるる みつよりも たえせぬものは こひにそありける | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1060 | こふれともあふよなき身は忘草夢ちにさへやおひしけるらん こふれとも あふよなきみは わすれくさ ゆめちにさへや おひしけるらむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1061 | 世中のうきはなへてもなかりけりたのむ限そ怨みられける よのなかの うきはなへても なかりけり たのむかきりそ うらみられける | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1062 | ゆふされは思ひそしけきまつ人のこむやこしやの定なけれは ゆふされは おもひそしけき まつひとの こむやこしやの さためなけれは | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1063 | いとはれてかへりこしちのしら山はいらぬに迷ふ物にそ有りける いとはれて かへりこしちの しらやまは いらぬにまよふ ものにそありける | 源よしの | 恋六 |
2-後撰 | 1064 | 人浪にあらぬわか身はなにはなるあしのねのみそしたになかるる ひとなみに あらぬわかみは なにはなる あしのねのみそ したになかるる | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1065 | 白雲のゆくへき山はさたまらす思ふ方にも風はよせなん しらくもの ゆくへきやまは さたまらす おもふかたにも かせはよせなむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1066 | 世中に猶有あけの月なくてやみに迷ふをとはぬつらしな よのなかに なほありあけの つきなくて やみにまよふを とはぬつらしな | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1067 | あすか河せきてととむる物ならはふちせになるとなとかいはれん あすかかは せきてととむる ものならは ふちせになると なとかいはれむ | 藤原時平 | 恋六 |
2-後撰 | 1068 | 身をつめはあはれとそ思ふはつ雪のふりぬることもたれにいはまし みをつめは あはれとそおもふ はつゆきの ふりぬることも たれにいはまし | 右近 | 恋六 |
2-後撰 | 1069 | 冬なれと君かかきほにさきけれはむへとこ夏にこひしかりけり ふゆなれと きみかかきほに さきけれは うへとこなつに こひしかりけり | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1070 | 白雪のけさはつもれる思ひかなあはてふる夜のほともへなくに しらゆきの けさはつもれる おもひかな あはてふるよの ほともへなくに | 兼輔 | 恋六 |
2-後撰 | 1071 | しらゆきのつもる思ひもたのまれす春よりのちはあらしとおもへは しらゆきの つもるおもひも たのまれす はるよりのちは あらしとおもへは | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1072 | わかこひし君かあたりをはなれねはふる白雪もそらにきゆらん わかこひし きみかあたりを はなれねは ふるしらゆきも そらにきゆらむ | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1073 | 山かくれきえせぬ雪のわひしきは君まつのはにかかりてそふる やまかくれ きえせぬゆきの わひしきは きみまつのはに かかりてそふる | 読人知らず | 恋六 |
2-後撰 | 1074 | あらたまの年はけふあすこえぬへし相坂山を我やおくれん あらたまの としはけふあす こえぬへし あふさかやまを われやおくれむ | 藤原ときふる | 恋六 |
2-後撰 | 1075 | 嵯峨の山みゆきたえにしせり河の千世のふるみちあとは有りけり さかのやま みゆきたえにし せりかはの ちよのふるみち あとはありけり | 在原行平 | 雑一 |
2-後撰 | 1076 | おきなさひ人なとかめそ狩衣けふはかりとそたつもなくなる おきなさひ ひとなとかめそ かりころも けふはかりとそ たつもなくなる | 在原行平 | 雑一 |
2-後撰 | 1077 | 今まてになとかは花のさかすしてよそとせあまり年きりはする いままてに なとかははなの さかすして よそとせあまり としきりはする | 藤原時平 | 雑一 |
2-後撰 | 1078 | はるはるのかすはわすれす有りなから花さかぬ木をなににうゑけん はるはるの かすはわすれす ありなから はなさかぬきを なににうゑけむ | 紀友則 | 雑一 |
2-後撰 | 1079 | 世とともに峰へふもとへおりのほりゆく雲の身は我にそ有りける よとともに みねへふもとへ おりのほり ゆくくものみは われにそありける | 平中興 | 雑一 |
2-後撰 | 1080 | 事しけししはしはたてれよひのまにおけらんつゆはいててはらはん ことしけし しはしはたてれ よひのまに おけらむつゆは いててはらはむ | 嵯峨后 | 雑一 |
2-後撰 | 1081 | てる月をまさ木のつなによりかけてあかすわかるる人をつなかん てるつきを まさきのつなに よりかけて あかすわかるる ひとをつなかむ | 源融 | 雑一 |
2-後撰 | 1082 | 限なきおもひのつなのなくはこそまさきのかつらよりもなやまめ かきりなき おもひのつなの なくはこそ まさきのかつら よりもなやまめ | 在原行平 | 雑一 |
2-後撰 | 1083 | すみわひぬ今は限と山さとにつまきこるへきやともとめてむ すみわひぬ いまはかきりと やまさとに つまきこるへき やともとめてむ | 在原業平 | 雑一 |
2-後撰 | 1084 | 葦引の山におひたるしらかしのしらしな人をくち木なりとも あしひきの やまにおひたる しらかしの しらしなひとを くちきなりとも | 躬恒 | 雑一 |
2-後撰 | 1085 | 伊勢の海のつりのうけなるさまなれとふかき心はそこにしつめり いせのうみの つりのうけなる さまなれと ふかきこころは そこにしつめり | 躬恒 | 雑一 |
2-後撰 | 1086 | 白河のたきのいと見まほしけれとみたりに人はよせしものをや しらかはの たきのいとみま ほしけれと みたりにひとは よせしものをや | 中務 | 雑一 |
2-後撰 | 1087 | しらかはのたきのいとなみみたれつつよるをそ人はまつといふなる しらかはの たきのいとなみ みたれつつ よるをそひとは まつといふなる | 藤原忠平 | 雑一 |
2-後撰 | 1088 | はちすはのはひにそ人は思ふらん世にはこひちの中におひつつ はちすはの はひにそひとは おもふらむ よにはこひちの なかにおひつつ | 読人知らず | 雑一 |
2-後撰 | 1089 | これやこのゆくも帰るも別れつつしるもしらぬもあふさかの関 これやこの ゆくもかへるも わかれつつ しるもしらぬも あふさかのせき | 蝉丸 | 雑一 |
2-後撰 | 1090 | あまのすむ浦こく舟のかちをなみ世を海わたる我そ悲しき あまのすむ うらこくふねの かちをなみ よをうみわたる われそかなしき | 小野小町 | 雑一 |
2-後撰 | 1091 | 浜千鳥かひなかりけりつれもなきひとのあたりはなきわたれとも はまちとり かひなかりけり つれもなき ひとのあたりは なきわたれとも | 読人知らず | 雑一 |
2-後撰 | 1092 | このみゆきちとせかへても見てしかなかかる山ふし時にあふへく このみゆき ちとせかへても みてしかな かかるやまふし ときにあふへく | 素性法師 | 雑一 |
2-後撰 | 1093 | おとにきく松かうらしまけふそ見るむへも心あるあまはすみけり おとにきく まつかうらしま けふそみる うへもこころある あまはすみけり | 素性法師 | 雑一 |
2-後撰 | 1094 | 我のみは立ちもかへらぬ暁にわきてもおける袖のつゆかな われのみは たちもかへらぬ あかつきに わきてもおける そてのつゆかな | 右衛門 | 雑一 |
2-後撰 | 1095 | しほといへはなくてもからき世中にいかてあへたるたたみなるらん しほといへは なくてもからき よのなかに いかてあへたる たたみなるらむ | 忠見 | 雑一 |
2-後撰 | 1096 | 住吉の岸ともいはしおきつ浪猶うちかけようらはなくとも すみよしの きしともいはし おきつなみ なほうちかけよ うらはなくとも | 藤原清原元輔 | 雑一 |
2-後撰 | 1097 | 事のはにたえせぬつゆはおくらんや昔おほゆるまとゐしたれは ことのはに たえせぬつゆは おくらむや むかしおほゆる まとゐしたれは | 七条のきさき | 雑一 |
2-後撰 | 1098 | 海とのみまとゐの中はなりぬめりそなからあらぬかけのみゆれは うみとのみ まとゐのなかは なりぬめり そなからあらぬ かけのみゆれは | 伊勢 | 雑一 |
2-後撰 | 1099 | 何せんにへたのみるめを思ひけんおきつたまもをかつく身にして なにせむに へたのみるめを おもひけむ おきつたまもを かつくみにして | 大伴黒主 | 雑一 |
2-後撰 | 1100 | ひるなれや見そまかへつる月影をけふとやいはむきのふとやいはん ひるなれや みそまかへつる つきかけを けふとやいはむ きのふとやいはむ | 躬恒 | 雑一 |
2-後撰 | 1101 | くやしくそあまつをとめとなりにける雲ちたつぬる人もなきよに くやしくそ あまつをとめと なりにける くもちたつぬる ひともなきよに | 藤原滋包かむすめ | 雑一 |
2-後撰 | 1102 | 人のおやの心はやみにあらねとも子を思ふ道にまとひぬるかな ひとのおやの こころはやみに あらねとも こをおもふみちに まとひぬるかな | 藤原兼輔 | 雑一 |
2-後撰 | 1103 | なにはかた何にもあらすみをつくしふかき心のしるしはかりそ なにはかた なににもあらす みをつくし ふかきこころの しるしはかりそ | 大江玉淵女 | 雑一 |
2-後撰 | 1104 | あけてたに何にかは見むみつのえのうらしまのこを思ひやりつつ あけてたに なににかはみむ みつのえの うらしまのこを おもひやりつつ | 中務 | 雑一 |
2-後撰 | 1105 | 年をへてにこりたにせぬさひえには玉も帰りて今そすむへき としをへて にこりたにせぬ さひえには たまもかへりて いまそすむへき | 壬生忠岑 | 雑一 |
2-後撰 | 1106 | 旧里のみかさの山はとほけれと声は昔のうとからぬかな ふるさとの みかさのやまは とほけれと こゑはむかしの うとからぬかな | 藤原兼輔 | 雑一 |
2-後撰 | 1107 | ひきてうゑし人はむへこそ老いにけれ松のこたかく成りにけるかな ひきうゑし ひとはうへこそ おいにけれ まつのこたかく なりにけるかな | 躬恒 | 雑一 |
2-後撰 | 1108 | を山田のおとろかしにもこさりしをいとひたふるににけしきみかな をやまたの おとろかしにも こさりしを いとひたふるに にけしきみかな | 読人知らず | 雑一 |
2-後撰 | 1109 | いかてかの年きりもせぬたねもかなあれたるやとにうゑて見るへく いかてかの としきりもせぬ たねもかな あれたるやとに うゑてみるへく | むすめの女御 | 雑一 |
2-後撰 | 1110 | 春ことに行きてのみみむ年きりもせすといふたねはおひぬとかきく はることに ゆきてのみみむ としきりも せすといふたねは おひぬとかきく | 斎宮のみこ | 雑一 |
2-後撰 | 1111 | 思ひきや君か衣をぬきかへてこき紫の色をきむとは おもひきや きみかころもを ぬきかへて こきむらさきの いろをきむとは | 藤原師輔 | 雑一 |
2-後撰 | 1112 | いにしへも契りてけりなうちはふきとひ立ちぬへしあまのは衣 いにしへも ちきりてけりな うちはふき とひたちぬへし あまのはころも | 庶明 | 雑一 |
2-後撰 | 1113 | ふるさとのならの宮この始よりなれにけりともみゆる衣か ふるさとの ならのみやこの はしめより なれにけりとも みゆるころもか | 大輔 | 雑一 |
2-後撰 | 1114 | ふりぬとて思ひもすてし唐衣よそへてあやな怨みもそする ふりぬとて おもひもすてし からころも よそへてあやな うらみもそする | 雅正 | 雑一 |
2-後撰 | 1115 | 流れての世をもたのます水のうへのあわにきえぬるうき身とおもへは なかれての よをもたのます みつのうへの あわにきえぬる うきみとおもへは | 大江千里 | 雑一 |
2-後撰 | 1116 | むはたまのこよひはかりそあけ衣あけなは人をよそにこそ見め うはたまの こよひはかりそ あけころも あけなはひとを よそにこそみめ | 藤原兼輔 | 雑一 |
2-後撰 | 1117 | 人わたす事たになきをなにしかもなからのはしと身のなりぬらん ひとわたす ことたになきを なにしかも なからのはしと みのなりぬらむ | 七条后 | 雑一 |
2-後撰 | 1118 | ふるる身は涙の中にみゆれはやなからのはしにあやまたるらん ふるるみは なみたのうちに みゆれはや なからのはしに あやまたるらむ | 伊勢 | 雑一 |
2-後撰 | 1119 | ひとりのみなかめてとしをふるさとのあれたるさまをいかに見るらむ ひとりのみ なかめてとしを ふるさとの あれたるさまを いかにみるらむ | 敦慶親王 | 雑一 |
2-後撰 | 1120 | まめなれとあたなはたちぬたはれしまよる白浪をぬれきぬにきて まめなれと あたなはたちぬ たはれしま よるしらなみを ぬれきぬにきて | 朝綱 | 雑一 |
2-後撰 | 1121 | 年をへてたのむかひなしときはなる松のこすゑも色かはりゆく としをへて たのむかひなし ときはなる まつのこすゑも いろかはりゆく | 読人知らず | 雑一 |
2-後撰 | 1122 | へたてける人の心のうきはしをあやふきまてもふみみつるかな へたてける ひとのこころの うきはしを あやふきまても ふみみつるかな | 四条御息所女 | 雑一 |
2-後撰 | 1123 | 玉匣ふたとせあはぬ君かみをあけなからやはあらむと思ひし たまくしけ ふたとせあはぬ きみかみを あけなからやは あらむとおもひし | 源公忠 | 雑一 |
2-後撰 | 1124 | あけなから年ふることは玉匣身のいたつらになれはなりけり あけなから としふることは たまくしけ みのいたつらに なれはなりけり | 小野好古 | 雑一 |
2-後撰 | 1125 | たのまれぬうき世中を歎きつつ日かけにおふる身を如何せん たのまれぬ うきよのなかを なけきつつ ひかけにおふる みをいかにせむ | 在原業平 | 雑二 |
2-後撰 | 1126 | 相坂のゆふつけになく鳥のねをききとかめすそ行きすきにける あふさかの ゆふつけになく とりのねを ききとかめすそ ゆきすきにける | 藤原敏行 | 雑二 |
2-後撰 | 1127 | み山よりひひききこゆるひくらしの声をこひしみ今もけぬへし みやまより ひひききこゆる ひくらしの こゑをこひしみ いまもけぬへし | 宣旨 | 雑二 |
2-後撰 | 1128 | ひくらしの声を恋しみけぬへくはみ山とほりにはやもきねかし ひくらしの こゑをこひしみ けぬへくは みやまとほりに はやもきねかし | 藤原時平 | 雑二 |
2-後撰 | 1129 | ちかはれしかもの河原に駒とめてしはし水かへ影をたに見む ちかはれし かものかはらに こまとめて しはしみつかへ かけをたにみむ | 朝綱の母 | 雑二 |
2-後撰 | 1130 | わかのりし事をうしとやきえにけん草はにかかる露の命は わかのりし ことをうしとや きえにけむ くさはにかかる つゆのいのちは | 閑院のこ | 雑二 |
2-後撰 | 1131 | かくてのみやむへきものかちはやふるかもの社のよろつ世を見む かくてのみ やむへきものか ちはやふる かものやしろの よろつよをみむ | 藤原定方 | 雑二 |
2-後撰 | 1132 | みこしをかいくその世世に年をへてけふのみ行をまちてみつらん みこしをか いくそのよよに としをへて けふのみゆきを まちてみつらむ | 藤原仲平 | 雑二 |
2-後撰 | 1133 | いつれをか雨ともわかむ山ふしのおつる涙もふりにこそふれ いつれをか あめともわかむ やまふしの おつるなみたも ふりにこそふれ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1134 | 思ひにはきゆる物そとしりなからけさしもおきてなににきつらん おもひには きゆるものそと しりなから けさしもおきて なににきつらむ | 藤原興風 | 雑二 |
2-後撰 | 1135 | めつらしや昔なからの山の井はしつめる影そくちはてにける めつらしや むかしなからの やまのゐは しつめるかけそ くちはてにける | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1136 | うち河の浪にみなれし君ませは我もあしろによりぬへきかな うちかはの なみにみなれし きみませは われもあしろに よりぬへきかな | 大江興俊 | 雑二 |
2-後撰 | 1137 | 吹きいつるね所たかくきこゆなりはつ秋風はいさてならさし ふきいつる ねところたかく きこゆなり はつあきかせは いさてならさし | 小弐のめのと | 雑二 |
2-後撰 | 1138 | 心してまれに吹きつる秋風を山おろしにはなさしとそ思ふ こころして まれにふきつる あきかせを やまおろしには なさしとそおもふ | 大輔 | 雑二 |
2-後撰 | 1139 | はかなくてたえなんくものいとゆゑに何にかおほくかかんとそ思ふ はかなくて たえなむくもの いとゆゑに なににかおほく かかむとそおもふ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1140 | 昔よりくらまの山といひけるはわかこと人もよるやこえけん むかしより くらまのやまと いひけるは わかことひとも よるやこえけむ | 亭子院にいまあことめしける人 | 雑二 |
2-後撰 | 1141 | 雲井ちのはるけきほとのそら事はいかなる風の吹きてつけけん くもゐちの はるけきほとの そらことは いかなるかせの ふきてつけけむ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1142 | あま雲のうきたることとききしかと猶そ心はそらになりにし あまくもの うきたることと ききしかと なほそこころは そらになりにし | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1143 | やれはをしやらねは人に見えぬへしなくなくも猶かへすまされり やれはをし やらねはひとに みえぬへし なくなくもなほ かへすまされり | 元良親王 | 雑二 |
2-後撰 | 1144 | もち月のこまよりおそくいてつれはたとるたとるそ山はこえつる もちつきの こまよりおそく いてつれは たとるたとるそ やまはこえつる | 素性法師 | 雑二 |
2-後撰 | 1145 | よろつ世を契りし事のいたつらに人わらへにもなりぬへきかな よろつよを ちきりしことの いたつらに ひとわらへにも なりぬへきかな | 藤原敦敏 | 雑二 |
2-後撰 | 1146 | かけていへはゆゆしきものを万代と契りし事やかなはさるへき かけていへは ゆゆしきものを よろつよと ちきりしことや かなはさるへき | 大輔 | 雑二 |
2-後撰 | 1147 | ちると見てそてにうくれとたまらぬはあれたる浪の花にそ有りける ちるとみて そてにうくれと たまらぬは あれたるなみの はなにそありける | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1148 | たちさわく浪まをわけてかつきてしおきのもくつをいつかわすれん たちさわく なみまをわけて かつきてし おきのもくつを いつかわすれむ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1149 | かつきいてしおきのもくつをわすれすはそこのみるめを我にからせよ かつきいてし おきのもくつを わすれすは そこのみるめを われにからせよ | 輔臣 | 雑二 |
2-後撰 | 1150 | 限なく思ふ心はつくはねのこのもやいかかあらんとすらん かきりなく おもふこころは つくはねの このもやいかか あらむとすらむ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1151 | 思ひいててとふ事のはをたれみまし身の白雲と成りなましかは おもひいてて とふことのはを たれみまし みのしらくもと なりなましかは | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1152 | わすれなんと思ふ心のつくからに事のはさへやいへはゆゆしき わすれなむと おもふこころの つくからに ことのはさへや いへはゆゆしき | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1153 | かくれゐてわかうきさまを水のうへのあわともはやく思ひきえなん かくれゐて わかうきさまを みつのうへの あわともはやく おもひきえなむ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1154 | 人心いさやしら浪たかけれはよらむなきさそかねてかなしき ひとこころ いさやしらなみ たかけれは よらむなきさそ かねてかなしき | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1155 | なほき木にまかれる枝もあるものをけをふききすをいふかわりなさ なほききに まかれるえたも あるものを けをふききすを いふかわりなさ | 高津内親王 | 雑二 |
2-後撰 | 1156 | うつろはぬ心のふかく有りけれはここらちる花春にあへること うつろはぬ こころのふかく ありけれは ここらちるはな はるにあへること | 嵯峨后 | 雑二 |
2-後撰 | 1157 | 玉たれのあみめのまよりふく風のさむくはそへていれん思ひを たまたれの あみめのまより ふくかせの さむくはそへて いれむおもひを | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1158 | 白浪のうちさわかれてたちしかは身をうしほにそ袖はぬれにし しらなみの うちさわかれて たちしかは みをうしほにそ そてはぬれにし | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1159 | とりもあへすたちさわかれしあた浪にあやなく何に袖のぬれけん とりもあへす たちさわかれし あたなみに あやなくなにに そてのぬれけむ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1160 | たたちともたのまさらなん身にちかき衣の関もありといふなり たたちとも たのまさらなむ みにちかき ころものせきも ありといふなり | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1161 | あはぬまに恋しき道もしりにしをなとうれしきに迷ふ心そ あはぬまに こひしきみちも しりにしを なとうれしきに まよふこころそ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1162 | いかなりしふしにかいとのみたれけんしひてくれともとけすみゆるは いかなりし ふしにかいとの みたれけむ しひてくれとも とけすみゆるは | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1163 | 身なくとも人にしられし世中にしられぬ山をしるよしもかな みなくとも ひとにしられし よのなかに しられぬやまを しるよしもかな | 賀朝法師 | 雑二 |
2-後撰 | 1164 | 世中にしられぬ山に身なくとも谷の心やいはておもはむ よのなかに しられぬやまに みなくとも たにのこころや いはておもはむ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1165 | おとにのみききてはやましあさくともいさくみみてん山の井の水 おとにのみ ききてはやまし あさくとも いさくみみてむ やまのゐのみつ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1166 | しての山たとるたとるもこえななてうき世中になにかへりけん してのやま たとるたとるも こえななて うきよのなかに なにかへりけむ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1167 | かすならぬ身をもちににて吉野山高き歎を思ひこりぬる かすならぬ みをもちににて よしのやま たかきなけきを おもひこりぬる | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1168 | 吉野山こえん事こそかたからめこらむ歎のかすはしりなん よしのやま こえむことこそ かたからめ こらむなけきの かすはしりなむ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1169 | かすならぬ身におくよひの白玉は光見えさす物にそ有りける かすならぬ みにおくよひの しらたまは ひかりみえさす ものにそありける | 武蔵 | 雑二 |
2-後撰 | 1170 | なにはかたみきはのあしのおいかよに怨みてそふる人の心を なにはかた みきはのあしの おいかよに うらみてそふる ひとのこころを | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1171 | わするとは怨みさらなんはしたかのとかへる山のしひはもみちす わするとは うらみさらなむ はしたかの とかへるやまの しひはもみちす | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1172 | をちこちの人めまれなる山里に家ゐせんとは思ひきや君 をちこちの ひとめまれなる やまさとに いへゐせむとは おもひきやきみ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1173 | 身をうしと人しれぬ世を尋ねこし雲のやへ立つ山にやはあらぬ みをうしと ひとしれぬよを たつねこし くものやへたつ やまにやはあらぬ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1174 | あさなけに世のうきことをしのひつつなかめせしまに年はへにけり あさなけに よのうきことを しのひつつ なかめせしまに としはへにけり | 土左 | 雑二 |
2-後撰 | 1175 | 春やこし秋やゆきけんおほつかな影の朽木と世をすくす身は はるやこし あきやゆきけむ おほつかな かけのくちきと よをすくすみは | 閑院 | 雑二 |
2-後撰 | 1176 | 世中はうき物なれや人ことのとにもかくにもきこえくるしき よのなかは うきものなれや ひとことの とにもかくにも きこえくるしき | 紀貫之 | 雑二 |
2-後撰 | 1177 | 武蔵野は袖ひつはかりわけしかとわか紫はたつねわひにき むさしのは そてひつはかり わけしかと わかむらさきは たつねわひにき | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1178 | おほあらきのもりの草とやなりにけむかりにたにきてとふ人のなき おほあらきの もりのくさとや なりにけむ かりにたにきて とふひとのなき | 壬生忠岑 | 雑二 |
2-後撰 | 1179 | あはれてふ事こそつねのくちのはにかかるや人を思ふなるらん あはれてふ ことこそつねの くちのはに かかるやひとを おもふなるらむ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1180 | 吹く風のしたのちりにもあらなくにさもたちやすきわかなきなかな ふくかせの したのちりにも あらなくに さもたちやすき わかなきなかな | 伊勢 | 雑二 |
2-後撰 | 1181 | ふるさとのさほの河水けふも猶かくてあふせはうれしかりけり ふるさとの さほのかはみつ けふもなほ かくてあふせは うれしかりけり | 藤原冬嗣 | 雑二 |
2-後撰 | 1182 | わかやとをいつならしてかならのはをならしかほにはをりにおこする わかやとを いつならしてか ならのはを ならしかほには をりにおこする | 俊子 | 雑二 |
2-後撰 | 1183 | ならの葉のはもりの神のましけるをしらてそをりしたたりなさるな ならのはの はもりのかみの ましけるを しらてそをりし たたりなさるな | 藤原仲平 | 雑二 |
2-後撰 | 1184 | 帰りては声やたかはむふえ竹のつらきひとよのかたみと思へは かへりては こゑやたかはむ ふえたけの つらきひとよの かたみとおもへは | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1185 | ひとふしに怨みなはてそ笛竹のこゑの内にも思ふ心あり ひとふしに うらみなはてそ ふえたけの こゑのうちにも おもふこころあり | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1186 | 人につくたよりたになしおほあらきのもりのしたなる草の身なれは ひとにつく たよりたになし おほあらきの もりのしたなる くさのみなれは | 躬恒 | 雑二 |
2-後撰 | 1187 | 結ひおきしかたみのこたになかりせは何に忍の草をつままし むすひおきし かたみのこたに なかりせは なににしのふの くさをつままし | 兼忠母のめのと | 雑二 |
2-後撰 | 1188 | うれしきもうきも心はひとつにてわかれぬ物は涙なりけり うれしきも うきもこころは ひとつにて わかれぬものは なみたなりけり | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1189 | をしからてかなしき物は身なりけりうき世そむかん方をしらねは をしからて かなしきものは みなりけり うきよそむかむ かたをしらねは | 紀貫之 | 雑二 |
2-後撰 | 1190 | 思ひいつる時そかなしき世中はそら行く雲のはてをしらねは おもひいつる ときそかなしき よのなかは そらゆくくもの はてをしらねは | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1191 | あはれともうしともいはしかけろふのあるかなきかにけぬるよなれは あはれとも うしともいはし かけろふの あるかなきかに けぬるよなれは | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1192 | あはれてふ事になくさむ世中をなとか昔といひてすくらん あはれてふ ことになくさむ よのなかを なとかむかしと いひてすくらむ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1193 | 物思ふと行きても見ねはたかかたのあまのとまやはくちやしぬらん ものおもふと ゆきてもみねは たかかたの あまのとまやは くちやしぬらむ | 読人知らず | 雑二 |
2-後撰 | 1194 | 夢にたにうれしとも見はうつつにてわひしきよりは猶まさりなん ゆめにたに うれしともみは うつつにて わひしきよりは なほまさりなむ | 躬恒 | 雑二 |
2-後撰 | 1195 | いはのうへに旅ねをすれはいとさむし音の衣を我にかさなん いはのうへに たひねをすれは いとさむし こけのころもを われにかさなむ | 小野小町 | 雑三 |
2-後撰 | 1196 | 世をそむく苔の衣はたたひとへかさねはうとしいさふたりねん よをそむく こけのころもは たたひとへ かさねはうとし いさふたりねむ | 僧正遍昭 | 雑三 |
2-後撰 | 1197 | 逢ふ事の年きりしぬるなけきには身のかすならぬ物にそ有りける あふことの としきりしぬる なけきには みのかすならぬ ものにそありける | せかゐのきみ | 雑三 |
2-後撰 | 1198 | あた人もなきにはあらす有りなからわか身にはまたききそならはぬ あたひとも なきにはあらす ありなから わかみにはまた ききそならはぬ | 左太臣(実頼) | 雑三 |
2-後撰 | 1199 | 宮人とならまほしきを女郎花のへよりきりのたちいててそくる みやひとと ならまほしきを をみなへし のへよりきりの たちいててそくる | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1200 | わか身にもあらぬわか身の悲しきに心もことに成りやしにけん わかみにも あらぬわかみの かなしきに こころもことに なりやしにけむ | 大輔 | 雑三 |
2-後撰 | 1201 | 世中をしらすなからもつのくにのなには立ちぬる物にそ有りける よのなかを しらすなからも つのくにの なにはたちぬる ものにそありける | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1202 | よとともにわかぬれきぬとなる物はわふる涙のきするなりけり よとともに わかぬれきぬと なるものは わふるなみたの きするなりけり | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1203 | うけれとも悲しきものをひたふるに我をや人の思ひすつらん うけれとも かなしきものを ひたふるに われをやひとの おもひすつらむ | 大輔 | 雑三 |
2-後撰 | 1204 | 悲しきもうきもしりにしひとつ名をたれをわくとか思ひすつへき かなしきも うきもしりにし ひとつなを たれをわくとか おもひすつへき | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1205 | 道しらぬ物ならなくにあしひきの山ふみ迷ふ人もありけり みちしらぬ ものならなくに あしひきの やまふみまよふ ひともありけり | 大輔 | 雑三 |
2-後撰 | 1206 | しらかしの雪もきえにし葦引の山ちを誰かふみ迷ふへき しらかしの ゆきもきえにし あしひきの やまちをたれか ふみまよふへき | 藤原敦忠 | 雑三 |
2-後撰 | 1207 | いふ事のたかはぬ物にあらませは後うき事ときこえさらまし いふことの たかはぬものに あらませは のちうきことと きこえさらまし | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1208 | おも影をあひ見しかすになす時は心のみこそしつめられけれ おもかけを あひみしかすに なすときは こころのみこそ しつめられけれ | 伊勢 | 雑三 |
2-後撰 | 1209 | ぬきとめぬかみのすちもてあやしくもへにける年のかすをしるかな ぬきとめぬ かみのすちもて あやしくも へにけるとしの かすをしるかな | 伊勢 | 雑三 |
2-後撰 | 1210 | 浪かすにあらぬ身なれは住吉の岸にもよらすなりやはてなん なみかすに あらぬみなれは すみよしの きしにもよらす なりやはてなむ | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1211 | つきもせすうき事のはのおほかるをはやく嵐の風もふかなむ つきもせす うきことのはの おほかるを はやくあらしの かせもふかなむ | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1212 | 島かくれ有そにかよふあしたつのふみおく跡は浪もけたなん しまかくれ ありそにかよふ あしたつの ふみおくあとは なみもけたなむ | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1213 | 身ははやくなき物のこと成りにしをきえせぬ物は心なりけり みははやく なきもののこと なりにしを きえせぬものは こころなりけり | 伊勢 | 雑三 |
2-後撰 | 1214 | むつましきいもせの山の中にさへへたつる雲のはれすもあるかな むつましき いもせのやまの なかにさへ へたつるくもの はれすもあるかな | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1215 | わかためにおきにくかりしはしたかの人のてに有りときくはまことか わかために おきにくかりし はしたかの ひとのてにありと きくはまことか | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1216 | 声にたてていはねとしるしくちなしの色はわかためうすきなりけり こゑにたてて いはねとしるし くちなしの いろはわかため うすきなりけり | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1217 | たきつせのはやからぬをそ怨みつる見すともおとにきかんとおもへは たきつせの はやからぬをそ うらみつる みすともおとに きかむとおもへは | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1218 | みな人にふみみせけりなみなせ河その渡こそまつはあさけれ みなひとに ふみみせけりな みなせかは そのわたりこそ まつはあさけれ | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1219 | 年ふれはわかくろかみもしら河のみつはくむまて老いにけるかな としふれは わかくろかみも しらかはの みつはくむまて おいにけるかな | ひかきの嫗 | 雑三 |
2-後撰 | 1220 | かさすともたちとたちなんなきなをは事なし草のかひやなからん かさすとも たちとたちなむ なきなをは ことなしくさの かひやなからむ | 紀貫之 | 雑三 |
2-後撰 | 1221 | 帰りくる道にそけさは迷ふらんこれになすらふ花なきものを かへりくる みちにそけさは まよふらむ これになすらふ はななきものを | 紀貫之 | 雑三 |
2-後撰 | 1222 | おほそらに行きかふ鳥の雲ちをそ人のふみみぬ物といふなる おほそらに ゆきかふとりの くもちをそ ひとのふみみぬ ものといふなる | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1223 | きのくにのなくさのはまは君なれや事のいふかひ有りとききつる きのくにの なくさのはまは きみなれや ことのいふかひ ありとききつる | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1224 | 浪にのみぬれつるものを吹く風のたよりうれしきあまのつり舟 なみにのみ ぬれつるものを ふくかせの たよりうれしき あまのつりふね | 紀貫之 | 雑三 |
2-後撰 | 1225 | 緑なる松ほとすきはいかてかはしたははかりももみちせさらん みとりなる まつほとすきは いかてかは したははかりも もみちせさらむ | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1226 | 思いての煙やまさんなき人のほとけになれるこのみみは君 おもひいての けふりやまさむ なきひとの ほとけになれる このみみはきみ | 真延法師 | 雑三 |
2-後撰 | 1227 | 道なれるこの身尋ねて心さし有りと見るにそねをはましける みちなれる このみたつねて こころさし ありとみるにそ ねをはましける | 藤原師輔 | 雑三 |
2-後撰 | 1228 | いつこにも身をははなれぬ影しあれはふすとこことにひとりやはぬる いつこにも みをははなれぬ かけしあれは ふすとこことに ひとりやはぬる | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1229 | 風霜に色も心もかはらねはあるしににたるうゑ木なりけり かせしもに いろもこころも かはらねは あるしににたる うゑきなりけり | 真延法師 | 雑三 |
2-後撰 | 1230 | 山深みあるしににたるうゑ木をは見えぬ色とそいふへかりける やまふかみ あるしににたる うゑきをは みえぬいろとそ いふへかりける | 行明のみこ | 雑三 |
2-後撰 | 1231 | 大井河うかへる舟のかかり火にをくらの山も名のみなりけり おほゐかは うかへるふねの かかりひに をくらのやまも なのみなりけり | 在原業平 | 雑三 |
2-後撰 | 1232 | 明日香河わか身ひとつのふちせゆゑなへての世をも怨みつるかな あすかかは わかみひとつの ふちせゆゑ なへてのよをも うらみつるかな | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1233 | 世中をいとひかてらにこしかともうき身なからの山にそ有りける よのなかを いとひかてらに こしかとも うきみなからの やまにそありける | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1234 | したにのみはひ渡りつるあしのねのうれしき雨にあらはるるかな したにのみ はひわたりつる あしのねの うれしきあめに あらはるるかな | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1235 | たきつせに誰白玉をみたりけんひろふとせしに袖はひちにき たきつせに たれしらたまを みたりけむ ひろふとせしに そてはひちにき | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1236 | いつのまにふりつもるらんみよしのの山のかひよりくつれおつる雪 いつのまに ふりつもるらむ みよしのの やまのかひより くつれおつるゆき | 源昇 | 雑三 |
2-後撰 | 1237 | 宮のたきむへも名におひてきこえけりおつるしらあわの玉とひひけは みやのたき うへもなにおひて きこえけり おつるしらあわの たまとひひけは | 法皇 | 雑三 |
2-後撰 | 1238 | 今更に我はかへらしたき見つつよへときかすととははこたへよ いまさらに われはかへらし たきみつつ よへときかすと とははこたへよ | 僧正遍昭 | 雑三 |
2-後撰 | 1239 | 滝つせのうつまきことにとめくれと猶尋ねくる世のうきめかな たきつせの うつまきことに とめくれと なほたつねくる よのうきめかな | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1240 | たらちめはかかれとてしもむはたまのわかくろかみをなてすや有りけん たらちめは かかれとてしも うはたまの わかくろかみを なてすやありけむ | 僧正遍昭 | 雑三 |
2-後撰 | 1241 | 栽ゑし時契りやしけんたけくまの松をふたたひあひみつるかな うゑしとき ちきりやしけむ たけくまの まつをふたたひ あひみつるかな | 藤原もとよしの | 雑三 |
2-後撰 | 1242 | 菅原や伏見のくれに見わたせは霞にまかふをはつせの山 すかはらや ふしみのくれに みわたせは かすみにまかふ をはつせのやま | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1243 | 事のはもなくてへにける年月にこの春たにも花はさかなん ことのはも なくてへにける としつきに このはるたにも はなはさかなむ | 読人知らず | 雑三 |
2-後撰 | 1244 | なにはつをけふこそみつの浦ことにこれやこの世をうみわたる舟 なにはつを けふこそみつの うらことに これやこのよを うみわたるふね | 在原業平 | 雑三 |
2-後撰 | 1245 | 白雲のきやとる峰のこ松原枝しけけれや日のひかりみぬ しらくもの きやとるみねの こまつはら えたしけけれや ひのひかりみぬ | 文屋康秀 | 雑三 |
2-後撰 | 1246 | 身にさむくあらぬものからわひしきは人の心の嵐なりけり みにさむく あらぬものから わひしきは ひとのこころの あらしなりけり | 土左 | 雑三 |
2-後撰 | 1247 | なからへは人の心も見るへきをつゆのいのちそかなしかりける なからへは ひとのこころも みるへきを つゆのいのちそ かなしかりける | 土左 | 雑三 |
2-後撰 | 1248 | もろともにいさとはいはてしての山いかてかひとりこえんとはせし もろともに いさとはいはて してのやま いかてかひとり こえむとはせし | 閑院大君 | 雑三 |
2-後撰 | 1249 | おしなへて峰もたひらになりななん山のはなくは月もかくれし おしなへて みねもたひらに なりななむ やまのはなくは つきもかくれし | かむつけのみねを | 雑三 |
2-後撰 | 1250 | わかやとにあひやとりしてすむかはつよるになれはや物は悲しき わかやとに あひやとりして すむかはつ よるになれはや ものはかなしき | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1251 | 玉江こくあしかりを舟さしわけて誰をたれとか我は定めん たまえこく あしかりをふね さしわけて たれをたれとか われはさためむ | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1252 | みちのくのをふちのこまものかふにはあれこそまされなつくものかは みちのくの をふちのこまも のかふには あれこそまされ なつくものかは | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1253 | いつくとて尋ねきつらん玉かつら我は昔の我ならなくに いつくとて たつねきつらむ たまかつら われはむかしの われならなくに | 源善 | 雑四 |
2-後撰 | 1254 | あさことに見し宮こちのたえぬれは事あやまりにとふ人もなし あさことに みしみやこちの たえぬれは ことあやまりに とふひともなし | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1255 | いつしかとまつちの山の桜花まちてもよそにきくかかなしさ いつしかと まつちのやまの さくらはな まちてもよそに きくかかなしさ | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1256 | いせわたる河は袖よりなかるれととふにとはれぬ身はうせぬめり いせわたる かははそてより なかるれと とふにとはれぬ みはうきぬめり | 伊勢 | 雑四 |
2-後撰 | 1257 | 人めたに見えぬ山ちに立つ雲をたれすみかまの煙といふらん ひとめたに みえぬやまちに たつくもを たれすみかまの けふりといふらむ | 北辺左大臣 | 雑四 |
2-後撰 | 1258 | あすか河淵せにかはる心とはみなかみしもの人もいふめり あすかかは ふちせにかはる こころとは みなかみしもの ひともいふめり | 伊勢 | 雑四 |
2-後撰 | 1259 | 今こむといひしはかりをいのちにてまつにけぬへしさくさめのとし いまこむと いひしはかりを いのちにて まつにけぬへし さくさめのとし | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1260 | かすならぬ身のみ物うくおもほえてまたるるまてもなりにけるかな かすならぬ みのみものうく おもほえて またるるまても なりにけるかな | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1261 | 有りと聞くおとはの山の郭公何かくるらんなくこゑはして ありときく おとはのやまの ほとときす なにかくるらむ なくこゑはして | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1262 | あしのうらのいときたなくも見ゆるかな浪はよりてもあらはさりけり あしのうらの いときたなくも みゆるかな なみはよりても あらはさりけり | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1263 | 人心たとへて見れは白露のきゆるまもなほひさしかりけり ひとこころ たとへてみれは しらつゆの きゆるまもなほ ひさしかりけり | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1264 | 世中といひつるものかかけろふのあるかなきかのほとにそ有りける よのなかと いひつるものか かけろふの あるかなきかの ほとにそありける | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1265 | かくはかり別のやすき世中につねとたのめる我そはかなき かくはかり わかれのやすき よのなかに つねとたのめる われそはかなき | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1266 | ちりに立つわかなきよめんももしきの人の心をまくらともかな ちりにたつ わかなきよめむ ももしきの ひとのこころを まくらともかな | 伊勢 | 雑四 |
2-後撰 | 1267 | うき事をしのふる雨のしたにしてわかぬれきぬはほせとかわかす うきことを しのふるあめの したにして わかぬれきぬは ほせとかわかす | こまちかむまこ | 雑四 |
2-後撰 | 1268 | 逢ふ事のかたみのこゑのたかけれはわかなくねとも人はきかなん あふことの かたみのこゑの たかけれは わかなくねとも ひとはきかなむ | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1269 | 涙のみしる身のうさもかたるへくなけく心をまくらにもかな なみたのみ しるみのうさも かたるへく なけくこころを まくらにもかな | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1270 | あひにあひて物思ふころのわか袖はやとる月さへぬるるかほなる あひにあひて ものおもふころの わかそては やとるつきさへ ぬるるかほなる | 伊勢 | 雑四 |
2-後撰 | 1271 | あはれてふ事にしるしはなけれともいはてはえこそあらぬ物なれ あはれてふ ことにしるしは なけれとも いはてはえこそ あらぬものなれ | 紀貫之 | 雑四 |
2-後撰 | 1272 | うつろはぬなになかれたるかは竹のいつれの世にか秋をしるへき うつろはぬ なになかれたる かはたけの いつれのよにか あきをしるへき | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1273 | ふかき思ひそめつといひし事のははいつか秋風ふきてちりぬる ふかきおもひ そめつといひし ことのはは いつかあきかせ ふきてちりぬる | 藤原時平 | 雑四 |
2-後撰 | 1274 | 心なき身は草木にもあらなくに秋くる風にうたかはるらむ こころなき みはくさきにも あらなくに あきくるかせに うたかはるらむ | 伊勢 | 雑四 |
2-後撰 | 1275 | 身のうきをしれははしたになりぬへみおもひはむねのこかれのみする みのうきを しれははしたに なりぬへみ おもひはむねの こかれのみする | 伊勢 | 雑四 |
2-後撰 | 1276 | 雲ちをもしらぬ我さへもろこゑにけふはかりとそなきかへりぬる くもちをも しらぬわれさへ もろこゑに けふはかりとそ なきかへりぬる | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1277 | またきからおもひこきいろにそめむとやわか紫のねをたつぬらん またきから おもひこきいろに そめむとや わかむらさきの ねをたつぬらむ | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1278 | 見えもせぬ深き心をかたりては人にかちぬと思ふものかは みえもせぬ ふかきこころを かたりては ひとにかちぬと おもふものかは | 伊勢 | 雑四 |
2-後撰 | 1279 | 伊勢の海に年へてすみしあまなれとかかるみるめはかつかさりしを いせのうみに としへてすみし あまなれと かかるみるめは かつかさりしを | 伊勢 | 雑四 |
2-後撰 | 1280 | あしひきの山の山鳥かひもなし峰の白雲たちしよらねは あしひきの やまのやまとり かひもなし みねのしらくも たちしよらねは | 兼輔 | 雑四 |
2-後撰 | 1281 | 我ならぬ草葉もものは思ひけり袖より外におけるしらつゆ われならぬ くさはもものは おもひけり そてよりほかに おけるしらつゆ | ふちはらのたたくに | 雑四 |
2-後撰 | 1282 | 人心嵐の風のさむけれはこのめも見えす枝そしをるる ひとこころ あらしのかせの さむけれは このめもみえす えたそしをるる | 伊勢 | 雑四 |
2-後撰 | 1283 | うきなから人をわすれん事かたみわか心こそかはらさりけれ うきなから ひとをわすれむ ことかたみ わかこころこそ かはらさりけれ | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1284 | うたたねのとこにとまれる白玉は君かおきけるつゆにやあるらん うたたねの とこにとまれる しらたまは きみかおきける つゆにやあるらむ | 源ひとしの | 雑四 |
2-後撰 | 1285 | かひもなき草の枕におくつゆの何にきえなておちとまりけん かひもなき くさのまくらに おくつゆの なににきえなて おちとまりけむ | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1286 | 思ひやる方もしられすくるしきは心まとひのつねにやあるらむ おもひやる かたもしられす くるしきは こころまとひの つねにやあるらむ | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1287 | 鈴虫におとらぬねこそなかれけれ昔の秋を思ひやりつつ すすむしに おとらぬねこそ なかれけれ むかしのあきを おもひやりつつ | 左太臣(実頼) | 雑四 |
2-後撰 | 1288 | ゆふくれのさひしき物は槿の花をたのめるやとにそ有りける ゆふくれの さひしきものは あさかほの はなをたのめる やとにそありける | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1289 | ははそ山峰の嵐の風をいたみふることのはをかきそあつむる ははそやま みねのあらしの かせをいたみ ふることのはを かきそあつむる | 紀貫之 | 雑四 |
2-後撰 | 1290 | 世中をいとひてあまのすむ方もうきめのみこそ見えわたりけれ よのなかを いとひてあまの すむかたも うきめのみこそ みえわたりけれ | こまちかあね | 雑四 |
2-後撰 | 1291 | 山河のおとにのみきくももしきを身をはやなから見るよしもかな やまかはの おとにのみきく ももしきを みをはやなから みるよしもかな | 伊勢 | 雑四 |
2-後撰 | 1292 | 世中はいかにやいかに風のおとをきくにも今は物やかなしき よのなかは いかにやいかに かせのおとを きくにもいまは ものやかなしき | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1293 | よのなかはいさともいさや風のおとは秋に秋そふ心地こそすれ よのなかは いさともいさや かせのおとは あきにあきそふ ここちこそすれ | 伊勢 | 雑四 |
2-後撰 | 1294 | たとへくるつゆとひとしき身にしあらはわか思ひにもきえんとやする たとへくる つゆとひとしき みにしあらは わかおもひにも きえむとやする | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1295 | ささかにのそらにすかけるいとよりも心ほそしやたえぬとおもへは ささかにの そらにすかける いとよりも こころほそしや たえぬとおもへは | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1296 | 風ふけはたえぬと見ゆるくものいも又かきつかてやむとやはきく かせふけは たえぬとみゆる くものいも またかきつかて やむとやはきく | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1297 | 名にたちてふしみのさとといふ事はもみちをとこにしけはなりけり なにたちて ふしみのさとと いふことは もみちをとこに しけはなりけり | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1298 | 我も思ふ人もわするなありそ海の浦吹く風のやむ時もなく われもおもふ ひともわするな ありそうみの うらふくかせの やむときもなく | ひとしきこのみこ | 雑四 |
2-後撰 | 1299 | あしひきの山したとよみなくとりもわかことたえす物思ふらめや あしひきの やましたとよみ なくとりも わかことたえす ものおもふらめや | 山田法師 | 雑四 |
2-後撰 | 1300 | 今はとて秋はてられし身なれともきりたち人をえやはわするる いまはとて あきはてられし みなれとも きりたちひとを えやはわするる | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1301 | 思ひいててきつるもしるくもみちはの色は昔にかはらさりけり おもひいてて きつるもしるく もみちはの いろはむかしに かはらさりけり | 藤原兼輔 | 雑四 |
2-後撰 | 1302 | 峰高み行きても見へきもみちはをわかゐなからもかさしつるかな みねたかみ ゆきてもみへき もみちはを わかゐなからも かさしつるかな | 坂上是則 | 雑四 |
2-後撰 | 1303 | まつ人はきぬときけともあらたまのとしのみこゆるあふさかのせき まつひとは きぬときけとも あらたまの としのみこゆる あふさかのせき | 読人知らず | 雑四 |
2-後撰 | 1304 | をりをりに打ちてたく火の煙あらは心さすかをしのへとそ思ふ をりをりに うちてたくひの けふりあらは こころさすかを しのへとそおもふ | 紀貫之 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1305 | あた人のたむけにをれるさくら花相坂まてはちらすもあらなん あたひとの たむけにをれる さくらはな あふさかまては ちらすもあらなむ | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1306 | 思ひやる心はかりはさはらしを何へたつらん峰の白雲 おもひやる こころはかりは さはらしを なにへたつらむ みねのしらくも | 橘直幹 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1307 | ふたみ山ともにこえねとますかかみそこなる影をたくへてそやる ふたみやま ともにこえねと ますかかみ そこなるかけを たくへてそやる | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1308 | しなのなるあさまの山ももゆなれはふしのけふりのかひやなからん しなのなる あさまのやまも もゆなれは ふしのけふりの かひやなからむ | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1309 | このたひも我をわすれぬ物ならはうち見むたひに思ひいてなん このたひも われをわすれぬ ものならは うちみむたひに おもひいてなむ | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1310 | 打ちすてて君しいなはのつゆの身はきえぬはかりそ有りとたのむな うちすてて きみしいなはの つゆのみは きえぬはかりそ ありとたのむな | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1311 | をしと思ふ心はなくてこのたひはゆく馬にむちをおほせつるかな をしとおもふ こころはなくて このたひは ゆくうまにむちを おほせつるかな | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1312 | 君か手をかれゆく秋のすゑにしものかひにはなつむまそかなしき きみかてを かれゆくあきの すゑにしも のかひにはなつ うまそかなしき | むま | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1313 | 今はとて立帰りゆくふるさとのふはのせきちにみやこわするな いまはとて たちかへりゆく ふるさとの ふはのせきちに みやこわするな | 藤原清正 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1314 | 身をわくる事のかたさにます鏡影はかりをそ君にそへつる みをわくる ことのかたさに ますかかみ かけはかりをそ きみにそへつる | おほくほののりよし | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1315 | はつかりの我もそらなるほとなれは君も物うきたひにやあるらん はつかりの われもそらなる ほとなれは きみもものうき たひにやあるらむ | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1316 | いとせめてこひしきたひの唐衣ほとなくかへす人もあらなん いとせめて こひしきたひの からころも ほとなくかへす ひともあらなむ | 源公忠 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1317 | 唐衣たつ日をよそにきく人はかへすはかりのほともこひしを からころも たつひをよそに きくひとは かへすはかりの ほともこひしを | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1318 | こひしくは事つてもせむかへるさのかりかねはまつわかやとになけ こひしくは ことつてもせむ かへるさの かりかねはまつ わかやとになけ | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1319 | 別れてはいつあひみんと思ふらん限あるよのいのちともなし わかれては いつあひみむと おもふらむ かきりあるよの いのちともなし | 伊勢 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1320 | そむかれぬ松のちとせのほとよりもともともとたにしたはれそせし そむかれぬ まつのちとせの ほとよりも ともともとたに したはれそせし | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1321 | ともともとしたふ涙のそふ水はいかなる色に見えてゆくらん ともともと したふなみたの そふみつは いかなるいろに みえてゆくらむ | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1322 | わかるれとあひもをしまぬももしきを見さらん事やなにかかなしき わかるれと あひもをしまぬ ももしきを みさらむことや なにかかなしき | 伊勢 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1323 | 身ひとつにあらぬはかりをおしなへてゆきめくりてもなとかみさらん みひとつに あらぬはかりを おしなへて ゆきめくりても なとかみさらむ | 亭子のみかと | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1324 | 別れゆく道のくもゐになりゆけはとまる心もそらにこそなれ わかれゆく みちのくもゐに なりゆけは とまるこころも そらにこそなれ | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1325 | いかて猶かさとり山に身をなしてつゆけきたひにそはんとそ思ふ いかてなほ かさとりやまに みをなして つゆけきたひに そはむとそおもふ | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1326 | かさとりの山とたのみし君をおきて涙の雨にぬれつつそゆく かさとりの やまとたのみし きみをおきて なみたのあめに ぬれつつそゆく | 宗于のむすめ | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1327 | 君かゆく方に有りてふ涙河まつは袖にそ流るへらなる きみかゆく かたにありてふ なみたかは まつはそてにそ なかるへらなる | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1328 | 袖ぬれて別はすとも唐衣ゆくとないひそきたりとを見む そてぬれて わかれはすとも からころも ゆくとないひそ きたりとをみむ | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1329 | 別ちは心もゆかす唐衣きれは涙そさきにたちける わかれちは こころもゆかす からころも きれはなみたそ さきにたちける | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1330 | そへてやる扇の風し心あらはわか思ふ人の手をなはなれそ そへてやる あふきのかせし こころあらは わかおもふひとの てをなはなれそ | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1331 | 君をのみしのふのさとへゆくものをあひつの山のはるけきやなそ きみをのみ しのふのさとへ ゆくものを あひつのやまの はるけきやなそ | 藤原滋幹かむすめ | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1332 | 年をへてあひみる人の別にはをしき物こそいのちなりけれ としをへて あひみるひとの わかれには をしきものこそ いのちなりけれ | 小野好古 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1333 | ゆくさきをしらぬ涙の悲しきはたためのまへにおつるなりけり ゆくさきを しらぬなみたの かなしきは たためのまへに おつるなりけり | 源のわたる | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1334 | わするなといふになかるる涙河うきなをすすくせともならなん わするなと いふになかるる なみたかは うきなをすすく せともならなむ | たかとほかめ | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1335 | 我をのみ思ひつるかの浦ならはかへるの山はまとはさらまし われをのみ おもひつるかの うらならは かへるのやまは まとはさらまし | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1336 | 君をのみいつはたと思ひこしなれはゆききの道ははるけからしを きみをのみ いつはたとおもひ こしなれは ゆききのみちは はるけからしを | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1337 | 秋ふかくたひゆく人のたむけにはもみちにまさるぬさなかりけり あきふかく たひゆくひとの たむけには もみちにまさる ぬさなかりけり | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1338 | もみちはをぬさとたむけてちらしつつ秋とともにやゆかんとすらん もみちはを ぬさとたむけて ちらしつつ あきとともにや ゆかむとすらむ | 大輔 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1339 | まちわひてこひしくならはたつぬへくあとなき水のうへならてゆけ まちわひて こひしくならは たつぬへく あとなきみつの うへならてゆけ | 伊勢 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1340 | こむといひてわかるるたにもあるものをしられぬけさのましてわひしさ こむといひて わかるるたにも あるものを しられぬけさの ましてわひしき | 藤原時平 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1341 | さらはよと別れし時にいはませは我も涙におほほれなまし さらはよと わかれしときに いはませは われもなみたに おほほれなまし | 伊勢 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1342 | 春霞はかなくたちてわかるとも風より外にたれかとふへき はるかすみ はかなくたちて わかるとも かせよりほかに たれかとふへき | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1343 | めにみえぬ風に心をたくへつつやらはかすみのわかれこそせめ めにみえぬ かせにこころを たくへつつ やらはかすみの わかれこそせめ | 伊勢 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1344 | 君か世はつるのこほりにあえてきね定なきよのうたかひもなく きみかよは つるのこほりに あえてきね さためなきよの うたかひもなく | 伊勢 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1345 | おくれすそ心にのりてこかるへき浪にもとめよ舟みえすとも おくれすそ こころにのりて こかるへき なみにもとめよ ふねみえすとも | 伊勢 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1346 | 舟なくはあまのかはまてもとめてむこきつつしほのなかにきえすは ふねなくは あまのかはまて もとめてむ こきつつしほの なかにきえすは | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1347 | かねてより涙そ袖をうちぬらすうかへる舟にのらむと思へは かねてより なみたそそてを うちぬらす うかへるふねに のらむとおもへは | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1348 | おさへつつ我は袖にそせきとむる舟こすしほになさしとおもへは おさへつつ われはそてにそ せきとむる ふねこすしほに なさしとおもへは | 伊勢 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1349 | わすれしとことにむすひてわかるれはあひ見むまては思ひみたるな わすれしと ことにむすひて わかるれは あひみむまては おもひみたるな | 紀貫之 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1350 | はつせ河わたるせさへやにこるらん世にすみかたきわか身と思へは はつせかは わたるせさへや にこるらむ よにすみかたき わかみとおもへは | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1351 | 名にしおははあたにそ思ふたはれしま浪のぬれきぬいくよきつらん なにしおはは あたにそおもふ たはれしま なみのぬれきぬ いくよきつらむ | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1352 | いととしくすきゆく方のこひしきにうら山しくも帰る浪かな いととしく すきゆくかたの こひしきに うらやましくも かへるなみかな | 在原業平 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1353 | 宮こまておとにふりくる白山はゆきつきかたき所なりけり みやこまて おとにふりくる しらやまは ゆきつきかたき ところなりけり | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1354 | 山さとの草はのつゆもしけからんみのしろ衣ぬはすともきよ やまさとの くさはのつゆも しけからむ みのしろころも ぬはすともきよ | 中原宗興 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1355 | 宮こにて山のはに見し月なれと海よりいてて海にこそいれ みやこにて やまのはにみし つきなれと うみよりいてて うみにこそいれ | 紀貫之 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1356 | 水ひきのしらいとはへておるはたは旅の衣にたちやかさねん みつひきの しらいとはへて おるはたは たひのころもに たちやかさねむ | 菅原道真 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1357 | ひくらしの山ちをくらみさよふけてこのすゑことにもみちてらせる ひくらしの やまちをくらみ さよふけて このすゑことに もみちてらせる | 菅原道真 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1358 | 草枕たひとなりなは山のへにしらくもならぬ我ややとらむ くさまくら たひとなりなは やまのへに しらくもならぬ われややとらむ | 伊勢 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1359 | 水もせにうきぬる時はしからみのうちのとのとも見えぬもみちは みつもせに うきたるときは しからみの うちのとのとも みえぬもみちは | 伊勢 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1360 | 花さきてみならぬ物はわたつうみのかさしにさせるおきつ白浪 はなさきて みならぬものは わたつうみの かさしにさせる おきつしらなみ | 小野小町 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1361 | あしからのせきの山ちをゆく人はしるもしらぬもうとからぬかな あしからの せきのやまちを ゆくひとは しるもしらぬも うとからぬかな | 真静法師 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1362 | 人ことにけふけふとのみこひらるる宮こちかくも成りにけるかな ひとことに けふけふとのみ こひらるる みやこちかくも なりにけるかな | 僧正聖宝 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1363 | てる月のなかるる見れはあまのかはいつるみなとは海にそ有りける てるつきの なかるるみれは あまのかは いつるみなとは うみにそありける | 紀貫之 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1364 | 草枕紅葉むしろにかへたらは心をくたく物ならましや くさまくら もみちむしろに かへたらは こころをくたく ものならましや | 亭子院 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1365 | 思ふ人ありてかへれはいつしかのつままつよひのこゑそかなしき おもふひと ありてかへれは いつしかの つままつよひの こゑそかなしき | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1366 | 草枕ゆふてはかりはなになれやつゆもなみたもおきかへりつつ くさまくら ゆふてはかりは なになれや つゆもなみたも おきかへりつつ | 読人知らず | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1367 | 秋山にまとふ心をみやたきのたきのしらあわにけちやはててむ あきやまに まとふこころを みやたきの たきのしらあわに けちやはててむ | 素性法師 | 離別羈旅 |
2-後撰 | 1368 | よろつ世の霜にもかれぬ白菊をうしろやすくもかさしつるかな よろつよの しもにもかれぬ しらきくを うしろやすくも かさしつるかな | 藤原伊衡 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1369 | 雲わくるあまの羽衣うちきては君かちとせにあはさらめやは くもわくる あまのはころも うちきては きみかちとせに あはさらめやは | 典侍あきらけい子 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1370 | ことしよりわかなにそへておいのよにうれしき事をつまむとそ思ふ ことしより わかなにそへて おいのよに うれしきことを つまむとそおもふ | 藤原忠平 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1371 | ことのねも竹もちとせのこゑするは人の思ひにかよふなりけり ことのねも たけもちとせの こゑするは ひとのおもひに かよふなりけり | 紀貫之 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1372 | ももとせといはふを我はききなから思ふかためはあかすそ有りける ももとせと いはふをわれは ききなから おもふかためは あかすそありける | 読人知らず | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1373 | おほはらやをしほの山のこ松原はやこたかかれちよの影みん おほはらや をしほのやまの こまつはら はやこたかかれ ちよのかけみむ | 紀貫之 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1374 | 打ちよする浪の花こそさきにけれちよ松風やはるになるらん うちよする なみのはなこそ さきにけれ ちよまつかせや はるになるらむ | 読人知らず | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1375 | 君かため松のちとせもつきぬへしこれよりまさん神の世もかな きみかため まつのちとせも つきぬへし これよりまさむ かみのよもかな | 読人知らず | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1376 | ももとせにやそとせそへていのりくる玉のしるしを君みさらめや ももとせに やそとせそへて いのりくる たまのしるしを きみみさらめや | ゆいせい法師 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1377 | けふそくをおさへてまさへよろつよに花のさかりを心しつかに けふそくを おさへてまさへ よろつよに はなのさかりを こころしつかに | 僧都仁教 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1378 | 君かためいはふ心のふかけれはひしりのみよのあとならへとそ きみかため いはふこころの ふかけれは ひしりのみよの あとならへとそ | 藤原忠平 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1379 | をしへおくことたかはすはゆくすゑの道とほくともあとはまとはし をしへおく ことたかはすは ゆくすゑの みちとほくとも あとはまとはし | 村上院 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1380 | 山人のこれるたききは君かためおほくの年をつまんとそ思ふ やまひとの これるたききは きみかため おほくのとしを つまむとそおもふ | 藤原忠平 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1381 | 年のかすつまんとすなるおもににはいととこつけをこりもそへなん としのかす つまむとすなる おもにには いととこつけを こりもそへなむ | 村上院 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1382 | 君かためうつしてううるくれ竹にちよもこもれる心地こそすれ きみかため うつしてううる くれたけに ちよもこもれる ここちこそすれ | 藤原清正 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1383 | をののえのくちむもしらす君か世のつきんかきりはうちこころみよ をののえの くちむもしらす きみかよの つきむかきりは うちこころみよ | 命婦いさきよき子 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1384 | なみたてる松の緑の枝わかすをりつつちよを誰とかは見む なみたてる まつのみとりの えたわかす をりつつちよを たれとかはみむ | 藤原師輔 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1385 | いはふこと有りとなるへしけふなれと年のこなたにはるもきにけり いはふこと ありとなるへし けふなれと としのこなたに はるもきにけり | 紀貫之 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1386 | またしらぬ人も有りけるあつまちに我も行きてそすむへかりける またしらぬ ひともありけり あつまちに われもゆきてそ すむへかりける | 左太臣(実頼) | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1387 | 春の夜の夢のなかにも思ひきや君なきやとをゆきてみんとは はるのよの ゆめのなかにも おもひきや きみなきやとを ゆきてみむとは | 藤原忠平 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1388 | やと見れはねてもさめてもこひしくて夢うつつともわかれさりけり やとみれは ねてもさめても こひしくて ゆめうつつとも わかれさりけり | 読人知らず | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1389 | はかなくて世にふるよりは山しなの宮の草木とならましものを はかなくて よにふるよりは やましなの みやのくさきと ならましものを | 藤原定方 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1390 | 山しなの宮の草木と君ならは我はしつくにぬるはかりなり やましなの みやのくさきと きみならは われはしつくに ぬるはかりなり | 藤原兼輔 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1391 | わかれにしほとをはてともおもほえすこひしきことの限なけれは わかれにし ほとをはてとも おもほえす こひしきことの かきりなけれは | 時望妻 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1392 | たねもなき花たにちらぬやともあるをなとかかたみのこたになからん たねもなき はなたにちらぬ やともあるを なとかかたみの こたになからむ | 藤原師輔 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1393 | 結ひおきしたねならねともみるからにいとと忍の草をつむかな むすひおきし たねならねとも みるからに いととしのふの くさをつむかな | 内侍のかみ | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1394 | ここらよをきくか中にもかなしきは人の涙もつきやしぬらん ここらよを きくかうちにも かなしきは ひとのなみたも つきやしぬらむ | 伊勢 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1395 | 聞く人もあはれてふなる別にはいとと涙そつきせさりける きくひとも あはれてふなる わかれには いととなみたそ つきせさりける | 読人知らず | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1396 | いたつらにけふやくれなんあたらしき春の始は昔なからに いたつらに けふやくれなむ あたらしき はるのはしめは むかしなからに | 藤原定方 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1397 | なく涙ふりにし年の衣手はあたらしきにもかはらさりけり なくなみた ふりにしとしの ころもては あたらしきにも かはらさりけり | 藤原兼輔 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1398 | 人の世の思ひにかなふ物ならはわか身は君におくれましやは ひとのよの おもひにかなふ ものならは わかみはきみに おくれましやは | 藤原定方 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1399 | ねぬ夢に昔のかへを見つるよりうつつに物そかなしかりける ねぬゆめに むかしのかへを みつるより うつつにものそ かなしかりける | 藤原兼輔 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1400 | ゆふされはねにゆくをしのひとりしてつまこひすなるこゑのかなしさ ゆふされは ねになくをしの ひとりして つまこひすなる こゑのかなしさ | 藤原冬嗣 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1401 | をみなへしかれにしのへにすむ人はまつさく花をまたてとも見す をみなへし かれにしのへに すむひとは まつさくはなを またてともみす | 藤原忠平 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1402 | なき人の影たに見えぬやり水のそこは涙になかしてそこし なきひとの かけたにみえぬ やりみつの そこはなみたに なかしてそこし | 伊勢 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1403 | ひとりゆく事こそうけれふるさとのならのならひてみし人もなみ ひとりゆく ことこそうけれ ふるさとの ならのならひて みしひともなみ | 伊勢 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1404 | すみそめのこきもうすきも見る時はかさねて物そかなしかりける すみそめの こきもうすきも みるときは かさねてものそ かなしかりける | 京極御息所 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1405 | 昨日まてちよとちきりし君をわかしての山ちにたつぬへきかな きのふまて ちよとちきりし きみをわか してのやまちに たつぬへきかな | 藤原師輔 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1406 | あらたまの年こえくらしつねもなきはつ鴬のねにそなかるる あらたまの としこえくらし つねもなき はつうくひすの ねにそなかるる | はるかみののむすめ | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1407 | ねにたててなかぬ日はなし鴬の昔の春を思ひやりつつ ねにたてて なかぬひはなし うくひすの むかしのはるを おもひやりつつ | 大輔 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1408 | もろともにおきゐし秋のつゆはかりかからん物と思ひかけきや もろともに おきゐしあきの つゆはかり かからむものと おもひかけきや | 玄上女 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1409 | 世中のかなしき事を菊のうへにおく白露そ涙なりける よのなかの かなしきことを きくのうへに おくしらつゆそ なみたなりける | 藤原守文 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1410 | きくにたにつゆけかるらん人のよをめにみし袖を思ひやらなん きくにたに つゆけかるらむ ひとのよを めにみしそてを おもひやらなむ | 藤原清正 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1411 | ひきうゑしふたはの松は有りなから君かちとせのなきそ悲しき ひきうゑし ふたはのまつは ありなから きみかちとせの なきそかなしき | 紀貫之 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1412 | 君まさて年はへぬれとふるさとにつきせぬ物は涙なりけり きみまさて としはへぬれと ふるさとに つきせぬものは なみたなりけり | 読人知らず | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1413 | すきにける人を秋しも問ふからに袖はもみちの色にこそなれ すきにける ひとをあきしも とふからに そてはもみちの いろにこそなれ | 戒仙法師 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1414 | 袖かわく時なかりつるわか身にはふるを雨ともおもはさりけり そてかわく ときなかりつる わかみには ふるをあめとも おもはさりけり | 読人知らず | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1415 | ふるさとに君はいつらとまちとははいつれのそらの霞といはまし ふるさとに きみはいつらと まちとはは いつれのそらの かすみといはまし | 読人知らず | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1416 | 君かいにし方やいつれそ白雲のぬしなきやとと見るかかなしさ きみかいにし かたやいつれそ しらくもの ぬしなきやとと みるかかなしさ | 藤原清正 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1417 | わひ人のたもとに君かうつりせは藤の花とそ色は見えまし わひひとの たもとにきみか うつりせは ふちのはなとそ いろはみえまし | 読人知らず | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1418 | よそにをる袖たにひちし藤衣涙に花も見えすそあらまし よそにをる そてたにひちし ふちころも なみたにはなも みえすそあらまし | 読人知らず | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1419 | ほともなく誰もおくれぬ世なれともとまるはゆくをかなしとそみる ほともなく たれもおくれぬ よなれとも とまるはゆくを かなしとそみる | 伊勢 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1420 | 時のまもなくさめつらんさめぬまは夢にたに見ぬわれそかなしき ときのまも なくさめつらむ さめぬまは ゆめにたにみぬ われそかなしき | 玄上女 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1421 | かなしさのなくさむへくもあらさりつゆめのうちにも夢とみゆれは かなしさの なくさむへくも あらさりつ ゆめのうちにも ゆめとみゆれは | 大輔 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1422 | かけてたにわか身のうへと思ひきやこむ年春の花をみしとは かけてたに わかみのうへと おもひきや こむとしはるの はなをみしとは | 伊勢 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1423 | なくこゑにそひて涙はのほらねと雲のうへよりあめとふるらん なくこゑに そひてなみたは のほらねと くものうへより あめとふるらむ | 伊勢 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1424 | なき人のともにし帰る年ならはくれゆくけふはうれしからまし なきひとの ともにしかへる としならは くれゆくけふは うれしからまし | 藤原兼輔 | 慶賀哀傷 |
2-後撰 | 1425 | こふるまに年のくれなはなき人の別やいとととほくなりなん こふるまに としのくれなは なきひとの わかれやいとと とほくなりなむ | 紀貫之 | 慶賀哀傷 |
3-拾遺 | 1 | はるたつといふはかりにや三吉野の山もかすみてけさは見ゆらん はるたつと いふはかりにや みよしのの やまもかすみて けさはみゆらむ | 壬生忠岑 | 春 |
3-拾遺 | 2 | 春霞たてるを見れは荒玉の年は山よりこゆるなりけり はるかすみ たてるをみれは あらたまの としはやまより こゆるなりけり | 紀文幹 | 春 |
3-拾遺 | 3 | 昨日こそ年はくれしか春霞かすかの山にはやたちにけり きのふこそ としはくれしか はるかすみ かすかのやまに はやたちにけり | 山部赤人 | 春 |
3-拾遺 | 4 | 吉野山峯の白雪いつきえてけさは霞の立ちかはるらん よしのやま みねのしらゆき いつきえて けさはかすみの たちかはるらむ | 源重之 | 春 |
3-拾遺 | 5 | あらたまの年立帰る朝よりまたるる物はうくひすのこゑ あらたまの としたちかへる あしたより またるるものは うくひすのこゑ | 素性法師 | 春 |
3-拾遺 | 6 | 氷たにとまらぬ春の谷風にまたうちとけぬ鴬の声 こほりたに とまらぬはるの たにかせに またうちとけぬ うくひすのこゑ | 源順 | 春 |
3-拾遺 | 7 | 春立ちて朝の原の雪見れはまたふる年の心地こそすれ はるたちて あしたのはらの ゆきみれは またふるとしの ここちこそすれ | 平祐挙 | 春 |
3-拾遺 | 8 | 春立ちて猶ふる宮は梅の花さくほともなくちるかとそ見る はるたちて なほふるゆきは うめのはな さくほともなく ちるかとそみる | 凡河内躬恒 | 春 |
3-拾遺 | 9 | わかやとの梅にならひてみよしのの山の雪をも花とこそ見れ わかやとの うめにならひて みよしのの やまのゆきをも はなとこそみれ | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 10 | 鴬の声なかりせは雪きえぬ山さといかてはるをしらまし うくひすの こゑなかりせは ゆききえぬ やまさといかて はるをしらまし | 藤原朝忠 | 春 |
3-拾遺 | 11 | うちきらし雪はふりつつしかすかにわか家のそのに鴬そなく うちきらし ゆきはふりつつ しかすかに わかいへのそのに うくひすそなく | 大伴家持 | 春 |
3-拾遺 | 12 | 梅の花それとも見えす久方のあまきるこのなへてふれれは うめのはな それともみえす ひさかたの あまきるゆきの なへてふれれは | 柿本人麻呂(人麿) | 春 |
3-拾遺 | 13 | むめかえにふりかかりてそ白雪の花のたよりにをらるへらなる うめかえに ふりかかりてそ しらゆきの はなのたよりに をらるへらなる | 紀貫之 | 春 |
3-拾遺 | 14 | ふる雪に色はまかひぬ梅の花かにこそにたる物なかりけれ ふるゆきに いろはまかひぬ うめのはな かにこそにたる ものなかりけれ | 凡河内躬恒 | 春 |
3-拾遺 | 15 | わかやとの梅のたちえや見えつらん思ひの外に君かきませる わかやとの うめのたちえや みえつらむ おもひのほかに きみかきませる | 平兼盛 | 春 |
3-拾遺 | 16 | かをとめてたれをらさらん梅の花あやなし霞たちなかくしそ かをとめて たれをらさらむ うめのはな あやなしかすみ たちなかくしそ | 凡河内躬恒 | 春 |
3-拾遺 | 17 | 白妙のいもか衣にむめの花色をもかをもわきそかねつる しろたへの いもかころもに うめのはな いろをもかをも わきそかねつる | 紀貫之 | 春 |
3-拾遺 | 18 | あすからはわかなつまむとかたをかの朝の原はけふそやくめる あすからは わかなつまむと かたをかの あしたのはらは けふそやくめる | 柿本人麻呂(人麿) | 春 |
3-拾遺 | 19 | 野辺見れはわかなつみけりむへしこそかきねの草もはるめきにけれ のへみれは わかなつみけり うへしこそ かきねのくさも はるめきにけれ | 紀貫之 | 春 |
3-拾遺 | 20 | かすか野におほくの年はつみつれとおいせぬ物はわかななりけり かすかのに おほくのとしは つみつれと おいせぬものは わかななりけり | 円融院 | 春 |
3-拾遺 | 21 | 春ののにあさるききすのつまこひにおのかありかを人にしれつつ はるののに あさるききすの つまこひに おのかありかを ひとにしれつつ | 大伴家持 | 春 |
3-拾遺 | 22 | 松のうへになく鴬のこゑをこそはつねの日とはいふへかりけれ まつのうへに なくうくひすの こゑをこそ はつねのひとは いふへかりけれ | 宮内 | 春 |
3-拾遺 | 23 | 子の日するのへにこ松のなかりせは千世のためしになにをひかまし ねのひする のへにこまつの なかりせは ちよのためしに なにをひかまし | 壬生忠岑 | 春 |
3-拾遺 | 24 | ちとせまてかきれる松もけふよりは君にひかれて万代やへむ ちとせまて かきれるまつも けふよりは きみにひかれて よろつよやへむ | 大中臣能宣 | 春 |
3-拾遺 | 25 | 梅の花またちらねともゆく水のそこにうつれるかけそ見えける うめのはな またちらねとも ゆくみつの そこにうつれる かけそみえける | 紀貫之 | 春 |
3-拾遺 | 26 | つみたむることのかたきは鴬の声するのへのわかななりけり つみたむる ことのかたきは うくひすの こゑするのへの わかななりけり | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 27 | 梅の花よそなから見むわきもこかとかむはかりのかにもこそしめ うめのはな よそなからみむ わきもこか とかむはかりの かにもこそしめ | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 28 | 袖たれていさわかそのにうくひすのこつたひちらす梅の花見む そてたれて いさわかそのに うくひすの こつたひちらす うめのはなみむ | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 29 | あさまたきおきてそ見つる梅の花夜のまの風のうしろめたさに あさまたき おきてそみつる うめのはな よのまのかせの うしろめたさに | 元良親王 | 春 |
3-拾遺 | 30 | 吹く風をなにいとひけん梅の花ちりくる時そかはまさりける ふくかせを なにいとひけむ うめのはな ちりくるときそ かはまさりける | 凡河内躬恒 | 春 |
3-拾遺 | 31 | 匂をは風にそふとも梅の花色さへあやなあたにちらすな にほひをは かせにそふとも うめのはな いろさへあやな あたにちらすな | 大中臣能宣 | 春 |
3-拾遺 | 32 | ともすれは風のよるにそ青柳のいとは中中みたれそめける ともすれは かせのよるにそ あをやきの いとはなかなか みたれそめける | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 33 | ちかくてそ色もまされるあをやきの糸はよりてそ見るへかりける ちかくてそ いろもまされる あをやきの いとはよりてそ みるへかりける | 大中臣能宣 | 春 |
3-拾遺 | 34 | 青柳の花田のいとをよりあはせてたえすもなくか鴬のこゑ あをやきの はなたのいとを よりあはせて たえすもなくか うくひすのこゑ | 凡河内躬恒 | 春 |
3-拾遺 | 35 | 花見にはむれてゆけとも青柳の糸のもとにはくる人もなし はなみには むれてゆけとも あをやきの いとのもとには くるひともなし | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 36 | さけはちるさかねはこひし山桜思ひたえせぬ花のうへかな さけはちる さかねはこひし やまさくら おもひたえせぬ はなのうへかな | 中務 | 春 |
3-拾遺 | 37 | 吉野山たえす霞のたなひくは人にしられぬ花やさくらん よしのやま たえすかすみの たなひくは ひとにしられぬ はなやさくらむ | 中務 | 春 |
3-拾遺 | 38 | さきさかすよそにても見む山さくら峯の白雲たちなかくしそ さきさかす よそにてもみむ やまさくら みねのしらくも たちなかくしそ | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 39 | 吹く風にあらそひかねてあしひきの山の桜はほころひにけり ふくかせに あらそひかねて あしひきの やまのさくらは ほころひにけり | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 40 | 浅緑のへの霞はつつめともこほれてにほふ花さくらかな あさみとり のへのかすみは つつめとも こほれてにほふ はなさくらかな | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 41 | 吉野山きえせぬ雪と見えつるは峯つつきさくさくらなりけり よしのやま きえせぬゆきと みえつるは みねつつきさく さくらなりけり | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 42 | 春霞立ちなへたてそ花さかりみてたにあかぬ山のさくらを はるかすみ たちなへたてそ はなさかり みてたにあかぬ やまのさくらを | 清原元輔 | 春 |
3-拾遺 | 43 | はるは猶我にてしりぬ花さかり心のとけき人はあらしな はるはなほ われにてしりぬ はなさかり こころのとけき ひとはあらしな | 壬生忠岑 | 春 |
3-拾遺 | 44 | さきそめていく世へぬらんさくら花色をは人にあかす見せつつ さきそめて いくよへぬらむ さくらはな いろをはひとに あかすみせつつ | 藤原千景 | 春 |
3-拾遺 | 45 | 春くれはまつそうち見るいその神めつらしけなき山田なれとも はるくれは まつそうちみる いそのかみ めつらしけなき やまたなれとも | 壬生忠見 | 春 |
3-拾遺 | 46 | はるくれは山田の氷打ちとけて人の心にまかすへらなり はるくれは やまたのこほり うちとけて ひとのこころに まかすへらなり | 在原元方 | 春 |
3-拾遺 | 47 | 春の田を人にまかせて我はたた花に心をつくるころかな はるのたを ひとにまかせて われはたた はなにこころを つくるころかな | 斎宮内侍 | 春 |
3-拾遺 | 48 | あたなれとさくらのみこそ旧里の昔なからの物には有りけれ あたなれと さくらのみこそ ふるさとの むかしなからの ものにはありけれ | 紀貫之 | 春 |
3-拾遺 | 49 | ちりちらすきかまほしきをふるさとの花見て帰る人もあはなん ちりちらす きかまほしきを ふるさとの はなみてかへる ひともあはなむ | 伊勢 | 春 |
3-拾遺 | 50 | さくらかり雨はふりきぬおなしくはぬるとも花の影にかくれむ さくらかり あめはふりきぬ おなしくは ぬるともはなの かけにかくれむ | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 51 | とふ人もあらしと思ひし山さとに花のたよりに人め見るかな とふひとも あらしとおもひし やまさとに はなのたよりに ひとめみるかな | 清原元輔 | 春 |
3-拾遺 | 52 | 花の木をうゑしもしるく春くれはわかやとすきて行く人そなき はなのきを うゑしもしるく はるくれは わかやとすきて ゆくひとそなき | 平兼盛 | 春 |
3-拾遺 | 53 | さくら色にわか身は深く成りぬらん心にしめて花ををしめは さくらいろに わかみはふかく なりぬらむ こころにしめて はなををしめは | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 54 | 身にかへてあやなく花を惜むかないけらはのちのはるもこそあれ みにかへて あやなくはなを をしむかな いけらはのちの はるもこそあれ | 藤原長能 | 春 |
3-拾遺 | 55 | 見れとあかぬ花のさかりに帰る雁猶ふるさとのはるやこひしき みれとあかぬ はなのさかりに かへるかり なほふるさとの はるやこひしき | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 56 | ふるさとの霞とひわけゆくかりはたひのそらにやはるをくらさむ ふるさとの かすみとひわけ ゆくかりは たひのそらにや はるをくらさむ | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 57 | ちりぬへき花見る時はすかのねのなかきはる日もみしかかりけり ちりぬへき はなみるときは すかのねの なかきはるひも みしかかりけり | 藤原清正 | 春 |
3-拾遺 | 58 | つけやらんまにもちりなはさくら花いつはり人に我やなりなん つけやらむ まにもちりなは さくらはな いつはりひとに われやなりなむ | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 59 | ちりそむる花を見すててかへらめやおほつかなしといもはまつとも ちりそむる はなをみすてて かへらめや おほつかなしと いもはまつとも | 大中臣能宣 | 春 |
3-拾遺 | 60 | 見もはててゆくとおもへはちる花につけて心のそらになるかな みもはてて ゆくとおもへは ちるはなに つけてこころの そらになるかな | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 61 | あさことにわかはくやとのにはさくら花ちるほとはてもふれて見む あさことに わかはくやとの にはさくら はなちるほとは てもふれてみむ | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 62 | あさちはらぬしなきやとの桜花心やすくや風にちるらん あさちはら ぬしなきやとの さくらはな こころやすくや かせにちるらむ | 恵慶法師 | 春 |
3-拾遺 | 63 | 春ふかくなりぬと思ふをさくら花ちるこのもとはまた雪そふる はるふかく なりぬとおもふを さくらはな ちるこのもとは またゆきそふる | 紀貫之 | 春 |
3-拾遺 | 64 | さくらちるこのした風はさむからてそらにしられぬゆきそふりける さくらちる このしたかせは さむからて そらにしられぬ ゆきそふりける | 紀貫之 | 春 |
3-拾遺 | 65 | あしひきの山ちにちれる桜花きえせぬはるの雪かとそ見る あしひきの やまちにちれる さくらはな きえせぬはるの ゆきかとそみる | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 66 | あしひきの山かくれなるさくら花ちりのこれりと風にしらるな あしひきの やまかくれなる さくらはな ちりのこれりと かせにしらるな | 小弐命婦 | 春 |
3-拾遺 | 67 | いはまをもわけくるたきの水をいかてちりつむ花のせきととむらん いはまをも わけくるたきの みつをいかて ちりつむはなの せきととむらむ | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 68 | 春ふかみゐてのかは浪たちかへり見てこそゆかめ山吹の花 はるふかみ ゐてのかはなみ たちかへり みてこそゆかめ やまふきのはな | 源順 | 春 |
3-拾遺 | 69 | 山吹の花のさかりにゐてにきてこのさと人になりぬへきかな やまふきの はなのさかりに ゐてにきて このさとひとに なりぬへきかな | 恵慶法師 | 春 |
3-拾遺 | 70 | 物もいはてなかめてそふる山吹の花に心そうつろひぬらん ものもいはて なかめてそふる やまふきの はなにこころそ うつろひぬらむ | 清原元輔 | 春 |
3-拾遺 | 71 | さは水にかはつなくなり山吹のうつろふ影やそこに見ゆらん さはみつに かはつなくなり やまふきの うつろふかけや そこにみゆらむ | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 72 | わかやとのやへ山吹はひとへたにちりのこらなんはるのかたみに わかやとの やへやまふきは ひとへたに ちりのこらなむ はるのかたみに | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 73 | 花の色をうつしととめよ鏡山春よりのちの影や見ゆると はなのいろを うつしととめよ かかみやま はるよりのちの かけやみゆると | 坂上是則 | 春 |
3-拾遺 | 74 | 春霞たちわかれゆく山みちは花こそぬさとちりまかひけれ はるかすみ たちわかれゆく やまみちは はなこそぬさと ちりまかひけれ | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 75 | 年の内はみな春なからくれななん花見てたにもうきよすくさん としのうちは みなはるなから くれななむ はなみてたにも うきよすくさむ | 読人知らず | 春 |
3-拾遺 | 76 | 風ふけは方もさためすちる花をいつ方へゆくはるとかは見む かせふけは かたもさためす ちるはなを いつかたへゆく はるとかはみむ | 紀貫之 | 春 |
3-拾遺 | 77 | 花もみなちりぬるやとは行く春のふるさととこそなりぬへらなれ はなもみな ちりぬるやとは ゆくはるの ふるさととこそ なりぬへらなれ | 紀貫之 | 春 |
3-拾遺 | 78 | つねよりものとけかりつるはるなれとけふのくるるはあかすそありける つねよりも のとけかりつる はるなれと けふのくるるは あかすそありける | 凡河内躬恒 | 春 |
3-拾遺 | 79 | なくこゑはまたきかねともせみのはのうすき衣はたちそきてける なくこゑは またきかねとも せみのはの うすきころもは たちそきてける | 大中臣能宣 | 夏 |
3-拾遺 | 80 | わかやとのかきねやはるをへたつらん夏きにけりと見ゆる卯の花 わかやとの かきねやはるを へたつらむ なつきにけりと みゆるうのはな | 源順 | 夏 |
3-拾遺 | 81 | 花の色にそめしたもとのをしけれは衣かへうきけふにもあるかな はなのいろに そめしたもとの をしけれは ころもかへうき けふにもあるかな | 源重之 | 夏 |
3-拾遺 | 82 | 花ちるといとひしものを夏衣たつやおそきと風をまつかな はなちると いとひしものを なつころも たつやおそきと かせをまつかな | 盛明のみこ | 夏 |
3-拾遺 | 83 | 夏にこそさきかかりけれふちの花松にとのみも思ひけるかな なつにこそ さきかかりけれ ふちのはな まつにとのみも おもひけるかな | 源重之 | 夏 |
3-拾遺 | 84 | 住吉の岸のふちなみわかやとの松のこすゑに色はまさらし すみよしの きしのふちなみ わかやとの まつのこすゑに いろはまさらし | 平兼盛 | 夏 |
3-拾遺 | 85 | 紫のふちさく松のこすゑにはもとのみとりもみえすそありける むらさきの ふちさくまつの こすゑには もとのみとりも みえすそありける | 源順 | 夏 |
3-拾遺 | 86 | うすくこくみたれてさける藤の花ひとしき色はあらしとそ思ふ うすくこく みたれてさける ふちのはな ひとしきいろは あらしとそおもふ | 藤原実頼 | 夏 |
3-拾遺 | 87 | 手もふれてをしむかひなく藤の花そこにうつれは浪そをりける てもふれて をしむかひなく ふちのはな そこにうつれは なみそをりける | 凡河内躬恒 | 夏 |
3-拾遺 | 88 | たこの浦のそこさへにほふ藤浪をかさしてゆかん見ぬ人のため たこのうらの そこさへにほふ ふちなみを かさしてゆかむ みぬひとのため | 柿本人麻呂(人麿) | 夏 |
3-拾遺 | 89 | 卯の花をちりにしむめにまかへてや夏のかきねに鴬のなく うのはなを ちりにしうめに まかへてや なつのかきねに うくひすのなく | 平公誠 | 夏 |
3-拾遺 | 90 | うの花のさけるかきねはみちのくのまかきのしまの浪かとそ見る うのはなの さけるかきねは みちのくの まかきのしまの なみかとそみる | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 91 | 神まつる卯月にさける卯の花はしろくもきねかしらけたるかな かみまつる うつきにさける うのはなは しろくもきねか しらけたるかな | 凡河内躬恒 | 夏 |
3-拾遺 | 92 | かみまつるやとの卯の花白妙のみてくらかとそあやまたれける かみまつる やとのうのはな しろたへの みてくらかとそ あやまたれける | 紀貫之 | 夏 |
3-拾遺 | 93 | 山かつのかきねにさける卯の花はたか白妙の衣かけしそ やまかつの かきねにさける うのはなは たかしろたへの ころもかけしそ | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 94 | 時わかすふれる雪かと見るまてにかきねもたわにさける卯の花 ときわかす ふれるゆきかと みるまてに かきねもたわに さけるうのはな | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 95 | 春かけてきかむともこそ思ひしか山郭公おそくなくらん はるかけて きかむともこそ おもひしか やまほとときす おそくなくらむ | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 96 | はつこゑのきかまほしさに郭公夜深くめをもさましつるかな はつこゑの きかまほしさに ほとときす よふかくめをも さましつるかな | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 97 | 家にきてなにをかたらむあしひきの山郭公ひとこゑもかな いへにきて なにをかたらむ あしひきの やまほとときす ひとこゑもかな | 久米広縄 | 夏 |
3-拾遺 | 98 | 山さとにしる人もかな郭公なきぬときかはつけにくるかに やまさとに しるひともかな ほとときす なきぬときかは つけにくるかに | 紀貫之 | 夏 |
3-拾遺 | 99 | やまさとにやとらさりせは郭公きく人もなきねをやなかまし やまさとに やとらさりせは ほとときす きくひともなき ねをやなかまし | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 100 | 髣髴にそ鳴渡るなる郭公み山をいつるけさのはつ声 ほのかにそ なきわたるなる ほとときす みやまをいつる けさのはつこゑ | 坂上望城 | 夏 |
3-拾遺 | 101 | み山いてて夜はにやきつる郭公暁かけてこゑのきこゆる みやまいてて よはにやきつる ほとときす あかつきかけて こゑのきこゆる | 平兼盛 | 夏 |
3-拾遺 | 102 | 宮こ人ねてまつらめや郭公今そ山へをなきていつなる みやこひと ねてまつらめや ほとときす いまそやまへを なきていつなる | 藤原道綱母 | 夏 |
3-拾遺 | 103 | 山かつと人はいへとも郭公まつはつこゑは我のみそきく やまかつと ひとはいへとも ほとときす まつはつこゑは われのみそきく | 坂上是則 | 夏 |
3-拾遺 | 104 | さ夜ふけてねさめさりせは郭公人つてにこそきくへかりけれ さよふけて ねさめさりせは ほとときす ひとつてにこそ きくへかりけれ | 壬生忠見 | 夏 |
3-拾遺 | 105 | ふたこゑときくとはなしに郭公夜深くめをもさましつるかな ふたこゑと きくとはなしに ほとときす よふかくめをも さましつるかな | 伊勢 | 夏 |
3-拾遺 | 106 | 行きやらて山ちくらしつほとときす今ひとこゑのきかまほしさに ゆきやらて やまちくらしつ ほとときす いまひとこゑの きかまほしさに | 源公忠 | 夏 |
3-拾遺 | 107 | このさとにいかなる人かいへゐして山郭公たえすきくらむ このさとに いかなるひとか いへゐして やまほとときす たえすきくらむ | 紀貫之 | 夏 |
3-拾遺 | 108 | さみたれはちかくなるらしよと河のあやめの草もみくさおひにけり さみたれは ちかくなるらし よとかはの あやめのくさも みくさおひにけり | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 109 | 昨日まてよそに思ひしあやめ草けふわかやとのつまと見るかな きのふまて よそにおもひし あやめくさ けふわかやとの つまとみるかな | 大中臣能宣 | 夏 |
3-拾遺 | 110 | けふ見れは玉のうてなもなかりけりあやめの草のいほりのみして けふみれは たまのうてなも なかりけり あやめのくさの いほりのみして | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 111 | 葦引の山郭公けふとてやあやめの草のねにたててなく あしひきの やまほとときす けふとてや あやめのくさの ねにたててなく | 延喜 | 夏 |
3-拾遺 | 112 | たかそてに思ひよそへて郭公花橘のえたになくらん たかそてに おもひよそへて ほとときす はなたちはなの えたになくらむ | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 113 | いつ方になきてゆくらむ郭公よとのわたりのまたよふかきに いつかたに なきてゆくらむ ほとときす よとのわたりの またよふかきに | 壬生忠見 | 夏 |
3-拾遺 | 114 | しけることまこものおふるよとのにはつゆのやとりを人そかりける しけること まこものおふる よとのには つゆのやとりを ひとそかりける | 壬生忠見 | 夏 |
3-拾遺 | 115 | かの方にはやこきよせよ郭公道になきつと人にかたらん かのかたに はやこきよせよ ほとときす みちになきつと ひとにかたらむ | 紀貫之 | 夏 |
3-拾遺 | 116 | 郭公をちかへりなけうなゐこかうちたれかみのさみたれのそら ほとときす をちかへりなけ うなゐこか うちたれかみの さみたれのそら | 凡河内躬恒 | 夏 |
3-拾遺 | 117 | なけやなけたか田の山の郭公このさみたれにこゑなをしみそ なけやなけ たかたのやまの ほとときす このさみたれに こゑなをしみそ | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 118 | さみたれはいこそねられね郭公夜ふかくなかむこゑをまつとて さみたれは いこそねられね ほとときす よふかくなかむ こゑをまつとて | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 119 | うたて人おもはむものをほとときすよるしもなとかわかやとになく うたてひと おもはむものを ほとときす よるしもなとか わかやとになく | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 120 | 郭公いたくななきそひとりゐていのねられぬにきけはくるしも ほとときす いたくななきそ ひとりゐて いのねられぬに きけはくるしも | 大伴坂上郎女 | 夏 |
3-拾遺 | 121 | 夏の夜の心をしれるほとときすはやもなかなんあけもこそすれ なつのよの こころをしれる ほとときす はやもなかなむ あけもこそすれ | 中務 | 夏 |
3-拾遺 | 122 | なつのよは浦島のこかはこなれやはかなくあけてくやしかるらん なつのよは うらしまのこか はこなれや はかなくあけて くやしかるらむ | 中務 | 夏 |
3-拾遺 | 123 | なつくれは深草山の郭公なくこゑしけくなりまさるなり なつくれは ふかくさやまの ほとときす なくこゑしけく なりまさるなり | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 124 | さ月やみくらはし山の郭公おほつかなくもなきわたるかな さつきやみ くらはしやまの ほとときす おほつかなくも なきわたるかな | 藤原実方 | 夏 |
3-拾遺 | 125 | 郭公なくやさ月のみしかよもひとりしぬれはあかしかねつも ほとときす なくやさつきの みしかよも ひとりしぬれは あかしかねつも | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 126 | ほとときす松につけてやともしする人も山へによをあかすらん ほとときす まつにつけてや ともしする ひともやまへに よをあかすらむ | 源順 | 夏 |
3-拾遺 | 127 | さ月山このしたやみにともす火はしかのたちとのしるへなりけり さつきやま このしたやみに ともすひは しかのたちとの しるへなりけり | 紀貫之 | 夏 |
3-拾遺 | 128 | あやしくもしかのたちとの見えぬかなをくらの山に我やきぬらん あやしくも しかのたちとの みえぬかな をくらのやまに われやきぬらむ | 平兼盛 | 夏 |
3-拾遺 | 129 | ゆくすゑはまたとほけれと夏山のこのしたかけそたちうかりける ゆくすゑは またとほけれと なつやまの このしたかけそ たちうかりける | 凡河内躬恒 | 夏 |
3-拾遺 | 130 | 夏山の影をしけみやたまほこの道行く人も立ちとまるらん なつやまの かけをしけみや たまほこの みちゆくひとも たちとまるらむ | 紀貫之 | 夏 |
3-拾遺 | 131 | 松影のいはゐの水をむすひあけて夏なきとしと思ひけるかな まつかけの いはゐのみつを むすひあけて なつなきとしと おもひけるかな | 恵慶法師 | 夏 |
3-拾遺 | 132 | いつこにもさきはすらめとわかやとの山となてしこたれに見せまし いつこにも さきはすらめと わかやとの やまとなてしこ たれにみせまし | 伊勢 | 夏 |
3-拾遺 | 133 | そこきよみなかるる河のさやかにもはらふることを神はきかなん そこきよみ なかるるかはの さやかにも はらふることを かみはきかなむ | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 134 | さはへなすあらふる神もおしなへてけふはなこしの祓なりけり さはへなす あらふるかみも おしなへて けふはなこしの はらへなりけり | 藤原長能 | 夏 |
3-拾遺 | 135 | もみちせはあかくなりなんをくら山秋まつほとのなにこそありけれ もみちせは あかくなりなむ をくらやま あきまつほとの なにこそありけれ | 読人知らず | 夏 |
3-拾遺 | 136 | おほあらきのもりのした草しけりあひて深くも夏のなりにけるかな おほあらきの もりのしたくさ しけりあひて ふかくもなつの なりにけるかな | 壬生忠岑 | 夏 |
3-拾遺 | 137 | 夏衣またひとへなるうたたねに心してふけ秋のはつ風 なつころも またひとへなる うたたねに こころしてふけ あきのはつかせ | 安法法師 | 夏 |
3-拾遺 | 138 | 秋はきぬ竜田の山も見てしかなしくれぬさきに色やかはると あきはきぬ たつたのやまも みてしかな しくれぬさきに いろやかはると | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 139 | 荻の葉のそよくねとこそ秋風の人にしらるる始なりけれ をきのはの そよくおとこそ あきかせの ひとにしらるる はしめなりけれ | 紀貫之 | 秋 |
3-拾遺 | 140 | やへむくらしけれるやとのさひしきに人こそ見えね秋はきにけり やへむくら しけれるやとの さひしきに ひとこそみえね あきはきにけり | 恵慶法師 | 秋 |
3-拾遺 | 141 | 秋立ちていく日もあらねとこのねぬるあさけの風はたもとすすしも あきたちて いくかもあらねと このねぬる あさけのかせは たもとすすしも | 安貴玉 | 秋 |
3-拾遺 | 142 | ひこほしのつままつよひの秋思に我さへあやな人そこひしき ひこほしの つままつよひの あきかせに われさへあやな ひとそこひしき | 凡河内躬恒 | 秋 |
3-拾遺 | 143 | 秋風に夜のふけゆけはあまの河かはせに浪のたちゐこそまて あきかせに よのふけゆけは あまのかは かはせになみの たちゐこそまて | 紀貫之 | 秋 |
3-拾遺 | 144 | あまの河とほき渡にあらねとも君かふなては年にこそまて あまのかは とほきわたりに あらねとも きみかふなては としにこそまて | 柿本人麻呂(人麿) | 秋 |
3-拾遺 | 145 | 天の河こその渡のうつろへはあさせふむまに夜そふけにける あまのかは こそのわたりの うつろへは あさせふむまに よそふけにける | 柿本人麻呂(人麿) | 秋 |
3-拾遺 | 146 | さ夜ふけてあまの河をそいてて見る思ふさまなる雲や渡ると さよふけて あまのかはをそ いててみる おもふさまなる くもやわたると | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 147 | ひこほしの思ひますらん事よりも見る我くるしよのふけゆけは ひこほしの おもひますらむ ことよりも みるわれくるし よのふけゆけは | 湯原玉 | 秋 |
3-拾遺 | 148 | 年に有りてひとよいもにあふひこほしも我にまさりて思ふらんやそ としにありて ひとよいもにあふ ひこほしも われにまさりて おもふらむやそ | 柿本人麻呂(人麿) | 秋 |
3-拾遺 | 149 | たなはたにぬきてかしつる唐衣いとと涙に袖やぬるらん たなはたに ぬきてかしつる からころも いととなみたに そてやぬるらむ | 紀貫之 | 秋 |
3-拾遺 | 150 | ひととせにひとよとおもへとたなはたのあひ見む秋の限なきかな ひととせに ひとよとおもへと たなはたの あひみむあきの かきりなきかな | 紀貫之 | 秋 |
3-拾遺 | 151 | いたつらにすくる月日をたなはたのあふよのかすと思はましかは いたつらに すくるつきひを たなはたの あふよのかすと おもはましかは | 恵慶法師 | 秋 |
3-拾遺 | 152 | いととしくいもねさるらんと思ふかなけふのこよひにあへるたなはた いととしく いもねさるらむと おもふかな けふのこよひに あへるたなはた | 清原元輔 | 秋 |
3-拾遺 | 153 | あひ見てもあはてもなけくたなはたはいつか心ののとけかるへき あひみても あはてもなけく たなはたは いつかこころの のとけかるへき | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 154 | わかいのる事はひとつそ天の河そらにしりてもたかへさらなん わかいのる ことはひとつそ あまのかは そらにしりても たかへさらなむ | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 155 | 君こすは誰に見せましわかやとのかきねにさける槿の花 きみこすは たれにみせまし わかやとの かきねにさける あさかほのはな | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 156 | 女郎花おほかるのへに花すすきいつれをさしてまねくなるらん をみなへし おほかるのへに はなすすき いつれをさして まねくなるらむ | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 157 | 手もたゆくうゑしもしるく女郎花色ゆゑ君かやとりぬるかな てもたゆく うゑしもしるく をみなへし いろゆゑきみか やとりぬるかな | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 158 | くちなしの色をそたのむ女郎花はなにめてつと人にかたるな くちなしの いろをそたのむ をみなへし はなにめてつと ひとにかたるな | 藤原実頼 | 秋 |
3-拾遺 | 159 | 女郎花にほふあたりにむつるれはあやなくつゆや心おくらん をみなへし にほふあたりに むつるれは あやなくつゆや こころおくらむ | 大中臣能宣 | 秋 |
3-拾遺 | 160 | 白露のおくつまにする女郎花あなわつらはし人なてふれそ しらつゆの おくつまにする をみなへし あなわつらはし ひとなてふれそ | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 161 | 日くらしに見れともあかぬをみなへしのへにやこよひたひねしなまし ひくらしに みれともあかぬ をみなへし のへにやこよひ たひねしなまし | 藤原長能 | 秋 |
3-拾遺 | 162 | 荻の葉もややうちそよくほとなるをなとかりかねのおとなかるらん をきのはも ややうちそよく ほとなるを なとかりかねの おとなかるらむ | 恵慶法師 | 秋 |
3-拾遺 | 163 | かりにとてくへかりけりや秋の野の花見るほとに日もくれぬへし かりにとて くへかりけりや あきののの はなみるほとに ひもくれぬへし | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 164 | 秋の野の花のなたてに女郎花かりにのみこむ人にをらるな あきののの はなのなたてに をみなへし かりにのみこむ ひとにをらるな | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 165 | かりにとて我はきつれとをみなへし見るに心そ思ひつきぬる かりにとて われはきつれと をみなへし みるにこころそ おもひつきぬる | 紀貫之 | 秋 |
3-拾遺 | 166 | かりにのみ人の見ゆれはをみなへし花のたもとそつゆけかりける かりにのみ ひとのみゆれは をみなへし はなのたもとそ つゆけかりける | 紀貫之 | 秋 |
3-拾遺 | 167 | 栽ゑたてて君かしめゆふ花なれは玉と見えてやつゆもおくらん うゑたてて きみかしめゆふ はななれは たまとみえてや つゆもおくらむ | 伊勢 | 秋 |
3-拾遺 | 168 | こてすくす秋はなけれとはつかりのきくたひことにめつらしきかな こてすくす あきはなけれと はつかりの きくたひことに めつらしきかな | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 169 | 相坂の関のいはかとふみならし山たちいつるきりはらのこま あふさかの せきのいはかと ふみならし やまたちいつる きりはらのこま | 大弐高遠 | 秋 |
3-拾遺 | 170 | あふさかの関のし水に影見えて今やひくらんもち月のこま あふさかの せきのしみつに かけみえて いまやひくらむ もちつきのこま | 紀貫之 | 秋 |
3-拾遺 | 171 | 水のおもにてる月浪をかそふれはこよひそ秋のもなかなりける みつのおもに てるつきなみを かそふれは こよひそあきの もなかなりける | 源順 | 秋 |
3-拾遺 | 172 | 秋の月浪のそこにそいてにけるまつらん山のかひやなからん あきのつき なみのそこにそ いてにける まつらむやまの かひやなからむ | 大中臣能宣 | 秋 |
3-拾遺 | 173 | あきの月西にあるかと見えつるはふけゆくよはの影にそ有りける あきのつき にしにあるかと みえつるは ふけゆくよはの かけにそありける | 源景明 | 秋 |
3-拾遺 | 174 | あかすのみおもほえむをはいかかせんかくこそは見め秋のよの月 あかすのみ おもほえむをは いかかせむ かくこそはみめ あきのよのつき | 清原元輔 | 秋 |
3-拾遺 | 175 | ここにたにひかりさやけき秋の月雲のうへこそ思ひやらるれ ここにたに ひかりさやけき あきのつき くものうへこそ おもひやらるれ | 藤原経臣 | 秋 |
3-拾遺 | 176 | いつこにか今夜の月の見えさらんあかぬは人の心なりけり いつこにか こよひのつきの みえさらむ あかぬはひとの こころなりけり | 凡河内躬恒 | 秋 |
3-拾遺 | 177 | 終夜見てをあかさむ秋の月こよひのそらにくもなからなん よもすから みてをあかさむ あきのつき こよひのそらに くもなからなむ | 平兼盛 | 秋 |
3-拾遺 | 178 | おほつかないつこなるらん虫のねをたつねは草の露やみたれん おほつかな いつこなるらむ むしのねを たつねはくさの つゆやみたれむ | 藤原為頼 | 秋 |
3-拾遺 | 179 | いつこにも草の枕をすすむしはここをたひとも思はさらなん いつこにも くさのまくらを すすむしは ここをたひとも おもはさらなむ | 伊勢 | 秋 |
3-拾遺 | 180 | 秋くれははたおる虫のあるなへに唐錦にも見ゆるのへかな あきくれは はたおるむしの あるなへに からにしきにも みゆるのへかな | 紀貫之 | 秋 |
3-拾遺 | 181 | 契りけん程や過きぬる秋ののに人松虫の声のたえせぬ ちきりけむ ほとやすきぬる あきののに ひとまつむしの こゑのたえせぬ | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 182 | 露けくてわか衣手はぬれぬとも折りてをゆかん秋はきの花 つゆけくて わかころもては ぬれぬとも をりてをゆかむ あきはきのはな | 凡河内躬恒 | 秋 |
3-拾遺 | 183 | うつろはむ事たに惜しき秋萩ををれぬはかりもおける露かな うつろはむ ことたにをしき あきはきを をれぬはかりも おけるつゆかな | 伊勢 | 秋 |
3-拾遺 | 184 | わかやとの菊の白露けふことにいく世つもりて淵となるらん わかやとの きくのしらつゆ けふことに いくよつもりて ふちとなるらむ | 清原元輔 | 秋 |
3-拾遺 | 185 | 長月のここぬかことにつむ菊の花もかひなくおいにけるかな なかつきの ここぬかことに つむきくの はなもかひなく おいにけるかな | 凡河内躬恒 | 秋 |
3-拾遺 | 186 | 千鳥なくさほの河きり立ちぬらし山のこのはも色かはり行く ちとりなく さほのかはきり たちぬらし やまのこのはも いろかはりゆく | 壬生忠岑 | 秋 |
3-拾遺 | 187 | 風さむみわかから衣うつ時そ萩のしたはもいろまさりける かせさむみ わかからころも うつときそ はきのしたはも いろまさりける | 紀貫之 | 秋 |
3-拾遺 | 188 | 神なひのみむろの山をけふみれはした草かけて色つきにけり かみなひの みむろのやまを けふみれは したくさかけて いろつきにけり | 曾禰好忠 | 秋 |
3-拾遺 | 189 | 紅葉せぬときはの山は吹く風のおとにや秋をききわたるらん もみちせぬ ときはのやまは ふくかせの おとにやあきを ききわたるらむ | 大中臣能宣 | 秋 |
3-拾遺 | 190 | もみちせぬときはの山にすむしかはおのれなきてや秋をしるらん もみちせぬ ときはのやまに すむしかは おのれなきてや あきをしるらむ | 大中臣能宣 | 秋 |
3-拾遺 | 191 | 秋風の打吹くことに高砂のをのへのしかのなかぬ日そなき あきかせの うちふくことに たかさこの をのへのしかの なかぬひそなき | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 192 | あきかせをそむくものから花すすきゆく方をなとまねくなるらん あきかせを そむくものから はなすすき ゆくかたをなと まねくなるらむ | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 193 | もみち見にやとれる我としらねはやさほの河きりたちかくすらん もみちみに やとれるわれと しらねはや さほのかはきり たちかくすらむ | 恵慶法師 | 秋 |
3-拾遺 | 194 | もみちはの色をしそへてなかるれはあさくも見えす山河の水 もみちはの いろをしそへて なかるれは あさくもみえす やまかはのみつ | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 195 | もみち葉をけふは猶見むくれぬともをくらの山の名にはさはらし もみちはを けふはなほみむ くれぬとも をくらのやまの なにはさはらし | 大中臣能宣 | 秋 |
3-拾遺 | 196 | 秋きりのたたまくをしき山ちかなもみちの錦おりつもりつつ あききりの たたまくをしき やまちかな もみちのにしき おりつもりつつ | 読人しらす | 秋 |
3-拾遺 | 197 | 水のあやに紅葉の鏡かさねつつ河せに浪のたたぬ日そなき みつのあやに もみちのにしき かさねつつ かはせになみの たたぬひそなき | 健守法師 | 秋 |
3-拾遺 | 198 | 名をきけは昔なからの山なれとしくるる秋は色まさりけり なをきけは むかしなからの やまなれと しくるるあきは いろまさりけり | 源順 | 秋 |
3-拾遺 | 199 | 昨日よりけふはまされるもみちはのあすの色をは見てややみなん きのふより けふはまされる もみちはの あすのいろをは みてややみなむ | 恵慶法師 | 秋 |
3-拾遺 | 200 | もみち葉を手ことにをりてかへりなん風の心もうしろめたきに もみちはを てことにをりて かへりなむ かせのこころも うしろめたきに | 源延光 | 秋 |
3-拾遺 | 201 | 枝なから見てをかへらんもみちははをらんほとにもちりもこそすれ えたなから みてをかへらむ もみちはは をらむほとにも ちりもこそすれ | 源兼光 | 秋 |
3-拾遺 | 202 | 河霧のふもとをこめて立ちぬれはそらにそ秋の山は見えける かはきりの ふもとをこめて たちぬれは そらにそあきの やまはみえける | 深養父 | 秋 |
3-拾遺 | 203 | 水うみに秋の山へをうつしてははたはりひろき錦とそ見る みつうみに あきのやまへを うつしては はたはりひろき にしきとそみる | 法橋観教 | 秋 |
3-拾遺 | 204 | 今よりは紅葉のもとにやとりせしをしむに旅の日かすへぬへし いまよりは もみちのもとに やとりせし をしむにたひの ひかすへぬへし | 恵慶法師 | 秋 |
3-拾遺 | 205 | とふ人も今はあらしの山かせに人松虫のこゑそかなしき とふひとも いまはあらしの やまかせに ひとまつむしの こゑそかなしき | 読人知らず | 秋 |
3-拾遺 | 206 | ちりぬへき山の紅葉を秋きりのやすくも見せす立ちかくすらん ちりぬへき やまのもみちを あききりの やすくもみせす たちかくすらむ | 紀貫之 | 秋 |
3-拾遺 | 207 | 秋山のあらしのこゑをきく時はこのはならねと物そかなしき あきやまの あらしのこゑを きくときは このはならねと ものそかなしき | 僧正遍昭 | 秋 |
3-拾遺 | 208 | あきの夜に雨ときこえてふる物は風にしたかふ紅葉なりけり あきのよに あめときこえて ふるものは かせにしたかふ もみちなりけり | 紀貫之 | 秋 |
3-拾遺 | 209 | 心もてちらんたにこそをしからめなとか紅葉に風の吹くらん こころもて ちらむたにこそ をしからめ なとかもみちに かせのふくらむ | 紀貫之 | 秋 |
3-拾遺 | 210 | あさまたき嵐の山のさむけれは紅葉の錦きぬ人そなき あさまたき あらしのやまの さむけれは もみちのにしき きぬひとそなき | 藤原公任 | 秋 |
3-拾遺 | 211 | 秋きりの峯にもをにもたつ山はもみちの錦たまらさりけり あききりの みねにもをにも たつやまは もみちのにしき たまらさりけり | 大中臣能宣 | 秋 |
3-拾遺 | 212 | いろいろのこのはなかるる大井河しもは桂のもみちとや見ん いろいろの このはなかるる おほゐかは しもはかつらの もみちとやみむ | 壬生忠岑 | 秋 |
3-拾遺 | 213 | まねくとて立ちもとまらぬ秋ゆゑにあはれかたよる花すすきかな まねくとて たちもとまらぬ あきゆゑに あはれかたよる はなすすきかな | 曾禰好忠 | 秋 |
3-拾遺 | 214 | くれてゆく秋のかたみにおく物はわかもとゆひのしもにそ有りける くれてゆく あきのかたみに おくものは わかもとゆひの しもにそありける | 平兼盛 | 秋 |
3-拾遺 | 215 | あしひきの山かきくもりしくるれと紅葉はいととてりまさりけり あしひきの やまかきくもり しくるれと もみちはいとと てりまさりけり | 紀貫之 | 冬 |
3-拾遺 | 216 | 綱代木にかけつつ洗ふ唐錦日をへてよする紅葉なりけり あしろきに かけつつあらふ からにしき ひをへてよする もみちなりけり | 読人知らず | 冬 |
3-拾遺 | 217 | かきくらししくるるそらをなかめつつ思ひこそやれ神なひのもり かきくらし しくるるそらを なかめつつ おもひこそやれ かみなひのもり | 紀貫之 | 冬 |
3-拾遺 | 218 | 神な月時雨しぬらしくすのはのうらこかるねに鹿もなくなり かみなつき しくれしぬらし くすのはの うちこかるねに しかもなくなり | 読人知らず | 冬 |
3-拾遺 | 219 | 竜田河もみち葉なかる神なひのみむろの山に時雨ふるらし たつたかは もみちはなかる かみなひの みむろのやまに しくれふるらし | 柿本人麻呂(人麿) | 冬 |
3-拾遺 | 220 | 唐錦枝にひとむらのこれるは秋のかたみをたたぬなりけり からにしき えたにひとむら のこれるは あきのかたみを たたぬなりけり | 僧正遍昭 | 冬 |
3-拾遺 | 221 | 流れくるもみち葉見れはからにしき滝のいともておれるなりけり なかれくる もみちはみれは からにしき たきのいともて おれるなりけり | 紀貫之 | 冬 |
3-拾遺 | 222 | 時雨ゆゑかつくたもとをよそ人はもみちをはらふ袖かとや見ん しくれゆゑ かつくたもとを よそひとは もみちをはらふ そてかとやみむ | 平兼盛 | 冬 |
3-拾遺 | 223 | あしのはにかくれてすみしつのくにのこやもあらはに冬はきにけり あしのはに かくれてすみし つのくにの こやもあらはに ふゆはきにけり | 源重之 | 冬 |
3-拾遺 | 224 | 思ひかねいもかりゆけは冬の夜の河風さむみちとりなくなり おもひかね いもかりゆけは ふゆのよの かはかせさむみ ちとりなくなり | 紀貫之 | 冬 |
3-拾遺 | 225 | ひねもすに見れともあかぬもみちははいかなる山の嵐なるらん ひねもすに みれともあかぬ もみちはは いかなるやまの あらしなるらむ | 読人知らず | 冬 |
3-拾遺 | 226 | 夜をさむみねさめてきけはをしとりの浦山しくもみなるなるかな よをさむみ ねさめてきけは をしとりの うらやましくも みなるなるかな | 読人知らず | 冬 |
3-拾遺 | 227 | 水鳥のしたやすからぬ思ひにはあたりの水もこほらさりけり みつとりの したやすからぬ おもひには あたりのみつも こほらさりけり | 読人知らず | 冬 |
3-拾遺 | 228 | 夜をさむみねさめてきけはをしそなく払ひもあへす霜やおくらん よをさむみ ねさめてきけは をしそなく はらひもあへす しもやおくらむ | 読人知らず | 冬 |
3-拾遺 | 229 | 霜のうへにふるはつゆきのあさ氷とけすも物を思ふころかな しものうへに ふるはつゆきの あさこほり とけすもものを おもふころかな | 読人知らず | 冬 |
3-拾遺 | 230 | しもおかぬ袖たにさゆる冬の夜にかものうはけを思ひこそやれ しもおかぬ そてたにさゆる ふゆのよに かものうはけを おもひこそやれ | 藤原公任 | 冬 |
3-拾遺 | 231 | 池水や氷とくらむあしかもの夜ふかくこゑのさわくなるかな いけみつや こほりとくらむ あしかもの よふかくこゑの さわくなるかな | たちはなのゆきより | 冬 |
3-拾遺 | 232 | とひかよふをしのはかせのさむけれは池の氷そさえまさりける とひかよふ をしのはかせの さむけれは いけのこほりそ さえまさりける | 紀友則 | 冬 |
3-拾遺 | 233 | 水のうへに思ひしものを冬の夜の氷は袖の物にそ有りける みつのうへに おもひしものを ふゆのよの こほりはそての ものにそありける | 読人知らず | 冬 |
3-拾遺 | 234 | ふしつけしよとの渡をけさ見れはとけんこもなく氷しにけり ふしつけし よとのわたりを けさみれは とけむこもなく こほりしにけり | 平兼盛 | 冬 |
3-拾遺 | 235 | 冬さむみこほらぬ水はなけれとも吉野のたきはたゆるよもなし ふゆさむみ こほらぬみつは なけれとも よしののたきは たゆるよもなし | 読人知らず | 冬 |
3-拾遺 | 236 | ふゆされは嵐のこゑもたかさこの松につけてそきくへかりける ふゆされは あらしのこゑも たかさこの まつにつけてそ きくへかりける | 大中臣能宣 | 冬 |
3-拾遺 | 237 | 高砂の松にすむつる冬くれはをのへの霜やおきまさるらん たかさこの まつにすむつる ふゆくれは をのへのしもや おきまさるらむ | 清原元輔 | 冬 |
3-拾遺 | 238 | ゆふされはさほのかはらの河きりに友まとはせる千鳥なくなり ゆふされは さほのかはらの かはきりに ともまとはせる ちとりなくなり | 紀友則 | 冬 |
3-拾遺 | 239 | 浦ちかくふりくる雪はしら浪の末の松山こすかとそ見る うらちかく ふりくるゆきは しらなみの すゑのまつやま こすかとそみる | 柿本人麻呂(人麿) | 冬 |
3-拾遺 | 240 | 冬の夜の池の氷のさやけきは月の光のみかくなりけり ふゆのよの いけのこほりの さやけきは つきのひかりの みかくなりけり | 清原元輔 | 冬 |
3-拾遺 | 241 | ふゆの池のうへは氷にとちられていかてか月のそこに入るらん ふゆのいけの うへはこほりに とちられて いかてかつきの そこにいるらむ | 読人知らず | 冬 |
3-拾遺 | 242 | あまの原そらさへさえや渡るらん氷と見ゆる冬の夜の月 あまのはら そらさへさえや わたるらむ こほりとみゆる ふゆのよのつき | 恵慶法師 | 冬 |
3-拾遺 | 243 | 宮こにてめつらしと見るはつ雪はよしのの山にふりやしぬらん みやこにて めつらしとみる はつゆきは よしののやまに ふりやしぬらむ | 源景明 | 冬 |
3-拾遺 | 244 | ふるほともはかなく見ゆるあはゆきのうら山しくも打ちとくるかな ふるほとも はかなくみゆる あはゆきの うらやましくも うちとくるかな | 清原元輔 | 冬 |
3-拾遺 | 245 | あしひきの山ゐにふれる白雪はすれる衣の心地こそすれ あしひきの やまゐにふれる しらゆきは すれるころもの ここちこそすれ | 伊勢 | 冬 |
3-拾遺 | 246 | よるならは月とそ見ましわかやとの庭しろたへにふれるしらゆき よるならは つきとそみまし わかやとの にはしろたへに ふれるしらゆき | 紀貫之 | 冬 |
3-拾遺 | 247 | わかやとの雪につけてそふるさとのよしのの山は思ひやらるる わかやとの ゆきにつけてそ ふるさとの よしののやまは おもひやらるる | 大中臣能宣 | 冬 |
3-拾遺 | 248 | 我ひとりこしの山ちにこしかとも雪ふりにける跡を見るかな われひとり こしのやまちに こしかとも ゆきふりにける あとをみるかな | 藤原佐忠 | 冬 |
3-拾遺 | 249 | 年ふれはこしのしら山おいにけりおほくの冬の雪つもりつつ としふれは こしのしらやま おいにけり おほくのふゆの ゆきつもりつつ | 壬生忠見 | 冬 |
3-拾遺 | 250 | 見わたせは松のはしろきよしの山いくよつもれる雪にかあるらん みわたせは まつのはしろき よしのやま いくよつもれる ゆきにかあるらむ | 平兼盛 | 冬 |
3-拾遺 | 251 | 山さとは雪ふりつみて道もなしけふこむ人をあはれとは見む やまさとは ゆきふりつみて みちもなし けふこむひとを あはれとはみむ | 平兼盛 | 冬 |
3-拾遺 | 252 | あしひきの山ちもしらすしらかしの枝にもはにも雪のふれれは あしひきの やまちもしらす しらかしの えたにもはにも ゆきのふれれは | 柿本人麻呂(人麿) | 冬 |
3-拾遺 | 253 | 白雪のふりしく時はみよしのの山した風に花そちりける しらゆきの ふりしくときは みよしのの やましたかせに はなそちりける | 紀貫之 | 冬 |
3-拾遺 | 254 | 人しれす春をこそまてはらふへき人なきやとにふれるしらゆき ひとしれす はるをこそまて はらふへき ひとなきやとに ふれるしらゆき | 平兼盛 | 冬 |
3-拾遺 | 255 | あたらしきはるさへちかくなりゆけはふりのみまさる年の雪かな あたらしき はるさへちかく なりゆけは ふりのみまさる としのゆきかな | 大中臣能宣 | 冬 |
3-拾遺 | 256 | 梅かえにふりつむ雪はひととせにふたたひさける花かとそ見る うめかえに ふりつむゆきは ひととせに ふたたひさける はなかとそみる | 藤原公任 | 冬 |
3-拾遺 | 257 | おきあかす霜とともにやけさはみな冬の夜ふかきつみもけぬらん おきあかす しもとともにや けさはみな ふゆのよふかき つみもけぬらむ | 大中臣能宣 | 冬 |
3-拾遺 | 258 | 年の内につもれるつみはかきくらしふる白雪とともにきえなん としのうちに つもれるつみは かきくらし ふるしらゆきと ともにきえなむ | 紀貫之 | 冬 |
3-拾遺 | 259 | 雪ふかき山ちになににかへるらん春まつ花のかけにとまらて ゆきふかき やまちになにに かへるらむ はるまつはなの かけにとまらて | 大中臣能宣 | 冬 |
3-拾遺 | 260 | 人はいさをかしやすらん冬くれは年のみつもるゆきとこそ見れ ひとはいさ をかしやすらむ ふゆくれは としのみつもる ゆきとこそみれ | 平兼盛 | 冬 |
3-拾遺 | 261 | かそふれはわか身につもる年月を送り迎ふとなにいそくらん かそふれは わかみにつもる としつきを おくりむかふと なにいそくらむ | 平兼盛 | 冬 |
3-拾遺 | 262 | ゆきつもるおのか年をはしらすしてはるをはあすときくそうれしき ゆきつもる おのかとしをは しらすして はるをはあすと きくそうれしき | 源重之 | 冬 |
3-拾遺 | 263 | よろつ世の始とけふをいのりおきて今行末は神そしるらん よろつよの はしめとけふを いのりおきて いまゆくすゑは かみそしるらむ | 藤原朝忠 | 賀 |
3-拾遺 | 264 | ちはやふるひらのの松の枝しけみ千世もやちよも色はかはらし ちはやふる ひらののまつの えたしけみ ちよもやちよも いろはかはらし | 大中臣能宣 | 賀 |
3-拾遺 | 265 | かまふののたまのを山にすむつるの千とせは君かみよのかすなり かまふのの たまのをやまに すむつるの ちとせはきみか みよのかすなり | 読人知らず | 賀 |
3-拾遺 | 266 | あさまたききりふのをかにたつきしは千世の日つきの始なりけり あさまたき きりふのをかに たつきしは ちよのひつきの はしめなりけり | 清原元輔 | 賀 |
3-拾遺 | 267 | ふたはよりたのもしきかなかすか山こたかき松のたねそとおもへは ふたはより たのもしきかな かすかやま こたかきまつの たねそとおもへは | 大中臣能宣 | 賀 |
3-拾遺 | 268 | 君かへむやほよろつ世をかそふれはかつかつけふそなぬかなりける きみかへむ やほよろつよを かそふれは かつかつけふそ なぬかなりける | 大中臣能宣 | 賀 |
3-拾遺 | 269 | ことしおひの松はなぬかになりにけりのこりの程を思ひこそやれ ことしおひの まつはなぬかに なりにけり のこりのほとを おもひこそやれ | 平兼盛 | 賀 |
3-拾遺 | 270 | 千とせともかすはさためす世の中に限なき身と人もいふへく ちとせとも かすはさためす よのなかに かきりなきみと ひともいふへく | 大中臣能宣 | 賀 |
3-拾遺 | 271 | 老いぬれはおなし事こそせられけれきみはちよませきみはちよませ おいぬれは おなしことこそ せられけれ きみはちよませ きみはちよませ | 源順 | 賀 |
3-拾遺 | 272 | ゆひそむるはつもとゆひのこむらさき衣の色にうつれとそ思ふ ゆひそむる はつもとゆひの こむらさき ころものいろに うつれとそおもふ | 大中臣能宣 | 賀 |
3-拾遺 | 273 | 山しなの山のいはねに松をうゑてときはかきはにいのりつるかな やましなの やまのいはねに まつをうゑて ときはかきはに いのりつるかな | 平兼盛 | 賀 |
3-拾遺 | 274 | 声たかくみかさの山そよはふなるあめのしたこそたのしかるらし こゑたかく みかさのやまそ よはふなる あめのしたこそ たのしかるらし | 仲算法師 | 賀 |
3-拾遺 | 275 | 色かへぬ松と竹とのすゑの世をいつれひさしと君のみそ見む いろかへぬ まつとたけとの すゑのよを いつれひさしと きみのみそみむ | 斎宮内侍 | 賀 |
3-拾遺 | 276 | ひとふしに千世をこめたる杖なれはつくともつきし君かよはひは ひとふしに ちよをこめたる つゑなれは つくともつきし きみかよはひは | 大中臣頼基 | 賀 |
3-拾遺 | 277 | 君か世をなににたとへんさされいしのいはほとならんほともあかねは きみかよを なににたとへむ さされいしの いはほとならむ ほともあかねは | 清原元輔 | 賀 |
3-拾遺 | 278 | あをやきの緑の糸をくり返しいくらはかりのはるをへぬらん あをやきの みとりのいとを くりかへし いくらはかりの はるをへぬらむ | 清原元輔 | 賀 |
3-拾遺 | 279 | わかやとにさけるさくらの花さかりちとせ見るともあかしとそ思ふ わかやとに さけるさくらの はなさかり ちとせみるとも あかしとそおもふ | 平兼盛 | 賀 |
3-拾遺 | 280 | 君かためけふきる竹の杖なれはまたもつきせぬ世世そこもれる きみかため けふきるたけの つゑなれは またもつきせぬ よよそこもれる | 大中臣能宣 | 賀 |
3-拾遺 | 281 | 位山峯まてつける杖なれと今よろつよのさかのためなり くらゐやま みねまてつける つゑなれと いまよろつよの さかのためなり | 大中臣能宣 | 賀 |
3-拾遺 | 282 | 吹く風によその紅葉はちりくれと君かときはの影そのとけき ふくかせに よそのもみちは ちりくれと きみかときはの かけそのとけき | 小野好古 | 賀 |
3-拾遺 | 283 | よろつ世も猶こそあかね君かため思ふ心のかきりなけれは よろつよも なほこそあかね きみかため おもふこころの かきりなけれは | 源公忠 | 賀 |
3-拾遺 | 284 | おほそらにむれたるたつのさしなから思ふ心のありけなるかな おほそらに むれたるたつの さしなから おもふこころの ありけなるかな | 伊勢 | 賀 |
3-拾遺 | 285 | 春の野のわかなならねときみかため年のかすをもつまんとそ思ふ はるののの わかなならねと きみかため としのかすをも つまむとそおもふ | 伊勢 | 賀 |
3-拾遺 | 286 | さくら花今夜かさしにさしなからかくてちとせの春をこそへめ さくらはな こよひかさしに さしなから かくてちとせの はるをこそへめ | 九条右大臣 | 賀 |
3-拾遺 | 287 | かつ見つつちとせの春をすくすともいつかは花の色にあくへき かつみつつ ちとせのはるを すくすとも いつかははなの いろにあくへき | 読人知らず | 賀 |
3-拾遺 | 288 | みちとせになるてふもものことしより花さく春にあひにけるかな みちとせに なるてふももの ことしより はなさくはるに あひにけるかな | 凡河内躬恒 | 賀 |
3-拾遺 | 289 | めつらしきちよのはしめの子の日にはまつけふをこそひくへかりけれ めつらしき ちよのはしめの ねのひには まつけふをこそ ひくへかりけれ | 藤原のふかた | 賀 |
3-拾遺 | 290 | ゆくすゑも子の日の松のためしには君かちとせをひかむとそ思ふ ゆくすゑも ねのひのまつの ためしには きみかちとせを ひかむとそおもふ | 三条太政大臣 | 賀 |
3-拾遺 | 291 | 松をのみときはと思ふに世とともになかす泉もみとりなりけり まつをのみ ときはとおもふに よとともに なかすいつみも みとりなりけり | 紀貫之 | 賀 |
3-拾遺 | 292 | みな月のなこしのはらへする人は千とせのいのちのふといふなり みなつきの なこしのはらへ するひとは ちとせのいのち のふといふなり | 読人知らず | 賀 |
3-拾遺 | 293 | みそきして思ふ事をそ祈りつるやほよろつよの神のまにまに みそきして おもふことをそ いのりつる やほよろつよの かみのまにまに | 藤原伊衡 | 賀 |
3-拾遺 | 294 | よろつ世にかはらぬ花の色なれはいつれの秋かきみか見さらん よろつよに かはらぬはなの いろなれは いつれのあきか きみかみさらむ | 藤原実頼 | 賀 |
3-拾遺 | 295 | ちとせとそ草むらことにきこゆなるこや松虫のこゑにはあるらん ちとせとそ くさむらことに きこゆなる こやまつむしの こゑにはあるらむ | 平兼盛 | 賀 |
3-拾遺 | 296 | たか年のかすとかは見むゆきかへり千鳥なくなるはまのまさこを たかとしの かすとかはみむ ゆきかへり ちとりなくなる はまのまさこを | 紀貫之 | 賀 |
3-拾遺 | 297 | おひそむるねよりそしるきふえ竹のすゑの世なかくならん物とは おひそむる ねよりそしるき ふえたけの すゑのよなかく ならむものとは | 大中臣能宣 | 賀 |
3-拾遺 | 298 | 千とせともなにかいのらんうらにすむたつのうへをそ見るへかりける ちとせとも なにかいのらむ うらにすむ たつのうへをそ みるへかりける | 伊勢 | 賀 |
3-拾遺 | 299 | きみか世はあまのは衣まれにきてなつともつきぬいはほならなん きみかよは あまのはころも まれにきて なつともつきぬ いはほならなむ | 読人知らず | 賀 |
3-拾遺 | 300 | うこきなきいはほのはてもきみそ見むをとめのそてのなてつくすまて うこきなき いはほのはても きみそみむ をとめのそての なてつくすまて | 清原元輔 | 賀 |
3-拾遺 | 301 | 春霞たつあか月を見るからに心そそらになりぬへらなる はるかすみ たつあかつきを みるからに こころそそらに なりぬへらなる | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 302 | さくら花つゆにぬれたるかほみれはなきて別れし人そこひしき さくらはな つゆにぬれたる かほみれは なきてわかれし ひとそこひしき | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 303 | ちる花は道見えぬまてうつまなんわかるる人もたちやとまると ちるはなは みちみえぬまて うつまなむ わかるるひとも たちやとまると | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 304 | かりかねの帰るをきけはわかれちは雲井はるかに思ふはかりそ かりかねの かへるをきけは わかれちは くもゐはるかに おもふはかりそ | 曾禰好忠 | 別 |
3-拾遺 | 305 | 夏衣たちわかるへき今夜こそひとへにをしき思ひそひぬれ なつころも たちわかるへき こよひこそ ひとへにをしき おもひそひぬれ | 村上院 | 別 |
3-拾遺 | 306 | わするなよわかれちにおふるくすのはの秋風ふかは今帰りこむ わするなよ わかれちにおふる くすのはの あきかせふかは いまかへりこむ | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 307 | 別てふ事は誰かは始めけんくるしき物としらすやありけん わかれてふ ことはたれかは はしめけむ くるしきものと しらすやありけむ | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 308 | 時しもあれ秋しも人のわかるれはいととたもとそつゆけかりける ときしもあれ あきしもひとの わかるれは いととたもとそ つゆけかりける | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 309 | 君か世を長月とたにおもはすはいかに別のかなしからまし きみかよを なかつきとたに おもはすは いかにわかれの かなしからまし | 村上院 | 別 |
3-拾遺 | 310 | 露にたにあてしと思ひし人しもそ時雨ふるころたひにゆきける つゆにたに あてしとおもひし ひとしもそ しくれふるころ たひにゆきける | 壬生忠見 | 別 |
3-拾遺 | 311 | わかれちをへたつる雲のためにこそ扇の風をやらまほしけれ わかれちを へたつるくもの ためにこそ あふきのかせを やらまほしけれ | 大中臣能宣 | 別 |
3-拾遺 | 312 | 別れてはあはむあはしそ定なきこのゆふくれや限なるらん わかれては あはむあはしそ さためなき このゆふくれや かきりなるらむ | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 313 | わかれちはこひしき人のふみなれややらてのみこそ見まくほしけれ わかれちは こひしきひとの ふみなれや やらてのみこそ みまくほしけれ | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 314 | 別れゆくけふはまとひぬあふさかは帰りこむ日のなにこそ有りけれ わかれゆく けふはまとひぬ あふさかは かへりこむひの なにこそありけれ | 紀貫之 | 別 |
3-拾遺 | 315 | ゆくすゑのいのちもしらぬ別ちはけふ相坂やかきりなるらん ゆくすゑの いのちもしらぬ わかれちは けふあふさかや かきりなるらむ | 大中臣能宣 | 別 |
3-拾遺 | 316 | 惜むともなきものゆゑにしかすかの渡ときけはたたならぬかな をしむとも なきものゆゑに しかすかの わたりときけは たたならぬかな | 赤染衛門 | 別 |
3-拾遺 | 317 | もろともにゆかぬみかはのやつはしはこひしとのみや思ひわたらん もろともに ゆかぬみかはの やつはしは こひしとのみや おもひわたらむ | 源のよしたねの妻 | 別 |
3-拾遺 | 318 | 別ちはわたせるはしもなきものをいかてかつねにこひ渡るへき わかれちは わたせるはしも なきものを いかてかつねに こひわたるへき | 源順 | 別 |
3-拾遺 | 319 | 月影はあかす見るともさらしなの山のふもとになかゐすな君 つきかけは あかすみるとも さらしなの やまのふもとに なかゐすなきみ | 紀貫之 | 別 |
3-拾遺 | 320 | わかるれは心をのみそつくしくしさしてあふへきほとをしらねは わかるれは こころをのみそ つくしくし さしてあふへき ほとをしらねは | 村上院 | 別 |
3-拾遺 | 321 | ゆく人をととめかたみのから衣たつよりそてのつゆけかるらん ゆくひとを ととめかたみの からころも たつよりそての つゆけかるらむ | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 322 | をしむともかたしやわかれ心なる涙をたにもえやはととむる をしむとも かたしやわかれ こころなる なみたをたにも えやはととむる | 御めのと少納言 | 別 |
3-拾遺 | 323 | あつまちの草はをわけん人よりもおくるる袖そまつはつゆけき あつまちの くさはをわけむ ひとよりも おくるるそてそ まつはつゆけき | 女蔵人参河 | 別 |
3-拾遺 | 324 | わかるれはまつ涙こそさきにたていかておくるる袖のぬるらん わかるれは まつなみたこそ さきにたて いかておくるる そてのぬるらむ | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 325 | わかるるををしとそ思ふつる木はの身をよりくたく心ちのみして わかるるを をしとそおもふ つるきはの みをよりくたく ここちのみして | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 326 | 旅人の露はらふへき唐衣またきも袖のぬれにけるかな たひひとの つゆはらふへき からころも またきもそての ぬれにけるかな | 三条太皇太后宮 | 別 |
3-拾遺 | 327 | あまたにはぬひかさねねと唐衣思ふ心はちへにそありける あまたには ぬひかさねねと からころも おもふこころは ちへにそありける | 紀貫之 | 別 |
3-拾遺 | 328 | とほくゆく人のためにはわかそての涙の玉もをしからなくに とほくゆく ひとのためには わかそての なみたのたまも をしからなくに | 紀貫之 | 別 |
3-拾遺 | 329 | 惜むとてとまる事こそかたからめわか衣手をほしてたにゆけ をしむとて とまることこそ かたからめ わかころもてを ほしてたにゆけ | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 330 | 糸による物ならなくにわかれちは心ほそくもおもほゆるかな いとによる ものならなくに わかれちは こころほそくも おもほゆるかな | 紀貫之 | 別 |
3-拾遺 | 331 | かめ山にいくくすりのみ有りけれはととむる方もなき別かな かめやまに いくくすりのみ ありけれは ととむるかたも なきわかれかな | 戒秀法師 | 別 |
3-拾遺 | 332 | 思ふ人ある方へゆくわかれちを惜む心そかつはわりなき おもふひと あるかたへゆく わかれちを をしむこころそ かつはわりなき | 藤原清正 | 別 |
3-拾遺 | 333 | いかはかり思ふらむとか思ふらんおいてわかるるとほきわかれを いかはかり おもふらむとか おもふらむ おいてわかるる とほきわかれを | 清原元輔 | 別 |
3-拾遺 | 334 | 君はよし行末とほしとまる身のまつほといかかあらむとすらん きみはよし ゆくすゑとほし とまるみの まつほといかか あらむとすらむ | 源満中 | 別 |
3-拾遺 | 335 | おくれゐてわかこひをれは白雲のたなひく山をけふやこゆらん おくれゐて わかこひをれは しらくもの たなひくやまを けふやこゆらむ | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 336 | 命をそいかならむとは思ひこしいきてわかるる世にこそ有りけれ いのちをそ いかならむとは おもひこし いきてわかるる よにこそありけれ | 右衛門 | 別 |
3-拾遺 | 337 | 昔見しいきの松原事とははわすれぬ人も有りとこたへよ むかしみし いきのまつはら こととはは わすれぬひとも ありとこたへよ | 橘倚平 | 別 |
3-拾遺 | 338 | たけくまの松を見つつやなくさめん君かちとせの影にならひて たけくまの まつをみつつや なくさめむ きみかちとせの かけにならひて | 藤原為順 | 別 |
3-拾遺 | 339 | たよりあらはいかて宮こへつけやらむけふ白河の関はこえぬと たよりあらは いかてみやこへ つけやらむ けふしらかはの せきはこえぬと | 平兼盛 | 別 |
3-拾遺 | 340 | あつまちのこのしたくらくなりゆかは宮この月をこひさらめやは あつまちの このしたくらく なりゆかは みやこのつきを こひさらめやは | 藤原公任 | 別 |
3-拾遺 | 341 | たひゆかはそてこそぬるれもる山のしつくにのみはおほせさらなん たひゆかは そてこそぬるれ もるやまの しつくにのみは おほせさらなむ | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 342 | しほみてるほとにゆきかふ旅人やはまなのはしとなつけそめけん しほみてる ほとにゆきかふ たひひとや はまなのはしと なつけそめけむ | 平兼盛 | 別 |
3-拾遺 | 343 | 雨によりたみののしまをわけゆけと名にはかくれぬ物にそ有りける あめにより たみののしまを わけゆけと なにはかくれぬ ものにそありける | 紀貫之 | 別 |
3-拾遺 | 344 | 郭公ねくらなからのこゑきけは草の枕そつゆけかりける ほとときす ねくらなからの こゑきけは くさのまくらそ つゆけかりける | 伊勢 | 別 |
3-拾遺 | 345 | 草枕我のみならすかりかねもたひのそらにそなき渡るなる くさまくら われのみならす かりかねも たひのそらにそ なきわたるなる | 大中臣能宣 | 別 |
3-拾遺 | 346 | 君をのみこひつつたひの草枕つゆしけからぬあか月そなき きみをのみ こひつつたひの くさまくら つゆしけからぬ あかつきそなき | 読人知らず | 別 |
3-拾遺 | 347 | はるかなるたひのそらにもおくれねはうら山しきは秋のよの月 はるかなる たひのそらにも おくれねは うらやましきは あきのよのつき | 平兼盛 | 別 |
3-拾遺 | 348 | をみなへし我にやとかせいなみののいなといふともここをすきめや をみなへし われにやとかせ いなみのの いなといふとも ここをすきめや | 大中臣能宣 | 別 |
3-拾遺 | 349 | ふなちには草の枕もむすはねはおきなからこそ夢も見えけれ ふなちには くさのまくらも むすはねは おきなからこそ ゆめもみえけれ | 源重之 | 別 |
3-拾遺 | 350 | 思ひいてもなきふるさとの山なれとかくれゆくはたあはれなりけり おもひいても なきふるさとの やまなれと かくれゆくはた あはれなりけり | 弓削嘉言 | 別 |
3-拾遺 | 351 | 君かすむやとのこすゑのゆくゆくとかくるるまてにかへりみしはや きみかすむ やとのこすゑの ゆくゆくと かくるるまてに かへりみしはや | 贈太政大臣 | 別 |
3-拾遺 | 352 | 浪のうへに見えしこしまのしまかくれゆくそらもなしきみにわかれて なみのうへに みえしこしまの しまかくれ ゆくそらもなし きみにわかれて | かなをか | 別 |
3-拾遺 | 353 | あまとふやかりのつかひにいつしかもならのみやこにことつてやらん あまとふや かりのつかひに いつしかも ならのみやこに ことつてやらむ | 柿本人麻呂(人麿) | 別 |
3-拾遺 | 354 | うくひすのすつくる枝を折りつれはこうはいかてかうまむとすらん うくひすの すつくるえたを をりつれは こをはいかてか うまむとすらむ | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 355 | 花の色をあらはにめてはあためきぬいさくらやみになりてかささむ はなのいろを あらはにめては あためきぬ いさくらやみに なりてかささむ | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 356 | たひのいはやなきとこにもねられけり草の枕につゆはおけとも たひのいは やなきとこにも ねられけり くさのまくらに つゆはおけとも | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 357 | なくこゑはあまたすれとも鴬にまさるとりのはなくこそ有りけれ なくこゑは あまたすれとも うくひすに まさるとりのは なくこそありけれ | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 358 | わたつ海のおきなかにひのはなれいててもゆと見ゆるはあまのいさりか わたつうみの おきなかにひの はなれいてて もゆとみゆるは あまのいさりか | 伊勢 | 物名 |
3-拾遺 | 359 | こき色かいつはたうすくうつろはむ花に心もつけさらんかも こきいろか いつはたうすく うつろはむ はなにこころも つけさらむかも | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 360 | 紫の色にはさくなむさしのの草のゆかりと人もこそ見れ むらさきの いろにはさくな むさしのの くさのゆかりと ひともこそみれ | 藤原高光 | 物名 |
3-拾遺 | 361 | うゑて見る君たにしらぬ花の名を我しもつけん事のあやしさ うゑてみる きみたにしらぬ はなのなを われしもつけむ ことのあやしさ | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 362 | 河かみに今よりうたむあしろにはまつもみちはやよらむとすらん かはかみに いまよりうたむ あしろには まつもみちはや よらむとすらむ | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 363 | あた人のまかきちかうな花うゑそにほひもあへす折りつくしけり あたひとの まかきちかうな はなうゑそ にほひもあへす をりつくしけり | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 364 | わかやとの花の葉にのみぬるてふのいかなるあさかほかよりはくる わかやとの はなのはにのみ ぬるてふの いかなるあさか ほかよりはくる | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 365 | 忘れにし人のさらにもこひしきかむけにこしとは思ふものから わすれにし ひとのさらにも こひしきか むけにこしとは おもふものから | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 366 | 秋ののに花てふ花を折りつれはわひしらにこそ虫もなきけれ あきののに はなてふはなを をりつれは わひしらにこそ むしもなきけれ | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 367 | 白露のかかるかやかてきえさらは草はそたまのくしけならまし しらつゆの かかるかやかて きえさらは くさはそたまの くしけならまし | 壬生忠岑 | 物名 |
3-拾遺 | 368 | 山河はきのはなかれすあさきせをせけはふちとそ秋はなるらん やまかはは きのはなかれす あさきせを せけはふちとそ あきはなるらむ | 壬生忠岑 | 物名 |
3-拾遺 | 369 | たきつせのなかにたまつむしらなみは流るる水ををにそぬきける たきつせの なかにたまつむ しらなみは なかるるみつを をにそぬきける | 壬生忠岑 | 物名 |
3-拾遺 | 370 | 今こむといひて別れしあしたよりおもひくらしのねをのみそなく いまこむと いひてわかれし あしたより おもひくらしの ねをのみそなく | 壬生忠岑 | 物名 |
3-拾遺 | 371 | そま人は宮木ひくらしあしひきの山の山ひこ声とよむなり そまひとは みやきひくらし あしひきの やまのやまひこ こゑとよむなり | 紀貫之 | 物名 |
3-拾遺 | 372 | 松のねは秋のしらへにきこゆなりたかくせめあけて鳥そひくらし まつのねは あきのしらへに きこゆなり たかくせめあけて かせそひくらし | 紀貫之 | 物名 |
3-拾遺 | 373 | あたなりとひともときくるのへしもそ花のあたりをすきかてにする あたなりと ひともときくる ものしもそ はなのあたりを すきかてにする | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 374 | 鴬のすはうこけともぬしもなし風にまかせていつちいぬらん うくひすの すはうこけとも ぬしもなし かせにまかせて いつちいぬらむ | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 375 | ふるみちに我やまとはむいにしへの野中の草はしけりあひにけり ふるみちに われやまとはむ いにしへの のなかのくさは しけりあひにけり | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 376 | すみよしのをかの松かささしつれは雨はふるともいなみのはきし すみよしの をかのまつかさ さしつれは あめはふるとも いなみのはきし | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 377 | 白浪のうちかくるすのかわかぬにわかたもとこそおとらさりけれ しらなみの うちかくるすの かわかぬに わかたもとこそ おとらさりけれ | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 378 | 水もなく舟もかよはぬこのしまにいかてかあまのなまめかるらん みつもなく ふねもかよはぬ このしまに いかてかあまの なまめかるらむ | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 379 | うゑていにし人もみなくに秋はきのたれ見よとかは花のさきけむ うゑていにし ひともみなくに あきはきの たれみよとかは はなのさきけむ | 在原元方 | 物名 |
3-拾遺 | 380 | あしひきの山辺にをれは白雲のいかにせよとかはるる時なき あしひきの やまへにをれは しらくもの いかにせよとか はるるときなき | 紀貫之 | 物名 |
3-拾遺 | 381 | つくしよりここまてくれとつともなしたちのをかはのはしのみそある つくしより ここまてくれと つともなし たちのをかはの はしのみそある | 在原業平 | 物名 |
3-拾遺 | 382 | 身をすてて山に入りにし我なれはくまのくらはむこともおほえす みをすてて やまにいりにし われなれは くまのくらはむ こともおほえす | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 383 | 鳥のこはまたひななからたちていぬかひの見ゆるはすもりなりけり とりのこは またひななから たちていぬ かひのみゆるは すもりなりけり | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 384 | くきもはもみな緑なるふかせりはあらふねのみやしろく見ゆらん くきもはも みなみとりなる ふかせりは あらふねのみや しろくみゆらむ | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 385 | あたなりなとりのこほりにおりゐるはしたよりとくる事はしらぬか あたなりな とりのこほりに おりゐるは したよりとくる ことはしらぬか | 源重之 | 物名 |
3-拾遺 | 386 | おほつかな雲のかよひち見てしかなとりのみゆけはあとはかもなし おほつかな くものかよひち みてしかな とりのみゆけは あとはかもなし | 平兼盛 | 物名 |
3-拾遺 | 387 | あかすしてわかれし人のすむさとはさはこの見ゆる山のあなたか あかすして わかれしひとの すむさとは さはこのみゆる やまのあなたか | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 388 | かかり火の所さためす見えつるは流れつつのみたけはなりけり かかりひの ところさためす みえつるは なかれつつのみ たけはなりけり | 紀輔時 | 物名 |
3-拾遺 | 389 | 神なひのみむろのきしやくつるらん竜田の河の水のにこれる かみなひの みむろのきしや くつるらむ たつたのかはの みつのにこれる | 高向草春 | 物名 |
3-拾遺 | 390 | いかりゐのいしをくくみてかみこしはきさのきにこそおとらさりけれ いかりゐの いしをくくみて かみこしは きさのきにこそ おとらさりけれ | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 391 | 五月雨にならぬ限は郭公なにかはなかむしのふはかりに さみたれに ならぬかきりは ほとときす なにかはなかむ しのふはかりに | 仙慶法師 | 物名 |
3-拾遺 | 392 | 心さしふかき時にはそこのももかつきいてぬる物にそ有りける こころさし ふかきときには そこのもも かつきいてぬる ものにそありける | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 393 | おもかけにしはしは見ゆる君なれと恋しき事そ時そともなき おもかけに しはしはみゆる きみなれと こひしきことそ ときそともなき | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 394 | いにしへはおこれりしかとわひぬれはとねりかきぬも今はきつへし いにしへは おこれりしかと わひぬれは とねりかきぬも いまはきつへし | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 395 | 池をはりこめたる水のおほかれはいひのくちよりあまるなるへし いけをはり こめたるみつの おほかれは いひのくちより あまるなるへし | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 396 | あしひきの山した水にぬれにけりその火まつたけ衣あふらん あしひきの やましたみつに ぬれにけり そのひまつたけ ころもあふらむ | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 397 | いとへともつらきかたみを見る時はまつたけからぬねこそなかるれ いとへとも つらきかたみを みるときは まつたけからぬ ねこそなかるれ | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 398 | 山たかみ花の色をも見るへきににくくたちぬる春かすみかな やまたかみ はなのいろをも みるへきに にくくたちぬる はるかすみかな | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 399 | 野を見れは春めきにけりあをつつらこにやくまましわかなつむへく のをみれは はるめきにけり あをつつら こにやくままし わかなつむへく | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 400 | いさりせしあまのをしへしいつくそやしまめくるとてありといひしは いさりせし あまのをしへし いつくそや しまめくるとて ありといひしは | 高岳相如 | 物名 |
3-拾遺 | 401 | 河きしのをとりおるへき所あらはうきにしにせぬ身はなけてまし かはきしの をとりおるへき ところあらは うきにしにせぬ みはなけてまし | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 402 | もみちはに衣の色はしみにけり秋のやまからめくりこしまに もみちはに ころものいろは しみにけり あきのやまから めくりこしまに | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 403 | なにとかやくきのすかたはおもほえてあやしく花の名こそわするれ なにとかや くきのすかたは おもほえて あやしくはなの なこそわするれ | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 404 | わか心あやしくあたに春くれは花につく身となとてなりけん わかこころ あやしくあたに はるくれは はなにつくみと なとてなりけむ | 大伴黒主 | 物名 |
3-拾遺 | 405 | さく花に思ひつくみのあちきなさ身にいたつきのいるもしらすて さくはなに おもひつくみの あちきなさ みにいたつきの いるもしらすて | 大伴黒主 | 物名 |
3-拾遺 | 406 | なにはつはくらめにのみそ舟はつく朝の風のさためなけれは なにはつは くらめにのみそ ふねはつく あしたのかせの さためなけれは | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 407 | みよしのもわかなつむらんわきもこかひはらかすみて日かすへぬれは みよしのも わかなつむらむ わきもこか ひはらかすみて ひかすへぬれは | 清原元輔 | 物名 |
3-拾遺 | 408 | あしきぬはさけからみてそ人はきるひろやたらぬと思ふなるへし あしきぬは さけからみてそ ひとはきる ひろやたらぬと おもふなるへし | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 409 | 雲まよひほしのあゆくと見えつるは蛍のそらにとふにそ有りける くもまよひ ほしのあゆくと みえつるは ほたるのそらに とふにそありける | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 410 | はしたかのをきゑにせんとかまへたるおしあゆかすなねすみとるへく はしたかの をきゑにせむと かまへたる おしあゆかすな ねすみとるへく | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 411 | わきもこか身をすてしよりさるさはの池のつつみやきみはこひしき わきもこか みをすてしより さるさはの いけのつつみや きみはこひしき | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 412 | この家はうるかいりても見てしかなあるしなからもかはんとそ思ふ このいへは うるかいりても みてしかな あるしなからも かはむとそおもふ | 源重之 | 物名 |
3-拾遺 | 413 | あつまにてやしなはれたる人のこはしたたみてこそ物はいひけれ あつまにて やしなはれたる ひとのこは したたみてこそ ものはいひけれ | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 414 | 春風のけさはやけれは鴬の花の衣もほころひにけり はるかせの けさはやけれは うくひすの はなのころもも ほころひにけり | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 415 | 霞わけいまかり帰る物ならは秋くるまてはこひやわたらん かすみわけ いまかりかへる ものならは あきくるまては こひやわたらむ | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 416 | 思ふとちところもかへすすみへなんたちはなれなはこひしかるへし おもふとち ところもかへす すみへなむ たちはなれなは こひしかるへし | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 417 | あしひきの山のこのはのおちくちはいろのをしきそあはれなりける あしひきの やまのこのはの おちくちは いろのをしきそ あはれなりける | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 418 | つのくにのなにはわたりにつくる田はあしかなへかとえこそ見わかね つのくにの なにはわたりに つくるたは あしかなへかと えこそみわかね | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 419 | たかかひのまたもこなくにつなきいぬのはなれていかむなくるまつほと たかかひの またもこなくに つなきいぬの はなれてゆかむ なくるまつほと | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 420 | ことそともききたにわかすわりなくも人のいかるかにけやしなまし ことそとも ききたにわかす わりなくも ひとのいかるか にけやしなまし | 凡河内躬恒 | 物名 |
3-拾遺 | 421 | 年をへて君をのみこそねすみつれことはらにやはこをはうむへき としをへて きみをのみこそ ねすみつれ ことはらにやは こをはうむへき | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 422 | 久方のつきのきぬをはきたれともひかりはそはぬわか身なりけり ひさかたの つきのきぬをは きたれとも ひかりはそはぬ わかみなりけり | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 423 | 世とともにしほやくあまのたえせねはなきさのきのはこかれてそちる よとともに しほやくあまの たえせねは なきさのきのは こかれてそちる | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 424 | 鴬のなかむしろには我そなく花のにほひやしはしとまると うくひすの なかむしろには われそなく はなのにほひや しはしとまると | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 425 | そこへうのかは浪わけていりぬるかまつほとすきて見えすもあるかな そこへうの かはなみわけて いりぬるか まつほとすきて みえすもあるかな | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 426 | かのかはのむかはきすきてふかからはわたらてたたにかへるはかりそ かのかはの むかはきすきて ふかからは わたらてたたに かへるはかりそ | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 427 | かのえさる舟まてしはし事とはんおきのしらなみまたたたぬまに かのえさる ふねまてしはし こととはむ おきのしらなみ またたたぬまに | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 428 | さをしかの友まとはせる声すなりつまやこひしき秋の山へに さをしかの ともまとはせる こゑすなり つまやこひしき あきのやまへに | 恵慶法師 | 物名 |
3-拾遺 | 429 | ひと夜ねてうしとらこそは思ひけめうきなたつみそわひしかりける ひとよねて うしとらこそは おもひけめ うきなたつみそ わひしかりける | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 430 | むまれよりひつしつくれは山にさるひとりいぬるにひとゐていませ うまれより ひつしつくれは やまにさる ひとりいぬるに ひとゐていませ | 読人知らず | 物名 |
3-拾遺 | 431 | 秋風のよもの山よりおのかししふくにちりぬるもみちかなしな あきかせの よものやまより おのかしし ふくにちりぬる もみちかなしな | 藤原輔相 | 物名 |
3-拾遺 | 432 | 世にふるに物思ふとしもなけれとも月にいくたひなかめしつらん よにふるに ものおもふとしも なけれとも つきにいくたひ なかめしつらむ | 具平親王 | 雑上 |
3-拾遺 | 433 | 思ふ事有りとはなしに久方の月よとなれはねられさりけり おもふこと ありとはなしに ひさかたの つきよとなれは ねられさりけり | 紀貫之 | 雑上 |
3-拾遺 | 434 | なかむるに物思ふ事のなくさむは月はうき世の外よりやゆく なかむるに ものおもふことの なくさむは つきはうきよの ほかよりやゆく | 大江為基 | 雑上 |
3-拾遺 | 435 | かくはかりへかたく見ゆる世の中にうら山しくもすめる月かな かくはかり へかたくみゆる よのなかに うらやましくも すめるつきかな | 藤原高光 | 雑上 |
3-拾遺 | 436 | ありあけの月のひかりをまつほとにわか世のいたくふけにけるかな ありあけの つきのひかりを まつほとに わかよのいたく ふけにけるかな | 藤原仲文 | 雑上 |
3-拾遺 | 437 | くもゐにてあひかたらはぬ月たにもわかやとすきてゆく時はなし くもゐにて あひかたらはぬ つきたにも わかやとすきて ゆくときはなし | 伊勢 | 雑上 |
3-拾遺 | 438 | もち月のこまよりおそくいてつれはたとるたとるそ山はこえつる もちつきの こまよりおそく いてつれは たとるたとるそ やまはこえつる | 素性法師 | 雑上 |
3-拾遺 | 439 | つねよりもてりまさるかな山のはの紅葉をわけていつる月影 つねよりも てりまさるかな やまのはの もみちをわけて いつるつきかけ | 紀貫之 | 雑上 |
3-拾遺 | 440 | 久方のあまつそらなる月なれといつれの水に影やとるらん ひさかたの あまつそらなる つきなれと いつれのみつに かけやとるらむ | 凡河内躬恒 | 雑上 |
3-拾遺 | 441 | みなそこにやとる月たにうかへるを沈むやなにのみくつなるらん みなそこに やとるつきたに うかへるを しつむやなにの みくつなるらむ | 藤原済時 | 雑上 |
3-拾遺 | 442 | 水のおもに月の沈むを見さりせは我ひとりとや思ひはてまし みつのおもに つきのしつむを みさりせは われひとりとや おもひはてまし | 式部大輔文時 | 雑上 |
3-拾遺 | 443 | 年ことにたえぬ渡やつもりつついととふかくは身をしつむらん としことに たえぬなみたや つもりつつ いととふかくは みをしつむらむ | 清原元輔 | 雑上 |
3-拾遺 | 444 | ほともなく泉はかりに沈む身はいかなるつみのふかきなるらん ほともなく いつみはかりに しつむみは いかなるつみの ふかきなるらむ | 源順 | 雑上 |
3-拾遺 | 445 | おとは河せきいれておとすたきつせに人の心の見えもするかな おとはかは せきいれておとす たきつせに ひとのこころの みえもするかな | 伊勢 | 雑上 |
3-拾遺 | 446 | 君かくるやとにたえせぬたきのいとはへて見まほしき物にそ有りける きみかくる やとにたえせぬ たきのいと はへてみまほしき ものにそありける | 中務 | 雑上 |
3-拾遺 | 447 | なかれくる滝のしらいとたえすしていくらの玉の緒とかなるらん なかれくる たきのしらいと たえすして いくらのたまの をとかなるらむ | 紀貫之 | 雑上 |
3-拾遺 | 448 | 流れくるたきのいとこそよわからしぬけとみたれておつる白玉 なかれくる たきのいとこそ よわからし ぬけとみたれて おつるしらたま | 紀貫之 | 雑上 |
3-拾遺 | 449 | たきの糸はたえてひさしく成りぬれと名こそ流れて猶きこえけれ たきのいとは たえてひさしく なりぬれと なこそなかれて なほきこえけれ | 藤原公任 | 雑上 |
3-拾遺 | 450 | おほそらをなかめそくらす吹く風のおとはすれともめにも見えねは おほそらを なかめそくらす ふくかせの おとはすれとも めにもみえねは | 凡河内躬恒 | 雑上 |
3-拾遺 | 451 | ことのねに峯の松風かよふらしいつれのをよりしらへそめけん ことのねに みねのまつかせ かよふらし いつれのをより しらへそめけむ | 承香殿女御 | 雑上 |
3-拾遺 | 452 | 松風のおとにみたるることのねをひけは子の日の心地こそすれ まつかせの おとにみたるる ことのねを ひけはねのひの ここちこそすれ | 承香殿女御 | 雑上 |
3-拾遺 | 453 | をのへなる松のこすゑは打ちなひき浪の声にそ風もふきける をのへなる まつのこすゑは うちなひき なみのこゑにそ かせもふきける | 壬生忠見 | 雑上 |
3-拾遺 | 454 | 雨ふると吹く松風はきこゆれと池のみきははまさらさりけり あめふると ふくまつかせは きこゆれと いけのみきはは まさらさりけり | 紀貫之 | 雑上 |
3-拾遺 | 455 | 大井河かはへの松に事とはむかかるみゆきやありし昔も おほゐかは かはへのまつに こととはむ かかるみゆきや ありしむかしも | 紀貫之 | 雑上 |
3-拾遺 | 456 | おとにのみきき渡りつる住吉の松のちとせをけふ見つるかな おとにのみ ききわたりつる すみよしの まつのちとせを けふみつるかな | 紀貫之 | 雑上 |
3-拾遺 | 457 | 海にのみひちたる松のふかみとりいくしほとかはしるへかるらん うみにのみ ひちたるまつの ふかみとり いくしほとかは しるへかるらむ | 伊勢 | 雑上 |
3-拾遺 | 458 | わたつみの浪にもぬれぬうきしまの松に心をよせてたのまん わたつみの なみにもぬれぬ うきしまの まつにこころを よせてたのまむ | 大中臣能宣 | 雑上 |
3-拾遺 | 459 | かこのしま松原こしになくたつのあななかなかしきく人なしに かこのしま まつはらこしに なくたつの あななかなかし きくひとなしに | 読人知らず | 雑上 |
3-拾遺 | 460 | いかて猶わか身にかへてたけくまの松ともならむ行人のため いかてなほ わかみにかへて たけくまの まつともならむ ゆくひとのため | 大中臣能宣 | 雑上 |
3-拾遺 | 461 | 行末のしるしはかりにのこるへき松さへいたくおいにけるかな ゆくすゑの しるしはかりに のこるへき まつさへいたく おいにけるかな | 源道済 | 雑上 |
3-拾遺 | 462 | 世の中を住吉としもおもはぬになにをまつとてわか身へぬらん よのなかを すみよしとしも おもはぬに なにをまつとて わかみへぬらむ | 読人知らず | 雑上 |
3-拾遺 | 463 | いたつらに世にふる物と高砂の松も我をや友と見るらん いたつらに よにふるものと たかさこの まつもわれをや ともとみるらむ | 紀貫之 | 雑上 |
3-拾遺 | 464 | 世とともにあかしの浦の松原は浪をのみこそよるとしるらめ よとともに あかしのうらの まつはらは なみをのみこそ よるとしるらめ | 源為憲 | 雑上 |
3-拾遺 | 465 | もかり舟今そなきさにきよすなるみきはのたつのこゑさわくなり もかりふね いまそなきさに きよすなる みきはのたつの こゑさわくなり | 読人知らず | 雑上 |
3-拾遺 | 466 | うちしのひいさすみの江の忘草わすれて人のまたやつまぬと うちしのひ いさすみのえの わすれくさ わすれてひとの またやつまぬと | 読人知らず | 雑上 |
3-拾遺 | 467 | あさほらけひくらしのこゑきこゆなりこやあけくれと人のいふらん あさほらけ ひくらしのこゑ きこゆなり こやあけくれと ひとのいふらむ | 藤原済時 | 雑上 |
3-拾遺 | 468 | あしまより見ゆるなからのはしはしら昔のあとのしろへなりけり あしまより みゆるなからの はしはしら むかしのあとの しるへなりけり | 藤原清正 | 雑上 |
3-拾遺 | 469 | けふまてと見るに涙のますかかみなれにし影を人にかたるな けふまてと みるになみたの ますかかみ なれにしかけを ひとにかたるな | 読人知らず | 雑上 |
3-拾遺 | 470 | わするなよほとは雲ゐに成りぬともそら行く月の廻りあふまて わするなよ ほとはくもゐに なりぬとも そらゆくつきの めくりあふまて | 読人知らず | 雑上 |
3-拾遺 | 471 | 年月は昔にあらす成りゆけとこひしきことはかはらさりけり としつきは むかしにあらす なりゆけと こひしきことは かはらさりけり | 紀貫之 | 雑上 |
3-拾遺 | 472 | 昔わか折りし桂のかひもなし月の林のめしにいらねは むかしわか をりしかつらの かひもなし つきのはやしの めしにいらねは | 藤原後生 | 雑上 |
3-拾遺 | 473 | 久方の月の桂もをるはかり家の風をもふかせてしかな ひさかたの つきのかつらも をるはかり いへのかせをも ふかせてしかな | 菅原道真母 | 雑上 |
3-拾遺 | 474 | 月草に衣はすらんあさつゆにぬれてののちはうつろひぬとも つきくさに ころもはすらむ あさつゆに ぬれてののちは うつろひぬとも | 柿本人麻呂(人麿) | 雑上 |
3-拾遺 | 475 | ちちわくに人はいふともおりてきむわかはた物にしろきあさきぬ ちちわくに ひとはいふとも おりてきむ わかはたものに しろきあさきぬ | 柿本人麻呂(人麿) | 雑上 |
3-拾遺 | 476 | 久方のあめにはきぬをあやしくもわか衣手のひる時もなき ひさかたの あめにはきぬを あやしくも わかころもての ひるときもなき | 柿本人麻呂(人麿) | 雑上 |
3-拾遺 | 477 | 白浪はたてと衣にかさならすあかしもすまもおのかうらうら しらなみは たてところもに かさならす あかしもすまも おのかうらうら | 柿本人麻呂(人麿) | 雑上 |
3-拾遺 | 478 | ゆふされは衣手さむしわきもこかときあらひ衣行きてはやきむ ゆふされは ころもてさむし わきもこか ときあらひころも ゆきてはやきむ | 柿本人麻呂(人麿) | 雑上 |
3-拾遺 | 479 | あまつほし道もやとりも有りなからそらにうきてもおもほゆるかな あまつほし みちもやとりも ありなから そらにうきても おもほゆるかな | 贈太政大臣 | 雑上 |
3-拾遺 | 480 | なかれ木も三とせ有りてはあひ見てん世のうき事そかへらさりける なかれきも みとせありては あひみてむ よのうきことそ かへらさりける | 贈太政大臣 | 雑上 |
3-拾遺 | 481 | うき世にはかとさせりとも見えなくになとかわか身のいてかてにする うきよには かとさせりとも みえなくに なとかわかみの いてかてにする | 平定文 | 雑上 |
3-拾遺 | 482 | 木にもおひすはねもならへてなにしかも浪ちへたてて君をきくらん きにもおひす はねもならへて なにしかも なみちへたてて きみをきくらむ | 伊勢 | 雑上 |
3-拾遺 | 483 | ささなみやあふみの宮は名のみして霞たなひき宮きもりなし ささなみや あふみのみやは なのみして かすみたなひき みやきもりなし | 柿本人麻呂(人麿) | 雑上 |
3-拾遺 | 484 | 暁のねさめの千鳥たかためかさほのかはらにをちかへりなく あかつきの ねさめのちとり たかためか さほのかはらに をちかへりなく | 大中臣能宣 | 雑上 |
3-拾遺 | 485 | あさからぬちきりむすへる心ははたむけの神そしるへかりける あさからぬ ちきりむすへる こころはは たむけのかみそ しるへかりける | 大中臣能宣 | 雑上 |
3-拾遺 | 486 | みわの山しるしのすきは有りなからをしへし人はなくていくよそ みわのやま しるしのすきは ありなから をしへしひとは なくていくよそ | 清原元輔 | 雑上 |
3-拾遺 | 487 | おきつしま雲井の岸を行きかへりふみかよはさむまはろしもかな おきつしま くもゐのきしを ゆきかへり ふみかよはさむ まほろしもかな | 肥前 | 雑上 |
3-拾遺 | 488 | そらの海に雲の浪たち月の舟里の林にこきかくる見ゆ そらのうみに くものなみたち つきのふね ほしのはやしに こきかくるみゆ | 柿本人麻呂(人麿) | 雑上 |
3-拾遺 | 489 | 河のせのうつまく見れは玉もかるちりみたれたるかはの舟かも かはのせの うつまくみれは たまもかる ちりみたれたる かはのふねかも | 柿本人麻呂(人麿) | 雑上 |
3-拾遺 | 490 | なる神のおとにのみきくまきもくのひはらの山をけふ見つるかな なるかみの おとにのみきく まきもくの ひはらのやまを けふみつるかな | 柿本人麻呂(人麿) | 雑上 |
3-拾遺 | 491 | いにしへに有りけむ人もわかことやみわのひはらにかさし折りけん いにしへに ありけむひとも わかことや みわのひはらに かさしをりけむ | 柿本人麻呂(人麿) | 雑上 |
3-拾遺 | 492 | 人しれすこゆと思ふらしあしひきの山した水にかけは見えつつ ひとしれす こゆとおもふらし あしひきの やましたみつに かけはみえつつ | 紀貫之 | 雑上 |
3-拾遺 | 493 | おふの海にふなのりすらんわきもこかあかものすそにしほみつらんか をふのうみに ふなのりすらむ わきもこか あかものすそに しほみつらむか | 柿本人麻呂(人麿) | 雑上 |
3-拾遺 | 494 | 思ふ事なるといふなるすすか山こえてうれしきさかひとそきく おもふこと なるといふなる すすかやま こえてうれしき さかひとそきく | 村上院 | 雑上 |
3-拾遺 | 495 | 世にふれは又もこえけりすすか山昔の今になるにやあるらん よにふれは またもこえけり すすかやま むかしのいまに なるにやあらむ | 承香殿女御 | 雑上 |
3-拾遺 | 496 | あすかかはしからみわたしせかませはなかるる水ものとけからまし あすかかは しからみわたし せかませは なかるるみつも のとけからまし | 柿本人麻呂(人麿) | 雑上 |
3-拾遺 | 497 | おくれゐてなくなるよりはあしたつのなとかよはひをゆつらさりけん おくれゐて なくなるよりは あしたつの なとかよはひを ゆつらさりけむ | 藤原実頼 | 雑上 |
3-拾遺 | 498 | 年をへてたちならしつるあしたつのいかなる方にあとととむらん としをへて たちならしつる あしたつの いかなるかたに あとととむらむ | 愛宮 | 雑上 |
3-拾遺 | 499 | ゆくすゑの忍草にも有りやとてつゆのかたみもおかんとそ思ふ ゆくすゑの しのふくさにも ありやとて つゆのかたみも おかむとそおもふ | 清原元輔 | 雑上 |
3-拾遺 | 500 | うゑて見る草葉そ世をはしらせけるおきてはきゆるけさの朝露 うゑてみる くさはそよをは しらせける おきてはきゆる けさのあさつゆ | 中務 | 雑上 |
3-拾遺 | 501 | 露のいのちをしとにはあらす君を又見てやと思ふそかなしかりける つゆのいのち をしとにはあらす きみをまた みてやとおもふそ かなしかりける | 弓削嘉言 | 雑上 |
3-拾遺 | 502 | をしからぬいのちやさらにのひぬらんをはりの煙しむるのへにて をしからぬ いのちやさらに のひぬらむ をはりのけふり しむるのへにて | 清原元輔 | 雑上 |
3-拾遺 | 503 | 限なき涙のつゆにむすはれて人のしもとはなるにやあるらん かきりなき なみたのつゆに むすはれて ひとのしもとは なるにやあるらむ | 佐伯清忠 | 雑上 |
3-拾遺 | 504 | うき世には行きかくれなてかきくもりふるは思ひのほかにもあるかな うきよには ゆきかくれなて かきくもり ふるはおもひの ほかにもあるかな | 清原元輔 | 雑上 |
3-拾遺 | 505 | わひ人はうき世の中にいけらしと思ふ事さへかなはさりけり わひひとは うきよのなかに いけらしと おもふことさへ かなはさりけり | 源景明 | 雑上 |
3-拾遺 | 506 | 世の中にあらぬ所もえてしかな年ふりにたるかたちかくさむ よのなかに あらぬところも えてしかな としふりにたる かたちかくさむ | 読人知らず | 雑上 |
3-拾遺 | 507 | 世の中をかくいひいひのはてはてはいかにやいかにならむとすらん よのなかを かくいひいひの はてはては いかにやいかに ならむとすらむ | 読人知らず | 雑上 |
3-拾遺 | 508 | いにしへのとらのたくひに身をなけはさかとはかりはとはむとそ思ふ いにしへの とらのたくひに みをなけは さかとはかりは とはむとそおもふ | 読人知らず | 雑上 |
3-拾遺 | 509 | 春秋に思ひみたれてわきかねつ時につけつつうつる心は はるあきに おもひみたれて わきかねつ ときにつけつつ うつるこころは | 紀貫之 | 雑下 |
3-拾遺 | 510 | おほかたの秋に心はよせしかと花見る時はいつれともなし おほかたの あきにこころは よせしかそ はなみるときは いつれともなし | 承香殿のとしこ | 雑下 |
3-拾遺 | 511 | 春はたた花のひとへにさくはかり物のあはれは秋そまされる はるはたた はなのひとへに さくはかり もののあはれは あきそまされる | 読人知らず | 雑下 |
3-拾遺 | 512 | 折からにいつれともなき鳥のねもいかかさためむ時ならぬ身は をりからに いつれともなき とりのねも いかかさためむ ときならぬみは | 藤原朝光 | 雑下 |
3-拾遺 | 513 | 白露はうへよりおくをいかなれは萩のしたはのまつもみつらん しらつゆは うへよりおくを いかなれは はきのしたはの まつもみつらむ | 参譲伊衡 | 雑下 |
3-拾遺 | 514 | さをしかのしからみふする秋萩はしたはやうへになりかへるらん さをしかの しからみふする あきはきは したはやうへに なりかへるらむ | 凡河内躬恒 | 雑下 |
3-拾遺 | 515 | 秋はきはまつさすえよりうつろふをつゆのわくとは思はさらなむ あきはきは まつさすえより うつろふを つゆのわくとは おもはさらなむ | 壬生忠岑 | 雑下 |
3-拾遺 | 516 | ちとせふる松のしたはのいろつくはたかしたかみにかけてかへすそ ちとせふる まつのしたはの いろつくは たかしたかみに かけてかへすそ | これひら | 雑下 |
3-拾遺 | 517 | 松といへとちとせの秋にあひくれはしのひにおつるしたはなりけり まつといへと ちとせのあきに あひくれは しのひにおつる したはなりけり | 凡河内躬恒 | 雑下 |
3-拾遺 | 518 | 白妙のしろき月をも紅の色をもなとかあかしといふらん しろたへの しろきつきをも くれなゐの いろをもなとか あかしといふらむ | これひら | 雑下 |
3-拾遺 | 519 | 昔よりいひしきにける事なれは我らはいかか今はさためん むかしより いひしきにける ことなれは われらはいかか いまはさためむ | 凡河内躬恒 | 雑下 |
3-拾遺 | 520 | かけ見れはひかりなきをも衣ぬふいとをもなとかよるといふらん かけみれは ひかりなきをも ころもぬふ いとをもなとか よるといふらむ | これひら | 雑下 |
3-拾遺 | 521 | むはたまのよるはこひしき人にあひていとをもよれはあふとやは見ぬ うはたまの よるはこひしき ひとにあひて いとをもよれは あふとやはみぬ | 凡河内躬恒 | 雑下 |
3-拾遺 | 522 | よるひるのかすはみそちにあまらぬをなと長月といひはしめけん よるひるの かすはみそちに あまらぬを なとなかつきと いひはしめけむ | 伊衡 | 雑下 |
3-拾遺 | 523 | 秋ふかみこひする人のあかしかね夜を長月といふにやあるらん あきふかみ こひするひとの あかしかね よをなかつきと いふにやあるらむ | 凡河内躬恒 | 雑下 |
3-拾遺 | 524 | 水のあわやたねとなるらんうきくさのまく人なみのうへにおふれは みつのあわや たねとなるらむ うきくさの まくひとなみの うへにおふれは | 読人知らず | 雑下 |
3-拾遺 | 525 | たねなくてなき物草はおひにけりまくてふ事はあらしとそ思ふ たねなくて なきものくさは おひにけり まくてふことは あらしとそおもふ | 恵慶法師 | 雑下 |
3-拾遺 | 526 | わか事はえもいはしろの結松ちとせをふともたれかとくへき わかことは えもいはしろの むすひまつ ちとせをふとも たれかとくへき | 曾禰好忠 | 雑下 |
3-拾遺 | 527 | あしひきの山のこてらにすむ人はわかいふこともかなはさりけり あしひきの やまのこてらに すむひとは わかいふことも かなはさりけり | 読人知らず | 雑下 |
3-拾遺 | 528 | 山ならぬすみかあまたにきく人の野ふしにとくも成りにけるかな やまならぬ すみかあまたに きくひとの のふしにとくも なりにけるかな | 源経房 | 雑下 |
3-拾遺 | 529 | やまふしものふしもかくて心みつ今はとねりのねやそゆかしき やまふしも のふしもかくて こころみつ いまはとねりの ねやそゆかしき | 健守法師 | 雑下 |
3-拾遺 | 530 | わたつ海はあまの舟こそありときけのりたかへてもこきいてたるかな わたつうみは あまのふねこそ ありときけ のりたかへても こきいてたるかな | 藤原道綱母 | 雑下 |
3-拾遺 | 531 | 勅なれはいともかしこし鴬のやとはととははいかかこたへむ ちよくなれは いともかしこし うくひすの やとはととはは いかかこたへむ | 読人知らず | 雑下 |
3-拾遺 | 532 | いなをらしつゆにたもとのぬれたらは物思ひけりと人もこそ見れ いなをらし つゆにたもとの ぬれたらは ものおもひけりと ひともこそみれ | 寿玄法師 | 雑下 |
3-拾遺 | 533 | あつさゆみはるかに見ゆる山のはをいかてか月のさして入るらん あつさゆみ はるかにみゆる やまのはを いかてかつきの さしているらむ | 大中臣能宣 | 雑下 |
3-拾遺 | 534 | そらめをそ君はみたらし河の水あさしやふかしそれは我かは そらめをそ きみはみたらし かはのみつ あさしやふかし それはわれかは | 伊勢 | 雑下 |
3-拾遺 | 535 | かをさしてむまといふ人ありけれはかもをもをしと思ふなるへし かをさして うまといふひと ありけれは かもをもをしと おもふなるへし | 藤原仲文 | 雑下 |
3-拾遺 | 536 | なしといへはをしむかもとや思ふらんしかやむまとそいふへかりける なしといへは をしむかもとや おもふらむ しかやうまとそ いふへかりける | 大中臣能宣 | 雑下 |
3-拾遺 | 537 | なにはえのあしのはなけのましれるはつのくにかひのこまにやあるらん なにはえの あしのはなけの ましれるは つのくにかひの こまにやあるらむ | 恵慶法師 | 雑下 |
3-拾遺 | 538 | 難波かたしけりあへるはきみかよにあしかるわさをせねはなるへし なにはかた しけりあへるは きみかよに あしかるわさを せねはなるへし | 壬生忠見 | 雑下 |
3-拾遺 | 539 | 宮こにはすみわひはててつのくにの住吉ときくさとにこそゆけ みやこには すみわひはてて つのくにの すみよしときく さとにこそゆけ | 壬生忠見 | 雑下 |
3-拾遺 | 540 | 君なくてあしかりけりと思ふにもいととなにはの浦そすみうき きみなくて あしかりけりと おもふにも いととなにはの うらそすみうき | 読人知らず | 雑下 |
3-拾遺 | 541 | あしからしよからむとてそわかれけんなにかなにはの浦はすみうき あしからし よからむとてそ わかれけむ なにかなにはの うらはすみうき | 読人知らず | 雑下 |
3-拾遺 | 542 | なき人のかたみと思ふにあやしきはゑみても袖のぬるるなりけり なきひとの かたみとおもふに あやしきは ゑみてもそての ぬるるなりけり | 麗景殿みやのきみ | 雑下 |
3-拾遺 | 543 | みつせ河渡るみさをもなかりけりなにに衣をぬきてかくらん みつせかは わたるみさをも なかりけり なににころもを ぬきてかくらむ | 菅原道雅女 | 雑下 |
3-拾遺 | 544 | かくしこそ春の始はうれしけれつらきは秋のをはりなりけり かくしこそ はるのはしめは うれしけれ つらきはあきの をはりなりけり | 藤原国章 | 雑下 |
3-拾遺 | 545 | おやのおやとおもはましかはとひてましわかこのこにはあらぬなるへし おやのおやと おもはましかは とひてまし わかこのこには あらぬなるへし | 源重之の叔母 | 雑下 |
3-拾遺 | 546 | 山高みゆふ日かくれぬあさち原後見むためにしめゆはましを やまたかみ ゆふひかくれぬ あさちはら のちみむために しめゆはましを | 柿本人麻呂(人麿) | 雑下 |
3-拾遺 | 547 | 名のみして山は三笠もなかりけりあさ日ゆふ日のさすをいふかも なのみして やまはみかさも なかりけり あさひゆふひの さすをいふかも | 紀貫之 | 雑下 |
3-拾遺 | 548 | なのみしてなれるも見えす梅津河ゐせきの水ももれはなりけり なのみして なれるもみえす うめつかは ゐせきのみつも もれはなりけり | 読人知らず | 雑下 |
3-拾遺 | 549 | 名にはいへとくろくも見えすうるし河さすかに渡る水はぬるめり なにはいへと くろくもみえす うるしかは さすかにわたる みつはぬるめり | 読人知らず | 雑下 |
3-拾遺 | 550 | 世の中にあやしき物は雨ふれと大原河のひるにそありける よのなかに あやしきものは あめふれと おほはらかはの ひるにそありける | 恵慶法師 | 雑下 |
3-拾遺 | 551 | 河柳いとはみとりにあるものをいつれかあけの衣なるらん かはやなき いとはみとりに あるものを いつれかあけの ころもなるらむ | 仲文 | 雑下 |
3-拾遺 | 552 | しら浪の打ちやかへすとまつほとにはまのまさこのかすそつもれる しらなみの うちやかへすと まつほとに はまのまさこの かすそつもれる | 村上院 | 雑下 |
3-拾遺 | 553 | いつしかとあけて見たれははま千鳥跡あることにあとのなきかな いつしかと あけてみたれは はまちとり あとあることに あとのなきかな | 藤原実頼 | 雑下 |
3-拾遺 | 554 | ととめてもなににかはせん浜千鳥ふりぬるあとは浪にきえつつ ととめても なににかはせむ はまちとり ふりぬるあとは なみにきえつつ | 藤原実資 | 雑下 |
3-拾遺 | 555 | みなそこのわくはかりにやくくるらんよる人もなきたきのしらいと みなそこの わくはかりにや くくるらむ よるひともなき たきのいらいと | 読人知らず | 雑下 |
3-拾遺 | 556 | おとにきくつつみのたきをうち見れはたた山河のなるにそ有りける おとにきく つつみのたきを うちみれは たたやまかはの なるにそありける | 読人知らず | 雑下 |
3-拾遺 | 557 | おとにきくこまの渡のうりつくりとなりかくなりなる心かな おとにきく こまのわたりの うりつくり となりかくなり なるこころかな | 三位国章 | 雑下 |
3-拾遺 | 558 | さためなくなるなるうりのつら見てもたちやよりこむこまのすきもの さためなく なるなるうりの つらみても たちやよりこむ こまのすきもの | 藤原朝光 | 雑下 |
3-拾遺 | 559 | みちのくのあたちのはらのくろつかにおにこもれりときくはまことか みちのくの あたちのはらの くろつかに おにこもれりと いふはまことか | 平兼盛 | 雑下 |
3-拾遺 | 560 | ぬす人のたつたの山に入りにけりおなしかさしの名にやけかれん ぬすひとの たつたのやまに いりにけり おなしかさしの なにやけかれむ | 藤原為順 | 雑下 |
3-拾遺 | 561 | なき名のみたつたの山のふもとには世にもあらしの風もふかなん なきなのみ たつたのやまの ふもとには よにもあらしの かせもふかなむ | 藤原為順 | 雑下 |
3-拾遺 | 562 | なき名のみたかをの山といひたつる君はあたこの峯にやあるらん なきなのみ たかをのやまと いひたつる きみはあたこの みねにやあるらむ | 八条のおほいきみ | 雑下 |
3-拾遺 | 563 | いにしへものほりやしけんよしの山やまよりたかきよはひなる人 いにしへも のほりやしけむ よしのやま やまよりたかき よはひなるひと | 清原元輔 | 雑下 |
3-拾遺 | 564 | おいはてて雪の山をはいたたけとしもと見るにそ身はひえにける おいはてて ゆきのやまをは いたたけと しもとみるにそ みはひえにける | 読人知らず | 雑下 |
3-拾遺 | 565 | ますかかみそこなるかけにむかひゐて見る時にこそしらぬおきなにあふ心地すれ ますかかみ そこなるかけに むかひゐて みるときにこそ しらぬおきなに あふここちすれ | 読人知らず | 雑下 |
3-拾遺 | 566 | ますかかみみしかと思ふいもにあはむかもたまのをのたえたるこひのしけきこのころ ますかかみ みしかとおもふ いもにあはむかも たまのをの たえたるこひの しけきこのころ | 柿本人麻呂(人麿) | 雑下 |
3-拾遺 | 567 | かのをかに草かるをのこしかなかりそありつつもきみかきまさむみまくさにせん かのをかに くさかるをのこ しかなかりそ ありつつも きみかきまさむ みまくさにせむ | 柿本人麻呂(人麿) | 雑下 |
3-拾遺 | 568 | あつさゆみおもはすにしていりにしをさもねたくひきととめてそふすへかりける あつさゆみ おもはすにして いりにしを さもねたく ひきととめてそ ふすへかりける | 源かけあきら | 雑下 |
3-拾遺 | 569 | ちはやふるわかおほきみのきこしめすあめのしたなる草の葉もうるひにたりと山河のすめるかうちとみこころをよしののくにの花さかり秋つののへに宮はしらふとしきましてももしきの大宮人は舟ならへあさ河わたりふなくらへゆふかはわたりこの河のたゆる事なくこの山のいやたかからしたま水のたきつの宮こ見れとあかぬかも ちはやふる わかおほきみの きこしめす あめのしたなる くさのはも うるひにたりと やまかはの すめるかふちと みこころを よしののくにの はなさかり あきつののへに みやはしら ふとしきまして ももしきの おほみやひとは ふねならへ あさかはわたり ふなくらへ ゆふかはわたり このかはの たゆることなく このやまの いやたかからし たまみつの たきつのみやこ みれとあかぬかも | 柿本人麻呂(人麿) | 雑下 |
3-拾遺 | 570 | 見れとあかぬよしのの河の流れてもたゆる時なく行きかへり見む みれとあかぬ よしののかはの なかれても たゆるときなく ゆきかへりみむ | 柿本人麻呂(人麿) | 雑下 |
3-拾遺 | 571 | あらたまの年のはたちにたらさりし時はの山の山さむみ風もさはらぬふち衣ふたたひたちしあさきりに心もそらにまとひそめみなしこ草になりしより物思ふことの葉をしけみけぬへきつゆのよるはおきて夏はみきはにもえわたるほたるをそてにひろひつつ冬は花かと見えまかひこのもかのもにふりつもる雪をたもとにあつめつつふみみていてし道は猶身のうきにのみ有りけれはここもかしこもあしねはふしたにのみこそしつみけれたれここのつのさは水になくたつのねを久方のくものうへまてかくれなみたかくきこゆるかひありていひなかしけん人は猶かひもなきさにみつしほの世にはからくてすみの江の松はいたつらおいぬれとみとりの衣ぬきすてむはるはいつともしらなみのなみちにいたくゆきかよひゆもとりあへすなりにける舟のわれをしきみしらはあはれいまたにしつめしとあまのつりなはうちはへてひくとしきかは物はおもはし あらたまの としのはたちに たらさりし ときはのやまの やまさむみ かせもさはらぬ ふちころも ふたたひたちし あさきりに こころもそらに まとひそめ みなしこくさに なりしより ものおもふことの はをしけみ けぬへきつゆの よるはおきて なつはみきはに もえわたる ほたるをそてに ひろひつつ ふゆははなかと みえまかひ このもかのもに ふりつもる ゆきをたもとに あつめつつ ふみみていてし みちはなほ みのうきにのみ ありけれは ここもかしこも あしねはふ したにのみこそ しつみけれ たれここのつの さはみつに なくたつのねを ひさかたの くものうへまて かくれなみ たかくきこゆる かひありて いひなかしけむ ひとはなほ かひもなきさに みつしほの よにはからくて すみのえの まつはいたつら おいぬれと みとりのころも ぬきすてむ はるはいつとも しらなみの なみちにいたく ゆきかよひ ゆもとりあへす なりにける ふねのわれをし きみしらは あはれいまたに しつめしと あまのつりなは うちはへて ひくとしきかは ものはおもはし | 源順 | 雑下 |
3-拾遺 | 572 | 世の中をおもへはくるしわするれはえもわすられすたれもみなおなしみ山の松かえとかるる事なくすへらきのちよもやちよもつかへんとたかきたのみをかくれぬのしたよりねさすあやめくさあやなき身にも人なみにかかる心を思ひつつ世にふるゆきをきみはしも冬はとりつみ夏は又草のほたるをあつめつつひかりさやけき久方の月のかつらををるまてに時雨にそほちつゆにぬれへにけむそてのふかみとりいろあせかたに今はなりかつしたはよりくれなゐにうつろひはてん秋にあははまつひらけなん花よりもこたかきかけとあふかれん物とこそ見ししほかまのうらさひしけになそもかく世をしも思ひなすのゆのたきるゆゑをもかまへつつわか身を人の身になしておもひくらへよももしきにあかしくらしてとこ夏のくもゐはるけきみな人におくれてなひく我もあるらし よのなかを おもへはくるし わするれは えもわすられす たれもみな おなしみやまの まつかえと かるることなく すめらきの ちよもやちよも つかへむと たかきたのみを かくれぬの したよりねさす あやめくさ あやなきみにも ひとなみに かかるこころを おもひつつ よにふるゆきを きみはしも ふゆはとりつみ なつはまた くさのほたるを あつめつつ ひかりさやけき ひさかたの つきのかつらを をるまてに しくれにそほち つゆにぬれ へにけむそての ふかみとり いろあせかたに いまはなり かつしたはより くれなゐに うつろひはてむ あきにあはは まつひらけなむ はなよりも こたかきかけと あふかれむ ものとこそみし しほかまの うらさひしけに なそもかく よをしもおもひ なすのゆの たきるゆゑをも かまへつつ わかみをひとの みになして おもひくらへよ ももしきに あかしくらして とこなつの くもゐはるけき みなひとに おくれてなひく われもあるらし | 大中臣能宣 | 雑下 |
3-拾遺 | 573 | 今はともいはさりしかとやをとめのたつやかすかのふるさとにかへりやくるとまつち山まつほとすきてかりかねの雲のよそにもきこえねは我はむなしきたまつさをかくてもたゆくむすひおきてつてやる風のたよりたになきさにきゐるゆふちとりうらみはふかくみつしほにそてのみいととぬれつつそあともおもはぬきみによりかひなきこひになにしかも我のみひとりうきふねのこかれてよにはわたるらんとさへそはてはかやり火のくゆる心もつきぬへく思ひなるまておとつれすおほつかなくてかへれともけふみつくきのあとみれはちきりし事は君も又わすれさりけりしかしあらはたれもうきよのあさつゆにひかりまつまの身にしあれはおもはしいかてとこ夏の花のうつろふ秋もなくおなしあたりにすみの江のきしのひめ松ねをむすひ世世をへつつもしもゆきのふるにもぬれぬなかとなりなむ いまはとも いはさりしかと やをとめの たつやかすかの ふるさとに かへりやくると まつちやま まつほとすきて かりかねの くものよそにも きこえねは われはむなしき たまつさを かくてもたゆく むすひおきて つてやるかせの たよりたに なきさにきゐる ゆふちとり うらみはふかく みつしほに そてのみいとと ぬれつつそ あともおもはぬ きみにより かひなきこひに なにしかも われのみひとり うきふねの こかれてよには わたるらむ とさへそはては かやりひの くゆるこころも つきぬへく おもひなるまて おとつれす おほつかなくて かへれとも けふみつくきの あとみれは ちきりしことは きみもまた わすれさりけり しかしあらは たれもうきよの あさつゆに ひかりまつまの みにしあれは おもはしいかて とこなつの はなのうつろふ あきもなく おなしあたりに すみのえの きしのひめまつ ねをむすひ よよをへつつも しもゆきの ふるにもぬれぬ なかとなりなむ | 読人知らず | 雑下 |
3-拾遺 | 574 | あはれわれいつつの宮の宮人とそのかすならぬ身をなしておもひし事はかけまくもかしこけれともたのもしきかけにふたたひおくれたるふたはの草を吹く風のあらき方にはあてしとてせはきたもとをふせきつつちりもすゑしとみかきてはたまのひかりをたれか見むと思ふ心におほけなくかみつえたをはさしこえて花さく春の宮人となりし時ははいかはかりしけきかけとかたのまれしすゑの世まてと思ひつつここのかさねのそのなかにいつきすゑしもことてしもたれならなくにを山田を人にまかせて我はたたたもとそほつに身をなしてふたはるみはるすくしつつその秋冬のあさきりのたえまにたにもと思ひしを峯の白雲よこさまにたちかはりぬと見てしかは身をかきりとはおもひにきいのちあらはとたのみしは人におくるるななりけり思ふもしるし山河のみなしもなりしもろ人もうこかぬきしにまもりあけてしつむみくつのはてはてはかきなかされし神な月うすき氷にとちられてとまれる方もなきわふるなみたしつみてかそふれは冬も三月になりにけりなかきよなよなしきたへのふさすやすますあけくらしおもへとも猶かなしきはやそうち人もあたら世のためしなりとそさわくなるましてかすかのすきむらにいまたかれたる枝はあらし大原野辺のつほすみれつみをかしある物ならはてる日も見よといふことを年のをはりにきよめすはわか身そつひにくちぬへきたにのむもれ木春くともさてややみなむ年の内に春吹く風も心あらはそての氷をとけとふかなむ あはれわれ いつつのみやの みやひとと そのかすならぬ みをなして おもひしことは かけまくも かしこけれとも たのもしき かけにふたたひ おくれたる ふたはのくさを ふくかせの あらきかたには あてしとて せはきたもとを ふせきつつ ちりもすゑしと みかきては たまのひかりを たれかみむと おもふこころに おほけなく かみつえたをは さしこえて はなさくはるの みやひとと なりしときはは いかはかり しけきかけとか たのまれし すゑのよまてと おもひつつ ここのかさねの そのなかに いつきすゑしも ことてしも たれならなくに をやまたを ひとにまかせて われはたた たもとそほつに みをなして ふたはるみはる すくしつつ そのあきふゆの あさきりの たえまにたにもと おもひしを みねのしらくも よこさまに たちかはりぬと みてしかは みをかきりとは おもひにき いのちあらはと たのみしは ひとにおくるる ななりけり おもふもしるし やまかはの みなしもなりし もろひとも うこかぬきしに まもりあけて しつむみくつの はてはては かきなかされし かみなつき うすきこほりに とちられて とまれるかたも なきわふる なみたしつみて かそふれは ふゆもみつきに なりにけり なかきよなよな しきたへの ふさすやすます あけくらし おもへともなほ かなしきは やそうちひとも あたらよの ためしなりとそ さわくなる ましてかすかの すきむらに いまたかれたる えたはあらし おほはらのへの つほすみれ つみをかしある ものならは てるひもみよと いふことを としのをはりに きよめすは わかみそつひに くちぬへき たにのうもれき はるくとも さてややみなむ としのうちに はるふくかせも こころあらは そてのこほりを とけとふかなむ | 東三条太政大臣 | 雑下 |
3-拾遺 | 575 | 如何せむわか身くたれるいな舟のしはしはかりのいのちたえすは いかにせむ わかみくたれる いなふねの しはしはかりの いのちたえすは | 東三条太政大臣 | 雑下 |
3-拾遺 | 576 | さかきはにゆふしてかけてたか世にか神のみまへにいはひそめけん さかきはに ゆふしてかけて たかよにか かみのみまへに いはひそめけむ | 不記 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 577 | さか木葉のかをかくはしみとめくれはやそうち人そまとゐせりける さかきはの かをかくはしみ とめくれは やそうちひとそ まとゐせりける | 不記 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 578 | みてくらにならましものをすへ神のみてにとられてなつさはましを みてくらに ならましものを すめかみの みてにとられて なつさはましを | 不記 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 579 | みてくらはわかにはあらすあめにますとよをかひめの宮のみてくら みてくらは わかにはあらす あめにます とよをかひめの みやのみてくら | 不記 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 580 | あふさかをけさこえくれは山人のちとせつけとてきれるつゑなり あふさかを けさこえくれは やまひとの ちとせつけとて きれるつゑなり | 不記 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 581 | よも山の人のたからにするゆみを神のみまへにけふたてまつる よもやまの ひとのたからに するゆみを かみのみまへに けふたてまつる | 不記 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 582 | いその神ふるやをとこのたちもかなくみのをしてて宮ちかよはむ いそのかみ ふるやをとこの たちもかな くみのをしてて みやちかよはむ | 不記 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 583 | 銀のめぬきのたちをさけはきてならの宮こをねるやたかこそ しろかねの めぬきのたちを さけはきて ならのみやこを ねるやたかこそ | 不記 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 584 | わか駒ははやくゆかなんあさひこかやへさすをかのたまささのうへに わかこまは はやくゆかなむ あさひこか やへさすをかの たまささのうへに | 不記 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 585 | さいはりに衣はそめん雨ふれとうつろひかたしふかくそめては さいはりに ころもはそめむ あめふれと うつろひかたし ふかくそめては | 不記 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 586 | しなかとりゐなのふし原とひわたるしきかはねおとおもしろきかな しなかとり ゐなのふしはら とひわたる しきかはねおと おもしろきかな | 不記 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 587 | 住吉のきしもせさらんものゆゑにねたくや人に松といはれむ すみよしの きしもせさらむ ものゆゑに ねたくやひとに まつといはれむ | 不記 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 588 | ゆふたすきかくるたもとはわつらはしゆたけにとけてあらむとをしれ ゆふたすき かくるたもとは わつらはし ゆたけにとけて あらむとをしれ | 不記 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 589 | あまくたるあら人神のあひおひをおもへはひさし住吉の松 あまくたる あらひとかみの あひおひを おもへはひさし すみよしのまつ | 安法法師 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 590 | 我とはは神世の事もこたへなん昔をしれるすみよしのまつ われとはは かみよのことも こたへなむ むかしをしれる すみよしのまつ | 恵慶法師 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 591 | いく世にかかたりつたへむはこさきの松のちとせのひとつならねは いくよにか かたりつたへむ はこさきの まつのちとせの ひとつならねは | 源重之 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 592 | おひしけれひらのの原のあやすきよこき紫にたちかさぬへく おひしけれ ひらののはらの あやすきよ こきむらさきに たちかさぬへく | 清原元輔 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 593 | ねきかくるひえの社のゆふたすきくさのかきはもことやめてきけ ねきかくる ひえのやしろの ゆふたすき くさのかきはも ことやめてきけ | 僧都実因 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 594 | おほよとのみそきいくよになりぬらん神さひにたる浦のひめ松 おほよとの みそきいくよに なりぬらむ かみさひにたる うらのひめまつ | 源兼澄 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 595 | みそきするけふからさきにおろすあみは神のうけひくしるしなりけり みそきする けふからさきに おろすあみは かみのうけひく しるしなりけり | 平祐挙 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 596 | ちはやふる神のたもてるいのちをはたれかためにか長くと思はん ちはやふる かみのたもてる いのちをは たれかためにか なかくとおもはむ | 柿本人麻呂(人麿) | 神楽歌 |
3-拾遺 | 597 | 千早振かみも思ひのあれはこそ年へてふしの山ももゆらめ ちはやふる かみもおもひの あれはこそ としへてふしの やまももゆらめ | 柿本人麻呂(人麿) | 神楽歌 |
3-拾遺 | 598 | 君か世のなからの山のかひありとのとけき雲のゐる時そ見る きみかよの なからのやまの かひありと のとけきくもの ゐるときそみる | 大中臣能宣 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 599 | ささなみのなからの山のなからへてたのしかるへき君かみよかな ささなみの なからのやまの なからへて たのしかるへき きみかみよかな | 大中臣能宣 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 600 | うこきなきいはくら山にきみかよをはこひおきつつちよをこそつめ うこきなき いはくらやまに きみかよを はこひおきつつ ちよをこそつめ | 読人知らず | 神楽歌 |
3-拾遺 | 601 | ちはやふるみ神の山のさか木ははさかえそまさるすゑの世まてに ちはやふる みかみのやまの さかきはは さかえそまさる すゑのよまてに | 大中臣能宣 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 602 | 万代の色もかはらぬさか木ははみかみの山におふるなりけり よろつよの いろもかはらぬ さかきはは みかみのやまに おふるなりけり | 読人知らず | 神楽歌 |
3-拾遺 | 603 | よろつ世をみかみの山のひひくにはやす河の水すみそあひにける よろつよを みかみのやまの ひひくには やすかはのみつ すみそあひにける | 清原元輔 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 604 | みつきつむおほくら山はときはにていろもかはらすよろつ世そへむ みつきつむ おほくらやまは ときはにて いろもかはらす よろつよそへむ | 大中臣能宣 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 605 | たかしまやみをの中山そまたててつくりかさねよちよのなみくら たかしまや みをのなかやま そまたてて つくりかさねよ ちよのなみくら | 読人知らず | 神楽歌 |
3-拾遺 | 606 | みかきける心もしるく鏡山くもりなきよにあふかたのしさ みかきける こころもしるく かかみやま くもりなきよに あふかたのしさ | 大中臣能宣 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 607 | ちとせふる松かさきにはむれゐつつたつさへあそふ心あるらし ちとせふる まつかさきには むれゐつつ たつさへあそふ こころあるらし | 清原元輔 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 608 | ととこほる時もあらしな近江なるおもののはまのあまのひつきは ととこほる ときもあらしな あふみなる おもののはまの あまのひつきは | 平兼盛 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 609 | ことしよりちとせの山はこゑたえす君かみよをそいのるへらなる ことしより ちとせのやまは こゑたえす きみかみよをそ いのるへらなる | 大中臣能宣 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 610 | 近江なるいやたか山のさか木にて君かちよをはいのりかささん あふみなる いやたかやまの さかきにて きみかちよをは いのりかささむ | 平兼盛 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 611 | いのりくるみかみの山のかひしあれはちとせの影にかくてつかへん いのりくる みかみのやまの かひしあれは ちとせのかけに かくてつかへむ | 大中臣能宣 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 612 | けふよりはいはくら山に万代をうこきなくのみつまむとそ思ふ けふよりは いはくらやまに よろつよを うこきなくのみ つまむとそおもふ | 大中臣能宣 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 613 | 万代をあきらけく見むかかみ山ちとせのほとはちりもくもらし よろつよを あきらけくみむ かかみやま ちとせのほとは ちりもくもらし | 中務 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 614 | 年もよしこかひもえたりおほくにのさとたのもしくおもほゆるかな としもよし こかひもえたり おほくにの さとたのもしく おもほゆるかな | 平兼盛 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 615 | 名にたてるよしたのさとの杖なれはつくともつきし君かよろつ世 なにたてる よしたのさとの つゑなれは つくともつきし きみかよろつよ | 平兼盛 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 616 | 泉河のとけき水のそこ見れはことしはかけそすみまさりける いつみかは のとけきみつの そこみれは ことしはかけそ すみまさりける | 平兼盛 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 617 | つるのすむ松かさきにはならへたる千世のためしを見するなりけり つるのすむ まつかさきには ならへたる ちよのためしを みするなりけり | 平兼盛 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 618 | あしひきの山のさかきはときはなるかけにさかゆる神のきねかな あしひきの やまのさかきは ときはなる かけにさかゆる かみのきねかな | 紀貫之 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 619 | おほなむちすくなみ神のつくれりし妹背の山を見るそうれしき おほなむち すくなみかみの つくれりし いもせのやまを みるそうれしき | 柿本人麻呂(人麿) | 神楽歌 |
3-拾遺 | 620 | めつらしきけふのかすかのやをとめを神もうれしとしのはさらめや めつらしき けふのかすかの やをとめを かみもうれしと しのはさらめや | 藤原忠房 | 神楽歌 |
3-拾遺 | 621 | こひすてふわか名はまたき立ちにけり人しれすこそ思ひそめしか こひすてふ わかなはまたき たちにけり ひとしれすこそ おもひそめしか | 壬生忠見 | 恋一 |
3-拾遺 | 622 | しのふれと色にいてにけりわか恋は物や思ふと人のとふまて しのふれと いろにいてにけり わかこひは ものやおもふと ひとのとふまて | 平兼盛 | 恋一 |
3-拾遺 | 623 | いろならはうつるはかりもそめてまし思ふ心をしる人のなさ いろならは うつるはかりも そめてまし おもふこころを しるひとのなき | 紀貫之 | 恋一 |
3-拾遺 | 624 | しのふるも誰ゆゑならぬ物なれは今は何かは君にへたてむ しのふるも たれゆゑならぬ ものなれは いまはなにかは きみにへたてむ | 平公誠 | 恋一 |
3-拾遺 | 625 | なけきあまりつひに色にそいてぬへきいはぬを人のしらはこそあらめ なけきあまり つひにいろにそ いてぬへき いはぬをひとの しらはこそあらめ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 626 | あふことを松にて年のへぬるかな身は住の江におひぬものゆゑ あふことを まつにてとしの へぬるかな みはすみのえに おひぬものゆゑ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 627 | おとにきく人に心をつくはねのみねとこひしききみにもあるかな おとにきく ひとにこころを つくはねの みねとこひしき きみにもあるかな | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 628 | あまくものやへ雲かくれなる神のおとにのみやはきき渡るへき あまくもの やへくもかくれ なるかみの おとにのみやは ききわたるへき | 柿本人麻呂(人麿) | 恋一 |
3-拾遺 | 629 | 見ぬ人のこひしきやなそおほつかな誰とかしらむゆめに見ゆとも みぬひとの こひしきやなそ おほつかな たれとかしらむ ゆめにみゆとも | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 630 | 夢よりそ恋しき人を見そめつる今はあはする人もあらなん ゆめよりそ こひしきひとを みそめつる いまはあはする ひともあらなむ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 631 | かくてのみありその浦の浜千鳥よそになきつつこひやわたらむ かくてのみ ありそのうらの はまちとり よそになきつつ こひやわたらむ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 632 | よそにのみ見てやはこひむ紅のすゑつむ花のいろにいてすは よそにのみ みてやはこひむ くれなゐの すゑつむはなの いろにいてすは | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 633 | 身にしみて思ふ心の年ふれはつひに色にもいてぬへきかな みにしみて おもふこころの としふれは つひにいろにも いてぬへきかな | 藤原敦忠 | 恋一 |
3-拾遺 | 634 | いかてかはしらせそむへき人しれす思ふ心のいろにいてすは いかてかは しらせそむへき ひとしれす おもふこころの いろにいてすは | くにまさ | 恋一 |
3-拾遺 | 635 | いかてかはかく思ふてふ事をたに人つてならてきみにしらせむ いかてかは かくおもふてふ ことをたに ひとつてならて きみにしらせむ | 藤原敦忠 | 恋一 |
3-拾遺 | 636 | あなこひしはつかに人をみつのあわのきえかへるともしらせてしかな あなこひし はつかにひとを みつのあわの きえかへるとも しらせてしかな | 藤原実頼 | 恋一 |
3-拾遺 | 637 | なかからしと思ふ心は水のあわによそふる人のたのまれぬかな なかからしと おもふこころは みつのあわに よそふるひとの たのまれぬかな | 堤の中納言のみやす所 | 恋一 |
3-拾遺 | 638 | みなといつるあまのを舟のいかりなはくるしき物とこひをしりぬる みなといつる あまのをふねの いかりなは くるしきものと こひをしりぬる | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 639 | 大井河くたすいかたのみなれさを見なれぬ人もこひしかりけり おほゐかは くたすいかたの みなれさを みなれぬひとも こひしかりけり | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 640 | みなそこにおふるたまものうちなひき心をよせてこふるこのころ みなそこに おふるたまもの うちなひき こころをよせて こふるこのころ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋一 |
3-拾遺 | 641 | おとにのみききつるこひを人しれすつれなき人にならひぬるかな おとにのみ ききつるこひを ひとしれす つれなきひとに ならひぬるかな | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 642 | 如何せむいのちはかきりあるものをこひはわすれす人はつれなし いかにせむ いのちはかきり あるものを こひはわすれす ひとはつれなし | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 643 | 山ひこもこたへぬ山のよふことり我ひとりのみなきやわたらむ やまひこも こたへぬやまの よふことり われひとりのみ なきやわたらむ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 644 | やまひこは君にもにたる心かな我こゑせねはおとつれもせす やまひこは きみにもにたる こころかな わかこゑせねは おとつれもせす | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 645 | あしひきの山したとよみ行く水の時そともなくこひ渡るかな あしひきの やましたとよみ ゆくみつの ときそともなく こひわたるかな | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 646 | いかにしてしはしわすれんいのちたにあらはあふよのありもこそすれ いかにして しはしわすれむ いのちたに あらはあふよの ありもこそすれ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 647 | ぬきみたる涙の玉もとまるやとたまのをはかりあはむといはなん ぬきみたる なみたのたまも とまるやと たまのをはかり あはむといはなむ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 648 | いはのうへにおふるこ松もひきつれと猶ねかたきは君にそ有りける いはのうへに おふるこまつも ひきつれと なほねかたきは きみにそありける | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 649 | たなはたもあふよありけりあまの河この渡にはわたるせもなし たなはたも あふよありけり あまのかは このわたりには わたるせもなし | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 650 | さはにのみ年はへぬれとあしたつの心は雲のうへにのみこそ さはにのみ としはへぬれと あしたつの こころはくもの うへにのみこそ | 九条右大臣 | 恋一 |
3-拾遺 | 651 | おほそらはくもらさりけり神な月時雨ここちは我のみそする おほそらは くもらさりけり かみなつき しくれここちは われのみそする | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 652 | しのふれと猶しひてこそおもほゆれ恋といふ物の身をしさらねは しのふれと なほしひてこそ おもほゆれ こひといふものの みをしさらねは | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 653 | あはれともおもはしものをしらゆきのしたにきえつつ猶もふるかな あはれとも おもはしものを しらゆきの したにきえつつ なほもふるかな | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 654 | ほともなくきえぬる雪はかひもなし身をつみてこそあはれとおもはめ ほともなく きえぬるゆきは かひもなし みをつみてこそ あはれとおもはめ | 中務 | 恋一 |
3-拾遺 | 655 | よそなからあひ見ぬほとにこひしなは何にかへたるいのちとかいはむ よそなから あひみぬほとに こひしなは なににかへたる いのちとかいはむ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 656 | いつとてかわかこひやまむちはやふるあさまのたけのけふりたゆとも いつとてか わかこひやまむ ちはやふる あさまのたけの けふりたゆとも | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 657 | おほはらの神もしるらむわかこひはけふ氏人の心やらなむ おほはらの かみもしるらむ わかこひは けふうちひとの こころやらなむ | 一条摂政 | 恋一 |
3-拾遺 | 658 | さか木はの春さす枝のあまたあれはとかむる神もあらしとそおもふ さかきはの はるさすえたの あまたあれは とかむるかみも あらしとそおもふ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 659 | あめつちの神そしるらん君かため思ふ心のかきりなけれは あめつちの かみそしるらむ きみかため おもふこころの かきりなけれは | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 660 | 海もあさし山もほとなしわかこひをなにによそへて君にいはまし うみもあさし やまもほとなし わかこひを なにによそへて きみにいはまし | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 661 | おく山のいはかきぬまのみこもりにこひや渡らんあふよしをなみ おくやまの いはかきぬまの みこもりに こひやわたらむ あふよしをなみ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋一 |
3-拾遺 | 662 | あまた見しとよのみそきのもろ人の君しも物を思はするかな あまたみし とよのみそきの もろひとの きみしもものを おもはするかな | 寛祐法師 | 恋一 |
3-拾遺 | 663 | たますたれいとのたえまに人を見てすける心は思ひかけてき たますたれ いとのたえまに ひとをみて すけるこころは おもひかけてき | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 664 | たまたれのすける心と見てしよりつらしてふ事かけぬ日はなし たまたれの すけるこころと みてしより つらしてふこと かけぬひはなし | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 665 | 我こそや見ぬ人こふるやまひすれあふ日ならてはやむくすりなし われこそや みぬひとこふる やまひすれ あふひならては やむくすりなし | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 666 | 玉江こくこもかり舟のさしはへて浪まもあらはよらむとそ思ふ たまえこく こもかりふねの さしはへて なみまもあらは よらむとそおもふ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 667 | みるめかるあまとはなしに君こふるわか衣手のかわく時なき みるめかる あまとはなしに きみこふる わかころもての かわくときなき | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 668 | みくまのの浦のはまゆふももへなる心はおもへとたたにあはぬかも みくまのの うらのはまゆふ ももへなる こころはおもへと たたにあはぬかも | 柿本人麻呂(人麿) | 恋一 |
3-拾遺 | 669 | あさなあさなけつれはつもるおちかみのみたれて物を思ふころかな あさなあさな けつれはつもる おちかみの みたれてものを おもふころかな | 紀貫之 | 恋一 |
3-拾遺 | 670 | わかためはたなゐのし水ぬるけれと猶かきやらむさてはすむやと わかためは たなゐのしみつ ぬるけれと なほかきやらむ さてはすむやと | 藤原実方 | 恋一 |
3-拾遺 | 671 | かきやらはにこりこそせめあさきせのみくつはたれかすませても見む かきやらは にこりこそせめ あさきせの みくつはたれか すませてもみむ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 672 | ひとしれぬ心の内を見せたらは今まてつらき人はあらしな ひとしれぬ こころのうちを みせたらは いままてつらき ひとはあらしな | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 673 | 人しれぬ思ひは年もへにけれと我のみしるはかひなかりけり ひとしれぬ おもひはとしも へにけれと われのみしるは かひなかりけり | 藤原実頼 | 恋一 |
3-拾遺 | 674 | ひとしれぬ涙に袖は朽ちにけりあふよもあらはなににつつまむ ひとしれぬ なみたにそては くちにけり あふよもあらは なににつつまむ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 675 | 君はたた袖はかりをやくたすらん逢ふには身をもかふとこそきけ きみはたた そてはかりをや くたすらむ あふにはみをも かふとこそきけ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 676 | ひとしれすおつる涙はつのくにのなかすと見えて袖そくちぬる ひとしれす おつるなみたは つのくにの なかすとみえて そてそくちぬる | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 677 | 恋といへはおなしなにこそ思ふらめいかてわか身を人にしらせん こひといへは おなしなにこそ おもふらめ いかてわかみを ひとにしらせむ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 678 | あふ事のたえてしなくは中中に人をも身をも怨みさらまし あふことの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみさらまし | 藤原朝忠 | 恋一 |
3-拾遺 | 679 | 逢ふ事はかたゐさりするみとりこのたたむ月にもあはしとやする あふことは かたゐさりする みとりこの たたむつきにも あはしとやする | 平兼盛 | 恋一 |
3-拾遺 | 680 | あふことを月日にそへてまつ時はけふ行末になりねとそ思ふ あふことを つきひにそへて まつときは けふゆくすゑに なりねとそおもふ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 681 | あふ事をいつともしらて君かいはむ時はの山の松そくるしき あふことを いつともしらて きみかいはむ ときはのやまの まつそくるしき | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 682 | いのちをは逢ふにかふとかききしかと我やためしにあはぬしにせん いのちをは あふにかふとか ききしかと われやためしに あはぬしにせむ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 683 | 行末はつひにすきつつ道ふウの年月なきそわひしかりける ゆくすゑは つひにすきつつ あふことの としつきなきそ わひしかりける | 紀貫之 | 恋一 |
3-拾遺 | 684 | いきたれはこひする事のくるしきを猶いのちをはあふにかへてん いきたれは こひすることの くるしきを なほいのちをは あふにかへてむ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 685 | こひしなむのちはなにせんいける日のためこそ人の見まくほしけれ こひしなむ のちはなにせむ いけるひの ためこそひとの みまくほしけれ | 大伴百世 | 恋一 |
3-拾遺 | 686 | あはれとしきみたにいははこひわひてしなんいのちもをしからなくに あはれとし きみたにいはは こひわひて しなむいのちも をしからなくに | 源経基 | 恋一 |
3-拾遺 | 687 | ひとしれす思ふ心をととめつついくたひ君かやとをすくらん ひとしれす おもふこころを ととめつつ いくたひきみか やとをすくらむ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 688 | しくれにも雨にもあらて君こふる年のふるにも袖はぬれけり しくれにも あめにもあらて きみこふる としのふるにも そてはぬれけり | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 689 | 露はかりたのめしほとのすきゆけはきえぬはかりの心地こそすれ つゆはかり たのめしほとの すきゆけは きえぬはかりの ここちこそすれ | 菅原輔昭 | 恋一 |
3-拾遺 | 690 | つゆはかりたのむることもなきものをあやしやなにに思ひおきけん つゆはかり たのむることも なきものを あやしやなにに おもひおきけむ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 691 | 流れてとたのむるよりは山河のこひしきせせにわたりやはせぬ なかれてと たのむるよりは やまかはの こひしきせせに わたりやはせぬ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 692 | あひ見てはしにせぬ身とそなりぬへきたのむるにたにのふるいのちは あひみては しにせぬみとそ なりぬへき たのむるにたに のふるいのちは | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 693 | いかてかと思ふ心のある時はおほめくさへそうれしかりける いかてかと おもふこころの あるときは おほめくさへそ うれしかりける | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 694 | わひつつも昨日はかりはすくしてきけふやわか身のかきりなるらん わひつつも きのふはかりは すくしてき けふやわかみの かきりなるらむ | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 695 | こひつつもけふはくらしつ霞立つあすのはる日をいかてくらさん こひつつも けふはくらしつ かすみたつ あすのはるひを いかてくらさむ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋一 |
3-拾遺 | 696 | 恋ひつつもけふは有りなんたまくしけあけんあしたをいかてくらさむ こひつつも けふはありなむ たまくしけ あけむあしたを いかてくらさむ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋一 |
3-拾遺 | 697 | 君をのみ思ひかけこのたまくしけあけたつことにこひぬ日はなし きみをのみ おもひかけこの たまくしけ あけたつことに こひぬひはなし | 読人知らず | 恋一 |
3-拾遺 | 698 | 春の野におふるなきなのわひしきは身をつみてたに人のしらぬよ はるののに おふるなきなの わひしきは みをつみてたに ひとのしらぬよ | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 699 | なき名のみたつたの山のあをつつら又くる人も見えぬ所に なきなのみ たつたのやまの あをつつら またくるひとも みえぬところに | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 700 | 無き名のみたつの市とはさわけともいさまた人をうるよしもなし なきなのみ たつのいちとは さわけとも いさまたひとを うるよしもなし | 柿本人麻呂(人麿) | 恋二 |
3-拾遺 | 701 | なき事をいはれの池のうきぬなはくるしき物は世にこそ有りけれ なきことを いはれのいけの うきぬなは くるしきものは よにこそありけれ | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 702 | 竹の葉におきゐる事のまろひあひてぬるとはなしに立つわかなかな たけのはに おきゐるつゆの まろひあひて ぬるとはなしに たつわかなかな | 柿本人麻呂(人麿) | 恋二 |
3-拾遺 | 703 | あちきなやわかなはたちて唐衣身にもならさてやみぬへきかな あちきなや わかなはたちて からころも みにもならさて やみぬへきかな | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 704 | 唐衣我はかたなのふれなくにまつたつ物はなき名なりけり からころも われはかたなの ふれなくに まつたつものは なきななりけり | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 705 | そめ河にやとかる浪のはやけれはなき名立つとも今は怨みし そめかはに やとかるなみの はやけれは なきなたつとも いまはうらみし | 源重之 | 恋二 |
3-拾遺 | 706 | こはた河こはたかいひし事のはそなきなすすかむたきつせもなし こはたかは こはたかいひし ことのはそ なきなすすかむ たきつせもなし | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 707 | 君か名の立つにとかなき身なりせはおほよそ人になして見ましや きみかなの たつにとかなき みなりせは おほよそひとに なしてみましや | 藤原忠房 | 恋二 |
3-拾遺 | 708 | 夢かとも思ふへけれとねやはせしなにそ心にわすれかたきは ゆめかとも おもふへけれと ねやはせし なにそこころに わすれかたきは | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 709 | ゆめよゆめこひしき人にあひ見すなさめてののちにわひしかりけり ゆめよゆめ こひしきひとに あひみすな さめてののちに わひしかりけり | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 710 | あひ見てののちの心にくらふれは昔は物もおもはさりけり あひみての のちのこころに くらふれは むかしはものも おもはさりけり | 藤原敦忠 | 恋二 |
3-拾遺 | 711 | あひみてはなくさむやとそ思ひしをなこりしもこそこひしかりけれ あひみては なくさむやとそ おもひしを なこりしもこそ こひしかりけれ | 坂上是則 | 恋二 |
3-拾遺 | 712 | あひ見てもありにしものをいつのまにならひて人のこひしかるらん あひみても ありにしものを いつのまに ならひてひとの こひしかるらむ | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 713 | わか恋は猶あひ見てもなくさますいやまさりなる心地のみして わかこひは なほあひみても なくさます いやまさりなる ここちのみして | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 714 | 逢ふ事をまちし月日のほとよりもけふのくれこそひさしかりけれ あふことを まちしつきひの ほとよりも けふのくれこそ ひさしかりけれ | 大中臣能宣 | 恋二 |
3-拾遺 | 715 | 暁のなからましかは白露のおきてわひしき別せましや あかつきの なからましかは しらつゆの おきてわひしき わかれせましや | 紀貫之 | 恋二 |
3-拾遺 | 716 | あひ見ても猶なくさまぬ心かないくちよねてかこひのさむへき あひみても なほなくさまぬ こころかな いくちよねてか こひのさむへき | 紀貫之 | 恋二 |
3-拾遺 | 717 | むはたまのこよひなあけそあけゆかはあさゆく君をまつくるしきに うはたまの こよひなあけそ あけゆかは あさゆくきみを まつくるしきに | 柿本人麻呂(人麿) | 恋二 |
3-拾遺 | 718 | ひとりねし時はまたれし鳥のねもまれにあふよはわひしかりけり ひとりねし ときはまたれし とりのねも まれにあふよは わひしかりけり | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 719 | 葛木や我やはくめのはしつくりあけゆくほとは物をこそおもへ かつらきや われやはくめの はしつくり あけゆくほとは ものをこそおもへ | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 720 | あさまたき露わけきつる衣手のひるまはかりにこひしきやなそ あさまたき つゆわけきつる ころもての ひるまはかりに こひしきやなそ | 平行時 | 恋二 |
3-拾遺 | 721 | ふたつなき心は君におきつるを又ほともなくこひしきやなそ ふたつなき こころはきみに おきつるを またほともなく こひしきやなそ | 源清蔭 | 恋二 |
3-拾遺 | 722 | いつしかとくれをまつまのおほそらはくもるさへこそうれしかりけれ いつしかと くれをまつまの おほそらは くもるさへこそ うれしかりけれ | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 723 | 日のうちに物をふたたひ思ふかなとくあけぬるとおそくくるると ひのうちに ものをふたたひ おもふかな とくあけぬると おそくくるると | 大江為基 | 恋二 |
3-拾遺 | 724 | ももはかきはねかくしきもわかことく朝わひしきかすはまさらし ももはかき はねかくしきも わかことく あしたわひしき かすはまさらし | 紀貫之 | 恋二 |
3-拾遺 | 725 | うつつにも夢にも人によるしあへはくれゆくはかりうれしきはなし うつつにも ゆめにもひとに よるしあへは くれゆくはかり うれしきはなし | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 726 | 暁の別の道をおもはすはくれ行くそらはうれしからまし あかつきの わかれのみちを おもはすは くれゆくそらは うれしからまし | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 727 | 君こふる涙のこほる冬の夜は心とけたるいやはねらるる きみこふる なみたのこほる ふゆのよは こころとけたる いやはねらるる | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 728 | かからても有りにしものをしらゆきのひとひもふれはまさるわかこひ かからても ありにしものを しらゆきの ひとひもふれは まさるわかこひ | 在原業平 | 恋二 |
3-拾遺 | 729 | あさこほりとくるまもなききみによりなとてそほつるたもとなるらん あさこほり とくるまもなき きみにより なとてそほつる たもとなるらむ | 大中臣能宣 | 恋二 |
3-拾遺 | 730 | 身をつめは露をあはれと思ふかな暁ことにいかておくらん みをつめは つゆをあはれと おもふかな あかつきことに いかておくらむ | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 731 | うしと思ふものから人のこひしきはいつこをしのふ心なるらん うしとおもふ ものからひとの こひしきは いつこをしのふ こころなるらむ | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 732 | よそにても有りにしものを花すすきほのかに見てそ人は恋しき よそにても ありにしものを はなすすき ほのかにみてそ ひとはこひしき | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 733 | 夢よりもはかなきものはかけろふのほのかに見えしかけにそありける ゆめよりも はかなきものは かけろふの ほのかにみえし かけにそありける | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 734 | ゆめのことなとかよるしも君を見むくるるまつまもさためなきよを ゆめのこと なとかよるしも きみをみむ くるるまつまも さためなきよを | 壬生忠見 | 恋二 |
3-拾遺 | 735 | こひしきを何につけてかなくさめむ夢たに見えすぬる夜なけれは こひしきを なににつけてか なくさめむ ゆめたにみえす ぬるよなけれは | 源順 | 恋二 |
3-拾遺 | 736 | あけくれのそらにそ我は迷ひぬる思ふ心のゆかぬまにまに あけくれの そらにそわれは まよひぬる おもふこころの ゆかぬまにまに | 源順 | 恋二 |
3-拾遺 | 737 | たまほこのとほ道もこそ人はゆけなと時のまも見ねはこひしき たまほこの とほみちもこそ ひとはゆけ なとときのまも みぬはこひしき | 紀貫之 | 恋二 |
3-拾遺 | 738 | 身にこひのあまりにしかはしのふれと人のしるらん事そわひしき みにこひの あまりにしかは しのふれと ひとのしるらむ ことそわひしき | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 739 | しのひつつおもへはくるしすみの江の松のねなからあらはれなはや しのひつつ おもへはくるし すみのえの まつのねなから あらはれなはや | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 740 | 住吉の松ならねともひさしくも君とねぬよのなりにけるかな すみよしの まつならねとも ひさしくも きみとねぬよの なりにけるかな | 源清蔭 | 恋二 |
3-拾遺 | 741 | ひさしくもおもほえねとも住吉の松やふたたひおひかはるらん ひさしくも おもほえねとも すみよしの まつやふたたひ おひかはるらむ | 忠房かむすめ | 恋二 |
3-拾遺 | 742 | なにせむに結ひそめけんいはしろの松はひさしき物としるしる なにせむに むすひそめけむ いはしろの まつはひさしき ものとしるしる | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 743 | かた岸の松のうきねとしのひしはされはよつひにあらはれにけり かたきしの まつのうきねと しのひしは されはよつひに あらはれにけり | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 744 | あひ見てはいくひささにもあらねとも年月のことおもほゆるかな あひみては いくひささにも あらねとも としつきのこと おもほゆるかな | 柿本人麻呂(人麿) | 恋二 |
3-拾遺 | 745 | 年をへて思ひ思ひてあひぬれは月日のみこそうれしかりけれ としをへて おもひおもひて あひぬれは つきひのみこそ うれしかりけれ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋二 |
3-拾遺 | 746 | すきいたもてふけるいたまのあはさらは如何せんとかわかねそめけん すきいたもて ふけるいたまの あはさらは いかにせむとか わかねそめけむ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋二 |
3-拾遺 | 747 | こぬかなとしはしは人におもはせんあはてかへりしよひのねたさに こぬかなと しはしはひとに おもはせむ あはてかへりし よひのねたさに | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 748 | 秋霧のはれぬ朝のおほそらを見るかことくも見えぬ君かな あききりの はれぬあしたの おほそらを みるかことくも みえぬきみかな | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 749 | 恋ひわひぬねをたになかむ声たてていつこなるらんおとなしのさと こひわひぬ ねをたになかむ こゑたてて いつこなるらむ おとなしのさと | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 750 | おとなしのかはとそつひに流れけるいはて物思ふ人の渡は おとなしの かはとそつひに なかれける いはてものおもふ ひとのなみたは | 清原元輔 | 恋二 |
3-拾遺 | 751 | 風さむみ声よわり行く虫よりもいはて物思ふ我そまされる かせさむみ こゑよわりゆく むしよりも いはてものおもふ われそまされる | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 752 | しかのあまのつりにともせるいさり火のほのかにいもを見るよしもかな しかのあまの つりにともせる いさりひの ほのかにいもを みるよしもかな | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 753 | 恋するはくるしき物としらすへく人をわか身にしはしなさはや こひするは くるしきものと しらすへく ひとをわかみに しはしなさはや | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 754 | しるや君しらすはいかにつらからむわかかくはかり思ふ心を しるやきみ しらすはいかに つらからむ わかかくはかり おもふこころを | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 755 | あすしらぬわか身なりとも怨みおかむこの世にてのみやましと思へは あすしらぬ わかみなりとも うらみおかむ このよにてのみ やましとおもへは | 大中臣能宣 | 恋二 |
3-拾遺 | 756 | 思ふなと君はいへともあふ事をいつとしりてかわかこひさらん おもふなと きみはいへとも あふことを いつとしりてか わかこひさらむ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋二 |
3-拾遺 | 757 | おもふらむ心の内をしらぬ身はしぬはかりにもあらしとそ思ふ おもふらむ こころのうちを しらぬみは しぬはかりにも あらしとそおもふ | 源順 | 恋二 |
3-拾遺 | 758 | かくれぬのそこの心そうらめしきいかにせよとてつれなかるらん かくれぬの そこのこころそ うらめしき いかにせよとて つれなかるらむ | 一条摂政 | 恋二 |
3-拾遺 | 759 | 我なからさももとかしき心かなおもはぬ人はなにかこひしき われなから さももとかしき こころかな おもはぬひとは なにかこひしき | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 760 | 草かくれかれにし水はぬるくともむすひしそては今もかわかす くさかくれ かれにしみつは ぬるくとも むすひしそては いまもかわかす | 清原元輔 | 恋二 |
3-拾遺 | 761 | わか思ふ人は草葉のつゆなれやかくれは抽のまつそほつらむ わかおもふ ひとはくさはの つゆなれや かくれはそての まつそほつらむ | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 762 | たもとよりおつる涙はみちのくの衣河とそいふへかりける たもとより おつるなみたは みちのくの ころもかはとそ いふへかりける | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 763 | 衣をやぬきてやらまし涙のみかかりけりとも人の見るへく ころもをや ぬきてやらまし なみたのみ かかりけりとも ひとのみるへく | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 764 | 人めをもつつまぬ物と思ひせは袖の涙のかからましやは ひとめをも つつまぬものと おもひせは そてのなみたの かからましやは | 実方 | 恋二 |
3-拾遺 | 765 | 礒神ふるとも雨にさはらめやあはむといもにいひてしものを いそのかみ ふるともあめに さはらめや あはむといもに いひてしものを | 大伴方見 | 恋二 |
3-拾遺 | 766 | わひぬれは今はたおなしなにはなる身をつくしてもあはむとそ思ふ わひぬれは いまはたおなし なにはなる みをつくしても あはむとそおもふ | 元良親王 | 恋二 |
3-拾遺 | 767 | いつかともおもはぬさはのあやめ草たたつくつくとねこそなかるれ いつかとも おもはぬさはの あやめくさ たたつくつくと ねこそなかるれ | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 768 | おふれともこまもすさめぬあやめ草かりにも人のこぬかわひしさ おふれとも こまもすさへぬ あやめくさ かりにもひとの こぬかわひしさ | 凡河内躬恒 | 恋二 |
3-拾遺 | 769 | かやり火は物思ふ人の心かも夏のよすからしたにもゆらん かやりひは ものおもふひとの こころかも なつのよすから したにもゆらむ | 大中臣能宣 | 恋二 |
3-拾遺 | 770 | しのふれはくるしかりけりしのすすき秋のさかりになりやしなまし しのふれは くるしかりけり しのすすき あきのさかりに なりやしなまし | 勝観法師 | 恋二 |
3-拾遺 | 771 | 思ひきやわかまつ人はよそなからたなはたつめのあふを見むとは おもひきや わかまつひとは よそなから たなはたつめの あふをみむとは | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 772 | けふさへやよそに見るへきひこほしのたちならすらんあまのかはなみ けふさへや よそにみるへき ひこほしの たちならすらむ あまのかはなみ | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 773 | わひぬれはつねはゆゆしきたなはたもうらやまれぬる物にそ有りける わひぬれは つねはゆゆしき たなはたも うらやまれぬる ものにそありける | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 774 | 露たにもなからましかは秋の夜に誰とおきゐて人をまたまし つゆたにも なからましかは あきのよに たれとおきゐて ひとをまたまし | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 775 | 今更にとふへき人もおもほえすやへむくらしてかとさせりてへ いまさらに とふへきひとも おもほえす やへむくらして かとさせりてへ | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 776 | 秋はわか心のつゆにあらねとも物なけかしきころにもあるかな あきはわか こころのつゆに あらねとも ものなけかしき ころにもあるかな | 読人知らず | 恋二 |
3-拾遺 | 777 | あしひきの山した風もさむけきにこよひも又やわかひとりねん あしひきの やましたかせも さむけきに こよひもまたや わかひとりねむ | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 778 | 葦引の山鳥の尾のしたりをのなかなかし夜をひとりかもねむ あしひきの やまとりのをの したりをの なかなかしよを ひとりかもねむ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 779 | あしひきの葛木山にゐる事のたちてもゐても君をこそおもへ あしひきの かつらきやまに ゐるくもの たちてもゐても きみをこそおもへ | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 780 | あしひきの山の山すけやますのみ見ねはこひしききみにもあるかな あしひきの やまのやますけ やますのみ みねはこひしき きみにもあるかな | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 781 | あしひきの山こえくれてやとからはいもたちまちていねさらむかも あしひきの やまこえくれて やとからは いもたちまちて いねさらむかも | 石上乙麿 | 恋三 |
3-拾遺 | 782 | あしひきの山よりいつる月まつと人にはいひて君をこそまて あしひきの やまよりいつる つきまつと ひとにはいひて きみをこそまて | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 783 | みか月のさやかに見えす雲隠見まくそほしきうたてこのころ みかつきの さやかにみえす くもかくれ みまくそほしき うたてこのころ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 784 | 逢ふ事はかたわれ月の雲かくれおほろけにやは人のこひしき あふことは かたわれつきの くもかくれ おほろけにやは ひとのこひしき | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 785 | 秋の夜の月かも君はくもかくれしはしも見ねはここらこひしき あきのよの つきかもきみは くもかくれ しはしもみねは ここらこひしき | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 786 | 秋の夜の月見るとのみおきゐつつ今夜もねてや我はかへらん あきのよの つきみるとのみ おきゐつつ こよひもねてや われはかへらむ | 平兼盛 | 恋三 |
3-拾遺 | 787 | こひしさはおなし心にあらすとも今夜の月を君見さらめや こひしさは おなしこころに あらすとも こよひのつきを きみみさらめや | 源信明 | 恋三 |
3-拾遺 | 788 | さやかにも見るへき月を我はたた涙にくもるをりそおほかる さやかにも みるへきつきを われはたた なみたにくもる をりそおほかる | 中務 | 恋三 |
3-拾遺 | 789 | 久方のあまてる月もかくれ行く何によそへてきみをしのはむ ひさかたの あまてるつきも かくれゆく なにによそへて きみをしのはむ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 790 | 宮こにて見しにかはらぬ月影をなくさめにてもあかすころかな みやこにて みしにかはらぬ つきかけを なくさめにても あかすころかな | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 791 | てる月も影みなそこにうつりけりにたる物なきこひもするかな てるつきも かけみなそこに うつりけり にたるものなき こひもするかな | 紀貫之 | 恋三 |
3-拾遺 | 792 | 今夜君いかなるさとの月を見て宮こにたれを思ひいつらむ こよひきみ いかなるさとの つきをみて みやこにたれを おもひいつらむ | 中宮内侍 | 恋三 |
3-拾遺 | 793 | 月かけをわか身にかふる物ならはおもはぬ人もあはれとや見む つきかけを わかみにかふる ものならは おもはぬひとも あはれとやみむ | 壬生忠岑 | 恋三 |
3-拾遺 | 794 | ひとりぬるやとには月の見えさらは恋しき事のかすはまさらし ひとりぬる やとにはつきの みえさらは こひしきことの かすはまさらし | 源順 | 恋三 |
3-拾遺 | 795 | 長月の在明の月の有りつつも君しきまさは我こひめやも なかつきの ありあけのつきの ありつつも きみしきまさは わかこひめやも | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 796 | ことならはやみにそあらまし秋のよのなそ月かけの人たのめなる ことならは やみにそあらまし あきのよの なそつきかけの ひとたのめなる | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 797 | ふらぬ夜の心をしらておほそらの雨をつらしと思ひけるかな ふらぬよの こころをしらて おほそらの あめをつらしと おもひけるかな | 春宮左近 | 恋三 |
3-拾遺 | 798 | 衣たになかに有りしはうとかりきあはぬ夜をさへへたてつるかな ころもたに なかにありしは うとかりき あはぬよをさへ へたてつるかな | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 799 | なかき夜も人をつらしと思ふにはねなくにあくる物にそ有りける なかきよも ひとをつらしと おもふには ねなくにあくる ものにそありける | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 800 | わすれなん今はとはしと思ひつつぬる夜しもこそゆめに見えけれ わすれなむ いまはとはしと おもひつつ ぬるよしもこそ ゆめにみえけれ | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 801 | よるとてもねられさりけり人しれすねさめのこひにおとろかれつつ よるとても ねられさりけり ひとしれす ねさめのこひに おとろかれつつ | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 802 | むはたまのいもかくろかみこよひもやわかなきとこになひきいてぬらん うはたまの いもかくろかみ こよひもや わかなきとこに なひきいてぬらむ | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 803 | わかせこかありかもしらてねたる夜はあか月かたの枕さひしも わかせこか ありかもしらて ねたるよは あかつきかたの まくらさひしも | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 804 | いかなりし時くれ竹のひと夜たにいたつらふしをくるしといふらん いかなりし ときくれたけの ひとよたに いたつらふしを くるしといふらむ | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 805 | いかならんをりふしにかはくれ竹のよるはこひしき人にあひ見む いかならむ をりふしにかは くれたけの よるはこひしき ひとにあひみむ | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 806 | まさしてふやそのちまたにゆふけとふうらまさにせよいもにあふへく まさしてふ やそのちまたに ゆふけとふ うらまさにせよ いもにあふへく | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 807 | ゆふけとふうらにもよくありこよひたにこさらむきみをいつかまつへき ゆふけとふ うらにもよくあり こよひたに こさらむきみを いつかまつへき | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 808 | 夢をたにいかてかたみに見てしかなあはてぬるよのなくさめにせん ゆめをたに いかてかたみに みてしかな あはてぬるよの なくさめにせむ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 809 | うつつにはあふことかたし玉の緒のよるはたえせすゆめに見えなん うつつには あふことかたし たまのをの よるはたえせす ゆめにみえなむ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 810 | いにしへをいかてかとのみ思ふ身に今夜のゆめを春になさはや いにしへを いかてかとのみ おもふみに こよひのゆめを はるになさはや | ひろはたのみやす所 | 恋三 |
3-拾遺 | 811 | わすらるる時しなけれは春の田を返す返すそ人はこひしき わすらるる ときしなけれは はるのたを かへすかへすそ ひとはこひしき | 紀貫之 | 恋三 |
3-拾遺 | 812 | あつさゆみ春のあら田をうち返し思ひやみにし人そこひしき あつさゆみ はるのあらたを うちかへし おもひやみにし ひとそこひしき | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 813 | かのをかにはきかるをのこなはをなみねるやねりそのくたけてそ思ふ かのをかに はきかるをのこ なはをなみ ねるやねりその くたけてそおもふ | 凡河内躬恒 | 恋三 |
3-拾遺 | 814 | 春くれは柳のいともとけにけりむすほほれたるわか心かな はるくれは やなきのいとも とけにけり むすほほれたる わかこころかな | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 815 | いつ方によるとかは見むあをやきのいとさためなき人の心を いつかたに よるとかはみむ あをやきの いとさためなき ひとのこころを | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 816 | まきもくのひはらの霞立返りかくこそは見めあかぬ君かな まきもくの ひはらのかすみ たちかへり かくこそはみめ あかぬきみかな | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 817 | なかめやる山へはいととかすみつつおほつかなさのまさる春かな なかめやる やまへはいとと かすみつつ おほつかなさの まさるはるかな | 藤原清隆娘 | 恋三 |
3-拾遺 | 818 | わかせこをきませの山とひとはいへと君もきまさぬ山のなならし わかせこを きませのやまと ひとはいへと きみもきまさぬ やまのなならし | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 819 | 我か背子をならしの岡のよふことり君よひかへせ夜のふけぬ時 わかせこを ならしのをかの よふことり きみよひかへせ よのふけぬとき | 山部赤人 | 恋三 |
3-拾遺 | 820 | こぬ人をまつちの山の郭公おなし心にねこそなかるれ こぬひとを まつちのやまの ほとときす おなしこころに ねこそなかるれ | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 821 | しののめになきこそわたれ時鳥物思ふやとはしるくやあるらん しののめに なきこそわたれ ほとときす ものおもふやとは しるくやあるらむ | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 822 | たたくとてやとのつまとをあけたれは人もこすゑのくひななりけり たたくとて やとのつまとを あけたれは ひともこすゑの くひななりけり | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 823 | 夏衣うすきなからそたのまるるひとへなるしも身にちかけれは なつころも うすきなからそ たのまるる ひとへなるしも みにちかけれは | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 824 | かりてほすよとのまこもの雨ふれはつかねもあへぬこひもするかな かりてほす よとのまこもの あめふれは つかぬもあへぬ こひもするかな | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 825 | みな月のつちさへさけててる日にもわかそてひめやいもにあはすして みなつきの つちさへさけて てるひにも わかそてひめや いもにあはすして | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 826 | なる神のしはしうこきてそらくもり雨もふらなん君とまるへく なるかみの しはしうこきて そらくもり あめもふらなむ きみとまるへく | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 827 | 人ことは夏野の草のしけくとも君と我としたつさはりなは ひとことは なつののくさの しけくとも きみとわれとし たつさはりなは | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 828 | 野も山もしけりあひぬる夏なれと人のつらさは事のはもなし のもやまも しけりあひぬる なつなれと ひとのつらさは ことのはもなし | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 829 | 夏草のしけみにおふるまろこすけまろかまろねよいくよへぬらん なつくさの しけみにおふる まろこすけ まろかまろねよ いくよへぬらむ | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 830 | 山かつのかきほにおふるなてしこに思ひよそへぬ時のまそなき やまかつの かきほにおふる なてしこに おもひよそへぬ ときのまそなき | 村上院 | 恋三 |
3-拾遺 | 831 | 思ひしる人に見せはやよもすからわかとこ夏におきゐたるつゆ おもひしる ひとにみせはや よもすから わかとこなつに おきゐたるつゆ | 清原元輔 | 恋三 |
3-拾遺 | 832 | 秋の野の草葉もわけぬわか袖のつゆけくのみもなりまさるかな あきののの くさはもわけぬ わかそての つゆけくのみも なりまさるかな | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 833 | わかせこかきまさぬよひの秋風はこぬ人よりもうらめしきかな わかせこか きまさぬよひの あきかせは こぬひとよりも うらめしきかな | 曾禰好忠 | 恋三 |
3-拾遺 | 834 | うら山しあさひにあたる白露をわか身と今はなすよしもかな うらやまし あさひにあたる しらつゆを わかみといまは なすよしもかな | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 835 | 秋の田のほのうへにおけるしらつゆのけぬへく我はおもほゆるかな あきのたの ほのうへにおける しらつゆの けぬへくわれは おもほゆるかな | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 836 | 住吉の岸を田にほりまきしいねのかるほとまてもあはぬきみかな すみよしの きしをたにほり まきしいねの かるほとまても あはぬきみかな | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 837 | こひしくはかたみにせむとわかやとにうゑし秋はき今さかりなり こひしくは かたみにせむと わかやとに うゑしあきはき いまさかりなり | 山部赤人 | 恋三 |
3-拾遺 | 838 | 秋はきのしたはを見すはわすらるる人の心をいかてしらまし あきはきの したはをみすは わすらるる ひとのこころを いかてしらまし | 広平親王 | 恋三 |
3-拾遺 | 839 | しめゆはぬのへの秋はき風ふけはとふしかくふし物をこそ思へ しめゆはぬ のへのあきはき かせふけは とふしかくふし ものをこそおもへ | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 840 | うつろふはしたははかりと見しほとにやかても秋になりにけるかな うつろふは したははかりと みしほとに やかてもあきに なりにけるかな | 中宮内侍 | 恋三 |
3-拾遺 | 841 | 事の葉も霜にはあへすかれにけりこや秋はつるしるしなるらん ことのはも しもにはあへす かれにけり こやあきはつる しるしなるらむ | 大中臣能宣 | 恋三 |
3-拾遺 | 842 | 色もなき心を人にそめしよりうつろはむとはわかおもはなくに いろもなき こころをひとに そめしより うつろはむとは わかおもはなくに | 紀貫之 | 恋三 |
3-拾遺 | 843 | かすならぬ身をうち河のあしろ木におほくの日をもすくしつるかな かすならぬ みをうちかはの あしろきに おほくのひをも すくしつるかな | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 844 | したもみちするをはしらて松の木のうへの緑をたのみけるかな したもみち するをはしらて まつのきの うへのみとりを たのみけるかな | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 845 | わかせこをわかこひをれはわかやとの草さへ思ひうらかれにけり わかせこを わかこひをれは わかやとの くささへおもひ うらかれにけり | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 846 | 霜のうへにふるはつ雪のあさ氷とけすも物を思ふころかな しものうへに ふるはつゆきの あさこほり とけすもものを おもふころかな | 読人知らず | 恋三 |
3-拾遺 | 847 | 三吉野の雪にこもれる山人もふる道とめてねをやなくらん みよしのの ゆきにこもれる やまひとも ふるみちとめて ねをやなくらむ | 源景明 | 恋三 |
3-拾遺 | 848 | たのめつつこぬ夜あまたに成りぬれはまたしと思ふそまつにまされる たのめつつ こぬよあまたに なりぬれは またしとおもふそ まつにまされる | 柿本人麻呂(人麿) | 恋三 |
3-拾遺 | 849 | あさねかみ我はけつらしうつくしき人のた枕ふれてしものを あさねかみ われはけつらし うつくしき ひとのたまくら ふれてしものを | 柿本人麻呂(人麿) | 恋四 |
3-拾遺 | 850 | 時のまも心はそらになるものをいかてすくしし昔なるらむ ときのまも こころはそらに なるものを いかてすくしし むかしなるらむ | 藤原実方 | 恋四 |
3-拾遺 | 851 | しらなみのうちしきりつつ今夜さへいかてかひとりぬるとかやきみ しらなみの うちしきりつつ こよひさへ いかてかひとり ぬるとかやきみ | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 852 | 如何してけふをくらさむこゆるきのいそきいててもかひなかりけり いかにして けふをくらさむ こゆるきの いそきいてても かひなかりけり | 小弐命婦 | 恋四 |
3-拾遺 | 853 | みなといりの葦わけを舟さはりおほみわか思ふ人にあはぬころかな みなといりの あしわけをふね さはりおほみ わかおもふひとに あはぬころかな | 柿本人麻呂(人麿) | 恋四 |
3-拾遺 | 854 | いはしろのの中にたてる結松心もとけす昔おもへは いはしろの のなかにたてる むすひまつ こころもとけす むかしおもへは | 柿本人麻呂(人麿) | 恋四 |
3-拾遺 | 855 | わかやとははりまかたにもあらなくにあかしもはてて人のゆくらん わかやとは はりまかたにも あらなくに あかしもはてて ひとのゆくらむ | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 856 | 浪まより見ゆるこ舟の浜ひさ木ひさしく成りぬ君にあはすて なみまより みゆるこしまの はまひさき ひさしくなりぬ きみにあはすて | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 857 | ますかかみ手にとりもちてあさなあさな見れともきみにあく時そなき ますかかみ てにとりもちて あさなあさな みれともきみに あくときそなき | 柿本人麻呂(人麿) | 恋四 |
3-拾遺 | 858 | みな人のかさにぬふてふ有ますけありてののちもあはんとそ思ふ みなひとの かさにぬふてふ ありますけ ありてののちも あはむとそおもふ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋四 |
3-拾遺 | 859 | いかほのやいかほのぬまのいかにして恋しき人を今ひとめみむ いかほのや いかほのぬまの いかにして こひしきひとを いまひとめみむ | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 860 | 玉河にさらすてつくりさらさらに昔の人のこひしきやなそ たまかはに さらすてつくり さらさらに むかしのひとの こひしきやなそ | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 861 | 身ははやくならの都になりにしをこひしき事のふりせさるらん みははやく ならのみやこに なりにしを こひしきことの ふりせさるらむ | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 862 | いその神ふりにしこひのかみさひてたたるに我はねきそかねつる いそのかみ ふりにしこひの かみさひて たたるにわれは ねきそかねつる | 藤原忠房 | 恋四 |
3-拾遺 | 863 | いかはかり苦しきものそ葛木のくめちのはしの中のたえまは いかはかり くるしきものそ かつらきの くめちのはしの なかのたえまは | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 864 | 限なく思ひなからの橋柱思ひなからに中やたえなん かきりなく おもひなからの はしはしら おもひなからに なかやたえなむ | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 865 | 中中にいひもはなたてしなのなるきそちのはしのかけたるやなそ なかなかに いひもはなたて しなのなる きそちのはしの かけたるやなそ | 源頼光 | 恋四 |
3-拾遺 | 866 | すきたてるやとをそ人はたつねける心の松はかひなかりけり すきたてる やとをそひとは たつねける こころのまつは かひなかりけり | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 867 | いその神ふるの社のゆふたすきかけてのみやはこひむと思ひし いそのかみ ふるのやしろの ゆふたすき かけてのみやは こひむとおもひし | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 868 | 我やうき人やつらきとちはやふる神てふ神にとひ見てしかな われやうき ひとやつらきと ちはやふる かみてふかみに とひみてしかな | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 869 | 住吉のあら人神にちかひてもわするる君か心とそきく すみよしの あらひとかみに ちかひても わするるきみか こころとそきく | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 870 | わすらるる身をはおもはすちかひてし人のいのちのをしくもあるかな わすらるる みをはおもはす ちかひてし ひとのいのちの をしくもあるかな | 右近 | 恋四 |
3-拾遺 | 871 | 何せむに命をかけてちかひけんいかはやと思ふをりも有りけり なにせむに いのちをかけて ちかひけむ いかはやとおもふ をりもありけり | 実方 | 恋四 |
3-拾遺 | 872 | ちりひちのかすにもあらぬ我ゆゑに思ひわふらんいもかかなしさ ちりひちの かすにもあらぬ われゆゑに おもひわふらむ いもかかなしさ | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 873 | こひこひて後もあはむとなくさむる心しなくはいのちあらめや こひこひて のちもあはむと なくさむる こころしなくは いのちあらめや | 柿本人麻呂(人麿) | 恋四 |
3-拾遺 | 874 | かくはかりこひしき物としらませはよそに見るへくありけるものを かくはかり こひしきものと しらませは よそにみるへく ありけるものを | 柿本人麻呂(人麿) | 恋四 |
3-拾遺 | 875 | 涙河のとかにたにもなかれなんこひしき人の影や見ゆると なみたかは のとかにたにも なかれなむ こひしきひとの かけやみゆると | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 876 | 涙河おつるみなかみはやけれはせきそかねつるそてのしからみ なみたかは おつるみなかみ はやけれは せきそかねつる そてのしからみ | 紀貫之 | 恋四 |
3-拾遺 | 877 | なみた河そこのみくつとなりはててこひしきせせに流れこそすれ なみたかは そてのみくつと なりはてて こひしきせせに なかれこそすれ | 源順 | 恋四 |
3-拾遺 | 878 | 人しれすおつる涙のつもりつつかすかくはかりなりにけるかな ひとしれす おつるなみたの つもりつつ かすかくはかり なりにけるかな | 藤原惟成 | 恋四 |
3-拾遺 | 879 | かつ見つつ影はなれゆく水のおもにかくかすならぬ身をいかにせん かつみつつ かけはなれゆく みつのおもに かくかすならぬ みをいかにせむ | 承香殿女御 | 恋四 |
3-拾遺 | 880 | さをしかのつめたにひちぬ山河のあさましきまてとはぬ君かな さをしかの つめたにひちぬ やまかはの あさましきまて とはぬきみかな | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 881 | 浅猿やこのしたかけのいはし水いくその人の影を見つらん あさましや このしたかけの いはしみつ いくそのひとの かけをみつらむ | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 882 | 行く水のあわならはこそきえかへり人のふちせを流れても見め ゆくみつの あわならはこそ きえかへり ひとのふちせを なかれてもみめ | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 883 | つのくにのほり江のふかく思ふとも我はなにはのなにとたに見す つのくにの ほりえのふかく おもふとも われはなにはの なにとたにみす | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 884 | つのくにのいくたの池のいくたひかつらき心を我に見すらん つのくにの いくたのいけの いくたひか つらきこころを われにみすらむ | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 885 | つのくにのなには渡につくるなるこやといはなんゆきて見るへく つのくにの なにはわたりに つくるなる こやといはなむ ゆきてみるへく | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 886 | たひひとのかやかりおほひつくるてふまろやは人を思ひわするる たひひとの かやかりおほひ つくるてふ まろやはひとを おもひわするる | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 887 | なには人あし火たくやはすすたれとおのかつまこそとこめつらなれ なにはひと あしひたくやは すすたれと おのかつまこそ とこめつらなれ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋四 |
3-拾遺 | 888 | 住吉の岸におひたる忘草見すやあらましこひはしぬとも すみよしの きしにおひたる わすれくさ みすやあらまし こひはしぬとも | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 889 | やほかゆくはまのまさことわかこひといつれまされりおきつしまもり やほかゆく はまのまさこと わかこひと いつれまされり おきつしまもり | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 890 | さしなから人の心を見くまののうらのはまゆふいくへなるらん さしなから ひとのこころを みくまのの うらのはまゆふ いくへなるらむ | 平兼盛 | 恋四 |
3-拾遺 | 891 | 世の人のおよはぬ物はふしのねのくもゐにたかき思ひなりけり よのひとの およはぬものは ふしのねの くもゐにたかき おもひなりけり | 村上院 | 恋四 |
3-拾遺 | 892 | わかこひのあらはに見ゆる物ならはみやこのふしといはれなましを わかこひの あらはにみゆる ものならは みやこのふしと いはれなましを | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 893 | あしねはふうきはうへこそつれなけれしたはえならす思ふ心を あしねはふ うきはうへこそ つれなけれ したはえならす おもふこころを | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 894 | ねぬなはのくるしかるらん人よりも我そます田のいけるかひなき ねぬなはの くるしかるらむ ひとよりも われそますたの いけるかひなき | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 895 | たらちねのおやのかふこのまゆこもりいふせくもあるかいもにあはすして たらちねの おやのかふこの まゆこもり いふせくもあるか いもにあはすて | 柿本人麻呂(人麿) | 恋四 |
3-拾遺 | 896 | いさやまたこひてふ事もしらなくにこやそなるらんいこそねられね いさやまた こひてふことも しらなくに こやそなるらむ いこそねられね | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 897 | たらちねのおやのいさめしうたたねは物思ふ時のわさにそ有りける たらちねの おやのいさめし うたたねは おもおもふときの わさにそありける | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 898 | うちとなくなれもしなまし玉すたれたれ年月をへたてそめけん うちとなく なれもしなまし たまたれの たれとしつきを へたてそめけむ | 中務 | 恋四 |
3-拾遺 | 899 | うかりけるふしをはすててしらいとの今くる人と思ひなさなん うかりける ふしをはすてて しらいとの いまくるひとと おもひなさなむ | 紀貫之 | 恋四 |
3-拾遺 | 900 | 思ふとていとこそ人になれさらめしかならひてそ見ねはこひしき おもふとて いとこそひとに なれさらめ しかならひてそ みねはこひしき | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 901 | た枕のすきまの風もさむかりき身はならはしの物にそ有りける たまくらの すきまのかせも さむかりき みはならはしの ものにそありける | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 902 | 吹く風に雲のはたてはととむともいかかたのまん人の心は ふくかせに くものはたては ととむとも いかかたのまむ ひとのこころは | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 903 | わか草にととめもあへぬこまよりもなつけわひぬる人の心か わかくさに ととめもあへぬ こまよりも なつけわひぬる ひとのこころか | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 904 | あふことのかたかひしたるみちのくのこまほしくのみおもほゆるかな あふことの かたかひしたる みちのくの こまほしくのみ おもほゆるかな | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 905 | みちのくのあたちの原のしらまゆみ心こはくも見ゆるきみかな みちのくの あたちのはらの しらまゆみ こころこはくも みゆるきみかな | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 906 | 年月の行くらん方もおもほえす秋のはつかに人の見ゆれは としつきの ゆくらむかたも おもほえす あきのはつかに ひとのみゆれは | 伊勢 | 恋四 |
3-拾遺 | 907 | 思ひきやあひ見ぬほとの年月をかそふはかりにならん物とは おもひきや あひみぬほとの としつきを かそふはかりに ならむものとは | 伊勢 | 恋四 |
3-拾遺 | 908 | 遥なる程にもかよふ心かなさりとて人のしらぬものゆゑ はるかなる ほとにもかよふ こころかな さりとてひとの しらぬものゆゑ | 伊勢 | 恋四 |
3-拾遺 | 909 | 雲井なる人を遥に思ふにはわか心さへそらにこそなれ くもゐなる ひとをはるかに おもふには わかこころさへ そらにこそなれ | 源経基 | 恋四 |
3-拾遺 | 910 | よそに有りてくもゐに見ゆるいもか家に早くいたらむあゆめくろこま よそにありて くもゐにみゆる いもかいへに はやくいたらむ あゆめくろこま | 柿本人麻呂(人麿) | 恋四 |
3-拾遺 | 911 | わかかへるみちのくろこま心あらは君はこすともおのれいななけ わかかへる みちのくろこま こころあらは きみはこすとも おのれいななけ | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 912 | 歎きつつ独ぬる夜のあくるまはいかにひさしき物とかはしる なけきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる | 藤原道綱母 | 恋四 |
3-拾遺 | 913 | なけ木こる人いる山のをののえのほとほとしくもなりにけるかな なけきこる ひといるやまの をののえの ほとほとしくも なりにけるかな | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 914 | ひとにたにしらせていりしおく山に恋しさいかてたつねきつらん ひとにたに しらせていりし おくやまに こひしさいかて たつねきつらむ | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 915 | 影たえておほつかなさのますかかみ見すはわか身のうさもしられし かけたえて おほつかなさの ますかかみ みすはわかみの うさもしられし | くにもち | 恋四 |
3-拾遺 | 916 | 思ひます人しなけれはますかかみうつれる影とねをのみそなく おもひます ひとしなけれは ますかかみ うつれるかけと ねをのみそなく | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 917 | わか袖のぬるるを人のとかめすはねをたにやすくなくへきものを わかそての ぬるるをひとの とかめすは ねをたにやすく なくへきものを | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 918 | かすならぬ身はたたにたにおもほえていかにせよとかなかめらるらん かすならぬ みはたたにたに おもほえて いかにせよとか なかめらるらむ | こまの命婦 | 恋四 |
3-拾遺 | 919 | 夢にさへ人のつれなく見えつれはねてもさめても物をこそおもへ ゆめにさへ ひとのつれなく みえつれは ねてもさめても ものをこそおもへ | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 920 | 見る夢のうつつになるはよのつねそうつつのゆめになるそかなしき みるゆめの うつつになるは よのつねそ うつつのゆめに なるそかなしき | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 921 | 逢ふ事は夢の中にもうれしくてねさめのこひそわひしかりける あふことは ゆめのうちにも うれしくて ねさめのこひそ わひしかりける | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 922 | わすれしよゆめとちきりし事のははうつつにつらき心なりけり わすれしよ ゆめとちきりし ことのはは うつつにつらき こころなりけり | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 923 | あたらしと何にいのちを思ひけんわすれはふるくなりぬへき身を あたらしと なににいのちを おもひけむ わすれはふるく なりぬへきみを | 読人知らず | 恋四 |
3-拾遺 | 924 | ちはやふる神のいかきもこえぬへし今はわか身のをしけくもなし ちはやふる かみのいかきも こえぬへし いまはわかみの をしけくもなし | 柿本人麻呂(人麿) | 恋四 |
3-拾遺 | 925 | なく涙世はみな海となりななんおなしなきさに流れよるへく なくなみた よはみなうみと なりななむ おなしなきさに なかれよるへく | 善祐法師母 | 恋五 |
3-拾遺 | 926 | 住吉の岸にむかへるあはち島あはれと君をいはぬ日そなき すみよしの きしにむかへる あはちしま あはれときみを いはぬひそなき | 柿本人麻呂(人麿) | 恋五 |
3-拾遺 | 927 | すてはてむいのちを今はたのまれよあふへきことのこの世ならねは すてはてむ いのちをいまは たのまれよ あふへきことの このよならねは | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 928 | いきしなん事の心にかなひせはふたたひ物はおもはさらまし いきしなむ ことのこころに かなひせは ふたたひものは おもはさらまし | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 929 | もえはててはひとなりなん時にこそ人を思ひのやまむこにせめ もえはてて はひとなりなむ ときにこそ ひとをおもひの やまむこにせめ | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 930 | いつ方にゆきかくれなん世の中に身のあれはこそ人もつらけれ いつかたに ゆきかくれなむ よのなかに みのあれはこそ ひともつらけれ | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 931 | 有りへむと思ひもかけぬ世の中はなかなか身をそなけかさりける ありへむと おもひもかけぬ よのなかは なかなかみをそ なけかさりける | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 932 | いつはりと思ふものから今さらにたかまことをか我はたのまむ いつはりと おもふものから いまさらに たかまことをか われはたのまむ | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 933 | 世の中のうきもつらきもしのふれは思ひしらすと人や見るらん よのなかの うきもつらきも しのふれは おもひしらすと ひとやみるらむ | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 934 | ひたふるにしなはなにかはさもあらはあれいきてかひなき物思ふ身は ひたふるに しなはなにかは さもあらはあれ いきてかひなき ものおもふみは | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 935 | 恋するにしにする物にあらませはちたひそ我はしにかへらまし こひするに しにするものに あらませは ちたひそわれは しにかへらまし | 柿本人麻呂(人麿) | 恋五 |
3-拾遺 | 936 | こひてしねこひてしねとやわきもこかわか家の門をすきてゆくらん こひてしね こひてしねとや わきもこか わかいへのかとを すきてゆくらむ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋五 |
3-拾遺 | 937 | こひしなはこひもしねとや玉桙の道ゆき人に事つてもなき こひしなは こひもしねとや たまほこの みちゆきひとに ことつてもなき | 柿本人麻呂(人麿) | 恋五 |
3-拾遺 | 938 | 恋しきをなくさめかねてすかはらや伏見にきてもねられさりけり こひしきを なくさめかねて すかはらや ふしみにきても ねられさりけり | 源重之 | 恋五 |
3-拾遺 | 939 | こひしきは色にいてても見えなくにいかなる時かむねにしむらん こひしきは いろにいてても みえなくに いかなるときか むねにしむらむ | 読人しらす | 恋五 |
3-拾遺 | 940 | しのはむにしのはれぬへきこひならはつらきにつけてやみもしなまし しのはむに しのはれぬへき こひならは つらきにつけて やみもしなまし | 読人しらす | 恋五 |
3-拾遺 | 941 | いかていかてこふる心をなくさめてのちの世まての物をおもはし いかていかて こふるこころを なくさめて のちのよまての ものをおもはし | 大中臣能宣 | 恋五 |
3-拾遺 | 942 | 限なく思ふ心のふかけれはつらきもしらぬものにそありける かきりなく おもふこころの ふかけれは つらきもしらぬ ものにそありける | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 943 | わりなしやしひてもたのむ心かなつらしとかつは思ふものから わりなしや しひてもたのむ こころかな つらしとかつは おもふものから | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 944 | うしと思ふものから人のこひしきはいつこをしのふ心なるらん うしとおもふ ものからひとの こひしきは いつこをしのふ こころなるらむ | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 945 | 身のうきを人のつらきと思ふこそ我ともいはしわりなかりけれ みのうきを ひとのつらきと おもふこそ われともいはし わりなかりけれ | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 946 | つらしとは思ふものからこひしきは我にかなはぬ心なりけり つらしとは おもふものから こひしきは われにかなはぬ こころなりけり | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 947 | つらきをも思ひしるやはわかためにつらき人しも我をうらむる つらきをも おもひしるやは わかために つらきひとしも われをうらむる | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 948 | 心をはつらき物そといひおきてかはらしと思ふかほそこひしき こころをは つらきものそと いひおきて かはらしとおもふ かほそこひしき | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 949 | あさましや見しかとたにもおもはぬにかはらぬかほそ心ならまし あさましや みしかとたにも おもはぬに かはらぬかほそ こころならまし | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 950 | あはれともいふへき人はおもほえて身のいたつらに成りぬへきかな あはれとも いふへきひとは おもほえて みのいたつらに なりぬへきかな | 一条摂政 | 恋五 |
3-拾遺 | 951 | さもこそはあひ見むことのかたからめわすれすとたにいふ人のなき さもこそは あひみむことの かたからめ わすれすとたに いふひとのなき | 伊勢 | 恋五 |
3-拾遺 | 952 | あふことのなけきの本をたつぬれはひとりねよりそおひはしめける あふことの なけきのもとを たつぬれは ひとりねよりそ おひはしめける | 藤原有時 | 恋五 |
3-拾遺 | 953 | おほかたのわか身ひとつのうきからになへての世をも怨みつるかな おほかたの わかみひとつの うきからに なへてのよをも うらみつるかな | 紀貫之 | 恋五 |
3-拾遺 | 954 | あらちをのかるやのさきに立つしかもいと我はかり物はおもはし あらちをの かるやのさきに たつしかも いとわれはかり ものはおもはし | 柿本人麻呂(人麿) | 恋五 |
3-拾遺 | 955 | 荒磯の外ゆく浪の外心我はおもはしこひはしぬとも あらいその ほかゆくなみの ほかこころ われはおもはし こひはしぬとも | 柿本人麻呂(人麿) | 恋五 |
3-拾遺 | 956 | かきくもり雨ふる河のささらなみまなくも人のこひらるるかな かきくもり あめふるかはの ささらなみ まなくもひとの こひらるるかな | 柿本人麻呂(人麿) | 恋五 |
3-拾遺 | 957 | わかことや雲の中にも思ふらむ雨もなみたもふりにこそふれ わかことや くものうちにも おもふらむ あめもなみたも ふりにこそふれ | 柿本人麻呂(人麿) | 恋五 |
3-拾遺 | 958 | ふる雨にいててもぬれぬわかそてのかけにゐなからひちまさるかな ふるあめに いててもぬれぬ わかそての かけにゐなから ひちまさるかな | 紀貫之 | 恋五 |
3-拾遺 | 959 | これをたにかきそわつらふ雨とふる涙をのこふいとまなけれは これをたに かきそわつらふ あめとふる なみたをぬくふ いとまなけれは | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 960 | 君こふる我もひさしくなりぬれは袖に涙もふりぬへらなり きみこふる われもひさしく なりぬれは そてになみたも ふりぬへらなり | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 961 | きみこふる涙のかかる袖のうらはいはほなりともくちそしぬへき きみこふる なみたのかかる そてのうらは いはほなりとも くちそしぬへき | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 962 | またしらぬおもひにもゆるわか身かなさるはなみたの河の中にて またしらぬ おもひにもゆる わかみかな さるはなみたの かはのうちにて | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 963 | 風をいたみおもはぬ方にとまりするあまのを舟もかくやわふらん かせをいたみ おもはぬかたに とまりする あまのをふねも かくやわふらむ | 源景明 | 恋五 |
3-拾遺 | 964 | せをはやみたえすなかるる水よりもつきせぬ物は涙なりけり せをはやみ たえすなかるる みつよりも つきせぬものは なみたなりけり | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 965 | わかことく物思ふ人はいにしへも今ゆくすゑもあらしとそ思ふ わかことく ものおもふひとは いにしへも いまゆくすゑも あらしとそおもふ | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 966 | くろかみにしろかみましりおふるまてかかるこひにはいまたあはさるに くろかみに しろかみましり おふるまて かかるこひには いまたあはさるに | 大伴坂上郎女 | 恋五 |
3-拾遺 | 967 | しほみては入りぬるいその草なれや見らくすくなくこふらくのおほき しほみては いりぬるいその くさなれや みらくすくなく こふらくのおほき | 大伴坂上郎女 | 恋五 |
3-拾遺 | 968 | しかのあまのつりにともせるいさり火のほのかに人を見るよしもかな しかのあまの つりにともせる いさりひの ほのかにひとを みるよしもかな | 大伴坂上郎女 | 恋五 |
3-拾遺 | 969 | いはねふみかさなる山はなけれともあはぬ日かすをこひやわたらん いはねふみ かさなるやまは なけれとも あはぬひかすを こひやわたらむ | 大伴坂上郎女 | 恋五 |
3-拾遺 | 970 | なけ木こる山ちは人もしらなくにわか心のみつねにゆくらん なけきこる やまちはひとも しらなくに わかこころのみ つねにゆくらむ | 藤原有時 | 恋五 |
3-拾遺 | 971 | 限なき思ひのそらにみちぬれはいくその煙雲となるらん かきりなき おもひのそらに みちぬれは いくそのけふり くもとなるらむ | 円融院 | 恋五 |
3-拾遺 | 972 | そらにみつ思ひの煙雲ならはなかむる人のめにそ見えまし そらにみつ おもひのけふり くもならは なかむるひとの めにそみえまし | 少将更衣 | 恋五 |
3-拾遺 | 973 | おもはすはつれなき事もつらからしたのめは人を怨みつるかな おもはすは つれなきことも つらからし たのめはひとを うらみつるかな | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 974 | つらけれとうらむる限ありけれは物はいはれてねこそなかるれ つらけれと うらむるかきり ありけれは ものはいはれて ねこそなかるれ | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 975 | 紅のやしほの衣かくしあらは思ひそめすそあるへかりける くれなゐの やしほのころも かくしあらは おもひそめすそ あるへかりける | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 976 | ほのかにも我をみしまのあくた火のあくとや人のおとつれもせぬ ほのかにも われをみしまの あくたひの あくとやひとの おとつれもせぬ | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 977 | 人をとくあくた河てふつのくにの名にはたかはぬ物にそ有りける ひとをとく あくたかはてふ つのくにの なにはたかはぬ ものにそありける | 承香殿中納言 | 恋五 |
3-拾遺 | 978 | 限なく思ひそめてし紅の人をあくにそかへらさりける かきりなく おもひそめてし くれなゐの ひとをあくにそ かへらさりける | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 979 | ありそ海の浦とたのめしなこり浪うちよせてけるわすれかひかな ありそうみの うらとたのめし なこりなみ うちよせてける わすれかひかな | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 980 | つらけれと人にはいはすいはみかた怨そふかき心ひとつに つらけれと ひとにはいはす いはみかた うらみそふかき こころひとつに | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 981 | 怨みぬもうたかはしくそおもほゆるたのむ心のなきかとおもへは うらみぬも うたかはしくそ おもほゆる たのむこころの なきかとおもへは | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 982 | 近江なる打出のはまのうちいてつつ怨みやせまし人の心を あふみなる うちてのはまの うちいてつつ うらみやせまし ひとのこころを | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 983 | 渡つ海のふかき心は有りなからうらみられぬる物にそ有りける わたつうみの ふかきこころは ありなから うらみられぬる ものにそありける | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 984 | かすならぬ身は心たになからなん思ひしらすは怨みさるへく かすならぬ みはこころたに なからなむ おもひしらすは うらみさるへく | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 985 | 怨みてののちさへ人のつらからはいかにいひてかねをもなかまし うらみての のちさへひとの つらからは いかにいひてか ねをもなかまし | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 986 | きみを猶怨みつるかなあまのかるもにすむむしの名を忘れつつ きみをなほ うらみつるかな あまのかる もにすむむしの なをわすれつつ | 閑院大君 | 恋五 |
3-拾遺 | 987 | あまのかるもにすむむしのなはきけとたた我からのつらきなりけり あまのかる もにすむむしの なはきけと たたわれからの つらきなりけり | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 988 | こひわひぬかなしき事もなくさめんいつれなかすのはまへなるらん こひわひぬ かなしきことも なくさめむ いつれなかすの はまへなるらむ | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 989 | かくはかりうしと思ふにこひしきは我さへ心ふたつ有りけり かくはかり うしとおもふに こひしきは われさへこころ ふたつありけり | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 990 | とにかくに物はおもはすひたたくみうつすみなはのたたひとすちに とにかくに ものはおもはす ひたたくみ うつすみなはの たたひとすちに | 柿本人麻呂(人麿) | 恋五 |
3-拾遺 | 991 | いにしへをさらにかけしと思へともあやしくめにもみつなみたかな いにしへを さらにかけしと おもへとも あやしくめにも みつなみたかな | 村上院 | 恋五 |
3-拾遺 | 992 | 逢ふ事は心にもあらてほとふともさやは契りし忘れはてねと あふことは こころにもあらて ほとふとも さやはちきりし わすれはてねと | 平忠依 | 恋五 |
3-拾遺 | 993 | わするるかいささは我も忘れなん人にしたかふ心とならは わするるか いささはわれも わすれなむ ひとにしたかふ こころとならは | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 994 | わすれぬる君は中中つらからていままていける身をそ怨むる わすれぬる きみはなかなか つらからて いままていける みをそうらむる | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 995 | 我はかり我をおもはむ人もかなさてもやうきと世を心みん われはかり われをおもはむ ひともかな さてもやうきと よをこころみむ | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 996 | あやしくも厭ふにはゆる心かないかにしてかは思ひたゆへき あやしくも いとふにはゆる こころかな いかにしてかは おもひたゆへき | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 997 | おもふ事なすこそ神のかたからめしはしわするる心つけなん おもふこと なすこそかみの かたからめ しはしわするる こころつけなむ | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 998 | 高砂にわかなくこゑは成りにけり宮この人はききやつくらん たかさこに わかなくこゑは なりにけり みやこのひとは ききやつくらむ | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 999 | かしまなるつくまの神のつくつくとわか身ひとつにこひをつみつる かしまなる つくまのかみの つくつくと わかみひとつに こひをつみつる | 読人知らず | 恋五 |
3-拾遺 | 1000 | 春立つと思ふ心はうれしくて今ひととせのおいそそひける はるたつと おもふこころは うれしくて いまひととせの おいそそひける | 凡河内躬恒 | 雑春 |
3-拾遺 | 1001 | あたらしき年はくれともいたつらにわか身のみこそふりまさりけれ あたらしき としはくれとも いたつらに わかみのみこそ ふりまさりけれ | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1002 | あたらしきとしにはあれとも鴬のなくねさへにはかはらさりけり あたらしき としにはあれとも うくひすの なくねさへには かはらさりけり | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1003 | 年月のゆくへもしらぬ山かつはたきのおとにやはるをしるらん としつきの ゆくへもしらぬ やまかつは たきのおとにや はるをしるらむ | 右近 | 雑春 |
3-拾遺 | 1004 | 春くれは滝のしらいといかなれやむすへとも猶あわに見ゆらん はるくれは たきのしらいと いかなれや むすへともなほ あわにみゆらむ | 紀貫之 | 雑春 |
3-拾遺 | 1005 | あかさりし君かにほひのこひしさに梅の花をそけさは折りつる あかさりし きみかにほひの こひしさに うめのはなをそ けさはをりつる | 具平親王 | 雑春 |
3-拾遺 | 1006 | こちふかはにほひおこせよ梅の花あるしなしとて春をわするな こちふかは にほひおこせよ うめのはな あるしなしとて はるをわするな | 贈太政大臣 | 雑春 |
3-拾遺 | 1007 | 梅の花雪よりさきにさきしかと見る人まれに雪のふりつつ うめのはな はるよりさきに さきしかと みるひとまれに ゆきのふりつつ | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1008 | いにし年ねこしてうゑしわかやとのわか木の梅は花さきにけり いにしとし ねこしてうゑし わかやとの わかきのうめは はなさきにけり | 安倍広庭 | 雑春 |
3-拾遺 | 1009 | 花の色はあかす見るとも鴬のねくらの枝に手ななふれそも はなのいろは あかすみるとも うくひすの ねくらのえたに てななふれそも | 一条摂政 | 雑春 |
3-拾遺 | 1010 | 折りて見るかひもあるかな梅の花けふここのへのにほひまさりて をりてみる かひもあるかな うめのはな けふここのへの にほひまさりて | 源寛信 | 雑春 |
3-拾遺 | 1011 | かさしてはしらかにまかふ梅の花今はいつれをぬかむとすらん かさしては しらかにまかふ うめのはな いまはいつれを ぬかむとすらむ | 藤原伊衡 | 雑春 |
3-拾遺 | 1012 | かそふれとおほつかなきをわかやとの梅こそ春のかすをしるらめ かそふれと おほつかなきを わかやとの うめこそはるの かすをしるらめ | 紀貫之 | 雑春 |
3-拾遺 | 1013 | 年ことにさきはかはれと梅の花あはれなるかはうせすそありける としことに さきはかはれと うめのはな あはれなるかは うせすそありける | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1014 | 梅かえをかりにきてをる人やあるとのへの霞はたちかくすかも うめかえを かりにきてをる ひとやあると のへのかすみは たちかくすかも | 源順 | 雑春 |
3-拾遺 | 1015 | 春きてそ人もとひける山さとは花こそやとのあるしなりけれ はるきてそ ひともとひける やまさとは はなこそやとの あるしなりけれ | 藤原公任 | 雑春 |
3-拾遺 | 1016 | おほつかなくらまの山の道しらて霞の中にまとふけふかな おほつかな くらまのやまの みちしらて かすみのうちに まとふけふかな | 安法法師 | 雑春 |
3-拾遺 | 1017 | 思ふ事ありてこそゆけはるかすみ道さまたけにたちなかくしそ おもふこと ありてこそゆけ はるかすみ みちさまたけに たちなかくしそ | 紀貫之 | 雑春 |
3-拾遺 | 1018 | たこの浦に霞のふかく見ゆるかなもしほのけふりたちやそふらん たこのうらに かすみのふかく みゆるかな もしほのけふり たちやそふらむ | 大中臣能宣 | 雑春 |
3-拾遺 | 1019 | 思ふ事いはてやみなん春霞山ちもちかしたちもこそきけ おもふこと いはてやみなむ はるかすみ やまちもちかし たちもこそきけ | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1020 | かすかののをきのやけはらあさるとも見えぬなきなをおほすなるかな かすかのの をきのやけはら あさるとも みえぬなきなを おほすなるかな | 中宮内侍 | 雑春 |
3-拾遺 | 1021 | 雪をうすみかきねにつめるからなつななつさはまくのほしききみかな ゆきをうすみ かきねにつめる からなつな なつさはまくの ほしききみかな | 藤原長能 | 雑春 |
3-拾遺 | 1022 | たれにより松をもひかん鴬のはつねかひなきけふにもあるかな たれにより まつをもひかむ うくひすの はつねかひなき けふにもあるかな | 藤原公任 | 雑春 |
3-拾遺 | 1023 | ひきて見る子の日の松はほとなきをいかてこもれるちよにかあるらん ひきてみる ねのひのまつは ほとなきを いかてこもれる ちよにかあるらむ | 恵慶法師 | 雑春 |
3-拾遺 | 1024 | しめてこそちとせの春はきつつ見め松をてたゆくなにかひくへき しめてこそ ちとせのはるは きつつみめ まつをてたゆく なにかひくへき | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1025 | ひともとの松のちとせもひさしきにいつきの宮そ思ひやらるる ひともとの まつのちとせも ひさしきに いつきのみやそ おもひやらるる | 源順 | 雑春 |
3-拾遺 | 1026 | おいの世にかかるみゆきは有りきやとこたかき峯の松にとははや おいのよに かかるみゆきは ありきやと こたかきみねの まつにとははや | 清原元輔 | 雑春 |
3-拾遺 | 1027 | 松ならは引く人けふは有りなまし袖の緑そかひなかりける まつならは ひくひとけふは ありなまし そてのみとりそ かひなかりける | 大中臣能宣 | 雑春 |
3-拾遺 | 1028 | 引く人もなくてやみぬるみよしのの松は子の日をよそにこそきけ ひくひとも なくてやみぬる みよしのの まつはねのひを よそにこそきけ | 清原元輔 | 雑春 |
3-拾遺 | 1029 | ひく人もなしと思ひしあつさゆみ今そうれしきもろやしつれは ひくひとも なしとおもひし あつさゆみ いまそうれしき もろやしつれは | 源順 | 雑春 |
3-拾遺 | 1030 | さきし時猶こそ見しかももの花ちれはをしくそ思ひなりぬる さきしとき なほこそみしか もものはな ちれはをしくそ おもひなりぬる | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1031 | 山さとの家ゐは霞こめたれとかきねの柳すゑはとに見ゆ やまさとの いへゐはかすみ こめたれと かきねのやなき すゑはとにみゆ | 弓削嘉言 | 雑春 |
3-拾遺 | 1032 | はるののにところもとむといふなるはふたりぬはかりみてたりやきみ はるののに ところもとむと いふなるは ふたりぬはかり みてたりやきみ | 賀朝法師 | 雑春 |
3-拾遺 | 1033 | 春ののにほるほる見れとなかりけり世に所せき人のためには はるののに ほるほるみれと なかりけり よにところせき ひとのためには | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1034 | かきくらし雪もふらなん桜花またさかぬまはよそへても見む かきくらし ゆきもふらなむ さくらはな またさかぬまは よそへてもみむ | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1035 | はる風は花のなきまにふきはてねさきなは思ひなくて見るへく はるかせは はなのなきまに ふきはてね さきなはおもひ なくてみるへく | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1036 | さかさらむ物とはなしにさくら花おもかけにのみまたき見ゆらん さかさらむ ものとはなしに さくらはな おもかけにのみ またきみゆらむ | 凡河内躬恒 | 雑春 |
3-拾遺 | 1037 | いつこにかこのころ花のさかさらむ所からこそたつねられけれ いつこにか このころはなの さかさらむ こころからこそ たつねられけれ | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1038 | さくら花わかやとにのみ有りと見はなき物くさはおもはさらまし さくらはな わかやとにのみ ありとみは なきものくさは おもはさらまし | 凡河内躬恒 | 雑春 |
3-拾遺 | 1039 | もろともにをりしはるのみこひしくてひとり見まうき花さかりかな もろともに をりしはるのみ こひしくて ひとりみまうき はなさかりかな | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1040 | もろともに我しをらねは桜花思ひやりてやはるをくらさん もろともに われしをらねは さくらはな おもひやりてや はるをくらさむ | 壬生忠見 | 雑春 |
3-拾遺 | 1041 | 霞立つ山のあなたの桜花思ひやりてやはるをくらさむ かすみたつ やまのあなたの さくらはな おもひやりてや はるをくらさむ | 御導師浄蔵 | 雑春 |
3-拾遺 | 1042 | をち方の花も見るへく白浪のともにや我もたちわたらまし をちかたの はなもみるへく しらなみの ともにやわれも たちわたらまし | 紀貫之 | 雑春 |
3-拾遺 | 1043 | まてといははいともかしこし花山にしはしとなかん鳥のねもかな まてといはは いともかしこし はなやまに しはしとなかむ とりのねもかな | 僧正遍昭 | 雑春 |
3-拾遺 | 1044 | 鴬のなきつるなへにかすかののけふのみゆきを花とこそ見れ うくひすの なきつるなへに かすかのの けふのみゆきを はなとこそみれ | 藤原忠房 | 雑春 |
3-拾遺 | 1045 | ふるさとにさくとわひつるさくら花ことしそ君に見えぬへらなる ふるさとに さくとわひつる さくらはな ことしそきみに みえぬへらなる | 藤原忠房 | 雑春 |
3-拾遺 | 1046 | 春霞かすかののへに立ちわたりみちても見ゆるみやこ人かな はるかすみ かすかののへに たちわたり みちてもみゆる みやこひとかな | 藤原忠房 | 雑春 |
3-拾遺 | 1047 | 世の中にうれしき物は思ふとち花見てすくす心なりけり よのなかに うれしきものは おもふとち はなみてすくす こころなりけり | 平兼盛 | 雑春 |
3-拾遺 | 1048 | さくら花そこなるかけそをしまるるしつめる人のはるとおもへは さくらはな そこなるかけそ をしまるる しつめるひとの はるとおもへは | 清原元輔 | 雑春 |
3-拾遺 | 1049 | あつまちののちの雪まをわけてきてあはれ宮この花を見るかな あつまちの のちのゆきまを わけてきて あはれみやこの はなをみるかな | 藤原長能 | 雑春 |
3-拾遺 | 1050 | ひのもとにさけるさくらの色見れは人のくににもあらしとそ思ふ ひのもとに さけるさくらの はなみれは ひとのくににも あらしとそおもふ | 兼盛弟 | 雑春 |
3-拾遺 | 1051 | み山木のふたはみつはにもゆるまてきえせぬ雪と見えもするかな みやまきの ふたはみつはに もゆるまて きえせぬゆきと みえもするかな | 平きむさね | 雑春 |
3-拾遺 | 1052 | かた山にはたやくをのこかの見ゆるみ山さくらはよきてはたやけ かたやまに はたやくをのこ かのみゆる みやまさくらは よきてはたやけ | 藤原長能 | 雑春 |
3-拾遺 | 1053 | うしろめたいかてかへらん山さくらあかぬにほひを風にまかせて うしろめた いかてかへらむ やまさくら あかぬにほひを かせにまかせて | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1054 | ひさしかれあたにちるなとさくら花かめにさせれとうつろひにけり ひさしかれ あたにちるなと さくらはな かめにさせれと うつろひにけり | 紀貫之 | 雑春 |
3-拾遺 | 1055 | とのもりのとものみやつこ心あらはこの巻はかりあさきよめすな とのもりの とものみやつこ こころあらは このはるはかり あさきよめすな | 源公忠 | 雑春 |
3-拾遺 | 1056 | さくら花みかさの山のかけしあれは雪とふれともぬれしとそ思ふ さくらはな みかさのやまの かけしあれは ゆきとふれとも ぬれしとそおもふ | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1057 | 年ことに春のなかめはせしかとも身さへふるともおもはさりしを としことに はるのなかめは せしかとも みさへふるとも おもはさりしを | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1058 | としことに春はくれとも池水におふるぬなははたえすそ有りける としことに はるはくれとも いけみつに おふるぬなはは たえすそありける | 源順 | 雑春 |
3-拾遺 | 1059 | 春風はのとけかるへしやへよりもかさねてにほへ山吹の花 はるかせは のとけかるへし やへよりも かさねてにほへ やまふきのはな | 菅原輔昭 | 雑春 |
3-拾遺 | 1060 | 浦人はかすみをあみにむすへはや浪の花をもとめてひくらん うらひとは かすみをあみに むすへはや なみのはなをも とめてひくらむ | 菅原輔昭 | 雑春 |
3-拾遺 | 1061 | やな見れは河風いたくふく時そ浪の花さへおちまさりける やなみれは かはかせいたく ふくときそ なみのはなさへ おちまさりける | 紀貫之 | 雑春 |
3-拾遺 | 1062 | このまよりちりくる花をあつさゆみえやはととめぬはるのかたみに このまより ちりくるはなを あつさゆみ えやはととめぬ はるのかたみに | 一条のきみ | 雑春 |
3-拾遺 | 1063 | 春すきてちりはてにける梅の花たたかはかりそ枝にのこれる はるすきて ちりはてにける うめのはな たたかはかりそ えたにのこれる | 藤原高光 | 雑春 |
3-拾遺 | 1064 | 谷の戸をとちやはてつる鴬のまつにおとせてはるもすきぬる たにのとを とちやはてつる うくひすの まつにおとせて はるもすきぬる | 藤原道長 | 雑春 |
3-拾遺 | 1065 | ゆきかへる春をもしらす花さかぬみ山かくれのうくひすのこゑ ゆきかへる はるをもしらす はなさかぬ みやまかくれの うくひすのこゑ | 藤原公任 | 雑春 |
3-拾遺 | 1066 | 春はをし郭公はたきかまほし思ひわつらふしつ心かな はるはをし ほとときすはた きかまほし おもひわつらふ しつこころかな | 清原元輔 | 雑春 |
3-拾遺 | 1067 | 松風のふかむ限はうちはへてたゆへくもあらすさけるふちなみ まつかせの ふかむかきりは うちはへて たゆへくもあらす さけるふちなみ | 紀貫之 | 雑春 |
3-拾遺 | 1068 | ふちの花宮の内には紫のくもかとのみそあやまたれける ふちのはな みやのうちには むらさきの くもかとのみそ あやまたれける | 藤原国章 | 雑春 |
3-拾遺 | 1069 | 紫の雲とそ見ゆる藤の花いかなるやとのしるしなるらん むらさきの くもとそみゆる ふちのはな いかなるやとの しるしなるらむ | 藤原公任 | 雑春 |
3-拾遺 | 1070 | むらさきの色しこけれはふちの花松のみとりもうつろひにけり むらさきの いろしこけれは ふちのはな まつのみとりも うつろひにけり | 読人しらす | 雑春 |
3-拾遺 | 1071 | 郭公かよふかきねの卯の花のうきことあれや君かきまさぬ ほとときす かよふかきねの うのはなの うきことあれや きみかきまさぬ | 柿本人麻呂(人麿) | 雑春 |
3-拾遺 | 1072 | 卯の花のさけるかきねにやとりせしねぬにあけぬとおとろかれけり うのはなの さけるかきねに やとりせし ねぬにあけぬと おとろかれけり | 源重之 | 雑春 |
3-拾遺 | 1073 | 年をへてみ山かくれの郭公きく人もなきねをのみそなく としをへて みやまかくれの ほとときす きくひともなき ねをのみそなく | 実方 | 雑春 |
3-拾遺 | 1074 | 声たててなくといふとも郭公たもとはぬれしそらねなりけり こゑたてて なくといふとも ほとときす たもとはぬれし そらねなりけり | 読人知らず | 雑春 |
3-拾遺 | 1075 | かくはかりまつとしらはや郭公こすゑたかくもなきわたるかな かくはかり まつとしらはや ほとときす こすゑたかくも なきわたるかな | 清原元輔 | 雑春 |
3-拾遺 | 1076 | あしひきの山郭公さとなれてたそかれ時になのりすらしも あしひきの やまほとときす さとなれて たそかれときに なのりすらしも | 大中臣輔親 | 雑春 |
3-拾遺 | 1077 | ふるさとのならしのをかに郭公事つてやりきいかにつけきや ふるさとの ならしのをかに ほとときす ことつてやりき いかにつけきや | 大伴像見 | 雑春 |
3-拾遺 | 1078 | 終夜もゆるほたるをけさ見れは草のはことにつゆそおきける よもすから もゆるほたるを けさみれは くさのはことに つゆそおきける | 健守法師 | 雑春 |
3-拾遺 | 1079 | とこ夏の花をし見れはうちはへてすくる月日のかすもしられす とこなつの はなをしみれは うちはへて すくるつきひの かすもしられす | 紀貫之 | 雑春 |
3-拾遺 | 1080 | しはしたにかけにかくれぬ時は猶うなたれぬへきなてしこの花 しはしたに かけにかくれぬ ときはなほ うなたれぬへき なてしこのはな | 贈皇后宮 | 雑春 |
3-拾遺 | 1081 | いたつらにおいぬへらなりおほあらきのもりのしたなる草葉ならねと いたつらに おいぬへらなり おほあらきの もりのしたなる くさはならねと | 凡河内躬恒 | 雑春 |
3-拾遺 | 1082 | たなはたはそらにしるらんささかにのいとかくはかりまつる心を たなはたは そらにしるらむ ささかにの いとかくはかり まつるこころを | 源したかふ | 雑秋 |
3-拾遺 | 1083 | たなはたのあかぬ別もゆゆしきをけふしもなとか君かきませる たなはたの あかぬわかれも ゆゆしきを けふしもなとか きみかきませる | 平兼盛 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1084 | あさとあけてなかめやすらん織女のあかぬ別のそらをこひつつ あさとあけて なかめやすらむ たなはたの あかぬわかれの そらをこひつつ | 紀貫之 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1085 | わたしもりはや舟かくせひととせにふたたひきます君ならなくに わたしもり はやふねかくせ ひととせに ふたたひきます きみならなくに | 柿本人麻呂(人麿) | 雑秋 |
3-拾遺 | 1086 | 織女のうらやましきに天の河こよひはかりはおりやたたまし たなはたの うらやましきに あまのかは こよひはかりは おりやたたまし | 村上院 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1087 | 世をうみてわかかすいとはたなはたの涙の玉のをとやなるらん よをうみて わかかすいとは たなはたの なみたのたまの をとやなるらむ | 読人知らず | 雑秋 |
3-拾遺 | 1088 | あまの河河辺すすしきたなはたに扇の風を猶やかさまし あまのかは かはへすすしき たなはたに あふきのかせを なほやかさまし | 中務 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1089 | 天の河扇の風にきりはれてそらすみわたる鵲のはし あまのかは あふきのかせに きりはれて そらすみわたる かささきのはし | 清原元輔 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1090 | ことのねはなそやかひなきたなはたのあかぬ別をひきしとめねは ことのねは なそやかひなき たなはたの あかぬわかれを ひきしとめねは | 源順 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1091 | 水のあやをおりたちてきむぬきちらしたなはたつめに衣かすよは みつのあやを おりたちてきむ ぬきちらし たなはたつめに ころもかすよは | 平定文 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1092 | 秋風よたなはたつめに事とはんいかなる世にかあはんとすらん あきかせよ たなはたつめに こととはむ いかなるよにか あはむとすらむ | 藤原義孝 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1093 | 天の河のちのけふたにはるけきをいつともしらぬふなてかなしな あまのかは のちのけふたに はるけきを いつともしらぬ ふなてかなしな | 藤原公任 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1094 | あひ見すてひとひも君にならはねはたなはたよりも我そまされる あひみすて ひとひもきみに ならはねは たなはたよりも われそまされる | 紀貫之 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1095 | むつましきいもせの山としらねはやはつ秋きりの立ちへたつらん むつましき いもせのやまと しらねはや はつあききりの たちへたつらむ | 読人知らず | 雑秋 |
3-拾遺 | 1096 | もしほやく煙になるるすまのあまは秋立つ霧もわかすやあるらん もしほやく けふりになるる すまのあまは あきたつきりも わかすやあるらむ | 読人知らず | 雑秋 |
3-拾遺 | 1097 | ゆく水の岸ににほへる女郎花しのひに浪や思ひかくらん ゆくみつの きしににほへる をみなへし しのひになみや おもひかくらむ | 源重之 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1098 | ここにしも何にほふらんをみなへし人の物いひさかにくきよに ここにしも なににほふらむ をみなへし ひとのものいひ さかにくきよに | 僧正遍昭 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1099 | 秋の野の花の色色とりすゑてわか衣手にうつしてしかな あきののの はなのいろいろ とりすゑて わかころもてに うつしてしかな | 読人知らず | 雑秋 |
3-拾遺 | 1100 | ふなをかのの中にたてるをみなへしわたさぬ人はあらしとそ思ふ ふなをかの のなかにたてる をみなへし わたさぬひとは あらしとそおもふ | 読人知らず | 雑秋 |
3-拾遺 | 1101 | 家つとにあまたの花もをるへきにねたくもたかをすゑてけるかな いへつとに あまたのはなも をるへきに ねたくもたかを すゑてけるかな | 平兼盛 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1102 | をくら山みね立ちならしなくしかのへにける秋をしる人のなき をくらやま みねたちならし なくしかの へにけるあきを しるひとそなき | 紀貫之 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1103 | こてふにもにたる物かな花すすきこひしき人に見すへかりけり こてふにも にたるものかな はなすすき こひしきひとに みすへかりけり | 紀貫之 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1104 | 帰りにし雁そなくなるむへ人はうき世の中をそむきかぬらん かへりにし かりそなくなる うへひとは うきよのなかを そむきかぬらむ | 大中臣能宣 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1105 | 九重の内たにあかき月影にあれたるやとを思ひこそやれ ここのへの うちたにあかき つきかけに あれたるやとを おもひこそやれ | 善滋為政 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1106 | ももしきの大宮なからやそしまを見る心地する秋のよの月 ももしきの おほみやなから やそしまを みるここちする あきのよのつき | 読人知らず | 雑秋 |
3-拾遺 | 1107 | 水のおもにやとれる月ののとけきはなみゐて人のねぬよなれはか みつのおもに やとれるつきの のとけきは なみゐてひとの ねぬよなれはか | 源順 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1108 | はしり井のほとをしらはや相坂の関ひきこゆるゆふかけのこま はしりゐの ほとをしらはや あふさかの せきひきこゆる ゆふかけのこま | 清原元輔 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1109 | 虫ならぬ人もおとせぬわかやとに秋ののへとて君はきにけり むしならぬ ひともおとせぬ わかやとに あきののへとて きみはきにけり | 曾禰好忠 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1110 | 庭草にむらさめふりてひくらしのなくこゑきけは秋はきにけり にはくさに むらさめふりて ひくらしの なくこゑきけは あきはきにけり | 柿本人麻呂(人麿) | 雑秋 |
3-拾遺 | 1111 | 秋風は吹きなやふりそわかやとのあはらかくせるくものすかきを あきかせは ふきなやふりそ わかやとの あはらかくせる くものすかきを | 曾禰好忠 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1112 | 住の江の松を秋風ふくからに声うちそふるおきつしら浪 すみのえの まつをあきかせ ふくからに こゑうちそふる おきつしらなみ | 凡河内躬恒 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1113 | 秋風のさむくふくなるわかやとのあさちかもとにひくらしもなく あきかせの さむくふくなる わかやとの あさちかもとに ひくらしもなく | 柿本人麻呂(人麿) | 雑秋 |
3-拾遺 | 1114 | あき風し日ことにふけはわかやとのをかのこのはは色つきにけり あきかせし ひことにふけは わかやとの をかのこのはは いろつきにけり | 柿本人麻呂(人麿) | 雑秋 |
3-拾遺 | 1115 | 秋きりのたなひくをのの萩の花今やちるらんいまたあかなくに あききりの たなひくをのの はきのはな いまやちるらむ いまたあかなくに | 柿本人麻呂(人麿) | 雑秋 |
3-拾遺 | 1116 | 秋はきのしたはにつけてめにちかくよそなる人の心をそみる あきはきの したはにつけて めにちかく よそなるひとの こころをそみる | 女 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1117 | 世の中の人に心をそめしかは草葉にいろも見えしとそ思ふ よのなかの ひとにこころを そめしかは くさはにいろも みえしとそおもふ | 紀貫之 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1118 | このころのあか月つゆにわかやとの萩のしたはは色つきにけり このころの あかつきつゆに わかやとの はきのしたはは いろつきにけり | 柿本人麻呂(人麿) | 雑秋 |
3-拾遺 | 1119 | 夜をさむみ衣かりかねなくなへにはきのしたはは色つきにけり よをさむみ ころもかりかね なくなへに はきのしたはは いろつきにけり | 柿本人麻呂(人麿) | 雑秋 |
3-拾遺 | 1120 | かの見ゆる池辺にたてるそかきくのしけみさえたの色のてこらさ かのみゆる いけへにたてる そかきくの しけみさえたの いろのてこらさ | 読人知らず | 雑秋 |
3-拾遺 | 1121 | 吹く風にちる物ならは菊の花くもゐなりとも色は見てまし ふくかせに ちるものならは きくのはな くもゐなりとも いろはみてまし | 壬生忠見 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1122 | おいか世にうき事きかぬ菊たにもうつろふ色は有りけりと見よ おいかよに うきこときかぬ きくたにも うつろふいろは ありけりとみよ | 読人知らず | 雑秋 |
3-拾遺 | 1123 | わきもこかあかもぬらしてうゑし田をかりてをさめむくらなしのはま わきもこか あかもぬらして うゑしたを かりてをさめむ くらなしのはま | 柿本人麻呂(人麿) | 雑秋 |
3-拾遺 | 1124 | 秋ことにかりつるいねはつみつれと老いにける身そおき所なき あきことに かりつるいねは つみつれと おいにけるみそ おきところなき | 壬生忠見 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1125 | かりてほす山田の稲をほしわひてまもるかりいほにいくよへぬらん かりてほす やまたのいねを ほしわひて まもるかりいほに いくよへぬらむ | 凡河内躬恒 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1126 | おく山にたてらましかはなきさこくふな木も今は紅葉しなまし おくやまに たてらましかは なきさこく ふなきもいまは もみちしなまし | 恵慶法師 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1127 | 久方の月をさやけみもみちはのこさもうすさもわきつへらなり ひさかたの つきをさやけみ もみちはの こさもうすさも わきつへらなり | 読人知らず | 雑秋 |
3-拾遺 | 1128 | 小倉山峯のもみちは心あらは今ひとたひのみゆきまたなん をくらやま みねのもみちは こころあらは いまひとたひの みゆきまたなむ | 小一条太政大臣 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1129 | ふるさとにかへると見てやたつたひめ紅葉の錦そらにきすらん ふるさとに かへるとみてや たつたひめ もみちのにしき そらにきすらむ | 大中臣能宣 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1130 | 白浪はふるさとなれやもみちはのにしきをきつつ立帰るらん しらなみは ふるさとなれや もみちはの にしきをきつつ たちかへるらむ | 読人知らず | 雑秋 |
3-拾遺 | 1131 | もみちはのなかるる時はたけ河のふちのみとりも色かはるらむ もみちはの なかるるときは たけかはの ふちのみとりも いろかはるらむ | 凡河内躬恒 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1132 | 水のおもの深く浅くも見ゆるかな紅葉の色やふちせなるらん みつのおもの ふかくあさくも みゆるかな もみちのいろや ふちせなるらむ | 凡河内躬恒 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1133 | 月影のたなかみ河にきよけれは綱代にひをのよるも見えけり つきかけの たなかみかはに きよけれは あしろにひをの よるもみえけり | 清原元輔 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1134 | いかて猶あしろのひをに事とはむなにによりてか我をとはぬと いかてなほ あしろのひをに こととはむ なにによりてか われをとはぬと | 修理 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1135 | はふりこかいはふ社のもみちはもしめをはこえてちるといふものを はふりこか いはふやしろの もみちはも しめをはこえて ちるといふものを | 読人知らず | 雑秋 |
3-拾遺 | 1136 | いかなれはもみちにもまたあかなくに秋はてぬとはけふをいふらん いかなれは もみちにもまた あかなくに あきはてぬとは けふをいふらむ | 源順 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1137 | 秋もまたとほくもあらぬにいかて猶たちかへれともつけにやらまし あきもまた とほくもあらぬに いかてなほ たちかへれとも つけにやらまし | 清原元輔 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1138 | そま山にたつけふりこそ神な月時雨をくたすくもとなりけれ そまやまに たつけふりこそ かみなつき しくれをくたす くもとなりけれ | 大中臣能宣 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1139 | 名をきけは昔なからの山なれとしくるるころは色かはりけり なをきけは むかしなからの やまなれと しくるるころは いろかはりけり | 源順 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1140 | もみちはやたもとなるらん神な月しくるることに色のまされは もみちはや たもとなるらむ かみなつき しくるることに いろのまされは | 凡河内躬恒 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1141 | しくれつつふりにしやとの言の葉はかきあつむれととまらさりけり しくれつつ ふりにしやとの ことのはは かきあつむれと とまらさりけり | 中務 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1142 | 昔より名たかきやとの事のははこの本にこそおちつもるてへ むかしより なたかきやとの ことのはは このもとにこそ おちつもるてへ | 村上院 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1143 | 山かつのかきほわたりをいかにそとしもかれかれにとふ人もなし やまかつの かきほわたりを いかにそと しもかれかれに とふひともなし | 権中納言義懐娘 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1144 | み山木をあさなゆふなにこりつめてさむさをこふるをののすみやき みやまきを あさなゆふなに こりつめて さむさをこふる をののすみやき | 曾禰好忠 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1145 | にほとりの氷の関にとちられて玉ものやとをかれやしぬらん にほとりの こほりのせきに とちられて たまものやとを かれやしぬらむ | 曾禰好忠 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1146 | いさかくてをりあかしてん冬の月春の花にもおとらさりけり いさかくて をりあかしてむ ふゆのつき はるのはなにも おとらさりけり | 清原元輔 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1147 | 限なくとくとはすれと葦引の山井の水は猶そこほれる かきりなく とくとはすれと あしひきの やまゐのみつは なほそこほれる | 東宮女蔵人左近 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1148 | ありあけの心地こそすれ杯に日かけもそひていてぬとおもへは ありあけの ここちこそすれ さかつきに ひかけもそひて いてぬとおもへは | 大中臣能宣 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1149 | あしひきの山ゐにすれる衣をは神につかふるしるしとそ思ふ あしひきの やまゐにすれる ころもをは かみにつかふる しるしとそおもふ | 紀貫之 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1150 | ちはやふる神のいかきに事ふりてそらよりかかるゆふにそありける ちはやふる かみのいかきに ゆきふりて そらよりかかる ゆふにそありける | 読人知らず | 雑秋 |
3-拾遺 | 1151 | ひとりねはくるしき物とこりよとや旅なる夜しも雪のふるらん ひとりねは くるしきものと こりよとや たひなるよしも ゆきのふるらむ | 紀貫之 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1152 | わたつみもゆきけの水はまさりけりをちのしましま見えすなりゆく わたつみも ゆきけのみつは まさりけり をちのしましま みえすなりゆく | 具平親王 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1153 | もとゆひにふりそふ雪のしつくには枕のしたに浪そたちける もとゆひに ふりそふゆきの しつくには まくらのしたに なみそたちける | 具平親王 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1154 | さわらひやしたにもゆらんしもかれののはらの煙春めきにけり さわらひや したにもゆらむ しもかれの のはらのけふり はるめきにけり | 藤原通頼 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1155 | 霜かれに見えこし梅はさきにけり春にはわか身あはむとはすや しもかれに みえこしうめは さきにけり はるにはわかみ あはむとはすや | 紀貫之 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1156 | 梅の花匂の深く見えつるは春の隣のちかきなりけり うめのはな にほひのふかく みえつるは はるのとなりの ちかきなりけり | 三統元夏 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1157 | むめもみな春ちかしとてさくものをまつ時もなき我やなになる うめもみな はるちかしとて さくものを まつときもなき われやなになる | 紀貫之 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1158 | むはたまのわかくろかみに年くれてかかみのかけにふれるしらゆき うはたまの わかくろかみに としくれて かかみのかけに ふれるしらゆき | 紀貫之 | 雑秋 |
3-拾遺 | 1159 | 昨日よりをちをはしらすももとせの春の始はけふにそ有りける きのふより をちをはしらす ももとせの はるのはしめは けふにそありけ | 紀貫之 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1160 | はるはると雲井をさして行く舟の行末とほくおもほゆるかな はるはると くもゐをさして ゆくふねの ゆくすゑとほく おもほゆるかな | 伊勢 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1161 | 花の色もときはならなんなよ竹のなかきよにおくつゆしかからは はなのいろも ときはならなむ なよたけの なかきよにおく つゆしかからは | 清原元輔 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1162 | よろつ世をかそへむ物はきのくにのちひろのはまのまさこなりけり よろつよを かそへむものは きのくにの ちひろのはまの まさこなりけり | 清原元輔 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1163 | こけむさはひろひもかへむさされいしのかすをみなとるよはひいくよそ こけむさは ひろひもかへむ さされいしの かすをみなとる よはひいくよそ | 読人知らず | 雑賀 |
3-拾遺 | 1164 | 松のねにいつる泉の水なれはおなしき物をたえしとそ思ふ まつのねに いつるいつみの みつなれは おなしきものを たえしとそおもふ | 紀貫之 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1165 | いはのうへの松にたとへむきみきみは世にまれらなるたねそとおもへは いはのうへの まつにたとへむ きみきみは よにまれらなる たねそとおもへは | 藤原道長 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1166 | 松かえのかよへる枝をとくらにてすたてらるへきつるのひなかな まつかえの かよへるえたを とくらにて すたてらるへき つるのひなかな | 清原元輔 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1167 | まつの苔ちとせをかねておひしけれつるのかひこのすとも見るへく まつのこけ ちとせをかねて おひしけれ つるのかひこの すともみるへく | 清原元輔 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1168 | 我のみやこもたるてへは高砂のをのへにたてる松もこもたり われのみや こもたるてへは たかさこの をのへにたてる まつもこもたり | 読人知らず | 雑賀 |
3-拾遺 | 1169 | いく世へしいそへの松そ昔よりたちよる浪やかすはしるらん いくよへし いそへのまつそ むかしより たちよるなみや かすはしるらむ | 紀貫之 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1170 | こ紫たなひく事をしるへにて位の山の峯をたつねん こむらさき たなひくくもを しるへにて くらゐのやまの みねをたつねむ | 清原元輔 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1171 | ももしきにちとせの事はおほかれとけふの君はためつらしきかな ももしきに ちとせのことは おほかれと けふのきみはた めつらしきかな | 小野好古 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1172 | 心さしふかきみきはにかるこもはちとせのさ月いつかわすれん こころさし ふかきみきはに かるこもは ちとせのさつき いつかわすれむ | 藤原道綱母 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1173 | ちとせへん君しいまさはすへらきのあめのしたこそうしろやすけれ ちとせへむ きみしいまさは すめらきの あめのしたこそ うしろやすけれ | 清原元輔 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1174 | きみか世に今いくたひかかくしつつうれしき事にあはんとすらん きみかよに いまいくたひか かくしつつ うれしきことに あはむとすらむ | 藤原公任 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1175 | すみそむるすゑの心の見ゆるかなみきはの松のかけをうつせは すみそむる すゑのこころの みゆるかな みきはのまつの かけをうつせは | 藤原公任 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1176 | ちとせふる霜のつるをはおきなからひさしき物は君にそありける ちとせふる しものつるをは おきなから ひさしきものは きみにそありける | 藤原敦忠 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1177 | しらゆきはふりかくせともちよまてに竹のみとりはかはらさりけり しらゆきは ふりかくせとも ちよまてに たけのみとりは かはらさりけり | 紀貫之 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1178 | 世の中にことなる事はあらすともとみはたしてむいのちなかくは よのなかに ことなることは あらすとも とみはたしてむ いのちなかくは | 清原元輔 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1179 | 流俗のいろにはあらす梅の花 珍重すへき物とこそ見れ りうそくの いろにはあらす うめのはな ちむちようすへき ものとこそみれ | 藤原実資 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1180 | 春はもえ秋はこかるるかまと山 かすみもきりもけふりとそ見る はるはもえ あきはこかるる かまとやま かすみもきりも けふりとそみる | 清原元輔 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1181 | 思ひたちぬるけふにもあるかな かからてもありにしものをはるかすみ おもひたちぬる けふにもあるかな かからても ありにしものを はるかすみ | 藤原忠君娘 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1182 | くらすへしやはいままてにきみ とふやとそ我もまちつるはるの日を くらすへしやは いままてにきみ とふやとそ われもまちつる はるのひを | 源計子 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1183 | さ夜ふけて今はねふたくなりにけり 夢にあふへき人やまつらん さよふけて いまはねふたく なりにけり ゆめにあふへき ひとやまつらむ | 村上院 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1184 | 人心うしみついまはたのましよ 夢に見ゆやとねそすきにける ひとこころ うしみついまは たのましよ ゆめにみゆやと ねそすきにける | 女 良岑宗貞 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1185 | ひきよせはたたにはよらて春こまの綱引するそなはたつときく ひきよせは たたにはよらて はるこまの つなひきするそ なはたつときく | 平定文 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1186 | 花の木はまかきちかくはうゑて見しうつろふ色に人ならひけり はなのきは まかきちかくは うゑてみし うつろふいろに ひとならひけり | 読人知らず | 雑賀 |
3-拾遺 | 1187 | 夏は扇冬は火をけに身をなしてつれなき人によりもつかはや なつはあふき ふゆはひをけに みをなして つれなきひとに よりもつかはや | 読人知らず | 雑賀 |
3-拾遺 | 1188 | こひするに仏になるといはませは我そ浄土のあるしならまし こひするに ほとけになると いはませは われそしやうとの あるしならまし | 読人知らず | 雑賀 |
3-拾遺 | 1189 | 唐衣たつよりおつる水ならてわか袖ぬらす物やなになる からころも たつよりおつる みつならて わかそてぬらす ものやなになる | 読人知らず | 雑賀 |
3-拾遺 | 1190 | つらからは人にかたらむしきたへの枕かはしてひとよねにきと つらからは ひとにかたらむ しきたへの まくらかはして ひとよねにきと | 藤原義孝 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1191 | あやしくもわかぬれきぬをきたるかなみかさの山を人にかられて あやしくも われぬれきぬを きたるかな みかさのやまを ひとにかられて | 藤原義孝 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1192 | かくれみのかくれかさをもえてしかなきたりと人にしられさるへく かくれみの かくれかさをも えてしかな きたりとひとに しられさるへく | 平公誠 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1193 | 心ありてとふにはあらす世の中にありやなしやのきかまほしきそ こころありて とふにはあらす よのなかに ありやなしやの きかまほしきそ | 読人知らず | 雑賀 |
3-拾遺 | 1194 | きみとはていくよへぬらん色かへぬ竹のふるねのおひかはるまて きみとはて いくよへぬらむ いろかへぬ たけのふるねの おひかはるまて | 読人知らず | 雑賀 |
3-拾遺 | 1195 | こぬ人をしたにまちつつ久方の月をあはれといはぬよそなき こぬひとを したにまちつつ ひさかたの つきをあはれと いはぬよそなき | 紀貫之 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1196 | あつさゆみひきみひかすみこすはこすこはこそをなそよそにこそ見め あつさゆみ ひきみひかすみ こすはこす こはこそをなそ よそにこそみめ | 柿本人麻呂(人麿) | 雑賀 |
3-拾遺 | 1197 | くれはとく行きてかたらむあふ時のとをちのさとのすみうかりしも くれはとく ゆきてかたらむ あふことの とをちのさとの すみうかりしも | 一条摂政 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1198 | おろかにもおもはましかはあつまちのふせやといひしのへにねなまし おろかにも おもはましかは あつまちの ふせやといひし のへにねなまし | 読人知らず | 雑賀 |
3-拾遺 | 1199 | あともなきかつら木山をふみみれはわかわたしこしかたはしかもし あともなき かつらきやまを ふみみれは わかわたしこし かたはしかもし | 読人知らず | 雑賀 |
3-拾遺 | 1200 | かきつくる心見えなるあとなれと見てもしのはむ人やあるとて かきつくる こころみえなる あとなれと みてもしのはむ ひとやあるとて | 読人知らず | 雑賀 |
3-拾遺 | 1201 | いははしのよるの契もたえぬへしあくるわひしき葛木の神 いははしの よるのちきりも たえぬへし あくるわひしき かつらきのかみ | 春宮女蔵人左近 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1202 | うたかはしほかにわたせるふみみれは我やとたえにならむとすらん うたかはし ほかにわたせる ふみみれは われやとたえに ならむとすらむ | 藤原道綱母 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1203 | いかてかはたつねきつらん蓬ふの人もかよはぬわかやとのみち いかてかは たつねきつらむ よもきふの ひともかよはぬ わかやとのみち | 読人知らず | 雑賀 |
3-拾遺 | 1204 | 雨ならてもる人もなきわかやとをあさちかはらと見るそかなしき あめならて もるひともなき わかやとを あさちかはらと みるそかなしき | 承香殿女御 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1205 | いにしへはたかふるさとそおほつかなやともる雨にとひてしらはや いにしへは たかふるさとそ おほつかな やともるあめに とひてしらはや | 藤原朝光 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1206 | 夢とのみ思ひなりにし世の中をなに今更におとろかすらん ゆめとのみ おもひなりにし よのなかを なにいまさらに おとろかすらむ | 高階成忠女 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1207 | 人も見ぬ所に昔きみとわかせぬわさわさをせしそこひしき ひともみぬ ところにむかし きみとわか せぬわさわさを せしそこひしき | 源公忠 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1208 | けふまてはいきの松原いきたれとわか身のうさになけきてそふる けふまては いきのまつはら いきたれと わかみのうさに なけきてそふる | 藤原後生か女 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1209 | いきたるかしぬるかいかにおもほえす身よりほかなるたまくしけかな いきたるか しぬるかいかに おもほえす みよりほかなる たまくしけかな | 則忠女 | 雑賀 |
3-拾遺 | 1210 | をとめこか袖ふる山のみつかきのひさしきよより思ひそめてき をとめこか そてふるやまの みつかきの ひさしきよより おもひそめてき | 柿本人麻呂(人麿) | 雑恋 |
3-拾遺 | 1211 | いなり山社のかすを人とははつれなき人をみつとこたへむ いなりやま やしろのかすを ひととはは つれなきひとを みつとこたへむ | 平定文 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1212 | みしま江の玉江のあしをしめしよりおのかとそ思ふいまたからねと みしまえの たまえのあしを しめしより おのかとそおもふ いまたからねと | 柿本人麻呂(人麿) | 雑恋 |
3-拾遺 | 1213 | あたなりとあたにはいかかさたむらん人の心を人はしるやは あたなりと あたにはいかか さたむらむ ひとのこころを ひとはしるやは | 大中臣能宣 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1214 | すくろくのいちはにたてるひとつまのあはてやみなん物にやはあらぬ すくろくの いちはにたてる ひとつまの あはてやみなむ ものにやはあらぬ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1215 | ぬれきぬをいかかきさらん世の人はあめのしたにしすまんかきりは ぬれきぬを いかかきさらむ よのひとは あめのしたにし すまむかきりは | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1216 | あめのしたのかるる人のなけれはやきてしぬれきぬひるよしもなき あめのした のかるるひとの なけれはや きてしぬれきぬ ひるよしもなし | 贈太政大臣 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1217 | いつくとも所定めぬ白雲のかからぬ山はあらしとそ思ふ いつくとも ところさためぬ しらくもの かからぬやまは あらしとそおもふ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1218 | 白雲のかかるそら事する人を山のふもとによせてけるかな しらくもの かかるそらこと するひとを やまのふもとに よせてけるかな | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1219 | いつしかもつくまのまつりはやせなんつれなき人のなへのかす見む いつしかも つくまのまつり はやせなむ つれなきひとの なへのかすみむ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1220 | 人しれぬ人まちかほに見ゆめるはたかたのめたるこよひなるらん ひとしれぬ ひとまちかほに みゆめるは たかたのめたる こよひなるらむ | 藤原実頼 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1221 | 池水のそこにあらてはねぬなはのくる人もなしまつ人もなし いけみつの そこにあらては ねぬなはの くるひともなし まつひともなし | 明日香采女 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1222 | 人しれすたのめし事は柏木のもりやしにけむ世にふりにけり ひとしれす たのめしことは かしはきの もりやしにけむ よにふりにけり | 右近 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1223 | 秋はきの花もうゑおかぬやとなれはしかたちよらむ所たになし あきはきの はなもうゑおかぬ やとなれは しかたちよらむ ところたになし | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1224 | こゆるきのいそきてきつるかひもなくまたこそたてれおきつしらなみ こゆるきの いそきてきつる かひもなく またこそたてれ おきつしらなみ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1225 | しのひつつよるこそきしか唐衣ひとや見むとはおもはさりしを しのひつつ よるこそきしか からころも ひとやみむとは おもはさりしを | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1226 | 宮つくるひたのたくみのてをのおとほとほとしかるめをも見しかな みやつくる ひたのたくみの てをのおと ほとほとしかる めをもみしかな | くにもち | 雑恋 |
3-拾遺 | 1227 | 有りとてもいく世かはふるからくにのとらふすのへに身をもなけてん ありとても いくよかはふる からくにの とらふすのへに みをもなけてむ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1228 | むすふ手のしつくににこる山の井のあかても人に別れぬるかな むすふての しつくににこる やまのゐの あかてもひとに わかれぬるかな | 紀貫之 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1229 | 家なからわかるる時は山の井のにこりしよりもわひしかりけり いへなから わかるるときは やまのゐの にこりしよりも わひしかりけり | 紀貫之 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1230 | はしたかのとかへる山のしひしはのはかへはすともきみはかへせし はしたかの とかへるやまの しひしはの はかへはすとも きみはかへせし | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1231 | あやまちのあるかなきかをしらぬ身はいとふににたる心ちこそすれ あやまちの あるかなきかを しらぬみは いとふににたる ここちこそすれ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1232 | ゆく水のあわならはこそきえかへり人のふちせを流れても見め ゆくみつの あわならはこそ きえかへり ひとのふちせを なかれてもみめ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1233 | ともかくもいひはなたれよ池水のふかさあささをたれかしるへき ともかくも いひはなたれよ いけみつの ふかさあささを たれかしるへき | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1234 | そめ河をわたらん人のいかてかは色になるてふ事のなからん そめかはを わたらむひとの いかてかは いろになるてふ ことのなからむ | 在原業平 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1235 | ちはやふるかもの河辺のふちなみはかけてわするる時のなきかな ちはやふる かものかはへの ふちなみは かけてわするる ときのなきかな | 兵衛 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1236 | 世の中はいかかはせまししけ山のあをはのすきのしるしたになし よのなかは いかかはせまし しけやまの あをはのすきの しるしたになし | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1237 | むもれ木は中むしはむといふめれはくめちのはしは心してゆけ うもれきは なかむしはむと いふめれは くめちのはしは こころしてゆけ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1238 | 世の中はいさともいさや風のおとは秋に秋そふ心地こそすれ よのなかは いさともいさや かせのおとは あきにあきそふ ここちこそすれ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1239 | いはみなるたかまの山のこのまよりわかふるそてをいも見けんかも いはみなる たかまのやまの このまより わかふるそてを いもみけむかも | 柿本人麻呂(人麿) | 雑恋 |
3-拾遺 | 1240 | おきつ浪たかしのはまのはま松のなにこそきみをまちわたりつれ おきつなみ たかしのはまの はままつの なにこそきみを まちわたりつれ | 紀貫之 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1241 | 君をのみ思ひやりつつ神よりも心のそらになりしよひかな きみをのみ おもひやりつつ かみよりも こころのそらに なりしよひかな | 村上院 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1242 | 思ひやるこしのしら山しらねともひと夜も夢にこえぬ日そなき おもひやる こしのしらやま しらねとも ひとよもゆめに こえぬひそなき | 紀貫之 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1243 | 山しなのこはたの里に馬はあれとかちよりそくる君を思へは やましなの こはたのさとに うまはあれと かちよりそくる きみをおもへは | 柿本人麻呂(人麿) | 雑恋 |
3-拾遺 | 1244 | 春日山雲井かくれてとほけれと家はおもはす君をこそおもへ かすかやま くもゐかくれて とほけれと いへはおもはす きみをこそおもへ | 柿本人麻呂(人麿) | 雑恋 |
3-拾遺 | 1245 | わかせこをこふるもくるしいとまあらはひろひてゆかむ恋忘かひ わかせこを こふるもくるし いとまあらは ひろひてゆかむ こひわすれかひ | 大伴坂上郎女 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1246 | 旧里をこふるたもともかわかぬに又しほたるるあまも有りけり ふるさとを こふるたもとも かわかぬに またしほたるる あまもありけり | 恵慶法師 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1247 | しほたるる身は我とのみ思へともよそなるたつもねをそなくなる しほたるる みはわれのみと おもへとも よそなるたつも ねをそなくなる | 大中臣頼基 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1248 | つれつれと思へはうきにおふるあしのはかなき世をはいかかたのまむ つれつれと おもへはうきに おふるあしの はかなきよをは いかかたのまむ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1249 | 定なき人の心にくらふれはたたうきしまは名のみなりけり さためなき ひとのこころに くらふれは たたうきしまは なのみなりけり | 源順 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1250 | ひとりのみ年へけるにもおとらしをかすならぬ身のあるはあるかは ひとりのみ としへけるにも おとらしを かすならぬみの あるはあるかは | 清原元輔 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1251 | 風はやみ峯のくすはのともすれはあやかりやすき人のこころか かせはやみ みねのくすはの ともすれは あやかりやすき ひとのこころか | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1252 | 久方のあめのふるひをたたひとり山へにをれはむもれたりけり ひさかたの あめのふるひを たたひとり やまへにをれは うもれたりけり | 大伴家持 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1253 | 雨ふりて庭にたまれるにこり水たかすまはかはかけの見ゆへき あめふりて にはにたまれる にこりみつ たかすまはかは かけのみゆへき | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1254 | 世とともに雨ふるやとの庭たつみすまぬに影は見ゆるものかは よとともに あめふるやとの にはたつみ すまぬにかけは みゆるものかは | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1255 | あふ事のかくてやつひにやみの夜の思ひもいてぬ人のためには あふことの かくてやつひに やみのよの おもひもいてぬ ひとのためには | 太皇太后宮 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1256 | いはしろの野中にたてるむすひ松心もとけす昔おもへは いはしろの のなかにたてる むすひまつ こころもとけす むかしおもへは | 柿本人麻呂(人麿) | 雑恋 |
3-拾遺 | 1257 | けふかともあすともしらぬ白菊のしらすいく世をふへきわか身そ けふかとも あすともしらぬ しらきくの しらすいくよを ふへきわかみそ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1258 | 涙河水まされはやしきたへの枕のうきてとまらさるらん なみたかは みつまされはや しきたへの まくらのうきて とまらさるらむ | まさのふ | 雑恋 |
3-拾遺 | 1259 | 世の中を常なき物とききしかとつらきことこそひさしかりけれ よのなかを つねなきものと ききしかと つらきことこそ ひさしかりけれ | 按察のみやす所 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1260 | つらきをはつねなき物と思ひつつひさしき事をたのみやはせぬ つらきをは つねなきものと おもひつつ ひさしきことを たのみやはせぬ | 延喜 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1261 | 我こそはにくくもあらめわかやとの花見にたにも君かきまさぬ われこそは にくくもあらめ わかやとの はなみにたにも きみかきまさぬ | 伊勢 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1262 | いはみかたなにかはつらきつらからは怨みかてらにきても見よかし いはみかた なにかはつらき つらからは うらみかてらに きてもみよかし | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1263 | それならぬ事もありしをわすれねといひしはかりをみみにとめけん それならぬ こともありしを わすれねと いひしはかりを みみにとめけむ | 本院侍従 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1264 | みかりするこまのつまつくあをつつら君こそ我はほたしなりけれ みかりする こまのつまつく あをつつら きみこそわれは ほたしなりけれ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1265 | 君見れはむすふの神そうらめしきつれなき人をなにつくりけん きみみれは むすふのかみそ うらめしき つれなきひとを なにつくりけむ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1266 | いつれをかしるしとおもはむみわの山有りとしあるはすきにそありける いつれをか しるしとおもはむ みわのやま ありとしあるは すきにそありける | 紀貫之 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1267 | 我といへはいなりの神もつらきかな人のためとはいのらさりしを われといへは いなりのかみも つらきかな ひとのためとは いのらさりしを | 藤原長能 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1268 | 滝の水かへりてすまはいなり山なぬかのほれるしるしとおもはん たきのみつ かへりてすまは いなりやま なぬかのほれる しるしとおもはむ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1269 | 思ひいててとふにはあらす秋はつる色の限を見するなりけり おもひいてて とふにはあらす あきはつる いろのかきりを みするなりけり | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1270 | ゆゆしとていむとも今はかひもあらしうきをは風につけてやみなん ゆゆしとて いむともいまは かひもあらし うきをはかせに つけてやみなむ | 読人知らず | 雑恋 |
3-拾遺 | 1271 | ひとりして世をしつくさは高砂の松のときはもかひなかりけり ひとりして よをしつくさは たかさこの まつのときはも かひなかりけり | 紀貫之 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1272 | 玉もかるあまのゆき方さすさをの長くや人を怨渡らん たまもかる あまのゆきかた さすさをの なかくやひとを うらみわたらむ | 紀貫之 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1273 | たのめつつ別れし人をまつほとに年さへせめてうらめしきかな たのめつつ わかれしひとを まつほとに としさへせめて うらめしきかな | 紀貫之 | 雑恋 |
3-拾遺 | 1274 | さくら花のとけかりけりなき人をこふる涙そまつはおちける さくらはな のとけかりけり なきひとを こふるなみたそ まつはおちける | 藤原実頼 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1275 | おもかけに色のみのこる桜花いく世の春をこひむとすらん おもかけに いろのみのこる さくらはな いくよのはるを こひむとすらむ | 平兼盛 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1276 | 花の色もやとも昔のそれなからかはれる物は露にそ有りける はなのいろも やともむかしの それなから かはれるものは つゆにそありける | 清原元輔 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1277 | 桜花にほふものから露けきはこのめも物を思ふなるへし さくらはな にほふものから つゆけきは このめもものを おもふなるへし | 大中臣能宣 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1278 | 君まさはまつそをらまし桜花風のたよりにきくそかなしき きみまさは まつそをらまし さくらはな かせのたよりに きくそかなしき | 源延光 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1279 | いにしへはちるをや人の惜みけん花こそ今は昔こふらし いにしへは ちるをやひとの をしみけむ はなこそいまは むかしこふらし | 一条摂改 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1280 | さ月きてなかめまされはあやめ草思ひたえにしねこそなかるれ さつききて なかめまされは あやめくさ おもひたえにし ねこそなかるれ | 女蔵人兵庫 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1281 | しのへとやあやめもしらぬ心にもなかからぬよのうきにうゑけん しのへとや あやめもしらぬ こころにも なかからぬよの うきにうゑけむ | 粟田右大臣 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1282 | ここにたにつれつれになく郭公ましてここひのもりはいかにそ ここにたに つれつれになく ほとときす ましてここひの もりはいかにそ | 右大臣 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1283 | あさかほを何はかなしと思ひけん人をも花はさこそ見るらめ あさかほを なにはかなしと おもひけむ ひとをもはなは さこそみるらめ | 藤原道信 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1284 | 時ならてははその紅葉ちりにけりいかにこのもとさひしかるらん ときならて ははそのもみち ちりにけり いかにこのもと さひしかるらむ | 村上院 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1285 | 思ひきや秋のよ風のさむけきにいもなきとこにひとりねむとは おもひきや あきのよかせの さむけきに いもなきとこに ひとりねむとは | 大弐国章 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1286 | 秋風になひく草葉のつゆよりもきえにし人をなににたとへん あきかせに なひくくさはの つゆよりも きえにしひとを なににたとへむ | 村上院 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1287 | こそ見てし秋の月夜はてらせともあひ見しいもはいやとほさかり こそみてし あきのつきよは てらせとも あひみしいもは いやとほさかり | 柿本人麻呂(人麿) | 哀傷 |
3-拾遺 | 1288 | 君なくて立つあさきりは麻衣池さへきるそかなしかりける きみなくて たつあさきりは ふちころも いけさへきるそ かなしかりける | 藤原敦忠 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1289 | わきもこかねくたれかみをさるさはの池のたまもと見るそかなしき わきもこか ねくたれかみを さるさはの いけのたまもと みるそかなしき | 柿本人麻呂(人麿) | 哀傷 |
3-拾遺 | 1290 | 心にもあらぬうき世にすみそめの衣の袖のぬれぬ日そなき こころにも あらぬうきよに すみそめの ころものそての ぬれぬひそなき | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1291 | ふち衣はらへてすつる涙河きしにもまさる水そなかるる ふちころも はらへてすつる なみたかは きしにもまさる みつそなかるる | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1292 | 藤衣はつるるいとはきみこふる涙の玉のをとやなるらん ふちころも はつるるいとは きみこふる なみたのたまの をとやなるらむ | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1293 | 限あれはけふぬきすてつ藤衣はてなき物は涙なりけり かきりあれは けふぬきすてつ ふちころも はてなきものは なみたなりけり | 藤原道信 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1294 | 人なししむねのちふさをほむらにてやくすみそめの衣きよきみ ひとなしし むねのちふさを ほむらにて やくすみそめの ころもきよきみ | としのふの母 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1295 | 藤衣あひ見るへしと思ひせはまつにかかりてなくさめてまし ふちころも あひみるへしと おもひせは まつにかかりて なくさめてまし | 大江為基 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1296 | 年ふれといかなる人かとこふりてあひ思ふ人にわかれさるらん としふれと いかなるひとか とこふりて あひおもふひとに わかれさるらむ | 大江為基 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1297 | 墨染の衣の袖は雲なれや涙の雨のたえすふるらん すみそめの ころものそては くもなれや なみたのあめの たえすふるらむ | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1298 | あまといへといかなるあまの身なれはか世ににぬしほをたれわたるらん あまといへと いかなるあまの みなれはか よににぬしほを たれわたるらむ | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1299 | 世の中にあらましかはと思ふ人なきかおほくも成りにけるかな よのなかに あらましかはと おもふひと なきかおほくも なりにけるかな | 藤原為頼 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1300 | 常ならぬ世はうき身こそかなしけれそのかすにたにいらしとおもへは つねならぬ よはうきみこそ かなしけれ そのかすにたに いらしとおもへは | 藤原公任 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1301 | なき人もあるかつらきを思ふにも色わかれぬは涙なりけり なきひとも あるかつらきを おもふにも いろわかれぬは なみたなりけり | 伊勢 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1302 | うつくしと思ひしいもを夢に見ておきてさくるになきそかなしき うつくしと おもひしいもを ゆめにみて おきてさくるに なきそかなしき | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1303 | 思ひやるここひのもりのしつくにはよそなる人の袖もぬれけり おもひやる ここひのもりの しつくには よそなるひとの そてもぬれけり | 清原元輔 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1304 | なよ竹のわかこの世をはしらすしておほしたてつと思ひけるかな なよたけの わかこのよをは しらすして おほしたてつと おもひけるかな | 平兼盛 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1305 | 我のみやこの世はうきとおもへとも君もなけくと聞くそかなしき われのみや このよはうきと おもへとも きみもなけくと きくそかなしき | 藤原共政妻 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1306 | うき世にはある身もうしとなけきつつ涙のみこそふるここちすれ うきよには あるみもうしと なけきつつ なみたのみこそ ふるここちすれ | 藤原朝光 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1307 | しての山こえてきつらん郭公こひしき人のうへかたらなん してのやま こえてきつらむ ほとときす こひしきひとの うへかたらなむ | 伊勢 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1308 | 思ふよりいふはおろかに成りぬれはたとへていはん事のはそなき おもふより いふはおろかに なりぬれは たとへていはむ ことのはそなき | 平定文 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1309 | こふるまに年のくれなはなき人の別やいとととほくなりなん こふるまに としのくれなは なきひとの わかれやいとと とほくなりなむ | 紀貫之 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1310 | 如何せん忍の草もつみわひぬかたみと見えしこたになけれは いかにせむ しのふのくさも つみわひぬ かたみとみえし こたになけれは | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1311 | 春は花秋は紅葉とちりはててたちかくるへきこのもともなし はるははな あきはもみちと ちりはてて たちかくるへき このもともなし | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1312 | わすられてしはしまとろむほともかないつかはきみをゆめならて見ん わすられて しはしまとろむ ほともかな いつかはきみを ゆめならてみむ | 中務 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1313 | うきなからきえせぬ物は身なりけりうら山しきは水のあわかな うきなから きえせぬものは みなりけり うらやましきは みつのあわかな | 中務 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1314 | 世の中をかくいひいひのはてはてはいかにやいかにならむとすらん よのなかを かくいひいひの はてはては いかにやいかに ならむとすらむ | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1315 | ささなみのしかのてこらかまかりにし河せの道を見れはかなしも ささなみの しかのてこらか まかりにし かはせのみちを みれはかなしも | 柿本人麻呂(人麿) | 哀傷 |
3-拾遺 | 1316 | おきつ浪よるあらいそをしきたへの枕とまきてなれる君かも おきつなみ よるあらいそを しきたへの まくらとまきて なれるきみかも | 柿本人麻呂(人麿) | 哀傷 |
3-拾遺 | 1317 | あすしらぬわか身とおもへとくれぬまのけふは人こそかなしかりけれ あすしらぬ わかみとおもへと くれぬまの けふはひとこそ かなしかりけれ | 紀貫之 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1318 | 夢とこそいふへかりけれ世の中はうつつある物と思ひけるかな ゆめとこそ いふへかりけれ よのなかは うつつあるものと おもひけるかな | 紀貫之 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1319 | 家にいきてわかやを見れはたまささのほかにおきけるいもかこまくら いへにゆきて わかやをみれは たまささの ほかにおきける いもかこまくら | 柿本人麻呂(人麿) | 哀傷 |
3-拾遺 | 1320 | まきもくの山へひひきてゆく水のみなわのことによをはわか見る まきもくの やまへひひきて ゆくみつの みなわのことに よをはわかみる | 柿本人麻呂(人麿) | 哀傷 |
3-拾遺 | 1321 | いも山のいはねにおける我をかもしらすていもかまちつつあらん いもやまの いはねにおける われをかも しらすていもか まちつつあらむ | 柿本人麻呂(人麿) | 哀傷 |
3-拾遺 | 1322 | 手に結ふ水にやとれる月影のあるかなきかの世にこそありけれ てにむすふ みつにやとれる つきかけの あるかなきかの よにこそありけれ | 紀貫之 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1323 | くれ竹のわか世はことに成りぬともねはたえせすもなかるへきかな くれたけの わかよはことに なりぬとも ねはたえせすも なかるへきかな | 哀傷 | |
3-拾遺 | 1324 | とりへ山たににけふりのもえたたははかなく見えし我としらなん とりへやま たににけふりの もえたたは はかなくみえし われとしらなむ | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1325 | みな人のいのちをつゆにたとふるは草むらことにおけはなりけり みなひとの いのちをつゆに たとふるは くさむらことに おけはなりけり | すけきよ | 哀傷 |
3-拾遺 | 1326 | 草枕人はたれとかいひおきしつひのすみかはの山とそ見る くさまくら ひとはたれとか いひおきし つひのすみかは のやまとそみる | 源順 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1327 | 世の中をなににたとへむあさほらけこきゆく舟のあとのしら浪 よのなかを なににたとへむ あさほらけ こきゆくふねの あとのしらなみ | 沙弥満誓 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1328 | 契あれはかはねなれともあひぬるを我をはたれかとはんとすらん ちきりあれは かはねなれとも あひぬるを われをはたれか とはむとすらむ | 源相方 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1329 | 山寺の入あひのかねのこゑことにけふもくれぬときくそかなしき やまてらの いりあひのかねの こゑことに けふもくれぬと きくそかなしき | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1330 | うき世をはそむかはけふもそむきなんあすもありとはたのむへき身か うきよをは そむかはけふも そむきなむ あすもありとは たのむへきみか | 慶滋保胤 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1331 | 世の中に牛の車のなかりせは思ひの家をいかていてまし よのなかに うしのくるまの なかりせは おもひのいへを いかていてまし | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1332 | 世の中にふるそはかなき白雪のかつはきえぬる物としるしる よのなかに ふるそはかなき しらゆきの かつはきえぬる ものとしるしる | 藤原高光 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1333 | すみそめの色は我のみと思ひしをうき世をそむく人もあるとか すみそめの いろはわれのみと おもひしを うきよをそむく ひともあるとか | 大中臣能宣 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1334 | すみそめの衣と見れはよそなからもろともにきる色にそ有りける すみそめの ころもとみれは よそなから もろともにきる いろにそありける | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1335 | 思ひしる人も有りける世の中をいつをいつとてすくすなるらん おもひしる ひともありける よのなかを いつをいつとて すくすなるらむ | 藤原公任 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1336 | ささなみやしかのうら風いかはかり心の内の源しかるらん ささなみや しかのうらかせ いかはかり こころのうちの すすしかるらむ | 藤原公任 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1337 | こふつくすみたらし河のかめなれはのりのうききにあはぬなりけり こふつくす みたらしかはの かめなれは のりのうききに あはぬなりけり | 斎院 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1338 | いつしかと君にと思ひしわかなをはのりの道にそけふはつみつる いつしかと きみにとおもひし わかなをは のりのみちにそ けふはつみつる | 村上院 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1339 | たき木こる事は昨日につきにしをいさをののえはここにくたさん たききこる ことはきのふに つきにしを いさをののえは ここにくたさむ | 藤原道綱母 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1340 | けふよりは露のいのちもをしからす蓮のうへのたまとちきれは けふよりは つゆのいのちも をしからす はちすのうへの たまとちきれは | 実方 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1341 | あさことにはらふちりたにあるものをいまいくよとてたゆむなるらん あさことに はらふちりたに あるものを いまいくよとて たゆむなるらむ | 夢想歌 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1342 | 暗きより暗き道にそ入りぬへき遥に照せ山のはの月 くらきより くらきみちにそ いりぬへき はるかにてらせ やまのはのつき | 雅致女式部 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1343 | 極楽ははるけきほととききしかとつとめていたるところなりけり こくらくは はるけきほとと ききしかと つとめていたる ところなりけり | 仙慶法師 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1344 | ひとたひも南無阿弥陀仏といふ人の蓮の上にのほらぬはなし ひとたひも なむあみたふつと いふひとの はちすのうへに のほらぬはなし | 空也上人 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1345 | みそちあまりふたつのすかたそなへたるむかしの人のふめるあとそこれ みそちあまり ふたつのすかた そなへたる むかしのひとの ふめるあとそこれ | 光明皇后 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1346 | 法華経をわかえし事はたき木こりなつみ水くみつかへてそえし ほけきやうを わかえしことは たききこり なつみみつくみ つかへてそえし | 大僧正行基 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1347 | ももくさにやそくさそへてたまひてしちふさのむくいけふそわかする ももくさに やそくさそへて たまひてし ちふさのむくひ けふそわかする | 大僧正行基 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1348 | 霊山の釈迦のみまへにちきりてし真如くちせすあひ見つるかな りやうせむの しやかのみまへに ちきりてし しむによくちせす あひみつるかな | 大僧正行基 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1349 | かひらゑにともにちきりしかひありて文殊のみかほあひ見つるかな かひらゑに ともにちきりし かひありて もむしゆのみかほ あひみつるかな | 婆羅門僧正 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1350 | しなてるやかたをか山にいひにうゑてふせるたひ人あはれおやなし しなてるや かたをかやまに いひにうゑて ふせるたひひと あはれおやなし | 聖徳太子 | 哀傷 |
3-拾遺 | 1351 | いかるかやとみのを河のたえはこそわかおほきみのみなをわすれめ いかるかや とみのをかはの たえはこそ わかおほきみの みなをわすれめ | 読人知らず | 哀傷 |
3-拾遺 | 1352 | 我はあすはのみやつまむさはのせり水はこほりてくきし見えねは われはあす はのみやつまむ さはのせり みつはこほりて くきしみえねは | 藤原輔相 | 異本歌 |
3-拾遺 | 1353 | むまよりはひつしはかりはあるものをとりにいぬるかかゐてきぬらむ うまよりは ひつしはかりは あるものを とりにいぬるか かひてきぬらむ | 読人知らず | 異本歌 |
3-拾遺 | 1354 | うしと思ふ心をしはしなくさめむ後によひとをあはれと思はむ うしとおもふ こころをしはし なくさめむ のちによひとを あはれとおもはむ | 読人知らず | 異本歌 |
3-拾遺 | 1355 | かも山のいはねしまきてあるわれをしらぬかいもかまちつつあらむ かもやまの いはねしまきて あるわれを しらぬかいもか まちつつあらむ | 柿本人麻呂(人麿) | 異本歌 |
3-拾遺 | 1356 | 日くるれはまつ人もきぬからいともよるをはあふといふはかりなり ひくるれは まつひともきぬ からいとも よるをはあふと いふはかりなり | 式部 | 異本歌 |
3-拾遺 | 1357 | よもやまのまほりにたのむあつさゆみ神のたからにいましつるかな よのなかの まもりにたのむ あつさゆみ かみのたからに いましつるかな | 不記 | 異本歌 |
3-拾遺 | 1358 | わかくさのいもものりたりわれものりふねかたふくなふなかせふくな わかくさの いもものりたり われものり ふねかたふくな ふなかせふくな | 不記 | 異本歌 |
3-拾遺 | 1359 | このこにて心をさなくとはすともおやのおやにてうらむへしやは このこにて こころをさなく とはすとも おやのおやにて うらむへしやは | 源重之 | 異本歌 |
3-拾遺 | 1360 | 夢のうちの花に心をつけてこそこのよのなかはおもひしらるれ ゆめのうちの はなにこころを つけてこそ このよのなかは おもひしらるれ | 読人知らず | 異本歌 |
4-後拾 | 1 | いかにねておくるあしたにいふことぞ昨日をこぞと今日を今年と いかにねておくるあしたにいふことそきのふをこそとけふをことしと | 小大君 | 春上 |
4-後拾 | 2 | いでてみよ今は霞も立ちぬらむ春はこれよりあくとこそきけ いててみよいまはかすみもたちぬらむはるはこれよりすくとこそきけ | 光朝法師母 | 春上 |
4-後拾 | 3 | 東路は勿来の関もあるものをいかでか春のこえてきつらむ あつまちはなこそのせきもあるものをいかてかはるのこえてきつらむ | 源師賢 | 春上 |
4-後拾 | 4 | あふさかの関をや春もこえつらむ音羽の山のけさはかすめる あふさかのせきをやはるもこえつらむおとはのやまのけさはかすめる | 橘俊綱 | 春上 |
4-後拾 | 5 | 春のくる道のしるべはみ吉野の山にたなびく霞なりけり はるのくるみちのしるへはみよしののやまにたなひくかすみなりけり | 能宣 | 春上 |
4-後拾 | 6 | 人しれずいりぬとおもひしかひもなく年も山路をこゆるなりけり ひとしれすいりぬとおもひしかひもなくとしもやまちをこゆるなりけり | 能宣 | 春上 |
4-後拾 | 7 | 雪ふりて道ふみまどふ山里にいかにしてかは春のきつらむ ゆきふりてみちふみまとふやまさとにいかにしてかははるのきつらむ | 兼盛 | 春上 |
4-後拾 | 8 | 新しき春はくれども身にとまる年はかへらぬものにぞありける あたらしきはるはくれともみにとまるとしはかへらぬものにそありける | 加賀左衛門 | 春上 |
4-後拾 | 9 | たづのすむ澤べの蘆のしたねとけ汀もえいづる春はきにけり たつのすむさはへのあしのしたねとけみきはもえいつるはるはきにけり | 能宣 | 春上 |
4-後拾 | 10 | み吉野は春のけしきにかすめどもむすぼほれたる雪の下草 みよしのははるのけしきにかすめともむすほほれたるゆきのしたくさ | 紫式部 | 春上 |
4-後拾 | 11 | 谷川の氷もいまだきえあへぬに峯の霞はたなびきにけり たにかはのこほりもいまたきえあへぬにみねのかすみはたなひきにけり | 藤原長能 | 春上 |
4-後拾 | 12 | 春ごとに野辺のけしきの変わらぬはおなじ霞やたちかへるらむ はることにのへのけしきのかはらぬはおなしかすみやたちかへるらむ | 藤原隆経 | 春上 |
4-後拾 | 13 | 春霞たつやおそきと山川の岩間をくぐる音きこゆなり はるかすみたつやおそきとやまかはのいはまをくくるおときこゆなり | 和泉式部 | 春上 |
4-後拾 | 14 | むらさきの袖をつらねてきたるかな春たつことはこれぞうれしき むらさきのそてをつらねてきたるかなはるたつことはこれそうれしき | 赤染衛門 | 春上 |
4-後拾 | 15 | むれてくる大宮人は春をへてかはらずながらめづらしきかな むれてくるおほみやひとははるをへてかはらすなからめつらしきかな | 小弁 | 春上 |
4-後拾 | 16 | むらさきもあけもみどりもうれしきは春のはじめにきたるなりけり むらさきもあけもみとりもうれしきははるのはしめにきたるなりけり | 藤原輔伊 | 春上 |
4-後拾 | 17 | 君ませとやりつる使きにけらし野辺の雉子はとりやしつらむ きみませとやりつるつかひきにけらしのへのききすはとりやしつらむ | 藤原道長 | 春上 |
4-後拾 | 18 | 春たちてふる白雪を鶯の花ちりぬとやいそぎいづらむ はるたちてふるしらゆきをうくひすのはなちりぬとやいそきいつらむ | 読人知らず | 春上 |
4-後拾 | 19 | 山たかみ雪ふるすより鶯の出づるはつねはけふぞ聞きつる やまたかみゆきふるすよりうくひすのいつるはつねはけふそなくなる | 能宣 | 春上 |
4-後拾 | 20 | ふるさとへ行く人あらばことづてむけふ鶯の初音ききつと ふるさとへゆくひとあらはことつてむけふうくひすのはつねききつと | 源兼澄 | 春上 |
4-後拾 | 21 | ふりつもる雪きえがたき山里に春をしらする鶯のこゑ ふりつもるゆききえかたきやまさとにはるをしらするうくひすのこゑ | 読人知らず | 春上 |
4-後拾 | 22 | 鶯のなくねばかりぞきこえける春のいたらぬ人のやどにも うくひすのなくねはかりそきこえけるはるのいたらぬひとのやとにも | 清原元輔 | 春上 |
4-後拾 | 23 | たづねつる宿は霞にうづもれて谷のうぐひす一こゑぞする たつねつるやとはかすみにうつもれてたにのうくひすひとこゑそする | 藤原範永 | 春上 |
4-後拾 | 24 | 千歳へむやどの子の日の松をこそほかのためしにひかむとすらめ ちとせへむやとのねのひのまつをこそほかのためしにひかむとすらめ | 清原元輔 | 春上 |
4-後拾 | 25 | ひきつれてけふは子の日の松にまたいま千歳をぞ野べにいでつる ひきつれてけふはねのひのまつにまたいまちとせをそのへにいてつる | 和泉式部 | 春上 |
4-後拾 | 26 | 春の野にいでぬ子の日はもろ人の心ばかりをやるにぞありける はるののにいてぬねのひはもろひとのこころはかりをやるにそありける | 読人知らず | 春上 |
4-後拾 | 27 | けふは君いかなる野辺に子の日て人のまつをばしらぬなるらむ けふはきみいかなるのへにねのひしてひとのまつをはしらぬなるらむ | 賀茂成助 | 春上 |
4-後拾 | 28 | 袖かけてひきぞやられぬ小松原いづれともなきちよのけしきに そてかけてひきそやられぬこまつはらいつれともなきちよのけしきに | 右大臣北方 | 春上 |
4-後拾 | 29 | とまりにし子の日の松をけふよりはひかぬためしにひかるべきかな とまりにしねのひのまつをけふよりはひかぬためしにひかるへきかな | 藤原頼宗 | 春上 |
4-後拾 | 30 | あさみどり野辺の霞のたなびくにけふの小松をまかせつるかな あさみとりのへのかすみのたなひくにけふのこまつをまかせつるかな | 源経信 | 春上 |
4-後拾 | 31 | 君が代にひきくらぶれば子の日する松の千歳もかずならぬかな きみかよにひきくらふれはねのひするまつのちとせもかすならぬかな | 左近中将公実 | 春上 |
4-後拾 | 32 | 人はみな野辺の小松を引きにゆくけふの若菜は雪やつむらむ ひとはみなのへのこまつをひきにゆくけさのわかなはゆきやつむらむ | 伊勢大輔 | 春上 |
4-後拾 | 33 | 卯づゑつきつままほしきは玉さかに君が飛火の若菜なりけり うつゑつきつままほしきはたまさかにきみかとふひのわかななりけり | 伊勢大輔 | 春上 |
4-後拾 | 34 | 白雪のまだふるさとの春日野にいざうちはらひ若菜つみみむ しらゆきのまたふるさとのかすかのにいさうちはらひわかなつみてむ | 能宣 | 春上 |
4-後拾 | 35 | 春日野は雪のみつむとみしかどもおひいづるものは若菜なりけり かすかのはゆきのみつむとみしかともおひいつるものはわかななりけり | 和泉式部 | 春上 |
4-後拾 | 36 | 摘みにくる人はたれともなかりけりわがしめし野の若菜なれども つみにくるひとはたれともなかりけりわかしめしののわかななれとも | 中原頼成妻 | 春上 |
4-後拾 | 37 | かずしらずかさなるとしを鶯の聲する方のわかなともがな かすしらすかさなるとしをうくひすのこゑするかたのわかなともかな | 藤三位 | 春上 |
4-後拾 | 38 | 山たかみ都の春をみわたせばただ一むらの霞なりけり やまたかみみやこのはるをみわたせはたたひとむらのかすみなりけり | 大江正言 | 春上 |
4-後拾 | 39 | よそにては霞たなびくふるさとの都の春はみるべかりける よそにてそかすみたなひくふるさとのみやこのはるはみるへかりける | 能因法師 | 春上 |
4-後拾 | 40 | 春はまづ霞にまがふ山里をたちよりてとふ人のなきかな はるはまつかすみにまかふやまさとをたちよりてとふひとのなきかな | 選子内親王 | 春上 |
4-後拾 | 41 | はるばるとやへのしほぢにおく網をたなびくものは霞なりけり はるはるとやへのしほちにおくあみをたなひくものはかすみなりけり | 藤原節信 | 春上 |
4-後拾 | 42 | 三島江につのぐみわたる蘆のねの一夜のほどに春めきにけり みしまえにつのくみわたるあしのねのひとよのほとにはるめきにけり | 曾禰好忠 | 春上 |
4-後拾 | 43 | 心あらむ人にみせばや津の国の難波わたりの春のけしきを こころあらむひとにみせはやつのくにのなにはわたりのはるのけしきを | 能因法師 | 春上 |
4-後拾 | 44 | 難波潟うら吹く風に浪たてばつのぐむ蘆のみえみみえずみ なにはかたうらふくかせになみたてはつのくむあしのみえみみえすみ | 読人知らず | 春上 |
4-後拾 | 45 | あはづののすぐろの薄つのぐめば冬たちなづむ駒ぞいばゆる あはつののすくろのすすきつのくめはふゆたちなつむこまそいはゆる | 権僧正静圓 | 春上 |
4-後拾 | 46 | たちはなれ沢辺になるる春駒はおのがかげをや友とみるらむ たちはなれさはへになるるはるこまはおのかかけをやともとみるらむ | 源兼長 | 春上 |
4-後拾 | 47 | 狩にこば行きてもみまし片岡のあしたの原にきぎす鳴くなり かりにこはゆきてもみましかたをかのあしたのはらにききすなくなり | 藤原長能 | 春上 |
4-後拾 | 48 | 秋までの命もしらず春の野に萩のふるえをやくときくかな あきまてのあはれもしらすはるののにはきのふるねをやくとやくかな | 和泉式部 | 春上 |
4-後拾 | 49 | 花ならでをらまほしきは難波江の蘆のわかばにふれる白雪 はなならてをらまほしきはなにはえのあしのわかはにふれるしらゆき | 藤原範永 | 春上 |
4-後拾 | 50 | 梅が香をたよりの風や吹きつらむ春めづらしく君がきませる うめかかをたよりのかせやふきつらむはるめつらしくきみかきませる | 平兼盛 | 春上 |
4-後拾 | 51 | 梅の花にほふあたりの夕暮はあやなく人にあやまたれつつ うめのはなにほふあたりのゆふくれはあやなくひとにあやまたれつつ | 大中臣能宣 | 春上 |
4-後拾 | 52 | 春の夜のやみにしなれば匂ひくる梅よりほかの花なかりけり はるのよのやみにしあれはにほひくるうめよりほかのはななかりけり | 藤原公任 | 春上 |
4-後拾 | 53 | 梅の香をよはの嵐の吹きためてまきの板戸のあくるまちけり うめのかをよはのあらしのふきためてまきのいたとのあくるまちけり | 大江嘉言 | 春上 |
4-後拾 | 54 | 梅の花かはことどとに匂はねど薄く濃くこそ色は咲きけれ うめのはなかはことことににほはねとうすくこくこそいろはさきけれ | 清原元輔 | 春上 |
4-後拾 | 55 | わかやどの垣根の梅のうつり香にひとりねもせぬ心地こそすれ わかやとのかきねのうめのうつりかにひとりねもせぬここちこそすれ | 読人知らず | 春上 |
4-後拾 | 56 | わかやどの梅のさかりにくる人はどとろくばかり袖ぞにほへる わかやとのうめのさかりにくるひとはおとろくはかりそてそにほへる | 藤原公任 | 春上 |
4-後拾 | 57 | 春はただ我が宿にのみ梅さかばかれにし人もみにときなまし はるはたたわかやとにのみうめさかはかれにしひともみにときなまし | 和泉式部 | 春上 |
4-後拾 | 58 | 梅の花かきねににほふ山里は行きかふ人の心をぞみる うめのはなかきねににほふやまさとはゆきかふひとのこころをそみる | 賀茂成助 | 春上 |
4-後拾 | 59 | 梅の花かばかりにほふ春の夜のやみは風こそうれしかりけれ うめのはなかはかりにほふはるのよのやみはかせこそうれしかりけれ | 藤原顕綱 | 春上 |
4-後拾 | 60 | 梅が枝を折ればつづれる衣手に思ひもかけぬ移り香ぞする うめかえををれはつつれるころもてにおもひもかけぬうつりかそする | 素意法師 | 春上 |
4-後拾 | 61 | かばかりのにほひなりとも梅の花しづの垣根を思ひわするな かはかりのにほひなりともうめのはなしつのかきねをおもひわするな | 弁乳母 | 春上 |
4-後拾 | 62 | わがやどにうゑぬばかりぞ梅の花あるじなりともかばかりぞみむ わかやとにうゑぬはかりそうめのはなあるしなりともかはかりそみむ | 大江嘉言 | 春上 |
4-後拾 | 63 | 風ふけばをちの垣根の梅の花かはわがやどの物にぞありける かせふけはをちのかきねのうめのはなかはわかやとのものにそありける | 清基法師 | 春上 |
4-後拾 | 64 | たづねくる人にもみせむ梅の花ちるとも水にながれざらなむ たつねくるひとにもみせむうめのはなちるともみつになかれさらなむ | 藤原経衡 | 春上 |
4-後拾 | 65 | すゑむすぶ人のてさへや匂ふらむ梅のした行く水のながれは すゑむすふひとのてさへやにほふらむうめのしたゆくみつのなかれは | 平経章 | 春上 |
4-後拾 | 66 | おもひやれ霞こめたる山里に花まつほどの春のつれづれ おもひやれかすみこめたるやまさとのはなまつほとのはるのつれつれ | 上東門院中将 | 春上 |
4-後拾 | 67 | ほにいでて秋とみしまに小山田をまたうちかへす春もきにけり ほにいててあきとみしまにをやまたをまたうちかへすはるもきにけり | 小弁 | 春上 |
4-後拾 | 68 | かへるかり雲井はるかになりぬなりまたこむ秋も遠しとおもふに かへるかりくもゐはるかになりぬなりまたこむあきもとほしとおもふに | 赤染衛門 | 春上 |
4-後拾 | 69 | 行き帰る旅に年ふるかりがねはいくその春をよそにみるらむ ゆきかへるたひにとしふるかりかねはいくそのはるをよそにみるらむ | 藤原道信 | 春上 |
4-後拾 | 70 | とどまらぬ心ぞ見えむ帰るかり花のさかりを人にかたるな ととまらぬこころそみえむかへるかりはなのさかりをひとにかたるな | 馬内侍 | 春上 |
4-後拾 | 71 | うすずみにかく玉づさと見ゆるかな霞める空にかへるかりがね うすすみにかくたまつさとみゆるかなかすめるそらにかへるかりかね | 津守国基 | 春上 |
4-後拾 | 72 | をりしもあれいかにちぎりてかりがねの花の盛りに帰りそめけむ をりしもあれいかにちきりてかりかねのはなのさかりにかへりそめけむ | 弁乳母 | 春上 |
4-後拾 | 73 | かりがねぞけふ帰るなる小山田の苗代水のひきもとめなむ かりかねそけふかへるなるをやまたのなはしろみつのひきもとめなむ | 能宣 | 春上 |
4-後拾 | 74 | あらたまの年をへつつも青柳の糸はいづれのはるかたゆべき あらたまのとしをへつつもあをやきのいとはいつれのはるかたゆへき | 坂上望城 | 春上 |
4-後拾 | 75 | 池水のみくさもとらで青柳のはらふしづえにまかせてぞみる いけみつのみくさもとらてあをやきのはらふしつえにまかせてそみる | 藤原経衡 | 春上 |
4-後拾 | 76 | あさみどりみだれてなびく青柳の色にぞ春の風もみえける あさみとりみたれてなひくあをやきのいろにそはるのかせもみえける | 藤原元真 | 春上 |
4-後拾 | 77 | 春霞へだつる山の麓までおもひもしらずゆく心かな はるかすみへたつるやまのふもとまておもひしらすもゆくこころかな | 藤原孝善 | 春上 |
4-後拾 | 78 | 山ざくら見に行く道をへだつれば人の心ぞかすみなりける やまさくらみにゆくみちをへたつれはひとのこころそかすみなりける | 藤原隆経 | 春上 |
4-後拾 | 79 | うらやましいる身ともがな梓弓ふしみの里の花のまどゐに うらやましいるみともかなあつさゆみふしみのさとのはなのまとゐに | 皇后宮美作 | 春上 |
4-後拾 | 80 | 小萩さく秋まであらば思ひいでむ嵯峨野をやきし春はその日と こはきさくあきまてあらはおもひいてむさかのをやきしはるはそのひと | 賀茂成助 | 春上 |
4-後拾 | 81 | 桜花さかばちりなむとおもふよりかねても風のいとはしきかな さくらはなさかはちりなむとおもふよりかねてもかせのいとはしきかな | 永源法師 | 春上 |
4-後拾 | 82 | 梅が香を桜の花ににほはせて柳がえだにさかせてしがな うめかかをさくらのはなににほはせてやなきかえたにさかせてしかな | 中原致時 | 春上 |
4-後拾 | 83 | 明けばまづたづねにゆかむ山櫻こればかりだに人に遅れじ あけはまつたつねにゆかむやまさくらこれはかりたにひとにおくれし | 橘元任 | 春上 |
4-後拾 | 84 | 折らばをし折らではいかが山櫻けふをすぐさず君にみすべき をらはをしをらてはいかかやまさくらけふをすくさすきみにみすへき | 源雅通 | 春上 |
4-後拾 | 85 | をらでただかたりにかたれ山櫻風にちるだにをしきにほひを をらてたたかたりにかたれやまさくらかせにちるたにをしきにほひを | 盛少将 | 春上 |
4-後拾 | 86 | 思ひやる心ばかりはさくら花たづぬる人におくれやはする おもひやるこころはかりはさくらはなたつぬるひとにおくれやはする | 一宮駿河 | 春上 |
4-後拾 | 87 | あくがるる心ばかりは山桜たづぬる人にたぐへてぞやる あくかるるこころはかりはやまさくらたつぬるひとにたくへてそやる | 右大臣北方 | 春上 |
4-後拾 | 88 | 今こむとちぎりし人のおなじくは花の盛りをすぐさざらなむ いまこむとちきりしひとのおなしくははなのさかりをすくささらなむ | 源兼澄 | 春上 |
4-後拾 | 89 | いづれをかわきてをらまし山桜こころうつらぬえだしなければ いつれをかわきてをらましやまさくらこころうつらぬえたしなけれは | 祭主輔親 | 春上 |
4-後拾 | 90 | 行きとまる所ぞ春はなかりける花に心のあかぬかぎりは ゆきとまるところそはるはなかりけるはなにこころのあかぬかきりは | 菅原為言 | 春上 |
4-後拾 | 91 | やまざくら心のままにたづねきてかへさぞ道のほどはしらるる やまさくらこころのままにたつねきてかへさそみちのほとはしらるる | 小弁 | 春上 |
4-後拾 | 92 | にほふらむ花のみやこのこひしくてをるにものうき山ざくらかな にほふらむはなのみやこのこひしくてをるにものうきやまさくらかな | 上東門院中将 | 春上 |
4-後拾 | 93 | 東路の人にとはばや白川の関にもかくや花はにほふと あつまちのひとにとははやしらかはのせきにもかくやはなはにほふと | 藤原長家 | 春上 |
4-後拾 | 94 | 見るからに花の名だての身なれども心は雲のうへまでそゆく みるからにはなのなたてのみなれともこころはくものうへまてそゆく | 高岳頼言 | 春上 |
4-後拾 | 95 | 春ごとに見るとはすれど桜花あかでもとしのつもりぬるかな はることにみるとはすれとさくらはなあかてもとしのつもりぬるかな | 大貮實政 | 春上 |
4-後拾 | 96 | さくら花にほふなごりに大かたの春さへをしくおもほゆるかな さくらはなにほふなこりにおほかたのはるさへをしくおもほゆるかな | 能宣 | 春上 |
4-後拾 | 97 | 道とほみ行きてはみねどさくら花こころをやりてけふはかへりぬ みちとほみゆきてはみねとさくらはなこころをやりてけふはくらしつ | 平兼盛 | 春上 |
4-後拾 | 98 | さくら咲く春はよるだになかりせば夢にもものは思はざらまし さくらさくはるはよるたになかりせはゆめにもものはおもはさらまし | 能因法師 | 春上 |
4-後拾 | 99 | うゑおきし人なき宿の桜花にほひばかりぞかはらざりける うゑおきしひとなきやとのさくらはなにほひはかりそかはらさりける | 読人知らず | 春上 |
4-後拾 | 100 | みやこ人いかにととはば見せもせむかの山ざくら一枝もがな みやこひといかかととははみせもせむこのやまさくらひとえたもかな | 和泉式部 | 春上 |
4-後拾 | 101 | 人も見ぬ宿に桜をうゑたれば花もてやつす身とぞなりぬる ひともみぬやとにさくらをうゑたれははなもてやつすみとそなりぬる | 和泉式部 | 春上 |
4-後拾 | 102 | わかやどの桜はかひもなかりけりあるじからこそ人も見にくれ わかやとのさくらはかひもなかりけりあるしからこそひともみにくれ | 和泉式部 | 春上 |
4-後拾 | 103 | 花見にと人は山べに入りはてて春はみやこぞさびしかりける はなみにとひとはやまへにいりはててはるはみやこそさひしかりける | 道命法師 | 春上 |
4-後拾 | 104 | 世の中をなになげかまし山ざくら花見るほどの心なりせば よのなかをなになけかましやまさくらはなみるほとのこころなりせは | 紫式部 | 春上 |
4-後拾 | 105 | 花みてぞ身うきことも忘らるる春はかぎりのなからましかば はなみてそみのうきこともわすらるるはるはかきりのなからましかは | 西園寺公経 | 春上 |
4-後拾 | 106 | わがやどの梢ばかりとみしほどに四方の山べに春はきにけり わかやとのこすゑはかりとみしほとによものやまへにはるはきにけり | 源顕基 | 春上 |
4-後拾 | 107 | おもひつつ夢にぞ見つる桜花春はねざめのなからましかば おもひつつゆめにそみつるさくらはなはるはねさめのなからましかは | 藤原元真 | 春上 |
4-後拾 | 108 | 春のうちはちらぬ桜とみてしがなさてもや風のうしろめたきに はるのうちはちらぬさくらとみてしかなさてもやかせのうしろめたなき | 右大弁通俊 | 春上 |
4-後拾 | 109 | 花みると家路におそく帰るかな待ちどきすぐと妹やいふらむ はなみるといへちにおそくかへるかなまちときすくといもやいふらむ | 平兼盛 | 春上 |
4-後拾 | 110 | ひととせにふたたびもこぬ春なればいとなくけふは花をこそみれ ひととせにふたたひもこぬはるなれはいとなくけふははなをこそみれ | 平兼盛 | 春上 |
4-後拾 | 111 | うらやまし春の宮人うちむれておのがものとや花を見るらむ うらやましはるのみやひとうちむれておのかものとやはなをみるらむ | 良暹法師 | 春上 |
4-後拾 | 112 | 山ざくら白雲にのみまがへばや春の心の空になるらむ やまさくらしらくもにのみまかへはやはるのこころのそらになるらむ | 源縁法師 | 春上 |
4-後拾 | 113 | いにしへの花みし人はたづねしを老は春にもしられざりけり いにしへのはなみしひとはたつねしをおいははるにもしられさりけり | 藤原齊信 | 春上 |
4-後拾 | 114 | 桜花さかりになればふるさとのむぐらのかどもさされざりけり さくらはなさかりになれはふるさとのむくらのかともさされさりけり | 藤原定頼 | 春上 |
4-後拾 | 115 | よそながらをしきさくらのにほひかな誰わがやどの花とみるらむ よそなからをしきさくらのにほひかなたれわかやとのはなとみるらむ | 坂上定成 | 春上 |
4-後拾 | 116 | 春ごとにみれどもあかず山櫻年にや花の咲きまさるらむ はることにみれともあかすやまさくらとしにやはなのさきまさるらむ | 源縁法師 | 春上 |
4-後拾 | 117 | 世の中を思ひすててし身なれども心よわしと花にみえける よのなかをおもひすててしみなれともこころよわしとはなにみえける | 能因法師 | 春上 |
4-後拾 | 118 | よよふとも我わすれめや桜花苔のたもとにちりてかかりし よよふともわれわすれめやさくらはなこけのたもとにちりてかかりし | 能因法師 | 春上 |
4-後拾 | 119 | なにごとを春のかたみに思はましけふ白川の花見ざりせば なにことをはるのかたみにおもはましけふしらかはのはなみさりせは | 伊賀少将 | 春上 |
4-後拾 | 120 | 高砂の尾上の桜さきにけり外山のかすみたたずもあらなむ たかさこのをのへのさくらさきにけりとやまのかすみたたすもあらなむ | 大江匡房 | 春上 |
4-後拾 | 121 | 吉野山八重たつ峯の白雲にかさねてみゆる花ざくらかな よしのやまやへたつみねのしらくもにかさねてみゆるはなさくらかな | 藤原清家 | 春上 |
4-後拾 | 122 | おもひおくことなからまし庭桜ちりての後の舟出なりせば おもひおくことなからましにはさくらちりてののちのふなてなりせは | 藤原通宗 | 春上 |
4-後拾 | 123 | とふ人も宿にはあらじ山ざくらちらでかへりし春しなければ とふひともやとにはあらしやまさくらちらてかへりしはるしなけれは | 良暹法師 | 春上 |
4-後拾 | 124 | ちるまでは旅寝をせなむ木のもとに帰らば花のなだてなるべし ちるまてはたひねをせなむこのもとにかへらははなのなたてなるへし | 加賀左衛門 | 春上 |
4-後拾 | 125 | ちりはてて後やかへらむふるさとも忘られぬべき山ざくらかな ちりはててのちやかへらむふるさともわすられぬへきやまさくらかな | 源道済 | 春上 |
4-後拾 | 126 | わが宿に咲きみちにけり桜花ほかには春もあらじとぞおもふ わかやとにさきみちにけりさくらはなほかにははるもあらしとそおもふ | 源道済 | 春上 |
4-後拾 | 127 | 花もみなちりなむのちは我が宿になににつけてか人をまつべき はなもみなちりなむのちはわかやとになににつけてかひとをまつへき | 具平親王 | 春上 |
4-後拾 | 128 | みちよへてなりけるものをなどてかは桃としもはた名づけそめけむ みちよへてなりけるものをなとてかはももとしもはたなつけそめけむ | 花山院 | 春下 |
4-後拾 | 129 | あかざらばちよまでかざせ桃の花はなもかはらじ春もたえねば あかさらはちよまてかさせもものはなはなもかはらしはるもたえねは | 清原元輔 | 春下 |
4-後拾 | 130 | ふるさとの花のものいふ世なりせばいかに昔のことをとはまし ふるさとのはなのものいふよなりせはいかにむかしのことをとはまし | 出羽弁 | 春下 |
4-後拾 | 131 | 桜花あかぬあまりに思ふかな散らずば人や惜しまざらまし さくらはなあかぬあまりにおもふかなちらすはひとやをしまさらまし | 藤原頼宗 | 春下 |
4-後拾 | 132 | 惜しめども散りもとまらぬ花ゆゑに春は山辺をすみかにぞする をしめともちりもとまらぬはなゆゑにはるはやまへをすみかにそする | 内大臣 | 春下 |
4-後拾 | 133 | ももとせに散らずもあらなむ桜花あかぬ心はいつかたゆべき よとともにちらすもあらなむさくらはなあかぬこころはいつかたゆへき | 平兼盛 | 春下 |
4-後拾 | 134 | 桜花まだきな散りそ何により春をば人の惜しむとか知る さくらはなまたきなちりそなにによりはるをはひとのをしむならぬに | 大中臣能宣 | 春下 |
4-後拾 | 135 | 山里に散りはてぬべき花ゆゑに誰とはなくて人ぞまたるる やまさとにちりはてぬへきはなゆゑにたれとはなくてひとそまたるる | 源道済 | 春下 |
4-後拾 | 136 | しめゆひしそのかみならば桜花をしまれつつやけふはちらまし しめゆひしそのかみならはさくらはなをしまれつつやけふはちらまし | 右大弁通俊 | 春下 |
4-後拾 | 137 | 桜花道みえぬまで散りにけりいかがはすべき志賀の山ごえ さくらはなみちみえぬまてちりにけりいかかはすへきしかのやまこえ | 橘成元 | 春下 |
4-後拾 | 138 | 桜ちるとなりにいとふ春風は花なき宿ぞうれしかりける さくらちるとなりにいとふはるかせははななきやとそうれしかりける | 坂上定成 | 春下 |
4-後拾 | 139 | 花のかげたたまくをしきこよひかな錦をさらす庭とみえつつ はなのかけたたまくをしきこよひかなにしきをさらすにはとみえつつ | 清原元輔 | 春下 |
4-後拾 | 140 | をしむにはちりもとまらで桜花あかぬ心ぞときはなりける をしむにはちりもとまらてさくらはなあかぬこころそときはなりける | 藤原通宗 | 春下 |
4-後拾 | 141 | 心らものをこそおもへ山ざくら尋ねざりせば散るを見ましや こころからものをこそおもへやまさくらたつねさりせはちるをみましや | 永源法師 | 春下 |
4-後拾 | 142 | うらやましいかなる花か散りにけむ物おもふ身しもよには残りて うらやましいかなるはなかちりにけむものおもふみしもよにはのこりて | 土御門御匣殿 | 春下 |
4-後拾 | 143 | ふく風ぞおもへばつらき桜花こころとちれる春しなければ ふくかせそおもへはつらきさくらはなこころとちれるはるしなけれは | 大貮三位 | 春下 |
4-後拾 | 144 | 年をへて花に心をくだくかな惜しむにとまる春はなけれど としをへてはなにこころをくたくかなをしむにとまるはるはなけれと | 藤原定頼 | 春下 |
4-後拾 | 145 | ここにこぬ人もみよとて桜花水の心にまかせてぞやる ここにこぬひともみよとてさくらはなみつのこころにまかせてそやる | 大江嘉言 | 春下 |
4-後拾 | 146 | 行く末もせきとどめばや白川の水とともにぞ春もゆきける ゆくすゑをせきととめはやしらかはのみつとともにそはるもゆきける | 源師房 | 春下 |
4-後拾 | 147 | おくれても咲くべき花は咲きにけり身をかぎりともおもひけるかな おくれてもさくへきはなはさきにけりみをかきりともおもひけるかな | 藤原為時 | 春下 |
4-後拾 | 148 | 風だにもふきはらはずば庭桜ちるとも春のうちはみてまし かせたにもふきはらはすはにはさくらちるともはるのほとはみてまし | 和泉式部 | 春下 |
4-後拾 | 149 | 野辺みれば弥生の月のはつるまでまだうら若きさいたづまかな のへみれはやよひのつきのはつかまてまたうらわかきさいたつまかな | 藤原義孝 | 春下 |
4-後拾 | 150 | 岩つつじ折りもてぞ見るせこがきし紅染めの色ににたれば いはつつしをりもてそみるせこかきしくれなゐそめのいろににたれは | 和泉式部 | 春下 |
4-後拾 | 151 | わぎもこが紅染めの色とみてなづさはれぬる岩つつじかな わきもこかくれなゐそめのいろとみてなつさはれぬるいはつつしかな | 藤原義孝 | 春下 |
4-後拾 | 152 | 藤の花さかりとなれば庭の面におもひもかけぬ浪ぞたちける ふちのはなさかりとなれはにはのおもにおもひもかけぬなみそたちける | 大中臣能宣 | 春下 |
4-後拾 | 153 | むらさきにやしほそめたる藤の花池にはひさすものにぞありける むらさきにやしほそめたるふちのはないけにはひさすものにそありける | 斎宮女御 | 春下 |
4-後拾 | 154 | 藤の花をりてかざせばこむらさき我がもとゆひの色やそふらむ ふちのはなをりてかさせはこむらさきわかもとゆひのいろやそふらむ | 源為善 | 春下 |
4-後拾 | 155 | 水底もむらさきふかくみゆるかな岸のいはねにかかるふぢなみ みなそこもむらさきふかくみゆるかなきしのいはねにかかるふちなみ | 大納言實季 | 春下 |
4-後拾 | 156 | すみの江の松のみどりもむらさきの色にぞかくる岸の藤なみ すみのえのまつのみとりもむらさきのいろにそかくるきしのふちなみ | 読人知らず | 春下 |
4-後拾 | 157 | 道とほし井手へもゆかじこの里も八重やはさかぬ山吹の花 みちとほみゐてへもゆかしこのさともやへやはさかぬやまふきのはな | 藤原伊家 | 春下 |
4-後拾 | 158 | 沼水にかはづなくなりむべしこそ岸の山吹さかりなりけれ ぬまみつにかはつなくなりうへしこそきしのやまふきさかりなりけれ | 大貮高遠 | 春下 |
4-後拾 | 159 | みがくれてすだくかはづのもろ聲にさわぎぞわたる井手のうき草 みかくれてすたくかはつのもろこゑにさわきそわたるゐてのかはなみ | 良暹法師 | 春下 |
4-後拾 | 160 | 聲たえずさへづれのべの百千鳥のこりすくなき春にやはあらぬ こゑたえすさへつれのへのももちとりのこりすくなきはるにやはあらぬ | 藤原長能 | 春下 |
4-後拾 | 161 | われひとりきくものならばよぶこ鳥ふた聲まではなかせざらまし われひとりきくものならはよふことりふたこゑまてはなかせさらまし | 法圓法師 | 春下 |
4-後拾 | 162 | ほととぎすおもひもかけぬ春なけばことしぞまたで初音ききつる ほとときすおもひもかけぬはるなけはことしそまたてはつねききつる | 藤原定頼 | 春下 |
4-後拾 | 163 | ほととぎすなかずばなかずいかにして暮れ行く春をまたもくはへむ ほとときすなかすはなかすいかにしてくれゆくはるをまたもくはへむ | 大中臣能宣 | 春下 |
4-後拾 | 164 | おもひいづる事のみしげき野辺にきてまた春にさへ別れぬるかな おもひいつることのみしけきのへにきてまたはるにさへわかれぬるかな | 永胤法師 | 春下 |
4-後拾 | 165 | 桜色に染めし衣をぬぎかへて山ほととぎすけふよりぞまつ さくらいろにそめしころもをぬきかへてやまほとときすけふよりそまつ | 和泉式部 | 夏 |
4-後拾 | 166 | きのふまでをしみし花は忘られてけふはまたるるほととぎすかな きのふまてをしみしはなもわすられてけふはまたるるほとときすかな | 藤原明衡 | 夏 |
4-後拾 | 167 | わがやどの梢の夏になるときは生駒の山ぞみえずなりける わかやとのこすゑのなつになるときはいこまのやまそみえすなりぬる | 能因法師 | 夏 |
4-後拾 | 168 | 夏草はむすぶばかりになりにけり野かひし駒やあくがれぬらむ なつくさはむすふはかりになりにけりのかひしこまやあくかれぬらむ | 源重之 | 夏 |
4-後拾 | 169 | さかきとる卯月になれば神山の楢のはがしはもとつはもなし さかきとるうつきになれはかみやまのならのはかしはもとつはもなし | 曾禰好忠 | 夏 |
4-後拾 | 170 | 八重しげるむぐらの門のいぶせきにさらずや何をたたく水鶏ぞ やへしけるむくらのかとのいふせさにささすやなにをたたくくひなそ | 大中臣輔弘 | 夏 |
4-後拾 | 171 | あとたえてくる人もなき山里に我のみみよとさける卯の花 あとたえてとふひともなきやまさとにわれのみみよとさけるうのはな | 藤原通宗 | 夏 |
4-後拾 | 172 | 白浪の音せでたつとみえつるは卯の花さける垣根なりけり しらなみのおとせてたつとみえつるはうのはなさけるかきねなりけり | 読人知らず | 夏 |
4-後拾 | 173 | 月影を色にてさける卯の花はあけばありあけのここちこそせめ つきかけをいろにてさけるうのはなはあけはありあけのここちこそせめ | 読人知らず | 夏 |
4-後拾 | 174 | 卯の花のさけるあたりは時ならぬ雪ふる里の垣根とぞみる うのはなのさけるあたりはときならぬゆきふるさとのかきねとそみる | 大中臣能宣 | 夏 |
4-後拾 | 175 | みわたせばなみのしがらみかけてけり卯の花さける玉川の里 みわたせはなみのしからみかけてけりうのはなさけるたまかはのさと | 相模 | 夏 |
4-後拾 | 176 | 卯の花のさけるかきねは白浪の立田の川のゐせきとぞみる うのはなのさけるさかりはしらなみのたつたのかはのゐせきとそみる | 伊勢大輔 | 夏 |
4-後拾 | 177 | 雪とのみあやまたれつつ卯の花に冬ごもれりとみゆる山里 ゆきとのみあやまたれつつうのはなにふゆこもれりとみゆるやまさと | 源道済 | 夏 |
4-後拾 | 178 | わがやどのかきねなすぎそほととぎすいづれの里もおなじ卯の花 わかやとのかきねなすきそほとときすいつれのさともおなしうのはな | 元慶法師 | 夏 |
4-後拾 | 179 | ほととぎすわれはまたでぞこころみるおもふことのみたがふ身なれば ほとときすわれはまたてそこころみるおもふことのみたかふみなれは | 慶範法師 | 夏 |
4-後拾 | 180 | ほととぎすたづぬばかりのなのみしてきかずばさてや宿にかへらむ ほとときすたつぬはかりのなのみしてきかすはさてややとにかへらむ | 藤原頼宗 | 夏 |
4-後拾 | 181 | ここにわがきかまほしきをあしひきの山ほととぎすいかになくらむ ここにわかきかまほしきをあしひきのやまほとときすいかになくらむ | 藤原尚忠 | 夏 |
4-後拾 | 182 | あしひきの山ほととぎすのみならずおほかた鳥のこゑもきこえず あしひきのやまほとときすのみならすおほかたとりのこゑもきこえす | 道命法師 | 夏 |
4-後拾 | 183 | きかばやなその神山のほととぎすありし昔のおなじこゑかと きかはやなそのかみやまのほとときすありしむかしのおなしこゑかと | 皇后宮美作 | 夏 |
4-後拾 | 184 | ほととぎすなのりしてこそしらるなれたづねぬ人につげややらまし ほとときすなのりしてこそしらるなれたつねぬひとにつけややらまし | 備前典侍 | 夏 |
4-後拾 | 185 | ききすてて君が来にけむほととぎすたづねにわれは山路こえみむ ききすててきみかきにけむほとときすたつねにわれはやまちこえみむ | 大中臣能宣 | 夏 |
4-後拾 | 186 | このころはねてのみぞまつほととぎすしばしみやこのものがたりせよ このころはねてのみそまつほとときすしはしみやこのものかたりせよ | 増基法師 | 夏 |
4-後拾 | 187 | 宵のまはまどろみなましほととぎす明けてきなくとかねてしりせば よひのまはまとろみなましほとときすあけてきなくとかねてしりせは | 橘資成 | 夏 |
4-後拾 | 188 | ききつともきかずともなくほととぎす心まどはす小夜のひとこゑ ききつともきかすともなくほとときすこころまとはすさよのひとこゑ | 伊勢大輔 | 夏 |
4-後拾 | 189 | 夜だにあけば尋ねてきかむほととぎす信太の杜のかたになくなり よたにあけはたつねてきかむほとときすしのたのもりのかたになくなり | 能因法師 | 夏 |
4-後拾 | 190 | 夏の夜はさてもやなくとほととぎすふたこゑきける人にとはばや なつのよはさてもやねぬとほとときすふたこゑきけるひとにとははや | 藤原兼房 | 夏 |
4-後拾 | 191 | ねぬよこそ數つもりぬれほととぎすきくほどもなきひとこゑにより ねぬよこそかすつもりぬれほとときすきくほともなきひとこゑにより | 小弁 | 夏 |
4-後拾 | 192 | ありあけの月だにあれや郭公ただひとこゑのゆくかたもみむ ありあけのつきたにあれやほとときすたたひとこゑのゆくかたもみむ | 藤原頼通 | 夏 |
4-後拾 | 193 | なかぬ夜もなく夜も更にほととぎすまつとてやすくいやはねらるる なかぬよもなくよもさらにほとときすまつとてやすくいやはねらるる | 赤染衛門 | 夏 |
4-後拾 | 194 | 夜もすがら待ちつるものをほととぎすまただになかで過ぎぬなるかな よもすからまちつるものをほとときすまたたになかてすきぬなるかな | 赤染衛門 | 夏 |
4-後拾 | 195 | 東路おもひいでにせむほととぎすおいそのもりの夜半の一聲 あつまちのおもひいてにせむほとときすおいそのもりのよはのひとこゑ | 大江公資 | 夏 |
4-後拾 | 196 | ききつるや初音なるらむほととぎす老いはねざめぞうれしかりける ききつるやはつねなるらむほとときすおいはねさめそうれしかりける | 法橋忠命 | 夏 |
4-後拾 | 197 | いづかたとききだにわかずほととぎすただひとこゑのこころまよひに いつかたとききたにわかすほとときすたたひとこゑのこころまとひに | 大江嘉言 | 夏 |
4-後拾 | 198 | ほととぎす待つ程とこそ思ひつれききての後もねられざりけり ほとときすまつほととこそおもひつれききてののちもねられさりけり | 道命法師 | 夏 |
4-後拾 | 199 | ほととぎす夜ふかき聲をきくのみぞ物思ふ人のとり所なる ほとときすよふかきこゑをきくのみそものおもふひとのとりところなる | 道命法師 | 夏 |
4-後拾 | 200 | 一こゑもききがたかりしほととぎすともになく身となりにけるかな ひとこゑもききかたかりしほとときすともになくみとなりにけるかな | 律師長済 | 夏 |
4-後拾 | 201 | ほととぎす来鳴かぬよひのしるからば寝る夜もひとよあらましものを ほとときすきなかぬよひのしるからはぬるよもひとよあらましものを | 能因法師 | 夏 |
4-後拾 | 202 | またぬ夜もまつ夜も聞きつほととぎす花たちばなの匂ふあたりは またぬよもまつよもききつほとときすはなたちはなのにほふあたりは | 大弐三位 | 夏 |
4-後拾 | 203 | ねてのみや人はまつらむほととぎす物思ふやどは聞かぬ夜ぞなき ねてのみやひとはまつらむほとときすものおもふやとはきかぬよそなき | 小弁 | 夏 |
4-後拾 | 204 | 御田屋守けふはさつきになりにけりいそげや早苗おいもこそすれ みたやもりけふはさつきになりにけりいそけやさなへおいもこそすれ | 曾禰好忠 | 夏 |
4-後拾 | 205 | 五月雨に日も暮れぬめり道遠み山田の早苗とりもはてぬに さみたれにひもくれぬめりみちとほみやまたのさなへとりもはてぬに | 藤原隆資 | 夏 |
4-後拾 | 206 | 五月雨はみづのみまきのまこも草かりほすひまもあらじとぞおもふ さみたれはみつのみまきのまこもくさかりほすひまもあらしとそおもふ | 相模 | 夏 |
4-後拾 | 207 | さみだれはみえしをざさの原もなし浅香の沼の心地のみして さみたれはみえしをささのはらもなしあさかのぬまのここちのみして | 藤原範永 | 夏 |
4-後拾 | 208 | つれづれと音たえせぬは五月雨の軒のあやめの雫なりけり つれつれとおとたえせぬはさみたれののきのあやめのしつくなりけり | 橘俊綱 | 夏 |
4-後拾 | 209 | 五月雨のをやむけしきの見えぬかなにはたづみのみ數まさりつつ さみたれのをやむけしきのみえぬかなにはたつみのみかすまさりつつ | 叡覺法師 | 夏 |
4-後拾 | 210 | 香をとめてとふ人あるをあやめ草あやしく駒のすさめざりけり かをとめてとふひとあるをあやめくさあやしくこまのすさへさりける | 恵慶法師 | 夏 |
4-後拾 | 211 | つくま江の底の深さをよそながらひけるあやめのねにてしるかな つくまえのそこのふかさをよそなからひけるあやめのねにてしるかな | 良暹法師 | 夏 |
4-後拾 | 212 | ねやの上に根ざしとどめよあやめ草たづねてひくも同じよどのを ねやのうへにねさしととめよあやめくさたつねてひくもおなしよとのを | 大中臣輔弘 | 夏 |
4-後拾 | 213 | けふもけふあやめもあやめ変らぬに宿こそありし宿とおぼえね けふもけふあやめもあやめかはらぬにやとこそありしやととおほえね | 伊勢大輔 | 夏 |
4-後拾 | 214 | さみだれの空なつかしく匂ふかな花たちばなに風や吹くらむ さみたれのそらなつかしくにほふかなはなたちはなにかせやふくらむ | 相模 | 夏 |
4-後拾 | 215 | 昔をば花たちばなのなかりせばなににつけてか思ひいでまし むかしをははなたちはなのなかりせはなににつけてかおもひいてまし | 大貮高遠 | 夏 |
4-後拾 | 216 | おともせで思ひにもゆる蛍こそ鳴く虫よりも哀れなりけれ おともせておもひにもゆるほたるこそなくむしよりもあはれなりけれ | 源重之 | 夏 |
4-後拾 | 217 | 澤水に空なる星の映るかと見ゆるは夜半の蛍なりけり さはみつにそらなるほしのうつるかとみゆるはよはのほたるなりけり | 藤原良経 | 夏 |
4-後拾 | 218 | ひとへなる蝉のはごろも夏はなほうすしといへどあつくぞありける ひとへなるせみのはころもなつはなほうすしといへとあつくそありける | 能因法師 | 夏 |
4-後拾 | 219 | 夏刈りの玉江のあしをふみしだき群れゐる鳥のたつ空ぞなき なつかりのたまえのあしをふみしたきむれゐるとりのたつそらそなき | 源重之 | 夏 |
4-後拾 | 220 | なつごろも立田河原の柳かげ涼みにきつつならすころかな なつころもたつたかはらのやなきかけすすみにきつつならすころかな | 曾禰好忠 | 夏 |
4-後拾 | 221 | 夏の日になるまできえぬ冬こほり春立つ風やよきて吹くらむ なつのひになるまてきえぬふゆこほりはるたつかせやよきてふきけむ | 源頼實 | 夏 |
4-後拾 | 222 | 夏の夜の月はほどなくいりぬともやどれる水に影はとめなむ なつのよのつきはほとなくいりぬともやとれるみつにかけをとめなむ | 源師房 | 夏 |
4-後拾 | 223 | 何をかはあくるしるしと思ふべきひるもかはらぬ夏の夜の月 なにをかはあくるしるしとおもふへきひるにかはらぬなつのよのつき | 大貮資通 | 夏 |
4-後拾 | 224 | 夏の夜もすずしかりけり月影は庭しろたへの霜とみえつつ なつのよもすすしかりけりつきかけはにはしろたへのしもとみえつつ | 藤原長家 | 夏 |
4-後拾 | 225 | とこなつの匂へる庭はから國におれる錦もしかじとぞ見る とこなつのにほへるにははからくににおれるにしきもしかしとそおもふ | 藤原定頼 | 夏 |
4-後拾 | 226 | いかならむこよひの雨にとこなつの今朝だに露のおもげなりる いかならむこよひのあめにとこなつのけさたにつゆのおもけなりつる | 能因法師 | 夏 |
4-後拾 | 227 | きてみよと妹が家路につげやらむわれひとりぬるとこなつの花 きてみよといもかいへちにつけやらむわかひとりぬるとこなつのはな | 曾禰好忠 | 夏 |
4-後拾 | 228 | 夏ふかくなりぞしにける大荒木の杜の下草なべて人かる なつふかくなりそしにけるおほあらきのもりのしたくさなへてひとかる | 平兼盛 | 夏 |
4-後拾 | 229 | ほどもなく夏の涼しくなりぬるは人にしられで秋やきぬらむ ほともなくなつのすすしくなりぬるはひとにしられてあきやきぬらむ | 藤原頼宗 | 夏 |
4-後拾 | 230 | 夏の夜のありあけの月をみるほどに秋をもまたで風ぞすずしき なつのよのありあけのつきをみるほとにあきをもまたてかせそすすしき | 内大臣師通 | 夏 |
4-後拾 | 231 | 夏山のならのはそよぐ夕暮れはことしも秋のここちこそすれ なつやまのならのはそよくゆふくれはことしもあきのここちこそすれ | 源頼綱 | 夏 |
4-後拾 | 232 | 紅葉せばあかくなりなむ小倉山秋まつほどのなにこそありけれ もみちせはあかくなりなむをくらやまあきまつほとのなにこそありけれ | 大中臣能宣 | 夏 |
4-後拾 | 233 | 小夜ふかき岩井の水の音きけばむすばぬ袖もすずしかりけり さよふかきいつみのみつのおときけはむすはぬそてもすすしかりけり | 源師賢 | 夏 |
4-後拾 | 234 | みなかみもあらぶる心あらじかし浪もなごしのみそぎしつれば みなかみもあらふるこころあらしかしなみもなこしのはらへしつれは | 伊勢大輔 | 夏 |
4-後拾 | 235 | うちつけにたもとすずしくおぼゆるは衣に秋はきたるなりけり うちつけにたもとすすしくおほゆるはころもにあきはきたるなりけり | 読人知らず | 秋上 |
4-後拾 | 236 | あさぢはら玉まく葛のうら風のうらがなしかる秋は来にけり あさちはらたままくくすのうらかせのうらかなしかるあきはきにけり | 恵慶法師 | 秋上 |
4-後拾 | 237 | おほかたの秋くるからに身に近くならすあふぎの風ぞすずしき おほかたのあきくるからにみにちかくならすあふきのかせそすすしき | 藤原為頼 | 秋上 |
4-後拾 | 238 | ひととせの過ぎつるよりも七夕のこよひをいかにあかしかぬらむ ひととせのすきつるよりもたなはたのこよひをいかにあかしかぬらむ | 小弁 | 秋上 |
4-後拾 | 239 | いとどしく露けかるらむたなばたのねぬ夜にあへる天の羽衣 いととしくつゆけかるらむたなはたのねぬよにあへるあまのはころも | 大江佐経 | 秋上 |
4-後拾 | 240 | たなばたはあさひくいとのみだれつつとくとやけふの暮をまつらむ たなはたはあさひくいとのみたれつつとくとやけふのくれをまつらむ | 小左近 | 秋上 |
4-後拾 | 241 | たなばたは雲の衣を引きかさねかへさでぬるやこよひなるらむ たなはたはくものころもをひきかさねかへさてぬるやこよひなるらむ | 藤原頼宗 | 秋上 |
4-後拾 | 242 | 天の河とわたる舟のかぢのはにおもふことをもかきつくるかな あまのかはとわたるふねのかちのはにおもふことをもかきつくるかな | 上總乳母 | 秋上 |
4-後拾 | 243 | 秋の夜を長きものとは星合の影みぬ人のいふにぞありける あきのよをなかきものとはほしあひのかけみぬひとのいふにそありける | 能因法師 | 秋上 |
4-後拾 | 244 | 七夕のあふ夜の數のわびつつも来る月ごとの七日なりせば たなはたのあふよのかすのわひつつもくるつきことのなぬかなりせは | 橘元任 | 秋上 |
4-後拾 | 245 | 待ちえたる一夜ばかりを七夕のあひ見ぬほどと思はましかば まちえたるひとよはかりをたなはたのあひみぬよはとおもはましかは | 藤原通房 | 秋上 |
4-後拾 | 246 | 忘れにし人にみせばや天の河いまれしほしの心ながさを わすれにしひとにみせはやあまのかはいまれしほしのこころなかさを | 新左衛門 | 秋上 |
4-後拾 | 247 | たまさかにあふことよりも七夕はけふまつるをやめづらしとみる たまさかにあふことよりもたなはたはけふまつるをやめつらしとみる | 小弁 | 秋上 |
4-後拾 | 248 | いそぎつつ我こそきつれ山里にいつよりすめる秋の月ぞも いそきつつわれこそきつれやまさとにいつよりすめるあきのつきそも | 藤原家経 | 秋上 |
4-後拾 | 249 | 忘れにし人もとひけり秋の夜は月いでばとこそ待つべかりけれ わすれにしひともとひけりあきのよはつきいてはとこそまつへかりけれ | 左近中将公実 | 秋上 |
4-後拾 | 250 | 秋の夜の月みにいでて夜は更けぬ我も有明のいらであかさむ あきのよのつきみにいててよはふけぬわれもありあけのいらてあかさむ | 大弐高遠 | 秋上 |
4-後拾 | 251 | にごりなく千世をかぞへてすむ水に光をそふる秋の夜の月 にこりなくちよをかそへてすむみつにひかりをそふるあきのよのつき | 平兼盛 | 秋上 |
4-後拾 | 252 | 大空の月の光しあかければまきの板戸も秋はさされず おほそらのつきのひかりしあかけれはまきのいたともあきはさされす | 源為善 | 秋上 |
4-後拾 | 253 | すだきけむ昔の人もなきやどにただかげするは秋の夜の月 すたきけむむかしのひともなきやとにたたかけするはあきのよのつき | 恵慶法師 | 秋上 |
4-後拾 | 254 | 身をつめばいるもをしまじ秋の月やまのあなたの人もまつらむ みをつめはいるもをしましあきのつきやまのあなたのひともまつらむ | 永源法師 | 秋上 |
4-後拾 | 255 | よそなりし雲の上にて見る時も秋の月にはあかずぞありける よそなりしくものうへにてみるときもあきのつきにはあかすそありける | 源道済 | 秋上 |
4-後拾 | 256 | いつもみる月ぞと思へど秋の夜はいかなる影をそふるなるらん いつもみるつきそとおもへとあきのよはいかなるかけをそふるなるらむ | 藤原長能 | 秋上 |
4-後拾 | 257 | すむとても幾夜もあらじ世の中にくもりがちなる秋の夜の月 すむとてもいくよもすましよのなかにくもりかちなるあきのよのつき | 藤原公任 | 秋上 |
4-後拾 | 258 | すむ人もなき山里の秋の夜は月のひかりもさびしかりけり すむひともなきやまさとのあきのよはつきのひかりもさひしかりけり | 藤原範永 | 秋上 |
4-後拾 | 259 | とふ人も暮るればかへる山里にもろともにすむ秋の夜の月 とふひともくるれはかへるやまさとにもろともにすむあきのよのつき | 素意法師 | 秋上 |
4-後拾 | 260 | しろたへの衣の袖を霜かとてはらへば月の光なりけり しろたへのころものそてをしもかとてはらへはつきのひかりなりけり | 藤原國行 | 秋上 |
4-後拾 | 261 | いにしへの月かかりせば葛城の神はよるともちぎらざらまし いにしへのつきかかりせはかつらきのかみはよるともちきらさらまし | 惟宗為経 | 秋上 |
4-後拾 | 262 | 夜もすがら空すむ月を眺むれば秋は明くるも知られざりけり よもすからそらすむつきをなかむれはあきはあくるもしられさりけり | 藤原頼宗 | 秋上 |
4-後拾 | 263 | うきままに厭ひし身こそ惜しまるれ有ればぞ見ける秋の夜の月 うきままにいとひしみこそをしまるれあれはそみけるあきのよのつき | 藤原隆成 | 秋上 |
4-後拾 | 264 | こよひこそよにある人はゆかしけれいづこもかくや月を見るらん こよひこそよにあるひとはゆかしけれいつこもかくやつきをみるらむ | 赤染衛門 | 秋上 |
4-後拾 | 265 | 秋もあきこよひもこよひ月もつき所もところみる君もきみ あきもあきこよひもこよひつきもつきところもところみるきみもきみ | 読人知らず | 秋上 |
4-後拾 | 266 | いろいろの花のひもとく夕暮に千世松むしのこゑぞきこゆる いろいろのはなのひもとくゆふくれにちよまつむしのこゑそきこゆる | 清原元輔 | 秋上 |
4-後拾 | 267 | とやかへりわがてならししはし鷹のくるときこゆる鈴虫の聲 とやかへりわかてならししはしたかのくるときこゆるすすむしのこゑ | 大江公資 | 秋上 |
4-後拾 | 268 | 年へぬる秋にもあかず鈴虫のふり行くままに聲のまされば としへぬるあきにもあかすすすむしのふりゆくままにこゑのまされは | 藤原公任 | 秋上 |
4-後拾 | 269 | たづねくる人もあらなん年をへてわがふるさとのすずむしの聲 たつねくるひともあらなむとしをへてわかふるさとのすすむしのこゑ | 四條中宮 | 秋上 |
4-後拾 | 270 | ふるさとは浅茅が原と荒れ果てて夜すがら虫の音をのみぞなく ふるさとはあさちかはらとあれはててよすからむしのねをのみそなく | 道命法師 | 秋上 |
4-後拾 | 271 | あさぢふの秋の夕暮なくむしは我がごとしたにものや悲しき あさちふのあきのゆふくれなくむしはわかことしたにものやかなしき | 平兼盛 | 秋上 |
4-後拾 | 272 | 秋風に聲よわり行く鈴虫のつひにはいかがならんとすらん あきかせにこゑよわりゆくすすむしのつひにはいかかならむとすらむ | 大江匡衡 | 秋上 |
4-後拾 | 273 | なけやなけ蓬が袖のきりぎりす過ぎ行く秋はげにぞかなしき なけやなけよもきかそまのきりきりすすきゆくあきはけにそかなしき | 曾禰好忠 | 秋上 |
4-後拾 | 274 | わぎもこがかけてまつらん玉づさをかきつらねたる初雁の聲 わきもこかかけてまつらむたまつさをかきつらねたるはつかりのこゑ | 藤原長能 | 秋上 |
4-後拾 | 275 | おきもゐぬわがとこよこそ悲しけれ春かへりにし雁も鳴くなり おきもゐぬわかとこよこそかなしけれはるかへりにしかりもなくなり | 赤染衛門 | 秋上 |
4-後拾 | 276 | さよふかく旅の空にてなくかりはおのが羽風や夜寒なるらん さよふかくたひのそらにてなくかりはおのかはかせやよさむなるらむ | 伊勢大輔 | 秋上 |
4-後拾 | 277 | さして行く道も忘れてかりがねのきこゆるかたに心をぞやる さしてゆくみちもわすれてかりかねのきこゆるかたにこころをそやる | 白河院 | 秋上 |
4-後拾 | 278 | あふさかの関の杉むら引くほどはをぶちにみゆる望月の駒 あふさかのせきのすきむらひくほとはをふちにみゆるもちつきのこま | 良暹法師 | 秋上 |
4-後拾 | 279 | みちのくのあだちの駒はなづめどもけふ逢坂の関まではきぬ みちのくのあたちのこまはなつめともけふあふさかのせきまてはきぬ | 源縁法師 | 秋上 |
4-後拾 | 280 | 望月の駒引く時はあふさかの木の下やみも見えずぞありける もちつきのこまひくときはあふさかのこのしたやみもみえすそありける | 惠慶法師 | 秋上 |
4-後拾 | 281 | 暮れゆけば浅茅が原の虫の音もをのへの鹿も聲たてつなり くれゆけはあさちかはらのむしのねもをのへのしかもこゑたてつなり | 源頼家 | 秋上 |
4-後拾 | 282 | 鹿の音に秋をしるかな高砂のをのへの松はみどりなれども しかのねにあきをしるかなたかさこのをのへのまつはみとりなれとも | 涼 | 秋上 |
4-後拾 | 283 | かひもなき心地こそすれさを鹿のたつ聲もせぬ萩のにしきは かひもなきここちこそすれさをしかのたつこゑもせぬはきのにしきは | 白河院 | 秋上 |
4-後拾 | 284 | 秋はぎのさくにしもなど鹿の鳴くうつろふ花はおのが妻かも あきはきのさくにしもなとしかのなくうつろふはなはおのかつまかも | 大中臣能宣 | 秋上 |
4-後拾 | 285 | 秋萩をしがらみふする鹿の音をねたきものからまづぞききつる あきはきをしからみふするしかのねをねたきものからまつそききつる | 源為善 | 秋上 |
4-後拾 | 286 | 籬なる萩の下葉の色を見て思ひやりつつ鹿ぞ鳴くなる まかきなるはきのしたはのもみちみておもひやりつるしかそなくなる | 安法法師 | 秋上 |
4-後拾 | 287 | 秋はなほ我が身ならねど高砂のをのへの鹿の妻ぞこふらし あきはなほわかみならねとたかさこのをのへのしかもつまそこふらし | 能因法師 | 秋上 |
4-後拾 | 288 | こよひこそ鹿のね近くきこゆなれやがて垣根は秋の野なれば こよひこそしかのねちかくきこゆなれやかてかきほはあきののなれは | 叡覚法師 | 秋上 |
4-後拾 | 289 | 宮城野に妻とふ鹿ぞさけぶなる本あらの萩に露やさむけき みやきのにつまよふしかそさけふなるもとあらのはきにつゆやさむけき | 藤原長能 | 秋上 |
4-後拾 | 290 | 秋霧の晴れせぬみねに立つ鹿は聲ばかりこそ人にしらるれ あききりのはれせぬみねにたつしかはこゑはかりこそひとにしらるれ | 大弐三位 | 秋上 |
4-後拾 | 291 | 鹿の音ぞ寝覚めの床にきこゆなるをのの草臥露や置くらん しかのねそねさめのとこにかよふなるをののくさふしつゆやおくらむ | 藤原家経 | 秋上 |
4-後拾 | 292 | 小倉山たちどもみえぬ夕霧に妻まどはせる鹿ぞなくなる をくらやまたちともみえぬゆふきりにつままとはせるしかそなくなる | 江侍従 | 秋上 |
4-後拾 | 293 | 晴れずのみ物ぞ悲しき秋霧は心のうちに立つにやあるらん はれすのみものそかなしきあききりはこころのうちにたつにやあるらむ | 和泉式部 | 秋上 |
4-後拾 | 294 | のこりなき命を惜しと思ふかな宿の秋はぎ散りはつるまで のこりなきいのちををしとおもふかなやとのあきはきちりはつるまて | 天台座主源心 | 秋上 |
4-後拾 | 295 | おきあかし見つつながむる萩の上の露ふきみだる秋の夜の風 おきあかしみつつなかむるはきのうへのつゆふきみたるあきのよのかせ | 伊勢大輔 | 秋上 |
4-後拾 | 296 | 思ふことなけれどぬれぬ我が袖はうたたある野邊の萩の露かな おもふことなけれとぬれぬわかそてはうたたあるのへのはきのつゆかな | 能因法師 | 秋上 |
4-後拾 | 297 | まだ宵にねたる萩かなおなじえにやがて置きゐる露もこそあれ またよひにねたるはきかなおなしえにやかておきゐるつゆもこそあれ | 新左衛門 | 秋上 |
4-後拾 | 298 | 人しれず物をや思ふ秋萩のねたるかほにて露ぞこぼるる ひとしれすものをやおもふあきはきのねたるかほにてつゆそこほるる | 中納言女王 | 秋上 |
4-後拾 | 299 | かぎりあらん仲ははかなくなりぬとも露けき萩の上をだにとへ かきりあらむなかははかなくなりぬともつゆけきはきのうへをたにとへ | 和泉式部 | 秋上 |
4-後拾 | 300 | 白露も心おきてや思ふらんぬしもたづねぬ宿の秋萩 しらつゆもこころおきてやおもふらむぬしもたつねぬやとのあきはき | 筑前乳母 | 秋上 |
4-後拾 | 301 | おく露にたわむ枝だにあるものをいかでか折らん宿の秋萩 おくつゆにたわむえたたにあるものをいかてかをらむやとのあきはき | 橘則長 | 秋上 |
4-後拾 | 302 | 君なくて荒れたる宿の浅茅生に鶉なくなり秋の夕暮 きみなくてあれたるやとのあさちふにうつらなくなりあきのゆふくれ | 源時綱 | 秋上 |
4-後拾 | 303 | 秋風にしたばや寒くなりぬらん小萩が原に鶉なくなり あきかせにしたはやさむくなりぬらむこはきかはらにうつらなくなり | 藤原通宗 | 秋上 |
4-後拾 | 304 | けさきつる野原の露に我ぬれぬうつりやしぬる萩が花ずり けさきつるのはらのつゆにわれぬれぬうつりやしぬるはきかはなすり | 藤原範永 | 秋上 |
4-後拾 | 305 | いはれ野の萩のあさ露分け行けば恋せし袖の心地こそすれ いはれののはきのあさつゆわけゆけはこひせしそてのここちこそすれ | 素意法師 | 秋上 |
4-後拾 | 306 | ささがにのすがく浅茅の末ごとに乱れてぬける白露の玉 ささかにのすかくあさちのすゑことにみたれてぬけるしらつゆのたま | 藤原長能 | 秋上 |
4-後拾 | 307 | いかにして玉にもぬかん夕されば荻の葉分けにむすぶ白露 いかにしてたまにもぬかむゆふされはをきのはわきにむすふしらつゆ | 橘為義 | 秋上 |
4-後拾 | 308 | 袖ふれば露こぼれけり秋の野はまくりでにてぞ行くべかりける そてふれはつゆこほれけりあきののはまくりてにてそゆくへかりける | 良暹法師 | 秋上 |
4-後拾 | 309 | 秋の野は折るべき花もなかりけりこぼれて消えん露の惜しさに あきののはをるへきはなもなかりけりこほれてきえむつゆのをしさに | 源親範 | 秋上 |
4-後拾 | 310 | 草の上におきてぞあかす秋の夜の露ことならぬ我が身と思へば くさのうへにおきてそあかすあきのののつゆことならぬわかみとおもへは | 大中臣能宣 | 秋上 |
4-後拾 | 311 | をみなへしかげをうつせば心なき水も色なる物にぞありける をみなへしかけをうつせはこころなきみつもいろなるものにそありける | 藤原頼宗 | 秋上 |
4-後拾 | 312 | 女郎花多かるのべにけふしもあれうしろめたくも思ひやるかな をみなへしおほかるのへにけふしまれうしろめたくもおもひやるかな | 橘則長 | 秋上 |
4-後拾 | 313 | 秋風に折れじとすまふ女郎花いくたび野邊におきふしぬらん あきかせにをれしとすまふをみなへしいくたひのへにおきふしぬらむ | 前律師慶暹 | 秋上 |
4-後拾 | 314 | 秋の野に狩ぞ暮れぬる女郎花こよひばかりは宿もかさなん あきののにかりそくれぬるをみなへしこよひはかりのやともかさなむ | 清原元輔 | 秋上 |
4-後拾 | 315 | 宿ごとにおなじのべをやうつすらんおもがはりせぬ女郎花かな やとことにおなしのへをやうつすらむおもかはりせぬをみなへしかな | 白河院 | 秋上 |
4-後拾 | 316 | よそにのみ見つつはゆかじ女郎花をらむ袂は露にぬるとも よそにのみみつつはゆかしをみなへしをらむたもとはつゆにぬるとも | 源道済 | 秋上 |
4-後拾 | 317 | ありとても頼むべきかは世の中をしらするものはあさがほの花 ありとてもたのむへきかはよのなかをしらするものはあさかほのはな | 和泉式部 | 秋上 |
4-後拾 | 318 | いとどしくなぐさめがたき夕暮に秋とおぼゆる風ぞ吹くなる いととしくなくさめかたきゆふくれにあきとおほゆるかせそふくなる | 源道済 | 秋上 |
4-後拾 | 319 | さらでだにあやしきほどの夕暮に荻ふく風の音ぞきこゆる さらてたにあやしきほとのゆふくれにをきふくかせのおとそきこゆる | 斎宮女御 | 秋上 |
4-後拾 | 320 | 荻のはに吹き過ぎて行く秋風のまたたが里におどろかすらん をきのはにふきすきてゆくあきかせのまたたかさとをおとろかすらむ | 読人知らず | 秋上 |
4-後拾 | 321 | さりともと思ひし人は音もせで荻のうはばに風ぞ吹くなる さりともとおもひしひとはおともせてをきのうははにかせそふくなる | 三條小右近 | 秋上 |
4-後拾 | 322 | 荻のはに人頼めなる風の音を我が身にしめてあかしつるかな をきのはにひとたのめなるかせのおとをわかみにしめてあかしつるかな | 僧都實誓 | 秋上 |
4-後拾 | 323 | をぎ風もやや吹きそむるこゑすなりあはれ秋こそふかくなるらし をきのかせもややふきそむるこゑすなりあはれあきこそふかくなるらし | 藤原長能 | 秋上 |
4-後拾 | 324 | 明けぬるか川瀬の霧のたえだえに遠ち方人の袖のみゆるは あけぬるかかはせのきりのたえまよりをちかたひとのそてのみゆるは | 源経信母 | 秋上 |
4-後拾 | 325 | さだめなき風のふかずば花すすき心となびく方はみてまし さためなきかせのふかすははなすすきこころとなひくかたはみてまし | 藤原経衡 | 秋上 |
4-後拾 | 326 | さらでだに心のとまる秋の野にいとどもまねく花すすきかな さらてたにこころのとまるあきののにいとともまねくはなすすきかな | 源師賢 | 秋上 |
4-後拾 | 327 | ことしよりうゑはじめたるわが宿の花はいづれの秋か見ざらん ことしよりうゑはしめつるわかやとのはなはいつれのあきかみさらむ | 清原元輔 | 秋上 |
4-後拾 | 328 | 水のいろに花の匂ひをけふそへて千年の秋のためしとぞみる みつのいろにはなのにほひをけふそへてちとせのあきのためしとそみる | 大中臣能宣 | 秋上 |
4-後拾 | 329 | 我が宿に秋ののべをばうつせりと花見にゆかむ人につげばや わかやとにあきののへをはうつせりとはなみにゆかむひとにつけはや | 藤原師実 | 秋上 |
4-後拾 | 330 | あさゆふに思ふ心は露なれやかからぬ花のうへしなければ あさゆふにおもふこころはつゆなれやかからぬはなのうへしなけれは | 良暹法師 | 秋上 |
4-後拾 | 331 | 我が宿に千草の花をうゑつれば鹿の音のみや野邊にのこらん わかやとにちくさのはなをうゑつれはしかのねのみやのへにのこらむ | 源頼家 | 秋上 |
4-後拾 | 332 | わがやどに花をのこさずうつし植ゑて鹿の音きかぬ野邊となしつる わかやとにはなをのこさすうつしうゑてしかのねきかぬのへとなしつる | 源頼実 | 秋上 |
4-後拾 | 333 | 寂しさに宿を立ち出でてながむればいづくもおなじ秋の夕暮 さひしさにやとをたちいててなかむれはいつくもおなしあきのゆふくれ | 良暹法師 | 秋上 |
4-後拾 | 334 | なにしかは人もきてみんいとどしく物思ひまさる秋の山里 なにしかはひともきてみむいととしくものおもひまさるあきのやまさと | 和泉式部 | 秋上 |
4-後拾 | 335 | 唐衣ながきよすがらうつ聲に我さへねでも明かしつるかな からころもなかきよすからうつこゑにわれさへねてもあかしつるかな | 源資綱 | 秋下 |
4-後拾 | 336 | 小夜更けてこころしてうつ聲きけば急がぬ人もねられざりけり さよふけてころもしてうつこゑきけはいそかぬひともねられさりけり | 伊勢大輔 | 秋下 |
4-後拾 | 337 | うたたねに夜や更けぬらん唐衣うつ聲たかくなりまさるなり うたたねによやふけぬらむからころもうつこゑたかくなりまさるなり | 藤原兼房 | 秋下 |
4-後拾 | 338 | 菅のねのながながしてふ秋の夜は月みぬ人のいふにぞありける すかのねのなかなかしといふあきのよはつきみぬひとのいふにそありける | 藤原長能 | 秋下 |
4-後拾 | 339 | 月はよしはげしき風の音さへぞ身にしむばかり秋はかなしき つきはよしはけしきかせのおとさへそみにしむはかりあきはかなしき | 斎院中務 | 秋下 |
4-後拾 | 340 | 山里のしづの松垣ひまをあらみいたくな吹きそこがらしの風 やまさとのしつのまつかきひまをあらみいたくなふきそこからしのかせ | 大宮越前 | 秋下 |
4-後拾 | 341 | 見渡せば紅葉しにけり山里はねたくぞけふはひとりきにける みわたせはもみちしにけりやまさとにねたくそけふはひとりきにける | 源道済 | 秋下 |
4-後拾 | 342 | いかなればおなじ時雨に紅葉するははその杜の薄くこからん いかなれはおなししくれにもみちするははそのもりのうすくこからむ | 藤原頼宗 | 秋下 |
4-後拾 | 343 | 日をへつつ深くなり行くもみぢばの色にぞ秋のほどはしらるる ひをへつつふかくなりゆくもみちはのいろにそあきのほとはしりぬる | 藤原経衡 | 秋下 |
4-後拾 | 344 | このころは木々の梢に紅葉して鹿こそはなけ秋の山里 このころはききのこすゑにもみちしてしかこそはなけあきのやまさと | 上東門院中将 | 秋下 |
4-後拾 | 345 | ふるさとはまだ遠けれどもみぢばの色に心のとまりぬるかな ふるさとはまたとほけれともみちはのいろにこころのとまりぬるかな | 藤原兼房 | 秋下 |
4-後拾 | 346 | いかなれば船木の山のもみぢばの秋はすぐれどこがれざるらん いかなれはふなきのやまのもみちはのあきはすくれとこかれさるらむ | 右大辨通俊 | 秋下 |
4-後拾 | 347 | うゑおきしあるじはなくて菊の花おのれひとりぞ露けかりける うゑおきしあるしはなくてきくのはなおのれひとりそつゆけかりける | 惠慶法師 | 秋下 |
4-後拾 | 348 | つらからん方こそあらめ君ならでたれにか見せん白菊の花 つらからむかたこそあらめきみならてたれにかみせむしらきくのはな | 大弐三位 | 秋下 |
4-後拾 | 349 | めもかれず見つつくらさん白菊の花より後の花しなければ めもかれすみつつくらさむしらきくのはなよりのちのはなしなけれは | 伊勢大輔 | 秋下 |
4-後拾 | 350 | むらさきにやしほそめたる菊の花うつろふ色と誰かいひけん むらさきにやしほそめたるきくのはなうつろふいろとたれかいひけむ | 藤原義忠 | 秋下 |
4-後拾 | 351 | あさまだき八重さく菊の九重にみゆるは霜のおけるなりけり あさまたきやへさくきくのここのへにみゆるはしものおけはなりけり | 藤原長房 | 秋下 |
4-後拾 | 352 | きくにだに心は移る花の色を見に行く人はかへりしもせじ きくにたにこころはうつるはなのいろをみにゆくひとはかへりしもせし | 赤染衛門 | 秋下 |
4-後拾 | 353 | うすくこく色ぞ見えける菊の花露や心のわきて置くらん うすくこくいろそみえけるきくのはなつゆやこころをわきておくらむ | 清原元輔 | 秋下 |
4-後拾 | 354 | 狩に来ん人に折らるな菊の花うつろひはてむ末までもみん かりにこむひとにをらるなきくのはなうつろひはてむすゑまてもみむ | 大中臣能宣 | 秋下 |
4-後拾 | 355 | 白菊のうつろひ行くぞあはれなるかくしつつこそ人も枯れしか しらきくのうつろひゆくそあはれなるかくしつつこそひともかれしか | 良暹法師 | 秋下 |
4-後拾 | 356 | 植ゑおきし人の心は白菊の花よりさきにうつろひにけり うゑおきしひとのこころはしらきくのはなよりさきにうつろひにけり | 藤原経衡 | 秋下 |
4-後拾 | 357 | 我のみやかかると思へばふるさとの籬の菊もうつろひにけり われのみやかかるとおもへはふるさとのまかきにきくもうつろひにけり | 藤原定頼 | 秋下 |
4-後拾 | 358 | むらさきにうつろひにひしを置く露のなほ白菊とみするなりけり むらさきにうつろひにしをおくしものなほしらきくとみするなりけり | 源資綱 | 秋下 |
4-後拾 | 359 | 山里の紅葉見にとや思ふらん散りはててこそとふべかりけれ やまさとのもみちみにとやおもふらむちりはててこそとふへかりけれ | 藤原公任 | 秋下 |
4-後拾 | 360 | からにしき色見えまがふもみぢばの散る木のもとは立ち憂かりけり からにしきいろみえまかふもみちはのちるこのもとはたちうかりけり | 平兼盛 | 秋下 |
4-後拾 | 361 | 紅葉ちるころなりけりな山里のことぞともなく袖のぬるるは もみちちるころなりけりなやまさとのことそともなくそてのぬるるは | 清原元輔 | 秋下 |
4-後拾 | 362 | もみぢばの雨とふるなる木の間よりあやなく月の影ぞもりくる もみちはのあめとふるなるこのまよりあやなくつきのかけそもりくる | 白河院 | 秋下 |
4-後拾 | 363 | もみぢちる秋の山邊はしらかしの下ばかりこそ道はみえけれ もみちちるあきのやまへはしらかしのしたはかりこそみちはみえけれ | 法印清成 | 秋下 |
4-後拾 | 364 | 水上にもみぢながれて大井河むらごにみゆる瀧の白絲 みなかみにもみちなかれておほゐかはむらこにみゆるたきのしらいと | 藤原頼宗 | 秋下 |
4-後拾 | 365 | 水もなく見えこそわたれ大井河きしのもみぢば雨とふれども みつもなくみえこそわたれおほゐかはきしのもみちはあめとふれとも | 藤原定頼 | 秋下 |
4-後拾 | 366 | 嵐吹く三室の山のもみぢばは立田の川のにしきなりけり あらしふくみむろのやまのもみちははたつたのかはのにしきなりけり | 能因法師 | 秋下 |
4-後拾 | 367 | 見しよりも荒れぞしにける磯の上秋は時雨のふりまさりつつ みしよりもあれそしにけるいそのかみあきはしくれのふりまさりつつ | 藤原範永 | 秋下 |
4-後拾 | 368 | 秋の夜は山田のいほに稲妻の光のみこそもりあかしけれ あきのよはやまたのいほにいなつまのひかりのみこそもりあかしけれ | 伊勢大輔 | 秋下 |
4-後拾 | 369 | 宿近き山田のひたにてもかけで吹く秋風にまかせてぞみる やとちかきやまたのひたにてもかけてふくあきかせにまかせてそみる | 源頼家 | 秋下 |
4-後拾 | 370 | 秋の田になみよる稲は山川の水ひきかけし早苗なりけり あきのたになみよるいねはやまかはのみつひきうゑしさなへなりけり | 相模 | 秋下 |
4-後拾 | 371 | 夕日さす裾野のすすき方よりにまねくや秋を送るなるらん ゆふひさすすそののすすきかたよりにまねくやあきをおくるなるらむ | 源頼綱 | 秋下 |
4-後拾 | 372 | あすよりはいとど時雨やふりそはん暮れ行く秋を惜しむ袂に あすよりはいととしくれやふりそはむくれゆくあきををしむたもとに | 藤原範永 | 秋下 |
4-後拾 | 373 | 明けはてば野邊をまづ見ん花薄まねくけしきは秋にかはらじ あけはてはのへをまつみむはなすすきまねくけしきはあきにかはらし | 藤原範永 | 秋下 |
4-後拾 | 374 | 秋はただけふばかりぞとながむれば夕暮れにさへなりにけるかな あきはたたけふはかりそとなかむれはゆふくれにさへなりにけるかな | 法眼源賢 | 秋下 |
4-後拾 | 375 | としつもる人こそいとど惜しまるれ今日なかりなる秋の夕暮 としつもるひとこそいととをしまるれけふはかりなるあきのゆふくれ | 大貮資通 | 秋下 |
4-後拾 | 376 | 夜もすがら眺めてだにもなぐさまん明けてみるべき秋の空かは よもすからなかめてたにもなくさめむあけてみるへきあきのそらかは | 源兼長 | 秋下 |
4-後拾 | 377 | おちつもる紅葉をみれば大井川ゐぜきに秋もとまるなりけり おちつもるもみちをみれはおほゐかはゐせきにあきもとまるなりけり | 藤原公任 | 冬 |
4-後拾 | 378 | たむけにもすべきもみぢの錦こそ神無月にはかひなかりけれ たむけにもすへきもみちのにしきこそかみなつきにはかひなかりけれ | 大僧正深覚 | 冬 |
4-後拾 | 379 | 大井川ふるきながれを尋ねきてあらしの山のもみぢをぞみる おほゐかはふるきなかれをたつねきてあらしのやまのもみちをそみる | 白河院 | 冬 |
4-後拾 | 380 | あはれにもたえず音する時雨かなとふべき人もとはぬすみかを あはれにもたえすおとするしくれかなとふへきひともとはぬすみかに | 藤原兼房 | 冬 |
4-後拾 | 381 | 神無月ふかくなりゆくこずゑよりしぐれてわたるみやまべの里 かみなつきふかくなりゆくこすゑよりしくれてわたるみやまへのさと | 永胤法師 | 冬 |
4-後拾 | 382 | 木の葉ちる宿はききわくことぞなき時雨する夜も時雨せぬよも このはちるやとはききわくことそなきしくれするよもしくれせぬよも | 源頼実 | 冬 |
4-後拾 | 383 | もみぢちる音は時雨のここちしてこずゑの空はくもらざりけり もみちちるおとはしくれのここちしてこすゑのそらはくもらさりけり | 藤原家経 | 冬 |
4-後拾 | 384 | かみなづきねざめにきけば山里のあらしのこゑは木の葉なりけり かみなつきねさめにきけはやまさとのあらしのこゑはこのはなりけり | 能因法師 | 冬 |
4-後拾 | 385 | 網代木に紅葉こきまぜよる氷魚は錦をあらふ心地こそすれ あしろきにもみちこきませよるひをはにしきをあらふここちこそすれ | 橘義通 | 冬 |
4-後拾 | 386 | 宇治河の早く網代はなかりけりなにによりてか日をば暮さむ うちかはのはやくあしろはなかりけりなにによりてかひをはくらさむ | 中宮内侍 | 冬 |
4-後拾 | 387 | 霧はれぬあやの河べになく千鳥こゑにや友の行くかたをしる きりはれぬあやのかはへになくちとりこゑにやとものゆくかたをしる | 藤原孝善 | 冬 |
4-後拾 | 388 | 佐保河のきりのあなたになく千鳥こゑはへだてぬものにぞありける さほかはのきりのあなたになくちとりこゑはへたてぬものにそありける | 藤原頼宗 | 冬 |
4-後拾 | 389 | なにはがたあさみつしほにたつ千鳥浦づたひする声きこゆなり なにはかたあさみつしほにたつちとりうらつたひするこゑきこゆなり | 相模 | 冬 |
4-後拾 | 390 | さびしさに煙をだにもたたじとて柴をりくぶる冬の山里 さひしさにけふりをたにもたたしとてしはをりくふるふゆのやまさと | 和泉式部 | 冬 |
4-後拾 | 391 | 山の端はなのみなりけり見る人の心にぞいる冬の夜の月 やまのははなのみなりけりみるひとのこころにそいるふゆのよのつき | 大弐三位 | 冬 |
4-後拾 | 392 | 冬の夜にいくたびばかりねざめして物おもふやどのひましらむらむ ふゆのよにいくたひはかりねさめしてものおもふやとのひましらむらむ | 増基法師 | 冬 |
4-後拾 | 393 | とやかへるしらふの鷹のこゐをなみ雪げの空にあはせつるかな とやかへるしらふのたかのこゐをなみゆきけのそらにあはせつるかな | 藤原長家 | 冬 |
4-後拾 | 394 | 打ち拂ふ雪もやまなむみ狩野のすすきのあともたづぬばかりに うちはらふゆきもやまなむみかりののききすのあともたつぬはかりに | 能因法師 | 冬 |
4-後拾 | 395 | 萩原も霜枯れにけりみ狩野はあさるきぎすのかくれなきまで はきはらもしもかれにけりみかりのはあさるききすのかくれなきまて | 律師長濟 | 冬 |
4-後拾 | 396 | 霜枯れの草のとざしはあだなれどなべての人をいるるものかは しもかれのくさのとさしはあたなれとなへてのひとをいるるものかは | 能宣 | 冬 |
4-後拾 | 397 | 霜がれは一つ色にぞなりにける千種にみえし野邊にはあらずや しもかれはひとついろにそなりにけるちくさにみえしのへにあらすや | 少輔 | 冬 |
4-後拾 | 398 | おちつもる庭の木の葉を夜のほどに拂ひてけりと見する朝霜 おちつもるにはのこのはをよのほとにはらひてけりとみするあさしも | 読人知らず | 冬 |
4-後拾 | 399 | 杉の板をまばらにふける閨の上におどろくばかり霰ふるらし すきのいたをまはらにふけるねやのうへにおとろくはかりあられふるらし | 大江公資 | 冬 |
4-後拾 | 400 | とふ人もなぎ蘆ぶきの我が宿は降る霰さへ音せざりけり とふひともなきあしふきのわかやとはふるあられさへおとせさりけり | 橘俊綱 | 冬 |
4-後拾 | 401 | 都にも初雪ふれば小野山のまきの炭がま焼きまさるらん みやこにもはつゆきふれはをのやまのまきのすみかまたきまさるらむ | 相模 | 冬 |
4-後拾 | 402 | 埋火のあたりは春の心地して散りくる雪を花とこそみれ うつみひのあたりははるのここちしてちりくるゆきをはなとこそみれ | 素意法師 | 冬 |
4-後拾 | 403 | 淡雪も松の上にし降りぬれば久しく消えぬものにぞありける あはゆきもまつのうへにしふりぬれはひさしくきえぬものにそありける | 藤原國行 | 冬 |
4-後拾 | 404 | いづ方と甲斐の白根はしらねども雪ふるごとに思ひこそやれ いつかたとかひのしらねはしらねともゆきふることにおもひこそやれ | 紀伊式部 | 冬 |
4-後拾 | 405 | もみぢゆゑ心の中にしめゆひし山の高嶺は雪ふりにけり もみちゆゑこころのうちにしめゆひしやまのたかねはゆきふりにけり | 能因法師 | 冬 |
4-後拾 | 406 | あさぼらけ雪ふる空を見渡せば山の端ごとに月ぞのこれる あさほらけゆきふるそらをみわたせはやまのはことにつきそのこれる | 源道済 | 冬 |
4-後拾 | 407 | こし道も見えず雪こそ降りにけれ今や解くると人やまつらん こしみちもみえすゆきこそふりにけれいまやとくるとひとはまつらむ | 慶尋法師 | 冬 |
4-後拾 | 408 | いかばかり降る雪なればしなが鳥ゐなのしば山道まどふらん いかはかりふるゆきなれはしなかとりゐなのしはやまみちまとふらむ | 藤原國房 | 冬 |
4-後拾 | 409 | ひとりぬる草の枕は冴ゆれども降り積む雪を拂はでぞみる ひとりぬるくさのまくらはさゆれともふりつむゆきをはらはてそみる | 津守國基 | 冬 |
4-後拾 | 410 | 春やくる人やとふとも待たれけりけさ山里の雪をながめて はるやくるひとやとふともまたれけりけさやまさとのゆきをなかめて | 赤染衛門 | 冬 |
4-後拾 | 411 | 雪ふかき道にぞしるき山里は我よりさきに人こざりけり ゆきふかきみちにそしるきやまさとはわれよりさきにひとこさりけり | 藤原経衡 | 冬 |
4-後拾 | 412 | 山里は雪こそ深くなりにけれ訪はでも年の暮れにけるかな やまさとはゆきこそふかくなりにけれとはてもとしのくれにけるかな | 源頼家 | 冬 |
4-後拾 | 413 | おもひやれ雪も山路も深くして跡たえにける人のすみかを おもひやれゆきもやまちもふかくしてあとたえにけるひとのすみかを | 信寂法師 | 冬 |
4-後拾 | 414 | こりつみてまきのすみやくけをぬるみ大原山の雪のむらぎえ こりつめてまきのすみやくけをぬるみおほはらやまのゆきのむらきえ | 和泉式部 | 冬 |
4-後拾 | 415 | 我が宿に降りしく雪を春よまだ年越えぬ間の花とこそみれ わかやとにふりしくゆきをはるにまたとしこえぬまのはなとこそみれ | 清原元輔 | 冬 |
4-後拾 | 416 | 同じくぞ雪つもるらんと思へども君ふる里はまづぞとはるる おなしくそゆきつもるらむとおもへともきみふるさとはまつそとはるる | 藤原道長 | 冬 |
4-後拾 | 417 | ふる雪は年とともにぞ積もりけるいづれか高くなりまさるらん ふるゆきはとしとともにそつもりけるいつれかたかくなりまさるらむ | 藤原公任 | 冬 |
4-後拾 | 418 | さむしろはむべ冴えけらし隠れ沼の蘆間の氷ひとへしにけり さむしろはうへさえけらしかくれぬのあしまのこほりひとへしにけり | 頼慶法師 | 冬 |
4-後拾 | 419 | 小夜更くるままに汀や氷るらん遠ざかり行く志賀の浦浪 さよふくるままにみきはやこほるらむとほさかりゆくしかのうらなみ | 快覚法師 | 冬 |
4-後拾 | 420 | 鴎こそよがれにけらし猪名野なる昆陽の池水うは氷りせり かもめこそよかれにけらしゐなのなるこやのいけみつうはこほりせり | 僧都長算 | 冬 |
4-後拾 | 421 | 岩間には氷のくさび打ちてけり玉ゐし水も今はもりこず いはまにはこほりのくさひうちてけりたまゐしみつもいまはもりこす | 曾禰好忠 | 冬 |
4-後拾 | 422 | むばたまの夜をへて氷る原の池は春とともにや波もたつべき うはたまのよをへてこほるはらのいけははるとともにやなみもたつへき | 藤原孝善 | 冬 |
4-後拾 | 423 | 白妙にかしらのかみはなりにけり我が身に年の雪つもりつつ しろたへにかしらのかみはなりにけりわかみにとしのゆきつもりつつ | 藤原明衡 | 冬 |
4-後拾 | 424 | 都へは年とともにぞ帰るべきやがて春をもむかへがてらに みやこへはとしとともにそかへるへきやかてはるをもむかへかてらに | 源為善 | 冬 |
4-後拾 | 425 | けふとくる氷にかへて結ぶらし千歳の春にあはむちぎりを けふとくるこほりにかへてむすふらしちとせのはるにあはむちきりを | 順 | 賀 |
4-後拾 | 426 | 朽ちもせぬ長柄の橋のはし柱ひさしきことの見えもするかな くちもせぬなからのはしのはしはしらひさしきほとのみえもするかな | 兼盛 | 賀 |
4-後拾 | 427 | 武蔵野を霧の晴れ間に見渡せば行く末とほき心地こそすれ むさしのをきりのたえまにみわたせはゆくすゑとほきここちこそすれ | 兼盛 | 賀 |
4-後拾 | 428 | 霞さへたなびく野辺の松なれば空にぞ君が千代しらるる かすみさへたなひくのへのまつなれはそらにそきみかちよはしらるる | 源兼澄 | 賀 |
4-後拾 | 429 | 君をいのる年の久しくなりぬれば老いの坂ゆく杖ぞうれしき きみをいのるとしのひさしくなりぬれはおいのさかゆくつゑそうれしき | 前律師慶暹 | 賀 |
4-後拾 | 430 | 春秋もしらで年ふる我が身かな松と鶴との年をかぞへて はるもあきもしらてとしふるわかみかなまつとつるとのとしをかそへて | 兼盛 | 賀 |
4-後拾 | 431 | ひともとの松のしるしぞたのもしきふた心なき千世とみつれば ひともとのまつのしるしそたのもしきふたこころなきちよとみつれは | 源兼澄 | 賀 |
4-後拾 | 432 | 君が代をなににたとへむときはなる松の緑も千代をこそふれ きみかよをなににたとへむときはなるまつのみとりもちよをこそふれ | 読人知らず | 賀 |
4-後拾 | 433 | めづらしき光さしそふさかづきはもちながらこそ千世もめぐらめ めつらしきひかりさしそふさかつきはもちなからこそちよもめくらめ | 紫式部 | 賀 |
4-後拾 | 434 | いとけなき衣の袖はせばくとも劫のいしをばなでつくしてむ いとけなきころものそてはせはくともこふのうへをはなてつくしてむ | 藤原公任 | 賀 |
4-後拾 | 435 | 君が代はかぎりもあらじ浜椿ふたたび色はあらたまるとも きみかよはかきりもあらしはまつはきふたたひいろはあらたまるとも | 読人知らず | 賀 |
4-後拾 | 436 | これもまた千代のけしきのしるきかな生ひそふ松の双葉ながらに これもまたちよのけしきのしるきかなおひそふまつのふたはなからに | 源顕房 | 賀 |
4-後拾 | 437 | ひめこまつ大原山のたねなればちとせはここにまかせてをみむ ひめこまつおほはらやまのたねなれはちとせはたたにまかせてをみむ | 清原元輔 | 賀 |
4-後拾 | 438 | 雲の上に昇らむまでもみてしがな鶴の毛ごろも年ふとならば くものうへにのほらむまてもみてしかなつるのけころもとしふとならは | 赤染衛門 | 賀 |
4-後拾 | 439 | 千代をいのる心のうちのすずしきはたえせぬ家の風にぞありける ちよをいのるこころのうちのすすしきはたえせぬいへのかせにそありける | 赤染衛門 | 賀 |
4-後拾 | 440 | ちとせふる双葉の松にかけてこそ藤のわかえもはるひ栄えめ ちとせふるふたはのまつにかけてこそふちのわかえもはるひさかえめ | 源顕房 | 賀 |
4-後拾 | 441 | おもふこといまはなきかな撫子の花さくばかりなりぬとおもへば おもふこといまはなきかななてしこのはなさくはかりなりぬとおもへは | 花山院 | 賀 |
4-後拾 | 442 | 君みればちりもくもらでよろづ代のよはひをのみもます鏡かな きみみれはちりもくもらてよろつよのよはひをのみもますかかみかな | 伊勢大輔 | 賀 |
4-後拾 | 443 | くもりなき鏡の光ますますも照さむ影にかくれざらめや くもりなきかかみのひかりますますもてらさむかけにかくれさらめや | 藤原能信 | 賀 |
4-後拾 | 444 | おもひやれまだ鶴のこのおひさきを千世もとなづる袖のせばさを おもひやれまたつるのこのおひさきをちよもとなつるそてのせはさを | 藤三位 | 賀 |
4-後拾 | 445 | よろづよをかぞへむものは紀の國のちひろのはまの真砂なりけり よろつよをかそへむものはきのくにのちひろのはまのまさこなりけり | 清原元輔 | 賀 |
4-後拾 | 446 | 住吉の浦の玉藻をむすびあげて渚の松の影をこそみめ すみよしのうらのたまもをむすひあけてなきさのまつのかけをこそみめ | 清原元輔 | 賀 |
4-後拾 | 447 | いろいろにあまた千歳のみゆるかな小松が原にたづやむれゐる いろいろにあまたちとせのみゆるかなこまつかはらにたつやむれゐる | 源重之 | 賀 |
4-後拾 | 448 | かたがたの親の親どち祝ふめり子のこの千代を思ひこそやれ かたかたのおやのおやとちいはふめりこのこのちよをおもひこそやれ | 藤原保昌 | 賀 |
4-後拾 | 449 | 君が代は千代にひとたびゐるちりの白雲かかる山となるまで きみかよはちよにひとたひゐるちりのしらくもかかるやまとなるまて | 大江嘉言 | 賀 |
4-後拾 | 450 | 君が代はつきじとぞおもふ神風やみもすそ河のすまむかぎりは きみかよはつきしとそおもふかみかせやみもすそかはのすまむかきりは | 源経信 | 賀 |
4-後拾 | 451 | 思ひやれやそうぢ人の君が為ひとつ心にいのるいのりを おもひやれやそうちひとのきみかためひとつこころにいのるいのりを | 藤原為盛女 | 賀 |
4-後拾 | 452 | かすが山いはねの松は君がためちとせのみかはよろづよぞへむ かすかやまいはねのまつはきみかためちとせのみかはよろつよそへむ | 能因法師 | 賀 |
4-後拾 | 453 | 君が代はしらたま椿八千代ともなににかぞへむ限りなければ きみかよはしらたまつはきやちよともなににかそへむかきりなけれは | 式部大輔資業 | 賀 |
4-後拾 | 454 | 岩くぐる瀧の白糸たえせでぞ久しくよよにへつつみるべき いはくくるたきのしらいとたえせてそひさしくよよにへつつみるへき | 後冷泉院 | 賀 |
4-後拾 | 455 | 君すめばにごれる水もなかりけり汀のたづも心してゐよ きみすめはにこれるみつもなかりけりみきはのたつもこころしてゐよ | 小大君 | 賀 |
4-後拾 | 456 | ことしだに鏡と見ゆる池水の千代へてすまむ影ぞゆかしき ことしたにかかみとみゆるいけみつのちよへてすまむかけそゆかしき | 藤原範永 | 賀 |
4-後拾 | 457 | ちよをへむ君がかざせる藤の花松にかかれる心地こそすれ ちとせへむきみかかさせるふちのはなまつにかかれるここちこそすれ | 良暹法師 | 賀 |
4-後拾 | 458 | よろつよに千代のかさねてみゆるかな亀のをかなる松のみどりは よろつよにちよのかさねてみゆるかなかめのをかなるまつのみとりは | 式部大輔資業 | 賀 |
4-後拾 | 459 | 動きなき大倉山をたてたればをさまれるよぞ久しかるべき うこきなきおほくらやまをたてたれはをさまれるよそひさしかるへき | 式部大輔資業 | 賀 |
4-後拾 | 460 | 紫の雲のよそなる身なれどもたつときくこそうれしかりけれ むらさきのくものよそなるみなれともたつときくこそうれしかりけれ | 江侍従 | 賀 |
4-後拾 | 461 | もみぢ見む残りの秋もすくなきに君ながゐせば誰とをらまし もみちみむのこりのあきもすくなきにきみなかゐせはたれとをらまし | 恵慶法師 | 別 |
4-後拾 | 462 | をしむべき都の紅葉まだちらぬ秋のうちにはかへらざらめや をしむへきみやこのもみちまたちらぬあきのうちにはかへらさらめや | 祭主輔親 | 別 |
4-後拾 | 463 | つねならばあはでかへるも歎かじをみやこいづとか人のつげける つねならはあはてかへるもなけかしをみやこいつとかひとのつけける | 源道済 | 別 |
4-後拾 | 464 | みやこ出づるけさばかりだにはつかにもあひみて人を別れましかば みやこいつるけさはかりたにはつかにもあひみてひとをわかれましかは | 増基法師 | 別 |
4-後拾 | 465 | 別れての四年の春の春ごとに花のみやこを思ひおこせよ わかれてのよとせのはるのはることにはなのみやこをおもひおこせよ | 藤原道信 | 別 |
4-後拾 | 466 | あふさかの関うちこゆる程もなくけさはみやこの人ぞこひしき あふさかのせきうちこゆるほともなくけさはみやこのひとそこひしき | 藤原惟規 | 別 |
4-後拾 | 467 | よのつねにおもふ別れの旅ならば心見えなる手向けせましや よのつねにおもふわかれのたひならはこころみえなるたまけせましや | 藤原長能 | 別 |
4-後拾 | 468 | 行く春とともにたちぬるふな道を祈りかけたる藤なみの花 ゆくはるとともにたちぬるふなみちをいのりかけたるふちなみのはな | 選子内親王 | 別 |
4-後拾 | 469 | 祈りつつちよをかけたる藤なみにいきの松こそ思ひやらるれ いのりつつちよをかけたるふちなみにいきのまつこそおもひやらるれ | 筑後守藤原為正 | 別 |
4-後拾 | 470 | たれがよもわがよもしらぬ世の中にまつほどいかがあらむとすらむ たれかよもわかよもしらぬよのなかにまつほといかかあらむとすらむ | 藤原道信 | 別 |
4-後拾 | 471 | 君をのみたのむたひなる心には行く末とほくおもほゆるかな きみをのみたのむたひなるこころにはゆくすゑとほくおもほゆるかな | 藤原倫寧 | 別 |
4-後拾 | 472 | 我をのみたのむといはば行く末の松のちよをも君こそはみめ われをのみたのむといははゆくすゑのまつのちよをもきみこそはみめ | 入道摂政 | 別 |
4-後拾 | 473 | 山のはに月かげみえば思ひ出でよ秋風ふかば我も忘れじ やまのはにつきかけみえはおもひいてよあきかせふかはわれもわすれし | 堪圓法師 | 別 |
4-後拾 | 474 | たびたびのちよをはるかに君やへむ末の松よりいきの松まて たひたひのちよをはるかにきみやみむすゑのまつよりいきのまつまて | 相模 | 別 |
4-後拾 | 475 | いとはしきわが命さへゆく人のかへらむまでとをしくなりぬる いとはしきわかいのちさへゆくひとのかへらむまてとをしくなりぬる | 相模 | 別 |
4-後拾 | 476 | 命あらば今かへりこむ津の国の難波ほり江の蘆のうら葉に いのちあらはいまかへりこむつのくにのなにはほりえのあしのうらはに | 大江嘉言 | 別 |
4-後拾 | 477 | かりそめの別れとおもへど白河のせきとどめぬは涙なりけり かりそめのわかれとおもへとしらかはのせきととめぬはなみたなりけり | 藤原定頼 | 別 |
4-後拾 | 478 | 別れ路にたつけふよりもかへるさを哀れくもゐにきかむとすらむ わかれちにたつけふよりもかへるさをあはれくもゐにきかむとすらむ | 橘則長 | 別 |
4-後拾 | 479 | 誰よりも我ぞかなしきめぐりみむ程をまつべき命ならねば ゆくよりもわれそかなしきめくりあはむほとをまつへきいのちならねは | 慶範法師 | 別 |
4-後拾 | 480 | 別るべきなかとしるしる睦まじくならひにけるぞけふはくやしき わかるへきなかとしるしるむつましくならひにけるそけふはくやしき | 読人知らず | 別 |
4-後拾 | 481 | 名残ある命と思はば友綱の又もやくるとまたましものを なこりあるいのちとおもははともつなのまたもやくるとまたましものを | 良勢法師 | 別 |
4-後拾 | 482 | 春は花秋は月にとちぎりつつけふを別れとおもはざりける はるははなあきはつきにとちきりつつけふをわかれとおもはさりける | 藤原家経 | 別 |
4-後拾 | 483 | 思へただたのめていにし春だにも花の盛りはいかがまたまし おもへたたたのめていにしはるたにもはなのさかりはいかかまたれし | 源兼長 | 別 |
4-後拾 | 484 | おもひいでよ道は遙かになりぬとも心のうちは山もへだてじし おもひいてよみちははるかになりぬともこころのうちはやまもへたてし | 源道済 | 別 |
4-後拾 | 485 | とまるべき道にはあらず中々にあはでぞけふはあるべかりける とまるへきみちにはあらすなかなかにあはてそけふはあるへかりける | 源道済 | 別 |
4-後拾 | 486 | 松山の松のうら風吹きよせばひろひてしのべこひわすれ貝 まつやまのまつのうらかせふきよせはひろひてしのへこひわすれかひ | 藤原定頼 | 別 |
4-後拾 | 487 | たたぬよりしぼりもあへぬ衣手にまだきなかけそ松がうらなみ たたぬよりしほりもあへぬころもてにまたきなかけそまつかうらなみ | 源光成 | 別 |
4-後拾 | 488 | かくしつつ多くの人はをしみきぬ我をおくらむ事はいつぞも かくしつつおほくのひとはをしみきぬわれをおくらむことはいつそは | 源兼澄 | 別 |
4-後拾 | 489 | 暮れて行く年とともにぞ別れぬる道にや春はあはむとすらむ くれてゆくとしとともにそわかれぬるみちにやはるはあはむとすらむ | 源為善 | 別 |
4-後拾 | 490 | あふさかの関ぢこゆともみやこなる人に心のかよはざらめや あふさかのせきちこゆともみやこなるひとにこころのかよはさらめや | 祭主輔親 | 別 |
4-後拾 | 491 | 行く人もとまるもいかにおもふらむ別れてのちの又の別れを ゆくひともとまるもいかにおもふらむわかれてのちのまたのわかれを | 赤染衛門 | 別 |
4-後拾 | 492 | いづちともしらぬ別れのたびなれどいかで涙のさきにたつらむ いつちともしらぬわかれのたひなれといかてなみたのさきにたつらむ | 中原頼成 | 別 |
4-後拾 | 493 | あふことは雲井はるかにへだつとも心かよはぬ程はあらじを あふことはくもゐはるかにへたつともこころかよはぬほとはあらしを | 祭主輔親 | 別 |
4-後拾 | 494 | 帰りては誰を見むとかおもふらむ老いて久しき人はありやは かへりてはたれをみむとかおもふらむおいてひさしきひとはありやは | 藤原節信 | 別 |
4-後拾 | 495 | 筑紫舟まだともづなもとかなくにさしいづるものは涙なりけり つくしふねまたともつなもとかなくにさしいつるものはなみたなりけり | 連敏法師 | 別 |
4-後拾 | 496 | ふるさとの花のみやこに住み侘びて八雲たつてふ出雲へぞ行く ふるさとのはなのみやこにすみわひてやくもたつてふいつもへそゆく | 大江正言 | 別 |
4-後拾 | 497 | 天の河のちのけふだにはるけきをいつともしらぬ舟出かなしな あまのかはのちのけふたにはるけきをいつともしらぬふなてかなしな | 藤原公任 | 別 |
4-後拾 | 498 | そのほどとちぎれる旅の別れだに逢ふ事まれにありとこそきけ そのほととちきれるたひのわかれたにあふことまれにありとこそきけ | 寂昭法師 | 別 |
4-後拾 | 499 | いかばかり空をあふぎてなげくらむいく雲井ともしらぬ別れを いかはかりそらをあふきてなけくらむいくくもゐともしらぬわかれを | 読人知らず | 別 |
4-後拾 | 500 | 逢坂の関とはきけどはしり井の水をばえこそとどめざりけれ あふさかのせきとはきけとはしりゐのみつをはえこそととめさりけれ | 藤原兼通 | 羈旅 |
4-後拾 | 501 | ゆく道の紅葉の色も見るべきを霧とともにやいそぎたつべき ゆくみちのもみちのいろもみるへきをきりとともにやいそきたつへき | 藤原公任 | 羈旅 |
4-後拾 | 502 | 霧わけていそぎたちなむ紅葉ばの色にみえなば道もゆかれじ きりわけていそきたちなむもみちはのいろしみえなはみちもゆかれし | 藤原定頼 | 羈旅 |
4-後拾 | 503 | たびの空よはの煙とのぼりなばあまのもしほ火たくかとやみむ たひのそらよはのけふりとのほりなはあまのもしほひたくかとやみむ | 花山院 | 羈旅 |
4-後拾 | 504 | みやこにてふきあげの浜を人とはばけふ見るばかりいかがかたらむ みやこにてふきあけのはまをひととははけふみるはかりいかかかたらむ | 懐圓法師 | 羈旅 |
4-後拾 | 505 | 山のはにさはるかとこそ思ひしか峯にてもなほ月ぞまたるる やまのはにさはるかとこそおもひしかみねにてもなほつきそまたるる | 少輔 | 羈旅 |
4-後拾 | 506 | すぎがてにおぼゆるものは蘆間かな堀江のほどは綱手ゆるめよ すきかてにおほゆるものはあしまかなほりえのほとはつなてゆるめよ | 藤原國行 | 羈旅 |
4-後拾 | 507 | 蘆の屋のこやの渡りに日は暮れぬいづちゆくらむ駒にまかせて あしのやのこやのわたりにひはくれぬいつちゆくらむこまにまかせて | 能因法師 | 羈旅 |
4-後拾 | 508 | みやこのみかへり見られて東路をこまの心にまかせてぞ行く みやこのみかへりみられてあつまちをこまのこころにまかせてそゆく | 増基法師 | 羈旅 |
4-後拾 | 509 | こととはばありのまにまに都鳥みやこのことを我にきかせよ こととははありのまにまにみやことりみやこのことをわれにきかせよ | 和泉式部 | 羈旅 |
4-後拾 | 510 | 鏡山こゆるけふしも春雨のかきくもりやはふるべかりける かかみやまこゆるけふしもはるさめのかきくもりやはふるへかりける | 恵慶法師 | 羈旅 |
4-後拾 | 511 | こえはてば都も遠くなりぬべし関の夕風しばしすずまむ こえはてはみやこもとほくなりぬへしせきのゆふかせしはしすすまむ | 赤染衛門 | 羈旅 |
4-後拾 | 512 | けふばかり霞まざらなむあかで行くみやこの山はそれとだにみむ けふはかりかすまさらなむあかてゆくみやこのやまはそれとたにみむ | 増基法師 | 羈旅 |
4-後拾 | 513 | わたのべや大江のきしにやどりして雲井にみゆる生駒山かな わたのへやおほえのきしにやとりしてくもゐにみゆるいこまやまかな | 良暹法師 | 羈旅 |
4-後拾 | 514 | しらくものうへよりみゆるあしひきの山のたかねやみさかなるらむ しらくものうへよりみゆるあしひきのやまのたかねやみさかなるらむ | 能因法師 | 羈旅 |
4-後拾 | 515 | 東路にここをうるまといふことは ゆきかふ人のあればなりけり あつまちにここをうるまといふことはゆきかふひとのあれはなりけり | 源重之 | 羈旅 |
4-後拾 | 516 | あつまぢの浜名の橋をきてみれは昔こひしきわたりなりけり あつまちのはまなのはしをきてみれはむかしこひしきわたりなりけり | 大江廣経 | 羈旅 |
4-後拾 | 517 | おもふ人ありとなけれどふるさとはしかすがにこそ恋しかりけれ おもふひとありとなけれとふるさとはしかすかにこそこひしかりけれ | 能因法師 | 羈旅 |
4-後拾 | 518 | みやこをば霞とともに立ちしかど秋風ぞふく白川の関 みやこをはかすみとともにたちしかとあきかせそふくしらかはのせき | 能因法師 | 羈旅 |
4-後拾 | 519 | 世の中はかくてもへけりきさがたのあまの苫屋を我が宿にして よのなかはかくてもへけりきさかたのあまのとまやをわかやとにして | 能因法師 | 羈旅 |
4-後拾 | 520 | 須磨の浦をけふすぎ行くときし方へ帰る浪にやことをつてまし すまのうらをけふすきゆくとこしかたへかへるなみにやことをつてまし | 大中臣能宣 | 羈旅 |
4-後拾 | 521 | 風ふけば藻塩の煙うちなびき我もおもはぬかたにこそゆけ かせふけはもしほのけふりうちなひきわれもおもはぬかたにこそゆけ | 大貮高遠 | 羈旅 |
4-後拾 | 522 | 月影はたびの空とてかはらねどなほみやこのみこひしきやなぞ つきかけはたひのそらとてかはらねとなほみやこのみこひしきやなそ | 花山院 | 羈旅 |
4-後拾 | 523 | おぼつかなみやこの空やいかならむこよひあかしの月をみるにも おほつかなみやこのそらやいかならむこよひあかしのつきをみるにも | 源資綱 | 羈旅 |
4-後拾 | 524 | ながむらむあかしのうらのけしきにて都の月を空にしらなむ なかむらむあかしのうらのけしきにてみやこのつきはそらにしらなむ | 繪式部 | 羈旅 |
4-後拾 | 525 | 月はかく雲井なれども見るものをあはれみやこのかからましかば つきはかくくもゐなれともみるものをあはれみやこのかからましかは | 康資王母 | 羈旅 |
4-後拾 | 526 | 都にて山のはに見し月影をこよひはなみのうへにこそまて みやこにてやまのはにみしつきかけをこよひはなみのうへにこそまて | 橘為義 | 羈旅 |
4-後拾 | 527 | 都いでて雲井はるかにきたれども猶にしにこそ月は入りけれ みやこいててくもゐはるかにきたれともなほにしにこそつきはいりけれ | 藤原國行 | 羈旅 |
4-後拾 | 528 | なぬかにもあまりにけりな便りあらばかぞへきかせよ沖の嶋守 なぬかにもあまりにけりなたよりあらはかそへきかせよおきのしまもり | 源高明 | 羈旅 |
4-後拾 | 529 | ものをおもふ心のやみしくらければあかしの浦もかひなかりけり ものをおもふこころのやみしくらけれはあかしのうらもかひなかりけり | 帥前内大臣 | 羈旅 |
4-後拾 | 530 | さもこそは都のほかにやどりせめうたて露けき草枕かな さもこそはみやこのほかにやとりせめうたてつゆけきくさまくらかな | 藤原隆家 | 羈旅 |
4-後拾 | 531 | いそぎつつ舟出ぞしつる年の内に花のみやこの春にあふべく いそきつつふなてそしつるとしのうちにはなのみやこのはるにあふへく | 式部大輔資業 | 羈旅 |
4-後拾 | 532 | あなし吹くせとのしほあひに舟出して早くぞ過ぐるさやかた山を あなしふくせとのしほあひにふなてしてはやくそすくるさやかたやまを | 右大弁通俊 | 羈旅 |
4-後拾 | 533 | これやこの月見るたびに思ひやる姨捨山のふもとなりけり これやこのつきみるたひにおもひやるをはすてやまのふもとなりける | 橘為伸 | 羈旅 |
4-後拾 | 534 | 見わたせばみやこは近くなりぬらむ過ぎぬる山は霞へだてつ みわたせはみやこはちかくなりぬらむすきぬるやまはかすみへたてつ | 源道済 | 羈旅 |
4-後拾 | 535 | さよ更けて嶺のあらしやいかならむ汀の浪の聲まさるなり さよふけてみねのあらしやいかならむみきはのなみのこゑまさるなり | 源道済 | 哀傷 |
4-後拾 | 536 | 夜もすがら契りしことを忘れずばこひむ涙のいろぞゆかしき よもすからちきりしことをわすれすはこひむなみたのいろそゆかしき | 読人知らず | 哀傷 |
4-後拾 | 537 | しる人もなき別れ路に今はとて心ぼそくもいそぎたつかな しるひともなきわかれちにいまはとてこころほそくもいそきたつかな | 読人知らず | 哀傷 |
4-後拾 | 538 | ありしこそ限りなりけれあふことをなどのちのよと契らざりけむ ありしこそかきりなりけれあふことをなとのちのよとちきらさりけむ | 源兼長 | 哀傷 |
4-後拾 | 539 | たちのぼるけぶりにつけておもふかないつまたわれを人のかくみむ たちのほるけふりにつけておもふかないつまたわれをひとのかくみむ | 和泉式部 | 哀傷 |
4-後拾 | 540 | などてかく雲がくるらむかくばかりのどかにすめる月もあるよに なとてかくくもかくれけむかくはかりのとかにすめるつきもあるよに | 命婦乳母 | 哀傷 |
4-後拾 | 541 | むらさきの雲のかけても思ひきや春の霞になしてみむとは むらさきのくものかけてもおもひきやはるのかすみになしてみむとは | 藤原朝光 | 哀傷 |
4-後拾 | 542 | おくれじと常のみゆきは急ぎしを煙にそはぬたびのかなしさ おくれしとつねのみゆきはいそきしをけふりにそはぬたひのかなしさ | 大納言行成 | 哀傷 |
4-後拾 | 543 | のべまでに心一つは通へどもわがみゆきとはしらずやありけむ のへまてにこころひとつはかよへともわかみゆきとはしらすやあるらむ | 一條院 | 哀傷 |
4-後拾 | 544 | たきぎつき雪ふりしけるとりべ野はつるの林の心地こそすれ たききつきゆきふりしけるとりへのはつるのはやしのここちこそすれ | 法橋忠命 | 哀傷 |
4-後拾 | 545 | はれずこそかなしかりけれ鳥部山たちかへりつるけさの霞は はれすこそかなしかりけれとりへやまたちかへりつるけさのかすみは | 小侍従命婦 | 哀傷 |
4-後拾 | 546 | いにしへの薪もけふの君がよもつきはてぬるを見るぞ悲しき いにしへのたききもけふのきみかよもつきはてぬるをみるそかなしき | 小侍従命婦 | 哀傷 |
4-後拾 | 547 | 時しもあれ春のなかばにあやまたぬよはの煙はうたがひもなし ときしもあれはるのなかはにあやまたぬよはのけふりはうたかひもなし | 相模 | 哀傷 |
4-後拾 | 548 | そなはれし玉のをぐしをさしながら哀れかなしき秋にあひぬる そなはれしたまのをくしをさしなからあはれかなしきあきにあひぬる | 山田中務 | 哀傷 |
4-後拾 | 549 | とはばやと思ひやるだに露けきをいかにぞ君が袖はくちぬや とははやとおもひやるたにつゆけきをいかにそきみかそてはくちぬや | 相模 | 哀傷 |
4-後拾 | 550 | 涙河ながるるみをとしらねばや袖ばかりをば人のとふらむ なみたかはなかるるみをとしらねはやそてはかりをはひとのとふらむ | 大和宣旨 | 哀傷 |
4-後拾 | 551 | いかばかり君なげくらむ數ならぬ身だにしぐれし秋のあはれを いかはかりきみなけくらむかすならぬみたにしくれしあきのあはれを | 前中宮出雲 | 哀傷 |
4-後拾 | 552 | よそにきく袖も露けき柏木のもとのしづくを思ひこそやれ よそにきくそてもつゆけきかしはきのもとのしつくをおもひこそやれ | 小左近 | 哀傷 |
4-後拾 | 553 | 主なしとこたふる人はなけれども宿の気色ぞいふにまされる ぬしなしとこたふるひとはなけれともやとのけしきそいふにまされる | 能因法師 | 哀傷 |
4-後拾 | 554 | いかばかりさびしかるらむ木枯しの吹きにし宿の秋のゆふぐれ いかはかりさひしかるらむこからしのふきにしやとのあきのゆふくれ | 右大臣北方 | 哀傷 |
4-後拾 | 555 | 山ざとのははその紅葉散り木のもといかに寂しかるらむ やまてらのははそのもみちちりにけりこのもといかにさひしかるらむ | 読人知らず | 哀傷 |
4-後拾 | 556 | おもふらむ別れし人の悲しさはけふまでふべき心地やはせし おもふらむわかれしひとのかなしさはけふまてふへきここちやはせし | 源隆国 | 哀傷 |
4-後拾 | 557 | かなしさのたぐひになにを思はまし別れをしれる君なかりせば かなしさのたくひになにをおもはましわかれをしれるきみなかりせは | 出羽辨 | 哀傷 |
4-後拾 | 558 | をしまるる人なくなどてなりにけむ捨てたる身だにあればあるよに をしまるるひとなくなとてなりにけむすてたるみたにあれはあるよに | 中宮内侍 | 哀傷 |
4-後拾 | 559 | 宵のまの空の煙となりにきとあまのはらからなどかつげこぬ よひのまのそらのけふりとなりにきとあまのはらからなとかつけこぬ | 源順 | 哀傷 |
4-後拾 | 560 | 思ひいづや思ひいづるに悲しきは別れながらのわかれなりけり おもひいつやおもひいつるにかなしきはわかれなからのわかれなりけり | 橘季通 | 哀傷 |
4-後拾 | 561 | 思ひやれかねて別れしくやしさにそへてかなしき心づくしを おもひやれかねてわかれしくやしさにそへてかなしきこころつくしを | 式部命婦 | 哀傷 |
4-後拾 | 562 | 五月雨にあらぬけふさへ晴れせねば空も悲しき事やしるらむ さみたれにあらぬけふさへはれせぬはそらもかなしきことやしるらむ | 周防内侍 | 哀傷 |
4-後拾 | 563 | あだにかくおつとおもひしむば玉の髪こそ長き形見なりけれ あたにかくおつとおもひしうはたまのかみこそなかきかたみなりけれ | 藤原定頼母 | 哀傷 |
4-後拾 | 564 | うたたねのこのよの夢のはかなきにさめぬやがての命ともがな うたたねのこのよのゆめのはかなきにさめぬやかてのいのちともかな | 藤原実方 | 哀傷 |
4-後拾 | 565 | 夢みずとなげきし人をほどもなく又わが夢にみぬぞかなしき ゆめみすとなけきしひとをほともなくまたわかゆめにみぬそかなしき | 藤原相如女 | 哀傷 |
4-後拾 | 566 | 契りありてこのよに又もうまるとも面がはりしてみもや忘れむ ちきりありてこのよにまたはうまるともおもかはりしてみもやわすれむ | 藤原実方 | 哀傷 |
4-後拾 | 567 | 今はとてとびわかるめるむら鳥の古巣にひとりながむべきかな いまはとてとひわかるめるむらとりのふるすにひとりなかむへきかな | 藤原義孝 | 哀傷 |
4-後拾 | 568 | とどめおきて誰をあはれとおもふらむこはまさるらむこはまさりけり ととめおきてたれをあはれとおもふらむこはまさるらむこはまさりけり | 和泉式部 | 哀傷 |
4-後拾 | 569 | 見るままに露ぞこぼるる遅れにし心もしらぬ撫子の花 みるままにつゆそこほるるおくれにしこころもしらぬなてしこのはな | 上東門院 | 哀傷 |
4-後拾 | 570 | 見むといひし人ははかなく消えにしを独り露けき秋の花かな みむといひしひとははかなくきえにしをひとりつゆけきあきのはなかな | 藤原実方 | 哀傷 |
4-後拾 | 571 | 別れにしそのさみだれの空よりも雪ふればこそ恋しかりけれ わかれにしそのさみたれのそらよりもゆきふれはこそこひしかりけれ | 大江匡房 | 哀傷 |
4-後拾 | 572 | なにしかは今はいそがむ都には待つべき人もなくなりにけり なにしにかいまはいそかむみやこにはまつへきひともなくなりにけり | 大江嘉言 | 哀傷 |
4-後拾 | 573 | 今はただそよその事と思ひいでて忘るばかりの憂き事もがな いまはたたそよそのこととおもひいててわするはかりのうきこともかな | 和泉式部 | 哀傷 |
4-後拾 | 574 | 捨てはてむと思ふさへこそ悲しけれ君になれにし我が身と思へば すてはてむとおもふさへこそかなしけれきみになれにしわかみとおもへは | 和泉式部 | 哀傷 |
4-後拾 | 575 | なき人のくるよときけど君もなし我がすむやどやたまなきの里 なきひとのくるよときけときみもなしわかすむやとやたまなきのさと | 和泉式部 | 哀傷 |
4-後拾 | 576 | 別れにし人は来べくもあらなくにいかに振舞ふささがにぞこは わかれにしひとはくへきもあらなくにいかにふるまふささかにそこは | 源師房女 | 哀傷 |
4-後拾 | 577 | こひしさにぬる夜なけれど世の中のはかなき時は夢とこそみれ こひしさにぬるよなけれとよのなかのはかなきときはゆめとこそみれ | 大貮高遠 | 哀傷 |
4-後拾 | 578 | ゆゆしさに包めどあまる涙かなかけじとおもふ旅のころもに ゆゆしさにつつめとあまるなみたかなかけしとおもふたひのころもに | 源道成 | 哀傷 |
4-後拾 | 579 | のりのためつみける花を数々に今はこのよのかたみとぞおもふ のりのためつみけるはなをかすかすにいまはこのよのかたみとそおもふ | 選子内親王 | 哀傷 |
4-後拾 | 580 | ふかさこそ藤のたもとはまさるらめ涙はおなじ色にこそしめ ふかさこそふちのたもとはまさるらめなみたはおなしいろにこそしめ | 伊勢大輔 | 哀傷 |
4-後拾 | 581 | 君のみや花のいろにもたちかへで袂の露はおなじ秋なる きみのみやはなのいろにもたちかへてたもとのつゆはおなしあきなる | 康資王母 | 哀傷 |
4-後拾 | 582 | 墨染の袂はいとどこひぢにてあやめの草のねやしげるらむ すみそめのたもとはいととこひちにてあやめのくさのねやしけるらむ | 美作三位 | 哀傷 |
4-後拾 | 583 | これをだに形見とおもふを都には葉がへやしつるしひしばの袖 これをたにかたみとおもふをみやこにははかへやしつるしひしはのそて | 一條院 | 哀傷 |
4-後拾 | 584 | こぞよりも色こそこけれ萩の花なみだの雨のかかる秋には こそよりもいろこそこけれはきのはななみたのあめのかかるあきには | 麗景殿前女御 | 哀傷 |
4-後拾 | 585 | 別れにしその日ばかりは巡りきて生きもかへらぬ人ぞこひしき わかれにしそのひはかりはめくりきていきもかへらぬひとそかなしき | 伊勢大輔 | 哀傷 |
4-後拾 | 586 | 年をへてなれたる人も別れにしこぞは今年のけふにぞありける としをへてなれたるひともわかれにしこそはことしのけふにそありける | 紀時文 | 哀傷 |
4-後拾 | 587 | わかれけむ心をくみて涙川おもひやるかなこぞのけふをも わかれけむこころをくみてなみたかはおもひやるかなこそのけふをも | 清原元輔 | 哀傷 |
4-後拾 | 588 | 我が身には悲しきことの尽きせねば昨日をはてと思はざりけり わかみにはかなしきことのつきせねはきのふをはてとおもはさりけり | 江侍従 | 哀傷 |
4-後拾 | 589 | おもひかねかたみにそめし墨染の衣にさへも別れぬるかな おもひかねかたみにそめしすみそめのころもにさへもわかれぬるかな | 平棟仲 | 哀傷 |
4-後拾 | 590 | うすくこく衣のいろはかはれどもおなじ涙のかかる袖かな うすくこくころものいろはかはれともおなしなみたのかかるそてかな | 平教成 | 哀傷 |
4-後拾 | 591 | うきながらかたみにみつる藤衣はては涙にながしつるかな うきなからかたみにみつるふちころもはてはなみたになかしつるかな | 藤原定輔女 | 哀傷 |
4-後拾 | 592 | きえにける衛士のたく火の跡をみて煙となりし君ぞかなしき きえにけるゑしのたくひのあとをみてけふりとなりしきみそかなしき | 赤染衛門 | 哀傷 |
4-後拾 | 593 | いかにしてうつしとめけむ雲井にてあかずかくれし月の光を いかにしてうつしとめけむくもゐにてあかすわかれしつきのひかりを | 出羽辨 | 哀傷 |
4-後拾 | 594 | ひとりこそあれ行くとこは歎きつれ主なき宿はまたもありけり ひとりこそあれゆくとこはなけきつれぬしなきやとはまたもありけり | 赤染衛門 | 哀傷 |
4-後拾 | 595 | いにしへになにはの事はかはらねど涙のかかる旅はなかりき いにしへになにはのことはかはらねとなみたのかかるたひはなかりき | 源信宗 | 哀傷 |
4-後拾 | 596 | 思ひやるあはれなにはのうらさびて蘆の浮き寝はさぞながれけむ おもひやるあはれなにはのうらさひてあしのうきねはさそなかれけむ | 伊勢大輔 | 哀傷 |
4-後拾 | 597 | 年ごとにむかしは遠くなりゆけど憂かりし秋は又もきにけり としことにむかしはとほくなりゆけとうかりしあきはまたもきにけり | 源重之 | 哀傷 |
4-後拾 | 598 | しかばかり契りしものをわたり川かへるほどには忘るべしやは しかはかりちきりしものをわたりかはかへるほとにはわするへしやは | 藤原義孝 | 哀傷 |
4-後拾 | 599 | 時雨とは千草の花ぞ散りまがふなにふるさとに袖ぬらすらむ しくれとはちくさのはなそちりまかふなにふるさとのそてぬらすらむ | 藤原義孝 | 哀傷 |
4-後拾 | 600 | 着てなれし衣の袖もかわかぬに別れし秋になりにけるかな きてなれしころものそてもかわかぬにわかれしあきになりにけるかな | 藤原義孝 | 哀傷 |
4-後拾 | 601 | あふことをみな暮ごとにいでたてど夢路ならではかひなかりけり あふことをみなくれことにいてたてとゆめちならてはかひなかりけり | 読人知らず | 哀傷 |
4-後拾 | 602 | なくなくも君にはつげつなき人のまたかへり事いかがいはまし なくなくもきみにはつけつなきひとのまたかへりこといかかいはまし | 読人知らず | 哀傷 |
4-後拾 | 603 | さきにたつ涙を道のしるべにて我こそ行きていはまほしけれ さきにたつなみたをみちのしるへにてわれこそゆきていはまほしけれ | 読人知らず | 哀傷 |
4-後拾 | 604 | ほのかにもしらせてしがな春霞かすみのうちにおもふ心を ほのかにもしらせてしかなはるかすみかすみのうちにおもふこころを | 後朱雀院 | 恋一 |
4-後拾 | 605 | 木の葉ちる山の下水うづもれて流れもやらぬものをこそおもへ このはちるやまのしたみつうつもれてなかれもやらぬものをこそおもへ | 叡覚法師 | 恋一 |
4-後拾 | 606 | いかなればしらぬに生ふるうきぬなは苦しやこころ人しれずのみ いかなれはしらぬにおふるうきぬなはくるしやこころひとしれすのみ | 馬内侍 | 恋一 |
4-後拾 | 607 | かくなむとあまの漁火ほのめかせ磯辺の浪のをりもよからば かくなむとあまのいさりひほのめかせいそへのなみのをりもよからは | 源頼光 | 恋一 |
4-後拾 | 608 | おきつ浪うちいでむことぞつつましき思ひよるべき汀ならねば おきつなみうちいてむことそつつましきおもひよるへきみきはならねは | 源頼家母 | 恋一 |
4-後拾 | 609 | 霜がれの冬野にたてるむらすすきほのめかさばや思ふこころを しもかれのふゆのにたてるむらすすきほのめかさはやおもふこころを | 平経章 | 恋一 |
4-後拾 | 610 | しのびつつやみなむよりは思ふことありけるとだに人にしらせむ しのひつつやみなむよりはおもふことありけるとたにひとにしらせむ | 大江嘉言 | 恋一 |
4-後拾 | 611 | おぼめくなたれともなくて宵々に夢にみえけむ我ぞそのひと おほめくなたれともなくてよひよひにゆめにみえけむわれそそのひと | 和泉式部 | 恋一 |
4-後拾 | 612 | かくとだにえやは伊吹のさしも草さしもしらじなもゆるおもひを かくとたにえやはいふきのさしもくささしもしらしなもゆるおもひを | 藤原実方 | 恋一 |
4-後拾 | 613 | なき名たつ人だに世にはあるものを君恋ふる身としられぬぞ憂き なきなたつひとたによにはあるものをきみこふるみとしられぬそうき | 實源法師 | 恋一 |
4-後拾 | 614 | 年もへぬながつきの夜の月影の有明がたの空をこひつつ としもへぬなかつきのよのつきかけのありあけかたのそらをこひつつ | 源則成 | 恋一 |
4-後拾 | 615 | 汲みてしる人もあらなむ夏山の木のした水は草かくれつつ くみてしるひともあらなむなつやまのこのしたみつはくさかくれつつ | 藤原長能 | 恋一 |
4-後拾 | 616 | 小舟さしわたのはらからしるべせよいづれかあまの玉藻刈る浦 をふねさしわたのはらからしるへせよいつれかあまのたまもかるうら | 読人知らず | 恋一 |
4-後拾 | 617 | ひとりしてながむる宿のつまに生ふる忍ぶとだにもしらせてしかな ひとりしてなかむるやとのつまにおふるしのふとたにもしらせてしかな | 藤原通頼 | 恋一 |
4-後拾 | 618 | おもひあまりいひいづる程に數ならぬ身をさへ人にしられぬるかな おもひあまりいひいつるほとにかすならぬみをさへひとにしられぬるかな | 道命法師 | 恋一 |
4-後拾 | 619 | しのすすき忍びもあへぬ心にて今日はほにいづる秋としらなむ しのすすきしのひもあへぬこころにてけふはほにいつるあきとしらなむ | 祭主輔親 | 恋一 |
4-後拾 | 620 | いはぬまはまだしらじかし限りなく我がおもふべき人はわれとも いはぬまはまたしらしかしかきりなくわかおもふへきひとはわれとも | 藤原兼房 | 恋一 |
4-後拾 | 621 | わぎもこが袖ふりかけし移り香の今朝は身にしむものをこそおもへ わきもこかそてふりかけしうつりかのけさはみにしむものをこそおもへ | 源兼澄 | 恋一 |
4-後拾 | 622 | 雲の上にさばかりさしし日影にも君がつららはとけずなりにき くものうへにさはかりさししひかりにもきみかつららはとけすなりにき | 藤原公成 | 恋一 |
4-後拾 | 623 | 年へつる山した水のうすこほりけふ春風にうちもとけなむ としへつるやましたみつのうすこほりけふはるかせにうちもとけなむ | 藤原良通 | 恋一 |
4-後拾 | 624 | 氷とも人の心を思はばやけふ立つ春の風ぞとくやと こほりともひとのこころをおもははやけさたつはるのかせにとくへく | 能因法師 | 恋一 |
4-後拾 | 625 | みつしほのひるまだになき浦なれやかよふ千鳥の跡もみえぬは みつしほのひるまたになきうらなれやかよふちとりのあともみえぬは | 祭主輔親 | 恋一 |
4-後拾 | 626 | しほたるるわが身のかたはつれなくてこと浦にこそ煙たつなれ しほたるるわかみのかたはつれなくてことうらにこそけふりたちけれ | 道命法師 | 恋一 |
4-後拾 | 627 | おもひわび昨日やまべに入りしかどふみみぬ道はゆかれざりけり おもひわひきのふやまへにいりしかとふみみぬみちはゆかれさりけり | 道命法師 | 恋一 |
4-後拾 | 628 | 雲井にて契りし中はたなばたをうらやむばかりなりにけるかな くもゐにてちきりしなかはたなはたをうらやむはかりなりにけるかな | 藤原公任 | 恋一 |
4-後拾 | 629 | あふことのいつとなきには織女の別るるさへぞうらやまれける あふことのいつとなきにはたなはたのわかるるさへそうらやまれける | 藤原隆資 | 恋一 |
4-後拾 | 630 | 逢ふことのとどこほるまはいかばかり身にさへしみて歎くとかしる あふことのととこほるまはいかはかりみにさへしみてなけくとかしる | 馬内侍 | 恋一 |
4-後拾 | 631 | 鴫のふす刈田にたてる稲茎の否とは人のいはずもあらなん しきのふすかりたにたてるいなくきのいなとはひとのいはすもあらなむ | 藤原顕季 | 恋一 |
4-後拾 | 632 | あふさかの名をも頼まじ恋すればせきの清水に袖もぬれけり あふさかのなをもたのましこひすれはせきのしみつにそてもぬれけり | 白河院 | 恋一 |
4-後拾 | 633 | 逢ふことはさもこそ人めかたからめ心ばかりはとけてみえなん あふことはさもこそひとめかたからめこころはかりはとけてみえなむ | 道命法師 | 恋一 |
4-後拾 | 634 | 思ふらんしるしだになき下紐に心ばかりのなにかとくべき おもふらむしるしたになきしたひもにこころはかりのなにかとくへき | 読人知らず | 恋一 |
4-後拾 | 635 | 下きゆる雪間の草のめづらしく我が思ふ人に逢ひ見てしがな したきゆるゆきまのくさのめつらしくわかおもふひとにあひみてしかな | 和泉式部 | 恋一 |
4-後拾 | 636 | 奥山のまきの葉しろく降る雪のいつとくべしとみえぬ君かな おくやまのまきのはしのきふるゆきのいつとくへしとみえぬきみかな | 源頼綱 | 恋一 |
4-後拾 | 637 | うれしきを忘るる人もあるものを辛きをこふる我や何なる うれしきをわするるひともあるものをつらきをこふるわれやなになり | 源政成 | 恋一 |
4-後拾 | 638 | 恋ひそめし心をのみぞ恨みつる人のつらさをわれになしつつ こひそめしこころをのみそうらみつるひとのつらさをわれになしつつ | 平兼盛 | 恋一 |
4-後拾 | 639 | いかにせんかけても今はたのまじと思ふにいとどぬるる袂を いかにせむかけてもいまはたのましとおもふにいととぬるるたもとを | 藤原為時 | 恋一 |
4-後拾 | 640 | あふことのなきよりかねてつらければさてもあらましぬるる袖かな あふことのなきよりかねてつらけれはさもあらましにぬるるそてかな | 相模 | 恋一 |
4-後拾 | 641 | まてといひし秋もなかばになりぬるを頼めかおきし露はいかにぞ まてといひしあきもなかはになりぬるをたのめかおきしつゆはいかにそ | 大中臣能宣 | 恋一 |
4-後拾 | 642 | 逢ふまでとせめて命の惜しければ恋こそ人の命なりけれ あふまてとせめていのちのをしけれはこひこそひとのいのりなりけれ | 藤原頼宗 | 恋一 |
4-後拾 | 643 | つきもせず恋に涙をながすかなこやななくりの出湯なるらん つきもせすこひになみたをわかすかなこやななくりのいてゆなるらむ | 相模 | 恋一 |
4-後拾 | 644 | あふみにかありといふなるみくりくる人苦しめのつくま江の沼 あふみにかありといふなるみくりくるひとくるしめのつくまえのぬま | 藤原道信 | 恋一 |
4-後拾 | 645 | こひしてふことをしらでややみなましつれなき人のなき世なりせば こひしてふことをしらてややみなましつれなきひとのなきよなりせは | 永源法師 | 恋一 |
4-後拾 | 646 | つれもなき人もあはれといひてまし恋する程を知らせだにせば つれもなきひともあはれといひてましこひするほとをしらせたにせは | 赤染衛門 | 恋一 |
4-後拾 | 647 | 身をすてて深き淵にも入りぬべし底の心の知らまほしさに みをすててふかきふちにもいりぬへしそこのこころのしらまほしさに | 源道済 | 恋一 |
4-後拾 | 648 | こひこひてあふとも夢にみつる夜はいとど寝覚めぞわびしかりける こひこひてあふともゆめにみつるよはいととねさめそわひしかりける | 大中臣能宣 | 恋一 |
4-後拾 | 649 | 唐衣むすびしひもはさしながら袂ははやく朽ちにしものを からころもむすひしひもはさしなからたもとははやくくちにしものを | 大中臣能宣 | 恋一 |
4-後拾 | 650 | 朽ちにける袖のしるしは下紐のとくるになどか知らせざりけん くちにけるそてのしるしはしたひものとくるになとかしらせさりけむ | 読人知らず | 恋一 |
4-後拾 | 651 | 錦木はたてながらこそ朽ちにけれけふのほそ布胸あはじとや にしききはたてなからこそくちにけれけふのほそぬのむねあはしとや | 能因法師 | 恋一 |
4-後拾 | 652 | 須磨の蜑の浦こぐ船の跡もなく見ぬ人こふる我やなになり すまのあまのうらこくふねのあともなくみぬひとこふるわれやなになり | 源高明 | 恋一 |
4-後拾 | 653 | さりともと思ふ心にひかされて今まで世にもふるわが身かな さりともとおもふこころにひかされていままてよにもふるわかみかな | 源高明 | 恋一 |
4-後拾 | 654 | たのむるに命ののぶる物ならば千年もかくてあらんとや思ふ たのむるにいのちののふるものならはちとせもかくてあらむとやおもふ | 藤原実頼女 | 恋一 |
4-後拾 | 655 | 思ひしる人もこそあれあぢきなくつれなき恋に身をやかへてん おもひしるひともこそあれあちきなくつれなきこひにみをやかへてむ | 小辨 | 恋一 |
4-後拾 | 656 | 人しれず逢ふをまつまに恋ひ死なば何にかへたる命とかいはん ひとしれすあふをまつまにこひしなはなににかへたるいのちとかいはむ | 平兼盛 | 恋一 |
4-後拾 | 657 | 恋ひ死なん命はことのかずならでつれなき人の果ぞゆかしき こひしなむいのちはことのかすならてつれなきひとのはてそゆかしき | 永成法師 | 恋一 |
4-後拾 | 658 | つれなくてやみぬる人に今はただ恋ひ死ぬとだにきかせてしがな つれなくてやみぬるひとにいまはたたこひしぬとたにきかせてしかな | 中原政義 | 恋一 |
4-後拾 | 659 | あさねがみ乱れて恋ぞしどろなる逢ふ由もがな元結にせん あさねかみみたれてこひそしとろなるあふよしもかなもとゆひにせむ | 良暹法師 | 恋一 |
4-後拾 | 660 | 唐衣そでしの浦のうつせ貝むなしき恋に年のへぬらむ からころもそてしのうらのうつせかひむなしきこひにとしのへぬらむ | 藤原國房 | 恋一 |
4-後拾 | 661 | われが身はと帰る鷹となりにけり年はふれどももとは忘れず われかみはとかへるたかとなりにけりとしはふれともこひはわすれす | 左大臣俊房 | 恋一 |
4-後拾 | 662 | 年を経て葉がへぬ山の椎柴やつれなき人の心なるらん としをへてはかへぬやまのしひしはやつれなきひとのこころなるらむ | 源顕房 | 恋一 |
4-後拾 | 663 | 嬉しとも思ふべかりし今日しもぞいとど歎きのそふ心地する うれしともおもふへかりしけふしもそいととなけきのそふここちする | 道命法師 | 恋一 |
4-後拾 | 664 | ほどもなく恋ふる心は何なれや知らでだにこそ年は経にしか ほともなくこふるこころはなになれやしらてたにこそとしはへにしか | 祭主輔親 | 恋二 |
4-後拾 | 665 | いにしへの人さへ今朝はつらきかな明くればなどか帰りそめけん いにしへのひとさへけさはつらきかなあくれはなとかかへりそめけむ | 源頼綱 | 恋二 |
4-後拾 | 666 | 夜をこめてかへる空こそなかりけれうらやましきは有明の月 よをこめてかへるそらこそなかりつれうらやましきはありあけのつき | 永源法師 | 恋二 |
4-後拾 | 667 | 暮るる間は千歳を過ぐす心地して待つはまことに久しかりけり くるるまのちとせをすくすここちしてまつはまことにひさしかりけり | 藤原隆方 | 恋二 |
4-後拾 | 668 | けふよりはとく呉竹の節ごとに夜はながかれと思ほゆるかな けふよりはとくくれたけのふしことによはなかかれとおもほゆるかな | 源定季 | 恋二 |
4-後拾 | 669 | 君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな きみかためをしからさりしいのちさへなかくもかなとおもひけるかな | 藤原義孝 | 恋二 |
4-後拾 | 670 | けふくるる程待つだにも久しきにいかで心をかけてすぎけん けふくるるほとまつたにもひさしきにいかてこころをかけてすきけむ | 伊勢大輔 | 恋二 |
4-後拾 | 671 | かへるさの道やはかはる変らねど解くるにまどふ今朝の淡雪 かへるさのみちやはかはるかはらねととくるにまとふけさのあはゆき | 藤原道信 | 恋二 |
4-後拾 | 672 | 明けぬれば暮るる物とは知りながら猶恨めしき朝ぼらけかな あけぬれはくるるものとはしりなからなほうらめしきあさほらけかな | 藤原道信 | 恋二 |
4-後拾 | 673 | 千賀の浦に浪よせかくる心地してひるまなくてもくらしつるかな ちかのうらになみよせまさるここちしてひるまなくてもくらしつるかな | 藤原道信 | 恋二 |
4-後拾 | 674 | 逢ひ見ての後こそ恋はまさりけれつれなき人をいまは恨みじ あひみてののちこそこひはまさりけれつれなきひとをいまはうらみし | 永源法師 | 恋二 |
4-後拾 | 675 | うつつにて夢ばかりなる逢ふ事をうつつばかりの夢になさばや うつつにてゆめはかりなるあふことをうつつはかりのゆめになさはや | 源高明 | 恋二 |
4-後拾 | 676 | たまさかにゆき逢坂の関守は夜をとほさぬぞ侘しかりける たまさかにゆきあふさかのせきもりはよをとほさぬそわひしかりける | 藤原道信 | 恋二 |
4-後拾 | 677 | 知る人もなくてやみぬる逢ふことをいかでなみだの袖にもるらん しるひともなくてやみぬるあふことをいかてなみたのそてにもるらむ | 清原元輔 | 恋二 |
4-後拾 | 678 | 頼むるを頼むべきにはあらねども待つとはなくて待たれもやせん たのむるにたのむへきにはあらねともまつとはなくてまたれもやせむ | 相模 | 恋二 |
4-後拾 | 679 | 眺めつつ事ありがほに暮しても必ず夢にみえばこそあらめ なかめつつことありかほにくらしてもかならすゆめにみえはこそあらめ | 相模 | 恋二 |
4-後拾 | 680 | やすらはで寝なましものを小夜更けてかたぶくまでの月をみしかな やすらはてねなましものをさよふけてかたふくまてのつきをみしかな | 赤染衛門 | 恋二 |
4-後拾 | 681 | おきながらあかしつるかなともねせぬ鴨の上毛の霜ならなくに おきなからあかしつるかなともねせぬかものうはけのしもならなくに | 和泉式部 | 恋二 |
4-後拾 | 682 | 夕露を浅茅が上とみしものを袖におきても明かしつるかな ゆふつゆをあさちかうへとみしものをそてにおきてもあかしつるかな | 大輔命婦 | 恋二 |
4-後拾 | 683 | いかにせんあなあやにくの春の日や夜半のけしきのかからましかば いかにせむあなあやにくのはるのひやよはのけしきのかからましかは | 藤原隆経 | 恋二 |
4-後拾 | 684 | むばたまの夜半のけしきはさもあらばあれ人の心を春日ともがな うはたまのよはのけしきはさもあらはあれひとのこころのはるひともかな | 童木 | 恋二 |
4-後拾 | 685 | 淀野へとみまくさ刈りに行く人も暮れにはただに帰るものかは よとのへとみまくさかりにゆくひともくれにはたたにかへるものかは | 源重之 | 恋二 |
4-後拾 | 686 | 帰りしは我が身ひとつと思ひしを涙さへこそとまらざりけれ かへりしはわかみひとつとおもひしをなみたさへこそとまらさりしか | 源師賢 | 恋二 |
4-後拾 | 687 | あま雲のかへるばかりのむら雨に所せきまで濡れし袖かな あまくものかへるはかりのむらさめにところせきまてぬれしそてかな | 読人知らず | 恋二 |
4-後拾 | 688 | わが恋は天の原なる月なれや暮るれば出づる影をのみみる わかこひはあまのはらなるつきなれやくるれはいつるかけをのみみる | 一宮紀伊 | 恋二 |
4-後拾 | 689 | 過ぎて行く月をもなにか恨むべき待つわが身こそあはれなりけり すきてゆくつきをもなにかうらむへきまつわかみこそあはれなりけれ | 読人知らず | 恋二 |
4-後拾 | 690 | 杉たてる門ならませば訪ひてまし心のまつはいかがしるべき すきたてるかとならませはとひてましこころのまつはいかかしるへき | 大貮高遠 | 恋二 |
4-後拾 | 691 | 津の國のこやとも人をいふべきにひまこそなけれ蘆の八重葺き つのくにのこやともひとをいふへきにひまこそなけれあしのやへふき | 和泉式部 | 恋二 |
4-後拾 | 692 | 人目のみしげき深山の青つづら苦しき世をも思ひ侘びぬる ひとめのみしけきみやまのあをつつらくるしきよをそおもひわひぬる | 高階章行女 | 恋二 |
4-後拾 | 693 | 来ぬも憂く来るも苦しき靑つづらいかなる方に思ひ絶えなん こぬもうくくるもくるしきあをつつらいかなるかたにおもひたえなむ | 読人知らず | 恋二 |
4-後拾 | 694 | しるらめや身こそ人目をはばかりの関に涙はとまらざりけり しるらめやみこそひとめをははかりのせきになみたはとまらさりけり | 読人知らず | 恋二 |
4-後拾 | 695 | もろともにいつかとくべきあふことのかた結びなる夜半の下紐 もろともにいつかとくへきあふことのかたむすひなるよはのしたひも | 相模 | 恋二 |
4-後拾 | 696 | 淵やさは瀬にはなりける明日香川浅きを深くなす世なりせば ふちやさはせにはなりけるあすかかはあさきをふかくなすよなりせは | 赤染衛門 | 恋二 |
4-後拾 | 697 | あひみではありぬべしやとこころみる程は苦しきものにぞありける あひみてはありぬへしやとこころみるほとはくるしきものにそありける | 読人知らず | 恋二 |
4-後拾 | 698 | わが心こころにもあらでつらからば夜がれん床の形見ともせよ わかこころこころにもあらてつらからはよかれむとこのかたみともせよ | 源顕房 | 恋二 |
4-後拾 | 699 | 来ぬまでも待たましものを中々に頼む方なきこの夕占かな こぬまてもまたましものをなかなかにたのむかたなきこのゆふけかな | 読人知らず | 恋二 |
4-後拾 | 700 | きえ返り露もまだひぬ袖の上に今朝はしぐるる空もわりなし きえかへりつゆもまたひぬそてのうへにけさはしくるるそらもわりなし | 藤原道綱母 | 恋二 |
4-後拾 | 701 | あかつきの露は枕に置きけるを草葉のうへとなに思ひけん あかつきのつゆはまくらにおきけるをくさはのうへとなにおもひけむ | 高内侍 | 恋二 |
4-後拾 | 702 | きのふけふ歎くばかりの心地せば明日に我が身や逢はじとすらん きのふけふなけくはかりのここちせはあすにわかみやあはしとすらむ | 相模 | 恋二 |
4-後拾 | 703 | 見し人に忘れられてふる袖ににこそ身をしる雨はいつもをやまね みしひとにわすられてふるそてにこそみをしるあめはいつもをやまね | 和泉式部 | 恋二 |
4-後拾 | 704 | 忘らるる身をしる雨はふらねども袖ばかりこそ乾かざりけれ わすらるるみをしるあめはふらねともそてはかりこそかわかさりけれ | 読人知らず | 恋二 |
4-後拾 | 705 | こえにける浪をばしらで末の松ちよまでとのみ頼みけるかな こえにけるなみをはしらてすゑのまつちよまてとのみたのみけるかな | 藤原能通 | 恋二 |
4-後拾 | 706 | 浦風になびきにけりな里のあまの焚く藻のけぶり心よわさは うらかせになひきにけりなさとのあまのたくものけふりこころよわさは | 藤原實方 | 恋二 |
4-後拾 | 707 | 忘れずよまた忘れずよかはらやの下焚くけぶり下むせびつつ わすれすよまたわすれすよかはらやのしたたくけふりしたむせひつつ | 藤原實方 | 恋二 |
4-後拾 | 708 | 風の音の身にしむばかり聞ゆるは我が身に秋や近くなるらん かせのおとのみにしむはかりきこゆるはわかみにあきやちかくなるらむ | 読人知らず | 恋二 |
4-後拾 | 709 | ありま山ゐなの篠原風ふけばいでそよ人を忘れやはする ありまやまゐなのささはらかせふけはいてそよひとをわすれやはする | 大貮三位 | 恋二 |
4-後拾 | 710 | 恨むとも今はみえじと思ふこそせめてつらさのあまりなりけれ うらむともいまはみえしとおもふこそせめてつらさのあまりなりけれ | 赤染衛門 | 恋二 |
4-後拾 | 711 | 今宵さへあらばかくこそ思ほえめ今日暮れぬまの命ともがな こよひさへあらはかくこそおもほえめけふくれぬまのいのちともかな | 和泉式部 | 恋二 |
4-後拾 | 712 | あすならば忘らるる身になりぬべし今日をすぐさぬ命ともがな あすならはわすらるるみになりぬへしけふをすくさぬいのちともかな | 赤染衛門 | 恋二 |
4-後拾 | 713 | いとふとは知らぬにあらず知りながら心にもあらぬ心なりけり いとふとはしらぬにあらすしりなからこころにもあらぬこころなりけり | 藤原長能 | 恋二 |
4-後拾 | 714 | あふことは七夕つめにかしつれど渡らまほしきかささぎの橋 あふことはたなはたつめにかしつれとわたらまほしきかささきのはし | 後冷泉院 | 恋二 |
4-後拾 | 715 | あやめ草かけしたもとのねを絶えて更に恋路にまよふころかな あやめくさかけしたもとのねをたえてさらにこひちにまとふころかな | 後朱雀院 | 恋三 |
4-後拾 | 716 | 藤衣はつるる袖の絲よわみたえてあひみぬほどぞわりなき ふちころもはつるるそてのいとよわみたえてあひみぬほとそわりなき | 清原元輔 | 恋三 |
4-後拾 | 717 | みるめこそ近江のうみにかたからめ吹きだに通へ志賀の浦風 みるめこそあふみのうみにかたからめふきたにかよへしかのうらかせ | 伊勢大輔 | 恋三 |
4-後拾 | 718 | 秋風になびきながらも葛の葉のうらめしくのみなどかみゆらん あきかせになひきなからもくすのはのうらめしくのみなとかみゆらむ | 叡覺法師 | 恋三 |
4-後拾 | 719 | こひしきになにはのこともおもほえずたれ住吉の松といひけん こひしきになにはのこともおもほえすたれすみよしのまつといひけむ | 大江匡衡 | 恋三 |
4-後拾 | 720 | わが思ふ都の花の遠さゆゑ君もしづえのしづ心あらじ わかおもふみやこのはなのとふさゆゑきみもしつえのしつこころあらし | 祭主輔親 | 恋三 |
4-後拾 | 721 | かたしきの衣のすそは氷りつついかですぐさむ解くる春まで かたしきのころものそてはこほりつついかてすくさむとくるはるまて | 光朝法師母 | 恋三 |
4-後拾 | 722 | 恋しさは思ひやるだになぐさむを心におとる身こそつらけれ こひしさはおもひやるたになくさむをこころにおとるみこそつらけれ | 藤原國房 | 恋三 |
4-後拾 | 723 | いづ方をわれながめましたまさかにゆき逢坂の関なかりせば いつかたをわれなかめましたまさかにゆきあふさかのせきなかりせは | 大中臣能宣 | 恋三 |
4-後拾 | 724 | ゆきかへり後にあふともこの度はこれより越ゆる物思ひぞなき ゆきかへりのちにあふともこのたひはこれよりこゆるものおもひそなき | 読人知らず | 恋三 |
4-後拾 | 725 | 東路の旅の空をぞおもひやるそなたにいづる月をながめて あつまちのたひのそらをそおもひやるそなたにいつるつきをなかめて | 源経信 | 恋三 |
4-後拾 | 726 | 思ひやれしらぬ雲路も入る方の月よりほかのながめやはある おもひやれしらぬくもちもいるかたのつきよりほかのなかめやはする | 康資王母 | 恋三 |
4-後拾 | 727 | 帰るべき程をかぞへて待つ人は過ぐる月日ぞうれしかりける かへるへきほとをかそへてまつひとはすくるつきひそうれしかりける | 源隆綱 | 恋三 |
4-後拾 | 728 | あづまやの茅が下にし乱るればいさや月日の行くもしられず あつまやのかやかしたにしみたるれはいさやつきひのゆくもしられす | 康資王母 | 恋三 |
4-後拾 | 729 | 霜枯れの茅が下をれとにかくに思ひみだれて過ぐすころかな しもかれのかやかしたをれとにかくにおもひみたれてすくすころかな | 藤原惟規 | 恋三 |
4-後拾 | 730 | かひなきは猶人知れず逢ふことの遙かなるみのうらみなりけり かひなきはなほひとしれすあふことのはるかなるみのうらみなりけり | 増基法師 | 恋三 |
4-後拾 | 731 | 思ひやる心の空にゆきかへりおぼつかなさをかたらましかば おもひやるこころのそらにゆきかへりおほつかなさをかたらましかは | 右大辨通俊 | 恋三 |
4-後拾 | 732 | 心をば生田のもりにかくれども恋しきにこそしぬべかりけれ こころをはいくたのもりにかくれともこひしきにこそしぬへかりけれ | 読人知らず | 恋三 |
4-後拾 | 733 | 頼めしを待つに日數の過ぎぬれば玉の緒よわみたえぬべきかな たのめしをまつにひころのすきぬれはたまのをよわみたえぬへきかな | 律師慶意 | 恋三 |
4-後拾 | 734 | あさましや見しは夢かととふ程に驚かすにもなりぬべきかな あさましやみしはゆめかととふほとにおとろかすにもなりぬへきかな | 読人知らず | 恋三 |
4-後拾 | 735 | はるばると野中に見ゆる忘れ水絶えま絶えまを歎くころかな はるはるとのなかにみゆるわすれみつたえまたえまをなけくころかな | 大和宣旨 | 恋三 |
4-後拾 | 736 | いかばかり嬉しからまし面影に見ゆるばかりの逢ふ夜なりせば いかはかりうれしからましおもかけにみゆるはかりのあふよなりせは | 藤原忠家 | 恋三 |
4-後拾 | 737 | わがやどの軒のしのぶにことよせてやがてもしげる忘れ草かな わかやとののきのしのふにことよせてやかてもしけるわすれくさかな | 読人知らず | 恋三 |
4-後拾 | 738 | 逢ふことを今はかぎりと三輪の山杉の過ぎにし方ぞこひしき あふことをいまはかきりとみわのやますきのすきにしかたそこひしき | 皇太后宮陸奥 | 恋三 |
4-後拾 | 739 | 杉村といひてしるしもなかりけり人のたづねぬ三輪の山もと すきむらといひてしるしもなかりけりひともたつねぬみわのやまもと | 読人知らず | 恋三 |
4-後拾 | 740 | 住吉の岸ならねども人知れぬ心のうちの松ぞ侘しき すみよしのきしならねともひとしれぬこころのうちのまつそわひしき | 相模 | 恋三 |
4-後拾 | 741 | 逢坂の関の清水や濁るらん入りにし人のかげもみえぬは あふさかのせきのしみつやにこるらむいりにしひとのかけのみえぬは | 僧都遍救 | 恋三 |
4-後拾 | 742 | なみだやはまたもあふべきつまならん泣くよりほかの慰めぞなき なみたやはまたもあふへきつまならむなくよりほかのなくさめそなき | 藤原道雅 | 恋三 |
4-後拾 | 743 | よそ人になりはてぬとや思ふらん恨むるからに忘れやはする よそひとになりはてぬとやおもふらむうらむるからにわすれやはする | 前律師慶暹 | 恋三 |
4-後拾 | 744 | つらしとも思ひしらでぞやみなまし我もはてなき心なりせば つらしともおもひしらてそやみなましわれもはてなきこころなりせは | 大中臣輔弘 | 恋三 |
4-後拾 | 745 | なかなかに憂かりしままにやみにせば忘るる程になりもしなまし なかなかにうかりしままにやみにせはわするるほとになりもしなまし | 和泉式部 | 恋三 |
4-後拾 | 746 | 憂き世をもまたたれにかはなぐさめん思ひしらずもとはぬ君かな うきよをもまたたれにかはなくさめむおもひしらすもとはぬきみかな | 和泉式部 | 恋三 |
4-後拾 | 747 | あふまでや限りなるらんと思ひしを恋はつきせぬものにぞありける あふまてやかきりなるらむとおもひしをこひはつきせぬものにそありける | 源政成 | 恋三 |
4-後拾 | 748 | 逢坂は東路とこそききしかど心づくしのせきにぞありける あふさかはあつまちとこそききしかとこころつくしのせきにそありける | 藤原道雅 | 恋三 |
4-後拾 | 749 | 榊葉やゆふしでかけしそのかみにおしかへしても渡るころかな さかきはのゆふしてかけしそのかみにおしかへしてもにたるころかな | 藤原道雅 | 恋三 |
4-後拾 | 750 | 今はただ思ひたえなんとばかりを人づてならでいふ由もがな いまはたたおもひたえなむとはかりをひとつてならていふよしもかな | 藤原道雅 | 恋三 |
4-後拾 | 751 | みちのくの緒絶の橋やこれならん踏みみ踏まずみ心まどはす みちのくのをたえのはしやこれならむふみみふますみこころまとはす | 藤原道雅 | 恋三 |
4-後拾 | 752 | 恋ひしさも忘れやはするなかなかに心さわがす志賀の浦浪 こひしさもわすれやはするなかなかにこころさわかすしかのうらなみ | 藤原経輔 | 恋三 |
4-後拾 | 753 | 来じとだにいはで絶えなば憂かりける人のまことをいかでしらまし こしとたにいはてたえなはうかりけるひとのまことをいかてしらまし | 相模 | 恋三 |
4-後拾 | 754 | ただ袖に君かさぬらん唐衣夜な夜なわれにかたしかせつつ たかそてにきみかさぬらむからころもよなよなわれにかたしかせつつ | 相模 | 恋三 |
4-後拾 | 755 | 黒髪の乱れてしらずうちふせばまづかきやりし人ぞ恋しき くろかみのみたれもしらすうちふせはまつかきやりしひとそこひしき | 和泉式部 | 恋三 |
4-後拾 | 756 | 移り香の薄くなりゆく薫物のくゆる思ひに消えぬべきかな うつりかのうすくなりゆくたきもののくゆるおもひにきえぬへきかな | 清原元輔 | 恋三 |
4-後拾 | 757 | なきながす涙にたへでたえぬればはなだの帯の心地こそすれ なきなかすなみたにたへてたえぬれははなたのおひのここちこそすれ | 和泉式部 | 恋三 |
4-後拾 | 758 | なかたゆるかづらき山の岩ばしはふみみることもかたくぞありける なかたゆるかつらきやまのいははしはふみみることもかたくそありける | 相模 | 恋三 |
4-後拾 | 759 | 忘れなんと思ふさへこそ思ふこと叶はぬ身には叶はざりけれ わすれなむとおもふさへこそおもふことかなはぬみにはかなはさりけれ | 大貮良基 | 恋三 |
4-後拾 | 760 | 忘れなんと思ふに濡るる袂かな心ながきは涙なりけり わすれなむとおもふにぬるるたもとかなこころなかきはなみたなりけり | 高橋良成 | 恋三 |
4-後拾 | 761 | いかばかり覚束なさを歎かましこの世のつねと思ひなさずば いかはかりおほつかなさをなけかましこのよのつねとおもひなさすは | 藤原忠家母 | 恋三 |
4-後拾 | 762 | あふことのただひたぶるの夢ならばおなじ枕にまたもねなまし あふことのたたひたふるのゆめならはおなしまくらにまたもねなまし | 權僧正静圓 | 恋三 |
4-後拾 | 763 | あらざらむこの世のほかのおもひでに今ひとたびの逢ふこともがな あらさらむこのよのほかのおもひいてにいまひとたひのあふこともかな | 和泉式部 | 恋三 |
4-後拾 | 764 | 都にも恋しきことのおほかれば猶このたびはいかんとぞ思ふ みやこにもこひしきひとのおほかれはなほこのたひはいかむとそおもふ | 藤原惟規 | 恋三 |
4-後拾 | 765 | 契りしにあらぬつらさも逢ふことの無きにはえこそ恨みざりけれ ちきりしにあらぬつらさもあふことのなきにはえこそうらみさりけれ | 周防内侍 | 恋三 |
4-後拾 | 766 | 忘れなんそれも恨みず思ふらん恋ふらんとだに思ひおこせよ わすれなむそれもうらみすおもふらむこふらむとたにおもひおこせは | 源高明 | 恋三 |
4-後拾 | 767 | 年の内に逢はぬためしの名を立ててわれ七夕にいまるべきかな としのうちにあはぬためしのなをたててわれたなはたにいまるへきかな | 藤原道信 | 恋三 |
4-後拾 | 768 | 七夕をもどかしとのみ我が見しも果ては逢ひ見ぬためしとぞなる たなはたをもとかしとみしわかみしもはてはあひみぬためしにそなる | 増基法師 | 恋三 |
4-後拾 | 769 | 蜘蛛手さへかきたえにけるささがにの命を今は何にかけまし くもてさへかきたえにけるささかにのいのちをいまはなににかけまし | 馬内侍 | 恋三 |
4-後拾 | 770 | 契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山浪こさじとは ちきりきなかたみにそてをしほりつつすゑのまつやまなみこさしとは | 清原元輔 | 恋四 |
4-後拾 | 771 | 蘆のねのうき身の程と知りぬれば恨みぬ袖も波は立ちけり あしのねのうきみのほととしりぬれはうらみぬそてもなみはたちけり | 公圓法師母 | 恋四 |
4-後拾 | 772 | 逢ひ見しを嬉しきことと思ひしは帰りて後の歎きなりけり あひみしをうれしきこととおもひしはかへりてのちのなけきなりけり | 道命法師 | 恋四 |
4-後拾 | 773 | 深山木のこりやしぬらんと思ふ間にいとど思ひの燃えまさるかな みやまきのこりやしぬらむとおもふまにいととおもひのもえまさるかな | 藤原元眞 | 恋四 |
4-後拾 | 774 | 岩代の杜のいはじと思へども雫に濡るる身をいかにせん いはしろのもりのいはしとおもへともしつくにぬるるみをいかにせむ | 惠慶法師 | 恋四 |
4-後拾 | 775 | あぢきなし我が身にまさる物やあると恋せし人をもどきしものを あちきなしわかみにまさるものやあるとこひせしひとをもときしものを | 曾禰好忠 | 恋四 |
4-後拾 | 776 | われといかにつれなくなりて試みんつらき人こそ忘れがたけれ われといかてつれなくなりてこころみむつらきひとこそわすれかたけれ | 和泉式部 | 恋四 |
4-後拾 | 777 | 怪しくもあらはれぬべき袂かな忍びねにのみ濡らすと思へば あやしくもあらはれぬへきたもとかなしのひねにのみなくとおもふを | 相模 | 恋四 |
4-後拾 | 778 | うちしのびなくとせしかど君こふる涙はいろにいでにけるかな うちしのひなくとせしかときみこふるなみたはいろにいてにけるかな | 源高明 | 恋四 |
4-後拾 | 779 | こひすとも涙の色のなかりせばしばしは人に知られざらまし こひすともなみたのいろのなかりせはしはしはひとにしられさらまし | 辨乳母 | 恋四 |
4-後拾 | 780 | 人知れぬ恋にし死なばおほかたの世のはかなきと人や思はん ひとしれぬこひにししなはおほかたのよのはかなきとひとやおもはむ | 源道済 | 恋四 |
4-後拾 | 781 | 人知れずかほには袖をおほいつつ泣くばかりをぞ慰めにする ひとしれすかほにはそてをおほひつつなくはかりをそなくさめにする | 藤原頼宗 | 恋四 |
4-後拾 | 782 | 思ひ侘び返す衣の袂より散るや涙の氷なるらん おもひわひかへすころものたもとよりちるやなみたのこほりなるらむ | 藤原國房 | 恋四 |
4-後拾 | 783 | なぐさむる心はなくて夜もすがら返す衣のうらぞぬれける なくさむるこころはなくてよもすからかへすころものうらそぬれつる | 清原元輔 | 恋四 |
4-後拾 | 784 | 世の中にあらばぞ人のつらからんと思ふにしもぞものは悲しき よのなかにあらはそひとのつらからむとおもふにしもそものはかなしき | 読人知らず | 恋四 |
4-後拾 | 785 | 夜な夜なは目のみ覚めつつ思ひやる心やゆきて驚かすらん よなよなはめのみさめつつおもひやるこころやゆきておとろかすらむ | 道命法師 | 恋四 |
4-後拾 | 786 | 思ふてふことはいはでも思ひけり辛きも今は辛しと思はじ おもふてふことはいはてもおもひけりつらきもいまはつらしとおもはし | 平兼盛 | 恋四 |
4-後拾 | 787 | おもひやる方なきままに忘れ行く人の心ぞうらやまれける おもひやるかたなきままにわすれゆくひとのこころそうらやまれける | 中原頼成妻 | 恋四 |
4-後拾 | 788 | 閨ちかき梅の匂ひに朝な朝なあやしくこひのまさるころかな ねやちかきうめのにほひにあさなあさなあやしくこひのまさるころかな | 能因法師 | 恋四 |
4-後拾 | 789 | あやうしと見ゆるとだえのまろ橋のまろなどかかる物おもふらん あやふしとみゆるとたえのまろはしのまろなとかかるものおもふらむ | 相模 | 恋四 |
4-後拾 | 790 | 世の中に恋てふ色はなけれども深く身にしむ物にぞありける よのなかにこひてふいろはなけれともふかくみにしむものにそありける | 和泉式部 | 恋四 |
4-後拾 | 791 | ささがにのいづくに人はありとだに心細くも知らでふるかな ささかにのいつこにひとをありとたにこころほそくもしらてふるかな | 清原元輔 | 恋四 |
4-後拾 | 792 | こひしさの憂きにまぎるる物ならば又ふたたびと君を見ましや こひしさのうきにまきるるものならはまたふたたひときみをみましや | 大貮三位 | 恋四 |
4-後拾 | 793 | あればこそ人もつらけれあやしきは命もがなと頼むなりけり あれはこそひともつらけれあやしきはいのちもかなとたのむなりけり | 藤原有親 | 恋四 |
4-後拾 | 794 | 庭のおもの萩のうへにて知りぬらん物思ふ人の夜半の袂は にはのおものはきのうへにてしりぬらむものおもふひとのよはのたもとは | 源道済 | 恋四 |
4-後拾 | 795 | 我が袖を秋の草葉にくらべばやいづれか露のおきはまさると わかそてをあきのくさはにくらへはやいつれかつゆのおきはまさると | 相模 | 恋四 |
4-後拾 | 796 | ありそうみの濱の真砂をみなもがなひとりぬる夜の數にとるべく ありそうみのはまのまさこをみなもかなひとりぬるよのかすにとるへく | 相模 | 恋四 |
4-後拾 | 797 | かぞふれば空なる星もしるものを何をつらさの數にとらまし かそふれはそらなるほしもしるものをなにをつらさのかすにおかまし | 藤原長能 | 恋四 |
4-後拾 | 798 | つれづれと思へば長き春の日に頼むこととはながめをぞする つれつれとおもへはなかきはるのひにたのむこととはなかめをそする | 藤原道信 | 恋四 |
4-後拾 | 799 | ひたすらに軒のあやめのつくづくと思へばねのみかかる袖かな ひたすらにのきのあやめのつくつくとおもへはねのみかかるそてかな | 和泉式部 | 恋四 |
4-後拾 | 800 | たぐひなき憂き身なりけり思ひしる人だにあらばとひこそはせめ たくひなくうきみなりけりおもひしるひとたにあらはとひこそはせめ | 和泉式部 | 恋四 |
4-後拾 | 801 | 君こふる心はちぢに砕くれど一つもうせぬものにぞありける きみこふるこころはちちにくたくれとひとつもうせぬものにそありける | 和泉式部 | 恋四 |
4-後拾 | 802 | なみだ川おなじ身よりは流るれど恋をば消たぬものにぞありける なみたかはおなしみよりはなかるれとこひをはけたぬものにそありける | 和泉式部 | 恋四 |
4-後拾 | 803 | わが恋はます田の池のうきぬなは苦しくてのみ年をふるかな わかこひはますたのいけのうきぬなはくるしくてのみとしをふるかな | 小辨 | 恋四 |
4-後拾 | 804 | おほかたにふるとぞみえし五月雨は物思ふ袖の名にこそありけれ おほかたにふるとそみえしさみたれはものおもふそてのなにこそありけれ | 源道済 | 恋四 |
4-後拾 | 805 | よそにふる人は雨とや思ふらん我が目に近き袖のしづくを よそにふるひとはあめとやおもふらむわかめにちかきそてのしつくを | 源高明 | 恋四 |
4-後拾 | 806 | 日にそへて憂きことのみも増るかな暮れてはやがて明けずもあらなん ひにそへてうきことのみもまさるかなくれてはやかてあけすもあらなむ | 源高明 | 恋四 |
4-後拾 | 807 | 君こふと且は消えつつ程ふるをかくてもいける身とやみるらん きみこふとかつはきえつつふるほとをかくてもいけるみとやみるらむ | 藤原元眞 | 恋四 |
4-後拾 | 808 | 恋しさの忘られぬべき物ならば何にかいける身をも恨みん こひしさのわすられぬへきものならはなににかいけるみをもうらみむ | 藤原元眞 | 恋四 |
4-後拾 | 809 | 恋しさを忍びもあへずうつせみのうつし心も無くなりにけり こひしさをしのひもあへぬうつせみのうつしこころもなくなりにけり | 大和宣旨 | 恋四 |
4-後拾 | 810 | 君がため落つる涙の玉ならば貫きかけてみせましものを きみかためおつるなみたのたまならはつらぬきかけてみせましものを | 源経信 | 恋四 |
4-後拾 | 811 | 契りあらば思ふがごとぞ思はまし怪しや何のむくいなるらん ちきりあらはおもふかことそおもはましあやしやなにのむくひなるらむ | 源高明 | 恋四 |
4-後拾 | 812 | けふしなばあすまで物は思はじと思ふにだにもかなはぬぞ憂き けふしなはあすまてものはおもはしとおもふにたにもかなはぬそうき | 源高明 | 恋四 |
4-後拾 | 813 | 思ひには露の命ぞ消えぬべき言の葉にだにかけよかし君 おもひにはつゆのいのちそきえぬへきことのはにたにかけよかしきみ | 藤原兼家 | 恋四 |
4-後拾 | 814 | やくとのみ枕の下にしほたれてけぶりたえせぬとこの浦かな やくとのみまくらのうへにしほたれてけふりたえせぬとこのうらかな | 相模 | 恋四 |
4-後拾 | 815 | 恨み侘び干さぬ袖だにあるものを恋に朽ちなん名こそ惜しけれ うらみわひほさぬそてたにあるものをこひにくちなむなこそをしけれ | 相模 | 恋四 |
4-後拾 | 816 | かみなづき夜半の時雨にことよせて片しく袖を干しぞわづらふ かみなつきよはのしくれにことよせてかたしくそてをほしそわつらふ | 相模 | 恋四 |
4-後拾 | 817 | さまざまに思ふ心はあるものをおしひたすらに濡るる袖かな さまさまにおもふこころはあるものをおしひたすらにぬるるそてかな | 和泉式部 | 恋四 |
4-後拾 | 818 | わが心かはらんものかかはらやの下たくけぶりわきかへりつつ わかこころかはらむものかかはらやのしたたくけふりわきかへりつつ | 藤原長能 | 恋四 |
4-後拾 | 819 | うちはへてくゆるも苦しいかでなほ世にすみがまの煙たゆらん うちはへてくゆるもくるしいかてなほよにすみかまのけふりたえなむ | 藤原範永女 | 恋四 |
4-後拾 | 820 | 人の身も恋ひはかへつ夏蟲のあらはにもゆとみえぬばかりぞ ひとのみもこひにはかへつなつむしのあらはにもゆとみえぬはかりそ | 和泉式部 | 恋四 |
4-後拾 | 821 | かるもかき臥す猪の床のいを安みさこそねざらめかからずもがな かるもかきふすゐのとこのいをやすみさこそねさらめかからすもかな | 和泉式部 | 恋四 |
4-後拾 | 822 | わが恋は春の山邊につけてしをもえても君が目にもみえなん わかこひははるのやまへにつけてしをもえいててきみかめにもみえなむ | 藤原兼家 | 恋四 |
4-後拾 | 823 | 春の野につくる思ひのあまたあればいづれを君がもゆるとかみん はるののにつくるおもひのあまたあれはいつれをきみかもゆとかはみむ | 藤原道綱母 | 恋四 |
4-後拾 | 824 | 春日野は名のみなりけり我が身こそ飛火ならねどもえ渡りけれ かすかのはなのみなりけりわかみこそとふひならねともえわたりけれ | 藤原兼家 | 恋四 |
4-後拾 | 825 | いつとなく心空なる我が恋や富士のたかねにかかる白雲 いつとなくこころそらなるわかこひやふしのたかねにかかるしらくも | 相模 | 恋四 |
4-後拾 | 826 | うしとても更に思ひぞかへされぬ恋はうらなきものにぞありける うしとてもさらにおもひそかへされぬこひはうらなきものにそありける | 藤原頼宗 | 恋四 |
4-後拾 | 827 | 松嶋や雄島の磯にあさりせしあまの袖こそかくは濡れしか まつしまやをしまのいそにあさりせしあまのそてこそかくはぬれしか | 源重之 | 恋四 |
4-後拾 | 828 | かぎりぞと思ふにつきぬ涙かなおさふる袖も朽ちにばかりに かきりそとおもふにつきぬなみたかなおさふるそてもくちぬはかりに | 盛少将 | 恋四 |
4-後拾 | 829 | かきくらし雲間もみえぬ五月雨はたえず物思ふ我が身なりけり かきくらしくもまもみえぬさみたれはたえすものおもふわかみなりけり | 藤原長能 | 恋四 |
4-後拾 | 830 | 涙こそあふみの海となりにけれ見るめなしてふながめせしまに なみたこそあふみのうみとなりにけれみるめなしてふなかめせしまに | 相模 | 恋四 |
4-後拾 | 831 | 白露も夢もこの世もまぼろしもたとへていはば久しかりけり しらつゆもゆめもこのよもまほろしもたとへていへはひさしかりけり | 和泉式部 | 恋四 |
4-後拾 | 832 | 年ふればあれのみまさる宿のうちに心ながくもすめる月かな としふれはあれのみまさるやとのうちにこころなかくもすめるつきかな | 善滋為政 | 雑一 |
4-後拾 | 833 | 月影のいるを惜しむもくるしきに西には山のなからましかば つきかけのいるををしむもくるしきににしにはやまのなからましかは | 宇治忠信女 | 雑一 |
4-後拾 | 834 | われひとりながむとおもひし山里に思ふことなき月もすみけり われひとりなかむとおもひしやまさとにおもふことなきつきもすみけり | 藤原為時 | 雑一 |
4-後拾 | 835 | みなれさをとらでぞくだす高瀬舟月の光のさすにまかせて みなれさをとらてそくたすたかせふねつきのひかりのさすにまかせて | 源師賢 | 雑一 |
4-後拾 | 836 | 月影のかたぶくままに池水をにしへながると思ひけるかな つきかけのかたふくままにいけみつをにしへなかるとおもひけるかな | 良暹法師 | 雑一 |
4-後拾 | 837 | 月影は山のはいづるよひよりも更け行く空ぞてりまさりける つきかけはやまのはいつるよひよりもふけゆくそらそてりまさりける | 藤原長房 | 雑一 |
4-後拾 | 838 | しきたへのまくらの塵やつもるらむ月のさかりはいこそねられね しきたへのまくらのちりやつもるらむつきのさかりはいこそねられね | 源頼家 | 雑一 |
4-後拾 | 839 | 池水はあまの川にやかよふらむ空なる月のそこにみゆるは いけみつはあまのかはにやかよふらむそらなるつきのそこにみゆるは | 懐圓法師 | 雑一 |
4-後拾 | 840 | いづかたへ行くとも月のみえぬかなたなびく雲の空になければ いつかたへゆくともつきのみえぬかなたなひくくものそらになけれは | 永胤法師 | 雑一 |
4-後拾 | 841 | いつよりも曇りなきよの月なればみる人さへに入りがたきかな いつよりもくもりなきよのつきなれはみるひとさへにいりかたきかな | 江侍従 | 雑一 |
4-後拾 | 842 | 山のはのかからましかば池水に入れども月はかくれざりけり やまのはのかからましかはいけみつにいれともつきはかくれさりけり | 藤原頼宗 | 雑一 |
4-後拾 | 843 | やどごとにかはらぬものは山のはの月まつほどのこころなりけり やとことにかはらぬものはやまのはのつきまつほとのこころなりけり | 加賀左衛門 | 雑一 |
4-後拾 | 844 | 我ひとり眺めてのみやあかさまし今宵の月のおぼろなりせば われひとりなかめてのみやあかさましこよひのつきのおほろなりせは | 永源法師 | 雑一 |
4-後拾 | 845 | 岩間よりながるる水ははやけれどうつれる月の影ぞのどけき いはまよりなかるるみつははやけれとうつれるつきのかけそのとけき | 後冷泉院 | 雑一 |
4-後拾 | 846 | 板間あらみあれたる宿の寂しきは心にもあらぬ月をみるかな いたまあらみあれたるやとのさひしきはこころにもあらぬつきをみるかな | 弾正尹清仁親王 | 雑一 |
4-後拾 | 847 | 雨ふれば閨の板間もふきつらむもりくる月はうれしかりしを あめふれはねやのいたまもふきつらむもりくるつきはうれしかりしを | 藤原定頼 | 雑一 |
4-後拾 | 848 | 月みてはたれもこころぞなぐさまぬ姨捨山のふもとならねど つきみてはたれもこころそなくさまぬをはすてやまのふもとならねと | 藤原範永 | 雑一 |
4-後拾 | 849 | かくばかり隈なき月をおなじくは心のはれて見るよしもがな かくはかりくまなきつきをおなしくはこころもはれてみるよしもかな | 賀茂成助 | 雑一 |
4-後拾 | 850 | すみなるる都の月のさやけきになにか鞍馬の山は恋しき すみなるるみやこのつきのさやけきになにかくらまのやまはこひしき | 齋院中務 | 雑一 |
4-後拾 | 851 | もろともに山のは出でし月なれば都ながらも忘れやはする もろともにやまのはいてしつきなれはみやこなからもわすれやはする | 齋院中将 | 雑一 |
4-後拾 | 852 | 天の原月はかはらぬ空ながらありしむかしの世をやこふらむ あまのはらつきはかはらぬそらなからありしむかしのよをやこふらむ | 清原元輔 | 雑一 |
4-後拾 | 853 | いつとても変らぬ秋の月みればただいにしへの空ぞ恋しき いつとてもかはらぬあきのつきみれはたたいにしへのそらそこひしき | 藤原實綱 | 雑一 |
4-後拾 | 854 | つねよりもさやけき秋の月をみてあはれ恋しき雲のうへかな つねよりもさやけきあきのつきをみてあはれこひしきくものうへかな | 源師光 | 雑一 |
4-後拾 | 855 | もろともに眺めし人も我もなき宿にはひとり月やすむらむ もろともになかめしひともわれもなきやとにはつきやひとりすむらむ | 藤原長家 | 雑一 |
4-後拾 | 856 | 月みれば山のはたかくなりにけりいでばといひし人にみせばや つきみれはやまのはたかくなりにけりいてはといひしひとにみせはや | 江侍従 | 雑一 |
4-後拾 | 857 | 山のはに入りぬる月のわれならば憂き世の中にまたはいでじを やまのはにいりぬるつきのわれならはうきよのなかにまたはいてしを | 源為善 | 雑一 |
4-後拾 | 858 | むかし見し月の影にもにたるかな我とともにや山をいでけむ むかしみしつきのかけにもにたるかなわれとともにややまをいてけむ | 聖梵法師 | 雑一 |
4-後拾 | 859 | いりぬとて人のいそぎし月影は出でての後も久しくぞみし いりぬとてひとのいそきしつきかけはいててののちもひさしくそみし | 赤染衛門 | 雑一 |
4-後拾 | 860 | 心にもあらでうき世にながらへば恋しかるべき夜半の月かな こころにもあらてうきよになからへはこひしかるへきよはのつきかな | 三條院 | 雑一 |
4-後拾 | 861 | いまはただ雲ゐの月をながめつつめぐりあふべき程もしられず いまはたたくもゐのつきをなかめつつめくりあふへきほともしられす | 陽明門院 | 雑一 |
4-後拾 | 862 | なほざりの空だのめせで哀れにもまつにかならずいづる月かな なほさりのそらたのめせてあはれにもまつにかならすいつるつきかな | 小弁 | 雑一 |
4-後拾 | 863 | 頼めずば待たでぬる夜ぞかさねましたれゆゑか見る有明の月 たのめすはまたてぬるよそかさねましたれゆゑかみるありあけのつき | 小式部内侍 | 雑一 |
4-後拾 | 864 | たれとてかあれたる宿といひながら月よりほかの人をいるべき たれとてかあれたるやとといひなからつきよりほかのひとをいるへき | 読人知らず | 雑一 |
4-後拾 | 865 | よしさらばまたれぬ身をばおきながら月みぬ君は名こそをしけれ よしさらはまたれぬみをはおきなからつきみぬきみかなこそをしけれ | 藤原隆方 | 雑一 |
4-後拾 | 866 | ながむれば月かたぶきぬ哀れわがこの世のほどもかばかりぞかし なかむれはつきかたふきぬあはれわかこのよのほともかはかりそかし | 僧正深覚 | 雑一 |
4-後拾 | 867 | 山のはに隠れな果てそ秋の月このよをだにも闇にまどはじ やまのはにかくれなはてそあきのつきこのよをたにもやみにまとはし | 藤原範永 | 雑一 |
4-後拾 | 868 | もろともにおなじうき世にすむ月のうらやましくも西へ行くかな もろともにおなしうきよにすむつきのうらやましくもにしへゆくかな | 中原長國妻 | 雑一 |
4-後拾 | 869 | いかがせむ山のはにだにとどまらで心の空にいづる月をば いかかせむやまのはにたにととまらてこころのそらにいつるつきをは | 藤原道綱母 | 雑一 |
4-後拾 | 870 | 曇る夜の月とわが身の行く末とおばつかなさはいづれまされり くもるよのつきとわかみのゆくすゑとおほつかなさはいつれまされり | 藤原道綱母 | 雑一 |
4-後拾 | 871 | 隠れ沼に生ふる菖蒲のうきねして果はつれなくなる心かな かくれぬにおふるあやめのうきねしてはてはつれなくなるこころかな | 斎宮女御 | 雑一 |
4-後拾 | 872 | 川かみやあらふの池のうきぬなはうきことあれやくる人もなし かはかみやあちふのいけのうきぬなはうきことあれやくるひともなし | 曾禰好忠 | 雑一 |
4-後拾 | 873 | あらはれて恨みやせまし隠れ沼の汀によせし浪のこころを あらはれてうらみやせましかくれぬのみきはによせしなみのこころを | 小式部内侍 | 雑一 |
4-後拾 | 874 | 岸とほみただよふ浪はなかぞらによる方もなきなげきをぞせし きしとほみたたよふなみはなかそらによるかたもなきなけきをそせし | 小弁 | 雑一 |
4-後拾 | 875 | ひきすつる岩かきぬまのあやめ草思ひしらずもけふにあふかな ひきすつるいはかきぬまのあやめくさおもひしらすもけふにあふかな | 小弁 | 雑一 |
4-後拾 | 876 | ゆかばこそあはずもあらめ帚木のありとばかりはおとづれよかし ゆかはこそあはてもあらめははききのありとはかりはおとつれよかし | 馬内侍 | 雑一 |
4-後拾 | 877 | おもひいでてとふ言の葉をたれみましつらきに堪へぬ命なりせば おもひいててとふことのはをたれみましつらきにたへぬいのちなりせは | 読人知らず | 雑一 |
4-後拾 | 878 | 山里をたづねてとふと思ひしはつらき心をみするなりけり やまさとをたつねてとふとおもひしはつらきこころをみするなりけり | 中務典侍 | 雑一 |
4-後拾 | 879 | 夢のごとおぼめかれゆく世の中にいつとはむとかおとづれもせぬ ゆめのことおほめかれゆくよのなかにいつとはむとかおとつれもせぬ | 斎宮女御 | 雑一 |
4-後拾 | 880 | ふみみてもものおもふ身とぞなりにける眞野の継橋とだえのみして ふみみてもものおもふみとそなりにけるまののつきはしとたえのみして | 相模 | 雑一 |
4-後拾 | 881 | 野飼はねどあれゆく駒をいかがせむ森の下草さかりならねば のかはねとあれゆくこまをいかかせむもりのしたくささかりならねは | 相模 | 雑一 |
4-後拾 | 882 | いたづらに身はなりぬともつらからぬ人ゆゑとだに思はましかば いたつらにみはなりぬともつらからぬひとゆゑとたにおもはましかは | 読人知らず | 雑一 |
4-後拾 | 883 | あるが上に又ぬぎかくる唐衣いかがみさをもつくりあふべき あるかうへにまたぬきかくるからころもいかかみさをもつくりあふへき | 大江匡衡 | 雑一 |
4-後拾 | 884 | わりなしや心にかなふ涙だに身のうき時はとまりやはする わりなしやこころにかなふなみたたにみのうきときはとまりやはする | 源雅通女 | 雑一 |
4-後拾 | 885 | わするなよわするときかばみ熊野の浦の浜木綿恨みかさねむ わするなよわするときかはみくまののうらのはまゆふうらみかさねむ | 道命法師 | 雑一 |
4-後拾 | 886 | 忘れじといひつる中は忘れけり忘れむとこそいふべかりけれ わすれしといひつるなかはわすれけりわすれむとこそいふへかりけれ | 道命法師 | 雑一 |
4-後拾 | 887 | ものいはで人の心をみるほどにやがてとはれでやみぬべきかな ものいはてひとのこころをみるからにやかてとはれてやみぬへきかな | 道命法師 | 雑一 |
4-後拾 | 888 | 天の河おなじながれとききながらわたらむことのなほぞ悲しき あまのかはおなしなかれとききなからわたらむことのなほそかなしき | 周防内侍 | 雑一 |
4-後拾 | 889 | この頃の夜半のねざめは思ひやるいかなる鴛鴦か霜はらふらむ このころのよはのねさめはおもひやるいかなるをしかしもははらはむ | 小大君 | 雑一 |
4-後拾 | 890 | おもひきや秋の夜風の寒けきにいもなき床にひとりねむとは おもひきやあきのよかせのさむけきにいもなきとこにひとりねむとは | 清原元輔 | 雑一 |
4-後拾 | 891 | いかなれば花のにほひもかはらぬを過ぎにし春の恋しかるらむ いかなれやはなのにほひもかはらぬをすきにしはるのこひしかるらむ | 具平親王 | 雑一 |
4-後拾 | 892 | すみぞめにあけの衣をかさねきて涙のいろのふたへなるかな すみそめにあけのころもをかさねきてなみたのいろのふたへなるかな | 祭主輔親 | 雑一 |
4-後拾 | 893 | 浅茅原あれたるやどはむかし見し人をしのぶのわたりなりけり あさちはらあれたるやとはむかしみしひとをしのふのわたりなりけり | 能因法師 | 雑一 |
4-後拾 | 894 | なき人はおとづれもせで琴の緒をたちし月日ぞかへり来にける なきひとはおとつれもせてことのををたちしつきひそかへりきにける | 藤原道綱母 | 雑一 |
4-後拾 | 895 | しぐるれどかひなかりけり埋もれ木は色づく方ぞ人もとひける しくるれとかひなかりけりうもれきはいろつくかたそひともとひける | 源経隆 | 雑一 |
4-後拾 | 896 | 人しれずおつる涙の音をせば夜半の時雨におとらざらまし ひとしれすおつるなみたのおとをせはよはのしくれにおとらさらまし | 少将井尼 | 雑一 |
4-後拾 | 897 | こぞのけふ別れし星も逢ひぬめりなどたぐひなきわが身なるらむ こそのけふわかれしほしもあひぬめりなとたくひなきわかみなるらむ | 後朱雀院 | 雑一 |
4-後拾 | 898 | はかなさによそへてみれば桜花をりしらぬにやならむとすらむ はかなさによそへてみれとさくらはなをりしらぬにやならむとすらむ | 小左近 | 雑一 |
4-後拾 | 899 | 形見ぞと思はで花を見しだにも風をいとはぬ春はなかりき かたみそとおもはてはなをみしにたにかせをいとはぬはるはなかりき | 辨乳母 | 雑一 |
4-後拾 | 900 | かずならぬ身のうきことは世の中になきうちにだにいらぬなりけり かすならぬみのうきことはよのなかになきうちにたにいらぬなりけり | 小辨 | 雑一 |
4-後拾 | 901 | かれはつる浅茅がうへの霜よりもけぬべき程を今かとぞ待つ かれはつるあさちかうへのしもよりもけぬへきほとをいまかとそまつ | 斎宮女御 | 雑一 |
4-後拾 | 902 | いにしへをこふる寝覚めやまさるらむききもならはぬ峰の嵐に いにしへをこふるねさめやまさるらむききもならはぬみねのあらしに | 藤原範永 | 雑一 |
4-後拾 | 903 | かしは木の杜の下草くれごとに猶たのめとやもるをみるみる かしはきのもりのしたくさくれことになほたのめとやもるをみるみる | 藤原道綱母 | 雑二 |
4-後拾 | 904 | まつ程のすぎのみゆけば大井川たのむる暮もいかがとぞ思ふ まつほとのすきのみゆけはおほゐかはたのむるくれをいかかとそおもふ | 馬内侍 | 雑二 |
4-後拾 | 905 | 浅き瀬をこす筏士の綱よわみ猶この暮もあやうかりけり あさきせをこすいかたしのつなよわみなほこのくれもあやふかりけり | 読人知らず | 雑二 |
4-後拾 | 906 | ひとりぬる人やしるらむ秋の夜を長しとたれか君に告げつる ひとりぬるひとやしるらむあきのよをなかしとたれかきみにつけつる | 高内侍 | 雑二 |
4-後拾 | 907 | 春霞たちいでむこともおもほえず浅みどりなる空のけしきに はるかすみたちいてむこともおもほえすあさみとりなるそらのけしきに | 新左衛門 | 雑二 |
4-後拾 | 908 | その色の草ともみえずかれにしをいかにいひてかけふはかくべき そのいろのくさともみえすかれにしをいかにいひてかけふはかくへき | 小馬命婦 | 雑二 |
4-後拾 | 909 | ふしにけりさしも思はば笛竹のおとをぞせまし夜更けたりとも ふしにけりさしもおもはてふえたけのおとをそせましよふけたりとも | 和泉式部 | 雑二 |
4-後拾 | 910 | やすらはでたつにたてうき真木の戸をさしも思はぬ人もありけり やすらはてたつにたてうきまきのとをさしもおもはぬひともありけり | 和泉式部 | 雑二 |
4-後拾 | 911 | 人しらでねたさもねたしむらさきのねずりの衣うはぎにもせむ ひとしらてねたさもねたしむらさきのねすりのころもうはきにをきむ | 藤原頼宗 | 雑二 |
4-後拾 | 912 | ぬれぎぬと人にはいはむ紫のねずりの衣うはぎなりとも ぬれきぬとひとにはいはむむらさきのねすりのころもうはきなりとも | 和泉式部 | 雑二 |
4-後拾 | 913 | 秋霧はたち隠せども萩原に鹿ふしけりと今朝みつるかな あききりはたちかくせともはきはらにしかふしけりとけさみつるかな | 兵衛内侍 | 雑二 |
4-後拾 | 914 | 朝な朝なおきつつみれば白菊の霜にぞいたくうつろひにける あさなあさなおきつつみれはしらきくのしもにそいたくうつろひにける | 左兵衛督公信 | 雑二 |
4-後拾 | 915 | 逢坂の関に心はかよはねど見し東路は猶ぞこひしき あふさかのせきにこころはかよはねとみしあつまちはなほそこひしき | 相模 | 雑二 |
4-後拾 | 916 | ねぬ縄のねぬ名のいたく立ちぬればなほ大澤のいけらしやよに ねぬなはのねぬなのおほくたちぬれはなほおほさはのいけらしやよに | 読人知らず | 雑二 |
4-後拾 | 917 | すむ人のかれ行くやどは時わかず草木も秋の色にぞありける すむひとのかれゆくやとはときわかすくさきもあきのいろにそありける | 藤原兼平母 | 雑二 |
4-後拾 | 918 | あかつきの鐘のこゑこそきこゆなれこれを入あひと思はましかば あかつきのかねのこゑこそきこゆなれこれをいりあひとおもはましかは | 小一條院 | 雑二 |
4-後拾 | 919 | いづくにかきても隠れむ隔てつる心の隈のあらばこそあらめ いつくにかきてもかくれむへたてたるこころのくまのあらはこそあらめ | 和泉式部 | 雑二 |
4-後拾 | 920 | やすらひにまきの戸こそはささざらめいかに明けぬる冬の夜ならむ やすらひにまきのとこそはさささらめいかにあけつるふゆのよならむ | 和泉式部 | 雑二 |
4-後拾 | 921 | 青柳のいとになき名ぞたちにけるよるくる人は我ならねども あをやきのいとになきなそたちにけるよるくるひとはわれならねとも | 藤原顕綱 | 雑二 |
4-後拾 | 922 | まだ咲かぬまがきの菊もあるものをいかなる宿にうつろひぬらむ またさかぬまかきのきくもあるものをいかなるやとにうつろひにけむ | 後三條院 | 雑二 |
4-後拾 | 923 | たまくしげ身はよそよそになりぬともふたり契りしことな忘れそ たまくしけみはよそよそになりぬともふたりちきりしことなわすれそ | 馬内侍 | 雑二 |
4-後拾 | 924 | いづかたに行くとばかりはつげてましとふべき人のある身と思はば いつかたへゆくとはかりはつけてましとふへきひとのあるみとおもはは | 和泉式部 | 雑二 |
4-後拾 | 925 | かくばかり忍ぶる雨を人とはばなににぬれたる袖といふらむ かはかりにしのふるあめをひととははなににぬれたるそてといふらむ | 和泉式部 | 雑二 |
4-後拾 | 926 | 空になる人の心はささがにのいかにけふ又かくてくらさむ そらになるひとのこころにささかにのいかにけふまたかくてくらさむ | 和泉式部 | 雑二 |
4-後拾 | 927 | 三笠山さしはなれぬとききしかど雨もよにとは思ひしものを みかさやまさしはなれぬといひしかとあめもよにとはおもひしものを | 和泉式部 | 雑二 |
4-後拾 | 928 | 歎かじなつひにすまじき別れかはこはある世にと思ふばかりを なけかしなつひにすましきわかれかはこれはあるよにとおもふはかりそ | 読人知らず | 雑二 |
4-後拾 | 929 | いにしへのきならし衣いまさらにそのものごしのとけずしもあらじ いにしへのきならしころもいまさらにそのものこしのとけすしもあらし | 藤原定頼 | 雑二 |
4-後拾 | 930 | まことにや空になき名のふりぬらむあまてる神のくもりなきよに まことにやそらになきなのふりぬらむあまてるかみのくもりなきよに | 相模 | 雑二 |
4-後拾 | 931 | こりぬらむ仇なる人に忘られてわれならはさむ思ふためしは こりぬらむあたなるひとにわすられてわれならはさむおもふためしは | 藤原長能 | 雑二 |
4-後拾 | 932 | 春雨のふるめかしくもつぐるかなはや柏木のもりにしものを はるさめのふるめかしくもつくるかなはやかしはきのもりにしものを | 馬内侍 | 雑二 |
4-後拾 | 933 | いにしへの常世の國やかはりにしもろこしばかり遠くみゆるは いにしへのとこよのくにやかはりにしもろこしはかりとほくみゆるは | 清原元輔 | 雑二 |
4-後拾 | 934 | わたの原たつ白浪のいかなれば名残ひさしく見ゆるなるらむ わたのはらたつしらなみのいかなれはなこりひさしくみゆるなるらむ | 右兵衛督朝任 | 雑二 |
4-後拾 | 935 | 風はただ思はぬかたに吹きしかどわたの原たつ浪はなかりき かせはたたおもはぬかたにふきしかとわたのはらたつなみもなかりき | 赤染衛門 | 雑二 |
4-後拾 | 936 | 人しれず心ながくや時雨るらむ更けゆく秋の夜半の寝覚めに ひとしれすこころなからやしくるらむふけゆくあきのよはのねさめに | 相模 | 雑二 |
4-後拾 | 937 | 逢坂の関のあなたもまだみねば東のこともしられざりけり あふさかのせきのあなたもまたみねはあつまのこともしられさりけり | 大江匡衡 | 雑二 |
4-後拾 | 938 | かきくもれ時雨るとならば神無月こころそらなる人やとまると かきくもれしくるとならはかみなつきけしきそらなるひとやとまると | 馬内侍 | 雑二 |
4-後拾 | 939 | 夜をこめて鳥の空音ははかるともよに逢坂の関はゆるさじ よをこめてとりのそらねにはかるともよにあふさかのせきはゆるさし | 清少納言 | 雑二 |
4-後拾 | 940 | ふるさとの三輪の山辺を尋ぬれど杉まの月の影だにもなし ふるさとのみわのやまへをたつぬれとすきまのつきのかけたにもなし | 素意法師 | 雑二 |
4-後拾 | 941 | 東路のそのはらからはきたりとも逢坂まではこさじとぞおもふ あつまちのそのはらからはきたりともあふさかまてはこさしとそおもふ | 相模 | 雑二 |
4-後拾 | 942 | ちらさじと思ふあまりに桜花ことのはをさへ惜しみつるかな ちらさしとおもふあまりにさくらはなことのはをさへをしみつるかな | 兵衛姫君 | 雑二 |
4-後拾 | 943 | さらでだに岩間の水はもるものを氷とけなば名こそながれめ さらてたにいはまのみつはもるものをこほりとけなはなこそなかれめ | 下野 | 雑二 |
4-後拾 | 944 | 祈りけむ事は夢にて限りてよさても逢ふてふ名こそ惜しけれ いのりけむことはゆめにてかきりてよさてもあふてふなこそをしけれ | 四條宰相 | 雑二 |
4-後拾 | 945 | 近きだにきかぬ禊をなにかそのから神まではとほくいのらむ ちかきたにきかぬみそきをなにかそのからかみまてはとほくいのらむ | 少将内侍 | 雑二 |
4-後拾 | 946 | 忘るるも苦しくもあらずねぬなはのねたくと思ふ事しなければ わするるもくるしくもあらすねぬなはのねたくもとおもふことしなけれは | 伊賀少将 | 雑二 |
4-後拾 | 947 | ならされぬみそののうりとしりながらよひあかつきとたつぞ露けき ならされぬみそののうりとしりなからよひあかつきとたつそつゆけき | 藤原義孝 | 雑二 |
4-後拾 | 948 | おひたつをまつと頼めしかひもなく浪こすべしときくはまことか おひたつをまつとたのめしかひもなくなみこすへしときくはまことか | 藤原朝光 | 雑二 |
4-後拾 | 949 | いつしかとまちしかひなく秋風にそよとばかりもをぎの音せぬ いつしかとまちしかひなくあきかせにそよとはかりもをきのおとせぬ | 源道済 | 雑二 |
4-後拾 | 950 | 君はまだしらざりけりな秋の夜のこのまの月ははつかにぞみる きみはまたしらさりけりなあきのよのこのまのつきははつかにそみる | 和泉式部 | 雑二 |
4-後拾 | 951 | さもこそは心くらべにまけざらめ早くもみえし駒のあしかな さもこそはこころくらへにまけさらめはやくもみえしこまのあしかな | 相模 | 雑二 |
4-後拾 | 952 | おのづからわが忘るるになりにけり人の心をこころ見しまに おのつからわかわするるになりにけりひとのこころをこころみしまに | 中原長國 | 雑二 |
4-後拾 | 953 | 恨みずばいかでか人にとはれましうきもうれしきものにぞありける うらみすはいかてかひとにとはれましうきもうれしきものにそありける | 律師朝範 | 雑二 |
4-後拾 | 954 | 綱たえてはなれはてにしみちのくのをぶちの駒をきのふみしかな つなたえてはなれはてにしみちのくのをふちのこまをきのふみしかな | 相模 | 雑二 |
4-後拾 | 955 | 言の葉につけてもなどかとはざらむ蓬の宿もわかぬあらしを ことのはにつけてもなとかとはさらむよもきのやともわかぬあらしを | 相模 | 雑二 |
4-後拾 | 956 | 八重ぶきのひまだにあらば蘆のやにおとせぬ風はあらじとをしれ やへふきのひまたにあらはあしのやにおとせぬかせはあらしとをしれ | 藤原定頼 | 雑二 |
4-後拾 | 957 | わりなしや身はここのへのうちながらとへとは人の恨むべしやは わりなしやみはここのへのうちなからとへとはひとのうらむへしやは | 藤原実方 | 雑二 |
4-後拾 | 958 | しばしこそ思ひもいでめ津の國のながらへゆかば今わすれなむ しはしこそおもひもいてめつのくにのなからへゆかはいまわすれなむ | 中宮内侍 | 雑二 |
4-後拾 | 959 | これもさはあしかりけりな津の國のこやことづくるはじめなるらむ これもさはあしかりけりやつのくにのこやことつくるはしめなるらむ | 上總大輔 | 雑二 |
4-後拾 | 960 | 心えつあまのたくなはうちはへてくるをくるしと思ふなるべし こころえつあまのたくなはうちはへてくるをくるしとおもふなるへし | 土御門御くしげどの | 雑二 |
4-後拾 | 961 | かずならぬ人をのがひの心にはうしともものをおもはざらなむ かすならぬひとをのかひのこころにはうしともものをおもはさらなむ | 祭主輔親 | 雑二 |
4-後拾 | 962 | 磯なるる人はあまたに聞こゆるを誰がなのりそをかりて答へむ いそなるるひとはあまたにきこゆるをたかなのりそをかりてこたへむ | 大貮成章 | 雑二 |
4-後拾 | 963 | とへとしも思はぬ八重の山吹をゆるすといはばをりにこむとや とへとしもおもはぬやへのやまふきをゆるすといははをりにこむとや | 和泉式部 | 雑二 |
4-後拾 | 964 | あぢきなく思ひこそやれつれづれとひとりやゐでの山吹の花 あちきなくおもひこそやれつれつれとひとりやゐてのやまふきのはな | 和泉式部 | 雑二 |
4-後拾 | 965 | ねぬ縄の苦しきほどのたえまかとたゆるをしらで思ひけるかな ねぬなはのくるしきほとのたえまかとたゆるをしらておもひけるかな | 少将内侍 | 雑二 |
4-後拾 | 966 | 行く末を流れてなににたのみけむ絶えけるものを中河の水 ゆくすゑをなかれてなににたのみけむたえけるものをなかかはのみつ | 式部命婦 | 雑二 |
4-後拾 | 967 | 長しとて明けずやはあらむ秋の夜はまてかし真木のとばかりをだに なかしとてあけすやはあらむあきのよはまてかしまきのとはかりをたに | 和泉式部 | 雑二 |
4-後拾 | 968 | 天の原はるかに渡る月だにもいづるは人にしらせこそすれ あまのはらはるかにわたるつきたにもいつるはひとにしらせこそすれ | 藤原道信 | 雑二 |
4-後拾 | 969 | うきこともまだ白雲の山のはにかかるやつらきこころなるらむ うきこともまたしらくものやまのはにかかるやつらきこころなるらむ | 藤原元真 | 雑二 |
4-後拾 | 970 | ふく風になびく浅茅は我なれや人のこころのあきをしらする かせふくになひくあさちはわれなれやひとのこころのあきをしらする | 斎宮女御 | 雑二 |
4-後拾 | 971 | たれかまた年へぬる身をふりすてて吉備の中山こえむとすらむ たれかまたとしへぬるみをふりすててきひのなかやまこえむとすらむ | 清原元輔 | 雑三 |
4-後拾 | 972 | 春ごとにわすられにける埋もれ木は花の都をおもひこそやれ はることにわすられにけるうもれきははなのみやこをおもひこそやれ | 源重之 | 雑三 |
4-後拾 | 973 | 河舟にのりて心の行くときはしづめる身ともおもほえぬかな かはふねにのりてこころのゆくときはしつめるみともおもほえぬかな | 大江匡衡 | 雑三 |
4-後拾 | 974 | よのなかをきくにたもとのぬるるかな涙はよそのものにぞありける よのなかをきくにたもとのぬるるかななみたはよそのものにそありける | 大江為基 | 雑三 |
4-後拾 | 975 | いたづらになりぬる人のまたもあらばいひあはせてぞねをばなかまし いたつらになりぬるひとのまたもあらはいひあはせてそねをはなかまし | 藤原國行 | 雑三 |
4-後拾 | 976 | みちのくのあだちのま弓ひくやとて君にわが身をまかせつるかな みちのくのあたちのまゆみひくやとてきみにわかみをまかせつるかな | 源重之 | 雑三 |
4-後拾 | 977 | 雲の上にひかりかくれしゆふべより幾夜といふに月を見つらむ くものうへにひかりかくれしゆふへよりいくよといふにつきをみるらむ | 天台座主明快 | 雑三 |
4-後拾 | 978 | かぎりあればあまの羽衣ぬぎかへておりぞわづらふ雲のかけはし かきりあれはあまのはころもぬきかへておりそわつらふくものかけはし | 源経任 | 雑三 |
4-後拾 | 979 | うれしといふことはなべてになりぬればいはで思ふに程ぞへにける うれしといふことはなへてになりぬれはいはておもふにほとそへにける | 周防内侍 | 雑三 |
4-後拾 | 980 | 澤水におりゐるたづはとしふともなれし雲井ぞこひしかるべき さはみつにおりゐるたつはとしふともなれしくもゐそこひしかるへき | 橘為伸 | 雑三 |
4-後拾 | 981 | 思ひきや衣の色はみどりにてみよまで竹をかざすべしとは おもひきやころものいろをみとりにてみよまてたけをかさすへしとは | 橘俊宗 | 雑三 |
4-後拾 | 982 | おしなべてさく白菊はやへやへの花の霜とぞみえわたりける おしなへてさくしらきくはやへやへのはなのしもとそみえわたりける | 藤原公任 | 雑三 |
4-後拾 | 983 | まつことのあるとや人の思ふらむ心にもあらでながらふる身を まつことのあるとやひとのおもふらむこころにもあらてなからふるみを | 藤原兼綱 | 雑三 |
4-後拾 | 984 | 君をだにうかべてしがな涙川しづむなかにもふちせありやと きみをたにうかへてしかななみたかはしつむなかにもふちせありやと | 藤原元真 | 雑三 |
4-後拾 | 985 | 我のみと思ひしかども高砂のをのへの松もまだたてりけり われのみとおもひこしかとたかさこのをのへのまつもまたたてりけり | 藤原義定 | 雑三 |
4-後拾 | 986 | 世の中を今はかぎりと思ふには君こひしくやならむとすらむ よのなかをいまはかきりとおもふにはきみこひしくやならむとすらむ | 平兼盛 | 雑三 |
4-後拾 | 987 | もみぢするかつらの中に住吉の松のみひとりみどりなるかな もみちするかつらのなかにすみよしのまつのみひとりみとりなるかな | 津守國基 | 雑三 |
4-後拾 | 988 | われ舟のしづみぬる身の悲しきは渚によする浪さへぞなき われふねのしつみぬるみのかなしきはなきさによするなみさへそなき | 藤原基長 | 雑三 |
4-後拾 | 989 | たづねつる雪のあしたのはなれ駒きみばかりこそ跡をしるらめ たつねつるゆきのあしたのはなれこまきみはかりこそあとをしるらめ | 源兼俊母 | 雑三 |
4-後拾 | 990 | 雲居までたちのぼるべき煙かと見えし思ひのほかにもあるかな くもゐまてたちのほるへきけふりかとみしはおもひのほかにもあるかな | 堀河女御 | 雑三 |
4-後拾 | 991 | 松風は色やみどりにふきつらむもの思ふ人の身にぞしみぬる まつかせはいろやみとりにふきつらむものおもふひとのみにそしみける | 堀河女御 | 雑三 |
4-後拾 | 992 | 世の中を思ひ乱れてつくづくと眺むる宿に松風ぞ吹く よのなかをおもひみたれてつくつくとなかむるやとにまつかせそふく | 源道済 | 雑三 |
4-後拾 | 993 | 心には月見むとしも思はねどうきには空ぞながめられける こころにはつきみむとしもおもはねとうきにはそらそなかめられける | 藤原為任 | 雑三 |
4-後拾 | 994 | 世の中のうきにおひたるあやめ草けふは袂にねぞかかりける よのなかのうきにおひたるあやめくさけふはたもとにねそかかりける | 藤原隆家 | 雑三 |
4-後拾 | 995 | けふとてもあやめしられぬ袂にはひきたがへたるねをやかくらむ けふまてもあやめしられぬたもとにはひきたかへたるねをやかくらむ | 小弁 | 雑三 |
4-後拾 | 996 | 五月闇ここひのもりのほととぎす人しれずのみなきゐたるかな さつきやみここひのもりのほとときすひとしれすのみなきわたるかな | 藤原兼房 | 雑三 |
4-後拾 | 997 | ほととぎすここひの森に啼く聲はきくよぞ人の袖もぬれけり ほとときすここひのもりになくこゑはきくよそひとのそてもぬれけり | 大弐三位 | 雑三 |
4-後拾 | 998 | すめらぎもあらひとかみもなごむまでなきけるもりのほととぎすかな すめらきもあらひとかみもなこむまてなきけるもりのほとときすかな | 素意法師 | 雑三 |
4-後拾 | 999 | ことわりやいかでか鹿のなかざらむこよひばかりの命とおもへば ことわりやいかてかしかのなかさらむこよひはかりのいのちとおもへは | 和泉式部 | 雑三 |
4-後拾 | 1000 | 松風も岸うつ浪ももろともにむかしにあらぬ聲のするかな まつかせもきしうつなみももろともにむかしにあらぬおとのするかな | 恵慶法師 | 雑三 |
4-後拾 | 1001 | しぬばかり歎きにこそは歎きしか生きてとふべき身にしあらねば しぬはかりなけきにこそはなけきしかいきてとふへきみにしあらねは | 小式部内侍 | 雑三 |
4-後拾 | 1002 | 大空に風まつほどのくものいの心ぼそさを思ひやらなむ おほそらにかせまつほとのくものいのこころほそさをおもひやらなむ | 斎宮女御 | 雑三 |
4-後拾 | 1003 | 思ひやるわが衣手はささがにのくもらぬ空に雨のみぞふる おもひやるわかころもてはささかにのくもらぬそらにあめのみそふる | 東三條院 | 雑三 |
4-後拾 | 1004 | なきかずにおもひなしてやとはざらむまだ有明の月まつものを なきかすにおもひなしてやとはさらむまたありあけのつきまつものを | 伊勢大輔 | 雑三 |
4-後拾 | 1005 | ちるをこそあはれとみしか梅の花はなや今年は人をしのばむ ちるをこそあはれとみしかうめのはなはなやことしはひとをしのはむ | 小大君 | 雑三 |
4-後拾 | 1006 | とへかしな幾夜もあらじ露の身をしばしも言のはにやかかると とへかしないくよもあらしつゆのみをしはしもことのはにやかかると | 読人知らず | 雑三 |
4-後拾 | 1007 | ものをのみ思ひしほどにはかなくて浅茅が末によはなりにけり ものをのみおもひしほとにはかなくてあさちかすゑによはなりにけり | 和泉式部 | 雑三 |
4-後拾 | 1008 | しのぶべき人もなき身はあるをりにあはれあはれといひやおかまし しのふへきひともなきみはあるをりにあはれあはれといひやおかまし | 和泉式部 | 雑三 |
4-後拾 | 1009 | いかなれば同じ色にておつれども涙はめにもとまらざるらむ いかなれはおなしいろにておつれともなみたはめにもとまらさるらむ | 和泉式部 | 雑三 |
4-後拾 | 1010 | 常よりもはかなきころの夕暮れになくなる人ぞかぞへられける つねよりもはかなきころのゆふくれはなくなるひとそかそへられける | 藤原頼宗 | 雑三 |
4-後拾 | 1011 | 草の葉におかぬばかりの露の身はいつその數にいらむとすらむ くさのはにおかぬはかりのつゆのみはいつそのかすにいらむとすらむ | 藤原定頼 | 雑三 |
4-後拾 | 1012 | 消えもあへずはかなきほどの露ばかりありやなしやと人のとへかし きえもあへすはかなきころのつゆはかりありやなしやとひとのとへかし | 赤染衛門 | 雑三 |
4-後拾 | 1013 | 世の中をなににたとへむ秋の田をほのかにてらすよひのいなづま よのなかをなににたとへむあきのたをほのかにてらすよひのいなつま | 源順 | 雑三 |
4-後拾 | 1014 | 明けぬなり賀茂の河瀬に千鳥鳴くけふもはかなく暮れむとすらむ あけぬなりかものかはせにちとりなくけふもはかなくくれむとすらむ | 圓松法師 | 雑三 |
4-後拾 | 1015 | 恋しくば夢にも人をみるべきに窓うつ雨にめをさましつつ こひしくはゆめにもひとをみるへきをまとうつあめにめをさましつつ | 大貮高遠 | 雑三 |
4-後拾 | 1016 | なげきこしみちの露にもまさりけりなれにし里をこふる涙は なけきこしみちのつゆにもまさりけりなれにしさとをこふるなみたは | 赤染衛門 | 雑三 |
4-後拾 | 1017 | 思ひきや古き都をたちはなれ胡の國人にならむものとは おもひきやふるきみやこをたちはなれこのくにひとにならむものとは | 僧都懐壽 | 雑三 |
4-後拾 | 1018 | みる度に鏡の影のつらきかなかからざりせばかからましやは みるからにかかみのかけのつらきかなかからさりせはかからましやは | 懐圓法師 | 雑三 |
4-後拾 | 1019 | いにしへはつらくきこえし鳥のねのうれしきさへぞものは悲しき いにしへはつらくきこえしとりのねのうれしきさへそものはかなしき | ゐでのあま | 雑三 |
4-後拾 | 1020 | ともすれば四方の山辺にあくがれし心に身をもまかせつるかな ともすれはよものやまへにあくかれしこころにみをもまかせつるかな | 増基法師 | 雑三 |
4-後拾 | 1021 | しかすがにかなしきものは世の中をうきたつほどの心なりけり しかすかにかなしきものはよのなかをうきたつほとのこころなりけり | 馬内侍 | 雑三 |
4-後拾 | 1022 | なにかその身のいろにしもたけからむ心を深き山にすませよ なにかそのみのいるにしもたけからむこころをふかきやまにすませよ | 藤原長能 | 雑三 |
4-後拾 | 1023 | まことにや同じ道には入りにけるひとりは西へゆかじと思ふに まことにやおなしみちにはいりにけるひとりはにしへゆかしとおもふに | 律師長濟 | 雑三 |
4-後拾 | 1024 | いかでかく花の袂をたちかへてうらなる玉をわすれざりけむ いかてかくはなのたもとをたちかへてうらなるたまをわすれさりけむ | 加賀左衛門 | 雑三 |
4-後拾 | 1025 | かけてだに衣のうらに玉ありとしらで過ぎけむ方ぞくやしき かけてたにころものうらにたまありとしらてすきけむかたそくやしき | 中宮内侍 | 雑三 |
4-後拾 | 1026 | きみすらもまことの道に入りぬなりひとりや長きやみにまどはむ きみすらもまことのみちにいりぬなりひとりやなかきやみにまとはむ | 選子内親王 | 雑三 |
4-後拾 | 1027 | けふとしも思ひやはせし麻衣なみだの玉のかかるべしとは けふとしもおもひやはせしあさころもなみたのたまのかかるへしとは | 読人知らず | 雑三 |
4-後拾 | 1028 | 思ふにもいふにもあまる事なれや衣の玉のあらはるる日は おもふにもいふにもあまることなれやころものたまのあらはるるひは | 伊勢大輔 | 雑三 |
4-後拾 | 1029 | 世を捨てて宿を出でにし身なれどもなほ恋しきは昔なりけり よをすててやとをいてにしみなれともなほこひしきはむかしなりけり | 源顕基 | 雑三 |
4-後拾 | 1030 | ときのまも恋しきことの慰まば世はふたたびもそむかざらまし ときのまもこひしきことのなくさまはよはふたたひもそむかさらまし | 上東門院 | 雑三 |
4-後拾 | 1031 | 思ひしる人もありける世の中をいつをいつとてすぐすなるらむ おもひしるひともありけるよのなかをいつをいつとてすくすなるらむ | 藤原公任 | 雑三 |
4-後拾 | 1032 | 君に人なれなならひそ奥山に入りての後はわびしかりけり きみにひとなれなならひそおくやまにいりてののちはわひしかりけり | 藤原統理 | 雑三 |
4-後拾 | 1033 | 忘られず思ひいでつつ山人をしかぞこひしくわれも眺むる わすられすおもひいてつつやまひとをしかそこひしくわれもなかむる | 御三条院 | 雑三 |
4-後拾 | 1034 | 見し人もわすれのみ行くふるさとに心ながくもきたる春かな みしひともわすれのみゆくふるさとにこころなかくもきたるはるかな | 藤原義懐 | 雑三 |
4-後拾 | 1035 | 谷風になれずといかが思ふらむ心ははやくすみにしものを たにかせになれすといかかおもふらむこころははやくすみにしものを | 藤原公任 | 雑三 |
4-後拾 | 1036 | 水草ゐしおぼろの清水底すみて心に月の影はうかぶや みくさゐしおほろのしみつそこすみてこころにつきのかけはうかふや | 素意法師 | 雑三 |
4-後拾 | 1037 | 程へてや月もうかばむ大原やおぼろの清水すむなばかりに ほとへてやつきもうかはむおほはらやおほろのしみつすむなはかりそ | 良暹法師 | 雑三 |
4-後拾 | 1038 | 思ひやる心さへこそさびしけれ大原山のあきのゆふぐれ おもひやるこころさへこそさひしけれおほはらやまのあきのゆふくれ | 藤原國房 | 雑三 |
4-後拾 | 1039 | 思はずにいるとはみえき梓弓かへらばかへれ人のためかは おもはすにいるとはみえきあつさゆみかへらはかへれひとのためかは | 律師朝範 | 雑三 |
4-後拾 | 1040 | 思ひやれとふ人もなき山里のかけひの水のこころぼそさを おもひやれとふひともなきやまさとのかけひのみつのこころほそさを | 上東門院中将 | 雑三 |
4-後拾 | 1041 | 武隈の松はふたきを都人いかがととはばみきとこたへむ たけくまのまつはふたきをみやこひといかかととははみきとこたへむ | 橘季通 | 雑四 |
4-後拾 | 1042 | 武隈の松はこのたび跡もなしちとせをへてや我はきつらむ たけくまのまつはこのたひあともなしちとせをへてやわれはきつらむ | 能因法師 | 雑四 |
4-後拾 | 1043 | 里人のくむだに今はなかるべし岩井の清水みくさゐにけり さとひとのくむたにいまはなかるへしいはゐのしみつみくさゐにけり | 大江嘉言 | 雑四 |
4-後拾 | 1044 | 年へたる松だになくば浅茅原なにかむかしのしるしならまし としへたるまつたになくはあさちはらなにかむかしのしるしならまし | 江侍従 | 雑四 |
4-後拾 | 1045 | 年をへてみる人もなきふるさとにかはらぬ松ぞあるじならまし としをへてみるひともなきふるさとにかはらぬまつそあるしならまし | 左衛門督北方 | 雑四 |
4-後拾 | 1046 | 君がうゑし松ばかりこそ残りけれいづれの春の子の日なりけむ きみかうゑしまつはかりこそのこりけれいつれのはるのねのひなりけむ | 源為善 | 雑四 |
4-後拾 | 1047 | 誰をけふまつとはいはむかくばかり忘るるなかのねたげなるよに たれをけふまつとはいはむかくはかりわするるなかのねたけなるよに | 馬内侍 | 雑四 |
4-後拾 | 1048 | みどりにて色もかはらぬ呉竹はよのながきをや秋としるらむ みとりにていろもかはらぬくれたけはよのなかきをやあきとしるらむ | 藤原師経 | 雑四 |
4-後拾 | 1049 | いはしろのをのへの風に年ふれど松のみどりはかはらざりけり いはしろのをのへのかせにとしふれとまつのみとりはかはらさりけり | 前太宰帥資仲 | 雑四 |
4-後拾 | 1050 | よろづよの秋をもしらですぎきたる葉がへぬ谷の岩根松かな よろつよのあきをもしらてすききたるはかへぬたにのいはねまつかな | 白河院 | 雑四 |
4-後拾 | 1051 | み山木をねりぞもてゆふしづのをは猶こりずまの心とぞみる みやまきをねりそもてゆふしつのをはなほこりすまのこころとそみる | 藤原義孝 | 雑四 |
4-後拾 | 1052 | 旅寝する宿はみ山にとぢられて正木のかづらくる人もなし たひねするやとはみやまにとちられてまさきのかつらくるひともなし | 源経信 | 雑四 |
4-後拾 | 1053 | 鳥もゐで幾代へぬらむ勝間田の池にはいゐのあとだにもなし とりもゐていくよへぬらむかつまたのいけにはいひのあとたにもなし | 藤原範永 | 雑四 |
4-後拾 | 1054 | たちのぼるもしほの煙たえせねば空にもしるき須磨の浦かな たちのほるもしほのけふりたえせねはそらにもしるきすまのうらかな | 藤原経衡 | 雑四 |
4-後拾 | 1055 | くる人もなき奥山の瀧の絲は水のわくにぞまかせたりける くるひともなきおくやまのたきのいとはみつのわくにそまかせたりける | 藤原定頼 | 雑四 |
4-後拾 | 1056 | ものいはばとふべきものを桃の花いくよかへたる瀧の白絲 ものいははとふへきものをもものはないくよかへたるたきのしらいと | 辨乳母 | 雑四 |
4-後拾 | 1057 | せきれたるなこそ流れてとまるともたえずみるべき瀧の絲かは せきれたるなこそなかれてとまるらむたえすみるへきたきのいとかは | 藤原兼房 | 雑四 |
4-後拾 | 1058 | あせにける今だにかかる瀧つ瀬の早くぞ人はみるべかりける あせにけるいまたにかかりたきつせのはやくそひとはみるへかりける | 赤染衛門 | 雑四 |
4-後拾 | 1059 | 年毎にせくとはすれど大井川むかしのなこそ猶ながれけれ としことにせくとはすれとおほゐかはむかしのなこそなほなかれけれ | 源道済 | 雑四 |
4-後拾 | 1060 | さきの日に桂の宿を見しゆゑはけふ月の輪にくべきなりけり さきのひにかつらのやとをみしゆゑはけふつきのわにくへきなりけり | 祭主輔親 | 雑四 |
4-後拾 | 1061 | いづるゆのわくにかかれる白絲はくる人たえぬものにぞありける いつるゆのわくにかかれるしらいとはくるひとたえぬものにそありける | 源重之 | 雑四 |
4-後拾 | 1062 | 住吉の神はあはれと思ふらむむなしき舟をさしてきたれば すみよしのかみはあはれとおもふらむむなしきふねをさしてきたれは | 後三條院 | 雑四 |
4-後拾 | 1063 | おきつ風吹きにけらしな住吉の松のしづえをあらふ白浪 おきつかせふきにけらしなすみよしのまつのしつえをあらふしらなみ | 源経信 | 雑四 |
4-後拾 | 1064 | 住吉の浦風いたく吹きぬらし岸うつ浪の聲しきるなり すみよしのうらかせいたくふきぬらしきしうつなみのこゑしきるなり | 惠慶法師 | 雑四 |
4-後拾 | 1065 | 松みればたちうきものを住の江のいかなる浪かしづ心なき まつみれはたちうきものをすみのえのいかなるなみかしつこころなき | 藤原為長 | 雑四 |
4-後拾 | 1066 | 忘れ草つみてかへらむ住吉のきし方のよは思ひでもなし わすれくさつみてかへらむすみよしのきしかたのよはおもひいてもなし | 平棟伸 | 雑四 |
4-後拾 | 1067 | おもふこと神はしるらむ住吉の岸の白浪たが世なりとも おもふことかみはしるらむすみよしのきしのしらなみたよせなりとも | 源頼實 | 雑四 |
4-後拾 | 1068 | ときかけつ衣の玉は住吉の神さびにける松のこずゑに ときかけつころものたまはすみのえのかみさひにけるまつのこすゑに | 増基法師 | 雑四 |
4-後拾 | 1069 | たのみては久しくなりぬ住吉のまづこのたびのしるしみせなむ たのみてはひさしくなりぬすみよしのまつこのたひのしるしみせなむ | 赤染衛門 | 雑四 |
4-後拾 | 1070 | 都いでて秋より冬になりぬれば久しき旅の心地こそすれ みやこいててあきよりふゆになりぬれはひさしきたひのここちこそすれ | 上東門院新宰相 | 雑四 |
4-後拾 | 1071 | よろづよをすめる亀井の水やさはとみの小川の流れなるらむ よろつよをすめるかめゐのみつはさはとみのをかはのなかれなるらむ | 辨乳母 | 雑四 |
4-後拾 | 1072 | 橋柱なからましかば流れての名をこそきかめあとをみましや はしはしらなからましかはなかれてのなをこそきかめあとをみましや | 藤原公任 | 雑四 |
4-後拾 | 1073 | わればかり長柄の橋は朽ちにけり難波の事もふるる悲しさ われはかりなからのはしはくちにけりなにはのこともふるるかなしさ | 赤染衛門 | 雑四 |
4-後拾 | 1074 | いにしへにふり行く身こそ哀れなれ昔ながらの橋をみるにも いにしへにふりゆくみこそあはれなれむかしなからのはしをみるにも | 伊勢大輔 | 雑四 |
4-後拾 | 1075 | 名に高き錦の浦をきてみればかづかぬあまはすくなかりけり なにたかきにしきのうらをきてみれはかつかぬあまはすくなかりけり | 道命法師 | 雑四 |
4-後拾 | 1076 | 山がらすかしらもしろくなりにけり我が帰るべき時やきぬらむ やまからすかしらもしろくなりにけりわかかへるへきときやきぬらむ | 増基法師 | 雑四 |
4-後拾 | 1077 | わかれ行く舟は綱手にまかすれど心は君がかたにこそひけ わかれゆくふねはつなてにまかすれとこころはきみかかたにこそひけ | 藤原孝善 | 雑四 |
4-後拾 | 1078 | 道すがらおちぬばかりにふる袖の袂に何をつつむなるらむ みちすからおちぬはかりにふるそてのたもとになにをつつむなるらむ | 読人知らず | 雑四 |
4-後拾 | 1079 | ゆふだすき袂にかけて祈りこし神のしるしをけふみつるかな ゆふたすきたもとにかけていのりこしかみのしるしをけふみつるかな | 読人知らず | 雑四 |
4-後拾 | 1080 | ととのへし賀茂の社のゆふだすき帰るあしたぞ乱れたりける ととのへしかものやしろのゆふたすきかへるあしたそみたれたりける | 安法法師 | 雑四 |
4-後拾 | 1081 | あけぬよの心地ながらにやみにしをあさくらといひし聲はきききや あけぬよのここちなからにやみにしをあさくらといひしこゑはきききや | 読人知らず | 雑四 |
4-後拾 | 1082 | ひとりのみきのまろどのにあらませばなのらで闇にまよはましやは ひとりのみきのまろとのにあらませはなのらてやみにかへらましやは | 藤原実方 | 雑四 |
4-後拾 | 1083 | なのりせば人しりぬべしなのらずばきのまろ殿をいかで過ぎまし なのりせはひとしりぬへしなのらすはきのまろとのをいかてすきまし | 赤染衛門 | 雑四 |
4-後拾 | 1084 | ひと巻にちぢの黄金をこめたれば人こそなけれ聲は残れり ひとまきにちちのこかねをこめたれはひとこそなけれこゑはのこれり | 恵慶法師 | 雑四 |
4-後拾 | 1085 | いにしへのちぢの黄金はかぎりあるをあふばかりなき君が玉章 いにしへのちちのこかねはかきりあるをあふはかりなききみかたまつさ | 紀時文 | 雑四 |
4-後拾 | 1086 | かへしけむ昔の人の玉章をききてぞそそぐ老の涙は かへしけむむかしのひとのたまつさをききてそそそくおいのなみたは | 清原元輔 | 雑四 |
4-後拾 | 1087 | 花のしべ紅葉の下葉かきつめて木のもとよりやちらむとすらむ はなのしへもみちのしたはかきつめてこのもとよりやちらむとすらむ | 祭主輔親 | 雑四 |
4-後拾 | 1088 | 尋ねずばかきやる方やなからまし昔のながれみくさつもりて たつねすはかきやるかたやなからましむかしのなかれみくさつもりて | 康資王母 | 雑四 |
4-後拾 | 1089 | いにしへの家の風こそうれしけれかかる言の葉ちりくと思へば いにしへのいへのかせこそうれしけれかかることのはちりくとおもへは | 後三條院越前 | 雑四 |
4-後拾 | 1090 | 秋風にあふ言の葉やちりぬらむその夜の月のもりにけるかな あきかせにあふことのはやちりにけむそのよのつきのもりにけるかな | 後三條院 | 雑四 |
4-後拾 | 1091 | まことにや姨捨山の月はみるよも更級と思ふわたりを まことにやをはすてやまのつきはみるよにさらしなとおもふわたりを | 赤染衛門 | 雑四 |
4-後拾 | 1092 | たえやせむいのちぞしらぬ水無瀬川よしながれても心みよ君 たえやせむいのちそしらぬみなせかはよしなかれてもこころみよきみ | 読人知らず | 雑四 |
4-後拾 | 1093 | いはぬまをつつみしほどにくちなしの色にやみえし山吹の花 いはぬまはつつみしほとにくちなしのいろにやみえしやまふきのはな | 規子内親王 | 雑四 |
4-後拾 | 1094 | うれしさをけふは何にか包むらむ朽ち果てにきとみえし袂を うれしさをけふはなににかつつむらむくちはてにきとみえしたもとを | 藤原孝善 | 雑四 |
4-後拾 | 1095 | かたらへばなぐさむこともあるものを忘れやしなむ恋のまぎれに かたらへはなくさむこともあるものをわすれやしなむこひのまきれに | 和泉式部 | 雑四 |
4-後拾 | 1096 | 忍び音をききこそわたれほととぎす通ふ垣根のかくれなければ しのひねをききこそわたれほとときすかよふかきねのかくれなけれは | 六院齋院宣旨 | 雑四 |
4-後拾 | 1097 | うかりけるみのふの浦のうつせ貝むなしき名のみたつはきききや うかりけるみのふのうらのうつせかひむなしきなのみたつはきききや | 馬内侍 | 雑四 |
4-後拾 | 1098 | おぼつかなつくまの神のためならばいくつかなべの數はいるべき おほつかなつくまのかみのためならはいくつかなへのかすはいるへき | 藤原顕綱 | 雑四 |
4-後拾 | 1099 | 春ごとの子の日は多くすぎつれどかかる二葉の松はみざりき はることのねのひはおほくすきつれとかかるふたはのまつはみさりき | 出羽辨 | 雑五 |
4-後拾 | 1100 | しのびねの涙なかけそかくばかりせばしと思ふころの袂に しのひねのなみたなかけそかくはかりせはしとおもふころのたもとに | 大弐三位 | 雑五 |
4-後拾 | 1101 | 春の日に帰らざりせばいにしへの袂ながらや朽ち果てなまし はるのひにかへらさりせはいにしへのたもとなからやくちはてなまし | 出羽辨 | 雑五 |
4-後拾 | 1102 | 花盛り春の山辺のあけぼのに思ひわするなあきのゆふぐれ はなさかりはるのみやまのあけほのにおもひわするなあきのゆふくれ | 源為善 | 雑五 |
4-後拾 | 1103 | よろづよを君がまもりと祈りつつ太刀つくりえのしるしとをみよ よろつよをきみかまもりといのりつつたちつくりえのしるしとをみよ | 藤原道長 | 雑五 |
4-後拾 | 1104 | いにしへのちかきまもりをこふるまにこれはしのぶるしるしなりけり いにしへのちかきまもりをこふるまにこれはしのふるしるしなりけり | 御三条院 | 雑五 |
4-後拾 | 1105 | ちちにつけ思ひぞいづる昔をばのどけかれとも君ぞいはまし ちちにつけおもひそいつるむかしをはのとけかれともきみそいはまし | 藤原為光 | 雑五 |
4-後拾 | 1106 | 高砂と高くないひそ昔きくをのへのしらべまづぞ恋しき たかさこのたかくないひそむかしきくをのへのしらへまつそこひしき | 源相方 | 雑五 |
4-後拾 | 1107 | ひかりいづる葵の影をみてしかば年へにけるもうれしかりけり ひかりいつるあふひのかけをみてしかはとしへにけるもうれしかりけり | 選子内親王 | 雑五 |
4-後拾 | 1108 | もろかづら二葉ながらも君にかく葵や神のしるしなるらむ もろかつらふたはなからもきみにかくあふひやかみのしるしなるらむ | 藤原道長 | 雑五 |
4-後拾 | 1109 | みゆきせし賀茂の川波かへるさにたちやよるとてまちあかしつる みゆきせしかものかはなみかへるさにたちやよるとそまちあかしつる | 選子内親王 | 雑五 |
4-後拾 | 1110 | みゆきとか世にはふらせて今はただこずゑの桜ちらすなりけり みゆきとかよにはふらせていまはたたこすゑのさくらちらすなりけり | 上東門院中将 | 雑五 |
4-後拾 | 1111 | ゆふしでや繁き木の間をもる月のおぼろげならでみえし影かは ゆふしてやしけきこのまをもるつきのおほろけならてみえしかけかは | 六條齋院宣旨 | 雑五 |
4-後拾 | 1112 | わかなつむ春日の原に雪ふれば心づかひをけふさへぞやる わかなつむかすかのはらにゆきふれはこころつかひをけふさへそやる | 藤原道長 | 雑五 |
4-後拾 | 1113 | 身をつみておぼつかなきは雪やまぬ春日の野辺の若菜なりけり みをつみておほつかなきはゆきやまぬかすかののへのわかななりけり | 藤原公任 | 雑五 |
4-後拾 | 1114 | 三笠山春日の原の朝霧にかへりたつらむ今朝をこそまて みかさやまかすかのはらのあさきりにかへりたつらむけさをこそまて | 藤原公任 | 雑五 |
4-後拾 | 1115 | 年つもるかしらの雪は大空のひかりにあたるけふぞうれしき としつもるかしらのゆきはおほそらのひかりにあたるけふそうれしき | 伊勢大輔 | 雑五 |
4-後拾 | 1116 | 年をへてすめる清水に影みればみづはくむまで老いぞしにける としをへてすめるしみつにかけみれはみつはくむまておいそしにける | 源重之 | 雑五 |
4-後拾 | 1117 | 春来れどきえせぬものは年をへてかしらにつもる雪にぞありける はるくれときえせぬものはとしをへてかしらにつもるゆきにそありける | 花山院 | 雑五 |
4-後拾 | 1118 | よにとよむ豊の禊をよそにして小鹽の山のみゆきをや見し よにとよむとよのみそきをよそにしてをしほのやまのみゆきをやみし | 伊勢大輔 | 雑五 |
4-後拾 | 1119 | 小鹽山こずゑもみえず降りつみしそやすべらぎのみゆきなるらむ をしほやまこすゑもみえすふりつみしそやすめらきのみゆきなるらむ | 少将井尼 | 雑五 |
4-後拾 | 1120 | 早く見し山井の水のうす氷うちとけざまはかはらざりけり はやくみしやまゐのみつのうすこほりうちとけさまはかはらさりけり | 伊勢大輔 | 雑五 |
4-後拾 | 1121 | 多かりし豊の宮人さしわけてしるき日影をあはれとぞみし おほかりしとよのみやひとさしわけてしるきひかけをあはれとそみし | 読人知らず | 雑五 |
4-後拾 | 1122 | ひかげ草かがやく影やまがひけむますみの鏡くもらぬものを ひかけくさかかやくかけやまかひけむますみのかかみくもらぬものを | 藤原長能 | 雑五 |
4-後拾 | 1123 | 神代よりすれる衣といひながら又かさねても珍しきかな かみよよりすれるころもといひなからまたかさねてもめつらしきかな | 選子内親王 | 雑五 |
4-後拾 | 1124 | あしひきの山井の水は氷れるをいかなる紐のとくるなるらむ あしひきのやまゐのみつはこほれるをいかなるひものとくるなるらむ | 藤原実方 | 雑五 |
4-後拾 | 1125 | まことにやあまた重ねしをみ衣豊のあかりのかくれなきよに まことにやあまたかさねしをみころもとよのあかりのかくれなきよに | 源頼家 | 雑五 |
4-後拾 | 1126 | 思ひきやわがしめゆひし撫子を人のまがきの花とみむとは おもひきやわかしめゆひしなてしこをひとのまかきのはなとみむとは | 法眼源賢 | 雑五 |
4-後拾 | 1127 | 信濃なるその原にこそあらねどもわが帚木と今はたのまむ しなのなるそのはらにこそあらねともわかははききといまはたのまむ | 平正家 | 雑五 |
4-後拾 | 1128 | 都へといきの松原いきかへり君がちとせにあはむとすらむ みやこへといきのまつはらゆきかへりきみかちとせにあはむとすらむ | 源重之 | 雑五 |
4-後拾 | 1129 | そのかみの人は残らじ箱崎の松ばかりこそわれをしるらめ そのかみのひとはのこらしはこさきのまつはかりこそわれをしるらめ | 中将尼 | 雑五 |
4-後拾 | 1130 | こつかみの浦に年へてよる浪もおなじ所にかへるなりけり こつかみのうらにとしへてよるなみもおなしところにかへるなりけり | 藤原基房 | 雑五 |
4-後拾 | 1131 | 老いの波よせじと人はいとふともまつらむものをわかの浦には おいのなみよせしとひとはいとふともまつらむものをわかのうらには | 連敏法師 | 雑五 |
4-後拾 | 1132 | うちむれし駒もおとせぬ秋の野は草かれゆけど見る人もなし うちむれしこまもおとせぬあきののはくさかれゆけとみるひともなし | 源兼長 | 雑五 |
4-後拾 | 1133 | にほひきや都の花は東路の東風のかへしの風につけしは にほひきやみやこのはなはあつまちのこちのかへしのかせにつけしは | 源兼俊母 | 雑五 |
4-後拾 | 1134 | 吹き返す東風の返しは身にしみき都の花のしるべとおもふに ふきかへすこちのかへしはみにしみきみやこのはなのしるへとおもふに | 康資王母 | 雑五 |
4-後拾 | 1135 | とりわきて我が身に露や置きつらむ花よりさきにまづぞうつろふ とりわきてわかみにつゆやおきつらむはなよりさきにまつそうつろふ | 大貮高遠 | 雑五 |
4-後拾 | 1136 | やすらはで思ひたちにし東路にありけるものかはらからの関 やすらはておもひたちにしあつまちにありけるものかははかりのせき | 藤原実方 | 雑五 |
4-後拾 | 1137 | みちのくの安達の真弓君にこそ思ひためたる事はかたらめ みちのくのあたちのまゆみきみにこそおもひためたることはかたらめ | 藤原実方 | 雑五 |
4-後拾 | 1138 | 都にはたれをか君は思ひいづる都の人はきみをこふめり みやこにはたれをかきみはおもひいつるみやこのひとはきみをこふめり | 大江匡衡 | 雑五 |
4-後拾 | 1139 | 忘られぬ人の中には忘れぬをまつらむ人のなかにまつやは わすられぬひとのなかにはわすれぬをまつらむひとのなかにまつやは | 藤原実方 | 雑五 |
4-後拾 | 1140 | ありてやはおとせざるべき津の国の今ぞ生田の杜といひしは ありてやはおとせさるへきつのくにのいまそいくたのもりといひしは | 赤染衛門 | 雑五 |
4-後拾 | 1141 | きのふまで神に心をかけしかどけふこそ法にあふひなりけれ きのふまてかみにこころをかけしかとけふこそのりにあふひなりけれ | 相模 | 雑五 |
4-後拾 | 1142 | 帰るさをまち心みよかくながらよもただにては山しなの里 かへるさをまちこころみよかくなからよもたたにてはやましなのさと | 和泉式部 | 雑五 |
4-後拾 | 1143 | ふかき海のちかひはしらず三笠山こころたかくもみえしきみかな ふかきうみのちかひはしらすみかさやまこころたかくもみえしきみかな | 藤原頼宗 | 雑五 |
4-後拾 | 1144 | こも枕かりの旅寝にあかさばや入江の蘆の一夜ばかりを こもまくらかりのたひねにあかさはやいりえのあしのひとよはかりを | 伊勢大輔 | 雑五 |
4-後拾 | 1145 | 日も暮れぬ人も帰りぬ山里はみねの嵐のおとばかりして ひもくれぬひともかへりぬやまさとはみねのあらしのおとはかりして | 源頼實 | 雑五 |
4-後拾 | 1146 | みやこ人くるれば帰る今よりは伏見の里の名をもたのまじ みやこひとくるれはかへるいまよりはふしみのさとのなをもたのまし | 橘俊綱 | 雑五 |
4-後拾 | 1147 | 杉もすぎ宿もむかしの宿ながらかはるは人の心なりけり すきもすきやともむかしのやとなからかはるはひとのこころなりけり | 読人知らず | 雑五 |
4-後拾 | 1148 | 思ひきやふるさと人に身をなして花のたよりに山を見むとは おもひきやふるさとひとにみをなしてはなのたよりにやまをみむとは | 蓮仲法師 | 雑五 |
4-後拾 | 1149 | たえにける僅かなるねを繰り返しかつらのをこそきかまほしけれ たえにけるはつかなるねをくりかへしかつらのをこそきかまほしけれ | 大中臣能宣 | 雑五 |
4-後拾 | 1150 | いつかまたこちくなるべき鶯のさへづりそめし夜半の笛竹 いつかまたこちくなるへきうくひすのさへつりそめしよはのふえたけ | 相模 | 雑五 |
4-後拾 | 1151 | を鹿ふすしげみにはへる葛の葉のうらさびしげにみゆる山里 をしかふすしけみにはへるくすのはのうらさひしけにみゆるやまさと | 大中臣能宣 | 雑五 |
4-後拾 | 1152 | つねならぬ山の桜にこころいりて池のはちすをいひなはなちそ つねならぬやまのさくらにこころいりていけのはちすをいひなはなちそ | 源重之 | 雑五 |
4-後拾 | 1153 | もちながらちよも巡らむさか月の清き光はさしもかけなむ もちなからちよもめくらむさかつきのきよきひかりはさしもかけなむ | 藤原為頼 | 雑五 |
4-後拾 | 1154 | 七重八重花はさけども山吹のみの一つだになきぞかなしき ななへやへはなはさけともやまふきのみのひとつたになきそあやしき | 兼明親王 | 雑五 |
4-後拾 | 1155 | かづきするあまのあり家をそこなりと夢いふなとやめをくはせけむ かつきするあまのありかをそこなりとゆめいふなとやめをくはせけむ | 清少納言 | 雑五 |
4-後拾 | 1156 | たらちねははかなくてこそやみにしかこはいづことてたちとまるらむ たらちねははかなくてこそやみにしかこはいつことてたちとまるらむ | 源頼俊 | 雑五 |
4-後拾 | 1157 | 思へどもいかにならひし道なればしらぬ境にまどふなるらむ おもへともいかにならひしみちなれはしらぬさかひにまとふなるらむ | 慶範法師 | 雑五 |
4-後拾 | 1158 | 浅茅生にあれにけれどもふるさとの松はこだかくなりにけるかな あさちふにあれにけれともふるさとのまつはこたかくなりにけるかな | 帥前内大臣 | 雑五 |
4-後拾 | 1159 | いにしへのまゆとしめにもあらねども君はみま草とりてかふとか いにしへのまゆとしめにもあらねともきみはみまくさとりてかふとか | 天台座主教圓 | 雑五 |
4-後拾 | 1160 | 盃にさやけき影のみえぬれば塵のおこりはあらじとをしれ さかつきにさやけきかけのみえぬれはちりのおそりはあらしとをしれ | 読人知らず | 雑六 |
4-後拾 | 1161 | おほぢ父うまご輔親三代までにいただきまつるすめらおほむかみ おほちちちうまこすけちかみよまてにいたたきまつるすめらおほむかみ | 祭主輔親 | 雑六 |
4-後拾 | 1162 | ものおもへば澤の蛍をわが身よりあくがれいづる玉かとぞみる ものおもへはさはのほたるをわかみよりあくかれにけるたまかとそみる | 和泉式部 | 雑六 |
4-後拾 | 1163 | 奥山にたきぎておつる瀧つ瀬に玉ちるばかりものな思ひそ おくやまにたきりておつるたきつせにたまちるはかりものなおもひそ | 御返し | 雑六 |
4-後拾 | 1164 | 白妙のとよみてぐらをとりもちていはひぞ初むる紫の野に しろたへのとよみてくらをとりもちていはひそそむるむらさきののに | 藤原長能 | 雑六 |
4-後拾 | 1165 | 今よりはあらぶる心ましますな花の都にやしろさだめつ いまよりはあらふるこころましますなはなのみやこにやしろさためつ | 藤原長能 | 雑六 |
4-後拾 | 1166 | いなり山みづの玉垣うちたたきわかねぎ事を神もこたへよ いなりやまみつのたまかきうちたたきわかねきことをかみもこたへよ | 恵慶法師 | 雑六 |
4-後拾 | 1167 | 住吉の松さへかはるものならばなにか昔のしるしならまし すみよしのまつさへかはるものならはなにかむかしのしるしならまし | 山口重如 | 雑六 |
4-後拾 | 1168 | ちはやふる松のをやまの影みればけふぞちとせのはじめなりける ちはやふるまつのをやまのかけみれはけふそちとせのはしめなりける | 源兼澄 | 雑六 |
4-後拾 | 1169 | あきらけき日吉の御神君がため山のかひあるよろづ代やへむ あきらけきひよしのみかみきみかためやまのかひあるよろつよやへむ | 大貮實政 | 雑六 |
4-後拾 | 1170 | ちはやふる神のそのなる姫小松よろづよふべきはじめなりけり ちはやふるかみのそのなるひめこまつよろつよふへきはしめなりけり | 藤原経衡 | 雑六 |
4-後拾 | 1171 | 榊葉にふる白雪はきえぬめり神の心も今やとくらむ さかきはにふるしらゆきはきえぬめりかみのこころはいまやとくらむ | 藤原伊房 | 雑六 |
4-後拾 | 1172 | 有度浜にあまの羽衣むかしきてふりけむ袖やけふのはふりこ うとはまにあまのはころもむかしきてふりけむそてやけふのはふりこ | 能因法師 | 雑六 |
4-後拾 | 1173 | 天の下はぐくむ神のみぞなればゆたけにぞたつみづの広前 あめのしたはくくむかみのみそなれはゆたけにそたつみつのひろまへ | 読人知らず | 雑六 |
4-後拾 | 1174 | ここにしもわきて出でけむ岩清水神の心を汲みもしらばや ここにしもわきていてけむいはしみつかみのこころをくみてしらはや | 増基法師 | 雑六 |
4-後拾 | 1175 | 住吉の松のしづえに神さびてみどりにみゆるあけの玉垣 すみよしのまつのしつえにかみさひてみとりにみゆるあけのたまかき | 蓮仲法師 | 雑六 |
4-後拾 | 1176 | さもこそは宿はかはらめ住吉の松さへ椙になりにけるかな さもこそはやとはかはらめすみよしのまつさへすきになりにけるかな | 読人知らず | 雑六 |
4-後拾 | 1177 | おもふことなるかはかみにあとたれてきふねは人を渡すなりけり おもふことなるかはかみにあとたれてきふねはひとをわたすなりけり | 藤原時房 | 雑六 |
4-後拾 | 1178 | けふ祭る三笠の山の神ませばあめのしたには君ぞさかえむ けふまつるみかさのやまのかみませはあめのしたにはきみそさかえむ | 藤原範永 | 雑六 |
4-後拾 | 1179 | いにしへの別れの庭にあへりともけふの涙ぞなみだならまし いにしへのわかれのにはにあへりともけふのなみたそなみたならまし | 光源法師 | 雑六 |
4-後拾 | 1180 | つねよりもけふの霞ぞあはれなる薪つきにし煙とおもへば つねよりもけふのかすみそあはれなるたききつきにしけふりとおもへは | 前律師慶暹 | 雑六 |
4-後拾 | 1181 | いかなれば今宵の月のさ夜中に照らしもはてで入りしなるらむ いかなれはこよひのつきのさよなかにてらしもはてていりしなるらむ | 慶範法師 | 雑六 |
4-後拾 | 1182 | 世をてらす月かくれにしさ夜中は哀れやみにや皆まどひけむ よをてらすつきかくれにしさよなかはあはれやみにやみなまとひけむ | 伊勢大輔 | 雑六 |
4-後拾 | 1183 | 山のはに入りにし夜半の月なれど名残りはまだにさやけかりけり やまのはにいりにしよはのつきなれとなこりはまたにさやけかりけり | 読人知らず | 雑六 |
4-後拾 | 1184 | つもるらむ塵をもいかではらはまし法にあふぎの風のうれしさ つもるらむちりをもいかてはらはましのりにあふきのかせのうれしさ | 伊勢大輔 | 雑六 |
4-後拾 | 1185 | 八重菊に蓮の露をおきそへて九しなまでうつろはしつる やへきくにはちすのつゆをおきそへてここのしなまてうつろはしつる | 弁乳母 | 雑六 |
4-後拾 | 1186 | さきがたき御法の花におく露ややがて衣の玉となるらむ さきかたきみのりのはなにおくつゆややかてころものたまとなるらむ | 康資王母 | 雑六 |
4-後拾 | 1187 | もろともに三つの車にのりしかどわれは一味の雨にぬれにき もろともにみつのくるまにのりしかとわれはいちみのあめにぬれにき | 読人知らず | 雑六 |
4-後拾 | 1188 | 月のわに心をかけしゆふべよりよろづのことを夢とみるかな つきのわにこころをかけしゆふへよりよろつのことをゆめとみるかな | 僧都覚超 | 雑六 |
4-後拾 | 1189 | 風ふけばまづ破れぬる草の葉によそふるからに袖ぞ露けき かせふけはまつやふれぬるくさのはによそふるからにそてそつゆけき | 藤原公任 | 雑六 |
4-後拾 | 1190 | つねならぬ我が身は水の月なれば世にすみとけむ事もおぼえず つねならぬわかみはみつのつきなれはよにすみとけむこともおもはす | 小弁 | 雑六 |
4-後拾 | 1191 | ちる花を惜しまばとまれ世の中は心のほかのものとやはきく ちるはなををしまはとまれよのなかはこころのほかのものとやはきく | 伊勢大輔 | 雑六 |
4-後拾 | 1192 | こしらへてかりのやどりにやすめずばまことの道をいかでしらまし こしらへてかりのやとりにやすめすはまことのみちをいかてしらまし | 赤染衛門 | 雑六 |
4-後拾 | 1193 | 道とほみ中空にてやかへらまし思へばかりの宿ぞうれしき みちとほみなかそらにてやかへらましおもへはかりのやとそうれしき | 康資王母 | 雑六 |
4-後拾 | 1194 | 衣なる玉ともかけてしらざりきゑひさめてこそ嬉しかりけれ ころもなるたまともかけてしらさりきゑひさめてこそうれしかりけれ | 赤染衛門 | 雑六 |
4-後拾 | 1195 | 鷲の山へだつる雲やふかからむ常にすむなる月を見ぬかな わしのやまへたつるくもやふかからむつねにすむなるつきをみぬかな | 康資王母 | 雑六 |
4-後拾 | 1196 | 世を救ふうちにはたれかいらざらむ普き門は人しささねば よをすくふうちにはたれかいらさらむあまねきかとはひとしささねは | 藤原公任 | 雑六 |
4-後拾 | 1197 | 津の国の難波のことか法ならぬ遊びたはぶれまてとこそきけ つのくにのなにはのことかのりならぬあそひたはふれまてとこそきけ | 遊女宮木 | 雑六 |
4-後拾 | 1198 | 笛のねの春おもしろく聞ゆるは花ちりたりと吹けばなりけり ふえのねのはるおもしろくきこゆるははなちりたりとふけはなりけり | 読人知らず | 雑六 |
4-後拾 | 1199 | 武隈の松はふた木をみ木といふはよくよめるにはあらぬなるべし たけくまのまつはふたきをみきといふはよくよめるにはあらぬなるへし | 僧正深覚 | 雑六 |
4-後拾 | 1200 | さかざらば桜を人の折らましや桜のあだは桜なりけり さかさらはさくらをひとのをらましやさくらのあたはさくらなりけり | 源道済 | 雑六 |
4-後拾 | 1201 | まだちらぬ花もやあると尋ねみむあなかま暫し風にしらすな またちらぬはなもやあるとたつねみむあなかましはしかせにしらすな | 藤原実方 | 雑六 |
4-後拾 | 1202 | 桃の花宿にたてれはあるじさへすけるものとや人のみるらむ もものはなやとにたてれはあるしさへすけるものとやひとのみるらむ | 大江嘉言 | 雑六 |
4-後拾 | 1203 | みかの夜のもちひはくはじわづらはしきけば淀野にははこつむなり みかのよのもちひはくはしわつらはしきけはよとのにははこつむなり | 藤原実方 | 雑六 |
4-後拾 | 1204 | 思ふ事みなつきねとて麻のはをきりにきりても祓へつるかな おもふことみなつきねとてあさのはをきりにきりてもはらへつるかな | 和泉式部 | 雑六 |
4-後拾 | 1205 | 君がかす夜の衣をたなばたは返しやしつるひるくさしとて きみかかすよるのころもをたなはたはかへしやしつるひるくさしとて | 皇太后宮陸奥 | 雑六 |
4-後拾 | 1206 | もみぢばは錦とみゆとききしかどめもあやにこそけふはなりぬれ もみちははにしきとみゆとききしかとめもあやにこそけふはちりぬれ | 藤原頼宗 | 雑六 |
4-後拾 | 1207 | おちつもる庭をだにとてみるものをうたて嵐のはきにはくかな おちつもるにはをたにとてみるものをうたてあらしのはきにはくかな | 増基法師 | 雑六 |
4-後拾 | 1208 | こころざし大原山の炭ならば思ひをそへておこすばかりぞ こころさしおほはらやまのすみならはおもひをそへておこすはかりそ | 読人知らず | 雑六 |
4-後拾 | 1209 | 雲井にていかであふぎと思ひしにてかくばかりもなりにけるかな くもゐにていかてあふきとおもひしにてかくはかりもなりにけるかな | 天台座主源心 | 雑六 |
4-後拾 | 1210 | はかなくも忘られにける扇かなおちたりけりと人もこそみれ はかなくもわすられにけるあふきかなおちたりけりとひともこそみれ | 和泉式部 | 雑六 |
4-後拾 | 1211 | さなくてもねられぬものをいとどしくつき驚かす鐘の音かな さならてもねられぬものをいととしくつきおとろかすかねのおとかな | 和泉式部 | 雑六 |
4-後拾 | 1212 | 忘れてもあるべきものをこの頃の月夜よいたく人なすかせそ わすれてもあるへきものをこのころのつきよよいたくひとなすかせそ | 藤原義孝 | 雑六 |
4-後拾 | 1213 | 道芝やおどろの髪にならされて移れる香こそ草枕なれ みちしはやおとろのかみにならされてうつれるかこそくさまくらなれ | 小大君 | 雑六 |
4-後拾 | 1214 | まけかたのはづかしげなる朝顔を鏡草にもみせてけるかな まけかたのはつかしけなるあさかほをかかみくさにもみせてけるかな | 読人知らず | 雑六 |
4-後拾 | 1215 | 思ひいづることもあらじとみえつれどやといふにこそ驚かれぬれ おもひいつることもあらしとみえつれとやといふにこそおとろかれぬれ | 藤原道綱母 | 雑六 |
4-後拾 | 1216 | 白浪のたちながらだに長門なる豊浦の里のとよられよかし しらなみのたちなからたになかとなるとよらのさとのとよられよかし | 能因法師 | 雑六 |
4-後拾 | 1217 | はかなくも思ひけるかな乳もなくて博士の家の乳母せむとは はかなくもおもひけるかなちもなくてはかせのいへのめのとせむとは | 大江匡衡 | 雑六 |
4-後拾 | 1218 | さもあらばあれ大和心しかしこくば細ちにつけてあらすばかりぞ さもあらはあれやまとこころしかしこくはほそちにつけてあらすはかりそ | 赤染衛門 | 雑六 |
5-金葉 | 1 | 吉野山みねの白雪いつ消えてけさは霞のたちかはるらむ よしのやまみねのしらゆきいつきえてけさはかすみのたちかはるらむ | 源重之 | 春 |
5-金葉 | 2 | うちなびき春はきにけり山河の岩間の氷けふやとくらむ うちなひきはるはきにけりやまかはのいはまのこほりけふやとくらむ | 藤原顕季 | 春 |
5-金葉 | 3 | 倉橋の山のかひより春がすみ年つみてや立ちわたるらむ くらはしのやまのかひよりはるかすみとしをつみてやたちわたるらむ | 藤原朝忠 | 春 |
5-金葉 | 4 | ふるさとは春めきにけりみ吉野のみかきの原も霞こめたり ふるさとははるめきにけりみよしののみかきのはらもかすみこめたり | 平兼盛 | 春 |
5-金葉 | 5 | 浅緑かすめる空のけしきにや常磐の山は春をしるらむ あさみとりかすめるそらのけしきにやときはのやまははるをしるらむ | 少将公教母 | 春 |
5-金葉 | 6 | 年ごとにかはらぬものは春霞たつたの山のけしきなりけり としことにかはらぬものははるかすみたつたのやまのけしきなりけり | 藤原顕輔 | 春 |
5-金葉 | 7 | あらたまの年のはじめに降りしけば初雪とこそいふべかるらむ あらたまのとしのはしめにふりしけははつゆきとこそいふへかるらむ | 藤原顕季 | 春 |
5-金葉 | 8 | 朝戸あけて春のこずゑの雪みれば初花ともやいふべかるらむ あさとあけてはるのこすゑのゆきみれははつはなともやいふへかるらむ | 藤原公実 | 春 |
5-金葉 | 9 | 雪消えばゑぐの若菜もつむべきに春さへはれぬ山邊の里 ゆききえはゑくのわかなもつむへきにはるさへはれぬみやまへのさと | 曾禰好忠 | 春 |
5-金葉 | 10 | 氷だにとまらぬ春の谷風にまだうちとけぬ鶯のこゑ こほりたにとまらぬはるのたにかせにまたうちとけぬうくひすのこゑ | 源順 | 春 |
5-金葉 | 11 | わが宿に鶯いたく鳴くなるは庭もはだらに花や散るらむ わかやとにうくひすいたくなくなるはにはもはたらにはなやちるらむ | 平兼盛 | 春 |
5-金葉 | 12 | 今日よりや梅のたちえに鶯の聲さとなるるはじめなるらむ けふよりやうめのたちえにうくひすのこゑさとなるるはしめなるらむ | 藤原公実 | 春 |
5-金葉 | 13 | 鶯のなくにつけてや眞金吹く吉備の中山はるをしるらむ うくひすのなくにつけてやまかねふくきひのなかやまはるをしるらむ | 藤原顕季 | 春 |
5-金葉 | 14 | 今日やさは雪うちとけて鶯の都へいづる初音なるらむ けふやさはゆきうちとけてうくひすのみやこへいつるはつねなるらむ | 藤原顕輔 | 春 |
5-金葉 | 15 | わが宿の梅がえになく鶯は風のたよりに香をやとめこし わかやとのうめかえになくうくひすはかせのたよりにかをやとめこし | 藤原朝忠 | 春 |
5-金葉 | 16 | 白妙の雪ふりやまぬ梅がえにいまぞ鶯春となくなる しろたへのゆきふりやまぬうめかえにいまそうくひすはるとなくなる | 平兼盛 | 春 |
5-金葉 | 17 | わが宿の柳の糸は細くともくる鶯のたえずもあらなむ わかやとのやなきのいとはほそくともくるうくひすのたえすもあらなむ | 藤原道綱母 | 春 |
5-金葉 | 18 | 梅の花匂ふあたりはよきてこそ急ぐ道をば行くべかりけれ うめのはなにほふあたりはよきてこそいそくみちをはゆくへかりけれ | 良暹法師 | 春 |
5-金葉 | 19 | 梅がえに風やふくらむ春の夜は折らぬ袖さへ匂ひぬるかな うめかえにかせやふくらむはるのよはをらぬそてさへにほひぬるかな | 前太宰大弐長房 | 春 |
5-金葉 | 20 | 今日ここに見にこざりせば梅の花ひとりや春の風にちらまし けふここにみにこさりせはうめのはなひとりやはるのかせにちらまし | 源経信 | 春 |
5-金葉 | 21 | 限りありて散りははつとも梅のはな香をばこずゑに残せとぞ思ふ かきりありてちりははつともうめのはなかをはこすゑにのこせとそおもふ | 源忠季 | 春 |
5-金葉 | 22 | 散りかかる影は見ゆれど梅の花水には香こそうつらざりけれ ちりかかるかけはみゆれとうめのはなみつにはかこそうつらさりけれ | 藤原兼房 | 春 |
5-金葉 | 23 | よろづよのためしに君が引かるれば子の日の松もうらやみやせむ よろつよのためしにきみかひかるれはねのひのまつもうらやみやせむ | 赤染衛門 | 春 |
5-金葉 | 24 | 九重のみかきが原の小松原ちよをばほかのものとやは見る ここのへのみかきかはらのこまつはらちよをはほかのものとやはみる | 源経信 | 春 |
5-金葉 | 25 | 春日野の子の日の松は引かでこそ神さびゆかむかげにかくれめ かすかののねのひのまつはひかてこそかみさひゆかむかけにかくれめ | 大中臣公長 | 春 |
5-金葉 | 26 | 春霞立ちかくせども姫小松ひくまの野邊に我は来にけり はるかすみたちかくせともひめこまつひくまののへにわれはきにけり | 大江匡房 | 春 |
5-金葉 | 27 | 姫小松おほかる野邊に子の日してちよを心にまかせつるかな ひめこまつおほかるのへにねのひしてちよをこころにまかせつるかな | 源道済 | 春 |
5-金葉 | 28 | 風吹けば柳の糸のかたよりになびくにつけて過ぐる春かな かせふけはやなきのいとのかたよりになひくにつけてすくるはるかな | 白河院 | 春 |
5-金葉 | 29 | 朝まだき吹き来る風にまかすればかたよりしげき青柳の糸 あさまたきふきくるかせにまかすれはかてよりしけきあをやきのいと | 藤原公実 | 春 |
5-金葉 | 30 | 風ふけば波のあやおる池水に糸ひきそふる岸の青柳 かせふけはなみのあやおるいけみつにいとひきそふるきしのあをやき | 源雅兼 | 春 |
5-金葉 | 31 | さほひめの糸そめかくる青柳を吹きなみだりそ春の山風 さほひめのいとそめかくるあをやきをふきなみたりそはるのやまかせ | 平兼盛 | 春 |
5-金葉 | 32 | ふるさとのみかきの柳はるばると誰がそめかけし浅緑ぞも ふるさとのみかきのやなきはるはるとたかそめかけしあさみとりそも | 源道済 | 春 |
5-金葉 | 33 | 糸鹿山くる人もなき夕暮に心ぼそくも呼子鳥かな いとかやまくるひともなきゆふくれにこころほそくもよふことりかな | 前齋院尾張 | 春 |
5-金葉 | 34 | 今はとて越路に帰る雁がねは羽もたゆくや行きかへるらむ いまはとてこしちにかへるかりかねははねもたゆくやゆきかへるらむ | 藤原経通 | 春 |
5-金葉 | 35 | 聲せずはいかで知らまし春霞へだつる空に帰る雁がね こゑせすはいかてしらましはるかすみへたつるそらにかへるかりかね | 藤原成通 | 春 |
5-金葉 | 36 | 吉野山みねの櫻や咲きぬらむ麓の里に匂ふ春風 よしのやまみねのさくらやさきぬらむふもとのさとににほふはるかせ | 藤原忠通 | 春 |
5-金葉 | 37 | 尋ねつる我をや花も待ちつらむ今ぞさやかに匂ひましける たつねつるわれをやはなもまちつらむいまそさやかににほひましける | 鳥羽院 | 春 |
5-金葉 | 38 | 白河の流れひさしき宿なれば花の匂ひものどけかりけり しらかはのなかれひさしきやとなれははなのにほひものとけかりけり | 源雅実 | 春 |
5-金葉 | 39 | 吹く風も花のあたりはこころせよ今日をばつねの春とやは見る ふくかせもはなのあたりはこころせよけふをはつねのはるとやはみる | 藤原長実 | 春 |
5-金葉 | 40 | 年ごとに咲きそふ宿の櫻花なほゆくすゑの春ぞゆかしき としことにさきそふやとのさくらはななほゆくすゑのはるそゆかしき | 源雅兼 | 春 |
5-金葉 | 41 | 春霞たち帰るべき空ぞなき花の匂ひに心とまりて はるかすみたちかへるへきそらそなきはなのにほひにこころとまりて | 白河院 | 春 |
5-金葉 | 42 | 白雲と遠ちの高嶺に見えつるは心まどはす櫻なりけり しらくもとをちのたかねにみえつるはこころまとはすさくらなりけり | 藤原公実 | 春 |
5-金葉 | 43 | わが宿の櫻なれども散るときは心にえこそまかせざりけれ わかやとのさくらなれともちるときはこころにえこそまかせさりけれ | 花山院 | 春 |
5-金葉 | 44 | 春の来ぬところはなきを白河のわたりにのみや花は咲くらむ はるのこぬところはなきをしらかはのわたりにのみやはなはさくらむ | 小式部内侍 | 春 |
5-金葉 | 45 | 山櫻さきそめしより久方の雲ゐに見ゆる瀧の白糸 やまさくらさきそめしよりひさかたのくもゐにみゆるたきのしらいと | 源俊頼 | 春 |
5-金葉 | 46 | 白雲にまがふ櫻のこずゑにて千歳の春を空にしるかな しらくもにまかふさくらのこすゑにてちとせのはるをそらにしるかな | 待賢門院中納言 | 春 |
5-金葉 | 47 | 櫻花さきぬるときは吉野山たちものぼらぬ峰の白雲 さくらはなさきぬるときはよしのやまたちものほらぬみねのしらくも | 藤原顕季 | 春 |
5-金葉 | 48 | 斧の柄は木のもとにてや朽ちなまし春をかぎらぬ櫻なりせば をののえはこのもとにてやくちなましはるをかきらぬさくらなりせは | 大中臣公長 | 春 |
5-金葉 | 49 | 木のもとをすみかとすればおのづから花見る人になりぬべきかな このもとをすみかとすれはおのつからはなみるひとになりぬへきかな | 花山院 | 春 |
5-金葉 | 50 | 初瀬山くもゐに花の咲きぬれば天の川波たつとこそみれ はつせやまくもゐにはなのさきぬれはあまのかはなみたつとこそみれ | 大江匡房 | 春 |
5-金葉 | 51 | こずゑには吹くとも見えぬ櫻花かをるぞ風のしるしなりける こすゑにはふくともみえぬさくらはなかをるそかせのしるしなりける | 源俊頼 | 春 |
5-金葉 | 52 | 春ごとにあかぬ匂ひを櫻花いかなる風の惜しまざるらむ はることにあかぬにほひをさくらはないかなるかせのをしまさるらむ | 前斎宮筑前乳母 | 春 |
5-金葉 | 53 | よそにては惜しみに来つる山櫻折らではえこそ帰るまじけれ よそにてはをしみにきつるやまさくらをらてはえこそかへるましけれ | 僧正行尊 | 春 |
5-金葉 | 54 | 春雨に濡れて尋ねむ山櫻雲のかへしの嵐もぞ吹く はるさめにぬれてたつねむやまさくらくものかへしのあらしもそふく | 藤原頼宗 | 春 |
5-金葉 | 55 | 月影に花見る夜半の浮雲は風のつらさにおとらざりけり つきかけにはなみるよはのうきくもはかせのつらさにおとらさりけり | 大江匡房 | 春 |
5-金葉 | 56 | 花さそふ嵐や峰をわたるらむ櫻なみよる谷川の水 はなさそふあらしやみねをわたるらむさくらなみよるたにかはのみつ | 源雅兼 | 春 |
5-金葉 | 57 | 山櫻手ごとに折りて帰るをば春の行くとや人はみるらむ やまさくらてことにをりてかへるをははるのゆくとやひとはみるらむ | 藤原登平 | 春 |
5-金葉 | 58 | いにしへの奈良の都の八重櫻けふここのへに匂ひぬるかな いにしへのならのみやこのやへさくらけふここのへににほひぬるかな | 伊勢大輔 | 春 |
5-金葉 | 59 | けさ見れば夜半の嵐に散りはてて庭こそ花のさかりなりけれ けさみれはよはのあらしにちりはててにはこそはなのさかりなりけれ | 左兵衛督実能 | 春 |
5-金葉 | 60 | おのれかつ散るを雪とや思ふらむ身のしろごろも花も着てけり おのれかつちるをゆきとやおもふらむみのしろころもはなもきてけり | 源俊頼 | 春 |
5-金葉 | 61 | 春ごとにおなじ櫻の花なれば惜しむ心もかはらざりけり はることにおなしさくらのはななれはをしむこころもかはらさりけり | 藤原長実母 | 春 |
5-金葉 | 62 | 水上に花やちりつむ山川の井杭にいとどかかる白波 みなかみにはなやちりつむやまかはのいくひにいととかかるしらなみ | 源経信 | 春 |
5-金葉 | 63 | 散りかかるけしきは雪のここちして花には袖の濡れぬなりけり ちりかかるけしきはゆきのここちしてはなにはそてのぬれぬなりけり | 藤原永実 | 春 |
5-金葉 | 64 | 櫻花雲かかるまでかきつめて吉野の山とけふは見るかな さくらはなくもかかるまてかきつめてよしののやまとけふはみるかな | 御匣殿 | 春 |
5-金葉 | 65 | 庭の花もとのこずゑに吹き返せ散らすのみやは心なるべき にはのはなもとのこすゑにふきかへせちらすのみやはこころなるへき | 郁芳門院安芸 | 春 |
5-金葉 | 66 | 櫻花風にし散らぬものならば思ふことなき春にぞあらまし さくらはなかせにしちらぬものならはおもふことなきはるにそあらまし | 大中臣能宣 | 春 |
5-金葉 | 67 | 身にかへて惜しむにとまる花ならば今日や我が身の限りならまし みにかへてをしむにとまるはなならはけふやわかみのかきりならまし | 源俊頼 | 春 |
5-金葉 | 68 | 衣手に晝はちりつる櫻花夜は心にかかるなりけり ころもてにひるはちりつるさくらはなよるはこころにかかるなりけり | 隆源法師 | 春 |
5-金葉 | 69 | 櫻咲く山田をつくる賤の男はかへすがへすや花を見るらむ さくらさくやまたをつくるしつのをはかへすかへすやはなをみるらむ | 高階経成 | 春 |
5-金葉 | 70 | 櫻花また見むこともさだめなきよはひぞ風よ心して吹け さくらはなまたみむこともさためなきよはひそかせよこころしてふけ | 藤原隆頼 | 春 |
5-金葉 | 71 | 長き夜の月の光のなかりせば雲居の花をいかで折らまし なかきよのつきのひかりのなかりせはくもゐのはなをいかてをらまし | 下野 | 春 |
5-金葉 | 72 | 散りはてぬ花のあたりを知らすれば厭ひし風ぞ今日はうれしき ちりはてぬはなのあたりをしらすれはいとひしかせそけふはうれしき | 源雅定 | 春 |
5-金葉 | 73 | 東路のかほやが沼のかきつばた春をこめても咲きにけるかな あつまちのかほやかぬまのかきつはたはるをこめてもさきにけるかな | 藤原顕季 | 春 |
5-金葉 | 74 | 山がつの園生にたてる桃の花すけるなこれを植ゑて見けるも やまかつのそのふにたてるもものはなすけるなこれをうゑてみけるも | 経信卿母 | 春 |
5-金葉 | 75 | あら小田に細谷川をまかすれば引くしめなはにもりつつぞゆく あらをたにほそたにかはをまかすれはひくしめなはにもりつつそゆく | 源経信 | 春 |
5-金葉 | 76 | 鴫のゐる野澤の小田をうちかへし種まきてけりしめはへて見ゆ しきのゐるのさはのをたをうちかへしたねまきてけりしめはへてみゆ | 津守国基 | 春 |
5-金葉 | 77 | 山里の外面の小田の苗代に岩間の水をせかぬ日ぞなき やまさとのそとものをたのなはしろにいはまのみつをせかぬひそなき | 藤原隆資 | 春 |
5-金葉 | 78 | 一重だにあかぬ心をいとどしく八重かさなれる山吹の花 ひとへたにあかぬこころをいととしくやへかさなれるやまふきのはな | 藤原長能 | 春 |
5-金葉 | 79 | かはづ鳴く井手のわたりに駒なべてゆくてにも見む山吹の花 かはつなくゐてのわたりにこまなへてゆくてにもみむやまふきのはな | 藤原惟成 | 春 |
5-金葉 | 80 | 限りありて散るだに惜しき山吹をいたくな折りそ井手の川波 かきりありてちるたにをしきやまふきをいたくなをりそゐてのかはなみ | 藤原忠通 | 春 |
5-金葉 | 81 | 八重さけるかひこそなけれ山吹の散らば一重もあらじと思へば やへさけるかひこそなけれやまふきのちらはひとへもあらしとおもへは | 読人知らず | 春 |
5-金葉 | 82 | たれかこの數は定めし我はただとへとぞ思ふ山吹の花 たれかこのかすはさためしわれはたたとへとそおもふやまふきのはな | 藤原道綱母 | 春 |
5-金葉 | 83 | 入日さすゆふくれなゐの色みえて山下てらす岩つつじかな いりひさすゆふくれなゐのいろみえてやましたてらすいはつつしかな | 摂政家参河 | 春 |
5-金葉 | 84 | 紫の雲とぞ見ゆる藤の花いかなる宿のしるしなるらむ むらさきのくもとそみゆるふちのはないかなるやとのしるしなるらむ | 藤原公任 | 春 |
5-金葉 | 85 | 色かへぬ松によそへて東路の常磐の橋にかかる藤波 いろかへぬまつによそへてあつまちのときはのはしにかかるふちなみ | 大夫典侍 | 春 |
5-金葉 | 86 | 来る人もなき我が宿の藤の花たれをまつとて咲きかかるらむ くるひともなきわかやとのふちのはなたれをまつとてさきかかるらむ | 權律師増覚 | 春 |
5-金葉 | 87 | 松風の音せざりせば藤波を何にかかれる花と知らまし まつかせのおとせさりせはふちなみをなににかかれるはなとしらまし | 良暹法師 | 春 |
5-金葉 | 88 | 池にひつ松のはひ枝に紫の波をりかくる藤さきにけり いけにひつまつのはひえにむらさきのなみをりかくるふちさきにけり | 源経信 | 春 |
5-金葉 | 89 | 住吉の松にかかれる藤のはな風のたよりに波や折るらむ すみよしのまつにかかれるふちのはなかせのたよりになみやをるらむ | 藤原顕季 | 春 |
5-金葉 | 90 | 濡るるさへ嬉しかりけり春雨に色ます藤の雫と思へば ぬるるさへうれしかりけりはるさめにいろますふちのしつくとおもへは | 神祇伯源顕仲 | 春 |
5-金葉 | 91 | 春の来る道にきむかへ郭公かたらふ聲に立ちやとまると はるのくるみちにきむかへほとときすかたらふこゑにたちやとまると | 僧都証観 | 春 |
5-金葉 | 92 | 残りなく暮れぬる春を惜しむまに心をさへも尽しつるかな のこりなくくれぬるはるををしむまにこころをさへもつくしつるかな | 源雅兼 | 春 |
5-金葉 | 93 | 春は惜し人はこよひとたのむれば思ひわづらふ今日の暮かな はるはをしひとはこよひとたのむれはおもひわつらふけふのくれかな | 源有仁 | 春 |
5-金葉 | 94 | いくかへり今日に我が身のあひぬらむ惜しむは春の過ぐるのみかは いくかへりけふにわかみのあひぬらむをしむははるのすくるのみかは | 藤原定成 | 春 |
5-金葉 | 95 | 花だにも散らで別るる春ならばいとかく今日を惜しまざらまし はなたにもちらてわかるるはるならはいとかくけふををしまさらまし | 藤原朝忠 | 春 |
5-金葉 | 96 | かへる春卯月の忌にさしこめてしばし御阿礼のほどだにもみむ かへるはるうつきのいみにさしこめてしはしみあれのほとたにもみむ | 源俊頼 | 春 |
5-金葉 | 97 | 夏衣たちきる今日は花櫻かたみの色をぬぎやかふらむ なつころもたちきるけふははなさくらかたみのいろをぬきやかふらむ | 中務 | 春 |
5-金葉 | 98 | 我のみぞ急ぎたたれぬ夏衣ひとへに春を惜しむ身なれば われのみそいそきたたれぬなつころもひとへにはるををしむみなれは | 源師賢 | 夏 |
5-金葉 | 99 | 夏山の青葉まじりの遅櫻はつ花よりもめづらしきかな なつやまのあをはましりのおそさくらはつはなよりもめつらしきかな | 藤原盛房 | 夏 |
5-金葉 | 100 | おしなべてこずゑ青葉になりぬれば松の緑もわかれざりけり おしなへてこすゑあをはになりぬれはまつのみとりもわかれさりけり | 白河院 | 夏 |
5-金葉 | 101 | 玉かしは庭も葉広になりぬればこやゆふしでて神まつる頃 たまかしはにはもはひろになりぬれはこやゆふしててかみまつるころ | 源経信 | 夏 |
5-金葉 | 102 | やかつ神まつれる宿のしるしには楢の廣葉のやひらでぞ散る やかつかみまつれるやとのしるしにはならのひろはのやひらてそちる | 永成法師 | 夏 |
5-金葉 | 103 | 雪の色をうばひて咲ける卯の花に小野の里人冬ごもりすな ゆきのいろをうはひてさけるうのはなにをののさとひとふゆこもりすな | 藤原公実 | 夏 |
5-金葉 | 104 | いづれをか分きてとはまし山里の垣根つづきに咲ける卯の花 いつれをかわきてとはましやまさとのかきねつつきにさけるうのはな | 大江匡房 | 夏 |
5-金葉 | 105 | 年をへてかよひなれにし山里の門とふばかり咲ける卯の花 としをへてかよひなれにしやまさとのかととふはかりさけるうのはな | 源相方 | 夏 |
5-金葉 | 106 | 雪としもまがひもはてじ卯の花は暮るれば月の影かとも見ゆ ゆきとしもまかひもはてしうのはなはくるれはつきのかけかともみゆ | 江侍従 | 夏 |
5-金葉 | 107 | 卯の花の咲かぬ垣根はなけれども名に流れたる玉川の里 うのはなのさかぬかきねはなけれともなになかれたるたまかはのさと | 藤原忠通 | 夏 |
5-金葉 | 108 | 神山のふもとに咲ける卯の花は誰がしめ結ひし垣根なるらむ かみやまのふもとにさけるうのはなはたかしめゆひしかきねなるらむ | 權藤原実行 | 夏 |
5-金葉 | 109 | 賤のめが葦火たく屋も卯の花の咲きしかかればやつれざりけり しつのめかあしひたくやもうのはなのさきしかかれはやつれさりけり | 源経信 | 夏 |
5-金葉 | 110 | み山いでてまだ里なれぬほととぎす旅の空なるねをや鳴くらむ みやまいててまたさとなれぬほとときすたひのそらなるねをやなくらむ | 藤原顕季 | 夏 |
5-金葉 | 111 | 今日もまた尋ねくらしつ郭公いかで聞くべき初音なるらむ けふもまたたつねくらしつほとときすいかてきくへきはつねなるらむ | 藤原節信 | 夏 |
5-金葉 | 112 | 郭公すがたは水にやどれども聲はうつらぬ物にぞありける ほとときすすかたはみつにやとれともこゑはうつらぬものにそありける | 藤原忠通 | 夏 |
5-金葉 | 113 | 年ごとに聞くとはすれど郭公こゑはふりせぬ物にぞありける としことにきくとはすれとほとときすこゑはふりせぬものにそありける | 藤原経忠 | 夏 |
5-金葉 | 114 | 郭公こころも空にあくがれて夜がれがちなるみ山邊の里 ほとときすこころもそらにあくかれてよかれかちなるみやまへのさと | 藤原顕輔 | 夏 |
5-金葉 | 115 | 郭公あかで過ぎぬる聲によりあとなき空を眺めつるかな ほとときすあかてすきぬるこゑによりあとなきそらをなかめつるかな | 藤原孝善 | 夏 |
5-金葉 | 116 | 聞くたびにめづらしければ郭公いつも初音の心地こそすれ きくたひにめつらしけれはほとときすいつもはつねのここちこそすれ | 權僧正永縁 | 夏 |
5-金葉 | 117 | ほのかにぞ鳴きわたるなる郭公み山を出づる夜半の初聲 ほのかにそなきわたるなるほとときすみやまをいつるよはのはつこゑ | 坂上望城 | 夏 |
5-金葉 | 118 | 郭公まつにかかりてあかすかな藤の花とや人は見つらむ ほとときすまつにかかりてあかすかなふちのはなとやひとはみつらむ | 白河院 | 夏 |
5-金葉 | 119 | 郭公ほのめく聲をいづかたと聞きまどはしつ曙の空 ほとときすほのめくこゑをいつかたとききまとはしつあけほののそら | 中納言女王 | 夏 |
5-金葉 | 120 | 宿近くしばしかたらへほととぎす待つ夜の數の積もるしるしに やとちかくしはしかたらへほとときすまつよのかすのつもるしるしに | 前齋院六條 | 夏 |
5-金葉 | 121 | 音せぬは待つ人からか郭公たれ教へけむ數ならぬ身と おとせぬはまつひとからかほとときすたれをしへけむかすならぬみと | 源俊頼 | 夏 |
5-金葉 | 122 | 山ちかく浦こぐ舟は郭公なくわたりこそとまりなりけれ やまちかくうらこくふねはほとときすなくわたりこそとまりなりけれ | 康資王母 | 夏 |
5-金葉 | 123 | ほととぎす雲の玉江にもる月の影ほのかにも鳴きわたるかな ほとときすくものたえまにもるつきのかけほのかにもなきわたるかな | 皇后宮式部 | 夏 |
5-金葉 | 124 | わぎもこに逢坂山のほととぎす明くればかへる空に鳴くなり わきもこにあふさかやまのほとときすあくれはかへるそらになくなり | 源定信 | 夏 |
5-金葉 | 125 | ほととぎす雲路にまよふ聲すなりをやみだにせよ五月雨の空 ほとときすくもちにまよふこゑすなりをやみたにせよさみたれのそら | 源経信 | 夏 |
5-金葉 | 126 | 宿ちかく花たちばなはほり植ゑじ昔を恋ふるつまとなりけり やとちかくはなたちはなはほりうゑしむかしをこふるつまとなりけり | 花山院 | 夏 |
5-金葉 | 127 | よろづよにかはらぬものは五月雨の雫に薫るあやめなりけり よろつよにかはらぬものはさみたれのしつくにかをるあやめなりけり | 源経信 | 夏 |
5-金葉 | 128 | あやめ草引くてもたゆく長き根のいかであさかの沼に生ふらむ あやめくさひくてもたゆくなかきねのいかてあさかのぬまにおふらむ | 藤原孝善 | 夏 |
5-金葉 | 129 | あやめ草わが身のうきにひきかへてなべてならぬに思ひいでなむ あやめくさわかみのうきにひきかへてなへてならぬにおもひいてなむ | 權僧正永縁母 | 夏 |
5-金葉 | 130 | 長しとも知らずやねのみなかれつつ心のうちに生ふるあやめは なかしともしらすやねのみなかれつつこころのうちにおふるあやめは | 高松上 | 夏 |
5-金葉 | 131 | おなじくはととのへて葺けあやめ草さみだれたらばもりもこそすれ おなしくはととのへてふけあやめくささみたれたらはもりもこそすれ | 左近衛府生秦兼久 | 夏 |
5-金葉 | 132 | 五月雨はひかずへにけり東屋の萱が軒端の下朽つるまで さみたれはひかすへにけりあつまやのかやかのきはのしたくつるまて | 藤原定通 | 夏 |
5-金葉 | 133 | 五月雨に玉江の水やまさるらむ蘆の下葉の隠れゆくかな さみたれにたまえのみつやまさるらむあしのしたはのかくれゆくかな | 源経信 | 夏 |
5-金葉 | 134 | 五月雨に水まさるらし澤田川まきの継橋うきぬばかりに さみたれにみつまさるらしさはたかはまきのつきはしうきぬはかりに | 藤原顕仲 | 夏 |
5-金葉 | 135 | 五月雨に入江の橋のうきぬればおろす筏の心地こそすれ さみたれにいりえのはしのうきぬれはおろすいかたのここちこそすれ | 三宮顕仁親王 | 夏 |
5-金葉 | 136 | 夏の夜の庭にふりしく白雪は月の入るこそ消ゆるなりけれ なつのよのにはにふりしくしらゆきはつきのいるこそきゆるなりけれ | 神祇伯源顕仲 | 夏 |
5-金葉 | 137 | 里ごとに叩く水鶏の音すなり心のとまる宿やなからむ さとことにたたくくひなのおとすなりこころのとまるやとやなからむ | 藤原顕綱 | 夏 |
5-金葉 | 138 | 夜もすがらはかなくたたく水鶏かな鎖せる戸もなき柴のかりやを よもすからはかなくたたくくひなかなさせるともなきしはのかりやを | 源雅光 | 夏 |
5-金葉 | 139 | 夏衣すそ野の草を吹く風に思ひもあへず鹿やなくらむ なつころもすそののくさをふくかせにおもひもあへすしかやなくらむ | 藤原顕季 | 夏 |
5-金葉 | 140 | ともしして箱根の山に明けにけりふたよりみよりあふとせしまに ともししてはこねのやまにあけにけりふたよりみよりあふとせしまに | 橘俊綱 | 夏 |
5-金葉 | 141 | 澤水にほぐしの影のうつれるをふたともしとや鹿は見るらむ さはみつにほくしのかけのうつれるをふたともしとやしかはみるらむ | 源仲正 | 夏 |
5-金葉 | 142 | 夏草のなかを露けみかきわけて刈る人なしに茂る野邊かな なつくさのなかをつゆけみかきわけてかるひとなしにしけるのへかな | 壬生忠見 | 夏 |
5-金葉 | 143 | たまくしげ二上山の雲間よりいづれば明くる夏の夜の月 たまくしけふたかみやまのくもまよりいつれはあくるなつのよのつき | 源親房 | 夏 |
5-金葉 | 144 | 杣川の筏の床のうきまくら夏は涼しきふしどなりけり そまかはのいかたのとこのうきまくらなつはすすしきふしとなりけり | 曾禰好忠 | 夏 |
5-金葉 | 145 | この里も夕立しけり浅茅生に露のすがらぬ草のはもなし このさともゆふたちしけりあさちふにつゆのすからぬくさのはもなし | 源俊頼 | 夏 |
5-金葉 | 146 | 水無月の照る日の影はさしながら風のみ秋のけしきなるかな みなつきのてるひのかけはさしなからかせのみあきのけしきなるかな | 藤原忠通 | 夏 |
5-金葉 | 147 | 禊する川瀬にたてる井杭さへすがぬきかけて見ゆる今日かな みそきするかはせにたてるいくひさへすかぬきかけてみゆるけふかな | 源有政 | 夏 |
5-金葉 | 148 | 君すまばとはましものを津の國の生田のもりの秋の初風 きみすまはとはましものをつのくにのいくたのもりのあきのはつかせ | 僧都清胤 | 秋 |
5-金葉 | 149 | とことはに吹くゆふぐれの風なれど秋立つ日こそ涼しかりけれ とことはにふくゆふくれのかせなれとあきたつひこそすすしかりけれ | 藤原公実 | 秋 |
5-金葉 | 150 | まくずはふあだの大野の白露を吹きな乱りそ秋の初風 まくすはふあたのおほののしらつゆをふきなみたりそあきのはつかせ | 藤原長実 | 秋 |
5-金葉 | 151 | よろづよに君ぞ見るべき七夕の行きあひの空を雲のうへにて よろつよにきみそみるへきたなはたのゆきあひのそらをくものうへにて | 土佐内侍 | 秋 |
5-金葉 | 152 | 七夕の苔の衣をいとはずは人なみなみにとひもしてまし たなはたのこけのころもをいとはすはひとなみなみにとひもしてまし | 能因法師 | 秋 |
5-金葉 | 153 | 藤衣いみもやすると七夕にかさぬにつけて濡るる袖かな ふちころもいみもやするとたなはたにかさぬにつけてぬるるそてかな | 橘元任 | 秋 |
5-金葉 | 154 | こひこひてこよひばかりや七夕の枕に塵のつもらざるらむ こひこひてこよひはかりやたなはたのまくらにちりのつもらさるらむ | 前斎宮河内 | 秋 |
5-金葉 | 155 | 天の川わかれに胸のこがるれば帰さの舟は梶もとられず あまのかはわかれにむねのこかるれはかへさのふねはかちもとられす | 三宮輔仁親王 | 秋 |
5-金葉 | 156 | 七夕にかせる衣の露けさにあかぬけしきを空に知るかな たなはたにかせるころものつゆけさにあかぬけしきをそらにしるかな | 權源国信 | 秋 |
5-金葉 | 157 | 七夕にかしつと思ひし逢ふことをその夜なき名の立ちにけるかな たなはたにかしつとおもひしあふことをそのよなきなのたちにけるかな | 小大君 | 秋 |
5-金葉 | 158 | 七夕のあかぬ別れの涙にや花のかつらも露けかるらむ たなはたのあかぬわかれのなみたにやはなのかつらもつゆけかるらむ | 源師時 | 秋 |
5-金葉 | 159 | 天の川かへさの舟に波かけよ乗りわづらはば程もふばかり あまのかはかへさのふねになみかけよのりわつらははほともふはかり | 内大臣家越後 | 秋 |
5-金葉 | 160 | 引く水もけふ七夕にかしてけり天の川瀬に舟ゐすなとて ひくみつもけふたなはたにかしてけりあまのかはせにふなゐすなとて | 菅野為言 | 秋 |
5-金葉 | 161 | ちぎりけむ程は知らねど七夕のたえせぬ今日のあまの川風 ちきりけむほとはしらねとたなはたのたえせぬけふのあまのかはかせ | 藤原頼通 | 秋 |
5-金葉 | 162 | まれにあふわれ七夕の身なりせば今日の別れをいきてせましや まれにあふわれたなはたのみなりせはけふのわかれをいきてせましや | 高階俊平 | 秋 |
5-金葉 | 163 | 咲きにけりくちなし色の女郎花いはねどしるし秋のけしきは さきにけりくちなしいろのをみなへしいはねとしるしあきのけしきは | 源縁法師 | 秋 |
5-金葉 | 164 | 夕されば門田の稲葉おとづれて蘆のまろやに秋風ぞ吹く ゆふされはかとたのいなはおとつれてあしのまろやにあきかせそふく | 源経信 | 秋 |
5-金葉 | 165 | 思ひかね別れし野邊を来てみれば浅茅が原に秋風ぞ吹く おもひかねわかれしのへをきてみれはあさちかはらにあきかせそふく | 源道済 | 秋 |
5-金葉 | 166 | 山のはにあかず入りぬる夕月夜いつ有明にならむとすらむ やまのはにあかすいりぬるゆふつくよいつありあけにならむとすらむ | 大江公資 | 秋 |
5-金葉 | 167 | すむ人もなき山里の秋の夜は月の光もさびしかりけり すむひともなきやまさとのあきのよはつきのひかりもさひしかりけり | 藤原範永 | 秋 |
5-金葉 | 168 | 秋の夜の月に心はあくがれて雲ゐに物を思ふころかな あきのよのつきにこころはあくかれてくもゐにものをおもふころかな | 花山院 | 秋 |
5-金葉 | 169 | 月にこそ昔のことはおぼえけれ我を忘るる人に見せばや つきにこそむかしのことはおほえけれわれをわするるひとにみせはや | 中原長国 | 秋 |
5-金葉 | 170 | もろともに草葉の露のおきゐずはひとりや見まし秋の夜の月 もろともにくさはのつゆのおきゐすはひとりやみましあきのよのつき | 源顕仲女 | 秋 |
5-金葉 | 171 | 池水にこよひの月をうつしても心のままにわがものと見る いけみつにこよひのつきをうつしてもこころのままにわかものとみる | 白河院 | 秋 |
5-金葉 | 172 | 照る月の岩間の水にやどらずは玉ゐる數をいかで知らまし てるつきのいはまのみつにやとらすはたまゐるかすをいかてしらまし | 源経信 | 秋 |
5-金葉 | 173 | 秋はまだ過ぎぬるばかりあるものを月はこよひを君と見るかな あきはまたすきぬるはかりあるものをつきはこよひをきみとみるかな | 高階俊平 | 秋 |
5-金葉 | 174 | いづくにもこよひの月を見る人の心やおなじ空にすむらむ いつくにもこよひのつきをみるひとのこころやおなしそらにすむらむ | 藤原忠教 | 秋 |
5-金葉 | 175 | ひく駒の數よりほかに見えつるは関の清水の影にぞありける ひくこまのかすよりほかにみえつるはせきのしみつのかけにそありける | 藤原隆経 | 秋 |
5-金葉 | 176 | 人もこえ駒もとまらぬ逢坂の関は清水のもる名なりけり ひともこえこまもとまらぬあふさかのせきはしみつのもるななりけり | 小式部内侍 | 秋 |
5-金葉 | 177 | 東路をはるかに出づる望月の駒にこよひや逢坂の関 あつまちをはるかにいつるもちつきのこまにこよひやあふさかのせき | 源仲正 | 秋 |
5-金葉 | 178 | さやけさは思ひなしかと月影をこよひと知らぬ人にとはばや さやけさはおもひなしかとつきかけをこよひとしらぬひとにとははや | 源親房 | 秋 |
5-金葉 | 179 | こがらしの雲ふきはらふ高嶺よりさえても月のすみのぼるかな こからしのくもふきはらふたかねよりさえてもつきのすみのほるかな | 源俊頼 | 秋 |
5-金葉 | 180 | 秋はなほ残りおほかる年なれどこよひの月の名こそ惜しけれ あきはなほのこりおほかるとしなれとこよひのつきのなこそをしけれ | 藤原公実 | 秋 |
5-金葉 | 181 | 九重のうちさへ照らす月影に荒れたる宿を思ひこそやれ ここのへのうちさへてらすつきかけにあれたるやとをおもひこそやれ | 大江為政 | 秋 |
5-金葉 | 182 | こころみにほかの月をも見てしがな我が宿からのあはれなるかと こころみにほかのつきをもみてしかなわかやとからのあはれなるかと | 花山院 | 秋 |
5-金葉 | 183 | 雲の波かからぬ小夜の月影を清瀧川にやどしてぞ見る くものなみかからぬさよのつきかけをきよたきかはにやとしてそみる | 前齋院六條 | 秋 |
5-金葉 | 184 | 月を見て思ふ心のままならば行方も知らずあくがれなまし つきをみておもふこころのままならはゆくへもしらすあくかれなまし | 皇后宮肥後 | 秋 |
5-金葉 | 185 | いかにしてしがらみかけむ天の川流るる月やしばしよどむと いかにしてしからみかけむあまのかはなかるるつきやしはしよとむと | 源師俊 | 秋 |
5-金葉 | 186 | こよひわが桂の里の月を見て思ひ残せることのなきかな こよひわかかつらのさとのつきをみておもひのこせることのなきかな | 源経信 | 秋 |
5-金葉 | 187 | くもりなき影をとどめば山川に入るとも月を惜しまざらまし くもりなきかけをととめはやまかはにいるともつきををしまさらまし | 藤原公実 | 秋 |
5-金葉 | 188 | 照る月の光さえゆく宿なれば秋の水にもつららゐにけり てるつきのひかりさえゆくやとなれはあきのみつにもつららゐにけり | 皇后宮摂津 | 秋 |
5-金葉 | 189 | 山の端に雲の衣をぬぎすててひとりも月の立ちのぼるかな やまのはにくものころもをぬきすててひとりもつきのたちのほるかな | 源俊頼 | 秋 |
5-金葉 | 190 | あし根はひかつみもしげき沼水にわりなくやどる夜半の月かな あしねはひかつみもしけきぬまみつにわりなくやとるよはのつきかな | 藤原忠通 | 秋 |
5-金葉 | 191 | かがみやま峰より出づる月なれば曇る夜もなき影をこそみれ かかみやまみねよりいつるつきなれはくもるよもなきかけをこそみれ | 祐子内親王家紀伊 | 秋 |
5-金葉 | 192 | いにしへの難波のことを思ひ出でて高津の宮に月のすむらむ いにしへのなにはのことをおもひいててたかつのみやにつきのすむらむ | 源師頼 | 秋 |
5-金葉 | 193 | なごりなく夜半の嵐に雲はれて心のままにすめる月かな なこりなくよはのあらしにくもはれてこころのままにすめるつきかな | 源行宗 | 秋 |
5-金葉 | 194 | 三笠山ひかりをさして出でしより曇らで明けぬ秋の夜の月 みかさやまひかりをさしていてしよりくもらてあけぬあきのよのつき | 平師季 | 秋 |
5-金葉 | 195 | 宿からぞ月の光もまさりけるよの曇りなくすめばなりけり やとからそつきのひかりもまさりけるよのくもりなくすめはなりけり | 赤染衛門 | 秋 |
5-金葉 | 196 | 三笠山みねより出づる月影は佐保の川瀬のこほりなりけり みかさやまみねよりいつるつきかけはさほのかはせのこほりなりけり | 源経信 | 秋 |
5-金葉 | 197 | 思ひ出でもなくてや我が身やみなまし姨捨山の月見ざりせば おもひいてもなくてやわかみやみなましをはすてやまのつきみさりせは | 權律師済慶 | 秋 |
5-金葉 | 198 | くまもなき鏡とみゆる月影に心うつらぬ人はあらじな くまもなきかかみとみゆるつきかけにこころうつらぬひとはあらしな | 藤原長実 | 秋 |
5-金葉 | 199 | むらくもや月のくまをば拂ふらむ晴れゆくたびに照りまさるかな むらくもやつきのくまをははらふらむはれゆくたひにてりまさるかな | 源俊頼 | 秋 |
5-金葉 | 200 | とだえして人も通はぬ棚橋に月ばかりこそすみわたりけれ とたえしてひともかよはぬたなはしにつきはかりこそすみわたりけれ | 三宮輔仁親王 | 秋 |
5-金葉 | 201 | 月影のさすにまかせて行く舟は明石の浦やとまりなるらむ つきかけのさすにまかせてゆくふねはあかしのうらやとまりなるらむ | 藤原実光 | 秋 |
5-金葉 | 202 | おほかたにさやけからぬか月影は涙くもらぬ人にとはばや おほかたにさやけからぬかつきかけはなみたくもらぬひとにとははや | 承香殿女御 | 秋 |
5-金葉 | 203 | さらぬだに玉にまがひて置く露をいとどみがける秋の夜の月 さらぬたにたまにまかひておくつゆをいととみかけるあきのよのつき | 藤原長実 | 秋 |
5-金葉 | 204 | すみのぼる心や空をはらふらむ雲の塵ゐぬ秋の夜の月 すみのほるこころやそらをはらふらむくものちりゐぬあきのよのつき | 源俊頼 | 秋 |
5-金葉 | 205 | 夜とともにくもらぬ雲の上なれば思ふことなく月を見るかな よとともにくもらぬくものうへなれはおもふことなくつきをみるかな | 藤原家経 | 秋 |
5-金葉 | 206 | うらめしく帰りけるかな月夜には来ぬ人をだに待つとこそきけ うらめしくかへりけるかなつきよにはこぬひとをたにまつとこそきけ | 中務宮 | 秋 |
5-金葉 | 207 | もろともに出づとはなしに有明の月のみ送る山路をぞゆく もろともにいつとはなしにありあけのつきのみおくるやまちをそゆく | 權僧正永縁 | 秋 |
5-金葉 | 208 | 有明の月待つほどのうたたねは山の端のみぞ夢に見えける ありあけのつきまつほとのうたたねはやまのはのみそゆめにみえける | 源師房 | 秋 |
5-金葉 | 209 | 有明の月見ずひさに起きて行く人の名残をながめしものを ありあけのつきみすさひにおきてゆくひとのなこりをなかめしものを | 和泉式部 | 秋 |
5-金葉 | 210 | 山里の門田の稲のほのぼのと明くるも知らず月を見るかな やまさとのかとたのいねのほのほのとあくるもしらすつきをみるかな | 藤原顕隆 | 秋 |
5-金葉 | 211 | 有明の月も清水に宿りけりこよひはこえじ逢坂の関 ありあけのつきもしみつにやとりけりこよひはこえしあふさかのせき | 藤原範永 | 秋 |
5-金葉 | 212 | 有明の月もあかしの浦風に波ばかりこそよると見えしか ありあけのつきもあかしのうらかせになみはかりこそよるとみえしか | 平忠盛 | 秋 |
5-金葉 | 213 | 有明の月は袂になかれつつ悲しき頃の蟲の聲かな ありあけのつきはたもとになかれつつかなしきころのむしのこゑかな | 赤染衛門 | 秋 |
5-金葉 | 214 | 露しげき野邊にならひてきりぎりす我が手枕の下に鳴くなり つゆしけきのへにならひてきりきりすわかたまくらのしたになくなり | 前齋院六條 | 秋 |
5-金葉 | 215 | ささがにの糸引きかくる草むらにはたおる蟲の聲きこゆなり ささかにのいとひきかくるくさむらにはたおるむしのこゑきこゆなり | 源顕仲女 | 秋 |
5-金葉 | 216 | おぼつかないづくなるらむ蟲の音をたづねば花の露やこぼれむ おほつかないつくなるらむむしのねをたつねははなのつゆやこほれむ | 藤原長能 | 秋 |
5-金葉 | 217 | たまづさはかけて来つれど雁がねの上の空にも見えわたるかな たまつさはかけてきつれとかりかねのうはのそらにもみえわたるかな | 読人知らず | 秋 |
5-金葉 | 218 | 妹背山みねの嵐や寒からむ衣かりがね空に鳴くなり いもせやまみねのあらしやさむからむころもかりかねそらになくなり | 藤原公実 | 秋 |
5-金葉 | 219 | 妻こふる鹿ぞなくなるひとりねの鳥籠の山風身にやしむらむ つまこふるしかそなくなるひとりねのとこのやまかせみにやしむらむ | 三宮大進 | 秋 |
5-金葉 | 220 | 高砂の尾上にたてる鹿の音にことのほかにも濡るる袖かな たかさこのをのへにたてるしかのねにことのほかにもぬるるそてかな | 恵慶法師 | 秋 |
5-金葉 | 221 | 思ふこと有明がたの月影にあはれをそふるさを鹿のこゑ おもふことありあけかたのつきかけにあはれをそふるさをしかのこゑ | 皇后宮右衛門佐 | 秋 |
5-金葉 | 222 | 夜半に鳴く聲に心ぞあくがるる我が身は鹿の妻とならねど よはになくこゑにこころそあくかるるわかみはしかのつまとならねと | 内大臣家越後 | 秋 |
5-金葉 | 223 | さもこそは都こひしき旅ならめ鹿の音にさへ濡るる袖かな さもこそはみやここひしきたひならめしかのねにさへぬるるそてかな | 源雅光 | 秋 |
5-金葉 | 224 | 秋萩を草の枕にむすぶ夜は近くも鹿の聲をきくかな あきはきをくさのまくらにむすふよはちかくもしかのこゑをきくかな | 藤原伊家 | 秋 |
5-金葉 | 225 | さを鹿の鳴く音は野邊に聞こゆれど涙はとこの物にざりける さをしかのなくねはのへにきこゆれとなみたはとこのものにさりける | 源俊頼 | 秋 |
5-金葉 | 226 | 世の中をあきはてぬとやさを鹿の今はあらしの山に鳴くらむ よのなかをあきはてぬとやさをしかのいまはあらしのやまになくらむ | 藤原顕仲 | 秋 |
5-金葉 | 227 | しらすげの眞野の萩原露ながら折りつる袖ぞ人な咎めそ しらすけのまののはきはらつゆなからをりつるそてそひとなとかめそ | 藤原長実 | 秋 |
5-金葉 | 228 | 白露をたまくらにして女郎花のはらの風に折れやふすらむ しらつゆをたまくらにしてをみなへしのはらのかせにをれやふすらむ | 權藤原俊忠 | 秋 |
5-金葉 | 229 | 心ゆゑ心おくらむ女郎花いろめく野邊に人かよふとて こころゆゑこころおくらむをみなへしいろめくのへにひとかよふとて | 藤原顕輔 | 秋 |
5-金葉 | 230 | 佐保川のみぎはに咲ける藤袴なみの折りてやかけむとすらむ さほかはのみきはにさけるふちはかまなみのおりてやかけむとすらむ | 源忠季 | 秋 |
5-金葉 | 231 | かりにくる人も着よとや藤袴あきの野ごとに鹿のたつらむ かりにくるひともきよとやふちはかまあきののことにしかのたつらむ | 右兵衛督伊通 | 秋 |
5-金葉 | 232 | ささがにの糸のとぢめやあだならむほころびわたる藤袴かな ささかにのいとのとちめやあたならむほころひわたるふちはかまかな | 源顕仲 | 秋 |
5-金葉 | 233 | 鶉なく眞野の入江の濱風にをばななみよる秋の夕ぐれ うつらなくまののいりえのはまかせにをはななみよるあきのゆふくれ | 源俊頼 | 秋 |
5-金葉 | 234 | あだし野の露ふきみだる秋風になびきもあへぬ女郎花かな あたしののつゆふきみたるあきかせになひきもあへぬをみなへしかな | 藤原公実 | 秋 |
5-金葉 | 235 | 何ならむと思ふ思ふぞほりうゑし女郎花とは今日ぞしりぬる なにならむとおもふおもふそほりうゑしをみなへしとはけふそしりぬる | 明圓聖人 | 秋 |
5-金葉 | 236 | ぬれぬれも明けばまづ見む宮城野のもとあらの小萩しをれしぬらむ ぬれぬれもあけはまつみむみやきののもとあらのこはきしをれしぬらむ | 藤原長能 | 秋 |
5-金葉 | 237 | うつろふは下葉ばかりと見し程にやがて秋にもなりにけるかな うつろふはしたははかりとみしほとにやかてあきにもなりにけるかな | 馬内侍 | 秋 |
5-金葉 | 238 | とりつなげ美豆野の原のはなれ駒淀の川霧秋ははれせじ とりつなけみつののはらのはなれこまよとのかはきりあきははれせし | 藤原長能 | 秋 |
5-金葉 | 239 | 宇治川の川瀬も見えぬ夕霧に槙の島人ふねよばふなり うちかはのかはせもみえぬゆふきりにまきのしまひとふねよはふなり | 藤原基光 | 秋 |
5-金葉 | 240 | 川霧のたちこめつれば高瀬舟わけ行く棹の音のみぞする かはきりのたちこめつれはたかせふねわけゆくさをのおとのみそする | 藤原行家 | 秋 |
5-金葉 | 241 | さかりなる籬の菊をけさ見ればまだ空さえぬ雪ぞつもれる さかりなるまかきのきくをけさみれはまたそらさえぬゆきそつもれる | 藤原通俊 | 秋 |
5-金葉 | 242 | ちとせまで君がつむべき菊なれば露もあだには置かじとぞ思ふ ちとせまてきみかつむへききくなれはつゆもあたにはおかしとそおもふ | 藤原顕季 | 秋 |
5-金葉 | 243 | もずのゐるはじの立ち枝のうす紅葉たれ我が宿の物と見るらむ もすのゐるはしのたちえのうすもみちたれわかやとのものとみるらむ | 藤原仲実 | 秋 |
5-金葉 | 244 | 関こゆる人にとはばや陸奥の安達の真弓もみぢしにきや せきこゆるひとにとははやみちのくのあたちのまゆみもみちしにきや | 藤原頼宗 | 秋 |
5-金葉 | 245 | いくらとも見えぬ紅葉の錦かな誰ふたむらの山といひけむ いくらともみえぬもみちのにしきかなたれふたむらのやまといひけむ | 橘能元 | 秋 |
5-金葉 | 246 | 山守よ斧の音高く聞こゆなり峰の紅葉はよきてきらせよ やまもりよをののおとたかくきこゆなりみねのもみちはよきてきらせよ | 源経信 | 秋 |
5-金葉 | 247 | みづうみに秋の山邊をうつしてははたばり広き錦とや見む みつうみにあきのやまへをうつしてははたはりひろきにしきとやみむ | 權大僧都観教 | 秋 |
5-金葉 | 248 | もみぢばをたづぬる旅にあらねども錦をのみもみちきたるかな もみちはをたつぬるたひにあらねともにしきをのみもみちきたるかな | 江侍従 | 秋 |
5-金葉 | 249 | 谷川にしがらみかけよ竜田姫みねの紅葉に嵐ふくなり たにかはにしからみかけよたつたひめみねのもみちにあらしふくなり | 藤原伊家 | 秋 |
5-金葉 | 250 | ははそ散る岩間をかづく鴨鳥はおのが青羽も紅葉しにけり ははそちるいはまをかつくかもとりはおのかあをはももみちしにけり | 藤原伊家 | 秋 |
5-金葉 | 251 | 山里の秋のけしきも見ぬ人に来てだに語れ露もおとさず やまさとのあきのけしきもみぬひとにきてたにかたれつゆもおとさす | 前皇后宮美作 | 秋 |
5-金葉 | 252 | いづくにか駒をとどめむ紅葉ばの色なるものは心なりけり いつくにかこまをととめむもみちはのいろなるものはこころなりけり | 藤原長能 | 秋 |
5-金葉 | 253 | 大井川いはなみたかし筏士よ岸の紅葉にあから目なせそ おほゐかはいはなみたかしいかたしよきしのもみちにあからめなせそ | 源経信 | 秋 |
5-金葉 | 254 | 小倉山みねの嵐の吹くからに谷のかけはし紅葉しにけり をくらやまみねのあらしのふくからにたにのかけはしもみちしにけり | 藤原顕季 | 秋 |
5-金葉 | 255 | 音羽山もみぢちるらし逢坂の関の小川に錦おりかく おとはやまもみちちるらしあふさかのせきのをかはににしきおりかく | 源俊頼 | 秋 |
5-金葉 | 256 | 明日よりは四方の山邊に秋霧の面影にのみたたむとすらむ あすよりはよものやまへにあききりのおもかけにのみたたむとすらむ | 中原経則 | 秋 |
5-金葉 | 257 | 草の葉にはかなく消ゆる露霜をかたみに置きて秋のゆくらむ くさのはにはかなくきゆるつゆしもをかたみにおきてあきのゆくらむ | 源師俊 | 秋 |
5-金葉 | 258 | いづかたに秋のゆくらむ我が宿に今宵ばかりの雨宿りせよ いつかたにあきのゆくらむわかやとにこよひはかりのあまやとりせよ | 藤原公任 | 秋 |
5-金葉 | 259 | 神無月しぐるるままにくらぶ山した照るばかり紅葉しにけり かみなつきしくるるままにくらふやましたてるはかりもみちしにけり | 源師賢 | 冬 |
5-金葉 | 260 | しぐれつつかつ散る山のもみぢ葉をいかに吹く夜の嵐なるらむ しくれつつかつちるやまのもみちはをいかにふくよのあらしなるらむ | 藤原顕季 | 冬 |
5-金葉 | 261 | 立田川しがらみかけて神なびのみむろの山の紅葉をぞ見る たつたかはしからみかけてかみなひのみむろのやまのもみちをそみる | 源俊頼 | 冬 |
5-金葉 | 262 | 神無月しぐれの雨の降るからにいろいろになる鈴鹿山かな かみなつきしくれのあめのふるからにいろいろになるすすかやまかな | 摂政家参河 | 冬 |
5-金葉 | 263 | もろともに山めぐりする時雨かなふるにかひなき身とは知らずや もろともにやまめくりするしくれかなふるにかひなきみとはしらすや | 藤原道雅 | 冬 |
5-金葉 | 264 | 山深み落ちてつもれる紅葉ばのかわける上にしぐれ降るなり やまふかみおちてつもれるもみちはのかわけるうへにしくれふるなり | 大江嘉言 | 冬 |
5-金葉 | 265 | ひぐらしに山路のきのふしぐれしは富士の高嶺の雪にぞありける ひくらしにやまちのきのふしくれしはふしのたかねのゆきにそありける | 大江嘉言 | 冬 |
5-金葉 | 266 | 紅葉ちる宿はあきぎり晴れせねば立田の河のながれをぞ見る もみちちるやとはあききりはれせねはたつたのかはのなかれをそみる | 藤原資仲 | 冬 |
5-金葉 | 267 | なよ竹の音にぞ袖をかづきつる濡れぬにこそは風と知りぬれ なよたけのおとにそそてをかつきつるぬれぬにこそはかせとしりぬれ | 藤原基長 | 冬 |
5-金葉 | 268 | 氷魚のよる川瀬にたてる網代木は立つ白波のうつにやあるらむ ひをのよるかはせにたてるあしろきはたつしらなみのうつにやあるらむ | 京極関白家肥後 | 冬 |
5-金葉 | 269 | 月清み瀬々の網代による氷魚は玉藻にさゆる氷なりけり つきよよみせせのあしろによるひをはたまもにさゆるこほりなりけり | 源経信 | 冬 |
5-金葉 | 270 | 寒からば夜はきて寝よみ山鳥いまは木の葉も嵐吹くなり さむからはよるはきてねよみやまとりいまはこのはもあらしふくなり | 源重之 | 冬 |
5-金葉 | 271 | 淡路島かよふ千鳥のなくこゑに幾夜ねざめぬ須磨の関守 あはちしまかよふちとりのなくこゑにいくよねさめぬすまのせきもり | 源兼昌 | 冬 |
5-金葉 | 272 | 川霧は汀をこめて立ちにけりいづくなるらむ千鳥なくなり かはきりはみきはをこめてたちにけりいつくなるらむちとりなくなり | 藤原長能 | 冬 |
5-金葉 | 273 | 高瀬舟さをの音にぞ知られぬる蘆間の氷ひとへしにけり たかせふねさをのおとにそしられぬるあしまのこほりひとへしにけり | 藤原隆経 | 冬 |
5-金葉 | 274 | 谷川のよどみを結ぶ氷こそ見る人はなき鏡なりけれ たにかはのよとみをむすふこほりこそみるひとはなきかかみなりけれ | 源有仁 | 冬 |
5-金葉 | 275 | 水鳥は氷のせきに閉ぢられて玉藻の宿をかれやしぬらむ みつとりはこほりのせきにとちられてたまものやとをかれやしぬらむ | 曾禰好忠 | 冬 |
5-金葉 | 276 | しながどり猪名の伏原風さえて昆陽の池水こほりしにけり しなかとりゐなのふしはらかせさえてこやのいけみつこほりしにけり | 藤原仲実 | 冬 |
5-金葉 | 277 | つながねど流れもやらず高瀬舟むすふ氷のとけぬかぎりは つなかねとなかれもやらすたかせふねむすふこほりのとけぬかきりは | 三宮顕仁親王 | 冬 |
5-金葉 | 278 | 水鳥のつららの枕ひまもなしむべしみけらし十ふの菅菰 みつとりのつららのまくらひまもなしうへしみけらしとふのすかこも | 源経信 | 冬 |
5-金葉 | 279 | 冬寒み空にこほれる月影は宿にもるこそ解くるなりけれ ふゆさむみそらにこほれるつきかけはやとにもるこそとくるなりけれ | 神祇伯源顕仲 | 冬 |
5-金葉 | 280 | 年をへて吉野の山に見なれたる目にもふりせぬ今朝の初雪 としをへてよしののやまにみなれたるめにもふりせぬけさのはつゆき | 藤原義忠 | 冬 |
5-金葉 | 281 | ころもでに余呉の浦風さえさえてこだかみ山に雪降りにけり ころもてによこのうらかせさえさえてこたかみやまにゆきふりにけり | 源頼綱 | 冬 |
5-金葉 | 282 | 白波の立ちわたるかと見ゆるかな濱名の橋に降れる白雪 しらなみのたちわたるかとみゆるかなはまなのはしにふれるしらゆき | 前齋院尾張 | 冬 |
5-金葉 | 283 | いかにせむ末の松山波こさば峯の初雪きえもこそすれ いかにせむすゑのまつやまなみこさはみねのはつゆききえもこそすれ | 大江匡房 | 冬 |
5-金葉 | 284 | 初雪は松の葉白く降りにけりこや小野山の冬のさびしさ はつゆきはまつのはしろくふりにけりこやをのやまのふゆのさひしさ | 源経信 | 冬 |
5-金葉 | 285 | 待つ人の今も来たらばいかがせむ踏ままく惜しき庭の雪かな まつひとのいまもきたらはいかかせむふままくをしきにはのゆきかな | 和泉式部 | 冬 |
5-金葉 | 286 | 降る雪に杉の青葉も埋もれてしるしも見えず三輪の山もと ふるゆきにすきのあをはもうつもれてしるしもみえすみわのやまもと | 皇后宮摂津 | 冬 |
5-金葉 | 287 | 磐代の結べる松に降る雪は春も解けずやあらむとすらむ いはしろのむすへるまつにふるゆきははるもとけすやあらむとすらむ | 中納言女王 | 冬 |
5-金葉 | 288 | 濱風に我が苔衣ほころびて身にふりつもる夜半の雪かな はまかせにわかこけころもほころひてみにふりつもるよはのゆきかな | 増基法師 | 冬 |
5-金葉 | 289 | 雪ふれば弥高山のこずゑにはまだ冬ながら花咲きにけり ゆきふれはいやたかやまのこすゑにはまたふゆなからはなさきにけり | 藤原行盛 | 冬 |
5-金葉 | 290 | 朝ごとの鏡の影に面なれて雪見にとしもいそがれぬかな あさことのかかみのかけにおもなれてゆきみにとしもいそかれぬかな | 源顕房 | 冬 |
5-金葉 | 291 | 炭竃に立つ煙さへ小野山は雪げの雲と見ゆるなりけり すみかまにたつけふりさへをのやまはゆきけのくもとみゆるなりけり | 源師時 | 冬 |
5-金葉 | 292 | 深山木を朝な夕なにこりつみて寒さをこふる小野の炭焼き みやまきをあさなゆふなにこりつみてさむさをこふるをののすみやき | 曾禰好忠 | 冬 |
5-金葉 | 293 | 袖ひちて植ゑし春より守る田を誰にしられて狩に立つらむ そてひちてうゑしはるよりまもるたをたれにしられてかりにたつらむ | 中務 | 冬 |
5-金葉 | 294 | 濡れぬれもなほ狩りゆかむ嘴鷹のうは羽の雪をうち拂ひつつ ぬれぬれもなほかりゆかむはしたかのうははのゆきをうちはらひつつ | 源道済 | 冬 |
5-金葉 | 295 | 霰ふる交野のみのの狩衣ぬれぬ宿かす人しなければ あられふるかたののみののかりころもぬれぬやとかすひとしなけれは | 藤原長能 | 冬 |
5-金葉 | 296 | み狩する末野にたてる一つ松とがへる鷹の木居にかもせむ みかりするすゑのにたてるひとつまつとかへるたかのこゐにかもせむ | 藤原長能 | 冬 |
5-金葉 | 297 | ことわりや交野の小野に鳴くきぎすさこそは狩の人はつらけれ ことわりやかたののをのになくききすさこそはかりのひとはつらけれ | 内大臣家越後 | 冬 |
5-金葉 | 298 | はし鷹をとりかふ澤に影見れば我が身もともにとやがへりせり はしたかをとりかふさはにかけみれはわかみもともにとやかへりせり | 源俊頼 | 冬 |
5-金葉 | 299 | 神まつる御室の山に霜ふればゆふしでかけぬ榊葉ぞなき かみまつるみむろのやまにしもふれはゆふしてかけぬさかきはそなき | 源師時 | 冬 |
5-金葉 | 300 | 榊葉や立ちまふ袖の追風になびかぬ神もあらじとぞ思ふ さかきはやたちまふそてのおひかせになひかぬかみもあらしとそおもふ | 康資王母 | 冬 |
5-金葉 | 301 | 旅寝する夜床さえつつ明けぬらしとかたぞ鐘の聲きこゆなり たひねするよとこさえつつあけぬらしとかたそかねのこゑきこゆなり | 源経信 | 冬 |
5-金葉 | 302 | なかなかに霜のうはぎを重ねてや鴛鴦の毛衣さえまさるらむ なかなかにしものうはきをかさねてやをしのけころもさえまさるらむ | 前齋院六條 | 冬 |
5-金葉 | 303 | さむしろに思ひこそやれ笹の葉にさゆる霜夜の鴛鴦のひとり寝 さむしろにおもひこそやれささのはにさゆるしもよのをしのひとりね | 藤原顕季 | 冬 |
5-金葉 | 304 | ふぢふ野に柴刈る民の手もたゆみつかねもあへず冬の寒さに ふちふのにしはかるたみのてもたゆみつかねもあへすふゆのさむさに | 曾禰好忠 | 冬 |
5-金葉 | 305 | なにとなく年の暮るるは惜しければ花のゆかりに春を待つかな なにとなくとしのくるるはをしけれははなのゆかりにはるをまつかな | 源有仁 | 冬 |
5-金葉 | 306 | 人しれず年の暮るるを惜しむ間に春いとふ名の立ちぬべきかな ひとしれすとしのくるるををしむまにはるいとふなのたちぬへきかな | 藤原成通 | 冬 |
5-金葉 | 307 | 數ふるに残り少なき身にしあればせめても惜しき年の暮かな かそふるにのこりすくなきみにしあれはせめてもをしきとしのくれかな | 藤原永実 | 冬 |
5-金葉 | 308 | いかにせむ暮れ行く年をしるべにて身をたづねつつ老は来にけり いかにせむくれゆくとしをしるへにてみをたつねつつおいはきにけり | 三宮輔仁親王 | 冬 |
5-金葉 | 309 | 年暮れぬとばかりをこそ聞かましか我が身の上に積らざりせば としくれぬとはかりをこそきかましかわかみのうへにつもらさりせは | 中原長国 | 冬 |
5-金葉 | 310 | 年ふれど面変りせぬ呉竹は流れての世のためしなりけり としふれとおもかはりせぬくれたけはなかれてのよのためしなりけり | 堀河院 | 賀 |
5-金葉 | 311 | 君が代にあふくま河の底きよみ代々を重ねてすまむとぞ思ふ きみかよにあふくまかはのそこきよみよよをかさねてすまむとそおもふ | 藤原頼通 | 賀 |
5-金葉 | 312 | 水の面に松のしづえのひちぬれば千歳は池の心なりけり みつのおもにまつのしつえのひちぬれはちとせはいけのこころなりけり | 權中納言俊実 | 賀 |
5-金葉 | 313 | 君が代のためしに立てる松蔭にいくたび水のすまむとすらむ きみかよのためしにたてるまつかけにいくたひみつのすまむとすらむ | 大江嘉言 | 賀 |
5-金葉 | 314 | たれにかと池の心も思ふらむ底に宿れる松のちとせを たれにかといけのこころもおもふらむそこにやとれるまつのちとせを | 恵慶法師 | 賀 |
5-金葉 | 315 | 九重に久しくにほへ八重櫻のどけき春の風としらずや ここのへにひさしくにほへやへさくらのとけきはるのかせとしらすや | 權藤原実行 | 賀 |
5-金葉 | 316 | おのづから我が身さへこそ祝はるれ誰か千代にもあはまほしさに おのつからわかみさへこそいははるれたれかちよにもあはまほしさに | 藤原国行 | 賀 |
5-金葉 | 317 | 君が代の程をばしらで住吉の松を久しと思ひけるかな きみかよのほとをはしらてすみよしのまつをひさしとおもひけるかな | 源経信 | 賀 |
5-金葉 | 318 | 水上にさだめてければ君が代にふたたびすめる堀河の水 みなかみにさためてけれはきみかよにふたたひすめるほりかはのみつ | 曾禰好忠 | 賀 |
5-金葉 | 319 | 君が代は末の松山はるばると越す白波の數もしられず きみかよはすゑのまつやまはるはるとこすしらなみのかすもしられす | 永成法師 | 賀 |
5-金葉 | 320 | 池水の底さへにほふ花櫻みるともあかじ千代の春まで いけみつのそこさへにほふはなさくらみるともあかしちよのはるまて | 堀河院 | 賀 |
5-金葉 | 321 | 音高きつづみの山のうちはへてたのしき御代となるぞ嬉しき おとたかきつつみのやまのうちはへてたのしきみよとなるそうれしき | 藤原行盛 | 賀 |
5-金葉 | 322 | 曇りなき豊のあかりにあふみなる朝日のさとの光さしそふ くもりなきとよのあかりにあふみなるあさひのさとのひかりさしそふ | 藤原敦光 | 賀 |
5-金葉 | 323 | 松風のをごとのさとに通ふにぞ治まれる世の聲は聞こゆる まつかせのをことのさとにかよふにそをさまれるよのこゑはきこゆる | 藤原敦光 | 賀 |
5-金葉 | 324 | みつぎもの運ぶよほろを數ふればにまのさとびと數そひにけり みつきものはこふよほろをかそふれはにまのさとひとかすそひにけり | 藤原家経 | 賀 |
5-金葉 | 325 | 苗代の水は稲井にまかせたり民やすげなる君が御代かな なはしろのみつはいなゐにまかせたりたみやすけなるきみかみよかな | 高階明頼 | 賀 |
5-金葉 | 326 | 花もみな君が千歳をまつなればいづれの春か色もかはらむ はなもみなきみかちとせをまつなれはいつれのはるかいろもかはらむ | 藤原長実 | 賀 |
5-金葉 | 327 | いかばかり神もあはれと三笠山二葉の松の千代のけしきを いかはかりかみもあはれとみかさやまふたはのまつのちよのけしきを | 周防内侍 | 賀 |
5-金葉 | 328 | 君が代はいくよろづ代か重ぬべきいつぬき河の鶴の毛衣 きみかよはいくよろつよかかさぬへきいつぬきかはのつるのけころも | 藤原道経 | 賀 |
5-金葉 | 329 | 君が代はあまのこやねのみことより祝ひぞそめし久しかれとは きみかよはあまのこやねのみことよりいはひそそめしひさしかれとは | 藤原通俊 | 賀 |
5-金葉 | 330 | 君が代はかぎりもあらじ三笠山みねに朝日のささむかぎりは きみかよはかきりもあらしみかさやまみねにあさひのささむかきりは | 大江匡房 | 賀 |
5-金葉 | 331 | 藤波は君がちとせの松にこそかけて久しく見るべかりけれ ふちなみはきみかちとせのまつにこそかけてひさしくみるへかりけれ | 大夫典侍 | 賀 |
5-金葉 | 332 | みつがきの久しかるべき君が代を天照る神や空に知るらむ みつかきのひさしかるへききみかよをあまてるかみやそらにしるらむ | 藤原為忠 | 賀 |
5-金葉 | 333 | ゆきつもる年のしるしにいとどしく千歳の松の花咲くぞ見る ゆきつもるとしのしるしにいととしくちとせのまつのはなさくそみる | 藤原頼通 | 賀 |
5-金葉 | 334 | つもるべしゆきつもるべし君が代は松の花咲く千たび見るまで つもるへしゆきつもるへしきみかよはまつのはなさくちたひみるまて | 源顕房 | 賀 |
5-金葉 | 335 | 長浜の真砂の數も何ならず尽きせず見ゆる君が御代かな なかはまのまさこのかすもなにならすつきせすみゆるきみかみよかな | 後冷泉院 | 賀 |
5-金葉 | 336 | よろづよのためしと見ゆる松の上に雪さへつもる年にもあるかな よろつよのためしとみゆるまつのうへにゆきさへつもるとしにもあるかな | 源頼家 | 賀 |
5-金葉 | 337 | 君うしや花の都の花を見で苗代水に急ぐ心を きみうしやはなのみやこのはなをみてなはしろみつにいそくこころを | 大納言経長 | 別 |
5-金葉 | 338 | よそに見し苗代水にあはれわが下り立つ名をも流しつるかな よそにみしなはしろみつにあはれわかおりたつなをもなかしつるかな | 藤原兼房 | 別 |
5-金葉 | 339 | この頃は宮城野にこそまじりけれ君を牡鹿の角もとむとて このころはみやきのにこそましりつれきみををしかのつのもとむとて | 源重之 | 別 |
5-金葉 | 340 | もろともに立たましものをみちのくの衣の関をよそに聞くかな もろともにたたましものをみちのくのころものせきをよそにきくかな | 和泉式部 | 別 |
5-金葉 | 341 | 長き夜の闇にまよへる我をおきて雲隠れぬる空の月かな なかきよのやみにまよへるわれをおきてくもかくれぬるそらのつきかな | 小大君 | 別 |
5-金葉 | 342 | 帰るべき旅の別れとなぐさむる心にたぐふ涙なりけり かへるへきたひのわかれとなくさむるこころにたくふなみたなりけり | 藤原頼宗 | 別 |
5-金葉 | 343 | 別れ路を隔つる雲の上にこそ扇の風はやらまほしけれ わかれちをへたつるくものうへにこそあふきのかせはやらまほしけれ | 能宣 | 別 |
5-金葉 | 344 | とどまらむとどまらじとも思ほえずいづくもつひのすみかならねば ととまらむととまらしともおもほえすいつくもつひのすみかならねは | 参河入道 | 別 |
5-金葉 | 345 | とまりゐて待つべき身こそ老いにけれあはれ別れは人のためかは とまりゐてまつへきみこそおいにけれあはれわかれはひとのためかは | 菅原資忠 | 別 |
5-金葉 | 346 | かたしきの袖にひとりは明かせども落つる涙ぞ夜をかさねける かたしきのそてにひとりはあかせともおつるなみたそよをかさねける | 前太宰大弐長房 | 別 |
5-金葉 | 347 | 別れ路をげにいかばかり思ふらむ聞く人さへぞ袖はぬれける わかれちをけにいかはかりおもふらむきくひとさへそそてはぬれける | 上東門院 | 別 |
5-金葉 | 348 | はるかなる旅の空にもおくれねばうらやましきは秋の夜の月 はるかなるたひのそらにもおくれねはうらやましきはあきのよのつき | 源為成 | 別 |
5-金葉 | 349 | 都にておぼつかなさをならはずは旅寝をいかに思ひやらまし みやこにておほつかなさをならはすはたひねをいかにおもひやらまし | 民部内侍 | 別 |
5-金葉 | 350 | 人知れずものおもふことはならひにき花に別れぬ春しなければ ひとしれすものおもふことはならひにきはなにわかれぬはるしなけれは | 和泉式部 | 別 |
5-金葉 | 351 | あかねさす日に向ひても思ひいでよ都はしのぶながめすらむと あかねさすひにむかひてもおもひいてよみやこはしのふなかめすらむと | 皇后宮 | 別 |
5-金葉 | 352 | おきつしま雲ゐの岸をゆきかへり文かよはさむ幻もがな おきつしまくもゐのきしをゆきかへりふみかよはさむまほろしもかな | 友政妻 | 別 |
5-金葉 | 353 | 伊勢の海のをののふるえにくちはてで都のかたへ帰れとぞ思ふ いせのうみのをののふるえにくちはててみやこのかたへかへれとそおもふ | 源師頼 | 別 |
5-金葉 | 354 | 待ちつけむ我が身なりせば帰るべき程をいくたび君にとはまし まちつけむわかみなりせはかへるへきほとをいくたひきみにとはまし | 源行宗 | 別 |
5-金葉 | 355 | 今日はさは立ち別るともたよりあらばありやなしやの情わするな けふはさはたちわかるともたよりあらはありやなしやのなさけわするな | 權源国信 | 別 |
5-金葉 | 356 | 東路の木の下くらくなりゆかば都の月をこひざらめやは あつまちのこのしたくらくなりゆかはみやこのつきをこひさらめやは | 藤原公任 | 別 |
5-金葉 | 357 | 人はいさわが身は末になりぬればまた逢坂もいかが待つべき ひとはいさわかみはすゑになりぬれはまたあふさかもいかかまつへき | 藤原実綱 | 別 |
5-金葉 | 358 | 恋しさはその人かずにあらずとも都をしのぶ數に入れなむ こひしさはそのひとかすにあらすともみやこをしのふかすにいれなむ | 藤原有貞 | 別 |
5-金葉 | 359 | さしのぼる朝日に君を思ひいでむかたぶく月に我を忘るな さしのほるあさひにきみをおもひいてむかたふくつきにわれをわするな | 藤原通俊 | 別 |
5-金葉 | 360 | 我ひとり急ぐと思ひし東路に垣根の梅はさきだちにけり われひとりいそくとおもひしあつまちにかきねのうめはさきたちにけり | 橘則光 | 別 |
5-金葉 | 361 | いかでなほわが身にかへて武隈の松ともならむ行く末のため いかてなほわかみにかへてたけくまのまつともならむゆくすゑのため | 能宣 | 別 |
5-金葉 | 362 | 知らざりつ袖のみ濡れてあやめ草かかるこひぢに生ひむものとは しらさりつそてのみぬれてあやめくさかかるこひちにおひむものとは | 小一條院 | 恋上 |
5-金葉 | 363 | 君こふる心は空に天の原かひなくてゆく月日なりけり きみこふるこころはそらにあまのはらかひなくてゆくつきひなりけり | 中務 | 恋上 |
5-金葉 | 364 | しのすすき上葉にすがくささがにのいかさまにせば人なびきなむ しのすすきうははにすかくささかにのいかさまにせはひとなひきなむ | 大江公資 | 恋上 |
5-金葉 | 365 | さりともと思ふかぎりはしのばれて鳥とともにぞねはなかれける さりともとおもふかきりはしのはれてとりとともにそねはなかれける | 神祇伯源顕仲 | 恋上 |
5-金葉 | 366 | 七夕はまた来む秋もたのむらむ逢ふよもしらぬ身をいかにせむ たなはたはまたこむあきもたのむらむあふよもしらぬみをいかにせむ | 少将公教母 | 恋上 |
5-金葉 | 367 | 七夕にけさ引く糸の露おもみたわむけしきを見でややみなむ たなはたにけさひくいとのつゆおもみたわむけしきをみてややみなむ | 藤原道綱 | 恋上 |
5-金葉 | 368 | 嬉しきはいかばかりかは思ふらむ憂きは身にしむ物にぞありける うれしきはいかはかりかはおもふらむうきはみにしむものにそありける | 藤原道信 | 恋上 |
5-金葉 | 369 | これにしく思ひはなきを草まくら旅にかへすはいな莚とや これにしくおもひはなきをくさまくらたひにかへすはいなむしろとや | 藤原公実 | 恋上 |
5-金葉 | 370 | 夜とともに玉散るとこの菅まくら見せばや人に夜半のけしきを よとともにたまちるとこのすかまくらみせはやひとによはのけしきを | 俊頼 | 恋上 |
5-金葉 | 371 | 逢ふと見てうつつのかひはなけれどもはかなき夢ぞ命なりける あふとみてうつつのかひはなけれともはかなきゆめそいのちなりける | 藤原顕輔 | 恋上 |
5-金葉 | 372 | 逢ふまでは思ひもよらず夏引きのいとほしとだに言ふと聞かばや あふまてはおもひもよらすなつひきのいとほしとたにいふときかはや | 源雅光 | 恋上 |
5-金葉 | 373 | 思ひやれ須磨のうらみて寝たる夜のかたしく袖にかかる涙を おもひやれすまのうらみてねたるよのかたしくそてにかかるなみたを | 藤原長実 | 恋上 |
5-金葉 | 374 | いまはただ寝られぬいをぞ友とする恋しき人のゆかりと思へば いまはたたねられぬいをそともとするこひしきひとのゆかりとおもへは | 宣源法師 | 恋上 |
5-金葉 | 375 | 夕暮は待たれしものを今はただ行くらむかたを思ひこそやれ ゆふくれはまたれしものをいまはたたゆくらむかたをおもひこそやれ | 相模 | 恋上 |
5-金葉 | 376 | 恋すてふ名をだに流せ涙川つれなき人も聞きやわたると こひすてふなをたになかせなみたかはつれなきひともききやわたると | 読人知らず | 恋上 |
5-金葉 | 377 | 何せむに思ひかけけむ唐ごろも恋することのみさをならぬに なにせむにおもひかけけむからころもこひすることのみさをならぬに | 読人知らず | 恋上 |
5-金葉 | 378 | いかでかは思ひありとは知らすべき室の八島の煙ならでは いかてかはおもひありとはしらすへきむろのやしまのけふりならては | 藤原実方 | 恋上 |
5-金葉 | 379 | 思ひ出づやありしその夜の呉竹はあさましかりしふし所かな おもひいつやありしそのよのくれたけはあさましかりしふしところかな | 藤原公実 | 恋上 |
5-金葉 | 380 | 白雲のかかる山路をふみみてぞいとど心は空になりける しらくものかかるやまちをふみみてそいととこころはそらになりける | 藤原顕隆 | 恋上 |
5-金葉 | 381 | 水鳥の羽風にさわぐさざ波のあやしきまでも濡るる袖かな みつとりのはかせにさわくささなみのあやしきまてもぬるるそてかな | 源師俊 | 恋上 |
5-金葉 | 382 | 逢ひ見むと頼むればこそくれは鳥あやしやいかがたち帰るべき あひみむとたのむれはこそくれはとりあやしやいかかたちかへるへき | 源顕国 | 恋上 |
5-金葉 | 383 | 人知れず逢ふを待つまに恋ひ死なば何にかへつる命とかいはむ ひとしれすあふをまつまにこひしなはなににかへつるいのちとかいはむ | 本院侍従 | 恋上 |
5-金葉 | 384 | 谷川の上は木の葉に埋もれて下に流ると君見るらめや たにかはのうへはこのはにうつもれてしたになかるときみみるらめや | 權藤原実行 | 恋上 |
5-金葉 | 385 | ながむれば恋しき人の恋しきにくもらばくもれ秋の夜の月 なかむれはこひしきひとのこひしきにくもらはくもれあきのよのつき | 藤原基光 | 恋上 |
5-金葉 | 386 | つらしともおろかなるにぞ言はれけるいかに恨むと人に知られむ つらしともおろかなるにそいはれけるいかにうらむとひとにしられむ | 読人知らず | 恋上 |
5-金葉 | 387 | おもかげは數ならぬ身に恋ひられて雲居の月をたれと見るらむ おもかけはかすならぬみにこひられてくもゐのつきをたれとみるらむ | 藤原知房 | 恋上 |
5-金葉 | 388 | 逢ふことの今はかた野にはむ駒は忘れ草にぞなつかざりける あふことのいまはかたのにはむこまはわすれくさにそなつかさりける | 交野女 | 恋上 |
5-金葉 | 389 | わぎもこが袖ふりかけし移り香のけさは身にしむ物をこそ思へ わきもこかそてふりかけしうつりかのけさはみにしむものをこそおもへ | 源兼澄 | 恋上 |
5-金葉 | 390 | ふみそめて思かへりしくれなゐの筆のすさびをいかで見せけむ ふみそめておもひかへりしくれなゐのふてのすさひをいかてみせけむ | 内大臣家小大進 | 恋上 |
5-金葉 | 391 | 知るらめや淀の継橋よとともにつれなき人を恋ひわたるとは しるらめやよとのつきはしよとともにつれなきひとをこひわたるとは | 藤原長実母 | 恋上 |
5-金葉 | 392 | 恋ひわびておさふる袖や流れ出づる涙の河の井堰なるらむ こひわひておさふるそてやなかれいつるなみたのかはのゐせきなるらむ | 藤原道経 | 恋上 |
5-金葉 | 393 | 流れての名にぞ立ちぬる涙川ひとめつつみをせきしあへねば なかれてのなにそたちぬるなみたかはひとめつつみをせきしあへねは | 少将公教母 | 恋上 |
5-金葉 | 394 | 涙川そでの井堰も朽ちはてて澱むかたなき恋もするかな なみたかはそてのゐせきもくちはててよとむかたなきこひもするかな | 皇后宮右衛門佐 | 恋上 |
5-金葉 | 395 | 忘れ草しげれる宿を来て見れば思ひのきより生ふるなりけり わすれくさしけれるやとをきてみれはおもひのきよりおふるなりけり | 源俊頼 | 恋上 |
5-金葉 | 396 | かくとだにまだいはしろの結び松むすぼほれたる我が心かな かくとたにまたいはしろのむすひまつむすほほれたるわかこころかな | 源顕国 | 恋上 |
5-金葉 | 397 | 胸はふじ袖は清見が関なれや煙も波も立たぬ日ぞなき むねはふしそてはきよみかせきなれやけふりもなみもたたぬひそなき | 平祐挙 | 恋上 |
5-金葉 | 398 | つらかりし心ならひに逢ひ見てもなほ夢かとぞうたがはれける つらかりしこころならひにあひみてもなほゆめかとそうたかはれける | 源行宗 | 恋上 |
5-金葉 | 399 | 年ふれど人もすさへぬ我が恋や朽木の杣の谷の埋もれ木 としふれとひともすさへぬわかこひやくちきのそまのたにのうもれき | 藤原顕輔 | 恋上 |
5-金葉 | 400 | いかにせむ數ならぬ身にしたがはでつつむ袖より落つる涙を いかにせむかすならぬみにしたかはてつつむそてよりおつるなみたを | 読人知らず | 恋上 |
5-金葉 | 401 | あらかりし風ののちより絶えにしは蜘蛛手にすがく糸にやあるらむ あらかりしかせののちよりたえにしはくもてにすかくいとにやあるらむ | 相模 | 恋上 |
5-金葉 | 402 | 君まつと山の端いでて山の端に入るまで月をながめつるかな きみまつとやまのはいててやまのはにいるまてつきをなかめつるかな | 橘為義 | 恋上 |
5-金葉 | 403 | なかなかにいひもはなたで信濃なる木曽路の橋にかけたるやなぞ なかなかにいひもはなたてしなのなるきそちのはしにかけたるやなそ | 源頼光 | 恋上 |
5-金葉 | 404 | 菖蒲にもあらぬ真菰をひきかけしかりのよどのの忘られぬかな あやめにもあらぬまこもをひきかけしかりのよとののわすられぬかな | 相模 | 恋上 |
5-金葉 | 405 | なぞもかくこひぢに立ちて菖蒲草あまりながびくさつきなるらむ なそもかくこひちにたちてあやめくさあまりなかひくさつきなるらむ | 橘季通 | 恋上 |
5-金葉 | 406 | おのづから夜がるる程のさむしろは涙のうきになると知らずや おのつからよかるるほとのさむしろはなみたのうきになるとしらすや | 神祇伯源顕仲 | 恋上 |
5-金葉 | 407 | 池にすむ我が名ををしのとりかへす物にもがなや人を恨みむ いけにすむわかなををしのとりかへすものにもかなやひとをうらみむ | 藤原惟規 | 恋上 |
5-金葉 | 408 | 秋風に吹き返されて葛の葉のいかにうらみしものとかは知る あきかせにふきかへされてくすのはのいかにうらみしものとかはしる | 藤原正家 | 恋上 |
5-金葉 | 409 | ひと夜とはいつか契りしかは竹の流れてとこそ思ひそめしか ひとよとはいつかちきりしかはたけのなかれてとこそおもひそめしか | 藤原経忠 | 恋上 |
5-金葉 | 410 | 逢ひ見ての後つらからば夜々をへてこれよりまさる恋にまどはむ あひみてののちつらからはよよをへてこれよりまさるこひにまとはむ | 皇后宮式部 | 恋上 |
5-金葉 | 411 | 世の常の秋風ならば荻の葉にそよとばかりの音はしてまし よのつねのあきかせならはをきのはにそよとはかりのおとはしてまし | 安法法師女 | 恋上 |
5-金葉 | 412 | しのぶれば涙ぞしるきくれなゐに物思ふ袖は染むべかりけり しのふれはなみたそしるきくれなゐにものおもふそてはそむへかりけり | 源道済 | 恋上 |
5-金葉 | 413 | 待ちし夜の更けしをなにに嘆きけむ思ひ絶えても過ぐしける身を まちしよのふけしをなにになけきけむおもひたえてもすくしけるみを | 白河女御越中 | 恋上 |
5-金葉 | 414 | 命をしかけて契りし仲なれば絶ゆるは死ぬる心地こそすれ いのちをしかけてちきりしなかなれはたゆるはしぬるここちこそすれ | 律師実源 | 恋上 |
5-金葉 | 415 | 思ひやれとはで日をふる五月雨にひとり宿もる袖の雫を おもひやれとはてひをふるさみたれにひとりやともるそてのしつくを | 皇后宮肥後 | 恋上 |
5-金葉 | 416 | なぞもかく身にかふばかり思ふらむ逢ひ見むことも人のためかは なそもかくみにかふはかりおもふらむあひみむこともひとのためかは | 三宮大進 | 恋上 |
5-金葉 | 417 | うたたねに逢ふと見つるをうつつにてつらきを夢と思はましかば うたたねにあふとみつるをうつつにてつらきをゆめとおもはましかは | 藤原公教 | 恋上 |
5-金葉 | 418 | 蘆根はふ水の上とぞ思ひしをうきは我が身にありけるものを あしねはふみつのうへとそおもひしをうきはわかみにありけるものを | 藤原公実 | 恋上 |
5-金葉 | 419 | 忍ぶるも苦しかりけり數ならぬ人は涙のなからましかば しのふるもくるしかりけりかすならぬひとはなみたのなからましかは | 出羽辨 | 恋上 |
5-金葉 | 420 | 頼めおく言の葉だにもなきものを何にかかれる露の命ぞ たのめおくことのはたにもなきものをなににかかれるつゆのいのちそ | 皇后宮別当 | 恋上 |
5-金葉 | 421 | わづらはしほかにわたせる文見ればここや途絶えにならむとすらむ わつらはしほかにわたせるふみみれはここやとたえにならむとすらむ | 読人知らず | 恋上 |
5-金葉 | 422 | かすめては思ふ心を知るやとて春の空にもまかせつるかな かすめてはおもふこころをしるやとてはるのそらにもまかせつるかな | 良暹法師 | 恋下 |
5-金葉 | 423 | よしさらばつらさは我にならひけり頼めて来ぬは誰かをしへし よしさらはつらさはわれにならひけりたのめてこぬはたれかをしへし | 清少納言 | 恋下 |
5-金葉 | 424 | 恋ひわたる人に見せばや松の葉もした紅葉する天の橋立 こひわたるひとにみせはやまつのはもしたもみちするあまのはしたて | 藤原範永 | 恋下 |
5-金葉 | 425 | しののめの明けゆく空も帰るには涙にくるるものにぞありける しののめのあけゆくそらもかへるにはなみたにくるるものにそありける | 源師俊 | 恋下 |
5-金葉 | 426 | むばたまの夜の夢だにまさしくは我が思ふことを人に見せばや うはたまのよるのゆめたにまさしくはわかおもふことをひとにみせはや | 中務 | 恋下 |
5-金葉 | 427 | 恋ひわびて寝ぬ夜つもれば敷妙の枕さへこそうとくなりけれ こひわひてねぬよつもれはしきたへのまくらさへこそうとくなりけれ | 藤原顕輔 | 恋下 |
5-金葉 | 428 | 夜とともに袖の乾かぬ我が恋はとしまが磯によする白波 よとともにそてのかわかぬわかこひはとしまかいそによするしらなみ | 藤原仲実 | 恋下 |
5-金葉 | 429 | 逢ふことをなにに祈らむ神無月をりわびしくも別れぬるかな あふことをなににいのらむかみなつきをりわひしくもわかれぬるかな | 藤原則長 | 恋下 |
5-金葉 | 430 | 夢とのみ思ひなりにし世の中を何いまさらに驚かすらむ ゆめとのみおもひなりにしよのなかをなにいまさらにおとろかすらむ | 高階成忠女 | 恋下 |
5-金葉 | 431 | 逢ふことや涙の玉の緒なるらむしばし絶ゆれば落ちて乱るる あふことやなみたのたまのをなるらむしはしたゆれはおちてみたるる | 公誠 | 恋下 |
5-金葉 | 432 | 人心あさ澤水の根芹こそこるばかりにも摘ままほしけれ ひとこころあささはみつのねせりこそこるはかりにもつままほしけれ | 前斎宮越後 | 恋下 |
5-金葉 | 433 | 我が思ふことのしげさにくらぶれば信太の森の千枝はものかは わかおもふことのしけさにくらふれはしのたのもりのちえはものかは | 増基法師 | 恋下 |
5-金葉 | 434 | ことわりや思ひくらぶの山櫻にほひまされる花をめづるも ひとわりやおもひくらふのやまさくらにほひまされるはなをめつるも | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 435 | 恋ひわびてながむる空のうき雲や我が下もえの煙なるらむ こひわひてなかむるそらのうきくもやわかしたもえのけふりなるらむ | 周防内侍 | 恋下 |
5-金葉 | 436 | 住吉の細江にさせるみをつくし深きにまけぬ人はあらじな すみよしのほそえにさせるみをつくしふかきにまけぬひとはあらしな | 相模 | 恋下 |
5-金葉 | 437 | 逢ふことのひさしに葺ける菖蒲草ただかりそめのつまとこそみれ あふことのひさしにふけるあやめくさたたかりそめのつまとこそみれ | 前斎宮河内 | 恋下 |
5-金葉 | 438 | 我が宿のまつはしるしもなかりけり杉むらならば尋ね来なまし わかやとのまつはしるしもなかりけりすきむらならはたつねきなまし | 赤染衛門 | 恋下 |
5-金葉 | 439 | さきの世の契りを知らではかなくも人をつらしと思ひけるかな さきのよのちきりをしらてはかなくもひとをつらしとおもひけるかな | 前中宮上総 | 恋下 |
5-金葉 | 440 | 思ひきや逢ひ見し夜半の嬉しさに後のつらさのまさるべしとは おもひきやあひみしよはのうれしさにのちのつらさのまさるへしとは | 左兵衛督実能 | 恋下 |
5-金葉 | 441 | よとともに恋はすれども天の川逢ふをば雲のよそにこそ見れ よとともにこひはすれともあまのかはあふせはくものよそにこそみれ | 源雅光 | 恋下 |
5-金葉 | 442 | する墨も落つる涙にあらはれて恋ひしとだにもえこそ書かれね するすみもおつるなみたにあらはれてこひしとたにもえこそかかれね | 藤原永実 | 恋下 |
5-金葉 | 443 | 色見えぬ心ばかりは沈むれど涙はえこそしのばざりけれ いろみえぬこころはかりはしつむれとなみたはえこそしのはさりけれ | 源国信 | 恋下 |
5-金葉 | 444 | 逢ふことは夢ばかりにてやみにしをさこそ見しかと人に語るな あふことはゆめはかりにてやみにしをさこそみしかとひとにかたるな | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 445 | おさふれどあまる涙はもる山の嘆きに落つる雫なりけり おさふれとあまるなみたはもるやまのなけきにおつるしつくなりけり | 藤原忠隆 | 恋下 |
5-金葉 | 446 | 忘れなば越路の雪の跡絶えて消ゆるためしになりぬばかりぞ わすれなはこしちのゆきのあとたえてきゆるためしになりぬはかりそ | 馬内侍 | 恋下 |
5-金葉 | 447 | かやぶきのこや忘らるるつまならむ久しく人の訪れもせぬ かやふきのこやわすらるるつまならむひさしくひとのおとつれもせぬ | 前齋院肥前 | 恋下 |
5-金葉 | 448 | ほととぎす雲井のよそになりしかば我ぞなごりの空になかれし ほとときすくもゐのよそになりしかはわれそなこりのそらになかれし | 藤原公実 | 恋下 |
5-金葉 | 449 | 水のおもに降る白雪のかたもなく消えやしなまし人のつらさに みつのおもにふるしらゆきのかたもなくきえやしなましひとのつらさに | 藤原成通 | 恋下 |
5-金葉 | 450 | あやしくも我がみやま木の燃ゆるかな思ひは人につげてしものを あやしくもわかみやまきのもゆるかなおもひはひとにつけてしものを | 藤原忠通 | 恋下 |
5-金葉 | 451 | かづきけむ袂は雨にいかがせし濡るるはさても思ひ知れかし かつきけむたもとはあめにいかかせしぬるるはさてもおもひしれかし | 江侍従 | 恋下 |
5-金葉 | 452 | さのみやは我が身のうさになしはてて人のつらさを恨みざるべき さのみやはわかみのうさになしはててひとのつらさをうらみさるへき | 藤原盛経母 | 恋下 |
5-金葉 | 453 | いま人の心を三輪の山見てぞ過ぎにしかたは思ひしらるる いまひとのこころをみわのやまみてそすきにしかたはおもひしらるる | 前斎宮甲斐 | 恋下 |
5-金葉 | 454 | 恋しさはつらさにかへてやみにしを何の名残にかくは悲しき こひしさはつらさにかへてやみにしをなにのなこりにかくはかなしき | 辨乳母 | 恋下 |
5-金葉 | 455 | ものをこそしのべばいはね磐代の杜にのみもる我が涙かな ものをこそしのへはいはねいはしろのもりにのみもるわかなみたかな | 源親房 | 恋下 |
5-金葉 | 456 | 四方の海の浦々ごとにあされどもあやしく見えぬいけるかひかな よものうみのうらうらことにあされともあやしくみえぬいけるかひかな | 藤原資仲 | 恋下 |
5-金葉 | 457 | たまさかに波のたちよる浦々は何のみるめのかひかあるべき たまさかになみのたちよるうらうらはなにのみるめのかひかあるへき | 伊賀少将 | 恋下 |
5-金葉 | 458 | つれづれと思ひぞ出づる見し人を逢はで幾月ながめしつらむ つれつれとおもひそいつるみしひとをあはていくつきなかめしつらむ | 橘俊宗母 | 恋下 |
5-金葉 | 459 | あさましく涙にうかぶ我が身かな心かろくは思はざりしを あさましくなみたにうかふわかみかなこころかろくはおもはさりしを | 上総侍従 | 恋下 |
5-金葉 | 460 | 名聞くよりかねても移る心かないかにしてかは逢ふべかるらむ なきくよりかねてもうつるこころかないかにしてかはあふへかるらむ | 源縁法師 | 恋下 |
5-金葉 | 461 | 恋ひわびて絶えぬ思ひの煙もやむなしき空の雲となるらむ こひわひてたえぬおもひのけふりもやむなしきそらのくもとなるらむ | 藤原忠教 | 恋下 |
5-金葉 | 462 | さりともと思ふ心にはかされて死なれぬものは命なりけり さりともとおもふこころにはかされてしなれぬものはいのちなりけり | 大中臣能宣 | 恋下 |
5-金葉 | 463 | 人知れず思ひありその浦風に波のよるこそ言はまほしけれ ひとしれすおもひありそのうらかせになみのよるこそいはまほしけれ | 藤原俊忠 | 恋下 |
5-金葉 | 464 | 音に聞く高師の浦のあだ波はかけじや袖の濡れもこそすれ おとにきくたかしのうらのあたなみはかけしやそてのぬれもこそすれ | 祐子内親王家紀伊 | 恋下 |
5-金葉 | 465 | 契りおきし人もこずゑの木の間より頼めし月の影ぞもりくる ちきりおきしひともこすゑのこのまよりたのめしつきのかけそもりくる | 摂政家堀河 | 恋下 |
5-金葉 | 466 | 目のまへに変る心を涙川ながれてもやと頼みけるかな めのまへにかはるこころをなみたかはなかれてもやとたのみけるかな | 江侍従 | 恋下 |
5-金葉 | 467 | 送りては帰れと思ひし魂のゆきさすらひて今朝はなきかな おくりてはかへれとおもひしたましひのゆきさすらひてけさはなきかな | 出羽辨 | 恋下 |
5-金葉 | 468 | 冬の夜の雪げの空に出でしかば影よりほかに送りやはせし ふゆのよのゆきけのそらにいてしかはかけよりほかにおくりやはせし | 源経信 | 恋下 |
5-金葉 | 469 | 人はいさありもやすらむ忘られて訪はれぬ身こそなき心地すれ ひとはいさありもやすらむわすられてとはれぬみこそなきここちすれ | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 470 | 早くより浅き心と見てしかば思ひ絶えにき山川の水 はやくよりあさきこころとみてしかはおもひたえにきやまかはのみつ | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 471 | もらさばや細谷川の忘れ水かげだに見えぬ恋に沈むと もらさはやほそたにかはのわすれみつかけたにみえぬこひにしつむと | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 472 | 行方なくかきこもるにぞ引きまゆのいとふ心の程は知らるる ゆくへなくかきこもるにそひきまゆのいとふこころのほとはしらるる | 前齋院六條 | 恋下 |
5-金葉 | 473 | いつとなく恋にこがるる我が身より立つや浅間の煙なるらむ いつとなくこひにこかるるわかみよりたつやあさまのけふりなるらむ | 源俊頼 | 恋下 |
5-金葉 | 474 | 君こそは一夜めぐりの神と聞けなに逢ふことの方違ふらむ きみこそはひとよめくりのかみときけなにあふことのかたたかふらむ | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 475 | 三日月のおぼろげならぬ恋しさにわれてぞ出づる雲の上より みかつきのおほろけならぬこひしさにわれてそいつるくものうへより | 藤原永実 | 恋下 |
5-金葉 | 476 | 逢はぬ夜はまどろむことのあらばこそ夢にも見きと人に語らめ あはぬよはまとろむことのあらはこそゆめにもみきとひとにかたらめ | 源信宗 | 恋下 |
5-金葉 | 477 | 人知れずなき名はたてど唐衣かさねぬ袖はなほぞ露けき ひとしれすなきなはたてとからころもかさねぬそてはなほそつゆけき | 藤原経忠 | 恋下 |
5-金葉 | 478 | あぢきなく過ぐる月日ぞうらめしき逢ひ見し程を隔つと思へば あちきなくすくるつきひそうらめしきあひみしほとをへたつとおもへは | 大中臣輔弘女 | 恋下 |
5-金葉 | 479 | いかにして靡くけしきもなき人に心ゆるぎの森を知らせむ いかにしてなひくけしきもなきひとにこころゆるきのもりをしらせむ | 源経兼 | 恋下 |
5-金葉 | 480 | つらしとも思はむ人は思ひなむ我なればこそ身をば恨むれ つらしともおもはむひとはおもひなむわれなれはこそみをはうらむれ | 僧都公圓 | 恋下 |
5-金葉 | 481 | 五月雨の空だのめのみひまなくて忘らるる名ぞ世にふりぬべき さみたれのそらたのめのみひまなくてわすらるるなそよにふりぬへき | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 482 | 忘られむ名は世にふらじ五月雨もいかでかしばしを止まざるべき わすられむなはよにふらしさみたれもいかてかしはしをやまさるへき | 左兵衛督実能 | 恋下 |
5-金葉 | 483 | 逢ふことをとふ石神のつれなさに我が心のみ動きぬるかな あふことをとふいしかみのつれなさにわかこころのみうこきぬるかな | 前齋院六條 | 恋下 |
5-金葉 | 484 | 數ならぬ身をうぢ川のはしばしと言はれながらも恋ひわたるかな かすならぬみをうちかはのはしはしといはれなからもこひわたるかな | 源雅光 | 恋下 |
5-金葉 | 485 | 玉つ島岸うつ波のたちかへりせないでましぬ名残こひしも たまつしまきしうつなみのたちかへりせないてましぬなこりこひしも | 藤原顕季 | 恋下 |
5-金葉 | 486 | 心からつきなき恋をせざりせば逢はで闇には惑はましやは こころからつきなきこひをせさりせはあはてやみにはまとはましやは | 源顕仲女 | 恋下 |
5-金葉 | 487 | かくばかり恋のやまひは重けれど目にかけ下げて逢はぬ君かな かくはかりこひのやまひはおもけれとめにかけさけてあはぬきみかな | 内大臣家小大進 | 恋下 |
5-金葉 | 488 | 我が恋は賤のしげ糸すぢ弱み絶え間は多くくるは少なし わかこひはしつのしけいとすちよわみたえまはおほくくるはすくなし | 源顕国 | 恋下 |
5-金葉 | 489 | あま雲の返しの風の音せぬはおもはれじとの心なりけり あまくものかへしのかせのおとせぬはおもはれしとのこころなりけり | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 490 | あしひきの山のまにまに倒れたるからきは一人ふせるなりけり あしひきのやまのまにまにたふれたるからきはひとりふせるなりけり | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 491 | 津の国のまろ屋は人をあくたがは君こそつらき瀬々は見せしか つのくにのまろやはひとをあくたかはきみこそつらきせせはみせしか | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 492 | あふみてふ名はたかしまに聞こゆれどいづらはここにくるもとの里 あふみてふなはたかしまにきこゆれといつらはここにくるもとのさと | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 493 | 笠取の山に世をふる身にしあれば炭焼もをる我が心かな かさとりのやまによをふるみにしあれはすみやきもをるわかこころかな | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 494 | み熊野に駒のつまづく靑つづら君こそまろがほだしなりけれ みくまのにこまのつまつくあをつつらきみこそまろかほたしなりけれ | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 495 | こりつめるなげきをいかにせよとてよ君にあふごの一すぢもなき こりつめるなけきをいかにせよとてよきみにあふこのひとすちもなき | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 496 | はかるめる事のよきのみ多かれば空なげきをばこるにやあるらむ はかるめることのよきのみおほかれはそらなけきをはこるにやあるらむ | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 497 | 逢ふことのいまはかたみの目をあらみもりて流れむ名こそ惜しけれ あふことのいまはかたみのめをあらみもりてなかれむなこそをしけれ | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 498 | 逢ふことはかたねぶりなるいそひたひひねりふすともかひやなからむ あふことはかたねふりなるいそひたひひねりふすともかひやなからむ | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 499 | 逢ふことのかた野にいまはなりぬれば思ふがりのみ行くにやあるらむ あふことのかたのにいまはなりぬれはおもふかりのみゆくにやあるらむ | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 500 | あふみにかありと言ふなるかれひ山君は越えけり人と寝ぐさし あふみにかありといふなるかれひやまきみはこえけりひととねくさし | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 501 | 逢ふことなからふるやの板じとみさすがにかけて年の経ぬらむ あふことはなからふるやのいたしとみさすかにかけてとしのへぬらむ | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 502 | かしかまし山の下行くさざれ水あなかま我も思ふ心あり かしかましやまのしたゆくさされみつあなかまわれもおもふこころあり | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 503 | 盗人といふもことわり小夜中に人の心をとりに来たれば ぬすひとといふもことわりさよなかにひとのこころをとりにきたれは | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 504 | 花うるしこやぬる人のなかりけるあな腹黒の君が心や はなうるしこやぬるひとのなかりけるあなはらくろのきみかこころや | 読人知らず | 恋下 |
5-金葉 | 505 | 神垣にむかしわが見し梅の花ともに老い木になりにけるかな かみかきにむかしわかみしうめのはなともにおいきになりにけるかな | 源経信 | 雑上 |
5-金葉 | 506 | 山里もうき世の中をはなれねば谷の鶯ねをのみぞ鳴く やまさともうきよのなかをはなれねはたにのうくひすねをのみそなく | 藤原忠通 | 雑上 |
5-金葉 | 507 | 植ゑ置きし君もなき世に年へたる花はわが身のここちこそすれ うゑおきしきみもなきよにとしへたるはなはわかみのここちこそすれ | 三宮輔仁親王 | 雑上 |
5-金葉 | 508 | 谷の戸を閉ぢやはてつる鶯のまつに音せで春の暮れぬる たにのとをとちやはてつるうくひすのまつにおとせてはるのくれぬる | 藤原頼通 | 雑上 |
5-金葉 | 509 | 降る雨のあしとも落つる涙かなこまかにものを思ひくだけば ふるあめのあしともおつるなみたかなこまかにものをおもひくたけは | 藤原道綱母 | 雑上 |
5-金葉 | 510 | ゆくすゑのためしと今日を思ふともいまいくとせか人に語らむ ゆくすゑのためしとけふをおもふともいまいくとせかひとにかたらむ | 權僧正永縁 | 雑上 |
5-金葉 | 511 | いく千代も君ぞ語らむつもりゐておもしろかりし花のみゆきを いくちよもきみそかたらむつもりゐておもしろかりしはなのみゆきを | 内侍 | 雑上 |
5-金葉 | 512 | もろともに哀れと思へ山櫻はなよりほかに知る人もなし もろともにあはれとおもへやまさくらはなよりほかにしるひともなし | 僧正行尊 | 雑上 |
5-金葉 | 513 | いくとせに我なりぬらむ諸人の花見る春をよそに聞きつつ いくとせにわれなりぬらむもろひとのはなみるはるをよそにききつつ | 源行宗 | 雑上 |
5-金葉 | 514 | みな人は吉野の山の櫻花をりしらぬ身や谷の埋もれ木 みなひとはよしののやまのさくらはなをりしらぬみやたにのうもれき | 源定信 | 雑上 |
5-金葉 | 515 | 思ふことなくてや見まし与謝の海の天の橋立みやこなりせば おもふことなくてやみましよさのうみのあまのはしたてみやこなりせは | 馬内侍 | 雑上 |
5-金葉 | 516 | 山吹もおなじかざしの花なれど雲居の櫻なほぞ恋しき やまふきもおなしかさしのはななれとくもゐのさくらなほそこひしき | 藤原惟信 | 雑上 |
5-金葉 | 517 | こぞ見しに色も変らで咲きにけり花こそものは思はざりけれ こそみしにいろもかはらてさきにけりはなこそものはおもはさりけれ | 左近将曹秦兼方 | 雑上 |
5-金葉 | 518 | 年ふれど春に知られぬ埋もれ木は花の都にすむかひぞなき としふれとはるにしられぬうもれきははなのみやこにすむかひそなき | 藤原顕仲 | 雑上 |
5-金葉 | 519 | みそぎする賀茂の川波たちかへり早くみとせに袖はぬれきや みそきするかものかはなみたちかへりはやくみとせにそてはぬれきや | 読人知らず | 雑上 |
5-金葉 | 520 | ふるさとの花の都に住みわびて八雲たつてふ出雲へぞゆく ふるさとのはなのみやこにすみわひてやくもたつてふいつもへそゆく | 大江正言 | 雑上 |
5-金葉 | 521 | 風越の峰の上にて見るときは雲は麓のものにぞありける かさこしのみねのうへにてみるときはくもはふもとのものにそありける | 藤原家経 | 雑上 |
5-金葉 | 522 | ちはやふる香椎の宮の杉の葉をふたたびかざす君ぞわが君 ちはやふるかしひのみやのすきのはをふたたひかさすきみそわかきみ | 神主大膳武忠 | 雑上 |
5-金葉 | 523 | 年をへて通ふ山路は変らねど今日はさかゆく心地こそすれ としをへてかよふやまちはかはらねとけふはさかゆくここちこそすれ | 良暹法師 | 雑上 |
5-金葉 | 524 | 春日山みねつづき照る月影に知られぬ谷の松もありけり かすかやまみねつつきてるつきかけにしられぬたにのまつもありけり | 源雅光 | 雑上 |
5-金葉 | 525 | にごりなき亀井の水をむすびあげて心の塵をすすぎつるかな にこりなきかめゐのみつをむすひあけてこころのちりをすすきつるかな | 上東門院 | 雑上 |
5-金葉 | 526 | うらやまし憂き世をいでていかばかりくまなき峰の月を見るらむ うらやましうきよをいてていかはかりくまなきみねのつきをみるらむ | 橘能元 | 雑上 |
5-金葉 | 527 | もろともに西へや行くと月影のくまなき峰をたづねてぞ来し もろともににしへやゆくとつきかけのくまなきみねをたつねてそこし | 僧都頼基 | 雑上 |
5-金葉 | 528 | 思ひ出でもなきふるさとの山なれど隠れゆくはた哀れなりけり おもひいてもなきふるさとのやまなれとかくれゆくはたあはれなりけり | 大江正言 | 雑上 |
5-金葉 | 529 | まことにや人のくるには絶えにけむ生野の里の夏引きの糸 まことにやひとのくるにはたえにけむいくののさとのなつひきのいと | 藤原兼房 | 雑上 |
5-金葉 | 530 | 行く末のしるしばかりに残るべき松さへいたく老いにけるかな ゆくすゑのしるしはかりにのこるへきまつさへいたくおいにけるかな | 源道済 | 雑上 |
5-金葉 | 531 | 住吉の松のしづ枝を昔よりいくしほそめつ沖つ白波 すみよしのまつのしつえをむかしよりいくしほそめつおきつしらなみ | 藤原長実 | 雑上 |
5-金葉 | 532 | いくかへり花咲きぬらむ住吉の松も神代のものとこそ聞け いくかへりはなさきぬらむすみよしのまつもかみよのものとこそきけ | 源俊頼 | 雑上 |
5-金葉 | 533 | 早くより頼みわたりし鈴鹿川おもふことなる音ぞきこゆる はやくよりたのみわたりしすすかかはおもふことなるおとそきこゆる | 源顕房北方 | 雑上 |
5-金葉 | 534 | 琴の音や松吹く風にかよふらむ千代のためしにひきつべきかな ことのねやまつふくかせにかよふらむちよのためしにひきつへきかな | 摂津 | 雑上 |
5-金葉 | 535 | うれしくも秋のみやまの松風にうひ琴の音のかよひぬるかな うれしくもあきのみやまのまつかせにうひことのねのかよひぬるかな | 美濃 | 雑上 |
5-金葉 | 536 | 琴の音は月の影にもかよへばや空にしらべのすみのぼるらむ ことのねはつきのかけにもかよへはやそらにしらへのすみのほるらむ | 内大臣家越後 | 雑上 |
5-金葉 | 537 | たまくしげ二見の浦のかひしげみまきゑに見ゆる松のむらだち たまくしけふたみのうらのかひしけみまきゑにみゆるまつのむらたち | 大中臣顕弘 | 雑上 |
5-金葉 | 538 | 白雲とよそに見つればあしひきの山もとどろき落つる瀧つせ しらくもとよそにみつれはあしひきのやまもととろきおつるたきつせ | 源経信 | 雑上 |
5-金葉 | 539 | 天の川これや流れの末ならむ空よりおつる布引の瀧 あまのかはこれやなかれのすゑならむそらよりおつるぬのひきのたき | 読人知らず | 雑上 |
5-金葉 | 540 | 神垣は木のまろどのにあらねども名乗をせねば人とがめけり かみかきはきのまろとのにあらねともなのりをせねはひととかめけり | 藤原惟規 | 雑上 |
5-金葉 | 541 | 神垣のあたりと思ふにゆふだすき思ひもかけぬ鐘のこゑかな かみかきのあたりとおもふにゆふたすきおもひもかけぬかねのこゑかな | 源顕房北方 | 雑上 |
5-金葉 | 542 | 返さじとかねて知りにき唐ごろも恋しかるべき我が身ならねば かへさしとかねてしりにきからころもこひしかるへきわかみならねは | 内侍 | 雑上 |
5-金葉 | 543 | 大江山いく野の道の遠ければまだふみも見ず天の橋立 おほえやまいくののみちのとほけれはまたふみもみすあまのはしたて | 小式部内侍 | 雑上 |
5-金葉 | 544 | 家の風吹かぬものゆゑはづかしの森の木の葉を散らしつるかな いへのかせふかぬものゆゑはつかしのもりのこのはをちらしつるかな | 藤原顕輔 | 雑上 |
5-金葉 | 545 | 須磨の浦にしほ焼くかまの煙こそ春にしられぬ霞なりけれ すまのうらにしほやくかまのけふりこそはるにしられぬかすみなりけれ | 源俊頼 | 雑上 |
5-金葉 | 546 | 鷺のゐる松原いかに騒ぐらむしらげはうたて里とよみけり さきのゐるまつはらいかにさわくらむしらけはうたてさととよみけり | 和泉式部 | 雑上 |
5-金葉 | 547 | 梓弓さこそはそりの高からめ張る程もなく返るべしやは あつさゆみさこそはそりのたかからめはるほともなくかへるへしやは | 藤原時房 | 雑上 |
5-金葉 | 548 | なき名にぞ人のつらさは知られける忘られしには身をぞ恨みし なきなにそひとのつらさはしられけるわすられしにはみをそうらみし | 藤原公実 | 雑上 |
5-金葉 | 549 | いかにせむ山田にかこふ垣柴のしばしの間だに隠れなき世を いかにせむやまたにかこふかきしはのしはしのまたにかくれなきよを | 相模 | 雑上 |
5-金葉 | 550 | 忘られて嘆く袂を見るからにさもあらぬ袖のそばちぬるかな わすられてなけくたもとをみるからにさもあらぬそてのそほちぬるかな | 堀河院 | 雑上 |
5-金葉 | 551 | 早き瀬に立たぬばかりぞ水車われも憂き世にめぐるとを知れ はやきせにたたぬはかりそみつくるまわれもうきよにめくるとをしれ | 僧正行尊 | 雑上 |
5-金葉 | 552 | つかへつるこの身の程を數ふれば哀れこずゑになりにけるかな つかへつるこのみのほとをかそふれはあはれこすゑになりにけるかな | 藤原頼宗 | 雑上 |
5-金葉 | 553 | すぎきつる月日の程も知られつつこの身を見るも哀れなるかな すききつるつきひのほともしられつつこのみをみるもあはれなるかな | 御上東門院 | 雑上 |
5-金葉 | 554 | 草枕さこそは仮のとこならめ今朝しも置きて帰るべしやは くさまくらさこそはかりのとこならめけさしもおきてかへるへしやは | 藤原宗通 | 雑上 |
5-金葉 | 555 | 軒端うつましろの鷹の餌袋にをきゑを置きて返しつるかな のきはうつましろのたかのゑふくろにをきゑをおきてかへしつるかな | 桜井尼 | 雑上 |
5-金葉 | 556 | たぐひなく世におもしろき鳥なればゆかしからすと誰か思はむ たくひなくよにおもしろきとりなれはゆかしからすとたれかおもはむ | 少将内侍 | 雑上 |
5-金葉 | 557 | 鳥の子のまだかひながらあらませばをばといふものは生ひ出でざらまし とりのこのまたかひなからあらませはをはといふものはおひいてさらまし | 読人知らず | 雑上 |
5-金葉 | 558 | ひぐらしの聲ばかりする柴の戸は入日のさすにまかせてぞ見る ひくらしのこゑはかりするしはのとはいりひのさすにまかせてそみる | 藤原顕季 | 雑上 |
5-金葉 | 559 | 年ふれば我がいただきに置く霜を草の上とも思ひけるかな としふれはわかいたたきにおくしもをくさのうへともおもひけるかな | 藤原仲実 | 雑上 |
5-金葉 | 560 | うらやまし雲のかけはし立ちかへりふたたびのぼる道を知らばや うらやましくものかけはしたちかへりふたたひのほるみちをしらはや | 源行宗 | 雑上 |
5-金葉 | 561 | 思ひきや雲ゐの月をよそに見て心の闇にまよふべしとは おもひきやくもゐのつきをよそにみてこころのやみにまとふへしとは | 平忠盛 | 雑上 |
5-金葉 | 562 | 身のうさも問ふ人もじにせかれつつ心つくしの道はとまりぬ みのうさもとふひともしにせかれつつこころつくしのみちはとまりぬ | 内大臣家小大進 | 雑上 |
5-金葉 | 563 | 寝ぬる夜のかべ騒がしくありしかど我が違ふればことなかりけり ねぬるよのかへさわかしくありしかとわかちかふれはことなかりけり | 読人知らず | 雑上 |
5-金葉 | 564 | ひかげにはなき名立ちけり小忌衣きてみよとこそ言ふべかりけれ こかけにはなきなたちけりをみころもきてみよとこそいふへかりけれ | 源光綱母 | 雑上 |
5-金葉 | 565 | なきかげにかけける太刀もあるものをさやつかの間に忘るべしやは なきかけにかけけるたちもあるものをさやつかのまにわするへしやは | 源俊頼 | 雑上 |
5-金葉 | 566 | 見し人はひとり我が身にそはねどもおくれぬものは涙なりけり みしひとはひとりわかみにそはねともおくれぬものはなみたなりけり | 僧正行尊 | 雑上 |
5-金葉 | 567 | 葉隠れてつはると見えし程もなくこはうみ梅になりにけるかな はかくれてつはるとみえしほともなくこはうみうめになりにけるかな | 読人知らず | 雑上 |
5-金葉 | 568 | 人なみに心ばかりは立ちそひて誘はぬ和歌のうらみをぞする ひとなみにこころはかりはたちそひてさそはぬわかのうらみをそする | 前中宮甲斐 | 雑上 |
5-金葉 | 569 | ことわりや曇ればこそはます鏡うつりし影も見えずなるらめ ことわりやくもれはこそはますかかみうつりしかけもみえすなるらめ | 藤原実信母 | 雑上 |
5-金葉 | 570 | 西へゆく心はわれもあるものをひとりな入りそ秋の夜の月 にしへゆくこころはわれもあるものをひとりないりそあきのよのつき | 源師賢 | 雑上 |
5-金葉 | 571 | 待つ我はあはれ八十路になりぬるをあぶくま川の遠ざかりぬる まつわれはあはれやそちになりぬるをあふくまかはのとほさかりぬる | 藤原隆資 | 雑上 |
5-金葉 | 572 | 三笠山神のしるしのいちしろくしかありけりと聞くぞ嬉しき みかさやまかみのしるしのいちしろくしかありけりときくそうれしき | 藤原実光 | 雑上 |
5-金葉 | 573 | 行く人も立ちぞわづらふしかすがの渡りや旅の泊なるらむ ゆくひともたちそわつらふしかすかのわたりやたひのとまりなるらむ | 藤原家経 | 雑上 |
5-金葉 | 574 | 身の憂さを思ひしとけば冬の夜もとどこほらぬは涙なりけり みのうさをおもひしとけはふゆのよもととこほらぬはなみたなりけり | 読人知らず | 雑上 |
5-金葉 | 575 | 昔にもあらぬ姿になりゆけど嘆きのみこそ面がはりせね むかしにもあらぬすかたになりゆけとなけきのみこそおもかはりせね | 源雅光 | 雑上 |
5-金葉 | 576 | さりともとかく眉墨のいたづらに心細くもなりにけるかな さりともとかくまゆすみのいたつらにこころほそくもなりにけるかな | 源俊頼 | 雑上 |
5-金葉 | 577 | 心こそ世をば捨てしか幻のすがたも人に忘られにけり こころこそよをはすてしかまほろしのすかたもひとにわすられにけり | 僧正行尊 | 雑上 |
5-金葉 | 578 | 草の葉のなびくも知らず露の身の置き所なく嘆くころかな くさのはのなひくもしらすつゆのみのおきところなくなけくころかな | 大中臣顕弘 | 雑上 |
5-金葉 | 579 | 千歳まですまむ泉のそこによも影ならべむと思ひしもせじ ちとせまてすまむいつみのそこによもかけならへむとおもひしもせし | 顕雅卿母 | 雑上 |
5-金葉 | 580 | 宇治川のそこの水屑となりながらなほ雲かかる山ぞ恋しき うちかはのそこのみくつとなりなからなほくもかかるやまそこひしき | 忠快法師 | 雑上 |
5-金葉 | 581 | 住みわびて我さへ軒の忍草しのぶかたがた茂き宿かな すみわひてわれさへのきのしのふくさしのふかたかたしけきやとかな | 周防内侍 | 雑上 |
5-金葉 | 582 | 聞きわたる御手洗川の水清みそこの心をけふぞ見るべき ききわたるみたらしかはのみつきよみそこのこころをけふそみるへき | 津守国基 | 雑上 |
5-金葉 | 583 | 石だたみありける庭を君にまたしくものなしと思ひけるかな いしたたみありけるにはをきみにまたしくものなしとおもひけるかな | 皇后宮大弐 | 雑上 |
5-金葉 | 584 | あはれまむと思ふ心は廣けれどはぐくむ袖のせばくもあるかな あはむまむとおもふこころはひろけれとはくくむそてのせはくもあるかな | 天台座主仁覚 | 雑上 |
5-金葉 | 585 | 世の中は憂き身にそへる影なれや思ひ捨つれど離れざりけり よのなかはうきみにそへるかけなれやおもひすつれとはなれさりけり | 源俊頼 | 雑上 |
5-金葉 | 586 | うち頼む人の心はあらち山越路くやしき旅にもあるかな うちたのむひとのこころはあらちやまこしちくやしきたひにもあるかな | 読人知らず | 雑上 |
5-金葉 | 587 | 思ひやる心さへこそ苦しけれあらちの山の冬のけしきは おもひやるこころさへこそくるしけれあらちのやまのふゆのけしきは | おや | 雑上 |
5-金葉 | 588 | いたづらに過ぐす月日を數ふれば昔をしのぶねぞ泣かれける いたつらにすくすつきひをかそふれはむかしをしのふねそなかれける | 源師頼 | 雑上 |
5-金葉 | 589 | かはり行くかがみの影を見るからに老蘇の森の嘆きをぞする かはりゆくかかみのかけをみるからにおいそのもりのなけきをそする | 源師賢 | 雑上 |
5-金葉 | 590 | こゆるぎのいそぎて逢ひしかひもなく波たち来ずと聞くはまことか こゆるきのいそきてあひしかひもなくなみたちこすときくはまことか | 源顕国 | 雑上 |
5-金葉 | 591 | 雲の上になれにしものを葦鶴の逢ふことかたにおりゐぬるかな くものうへになれにしものをあしたつのあふことかたにおりゐぬるかな | 藤原公教 | 雑上 |
5-金葉 | 592 | 日の光あまねき空のけしきにも我が身ひとつは雲隠れつつ ひのひかりあまねきそらのけしきにもわかみひとつはくもかくれつつ | 源俊頼 | 雑上 |
5-金葉 | 593 | なにか思ふ春のあらしに雲晴れてさやけき影は君のみぞ見む なにかおもふはるのあらしにくもはれてさやけきかけはきみのみそみむ | 周防内侍 | 雑上 |
5-金葉 | 594 | 昔見しあるじ顔にて梅が枝の花だに我に物がたりせよ むかしみしあるしかほにてうめかえのはなたにわれにものかたりせよ | 藤原基俊 | 雑下 |
5-金葉 | 595 | 根にかへる花のすがたの恋しくはただこのもとを形見ともみよ ねにかへるはなのすかたのこひしくはたたこのもとをかたみともみよ | 藤原実行 | 雑下 |
5-金葉 | 596 | 櫻ゆゑいとひし風の身にしみて花よりさきに散りぬべきかな さくらゆゑいとひしかせのみにしみてはなよりさきにちりぬへきかな | 平基綱 | 雑下 |
5-金葉 | 597 | あやめ草ねをのみかくる世の中に折りたがへたる櫻花かな あやめくさねをのみかくるよのなかにをりたかへたるさくらはなかな | 藤原有佐 | 雑下 |
5-金葉 | 598 | 難波江の葦のわかねのしげければ心もゆかぬ船出をぞする なにはえのあしのわかねのしけけれはこころもゆかぬふなてをそする | 源顕房 | 雑下 |
5-金葉 | 599 | 憂かりしに秋はつきぬと思ひしを今年も蟲の音こそなかるれ うかりしにあきはつきぬとおもひしをことしもむしのねこそなかるれ | 康資王母 | 雑下 |
5-金葉 | 600 | せきもあへぬ涙のの川は早けれど身のうき草は流れざりけり せきもあへぬなみたのかはははやけれとみのうきくさはなかれさりけり | 源俊頼 | 雑下 |
5-金葉 | 601 | 玉くしげかけごに塵も据ゑざりしふた親ながらなき身とを知れ たまくしけかけこにちりもすゑさりしふたおやなからなきみとをしれ | 読人知らず | 雑下 |
5-金葉 | 602 | 今朝こそはあけても見つれ玉くしげふたよりみより涙流して けさこそはあけてもみつれたまくしけふたよりみよりなみたなかして | 律師実源 | 雑下 |
5-金葉 | 603 | 身にまさるものなかりけりみどり児はやらむ方なく悲しけれども みにまさるものなかりけりみとりこはやらむかたなくかなしけれとも | 律師実源 | 雑下 |
5-金葉 | 604 | 流れても逢ふ瀬ありけり涙川きえにし泡を何にたとへむ なかれてもあふせありけりなみたかはきえにしあわをなににたとへむ | 藤原知綱母 | 雑下 |
5-金葉 | 605 | 呉竹のふし沈みぬる露の身もとふ言の葉におきぞゐらるる くれたけのふししつみぬるつゆのみもとふことのはにおきそゐらるる | 読人知らず | 雑下 |
5-金葉 | 606 | よそなから世をそむきぬと聞くからに越路の空はうちしぐれつつ よそなからよをそむきぬときくからにこしちのそらはうちしくれつつ | 藤原通宗 | 雑下 |
5-金葉 | 607 | たらちめの嘆きをつみて我がかく思ひのしたになるぞ悲しき たらちめのなけきをつみてわれかかくおもひのしたになるそかなしき | 読人知らず | 雑下 |
5-金葉 | 608 | その夢をとはば嘆きやまさるとて驚かさでも過ぎにけるかな そのゆめをとははなけきやまさるとておとろかさてもすきにけるかな | 大江匡房 | 雑下 |
5-金葉 | 609 | いにしへは月をのみこそ眺めしか今は日を待つ我が身なりけり いにしへはつきをのみこそなかめしかいまはひをまつわかみなりけり | 大弐三位 | 雑下 |
5-金葉 | 610 | 夢にのみ昔の人を逢ひ見れば覚るほどこそ別れなりけれ ゆめにのみむかしのひとをあひみれはさむるほとこそわかれなりけれ | 權僧正永縁 | 雑下 |
5-金葉 | 611 | 露のみの消えもはてなば夏草のははいかにしてあらむとすらむ つゆのみのきえもはてなはなつくさのははいかにしてあらむとすらむ | 読人知らず | 雑下 |
5-金葉 | 612 | もろともに苔の下には朽ちずして埋まれぬ名を聞くぞ悲しき もろともにこけのしたにはくちすしてうつまれぬなをきくそかなしき | 和泉式部 | 雑下 |
5-金葉 | 613 | 今ぞ知る思ひのはては世の中のうき雲にのみまじるものとは いまそしるおもひのはてはよのなかのうきくもにのみましるものとは | 平忠盛 | 雑下 |
5-金葉 | 614 | さだめなき世をうき雲ぞあはれなる頼みし君が煙と思へば さためなきよをうきくもそあはれなるたのみしきみかけふりとおもへは | 藤原資信 | 雑下 |
5-金葉 | 615 | 草木まで嘆きけりとも見ゆるかな松さへ藤の衣着てけり くさきまてなけきけりともみゆるかなまつさへふちのころもきてけり | 僧正行尊 | 雑下 |
5-金葉 | 616 | 悲しさのその夕暮のままならばありへて人にとはれましやは かなしさのそのゆふくれのままならはありへてひとにとはれましやは | 橘元任 | 雑下 |
5-金葉 | 617 | 天の川苗代水にせきくだせあまくだります神ならば神 あまのかはなはしろみつにせきくたせあまくたりますかみならはかみ | 能因法師 | 雑下 |
5-金葉 | 618 | 色も香もむなしと説ける法なれば祈るしるしはありとこそ聞け いろもかもむなしととけるのりなれはいのるしるしはありとこそきけ | 藤原忠通 | 雑下 |
5-金葉 | 619 | 見しままに我はさとりを得てしかな知らせでとると知らざらめやは みしままにわれはさとりをえてしかなしらせてとるとしらさらめやは | 三宮輔仁親王 | 雑下 |
5-金葉 | 620 | いさぎよき空のけしきを頼むかな我まどはすな秋の夜の月 いさきよきそらのけしきをたのむかなわれまとはすなあきのよのつき | 行尊僧正 | 雑下 |
5-金葉 | 621 | 心にはいとひ果てつと思ふらむ哀れいづくもおなじ憂き世を こころにはいとひはてつとおもふらむあはれいつくもおなしうきよを | 静巌法師 | 雑下 |
5-金葉 | 622 | あみたぶと唱ふる聲に夢さめて西へ流るる月をこそ見れ あみたふととなふるこゑにゆめさめてにしへなかるるつきをこそみれ | 選子内親王 | 雑下 |
5-金葉 | 623 | 教へおきて入りにし月のなかりせばいかで心を西にかけまし をしへおきていりにしつきのなかりせはいかてこころをにしにかけまし | 皇后宮肥後 | 雑下 |
5-金葉 | 624 | かくばかり東風てふ風の吹くを見てちりのうたがひおこさずもがな かくはかりこちてふかせのふくをみてちりのうたかひおこさすもかな | 清海聖人 | 雑下 |
5-金葉 | 625 | 命をも罪をも露にたとへけり消えばともにや消えむとすらむ いのちをもつみをもつゆにたとへけりきえはともにやきえむとすらむ | 覚樹法師 | 雑下 |
5-金葉 | 626 | 吹き返す鷲の山風なかりせば衣の裏の玉を見ましや ふきかへすわしのやまかせなかりせはころものうらのたまをみましや | 僧正静圓 | 雑下 |
5-金葉 | 627 | 法のため荷ふ薪にことよせてやがてこの世をこりぞ果てぬる のりのためになふたききにことよせてやかてこのよをこりそはてぬる | 瞻西聖人 | 雑下 |
5-金葉 | 628 | けふぞ知る鷲の高嶺に照る月を谷川くみし人のかげとは けふそしるわしのたかねにてるつきをたにかはくみしひとのかけとは | 源師時 | 雑下 |
5-金葉 | 629 | あひがたき法をひろめし聖こそうち見し人もみちびかれけれ あひかたきのりをひろめしひしりこそうちみしひともみちひかれけれ | 權僧正永縁 | 雑下 |
5-金葉 | 630 | たらちねは黒髪ながらいかなればこの眉白き糸となりけむ たらちねはくろかみなからいかなれはこのまゆしろきいととなりけむ | 權僧正永縁 | 雑下 |
5-金葉 | 631 | 憂き世をしわたすと聞けばあまを舟のりに心をかけぬ日ぞなき うきよをしわたすときけはあまをふねのりにこころをかけぬひそなき | 懐尋法師 | 雑下 |
5-金葉 | 632 | いかにして衣の珠を知りぬらむ思ひもかけぬ人もある世に いかにしてころものたまをしりぬらむおもひもかけぬひともあるよに | 權僧正永縁 | 雑下 |
5-金葉 | 633 | いつをいつと思ひたゆみてかげろふのかげろふ程の世を過ぐすらむ いつをいつとおもひたゆみてかけろふのかけろふほとのよをすくすらむ | 懐尋法師 | 雑下 |
5-金葉 | 634 | 夜とともに心のうちに住む月をありと知るこそはるるなりけれ よとともにこころのうちにすむつきをありとしるこそはるるなりけれ | 証成法師 | 雑下 |
5-金葉 | 635 | 今日もなほ惜しみやせまし法のため散らす花ぞと思ひなさずは けふもなほをしみやせましのりのためちらすはなそとおもひなさすは | 珍海法師母 | 雑下 |
5-金葉 | 636 | あさましや剣の枝のたわむまでいかなる罪のなれるなるらむ あさましやつるきのえたのたわむまていかなるつみのなれるなるらむ | 和泉式部 | 雑下 |
5-金葉 | 637 | 草の葉にかどではしたりほととぎす死出の山路もかくや露けき くさのはにかとてはしたりほとときすしてのやまちもかくやつゆけき | 田口重如 | 雑下 |
5-金葉 | 638 | たゆみなく心をかくる彌陀ほとけ人やりならぬ誓たがふな たゆみなくこころをかくるみたほとけひとやりならぬちかひたかふな | 田口重如 | 雑下 |
5-金葉 | 639 | 阿弥陀仏と唱ふる聲を舵にてや苦しき海を漕ぎ離るらむ あみたふととなふるこゑをかちにてやくるしきうみをこきはなるらむ | 源俊頼 | 雑下 |
5-金葉 | 640 | あづま人の声こそきたに聞こゆなれ陸奥によりこしにやあるらむ あつまうとのこゑこそきたにきこゆなれみちのくによりこしにやあるらむ | 永成法師 律師慶範 | 雑下 |
5-金葉 | 641 | 桃そのの桃の花こそ咲きにけれ梅津の梅はちりやしぬらむ ももそののもものはなこそさきにけれうめつのうめはちりやしぬらむ | 藤原頼経 大江公資 | 雑下 |
5-金葉 | 642 | 標の内に杵の音こそ聞こゆなれいかなるかみのつくにかあるらむ しめのうちにきねのおとこそきこゆなれいかなるかみのつくにかあるらむ | 神主成助 行重 | 雑下 |
5-金葉 | 643 | 春の田にすきいりぬへきおきなかなかのみなくちに水をいれはや はるのたにすきいりぬへきおきなかなかのみなくちにみつをいれはや | 僧正源覚 宇治西園寺公経 | 雑下 |
5-金葉 | 644 | 日の入るはくれなゐにこそ似たりけれあかねさすとも思ひけるかな ひのいるはくれなゐにこそにたりけれあかねさすともおもひけるかな | 観暹法師 平為成 | 雑下 |
5-金葉 | 645 | 田にはむ駒はくろにさりけりなはしろの水にはかけと見えつれと たにはむこまはくろにさりけりなはしろのみつにはかけとみえつれと | 永源法師 永成法師 | 雑下 |
5-金葉 | 646 | かはらやの板ふきにても見ゆるかなつちくれしてや作りそめけむ かはらやのいたふきにてもみゆるかなつちくれしてやつくりそめけむ | 読人知らず 助成 | 雑下 |
5-金葉 | 647 | つれなく立てるしかの島かなゆみはりの月のいるにもおとろかて つれなくたてるしかのしまかなゆみはりのつきのいるにもおとろかて | 為助 國忠 | 雑下 |
5-金葉 | 648 | かも川をつるはきにてもわたるかなかりはかまをはをしとおもひて かもかはをつるはきにてもわたるかなかりはかまをはをしとおもひて | 頼綱 信綱 | 雑下 |
5-金葉 | 649 | なににあゆるを鮎といふらむ鵜舟にはとりいれし物をおほつかな なににあゆるをあゆといふらむうふねにはとりいれしものをおほつかな | 読人知らず 国房卿妹 | 雑下 |
5-金葉 | 650 | ちはやぶるかみをば足に巻くものかこれをぞしものやしろとはいふ ちはやふるかみをはあしにまくものかこれをそしものやしろとはいふ | 和泉式部 | 雑下 |
6-詞花 | 1 | こほりゐし志賀の唐崎うちとけてさざ波よする春風ぞふく こほりゐししかのからさきうちとけてささなみよするはるかせそふく | 大江匡房 | 春 |
6-詞花 | 2 | きのふかも霰ふりしは信楽の外山のかすみ春めきにけり きのふかもあられふりしはしからきのとやまのかすみはるめきにけり | 藤原惟成 | 春 |
6-詞花 | 3 | ふるさとは春めきにけりみ吉野の御垣が原をかすみこめたり ふるさとははるめきにけりみよしののみかきかはらをかすみこめたり | 平兼盛 | 春 |
6-詞花 | 4 | たまさかにわが待ちえたるうぐひすの初音をあやな人やきくらむ たまさかにわかまちえたるうくひすのはつねをあやなひとやきくらむ | 道命法師 | 春 |
6-詞花 | 5 | 雪きえばゑぐの若菜もつむべきに春さへはれぬ深山辺の里 ゆききえはゑくのわかなもつむへきにはるさへはれぬみやまへのさと | 曾禰好忠 | 春 |
6-詞花 | 6 | 春日野に朝なく雉のはねおとは雪のきえまに若菜つめとや かすかのにあさなくきしのはねおとはゆきのきえまにわかなつめとや | 源重之 | 春 |
6-詞花 | 7 | よろづよのためしに君が引かるれば子の日の松もうらやみやせむ よろつよのためしにきみかひかるれはねのひのまつもうらやみやせむ | 赤染衛門 | 春 |
6-詞花 | 8 | 子の日すと春の野ごとにたづぬれば松にひかるるここちこそすれ ねのひすとはるののことにたつぬれはまつにひかるるここちこそすれ | 崇徳院 | 春 |
6-詞花 | 9 | 吹きくれば香をなつかしみ梅の花ちらさぬほどの春風もがな ふきくれはかをなつかしみうめのはなちらさぬほとのはるかせもかな | 源時綱 | 春 |
6-詞花 | 10 | 梅の花にほひを道のしるべにてあるじもしらぬ宿にきにけり うめのはなにほひをみちのしるへにてあるしもしらぬやとにきにけり | 三条公行 | 春 |
6-詞花 | 11 | とりつなぐ人もなき野の春駒はかすみにのみやたなびかるらむ とりつなくひともなきののはるこまはかすみにのみやたなひかるらむ | 藤原盛経 | 春 |
6-詞花 | 12 | 真菰草つのぐみわたる澤邊にはつながぬ駒もはなれざりけり まこもくさつのくみわたるさはへにはつなかぬこまもはなれさりけり | 俊恵法師 | 春 |
6-詞花 | 13 | 萌えいづる草葉のみかは小笠原駒のけしきも春めきにけり もえいつるくさはのみかはをかさはらこまのけしきもはるめきにけり | 僧都覚雅 | 春 |
6-詞花 | 14 | 佐保姫の糸そめかくる青柳をふきなみだりそ春のやまかぜ さほひめのいとそめかくるあをやきをふきなみたりそはるのやまかせ | 平兼盛 | 春 |
6-詞花 | 15 | いかなればこほりはとくる春風に結ぼほるらむ青柳の糸 いかなれはこほりはとくるはるかせにむすほほるらむあをやきのいと | 源季遠 | 春 |
6-詞花 | 16 | ふるさとの御垣の柳はるばるとたが染めかけし浅緑ぞも ふるさとのみかきのやなきはるはるとたかそめかけしあさみとりそも | 源道済 | 春 |
6-詞花 | 17 | 深山木のそのこずゑとも見えざりし櫻は花にあらはれにけり みやまきのそのこすゑともみえさりしさくらははなにあらはれにけり | 源頼政 | 春 |
6-詞花 | 18 | くれなゐの薄花櫻にほはずはみな白雲とみてや過ぎまし くれなゐのうすはなさくらにほはすはみなしらくもとみてやすきまし | 康資王母 | 春 |
6-詞花 | 19 | 白雲はたちへだつれどくれなゐの薄花櫻こころにぞ染む しらくもはたちへたつれとくれなゐのうすはなさくらこころにそそむ | 藤原師実 | 春 |
6-詞花 | 20 | 白雲はさも立たばたてくれなゐのいまひとしほを君し染むれば しらくもはさもたたはたてくれなゐのいまひとしほをきみしそむれは | 康資王母 | 春 |
6-詞花 | 21 | 朝まだき霞なこめそ山櫻たづねゆくまのよそめにもみむ あさまたきかすみなこめそやまさくらたつねゆくまのよそめにもみむ | 祐子内親王家紀伊 | 春 |
6-詞花 | 22 | 白雲とみゆるにしるしみ吉野の吉野の山の花ざかりかも しらくもとみゆるにしるしみよしののよしののやまのはなさかりかも | 大江匡房 | 春 |
6-詞花 | 23 | 山櫻をしむにとまるものならは花は春ともかぎらざらまし やまさくらをしむにとまるものならははなははるともかきらさらまし | 藤原公実 | 春 |
6-詞花 | 24 | 九重に立つ白雲と見えつるは大内山の櫻なりけり ここのへにたつしらくもとみえつるはおほうちやまのさくらなりけり | 前斎院出雲 | 春 |
6-詞花 | 25 | 春ごとに心をそらになすものは雲ゐにみゆるさくらなりけり はることにこころをそらになすものはくもゐにみゆるさくらなりけり | 戒秀法師 | 春 |
6-詞花 | 26 | 白河の春のこずゑをみわたせば松こそ花の絶え間なりけれ しらかはのはるのこすゑをみわたせはまつこそはなのたえまなりけれ | 源俊頼 | 春 |
6-詞花 | 27 | 春くれば花のこずゑに誘はれていたらぬ里のなかりつるかな はるくれははなのこすゑにさそはれていたらぬさとのなかりつるかな | 白河院 | 春 |
6-詞花 | 28 | 池水のみぎはならずはさくらばな影をも波にをられましやは いけみつのみきはならすはさくらはなかけをもなみにをられましやは | 源師賢 | 春 |
6-詞花 | 29 | いにしへの奈良のみやこの八重ざくらけふ九重ににほひぬるかな いにしへのならのみやこのやへさくらけふここのへににほひぬるかな | 伊勢大輔 | 春 |
6-詞花 | 30 | ふるさとにとふ人あらば山ざくら散りなむのちを待てとこたへよ ふるさとにとふひとあらはやまさくらちりなむのちをまてとこたへよ | 藤原教長 | 春 |
6-詞花 | 31 | さくら花てごとにをりて帰るをば春のゆくとや人はみるらむ さくらはなてことにをりてかへるをははるのゆくとやひとはみるらむ | 源登平 | 春 |
6-詞花 | 32 | 春ごとに見る花なれど今年より咲きはじめたる心地こそすれ はることにみるはななれとことしよりさきはしめたるここちこそすれ | 道命法師 | 春 |
6-詞花 | 33 | ふるさとの花のにほひやまさるらむしづ心なく帰る雁かな ふるさとのはなのにほひやまさるらむしつこころなくかへるかりかな | 藤原長実 | 春 |
6-詞花 | 34 | なかなかに散るをみじとや思ふらむ花のさかりに帰る雁がね なかなかにちるをみしとやおもふらむはなのさかりにかへるかりかね | 源忠季 | 春 |
6-詞花 | 35 | さくら花ちらさでちよも見てしがなあかぬこころはさてもありやと さくらはなちらさてちよもみてしかなあかぬこころはさてもありやと | 藤原元真 | 春 |
6-詞花 | 36 | さくら花かぜにし散らぬものならば思ふことなき春にぞあらまし さくらはなかせにしちらぬものならはおもふことなきはるにそあらまし | 大中臣能宣 | 春 |
6-詞花 | 37 | さくら花ちりしく庭をはらはねば消えせぬ雪となりにけるかな さくらはなちりしくにはをはらはねはきえせぬゆきとなりにけるかな | 摂津 | 春 |
6-詞花 | 38 | 掃く人もなきふるさとの庭の面は花ちりてこそみるべかりけれ はくひともなきふるさとのにはのおもははなちりてこそみるへかりけれ | 源俊頼 | 春 |
6-詞花 | 39 | さくらさく木の下水は浅けれど散りしく花の淵とこそなれ さくらさくこのしたみつはあさけれとちりしくはなのふちとこそなれ | 源師賢 | 春 |
6-詞花 | 40 | 散る花もあはれとみずや石の上ふりはつるまで惜しむこころを ちるはなもあはれとみすやいそのかみふりはつるまてをしむこころを | 藤原範永 | 春 |
6-詞花 | 41 | 我が宿の櫻なれども散るときは心にえこそまかせざりけれ わかやとのさくらなれともちるときはこころにえこそまかせさりけれ | 花山院 | 春 |
6-詞花 | 42 | 身にかへて惜しむにとまる花ならば今日や我が世の限りならまし みにかへてをしむにとまるはなならはけふやわかよのかきりならまし | 源俊頼 | 春 |
6-詞花 | 43 | 庭もせに積もれる雪と見えながら香るぞ花のしるしなりける にはもせにつもれるゆきとみえなからかをるそはなのしるしなりける | 源有仁 | 春 |
6-詞花 | 44 | 散る花にせきとめらるる山川の深くも春のなりにけるかな ちるはなにせきとめらるるやまかはのふかくもはるのなりにけるかな | 大中臣能宣 | 春 |
6-詞花 | 45 | 一重だにあかぬ匂ひをいとどしく八重かさなれる山吹のはな ひとへたにあかぬにほひをいととしくやへかさなれるやまふきのはな | 藤原長能 | 春 |
6-詞花 | 46 | 八重さけるかひこそなけれ山吹の散らば一重もあらじとおもへは やへさけるかひこそなけれやまふきのちらはひとへもあらしとおもへは | 読人知らず | 春 |
6-詞花 | 47 | こぬ人をまちかね山の呼子鳥おなじこころにあはれとぞきく こぬひとをまちかねやまのよふことりおなしこころにあはれとそきく | 太皇太后宮家肥後 | 春 |
6-詞花 | 48 | 咲きしより散りはつるまで見しほどに花のもとにて二十日へにけり さきしよりちりはつるまてみしほとにはなのもとにてはつかへにけり | 藤原忠通 | 春 |
6-詞花 | 49 | 老いてこそ春の惜しさはまさりけれ今いくたびも逢はじと思へば おいてこそはるのをしさはまさりけれいまいくたひもあはしとおもへは | 橘俊成 | 春 |
6-詞花 | 50 | 惜しむとてこよひかきおく言の葉やあやなく春のかたみなるべき をしむとてこよひかきおくことのはやあやなくはるのかたみなるへき | 崇徳院 | 春 |
6-詞花 | 51 | けふよりはたつ夏衣うすくともあつしとのみやおもひわたらむ けふよりはたつなつころもうすくともあつしとのみやおもひわたらむ | 増基法師 | 夏 |
6-詞花 | 52 | 雪の色をぬすみて咲ける卯の花はさえでや人にうたがはるらむ ゆきのいろをぬすみてさけるうのはなはさえてやひとにうたかはるらむ | 源俊頼 | 夏 |
6-詞花 | 53 | 年をへてかけし葵はかはらねど今日のかざしはめづらしきかな としをへてかけしあふひはかはらねとけふのかさしはめつらしきかな | 藤原長房 | 夏 |
6-詞花 | 54 | 榊とる夏の山路やとほからむゆふかけてのみまつる神かな さかきとるなつのやまちやとほからむゆふかけてのみまつるかみかな | 源兼昌 | 夏 |
6-詞花 | 55 | むかしにもあらぬわが身にほととぎす待つこころこそ変らざりけれ むかしにもあらぬわかみにほとときすまつこころこそかはらさりけれ | 周防内侍 | 夏 |
6-詞花 | 56 | ほととぎす鳴く音ならでは世の中に待つこともなきわが身なりけり ほとときすなくねならてはよのなかにまつこともなきわかみなりけり | 藤原忠兼 | 夏 |
6-詞花 | 57 | 今年だにまつ初こゑをほととぎす世にはふるさで我にきかせよ ことしたにまつはつこゑをほとときすよにはふるさてわれにきかせよ | 花山院 | 夏 |
6-詞花 | 58 | 山里のかひこそなけれほととぎす都の人もかくや待つらむ やまさとのかひこそなけれほとときすみやこのひともかくやまつらむ | 道命法師 | 夏 |
6-詞花 | 59 | 山彦のこたふる山のほととぎす一こゑなけは二こゑぞきく やまひこのこたふるやまのほとときすひとこゑなけはふたこゑそきく | 能因法師 | 夏 |
6-詞花 | 60 | ほととぎすあかつきかけて鳴くこゑを待たぬ寝覚の人やきくらむ ほとときすあかつきかけてなくこゑをまたぬねさめのひとやきくらむ | 藤原伊家 | 夏 |
6-詞花 | 61 | 待つ人は寝る夜もなきをほととぎす鳴く音は夢のここちこそすれ まつひとはぬるよもなきをほとときすなくねはゆめのここちこそすれ | 藤原実綱 | 夏 |
6-詞花 | 62 | 鳴きつとも誰にかいはむほととぎす影よりほかに人しなければ なきつともたれにかいはむほとときすかけよりほかにひとしなけれは | 源俊頼 | 夏 |
6-詞花 | 63 | 昆陽の池におふるあやめのながき根はひく白糸の心地こそすれ こやのいけにおふるあやめのなかきねはひくしらいとのここちこそすれ | 待賢門院堀河 | 夏 |
6-詞花 | 64 | よもすがらたたく水鶏は天の戸をあけてのちこそ音せざりけれ よもすからたたくくひなはあまのとをあけてのちこそおとせさりけれ | 源頼家 | 夏 |
6-詞花 | 65 | さみだれの日をふるままに鈴鹿川八十瀬の波ぞこゑまさるなる さみたれのひをふるままにすすかかはやそせのなみそこゑまさるなる | 皇嘉門院治部卿源盛子 | 夏 |
6-詞花 | 66 | わぎもこが昆陽の篠屋のさみだれにいかでほすらむ夏引の糸 わきもこかこやのしのやのさみたれにいかてほすらむなつひきのいと | 大江匡房 | 夏 |
6-詞花 | 67 | さみだれに難波堀江のみをつくしみえぬや水のまさるなるらむ さみたれになにはほりえのみをつくしみえぬやみつのまさるなるらむ | 源忠季 | 夏 |
6-詞花 | 68 | 藻鹽やく須磨の浦人うちたえていとひやすらむさみだれの空 もしほやくすまのうらひとうちたえていとひやすらむさみたれのそら | 藤原通俊 | 夏 |
6-詞花 | 69 | さつきやみ花たちばなに吹く風はたが里までかにほひゆくらむ さつきやみはなたちはなにふくかせはたかさとまてかにほひゆくらむ | 良暹法師 | 夏 |
6-詞花 | 70 | 宿ちかく花たちばなはほりうゑじむかしをしのぶつまとなりけり やとちかくはなたちはなはほりうゑしむかしをしのふつまとなりけり | 花山院 | 夏 |
6-詞花 | 71 | うすくこく垣ほににほふ撫子の花のいろにぞ露も置きける うすくこくかきほににほふなてしこのはなのいろにそつゆもおきける | 藤原経衡 | 夏 |
6-詞花 | 72 | 種まきし我が撫子の花ざかりいく朝露の置きてみつらむ たねまきしわかなてしこのはなさかりいくあさつゆのおきてみつらむ | 藤原顕季 | 夏 |
6-詞花 | 73 | なくこゑもきこえぬもののかなしきは忍びに燃ゆる蛍なりけり なくこゑもきこえぬもののかなしきはしのひにもゆるほたるなりけり | 大弐高遠 | 夏 |
6-詞花 | 74 | さつきやみ鵜川にともす篝火の數ますものは蛍なりけり さつきやみうかはにともすかかりひのかすますものはほたるなりけり | 読人知らず | 夏 |
6-詞花 | 75 | 風ふけば川邊すずしく寄る波のたちかへるべき心地こそせね かせふけはかはへすすしくよるなみのたちかへるへきここちこそせね | 藤原家経 | 夏 |
6-詞花 | 76 | 杣川の筏の床のうきまくら夏は涼しきふしどなりけり そまかはのいかたのとこのうきまくらなつはすすしきふしとなりけり | 曾禰好忠 | 夏 |
6-詞花 | 77 | 待つほどに夏の夜いたく更けぬれば惜しみもあへぬ山の端の月 まつほとになつのよいたくふけぬれはをしみもあへぬやまのはのつき | 源道済 | 夏 |
6-詞花 | 78 | 川上に夕立すらし水屑せく梁瀬のさ波たちさはぐなり かはかみにゆふたちすらしみくつせくやなせのさなみたちさわくなり | 曾禰好忠 | 夏 |
6-詞花 | 79 | つねよりも嘆きやすらむたなばたは逢はまし暮をよそにながめて つねよりもなけきやすらむたなはたはあはましくれをよそになかめて | 太皇大后宮大弐 | 夏 |
6-詞花 | 80 | したもみぢひと葉づつ散る木のしたに秋とおぼゆる蝉のこゑかな したもみちひとはつつちるこのしたにあきとおほゆるせみのこゑかな | 相模 | 夏 |
6-詞花 | 81 | 蟲の音もまだうちとけぬ草むらに秋をかねても結ぶ露かな むしのねもまたうちとけぬくさむらにあきをかねてもむすふつゆかな | 曾禰好忠 | 夏 |
6-詞花 | 82 | 山城の鳥羽田の面をみわたせばほのかに今朝ぞ秋風はふく やましろのとはたのおもをみわたせはほのかにけさそあきかせはふく | 曾禰好忠 | 秋 |
6-詞花 | 83 | 君すまばとはましものを津の國の生田の森の秋のはつかぜ きみすまはとはましものをつのくにのいくたのもりのあきのはつかせ | 僧都清胤 | 秋 |
6-詞花 | 84 | おぎの葉にすがく糸をもささがにはたなばたにとやけさは引くらむ はきのはにすかくいとをもささかにはたなはたにとやけさはひくらむ | 橘元任 | 秋 |
6-詞花 | 85 | たなばたに衣もぬぎてかすべきにゆゆしとやみむ墨染の袖 たなはたにころももぬきてかすへきにゆゆしとやみむすみそめのそて | 花山院 | 秋 |
6-詞花 | 86 | たなはたに心は貸すと思はねど暮れゆく空はうれしかりけり たなはたにこころはかすとおもはねとくれゆくそらはうれしかりけり | 藤原顕綱 | 秋 |
6-詞花 | 87 | いかなればとだえめけむ天の川あふ瀬にわたすかささぎの橋 いかなれはとたえそめけむあまのかはあふせにわたすかささきのはし | 加賀左衛門 | 秋 |
6-詞花 | 88 | 天の川よこぎる雲やたなはたのそらだきもののけぶりなるらむ あまのかはよこきるくもやたなはたのそらたきもののけふりなるらむ | 藤原顕輔 | 秋 |
6-詞花 | 89 | おぼつかなかはりやしにし天の川年にひとたびわたる瀬なれば おほつかなかはりやしにしあまのかはとしにひとたひわたるせなれは | 大中臣能宣 | 秋 |
6-詞花 | 90 | 天の川玉橋いそぎわたさなむ浅瀬たどるも夜のふけゆくに あまのかはたまはしいそきわたさなむあさせたとるもよのふけゆくに | 藤原顕季 | 秋 |
6-詞花 | 91 | 逢ふ夜とは誰かはしらぬたなばたのあくる空をもつつまざらなむ あふよとはたれかはしらぬたなはたのあくるそらをもつつまさらなむ | 良暹法師 | 秋 |
6-詞花 | 92 | たなばたの待ちつるほどの苦しさもあかぬ別れといづれまされり たなはたのまちつるほとのくるしさもあかぬわかれといつれまされり | 藤原顕綱 | 秋 |
6-詞花 | 93 | 天の川かへらぬ水をたなばたはうらやましとや今朝は見るらむ あまのかはかへらぬみつをたなはたはうらやましとやけさはみるらむ | 祝部成仲 | 秋 |
6-詞花 | 94 | 水きよみやどれる秋の月さへや千代まで君とすまむとすらむ みつきよみやとれるあきのつきさへやちよまてきみとすまむとすらむ | 源順 | 秋 |
6-詞花 | 95 | いかなればおなじ空なる月影の秋しもことに照りまさるらむ いかなれはおなしそらなるつきかけのあきしもことにてりまさるらむ | 源雅定 | 秋 |
6-詞花 | 96 | 春夏は空やはかはる秋の夜の月しもいかで照りまさるらむ はるなつはそらやはかはるあきのよのつきしもいかててりまさるらむ | 藤原家成 | 秋 |
6-詞花 | 97 | 秋にまたあはむあはじも知らぬ身はこよひばかりの月をだにみむ あきにまたあはむあはしもしらぬみはこよひはかりのつきをたにみむ | 三条院 | 秋 |
6-詞花 | 98 | ありしにもあらずなりゆく世の中にかはらぬものは秋の夜の月 ありしにもあらすなりゆくよのなかにかはらぬものはあきのよのつき | 天台座主明快 | 秋 |
6-詞花 | 99 | 秋の夜の月のひかりのもる山は木の下かげもさやけかりけり あきのよのつきのひかりのもるやまはこのしたかけもさやけかりけり | 藤原重基 | 秋 |
6-詞花 | 100 | 天つ風雲ふきはらふ高嶺にて入るまでみつる秋の夜の月 あまつかせくもふきはらふたかねにているまてみつるあきのよのつき | 良暹法師 | 秋 |
6-詞花 | 101 | 秋の夜は月に心のひまぞなき出づるを待つと入るを惜しむと あきのよはつきにこころのひまそなきいつるをまつといるををしむと | 源頼綱 | 秋 |
6-詞花 | 102 | 引く駒にかげをならべて逢坂の関路よりこそ月はいでけれ ひくこまにかけをならへてあふさかのせきちよりこそつきはいてけれ | 藤原朝隆 | 秋 |
6-詞花 | 103 | 秋の夜の露もくもらぬ月をみて置きどころなきわがこころかな あきのよのつゆもくもらぬつきをみておきところなきわかこころかな | 隆縁法師 | 秋 |
6-詞花 | 104 | 秋の夜の月まちかねておもひやる心いくたび山をこゆらむ あきのよのつきまちかねておもひやるこころいくたひやまをこゆらむ | 大江嘉言 | 秋 |
6-詞花 | 105 | 秋山の清水はくまじにごりなばやどれる月のくもりもぞする あきやまのしみつはくましにこりなはやとれるつきのくもりもそする | 藤原忠兼 | 秋 |
6-詞花 | 106 | 秋の夜の月にこころのあくがれて雲ゐにものを思ふころかな あきのよのつきにこころのあくかれてくもゐにものをおもふころかな | 花山院 | 秋 |
6-詞花 | 107 | ひとりゐてながむるやどの荻の葉に風こそわたれ秋のゆふぐれ ひとりゐてなかむるやとのをきのはにかせこそわたれあきのゆふくれ | 源道済 | 秋 |
6-詞花 | 108 | 荻の葉にそそや秋風ふきぬなりこぼれやしぬる露のしらたま をきのはにそそやあきかせふきぬなりこほれやしぬるつゆのしらたま | 大江嘉言 | 秋 |
6-詞花 | 109 | 秋ふくはいかなる色の風なれば身にしむばかりあはれなるらむ あきふくはいかなるいろのかせなれはみにしむはかりあはれなるらむ | 和泉式部 | 秋 |
6-詞花 | 110 | み吉野の象山かげにたてる松いく秋風にそなれきぬらむ みよしののきさやまかけにたてるまついくあきかせにそなれきぬらむ | 曾禰好忠 | 秋 |
6-詞花 | 111 | 荻の葉に露ふきむすぶこがらしの音ぞ夜寒になりまさるなる をきのはにつゆふきむすふこからしのおとそよさむになりまさるなる | 藤原顕綱 | 秋 |
6-詞花 | 112 | 夕霧にこずゑもみえずはつせ山いりあひの鐘の音ばかりして ゆふきりにこすゑもみえすはつせやまいりあひのかねのおとはかりして | 源兼昌 | 秋 |
6-詞花 | 113 | 秋の野の花みるほどの心をばゆくとやいはむとまるとやいはむ あきのののはなみるほとのこころをはゆくとやいはむとまるとやいはむ | 赤染衛門 | 秋 |
6-詞花 | 114 | 神垣にかかるとならば朝顔もゆふかくるまでにほはざらめや かみかきにかかるとならはあさかほもゆふかくるまてにほはさらめや | 六條齋院 | 秋 |
6-詞花 | 115 | ぬしやたれ知る人なしに藤袴みれば野ごとに綻びにけり ぬしやたれきるひとなしにふちはかまみれはのことにほころひにけり | 隆源法師 | 秋 |
6-詞花 | 116 | 朝な朝な露おもげなる萩が枝に心をさへもかけてみるかな あさなあさなつゆおもけなるはきかえにこころをさへもかけてみるかな | 周防内侍 | 秋 |
6-詞花 | 117 | 荻の葉に言とふ人もなきものを来る秋ごとにそよとこたふる をきのはにこととふひともなきものをくるあきことにそよとこたふる | 敦輔王 | 秋 |
6-詞花 | 118 | 秋の野のくさむらごとに置く露は夜なく蟲のなみだなるべし あきのののくさむらことにおくつゆはよるなくむしのなみたなるへし | 曾禰好忠 | 秋 |
6-詞花 | 119 | 八重葎しげれる宿は夜もすがら蟲の音きくぞとりどころなる やへむくらしけれるやとはよもすからむしのねきくそとりところなる | 永源法師 | 秋 |
6-詞花 | 120 | なく蟲のひとつ聲にも聞こえぬはこころごころにものやかなしき なくむしのひとつこゑにもきこえぬはこころこころにものやかなしき | 和泉式部 | 秋 |
6-詞花 | 121 | ふるさとにかはらざりけり鈴虫の鳴海の野邊のゆふぐれのこゑ ふるさとにかはらさりけりすすむしのなるみののへのゆふくれのこゑ | 橘為仲 | 秋 |
6-詞花 | 122 | 秋風に露をなみだとなく蟲のおもふこころをたれにとはまし あきかせにつゆをなみたとなくむしのおもふこころをたれにとはまし | 橘正通 | 秋 |
6-詞花 | 123 | 逢坂の杉間の月のなかりせばいくきの駒といかでしらまし あふさかのすきまのつきのなかりせはいくきのこまといかてしらまし | 大江匡房 | 秋 |
6-詞花 | 124 | きく人のなどやすからぬ鹿の音はわがつまをこそ恋ひてなくらめ きくひとのなとやすからぬしかのねはわかつまをこそこひてなくらめ | 出羽辨 | 秋 |
6-詞花 | 125 | 秋萩を草の枕に結ぶ夜は近くも鹿のこゑをきくかな あきはきをくさのまくらにむすふよはちかくもしかのこゑをきくかな | 藤原伊家 | 秋 |
6-詞花 | 126 | 秋ふかみ花には菊の関なれば下葉に月ももりあかしけり あきふかみはなにはきくのせきなれはしたはにつきももりあかしけり | 崇徳院 | 秋 |
6-詞花 | 127 | 霜枯るるはじめとみずは白菊のうつろふ色をなげかざらまし しもかるるはしめとみすはしらきくのうつろふいろをなけかさらまし | 源雅光 | 秋 |
6-詞花 | 128 | 今年また咲くべき花のあらばこそうつろふ菊にめかれをもせめ ことしまたさくへきはなのあらはこそうつろふきくにめかれをもせめ | 道命法師 | 秋 |
6-詞花 | 129 | 草枯れの冬までみよと露霜の置きて残せる白菊の花 くさかれのふゆまてみよとつゆしものおきてのこせるしらきくのはな | 曾禰好忠 | 秋 |
6-詞花 | 130 | 関こゆる人にとはばやみちのくの安達のまゆみもみぢしにきや せきこゆるひとにとははやみちのくのあたちのまゆみもみちしにきや | 藤原頼宗 | 秋 |
6-詞花 | 131 | いくらとも見えぬ紅葉の錦かな誰ふたむらの山といひけむ いくらともみえぬもみちのにしきかなたれふたむらのやまといひけむ | 橘能元 | 秋 |
6-詞花 | 132 | 夕されば何か急がむもみぢ葉のしたてる山は夜もこえなむ ゆふされはなにかいそかむもみちはのしたてるやまはよるもこえなむ | 大江匡房 | 秋 |
6-詞花 | 133 | 山里はゆききの道の見えぬまで秋の木の葉に埋もれにけり やまさとはゆききのみちのみえぬまてあきのこのはにうつもれにけり | 曾禰好忠 | 秋 |
6-詞花 | 134 | 春雨の綾おりかけし水の面に秋は紅葉の錦をぞ敷く はるさめのあやおりかけしみつのおもにあきはもみちのにしきをそしく | 道命法師 | 秋 |
6-詞花 | 135 | なごりなく時雨の空ははれぬれどまだ降るものは木の葉なりけり なこりなくしくれのそらははれぬれとまたふるものはこのはなりけり | 源俊頼 | 秋 |
6-詞花 | 136 | 荒れはてて月もとまらぬ我が宿に秋の木の葉を風ぞふきける あれはててつきもとまらぬわかやとにあきのこのはをかせそふきける | 平兼盛 | 秋 |
6-詞花 | 137 | 秋ふかみ紅葉おちしく網代木は氷魚のよるさへあかくみえけり あきふかみもみちおちしくあしろきはひをのよるさへあかくみえけり | 藤原惟成 | 秋 |
6-詞花 | 138 | 初霜も置きにけらしな今朝みれば野邊の浅茅も色づきにけり はつしももおきにけらしなけさみれはのへのあさちもいろつきにけり | 大中臣能宣 | 秋 |
6-詞花 | 139 | いづかたに秋のゆくらむ我が宿に今宵ばかりは雨宿りせで いつかたにあきのゆくらむわかやとにこよひはかりはあまやとりせて | 藤原公任 | 秋 |
6-詞花 | 140 | なにごともゆきて祈らむと思ひしに神無月にもなりにけるかな なにこともゆきていのらむとおもひしにかみなつきにもなりにけるかな | 曾禰好忠 | 秋 |
6-詞花 | 141 | ひさぎおふる澤邊の茅原冬くればひばりの床ぞあらはれにける ひさきおふるさはへのちはらふゆくれはひはりのとこそあらはれにける | 曾禰好忠 | 冬 |
6-詞花 | 142 | こずゑにてあかざりしかばもみぢ葉のちりしく庭をはらはでぞみる こすゑにてあかさりしかはもみちはのちりしくにはをはらはてそみる | 大弐資通 | 冬 |
6-詞花 | 143 | いろいろにそむる時雨にもみぢ葉はあらそひかねて散りはてにけり いろいろにそむるしくれにもみちははあらそひかねてちりはてにけり | 藤原家成 | 冬 |
6-詞花 | 144 | 山ふかみ落ちてつもれるもみぢ葉のかはけるうへに時雨ふるなり やまふかみおちてつもれるもみちはのかわけるうへにしくれふるなり | 大江嘉言 | 冬 |
6-詞花 | 145 | いまさらにをのがすみかを立たじとて木の葉の下にをしぞなくなる いまさらにおのかすみかをたたしとてこのはのしたにをしそなくなる | 惟宗隆頼 | 冬 |
6-詞花 | 146 | 風ふけは楢のうら葉のそよそよといひあはせつついづち散るらむ かせふけはならのうらはのそよそよといひあはせつついつちちるらむ | 惟宗隆頼 | 冬 |
6-詞花 | 147 | 外山なる柴の立枝に吹く風の音きくをりぞ冬はものうき とやまなるしはのたちえにふくかせのおときくをりそふゆはものうき | 曾禰好忠 | 冬 |
6-詞花 | 148 | 秋はなほ木の下かげも暗かりき月は冬こそみるべかりけれ あきはなほこのしたかけもくらかりきつきはふゆこそみるへかりけれ | 読人知らず | 冬 |
6-詞花 | 149 | もろともに山めぐりする時雨かなふるにかひなき身とはしらずや もろともにやまめくりするしくれかなふるにかひなきみとはしらすや | 藤原道雅 | 冬 |
6-詞花 | 150 | いほりさす楢の木かげにもる月のくもるとみれば時雨ふるなり いほりさすならのこかけにもるつきのくもるとみれはしくれふるなり | 瞻西法師 | 冬 |
6-詞花 | 151 | 深山にはあらしやいたく吹きぬらむ網代もたわに紅葉つもれり みやまにはあらしやいたくふきぬらむあしろもたわにもみちつもれり | 平兼盛 | 冬 |
6-詞花 | 152 | あられふる交野の御野の狩ころも濡れぬ宿かす人しなければ あられふるかたののみののかりころもぬれぬやとかすひとしなけれは | 藤原長能 | 冬 |
6-詞花 | 153 | 山ふかみ焼く炭竃の煙こそやがて雪げの雲となりけれ やまふかみやくすみかまのけふりこそやかてゆきけのくもとなりけれ | 大江匡房 | 冬 |
6-詞花 | 154 | 年をへて吉野の山にみなれたる目にめづらしき今朝の初雪 としをへてよしののやまにみなれたるめにめつらしきけさのはつゆき | 藤原義忠 | 冬 |
6-詞花 | 155 | ひぐらしに山路のきのふしぐれしは富士の高嶺の雪にぞありける ひくらしにやまちのきのふしくれしはふしのたかねのゆきにそありける | 大江嘉言 | 冬 |
6-詞花 | 156 | 奥山の岩垣もみぢ散りはてて朽ち葉がうへに雪ぞつもれる おくやまのいはかきもみちちりはててくちはかうへにゆきそつもれる | 大江匡房 | 冬 |
6-詞花 | 157 | くれなゐに見えしこずゑも雪ふれば白木綿かくる神無備の森 くれなゐにみえしこすゑもゆきふれはしらゆふかくるかみなひのもり | 藤原忠通 | 冬 |
6-詞花 | 158 | まつ人の今もきたらばいかがせむ踏ままく惜しき庭の雪かな まつひとのいまもきたらはいかかせむふままくをしきにはのゆきかな | 和泉式部 | 冬 |
6-詞花 | 159 | かずならぬ身にさへ年のつもるかな老は人をもきらはざりけり かすならぬみにさへとしのつもるかなおいはひとをもきらはさりけり | 成尋法師 | 冬 |
6-詞花 | 160 | 魂まつる年のをはりになりにけり今日にやまたもあはむとすらむ たままつるとしのをはりになりにけりけふにやまたもあはむとすらむ | 曾禰好忠 | 冬 |
6-詞花 | 161 | 君が世にあふくま川のそこきよみ千歳をへつつすまむとぞおもふ きみかよにあふくまかはのそこきよみちとせをへつつすまむとそおもふ | 藤原道長 | 賀 |
6-詞花 | 162 | めづらしくけふたちそむる鶴の子は千代のむつきをかさぬべきかな めつらしくけふたちそむるつるのこはちよのむつきをかさぬへきかな | 伊勢大輔 | 賀 |
6-詞花 | 163 | すぎきにしほどをばすてつ今年より千代のかずつむ住吉の松 すききにしほとをはすてつことしよりちよのかすつむすみよしのまつ | 大中臣能宣 | 賀 |
6-詞花 | 164 | 君が世は白雲かかる筑波嶺のみねのつづきの海となるまで きみかよはしらくもかかるつくはねのみねのつつきのうみとなるまて | 能因法師 | 賀 |
6-詞花 | 165 | さかき葉を手にとりもちて祈りつる神の代よりも久しからなむ さかきはをてにとりもちていのりつるかみのよよりもひさしからなむ | 赤染衛門 | 賀 |
6-詞花 | 166 | あかでのみ帰るとおもへば櫻花をるべき春ぞ尽きせざりける あかてのみかへるとおもへはさくらはなをるへきはるそつきせさりける | 中務 | 賀 |
6-詞花 | 167 | 松嶋の磯にむれゐる葦鶴のをのがさまざま見えし千代かな まつしまのいそにむれゐるあしたつのおのかさまさまみえしちよかな | 清原元輔 | 賀 |
6-詞花 | 168 | ひととせを暮れぬとなにか惜しむべき尽きせぬ千代の春をまつには ひととせをくれぬとなにかをしむへきつきせぬちよのはるをまつには | 藤原公任 | 賀 |
6-詞花 | 169 | たれにとか池のこころも思ふらむ底にやどれる松の千歳は たれにとかいけのこころもおもふらむそこにやとれるまつのちとせは | 恵慶法師 | 賀 |
6-詞花 | 170 | 君が代の久しかるべきためしにや神もうゑけむ住吉の松 きみかよのひさしかるへきためしにやかみもうゑけむすみよしのまつ | 読人知らず | 賀 |
6-詞花 | 171 | 住吉のあらひと神の久しさに松もいくたび生ひかはるらむ すみよしのあらひとかみのひさしさにまつもいくたひおひかはるらむ | 源経信 | 賀 |
6-詞花 | 172 | みやこにておぼつかなさをならはずは旅寝をいかにおもひやらまし みやこにておほつかなさをならはすはたひねをいかにおもひやらまし | 民部内侍 | 別 |
6-詞花 | 173 | もろともにたたましものをみちのくの衣の関をよそにきくかな もろともにたたましものをみちのくのころものせきをよそにきくかな | 和泉式部 | 別 |
6-詞花 | 174 | よろこびをくはへにいそぐ旅なれば思へどえこそとどめざりけれ よろこひをくはへにいそくたひなれはおもへとえこそととめさりけれ | 源俊頼 | 別 |
6-詞花 | 175 | とまりゐて待つべき身こそ老いにけれ哀れわかれは人のためかは とまりゐてまつへきみこそおいにけれあはれわかれはひとのためかは | 藤原輔尹 | 別 |
6-詞花 | 176 | かへりこむほどをば知らず悲しきはよを長月の別れなりけり かへりこむほとをもしらすかなしきはよをなかつきのわかれなりけり | 藤原道経 | 別 |
6-詞花 | 177 | 六年にぞ君はきまさむ住吉のまつべき身こそいたく老いぬれ むとせにそきみはきまさむすみよしのまつへきみこそいたくおいぬれ | 津守国基 | 別 |
6-詞花 | 178 | あかねさす日に向ひても思ひいでよ都は晴れぬながめすらむと あかねさすひにむかひてもおもひいてよみやこははれぬなかめすらむと | 一條院皇后宮 | 別 |
6-詞花 | 179 | 別れ路の草葉をわけむ旅衣たつよりかねて濡るる袖かな わかれちのくさはをわけむたひころもたつよりかねてぬるるそてかな | 法橋有禅 | 別 |
6-詞花 | 180 | またこむと誰にもえこそ言ひ置かね心にかなふ命ならねば またこむとたれにもえこそいひおかねこころにかなふいのちならねは | 玄範法師 | 別 |
6-詞花 | 181 | 留まらむ留まらじともおもほえずいづくもつゐのすみかならねば ととまらむととまらしともおもほえすいつくもつひのすみかならねは | 寂昭法師 | 別 |
6-詞花 | 182 | ふたつなき心を君にとどめ置きて我さへわれに別れぬるかな ふたつなきこころをきみにととめおきてわれさへわれにわかれぬるかな | 僧都清因 | 別 |
6-詞花 | 183 | 暮れはまづそなたをのみぞ眺むべき出でむ日ごとに思ひをこせよ くれはまつそなたをのみそなかむへきいてむひことにおもひおこせよ | 太皇太后宮甲斐 | 別 |
6-詞花 | 184 | 東路のはるけき道を行きかへりいつかとくべきしたひもの関 あつまちのはるけきみちをゆきめくりいつかとくへきしたひものせき | 読人知らず | 別 |
6-詞花 | 185 | たち別れ遙かにいきの松なれば恋しかるべき千代のかげかな たちわかれはるかにいきのまつなれはこひしかるへきちよのかけかな | 權僧正永縁 | 別 |
6-詞花 | 186 | はかなくも今朝の別れの惜しきかないつかは人をながらへてみし はかなくもけさのわかれのをしきかないつかはひとをなからへてみし | 名曳 | 別 |
6-詞花 | 187 | あやしくもわがみやま木のもゆるかな思ひは人につけてしものを あやしくもわかみやまきのもゆるかなおもひはひとにつけてしものを | 藤原忠通 | 恋上 |
6-詞花 | 188 | いかでかは思ひありとも知らすべき室の八島のけぶりならでは いかてかはおもひありともしらすへきむろのやしまのけふりならては | 藤原実方 | 恋上 |
6-詞花 | 189 | かくとだに言はではかなく恋ひ死なばやがてしられぬ身とやなりなむ かくとたにいはてはかなくこひしなはやかてしられぬみとやなりなむ | 隆惠法師 | 恋上 |
6-詞花 | 190 | 思ひかね今日たてそむる錦木の千束もまたで逢ふよしもがな おもひかねけふたてそむるにしききのちつかもまたてあふよしもかな | 大江匡房 | 恋上 |
6-詞花 | 191 | 谷川の岩間をわけて行く水の音にのみやは聞かむと思ひし たにかはのいはまをわけてゆくみつのおとにのみやはきかむとおもひし | 平兼盛 | 恋上 |
6-詞花 | 192 | よとともに恋ひつつすぐる年月は変れど変るここちこそせね よとともにこひつつすくるとしつきはかはれとかはるここちこそせね | 一條院 | 恋上 |
6-詞花 | 193 | わか恋は夢路にのみぞ慰むるつれなき人も逢ふとみゆれば わかこひはゆめちにのみそなくさむるつれなきひともあふとみゆれは | 藤原伊家 | 恋上 |
6-詞花 | 194 | 慰むる方もなくてややみなまし夢にも人のつれなかりせば なくさむるかたもなくてややみなましゆめにもひとのつれなかりせは | 徳大寺公能 | 恋上 |
6-詞花 | 195 | 命あらばあふ世もあらむ世の中になど死ぬばかり思ふこころぞ いのちあらはあふよもあらむよのなかになとしぬはかりおもふこころそ | 藤原惟成 | 恋上 |
6-詞花 | 196 | よそながらあはれと言はむことよりも人づてならでいとへとぞ思ふ よそなからあはれといはむことよりもひとつてならていとへとそおもふ | 藤原成通 | 恋上 |
6-詞花 | 197 | 恋ひ死なば君はあはれといはずともなかなかよその人やしのばむ こひしなはきみはあはれといはすともなかなかよそのひとやしのはむ | 覚念法師 | 恋上 |
6-詞花 | 198 | いかばかり人のつらさを恨みまし憂き身の咎と思ひなさずは いかはかりひとのつらさをうらみましうきみのとかとおもひなさすは | 賀茂成助 | 恋上 |
6-詞花 | 199 | いかならむ言の葉にてか靡くべき恋しといふはかひなかりけり いかならむことのはにてかなひくへきこひしといふはかひなかりけり | 藤原頼保 | 恋上 |
6-詞花 | 200 | わがためにつらき人をばをきながら何の罪なき世をやうらみむ わかためにつらきひとをはおきなからなにのつみなきよをやうらみむ | 浄蔵法師 | 恋上 |
6-詞花 | 201 | 忘るやとながらへゆけど身にそひて恋しきことは遅れざりけり わするやとなからへゆけとみにそひてこひしきことはおくれさりけり | 平兼盛 | 恋上 |
6-詞花 | 202 | 年をへて燃ゆてふ富士の山よりも逢はぬ思ひは我ぞまされる としをへてもゆてふふしのやまよりもあはぬおもひはわれそまされる | 読人知らず | 恋上 |
6-詞花 | 203 | わびぬればしゐて忘れむと思へども心弱くも落つるなみだか わひぬれはしひてわすれむとおもへともこころよわくもおつるなみたか | 読人知らず | 恋上 |
6-詞花 | 204 | 思はじと思へばいとど恋しきはいづちか我が心なるらむ おもはしとおもへはいととこひしきはいつちかわれかこころなるらむ | 読人知らず | 恋上 |
6-詞花 | 205 | こころさへむすぶの神やつくりけむ解くるけしきも見えぬ君かな こころさへむすふのかみやつくりけむとくるけしきもみえぬきみかな | 能因法師 | 恋上 |
6-詞花 | 206 | ひとかたに思ひ絶えにし世の中をいかがはすべきしづのをだまき ひとかたにおもひたえにしよのなかをいかかはすへきしつのをたまき | 藤原公任 | 恋上 |
6-詞花 | 207 | かげみえぬ君は雨夜の月なれや出でても人に知られざりけり かけみえぬきみはあまよのつきなれやいててもひとにしられさりけり | 僧都覚雅 | 恋上 |
6-詞花 | 208 | たなばたに今朝引く糸の露をおもみ撓むけしきを見でややみなむ たなはたにけさひくいとのつゆをおもみたわむけしきをみてややみなむ | 藤原成通 | 恋上 |
6-詞花 | 209 | 身のほどを思ひ知りぬることのみやつれなき人のなさけなるらむ みのほとをおもひしりぬることのみやつれなきひとのなさけなるらむ | 隆縁法師 | 恋上 |
6-詞花 | 210 | わびつつもおなじ都はなぐさめき旅寝ぞ恋のかぎりなりける わひつつもおなしみやこはなくさめきたひねそこひのかきりなりける | 藤原家成 | 恋上 |
6-詞花 | 211 | 風をいたみ岩うつ波のおのれのみ砕けてものを思ふころかな かせをいたみいはうつなみのおのれのみくたけてものをおもふころかな | 源重之 | 恋上 |
6-詞花 | 212 | わが恋は吉野の山の奥なれや思ひいれども逢ふ人もなし わかこひはよしののやまのおくなれやおもひいれともあふひともなし | 藤原顕季 | 恋上 |
6-詞花 | 213 | 胸は富士袖は清見が関なれや煙も波も立たぬ日ぞなき むねはふしそてはきよみかせきなれやけふりもなみもたたぬひそなき | 平祐挙 | 恋上 |
6-詞花 | 214 | いたづらに千束朽ちにし錦木を猶こりづまにおもひたつかな いたつらにちつかくちにしにしききをなほこりつまにおもひたつかな | 藤原永実 | 恋上 |
6-詞花 | 215 | 山櫻つひに咲くべきものならば人の心をつくさざらなむ やまさくらつひにさくへきものならはひとのこころをつくささらなむ | 道命法師 | 恋上 |
6-詞花 | 216 | 霜置かぬ人の心はうつろひて面がはりせぬ白菊の花 しもおかぬひとのこころはうつろひておもかはりせぬしらきくのはな | 源家時 | 恋上 |
6-詞花 | 217 | 白菊のかはらぬいろも頼まれずうつろはでやむ秋しなければ しらきくのかはらぬいろもたのまれすうつろはてやむあきしなけれは | 藤原公実 | 恋上 |
6-詞花 | 218 | くれなゐの濃染の衣うへにきむ恋の涙の色隠るやと くれなゐのこそめのころもうへにきむこひのなみたのいろかくるやと | 藤原顕綱 | 恋上 |
6-詞花 | 219 | しのぶれど涙ぞしるきくれなゐに物思ふ袖は染むべかりけり しのふれとなみたそしるきくれなゐにものおもふそてはそむへかりけり | 源道済 | 恋上 |
6-詞花 | 220 | くれなゐに涙の色もなりにけり変るは人の心のみかは くれなゐになみたのいろもなりにけりかはるはひとのこころのみかは | 源雅光 | 恋上 |
6-詞花 | 221 | 恋ひ死なむ身こそおもへば惜しからね憂きも辛きも人の咎かは こひしなむみこそおもへはをしからねうきもつらきもひとのとかかは | 平実重 | 恋上 |
6-詞花 | 222 | 辛さをば君にならひて知りぬるを嬉しきことを誰にとはまし つらさをはきみにならひてしりぬるをうれしきことをたれにとはまし | 道命法師 | 恋上 |
6-詞花 | 223 | 嬉しきはいかばかりかは思ふらむ憂きは身にしむものにぞありける うれしきはいかはかりかはおもふらむうきはみにしむものにそありける | 藤原道信 | 恋上 |
6-詞花 | 224 | 恋すれば憂き身さへこそ惜しまるれおなじ世にだに住まむとおもへば こひすれはうきみさへこそをしまるれおなしよにたにすまむとおもへは | 心覚法師 | 恋上 |
6-詞花 | 225 | みかきもり衛士の焚く火の夜は燃え昼は消えつつものをこそおもへ みかきもりゑしのたくひのよるはもえひるはきえつつものをこそおもへ | 大中臣能宣 | 恋上 |
6-詞花 | 226 | わが恋やふたみかはれる玉くしげいかにすれども逢ふかたもなき わかこひやふたみかはれるたまくしけいかにすれともあふかたもなき | 読人知らず | 恋上 |
6-詞花 | 227 | こほりして音はせねども山川の下は流るるものと知らずや こほりしておとはせねともやまかはのしたになかるるものとしらすや | 藤原範永 | 恋上 |
6-詞花 | 228 | 風ふけば藻鹽の煙かたよりに靡くを人の心ともがな かせふけはもしほのけふりかたよりになひくをひとのこころともかな | 藤原親隆 | 恋上 |
6-詞花 | 229 | 瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれてもすゑにあはむとぞ思ふ せをはやみいはにせかるるたきかはのわれてもすゑにあはむとそおもふ | 崇徳院 | 恋上 |
6-詞花 | 230 | 播磨なる飾磨に染むるあながちに人を恋ひしと思ふころかな はりまなるしかまにそむるあなかちにひとをこひしとおもふころかな | 曾禰好忠 | 恋上 |
6-詞花 | 231 | ほどもなく暮るると思ひし冬の日のこころもとなき折もありけり ほともなくくるるとおもひしふゆのひのこころもとなきをりもありけり | 道命法師 | 恋上 |
6-詞花 | 232 | 恋ひわびてひとり伏せ屋に夜もすがら落つる涙や音無の瀧 こひわひてひとりふせやによもすからおつるなみたやおとなしのたき | 藤原俊忠 | 恋上 |
6-詞花 | 233 | 君をわが思ふこころは大原やいつしかとのみすみやかれつつ きみをわかおもふこころはおほはらやいつしかとのみすみやかれつつ | 藤原相如 | 恋下 |
6-詞花 | 234 | わか恋はあひそめてこそまさりけれ飾磨の褐の色ならねども わかこひはあひそめてこそまさりけれしかまのかちのいろならねとも | 藤原道経 | 恋下 |
6-詞花 | 235 | 夜をふかみ帰りし空もなかりしをいづくより置く露にぬれけむ よをふかみかへりしそらもなかりしをいつくよりおくつゆにぬれけむ | 清原元輔 | 恋下 |
6-詞花 | 236 | こころをば留めてこそは帰りつれあやしや何の暮をまつらむ こころをはととめてこそはかへりつれあやしやなにのくれをまつらむ | 藤原顕広 | 恋下 |
6-詞花 | 237 | 竹の葉に玉ぬく露にあらねどもまだ夜をこめて置きにけるかな たけのはにたまぬくつゆにあらねともまたよをこめておきにけるかな | 藤原実方 | 恋下 |
6-詞花 | 238 | みな人の惜しむ日なれど我はただ遅く暮れゆく嘆きをぞする みなひとのをしむひなれとわれはたたおそくくれゆくなけきをそする | 読人知らず | 恋下 |
6-詞花 | 239 | 住吉の浅澤小野の忘れ水たえだえならであふよしもがな すみよしのあささはをののわすれみつたえたえならてあふよしもかな | 藤原範綱 | 恋下 |
6-詞花 | 240 | 我のみや思ひおこせむあぢきなく人はゆくへも知らぬものゆゑ われのみやおもひおこせむあちきなくひとはゆくへもしらぬものゆゑ | 和泉式部 | 恋下 |
6-詞花 | 241 | 思ふことなくて過ぎつる世の中につひにこころをとどめつるかな おもふことなくてすきつるよのなかにつひにこころをととめつるかな | 大江為基 | 恋下 |
6-詞花 | 242 | つねよりも露けかりける今宵かなこれや秋立つはじめなるらむ つねよりもつゆけかりけるこよひかなこれやあきたつはしめなるらむ | 祐子内親王家紀伊 | 恋下 |
6-詞花 | 243 | せきとむる岩間の水もおのづから下には通ふものとこそきけ せきとむるいはまのみつもおのつからしたにはかよふものとこそきけ | 坂上明兼 | 恋下 |
6-詞花 | 244 | あふことはまばらにあめる伊予すだれいよいよ我をわびさするかな あふことはまはらにあめるいよすたれいよいよわれをわひさするかな | 恵慶法師 | 恋下 |
6-詞花 | 245 | いづくをも夜がるることのわりなきに二つに分くる我が身ともがな いつくをもよかるることのわりなきにふたつにわくるわかみともかな | 源雅定 | 恋下 |
6-詞花 | 246 | もろともにおきゐる露のなかりせば誰とか秋の夜をあかさまし もろともにおきゐるつゆのなかりせはたれとかあきのよをあかさまし | 赤染衛門 | 恋下 |
6-詞花 | 247 | 来たりとも寝るまもあらじ夏の夜の有明月もかたぶきにけり きたりともぬるまもあらしなつのよのありあけつきもかたふきにけり | 曾禰好忠 | 恋下 |
6-詞花 | 248 | こぬ人をうらみもはてじ契り置きしその言の葉もなさけならずや こぬひとをうらみもはてしちきりおきしそのことのはもなさけならすや | 藤原忠通 | 恋下 |
6-詞花 | 249 | 夕暮に物思ふことはまさるやと我ならざらむ人にとはばや ゆふくれにものおもふことはまさるやとわれならさらむひとにとははや | 和泉式部 | 恋下 |
6-詞花 | 250 | なみださへいでにしかたをながめつつ心にもあらぬ月をみしかな なみたさへいてにしかたをなかめつつこころにもあらぬつきをみしかな | 和泉式部 | 恋下 |
6-詞花 | 251 | つらしとて我さへ人を忘れなばさりとて仲の絶えやはつべき つらしとてわれさへひとをわすれなはさりとてなかのたえやはつへき | 読人知らず | 恋下 |
6-詞花 | 252 | あふことや涙の玉の緒なるらむしばし絶ゆれば落ちてみだるる あふことやなみたのたまのをなるらむしはしたゆれはおちてみたるる | 平公誠 | 恋下 |
6-詞花 | 253 | 御狩野のしばしのこひはさもあらばあれ背りはてぬるか矢形尾の鷹 みかりののしはしのこひはさもあらはあれそりはてぬるかやかたをのたか | 最厳法師 | 恋下 |
6-詞花 | 254 | 竹の葉にあられふるなりさらさらにひとりは寝べき心地こそせね たけのはにあられふるなりさらさらにひとりはぬへきここちこそせね | 和泉式部 | 恋下 |
6-詞花 | 255 | ありふるも苦しかりけりながらへぬ人の心を命ともがな ありふるもくるしかりけりなからへぬひとのこころをいのちともかな | 相模 | 恋下 |
6-詞花 | 256 | うきながらさすがにものの悲しきは今は限りと思ふなりけり うきなからさすかにもののかなしきはいまはかきりとおもふなりけり | 清原元輔 | 恋下 |
6-詞花 | 257 | とはぬまをうらむらさきにさく藤の何とてまつにかかりそめけむ とはぬまをうらむらさきにさくふちのなにとてまつにかかりそめけむ | 俊子内親王大進 | 恋下 |
6-詞花 | 258 | 思ひやれかけひの水の絶え絶えになりゆくほどの心細さを おもひやれかけひのみつのたえたえになりゆくほとのこころほそさを | 高階章行女 | 恋下 |
6-詞花 | 259 | うぐひすは木つたふ花の枝にても谷の古巣をおもひわするな うくひすはこつたふはなのえたにてもたにのふるすをおもひわするな | 律師仁祐 | 恋下 |
6-詞花 | 260 | うぐひすは花のみやこも旅なれば谷の古巣を忘れやはする うくひすははなのみやこもたひなれはたにのふるすをわすれやはする | 行尊 | 恋下 |
6-詞花 | 261 | 夜をかさね霜とともにしおきゐればありしばかりの夢だにもみず よをかさねしもとともにしおきゐれはありしはかりのゆめたにもみす | 皇嘉門院出雲 | 恋下 |
6-詞花 | 262 | 逢ふことも我が心よりありしかば恋は死ぬとも人は恨みじ あふこともわかこころよりありしかはこひはしぬともひとはうらみし | 源国信 | 恋下 |
6-詞花 | 263 | 汲みみてし心ひとつをしるべにて野中の清水わすれやはする くみみてしこころひとつをしるへにてのなかのしみつわすれやはする | 藤原仲実 | 恋下 |
6-詞花 | 264 | 浅茅生にけさ置く露の寒けくにかれにし人のなぞやこひしき あさちふにけさおくつゆのさむけくにかれにしひとのなそやこひしき | 藤原基俊 | 恋下 |
6-詞花 | 265 | 忘らるる身はことわりと知りながら思ひあへぬは涙なりけり わすらるるみはことわりとしりなからおもひあへぬはなみたなりけり | 清少納言 | 恋下 |
6-詞花 | 266 | いまよりは訪へともいはじ我ぞただ仁を忘るることをしるべき いまよりはとへともいはしわれそたたひとをわするることをしるへき | 読人知らず | 恋下 |
6-詞花 | 267 | さりとては誰にかいはむ今はただ人を忘るるこころ教へよ さりとてはたれにかいはむいまはたたひとをわするるこころをしへよ | 読人知らず | 恋下 |
6-詞花 | 268 | まだ知らぬことをばいかが教ふべき人を忘るる身にしあらねば またしらぬことをはいかかをしふへきひとをわするるみにしあらねは | 藤原通俊 | 恋下 |
6-詞花 | 269 | いくかへりつらしと人をみくまののうらめしながら恋しかるらむ いくかへりつらしとひとをみくまののうらめしなからこひしかるらむ | 和泉式部 | 恋下 |
6-詞花 | 270 | 夕暮は待たれしものを今はただ行くらむかたを思ひこそやれ ゆふくれはまたれしものをいまはたたゆくらむかたをおもひこそやれ | 相模 | 恋下 |
6-詞花 | 271 | わすらるる人目ばかりを嘆きにて恋しきことのなからましかば わすらるるひとめはかりをなけきにてこひしきことのなからましかは | 読人知らず | 恋下 |
6-詞花 | 272 | 春霞かすめるかたや津の国のほのみしま江のわたりなるらむ はるかすみかすめるかたやつのくにのほのみしまえのわたりなるらむ | 源頼家 | 雑上 |
6-詞花 | 273 | 須磨の浦に焼く塩釜のけぶりこそ春にしられぬ霞なりけれ すまのうらにやくしほかまのけふりこそはるにしられぬかすみなりけれ | 源俊頼 | 雑上 |
6-詞花 | 274 | なみたてる松のしづ枝をくもでにて霞わたれる天の橋立 なみたてるまつのしつえをくもてにてかすみわたれるあまのはしたて | 源俊頼 | 雑上 |
6-詞花 | 275 | ながゐすな都の花も咲きぬらむ我もなにゆゑ急ぐ綱手ぞ なかゐすなみやこのはなもさきぬらむわれもなにゆゑいそくつなてそ | 平忠盛 | 雑上 |
6-詞花 | 276 | 木のもとをすみかとすればをのづから花見る人となりぬべきかな このもとをすみかとすれはおのつからはなみるひととなりぬへきかな | 花山院 | 雑上 |
6-詞花 | 277 | 散らぬまに今ひとたびも見てしがな花にさきだつ身ともこそなれ ちらぬまにいまひとたひもみてしかなはなにさきたつみともこそなれ | 天台座主源心 | 雑上 |
6-詞花 | 278 | 春くればあぢか潟のみひとかたに浮くてふ魚の名こそ惜しけれ はるくれはあちかたたのみひとかたにうくてふうをのなこそをしけれ | 大江匡房 | 雑上 |
6-詞花 | 279 | 身をしらで人をうらむる心こそ散る花よりもはかなかりけれ みをしらてひとをうらむるこころこそちるはなよりもはかなかりけれ | 藤原頼宗 | 雑上 |
6-詞花 | 280 | 春の来ぬところはなきを白河のわたりにのみや花はさくらむ はるのこぬところはなきをしらかはのわたりにのみやはなはさくらむ | 小式部内侍 | 雑上 |
6-詞花 | 281 | たれかこの數はさだめし我はただとへとぞおもふ山吹のはな たれかこのかすはさためしわれはたたとへとそおもふやまふきのはな | 藤原道綱母 | 雑上 |
6-詞花 | 282 | 春日山北の藤波咲きしよりさかゆべしとはかねてしりにき かすかやまきたのふちなみさきしよりさかゆへしとはかねてしりにき | 源師頼 | 雑上 |
6-詞花 | 283 | 美作や久米のさら山とおもへどもわかの浦とぞいふべかりける みまさかやくめのさらやまとおもへともわかのうらとそいふへかりける | 読人知らず | 雑上 |
6-詞花 | 284 | 和歌の浦といふにてしりぬ風ふかば波のたちことおもふなるべし わかのうらといふにてしりぬかせふかはなみのたちことおもふなるへし | 藤原長実 | 雑上 |
6-詞花 | 285 | くもゐよりつらぬきかくる白玉をたれぬのひきの瀧といひけむ くもゐよりつらぬきかくるしらたまをたれぬのひきのたきといひけむ | 藤原隆季 | 雑上 |
6-詞花 | 286 | 難波江のしげき蘆間をこぐ舟はさをのおとにぞ行くかたをしる なにはえのしけきあしまをこくふねはさをのおとにそゆくかたをしる | 源行宗 | 雑上 |
6-詞花 | 287 | 思ひいでもなくてやわが身やみなましをばすて山の月みざりせは おもひいてもなくてやわかみやみなましをはすてやまのつきみさりせは | 律師済慶 | 雑上 |
6-詞花 | 288 | 名にたかきをばすて山も見しかどもこよひばかりの月はなかりき なにたかきをはすてやまもみしかともこよひはかりのつきはなかりき | 藤原為実 | 雑上 |
6-詞花 | 289 | 月は入り人はいでなばとまりゐてひとりや我が空をながめむ つきはいりひとはいてなはとまりゐてひとりやわれかそらをなかめむ | 大中臣能宣 | 雑上 |
6-詞花 | 290 | 池水にやどれる月はそれながらながむる人のかげぞ変れる いけみつにやとれるつきはそれなからなかむるひとのかけそかはれる | 小一條院 | 雑上 |
6-詞花 | 291 | 世の中をおもひないりそ三笠山さしいづる月のすまむかぎりは よのなかをおもひないりそみかさやまさしいつるつきのすまむかきりは | 読人知らず | 雑上 |
6-詞花 | 292 | 月きよみ田中にたてる仮庵のかげばかりこそくもりなりけれ つききよみたなかにたてるかりいほのかけはかりこそくもりなりけれ | 崇徳院 | 雑上 |
6-詞花 | 293 | 澄みのぼる月のひかりにさそはれて雲の上までゆくこころかな すみのほるつきのひかりにさそはれてくものうへまてゆくこころかな | 三条実行 | 雑上 |
6-詞花 | 294 | 板間より月のもるをも見つるかな宿は荒して住むべかりけり いたまよりつきのもるをもみつるかなやとはあらしてすむへかりけり | 良暹法師 | 雑上 |
6-詞花 | 295 | くまもなく信太の森の下晴れて千枝のかずさへ見ゆる月かな くまもなくしのたのもりのしたはれてちえのかすさへみゆるつきかけ | 徳大寺実能 | 雑上 |
6-詞花 | 296 | さびしさに家出しぬべき山里を今宵の月におもひとまりぬ さひしさにいへてしぬへきやまさとをこよひのつきにおもひとまりぬ | 源道済 | 雑上 |
6-詞花 | 297 | ゆく人も天のとわたる心地して雲の波路に月を見るかな ゆくひともあまのとわたるここちしてくものなみちにつきをみるかな | 平忠盛 | 雑上 |
6-詞花 | 298 | 君まつと山の端いでて山の端に入るまで月を眺めつるかな きみまつとやまのはいててやまのはにいるまてつきをなかめつるかな | 橘為義 | 雑上 |
6-詞花 | 299 | いかなれば待つにはいづる月なれど入るを心にまかせざるらむ いかなれはまつにはいつるつきなれといるをこころにまかせさるらむ | 藤原公実 | 雑上 |
6-詞花 | 300 | こころみにほかの月をも見てしがな我が宿からのあはれなるかと こころみにほかのつきをもみてしかなわかやとからのあはれなるかと | 花山院 | 雑上 |
6-詞花 | 301 | うらめしく帰りけるかな月夜には来ぬ人をだに待つとこそきけ うらめしくかへりけるかなつきよにはこぬひとをたにまつとこそきけ | 具平親王 | 雑上 |
6-詞花 | 302 | かご山の白雲かかる峰にてもおなじたかさぞ月はみえける かこやまのしらくもかかるみねにてもおなしたかさそつきはみえける | 大江嘉言 | 雑上 |
6-詞花 | 303 | よもすがら富士の高嶺に雲きえて清見が関にすめる月かな よもすからふしのたかねにくもきえてきよみかせきにすめるつきかな | 藤原顕輔 | 雑上 |
6-詞花 | 304 | 山城の石田の森のいはずともこころのうちを照らせ月影 やましろのいはたのもりのいはすともこころのうちをてらせつきかけ | 藤原輔尹 | 雑上 |
6-詞花 | 305 | 月にこそむかしのことはおぼえけれ我を忘るる人にみせばや つきにこそむかしのことはおほえけれわれをわするるひとにみせはや | 中原長国 | 雑上 |
6-詞花 | 306 | ながらへば思ひいでにせむ思ひいでよ君とみかさの山の端の月 なからへはおもひいてにせむおもひいてよきみとみかさのやまのはのつき | 琳賢法師 | 雑上 |
6-詞花 | 307 | 逢坂の関の杉原下晴れて月のもるにぞまかせたりける あふさかのせきのすきはらしたはれてつきのもるにそまかせたりける | 大江匡房 | 雑上 |
6-詞花 | 308 | つれづれと荒れたる宿を眺むれば月ばかりこそ昔なりけれ つれつれとあれたるやとをなかむれはつきはかりこそむかしなりけれ | 藤原伊周 | 雑上 |
6-詞花 | 309 | 深くいりて住まばやと思ふ山の端をいかなる月のいづるなるらむ ふかくいりてすまはやとおもふやまのはをいかなるつきのいつるなるらむ | 高松上 | 雑上 |
6-詞花 | 310 | をのが身のをのが心にかなはぬを思はばものは思ひ知りなむ おのかみのおのかこころにかなはぬをおもははものはおもひしりなむ | 和泉式部 | 雑上 |
6-詞花 | 311 | あやめ草かりにも来らむものゆゑに閨の妻とや人のみつらむ あやめくさかりにもくらむものゆゑにねやのつまとやひとのみるらむ | 和泉式部 | 雑上 |
6-詞花 | 312 | 人しれずもの思ふことはならひにき花にわかれぬ春しなければ ひとしれすものおもふことはならひにきはなにわかれぬはるしなけれは | 和泉式部 | 雑上 |
6-詞花 | 313 | おもはれぬ空のけしきを見るからに我もしぐるる神無月かな おもはれぬそらのけしきをみるからにわれもしくるるかみなつきかな | 読人知らず | 雑上 |
6-詞花 | 314 | あだ人はしぐるる夜半の月なれやすむとてえこそ頼むまじけれ あたひとはしくるるよはのつきなれやすむとてえこそたのむましけれ | 待賢門院堀河 | 雑上 |
6-詞花 | 315 | 誰が里にかたらひかねてほととぎす帰る山路のたよりなるらむ たかさとにかたらひかねてほとときすかへるやまちのたよりなるらむ | 読人知らず | 雑上 |
6-詞花 | 316 | よしさらばつらさは我にならひけり頼めてこぬは誰かをしへし よしさらはつらさはわれにならひけりたのめてこぬはたれかをしへし | 清少納言 | 雑上 |
6-詞花 | 317 | かづきけむ袂は雨にいかがせし濡るるはさてもおもひしれかし かつきけむたもとはあめにいかかせしぬるるはさてもおもひしれかし | 江侍従 | 雑上 |
6-詞花 | 318 | 深くしも頼まざらなむ君ゆゑに雪ふみわけて夜な夜なぞゆく ふかくしもたのまさらなむきみゆゑにゆきふみわけてよなよなそゆく | 曾禰好忠 | 雑上 |
6-詞花 | 319 | よの人のまだしらぬまの薄ごほり見わかぬほどに消えねとぞ思ふ よのひとのまたしらぬまのうすこほりみわかぬほとにきえねとそおもふ | 赤染衛門 | 雑上 |
6-詞花 | 320 | 秋はみな思ふことなき荻の葉も末たわむまで露は置くめり あきはみなおもふことなきをきのはもすゑたわむまてつゆはおくめり | 和泉式部 | 雑上 |
6-詞花 | 321 | いかなればおなじ流れの水にしもさのみは月のうつるなるらむ いかなれはおなしなかれのみつにしもさのみはつきのうつるなるらむ | 藤原忠清 | 雑上 |
6-詞花 | 322 | 住吉の細江にさせるみをつくし深きにまけぬ人はあらじな すみよしのほそえにさせるみをつくしふかきにまけぬひとはあらしな | 相模 | 雑上 |
6-詞花 | 323 | ふる雨のあしともおつる涙かなこまかにものを思ひくだけば ふるあめのあしともおつるなみたかなこまかにものをおもひくたけは | 藤原道綱母 | 雑上 |
6-詞花 | 324 | 神無月ありあけの空のしぐるるをまた我ならぬ人やみるらむ かみなつきありあけのそらのしくるるをまたわれならぬひとやみるらむ | 赤染衛門 | 雑上 |
6-詞花 | 325 | 忍ぶるも苦しかりけり數ならぬ身には涙のなからましかば しのふるもくるしかりけりかすならぬみにはなみたのなからましかは | 出羽辨 | 雑上 |
6-詞花 | 326 | 音せぬは苦しきものを身にちかくなるとていとふ人もありけり おとせぬはくるしきものをみにちかくなるとていとふひともありけり | 和泉式部 | 雑上 |
6-詞花 | 327 | ひとの世にふたたび死ぬるものならばしのびけりやと心みてまし ひとのよにふたたひしぬるものならはしのひけりやとこころみてまし | 大弐三位 | 雑上 |
6-詞花 | 328 | 夕霧に佐野の舟橋おとすなり手馴れの駒の帰りくるかも ゆふきりにさののふなはしおとすなりてなれのこまのかへりくるかも | 源俊雅母 | 雑上 |
6-詞花 | 329 | 住吉の波にひたれる松よりも神のしるしぞあらはれにける すみよしのなみにひたれるまつよりもかみのしるしそあらはれにける | 藤原資業 | 雑上 |
6-詞花 | 330 | いかでかくねををしむらむあやめ草うきには聲もたてつべき世を いかてかくねををしむらむあやめくさうきにはこゑもたてつへきよを | 周防内侍 | 雑上 |
6-詞花 | 331 | 世の中にふるかひもなき竹のこはわがつむ年をたてまつるなり よのなかにふるかひもなきたけのこはわかつむとしをたてまつるなり | 花山院 | 雑上 |
6-詞花 | 332 | 年へぬる竹のよはひを返しても子のよをながくなさむとぞ思ふ としへぬるたけのよはひをかへしてもこのよをなかくなさむとそおもふ | 冷泉院 | 雑上 |
6-詞花 | 333 | あしかれとおもはぬ山の峰にだに生ふなるものを人のなげきは あしかれとおもはぬやまのみねにたにおふなるものをひとのなけきは | 和泉式部 | 雑上 |
6-詞花 | 334 | ひたぶるに山田もる身となりぬれば我のみ人をおどろかすかな ひたふるにやまたもるみとなりぬれはわれのみひとをおとろかすかな | 能因法師 | 雑上 |
6-詞花 | 335 | 三笠山さすがに蔭にかくろへてふるかひもなきあめのしたかな みかさやまさすかにかけにかくろへてふるかひもなきあめのしたかな | 源仲正 | 雑上 |
6-詞花 | 336 | 君引かずなりなましかばあやめ草いかなるねをか今日はかけまし きみひかすなりなましかはあやめくさいかなるねをかけふはかけまし | 平致経 | 雑上 |
6-詞花 | 337 | おもひかね別れし野邊を来てみれば浅茅が原に秋風ぞふく おもひかねわかれしのへをきてみれはあさちかはらにあきかせそふく | 源道済 | 雑上 |
6-詞花 | 338 | ふるさとへ我はかへりぬ武隈のまつとは誰につげよとかおもふ ふるさとへわれはかへりぬたけくまのまつとはたれにつけよとかおもふ | 橘為仲 | 雑上 |
6-詞花 | 339 | 枯れはつる藤の末葉の悲しきはただ春の日をたのむばかりぞ かれはつるふちのすゑはのかなしきはたたはるのひをたのむはかりそ | 藤原顕輔 | 雑上 |
6-詞花 | 340 | 夜の鶴みやこのうちにはなたれて子を恋ひつつもなきあかすかな よるのつるみやこのうちにはなたれてこをこひつつもなきあかすかな | 高内侍 | 雑上 |
6-詞花 | 341 | 身のうさは過ぎぬるかたを思ふにもいまゆくすゑのことぞかなしき みのうさはすきぬるかたをおもふにもいまゆくすゑのことそかなしき | 源師頼 | 雑上 |
6-詞花 | 342 | 埋れ木の下は朽つれぞいにしへの花の心は忘れざりけり うもれきのしたはくつれといにしへのはなのこころはわすれさりけり | 大江匡房 | 雑上 |
6-詞花 | 343 | 今はただ昔ぞつねに恋ひらるる残りありしを思ひ出にして いまはたたむかしそつねにこひらるるのこりありしをおもひてにして | 藤原伊通 | 雑上 |
6-詞花 | 344 | 老いてのち昔をしのぶ涙こそここら人目をしのばざりけれ おいてのちむかしをしのふなみたこそここらひとめをしのはさりけれ | 清原元輔 | 雑上 |
6-詞花 | 345 | ゆくすゑのいにしへばかり恋しくは過ぐる月日も歎かざらまし ゆくすゑのいにしへはかりこひしくはすくるつきひもなけかさらまし | 賀茂政平 | 雑上 |
6-詞花 | 346 | 厭ひてもなほ惜しまるる我が身かなふたたび来べきこの世ならねば いとひてもなほをしまるるわかみかなふたたひくへきこのよならねは | 藤原季通 | 雑上 |
6-詞花 | 347 | 難波江の蘆間にやどる月みれば我が身ひとつはしづまざりけり なにはえのあしまにやとるつきみれはわかみひとつもしつまさりけり | 藤原顕輔 | 雑上 |
6-詞花 | 348 | 蘆火たくやまのすみかは世の中をあくがれいづる門出なりけり あしひたくまやのすみかはよのなかをあくかれいつるかとてなりけり | 源俊頼 | 雑下 |
6-詞花 | 349 | 賤の女がゑぐつむ澤の薄氷いつまでふべき我が身なるらむ しつのめかゑくつむさはのうすこほりいつまてふへきわかみなるらむ | 源俊頼 | 雑下 |
6-詞花 | 350 | むかしみし雲ゐをこひて蘆鶴の澤邊に鳴くや我が身なるらむ むかしみしくもゐをこひてあしたつのさはへになくやわかみなるらむ | 藤原公重 | 雑下 |
6-詞花 | 351 | 三日月のまた有明になりぬるや憂き世をめぐるためしなるらむ みかつきのまたありあけになりぬるやうきよをめくるためしなるらむ | 藤原教長 | 雑下 |
6-詞花 | 352 | ちる花にまたもや逢はむおぼつかなその春までと知らぬ身なれば ちるはなにまたもやあはむおほつかなそのはるまてとしらぬみなれは | 藤原実方 | 雑下 |
6-詞花 | 353 | 朝な朝な鹿のしがらむ萩の枝の末葉の露のありがたの世や あさなあさなしかのしからむはきかえのすゑはのつゆのありかたのよや | 増基法師 | 雑下 |
6-詞花 | 354 | 花薄まねかばここにとまりなむいづれの野邊もつひのすみかぞ はなすすきまねかはここにとまりなむいつれののへもつひのすみかそ | 源親元 | 雑下 |
6-詞花 | 355 | よそにみし尾花がすゑの白露はあるかなきかの我が身なりけり よそにみしをはなかすゑのしらつゆはあるかなきかのわかみなりけり | 四條中宮 | 雑下 |
6-詞花 | 356 | かくしつつ今はとならむ時にこそ悔しきことのかひもなからめ かくしつついまはとならむときにこそくやしきことのかひもなからめ | 花山院 | 雑下 |
6-詞花 | 357 | 夕暮はものぞかなしき鐘の音をあすもきくべき身とし知らねば ゆふくれはものそかなしきかねのおとをあすもきくへきみとししらねは | 和泉式部 | 雑下 |
6-詞花 | 358 | うぐひすの鳴くになみだの落つるかなまたもや春にあはむとすらむ うくひすのなくになみたのおつるかなまたもやはるにあはむとすらむ | 藤原教良母 | 雑下 |
6-詞花 | 359 | みな人のむかしがたりになりゆくをいつまでよそに聞かむとすらむ みなひとのむかしかたりになりゆくをいつまてよそにきかむとすらむ | 法橋清昭 | 雑下 |
6-詞花 | 360 | この世だに月まつほどはくるしきにあはれいかなる闇にまどはむ このよたにつきまつほとはくるしきにあはれいかなるやみにまとはむ | 源顕仲女 | 雑下 |
6-詞花 | 361 | おぼつかなまだみぬ道を死出の山雪ふみわけて越えむとすらむ おほつかなまたみぬみちをしてのやまゆきふみわけてこえむとすらむ | 良暹法師 | 雑下 |
6-詞花 | 362 | 代らむと祈るいのちは惜しからでさても別れむことぞ悲しき かはらむといのるいのちはをしからてさてもわかれむことそかなしき | 赤染衛門 | 雑下 |
6-詞花 | 363 | この世にはまたもあふまじ梅の花ちりぢりならむことぞかなしき このよにはまたもあふましうめのはなちりちりならむことそかなしき | 行尊 | 雑下 |
6-詞花 | 364 | この身をばむなしきものと知りぬれば罪えむこともあらじとぞ思ふ このみをはむなしきものとしりぬれはつみえむこともあらしとそおもふ | 読人知らず | 雑下 |
6-詞花 | 365 | わが思ふことのしげさにくらぶれば信太の森の千枝はかずかは わかおもふことのしけさにくらふれはしのたのもりのちえはかすかは | 増基法師 | 雑下 |
6-詞花 | 366 | 網代にはしづむ水屑もなかりけり宇治のわたりに我やすままし あしろにはしつむみくつもなかりけりうちのわたりにわれやすままし | 大江以言 | 雑下 |
6-詞花 | 367 | 大原やまだすみがまもならはねばわが宿のみぞけぶりたえたる おほはらやまたすみかまもならはねはわかやとのみそけふりたえたる | 良暹法師 | 雑下 |
6-詞花 | 368 | なみだ河その水上をたづぬれば世のうきめよりいづるなりけり なみたかはそのみなかみをたつぬれはよのうきめよりいつるなりけり | 賢智法師 | 雑下 |
6-詞花 | 369 | 思ひやれこころの水のあさければかき流すべき言の葉もなし おもひやれこころのみつのあさけれはかきなかすへきことのはもなし | 三条実行 | 雑下 |
6-詞花 | 370 | かりそめのうきよのやみをかきわけてうらやましくもいづる月かな かりそめのうきよのやみをかきわけてうらやましくもいつるつきかな | 大江匡房 | 雑下 |
6-詞花 | 371 | 帰る雁西へゆきせばたまづさにおもふことをばかきつけてまし かへるかりにしへゆきせはたまつさにおもふことをはかきつけてまし | 沙弥蓮寂 | 雑下 |
6-詞花 | 372 | 身をすつる人はまことにすつるかはすてぬ人こそすつるなりけれ みをすつるひとはまことにすつるかはすてぬひとこそすつるなりけれ | 読人知らず | 雑下 |
6-詞花 | 373 | 筑波山ふかくうれしと思ふかな濱名の橋にわたす心を つくはやまふかくうれしとおもふかなはまなのはしにわたすこころを | 太皇大后宮肥後 | 雑下 |
6-詞花 | 374 | 年を経て星をいただく黒髪のひとよりしもになりにけるかな としをへてほしをいたたくくろかみのひとよりしもになりにけるかな | 大中臣能宣 | 雑下 |
6-詞花 | 375 | 雲の上は月こそさやにさえわたれまだとどこほるものや何なり くものうへはつきこそさやにさえわたれまたととこほるものやなになり | 津守国基 | 雑下 |
6-詞花 | 376 | とどこほることはなけれど住吉のまつ心にやひさしかるらむ ととこほることはなけれとすみよしのまつこころにやひさしかるらむ | 藤原顕季 | 雑下 |
6-詞花 | 377 | 白河の流れをたのむこころをば誰かはそらにくみてしるべき しらかはのなかれをたのむこころをはたれかはそらにくみてしるへき | 藤原成通 | 雑下 |
6-詞花 | 378 | ももとせは花にやどりてすぐしてきこの世は蝶の夢にざりける ももとせのはなにやとりてすくしてきこのよはてふのゆめにさりける | 大江匡房 | 雑下 |
6-詞花 | 379 | ひさかたの天の香具山いづる日もわが方にこそひかりさすらめ ひさかたのあまのかくやまいつるひもわかかたにこそひかりさすらめ | 崇徳院 | 雑下 |
6-詞花 | 380 | このもとにかきあつめつる言の葉をははその森のかたみとはみよ このもとにかきあつめつることのはをははそのもりのかたみとはみよ | 源義国妻 | 雑下 |
6-詞花 | 381 | 思ひかねそなたの空をながむればただ山の端にかかる白雲 おもひかねそなたのそらをなかむれはたたやまのはにかかるしらくも | 藤原忠通 | 雑下 |
6-詞花 | 382 | わたのはら漕ぎいでてみればひさかたの雲ゐにまがふ沖つ白波 わたのはらこきいててみれはひさかたのくもゐにまかふおきつしらなみ | 藤原忠通 | 雑下 |
6-詞花 | 383 | うちむれて高倉山につむ花はあらたなき代の富草のはな うちむれてたかくらやまにつむものはあらたなきよのとみくさのはな | 藤原家経 | 雑下 |
6-詞花 | 384 | 板倉の山田につめる稲をみてをさまれる代のほどをしるかな いたくらのやまたにつめるいねをみてをさまれるよのほとをしるかな | 藤原顕輔 | 雑下 |
6-詞花 | 385 | 水上をさだめてければ君が代にふたたびすめる堀河の水 みなかみをさためてけれはきみかよにふたたひすめるほりかはのみつ | 曾禰好忠 | 雑下 |
6-詞花 | 386 | いさやまだつづきもしらぬ高嶺にてまづくる人にみやこをぞとふ いさやまたつつきもしらぬたかねにてまつくるひとにみやこをそとふ | 藤原頼通 | 雑下 |
6-詞花 | 387 | みやこにてながめし月のもろともに旅の空にもいでにけるかな みやこにてなかめしつきのもろともにたひのそらにもいてにけるかな | 道命法師 | 雑下 |
6-詞花 | 388 | みやこにてながめし月をみるときは旅の空ともおぼえざりけり みやこにてなかめしつきをみるときはたひのそらともおほえさりけり | 藤原伊周 | 雑下 |
6-詞花 | 389 | 風越の峰のうへにてみる時は雲はふもとのものにぞありける かさこしのみねのうへにてみるときはくもはふもとのものにそありける | 藤原家経 | 雑下 |
6-詞花 | 390 | むかしみし垂井の水はかはらねどうつれる影ぞ年をへにける むかしみしたるゐのみつはかはらねとうつれるかけそとしをへにける | 藤原隆経 | 雑下 |
6-詞花 | 391 | 思ひいでもなきふるさとの山なれど隠れゆくはたあはれなりけり おもひいてもなきふるさとのやまなれとかくれゆくはたあはれなりけり | 大江正言 | 雑下 |
6-詞花 | 392 | いにしへを恋ふるなみだにくらされておぼろにみゆる秋の夜の月 いにしへをこふるなみたにくらされておほろにみゆるあきのよのつき | 藤原公任 | 雑下 |
6-詞花 | 393 | そのことと思はぬだにもあるものをなに心地して月をみるらむ そのこととおもはぬたにもあるものをなにここちしてつきをみるらむ | 藤原頼宗 | 雑下 |
6-詞花 | 394 | 夢ならでまたもあふべき君ならばねられぬいをもなげかざらまし ゆめならてまたもあふへききみならはねられぬいをもなけかさらまし | 藤原相如 | 雑下 |
6-詞花 | 395 | 思ひかねながめしかども鳥辺山はてはけぶりもみえずなりにき おもひかねなかめしかともとりへやまはてはけふりもみえすなりにき | 円融院 | 雑下 |
6-詞花 | 396 | ゆふまぐれ木繁き庭をながめつつ木の葉とともにおつるなみだか ゆふまくれこしけきにはをなかめつつこのはとともにおつるなみたか | 少将義孝 | 雑下 |
6-詞花 | 397 | 人しれずもの思ふこともありしかど子のことばかりかなしきはなし ひとしれすものおもふこともありしかとこのことはかりかなしきはなし | 待賢門院安芸 | 雑下 |
6-詞花 | 398 | 生ひたたで枯れぬとききしこのもとのいかでなげきの森となるらむ おひたたてかれぬとききしこのもとのいかてなけきのもりとなるらむ | 清原元輔 | 雑下 |
6-詞花 | 399 | けふよりは天の河霧たちわかれいかなる空にあはむとすらむ けふよりはあまのかはきりたちわかれいかなるそらにあはむとすらむ | 清原元輔 | 雑下 |
6-詞花 | 400 | たなはたは後のけふをも頼むらむこころぼそきは我が身なりけり たなはたはのちのけふをもたのむらむこころほそきはわかみなりけり | 読人知らず | 雑下 |
6-詞花 | 401 | あさましや君に着すべき墨染のころもの袖をわが濡らすかな あさましやきみにきすへきすみそめのころものそてをわかぬらすかな | 神祇伯源顕仲 | 雑下 |
6-詞花 | 402 | こぞの春ちりにし花もさきにけりあはれ別れのかからましかは こそのはるちりにしはなもさきにけりあはれわかれのかからましかは | 赤染衛門 | 雑下 |
6-詞花 | 403 | いづる息のいるを待つまもかたき世を思ひしるらむ袖はいかにそ いつるいきのいるをまつまもかたきよをおもひしるらむそてはいかにそ | 崇徳院 | 雑下 |
6-詞花 | 404 | 涙のみ袂にかかる世の中に身さへ朽ちぬることぞかなしき なみたのみたもとにかかるよのなかにみさへくちぬることそかなしき | 藤原有信 | 雑下 |
6-詞花 | 405 | をりをりのつらさを何になげきけむやがてなき世もあはれありけり をりをりのつらさをなにになけきけむやかてなきよもあはれありけり | 読人知らず | 雑下 |
6-詞花 | 406 | 人をとふ鐘のこゑこそあはれなれいつか我が身にならむとすらむ ひとをとふかねのこゑこそあはれなれいつかわかみにならむとすらむ | 読人知らず | 雑下 |
6-詞花 | 407 | 悔しくも見そめけるかななべて世のあはれとばかり聞かましものを くやしくもみそめけるかななへてよのあはれとはかりきかましものを | 四條中宮 | 雑下 |
6-詞花 | 408 | かくてのみ世にありあけの月ならば雲かくしてよ天くだる神 かくてのみよにありあけのつきならはくもかくしてよあまくたるかみ | 読人知らず | 雑下 |
6-詞花 | 409 | 長き夜のくるしきことを思へかしなになげくらむ仮のやどりに なかきよのくるしきことをおもへかしなになけくらむかりのやとりに | 読人知らず | 雑下 |
6-詞花 | 410 | 思へども忌むとていはぬことなればそなたにむきて音をのみぞ泣く おもへともいむとていはぬことなれはそなたにむきてねをのみそなく | 選子内親王 | 雑下 |
6-詞花 | 411 | あくがるる身のはかなさはももとせのなかばすぎてぞ思ひしらるる あくかるるみのはかなさはももとせのなかはすきてそおもひしらるる | 源顕仲 | 雑下 |
6-詞花 | 412 | 露の身のきえてほとけになることはつとめてのちぞ知るべかりける つゆのみのきえてほとけになることはつとめてのちそしるへかりける | 読人知らず | 雑下 |
6-詞花 | 413 | よそになど佛の道をたづぬらむわが心こそしるべなりけれ よそになとほとけのみちをたつぬらむわかこころこそしるへなりけれ | 藤原忠通 | 雑下 |
6-詞花 | 414 | いかで我こころの月をあらはして闇にまどへる人を照らさむ いかてわれこころのつきをあらはしてやみにまとへるひとをてらさむ | 藤原顕輔 | 雑下 |
6-詞花 | 415 | 世の中の人のこころのうき雲にそらがくれする有明の月 よのなかのひとのこころのうきくもにそらかくれするありあけのつき | 登蓮法師 | 雑下 |
7-千載 | 1 | はるのくるあしたのはらをみわたせは霞もけふそたちはしめける はるのくる あしたのはらを みわたせは かすみもけふそ たちはしめける | 源俊頼 | 春上 |
7-千載 | 2 | みむろ山たににや春のたちぬらむ雪のした水いはたたくなり みむろやま たににやはるの たちぬらむ ゆきのしたみつ いはたたくなり | 源国信 | 春上 |
7-千載 | 3 | 雪ふかきいはのかけ道あとたゆるよし野の里も春はきにけり ゆきふかき いはのかけみち あとたゆる よしののさとも はるはきにけり | 待賢門院堀河 | 春上 |
7-千載 | 4 | みちたゆといとひしものを山さとにきゆるはをしきこその雪かな みちたゆと いとひしものを やまさとに きゆるはをしき こそのゆきかな | 大江匡房 | 春上 |
7-千載 | 5 | 春たては雪のした水うちとけて谷のうくひすいまそ鳴くなる はるたては ゆきのしたみつ うちとけて たにのうくひす いまそなくなる | 藤原顕綱 | 春上 |
7-千載 | 6 | 山さとのかきねに春やしるからんかすまぬさきに鴬のなく やまさとの かきねにはるや しるからむ かすまぬさきに うくひすのなく | 大納言隆国 | 春上 |
7-千載 | 7 | 煙かとむろのやしまをみしほとにやかても空のかすみぬるかな けふりかと むろのやしまを みしほとに やかてもそらの かすみぬるかな | 源俊頼 | 春上 |
7-千載 | 8 | かすみしく春のしほちをみわたせはみとりをわくるおきつしら浪 かすみしく はるのしほちを みわたせは みとりをわくる おきつしらなみ | 九条兼実 | 春上 |
7-千載 | 9 | わきも子か袖ふるやまも春きてそ霞のころもたちわたりける わきもこか そてふるやまも はるきてそ かすみのころも たちわたりける | 大江匡房 | 春上 |
7-千載 | 10 | 春くれはすきのしるしもみえぬかな霞そたてるみわの山もと はるくれは すきのしるしも みえぬかな かすみそたてる みわのやまもと | 難波頼輔 | 春上 |
7-千載 | 11 | みわたせはそことしるしの杉もなし霞のうちやみわの山もと みわたせは そことしるしの すきもなし かすみのうちや みわのやまもと | 左兵衛督隆房 | 春上 |
7-千載 | 12 | ときはなる松もや春をしりぬらんはつねをいはふ人にひかれて ときはなる まつもやはるを しりぬらむ はつねをいはふ ひとにひかれて | 待賢門院堀河 | 春上 |
7-千載 | 13 | うらやまし雪のした草かきわけてたれをとふひのわかななるらん うらやまし ゆきのしたくさ かきわけて たれをとふひの わかななるらむ | 藤原通俊 | 春上 |
7-千載 | 14 | かすか野の雪をわかなにつみそへてけふさへ袖のしほれぬるかな かすかのの ゆきをわかなに つみそへて けふさへそての しをれぬるかな | 源俊頼 | 春上 |
7-千載 | 15 | さきそむる梅のたちえにふる雪のかさなるかすをとへとこそおもへ さきそむる うめのたちえに ふるゆきの かさなるかすを とへとこそおもへ | 藤原俊忠 | 春上 |
7-千載 | 16 | むめかえに心もゆきてかさなるをしらてや人のとへといふらん うめかえに こころもゆきて かさなるを しらてやひとの とへといふらむ | 源俊頼 | 春上 |
7-千載 | 17 | むめかえにふりつむ雪は鴬のはかせにちるも花かとそみる うめかえに ふりつむゆきは うくひすの はかせにちるも はなかとそみる | 藤原顕輔 | 春上 |
7-千載 | 18 | かをる香のたえせぬ春はむめの花ふきくる風やのとけかるらん かをるかの たえせぬはるは うめのはな ふきくるかせや のとけかるらむ | 久我前太政大臣 | 春上 |
7-千載 | 19 | いまよりはむめさくやとは心せんまたぬにきます人も有りけり いまよりは うめさくやとは こころせむ またぬにきます ひともありけり | 源師頼 | 春上 |
7-千載 | 20 | にほひもてわかはそわかむ梅のはなそれともみえぬ春のよの月 にほひもて わかはそわかむ うめのはな それともみえぬ はるのよのつき | 大江匡房 | 春上 |
7-千載 | 21 | むめの花をりてかさしにさしつれは衣におつる雪かとそみる うめのはな をりてかさしに さしつれは ころもにおつる ゆきかとそみる | 徳大寺公能 | 春上 |
7-千載 | 22 | むめかかにおとろかれつつ春のよのやみこそ人はあくからしけれ うめかかに おとろかれつつ はるのよの やみこそひとは あくからしけれ | 和泉式部 | 春上 |
7-千載 | 23 | さ夜ふけて風やふくらん花のかのにほふここちのそらにするかな さよふけて かせやふくらむ はなのかの にほふここちの そらにするかな | 藤原道信 | 春上 |
7-千載 | 24 | はるの夜はのきはのむめをもる月のひかりもかをる心ちこそすれ はるのよは のきはのうめを もるつきの ひかりもかをる ここちこそすれ | 藤原俊成 | 春上 |
7-千載 | 25 | 春のよはふきまふ風のうつり香を木ことにむめとおもひけるかな はるのよは ふきまふかせの うつりかを きことにうめと おもひけるかな | 崇徳院 | 春上 |
7-千載 | 26 | むめかかはおのかかきねをあくかれてまやのあたりにひまもとむなり うめかかは おのかかきねを あくかれて まやのあたりに ひまもとむなり | 源俊頼 | 春上 |
7-千載 | 27 | むめかかにこゑうつりせは鴬のなく一えたはをらましものを うめかかに こゑうつりせは うくひすの なくひとえたは をらましものを | 右大臣 | 春上 |
7-千載 | 28 | 梅かえの花にこつたふうくひすのこゑさへにほふ春の曙 うめかえの はなにこつたふ うくひすの こゑさへにほふ はるのあけほの | 守覚法親王 | 春上 |
7-千載 | 29 | 風わたるのきはのむめに鴬のなきてこつたふ春のあけほの かせわたる のきはのうめに うくひすの なきてこつたふ はるのあけほの | 藤原実家 | 春上 |
7-千載 | 30 | むかしよりちららむやとのむめの花わくる心は色にみゆらん むかしより ちらさぬやとの うめのはな わくるこころは いろにみゆらむ | 源定房 | 春上 |
7-千載 | 31 | よも山にこのめ春さめふりぬれはかそいろはとや花のたのまん よもやまに このめはるさめ ふりぬれは かそいろはとや はなのたのまむ | 大江匡房 | 春上 |
7-千載 | 32 | はるさめのふりそめしよりかたをかのすそ野の原そあさみとりなる はるさめの ふりそめしより かたをかの すそののはらそ あさみとりなる | 藤原基俊 | 春上 |
7-千載 | 33 | つれつれとふれは涙の南なるを春の物とや人はみるらん つれつれと ふれはなみたの あめなるを はるのものとや ひとはみるらむ | 和泉式部 | 春上 |
7-千載 | 34 | み山木のかけののしたの下わらひもえいつれともしる人もなし みやまきの かけののしたの したわらひ もえいつれとも しるひともなし | 藤原基俊 | 春上 |
7-千載 | 35 | みこもりにあしのわかはやもえぬらん玉江のぬまをあさる春こま みこもりに あしのわかはや もえぬらむ たまえのぬまを あさるはるこま | 藤原清輔 | 春上 |
7-千載 | 36 | 春くれはたのむのかりもいまはとてかへる雲ちにおもひたつなり はるくれは たのむのかりも いまはとて かへるくもちに おもひたつなり | 源俊頼 | 春上 |
7-千載 | 37 | なかむれはかすめるそらのうき雲とひとつになりぬかへるかりかね なかむれは かすめるそらの うきくもと ひとつになりぬ かへるかりかね | 九条良経 | 春上 |
7-千載 | 38 | あまつそらひとつにみゆるこしの海の浪をわけてもかへる雁かね あまつそら ひとつにみゆる こしのうみの なみをわけても かへるかりかね | 源頼政 | 春上 |
7-千載 | 39 | かへるかりいく雲ゐともしらねとも心はかりをたくへてそやる かへるかり いくくもゐとも しらねとも こころはかりを たくへてそやる | 祝部宿禰成仲 | 春上 |
7-千載 | 40 | 春はなほはなのにほひもさもあらはあれたた身にしむは曙のそら はるはなほ はなのにほひも さもあらはあれ たたみにしむは あけほののそら | 藤原季通 | 春上 |
7-千載 | 41 | あさゆふに花まつころはおもひねの夢のうちにそさきはしめける あさゆふに はなまつころは おもひねの ゆめのうちにそ さきはしめける | 崇徳院 | 春上 |
7-千載 | 42 | いつかたに花さきぬらんとおもふよりよもの山辺にちる心かな いつかたに はなさきぬらむと おもふより よものやまへに ちるこころかな | 待賢門院堀川 | 春上 |
7-千載 | 43 | 山さくらたつぬときくにさそはれぬ老のこころのあくかるるかな やまさくら たつぬときくに さそはれぬ おいのこころの あくかるるかな | 京極前太政大臣 | 春上 |
7-千載 | 44 | かけきよき花のかかみとみゆるかなのとかにすめるしら川の水 かけきよき はなのかかみと みゆるかな のとかにすめる しらかはのみつ | 花園左おほいまうちきみ | 春上 |
7-千載 | 45 | よろつ代の花のためしやけふならんむかしもかかる春しなけれは よろつよの はなのためしや けふならむ むかしもかかる はるしなけれは | 徳大寺左大臣(于時左兵衛督) | 春上 |
7-千載 | 46 | たつねつる花のあたりになりにけりにほふにしるし春の山かせ たつねつる はなのあたりに なりにけり にほふにしるし はるのやまかせ | 崇徳院 | 春上 |
7-千載 | 47 | かへるさをいそかぬほとの道ならはのとかにみねの花はみてまし かへるさを いそかぬほとの みちならは のとかにみねの はなはみてまし | 西園寺公経 | 春上 |
7-千載 | 48 | 山さくらにほふあたりの春かすみ風をはよそにたちへたてなん やまさくら にほふあたりの はるかすみ かせをはよそに たちへたてなむ | 中納言女王 | 春上 |
7-千載 | 49 | 花ゆゑにかからぬ山そなかりける心ははるのかすみならねと はなゆゑに かからぬやまそ なかりける こころははるの かすみならねと | 藤原顕綱 | 春上 |
7-千載 | 50 | さくら花おほくの春にあひぬれと昨日けふをやためしにはせん さくらはな おほくのはるに あひぬれと きのふけふをや ためしにはせむ | 京極前太政大臣 | 春上 |
7-千載 | 51 | はなさかりはるの山へをみわたせはそらさヘにほふ心ちこそすれ はなさかり はるのやまへを みわたせは そらさへにほふ ここちこそすれ | 後藤原師通 | 春上 |
7-千載 | 52 | さきにほふ花のあたりは春なからたえせぬやとのみゆきとそみる さきにほふ はなのあたりは はるなから たえせぬやとの みゆきとそみる | 右衛門督基忠 | 春上 |
7-千載 | 53 | たつねきてたをるさくらのあキふに花のたもとのぬれぬ日そなき たつねきて たをるさくらの あさつゆに はなのたもとの ぬれぬひそなき | 中院右のおほいまうちきみ | 春上 |
7-千載 | 54 | かりにたにいとふ心やなからましちらぬ花さくこの世なりせは かりにたに いとふこころや なからまし ちらぬはなさく このよなりせは | 右大臣 | 春上 |
7-千載 | 55 | みな人の心にそむるさくら花いくしほ年にいろまさるらん みなひとの こころにそむる さくらはな いくしほとしに いろまさるらむ | 前左衛門督公光 | 春上 |
7-千載 | 56 | かつらきやたかまの山のさくら花雲井のよそにみてや過きなん かつらきや たかまのやまの さくらはな くもゐのよそに みてやすきなむ | 藤原顕輔 | 春上 |
7-千載 | 57 | 山さくらかすみこめたるありかをはつらきものから風そしらする やまさくら かすみこめたる ありかをは つらきものから かせそしらする | 藤原教長 | 春上 |
7-千載 | 58 | 神かきのみむろの山は春きてそ花のしらゆふかけてみえける かみかきの みむろのやまは はるきてそ はなのしらゆふ かけてみえける | 藤原清輔 | 春上 |
7-千載 | 59 | よもすから花のにほひをおもひやる心やみねにたひねしつらん よもすから はなのにほひを おもひやる こころやみねに たひねしつらむ | 覚性入道親王 | 春上 |
7-千載 | 60 | さきぬやとしらぬ山ちにたつねいるわれをは花のしをるなりけり さきぬやと しらぬやまちに たつねいる われをははなの しをるなりけり | 九条兼実 | 春上 |
7-千載 | 61 | くれはてぬかへさはおくれ山さくらたかためにきてまとふとかしる くれはてぬ かへさはおくれ やまさくら たかためにきて まとふとかしる | 源俊頼 | 春上 |
7-千載 | 62 | 花ゆゑにしらぬ山路はなけれともまとふは春の心なりけり はなゆゑに しらぬやまちは なけれとも まとふははるの こころなりけり | 道因法師俗名(敦頼) | 春上 |
7-千載 | 63 | としをへておなしさくらの花の色をそめます物は心なりけり としをへて おなしさくらの はなのいろを そめますものは こころなりけり | 藤原公時 | 春上 |
7-千載 | 64 | 花さかりよもの山へにあくかれて春は心のみにそはぬかな はなさかり よものやまへに あくかれて はるはこころの みにそはぬかな | 藤原公衡 | 春上 |
7-千載 | 65 | よし野川みかさはさしもまさらしをあをねをこすや花のしら浪 よしのかは みかさはさしも まさらしを あをねをこすや はなのしらなみ | 顕昭法師 | 春上 |
7-千載 | 66 | ささ浪やしかのみやこはあれにしをむかしなからの山さくらかな ささなみや しかのみやこは あれにしを むかしなからの やまさくらかな | よみ人しらす | 春上 |
7-千載 | 67 | ささ浪や志賀の花そのみるたひにむかしの人の心をそしる ささなみや しかのはなその みるたひに むかしのひとの こころをそしる | 祝部宿禰成仲 | 春上 |
7-千載 | 68 | たかさこのをのへの桜さきぬれはこすゑにかくるおきつ白浪 たかさこの をのへのさくら さきぬれは こすゑにかくる おきつしらなみ | 賀茂成保 | 春上 |
7-千載 | 69 | おしなへて花のさかりに成りにけり山のはことにかかるしら雲 おしなへて はなのさかりに なりにけり やまのはことに かかるしらくも | 西行法師 | 春上 |
7-千載 | 70 | 芳野やまはなのさかりになりぬれはたたぬ時なきみねのしら雲 よしのやま はなのさかりに なりぬれは たたぬときなき みねのしらくも | 藤原為業(法名寂念) | 春上 |
7-千載 | 71 | 春をへてにほひをそふる山さくら花はおいこそさかりなりけれ はるをへて にほひをそふる やまさくら はなはおいこそ さかりなりけれ | 源仲正 | 春上 |
7-千載 | 72 | しら雲とみねのさくらはみゆれとも月のひかりはへたてさりけり しらくもと みねのさくらは みゆれとも つきのひかりは へたてさりけり | 待賢門院堀河 | 春上 |
7-千載 | 73 | 花の色にひかりさしそふはるの夜そこのまの月はみるへかりける はなのいろに ひかりさしそふ はるのよそ このまのつきは みるへかりける | 上西門院兵衛 | 春上 |
7-千載 | 74 | をはつせの花のさかりをみわたせは霞にまかふみねのしら雲 をはつせの はなのさかりを みわたせは かすみにまかふ みねのしらくも | 太宰大弐重家 | 春上 |
7-千載 | 75 | ささ浪やなからの山のみねつつきみせはや人に花のさかりを ささなみや なからのやまの みねつつき みせはやひとに はなのさかりを | 藤原範綱 | 春上 |
7-千載 | 76 | 御よしのの花のさかりをけふみれはこしのしらねに春かせそふく みよしのの はなのさかりを けふみれは こしのしらねに はるかせそふく | 藤原俊成(法名釈河) | 春上 |
7-千載 | 77 | さきしよりちるまてみれは木のもとに花も日かすもつもりぬるかな さきしより ちるまてみれは このもとに はなもひかすも つもりぬるかな | 白河院 | 春下 |
7-千載 | 78 | いけ水にみきはのさくらちりしきて浪の花こそさかりなりけれ いけみつに みきはのさくら ちりしきて なみのはなこそ さかりなりけれ | 院 | 春下 |
7-千載 | 79 | しら雲とみねにはみえてさくら花ちれはふもとの雪にそ有りける しらくもと みねにはみえて さくらはな ちれはふもとの ゆきにそありける | 大宮前のおほきおほいまうちきみ | 春下 |
7-千載 | 80 | よし野やま花はなかはにちりにけりたえたえのこるみねのしら雲 よしのやま はなはなかはに ちりにけり たえたえのこる みねのしらくも | 藤原季通 | 春下 |
7-千載 | 81 | 山さくらをしむこころのいくたひかちる木のもとにゆきかかるらん やまさくら をしむこころの いくたひか ちるこのもとに ゆきかかるらむ | 内侍周防 | 春下 |
7-千載 | 82 | はるさめにちる花みれはかきくらしみそれし空の心ちこそすれ はるさめに ちるはなみれは かきくらし みそれしそらの ここちこそすれ | 藤原長家 | 春下 |
7-千載 | 83 | ふめはをしふまてはゆかんかたもなし心つくしの山さくらかな ふめはをし ふまてはゆかむ かたもなし こころつくしの やまさくらかな | 上東門院赤染衛門 | 春下 |
7-千載 | 84 | 山さくらちちに心のくたくるはちる花ことにそふにや有るらん やまさくら ちちにこころの くたくるは ちるはなことに そふにやあるらむ | 大江匡房 | 春下 |
7-千載 | 85 | はなのちる木のしたかけはおのつからそめぬさくらの衣をそきる はなのちる このしたかけは おのつから そめぬさくらの ころもをそきる | 藤原仲実 | 春下 |
7-千載 | 86 | 春をへて花ちらましやおく山のかせをさくらの心とおもはは はるをへて はなちらましや おくやまの かせをさくらの こころとおもはは | 藤原基俊 | 春下 |
7-千載 | 87 | あらしふくしかの山辺のさくら花ちれは雲井にささ浪そたつ あらしふく しかのやまへの さくらはな ちれはくもゐに ささなみそたつ | 右兵衛督公行 | 春下 |
7-千載 | 88 | 春かせに志賀の山こえ花ちれはみねにそうらの浪はたちける はるかせに しかのやまこえ はなちれは みねにそうらの なみはたちける | 藤原親隆 | 春下 |
7-千載 | 89 | さくらさくひらの山かせ吹くままに花になりゆくしかのうら浪 さくらさく ひらのやまかせ ふくままに はなになりゆく しかのうらなみ | 九条良経 | 春下 |
7-千載 | 90 | ちりかかる花のにしきはきたれともかへらむことそわすられにける ちりかかる はなのにしきは きたれとも かへらむことそ わすられにける | 藤原実房 | 春下 |
7-千載 | 91 | あかなくに袖につつめはちる花をうれしとおもふになりぬへきかな あかなくに そてにつつめは ちるはなを うれしとおもふに なりぬへきかな | 滋野井実国 | 春下 |
7-千載 | 92 | さくら花うき身にかふるためしあらはいきてちるをはをしまさらまし さくらはな うきみにかふる ためしあらは いきてちるをは をしまさらまし | 源通親 | 春下 |
7-千載 | 93 | みよしのの山した風やはらふらむこすゑにかへる花のしら雪 みよしのの やましたかせや はらふらむ こすゑにかへる はなのしらゆき | 俊恵法師 | 春下 |
7-千載 | 94 | ひとえたはをりてかへらむ山さくら風にのみやはちらしはつへき ひとえたは をりてかへらむ やまさくら かせにのみやは ちらしはつへき | 源有房 | 春下 |
7-千載 | 95 | ちる花を身にかふはかりおもへともかなはてとしの老いにけるかな ちるはなを みにかふはかり おもへとも かなはてとしの おいにけるかな | 遣因法師 | 春下 |
7-千載 | 96 | あかなくにちりぬる花のおもかけや風にしられぬさくらなるらん あかなくに ちりぬるはなの おもかけや かせにしられぬ さくらなるらむ | 賀盛法師 | 春下 |
7-千載 | 97 | 山さくらちるをみてこそおもひしれたつねぬ人は心ありけり やまさくら ちるをみてこそ おもひしれ たつねぬひとは こころありけり | 源仲綱 | 春下 |
7-千載 | 98 | よそにてそきくへかりけるさくら花めのまへにてもちらしつるかな よそにてそ きくへかりける さくらはな めのまへにても ちらしつるかな | 道命法師 | 春下 |
7-千載 | 99 | さくらちる水のおもにはせきとむる花のしからみかくへかりけり さくらちる みつのおもには せきとむる はなのしからみ かくへかりけり | 能因法師 | 春下 |
7-千載 | 100 | 山かせにちりつむ花のなかれすはいかてしらまし谷のした水 やまかせに ちりつむはなの なかれすは いかてしらまし たにのしたみつ | 源有仁 | 春下 |
7-千載 | 101 | 花のみなちりてののちそ山さとのはらはぬ庭はみるへかりける はなのみな ちりてののちそ やまさとの はらはぬにはは みるへかりける | 源俊実 | 春下 |
7-千載 | 102 | ふるさとは花こそいととしのはるれちりぬるのちはとふ人もなし ふるさとは はなこそいとと しのはるれ ちりぬるのちは とふひともなし | 藤原基俊 | 春下 |
7-千載 | 103 | 吹くかせをなこそのせきとおもへともみちもせにちる山桜かな ふくかせを なこそのせきと おもへとも みちもせにちる やまさくらかな | 源義家 | 春下 |
7-千載 | 104 | したさゆるひむろの山のおそさくらきえのこりける雪かとそみる したさゆる ひむろのやまの おそさくら きえのこりける ゆきかとそみる | 源仲正 | 春下 |
7-千載 | 105 | かかみ山ひかりは花のみせけれはちりつみてこそさひしかりけれ かかみやま ひかりははなの みせけれは ちりつみてこそ さひしかりけれ | 藤原親隆 | 春下 |
7-千載 | 106 | 心なきわか身なれとも津の国のなにはの春にたへすも有るかな こころなき わかみなれとも つのくにの なにはのはるに たへすもあるかな | 藤原季通 | 春下 |
7-千載 | 107 | おもふことちえにやしけきよふこ鳥しのたのもりのかたに鳴くなり おもふこと ちえにやしけき よふことり しのたのもりの かたになくなり | 大江匡房 | 春下 |
7-千載 | 108 | こよひねてつみてかへらむすみれ草をののしはふは露しけくとも こよひねて つみてかへらむ すみれくさ をののしはふは つゆしけくとも | 源国信 | 春下 |
7-千載 | 109 | ききすなくいはたのをののつほすみれしめさすはかり成りにけるかな ききすなく いはたのをのの つほすみれ しめさすはかり なりにけるかな | 藤原顕季 | 春下 |
7-千載 | 110 | 道とほみいる野の原のつほすみれ春のかたみにつみてかへらん みちとほみ いるののはらの つほすみれ はるのかたみに つみてかへらむ | 源顕国 | 春下 |
7-千載 | 111 | はるふかみ井ての河水かけそははいくへかみえむ山ふきのはな はるふかみ ゐてのかはみつ かけそはは いくへかみえむ やまふきのはな | 大江匡房 | 春下 |
7-千載 | 112 | 山ふきのはなさきにけりかはつなくゐてのさと人いまや問はまし やまふきの はなさきにけり かはつなく ゐてのさとひと いまやとはまし | 藤原基俊 | 春下 |
7-千載 | 113 | ここのへにやへ山ふきをうつしてはゐてのかはつの心をそくむ ここのへに やへやまふきを うつしては ゐてのかはつの こころをそくむ | 二条太皇大后宮肥後 | 春下 |
7-千載 | 114 | よし野川きしのやまふきさきぬれはそこにそふかき色はみえける よしのかは きしのやまふき さきぬれは そこにそふかき いろはみえける | 藤原範綱 | 春下 |
7-千載 | 115 | くちなしの色にそすめる山ふきの花のしたゆくゐ手のかはみつ くちなしの いろにそすめる やまふきの はなのしたゆく ゐてのかはみつ | 藤原定経 | 春下 |
7-千載 | 116 | いかなれは春をかさねてみつれともやへにのみさく山吹のはな いかなれは はるをかさねて みつれとも やへにのみさく やまふきのはな | 惟宗広言 | 春下 |
7-千載 | 117 | やまふきの花のつまとはきかねともうつろふなへに鳴くかはつかな やまふきの はなのつまとは きかねとも うつろふなへに なくかはつかな | 藤原清輔 | 春下 |
7-千載 | 118 | いつかたににほひますらむふちの花はると夏とのきしをへたてて いつかたに にほひますらむ ふちのはな はるとなつとの きしをへたてて | 康資王母 | 春下 |
7-千載 | 119 | ここのへにさけるをみれはふちの花こきむらさきの雲そたちける ここのへに さけるをみれは ふちのはな こきむらさきの くもそたちける | 中納言祐家 | 春下 |
7-千載 | 120 | としふれとかはらぬ松をたのみてやかかりそめけんいけの藤なみ としふれと かはらぬまつを たのみてや かかりそめけむ いけのふちなみ | 徳大寺公能 | 春下 |
7-千載 | 121 | われもまた春とともにやかへらましあすはかりをはここにくらして われもまた はるとともにや かへらまし あすはかりをは ここにくらして | 二条院 | 春下 |
7-千載 | 122 | 花はねに鳥はふるすにかへるなり春のとまりをしる人そなき はなはねに とりはふるすに かへるなり はるのとまりを しるひとそなき | 崇徳院 | 春下 |
7-千載 | 123 | いのちあらは又もあひなむ春なれとしのひかたくてくらすけふかな いのちあらは またもあひみむ はるなれと しのひかたくて くらすけふかな | 具平親王みこ | 春下 |
7-千載 | 124 | なかむれはおもひやるへきかたそなき春のかきりの夕くれのそら なかむれは おもひやるへき かたそなき はるのかきりの ゆふくれのそら | 式子内親王 | 春下 |
7-千載 | 125 | くれてゆく春はのこりもなきものををしむ心のつきせさるらん くれてゆく はるはのこりも なきものを をしむこころの つきせさるらむ | 藤原隆季 | 春下 |
7-千載 | 126 | いり日さす山のはさヘそうらめしきくれすは春のかへらましやは いりひさす やまのはさへそ うらめしき くれすははるの かへらましやは | 久我内のおほいまうちきみ | 春下 |
7-千載 | 127 | いくかへりけふにわか身のあひぬらんをしきは春のすくるのみかは いくかへり けふにわかみの あひぬらむ をしきははるの すくるのみかは | 藤原定成 | 春下 |
7-千載 | 128 | 身のうさも花みしほとはわすられき春のわかれをなけくのみかは みのうさも はなみしほとは わすられき はるのわかれを なけくのみかは | 源仲綱 | 春下 |
7-千載 | 129 | いつかたと春のゆくへはしらねともをしむ心のさきにたつらん いつかたと はるのゆくへは しらねとも をしむこころの さきにたつらむ | 藤原経家 | 春下 |
7-千載 | 130 | もろともにおなしみやこは出てしかとつひには春にわかれぬるかな もろともに おなしみやこは いてしかと つひにははるに わかれぬるかな | 琳賢法師 | 春下 |
7-千載 | 131 | 花はみなよものあらしにさそはれてひとりや春のけふはゆくらん はなはみな よものあらしに さそはれて ひとりやはるの けふはゆくらむ | 法印静賢 | 春下 |
7-千載 | 132 | はなのはるかさなるかひそなかりけるちらぬ日かすのそははこそあらめ はなのはる かさなるかひそ なかりける ちらぬひかすの そははこそあらめ | 権大僧都範玄 | 春下 |
7-千載 | 133 | をしめともかひもなきさに春くれて浪とともにそたちわかれぬる をしめとも かひもなきさに はるくれて なみとともにそ たちわかれぬる | 前大僧正覚忠 | 春下 |
7-千載 | 134 | つねよりもけふのくるるををしむかないまいくたひの春としらねは つねよりも けふのくるるを をしむかな いまいくたひの はるとしらねは | 大江匡房 | 春下 |
7-千載 | 135 | けふくれぬはなのちりしもかくそありし二たひ春は物をおもふよ けふくれぬ はなのちりしも かくそありし ふたたひはるは ものをおもふよ | 河内 | 春下 |
7-千載 | 136 | 夏ころもはなのたもとにぬきかへて春のかたみもとまらさりけり なつころも はなのたもとに ぬきかへて はるのかたみも とまらさりけり | 大江匡房 | 夏 |
7-千載 | 137 | けふかふるせみの羽ころもきてみれはたもとに夏はたつにそ有りける けふかふる せみのはころも きてみれは たもとになつは たつにそありける | 藤原基俊 | 夏 |
7-千載 | 138 | あかてゆく春のわかれにいにしへの人やうつきといひはしめけん あかてゆく はるのわかれに いにしへの ひとやうつきと いひはしめけむ | 藤原実清 | 夏 |
7-千載 | 139 | むらむらにさけるかきねの卯のはなはこのまの月の心ちこそすれ むらむらに さけるかきねの うのはなは このまのつきの ここちこそすれ | 藤原顕輔 | 夏 |
7-千載 | 140 | ゆふつくよほのめく影もうの花のさけるわたりはさやけかりけり ゆふつくよ ほのめくかけも うのはなの さけるわたりは さやけかりけり | 藤原実房 | 夏 |
7-千載 | 141 | 玉川とおとにききしは卯花を露のかきれる名にこそ有りけれ たまかはと おとにききしは うのはなを つゆのかされる なにこそありけれ | 覚性入道親王 | 夏 |
7-千載 | 142 | みてすくる人しなけれは卯のはなのさけるかきねや白川の関 みてすくる ひとしなけれは うのはなの さけるかきねや しらかはのせき | 藤原季通 | 夏 |
7-千載 | 143 | 卯のはなのよそめなりけり山さとのかきねはかりにふれるしら雪 うのはなの よそめなりけり やまさとの かきねはかりに ふれるしらゆき | 賀茂政平 | 夏 |
7-千載 | 144 | うの花のかきねとのみやおもはまししつのふせやに煙たたすは うのはなの かきねとのみや おもはまし しつのふせやに けふりたたすは | 藤原敦経 | 夏 |
7-千載 | 145 | やきすてしふるののを野のまくすはら玉まくはかり成りにけるかな やきすてし ふるののをのの まくすはら たままくはかり なりにけるかな | 藤原定通 | 夏 |
7-千載 | 146 | あふひ草てる日は神のこころかはかけさすかたにまつなひくらん あふひくさ てるひはかみの こころかは かけさすかたに まつなひくらむ | 藤原基俊 | 夏 |
7-千載 | 147 | 神山のふもとになれしあふひ草ひきわかれても年そへにける かみやまの ふもとになれし あふひくさ ひきわかれても としそへにける | 前斎院式子内親王 | 夏 |
7-千載 | 148 | ほとときすまつはひさしき夏のよをねぬにあけぬと誰かいひけん ほとときす まつはひさしき なつのよを ねぬにあけぬと たれかいひけむ | 按察使公通 | 夏 |
7-千載 | 149 | ふたこゑときかてややまむ時鳥まつにねぬ夜のかすはつもりて ふたこゑと きかてややまむ ほとときす まつにねぬよの かすはつもりて | 藤原道経 | 夏 |
7-千載 | 150 | ほとときすしのふるころは山ひこのこたふる声もほのかにそする ほとときす しのふるころは やまひこの こたふるこゑも ほのかにそする | 賀茂重保 | 夏 |
7-千載 | 151 | あやしきはまつ人からかほとときすなかぬにさへもぬるる袖かな あやしきは まつひとからか ほとときす なかぬにさへも ぬるるそてかな | 道命法師 | 夏 |
7-千載 | 152 | ねさめするたよりにきけは郭公つらき人をも待つへかりけり ねさめする たよりにきけは ほとときす つらきひとをも まつへかりけり | 康資王母 | 夏 |
7-千載 | 153 | ほとときす又もやなくとまたれつつきく夜しもこそねられさりけれ ほとときす またもやなくと またれつつ きくよしもこそ ねられさりけれ | 難波頼輔母 | 夏 |
7-千載 | 154 | またてきく人にとははや郭公さてもはつねやうれしかるらん またてきく ひとにとははや ほとときす さてもはつねや うれしかるらむ | 覚盛法師 | 夏 |
7-千載 | 155 | たつねてもきくへきものを時鳥人たのめなる夜はの一声 たつねても きくへきものを ほとときす ひとたのめなる よはのひとこゑ | 藤原教長 | 夏 |
7-千載 | 156 | おもひやる心もつきぬほとときす雲のいくへの外になくらん おもひやる こころもつきぬ ほとときす くものいくへの ほかになくらむ | 藤原実家 | 夏 |
7-千載 | 157 | ほとときすなほはつこゑをしのふ山ゆふゐる雲のそこに鳴くなり ほとときす なほはつこゑを しのふやま ゆふゐるくもの そこになくなり | 守覚法親王 | 夏 |
7-千載 | 158 | かさこしをゆふこえくれはほとときすふもとの雲のそこに鳴くなり かさこしを ゆふこえくれは ほとときす ふもとのくもの そこになくなり | 藤原清輔 | 夏 |
7-千載 | 159 | ひとこゑはさやかに鳴きてほとときす雲ちはるかにとほさかるなり ひとこゑは さやかになきて ほとときす くもちはるかに とほさかるなり | 源頼政 | 夏 |
7-千載 | 160 | おもふことなき身なりせはほとときす夢にきく夜もあらましものを おもふこと なきみなりせは ほとときす ゆめにきくよも あらましものを | 九条兼実 | 夏 |
7-千載 | 161 | ほとときす鳴きつるかたをなかむれはたたあり明の月そのこれる ほとときす なきつるかたを なかむれは たたありあけの つきそのこれる | 右のおほいまうちきみ | 夏 |
7-千載 | 162 | なこりなくすきぬなるかなほとときすこそかたらひしやととしらすや なこりなく すきぬなるかな ほとときす こそかたらひし やととしらすや | 滋野井実国 | 夏 |
7-千載 | 163 | 夕つくよいるさの山のこかくれにほのかにもなくほとときすかな ゆふつくよ いるさのやまの こかくれに ほのかにもなく ほとときすかな | 藤原宗家 | 夏 |
7-千載 | 164 | ほとときすききもわかれぬ一こゑによものそらをもなかめつるかな ほとときす ききもわかれぬ ひとこゑに よものそらをも なかめつるかな | 前左衡門督公光 | 夏 |
7-千載 | 165 | すきぬるか夜はのねさめの時鳥こゑはまくらにある心ちして すきぬるか よはのねさめの ほとときす こゑはまくらに あるここちして | 藤原俊成 | 夏 |
7-千載 | 166 | よをかさねねぬよりほかにほとときすいかに待ちてか二こゑはきく よをかさね ねぬよりほかに ほとときす いかにまちてか ひとこゑはきく | 道因法師 | 夏 |
7-千載 | 167 | 心をそつくしはてつるほとときすほのめくよひの村雨のそら こころをそ つくしはてつる ほとときす ほのめくよひの むらさめのそら | 藤原長方 | 夏 |
7-千載 | 168 | みやこ人ひきなつくしそあやめ草たひねのとこの枕はかりは みやこひと ひきなつくしそ あやめくさ たひねのとこの まくらはかりは | 源雅頼 | 夏 |
7-千載 | 169 | さみたれにぬれぬれひかむあやめ草ぬまのいはかき浪もこそこせ さみたれに ぬれぬれひかむ あやめくさ ぬまのいはかき なみもこそこせ | 九条兼実 | 夏 |
7-千載 | 170 | のきちかくけふしもきなく郭公ねをやあやめにそへてふくらん のきちかく けふしもきなく ほとときす ねをやあやめに そへてふくらむ | 内大臣 | 夏 |
7-千載 | 171 | たたならぬ花たちはなのにほひかなよそふる袖はたれとなけれと たたならぬ はなたちはなの にほひかな よそふるそては たれとなけれと | 枇杷殿皇太后宮五節 | 夏 |
7-千載 | 172 | 風にちるはなたちはなに袖しめてわかおもふいもか手枕にせん かせにちる はなたちはなに そてしめて わかおもふいもか たまくらにせむ | 藤原基俊 | 夏 |
7-千載 | 173 | うき雲のいさよふよひの村雨におひ風しるくにほふたちはな うきくもの いさよふよひの むらさめに おひかせしるく にほふたちはな | 藤原家基 | 夏 |
7-千載 | 174 | わかやとの花たちはなにふく風をたか里よりとたれなかむらん わかやとの はなたちはなに ふくかせを たかさとよりと たれなかむらむ | 左大弁親宗 | 夏 |
7-千載 | 175 | をりしもあれ花たちはなのかをるかなむかしをみつる夢の枕に をりしもあれ はなたちはなの かをるかな むかしをみつる ゆめのまくらに | 藤原公衡 | 夏 |
7-千載 | 176 | 五月雨にはなたちはなのかをる夜は月すむ秋もさもあらはあれ さみたれに はなたちはなの かをるよは つきすむあきも さもあらはあれ | 崇徳院 | 夏 |
7-千載 | 177 | さみたれにおもひこそやれいにしへの草のいほりの夜はのさひしさ さみたれに おもひこそやれ いにしへの くさのいほりの よはのさひしさ | 延久三親王輔仁 | 夏 |
7-千載 | 178 | いととしくしつのいほりのいふせきに卯のはなくたし五月雨そする いととしく しつのいほりの いふせきに うのはなくたし さみたれそふる | 藤原基俊 | 夏 |
7-千載 | 179 | おほつかないつかはるへきわひ人のおもふ心やさみたれの空 おほつかな いつかはるへき わひひとの おもふこころや さみたれのそら | 源俊頼 | 夏 |
7-千載 | 180 | 五月雨にあささはぬまの花かつみかつみるままにかくれゆくかな さみたれに あささはぬまの はなかつみ かつみるままに かくれゆくかな | 藤原顕仲 | 夏 |
7-千載 | 181 | さみたれの日かすへぬれはかりつみししつやのこすけくちやしぬらん さみたれの ひかすへぬれは かりつみし しつやのこすけ くちやしぬらむ | 藤原顕輔 | 夏 |
7-千載 | 182 | 五月雨にみつのみつかさまさるらしみをのしるしもみえすなりゆく さみたれに みつのみつかさ まさるらし みをのしるしも みえすなりゆく | 藤原親隆 | 夏 |
7-千載 | 183 | さみたれはたくもの煙うちしめりしほたれまさるすまのうら人 さみたれは たくものけふり うちしめり しほたれまさる すまのうらひと | 藤原俊成 | 夏 |
7-千載 | 184 | 時しもあれ水のみこもをかりあけてほさてくたしつ五月雨のそら ときしもあれ みつのみこもを かりあけて ほさてくたしつ さみたれのそら | 藤原清輔 | 夏 |
7-千載 | 185 | さみたれはあまのもしほ木くちにけりうらへに煙たえてほとへぬ さみたれは あまのもしほき くちにけり うらへにけふり たえてほとへぬ | 待賢門院安芸 | 夏 |
7-千載 | 186 | 五月雨にむろの八島をみわたせは煙はなみのうへよりそたつ さみたれに むろのやしまを みわたせは けふりはなみの うへよりそたつ | 源行頼 | 夏 |
7-千載 | 187 | さみたれはとまのしつくに袖ぬれてあなしほとけの浪のうきねや さみたれは とまのしつくに そてぬれて あなしほとけの なみのうきねや | 源仲正 | 夏 |
7-千載 | 188 | 五月雨の雲のはれまに月さえて山ほとときす空に鳴くなり さみたれの くものはれまに つきさえて やまほとときす そらになくなり | 賀茂成保 | 夏 |
7-千載 | 189 | をちかへりぬるともきなけ郭公いまいくかかはさみたれのそら をちかへり ぬるともきなけ ほとときす いまいくかかは さみたれのそら | 按察使資賢 | 夏 |
7-千載 | 190 | あふさかの山ほとときすなのるなりせきもる神やそらにとふらん あふさかの やまほとときす なのるなり せきもるかみや そらにとふらむ | 中納言師時 | 夏 |
7-千載 | 191 | いにしへを恋ひつつひとりこえくれはなきあふ山のほとときすかな いにしへを こひつつひとり こえくれは なきあふやまの ほとときすかな | 律師慶暹 | 夏 |
7-千載 | 192 | なとてかくおもひそめけん時鳥ゆきのみやまの法のすゑかは なとてかく おもひそめけむ ほとときす ゆきのみやまの のりのすゑかは | 源俊頼 | 夏 |
7-千載 | 193 | 五月やみふたむら山のほとときす嶺つつきなくこゑをきくかな さつきやみ ふたむらやまの ほとときす みねつつきなく こゑをきくかな | 藤原俊忠 | 夏 |
7-千載 | 194 | ともしするみやきか原のした露にしのふもちすりかわくよそなき ともしする みやきかはらの したつゆに しのふもちすり かわくよそなき | 大江匡房 | 夏 |
7-千載 | 195 | 五月やみさやまの嶺にともす火は雲のたえまのほしかとそみる さつきやみ さやまのみねに ともすひは くものたえまの ほしかとそみる | 藤原顕季 | 夏 |
7-千載 | 196 | さつきやみしけきは山にたつしかはともしにのみそ人にしらるる さつきやみ しけきはやまに たつしかは ともしにのみそ ひとにしらるる | 藤原顕綱 | 夏 |
7-千載 | 197 | ともしするほくしの松もきえなくにと山の雲のあけわたるらん ともしする ほくしのまつも きえなくに とやまのくもの あけわたるらむ | 源行宗 | 夏 |
7-千載 | 198 | ともしするほくしの松ももえつきてかへるにまよふしもつやみかな ともしする ほくしのまつも もえつきて かへるにまよふ しもつやみかな | 源仲正 | 夏 |
7-千載 | 199 | 山ふかみほくしのまつはつきぬれとしかにおもひをなほかくるかな やまふかみ ほくしのまつは つきぬれと しかにおもひを なほかくるかな | よみ人しらす | 夏 |
7-千載 | 200 | ともしするほくしをまつとおもへはやあひみてしかの身をはかふらん ともしする ほくしをまつと おもへはや あひみてしかの みをはかふらむ | 賀茂重保 | 夏 |
7-千載 | 201 | むかしわかあつめしものをおもひいててみなれかほにもくる蛍かな むかしわか あつめしものを おもひいてて みなれかほにも くるほたるかな | 藤原季通 | 夏 |
7-千載 | 202 | あはれにもみさをにもゆる蛍かなこゑたてつへきこの世とおもふに あはれにも みさをにもゆる ほたるかな こゑたてつへき このよとおもふに | 源俊頼 | 夏 |
7-千載 | 203 | あさりせし水のみさひにとちられてひしのうきはにかはつなくなり あさりせし みつのみさひに とちられて ひしのうきはに かはつなくなり | 源俊頼 | 夏 |
7-千載 | 204 | 夏ふかみ玉えにしけるあしの葉のそよくや船のかよふなるらん なつふかみ たまえにしける あしのはの そよくやふねの かよふなるらむ | 西園寺公経 | 夏 |
7-千載 | 205 | はやせ川みをさかのはるうかひ舟まつこの世にもいかかくるしき はやせかは みをさかのほる うかひふね まつこのよにも いかかくるしき | 崇徳院 | 夏 |
7-千載 | 206 | みるかなほこの世の物とおほえぬはからなてしこの花にそ有りける みるかなほ このよのものと おほえぬは からなてしこの はなにそありける | 和泉式部 | 夏 |
7-千載 | 207 | とこ夏のはなもわすれて秋かせを松のかけにてけふは暮れぬる とこなつの はなもわすれて あきかせを まつのかけにて けふはくれぬる | 具平親王 | 夏 |
7-千載 | 208 | 春あきものちのかたみはなきものをひむろそ冬のなこりなりける はるあきも のちのかたみは なきものを ひむろそふゆの なこりなりける | 覚性入道親王 | 夏 |
7-千載 | 209 | あたりさへすすしかりけりひむろ山まかせし水のこほるのみかは あたりさへ すすしかりけり ひむろやま まかせしみつの こほるのみかは | 徳大寺公能 | 夏 |
7-千載 | 210 | 山かけやいはもるし水おとさえて夏のほかなるひくらしのこゑ やまかけや いはもるしみつ おとさへて なつのほかなる ひくらしのこゑ | 慈円 | 夏 |
7-千載 | 211 | 夕されは玉ゐるかすもみえねともせきのを川のおとそすすしき ゆふされは たまゐるかすも みえねとも せきのをかはの おとそすすしき | 藤原道経 | 夏 |
7-千載 | 212 | いはまもるし水をやとにせきとめてほかより夏をすくしつるかな いはまもる しみつをやとに せきとめて ほかよりなつを すくしつるかな | 俊恵法師 | 夏 |
7-千載 | 213 | さらぬたにひかりすすしき夏の夜の月をし水にやとしてそみる さらぬたに ひかりすすしき なつのよの つきをしみつに やとしてそみる | 顕昭法師 | 夏 |
7-千載 | 214 | せきとむる山した水にみかくれてすみけるものを秋のけしきは せきとむる やましたみつに みかくれて すみけるものを あきのけしきは | 法眼実快 | 夏 |
7-千載 | 215 | われなからほとなき夜はやをしからむなほ山のはにあり明の月 われなから ほとなきよはや をしからむ なほやまのはに ありあけのつき | 藤原経家 | 夏 |
7-千載 | 216 | 夏のよの月のひかりはさしなからいかにあけぬるあまの戸ならん なつのよの つきのひかりは さしなから いかにあけぬる あまのとならむ | 祝部宿禰成仲 | 夏 |
7-千載 | 217 | 夕たちのまたはれやらぬ雲まよりおなし空ともみえぬ月かな ゆふたちの またはれやらぬ くもまより おなしそらとも みえぬつきかな | 俊恵法師 | 夏 |
7-千載 | 218 | 小萩はらまた花さかぬみやきののしかやこよひの月になくらん こはきはら またはなさかぬ みやきのの しかやこよひの つきになくらむ | 藤原敦仲 | 夏 |
7-千載 | 219 | 夏ころもすそのの原をわけゆけはおりたかへたる萩か花すり なつころも すそののはらを わけゆけは をりたかへたる はきかはなすり | 顕昭法師 | 夏 |
7-千載 | 220 | あきかせは浪とともにやこえぬらんまたきすすしきすゑの松山 あきかせは なみとともにや こえぬらむ またきすすしき すゑのまつやま | 藤原親盛 | 夏 |
7-千載 | 221 | いはたたく谷の水のみおとつれて夏にしられぬみ山へのさと いはたたく たにのみつのみ おとつれて なつにしられぬ みやまへのさと | 藤原教長 | 夏 |
7-千載 | 222 | いはまよりおちくるたきのしら糸はむすはてみるもすすしかりけり いはまより おちくるたきの しらいとは むすはてみるも すすしかりけり | 藤原盛方 | 夏 |
7-千載 | 223 | けふくれはあさのたちえにゆふかけて夏みな月のみそきをそする けふくれは あさのたちえに ゆふかけて なつみなつきの みそきをそする | 藤原季通 | 夏 |
7-千載 | 224 | いつとてもをしくやはあらぬとし月をみそきにすつる夏のくれかな いつとても をしくやはあらぬ としつきを みそきにすつる なつのくれかな | 藤原俊成 | 夏 |
7-千載 | 225 | みそきする川せにさよやふけぬらんかへるたもとに秋かせそふく みそきする かはせにさよや ふけぬらむ かへるたもとに あきかせそふく | よみ人しらす | 夏 |
7-千載 | 226 | あききぬとききつるからにわかやとの荻のはかせの吹きかはるらん あききぬと ききつるからに わかやとの をきのはかせの ふきかはるらむ | 侍従乳母 | 秋上 |
7-千載 | 227 | あさちふの露けくもあるか秋きぬとめにはさやかにみえけるものを あさちふの つゆけくもあるか あききぬと めにはさやかに みえけるものを | 守覚法親王 | 秋上 |
7-千載 | 228 | 秋のくるけしきのもりのした風にたちそふ物はあはれなりけり あきのくる けしきのもりの したかせに たちそふものは あはれなりけり | 待賢門院堀川 | 秋上 |
7-千載 | 229 | やへむくらさしこもりにしよもきふにいかてか秋のわけてきつらん やへむくら さしこもりにし よもきふに いかてかあきの わけてきつらむ | 藤原俊成 | 秋上 |
7-千載 | 230 | 秋はきぬとしもなかはにすきぬとや荻ふくかせのおとろかすらん あきはきぬ としもなかはに すきぬとや をきふくかせの おとろかすらむ | 寂然法師 | 秋上 |
7-千載 | 231 | この葉たに色つくほとはあるものを秋かせふけはちる涙かな このはたに いろつくほとは あるものを あきかせふけは ちるなみたかな | よみ人しらす | 秋上 |
7-千載 | 232 | 神山の松ふくかせもけふよりは色はかはらておとそ身にしむ かみやまの まつふくかせも けふよりは いろはかはらて おとそみにしむ | 賀茂重政 | 秋上 |
7-千載 | 233 | 物ことにあきのけしきはしるけれとまつ身にしむは荻のうは風 ものことに あきのけしきは しるけれと まつみにしむは をきのうはかせ | 源行宗 | 秋上 |
7-千載 | 234 | あきかせや涙もよほすつまならむおとつれしより袖のかわかぬ あきかせや なみたもよほす つまならむ おとつれしより そてのかわかぬ | 源俊頼 | 秋上 |
7-千載 | 235 | たなはたの心のうちやいかならむまちこしけふの夕くれのそら たなはたの こころのうちや いかならむ まちこしけふの ゆふくれのそら | 九条兼実 | 秋上 |
7-千載 | 236 | たなはたのあまつひれふく秋かせにやそのふなつをみふねいつらし たなはたの あまつひれふく あきかせに やそのふなつを みふねいつらし | 藤原隆季 | 秋上 |
7-千載 | 237 | たなはたのあまのはころもかさねてもあかぬ契やなほむすふらん たなはたの あまのはころも かさねても あかぬちきりや なほむすふらむ | 二条太皇太后宮肥後 | 秋上 |
7-千載 | 238 | こひこひてこよひはかりやたなはたの枕にちりのつもらさるらん こひこひて こよひはかりや たなはたの まくらにちりの つもらさるらむ | 河内 | 秋上 |
7-千載 | 239 | 七夕のあまのかはらのいはまくらかはしもはてすあけぬこの夜は たなはたの あまのかはらの いはまくら かはしもはてす あけぬこのよは | 源俊頼 | 秋上 |
7-千載 | 240 | たなはたに花そめころもぬきかせはあか月露のかへすなりけり たなはたに はなそめころも ぬきかせは あかつきつゆの かくすなりけり | 崇徳院 | 秋上 |
7-千載 | 241 | あまの川心をくみておもふにも袖こそぬるれ暁のそら あまのかは こころをくみて おもふにも そてこそぬるれ あかつきのそら | 土御門右のおほいまうちきみ | 秋上 |
7-千載 | 242 | 秋くれはおもひみたるるかるかやのした葉や人の心なるらん あきくれは おもひみたるる かるかやの したはやひとの こころなるらむ | 源師頼 | 秋上 |
7-千載 | 243 | おしなへて草はのうへをふく風にまつしたをるる野へのかるかや おしなへて くさはのうへを ふくかせに まつしたをるる のへのかるかや | 延久三親王家甲斐 | 秋上 |
7-千載 | 244 | ふみしたきあさゆくしかやすきつらむしとろにみゆる野ちのかるかや ふみしたき あさゆくしかや すきつらむ しとろにみゆる のちのかるかや | 藤原道経 | 秋上 |
7-千載 | 245 | 秋きぬとかせもつけてし山さとになほほのめかす花すすきかな あききぬと かせもつけてし やまさとに なほほのめかす はなすすきかな | 法印静賢 | 秋上 |
7-千載 | 246 | いかなれはうははをわたる秋かせにしたをれすらむ野へのかるかや いかなれは うははをわたる あきかせに したをれすらむ のへのかるかや | よみ人しらす | 秋上 |
7-千載 | 247 | 人もかなみせもきかせも萩の花さく夕かけのひくらしのこゑ ひともかな みせもきかせも はきのはな さくゆふかけの ひくらしのこゑ | 和泉式部 | 秋上 |
7-千載 | 248 | あき山のふもとをこむる家ゐにはすそ野のはきそまかきなりける あきやまの ふもとをこむる いへゐには すそののはきそ まかきなりける | 藤原伊家 | 秋上 |
7-千載 | 249 | 宮城ののはきやをしかのつまならん花さきしより声の色なる みやきのの はきやをしかの つまならむ はなさきしより こゑのいろなる | 藤原基俊 | 秋上 |
7-千載 | 250 | 心をはちくさの色にそむれとも袖にうつるは萩かはなすり こころをは ちくさのいろに そむれとも そてにうつるは はきかはなすり | 長覚法師 | 秋上 |
7-千載 | 251 | 露しけきあしたのはらのをみなへしひとえたをらん袖はぬるとも つゆしけき あしたのはらの をみなへし ひとえたをらむ そてはぬるとも | 大納言師順 | 秋上 |
7-千載 | 252 | をみなへしなひくをみれは秋かせの吹きくるすゑもなつかしきかな をみなへし なひくをみれは あきかせの ふきくるすゑも なつかしきかな | 源雅兼 | 秋上 |
7-千載 | 253 | 女郎花涙に露やおきそふるたをれはいとと袖のしをるる をみなへし なみたにつゆや おきそふる たをれはいとと そてのしをるる | 前左衛門督公光 | 秋上 |
7-千載 | 254 | ふく風にをれふしぬれはをみなへしまかきそ花の枕なりける ふくかせに をれふしぬれは をみなへし まかきそはなの まくらなりける | 藤原行家 | 秋上 |
7-千載 | 255 | 夕されはかやかしけみになきかはすむしのねをさへわけつつそ行く ゆふされは かやかしけみに なきかはす むしのねをさへ わけつつそゆく | 藤原盛方 | 秋上 |
7-千載 | 256 | さまさまに心そとまるみやき野の花のいろいろむしのこゑこゑ さまさまに こころそとまる みやきのの はなのいろいろ むしのこゑこゑ | 源俊頼 | 秋上 |
7-千載 | 257 | 秋くれはやとにとまるをたひねにて野へこそつねのすみかなりけれ あきくれは やとにとまるを たひねにて のへこそつねの すみかなりけれ | 源俊頼 | 秋上 |
7-千載 | 258 | 野わきするのへのけしきをみる時は心なき人あらしとそおもふ のわきする のへのけしきを みるときは こころなきひと あらしとそおもふ | 藤原季通 | 秋上 |
7-千載 | 259 | 夕されは野へのあきかせ身にしみてうつら鳴くなりふか草のさと ゆふされは のへのあきかせ みにしみて うつらなくなり ふかくさのさと | 藤原俊成 | 秋上 |
7-千載 | 260 | なにとなく物そかなしきすかはらやふしみのさとの秋の夕くれ なにとなく ものそかなしき すかはらや ふしみのさとの あきのゆふくれ | 源俊頼 | 秋上 |
7-千載 | 261 | さまさまの花をはやとにうつしうゑつしかのねさそへ野への秋風 さまさまの はなをはやとに うつしうゑつ しかのねさそへ のへのあきかせ | 九条兼実 | 秋上 |
7-千載 | 262 | 秋のののちくさの色にうつろへは花そかへりて露をそめける あきののの ちくさのいろに うつろへは はなそかへりて つゆをそめける | 守覚法親王 | 秋上 |
7-千載 | 263 | 草木まて秋のあはれをしのへはや野にも山にもつゆこはるらん くさきまて あきのあはれを しのへはや のにもやまにも つゆこほるらむ | 慈円 | 秋上 |
7-千載 | 264 | はかなさをわか身のうへによそふれはたもとにかかる秋の夕露 はかなさを わかみのうへに よそふれは たもとにかかる あきのゆふつゆ | 待賢門院堀河 | 秋上 |
7-千載 | 265 | たつたひめかさしの玉のををよわみみたれにけりとみゆるしら露 たつたひめ かさしのたまの ををよわみ みたれにけりと みゆるしらつゆ | 藤原清輔 | 秋上 |
7-千載 | 266 | 夕まくれをきふくかせのおときけはたもとよりこそ露はこはるれ ゆふまくれ をきふくかせの おときけは たもとよりこそ つゆはこほるれ | 藤原季経 | 秋上 |
7-千載 | 267 | おほかたの露にはなにのなるならむたもとにおくは涙なりけり おほかたの つゆにはなにの なるならむ たもとにおくは なみたなりけり | 西行法師 | 秋上 |
7-千載 | 268 | 花すすきまねくはさかとしりなからととまる物は心なりけり はなすすき まねくはさかと しりなから ととまるものは こころなりけり | 道命法師 | 秋上 |
7-千載 | 269 | 時しもあれ秋ふるさとにきてみれは庭は野へともなりにけるかな ときしもあれ あきふるさとに きてみれは にははのへとも なりにけるかな | 藤原公任 | 秋上 |
7-千載 | 270 | やとかれていくかもあらぬにしかのなく秋ののへともなりにけるかな やとかれて いくかもあらぬに しかのなく あきののへとも なりにけるかな | 小弁 | 秋上 |
7-千載 | 271 | いまはしもほにいてぬらむ東路のいはたのをののしののをすすき いまはしも ほにいてぬらむ あつまちの いはたのをのの しののをすすき | 藤原伊家 | 秋上 |
7-千載 | 272 | 夕されはをののあさちふ玉ちりて心くたくる風のおとかな ゆふされは をののあさちふ たまちりて こころくたくる かせのおとかな | 九条兼実 | 秋上 |
7-千載 | 273 | ときはなるあをはの山も秋くれは色こそかへねさひしかりけり ときはなる あをはのやまも あきくれは いろこそかへね さひしかりけり | 前大僧正覚忠 | 秋上 |
7-千載 | 274 | 秋のよの心をつくすはしめとてほのかにみゆる夕つくよかな あきのよの こころをつくす はしめとて ほのかにみゆる ゆふつくよかな | 藤原実家 | 秋上 |
7-千載 | 275 | あきの月たかねの雲のあなたにてはれゆく空のくるるまちけり あきのつき たかねのくもの あなたにて はれゆくそらの くるるまちけり | 西園寺公経 | 秋上 |
7-千載 | 276 | こからしの雲ふきはらふたかねよりさえても月のすみのほるかな こからしの くもふきはらふ たかねより さえてもつきの すみのほるかな | 源俊頼 | 秋上 |
7-千載 | 277 | いつこにも月はわかしをいかなれはさやけかるらむさらしなのやま いつこにも つきはわかしを いかなれは さやけかるらむ さらしなのやま | 隆源法師 | 秋上 |
7-千載 | 278 | 出てぬより月みよとこそさえにけれをはすて山のゆふくれの空 いてぬより つきみよとこそ さえにけれ をはすてやまの ゆふくれのそら | 藤原隆信 | 秋上 |
7-千載 | 279 | くまもなきみそらに秋の月すめは庭には冬のこほりをそしく くまもなき みそらにあきの つきすめは にはにはふゆの こほりをそしく | 源雅頼 | 秋上 |
7-千載 | 280 | 月みれははるかにおもふさらしなの山も心のうちにそありける つきみれは はるかにおもふ さらしなの やまもこころの うちにそありける | 右のおほいまうちきみ | 秋上 |
7-千載 | 281 | あすもこむ野ちの玉川はきこえて色なる浪に月やとりけり あすもこむ のちのたまかは はきこえて いろなるなみに つきやとりけり | 源俊頼 | 秋上 |
7-千載 | 282 | 玉よするうらわの風にそらはれてひかりをかはす秋のよの月 たまよする うらわのかせに そらはれて ひかりをかはす あきのよのつき | 崇徳院 | 秋上 |
7-千載 | 283 | さよふけてふしのたかねにすむ月は煙はかりやくもりなるへき さよふけて ふしのたかねに すむつきは けふりはかりや くもりなるへき | 徳大寺公能 | 秋上 |
7-千載 | 284 | 石はしるみつのしら玉かすみえてきよたき川にすめる月影 いしはしる みつのしらたま かすみえて きよたきかはに すめるつきかけ | 藤原俊成 | 秋上 |
7-千載 | 285 | しほかまのうらふくかせに霧はれてやそ島かけてすめる月かけ しほかまの うらふくかせに きりはれて やそしまかけて すめるつきかけ | 藤原清輔 | 秋上 |
7-千載 | 286 | おもひくまなくてもとしのへぬるかなものいひかはせ秋のよの月 おもひくま なくてもとしの へぬるかな ものいひかはせ あきのよのつき | 源俊頼 | 秋上 |
7-千載 | 287 | 山のはにますみのかかみかけたりとみゆるは月のいつるなりけり やまのはに ますみのかかみ かけたりと みゆるはつきの いつるなりけり | 藤原基俊 | 秋上 |
7-千載 | 288 | 秋のよやあまのかはせはこほるらむ月のひかりのさえまさるかな あきのよや あまのかはせは こほるらむ つきのひかりの さえまさるかな | 藤原道経 | 秋上 |
7-千載 | 289 | とほさかるおとはせねとも月きよみ氷とみゆるしかのうら浪 とほさかる おとはせねとも つききよみ こほりとみゆる しかのうらなみ | 太宰大弐重家 | 秋上 |
7-千載 | 290 | つねよりも身にそしみける秋の野に月すむ夜はの荻のうはかせ つねよりも みにそしみける あきののに つきすむよはの をきのうはかせ | 右衛門督頼実 | 秋上 |
7-千載 | 291 | なかめやる心のはてそなかりけるあかしのおきにすめる月影 なかめやる こころのはてそ なかりける あかしのおきに すめるつきかけ | 俊恵法師 | 秋上 |
7-千載 | 292 | やほかゆくはまのまさこをしきかへて玉になしつる秋のよの月 やほかゆく はまのまさこを しきかへて たまになしつる あきのよのつき | 藤原長方 | 秋上 |
7-千載 | 293 | いしまゆくみたらし川のおとさえて月やむすはぬこほりなるらん いしまゆく みたらしかはの おとさえて つきやむすはぬ こほりなるらむ | 藤原公時 | 秋上 |
7-千載 | 294 | 月かけはきえぬこほりとみえなからささ浪よするしかのからさき つきかけは きえぬこほりと みえなから ささなみよする しかのからさき | 藤原顕家 | 秋上 |
7-千載 | 295 | てる月のかけさえぬれはあさちはら雪のしたにもむしはなきけり てるつきの かけさえぬれは あさちはら ゆきのしたにも むしはなきけり | 頼円法師 | 秋上 |
7-千載 | 296 | あさちはらはすゑにむすふ露ことにひかりをわけてやとる月かけ あさちはら はすゑにむすふ つゆことに ひかりをわけて やとるつきかけ | 藤原親盛 | 秋上 |
7-千載 | 297 | ふけにけるわかよの秋そあはれなるかたふく月は又もいてなん ふけにける わかよのあきそ あはれなる かたふくつきは またもいてなむ | 藤原清輔 | 秋上 |
7-千載 | 298 | 身のうさの秋はわするる物ならはなみたくもらて月はみてまし みのうさの あきはわするる ものならは なみたくもらて つきはみてまし | 難波頼輔 | 秋上 |
7-千載 | 299 | おほかたの秋のあはれをおもひやれ月に心はあくかれぬとも おほかたの あきのあはれを おもひやれ つきにこころは あくかれぬとも | 紫式部 | 秋上 |
7-千載 | 300 | たくひなくつらしとそおもふ秋のよの月をのこしてあくるしののめ たくひなく つらしとそおもふ あきのよの つきをのこして あくるしののめ | 藤原成通 | 秋上 |
7-千載 | 301 | てる月のたひねのとこやしもとゆふかつらき山のたに川のみつ てるつきの たひねのとこや しもとゆふ かつらきやまの たにかはのみつ | 源俊頼 | 秋上 |
7-千載 | 302 | はるかなるもろこしまてもゆく物は秋のねさめの心なりけり はるかなる もろこしまても ゆくものは あきのねさめの こころなりけり | 大弐三位 | 秋下 |
7-千載 | 303 | 山さとはさひしかりけりこからしのふく夕くれのひくらしのこゑ やまさとは さひしかりけり こからしの ふくゆふくれの ひくらしのこゑ | 藤原仲実 | 秋下 |
7-千載 | 304 | 秋のよは松をはらはぬ風たにもかなしきことのねをたてすやは あきのよは まつをはらはぬ かせたにも かなしきことの ねをたてすやは | 藤原季通 | 秋下 |
7-千載 | 305 | 露さむみうらかれもてく秋ののにさひしくもある風のおとかな つゆさむみ うらかれもてく あきののに さひしくもある かせのおとかな | 藤原時昌 | 秋下 |
7-千載 | 306 | 夕くれはをのの萩はらふく風にさひしくもあるか鹿のなくなる ゆふされは をののはきはら ふくかせに さひしくもあるか しかのなくなる | 藤原正家 | 秋下 |
7-千載 | 307 | みむろやまおろすあらしのさひしきにつまよふしかの声たくふなり みむろやま おろすあらしの さひしきに つまとふしかの こゑたくふなり | 二条太皇大后宮肥後 | 秋下 |
7-千載 | 308 | そまかたにみちやまとへるさをしかのつまとふ声のしけくも有るかな そまかたに みちやまとへる さをしかの つまとふこゑの しけくもあるかな | 藤原公実 | 秋下 |
7-千載 | 309 | 秋のよはおなしをのへになくしかのふけゆくままにちかくなるかな あきのよは おなしをのへに なくしかの ふけゆくままに ちかくなるかな | 輔仁のみこ | 秋下 |
7-千載 | 310 | さをしかのなくねは野へにきこゆれとなみたはとこの物にそ有りける さをしかの なくねはのへに きこゆれと なみたはとこの ものにそありける | 源俊頼 | 秋下 |
7-千載 | 311 | さらぬたにゆふへさひしき山里の露のまかきにをしか鳴くなり さらぬたに ゆふへさひしき やまさとの きりのまかきに をしかなくなり | 待賢門院堀河 | 秋下 |
7-千載 | 312 | みなと川うきねのとこにきこゆなりいく田のおくのさをしかのこゑ みなとかは うきねのとこに きこゆなり いくたのおくの さをしかのこゑ | 藤原範兼 | 秋下 |
7-千載 | 313 | うきねするゐなのみなとにきこゆなりしかのねおろすみねの松かせ うきねする ゐなのみなとに きこゆなり しかのねおろす みねのまつかせ | 藤原隆信 | 秋下 |
7-千載 | 314 | 夜をこめてあかしのせとをこきいつれははるかにおくるさをしかのこゑ よをこめて あかしのせとを こきいつれは はるかにおくる さをしかのこゑ | 俊恵法師 | 秋下 |
7-千載 | 315 | みなと川夜ふねこきいつるおひかせに鹿のこゑさへせとわたるなり みなとかは よふねこきいつる おひかせに しかのこゑさへ せとわたるなり | 道因法師 | 秋下 |
7-千載 | 316 | 宮城ののこはきかはらをゆくほとは鹿のねをさへわけてきくかな みやきのの こはきかはらを ゆくほとは しかのねをさへ わけてきくかな | 覚延法師 | 秋下 |
7-千載 | 317 | さをしかのつまよふこゑもいかなれや夕はわきてかなしかるらん さをしかの つまよふこゑも いかなれや ゆふへはわきて かなしかるらむ | 左京大夫修範 | 秋下 |
7-千載 | 318 | きくままにかたしく袖のぬるるかなしかのこゑには露やそふらん きくままに かたしくそての ぬるるかな しかのこゑには つゆやそふらむ | 藤原季能 | 秋下 |
7-千載 | 319 | 山さとのあかつきかたのしかのねは夜はのあはれのかきりなりけり やまさとの あかつきかたの しかのねは よはのあはれの かきりなりけり | 慈円 | 秋下 |
7-千載 | 320 | よそにたに身にしむくれのしかのねにいかなる妻かつれなかるらん よそにたに みにしむくれの しかのねを いかなるつまか つれなかるらむ | 俊恵法師 | 秋下 |
7-千載 | 321 | 夕まくれさてもや秋はかなしきと鹿のねきかぬ人にとははや ゆふまくれ さてもやあきは かなしきと しかのねきかぬ ひとにとははや | 道因法師 | 秋下 |
7-千載 | 322 | つねよりも秋のゆふへをあはれとはしかのねにてやおもひそめけん つねよりも あきのゆふへを あはれとは しかのねにてや おもひそめけむ | 賀茂政平 | 秋下 |
7-千載 | 323 | さひしさをなににたとへんをしかなくみ山のさとのあけかたのそら さひしさを なににたとへむ をしかなく みやまのさとの あけかたのそら | 惟宗広言 | 秋下 |
7-千載 | 324 | いかはかり露けかるらんさをしかのつまこひかぬるをのの草ふし いかはかり つゆけかるらむ さをしかの つまこひかぬる をののくさふし | 長覚法師 | 秋下 |
7-千載 | 325 | をのへより門田にかよふ秋かせにいなはをわたるさをしかのこゑ をのへより かとたにかよふ あきかせに いなはをわたる さをしかのこゑ | 寂蓮法師 | 秋下 |
7-千載 | 326 | おとろかすおとこそよるのを山田は人なきよりもさひしかりけれ おとろかす おとこそよるの をやまたは ひとなきよりも さひしかりけれ | よみ人しらす | 秋下 |
7-千載 | 327 | わか門のおくてのひたにおとろきてむろのかり田にしきそたつなる わかかとの おくてのひたに おとろきて むろのかりたに しきそたつなる | 源兼昌 | 秋下 |
7-千載 | 328 | むしのねはあさちかもとにうつもれて秋はすゑはの色にそ有りける むしのねは あさちかもとに うつもれて あきはすゑはの いろにそありける | 寂蓮法師 | 秋下 |
7-千載 | 329 | 秋のよのあはれはたれもしるものをわれのみとなくきりきりすかな あきのよの あはれはたれも しるものを われのみとなく きりきりすかな | 藤原兼宗 | 秋下 |
7-千載 | 330 | さまさまのあさちかはらのむしのねをあはれひとつにききそなしつる さまさまの あさちかはらの むしのねを あはれひとつに ききそなしつる | 九条良経 | 秋下 |
7-千載 | 331 | 夜をかさねこゑよわりゆくむしのねに秋のくれぬるほとをしるかな よをかさね こゑよわりゆく むしのねに あきのくれぬる ほとをしるかな | 徳大寺公能 | 秋下 |
7-千載 | 332 | 秋ふかくなりにけらしなきりきりすゆかのあたりにこゑきこゆなり あきふかく なりにけらしな きりきりす ゆかのあたりに こゑきこゆなり | 花山院 | 秋下 |
7-千載 | 333 | さりともとおもふこころもむしのねもよわりはてぬる秋のくれかな さりともと おもふこころも むしのねも よわりはてぬる あきのくれかな | 藤原俊成 | 秋下 |
7-千載 | 334 | むしのねもまれになりゆくあたし野にひとり秋なる月のかけかな むしのねも まれになりゆく あたしのに ひとりあきなる つきのかけかな | 道性法親王 | 秋下 |
7-千載 | 335 | 草も木もあきのすゑははみえゆくに月こそ色もかはらさりけれ くさもきも あきのすゑはは みえゆくに つきこそいろも かはらさりけれ | 式子内親王 | 秋下 |
7-千載 | 336 | すむ水にさやけき影のうつれはやこよひの月の名になかるらん すむみつに さやけきかけの うつれはや こよひのつきの なになかるらむ | 大宮右大臣 | 秋下 |
7-千載 | 337 | 秋の月ちちに心をくたききてこよひ一よにたへすも有るかな あきのつき ちちにこころを くたききて こよひひとよに たへすもあるかな | よみ人しらす | 秋下 |
7-千載 | 338 | さよふけてきぬたのおとそたゆむなる月をみつつや衣うつらん さよふけて きぬたのおとそ たゆむなる つきをみつつや ころもうつらむ | 覚性入道親王 | 秋下 |
7-千載 | 339 | 恋ひつつやいもかうつらむから衣きぬたのおとのそらになるまて こひつつや いもかうつらむ からころも きぬたのおとの そらになるまて | 藤原公実 | 秋下 |
7-千載 | 340 | 松かせのおとたに秋はさひしきに衣うつなり玉川のさと まつかせの おとたにあきは さひしきに ころもうつなり たまかはのさと | 源俊頼 | 秋下 |
7-千載 | 341 | たかためにいかにうてはかから衣ちたひやちたひ声のうらむる たかために いかにうてはか からころも ちたひやちたひ こゑのうらむる | 藤原基俊 | 秋下 |
7-千載 | 342 | 衣うつおとをきくにそしられぬる里とほからぬ草枕とは ころもうつ おとをきくにそ しられぬる さととほからぬ くさまくらとは | 俊盛法師 | 秋下 |
7-千載 | 343 | 夕きりや秋のあはれをこめつらむわけいる袖に露のおきそふ ゆふきりや あきのあはれを こめつらむ わけいるそてに つゆのおきそふ | 法橋宗円 | 秋下 |
7-千載 | 344 | 秋ふかみたそかれ時のふちはかまにほふはなのる心ちこそすれ あきふかみ たそかれときの ふちはかま にほふはなのる ここちこそすれ | 崇徳院 | 秋下 |
7-千載 | 345 | いかにしていはまもみえぬ夕暮にとなせのいかたおちてきつらん いかにして いはまもみえぬ ゆふきりに となせのいかた おちてきつらむ | 前参犠親隆 | 秋下 |
7-千載 | 346 | けさみれはさなから霜をいたたきておきなさひゆく白菊の花 けさみれは さなからしもを いたたきて おきなさひゆく しらきくのはな | 藤原基俊 | 秋下 |
7-千載 | 347 | しら菊のはにおく露にやとらすは花とそみましてらす月影 しらきくの はにおくつゆに やとらすは はなとそみまし てらすつきかけ | 内のおほいまうちきみ | 秋下 |
7-千載 | 348 | 雪ならはまかきにのみはつもらしとおもひとくにそ白菊の花 ゆきならは まかきにのみは つもらしと おもひとくにそ しらきくのはな | 行慶 | 秋下 |
7-千載 | 349 | 朝な朝な籬のきくのうつろへは露さへ色のかはり行くかな あさなあさな まかきのきくの うつろへは つゆさへいろの かはりゆくかな | 祐盛法師 | 秋下 |
7-千載 | 350 | さえわたる光を霜にまかへてや月にうつろふ白きくのはな さえわたる ひかりをしもに まかへてや つきにうつろふ しらきくのはな | 藤原家隆 | 秋下 |
7-千載 | 351 | ことことにかなしかりけりむへしこそ秋の心をうれへといひけれ ことことに かなしかりけり うへしこそ あきのこころを うれへといひけれ | 藤原季通 | 秋下 |
7-千載 | 352 | 秋にあへすさこそはくすの色つかめあなうらめしの風のけしきや あきにあへす さこそはくすの いろつかめ あなうらめしの かせのけしきや | 藤原基俊 | 秋下 |
7-千載 | 353 | はつ時雨ふるほともなくしもとゆふかつらき山は色つきにけり はつしくれ ふるほともなく しもとゆふ かつらきやまは いろつきにけり | 覚性入道親王 | 秋下 |
7-千載 | 354 | むら雲の時雨れてそむる紅葉ははうすくこくこそ色にみえけれ むらくもの しくれてそむる もみちはは うすくこくこそ いろにみえけれ | 覚延法師 | 秋下 |
7-千載 | 355 | しくれ行くよものこすゑの色よりも秋は夕のかはるなりけり しくれゆく よものこすゑの いろよりも あきはゆふへの かはるなりけり | 藤原定家 | 秋下 |
7-千載 | 356 | おほろけの色とや人のおもふらむをくらの山をてらす紅葉は おほろけの いろとやひとの おもふらむ をくらのやまを てらすもみちは | 道命法師 | 秋下 |
7-千載 | 357 | 君みんと心やしけんたつたひめ紅葉の錦いろをつくせり きみみむと こころやしけむ たつたひめ もみちのにしき いろをつくせり | 小弁 | 秋下 |
7-千載 | 358 | 故郷にとふ人あらはもみちはのちりなん後をまてとこたへよ ふるさとに とふひとあらは もみちはの ちりなむのちを まてとこたへよ | 素意法師 | 秋下 |
7-千載 | 359 | 山ひめにちへのにしきをたむけてもちる紅葉はをいかてととめん やまひめに ちへのにしきを たむけても ちるもみちはを いかてととめむ | 藤原顕輔 | 秋下 |
7-千載 | 360 | 紅葉はに月の光をさしそへてこれやあかちの錦なるらん もみちはに つきのひかりを さしそへて これやあかちの にしきなるらむ | 院 | 秋下 |
7-千載 | 361 | 山おろしにうらつたひする紅葉かないかかはすへきすまのせきもり やまおろしに うらつたひする もみちかな いかかはすへき すまのせきもり | 右大臣 | 秋下 |
7-千載 | 362 | 清見かた関にとまらてゆく船は嵐のさそふこのはなりけり きよみかた せきにとまらて ゆくふねは あらしのさそふ このはなりけり | 藤原実房 | 秋下 |
7-千載 | 363 | もみちはをせきもる神にたむけおきてあふ坂山をすくる木からし もみちはを せきもるかみに たむけおきて あふさかやまを すくるこからし | 権中納言実守 | 秋下 |
7-千載 | 364 | 紅葉はのみなくれなゐにちりしけは名のみなりけり白川の関 もみちはの みなくれなゐに ちりしけは なのみなりけり しらかはのせき | 左大弁親宗 | 秋下 |
7-千載 | 365 | みやこにはまた青葉にてみしかとももみちちりしく白川のせき みやこには またあをはにて みしかとも もみちちりしく しらかはのせき | 源頼政 | 秋下 |
7-千載 | 366 | ささ波やひらのたかねの山おろしもみちをうみの物となしつる ささなみや ひらのたかねの やまおろし もみちをうみの ものとなしつる | 藤原範兼 | 秋下 |
7-千載 | 367 | たつた山松のむらたちなかりせはいつくかのこるみとりならまし たつたやま まつのむらたち なかりせは いつくかのこる みとりならまし | 藤原清輔 | 秋下 |
7-千載 | 368 | 秋といへはいはたのをののははそ原時雨もまたす紅葉しにけり あきといへは いはたのをのの ははそはら しくれもまたす もみちしにけり | 覚盛法師 | 秋下 |
7-千載 | 369 | 庭のおもにちりてつもれる紅葉はは九重にしく錦なりけり にはのおもに ちりてつもれる もみちはは ここのへにしく にしきなりけり | 藤原公重 | 秋下 |
7-千載 | 370 | けふみれは嵐の山はおほゐ川もみち吹きおろす名にこそ有りけれ けふみれは あらしのやまは おほゐかは もみちふきおろす なにこそありけれ | 俊恵法師 | 秋下 |
7-千載 | 371 | おほゐかはなかれておつる紅葉かなさそふは峰の嵐のみかは おほゐかは なかれておつる もみちかな さそふはみねの あらしのみかは | 道因法師 | 秋下 |
7-千載 | 372 | 今そしる手向の山はもみち葉のぬさとちりかふ名こそ有りけれ いまそしる たむけのやまは もみちはの ぬさとちりかふ なにこそありけれ | 藤原清輔 | 秋下 |
7-千載 | 373 | たつた山ふもとの里はとほけれと嵐のつてに紅葉をそみる たつたやま ふもとのさとは とほけれと あらしのつてに もみちをそみる | 祝部成仲 | 秋下 |
7-千載 | 374 | 吹きみたるははそか原をみわたせは色なき風も紅葉しにけり ふきみたる ははそかはらを みわたせは いろなきかせも もみちしにけり | 賀茂成保 | 秋下 |
7-千載 | 375 | 色かへぬ松ふく風のおとはしてちるはははそのもみちなりけり いろかへぬ まつふくかせの おとはして ちるはははその もみちなりけり | 藤原朝仲 | 秋下 |
7-千載 | 376 | ふるさとの庭はこのはに色かへてかはらの松そみとりなりける ふるさとの にははこのはに いろかへて かはらぬまつそ みとりなりける | 惟宗広言 | 秋下 |
7-千載 | 377 | ちりつもる木のはも風にさそはれて庭にも秋のくれにけるかな ちりつもる このはもかせに さそはれて にはにもあきの くれにけるかな | 法橋慈弁 | 秋下 |
7-千載 | 378 | 秋の田にもみちちりける山さとをこともおろかにおもひけるかな あきのたに もみちちりける やまさとを こともおろかに おもひけるかな | 源俊頼 | 秋下 |
7-千載 | 379 | ちりかかる谷のを川の色つくはこのはや水の時雨なるらん ちりかかる たにのをかはの いろつくは このはやみつの しくれなるらむ | 九条兼実 | 秋下 |
7-千載 | 380 | くれてゆく秋をは水やさそふらむ紅葉なかれぬ山河そなき くれてゆく あきをはみつや さそふらむ もみちなかれぬ やまかはそなき | 後三条内大臣 | 秋下 |
7-千載 | 381 | 紅葉はのちり行くかたをたつぬれは秋も嵐のこゑのみそする もみちはの ちりゆくかたを たつぬれは あきもあらしの こゑのみそする | 崇徳院 | 秋下 |
7-千載 | 382 | さらぬたに心ほそきを山さとのかねさへ秋のくれをつくなり さらぬたに こころほそきを やまさとの かねさへあきの くれをつくなり | 前大僧正覚忠 | 秋下 |
7-千載 | 383 | からにしきぬさにたちもて行く秋もけふやたむけの山ちこゆらん からにしき ぬさにたちもて ゆくあきも けふやたむけの やまちこゆらむ | 瞻西上人 | 秋下 |
7-千載 | 384 | あけぬともなほ秋風はおとつれて野へのけしきよおもかはりすな あけぬとも なほあきかせは おとつれて のへのけしきよ おもかはりすな | 源俊頼 | 秋下 |
7-千載 | 385 | たつた山ちるもみちはをきてみれは秋はふもとにかへるなりけり たつたやま ちるもみちはを きてみれは あきはふもとに かへるなりけり | 大江匡房 | 秋下 |
7-千載 | 386 | こよひまて秋はかきれとさためける神代もさらにうらめしきかな こよひまて あきはかきれと さためける かみよもさらに うらめしきかな | 源有仁家小大進 | 秋下 |
7-千載 | 387 | 昨日こそ秋はくれしかいつのまにいはまの水のうすこほるらん きのふこそ あきはくれしか いつのまに いはまのみつの うすこほるらむ | 藤原公実 | 冬 |
7-千載 | 388 | いかはかりあきのなこりをなかめましけさはこのはに嵐ふかすは いかはかり あきのなこりを なかめまし けさはこのはに あらしふかすは | 源俊頼 | 冬 |
7-千載 | 389 | いつみ川水のみわたのふしつけにしはまのこほる冬はきにけり いつみかは みつのみわたの ふしつけに しはまもこほる ふゆはきにけり | 藤原仲実 | 冬 |
7-千載 | 390 | ひまもなくちるもみちはにうつもれて庭のけしきも冬こもりけり ひまもなく ちるもみちはに うつもれて にはのけしきも ふゆこもりけり | 崇徳院 | 冬 |
7-千載 | 391 | さまさまの草葉もいまは霜かれぬ野へより冬やたちてきつらん さまさまの くさはもいまは しもかれぬ のへよりふゆや たちてきつらむ | 徳大寺公能 | 冬 |
7-千載 | 392 | すむ水を心なしとはたれかいふこほりそ冬のはしめをもしる すむみつを こころなしとは たれかいふ こほりそふゆの はしめをもしる | 藤原隆季 | 冬 |
7-千載 | 393 | 秋のうちはあはれしらせし風のおとのはけしさそふる冬はきにけり あきのうちは あはれしらせし かせのおとの はけしさそふる ふゆはきにけり | 藤原教長 | 冬 |
7-千載 | 394 | わきも子かうはものすそのみつなみにけさこそ冬はたちはしめけれ わきもこか うはものすその みつなみに けさこそふゆは たちはしめけれ | 源有仁家小大進 | 冬 |
7-千載 | 395 | いつのまにかけひの水のこほるらむさこそ嵐のおとのかはらめ いつのまに かけひのみつの こほるらむ さこそあらしの おとのかはらめ | 藤原孝善 | 冬 |
7-千載 | 396 | と山ふく貴のかせのおときけはまたきに冬のおくそしらるる とやまふく あらしのかせの おときけは またきにふゆの おくそしらるる | 和泉式部 | 冬 |
7-千載 | 397 | はつ霜やおきはしむらん暁のかねのおとこそほのきこゆなれ はつしもや おきはしむらむ あかつきの かねのおとこそ ほのきこゆなれ | 徳大寺公能 | 冬 |
7-千載 | 398 | たかさこのをのへのかねのおとすなり暁かけて霜やおくらん たかさこの をのへのかねの おとすなり あかつきかけて しもやおくらむ | 大江匡房 | 冬 |
7-千載 | 399 | ひさきおふるをののあさちにおく霜のしろきをみれは夜やふけぬらん ひさきおふる をののあさちに おくしもの しろきをみれは よやふけぬらむ | 藤原基俊 | 冬 |
7-千載 | 400 | 冬きては一よふたよを玉ささのはわけの霜のところせきまて ふゆきては ひとよふたよを たまささの はわけのしもの ところせきまて | 藤原定家 | 冬 |
7-千載 | 401 | 霜さえてかれ行くをののをかへなるならのひろはに時雨ふるなり しもさえて かれゆくをのの をかへなる ならのひろはに しくれふるなり | 藤原基俊 | 冬 |
7-千載 | 402 | ねさめしてたれかきくらん此ころのこのはにかかる夜半のしくれを ねさめして たれかきくらむ このころの このはにかかる よはのしくれを | 馬内侍 | 冬 |
7-千載 | 403 | おとにさへたもとをぬらす時雨かなまきのいたやの夜はのねさめに おとにさへ たもとをぬらす しくれかな まきのいたやの よはのねさめに | 源定信(法名道舜) | 冬 |
7-千載 | 404 | まはらなるまきのいたやにおとはしてもらぬ時雨やこのはなるらん まはらなる まきのいたやに おとはして もらぬしくれや このはなるらむ | 藤原俊成 | 冬 |
7-千載 | 405 | 木葉ちるとはかりききてやみなましもらて時雨の山めくりせは このはちる とはかりききて やみなまし もらてしくれの やまめくりせは | 覚性入道親王 | 冬 |
7-千載 | 406 | ひとりねの涙やそらにかよふらむ時雨にくもるあり明の月 ひとりねの なみたやそらに かよふらむ しくれにくもる ありあけのつき | 九条兼実 | 冬 |
7-千載 | 407 | うたたねは夢やうつつにかよふらむさめてもおなし時雨をそきく うたたねは ゆめやうつつに かよふらむ さめてもおなし しくれをそきく | 藤原隆信 | 冬 |
7-千載 | 408 | 山めくる雲のしたにや成りぬらんすそ野の原にしくれすくなり やまめくる くものしたにや なりぬらむ すそののはらに しくれすくなり | 源頼政 | 冬 |
7-千載 | 409 | 時雨れゆくをちのと山のみねつつきうつりもあへす雲かくるらん しくれゆく をちのとやまの みねつつき うつりもあへす くもかくるらむ | 源師光 | 冬 |
7-千載 | 410 | あらしふくひらのたかねのねわたしにあはれしくるる神無月かな あらしふく ひらのたかねの ねわたしに あはれしくるる かみなつきかな | 道因法師 | 冬 |
7-千載 | 411 | み山辺の時雨れてわたるかすことにかことかましき玉かしはかな みやまへの しくれてわたる かすことに かことかましき たまかしはかな | 源国信 | 冬 |
7-千載 | 412 | このはのみちるかとおもひし時雨には涙もたへぬ物にそ有りける このはのみ ちるかとおもひし しくれには なみたもたへぬ ものにそありける | 源俊頼 | 冬 |
7-千載 | 413 | ふりはへて人もとひこぬ山さとは時雨はかりそすきかてにする ふりはへて ひともとひこぬ やまさとは しくれはかりそ すきかてにする | 二条太皇大后宮肥後 | 冬 |
7-千載 | 414 | 時雨れつるまやののきはのほとなきにやかてさしいる月のかけかな しくれつる まやののきはの ほとなきに やかてさしいる つきのかけかな | 藤原定家 | 冬 |
7-千載 | 415 | 玉つさに涙のかかる心ちしてしくるるそらに雁のなくなる たまつさに なみたのかかる ここちして しくるるそらに かりのなくなる | 読人しらす | 冬 |
7-千載 | 416 | みねこえにならのはつたひおとつれてやかて軒はに時雨きにけり みねこえに ならのはつたひ おとつれて やかてのきはに しくれきにけり | 源仲頼 | 冬 |
7-千載 | 417 | 暁のねさめにすくる時雨こそもらても人の袖ぬらしけれ あかつきの ねさめにすくる しくれこそ もらてもひとの そてぬらしけれ | 紀康宗 | 冬 |
7-千載 | 418 | ちりはててのちさへ風をいとふかなもみちをふけるみ山へのさと ちりはてて のちさへかせを いとふかな もみちをふける みやまへのさと | 藤原盛雅 | 冬 |
7-千載 | 419 | 都たにさひしさまさる木からしにみねの松かせおもひこそやれ みやこたに さひしさまさる こからしに みねのまつかせ おもひこそやれ | 藤原定頼女 | 冬 |
7-千載 | 420 | あさほらけうちの河霧たえたえにあらはれわたるせせの網代木 あさほらけ うちのかはきり たえたえに あらはれわたる せせのあしろき | 藤原定頼 | 冬 |
7-千載 | 421 | やかたをのましろのたかを引きすゑてうたのとたちをかりくらしつる やかたをの ましろのたかを ひきすゑて うたのとたちを かりくらしつる | 藤原仲実 | 冬 |
7-千載 | 422 | ふる雪にゆくへも見えすはし鷹のをふさのすすのおとはかりして ふるゆきに ゆくへもみえす はしたかの をふさのすすの おとはかりして | 隆源法師 | 冬 |
7-千載 | 423 | 夕まくれ山かたつきてたつ鳥のはおとにたかをあはせつるかな ゆふまくれ やまかたつきて たつとりの はおとにたかを あはせつるかな | 源俊頼 | 冬 |
7-千載 | 424 | いもかりとさほの川へをわかゆけはさよかふけぬる千鳥なくなり いもかりと さほのかはへを わかゆけは さよかふけぬる ちとりなくなり | 藤原長能 | 冬 |
7-千載 | 425 | すまのせき有明のそらになく千鳥かたふく月はなれもかなしき すまのせき ありあけのそらに なくちとり かたふくつきは なれもかなしき | 藤原俊成 | 冬 |
7-千載 | 426 | いはこゆるあら磯なみにたつ千とり心ならてやうらつたふらん いはこゆる あらいそなみに たつちとり こころならすや うらつたふらむ | 道因法師 | 冬 |
7-千載 | 427 | 霜さえてさ夜もなかゐのうらさむみ明けやらすとや千鳥鳴くらん しもさえて さよもなかゐの うらさむみ あけやらすとや ちとりなくらむ | 法印静賢 | 冬 |
7-千載 | 428 | しもかれのなにはのあしのほのほのとあくる湊に千とり鳴くなり しもかれの なにはのあしの ほのほのと あくるみなとに ちとりなくなり | 賀茂成保 | 冬 |
7-千載 | 429 | かたみにやうはけの霜をはらふらむともねのをしのもろこゑになく かたみにや うはけのしもを はらふらむ ともねのをしの もろこゑになく | 源親房 | 冬 |
7-千載 | 430 | 水鳥をみつのうへとやよそにみむ我もうきたる世をすくしつつ みつとりを みつのうへとや よそにみむ われもうきたる よをすくしつつ | 紫式部 | 冬 |
7-千載 | 431 | みつ鳥の玉ものとこのうき枕ふかきおもひはたれかまされる みつとりの たまものとこの うきまくら ふかきおもひは たれかまされる | 大江匡房 | 冬 |
7-千載 | 432 | このころのをしのうきねそあはれなるうはけの霜よ下のこほりよ このころの をしのうきねそ あはれなる うはけのしもよ したのこほりよ | 崇徳院 | 冬 |
7-千載 | 433 | なにはかたいりえをめくるあしかもの玉ものふねにうきねすらしも なにはかた いりえをめくる あしかもの たまものふねに うきねすらしも | 藤原顕輔 | 冬 |
7-千載 | 434 | をし鳥のうきねのとこやあれぬらんつららゐにけりこやの池水 をしとりの うきねのとこや あれぬらむ つららゐにけり こやのいけみつ | 源経房 | 冬 |
7-千載 | 435 | かものゐるいりえのあしは霜かれておのれのみこそあをはなりけれ かものゐる いりえのあしは しもかれて おのれのみこそ あをはなりけれ | 道因法師 | 冬 |
7-千載 | 436 | おく霜をはらひかねてやしをれふすかつみかしたにをしのなくらん おくしもを はらひかねてや しをれふす かつみかしたに をしのなくらむ | 賀茂重保 | 冬 |
7-千載 | 437 | あしかものすたく入えの月かけはこほりそ浪のかすにくたくる あしかもの すたくいりえの つきかけは こほりそなみの かすにくたくる | 前左衛門督公光 | 冬 |
7-千載 | 438 | 夜をかさねむすふ氷のしたにさヘ心ふかくもやとる月かな よをかさね むすふこほりの したにさへ こころふかくも やとるつきかな | 平実重 | 冬 |
7-千載 | 439 | いつくにか月はひかりをととむらんやとりし水も氷ゐにけり いつくにか つきはひかりを ととむらむ やとりしみつも こほりゐにけり | 左大弁親宗 | 冬 |
7-千載 | 440 | 冬くれはゆくてに人はくまねともこほりそむすふ山の井の水 ふゆくれは ゆくてにひとは くまねとも こほりそむすふ やまのゐのみつ | 藤原成家 | 冬 |
7-千載 | 441 | 月のすむそらには雲もなかりけりうつりし水はこほりへたてて つきのすむ そらにはくもも なかりけり うつりしみつは こほりへたてて | 道因法師 | 冬 |
7-千載 | 442 | つららゐてみかける影のみゆるかなまことにいまや玉川の水 つららゐて みかけるかけの みゆるかな まことにいまや たまかはのみつ | 崇徳院 | 冬 |
7-千載 | 443 | 月さゆる氷のうへにあられふり心くたくる玉川のさと つきさゆる こほりのうへに あられふり こころくたくる たまかはのさと | 藤原俊成 | 冬 |
7-千載 | 444 | さゆる夜のまきのいたやのひとりねに心くたけと霰ふるなり さゆるよの まきのいたやの ひとりねに こころくたけと あられふるなり | 九条良経 | 冬 |
7-千載 | 445 | 朝戸あけてみるそさひしきかた岡のならのひろはにふれるしらゆき あさとあけて みるそさひしき かたをかの ならのひろはに ふれるしらゆき | 源経信 | 冬 |
7-千載 | 446 | 夜をこめて谷の戸ほそに風さむみかねてそしるきみねのはつ雪 よをこめて たにのとほそに かせさむみ かねてそしるき みねのはつゆき | 崇徳院 | 冬 |
7-千載 | 447 | さえわたるよはのけしきにみやまへの雪のふかさを空にしるかな さえわたる よはのけしきに みやまへの ゆきのふかさを そらにしるかな | 藤原季通 | 冬 |
7-千載 | 448 | きゆるをや都の人はをしむらんけさ山さとにはらふしら雪 きゆるをや みやこのひとは をしむらむ けさやまさとに はらふしらゆき | 藤原清輔 | 冬 |
7-千載 | 449 | 霜かれのまかきのうちの雪みれはきくよりのちの花も有りけり しもかれの まかきのうちの ゆきみれは きくよりのちの はなもありけり | 藤原資隆 | 冬 |
7-千載 | 450 | たとへてもいはむかたなし月かけにうす雲かけてふれるしら雪 たとへても いはむかたなし つきかけに うすくもかけて ふれるしらゆき | 覚性入道親王 | 冬 |
7-千載 | 451 | み山ちはかつふる雪にうつもれていかてかこまのあとをたつねん みやまちは かつふるゆきに うつもれて いかてかこまの あとをたつねむ | 藤原教長 | 冬 |
7-千載 | 452 | おしなへて山のしら雪つもれともしるきはこしのたかねなりけり おしなへて やまのしらゆき つもれとも しるきはこしの たかねなりけり | 藤原通俊 | 冬 |
7-千載 | 453 | と山にはしはのしたはもちりはててをちのたかねに雪ふりにけり とやまには しはのしたはも ちりはてて をちのたかねに ゆきふりにけり | 藤原顕綱 | 冬 |
7-千載 | 454 | 雪ふれは谷のかけはしうつもれて梢そ冬の山ちなりける ゆきふれは たにのかけはし うつもれて こすゑそふゆの やまちなりける | 源俊頼 | 冬 |
7-千載 | 455 | 雪つもるみねにふふきやわたるらむこしのみそらにまよふしら雲 ゆきつもる みねにふふきや わたるらむ こしのみそらに まよふしらくも | 二条院 | 冬 |
7-千載 | 456 | 浪かけはみきはの雪もきえなまし心ありてもこほる池かな なみかけは みきはのゆきも きえなまし こころありても こほるいけかな | 守覚法親王 | 冬 |
7-千載 | 457 | 山さとのかきねは雪にうつもれて野へとひとつに成りにけるかな やまさとの かきねはゆきに うつもれて のへとひとつに なりにけるかな | 右のおほいまうちきみ | 冬 |
7-千載 | 458 | あともたえしをりも雪にうつもれてかへる山ちにまとひぬるかな あともたえ しをりもゆきに うつもれて かへるやまちに まとひぬるかな | 藤原実房 | 冬 |
7-千載 | 459 | こえかねていまそこし路をかへる山雪ふる時の名にこそ有りけれ こえかねて いまそこしちを かへるやま ゆきふるときの なにこそありけれ | 源頼政 | 冬 |
7-千載 | 460 | 浪まよりみえしけしきそかはりぬる雪ふりにけり松かうら島 なみまより みえしけしきそ かはりぬる ゆきふりにけり まつかうらしま | 顕昭法師 | 冬 |
7-千載 | 461 | ふふきするなからの山をみわたせはをのへをこゆるしかのうらなみ ふふきする なからのやまを みわたせは をのへをこゆる しかのうらなみ | 藤原良清 | 冬 |
7-千載 | 462 | ふる雪にのきはの竹もうつもれて友こそなけれ冬の山さと ふるゆきに のきはのたけも うつもれて ともこそなけれ ふゆのやまさと | 読人不知 | 冬 |
7-千載 | 463 | こまのあとはかつふる雪にうつもれておくるる人や道まとふらん こまのあとは かつふるゆきに うつもれて おくるるひとや みちまとふらむ | 西住法師 | 冬 |
7-千載 | 464 | くれ竹のをれふすおとのなかりせは夜ふかき雪をいかてしらまし くれたけの をれふすおとの なかりせは よふかきゆきを いかてしらまし | 坂上明兼 | 冬 |
7-千載 | 465 | ましはかるをののほそ道あとたえてふかくも雪のなりにけるかな ましはかる をののほそみち あとたえて ふかくもゆきの なりにけるかな | 藤原為季 | 冬 |
7-千載 | 466 | 雪ふれは木木のこすゑにさきそむるえたよりほかの花もちりけり ゆきふれは ききのこすゑに さきそむる えたよりほかの はなもちりけり | 俊恵法師 | 冬 |
7-千載 | 467 | ふるままに跡たえぬれはすすか山雪こそせきのとさしなりけれ ふるままに あとたえぬれは すすかやま ゆきこそせきの とさしなりけれ | 内大臣 | 冬 |
7-千載 | 468 | 山さとのかきねの梅はさきにけりかはかりこそは春もにほはめ やまさとの かきねのうめは さきにけり かはかりこそは はるもにほはめ | 天台座主明快 | 冬 |
7-千載 | 469 | かきくらしこし路もみえすふる雪にいかてかとしのかへり行くらん かきくらし こしちもみえす ふるゆきに いかてかとしの かへりゆくらむ | 藤原長実 | 冬 |
7-千載 | 470 | さりともとなけきなけきてすくしつるとしもこよひにくれはてにけり さりともと なけきなけきて すくしつる としもこよひに くれはてにけり | 前左衛門督公光 | 冬 |
7-千載 | 471 | あはれにもくれゆくとしのひかすかなかへらむことは夜のまとおもふに あはれにも くれゆくとしの ひかすかな かへらむことは よのまとおもふに | 相模 | 冬 |
7-千載 | 472 | かすならぬ身にはつもらぬとしならはけふのくれをもなけかさらまし かすならぬ みにはつもらぬ としならは けふのくれをも なけかさらまし | 惟宗広言 | 冬 |
7-千載 | 473 | をしめともはかなくくれてゆく年のしのふむかしにかへらましかは をしめとも はかなくくれて ゆくとしの しのふむかしに かへらましかは | 源光行 | 冬 |
7-千載 | 474 | 一とせははかなき夢のここちしてくれぬるけふそおとろかれける ひととせは はかなきゆめの ここちして くれぬるけふそ おとろかれける | 前律師俊宗 | 冬 |
7-千載 | 475 | みやこにておくりむかふといそきしをしらてや年のけふはくれなん みやこにて おくりむかふと いそきしを しりてやとしの けふはくれなむ | 平親範 | 冬 |
7-千載 | 476 | むかしみし心はかりをしるへにておもひそおくるいきの松原 むかしみし こころはかりを しるへにて おもひそおくる いきのまつはら | 藤原実方 | 離別 |
7-千載 | 477 | わかれよりまさりてをしき命かなきみに二たひあはむとおもへは わかれより まさりてをしき いのちかな きみにふたたひ あはむとおもへは | 藤原公任 | 離別 |
7-千載 | 478 | なきよわるまかきの虫もとめかたき秋のわかれやかなしかるらん なきよわる まかきのむしも とめかたき あきのわかれや かなしかるらむ | 紫式部 | 離別 |
7-千載 | 479 | かへりこむほともさためぬわかれちは都のてふりおもひいてにせよ かへりこむ ほともさためぬ わかれちは みやこのてふり おもひいてにせよ | 藤原公実 | 離別 |
7-千載 | 480 | 行すゑをまつへき身こそおいにけれ別はみちのとほきのみかは ゆくすゑを まつへきみこそ おいにけれ わかれはみちの とほきのみかは | 大江匡房 | 離別 |
7-千載 | 481 | わするなよかへる山ちにあとたえて日かすは雪のふりつもるとも わするなよ かへるやまちに あとたえて ひかすはゆきの ふりつもるとも | 源俊頼 | 離別 |
7-千載 | 482 | かへりこむほとをはいつといひおかし定なき身は人たのめなり かへりこむ ほとをはいつと いひおかし さためなきみは ひとたのめなり | 行尊 | 離別 |
7-千載 | 483 | たのむれと心かはりてかへりこはこれそやかての別なるへき たのむれと こころかはりて かへりこは これそやかての わかれなるへき | 藤原顕輔 | 離別 |
7-千載 | 484 | かきりあらむ道こそあらめこの世にて別るへしとはおもはさりしを かきりあらむ みちこそあらめ このよにて わかるへしとは おもはさりしを | 上西門院兵衛 | 離別 |
7-千載 | 485 | 行くきみをととめまほしくおもふかな我も恋しき都なれとも ゆくきみを ととめまほしく おもふかな われもこひしき みやこなれとも | 藤原経衡 | 離別 |
7-千載 | 486 | 年へたる人の心をおもひやれ君たにこふる花の都を としへたる ひとのこころを おもひやれ きみたにこふる はなのみやこを | 太宰大弐資通 | 離別 |
7-千載 | 487 | もろともに行人もなき別ちに涙はかりそとまらさりける もろともに ゆくひともなき わかれちに なみたはかりそ とまらさりける | 道命法師 | 離別 |
7-千載 | 488 | なからへてあるへき身としおもはねはわするなとたにえこそちきらね なからへて あるへきみとし おもはねは わするなとたに えこそちきらね | 天台座主源心 | 離別 |
7-千載 | 489 | あはれとしおもはむ人は別れしを心は身よりほかのものかは あはれとし おもはむひとは わかれしを こころはみより ほかのものかは | 読人不知 | 離別 |
7-千載 | 490 | 別れてもおなしみやこにありしかはいとこのたひの心ちやはせし わかれても おなしみやこに ありしかは いとこのたひの ここちやはせし | 和泉式部 | 離別 |
7-千載 | 491 | しのへともこのわかれちをおもふにはから紅の涙こそふれ しのへとも このわかれちを おもふには からくれなゐの なみたこそふれ | 成尋法師母 | 離別 |
7-千載 | 492 | 心をもきみをもやとにととめおきて涙とともにいつるたひかな こころをも きみをもやとに ととめおきて なみたとともに いつるたひかな | 僧都覚雅 | 離別 |
7-千載 | 493 | まてといひてたのめし秋もすきぬれは帰る山ちの名そかひもなき まてといひて たのめしあきも すきぬれは かへるやまちの なそかひもなき | 西住法師 | 離別 |
7-千載 | 494 | をしへおくかたみをふかくしのはなん身はあを海の浪になかれぬ をしへおく かたみをふかく しのはなむ みはあをうみの なみになかれぬ | 西園寺公経 | 離別 |
7-千載 | 495 | あらすのみなりゆくたひの別ちにてなれしことのねこそかはらね あらすのみ なりゆくたひの わかれちに てなれしことの ねこそかはらね | 右大臣 | 離別 |
7-千載 | 496 | わするなよをはすて山の月みても都をいつるあり明のそら わするなよ をはすてやまの つきみても みやこをいつる ありあけのそら | 右衛門督頼実 | 離別 |
7-千載 | 497 | わかれても心へたつなたひころもいくへかさなる山ちなりとも わかれても こころへたつな たひころも いくへかさなる やまちなりとも | 藤原定家 | 離別 |
7-千載 | 498 | 有明の月もしみつにやとりけりこよひはこえしあふ坂のせき ありあけの つきもしみつに やとりけり こよひはこえし あふさかのせき | 藤原範永 | 羈旅 |
7-千載 | 499 | はりまちやすまのせきやのいたひさし月もれとてやまはらなるらん はりまちや すまのせきやの いたひさし つきもれとてや まはらなるらむ | 源師俊 | 羈旅 |
7-千載 | 500 | あたら夜をいせのはま荻をりしきていも恋しらにみつる月かな あたらよを いせのはまをき をりしきて いもこひしらに みつるつきかな | 藤原基俊 | 羈旅 |
7-千載 | 501 | 浪のうへにあり明の月をみましやはすまのせきやにとまらさりせは なみのうへに ありあけのつきを みましやは すまのせきやに とまらさりせは | 源国信 | 羈旅 |
7-千載 | 502 | よなよなのたひねのとこに風さえてはつ雪ふれるさやの中山 よなよなの たひねのとこに かせさえて はつゆきふれる さやのなかやま | 三条実行 | 羈旅 |
7-千載 | 503 | 水のうへにうきねをしてそおもひしるかかれはをしも鳴くにそ有りける みつのうへに うきねをしてそ おもひしる かかれはをしも なくにそありける | 和泉式部 | 羈旅 |
7-千載 | 504 | おもふことなくてそみましよさの海のあまのはしたて都なりせは おもふこと なくてそみまし よさのうみの あまのはしたて みやこなりせは | 赤染衛門 | 羈旅 |
7-千載 | 505 | 宮木ひくあつさの杣をかきわけてなにはのうらをとほさかりぬる みやきひく あつさのそまを かきわけて なにはのうらを とほさかりぬる | 能因法師 | 羈旅 |
7-千載 | 506 | すみのえにまつらむとのみなけきつつ心つくしにとしをふるかな すみのえに まつらむとのみ なけきつつ こころつくしに としをふるかな | 津守有基 | 羈旅 |
7-千載 | 507 | わかれゆく都のかたの恋しきにいさむすひみむ忘井の水 わかれゆく みやこのかたの こひしきに いさむすひみむ わすれゐのみつ | 斎宮甲斐 | 羈旅 |
7-千載 | 508 | さ夜ふかき雲ゐに雁もおとすなりわれひとりやは旅の空なる さよふかき くもゐのかりも おとすなり われひとりやは たひのそらなる | 源雅光 | 羈旅 |
7-千載 | 509 | かり衣そての涙にやとる夜は月もたひねの心ちこそすれ かりころも そてのなみたに やとるよは つきもたひねの ここちこそすれ | 崇徳院 | 羈旅 |
7-千載 | 510 | 松かねの枕もなにかあたならむ玉のゆかとてつねのとこかは まつかねの まくらもなにか あたならむ たまのゆかとて つねのとこかは | 崇徳院 | 羈旅 |
7-千載 | 511 | 花さきし野へのけしきも,かれぬこれにてそしる旅の日かすは はなさきし のへのけしきも しもかれぬ これにてそしる たひのひかすは | 徳大寺公能 | 羈旅 |
7-千載 | 512 | さらしなやをはすて山に月みると都にたれかわれをしるらん さらしなや をはすてやまに つきみると みやこにたれか われをしるらむ | 藤原季通 | 羈旅 |
7-千載 | 513 | 道すから心もそらになかめやるみやこの山の雲かくれぬる みちすから こころもそらに なかめやる みやこのやまの くもかくれぬる | 待賢門院堀川 | 羈旅 |
7-千載 | 514 | ささのはをゆふ暮なからをりしけは玉ちるたひのくさ枕かな ささのはを ゆふつゆなから をりしけは たまちるたひの くさまくらかな | 同院安芸 | 羈旅 |
7-千載 | 515 | うらつたふいそのとまやのかち枕ききもならはぬ浪のおとかな うらつたふ いそのとまやの かちまくら ききもならはぬ なみのおとかな | 藤原俊成 | 羈旅 |
7-千載 | 516 | わたのはらはるかに浪をへたてきて都にいてし月をみるかな わたのはら はるかになみを へたてきて みやこにいてし つきをみるかな | 西行法師 | 羈旅 |
7-千載 | 517 | さためなきうき世の中としりぬれはいつこも旅の心ちこそすれ さためなき うきよのなかと しりぬれは いつこもたひの ここちこそすれ | 覚法法親王 | 羈旅 |
7-千載 | 518 | おほつかないかになるみのはてならむ行へもしらぬたひのかなしさ おほつかな いかになるみの はてならむ ゆくへもしらぬ たひのかなしさ | 源師仲 | 羈旅 |
7-千載 | 519 | 日をへつつゆくにはるけき道なれとすゑをみやことおもはましかは ひをへつつ ゆくにはるけき みちなれと すゑをみやこと おもはましかは | 左京大夫修範 | 羈旅 |
7-千載 | 520 | かくはかりあはれならしをしくるとも磯の松かねまくらならすは かくはかり あはれならしを しくるとも いそのまつかね まくらならすは | 読人不知 | 羈旅 |
7-千載 | 521 | 月みれはまつ都こそこひしけれまつらんとおもふ人はなけれと つきみれは まつみやここそ こひしけれ まつらむとおもふ ひとはなけれと | 道因法師 | 羈旅 |
7-千載 | 522 | あふさかの関には人もなかりけりいはまの水のもるにまかせて あふさかの せきにはひとも なかりけり いはまのみつの もるにまかせて | 祝部成仲 | 羈旅 |
7-千載 | 523 | こえて行くともやなからむあふ坂のせきのし水のかけはなれなは こえてゆく ともやなからむ あふさかの せきのしみつの かけはなれなは | 源定房 | 羈旅 |
7-千載 | 524 | たひ衣あさたつをのの露しけみしほりもあへすしのふもちすり たひころも あさたつをのの つゆしけみ しほりもあへす しのふもちすり | 前大僧正覚忠 | 羈旅 |
7-千載 | 525 | 風のおとにわきそかねまし松かねのまくらにもらぬ時雨なりせは かせのおとに わきそかねまし まつかねの まくらにもらぬ しくれなりせは | 藤原実房 | 羈旅 |
7-千載 | 526 | もしほ草しきつのうらのねさめには時雨にのみや袖はぬれける もしほくさ しきつのうらの ねさめには しくれにのみや そてはぬれける | 俊恵法師 | 羈旅 |
7-千載 | 527 | 玉もふくいそやかしたにもる時雨たひねのそてもしほたれよとや たまもふく いそやかしたに もるしくれ たひねのそても しほたれよとや | 源仲綱 | 羈旅 |
7-千載 | 528 | 草枕おなしたひねの袖にまた夜はのしくれもやとはかりけり くさまくら おなしたひねの そてにまた よはのしくれも やとはかりけり | 太皇太后宮小侍従 | 羈旅 |
7-千載 | 529 | はるはるとつもりのおきをこきゆけはきしの松かせとほさかるなり はるはると つもりのおきを こきゆけは きしのまつかせ とほさかるなり | 九条兼実 | 羈旅 |
7-千載 | 530 | わたのはらしほちはるかにみわたせは雲と浪とはひとつなりけり わたのはら しほちはるかに みわたせは くもとなみとは ひとつなりけり | 難波頼輔 | 羈旅 |
7-千載 | 531 | あはれなる野しまかさきのいほりかな露おく袖に浪もかけけり あはれなる のしまかさきの いほりかな つゆおくそてに なみもかけけり | 藤原俊成 | 羈旅 |
7-千載 | 532 | よしさらは磯のとまやに旅ねせん浪かけすとてぬれぬ袖かは よしさらは いそのとまやに たひねせむ なみかけすとて ぬれぬそてかは | 守覚法親王 | 羈旅 |
7-千載 | 533 | たひのよに又たひねして草まくらゆめのうちにも夢をみるかな たひのよに またたひねして くさまくら ゆめのうちにも ゆめをみるかな | 慈円 | 羈旅 |
7-千載 | 534 | 草まくらかりねの夢にいくたひかなれし都にゆきかへるらん くさまくら かりねのゆめに いくたひか なれしみやこに ゆきかへるらむ | 左兵衛督隆房 | 羈旅 |
7-千載 | 535 | いつもかく有あけの月のあけかたは物やかなしきすまの関守 いつもかく ありあけのつきの あけかたは ものやかなしき すまのせきもり | 法眼兼覚 | 羈旅 |
7-千載 | 536 | たひねするすまのうらちのさよ千とりこゑこそ袖の浪はかけけれ たひねする すまのうらちの さよちとり こゑこそそての なみはかけけれ | 藤原家隆 | 羈旅 |
7-千載 | 537 | かくしつつつひにとまらむよもきふのおもひしらるる草枕かな かくしつつ つひにとまらむ よもきふの おもひしらるる くさまくらかな | 円玄法師 | 羈旅 |
7-千載 | 538 | たひねするこのした露の袖にまた時雨ふるなりさよの中山 たひねする このしたつゆの そてにまた しくれふるなり さよのなかやま | 律師覚弁 | 羈旅 |
7-千載 | 539 | たひねするいほりをすくるむら時雨なこりまてこそ袖はぬれけれ たひねする いほりをすくる むらしくれ なこりまてこそ そてはぬれけれ | 藤原資忠 | 羈旅 |
7-千載 | 540 | あられもるふはのせきやにたひねして夢をもえこそとほささりけれ あられもる ふはのせきやに たひねして ゆめをもえこそ とほささりけれ | 大中臣親守 | 羈旅 |
7-千載 | 541 | かくはかりうき身のほともわすられて猶恋しきは都なりけり かくはかり うきみのほとも わすられて なほこひしきは みやこなりけり | 平康頼 | 羈旅 |
7-千載 | 542 | さつまかたおきの小島にわれありとおやにはつけよやへのしほかせ さつまかた おきのこしまに われありと おやにはつけよ やへのしほかせ | 平康頼 | 羈旅 |
7-千載 | 543 | あつまちも年もすゑにや成りぬらん雪ふりにけり白川のせき あつまちも としもすゑにや なりぬらむ ゆきふりにけり しらかはのせき | 僧都印性 | 羈旅 |
7-千載 | 544 | いはねふみ嶺のしひしはをりしきて雲にやとかるゆふくれのそら いはねふみ みねのしひしは をりしきて くもにやとかる ゆふくれのそら | 寂蓮法師 | 羈旅 |
7-千載 | 545 | 春くれはちりにし花もさきにけりあはれ別のかからましかは はるくれは ちりにしはなも さきにけり あはれわかれの かからましかは | 具平親王 | 哀傷 |
7-千載 | 546 | 行きかへり春やあはれとおもふらん契りし人の又もあはねは ゆきかへり はるやあはれと おもふらむ ちりにしひとの またもあはねは | 藤原公任 | 哀傷 |
7-千載 | 547 | うゑおきし人のかたみとみぬたにもやとのさくらをたれかをしまぬ うゑおきし ひとのかたみと みぬたにも やとのさくらを たれかをしまぬ | 藤原範永 | 哀傷 |
7-千載 | 548 | をしきかなかたみにきたるふち衣たた此ころにくちはてぬへし をしきかな かたみにきたる ふちころも たたこのころに くちはてぬへし | 和泉式部 | 哀傷 |
7-千載 | 549 | くちなしのそのにやわか身入りにけんおもふことをもいはてやみぬる くちなしの そのにやわかみ いりにけむ おもふことをも いはてやみぬる | 藤原道信 | 哀傷 |
7-千載 | 550 | おもひかねきのふのそらをなかむれはそれかとみゆる雲たにもなし おもひかね きのふのそらを なかむれは それかとみゆる くもたにもなし | 藤原頼孝 | 哀傷 |
7-千載 | 551 | うつつとも夢ともえこそわきはてねいつれの時をいつれとかせん うつつとも ゆめともえこそ わきはてね いつれのときを いつれとかせむ | 花山院 | 哀傷 |
7-千載 | 552 | さくら花みるにもかなし中中にことしの春はさかすそあらまし さくらはな みるにもかなし なかなかに ことしのはるは さかすそあらまし | 源道済 | 哀傷 |
7-千載 | 553 | おくれしとおもへとしなぬわかみかなひとりやしらぬ道をゆくらん おくれしと おもへとしなぬ わかみかな ひとりやしらぬ みちをゆくらむ | 道命法師 | 哀傷 |
7-千載 | 554 | おいらくの命のあまりなかくして君に二たひわかれぬるかな おいらくの いのちのあまり なかくして きみにふたたひ わかれぬるかな | 藤原長能 | 哀傷 |
7-千載 | 555 | 一こゑも君につけなんほとときすこの五月雨はやみにまとふと ひとこゑも きみにつけなむ ほとときす このさみたれは やみにまとふと | 上東門院 | 哀傷 |
7-千載 | 556 | あやめ草なみたの玉にぬきかへてをりならぬねを猶そかけつる あやめくさ なみたのたまに ぬきかへて をりならぬねを なほそかけつる | 弁乳母 | 哀傷 |
7-千載 | 557 | 玉ぬきしあやめのくさはありなからよとのはあれん物とやはみし たまぬきし あやめのくさは ありなから よとのはあれむ ものとやはみし | 江侍従 | 哀傷 |
7-千載 | 558 | かなしさをかつはおもひもなくさめよたれもつひにはとまるへきかは かなしさを かつはおもひも なくさめよ たれもつひには とまるへきかは | 大弐三位 | 哀傷 |
7-千載 | 559 | たれもみなとまるへきにはあらねともおくるるほとは猶そかなしき たれもみな とまるへきには あらねとも おくるるほとは なほそかなしき | 藤原長家 | 哀傷 |
7-千載 | 560 | おほかたにさやけからぬか月かけは涙くもらぬ人にみせはや おほかたに さやけからぬか つきかけは なみたくもらぬ ひとにみせはや | 承香殿女御 | 哀傷 |
7-千載 | 561 | かなしさにそへても物のかなしきはわかれのうちの別なりけり かなしさに そへてもものの かなしきは わかれのうちの わかれなりけり | 小弁命帰 | 哀傷 |
7-千載 | 562 | うきもののさすかにをしきことしかなとほさかりなん君か別に うきものの さすかにをしき ことしかな とほさかりなむ きみかわかれに | 前中宮宣旨 | 哀傷 |
7-千載 | 563 | かなしさはいととそまさる別れにしことしもけふをかき、りとおもへは かなしさは いととそまさる わかれにし ことしもけふを かきりとおもへは | 藤原長家 | 哀傷 |
7-千載 | 564 | いつかたの雲ちとしらはたつねましつらはなれけん雁かゆくへを いつかたの くもちとしらは たつねまし つらはなれけむ かりかゆくへを | 紫式部 | 哀傷 |
7-千載 | 565 | としをへて君かみなれしますかかみむかしの影はとまらさりけり としをへて きみかみなれし ますかかみ むかしのかけは とまらさりけり | 藤原道信 | 哀傷 |
7-千載 | 566 | つねよりもまたぬれそひしたもとかなむかしをかけておちし涙に つねよりも またぬれそひし たもとかな むかしをかけて おちしなみたに | 赤染衛門 | 哀傷 |
7-千載 | 567 | うつつともおもひわかれてすくるまにみしよの夢をなにかたりけん うつつとも おもひわかれて すくるまに みしよのゆめを なにかたりけむ | 上東門院 | 哀傷 |
7-千載 | 568 | みやこへとおもふにつけてかなしきはたれかはいまは我をまつらん みやこへと おもふにつけて かなしきは たれかはいまは われをまつらむ | 源実基 | 哀傷 |
7-千載 | 569 | もろともに春の花をはみしものを人におくるる秋そかなしき もろともに はるのはなをは みしものを ひとにおくるる あきそかなしき | 平雅康 | 哀傷 |
7-千載 | 570 | 花とみし人はほとなくちりにけりわかみも風をまつとしらなん はなとみし ひとはほとなく ちりにけり わかみもかせを まつとしらなむ | 大江匡房 | 哀傷 |
7-千載 | 571 | かわくまもなきすみそめのたもとかなくちなはなにをかたみにもせん かわくよも なきすみそめの たもとかな くちなはなにを かたみにもせむ | 藤原顕綱 | 哀傷 |
7-千載 | 572 | すみそめのたもとにかかるねをみれはあやめもしらぬ涙なりけり すみそめの たもとにかかる ねをみれは あやめもしらぬ なみたなりけり | 藤原俊忠 | 哀傷 |
7-千載 | 573 | あやめ草うきねをみても涙のみかくらん袖をおもひこそやれ あやめくさ うきねをみても なみたのみ かからむそてを おもひこそやれ | 源国信 | 哀傷 |
7-千載 | 574 | おもひやれむなしきとこをうちはらひむかしをしのふ袖のしつくを おもひやれ むなしきとこを うちはらひ むかしをしのふ そてのしつくを | 藤原基俊 | 哀傷 |
7-千載 | 575 | むねにみつおもひをたにもはるかさて煙とならむことそかなしき むねにみつ おもひをたにも はるかさて けふりとならむ ことそかなしき | 贈皇太后子 | 哀傷 |
7-千載 | 576 | もろともに有明の月をみしものをいかなるやみに君まとふらん もろともに ありあけのつきを みしものを いかなるやみに きみまとふらむ | 藤原有信 | 哀傷 |
7-千載 | 577 | うちならすかねのおとにやなかき夜もあけぬなりとはおもひしるらん うちならす かねのおとにや なかきよも あけぬなりとは おもひしるらむ | 慶範法師 | 哀傷 |
7-千載 | 578 | かきりありて人はかたかたわかるとも涙をたにもととめてしかな かきりありて ひとはかたかた わかるとも なみたをたにも ととめてしかな | 崇徳院 | 哀傷 |
7-千載 | 579 | ちりちりにわかるるけふのかなしさに涙しもこそとまらさりけれ ちりちりに わかるるけふの かなしさに なみたしもこそ とまらさりけれ | 上西門院兵衛 | 哀傷 |
7-千載 | 580 | かなしさをこれよりけにやおもはましかねてならはぬ別なりせは かなしさを これよりけにや おもはまし かねてならはぬ わかれなりせは | 静厳法師 | 哀傷 |
7-千載 | 581 | すみ染の色はいつれもかはらぬをぬれぬや君か衣なるらん すみそめの いろはいつれも かはらぬを ぬれぬやきみか ころもなるらむ | 天台座主勝範 | 哀傷 |
7-千載 | 582 | つねよりもむつましきかなほとときすしての山ちのともとおもへは つねよりも むつましきかな ほとときす してのやまちの ともとおもへは | 鳥羽院 | 哀傷 |
7-千載 | 583 | 心さしふかくそめてしふちころもきつる日かすのあさくもあるかな こころさし ふかくそめてし ふちころも きつるひかすの あさくもあるかな | 久我内のおほいまうちきみ | 哀傷 |
7-千載 | 584 | たくひなくうきことみえしやとなれとそもわかるるはかなしかりけり たくひなく うきことみえし やとなれと そもわかるるは かなしかりけり | 大宮前おほきおほいまうち君 | 哀傷 |
7-千載 | 585 | かそふれはむかしかたりに成りにけり別はいまの心ちすれとも かそふれは むかしかたりに なりにけり わかれはいまの ここちすれとも | 源有仁の室 | 哀傷 |
7-千載 | 586 | たなはたにことしはかさぬしひしはの袖しもことに露けかりけり たなはたに ことしはかさぬ しひしはの そてしもことに つゆけかりけり | 藤原実家 | 哀傷 |
7-千載 | 587 | しひしはの露けき袖は七夕もかさぬにつけてあはれとやみん しひしはの つゆけきそては たなはたも かさぬにつけて あはれとやみむ | 三位(右大臣母) | 哀傷 |
7-千載 | 588 | 故郷にけふこさりせはほとときすたれかむかしを恋ひてなかまし ふるさとに けふこさりせは ほとときす たれとむかしを こひてなかまし | 覚性入道親王 | 哀傷 |
7-千載 | 589 | つねにみし君かみゆきをけふとへはかへらぬたひときくそかなしき つねにみし きみかみゆきを けふとへは かへらぬたひと きくそかなしき | 法印澄憲 | 哀傷 |
7-千載 | 590 | をしへおくそのことのはをみるたひに又とふかたのなきそかなしき をしへおく そのことのはを みるたひに またとふかたの なきそかなしき | 右大臣 | 哀傷 |
7-千載 | 591 | とりへ山おもひやるこそかなしけれひとりやこけの下にくちなん とりへやま おもひやるこそ かなしけれ ひとりやこけの したにくちなむ | 藤原成範 | 哀傷 |
7-千載 | 592 | かきり有りて二重はきねはふち衣なみたはかりをかさねつるかな かきりありて ふたへはきねは ふちころも なみたはかりを かさねつるかな | 藤原貞憲 | 哀傷 |
7-千載 | 593 | 三とせまてなれしは夢の心ちしてけふそうつつの別なりける みとせまて なれしはゆめの ここちして けふそうつつの わかれなりける | 藤原季能 | 哀傷 |
7-千載 | 594 | いりぬるかあかぬ別のかなしさをおもひしれとや山のはの月 いりぬるか あかぬわかれの かなしさを おもひしれとや やまのはのつき | 僧都印性 | 哀傷 |
7-千載 | 595 | 野へみれはむかしのあとやたれならむその世もしらぬ苔のしたかな のへみれは むかしのあとや たれならむ そのよもしらぬ こけのしたかな | 左京大夫修範 | 哀傷 |
7-千載 | 596 | なにことのふかき思ひにいつみ川そこの玉もとしつみはてけん なにことの ふかきおもひに いつみかは そこのたまもと しつみはてけむ | 僧都範玄 | 哀傷 |
7-千載 | 597 | おもひきやけふうちならすかねのおとにつたへしふえのねをそへんとは おもひきや けふうちならす かねのおとに つたへしふえの ねをそへむとは | 法印成清 | 哀傷 |
7-千載 | 598 | さきたたむことをうしとそおもひしにおくれても又かなしかりけり さきたたむ ことをうしとそ おもひしに おくれてもまた かなしかりけり | 静縁法師 | 哀傷 |
7-千載 | 599 | まつらむとおもははいかにいそかましあとをみにたにまとふ心を まつらむと おもははいかに いそかまし あとをみにたに まとふこころを | 藤原親盛 | 哀傷 |
7-千載 | 600 | 山のはにたなひく雲やゆくへなくなりし煙のかたみなるらん やまのはに たなひくくもや ゆくへなく なりしけふりの かたみなるらむ | 覚蓮法師(俗名隆行) | 哀傷 |
7-千載 | 601 | 年をへてむかしをしのふ心のみうきにつけてもふかくさのさと としをへて むかしをしのふ こころのみ うきにつけても ふかくさのさと | 法眼長真 | 哀傷 |
7-千載 | 602 | たらちめやとまりて我ををしまましかはるにかはる命なりせは たらちめや とまりてわれを をしままし かはるにかはる いのちなりせは | 顕昭法師 | 哀傷 |
7-千載 | 603 | もろともになかめなかめて秋の月ひとりにならむことそかなしき もろともに なかめなかめて あきのつき ひとりにならむ ことそかなしき | 西行法師 | 哀傷 |
7-千載 | 604 | みたれすとをはりきくこそうれしけれさても別はなくさまねとも みたれすと をはりきくこそ うれしけれ さてもわかれは なくさまねとも | 寂然法師 | 哀傷 |
7-千載 | 605 | この世にて又あふましきかなしさにすすめし人そ心みたれし このよにて またあふましき かなしさに すすめしひとそ こころみたれし | 西行法師 | 哀傷 |
7-千載 | 606 | いく千代とかきらさりけるくれ竹や君かよはひのたくひなるらん いくちよと かきらさりける くれたけや きみかよはひの たくひなるらむ | 院 | 賀 |
7-千載 | 607 | うゑてみる籬の竹のふしことにこもれる千代は君そかそへん うゑてみる まかきのたけの ふしことに こもれるちよは きみそかそへむ | 後三条内大臣 | 賀 |
7-千載 | 608 | わか友と君かみかきのくれ竹は千代にいく世のかけをそふらん わかともと きみかみかきの くれたけは ちよにいくよの かけをそふらむ | 藤原俊成 | 賀 |
7-千載 | 609 | 君か代はあまのかこ山いつる日のてらむかきりはつきしとそ思ふ きみかよは あまのかこやま いつるひの てらむかきりは つきしとそおもふ | 藤原伊通 | 賀 |
7-千載 | 610 | 君かためみたらし川を若水にむすふや千代のはしめなるらん きみかため みたらしかはを わかみつに むすふやちよの はしめなるらむ | 源俊頼 | 賀 |
7-千載 | 611 | 千とせまてをりてみるへきさくら花こすゑはるかにさきそめにけり ちとせまて をりてみるへき さくらはな こすゑはるかに さきそめにけり | 堀河院 | 賀 |
7-千載 | 612 | ほりうゑしわかきのむめにさく花は年もかきらぬにほひなりけり ほりうゑし わかきのうめに さくはなは としもかきらぬ にほひなりけり | 藤原忠教 | 賀 |
7-千載 | 613 | 千とせすむ池のみきはのやへさくらかけさヘそこにかさねてそみる ちとせすむ いけのみきはの やへさくら かけさへそこに かさねてそみる | 藤原俊忠 | 賀 |
7-千載 | 614 | 神代よりひさしかれとやうこきなきいはねに松のたねをまきけん かみよより ひさしかれとや うこきなき いはねにまつの たねをまきけむ | 源俊頼 | 賀 |
7-千載 | 615 | おちたきつやそうち川のはやきせにいはこす浪は千代の数かも おちたきつ やそうちかはの はやきせに いはこすなみは ちよのかすかも | 源俊頼 | 賀 |
7-千載 | 616 | ちはやふるいつきの宮のありす川松とともにそかけはすむへき ちはやふる いつきのみやの ありすかは まつとともにそ かけはすむへき | 京極前太政大臣 | 賀 |
7-千載 | 617 | 行すゑをまつそひさしき君かへん千よのはしめの子日とおもへは ゆくすゑを まつそひさしき きみかへむ ちよのはしめの ねのひとおもへは | 二条太皇大后宮肥後 | 賀 |
7-千載 | 618 | おく山のやつをのつはき君か代にいくたひかけをかへんとすらん おくやまの やつをのつはき きみかよに いくたひかけを かへむとすらむ | 藤原基俊 | 賀 |
7-千載 | 619 | 君か代をなか月にしもしら菊のさくや千とせのしるしなるらん きみかよを なかつきにしも しらきくの さくやちとせの しるしなるらむ | 西園寺公経 | 賀 |
7-千載 | 620 | やへきくのにほふにしるし君か代は千とせの秋をかさぬへしとは やへきくの にほひにしるし きみかよは ちとせのあきを かさぬへしとは | 源有仁 | 賀 |
7-千載 | 621 | ちはやふる神代のことも人ならは問はましものをしらきくのはな ちはやふる かみよのことも ひとならは とはましものを しらきくのはな | 三条実行 | 賀 |
7-千載 | 622 | ふく風も木木のえたをはならさねと山はやちよのこゑそきこゆる ふくかせも ききのえたをは ならさねと やまはやちよの こゑそきこゆる | 崇徳院 | 賀 |
7-千載 | 623 | 千代ふへきはしめの春としりかほにけしきことなる花さくらかな ちよふへき はしめのはると しりかほに けしきことなる はなさくらかな | 左大臣 | 賀 |
7-千載 | 624 | しら雲にはねうちつけてとふたつのはるかに千代のおもほゆるかな しらくもに はねうちつけて とふたつの はるかにちよの おもほゆるかな | 二条院 | 賀 |
7-千載 | 625 | うこきなくなほ万代そたのむへきはこやの山のみねの松かけ うこきなく なほよろつよそ たのむへき はこやのやまの みねのまつかけ | 式子内親王 | 賀 |
7-千載 | 626 | ももちたひうらしまの子はかへるともはこやの山はときはなるへし ももちたひ うらしまのこは かへるとも はこやのやまは ときはなるへし | 藤原俊成 | 賀 |
7-千載 | 627 | いく千代とかきらぬたつのこゑすなり雲井のちかきやとのしるしに いくちよと かきらぬたつの こゑすなり くもゐのちかき やとのしるしに | 徳大寺公能 | 賀 |
7-千載 | 628 | 千とせふるをのへの小松うつしうゑて万代まてのともとこそみめ ちとせふる をのへのこまつ うつしうゑて よろつよまての ともとこそみめ | 藤原忠通 | 賀 |
7-千載 | 629 | 万代もすむへきやとにうゑつれは松こそ君かかけをたのまめ よろつよも すむへきやとに うゑつれは まつこそきみか かけをたのまめ | 源通能 | 賀 |
7-千載 | 630 | ふえのねの万代まてときこえしを山もこたふる心ちせしかな ふえのねの よろつよまてと きこえしを やまもこたふる ここちせしかな | 右おほいまうちきみ | 賀 |
7-千載 | 631 | むれてゐるたつのけしきにしるきかな千とせすむへきやとの池水 むれてゐる たつのけしきに しるきかな ちとせすむへき やとのいけみつ | 藤原顕季 | 賀 |
7-千載 | 632 | みつかきのかつらをうつすやとなれは月みむことそひさしかるへき みつかきの かつらをうつす やとなれは つきみむことそ ひさしかるへき | 賀茂成助 | 賀 |
7-千載 | 633 | 君か代にくらへていはは松山のまつのはかすはすくなかりけり きみかよに くらへていはは まつやまの まつのはかすは すくなかりけり | 藤原孝善 | 賀 |
7-千載 | 634 | 千代とのみおなしことをそしらふなるなかたの山のみねの松かせ ちよとのみ おなしことをそ しらふなる なかたのやまの みねのまつかせ | 善滋為政 | 賀 |
7-千載 | 635 | ちはやふる神田のさとのいねなれは月日とともにひさしかるへし ちはやふる かみたのさとの いねなれは つきひとともに ひさしかるへし | 大江匡房 | 賀 |
7-千載 | 636 | すへらきのすゑさかゆへきしるしにはこたかくそなるわか松のもり すめらきの すゑさかゆへき しるしには こたかくそなる わかまつのもり | 藤原永範 | 賀 |
7-千載 | 637 | 君か代のかすにはしかしかきりなきちさかのうらのまさこなりとも きみかよの かすにはしかし かきりなき ちさかのうらの まさこなりとも | 藤原俊憲 | 賀 |
7-千載 | 638 | あめつちのきはめもしらぬ御代なれは雲田のむらのいねをこそつけ あめつちの きはめもしらぬ みよなれは くもたのむらの いねをこそつけ | 藤原範兼 | 賀 |
7-千載 | 639 | 霜ふれとさかえこそませ君か代にあふさか山のせきの杉もり しもふれと さかえこそませ きみかよに あふさかやまの せきのすきもり | 藤原永範 | 賀 |
7-千載 | 640 | ときはなるみかみの山のすきむらややほ万代のしるしなるらん ときはなる みかみのやまの すきむらや やほよろつよの しるしなるらむ | 藤原季経 | 賀 |
7-千載 | 641 | なにはえのもにうつもるる玉かしはあらはれてたに人をこひはや なにはえの もにうつもるる たまかしは あらはれてたに ひとをこひはや | 源俊頼 | 恋一 |
7-千載 | 642 | またしらぬ人をはしめてこふるかなおもふ心よみちしるへせよ またしらぬ ひとをはしめて こふるかな おもぬこころよ みちしるへせよ | 前太后宮肥後 | 恋一 |
7-千載 | 643 | わりなしやおもふ心の色ならはこれそそれともいはましものを わりなしや おもふこころの いろならは これそそれとも いはましものを | 河内 | 恋一 |
7-千載 | 644 | おもふよりいつしかぬるるたもとかな涙そ恋のしるへなりける おもふより いつしかぬるる たもとかな なみたそこひの しるへなりける | 後二条関白家筑前 | 恋一 |
7-千載 | 645 | もくつ火のいそまをわくるいさり船ほのかなりしにおもひそめてき もくつひの いそまをわくる いさりふね ほのかなりしに おもひそめてき | 藤原長能 | 恋一 |
7-千載 | 646 | いかにせんおもひを人にそめなから色に出てしとしのふ心を いかにせむ おもひをひとに そめなから いろにいてしと しのふこころを | 延久三親王(輔仁) | 恋一 |
7-千載 | 647 | ひとめみし人はたれともしら雲のうはのそらなる恋もするかな ひとめみし ひとはたれとも しらくもの うはのそらなる こひもするかな | 徳大寺左大臣 | 恋一 |
7-千載 | 648 | つつめとも涙にそてのあらはれて恋すと人にしられぬるかな つつめとも なみたにそての あらはれて こひすとひとに しられぬるかな | 源雅定 | 恋一 |
7-千載 | 649 | つつめともたへぬ思ひになりぬれは問はすかたりのせまほしきかな つつめとも たへぬおもひに なりぬれは とはすかたりの せまほしきかな | 藤原成通 | 恋一 |
7-千載 | 650 | おほかたの恋する人にききなれてよのつねのとや君おもふらん おほかたの こひするひとに ききなれて よのつねのとや きみおもふらむ | 徳大寺公能 | 恋一 |
7-千載 | 651 | 思へともいはての山に年をへてくちやはてなん谷の埋木 おもへとも いはてのやまに としをへて くちやはてなむ たにのうもれき | 藤原顕輔 | 恋一 |
7-千載 | 652 | たかさこのをのへの松にふくかせのおとにのみやはききわたるへき たかさこの をのへのまつに ふくかせの おとにのみやは ききわたるへき | 藤原顕輔 | 恋一 |
7-千載 | 653 | あらいそのいはにくたくる浪なれやつれなき人にかくる心は あらいその いはにくたくる なみなれや つれなきひとに かくるこころは | 待賢門院堀河 | 恋一 |
7-千載 | 654 | いはまゆく山のした水せきわひてもらす心のほとをしらなん いはまゆく やましたみつを せきわひて もらすこころの ほとをしらなむ | 上西門院兵衛 | 恋一 |
7-千載 | 655 | みこもりにいはてふるやのしのふ草しのふとたにもしらせてしかな みこもりに いはてふるやの しのふくさ しのふとたにも しらせてしかな | 藤原基俊 | 恋一 |
7-千載 | 656 | おもふこといはまにまきし松のたね千代とちきらむ今はねさせよ おもふこと いはまにまきし まつのたね ちよとちきらむ いまはねさせよ | 藤原長能 | 恋一 |
7-千載 | 657 | おほつかなうるまの島の人なれやわかことのはをしらぬかほなる おほつかな うるまのしまの ひとなれや わかことのはを しらぬかほなる | 藤原公任 | 恋一 |
7-千載 | 658 | 人しれす物おもふころの袖みれは雨も涙もわかれさりけり ひとしれす ものおもふころの そてみれは あめもなみたも わかれさりけり | 藤原頼宗 | 恋一 |
7-千載 | 659 | たちしよりはれすも物を思ふかななき名や野への霞なるらん たちしより はれすもものを おもふかな なきなやのへの かすみなるらむ | 源俊頼 | 恋一 |
7-千載 | 660 | なけきあまりしらせそめつることのはも思ふはかりはいはれさりけり なけきあまり しらせそめつる ことのはも おもふはかりは いはれさりけり | 源明賢 | 恋一 |
7-千載 | 661 | 人しれぬこのはのしたのむもれ水おもふ心をかきなかさはや ひとしれぬ このはのしたの うもれみつ おもふこころを かきなかさはや | 右のおほいまうちきみ | 恋一 |
7-千載 | 662 | 恋しともいはぬにぬるるたもとかな心をしるは涙なりけり こひしとも いはぬにぬるる たもとかな こころをしるは なみたなりけり | 久我内大臣 | 恋一 |
7-千載 | 663 | おもへともいはてしのふのすり衣こころのうちにみたれぬるかな おもへとも いはてしのふの すりころも こころのうちに みたれぬるかな | 源頼政 | 恋一 |
7-千載 | 664 | みちのくのしのふもちすりしのひつつ色には出てしみたれもそする みちのくの しのふもちすり しのひつつ いろにはいてし みたれもそする | 寂然法師 | 恋一 |
7-千載 | 665 | なにはめのすくもたく火のしたこかれうへはつれなきわかみなりけり なにはめの すくもたくひの したこかれ うへはつれなき わかみなりけり | 藤原清輔 | 恋一 |
7-千載 | 666 | こひしなは世のはかなきにいひおきてなきあとまても人にしられし こひしなは よのはかなきに いひおきて なきあとまても ひとにしられし | 難波頼輔 | 恋一 |
7-千載 | 667 | 人しれぬ涙の川のみなかみやいはての山の谷のした水 ひとしれぬ なみたのかはの みなかみや いはてのやまの たにのしたみつ | 顕昭法師 | 恋一 |
7-千載 | 668 | いかにせむみかきかはらにつむせりのねにのみなけとしる人のなき いかにせむ みかきかはらに つむせりの ねにのみなけと しるひとのなき | よみひとしらす | 恋一 |
7-千載 | 669 | つれもなき人の心やあふさかのせきちへたつるかすみなるらん つれもなき ひとのこころや あふさかの せきちへたつる かすみなるらむ | 賀茂重保 | 恋一 |
7-千載 | 670 | 涙川うきねのとりとなりぬれと人にはえこそみなれさりけれ なみたかは うきねのとりと なりぬれと ひとにはえこそ みなれさりけれ | 藤原清輔 | 恋一 |
7-千載 | 671 | わか恋はをはな吹きこす秋かせのおとにはたてしみにはしむとも わかこひは をはなふきこす あきかせの おとにはたてし みにはしむとも | 源通能 | 恋一 |
7-千載 | 672 | 世をいとふはしとおもひしかよひちにあやなく人を恋ひわたるかな よをいとふ はしとおもひし かよひちに あやなくひとを こひわたるかな | 仁昭法師 | 恋一 |
7-千載 | 673 | たよりあらはあまのつり舟ことつてむ人をみるめにもとめわひぬる たよりあらは あまのつりふね ことつてむ ひとをみるめに もとめわひぬる | 源有仁 | 恋一 |
7-千載 | 674 | またもなくたたひとすちに君思ふ恋ちにまとふ我やなになる またもなく たたひとすちに きみおもふ こひちにまとふ われやなになる | 藤原伊通 | 恋一 |
7-千載 | 675 | 君こふるみはおほそらにあらねとも月日をおほくすくしつるかな きみこふる みはおほそらに あらねとも つきひをおほく すくしつるかな | 藤原伊房 | 恋一 |
7-千載 | 676 | ことのねにかよひそめぬる心かな松ふく風にあらぬ身なれと ことのねに かよひそめぬる こころかな まつふくかせに あらぬみなれと | 二条院 | 恋一 |
7-千載 | 677 | はかなしや枕さためぬうたたねにほのかにまよふ夢のかよひち はかなしや まくらさためぬ うたたねに ほのかにまよふ ゆめのかよひち | 式子内親王 | 恋一 |
7-千載 | 678 | さきにたつ涙とならは人しれす恋ちにまとふ道しるへせよ さきにたつ なみたとならは ひとしれす こひちにまとふ みちしるへせよ | 右大臣 | 恋一 |
7-千載 | 679 | なからへはつらき心もかはるやとさためなき世をたのむはかりそ なからへは つらきこころも かはるやと さためなきよを たのむはかりそ | 難波頼輔 | 恋一 |
7-千載 | 680 | もらさはやしのひはつへき涙かは袖のしからみかくとはかりも もらさはや しのひはつへき なみたかは そてのしからみ かくとはかりは | 源有房 | 恋一 |
7-千載 | 681 | 恋しさをうきみなりとてつつみしはいつまてありし心なるらん こひしさを うきみなりとて つつみしは いつまてありし こころなるらむ | 源師光 | 恋一 |
7-千載 | 682 | たのめとやいなとやいかにいな舟のしはしとまちしほともへにけり たのめとや いなとやいかに いなふねの しはしとまちし ほともへにけり | 藤原惟規 | 恋一 |
7-千載 | 683 | かくはかり色に出てしとしのへともみゆらむものをたへぬけしきは かくはかり いろにいてしと しのへとも みゆらむものを たへぬけしきは | 賢智法師 | 恋一 |
7-千載 | 684 | 人しれすおもふこころはふかみくさ花さきてこそ色にいてけれ ひとしれす おもふこころは ふかみくさ はなさきてこそ いろにいてけれ | 賀茂重保 | 恋一 |
7-千載 | 685 | ひをへつつしけさはまさるおもひ草あふことのはのなとなかるらん ひをへつつ しけさはまさる おもひくさ あふことのはの なとなかるらむ | 津守国光 | 恋一 |
7-千載 | 686 | おつれとものきにしられぬ玉水は恋のなかめのしつくなりけり おつれとも のきにしられぬ たまみつは こひのなかめの しつくなりけり | 大中臣清文 | 恋一 |
7-千載 | 687 | 人しれすおもひそめてし心こそいまは涙の色となりけれ ひとしれす おもひそめてし こころこそ いまはなみたの いろとなりけれ | 源季貞 | 恋一 |
7-千載 | 688 | 色見えぬ心のほとをしらするはたもとをそむる涙なりけり いろみえぬ こころのほとを しらするは たもとをそむる なみたなりけり | 祐盛法師 | 恋一 |
7-千載 | 689 | わかとこはしのふのおくのますけはら露かかりてもしる人のなき わかとこは しのふのおくの ますけはら つゆかかりても しるひとのなき | 大中臣定雅 | 恋一 |
7-千載 | 690 | 君こふる涙しくれとふりぬれはしのふの山も色つきにけり きみこふる なみたしくれと ふりぬれは しのふのやまも いろつきにけり | 祝部宿禰成仲 | 恋一 |
7-千載 | 691 | いかにせむしのふの山のしたもみちしくるるままに色のまさるを いかにせむ しのふのやまの したもみち しくるるままに いろのまさるを | 二条院前皇后宮常陸 | 恋一 |
7-千載 | 692 | いつしかと袖にしくれのそそくかなおもひは冬のはしめならねと いつしかと そてにしくれの そそくかな おもひはふゆの はしめならねと | 賀茂重延 | 恋一 |
7-千載 | 693 | あさましやおさふる袖のしたくくる涙のすゑを人やみつらん あさましや おさふるそての したくくる なみたのすゑを ひとやみつらむ | 源頼政 | 恋一 |
7-千載 | 694 | しのひねのたもとは色にいてにけり心にもにぬわか涙かな しのひねの たもとはいろに いてにけり こころにもにぬ わかなみたかな | 皇嘉門院別当 | 恋一 |
7-千載 | 695 | おなしくはかさねてしほれぬれ衣さてもほすへきなき名ならしを おなしくは かさねてしほれ ぬれころも さてもほすへき なきなならしを | 左兵衛督隆房 | 恋一 |
7-千載 | 696 | なかれてもすすきやするとぬれ衣人はきすともみにはならさし なかれても すすきやすると ぬれころも ひとはきすとも みにはならさし | よみ人しらす | 恋一 |
7-千載 | 697 | 人めをはつつむとおもふにせきかねて袖にあまるは涙なりけり ひとめをは つつむとおもふに せきかねて そてにあまるは なみたなりけり | 藤原宗家 | 恋一 |
7-千載 | 698 | つれなさにいはてたえなんと思ふこそあひみぬさきの別なりけれ つれなさに いはてたえなむと おもふこそ あひみぬさきの わかれなりけれ | 藤原季能 | 恋一 |
7-千載 | 699 | よそ人にとはれぬるかな君にこそみせはやと思ふ袖のしつくを よそひとに とはれぬるかな きみにこそ みせはやとおもふ そてのしつくを | 法眼実快 | 恋一 |
7-千載 | 700 | つれなくそ夢にもみゆるさよ衣うらみんとては返しやはせし つれなくそ ゆめにもみゆる さよころも うらみむとては かへしやはせし | 藤原伊綱 | 恋一 |
7-千載 | 701 | おもひいつるそのなくさめもありなましあひみて後のつらさなりせは おもひいつる そのなくさめも ありなまし あひみてのちの つらさなりせは | 藤原季経 | 恋一 |
7-千載 | 702 | ともしするは山かすそのした露やいるより袖はかくしをるらん ともしする はやまかすその したつゆや いるよりそては かくしをるらむ | 藤原俊成 | 恋一 |
7-千載 | 703 | いかにせんむろのや島にやともかな恋のけふりをそらにまかへん いかにせむ むろのやしまに やともかな こひのけふりを そらにまかへむ | 藤原俊成 | 恋一 |
7-千載 | 704 | おもひあまり人にとははやみなせ川むすはぬ水に袖はぬるやと おもひあまり ひとにとははや みなせかは むすはぬみつに そてはぬるやと | 藤原公実 | 恋二 |
7-千載 | 705 | はかなくも人に心をつくすかなみのためにこそ思ひそめしか はかなくも ひとにこころを つくすかな みのためにこそ おもひそめしか | 源有仁 | 恋二 |
7-千載 | 706 | 恋ひそめし人はかくこそつれなけれわか涙しも色かはるらん こひそめし ひとはかくこそ つれなけれ わかなみたしも いろかはるらむ | 二条太皇太后宮大弐 | 恋二 |
7-千載 | 707 | かかりける涙と人もみるはかりしはらし袖よくちはてねたた かかりける なみたとひとも みるはかり しほらしそてよ くちはてねたた | 源雅兼 | 恋二 |
7-千載 | 708 | うかりける人をはつせの山おろしよはけしかれとはいのらぬものを うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はけしかれとは いのらぬものを | 源俊頼 | 恋二 |
7-千載 | 709 | うれしくはのちの心を神もきけひくしめなはのたえしとそおもふ うれしくは のちのこころを かみもきけ ひくしめなはの たえしとそおもふ | 藤原顕季 | 恋二 |
7-千載 | 710 | むすひおくふしみのさとの草枕とけてやみぬるたひにも有るかな むすひおく ふしみのさとの くさまくら とけてやみぬる たひにもあるかな | 藤原顕仲 | 恋二 |
7-千載 | 711 | こひこひてかひもなきさにおきつ浪よせてはやかて立ちかへれとや こひこひて かひもなきさに おきつなみ よせてはやかて たちかへれとや | 藤原俊忠 | 恋二 |
7-千載 | 712 | いかてわれつれなき人に身をかへて恋しきほとを思ひしらせん いかてわれ つれなきひとに みをかへて こひしきほとを おもひしらせむ | 徳大寺左大臣 | 恋二 |
7-千載 | 713 | 玉もかるのしまの浦のあまたにもいとかく袖はぬるるものかは たまもかる のしまのうらの あまたにも いとかくそては ぬるるものかは | 源雅光 | 恋二 |
7-千載 | 714 | あふことをその年月とちきらねは命や恋のかきりなるらん あふことを そのとしつきと ちきらねは いのちやこひの かきりなるらむ | 藤原重基 | 恋二 |
7-千載 | 715 | 恋ひわたる涙の川にみをなけんこの世ならてもあふせありやと こひわたる なみたのかはに みをなけむ このよならても あふせありやと | 藤原宗兼 | 恋二 |
7-千載 | 716 | みちのくのとつなのはしにくるつなのたえすも人にいひわたるかな みちのくの とつなのはしに くるつなの たえすもひとに いひわたるかな | 藤原親隆 | 恋二 |
7-千載 | 717 | こひわたるけふの涙にくらふれはきのふの袖はぬれしものかは こひわたる けふのなみたに くらふれは きのふのそては ぬれしものかは | 院 | 恋二 |
7-千載 | 718 | あさまたき露をさなからささめかるしつか袖たにかくはぬれしを あさまたき つゆをさなから ささめかる しつかそてたに かくはぬれしを | 右おほいまうちきみ | 恋二 |
7-千載 | 719 | しほたるるいせをのあまやわれならんさらはみるめをかるよしもかな しほたるる いせをのあまや われならむ さらはみるめを かるよしもかな | 滋野井実国 | 恋二 |
7-千載 | 720 | よしさらはあふとみつるになくさまんさむるうつつも夢ならぬかは よしさらは あふとみつるに なくさまむ さむるうつつも ゆめならぬかは | 藤原実家 | 恋二 |
7-千載 | 721 | いかはかりおもふとしりてつらからんあはれ涙の色をみせはや いかはかり おもふとしりて つらからむ あはれなみたの いろをみせはや | 右衛門督頼実 | 恋二 |
7-千載 | 722 | 恋ひしなん命を誰にゆつりおきてつれなき人のはてをみせまし こひしなむ いのちをたれに ゆつりおきて つれなきひとの はてをみせまし | 俊恵法師 | 恋二 |
7-千載 | 723 | せきかぬる涙の川のはやきせはあふよりほかのしからみそなき せきかぬる なみたのかはの はやきせは あふよりほかの しからみそなき | 源頼政 | 恋二 |
7-千載 | 724 | わか恋はとしふるかひもなかりけりうらやましきはうちのはし守 わかこひは としふるかひも なかりけり うらやましきは うちのはしもり | 藤原顕方 | 恋二 |
7-千載 | 725 | なれてのちしなん別のかなしきに命にかへぬあふこともかな なれてのち しなむわかれの かなしきに いのちにかへぬ あふこともかな | 道因法師 | 恋二 |
7-千載 | 726 | にしききの千つかにかきりなかりせは猶こりすまにたてましものを にしききの ちつかにかきり なかりせは なほこりすまに たてましものを | 賀茂重保 | 恋二 |
7-千載 | 727 | いかはかり恋ちはとほき物なれはとしはゆけともあふよなからん いかはかり こひちはとほき ものなれは としはゆけとも あふよなからむ | 藤原教長 | 恋二 |
7-千載 | 728 | なれてのちつらからましにくらふれはなき名はことのかすならぬかな なれてのち つらからましに くらふれは なきなはことの かすならぬかな | 三宮家越後 | 恋二 |
7-千載 | 729 | あひみむとおもひなよりそしら浪のたちけん名たにをしきみきはを あひみむと おもひなよりそ しらなみの たちけむなたに をしきみきはを | 西園寺公経家参川 | 恋二 |
7-千載 | 730 | 恋ひしなんみはをしからすあふことにかへんほとまてと思ふはかりそ こひしなむ みはをしからす あふことに かへむほとまてと おもふはかりそ | 道因法師 | 恋二 |
7-千載 | 731 | いまはさはあひみむまてはかたくとも命とならむことのはもかな いまはさは あひみむまては かたくとも いのちとならむ ことのはもかな | 藤原顕輔 | 恋二 |
7-千載 | 732 | 一かたになひくもしほの煙かなつれなき人のかからましかは ひとかたに なひくもしほの けふりかな つれなきひとの かからましかは | 平忠盛 | 恋二 |
7-千載 | 733 | 恋ひわひぬちぬのますらをならなくにいくたの川にみをやなけまし こひわひぬ ちぬのますらを ならなくに いくたのかはに みをやなけまし | 藤原道経 | 恋二 |
7-千載 | 734 | 命をはあふにかへんとおもひしを恋ひしぬとたにしらせてしかな いのちをは あふにかへむと おもひしを こひしぬとたに しらせてしかな | 寂超法師 | 恋二 |
7-千載 | 735 | こひしとも又つらしともおもひやる心いつれかさきにたつらん こひしとも またつらしとも おもひやる こころいつれか さきにたつらむ | 源師光 | 恋二 |
7-千載 | 736 | あふならぬ恋なくさめのあらはこそつれなしとてもおもひたえなめ あふならぬ こひなくさめの あらはこそ つれなしとても おもひたえなめ | 道因法師 | 恋二 |
7-千載 | 737 | つれなさにいまは思ひもたえなましこの世ひとつの契なりせは つれなさに いまはおもひも たえなまし このよひとつの ちきりなりせは | 顕昭法師 | 恋二 |
7-千載 | 738 | うたたねの夢にあひみて後よりは人もたのめぬくれそまたるる うたたねの ゆめにあひみて のちよりは ひともたのめぬ くれそまたるる | 源慶法師 | 恋二 |
7-千載 | 739 | あはれとも枕はかりやおもふらむ涙たえせぬよはのけしきを あはれとも まくらはかりや おもふらむ なみたたえせぬ よはのけしきを | 朝恵法師 | 恋二 |
7-千載 | 740 | 衣手におつる涙の色なくは露とも人にいはましものを ころもてに おつるなみたの いろなくは つゆともひとに いはましものを | 二条院内侍参川 | 恋二 |
7-千載 | 741 | おもふことしのふにいととそふ物はかすならぬみのなけきなりけり おもふこと しのふにいとと そふものは かすならぬみの なけきなりけり | 殷富門院大輔 | 恋二 |
7-千載 | 742 | 行きかへる心に人のなるれはやあひみぬさきに恋しかるらん ゆきかへる こころにひとの なるれはや あひみぬさきに こひしかるらむ | 九条兼実 | 恋二 |
7-千載 | 743 | あふことをさりともとのみおもふかなふしみのさとの名をたのみつつ あふことを さりともとのみ おもふかな ふしみのさとの なをたのみつつ | 藤原家通 | 恋二 |
7-千載 | 744 | なとやかくさもくれかたきおほそらそわかまつことはありとしらすや なとやかく さもくれかたき おほそらそ わかまつことは ありとしらすや | 二条院 | 恋二 |
7-千載 | 745 | 袖の色は人のとふまてなりもせよふかきおもひを君したのまは そてのいろは ひとのとふまて なりもせよ ふかきおもひを きみしたのまは | 式子内親王 | 恋二 |
7-千載 | 746 | 秋はをし契はまたるとにかくに心にかかるくれのそらかな あきはをし ちきりはまたる とにかくに こころにかかる くれのそらかな | 九条良経 | 恋二 |
7-千載 | 747 | 恋をのみしくるる空のうき雲はくもりもあへす袖ぬらしけり こひをのみ しくるるそらの うきくもは くもりもあへす そてぬらしけり | 藤原成家 | 恋二 |
7-千載 | 748 | いそかくれかきはやれとももしほ草たちくる浪にあらはれやせん いそかくれ かきはやれとも もしほくさ たちくるなみに あらはれやせむ | 藤原家実 | 恋二 |
7-千載 | 749 | くれにともちきりてたれかかへるらんおもひたえたる曙の空 くれにとも ちきりてたれか かへるらむ おもひたえたる あけほののそら | 藤原家隆 | 恋二 |
7-千載 | 750 | 契りおくそのことのはにみをかへてのちの世にたにあひみてしかな ちきりおく そのことのはに みをかへて のちのよにたに あひみてしかな | 読人しらす | 恋二 |
7-千載 | 751 | 誰ゆゑかあくかれにけん雲まよりみし月かけはひとりならしを たれゆゑか あくかれにけむ くもまより みしつきかけは ひとりならしを | 殷富門院尾張 | 恋二 |
7-千載 | 752 | こえやらて恋ちにまよふあふ坂や世を出てはてぬせきとなるらん こえやらて こひちにまよふ あふさかや よをいてはてぬ せきとなるらむ | 藤原家基 | 恋二 |
7-千載 | 753 | たまくらのうへにみたるるあさねかみしたにとけすと人はしらしな たまくらの うへにみたるる あさねかみ したにとけすと ひとはしらしな | 西住法師 | 恋二 |
7-千載 | 754 | わか袖のしほのみちひるうらならは涙のよらぬをりもあらまし わかそての しほのみちひる うらならは なみたのよらぬ をりもあらまし | 源頼政 | 恋二 |
7-千載 | 755 | しほたるる袖のひるまはありやともあはてのうらのあまにとははや しほたるる そてのひるまは ありやとも あはてのうらの あまにとははや | 法印静賢 | 恋二 |
7-千載 | 756 | おもひきや夢を此世のちきりにてさむる別をなけくへしとは おもひきや ゆめをこのよの ちきりにて さむるわかれを なけくへしとは | 俊恵法師 | 恋二 |
7-千載 | 757 | われゆゑの涙とこれをよそにみはあはれなるへき袖のうへかな われゆゑの なみたとこれを よそにみは あはれなるへき そてのうへかな | 藤原隆信 | 恋二 |
7-千載 | 758 | あふことのかくかたけれはつれもなき人の心やいは木なるらん あふことの かくかたけれは つれもなき ひとのこころや いはきなるらむ | 賀茂政平 | 恋二 |
7-千載 | 759 | 恋ひしなん涙のはてやわたり川ふかきなかれとならんとすらん こひしなむ なみたのはてや わたりかは ふかきなかれと ならむとすらむ | 源光行 | 恋二 |
7-千載 | 760 | わか袖はしほひにみえぬおきの石の人こそしらねかわくまそなき わかそては しほひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまそなき | 二条院讃岐 | 恋二 |
7-千載 | 761 | かかりけるなけきはなにのむくいそとしる人あらはとはましものを かかりける なけきはなにの むくひそと しるひとあらは とはましものを | 藤原成範 | 恋二 |
7-千載 | 762 | 恋ひしなんことそはかなきわたり河あふせありとはきかぬものゆゑ こひしなむ ことそはかなき わたりかは あふせありとは きかぬものゆゑ | 藤原重家 | 恋二 |
7-千載 | 763 | いもかあたりなかるる川のせによらはあわとなりてもきえんとそ思ふ いもかあたり なかるるかはの せによらは あわとなりても きえむとそおもふ | 藤原範兼 | 恋二 |
7-千載 | 764 | (ツネフ) はかなしな心つくしに年をへていつともしらぬあふの松原 | 源経房 | 恋二 |
7-千載 | 765 | おもひねの夢たにみえてあけぬれはあはても鳥のねこそつらけれ おもひねの ゆめたにみえて あけぬれは あはてもとりの ねこそつらけれ | 寂蓮法師 | 恋二 |
7-千載 | 766 | よもすから物思ふころはあけやらぬねやのひまさへつれなかりけり よもすから ものおもふころは あけやらぬ ねやのひまさへ つれなかりけり | 俊恵法師 | 恋二 |
7-千載 | 767 | いたつらにしをるる袖をあさ露にかへるたもととおもはましかは いたつらに しをるるそてを あさつゆに かへるたもとと おもはましかは | 俊恵法師 | 恋二 |
7-千載 | 768 | 恋ゆゑはさもあらぬ人そうらめしきわれよそならはとはましものを こひゆゑは さもあらぬひとそ うらめしき われよそならは とはましものを | 菅原是忠 | 恋二 |
7-千載 | 769 | おもひせく心のうちのしからみもたへすなりゆく涙川かな おもひせく こころのうちの しからみも たへすなりゆく なみたかはかな | 藤原親盛 | 恋二 |
7-千載 | 770 | おのつからつらき心もかはるやとまちみむほとの命ともかな おのつから つらきこころも かはるやと まちみむほとの いのちともかな | 静縁法師 | 恋二 |
7-千載 | 771 | わすらるるうき名はさても立ちにけり心のうちはおもひわけとも わすらるる うきなはさても たちにけり こころのうちは おもひわけとも | 大江維順女 | 恋二 |
7-千載 | 772 | よとともにつれなき人を恋くさの露こほれます秋のゆふかせ よとともに つれなきひとを こひくさの つゆこほれます あきのゆふかせ | 藤原顕家 | 恋二 |
7-千載 | 773 | 恋しさをいかかはすへきおもへともみはかすならす人はつれなし こひしさを いかかはすへき おもへとも みはかすならす ひとはつれなし | 源師光 | 恋二 |
7-千載 | 774 | こひしなは我ゆゑとたにおもひ出てよさこそはつらき心なりとも こひしなは われゆゑとたに おもひいてよ さこそはつらき こころなりとも | 滋野井実国 | 恋二 |
7-千載 | 775 | ひたすらにうらみしもせしさきの世にあふまてこそはちきらさりけめ ひたすらに うらみしもせし さきのよに あふまてこそは ちきらさりけめ | 藤原家通 | 恋二 |
7-千載 | 776 | ますかかみ心もうつるものならはさりともいまはあはれとやみん ますかかみ こころもうつる ものならは さりともいまは あはれとやみむ | 藤原公衡 | 恋二 |
7-千載 | 777 | いましはしそらたのめにもなくさめておもひたえぬるよひの玉つさ いましはし そらたのめにも なくさめて おもひたえぬる よひのたまつさ | 源通親 | 恋二 |
7-千載 | 778 | そま川のあさからすこそ契りしかなとこのくれをひきたかふらん そまかはの あさからすこそ ちきりしか なとこのくれを ひきたかふらむ | 藤原盛方 | 恋二 |
7-千載 | 779 | おもひきやしちのはしかきかきつめてもも夜もおなしまろねせんとは おもひきや しちのはしかき かきつめて ももよもおなし まろねせむとは | 藤原俊成 | 恋二 |
7-千載 | 780 | ちきりこしことのたかふそたのもしきつらさもかくやかはるとおもへは ちきりこし ことのたかふそ たのもしき つらさもかくや かはるとおもへは | 藤原実方 | 恋三 |
7-千載 | 781 | しらしかしおもひも出てぬ心にはかくわすられすわれなけくとも しらしかし おもひもいてぬ こころには かくわすられす われなけくとも | 相模 | 恋三 |
7-千載 | 782 | つれもなくなりぬる人の玉つさをうき思出のかたみともせし つれもなく なりぬるひとの たまつさを うきおもひての かたみともせし | 藤原長能 | 恋三 |
7-千載 | 783 | やはらかにぬる夜もなくて別れぬるよよの手枕いつかわすれん やはらかに ぬるよもなくて わかれぬる よよのたまくら いつかわすれむ | 藤原長能 | 恋三 |
7-千載 | 784 | たなはたにかしつとおもひしあふことをそのよなき名のたちにけるかな たなはたに かしつとおもひし あふことを そのよなきなの たちにけるかな | 小大君 | 恋三 |
7-千載 | 785 | うらめしやむすほほれたる下ひものとけぬやなにの心なるらん うらめしや むすほほれたる したひもの とけぬやなにの こころなるらむ | 藤原頼通 | 恋三 |
7-千載 | 786 | したひもは人のこふるにとくなれはたかつらきにかむすほほるらん したひもは ひとのこふるに とくなれは たかつらきにか むすほほるらむ | 弁乳母 | 恋三 |
7-千載 | 787 | ひとりぬるわれにてしりぬ池水につかはぬをしのおもふ心を ひとりぬる われにてしりぬ いけみつに つかはぬをしの おもふこころを | 太納言公実 | 恋三 |
7-千載 | 788 | 恋をのみしつのをたまきくるしきはあはて年ふる思ひなりけり こひをのみ しつのをたまき くるしきは あはてとしふる おもひなりけり | 中納言師時 | 恋三 |
7-千載 | 789 | あさてほすあつまをとめのかやむしろしきしのひてもすくすころかな あさてほす あつまをとめの かやむしろ しきしのひても すくすころかな | 源俊頼 | 恋三 |
7-千載 | 790 | よとともに行かたもなき心かな恋はみちなき物にそ有りける よとともに ゆくかたもなき こころかな こひはみちなき ものにそありける | 藤原顕季 | 恋三 |
7-千載 | 791 | 旅衣涙のいろのしるけれは露にもえこそかこたさりけり たひころも なみたのいろの しるけれは つゆにもえこそ かこたさりけり | 僧都覚雅 | 恋三 |
7-千載 | 792 | みつしほにすゑはをあらふなかれあしの君をそおもふうきみしつみみ みつしほに すゑはをあらふ なかれあしの きみをそおもふ うきみしつみみ | 藤原公実 | 恋三 |
7-千載 | 793 | わか恋はあまのかるもにみたれつつかわく時なき浪のしたくさ わかこひは あまのかるもに みたれつつ かわくときなき なみのしたくさ | 藤原俊忠 | 恋三 |
7-千載 | 794 | なほさりにみわの杉とはをしへおきてたつぬる時はあはぬ君かな なほさりに みわのすきとは をしへおきて たつぬるときは あはぬきみかな | 藤原時昌 | 恋三 |
7-千載 | 795 | たのめこし野へのみちしは夏ふかしいつくなるらんもすの草くき たのめこし のへのみちしは なつふかし いつくなるらむ もすのくさくき | 藤原俊成 | 恋三 |
7-千載 | 796 | 冬の日を春よりなかくなす物はこひつつくらす心なりけり ふゆのひを はるよりなかく なすものは こひつつくらす こころなりけり | 西園寺公経 | 恋三 |
7-千載 | 797 | よろつ代をちきりそめつるしるしにはかつかつけふのくれそひさしき よろつよを ちきりそめつる しるしには かつかつけふの くれそひさしき | 院 | 恋三 |
7-千載 | 798 | けさとはぬつらさに物はおもひしれわれもさこそはうらみかねしか けさとはぬ つらさにものは おもひしれ われもさこそは うらみかねしか | 院 | 恋三 |
7-千載 | 799 | かねてよりおもひしことそふししはのこるはかりなるなけきせんとは かねてより おもひしことそ ふししはの こるはかりなる なけきせむとは | 待賢門院加賀 | 恋三 |
7-千載 | 800 | 恋しさはあふをかきりとききしかとさてしもいととおもひそひけり こひしさは あふをかきりと ききしかと さてしもいとと おもひそひけり | 藤原教長 | 恋三 |
7-千載 | 801 | よそにしてもときし人にいつしかと袖のしつくをとはるへきかな よそにして もときしひとに いつしかと そてのしつくを とはるへきかな | 藤原顕輔 | 恋三 |
7-千載 | 802 | なかからむ心もしらすくろかみのみたれてけさは物をこそおもへ なかからむ こころもしらす くろかみの みたれてけさは ものをこそおもへ | 待賢門院堀川 | 恋三 |
7-千載 | 803 | よひのまもまつに心やなくさむといまこんとたにたのめおかなん よひのまも まつにこころや なくさむと いまこむとたに たのめおかなむ | 上西門院兵衛 | 恋三 |
7-千載 | 804 | そなれ木のそなれそなれてふす苔のまほならすともあひみてしかな そなれきの そなれそなれて ふすこけの まほならすとも あひみてしかな | 待賢門院のあき | 恋三 |
7-千載 | 805 | 人はいさあかぬよとこにととめつるわか心こそわれをまつらめ ひとはいさ あかぬよとこに ととめつる わかこころこそ われをまつらめ | 源頼政 | 恋三 |
7-千載 | 806 | おもへたたいりやらさりしあり明の月よりさきにいてし心を おもへたた いりやらさりし ありあけの つきよりさきに いてしこころを | 源通親 | 恋三 |
7-千載 | 807 | なにはえのあしのかりねの一よゆゑみをつくしてや恋ひわたるへき なにはえの あしのかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや こひわたるへき | 皇嘉門院別当 | 恋三 |
7-千載 | 808 | こひこひてあふうれしさをつつむへき袖は涙にくちはてにけり こひこひて あふうれしさを つつむへき そてはなみたに くちはてにけり | 藤原公衡 | 恋三 |
7-千載 | 809 | 君やそれありしつらさはたれなれはうらみけるさへ今はくやしき きみやそれ ありしつらさは たれなれは うらみけるさへ いまはくやしき | 藤原隆信 | 恋三 |
7-千載 | 810 | すかたこそねさめのとこにみえすとも契りしことのうつつなりせは すかたこそ ねさめのとこに みえすとも ちきりしことの うつつなりせは | 藤原俊憲 | 恋三 |
7-千載 | 811 | あつまやのあさ木のはしらわれなからいつふしなれて恋しかるらん あつまやの あさきのはしら われなから いつふしなれて こひしかるらむ | 前斎院新肥前 | 恋三 |
7-千載 | 812 | つつめともまくらは恋をしりぬらん涙かからぬ夜はしなけれは つつめとも まくらはこひを しりぬらむ なみたかからぬ よはしなけれは | 久我内大臣 | 恋三 |
7-千載 | 813 | 恋すれはもゆるほたるもなくせみもわかみの外の物とやはみる こひすれは もゆるほたるも なくせみも わかみのほかの ものとやはみる | 源雅頼 | 恋三 |
7-千載 | 814 | ひきかけて涙を人につつむまにうらやくちなん夜はの衣は ひきかけて なみたをひとに つつむまに うらやくちなむ よはのころもは | 右大臣 | 恋三 |
7-千載 | 815 | しほたるるいせをのあまの袖たにもほすなるひまはありとこそきけ しほたるる いせをのあまの そてたにも ほすなるひまは ありとこそきけ | 藤原親隆 | 恋三 |
7-千載 | 816 | しはしこそぬるるたもともしほりしか涙にいまはまかせてそみる しはしこそ ぬるるたもとも しほりしか なみたにいまは まかせてそみる | 藤原清輔 | 恋三 |
7-千載 | 817 | よしさらは涙にくちねから衣ほすも人めをしのふかきりそ よしさらは なみたにくちね からころも ほすもひとめを しのふかきりそ | 顕昭法師 | 恋三 |
7-千載 | 818 | おもひわひさても命はあるものをうきにたへぬは涙なりけり おもひわひ さてもいのちは あるものを うきにたへぬは なみたなりけり | 道因法師 | 恋三 |
7-千載 | 819 | かすならぬみにも心のありかほにひとりも月をなかめつるかな かすならぬ みにもこころの ありかほに ひとりもつきを なかめつるかな | 遊女戸戸 | 恋三 |
7-千載 | 820 | 涙にやくちはてなましから衣袖のひるまとたのめさりせは なみたにや くちはてなまし からころも そてのひるまと たのめさりせは | 中原清重 | 恋三 |
7-千載 | 821 | かれはつるをささかふしをおもふにもすくなかりけるよよのかすかな かれはつる をささかふしを おもふにも すくなかりける よよのかすかな | 藤原成親 | 恋三 |
7-千載 | 822 | わけきつるをささか露のしけけれはあふ道にさへぬるる袖かな わけきつる をささかつゆの しけけれは あふみちにさへ ぬるるそてかな | 藤原伊経 | 恋三 |
7-千載 | 823 | おきてゆく涙のかかる草まくら露しけしとや人のあやめん おきてゆく なみたのかかる くさまくら つゆしけしとや ひとのあやめむ | よみ人しらす | 恋三 |
7-千載 | 824 | 涙をもしのふるころのわか袖にあやなく月のやとりぬるかな なみたをも しのふるころの わかそてに あやなくつきの やとりぬるかな | よみ人しらす | 恋三 |
7-千載 | 825 | しのひかねいまは我とや名のらまし思ひすつへきけしきならねは しのひかね いまはわれとや なのらまし おもひすつへき けしきならねは | 内大臣 | 恋三 |
7-千載 | 826 | しられてもいとはれぬへきみならすは名をさへ人につつむへしやは しられても いとはれぬへき みならすは なをさへひとに つつむへしやは | 九条良経 | 恋三 |
7-千載 | 827 | いつくよりふきくるかせのちらしけんたれもしのふのもりのことのは いつくより ふきくるかせの ちらしけむ たれもしのふの もりのことのは | 左兵衛督隆房 | 恋三 |
7-千載 | 828 | おもひかね夢にみゆやとかへさすはうらさへ袖はぬらささらまし おもひかね ゆめにみゆやと かへさすは うらさへそては ぬらささらまし | 源頼政 | 恋三 |
7-千載 | 829 | くり返しくやしき物は君にしもおもひよりけんしつのをたまき くりかへし くやしきものは きみにしも おもひよりけむ しつのをたまき | 源師光 | 恋三 |
7-千載 | 830 | いとはるるみをうしとてや心さへわれをはなれて君にそふらん いとはるる みをうしとてや こころさへ われをはなれて きみにそふらむ | 藤原隆親 | 恋三 |
7-千載 | 831 | あちきなくいはて心をつくすかなつつむ人めも人のためかは あちきなく いはてこころを つくすかな つつむひとめも ひとのためかは | 源光行 | 恋三 |
7-千載 | 832 | くれなゐにしをれし袖もくちはてぬあらはや人に色もみすへき くれなゐに しをれしそても くちはてぬ あらはやひとに いろもみすへき | 皇太后宮若水 | 恋三 |
7-千載 | 833 | 命こそおのかものからうかりけれあれはそ人をつらしともみる いのちこそ おのかものから うかりけれ あれはそひとを つらしともみる | 皇嘉門院尾張 | 恋三 |
7-千載 | 834 | なにとかやしのふにはあらてふるさとの軒はにしける草の名そうき なにとかや しのふにはあらて ふるさとの のきはにしける くさのなそうき | 藤原忠良 | 恋三 |
7-千載 | 835 | みし夢のさめぬやかてのうつつにてけふとたのめしくれをまたはや みしゆめの さめぬやかての うつつにて けふとたのめし くれをまたはや | 太皇太后宮小侍従 | 恋三 |
7-千載 | 836 | しるらめやおつる涙の露ともにわかれのとこにきえてこふとは しるらめや おつるなみたの つゆともに わかれのとこに きえてこふとは | 二条院 | 恋三 |
7-千載 | 837 | またしらぬ露おく袖をおもひやれかことはかりのとこの涙に またしらぬ つゆおくそてを おもひやれ かことはかりの とこのなみたに | よみ人しらす | 恋三 |
7-千載 | 838 | かへりつるなこりのそらをなかむれはなくさめかたき有明の月 かへりつる なこりのそらを なかむれは なくさめかたき ありあけのつき | 九条兼実 | 恋三 |
7-千載 | 839 | わするなよよよの契をすかはらやふしみのさとの有明の空 わするなよ よよのちきりを すかはらや ふしみのさとの ありあけのそら | 藤原俊成 | 恋三 |
7-千載 | 840 | いかにしてよるの心をなくさめむひるはなかめにさてもくらしつ いかにして よるのこころを なくさめむ ひるはなかめに さてもくらしつ | 和泉式部 | 恋四 |
7-千載 | 841 | これもみなさそなむかしの契そとおもふものからあさましきかな これもみな さそなむかしの ちきりそと おもふものから あさましきかな | 和泉式部 | 恋四 |
7-千載 | 842 | よそにては中中さてもありにしをうたて物おもふ昨日けふかな よそにては なかなかさても ありにしを うたてものおもふ きのふけふかな | 花山院 | 恋四 |
7-千載 | 843 | おもひいててたれをか人のたつねましうきにたへたる命ならすは おもひいてて たれをかひとの たつねまし うきにたへたる いのちならすは | 小式部 | 恋四 |
7-千載 | 844 | まつとてもかはかりこそはあらましかおもひもかけぬ秋の夕くれ まつとても かはかりこそは あらましか おもひもかけぬ あきのゆふくれ | 和泉式部 | 恋四 |
7-千載 | 845 | ほとふれは人はわすれてやみぬらん契りしことをなほたのむかな ほとふれは ひとはわすれて やみぬらむ ちきりしことを なほたのむかな | 和泉式部 | 恋四 |
7-千載 | 846 | たけのはに玉ぬく露にあらねともまた夜をこめておきにけるかな たけのはに たまぬくつゆに あらねとも またよをこめて おきにけるかな | 藤原実方 | 恋四 |
7-千載 | 847 | このまよりひれふる袖をよそにみていかかはすへきまつらさよ姫 このまより ひれふるそてを よそにみて いかかはすへき まつらさよひめ | 藤原基俊 | 恋四 |
7-千載 | 848 | まふしさすしつをのみにもたへかねてはとふく秋のこゑたてつなり まふしさす しつをのみにも たへかねて はとふくあきの こゑたてつなり | 藤原仲実 | 恋四 |
7-千載 | 849 | 吹く風にたへぬこすゑの花よりもととめかたきは涙なりけり ふくかせに たへぬこすゑの はなよりも ととめかたきは なみたなりけり | 源雅光 | 恋四 |
7-千載 | 850 | あひみむといひわたりしは行すゑの物おもふことのはしにそ有りける あひみむと いひわたりしは ゆくすゑの ものおもふことの はしにそありける | 藤原成通 | 恋四 |
7-千載 | 851 | 恋ひわひてあはれとはかりうちなけくことよりほかのなくさめそなき こひわひて あはれとはかり うちなけく ことよりほかの なくさめそなき | 伊与三位(藤原敦兼母) | 恋四 |
7-千載 | 852 | たちかへる人をもなにかうらみまし恋しさをたにととめさりせは たちかへる ひとをもなにか うらみまし こひしさをたに ととめさりせは | 源師時 | 恋四 |
7-千載 | 853 | うつらなくしつやにおふる玉こすけかりにのみきてかへる君かな うつらなく しつやにおふる たまこすけ かりにのみきて かへるきみかな | 藤原道経 | 恋四 |
7-千載 | 854 | わかれてはかたみなりける玉つさをなくさむはかりかきもおかせて わかれては かたみなりける たまつさを なくさむはかり かきもおかせて | 久我内大臣 | 恋四 |
7-千載 | 855 | 我かそての涙やにほの海ならんかりにも人をみるめなけれは わかそての なみたやにほの うみならむ かりにもひとを みるめなけれは | 上西門院兵衛 | 恋四 |
7-千載 | 856 | あつまやのをかやの軒のしのふ草しのひもあへすしける思ひに あつまやの をかやののきの しのふくさ しのひもあへす しけるおもひに | 藤原親隆 | 恋四 |
7-千載 | 857 | 恋をのみしかまのいちにたつ民のたえぬおもひにみをやかへてん こひをのみ しかまのいちに たつたみの たえぬおもひに みをやかへてむ | 藤原俊成 | 恋四 |
7-千載 | 858 | こひをのみすかたの池にみ草ゐてすまてやみなん名こそをしけれ こひをのみ すかたのいけに みくさゐて すまてやみなむ なこそをしけれ | 待賢門院安芸 | 恋四 |
7-千載 | 859 | 露ふかきあさまののらにをかやかるしつのたもともかくはぬれしを つゆふかき あさまののらに をかやかる しつのたもとも かくはぬれしを | 藤原清輔 | 恋四 |
7-千載 | 860 | あふことはいなさほそえのみをつくしふかきしるしもなきよなりけり あふことは いなさほそえの みをつくし ふかきしるしも なきよなりけり | 藤原清輔 | 恋四 |
7-千載 | 861 | 人つてはさしもやはともおもふらむみせはや君になれるすかたを ひとつては さしもやはとも おもふらむ みせはやきみに なれるすかたを | 顕昭法師 | 恋四 |
7-千載 | 862 | あさましやさのみはいかにしなのなるきそちのはしのかけわたるらん あさましや さのみはいかに しなのなる きそちのはしの かけわたるらむ | 平実重 | 恋四 |
7-千載 | 863 | 人のうへとおもははいかにもとかましつらきもしらすこふる心を ひとのうへと おもははいかに もとかまし つらきもしらす こふるこころを | 平実重 | 恋四 |
7-千載 | 864 | 契りしももろともにこそちきりしかわすれはわれもわすれましかは ちきりしも もろともにこそ ちきりしか わすれはわれも わすれましかは | 藤原為通 | 恋四 |
7-千載 | 865 | 君にのみしたのおもひはかはしまの水の心はあさからなくに きみにのみ したのおもひは かはしまの みつのこころは あさからなくに | 従三位季行 | 恋四 |
7-千載 | 866 | おもひきやとしのつもるはわすられて恋にいのちのたへん物とは おもひきや としのつもるは わすられて こひにいのちの たへむものとは | 院 | 恋四 |
7-千載 | 867 | なけきあまりうきみそいまはなつかしき君ゆゑ物をおもふと思へは なけきあまり うきみそいまは なつかしき きみゆゑものを おもふとおもへは | 藤原季通 | 恋四 |
7-千載 | 868 | 水くきはこれをかきりとかきつめてせきあへぬ物は涙なりけり みつくきは これをかきりと かきつめて せきあへぬものは なみたなりけり | 源頼政 | 恋四 |
7-千載 | 869 | たれもよもまたききそめし鴬の君にのみこそおとしはしむれ たれもよも またききそめし うくひすの きみにのみこそ おとしはしむれ | 二条院 | 恋四 |
7-千載 | 870 | 鴬はなへてみやこになれぬらんふるすにねをはわれのみそなく うくひすは なへてみやこに なれぬらむ ふるすにねをは われのみそなく | よみひとしらす | 恋四 |
7-千載 | 871 | みせはやなつゆのゆかりの玉かつら心にかけてしのふけしきを みせはやな つゆのゆかりの たまかつら こころにかけて しのふけしきを | よみひとしらす | 恋四 |
7-千載 | 872 | あふさかの名をわすれにし中なれとせきやられぬは涙なりけり あふさかの なをわすれにし なかなれと せきやられぬは なみたなりけり | よみひとしらす | 恋四 |
7-千載 | 873 | 月まつと人にはいひてなかむれはなくさめかたき夕くれのそら つきまつと ひとにはいひて なかむれは なくさめかたき ゆふくれのそら | 藤原範兼 | 恋四 |
7-千載 | 874 | あしのやのかりそめふしは津国のなからへゆけとわすれさりけり あしのやの かりそめふしは つのくにの なからへゆけと わすれさりけり | 藤原為真 | 恋四 |
7-千載 | 875 | しらさりき雲ゐのよそにみし月のかけをたもとにやとすへしとは しらさりき くもゐのよそに みしつきの かけをたもとに やとすへしとは | 西行法師 | 恋四 |
7-千載 | 876 | あふとみしその夜の夢のさめてあれななかきねふりはうかるへけれと あふとみし そのよのゆめの さめてあれな なかきねふりは うかるへけれと | 西行法師 | 恋四 |
7-千載 | 877 | 秋かせのうき人よりもつらきかな恋せよとてはふかさらめとも あきかせの うきひとよりも つらきかな こひせよとては ふかさらめとも | 空人法師 | 恋四 |
7-千載 | 878 | 心さへわれにもあらすなりにけり恋はすかたのかはるのみかは こころさへ われにもあらす なりにけり こひはすかたの かはるのみかは | 源仲綱 | 恋四 |
7-千載 | 879 | まちかねてさよもふけひのうらかせにたのめぬ浪のおとのみそする まちかねて さよもふけひの うらかせに たのめぬなみの おとのみそする | 二条院内侍参河 | 恋四 |
7-千載 | 880 | ひとよとてよかれし床のさむしろにやかてもちりのつもりぬるかな ひとよとて よかれしとこの さむしろに やかてもちりの つもりぬるかな | さぬき | 恋四 |
7-千載 | 881 | なからへてかはる心をみるよりもあふに命をかへてましかは なからへて かはるこころを みるよりも あふにいのちを かへてましかは | 九条兼実 | 恋四 |
7-千載 | 882 | あふ事のありしところしかはらすは心をたにもやらましものを あふことの ありしところし かはらすは こころをたにも やらましものを | 源雅頼 | 恋四 |
7-千載 | 883 | うつりかになにしみにけんさよころもわすれぬつまとなりけるものを うつりかに なにしみにけむ さよころも わすれぬつまと なりけるものを | 源経房 | 恋四 |
7-千載 | 884 | わすれぬやしのふやいかにあはぬまのかたみとききしあけくれの空 わすれぬや しのふやいかに あはぬまの かたみとききし あけくれのそら | 藤原忠良 | 恋四 |
7-千載 | 885 | おもひかねなほ恋ちにそかへりぬるうらみはすゑもとほらさりけり おもひかね なほこひちにそ かへりぬる うらみはすゑも とほらさりけり | 俊恵法師 | 恋四 |
7-千載 | 886 | みせはやなをしまのあまの袖たにもぬれにそぬれし色はかはらす みせはやな をしまのあまの そてたにも ぬれにそぬれし いろはかはらす | 殷富門院大輔 | 恋四 |
7-千載 | 887 | 山しろのみつののさとにいもをおきていくたひよとに舟よはふらん やましろの みつののさとに いもをおきて いくたひよとに ふねよはふらむ | 源頼政 | 恋四 |
7-千載 | 888 | 人しれすむすひそめてし若草のはなのさかりもすきやしぬらん ひとしれす むすひそめてし わかくさの はなのさかりも すきやしぬらむ | 藤原隆信 | 恋四 |
7-千載 | 889 | いかなれはなかれはたえぬ中川にあふせのかすのすくなかるらん いかなれは なかれはたえぬ なかかはに あふせのかすの すくなかるらむ | 藤原顕家 | 恋四 |
7-千載 | 890 | すみなれしさのの中川せたえしてなかれかはるは涙なりけり すみなれし さののなかかは せたえして なかれかはるは なみたなりけり | 源仲綱 | 恋四 |
7-千載 | 891 | いまさらに恋しといふもたのまれすこれも心のかはるとおもへは いまさらに こひしといふも たのまれす これもこころの かはるとおもへは | 二条院讃岐 | 恋四 |
7-千載 | 892 | こひそめし心の色のなになれはおもひかへすにかへらさるらん こひそめし こころのいろの なになれは おもひかへすに かへらさるらむ | 太皇太后宮小侍従 | 恋四 |
7-千載 | 893 | 伊勢しまやいちしのうらのあまたにもかつかぬ袖はぬるるものかは いせしまや いちしのうらの あまたにも かつかぬそては ぬるるものかは | 道因法師 | 恋四 |
7-千載 | 894 | おもひきやうかりし夜はの鳥のねをまつことにしてあかすへしとは おもひきや うかりしよはの とりのねを まつことにして あかすへしとは | 俊恵法師 | 恋四 |
7-千載 | 895 | から衣かへしてはねし夏のよはゆめにもあかて人わかれけり からころも かへしてはねし なつのよは ゆめにもあかて ひとわかれけり | 俊恵法師 | 恋四 |
7-千載 | 896 | みのうさをおもひしらてややみなましあひみぬさきのつらさなりせは みのうさを おもひしらてや やみなまし あひみぬさきの つらさなりせは | 法印静賢 | 恋四 |
7-千載 | 897 | あふことはみをかへてともまつへきをよよをへたてんほとそかなしき あふことは みをかへてとも まつへきを よよをへたてむ ほとそかなしき | 藤原俊成 | 恋四 |
7-千載 | 898 | おもひねの夢になくさむ恋なれはあはねとくれのそらそまたるる おもひねの ゆめになくさむ こひなれは あはねとくれの そらそまたるる | 摂政家丹後 | 恋四 |
7-千載 | 899 | 恋ひわひてうちぬるよひの夢にたにあふとは人のみえはこそあらめ こひわひて うちぬるよひの ゆめにたに あふとはひとの みえはこそあらめ | 藤原成範 | 恋四 |
7-千載 | 900 | わひつつはなれたに君にとこなれよかはさぬ夜はの枕なりとも わひつつは なれたにきみに とこなれよ かはさぬよはの まくらなりとも | 藤原実家 | 恋四 |
7-千載 | 901 | なけきつつかはさぬ夜はのつもるには枕もうとくならぬものかは なけきつつ かはさぬよはの つもるには まくらもうとく ならぬものかは | よみ人しらす | 恋四 |
7-千載 | 902 | これはみなおもひしことそなれしよりあはれなこりをいかにせんとは これはみな おもひしことそ なれしより あはれなこりを いかにせむとは | 藤原忠良 | 恋四 |
7-千載 | 903 | しぬとても心をわくる物ならは君にのこしてなほや恋ひまし しぬとても こころをわくる ものならは きみにのこして なほやこひまし | 源通親 | 恋四 |
7-千載 | 904 | うたたねにはかなくさめし夢をたに此世に又はみてややみなん うたたねに はかなくさめし ゆめをたに このよにまたは みてややみなむ | 相模 | 恋五 |
7-千載 | 905 | ねをなけは袖はくちてもうせぬめりなほうきことそつきせさりける ねをなけは そてはくちても うせぬめり なほうきことそ つきせさりける | 和泉式部 | 恋五 |
7-千載 | 906 | ともかくもいははなへてになりぬへしねになきてこそみすへかりけれ ともかくも いははなへてに なりぬへし ねになきてこそ みすへかりけれ | 和泉式部 | 恋五 |
7-千載 | 907 | あり明の月見すひまにおきていにし人のなこりをなかめしものを ありあけの つきみすひまに おきていにし ひとのなこりを なかめしものを | 和泉式部 | 恋五 |
7-千載 | 908 | わするるはうきよのつねとおもふにもみをやるかたのなきそわひぬる わするるは うきよのつねと おもふにも みをやるかたの なきそわひぬる | 紫式部 | 恋五 |
7-千載 | 909 | ちはやふるかものやしろの神もきけ君わすれすはわれもわすれし ちはやふる かものやしろの かみもきけ きみわすれすは われもわすれし | 馬内侍 | 恋五 |
7-千載 | 910 | うたかひし命はかりはありなからちきりし中のたえぬへきかな うたかひし いのちはかりは ありなから ちきりしなかの たえぬへきかな | 大弐三位 | 恋五 |
7-千載 | 911 | かり人はとかめもやせん草しけみあやしき鳥のあとのみたれを かりひとは とかめもやせむ くさしけみ あやしきとりの あとのみたれを | 相模 | 恋五 |
7-千載 | 912 | 山よりもふかきところをたつねみはわか心にそ人はいるへき やまよりも ふかきところを たつねみは わかこころにそ ひとはいるへき | 藤原斉信 | 恋五 |
7-千載 | 913 | いにしへもこえみてしかはあふさかはふみたかふへき中の道かは いにしへも こえみてしかは あふさかは ふみたかふへき なかのみちかは | 藤原経衡 | 恋五 |
7-千載 | 914 | かりにそといはぬさきよりたのまれすたちとまるへき心ならねは かりにそと いはぬさきより たのまれす たちとまるへき こころならねは | 赤染衛門 | 恋五 |
7-千載 | 915 | 人こころなにをたのみてみなせ川せきのふるくひくちはてぬらん ひとこころ なにをたのみて みなせかは せせのふるくひ くちはてぬらむ | 藤原基俊 | 恋五 |
7-千載 | 916 | うらみすはわすれぬ人もありなましおもひしらてそあるへかりける うらみすは わすれぬひとも ありなまし おもひしらてそ あるへかりける | 隆源法師 | 恋五 |
7-千載 | 917 | まことにやみとせもまたてやましろのふしみの里ににひ枕する まことにや みとせもまたて やましろの ふしみのさとに にひまくらする | 源雅定 | 恋五 |
7-千載 | 918 | うき人をしのふへしとはおもひきやわか心さへなとかはるらん うきひとを しのふへしとは おもひきや わかこころさへ なとかはるらむ | 待賢門院堀河 | 恋五 |
7-千載 | 919 | うかりけるよよの契を思ふにもつらきはいまのこころのみかは うかりける よよのちきりを おもふにも つらきはいまの こころのみかは | 上西門院兵衛 | 恋五 |
7-千載 | 920 | しるなれはいかに枕のおもふらんちりのみつもるとこのけしきを しるなれは いかにまくらの おもふらむ ちりのみつもる とこのけしきを | 藤原親隆 | 恋五 |
7-千載 | 921 | はかなくもこむよをかねて契るかなふたたひおなし身ともならしを はかなくも こむよをかねて ちきるかな ふたたひおなし みともならしを | 右大臣 | 恋五 |
7-千載 | 922 | おもひいてよ夕の雲もたなひかはこれやなけきにたへぬ煙と おもひいてよ ゆふへのくもも たなひかは これやなけきに たへぬけふりと | 藤原忠良 | 恋五 |
7-千載 | 923 | 恋ひしなはうかれん玉よしはしたにわかおもふ人のつまにととまれ こひしなは うかれむたまよ しはしたに わかおもふひとの つまにととまれ | 左兵衛督隆房 | 恋五 |
7-千載 | 924 | 君こふとうきぬる玉のさ夜ふけていかなるつまにむすはれぬらん きみこふと うきぬるたまの さよふけて いかなるつまに むすはれぬらむ | 太皇大后宮小侍従 | 恋五 |
7-千載 | 925 | きみこふる心のやみをわひつつは此世はかりとおもはましかは きみこふる こころのやみを わひつつは このよはかりと おもはましかは | 二条院讃岐 | 恋五 |
7-千載 | 926 | かはりゆくけしきをみてもいける身の命をあたにおもひけるかか かはりゆく けしきをみても いけるみの いのちをあたに おもひけるかな | 殷富門院大輔 | 恋五 |
7-千載 | 927 | 君やあらぬわか身やあらぬおほつかなたのめしことのみなかはりぬる きみやあらぬ わかみやあらぬ おほつかな たのめしことの みなかはりぬる | 俊恵法師 | 恋五 |
7-千載 | 928 | 物おもへともかからぬ人もあるものをあはれなりける身のちきりかな ものおもへとも かからぬひとも あるものを あはれなりける みのちきりかな | 西行法師 | 恋五 |
7-千載 | 929 | なけけとて月やは物をおもはするかこちかほなるわか涙かな なけけとて つきやはものを おもはする かこちかほなる わかなみたかな | 西行法師 | 恋五 |
7-千載 | 930 | 久かたの月ゆゑにやは恋ひそめしなかむれはまつぬるるそてかな ひさかたの つきゆゑにやは こひそめし なかむれはまつ ぬるるそてかな | 寂超法師 | 恋五 |
7-千載 | 931 | つらしともうらむるかたそなかりけるうきをいとふは君ひとりかは つらしとも うらむるかたそ なかりける うきをいとふは きみひとりかは | 祐盛法師 | 恋五 |
7-千載 | 932 | おもひしる心のなきをなけくかなうき身ゆゑこそ人もつらけれ おもひしる こころのなきを なけくかな うきみゆゑこそ ひともつらけれ | 藤原隆親 | 恋五 |
7-千載 | 933 | 思ふをもわするる人はさもあらはあれうきをしのはぬ心ともかな おもふをも わするるひとは さもあらはあれ うきをしのはぬ こころともかな | 源有房 | 恋五 |
7-千載 | 934 | はかなくそ後のよまてとちきりけるまたきにたにもかはる心を はかなくそ のちのよまてと ちきりける またきにたにも かはるこころを | 惟宗広言 | 恋五 |
7-千載 | 935 | いとはるるそのゆかりにていかなれは恋はわか身をはなれさるらん いとはるる そのゆかりにて いかなれは こひはわかみを はなれさるらむ | 源仲頼 | 恋五 |
7-千載 | 936 | おもひあまりうちぬるよひのまほろしも浪ちをわけてゆきかよひけり おもひあまり うちぬるよひの まほろしも なみちをわけて ゆきかよひけり | 鴨長明 | 恋五 |
7-千載 | 937 | としふれとうき身はさらにかはらしをつらさもおなしつらさなるらん としふれと うきみはさらに かはらしを つらさもおなし つらさなるらむ | 土御門前斎院中将 | 恋五 |
7-千載 | 938 | なけくまにかかみの影もおとろへぬ契りしことのかはるのみかは なけくまに かかみのかけも おとろへぬ ちきりしことの かはるのみかは | 崇徳院 | 恋五 |
7-千載 | 939 | としふれとあはれにたへぬ涙かな恋しき人のかからましかは としふれと あはれにたへぬ なみたかな こひしきひとの かからましかは | 藤原顕輔 | 恋五 |
7-千載 | 940 | いまはたたおさふる袖もくちはてて心のままにおつるなみたか いまはたた おさふるそても くちはてて こころのままに おつるなみたか | 藤原季通 | 恋五 |
7-千載 | 941 | おく山のいはかきぬまのうきぬなはふかき恋ちになにみたれけん おくやまの いはかきぬまの うきぬなは ふかきこひちに なにみたれけむ | 藤原俊成 | 恋五 |
7-千載 | 942 | しきしのふとこたにたへぬ涙にも恋はくちせぬ物にそ有りける しきしのふ とこたにたへぬ なみたにも こひはくちせぬ ものにそありける | 藤原俊成 | 恋五 |
7-千載 | 943 | あさゆふにみるめをかつくあまたにもうらみはたえぬ物とこそきけ あさゆふに みるめをかつく あまたにも うらみはたえぬ ものとこそきけ | 藤原清輔 | 恋五 |
7-千載 | 944 | なにせんにそらたのめとてうらみけんおもひたえたる暮もありけり なにせむに そらたのめとて うらみけむ おもひたえたる くれもありけり | 上西門院兵衛 | 恋五 |
7-千載 | 945 | なほさりのそらたのめとてまちし夜のくるしかりしそいまは恋しき なほさりの そらたのめとて まちしよの くるしかりしそ いまはこひしき | 殷富門院大輔 | 恋五 |
7-千載 | 946 | をしみかねけにいひしらぬ別かな月もいまはのあり明のそら をしみかね けにしひしらぬ わかれかな つきもいまはの ありあけのそら | 九条兼実 | 恋五 |
7-千載 | 947 | 恋ひわふる心はそらにうきぬれと涙のそこに身はしつむかな こひわふる こころはそらに うきぬれと なみたのそこに みはしつむかな | 藤原実房 | 恋五 |
7-千載 | 948 | おもひかねこゆるせきちに夜をふかみやこゑの鳥にねをそそへつる おもひかね こゆるせきちに よをふかみ やこゑのとりに ねをそそへつる | 源雅頼 | 恋五 |
7-千載 | 949 | 世にしらぬ秋の別にうちそへて人やりならす物そかなしき よにしらぬ あきのわかれに うちそへて ひとやりならす ものそかなしき | 源通親 | 恋五 |
7-千載 | 950 | 契りしにあらすなるとのはまちとりあとたにみせぬうらみをそする ちきりしに あらすなるとの はまちとり あとたにみせぬ うらみをそする | 藤原経家 | 恋五 |
7-千載 | 951 | しかはかり契りし中もかはりけるこのよに人をたのみけるかな しかはかり ちきりしなかも かはりける このよにひとを たのみけるかな | 藤原定家 | 恋五 |
7-千載 | 952 | 秋の夜を物おもふことのかきりとはひとりねさめの枕にそしる あきのよを ものおもふことの かきりとは ひとりねさめの まくらにそしる | 顕昭法師 | 恋五 |
7-千載 | 953 | よしさらは君に心はつくしてん又も恋しき人もこそあれ よしさらは きみにこころは つくしてむ またもこひしき ひともこそあれ | 藤原教長 | 恋五 |
7-千載 | 954 | なき人をおもひ出てたる夕くれはうらみしことそくやしかりける なきひとを おもひいてたる ゆふくれは うらみしことそ くやしかりける | 覚性入道親王 | 恋五 |
7-千載 | 955 | これをみよむつ田のよとにさてさしてしをれししつのあさ衣かは これをみよ むつたのよとに さてさして しをれししつの あさころもかは | 源俊頼 | 恋五 |
7-千載 | 956 | ささめかるあれ田のさはにたつたみも身のためにこそ袖はぬるらめ ささめかる あれたのさはに たつたみも みのためにこそ そてもぬるらめ | 源俊頼 | 恋五 |
7-千載 | 957 | ささのはにあられふる夜のさむけきにひとりはねなん物とやはおもふ ささのはに あられふるよの さむけきに ひとりはねなむ ものとやはおもふ | 馬内侍 | 恋五 |
7-千載 | 958 | うらむへき心はかりはあるものをなきになしてもとはぬ君かな うらむへき こころはかりは あるものを なきになしても とはぬきみかな | 和泉式部 | 恋五 |
7-千載 | 959 | かそへしる人なかりせはおく山のたにの松とやとしをつままし かそへしる ひとなかりせは おくやまの たにのまつとや としをつままし | 西園寺公経 | 雑上 |
7-千載 | 960 | ふえ竹のよふかきこゑそきこゆなるきしの松かせふきやそふらん ふえたけの よふかきこゑそ きこゆなる みねのまつかせ ふきやそふらむ | 藤原斉信 | 雑上 |
7-千載 | 961 | うはこほりあはにむすへるひもなれはかさす日かけにゆるふはかりを うはこほり あはにむすへる ひもなれは かさすひかけに ゆるむはかりそ | 皇后宮清少納言 | 雑上 |
7-千載 | 962 | たかさとの春のたよりにうくひすの霞にとつるやとをとふらん たかさとの はるのたよりに うくひすの かすみにとつる やとをとふらむ | 上東門院紫式部 | 雑上 |
7-千載 | 963 | いもとねておきゆくあさの道よりも中中もののおもはしきかな いもとねて おきゆくあさの みちよりも なかなかものの おもはしきかな | 藤原道信 | 雑上 |
7-千載 | 964 | 春のよの夕はかりなるたまくらにかひなくたたん名こそをしけれ はるのよの ゆめはかりなる たまくらに かひなくたたむ なこそをしけれ | 周防内侍 | 雑上 |
7-千載 | 965 | 契ありてはるの夜ふかきたまくらをいかかかひなき夢になすへき ちきりありて はるのよふかき たまくらを いかかかひなき ゆめになすへき | 藤原忠家 | 雑上 |
7-千載 | 966 | いかにしてすきにしかたをすくしけんくらしわつらふ昨日けふかな いかにして すきにしかたを すくしけむ くらしわつらふ きのふけふかな | 皇后宮定子 | 雑上 |
7-千載 | 967 | 雲のうへもくらしかねける春の日をところからともなかめつるかな くものうへも くらしかねける はるのひを ところからとも なかめつるかな | 清少納言 | 雑上 |
7-千載 | 968 | あひみむとおもひしことをたかふれはつらきかたにもさためつるかな あひみむと おもひしことを たかふれは つらきかたにも さためつるかな | 選子内親王 | 雑上 |
7-千載 | 969 | みそきせしかもの川なみたちかへりはやくみしせに袖はぬれきや みそきせし かものかはなみ たちかへり はやくみしせに そてはぬれきや | 大斎院中将 | 雑上 |
7-千載 | 970 | ちはやふるいつきの宮のたひねにはあふひそ草の枕なりけり ちはやふる いつきのみやの たひねには あふひそくさの まくらなりけり | 藤原実方 | 雑上 |
7-千載 | 971 | かをるかによそふるよりはほとときすきかはやおなしこゑやしたると かをるかに よそふるよりは ほとときす きかはやおなし こゑやしたると | 和泉式部 | 雑上 |
7-千載 | 972 | 昨日まてみたらし河にせしみそきしかのうら浪たちそかはれる きのふまて みたらしかはに せしみそき しかのうらなみ たちそかはれる | 三条実行 | 雑上 |
7-千載 | 973 | みたらしやかけたえはつる心ちしてしかの浪ちに袖そぬれこし みたらしや かけたえはつる ここちして しかのなみちに そてそぬれこし | 式子内親王 | 雑上 |
7-千載 | 974 | やとせまて手ならしたりしあつさ弓かへるをみるにねそなかれける やとせまて てならしたりし あつさゆみ かへるをみるに ねそなかれける | 藤原伊通 | 雑上 |
7-千載 | 975 | なにかそれおもひすつへきあつさ弓又ひきかへす時もありなん なにかそれ おもひすつへき あつさゆみ またひきかへす ときもありなむ | 源雅定 | 雑上 |
7-千載 | 976 | きのふみししのふもちすりたれならん心のほとそかきりしられぬ きのふみし しのふもちすり たれならむ こころのほとそ かきりしられぬ | 藤原顕輔 | 雑上 |
7-千載 | 977 | 露しけきよもきかなかの虫のねをおほろけにてや人のたつねん つゆしけき よもきかなかの むしのねを おほろけにてや ひとのたつねむ | 紫式部 | 雑上 |
7-千載 | 978 | 人しれぬおほうち山のやまもりはこかくれてのみ月をみるかな ひとしれぬ おほうちやまの やまもりは こかくれてのみ つきをみるかな | 源頼政 | 雑上 |
7-千載 | 979 | 秋をへて光をませとおもひしにおもはぬ月のかけにもあるかな あきをへて ひかりをませと おもひしに おもはぬつきの かけにもあるかな | 藤原実綱 | 雑上 |
7-千載 | 980 | とふ人におもひよそへてみる月のくもるはかへる心ちこそすれ とふひとに おもひよそへて みるつきの くもるはかへる ここちこそすれ | 覚性入道親王 | 雑上 |
7-千載 | 981 | ささ浪やくにつみかみのうらさひてふるき都に月ひとりすむ ささなみや くにつみかみの うらさひて ふるきみやこに つきひとりすむ | 西園寺公経 | 雑上 |
7-千載 | 982 | あまの川空ゆく月はひとつにてやとらぬ水のいかてなからん あまのかは そらゆくつきは ひとつにて やとらぬみつの いかてなからむ | 西園寺公経 | 雑上 |
7-千載 | 983 | ひとりゐて月をなかむる秋のよはなにことをかはおもひのこさん ひとりゐて つきをなかむる あきのよは なにことをかは おもひのこさむ | 具平親王 | 雑上 |
7-千載 | 984 | 物おもはぬ人もやこよひなかむらんねられぬままに月をみるかな ものおもはぬ ひともやこよひ なかむらむ ねられぬままに つきをみるかな | 赤染衛門 | 雑上 |
7-千載 | 985 | なかめつつむかしも月はみしものをかくやは袖のひまなかるへき なかめつつ むかしもつきは みしものを かくやはそての ひまなかるへき | 相模 | 雑上 |
7-千載 | 986 | ひとりのみあはれなるかと我ならぬ人にこよひの月をみせはや ひとりのみ あはれなるかと われならぬ ひとにこよひの つきをみせはや | 和泉式部 | 雑上 |
7-千載 | 987 | かくはかりうき世の中のおもひ出てにみよともすめる夜はの月かな かくはかり うきよのなかの おもひいてに みよともすめる よはのつきかな | 久我内大臣 | 雑上 |
7-千載 | 988 | すみわひて身をかくすへき山さとにあまりくまなき夜はの月かな すみわひて みをかくすへき やまさとに あまりくまなき よはのつきかな | 藤原俊成 | 雑上 |
7-千載 | 989 | はりまかたすまの月夜めそらさえてゑしまかさきに雪ふりにけり はりまかた すまのつきよめ そらさえて ゑしまかさきに ゆきふりにけり | 藤原親隆 | 雑上 |
7-千載 | 990 | さよちとりふけひのうらにおとつれてゑしまかいそに月かたふきぬ さよちとり ふけひのうらに おとつれて ゑしまかいそに つきかたふきぬ | 藤原家基 | 雑上 |
7-千載 | 991 | いかたおろすきよたき川にすむ月はさをにさはらぬ氷なりけり いかたおろす きよたきかはに すむつきは さをにさはらぬ こほりなりけり | 俊恵法師 | 雑上 |
7-千載 | 992 | あまのはらすめるけしきはのとかにてはやくも月の西へゆくかな あまのはら すめるけしきは のとかにて はやくもつきの にしへゆくかな | 賀茂成保 | 雑上 |
7-千載 | 993 | さひしさにあはれもいととまさりけりひとりそ月はみるへかりける さひしさに あはれもいとと まさりけり ひとりそつきは みるへかりける | 顕昭法師 | 雑上 |
7-千載 | 994 | いまよりはふけ行くまてに月はみしそのこととなく涙おちけり いまよりは ふけゆくまてに つきはみし そのこととなく なみたおちけり | 藤原清輔 | 雑上 |
7-千載 | 995 | もろともにみし人いかになりにけん月はむかしにかはらさりけり もろともに みしひといかに なりにけむ つきはむかしに かはらさりけり | 登蓮法師 | 雑上 |
7-千載 | 996 | あかなくに又もこのよにめくりこはおもかはりすな山のはの月 あかなくに またもこのよに めくりこは おもかはりすな やまのはのつき | 法印静賢 | 雑上 |
7-千載 | 997 | はかなくもわかよのふけをしらすしていさよふ月をまちわたるかな はかなくも わかよのふけを しらすして いさよふつきを まちわたるかな | 源仲正 | 雑上 |
7-千載 | 998 | さきたちし人はやみにやまよふらんいつまて我も月をなかめん さきたちし ひとはやみにや まよふらむ いつまてわれも つきをなかめむ | 源仲綱 | 雑上 |
7-千載 | 999 | のこりなくわかよふけぬとおもふにもかたふく月にすむ心かな のこりなく わかよふけぬと おもふにも かたふくつきに すむこころかな | 待賢門院堀河 | 雑上 |
7-千載 | 1000 | うき雲のかかるほとたにあるものをかくれなはてそあり明の月 うきくもの かかるほとたに あるものを かくれなはてそ ありあけのつき | 近衛院 | 雑上 |
7-千載 | 1001 | このまもるあり明の月のおくらすはひとりや山のみねを出てまし このまもる ありあけのつきの おくらすは ひとりややまの みねをいてまし | 覚性入道親王 | 雑上 |
7-千載 | 1002 | ことのねを雪にしらふときこゆなり月さゆる夜のみねの松かせ ことのねを ゆきにしらふと きこゆなり つきさゆるよの みねのまつかせ | 道性法親王 | 雑上 |
7-千載 | 1003 | あかていらんなこりをいととおもへとやかたふくままにすめる月かな あかていらむ なこりをいとと おもへとや かたふくままに すめるつきかな | 藤原長方 | 雑上 |
7-千載 | 1004 | いかにせんさらてうきよはなくさますたのみし月も涙おちけり いかにせむ さらてうきよは なくさます たのみしつきも なみたおちけり | 藤原定家 | 雑上 |
7-千載 | 1005 | 山ふかき松のあらしを身にしめてたれかねさめに月をみるらん やまふかき まつのあらしを みにしめて たれかねさめに つきをみるらむ | 藤原家隆 | 雑上 |
7-千載 | 1006 | まつほとはいとと心そなくさまぬをはすて山のあり明の月 まつほとは いととこころそ なくさまぬ をはすてやまの ありあけのつき | 八条院六条 | 雑上 |
7-千載 | 1007 | よをいとふ心は月をしたへはや山のはにのみおもひいるらん よをいとふ こころはつきを したへはや やまのはにのみ おもひいるらむ | 法印実修 | 雑上 |
7-千載 | 1008 | さひしさも月みるほとはなくさみぬいりなんのちをとふ人もかな さひしさも つきみるほとは なくさみぬ いりなむのちを とふひともかな | 藤原隆親 | 雑上 |
7-千載 | 1009 | 霜さゆるにはのこのはをふみわけて月はみるやととふ人もかな しもさゆる にはのこのはを ふみわけて つきはみるやと とふひともかな | 西行法師 | 雑上 |
7-千載 | 1010 | すみなれしやとをはいてて西へゆく月をしたひて山にこそいれ すみなれし やとをはいてて にしへゆく つきをしたひて やまにこそいれ | 平実重 | 雑上 |
7-千載 | 1011 | ふるさとのいたゐのし水みくさゐて月さへすます成りにけるかな ふるさとの いたゐのしみつ みくさゐて つきさへすます なりにけるかな | 俊恵法師 | 雑上 |
7-千載 | 1012 | さもこそはかけととむへき世ならねとあとなき水にやとる月かな さもこそは かけととむへき よならねと あとなきみつに やとるつきかな | 藤原家基 | 雑上 |
7-千載 | 1013 | なにとなくなかむるそてのかわかぬは月のかつらの露やおくらん なにとなく なかむるそての かわかぬは つきのかつらの つゆやおくらむ | 藤原親盛 | 雑上 |
7-千載 | 1014 | ましはふくやとのあられに夢さめてあり明かたの月をみるかな ましはふく やとのあられに ゆめさめて ありあけかたの つきをみるかな | 大江公景 | 雑上 |
7-千載 | 1015 | あし曳の山のはちかくすむとてもまたてやはみるあり明の月 あしひきの やまのはちかく すむとても またてやはみる ありあけのつき | 静蓮法師 | 雑上 |
7-千載 | 1016 | もろともに秋をやしのふ霜かれのをきのうははをてらす月かけ もろともに あきをやしのふ しもかれの をきのうははを てらすつきかけ | 紀康宗 | 雑上 |
7-千載 | 1017 | ますけおふる山した水にやとる夜は月さへ草のいほりをそさす ますけおふる やましたみつに やとるよは つきさへくさの いほりをそさす | 法眼長真 | 雑上 |
7-千載 | 1018 | ふかきよの露ふきむすふこからしにそらさえのほる山のはの月 ふかきよの つゆふきむすふ こからしに そらさえのほる やまのはのつき | 藤原為忠 | 雑上 |
7-千載 | 1019 | 山かせにまやのあしふきあれにけり枕にやとる夜はの月影 やまかせに まやのあしふき あれにけり まくらにやとる よはのつきかけ | 覚延法師 | 雑上 |
7-千載 | 1020 | やまふかみたれ又かかるすまひしてま木のはわくる月をみるらん やまふかみ たれまたかかる すまひして まきのはわくる つきをみるらむ | 慈円 | 雑上 |
7-千載 | 1021 | 月影のいりぬるあとにおもふかなまよはむやみのゆくすゑの空 つきかけの いりぬるあとに おもふかな まよはむやみの ゆくすゑのそら | 慈円 | 雑上 |
7-千載 | 1022 | 此世にて六そちはなれぬ秋の月しての山ちもおもかはりすな このよにて むそちはなれぬ あきのつき してのやまちも おもかはりすな | 俊恵法師 | 雑上 |
7-千載 | 1023 | こむよには心のうちにあらはさんあかてやみぬる月のひかりを こむよには こころのうちに あらはさむ あかてやみぬる つきのひかりを | 西行法師 | 雑上 |
7-千載 | 1024 | いかなれはしつみなからにとしをへてよよの雲ゐの月をみつらん いかなれは しつみなからに としをへて よよのくもゐの つきをみつらむ | 藤原俊成 | 雑上 |
7-千載 | 1025 | からくににしつみし人もわかことくみよまてあはぬなけきをそせし からくにに しつみしひとも わかことく みよまてあはぬ なけきをそせし | 藤原基優 | 雑上 |
7-千載 | 1026 | 契りおきしさせもか露をいのちにてあはれことしの秋もいぬめり ちきりおきし させもかつゆを いのちにて あはれことしの あきもいぬめり | 藤原基優 | 雑上 |
7-千載 | 1027 | よのなかのありしにもあらすなりゆけは涙さへこそ色かはりけれ よのなかの ありしにもあらす なりゆけは なみたさへこそ いろかはりけれ | 源俊頼 | 雑上 |
7-千載 | 1028 | すききにし四そちの春のゆめのよはうきよりほかのおもひいてそなき すききにし よそちのはるの ゆめのよは うきよりほかの おもひいてそなき | 覚審法師 | 雑上 |
7-千載 | 1029 | はかなしなうき身なからもすきぬへき此世をさヘもしのひかぬらん はかなしな うきみなからも すきぬへき このよをさへも しのひかぬらむ | 経因法師 | 雑上 |
7-千載 | 1030 | ゆくすゑをおもへはかなしつの国のなからのはしも名はのこりけり ゆくすゑを おもへはかなし つのくにの なからのはしも なはのこりけり | 源俊頼 | 雑上 |
7-千載 | 1031 | なにこともかはりゆくめる世の中にむかしなからのはしはしらかな なにことも かはりゆくめる よのなかに むかしなからの はしはしらかな | 道命法師 | 雑上 |
7-千載 | 1032 | けふみれはなからのはしはあともなしむかしありきとききわたれとも けふみれは なからのはしは あともなし むかしありきと ききわたれとも | 道因法師 | 雑上 |
7-千載 | 1033 | 人こころあらすなれともすみよしの松のけしきはかはらさりけり ひとこころ あらすなれとも すみよしの まつのけしきは かはらさりけり | 津守景基 | 雑上 |
7-千載 | 1034 | しら雲にまかひやせましよしの山おちくるたきのおとせさりせは しらくもに まかひやせまし よしのやま おちくるたきの おとせさりせは | 中納言経忠 | 雑上 |
7-千載 | 1035 | たきのおとはたえてひさしく成りぬれとなこそなかれて猶きこえけれ たきのおとは たえてひさしく なりぬれと なこそなかれて なほきこえけれ | 藤原公任 | 雑上 |
7-千載 | 1036 | ぬけはちるぬかねはみたるあし引の山よりおつるたきのしら玉 ぬけはちる ぬかねはみたる あしひきの やまよりおつる たきのしらたま | 藤原長能 | 雑上 |
7-千載 | 1037 | 水の色のたたしら雲とみゆるかなたれさらしけんぬのひきのたき みつのいろの たたしらくもと みゆるかな たれさらしけむ ぬのひきのたき | 源顕房 | 雑上 |
7-千載 | 1038 | あしたつにのりてかよへるやとなれはあとたに人はみえぬなりけり あしたつに のりてかよへる やとなれは あとたにひとは みえぬなりけり | 能因法師 | 雑上 |
7-千載 | 1039 | 山人のむかしのあとをきてみれはむなしきゆかをはらふ谷かせ やまひとの むかしのあとを きてみれは むなしきゆかを はらふたにかせ | 藤原清輔 | 雑上 |
7-千載 | 1040 | おとにのみききしはことのかすならて名よりもたかきぬのひきの滝 おとにのみ ききしはことの かすならて なよりもたかき ぬのひきのたき | 藤原良清 | 雑上 |
7-千載 | 1041 | たえすたつむろのやしまの煙かないかにつきせぬおもひなるらん たえすたつ むろのやしまの けふりかな いかにつきせぬ おもひなるらむ | 藤原顕方 | 雑上 |
7-千載 | 1042 | かつらきやわたしもはてぬものゆゑにくめのいははしこけおひにけり かつらきや わたしもはてぬ ものゆゑに くめのいははし こけおひにけり | 源師頼 | 雑上 |
7-千載 | 1043 | いはおろすかたこそなけれいせの海のしほせにかかるあまのつり舟 いはおろす かたこそなけれ いせのうみの しほせにかかる あまのつりふね | 藤原俊忠 | 雑上 |
7-千載 | 1044 | 玉もかるいらこかさきのいはねまついく代まてにかとしのへぬらん たまもかる いらこかさきの いはねまつ いくよまてにか としのへぬらむ | 藤原顕季 | 雑上 |
7-千載 | 1045 | しほみては野しまかさきのさゆりはに浪こすかせのふかぬ日そなき しほみては のしまかさきの さゆりはに なみこすかせの ふかぬひそなき | 源俊頼 | 雑上 |
7-千載 | 1046 | けふこそはみやこのかたの山のはもみえすなるをのおきに出てぬれ けふこそは みやこのかたの やまのはも みえすなるをの おきにいてぬれ | 藤原実家 | 雑上 |
7-千載 | 1047 | はりまかたすまのはれまにみわたせは浪は雲ゐのものにそありける はりまかた すまのはれまに みわたせは なみはくもゐの ものにそありける | 藤原実宗 | 雑上 |
7-千載 | 1048 | はるはるとおまへのおきをみわたせはくもゐにまかふあまのつり舟 はるはると おまへのおきを みわたせは くもゐにまかふ あまのつりふね | 右衛門督頼実 | 雑上 |
7-千載 | 1049 | なにはかたしほちはるかにみわたせは霞にうかふおきのつり舟 なにはかた しほちはるかに みわたせは かすみにうかふ おきのつりふね | 円玄法師 | 雑上 |
7-千載 | 1050 | 春かすみゑしまかさきをこめつれは浪のかくともみえぬけさかな はるかすみ ゑしまかさきを こめつれは なみのかくとも みえぬけさかな | 藤原重綱 | 雑上 |
7-千載 | 1051 | ゆくとしは浪とともにやかへるらんおもかはりせぬわかの浦かな ゆくとしは なみとともにや かへるらむ おもかはりせぬ わかのうらかな | 祝部宿禰成仲 | 雑上 |
7-千載 | 1052 | 心あらはにほひをそへよさくら花のちの春をはいつかみるへき こころあらは にほひをそへよ さくらはな のちのはるをは いつかみるへき | 鳥羽院 | 雑中 |
7-千載 | 1053 | はかなさをうらみもはてしさくら花うき世はたれも心ならねは はかなさを うらみもはてし さくらはな うきよはたれも こころならねは | 覚性入道親王 | 雑中 |
7-千載 | 1054 | やともやとはなもむかしににほへともぬしなき色はさひしかりけり やともやと はなもむかしに にほへとも ぬしなきいろは さひしかりけり | 僧正尋範 | 雑中 |
7-千載 | 1055 | いにしへにかはらさりけり山さくら花は我をはいかかみるらん いにしへに かはらさりけり やまさくら はなはわれをは いかかみるらむ | 藤原基長 | 雑中 |
7-千載 | 1056 | 雲のうへの春こそさらにわすられね花はかすにもおもひ出てしを くものうへの はるこそさらに わすられね はなはかすにも おもひいてしを | 藤原俊成 | 雑中 |
7-千載 | 1057 | あまたたひゆきあふさかのせき水に今はかきりのかけそかなしき あまたたひ ゆきあふさかの せきみつに いまはかきりの かけそかなしき | 東三条院 | 雑中 |
7-千載 | 1058 | いまはとていりなん後そおもほゆる山ちをふかみとふ人もなし いまはとて いりなむのちそ おもほゆる やまちをふかみ とふひともなし | 藤原公任 | 雑中 |
7-千載 | 1059 | うき世をはみねのかすみやへたつらんなほ山さとはすみよかりけり うきよをは みねのかすみや へたつらむ なほやまさとは すみよかりけり | 藤原公任 | 雑中 |
7-千載 | 1060 | 花さかぬたにのそこにもすまなくにふかくも物をおもふ春かな はなさかぬ たにのそこにも すまなくに ふかくもものを おもふはるかな | 和泉式部 | 雑中 |
7-千載 | 1061 | たにのとをとちやはてつる鴬のまつにおとせて春のくれぬる たにのとを とちやはてつる うくひすの まつにおとせて はるのくれぬる | 西園寺公経 | 雑中 |
7-千載 | 1062 | かくてたになほあはれなるおく山に君こぬよよをおもひしらなん かくてたに なほあはれなる おくやまに きみこぬよよを おもひしらなむ | 道命法師 | 雑中 |
7-千載 | 1063 | としことに涙の川にうかへともみはなけられぬ物にそありける としことに なみたのかはに うかへとも みはなけられぬ ものにそありける | 大江公資 | 雑中 |
7-千載 | 1064 | おもふことなくてや春をすくさましうき世へたつるかすみなりせは おもふこと なくてやはるを すくさまし うきよへたつる かすみなりせは | 源仲正 | 雑中 |
7-千載 | 1065 | ちるをみてかへる心やさくら花むかしにかはるしるしなるらん ちるをみて かへるこころや さくらはな むかしにかはる しるしなるらむ | 西行法師 | 雑中 |
7-千載 | 1066 | はなにそむ心のいかてのこりけんすてはててきとおもふわか身に はなにそむ こころのいかて のこりけむ すてはててきと おもふわかみに | 西行法師 | 雑中 |
7-千載 | 1067 | ほとけにはさくらの花をたてまつれわかのちのよを人とふらはは ほとけには さくらのはなを たてまつれ わかのちのよを ひととふらはは | 西行法師 | 雑中 |
7-千載 | 1068 | この春そおもひはかへすさくら花むなしき色にそめしこころを このはるそ おもひはかへす さくらはな むなしきいろに そめしこころを | 寂然法師 | 雑中 |
7-千載 | 1069 | よのなかをつねなき物とおもはすはいかてか花のちるにたへまし よのなかを つねなきものと おもはすは いかてかはなの ちるにたへまし | 寂然法師 | 雑中 |
7-千載 | 1070 | かくはかりうき世のすゑにいかにしてはるはさくらのなほにほふらん かくはかり うきよのすゑに いかにして はるはさくらの なほにほふらむ | 読人不知 | 雑中 |
7-千載 | 1071 | ふりにけりむかしをしらはさくら花ちりのすゑをもあはれとはみよ ふりにけり むかしをしらは さくらはな ちりのすゑをも あはれとはみよ | 藤原俊成 | 雑中 |
7-千載 | 1072 | 山さくら花をあるしとおもはすは人をまつへきしはのいほかは やまさくら はなをあるしと おもはすは ひとをまつへき しはのいほかは | 源定宗 | 雑中 |
7-千載 | 1073 | いつくにてかせをも世をもうらみましよしののおくも花はちるなり いつくにて かせをもよをも うらみまし よしののおくも はなはちるなり | 藤原定家 | 雑中 |
7-千載 | 1074 | ふかくおもふことしかなははこむ世にも花みる身とやならんとすらん ふかくおもふ ことしかなはは こむよにも はなみるみとや ならむとすらむ | 源季広 | 雑中 |
7-千載 | 1075 | 老かよにやとにさくらをうつしうゑてなほこころみに花をまつかな おいかよに やとにさくらを うつしうゑて なほこころみに はなをまつかな | 源師教 | 雑中 |
7-千載 | 1076 | くらゐ山はなをまつこそひさしけれはるの宮こにとしはへしかと くらゐやま はなをまつこそ ひさしけれ はるのみやこに としはへしかと | 権中納言実守 | 雑中 |
7-千載 | 1077 | かすか山まつにたのみをかくるかなふちのすゑはのかすならねとも かすかやま まつにたのみを かくるかな ふちのすゑはの かすならねとも | 右兵衛督公行 | 雑中 |
7-千載 | 1078 | 物おもふ心や身にもさきたちてうき世をいてんしるへなるへき ものおもふ こころやみにも さきたちて うきよをいてむ しるへなるへき | 前左衛門督公光 | 雑中 |
7-千載 | 1079 | かすならてとしへぬる身はいまさらに世をうしとたにおもはさりけり かすならて としへぬるみは いまさらに よをうしとたに おもはさりけり | 俊恵法師 | 雑中 |
7-千載 | 1080 | いつとても身のうきことはかはらねとむかしはおいをなけきやはせし いつとても みのうきことは かはらねと むかしはおいを なけきやはせし | 道因法師 | 雑中 |
7-千載 | 1081 | いにしへもそこにしつみし身なれともなほ恋しきはしら川のみつ いにしへも そこにしつみし みなれとも なほこひしきは しらかはのみつ | 藤原家基(法名素覚) | 雑中 |
7-千載 | 1082 | あはれてふ人もなき身をうしとてもわれさへいかかいとひはつへき あはれてふ ひともなきみを うしとても われさへいかか いとひはつへき | 藤原盛方 | 雑中 |
7-千載 | 1083 | かすならぬ身をうき雲のはれぬかなさすかに家のかせはふけとも かすならぬ みをうきくもの はれぬかな さすかにいへの かせはふけとも | 中原師尚 | 雑中 |
7-千載 | 1084 | おもひやれとよにあまれるともし火のかかけかねたる心ほそさを おもひやれ とよにあまれる ともしひの かかけかねたる こころほそさを | 大江匡範 | 雑中 |
7-千載 | 1085 | よのうさをおもひしのふと人もみよかくてふるやの軒のけしきを よのうさを おもひしのふと ひともみよ かくてふるやの のきのけしきを | 藤原公重 | 雑中 |
7-千載 | 1086 | ひく人もなくてすてたるあつさ弓心つよきもかひなかりけり ひくひとも なくてすてたる あつさゆみ こころつよきも かひなかりけり | 菅原是忠 | 雑中 |
7-千載 | 1087 | いかてわれひまゆくこまを引きとめてむかしにかへる道をたつねん いかてわれ ひまゆくこまを ひきとめて むかしにかへる みちをたつねむ | 二条院参川内侍 | 雑中 |
7-千載 | 1088 | 今はたたいけらぬ物にみをなしてうまれぬのちの世にもふるかな いまはたた いけらぬものに みをなして うまれぬのちの よにもふるかな | 源師光 | 雑中 |
7-千載 | 1089 | いかにせむいせのはまをきみかくれておもはぬいその浪にくちなは いかにせむ いせのはまをき みかくれて おもはぬいその なみにくちなは | 源俊重 | 雑中 |
7-千載 | 1090 | ま木のとをみ山おろしにたたかれてとふにつけてもぬるる袖かな まきのとを みやまおろしに たたかれて とふにつけても ぬるるそてかな | 源俊頼 | 雑中 |
7-千載 | 1091 | をやま国のいほにたくひのありなしにたつ煙もや雲となるらん をやまたの いほにたくひの ありなしに たつけふりもや くもとなるらむ | 橘盛長 | 雑中 |
7-千載 | 1092 | 山さとのしはをりをりにたつ煙人まれなりとそらにしるかな やまさとの しはをりをりに たつけふり ひとまれなりと そらにしるかな | 二条太皇大后宮肥後 | 雑中 |
7-千載 | 1093 | 秋はつるかれののむしのこゑたえはありやなしやを人のとへかし あきはつる かれののむしの こゑたえは ありやなしやを ひとのとへかし | 藤原基俊 | 雑中 |
7-千載 | 1094 | この世にはすむへきほとやつきぬらんよのつねならす物のかなしき このよには すむへきほとや つきぬらむ よのつねならす もののかなしき | 藤原道信 | 雑中 |
7-千載 | 1095 | いのちあらはいかさまにせんよをしらぬむしたに秋はなきにこそなけ いのちあらは いかさまにせむ よをしらぬ むしたにあきは なきにこそなけ | 和泉式部 | 雑中 |
7-千載 | 1096 | かすならて心に身をはまかせねと身にしたかふは心なりけり かすならて こころにみをは まかせねと みにしたかふは こころなりけり | 紫式部 | 雑中 |
7-千載 | 1097 | あはれともたれかはわれをおもひいてむある世にたにもとふ人もなし あはれとも たれかはわれを おもひいてむ あるよにたにも とふひともなし | 藤原兼房 | 雑中 |
7-千載 | 1098 | ふるさとのいたまのかせにねさめしてたにのあらしをおもひこそやれ ふるさとの いたまのかせに ねさめして たにのあらしを おもひこそやれ | 藤原定頼 | 雑中 |
7-千載 | 1099 | たにかせの身にしむことに古郷のこのもとをこそおもひやりつれ たにかせの みにしむことに ふるさとの このもとをこそ おもひやりつれ | 藤原公任 | 雑中 |
7-千載 | 1100 | いにしへはおもひかけきやとりかはしかくきん物とのりの衣を いにしへは おもひかけきや とりかはし かくきむものと のりのころもを | 西園寺公経 | 雑中 |
7-千載 | 1101 | おなしとし契しあれは君かきるのりの衣をたちおくれめや おなしとし ちきりしあれは きみかきる のりのころもを たちおくれめや | 入道藤原公任 | 雑中 |
7-千載 | 1102 | むかしみし松のこすゑはそれなからむくらのかとをさしてけるかな むかしみし まつのこすゑは それなから むくらのかとを さしてけるかな | 弁乳母 | 雑中 |
7-千載 | 1103 | 山さとのかけひの水のこほれるはおときくよりもさひしかりけり やまさとの かけひのみつの こほれるは おときくよりも さひしかりけり | 輔仁のみこ | 雑中 |
7-千載 | 1104 | やまさとのさひしきやとのすみかにもかけひの水のとくるをそまつ やまさとの さひしきやとの すみかにも かけひのみつの とくるをそまつ | 聡子内親王 | 雑中 |
7-千載 | 1105 | このもとにかきあつめたることのはをわかれし秋のかたみとそみる このもとに かきあつめたる ことのはを わかれしあきの かたみとそみる | 太皇大后宮 | 雑中 |
7-千載 | 1106 | このもとはかくことのはをみるたひにたのみしかけのなきそかなしき このもとは かくことのはを みるたひに たのみしかけの なきそかなしき | 藤原実家 | 雑中 |
7-千載 | 1107 | あとたえてよをのかるへき道なれやいはさへこけの衣きてけり あとたえて よをのかるへき みちなれや いはさへこけの ころもきてけり | 守覚法親王 | 雑中 |
7-千載 | 1108 | 思ひいてのあらは心もとまりなんいとひやすきはうき世なりけり おもひいての あらはこころも とまりなむ いとひやすきは うきよなりけり | 守覚法親王 | 雑中 |
7-千載 | 1109 | やとりするいはやのとこのこけむしろいくよになりぬねこそいられね やとりする いはやのとこの こけむしろ いくよになりぬ ねこそいられね | 前大僧正覚忠 | 雑中 |
7-千載 | 1110 | 身のほとをしらすと人やおもふらんかくうきなからとしをへぬれは みのほとを しらすとひとや おもふらむ かくうきなから としをへぬれは | 大納言宗家 | 雑中 |
7-千載 | 1111 | そむかはやまことの道はしらすともうき世をいとふしるしはかりに そむかはや まことのみちは しらすとも うきよをいとふ しるしはかりに | 藤原忠良 | 雑中 |
7-千載 | 1112 | そま川におろすいかたのうきなからすきゆく物は我か身なりけり そまかはに おろすいかたの うきなから すきゆくものは わかみなりけり | 二条太皇太后宮別当 | 雑中 |
7-千載 | 1113 | おのつからあれはあるよになからへてをしむと人にみえぬへきかな おのつから あれはあるよに なからへて をしむとひとに みえぬへきかな | 藤原定家 | 雑中 |
7-千載 | 1114 | うしとてもいとひもはてぬよのなかを中中なににおもひしりけん うしとても いとひもはてぬ よのなかを なかなかなにに おもひしりけむ | 摂政家丹後 | 雑中 |
7-千載 | 1115 | のほるへき道にそまとふくらゐ山これよりおくのしるへなけれは のほるへき みちにそまとふ くらゐやま これよりおくの しるへなけれは | 法印倫円 | 雑中 |
7-千載 | 1116 | もろ人の花さくはるをよそにみてなほしくるるはしひしはのそて もろひとの はなさくはるを よそにみて なほしくるるは しひしはのそて | 中納言長方 | 雑中 |
7-千載 | 1117 | うきせにもうれしきせにもさきにたつ涙はおなし涙なりけり うきせにも うれしきせにも さきにたつ なみたはおなし なみたなりけり | 藤原顕方 | 雑中 |
7-千載 | 1118 | このせにもしつむときくは涙川なかれしよりもなほまさりけり このせにも しつむときけは なみたかは なかれしよりも なほまさりけり | 藤原惟方 | 雑中 |
7-千載 | 1119 | かくはかりうき身なれともすてはてむとおもふになれはかなしかりけり かくはかり うきみなれとも すてはてむと おもふになれは かなしかりけり | 空人法師 | 雑中 |
7-千載 | 1120 | おもひきやしかのうら浪たちかへり又あふ身ともならむものとは おもひきや しかのうらなみ たちかへり またあふみとも ならむものとは | 平康頼 | 雑中 |
7-千載 | 1121 | かくはかりうきよのなかをしのひてもまつへきことのすゑにあるかは かくはかり うきよのなかを しのひても まつへきことの すゑにあるかは | 登蓮法師 | 雑中 |
7-千載 | 1122 | おもひかねあくかれいててゆくみちはあゆく草はに露そこほるる おもひかね あくかれいてて ゆくみちは あゆくくさはに つゆそこほるる | 覚禅法師 | 雑中 |
7-千載 | 1123 | 夢とのみこの世のことのみゆるかなさむへきほとはいつとなけれと ゆめとのみ このよのことの みゆるかな さむへきほとは いつとなけれと | 権僧正永縁 | 雑中 |
7-千載 | 1124 | この世をは雲のはやしにかとてして煙とならん夕をそまつ このよをは くものはやしに かとてして けふりとならむ ゆふへをそまつ | 良暹法師 | 雑中 |
7-千載 | 1125 | うきことのまとろむほとはわすられてさむれは夢の心ちこそすれ うきことの まとろむほとは わすられて さむれはゆめの ここちこそすれ | よみ人しらす | 雑中 |
7-千載 | 1126 | いつくとも身をやるかたのしられねはうしとみつつもなからふるかな いつくとも みをやるかたの しられねは うしとみつつも なからふるかな | 紫式部 | 雑中 |
7-千載 | 1127 | うき夢はなこりまてこそかなしけれ此世ののちもなほやなけかん うきゆめは なこりまてこそ かなしけれ このよののちも なほやなけかむ | 藤原俊成 | 雑中 |
7-千載 | 1128 | うつつをもうつつといかかさたむへき夢にも夢をみすはこそあらめ うつつをも うつつといかか さたむへき ゆめにもゆめを みすはこそあらめ | 藤原季通 | 雑中 |
7-千載 | 1129 | いとひてもなほしのはるるわか身かな二たひくへき此世ならねは いとひても なほしのはるる わかみかな ふたたひくへき このよならねは | 藤原季通 | 雑中 |
7-千載 | 1130 | これや夢いつれかうつつはかなさをおもひわかてもすきぬへきかな これやゆめ いつれかうつつ はかなさを おもひわかても すきぬへきかな | 上西門院兵衛 | 雑中 |
7-千載 | 1131 | あすしらぬみむろのきしのねなし草なにあたし世におひはしめけん あすしらぬ みむろのきしの ねなしくさ なにあたしよに おひはしめけむ | 源有仁家小大進 | 雑中 |
7-千載 | 1132 | をしからぬ命そさらにをしまるる君かみやこにかへりくるまて をしからぬ いのちそさらに をしまるる きみかみやこに かへりくるまて | 藤原成通 | 雑中 |
7-千載 | 1133 | うき世をはすてて入りにし山なれときみかとふにやいてんとすらん うきよをは すてていりにし やまなれと きみかとふにや いてむとすらむ | 前大僧正覚忠 | 雑中 |
7-千載 | 1134 | いはそそく水よりほかにおとせねは心ひとつをすましてそきく いはそそく みつよりほかに おとせねは こころひとつに すましてそきく | 守覚法親王 | 雑中 |
7-千載 | 1135 | たれもみな露の身そかしとおもふにも心とまりし草のいほかな たれもみな つゆのみそかしと おもふにも こころとまりし くさのいほかな | 滋野井実国 | 雑中 |
7-千載 | 1136 | なほさりにかへるたもとはかはらねと心はかりそすみそめのそて なほさりに かへるたもとは かはらねと こころはかりそ すみそめのそて | 藤原公衡 | 雑中 |
7-千載 | 1137 | おほけなくうき世のたみにおほふかなわかたつそまにすみそめのそて おほけなく うきよのたみに おほふかな わかたつそまに すみそめのそて | 慈円 | 雑中 |
7-千載 | 1138 | さひしさをうきよにかへてしのはすはひとりきくへき松のかせかは さひしさを うきよにかへて しのはすは ひとりきくへき まつのかせかは | 寂蓮法師 | 雑中 |
7-千載 | 1139 | つくつくとおもへはかなしあかつきのねさめも夢をみるにそ有りける つくつくと おもへはかなし あかつきの ねさめもゆめを みるにそありける | 殷富門院大輔 | 雑中 |
7-千載 | 1140 | まとろみてさてもやみなはいかかせんねさめそあらぬ命なりける まとろみて さてもやみなは いかかせむ ねさめそあらぬ いのちなりける | 西住法師 | 雑中 |
7-千載 | 1141 | さきたつをみるはなほこそかなしけれおくれはつへきこのよならねと さきたつを みるはなほこそ かなしけれ おくれはつへき このよならねと | 六条院宣旨 | 雑中 |
7-千載 | 1142 | いまはとてかきなすことのはてのをに心ほそくもなりまさるかな いまはとて かきなすことの はてのをの こころほそくも なりまさるかな | 二条太皇大后宮式部 | 雑中 |
7-千載 | 1143 | おほゐ川となせのたきに身をなけてはやくと人にいはせてしかな おほゐかは となせのたきに みをなけて はやくとひとに いはせてしかな | 空人法師 | 雑中 |
7-千載 | 1144 | とりへ山きみたつぬともくちはててこけのしたにはこたへさらまし とりへやま きみたつぬとも くちはてて こけのしたには こたへさらまし | 大江公景 | 雑中 |
7-千載 | 1145 | わけわひていとひし庭のよもきふもかれぬとおもふはあはれなりけり わけわひて いとひしにはの よもきふも かれぬとおもふは あはれなりけり | 法眼兼覚 | 雑中 |
7-千載 | 1146 | 世のなかのうきはいまこそうれしけれおもひしらすはいとはましやは よのなかの うきはいまこそ うれしけれ おもひしらすは いとはましやは | 寂蓮法師 | 雑中 |
7-千載 | 1147 | よをそむき草のいほりにすみ染のころもの色はかへるものかは よをそむき くさのいほりに すみそめの ころものいろは かへるものかは | 覚俊上人 | 雑中 |
7-千載 | 1148 | おもひやれならはぬ山にすみ染の袖につゆおく秋のけしきを おもひやれ ならはぬやまに すみそめの そてにつゆおく あきのけしきを | 源通清 | 雑中 |
7-千載 | 1149 | あかつきのあらしにたくふかねのおとを心のそこにこたへてそきく あかつきの あらしにたくふ かねのおとを こころのそこに こたへてそきく | 西行法師 | 雑中 |
7-千載 | 1150 | いつくにか身をかくさましいとひいててうきよにふかき山なかりせは いつくにか みをかくさまし いとひいてて うきよにふかき やまなかりせは | 西行法師 | 雑中 |
7-千載 | 1151 | 世のなかよみちこそなけれおもひいる山のおくにもしかそなくなる よのなかよ みちこそなけれ おもひいる やまのおくにも しかそなくなる | 藤原俊成 | 雑中 |
7-千載 | 1152 | おもふことあり明かたのしかのねはなほ山ふかく家ゐせよとや おもふこと ありあけかたの しかのねは なほやまふかく いへゐせよとや | 藤原良清 | 雑中 |
7-千載 | 1153 | みる夢のすきにしかたをさそひきてさむる枕もむかしなりせは みるゆめの すきにしかたを さそひきて さむるまくらも むかしなりせは | 藤原宗隆 | 雑中 |
7-千載 | 1154 | はつせ山いりあひのかねをきくたひに昔のとほくなるそかなしき はつせやま いりあひのかねを きくたひに むかしのとほく なるそかなしき | 藤原有家 | 雑中 |
7-千載 | 1155 | ちりつもるこけのしたにもさくら花をしむ心やなほのこるらん ちりつもる こけのしたにも さくらはな をしむこころや なほのこるらむ | 源通親 | 雑中 |
7-千載 | 1156 | うれしさをかへすかへすもつつむへきこけのたもとのせはくも有るかな うれしさを かへすかへすも つつむへき こけのたもとの せはくもあるかな | 入道源雅兼 | 雑中 |
7-千載 | 1157 | うれしさをよその袖まてつつむかなたちかへりぬるあまのはころも うれしさを よそのそてまて つつむかな たちかへりぬる あまのはころも | 藤原季経 | 雑中 |
7-千載 | 1158 | あしたつの雲ちまよひしとしくれて霞をさへやへたてはつへき あしたつの くもちまよひし としくれて かすみをさへや へたてはつへき | 藤原俊成 | 雑中 |
7-千載 | 1159 | あしたつはかすみをわけてかへるなりまよひし雲ちけふやはるらん あしたつは かすみをわけて かへるなり まよひしくもち けふやはるらむ | 藤原定長 | 雑中 |
7-千載 | 1160 | もかみ川せせのいはかとわきかへりおもふこころはおほかれと行かたもなくせかれつつそこのみくつとなることはもにすむ虫のわれからとおもひしらすはなけれともいはてはえこそなきさなるかたわれ舟のうつもれてひく人もなきなけきすと浪のたちゐにあふけともむなしき空はみとりにていふこともなきかなしさにねをのみなけはからころもおさふる袖もくちはてぬなにことにかはあはれともおもはん人にあふみなるうちいてのはまのうちいてつついふともたれかささかにのいかさまにてもかきつかんことをはのきにふくかせのはけしきころとしりなからうはの空にもをしふへきあつさのそまにみや木ひきみかきかはらにせりつみしむかしをよそにききしかとわか身のうへになりはてぬさすかに御代のはしめより雲のうへにはかよへともなにはのことも久かたの月のかつらしをられねはうけらか花のさきなからひらけぬことのいふせさによもの山へにあくかれてこのもかのもにたちましりうつふしそめのあさころも花のたもとにぬきかへて後のよをたにとおもへともおもふ人人ほたしにてゆくへきかたもまとはれぬかかるうき身のつれもなくへにける年をかそふれはいつつのとをになりにけりいま行すゑはいなつまのひかりのまにもさためなしたとへはひとりなからへてすきにしはかりすくすとも夢にゆめみる心ちしてひまゆく駒にことならしさらにもいはしふゆかれのをはなかすゑの露なれはあらしをたにもまたすしてもとのしつくとなりはてんほとをはいつとしりてかはくれにとたにもしつむへきかくのみつねにあらそひてなほふるさとにすみのえのしほにたたよふうつせかひうつし心もうせはててあるにもあらぬよのなかに又なにことをみくまののうらのはまゆふかさねつつうきにたヘたるためしにはなるをの松のつれつれといたつらことをかきつめてあはれしれらん行すゑの人のためにはおのつからしのはれぬへき身なれともはかなきことも雲とりのあやにかなはぬくせなれはこれもさこそはみなしくりくち葉かしたにうつもれめそれにつけてもつのくにのいく田のもりのいくたひかあまのたくなはくり返し心にそはぬ身をうらむらん もかみかは せせのいはかと わきかへり おもふこころは おほかれと ゆくかたもなく せかれつつ そこのみくつと なることは もにすむむしの われからと おもひしらすは なけれとも いはてはえこそ なきさなる かたわれふねの うつもれて ひくひともなき なけきすと なみのたちゐに あふけとも むなしきそらは みとりにて いふこともなき かなしさに ねをのみなけは からころも おさふるそても くちはてぬ なにことにかは あはれとも おもはむひとに あふみなる うちいてのはまの うちいてつつ いふともたれか ささかにの いかさまにても かきつかむ ことをはのきに ふくかせの はけしきころと しりなから うはのそらにも をしふへき あつさのそまに みやきひき みかきかはらに せりつみし むかしをよそに ききしかと わかみのうへに なりはてぬ さかすにみよの はしめより くものうへには かよへとも なにはのことも ひさかたの つきのかつらし をられねは うけらかはなの さきなから ひらけぬことの いふせさに よものやまへに あくかれて このもかのもに たちましり うつふしそめの あさころも はなのたもとに ぬきかへて のちのよをたにと おもへとも おもふひとひと ほたしにて ゆくへきかたも まとはれぬ かかるうきみの つれもなく へにけるとしを かそふれは いつつのとをに なりにけり いまゆくすゑは いなつまの ひかりのまにも さためなし たとへはひとり なからへて すきにしはかり すくすとも ゆめにゆめみる ここちして ひまゆくこまに ことならし さらにもいはし ふゆかれの をはなかすゑの つゆなれは あらしをたにも またすして もとのしつくと なりはてむ ほとをはいつと しりてかは くれにとたにも しつむへき かくのみつねに あらそひて なほふるさとに すみのえの しほにたたよふ うつせかひ うつしこころも うせはてて あるにもあらぬ よのなかに またなにことを みくまのの うらのはまゆふ かさねつつ うきにたへたる ためしには なるをのまつの つれつれと いたつらことを かきつめて あはれしれらむ ゆくすゑの ひとのためには おのつから しのはれぬへき みなれとも はかなきことも くもとりの あやにかなはぬ くせなれは これもさこそは みなしくり くちはかしたに うつもれめ それにつけても つのくにの いくたのもりの いくたひか あまのたくなは くりかへし こころにそはぬ みをうらむらむ | 源俊頼 | 雑下 |
7-千載 | 1161 | よのなかはうき身にそへるかけなれやおもひすつれとはなれさりけり よのなかは うきみにそへる かけなれや おもひすつれと はなれさりけり | 源俊頼 | 雑下 |
7-千載 | 1162 | しきしまや大和のうたのつたはりをきけははるかに久かたのあまつ神世にはしまりてみそもしあまりひともしはいつもの宮のや雲よりおこりけるとそしるすなるそれより後はもも草のことのはしけくちりちりに風につけつつきこゆれとちかきためしにほりかはのなかれをくみてささ浪のよりくる人にあつらへてつたなきことははまちとりあとをすゑまてととめしとおもひなからもつのくにのなにはのうらのなにとなくふねのさすかに此ことをしのひならひしなこりにてよの人ききははつかしのもりもやせんとおもへともこころにもあらすかきつらねつる しきしまや やまとのうたの つたはりを きけははるかに ひさかたの あまつかみよに はしまりて みそもしあまり ひともしは いつものみやの やくもより おこりけるとそ しるすなる それよりのちは ももくさの ことのはしけく ちりちりに かせにつけつつ きこゆれと ちかきためしに ほりかはの なかれをくみて ささなみの よりくるひとに あつらへて つたなきことは はまちとり あとをすゑまて ととめしと おもひなからも つのくにの なにはのうらの なにとなく ふねのさすかに このことを しのひならひし なこりにて よのひとききは はつかしの もりもやせむと おもへとも こころにもあらす かきつらねつる | 崇徳院 | 雑下 |
7-千載 | 1163 | ときしらぬ谷のむもれ木くちはててむかしの春の恋しさになにのあやめもわかすのみかはらぬ月のかけみてもしくれにぬるる袖のうらにしほたれまさるあまころもあはれをかけてとふ人もなみにたたよふつり舟のこきはなれにし世なれとも君に心をかけしよりしけきうれへもわすれくさわすれかほにてすみのえの松のちとせのはるはるとこすゑはるかにさかゆへきときはのかけをたのむにもなくさのはまのなくさみてふるのやしろのそのかみに色ふかからてわすれにしもみちのしたはのこるやとおいその杜にたつぬれといまはあらしにたくひつつしもかれかれにおとろへてかきあつめたる水くきにあさき心のかくれなくなかれての名ををし鳥のうきためしにやならんとすらん ときしらぬ たにのうもれき くちはてて むかしのはるの こひしさに なにのあやめも わかすのみ かはらぬつきの かけみても しくれにぬるる そてのうらに しほたれまさる あまころも あはれをかけて とふひとも なみにたたよふ つりふねの こきはなれにし よなれとも きみにこころを かけしより しけきうれへも わすれくさ わすれかほにて すみのえの まつのちとせの はるはると こすゑはるかに さかゆへき ときはのかけを たのむにも なくさのはまの なくさみて ふるのやしろの そのかみに いろふかからて わすれにし もみちのしたは のこるやと おいそのもりに たつぬれと いまはあらしに たくひつつ しもかれかれに おとろへて かきあつめたる みつくきに あさきこころの かくれなく なかれてのなを をしとりの うきためしにや ならむとすらむ | 待賢門院堀河 | 雑下 |
7-千載 | 1164 | あつまちのやへの霞をわけきてもきみにあはねはなほへたてたる心ちこそすれ あつまちの やへのかすみを わけきても きみにあはねは なほへたてたる ここちこそすれ | 源仲正 | 雑下 |
7-千載 | 1165 | かきたえしままのつきはしふみみれはへたてたるかすみもはれてむかへるかこと かきたえし ままのつきはし ふみみれは へたてたる かすみもはれて むかへるかこと | 源俊頼 | 雑下 |
7-千載 | 1166 | あつまちののしまかさきのはまかせに我かひもゆひしいもかかほのみおもかけにみゆ あつまちの のしまかさきの はまかせに わかひもゆひし いもかかほのみ おもかけにみゆ | 藤原顕輔 | 雑下 |
7-千載 | 1167 | こまなめていさみにゆかんたつた川しら浪よするきしのあたりを こまなへて いさみにゆかむ たつたかは しらなみよする きしのあたりを | 源雅重 | 雑下 |
7-千載 | 1168 | なにとなく物そかなしきあきかせのみにしむよはのたひのねさめは なにとなく ものそかなしき あきかせの みにしむよはの たひのねさめは | 仁上法師 | 雑下 |
7-千載 | 1169 | 夜のほとにかりそめ人やきたりけんよとのみこものけさみたれたる よのほとに かりそめひとや きたりけむ よとのみこもの けさみたれたる | いつみしきふ | 雑下 |
7-千載 | 1170 | あとたえてとふへき人もおもほえすたれかはけさの雪をわけこん あとたえて とふへきひとも おもほえす たれかはけさの ゆきをわけこむ | 藤原定頼 | 雑下 |
7-千載 | 1171 | さかきははもみちもせしを神かきのからくれなゐにみえわたるかな さかきはは もみちもせしを かみかきの からくれなゐに みえわたるかな | 大弐三位 | 雑下 |
7-千載 | 1172 | いけもふりつつみくつれて水もなしむへかつまたに鳥のゐさらん いけもふり つつみくつれて みつもなし うへかつまたに とりもゐさらむ | 二条太皇大后宮肥後 | 雑下 |
7-千載 | 1173 | わかこまをしはしとかるかやましろのこはたのさとにありとこたへよ わかこまを しはしとかるか やましろの こはたのさとに ありとこたへよ | 源俊頼 | 雑下 |
7-千載 | 1174 | みくら山ま木のやたててすむたみはとしをつむともくちしとそ思ふ みくらやま まきのやたてて すむたみは としをつむとも くちしとそおもふ | 源俊頼 | 雑下 |
7-千載 | 1175 | よとともに心をかけてたのめともわれからかみのかたきしるしか よとともに こころをかけて たのめとも われからかみの かたきしるしか | 源俊頼 | 雑下 |
7-千載 | 1176 | 秋ののにたれをさそはむ行きかへりひとりははきをみるかひもなし あきののに たれをさそはむ ゆきかへり ひとりははきを みるかひもなし | 難波頼輔母 | 雑下 |
7-千載 | 1177 | あきは霧きりすきぬれは雪ふりてはるるまもなきみ山へのさと あきはきり きりすきぬれは ゆきふりて はるるまもなき みやまへのさと | 待賢門院堀川 | 雑下 |
7-千載 | 1178 | いなり山しるしのすきの年ふりてみつのみやしろ神さひにけり いなりやま しるしのすきの としふりて みつのみやしろ かみさひにけり | 僧都有慶 | 雑下 |
7-千載 | 1179 | 名にしおははつねはゆるきのもりにしもいかてかさきのいはやすくぬる なにしおはは つねはゆるきの もりにしも いかてかさきの いはやすくぬる | 登蓮法師 | 雑下 |
7-千載 | 1180 | あやしくも花のあたりにふせるかなをらはとかむる人やあるとて あやしくも はなのあたりに ふせるかな をらはとかめむ ひとやあるとて | 道命法師 | 雑下 |
7-千載 | 1181 | うの花よいてことことしかけしまの浪もさこそはいはをこえしか うのはなよ いてことことし かけしまの なみもさこそは いはをこえしか | 源俊頼 | 雑下 |
7-千載 | 1182 | けふかくるたもとにねさせあやめ草うきはわか身にありとしらすや けふかくる たもとにねさせ あやめくさ うきはわかみに ありとしらすや | 道因法師 | 雑下 |
7-千載 | 1183 | ともししてはこねの山にあけにけりふたよりみよりあふとせしまに ともしして はこねのやまに あけにけり ふたよりみより あふとせしまに | 橘俊綱 | 雑下 |
7-千載 | 1184 | 夏のうちははたかくれてもあらすしておりたちにけるむしのこゑかな なつのうちは はたかくれても あらすして おりたちにける むしのこゑかな | 江侍従 | 雑下 |
7-千載 | 1185 | あきくれは秋のけしきもみえけるは時ならぬ身となににいふらん あきくれは あきのけしきも みえけるは ときならぬみと なににいふらむ | 輔仁のみこ | 雑下 |
7-千載 | 1186 | あさ露を日たけてみれはあともなしはきのうらはに物やとはまし あさつゆを ひたけてみれは あともなし はきのうらはに ものやとはまし | 藤原為頼 | 雑下 |
7-千載 | 1187 | つはなおひしをののしはふのあさ露をぬきちらしける玉かとそみる つはなおひし をののしはふの あさつゆを ぬきちらしける たまかとそみる | 源有仁家小大進 | 雑下 |
7-千載 | 1188 | おちにきとかたらはかたれをみなへしこよひは花のかけにやとらん おちにきと かたらはかたれ をみなへし こよひははなの かけにやとらむ | 僧都範玄 | 雑下 |
7-千載 | 1189 | くれの秋ことにさやけき月かけはとよにあまりてみよとなりけり くれのあき ことにさやけき つきかけは とよにあまりて みよとなりけり | 賀茂政平 | 雑下 |
7-千載 | 1190 | いたひさしさすやかややの時雨こそおとしおとせぬかたはわくなれ いたひさし さすやかややの しくれこそ おとしおとせぬ かたはわくなれ | 顕昭法師 | 雑下 |
7-千載 | 1191 | ふえ竹のあなあさましのよの中やありしやふしのかきりなるらん ふえたけの あなあさましの よのなかや ありしやふしの かきりなるらむ | 藤原基俊 | 雑下 |
7-千載 | 1192 | したひくる恋のやつこのたひにても身のくせなれやゆふととろきは したひくる こひのやつこの たひにても みのくせなれや ゆふととろきは | 源俊頼 | 雑下 |
7-千載 | 1193 | あふことのなけきのつもるくるしさをおへかし人のこりはつるまて あふことの なけきのつもる くるしさを おへかしひとの こりはつるまて | 待賢門院堀河 | 雑下 |
7-千載 | 1194 | 人のあしをつむにてしりぬわかかたへふみおこせよとおもふなるへし ひとのあしを つむにてしりぬ わかかたへ ふみおこせよと おもふなるへし | 良喜法師 | 雑下 |
7-千載 | 1195 | おそろしやきそのかけちのまろ木はしふみみるたひにおちぬへきかな おそろしや きそのかけちの まろきはし ふみみるたひに おちぬへきかな | 空人法師 | 雑下 |
7-千載 | 1196 | ふえ竹のこちくとなににおもひけんとなりにおとはせしにそ有りける ふえたけの こちくとなにに おもひけむ となりにおとは せしにそありける | 心覚法師 | 雑下 |
7-千載 | 1197 | やつはしのわたりにけふもとまるかなここにすむへきみかはとおもへと やつはしの わたりにけふも とまるかな ここにすむへき みかはとおもへと | 道因法師 | 雑下 |
7-千載 | 1198 | つらしとてさてはよもわれ山からすかしらはしろくなる世なりとも つらしとて さてはよもわれ やまからす かしらはしろく なるよなりとも | 安性法師(俗名時元) | 雑下 |
7-千載 | 1199 | かみにおけるもしはまことのもしなれはうたもよみちをたすけさらめや かみにおける もしはまことの もしなれは うたもよみちを たすけさらめや | 源俊頼 | 雑下 |
7-千載 | 1200 | けふも又むまのかひこそふきつなれひつしのあゆみちかつきぬらん けふもまた うまのかひこそ ふきつなれ ひつしのあゆみ ちかつきぬらむ | 赤染衛門 | 雑下 |
7-千載 | 1201 | こくらくははるけきほととききしかとつとめていたるところなりけり こくらくは はるけきほとと ききしかと つとめていたる ところなりけり | 空也上人 | 雑下 |
7-千載 | 1202 | ここにきえかしこにむすふ水のあわのうきよにめくる身にこそ有りけれ ここにきえ かしこにむすふ みつのあわの うきよにめくる みにこそありけれ | 藤原公任 | 釈教 |
7-千載 | 1203 | さためなき身はうき雲によそへつつはてはそれにそなりはてぬへき さためなき みはうきくもに よそへつつ はてはそれにそ なりはてぬへき | 藤原公任 | 釈教 |
7-千載 | 1204 | 世の中はみなほとけなりおしなへていつれのものとわくそはかなき よのなかは みなほとけなり おしなへて いつれのものと わくそはかなき | 花山院 | 釈教 |
7-千載 | 1205 | おほそらの雨はわきてもそそかねとうるふ草木はおのかしなしな おほそらの あめはわきても そそかねと うるふくさきは おのかしなしな | 僧都源信 | 釈教 |
7-千載 | 1206 | もとめてもかかるはちすの露をおきてうきよに又はかへるものかは もとめても かかるはちすの つゆをおきて うきよにまたは かへるものかは | 清少納言 | 釈教 |
7-千載 | 1207 | 月かけのつねにすむなる山のはをへたつる雲のなからましかは つきかけの つねにすむなる やまのはを へたつるくもの なからましかは | 藤原国房 | 釈教 |
7-千載 | 1208 | いる月をみるとや人はおもふらん心をかけてにしにむかへは いるつきを みるとやひとは おもふらむ こころをかけて にしにむかへは | 堀川藤原実房 | 釈教 |
7-千載 | 1209 | たききつき煙もすみてさりにけんこれやなこりとみるそかなしき たききつき けふりもすみて さりにけむ これやなこりと みるそかなしき | 瞻西上人 | 釈教 |
7-千載 | 1210 | 夢さめんその暁をまつほとのやみをもてらせのりのともし火 ゆめさめむ そのあかつきを まつほとの やみをもてらせ のりのともしひ | 藤原敦家 | 釈教 |
7-千載 | 1211 | よをてらすほとけのしるしありけれはまたともし火もきえぬなりけり よをてらす ほとけのしるし ありけれは またともしひも きえぬなりけり | 前大僧正覚忠 | 釈教 |
7-千載 | 1212 | みるままに涙そおつるかきりなき命にかはるすかたとおもへは みるままに なみたそおつる かきりなき いのちにかはる すかたとおもへは | 前大僧正覚忠 | 釈教 |
7-千載 | 1213 | ちとせまてむすひし水も露はかりわか身のためとおもひやはせし ちとせまて むすひしみつも つゆはかり わかみのためと おもひやはせし | 僧都覚雅 | 釈教 |
7-千載 | 1214 | うれしくそ名をたもつたにあたならぬみのりの花にみをむすひける うれしくそ なをたもつたに あたならぬ みのりのはなに みをむすひける | 前大僧正快修 | 釈教 |
7-千載 | 1215 | わひ人の心のうちをよそなからしるやさとりのひかりなるらん わひひとの こころのうちを よそなから しるやさとりの ひかりなるらむ | 源俊頼 | 釈教 |
7-千載 | 1216 | ちかひをはちひろのうみにたとふなり露もたのまはかすにいりなん ちかひをは ちひろのうみに たとふなり つゆもたのまは かすにいりなむ | 崇徳院 | 釈教 |
7-千載 | 1217 | はかなくそみよのほとけとおもひけるわかみひとつにありとしらすて はかなくそ みよのほとけと おもひける わかみひとつに ありとしらすて | 藤原教長 | 釈教 |
7-千載 | 1218 | てる月の心の水にすみぬれはやかてこの身にひかりをそさす てるつきの こころのみつに すみぬれは やかてこのみに ひかりをそさす | 藤原教長 | 釈教 |
7-千載 | 1219 | かへりてもいりそわつらふまきのとをまとひいてにし心ならひに かへりても いりそわつらふ まきのとを まとひいてにし こころならひに | 前大僧正覚忠 | 釈教 |
7-千載 | 1220 | ふる雪はたにのとほそをうつむともみよのほとけのひやてらすらん ふるゆきは たにのとほそを うつむとも みよのほとけの ひやてらすらむ | 崇徳院 | 釈教 |
7-千載 | 1221 | てらすなるみよのほとけのあさひにはふる雪よりもつみやきゆらん てらすなる みよのほとけの あさひには ふるゆきよりも つみやきゆらむ | 覚性入道親王 | 釈教 |
7-千載 | 1222 | ふるさとをひとりわかるるゆふへにもおくるは月のかけとこそきけ ふるさとを ひとりわかるる ゆふへにも おくるはつきの かけとこそきけ | 式子内親王 | 釈教 |
7-千載 | 1223 | 人ことにかはるはゆめのまとひにてさむれはおなしこころなりけり ひとことに かはるはゆめの まとひにて さむれはおなし こころなりけり | 九条兼実 | 釈教 |
7-千載 | 1224 | すめはみゆにこれはかくるさためなきこのみや水にやとる月かけ すめはみゆ にこれはかくる さためなき このみやみつに やとるつきかけ | 藤原永範 | 釈教 |
7-千載 | 1225 | いととしくむかしのあとやたえなんとおもふもかなしけさのしら雪 いととしく むかしのあとや たえなむと おみふもかなし けさのしらゆき | 慈円 | 釈教 |
7-千載 | 1226 | 君か名そなほあらはれんふる雪にむかしのあとはうつもれぬとも きみかなそ なほあらはれむ ふるゆきに むかしのあとは うつもれぬとも | 尊円法師 | 釈教 |
7-千載 | 1227 | ひとりのみくるしきうみをわたるとやそこをさとらぬ人はみるらん ひとりのみ くるしきうみを わたるとや そこをさとらぬ ひとはみるらむ | 九条良経 | 釈教 |
7-千載 | 1228 | くれ竹のむなしととけることのははみよの仏のははとこそきけ くれたけの むなしととける ことのはは みよのほとけの ははとこそきけ | 藤原隆信 | 釈教 |
7-千載 | 1229 | むなしきも色なるものとさとれとやはるのみそらのみとりなるらん むなしきも いろなるものと さとれとや はるのみそらの みとりなるらむ | 摂政家丹後 | 釈教 |
7-千載 | 1230 | なかき夜もむなしき物としりぬれははやくあけぬる心ちこそすれ なかきよも むなしきものと しりぬれは はやくあけぬる ここちこそすれ | 源師仲 | 釈教 |
7-千載 | 1231 | わしの山月をいりぬとみる人はくらきにまよふ心なりけり わしのやま つきをいりぬと みるひとは くらきにまよふ こころなりけり | 西行法師 | 釈教 |
7-千載 | 1232 | いさきよきいけにかけこそうかひぬれしつみやせんとおもふわかみを いさきよき いけにかけこそ うかひぬれ しつみやせむと おもふわかみを | 源顕仲 | 釈教 |
7-千載 | 1233 | くちはつる袖にはいかかつつまましむなしととけるみのりならすは くちはつる そてにはいかか つつままし むなしととける みのりならすは | 寂超法師 | 釈教 |
7-千載 | 1234 | みるほとはゆめも夢ともしられねはうつつもいまはうつつとおもはし みるほとは ゆめもゆめとも しられねは うつつもいまは うつつとおもはし | 藤原資隆 | 釈教 |
7-千載 | 1235 | おとろかぬわか心こそうかりけれはかなき世をは夢とみなから おとろかぬ わかこころこそ うかりけれ はかなきよをは ゆめとみなから | 登蓮法師 | 釈教 |
7-千載 | 1236 | 暁をたかのの山にまつほとやこけのしたにもあり明の月 あかつきを たかののやまに まつほとや こけのしたにも ありあけのつき | 寂蓮法師 | 釈教 |
7-千載 | 1237 | おもひとくこころひとつになりぬれはこほりも水もへたてさりけり おもひとく こころひとつに なりぬれは こほりもみつも へたてさりけり | 式子内親王家中将 | 釈教 |
7-千載 | 1238 | たのもしきちかひは春にあらねともかれにしえたも花そさきける たのもしき ちかひははるに あらねとも かれにしえたも はなそさきける | 平時忠 | 釈教 |
7-千載 | 1239 | 春ことになけきしものをのりのにはちるかうれしき花もありけり はることに なけきしものを のりのには ちるかうれしき はなもありけり | 藤原伊綱 | 釈教 |
7-千載 | 1240 | みくさのみしけきにこりとみしかともさても月すむえにこそ有りけれ みくさのみ しけきにこりと みしかとも さてもつきすむ えにこそありけれ | 藤原季能 | 釈教 |
7-千載 | 1241 | むさしののほりかねの井もあるものをうれしく水のちかつきにける むさしのの ほりかねのゐも あるものを うれしくみつの ちかつきにける | 藤原俊成 | 釈教 |
7-千載 | 1242 | たに水をむすへはうつるかけのみやちとせをおくる友となりけん たにみつを むすへはうつる かけのみや ちとせをおくる ともとなりけむ | 顕昭法師 | 釈教 |
7-千載 | 1243 | くちはててあやふくみえしをはたたのいたたのはしもいまわたすなり くちはてて あやふくみえし をはたたの いたたのはしも いまわたすなり | 法橋泰覚 | 釈教 |
7-千載 | 1244 | うらみけるけしきやそらにみえつらんをはすて山をてらす月かけ うらみける けしきやそらに みえつらむ をはすてやまを てらすつきかけ | 藤原敦仲 | 釈教 |
7-千載 | 1245 | 日のひかり月のかけとそてらしけるくらき心のやみはれよとて ひのひかり つきのかけとそ てらしける くらきこころの やみはれよとて | 蓮上法師(俗名成実) | 釈教 |
7-千載 | 1246 | さらにまた花そふりしくわしの山のりのむしろのくれかたのそら さらにまた はなそふりしく わしのやま のりのむしろの くれかたのそら | 藤原俊成 | 釈教 |
7-千載 | 1247 | まちいてていかにうれしくおもほえんはつかあまりの山のはの月 まちいてて いかにうれしく おもほえむ はつかあまりの やまのはのつき | 中原有安 | 釈教 |
7-千載 | 1248 | あさまたきみのりのにはにふる雪はそらより花のちるかとそみる あさまたき みのりのにはに ふるゆきは そらよりはなの ちるかとそみる | 中原清重 | 釈教 |
7-千載 | 1249 | もち月の雲かくれけんいにしへのあはれをけふのそらにしるかな もちつきの くもかくれけむ いにしへの あはれをけふの そらにしるかな | 恵章法師 | 釈教 |
7-千載 | 1250 | きよくすむ心のそこをかかみにてやかてそうつる色もすかたも きよくすむ こころのそこを かかみにて やかてそうつる いろもすかたも | 俊秀法師 | 釈教 |
7-千載 | 1251 | けふりたにしはしたなひけ鳥へ山たちわかれにしかたみともみん けふりたに しはしたなひけ とりへやま たちわかれにし かたみともみむ | 寂然法師 | 釈教 |
7-千載 | 1252 | とりのねも浪のおとにそかよふなるおなし御のりをとけはなりけり とりのねも なみのおとにそ かよふなる おなしみのりを きけはなりけり | 平康頼 | 釈教 |
7-千載 | 1253 | よをすくふあとはむかしにかはらねとはしめたてけん時をしそ思ふ よをすくふ あとはむかしに かはらねと はしめたてけむ ときをしそおもふ | 藤原定長 | 釈教 |
7-千載 | 1254 | つねならぬためしは夜はのけふりにてきえぬなこりをみるそうれしき つねならぬ ためしはよはの けふりにて きえぬなこりを みるそうれしき | 天台座主明雲 | 釈教 |
7-千載 | 1255 | みな人をわたさむとおもふ心こそ極楽へゆくしるへなりけれ みなひとを わたさむとおもふ こころこそ こくらくへゆく しるへなりけれ | 律師永観 | 釈教 |
7-千載 | 1256 | みかさ山さしてきにけりいそのかみふるきみゆきのあとをたつねて みかさやま さしてきにけり いそのかみ ふるきみゆきの あとをたつねて | 上東門院 | 神祇 |
7-千載 | 1257 | すみよしのなみも心をよせけれはむへそみきはにたちまさりける すみよしの なみもこころを よせけれは うへそみきはに たちまさりける | 大納言経輔 | 神祇 |
7-千載 | 1258 | おもふことくみてかなふる神なれはしほやにあとをたるるなりけり おもふこと くみてかなふる かみなれは しほやにあとを たるるなりけり | 後三条内大臣 | 神祇 |
7-千載 | 1259 | みちのへのちりに光をやはらけて神もほとけのなのるなりけり みちのへの ちりにひかりを やはらけて かみもほとけの なのるなりけり | 崇徳院 | 神祇 |
7-千載 | 1260 | あめのしたのとけかれとやさかきはをみかさの山にさしはしめけん あめのした のとけかれとや さかきはを みかさのやまに さしはしめけむ | 藤原清輔 | 神祇 |
7-千載 | 1261 | 神世よりつもりのうらにみやゐしてへぬらんとしのかきりしらすも かみよより つもりのうらに みやゐして へぬらむとしの かきりしらすも | 藤原隆季 | 神祇 |
7-千載 | 1262 | かそふれはやとせへにけりあはれわかしつみしことはきのふと思ふに かそふれは やとせへにけり あはれわか しつみしことは きのふとおもふに | 右おほいまうちきみ | 神祇 |
7-千載 | 1263 | いたつらにふりぬる身をもすみよしの松はさりともあはれしるらん いたつらに ふりぬるみをも すみよしの まつはさりとも あはれしるらむ | 藤原俊成 | 神祇 |
7-千載 | 1264 | ふりにける松ものいははとひてましむかしもかくやすみのえの月 ふりにける まつものいはは とひてまし むかしもかくや すみのえのつき | 右大臣 | 神祇 |
7-千載 | 1265 | すみよしのまつのゆきあひのひまよりも月さえぬれは霜はおきけり すみよしの まつのゆきあひの ひまよりも つきさえぬれは しもはおきけり | 俊恵法師 | 神祇 |
7-千載 | 1266 | おしなへて雪のしらゆふかけてけりいつれさか木のこすゑなるらん おしなへて ゆきのしらゆふ かけてけり いつれさかきの こすゑなるらむ | 滋野井実国 | 神祇 |
7-千載 | 1267 | めつらしくみゆきをみわの神ならはしるしありまのいてゆなるへし めつらしく みゆきをみわの かみならは しるしありまの いてゆなるへし | 按察使資賢 | 神祇 |
7-千載 | 1268 | うれしくも神のちかひをしるへにて心をおこす門にいりぬる うれしくも かみのちかひを しるへにて こころをおこす かとにいりぬる | 源経房 | 神祇 |
7-千載 | 1269 | すきかえをかすみこむれとみわの山神のしるしはかくれさりけり すきかえを かすみこむれと みわのやま かみのしるしは かくれさりけり | 僧都範玄 | 神祇 |
7-千載 | 1270 | いままてになとしつむらんきふねかはかはかりはやき神をたのむを いままてに なとしつむらむ きふねかは かはかりはやき かみをたのむを | 平実重 | 神祇 |
7-千載 | 1271 | さりともとたのみそかくるゆふたすきわかかたをかの神と思へは さりともと たのみそかくる ゆふたすき わかかたをかの かみとおもへは | 賀茂政平 | 神祇 |
7-千載 | 1272 | さりともとたのむ心は神さひてひさしくなりぬかものみつかき さりともと たのむこころは かみさひて ひさしくなりぬ かものみつかき | 式子内親王 | 神祇 |
7-千載 | 1273 | 君をいのるねかひをそらにみてたまへわけいかつちの神ならはかみ きみをいのる ねかひをそらに みてたまへ わけいかつちの かみならはかみ | 賀茂重保 | 神祇 |
7-千載 | 1274 | きふね川たまちるせせのいは浪に氷をくたく秋のよの月 きふねかは たまちるせせの いはなみに こほりをくたく あきのよのつき | 藤原俊成 | 神祇 |
7-千載 | 1275 | わかたのむ日よしのかけはおく山のしはの戸まてもさささらめやは わかたのむ ひよしのかけは おくやまの しはのとまても さささらめやは | 慈円 | 神祇 |
7-千載 | 1276 | いつとなくわしのたかねにすむ月のひかりをやとすしかのからさき いつとなく わしのたかねに すむつきの ひかりをやとす しかのからさき | 法橋性憲 | 神祇 |
7-千載 | 1277 | みゆきするたかねのかたに雲はれてそらにひよしのしるしをそみる みゆきする たかねのかたに くもはれて そらにひよしの しるしをそみる | 中原師尚 | 神祇 |
7-千載 | 1278 | ふかくいりて神ちのおくをたつぬれは又うへもなきみねの松かせ ふかくいりて かみちのおくを たつぬれは またうへもなき みねのまつかせ | 西行法師 | 神祇 |
7-千載 | 1279 | 月よみの神してらさはあた雲のかかるうきよもはれさらめやは つきよみの かみしてらさは あたくもの かかるうきよも はれさらめやは | 大中臣為定 | 神祇 |
7-千載 | 1280 | いはし水きよきなかれのたえせねはやとる月さへくまなかりけり いはしみつ きよきなかれの たえせねは やとるつきさへ くまなかりけり | 能蓮法師 | 神祇 |
7-千載 | 1281 | ときはなる神なひ山のさかきはをさしてそいのるよろつよのため ときはなる かみなひやまの さかきはを さしてそいのる よろつよのため | 藤原義忠 | 神祇 |
7-千載 | 1282 | うこきなく千代をそいのるいはや山とるさか木はの色かへすして うこきなく ちよをそいのる いはややま とるさかきはの いろかへすして | 藤原経衡 | 神祇 |
7-千載 | 1283 | いにしへの神の御代よりもろかみのいのるいはひはきみかよのため いにしへの かみのみよより もろかみの いのるいはひは きみかよのため | 大江匡房 | 神祇 |
7-千載 | 1284 | 神うくるとよのあかりにゆふそののひかけかつらそはへまさりける かみうくる とよのあかりに ゆふそのの ひかけかつらそ はへまさりける | 藤原永範 | 神祇 |
7-千載 | 1285 | すへらきをやほよろつよの神もみなときはにまもる山の名そこれ すめらきを やほよろつよの かみもみな ときはにまもる やまのなそこれ | 藤原永範 | 神祇 |
7-千載 | 1286 | みしめゆふかたにとりかけ神なひの山のさかきをかさしにそする みしまゆふ かたにとりかけ かみなひの やまのさかきを かさしにそする | 藤原兼光 | 神祇 |
7-千載 | 1287 | もろ神の心にいまそかなふらし君をやちよといのるよことは もろかみの こころにいまそ かなふらし きみをやちよと いのるよことは | 藤原季経 | 神祇 |
7-千載 | 1288 | 千とせ山神のよませるさかきはのさかえまさるはきみかためとか ちとせやま かみのよませる さかきはの さかえまさるは きみかためとか | 藤原光範 | 神祇 |
7-千載 | 1289 | 暁になりやしぬらん月影のきよきかはらにちとりなくなり あかつきに なりやしぬらむ つきかけの きよきかはらに ちとりなくなり | 右大臣 | 異本歌 |
7-千載 | 1290 | 君すめはここも雲ゐの月なれとなほ恋しきは宮こなりけり きみすめは ここもくもゐの つきなれと なほこひしきは みやこなりけり | 左馬頭行盛 | 異本歌 |
8-新古 | 1 | みよしのは山もかすみてしらゆきのふりにしさとに春はきにけり みよしのは やまもかすみて しらゆきの ふりにしさとに はるはきにけり | 九条良経 | 春上 |
8-新古 | 2 | ほのほのとはるこそそらにきにけらしあまのかく山かすみたなひく ほのほのと はるこそそらに きにけらし あまのかくやま かすみたなひく | 太上天皇 | 春上 |
8-新古 | 3 | 山ふかみ春ともしらぬ松のとにたえたえかかる雪のたまみつ やまふかみ はるともしらぬ まつのとに たえたえかかる ゆきのたまみつ | 式子内親王 | 春上 |
8-新古 | 4 | かきくらしなをふるさとのゆきのうちにあとこそ見えね春はきにけり かきくらし なほふるさとの ゆきのうちに あとこそみえね はるはきにけり | 宮内卿 | 春上 |
8-新古 | 5 | けふといへはもろこしまてもゆく春をみやこにのみとおもひけるかな けふといへは もろこしまても ゆくはるを みやこにのみと おもひけるかな | 藤原俊成 | 春上 |
8-新古 | 6 | 春といへはかすみにけりなきのふまてなみまに見えしあはちしま山 はるといへは かすみにけりな きのふまて なみまにみえし あはちしまやま | 俊恵法師 | 春上 |
8-新古 | 7 | いはまとちしこほりもけさはとけそめてこけのしたみつみちもとむらん いはまとちし こほりもけさは とけそめて こけのしたみつ みちもとむらむ | 西行法師 | 春上 |
8-新古 | 8 | 風ませに雪はふりつつしかすかに霞たなひき春はきにけり かせませに ゆきはふりつつ しかすかに かすみたなひき はるはきにけり | 読人知らず | 春上 |
8-新古 | 9 | ときはいま春になりぬとみゆきふるとをき山へにかすみたなひく ときはいま はるになりぬと みゆきふる とほきやまへに かすみたなひく | 読人知らず | 春上 |
8-新古 | 10 | かすかののしたもえわたるくさのうへにつれなくみゆる春のあは雪 かすかのの したもえわたる くさのうへに つれなくみゆる はるのあはゆき | 源国信 | 春上 |
8-新古 | 11 | あすからはわかなつまむとしめしのにきのふもけふも雪はふりつつ あすからは わかなつまむと しめしのに きのふもけふも ゆきはふりつつ | 山辺赤人 | 春上 |
8-新古 | 12 | かすかののくさはみとりになりにけりわかなつまむとたれかしめけん かすかのの くさはみとりに なりにけり わかなつまむと たれかしめけむ | 壬生忠見 | 春上 |
8-新古 | 13 | わかなつむそてとそ見ゆるかすかののとふひののへの雪のむらきえ わかなつむ そてとそみゆる かすかのの とふひののへの ゆきのむらきえ | 藤原教長 | 春上 |
8-新古 | 14 | ゆきて見ぬ人もしのへとはるの野のかたみにつめるわかななりけり ゆきてみぬ ひともしのへと はるののの かたみにつめる わかななりけり | 紀貫之 | 春上 |
8-新古 | 15 | さはにおふるわかなならねといたつらにとしをつむにもそてはぬれけり さはにおふる わかなならねと いたつらに としをつむにも そてはぬれけり | 藤原俊成 | 春上 |
8-新古 | 16 | ささなみやしかのはままつふりにけりたかよにひけるねの日なるらん ささなみや しかのはままつ ふりにけり たかよにひける ねのひなるらむ | 読人知らず | 春上 |
8-新古 | 17 | たにかはのうちいつるなみもこゑたてつ鴬さそへはるの山かせ たにかはの うちいつるなみも こゑたてつ うくひすさそへ はるのやまかせ | 藤原家隆 | 春上 |
8-新古 | 18 | 鴬のなけともいまたふるゆきにすきの葉しろきあふさかの山 うくひすの なけともいまた ふるゆきに すきのはしろき あふさかのやま | 太上天皇 | 春上 |
8-新古 | 19 | 春きては花とも見よとかたをかの松のうは葉にあは雪そふる はるきては はなともみよと かたをかの まつのうははに あはゆきそふる | 藤原仲実 | 春上 |
8-新古 | 20 | まきもくのひはらのいまたくもらねはこまつかはらにあは雪そふる まきもくの ひはらのいまた くもらねは こまつかはらに あはゆきそふる | 大伴家持 | 春上 |
8-新古 | 21 | いまさらにゆきふらめやもかけろふのもゆるはるひとなりにしものを いまさらに ゆきふらめやも かけろふの もゆるはるひと なりにしものを | 読人知らず | 春上 |
8-新古 | 22 | いつれをか花とはわかむふるさとのかすかのはらにまたきえぬ雪 いつれをか はなともわかむ ふるさとの かすかのはらに またきえぬゆき | 凡河内躬恒 | 春上 |
8-新古 | 23 | そらはなをかすみもやらす風さえて雪けにくもる春のよの月 そらはなほ かすみもやらす かせさえて ゆきけにくもる はるのよのつき | 九条良経 | 春上 |
8-新古 | 24 | やまふかみなをかけさむし春の月そらかきくもり雪はふりつつ やまふかみ なほかけさむし はるのつき そらかきくもり ゆきはふりつつ | 越前 | 春上 |
8-新古 | 25 | みしまえやしももまたひぬあしの葉につのくむほとの春風そ吹 みしまえや しももまたひぬ あしのはに つのくむほとの はるかせそふく | 久我通光 | 春上 |
8-新古 | 26 | ゆふつくよしほみちくらしなにはえのあしのわか葉にこゆるしらなみ ゆふつくよ しほみちくらし なにはえの あしのわかはに こゆるしらなみ | 藤原秀能 | 春上 |
8-新古 | 27 | ふりつみしたかねのみゆきとけにけりきよたき河の水のしらなみ ふりつみし たかねのみゆき とけにけり きよたきかはの みつのしらなみ | 西行法師 | 春上 |
8-新古 | 28 | むめかえにものうきほとにちるゆきを花ともいはし春のなたてに うめかえに ものうきほとに ちるゆきを はなともいはし はるのなたてに | 源重之 | 春上 |
8-新古 | 29 | あつさゆみはる山ちかくいゑゐしてたえすききつる鴬のこゑ あつさゆみ はるやまちかく いへゐして たえすききつる うくひすのこゑ | 山辺赤人 | 春上 |
8-新古 | 30 | むめかえになきてうつろふうくひすのはねしろたへにあはゆきそふる うめかえに なきてうつろふ うくひすの はねしろたへに あはゆきそふる | 読人知らず | 春上 |
8-新古 | 31 | 鴬のなみたのつららうちとけてふるすなからや春をしるらん うくひすの なみたのつらら うちとけて ふるすなからや はるをしるらむ | 惟明親王 | 春上 |
8-新古 | 32 | いはそそくたるみのうへのさわらひのもえいつる春になりにけるかな いはそそく たるみのうへの さわらひの もえいつるはるに なりにけるかな | 志貴皇子 | 春上 |
8-新古 | 33 | あまのはらふしのけふりの春の色のかすみになひくあけほののそら あまのはら ふしのけふりの はるのいろの かすみになひく あけほののそら | 慈円 | 春上 |
8-新古 | 34 | あさかすみふかく見ゆるやけふりたつむろのやしまのわたりなるらん あさかすみ ふかくみゆるや けふりたつ むろのやしまの わたりなるらむ | 藤原清輔 | 春上 |
8-新古 | 35 | なこのうみのかすみのまよりなかむれはいる日をあらふおきつしらなみ なこのうみの かすみのまより なかむれは いりひをあらふ おきつしらなみ | 徳大寺実定 | 春上 |
8-新古 | 36 | 見わたせは山もとかすむみなせかはゆふへはあきとなにおもひけん みわたせは やまもとかすむ みなせかは ゆふへはあきと なにおもひけむ | 太上天皇 | 春上 |
8-新古 | 37 | かすみたつすゑの松山ほのほのとなみにはなるるよこ雲のそら かすみたつ すゑのまつやま ほのほのと なみにはなるる よこくものそら | 藤原家隆 | 春上 |
8-新古 | 38 | 春のよの夢のうきはしとたえしてみねにわかるるよこ雲のそら はるのよの ゆめのうきはし とたえして みねにわかるる よこくものそら | 藤原定家 | 春上 |
8-新古 | 39 | しるらめやかすみのそらをなかめつつ花もにほはぬ春をなけくと しるらめや かすみのそらを なかめつつ はなもにほはぬ はるをなけくと | 中務 | 春上 |
8-新古 | 40 | おほそらはむめのにほひにかすみつつくもりもはてぬ春のよの月 おほそらは うめのにほひに かすみつつ くもりもはてぬ はるのよのつき | 藤原定家 | 春上 |
8-新古 | 41 | おられけりくれなゐにほふむめのはなけさしろたへに雪はふれれと をられけり くれなゐにほふ うめのはな けさしろたへに ゆきはふりつつ | 藤原頼通 | 春上 |
8-新古 | 42 | あるしをはたれともわかす春はたたかきねのむめをたつねてそみる あるしをは たれともわかす はるはたた かきねのうめを たつねてそみる | 藤原敦家 | 春上 |
8-新古 | 43 | 心あらはとはましものをむめかかにたか袖よりかにほひきつらん こころあらは とはましものを うめかかに たかさとよりか にほひきつらむ | 源俊頼 | 春上 |
8-新古 | 44 | むめの花にほひをうつす袖のうへにのきもる月のかけそあらそふ うめのはな にほひをうつす そてのうへに のきもるつきの かけそあらそふ | 藤原定家 | 春上 |
8-新古 | 45 | むめかかにむかしをとへは春の月こたへぬかけそ袖にうつれる うめかかに むかしをとへは はるのつき こたへぬかけそ そてにうつれる | 藤原家隆 | 春上 |
8-新古 | 46 | むめの花たか袖ふれしにほひそと春やむかしの月にとははや うめのはな たかそてふれし にほひそと はるやむかしの つきにとははや | 堀川通具 | 春上 |
8-新古 | 47 | むめの花あかぬ色香もむかしにておなしかたみの春のよの月 うめのはな あかぬいろかも むかしにて おなしかたみの はるのよのつき | 藤原俊成女 | 春上 |
8-新古 | 48 | 見ぬ人によそへて見つるむめの花ちりなんのちのなくさめそなき みぬひとに よそへてみつる うめのはな ちりなむのちの なくさめそなき | 藤原定頼 | 春上 |
8-新古 | 49 | 春ことに心をしむる花のえにたかなをさりの袖かふれつる はることに こころをしむる はなのえに たかなほさりの そてかふれつる | 大弐三位 | 春上 |
8-新古 | 50 | むめちらす風もこえてやふきつらんかほれる雪のそてにみたるる うめちらす かせもこえてや ふきつらむ かをれるゆきの そてにみたるる | 康資王母 | 春上 |
8-新古 | 51 | とめこかしむめさかりなるわかやとをうときも人はおりにこそよれ とめこかし うめさかりなる わかやとを うときもひとは をりにこそよれ | 西行法師 | 春上 |
8-新古 | 52 | なかめつるけふはむかしになりぬとものきはのむめはわれをわするな なかめつる けふはむかしに なりぬとも のきはのうめは われをわするな | 式子内親王 | 春上 |
8-新古 | 53 | ちりぬれはにほひはかりをむめの花ありとや袖に春風のふく ちりぬれは にほひはかりを うめのはな ありとやそてに はるかせのふく | 藤原有家 | 春上 |
8-新古 | 54 | ひとりのみなかめてちりぬむめの花しるはかりなる人はとひこす ひとりのみ なかめてちりぬ うめのはな しるはかりなる ひとはとひこす | 八条院高倉 | 春上 |
8-新古 | 55 | てりもせすくもりもはてぬはるのよのおほろ月よにしく物そなき てりもせす くもりもはてぬ はるのよの おほろつきよに しくものそなき | 大江千里 | 春上 |
8-新古 | 56 | あさみとり花もひとつにかすみつつおほろに見ゆる春のよの月 あさみとり はなもひとつに かすみつつ おほろにみゆる はるのよのつき | 菅原孝標女 | 春上 |
8-新古 | 57 | なにはかたかすまぬなみもかすみけりうつるもくもるおほろ月よに なにはかた かすまぬなみも かすみけり うつるもくもる おほろつきよに | 源具親 | 春上 |
8-新古 | 58 | いまはとてたのむのかりもうちわひぬおほろ月よのあけほののそら いまはとて たのむのかりも うちわひぬ おほろつきよの あけほののそら | 寂蓮法師 | 春上 |
8-新古 | 59 | きく人そなみたはおつるかへるかりなきてゆくなるあけほののそら きくひとそ なみたはおつる かへるかり なきてゆくなる あけほののそら | 藤原俊成 | 春上 |
8-新古 | 60 | ふるさとにかへるかりかねさよふけて雲ちにまよふ声きこゆなり ふるさとに かへるかりかね さよふけて くもちにまよふ こえきこゆなり | 読人知らず | 春上 |
8-新古 | 61 | わするなよたのむのさはをたつかりもいな葉の風の秋のゆふくれ わするなよ たのむのさはを たつかりも いなはのかせの あきのゆふくれ | 九条良経 | 春上 |
8-新古 | 62 | かへるかりいまはの心ありあけに月と花との名こそおしけれ かへるかり いまはのこころ ありあけに つきとはなとの なこそをしけれ | 読人知らず | 春上 |
8-新古 | 63 | しもまよふそらにしほれしかりかねのかへるつはさに春雨そふる しもまよふ そらにしをれし かりかねの かへるつはさに はるさめそふる | 藤原定家 | 春上 |
8-新古 | 64 | つくつくと春のなかめのさひしきはしのふにつたふのきの玉水 つくつくと はるのなかめの さひしきは しのふにつたふ のきのたまみつ | 行慶 | 春上 |
8-新古 | 65 | 水のおもにあやをりみたる春雨や山のみとりをなへてそむらん みつのおもに あやおりみたる はるさめや やまのみとりを なへてそむらむ | 伊勢 | 春上 |
8-新古 | 66 | ときはなる山のいはねにむすこけのそめぬみとりに春雨そふる ときはなる やまのいはねに むすこけの そめぬみとりに はるさめそふる | 九条良経 | 春上 |
8-新古 | 67 | 雨ふれはを田のますらをいとまあれやなはしろ水をそらにまかせて あめふれは をたのますらを いとまあれや なはしろみつを そらにまかせて | 勝命法師 | 春上 |
8-新古 | 68 | 春さめのふりそめしよりあをやきのいとのみとりそ色まさりける はるさめの ふりそめしより あをやきの いとのみとりそ いろまさりける | 凡河内躬恒 | 春上 |
8-新古 | 69 | うちなひき春はきにけりあをやきのかけふむみちに人のやすらふ うちなひき はるはきにけり あをやきの かけふむみちそ ひとのやすらふ | 藤原高遠 | 春上 |
8-新古 | 70 | みよしののおほかはのへのふるやなきかけこそ見えね春めきにけり みよしのの おほかはのへの ふるやなき かけこそみえね はるめきにけり | 輔仁親王 | 春上 |
8-新古 | 71 | あらしふくきしのやなきのいなむしろおりしくなみにまかせてそみる あらしふく きしのやなきの いなむしろ おりしくなみに まかせてそみる | 崇徳院 | 春上 |
8-新古 | 72 | たかせさすむつたのよとのやなきはらみとりもふかくかすむ春かな たかせさす むつたのよとの やなきはら みとりもふかく かすむはるかな | 西園寺公経 | 春上 |
8-新古 | 73 | 春風のかすみふきとくたえまよりみたれてなひくあをやきのいと はるかせの かすみふきとく たえまより みたれてなひく あをやきのいと | 殷富門院大輔 | 春上 |
8-新古 | 74 | しらくものたえまになひくあをやきのかつらき山に春風そふく しらくもの たえまになひく あをやきの かつらきやまに はるかせそふく | 飛鳥井雅経 | 春上 |
8-新古 | 75 | あをやきのいとにたまぬく白つゆのしらすいくよの春かへぬらん あをやきの いとにたまぬく しらつゆの しらすいくよの はるかへぬらむ | 藤原有家 | 春上 |
8-新古 | 76 | うすくこき野辺のみとりのわかくさにあとまて見ゆる雪のむらきえ うすくこき のへのみとりの わかくさに あとまてみゆる ゆきのむらきえ | 宮内卿 | 春上 |
8-新古 | 77 | あらを田のこそのふるあとのふるよもきいまは春へとひこはへにけり あらをたの こそのふるあとの ふるよもき いまははるへと ひこはえにけり | 曽祢好忠 | 春上 |
8-新古 | 78 | やかすともくさはもえなんかすか野をたた春の日にまかせたらなん やかすとも くさはもえなむ かすかのを たたはるのひに まかせたらなむ | 壬生忠見 | 春上 |
8-新古 | 79 | よしの山さくらかえたにゆきちりて花をそけなるとしにもあるかな よしのやま さくらかえたに ゆきちりて はなおそけなる としにもあるかな | 西行法師 | 春上 |
8-新古 | 80 | 桜花さかはまつ見んとおもふまに日かすへにけり春の山さと さくらはな さかはまつみむと おもふまに ひかすへにけり はるのやまさと | 藤原隆時 | 春上 |
8-新古 | 81 | わかこころ春の山へにあくかれてなかなかし日をけふもくらしつ わかこころ はるのやまへに あくかれて なかなかしひを けふもくらしつ | 紀貫之 | 春上 |
8-新古 | 82 | おもふとちそこともしらすゆきくれぬ花のやとかせ野への鴬 おもふとち そこともしらす ゆきくれぬ はなのやとかせ のへのうくひす | 藤原家隆 | 春上 |
8-新古 | 83 | いまさくらさきぬと見えてうすくもり春にかすめるよのけしきかな いまさくら さきぬとみえて うすくもり はるにかすめる よのけしきかな | 式子内親王 | 春上 |
8-新古 | 84 | ふしておもひおきてなかむる春雨に花のしたひもいかにとくらん ふしておもひ おきてなかむる はるさめに はなのしたひも いかにとくらむ | 読人知らず | 春上 |
8-新古 | 85 | ゆかむ人こん人しのへ春かすみたつたの山のはつさくら花 ゆかむひと こむひとしのへ はるかすみ たつたのやまの はつさくらはな | 大伴家持 | 春上 |
8-新古 | 86 | よしの山こそのしほりのみちかへてまた見ぬかたの花をたつねん よしのやま こそのしをりの みちかへて またみぬかたの はなをたつねむ | 西行法師 | 春上 |
8-新古 | 87 | かつらきやたかまの桜さきにけりたつたのおくにかかる白雲 かつらきや たかまのさくら さきにけり たつたのおくに かかるしらくも | 寂蓮法師 | 春上 |
8-新古 | 88 | いその神ふるき宮こをきてみれはむかしかさしし花さきにけり いそのかみ ふるきみやこを きてみれは むかしかさしし はなさきにけり | 読人知らず | 春上 |
8-新古 | 89 | 春にのみとしはあらなんあらを田をかへすかへすも花をみるへく はるにのみ としはあらなむ あらをたを かへすかへすも はなをみるへく | 源公忠 | 春上 |
8-新古 | 90 | 白雲のたつたの山のやへ桜いつれを花とわきておりけん しらくもの たつたのやまの やへさくら いつれをはなと わきてをりけむ | 道命法師 | 春上 |
8-新古 | 91 | しらくもの春はかさねてたつた山をくらのみねに花にほふらし しらくもの はるはかさねて たつたやま をくらのみねに はなにほふらし | 藤原定家 | 春上 |
8-新古 | 92 | よしの山花やさかりににほふらんふるさとさえぬ峰の白雪 よしのやま はなやさかりに にほふらむ ふるさとさえぬ みねのしらゆき | 藤原家衡 | 春上 |
8-新古 | 93 | いはねふみかさなる山をわけすてて花もいくへのあとのしら雲 いはねふみ かさなるやまを わけすてて はなもいくへの あとのしらくも | 飛鳥井雅経 | 春上 |
8-新古 | 94 | たつねきて花にくらせるこのまよりまつとしもなき山の葉の月 たつねきて はなにくらせる このまより まつとしもなき やまのはのつき | 読人知らず | 春上 |
8-新古 | 95 | ちりちらす人もたつねぬふるさとのつゆけき花に春風そふく ちりちらす ひともたつねぬ ふるさとの つゆけきはなに はるかせそふく | 慈円 | 春上 |
8-新古 | 96 | いその神ふるののさくらたれうへて春はわすれぬかたみなるらん いそのかみ ふるののさくら たれうゑて はるはわすれぬ かたみなるらむ | 堀川通具 | 春上 |
8-新古 | 97 | 花そ見るみちのしはくさふみわけてよしのの宮の春のあけほの はなそみる みちのしはくさ ふみわけて よしののみやの はるのあけほの | 藤原季能 | 春上 |
8-新古 | 98 | あさ日かけにほへる山のさくら花つれなくきえぬ雪かとそ見る あさひかけ にほへるやまの さくらはな つれなくきえぬ ゆきかとそみる | 藤原有家 | 春上 |
8-新古 | 99 | さくらさくとを山とりのしたりおのなかなかし日もあかぬ色かな さくらさく とほやまとりの したりをの なかなかしひも あかぬいろかな | 太上天皇 | 春下 |
8-新古 | 100 | いくとせの春に心をつくしきぬあはれとおもへみよしのの花 いくとせの はるにこころを つくしきぬ あはれとおもへ みよしののはな | 藤原俊成 | 春下 |
8-新古 | 101 | はかなくてすきにしかたをかそふれは花にものおもふ春そへにける はかなくて すきにしかたを かそふれは はなにものおもふ はるそへにける | 式子内親王 | 春下 |
8-新古 | 102 | 白雲のたなひく山のやま桜いつれを花とゆきておらまし しらくもの たなひくやまの やへさくら いつれをはなと ゆきてをらまし | 藤原師実 | 春下 |
8-新古 | 103 | はなの色にあまきるかすみたちまよひそらさへにほふ山桜かな はなのいろに あまきるかすみ たちまよひ そらさへにほふ やまさくらかな | 藤原長家 | 春下 |
8-新古 | 104 | ももしきの大宮人はいとまあれやさくらかさしてけふもくらしつ ももしきの おほみやひとは いとまあれや さくらかさして けふもくらしつ | 山辺赤人 | 春下 |
8-新古 | 105 | 花にあかぬなけきはいつもせしかともけふのこよひににる時はなし はなにあかぬ なけきはいつも せしかとも けふのこよひに にるときはなし | 在原業平 | 春下 |
8-新古 | 106 | いもやすくねられさりけり春の夜は花のちるのみ夢に見えつつ いもやすく ねられさりけり はるのよは はなのちるのみ ゆめにみえつつ | 凡河内躬恒 | 春下 |
8-新古 | 107 | 山さくらちりてみゆきにまかひなはいつれか花と春にとはなん やまさくら ちりてみゆきに まかひなは いつれかはなと はるにとはなむ | 伊勢 | 春下 |
8-新古 | 108 | わかやとのものなりなから桜はなちるをはえこそととめさりけれ わかやとの ものなりなから さくらはな ちるをはえこそ ととめさりけれ | 紀貫之 | 春下 |
8-新古 | 109 | かすみたつ春の山へにさくらはなあかすちるとや鴬のなく かすみたつ はるのやまへに さくらはな あかすちるとや うくひすのなく | 読人知らず | 春下 |
8-新古 | 110 | 春雨はいたくなふりそ桜花また見ぬ人にちらまくもおし はるさめは いたくなふりそ さくらはな またみぬひとに ちらまくもをし | 山辺赤人 | 春下 |
8-新古 | 111 | 花のかにころもはふかくなりにけりこのしたかけの風のまにまに はなのかに ころもはふかく なりにけり このしたかけの かせのまにまに | 紀貫之 | 春下 |
8-新古 | 112 | 風かよふねさめの袖の花のかにかほるまくらの春のよの夢 かせかよふ ねさめのそての はなのかに かをるまくらの はるのよのゆめ | 藤原俊成女 | 春下 |
8-新古 | 113 | このほとはしるもしらぬもたまほこのゆきかふ袖は花のかそする このほとは しるもしらぬも たまほこの ゆきかふそては はなのかそする | 藤原家隆 | 春下 |
8-新古 | 114 | またや見んかたののみのの桜かり花の雪ちる春のあけほの またやみむ かたののみのの さくらかり はなのゆきちる はるのあけほの | 藤原俊成 | 春下 |
8-新古 | 115 | ちりちらすおほつかなきは春かすみたなひく山の桜なりけり ちりちらす おほつかなきは はるかすみ たなひくやまの さくらなりけり | 祝部成仲 | 春下 |
8-新古 | 116 | やまさとの春のゆふくれきてみれはいりあひのかねに花そちりける やまさとの はるのゆふくれ きてみれは いりあひのかねに はなそちりける | 能因法師 | 春下 |
8-新古 | 117 | さくらちる春の山へはうかりけりよをのかれにとこしかひもなく さくらちる はるのやまへは うかりけり よをのかれにと こしかひもなく | 恵慶法師 | 春下 |
8-新古 | 118 | 山さくら花のした風ふきにけりこのもとことの雪のむらきえ やまさくら はなのしたかせ ふきにけり このもとことの ゆきのむらきえ | 康資王母 | 春下 |
8-新古 | 119 | はるさめのそほふるそらのをやみせすおつる涙に花そちりける はるさめの そほふるそらの をやみせす おつるなみたに はなそちりける | 源重之 | 春下 |
8-新古 | 120 | かりかねのかへるは風やさそふらんすきゆく峯の花ものこらぬ かりかねの かへるはかせや さそふらむ すきゆくみねの はなものこらぬ | 読人知らず | 春下 |
8-新古 | 121 | 時しもあれたのむのかりのわかれさへ花ちるころのみよしののさと ときしもあれ たのむのかりの わかれさへ はなちるころの みよしののさと | 源具親 | 春下 |
8-新古 | 122 | 山ふかみすきのむらたちみえぬまておのへの風に花のちるかな やまふかみ すきのむらたち みえぬまて をのへのかせに はなのちるかな | 源経信 | 春下 |
8-新古 | 123 | このしたのこけのみとりもみえぬまてやへちりしける山桜かな このしたの こけのみとりも みえぬまて やへちりしける やまさくらかな | 源師頼 | 春下 |
8-新古 | 124 | ふもとまておのへの桜ちりこすはたなひく雲とみてやすきまし ふもとまて をのへのさくら ちりこすは たなひくくもと みてやすきまし | 藤原顕輔 | 春下 |
8-新古 | 125 | はなちれはとふ人まれになりはてていとひし風のをとのみそする はなちれは とふひとまれに なりはてて いとひしかせの おとのみそする | 藤原範兼 | 春下 |
8-新古 | 126 | なかむとて花にもいたくなれぬれはちるわかれこそかなしかりけれ なかむとて はなにもいたく なれぬれは ちるわかれこそ かなしかりけれ | 西行法師 | 春下 |
8-新古 | 127 | 山さとのにはよりほかのみちもかな花ちりぬやと人もこそとへ やまさとの にはよりほかの みちもかな はなちりぬやと ひともこそとへ | 越前 | 春下 |
8-新古 | 128 | 花さそふひらの山風ふきにけりこきゆくふねのあとみゆるまて はなさそふ ひらのやまかせ ふきにけり こきゆくふねの あとみゆるまて | 宮内卿 | 春下 |
8-新古 | 129 | あふさかやこすゑのはなをふくからにあらしそかすむせきのすき村 あふさかや こすゑのはなを ふくからに あらしそかすむ せきのすきむら | 読人知らず | 春下 |
8-新古 | 130 | 山たかみ峯のあらしにちる花の月にあまきるあけかたのそら やまたかみ みねのあらしに ちるはなの つきにあまきる あけかたのそら | 二条院讃岐 | 春下 |
8-新古 | 131 | やまたかみいはねの桜ちるときはあまのはころもなつるとそみる やまたかみ いはねのさくら ちるときは あまのはころも なつるとそみる | 崇徳院 | 春下 |
8-新古 | 132 | ちりまかふはなのよそめはよしの山あらしにさはくみねの白雲 ちりまかふ はなのよそめは よしのやま あらしにさわく みねのしらくも | 難波頼輔 | 春下 |
8-新古 | 133 | みよしののたかねの桜ちりにけりあらしもしろき春のあけほの みよしのの たかねのさくら ちりにけり あらしもしろき はるのあけほの | 太上天皇 | 春下 |
8-新古 | 134 | さくら色の庭のはる風あともなしとははそ人の雪とたにみん さくらいろの にはのはるかせ あともなし とははそひとの ゆきとたにみむ | 藤原定家 | 春下 |
8-新古 | 135 | けふたにも庭をさかりとうつる花きえすはありとも雪かともみよ けふたにも にはをさかりと うつるはな きえすはありとも ゆきかともみよ | 太上天皇 | 春下 |
8-新古 | 136 | さそはれぬ人のためとやのこりけんあすよりさきの花の白雪 さそはれぬ ひとのためとや のこりけむ あすよりさきの はなのしらゆき | 九条良経 | 春下 |
8-新古 | 137 | やへにほふのきはのさくらうつろひぬ風よりさきにとふ人もかな やへにほふ のきはのさくら うつろひぬ かせよりさきに とふひともかな | 式子内親王 | 春下 |
8-新古 | 138 | つらきかなうつろふまてにやへさくらとへともいはてすくる心は つらきかな うつろふまてに やへさくら とへともいはて すくるこころは | 惟明親王 | 春下 |
8-新古 | 139 | さくら花夢かうつつか白雲のたえてつねなきみねの春風 さくらはな ゆめかうつつか しらくもの たえてつねなき みねのはるかせ | 藤原家隆 | 春下 |
8-新古 | 140 | うらみすやうきよを花のいとひつつさそふ風あらはとおもひけるをは うらみすや うきよをはなの いとひつつ さそふかせあらはと おもひけるをは | 藤原俊成女 | 春下 |
8-新古 | 141 | はかなさをほかにもいはし桜花さきてはちりぬあはれよの中 はかなさを ほかにもいはし さくらはな さきてはちりぬ あはれよのなか | 徳大寺実定 | 春下 |
8-新古 | 142 | なかむへきのこりの春をかそふれは花とともにもちる涙かな なかむへき のこりのはるを かそふれは はなとともにも ちるなみたかな | 俊恵法師 | 春下 |
8-新古 | 143 | 花もまたわかれん春はおもひいてよさきちるたひの心つくしを はなもまた わかれむはるは おもひいてよ さきちるたひの こころつくしを | 殷富門院大輔 | 春下 |
8-新古 | 144 | ちる花のわすれかたみのみねの雲そをたにのこせ春の山風 ちるはなの わすれかたみの みねのくも そをたにのこせ はるのやまかせ | 左近中将良平 | 春下 |
8-新古 | 145 | はなさそふなこりを雲にふきとめてしはしはにほへ春の山かせ はなさそふ なこりをくもに ふきとめて しはしはにほへ はるのやまかせ | 飛鳥井雅経 | 春下 |
8-新古 | 146 | おしめともちりはてぬれは桜花いまはこすゑをなかむはかりそ をしめとも ちりはてぬれは さくらはな いまはこすゑを なかむはかりそ | 後白河院 | 春下 |
8-新古 | 147 | よしの山はなのふるさとあとたえてむなしきえたに春風そふく よしのやま はなのふるさと あとたえて むなしきえたに はるかせそふく | 九条良経 | 春下 |
8-新古 | 148 | ふるさとのはなのさかりはすきぬれとおもかけさらぬ春のそらかな ふるさとの はなのさかりは すきぬれと おもかけさらぬ はるのそらかな | 源経信 | 春下 |
8-新古 | 149 | 花はちりその色となくなかむれはむなしきそらに春雨そふる はなはちり そのいろとなく なかむれは むなしきそらに はるさめそふる | 式子内親王 | 春下 |
8-新古 | 150 | たかたにかあすはのこさん山さくらこほれてにほへけふのかたみに たかたにか あすはのこさむ やまさくら こほれてにほへ けふのかたみに | 清原元輔 | 春下 |
8-新古 | 151 | から人のふねをうかへてあそふてふけふそわかせこ花かつらせよ からひとの ふねをうかへて あそふてふ けふそわかせこ はなかつらせよ | 大伴家持 | 春下 |
8-新古 | 152 | 花なかすせをもみるへきみか月のわれていりぬる山のをちかた はななかす せをもみるへき みかつきの われていりぬる やまのをちかた | 坂上是則 | 春下 |
8-新古 | 153 | たつねつるはなもわか身もおとろへてのちの春ともえこそちきらね たつねつる はなもわかみも おとろへて のちのはるとも えこそちきらね | 良暹法師 | 春下 |
8-新古 | 154 | おもひたつとりはふるすもたのむらんなれぬる花のあとのゆふくれ おもひたつ とりはふるすも たのむらむ なれぬるはなの あとのゆふくれ | 寂蓮法師 | 春下 |
8-新古 | 155 | ちりにけりあはれうらみのたれなれは花のあととふ春の山風 ちりにけり あはれうらみの たれなれは はなのあととふ はるのやまかせ | 読人知らず | 春下 |
8-新古 | 156 | 春ふかくたつねいるさの山の葉にほの見し雲の色そのこれる はるふかく たつねいるさの やまのはに ほのみしくもの いろそのこれる | 西園寺公経 | 春下 |
8-新古 | 157 | はつせ山うつろふ花に春くれてまかひし雲そみねにのこれる はつせやま うつろふはなに はるくれて まかひしくもそ みねにのこれる | 九条良経 | 春下 |
8-新古 | 158 | よしのかはきしの山ふきさきにけりみねのさくらはちりはてぬらん よしのかは きしのやまふき さきにけり みねのさくらは ちりはてぬらむ | 藤原家隆 | 春下 |
8-新古 | 159 | こまとめてなを水かはんやまふきの花のつゆそふ井ての玉河 こまとめて なほみつかはむ やまふきの はなのつゆそふ ゐてのたまかは | 藤原俊成 | 春下 |
8-新古 | 160 | いはねこすきよたき河のはやけれはなみおりかくるきしの山ふき いはねこす きよたきかはの はやけれは なみをりかくる きしのやまふき | 源国信 | 春下 |
8-新古 | 161 | かはつなくかみなひかはにかけみえていまか(か=や)さくらん山ふきの花 かはつなく かみなひかはに かけみえて いまかさくらむ やまふきのはな | 厚見王 | 春下 |
8-新古 | 162 | あしひきの山ふきの花ちりにけり井てのかはつはいまやなくらん あしひきの やまふきのはな ちりにけり ゐてのかはつは いまやなくらむ | 藤原興風 | 春下 |
8-新古 | 163 | かくてこそ見まくほしけれよろつよをかけてにほへるふちなみの花 かくてこそ みまくほしけれ よろつよを かけてにほへる ふちなみのはな | 延喜 | 春下 |
8-新古 | 164 | まとゐして見れともあかぬふちなみのたたまくおしきけふにもあるかな まとゐして みれともあかぬ ふちなみの たたまくをしき けふにもあるかな | 天暦 | 春下 |
8-新古 | 165 | くれぬとはおもふものからふちなみのさけるやとには春そひさしき くれぬとは おもふものから ふちのはな さけるやとには はるそひさしき | 紀貫之 | 春下 |
8-新古 | 166 | みとりなる松にかかれるふちなれとをのかころとそ花はさきける みとりなる まつにかかれる ふちなれと おのかころとそ はなはさきける | 読人知らず | 春下 |
8-新古 | 167 | ちりのこる花もやあるとうちむれてみ山かくれをたつねてしかな ちりのこる はなもやあると うちむれて みやまかくれを たつねてしかな | 藤原道信 | 春下 |
8-新古 | 168 | このもとのすみかもいまはあれぬへし春しくれなはたれかとひこん このもとの すみかもいまは あれぬへし はるしくれなは たれかとひこむ | 行尊 | 春下 |
8-新古 | 169 | くれてゆく春のみなとはしらねともかすみにおつるうちのしはふね くれてゆく はるのみなとは しらねとも かすみにおつる うちのしはふね | 寂蓮法師 | 春下 |
8-新古 | 170 | こぬまても花ゆへ人のまたれつる春もくれぬるみ山辺のさと こぬまても はなゆゑひとの またれつる はるもくれぬる みやまへのさと | 藤原伊綱 | 春下 |
8-新古 | 171 | いその神ふるのわさたをうちかへしうらみかねたる春のくれかな いそのかみ ふるのわさたを うちかへし うらみかねたる はるのくれかな | 藤原俊成女 | 春下 |
8-新古 | 172 | まてといふにとまらぬものとしりなからしひてそおしき春のわかれは まてといふに とまらぬものと しりなから しひてそをしき はるのわかれは | 読人知らず | 春下 |
8-新古 | 173 | しはのとにさすや日かけのなこりなく春くれかかる山の葉の雲 しはのとを さすやひかけの なこりなく はるくれかかる やまのはのくも | 宮内卿 | 春下 |
8-新古 | 174 | あすよりはしかの花そのまれにたにたれかはとはん春のふるさと あすよりは しかのはなその まれにたに たれかはとはむ はるのふるさと | 九条良経 | 春下 |
8-新古 | 175 | 春すきてなつきにけらししろたへのころもほすてふあまのかく山 はるすきて なつきにけらし しろたへの ころもほすてふ あまのかくやま | 持統天皇 | 夏 |
8-新古 | 176 | おしめともとまらぬはるもあるものをいはぬにきたる夏衣かな をしめとも とまらぬはるも あるものを いはぬにきたる なつころもかな | 素性法師 | 夏 |
8-新古 | 177 | ちりはてて花のかけなきこのもとにたつことやすきなつころもかな ちりはてて はなのかけなき このもとに たつことやすき なつころもかな | 慈円 | 夏 |
8-新古 | 178 | なつころもきていくかにかなりぬらんのこれる花はけふもちりつつ なつころも きていくかにか なりぬらむ のこれるはなは けふもちりつつ | 源道済 | 夏 |
8-新古 | 179 | おりふしもうつれはかへつよのなかの人の心の花そめのそて をりふしも うつれはかへつ よのなかの ひとのこころの はなそめのそて | 藤原俊成女 | 夏 |
8-新古 | 180 | うの花のむらむらさけるかきねをは雲まの月のかけかとそみる うのはなの むらむらさける かきねをは くもまのつきの かけかとそみる | 白河院 | 夏 |
8-新古 | 181 | うの花のさきぬるときはしろたへのなみもてゆへるかきねとそみる うのはなの さきぬるときは しろたへの なみもてゆへる かきねとそみる | 藤原重家 | 夏 |
8-新古 | 182 | わすれめやあふひをくさにひきむすひかりねののへのつゆのあけほの わすれめや あふひをくさに ひきむすひ かりねののへの つゆのあけほの | 式子内親王 | 夏 |
8-新古 | 183 | いかなれはそのかみ山のあふひくさとしはふれともふた葉なるらん いかなれは そのかみやまの あふひくさ としはふれとも ふたはなるらむ | 小侍従 | 夏 |
8-新古 | 184 | のへはいまたあさかのぬまにかるくさのかつ見るままにしけるころかな のへはいまた あさかのぬまに かるくさの かつみるままに しけるころかな | 飛鳥井雅経 | 夏 |
8-新古 | 185 | さくらあさのをふのしたくさしけれたたあかてわかれし花の名なれは さくらあさの をふのしたくさ しけれたた あかてわかれし はなのななれは | 待賢門院安芸 | 夏 |
8-新古 | 186 | 花ちりし庭のこの葉もしけりあひてあまてる月のかけそまれなる はなちりし にはのこのはも しけりあひて あまてるつきの かけそまれなる | 曽祢好忠 | 夏 |
8-新古 | 187 | かりにくとうらみし人のたえにしをくさ葉につけてしのふころかな かりにくと うらみしひとの たえにしを くさはにつけて しのふころかな | 読人知らず | 夏 |
8-新古 | 188 | なつくさはしけりにけりなたまほこのみちゆき人もむすふはかりに なつくさは しけりにけりな たまほこの みちゆくひとも むすふはかりに | 藤原元真 | 夏 |
8-新古 | 189 | 夏草はしけりにけれとほとときすなとわかやとに一声もせぬ なつくさは しけりにけれと ほとときす なとわかやとに ひとこゑもせぬ | 延喜 | 夏 |
8-新古 | 190 | なくこゑをえやはしのはぬほとときすはつうの花のかけにかくれて なくこゑを えやはしのはぬ ほとときす はつうのはなの かけにかくれて | 柿本人麿 | 夏 |
8-新古 | 191 | ほとときす声まつほとはかたをかのもりのしつくにたちやぬれまし ほとときす こゑまつほとは かたをかの もりのしつくに たちやぬれまし | 紫式部 | 夏 |
8-新古 | 192 | ほとときすみ山いつなるはつこゑをいつれのやとのたれかきくらん ほとときす みやまいつなる はつこゑを いつれのやとの たれかきくらむ | 弁乳母 | 夏 |
8-新古 | 193 | さ月山うの花月よほとときすきけともあかす又なかんかも さつきやま うのはなつきよ ほとときす きけともあかす またなかむかも | 読人知らず | 夏 |
8-新古 | 194 | をのかつまこひつつなくやさ月やみ神なひ山のやま郭公 おのかつま こひつつなくや さつきやみ かみなひやまの やまほとときす | 読人知らず | 夏 |
8-新古 | 195 | ほとときす一声なきていぬるよはいかてか人のいをやすくぬる ほとときす ひとこゑなきて いぬるよは いかてかひとの いをやすくぬる | 大伴家持 | 夏 |
8-新古 | 196 | ほとときすなきつついつるあしひきの山となてしこさきにけらしも ほとときす なきつついつる あしひきの やまとなてしこ さきにけらしも | 大中臣能宣 | 夏 |
8-新古 | 197 | ふた声となきつときかはほとときすころもかたしきうたたねはせん ふたこゑと なきつときかは ほとときす ころもかたしき うたたねはせむ | 源経信 | 夏 |
8-新古 | 198 | 郭公またうちとけぬしのひねはこぬ人をまつわれのみそきく ほとときす またうちとけぬ しのひねは こぬひとをまつ われのみそきく | 白河院 | 夏 |
8-新古 | 199 | ききてしもなをそねられぬほとときすまちしよころ(ろ+の)心ならひに ききてしも なほそねられぬ ほとときす まちしよころの こころならひに | 源有仁 | 夏 |
8-新古 | 200 | うの花のかきねならねとほとときす月のかつらのかけになくなり うのはなの かきねならねと ほとときす つきのかつらの かけになくなり | 大江匡房 | 夏 |
8-新古 | 201 | むかしおもふくさのいほりのよるの雨になみたなそへそ山郭公 むかしおもふ くさのいほりの よるのあめに なみたなそへそ やまほとときす | 藤原俊成 | 夏 |
8-新古 | 202 | 雨そそくはなたち花に風すきて山郭公雲になくなり あめそそく はなたちはなに かせすきて やまほとときす くもになくなり | 読人知らず | 夏 |
8-新古 | 203 | きかてたたねなましものを郭公中々なりやよはの一声 きかてたた ねなましものを ほとときす なかなかなりや よはのひとこゑ | 相模 | 夏 |
8-新古 | 204 | たかさともとひもやくるとほとときす心のかきりまちそわひにし たかさとに とひもやくると ほとときす こころのかきり まちそわひにし | 紫式部 | 夏 |
8-新古 | 205 | よをかさねまちかね山の郭公くもゐのよそに一こゑそきく よをかさね まちかねやまの ほとときす くもゐのよそに ひとこゑそきく | 周防内侍 | 夏 |
8-新古 | 206 | ふた声ときかすはいてしほとときすいくよあかしのとまりなりとも ふたこゑと きかすはいてし ほとときす いくよあかしの とまりなりとも | 按察使公通 | 夏 |
8-新古 | 207 | ほとときすなを一声はおもひいてよおいそのもりのよはのむかしを ほとときす なほひとこゑは おもひいてよ おいそのもりの よはのむかしを | 藤原範光 | 夏 |
8-新古 | 208 | 一声はおもひそあへぬほとときすたそかれ時の雲のまよひに ひとこゑは おもひそあへぬ ほとときす たそかれときの くものまよひに | 八条院高倉 | 夏 |
8-新古 | 209 | ありあけのつれなくみえし月はいてぬ山ほとときすまつよなからに ありあけの つれなくみえし つきはいてぬ やまほとときす まつよなからに | 九条良経 | 夏 |
8-新古 | 210 | わか心いかにせよとてほとときす雲まの月のかけになくらん わかこころ いかにせよとて ほとときす くもまのつきの かけになくらむ | 藤原俊成 | 夏 |
8-新古 | 211 | ほとときすなきているさの山の葉は月ゆへよりもうらめしきかな ほとときす なきているさの やまのはは つきゆゑよりも うらめしきかな | 前太政大臣 | 夏 |
8-新古 | 212 | ありあけの月はまたぬにいてぬれとなを山ふかきほとときすかな ありあけの つきはまたぬに いてぬれと なほやまふかき ほとときすかな | 平親宗 | 夏 |
8-新古 | 213 | すきにけりしのたのもりのほとときすたえぬしつくを袖にのこして すきにけり しのたのもりの ほとときす たえぬしつくを そてにのこして | 藤原保季 | 夏 |
8-新古 | 214 | いかにせんこぬよあまたのほとときすまたしとおもへはむらさめのそら いかにせむ こぬよあまたの ほとときす またしとおもへは むらさめのそら | 藤原家隆 | 夏 |
8-新古 | 215 | こゑはしてくもちにむせふほとときす涙やそそくよゐのむらさめ こゑはして くもちにむせふ ほとときす なみたやそそく よひのむらさめ | 式子内親王 | 夏 |
8-新古 | 216 | ほとときすなをうとまれぬ心かななかなくさとのよそのゆふくれ ほとときす なほうとまれぬ こころかな なかなくさとの よそのゆふくれ | 西園寺公経 | 夏 |
8-新古 | 217 | きかすともここをせにせんほとときす山田のはらのすきのむらたち きかすとも ここをせにせむ ほとときす やまたのはらの すきのむらたち | 西行法師 | 夏 |
8-新古 | 218 | 郭公ふかきみねよりいてにけりと山のすそに声のおちくる ほとときす ふかきみねより いてにけり とやまのすそに こゑのおちくる | 読人知らず | 夏 |
8-新古 | 219 | をささふくしつのまろやのかりのとをあけかたになく郭公かな をささふく しつのまろやの かりのとを あけかたになく ほとときすかな | 徳大寺実定 | 夏 |
8-新古 | 220 | うちしめりあやめそかほるほとときすなくやさ月の雨のゆふくれ うちしめり あやめそかをる ほとときす なくやさつきの あめのゆふくれ | 九条良経 | 夏 |
8-新古 | 221 | けふは又あやめのねさへかけそへてみたれそまさる袖の白玉 けふはまた あやめのねさへ かけそへて みたれそまさる そてのしらたま | 藤原俊成 | 夏 |
8-新古 | 222 | あかなくにちりにし花のいろいろはのこりにけりな君かたもとに あかなくに ちりにしはなの いろいろは のこりにけりな きみかたもとに | 源経信 | 夏 |
8-新古 | 223 | なへてよのうきになかるるあやめくさけふまてかかるねはいかかみる なへてよの うきになかるる あやめくさ けふまてかかる ねはいかかみる | 上東門院小少将 | 夏 |
8-新古 | 224 | なにこととあやめはわかてけふもなをたもとにあまるねこそたえせね なにことと あやめはわかて けふもなほ たもとにあまる ねこそたえせね | 紫式部 | 夏 |
8-新古 | 225 | さなへとる山田のかけひもりにけりひくしめなわにつゆそこほるる さなへとる やまたのかけひ もりにけり ひくしめなはに つゆそこほるる | 源経信 | 夏 |
8-新古 | 226 | を山たにひくしめなわのうちはへてくちやしぬらんさみたれの比 をやまたに ひくしめなはの うちはへて くちやしぬらむ さみたれのころ | 九条良経 | 夏 |
8-新古 | 227 | いかはかりたこのもすそもそほつらんくもまも見えぬころのさみたれ いかはかり たこのもすそも そほつらむ くもまもみえぬ ころのさみたれ | 伊勢大輔 | 夏 |
8-新古 | 228 | みしまえのいりえのまこも雨ふれはいととしほれてかる人もなし みしまえの いりえのまこも あめふれは いととしをれて かるひともなし | 源経信 | 夏 |
8-新古 | 229 | まこもかるよとのさは水ふかけれとそこまて月のかけはすみけり まこもかる よとのさはみつ ふかけれと そこまてつきの かけはすみけり | 大江匡房 | 夏 |
8-新古 | 230 | たまかしはしけりにけりなさみたれに葉もりの神のしめはふるまて たまかしは しけりにけりな さみたれに はもりのかみの しめはふるまて | 藤原基俊 | 夏 |
8-新古 | 231 | さみたれはおふのかはらのまこもくさからてやなみのしたにくちなん さみたれは おふのかはらの まこもくさ からてやなみの したにくちなむ | 藤原忠通 | 夏 |
8-新古 | 232 | たまほこのみちゆき人のことつてもたえてほとふるさみたれの空 たまほこの みちゆくひとの ことつても たえてほとふる さみたれのそら | 藤原定家 | 夏 |
8-新古 | 233 | さみたれの雲のたえまをなかめつつまとよりにしに月をまつかな さみたれの くものたえまを なかめつつ まとよりにしに つきをまつかな | 荒木田氏良 | 夏 |
8-新古 | 234 | あふちさくそともの木かけつゆをちてさみたれはるる風わたるなり あふちさく そとものこかけ つゆおちて さみたれはるる かせわたるなり | 藤原忠良 | 夏 |
8-新古 | 235 | さみたれの月はつれなきみ山よりひとりもいつるほとときすかな さみたれの つきはつれなき みやまより ひとりもいつる ほとときすかな | 藤原定家 | 夏 |
8-新古 | 236 | ほとときす雲井のよそにすきぬなりはれぬおもひのさみたれの比 ほとときす くもゐのよそに すきぬなり はれぬおもひの さみたれのころ | 太上天皇 | 夏 |
8-新古 | 237 | 五月雨の雲まの月のはれゆくをしはしまちけるほとときすかな さみたれの くもまのつきの はれゆくを しはしまちける ほとときすかな | 二条院讃岐 | 夏 |
8-新古 | 238 | たれかまたはなたちはなにおもひいてんわれもむかしの人となりなは たれかまた はなたちはなに おもひいてむ われもむかしの ひととなりなは | 藤原俊成 | 夏 |
8-新古 | 239 | ゆくすゑをたれしのへとてゆふ風にちきりかをかんやとのたち花 ゆくすゑを たれしのへとて ゆふかせに ちきりかおかむ やとのたちはな | 堀川通具 | 夏 |
8-新古 | 240 | かへりこぬむかしをいまとおもひねの夢の枕ににほふたちはな かへりこぬ むかしをいまと おもひねの ゆめのまくらに にほふたちはな | 式子内親王 | 夏 |
8-新古 | 241 | たちはなの花ちるのきのしのふ草むかしをかけてつゆそこほるる たちはなの はなちるのきの しのふくさ むかしをかけて つゆそこほるる | 藤原忠良 | 夏 |
8-新古 | 242 | さ月やみみしかきよはのうたたねにはなたち花の袖にすすしき さつきやみ みしかきよはの うたたねに はなたちはなの そてにすすしき | 慈円 | 夏 |
8-新古 | 243 | たつぬへき人はのきはのふるさとにそれかとかほるにはのたちはな たつぬへき ひとはのきはの ふるさとに それかとかをる にはのたちはな | 読人知らず | 夏 |
8-新古 | 244 | ほとときすはなたちはなのかをとめてなくはむかしの人やこひしき ほとときす はなたちはなの かをとめて なくはむかしの ひとやこひしき | 読人知らず | 夏 |
8-新古 | 245 | たちはなのにほふあたりのうたたねは夢もむかしの袖のかそする たちはなの にほふあたりの うたたねは ゆめもむかしの そてのかそする | 藤原俊成女 | 夏 |
8-新古 | 246 | ことしより花さきそむるたちはなのいかてむかしの香ににほふらん ことしより はなさきそむる たちはなの いかてむかしの かににほふらむ | 藤原家隆 | 夏 |
8-新古 | 247 | ゆふくれはいつれの雲のなこりとてはなたち花に風のふくらん ゆふくれは いつれのくもの なこりとて はなたちはなに かせのふくらむ | 藤原定家 | 夏 |
8-新古 | 248 | ほとときすさ月みな月わきかねてやすらふ声そそらにきこゆる ほとときす さつきみなつき わきかねて やすらふこゑそ そらにきこゆる | 源国信 | 夏 |
8-新古 | 249 | 庭のおもは月もらぬまてなりにけりこすゑに夏のかけしけりつつ にはのおもは つきもらぬまて なりにけり こすゑになつの かけしけりつつ | 白河院 | 夏 |
8-新古 | 250 | わかやとのそともにたてるならの葉のしけみにすすむ夏はきにけり わかやとの そともにたてる ならのはの しけみにすすむ なつはきにけり | 恵慶法師 | 夏 |
8-新古 | 251 | うかひふねあはれとそおもふもののふのやそうちかはのゆふやみのそら うかひふね あはれとそみる もののふの やそうちかはの ゆふやみのそら | 慈円 | 夏 |
8-新古 | 252 | うかひ舟たかせさしこすほとなれやむすほほれゆくかかりひのかけ うかひふね たかせさしこす ほとなれや むすほほれゆく かかりひのかけ | 寂蓮法師 | 夏 |
8-新古 | 253 | おほ井かはかかりさしゆくうかひ舟いくせに夏のよをあかすらん おほゐかは かかりさしゆく うかひふね いくせになつの よをあかすらむ | 藤原俊成 | 夏 |
8-新古 | 254 | ひさかたの中なる河のうかひ舟いかにちきりてやみをまつらん ひさかたの なかなるかはの うかひふね いかにちきりて やみをまつらむ | 藤原定家 | 夏 |
8-新古 | 255 | いさりひのむかしのひかりほのみえてあしやのさとにとふ蛍かな いさりひの むかしのひかり ほのみえて あしやのさとに とふほたるかな | 九条良経 | 夏 |
8-新古 | 256 | まとちかき竹の葉すさふ風のをとにいととみしかきうたたねの夢 まとちかき たけのはすさふ かせのおとに いととみしかき うたたねのゆめ | 式子内親王 | 夏 |
8-新古 | 257 | まとちかきいささむらたけ風ふけは秋におとろく夏のよの夢 まとちかき いささむらたけ かせふけは あきにおとろく なつのよのゆめ | 徳大寺公継 | 夏 |
8-新古 | 258 | むすふてにかけみたれゆく山の井のあかても月のかたふきにける むすふてに かけみたれゆく やまのゐの あかてもつきの かたふきにける | 慈円 | 夏 |
8-新古 | 259 | きよみかた月はつれなきあまのとをまたてもしらむ浪のうへかな きよみかた つきはつれなき あまのとを またてもしらむ なみのうへかな | 久我通光 | 夏 |
8-新古 | 260 | かさねてもすすしかりけり夏ころもうすきたもとにやとる月かけ かさねても すすしかりけり なつころも うすきたもとに やとるつきかけ | 九条良経 | 夏 |
8-新古 | 261 | すすしさは秋やかへりてはつせかはふるかはのへのすきのしたかけ すすしさは あきやかへりて はつせかは ふるかはのへの すきのしたかけ | 藤原有家 | 夏 |
8-新古 | 262 | みちのへにしみつなかるるやなきかけしはしとてこそたちとまりつれ みちのへに しみつなかるる やなきかけ しはしとてこそ たちとまりつれ | 西行法師 | 夏 |
8-新古 | 263 | よられつるのもせの草のかけろひてすすしくくもる夕立の空 よられつる のもせのくさの かけろひて すすしくくもる ゆふたちのそら | 読人知らず | 夏 |
8-新古 | 264 | をのつからすすしくもあるか夏衣日もゆふくれの雨のなこりに おのつから すすしくもあるか なつころも ひもゆふくれの あめのなこりに | 藤原清輔 | 夏 |
8-新古 | 265 | つゆすかる庭のたまささうちなひきひとむらすきぬゆふたちの雲 つゆすかる にはのたまささ うちなひき ひとむらすきぬ ゆふたちのくも | 西園寺公経 | 夏 |
8-新古 | 266 | とをちにはゆふたちすらしひさかたのあまのかく山くもかくれゆく とほちには ゆふたちすらし ひさかたの あまのかくやま くもかくれゆく | 源俊頼 | 夏 |
8-新古 | 267 | にはのおもはまたかはかぬにゆふたちのそらさりけなくすめる月かな にはのおもは またかわかぬに ゆふたちの そらさりけなく すめるつきかな | 源頼政 | 夏 |
8-新古 | 268 | ゆふたちの雲もとまらぬ夏の日のかたふく山にひくらしのこゑ ゆふたちの くももとまらぬ なつのひの かたふくやまに ひくらしのこゑ | 式子内親王 | 夏 |
8-新古 | 269 | ゆふつくひさすやいほりのしはのとにさひしくもあるかひくらしのこゑ ゆふつくひ さすやいほりの しはのとに さひしくもあるか ひくらしのこゑ | 藤原忠良 | 夏 |
8-新古 | 270 | 秋ちかきけしきのもりになくせみの涙のつゆや下葉そむらん あきちかき けしきのもりに なくせみの なみたのつゆや したはそむらむ | 九条良経 | 夏 |
8-新古 | 271 | なくせみのこゑもすすしきゆふくれに秋をかけたるもりの下露 なくせみの こゑもすすしき ゆふくれに あきをかけたる もりのしたつゆ | 二条院讃岐 | 夏 |
8-新古 | 272 | いつちとかよるは蛍ののほるらんゆくかたしらぬ草の枕に いつちとか よるはほたるの のほるらむ ゆくかたしらぬ くさのまくらに | 壬生忠見 | 夏 |
8-新古 | 273 | ほたるとふ野沢にしけるあしのねのよなよなしたにかよふ秋風 ほたるとふ のさはにしける あしのねの よなよなしたに かよふあきかせ | 九条良経 | 夏 |
8-新古 | 274 | ひさきおふるかた山かけにしのひつつふきけるものを秋のゆふかせ ひさきおふる かたやまかけに しのひつつ ふきけるものを あきのゆふかせ | 俊恵法師 | 夏 |
8-新古 | 275 | しらつゆのたまもてゆへるませのうちにひかりさへそふとこ夏の花 しらつゆの たまもてゆへる ませのうちに ひかりさへそふ とこなつのはな | 高倉院 | 夏 |
8-新古 | 276 | 白露のなさけをきけることの葉やほのほの見えしゆふかほの花 しらつゆの なさけおきける ことのはや ほのほのみえし ゆふかほのはな | 前太政大臣 | 夏 |
8-新古 | 277 | たそかれののきはのおきにともすれはほにいてぬ秋そしたにこととふ たそかれの のきはのをきに ともすれは ほにいてぬあきそ したにこととふ | 式子内親王 | 夏 |
8-新古 | 278 | 雲まよふゆふへに秋をこめなから風もほにいてぬおきのうへかな くもまよふ ゆふへにあきを こめなから かせもほにいてぬ をきのうへかな | 慈円 | 夏 |
8-新古 | 279 | 山さとのみねのあまくもとたえしてゆふへすすしきまきのしたつゆ やまさとの みねのあまくも とたえして ゆふへすすしき まきのしたつゆ | 太上天皇 | 夏 |
8-新古 | 280 | いは井くむあたりのをささたまこえてかつかつむすふ秋のゆふつゆ いはゐくむ あたりのをささ たまこえて かつかつむすふ あきのゆふつゆ | 藤原忠通 | 夏 |
8-新古 | 281 | かたえさすおふのうらなしはつ秋になりもならすも風そ身にしむ かたえさす をふのうらなし はつあきに なりもならすも かせそみにしむ | 宮内卿 | 夏 |
8-新古 | 282 | 夏ころもかたへすすしくなりぬなりよやふけぬらんゆきあひのそら なつころも かたへすすしく なりぬなり よやふけぬらむ ゆきあひのそら | 慈円 | 夏 |
8-新古 | 283 | なつはつるあふきと秋のしらつゆといつれかまつはをかんとすらん なつはつる あふきとあきの しらつゆと いつれかまつは おかむとすらむ | 壬生忠峯 | 夏 |
8-新古 | 284 | みそきする河のせみれはからころも日もゆふくれに浪そたちける みそきする かはのせみれは からころも ひもゆふくれに なみそたちける | 紀貫之 | 夏 |
8-新古 | 285 | 神なひのみむろの山のくすかつらうらふきかへす秋はきにけり かみなひの みむろのやまの くすかつら うらふきかへす あきはきにけり | 大伴家持 | 秋上 |
8-新古 | 286 | いつしかとおきの葉むけのかたよりにそそや秋とそ風もきこゆる いつしかと をきのはむけの かたよりに そらやあきとそ かせもきこゆる | 崇徳院 | 秋上 |
8-新古 | 287 | このねぬるよのまに秋はきにけらしあさけの風のきのふにもにぬ このねぬる よのまにあきは きにけらし あさけのかせの きのふにもにぬ | 藤原季通 | 秋上 |
8-新古 | 288 | いつもきくふもとのさととおもへともきのふにかはる山おろしの風 いつもきく ふもとのさとと おもへとも きのふにかはる やまおろしのかせ | 徳大寺実定 | 秋上 |
8-新古 | 289 | きのふたにとはんとおもひしつのくにのいく田のもりに秋はきにけり きのふたに とはむとおもひし つのくにの いくたのもりに あきはきにけり | 藤原家隆 | 秋上 |
8-新古 | 290 | ふく風の色こそ見えねたかさこのおのへの松に秋はきにけり ふくかせの いろこそみえね たかさこの をのへのまつに あきはきにけり | 藤原秀能 | 秋上 |
8-新古 | 291 | ふしみ山松のかけより見わたせはあくる田のもに秋風そふく ふしみやま まつのかけより みわたせは あくるたのもに あきかせそふく | 藤原俊成 | 秋上 |
8-新古 | 292 | あけぬるか衣手さむしすかはらやふしみのさとの秋のはつ風 あけぬるか ころもてさむし すかはらや ふしみのさとの あきのはつかせ | 藤原家隆 | 秋上 |
8-新古 | 293 | ふかくさのつゆのよすかを契にてさとをはかれす秋はきにけり ふかくさの つゆのよすかを ちきりにて さとをはかれす あきはきにけり | 九条良経 | 秋上 |
8-新古 | 294 | あはれまたいかにしのはん袖のつゆ野はらの風に秋はきにけり あはれまた いかにしのはむ そてのつゆ のはらのかせに あきはきにけり | 堀川通具 | 秋上 |
8-新古 | 295 | しきたへの枕のうへにすきぬなりつゆをたつぬる秋のはつ風 しきたへの まくらのうへに すきぬなり つゆをたつぬる あきのはつかせ | 源具親 | 秋上 |
8-新古 | 296 | みつくきのをかのくす葉もいろつきてけさうらかなし秋のはつ風 みつくきの をかのくすはも いろつきて けさうらかなし あきのはつかせ | 顕昭法師 | 秋上 |
8-新古 | 297 | 秋はたた心よりをくゆふつゆを袖のほかともおもひけるかな あきはたた こころよりおく ゆふつゆを そてのほかとも おもひけるかな | 越前 | 秋上 |
8-新古 | 298 | きのふまてよそにしのひししたおきのすゑ葉のつゆに秋風そ吹 きのふまて よそにしのひし したをきの すゑはのつゆに あきかせそふく | 飛鳥井雅経 | 秋上 |
8-新古 | 299 | をしなへてものをおもはぬ人にさへ心をつくる秋のはつ風 おしなへて ものをおもはぬ ひとにさへ こころをつくる あきのはつかせ | 西行法師 | 秋上 |
8-新古 | 300 | あはれいかに草葉のつゆのこほるらん秋風たちぬみやきののはら あはれいかに くさはのつゆの こほるらむ あきかせたちぬ みやきののはら | 読人知らず | 秋上 |
8-新古 | 301 | みしふつきうへし山田にひたはへて又袖ぬらす秋はきにけり みしふつき うゑしやまたに ひたはへて またそてぬらす あきはきにけり | 藤原俊成 | 秋上 |
8-新古 | 302 | あさきりやたつたの山のさとならて秋きにけりとたれかしらまし あさきりや たつたのやまの さとならて あききにけりと たれかしらまし | 藤原忠通 | 秋上 |
8-新古 | 303 | ゆふくれはおきふく風のをとまさるいまはたいかにねさめせられん ゆふくれは をきふくかせの おとまさる いまはたいかに ねさめせられむ | 具平親王 | 秋上 |
8-新古 | 304 | ゆふされはおきの葉むけをふくかせにことそともなく涙おちけり ゆふくれは をきのはむけを ふくかせに ことそともなく なみたおちけり | 徳大寺実定 | 秋上 |
8-新古 | 305 | おきの葉も契ありてや秋風のをとつれそむるつまとなりけん をきのはも ちきりありてや あきかせの おとつれそむる つまとなりけむ | 藤原俊成 | 秋上 |
8-新古 | 306 | 秋きぬと松ふく風もしらせけりかならすおきのうは葉ならねと あききぬと まつふくかせも しらせけり かならすをきの うははならねと | 七条院権大夫 | 秋上 |
8-新古 | 307 | 日をへつつをとこそまされいつみなるしのたのもりのちえの秋風 ひをへつつ おとこそまされ いつみなる しのたのもりの ちえのあきかせ | 藤原経衡 | 秋上 |
8-新古 | 308 | うたたねのあさけのそてにかはるなりならすあふきの秋のはつ風 うたたねの あさけのそてに かはるなり ならすあふきの あきのはつかせ | 式子内親王 | 秋上 |
8-新古 | 309 | てもたゆくならすあふきのをきところわするはかりに秋風そふく てもたゆく ならすあふきの おきところ わするはかりに あきかせそふく | 相模 | 秋上 |
8-新古 | 310 | 秋風はふきむすへともしらつゆのみたれてをかぬ草の葉そなき あきかせは ふきむすへとも しらつゆの みたれておかぬ くさのはそなき | 大弐三位 | 秋上 |
8-新古 | 311 | あさほらけおきのうは葉のつゆみれはややはたさむし秋のはつ風 あさほらけ をきのうははの つゆみれは ややはたさむし あきのはつかせ | 曽祢好忠 | 秋上 |
8-新古 | 312 | ふきむすふ風はむかしの秋なからありしにもにぬ袖のつゆかな ふきむすふ かせはむかしの あきなから ありしにもにぬ そてのつゆかな | 小野小町 | 秋上 |
8-新古 | 313 | おほそらをわれもなかめてひこほしのつままつよさへひとりかもねん おほそらを われもなかめて ひこほしの つままつよさへ ひとりかもねむ | 紀貫之 | 秋上 |
8-新古 | 314 | このゆふへふりつる雨はひこほしのとわたるふねのかいのしつくか このゆふへ ふりつるあめは ひこほしの とわたるふねの かいのしつくか | 山辺赤人 | 秋上 |
8-新古 | 315 | としをへてすむへきやとのいけみつはほしあひのかけもおもなれやせん としをへて すむへきやとの いけみつは ほしあひのかけも おもなれやせむ | 藤原長家 | 秋上 |
8-新古 | 316 | 袖ひちてわかてにむすふ水のおもにあまつほしあひのそらをみるかな そてひちて わかてにむすふ みつのおもに あまつほしあひの そらをみるかな | 藤原長能 | 秋上 |
8-新古 | 317 | 雲間よりほしあひのそらを見わたせはしつ心なきあまの河なみ くもまより ほしあひのそらを みわたせは しつこころなき あまのかはなみ | 祭主輔親 | 秋上 |
8-新古 | 318 | たなはたのあまのは衣うちかさねぬるよすすしき秋風そふく たなはたの あまのはころも うちかさね ぬるよすすしき あきかせそふく | 藤原高遠 | 秋上 |
8-新古 | 319 | たなはたの衣のつまは心してふきなかへしそ秋のはつ風 たなはたの ころものつまは こころして ふきなかへしそ あきのはつかせ | 小弁 | 秋上 |
8-新古 | 320 | たなはたのとわたる舟のかちの葉にいく秋かきつ露の玉つさ たなはたの とわたるふねの かちのはに いくあきかきつ つゆのたまつさ | 藤原俊成 | 秋上 |
8-新古 | 321 | なかむれは衣手すすしひさかたのあまのかはらの秋のゆふくれ なかむれは ころもてすすし ひさかたの あまのかはらの あきのゆふくれ | 式子内親王 | 秋上 |
8-新古 | 322 | いかはかり身にしみぬらんたなはたのつままつよゐのあまの河風 いかはかり みにしみぬらむ たなはたの つままつよひの あまのかはかせ | 藤原忠通 | 秋上 |
8-新古 | 323 | ほしあひのゆふへすすしきあまのかはもみちのはしをわたる秋風 ほしあひの ゆふへすすしき あまのかは もみちのはしを わたるあきかせ | 西園寺公経 | 秋上 |
8-新古 | 324 | たなはたのあふせたえせぬあまのかはいかなる秋かわたりそめけん たなはたの あふせたえせぬ あまのかは いかなるあきか わたりそめけむ | 待賢門院堀河 | 秋上 |
8-新古 | 325 | わくらはにあまの河なみよるなからあくるそらにはまかせすもかな わくらはに あまのかはなみ よるなから あくるそらには まかせすもかな | 女御徽子女王 | 秋上 |
8-新古 | 326 | いととしく思ひけぬへしたなはたのわかれの袖にをけるしらつゆ いととしく おもひけぬへし たなはたの わかれのそてに おけるしらつゆ | 大中臣能宣 | 秋上 |
8-新古 | 327 | たなはたはいまやわかるるあまのかは河きりたちてちとりなくなり たなはたは いまやわかるる あまのかは かはきりたちて ちとりなくなり | 紀貫之 | 秋上 |
8-新古 | 328 | 河水に鹿のしからみかけてけりうきてなかれぬ秋はきの花 かはみつに しかのしからみ かけてけり うきてなかれぬ あきはきのはな | 大江匡房 | 秋上 |
8-新古 | 329 | かり衣われとはすらしつゆふかき野はらのはきの花にまかせて かりころも われとはすらし つゆしけき のはらのはきの はなにまかせて | 源頼政 | 秋上 |
8-新古 | 330 | 秋はきをおらてはすきしつき草の花すり衣つゆにぬるとも あきはきを をらてはすきし つきくさの はなすりころも つゆにぬるとも | 権僧正永縁 | 秋上 |
8-新古 | 331 | はきか花ま袖にかけてたかまとのおのへの宮にひれふるやたれ はきかはな まそてにかけて たかまとの をのへのみやに ひれふるやたれ | 顕昭法師 | 秋上 |
8-新古 | 332 | をくつゆもしつ心なく秋風にみたれてさけるまののはきはら おくつゆも しつこころなく あきかせに みたれてさける まののはきはら | 祐子内親王家紀伊 | 秋上 |
8-新古 | 333 | 秋はきのさきちる野辺のゆふつゆにぬれつつきませよはふけぬとも あきはきの さきちるのへの ゆふつゆに ぬれつつきませ よはふけぬとも | 柿本人麿 | 秋上 |
8-新古 | 334 | さをしかのあさたつ野辺の秋はきにたまとみるまてをけるしらつゆ さをしかの あさたつのへの あきはきに たまとみるまて おけるしらつゆ | 大伴家持 | 秋上 |
8-新古 | 335 | 秋の野をわけゆくつゆにうつりつつわか衣手は花のかそする あきののを わけゆくつゆに うつりつつ わかころもては はなのかそする | 凡河内躬恒 | 秋上 |
8-新古 | 336 | たれをかもまつちの山のをみなへし秋とちきれる人そあるらし たれをかも まつちのやまの をみなへし あきとちきれる ひとそあるらし | 小野小町 | 秋上 |
8-新古 | 337 | をみなへし野辺のふるさとおもひいててやとりし虫の声やこひしき をみなへし のへのふるさと おもひいてて やとりしむしの こゑやこひしき | 藤原元真 | 秋上 |
8-新古 | 338 | ゆふされは玉ちるのへのをみなへしまくらさためぬ秋風そふく ゆふされは たまちるのへの をみなへし まくらさためぬ あきかせそふく | 左近中将良平 | 秋上 |
8-新古 | 339 | ふちはかまぬしはたれともしらつゆのこほれてにほふ野辺の秋風 ふちはかま ぬしはたれとも しらつゆの こほれてにほふ のへのあきかせ | 公猷法師 | 秋上 |
8-新古 | 340 | うすきりのまかきの花のあさしめり秋はゆふへとたれかいひけん うすきりの まかきのはなの あさしめり あきはゆふへと たれかいひけむ | 藤原清輔 | 秋上 |
8-新古 | 341 | いとかくや袖はしほれし野辺にいててむかしも秋の花はみしかと いとかくや そてはしをれし のへにいてて むかしもあきの はなはみしかと | 藤原俊成 | 秋上 |
8-新古 | 342 | 花見にと人やりならぬのへにきて心のかきりつくしつるかな はなみにと ひとやりならぬ のへにきて こころのかきり つくしつるかな | 源経信 | 秋上 |
8-新古 | 343 | をきて見んとおもひしほとにかれにけりつゆよりけなるあさかほの花 おきてみむと おもひしほとに かれにけり つゆよりけなる あさかほのはな | 曽祢好忠 | 秋上 |
8-新古 | 344 | 山かつのかきほにさけるあさかほはしののめならてあふよしもなし やまかつの かきほにさける あさかほは しののめならて あふよしもなし | 紀貫之 | 秋上 |
8-新古 | 345 | うらかるるあさちかはらのかるかやのみたれてものをおもふころかな うらかるる あさちかはらの かるかやの みたれてものを おもふころかな | 坂上是則 | 秋上 |
8-新古 | 346 | さをしかのいるののすすきはつお花いつしかいもかたまくらにせん さをしかの いるののすすき はつをはな いつしかいもか たまくらにせむ | 柿本人麿 | 秋上 |
8-新古 | 347 | をくら山ふもとののへの花すすきほのかに見ゆる秋の夕くれ をくらやま ふもとののへの はなすすき ほのかにみゆる あきのゆふくれ | 読人知らず | 秋上 |
8-新古 | 348 | ほのかにも風はふかなん花すすきむすほほれつつつゆにぬるとも ほのかにも かせはふかなむ はなすすき むすほほれつつ つゆにぬるとも | 女御徽子女王 | 秋上 |
8-新古 | 349 | 花すすき又つゆふかしほにいててなかめしとおもふ秋のさかりを はなすすき またつゆふかし ほにいてては なかめしとおもふ あきのさかりを | 式子内親王 | 秋上 |
8-新古 | 350 | 野辺ことにをとつれわたるあき風をあたにもなひく花すすき哉 のへことに おとつれわたる あきかせを あたにもなひく はなすすきかな | 八条院六条 | 秋上 |
8-新古 | 351 | あけぬとて野辺より山にいる鹿のあとふきをくる萩の下風 あけぬとて のへよりやまに いるしかの あとふきおくる はきのしたかせ | 久我通光 | 秋上 |
8-新古 | 352 | 身にとまるおもひをおきのうははにてこの比かなし夕くれの空 みにとまる おもひををきの うははにて このころかなし ゆふくれのそら | 慈円 | 秋上 |
8-新古 | 353 | 身のほとをおもひつつくるゆふくれのおきのうははに風わたるなり みのほとを おもひつつくる ゆふくれの をきのうははに かせわたるなり | 源行宗 | 秋上 |
8-新古 | 354 | 秋はたたものをこそおもへつゆかかるおきのうへふく風につけても あきはたた ものをこそおもへ つゆかかる をきのうへふく かせにつけても | 源重之女 | 秋上 |
8-新古 | 355 | 秋風のややはたさむくふくなへにおきのうは葉のをとそかなしき あきかせの ややはたさむく ふくなへに をきのうははの おとそかなしき | 藤原基俊 | 秋上 |
8-新古 | 356 | おきの葉にふけはあらしの秋なるをまちけるよはのさを鹿の声 をきのはに ふけはあらしの あきなるを まちけるよはの さをしかのこゑ | 九条良経 | 秋上 |
8-新古 | 357 | をしなへておもひしことのかすかすになを色まさる秋のゆふくれ おしなへて おもひしことの かすかすに なほいろまさる あきのゆふくれ | 読人知らず | 秋上 |
8-新古 | 358 | くれかかるむなしきそらの秋をみておほえすたまる袖のつゆかな くれかかる むなしきそらの あきをみて おほえすたまる そてのつゆかな | 読人知らず | 秋上 |
8-新古 | 359 | ものおもはてかかるつゆやは袖にをくなかめてけりな秋のゆふくれ ものおもはて かかるつゆやは そてにおく なかめてけりな あきのゆふくれ | 読人知らず | 秋上 |
8-新古 | 360 | み山ちやいつより秋の色ならん見さりし雲のゆふくれのそら みやまちや いつよりあきの いろならむ みさりしくもの ゆふくれのそら | 慈円 | 秋上 |
8-新古 | 361 | さひしさはその色としもなかりけりま木たつ山の秋のゆふくれ さひしさは そのいろとしも なかりけり まきたつやまの あきのゆふくれ | 寂蓮法師 | 秋上 |
8-新古 | 362 | こころなき身にも哀はしられけりしきたつさはの秋のゆふくれ こころなき みにもあはれは しられけり しきたつさはの あきのゆふくれ | 西行法師 | 秋上 |
8-新古 | 363 | 見わたせは花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋のゆふくれ みわたせは はなももみちも なかりけり うらのとまやの あきのゆふくれ | 藤原定家 | 秋上 |
8-新古 | 364 | たへてやはおもひありともいかかせんむくらのやとの秋のゆふくれ たへてやは おもひありとも いかかせむ むくらのやとの あきのゆふくれ | 飛鳥井雅経 | 秋上 |
8-新古 | 365 | おもふことさしてそれとはなきものを秋のゆふへを心にそとふ おもふこと さしてそれとは なきものを あきのゆふへを こころにそとふ | 宮内卿 | 秋上 |
8-新古 | 366 | 秋風のいたりいたらぬ袖はあらしたたわれからのつゆのゆふくれ あきかせの いたりいたらぬ そてはあらし たたわれからの つゆのゆふくれ | 鴨長明 | 秋上 |
8-新古 | 367 | おほつかな秋はいかなるゆへのあれはすすろにもののかなしかるらん おほつかな あきはいかなる ゆゑのあれは すすろにものの かなしかるらむ | 西行法師 | 秋上 |
8-新古 | 368 | それなからむかしにもあらぬ秋風にいととなかめをしつのをたまき それなから むかしにもあらぬ あきかせに いととなかめを しつのをたまき | 式子内親王 | 秋上 |
8-新古 | 369 | ひくらしのなくゆふくれそうかりけるいつもつきせぬ思なれとも ひくらしの なくゆふくれそ うかりける いつもつきせぬ おもひなれとも | 藤原長能 | 秋上 |
8-新古 | 370 | 秋くれはときはの山の松風もうつるはかりに身にそしみける あきくれは ときはのやまの まつかせも うつるはかりに みにそしみける | 和泉式部 | 秋上 |
8-新古 | 371 | 秋風のよそにふきくるをとは山なにの草木かのとけかるへき あきかせの よもにふきくる おとはやま なにのくさきか のとけかるへき | 曽祢好忠 | 秋上 |
8-新古 | 372 | 暁のつゆはなみたもととまらてうらむる風の声そのこれる あかつきの つゆはなみたも ととまらて うらむるかせの こゑそのこれる | 相模 | 秋上 |
8-新古 | 373 | たかまとののちのしのはらすゑさはきそそやこからしけふふきぬなり たかまとの のちのしのはら すゑさわき そそやこからし けふふきぬなり | 藤原基俊 | 秋上 |
8-新古 | 374 | ふかくさのさとの月かけさひしさもすみこしままののへの秋風 ふかくさの さとのつきかけ さひしさも すみこしままの のへのあきかせ | 堀川通具 | 秋上 |
8-新古 | 375 | おほあらきのもりの木のまをもりかねて人たのめなる秋のよの月 おほあらきの もりのこのまを もりかねて ひとたのめなる あきのよのつき | 藤原俊成女 | 秋上 |
8-新古 | 376 | ありあけの月まつやとは(は=の)袖のうへに人たのめなるよゐのいなつま ありあけの つきまつやとの そてのうへに ひとたのめなる よひのいなつま | 藤原家隆 | 秋上 |
8-新古 | 377 | 風わたるあさちかすゑのつゆにたにやとりもはてぬよゐのいなつま かせわたる あさちかすゑの つゆにたに やとりもはてぬ よひのいなつま | 藤原有家 | 秋上 |
8-新古 | 378 | むさし野やゆけとも秋のはてそなきいかなる風かすゑにふくらん むさしのや ゆけともあきの はてそなき いかなるかせか すゑにふくらむ | 久我通光 | 秋上 |
8-新古 | 379 | いつまてかなみたくもらて月は見し秋まちえても秋そこひしき いつまてか なみたくもらて つきはみし あきまちえても あきそこひしき | 慈円 | 秋上 |
8-新古 | 380 | なかめわひぬ秋よりほかのやともかな野にも山にも月やすむらん なかめわひぬ あきよりほかの やともかな のにもやまにも つきやすむらむ | 式子内親王 | 秋上 |
8-新古 | 381 | 月かけのはつ秋風とふけゆけは心つくしにものをこそおもへ つきかけの はつあきかせと ふけゆけは こころつくしに ものをこそおもへ | 円融院 | 秋上 |
8-新古 | 382 | あしひきの山のあなたにすむ人はまたてや秋の月をみるらん あしひきの やまのあなたに すむひとは またてやあきの つきをみるらむ | 三条院 | 秋上 |
8-新古 | 383 | しきしまやたかまと山のくもまより光さしそふゆみはりの月 しきしまや たかまとやまの くもまより ひかりさしそふ ゆみはりのつき | 堀河院 | 秋上 |
8-新古 | 384 | 人よりも心のかきりなかめつる月はたれともわかしものゆへ ひとよりも こころのかきり なかめつる つきはたれとも わかしものゆゑ | 藤原頼宗 | 秋上 |
8-新古 | 385 | あやなくもくもらぬよゐをいとふかなしのふのさとの秋のよの月 あやなくも くもらぬよひを いとふかな しのふのさとの あきのよのつき | 橘為仲 | 秋上 |
8-新古 | 386 | 風ふけはたまちるはきのしたつゆにはかなくやとる野辺の月かな かせふけは たまちるはきの したつゆに はかなくやとる のへのつきかな | 藤原忠通 | 秋上 |
8-新古 | 387 | こよひたれすすふく風を身にしめてよしののたけの月をみるらん こよひたれ すすふくかせを みにしめて よしののたけに つきをみるらむ | 源頼政 | 秋上 |
8-新古 | 388 | 月みれはおもひそあへぬ山たかみいつれのとしの雪にかあるらん つきみれは おもひそあへぬ やまたかみ いつれのとしの ゆきにかあるらむ | 藤原重家 | 秋上 |
8-新古 | 389 | にほのうみや月の光のうつろへはなみの花にも秋はみえけり にほのうみや つきのひかりの うつろへは なみのはなにも あきはみえけり | 藤原家隆 | 秋上 |
8-新古 | 390 | ふけゆかはけふりもあらししほかまのうらみなはてそ秋のよの月 ふけゆかは けふりもあらし しほかまの うらみなはてそ あきのよのつき | 慈円 | 秋上 |
8-新古 | 391 | ことはりの秋にはあへぬなみたかな月のかつらもかはるひかりに ことわりの あきにはあへぬ なみたかな つきのかつらも かはるひかりに | 藤原俊成女 | 秋上 |
8-新古 | 392 | なかめつつおもふもさひしひさかたの月のみやこのあけかたのそら なかめつつ おもふもさひし ひさかたの つきのみやこの あけかたのそら | 藤原家隆 | 秋上 |
8-新古 | 393 | ふるさとのもとあらのこはきさきしより夜な夜な庭の月そうつろふ ふるさとの もとあらのこはき さきしより よなよなにはの つきそうつろふ | 九条良経 | 秋上 |
8-新古 | 394 | 時しもあれふるさと人はをともせてみやまの月に秋風そふく ときしもあれ ふるさとひとは おともせて みやまのつきに あきかせそふく | 読人知らず | 秋上 |
8-新古 | 395 | ふかからぬとやまのいほのねさめたにさそな木のまの月はさひしき ふかからぬ とやまのいほの ねさめたに さそなこのまの つきはさひしき | 読人知らず | 秋上 |
8-新古 | 396 | 月はなをもらぬこのまもすみよしの松をつくして秋風そふく つきはなほ もらぬこのまも すみよしの まつをつくして あきかせそふく | 寂蓮法師 | 秋上 |
8-新古 | 397 | なかむれはちちにものおもふ月に又わか身ひとつの峯の松風 なかむれは ちちにものおもふ つきにまた わかみひとつの みねのまつかせ | 鴨長明 | 秋上 |
8-新古 | 398 | あしひきの山ちのこけのつゆのうへにねさめ夜ふかき月をみるかな あしひきの やまちのこけの つゆのうへに ねさめよふかき つきをみるかな | 藤原秀能 | 秋上 |
8-新古 | 399 | 心あるをしまのあまのたもとかな月やとれとはぬれぬものから こころある をしまのあまの たもとかな つきやとれとは ぬれぬものから | 宮内卿 | 秋上 |
8-新古 | 400 | わすれしななにはの秋のよはのそらことうらにすむ月はみるとも わすれしな なにはのあきの よはのそら ことうらにすむ つきはみるとも | 宜秋門院丹後 | 秋上 |
8-新古 | 401 | 松しまやしほくむあまの秋のそて月はものおもふならひのみかは まつしまや しほくむあまの あきのそて つきはものおもふ ならひのみかは | 鴨長明 | 秋上 |
8-新古 | 402 | こととはんのしまかさきのあま衣なみと月とにいかかしほるる こととはむ のしまかさきの あまころも なみとつきとに いかかしをるる | 七条院大納言 | 秋上 |
8-新古 | 403 | 秋のよの月やをしまのあまのはらあけかたちかきおきのつり舟 あきのよの つきやをしまの あまのはら あけかたちかき おきのつりふね | 藤原家隆 | 秋上 |
8-新古 | 404 | うき身にはなかむるかひもなかりけり心にくもる秋のよの月 うきみには なかむるかひも なかりけり こころにくもる あきのよのつき | 慈円 | 秋上 |
8-新古 | 405 | いつくにかこよひの月のくもるへきをくらの山もなをやかふらん いつくにか こよひのつきの くもるへき をくらのやまも なをやかふらむ | 大江千里 | 秋上 |
8-新古 | 406 | こころこそあくかれにけれ秋のよの夜ふかき月をひとりみしより こころこそ あくかれにけれ あきのよの よふかきつきを ひとりみしより | 源道済 | 秋上 |
8-新古 | 407 | かはらしなしるもしらぬも秋のよの月まつほとの心はかりは かはらしな しるもしらぬも あきのよの つきまつほとの こころはかりは | 上東門院小少将 | 秋上 |
8-新古 | 408 | たのめたる人はなけれと秋のよは月見てぬへき心ちこそせね たのめたる ひとはなけれと あきのよは つきみてぬへき ここちこそせね | 和泉式部 | 秋上 |
8-新古 | 409 | 見る人の袖をそしほる秋の夜は月にいかなるかけかそふらん みるひとの そてをそしほる あきのよは つきにいかなる かけかそふらむ | 藤原範永 | 秋上 |
8-新古 | 410 | 身にそへるかけとこそみれ秋の月袖にうつらぬおりしなけれは みにそへる かけとこそみれ あきのつき そてにうつらぬ をりしなけれは | 相模 | 秋上 |
8-新古 | 411 | 月かけのすみわたるかなあまのはら雲ふきはらふよはのあらしに つきかけの すみわたるかな あまのはら くもふきはらふ よはのあらしに | 源経信 | 秋上 |
8-新古 | 412 | たつた山よはにあらしの松ふけは雲にはうときみねの月かけ たつたやま よはにあらしの まつふけは くもにはうとき みねのつきかけ | 久我通光 | 秋上 |
8-新古 | 413 | 秋風にたなひく雲のたえまよりもれいつる月のかけのさやけさ あきかせに たなひくくもの たえまより もれいつるつきの かけのさやけさ | 藤原顕輔 | 秋上 |
8-新古 | 414 | 山の葉に雲のよこきるよゐのまはいてても月そなをまたれける やまのはに くものよこきる よひのまは いててもつきそ なほまたれける | 道因法師 | 秋上 |
8-新古 | 415 | なかめつつおもふにぬるるたもとかないくよかはみん秋のよの月 なかめつつ おもふもぬるる たもとかな いくよかはみむ あきのよのつき | 殷富門院大輔 | 秋上 |
8-新古 | 416 | よゐのまにさてもねぬへき月ならは山の葉ちかきものはおもはし よひのまに さてもねぬへき つきならは やまのはちかき ものはおもはし | 式子内親王 | 秋上 |
8-新古 | 417 | ふくるまてなかむれはこそかなしけれおもひもいれし秋のよの月 ふくるまて なかむれはこそ かなしけれ おもひもいれし あきのよのつき | 読人知らず | 秋上 |
8-新古 | 418 | 雲はみなはらひはてたる秋風を松にのこして月をみるかな くもはみな はらひはてたる あきかせを まつにのこして つきをみるかな | 九条良経 | 秋上 |
8-新古 | 419 | 月たにもなくさめかたき秋のよの心もしらぬ松の風かな つきたにも なくさめかたき あきのよの こころもしらぬ まつのかせかな | 読人知らず | 秋上 |
8-新古 | 420 | さむしろやまつよの秋の風ふけて月をかたしくうちのはしひめ さむしろや まつよのあきの かせふけて つきをかたしく うちのはしひめ | 藤原定家 | 秋上 |
8-新古 | 421 | 秋のよのなかきかひこそなかりけれまつにふけぬるありあけの月 あきのよの なかきかひこそ なかりけれ まつにふけぬる ありあけのつき | 花山院忠経 | 秋上 |
8-新古 | 422 | ゆくすゑはそらもひとつのむさし野にくさのはらよりいつる月かけ ゆくすゑは そらもひとつの むさしのに くさのはらより いつるつきかけ | 九条良経 | 秋上 |
8-新古 | 423 | 月をなをまつらんものかむらさめのはれゆく雲のすゑのさと人 つきをなほ まつらむものか むらさめの はれゆくくもの すゑのさとひと | 宮内卿 | 秋上 |
8-新古 | 424 | 秋のよはやとかる月もつゆなから袖にふきこすおきのうは風 あきのよは やとかるつきも つゆなから そてにふきこす をきのうはかせ | 堀川通具 | 秋上 |
8-新古 | 425 | 秋の月しのにやとかるかけたけてをささかはらにつゆふけにけり あきのつき しのにやとかる かけたけて をささかはらに つゆふけにけり | 源家長 | 秋上 |
8-新古 | 426 | 風わたる山田のいほをもる月やほなみにむすふこほりなるらん かせわたる やまたのいほを もるつきや ほなみにむすふ こほりなるらむ | 前太政大臣 | 秋上 |
8-新古 | 427 | かりのくるふしみのをたに夢さめてねぬよのいほに月をみるかな かりのくる ふしみのをたに ゆめさめて ねぬよのいほに つきをみるかな | 慈円 | 秋上 |
8-新古 | 428 | いな葉ふく風にまかせてすむいほは月そまことにもりあかしける いなはふく かせにまかせて すむいほは つきそまことに もりあかしける | 藤原俊成女 | 秋上 |
8-新古 | 429 | あくかれてねぬよのちりのつもるまて月にはらはぬとこのさむしろ あくかれて ねぬよのちりの つもるまて つきにはらはぬ とこのさむしろ | 読人知らず | 秋上 |
8-新古 | 430 | 秋の田のかりねのとこのいなむしろ月やとれともしけるつゆかな あきのたの かりねのとこの いなむしろ つきやとれとも しけるつゆかな | 大中臣定雅 | 秋上 |
8-新古 | 431 | あきの田にいほさすしつのとまをあらみ月とともにやもりあかすらん あきのたに いほさすしつの とまをあらみ つきとともにや もりあかすらむ | 藤原顕輔 | 秋上 |
8-新古 | 432 | 秋の色はまかきにうとくなりゆけとたまくらなるるねやの月かけ あきのいろは まかきにうとく なりゆけと たまくらなるる ねやのつきかけ | 式子内親王 | 秋上 |
8-新古 | 433 | あきのつゆやたもとにいたくむすふらんなかきよあかすやとる月かな あきのつゆや たもとにいたく むすふらむ なかきよあかす やとるつきかな | 太上天皇 | 秋上 |
8-新古 | 434 | さらにまたくれをたのめとあけにけり月はつれなき秋のよの空 さらにまた くれをたのめと あけにけり つきはつれなき あきのよのそら | 久我通光 | 秋上 |
8-新古 | 435 | おほかたに秋のねさめのつゆけくはまたたか袖にありあけの月 おほかたに あきのねさめの つゆけくは またたかそてに ありあけのつき | 二条院讃岐 | 秋上 |
8-新古 | 436 | はらひかねさこそはつゆのしけからめやとるか月の袖のせはきに はらひかね さこそはつゆの しけからめ やとるかつきの そてのせはきに | 飛鳥井雅経 | 秋上 |
8-新古 | 437 | したもみちかつちる山のゆふしくれぬれてやひとり鹿のなくらん したもみち かつちるやまの ゆふしくれ ぬれてやひとり しかのなくらむ | 藤原家隆 | 秋下 |
8-新古 | 438 | 山おろしに鹿のねたかくきこゆなりおのへの月にさよやふけぬる やまおろしに しかのねたかく きこゆなり をのへのつきに さよやふけぬる | 藤原実房 | 秋下 |
8-新古 | 439 | 野わきせしをののくさふしあれはててみ山にふかきさをしかの声 のわきせし をののくさふし あれはてて みやまにふかき さをしかのこゑ | 寂蓮法師 | 秋下 |
8-新古 | 440 | あらしふくまくすかはらになくしかはうらみてのみやつまをこふらん あらしふく まくすかはらに なくしかは うらみてのみや つまをこふらむ | 俊恵法師 | 秋下 |
8-新古 | 441 | つまこふる鹿のたちとをたつぬれはさ山かすそに秋風そふく つまこふる しかのたちとを たつぬれは さやまかすそに あきかせそふく | 大江匡房 | 秋下 |
8-新古 | 442 | み山への松のこすゑをわたるなりあらしにやとすさをしかの声 みやまへの まつのこすゑを わたるなり あらしにやとす さをしかのこゑ | 惟明親王 | 秋下 |
8-新古 | 443 | われならぬ人もあはれやまさるらん鹿なく山の秋の夕くれ われならぬ ひともあはれや まさるらむ しかなくやまの あきのゆふくれ | 源通親 | 秋下 |
8-新古 | 444 | たくへくる松のあらしやたゆむらんおのへにかへるさを鹿のこゑ たくへくる まつのあらしや たゆむらむ をのへにかへる さをしかのこゑ | 九条良経 | 秋下 |
8-新古 | 445 | なくしかのこゑにめさめてしのふかな見はてぬ夢の秋の思を なくしかの こゑにめさめて しのふかな みはてぬゆめの あきのおもひを | 慈円 | 秋下 |
8-新古 | 446 | よもすからつまとふ鹿のなくなへにこはきかはらのつゆそこほるる よもすから つまとふしかの なくなへに こはきかはらの つゆそこほるる | 藤原俊忠 | 秋下 |
8-新古 | 447 | ねさめしてひさしくなりぬ秋の夜はあけやしぬらん鹿そなくなる ねさめして ひさしくなりぬ あきのよは あけやしぬらむ しかそなくなる | 源道済 | 秋下 |
8-新古 | 448 | を山たのいほちかくなくしかのねにおとろかされておとろかすかな をやまたの いほちかくなく しかのねに おとろかされて おとろかすかな | 西行法師 | 秋下 |
8-新古 | 449 | 山さとのいな葉の風にねさめしてよふかく鹿のこゑをきくかな やまさとの いなはのかせに ねさめして よふかくしかの こゑをきくかな | 源師忠 | 秋下 |
8-新古 | 450 | ひとりねやいととさひしきさをしかのあさふすをののくすのうら風 ひとりねや いととさひしき さをしかの あさふすをのの くすのうらかせ | 藤原顕綱 | 秋下 |
8-新古 | 451 | たつた山こすゑまはらになるままにふかくもしかのそよくなるかな たつたやま こすゑまはらに なるままに ふかくもしかの そよくなるかな | 俊恵法師 | 秋下 |
8-新古 | 452 | すきてゆく秋のかたみにさをしかのをのかなくねもおしくやあるらん すきてゆく あきのかたみに さをしかの おのかなくねも をしくやあるらむ | 藤原長家 | 秋下 |
8-新古 | 453 | わきてなといほもる袖のしほるらんいな葉にかきる秋の風かは わきてなと いほもるそての しをるらむ いなはにかきる あきのかせかは | 慈円 | 秋下 |
8-新古 | 454 | 秋田もるかりいほつくりわかをれは衣手さむしつゆそをきける あきたもる かりいほつくり わかをれは ころもてさむし つゆそおきける | 読人知らず | 秋下 |
8-新古 | 455 | 秋くれはあさけの風の手をさむみ山田のひたをまかせてそきく あきくれは あさけのかせの てをさむみ やまたのひたを まかせてそきく | 大江匡房 | 秋下 |
8-新古 | 456 | ほとときすなくさみたれにうへし田をかりかねさむみ秋そくれぬる ほとときす なくさみたれに うゑしたを かりかねさむみ あきそくれぬる | 善滋為政 | 秋下 |
8-新古 | 457 | いまよりは秋風さむくなりぬへしいかてかひとりなかきよをねん いまよりは あきかせさむく なりぬへし いかてかひとり なかきよをねむ | 大伴家持 | 秋下 |
8-新古 | 458 | 秋されは雁のは風にしもふりてさむきよなよなしくれさへふる あきされは かりのはかせに しもふりて さむきよなよな しくれさへふる | 柿本人麿 | 秋下 |
8-新古 | 459 | さをしかのつまとふ山のをかへなるわさ田はからししもはをくとも さをしかの つまとふやまの をかへなる わさたはからし しもはおくとも | 読人知らず | 秋下 |
8-新古 | 460 | かりてほす山田のいねは袖ひちてうへしさなへとみえすもあるかな かりてほす やまたのいねは そてひちて うゑしさなへと みえすもあるかな | 紀貫之 | 秋下 |
8-新古 | 461 | 草葉にはたまとみえつつわひ人の袖の涙の秋のしらつゆ くさはには たまとみえつつ わひひとの そてのなみたの あきのしらつゆ | 菅贈太政大臣 | 秋下 |
8-新古 | 462 | わかやとのおはなかすゑにしらつゆのをきし日よりそ秋風もふく わかやとの をはなかすゑに しらつゆの おきしひよりそ あきかせもふく | 大伴家持 | 秋下 |
8-新古 | 463 | 秋といへは契をきてやむすふらんあさちかはらのけさのしらつゆ あきといへは ちきりおきてや むすふらむ あさちかはらの けさのしらつゆ | 恵慶法師 | 秋下 |
8-新古 | 464 | 秋されはをくしらつゆにわかやとのあさちかうは葉色つきにけり あきされは おくしらつゆに わかやとの あさちかうはは いろつきにけり | 柿本人麿 | 秋下 |
8-新古 | 465 | おほつかな野にも山にもしらつゆのなにことをかはおもひをくらん おほつかな のにもやまにも しらつゆの なにことをかは おもひおくらむ | 天暦 | 秋下 |
8-新古 | 466 | つゆしけみ野辺をわけつつから衣ぬれてそかへる花のしつくに つゆしけみ のへをわけつつ からころも ぬれてそかへる はなのしつくに | 藤原頼宗 | 秋下 |
8-新古 | 467 | 庭のおもにしけるよもきにことよせて心のままにをけるつゆかな にはのおもに しけるよもきに ことよせて こころのままに おけるつゆかな | 藤原基俊 | 秋下 |
8-新古 | 468 | 秋の野のくさ葉をしなみをくつゆにぬれてや人のたつねゆくらん あきののの くさはおしなひ おくつゆに ぬれてやひとの たつねゆくらむ | 藤原長実 | 秋下 |
8-新古 | 469 | ものおもふ袖よりつゆやならひけん秋風ふけはたへぬ物とは ものおもふ そてよりつゆや ならひけむ あきかせふけは たへぬものとは | 寂蓮法師 | 秋下 |
8-新古 | 470 | つゆは袖にものおもふころはさそなをくかならす秋のならひならねと つゆはそてに ものおもふころは さそなおく かならすあきの ならひならねと | 太上天皇 | 秋下 |
8-新古 | 471 | 野はらよりつゆのゆかりをたつねきてわか衣手に秋風そふく のはらより つゆのゆかりを たつねきて わかころもてに あきかせそふく | 読人知らず | 秋下 |
8-新古 | 472 | きりきりすよさむに秋のなるままによはるか声のとをさかりゆく きりきりす よさむにあきの なるままに よわるかこゑの とほさかりゆく | 西行法師 | 秋下 |
8-新古 | 473 | むしのねもなかきよあかぬふるさとになをおもひそふ松風そふく むしのねも なかきよあかぬ ふるさとに なほおもひそふ まつかせそふく | 藤原家隆 | 秋下 |
8-新古 | 474 | あともなき庭のあさちにむすほほれつゆのそこなる松むしのこゑ あともなき にはのあさちに むすほほれ つゆのそこなる まつむしのこゑ | 式子内親王 | 秋下 |
8-新古 | 475 | 秋風は身にしむはかりふきにけりいまやうつらんいもかさ衣 あきかせは みにしむはかり ふきにけり いまやうつらむ いもかさころも | 藤原輔尹 | 秋下 |
8-新古 | 476 | 衣うつをとはまくらにすかはらやふしみの夢をいくよのこしつ ころもうつ おとはまくらに すかはらや ふしみのゆめを いくよのこしつ | 慈円 | 秋下 |
8-新古 | 477 | ころもうつね山のいほのしはしはもしらぬ夢ちにむすふたまくら ころもうつ ねやまのいほの しはしはも しらぬゆめちに むすふたまくら | 西園寺公経 | 秋下 |
8-新古 | 478 | さとはあれて月やあらぬとうらみてもたれあさちふに衣うつらん さとはあれて つきやあらぬと うらみても たれあさちふに ころもうつらむ | 九条良経 | 秋下 |
8-新古 | 479 | まとろまてなかめよとてのすさひかなあさのさ衣月にうつこゑ まとろまて なかめよとての すさひかな あさのさころも つきにうつこゑ | 宮内卿 | 秋下 |
8-新古 | 480 | 秋とたにわすれんとおもふ月かけをさもあやにくにうつ衣かな あきとたに わすれむとおもふ つきかけを さもあやにくに うつころもかな | 藤原定家 | 秋下 |
8-新古 | 481 | ふるさとに衣うつとはゆくかりやたひのそらにもなきてつくらん ふるさとに ころもうつとは ゆくかりや たひのそらにも なきてつくらむ | 源経信 | 秋下 |
8-新古 | 482 | 雁なきてふく風さむみから衣君まちかてにうたぬよそなき かりなきて ふくかせさむみ からころも きみまちかてに うたぬよそなき | 紀貫之 | 秋下 |
8-新古 | 483 | みよしのの山の秋風さよふけてふるさとさむく衣うつなり みよしのの やまのあきかせ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり | 飛鳥井雅経 | 秋下 |
8-新古 | 484 | ちたひうつきぬたのをとに夢さめてものおもふ袖のつゆそくたくる ちたひうつ きぬたのおとに ゆめさめて ものおもふそての つゆそくたくる | 式子内親王 | 秋下 |
8-新古 | 485 | ふけにけり山のはちかく月さえてとをちのさとに衣うつ声 ふけにけり やまのはちかく つきさえて とをちのさとに ころもうつこゑ | 読人知らず | 秋下 |
8-新古 | 486 | 秋はつるさよふけかたの月みれは袖ものこらすつゆそをきける あきはつる さよふけかたの つきみれは そてものこらす つゆそおきける | 藤原道信 | 秋下 |
8-新古 | 487 | ひとりぬる山とりのおのしたりおにしもをきまよふとこの月かけ ひとりぬる やまとりのをの したりをに しもおきまよふ とこのつきかけ | 藤原定家 | 秋下 |
8-新古 | 488 | ひとめ見し野辺のけしきはうらかれてつゆのよすかにやとる月かな ひとめみし のへのけしきは うらかれて つゆのよすかに やとるつきかな | 寂蓮法師 | 秋下 |
8-新古 | 489 | 秋の夜は衣さむしろかさねても月の光にしく物そなき あきのよは ころもさむしろ かさねても つきのひかりに しくものそなき | 源経信 | 秋下 |
8-新古 | 490 | あきのよははや長月になりにけりことはりなりやねさめせらるる あきのよは はやなかつきに なりにけり ことわりなりや ねさめせらるる | 華山院 | 秋下 |
8-新古 | 491 | むらさめのつゆもまたひぬまきの葉にきりたちのほる秋の夕くれ むらさめの つゆもまたひぬ まきのはに きりたちのほる あきのゆふくれ | 寂蓮法師 | 秋下 |
8-新古 | 492 | さひしさはみやまの秋のあさくもりきりにしほるるまきのしたつゆ さひしさは みやまのあきの あさくもり きりにしをるる まきのしたつゆ | 太上天皇 | 秋下 |
8-新古 | 493 | あけほのや河せのなみのたかせ舟くたすか人の袖の秋きり あけほのや かはせのなみの たかせふね くたすかひとの そてのあききり | 久我通光 | 秋下 |
8-新古 | 494 | ふもとをはうちの河きりたちこめて雲井に見ゆる朝日山かな ふもとをは うちのかはきり たちこめて くもゐにみゆる あさひやまかな | 権藤原公実 | 秋下 |
8-新古 | 495 | 山さとにきりのまかきのへたてすはをちかた人の袖もみてまし やまさとに きりのまかきの へたてすは をちかたひとの そてもみてまし | 曽祢好忠 | 秋下 |
8-新古 | 496 | なくかりのねをのみそきくをくら山きりたちはるる時しなけれは なくかりの ねをのみそきく をくらやま きりたちはるる ときしなけれは | 清原深養父 | 秋下 |
8-新古 | 497 | かきほなるおきの葉そよき秋風のふくなるなへに雁そなくなる かきほなる をきのはそよき あきかせの ふくなるなへに かりそなくなる | 柿本人麿 | 秋下 |
8-新古 | 498 | 秋風に山とひこゆるかりかねのいやとをさかり雲かくれつつ あきかせに やまとひこゆる かりかねの いやとほさかり くもかくれつつ | 読人知らず | 秋下 |
8-新古 | 499 | はつかりのは風すすしくなるなへにたれかたひねの衣かへさぬ はつかりの はかせすすしく なるなへに たれかたひねの ころもかへさぬ | 凡河内躬恒 | 秋下 |
8-新古 | 500 | かりかねは風にきおひてすくれともわかまつ人のことつてもなし かりかねは かせにきほひて すくれとも わかまつひとの ことつてもなし | 読人知らず | 秋下 |
8-新古 | 501 | よこ雲の風にわかるるしののめに山とひこゆるはつかりの声 よこくもの かせにわかるる しののめに やまとひこゆる はつかりのこゑ | 西行法師 | 秋下 |
8-新古 | 502 | 白雲をつはさにかけてゆくかりのかと田のおものともしたふなる しらくもを つはさにかけて ゆくかりの かとたのおもの ともしたふなり | 読人知らず | 秋下 |
8-新古 | 503 | おほえ山かたふく月のかけさえてとは田のおもにおつるかりかね おほえやま かたふくつきの かけさえて とはたのおもに おつるかりかね | 慈円 | 秋下 |
8-新古 | 504 | むら雲や雁のはかせにはれぬらん声きくそらにすめる月かけ むらくもや かりのはかせに はれぬらむ こゑきくそらに すめるつきかけ | 朝恵法師 | 秋下 |
8-新古 | 505 | ふきまよふ雲井をわたるはつかりのつはさにならすよもの秋風 ふきまよふ くもゐをわたる はつかりの つはさにならす よものあきかせ | 藤原俊成女 | 秋下 |
8-新古 | 506 | 秋風の袖にふきまく峯の雲をつはさにかけて雁もなくなり あきかせの そてにふきまく みねのくもを つはさにかけて かりもなくなり | 藤原家隆 | 秋下 |
8-新古 | 507 | 霜をまつまかきのきくのよゐのまにをきまよふ色は山の葉の月 しもをまつ まかきのきくの よひのまに おきまよふいろは やまのはのつき | 宮内卿 | 秋下 |
8-新古 | 508 | ここのへにうつろひぬともきくの花もとのまかきをおもひわするな ここのへに うつろひぬとも きくのはな もとのまかきを おもひわするな | 源有仁室 | 秋下 |
8-新古 | 509 | いまよりは又さくはなもなきものをいたくなをきそきくのうへのつゆ いまよりは またさくはなも なきものを いたくなおきそ きくのうへのつゆ | 藤原定頼 | 秋下 |
8-新古 | 510 | 秋風にしほるる野への花よりもむしのねいたくかれにけるかな あきかせに しをるるのへの はなよりも むしのねいたく かれにけるかな | 具平親王 | 秋下 |
8-新古 | 511 | ねさめする袖さへさむく秋のよのあらしふくなり松むしのこゑ ねさめする そてさへさむく あきのよの あらしふくなり まつむしのこゑ | 大江嘉言 | 秋下 |
8-新古 | 512 | 秋をへてあはれもつゆもふかくさのさととふものはうつらなりけり あきをへて あはれもつゆも ふかくさの さととふものは うつらなりけり | 慈円 | 秋下 |
8-新古 | 513 | いり日さすふもとのおはなうちなひきたか秋風にうつらなくらん いりひさす ふもとのをはな うちなひき たかあきかせに うつらなくらむ | 久我通光 | 秋下 |
8-新古 | 514 | あたにちるつゆのまくらにふしわひてうつらなくなりとこの山風 あたにちる つゆのまくらに ふしわひて うつらなくなり とこのやまかせ | 藤原俊成女 | 秋下 |
8-新古 | 515 | とふ人もあらしふきそふ秋はきてこの葉にうつむやとのみちしは とふひとも あらしふきそふ あきはきて このはにうつむ やとのみちしは | 読人知らず | 秋下 |
8-新古 | 516 | 色かはるつゆをは袖にをきまよひうらかれてゆく野辺の秋かな いろかはる つゆをはそてに おきまよひ うらかれてゆく のへのあきかせ | 読人知らず | 秋下 |
8-新古 | 517 | あきふけぬなけやしもよのきりきりすややかけさむしよもきふの月 あきふけぬ なけやしもよの きりきりす ややかけさむし よもきふのつき | 太上天皇 | 秋下 |
8-新古 | 518 | きりきりすなくやしもよのさむしろに衣かたしきひとりかもねん きりきりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねむ | 九条良経 | 秋下 |
8-新古 | 519 | ねさめする長月のよのとこさむみけさふく風にしもやをくらん ねさめする なかつきのよの とこさむみ けさふくかせに しもやおくらむ | 徳大寺公継 | 秋下 |
8-新古 | 520 | 秋ふかきあはちの嶋のありあけにかたふく月ををくる浦風 あきふかき あはちのしまの ありあけに かたふくつきを おくるうらかせ | 慈円 | 秋下 |
8-新古 | 521 | なか月もいくありあけになりぬらんあさちの月のいととさひゆく なかつきも いくありあけに なりぬらむ あさちのつきの いととさひゆく | 読人知らず | 秋下 |
8-新古 | 522 | かささきの雲のかけはし秋くれて夜半には霜やさえわたるらん かささきの くものかけはし あきくれて よはにはしもや さえわたるらむ | 寂蓮法師 | 秋下 |
8-新古 | 523 | いつのまにもみちしぬらん山桜きのふか花のちるをおしみし いつのまに もみちしぬらむ やまさくら きのふかはなの ちるををしみし | 具平親王 | 秋下 |
8-新古 | 524 | うすきりのたちまふ山のもみちははさやかならねとそれとみえけり うすきりの たちまふやまの もみちはは さやかならねと それとみえけり | 高倉院 | 秋下 |
8-新古 | 525 | 神なひのみむろのこすゑいかならんなへての山もしくれする比 かみなひの みむろのこすゑ いかならむ なへてのやまも しくれするころ | 八条院高倉 | 秋下 |
8-新古 | 526 | すすか河ふかき木の葉に日かすへて山田のはらの時雨をそきく すすかかは ふかきこのはに ひかすへて やまたのはらの しくれをそきく | 太上天皇 | 秋下 |
8-新古 | 527 | 心とやもみちはすらんたつた山松はしくれにぬれぬものかは こころとや もみちはすらむ たつたやま まつはしくれに ぬれぬものかは | 藤原俊成 | 秋下 |
8-新古 | 528 | おもふことなくてそ見ましもみちはをあらしの山のふもとならすは おもふこと なくてやみまし もみちはを あらしのやまの ふもとならすは | 藤原輔尹 | 秋下 |
8-新古 | 529 | いり日さすさほの山へのははそはらくもらぬ雨とこの葉ふりつつ いりひさす さほのやまへの ははそはら くもらぬあめと このはふりつつ | 曽祢好忠 | 秋下 |
8-新古 | 530 | たつた山あらしや峯によはるらんわたらぬ水もにしきたえけり たつたやま あらしやみねに よわるらむ わたらぬみつも にしきたえけり | 宮内卿 | 秋下 |
8-新古 | 531 | ははそはらしつくも色やかはるらんもりのした草秋ふけにけり ははそはら しつくもいろや かはるらむ もりのしたくさ あきふけにけり | 九条良経 | 秋下 |
8-新古 | 532 | 時わかぬなみさへ色にいつみかはははそのもりに嵐ふくらし ときわかぬ なみさへいろに いつみかは ははそのもりに あらしふくらし | 藤原定家 | 秋下 |
8-新古 | 533 | ふるさとはちるもみち葉にうつもれてのきのしのふに秋風そふく ふるさとは ちるもみちはに うつもれて のきのしのふに あきかせそふく | 源俊頼 | 秋下 |
8-新古 | 534 | きりの葉もふみわけかたくなりにけりかならす人をまつとなけれと きりのはも ふみわけかたく なりにけり かならすひとを まつとなけれと | 式子内親王 | 秋下 |
8-新古 | 535 | 人はこす風にこのははちりはててよなよなむしはこゑよはるなり ひとはこす かせにこのはは ちりはてて よなよなむしは こゑよわるなり | 曽祢好忠 | 秋下 |
8-新古 | 536 | もみちはのいろにまかせてときは木も風にうつろふ秋の山かな もみちはの いろにまかせて ときはきも かせにうつろふ あきのやまかな | 徳大寺公継 | 秋下 |
8-新古 | 537 | つゆ時雨もる山かけのしたもみちぬるともおらん秋のかたみに つゆしくれ もるやまかけの したもみち ぬるともをらむ あきのかたみに | 藤原家隆 | 秋下 |
8-新古 | 538 | 松にはふまさのはかつらちりにけりと山の秋は風すさふらん まつにはふ まさきのかつら ちりにけり とやまのあきは かせすさふらむ | 西行法師 | 秋下 |
8-新古 | 539 | うつらなくかた野にたてるはしもみちちりぬはかりに秋風そふく うつらなく かたのにたてる はしもみち ちらぬはかりに あきかせそふく | 藤原親隆 | 秋下 |
8-新古 | 540 | ちりかかるもみちの色はふかけれとわたれはにこる山かはの水 ちりかかる もみちのいろは ふかけれと わたれはにこる やまかはのみつ | 二条院讃岐 | 秋下 |
8-新古 | 541 | あすか河もみちはなかるかつらきの山の秋風ふきそしくらし あすかかは もみちはなかる かつらきの やまのあきかせ ふきそしくらし | 柿本人麿 | 秋下 |
8-新古 | 542 | あすか河せせになみよるくれなゐやかつらき山のこからしの風 あすかかは せせになみよる くれなゐや かつらきやまの こからしのかせ | 藤原長方 | 秋下 |
8-新古 | 543 | もみちはをさこそあらしのはらふらめこの山本も雨とふるなり もみちはを さこそあらしの はらふらめ このやまもとも あめとふるなり | 西園寺公経 | 秋下 |
8-新古 | 544 | たつたひめいまはのころのあき風に時雨をいそく人の袖かな たつたひめ いまはのころの あきかせに しくれをいそく ひとのそてかな | 九条良経 | 秋下 |
8-新古 | 545 | ゆく秋のかたみなるへきもみちははあすはしくれとふりやまかはん ゆくあきの かたみなるへき もみちはも あすはしくれと ふりやまかはむ | 中山兼宗 | 秋下 |
8-新古 | 546 | うちむれてちるもみちはをたつぬれは山ちよりこそ秋はゆきけれ うちむれて ちるもみちはを たつぬれは やまちよりこそ あきはゆきけれ | 藤原公任 | 秋下 |
8-新古 | 547 | 夏草のかりそめにとてこしやともなにはの浦に秋そくれぬる なつくさの かりそめにとて こしやとも なにはのうらに あきそくれぬる | 能因法師 | 秋下 |
8-新古 | 548 | かくしつつくれぬる秋とおいぬれとしかすかになを物そかなしき かくしつつ くれぬるあきと おいぬれと しかすかになほ ものそかなしき | 読人知らず | 秋下 |
8-新古 | 549 | 身にかへていささは秋をおしみみんさらてももろきつゆのいのちを みにかへて いささはあきを をしみみむ さらてももろき つゆのいのちを | 守覚法親王 | 秋下 |
8-新古 | 550 | なへてよのおしさにそへておしむかな秋より後の秋のかきりを なへてよの をしさにそへて をしむかな あきよりのちの あきのかきりを | 前太政大臣 | 秋下 |
8-新古 | 551 | をきあかす秋のわかれのそてのつゆ霜こそむすへ冬やきぬらん おきあかす あきのわかれの そてのつゆ しもこそむすへ ふゆやきぬらむ | 藤原俊成 | 冬 |
8-新古 | 552 | 神な月風にもみちのちるときはそこはかとなく物そかなしき かみなつき かせにもみちの ちるときは そこはかとなく ものそかなしき | 藤原高光 | 冬 |
8-新古 | 553 | なとりかはやなせの浪そさはくなるもみちやいととよりてせくらん なとりかは やなせのなみそ さわくなる もみちやいとと よりてせくらむ | 源重之 | 冬 |
8-新古 | 554 | いかたしよまてこととはんみなかみはいかはかりふく山のあらしそ いかたしよ まてこととはむ みなかみは いかはかりふく やまのあらしそ | 藤原資宗 | 冬 |
8-新古 | 555 | ちりかかるもみちなかれぬ大井かはいつれ井せきの水のしからみ ちりかかる もみちなかれぬ おほゐかは いつれゐせきの みつのしからみ | 源経信 | 冬 |
8-新古 | 556 | たかせ舟しふくはかりにもみちはのなかれてくたる大井河かな たかせふね しふくはかりに もみちはの なかれてくたる おほゐかはかな | 藤原家経 | 冬 |
8-新古 | 557 | 日くるれはあふ人もなしまさきちる峯のあらしのをとはかりして ひくるれは あふひともなし まさきちる みねのあらしの おとはかりして | 源俊頼 | 冬 |
8-新古 | 558 | をのつからをとする物は庭のおもにこの葉ふきまく谷のゆふ風 おのつから おとするものは にはのおもに このはふりしく たにのゆふかせ | 藤原清輔 | 冬 |
8-新古 | 559 | 木の葉ちるやとにかたしく袖の色をありともしらてゆく嵐かな このはちる やとにかたしく そてのいろを ありともしらて ゆくあらしかな | 慈円 | 冬 |
8-新古 | 560 | このはちるしくれやまかふわか袖にもろき涙のいろとみるまて このはちる しくれやまかふ わかそてに もろきなみたの いろとみるまて | 堀川通具 | 冬 |
8-新古 | 561 | うつりゆく雲に嵐のこゑすなりちるかまさ木のかつらきの山 うつりゆく くもにあらしの こゑすなり ちるかまさきの かつらきのやま | 飛鳥井雅経 | 冬 |
8-新古 | 562 | はつ時雨しのふの山のもみちはをあらしふけとはそめすや有けん はつしくれ しのふのやまの もみちはを あらしふけとは そめすやありけむ | 七条院大納言 | 冬 |
8-新古 | 563 | しくれつつ袖もほしあへすあしひきの山のこの葉に嵐ふく比 しくれつつ そてもほしあへす あしひきの やまのこのはに あらしふくころ | 信濃 | 冬 |
8-新古 | 564 | 山さとの風すさましきゆふくれに木の葉みたれて物そかなしき やまさとの かせすさましき ゆふくれに このはみたれて ものそかなしき | 藤原秀能 | 冬 |
8-新古 | 565 | 冬のきて山もあらはに木のはふりのこる松さへ峯にさひしき ふゆのきて やまもあらはに このはふり のこるまつさへ みねにさひしき | 祝部成茂 | 冬 |
8-新古 | 566 | からにしき秋のかたみやたつた山ちりあへぬえたに嵐ふくなり からにしき あきのかたみや たつたやま ちりあへぬえたに あらしふくなり | 宮内卿 | 冬 |
8-新古 | 567 | 時雨かときけはこの葉のふる物をそれにもぬるるわかたもとかな しくれかと きけはこのはの ふるものを それともぬるる わかたもとかな | 藤原資隆 | 冬 |
8-新古 | 568 | 時しもあれ冬ははもりの神な月まはらになりぬもりのかしは木 ときしもあれ ふゆははもりの かみなつき まはらになりぬ もりのかしはき | 法眼慶算 | 冬 |
8-新古 | 569 | いつのまにそらのけしきのかはるらんはけしきけさのこからしの風 いつのまに そらのけしきの かはるらむ はけしきけさの こからしのかせ | 津守国基 | 冬 |
8-新古 | 570 | 月をまつたかねの雲ははれにけり心あるへきはつしくれかな つきをまつ たかねのくもは はれにけり こころあるへき はつしくれかな | 西行法師 | 冬 |
8-新古 | 571 | 神な月木々のこの葉はちりはてて庭にそ風のをとはきこゆる かみなつき ききのこのはは ちりはてて にはにそかせの おとはきこゆる | 前大僧正覚忠 | 冬 |
8-新古 | 572 | しはのとにいり日のかけはさしなからいかにしくるる山辺なるらん しはのとに いりひのかけは さしなから いかにしくるる やまへなるらむ | 藤原清輔 | 冬 |
8-新古 | 573 | 雲はれてのちもしくるるしはのとや山風はらふ松のした露 くもはれて のちもしくるる しはのとや やまかせはらふ まつのしたつゆ | 藤原隆信 | 冬 |
8-新古 | 574 | 神無月しくれふるらしさほ山のまさきのかつら色まさりゆく かみなつき しくれふるらし さほやまの まさきのかつら いろまさりゆく | 読人知らず | 冬 |
8-新古 | 575 | こからしのをとに時雨をききわかてもみちにぬるるたもととそ見る こからしの おとにしくれを ききわかて もみちにぬるる たもととそみる | 具平親王 | 冬 |
8-新古 | 576 | しくれふるをとはすれともくれたけのなとよとともにいろもかはらぬ しくれふる おとはすれとも くれたけの なとよとともに いろもかはらぬ | 藤原兼輔 | 冬 |
8-新古 | 577 | しくれの雨そめかねてけり山しろのときはのもりのまきの下葉は しくれのあめ そめかねてけり やましろの ときはのもりの まきのしたはは | 能因法師 | 冬 |
8-新古 | 578 | 冬をあさみまたくしくれと思しをたえさりけりな老の涙も ふゆをあさみ またきしくれを おもひしを たえさりけりな おいのなみたも | 清原元輔 | 冬 |
8-新古 | 579 | まはらなるしはのいほりにたひねして時雨にぬるるさよ衣かな まはらなる しはのいほりに たひねして しくれにぬるる さよころもかな | 後白河院 | 冬 |
8-新古 | 580 | やよしくれ物思袖のなかりせはこの葉の後になにをそめまし やよしくれ ものおもふそての なかりせは このはののちに なにをそめまし | 慈円 | 冬 |
8-新古 | 581 | ふかみとりあらそひかねていかならんまなく時雨のふるの神すき ふかみとり あらそひかねて いかならむ まなくしくれの ふるのかみすき | 太上天皇 | 冬 |
8-新古 | 582 | しくれの雨まなくしふれはま木の葉もあらそひかねて色つきにけり しくれのあめ まなくしふれは まきのはも あらそひかねて いろつきにけり | 柿本人麿 | 冬 |
8-新古 | 583 | 世中になをもふるかなしくれつつ雲間の月のいてやとおもへと よのなかに なほもふるかな しくれつつ くもまのつきの いてやとおもへは | 和泉式部 | 冬 |
8-新古 | 584 | おりこそあれなかめにかかるうき雲の袖もひとつにうちしくれつつ をりこそあれ なかめにかかる うきくもの そてもひとつに うちしくれつつ | 二条院讃岐 | 冬 |
8-新古 | 585 | あきしのやと山のさとやしくるらんいこまのたけに雲のかかれる あきしのや とやまのさとや しくるらむ いこまのたけに くものかかれる | 西行法師 | 冬 |
8-新古 | 586 | はれくもり時雨はさためなき物をふりはてぬるはわか身なりけり はれくもり しくれはさため なきものを ふりはてぬるは わかみなりけり | 道因法師 | 冬 |
8-新古 | 587 | いまは又ちらてもまかふ時雨かなひとりふりゆく庭の松風 いまはまた ちらてもまかふ しくれかな ひとりふりゆく にはのまつかせ | 源具親 | 冬 |
8-新古 | 588 | みよしのの山かきくもり雪ふれはふもとのさとはうちしくれつつ みよしのの やまかきくもり ゆきふれは ふもとのさとは うちしくれつつ | 俊恵法師 | 冬 |
8-新古 | 589 | まきのやに時雨のをとのかはるかなもみちやふかくちりつもるらん まきのやに しくれのおとの かはるかな もみちやふかく ちりつもるらむ | 藤原実房 | 冬 |
8-新古 | 590 | 世にふるはくるしき物をま木のやにやすくもすくるはつ時雨かな よにふるは くるしきものを まきのやに やすくもすくる はつしくれかな | 二条院讃岐 | 冬 |
8-新古 | 591 | ほの/\とありあけの月の月かけにもみちふきおろす山おろしの風 ほのほのと ありあけのつきの つきかけに もみちふきおろす やまおろしのかせ | 源信明 | 冬 |
8-新古 | 592 | もみち葉をなにおしみけん木のまよりもりくる月はこよひこそみれ もみちはを なにをしみけむ このまより もりくるつきは こよひこそみれ | 具平親王 | 冬 |
8-新古 | 593 | ふきはらふあらしののちのたかねよりこの葉くもらて月やいつらん ふきはらふ あらしののちの たかねより このはくもらて つきやいつらむ | 宜秋門院丹後 | 冬 |
8-新古 | 594 | 霜こほる袖にもかけはのこりけりつゆよりなれしありあけの月 しもこほる そてにもかけは のこりけり つゆよりなれし ありあけのつき | 堀川通具 | 冬 |
8-新古 | 595 | なかめつついくたひ袖にくもるらん時雨にふくる有あけの月 なかめつつ いくたひそてに くもるらむ しくれにふくる ありあけのつき | 藤原家隆 | 冬 |
8-新古 | 596 | さためなくしくるるそらのむら雲にいくたひおなし月をまつらん さためなく しくるるそらの むらくもに いくたひおなし つきをまつらむ | 源泰光 | 冬 |
8-新古 | 597 | いまよりは木の葉かくれもなけれともしくれにのこるむら雲の月 いまよりは このはかくれも なけれとも しくれにのこる むらくものつき | 源具親 | 冬 |
8-新古 | 598 | はれくもるかけをみやこにさきたててしくるとつくる山の葉の月 はれくもる かけをみやこに さきたてて しくるとつくる やまのはのつき | 読人知らず | 冬 |
8-新古 | 599 | たえ/\にさとわく月のひかりかなしくれををくる夜はのむらくも たえたえに さとわくつきの ひかりかな しくれをかくる よはのむらくも | 寂蓮法師 | 冬 |
8-新古 | 600 | いまはとてねなまし物をしくれつるそらとも見えすすめる月かな いまはとて ねなましものを しくれつる そらともみえす すめるつきかな | 良暹法師 | 冬 |
8-新古 | 601 | つゆしものよはにおきゐて冬のよの月みるほとに袖はこほりぬ つゆしもの よはにおきゐて ふゆのよの つきみるほとに そてはこほりぬ | 曽祢好忠 | 冬 |
8-新古 | 602 | もみちははをのかそめたる色そかしよそけにをけるけさの霜かな もみちはは おのかそめたる いろそかし よそけにおける けさのしもかな | 慈円 | 冬 |
8-新古 | 603 | をくら山ふもとのさとにこの葉ちれはこすゑにはるる月をみるかな をくらやま ふもとのさとに このはちれは こすゑにはるる つきをみるかな | 西行法師 | 冬 |
8-新古 | 604 | 秋の色をはらひはててやひさかたの月のかつらにこからしの風 あきのいろを はらひはててや ひさかたの つきのかつらに こからしのかせ | 飛鳥井雅経 | 冬 |
8-新古 | 605 | 風さむみ木の葉はれゆくよな/\にのこるくまなき庭の月かけ かせさむみ このははれゆく よなよなに のこるくまなき にはのつきかけ | 式子内親王 | 冬 |
8-新古 | 606 | わかかとのかり田のねやにふすしきのとこあらはなる冬のよの月 わかかとの かりたのねやに ふすしきの とこあらはなる ふゆのよのつき | 殷富門院大輔 | 冬 |
8-新古 | 607 | 冬かれのもりのくち葉の霜のうへにおちたる月のかけのさむけさ ふゆかれの もりのくちはの しものうへに おちたるつきの かけのさむけさ | 藤原清輔 | 冬 |
8-新古 | 608 | さえわひてさむるまくらにかけみれは霜ふかきよの有あけの月 さえわひて さむるまくらに かけみれは しもふかきよの ありあけのつき | 藤原俊成女 | 冬 |
8-新古 | 609 | 霜むすふ袖のかたしきうちとけてねぬよの月のかけそさむけき しもむすふ そてのかたしき うちとけて ねぬよのつきの かけそさむけき | 堀川通具 | 冬 |
8-新古 | 610 | かけとめしつゆのやとりを思いてて霜にあととふあさちふの月 かけとめし つゆのやとりを おもひいてて しもにあととふ あさちふのつき | 飛鳥井雅経 | 冬 |
8-新古 | 611 | かたしきの袖をや霜にかさぬらん月によかるるうちのはしひめ かたしきの そてをやしもに かさぬらむ つきによかるる うちのはしひめ | 法印幸清 | 冬 |
8-新古 | 612 | なつかりのおきのふるえはかれにけりむれゐし鳥はそらにやあるらん なつかりの をきのふるえは かれにけり むれゐしとりは そらにやあるらむ | 源重之 | 冬 |
8-新古 | 613 | さよふけて声さへさむきあしたつはいくへの霜かをきまさるらん さよふけて こゑさへさむき あしたつは いくへのしもか おきまさるらむ | 藤原道信 | 冬 |
8-新古 | 614 | 冬のよのなかきををくる袖ぬれぬ暁かたのよものあらしに ふゆのよの なかきをおくる そてぬれぬ あかつきかたの よものあらしに | 太上天皇 | 冬 |
8-新古 | 615 | ささの葉はみ山もさやにうちそよきこほれる霜を吹嵐かな ささのはは みやまもさやに うちそよき こほれるしもを ふくあらしかな | 九条良経 | 冬 |
8-新古 | 616 | 君こすはひとりやねなんささの葉のみ山もそよにさやく霜よを きみこすは ひとりやねなむ ささのはの みやまもそよに さやくしもよを | 藤原清輔 | 冬 |
8-新古 | 617 | 霜かれはそこともみえぬ草のはらたれにとはまし秋のなこりを しもかれは そこともみえぬ くさのはら たれにとはまし あきのなこりを | 藤原俊成女 | 冬 |
8-新古 | 618 | しもさゆる山田のくろのむらすすきかる人なしみのこるころかな しもさゆる やまたのくろの むらすすき かるひとなしに のこるころかな | 慈円 | 冬 |
8-新古 | 619 | くさのうへにここら玉ゐし白露をした葉の霜とむすふ冬かな くさのうへに ここらたまゐし しらつゆを したはのしもと むすふふゆかな | 曽祢好忠 | 冬 |
8-新古 | 620 | かささきのわたせるはしにをくしものしろきを見れはよそふけにける かささきの わたせるはしに おくしもの しろきをみれは よそふけにける | 大伴家持 | 冬 |
8-新古 | 621 | しくれつつかれゆく野辺の花なれは霜のまかきににほふいろかな しくれつつ かれゆくのへの はななれは しものまかきに にほふいろかな | 延喜 | 冬 |
8-新古 | 622 | 菊の花たおりては見しはつ霜のをきなからこそ色まさりけれ きくのはな たをりてはみし はつしもの おきなからこそ いろまさりけれ | 藤原兼輔 | 冬 |
8-新古 | 623 | かけさへにいまはと菊のうつろふは浪の底にも霜やをくらん かけさへに いまはときくの うつろふは なみのそこにも しもやおくらむ | 坂上是則 | 冬 |
8-新古 | 624 | 野辺見れはお花かもとのおもひ草かれゆく冬になりそしにける のへみれは をはなかもとの おもひくさ かれゆくふゆに なりそしにける | 和泉式部 | 冬 |
8-新古 | 625 | つのくにのなにはの春は夢なれやあしのかれ葉に風わたる也 つのくにの なにはのはるは ゆめなれや あしのかれはに かせわたるなり | 西行法師 | 冬 |
8-新古 | 626 | 冬ふかくなりにけらしななにはえのあお葉ましらぬあしの村立 ふゆふかく なりにけらしな なにはえの あをはましらぬ あしのむらたち | 藤原成通 | 冬 |
8-新古 | 627 | さひしさにたへたる人の又もあれないほりならへん冬の山さと さひしさに たへたるひとの またもあれな いほりならへむ ふゆのやまさと | 西行法師 | 冬 |
8-新古 | 628 | あつまちのみちの冬くさしけりあひてあとたに見えぬ忘水かな あつまちの みちのふゆくさ しけりあひて あとたにみえぬ わすれみつかな | 康資王母 | 冬 |
8-新古 | 629 | むかしおもふさよのねさめのとこさえて涙もこほる袖の上かな むかしおもふ さよのねさめの とこさえて なみたもこほる そてのうへかな | 守覚法親王 | 冬 |
8-新古 | 630 | たちぬるる山のしつくもをとたえてま木のした葉にたるひしにけり たちぬるる やまのしつくも おとたえて まきのしたはに たるひしにけり | 読人知らず | 冬 |
8-新古 | 631 | かつこほりかつはくたくる山かはのいはまにむせふ暁の声 かつこほり かつはくたくる やまかはの いはまにむすふ あかつきのこゑ | 藤原俊成 | 冬 |
8-新古 | 632 | きえかへりいはまにまよふ水のあはのしはしやとかるうす氷かな きえかへり いはまにまよふ みつのあわの しはしやとかる うすこほりかな | 九条良経 | 冬 |
8-新古 | 633 | まくらにも袖にもなみたつららゐてむすはぬ夢をとふ嵐かな まくらにも そてにもなみた つららゐて むすはぬゆめを とふあらしかな | 読人知らず | 冬 |
8-新古 | 634 | みなかみやたえ/\こほるいはまよりきよたき河にのこる白浪 みなかみや たえたえこほる いはまより きよたきかはに のこるしらなみ | 読人知らず | 冬 |
8-新古 | 635 | かたしきの袖の氷もむすほほれとけてねぬよの夢そみしかき かたしきの そてのこほりも むすほほれ とけてねぬよの ゆめそみしかき | 読人知らず | 冬 |
8-新古 | 636 | はしひめのかたしき衣さむしろにまつよむなしきうちのあけほの はしひめの かたしきころも さむしろに まつよむなしき うちのあけほの | 太上天皇 | 冬 |
8-新古 | 637 | あしろ木にいさよふ浪のをとふけてひとりやねぬるうちのはしひめ あしろきに いさよふなみの おとふけて ひとりやねぬる うちのはしひめ | 慈円 | 冬 |
8-新古 | 638 | 見るままに冬はきにけりかものゐるいりえのみきはうすこほりつつ みるままに ふゆはきにけり かものゐる いりえのみきは うすこほりつつ | 式子内親王 | 冬 |
8-新古 | 639 | しかのうらやとをさかりゆく浪間よりこほりていつる有あけの月 しかのうらや とほさかりゆく なみまより こほりていつる ありあけのつき | 藤原家隆 | 冬 |
8-新古 | 640 | ひとり見るいけの氷にすむ月のやかてそてにもうつりぬるかな ひとりみる いけのこほりに すむつきの やかてそてにも うつりぬるかな | 藤原俊成 | 冬 |
8-新古 | 641 | うはたまのよのふけゆけはひさきおふるきよきかはらにちとりなく也 うはたまの よのふけゆけは ひさきおふる きよきかはらに ちとりなくなり | 山辺赤人 | 冬 |
8-新古 | 642 | ゆくさきはさよふけぬれとちとりなくさほのかはらはすきうかりけり ゆくさきは さよふけぬれと ちとりなく さほのかはらは すきうかりけり | 伊勢大輔 | 冬 |
8-新古 | 643 | ゆふされはしほ風こしてみちのくののたの玉河ちとりなくなり ゆふされは しほかせこして みちのくの のたのたまかは ちとりなくなり | 能因法師 | 冬 |
8-新古 | 644 | 白浪にはねうちかはしはまちとりかなしき声はよるの一声 しらなみに はねうちかはし はまちとり かなしきものは よはのひとこゑ | 源重之 | 冬 |
8-新古 | 645 | ゆふなきにとわたるちとりなみまより見ゆるこ嶋の雲にきえぬる ゆふなきに とわたるちとり なみまより みゆるこしまの くもにきえぬる | 徳大寺実定 | 冬 |
8-新古 | 646 | 浦風にふきあけのはまのはまちとり浪たちくらし夜はになくなり うらかせに ふきあけのはまの はまちとり なみたちくらし よはになくなり | 祐子内親王家紀伊 | 冬 |
8-新古 | 647 | 月そすむたれかはここにきのくにやふきあけのちとりひとりなく也 つきそすむ たれかはここに きのくにや ふきあけのちとり ひとりなくなり | 九条良経 | 冬 |
8-新古 | 648 | さよちとり声こそちかくなるみかたかたふく月にしほやみつらん さよちとり こゑこそちかく なるみかた かたふくつきに しほやみつらむ | 藤原季能 | 冬 |
8-新古 | 649 | 風ふけはよそになるみのかたおもひおもはぬ浪になくちとりかな かせふけは よそになるみの かたおもひ おもはぬなみに なくちとりかな | 藤原秀能 | 冬 |
8-新古 | 650 | 浦人の日もゆふくれになるみかたかへる袖よりちとりなくなり うらひとの ひもゆふくれに なるみかた かへるそてより ちとりなくなり | 久我通光 | 冬 |
8-新古 | 651 | 風さゆるとしまかいそのむらちとりたちゐは浪の心なりけり かせさゆる をしまかいその むらちとり たちゐはなみの こころなりけり | 藤原季経 | 冬 |
8-新古 | 652 | はかなしやさてもいくよかゆく水にかすかきわふるをしのひとりね はかなしや さてもいくよか ゆくみつに かすかきわふる をしのひとりね | 飛鳥井雅経 | 冬 |
8-新古 | 653 | 水鳥のかものうきねのうきなから浪のまくらにいくよねぬらん みつとりの かものうきねの うきなから なみのまくらに いくよへぬらむ | 河内 | 冬 |
8-新古 | 654 | よしのなるなつみの河のかはよとにかもそなくなる山かけにして よしのなる なつみのかはの かはよとに かもそなくなる やまかけにして | 湯原王 | 冬 |
8-新古 | 655 | ねやのうへにかたえさしおほひそともなる葉ひろかしはに霰ふる也 ねやのうへに かたえさしおほひ そともなる はひろかしはに あられふるなり | 能因法師 | 冬 |
8-新古 | 656 | ささなみやしかのからさき風さえてひらのたかねにあられふる也 ささなみや しかのからさき かせさえて ひらのたかねに あられふるなり | 藤原忠通 | 冬 |
8-新古 | 657 | やたののにあさちいろつくあらち山みねのあは雪さむくそあるらし やたののに あさちいろつく あらちやま みねのあはゆき さむくあるらし | 柿本人麿 | 冬 |
8-新古 | 658 | つねよりもしのやののきそうつもるるけふは宮こにはつ雪やふる つねよりも しのやののきそ うつもるる けふはみやこに はつゆきやふる | 瞻西聖人 | 冬 |
8-新古 | 659 | ふる雪にまことにしのやいかならんけふはみやこにあとたにもなし ふるゆきに まことにしのや いかならむ けふはみやこに あとたにもなし | 藤原基俊 | 冬 |
8-新古 | 660 | はつ雪のふるの神すきうつもれてしめゆふ野辺は冬こもりせり はつゆきの ふるのかみすき うつもれて しめゆふのへは ふゆこもりせり | 藤原長方 | 冬 |
8-新古 | 661 | ふれはかくうさのみまさる世をしらてあれたる庭につもるはつ雪 ふれはかく うさのみまさる よをしらて あれたるにはに つもるはつゆき | 紫式部 | 冬 |
8-新古 | 662 | さむしろのよはの衣手さえ/\てはつ雪しろしをかのへの松 さむしろの よはのころもて さえさえて はつゆきしろし をかのへのまつ | 式子内親王 | 冬 |
8-新古 | 663 | ふりそむるけさたに人のまたれつるみ山のさとの雪の夕くれ ふりそむる けさたにひとの またれつる みやまのさとの ゆきのゆふくれ | 寂蓮法師 | 冬 |
8-新古 | 664 | けふはもし君もやとふとなかむれとまたあともなき庭の雪哉 けふはもし きみもやとふと なかむれと またあともなき にはのゆきかな | 藤原俊成 | 冬 |
8-新古 | 665 | いまそきく心はあともなかりけり雪かきわけておもひやれとも いまそきく こころはあとも なかりけり ゆきかきわけて おもひやれとも | 徳大寺実定 | 冬 |
8-新古 | 666 | 白山にとしふる雪やつもるらんよはにかたしくたもとさゆなり しらやまも としふるゆきや つもるらむ よはにかたしく たもとさゆなり | 藤原公任 | 冬 |
8-新古 | 667 | あけやらぬねさめのとこにきこゆなりまかきの竹の雪のしたおれ あけやらぬ ねさめのとこに きこゆなり まかきのたけの ゆきのしたをれ | 藤原範兼 | 冬 |
8-新古 | 668 | をとは山さやかに見ゆる白雪をあけぬとつくるとりのこゑかな おとはやま さやかにみする しらゆきを あけぬとつくる とりのこゑかな | 高倉院 | 冬 |
8-新古 | 669 | 山さとはみちもやみえすなりぬらんもみちとともに雪のふりぬる やまさとは みちもやみえす なりぬらむ もみちとともに ゆきのふりぬる | 藤原家経 | 冬 |
8-新古 | 670 | さひしさをいかにせよとてをかへなるならの葉したり雪のふるらん さひしさを いかにせよとて をかへなる ならのはしたり ゆきのふるらむ | 藤原国房 | 冬 |
8-新古 | 671 | こまとめて袖うちはらふかけもなしさののわたりの雪のゆふくれ こまとめて そてうちはらふ かけもなし さののわたりの ゆきのゆふくれ | 藤原定家 | 冬 |
8-新古 | 672 | まつ人のふもとのみちはたえぬらんのきはのすきに雪をもるなり まつひとの ふもとのみちは たえぬらむ のきはのすきに ゆきおもるなり | 読人知らず | 冬 |
8-新古 | 673 | 夢かよふみちさへたえぬくれ竹のふしみのさとの雪のしたをれ ゆめかよふ みちさへたえぬ くれたけの ふしみのさとの ゆきのしたをれ | 藤原有家 | 冬 |
8-新古 | 674 | ふる雪にたくものけふりかきたえてさひしくもあるかしほかまのうら ふるゆきに たくものけむり かききえて さひしくもあるか しほかまのうら | 藤原忠通 | 冬 |
8-新古 | 675 | たこの浦にうちいてて見れはしろたへのふしのたかねに雪はふりつつ たこのうらに うちいててみれは しろたへの ふしのたかねに ゆきはふりつつ | 山辺赤人 | 冬 |
8-新古 | 676 | 雪のみやふりぬとおもふ山さとにわれもおほくのとしそつもれる ゆきのみや ふりぬとはおもふ やまさとに われもおほくの としそつもれる | 紀貫之 | 冬 |
8-新古 | 677 | 雪ふれはみねのまさかきうつもれて月にみかけるあまのかく山 ゆきふれは みねのまさかき うつもれて つきにみかける あまのかくやま | 藤原俊成 | 冬 |
8-新古 | 678 | かきくもりあまきる雪のふるさとをつもらぬさきにとふ人もかな かきくもり あまきるゆきの ふるさとを つもらぬさきに とふひともかな | 小侍従 | 冬 |
8-新古 | 679 | 庭の雪にわかあとつけていてつるをとはれにけりと人やみるらん にはのゆきに わかあとつけて いてつるを とはれにけりと ひとやみるらむ | 慈円 | 冬 |
8-新古 | 680 | なかむれはわか山のはに雪しろし宮この人よ哀とも見よ なかむれは わかやまのはに ゆきしろし みやこのひとよ あはれともみよ | 読人知らず | 冬 |
8-新古 | 681 | 冬くさのかれにし人のいまさらに雪ふみわけて見えん物かは ふゆくさの かれにしひとの いまさらに ゆきふみわけて みえむものかは | 曽祢好忠 | 冬 |
8-新古 | 682 | たつねきてみちわけわふる人もあらしいくへもつもれ庭の白雪 たつねきて みちわけわふる ひともあらし いくへもつもれ にはのしらゆき | 寂然法師 | 冬 |
8-新古 | 683 | このころは花も紅葉もえたになししはしなきえそ松のしらゆき このころは はなももみちも えたになし しはしなきえそ まつのしらゆき | 太上天皇 | 冬 |
8-新古 | 684 | 草も木もふりまかへたる雪もよに春まつむめの花のかそする くさもきも ふりまかへたる ゆきもよに はるまつうめの はなのかそする | 堀川通具 | 冬 |
8-新古 | 685 | みかりするかた野のみのにふるあられあなかままたき鳥もこそたて みかりする かたののみのに ふるあられ あなかままたき とりもこそたて | 崇徳院 | 冬 |
8-新古 | 686 | みかりすととたちのはらをあさりつつかたのの野辺にけふもくらしつ みかりすと とたちのはらを あさりつつ かたのののへに けふもくらしつ | 藤原忠通 | 冬 |
8-新古 | 687 | みかり野はかつふる雪にうつもれてとたちもみえす草かくれつつ みかりのは かつふるゆきに うつもれて とたちもみえす くさかくれつつ | 大江匡房 | 冬 |
8-新古 | 688 | かりくらしかたののましはおりしきてよとの河せの月をみるかな かりくらし かたののましは をりしきて よとのかはせの つきをみるかな | 藤原公衡 | 冬 |
8-新古 | 689 | 中/\にきえはきえなてうつみ火のいきてかひなき世にもある哉 なかなかに きえはきえなて うつみひの いきてかひなき よにもふるかな | 権僧正永縁 | 冬 |
8-新古 | 690 | ひかすふる雪けにまさるすみかまのけふりもさむし大原のさと ひかすふる ゆきけにまさる すみかまの けふりもさむし おほはらのさと | 式子内親王 | 冬 |
8-新古 | 691 | をのつからいはぬをしたふ人やあるとやすらふほとにとしのくれぬる おのつから いはぬをしたふ ひとやあると やすらふほとに としのくれぬる | 西行法師 | 冬 |
8-新古 | 692 | かへりては身にそふ物としりなからくれゆくとしをなにしたふらん かへりては みにそふものと しりなから くれゆくとしを なにしたふらむ | 上西門院兵衛 | 冬 |
8-新古 | 693 | へたてゆくよよのおもかけかきくらし雪とふりぬるとしのくれかな へたてゆく よよのおもかけ かきくらし ゆきにふりぬる としのくれかな | 藤原俊成女 | 冬 |
8-新古 | 694 | あたらしきとしやわか身をとめくらんひまゆくこまにみちをまかせて あたらしき としやわかみを とめくらむ ひまゆくこまに みちをまかせて | 藤原隆季 | 冬 |
8-新古 | 695 | なけきつつことしもくれぬつゆのいのちいけるはかりを思いてにして なけきつつ ことしもくれぬ つゆのいのち いけるはかりを おもひいてにして | 俊恵法師 | 冬 |
8-新古 | 696 | おもひやれやそちのとしのくれなれはいかはかりかは物はかなしき おもひやれ やそちのとしの くれなれは いかはかりかは ものはかなしき | 小侍従 | 冬 |
8-新古 | 697 | むかしおもふ庭にうき木をつみをきて見しよにもにぬとしのくれかな むかしおもふ にはにうききを つみおきて みしにもあらぬ としのくれかな | 西行法師 | 冬 |
8-新古 | 698 | いその神ふる野のをささしもをへてひとよはかりにのこるとしかな いそのかみ ふるののをささ しもをへて ひとよはかりに のこるとしかな | 九条良経 | 冬 |
8-新古 | 699 | としのあけてうきよの夢のさむへくはくるともけふはいとはさらまし としのあけて うきよのゆめの さむへくは くるともけふは いとはさらまし | 慈円 | 冬 |
8-新古 | 700 | あさことのあか井の水にとしくれてわかよのほとのくまれぬるかな あさことの あかゐのみつに としくれて わかよのほとの くまれぬるかな | 権律師隆聖 | 冬 |
8-新古 | 701 | いそかれぬとしのくれこそあはれなれむかしはよそにききし春かは いそかれぬ としのくれこそ あはれなれ むかしはよそに ききしはるかは | 藤原実房 | 冬 |
8-新古 | 702 | かそふれはとしののこりもなかりけりおいぬるはかりかなしきはなし かそふれは としののこりも なかりけり おいぬるはかり かなしきはなし | 和泉式部 | 冬 |
8-新古 | 703 | いしはしるはつせのかはのなみまくらはやくもとしのくれにけるかな いしはしる はつせのかはの なみまくら はやくもとしの くれにけるかな | 徳大寺実定 | 冬 |
8-新古 | 704 | ゆくとしををしまのあまのぬれ衣かさねて袖になみやかくらん ゆくとしを をしまのあまの ぬれころも かさねてそてに なみやかくらむ | 藤原有家 | 冬 |
8-新古 | 705 | おいのなみこえける身こそあはれなれことしも今はすゑの松山 おいのなみ こえけるみこそ あはれなれ ことしもいまは すゑのまつやま | 寂蓮法師 | 冬 |
8-新古 | 706 | けふことにけふやかきりとおしめとも又もことしにあひにけるかな けふことに けふやかきりと をしめとも またもことしに あひにけるかな | 藤原俊成 | 冬 |
8-新古 | 707 | たかきやにのほりて見れはけふりたつたみのかまとはにきはひにけり たかきやに のほりてみれは けふりたつ たみのかまとは にきはひにけり | 仁徳天皇 | 賀 |
8-新古 | 708 | はつ春のはつねのけふのたまははきてにとるからにゆらく玉のを はつはるの はつねのけふの たまははき てにとるからに ゆらくたまのを | 読人知らず | 賀 |
8-新古 | 709 | ねのひしてしめつるのへのひめこ松ひかてやちよのかけをまたまし ねのひして しめつるのへの ひめこまつ ひかてやちよの かけをまたまし | 藤原清正 | 賀 |
8-新古 | 710 | 君かよのとしのかすをはしろたへのはまのまさことたれかしきけん きみかよの としのかすをは しろたへの はまのまさこと たれかしきけむ | 紀貫之 | 賀 |
8-新古 | 711 | わかなおふるのへといふのへを君かためよろつよしめてつまんとそ思 わかなおふる のへといふのへを きみかため よろつよしめて つまむとそおもふ | 読人知らず | 賀 |
8-新古 | 712 | ゆふたすきちとせをかけてあしひきの山あゐのいろはかはらさりけり ゆふたすき ちとせをかけて あしひきの やまあゐのいろは かはらさりけり | 読人知らず | 賀 |
8-新古 | 713 | 君かよにあふへき春のおほけれはちるとも桜あくまてそみん きみかよに あふへきはるの おほけれと ちるともさくら あくまてそみむ | 源師房 | 賀 |
8-新古 | 714 | すみの江のはまのまさこをふむたつはひさしきあとをとむるなりけり すみのえの はまのまさこを ふむたつは ひさしきあとを とむるなりけり | 伊勢 | 賀 |
8-新古 | 715 | としことにおいそふ竹のよよをへてかはらぬいろをたれとかはみん としことに おひそふたけの よよをへて かはらぬいろを たれとかはみむ | 紀貫之 | 賀 |
8-新古 | 716 | ちとせふるおのへの松は秋風の声こそかはれいろはかはらす ちとせふる をのへのまつは あきかせの こゑこそかはれ いろはかはらす | 凡河内躬恒 | 賀 |
8-新古 | 717 | 山河の菊のしたみついかなれはなかれて人の老をせくらん やまかはの きくのしたみつ いかなれは なかれてひとの おいをせくらむ | 藤原興風 | 賀 |
8-新古 | 718 | いのりつつなを長月のきくの花いつれの秋かうへてみさらん いのりつつ なほなかつきの きくのはな いつれのあきか うゑてみさらむ | 紀貫之 | 賀 |
8-新古 | 719 | 山人のおるそてにほふきくのつゆうちはらふにもちよはへぬへし やまひとの をるそてにほふ きくのつゆ うちはらふにも ちよはへぬへし | 藤原俊成 | 賀 |
8-新古 | 720 | 神な月もみちもしらぬときは木によろつよかかれ峯の白雲 かみなつき もみちもしらぬ ときはきに よろつよかかれ みねのしらくも | 清原元輔 | 賀 |
8-新古 | 721 | 山風はふけとふかねと白浪のよするいはねはひさしかりけり やまかせは ふけとふかねと しらなみの よするいはねは ひさしかりけり | 伊勢 | 賀 |
8-新古 | 722 | くもりなくちとせにすめる水のおもにやとれる月のかけものとけし くもりなく ちとせにすめる みつのおもに やとれるつきの かけものとけし | 紫式部 | 賀 |
8-新古 | 723 | 池水のよよにひさしくすみぬれは底の玉もも光みえけり いけみつの よよにひさしく すみぬれは そこのたまもも ひかりみえけり | 伊勢大輔 | 賀 |
8-新古 | 724 | きみかよのちとせのかすもかくれなくくもらぬそらの光にそ見る きみかよの ちとせのかすも かくれなく くもらぬそらの ひかりにそみる | 源顕房 | 賀 |
8-新古 | 725 | すみの江においそふ松のえたことにきみかちとせのかすそこもれる すみのえに おひそふまつの えたことに きみかちとせの かすそこもれる | 源隆国 | 賀 |
8-新古 | 726 | よろつよを松のを山のかけしけみ君をそいのるときはかきはに よろつよを まつのをやまの かけしけみ きみをそいのる ときはかきはに | 康資王母 | 賀 |
8-新古 | 727 | あひをひのをしほの山のこ松はらいまよりちよのかけをまたなん あひおひの をしほのやまの こまつはら いまよりちよの かけをまたなむ | 大弐三位 | 賀 |
8-新古 | 728 | ねの日するみかきのうちのこ松はらちよをはほかの物とやはみる ねのひする みかきのうちの こまつはら ちよをはほかの ものとやはみる | 源経信 | 賀 |
8-新古 | 729 | ねの日する野辺のこ松をうつしうへてとしのをなかく君そひくへき ねのひする のへのこまつを うつしうゑて としのをなかく きみそひくへき | 藤原通俊 | 賀 |
8-新古 | 730 | 君かよはひさしかるへしわたらひやいすすのかはのなかれたえせて きみかよは ひさしかるへし わたらひや いすすのかはの なかれたえせて | 大江匡房 | 賀 |
8-新古 | 731 | とき葉なる松にかかれるこけなれは年のをなかきしるへとそ思 ときはなる まつにかかれる こけなれは としのをなかき しるへとそおもふ | 読人知らず | 賀 |
8-新古 | 732 | きみかよにあへるはたれもうれしきを花はいろにもいてにけるかな きみかよに あへるはたれも うれしきを はなはいろにも いてにけるかな | 藤原範兼 | 賀 |
8-新古 | 733 | 身にかへて花もおしまし君かよにみるへき春のかきりなけれは みにかへて はなもをしまし きみかよに みるへきはるの かきりなけれは | 参河内侍 | 賀 |
8-新古 | 734 | あめのしためくむくさ木のめもはるにかきりもしらぬみよのすゑすゑ あめのした めくむくさきの めもはるに かきりもしらぬ みよのすゑすゑ | 式子内親王 | 賀 |
8-新古 | 735 | をしなへてこのめも春のあさみとり松にそちよの色はこもれる おしなへて このめもはるの あさみとり まつにそちよの いろもこもれる | 九条良経 | 賀 |
8-新古 | 736 | しき嶋ややまとしまねも神よより君かためとやかためをきけん しきしまや やまとしまねも かみよより きみかためとや かためおきけむ | 読人知らず | 賀 |
8-新古 | 737 | ぬれてほすたまくしのはのつゆしもにあまてるひかりいくよへぬらん ぬれてほす たまくしのはの つゆしもに あまてるひかり いくよへぬらむ | 読人知らず | 賀 |
8-新古 | 738 | きみかよはちよともささしあまのとやいつる月日のかきりなけれは きみかよは ちよともささし あまのとや いつるつきひの かきりなけれは | 藤原俊成 | 賀 |
8-新古 | 739 | わかみちをまもらはきみをまもるらんよはひはゆつれすみよしの松 わかみちを まもらはきみを まもるらむ よはひはゆつれ すみよしのまつ | 藤原定家 | 賀 |
8-新古 | 740 | たかさこの松もむかしになりぬへしなをゆくすゑは秋のよの月 たかさこの まつもむかしに なりぬへし なほゆくすゑは あきのよのつき | 寂蓮法師 | 賀 |
8-新古 | 741 | もしほくさかくともつきしきみかよのかすによみをくわかの浦浪 もしほくさ かくともつきし きみかよの かすによみおく わかのうらなみ | 源家長 | 賀 |
8-新古 | 742 | うれしさやかたしく袖につつむらんけふまちえたるうちのはしひめ うれしさや かたしくそてに つつむらむ けふまちえたる うちのはしひめ | 藤原隆房 | 賀 |
8-新古 | 743 | としへたるうちのはしもりこととはんいくよになりぬ水のみなかみ としへたる うちのはしもり こととはむ いくよになりぬ みつのみなかみ | 藤原清輔 | 賀 |
8-新古 | 744 | ななそちにみつのはままつおいぬれとちよののこりは猶そはるけき ななそちに みつのはままつ おいぬれは ちよののこりは なほそはるけき | 読人知らず | 賀 |
8-新古 | 745 | やをかゆくはまのまさこを君かよのかすにとらなんおきつ嶋もり やほかゆく はまのまさこを きみかよの かすにとらなむ おきつしまもり | 徳大寺実定 | 賀 |
8-新古 | 746 | かすか山宮このみなみしかそおもふきたのふちなみ春にあへとは かすかやま みやこのみなみ しかそおもふ きたのふちなみ はるにあへとは | 九条良経 | 賀 |
8-新古 | 747 | ときはなるきひの中山をしなへてちとせを松のふかきいろかな ときはなる きひのなかやま おしなへて ちとせをまつの ふかきいろかな | 読人知らず | 賀 |
8-新古 | 748 | あかねさすあさひのさとのひかけ草とよのあかりのかさしなるへし あかねさす あさひのさとの ひかけくさ とよのあかりの かさしなるへし | 祭主輔親 | 賀 |
8-新古 | 749 | すへらきをときはかきはにもる山の山人ならし山かつらせり すめらきを ときはかきはに もるやまの やまひとならし やまかつらせり | 式部大輔資業 | 賀 |
8-新古 | 750 | とやかへるたかのを山のたまつはきしもをはふともいろはかはらし とやかへる たかのをやまの たまつはき しもをはふとも いろはかはらし | 大江匡房 | 賀 |
8-新古 | 751 | くもりなきかかみの山の月をみてあきらけきよをそらにしる哉 くもりなき かかみのやまの つきをみて あきらけきよを そらにしるかな | 藤原永範 | 賀 |
8-新古 | 752 | おほえ山こえていくののすゑとをみみちある世にもあひにけるかな おほえやま こえていくのの すゑとほみ みちあるよにも あひにけるかな | 藤原範兼 | 賀 |
8-新古 | 753 | あふみのやさかたのいねをかけつみてみちあるみよのはしめにそつく あふみのや さかたのいねを かけつみて みちあるみよの はしめにそつく | 藤原俊成 | 賀 |
8-新古 | 754 | 神世世りけふのためとややつかほになかたのいねのしなひそめけん かみよより けふのためとや やつかほに なかたのいねの しなひそめけむ | 藤原兼光 | 賀 |
8-新古 | 755 | たちよれはすすしかりけり水鳥のあおはの山の松のゆふ風 たちよれは すすしかりけり みつとりの あをはのやまの まつのゆふかせ | 式部大輔光範 | 賀 |
8-新古 | 756 | ときはなる松井の水をむすふてのしつくことにそちよはみえける ときはなる まつゐのみつを むすふての しつくことにそ ちよはみえける | 日野資実 | 賀 |
8-新古 | 757 | すえのつゆもとのしつくやよの中のをくれさきたつためしなるらん すゑのつゆ もとのしつくや よのなかの おくれさきたつ ためしなるらむ | 僧正遍昭 | 哀傷 |
8-新古 | 758 | あはれなりわか身のはてやあさみとりつゐには野辺のかすみとおもへは あはれなり わかみのはてや あさみとり つひにはのへの かすみとおもへは | 小野小町 | 哀傷 |
8-新古 | 759 | さくらちる春のすゑにはなりにけりあままもしらぬなかめせしまに さくらちる はるのすゑには なりにけり あままもしらぬ なかめせしまに | 藤原兼輔 | 哀傷 |
8-新古 | 760 | すみそめのころもうきよの花さかりおりわすれてもおりてけるかな すみそめの ころもうきよの はなさかり をりわすれても をりてけるかな | 藤原実方 | 哀傷 |
8-新古 | 761 | あかさりし花をや春もこひつらんありし昔を思ひいてつつ あかさりし はなをやはるも こひつらむ ありしむかしを おもひいてつつ | 藤原道信 | 哀傷 |
8-新古 | 762 | 花さくらまたさかりにてちりにけんなけきのもとを思こそやれ はなさくら またさかりにて ちりにけむ なけきのもとを おもひこそやれ | 成尋法師 | 哀傷 |
8-新古 | 763 | 花見んとうへけん人もなきやとのさくらはこその春そさかまし はなみむと うゑけむひとも なきやとの さくらはこその はるそさかまし | 大江嘉言 | 哀傷 |
8-新古 | 764 | たれもみな花の宮こにちりはててひとりしくるる秋の山さと たれもみな はなのみやこに ちりはてて ひとりしくるる あきのやまさと | 藤原顕輔 | 哀傷 |
8-新古 | 765 | 花見てはいとといゑちそいそかれぬまつらんと思人しなけれは はなみては いとといへちそ いそかれぬ まつらむとおもふ ひとしなけれは | 徳大寺実定 | 哀傷 |
8-新古 | 766 | 春霞かすみしそらのなこりさへけふをかきりのわかれなりけり はるかすみ かすみしそらの なこりさへ けふをかきりの わかれなりけり | 九条良経 | 哀傷 |
8-新古 | 767 | たちのほるけふりをたにも見るへきにかすみにまかふ春のあけほの たちのほる けふりをたにも みるへきに かすみにまかふ はるのあけほの | 藤原惟方 | 哀傷 |
8-新古 | 768 | かたみとて見れはなけきのふかみ草なに中々のにほひなるらん かたみとて みれはなけきの ふかみくさ なになかなかの にほひなるらむ | 藤原重家 | 哀傷 |
8-新古 | 769 | あやめくさたれしのへとかうへをきてよもきかもとのつゆときえけん あやめくさ たれしのへとか うゑおきて よもきかもとの つゆときえけむ | 高陽院木綿四手 | 哀傷 |
8-新古 | 770 | けふくれとあやめもしらぬたもとかなむかしをこふるねのみかかりて けふくれと あやめもしらぬ たもとかな むかしをこふる ねのみかかりて | 上西門院兵衛 | 哀傷 |
8-新古 | 771 | あやめ草ひきたかへたるたもとにはむかしをこふるねそかかりける あやめくさ ひきたかへたる たもとには むかしをこふる ねそかかりける | 九条院 | 哀傷 |
8-新古 | 772 | さもこそはおなしたもとのいろならめかはらぬねをもかけてける哉 さもこそは おなしたもとの いろならめ かはらぬねをも かけてけるかな | 皇嘉門院 | 哀傷 |
8-新古 | 773 | よそなれとおなし心そかよふへきたれも思ひのひとつならねは よそなれと おなしこころそ かよふへき たれもおもひの ひとつならねは | 藤原実資 | 哀傷 |
8-新古 | 774 | ひとりにもあらぬ思はなき人もたひのそらにやかなしかるらん ひとりにも あらぬおもひは なきひとも たひのそらにや かなしかるらむ | 藤原為頼 | 哀傷 |
8-新古 | 775 | をくと見しつゆもありけりはかなくてきえにし人をなににたとへん おくとみし つゆもありけり はかなくて きえにしひとを なににたとへむ | 和泉式部 | 哀傷 |
8-新古 | 776 | おもひきやはかなくをきし袖のうへのつゆをかたみにかけん物とは おもひきや はかなくおきし そてのうへの つゆをかたみに かけむものとは | 上東門院 | 哀傷 |
8-新古 | 777 | あさちはらはかなくきえし草のうへのつゆをかたみと思かけきや あさちはら はかなくおきし くさのうへの つゆをかたみと おもひかけきや | 周防内侍 | 哀傷 |
8-新古 | 778 | 袖にさへ秋のゆふへはしられけりきえしあさちかつゆをかけつつ そてにさへ あきのゆふへは しられけり きえしあさちか つゆをかけつつ | 女御徽子女王 | 哀傷 |
8-新古 | 779 | 秋風のつゆのやとりに君ををきてちりをいてぬることそかなしき あきかせの つゆのやとりに きみをおきて ちりをいてぬる ことそかなしき | 一条院 | 哀傷 |
8-新古 | 780 | わかれけんなこりの袖もかはかぬにをきやそふらん秋のゆふつゆ わかれけむ なこりのつゆも かわかぬに おきやそふらむ あきのゆふつゆ | 大弐三位 | 哀傷 |
8-新古 | 781 | をきそふるつゆとともにはきえもせてなみたにのみもうきしつむかな おきそふる つゆとともには きえもせて なみたにのみも うきしつむかな | 読人知らず | 哀傷 |
8-新古 | 782 | をみなへしみるに心はなくさまていととむかしの秋そこひしき をみなへし みるにこころは なくさまて いととむかしの あきそこひしき | 清慎公 | 哀傷 |
8-新古 | 783 | ねさめする身をふきとおす風のをとをむかしは袖のよそにききけん ねさめする みをふきとほす かせのおとに むかしはそての よそにききけむ | 和泉式部 | 哀傷 |
8-新古 | 784 | 袖ぬらす萩のうははのつゆはかりむかしわすれぬむしのねそする そてぬらす はきのうははの つゆはかり むかしわすれぬ むしのねそする | 藤原忠通 | 哀傷 |
8-新古 | 785 | さらてたにつゆけきさかののへにきてむかしのあとにしほれぬるかな さらてたに つゆけきさかの のへにきて むかしのあとに しをれぬるかな | 藤原俊忠 | 哀傷 |
8-新古 | 786 | かなしさは秋のさか野のきりきりすなをふるさとにねをやなくらん かなしさは あきのさかのの きりきりす なほふるさとに ねをやなくらむ | 徳大寺実定 | 哀傷 |
8-新古 | 787 | 今はさはうきよのさかののへをこそつゆきえはてしあととしのはめ いまはさは うきよのさかの のへをこそ つゆきえはてし あととしのはめ | 藤原俊成女 | 哀傷 |
8-新古 | 788 | たまゆらのつゆも涙もととまらすなき人こふるやとの秋風 たまゆらの つゆもなみたも ととまらす なきひとこふる やとのあきかせ | 藤原定家 | 哀傷 |
8-新古 | 789 | つゆをたにいまはかたみのふちころもあたにも袖をふくあらしかな つゆをたに いまはかたみの ふちころも あたにもそてを ふくあらしかな | 藤原秀能 | 哀傷 |
8-新古 | 790 | 秋ふかきねさめにいかかおもひいつるはかなく見えし春のよの夢 あきふかき ねさめにいかか おもひいつる はかなくみえし はるのよのゆめ | 殷富門院大輔 | 哀傷 |
8-新古 | 791 | 見し夢をわするる時はなけれとも秋のねさめはけにそかなしき みしゆめを わするるときは なけれとも あきのねさめは けにそかなしき | 源通親 | 哀傷 |
8-新古 | 792 | なれし秋のふけしよとこはそれなから心のそこの夢そかなしき なれしあきの ふけしよとこは それなから こころのそこの ゆめそかなしき | 藤原実家 | 哀傷 |
8-新古 | 793 | くちもせぬその名はかりをととめをきてかれ野のすすきかたみとそみる くちもせぬ そのなはかりを ととめおきて かれののすすき かたみにそみる | 西行法師 | 哀傷 |
8-新古 | 794 | ふるさとをこふる涙やひとりゆくともなき山のみちしはのつゆ ふるさとを こふるなみたや ひとりゆく ともなきやまの みちしはのつゆ | 慈円 | 哀傷 |
8-新古 | 795 | うきよにはいまはあらしの山かせにこれやなれゆくはしめなるらん うきよには いまはあらしの やまかせに これやなれゆく はしめなるらむ | 藤原俊成 | 哀傷 |
8-新古 | 796 | まれにくる夜はもかなしき松風をたえすやこけのしたにきくらん まれにくる よはもかなしき まつかせを たえすやこけの したにきくらむ | 読人知らず | 哀傷 |
8-新古 | 797 | ものおもへはいろなき風もなかりけり身にしむ秋の心ならひに ものおもへは いろなきかせも なかりけり みにしむあきの こころならひに | 久我太政大臣 | 哀傷 |
8-新古 | 798 | ふるさとをわかれし秋をかそふれはやとせになりぬありあけの月 ふるさとを わかれしあきを かそふれは やとせになりぬ ありあけのつき | 読人知らず | 哀傷 |
8-新古 | 799 | いのちあれはことしの秋も月はみつわかれし人にあふよなきかな いのちあれは ことしのあきも つきはみつ わかれしひとに あふよなきかな | 能因法師 | 哀傷 |
8-新古 | 800 | けふこすはみてややままし山さとのもみちも人もつねならぬよに けふこすは みてややままし やまさとの もみちもひとも つねならぬよに | 藤原公任 | 哀傷 |
8-新古 | 801 | おもひいつるおりたくしはのゆふけふりむせふもうれし忘かたみに おもひいつる をりたくしはの ゆふけふり むせふもうれし わすれかたみに | 太上天皇 | 哀傷 |
8-新古 | 802 | おもひいつるおりたくしはときくからにたくひしられぬゆふけふりかな おもひいつる をりたくしはと きくからに たくひしられぬ ゆふけふりかな | 慈円 | 哀傷 |
8-新古 | 803 | なき人のかたみの雲やしほ(ほ=く)るらんゆふへの雨にいろはみえねと なきひとの かたみのくもや しをるらむ ゆふへのあめに いろはみえねと | 太上天皇 | 哀傷 |
8-新古 | 804 | 神な月しくるるころもいかなれやそらにすきにし秋の宮人 かみなつき しくるるころも いかなれや そらにすきにし あきのみやひと | 相模 | 哀傷 |
8-新古 | 805 | てすさひのはかなきあとと見しかとも長かたみになりにけるかな てすさひの はかなきあとと みしかとも なかきかたみに なりにけるかな | 源師房女 | 哀傷 |
8-新古 | 806 | たつねてもあとはかくてもみつくきのゆくゑもしらぬ昔なりけり たつねても あとはかくても みつくきの ゆくへもしらぬ むかしなりけり | 馬内侍 | 哀傷 |
8-新古 | 807 | いにしへのなきになかるる水くきのあとこそ袖のうらによりけれ いにしへの なきになかるる みつくきは あとこそそての うらによりけれ | 女御徽子女王 | 哀傷 |
8-新古 | 808 | ほしもあへぬころものやみにくらされて月ともいはすまとひぬるかな ほしもあへぬ ころものやみに くらされて つきともいはす まとひぬるかな | 藤原道信 | 哀傷 |
8-新古 | 809 | みなそこにちちのひかりはうつれともむかしのかけはみえすそ有ける みなそこに ちちのひかりは うつれとも むかしのかけは みえすそありける | 東三条院 | 哀傷 |
8-新古 | 810 | ものをのみおもひねさめのまくらにはなみたかからぬ暁そなき ものをのみ おもひねさめの まくらには なみたかからぬ あかつきそなき | 源信明 | 哀傷 |
8-新古 | 811 | あふこともいまはなきねの夢ならていつかは君を又はみるへき あふことも いまはなきねの ゆめならて いつかはきみを またはみるへき | 上東門院 | 哀傷 |
8-新古 | 812 | うしとてはいてにしいゑをいてぬなりなとふるさとにわか帰けん うしとては いてにしいへを いてぬなり なとふるさとに わかかへりけむ | 女御藤原生子 | 哀傷 |
8-新古 | 813 | はかなしといふにもいととなみたのみかかるこのよをたのみけるかな はかなしと いふにもいとと なみたのみ かかるこのよを たのみけるかな | 源道済 | 哀傷 |
8-新古 | 814 | ふるさとにゆく人もかなつけやらんしらぬ山ちにひとりまとふと ふるさとに ゆくひともかな つけやらむ しらぬやまちに ひとりまとふと | 読人知らず | 哀傷 |
8-新古 | 815 | たまのをの長ためしにひく人もきゆれはつゆにことならぬかな たまのをの なかきためしに ひくひとも きゆれはつゆに ことならぬかな | 藤原長家 | 哀傷 |
8-新古 | 816 | こひわふとききにたにきけかねのをとにうちわすらるる時のまそなき こひわふと ききにたにきけ かねのおとに うちわすらるる ときのまそなき | 和泉式部 | 哀傷 |
8-新古 | 817 | たれかよになからへて見んかきとめしあとはきえせぬかたみなれとも たれかよに なからへてみむ かきとめし あとはきえせぬ かたみなれとも | 紫式部 | 哀傷 |
8-新古 | 818 | なき人をしのふることもいつまてそけふの哀はあすのわか身を なきひとを しのふることも いつまてそ けふのあはれは あすのわかみを | 加賀少納言 | 哀傷 |
8-新古 | 819 | なき人のあとをたにとてきてみれはあらぬさとにもなりにけるかな なきひとの あとをたにとて きてみれは あらぬさとにも なりにけるかな | 律師慶暹 | 哀傷 |
8-新古 | 820 | 見し人のけふりになりしゆふへより名そむつましきしほかまのうら みしひとの けふりになりし ゆふへより なそむつましき しほかまのうら | 紫式部 | 哀傷 |
8-新古 | 821 | あはれきみいかなる野辺のけふりにてむなしきそらの雲と成けん あはれきみ いかなるのへの けふりにて むなしきそらの くもとなりけむ | 弁乳母 | 哀傷 |
8-新古 | 822 | おもへきみもえしけふりにまかひなてたちをくれたる春のかすみを おもへきみ もえしけふりに まかひなて たちおくれたる はるのかすみを | 源三位 | 哀傷 |
8-新古 | 823 | あはれ人けふのいのちをしらませはなにはのあしにちきらさらまし あはれひと けふのいのちを しらませは なにはのあしに ちきらさらまし | 能因法師 | 哀傷 |
8-新古 | 824 | よもすからむかしのことをみつるかなかたるやうつつありしよや夢 よもすから むかしのことを みつるかな かたるやうつつ ありしよやゆめ | 大江匡衡 | 哀傷 |
8-新古 | 825 | うつりけんむかしのかけやのこるとて見るにおもひのますかかみかな うつりけむ むかしのかけや のこるとて みるにおもひの ますかかみかな | 新少将 | 哀傷 |
8-新古 | 826 | かきとむることの葉のみそ水くきのなかれてとまるかたみなりける かきとむる ことのはのみそ みつくきの なかれてとまる かたみなりける | 按察使公通 | 哀傷 |
8-新古 | 827 | ありすかはおなしなかれはかはらねと見しやむかしのかけそわすれぬ ありすかは おなしなかれは かはらねと みしやむかしの かけそわすれぬ | 源雅定 | 哀傷 |
8-新古 | 828 | かきりなき思のほとの夢のうちはおとろかさしとなけきこしかな かきりなき おもひのほかの ゆめのうちは おとろかさしと なけきこしかな | 藤原俊成 | 哀傷 |
8-新古 | 829 | 見し夢にやかてまきれぬわか身こそとはるるけふもまつかなしけれ みしゆめに やかてまきれぬ わかみこそ とはるるけふも まつかなしけれ | 九条良経 | 哀傷 |
8-新古 | 830 | 世中は見しもききしもはかなくてむなしきそらのけふりなりけり よのなかは みしもききしも はかなくて むなしきそらは けふりなりけり | 藤原清輔 | 哀傷 |
8-新古 | 831 | いつなけきいつおもふへきことなれはのちのよしらて人のすむ(む=く)らん いつなけき いつおもふへき ことなれは のちのよしらて ひとのすくらむ | 西行法師 | 哀傷 |
8-新古 | 832 | みな人のしりかほにしてしらぬかなかならすしぬるならひありとは みなひとの しりかほにして しらぬかな かならすしぬる ならひありとは | 慈円 | 哀傷 |
8-新古 | 833 | きのふみし人はいかにとおとろけとなを長よの夢にそ有ける きのふみし ひとはいかにと おとろけと なほなかきよの ゆめにそありける | 読人知らず | 哀傷 |
8-新古 | 834 | よもきふにいつかをくへきつゆの身はけふのゆふくれあすのあけほの よもきふに いつかおくへき つゆのみは けふのゆふくれ あすのあけほの | 読人知らず | 哀傷 |
8-新古 | 835 | われもいつそあらましかはと見し人をしのふとすれはいととそひゆく われもいつそ あらましかはと みしひとを しのふとすれと いととそひゆく | 読人知らず | 哀傷 |
8-新古 | 836 | たつねきていかにあはれとなかむらんあとなき山の峯のしら雲 たつねきて いかにあはれと なかむらむ あとなきやまの みねのしらくも | 寂蓮法師 | 哀傷 |
8-新古 | 837 | なきあとのおもかけをのみ身にそへてさこそは人のこひしかるらめ なきあとの おもかけをのみ みにそへて さこそはひとの こひしかるらめ | 西行法師 | 哀傷 |
8-新古 | 838 | 哀ともこころにおもふほとはかりいはれぬへくはとひこそはせめ あはれとも こころにおもふ ほとはかり いはれぬへくは とひこそはせめ | 読人知らず | 哀傷 |
8-新古 | 839 | つくつくとおもへはかなしいつまてか人のあはれをよそにきくへき つくつくと おもへはかなし いつまてか ひとのあはれを よそにきくへき | 藤原実房 | 哀傷 |
8-新古 | 840 | をくれゐてみるそかなしきはかなさをうき身のあととなにたのみけむ おくれゐて みるそかなしき はかなさを うきみのあとと なにたのみけむ | 源通親 | 哀傷 |
8-新古 | 841 | そこはかと思つつけて来てみれはことしのけふも袖はぬれけり そこはかと おもひつつけて きてみれは ことしのけふも そてはぬれけり | 慈円 | 哀傷 |
8-新古 | 842 | たれもみな涙のあめにせきかねぬそらもいかかはつれなかるへき たれもみな なみたのあめに せきかねぬ そらもいかかは つれなかるへき | 花山院忠経 | 哀傷 |
8-新古 | 843 | 見し人はよにもなきさのもしほ草かきをくたひに袖そしほるる みしひとは よにもなきさの もしほくさ かきおくたひに そてそしをるる | 法橋行遍 | 哀傷 |
8-新古 | 844 | あらさらんのちしのへとや袖のかをはなたちはなにととめをきけん あらさらむ のちしのへとや そてのかを はなたちはなに ととめおきけむ | 祝部成仲 | 哀傷 |
8-新古 | 845 | ありしよにしはしも見てはなかりしを哀とはかりいひてやみぬる ありしよに しはしもみては なかりしを あはれとはかり いひてやみぬる | 藤原兼房 | 哀傷 |
8-新古 | 846 | とへかしなかたしくふちの衣手になみたのかかる秋のねさめを とへかしな かたしくふちの ころもてに なみたのかかる あきのねさめを | 藤原通俊 | 哀傷 |
8-新古 | 847 | 君なくてよるかたもなきあをやきのいととうきよそ思みたるる きみなくて よるかたもなき あをやきの いととうきよそ おもひみたるる | 源国信 | 哀傷 |
8-新古 | 848 | いつのまに身を山かつになしはてて宮こをたひと思ふなるらん いつのまに みをやまかつに なしはてて みやこをたひと おもふなるらむ | 藤原顕輔 | 哀傷 |
8-新古 | 849 | ひさかたのあめにしほるる君ゆへに月日もしらてこひわたるらん ひさかたの あめにしをるる きみゆゑに つきひもしらて こひわたるらむ | 柿本人麿 | 哀傷 |
8-新古 | 850 | あるはなくなきはかすそふ世中にあはれいつれの日まてなけかん あるはなく なきはかすそふ よのなかに あはれいつれの ひまてなけかむ | 小野小町 | 哀傷 |
8-新古 | 851 | 白玉かなにそと人のとひし時つゆとこたへてけなまし物を しらたまか なにそとひとの とひしとき つゆとこたへて けなましものを | 在原業平 | 哀傷 |
8-新古 | 852 | としふれはかくもありけりすみそめのこはおもふてふそれかあらぬか としふれは かくもありけり すみそめの こはおもふてふ それかあらぬか | 延喜 | 哀傷 |
8-新古 | 853 | なき人をしのひかねては忘草おほかるやとにやとりをそする なきひとを しのひかねては わすれくさ おほかるやとに やとりをそする | 藤原兼輔 | 哀傷 |
8-新古 | 854 | くやしくそのちにあはんと契けるけふをかきりといはまし物を くやしくそ のちにあはむと ちきりける けふをかきりと いはましものを | 藤原季縄 | 哀傷 |
8-新古 | 855 | すみそめのそてはそらにもかさなくにしほりもあへすつゆそこほるる すみそめの そてはそらにも かさなくに しほりもあへす つゆそこほるる | 具平親王 | 哀傷 |
8-新古 | 856 | くれぬまの身をはおもはて人のよのあはれをしるそかつははかなき くれぬまの みをはおもはて ひとのよの あはれをしるそ かつははかなき | 紫式部 | 哀傷 |
8-新古 | 857 | たまほこのみちの山風さむからはかたみかてらにきなんとそおもふ たまほこの みちのやまかせ さむからは かたみかてらに きなむとそおもふ | 紀貫之 | 離別 |
8-新古 | 858 | わすれなん世にもこしちのかへる山いつはた人にあはむとすらん わすれなむ よにもこしちの かへるやま いつはたひとに あはむとすらむ | 伊勢 | 離別 |
8-新古 | 859 | きたへゆく雁のつはさにことつてよ雲のうはかきかきたえすして きたへゆく かりのつはさに ことつてよ くものうはかき かきたえすして | 紫式部 | 離別 |
8-新古 | 860 | 秋きりのたつたひころもをきて見よつゆはかりなるかたみなりとも あききりの たつたひころも おきてみよ つゆはかりなる かたみなりとも | 大中臣能宣 | 離別 |
8-新古 | 861 | 見てたにもあかぬ心をたまほこのみちのおくまて人のゆくらん みてたにも あかぬこころを たまほこの みちのおくまて ひとのゆくらむ | 紀貫之 | 離別 |
8-新古 | 862 | あふさかの関にわかやとなかりせはわかるる人はたのまさらまし あふさかの せきにわかやと なかりせは わかるるひとは たのまさらまし | 藤原兼輔 | 離別 |
8-新古 | 863 | きならせと思しものをたひころもたつ日をしらすなりにける哉 きならせと おもひしものを たひころも たつひをしらす なりにけるかな | 読人知らず | 離別 |
8-新古 | 864 | これやさは雲のはたてにをるときくたつことしらぬあまのは衣 これやさは くものはたてに おるときく たつことしらぬ あまのはころも | 寂昭法師 | 離別 |
8-新古 | 865 | 衣河見なれし人のわかれにはたもとまてこそ浪はたちけれ ころもかは みなれしひとの わかれには たもとまてこそ なみはたちけれ | 源重之 | 離別 |
8-新古 | 866 | ゆくすゑにあふくま河のなかりせはいかにかせましけふのわかれを ゆくすゑに あふくまかはの なかりせは いかにかせまし けふのわかれを | 高階経重 | 離別 |
8-新古 | 867 | 君に又あふくま河をまつへきにのこりすくなきわれそかなしき きみにまた あふくまかはを まつへきに のこりすくなき われそかなしき | 藤原範永 | 離別 |
8-新古 | 868 | すすしさはいきの松はらまさるともそふるあふきの風なわすれそ すすしさは いきのまつはら まさるとも そふるあふきの かせなわすれそ | 枇杷皇太后宮 | 離別 |
8-新古 | 869 | 神な月まれのみゆきにさそはれてけふわかれなはいつかあひみん かみなつき まれのみゆきに さそはれて けふわかれなは いつかあひみむ | 一条右大臣恒佐 | 離別 |
8-新古 | 870 | わかれてののちもあひみんとおもへともこれをいつれの時とかはしる わかれての のちもあひみむと おもへとも これをいつれの ときとかはしる | 大江千里 | 離別 |
8-新古 | 871 | もろこしもあめのしたにそありときくてる日のもとをわすれさらなん もろこしも あめのしたにそ ありときく てるひのもとを わすれさらなむ | 読人知らず | 離別 |
8-新古 | 872 | わかれちはこれやかきりのたひならんさらにいくへき心ちこそせね わかれちは これやかきりの たひならむ さらにいくへき ここちこそせね | 道命法師 | 離別 |
8-新古 | 873 | あまのかはそらにきえにしふなてにはわれそまさりてけさはかなしき あまのかは そらにきこえし ふなてには われそまさりて けさはかなしき | 加賀左衛門 | 離別 |
8-新古 | 874 | わかれちはいつもなけきのたえせぬにいととかなしき秋のゆふくれ わかれちは いつもなけきの たえせぬに いととかなしき あきのゆふくれ | 藤原隆家 | 離別 |
8-新古 | 875 | ととまらんことは心にかなへともいかにかせまし秋のさそふを ととまらむ ことはこころに かなへとも いかにかせまし あきのさそふを | 藤原実方 | 離別 |
8-新古 | 876 | 宮こをは秋とともにそたちそめしよとの河きりいくよへたてつ みやこをは あきとともにそ たちそめし よとのかはきり いくよへたてつ | 大江匡房 | 離別 |
8-新古 | 877 | 思いてはおなしそらとは月をみよほとは雲井にめくりあふまて おもひいてて おなしそらとは つきをみよ ほとはくもゐに めくりあふまて | 後三条院 | 離別 |
8-新古 | 878 | かへりこんほとおもふにもたけくまのまつわか身こそいたくおいぬれ かへりこむ ほとおもふにも たけくまの まつわかみこそ いたくおいぬれ | 藤原基俊 | 離別 |
8-新古 | 879 | おもへともさためなきよのはかなさにいつをまてともえこそたのめね おもへとも さためなきよの はかなさに いつをまてとも えこそたのめね | 行尊 | 離別 |
8-新古 | 880 | 契をくことこそさらになかりしかかねて思しわかれならねは ちきりおく ことこそさらに なかりしか かねておもひし わかれならねは | 読人知らず | 離別 |
8-新古 | 881 | かりそめのわかれとけふをおもへともいさやまことのたひにもあるらん かりそめの わかれとけふを おもへとも いさやまことの たひにもあるらむ | 俊恵法師 | 離別 |
8-新古 | 882 | かへりこんほとをや人にちきらまししのはれぬへきわか身なりせは かへりこむ ほとをやひとに ちきらまし しのはれぬへき わかみなりせは | 登蓮法師 | 離別 |
8-新古 | 883 | たれとしもしらぬわかれのかなしきはまつらのおきをいつるふな人 たれとしも しらぬわかれの かなしきは まつらのおきを いつるふなひと | 藤原隆信 | 離別 |
8-新古 | 884 | はるはると君かわくへきしらなみをあやしやとまる袖にかけつる はるはると きみかわくへき しらなみを あやしやとまる そてにかけつる | 俊恵法師 | 離別 |
8-新古 | 885 | 君いなは月まつとてもなかめやらんあつまのかたのゆふくれの空 きみいなは つきまつとても なかめやらむ あつまのかたの ゆふくれのそら | 西行法師 | 離別 |
8-新古 | 886 | たのめをかん君もこころやなくさむとかへらん事はいつとなくとも たのめおかむ きみもこころや なくさむと かへらむことは いつとなくとも | 読人知らず | 離別 |
8-新古 | 887 | さりともとなをあふことをたのむかなしての山ちをこえぬわかれは さりともと なほあふことも たのむかな してのやまちを こえぬわかれは | 読人知らず | 離別 |
8-新古 | 888 | かへりこんほとをちきらむとおもへともおいぬる身こそさためかたけれ かへりこむ ほとをちきらむと おもへとも おいぬるみこそ さためかたけれ | 道因法師 | 離別 |
8-新古 | 889 | かりそめのたひのわかれとしのふれとおいは涙もえこそととめね かりそめの たひのわかれと しのふれと おいはなみたも えこそととめね | 藤原俊成 | 離別 |
8-新古 | 890 | わかれにし人はまたもやみわの山すきにしかたを今になさはや わかれにし ひとはまたもや みわのやま すきにしかたを いまになさはや | 祝部成仲 | 離別 |
8-新古 | 891 | わするなよやとるたもとはかはるともかたみにしほるよはの月かけ わするなよ やとるたもとは かはるとも かたみにしほる よはのつきかけ | 藤原定家 | 離別 |
8-新古 | 892 | なこりおもふたもとにかねてしられけりわかるるたひのゆくすゑのつゆ なこりおもふ たもとにかねて しられけり わかるるたひの ゆくすゑのつゆ | 惟明親王 | 離別 |
8-新古 | 893 | 宮こをは心をそらにいてぬとも月みんたひに思をこせよ みやこをは こころのそらに いてぬとも つきみむたひに おもひおこせよ | 読人知らず | 離別 |
8-新古 | 894 | わかれちは雲井のよそになりぬともそなたの風のたよりすくすな わかれちは くもゐのよそに なりぬとも そなたのかせの たよりすくすな | 源行宗 | 離別 |
8-新古 | 895 | いろふかくそめたるたひのかり衣かへらんまてのかたみともみよ いろふかく そめたるたひの かりころも かへらむまての かたみともみよ | 藤原顕綱 | 離別 |
8-新古 | 896 | とふとりのあすかのさとををきていなは君かあたりはみえすかもあらん とふとりの あすかのさとを おきていなは きみかあたりは みえすかもあらむ | 元明天皇 | 羈旅 |
8-新古 | 897 | いもにこひわかの松はらみわたせはしほひのかたにたつなきわたる いもにこひ わかのまつはら みわたせは しほひのかたに たつなきわたる | 聖武天皇 | 羈旅 |
8-新古 | 898 | いさこともはや日のもとへおほとものみつのはま松まちこひぬらん いさことも はやひのもとへ おほともの みつのはままつ まちこひぬらむ | 山上憶良 | 羈旅 |
8-新古 | 899 | あまさかるひなのなかちをこきくれはあかしのとより山としまみゆ あまさかる ひなのなかちを こきくれは あかしのとより やまとしまみゆ | 柿本人麿 | 羈旅 |
8-新古 | 900 | ささの葉は(は=のイ)み山もそよにみたるな(な=めイ)りわれはいもおもふわかれきぬれは ささのはは みやまもそよに みたるなり われはいもおもふ わかれきぬれは | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 901 | ここにありてつくしやいつこ白雲のたなひく山のにしにあるらし ここにありて つくしやいつこ しらくもの たなひくやまの にしにあるらし | 大伴旅人 | 羈旅 |
8-新古 | 902 | あさきりにぬれにし衣ほさすしてひとりや君か山ちこゆらん あさきりに ぬれにしころも ほさすして ひとりやきみか やまちこゆらむ | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 903 | しなのなるあさまのたけに立けふりをちこち人のみやはとかめね しなのなる あさまのたけに たつけふり をちこちひとの みやはとかめぬ | 在原業平 | 羈旅 |
8-新古 | 904 | するかなるうつの山辺のうつつにも夢にも人にあはぬなりけり するかなる うつのやまへの うつつにも ゆめにもひとに あはぬなりけり | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 905 | 草まくらゆふ風さむくなりにけり衣うつなるやとやからまし くさまくら ゆふかせさむく なりにけり ころもうつなる やとやからまし | 紀貫之 | 羈旅 |
8-新古 | 906 | 白雲のたなひきわたるあしひきの山のかけはしけふやこえなん しらくもの たなひきわたる あしひきの やまのかけはし けふやこえなむ | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 907 | あつまちのさやのなか山さやかにも見えぬ雲ゐによをやつくさん あつまちや さやのなかやま さやかにも みえぬくもゐに よをやつくさむ | 壬生忠峯 | 羈旅 |
8-新古 | 908 | 人をなをうらみつへしや宮こ鳥ありやとたにもとふをきかねは ひとをなほ うらみつへしや みやことり ありやとたにも とふをきかねは | 女御徽子女王 | 羈旅 |
8-新古 | 909 | またしらぬふるさと人はけふまてにこんとたのめしわれをまつらん またしらぬ ふるさとひとは けふまてに こむとたのめし われをまつらむ | 菅原輔昭 | 羈旅 |
8-新古 | 910 | しなかとりゐな野をゆけはありま山ゆふきりたちぬやとはなくして しなかとり ゐなのをゆけは ありまやま ゆふきりたちぬ やとはなくして | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 911 | 神風のいせのはまおきおりふせ(ふせ=しきイ)てたひねやすらんあらきはまへに かみかせや いせのはまをき をりふせて たひねやすらむ あらきはまへに | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 912 | ふるさとのたひねの夢にみえつるはうらみやすらんまたととはねは ふるさとの たひねのゆめに みえつるは うらみやすらむ またととはねは | 橘良利 | 羈旅 |
8-新古 | 913 | たちなからこよひはあけぬそのはらやふせやといふもかひなかりけり たちなから こよひはあけぬ そのはらや ふせやといふも かひなかりけり | 藤原輔尹 | 羈旅 |
8-新古 | 914 | 宮こにてこしちのそらをなかめつつ雲井といひしほとにきにけり みやこにて こしちのそらを なかめつつ くもゐといひし ほとにきにけり | 御形宣旨 | 羈旅 |
8-新古 | 915 | たひ衣たちゆくなみちとをけれはいさしら雲のほともしられす たひころも たちゆくなみち とほけれは いさしらくもの ほともしられす | 法橋(大+周)然 | 羈旅 |
8-新古 | 916 | ふねなからこよひはかりはたひねせんしきつの浪に夢はさむとも ふねなから こよひはかりは たひねせむ しきつのなみに ゆめはさむとも | 藤原実方 | 羈旅 |
8-新古 | 917 | わかことくわれをたつねはあまを舟人もなきさのあととこたへよ わかことく われをたつねは あまをふね ひともなきさの あととこたえよ | 行尊 | 羈旅 |
8-新古 | 918 | かきくもりゆふたつ浪のあらけれはうきたる舟そしつ心なき かきくもり ゆふたつなみの あらけれは うきたるふねそ しつこころなき | 紫式部 | 羈旅 |
8-新古 | 919 | さよふけてあしのすゑこす浦風にあはれうちそふ浪のをとかな さよふけて あしのすゑこす うらかせに あはれうちそふ なみのおとかな | 肥後 | 羈旅 |
8-新古 | 920 | たひねして暁かたの鹿のねにいな葉をしなみ秋風そふく たひねして あかつきかたの しかのねに いなはおしなひ あきかせそふく | 源経信 | 羈旅 |
8-新古 | 921 | わきもこかたひねの衣うすきほとよきてふかなんよはの山風 わきもこか たひねのころも うすきほと よきてふかなむ よはのやまかせ | 恵慶法師 | 羈旅 |
8-新古 | 922 | あしの葉をかりふくしつの山さとに衣かたしきたひねをそする あしのはを かりふくしつの やまさとに ころもかたしき たひねをそする | 源隆綱 | 羈旅 |
8-新古 | 923 | ありしよのたひはたひともあらさりきひとりつゆけき草枕かな ありしよの たひはたひとも あらさりき ひとりつゆけき くさまくらかな | 赤染衛門 | 羈旅 |
8-新古 | 924 | 山ちにてそをちにけりなしらつゆのあか月をきの木々のしつくに やまちにて そほちにけりな しらつゆの あかつきおきの ききのしつくに | 源国信 | 羈旅 |
8-新古 | 925 | 草枕たひねの人は心せよありあけの月もかたふきにけり くさまくら たひねのひとは こころせよ ありあけのつきも かたふきにけり | 源師頼 | 羈旅 |
8-新古 | 926 | いそなれぬ心そたへぬたひねするあしのまろやにかかる白浪 いそなれぬ こころそたへぬ たひねする あしのまろやに かかるしらなみ | 源師賢 | 羈旅 |
8-新古 | 927 | たひねするあしのまろやのさむけれはつま木こりつむ舟いそく也 たひねする あしのまろやの さむけれは つまきこりつむ ふねいそくなり | 源経信 | 羈旅 |
8-新古 | 928 | みやまちにけさやいてつるたひ人のかさしろたへに雪つもりつつ みやまちに けさやいてつる たひひとの かさしろたへに ゆきつもりつつ | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 929 | 松かねにお花かりしきよもすからかたしく袖に雪はふりつつ まつかねに をはなかりしき よもすから かたしくそてに ゆきはふりつつ | 藤原顕季 | 羈旅 |
8-新古 | 930 | 見し人もとふの浦風をとせぬにつれなくすめる秋のよの月 みしひとも とふのうらかせ おとせぬに つれなくすめる あきのよのつき | 橘為仲 | 羈旅 |
8-新古 | 931 | 草枕ほとそへにける宮こいてていくよかたひの月にねぬらん くさまくら ほとそへにける みやこいてて いくよかたひの つきにねぬらむ | 大江嘉言 | 羈旅 |
8-新古 | 932 | なつかりのあしのかりねもあはれなりたまえの月のあけかたの空 なつかりの あしのかりねも あはれなり たまえのつきの あけかたのそら | 藤原俊成 | 羈旅 |
8-新古 | 933 | たちかへり又もきて見ん松嶋やをしまのとまや浪にあらすな たちかへり またもきてみむ まつしまや をしまのとまや なみにあらすな | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 934 | こととへよ思おきつのはまちとりなくなくいてしあとの月かけ こととへよ おもひおきつの はまちとり なくなくいてし あとのつきかけ | 藤原定家 | 羈旅 |
8-新古 | 935 | 野辺のつゆ浦わのなみをかこちてもゆくゑもしらぬ袖の月かけ のへのつゆ うらわのなみを かこちても ゆくへもしらぬ そてのつきかけ | 藤原家隆 | 羈旅 |
8-新古 | 936 | もろともにいてしそらこそわすられね宮この山のありあけの月 もろともに いてしそらこそ わすられね みやこのやまの ありあけのつき | 九条良経 | 羈旅 |
8-新古 | 937 | 宮こにて月をあはれとおもひしはかすにもあらぬすさひなりけり みやこにて つきをあはれと おもひしは かすにもあらぬ すさひなりけり | 西行法師 | 羈旅 |
8-新古 | 938 | 月見はと契をきてしふるさとの人もやこよひ袖ぬらすらん つきみはと ちきりていてし ふるさとの ひともやこよひ そてぬらすらむ | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 939 | あけは又こゆへき山のみねなれやそらゆく月のすゑの白雲 あけはまた こゆへきやまの みねなれや そらゆくつきの すゑのしらくも | 藤原家隆 | 羈旅 |
8-新古 | 940 | ふるさとのけふのおもかけさそひこと月にそちきるさよのなか山 ふるさとの けふのおもかけ さそひこと つきにそちきる さよのなかやま | 飛鳥井雅経 | 羈旅 |
8-新古 | 941 | わすれしとちきりていてしおもかけは見ゆらん物をふるさとの月 わすれしと ちきりていてし おもかけは みゆらむものを ふるさとのつき | 九条良経 | 羈旅 |
8-新古 | 942 | あつまちのよはのなかめをかたらなん宮この山にかかる月かけ あつまちの よはのなかめを かたらなむ みやこのやまに かかるつきかけ | 慈円 | 羈旅 |
8-新古 | 943 | いくよかは月を哀となかめきてなみにおりしくいせのはまおき いくよかは つきをあはれと なかめきて なみにをりしく いせのはまをき | 越前 | 羈旅 |
8-新古 | 944 | しらさりしやそせの浪をわけすきてかたしく物はいせのはまおき しらさりし やそせのなみを わけすきて かたしくものは いせのはまをき | 宜秋門院丹後 | 羈旅 |
8-新古 | 945 | 風すさみいせのはまおきわけゆけは衣かりかね浪になくなり かせさむみ いせのはまをき わけゆけは ころもかりかね なみになくなり | 大江匡房 | 羈旅 |
8-新古 | 946 | いそなれて心もとけぬこもまくらあらくなかけそ水のしら浪 いそなれて こころもとけぬ こもまくら あらくなかけそ みつのしらなみ | 藤原定頼 | 羈旅 |
8-新古 | 947 | ゆくすゑはいまいくよとかいはしろのをかのかやねにまくらむすはん ゆくすゑは いまいくよとか いはしろの をかのかやねに まくらむすはむ | 式子内親王 | 羈旅 |
8-新古 | 948 | 松かねのをしまかいそのさよまくらいたくなぬれそあまの袖かは まつかねの をしまかいその さよまくら いたくなぬれそ あまのそてかは | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 949 | かくしてもあかせはいくよすきぬらん山ちの苔のつゆのむしろに かくしても あかせはいくよ すきぬらむ やまちのこけの つゆのむしろに | 藤原俊成女 | 羈旅 |
8-新古 | 950 | 白雲のかかるたひねもならはぬにふかき山路に日はくれにけり しらくもの かかるたひねも ならはぬに ふかきやまちに ひはくれにけり | 権僧正永縁 | 羈旅 |
8-新古 | 951 | ゆふ日さすあさちかはらのたひ人はあはれいつくにやとをとるらん ゆふひさす あさちかはらの たひひとは あはれいくよに やとをかるらむ | 源経信 | 羈旅 |
8-新古 | 952 | いつくにかこよひはやとをかり衣ひもゆふくれのみねのあらしに いつくにか こよひはやとを かりころも ひもゆふくれの みねのあらしに | 藤原定家 | 羈旅 |
8-新古 | 953 | たひ人の袖ふきかへす秋風にゆふひさひしき山のかけはし たひひとの そてふきかへす あきかせに ゆふひさひしき やまのかけはし | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 954 | ふるさとにききしあらしの声もにすわすれね人をさやの中山 ふるさとに ききしあらしの こゑもにす わすれぬひとを さやのなかやま | 藤原家隆 | 羈旅 |
8-新古 | 955 | しら雲のいくへのみねをこえぬらむなれぬ嵐に袖をまかせて しらくもの いくへのみねを こえぬらむ なれぬあらしに そてをまかせて | 飛鳥井雅経 | 羈旅 |
8-新古 | 956 | けふは又しらぬのはらにゆきくれぬいつれの山か月はいつらむ けふはまた しらぬのはらに ゆきくれぬ いつれのやまか つきはいつらむ | 源家長 | 羈旅 |
8-新古 | 957 | ふるさともあきはゆふへをかたみにてかせのみをくるをののしのはら ふるさとも あきはゆふへを かたみとて かせのみおくる をののしのはら | 藤原俊成女 | 羈旅 |
8-新古 | 958 | いたつらにたつやあさまのゆふけふりさととひかぬるをちこちの山 いたつらに たつやあさまの ゆふけふり さととひかぬる をちこちのやま | 飛鳥井雅経 | 羈旅 |
8-新古 | 959 | みやこをはあまつそらともきかさりきなになかむらん雲のはたてを みやこをは あまつそらとも きかさりき なになかむらむ くものはたてを | 宜秋門院丹後 | 羈旅 |
8-新古 | 960 | くさまくらゆふへのそらを人とははなきてもつけよはつかりのこゑ くさまくら ゆふへのそらを ひととはは なきてもつけよ はつかりのこゑ | 藤原秀能 | 羈旅 |
8-新古 | 961 | ふしわひぬしののをささのかりまくらはかなの露やひと夜はかりに ふしわひぬ しののをささの かりまくら はかなのつゆや ひとよはかりに | 藤原有家 | 羈旅 |
8-新古 | 962 | 岩かねのとこに嵐をかたしきてひとりやねなんさよの中山 いはかねの とこにあらしを かたしきて ひとりやねなむ さよのなかやま | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 963 | たれとなきやとの夕を契にてかはるあるしをいく夜とふらむ たれとなき やとのゆふへを ちきりにて かはるあるしを いくよとふらむ | 藤原業清 | 羈旅 |
8-新古 | 964 | まくらとていつれの草にちきるらんゆくをかきりの野辺の夕暮 まくらとて いつれのくさに ちきるらむ ゆくをかきりの のへのゆふくれ | 鴨長明 | 羈旅 |
8-新古 | 965 | 道のへの草のあを葉に駒とめてなを故郷をかへりみるかな みちのへの くさのあをはに こまとめて なほふるさとを かへりみるかな | 藤原成範 | 羈旅 |
8-新古 | 966 | はつせやまゆふこえくれて宿とへはみわのひはらに秋かせそ吹 はつせやま ゆふこえくれて やととへは みわのひはらに あきかせそふく | 禅性法師 | 羈旅 |
8-新古 | 967 | さらぬ(ぬ=てイ)たに秋のたひねはかなしきに松にふくなりとこの山風 さらぬたに あきのたひねは かなしきに まつにふくなり とこのやまかせ | 藤原秀能 | 羈旅 |
8-新古 | 968 | わすれなむまつとなつけそ中々にいなはの山のみねのあきかせ わすれなむ まつとなつけそ なかなかに いなはのやまの みねのあきかせ | 藤原定家 | 羈旅 |
8-新古 | 969 | ちきらねとひと夜はすきぬきよみかた浪にわかるるあかつきのくも ちきらねと ひとよはすきぬ きよみかた なみにわかるる あかつきのくも | 藤原家隆 | 羈旅 |
8-新古 | 970 | ふるさとにたのめし人もすゑの松まつらむ袖に浪やこすらむ ふるさとに たのめしひとも すゑのまつ まつらむそてに なみやこすらむ | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 971 | 日をへつつ都しのふの浦さひて浪よりほかのおとつれもなし ひをへつつ みやこしのふの うらさひて なみよりほかの おとつれもなし | 藤原忠通 | 羈旅 |
8-新古 | 972 | さすらふる我身にしあれはきさかたやあまのとま屋にあまたたひねぬ さすらふる わかみにしあれは きさかたや あまのとまやに あまたたひねぬ | 藤原顕仲 | 羈旅 |
8-新古 | 973 | 難波人あし火たく屋に宿かりてすすろに袖のしほたるるかな なにはひと あしひたくやに やとかりて すすろにそての しほたるるかな | 藤原俊成 | 羈旅 |
8-新古 | 974 | 又こえむ人もとまらはあはれしれわか折しける峯の椎柴 またこえむ ひともとまらは あはれしれ わかをりしける みねのしひしは | 僧正雅縁 | 羈旅 |
8-新古 | 975 | 道すから富士の煙もわかさりきはるるまもなき空のけしきに みちすから ふしのけふりも わかさりき はるるまもなき そらのけしきに | 源頼朝 | 羈旅 |
8-新古 | 976 | 世中はうきふししけししの原や旅にしあれはいも夢にみゆ よのなかは うきふししけし しのはらや たひにしあれは いもゆめにみゆ | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 977 | おほつかな都にすまぬみやこ鳥こととふ人にいかかこたへし おほつかな みやこにすまぬ みやことり こととふひとに いかかこたへし | 宜秋門院丹後 | 羈旅 |
8-新古 | 978 | 世中をいとふまてこそかたからめかりのやとりをおしむ君かな よのなかを いとふまてこそ かたからめ かりのやとりをも をしむきみかな | 西行法師 | 羈旅 |
8-新古 | 979 | よをいとふ人としきけはかりの宿に心とむなと思ふはかりそ よをいとふ ひととしきけは かりのやとに こころとむなと おもふはかりそ | 遊女妙 | 羈旅 |
8-新古 | 980 | 袖にふけさそな旅ねの夢も見し思ふ方よりかよふうら風 そてにふけ さそなたひねの ゆめはみし おもふかたより かよふうらかせ | 藤原定家 | 羈旅 |
8-新古 | 981 | 旅ねする夢路はゆるせうつの山関とはきかすもる人もなし たひねする ゆめちはゆるせ うつのやま せきとはきかす もるひともなし | 藤原家隆 | 羈旅 |
8-新古 | 982 | 都にもいまや衣をうつの山夕霜はらふつたのしたみち みやこにも いまやころもを うつのやま ゆふしもはらふ つたのしたみち | 藤原定家 | 羈旅 |
8-新古 | 983 | 袖にしも月かかれとは契をかす涙はしるやうつの山こえ そてにしも つきかかれとは ちきりおかす なみたはしるや うつのやまこえ | 鴨長明 | 羈旅 |
8-新古 | 984 | 立田山秋ゆく人の袖を見よ木木の梢はしくれさりけり たつたやま あきゆくひとの そてをみよ ききのこすゑは しくれさりけり | 慈円 | 羈旅 |
8-新古 | 985 | さとりゆくまことのみちに入ぬれは恋しかるへきふるさともなし さとりゆく まことのみちに いりぬれは こひしかるへき ふるさともなし | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 986 | 故郷にかへらむことはあすか川わたらぬさきに淵瀬たかふな ふるさとへ かへらむことは あすかかは わたらぬさきに ふちせたかふな | 素覚法師 | 羈旅 |
8-新古 | 987 | 年たけて又こゆへしと思きや命なりけりさやの中山 としたけて またこゆへしと おもひきや いのちなりけり さやのなかやま | 西行法師 | 羈旅 |
8-新古 | 988 | 思ひをく人の心にしたはれて露わくる袖のかへりぬるかな おもひおく ひとのこころに したはれて つゆわくるそての かへりぬるかな | 読人知らず | 羈旅 |
8-新古 | 989 | 見るままに山風あらくしくるめり都もいまや夜さむなるらむ みるままに やまかせあらく しくるめり みやこもいまは よさむなるらむ | 太上天皇 | 羈旅 |
8-新古 | 990 | よそにのみ見てややみなんかつらきやたかまの山のみねの白雲 よそにのみ みてややみなむ かつらきや たかまのやまの みねのしらくも | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 991 | をとにのみありとききこしみよしのの瀧はけふこそ袖におちけれ おとにのみ ありとききこし みよしのの たきはけふこそ そてにおちけれ | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 992 | あしひきの山田もるいほにをくか火のしたこかれつつわかこふらくは あしひきの やまたもるいほに おくかひの したこかれつつ わかこふらくは | 柿本人麿 | 恋一 |
8-新古 | 993 | いその神ふるのわさ田のほにはいてす心のうちにこひやわたらん いそのかみ ふるのわさたの ほにはいてす こころのうちに こひやわたらむ | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 994 | かすか野のわかむらさきのすり衣しのふのみたれかきりしられす かすかのの わかむらさきの すりころも しのふのみたれ かきりしられす | 在原業平 | 恋一 |
8-新古 | 995 | むらさきの色にこころはあらねともふかくそ人をおもひそめつる むらさきの いろにこころは あらねとも ふかくそひとを おもひそめつる | 延喜 | 恋一 |
8-新古 | 996 | みかのはらわきてなかるるいつみかはいつみきとてかこひしかるらん みかのはら わきてなかるる いつみかは いつみきとてか こひしかるらむ | 藤原兼輔 | 恋一 |
8-新古 | 997 | そのはらやふせやにおふるははききのありとは見えてあはぬきみかな そのはらや ふせやにおふる ははききの ありとはみえて あはぬきみかな | 坂上是則 | 恋一 |
8-新古 | 998 | としをへておもふ心のしるしにそそらもたよりの風はふきける としをへて おもふこころの しるしにそ そらもたよりの かせはふきける | 藤原高光 | 恋一 |
8-新古 | 999 | とし月はわか身にそへてすきぬれと思ふこころのゆかすもあるかな としつきは わかみにそへて すきぬれと おもふこころの ゆかすもあるかな | 源高明 | 恋一 |
8-新古 | 1000 | もろともにあはれといはす人しれぬとはすかたりをわれのみやせん もろともに あはれといはすは ひとしれぬ とはすかたりを われのみやせむ | 源俊賢母 | 恋一 |
8-新古 | 1001 | 人つてにしらせてしかなかくれぬのみこもりにのみこひやわたらん ひとつてに しらせてしかな かくれぬの みこもりにのみ こひやわたらむ | 藤原朝忠 | 恋一 |
8-新古 | 1002 | みこもりのぬまのいはかきつつめともいかなるひまにぬるるたもとそ みこもりの ぬまのいはかき つつめとも いかなるひまに ぬるるたもとそ | 藤原高遠 | 恋一 |
8-新古 | 1003 | から衣袖に人めはつつめともこほるるものは涙なりけり からころも そてにひとめは つつめとも こほるるものは なみたなりけり | 謙徳公 | 恋一 |
8-新古 | 1004 | あまつそらとよのあかりに見し人のなをおもかけのしひてこひしき あまつそら とよのあかりに みしひとの なほおもかけの しひてこひしき | 藤原公任 | 恋一 |
8-新古 | 1005 | あらたまのとしにまかせて見るよりはわれこそこえめあふさかの関 あらたまの としにまかせて みるよりは われこそこえめ あふさかのせき | 謙徳公 | 恋一 |
8-新古 | 1006 | わかやとはそこともなにかをしふへきいはてこそ見めたつねけりやと わかやとは そこともなにか をしふへき いはてこそみめ たつねけりやと | 本院侍従 | 恋一 |
8-新古 | 1007 | わかおもひそらのけふりとなりぬれは雲井なからもなをたつねてん わかおもひ そらのけふりと なりぬれは くもゐなからも なほたつねてむ | 忠義公 | 恋一 |
8-新古 | 1008 | しるしなきけふりを雲にまかへつつ夜をへてふしの山ともえなん しるしなき けふりをくもに まかへつつ よをへてふしの やまともえなむ | 紀貫之 | 恋一 |
8-新古 | 1009 | けふりたつおもひならねと人しれすわひてはふしのねをのみそなく けふりたつ おもひならねと ひとしれす わひてはふしの ねをのみそなく | 深養父 | 恋一 |
8-新古 | 1010 | 風ふけはむろのやしまのゆふけふり心のそらにたちにけるかな かせふけは むろのやしまの ゆふけふり こころのそらに たちにけるかな | 藤原惟成 | 恋一 |
8-新古 | 1011 | 白雲のみねにしもなとかよふらんおなしみかさの山のふもとを しらくもの みねにしもなと かよふらむ おなしみかさの やまのふもとを | 藤原義孝 | 恋一 |
8-新古 | 1012 | けふもまたかくやいふきのさしもくささらはわれのみもえやわたらん けふもまた かくやいふきの さしもくさ さらはわれのみ もえやわたらむ | 和泉式部 | 恋一 |
8-新古 | 1013 | つくは山は山しけ山しけけれとおもひいるにはさはらさりけり つくはやま はやましけやま しけけれと おもひいるには さはらさりけり | 源重之 | 恋一 |
8-新古 | 1014 | われならぬ人に心をつくは山したにかよはんみちたにやなき われならぬ ひとにこころを つくはやま したにかよはむ みちたにやなき | 大中臣能宣 | 恋一 |
8-新古 | 1015 | 人しれすおもふ心はあしひきの山した水のわきやかへらん ひとしれす おもふこころは あしひきの やましたみつの わきやかへらむ | 大江匡衡 | 恋一 |
8-新古 | 1016 | にほふらんかすみのうちの桜花おもひやりてもおしき春かな にほふらむ かすみのうちの さくらはな おもひやりても をしきはるかな | 清原元輔 | 恋一 |
8-新古 | 1017 | いくかへりさきちる花をなかめつつものおもひくらす春にあふらん いくかへり さきちるはなを なかめつつ ものおもひくらす はるにあふらむ | 大中臣能宣 | 恋一 |
8-新古 | 1018 | おく山のみねとひこゆるはつかりのはつかにたにも見てややみなん おくやまの みねとひこゆる はつかりの はつかにたにも みてややみなむ | 凡河内躬恒 | 恋一 |
8-新古 | 1019 | おほそらをわたる春日のかけなれやよそにのみしてのとけかるらん おほそらを わたるはるひの かけなれや よそにのみして のとけかるらむ | 亭子院 | 恋一 |
8-新古 | 1020 | 春風のふくにもまさるなみたかなわかみなかみも氷とくらし はるかせの ふくにもまさる なみたかな わかみなかみに こほりとくらし | 謙徳公 | 恋一 |
8-新古 | 1021 | 水のうへにうきたるとりのあともなくおほつかなさをおもふ比かな みつのうへに うきたるとりの あともなく おほつかなさを おもふころかな | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1022 | かたをかの雪まにねさすわか草のほのかに見てし人そこひしき かたをかの ゆきまにねさす わかくさの ほのかにみてし ひとそこひしき | 曽祢好忠 | 恋一 |
8-新古 | 1023 | あとをたに草のはつかに見てしかなむすふはかりのほとならすとも あとをたに くさのはつかに みてしかな むすふはかりの ほとならすとも | 和泉式部 | 恋一 |
8-新古 | 1024 | しものうへにあとふみつくるはまちとりゆくゑもなしとねをのみそなく しものうへに あとふみつくる はまちとり ゆくへもなしと ねをのみそなく | 藤原興風 | 恋一 |
8-新古 | 1025 | 秋はきのえたもとををにをくつゆのけさきえぬとも色にいてめや あきはきの えたもとををに おくつゆの けさきえぬとも いろにいてめや | 大伴家持 | 恋一 |
8-新古 | 1026 | あき風にみたれてものはおもへともはきのした葉のいろはかはらす あきかせに みたれてものは おもへとも はきのしたはの いろはかはらす | 藤原高光 | 恋一 |
8-新古 | 1027 | わかこひもいまはいろにやいてなましのきのしのふももみちしにけり わかこひも いまはいろにや いてなまし のきのしのふも もみちしにけり | 源有仁 | 恋一 |
8-新古 | 1028 | いその神ふるの神すきふりぬれといろにはいてすつゆも時雨も いそのかみ ふるのかみすき ふりぬれと いろにはいてす つゆもしくれも | 九条良経 | 恋一 |
8-新古 | 1029 | わかこひはまきのした葉にもるしくれぬるとも袖のいろにいてめや わかこひは まきのしたはに もるしくれ ぬるともそての いろにいてめや | 太上天皇 | 恋一 |
8-新古 | 1030 | わかこひは松をしくれのそめかねてまくすかはらに風さはくなり わかこひは まつをしくれの そめかねて まくすかはらに かせさわくなり | 慈円 | 恋一 |
8-新古 | 1031 | うつせみのなくねやよそにもりのつゆほしあへぬ袖を人のとふまて うつせみの なくねやよそに もりのつゆ ほしあへぬそてを ひとのとふまて | 九条良経 | 恋一 |
8-新古 | 1032 | おもひあれは袖にほたるをつつみてもいははや物をとふ人はなし おもひあれは そてにほたるを つつみても いははやものを とふひとはなし | 寂蓮法師 | 恋一 |
8-新古 | 1033 | 思つつへにけるとしのかひやなきたたあらましのゆふくれの空 おもひつつ へにけるとしの かひやなき たたあらましの ゆふくれのそら | 太上天皇 | 恋一 |
8-新古 | 1034 | たまのをよたえなはたえねなからへはしのふることのよはりもそする たまのをよ たえなはたえね なからへは しのふることの よわりもそする | 式子内親王 | 恋一 |
8-新古 | 1035 | わすれてはうちなけかるるゆふへかなわれのみしりてすくる月日を わすれては うちなけかるる ゆふへかな われのみしりて すくるつきひを | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1036 | わかこひはしる人もなしせくとこの涙もらすなつけのを枕 わかこひは しるひともなし せくとこの なみたもらすな つけのをまくら | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1037 | しのふるに心のひまはなけれともなをもる物はなみたなりけり しのふるに こころのひまは なけれとも なほもるものは なみたなりけり | 藤原忠通 | 恋一 |
8-新古 | 1038 | つらけれとうらみんとはたおもほえすなをゆくさきをたのむ心に つらけれと うらみむとはた おもほえす なほゆくさきを たのむこころに | 謙徳公 | 恋一 |
8-新古 | 1039 | 雨もこそはたのまはもらめたのますはおもはぬ人と見てをやみなん あめこそは たのまはもらめ たのますは おもはぬひとと みてをやみなむ | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1040 | 風ふけはとはになみこすいそなれやわか衣手のかはく時なき かせふけは とはになみこす いそなれや わかころもての かわくときなき | 紀貫之 | 恋一 |
8-新古 | 1041 | すまのあまのなみかけ衣よそにのみきくはわか身になりにけるかな すまのあまの なみかけころも よそにのみ きくはわかみに なりにけるかな | 藤原道信 | 恋一 |
8-新古 | 1042 | ぬまことに袖そぬれぬるあやめくさ心ににたるねをもとむとて ぬまことに そてそぬれぬる あやめくさ こころににたる ねをもとむとて | 三条院女蔵人左近 | 恋一 |
8-新古 | 1043 | ほとときすいつかとまちしあやめくさけふはいかなるねにかなくへき ほとときす いつかとまちし あやめくさ けふはいかなる ねにかなくへき | 藤原公任 | 恋一 |
8-新古 | 1044 | さみたれはそらおほれするほとときすときになくねは人もとかめす さみたれは そらおほれする ほとときす ときになくねは ひともとかめす | 馬内侍 | 恋一 |
8-新古 | 1045 | ほとときす声をきけと花のえにまたふみなれぬ物をこそおもへ ほとときす こゑをはきけと はなのえに またふみなれぬ ものをこそおもへ | 藤原道長 | 恋一 |
8-新古 | 1046 | ほとときすしのふるものをかしは木のもりても声のきこえける哉 ほとときす しのふるものを かしはきの もりてもこゑの きこえけるかな | 馬内侍 | 恋一 |
8-新古 | 1047 | こころのみそらになりつつほとときす人たのめなるねこそなかるれ こころのみ そらになりつつ ほとときす ひとたのめなる ねこそなかるれ | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1048 | みくまのの浦よりをちにこく舟のわれをはよそにへたてつるかな みくまのの うらよりをちに こくふねの われをはよそに へたてつるかな | 伊勢 | 恋一 |
8-新古 | 1049 | なにはかたみしかきあしのふしのまもあはてこのよをすくしてよとや なにはかた みしかきあしの ふしのまも あはてこのよを すくしてよとや | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1050 | みかりするかりはのをののならしはのなれはまさらてこひそまされる みかりする かりはのをのの ならしはの なれはまさらて こひそまされる | 柿本人麿 | 恋一 |
8-新古 | 1051 | うとはまのうとくのみやはよをはへんなみのよるよるあひ見てしかな うとはまの うとくのみやは よをはへむ なみのよるよる あひみてしかな | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1052 | あつまちのみちのはてなるひたちおひのかことはかりもあはんとそ思 あつまちの みちのはてなる ひたちおひの かことはかりも あはむとそおもふ | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1053 | にこりえのすまんことこそかたからめいかてほのかにかけをみせまし にこりえの すまむことこそ かたからめ いかてほのかに かけをみせまし | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1054 | しくれふる冬のこの葉のかはかすそものおもふ人の袖はありける しくれふる ふゆのこのはの かわかすそ ものおもふひとの そてはありける | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1055 | ありとのみをとにききつつをとは河わたらは袖にかけもみえなん ありとのみ おとにききつつ おとはかは わたらはそてに かけもみえなむ | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1056 | 水くきのをかの木の葉をふきかへしたれかは君をこひんと思し みつくきの をかのこのはを ふきかへし たれかはきみを こひむとおもひし | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1057 | わか袖にあとふみつけよはまちとりあふことかたし見てもしのはん わかそてに あとふみつけよ はまちとり あふことかたし みてもしのはむ | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1058 | 冬のよのなみたにこほるわか袖の心とけすも見ゆるきみかな ふゆのよの なみたにこほる わかそての こころとけすも みゆるきみかな | 藤原兼輔 | 恋一 |
8-新古 | 1059 | しも氷心もとけぬ冬のいけによふけてそなくをしの一声 しもこほり こころもとけぬ ふゆのいけに よふけてそなく をしのひとこゑ | 藤原元真 | 恋一 |
8-新古 | 1060 | なみたかは身もうくはかりなかるれときえぬは人の思なりけり なみたかは みもうくはかり なかるれと きえぬはひとの おもひなりけり | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1061 | いかにせんくめちのはしのなかそらにわたしもはてぬ身とやなりなん いかにせむ くめちのはしの なかそらに わたしもはてぬ みとやなりなむ | 藤原実方 | 恋一 |
8-新古 | 1062 | たれそこのみわのひはらもしらなくに心のすきのわれをたつぬる たれそこの みわのひはらも しらなくに こころのすきの われをたつぬる | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1063 | わかこひはいはぬはかりそなにはなるあしのしのやのしたにこそたけ わかこひは いはぬはかりそ なにはなる あしのしのやの したにこそたけ | 小弁 | 恋一 |
8-新古 | 1064 | わかこひはありそのうみの風をいたみしきりによするなみのまもなし わかこひは ありそのうみの かせをいたみ しきりによする なみのまもなし | 伊勢 | 恋一 |
8-新古 | 1065 | すまのうらにあまのこりつむもしほ木のからくもしたにもえわたる哉 すまのうらに あまのこりつむ もしほきの からくもしたに もえわたるかな | 藤原清正 | 恋一 |
8-新古 | 1066 | あるかひもなきさによする白浪のまなくものおもふわか身なりけり あるかひも なきさによする しらなみの まなくものおもふ わかみなりけり | 源景明 | 恋一 |
8-新古 | 1067 | あしひきの山したたきついはなみの心くたけて人そこひしき あしひきの やましたたきつ いはなみの こころくたけて ひとそこひしき | 紀貫之 | 恋一 |
8-新古 | 1068 | あしひきのやましたしけき夏草のふかくも君をおもふ比かな あしひきの やましたしけき なつくさの ふかくもきみを おもふころかな | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1069 | をしかふす夏野のくさのみちをなみしけきこひちにまとふ比かな をしかふす なつののくさの みちをなみ しけきこひちに まとふころかな | 坂上是則 | 恋一 |
8-新古 | 1070 | かやり火のさよふけかたのしたこかれくるしやわか身人しれすのみ かやりひの さよふけかたの したこかれ くるしやわかみ ひとしれすのみ | 曽祢好忠 | 恋一 |
8-新古 | 1071 | ゆらのとをわたるふな人かちをたえゆくゑもしらぬ恋のみちかも ゆらのとを わたるふなひと かちをたえ ゆくへもしらぬ こひのみちかも | 読人知らず | 恋一 |
8-新古 | 1072 | おひ風にやへのしほちをゆくふねのほのかにたにもあひみてしかな おひかせに やへのしほちを ゆくふねの ほのかにたにも あひみてしかな | 源師時 | 恋一 |
8-新古 | 1073 | かちをたえゆらのみなとによる舟のたよりもしらぬおきつしほ風 かちをたえ ゆらのみなとに よるふねの たよりもしらぬ おきつしほかせ | 九条良経 | 恋一 |
8-新古 | 1074 | しるへせよあとなきなみにこく舟のゆくゑもしらぬやへのしほ風 しるへせよ あとなきなみに こくふねの ゆくへもしらぬ やへのしほかせ | 式子内親王 | 恋一 |
8-新古 | 1075 | きのくにやゆらのみなとにひろふてふたまさかにたにあひみてしかな きのくにや ゆらのみなとに ひろふてふ たまさかにたに あひみてしかな | 藤原長方 | 恋一 |
8-新古 | 1076 | つれもなき人の心のうきにはふあしのしたねのねをこそはなけ つれもなき ひとのこころの うきにはふ あしのしたねの ねをこそはなけ | 源師俊 | 恋一 |
8-新古 | 1077 | なには人いかなるえにかくちはてんあふことなみに身をつくしつつ なにはひと いかなるえにか くちはてむ あふことなみに みをつくしつつ | 九条良経 | 恋一 |
8-新古 | 1078 | あまのかるみるめをなみにまかへつつなくさのはまをたつねわひぬる あまのかる みるめをなみに まかへつつ なくさのはまを たつねわひぬる | 藤原俊成 | 恋一 |
8-新古 | 1079 | あふまてのみるめかるへきかたそなきまたなみなれぬいそのあま人 あふまての みるめかるへき かたそなき またなみなれぬ いそのあまひと | 相模 | 恋一 |
8-新古 | 1080 | みるめかるかたやいつくそさほさしてわれにをしへよあまのつり舟 みるめかる かたやいつくそ さをさして われにをしへよ あまのつりふね | 在原業平 | 恋一 |
8-新古 | 1081 | したもえにおもひきえなんけふりたにあとなき雲のはてそかなしき したもえに おもひきえなむ けふりたに あとなきくもの はてそかなしき | 藤原俊成女 | 恋二 |
8-新古 | 1082 | なひかしなあまのもしほひたきそめてけふりはそらにくゆりわふとも なひかしな あまのもしほひ たきそめて けふりはそらに くゆりわふとも | 藤原定家 | 恋二 |
8-新古 | 1083 | こひをのみすまのうら人もしほたれほしあへぬ袖のはてをしらはや こひをのみ すまのうらひと もしほたれ ほしあへぬそての はてをしらはや | 九条良経 | 恋二 |
8-新古 | 1084 | みるめこそいりぬるいその草ならめ袖さへなみのしたにくちぬる みるめこそ いりぬるいその くさならめ そてさへなみの したにくちぬる | 二条院讃岐 | 恋二 |
8-新古 | 1085 | 君こふとなるみのうらのはまひさきしほれてのみもとしをふるかな きみこふと なるみのうらの はまひさき しをれてのみも としをふるかな | 源俊頼 | 恋二 |
8-新古 | 1086 | しるらめや木の葉ふりしくたに水のいはまにもらすしたの心を しるらめや このはふりしく たにみつの いはまにもらす したのこころを | 前太政大臣 | 恋二 |
8-新古 | 1087 | もらすなよ雲ゐるみねのはつ時雨この葉はしたにいろかはるとも もらすなよ くもゐるみねの はつしくれ このははしたに いろかはるとも | 九条良経 | 恋二 |
8-新古 | 1088 | かくとたにおもふ心をいはせ山したゆく水の草かくれつつ かくとたに おもふこころを いはせやま したゆくみつの くさかくれつつ | 徳大寺実定 | 恋二 |
8-新古 | 1089 | もらさはやおもふ心をさてのみはえそ山しろの井てのしからみ もらさはや おもふこころを さてのみは えそやましろの ゐてのしからみ | 殷富門院大輔 | 恋二 |
8-新古 | 1090 | こひしともいははこころのゆくへきにくるしや人めつつむおもひは こひしとも いははこころの ゆくへきに くるしやひとめ つつむおもひは | 近衛院 | 恋二 |
8-新古 | 1091 | 人しれぬこひにわか身はしつめともみるめにうくは涙なりけり ひとしれぬ こひにわかみは しつめとも みるめにうくは なみたなりけり | 源有仁 | 恋二 |
8-新古 | 1092 | ものおもふといはぬはかりはしのふともいかかはすへき袖のしつくを ものおもふと いはぬはかりは しのふとも いかかはすへき そてのしつくを | 源顕仲 | 恋二 |
8-新古 | 1093 | 人しれすくるしき物はしのふ山したはふくすのうらみなりけり ひとしれす くるしきものは しのふやま したはふくすの うらみなりけり | 藤原清輔 | 恋二 |
8-新古 | 1094 | きえねたたしのふの山のみねの雲かかる心のあともなきまて きえねたた しのふのやまの みねのくも かかるこころの あともなきまて | 飛鳥井雅経 | 恋二 |
8-新古 | 1095 | かきりあれはしのふの山のふもとにもおち葉かうへのつゆそいろつく かきりあれは しのふのやまの ふもとにも おちはかうへの つゆそいろつく | 久我通光 | 恋二 |
8-新古 | 1096 | うちはへてくるしきものは人めのみしのふの浦のあまのたくなは うちはへて くるしきものは ひとめのみ しのふのうらの あまのたくなは | 二条院讃岐 | 恋二 |
8-新古 | 1097 | しのはしよいしまつたひのたにかはもせをせくにこそ水まさりけれ しのはしよ いしまつたひの たにかはも せをせくにこそ みつまさりけれ | 徳大寺公継 | 恋二 |
8-新古 | 1098 | 人もまたふみみぬ山のいはかくれなかるる水を袖にせくかな ひともまた ふみみぬやまの いはかくれ なかるるみつを そてにせくかな | 信濃 | 恋二 |
8-新古 | 1099 | はるかなるいはのはさまにひとりゐて人めおもはて物おもははや はるかなる いはのはさまに ひとりゐて ひとめおもはて ものおもははや | 西行法師 | 恋二 |
8-新古 | 1100 | かすならぬ心のとかになしはてししらせてこそは身をもうらみめ かすならぬ こころのとかに なしはてし しらせてこそは みをもうらみめ | 読人知らず | 恋二 |
8-新古 | 1101 | 草ふかきなつ野わけゆくさをしかのねをこそたてねつゆそこほるる くさふかき なつのわけゆく さをしかの ねをこそたてね つゆそこほるる | 九条良経 | 恋二 |
8-新古 | 1102 | のちのよをなけく涙といひなしてしほりやせましすみそめの袖 のちのよを なけくなみたと いひなして しほりやせまし すみそめのそて | 藤原重家 | 恋二 |
8-新古 | 1103 | たまつさのかよふはかりになくさめて後のよまてのうらみのこすな たまつさの かよふはかりに なくさめて のちのよまての うらみのこすな | 読人知らず | 恋二 |
8-新古 | 1104 | ためしあれはなかめはそれとしりなからおほつかなきは心なりけり ためしあれは なかめはそれと しりなから おほつかなきは こころなりけり | 読人知らず | 恋二 |
8-新古 | 1105 | いはぬより心やゆきてしるへするなかむるかたを人のとふまて いはぬより こころやゆきて しるへする なかむるかたを ひとのとふまて | 藤原隆房 | 恋二 |
8-新古 | 1106 | なかめわひそれとはなしに物そおもふ雲のはたての夕くれの空 なかめわひ それとはなしに ものそおもふ くものはたての ゆふくれのそら | 久我通光 | 恋二 |
8-新古 | 1107 | おもひあまりそなたのそらをなかむれはかすみをわけて春雨そふる おもひあまり そなたのそらを なかむれは かすみをわけて はるさめそふる | 藤原俊成 | 恋二 |
8-新古 | 1108 | 山かつのあさのさ衣おさをあらみあはて月日やすきふけるいほ やまかつの あさのさころも をさをあらみ あはてつきひや すきふけるいほ | 九条良経 | 恋二 |
8-新古 | 1109 | おもへともいはて月日はすきのかとさすかにいかかしのひはつへき おもへとも いはてつきひは すきのかと さすかにいかか しのひはつへき | 藤原忠定 | 恋二 |
8-新古 | 1110 | あふことはかた野の里のささのいほしのに露ちるよはのとこかな あふことは かたののさとの ささのいほ しのにつゆちる よはのとこかな | 藤原俊成 | 恋二 |
8-新古 | 1111 | ちらすなよしのの葉くさのかりにてもつゆかかるへき袖のうへかは ちらすなよ しののはくさの かりにても つゆかるるへき そてのうへかは | 読人知らず | 恋二 |
8-新古 | 1112 | 白玉かつゆかととはん人もかなものおもふ袖をさしてこたへん しらたまか つゆかととはむ ひともかな ものおもふそてを さしてこたへむ | 藤原元真 | 恋二 |
8-新古 | 1113 | いつまてもいのちもしらぬ世中につらきなけきのやますもあるかな いつまての いのちもしらぬ よのなかに つらきなけきの やますもあるかな | 藤原義孝 | 恋二 |
8-新古 | 1114 | わかこひはちきのかたそきかたくのみゆきあはてとしのつもりぬるかな わかこひは ちきのかたそき かたくのみ ゆきあはてとしの つもりぬるかな | 徳大寺公能 | 恋二 |
8-新古 | 1115 | いつとなくしほやくあまのとまひさしひさしくなりぬあはぬ思は いつとなく しほやくあまの とまひさし ひさしくなりぬ あはぬおもひは | 藤原基輔 | 恋二 |
8-新古 | 1116 | もしほやくあまのいそやのゆふけふりたつなもくるし思たえなて もしほやく あまのいそやの ゆふけふり たつなもくるし おもひたえなて | 藤原秀能 | 恋二 |
8-新古 | 1117 | すまのあまの袖にふきこすしほ風のなるとはすれとてにもたまらす すまのあまの そてにふきこす しほかせの なるとはすれと てにもたまらす | 藤原定家 | 恋二 |
8-新古 | 1118 | ありとてもあはぬためしのなとりかはくちたにはてねせせのむもれ木 ありとても あはぬためしの なとりかは くちたにはてね せせのうもれき | 寂蓮法師 | 恋二 |
8-新古 | 1119 | なけかすよいまはたおなしなとりかはせせのむもれ木くちはてぬとも なけかすよ いまはたおなし なとりかは せせのうもれき くちはてぬとも | 九条良経 | 恋二 |
8-新古 | 1120 | なみたかはたきつ心のはやきせをしからみかけてせく袖そなき なみたかは たきつこころの はやきせを しからみかけて せくそてそなき | 二条院讃岐 | 恋二 |
8-新古 | 1121 | よそなからあやしとたにもおもへかしこひせぬ人の袖のいろかは よそなから あやしとたにも おもへかし こひせぬひとの そてのいろかは | 高松院右衛門佐 | 恋二 |
8-新古 | 1122 | しのひあまりおつる涙をせきかへしをさふる袖ようきなもらすな しのひあまり おつるなみたを せきかへし おさふるそてよ うきなもらすな | 読人知らず | 恋二 |
8-新古 | 1123 | くれなゐに涙のいろのなりゆくをいくしほまてと君にとははや くれなゐに なみたのいろの なりゆくを いくしほまてと われにとははや | 道因法師 | 恋二 |
8-新古 | 1124 | 夢にても見ゆらんものをなけきつつうちぬるよゐの袖のけしきは ゆめにても みゆらむものを なけきつつ うちぬるよひの そてのけしきは | 式子内親王 | 恋二 |
8-新古 | 1125 | さめてのち夢なりけりとおもふにもあふはなこりのをしくやはあらぬ さめてのち ゆめなりけりと おもふにも あふはなこりの をしくやはあらぬ | 徳大寺実定 | 恋二 |
8-新古 | 1126 | 身にそへるそのおもかけのきえななん夢なりけりとわするはかりに みにそへる そのおもかけも きえななむ ゆめなりけりと わするはかりに | 九条良経 | 恋二 |
8-新古 | 1127 | 夢のうちにあふとみえつるねさめこそつれなきよりも袖はぬれけれ ゆめのうちに あふとみえつる ねさめこそ つれなきよりも そてはぬれけれ | 藤原実宗 | 恋二 |
8-新古 | 1128 | たのめをきしあさちかつゆに秋かけてこの葉ふりしくやとのかよひち たのめおきし あさちかつゆに あきかけて このはふりしく やとのかよひち | 藤原忠良 | 恋二 |
8-新古 | 1129 | しのひあまりあまのかはせにことよせんせめては秋をわすれたにすな しのひあまり あまのかはせに ことよせむ せめてはあきを わすれたにすな | 藤原経家 | 恋二 |
8-新古 | 1130 | たのめてもはるけかるへきかへる山いくへの雲のうちにまつらん たのめても はるけかるへき かへるやま いくへのくもの したにまつらむ | 賀茂重政 | 恋二 |
8-新古 | 1131 | あふことはいつといふきのみねにおふるさしもたえせぬ思なりけり あふことは いつといふきの みねにおふる さしもたえせぬ おもひなりけり | 藤原家房 | 恋二 |
8-新古 | 1132 | ふしのねのけふりもなをそたちのほるうへなきものはおもひなりけり ふしのねの けふりもなほそ たちのほる うへなきものは おもひなりけり | 藤原家隆 | 恋二 |
8-新古 | 1133 | なき名のみたつたの山にたつ雲のゆくゑもしらぬなかめをそする なきなのみ たつたのやまに たつくもの ゆくへもしらぬ なかめをそする | 藤原俊忠 | 恋二 |
8-新古 | 1134 | あふことのむなしきそらのうき雲は身をしる雨のたよりなりけり あふことの むなしきそらの うきくもは みをしるあめの たよりなりけり | 惟明親王 | 恋二 |
8-新古 | 1135 | わかこひはあふをかきりのたのみたにゆくゑもしらぬそらのうき雲 わかこひは あふをかきりの たのみたに ゆくへもしらぬ そらのうきくも | 堀川通具 | 恋二 |
8-新古 | 1136 | おもかけのかすめる月そやとりける春やむかしの袖のなみたに おもかけの かすめるつきそ やとりける はるやむかしの そてのなみたに | 藤原俊成女 | 恋二 |
8-新古 | 1137 | とこのしもまくらの氷きえわひぬむすひもをかぬ人の契に とこのしも まくらのこほり きえわひぬ むすひもおかぬ ひとのちきりに | 藤原定家 | 恋二 |
8-新古 | 1138 | つれなさのたくひまてやはつらからぬ月をもめてしありあけの空 つれなさの たくひまてやは つらからぬ つきをもめてし ありあけのそら | 藤原有家 | 恋二 |
8-新古 | 1139 | 袖のうへにたれゆへ月はやとるそとよそになしても人のとへかし そてのうへに たれゆゑつきは やとるそと よそになしても ひとのとへかし | 藤原秀能 | 恋二 |
8-新古 | 1140 | 夏引のてひきのいとのとしへてもたえぬ思にむすほほれつつ なつひきの てひきのいとの としへても たえぬおもひに むすほほれつつ | 越前 | 恋二 |
8-新古 | 1141 | いく夜われ浪にしほれてきふねかはそてに玉ちる物おもふらん いくよわれ なみにしをれて きふねかは そてにたまちる ものおもふらむ | 九条良経 | 恋二 |
8-新古 | 1142 | としもへぬいのる契ははつせ山おのへのかねのよその夕くれ としもへぬ いのるちきりは はつせやま をのへのかねの よそのゆふくれ | 藤原定家 | 恋二 |
8-新古 | 1143 | うき身をはわれたにいとふいとへたたそをたにおなし心とおもはん うきみをは われたにいとふ いとへたた そをたにおなし こころとおもはむ | 藤原俊成 | 恋二 |
8-新古 | 1144 | こひしなんおなしうき名をいかにしてあふにかへつと人にいはれん こひしなむ おなしうきなを いかにして あふにかへつと ひとにいはれむ | 藤原長方 | 恋二 |
8-新古 | 1145 | あすしらぬいのちをそおもふをのつからあらはあふよをまつにつけても あすしらぬ いのちをそおもふ おのつから あらはあふよを まつにつけても | 殷富門院大輔 | 恋二 |
8-新古 | 1146 | つれもなき人の心はうつせみのむなしきこひに身をやかへてん つれもなき ひとのこころは うつせみの むなしきこひに みをやかへてむ | 八条院高倉 | 恋二 |
8-新古 | 1147 | なにとなくさすかにおしきいのちかなありへは人や思しるとて なにとなく さすかにをしき いのちかな ありへはひとや おもひしるとて | 西行法師 | 恋二 |
8-新古 | 1148 | おもひしる人ありけりのよなりせはつきせす身をはうらみさらまし おもひしる ひとありあけの よなりせは つきせぬみをは うらみさらまし | 読人知らず | 恋二 |
8-新古 | 1149 | わすれしのゆくすゑまてはかたけれはけふをかきりのいのちともかな わすれしの ゆくすゑまては かたけれは けふをかきりの いのちともかな | 儀同三司母 | 恋三 |
8-新古 | 1150 | かきりなくむすひをきつる草枕いつこのたひをおもひわすれん かきりなく むすひおきつる くさまくら いつこのたひを おもひわすれむ | 謙徳公 | 恋三 |
8-新古 | 1151 | おもふにはしのふることそまけにけるあふにしかへはさもあらはあれ おもふには しのふることそ まけにける あふにしかへは さもあらはあれ | 在原業平 | 恋三 |
8-新古 | 1152 | 昨日まてあふにしかへはと思しをけふはいのちのおしくもあるかな きのふまて あふにしかへはと おもひしを けふはいのちの をしくもあるかな | 廉義公 | 恋三 |
8-新古 | 1153 | あふことをけふまつかえのたむけ草いくよしほるるそてとかはしる あふことを けふまつかえの たむけくさ いくよしをるる そてとかはしる | 式子内親王 | 恋三 |
8-新古 | 1154 | こひしさにけふそたつぬるおく山の日かけのつゆに袖はぬれつつ こひしさに けふそたつぬる おくやまの ひかけのつゆに そてはぬれつつ | 源正清 | 恋三 |
8-新古 | 1155 | あふまてのいのちもかなとおもひしはくやしかりけるわか心かな あすまての いのちもかなと おもひしは くやしかりける わかこころかな | 西行法師 | 恋三 |
8-新古 | 1156 | 人心うす花そめのかり衣さてたにあらて(て=はイ)色やかはらん ひとこころ うすはなそめの かりころも さてたにあらて いろやかはらむ | 三条院女蔵人左近 | 恋三 |
8-新古 | 1157 | あひみてもかひなかりけりうはたまのはかなき夢におとるうつつは あひみても かひなかりけり うはたまの はかなきゆめに おとるうつつは | 藤原興風 | 恋三 |
8-新古 | 1158 | なかなかのものおもひそめてねぬるよははかなき夢もえやはみえける なかなかに ものおもひそめて ねぬるよは はかなきゆめも えやはみえける | 藤原実方 | 恋三 |
8-新古 | 1159 | 夢とても人にかたるなしるといへはたまくらならぬ枕たにせす ゆめとても ひとにかたるな しるといへは たまくらならぬ まくらたにせす | 伊勢 | 恋三 |
8-新古 | 1160 | まくらたにしらねはいはし見しままに君かたるなよ春のよの夢 まくらたに しらねはいはし みしままに きみかたるなよ はるのよのゆめ | 和泉式部 | 恋三 |
8-新古 | 1161 | わすれても人にかたるなうたたねのゆめみてのちもなかからしよを わすれても ひとにかたるな うたたねの ゆめみてのちも なからへしよを | 馬内侍 | 恋三 |
8-新古 | 1162 | つらかりしおほくのとしはわすられてひとよの夢をあはれとそみし つらかりし おほくのとしは わすられて ひとよのゆめを あはれとそみし | 藤原範永 | 恋三 |
8-新古 | 1163 | けさよりはいととおもひをたきましてなけきこりつむあふさかの山 けさよりは いととおもひを たきまして なけきこりつむ あふさかのやま | 高倉院 | 恋三 |
8-新古 | 1164 | あしのやのしつはたおひのかたむすひ心やすくもうちとくるかな あしのやの しつはたおひの かたむすひ こころやすくも うちとくるかな | 源俊頼 | 恋三 |
8-新古 | 1165 | かりそめにふしみののへの草枕つゆかかりきと人にかたるな かりそめに ふしみののへの くさまくら つゆけかりきと ひとにかたるな | 読人知らず | 恋三 |
8-新古 | 1166 | いかにせんくすのうらふく秋風にした葉のつゆのかくれなき身を いかにせむ くすのうらふく あきかせに したはのつゆの かくれなきみを | 相模 | 恋三 |
8-新古 | 1167 | あけかたきふたみのうらによるなみのそてのみぬれておきつしま人 あけかたき ふたみのうらに よるなみの そてのみぬれて おきつしまひと | 藤原実方 | 恋三 |
8-新古 | 1168 | あふことのあけぬよなからあけぬれはわれこそかへれ心やはゆく あふことの あけぬよなから あけぬれは われこそかへれ こころやはゆく | 伊勢 | 恋三 |
8-新古 | 1169 | 秋のよのありあけの月のいるまてにやすらひかねてかへりにしかな あきのよの ありあけのつきの いるまてに やすらひかねて かへりにしかな | 大宰帥敦道親王 | 恋三 |
8-新古 | 1170 | 心にもあらぬわか身のゆきかへりみちのそらにてきえぬへき哉 こころにも あらぬわかみの ゆきかへり みちのそらにて きえぬへきかな | 藤原道信 | 恋三 |
8-新古 | 1171 | はかなくもあけにけるかなあさつゆのおきての後そきえまさりける はかなくも あけにけるかな あさつゆの おきてののちそ きえまさりける | 延喜 | 恋三 |
8-新古 | 1172 | あさつゆのおきつるそらもおもほえすきえかへりつる心まとひに あさつゆの おきつるそらも おもほえす きえかへりつる こころまとひに | 更衣源周子 | 恋三 |
8-新古 | 1173 | をきそふるつゆやいかなるつゆならんいまはきえねとおもふわか身を おきそふる つゆやいかなる つゆならむ いまはきえねと おもふわかみを | 円融院 | 恋三 |
8-新古 | 1174 | おもひいてていまはけぬへしよもすからおきうかりつるきくのうへの露 おもひいてて いまはけぬへし よもすから おきうかりつる きくのうへのつゆ | 謙徳公 | 恋三 |
8-新古 | 1175 | うはたまのよるの衣をたちなからかへる物とはいまそしりぬる うはたまの よるのころもを たちなから かへるものとは いまそしりぬる | 清慎公 | 恋三 |
8-新古 | 1176 | みしかよののこりすくなくふけゆけはかねて物うきあかつきの空 みしかよの のこりすくなく ふけゆけは かねてものうき あかつきのそら | 藤原清正 | 恋三 |
8-新古 | 1177 | あくといへはしつ心なきはるのよの夢とや君をよるのみはみん あくといへは しつこころなき はるのよの ゆめとやきみを よるのみはみむ | 源清蔭 | 恋三 |
8-新古 | 1178 | けさはしもなけきもすらんいたつらに春のよひとよ夢をたにみて けさはしも なけきもすらむ いたつらに はるのよひとよ ゆめをたにみて | 和泉式部 | 恋三 |
8-新古 | 1179 | 心からしはしとつつむものからにしきのはねかきつらきけさかな こころから しはしとつつむ ものからに しきのはねかき つらきけさかな | 赤染衛門 | 恋三 |
8-新古 | 1180 | わひつつも君か心にかなふとてけさもたもとをほしそわつらふ わひつつも きみかこころに かなふとて けさもたもとを ほしそわつらふ | 九条兼実 | 恋三 |
8-新古 | 1181 | たまくらにかせるたもとのつゆけきはあけぬとつくる涙なりけり たまくらに かせるたもとの つゆけきは あけぬとつくる なみたなりけり | 亭子院 | 恋三 |
8-新古 | 1182 | しはしまてまた夜はふかしなか月のありあけの月は人まとふ也 しはしまて またよはふかし なかつきの ありあけのつきは ひとまとふなり | 藤原惟成 | 恋三 |
8-新古 | 1183 | おきて見は袖のみぬれていととしく草葉の玉のかすやまさらん おきてみは そてのみぬれて いととしく くさはのたまの かすやまさらむ | 藤原実方 | 恋三 |
8-新古 | 1184 | あけぬれとまたきぬきぬになりやらて人の袖をもぬらしつるかな あけぬれと またきぬきぬに なりやらて ひとのそてをも ぬらしつるかな | 二条院讃岐 | 恋三 |
8-新古 | 1185 | おもかけのわするましきわかれかななこりを人の月にととめて おもかけの わすらるましき わかれかな なこりをひとの つきにととめて | 西行法師 | 恋三 |
8-新古 | 1186 | またもこん秋をたのむのかりたにもなきてそかへる春のあけほの またもこむ あきをたのむの かりたにも なきてそかへる はるのあけほの | 九条良経 | 恋三 |
8-新古 | 1187 | たれゆきて君につけましみちしはのつゆもろともにきえなましかは たれゆきて きみにつけまし みちしはの つゆもろともに きえなましかは | 賀茂成助 | 恋三 |
8-新古 | 1188 | きえかへりあるかなきかのわか身かなうらみてかへるみちしはのつゆ きえかへり あるかなきかの わかみかな うらみてかへる みちしはのつゆ | 藤原朝光 | 恋三 |
8-新古 | 1189 | あさほらけおきつるしものきえかへりくれまつほとの袖をみせはや あさほらけ おきつるしもの きえかへり くれまつほとの そてをみせはや | 華山院 | 恋三 |
8-新古 | 1190 | 庭におふるゆふかけ草のしたつゆやくれをまつまの涙なるらん にはにおふる ゆふかけくさの したつゆや くれをまつまの なみたなるらむ | 藤原道経 | 恋三 |
8-新古 | 1191 | まつよゐにふけゆくかねのこゑきけはあかぬわかれのとりは物かは まつよひの ふけゆくかねの こゑきけは あかぬわかれの とりはものかは | 小侍従 | 恋三 |
8-新古 | 1192 | これも又なかきわかれになりやせんくれをまつへきいのちならねは これもまた なかきわかれに なりやせむ くれをまつへき いのちならねは | 藤原知家 | 恋三 |
8-新古 | 1193 | ありあけはおもひいてあれやよこ雲のたたよはれつるしののめのそら ありあけは おもひいてあれや よこくもの たたよはれつる しののめのそら | 西行法師 | 恋三 |
8-新古 | 1194 | 大井かは井せきの水のわくらはにけふはたのめしくれにやはあらぬ おほゐかは ゐせきのみつの わくらはに けふはたのめし くれにやはあらぬ | 清原元輔 | 恋三 |
8-新古 | 1195 | ゆふくれにいのちかけたるかけろふのありやあらすやとふもはかなし ゆふくれに いのちかけたる かけろふの ありやあらすや とふもはかなし | 読人知らず | 恋三 |
8-新古 | 1196 | あちきなくつらきあらしの声もうしなとゆふくれにまちならひけん あちきなく つらきあらしの こゑもうし なとゆふくれに まちならひけむ | 藤原定家 | 恋三 |
8-新古 | 1197 | たのめすは人はまつちの山なりとねなまし物をいさよひの月 たのめすは ひとをまつちの やまなりと ねなましものを いさよひのつき | 太上天皇 | 恋三 |
8-新古 | 1198 | なにゆへと思もいれぬゆふへたにまちいてし物を山のはの月 なにゆゑと おもひもいれぬ ゆふへたに まちいてしものを やまのはのつき | 九条良経 | 恋三 |
8-新古 | 1199 | きくやいかにうはのそらなる風たにもまつにおとするならひありとは きくやいかに うはのそらなる かせたにも まつにおとする ならひありとは | 宮内卿 | 恋三 |
8-新古 | 1200 | 人はこて風のけしきもふけぬるにあはれに雁のをとつれてゆく ひとはこて かせのけしきも ふけぬるに あはれにかりの おとつれてゆく | 西行法師 | 恋三 |
8-新古 | 1201 | いかかふく身にしむ色のかはるかなたのむるくれの松風の声 いかかふく みにしむいろの かはるかな たのむるくれの まつかせのこゑ | 八条院高倉 | 恋三 |
8-新古 | 1202 | たのめをく人もなからの山にたにさよふけぬれは松風の声 たのめおく ひともなからの やまにたに さよふけぬれは まつかせのこゑ | 鴨長明 | 恋三 |
8-新古 | 1203 | いまこんとたのめしことをわすれすはこのゆふくれの月やまつらん いまこむと たのめしことを わすれすは このゆふくれの つきやまつらむ | 藤原秀能 | 恋三 |
8-新古 | 1204 | 君まつとねやへもいらぬまきのとにいたくなふけそ山の葉の月 きみまつと ねやへもいらぬ まきのとに いたくなふけそ やまのはのつき | 式子内親王 | 恋三 |
8-新古 | 1205 | たのめぬに君くやとまつよゐのまのふけゆかてたたあけなましかは たのめぬに きみくやとまつ よひのまの ふけゆかてたた あけなましかは | 西行法師 | 恋三 |
8-新古 | 1206 | かへるさの物とや人のなかむらんまつよなからのありあけの月 かへるさの ものとやひとの なかむらむ まつよなからの ありあけのつき | 藤原定家 | 恋三 |
8-新古 | 1207 | きみこんといひしよことにすきぬれはたのまぬもののこひつつそふる きみこむと いひしよことに すきぬれは たのまぬものの こひつつそふる | 読人知らず | 恋三 |
8-新古 | 1208 | 衣手に山おろしふきてさむき夜を君きまさすはひとりかもねん ころもてに やまおろしふきて さむきよを きみきまさすは ひとりかもねむ | 柿本人麿 | 恋三 |
8-新古 | 1209 | あふことはこれやかきりのたひならん草の枕も霜かれにけり あふことは これやかきりの たひならむ くさのまくらも しもかれにけり | 馬内侍 | 恋三 |
8-新古 | 1210 | なれゆくはうき世なれはやすまのあまのしほやき衣まとをなるらん なれゆくは うきよなれはや すまのあまの しほやきころも まとほなるらむ | 女御徽子女王 | 恋三 |
8-新古 | 1211 | きりふかき秋の野中のわすれ水たえまかちなる比にもあるかな きりふかき あきののなかの わすれみつ たえまかちなる ころにもあるかな | 坂上是則 | 恋三 |
8-新古 | 1212 | 世のつねの秋風ならはおきの葉にそよとはかりのをとはしてまし よのつねの あきかせならは をきのはに そよとはかりの おとはしてまし | 安法々師女 | 恋三 |
8-新古 | 1213 | あしひきの山のかけ草むすひをきてこひやわたらんあふよしをなみ あしひきの やまのかけくさ むすひおきて こひやわたらむ あふよしをなみ | 大伴家持 | 恋三 |
8-新古 | 1214 | あつまちにかるてふかやのみたれつつつかのまもなくこひやわたらん あつまちに かるてふかやの みたれつつ つかのまもなく こひやわたらむ | 延喜 | 恋三 |
8-新古 | 1215 | むすひをきしたもとたに見ぬ花すすきかるともかれしきみしとかすは むすひおきし たもとたにみぬ はなすすき かるともかれし きみしとかすは | 藤原敦忠 | 恋三 |
8-新古 | 1216 | 霜のうへにけさふる雪のさむけれはかさねて人をつらしとそ思 しものうへに けさふるゆきの さむけれは かさねてひとを つらしとそおもふ | 源重之 | 恋三 |
8-新古 | 1217 | ひとりふすあれたるやとのとこのうへにあはれいくよのねさめしつらん ひとりふす あれたるやとの とこのうへに あはれいくよの ねさめしつらむ | 安法々師女 | 恋三 |
8-新古 | 1218 | やましろのよとのわかこもかりにきて袖ぬれぬとはかこたさらなん やましろの よとのわかこも かりにきて そてぬれぬとは かこたさらなむ | 源重之 | 恋三 |
8-新古 | 1219 | かけておもふ人もなけれとゆふされはおもかけたえぬ玉かつらかな かけておもふ ひともなけれと ゆふされは おもかけたえぬ たまかつらかな | 紀貫之 | 恋三 |
8-新古 | 1220 | いつはりをたたすのもりのゆふたすきかけつつちかへわれをおもはは いつはりを たたすのもりの ゆふたすき かけつつちかへ われをおもはは | 平定文 | 恋三 |
8-新古 | 1221 | いかはかりうれしからましもろともにこひらるる身もくるしかりせは いかはかり うれしからまし もろともに こひらるるみも くるしかりせは | 鳥羽院 | 恋三 |
8-新古 | 1222 | われはかりつらきをしのふ人やあるといまよにあらは思ひあはせよ われはかり つらきをしのふ ひとやあると いまよにあらは おもひあはせむ | 藤原忠通 | 恋三 |
8-新古 | 1223 | たたたのめたとへは人のいつはりをかさねてこそは又もうらみめ たたたのめ たとへはひとの いつはりを かさねてこそは またもうらみめ | 慈円 | 恋三 |
8-新古 | 1224 | つらしとはおもふ物からふししはのしはしもこりぬ心なりけり つらしとは おもふものから ふししはの しはしもこりぬ こころなりけり | 藤原家通 | 恋三 |
8-新古 | 1225 | たのめこしことの葉はかりととめをきてあさちかつゆときえなましかは たのめこし ことのははかり ととめおきて あさちかつゆと きえなましかは | 読人知らず | 恋三 |
8-新古 | 1226 | あはれにもたれかはつゆもおもはましきえのこるへきわか身ならねは あはれにも たれかはつゆも おもはまし きえのこるへき わかみならねは | 久我内大臣 | 恋三 |
8-新古 | 1227 | つらきをもうらみぬわれにならふなようき身をしらぬ人もこそあれ つらきをも うらみぬわれに ならふなよ うきみをしらぬ ひともこそあれ | 小侍従 | 恋三 |
8-新古 | 1228 | なにかいとふよもなからへしさのみやはうきにたへたるいのちなるへき なにかいとふ よもなからへし さのみやは うきにたへたる いのちなるへき | 殷富門院大輔 | 恋三 |
8-新古 | 1229 | こひしなんいのちは猶もおしきかなおなしよにあるかひはなけれと こひしなむ いのちはなほも をしきかな おなしよにある かひはなけれと | 難波頼輔 | 恋三 |
8-新古 | 1230 | あはれとて人の心のなさけあれなかすならぬにはよらぬなけきを あはれとて ひとのこころの なさけあれは かすならぬには よらぬなけきを | 西行法師 | 恋三 |
8-新古 | 1231 | 身をしれは人のとかとはおもはぬにうらみかほにもぬるる袖かな みをしれは ひとのとかとは おもはぬに うらみかほにも ぬるるそてかな | 読人知らず | 恋三 |
8-新古 | 1232 | よしさらはのちのよとたにたのめをけつらさにたへぬ身ともこそなれ よしさらは のちのよとたに たのめおけ つらさにたへぬ みともこそなれ | 藤原俊成 | 恋三 |
8-新古 | 1233 | たのめをかんたたさはかりを契にてうきよの中の夢になしてよ たのめおかむ たたさはかりを ちきりにて うきよのなかの ゆめになしてよ | 藤原定家母 | 恋三 |
8-新古 | 1234 | よゐよゐにきみをあはれとおもひつつ人にはいはてねをのみそなく よひよひに きみをあはれと おもひつつ ひとにはいはて ねをのみそなく | 清慎公 | 恋四 |
8-新古 | 1235 | 君たにもおもひいてけるよゐよゐをまつはいかなる心ちかはする きみたにも おもひいてける よひよひを まつはいかなる ここちかはする | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1236 | こひしさにしぬるいのちを思いててとふ人あらはなしとこたへよ こひしさに しぬるいのちを おもひいてて とふひとあらは なしとこたへよ | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1237 | わかれては昨日けふこそへたてつれちよをへたる心ちのみする わかれては きのふけふこそ へたてつれ ちよしもへたる ここちのみする | 謙徳公 | 恋四 |
8-新古 | 1238 | きのふともけふともしらす今はとてわかれしほとの心まとひに きのふとも けふともしらす いまはとて わかれしほとの こころまよひに | 恵子女王 | 恋四 |
8-新古 | 1239 | たえぬるかかけたに見えはとふへきにかたみの水はみくさゐにけり たえぬるか かけたにみえは とふへきを かたみのみつは みくさゐにけり | 藤原道綱母 | 恋四 |
8-新古 | 1240 | かたかたにひきわかれつつあやめくさあらぬねをやはかけんとおもひし かたかたに ひきわかれつつ あやめくさ あらぬねをやは かけむとおもひし | 陽明門院 | 恋四 |
8-新古 | 1241 | ことの葉のうつろふたにもあるものをいとと時雨のふりまさるらん ことのはの うつろふたにも あるものを いととしくれの ふりまさるらむ | 伊勢 | 恋四 |
8-新古 | 1242 | ふく風につけてもとはんささかにのかよひしみちはそらにたゆとも ふくかせに つけてもとはむ ささかにの かよひしみちは そらにたゆとも | 藤原道綱母 | 恋四 |
8-新古 | 1243 | くすの葉にあらぬわか身も秋風のふくにつけつつうらみつる哉 くすのはに あらぬわかみも あきかせの ふくにつけつつ うらみつるかな | 天暦 | 恋四 |
8-新古 | 1244 | 霜さやく野辺のくさはにあらねともなとか人めのかれまさるらん しもさやく のへのくさはに あらねとも なとかひとめの かれまさるらむ | 延喜 | 恋四 |
8-新古 | 1245 | あさちおふる野へやかるらん山かつのかきほのくさは色もかはらす あさちおふる のへやかるらむ やまかつの かきほのくさは いろもかはらす | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1246 | かすむらんほとをもしらすしくれつつすきにし秋のもみちをそみる かすむらむ ほとをもしらす しくれつつ すきにしあきの もみちをそみる | 女御徽子女王 | 恋四 |
8-新古 | 1247 | いまこんとたのめつつふることの葉そときはに見ゆるもみちなりける いまこむと たのめつつふる ことのはそ ときはにみゆる もみちなりける | 天暦 | 恋四 |
8-新古 | 1248 | たまほこのみちははるかにあらねともうたて雲井にまとふ比かな たまほこの みちははるかに あらねとも うたてくもゐに まとふころかな | 朱雀院 | 恋四 |
8-新古 | 1249 | 思ひやる心はそらにあるものをなとか雲ゐにあひみさるらん おもひやる こころはそらに あるものを なとかくもゐに あひみさるらむ | 女御熈子女王 | 恋四 |
8-新古 | 1250 | 春雨のふりしく比かあをやきのいととみたれて人そこひしき はるさめの ふりしくころか あをやきの いとみたれつつ ひとそこひしき | 後朱雀院 | 恋四 |
8-新古 | 1251 | あをやきのいとみたれたるこのころは一すちにしも思よられし あをやきの いとみたれたる このころは ひとすちにしも おもひよられし | 女御藤原生子 | 恋四 |
8-新古 | 1252 | あをやきのいとはかたかたなひくともおもひそめてん色はかはらし あをやきの いとはかたかた なひくとも おもひそめてむ いろそかはらし | 後朱雀院 | 恋四 |
8-新古 | 1253 | あさみとりふかくもあらぬあをやきはいろかはらしといかかたのまん あさみとり ふかくもあらぬ あをやきは いろかはらしと いかかたのまむ | 女御生子 | 恋四 |
8-新古 | 1254 | いにしへのあふひと人はとかむともなをそのかみのけふそわすれぬ いにしへの あふひとひとは とかむとも なほそのかみの けふそわすれぬ | 藤原実方 | 恋四 |
8-新古 | 1255 | かれにけるあふひのみこそかなしけれ哀と見すやかものみつかき かれにける あふひのみこそ かなしけれ あはれとみすや かものみつかき | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1256 | あふことをはつかに見えし月かけのおほろけにやはあはれとはおもふ あふことを はつかにみえし つきかけの おほろけにやは あはれともおもふ | 天暦 | 恋四 |
8-新古 | 1257 | さらしなやをはすて山のありあけのつきすもものを思ふ比かな さらしなや をはすてやまの ありあけの つきすもものを おもふころかな | 伊勢 | 恋四 |
8-新古 | 1258 | いつとても哀とおもふをねぬるよの月はおほろけなくなくそみし いつとても あはれとおもふを ねぬるよの つきはおほろけ なくなくそみし | 中務 | 恋四 |
8-新古 | 1259 | さらしなの山よりほかにてる月もなくさめかねつこのころの空 さらしなの やまよりほかに てるつきも なくさめかねつ このころのそら | 凡河内躬恒 | 恋四 |
8-新古 | 1260 | あまのとををしあけかたの月みれはうき人しもそこひしかりける あまのとを おしあけかたの つきみれは うきひとしもそ こひしかりける | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1261 | ほの見えし月をこひしとかへるさの雲ちの浪にぬれてこしかな ほのみえし つきをこひしと かへるさの くもちのなみに ぬれてこしかな | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1262 | いるかたはさやかなりける月かけをうはのそらにもまちしよゐかな いるかたは さやかなりける つきかけを うはのそらにも まちしよひかな | 紫式部 | 恋四 |
8-新古 | 1263 | さしてゆく山の葉もみなかきくもり心のそらにきえし月かけ さしてゆく やまのはもみな かきくもり こころのそらに きえしつきかけ | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1264 | いまはとてわかれしほとの月をたになみたにくれてなかめやはせし いまはとて わかれしほとの つきをたに なみたにくれて なかめやはせし | 藤原経衡 | 恋四 |
8-新古 | 1265 | おもかけのわすれぬ人によそへつついるをそしたふ秋のよの月 おもかけの わすれぬひとに よそへつつ いるをそしたふ あきのよのつき | 肥後 | 恋四 |
8-新古 | 1266 | うき人の月はなにそのゆかりそとおもひなからもうちなかめつつ うきひとの つきはなにその ゆかりそと おもひなからも うちなかめつつ | 徳大寺実定 | 恋四 |
8-新古 | 1267 | 月のみやうわのそらなるかたみにておもひもいては心かよはん つきのみや うはのそらなる かたみにて おもひもいては こころかよはむ | 西行法師 | 恋四 |
8-新古 | 1268 | くまもなきおりしも人を思いてて心と月をやつしつるかな くまもなき をりしもひとを おもひいてて こころとつきを やつしつるかな | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1269 | ものおもひてなかむるころの月のいろにいかはかりなる哀そむらん ものおもひて なかむるころの つきのいろに いかはかりなる あはれそむらむ | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1270 | くもれかしなかむるからにかなしきは月におほゆる人のおもかけ くもれかし なかむるからに かなしきは つきにおほゆる ひとのおもかけ | 八条院高倉 | 恋四 |
8-新古 | 1271 | わすらるる身をしる袖のむら雨につれなく山の月はいてけり わすらるる みをしるそての むらさめに つれなくやまの つきはいてけり | 太上天皇 | 恋四 |
8-新古 | 1272 | めくりあはんかきりはいつとしらねとも月なへたてそよそのうき雲 めくりあはむ かきりはいつと しらねとも つきなへたてそ よそのうきくも | 九条良経 | 恋四 |
8-新古 | 1273 | わかなみたもとめて袖にやとれ月さりとて人のかけは見ねとも わかなみた もとめてそてに やとれつき さりとてひとの かけはみえねと | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1274 | こひわふる涙やそらにくもるらんひかりもかはるねやの月かけ こひわたる なみたやそらに くもるらむ ひかりもかはる ねやのつきかけ | 西園寺公経 | 恋四 |
8-新古 | 1275 | いくめくりそらゆく月もへたてきぬ契し中はよそのうき雲 いくめくり そらゆくつきも へたてきぬ ちきりしなかは よそのうきくも | 久我通光 | 恋四 |
8-新古 | 1276 | いまこんと契しことは夢なから見しよににたる有あけの月 いまこむと ちきりしことは ゆめなから みしよににたる ありあけのつき | 堀川通具 | 恋四 |
8-新古 | 1277 | わすれしといひしはかりのなこりとてそのよの月はめくりきにけり わすれしと いひしはかりの なこりとて そのよのつきは めくりきにけり | 藤原有家 | 恋四 |
8-新古 | 1278 | おもひいててよなよな月にたつねすはまてとちきりし中やたえなん おもひいてて よなよなつきに たつねすは まてとちきりし なかやたえなむ | 九条良経 | 恋四 |
8-新古 | 1279 | わするなよいまは心のかはるともなれしそのよの有明の月 わするなよ いまはこころの かはるとも なれしそのよの ありあけのつき | 藤原家隆 | 恋四 |
8-新古 | 1280 | そのままに松の嵐もかはらぬをわすれやしぬるふけしよの月 そのままに まつのあらしも かはらぬを わすれやしぬる ふけしよのつき | 法眼宗円 | 恋四 |
8-新古 | 1281 | 人そうきたのめぬ月はめくりきてむかしわすれぬよもきふのやと ひとそうき たのめぬつきは めくりきて むかしわすれぬ よもきふのやと | 藤原秀能 | 恋四 |
8-新古 | 1282 | わくらはにまちつるよゐもふけにけりさやは契し山のはの月 わくらはに まちつるよひも ふけにけり さやはちきりし やまのはのつき | 九条良経 | 恋四 |
8-新古 | 1283 | こぬ人をまつとはなくてまつよゐのふけゆくそらの月もうらめし こぬひとを まつとはなくて まつよひの ふけゆくそらの つきもうらめし | 藤原有家 | 恋四 |
8-新古 | 1284 | 松山と契し人はつれなくて袖こすなみにのこる月かけ まつやまと ちきりしひとは つれなくて そてこすなみに のこるつきかけ | 藤原定家 | 恋四 |
8-新古 | 1285 | ならひこしたかいつはりもまたしらてまつとせしまの庭のよもきふ ならひこし たかいつはりも またしらて まつとせしまの にはのよもきふ | 藤原俊成女 | 恋四 |
8-新古 | 1286 | あとたえてあさちかすゑになりにけりたのめしやとのにはのしら露 あとたえて あさちかすゑに なりにけり たのめしやとの にはのしらつゆ | 二条院讃岐 | 恋四 |
8-新古 | 1287 | こぬ人をおもひたえたる庭のおものよもきかすゑそまつにまされる こぬひとを おもひたえたる にはのおもの よもきかすゑそ まつにまされる | 寂蓮法師 | 恋四 |
8-新古 | 1288 | たつねても袖にかくへきかたそなきふかきよもきの露のかことを たつねても そてにかくへき かたそなき ふかきよもきの つゆのかことを | 久我通光 | 恋四 |
8-新古 | 1289 | かたみとてほのふみわけしあともなしこしはむかしの庭のおきはら かたみとて ほのふみわけし あともなし こしはむかしの にはのをきはら | 藤原保季 | 恋四 |
8-新古 | 1290 | なこりをは庭のあさちにととめをきてたれゆへ君かすみうかれけん なこりをは にはのあさちに ととめおきて たれゆゑきみか すみうかれけむ | 法橋行遍 | 恋四 |
8-新古 | 1291 | わすれすはなれし袖もやこほるらんねぬよのとこのしものさむしろ わすれすは なれしそてもや こほるらむ ねぬよのとこの しものさむしろ | 藤原定家 | 恋四 |
8-新古 | 1292 | 風ふかはみねにわかれん雲をたにありしなこりのかたみともみよ かせふかは みねにわかれむ くもをたに ありしなこりの かたみともみよ | 藤原家隆 | 恋四 |
8-新古 | 1293 | いはさりきいまこんまてのそらの雲月日へたてて物おもへとは いはさりき いまこむまての そらのくも つきひへたてて ものおもへとは | 九条良経 | 恋四 |
8-新古 | 1294 | おもひいてよたかかねことのすゑならんきのふの雲のあとの山風 おもひいてよ たかかねことの すゑならむ きのふのくもの あとのやまかせ | 藤原家隆 | 恋四 |
8-新古 | 1295 | わすれゆく人ゆへそらをなかむれはたえたえにこそ雲もみえけれ わすれゆく ひとゆゑそらを なかむれは たえたえにこそ くももみえけれ | 藤原範兼 | 恋四 |
8-新古 | 1296 | わすれなはいけらん物かとおもひしにそれもかなはぬこの世なりけり わすれなは いけらむものかと おもひしに それもかなはぬ このよなりけり | 殷富門院大輔 | 恋四 |
8-新古 | 1297 | 〈墨〉°うとくなる人をなにとてうらむらんしられすしらぬおりもありしに うとくなる ひとをなにとて うらむらむ しられすしらぬ をりもありしに | 西行法師 | 恋四 |
8-新古 | 1298 | 〈墨〉°今そしるおもひいてよと契しはわすれんとてのなさけなりけり いまそしる おもひいてよと ちきりしは わすれむとての なさけなりけり | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1299 | あひ見しはむかしかたりのうつつにてそのかねことを夢になせとや あひみしは むかしかたりの うつつにて そのかねことを ゆめになせとや | 源通親 | 恋四 |
8-新古 | 1300 | あはれなる心のやみのゆかりとも見しよの夢をたれかさためん あはれなそ こころのやみの ゆかりとも みしよのゆめを たれかさためむ | 西園寺公経 | 恋四 |
8-新古 | 1301 | ちきりきやあかぬわかれに露をきし暁はかりかたみなれとは ちきりきや あかぬわかれに つゆおきし あかつきはかり かたみなれとは | 堀川通具 | 恋四 |
8-新古 | 1302 | うらみわひまたしいまはの身なれともおもひなれにし夕くれの空 うらみわひ またしいまはの みなれとも おもひなれにし ゆふくれのそら | 寂蓮法師 | 恋四 |
8-新古 | 1303 | わすれしのことの葉いかになりにけんたのめしくれは秋風そふく わすれしの ことのはいかに なりにけむ たのめしくれは あきかせそふく | 宜秋門院丹後 | 恋四 |
8-新古 | 1304 | おもひかねうちぬるよゐもありなましふきたにすさへ庭の松風 おもひかね うちぬるよひも ありなまし ふきたにすさへ にはのまつかせ | 九条良経 | 恋四 |
8-新古 | 1305 | さらてたにうらみんとおもふわきもこか衣のすそに秋風そふく さらてたに うらみむとおもふ わきもこか ころものすそに あきかせそふく | 藤原有家 | 恋四 |
8-新古 | 1306 | 心にはいつもあきなるねさめかな身にしむ風のいくよともなく こころには いつもあきなる ねさめかな みにしむかせの いくよともなく | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1307 | あはれとてとふ人のなとなかるらんものおもふやとのおきのうは風 あはれとて とふひとのなと なかるらむ ものおもふやとの をきのうはかせ | 西行法師 | 恋四 |
8-新古 | 1308 | わかこひは今をかきりとゆふまくれおきふく風のをとつれてゆく わかこひは いまをかきりと ゆふまくれ をきふくかせの おとつれてゆく | 俊恵法師 | 恋四 |
8-新古 | 1309 | いまはたた心のほかにきく物をしらすかほなるおきのうは風 いまはたた こころのほかに きくものを しらすかほなる をきのうはかせ | 式子内親王 | 恋四 |
8-新古 | 1310 | いつもきく物とや人の思らんこぬゆふくれの秋風のこゑ いつもきく ものとやひとの おもふらむ こぬゆふくれの あきかせのこゑ | 九条良経 | 恋四 |
8-新古 | 1311 | 心あらはふかすもあらなんよゐよゐに人まつやとの庭の松風 こころあらは ふかすもあらなむ よひよひに ひとまつやとの にはのまつかせ | 慈円 | 恋四 |
8-新古 | 1312 | さとはあれぬ(ぬ=て)むなしきとこのあたりまて身はならはしの秋風そ吹 さとはあれぬ むなしきとこの あたりまて みはならはしの あきかせそふく | 寂蓮法師 | 恋四 |
8-新古 | 1313 | さとはあれぬおのへの宮のをのつからまちこしよゐも昔なりけり さとはあれぬ をのへのみやの おのつから まちこしよひも むかしなりけり | 太上天皇 | 恋四 |
8-新古 | 1314 | ものおもはてたたおほかたのつゆにたにぬるれはぬるる秋のたもとを ものおもはて たたおほかたの つゆにたに ぬるれはぬるる あきのたもとを | 藤原有家 | 恋四 |
8-新古 | 1315 | 草枕むすひさためんかたしらすならはぬ野への夢のかよひち くさまくら むすひさためむ かたしらす ならはぬのへの ゆめのかよひち | 飛鳥井雅経 | 恋四 |
8-新古 | 1316 | さてもなをとはれぬ秋のゆふは山雲ふく風もみねにみゆらん さてもなほ とはれぬあきの ゆふはやま くもふくかせの みねにみゆらむ | 藤原家隆 | 恋四 |
8-新古 | 1317 | おもひいるふかき心のたよりまて見しはそれともなき山ち哉 おもひいる ふかきこころの たよりまて みしはそれとも なきやまちかな | 藤原秀能 | 恋四 |
8-新古 | 1318 | なかめても哀とおもへおほかたのそらたにかなし秋の夕くれ なかめても あはれとおもへ おほかたの そらたにかなし あきのゆふくれ | 鴨長明 | 恋四 |
8-新古 | 1319 | ことの葉のうつりし秋もすきぬれはわか身時雨とふる涙かな ことのはの うつりしあきも すきぬれは わかみしくれと ふるなみたかな | 堀川通具 | 恋四 |
8-新古 | 1320 | きえわひぬうつろふ人の秋のいろに身をこからしのもりの白露 きえわひぬ うつろふひとの あきのいろに みをこからしの もりのしたつゆ | 藤原定家 | 恋四 |
8-新古 | 1321 | こぬ人を秋のけしきやふけぬらんうらみによはる松むしのこゑ こぬひとを あきのけしきや ふけぬらむ うらみによわる まつむしのこゑ | 寂蓮法師 | 恋四 |
8-新古 | 1322 | わかこひは庭のむら萩うらかれて人をも身をも秋の夕くれ わかこひは にはのむらはき うらかれて ひとをもみをも あきのゆふくれ | 慈円 | 恋四 |
8-新古 | 1323 | 袖のつゆもあらぬ色にそきえかへるうつれはかはるなけきせしまに そてのつゆも あらぬいろにそ きえかへる うつれはかはる なけきせしまに | 太上天皇 | 恋四 |
8-新古 | 1324 | むせふともしらしな心かはらやにわれのみけたぬしたのけふりは むせふとも しらしなこころ かはらやに われのみけたぬ したのけふりは | 藤原定家 | 恋四 |
8-新古 | 1325 | しられしなおなし袖にはかよふともたか夕くれとたのむ秋風 しられしな おなしそてには かよふとも たかゆふくれと たのむあきかせ | 藤原家隆 | 恋四 |
8-新古 | 1326 | つゆはらふねさめは秋のむかしにて見はてぬ夢にのこるおもかけ つゆはらふ ねさめはあきの むかしにて みはてぬゆめに のこるおもかけ | 藤原俊成女 | 恋四 |
8-新古 | 1327 | 心こそゆくゑもしらねみわの山すきの木すゑの夕くれの空 こころこそ ゆくへもしらね みわのやま すきのこすゑの ゆふくれのそら | 慈円 | 恋四 |
8-新古 | 1328 | さりともとまちし月日そうつりゆく心の花の色にまかせて さりともと まちしつきひそ うつりゆく こころのはなの いろにまかせて | 式子内親王 | 恋四 |
8-新古 | 1329 | いきてよもあすまて人もつらからしこの夕くれをとははとへかし いきてよも あすまてひとは つらからし このゆふくれを とははとへかし | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1330 | 暁のなみたやそらにたくふらん袖におちくるかねのおと哉 あかつきの なみたやそらに たくふらむ そてにおちくる かねのおとかな | 慈円 | 恋四 |
8-新古 | 1331 | つくつくとおもひあかしのうらちとりなみのまくらになくなくそきく つくつくと おもひあかしの うらちとり なみのまくらに なくなくそきく | 西園寺公経 | 恋四 |
8-新古 | 1332 | たつねみるつらき心のおくのうみよしほひのかたのいふかひもなし たつねみる つらきこころの おくのうみよ しほひのかたの いふかひもなし | 藤原定家 | 恋四 |
8-新古 | 1333 | 見し人のおもかけとめよきよみかた袖にせきもる浪のかよひち みしひとの おもかけとめよ きよみかた そてにせきもる なみのかよひち | 飛鳥井雅経 | 恋四 |
8-新古 | 1334 | ふりにけり時雨は袖に秋かけていひしはかりをまつとせしまに ふりにけり しくれはそてに あきかけて いひしはかりを まつとせしまに | 藤原俊成女 | 恋四 |
8-新古 | 1335 | かよひこしやとのみちしはかれかれにあとなき霜のむすほほれつつ かよひこし やとのみちしは かれかれに あとなきしもの むすほほれつつ | 読人知らず | 恋四 |
8-新古 | 1336 | しろたへの袖のわかれにつゆおちて身にしむいろの秋風そふく しろたへの そてのわかれに つゆおちて みにしむいろの あきかせそふく | 藤原定家 | 恋五 |
8-新古 | 1337 | 思いる身はふかくさのあきのつゆたのめしすゑやこからしの風 おもひいる みはふかくさの あきのつゆ たのめしすゑや こからしのかせ | 藤原家隆 | 恋五 |
8-新古 | 1338 | 野辺のつゆはいろもなくてやこほれつるそてよりすくるおきのうは風 のへのつゆは いろもなくてや こほれつる そてよりすくる をきのうはかせ | 慈円 | 恋五 |
8-新古 | 1339 | こひわひて野辺のつゆとはきえぬともたれか草葉を哀とはみん こひわひて のへのつゆとは きえぬとも たれかくさはを あはれとはみむ | 藤原公衡 | 恋五 |
8-新古 | 1340 | とへかしなお花かもとのおもひくさしほるる野辺のつゆはいかにと とへかしな をはなかもとの おもひくさ しをるるのへの つゆはいかにと | 堀川通具 | 恋五 |
8-新古 | 1341 | よのまにもきゆへき物をつゆしものいかにしのへとたのめをくらん よのまにも きゆへきものを つゆしもの いかにしのへと たのめおくらむ | 藤原俊忠 | 恋五 |
8-新古 | 1342 | あたなりとおもひしかとも君よりはものわすれせぬ袖のうはつゆ あたなりと おもひしかとも きみよりは ものわすれせぬ そてのうはつゆ | 藤原道信 | 恋五 |
8-新古 | 1343 | おなしくはわか身もつゆときえななんきえなはつらきことの葉も見し〈朱〉/ おなしくは わかみもつゆと きえななむ きえなはつらき ことのはもみし | 藤原元真 | 恋五 |
8-新古 | 1344 | いまこんといふことの葉もかれゆくによな〳〵つゆのなににをくらん いまこむと いふことのはも かれゆくに よなよなつゆの なににおくらむ | 和泉式部 | 恋五 |
8-新古 | 1345 | あたことのはにをくつゆのきえにしをある物とてや人のとふらん あたことの はにおくつゆの きえにしを あるものとてや ひとのとふらむ | 藤原長能 | 恋五 |
8-新古 | 1346 | うちはへていやはねらるる宮木ののこはきかした葉いろにいてしより うちはへて いやはねらるる みやきのの こはきかしたは いろにいてしより | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1347 | はきの葉やつゆのけしきもうちつけにもとよりかはる心ある物を はきのはや つゆのけしきも うちつけに もとよりかはる こころあるものを | 藤原惟成 | 恋五 |
8-新古 | 1348 | よもすからきえかへりつるわか身かななみたのつゆにむすほほれつつ よもすから きえかへりつる わかみかな なみたのつゆに むすほほれつつ | 華山院 | 恋五 |
8-新古 | 1349 | 君かせぬわかたまくらは草なれやなみたのつゆのよな〳〵そをく きみかせぬ わかたまくらは くさなれや なみたのつゆの よなよなそおく | 光孝天皇 | 恋五 |
8-新古 | 1350 | つゆはかりをくらん袖はたのまれすなみたの河のたきつせなれは つゆはかり おくらむそては たのまれす なみたのかはの たきつせなれは | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1351 | 思ひやるよそのむら雲しくれつつあたちのはらにもみちしぬらん おもひやる よそのむらくも しくれつつ あたちのはらに もみちしぬらむ | 源重之 | 恋五 |
8-新古 | 1352 | 身にちかくきにけるものを色かはる秋をはよそにおもひしかとも みにちかく きにけるものを いろかはる あきをはよそに おもひしかとも | 源顕房室 | 恋五 |
8-新古 | 1353 | 色かはるはきのした葉を見てもまつ人の心の秋そしらるる いろかはる はきのしたはを みてもまつ ひとのこころの あきそしらるる | 相模 | 恋五 |
8-新古 | 1354 | いなつまはてらさぬよゐもなかりけりいつらほのかにみえしかけろふ いなつまは てらさぬよひも なかりけり いつらほのかに みえしかけろふ | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1355 | 人しれぬねさめの涙ふりみちてさもしくれつるよはのそらかな ひとしれぬ ねさめのなみた ふりみちて さもしくれつる よはのそらかな | 謙徳公 | 恋五 |
8-新古 | 1356 | なみたのみうきいつるあまのつりさほのなかきよすからこひつつそぬる なみたのみ うきいつるあまの つりさをの なかきよすから こひつつそぬる | 光孝天皇 | 恋五 |
8-新古 | 1357 | まくらのみうくとおもひしなみたかはいまはわか身のしつむなりけり まくらのみ うくとおもひし なみたかは いまはわかみの しつむなりけり | 坂上是則 | 恋五 |
8-新古 | 1358 | おもほえす袖にみなとのさはくかなもろこし舟のよりしはかりに おもほえす そてにみなとの さわくかな もろこしふねの よりしはかりに | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1359 | いもか袖わかれし日よりしろたへの衣かたしきこひつつそぬる いもかそて わかれしひより しろたへの ころもかたしき こひつつそぬる | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1360 | あふことのなみのした草みかくれてしつ(つ+心歟)なくねこそなかるれ あふことの なみのしたくさ みかくれて しつこころなく ねこそなかるれ | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1361 | うらにたくもしほの煙なひかめやよものかたより風(風+は歟)ふくとも うらにたく もしほのけふり なひかめや よものかたより かせはふくとも | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1362 | わするらんとおもふ心のうたかひにありしよりけに物そかなしき わするらむと おもふこころの うたかひに ありしよりけに ものそかなしき | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1363 | うきなから人をはえしもわすれねはかつうらみつつなをそこひしき うきなから ひとをはえしも わすれねは かつうらみつつ なほそこひしき | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1364 | いのちをはあたなるものとききしかとつらきかためは長もあるかな いのちをは あたなるものと ききしかと つらきかためは なかくもあるかな | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1365 | いつかたにゆきかくれなんよの中に身のあれはこそ人もつらけれ いつかたに ゆきかくれなむ よのなかに みのあれはこそ ひともつらけれ | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1366 | いままてにわすれぬ人はよにもあらしをのかさま〳〵としのへぬれは いままてに わすれぬひとは よにもあらし おのかさまさま としのへぬれは | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1367 | たま水をてにむすひてもこころみんぬるくはいしの中もたのまし たまみつを てにむすひても こころみむ ぬるくはいしの なかもたのまし | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1368 | 山しろの井ての玉水てにくみてたのみしかひもなきよなりけり やましろの ゐてのたまみつ てにくみて たのみしかひも なきよなりけり | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1369 | 君かあたり見つつををらんいこま山雲なかくしそ雨はふるとも きみかあたり みつつををらむ いこまやま くもなかくしそ あめはふるとも | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1370 | なかそらに立ゐる雲のあともなく身のはかなくもなりぬへきかな なかそらに たちゐるくもの あともなく みのはかなくも なりぬへきかな | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1371 | 雲のゐるとを山とりのよそにてもありとしきけはわひつつそぬる くものゐる とほやまとりの よそにても ありとしきけは わひつつそぬる | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1372 | ひるはきてよるはわかるる山とりのかけ見る時そねはなかれける ひるはきて よるはわかるる やまとりの かけみるときそ ねはなかれける | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1373 | われもしかなきてそ人にこひられしいまこそよそに声をのみきけ われもしか なきてそひとに こひられし いまこそよそに こゑをのみきけ | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1374 | 夏野ゆくをしかのつののつかのまもわすれすおもへいもか心を なつのゆく をしかのつのの つかのまも わすれすおもへ いもかこころを | 柿本人麿 | 恋五 |
8-新古 | 1375 | 夏草のつゆわけ衣きもせぬになとわか袖のかはく時なき なつくさの つゆわけころも きもせぬに なとわかそての かわくときなき | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1376 | みそきするならのをかはの河風にいのりそわたるしたにたえしと みそきする ならのをかはの かはかせに いのりそわたる したにたえしと | 八代女王 | 恋五 |
8-新古 | 1377 | うらみつつぬるよの袖のかはかぬはまくらのしたにしほやみつらん うらみつつ ぬるよのそての かわかぬは まくらのしたに しほやみつらむ | 清原深養父 | 恋五 |
8-新古 | 1378 | あし辺よりみちくるしほのいやましにおもふか君をわすれかねつる あしへより みちくるしほの いやましに おもふかきみか わすれかねつる | 山口女王 | 恋五 |
8-新古 | 1379 | しほかまのまへにうきたるうきしまのうきておもひのあるよなりけり しほかまの まへにうきたる うきしまの うきておもひの あるよなりけり | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1380 | いかにねて見えしなるらんうたたねの夢より後は物をこそおもへ いかにねて みえしなるらむ うたたねの ゆめよりのちは ものをこそおもへ | 赤染衛門 | 恋五 |
8-新古 | 1381 | うちとけてねぬものゆへに夢を見てものおもひまさる比にもあるかな うちとけて ねぬものゆゑに ゆめをみて ものおもひまさる こころにもあるかな | 小野篁 | 恋五 |
8-新古 | 1382 | 春のよの夢にありつと見えつれはおもひたえにし人そまたるる はるのよの ゆめにあひつと みえつれは おもひたえにし ひとそまたるる | 伊勢 | 恋五 |
8-新古 | 1383 | はるのよの夢のしるしはつらくとも見しはかりたにあらはたのまん はるのよの ゆめのしなしは つらくとも みしはかりたに あらはたのまむ | 盛明親王 | 恋五 |
8-新古 | 1384 | ぬる夢にうつつのうさもわすられておもひなくさむほとそはかなき ぬるゆめに うつつのうさも わすられて おもひなくさむ ほとそはかなき | 女御徽子女王 | 恋五 |
8-新古 | 1385 | かくはかりねてあかしつる春のよにいかに見えつる夢にかあるらん かくはかり ねてあかしつる はるのよに いかにみえつる ゆめにかあるらむ | 大中臣能宣 | 恋五 |
8-新古 | 1386 | なみたかは身もうきぬへきねさめかなはかなき夢のなこりはかりに なみたかは みもうきぬへき ねさめかな はかなきゆめの なこりはかりに | 寂蓮法師 | 恋五 |
8-新古 | 1387 | あふと見てことそともなくあけぬなりはかなの夢の忘かたみや あふとみて ことそともなく あけぬなり はかなのゆめの わすれかたみや | 藤原家隆 | 恋五 |
8-新古 | 1388 | ゆかちかしあなかまよはのきり〳〵す夢にも人のみえもこそすれ ゆかちかし あなかまよはの きりきりす ゆめにもひとの みえもこそすれ | 藤原基俊 | 恋五 |
8-新古 | 1389 | あはれなりうたたねにのみ見しゆめの長きおもひにむすほほれなん あはれなり うたたねにのみ みしゆめの なかきおもひに むすほほれなむ | 藤原俊成 | 恋五 |
8-新古 | 1390 | かきやりしそのくろかみのすちことにうちふすほとはおもかけそたつ かきやりし そのくろかみの すちことに うちふすほとは おもかけそたつ | 藤原定家 | 恋五 |
8-新古 | 1391 | 夢かとよ見しおもかけもちきりしもわすれすなからうつつならねは ゆめかとよ みしおもかけも ちきりしも わすれすなから うつつならねは | 藤原俊成女 | 恋五 |
8-新古 | 1392 | はかなくそしらぬいのちをなけきこしわかかねことのかかりけるよに はかなくそ しらぬいのちを なけきこし わかかねことの かかりけるよに | 式子内親王 | 恋五 |
8-新古 | 1393 | すきにけるよよの契もわすられていとふうき身のはてそはかなき すきにける よよのちきりも わすられて いとふうきみの はてそはかなき | 弁 | 恋五 |
8-新古 | 1394 | おもひわひ見しおもかけはさてをきてこひせさりけんおりそこひしき おもひわひ みしおもかけは さておきて こひせさりけむ をりそこひしき | 藤原俊成 | 恋五 |
8-新古 | 1395 | なかれいてんうき名にしはしよとむかなもとめぬ袖のふちはあれとも なかれいてむ うきなにしはし よとむかな もとめぬそての ふちはあれとも | 相模 | 恋五 |
8-新古 | 1396 | つらからはこひしきことはわすれなてそへてはなとかしつ心なき つらからは こひしきことは わすれなて そへてはなとか しつこころなき | 馬内侍 | 恋五 |
8-新古 | 1397 | きみしまれみちのゆききをさたむらんすきにし人をかつ忘つつ きみしまれ みちのゆききを さたむらむ すきにしひとを かつわすれつつ | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1398 | 花さかぬくち木のそまのそま人のいかなるくれに思ひいつらん はなさかぬ くちきのそまの そまひとの いかなるくれに おもひいつらむ | 藤原仲文 | 恋五 |
8-新古 | 1399 | をのつからさこそはあれとおもふまにまことに人のとはすなりぬる おのつから さこそはあれと おもふまに まことにひとの とはすなりぬる | 源経信母 | 恋五 |
8-新古 | 1400 | ならはねは人のとはぬもつらからてくやしきにこそ袖はぬれけれ ならはねは ひとのとはぬも つらからて くやしきにこそ そてはぬれけれ | 平教盛母 | 恋五 |
8-新古 | 1401 | なけかしなおもへは人につらかりしこのよなからのむくひなりけり なけかしな おもへはひとに つらかりし このよなからの むくひなりけり | 皇嘉門院尾張 | 恋五 |
8-新古 | 1402 | いかにしていかにこのよにありへはかしはしもものをおもはさるへき いかにして いかにこのよに ありへはか しはしもものを おもはさるへき | 和泉式部 | 恋五 |
8-新古 | 1403 | うれしくはわするることもありなましつらきそなかきかたみなりける うれしくは わするることも ありなまし つらきそなかき かたみなりける | 深養父 | 恋五 |
8-新古 | 1404 | あふことのかたみをたにも見(見=え歟)てしかな人はたゆともみつつしのはん あふことの かたみをたにも みてしかな ひとはたゆとも みつつしのはむ | 素性法師 | 恋五 |
8-新古 | 1405 | わか身こそあらぬかとのみたとらるれとふへき人にわすられしより わかみこそ あらぬかとのみ たとらるれ とふへきひとに わすられしより | 小野小町 | 恋五 |
8-新古 | 1406 | かつらきやくめちにわたすいははしのたえにし中となりやはてなん かつらきや くめちにわたす いははしの たえにしなかと なりやはてなむ | 大中臣能宣 | 恋五 |
8-新古 | 1407 | 今はともおもひなたえそ野中なる水のなかれはゆきてたつねん いまはとも おもひなたえそ のなかなる みつのなかれは ゆきてたつねむ | 祭主輔親 | 恋五 |
8-新古 | 1408 | おもひいつやみののを山のひとつ松契しことはいつもわすれす おもひいつや みののをやまの ひとつまつ ちきりしことは いつもわすれす | 伊勢 | 恋五 |
8-新古 | 1409 | いてていにしあとたにいまたかはらぬにたかかよひちと今はなるらん いてていにし あとたにいまた かはらぬに たかかよひちと いまはなるらむ | 在原業平 | 恋五 |
8-新古 | 1410 | むめの花かをのみ袖にととめをきてわかおもふ人はをとつれもせぬ うめのはな かをのみそてに ととめおきて わかおもふひとは おとつれもせぬ | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1411 | あまのはらそこともしらぬおほそらにおほつかなさをなけきつるかな あまのはら そこともしらぬ おほそらに おほつかなさを なけきつるかな | 天暦 | 恋五 |
8-新古 | 1412 | なけくらん心をそらに見てしかなたつあさきりに身をやなさまし なけくらむ こころをそらに みてしかな たつあさきりに みをやなさまし | 女御徽子女王 | 恋五 |
8-新古 | 1413 | あはすしてふるころをひのあまたあれははるけきそらになかめをそする あはすして ふるころほひの あまたあれは はるけきそらに なかめをそする | 光孝天皇 | 恋五 |
8-新古 | 1414 | おもひやる心もそらに白雲のいてたつかたをしらせやはせぬ おもひやる こころもそらに しらくもの いてたつかたを しらせやはせぬ | 致平親王 | 恋五 |
8-新古 | 1415 | 雲井よりとを山とりのなきてゆく声ほのかなるこひもするかな くもゐより とほやまとりの なきてゆく こゑほのかなる こひもするかな | 凡河内躬恒 | 恋五 |
8-新古 | 1416 | 雲ゐなる雁たになきてくる秋になとかは人のをとつれもせぬ くもゐなる かりたになきて くるあきに なとかはひとの おとつれもせぬ | 延喜 | 恋五 |
8-新古 | 1417 | 春ゆきて秋まてとやはおもひけんかりにはあらす契し物を はるゆきて あきまてとやは おもひけむ かりにはあらす ちきりしものを | 天暦 | 恋五 |
8-新古 | 1418 | はつかりのはつかにききしことつても雲ちにたえてわふる比かな はつかりの はつかにききし ことつても くもちにたえて わふるころかな | 源高明 | 恋五 |
8-新古 | 1419 | をみころもこそはかりこそなれさらめけふの日かけのかけてたにとへ をみころも こそはかりこそ なれさらめ けふのひかけの かけてたにとへ | 藤原惟成 | 恋五 |
8-新古 | 1420 | すみよしのこひわすれ草たねたえてなきよにあへるわれそかなしき すみよしの こひわすれくさ たねたえて なきよにあへる われそかなしき | 藤原元真 | 恋五 |
8-新古 | 1421 | 水のうへのはかなきかすもおもほえすふかき心しそこにとまれは〈朱〉/ みつのうへの はかなきかすも おもほえす ふかきこころし そこにとまれは | 天暦 | 恋五 |
8-新古 | 1422 | なかきよのつきぬなけきのたえさらはなににいのちをかへてわすれん なかきよの つきぬなけきの たえさらは なににいのちを かへてわすれむ | 謙徳公 | 恋五 |
8-新古 | 1423 | 心にもまかせさりけるいのちもてたのめもをかしつねならぬよを こころにも まかせさりける いのちもて たのめもおかし つねならぬよを | 藤原敦忠 | 恋五 |
8-新古 | 1424 | 世のうきも人のつらきもしのふるにこひしきにこそ思ひわひぬれ よのうきも ひとのつらきも しのふるに こひしきにこそ おもひわひぬれ | 藤原元真 | 恋五 |
8-新古 | 1425 | かすならはかからましやはよの中にいとかなしきはしつのをたまき かすならは かからましやは よのなかに いとかなしきは しつのをたまき | 小野篁 | 恋五 |
8-新古 | 1426 | 人ならはおもふ心をいひてましよしやさこそはしつのをたまき ひとならは おもふこころを いひてまし よしやさこそは しつのをたまき | 藤原惟成 | 恋五 |
8-新古 | 1427 | わかよはひおとろへゆけはしろたへの袖のなれにし君をしそ思 わかよはひ おとろへゆけは しろたへの そてのなれにし きみをしそおもふ | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1428 | いまよりはあはしとすれやしろたへのわか衣手のかはく時なき いまよりは あはしとすれや しろたへの わかころもての かわくときなき | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1429 | たまくしけあけまくおしきあたら夜を衣てかれてひとりかもねん たまくしけ あけまくをしき あたらよを ころもてかれて ひとりかもねむ | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1430 | あふことをおほつかなくてすくすかな草葉のつゆのをきかはるまて あふことを おほつかなくて すくすかな くさはのつゆの おきかはるまて | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1431 | 秋の田のほむけの風のかたよりにわれは物おもふつれなきものを あきのたの ほむけのかせの かたよりに われはものおもふ つれなきものを | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1432 | はしたかの野もりのかかみえてしかなおもひおもはすよそなからみん はしたかの のもりのかかみ えてしかな おもひおもはす よそなからみむ | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1433 | おほよとの松はつらくもあらなくにうらみてのみもかへるなみかな おほよとの まつはつらくも あらなくに うらみてのみも かへるなみかな | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1434 | 白浪はたちさはくともこりすまのうらのみるめはからんとそおもふ しらなみは たちさわくとも こりすまの うらのみるめは からむとそおもふ | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1435 | さしてゆくかたはみなとのうらたかみうらみてかへるあまのつりふね さしてゆく かたはみなとの うらたかみ うらみてかへる あまのつりふね | 読人知らず | 恋五 |
8-新古 | 1436 | としくれしなみたのつららとけにけりこけの袖にも春やたつらん としくれし なみたのつらら とけにけり こけのそてにも はるやたつらむ | 藤原俊成 | 雑上 |
8-新古 | 1437 | 山かけやさらては庭にあともなし春そきにける雪のむらきえ やまかけや さらてはにはに あともなし はるそきにける ゆきのむらきえ | 藤原有家 | 雑上 |
8-新古 | 1438 | あはれなりむかしの人をおもふにはきのふの野へにみゆきせましや あはれなり むかしのひとを おもふには きのふののへに みゆきせましや | 一条左大臣 | 雑上 |
8-新古 | 1439 | ひきかへて野辺のけしきは見えしかとむかしをこふる松はなかりき ひきかへて のへのけしきは みえしかと むかしをこふる まつはなかりき | 円融院 | 雑上 |
8-新古 | 1440 | 春くれは袖の氷もとけにけりもりくる月のやとるはかりに はるくれは そてのこほりも とけにけり もりくるつきの やとるはかりに | 行尊 | 雑上 |
8-新古 | 1441 | たにふかみ春のひかりのをそけれは雪につつめる鴬の声 たにふかみ はるのひかりの おそけれは ゆきにつつめる うくひすのこゑ | 菅贈太政大臣 | 雑上 |
8-新古 | 1442 | ふるゆきにいろまとはせるむめの花うくひすのみやわきてしのはん ふるゆきに いろまとはせる うめのはな うくひすのみや わきてしのはむ | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1443 | をそくとくつゐにさきぬるむめの花たかうへをきしたねにかあるらん おそくとく つひにさきぬる うめのはな たかうゑおきし たねにかあるらむ | 貞信公 | 雑上 |
8-新古 | 1444 | ももしきにかはらぬものは梅の花おりてかさせるにほひなりけり ももしきに かはらぬものは うめのはな をりてかさせる にほひなりけり | 源公忠 | 雑上 |
8-新古 | 1445 | いろかをはおもひもいれすむめの花つねならぬよによそへてそみる いろかをは おもひもいれす うめのはな つねならぬよに よそへてそみる | 華山院 | 雑上 |
8-新古 | 1446 | むめの花なににほふらんみる人のいろをもかをもわすれぬるよに うめのはな なににほふらむ みるひとの いろをもかをも わすれぬるよに | 大弐三位 | 雑上 |
8-新古 | 1447 | はるかすみたなひきわたるおりにこそかかる山辺のかひもありけれ はるかすみ たなひきわたる をりにこそ かかるやまへは かひもありけれ | 藤原兼家 | 雑上 |
8-新古 | 1448 | むらさきの雲にもあらて春かすみたなひく山のかひはなにそも むらさきの くもにもあらて はるかすみ たなひくやまの かひはなにそも | 円融院 | 雑上 |
8-新古 | 1449 | みちのへのくち木の柳春くれはあはれむかしとしのはれそする みちのへの くちきのやなき はるくれは あはれむかしと しのはれそする | 菅贈太政大臣 | 雑上 |
8-新古 | 1450 | むかし見し春はむかしの春なからわか身ひとつのあらすもあるかな むかしみし はるはむかしの はるなから わかみひとつの あらすもあるかな | 深養父 | 雑上 |
8-新古 | 1451 | かきこしに見るあた人のいへさくら花ちりはかりゆきておらはや かきこしに みるあたひとの いへさくら はなちるはかり ゆきてをらはや | 円融院 | 雑上 |
8-新古 | 1452 | おりにことおもひやすらん花さくらありしみゆきの春をこひつつ をりにこと おもひやすらむ はなさくら ありしみゆきの はるをこひつつ | 藤原朝光 | 雑上 |
8-新古 | 1453 | よろつよをふるにかひあるやとなれはみゆきと見えて花そちりける よろつよを ふるにかひある やとなれや みゆきとみえて はなそちりくる | 肥後 | 雑上 |
8-新古 | 1454 | えたことのすゑまてにほふ花なれはちるもみゆきとみゆるなるらん えたことの すゑまてにほふ はななれは ちるもみゆきと みゆるなるらむ | 藤原師通 | 雑上 |
8-新古 | 1455 | 春をへてみゆきになるる花のかけふりゆく身をもあはれとや思 はるをへて みゆきになるる はなのかけ ふりゆくみをも あはれとやおもふ | 藤原定家 | 雑上 |
8-新古 | 1456 | なれ〳〵て見しはなこりの春そともなとしらかはの花のしたかけ なれなれて みしはなこりの はるそとも なとしらかはの はなのしたかけ | 飛鳥井雅経 | 雑上 |
8-新古 | 1457 | ふるさととおもひなはてそ花さくらかかるみゆきにあふよありけり ふるさとと おもひなはてそ はなさくら かかるみゆきに あふよありけり | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1458 | いさやまた月日のゆくもしらぬ身は花の春ともけふこそは見れ いさやまた つきひのゆくも しらぬみは はなのはるとも けふこそはみれ | 源師光 | 雑上 |
8-新古 | 1459 | おる人のそれなるからにあちきなく見しわかやとの花のかそする をるひとの それなるからに あちきなく みしわかやとの はなのかそする | 和泉式部 | 雑上 |
8-新古 | 1460 | 見ても又またも見まくのほしかりし花のさかりはすきやしぬらん みてもまた またもみまくの ほしかりし はなのさかりは すきやしぬらむ | 藤原高光 | 雑上 |
8-新古 | 1461 | おいにけるしらかも花ももろともにけふのみゆきにゆきとみえけり おいにける しらかもはなも もろともに けふのみゆきに ゆきとみえけり | 堀河左大臣 | 雑上 |
8-新古 | 1462 | さくら花おりてみしにもかはらぬにちらぬはかりそしるしなりける さくらはな をりてみしにも かはらぬに ちらぬはかりそ しるしなりける | 藤原忠家 | 雑上 |
8-新古 | 1463 | さもあらはあれくれゆく春も雲のうへにちることしらぬ花しにほはは さもあらはあれ くれゆくはるも くものうへに ちることしらぬ はなしにほはは | 源経信 | 雑上 |
8-新古 | 1464 | 桜花すきゆく春のともとてや風のをとせぬよにもちるらん さくらはな すきゆくはるの ともとてや かせのおとせぬ よるもちるらむ | 藤原忠教 | 雑上 |
8-新古 | 1465 | おしめともつねならぬよの花なれはいまはこの身をにしにもとめん をしめとも つねならぬよの はななれは いまはこのみを にしにもとめむ | 鳥羽院 | 雑上 |
8-新古 | 1466 | いまはわれよしのの山の花をこそやとの物とも見るへかりけれ いまはわれ よしののやまの はなをこそ やとのものとも みるへかりけれ | 藤原俊成 | 雑上 |
8-新古 | 1467 | 春くれはなをこのよこそしのはるれいつかはかかる花をみるへき はるくれは なほこのよこそ しのはるれ いつかはかかる はなをみるへき | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1468 | てる月も雲のよそにそゆきめくる花そこのよのひかりなりける てるつきも くものよそにそ ゆきめくる はなそこのよの ひかりなりける | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1469 | 見せはやなしかのからさきふもとなるなからの山の春のけしきを みせはやな しかのからさき ふもとなる なからのやまの はるのけしきを | 慈円 | 雑上 |
8-新古 | 1470 | しはのとににほはん花はさもあらはあれなかめてけりなうらめしの身や しはのとに にほはむはなは さもあらはあれ なかめてけりな うらめしのみや | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1471 | 世中をおもへはなへてちる花のわか身をさてもいつちかもせん よのなかを おもへはなへて ちるはなの わかみをさても いつちかもせむ | 西行法師 | 雑上 |
8-新古 | 1472 | 身はとめつ心はをくる山さくら風のたよりにおもひをこせよ みはとめつ こころはおくる やまさくら かせのたよりに おもひおこせよ | 安法々師 | 雑上 |
8-新古 | 1473 | さくらあさのおふのうらなみたちかへり見れともあかす山なしの花 さくらあさの をふのうらなみ たちかへり みれともあかす やまなしのはな | 源俊頼 | 雑上 |
8-新古 | 1474 | 白浪のこゆらんすゑの松山は花とや見ゆる春のよの月 しらなみの こゆらむすゑの まつやまは はなとやみゆる はるのよのつき | 加賀左衛門 | 雑上 |
8-新古 | 1475 | おほつかなかすみたつらんたけくまの松のくまもるはるのよの月 おほつかな かすみたつらむ たけくまの まつのくまもる はるのよのつき | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1476 | 世をいとふよしののおくのよふこ鳥ふかき心のほとやしるらん よをいとふ よしののおくの よふことり ふかきこころの ほとやしるらむ | 法印幸清 | 雑上 |
8-新古 | 1477 | おりにあへはこれもさすかにあはれなりおたのかはつのゆふくれの声 をりにあへは これもさすかに あはれなり をたのかはつの ゆふくれのこゑ | 藤原忠良 | 雑上 |
8-新古 | 1478 | 春の雨のあまねきみよをたのむかな霜にかれゆく草葉もらすな はるのあめの あまねきみよを たのむかな しもにかれゆく くさはもらすな | 藤原有家 | 雑上 |
8-新古 | 1479 | すへらきのこたかきかけにかくれてもなを春雨にぬれんとそおもふ すめらきの こたかきかけに かくれても なほはるさめに ぬれむとそおもふ | 三条実行 | 雑上 |
8-新古 | 1480 | やへなからいろもかはらぬ山ふきのなとここのへにさかすなりにし やへなから いろもかはらぬ やまふきの なとここのへに さかすなりにし | 藤原実方 | 雑上 |
8-新古 | 1481 | ここのへにあらてやへさく山ふきのいはぬいろをはしる人もなし ここのへに あらてやへさく やまふきの いはぬいろをは しるひともなし | 円融院 | 雑上 |
8-新古 | 1482 | をのかなみにおなしすゑ葉そしほれぬるふちさくたこのうらめしの身や おのかなみに おなしすゑはそ しをれぬる ふちさくたこの うらめしのみや | 慈円 | 雑上 |
8-新古 | 1483 | から衣花のたもとにぬきかへよわれこそ春のいろはたちつれ からころも はなのたもとに ぬきかへよ われこそはるの いろはたちつれ | 藤原道長 | 雑上 |
8-新古 | 1484 | 唐衣たちかはりぬる春のよにいかてか花のいろをみるへき からころも たちかはりぬる はるのよに いかてかはなの いろをみるへき | 上東門院 | 雑上 |
8-新古 | 1485 | 神世にはありもやしけんさくら花けふのかさしにおれるためしは かみよには ありもやしけむ さくらはな けふのかさしに をれるためしは | 紫式部 | 雑上 |
8-新古 | 1486 | ほとときすそのかみ山のたひ枕ほのかたらひしそらそわすれぬ ほとときす そのかみやまの たひまくら ほのかたらひし そらそわすれぬ | 式子内親王 | 雑上 |
8-新古 | 1487 | たちいつるなこり有明の月かけにいととかたらふほとときすかな たちいつる なこりありあけの つきかけに いととかたらふ ほとときすかな | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1488 | いくちよとかきらぬ君かみよなれとなをおしまるるけさのあけほの いくちよと かきらぬきみか みよなれは なほをしまるる けさのあけほの | 藤原家通 | 雑上 |
8-新古 | 1489 | むめかえにおりたかへたるほとときす声のあやめもたれかわくへき うめかえに をりたかへたる ほとときす こゑのあやめも たれかわくへき | 三条院女蔵人左近 | 雑上 |
8-新古 | 1490 | うちわたすをちかた人にこととへとこたへぬからにしるき花かな うちわたす をちかたひとに こととへと こたへぬからに しるきはなかな | 小弁 | 雑上 |
8-新古 | 1491 | 五月雨のそらたにすめる月かけになみたの雨ははるるまもなし さみたれの そらたにすめる つきかけに なみたのあめは はるるまもなし | 赤染衛門 | 雑上 |
8-新古 | 1492 | さみたれはまやののきはのあまそそきあまりなるまてぬるる袖かな さみたれは まやののきはの あまそそき あまりなるまて ぬるるそてかな | 藤原俊成 | 雑上 |
8-新古 | 1493 | ひとりぬるやとのとこなつあさな〳〵なみたのつゆにぬれぬ日そなき ひとりぬる やとのとこなつ あさなあさな なみたのつゆに ぬれぬひそなき | 華山院 | 雑上 |
8-新古 | 1494 | よそへつつ見れとつゆたになくさますいかにかすへきなてしこの花 よそへつつ みれとつゆたに なくさます いかにかすへき なてしこのはな | 恵子女王 | 雑上 |
8-新古 | 1495 | おもひあらはこよひのそらはとひてまし見えしや月のひかりなりけん おもひあらは こよひのそらは とひてまし みえしやつきの ひかりなりけむ | 和泉式部 | 雑上 |
8-新古 | 1496 | おもひあれはつゆはたもとにまかふとも秋のはしめをたれにとはまし おもひあれは つゆはたもとに まかふかと あきのはしめを たれにとはまし | 七条院大納言 | 雑上 |
8-新古 | 1497 | 袖のうらのなみふきかへす秋風に雲のうへまてすすしからなん そてのうらの なみふきかへす あきかせに くものうへまて すすしからなむ | 中務 | 雑上 |
8-新古 | 1498 | 秋やくるつゆやまかふとおもふまてあるはなみたのふるにそ有ける あきやくる つゆやまかふと おもふまて あるはなみたの ふるにそありける | 紀有常 | 雑上 |
8-新古 | 1499 | めくりあひて見しやそれともわかぬまに雲かくれにしよはの月かけ めくりあひて みしやそれとも わかぬまに くもかくれにし よはのつきかけ | 紫式部 | 雑上 |
8-新古 | 1500 | 月かけの山の葉わけてかくれなはそむくうきよをわれやなかめん つきかけの やまのはわけて かくれなは そむくうきよを われやなかめむ | 三条院 | 雑上 |
8-新古 | 1501 | 山のはをいてかてにする月まつとねぬよのいたくふけにける哉 やまのはを いてかてにする つきまつと ねぬよのいたく ふけにけるかな | 藤原為時 | 雑上 |
8-新古 | 1502 | うき雲はたちかくせともひまもりてそらゆく月のみえもするかな うきくもは たちかくせとも ひまもりて そらゆくつきの みえもするかな | 伊勢大輔 | 雑上 |
8-新古 | 1503 | うきくもにかくれてとこそおもひしかねたくも月のひまもりにける うきくもに かくれてとこそ おもひしか ねたくもつきの ひまもりにける | 藤原正光 | 雑上 |
8-新古 | 1504 | 月をなとまたれのみすとおもひけんけに山の葉はいてうかりけり つきをなと またれのみすと おもひけむ けにやまのはは いてうかりけり | 藤原範兼 | 雑上 |
8-新古 | 1505 | おもひいつる人もあらしの山の葉にひとりそいりし在曙の月 おもひいつる ひともあらしの やまのはに ひとりそいりし ありあけのつき | 法印静賢 | 雑上 |
8-新古 | 1506 | わかのうらにいゑの風こそなけれともなみふくいろは月にみえけり わかのうらに いへのかせこそ なけれとも なみふくいろは つきにみえけり | 藤原範光 | 雑上 |
8-新古 | 1507 | よもすから浦こく舟はあともなし月そのこれるしかのからさき よもすから うらこくふねは あともなし つきそのこれる しかのからさき | 宜秋門院丹後 | 雑上 |
8-新古 | 1508 | 山のはにおもひもいらしよのなかはとてもかくてもありあけの月 やまのはに おもひもいらし よのなかは とてもかくても ありあけのつき | 藤原盛方 | 雑上 |
8-新古 | 1509 | わすれしよわするなとたにいひてまし雲井の月の心ありせは わすれしよ わするなとたに いひてまし くもゐのつきの こころありせは | 藤原俊成 | 雑上 |
8-新古 | 1510 | いかにして袖にひかりのやとるらん雲井の月はへたててし身を いかにして そてにひかりの やとるらむ くもゐのつきは へたてこしみを | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1511 | 心にはわするる時もなかりけりみよのむかしの雲のうへの月 こころには わするるときも なかりけり みよのむかしの くものうへのつき | 藤原公衡 | 雑上 |
8-新古 | 1512 | むかし見しくも井をめくる秋の月いまいくとせか袖にやとさん むかしみし くもゐをめくる あきのつき いまいくとせか そてにやとさむ | 二条院讃岐 | 雑上 |
8-新古 | 1513 | うき身よになからへはなをおもひいてよたもとにちきるありあけの月 うきみよに なからへはなほ おもひいてよ たもとにちきる ありあけのつき | 藤原経通 | 雑上 |
8-新古 | 1514 | 宮こにも人やまつらんいし山のみねにのこれる秋のよの月 みやこにも ひとやまつらむ いしやまの みねにのこれる あきのよのつき | 藤原長能 | 雑上 |
8-新古 | 1515 | あはちにてあはとはるかに見し月のちかきこよひは所からかも あはちにて あはとはるかに みしつきの ちかきこよひは こころからかも | 凡河内躬恒 | 雑上 |
8-新古 | 1516 | いたつらにねてはあかせともろともに君かこぬよの月は見さりき いたつらに ねてはあかせと もろともに きみかこぬよの つきはみさりき | 源道済 | 雑上 |
8-新古 | 1517 | あまのはらはるかにひとりなかむれはたもとに月のいてにけるかな あまのはら はるかにひとり なかむれは たもとにつきの いてにけるかな | 増基法師 | 雑上 |
8-新古 | 1518 | たのめこし人をまつちの山かせにさよふけしかは月も入にき たのめこし ひとをまつちの やまかせに さよふけしかは つきもいりにき | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1519 | 月見はといひしはかりの人はこてまきのとたたく庭の松風 つきみはと いひしはかりの ひとはこて まきのとたたく にはのまつかせ | 九条良経 | 雑上 |
8-新古 | 1520 | 山さとに月はみるやと人はこすそらゆく風そこの葉をもとふ やまさとに つきはみるやと ひとはこす そらゆくかせそ このはをもとふ | 慈円 | 雑上 |
8-新古 | 1521 | 在あけの月のゆくゑをなかめてそ野寺のかねはきくへかりける ありあけの つきのゆくへを なかめてそ のてらのかねは きくへかりける | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1522 | 山の葉をいてても松のこのまより心つくしのありあけの月 やまのはを いててもまつの このまより こころつくしの ありあけのつき | 藤原業清 | 雑上 |
8-新古 | 1523 | よもすからひとりみ山のまきの葉にくもるもすめるありあけの月 よもすから ひとりみやまの まきのはに くもるもすめる ありあけのつき | 鴨長明 | 雑上 |
8-新古 | 1524 | おく山のこの葉のおつる秋風にたえ〳〵みねの雲そのこれる おくやまの このはのおつる あきかせに たえたえみねの くもそのこれる | 藤原秀能 | 雑上 |
8-新古 | 1525 | 月すめはよものうき雲そらにきえてみ山かくれにゆくあらしかな つきすめは よものうきくも そらにきえて みやまかくれに ゆくあらしかな | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1526 | なかめわひぬしはのあみとのあけかたに山のはちかくのこる月かけ なかめわひぬ しはのあみとの あけかたに やまのはちかく のこるつきかけ | 猷円法師 | 雑上 |
8-新古 | 1527 | あかつきの月みんとしもおもはねと見し人ゆへになかめられつつ あかつきの つきみむとしも おもはねと みしひとゆゑに なかめられつつ | 華山院 | 雑上 |
8-新古 | 1528 | ありあけの月はかりこそかよひけれくる人なしのやとの庭にも ありあけの つきはかりこそ かよひけれ くるひとなしの やとのにはにも | 伊勢大輔 | 雑上 |
8-新古 | 1529 | すみなれし人かけもせぬわかやとに在曙の月のいくよともなく すみなれし ひとかけもせぬ わかやとに ありあけのつきの いくよともなく | 和泉式部 | 雑上 |
8-新古 | 1530 | すむ人もあるかなきかのやとならしあしまの月のもるにまかせて すむひとも あるかなきかの やとならし あしまのつきの もるにまかせて | 源経信 | 雑上 |
8-新古 | 1531 | おもひきやわかれし秋にめくりあひて又もこのよの月をみんとは おもひきや わかれしあきに めくりあひて またもこのよの つきをみむとは | 藤原俊成 | 雑上 |
8-新古 | 1532 | 月を見て心うかれしいにしへの秋にもさらにめくりあひぬる つきをみて こころうかれし いにしへの あきにもさらに めくりあひぬる | 西行法師 | 雑上 |
8-新古 | 1533 | よもすから月こそそてにやとりけれむかしの秋をおもひいつれは よもすから つきこそそてに やとりけれ むかしのあきを おもひいつれは | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1534 | 月のいろに心をきよくそめましや宮こをいてぬわか身なりせは つきのいろに こころをきよく そめましや みやこをいてぬ わかみなりせは | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1535 | すつとならはうきよをいとふしるしあらんわれみはくもれ秋のよの月 すつとならは うきよをいとふ しるしあらむ われみはくもる あきのよのつき | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1536 | ふけにけるわか身のかけをおもふまにはるかに月のかたふきにける ふけにける わかみのかけを おもふまに はるかにつきの かたふきにける | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1537 | なかめしてすきにしかたをおもふまに峯よりみねに月はうつりぬ なかめして すきにしかたを おもふまに みねよりみねに つきはうつりぬ | 覚性入道親王 | 雑上 |
8-新古 | 1538 | あきのよの月に心をなくさめてうきよにとしのつもりぬるかな あきのよの つきにこころを なくさめて うきよにとしの つもりぬるかな | 藤原道経 | 雑上 |
8-新古 | 1539 | 秋をへて月をなかむる身となれりいそちのやみをなになけくらん あきをへて つきをなかめむ みとなれり いそちのやみを なになけくらむ | 慈円 | 雑上 |
8-新古 | 1540 | なかめてもむそちの秋はすきにけりおもへはかなし山の葉の月 なかめても むそちのあきは すきにけり おもへはかなし やまのはのつき | 藤原隆信 | 雑上 |
8-新古 | 1541 | 心ある人のみあきの月をみはなにをうき身のおもひいてにせん こころある ひとのみあきの つきをみは なにをうきみの おもひいてにせむ | 源光行 | 雑上 |
8-新古 | 1542 | 身のうさを月やあらぬとなかむれはむかしなからのかけそもりくる みのうさを つきやあらぬと なかむれは むかしなからの かけそもりくる | 二条院讃岐 | 雑上 |
8-新古 | 1543 | ありあけの月よりほかはたれをかは山ちのともと契をくへき ありあけの つきよりほかに たれをかは やまちのともと ちきりおくへき | 寂超法師 | 雑上 |
8-新古 | 1544 | 宮こなるあれたるやとにむなしくや月にたつぬる人かへるらん みやこなる あれたるやとに むなしくや つきにたつぬる ひとかへるらむ | 大江嘉言 | 雑上 |
8-新古 | 1545 | おもひやれなにをしのふとなけれともみやこおほゆるありあけの月 おもひやれ なにをしのふと なけれとも みやこおほゆる ありあけのつき | 惟明親王 | 雑上 |
8-新古 | 1546 | ありあけのおなしなかめはきみもとへみやこのほかも秋の山さと ありあけの おなしなかめは きみもとへ みやこのほかも あきのやまさと | 式子内親王 | 雑上 |
8-新古 | 1547 | あまのとををしあけかたの雲間より神よの月のかけそのこれる あまのとを おしあけかたの くもまより かみよのつきの かけそのこれる | 九条良経 | 雑上 |
8-新古 | 1548 | 雲をのみつらきものとてあかすよの月よこすゑにをちかたの山 くもをのみ つらきものとて あかすよの つきよこすゑに をちかたのやま | 花山院忠経 | 雑上 |
8-新古 | 1549 | いりやらて夜をおしむ月のやすらひにほのほのあくる山のはそうき いりやらて よををしむつきの やすらひに ほのほのあくる やまのはそうき | 藤原保季 | 雑上 |
8-新古 | 1550 | あやしくそかへさは月のくもりにしむかしかたりによやふけにけん あやしくそ かへさはつきの くもりにし むかしかたりに よやふけにけむ | 法橋行遍 | 雑上 |
8-新古 | 1551 | ふるさとのやともる月にこととはんわれをはしるやむかしすみきと ふるさとの やともるつきに こととはむ われをはしるや むかしすみきと | 寂超法師 | 雑上 |
8-新古 | 1552 | すたきけんむかしの人はかけたえてやともるものはありあけの月 すたきけむ むかしのひとは かけたえて やともるものは ありあけのつき | 平忠盛 | 雑上 |
8-新古 | 1553 | やへむくらしけれるやとは人もなしまはらに月のかけそすみける やへむくら しけれるやとは ひともなし まはらにつきの かけそすみける | 大江匡房 | 雑上 |
8-新古 | 1554 | かもめゐるふちえのうらのおきつすによふねいさよふ月のさやけさ かもめゐる ふちえのうらの おきつすに よふねいさよふ つきのさやけさ | 源顕仲 | 雑上 |
8-新古 | 1555 | なにはかたしほひにあさるあしたつも月かたふけは声のうらむる なにはかた しほひにあさる あしたつも つきかたふけは こゑのうらむる | 俊恵法師 | 雑上 |
8-新古 | 1556 | わかのうらに月のいてしほのさすままによるなくつるの声そかなしき わかのうらに つきのてしほの さすままに よるなくつるの こゑそかなしき | 慈円 | 雑上 |
8-新古 | 1557 | もしほくむ袖の月かけをのつからよそにあかさぬすまのうら人 もしほくむ そてのつきかけ おのつから よそにあかさぬ すまのうらひと | 藤原定家 | 雑上 |
8-新古 | 1558 | あかしかた色なき人の袖を見よすすろに月もやとる物かは あかしかた いろなきひとの そてをみよ すすろにつきも やとるものかは | 藤原秀能 | 雑上 |
8-新古 | 1559 | なかめよとおもはてしもやかへるらん月まつなみのあまのつり舟 なかめよと おもはてしもや かへるらむ つきまつなみの あまのつりふね | 具親 | 雑上 |
8-新古 | 1560 | しめをきていまやとおもふ秋山のよもきかもとにまつむしのなく しめおきて いまやとおもふ あきやまの よもきかもとに まつむしのなく | 藤原俊成 | 雑上 |
8-新古 | 1561 | あれわたる秋の庭こそあはれなれましてきえなん露のゆふくれ あれわたる あきのにはこそ あはれなれ ましてきえなむ つゆのゆふくれ | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1562 | 雲かかるとを山はたの秋されはおもひやるたにかなしき物を くもかかる とほやまはたの あきされは おもひやるたに かなしきものを | 西行法師 | 雑上 |
8-新古 | 1563 | 風そよくしののをささのかりのよをおもふねさめにつゆそこほるる かせそよく しののをささの かりのよを おもふねさめに つゆそこほるる | 守覚法親王 | 雑上 |
8-新古 | 1564 | あさちふや袖にくちにし秋の霜わすれぬ夢をふく嵐かな あさちふや そてにくちにし あきのしも わすれぬゆめを ふくあらしかな | 久我通光 | 雑上 |
8-新古 | 1565 | くすの葉にうらみにかへる夢のよをわすれかたみの野への秋風 くすのはの うらみにかへる ゆめのよを わすれかたみの のへのあきかせ | 藤原俊成女 | 雑上 |
8-新古 | 1566 | しら露はをきにけらしな宮木ののもとあらのこはきすゑたわむまて しらつゆは おきにけらしな みやきのの もとあらのはきの すゑたわむまて | 祝部允仲 | 雑上 |
8-新古 | 1567 | をみなへしさかりの色をみるからにつゆのわきける身こそしらるれ をみなへし さかりのいろを みるからに つゆのわきける みこそしらるれ | 紫式部 | 雑上 |
8-新古 | 1568 | 白露はわきてもをかしをみなへし心からにや色のそむらん しらつゆは わきてもおかし をみなへし こころからにや いろのそむらむ | 藤原道長 | 雑上 |
8-新古 | 1569 | 山さとにくすはひかかる松かきのひまなく物は秋そかなしき やまさとに くすはひかかる まつかきの ひまなくものは あきそかなしき | 曽祢好忠 | 雑上 |
8-新古 | 1570 | ももとせの秋のあらしはすくしきぬいつれのくれの露ときえなん ももとせの あきのあらしは すくしきぬ いつれのくれの つゆときえなむ | 安法々師 | 雑上 |
8-新古 | 1571 | 秋はつるはつかの山のさひしきに在あけの月をたれとみるらん あきはつる はつかのやまの さひしきに ありあけのつきを たれとみるらむ | 大江匡房 | 雑上 |
8-新古 | 1572 | 花すすき秋のすゑ葉になりぬれはことそともなくつゆそこほるる はなすすき あきのすゑはに なりぬれは ことそともなく つゆそこほるる | 源行宗 | 雑上 |
8-新古 | 1573 | 夜はにふくあらしにつけておもふかな宮こもかくや秋はさひしき よはにふく あらしにつけて おもふかな みやこもかくや あきはさひしき | 徳大寺実定 | 雑上 |
8-新古 | 1574 | 世中にあきはてぬれは宮こにもいまはあらしのをとのみそする よのなかに あきはてぬれは みやこにも いまはあらしの おとのみそする | 藤原顕長 | 雑上 |
8-新古 | 1575 | うつろふは心のほかのあきなれはいまはよそにそきくのうへのつゆ うつろふは こころのほかの あきなれは いまはよそにそ きくのうへのつゆ | 冷泉院 | 雑上 |
8-新古 | 1576 | たのもしなのの宮人のうふる花しくるる月にあへすなるとも たのもしな ののみやひとの ううるはな しくるるつきに あへすなるとも | 源順 | 雑上 |
8-新古 | 1577 | 山かはのいはゆく水もこほりしてひとりくたくる峯のまつ風 やまかはの いはゆくみつも こほりして ひとりくたくる みねのまつかせ | 読人知らず | 雑上 |
8-新古 | 1578 | あさことにみきはのこほりふみわけて君につかふるみちそかしこき あさことに みきはのこほり ふみわけて きみにつかふる みちそかしこき | 源通親 | 雑上 |
8-新古 | 1579 | 君かよにあふくまかはのむもれ木もこほりのしたに春をまちけり きみかよに あふくまかはの うもれきも こほりのしたに はるをまちけり | 藤原家隆 | 雑上 |
8-新古 | 1580 | あともなく雪ふるさとはあれにけりいつれむかしのかきねなるらん あともなく ゆきふるさとは あれにけり いつれむかしの かきねなるらむ | 赤染衛門 | 雑上 |
8-新古 | 1581 | つゆのいのちきえなましかはかくはかりふる白雪をなかめましやは つゆのいのち きえなましかは かくはかり ふるしらゆきを なかめましやは | 後白河院 | 雑上 |
8-新古 | 1582 | そま山やこすゑにをもるゆきをれにたえぬなけきの身をくたくらん そまやまの こすゑにおもる ゆきをれに たえぬなけきの みをくたくらむ | 藤原俊成 | 雑上 |
8-新古 | 1583 | 時すきてしもにきえにし花なれとけふはむかしの心ちこそすれ ときすきて しもにきえにし はななれと けふはむかしの ここちこそすれ | 朱雀院 | 雑上 |
8-新古 | 1584 | ほともなくさめぬる夢の中なれとそのよににたる花の色かな ほともなく さめぬるゆめの うちなれと そのよににたる はなのいろかな | 藤原公任 | 雑上 |
8-新古 | 1585 | 見し夢をいつれのよそとおもふまにおりをわすれぬ花のかなしさ みしゆめを いつれのよそと おもふまに をりをわすれぬ はなのかなしさ | 御形宣旨 | 雑上 |
8-新古 | 1586 | おいぬとも又もあはんとゆくとしになみたのたまをたむけつるかな おいぬとも またもあはむと ゆくとしに なみたのたまを たむけつるかな | 藤原俊成 | 雑上 |
8-新古 | 1587 | おほかたにすくる月日となかめしはわか身にとしのつもるなりけり おほかたに すくるつきひを なかめしは わかみにとしの つもるなりけり | 慈覚大師 | 雑上 |
8-新古 | 1588 | 白なみのはま松かえのたむけくさいくよまてにかとしのへぬらん しらなみの はままつかえの たむけくさ いくよまてにか としのへぬらむ | 河島皇子 | 雑中 |
8-新古 | 1589 | 山しろのいは田のをののははそはら見つつや君か山ちこゆらん やましろの いはたのをのの ははそはら みつつやきみか やまちこゆらむ | 式部卿宇合 | 雑中 |
8-新古 | 1590 | あしのやのなたのしほやきいとまなみつけのをくしもささすきにけり あしのやの なたのしほやき いとまなみ つけのをくしも ささすきにけり | 在原業平 | 雑中 |
8-新古 | 1591 | はるるよのはしかかはへの蛍かもわかすむかたのあまのたくひか はるるよの ほしかかはへの ほたるかも わかすむかたに あまのたくひか | 読人知らず | 雑中 |
8-新古 | 1592 | しかのあまのしほやくけふり風をいたみたちはのほらて山にたなひく しかのあまの しほやくけふり かせをいたみ たちはのほらて やまにたなひく | 読人知らず | 雑中 |
8-新古 | 1593 | なにはめの衣ほすとてかりてたくあしひのけふりたたぬ日そなき なにはめの ころもほすとて かりてたく あしひのけふり たたぬひそなき | 紀貫之 | 雑中 |
8-新古 | 1594 | としふれはくちこそまされはしはしらむかしなからの名たにかはらて としふれは くちこそまされ はしはしら むかしなからの なたにかはらて | 忠岑 | 雑中 |
8-新古 | 1595 | 春の日のなからのはまに舟とめていつれかはしととへとこたへぬ はるのひの なからのはまに ふねとめて いつれかはしと とへとこたへぬ | 恵慶法師 | 雑中 |
8-新古 | 1596 | くちにけるなからのはしをきてみれはあしのかれ葉に秋風そ吹 くちにける なからのはしを きてみれは あしのかれはに あきかせそふく | 徳大寺実定 | 雑中 |
8-新古 | 1597 | おきつ風よはにふくらしなにはかたあか月かけてなみそよすなる おきつかせ よはにふくらし なにはかた あかつきかけて なみそよすなる | 藤原定頼 | 雑中 |
8-新古 | 1598 | すまの浦のなきたるあさはめもはるにかすみにまかふあまのつり舟 すまのうらの なきたるあさは めもはるに かすみにまかふ あまのつりふね | 藤原孝善 | 雑中 |
8-新古 | 1599 | 秋風のせきふきこゆるたひことに声うちそふるすまのうら浪 あきかせの せきふきこゆる たひことに こゑうちそふる すまのうらなみ | 壬生忠見 | 雑中 |
8-新古 | 1600 | すまの関夢をとおさぬなみのをとをおもひもよらてやとをかりける すまのせき ゆめをとほさぬ なみのおとを おもひもよらて やとをかりけり | 慈円 | 雑中 |
8-新古 | 1601 | 人すまぬふわのせきやのいたひさしあれにしのちはたた秋の風 ひとすまぬ ふはのせきやの いたひさし あれにしのちは たたあきのかせ | 九条良経 | 雑中 |
8-新古 | 1602 | あまを舟とまふきかへす浦風にひとりあかしの月をこそ見れ あまをふね とまふきかへす うらかせに ひとりあかしの つきをこそみれ | 源俊頼 | 雑中 |
8-新古 | 1603 | わかのうらを松の葉こしになかむれはこすゑによするあまのつり舟 わかのうらを まつのはこしに なかむれは こすゑによする あまのつりふね | 寂蓮法師 | 雑中 |
8-新古 | 1604 | みつのえのよしのの宮は神さひてよはひたけたる浦の松風 みつのえの よしののみやは かみさひて よはひたけたる うらのまつかせ | 藤原季能 | 雑中 |
8-新古 | 1605 | いまさらにすみうしとてもいかかせんなたのしほやのゆふくれの空 いまさらに すみうしとても いかならむ なたのしほやの ゆふくれのそら | 藤原秀能 | 雑中 |
8-新古 | 1606 | おほよとのうらにたつなみかへらすは松のかはらぬいろをみましや おほよとの うらにたつなみ かへらすは まつのかはらぬ いろをみましや | 女御徽子女王 | 雑中 |
8-新古 | 1607 | まつ人は心ゆくともすみよしのさとにとのみはおもはさらなん まつひとは こころゆくとも すみよしの さとにとのみは おもはさらなむ | 後冷泉院 | 雑中 |
8-新古 | 1608 | すみよしの松はまつともおもほえて君かちとせのかけそこひしき すみよしの まつはまつとも おもほえて きみかちとせの かけそこひしき | 大弐三位 | 雑中 |
8-新古 | 1609 | うちよする浪のこゑにてしるきかなふきあけのはまの秋のはつ風 うちよする なみのこゑにて しるきかな ふきあけのはまの あきのはつかせ | 祝部成仲 | 雑中 |
8-新古 | 1610 | おきつかせ夜さむになれやたこのうらのあまのもしほ火たきまさるらん おきつかせ よさむになれや たこのうら あまのもしほひ たきすさふらむ | 越前 | 雑中 |
8-新古 | 1611 | 見わたせはかすみのうちもかすみけりけふりたなひくしほかまのうら みわたせは かすみのうちも かすみけり けふりたなひく しほかまのうら | 藤原家隆 | 雑中 |
8-新古 | 1612 | けふとてやいそなつむらんいせしまやいちしのうらのあまのをとめこ けふとてや いそなつむらむ いせしまや いちしのうらの あまのをとめこ | 藤原俊成 | 雑中 |
8-新古 | 1613 | すすか山うきよをよそにふりすてていかになりゆくわか身なるらん すすかやま うきよをよそに ふりすてて いかになりゆく わかみなるらむ | 西行法師 | 雑中 |
8-新古 | 1614 | 世中をこころたかくもいとふかなふしのけふりを身のおもひにて よのなかを こころたかくも いとふかな ふしのけふりを みのおもひにて | 慈円 | 雑中 |
8-新古 | 1615 | 風になひくふしのけふりのそらにきえてゆくゑもしらぬわか思哉 かせになひく ふしのけふりの そらにきえて ゆくへもしらぬ わかこころかな | 西行法師 | 雑中 |
8-新古 | 1616 | 時しらぬ山はふしのねいつとてかかのこまたらに雪のふるらん ときしらぬ やまはふしのね いつとてか かのこまたらに ゆきのふるらむ | 在原業平 | 雑中 |
8-新古 | 1617 | 春秋もしらぬときはの山さとはすむ人さへやおもかはりせぬ はるあきも しらぬときはの やまさとは すむひとさへや おもかはりせぬ | 在原元方 | 雑中 |
8-新古 | 1618 | 花ならてたたしはのとをさして思こころのおくもみよしのの山 はなならて たたしはのとを さしておもふ こころのおくも みよしののやま | 慈円 | 雑中 |
8-新古 | 1619 | よしの山やかていてしとおもふ身を花ちりなはと人やまつらん よしのやま やかていてしと おもふみを はなちりなはと ひとやまつらむ | 西行法師 | 雑中 |
8-新古 | 1620 | いとひてもなをいとはしきよなりけりよしののおくの秋の夕くれ いとひても なほいとはしき よなりけり よしののおくの あきのゆふくれ | 藤原家衡 | 雑中 |
8-新古 | 1621 | ひとすちになれなはさてもすきのいほによなよなかはる風のをとかな ひとすちに なれなはさても すきのいほに よなよなかはる かせのおとかな | 堀川通具 | 雑中 |
8-新古 | 1622 | たれかはとおもひたえてもまつにのみをとつれてゆく風はうらめし たれかはと おもひたえても まつにのみ おとつれてゆく かせはうらめし | 藤原有家 | 雑中 |
8-新古 | 1623 | 山さとはよのうきよりはすみわひぬことのほかなる峯の嵐に やまさとは よのうきよりも すみわひぬ ことのほかなる みねのあらしに | 宜秋門院丹後 | 雑中 |
8-新古 | 1624 | 滝のをと松のあらしもなれぬれはうちぬるほとの夢はみせけり たきのおと まつのあらしも なれぬれは うちぬるほとの ゆめはみてまし | 藤原家隆 | 雑中 |
8-新古 | 1625 | ことしけきよをのかれにしみ山へにあらしの風も心してふけ ことしけき よをのかれにし みやまへに あらしのかせも こころしてふけ | 寂然法師 | 雑中 |
8-新古 | 1626 | おく山のこけの衣にくらへ見よいつれかつゆのをきまさるとも おくやまの こけのころもに くらへみよ いつれかつゆの おきまさるとも | 藤原師氏 | 雑中 |
8-新古 | 1627 | 白つゆのあしたゆふへにおく山のこけの衣は風もさはらす しらつゆの あしたゆふへに おくやまの こけのころもは かせもさはらす | 如覚 | 雑中 |
8-新古 | 1628 | 世中をそむきにとてはこしかともなをうきことはおほはらのさと よのなかを そむきにとては こしかとも なほうきことは おほはらのさと | 読人知らず | 雑中 |
8-新古 | 1629 | 身をはかつをしほの山とおもひつついかにさためて人のいりけん みをはかつ をしほのやまと おもひつつ いかにさためて ひとのいりけむ | 大中臣能宣 | 雑中 |
8-新古 | 1630 | こけのいほりさしてきつれと君まさてかへるみ山のみちのつゆけさ こけのいほり さしてきつれと きみまさて かへるみやまの みちのつゆけさ | 恵慶法師 | 雑中 |
8-新古 | 1631 | あれはてて風もさはらぬこけのいほにわれはなくともつゆはもりけん あれはてて かせもさはらぬ こけのいほに われはなくとも つゆはもりけむ | 読人知らず | 雑中 |
8-新古 | 1632 | 山ふかくさこそ心はかよふともすまてあはれをしらんものかは やまふかく さこそこころは かよふとも すまてあはれを しらむものかは | 西行法師 | 雑中 |
8-新古 | 1633 | やまかけにすまぬこころはいかなれやおしまれている月もあるよに やまかけに すまぬこころは いかなれや をしまれている つきもあるよに | 読人知らず | 雑中 |
8-新古 | 1634 | たちいててつま木おりこしかたをかのふかき山ちとなりにけるかな たちいてて つまきをりこし かたをかの ふかきやまちと なりにけるかな | 寂蓮法師 | 雑中 |
8-新古 | 1635 | おく山のをとろかしたもふみわけてみちあるよそと人にしらせん おくやまの おとろかしたも ふみわけて みちあるよそと ひとにしらせむ | 太上天皇 | 雑中 |
8-新古 | 1636 | なからへて猶きみかよを松山のまつとせしまにとしそへにける なからへて なほきみかよを まつやまの まつとせしまに としそへにける | 二条院讃岐 | 雑中 |
8-新古 | 1637 | いまはとてつま木こるへきやとの松ちよをは君と猶いのる哉 いまはとて つまきこるへき やとのまつ ちよをはきみと なほいのるかな | 藤原俊成 | 雑中 |
8-新古 | 1638 | われなからおもふかものをとはかりに袖にしくるる庭の松風 われなから おもふかものを とはかりに そてにしくるる にはのまつかせ | 藤原有家 | 雑中 |
8-新古 | 1639 | 世をそむくところとかきくおく山はものおもひにそいるへかりける よをそむく ところとかきく おくやまは ものおもひにそ いるへかりける | 道命法師 | 雑中 |
8-新古 | 1640 | 世をそむくかたはいつくにありぬへしおほはら山はすみよかりきや よをそむく かたはいつくに ありぬへし おほはらやまは すみよかりきや | 和泉式部 | 雑中 |
8-新古 | 1641 | おもふことおほはら山のすみかまはいととなけきのかすをこそつめ おもふこと おほはらやまの すみかまは いととなけきの かすをこそつめ | 少将井尼 | 雑中 |
8-新古 | 1642 | たれすみて哀しるらん山さとの雨ふりすさむゆふくれの空 たれすみて あはれしるらむ やまさとの あめふりすさふ ゆふくれのそら | 西行法師 | 雑中 |
8-新古 | 1643 | しほりせてなを山ふかくわけいらんうきこときかぬ所ありやと しをりせて なほやまふかく わけいらむ うきこときかぬ ところありやと | 読人知らず | 雑中 |
8-新古 | 1644 | かさしおるみわのしけ山かきわけてあはれとそおもふすきたてるかと かさしをる みわのしけやま かきわけて あはれとそおもふ すきたてるかと | 殷富門院大輔 | 雑中 |
8-新古 | 1645 | いつとなきをくらの山のかけをみてくれぬと人のいそくなる哉 いつとなく をくらのやまの かけをみて くれぬとひとの いそくなるかな | 道命法師 | 雑中 |
8-新古 | 1646 | さかの山ちよのふるみちあととめてまたつゆわくるもち月のこま さかのやま ちよのふるみち あととめて またつゆわくる もちつきのこま | 藤原定家 | 雑中 |
8-新古 | 1647 | さほかはのなかれひさしき身なれともうきせにあひてしつみぬる哉 さほかはの なかれひさしき みなれとも うきせにあひて しつみぬるかな | 藤原忠通 | 雑中 |
8-新古 | 1648 | かかるせもありけるものをうちかはのたえぬはかりもなけきけるかな かはるせも ありけるものを うちかはの たえぬはかりも なけきけるかな | 藤原兼家 | 雑中 |
8-新古 | 1649 | むかしよりたえせぬ河のすゑなれはよとむはかりをなになけくらん むかしより たえせぬかはの すゑなれは よとむはかりを なになけくらむ | 円融院 | 雑中 |
8-新古 | 1650 | もののふのやそ氏かはのあしろ木にいさよふ浪のゆくゑしらすも もののふの やそうちかはの あしろきに いさよふなみの ゆくへしらすも | 柿本人麿 | 雑中 |
8-新古 | 1651 | わかよをはけふかあすかとまつかひのなみたの瀧といつれたかけん わかよをは けふかあすかと まつかひの なみたのたきと いつれたかけむ | 在原行平 | 雑中 |
8-新古 | 1652 | みなかみのそらにみゆるは白雲のたつにまかへるぬのひきの瀧 みなかみの そらにみゆるは しらくもの たつにまかへる ぬのひきのたき | 藤原師通 | 雑中 |
8-新古 | 1653 | ひさかたのあまつをとめか夏衣くも井にさらすぬのひきのたき ひさかたの あまつをとめか なつころも くもゐにさらす ぬのひきのたき | 藤原有家 | 雑中 |
8-新古 | 1654 | むかしきくあまのかはらをたつねきてあとなきみつをなかむはかりそ むかしきく あまのかはらを たつねきて あとなきみつを なかむはかりそ | 九条良経 | 雑中 |
8-新古 | 1655 | あまのかはかよふうききにこととはんもみちのはしはちるやちらすや あまのかは かよふうききに こととはむ もみちのはしは ちるやちらすや | 藤原実方 | 雑中 |
8-新古 | 1656 | ま木のいたもこけむすはかりなりにけりいくよへぬらんせたのなかはし まきのいたも こけむすはかり なりにけり いくよへぬらむ せたのなかはし | 大江匡房 | 雑中 |
8-新古 | 1657 | さためなき名にはたてれとあすかかははやくわたりしせにこそ有けれ さためなき なにはたてれと あすかかは はやくわたりし せにこそありけれ | 中務 | 雑中 |
8-新古 | 1658 | 山さとにひとりなかめておもふかなよにすむ人の心つよさを やまさとに ひとりなかめて おもふかな よにすむひとの こころつよさを | 慈円 | 雑中 |
8-新古 | 1659 | やまさとにうきよいとはんとももかなくやしくすきし昔かたらん やまさとに うきよいとはむ とももかな くやしくすきし むかしかたらむ | 西行法師 | 雑中 |
8-新古 | 1660 | 山さとは人こさせしとおもはねととはるることそうとくなりゆく やまさとは ひとこさせしと おもはねと とはるることそ うとくなりゆく | 読人知らず | 雑中 |
8-新古 | 1661 | 草のいほをいとひても又いかかせんつゆのいのちのかかるかきりは くさのいほを いとひてもまた いかかせむ つゆのいのちの かかるかきりは | 慈円 | 雑中 |
8-新古 | 1662 | わくらはになとかは人のとはさらんをとなし河にすむ身なりとも わくらはに なとかはひとの とはさらむ おとなしかはに すむみなりとも | 行尊 | 雑中 |
8-新古 | 1663 | 世をそむく山のみなみの松風にこけのころもやよさむなるらん よをそむく やまのみなみの まつかせに こけのころもや よさむなるらむ | 安法々師 | 雑中 |
8-新古 | 1664 | いつかわれこけのたもとにつゆをきてしらぬ山ちの月をみるへき いつかわれ こけのたもとに つゆおきて しらぬやまちの つきをみるへき | 藤原家隆 | 雑中 |
8-新古 | 1665 | いまはわれ松のはしらのすきのいほにとつへき物をこけふかき袖 いまはわれ まつのはしらの すきのいほに とつへきものを こけふかきそて | 式子内親王 | 雑中 |
8-新古 | 1666 | しきみつむ山ちのつゆにぬれにけり暁おきのすみ染のそて しきみつむ やまちのつゆに ぬれにけり あかつきおきの すみそめのそて | 小侍従 | 雑中 |
8-新古 | 1667 | わすれしの人たにとはぬ山ちかな桜は雪にふりかはれとも わすれしの ひとたにとはぬ やまちかな さくらはゆきに ふりかはれとも | 九条良経 | 雑中 |
8-新古 | 1668 | かけやとすつゆのみしけくなりはてて草にやつるるふるさとの月 かけやとす つゆのみしけく なりはてて くさにやつるる ふるさとのつき | 飛鳥井雅経 | 雑中 |
8-新古 | 1669 | けふりたえてやく人もなきすみかまのあとのなけきをたれかこるらん けふりたえて やくひともなき すみかまの あとのなけきを たれかこるらむ | 賀茂重保 | 雑中 |
8-新古 | 1670 | やそちあまりにしのむかへをまちかねてすみあらしたるしはのいほりそ やそちあまり にしのむかへを まちかねて すみあらしたる しはのいほりそ | 西日法師 | 雑中 |
8-新古 | 1671 | 山さとにとひくる人のことくさはこのすまゐこそうらやましけれ やまさとに とひくるひとの ことくさは このすまひこそ うらやましけれ | 慈円 | 雑中 |
8-新古 | 1672 | おののえのくちしむかしはとをけれとありしにもあらぬよをもふる哉 をののえの くちしむかしは とほけれと ありしにあらぬ よをもふるかな | 式子内親王 | 雑中 |
8-新古 | 1673 | いかにせんしつかそのふのおくのたけかきこもるとも世中そかし いかにせむ しつかそのふの おくのたけ かきこもるとも よのなかそかし | 藤原俊成 | 雑中 |
8-新古 | 1674 | あけくれはむかしをのみそしのふくさ葉すゑのつゆに袖ぬらしつつ あけくれは むかしをのみそ しのふくさ はすゑのつゆに そてぬらしつつ | 祝部成仲 | 雑中 |
8-新古 | 1675 | をかの辺のさとのあるしをたつぬれは人はこたへす山をろしの風 をかのへの さとのあるしを たつぬれは ひとはこたへす やまおろしのかせ | 慈円 | 雑中 |
8-新古 | 1676 | ふるはたのそはのたつきにゐるはとのともよふ声のすこきゆふくれ ふるはたの そはのたつきに ゐるはとの ともよふこゑの すこきゆふくれ | 西行法師 | 雑中 |
8-新古 | 1677 | 山かつのかたをかかけてしむる野のさかひにたてる玉のを柳 やまかつの かたをかかけて しむるのの さかひにたてる たまのをやなき | 読人知らず | 雑中 |
8-新古 | 1678 | しけきのをいくひとむらにわけなしてさらにむかしをしのひかへさん しけきのを いくひとむらに わけなして さらにむかしを しのひかへさむ | 読人知らず | 雑中 |
8-新古 | 1679 | むかし見し庭のこ松にとしふりて嵐のをとをこすゑにそきく むかしみし にはのこまつに としふりて あらしのおとを こすゑにそきく | 読人知らず | 雑中 |
8-新古 | 1680 | すみなれしわかふるさとはこのころやあさちかはらにうつらなくらん すみなれし わかふるさとは このころや あさちかはらに うつらなくらむ | 行尊 | 雑中 |
8-新古 | 1681 | ふるさとはあさちかすゑになりはてて月にのこれる人のおもかけ ふるさとは あさちかすゑに なりはてて つきにのこれる ひとのおもかけ | 九条良経 | 雑中 |
8-新古 | 1682 | これや見しむかしすみけんあとならんよもきかつゆに月のかかれる これやみし むかしすみけむ あとならむ よもきかつゆに つきのかかれる | 西行法師 | 雑中 |
8-新古 | 1683 | かけにとてたちかくるれはから衣ぬれぬ雨ふる松のこゑかな かけにとて たちかくるれは からころも ぬれぬあめふる まつのこゑかな | 紀貫之 | 雑中 |
8-新古 | 1684 | いそのかみふりにし人をたつぬれはあれたるやとにすみれつみけり いそのかみ ふりにしひとを たつぬれは あれたるやとに すみれつみけり | 能因法師 | 雑中 |
8-新古 | 1685 | いにしへをおもひやりてそこひわたるあれたるやとのこけのいしはし いにしへを おもひやりてそ こひわたる あれたるやとの こけのいしはし | 恵慶法師 | 雑中 |
8-新古 | 1686 | わくらはにとはれし人もむかしにてそれより庭のあとはたえにき わくらはに とはれしひとも むかしにて それよりにはの あとはたえにき | 藤原定家 | 雑中 |
8-新古 | 1687 | なけきこる身は山なからすくせかしうきよの中になにかへるらん なけきこる みはやまなから すくせかし うきよのなかに なにかへるらむ | 赤染衛門 | 雑中 |
8-新古 | 1688 | 秋されはかり人こゆるたつた山たちてもゐてもものをしそおもふ あきされは かりひとこゆる たつたやま たちてもゐても ものをしそおもふ | 柿本人麿 | 雑中 |
8-新古 | 1689 | あさくらやきのまろとのにわかをれはなのりをしつつゆくはたかこそ あさくらや きのまろとのに わかをれは なのりをしつつ ゆくはたかこそ | 天智天皇 | 雑中 |
8-新古 | 1690 | あしひきのこなたかなたにみちはあれと宮こへいさといふ人そなき あしひきの こなたかなたに みちはあれと みやこへいさと いふひとそなき | 菅贈太政大臣 | 雑中 |
8-新古 | 1691 | あまのはらあかねさしいつるひかりにはいつれのぬまかさえのこるへき あまのはら あかねさしいつる ひかりには いつれのぬまか さえのこるへき | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1692 | つきことになかるとおもひしますかかみにしのうみにもとまらさりけり つきことに なかるとおもひし ますかかみ にしのそらにも とまらさりけり | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1693 | 山わかれとひゆく雲のかへりくるかけみる時は猶たのまれぬ やまわかれ とひゆくくもの かへりくる かけみるときは なほたのまれぬ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1694 | きりたちててる日の本はみえすとも身はまとはれしよるへありやと きりたちて てるひのもとは みえすとも みはまとはれし よるへありやと | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1695 | 花とちり玉と見えつつあさむけは雪ふるさとそ夢に見えける はなとちり たまとみえつつ あさむけは ゆきふるさとそ ゆめにみえける | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1696 | おいぬとて松はみとりそまさりけるわかくろかみの雪のさむさに おいぬとて まつはみとりそ まさりける わかくろかみの ゆきのさむさに | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1697 | つくしにも紫おふる野辺はあれとなき名かなしふ人そきこえぬ つくしにも むらさきおふる のへはあれと なきなかなしむ ひとそきこえぬ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1698 | かるかやの関もりにのみ見えつるは人もゆるさぬ道へなりけり かるかやの せきもりにのみ みえつるは ひともゆるさぬ みちへなりけり | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1699 | うみならすたたへる水の底まてにきよき心は月そてらさん うみならす たたへるみつの そこまてに きよきこころは つきそてらさむ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1700 | ひこほしのゆきあひをまつかささきのとわたるはしを我にかさなん ひこほしの ゆきあひをまつ かささきの わたせるはしを われにかさなむ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1701 | なかれ木とたつ白浪とやくしほといつれかからきわたつみのそこ なかれきと たつしらなみと やくしほと いつれかからき わたつみのそこ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1702 | ささなみのひら山風のうみふけはつりするあまの袖かへるみゆ ささなみの ひらやまかせの うみふけは つりするあまの そてかへるみゆ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1703 | 白浪のよするなきさによをつくすあまのこなれはやともさためす しらなみの よするなきさに よをつくす あまのこなれは やともさためす | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1704 | 舟のうち浪のうへにそ老にけるあまのしわさもいとまなのよや ふねのうち なみのしたにそ おいにける あまのしわさも いとまなのよや | 九条良経 | 雑下 |
8-新古 | 1705 | さすらふる身はさためたるかたもなしうきたる舟のなみにまかせて さすらふる みはさためたる かたもなし うきたるふねの なみにまかせて | 大江匡房 | 雑下 |
8-新古 | 1706 | いかにせん身をうきふねのにををもみつゐのとまりやいつこなるらん いかにせむ みをうきふねの にをおもみ つひのとまりや いつくなるらむ | 増賀上人 | 雑下 |
8-新古 | 1707 | あしかものさはくいり江の水のえのよにすみかたきわか身なりけり あしかもの さわくいりえの みつのえの よにすみかたき わかみなりけり | 柿本人麿 | 雑下 |
8-新古 | 1708 | あしかものは風になひくうき草のさためなきよをたれかたのまん あしかもの はかせになひく うきくさの さためなきよを たれかたのまむ | 大中臣能宣 | 雑下 |
8-新古 | 1709 | おいにけるなきさの松のふかみとりしつめるかけをよそにやはみる おいにける なきさのまつの ふかみとり しつめるかけを よそにやはみる | 順 | 雑下 |
8-新古 | 1710 | 葦引の山した水にかけみれはまゆしろたへにわれ老にけり あしひきの やましたみつに かけみれは まゆしろたへに われおいにけり | 能因法師 | 雑下 |
8-新古 | 1711 | なれ見てし花のたもとをうちかへしのりの衣をたちそかへつる なれみてし はなのたもとを うちかへし のりのころもを たちそかへつる | 藤原道長 | 雑下 |
8-新古 | 1712 | そのかみの玉のかつらをうちかへしいまは衣のうらをたのまん そのかみの たまのかさしを うちかへし いまはころもの うらをたのまむ | 東三条院 | 雑下 |
8-新古 | 1713 | つきもせぬひかりのまにもまきれなておいてかへれるかみのつれなさ つきもせぬ ひかりのまにも まきれなて おいてかへれる かみのつれなさ | 冷泉院太皇太后宮 | 雑下 |
8-新古 | 1714 | かはるらん衣のいろをおもひやるなみたやうらの玉にまかはん かはるらむ ころものいろを おもひやる なみたやうらの たまにまかはむ | 枇杷皇太后宮 | 雑下 |
8-新古 | 1715 | まかふらんころものたまにみたれつつなをまたさめぬ心ちこそすれ まかふらむ ころものたまに みたれつつ なほまたさめぬ ここちこそすれ | 上東門院 | 雑下 |
8-新古 | 1716 | しほのまによものうらうらたつぬれといまはわか身のいふかひもなし しほのまに よものうらうら たつぬれと いまはわかみの いふかひもなし | 和泉式部 | 雑下 |
8-新古 | 1717 | いにしへのあまやけふりとなりぬらん人めも見えぬしほかまのうら いにしへの あまやけふりと なりぬらむ ひとめもみえぬ しほかまのうら | 一条院皇后宮 | 雑下 |
8-新古 | 1718 | 宮こより雲のやへたつおく山のよかはの水はすみよかるらん みやこより くものやへたつ おくやまの よかはのみつは すみよかるらむ | 天暦 | 雑下 |
8-新古 | 1719 | ももしきのうちのみつねにこひしくて雲のやへたつ山はすみうし ももしきの うちのみつねに こひしくて くものやへたつ やまはすみうし | 如覚 | 雑下 |
8-新古 | 1720 | 夢かともなにかおもはんうきよをはそむかさりけんほとそくやしき ゆめかとも なにかおもはむ うきよをは そむかさりけむ ほとそくやしき | 惟喬親王 | 雑下 |
8-新古 | 1721 | 雲井とふ雁のねちかきすまゐにもなをたまつさはかけすやありけん くもゐとふ かりのねちかき すまひにも なほたまつさは かけすやありけむ | 女御徽子女王 | 雑下 |
8-新古 | 1722 | 白露はをきてかはれとももしきのうつろふ秋は物そかなしき しらつゆは おきてかはれと ももしきの うつろふあきは ものそかなしき | 伊勢 | 雑下 |
8-新古 | 1723 | あまつ風ふけゐのうらにゐるたつのなとか雲井にかへらさるへき あまつかせ ふけひのうらに ゐるたつの なとかくもゐに かへらさるへき | 藤原清正 | 雑下 |
8-新古 | 1724 | いにしへのなれし雲井をしのふとやかすみをわけて君たつねけん いにしへの なれしくもゐを しのふとや かすみをわけて きみたつねけむ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1725 | おほよとのうらにかりほすみるめたにかすみにたへてかへるかりかね おほよとの うらにかりほす みるめたに かすみにたえて かへるかりかね | 藤原定家 | 雑下 |
8-新古 | 1726 | はまちとりふみをくあとのつもりなはかひあるうらにあはさらめやは はまちとり ふみおくあとの つもりなは かひあるうらに あはさらめやは | 後白河院 | 雑下 |
8-新古 | 1727 | 瀧つせに人の心を見ることはむかしにいまもかはらさりけり たきつせに ひとのこころを みることは むかしにいまも かはらさりけり | 後朱雀院 | 雑下 |
8-新古 | 1728 | あさからぬ心そみゆるをとはかはせきいれし水のなかれならねと あさからぬ こころそみゆる おとはかは せきいれしみつの なかれならねと | 周防内侍 | 雑下 |
8-新古 | 1729 | ことの葉の中をなくなくたつぬれはむかしの人にあひみつる哉 ことのはの なかをなくなく たつぬれは むかしのひとに あひみつるかな | 壬生忠見 | 雑下 |
8-新古 | 1730 | ひとりねのこよひもあけぬたれとしもたのまはこそはこぬもうらみめ ひとりねの こよひもあけぬ たれとしも たのまはこそは こぬもうらみめ | 藤原為忠 | 雑下 |
8-新古 | 1731 | くさわけてたちゐるそてのうれしさにたへすなみたのつゆそこほるる くさわけて たちゐるそての うれしさに たえすなみたの つゆそこほるる | 赤染衛門 | 雑下 |
8-新古 | 1732 | うれしさはわすれやはするしのふくさしのふる物を秋の夕くれ うれしさは わすれやはする しのふくさ しのふるものを あきのゆふくれ | 伊勢大輔 | 雑下 |
8-新古 | 1733 | 秋風のをとせさりせは白露ののきのしのふにかからましやは あきかせの おとせさりせは しらつゆの のきのしのふに かからましやは | 源経信 | 雑下 |
8-新古 | 1734 | しのふくさいかなるつゆかをきつらんけさはねもみなあらはれにけり しのふくさ いかなるつゆか おきつらむ けさはねもみな あらはれにけり | 藤原済時 | 雑下 |
8-新古 | 1735 | あさちふをたつねさりせはしのふくさおもひをきけんつゆを見ましや あさちふを たつねさりせは しのふくさ おもひおきけむ つゆをみましや | 藤原朝光 | 雑下 |
8-新古 | 1736 | なからへんとしもおもはぬつゆの身のさすかにきえんことをこそおもへ なからへむ としもおもはぬ つゆのみの さすかにきえむ ことをこそおもへ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1737 | つゆの身のきえはわれこそさきたためをくれん物かもりの下草 つゆのみの きえはわれこそ さきたため おくれむものか もりのしたくさ | 小馬命婦 | 雑下 |
8-新古 | 1738 | いのちさへあらは見つへき身のはてをしのはん人のなきそかなしき いのちさへ あらはみつへき みのはてを しのはむひとの なきそかなしき | 和泉式部 | 雑下 |
8-新古 | 1739 | さためなきむかしかたりをかそふれはわか身もかすにいりぬへき哉 さためなき むかしかたりを かそふれは わかみもかすに いりぬへきかな | 行尊 | 雑下 |
8-新古 | 1740 | 世中のはれゆくそらにふる霜のうき身はかりそをき所なき よのなかの はれゆくそらに ふるしもの うきみはかりそ おきところなき | 慈円 | 雑下 |
8-新古 | 1741 | たのみこしわかふるてらのこけのしたにいつしかくちん名こそおしけれ たのみこし わかふるてらの こけのしたに いつかくちなむ なこそをしけれ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1742 | くりかへしわか身のとかをもとむれは君もなきよにめくるなりけり くりかへし わかみのとかを もとむれは きみもなきよに めくるなりけり | 行尊 | 雑下 |
8-新古 | 1743 | うしといひてよをひたふるにそむかねは物おもひしらぬ身とやなりなん うしといひて よをひたふるに そむかねは ものおもひしらぬ みとやなりなむ | 清原元輔 | 雑下 |
8-新古 | 1744 | そむけともあめのしたをしはなれねはいつくにもふる涙なりけり そむけとも あめのしたをし はなれねは いつくにもふる なみたなりけり | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1745 | おほそらにてる日のいろをいさめてもあめのしたにはたれかすむへき おほそらに てるひのいろを いさめても あめのしたには たれかすむへき | 女蔵人内匠 | 雑下 |
8-新古 | 1746 | かくしつつゆふへの雲となりもせは哀かけてもたれかしのはん かくしつつ ゆふへのくもと なりもせは あはれかけても たれかしのはむ | 周防内侍 | 雑下 |
8-新古 | 1747 | おもはねとよをそむかんといふ人のおなしかすにやわれもなるらん おもはねと よをそむかむと いふひとの おなしかすにや われもなりなむ | 慈円 | 雑下 |
8-新古 | 1748 | かすならぬ身をも心のもちかほにうかれては又かへりきにけり かすならぬ みをもこころの もちかほに うかれてはまた かへりきにけり | 西行法師 | 雑下 |
8-新古 | 1749 | をろかなる心のひくにまかせてもさてさはいかにつゐのおもひは おろかなる こころのひくに まかせても さてさはいかに つひのおもひは | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1750 | とし月をいかてわか身にをくりけん昨日の人もけふはなきよに としつきを いかてわかみに おくりけむ きのふのひとも けふはなきよに | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1751 | うけかたき人のすかたにうかひいててこりすやたれも又しつむへき うけかたき ひとのすかたに うかひいてて こりすやたれも またしつむへき | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1752 | そむきてもなをうき物はよなりけり身をはなれたる心ならねは そむきても なほうきものは よなりけり みをはなれたる こころならねは | 寂蓮法師 | 雑下 |
8-新古 | 1753 | 身のうさをおもひしらすはいかかせんいとひなからも猶すくす哉 みのうさを おもひしらすは いかかせむ いとひなからも なほすくすかな | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1754 | なにことをおもふ人そと人とははこたへぬさきに袖そぬるへき なにことを おもふひとそと ひととはは こたへぬさきに そてそぬるへき | 慈円 | 雑下 |
8-新古 | 1755 | いたつらにすきにしことやなけかれんうけかたき身の夕暮のそら いたつらに すきにしことや なけかれむ うけかたきみの ゆふくれのそら | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1756 | うちたえてよにふる身にはあらねともあらぬすちにもつみそかなしき うちたえて よにふるみには あらねとも あらぬすちにも つみそかなしき | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1757 | 山さとに契しいほやあれぬらんまたれんとたにおもはさりしを やまさとに ちきりしいほや あれぬらむ またれむとたに おもはさりしを | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1758 | 袖にをく露をはつゆとしのへともなれゆく月やいろをしるらん そてにおく つゆをはつゆと しのへとも なれゆくつきや いろをしるらむ | 堀川通具 | 雑下 |
8-新古 | 1759 | 君かよにあはすはなにを玉のをのなかくとまてはおしまれし身を きみかよに あはすはなにを たまのをの なかくとまては をしまれしみを | 藤原定家 | 雑下 |
8-新古 | 1760 | おほかたの秋のねさめのなかき夜も君をそいのる身をおもふとて おほかたの あきのねさめの なかきよも きみをそいのる みをおもふとて | 藤原家隆 | 雑下 |
8-新古 | 1761 | わかのうらやおきつしほあひにうかひいつるあはれわか身のよるへしらせよ わかのうらや おきつしほあひに うかひいつる あはれわかみの よるへしらせよ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1762 | その山とちきらぬ月も秋風もすすむる袖につゆこほれつつ そのやまと ちきらぬつきも あきかせも すすむるそてに つゆこほれつつ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1763 | 君かよにあへるはかりの道はあれと身をはたのますゆくすゑの空 きみかよに あへるはかりの みちはあれと みをはたのます ゆくすゑのそら | 飛鳥井雅経 | 雑下 |
8-新古 | 1764 | おしむともなみたに月も心からなれぬる袖に秋をうらみて をしむとも なみたにつきも こころから なれぬるそてに あきをうらみて | 藤原俊成女 | 雑下 |
8-新古 | 1765 | うきしつみこんよはさてもいかにそと心にとひてこたへかねぬる うきしつみ こむよはさても いかにそと こころにとひて こたへかねぬる | 九条良経 | 雑下 |
8-新古 | 1766 | われなから心のはてをしらぬかなすてられぬよの又いとはしき われなから こころのはてを しらぬかな すてられぬよの またいとはしき | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1767 | をしかへし物をおもふはくるしきにしらすかほにてよをやすきまし おしかへし ものをおもふは くるしきに しらすかほにて よをやすきまし | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1768 | なからへてよにすむかひはなけれともうきにかへたる命なりけり なからへて よにすむかひは なけれとも うきにかへたる いのちなりけり | 守覚法親王 | 雑下 |
8-新古 | 1769 | 世をすつる心はなをそなかりけるうきをうしとはおもひしれとも よをすつる こころはなほそ なかりける うきをうしとは おもひしれとも | 中山兼宗 | 雑下 |
8-新古 | 1770 | すてやらぬわか身そつらきさりともとおもふ心にみちをまかせて すてやらぬ わかみそつらき さりともと おもふこころに みちをまかせて | 藤原公衡 | 雑下 |
8-新古 | 1771 | うきなからあれはあるよにふるさとの夢をうつつにさましかねても うきなから あれはあるよに ふるさとの ゆめをうつつに さましかねても | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1772 | うきなから猶おしまるるいのちかな後のよとてもたのみなけれは うきなから なほをしまるる いのちかな のちのよとても たのみなけれは | 源師光 | 雑下 |
8-新古 | 1773 | さりともとたのむ心のゆくすゑもおもへはしらぬよにまかすらん さりともと たのむこころの ゆくすゑも おもへはしらぬ よにまかすらむ | 賀茂重保 | 雑下 |
8-新古 | 1774 | つくつくとおもへはやすきよの中を心となけくわか身なりけり つくつくと おもへはやすき よのなかを こころとなけく わかみなりけり | 荒木田長延 | 雑下 |
8-新古 | 1775 | 河舟ののほりわつらふつなてなわくるしくてのみよをわたる哉 かはふねの のほりわつらふ つなてなは くるしくてのみ よをわたるかな | 難波頼輔 | 雑下 |
8-新古 | 1776 | おいらくの月日はいととはやせかはかへらぬなみにぬるる袖かな おいらくの つきひはいとと はやせかは かへらぬなみに ぬるるそてかな | 大僧都覚弁 | 雑下 |
8-新古 | 1777 | かきなかすことの葉をたにしつむなよ身こそかくても山河の水 かきなかす ことのはをたに しつむなよ みこそかくても やまかはのみつ | 藤原行能 | 雑下 |
8-新古 | 1778 | 見れはまついとと涙そもろかつらいかに契てかけはなれけん みれはまつ いととなみたそ もろかつら いかにちきりて かけはなれけむ | 鴨長明 | 雑下 |
8-新古 | 1779 | おなしくはあれないにしへおもひいてのなけれはとてもしのはすもなし おなしくは あれないにしへ おもひいての なけれはとても しのはすもなし | 源季景 | 雑下 |
8-新古 | 1780 | いつくにもすまれすはたたすまてあらんしはのいほりのしはしなるよに いつくにも すまれすはたた すまてあらむ しはのいほりの しはしなるよに | 西行法師 | 雑下 |
8-新古 | 1781 | 月のゆく山に心ををくりいれてやみなるあとの身をいかにせん つきのゆく やまにこころを おくりいれて やみなるあとの みをいかにせむ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1782 | おもふことなととふ人のなかるらんあふけはそらに月そさやけき おもふことを なととふひとの なかるらむ あふけはそらに つきそさやけき | 慈円 | 雑下 |
8-新古 | 1783 | いかにしていままてよには在曙のつきせぬ物をいとふ心は いかにして いままてよには ありあけの つきせぬものを いとふこころは | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1784 | うきよいてし月日のかけのめくりきてかはらぬ道を又てらすらん うきよいてし つきひのかけの めくりきて かはらぬみちを またてらすらむ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1785 | 人しれすそなたをしのふ心をはかたふく月にたくへてそやる ひとしれす そなたをしのふ こころをは かたふくつきに たくへてそやる | 承仁法親王 | 雑下 |
8-新古 | 1786 | みちのくのいはてしのふはえそしらぬかきつくしてよつほのいしふみ みちのくの いはてしのふは えそしらぬ かきつくしてよ つほのいしふみ | 源頼朝 | 雑下 |
8-新古 | 1787 | けふまては人をなけきてくれにけりいつ身のうへにならんとすらん けふまては ひとをなけきて くれにけり いつみのうへに ならむとすらむ | 大江嘉言 | 雑下 |
8-新古 | 1788 | みちしはのつゆにあらそふわか身かないつれかまつはきえんとすらん みちしはの つゆにあらそふ わかみかな いつれかまつは きえむとすらむ | 清慎公 | 雑下 |
8-新古 | 1789 | なにとかやかへにおふなる草のなよそれにもたくふわか身なりけり なにとかや かへにおふなる くさのなよ それにもたくふ わかみなりけり | 皇嘉門院 | 雑下 |
8-新古 | 1790 | こしかたをさなから夢になしつれはさむるうつつのなきそかなしき こしかたを さなからゆめに なしつれは さむるうつつの なきそかなしき | 日野資実 | 雑下 |
8-新古 | 1791 | ちとせふる松たにくつるよの中にけふともしらてたてるわれかな ちとせふる まつたにくつる よのなかに けふともしらて たてるわれかな | 性空上人 | 雑下 |
8-新古 | 1792 | かすならてよにすみの江のみをつくしいつをまつともなき身なりけり かすならて よにすみのえの みをつくし いつをまつとも なきみなりけり | 後頼 | 雑下 |
8-新古 | 1793 | うきなからひさしくそよをすきにける哀やかけしすみよしの松 うきなから ひさしくそよを すきにける あはれやかけし すみよしのまつ | 藤原俊成 | 雑下 |
8-新古 | 1794 | かすか山たにのむもれ木くちぬとも君につけこせみねの松風 かすかやま たにのうもれき くちぬとも きみにつけこせ みねのまつかせ | 藤原家隆 | 雑下 |
8-新古 | 1795 | なにとなくきけは涙そこほれぬるこけのたもとにかよふ松風 なにとなく きけはなみたそ こほれぬる こけのたもとに かよふまつかせ | 宜秋門院丹後 | 雑下 |
8-新古 | 1796 | みな人のそむきはてぬるよの中にふるのやしろの身をいかにせん みなひとの そむきはてぬる よのなかに ふるのやしろの みをいかにせむ | 女御徽子女王 | 雑下 |
8-新古 | 1797 | 衣ての山井の水にかけみえし猶そのかみの春そこひしき ころもての やまゐのみつに かけみえし なほそのかみの はるそこひしき | 藤原実方 | 雑下 |
8-新古 | 1798 | いにしへの山井の衣なかりせはわすらるる身となりやしなまし いにしへの やまゐのころも なかりせは わすらるるみと なりやしなまし | 藤原道信 | 雑下 |
8-新古 | 1799 | たちなからきてたに見せよをみ衣あかぬむかしの忘かたみに たちなから きてたにみせよ をみころも あかぬむかしの わすれかたみに | 加賀 | 雑下 |
8-新古 | 1800 | 秋の夜のあか月かたのきりきりすひとつてならてきかまし物を あきのよの あかつきかたの きりきりす ひとつてならて きかましものを | 天暦 | 雑下 |
8-新古 | 1801 | なかめつつわかおもふことはひくらしにのきのしつくのたゆるよもなし なかめつつ わかおもふことは ひくらしに のきのしつくの たゆるまもなし | 具平親王 | 雑下 |
8-新古 | 1802 | こからしの風にもみちて人しれすうきことの葉のつもる比かな こからしの かせにもみちて ひとしれす うきことのはの つもるころかな | 小野小町 | 雑下 |
8-新古 | 1803 | 嵐ふくみねのもみちの日にそへてもろくなりゆくわか涙哉 あらしふく みねのもみちの ひにそへて もろくなりゆく わかなみたかな | 藤原俊成 | 雑下 |
8-新古 | 1804 | うたたねはおきふく風におとろけとなかき夢ちそさむる時なき うたたねは をきふくかせに おとろけと なかきゆめちそ さむるときなき | 崇徳院 | 雑下 |
8-新古 | 1805 | 竹の葉に風ふきよはるゆふくれのものの哀は秋としもなし たけのはに かせふきよわる ゆふくれの もののあはれは あきとしもなし | 宮内卿 | 雑下 |
8-新古 | 1806 | ゆふくれは雲のけしきをみるからになかめしとおもふ心こそつけ ゆふくれは くものけしきを みるからに なかめしとおもふ こころこそつけ | 和泉式部 | 雑下 |
8-新古 | 1807 | くれぬめりいくかをかくてすきぬらん入あひのかねのつくつくとして くれぬなり いくかをかくて すきぬらむ いりあひのかねの つくつくとして | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1808 | またれつる入あひのかねのをとすなりあすもやあらはきかんとすらん またれつる いりあひのかねの おとすなり あすもやあらは きかむとすらむ | 西行法師 | 雑下 |
8-新古 | 1809 | あか月とつけの枕をそはたててきくもかなしき鐘のをと哉 あかつきと つけのまくらを そはたてて きくもかなしき かねのおとかな | 藤原俊成 | 雑下 |
8-新古 | 1810 | あか月のゆふつけとりそ哀なるなかきねふりをおもふ枕に あかつきの ゆふつけとりそ あはれなる なかきねふりを おもふまくらに | 式子内親王 | 雑下 |
8-新古 | 1811 | かくはかりうきをしのひてなからへはこれよりまさる物もこそおもへ かくはかり うきをしのひて なからへは これよりまさる ものをこそおもへ | 和泉式部 | 雑下 |
8-新古 | 1812 | たらちねのいさめし物をつれつれとなかむるをたにとふ人もなし たらちねの いさめしものを つれつれと なかむるをたに とふひともなし | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1813 | あはれとてはくくみたてしいにしへはよをそむけともおもはさりけん あはれとて はくくみたてし いにしへは よをそむけとも おもはさりけむ | 行尊 | 雑下 |
8-新古 | 1814 | くらゐ山あとをたつねてのほれともこをおもふみちに猶まよひぬる くらゐやま あとをたつねて のほれとも こをおもふみちに なほまよひぬる | 源通親 | 雑下 |
8-新古 | 1815 | むかしたにむかしとおもひしたらちねのなをこひしきそはかなかりける むかしたに むかしとおもひし たらちねの なほこひしきそ はかなかりける | 藤原俊成 | 雑下 |
8-新古 | 1816 | ささかにのいとかかりける身のほとをおもへは夢の心ちこそすれ ささかにの いとかかりける みのほとを おもへはゆめの ここちこそすれ | 源俊頼 | 雑下 |
8-新古 | 1817 | ささかにのそらにすかくもおなしことまたきやとにもいくよかはへん ささかにの そらにすかくも おなしこと またきやとりも いくよかはへむ | 僧正遍昭 | 雑下 |
8-新古 | 1818 | ひかりまつえたにかかれるつゆのいのちきえはてねとやはるのつれなき ひかりまつ えたにかかれる つゆのいのち きえはてねとや はるのつれなき | 源高明 | 雑下 |
8-新古 | 1819 | あらくふく風はいかにと宮木ののこはきかうへを人のとへかし あらくふく かせはいかにと みやきのの こはきかうへを ひとのとへかし | 赤染衛門 | 雑下 |
8-新古 | 1820 | うつろはてしはししのたのもりをみよかへりもそするくすのうら風 うつろはて しはししのたの もりをみよ かへりもそする くすのうらかせ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1821 | 秋風はすこくふけともくすの葉のうらみかほには見えしとそおもふ あきかせは すこくふくとも くすのはの うらみかほには みえしとそおもふ | 和泉式部 | 雑下 |
8-新古 | 1822 | をささはら風まつ露のきえやらすこのひとふしをおもひをくかな をささはら かせまつつゆの きえやらす このひとふしを おもひおくかな | 藤原俊成 | 雑下 |
8-新古 | 1823 | 世中をいまはの心つくからにすきにしかたそいととこひしき よのなかを いまはのこころ つくからに すきにしかたそ いととこひしき | 慈円 | 雑下 |
8-新古 | 1824 | よをいとふ心のふかくなるままにすくる月日をうちかそへつつ よをいとふ こころのふかく なるままに すくるつきひを うちかそへつつ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1825 | ひとかたにおもひとりにし心にはなをそむかるる身をいかにせん ひとかたに おもひとりにし こころには なほそむかるる みをいかにせむ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1826 | なにゆへにこのよをふかくいとふそと人のとへかしやすくこたへん なにゆゑに このよをふかく いとふそと ひとのとへかし やすくこたへむ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1827 | おもふへきわか後のよはあるかなきかなけれはこそはこのよにはすめ おもふへき わかのちのよは あるかなきか なけれはこそは このよにはすめ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1828 | 世をいとふ名をたにもさはととめをきてかすならぬ身のおもひいてにせん よをいとふ なをたにもさは ととめおきて かすならぬみの おもひいてにせむ | 西行法師 | 雑下 |
8-新古 | 1829 | 身のうさをおもひしらてややみなましそむくならひのなきよなりせは みのうさを おもひしらてや やみなまし そむくならひの なきよなりせは | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1830 | いかかすへきよにあらはやはよをもすててあなうのよやとさらにおもはん いかかすへき よにあらはやは よをもすてて あなうのよやと さらにおもはむ | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1831 | なに事にとまる心のありけれはさらにしも又よのいとはしき なにことに とまるこころの ありけれは さらにしもまた よのいとはしき | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1832 | むかしよりはなれかたきはうきよかなかたみにしのふ中ならねとも むかしより はなれかたきは うきよかな かたみにしのふ なかならねとも | 藤原忠通 | 雑下 |
8-新古 | 1833 | おもひいててもしもたつぬる人もあらはありとないひそさためなきよに おもひいてて もしもたつぬる ひともあらは ありとないひそ さためなきよに | 行尊 | 雑下 |
8-新古 | 1834 | かすならぬ身をなにゆへにうらみけんとてもかくてもすくしけるよを かすならぬ みをなにゆゑに うらみけむ とてもかくても すくしけるよを | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1835 | いつかわれみ山のさとのさひしきにあるしとなりて人にとはれん いつかわれ みやまのさとの さひしきに あるしとなりて ひとにとはれむ | 慈円 | 雑下 |
8-新古 | 1836 | うき身には山田のをしねをしこめてよをひたすらにうらみわひぬる うきみには やまたのおしね おしこめて よをひたすらに うらみわひぬる | 源俊頼 | 雑下 |
8-新古 | 1837 | しつのをのあさなあさなにこりつむるしはしのほともありかたのよや しつのをの あさなあさなに こりつむる しはしのほとも ありかたのよや | 山田法師 | 雑下 |
8-新古 | 1838 | かすならぬ身はなき物になしはてつたかためにかはよをもうらみん かすならぬ みはなきものに なしはてつ たかためにかは よをもうらみむ | 寂蓮法師 | 雑下 |
8-新古 | 1839 | たのみありて今ゆくすゑをまつ人やすくる月日をなけかさるらん たのみありて いまゆくすゑを まつひとや すくるつきひを なけかさるらむ | 法橋行遍 | 雑下 |
8-新古 | 1840 | なからへていけるをいかにもとかましうき身のほとをよそにおもはは なからへて いけるをいかに もとかまし うきみのほとを よそにおもはは | 源師光 | 雑下 |
8-新古 | 1841 | うきよをはいつる日ことにいとへともいつかは月のいるかたを見ん うきよをは いつるひことに いとへとも いつかはつきの いるかたをみむ | 八条院高倉 | 雑下 |
8-新古 | 1842 | なさけありしむかしのみ猶しのはれてなからへまうき世にもふるかな なさけありし むかしのみなほ しのはれて なからへまうき よにもふるかな | 西行法師 | 雑下 |
8-新古 | 1843 | なからへは又このころやしのはれんうしと見しよそ今はこひしき なからへは またこのころや しのはれむ うしとみしよそ いまはこひしき | 藤原清輔 | 雑下 |
8-新古 | 1844 | すゑのよもこのなさけのみかはらすと見し夢なくはよそにきかまし すゑのよも このなさけのみ かはらすと みしゆめなくは よそにきかまし | 西行法師 | 雑下 |
8-新古 | 1845 | ゆくすゑはわれをもしのふ人やあらんむかしをおもふ心ならひに ゆくすゑは われをもしのふ ひとやあらむ むかしをおもふ こころならひに | 藤原俊成 | 雑下 |
8-新古 | 1846 | 世中をおもひつらねてなかむれはむなしきそらにきゆる白雲 よのなかを おもひつらねて なかむれは むなしきそらに きゆるしらくも | 藤原俊成 | 雑下 |
8-新古 | 1847 | くるるまもまつへきよかはあたしののすゑはのつゆに嵐たつ也 くるるまも まつへきよかは あたしのの すゑはのつゆに あらしたつなり | 式子内親王 | 雑下 |
8-新古 | 1848 | つのくにのなからふへくもあらぬかなみしかきあしのよにこそ有けれ つのくにの なからふへくも あらぬかな みしかきあしの よにこそありけれ | 華山院 | 雑下 |
8-新古 | 1849 | 風はやみおきの葉ことにをくつゆのをくれさきたつほとのはかなさ かせはやみ をきのはことに おくつゆの おくれさきたつ ほとのはかなさ | 具平親王 | 雑下 |
8-新古 | 1850 | 秋風になひくあさちのすゑことにをく白露のあはれ世中 あきかせに なひくあさちの すゑことに おくしらつゆの あはれよのなか | 蝉丸 | 雑下 |
8-新古 | 1851 | よの中はとてもかくてもおなしことみやもわらやもはてしなけれは よのなかは とてもかくても おなしこと みやもわらやも はてしなけれは | 読人知らず | 雑下 |
8-新古 | 1852 | しるらめやけふのねの日のひめこ松おひんすゑまてさかゆへしとは しるらめや けふのねのひの ひめこまつ おひむすゑまて さかゆへしとは | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1853 | なさけなくおる人つらしわかやとのあるしわすれぬ梅のたちえを なさけなく をるひとつらし わかやとの あるしわすれぬ うめのたちえを | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1854 | ふたらくのみなみのきしにたうたてていまそさかえんきたのふちなみ ふたらくの みなみのきしに たうたてて いまそさかえむ きたのふちなみ | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1855 | 夜やさむき衣やうすきかたそきのゆきあひのまより霜やをくらん よやさむき ころもやうすき かたそきの ゆきあひのまより しもやおくらむ | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1856 | いかはかりとしはへねともすみの江の松そふたたひおひかはりぬる いかはかり としはへねとも すみのえの まつそふたたひ おひかはりぬる | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1857 | むつましと君はしらなみみつかきのひさしきよよりいはひそめてき むつましと きみはしらなみ みつかきの ひさしきよより いはひそめてき | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1858 | 人しれすいまやいまやとちはやふる神さふるまて君をこそまて ひとしれす いまやいまやと ちはやふる かみさふるまて きみをこそまて | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1859 | みちとをしほともはるかにへたたれりおもひをこせよわれもわすれし みちとほし ほともはるかに へたたれり おもひおこせよ われもわすれし | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1860 | おもふこと身にあまるまてなる瀧のしはしよとむをなにうらむらん おもふこと みにあまるまて なるたきの しはしよとむを なにうらむらむ | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1861 | われたのむ人いたつらになしはては又雲わけてのほるはかりそ われたのむ ひといたつらに なしはては またくもわけて のほるはかりそ | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1862 | かかみにもかけみたらしの水のおもにうつるはかりの心とをしれ かかみにも かけみたらしの みつのおもに うつるはかりの こころとをしれ | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1863 | ありきつつきつつ見れともいさきよき人の心をわれわすれめや ありきつつ きつつみれとも いさきよき ひとのこころを われわすれめや | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1864 | にしのうみたつ白浪のうへにしてなにすくすらんかりのこのよを にしのうみ たつしらなみの うへにして なにすくすらむ かりのこのよを | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1865 | しらなみにたまよりひめのこしことはなきさやつゐにとまりなりけん しらなみに たまよりひめの こしことは なきさやつひの とまりなりけむ | 大江千古 | 神祇 |
8-新古 | 1866 | ひさかたのあめのやへ雲ふりわけてくたりし君をわれそむかへし ひさかたの あめのやへくも ふりわけて くたりしきみを われそむかへし | 紀淑望 | 神祇 |
8-新古 | 1867 | とひかけるあまのいはふねたつねてそあきつしまには宮はしめける とひかける あまのいはふね たつねてそ あきつしまには みやはしめける | 三統理平 | 神祇 |
8-新古 | 1868 | やまとかもうみにあらしのにしふかはいつれのうらにみ舟つなかん やまとかも うみにあらしの にしふかは いつれのうらに みふねつなかむ | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1869 | をく霜にいろもかはらぬさかき葉のかをやは人のとめてきつらん おくしもに いろもかはらぬ さかきはの かをやはひとの とめてきつらむ | 紀貫之 | 神祇 |
8-新古 | 1870 | 宮人のすれるころもにゆふたすきかけて心をたれによすらん みやひとの すれるころもに ゆふたすき かけてこころを たれによすらむ | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1871 | 神風やみもすそ河のそのかみに契しことのすゑをたかふな かみかせや みもすそかはの そのかみよ ちきりしことの すゑをたかふな | 九条良経 | 神祇 |
8-新古 | 1872 | 契ありてけふみやかはのゆふかつらなかきよまてもかけてたのまん ちきりありて けふみやかはの ゆふかつら なかきよまても かけてたのまむ | 藤原定家 | 神祇 |
8-新古 | 1873 | うれしさも哀もいかにこたへましふるさと人にとはれましかは うれしさも あはれもいかに こたへまし ふるさとひとに とはれましかは | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1874 | 神風やいすす河浪かすしらすすむへきみよに又かへりこん かみかせや いすすかはなみ かすしらす すむへきみよに またかへりこむ | 徳大寺公継 | 神祇 |
8-新古 | 1875 | なかめはや神ちの山に雲きえてゆふへのそらをいてん月かけ なかめはや かみちのやまに くもきえて ゆふへのそらを いてむつきかけ | 太上天皇 | 神祇 |
8-新古 | 1876 | 神かせやとよみてくらになひくしてかけてあふくといふもかしこし かみかせや とよみてくらに なひくして かけてあふくと いふもかしこし | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1877 | 宮はしらしたついはねにしきたててつゆもくもらぬ日のみかけ哉 みやはしら したついはねに しきたてて つゆもくもらぬ ひのみかけかな | 西行法師 | 神祇 |
8-新古 | 1878 | 神ち山月さやかなるちかひありてあめのしたをはてらすなりけり かみちやま つきさやかなる ちかひありて あめのしたをは てらすなりけり | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1879 | さやかなるわしのたかねの雲井よりかけやはらくる月よみのもり さやかなる わしのたかねの くもゐより かけやはらくる つきよみのもり | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1880 | やはらくるひかりにあまるかけなれやいすすかはらの秋のよの月 やはらくる ひかりにあまる かけなれや いすすかはらの あきのよのつき | 慈円 | 神祇 |
8-新古 | 1881 | たちかへり又も見まくのほしきかなみもすそかはのせせの白浪 たちかへり またもみまくの ほしきかな みもすそかはの せせのしらなみ | 源雅定 | 神祇 |
8-新古 | 1882 | 神風やいすすのかはの宮はしらいくちよすめとたちはしめけん かみかせや いすすのかはの みやはしら いくちよすめと たてはしめけむ | 藤原俊成 | 神祇 |
8-新古 | 1883 | 神風やたまくしの葉をとりかさしうちとの宮に君をこそいのれ かみかせや たまくしのはを とりかはし うちとのみやに きみをこそいのれ | 俊恵法師 | 神祇 |
8-新古 | 1884 | 神かせや山田のはらのさかき葉に心のしめをかけぬ日そなき かみかせや やまたのはらの さかきはに こころのしめを かけぬひそなき | 越前 | 神祇 |
8-新古 | 1885 | いすす河そらやまたきに秋の声したついはねの松の夕風 いすすかは そらやまたきに あきのこゑ したついはねの まつのゆふかせ | 大中臣明親 | 神祇 |
8-新古 | 1886 | ちはやふるかしゐの宮のあやすきは神のみそきにたてるなりけり ちはやふる かしひのみやの あやすきは かみのみそきに たてるなりけり | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1887 | さかき葉にそのいふかひはなけれとも神に心をかけぬまそなき さかきはに そのゆふかひは なけれとも かみにこころを かけぬまそなき | 法印成清 | 神祇 |
8-新古 | 1888 | としをへてうきかけをのみみたらしのかはるよもなき身をいかにせん としをへて うきかけをのみ みたらしの かはるよもなき みをいかにせむ | 周防内侍 | 神祇 |
8-新古 | 1889 | 月さゆるみたらし河にかけみえてこほりにすれる山あゐの袖 つきさゆる みたらしかはに かけみえて こほりにすれる やまあゐのそて | 藤原俊成 | 神祇 |
8-新古 | 1890 | ゆふしての風にみたるるをとさえて庭しろたへに雪そつもれる ゆふしての かせにみたるる おとさえて にはしろたへに ゆきそつもれる | 按察使公通 | 神祇 |
8-新古 | 1891 | 君をいのる心のいろを人とははたたすの宮のあけの玉かき きみをいのる こころのいろを ひととはは たたすのみやの あけのたまかき | 慈円 | 神祇 |
8-新古 | 1892 | あとたれし神にあふひのなかりせはなににたのみをかけてすきまし あとたれし かみにあふひの なかりせは なににたのみを かけてすきまし | 賀茂重保 | 神祇 |
8-新古 | 1893 | おほみ田のうるおふはかりせきかけて井せきにおとせかはかみの神 おほみたの うるほふはかり せきかけて ゐせきにおとせ かはかみのかみ | 賀茂幸平 | 神祇 |
8-新古 | 1894 | いしかはのせみのをかはのきよけれは月もなかれをたつねてそすむ いしかはや せみのをかはの きよけれは つきもなかれを たつねてそすむ | 鴨長明 | 神祇 |
8-新古 | 1895 | よろつよをいのりそかくるゆふたすきかすかの山の峯の嵐に よろつよを いのりそかくる ゆふたすき かすかのやまの みねのあらしに | 藤原資仲 | 神祇 |
8-新古 | 1896 | けふまつる神の心やなひくらんしてに浪たつさほのかは風 けふまつる かみのこころや なひくらむ してになみたつ さほのかはかせ | 藤原忠通 | 神祇 |
8-新古 | 1897 | あめのしたみかさの山のかけならてたのむかたなき身とはしらすや あめのした みかさのやまの かけならて たのむかたなき みとはしらすや | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1898 | かすか野のをとろのみちのむもれ水すゑたに神のしるしあらはせ かすかのの おとろのみちの うもれみつ すゑたにかみの しるしあらはせ | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1899 | ちよまても心してふけもみちはを神もをしほの山おろしの風 ちよまても こころしてふけ もみちはを かみもをしほの やまおろしのかせ | 藤原伊家 | 神祇 |
8-新古 | 1900 | をしほ山神のしるしを松の葉にちきりしいろはかへる物かは をしほやま かみのしるしを まつのはに ちきりしはるは かへるものかは | 慈円 | 神祇 |
8-新古 | 1901 | やはらくるかけそふもとにくもりなきもとの光はみねにすめとも やはらくる かけそふもとに くもりなき もとのひかりは みねにすめとも | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1902 | わかたのむななのやしろのゆふたすきかけてもむつの道にかへすな わかたのむ ななのやしろの ゆふたすき かけてもむつの みちにかへすな | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1903 | をしなへて日よしのかけはくもらぬになみたあやしき昨日けふかな おしなへて ひよしのかけは くもらぬに なみたあやしき きのふけふかな | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1904 | もろ人のねかひをみつのはま風に心すすしきしてのをとかな もろともの ねかひをみつの はまかせに こころすすしき してのおとかな | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1905 | さめぬれはおもひあはせてねをそなく心つくしの古の夢 さめぬれは おもひあはせて ねをそなく こころつくしの いにしへのゆめ | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1906 | さきにほふ花のけしきをみるからに神の心そそらにしらるる さきにほふ はなのけしきを みるからに かみのこころそ そらにしらるる | 白河院 | 神祇 |
8-新古 | 1907 | いはにむすこけふみならすみくまのの山のかひあるゆくすゑもかな いはにむす こけふみならす みくまのの やまのかひある ゆくすゑもかな | 太上天皇 | 神祇 |
8-新古 | 1908 | くまのかはくたすはやせのみなれさほさすかみなれぬ浪のかよひち くまのかは くたすはやせの みなれさを さすかみなれぬ なみのかよひち | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1909 | たちのほるしほやのけふりうら風になひくを神の心とも哉 たちのほる しほやのけふり うらかせに なひくをかみの こころともかな | 徳大寺左大臣 | 神祇 |
8-新古 | 1910 | いはしろの神はしるらんしるへせよたのむうきよの夢のゆくすゑ いはしろの かみはしるらむ しるへせよ たのむうきよの ゆめのゆくすゑ | 読人知らず | 神祇 |
8-新古 | 1911 | 契あれはうれしきかかるおりにあひぬわするな神もゆくすゑの空 ちきりあれは うれしきかかる をりにあひぬ わするなかみも ゆくすゑのそら | 太上天皇 | 神祇 |
8-新古 | 1912 | としふともこしの白山わすれすはかしらの雪を哀とも見よ としふとも こしのしらやま わすれすは かしらのゆきを あはれともみよ | 藤原顕輔 | 神祇 |
8-新古 | 1913 | すみよしのはま松かえに風ふけはなみのしらゆふかけぬまそなき すみよしの はままつかえに かせふけは なみのしらゆふ かけぬまそなき | 藤原道経 | 神祇 |
8-新古 | 1914 | さかき葉の霜うちはらひかれすのみすめとそいのる神のみまへに さかきはの しもうちはらひ かれすのみ すめともいのる かみのみまへに | 大中臣能宣 | 神祇 |
8-新古 | 1915 | 河やしろしのにおりはへほす衣いかにほせはかなぬかひさらん かはやしろ しのにをりはへ ほすころも いかにほせはか なぬかひさらむ | 紀貫之 | 神祇 |
8-新古 | 1916 | なをたのめしめちかはらのさせも草わかよの中にあらんかきりは なほたのめ しめちかはらの させもくさ わかよのなかに あらむかきりは | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1917 | なにかおもふなにをかなけく世中はたたあさかほの花のうへの露 なにかおもふ なにとかなけく よのなかは たたあさかほの はなのうへのつゆ | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1918 | 山ふかくとしふるわれもあるものをいつちか月のいててゆくらん やまふかく としふるわれも あるものを いつちかつきの いててゆくらむ | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1919 | あしそよくしほせの浪のいつまてかうきよの中にうかひわたらん あしそよく しほせのなみの いつまてか うきよのなかに うかひわたらむ | 行基菩薩 | 釈教 |
8-新古 | 1920 | 阿耨多羅三藐三菩提のほとけたちわかたつそまに冥加あらせたまへ あのくたら さみやさほたの ほとけたち わかたつそまに みやうかあらせたまへ | 伝教大師 | 釈教 |
8-新古 | 1921 | のりの舟さしてゆく身そもろもろの神もほとけもわれをみそなへ のりのふね さしてゆくみそ もろもろの かみもほとけも われをみそなへ | 智証大師 | 釈教 |
8-新古 | 1922 | しるへある時にたにゆけこくらくのみちにまとへる世中の人 しるへある ときにたにゆけ こくらくの みちにまとへる よのなかのひと | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1923 | 寂寞のこけのいはと(と=屋イ)のしつけきになみたの雨のふらぬ日そなき しやくまくの こけのいはとの しつけきに なみたのあめの ふらぬひそなき | 日蔵上人 | 釈教 |
8-新古 | 1924 | 南無阿弥陀ほとけのみてにかくるいとのをはりみたれぬ心ともかな なむあみた ほとけのみてに かくるいとの をはりみたれぬ こころともかな | 法円上人 | 釈教 |
8-新古 | 1925 | われたにもまつこくらくにむまなれはしるもしらぬもみなむかへてん われたにも まつこくらくに うまれなは しるもしらぬも みなむかへてむ | 僧都源信 | 釈教 |
8-新古 | 1926 | にこりなきかめ井の水をむすひあけて心のちりをすすきつる哉 にこりなき かめゐのみつを むすひあけて こころのちりを すすきつるかな | 上東門院 | 釈教 |
8-新古 | 1927 | わたつうみのそこよりきつるほともなくこの身なからに身をそきはむる わたつうみの そこよりきつる ほともなく このみなからに みをそきはむる | 藤原道長 | 釈教 |
8-新古 | 1928 | かすならぬいのちはなにかおしからんのりとくほとをしのふはかりそ かすならぬ いのちはなにか をしからむ のりとくほとを しのふはかりそ | 藤原斉信 | 釈教 |
8-新古 | 1929 | 紫の雲のはやしを見わたせはのりにあふちの花さきにけり むらさきの くものはやしを みわたせは のりにあふちの はなさきにけり | 肥後 | 釈教 |
8-新古 | 1930 | たにかはのなかれしきよくすみぬれはくまなき月のかけもうかひぬ たにかはの なかれしきよく すみぬれは くまなきつきの かけもうかひぬ | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1931 | ねかはくはしはしやみちにやすらひてかかけやせまし法のともし火 ねかはくは しはしやみちに やすらひて かかけやせまし のりのともしひ | 慈円 | 釈教 |
8-新古 | 1932 | とくみのきくのしらつゆよるはをきてつとめてきえんことをしそおもふ とくみのり きくのしらつゆ よるはおきて つとめてきえむ ことをしそおもふ | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1933 | 極楽へまたわか心ゆきつかすひつしのあゆみしはしととまれ こくらくへ またわかこころ ゆきつかす ひつしのあゆみ しはしととまれ | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1934 | わか心なをはれやらぬ秋きりにほのかに見ゆる在曙の月 わかこころ なほはれやらぬ あききりに ほのかにみゆる ありあけのつき | 権僧正公胤 | 釈教 |
8-新古 | 1935 | おく山にひとりうきよはさとりにきつねなきいろを風になかめて おくやまに ひとりうきよは さとりにき つねなきいろを かせになかめて | 九条良経 | 釈教 |
8-新古 | 1936 | いろにのみそめし心のくやしきをむなしととけるのりのうれしさ いろにのみ そめしこころの くやしきは むなしととける のりのうれしさ | 小侍従 | 釈教 |
8-新古 | 1937 | むらさきの雲ちにさそふことのねにうきよをはらふ峯の松風 むらさきの くもちにさそふ ことのねに うきよをはらふ みねのまつかせ | 寂蓮法師 | 釈教 |
8-新古 | 1938 | これやこのうきよのほかの春ならん花のとほそのあけほのの空 これやこの うきよのほかの はるならむ はなのとほその あけほののそら | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1939 | 春秋にかきらぬ花にをくつゆはをくれさきたつうらみやはある はるあきも かきらぬはなに おくつゆは おくれさきたつ うらみやはある | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1940 | たちかへりくるしきうみにをくあみもふかきえにこそ心ひくらめ たちかへり くるしきうみに おくあみも ふかきえにこそ こころひくらめ | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1941 | いつくにもわかのりならぬのりやあるとそらふく風にとへとこたへぬ いつくにも わかのりならぬ のりやあると そらふくかせに とへとこたへぬ | 慈円 | 釈教 |
8-新古 | 1942 | おもふなようきよの中をいてはててやとるおくにもやとは有けり おもふなよ うきよのなかを いてはてて やとるおくにも やとはありけり | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1943 | わしの山けふきくのりのみちならてかへらぬやとにゆく人そなき わしのやま けふきくのりの みちならて かへらぬやとに ゆくひとそなき | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1944 | をしなへてむなしきそらとおもひしにふちさきぬれは紫の雲 おしなへて むなしきそらと おもひしに ふちさきぬれは むらさきのくも | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1945 | をしなへてうき身はさこそなるみかたみちひるしほのかはるのみかは おしなへて うきみはさこそ なるみかた みちひるしほの かはるのみかは | 崇徳院 | 釈教 |
8-新古 | 1946 | あさ日さすみねのつつきはめくめともまた霜ふかしたにのかけ草 あさひさす みねのつつきは めくめとも またしもふかし たにのかけくさ | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1947 | そこきよく心の水をすまさすはいかかさとりのはちすをもみん そこきよく こころのみつを すまさすは いかかさとりの はちすをもみむ | 藤原忠通 | 釈教 |
8-新古 | 1948 | さらすとていくよもあらしいさやさはのりにかへつる命とおもはん さらすとて いくよもあらし いさやさは のりにかへつる いのちとおもはむ | 藤原経家 | 釈教 |
8-新古 | 1949 | ふかきよのまとうつ雨にをとせぬはうきよをのきのしのふなりけり ふかきよの まとうつあめに おとせぬは うきよをのきの しのふなりけり | 寂蓮法師 | 釈教 |
8-新古 | 1950 | いにしへの鹿なく野辺のいほりにも心の月はくもらさりけん いにしへの しかなくのへの いほりにも こころのつきは くもらさりけむ | 慈円 | 釈教 |
8-新古 | 1951 | みちのへのほたるはかりをしるへにてひとりそいつる夕やみの空 みちのへの ほたるはかりを しるへにて ひとりそいつる ゆふやみのそら | 寂然法師 | 釈教 |
8-新古 | 1952 | 雲はれてむなしきそらにすみなからうきよの中をめくる月哉 くもはれて むなしきそらに すみなから うきよのなかを めくるつきかな | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1953 | ふく風にはなたち花やにほふらんむかしおほゆるけふの庭哉 ふくかせに はなたちはなや にほふらむ むかしおほゆる けふのにはかな | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1954 | やみふかきこのもとことに契をきてあさたつきりのあとのつゆけさ やみふかき このもとことに ちきりおきて あさたつきりの あとのつゆけさ | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1955 | けふすきぬいのちもしかとおとろかす入あひのかねの声そかなしき けふすきぬ いのちもしかと おとろかす いりあひのかねの こゑそかなしき | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1956 | 草ふかきかりはのをのをたちいててともまとはせる鹿そなくなる くさふかき かりはのをのを たちいてて ともまとはせる しかそなくなる | 素覚法師 | 釈教 |
8-新古 | 1957 | そむかすはいつれのよにかめくりあひておもひけりとも人にしられん そむかすは いつれのよにか めくりあひて おもひけりとも ひとにしられむ | 寂然法師 | 釈教 |
8-新古 | 1958 | あひみてもみねにわかるる白雲のかかるこのよのいとはしき哉 あひみても みねにわかるる しらくもの かかるこのよの いとはしきかな | 源季広 | 釈教 |
8-新古 | 1959 | をとにきく君かりいつかいきの松まつらんものを心つくしに おとにきく きみかりいつか いきのまつ まつらむものを こころつくしに | 寂然法師 | 釈教 |
8-新古 | 1960 | わかれにしそのおもかけのこひしき夢にも見えよ山の葉の月 わかれにし そのおもかけの こひしきに ゆめにもみえよ やまのはのつき | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1961 | わたつうみのふかきにしつむいさりせてたもつかひあるのりをもとめよ わたつうみの ふかきにしつむ いさりせて たもつかひある のりをもとめよ | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1962 | うきくさのひとはなりともいそかくれおもひなかけそおきつ白浪 うきくさの ひとはなりとも いそかくれ おもひなかけそ おきつしらなみ | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1963 | さらぬたにをもきかうへにさよころもわかつまならぬつまなかさねそ さらぬたに おもきかうへの さよころも わかつまならぬ つまなかさねそ | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1964 | はなのもとつゆのなさけはほともあらしゑいなすすめそ春の山風 はなのもと つゆのなさけは ほともあらし ゑひなすすめそ はるのやまかせ | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1965 | うきをなをむかしのゆへとおもはすはいかにこのよをうらみはてまし うきもなほ むかしのゆゑと おもはすは いかにこのよを うらみはてまし | 二条院讃岐 | 釈教 |
8-新古 | 1966 | わたすへきかすもかきらぬはしはしらいかにたてけるちかひなるらん わたすへき かすもかきらぬ はしはしら いかにたてける ちかひなるらむ | 藤原俊成 | 釈教 |
8-新古 | 1967 | いまそこれいり日を見てもおもひこしみたのみくにの夕くれの空 いまそこれ いりひをみても おもひこし みたのみくにの ゆふくれのそら | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1968 | いにしへのおのへのかねににたるかなきしうつ浪の暁の声 いにしへの をのへのかねに にたるかな きしうつなみの あかつきのこゑ | 読人知らず | 釈教 |
8-新古 | 1969 | しつかなるあか月ことに見わたせはまたふかきよの夢そかなしき しつかなる あかつきことに みわたせは またふかきよの ゆめそかなしき | 式子内親王 | 釈教 |
8-新古 | 1970 | あふことをいつくにとてかちきるへきうき身のゆかんかたをしらねは あふことを いつくにてとか ちきるへき うきみのゆかむ かたをしらねは | 選子内親王 | 釈教 |
8-新古 | 1971 | 玉かけし衣のうらをかへしてそをろかなりける心をはしる たまかけし ころものうらを かへしてそ おろかなりける こころをはしる | 僧都源信 | 釈教 |
8-新古 | 1972 | 夢やゆめうつつや夢とわかぬかないかなるよにかさめんとすらん ゆめやゆめ うつつやゆめと わかぬかな いかなるよにか さめむとすらむ | 赤染衛門 | 釈教 |
8-新古 | 1973 | つねよりもけふのけふりのたよりにやにしをはるかにおもひやるらん つねよりも けふのけふりの たよりにや にしをはるかに おもひやるらむ | 相模 | 釈教 |
8-新古 | 1974 | けふはいととなみたにくれぬにしの山おもひいり日のかけをなかめて けふはいとと なみたにくれぬ にしのやま おもひいりひの かけをなかめて | 伊勢大輔 | 釈教 |
8-新古 | 1975 | にしへゆくしるへとおもふ月かけのそらたのめこそかひなかりけれ にしへゆく しるへとおもふ つきかけの そらたのめこそ かひなかりけれ | 待賢門院堀河 | 釈教 |
8-新古 | 1976 | たちいらて雲まをわけし月かけはまたぬけしきやそらにみえけん たちいらて くもまをわけし つきかけは またぬけしきや そらにみえけむ | 西行法師 | 釈教 |
8-新古 | 1977 | むかし見し月のひかりをしるへにてこよひや君かにしへゆくらん むかしみし つきのひかりを しるへにて こよひやきみか にしへゆくらむ | 瞻西上人 | 釈教 |
8-新古 | 1978 | やみはれて心のそらにすむ月はにしの山へやちかくなるらん やみはれて こころのそらに すむつきは にしのやまへや ちかくなるらむ | 西行法師 | 釈教 |
※読人(作者)についてはできる限り正確に整えておりますが、誤りもある可能性があります。ご了承ください。できる限り官位ではなく本名で掲載しています。
※作者検索をしたいときは、藤原、源といったいわゆる氏を除いた名のみで検索することをおすすめいたします。
※濁点につきましては原文通り加えておりません。時間的余裕があれば書き加えてまいります。