勅撰和歌集 八代集の一活検索データベース 作者や単語の検索と並び替え

スポンサーリンク

八代古今後撰拾遺後拾遺金葉詞花千載新古今百人一首六歌仙三十六歌仙枕詞動詞光る君へ

詞花和歌集(国立国会図書館臓)
スポンサーリンク

八代集のデータベース

八代集とは

  • 古今和歌集から始まり、新古今までの8つの勅撰和歌集をいう。
  • 歌集名 成立 下命 撰者 特徴
    古今和歌集 905年? 醍醐天皇 紀友則、紀貫之など 優美、理知的。雅。最も評価が高い。
    後撰和歌集 958年? 村上天皇 清原元輔、大中臣能宣など 贈答歌が多い。
    拾遺和歌集 1004~1012年? 花山院 藤原公任? 歌合、屏風歌。優美。
    後拾遺和歌集 1086年 白河天皇 藤原通俊 和泉式部ら女流歌人が多い。
    金葉和歌集 1127年 白河院 源俊頼 この時代の歌が多い。
    詞花和歌集 1151年? 崇徳院 藤原顕輔 多様。清らか。
    千載和歌集 1188年? 後白河院 藤原俊成 幽幻体。本歌取り。
    新古今和歌集 1205年? 後鳥羽院 藤原定家、藤原家隆など 技巧的。収めた時代は広い。

八代集 言の葉データベース

「かな」は原文と同様に濁点を付けておりませんので、例えば「郭公(ほととぎす)」を検索したいときは、「ほとときす」と入力してください。

収録数(9436件)が多いため、環境によっては処理に時間がかかります。

歌集番号読人
1-古今1年の内に 春はきにけり ひととせを 去年とや言はむ 今年とや言はむ
としのうちに はるはきにけり ひととせを こそとやいはむ ことしとやいはむ
在原元方春上
1-古今2袖ひちて むすびし水の こほれるを 春立つ今日の 風やとくらむ
そてひちて むすひしみつの こほれるを はるたつけふの かせやとくらむ
紀貫之春上
1-古今3春霞 立てるやいづこ み吉野の 吉野の山に 雪は降りつつ
はるかすみ たてるやいつこ みよしのの よしののやまに ゆきはふりつつ
読人知らず春上
1-古今4雪の内に 春はきにけり うぐひすの こほれる涙 今やとくらむ
ゆきのうちに はるはきにけり うくひすの こほれるなみた いまやとくらむ
二条后春上
1-古今5梅が枝に きゐるうぐひす 春かけて 鳴けども今だ 雪は降りつつ
うめかえに きゐるうくひす はるかけて なけともいまた ゆきはふりつつ
読人知らず春上
1-古今6春たてば 花とや見らむ 白雪の かかれる枝に うぐひすの鳴く
はるたては はなとやみらむ しらゆきの かかれるえたに うくひすそなく
素性法師春上
1-古今7心ざし 深く染めてし 折りければ 消えあへぬ雪の 花と見ゆらむ
こころさし ふかくそめてし をりけれは きえあへぬゆきの はなとみゆらむ
読人知らず春上
1-古今8春の日の 光に当たる 我なれど かしらの雪と なるぞわびしき
はるのひの ひかりにあたる われなれと かしらのゆきと なるそわひしき
文屋康秀春上
1-古今9霞立ち 木の芽もはるの 雪降れば 花なき里も 花ぞ散りける
かすみたち このめもはるの ゆきふれは はななきさとも はなそちりける
紀貫之春上
1-古今10春やとき 花やおそきと 聞きわかむ うぐひすだにも 鳴かずもあるかな
はるやとき はなやおそきと ききわかむ うくひすたにも なかすもあるかな
藤原言直春上
1-古今11春きぬと 人は言へども うぐひすの 鳴かぬかぎりは あらじとぞ思ふ
はるきぬと ひとはいへとも うくひすの なかぬかきりは あらしとそおもふ
壬生忠岑春上
1-古今12谷風に とくる氷の ひまごとに うち出づる浪や 春の初花
たにかせに とくるこほりの ひまことに うちいつるなみや はるのはつはな
源当純春上
1-古今13花の香を 風のたよりに たぐへてぞ うぐひすさそふ しるべにはやる
はなのかを かせのたよりに たくへてそ うくひすさそふ しるへにはやる
紀友則春上
1-古今14うぐひすの 谷よりいづる 声なくは 春くることを 誰か知らまし
うくひすの たによりいつる こゑなくは はるくることを たれかしらまし
大江千里春上
1-古今15春たてど 花も匂はぬ 山里は ものうかるねに うぐひすぞ鳴く
はるたてと はなもにほはぬ やまさとは ものうかるねに うくひすそなく
在原棟梁春上
1-古今16野辺近く いへゐしせれば うぐひすの 鳴くなる声は 朝な朝な聞く
のへちかく いへゐしせれは うくひすの なくなるこゑは あさなあさなきく
読人知らず春上
1-古今17春日野は 今日はな焼きそ 若草の つまもこもれり 我もこもれり
かすかのは けふはなやきそ わかくさの つまもこもれり われもこもれり
読人知らず春上
1-古今18春日野の とぶひの野守 いでて見よ 今いくかありて 若菜つみてむ
かすかのの とふひののもり いててみよ いまいくかありて わかなつみてむ
読人知らず春上
1-古今19み山には 松の雪だに 消えなくに みやこは野辺の 若菜つみけり
みやまには まつのゆきたに きえなくに みやこはのへの わかなつみけり
読人知らず春上
1-古今20梓弓 押してはるさめ 今日降りぬ 明日さへ降らば 若菜つみてむ
あつさゆみ おしてはるさめ けふふりぬ あすさへふらは わかなつみてむ
読人知らず春上
1-古今21君がため 春の野にいでて 若菜つむ 我が衣手に 雪は降りつつ
きみかため はるののにいてて わかなつむ わかころもてに ゆきはふりつつ
仁和帝春上
1-古今22春日野の 若菜つみにや 白妙の 袖ふりはへて 人のゆくらむ
かすかのの わかなつみにや しろたへの そてふりはへて ひとのゆくらむ
紀貫之春上
1-古今23春の着る 霞の衣 ぬきを薄み 山風にこそ 乱るべらなれ
はるのきる かすみのころも ぬきをうすみ やまかせにこそ みたるへらなれ
在原行平春上
1-古今24ときはなる 松の緑も 春くれば 今ひとしほの 色まさりけり
ときはなる まつのみとりも はるくれは いまひとしほの いろまさりけり
源宗于春上
1-古今25我が背子が 衣はるさめ ふるごとに 野辺の緑ぞ 色まさりける
わかせこか ころもはるさめ ふることに のへのみとりそ いろまさりける
紀貫之春上
1-古今26青柳の 糸よりかくる 春しもぞ 乱れて花の ほころびにける
あをやきの いとよりかくる はるしもそ みたれてはなの ほころひにける
紀貫之春上
1-古今27浅緑 糸よりかけて 白露を 珠にもぬける 春の柳か
あさみとり いとよりかけて しらつゆを たまにもぬける はるのやなきか
僧正遍昭春上
1-古今28ももちどり さへづる春は ものごとに あらたまれども 我ぞふりゆく
ももちとり さへつるはるは ものことに あらたまれとも われそふりゆく
読人知らず春上
1-古今29をちこちの たづきも知らぬ 山なかに おぼつかなくも 呼子鳥かな
をちこちの たつきもしらぬ やまなかに おほつかなくも よふことりかな
読人知らず春上
1-古今30春くれば 雁かへるなり 白雲の 道ゆきぶりに ことやつてまし
はるくれは かりかへるなり しらくもの みちゆきふりに ことやつてまし
凡河内躬恒春上
1-古今31春霞 立つを見捨てて ゆく雁は 花なき里に 住みやならへる
はるかすみ たつをみすてて ゆくかりは はななきさとに すみやならへる
伊勢春上
1-古今32折りつれば 袖こそ匂へ 梅の花 ありとやここに うぐひすの鳴く
をりつれは そてこそにほへ うめのはな ありとやここに うくひすのなく
読人知らず春上
1-古今33色よりも 香こそあはれと 思ほゆれ たが袖ふれし 宿の梅ぞも
いろよりも かこそあはれと おもほゆれ たかそてふれし やとのうめそも
読人知らず春上
1-古今34宿近く 梅の花植ゑじ あぢきなく 待つ人の香に あやまたれけり
やとちかく うめのはなうゑし あちきなく まつひとのかに あやまたれけり
読人知らず春上
1-古今35梅の花 立ち寄るばかり ありしより 人のとがむる 香にぞしみぬる
うめのはな たちよるはかり ありしより ひとのとかむる かにそしみぬる
読人知らず春上
1-古今36うぐひすの 笠にぬふてふ 梅の花 折りてかざさむ 老いかくるやと
うくひすの かさにぬふといふ うめのはな をりてかささむ おいかくるやと
東三条左大臣春上
1-古今37よそにのみ あはれとぞ見し 梅の花 あかぬ色かは 折りてなりけり
よそにのみ あはれとそみし うめのはな あかぬいろかは をりてなりけり
素性法師春上
1-古今38君ならで 誰にか見せむ 梅の花 色をも香かをも 知る人ぞ知る
きみならて たれにかみせむ うめのはな いろをもかをも しるひとそしる
紀友則春上
1-古今39梅の花 匂ふ春べは くらぶ山 闇に越ゆれど しるくぞありける
うめのはな にほふはるへは くらふやま やみにこゆれと しるくそありける
紀貫之春上
1-古今40月夜には それとも見えず 梅の花 香をたづねてぞ 知るべかりける
つきよには それともみえす うめのはな かをたつねてそ しるへかりける
凡河内躬恒春上
1-古今41春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそ見えね 香やは隠るる
はるのよの やみはあやなし うめのはな いろこそみえね かやはかくるる
凡河内躬恒春上
1-古今42人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香に匂ひける
ひとはいさ こころもしらす ふるさとは はなそむかしの かににほひける
紀貫之春上
1-古今43春ごとに 流るる川を 花と見て 折られぬ水に 袖や濡れなむ
はることに なかるるかはを はなとみて をられぬみつに そてやぬれなむ
伊勢春上
1-古今44年をへて 花の鏡と なる水は 散りかかるをや 曇ると言ふらむ
としをへて はなのかかみと なるみつは ちりかかるをや くもるといふらむ
伊勢春上
1-古今45くるとあくと 目かれぬものを 梅の花 いつの人まに うつろひぬらむ
くるとあくと めかれぬものを うめのはな いつのひとまに うつろひぬらむ
紀貫之春上
1-古今46梅が香を 袖にうつして とどめては 春はすぐとも 形見ならまし
うめかかを そてにうつして ととめては はるはすくとも かたみならまし
読人知らず春上
1-古今47散ると見て あるべきものを 梅の花 うたて匂ひの 袖にとまれる
ちるとみて あるへきものを うめのはな うたてにほひの そてにとまれる
素性法師春上
1-古今48散りぬとも 香をだに残せ 梅の花 恋しき時の 思ひ出にせむ
ちりぬとも かをたにのこせ うめのはな こひしきときの おもひいてにせむ
読人知らず春上
1-古今49今年より 春知りそむる 桜花 散ると言ふことは ならはざらなむ
ことしより はるしりそむる さくらはな ちるといふことは ならはさらなむ
紀貫之春上
1-古今50山高み 人もすさめぬ 桜花 いたくなわびそ 我見はやさむ
やまたかみ ひともすさへぬ さくらはな いたくなわひそ われみはやさむ
読人知らず春上
1-古今51山桜 我が見にくれば 春霞 峰にもをにも 立ち隠しつつ
やまさくら わかみにくれは はるかすみ みねにもをにも たちかくしつつ
読人知らず春上
1-古今52年ふれば よはひは老いぬ しかはあれど 花をし見れば 物思ひもなし
としふれは よはひはおいぬ しかはあれと はなをしみれは ものおもひもなし
前太政大臣春上
1-古今53世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし
よのなかに たえてさくらの なかりせは はるのこころは のとけからまし
在原業平春上
1-古今54石ばしる 滝なくもがな 桜花 手折りてもこむ 見ぬ人のため
いしはしる たきなくもかな さくらはな たをりてもこむ みぬひとのため
読人知らず春上
1-古今55見てのみや 人にかたらむ 桜花 手ごとに折りて いへづとにせむ
みてのみや ひとにかたらむ さくらはな てことにをりて いへつとにせむ
素性法師春上
1-古今56見渡せば 柳桜を こきまぜて みやこぞ春の 錦なりける
みわたせは やなきさくらを こきませて みやこそはるの にしきなりける
素性法師春上
1-古今57色も香も 同じ昔に さくらめど 年ふる人ぞ あらたまりける
いろもかも おなしむかしに さくらめと としふるひとそ あらたまりける
紀友則春上
1-古今58誰しかも とめて折りつる 春霞 立ち隠すらむ 山の桜を
たれしかも とめてをりつる はるかすみ たちかくすらむ やまのさくらを
紀貫之春上
1-古今59桜花 さきにけらしな あしひきの 山のかひより 見ゆる白雲
さくらはな さきにけらしな あしひきの やまのかひより みゆるしらくも
紀貫之春上
1-古今60み吉野の 山辺にさける 桜花 雪かとのみぞ あやまたれける
みよしのの やまへにさける さくらはな ゆきかとのみそ あやまたれける
紀友則春上
1-古今61桜花 春くははれる 年だにも 人の心に あかれやはせぬ
さくらはな はるくははれる としたにも ひとのこころに あかれやはせぬ
伊勢春上
1-古今62あだなりと 名にこそたてれ 桜花 年にまれなる 人も待ちけり
あたなりと なにこそたてれ さくらはな としにまれなる ひともまちけり
読人知らず春上
1-古今63今日こずは 明日は雪とぞ 降りなまし 消えずはありとも 花と見ましや
けふこすは あすはゆきとそ ふりなまし きえすはありとも はなとみましや
在原業平春上
1-古今64散りぬれば 恋ふれどしるし なきものを 今日こそ桜 折らば折りてめ
ちりぬれは こふれとしるし なきものを けふこそさくら をらはをりてめ
読人知らず春上
1-古今65折りとらば 惜しげにもあるか 桜花 いざ宿かりて 散るまでは見む
をりとらは をしけにもあるか さくらはな いさやとかりて ちるまてはみむ
読人知らず春上
1-古今66桜色に 衣は深く 染めて着む 花の散りなむ のちの形見に
さくらいろに ころもはふかく そめてきむ はなのちりなむ のちのかたみに
紀有朋春上
1-古今67我が宿の 花見がてらに くる人は 散りなむのちぞ 恋しかるべき
わかやとの はなみかてらに くるひとは ちりなむのちそ こひしかるへき
凡河内躬恒春上
1-古今68見る人も なき山里の 桜花 ほかの散りなむ のちぞ咲かまし
みるひとも なきやまさとの さくらはな ほかのちりなむ のちそさかまし
伊勢春上
1-古今69春霞 たなびく山の 桜花 うつろはむとや 色かはりゆく
はるかすみ たなひくやまの さくらはな うつろはむとや いろかはりゆく
読人知らず春下
1-古今70待てと言ふに 散らでしとまる ものならば 何を桜に 思ひまさまし
まてといふに ちらてしとまる ものならは なにをさくらに おもひまさまし
読人知らず春下
1-古今71残りなく 散るぞめでたき 桜花 ありて世の中 はての憂ければ
のこりなく ちるそめてたき さくらはな ありてよのなか はてのうけれは
読人知らず春下
1-古今72この里に 旅寝しぬべし 桜花 散りのまがひに 家路忘れて
このさとに たひねしぬへし さくらはな ちりのまかひに いへちわすれて
読人知らず春下
1-古今73空蝉の 世にも似たるか 花桜 咲くと見しまに かつ散りにけり
うつせみの よにもにたるか はなさくら さくとみしまに かつちりにけり
読人知らず春下
1-古今74桜花 散らば散らなむ 散らずとて ふるさと人の きても見なくに
さくらはな ちらはちらなむ ちらすとて ふるさとひとの きてもみなくに
惟喬親王春下
1-古今75桜散る 花のところは 春ながら 雪ぞ降りつつ 消えがてにする
さくらちる はなのところは はるなから ゆきそふりつつ きえかてにする
承均法師春下
1-古今76花散らす 風の宿りは 誰か知る 我に教へよ 行きてうらみむ
はなちらす かせのやとりは たれかしる われにをしへよ ゆきてうらみむ
素性法師春下
1-古今77いざ桜 我も散りなむ ひとさかり ありなば人に うきめ見えなむ
いささくら われもちりなむ ひとさかり ありなはひとに うきめみえなむ
承均法師春下
1-古今78ひと目見し 君もや来ると 桜花 今日は待ちみて 散らば散らなむ
ひとめみし きみもやくると さくらはな けふはまちみて ちらはちらなむ
紀貫之春下
1-古今79春霞 何隠すらむ 桜花 散る間をだにも 見るべきものを
はるかすみ なにかくすらむ さくらはな ちるまをたにも みるへきものを
紀貫之春下
1-古今80たれこめて 春のゆくへも 知らぬ間に 待ちし桜も うつろひにけり
たれこめて はるのゆくへも しらぬまに まちしさくらも うつろひにけり
藤原因香春下
1-古今81枝よりも あだに散りにし 花なれば 落ちても水の 泡とこそなれ
えたよりも あたにちりにし はななれは おちてもみつの あわとこそなれ
菅野高世春下
1-古今82ことならば 咲かずやはあらぬ 桜花 見る我さへに しづ心なし
ことならは さかすやはあらぬ さくらはな みるわれさへに しつこころなし
紀貫之春下
1-古今83桜花 とく散りぬとも 思ほえず 人の心ぞ 風も吹きあへぬ
さくらはな とくちりぬとも おもほえす ひとのこころそ かせもふきあへぬ
紀貫之春下
1-古今84久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ
ひさかたの ひかりのとけき はるのひに しつこころなく はなのちるらむ
紀友則春下
1-古今85春風は 花のあたりを よぎて吹け 心づからや うつろふと見む
はるかせは はなのあたりを よきてふけ こころつからや うつろふとみむ
藤原好風春下
1-古今86雪とのみ 降るだにあるを 桜花 いかに散れとか 風の吹くらむ
ゆきとのみ ふるたにあるを さくらはな いかにちれとか かせのふくらむ
凡河内躬恒春下
1-古今87山高み 見つつ我がこし 桜花 風は心に まかすべらなり
やまたかみ みつつわかこし さくらはな かせはこころに まかすへらなり
紀貫之春下
1-古今88春雨の 降るは涙か 桜花 散るを惜しまぬ 人しなければ
はるさめの ふるはなみたか さくらはな ちるををしまぬ ひとしなけれは
大友黒主春下
1-古今89桜花 散りぬる風の なごりには 水なき空に 浪ぞたちける
さくらはな ちりぬるかせの なこりには みつなきそらに なみそたちける
紀貫之春下
1-古今90ふるさとと なりにし奈良の みやこにも 色はかはらず 花は咲きけり
ふるさとと なりにしならの みやこにも いろはかはらす はなはさきけり
奈良帝春下
1-古今91花の色は 霞にこめて 見せずとも 香をだにぬすめ 春の山風
はなのいろは かすみにこめて みせすとも かをたにぬすめ はるのやまかせ
良岑宗貞春下
1-古今92花の木も 今はほり植ゑじ 春たてば うつろふ色に 人ならひけり
はなのきも いまはほりうゑし はるたては うつろふいろに ひとならひけり
素性法師春下
1-古今93春の色の いたりいたらぬ 里はあらじ 咲ける咲かざる 花の見ゆらむ
はるのいろの いたりいたらぬ さとはあらし さけるさかさる はなのみゆらむ
読人知らず春下
1-古今94三輪山を しかも隠すか 春霞 人に知られぬ 花や咲くらむ
みわやまを しかもかくすか はるかすみ ひとにしられぬ はなやさくらむ
紀貫之春下
1-古今95いざ今日は 春の山辺に まじりなむ 暮れなばなげの 花のかげかは
いさけふは はるのやまへに ましりなむ くれなはなけの はなのかけかは
素性法師春下
1-古今96いつまでか 野辺に心の あくがれむ 花し散らずは 千代もへぬべし
いつまてか のへにこころの あくかれむ はなしちらすは ちよもへぬへし
素性法師春下
1-古今97春ごとに 花のさかりは ありなめど あひ見むことは 命なりけり
はることに はなのさかりは ありなめと あひみむことは いのちなりけり
読人知らず春下
1-古今98花のごと 世のつねならば すぐしてし 昔はまたも かへりきなまし
はなのこと よのつねならは すくしてし むかしはまたも かへりきなまし
読人知らず春下
1-古今99吹く風に あつらへつくる ものならば このひともとは よぎよと言はまし
ふくかせに あつらへつくる ものならは このひともとは よきよといはまし
読人知らず春下
1-古今100待つ人も 来ぬものゆゑに うぐひすの 鳴きつる花を 折りてけるかな
まつひとも こぬものゆゑに うくひすの なきつるはなを をりてけるかな
読人知らず春下
1-古今101咲く花は ちぐさながらに あだなれど 誰かは春を うらみはてたる
さくはなは ちくさなからに あたなれと たれかははるを うらみはてたる
藤原興風春下
1-古今102春霞 色のちぐさに 見えつるは たなびく山の 花のかげかも
はるかすみ いろのちくさに みえつるは たなひくやまの はなのかけかも
藤原興風春下
1-古今103霞立つ 春の山辺は 遠けれど 吹きくる風は 花の香ぞする
かすみたつ はるのやまへは とほけれと ふきくるかせは はなのかそする
在原元方春下
1-古今104花見れば 心さへにぞ うつりける 色にはいでじ 人もこそ知れ
はなみれは こころさへにそ うつりける いろにはいてし ひともこそしれ
凡河内躬恒春下
1-古今105うぐひすの 鳴く野辺ごとに 来て見れば うつろふ花に 風ぞ吹きける
うくひすの なくのへことに きてみれは うつろふはなに かせそふきける
読人知らず春下
1-古今106吹く風を 鳴きてうらみよ うぐひすは 我やは花に 手だにふれたる
ふくかせを なきてうらみよ うくひすは われやははなに てたにふれたる
読人知らず春下
1-古今107散る花の なくにしとまる ものならば 我うぐひすに おとらましやは
ちるはなの なくにしとまる ものならは われうくひすに おとらましやは
春澄洽子春下
1-古今108花の散る ことやわびしき 春霞 たつたの山の うぐひすの声
はなのちる ことやわひしき はるかすみ たつたのやまの うくひすのこゑ
藤原後蔭春下
1-古今109こづたへば おのが羽かぜに 散る花を 誰におほせて ここら鳴くらむ
こつたへは おのかはかせに ちるはなを たれにおほせて ここらなくらむ
素性法師春下
1-古今110しるしなき 音をも鳴くかな うぐひすの 今年のみ散る 花ならなくに
しるしなき ねをもなくかな うくひすの ことしのみちる はなならなくに
凡河内躬恒春下
1-古今111駒なめて いざ見にゆかむ ふるさとは 雪とのみこそ 花は散るらめ
こまなへて いさみにゆかむ ふるさとは ゆきとのみこそ はなはちるらめ
読人知らず春下
1-古今112散る花を 何かうらみむ 世の中に 我が身も共に あらむものかは
ちるはなを なにかうらみむ よのなかに わかみもともに あらむものかは
読人知らず春下
1-古今113花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに
はなのいろは うつりにけりな いたつらに わかみよにふる なかめせしまに
小野小町春下
1-古今114惜しと思ふ 心は糸に よられなむ 散る花ごとに ぬきてとどめむ
をしとおもふ こころはいとに よられなむ ちるはなことに ぬきてととめむ
素性法師春下
1-古今115梓弓 はるの山辺を 越えくれば 道もさりあへず 花ぞ散りける
あつさゆみ はるのやまへを こえくれは みちもさりあへす はなそちりける
紀貫之春下
1-古今116春の野に 若菜つまむと こしものを 散りかふ花に 道は惑ひぬ
はるののに わかなつまむと こしものを ちりかふはなに みちはまとひぬ
紀貫之春下
1-古今117宿りして 春の山辺に 寝たる夜は 夢の内にも 花ぞ散りける
やとりして はるのやまへに ねたるよは ゆめのうちにも はなそちりける
紀貫之春下
1-古今118吹く風と 谷の水とし なかりせば み山隠れの 花を見ましや
ふくかせと たにのみつとし なかりせは みやまかくれの はなをみましや
紀貫之春下
1-古今119よそに見て かへらむ人に 藤の花 はひまつはれよ 枝は折るとも
よそにみて かへらむひとに ふちのはな はひまつはれよ えたはをるとも
僧正遍昭春下
1-古今120我が宿に 咲ける藤波 立ち返り すぎがてにのみ 人の見るらむ
わかやとに さけるふちなみ たちかへり すきかてにのみ ひとのみるらむ
凡河内躬恒春下
1-古今121今もかも 咲き匂ふらむ 橘の こじまのさきの 山吹の花
いまもかも さきにほふらむ たちはなの こしまのさきの やまふきのはな
読人知らず春下
1-古今122春雨に 匂へる色も あかなくに 香さへなつかし 山吹の花
はるさめに にほへるいろも あかなくに かさへなつかし やまふきのはな
読人知らず春下
1-古今123山吹は あやなな咲きそ 花見むと 植ゑけむ君が 今宵来なくに
やまふきは あやななさきそ はなみむと うゑけむきみか こよひこなくに
読人知らず春下
1-古今124吉野川 岸の山吹 吹く風に 底の影さへ うつろひにけり
よしのかは きしのやまふき ふくかせに そこのかけさへ うつろひにけり
紀貫之春下
1-古今125かはづなく ゐでの山吹 散りにけり 花のさかりに あはましものを
かはつなく ゐてのやまふき ちりにけり はなのさかりに あはましものを
読人知らず春下
1-古今126おもふどち 春の山辺に うちむれて そことも言はぬ 旅寝してしか
おもふとち はるのやまへに うちむれて そこともいはぬ たひねしてしか
素性法師春下
1-古今127梓弓 春たちしより 年月の いるがごとくも 思ほゆるかな
あつさゆみ はるたちしより としつきの いるかことくも おもほゆるかな
凡河内躬恒春下
1-古今128鳴きとむる 花しなければ うぐひすも はてはものうく なりぬべらなり
なきとむる はなしなけれは うくひすも はてはものうく なりぬへらなり
紀貫之春下
1-古今129花散れる 水のまにまに とめくれば 山には春も なくなりにけり
はなちれる みつのまにまに とめくれは やまにははるも なくなりにけり
清原深養父春下
1-古今130惜しめども とどまらなくに 春霞 かへる道にし たちぬと思へば
をしめとも ととまらなくに はるかすみ かへるみちにし たちぬとおもへは
在原元方春下
1-古今131声絶えず 鳴けやうぐひす ひととせに ふたたびとだに 来べき春かは
こゑたえす なけやうくひす ひととせに ふたたひとたに くへきはるかは
藤原興風春下
1-古今132とどむべき ものとはなしに はかなくも 散る花ごとに たぐふ心か
ととむへき ものとはなしに はかなくも ちるはなことに たくふこころか
凡河内躬恒春下
1-古今133濡れつつぞ しひて折りつる 年の内に 春はいくかも あらじと思へば
ぬれつつそ しひてをりつる としのうちに はるはいくかも あらしとおもへは
在原業平春下
1-古今134今日のみと 春を思はぬ 時だにも 立つことやすき 花のかげかは
けふのみと はるをおもはぬ ときたにも たつことやすき はなのかけかは
凡河内躬恒春下
1-古今135我が宿の 池の藤波 咲きにけり 山郭公 いつか来鳴かむ
わかやとの いけのふちなみ さきにけり やまほとときす いつかきなかむ
読人知らず春下
1-古今136あはれてふ ことをあまたに やらじとや 春におくれて ひとり咲くらむ
あはれてふ ことをあまたに やらしとや はるにおくれて ひとりさくらむ
紀利貞
1-古今137五月待つ 山郭公 うちはぶき 今も鳴かなむ 去年のふる声
さつきまつ やまほとときす うちはふき いまもなかなむ こそのふるこゑ
読人知らず
1-古今138五月こば 鳴きもふりなむ 郭公 まだしきほどの 声を聞かばや
さつきこは なきもふりなむ ほとときす またしきほとの こゑをきかはや
伊勢
1-古今139五月待つ 花橘の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする
さつきまつ はなたちはなの かをかけは むかしのひとの そてのかそする
読人知らず
1-古今140いつの間に 五月来ぬらむ あしひきの 山郭公 今ぞ鳴くなる
いつのまに さつききぬらむ あしひきの やまほとときす いまそなくなる
読人知らず
1-古今141今朝き鳴き いまだ旅なる 郭公 花橘に 宿はからなむ
けさきなき いまたたひなる ほとときす はなたちはなに やとはからなむ
読人知らず
1-古今142音羽山 今朝越えくれば 郭公 梢はるかに 今ぞ鳴くなる
おとはやま けさこえくれは ほとときす こすゑはるかに いまそなくなる
紀友則
1-古今143郭公 初声聞けば あぢきなく 主さだまらぬ 恋せらるはた
ほとときす はつこゑきけは あちきなく ぬしさたまらぬ こひせらるはた
素性法師
1-古今144いそのかみ ふるきみやこの 郭公 声ばかりこそ 昔なりけれ
いそのかみ ふるきみやこの ほとときす こゑはかりこそ むかしなりけれ
素性法師
1-古今145夏山に 鳴く郭公 心あらば 物思ふ我に 声な聞かせそ
なつやまに なくほとときす こころあらは ものおもふわれに こゑなきかせそ
読人知らず
1-古今146郭公 鳴く声聞けば 別れにし ふるさとさへぞ 恋しかりける
ほとときす なくこゑきけは わかれにし ふるさとさへそ こひしかりける
読人知らず
1-古今147郭公 なが鳴く里の あまたあれば なほうとまれぬ 思ふものから
ほとときす なかなくさとの あまたあれは なほうとまれぬ おもふものから
読人知らず
1-古今148思ひいづる ときはの山の 郭公 唐紅の ふりいでてぞ鳴く
おもひいつる ときはのやまの ほとときす からくれなゐの ふりいててそなく
読人知らず
1-古今149声はして 涙は見えぬ 郭公 我が衣手の ひつをからなむ
こゑはして なみたはみえぬ ほとときす わかころもての ひつをからなむ
読人知らず
1-古今150あしひきの 山郭公 をりはへて 誰かまさると 音をのみぞ鳴く
あしひきの やまほとときす をりはへて たれかまさると ねをのみそなく
読人知らず
1-古今151今さらに 山へかへるな 郭公 声のかぎりは 我が宿に鳴け
いまさらに やまへかへるな ほとときす こゑのかきりは わかやとになけ
読人知らず
1-古今152やよやまて 山郭公 ことづてむ 我れ世の中に 住みわびぬとよ
やよやまて やまほとときす ことつてむ われよのなかに すみわひぬとよ
三国町
1-古今153五月雨に 物思ひをれば 郭公 夜深く鳴きて いづち行くらむ
さみたれに ものおもひをれは ほとときす よふかくなきて いつちゆくらむ
紀友則
1-古今154夜や暗き 道や惑へる 郭公 我が宿をしも すぎがてに鳴く
よやくらき みちやまとへる ほとときす わかやとをしも すきかてになく
紀友則
1-古今155宿りせし 花橘も 枯れなくに など郭公 声絶えぬらむ
やとりせし はなたちはなも かれなくに なとほとときす こゑたえぬらむ
大江千里
1-古今156夏の夜の ふすかとすれば 郭公 鳴くひと声に 明くるしののめ
なつのよの ふすかとすれは ほとときす なくひとこゑに あくるしののめ
紀貫之
1-古今157くるるかと 見れば明けぬる 夏の夜を あかずとや鳴く 山郭公
くるるかと みれはあけぬる なつのよを あかすとやなく やまほとときす
壬生忠岑
1-古今158夏山に 恋しき人や 入りにけむ 声ふりたてて 鳴く郭公
なつやまに こひしきひとや いりにけむ こゑふりたてて なくほとときす
紀秋岑
1-古今159去年の夏 鳴きふるしてし 郭公 それかあらぬか 声のかはらぬ
こそのなつ なきふるしてし ほとときす それかあらぬか こゑのかはらぬ
読人知らず
1-古今160五月雨の 空もとどろに 郭公 何を憂しとか 夜ただ鳴くらむ
さみたれの そらもととろに ほとときす なにをうしとか よたたなくらむ
紀貫之
1-古今161郭公 声も聞こえず 山彦は ほかになく音を 答へやはせぬ
ほとときす こゑもきこえす やまひこは ほかになくねを こたへやはせぬ
凡河内躬恒
1-古今162郭公 人まつ山に 鳴くなれば 我うちつけに 恋ひまさりけり
ほとときす ひとまつやまに なくなれは われうちつけに こひまさりけり
紀貫之
1-古今163昔べや 今も恋しき 郭公 ふるさとにしも 鳴きてきつらむ
むかしへや いまもこひしき ほとときす ふるさとにしも なきてきつらむ
壬生忠岑
1-古今164郭公 我とはなしに 卯の花の うき世の中に 鳴き渡るらむ
ほとときす われとはなしに うのはなの うきよのなかに なきわたるらむ
凡河内躬恒
1-古今165はちす葉の にごりにしまぬ 心もて 何かは露を 珠とあざむく
はちすはの にこりにしまぬ こころもて なにかはつゆを たまとあさむく
僧正遍昭
1-古今166夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ
なつのよは またよひなから あけぬるを くものいつこに つきやとるらむ
清原深養父
1-古今167塵をだに すゑじとぞ思ふ 咲きしより 妹と我が寝る 常夏の花
ちりをたに すゑしとそおもふ さきしより いもとわかぬる とこなつのはな
凡河内躬恒
1-古今168夏と秋と 行きかふ空の かよひぢは かたへ涼しき 風や吹くらむ
なつとあきと ゆきかふそらの かよひちは かたへすすしき かせやふくらむ
凡河内躬恒
1-古今169秋きぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる
あききぬと めにはさやかに みえねとも かせのおとにそ おとろかれぬる
藤原敏行秋上
1-古今170川風の 涼しくもあるか うちよする 浪とともにや 秋は立つらむ
かはかせの すすしくもあるか うちよする なみとともにや あきはたつらむ
紀貫之秋上
1-古今171我が背子が 衣の裾を 吹き返し うらめづらしき 秋の初風
わかせこか ころものすそを ふきかへし うらめつらしき あきのはつかせ
読人知らず秋上
1-古今172昨日こそ 早苗とりしか いつの間に 稲葉そよぎて 秋風の吹く
きのふこそ さなへとりしか いつのまに いなはそよきて あきかせのふく
読人知らず秋上
1-古今173秋風の 吹きにし日より 久方の 天の河原に 立たぬ日はなし
あきかせの ふきにしひより ひさかたの あまのかはらに たたぬひはなし
読人知らず秋上
1-古今174久方の 天の河原の 渡し守 君渡りなば かぢかくしてよ
ひさかたの あまのかはらの わたしもり きみわたりなは かちかくしてよ
読人知らず秋上
1-古今175天の河 紅葉を橋に わたせばや 七夕つめの 秋をしも待つ
あまのかは もみちをはしに わたせはや たなはたつめの あきをしもまつ
読人知らず秋上
1-古今176恋ひ恋ひて あふ夜は今宵 天の河 霧立ちわたり 明けずもあらなむ
こひこひて あふよはこよひ あまのかは きりたちわたり あけすもあらなむ
読人知らず秋上
1-古今177天の河 浅瀬しら浪 たどりつつ 渡りはてねば 明けぞしにける
あまのかは あさせしらなみ たとりつつ わたりはてねは あけそしにける
紀友則秋上
1-古今178契りけむ 心ぞつらき 七夕の 年にひとたび あふはあふかは
ちきりけむ こころそつらき たなはたの としにひとたひ あふはあふかは
藤原興風秋上
1-古今179年ごとに あふとはすれど 七夕の 寝る夜の数ぞ 少なかりける
としことに あふとはすれと たなはたの ぬるよのかすそ すくなかりける
凡河内躬恒秋上
1-古今180七夕に かしつる糸の うちはへて 年のを長く 恋ひや渡らむ
たなはたに かしつるいとの うちはへて としのをなかく こひやわたらむ
凡河内躬恒秋上
1-古今181今宵こむ 人にはあはじ 七夕の 久しきほどに 待ちもこそすれ
こよひこむ ひとにはあはし たなはたの ひさしきほとに まちもこそすれ
素性法師秋上
1-古今182今はとて 別るる時は 天の河 渡らぬ先に 袖ぞひちぬる
いまはとて わかるるときは あまのかは わたらぬさきに そてそひちぬる
源宗于秋上
1-古今183今日よりは 今こむ年の 昨日をぞ いつしかとのみ 待ち渡るべき
けふよりは いまこむとしの きのふをそ いつしかとのみ まちわたるへき
壬生忠岑秋上
1-古今184木の間より もりくる月の 影見れば 心づくしの 秋はきにけり
このまより もりくるつきの かけみれは こころつくしの あきはきにけり
読人知らず秋上
1-古今185おほかたの 秋くるからに 我が身こそ かなしきものと 思ひ知りぬれ
おほかたの あきくるからに わかみこそ かなしきものと おもひしりぬれ
読人知らず秋上
1-古今186我がために くる秋にしも あらなくに 虫の音聞けば まづぞかなしき
わかために くるあきにしも あらなくに むしのねきけは まつそかなしき
読人知らず秋上
1-古今187ものごとに 秋ぞかなしき もみぢつつ うつろひゆくを かぎりと思へば
ものことに あきそかなしき もみちつつ うつろひゆくを かきりとおもへは
読人知らず秋上
1-古今188ひとり寝る 床は草葉に あらねども 秋くる宵は 露けかりけり
ひとりぬる とこはくさはに あらねとも あきくるよひは つゆけかりけり
読人知らず秋上
1-古今189いつはとは 時はわかねど 秋の夜ぞ 物思ふことの かぎりなりける
いつはとは ときはわかねと あきのよそ ものおもふことの かきりなりける
読人知らず秋上
1-古今190かくばかり 惜しと思ふ夜を いたづらに 寝て明かすらむ 人さへぞうき
かくはかり をしとおもふよを いたつらに ねてあかすらむ ひとさへそうき
凡河内躬恒秋上
1-古今191白雲に 羽うちかはし 飛ぶ雁の 数さへ見ゆる 秋の夜の月
しらくもに はねうちかはし とふかりの かすさへみゆる あきのよのつき
読人知らず秋上
1-古今192小夜中と 夜はふけぬらし 雁がねの 聞こゆる空に 月渡る見ゆ
さよなかと よはふけぬらし かりかねの きこゆるそらに つきわたるみゆ
読人知らず秋上
1-古今193月見れば ちぢにものこそ かなしけれ 我が身ひとつの 秋にはあらねど
つきみれは ちちにものこそ かなしけれ わかみひとつの あきにはあらねと
大江千里秋上
1-古今194久方の 月の桂も 秋はなほ もみぢすればや 照りまさるらむ
ひさかたの つきのかつらも あきはなほ もみちすれはや てりまさるらむ
壬生忠岑秋上
1-古今195秋の夜の 月の光し あかければ くらぶの山も 越えぬべらなり
あきのよの つきのひかりし あかけれは くらふのやまも こえぬへらなり
在原元方秋上
1-古今196きりぎりす いたくな鳴きそ 秋の夜の 長き思ひは 我ぞまされる
きりきりす いたくななきそ あきのよの なかきおもひは われそまされる
藤原忠房秋上
1-古今197秋の夜の 明くるも知らず 鳴く虫は 我がごとものや かなしかるらむ
あきのよの あくるもしらす なくむしは わかことものや かなしかるらむ
藤原敏行秋上
1-古今198秋萩も 色づきぬれば きりぎりす 我が寝ぬごとや 夜はかなしき
あきはきも いろつきぬれは きりきりす わかねぬことや よるはかなしき
読人知らず秋上
1-古今199秋の夜は 露こそことに 寒からし 草むらごとに 虫のわぶれば
あきのよは つゆこそことに さむからし くさむらことに むしのわふれは
読人知らず秋上
1-古今200君しのぶ 草にやつるる ふるさとは 松虫の音ぞ かなしかりける
きみしのふ くさにやつるる ふるさとは まつむしのねそ かなしかりける
読人知らず秋上
1-古今201秋の野に 道も惑ひぬ 松虫の 声する方に 宿やからまし
あきののに みちもまとひぬ まつむしの こゑするかたに やとやからまし
読人知らず秋上
1-古今202秋の野に 人まつ虫の 声すなり 我かとゆきて いざとぶらはむ
あきののに ひとまつむしの こゑすなり われかとゆきて いさとふらはむ
読人知らず秋上
1-古今203もみぢ葉の 散りてつもれる 我が宿に 誰をまつ虫 ここら鳴くらむ
もみちはの ちりてつもれる わかやとに たれをまつむし ここらなくらむ
読人知らず秋上
1-古今204ひぐらしの 鳴きつるなへに 日は暮れぬと 思ふは山の かげにぞありける
ひくらしの なきつるなへに ひはくれぬと おもふはやまの かけにそありける
読人知らず秋上
1-古今205ひぐらしの 鳴く山里の 夕暮れは 風よりほかに とふ人もなし
ひくらしの なくやまさとの ゆふくれは かせよりほかに とふひともなし
読人知らず秋上
1-古今206待つ人に あらぬものから 初雁の 今朝鳴く声の めづらしきかな
まつひとに あらぬものから はつかりの けさなくこゑの めつらしきかな
在原元方秋上
1-古今207秋風に 初雁がねぞ 聞こゆなる たがたまづさを かけてきつらむ
あきかせに はつかりかねそ きこゆなる たかたまつさを かけてきつらむ
紀友則秋上
1-古今208我が門に いなおほせ鳥の 鳴くなへに 今朝吹く風に 雁はきにけり
わかかとに いなおほせとりの なくなへに けさふくかせに かりはきにけり
読人知らず秋上
1-古今209いとはやも 鳴きぬる雁か 白露の 色どる木ぎも もみぢあへなくに
いとはやも なきぬるかりか しらつゆの いろとるききも もみちあへなくに
読人知らず秋上
1-古今210春霞 かすみていにし 雁がねは 今ぞ鳴くなる 秋霧の上に
はるかすみ かすみていにし かりかねは いまそなくなる あききりのうへに
読人知らず秋上
1-古今211夜を寒み 衣かりがね 鳴くなへに 萩の下葉も うつろひにけり
よをさむみ ころもかりかね なくなへに はきのしたはも うつろひにけり
読人知らず秋上
1-古今212秋風に 声を帆にあげて くる舟は 天の門渡る 雁にぞありける
あきかせに こゑをほにあけて くるふねは あまのとわたる かりにそありける
藤原菅根秋上
1-古今213憂きことを 思ひつらねて 雁がねの 鳴きこそわたれ 秋の夜な夜な
うきことを おもひつらねて かりかねの なきこそわたれ あきのよなよな
凡河内躬恒秋上
1-古今214山里は 秋こそことに わびしけれ 鹿の鳴く音に 目を覚ましつつ
やまさとは あきこそことに わひしけれ しかのなくねに めをさましつつ
壬生忠岑秋上
1-古今215奥山に もみぢ踏みわけ 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋はかなしき
おくやまに もみちふみわけ なくしかの こゑきくときそ あきはかなしき
読人知らず秋上
1-古今216秋萩に うらびれをれば あしひきの 山下とよみ 鹿の鳴くらむ
あきはきに うらひれをれは あしひきの やましたとよみ しかのなくらむ
読人知らず秋上
1-古今217秋萩を しがらみふせて 鳴く鹿の 目には見えずて 音のさやけさ
あきはきを しからみふせて なくしかの めにはみえすて おとのさやけさ
読人知らず秋上
1-古今218秋萩の 花咲きにけり 高砂の 尾上の鹿は 今や鳴くらむ
あきはきの はなさきにけり たかさこの をのへのしかは いまやなくらむ
藤原敏行秋上
1-古今219秋萩の 古枝に咲ける 花見れば もとの心は 忘れざりけり
あきはきの ふるえにさける はなみれは もとのこころは わすれさりけり
凡河内躬恒秋上
1-古今220秋萩の 下葉色づく 今よりや ひとりある人の いねがてにする
あきはきの したはいろつく いまよりや ひとりあるひとの いねかてにする
読人知らず秋上
1-古今221鳴き渡る 雁の涙や 落ちつらむ 物思ふ宿の 萩の上の露
なきわたる かりのなみたや おちつらむ ものおもふやとの はきのうへのつゆ
読人知らず秋上
1-古今222萩の露 玉にぬかむと とればけぬ よし見む人は 枝ながら見よ
はきのつゆ たまにぬかむと とれはけぬ よしみむひとは えたなからみよ
読人知らず秋上
1-古今223折りてみば 落ちぞしぬべき 秋萩の 枝もたわわに 置ける白露
をりてみは おちそしぬへき あきはきの えたもたわわに おけるしらつゆ
読人知らず秋上
1-古今224萩が花 散るらむ小野の 露霜に 濡れてをゆかむ 小夜はふくとも
はきかはな ちるらむをのの つゆしもに ぬれてをゆかむ さよはふくとも
読人知らず秋上
1-古今225秋の野に 置く白露は 玉なれや つらぬきかくる くもの糸すぢ
あきののに おくしらつゆは たまなれや つらぬきかくる くものいとすち
文屋朝康秋上
1-古今226名にめでて 折れるばかりぞ 女郎花 我おちにきと 人にかたるな
なにめてて をれるはかりそ をみなへし われおちにきと ひとにかたるな
僧正遍昭秋上
1-古今227女郎花 憂しと見つつぞ ゆきすぐる 男山にし 立てりと思へば
をみなへし うしとみつつそ ゆきすくる をとこやまにし たてりとおもへは
布留今道秋上
1-古今228秋の野に 宿りはすべし 女郎花 名をむつまじみ 旅ならなくに
あきののに やとりはすへし をみなへし なをむつましみ たひならなくに
藤原敏行秋上
1-古今229女郎花 おほかる野辺に 宿りせば あやなくあだの 名をやたちなむ
をみなへし おほかるのへに やとりせは あやなくあたの なをやたちなむ
小野美材秋上
1-古今230女郎花 秋の野風に うちなびき 心ひとつを 誰によすらむ
をみなへし あきののかせに うちなひき こころひとつを たれによすらむ
左大臣秋上
1-古今231秋ならで あふことかたき 女郎花 天の河原に おひぬものゆゑ
あきならて あふことかたき をみなへし あまのかはらに おひぬものゆゑ
藤原定方秋上
1-古今232たが秋に あらぬものゆゑ 女郎花 なぞ色にいでて まだきうつろふ
たかあきに あらぬものゆゑ をみなへし なそいろにいてて またきうつろふ
紀貫之秋上
1-古今233つま恋ふる 鹿ぞ鳴くなる 女郎花 おのがすむ野の 花と知らずや
つまこふる しかそなくなる をみなへし おのかすむのの はなとしらすや
凡河内躬恒秋上
1-古今234女郎花 吹きすぎてくる 秋風は 目には見えねど 香こそしるけれ
をみなへし ふきすきてくる あきかせは めにはみえねと かこそしるけれ
凡河内躬恒秋上
1-古今235人の見る ことやくるしき 女郎花 秋霧にのみ 立ち隠るらむ
ひとのみる ことやくるしき をみなへし あききりにのみ たちかくるらむ
壬生忠岑秋上
1-古今236ひとりのみ ながむるよりは 女郎花 我が住む宿に 植ゑて見ましを
ひとりのみ なかむるよりは をみなへし わかすむやとに うゑてみましを
壬生忠岑秋上
1-古今237女郎花 うしろめたくも 見ゆるかな 荒れたる宿に ひとり立てれば
をみなへし うしろめたくも みゆるかな あれたるやとに ひとりたてれは
兼覧王秋上
1-古今238花にあかで 何かへるらむ 女郎花 おほかる野辺に 寝なましものを
はなにあかて なにかへるらむ をみなへし おほかるのへに ねなましものを
平貞文秋上
1-古今239なに人か 来て脱ぎかけし 藤ばかま 来る秋ごとに 野辺を匂はす
なにひとか きてぬきかけし ふちはかま くるあきことに のへをにほはす
藤原敏行秋上
1-古今240宿りせし 人の形見か 藤ばかま 忘られがたき 香に匂ひつつ
やとりせし ひとのかたみか ふちはかま わすられかたき かににほひつつ
紀貫之秋上
1-古今241主知らぬ 香こそ匂へれ 秋の野に たが脱ぎかけし 藤ばかまぞも
ぬししらぬ かこそにほへれ あきののに たかぬきかけし ふちはかまそも
素性法師秋上
1-古今242今よりは 植ゑてだに見じ 花薄 穂にいづる秋は わびしかりけり
いまよりは うゑてたにみし はなすすき ほにいつるあきは わひしかりけり
平貞文秋上
1-古今243秋の野の 草の袂か 花薄 穂にいでてまねく 袖と見ゆらむ
あきののの くさのたもとか はなすすき ほにいててまねく そてとみゆらむ
在原棟梁秋上
1-古今244我のみや あはれと思はむ きりぎりす 鳴く夕影の 大和撫子
われのみや あはれとおもはむ きりきりす なくゆふかけの やまとなてしこ
素性法師秋上
1-古今245緑なる ひとつ草とぞ 春は見し 秋は色いろの 花にぞありける
みとりなる ひとつくさとそ はるはみし あきはいろいろの はなにそありける
読人知らず秋上
1-古今246ももくさの 花のひもとく 秋の野に 思ひたはれむ 人なとがめそ
ももくさの はなのひもとく あきののを おもひたはれむ ひとなとかめそ
読人知らず秋上
1-古今247月草に 衣はすらむ 朝露に 濡れてののちは うつろひぬとも
つきくさに ころもはすらむ あさつゆに ぬれてののちは うつろひぬとも
読人知らず秋上
1-古今248里は荒れて 人はふりにし 宿なれや 庭もまがきも 秋の野らなる
さとはあれて ひとはふりにし やとなれや にはもまかきも あきののらなる
僧正遍昭秋上
1-古今249吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐と言ふらむ
ふくからに あきのくさきの しをるれは うへやまかせを あらしといふらむ
文屋康秀秋下
1-古今250草も木も 色かはれども わたつみの 浪の花にぞ 秋なかりける
くさもきも いろかはれとも わたつうみの なみのはなにそ あきなかりける
文屋康秀秋下
1-古今251紅葉せぬ ときはの山は 吹く風の 音にや秋を 聞き渡るらむ
もみちせぬ ときはのやまは ふくかせの おとにやあきを ききわたるらむ
紀淑望秋下
1-古今252霧立ちて 雁ぞ鳴くなる 片岡の 朝の原は もみぢしぬらむ
きりたちて かりそなくなる かたをかの あしたのはらは もみちしぬらむ
読人知らず秋下
1-古今253神無月 時雨もいまだ 降らなくに かねてうつろふ 神なびのもり
かみなつき しくれもいまた ふらなくに かねてうつろふ かみなひのもり
読人知らず秋下
1-古今254ちはやぶる 神なび山の もみぢ葉に 思ひはかけじ うつろふものを
ちはやふる かみなひやまの もみちはに おもひはかけし うつろふものを
読人知らず秋下
1-古今255同じ枝を わきて木の葉の うつろふは 西こそ秋の はじめなりけれ
おなしえを わきてこのはの うつろふは にしこそあきの はしめなりけれ
藤原勝臣秋下
1-古今256秋風の 吹きにし日より 音羽山 峰の梢も 色づきにけり
あきかせの ふきにしひより おとはやま みねのこすゑも いろつきにけり
紀貫之秋下
1-古今257白露の 色はひとつを いかにして 秋の木の葉を ちぢに染むらむ
しらつゆの いろはひとつを いかにして あきのこのはを ちちにそむらむ
藤原敏行秋下
1-古今258秋の夜の 露をば露と 置きながら 雁の涙や 野辺を染むらむ
あきのよの つゆをはつゆと おきなから かりのなみたや のへをそむらむ
壬生忠岑秋下
1-古今259秋の露 色いろことに 置けばこそ 山の木の葉の ちぐさなるらめ
あきのつゆ いろいろことに おけはこそ やまのこのはの ちくさなるらめ
読人知らず秋下
1-古今260白露も 時雨もいたく もる山は 下葉残らず 色づきにけり
しらつゆも しくれもいたく もるやまは したはのこらす いろつきにけり
紀貫之秋下
1-古今261雨降れど 露ももらじを 笠取りの 山はいかでか もみぢ染めけむ
あめふれと つゆももらしを かさとりの やまはいかてか もみちそめけむ
在原元方秋下
1-古今262ちはやぶる 神のいがきに はふくずも 秋にはあへず うつろひにけり
ちはやふる かみのいかきに はふくすも あきにはあへす うつろひにけり
紀貫之秋下
1-古今263雨降れば 笠取り山の もみぢ葉は 行きかふ人の 袖さへぞてる
あめふれは かさとりやまの もみちはは ゆきかふひとの そてさへそてる
壬生忠岑秋下
1-古今264散らねども かねてぞ惜しき もみぢ葉は 今はかぎりの 色と見つれば
ちらねとも かねてそをしき もみちはは いまはかきりの いろとみつれは
読人知らず秋下
1-古今265誰がための 錦なればか 秋霧の 佐保の山辺を 立ち隠すらむ
たかための にしきなれはか あききりの さほのやまへを たちかくすらむ
紀友則秋下
1-古今266秋霧は 今朝はな立ちそ 佐保山の ははそのもみぢ よそにても見む
あききりは けさはなたちそ さほやまの ははそのもみち よそにてもみむ
読人知らず秋下
1-古今267佐保山の ははその色は 薄けれど 秋は深くも なりにけるかな
さほやまの ははそのいろは うすけれと あきはふかくも なりにけるかな
坂上是則秋下
1-古今268植ゑし植ゑば 秋なき時や 咲かざらむ 花こそ散らめ 根さへ枯れめや
うゑしうゑは あきなきときや さかさらむ はなこそちらめ ねさへかれめや
在原業平秋下
1-古今269久方の 雲の上にて 見る菊は 天つ星とぞ あやまたれける
ひさかたの くものうへにて みるきくは あまつほしとそ あやまたれける
藤原敏行秋下
1-古今270露ながら 折りてかざさむ 菊の花 老いせぬ秋の 久しかるべく
つゆなから をりてかささむ きくのはな おいせぬあきの ひさしかるへく
紀友則秋下
1-古今271植ゑし時 花待ちどほに ありし菊 うつろふ秋に あはむとや見し
うゑしとき はなまちとほに ありしきく うつろふあきに あはむとやみし
大江千里秋下
1-古今272秋風の 吹き上げに立てる 白菊は 花かあらぬか 浪のよするか
あきかせの ふきあけにたてる しらきくは はなかあらぬか なみのよするか
菅原秋下
1-古今273濡れてほす 山路の菊の 露の間に いつか千歳を 我はへにけむ
ぬれてほす やまちのきくの つゆのまに いつかちとせを われはへにけむ
素性法師秋下
1-古今274花見つつ 人待つ時は 白妙の 袖かとのみぞ あやまたれける
はなみつつ ひとまつときは しろたへの そてかとのみそ あやまたれける
紀友則秋下
1-古今275ひともとと 思ひし菊を 大沢の 池の底にも 誰か植ゑけむ
ひともとと おもひしきくを おほさはの いけのそこにも たれかうゑけむ
紀友則秋下
1-古今276秋の菊 匂ふかぎりは かざしてむ 花より先と 知らぬ我が身を
あきのきく にほふかきりは かさしてむ はなよりさきと しらぬわかみを
紀貫之秋下
1-古今277心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置き惑はせる 白菊の花
こころあてに をらはやをらむ はつしもの おきまとはせる しらきくのはな
凡河内躬恒秋下
1-古今278色かはる 秋の菊をば ひととせに ふたたび匂ふ 花とこそ見れ
いろかはる あきのきくをは ひととせに ふたたひにほふ はなとこそみれ
読人知らず秋下
1-古今279秋をおきて 時こそありけれ 菊の花 うつろふからに 色のまされば
あきをおきて ときこそありけれ きくのはな うつろふからに いろのまされは
平貞文秋下
1-古今280咲きそめし 宿しかはれば 菊の花 色さへにこそ うつろひにけれ
さきそめし やとしかはれは きくのはな いろさへにこそ うつろひにけれ
紀貫之秋下
1-古今281佐保山の ははそのもみぢ 散りぬべみ 夜さへ見よと 照らす月影
さほやまの ははそのもみち ちりぬへみ よるさへみよと てらすつきかけ
読人知らず秋下
1-古今282奥山の いはがきもみぢ 散りぬべし 照る日の光 見る時なくて
おくやまの いはかきもみち ちりぬへし てるひのひかり みるときなくて
藤原関雄秋下
1-古今283竜田川 もみぢ乱れて 流るめり 渡らば錦 中や絶えなむ
たつたかは もみちみたれて なかるめり わたらはにしき なかやたえなむ
読人知らず秋下
1-古今284竜田川 もみぢ葉流る 神なびの みむろの山に 時雨降るらし
たつたかは もみちはなかる かみなひの みむろのやまに しくれふるらし
読人知らず秋下
1-古今285恋しくは 見てもしのばむ もみぢ葉を 吹きな散らしそ 山おろしの風
こひしくは みてもしのはむ もみちはを ふきなちらしそ やまおろしのかせ
読人知らず秋下
1-古今286秋風に あへず散りぬる もみぢ葉の ゆくへさだめぬ 我ぞかなしき
あきかせに あへすちりぬる もみちはの ゆくへさためぬ われそかなしき
読人知らず秋下
1-古今287秋は来ぬ 紅葉は宿に 降りしきぬ 道踏みわけて とふ人はなし
あきはきぬ もみちはやとに ふりしきぬ みちふみわけて とふひとはなし
読人知らず秋下
1-古今288踏みわけて さらにやとはむ もみぢ葉の 降り隠してし 道と見ながら
ふみわけて さらにやとはむ もみちはの ふりかくしてし みちとみなから
読人知らず秋下
1-古今289秋の月 山辺さやかに 照らせるは 落つるもみぢの 数を見よとか
あきのつき やまへさやかに てらせるは おつるもみちの かすをみよとか
読人知らず秋下
1-古今290吹く風の 色のちぐさに 見えつるは 秋の木の葉の 散ればなりけり
ふくかせの いろのちくさに みえつるは あきのこのはの ちれはなりけり
読人知らず秋下
1-古今291霜のたて 露のぬきこそ 弱からし 山の錦の おればかつ散る
しものたて つゆのぬきこそ よわからし やまのにしきの おれはかつちる
藤原関雄秋下
1-古今292わび人の わきて立ち寄る 木のもとは たのむかげなく もみぢ散りけり
わひひとの わきてたちよる このもとは たのむかけなく もみちちりけり
僧正遍昭秋下
1-古今293もみぢ葉の 流れてとまる みなとには 紅深き 浪や立つらむ
もみちはの なかれてとまる みなとには くれなゐふかき なみやたつらむ
素性法師秋下
1-古今294ちはやぶる 神世もきかず 竜田川 唐紅に 水くくるとは
ちはやふる かみよもきかす たつたかは からくれなゐに みつくくるとは
在原業平秋下
1-古今295我がきつる 方も知られず くらぶ山 木ぎの木の葉の 散るとまがふに
わかきつる かたもしられす くらふやま ききのこのはの ちるとまかふに
藤原敏行秋下
1-古今296神なびの みむろの山を 秋ゆけば 錦たちきる 心地こそすれ
かみなひの みむろのやまを あきゆけは にしきたちきる ここちこそすれ
壬生忠岑秋下
1-古今297見る人も なくて散りぬる 奥山の 紅葉は夜の 錦なりけり
みるひとも なくてちりぬる おくやまの もみちはよるの にしきなりけり
紀貫之秋下
1-古今298竜田姫 たむくる神の あればこそ 秋の木の葉の ぬさと散るらめ
たつたひめ たむくるかみの あれはこそ あきのこのはの ぬさとちるらめ
兼覧王秋下
1-古今299秋の山 紅葉をぬさと たむくれば 住む我さへぞ 旅心地する
あきのやま もみちをぬさと たむくれは すむわれさへそ たひここちする
紀貫之秋下
1-古今300神なびの 山をすぎ行く 秋なれば 竜田川にぞ ぬさはたむくる
かみなひの やまをすきゆく あきなれは たつたかはにそ ぬさはたむくる
清原深養父秋下
1-古今301白浪に 秋の木の葉の 浮かべるを 海人の流せる 舟かとぞ見る
しらなみに あきのこのはの うかへるを あまのなかせる ふねかとそみる
藤原興風秋下
1-古今302もみぢ葉の 流れざりせば 竜田川 水の秋をば 誰か知らまし
もみちはの なかれさりせは たつたかは みつのあきをは たれかしらまし
坂上是則秋下
1-古今303山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり
やまかはに かせのかけたる しからみは なかれもあへぬ もみちなりけり
春道列樹秋下
1-古今304風吹けば 落つるもみぢ葉 水清み 散らぬ影さへ 底に見えつつ
かせふけは おつるもみちは みつきよみ ちらぬかけさへ そこにみえつつ
凡河内躬恒秋下
1-古今305立ち止まり 見てをわたらむ もみぢ葉は 雨と降るとも 水はまさらじ
たちとまり みてをわたらむ もみちはは あめとふるとも みつはまさらし
凡河内躬恒秋下
1-古今306山田もる 秋のかりいほに 置く露は いなおほせ鳥の 涙なりけり
やまたもる あきのかりいほに おくつゆは いなおほせとりの なみたなりけり
壬生忠岑秋下
1-古今307穂にもいでぬ 山田をもると 藤衣 稲葉の露に 濡れぬ日ぞなき
ほにもいてぬ やまたをもると ふちころも いなはのつゆに ぬれぬひそなき
読人知らず秋下
1-古今308刈れる田に おふるひつちの 穂にいでぬは 世を今さらに あきはてぬとか
かれるたに おふるひつちの ほにいてぬは よをいまさらに あきはてぬとか
読人知らず秋下
1-古今309もみぢ葉は 袖にこき入れて もていでなむ 秋はかぎりと 見む人のため
もみちはは そてにこきいれて もていてなむ あきはかきりと みむひとのため
素性法師秋下
1-古今310み山より 落ちくる水の 色見てぞ 秋はかぎりと 思ひ知りぬる
みやまより おちくるみつの いろみてそ あきはかきりと おもひしりぬる
藤原興風秋下
1-古今311年ごとに もみぢ葉流す 竜田川 みなとや秋の とまりなるらむ
としことに もみちはなかす たつたかは みなとやあきの とまりなるらむ
紀貫之秋下
1-古今312夕月夜 小倉の山に 鳴く鹿の 声の内にや 秋は暮るらむ
ゆふつくよ をくらのやまに なくしかの こゑのうちにや あきはくるらむ
紀貫之秋下
1-古今313道知らば たづねもゆかむ もみぢ葉を ぬさとたむけて 秋はいにけり
みちしらは たつねもゆかむ もみちはを ぬさとたむけて あきはいにけり
凡河内躬恒秋下
1-古今314竜田川 錦おりかく 神無月 時雨の雨を たてぬきにして
たつたかは にしきおりかく かみなつき しくれのあめを たてぬきにして
読人知らず
1-古今315山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人目も草も 枯れぬと思へば
やまさとは ふゆそさひしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもへは
源宗于
1-古今316大空の 月の光し 清ければ 影見し水ぞ まづこほりける
おほそらの つきのひかりし きよけれは かけみしみつそ まつこほりける
読人知らず
1-古今317夕されば 衣手寒し み吉野の 吉野の山に み雪降るらし
ゆふされは ころもてさむし みよしのの よしののやまに みゆきふるらし
読人知らず
1-古今318今よりは つぎて降らなむ 我が宿の 薄おしなみ 降れる白雪
いまよりは つきてふらなむ わかやとの すすきおしなひ ふれるしらゆき
読人知らず
1-古今319降る雪は かつぞけぬらし あしひきの 山のたぎつ瀬 音まさるなり
ふるゆきは かつそけぬらし あしひきの やまのたきつせ おとまさるなり
読人知らず
1-古今320この川に もみぢ葉流る 奥山の 雪げの水ぞ 今まさるらし
このかはに もみちはなかる おくやまの ゆきけのみつそ いままさるらし
読人知らず
1-古今321ふるさとは 吉野の山し 近ければ ひと日もみ雪 降らぬ日はなし
ふるさとは よしののやまし ちかけれは ひとひもみゆき ふらぬひはなし
読人知らず
1-古今322我が宿は 雪降りしきて 道もなし 踏みわけてとふ 人しなければ
わかやとは ゆきふりしきて みちもなし ふみわけてとふ ひとしなけれは
読人知らず
1-古今323雪降れば 冬ごもりせる 草も木も 春に知られぬ 花ぞ咲きける
ゆきふれは ふゆこもりせる くさもきも はるにしられぬ はなそさきける
紀貫之
1-古今324白雪の ところもわかず 降りしけば 巌にも咲く 花とこそ見れ
しらゆきの ところもわかす ふりしけは いはほにもさく はなとこそみれ
紀秋岑
1-古今325み吉野の 山の白雪 つもるらし ふるさと寒く なりまさるなり
みよしのの やまのしらゆき つもるらし ふるさとさむく なりまさるなり
坂上是則
1-古今326浦近く 降りくる雪は 白浪の 末の松山 越すかとぞ見る
うらちかく ふりくるゆきは しらなみの すゑのまつやま こすかとそみる
藤原興風
1-古今327み吉野の 山の白雪 踏みわけて 入りにし人の おとづれもせぬ
みよしのの やまのしらゆき ふみわけて いりにしひとの おとつれもせぬ
壬生忠岑
1-古今328白雪の 降りてつもれる 山里は 住む人さへや 思ひ消ゆらむ
しらゆきの ふりてつもれる やまさとは すむひとさへや おもひきゆらむ
壬生忠岑
1-古今329雪降りて 人もかよはぬ 道なれや あとはかもなく 思ひ消ゆらむ
ゆきふりて ひともかよはぬ みちなれや あとはかもなく おもひきゆらむ
凡河内躬恒
1-古今330冬ながら 空より花の 散りくるは 雲のあなたは 春にやあるらむ
ふゆなから そらよりはなの ちりくるは くものあなたは はるにやあるらむ
清原深養父
1-古今331冬ごもり 思ひかけぬを 木の間より 花と見るまで 雪ぞ降りける
ふゆこもり おもひかけぬを このまより はなとみるまて ゆきそふりける
紀貫之
1-古今332朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪
あさほらけ ありあけのつきと みるまてに よしののさとに ふれるしらゆき
坂上是則
1-古今333消ぬがうへに またも降りしけ 春霞 立ちなばみ雪 まれにこそ見め
けぬかうへに またもふりしけ はるかすみ たちなはみゆき まれにこそみめ
読人知らず
1-古今334梅の花 それとも見えず 久方の あまぎる雪の なべて降れれば
うめのはな それともみえす ひさかたの あまきるゆきの なへてふれれは
読人知らず
1-古今335花の色は 雪にまじりて 見えずとも 香をだに匂へ 人の知るべく
はなのいろは ゆきにましりて みえすとも かをたににほへ ひとのしるへく
小野篁
1-古今336梅の香の 降りおける雪に まがひせば 誰かことごと わきて折らまし
うめのかの ふりおけるゆきに まかひせは たれかことこと わきてをらまし
紀貫之
1-古今337雪降れば 木ごとに花ぞ 咲きにける いづれを梅と わきて折らまし
ゆきふれは きことにはなそ さきにける いつれをうめと わきてをらまし
紀友則
1-古今338我が待たぬ 年はきぬれど 冬草の 枯れにし人は おとづれもせず
わかまたぬ としはきぬれと ふゆくさの かれにしひとは おとつれもせす
凡河内躬恒
1-古今339あらたまの 年の終りに なるごとに 雪も我が身も ふりまさりつつ
あらたまの としのをはりに なることに ゆきもわかみも ふりまさりつつ
在原元方
1-古今340雪降りて 年の暮れぬる 時にこそ つひにもみぢぬ 松も見えけれ
ゆきふりて としのくれぬる ときにこそ つひにもみちぬ まつもみえけれ
読人知らず
1-古今341昨日と言ひ 今日とくらして 明日香河 流れて早き 月日なりけり
きのふといひ けふとくらして あすかかは なかれてはやき つきひなりけり
春道列樹
1-古今342ゆく年の 惜しくもあるかな ます鏡 見る影さへに くれぬと思へば
ゆくとしの をしくもあるかな ますかかみ みるかけさへに くれぬとおもへは
紀貫之
1-古今343我が君は 千代に八千代に さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで
わかきみは ちよにやちよに さされいしの いはほとなりて こけのむすまて
読人知らず
1-古今344わたつみの 浜の真砂を かぞへつつ 君が千歳の あり数にせむ
わたつうみの はまのまさこを かそへつつ きみかちとせの ありかすにせむ
読人知らず
1-古今345しほの山 さしでの磯に 住む千鳥 君が御代をば 八千代とぞ鳴く
しほのやま さしてのいそに すむちとり きみかみよをは やちよとそなく
読人知らず
1-古今346我がよはひ 君が八千代に とりそへて とどめおきては 思ひ出でにせよ
わかよはひ きみかやちよに とりそへて ととめおきては おもひいてにせよ
読人知らず
1-古今347かくしつつ とにもかくにも ながらへて 君が八千代に あふよしもがな
かくしつつ とにもかくにも なからへて きみかやちよに あふよしもかな
仁和帝
1-古今348ちはやぶる 神や切りけむ つくからに 千歳の坂も 越えぬべらなり
ちはやふる かみやきりけむ つくからに ちとせのさかも こえぬへらなり
僧正遍昭
1-古今349桜花 散りかひくもれ 老いらくの 来むと言ふなる 道まがふがに
さくらはな ちりかひくもれ おいらくの こむといふなる みちまかふかに
在原業平
1-古今350亀の尾の 山の岩根を とめておつる 滝の白玉 千代の数かも
かめのをの やまのいはねを とめておつる たきのしらたま ちよのかすかも
紀惟岳
1-古今351いたづらに すぐす月日は 思ほえで 花見てくらす 春ぞ少なき
いたつらに すくすつきひは おもほえて はなみてくらす はるそすくなき
藤原興風
1-古今352春くれば 宿にまづ咲く 梅の花 君が千歳の かざしとぞ見る
はるくれは やとにまつさく うめのはな きみかちとせの かさしとそみる
紀貫之
1-古今353いにしへに ありきあらずは 知らねども 千歳のためし 君にはじめむ
いにしへに ありきあらすは しらねとも ちとせのためし きみにはしめむ
素性法師
1-古今354ふして思ひ おきて数ふる 万代は 神ぞ知るらむ 我が君のため
ふしておもひ おきてかそふる よろつよは かみそしるらむ わかきみのため
素性法師
1-古今355鶴亀も 千歳の後は 知らなくに あかぬ心に まかせはててむ
つるかめも ちとせののちは しらなくに あかぬこころに まかせはててむ
在原滋春
1-古今356万代を 松にぞ君を 祝ひつる 千歳のかげに 住まむと思へば
よろつよを まつにそきみを いはひつる ちとせのかけに すまむとおもへは
素性法師
1-古今357春日野に 若菜つみつつ 万代を 祝ふ心は 神ぞ知るらむ
かすかのに わかなつみつつ よろつよを いはふこころは かみそしるらむ
素性法師
1-古今358山高み 雲ゐに見ゆる 桜花 心のゆきて 折らぬ日ぞなき
やまたかみ くもゐにみゆる さくらはな こころのゆきて をらぬひそなき
凡河内躬恒
1-古今359めづらしき 声ならなくに 郭公 ここらの年を あかずもあるかな
めつらしき こゑならなくに ほとときす ここらのとしを あかすもあるかな
紀友則
1-古今360住の江の 松を秋風 吹くからに 声うちそふる 沖つ白浪
すみのえの まつをあきかせ ふくからに こゑうちそふる おきつしらなみ
凡河内躬恒
1-古今361千鳥鳴く 佐保の河霧 立ちぬらし 山の木の葉も 色まさりゆく
ちとりなく さほのかはきり たちぬらし やまのこのはも いろまさりゆく
壬生忠岑
1-古今362秋くれど 色もかはらぬ ときは山 よそのもみぢを 風ぞかしける
あきくれと いろもかはらぬ ときはやま よそのもみちを かせそかしける
読人知らず
1-古今363白雪の 降りしく時は み吉野の 山下風に 花ぞ散りける
しらゆきの ふりしくときは みよしのの やましたかせに はなそちりける
紀貫之
1-古今364峰高き 春日の山に いづる日は 曇る時なく 照らすべらなり
みねたかき かすかのやまに いつるひは くもるときなく てらすへらなり
藤原因香
1-古今365立ち別れ いなばの山の 峰におふる 松とし聞かば 今かへりこむ
たちわかれ いなはのやまの みねにおふる まつとしきかは いまかへりこむ
在原行平離別
1-古今366すがるなく 秋の萩原 朝たちて 旅行く人を いつとか待たむ
すかるなく あきのはきはら あさたちて たひゆくひとを いつとかまたむ
読人知らず離別
1-古今367かぎりなき 雲ゐのよそに わかるとも 人を心に おくらさむやは
かきりなき くもゐのよそに わかるとも ひとをこころに おくらさむやは
読人知らず離別
1-古今368たらちねの 親のまもりと あひそふる 心ばかりは せきなとどめそ
たらちねの おやのまもりと あひそふる こころはかりは せきなととめそ
小野千古母離別
1-古今369今日別れ 明日はあふみと 思へども 夜やふけぬらむ 袖の露けき
けふわかれ あすはあふみと おもへとも よやふけぬらむ そてのつゆけき
紀利貞離別
1-古今370かへる山 ありとは聞けど 春霞 立ち別れなば 恋しかるべし
かへるやま ありとはきけと はるかすみ たちわかれなは こひしかるへし
紀利貞離別
1-古今371惜しむから 恋しきものを 白雲の たちなむのちは なに心地せむ
をしむから こひしきものを しらくもの たちなむのちは なにここちせむ
紀貫之離別
1-古今372別れては ほどをへだつと 思へばや かつ見ながらに かねて恋しき
わかれては ほとをへたつと おもへはや かつみなからに かねてこひしき
在原滋春離別
1-古今373思へども 身をしわけねば 目に見えぬ 心を君に たぐへてぞやる
おもへとも みをしわけねは めにみえぬ こころをきみに たくへてそやる
伊香子淳行離別
1-古今374あふ坂の 関しまさしき ものならば あかず別るる 君をとどめよ
あふさかの せきしまさしき ものならは あかすわかるる きみをととめよ
難波万雄離別
1-古今375唐衣 たつ日は聞かじ 朝露の 置きてしゆけば けぬべきものを
からころも たつひはきかし あさつゆの おきてしゆけは けぬへきものを
読人知らず離別
1-古今376朝なげに 見べき君とし たのまねば 思ひたちぬる 草枕なり
あさなけに みへききみとし たのまねは おもひたちぬる くさまくらなり
離別
1-古今377えぞ知らぬ 今こころみよ 命あらば 我や忘るる 人やとはぬと
えそしらぬ いまこころみよ いのちあらは われやわするる ひとやとはぬと
読人知らず離別
1-古今378雲ゐにも かよふ心の おくれねば わかると人に 見ゆばかりなり
くもゐにも かよふこころの おくれねは わかるとひとに みゆはかりなり
清原深養父離別
1-古今379白雲の こなたかなたに 立ち別れ 心をぬさと くだく旅かな
しらくもの こなたかなたに たちわかれ こころをぬさと くたくたひかな
良岑秀崇離別
1-古今380白雲の 八重にかさなる をちにても 思はむ人に 心へだつな
しらくもの やへにかさなる をちにても おもはむひとに こころへたつな
紀貫之離別
1-古今381別れてふ ことは色にも あらなくに 心にしみて わびしかるらむ
わかれてふ ことはいろにも あらなくに こころにしみて わひしかるらむ
紀貫之離別
1-古今382かへる山 なにぞはありて あるかひは きてもとまらぬ 名にこそありけれ
かへるやま なにそはありて あるかひは きてもとまらぬ なにこそありけれ
凡河内躬恒離別
1-古今383よそにのみ 恋ひや渡らむ 白山の 雪見るべくも あらぬ我が身は
よそにのみ こひやわたらむ しらやまの ゆきみるへくも あらぬわかみは
凡河内躬恒離別
1-古今384音羽山 こだかく鳴きて 郭公 君が別れを 惜しむべらなり
おとはやま こたかくなきて ほとときす きみかわかれを をしむへらなり
紀貫之離別
1-古今385もろともに なきてとどめよ きりぎりす 秋の別れは 惜しくやはあらぬ
もろともに なきてととめよ きりきりす あきのわかれは をしくやはあらぬ
藤原兼茂離別
1-古今386秋霧の 共に立ちいでて 別れなば はれぬ思ひに 恋やわたらむ
あききりの ともにたちいてて わかれなは はれぬおもひに こひやわたらむ
平元規離別
1-古今387命だに 心にかなふ ものならば なにか別れの かなしからまし
いのちたに こころにかなふ ものならは なにかわかれの かなしからまし
白女離別
1-古今388人やりの 道ならなくに おほかたは いき憂しといひて いざ帰りなむ
ひとやりの みちならなくに おほかたは いきうしといひて いさかへりなむ
源実離別
1-古今389したはれて きにし心の 身にしあれば 帰るさまには 道も知られず
したはれて きにしこころの みにしあれは かへるさまには みちもしられす
藤原兼茂離別
1-古今390かつ越えて 別れもゆくか あふ坂は 人だのめなる 名にこそありけれ
かつこえて わかれもゆくか あふさかは ひとたのめなる なにこそありけれ
紀貫之離別
1-古今391君がゆく 越の白山 知らねども 雪のまにまに あとはたづねむ
きみかゆく こしのしらやま しらねとも ゆきのまにまに あとはたつねむ
藤原兼輔離別
1-古今392夕暮れの まがきは山と 見えななむ 夜は越えじと 宿りとるべく
ゆふくれの まかきはやまと みえななむ よるはこえしと やとりとるへく
僧正遍昭離別
1-古今393別れをば 山の桜に まかせてむ とめむとめじは 花のまにまに
わかれをは やまのさくらに まかせてむ とめむとめしは はなのまにまに
幽仙法師離別
1-古今394山風に 桜吹きまき 乱れなむ 花のまぎれに 君とまるべく
やまかせに さくらふきまき みたれなむ はなのまきれに たちとまるへく
僧正遍昭離別
1-古今395ことならば 君とまるべく 匂はなむ かへすは花の うきにやはあらぬ
ことならは きみとまるへく にほはなむ かへすははなの うきにやはあらぬ
幽仙法師離別
1-古今396あかずして 別るる涙 滝にそふ 水まさるとや しもは見るらむ
あかすして わかるるなみた たきにそふ みつまさるとや しもはみるらむ
兼芸法師離別
1-古今397秋萩の 花をば雨に 濡らせども 君をばまして 惜しとこそ思へ
あきはきの はなをはあめに ぬらせとも きみをはまして をしとこそおもへ
紀貫之離別
1-古今398惜しむらむ 人の心を 知らぬまに 秋の時雨と 身ぞふりにける
をしむらむ ひとのこころを しらぬまに あきのしくれと みそふりにける
兼覧王離別
1-古今399別るれど うれしくもあるか 今宵より あひ見ぬ先に 何を恋ひまし
わかるれと うれしくもあるか こよひより あひみぬさきに なにをこひまし
凡河内躬恒離別
1-古今400あかずして 別るる袖の 白玉を 君が形見と つつみてぞ行く
あかすして わかるるそての しらたまを きみかかたみと つつみてそゆく
読人知らず離別
1-古今401かぎりなく 思ふ涙に そほちぬる 袖はかわかじ あはむ日までに
かきりなく おもふなみたに そほちぬる そてはかわかし あはむひまてに
読人知らず離別
1-古今402かきくらし ことはふらなむ 春雨に 濡衣きせて 君をとどめむ
かきくらし ことはふらなむ はるさめに ぬれきぬきせて きみをととめむ
読人知らず離別
1-古今403しひて行く 人をとどめむ 桜花 いづれを道と 惑ふまで散れ
しひてゆく ひとをととめむ さくらはな いつれをみちと まよふまてちれ
読人知らず離別
1-古今404むすぶ手の しづくに濁る 山の井の あかでも人に 別れぬるかな
むすふての しつくににこる やまのゐの あかてもひとに わかれぬるかな
紀貫之離別
1-古今405下の帯の 道はかたがた 別るとも 行きめぐりても あはむとぞ思ふ
したのおひの みちはかたかた わかるとも ゆきめくりても あはむとそおもふ
紀友則離別
1-古今406天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に いでし月かも
あまのはら ふりさけみれは かすかなる みかさのやまに いてしつきかも
安倍仲麻呂羇旅
1-古今407わたの原 八十島かけて こぎいでぬと 人には告げよ 海人の釣り舟
わたのはら やそしまかけて こきいてぬと ひとにはつけよ あまのつりふね
小野篁羇旅
1-古今408みやこいでて けふみかの原 いづみ川 川風寒し 衣かせ山
みやこいてて けふみかのはら いつみかは かはかせさむし ころもかせやま
読人知らず羇旅
1-古今409ほのぼのと 明石の浦の 朝霧に 島隠れ行く 舟をしぞ思ふ
ほのほのと あかしのうらの あさきりに しまかくれゆく ふねをしそおもふ
読人知らず羇旅
1-古今410唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ
からころも きつつなれにし つましあれは はるはるきぬる たひをしそおもふ
在原業平羇旅
1-古今411名にしおはば いざ言問はむ みやこ鳥 我が思ふ人は ありやなしやと
なにしおはは いさこととはむ みやことり わかおもふひとは ありやなしやと
在原業平羇旅
1-古今412北へ行く 雁ぞ鳴くなる つれてこし 数はたらでぞ かへるべらなる
きたへゆく かりそなくなる つれてこし かすはたらてそ かへるへらなる
読人知らず羇旅
1-古今413山かくす 春の霞ぞ うらめしき いづれみやこの さかひなるらむ
やまかくす はるのかすみそ うらめしき いつれみやこの さかひなるらむ
羇旅
1-古今414消えはつる 時しなければ 越路なる 白山の名は 雪にぞありける
きえはつる ときしなけれは こしちなる しらやまのなは ゆきにそありける
凡河内躬恒羇旅
1-古今415糸による ものならなくに 別れぢの 心細くも 思ほゆるかな
いとによる ものならなくに わかれちの こころほそくも おもほゆるかな
紀貫之羇旅
1-古今416夜を寒み 置く初霜を はらひつつ 草の枕に あまた旅寝ぬ
よをさむみ おくはつしもを はらひつつ くさのまくらに あまたたひねぬ
凡河内躬恒羇旅
1-古今417夕月夜 おぼつかなきを 玉くしげ ふたみのうらは あけてこそ見め
ゆふつくよ おほつかなきを たまくしけ ふたみのうらは あけてこそみめ
藤原兼輔羇旅
1-古今418かりくらし 七夕つめに 宿からむ 天の河原に 我はきにけり
かりくらし たなはたつめに やとからむ あまのかはらに われはきにけり
在原業平羇旅
1-古今419ひととせに ひとたびきます 君まてば 宿かす人も あらじとぞ思ふ
ひととせに ひとたひきます きみまては やとかすひとも あらしとそおもふ
紀有常羇旅
1-古今420このたびは ぬさもとりあへず たむけ山 紅葉の錦 神のまにまに
このたひは ぬさもとりあへす たむけやま もみちのにしき かみのまにまに
菅原羇旅
1-古今421たむけには つづりの袖も 切るべきに 紅葉にあける 神やかへさむ
たむけには つつりのそても きるへきに もみちにあける かみやかへさむ
素性法師羇旅
1-古今422心から 花のしづくに そほちつつ うくひすとのみ 鳥の鳴くらむ
こころから はなのしつくに そほちつつ うくひすとのみ とりのなくらむ
藤原敏行物名
1-古今423くべきほど 時すぎぬれや 待ちわびて 鳴くなる声の 人をとよむる
くへきほと ときすきぬれや まちわひて なくなるこゑの ひとをとよむる
藤原敏行物名
1-古今424浪の打つ 瀬見れば玉ぞ 乱れける 拾はば袖に はかなからむや
なみのうつ せみれはたまそ みたれける ひろははそてに はかなからむや
在原滋春物名
1-古今425袂より はなれて玉を つつまめや これなむそれと うつせ見むかし
たもとより はなれてたまを つつまめや これなむそれと うつせみむかし
壬生忠岑物名
1-古今426あなうめに つねなるべくも 見えぬかな 恋しかるべき 香は匂ひつつ
あなうめに つねなるへくも みえぬかな こひしかるへき かはにほひつつ
読人知らず物名
1-古今427かづけども 浪のなかには さぐられで 風吹くごとに 浮き沈む玉
かつけとも なみのなかには さくられて かせふくことに うきしつむたま
紀貫之物名
1-古今428今いくか 春しなければ うぐひすも ものはながめて 思ふべらなり
いまいくか はるしなけれは うくひすも ものはなかめて おもふへらなり
紀貫之物名
1-古今429あふからも ものはなほこそ かなしけれ 別れむことを かねて思へば
あふからも ものはなほこそ かなしけれ わかれむことを かねておもへは
清原深養父物名
1-古今430あしひきの 山たちはなれ 行く雲の 宿りさだめぬ 世にこそありけれ
あしひきの やまたちはなれ ゆくくもの やとりさためぬ よにこそありけれ
小野滋蔭物名
1-古今431み吉野の 吉野の滝に 浮かびいづる 泡をかたまの 消ゆと見つらむ
みよしのの よしののたきに うかひいつる あわをかたまの きゆとみつらむ
紀友則物名
1-古今432秋はきぬ いまやまがきの きりぎりす 夜な夜な鳴かむ 風の寒さに
あきはきぬ いまやまかきの きりきりす よなよななかむ かせのさむさに
読人知らず物名
1-古今433かくばかり あふ日のまれに なる人を いかがつらしと 思はざるべき
かくはかり あふひのまれに なるひとを いかかつらしと おもはさるへき
読人知らず物名
1-古今434人目ゆゑ のちにあふ日の はるけくは 我がつらきにや 思ひなされむ
ひとめゆゑ のちにあふひの はるけくは わかつらきにや おもひなされむ
読人知らず物名
1-古今435散りぬれば のちはあくたに なる花を 思ひ知らずも 惑ふてふかな
ちりぬれは のちはあくたに なるはなを おもひしらすも まとふてふかな
僧正遍昭物名
1-古今436我はけさ うひにぞ見つる 花の色を あだなるものと 言ふべかりけり
われはけさ うひにそみつる はなのいろを あたなるものと いふへかりけり
紀貫之物名
1-古今437白露を 玉にぬくとや ささがにの 花にも葉にも いとをみなへし
しらつゆを たまにぬくやと ささかにの はなにもはにも いとをみなへし
紀友則物名
1-古今438朝露を わけそほちつつ 花見むと 今ぞ野山を みなへしりぬる
あさつゆを わけそほちつつ はなみむと いまそのやまを みなへしりぬる
紀友則物名
1-古今439をぐら山 峰たちならし 鳴く鹿の へにけむ秋を 知る人ぞなき
をくらやま みねたちならし なくしかの へにけむあきを しるひとそなき
紀貫之物名
1-古今440秋ちかう 野はなりにけり 白露の おける草葉も 色かはりゆく
あきちかう のはなりにけり しらつゆの おけるくさはも いろかはりゆく
紀友則物名
1-古今441ふりはへて いざふるさとの 花見むと こしを匂ひぞ うつろひにける
ふりはへて いさふるさとの はなみむと こしをにほひそ うつろひにける
読人知らず物名
1-古今442我が宿の 花ふみしだく とりうたむ 野はなければや ここにしもくる
わかやとの はなふみしたく とりうたむ のはなけれはや ここにしもくる
紀友則物名
1-古今443ありと見て たのむぞかたき 空蝉の 世をばなしとや 思ひなしてむ
ありとみて たのむそかたき うつせみの よをはなしとや おもひなしてむ
読人知らず物名
1-古今444うちつけに こしとや花の 色を見む 置く白露の 染むるばかりを
うちつけに こしとやはなの いろをみむ おくしらつゆの そむるはかりを
矢田部名実物名
1-古今445花の木に あらざらめども 咲きにけり ふりにしこの身 なる時もがな
はなのきに あらさらめとも さきにけり ふりにしこのみ なるときもかな
文屋康秀物名
1-古今446山高み つねに嵐の 吹く里は 匂ひもあへず 花ぞ散りける
やまたかみ つねにあらしの ふくさとは にほひもあへす はなそちりける
紀利貞物名
1-古今447郭公 峰の雲にや まじりにし ありとは聞けど 見るよしもなき
ほとときす みねのくもにや ましりにし ありとはきけと みるよしもなき
平篤行物名
1-古今448空蝉の 殻は木ごとに とどむれど 魂のゆくへを 見ぬぞかなしき
うつせみの からはきことに ととむれと たまのゆくへを みぬそかなしき
読人知らず物名
1-古今449うばたまの 夢になにかは なぐさまむ うつつにだにも あかぬ心を
うはたまの ゆめになにかは なくさまむ うつつにたにも あかぬこころは
清原深養父物名
1-古今450花の色は ただひとさかり 濃けれども 返す返すぞ 露は染めける
はなのいろは たたひとさかり こけれとも かへすかへすそ つゆはそめける
高向利春物名
1-古今451命とて 露をたのむに かたければ ものわびしらに 鳴く野辺の虫
いのちとて つゆをたのむに かたけれは ものわひしらに なくのへのむし
在原滋春物名
1-古今452小夜ふけて なかばたけゆく 久方の 月吹きかへせ 秋の山風
さよふけて なかはたけゆく ひさかたの つきふきかへせ あきのやまかせ
景式王物名
1-古今453煙たち もゆとも見えぬ 草の葉を 誰かわらびと 名づけそめけむ
けふりたち もゆともみえぬ くさのはを たれかわらひと なつけそめけむ
真静法師物名
1-古今454いささめに 時まつまにぞ 日はへぬる 心ばせをば 人に見えつつ
いささめに ときまつまにそ ひはへぬる こころはせをは ひとにみえつつ
紀乳母物名
1-古今455あぢきなし なげきなつめそ うきことに あひくる身をば 捨てぬものから
あちきなし なけきなつめそ うきことに あひくるみをは すてぬものから
兵衛物名
1-古今456浪の音の 今朝からことに 聞こゆるは 春のしらべや あらたまるらむ
なみのおとの けさからことに きこゆるは はるのしらへや あらたまるらむ
安倍清行物名
1-古今457かぢにあたる 浪のしづくを 春なれば いかが咲き散る 花と見ざらむ
かちにあたる なみのしつくを はるなれは いかかさきちる はなとみさらむ
兼覧王物名
1-古今458かの方に いつから先に わたりけむ 浪ぢはあとも 残らざりけり
かのかたに いつからさきに わたりけむ なみちはあとも のこらさりけり
阿保経覧物名
1-古今459浪の花 沖から咲きて 散りくめり 水の春とは 風やなるらむ
なみのはな おきからさきて ちりくめり みつのはるとは かせやなるらむ
伊勢物名
1-古今460うばたまの 我が黒髪や かはるらむ 鏡のかげに 降れる白雪
うはたまの わかくろかみや かはるらむ かかみのかけに ふれるしらゆき
紀貫之物名
1-古今461あしひきの 山辺にをれば 白雲の いかにせよとか 晴るる時なき
あしひきの やまへにをれは しらくもの いかにせよとか はるるときなき
紀貫之物名
1-古今462夏草の 上はしげれる 沼水の 行く方のなき 我が心かな
なつくさの うへはしけれる ぬまみつの ゆくかたのなき わかこころかな
壬生忠岑物名
1-古今463秋くれば 月の桂の 実やはなる 光を花と 散らすばかりを
あきくれは つきのかつらの みやはなる ひかりをはなと ちらすはかりを
源恵物名
1-古今464花ごとに あかず散らしし 風なれば いくそばく我が 憂しとかは思ふ
はなことに あかすちらしし かせなれは いくそはくわか うしとかはおもふ
読人知らず物名
1-古今465春霞 なかしかよひぢ なかりせば 秋くる雁は かへらざらまし
はるかすみ なかしかよひち なかりせは あきくるかりは かへらさらまし
在原滋春物名
1-古今466流れいづる 方だに見えぬ 涙川 おきひむ時や 底は知られむ
なかれいつる かたたにみえぬ なみたかは おきひむときや そこはしられむ
都良香物名
1-古今467のちまきの おくれておふる 苗なれど あだにはならぬ たのみとぞ聞く
のちまきの おくれておふる なへなれと あたにはならぬ たのみとそきく
大江千里物名
1-古今468花の中 目にあくやとて わけゆけば 心ぞともに 散りぬべらなる
はなのなか めにあくやとて わけゆけは こころそともに ちりぬへらなる
僧正聖宝物名
1-古今469郭公 鳴くや五月の あやめ草 あやめも知らぬ 恋もするかな
ほとときす なくやさつきの あやめくさ あやめもしらぬ こひもするかな
読人知らず恋一
1-古今470音にのみ きくの白露 夜はおきて 昼は思ひに あへずけぬべし
おとにのみ きくのしらつゆ よるはおきて ひるはおもひに あへすけぬへし
素性法師恋一
1-古今471吉野川 岩波高く 行く水の 早くぞ人を 思ひそめてし
よしのかは いはなみたかく ゆくみつの はやくそひとを おもひそめてし
紀貫之恋一
1-古今472白浪の あとなき方に 行く舟も 風ぞたよりの しるべなりける
しらなみの あとなきかたに ゆくふねも かせそたよりの しるへなりける
藤原勝臣恋一
1-古今473音羽山 音に聞きつつ あふ坂の 関のこなたに 年をふるかな
おとはやま おとにききつつ あふさかの せきのこなたに としをふるかな
在原元方恋一
1-古今474立ち返り あはれとぞ思ふ よそにても 人に心を 沖つ白浪
たちかへり あはれとそおもふ よそにても ひとにこころを おきつしらなみ
在原元方恋一
1-古今475世の中は かくこそありけれ 吹く風の 目に見ぬ人も 恋しかりけり
よのなかは かくこそありけれ ふくかせの めにみぬひとも こひしかりけり
紀貫之恋一
1-古今476見ずもあらず 見もせぬ人の 恋しくは あやなく今日や ながめくらさむ
みすもあらす みもせぬひとの こひしくは あやなくけふや なかめくらさむ
在原業平恋一
1-古今477知る知らぬ なにかあやなく わきて言はむ 思ひのみこそ しるべなりけれ
しるしらぬ なにかあやなく わきていはむ おもひのみこそ しるへなりけれ
読人知らず恋一
1-古今478春日野の 雪間をわけて おひいでくる 草のはつかに 見えし君はも
かすかのの ゆきまをわけて おひいてくる くさのはつかに みえしきみはも
壬生忠岑恋一
1-古今479山桜 霞の間より ほのかにも 見てし人こそ 恋しかりけれ
やまさくら かすみのまより ほのかにも みてしひとこそ こひしかりけれ
紀貫之恋一
1-古今480たよりにも あらぬ思ひの あやしきは 心を人に つくるなりけり
たよりにも あらぬおもひの あやしきは こころをひとに つくるなりけり
在原元方恋一
1-古今481初雁の はつかに声を 聞きしより 中空にのみ 物を思ふかな
はつかりの はつかにこゑを ききしより なかそらにのみ ものをおもふかな
凡河内躬恒恋一
1-古今482あふことは 雲ゐはるかに なる神の 音に聞きつつ 恋ひ渡るかな
あふことは くもゐはるかに なるかみの おとにききつつ こひわたるかな
紀貫之恋一
1-古今483片糸を こなたかなたに よりかけて あはずはなにを 玉の緒にせむ
かたいとを こなたかなたに よりかけて あはすはなにを たまのをにせむ
読人知らず恋一
1-古今484夕暮れは 雲のはたてに 物ぞ思ふ 天つ空なる 人を恋ふとて
ゆふくれは くものはたてに ものそおもふ あまつそらなる ひとをこふとて
読人知らず恋一
1-古今485かりこもの 思ひ乱れて 我が恋ふと 妹知るらめや 人しつげずは
かりこもの おもひみたれて わかこふと いもしるらめや ひとしつけすは
読人知らず恋一
1-古今486つれもなき 人をやねたく 白露の 置くとはなげき 寝とはしのばむ
つれもなき ひとをやねたく しらつゆの おくとはなけき ぬとはしのはむ
読人知らず恋一
1-古今487ちはやぶる 賀茂のやしろの ゆふだすき ひと日も君を かけぬ日はなし
ちはやふる かものやしろの ゆふたすき ひとひもきみを かけぬひはなし
読人知らず恋一
1-古今488我が恋は むなしき空に 満ちぬらし 思ひやれども 行く方もなし
わかこひは むなしきそらに みちぬらし おもひやれとも ゆくかたもなし
読人知らず恋一
1-古今489駿河なる 田子の浦浪 立たぬ日は あれども君を 恋ひぬ日ぞなき
するかなる たこのうらなみ たたぬひは あれともきみを こひぬひはなし
読人知らず恋一
1-古今490夕月夜 さすやをかべの 松の葉の いつともわかぬ 恋もするかな
ゆふつくよ さすやをかへの まつのはの いつともわかぬ こひもするかな
読人知らず恋一
1-古今491あしひきの 山下水の 木隠れて たぎつ心を せきぞかねつる
あしひきの やましたみつの こかくれて たきつこころを せきそかねつる
読人知らず恋一
1-古今492吉野川 岩切りとほし 行く水の 音にはたてじ 恋は死ぬとも
よしのかは いはきりとほし ゆくみつの おとにはたてし こひはしぬとも
読人知らず恋一
1-古今493たぎつ瀬の なかにも淀は ありてふを など我が恋の 淵瀬ともなき
たきつせの なかにもよとは ありてふを なとわかこひの ふちせともなき
読人知らず恋一
1-古今494山高み 下ゆく水の 下にのみ 流れて恋ひむ 恋は死ぬとも
やまたかみ したゆくみつの したにのみ なかれてこひむ こひはしぬとも
読人知らず恋一
1-古今495思ひいづる ときはの山の 岩つつじ 言はねばこそあれ 恋しきものを
おもひいつる ときはのやまの いはつつし いはねはこそあれ こひしきものを
読人知らず恋一
1-古今496人知れず 思へば苦し 紅の 末摘花の 色にいでなむ
ひとしれす おもへはくるし くれなゐの すゑつむはなの いろにいてなむ
読人知らず恋一
1-古今497秋の野の 尾花にまじり 咲く花の 色にや恋ひむ あふよしをなみ
あきののの をはなにましり さくはなの いろにやこひむ あふよしをなみ
読人知らず恋一
1-古今498我が園の 梅のほつえに うぐひすの 音に鳴きぬべき 恋もするかな
わかそのの うめのほつえに うくひすの ねになきぬへき こひもするかな
読人知らず恋一
1-古今499あしひきの 山郭公 我がごとや 君に恋ひつつ いねがてにする
あしひきの やまほとときす わかことや きみにこひつつ いねかてにする
読人知らず恋一
1-古今500夏なれば 宿にふすぶる かやり火の いつまで我が身 下もえをせむ
なつなれは やとにふすふる かやりひの いつまてわかみ したもえにせむ
読人知らず恋一
1-古今501恋せじと みたらし川に せしみそぎ 神はうけずぞ なりにけらしも
こひせしと みたらしかはに せしみそき かみはうけすそ なりにけらしも
読人知らず恋一
1-古今502あはれてふ ことだになくは なにをかは 恋の乱れの つかねをにせむ
あはれてふ ことたになくは なにをかは こひのみたれの つかねをにせむ
読人知らず恋一
1-古今503思ふには 忍ぶることぞ 負けにける 色にはいでじと 思ひしものを
おもふには しのふることそ まけにける いろにはいてしと おもひしものを
読人知らず恋一
1-古今504我が恋を 人知るらめや しきたへの 枕のみこそ 知らば知るらめ
わかこひを ひとしるらめや しきたへの まくらのみこそ しらはしるらめ
読人知らず恋一
1-古今505あさぢふの 小野のしの原 しのぶとも 人知るらめや 言ふ人なしに
あさちふの をののしのはら しのふとも ひとしるらめや いふひとなしに
読人知らず恋一
1-古今506人知れぬ 思ひやなぞと 葦垣の まぢかけれども あふよしのなき
ひとしれぬ おもひやなそと あしかきの まちかけれとも あふよしのなき
読人知らず恋一
1-古今507思ふとも 恋ふともあはむ ものなれや ゆふてもたゆく とくる下紐
おもふとも こふともあはむ ものなれや ゆふてもたゆく とくるしたひも
読人知らず恋一
1-古今508いで我を 人なとがめそ おほ舟の ゆたのたゆたに 物思ふころぞ
いてわれを ひとなとかめそ おほふねの ゆたのたゆたに ものおもふころそ
読人知らず恋一
1-古今509伊勢の海に 釣りする海人の うけなれや 心ひとつを 定めかねつる
いせのうみに つりするあまの うけなれや こころひとつを ささめかねつる
読人知らず恋一
1-古今510伊勢の海の 海人の釣り縄 うちはへて くるしとのみや 思ひわたらむ
いせのうみの あまのつりなは うちはへて くるしとのみや おもひわたらむ
読人知らず恋一
1-古今511涙川 なに水上を 尋ねけむ 物思ふ時の 我が身なりけり
なみたかは なにみなかみを たつねけむ ものおもふときの わかみなりけり
読人知らず恋一
1-古今512種しあれば 岩にも松は おひにけり 恋をし恋ひば あはざらめやは
たねしあれは いはにもまつは おひにけり こひをしこひは あはさらめやは
読人知らず恋一
1-古今513朝な朝な 立つ河霧の 空にのみ うきて思ひの ある世なりけり
あさなあさな たつかはきりの そらにのみ うきておもひの あるよなりけり
読人知らず恋一
1-古今514忘らるる 時しなければ あしたづの 思ひ乱れて 音をのみぞ鳴く
わすらるる ときしなけれは あしたつの おもひみたれて ねをのみそなく
読人知らず恋一
1-古今515唐衣 日も夕暮れに なる時は 返す返すぞ 人は恋しき
からころも ひもゆふくれに なるときは かへすかへすそ ひとはこひしき
読人知らず恋一
1-古今516よひよひに 枕さだめむ 方もなし いかに寝し夜か 夢に見えけむ
よひよひに まくらさためむ かたもなし いかにねしよか ゆめにみえけむ
読人知らず恋一
1-古今517恋しきに 命をかふる ものならば 死にはやすくぞ あるべかりける
こひしきに いのちをかふる ものならは しにはやすくそ あるへかりける
読人知らず恋一
1-古今518人の身も ならはしものを あはずして いざこころみむ 恋ひや死ぬると
ひとのみも ならはしものを あはすして いさこころみむ こひやしぬると
読人知らず恋一
1-古今519忍ぶれば 苦しきものを 人知れず 思ふてふこと 誰にかたらむ
しのふれは くるしきものを ひとしれす おもふてふこと たれにかたらむ
読人知らず恋一
1-古今520こむ世にも はやなりななむ 目の前に つれなき人を 昔と思はむ
こむよにも はやなりななむ めのまへに つれなきひとを むかしとおもはむ
読人知らず恋一
1-古今521つれもなき 人を恋ふとて 山彦の 答へするまで なげきつるかな
つれもなき ひとをこふとて やまひこの こたへするまて なけきつるかな
読人知らず恋一
1-古今522行く水に 数かくよりも はかなきは 思はぬ人を 思ふなりけり
ゆくみつに かすかくよりも はかなきは おもはぬひとを おもふなりけり
読人知らず恋一
1-古今523人を思ふ 心は我に あらねばや 身の惑ふだに 知られざるらむ
ひとをおもふ こころはわれに あらねはや みのまよふたに しられさるらむ
読人知らず恋一
1-古今524思ひやる さかひはるかに なりやする 惑ふ夢ぢに あふ人のなき
おもひやる さかひはるかに なりやする まとふゆめちに あふひとのなき
読人知らず恋一
1-古今525夢の内に あひ見むことを たのみつつ くらせる宵は 寝む方もなし
ゆめのうちに あひみむことを たのみつつ くらせるよひは ねむかたもなし
読人知らず恋一
1-古今526恋ひ死ねと するわざならし むばたまの 夜はすがらに 夢に見えつつ
こひしねと するわさならし うはたまの よるはすからに ゆめにみえつつ
読人知らず恋一
1-古今527涙川 枕流るる うきねには 夢もさだかに 見えずぞありける
なみたかは まくらなかるる うきねには ゆめもさたかに みえすそありける
読人知らず恋一
1-古今528恋すれば 我が身は影と なりにけり さりとて人に そはぬものゆゑ
こひすれは わかみはかけと なりにけり さりとてひとに そはぬものゆゑ
読人知らず恋一
1-古今529かがり火に あらぬ我が身の なぞもかく 涙の川に 浮きてもゆらむ
かかりひに あらぬわかみの なそもかく なみたのかはに うきてもゆらむ
読人知らず恋一
1-古今530かがり火の 影となる身の わびしきは ながれて下に もゆるなりけり
かかりひの かけとなるみの わひしきは なかれてしたに もゆるなりけり
読人知らず恋一
1-古今531はやき瀬に みるめおひせば 我が袖の 涙の川に 植ゑましものを
はやきせに みるめおひせは わかそての なみたのかはに うゑましものを
読人知らず恋一
1-古今532沖へにも よらぬ玉藻の 浪の上に 乱れてのみや 恋ひ渡りなむ
おきへにも よらぬたまもの なみのうへに みたれてのみや こひわたりなむ
読人知らず恋一
1-古今533葦鴨の 騒ぐ入江の 白浪の 知らずや人を かく恋ひむとは
あしかもの さわくいりえの しらなみの しらすやひとを かくこひむとは
読人知らず恋一
1-古今534人知れぬ 思ひをつねに するがなる 富士の山こそ 我が身なりけれ
ひとしれぬ おもひをつねに するかなる ふしのやまこそ わかみなりけれ
読人知らず恋一
1-古今535とぶ鳥の 声も聞こえぬ 奥山の 深き心を 人は知らなむ
とふとりの こゑもきこえぬ おくやまの ふかきこころを ひとはしらなむ
読人知らず恋一
1-古今536あふ坂の ゆふつけ鳥も 我がごとく 人や恋しき 音のみ鳴くらむ
あふさかの ゆふつけとりも わかことく ひとやこひしき ねのみなくらむ
読人知らず恋一
1-古今537あふ坂の 関に流るる 岩清水 言はで心に 思ひこそすれ
あふさかの せきになかるる いはしみつ いはてこころに おもひこそすれ
読人知らず恋一
1-古今538浮草の 上はしげれる 淵なれや 深き心を 知る人のなき
うきくさの うへはしけれる ふちなれや ふかきこころを しるひとのなき
読人知らず恋一
1-古今539うちわびて よばはむ声に 山彦の 答へぬ山は あらじとぞ思ふ
うちわひて よははむこゑに やまひこの こたへぬやまは あらしとそおもふ
読人知らず恋一
1-古今540心がへ するものにもが 片恋は 苦しきものと 人に知らせむ
こころかへ するものにもか かたこひは くるしきものと ひとにしらせむ
読人知らず恋一
1-古今541よそにして 恋ふれば苦し 入れ紐の 同じ心に いざ結びてむ
よそにして こふれはくるし いれひもの おなしこころに いさむすひてむ
読人知らず恋一
1-古今542春たてば 消ゆる氷の 残りなく 君が心は 我にとけなむ
はるたては きゆるこほりの のこりなく きみかこころは われにとけなむ
読人知らず恋一
1-古今543明けたてば 蝉のをりはへ なきくらし 夜は蛍の もえこそわたれ
あけたては せみのをりはへ なきくらし よるはほたるの もえこそわたれ
読人知らず恋一
1-古今544夏虫の 身をいたづらに なすことも ひとつ思ひに よりてなりけり
なつむしの みをいたつらに なすことも ひとつおもひに よりてなりけり
読人知らず恋一
1-古今545夕されば いとどひがたき 我が袖に 秋の露さへ 置きそはりつつ
ゆふくれは いととひかたき わかそてに あきのつゆさへ おきそはりつつ
読人知らず恋一
1-古今546いつとても 恋しからずは あらねども 秋の夕べは あやしかりけり
いつとても こひしからすは あらねとも あきのゆふへは あやしかりけり
読人知らず恋一
1-古今547秋の田の 穂にこそ人を 恋ひざらめ などか心に 忘れしもせむ
あきのたの ほにこそひとを こひさらめ なとかこころに わすれしもせむ
読人知らず恋一
1-古今548秋の田の 穂の上を照らす 稲妻の 光の間にも 我や忘るる
あきのたの ほのうへをてらす いなつまの ひかりのまにも われやわするる
読人知らず恋一
1-古今549人目もる 我かはあやな 花薄 などか穂にいでて 恋ひずしもあらむ
ひとめもる われかはあやな はなすすき なとかほにいてて こひすしもあらむ
読人知らず恋一
1-古今550淡雪の たまればかてに くだけつつ 我が物思ひの しげきころかな
あはゆきの たまれはかてに くたけつつ わかものおもひの しけきころかな
読人知らず恋一
1-古今551奥山の 菅の根しのぎ 降る雪の けぬとか言はむ 恋のしげきに
おくやまの すかのねしのき ふるゆきの けぬとかいはむ こひのしけきに
読人知らず恋一
1-古今552思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを
おもひつつ ぬれはやひとの みえつらむ ゆめとしりせは さめさらましを
小野小町恋二
1-古今553うたたねに 恋しき人を 見てしより 夢てふものは たのみそめてき
うたたねに こひしきひとを みてしより ゆめてふものは たのみそめてき
小野小町恋二
1-古今554いとせめて 恋しき時は むばたまの 夜の衣を 返してぞきる
いとせめて こひしきときは うはたまの よるのころもを かへしてそきる
小野小町恋二
1-古今555秋風の 身に寒ければ つれもなき 人をぞたのむ 暮るる夜ごとに
あきかせの みにさむけれは つれもなき ひとをそたのむ くるるよことに
素性法師恋二
1-古今556つつめども 袖にたまらぬ 白玉は 人を見ぬ目の 涙なりけり
つつめとも そてにたまらぬ しらたまは ひとをみぬめの なみたなりけり
安倍清行恋二
1-古今557おろかなる 涙ぞ袖に 玉はなす 我はせきあへず たぎつ瀬なれば
おろかなる なみたそそてに たまはなす われはせきあへす たきつせなれは
小野小町恋二
1-古今558恋わびて うちぬるなかに 行きかよふ 夢のただぢは うつつならなむ
こひわひて うちぬるなかに ゆきかよふ ゆめのたたちは うつつならなむ
藤原敏行恋二
1-古今559住の江の 岸による浪 よるさへや 夢のかよひぢ 人目よぐらむ
すみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひち ひとめよくらむ
藤原敏行恋二
1-古今560我が恋は み山隠れの 草なれや しげさまされど 知る人のなき
わかこひは みやまかくれの くさなれや しけさまされと しるひとのなき
小野美材恋二
1-古今561宵の間も はかなく見ゆる 夏虫に 惑ひまされる 恋もするかな
よひのまも はかなくみゆる なつむしに まよひまされる こひもするかな
紀友則恋二
1-古今562夕されば 蛍よりけに もゆれども 光見ねばや 人のつれなき
ゆふされは ほたるよりけに もゆれとも ひかりみねはや ひとのつれなき
紀友則恋二
1-古今563笹の葉に 置く霜よりも ひとり寝る 我が衣手ぞ さえまさりける
ささのはに おくしもよりも ひとりぬる わかころもてそ さえまさりける
紀友則恋二
1-古今564我が宿の 菊の垣根に 置く霜の 消えかへりてぞ 恋しかりける
わかやとの きくのかきねに おくしもの きえかへりてそ こひしかりける
紀友則恋二
1-古今565川の瀬に なびく玉藻の み隠れて 人に知られぬ 恋もするかな
かはのせに なひくたまもの みかくれて ひとにしられぬ こひもするかな
紀友則恋二
1-古今566かきくらし 降る白雪の 下ぎえに 消えて物思ふ ころにもあるかな
かきくらし ふるしらゆきの したきえに きえてものおもふ ころにもあるかな
壬生忠岑恋二
1-古今567君恋ふる 涙の床に 満ちぬれば みをつくしとぞ 我はなりぬる
きみこふる なみたのとこに みちぬれは みをつくしとそ われはなりぬる
藤原興風恋二
1-古今568死ぬる命 生きもやすると こころみに 玉の緒ばかり あはむと言はなむ
しぬるいのち いきもやすると こころみに たまのをはかり あはむといはなむ
藤原興風恋二
1-古今569わびぬれば しひて忘れむと 思へども 夢と言ふものぞ 人だのめなる
わひぬれは しひてわすれむと おもへとも ゆめといふものそ ひとたのめなる
藤原興風恋二
1-古今570わりなくも 寝ても覚めても 恋しきか 心をいづち やらば忘れむ
わりなくも ねてもさめても こひしきか こころをいつち やらはわすれむ
読人知らず恋二
1-古今571恋しきに わびてたましひ 惑ひなば むなしき殻の 名にや残らむ
こひしきに わひてたましひ まよひなは むなしきからの なにやのこらむ
読人知らず恋二
1-古今572君恋ふる 涙しなくは 唐衣 胸のあたりは 色もえなまし
きみこふる なみたしなくは からころも むねのあたりは いろもえなまし
紀貫之恋二
1-古今573世とともに 流れてぞ行く 涙川 冬もこほらぬ みなわなりけり
よとともに なかれてそゆく なみたかは ふゆもこほらぬ みなわなりけり
紀貫之恋二
1-古今574夢ぢにも 露や置くらむ 夜もすがら かよへる袖の ひちてかわかぬ
ゆめちにも つゆやおくらむ よもすから かよへるそての ひちてかわかぬ
紀貫之恋二
1-古今575はかなくて 夢にも人を 見つる夜は あしたの床ぞ 起きうかりける
はかなくて ゆめにもひとを みつるよは あしたのとこそ おきうかりける
素性法師恋二
1-古今576いつはりの 涙なりせば 唐衣 しのびに袖は しぼらざらまし
いつはりの なみたなりせは からころも しのひにそては しほらさらまし
藤原忠房恋二
1-古今577ねになきて ひちにしかども 春雨に 濡れにし袖と とはば答へむ
ねになきて ひちにしかとも はるさめに ぬれにしそてと とははこたへむ
大江千里恋二
1-古今578我がごとく ものやかなしき 郭公 時ぞともなく 夜ただ鳴くらむ
わかことく ものやかなしき ほとときす ときそともなく よたたなくらむ
藤原敏行恋二
1-古今579五月山 梢を高み 郭公 鳴く音空なる 恋もするかな
さつきやま こすゑをたかみ ほとときす なくねそらなる こひもするかな
紀貫之恋二
1-古今580秋霧の 晴るる時なき 心には たちゐの空も 思ほえなくに
あききりの はるるときなき こころには たちゐのそらも おもほえなくに
凡河内躬恒恋二
1-古今581虫のごと 声にたてては なかねども 涙のみこそ 下に流るれ
むしのこと こゑにたてては なかねとも なみたのみこそ したになかるれ
清原深養父恋二
1-古今582秋なれば 山とよむまで 鳴く鹿に 我おとらめや ひとり寝る夜は
あきなれは やまとよむまて なくしかに われおとらめや ひとりぬるよは
読人知らず恋二
1-古今583秋の野に 乱れて咲ける 花の色の ちぐさに物を 思ふころかな
あきののに みたれてさける はなのいろの ちくさにものを おもふころかな
紀貫之恋二
1-古今584ひとりして 物を思へば 秋の夜の 稲葉のそよと 言ふ人のなき
ひとりして ものをおもへは あきのよの いなはのそよと いふひとのなき
凡河内躬恒恋二
1-古今585人を思ふ 心は雁に あらねども 雲ゐにのみも なき渡るかな
ひとをおもふ こころはかりに あらねとも くもゐにのみも なきわたるかな
清原深養父恋二
1-古今586秋風に かきなす琴の 声にさへ はかなく人の 恋しかるらむ
あきかせに かきなすことの こゑにさへ はかなくひとの こひしかるらむ
壬生忠岑恋二
1-古今587まこも刈る 淀の沢水 雨降れば 常よりことに まさる我が恋
まこもかる よとのさはみつ あめふれは つねよりことに まさるわかこひ
紀貫之恋二
1-古今588越えぬ間は 吉野の山の 桜花 人づてにのみ 聞き渡るかな
こえぬまは よしののやまの さくらはな ひとつてにのみ ききわたるかな
紀貫之恋二
1-古今589露ならぬ 心を花に 置きそめて 風吹くごとに 物思ひぞつく
つゆならぬ こころをはなに おきそめて かせふくことに ものおもひそつく
紀貫之恋二
1-古今590我が恋に くらぶの山の 桜花 間なく散るとも 数はまさらじ
わかこひに くらふのやまの さくらはな まなくちるとも かすはまさらし
坂上是則恋二
1-古今591冬川の 上はこほれる 我なれや 下に流れて 恋ひ渡るらむ
ふゆかはの うへはこほれる われなれや したになかれて こひわたるらむ
宗岳大頼恋二
1-古今592たぎつ瀬に 根ざしとどめぬ 浮草の 浮きたる恋も 我はするかな
たきつせに ねさしととめぬ うきくさの うきたるこひも われはするかな
壬生忠岑恋二
1-古今593よひよひに 脱ぎて我が寝る かり衣 かけて思はぬ 時の間もなし
よひよひに ぬきてわかぬる かりころも かけておもはぬ ときのまもなし
紀友則恋二
1-古今594東ぢの 小夜の中山 なかなかに なにしか人を 思ひそめけむ
あつまちの さやのなかやま なかなかに なにしかひとを おもひそめけむ
紀友則恋二
1-古今595しきたへの 枕の下に 海はあれど 人をみるめは おひずぞありける
しきたへの まくらのしたに うみはあれと ひとをみるめは おひすそありける
紀友則恋二
1-古今596年をへて 消えぬ思ひは ありながら 夜の袂は なほこほりけり
としをへて きえぬおもひは ありなから よるのたもとは なほこほりけり
紀友則恋二
1-古今597我が恋は 知らぬ山ぢに あらなくに 惑ふ心ぞ わびしかりける
わかこひは しらぬやまちに あらなくに まよふこころそ わひしかりける
紀貫之恋二
1-古今598紅の ふりいでつつ なく涙には 袂のみこそ 色まさりけれ
くれなゐの ふりいてつつなく なみたには たもとのみこそ いろまさりけれ
紀貫之恋二
1-古今599白玉と 見えし涙も 年ふれば 唐紅に うつろひにけり
しらたまと みえしなみたも としふれは からくれなゐに うつろひにけり
紀貫之恋二
1-古今600夏虫を 何か言ひけむ 心から 我も思ひに もえぬべらなり
なつむしを なにかいひけむ こころから われもおもひに もえぬへらなり
凡河内躬恒恋二
1-古今601風吹けば 峰にわかるる 白雲の 絶えてつれなき 君が心か
かせふけは みねにわかるる しらくもの たえてつれなき きみかこころか
壬生忠岑恋二
1-古今602月影に 我が身をかふる ものならば つれなき人も あはれとや見む
つきかけに わかみをかふる ものならは つれなきひとも あはれとやみむ
壬生忠岑恋二
1-古今603恋ひ死なば たが名はたたじ 世の中の 常なきものと 言ひはなすとも
こひしなは たかなはたたし よのなかの つねなきものと いひはなすとも
清原深養父恋二
1-古今604津の国の 難波の葦の 芽もはるに しげき我が恋 人知るらめや
つのくにの なにはのあしの めもはるに しけきわかこひ ひとしるらめや
紀貫之恋二
1-古今605手もふれで 月日へにける 白真弓 おきふし夜は いこそ寝られね
てもふれて つきひへにける しらまゆみ おきふしよるは いこそねられね
紀貫之恋二
1-古今606人知れぬ 思ひのみこそ わびしけれ 我がなげきをば 我のみぞ知る
ひとしれぬ おもひのみこそ わひしけれ わかなけきをは われのみそしる
紀貫之恋二
1-古今607ことにいでて 言はぬばかりぞ みなせ川 下にかよひて 恋しきものを
ことにいてて いはぬはかりそ みなせかは したにかよひて こひしきものを
紀友則恋二
1-古今608君をのみ 思ひねに寝し 夢なれば 我が心から 見つるなりけり
きみをのみ おもひねにねし ゆめなれは わかこころから みつるなりけり
凡河内躬恒恋二
1-古今609命にも まさりて惜しく あるものは 見はてぬ夢の さむるなりけり
いのちにも まさりてをしく あるものは みはてぬゆめの さむるなりけり
壬生忠岑恋二
1-古今610梓弓 ひけば本末 我が方に よるこそまされ 恋の心は
あつさゆみ ひけはもとすゑ わかかたに よるこそまされ こひのこころは
春道列樹恋二
1-古今611我が恋は ゆくへも知らず はてもなし あふをかぎりと 思ふばかりぞ
わかこひは ゆくへもしらす はてもなし あふをかきりと おもふはかりそ
凡河内躬恒恋二
1-古今612我のみぞ かなしかりける 彦星も あはですぐせる 年しなければ
われのみそ かなしかりける ひこほしも あはてすくせる とししなけれは
凡河内躬恒恋二
1-古今613今ははや 恋ひ死なましを あひ見むと たのめしことぞ 命なりける
いまははや こひしなましを あひみむと たのめしことそ いのちなりける
清原深養父恋二
1-古今614たのめつつ あはで年ふる いつはりに こりぬ心を 人は知らなむ
たのめつつ あはてとしふる いつはりに こりぬこころを ひとはしらなむ
凡河内躬恒恋二
1-古今615命やは なにぞは露の あだものを あふにしかへば 惜しからなくに
いのちやは なにそはつゆの あたものを あふにしかへは をしからなくに
紀友則恋二
1-古今616起きもせず 寝もせで夜を 明かしては 春のものとて ながめくらしつ
おきもせす ねもせてよるを あかしては はるのものとて なかめくらしつ
在原業平恋三
1-古今617つれづれの ながめにまさる 涙川 袖のみ濡れて あふよしもなし
つれつれの なかめにまさる なみたかは そてのみぬれて あふよしもなし
藤原敏行恋三
1-古今618浅みこそ 袖はひつらめ 涙川 身さへ流ると 聞かばたのまむ
あさみこそ そてはひつらめ なみたかは みさへなかると きかはたのまむ
在原業平恋三
1-古今619よるべなみ 身をこそ遠く へだてつれ 心は君が 影となりにき
よるへなみ みをこそとほく へたてつれ こころはきみか かけとなりにき
読人知らず恋三
1-古今620いたづらに 行きてはきぬる ものゆゑに 見まくほしさに いざなはれつつ
いたつらに ゆきてはきぬる ものゆゑに みまくほしさに いさなはれつつ
読人知らず恋三
1-古今621あはぬ夜の 降る白雪と つもりなば 我さへともに けぬべきものを
あはぬよの ふるしらゆきと つもりなは われさへともに けぬへきものを
読人知らず恋三
1-古今622秋の野に 笹わけし朝の 袖よりも あはでこし夜ぞ ひちまさりける
あきののに ささわけしあさの そてよりも あはてこしよそ ひちまさりける
在原業平恋三
1-古今623みるめなき 我が身を浦と 知らねばや かれなで海人の 足たゆくくる
みるめなき わかみをうらと しらねはや かれなてあまの あしたゆくくる
小野小町恋三
1-古今624あはずして 今宵明けなば 春の日の 長くや人を つらしと思はむ
あはすして こよひあけなは はるのひの なかくやひとを つらしとおもはむ
源宗于恋三
1-古今625有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし
ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきはかり うきものはなし
壬生忠岑恋三
1-古今626あふことの なぎさにしよる 浪なれば うらみてのみぞ 立ち返りける
あふことの なきさにしよる なみなれは うらみてのみそ たちかへりける
在原元方恋三
1-古今627かねてより 風に先立つ 浪なれや あふことなきに まだき立つらむ
かねてより かせにさきたつ なみなれや あふことなきに またきたつらむ
読人知らず恋三
1-古今628陸奥に ありと言ふなる 名取川 なき名とりては くるしかりけり
みちのくに ありといふなる なとりかは なきなとりては くるしかりけり
壬生忠岑恋三
1-古今629あやなくて まだきなき名の 竜田川 渡らでやまむ ものならなくに
あやなくて またきなきなの たつたかは わたらてやまむ ものならなくに
御春有輔恋三
1-古今630人はいさ 我はなき名の 惜しければ 昔も今も 知らずとを言はむ
ひとはいさ われはなきなの をしけれは むかしもいまも しらすとをいはむ
在原元方恋三
1-古今631こりずまに またもなき名は 立ちぬべし 人にくからぬ 世にしすまへば
こりすまに またもなきなは たちぬへし ひとにくからぬ よにしすまへは
読人知らず恋三
1-古今632人知れぬ 我がかよひぢの 関守は よひよひごとに うちも寝ななむ
ひとしれぬ わかかよひちの せきもりは よひよひことに うちもねななむ
在原業平恋三
1-古今633しのぶれど 恋しき時は あしひきの 山より月の いでてこそくれ
しのふれと こひしきときは あしひきの やまよりつきの いててこそくれ
紀貫之恋三
1-古今634恋ひ恋ひて まれに今宵ぞ あふ坂の ゆふつけ鳥は 鳴かずもあらなむ
こひこひて まれにこよひそ あふさかの ゆふつけとりは なかすもあらなむ
読人知らず恋三
1-古今635秋の夜も 名のみなりけり あふと言へば ことぞともなく 明けぬるものを
あきのよも なのみなりけり あふといへは ことそともなく あけぬるものを
小野小町恋三
1-古今636長しとも 思ひぞはてぬ 昔より あふ人からの 秋の夜なれば
なかしとも おもひそはてぬ むかしより あふひとからの あきのよなれは
凡河内躬恒恋三
1-古今637しののめの ほがらほがらと 明けゆけば おのがきぬぎぬ なるぞかなしき
しののめの ほからほからと あけゆけは おのかきぬきぬ なるそかなしき
読人知らず恋三
1-古今638明けぬとて いまはの心 つくからに など言ひ知らぬ 思ひそふらむ
あけぬとて いまはのこころ つくからに なといひしらぬ おもひそふらむ
藤原国経恋三
1-古今639明けぬとて かへる道には こきたれて 雨も涙も 降りそほちつつ
あけぬとて かへるみちには こきたれて あめもなみたも ふりそほちつつ
藤原敏行恋三
1-古今640しののめの 別れを惜しみ 我ぞまづ 鳥より先に なきはじめつる
しののめの わかれををしみ われそまつ とりよりさきに なきはしめつる
恋三
1-古今641郭公 夢かうつつか 朝露の おきて別れし 暁の声
ほとときす ゆめかうつつか あさつゆの おきてわかれし あかつきのこゑ
読人知らず恋三
1-古今642玉くしげ あけば君が名 立ちぬべみ 夜深くこしを 人見けむかも
たまくしけ あけはきみかな たちぬへみ よふかくこしを ひとみけむかも
読人知らず恋三
1-古今643今朝はしも おきけむ方も 知らざりつ 思ひいづるぞ 消えてかなしき
けさはしも おきけむかたも しらさりつ おもひいつるそ きえてかなしき
大江千里恋三
1-古今644寝ぬる夜の 夢をはかなみ まどろめば いやはかなにも なりまさるかな
ねぬるよの ゆめをはかなみ まとろめは いやはかなにも なりまさるかな
在原業平恋三
1-古今645君やこし 我や行きけむ 思ほえず 夢かうつつか 寝てかさめてか
きみやこし われやゆきけむ おもほえす ゆめかうつつか ねてかさめてか
読人知らず恋三
1-古今646かきくらす 心の闇に 惑ひにき 夢うつつとは 世人さだめよ
かきくらす こころのやみに まよひにき ゆめうつつとは よひとさためよ
在原業平恋三
1-古今647むばたまの 闇のうつつは さだかなる 夢にいくらも まさらざりけり
うはたまの やみのうつつは さたかなる ゆめにいくらも まさらさりけり
読人知らず恋三
1-古今648小夜ふけて 天の門渡る 月影に あかずも君を あひ見つるかな
さよふけて あまのとわたる つきかけに あかすもきみを あひみつるかな
読人知らず恋三
1-古今649君が名も 我が名も立てじ 難波なる みつとも言ふな あひきとも言はじ
きみかなも わかなもたてし なにはなる みつともいふな あひきともいはし
読人知らず恋三
1-古今650名取川 瀬ぜのむもれ木 あらはれば いかにせむとか あひ見そめけむ
なとりかは せせのうもれき あらはれは いかにせむとか あひみそめけむ
読人知らず恋三
1-古今651吉野川 水の心は はやくとも 滝の音には 立てじとぞ思ふ
よしのかは みつのこころは はやくとも たきのおとには たてしとそおもふ
読人知らず恋三
1-古今652恋しくは したにを思へ 紫の ねずりの衣 色にいづなゆめ
こひしくは したにをおもへ むらさきの ねすりのころも いろにいつなゆめ
読人知らず恋三
1-古今653花薄 穂にいでて恋ひば 名を惜しみ 下ゆふ紐の むすぼほれつつ
はなすすき ほにいててこひは なををしみ したゆふひもの むすほほれつつ
小野春風恋三
1-古今654おもふどち ひとりひとりが 恋ひ死なば 誰によそへて 藤衣着む
おもふとち ひとりひとりか こひしなは たれによそへて ふちころもきむ
読人知らず恋三
1-古今655泣き恋ふる 涙に袖の そほちなば 脱ぎかへがてら 夜こそはきめ
なきこふる なみたにそての そほちなは ぬきかへかてら よるこそはきめ
橘清樹恋三
1-古今656うつつには さもこそあらめ 夢にさへ 人目をもると 見るがわびしさ
うつつには さもこそあらめ ゆめにさへ ひとめをよくと みるかわひしさ
小野小町恋三
1-古今657かぎりなき 思ひのままに 夜も来む 夢ぢをさへに 人はとがめじ
かきりなき おもひのままに よるもこむ ゆめちをさへに ひとはとかめし
小野小町恋三
1-古今658夢ぢには 足も休めず かよへども うつつにひと目 見しごとはあらず
ゆめちには あしもやすめす かよへとも うつつにひとめ みしことはあらす
小野小町恋三
1-古今659思へども 人目つつみの 高ければ 川と見ながら えこそ渡らね
おもへとも ひとめつつみの たかけれは かはとみなから えこそわたらね
読人知らず恋三
1-古今660たぎつ瀬の はやき心を 何しかも 人目つつみの せきとどむらむ
たきつせの はやきこころを なにしかも ひとめつつみの せきととむらむ
読人知らず恋三
1-古今661紅の 色にはいでじ 隠れ沼の 下にかよひて 恋は死ぬとも
くれなゐの いろにはいてし かくれぬの したにかよひて こひはしぬとも
紀友則恋三
1-古今662冬の池に すむにほ鳥の つれもなく そこにかよふと 人に知らすな
ふゆのいけに すむにほとりの つれもなく そこにかよふと ひとにしらすな
凡河内躬恒恋三
1-古今663笹の葉に 置く初霜の 夜を寒み しみはつくとも 色にいでめや
ささのはに おくはつしもの よをさむみ しみはつくとも いろにいてめや
凡河内躬恒恋三
1-古今664山しなの 音羽の山の 音にだに 人の知るべく 我が恋めかも
やましなの おとはのやまの おとにたに ひとのしるへく わかこひめかも
読人知らず恋三
1-古今665みつ潮の 流れひるまを あひがたみ みるめのうらに よるをこそ待て
みつしほの なかれひるまを あひかたみ みるめのうらに よるをこそまて
清原深養父恋三
1-古今666白川の 知らずともいはじ 底清み 流れて世よに すまむと思へば
しらかはの しらすともいはし そこきよみ なかれてよよに すまむとおもへは
平貞文恋三
1-古今667下にのみ 恋ふれば苦し 玉の緒の 絶えて乱れむ 人なとがめそ
したにのみ こふれはくるし たまのをの たえてみたれむ ひとなとかめそ
紀友則恋三
1-古今668我が恋を しのびかねては あしひきの 山橘の 色にいでぬべし
わかこひを しのひかねては あしひきの やまたちはなの いろにいてぬへし
紀友則恋三
1-古今669おほかたは 我が名もみなと こぎいでなむ 世をうみべたに みるめすくなし
おほかたは わかなもみなと こきいてなむ よをうみへたに みるめすくなし
読人知らず恋三
1-古今670枕より また知る人も なき恋を 涙せきあへず もらしつるかな
まくらより またしるひとも なきこひを なみたせきあへす もらしつるかな
平貞文恋三
1-古今671風吹けば 浪うつ岸の 松なれや ねにあらはれて 泣きぬべらなり
かせふけは なみうつきしの まつなれや ねにあらはれて なきぬへらなり
読人知らず恋三
1-古今672池にすむ 名ををし鳥の 水を浅み かくるとすれど あらはれにけり
いけにすむ なををしとりの みつをあさみ かくるとすれと あらはれにけり
読人知らず恋三
1-古今673あふことは 玉の緒ばかり 名の立つは 吉野の川の たぎつ瀬のごと
あふことは たまのをはかり なのたつは よしののかはの たきつせのこと
読人知らず恋三
1-古今674むら鳥の 立ちにし我が名 いまさらに ことなしぶとも しるしあらめや
むらとりの たちにしわかな いまさらに ことなしむとも しるしあらめや
読人知らず恋三
1-古今675君により 我が名は花に 春霞 野にも山にも 立ち満ちにけり
きみにより わかなははなに はるかすみ のにもやまにも たちみちにけり
読人知らず恋三
1-古今676知ると言へば 枕だにせで 寝しものを 塵ならぬ名の 空に立つらむ
しるといへは まくらたにせて ねしものを ちりならぬなの そらにたつらむ
伊勢恋三
1-古今677陸奥の 安積の沼の 花かつみ かつ見る人に 恋ひや渡らむ
みちのくの あさかのぬまの はなかつみ かつみるひとに こひやわたらむ
読人知らず恋四
1-古今678あひ見ずは 恋しきことも なからまし 音にぞ人を 聞くべかりける
あひみすは こひしきことも なからまし おとにそひとを きくへかりける
読人知らず恋四
1-古今679いそのかみ ふるのなか道 なかなかに 見ずは恋しと 思はましやは
いそのかみ ふるのなかみち なかなかに みすはこひしと おもはましやは
紀貫之恋四
1-古今680君と言へば 見まれ見ずまれ 富士の嶺の めづらしげなく もゆる我が恋
きみてへは みまれみすまれ ふしのねの めつらしけなく もゆるわかこひ
藤原忠行恋四
1-古今681夢にだに 見ゆとは見えじ 朝な朝な 我が面影に はづる身なれば
ゆめにたに みゆとはみえし あさなあさな わかおもかけに はつるみなれは
伊勢恋四
1-古今682石間ゆく 水の白浪 立ち返り かくこそは見め あかずもあるかな
いしまゆく みつのしらなみ たちかへり かくこそはみめ あかすもあるかな
読人知らず恋四
1-古今683伊勢の海人の 朝な夕なに かづくてふ みるめに人を あくよしもがな
いせのあまの あさなゆふなに かつくてふ みるめにひとを あくよしもかな
読人知らず恋四
1-古今684春霞 たなびく山の 桜花 見れどもあかぬ 君にもあるかな
はるかすみ たなひくやまの さくらはな みれともあかぬ きみにもあるかな
紀友則恋四
1-古今685心をぞ わりなきものと 思ひぬる 見るものからや 恋しかるべき
こころをそ わりなきものと おもひぬる みるものからや こひしかるへき
清原深養父恋四
1-古今686枯れはてむ のちをば知らで 夏草の 深くも人の 思ほゆるかな
かれはてむ のちをはしらて なつくさの ふかくもひとの おもほゆるかな
凡河内躬恒恋四
1-古今687飛鳥川 淵は瀬になる 世なりとも 思ひそめてむ 人は忘れじ
あすかかは ふちはせになる よなりとも おもひそめてむ ひとはわすれし
読人知らず恋四
1-古今688思ふてふ 言の葉のみや 秋をへて 色もかはらぬ ものにはあるらむ
おもふてふ ことのはのみや あきをへて いろもかはらぬ ものにはあるらむ
読人知らず恋四
1-古今689さむしろに 衣かたしき 今宵もや 我を待つらむ 宇治の橋姫
さむしろに ころもかたしき こよひもや われをまつらむ うちのはしひめ
読人知らず恋四
1-古今690君やこむ 我やゆかむの いさよひに 真木の板戸も ささず寝にけり
きみやこむ われやゆかむの いさよひに まきのいたとも ささすねにけり
読人知らず恋四
1-古今691今こむと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ちいでつるかな
いまこむと いひしはかりに なかつきの ありあけのつきを まちいてつるかな
素性法師恋四
1-古今692月夜よし 夜よしと人に つげやらば こてふににたり 待たずしもあらず
つきよよし よよしとひとに つけやらは こてふににたり またすしもあらす
読人知らず恋四
1-古今693君こずは ねやへもいらじ 濃紫 我がもとゆひに 霜は置くとも
きみこすは ねやへもいらし こむらさき わかもとゆひに しもはおくとも
読人知らず恋四
1-古今694宮城野の もとあらの小萩 露を重み 風を待つごと 君をこそ待て
みやきのの もとあらのこはき つゆをおもみ かせをまつこと きみをこそまて
読人知らず恋四
1-古今695あな恋し 今も見てしか 山がつの かきほにさける 大和撫子
あなこひし いまもみてしか やまかつの かきほにさける やまとなてしこ
読人知らず恋四
1-古今696津の国の なには思はず 山しろの とはにあひ見む ことをのみこそ
つのくにの なにはおもはす やましろの とはにあひみむ ことをのみこそ
読人知らず恋四
1-古今697敷島や 大和にはあらぬ 唐衣 ころもへずして あふよしもがな
しきしまや やまとにはあらぬ からころも ころもへすして あふよしもかな
紀貫之恋四
1-古今698恋しとは たが名づけけむ ことならむ 死ぬとぞただに 言ふべかりける
こひしとは たかなつけけむ ことならむ しぬとそたたに いふへかりける
清原深養父恋四
1-古今699み吉野の 大川のべの 藤波の なみに思はば 我が恋めやは
みよしのの おほかはのへの ふちなみの なみにおもはは わかこひめやは
読人知らず恋四
1-古今700かく恋ひむ ものとは我も 思ひにき 心のうらぞ まさしかりける
かくこひむ ものとはわれも おもひにき こころのうらそ まさしかりける
読人知らず恋四
1-古今701天の原 ふみとどろかし なる神も 思ふなかをば さくるものかは
あまのはら ふみととろかし なるかみも おもふなかをは さくるものかは
読人知らず恋四
1-古今702梓弓 ひき野のつづら 末つひに 我が思ふ人に ことのしげけむ
あつさゆみ ひきののつつら すゑつひに わかおもふひとに ことのしけけむ
読人知らず恋四
1-古今703夏引きの 手引きの糸を くりかへし ことしげくとも 絶えむと思ふな
なつひきの てひきのいとを くりかへし こしとけくとも たえむとおもふな
読人知らず恋四
1-古今704里人の ことは夏野の しげくとも 枯れ行く君に あはざらめやは
さとひとの ことはなつのの しけくとも かれゆくきみに あはさらめやは
読人知らず恋四
1-古今705かずかずに 思ひ思はず とひがたみ 身を知る雨は 降りぞまされる
かすかすに おもひおもはす とひかたみ みをしるあめは ふりそまされる
在原業平恋四
1-古今706おほぬさの ひくてあまたに なりぬれば 思へどえこそ たのまざりけれ
おほぬさの ひくてあまたに なりぬれは おもへとえこそ たのまさりけれ
読人知らず恋四
1-古今707おほぬさと 名にこそたてれ 流れても つひによる瀬は ありてふものを
おほぬさと なにこそたてれ なかれても つひによるせは ありてふものを
在原業平恋四
1-古今708須磨の海人の 塩やく煙 風をいたみ 思はぬ方に たなびきにけり
すまのあまの しほやくけふり かせをいたみ おもはぬかたに たなひきにけり
読人知らず恋四
1-古今709玉かづら はふ木あまたに なりぬれば 絶えぬ心の うれしげもなし
たまかつら はふきあまたに なりぬれは たえぬこころの うれしけもなし
読人知らず恋四
1-古今710たが里に 夜がれをしてか 郭公 ただここにしも 寝たる声する
たかさとに よかれをしてか ほとときす たたここにしも ねたるこゑする
読人知らず恋四
1-古今711いで人は ことのみぞよき 月草の うつし心は 色ことにして
いてひとは ことのみそよき つきくさの うつしこころは いろことにして
読人知らず恋四
1-古今712いつはりの なき世なりせば いかばかり 人の言の葉 うれしからまし
いつはりの なきよなりせは いかはかり ひとのことのは うれしからまし
読人知らず恋四
1-古今713いつはりと 思ふものから 今さらに たがまことをか 我はたのまむ
いつはりと おもふものから いまさらに たかまことをか われはたのまむ
読人知らず恋四
1-古今714秋風に 山の木の葉の うつろへば 人の心も いかがとぞ思ふ
あきかせに やまのこのはの うつろへは ひとのこころも いかかとそおもふ
素性法師恋四
1-古今715蝉の声 聞けばかなしな 夏衣 薄くや人の ならむと思へば
せみのこゑ きけはかなしな なつころも うすくやひとの ならむとおもへは
紀友則恋四
1-古今716空蝉の 世の人ごとの しげければ 忘れぬものの かれぬべらなり
うつせみの よのひとことの しけけれは わすれぬものの かれぬへらなり
読人知らず恋四
1-古今717あかでこそ 思はむなかは 離れなめ そをだにのちの 忘れ形見に
あかてこそ おもはむなかは はなれなめ そをたにのちの わすれかたみに
読人知らず恋四
1-古今718忘れなむと 思ふ心の つくからに ありしよりけに まづぞ恋しき
わすれなむと おもふこころの つくからに ありしよりけに まつそこひしき
読人知らず恋四
1-古今719忘れなむ 我をうらむな 郭公 人の秋には あはむともせず
わすれなむ われをうらむな ほとときす ひとのあきには あはむともせす
読人知らず恋四
1-古今720絶えずゆく 飛鳥の川の よどみなば 心あるとや 人の思はむ
たえすゆく あすかのかはの よとみなは こころあるとや ひとのおもはむ
読人知らず恋四
1-古今721淀川の よどむと人は 見るらめど 流れて深き 心あるものを
よとかはの よとむとひとは みるらめと なかれてふかき こころあるものを
読人知らず恋四
1-古今722そこひなき 淵やは騒ぐ 山川の 浅き瀬にこそ あだ浪はたて
そこひなき ふちやはさわく やまかはの あさきせにこそ あたなみはたて
素性法師恋四
1-古今723紅の 初花染めの 色深く 思ひし心 我忘れめや
くれなゐの はつはなそめの いろふかく おもひしこころ われわすれめや
読人知らず恋四
1-古今724陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れむと思ふ 我ならなくに
みちのくの しのふもちすり たれゆゑに みたれむとおもふ われならなくに
源融恋四
1-古今725思ふより いかにせよとか 秋風に なびくあさぢの 色ことになる
おもふより いかにせよとか あきかせに なひくあさちの いろことになる
読人知らず恋四
1-古今726ちぢの色に うつろふらめど 知らなくに 心し秋の もみぢならねば
ちちのいろに うつろふらめと しらなくに こころしあきの もみちならねは
読人知らず恋四
1-古今727海人の住む 里のしるべに あらなくに うらみむとのみ 人の言ふらむ
あまのすむ さとのしるへに あらなくに うらみむとのみ ひとのいふらむ
小野小町恋四
1-古今728曇り日の 影としなれる 我なれば 目にこそ見えね 身をば離れず
くもりひの かけとしなれる われなれは めにこそみえね みをははなれす
下野雄宗恋四
1-古今729色もなき 心を人に 染めしより うつろはむとは 思ほえなくに
いろもなき こころをひとに そめしより うつろはむとは おもほえなくに
紀貫之恋四
1-古今730めづらしき 人を見むとや しかもせぬ 我が下紐の とけ渡るらむ
めつらしき ひとをみむとや しかもせぬ わかしたひもの とけわたるらむ
読人知らず恋四
1-古今731かげろふの それかあらぬか 春雨の 降る日となれば 袖ぞ濡れぬる
かけろふの それかあらぬか はるさめの ふるひとなれは そてそぬれぬる
読人知らず恋四
1-古今732堀江こぐ 棚なし小舟 こぎかへり 同じ人にや 恋ひ渡りなむ
ほりえこく たななしをふね こきかへり おなしひとにや こひわたりなむ
読人知らず恋四
1-古今733わたつみと 荒れにし床を 今さらに はらはば袖や 泡と浮きなむ
わたつみと あれにしとこを いまさらに はらははそてや あわとうきなむ
伊勢恋四
1-古今734いにしへに なほ立ち返る 心かな 恋しきことに もの忘れせで
いにしへに なほたちかへる こころかな こひしきことに ものわすれせて
紀貫之恋四
1-古今735思ひいでて 恋しき時は 初雁の なきて渡ると 人知るらめや
おもひいてて こひしきときは はつかりの なきてわたると ひとしるらめや
大友黒主恋四
1-古今736たのめこし 言の葉今は かへしてむ 我が身ふるれば 置きどころなし
たのめこし ことのはいまは かへしてむ わかみふるれは おきところなし
藤原因香恋四
1-古今737今はとて かへす言の葉 拾ひおきて おのがものから 形見とや見む
いまはとて かへすことのは ひろひおきて おのかものから かたみとやみむ
源能有恋四
1-古今738玉ぼこの 道はつねにも 惑はなむ 人をとふとも 我かと思はむ
たまほこの みちはつねにも まとはなむ ひとをとふとも われかとおもはむ
藤原因香恋四
1-古今739待てと言はば 寝てもゆかなむ しひて行く 駒のあし折れ 前の棚橋
まてといはは ねてもゆかなむ しひてゆく こまのあしをれ まへのたなはし
読人知らず恋四
1-古今740あふ坂の ゆふつけ鳥に あらばこそ 君がゆききを なくなくも見め
あふさかの ゆふつけとりに あらはこそ きみかゆききを なくなくもみめ
閑院恋四
1-古今741ふるさとに あらぬものから 我がために 人の心の 荒れて見ゆらむ
ふるさとに あらぬものから わかために ひとのこころの あれてみゆらむ
伊勢恋四
1-古今742山がつの かきほにはへる あをつづら 人はくれども ことづてもなし
やまかつの かきほにはへる あをつつら ひとはくれとも ことつてもなし
恋四
1-古今743大空は 恋しき人の 形見かは 物思ふごとに ながめらるらむ
おほそらは こひしきひとの かたみかは ものおもふことに なかめらるらむ
酒井人真恋四
1-古今744あふまでの 形見も我は 何せむに 見ても心の なぐさまなくに
あふまての かたみもわれは なにせむに みてもこころの なくさまなくに
読人知らず恋四
1-古今745あふまでの 形見とてこそ とどめけめ 涙に浮ぶ 藻屑なりけり
あふまての かたみとてこそ ととめけめ なみたにうかふ もくつなりけり
藤原興風恋四
1-古今746形見こそ 今はあたなれ これなくは 忘るる時も あらましものを
かたみこそ いまはあたなれ これなくは わするるときも あらましものを
読人知らず恋四
1-古今747月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ 我が身ひとつは もとの身にして
つきやあらぬ はるやむかしの はるならぬ わかみひとつは もとのみにして
在原業平恋五
1-古今748花薄 我こそ下に 思ひしか 穂にいでて人に 結ばれにけり
はなすすき われこそしたに おもひしか ほにいててひとに むすはれにけり
藤原仲平恋五
1-古今749よそにのみ 聞かましものを 音羽川 渡るとなしに 見なれそめけむ
よそにのみ きかましものを おとはかは わたるとなしに みなれそめけむ
藤原兼輔恋五
1-古今750我がごとく 我を思はむ 人もがな さてもや憂きと 世をこころみむ
わかことく われをおもはむ ひともかな さてもやうきと よをこころみむ
凡河内躬恒恋五
1-古今751久方の 天つ空にも すまなくに 人はよそにぞ 思ふべらなる
ひさかたの あまつそらにも すまなくに ひとはよそにそ おもふへらなる
在原元方恋五
1-古今752見てもまた またも見まくの ほしければ なるるを人は いとふべらなり
みてもまた またもみまくの ほしけれは なるるをひとは いとふへらなり
読人知らず恋五
1-古今753雲もなく なぎたる朝の 我なれや いとはれてのみ 世をばへぬらむ
くももなく なきたるあさの われなれや いとはれてのみ よをはへぬらむ
紀友則恋五
1-古今754花がたみ 目ならぶ人の あまたあれば 忘られぬらむ 数ならぬ身は
はなかたみ めならふひとの あまたあれは わすられぬらむ かすならぬみは
読人知らず恋五
1-古今755うきめのみ おひて流るる 浦なれば かりにのみこそ 海人は寄るらめ
うきめのみ おひてなかるる うらなれは かりにのみこそ あまはよるらめ
読人知らず恋五
1-古今756あひにあひて 物思ふころの 我が袖に 宿る月さへ 濡るるかほなる
あひにあひて ものおもふころの わかそてに やとるつきさへ ぬるるかほなる
伊勢恋五
1-古今757秋ならで 置く白露は 寝ざめする 我が手枕の しづくなりけり
あきならて おくしらつゆは ねさめする わかたまくらの しつくなりけり
読人知らず恋五
1-古今758須磨の海人の 塩やき衣 をさをあらみ まどほにあれや 君がきまさぬ
すまのあまの しほやきころも をさをあらみ まとほにあれや きみかきまさぬ
読人知らず恋五
1-古今759山しろの 淀のわかごも かりにだに 来ぬ人たのむ 我ぞはかなき
やましろの よとのわかこも かりにたに こぬひとたのむ われそはかなき
読人知らず恋五
1-古今760あひ見ねば 恋こそまされ みなせ川 何に深めて 思ひそめけむ
あひみねは こひこそまされ みなせかは なににふかめて おもひそめけむ
読人知らず恋五
1-古今761暁の しぎの羽がき ももはがき 君が来ぬ夜は 我ぞ数かく
あかつきの しきのはねかき ももはかき きみかこぬよは われそかすかく
読人知らず恋五
1-古今762玉かづら 今は絶ゆとや 吹く風の 音にも人の 聞こえざるらむ
たまかつら いまはたゆとや ふくかせの おとにもひとの きこえさるらむ
読人知らず恋五
1-古今763我が袖に まだき時雨の 降りぬるは 君が心に 秋や来ぬらむ
わかそてに またきしくれの ふりぬるは きみかこころに あきやきぬらむ
読人知らず恋五
1-古今764山の井の 浅き心も 思はぬに 影ばかりのみ 人の見ゆらむ
やまのゐの あさきこころも おもはぬに かけはかりのみ ひとのみゆらむ
読人知らず恋五
1-古今765忘れ草 種とらましを あふことの いとかくかたき ものと知りせば
わすれくさ たねとらましを あふことの いとかくかたき ものとしりせは
読人知らず恋五
1-古今766恋ふれども あふ夜のなきは 忘れ草 夢ぢにさへや おひしげるらむ
こふれとも あふよのなきは わすれくさ ゆめちにさへや おひしけるらむ
読人知らず恋五
1-古今767夢にだに あふことかたく なりゆくは 我やいを寝ぬ 人や忘るる
ゆめにたに あふことかたく なりゆくは われやいをねぬ ひとやわするる
読人知らず恋五
1-古今768もろこしも 夢に見しかば 近かりき 思はぬなかぞ はるけかりける
もろこしも ゆめにみしかは ちかかりき おもはぬなかそ はるけかりける
兼芸法師恋五
1-古今769ひとりのみ ながめふるやの つまなれば 人をしのぶの 草ぞおひける
ひとりのみ なかめふるやの つまなれは ひとをしのふの くさそおひける
貞登恋五
1-古今770我が宿は 道もなきまで 荒れにけり つれなき人を 待つとせしまに
わかやとは みちもなきまて あれにけり つれなきひとを まつとせしまに
僧正遍昭恋五
1-古今771今こむと 言ひて別れし あしたより 思ひくらしの 音をのみぞ鳴く
いまこむと いひてわかれし あしたより おもひくらしの ねをのみそなく
僧正遍昭恋五
1-古今772こめやとは 思ふものから ひぐらしの 鳴く夕暮れは 立ち待たれつつ
こめやとは おもふものから ひくらしの なくゆふくれは たちまたれつつ
読人知らず恋五
1-古今773今しはと わびにしものを ささがにの 衣にかかり 我をたのむる
いましはと わひにしものを ささかにの ころもにかかり われをたのむる
読人知らず恋五
1-古今774今はこじと 思ふものから 忘れつつ 待たるることの まだもやまぬか
いまはこしと おもふものから わすれつつ またるることの またもやまぬか
読人知らず恋五
1-古今775月夜には 来ぬ人待たる かきくもり 雨も降らなむ わびつつも寝む
つきよには こぬひとまたる かきくもり あめもふらなむ わひつつもねむ
読人知らず恋五
1-古今776植ゑていにし 秋田刈るまで 見え来ねば 今朝初雁の 音にぞなきぬる
うゑていにし あきたかるまて みえこねは けさはつかりの ねにそなきぬる
読人知らず恋五
1-古今777来ぬ人を 待つ夕暮れの 秋風は いかに吹けばか わびしかるらむ
こぬひとを まつゆふくれの あきかせは いかにふけはか わひしかるらむ
読人知らず恋五
1-古今778久しくも なりにけるかな 住の江の 松は苦しき ものにぞありける
ひさしくも なりにけるかな すみのえの まつはくるしき ものにそありける
読人知らず恋五
1-古今779住の江の 松ほどひさに なりぬれば あしたづの音に なかぬ日はなし
すみのえの まつほとひさに なりぬれは あしたつのねに なかぬひはなし
兼覧王恋五
1-古今780三輪の山 いかに待ち見む 年ふとも たづぬる人も あらじと思へば
みわのやま いかにまちみむ としふとも たつぬるひとも あらしとおもへは
伊勢恋五
1-古今781吹きまよふ 野風を寒み 秋萩の うつりもゆくか 人の心の
ふきまよふ のかせをさむみ あきはきの うつりもゆくか ひとのこころの
雲林院親王恋五
1-古今782今はとて 我が身時雨に ふりぬれば 言の葉さへに うつろひにけり
いまはとて わかみしくれに ふりぬれは ことのはさへに うつろひにけり
小野小町恋五
1-古今783人を思ふ 心の木の葉に あらばこそ 風のまにまに 散りも乱れめ
ひとをおもふ こころのこのはに あらはこそ かせのまにまに ちりもみたれめ
小野貞樹恋五
1-古今784天雲の よそにも人の なりゆくか さすがに目には 見ゆるものから
あまくもの よそにもひとの なりゆくか さすかにめには みゆるものから
紀有常女恋五
1-古今785行きかへり 空にのみして ふることは 我がゐる山の 風はやみなり
ゆきかへり そらにのみして ふることは わかゐるやまの かせはやみなり
在原業平恋五
1-古今786唐衣 なれば身にこそ まつはれめ かけてのみやは 恋ひむと思ひし
からころも なれはみにこそ まつはれめ かけてのみやは こひむとおもひし
景式王恋五
1-古今787秋風は 身をわけてしも 吹かなくに 人の心の 空になるらむ
あきかせは みをわけてしも ふかなくに ひとのこころの そらになるらむ
紀友則恋五
1-古今788つれもなく なりゆく人の 言の葉ぞ 秋より先の もみぢなりける
つれもなく なりゆくひとの ことのはそ あきよりさきの もみちなりける
源宗于恋五
1-古今789死出の山 麓を見てぞ かへりにし つらき人より まづ越えじとて
してのやま ふもとをみてそ かへりにし つらきひとより まつこえしとて
兵衛恋五
1-古今790時すぎて 枯れゆく小野の あさぢには 今は思ひぞ 絶えずもえける
ときすきて かれゆくをのの あさちには いまはおもひそ たえすもえける
小野小町姉恋五
1-古今791冬枯れの 野辺と我が身を 思ひせば もえても春を 待たましものを
ふゆかれの のへとわかみを おもひせは もえてもはるを またましものを
伊勢恋五
1-古今792水の泡の 消えてうき身と 言ひながら 流れてなほも たのまるるかな
みつのあわの きえてうきみと いひなから なかれてなほも たのまるるかな
紀友則恋五
1-古今793みなせ川 ありて行く水 なくはこそ つひに我が身を 絶えぬと思はめ
みなせかは ありてゆくみつ なくはこそ つひにわかみを たえぬとおもはめ
読人知らず恋五
1-古今794吉野川 よしや人こそ つらからめ はやく言ひてし ことは忘れじ
よしのかは よしやひとこそ つらからめ はやくいひてし ことはわすれし
凡河内躬恒恋五
1-古今795世の中の 人の心は 花染めの うつろひやすき 色にぞありける
よのなかの ひとのこころは はなそめの うつろひやすき いろにそありける
読人知らず恋五
1-古今796心こそ うたてにくけれ 染めざらば うつろふことも 惜しからましや
こころこそ うたてにくけれ そめさらは うつろふことも をしからましや
読人知らず恋五
1-古今797色見えで うつろふものは 世の中の 人の心の 花にぞありける
いろみえて うつろふものは よのなかの ひとのこころの はなにそありける
小野小町恋五
1-古今798我のみや 世をうぐひすと なきわびむ 人の心の 花と散りなば
われのみや よをうくひすと なきわひむ ひとのこころの はなとちりなは
読人知らず恋五
1-古今799思ふとも かれなむ人を いかがせむ あかず散りぬる 花とこそ見め
おもふとも かれなむひとを いかかせむ あかすちりぬる はなとこそみめ
素性法師恋五
1-古今800今はとて 君がかれなば 我が宿の 花をばひとり 見てやしのばむ
いまはとて きみかかれなは わかやとの はなをはひとり みてやしのはむ
読人知らず恋五
1-古今801忘れ草 枯れもやすると つれもなき 人の心に 霜は置かなむ
わすれくさ かれもやすると つれもなき ひとのこころに しもはおかなむ
源宗于恋五
1-古今802忘れ草 何をか種と 思ひしは つれなき人の 心なりけり
わすれくさ なにをかたねと おもひしは つれなきひとの こころなりけり
素性法師恋五
1-古今803秋の田の いねてふことも かけなくに 何を憂しとか 人のかるらむ
あきのたの いねてふことも かけなくに なにをうしとか ひとのかるらむ
兼芸法師恋五
1-古今804初雁の 鳴きこそ渡れ 世の中の 人の心の 秋し憂ければ
はつかりの なきこそわたれ よのなかの ひとのこころの あきしうけれは
紀貫之恋五
1-古今805あはれとも 憂しとも物を 思ふ時 などか涙の いとなかるらむ
あはれとも うしともものを おもふとき なにかなみたの いとなかるらむ
読人知らず恋五
1-古今806身を憂しと 思ふに消えぬ ものなれば かくてもへぬる 世にこそありけれ
みをうしと おもふにきえぬ ものなれは かくてもへぬる よにこそありけれ
読人知らず恋五
1-古今807海人の刈る 藻にすむ虫の 我からと ねをこそなかめ 世をばうらみじ
あまのかる もにすむむしの われからと ねをこそなかめ よをはうらみし
藤原直子恋五
1-古今808あひ見ぬも 憂きも我が身の 唐衣 思ひ知らずも とくる紐かな
あひみぬも うきもわかみの からころも おもひしらすも とくるひもかな
因幡恋五
1-古今809つれなきを 今は恋ひじと 思へども 心弱くも 落つる涙か
つれなきを いまはこひしと おもへとも こころよわくも おつるなみたか
菅野忠臣恋五
1-古今810人知れず 絶えなましかば わびつつも なき名ぞとだに 言はましものを
ひとしれす たえなましかは わひつつも なきなそとたに いはましものを
伊勢恋五
1-古今811それをだに 思ふこととて 我が宿を 見きとな言ひそ 人の聞かくに
それをたに おもふこととて わかやとを みきとないひそ ひとのきかくに
読人知らず恋五
1-古今812あふことの もはら絶えぬる 時にこそ 人の恋しき ことも知りけれ
あふことの もはらたえぬる ときにこそ ひとのこひしき こともしりけれ
読人知らず恋五
1-古今813わびはつる 時さへものの かなしきは いづこをしのぶ 涙なるらむ
わひはつる ときさへものの かなしきは いつこをしのふ なみたなるらむ
読人知らず恋五
1-古今814うらみても 泣きても言はむ 方ぞなき 鏡に見ゆる 影ならずして
うらみても なきてもいはむ かたそなき かかみにみゆる かけならすして
藤原興風恋五
1-古今815夕されば 人なき床を うちはらひ なげかむためと なれる我が身か
ゆふされは ひとなきとこを うちはらひ なけかむためと なれるわかみか
読人知らず恋五
1-古今816わたつみの 我が身こす浪 立ち返り 海人の住むてふ うらみつるかな
わたつみの わかみこすなみ たちかへり あまのすむてふ うらみつるかな
読人知らず恋五
1-古今817あらを田を あらすきかへし かへしても 人の心を 見てこそやまめ
あらをたを あらすきかへし かへしても ひとのこころを みてこそやまめ
読人知らず恋五
1-古今818ありそ海の 浜の真砂と たのめしは 忘るることの 数にぞありける
ありそうみの はまのまさこと たのめしは わするることの かすにそありける
読人知らず恋五
1-古今819葦辺より 雲ゐをさして 行く雁の いや遠ざかる 我が身かなしも
あしへより くもゐをさして ゆくかりの いやとほさかる わかみかなしも
読人知らず恋五
1-古今820時雨つつ もみづるよりも 言の葉の 心の秋に あふぞわびしき
しくれつつ もみつるよりも ことのはの こころのあきに あふそわひしき
読人知らず恋五
1-古今821秋風の 吹きと吹きぬる 武蔵野は なべて草葉の 色かはりけり
あきかせの ふきとふきぬる むさしのは なへてくさはの いろかはりけり
読人知らず恋五
1-古今822秋風に あふたのみこそ かなしけれ 我が身むなしく なりぬと思へば
あきかせに あふたのみこそ かなしけれ わかみむなしく なりぬとおもへは
小野小町恋五
1-古今823秋風の 吹き裏返す くずの葉の うらみてもなほ うらめしきかな
あきかせの ふきうらかへす くすのはの うらみてもなほ うらめしきかな
平貞文恋五
1-古今824秋と言へば よそにぞ聞きし あだ人の 我をふるせる 名にこそありけれ
あきといへは よそにそききし あたひとの われをふるせる なにこそありけれ
読人知らず恋五
1-古今825忘らるる 身を宇治橋の なか絶えて 人もかよはぬ 年ぞへにける
わすらるる みをうちはしの なかたえて ひともかよはぬ としそへにける
読人知らず恋五
1-古今826あふことを 長柄の橋の ながらへて 恋ひ渡る間に 年ぞへにける
あふことを なからのはしの なからへて こひわたるまに としそへにける
坂上是則恋五
1-古今827浮きながら けぬる泡とも なりななむ 流れてとだに たのまれぬ身は
うきなから けぬるあわとも なりななむ なかれてとたに たのまれぬみは
紀友則恋五
1-古今828流れては 妹背の山の なかに落つる 吉野の川の よしや世の中
なかれては いもせのやまの なかにおつる よしののかはの よしやよのなか
読人知らず恋五
1-古今829泣く涙 雨と降らなむ わたり川 水まさりなば かへりくるがに
なくなみた あめとふらなむ わたりかは みつまさりなは かへりくるかに
小野篁哀傷
1-古今830血の涙 落ちてぞたぎつ 白川は 君が世までの 名にこそありけれ
ちのなみた おちてそたきつ しらかはは きみかよまての なにこそありけれ
素性法師哀傷
1-古今831空蝉は 殻を見つつも なぐさめつ 深草の山 煙だにたて
うつせみは からをみつつも なくさめつ ふかくさのやま けふりたにたて
僧都勝延哀傷
1-古今832深草の 野辺の桜し 心あらば 今年ばかりは 墨染めに咲け
ふかくさの のへのさくらし こころあらは ことしはかりは すみそめにさけ
上野岑雄哀傷
1-古今833寝ても見ゆ 寝でも見えけり おほかたは 空蝉の世ぞ 夢にはありける
ねてもみゆ ねてもみえけり おほかたは うつせみのよそ ゆめにはありける
紀友則哀傷
1-古今834夢とこそ 言ふべかりけれ 世の中に うつつあるものと 思ひけるかな
ゆめとこそ いふへかりけれ よのなかに うつつあるものと おもひけるかな
紀貫之哀傷
1-古今835寝るが内に 見るをのみやは 夢と言はむ はかなき世をも うつつとは見ず
ぬるかうちに みるをのみやは ゆめといはむ はかなきよをも うつつとはみす
壬生忠岑哀傷
1-古今836瀬をせけば 淵となりても 淀みけり 別れを止むる しがらみぞなき
せをせけは ふちとなりても よとみけり わかれをとむる しからみそなき
壬生忠岑哀傷
1-古今837先立たぬ くいのやちたび かなしきは 流るる水の かへり来ぬなり
さきたたぬ くいのやちたひ かなしきは なかるるみつの かへりこぬなり
閑院哀傷
1-古今838明日知らぬ 我が身と思へど 暮れぬ間の 今日は人こそ かなしかりけれ
あすしらぬ わかみとおもへと くれぬまの けふはひとこそ かなしかりけれ
紀貫之哀傷
1-古今839時しもあれ 秋やは人の 別るべき あるを見るだに 恋しきものを
ときしもあれ あきやはひとの わかるへき あるをみるたに こひしきものを
壬生忠岑哀傷
1-古今840神無月 時雨に濡るる もみぢ葉は ただわび人の 袂なりけり
かみなつき しくれにぬるる もみちはは たたわひひとの たもとなりけり
凡河内躬恒哀傷
1-古今841藤衣 はつるる糸は わび人の 涙の玉の 緒とぞなりける
ふちころも はつるるいとは わひひとの なみたのたまの をとそなりける
壬生忠岑哀傷
1-古今842朝露の おくての山田 かりそめに うき世の中を 思ひぬるかな
あさつゆの おくてのやまた かりそめに うきよのなかを おもひぬるかな
紀貫之哀傷
1-古今843墨染めの 君が袂は 雲なれや 絶えず涙の 雨とのみ降る
すみそめの きみかたもとは くもなれや たえすなみたの あめとのみふる
壬生忠岑哀傷
1-古今844あしひきの 山辺に今は 墨染めの 衣の袖は ひる時もなし
あしひきの やまへにいまは すみそめの ころものそての ひるときもなし
読人知らず哀傷
1-古今845水の面に しづく花の色 さやかにも 君が御影の 思ほゆるかな
みつのおもに しつくはなのいろ さやかにも きみかみかけの おもほゆるかな
小野篁哀傷
1-古今846草深き 霞の谷に かげ隠し 照る日の暮れし 今日にやはあらぬ
くさふかき かすみのたにに かけかくし てるひのくれし けふにやはあらぬ
文屋康秀哀傷
1-古今847みな人は 花の衣に なりぬなり 苔の袂よ 乾きだにせよ
みなひとは はなのころもに なりぬなり こけのたもとよ かわきたにせよ
僧正遍昭哀傷
1-古今848うちつけに さびしくもあるか もみぢ葉も 主なき宿は 色なかりけり
うちつけに さひしくもあるか もみちはも ぬしなきやとは いろなかりけり
源能有哀傷
1-古今849郭公 今朝鳴く声に おどろけば 君に別れし 時にぞありける
ほとときす けさなくこゑに おとろけは きみにわかれし ときにそありける
紀貫之哀傷
1-古今850花よりも 人こそあだに なりにけれ いづれを先に 恋ひむとか見し
はなよりも ひとこそあたに なりにけれ いつれをさきに こひむとかみし
紀茂行哀傷
1-古今851色も香も 昔の濃さに 匂へども 植ゑけむ人の 影ぞ恋しき
いろもかも むかしのこさに にほへとも うゑけむひとの かけそこひしき
紀貫之哀傷
1-古今852君まさで 煙絶えにし 塩釜の うらさびしくも 見え渡るかな
きみまさて けふりたえにし しほかまの うらさひしくも みえわたるかな
紀貫之哀傷
1-古今853君が植ゑし ひとむら薄 虫の音の しげき野辺とも なりにけるかな
きみかうゑし ひとむらすすき むしのねの しけきのへとも なりにけるかな
御春有輔哀傷
1-古今854ことならば 言の葉さへも 消えななむ 見れば涙の 滝まさりけり
ことならは ことのはさへも きえななむ みれはなみたの たきまさりけり
紀友則哀傷
1-古今855なき人の 宿にかよはば 郭公 かけて音にのみ なくとつげなむ
なきひとの やとにかよはは ほとときす かけてねにのみ なくとつけなむ
読人知らず哀傷
1-古今856誰見よと 花咲けるらむ 白雲の たつ野とはやく なりにしものを
たれみよと はなさけるらむ しらくもの たつのとはやく なりにしものを
読人知らず哀傷
1-古今857かずかずに 我を忘れぬ ものならば 山の霞を あはれとは見よ
かすかすに われをわすれぬ ものならは やまのかすみを あはれとはみよ
読人知らず哀傷
1-古今858声をだに 聞かで別るる たまよりも なき床に寝む 君ぞかなしき
こゑをたに きかてわかるる たまよりも なきとこにねむ きみそかなしき
読人知らず哀傷
1-古今859もみぢ葉を 風にまかせて 見るよりも はかなきものは 命なりけり
もみちはを かせにまかせて みるよりも はかなきものは いのちなりけり
大江千里哀傷
1-古今860露をなど あだなるものと 思ひけむ 我が身も草に 置かぬばかりを
つゆをなと あたなるものと おもひけむ わかみもくさに おかぬはかりを
藤原惟幹哀傷
1-古今861つひにゆく 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは 思はざりしを
つひにゆく みちとはかねて ききしかと きのふけふとは おもはさりしを
在原業平哀傷
1-古今862かりそめの 行きかひぢとぞ 思ひこし 今はかぎりの 門出なりけり
かりそめの ゆきかひちとそ おもひこし いまはかきりの かとてなりけり
在原滋春哀傷
1-古今863我が上に 露ぞ置くなる 天の河 と渡る舟の 櫂のしづくか
わかうへに つゆそおくなる あまのかは とわたるふねの かいのしつくか
読人知らず雑上
1-古今864おもふどち まとゐせる夜は 唐錦 たたまく惜しき ものにぞありける
おもふとち まとゐせるよは からにしき たたまくをしき ものにそありける
読人知らず雑上
1-古今865うれしきを 何につつまむ 唐衣 袂ゆたかに たてと言はましを
うれしきを なににつつまむ からころも たもとゆたかに たてといはましを
読人知らず雑上
1-古今866かぎりなき 君がためにと 折る花は 時しもわかぬ ものにぞありける
かきりなき きみかためにと をるはなは ときしもわかぬ ものにそありける
読人知らず雑上
1-古今867紫の ひともとゆゑに 武蔵野の 草はみながら あはれとぞ見る
むらさきの ひともとゆゑに むさしのの くさはみなから あはれとそみる
読人知らず雑上
1-古今868紫の 色濃き時は めもはるに 野なる草木ぞ 別れざりける
むらさきの いろこきときは めもはるに のなるくさきそ わかれさりける
在原業平雑上
1-古今869色なしと 人や見るらむ 昔より 深き心に 染めてしものを
いろなしと ひとやみるらむ むかしより ふかきこころに そめてしものを
源能有雑上
1-古今870日の光 藪しわかねば いそのかみ ふりにし里に 花も咲きけり
ひのひかり やふしわかねは いそのかみ ふりにしさとに はなもさきけり
布留今道雑上
1-古今871大原や をしほの山も 今日こそは 神世のことも 思ひいづらめ
おほはらや をしほのやまも けふこそは かみよのことも おもひいつらめ
在原業平雑上
1-古今872天つ風 雲のかよひぢ 吹きとぢよ 乙女の姿 しばしとどめむ
あまつかせ くものかよひち ふきとちよ をとめのすかた しはしととめむ
良岑宗貞雑上
1-古今873主や誰 問へど白玉 言はなくに さらばなべてや あはれと思はむ
ぬしやたれ とへとしらたま いはなくに さらはなへてや あはれとおもはむ
源融雑上
1-古今874玉だれの こがめやいづら こよろぎの 磯の浪わけ 沖にいでにけり
たまたれの こかめやいつら こよろきの いそのなみわけ おきにいてにけり
藤原敏行雑上
1-古今875かたちこそ み山隠れの 朽ち木なれ 心は花に なさばなりなむ
かたちこそ みやまかくれの くちきなれ こころははなに なさはなりなむ
兼芸法師雑上
1-古今876蝉の羽の 夜の衣は 薄けれど 移り香濃くも 匂ひぬるかな
せみのはの よるのころもは うすけれと うつりかこくも にほひぬるかな
紀友則雑上
1-古今877遅くいづる 月にもあるかな あしひきの 山のあなたも 惜しむべらなり
おそくいつる つきにもあるかな あしひきの やまのあなたも をしむへらなり
読人知らず雑上
1-古今878我が心 なぐさめかねつ 更級や をばすて山に 照る月を見て
わかこころ なくさめかねつ さらしなや をはすてやまに てるつきをみて
読人知らず雑上
1-古今879おほかたは 月をもめでじ これぞこの つもれば人の 老いとなるもの
おほかたは つきをもめてし これそこの つもれはひとの おいとなるもの
在原業平雑上
1-古今880かつ見れば うとくもあるかな 月影の いたらぬ里も あらじと思へば
かつみれと うとくもあるかな つきかけの いたらぬさとも あらしとおもへは
紀貫之雑上
1-古今881ふたつなき ものと思ひしを 水底に 山の端ならで いづる月影
ふたつなき ものとおもひしを みなそこに やまのはならて いつるつきかけ
紀貫之雑上
1-古今882天の河 雲のみをにて はやければ 光とどめず 月ぞ流るる
あまのかは くものみをにて はやけれは ひかりととめす つきそなかるる
読人知らず雑上
1-古今883あかずして 月の隠るる 山もとは あなたおもてぞ 恋しかりける
あかすして つきのかくるる やまもとは あなたおもてそ こひしかりける
読人知らず雑上
1-古今884あかなくに まだきも月の 隠るるか 山の端逃げて 入れずもあらなむ
あかなくに またきもつきの かくるるか やまのはにけて いれすもあらなむ
在原業平雑上
1-古今885大空を 照りゆく月し 清ければ 雲隠せども 光けなくに
おほそらを てりゆくつきし きよけれは くもかくせとも ひかりけなくに
尼敬信雑上
1-古今886いそのかみ ふるから小野の もとかしは もとの心は 忘られなくに
いそのかみ ふるからをのの もとかしは もとのこころは わすられなくに
読人知らず雑上
1-古今887いにしへの 野中の清水 ぬるけれど もとの心を 知る人ぞくむ
いにしへの のなかのしみつ ぬるけれと もとのこころを しるひとそくむ
読人知らず雑上
1-古今888いにしへの しづのをだまき いやしきも よきもさかりは ありしものなり
いにしへの しつのをたまき いやしきも よきもさかりは ありしものなり
読人知らず雑上
1-古今889今こそあれ 我も昔は 男山 さかゆく時も ありこしものを
いまこそあれ われもむかしは をとこやま さかゆくときも ありこしものを
読人知らず雑上
1-古今890世の中に ふりぬるものは 津の国の 長柄の橋と 我となりけり
よのなかに ふりぬるものは つのくにの なからのはしと われとなりけり
読人知らず雑上
1-古今891笹の葉に 降りつむ雪の うれを重み もとくだちゆく 我がさかりはも
ささのはに ふりつむゆきの うれをおもみ もとくたちゆく わかさかりはも
読人知らず雑上
1-古今892大荒木の もりの下草 おいぬれば 駒もすさめず かる人もなし
おほあらきの もりのしたくさ おいぬれは こまもすさへす かるひともなし
読人知らず雑上
1-古今893かぞふれば とまらぬものを 年といひて 今年はいたく 老いぞしにける
かそふれは とまらぬものを としといひて ことしはいたく おいそしにける
読人知らず雑上
1-古今894おしてるや 難波の水に 焼く塩の からくも我は 老いにけるかな
おしてるや なにはのみつに やくしほの からくもわれは おいにけるかな
読人知らず雑上
1-古今895老いらくの 来むと知りせば 門さして なしと答へて あはざらましを
おいらくの こむとしりせは かとさして なしとこたへて あはさらましを
読人知らず雑上
1-古今896さかさまに 年もゆかなむ とりもあへず すぐる齢や ともにかへると
さかさまに としもゆかなむ とりもあへす すくるよはひや ともにかへると
読人知らず雑上
1-古今897とりとむる ものにしあらねば 年月を あはれあなうと すぐしつるかな
とりとむる ものにしあらねは としつきを あはれあなうと すくしつるかな
読人知らず雑上
1-古今898とどめあへず むべも年とは いはれけり しかもつれなく すぐる齢か
ととめあへす うへもとしとは いはれけり しかもつれなく すくるよはひか
読人知らず雑上
1-古今899鏡山 いざ立ち寄りて 見てゆかむ 年へぬる身は 老いやしぬると
かかみやま いさたちよりて みてゆかむ としへぬるみは おいやしぬると
読人知らず雑上
1-古今900老いぬれば さらぬ別れも ありと言へば いよいよ見まく ほしき君かな
おいぬれは さらぬわかれも ありといへは いよいよみまく ほしききみかな
業平母雑上
1-古今901世の中に さらぬ別れの なくもがな 千代もとなげく 人の子のため
よのなかに さらぬわかれの なくもかな ちよもとなけく ひとのこのため
在原業平雑上
1-古今902白雪の 八重降りしける かへる山 かへるがへるも 老いにけるかな
しらゆきの やへふりしける かへるやま かへるかへるも おいにけるかな
在原棟梁雑上
1-古今903老いぬとて などか我が身を せめきけむ 老いずは今日に あはましものか
おいぬとて なとかわかみを せめきけむ おいすはけふに あはましものか
藤原敏行雑上
1-古今904ちはやぶる 宇治の橋守 なれをしぞ あはれとは思ふ 年のへぬれば
ちはやふる うちのはしもり なれをしそ あはれとはおもふ としのへぬれは
読人知らず雑上
1-古今905我見ても 久しくなりぬ 住の江の 岸の姫松 幾世へぬらむ
われみても ひさしくなりぬ すみのえの きしのひめまつ いくよへぬらむ
読人知らず雑上
1-古今906住吉の 岸の姫松 人ならば 幾世かへしと 問はましものを
すみよしの きしのひめまつ ひとならは いくよかへしと とはましものを
読人知らず雑上
1-古今907梓弓 磯辺の小松 たが世にか よろづ世かねて 種をまきけむ
あつさゆみ いそへのこまつ たかよにか よろつよかねて たねをまきけむ
読人知らず雑上
1-古今908かくしつつ 世をやつくさむ 高砂の 尾上に立てる 松ならなくに
かくしつつ よをやつくさむ たかさこの をのへにたてる まつならなくに
読人知らず雑上
1-古今909誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに
たれをかも しるひとにせむ たかさこの まつもむかしの ともならなくに
藤原興風雑上
1-古今910わたつみの 沖つ潮あひに 浮かぶ泡の 消えぬものから 寄る方もなし
わたつうみの おきつしほあひに うかふあわの きえぬものから よるかたもなし
読人知らず雑上
1-古今911わたつみの かざしにさせる 白妙の 浪もてゆへる 淡路島山
わたつうみの かさしにさせる しろたへの なみもてゆへる あはちしまやま
読人知らず雑上
1-古今912わたの原 寄せくる浪の しばしばも 見まくのほしき 玉津島かも
わたのはら よせくるなみの しはしはも みまくのほしき たまつしまかも
読人知らず雑上
1-古今913難波潟 潮満ちくらし 雨衣 たみのの島に たづ鳴き渡る
なにはかた しほみちくらし あまころも たみののしまに たつなきわたる
読人知らず雑上
1-古今914君を思ひ おきつの浜に 鳴くたづの 尋ねくればぞ ありとだに聞く
きみをおもひ おきつのはまに なくたつの たつねくれはそ ありとたにきく
藤原忠房雑上
1-古今915沖つ浪 たかしの浜の 浜松の 名にこそ君を 待ちわたりつれ
おきつなみ たかしのはまの はままつの なにこそきみを まちわたりつれ
紀貫之雑上
1-古今916難波潟 おふる玉藻を かりそめの 海人とぞ我は なりぬべらなる
なにはかた おふるたまもを かりそめの あまとそわれは なりぬへらなる
紀貫之雑上
1-古今917住吉と 海人は告ぐとも 長居すな 人忘れ草 おふと言ふなり
すみよしと あまはつくとも なかゐすな ひとわすれくさ おふといふなり
壬生忠岑雑上
1-古今918雨により たみのの島を 今日ゆけど 名には隠れぬ ものにぞありける
あめにより たみののしまを けふゆけと なにはかくれぬ ものにそありける
紀貫之雑上
1-古今919あしたづの 立てる川辺を 吹く風に 寄せてかへらぬ 浪かとぞ見る
あしたつの たてるかはへを ふくかせに よせてかへらぬ なみかとそみる
紀貫之雑上
1-古今920水の上に 浮かべる舟の 君ならば ここぞとまりと 言はましものを
みつのうへに うかへるふねの きみならは ここそとまりと いはましものを
伊勢雑上
1-古今921みやこまで ひびきかよへる からことは 浪のをすげて 風ぞひきける
みやこまて ひひきかよへる からことは なみのをすけて かせそひきける
真静法師雑上
1-古今922こき散らす 滝の白玉 拾ひおきて 世の憂き時の 涙にぞかる
こきちらす たきのしらいと ひろひおきて よのうきときの なみたにそかる
在原行平雑上
1-古今923ぬき乱る 人こそあるらし 白玉の まなくも散るか 袖のせばきに
ぬきみたる ひとこそあるらし しらたまの まなくもちるか そてのせはきに
在原業平雑上
1-古今924誰がために 引きてさらせる 布なれや 世をへて見れど とる人もなき
たかために ひきてさらせる ぬのなれや よをへてみれと とるひとのなき
承均法師雑上
1-古今925清滝の 瀬ぜの白糸 くりためて 山わけごろも 織りて着ましを
きよたきの せせのしらいと くりためて やまわけころも おりてきましを
神退法師雑上
1-古今926たちぬはぬ 衣着し人も なきものを なに山姫の 布さらすらむ
たちぬはぬ きぬきしひとも なきものを なにやまひめの ぬのさらすらむ
伊勢雑上
1-古今927主なくて さらせる布を 七夕に 我が心とや 今日はかさまし
ぬしなくて さらせるぬのを たなはたに わかこころとや けふはかさまし
橘長盛雑上
1-古今928落ちたぎつ 滝の水上 年つもり 老いにけらしな 黒き筋なし
おちたきつ たきのみなかみ としつもり おいにけらしな くろきすちなし
壬生忠岑雑上
1-古今929風吹けど ところも去らぬ 白雲は 世をへて落つる 水にぞありける
かせふけと ところもさらぬ しらくもは よをへておつる みつにそありける
凡河内躬恒雑上
1-古今930思ひせく 心の内の 滝なれや 落つとは見れど 音の聞こえぬ
おもひせく こころのうちの たきなれや おつとはみれと おとのきこえぬ
三条町雑上
1-古今931咲きそめし 時よりのちは うちはへて 世は春なれや 色の常なる
さきそめし ときよりのちは うちはへて よははるなれや いろのつねなる
紀貫之雑上
1-古今932かりてほす 山田の稲の こきたれて なきこそわたれ 秋の憂ければ
かりてほす やまたのいねの こきたれて なきこそわたれ あきのうけれは
坂上是則雑上
1-古今933世の中は 何か常なる 飛鳥川 昨日の淵ぞ 今日は瀬になる
よのなかは なにかつねなる あすかかは きのふのふちそ けふはせになる
読人知らず雑下
1-古今934幾世しも あらじ我が身を なぞもかく 海人の刈る藻に 思ひ乱るる
いくよしも あらしわかみを なそもかく あまのかるもに おもひみたるる
読人知らず雑下
1-古今935雁の来る 峰の朝霧 晴れずのみ 思ひつきせぬ 世の中の憂さ
かりのくる みねのあさきり はれすのみ おもひつきせぬ よのなかのうさ
読人知らず雑下
1-古今936しかりとて そむかれなくに ことしあれば まづなげかれぬ あなう世の中
しかりとて そむかれなくに ことしあれは まつなけかれぬ あなうよのなか
小野篁雑下
1-古今937みやこ人 いかがと問はば 山高み 晴れぬ雲ゐに わぶと答へよ
みやこひと いかかととはは やまたかみ はれぬくもゐに わふとこたへよ
小野貞樹雑下
1-古今938わびぬれば 身を浮草の 根を絶えて さそふ水あらば いなむとぞ思ふ
わひぬれは みをうきくさの ねをたえて さそふみつあらは いなむとそおもふ
小野小町雑下
1-古今939あはれてふ ことこそうたて 世の中を 思ひはなれぬ ほだしなりけれ
あはれてふ ことこそうたて よのなかを おもひはなれぬ ほたしなりけれ
小野小町雑下
1-古今940あはれてふ 言の葉ごとに 置く露は 昔を恋ふる 涙なりけり
あはれてふ ことのはことに おくつゆは むかしをこふる なみたなりけり
読人知らず雑下
1-古今941世の中の うきもつらきも 告げなくに まづ知るものは 涙なりけり
よのなかの うきもつらきも つけなくに まつしるものは なみたなりけり
読人知らず雑下
1-古今942世の中は 夢かうつつか うつつとも 夢とも知らず ありてなければ
よのなかは ゆめかうつつか うつつとも ゆめともしらす ありてなけれは
読人知らず雑下
1-古今943世の中に いづら我が身の ありてなし あはれとや言はむ あなうとや言はむ
よのなかに いつらわかみの ありてなし あはれとやいはむ あなうとやいはむ
読人知らず雑下
1-古今944山里は もののわびしき ことこそあれ 世の憂きよりは 住みよかりけり
やまさとは もののさひしき ことこそあれ よのうきよりは すみよかりけり
読人知らず雑下
1-古今945白雲の 絶えずたなびく 峰にだに 住めば住みぬる 世にこそありけれ
しらくもの たえすたなひく みねにたに すめはすみぬる よにこそありけれ
惟喬親王雑下
1-古今946知りにけむ 聞きてもいとへ 世の中は 浪の騒ぎに 風ぞしくめる
しりにけむ ききてもいとへ よのなかは なみのさわきに かせそしくめる
布留今道雑下
1-古今947いづこにか 世をばいとはむ 心こそ 野にも山にも 惑ふべらなれ
いつこにか よをはいとはむ こころこそ のにもやまにも まとふへらなれ
素性法師雑下
1-古今948世の中は 昔よりやは うかりけむ 我が身ひとつの ためになれるか
よのなかは むかしよりやは うかりけむ わかみひとつの ためになれるか
読人知らず雑下
1-古今949世の中を いとふ山辺の 草木とや あなうの花の 色にいでにけむ
よのなかを いとふやまへの くさきとや あなうのはなの いろにいてにけむ
読人知らず雑下
1-古今950み吉野の 山のあなたに 宿もがな 世の憂き時の 隠れがにせむ
みよしのの やまのあなたに やともかな よのうきときの かくれかにせむ
読人知らず雑下
1-古今951世にふれば 憂さこそまされ み吉野の 岩のかけ道 踏みならしてむ
よにふれは うさこそまされ みよしのの いはのかけみち ふみならしてむ
読人知らず雑下
1-古今952いかならむ 巌の中に 住まばかは 世の憂きことの 聞こえこざらむ
いかならむ いはほのうちに すまはかは よのうきことの きこえこさらむ
読人知らず雑下
1-古今953あしひきの 山のまにまに 隠れなむ うき世の中は あるかひもなし
あしひきの やまのまにまに かくれなむ うきよのなかは あるかひもなし
読人知らず雑下
1-古今954世の中の うけくにあきぬ 奥山の 木の葉に降れる 雪やけなまし
よのなかの うけくにあきぬ おくやまの このはにふれる ゆきやけなまし
読人知らず雑下
1-古今955世のうきめ 見えぬ山ぢへ 入らむには 思ふ人こそ ほだしなりけれ
よのうきめ みえぬやまちへ いらむには おもふひとこそ ほたしなりけれ
物部吉名雑下
1-古今956世を捨てて 山にいる人 山にても なほ憂き時は いづち行くらむ
よをすてて やまにいるひと やまにても なほうきときは いつちゆくらむ
凡河内躬恒雑下
1-古今957今さらに なにおひいづらむ 竹の子の うき節しげき 世とは知らずや
いまさらに なにおひいつらむ たけのこの うきふししけき よとはしらすや
凡河内躬恒雑下
1-古今958世にふれば 言の葉しげき 呉竹の うき節ごとに うぐひすぞ鳴く
よにふれは ことのはしけき くれたけの うきふしことに うくひすそなく
読人知らず雑下
1-古今959木にもあらず 草にもあらぬ 竹のよの 端に我が身は なりぬべらなり
きにもあらす くさにもあらぬ たけのよの はしにわかみは なりぬへらなり
読人知らず雑下
1-古今960我が身から うき世の中と 名づけつつ 人のためさへ かなしかるらむ
わかみから うきよのなかと なけきつつ ひとのためさへ かなしかるらむ
読人知らず雑下
1-古今961思ひきや ひなの別れに おとろへて 海人の縄たき いさりせむとは
おもひきや ひなのわかれに おとろへて あまのなはたき いさりせむとは
小野篁雑下
1-古今962わくらばに 問ふ人あらば 須磨の浦に 藻塩たれつつ わぶと答へよ
わくらはに とふひとあらは すまのうらに もしほたれつつ わふとこたへよ
在原行平雑下
1-古今963天彦の おとづれじとぞ 今は思ふ 我か人かと 身をたどる世に
あまひこの おとつれしとそ いまはおもふ われかひとかと みをたとるよに
小野春風雑下
1-古今964うき世には 門させりとも 見えなくに などか我が身の いでがてにする
うきよには かとさせりとも みえなくに なとかわかみの いてかてにする
平貞文雑下
1-古今965ありはてぬ 命待つ間の ほどばかり うきことしげく 思はずもがな
ありはてぬ いのちまつまの ほとはかり うきことしけく おもはすもかな
平貞文雑下
1-古今966つくばねの 木のもとごとに 立ちぞ寄る 春のみ山の かげを恋つつ
つくはねの このもとことに たちそよる はるのみやまの かけをこひつつ
宮道潔興雑下
1-古今967光なき 谷には春も よそなれば 咲きてとく散る 物思ひもなし
ひかりなき たににははるも よそなれは さきてとくちる ものおもひもなし
清原深養父雑下
1-古今968久方の 中におひたる 里なれば 光をのみぞ たのむべらなる
ひさかたの うちにおひたる さとなれは ひかりをのみそ たのむへらなる
伊勢雑下
1-古今969今ぞ知る 苦しきものと 人待たむ 里をばかれず 問ふべかりけり
いまそしる くるしきものと ひとまたむ さとをはかれす とふへかりけり
在原業平雑下
1-古今970忘れては 夢かとぞ思ふ 思ひきや 雪踏みわけて 君を見むとは
わすれては ゆめかとそおもふ おもひきや ゆきふみわけて きみをみむとは
在原業平雑下
1-古今971年をへて 住みこし里を いでていなば いとど深草 野とやなりなむ
としをへて すみこしさとを いてていなは いととふかくさ のとやなりなむ
在原業平雑下
1-古今972野とならば うづらとなきて 年はへむ かりにだにやは 君がこざらむ
のとならは うつらとなきて としはへむ かりにたにやは きみかこさらむ
読人知らず雑下
1-古今973我を君 難波の浦に ありしかば うきめをみつの 海人となりにき
われをきみ なにはのうらに ありしかは うきめをみつの あまとなりにき
読人知らず雑下
1-古今974難波潟 うらむべきまも 思ほえず いづこをみつの 海人とかはなる
なにはかた うらむへきまも おもほえす いつこをみつの あまとかはなる
読人知らず雑下
1-古今975今さらに 問ふべき人も 思ほえず 八重むぐらして 門させりてへ
いまさらに とふへきひとも おもほえす やへむくらして かとさせりてへ
読人知らず雑下
1-古今976水の面に おふる五月の 浮草の うきことあれや 根を絶えて来ぬ
みつのおもに おふるさつきの うきくさの うきことあれや ねをたえてこぬ
凡河内躬恒雑下
1-古今977身を捨てて ゆきやしにけむ 思ふより 外なるものは 心なりけり
みをすてて ゆきやしにけむ おもふより ほかなるものは こころなりけり
凡河内躬恒雑下
1-古今978君が思ひ 雪とつもらば たのまれず 春よりのちは あらじと思へば
きみかおもひ ゆきとつもらは たのまれす はるよりのちは あらしとおもへは
凡河内躬恒雑下
1-古今979君をのみ 思ひこしぢの 白山は いつかは雪の 消ゆる時ある
きみをのみ おもひこしちの しらやまは いつかはゆきの きゆるときある
宗岳大頼雑下
1-古今980思ひやる 越の白山 知らねども ひと夜も夢に 越えぬ夜ぞなき
おもひやる こしのしらやま しらねとも ひとよもゆめに こえぬよそなき
紀貫之雑下
1-古今981いざここに 我が世はへなむ 菅原や 伏見の里の 荒れまくも惜し
いさここに わかよはへなむ すかはらや ふしみのさとの あれまくもをし
読人知らず雑下
1-古今982我が庵は 三輪の山もと 恋しくは とぶらひきませ 杉たてる門
わかいほは みわのやまもと こひしくは とふらひきませ すきたてるかと
読人知らず雑下
1-古今983我が庵は みやこのたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人は言ふなり
わかいほは みやこのたつみ しかそすむ よをうちやまと ひとはいふなり
喜撰法師雑下
1-古今984荒れにけり あはれ幾世の 宿なれや 住みけむ人の おとづれもせぬ
あれにけり あはれいくよの やとなれや すみけむひとの おとつれもせぬ
読人知らず雑下
1-古今985わび人の 住むべき宿と 見るなへに 嘆きくははる 琴の音ぞする
わひひとの すむへきやとと みるなへに なけきくははる ことのねそする
良岑宗貞雑下
1-古今986人ふるす 里をいとひて こしかども 奈良のみやこも うき名なりけり
ひとふるす さとをいとひて こしかとも ならのみやこも うきななりけり
二条雑下
1-古今987世の中は いづれかさして 我がならむ 行きとまるをぞ 宿とさだむる
よのなかは いつれかさして わかならむ ゆきとまるをそ やととさたむる
読人知らず雑下
1-古今988あふ坂の 嵐の風は 寒けれど ゆくへ知らねば わびつつぞ寝る
あふさかの あらしのかせは さむけれと ゆくへしらねは わひつつそぬる
読人知らず雑下
1-古今989風の上に ありかさだめぬ 塵の身は ゆくへも知らず なりぬべらなり
かせのうへに ありかさためぬ ちりのみは ゆくへもしらす なりぬへらなり
読人知らず雑下
1-古今990飛鳥川 淵にもあらぬ 我が宿も 瀬にかはりゆく ものにぞありける
あすかかは ふちにもあらぬ わかやとも せにかはりゆく ものにそありける
伊勢雑下
1-古今991ふるさとは 見しごともあらず 斧の柄の 朽ちしところぞ 恋しかりける
ふるさとは みしこともあらす をののえの くちしところそ こひしかりける
紀友則雑下
1-古今992あかざりし 袖の中にや 入りにけむ 我がたましひの なき心地する
あかさりし そてのなかにや いりにけむ わかたましひの なきここちする
陸奥雑下
1-古今993なよ竹の よ長き上に 初霜の おきゐて物を 思ふころかな
なよたけの よなかきうへに はつしもの おきゐてものを おもふころかな
藤原忠房雑下
1-古今994風吹けば 沖つ白浪 たつた山 夜半にや君が ひとりこゆらむ
かせふけは おきつしらなみ たつたやま よはにやきみか ひとりこゆらむ
読人知らず雑下
1-古今995たがみそぎ ゆふつけ鳥か 唐衣 たつたの山に をりはへて鳴く
たかみそき ゆふつけとりか からころも たつたのやまに をりはへてなく
読人知らず雑下
1-古今996忘られむ 時しのべとぞ 浜千鳥 ゆくへも知らぬ 跡をとどむる
わすられむ ときしのへとそ はまちとり ゆくへもしらぬ あとをととむる
読人知らず雑下
1-古今997神無月 時雨降りおける ならの葉の 名におふ宮の ふることぞこれ
かみなつき しくれふりおける ならのはの なにおふみやの ふることそこれ
文屋有季雑下
1-古今998あしたづの ひとりおくれて 鳴く声は 雲の上まで 聞こえつがなむ
あしたつの ひとりおくれて なくこゑは くものうへまて きこえつかなむ
大江千里雑下
1-古今999人知れず 思ふ心は 春霞 たちいでて君が 目にも見えなむ
ひとしれす おもふこころは はるかすみ たちいててきみか めにもみえなむ
藤原勝臣雑下
1-古今1000山川の 音にのみ聞く ももしきを 身をはやながら 見るよしもがな
やまかはの おとにのみきく ももしきを みをはやなから みるよしもかな
伊勢雑下
1-古今1001あふことの まれなる色に 思ひそめ 我が身は常に 天雲の 晴るる時なく 富士の嶺の もえつつとはに 思へども あふことかたし 何しかも 人をうらみむ わたつみの 沖を深めて 思ひてし 思ひは今は いたづらに なりぬべらなり ゆく水の 絶ゆる時なく かくなわに 思ひ乱れて 降る雪の けなばけぬべく 思へども えぶの身なれば なほやまず 思ひは深し あしひきの 山下水の 木隠れて たぎつ心を 誰にかも あひかたらはむ 色にいでば 人知りぬべみ 墨染めの 夕べになれば ひとりゐて あはれあはれと なげきあまり せむすべなみに 庭にいでて 立ちやすらへば 白妙の 衣の袖に 置く露の けなばけぬべく 思へども なほなげかれぬ 春霞 よそにも人に あはむと思へば
あふことの まれなるいろに おもひそめ わかみはつねに あまくもの はるるときなく ふしのねの もえつつとはに おもへとも あふことかたし なにしかも ひとをうらみむ わたつみの おきをふかめて おもひてし おもひをいまは いたつらに なりぬへらなり ゆくみつの たゆるときなく かくなわに おもひみたれて ふるゆきの けなはけぬへく おもへとも えふのみなれは なほやます おもひはふかし あしひきの やましたみつの こかくれて たきつこころを たれにかも あひかたらはむ いろにいては ひとしりぬへみ すみそめの ゆふへになれは ひとりゐて あはれあはれと なけきあまり せむすへなみに にはにいてて たちやすらへは しろたへの ころものそてに おくつゆの けなはけぬへく おもへとも なほなけかれぬ はるかすみ よそにもひとに あはむとおもへは
読人知らず雑体
1-古今1002ちはやぶる 神の御代より 呉竹の 世よにも絶えず 天彦の 音羽の山の 春霞 思ひ乱れて 五月雨の 空もとどろに 小夜ふけて 山郭公 鳴くごとに 誰も寝ざめて 唐錦 竜田の山の もみぢ葉を 見てのみしのぶ 神無月 時雨しぐれて 冬の夜の 庭もはだれに 降る雪の なほ消えかへり 年ごとに 時につけつつ あはれてふ ことを言ひつつ 君をのみ 千代にと祝ふ 世の人の 思ひするがの 富士の嶺の もゆる思ひも あかずして わかるる涙 藤衣 おれる心も 八千草の 言の葉ごとに すべらぎの おほせかしこみ まきまきの 中につくすと 伊勢の海の 浦のしほ貝 拾ひ集め 取れりとすれど 玉の緒の 短き心 思ひあへず なほあらたまの 年をへて 大宮にのみ 久方の 昼夜わかず つかふとて かへりみもせぬ 我が宿の しのぶ草おふる 板間あらみ ふる春雨の もりやしぬらむ
ちはやふる かみのみよより くれたけの よよにもたえす あまひこの おとはのやまの はるかすみ おもひみたれて さみたれの そらもととろに さよふけて やまほとときす なくことに たれもねさめて からにしき たつたのやまの もみちはを みてのみしのふ かみなつき しくれしくれて ふゆのよの にはもはたれに ふるゆきの なほきえかへり としことに ときにつけつつ あはれてふ ことをいひつつ きみをのみ ちよにといはふ よのひとの おもひするかの ふしのねの もゆるおもひも あかすして わかるるなみた ふちころも おれるこころも やちくさの ことのはことに すめらきの おほせかしこみ まきまきの うちにつくすと いせのうみの うらのしほかひ ひろひあつめ とれりとすれと たまのをの みしかきこころ おもひあへす なほあらたまの としをへて おほみやにのみ ひさかたの ひるよるわかす つかふとて かへりみもせぬ わかやとの しのふくさおふる いたまあらみ ふるはるさめの もりやしぬらむ
紀貫之雑体
1-古今1003呉竹の 世よのふること なかりせば いかほの沼の いかにして 思ふ心を のばへまし あはれむかしべ ありきてふ 人麿こそは うれしけれ 身はしもながら 言の葉を あまつ空まで 聞こえあげ 末の世までの あととなし 今もおほせの くだれるは 塵につげとや 塵の身に つもれることを とはるらむ これを思へば けだものの 雲に吠えけむ 心地して ちぢのなさけも 思ほえず ひとつ心ぞ ほこらしき かくはあれども 照る光 近きまもりの 身なりしを 誰かは秋の くる方に あざむきいでて み垣より とのへもる身の み垣もり をさをさしくも 思ほえず ここのかさねの 中にては 嵐の風も 聞かざりき 今は野山し 近ければ 春は霞に たなびかれ 夏は空蝉 鳴きくらし 秋は時雨に 袖をかし 冬は霜にぞ せめらるる かかるわびしき 身ながらに つもれる年を しるせれば いつつのむつに なりにけり これにそはれる わたくしの 老いの数さへ やよければ 身はいやしくて 年たかき ことの苦しさ 隠しつつ 長柄の橋の ながらへて 難波の浦に たつ浪の 浪のしわにや おぼほれむ さすがに命 惜しければ 越の国なる 白山の かしらは白く なりぬとも 音羽の滝の 音に聞く 老いず死なずの 薬もが 君が八千代を 若えつつ見む
くれたけの よよのふること なかりせは いかほのぬまの いかにして おもふこころを のはへまし あはれむかしへ ありきてふ ひとまろこそは うれしけれ みはしもなから ことのはを あまつそらまて きこえあけ すゑのよよまて あととなし いまもおほせの くたれるは ちりにつけとや ちりのみに つもれることを とはるらむ これをおもへは けたものの くもにほえけむ ここちして ちちのなさけも おもほえす ひとつこころそ ほこらしき かくはあれとも てるひかり ちかきまもりの みなりしを たれかはあきの くるかたに あさむきいてて みかきもり とのへもるみの みかきより をさをさしくも おもほえす ここのかさねの なかにては あらしのかせも きかさりき いまはのやまし ちかけれは はるはかすみに たなひかれ なつはうつせみ なきくらし あきはしくれに そてをかし ふゆはしもにそ せめらるる かかるわひしき みなからに つもれるとしを しるせれは いつつのむつに なりにけり これにそはれる わたくしの おいのかすさへ やよけれは みはいやしくて としたかき ことのくるしさ かくしつつ なからのはしの なからへて なにはのうらに たつなみの なみのしわにや おほほれむ さすかにいのち をしけれは こしのくになる しらやまの かしらはしろく なりぬとも おとはのたきの おとにきく おいすしなすの くすりかも きみかやちよを わかえつつみむ
壬生忠岑雑体
1-古今1004君が代に あふ坂山の 岩清水 こ隠れたりと 思ひけるかな
きみかよに あふさかやまの いはしみつ こかくれたりと おもひけるかな
壬生忠岑雑体
1-古今1005ちはやぶる 神無月とや 今朝よりは 雲りもあへず 初時雨 紅葉と共に ふるさとの 吉野の山の 山嵐も 寒く日ごとに なりゆけば 玉の緒とけて こき散らし あられ乱れて 霜こほり いや固まれる 庭の面に むらむら見ゆる 冬草の 上に降りしく 白雪の つもりつもりて あらたまの 年をあまたも すぐしつるかな
ちはやふる かみなつきとや けさよりは くもりもあへす はつしくれ もみちとともに ふるさとの よしののやまの やまあらしも さむくひことに なりゆけは たまのをとけて こきちらし あられみたれて しもこほり いやかたまれる にはのおもに むらむらみゆる ふゆくさの うへにふりしく しらゆきの つもりつもりて あらたまの としをあまたも すくしつるかな
凡河内躬恒雑体
1-古今1006沖つ浪 荒れのみまさる 宮の内は 年へて住みし 伊勢の海人も 舟流したる 心地して よらむ方なく かなしきに 涙の色の 紅は 我らが中の 時雨にて 秋のもみぢと 人びとは おのが散りぢり 別れなば たのむかげなく なりはてて とまるものとは 花薄 君なき庭に 群れ立ちて 空をまねかば 初雁の なきわたりつつ よそにこそ見め
おきつなみ あれのみまさる みやのうちは としへてすみし いせのあまも ふねなかしたる ここちして よらむかたなく かなしきに なみたのいろの くれなゐは われらかなかの しくれにて あきのもみちと ひとひとは おのかちりちり わかれなは たのむかけなく なりはてて とまるものとは はなすすき きみなきにはに むれたちて そらをまかねは はつかりの なきわたりつつ よそにこそみめ
伊勢雑体
1-古今1007うちわたす をち方人に もの申す我 そのそこに 白く咲けるは 何の花ぞも
うちわたす をちかたひとに ものまうすわれ そのそこに しろくさけるは なにのはなそも
読人知らず雑体
1-古今1008春されば 野辺にまづ咲く 見れどあかぬ花 まひなしに ただ名のるべき 花の名なれや
はるされは のへにまつさく みれとあかぬはな まひなしに たたなのるへき はなのななれや
読人知らず雑体
1-古今1009初瀬川 ふる川の辺に ふたもとある杉 年をへて またもあひ見む ふたもとある杉
はつせかは ふるかはのへに ふたもとあるすき としをへて またもあひみむ ふたもとあるすき
読人知らず雑体
1-古今1010君がさす 三笠の山の もみぢ葉の色 神無月 時雨の雨の 染めるなりけり
きみかさす みかさのやまの もみちはのいろ かみなつき しくれのあめの そめるなりけり
紀貫之雑体
1-古今1011梅の花 見にこそきつれ うぐひすの ひとくひとくと いとひしもをる
うめのはな みにこそきつれ うくひすの ひとくひとくと いとひしもをる
読人知らず雑体
1-古今1012山吹の 花色衣 主や誰 問へど答へず くちなしにして
やまふきの はないろころも ぬしやたれ とへとこたへす くちなしにして
素性法師雑体
1-古今1013いくばくの 田をつくればか 郭公 しでの田をさを 朝な朝な呼ぶ
いくはくの たをつくれはか ほとときす してのたをさを あさなあさなよふ
藤原敏行雑体
1-古今1014いつしかと またく心を 脛にあげて 天の河原を 今日や渡らむ
いつしかと またくこころを はきにあけて あまのかはらを けふやわたらむ
藤原兼輔雑体
1-古今1015むつごとも まだつきなくに 明けぬめり いづらは秋の 長してふ夜は
むつことも またつきなくに あけぬめり いつらはあきの なかしてふよは
凡河内躬恒雑体
1-古今1016秋の野に なまめきたてる 女郎花 あなかしかまし 花もひと時
あきののに なまめきたてる をみなへし あなかしかまし はなもひととき
僧正遍昭雑体
1-古今1017秋くれば 野辺にたはるる 女郎花 いづれの人か つまで見るべき
あきくれは のへにたはるる をみなへし いつれのひとか つまてみるへき
読人知らず雑体
1-古今1018秋霧の 晴れて曇れば 女郎花 花の姿ぞ 見え隠れする
あききりの はれてくもれは をみなへし はなのすかたそ みえかくれする
読人知らず雑体
1-古今1019花と見て 折らむとすれば 女郎花 うたたあるさまの 名にこそありけれ
はなとみて をらむとすれは をみなへし うたたあるさまの なにこそありけれ
読人知らず雑体
1-古今1020秋風に ほころびぬらし 藤ばかま つづりさせてふ きりぎりす鳴く
あきかせに ほころひぬらし ふちはかま つつりさせてふ きりきりすなく
在原棟梁雑体
1-古今1021冬ながら 春のとなりの 近ければ 中垣よりぞ 花は散りける
ふゆなから はるのとなりの ちかけれは なかかきよりそ はなはちりける
清原深養父雑体
1-古今1022いそのかみ ふりにし恋の かみさびて たたるに我は いぞ寝かねつる
いそのかみ ふりにしこひの かみさひて たたるにわれは いそねかねつる
読人知らず雑体
1-古今1023枕より あとより恋の せめくれば せむ方なみぞ 床なかにをる
まくらより あとよりこひの せめくれは せむかたなみそ とこなかにをる
読人知らず雑体
1-古今1024恋しきが 方も方こそ ありと聞け たてれをれども なき心地かな
こひしきか かたもかたこそ ありときけ たてれをれとも なきここちかな
読人知らず雑体
1-古今1025ありぬやと こころみがてら あひ見ねば たはぶれにくき までぞ恋しき
ありぬやと こころみかてら あひみねは たはふれにくき まてそこひしき
読人知らず雑体
1-古今1026耳なしの 山のくちなし えてしかな 思ひの色の 下染めにせむ
みみなしの やまのくちなし えてしかな おもひのいろの したそめにせむ
読人知らず雑体
1-古今1027あしひきの 山田のそほづ おのれさへ 我をほしてふ うれはしきこと
あしひきの やまたのそほつ おのれさへ われをほしてふ うれはしきこと
読人知らず雑体
1-古今1028富士の嶺の ならぬ思ひに もえばもえ 神だにけたぬ むなし煙を
ふしのねの ならぬおもひに もえはもえ かみたにけたぬ むなしけふりを
紀乳母雑体
1-古今1029あひ見まく 星は数なく ありながら 人に月なみ 惑ひこそすれ
あひみまく ほしはかすなく ありなから ひとにつきなみ まよひこそすれ
紀有朋雑体
1-古今1030人にあはむ 月のなきには 思ひおきて 胸はしり火に 心やけをり
ひとにあはむ つきのなきには おもひおきて むねはしりひに こころやけをり
小野小町雑体
1-古今1031春霞 たなびく野辺の 若菜にも なりみてしかな 人もつむやと
はるかすみ たなひくのへの わかなにも なりみてしかな ひともつむやと
藤原興風雑体
1-古今1032思へども なほうとまれぬ 春霞 かからぬ山も あらじと思へば
おもへとも なほうとまれぬ はるかすみ かからぬやまも あらしとおもへは
読人知らず雑体
1-古今1033春の野の しげき草葉の 妻恋ひに 飛び立つきじの ほろろとぞ鳴く
はるののの しけきくさはの つまこひに とひたつきしの ほろろとそなく
平貞文雑体
1-古今1034秋の野に 妻なき鹿の 年をへて なぞ我が恋の かひよとぞ鳴く
あきののに つまなきしかの としをへて なそわかこひの かひよとそなく
紀淑人雑体
1-古今1035蝉の羽の 一重に薄き 夏衣 なればよりなむ ものにやはあらぬ
せみのはの ひとへにうすき なつころも なれはよりなむ ものにやはあらぬ
凡河内躬恒雑体
1-古今1036隠れ沼の 下よりおふる ねぬなはの ねぬなは立てじ くるないとひそ
かくれぬの したよりおふる ねぬなはの ねぬなはたてし くるないとひそ
壬生忠岑雑体
1-古今1037ことならば 思はずとやは 言ひはてぬ なぞ世の中の 玉だすきなる
ことならは おもはすとやは いひはてぬ なそよのなかの たまたすきなる
読人知らず雑体
1-古今1038思ふてふ 人の心の くまごとに 立ち隠れつつ 見るよしもがな
おもふてふ ひとのこころの くまことに たちかくれつつ みるよしもかな
読人知らず雑体
1-古今1039思へども 思はずとのみ 言ふなれば いなや思はじ 思ふかひなし
おもへとも おもはすとのみ いふなれは いなやおもはし おもふかひなし
読人知らず雑体
1-古今1040我をのみ 思ふと言はば あるべきを いでや心は おほぬさにして
われをのみ おもふといはは あるへきを いてやこころは おほぬさにして
読人知らず雑体
1-古今1041我を思ふ 人を思はぬ むくいにや 我が思ふ人の 我を思はぬ
われをおもふ ひとをおもはぬ むくひにや わかおもふひとの われをおもはぬ
読人知らず雑体
1-古今1042思ひけむ 人をぞ共に 思はまし まさしやむくい なかりけりやは
おもひけむ ひとをそともに おもはまし まさしやむくひ なかりけりやは
清原深養父雑体
1-古今1043いでてゆかむ 人をとどめむ よしなきに となりの方に 鼻もひぬかな
いててゆかむ ひとをととめむ よしなきに となりのかたに はなもひぬかな
読人知らず雑体
1-古今1044紅に 染めし心も たのまれず 人をあくには うつるてふなり
くれなゐに そめしこころも たのまれす ひとをあくには うつるてふなり
読人知らず雑体
1-古今1045いとはるる 我が身は春の 駒なれや 野がひがてらに 放ち捨てつつ
いとはるる わかみははるの こまなれや のかひかてらに はなちすてつる
読人知らず雑体
1-古今1046うぐひすの 去年の宿りの ふるすとや 我には人の つれなかるらむ
うくひすの こそのやとりの ふるすとや われにはひとの つれなかるらむ
読人知らず雑体
1-古今1047さかしらに 夏は人まね 笹の葉の さやぐ霜夜を 我がひとり寝る
さかしらに なつはひとまね ささのはの さやくしもよを わかひとりぬる
読人知らず雑体
1-古今1048あふことの 今ははつかに なりぬれば 夜深からでは 月なかりけり
あふことの いまははつかに なりぬれは よふかからては つきなかりけり
平中興雑体
1-古今1049もろこしの 吉野の山に こもるとも おくれむと思ふ 我ならなくに
もろこしの よしののやまに こもるとも おくれむとおもふ われならなくに
左大臣雑体
1-古今1050雲はれぬ 浅間の山の あさましや 人の心を 見てこそやまめ
くもはれぬ あさまのやまの あさましや ひとのこころを みてこそやまめ
平中興雑体
1-古今1051難波なる 長柄の橋も つくるなり 今は我が身を 何にたとへむ
なにはなる なからのはしも つくるなり いまはわかみを なににたとへむ
伊勢雑体
1-古今1052まめなれど 何ぞはよけく 刈るかやの 乱れてあれど あしけくもなし
まめなれと なにそはよけく かるかやの みたれてあれと あしけくもなし
読人知らず雑体
1-古今1053何かその 名の立つことの 惜しからむ 知りて惑ふは 我ひとりかは
なにかその なのたつことの をしからむ しりてまとふは われひとりかは
藤原興風雑体
1-古今1054よそながら 我が身に糸の よると言へば ただいつはりに すぐばかりなり
よそなから わかみにいとの よるといへは たたいつはりに すくはかりなり
久曽雑体
1-古今1055ねぎことを さのみ聞きけむ やしろこそ はてはなげきの もりとなるらめ
ねきことを さのみききけむ やしろこそ はてはなけきの もりとなるらめ
讃岐雑体
1-古今1056なげきこる 山とし高く なりぬれば つらづゑのみぞ まづつかれける
なけきこる やまとしたかく なりぬれは つらつゑのみそ まつつかれける
大輔雑体
1-古今1057なげきをば こりのみつみて あしひきの 山のかひなく なりぬべらなり
なけきをは こりのみつみて あしひきの やまのかひなく なりぬへらなり
読人知らず雑体
1-古今1058人恋ふる ことを重荷と になひもて あふごなきこそ わびしかりけれ
ひとこふる ことをおもにと になひもて あふこなきこそ わひしかりけれ
読人知らず雑体
1-古今1059宵の間に いでて入りぬる 三日月の われて物思ふ ころにもあるかな
よひのまに いてていりぬる みかつきの われてものおもふ ころにもあるかな
読人知らず雑体
1-古今1060そゑにとて とすればかかり かくすれば あな言ひ知らず あふさきるさに
そゑにとて とすれはかかり かくすれは あないひしらす あふさきるさに
読人知らず雑体
1-古今1061世の中の うきたびごとに 身を投げば 深き谷こそ 浅くなりなめ
よのなかの うきたひことに みをなけは ふかきたにこそ あさくなりなめ
読人知らず雑体
1-古今1062世の中は いかにくるしと 思ふらむ ここらの人に うらみらるれば
よのなかは いかにくるしと おもふらむ ここらのひとに うらみらるれは
在原元方雑体
1-古今1063何をして 身のいたづらに 老いぬらむ 年の思はむ ことぞやさしき
なにをして みのいたつらに おいぬらむ としのおもはむ ことそやさしき
読人知らず雑体
1-古今1064身は捨てつ 心をだにも はふらさじ つひにはいかが なると知るべく
みはすてつ こころをたにも はふらさし つひにはいかか なるとしるへく
藤原興風雑体
1-古今1065白雪の ともに我が身は 降りぬれど 心は消えぬ ものにぞありける
しらゆきの ともにわかみは ふりぬれと こころはきえぬ ものにそありける
大江千里雑体
1-古今1066梅の花 咲きてののちの 身なればや すきものとのみ 人の言ふらむ
うめのはな さきてののちの みなれはや すきものとのみ ひとのいふらむ
読人知らず雑体
1-古今1067わびしらに ましらな鳴きそ あしひきの 山のかひある 今日にやはあらぬ
わひしらに ましらななきそ あしひきの やまのかひある けふにやはあらぬ
凡河内躬恒雑体
1-古今1068世をいとひ 木のもとごとに 立ち寄りて うつぶし染めの 麻の衣なり
よをいとひ このもとことに たちよりて うつふしそめの あさのきぬなり
読人知らず雑体
1-古今1069新しき 年のはじめに かくしこそ 千歳をかねて 楽しきをつめ
あたらしき としのはしめに かくしこそ ちとせをかねて たのしきをつめ
読人知らず大短所御歌
1-古今1070しもとゆふ かづらき山に 降る雪の 間なく時なく 思ほゆるかな
しもとゆふ かつらきやまに ふるゆきの まなくときなく おもほゆるかな
読人知らず大短所御歌
1-古今1071近江より 朝立ちくれば うねの野に たづぞ鳴くなる 明けぬこの夜は
あふみより あさたちくれは うねののに たつそなくなる あけぬこのよは
読人知らず大短所御歌
1-古今1072水くきの 岡のやかたに 妹とあれと 寝ての朝けの 霜の降りはも
みつくきの をかのやかたに いもとあれと ねてのあさけの しものふりはも
読人知らず大短所御歌
1-古今1073しはつ山 うちいでて見れば 笠ゆひの 島こぎ隠る 棚なし小舟
しはつやま うちいててみれは かさゆひの しまこきかくる たななしをふね
読人知らず大短所御歌
1-古今1074神がきの みむろの山の さかき葉は 神のみまへに しげりあひにけり
かみかきの みむろのやまの さかきはは かみのみまへに しけりあひにけり
読人知らず大短所御歌
1-古今1075霜やたび 置けど枯れせぬ さかき葉の たち栄ゆべき 神のきねかも
しもやたひ おけとかれせぬ さかきはの たちさかゆへき かみのきねかも
読人知らず大短所御歌
1-古今1076まきもくの あなしの山の 山びとと 人も見るがに 山かづらせよ
まきもくの あなしのやまの やまひとと ひともみるかに やまかつらせよ
読人知らず大短所御歌
1-古今1077み山には あられ降るらし と山なる まさきのかづら 色づきにけり
みやまには あられふるらし とやまなる まさきのかつら いろつきにけり
読人知らず大短所御歌
1-古今1078陸奥の 安達の真弓 我が引かば 末さへよりこ しのびしのびに
みちのくの あたちのまゆみ わかひかは すゑさへよりこ しのひしのひに
読人知らず大短所御歌
1-古今1079我が門の いたゐの清水 里遠み 人しくまねば み草おひにけり
わかかとの いたゐのしみつ さととほみ ひとしくまねは みくさおひにけり
読人知らず大短所御歌
1-古今1080ささのくま ひのくま川に 駒とめて しばし水かへ かげをだに見む
ささのくま ひのくまかはに こまとめて しはしみつかへ かけをたにみむ
読人知らず大短所御歌
1-古今1081青柳を 片糸によりて うぐひすの ぬふてふ笠は 梅の花笠
あをやきを かたいとによりて うくひすの ぬふてふかさは うめのはなかさ
読人知らず大短所御歌
1-古今1082まがねふく 吉備の中山 帯にせる 細谷川の 音のさやけさ
まかねふく きひのなかやま おひにせる ほそたにかはの おとのさやけさ
読人知らず大短所御歌
1-古今1083みまさかや 久米のさら山 さらさらに 我が名は立てじ 万代までに
みまさかや くめのさらやま さらさらに わかなはたてし よろつよまてに
読人知らず大短所御歌
1-古今1084美濃の国 せきの藤川 絶えずして 君につかへむ 万代までに
みののくに せきのふちかは たえすして きみにつかへむ よろつよまてに
読人知らず大短所御歌
1-古今1085君が代は かぎりもあらじ 長浜の 真砂の数は 読みつくすとも
きみかよは かきりもあらし なかはまの まさこのかすは よみつくすとも
読人知らず大短所御歌
1-古今1086近江のや 鏡の山を 立てたれば かねてぞ見ゆる 君が千歳は
あふみのや かかみのやまを たてたれは かねてそみゆる きみかちとせは
大友黒主大短所御歌
1-古今1087阿武隈に 霧立ちくもり 明けぬとも 君をばやらじ 待てばすべなし
あふくまに きりたちくもり あけぬとも きみをはやらし まてはすへなし
読人知らず大短所御歌
1-古今1088陸奥は いづくはあれど 塩釜の 浦こぐ舟の 綱手かなしも
みちのくは いつくはあれと しほかまの うらこくふねの つなてかなしも
読人知らず大短所御歌
1-古今1089我が背子を みやこにやりて 塩釜の まがきの島の 松ぞ恋しき
わかせこを みやこにやりて しほかまの まかきのしまの まつそこひしき
読人知らず大短所御歌
1-古今1090をぐろさき みつの小島の 人ならば みやこのつとに いざと言はましを
をくろさき みつのこしまの ひとならは みやこのつとに いさといはましを
読人知らず大短所御歌
1-古今1091みさぶらひ みかさと申せ 宮城野の この下露は 雨にまされり
みさふらひ みかさとまうせ みやきのの このしたつゆは あめにまされり
読人知らず大短所御歌
1-古今1092最上川 のぼればくだる 稲舟の いなにはあらず この月ばかり
もかみかは のほれはくたる いなふねの いなにはあらす このつきはかり
読人知らず大短所御歌
1-古今1093君をおきて あだし心を 我がもたば 末の松山 浪も越えなむ
きみをおきて あたしこころを わかもたは すゑのまつやま なみもこえなむ
読人知らず大短所御歌
1-古今1094こよろぎの 磯たちならし 磯菜つむ めざしぬらすな 沖にをれ浪
こよろきの いそたちならし いそなつむ めさしぬらすな おきにをれなみ
読人知らず大短所御歌
1-古今1095つくばねの このもかのもに かげはあれど 君が御影に ますかげはなし
つくはねの このもかのもに かけはあれと きみかみかけに ますかけはなし
読人知らず大短所御歌
1-古今1096つくばねの 峰のもみぢ葉 落ちつもり 知るも知らぬも なべてかなしも
つくはねの みねのもみちは おちつもり しるもしらぬも なへてかなしも
読人知らず大短所御歌
1-古今1097甲斐がねを さやにも見しか けけれなく 横ほりふせる 小夜の中山
かひかねを さやにもみしか けけれなく よこほりふせる さやのなかやま
読人知らず大短所御歌
1-古今1098甲斐がねを ねこし山こし 吹く風を 人にもがもや ことづてやらむ
かひかねを ねこしやまこし ふくかせを ひとにもかもや ことつてやらむ
読人知らず大短所御歌
1-古今1099をふのうらに 片枝さしおほひ なる梨の なりもならずも 寝てかたらはむ
をふのうらに かたえさしおほひ なるなしの なりもならすも ねてかたらはむ
読人知らず大短所御歌
1-古今1100ちはやぶる 賀茂のやしろの 姫小松 よろづ世ふとも 色はかはらじ
ちはやふる かものやしろの ひめこまつ よろつよふとも いろはかはらし
藤原敏行大短所御歌
2-後撰1ふる雪のみのしろ衣うちきつつ春きにけりとおとろかれぬる
ふるゆきの みのしろころも うちきつつ はるきにけりと おとろかれぬる
藤原敏行春上
2-後撰2春立つとききつるからにかすか山消えあへぬ雪の花とみゆらむ
はるたつと ききつるからに かすかやま きえあへぬゆきの はなとみゆらむ
凡河内躬恒春上
2-後撰3けふよりは荻のやけ原かきわけて若菜つみにと誰をさそはん
けふよりは をきのやけはら かきわけて わかなつみにと たれをさそはむ
兼盛王春上
2-後撰4白雲のうへしるけふそ春雨のふるにかひある身とはしりぬる
しらくもの うへしるけふそ はるさめの ふるにかひある みとはしりぬる
読人知らず春上
2-後撰5松もひきわかなもつます成りぬるをいつしか桜はやもさかなむ
まつもひき わかなもつます なりぬるを いつしかさくら はやもさかなむ
左太臣(実頼)春上
2-後撰6松にくる人しなけれは春の野のわかなも何もかひなかりけり
まつにくる ひとしなけれは はるののの わかなもなにも かひなかりけり
朱雀院春上
2-後撰7君のみや野辺に小松を引きにゆく我もかたみにつまんわかなを
きみのみや のへにこまつを ひきにゆく われもかたみに つまむわかなを
読人知らず春上
2-後撰8霞立つかすかののへのわかなにもなり見てしかな人もつむやと
かすみたつ かすかののへの わかなにも なりみてしかな ひともつむやと
読人知らず春上
2-後撰9春ののに心をたにもやらぬ身はわかなはつまて年をこそつめ
はるののに こころをたにも やらぬみは わかなはつまて としをこそつめ
躬恒春上
2-後撰10ふるさとののへ見にゆくといふめるをいさもろともにわかなつみてん
ふるさとの のへみにゆくと いふめるを いさもろともに わかなつみてむ
行明規王春上
2-後撰11水のおもにあや吹きみたる春風や池の氷をけふはとくらむ
みつのおもに あやふきみたる はるかせや いけのこほりを けふはとくらむ
紀友則春上
2-後撰12吹く風や春たちきぬとつけつらん枝にこもれる花さきにけり
ふくかせや はるたちきぬと つけつらむ えたにこもれる はなさきにけり
読人知らず春上
2-後撰13かすかのにおふるわかなを見てしより心をつねに思ひやるかな
かすかのに おふるわかなを みてしより こころをつねに おもひやるかな
躬恒春上
2-後撰14もえいつるこのめを見てもねをそなくかれにし枝の春をしらねは
もえいつる このめをみても ねをそなく かれにしえたの はるをしらねは
兼覧王女春上
2-後撰15いつのまに霞立つらんかすかのの雪たにとけぬ冬とみしまに
いつのまに かすみたつらむ かすかのの ゆきたにとけぬ ふゆとみしまに
読人知らず春上
2-後撰16なほさりに折りつるものを梅花こきかに我や衣そめてむ
なほさりに をりつるものを うめのはな こきかにわれや ころもそめてむ
藤原冬嗣春上
2-後撰17やとちかくうつしてうゑしかひもなくまちとほにのみにほふ花かな
やとちかく うつしてうゑし かひもなく まちとほにのみ にほふはなかな
藤原兼輔春上
2-後撰18春霞たなひきにけり久方の月の桂も花やさくらむ
はるかすみ たなひきにけり ひさかたの つきのかつらも はなやさくらむ
紀貫之春上
2-後撰19いつことも春のひかりはわかなくにまたみよしのの山は雪ふる
いつことも はなのひかりは わかなくに またみよしのの やまはゆきふる
躬恒春上
2-後撰20白玉をつつむ袖のみなかるるは春は涙もさえぬなりけり
しらたまを つつむそてのみ なかるるは はるはなみたも さえぬなりけり
伊勢春上
2-後撰21春立ちてわか身ふりぬるなかめには人の心の花もちりけり
はるたちて わかみふりぬる なかめには ひとのこころの はなもちりけり
読人知らず春上
2-後撰22わかせこに見せむと思ひし梅花それとも見えす雪のふれれは
わかせこに みせむとおもひし うめのはな それともみえす ゆきのふれれは
読人知らず春上
2-後撰23きて見へき人もあらしなわかやとの梅のはつ花をりつくしてむ
きてみへき ひともあらしな わかやとの うめのはつはな をりつくしてむ
読人知らず春上
2-後撰24ことならは折りつくしてむ梅花わかまつ人のきても見なくに
ことならは をりつくしてむ うめのはな わかまつひとの きてもみなくに
読人知らず春上
2-後撰25吹く風にちらすもあらなんむめの花わか狩衣ひとよやとさむ
ふくかせに ちらすもあらなむ うめのはな わかかりころも ひとよやとさむ
読人知らず春上
2-後撰26わかやとの梅のはつ花ひるは雪よるは月とも見えまかふかな
わかやとの うめのはつはな ひるはゆき よるはつきとも みえまかふかな
読人知らず春上
2-後撰27梅花よそなから見むわきもこかとかむはかりのかにもこそしめ
うめのはな よそなからみむ わきもこか とかむはかりの かにもこそしめ
読人知らず春上
2-後撰28むめの花をれはこほれぬわか袖ににほひかうつせ家つとにせん
うめのはな をれはこほれぬ わかそてに にほひかうつせ いへつとにせむ
素性法師春上
2-後撰29心もてをるかはあやな梅花かをとめてたにとふ人のなき
こころもて をるかはあやな うめのはな かをとめてたに とふひとのなき
読人知らず春上
2-後撰30人心うさこそまされはるたてはとまらすきゆるゆきかくれなん
ひとこころ うさこそまされ はるたては とまらすきゆる ゆきかくれなむ
読人知らず春上
2-後撰31梅花かをふきかくる春風に心をそめは人やとかめむ
うめのはな かをふきかくる はるかせに こころをそめは ひとやとかめむ
読人知らず春上
2-後撰32春雨のふらはの山にましりなん梅の花かさありといふなり
はるさめの ふらはのやまに ましりなむ うめのはなかさ ありといふなり
読人知らず春上
2-後撰33かきくらし雪はふりつつしかすかにわか家のそのに鴬そなく
かきくらし ゆきはふりつつ しかすかに わかいへのそのに うくひすそなく
読人知らず春上
2-後撰34谷さむみいまたすたたぬ鴬のなくこゑわかみ人のすさめぬ
たにさむみ いまたすたたぬ うくひすの なくこゑわかみ ひとのすさへぬ
読人知らず春上
2-後撰35鴬のなきつるこゑにさそはれて花のもとにそ我はきにける
うくひすの なきつるこゑに さそはれて はなのもとにそ われはきにける
読人知らず春上
2-後撰36花たにもまたさかなくに鴬のなくひとこゑを春とおもはむ
はなたにも またさかなくに うくひすの なくひとこゑを はるとおもはむ
読人知らず春上
2-後撰37君かため山田のさはにゑくつむとぬれにし袖は今もかわかす
きみかため やまたのさはに ゑくつむと ぬれにしそては いまもかわかす
読人知らず春上
2-後撰38梅花今はさかりになりぬらんたのめし人のおとつれもせぬ
うめのはな いまはさかりに なりぬらむ たのめしひとの おとつれもせぬ
朱雀院の兵部卿のみこ春上
2-後撰39春雨にいかにそ梅やにほふらんわか見る枝は色もかはらす
はるさめに いかにそうめや にほふらむ わかみるえたは いろもかはらす
紀長谷雄春上
2-後撰40梅花ちるてふなへに春雨のふりてつつなくうくひすのこゑ
うめのはな ちるてふなへに はるさめの ふりてつつなく うくひすのこゑ
読人知らず春上
2-後撰41いもか家のはひいりにたてるあをやきに今やなくらん鴬の声
いもかいへの はひいりにたてる あをやきに いまやなくらむ うくひすのこゑ
躬恒春上
2-後撰42ふか緑ときはの松の影にゐてうつろふ花をよそにこそ見れ
ふかみとり ときはのまつの かけにゐて うつろふはなを よそにこそみれ
坂上是則春上
2-後撰43花の色はちらぬまはかりふるさとにつねには松のみとりなりけり
はなのいろは ちらぬまはかり ふるさとに つねにはまつの みとりなりけり
藤原雅正春上
2-後撰44紅に色をはかへて梅花かそことことににほはさりける
くれなゐに いろをはかへて うめのはな かそことことに にほはさりける
躬恒春上
2-後撰45ふる雪はかつもけななむ梅花ちるにまとはす折りてかささん
ふるゆきは かつもけななむ うめのはな ちるにまとはす をりてかささむ
紀貫之春上
2-後撰46春ことにさきまさるへき花なれはことしをもまたあかすとそ見る
はることに さきまさるへき はななれは ことしをもまた あかすとそみる
紀貫之春上
2-後撰47うゑし時花見むとしもおもはぬにさきちる見れはよはひ老いにけり
うゑしとき はなみむとしも おもはぬに さきちるみれは よはひおいにけり
藤原扶幹春中
2-後撰48竹ちかくよとこねはせし鴬のなく声きけはあさいせられす
たけちかく よとこねはせし うくひすの なくこゑきけは あさいせられす
藤原伊衡春中
2-後撰49いその神ふるの山への桜花うゑけむ時をしる人そなき
いそのかみ ふるのやまへの さくらはな うゑけむときを しるひとそなき
僧正遍昭春中
2-後撰50山守はいははいはなん高砂のをのへの桜折りてかささむ
やまもりは いははいはなむ たかさこの をのへのさくら をりてかささむ
素性法師春中
2-後撰51さくらはな色はひとしき枝なれとかたみに見れはなくさまなくに
さくらはな いろはひとしき えたなれと かたみにみれは なくさまなくに
読人知らず春中
2-後撰52見ぬ人のかたみかてらはをらさりき身になすらへる花にしあらねは
みぬひとの かたみかてらは をらさりき みになすらへる はなにしあらねは
伊勢春中
2-後撰53吹く風をならしの山の桜花のとけくそ見るちらしとおもへは
ふくかせを ならしのやまの さくらはな のとけくそみる ちらしとおもへは
読人知らず春中
2-後撰54桜花けふよく見てむくれ竹のひとよのほとにちりもこそすれ
さくらはな けふよくみてむ くれたけの ひとよのほとに ちりもこそすれ
坂上是則春中
2-後撰55さくらはなにほふともなく春くれはなとか歎のしけりのみする
さくらはな にほふともなく はるくれは なとかなけきの しけりのみする
読人知らず春中
2-後撰56けふ桜しつくにわか身いさぬれむかこめにさそふ風のこぬまに
けふさくら しつくにわかみ いさぬれむ かこめにさそふ かせのこぬまに
源融春中
2-後撰57さくら花ぬしをわすれぬ物ならはふきこむ風に事つてはせよ
さくらはな ぬしをわすれぬ ものならは ふきこむかせに ことつてはせよ
菅原道真春中
2-後撰58あをやきのいとよりはへておるはたをいつれの山の鴬かきる
あをやきの いとよりはへて おるはたを いつれのやまの うくひすかきる
伊勢春中
2-後撰59あひおもはてうつろふ色を見るものを花にしられぬなかめするかな
あひおもはて うつろふいろを みるものを はなにしられぬ なかめするかな
凡河内躬恒春中
2-後撰60帰る雁雲ちにまとふ声すなり霞ふきとけこのめはる風
かへるかり くもちにまとふ こゑすなり かすみふきとけ このめはるかせ
読人知らず春中
2-後撰61さきさかす我になつけそさくら花人つてにやはきかんと思ひし
さきさかす われになつけそ さくらはな ひとつてにやは きかむとおもひし
大将御息所春中
2-後撰62春くれはこかくれおほきゆふつくよおほつかなしも花かけにして
はるくれは こかくれおほき ゆふつくよ おほつかなしも はなかけにして
読人知らず春中
2-後撰63立渡る霞のみかは山高み見ゆる桜の色もひとつを
たちわたる かすみのみかは やまたかみ みゆるさくらの いろもひとつを
読人知らず春中
2-後撰64おほそらにおほふはかりの袖もかな春さく花を風にまかせし
おほそらに おほふはかりの そてもかな はるさくはなを かせにまかせし
読人知らず春中
2-後撰65なけきさへ春をしるこそわひしけれもゆとは人に見えぬものから
なけきさへ はるをしるこそ わひしけれ もゆとはひとに みえぬものから
読人知らず春中
2-後撰66もえ渡る歎は春のさかなれはおほかたにこそあはれとも見れ
もえわたる なけきははるの さかなれは おほかたにこそ あはれともみれ
読人知らず春中
2-後撰67あをやきのいとつれなくもなりゆくかいかなるすちに思ひよらまし
あをやきの いとつれなくも なりゆくか いかなるすちに おもひよらまし
藤原師尹春中
2-後撰68山さとにちりなましかは桜花にほふさかりもしられさらまし
やまさとに ちりなましかは さくらはな にほふさかりも しられさらまし
藤原師尹春中
2-後撰69匂こき花のかもてそしられけるうゑて見るらんひとの心は
にほひこき はなのかもてそ しられける うゑてみるらむ ひとのこころは
衛門のみやすん所春中
2-後撰70時しもあれ花のさかりにつらけれはおもはぬ山にいりやしなまし
ときしもあれ はなのさかりに つらけれは おもはぬやまに いりやしなまし
藤原朝忠春中
2-後撰71わかためにおもはぬ山のおとにのみ花さかりゆく春をうらみむ
わかために おもはぬやまの おとにのみ はなさかりゆく はるをうらみむ
小弐春中
2-後撰72春の池の玉もに遊ふにほとりのあしのいとなきこひもするかな
はるのいけの たまもにあそふ にほとりの あしのいとなき こひもするかな
宮道高風春中
2-後撰73山風の花のかかとふふもとには春の霞そほたしなりける
やまかせの はなのかかとふ ふもとには はるのかすみそ ほたしなりける
藤原興風春中
2-後撰74春さめの世にふりにたる心にも猶あたらしく花をこそおもへ
はるさめの よにふりにたる こころにも なほあたらしく はなをこそおもへ
読人知らず春中
2-後撰75はる霞たちてくもゐになりゆくはかりの心のかはるなるへし
はるかすみ たちてくもゐに なりゆくは かりのこころの かはるなるへし
読人知らず春中
2-後撰76ねられぬをしひてわかぬる春の夜の夢をうつつになすよしもかな
ねられぬを しひてわかぬる はるのよの ゆめをうつつに なすよしもかな
読人知らず春中
2-後撰77わかやとの桜の色はうすくとも花のさかりはきてもをらなむ
わかやとの さくらのいろは うすくとも はなのさかりは きてもをらなむ
読人知らず春中
2-後撰78年をへて花のたよりに事とははいととあたなる名をや立ちなん
としをへて はなのたよりに こととはは いととあたなる なをやたちなむ
兼覧王春中
2-後撰79わかやとの花にななきそ喚子鳥よふかひ有りて君もこなくに
わかやとの はなにななきそ よふことり よふかひありて きみもこなくに
春道列樹春中
2-後撰80ふりぬとていたくなわひそはるさめのたたにやむへき物ならなくに
ふりぬとて いたくなわひそ はるさめの たたにやむへき ものならなくに
紀貫之春中
2-後撰81鴬のなくなる声は昔にてわか身ひとつのあらすもあるかな
うくひすの なくなるこゑは むかしにて わかみひとつの あらすもあるかな
藤原顕忠母春下
2-後撰82ひさしかれあたにちるなとさくら花かめにさせれとうつろひにけり
ひさしかれ あたにちるなと さくらはな かめにさせれと うつろひにけり
紀貫之春下
2-後撰83千世ふへきかめにさせれと桜花とまらん事は常にやはあらぬ
ちよふへき かめにさせれと さくらはな とまらむことは つねにやはあらぬ
中務春下
2-後撰84ちりぬへき花の限はおしなへていつれともなくをしき春かな
ちりぬへき はなのかきりは おしなへて いつれともなく をしきはるかな
読人知らず春下
2-後撰85かきこしにちりくる花を見るよりはねこめに風の吹きもこさなん
かきこしに ちりくるはなを みるよりは ねこめにかせの ふきもこさなむ
伊勢春下
2-後撰86春の日のなかき思ひはわすれしを人の心に秋やたつらむ
はるのひの なかきおもひは わすれしを ひとのこころに あきやたつらむ
読人知らず春下
2-後撰87よそにても花見ることにねをそなくわか身にうとき春のつらさに
よそにても はなみることに ねをそなく わかみにうとき はるのつらさに
読人知らず春下
2-後撰88風をたにまちてそ花のちりなまし心つからにうつろふかうさ
かせをたに まちてそはなの ちりなまし こころつからに うつろふかうさ
紀貫之春下
2-後撰89わかやとにすみれの花のおほかれはきやとる人やあるとまつかな
わかやとに すみれのはなの おほけれは きやとるひとや あるとまつかな
読人知らず春下
2-後撰90山高み霞をわけてちる花を雪とやよその人は見るらん
やまたかみ かすみをわけて ちるはなを ゆきとやよその ひとはみるらむ
読人知らず春下
2-後撰91吹く風のさそふ物とはしりなからちりぬる花のしひてこひしき
ふくかせの さそふものとは しりなから ちりぬるはなの しひてこひしき
読人知らず春下
2-後撰92うちはへてはるはさはかりのとけきを花の心やなにいそくらん
うちはへて はるはさはかり のとけきを はなのこころや なにいそくらむ
深養父春下
2-後撰93わかやとの歎ははるもしらなくに何にか花をくらへても見む
わかやとの なけきははるも しらなくに なににかはなを くらへてもみむ
こわかきみ春下
2-後撰94はるの日の影そふ池のかかみには柳のまゆそまつは見えける
はるのひの かけそふいけの かかみには やなきのまゆそ まつはみえける
読人知らず春下
2-後撰95かくなからちらて世をやはつくしてぬ花のときはもありと見るへく
かくなから ちらてよをやは つくしてぬ はなのときはも ありとみるへく
読人知らず春下
2-後撰96かさせとも老もかくれぬこの春そ花のおもてはふせつへらなる
かさせとも おいもかくれぬ このはるそ はなのおもては ふせつへらなる
凡河内躬恒春下
2-後撰97ひととせにかさなる春のあらはこそふたたひ花を見むとたのまめ
ひととせに かさなるはるの あらはこそ ふたたひはなも みむとたのまめ
読人知らず春下
2-後撰98春くれはさくてふことをぬれきぬにきするはかりの花にそありける
はるくれは さくてふことを ぬれきぬに きするはかりの はなにそありける
紀貫之春下
2-後撰99春霞たちなから見し花ゆゑにふみとめてけるあとのくやしさ
はるかすみ たちなからみし はなゆゑに ふみとめてける あとのくやしさ
読人知らず春下
2-後撰100はる日さす藤のうらはのうらとけて君しおもはは我もたのまん
はるひさす ふちのうらはの うらとけて きみしおもはは われもたのまむ
読人知らず春下
2-後撰101鴬に身をあひかへはちるまてもわか物にして花は見てまし
うくひすに みをあひかへは ちるまても わかものにして はなはみてまし
伊勢春下
2-後撰102花の色は昔なからに見し人の心のみこそうつろひにけれ
はなのいろは むかしなからに みしひとの こころのみこそ うつろひにけれ
元良親王春下
2-後撰103あたら夜の月と花とをおなしくはあはれしれらん人に見せはや
あたらよの つきとはなとを おなしくは こころしれらむ ひとにみせはや
源信明春下
2-後撰104宮こ人きてもをらなんかはつなくあかたのゐとの山吹の花
みやこひと きてもをらなむ かはつなく あかたのゐとの やまふきのはな
橘のきんひらか女春下
2-後撰105今よりは風にまかせむ桜花ちるこのもとに君とまりけり
いまよりは かせにまかせむ さくらはな ちるこのもとに きみとまりけり
読人知らず春下
2-後撰106風にしも何かまかせんさくら花匂あかぬにちるはうかりき
かせにしも なにかまかせむ さくらはな にほひあかぬに ちるはうかりき
藤原敦忠春下
2-後撰107常よりも春へになれはさくら河花の浪こそまなくよすらめ
つねよりも はるへになれは さくらかは はなのなみこそ まなくよすらめ
紀貫之春下
2-後撰108わかきたるひとへ衣は山吹のやへの色にもおとらさりけり
わかきたる ひとへころもは やまふきの やへのいろにも おとらさりけり
兼輔春下
2-後撰109ひととせにふたたひさかぬ花なれはむへちることを人はいひけり
ひととせに ふたたひさかぬ はななれは うへちることを ひとはいひけり
在原元方春下
2-後撰110春さめの花の枝より流れこは猶こそぬれめかもやうつると
はるさめの はなのえたより なかれこは なほこそぬれめ かもやうつると
藤原敏行春下
2-後撰111はる深き色にもあるかな住の江のそこも緑に見ゆるはま松
はるふかき いろにもあるかな すみのえの そこもみとりに みゆるはままつ
読人知らず春下
2-後撰112春くれは花見にと思ふ心こそのへの霞とともにたちけれ
はるくれは はなみにとおもふ こころこそ のへのかすみと ともにたちけれ
典侍よるかの春下
2-後撰113我をこそとふにうからめ春霞花につけてもたちよらぬかな
われをこそ とふにうからめ はるかすみ はなにつけても たちよらぬかな
読人知らず春下
2-後撰114たちよらぬ春の霞をたのまれよ花のあたりと見れはなるらん
たちよらぬ はるのかすみを たのまれよ はなのあたりと みれはなるらむ
源清蔭春下
2-後撰115君見よと尋ねてをれる山さくらふりにし色と思はさらなん
きみみよと たつねてをれる やまさくら ふりにしいろと おもはさらなむ
伊勢春下
2-後撰116神さひてふりにし里にすむ人は都ににほふ花をたに見す
かみさひて ふりにしさとに すむひとは みやこににほふ はなをたにみす
読人知らず春下
2-後撰117み吉野のよしのの山の桜花白雲とのみ見えまかひつつ
みよしのの よしののやまの さくらはな しらくもとのみ みえまかひつつ
読人知らず春下
2-後撰118山さくらさきぬる時は常よりも峰の白雲たちまさりけり
やまさくら さきぬるときは つねよりも みねのしらくも たちまさりけり
読人知らず春下
2-後撰119白雲と見えつるものをさくら花けふはちるとや色ことになる
しらくもと みえつるものを さくらはな けふはちるとや いろことになる
紀貫之春下
2-後撰120わかやとの影ともたのむ藤の花たちよりくとも浪にをらるな
わかやとの かけともたのむ ふちのはな たちよりくとも なみにをらるな
読人知らず春下
2-後撰121花さかりまたもすきぬに吉野河影にうつろふ岸の山吹
はなさかり またもすきぬに よしのかは かけにうつろふ きしのやまふき
読人知らず春下
2-後撰122しのひかねなきてかはつの惜むをもしらすうつろふ山吹の花
しのひかね なきてかはつの をしむをも しらすうつろふ やまふきのはな
読人知らず春下
2-後撰123折りつれはたふさにけかるたてなからみよの仏に花たてまつる
をりつれは たふさにけかる たてなから みよのほとけに はなたてまつる
僧正遍昭春下
2-後撰124みなそこの色さへ深き松かえにちとせをかねてさける藤波
みなそこの いろさへふかき まつかえに ちとせをかねて さけるふちなみ
読人知らず春下
2-後撰125限なき名におふふちの花なれはそこひもしらぬ色のふかさか
かきりなき なにおふふちの はななれは そこひもしらぬ いろのふかさか
藤原定方春下
2-後撰126色深くにほひし事は藤浪のたちもかへらて君とまれとか
いろふかく にほひしことは ふちなみの たちもかへらて きみとまれとか
藤原兼輔春下
2-後撰127さをさせとふかさもしらぬふちなれは色をは人もしらしとそ思ふ
さをさせと ふかさもしらぬ ふちなれは いろをはひとも しらしとそおもふ
紀貫之春下
2-後撰128昨日見し花のかほとてけさみれはねてこそさらに色まさりけれ
きのふみし はなのかほとて けさみれは ねてこそさらに いろまさりけれ
藤原定方春下
2-後撰129ひと夜のみねてしかへらは藤の花心とけたる色見せんやは
ひとよのみ ねてしかへらは ふちのはな こころとけたる いろみせむやは
藤原兼輔春下
2-後撰130あさほらけしたゆく水はあさけれと深くそ花の色は見えける
あさほらけ したゆくみつは あさけれと ふかくそはなの いろはみえける
紀貫之春下
2-後撰131鴬の糸によるてふ玉柳ふきなみたりそ春の山かせ
うくひすの いとによるてふ たまやなき ふきなみたりそ はるのやまかせ
読人知らず春下
2-後撰132いつのまにちりはてぬらん桜花おもかけにのみ色を見せつつ
いつのまに ちりはてぬらむ さくらはな おもかけにのみ いろをみせつつ
躬恒春下
2-後撰133ちることのうきもわすれてあはれてふ事をさくらにやとしつるかな
ちることの うきもわすれて あはれてふ ことをさくらに やとしつるかな
源仲宣春下
2-後撰134桜色にきたる衣のふかけれはすくる春日もをしけくもなし
さくらいろに きたるころもの ふかけれは すくるはるひも をしけくもなし
読人知らず春下
2-後撰135あまりさへありてゆくへき年たにも春にかならすあふよしもかな
あまりさへ ありてゆくへき としたにも はるにかならす あふよしもかな
紀貫之春下
2-後撰136つねよりものとけかるへき春なれはひかりに人のあはさらめやは
つねよりも のとけかるへき はるなれは ひかりにひとの あはさらめやは
左太臣(実頼)春下
2-後撰137君こすて年はくれにき立ちかへり春さへけふに成りにけるかな
きみこすて としはくれにき たちかへり はるさへけふに なりにけるかな
藤原雅正春下
2-後撰138ともにこそ花をも見めとまつ人のこぬものゆゑにをしきはるかな
ともにこそ はなをもみめと まつひとの こぬものゆゑに をしきはるかな
藤原雅正春下
2-後撰139きみにたにとはれてふれは藤の花たそかれ時もしらすそ有りける
きみにたに とはれてふれは ふちのはな たそかれときも しらすそありける
紀貫之春下
2-後撰140やへむくら心の内にふかけれは花見にゆかんいてたちもせす
やへむくら こころのうちに ふかけれは はなみにゆかむ いてたちもせす
紀貫之春下
2-後撰141をしめとも春の限のけふの又ゆふくれにさへなりにけるかな
をしめとも はるのかきりの けふのまた ゆふくれにさへ なりにけるかな
読人知らず春下
2-後撰142ゆくさきををしみし春のあすよりはきにし方にもなりぬへきかな
ゆくさきを をしみしはるの あすよりは きにしかたにも なりぬへきかな
躬恒春下
2-後撰143ゆくさきになりもやするとたのみしを春の限はけふにそ有りける
ゆくさきに なりもやすると たのみしを はるのかきりは けふにそありける
紀貫之春下
2-後撰144花しあらは何かははるのをしからんくるともけふはなけかさらまし
はなしあらは なにかははるの をしからむ くるともけふは なけかさらまし
読人知らず春下
2-後撰145くれて又あすとたになきはるの日を花の影にてけふはくらさむ
くれてまた あすとたになき はるのひを はなのかけにて けふはくらさむ
躬恒春下
2-後撰146又もこむ時そとおもへとたのまれぬわか身にしあれはをしきはるかな
またもこむ ときそとおもへと たのまれぬ わかみにしあれは をしきはるかな
紀貫之春下
2-後撰147今日よりは夏の衣に成りぬれときるひとさへはかはらさりけり
けふよりは なつのころもに なりぬれと きるひとさへは かはらさりけり
読人知らず
2-後撰148卯花のさけるかきねの月きよみいねすきけとやなくほとときす
うのはなの さけるかきねの つききよみ いねすきけとや なくほとときす
読人知らず
2-後撰149郭公きゐるかきねはちかなからまちとほにのみ声のきこえぬ
ほとときす きゐるかきねは ちかなから まちとほにのみ こゑのきこえぬ
読人知らず
2-後撰150ほとときす声まつほとはとほからてしのひになくをきかぬなるらん
ほとときす こゑまつほとは とほからて しのひになくを きかぬなるらむ
読人知らず
2-後撰151うらめしき君かかきねの卯花はうしと見つつも猶たのむかな
うらめしき きみかかきねの うのはなは うしとみつつも なほたのむかな
読人知らず
2-後撰152うき物と思ひしりなは卯花のさけるかきねもたつねさらまし
うきものと おもひしりなは うのはなの さけるかきねも たつねさらまし
読人知らず
2-後撰153時わかすふれる雪かと見るまてにかきねもたわにさける卯花
ときわかす ふれるゆきかと みるまてに かきねもたわに さけるうのはな
読人知らず
2-後撰154白妙ににほふかきねの卯花のうくもきてとふ人のなきかな
しろたへに にほふかきねの うのはなの うくもきてとふ ひとのなきかな
読人知らず
2-後撰155時わかす月か雪かとみるまてにかきねのままにさける卯花
ときわかす つきかゆきかと みるまてに かきねのままに さけるうのはな
読人知らず
2-後撰156鳴きわひぬいつちかゆかん郭公猶卯花の影ははなれし
なきわひぬ いつちかゆかむ ほとときす なほうのはなの かけははなれし
読人知らず
2-後撰157あひ見しもまた見ぬこひも郭公月になくよそよににさりける
あひみしも またみぬこひも ほとときす つきになくよそ よににさりける
読人知らず
2-後撰158有りとのみおとはの山の郭公ききにきこえてあはすもあるかな
ありとのみ おとはのやまの ほとときす ききにきこえて あはすもあるかな
読人知らず
2-後撰159こかくれてさ月まつとも郭公はねならはしに枝うつりせよ
こかくれて さつきまつとも ほとときす はねならはしに えたうつりせよ
伊勢
2-後撰160いひそめし昔のやとの杜若色はかりこそかたみなりけれ
いひそめし むかしのやとの かきつはた いろはかりこそ かたみなりけれ
良岑義方
2-後撰161ゆきかへるやそうち人の玉かつらかけてそたのむ葵てふ名を
ゆきかへる やそうちひとの たまかつら かけてそたのむ あふひてふなを
読人知らず
2-後撰162ゆふたすきかけてもいふなあた人の葵てふなはみそきにそせし
ゆふたすき かけてもいふな あたひとの あふひてふなは みそきにそせし
読人知らず
2-後撰163このころはさみたれちかみ郭公思ひみたれてなかぬ日そなき
このころは さみたれちかみ ほとときす おもひみたれて なかぬひそなき
読人知らず
2-後撰164まつ人は誰ならなくにほとときす思ひの外になかはうからん
まつひとは たれならなくに ほとときす おもひのほかに なかはうからむ
読人知らず
2-後撰165にほひつつちりにし花そおもほゆる夏は緑の葉のみしけれは
にほひつつ ちりにしはなそ おもほゆる なつはみとりの はのみしけれは
読人知らず
2-後撰166さみたれに春の宮人くる時は郭公をやうくひすにせん
さみたれに はるのみやひと くるときは ほとときすをや うくひすにせむ
大春日師範
2-後撰167みしか夜のふけゆくままに白妙の峰の松風ふくかとそきく
みしかよの ふけゆくままに たかさこの みねのまつかせ ふくかとそきく
藤原兼輔
2-後撰168葦引の山した水はゆきかよひことのねにさへなかるへらなり
あしひきの やましたみつは ゆきかよひ ことのねにさへ なかるへらなり
紀貫之
2-後撰169夏の夜はあふ名のみして敷妙のちりはらふまにあけそしにける
なつのよは あふなのみして しきたへの ちりはらふまに あけそしにける
藤原高経
2-後撰170夢よりもはかなき物は夏の夜の暁かたの別なりけり
ゆめよりも はかなきものは なつのよの あかつきかたの わかれなりけり
壬生忠岑
2-後撰171よそなから思ひしよりも夏の夜の見はてぬ夢そはかなかりける
よそなから おもひしよりも なつのよの みはてぬゆめそ はかなかりける
読人知らず
2-後撰172ふた声と聞くとはなしに郭公夜深くめをもさましつるかな
ふたこゑと きくとはなしに ほとときす よふかくめをも さましつるかな
伊勢
2-後撰173あふと見し夢にならひて夏の日のくれかたきをも歎きつるかな
あふとみし ゆめにならひて なつのひの くれかたきをも なけきつるかな
藤原安国
2-後撰174うとまるる心しなくは郭公あかぬ別にけさはけなまし
うとまるる こころしなくは ほとときす あかぬわかれに けさはけなまし
読人知らず
2-後撰175折りはへてねをのみそなく郭公しけきなけきの枝ことにゐて
をりはへて ねをのみそなく ほとときす しけきなけきの えたことにゐて
読人知らず
2-後撰176ほとときすきては旅とや鳴渡る我は別のをしき宮こを
ほとときす きてはたひとや なきわたる われはわかれの をしきみやこを
読人知らず
2-後撰177独ゐて物思ふ我を郭公ここにしもなく心あるらし
ひとりゐて ものおもふわれを ほとときす ここにしもなく こころあるらし
読人知らず
2-後撰178玉匣あけつるほとのほとときすたたふたこゑもなきてこしかな
たまくしけ あけつるほとの ほとときす たたふたこゑも なきてこしかな
読人知らず
2-後撰179かすならぬわか身山への郭公このはかくれのこゑはきこゆや
かすならぬ わかみやまへの ほとときす このはかくれの こゑはきこゆや
読人知らず
2-後撰180とこ夏に鳴きてもへなんほとときすしけきみ山になに帰るらむ
とこなつに なきてもへなむ ほとときす しけきみやまに なにかへるらむ
読人知らず
2-後撰181ふすからにまつそわひしき郭公なきもはてぬにあくるよなれは
ふすからに まつそわひしき ほとときす なきもはてぬに あくるよなれは
読人知らず
2-後撰182さみたれになかめくらせる月なれはさやにも見えすくもかくれつつ
さみたれに なかめくらせる つきなれは さやにもみえす くもかくれつつ
あるしの女
2-後撰183ふた葉よりわかしめゆひしなてしこの花のさかりを人にをらすな
ふたはより わかしめゆひし なてしこの はなのさかりを ひとにをらすな
読人知らず
2-後撰184葦引の山郭公うちはへて誰かまさるとねをのみそなく
あしひきの やまほとときす うちはへて たれかまさると ねをのみそなく
読人知らず
2-後撰185つれつれとなかむる空の郭公とふにつけてそねはなかれける
つれつれと なかむるそらの ほとときす とふにつけてそ ねはなかれける
読人知らず
2-後撰186色かへぬ花橘に郭公ちよをならせるこゑきこゆなり
いろかへぬ はなたちはなに ほとときす ちよをならせる こゑきこゆなり
読人知らず
2-後撰187たひねしてつまこひすらし郭公神なひ山にさよふけてなく
たひねして つまこひすらし ほとときす かむなひやまに さよふけてなく
読人知らず
2-後撰188夏の夜にこひしき人のかをとめは花橘そしるへなりける
なつのよに こひしきひとの かをとめは はなたちはなそ しるへなりける
読人知らず
2-後撰189郭公はつかなるねをききそめてあらぬもそれとおほめかれつつ
ほとときす はつかなるねを ききそめて あらぬもそれと おほめかれつつ
伊勢
2-後撰190さみたれのつつける年のなかめには物思ひあへる我そわひしき
さみたれの つつけるとしの なかめには ものおもひあへる われそわひしき
読人知らず
2-後撰191郭公ひとこゑにあくる夏の夜の暁かたやあふこなるらむ
ほとときす ひとこゑにあくる なつのよの あかつきかたや あふこなるらむ
読人知らず
2-後撰192うちはへてねをなきくらす空蝉のむなしきこひも我はするかな
うちはへて ねをなきくらす うつせみの むなしきこひも われはするかな
読人知らず
2-後撰193常もなき夏の草はにおくつゆをいのちとたのむせみのはかなさ
つねもなき なつのくさはに おくつゆを いのちとたのむ せみのはかなさ
読人知らず
2-後撰194やへむくらしけきやとには夏虫の声より外に問ふ人もなし
やへむくら しけきやとには なつむしの こゑよりほかに とふひともなし
読人知らず
2-後撰195うつせみのこゑきくからに物そ思ふ我も空しき世にしすまへは
うつせみの こゑきくからに ものそおもふ われもむなしき よにしすまへは
読人知らず
2-後撰196如何せむをくらの山の郭公おほつかなしとねをのみそなく
いかかせむ をくらのやまの ほとときす おほつかなしと ねをのみそなく
藤原師尹
2-後撰197郭公暁かたのひとこゑはうき世中をすくすなりけり
ほとときす あかつきかたの ひとこゑは うきよのなかを すくすなりけり
読人知らず
2-後撰198ひとしれすわかしめしののとこなつは花さきぬへき時そきにける
ひとしれす わかしめしのの とこなつは はなさきぬへき ときそきにける
読人知らず
2-後撰199わかやとのかきねにうゑしなてしこは花にさかなんよそへつつ見む
わかやとの かきねにうゑし なてしこは はなにさかなむ よそへつつみむ
読人知らず
2-後撰200常夏の花をたに見はことなしにすくす月日もみしかかりなん
とこなつの はなをたにみは ことなしに すくすつきひも みしかかりなむ
読人知らず
2-後撰201常夏に思ひそめては人しれぬ心の程は色に見えなん
とこなつに おもひそめては ひとしれぬ こころのほとは いろにみえなむ
読人知らず
2-後撰202色といへはこきもうすきもたのまれす山となてしこちる世なしやは
いろといへは こきもうすきも たのまれす やまとなてしこ ちるよなしやは
読人知らず
2-後撰203なてしこはいつれともなくにほへともおくれてさくはあはれなりけり
なてしこは いつれともなく にほへとも おくれてさくは あはれなりけり
藤原忠平
2-後撰204なてしこの花ちりかたになりにけりわかまつ秋そちかくなるらし
なてしこの はなちりかたに なりにけり わかまつあきそ ちかくなるらし
読人知らず
2-後撰205夜ひなからひるにもあらなん夏なれはまちくらすまのほとなかるへく
よひなから ひるにもあらなむ なつなれは まちくらすまの ほとなかるへき
読人知らず
2-後撰206夏の夜の月は程なくあけぬれは朝のまをそかこちよせつる
なつのよの つきはほとなく あけぬれは あしたのまをそ かこちよせつる
読人知らず
2-後撰207鵲の峰飛ひこえてなきゆけは夏の夜渡る月そかくるる
かささきの みねとひこえて なきゆけは なつのよわたる つきそかくるる
読人知らず
2-後撰208秋ちかみ夏はてゆけは郭公なく声かたき心ちこそすれ
あきちかみ なつはてゆけは ほとときす なくこゑかたき ここちこそすれ
読人知らず
2-後撰209つつめともかくれぬ物は夏虫の身よりあまれる思ひなりけり
つつめとも かくれぬものは なつむしの みよりあまれる おもひなりけり
読人知らず
2-後撰210あまの河水まさるらし夏の夜は流るる月のよとむまもなし
あまのかは みつまさるらし なつのよは なかるるつきの よとむまもなし
読人知らず
2-後撰211花もちり郭公さへいぬるまて君にもゆかすなりにけるかな
はなもちり ほとときすさへ いぬるまて きみにもゆかす なりにけるかな
紀貫之
2-後撰212はな鳥の色をもねをもいたつらに物うかる身はすくすのみなり
はなとりの いろをもねをも いたつらに ものうかるみは すくすのみなり
藤原雅正
2-後撰213夏虫の身をたきすてて玉しあらは我とまねはむ人めもる身そ
なつむしの みをたきすてて たましあらは われとまねはむ ひとめもるみそ
読人知らず
2-後撰214今夜かくなかむる袖のつゆけきは月の霜をや秋とみつらん
こよひかく なかむるそての つゆけきは つきのしもをや あきとみつらむ
読人知らず
2-後撰215かも河のみなそこすみててる月をゆきて見むとや夏はらへする
かもかはの みなそこすみて てるつきを ゆきてみむとや なつはらへする
読人知らず
2-後撰216たなはたはあまのかはらをななかへりのちのみそかをみそきにはせよ
たなはたは あまのかはらを ななかへり のちのみそかを みそきにはせよ
読人知らず
2-後撰217にはかにも風のすすしくなりぬるか秋立つ日とはむへもいひけり
にはかにも かせのすすしく なりぬるか あきたつひとは うへもいひけり
読人知らず秋上
2-後撰218打ちつけに物そ悲しきこのはちる秋の始をけふそとおもへは
うちつけに ものそかなしき このはちる あきのはしめを けふそとおもへは
読人知らず秋上
2-後撰219たのめこし君はつれなし秋風はけふよりふきぬわか身かなしも
たのめこし きみはつれなし あきかせは けふよりふきぬ わかみかなしも
読人知らず秋上
2-後撰220いととしく物思ふやとの荻の葉に秋とつけつる風のわひしさ
いととしく ものおもふやとの をきのはに あきとつけつる かせのわひしき
読人知らず秋上
2-後撰221秋風のうちふきそむるゆふくれはそらに心そわひしかりける
あきかせの うちふきそむる ゆふくれは そらにこころそ わひしかりける
読人知らず秋上
2-後撰222露わけしたもとほすまもなきものをなと秋風のまたきふくらん
つゆわけし たもとほすまも なきものを なとあきかせの またきふくらむ
大江千里秋上
2-後撰223秋はきを色とる風の吹きぬれはひとの心もうたかはれけり
あきはきを いろとるかせの ふきぬれは ひとのこころも うたかはれけり
読人知らず秋上
2-後撰224あき萩を色とる風は吹きぬとも心はかれし草はならねは
あきはきを いろとるかせは ふきぬとも こころはかれし くさはならねは
在原業平秋上
2-後撰225あふことはたなはたつめにひとしくてたちぬふわさはあへすそありける
あふことは たなはたつめに ひとしくて たちぬふわさは あへすそありける
閑院秋上
2-後撰226天河渡らむそらもおもほえすたえぬ別と思ふものから
あまのかは わたらむそらも おもほえす たえぬわかれと おもふものから
読人知らず秋上
2-後撰227雨ふりて水まさりけり天河こよひはよそにこひむとやみし
あめふりて みつまさりけり あまのかは こよひはよそに こひむとやみし
源中正秋上
2-後撰228水まさり浅きせしらすなりぬともあまのと渡る舟もなしやは
みつまさり あさきせしらす なりぬとも あまのとわたる ふねもなしやは
読人知らず秋上
2-後撰229織女もあふよありけり天河この渡にはわたるせもなし
たなはたも あふよありけり あまのかは このわたりには わたるせもなし
藤原兼三秋上
2-後撰230ひこほしのまれにあふよのとこ夏は打ちはらへともつゆけかりけり
ひこほしの まれにあふよの とこなつは うちはらへとも つゆけかりけり
読人知らず秋上
2-後撰231こひこひてあはむと思ふゆふくれはたなはたつめもかくそあるらし
こひこひて あはむとおもふ ゆふくれは たなはたつめも かくそあるらし
読人知らず秋上
2-後撰232たくひなき物とは我そなりぬへきたなはたつめは人めやはもる
たくひなき ものとはわれそ なりぬへき たなはたつめは ひとめやはもる
読人知らず秋上
2-後撰233あまの河流れてこひはうくもそあるあはれと思ふせにはやく見む
あまのかは なかれてこひは うくもそある あはれとおもふ せにはやくみむ
読人知らず秋上
2-後撰234玉蔓たえぬものからあらたまの年の渡はたたひとよのみ
たまかつら たえぬものから あらたまの としのわたりは たたひとよのみ
読人知らず秋上
2-後撰235秋の夜の心もしるくたなはたのあへるこよひはあけすもあらなん
あきのよの こころもしるく たなはたの あへるこよひは あけすもあらなむ
読人知らず秋上
2-後撰236契りけん事のは今は返してむ年のわたりによりぬるものを
ちきりけむ ことのはいまは かへしてむ としのわたりに よりぬるものを
読人知らず秋上
2-後撰237逢ふ事の今夜過きなは織女におとりやしなんこひはまさりて
あふことの こよひすきなは たなはたに おとりやしなむ こひはまさりて
藤原敦忠秋上
2-後撰238織女のあまのとわたるこよひさへをち方人のつれなかるらむ
たなはたの あまのとわたる こよひさへ をちかちひとの つれなかるらむ
読人知らず秋上
2-後撰239天河とほき渡はなけれとも君かふなては年にこそまて
あまのかは とほきわたりは なけれとも きみかふなては としにこそまて
読人知らず秋上
2-後撰240あまの河いはこす浪のたちゐつつ秋のなぬかのけふをしそまつ
あまのかは いはこすなみの たちゐつつ あきのなぬかの けふをしそまつ
読人知らず秋上
2-後撰241けふよりはあまの河原はあせななんそこひともなくたたわたりなん
けふよりは あまのかはらは あせななむ そこひともなく たたわたりなむ
紀友則秋上
2-後撰242天河流れてこふるたなはたの涙なるらし秋のしらつゆ
あまのかは なかれてこふる たなはたの なみたなるらし あきのしらつゆ
読人知らず秋上
2-後撰243あまの河せせの白浪たかけれとたたわたりきぬまつにくるしみ
あまのかは せせのしらなみ たかけれと たたわたりきぬ まつにくるしみ
読人知らず秋上
2-後撰244秋くれは河霧わたる天河かはかみ見つつこふる日のおほき
あきくれは かはきりわたる あまのかは かはかみみつつ こふるひのおほき
読人知らず秋上
2-後撰245天河こひしきせにそ渡りぬるたきつ涙に袖はぬれつつ
あまのかは こひしきせにそ わたりぬる たきつなみたに そてはぬれつつ
読人知らず秋上
2-後撰246織女の年とはいはし天河雲たちわたりいさみたれなん
たなはたの としとはいはし あまのかは くもたちわたり いさみたれなむ
読人知らず秋上
2-後撰247秋の夜のあかぬ別をたなはたはたてぬきにこそ思ふへらなれ
あきのよの あかぬわかれを たなはたは たてぬきにこそ おもふへらなれ
凡河内躬恒秋上
2-後撰248たなはたの帰る朝の天河舟もかよはぬ浪もたたなん
たなはたの かへるあしたの あまのかは ふねもかよはぬ なみもたたなむ
藤原兼輔秋上
2-後撰249あさとあけてなかめやすらんたなはたはあかぬ別のそらをこひつつ
あさとあけて なかめやすらむ たなはたは あかぬわかれの そらをこひつつ
紀貫之秋上
2-後撰250秋風のふけはさすかにわひしきは世のことわりと思ふものから
あきかせの ふけはさすかに わひしきは よのことわりと おもふものから
読人知らず秋上
2-後撰251松虫のはつこゑさそふ秋風はおとは山よりふきそめにけり
まつむしの はつこゑさそふ あきかせは おとはやまより ふきそめにけり
読人知らず秋上
2-後撰252ゆく蛍雲のうへまていぬへくは秋風ふくと雁につけこせ
ゆくほたる くものうへまて いぬへくは あきかせふくと かりにつけこせ
在原業平秋上
2-後撰253秋風の草葉そよきてふくなへにほのかにしつるひくらしのこゑ
あきかせの くさはそよきて ふくなへに ほのかにしつる ひくらしのこゑ
読人知らず秋上
2-後撰254ひくらしの声きく山のちかけれやなきつるなへにいり日さすらん
ひくらしの こゑきくやまの ちかけれや なきつるなへに いりひさすらむ
紀貫之秋上
2-後撰255ひくらしのこゑきくからに松虫の名にのみ人を思ふころかな
ひくらしの こゑきくからに まつむしの なにのみひとを おもふころかな
紀貫之秋上
2-後撰256心有りてなきもしつるかひくらしのいつれももののあきてうけれは
こころありて なきもしつるか ひくらしの いつれもものの あきてうけれは
紀貫之秋上
2-後撰257秋風の吹きくるよひは蛬草のねことにこゑみたれけり
あきかせの ふきくるよひは きりきりす くさのねことに こゑみたれけり
紀貫之秋上
2-後撰258わかことく物やかなしききりきりす草のやとりにこゑたえすなく
わかことく ものやかなしき きりきりす くさのやとりに こゑたえすなく
紀貫之秋上
2-後撰259こむといひしほとやすきぬる秋ののに誰松虫そこゑのかなしき
こむといひし ほとやすきぬる あきののに たれまつむしそ こゑのかなしき
紀貫之秋上
2-後撰260秋ののにきやとる人もおもほえすたれを松虫ここらなくらん
あきののに きやとるひとも おもほえす たれをまつむし ここらなくらむ
紀貫之秋上
2-後撰261あき風のややふきしけはのをさむみわひしき声に松虫そ鳴く
あきかせの ややふきしけは のをさむみ わひしきこゑに まつむしそなく
紀貫之秋上
2-後撰262秋くれは野もせに虫のおりみたるこゑのあやをはたれかきるらん
あきくれは のもせにむしの おりみたる こゑのあやをは たれかきるらむ
藤原元善秋上
2-後撰263風さむみなく秋虫の涙こそくさは色とるつゆとおくらめ
かせさむみ なくあきむしの なみたこそ くさはいろとる つゆとおくらめ
読人知らず秋上
2-後撰264秋風の吹きしく松は山なから浪立帰るおとそきこゆる
あきかせの ふきしくまつは やまなから なみたちかへる おとそきこゆる
読人知らず秋上
2-後撰265松のねに風のしらへをまかせては竜田姫こそ秋はひくらし
まつのねに かせのしらへを まかせては たつたひめこそ あきはひくらし
壬生忠岑秋上
2-後撰266山里の物さひしさは荻のはのなひくことにそ思ひやらるる
やまさとの ものさひしきは をきのはの なひくことにそ おもひやらるる
左太臣(実頼)秋上
2-後撰267ほにはいてぬいかにかせまし花すすき身を秋風にすてやはててん
ほにはいてぬ いかにかせまし はなすすき みをあきかせに すてやはててむ
小野道風秋上
2-後撰268あけくらしまもるたのみをからせつつたもとそほつの身とそ成りぬる
あけくらし まもるたのみを からせつつ たもとそほつの みとそなりぬる
読人知らず秋上
2-後撰269心もておふる山田のひつちほは君まもらねとかる人もなし
こころもて おふるやまたの ひつちほは きみまもらねと かるひともなし
読人知らず秋上
2-後撰270草のいとにぬく白玉と見えつるは秋のむすへるつゆにそ有りける
くさのいとに ぬくしらたまと みえつるは あきのむすへる つゆにそありける
藤原守文秋上
2-後撰271秋霧の立ちぬる時はくらふ山おほつかなくそ見え渡りける
あききりの たちぬるときは くらふやま おほつかなくそ みえわたりける
紀貫之秋中
2-後撰272花見にといてにしものを秋の野の霧に迷ひてけふはくらしつ
はなみにと いてにしものを あきののの きりにまよひて けふはくらしつ
紀貫之秋中
2-後撰273浦ちかくたつ秋きりはもしほやく煙とのみそ見えわたりける
うらちかく たつあききりは もしほやく けふりとのみそ みえわたりける
読人知らず秋中
2-後撰274をるからにわかなはたちぬ女郎花いさおなしくははなはなに見む
をるからに わかなはたちぬ をみなへし いさおなしくは はなはなにみむ
藤原興風秋中
2-後撰275秋の野の露におかるる女郎花はらふ人なみぬれつつやふる
あきののの つゆにおかるる をみなへし はらふひとなみ ぬれつつやふる
読人知らず秋中
2-後撰276をみなへし花の心のあたなれは秋にのみこそあひわたりけれ
をみなへし はなのこころの あたなれは あきにのみこそ あひわたりけれ
読人知らず秋中
2-後撰277さみたれにぬれにし袖にいととしくつゆおきそふる秋のわひしさ
さみたれに ぬれにしそてに いととしく つゆおきそふる あきのわひしさ
近江更衣秋中
2-後撰278おほかたも秋はわひしき時なれとつゆけかるらん袖をしそ思ふ
おほかたも あきはわひしき ときなれと つゆけかるらむ そてをしそおもふ
延喜秋中
2-後撰279白露のかはるもなにかをしからんありてののちもややうきものを
しらつゆの かはるもなにか をしからむ ありてののちも ややうきものを
法皇秋中
2-後撰280うゑたてて君かしめゆふ花なれは玉と見えてやつゆもおくらん
うゑたてて きみかしめゆふ はななれは たまとみえてや つゆもおくらむ
伊勢秋中
2-後撰281折りて見る袖さへぬるるをみなへしつゆけき物と今やしるらん
をりてみる そてさへぬるる をみなへし つゆけきものと いまやしるらむ
藤原師輔秋中
2-後撰282よろつよにかからんつゆををみなへしなに思ふとかまたきぬるらん
よろつよに かからむつゆを をみなへし なにおもふとか またきぬるらむ
大輔秋中
2-後撰283おきあかすつゆのよなよなへにけれはまたきぬるともおもはさりけり
おきあかす つゆのよなよな へにけれは またきぬるとも おもはさりけり
藤原師輔秋中
2-後撰284今ははや打ちとけぬへき白露の心おくまてよをやへにける
いまははや うちとけぬへき しらつゆの こころおくまて よをやへにける
大輔秋中
2-後撰285白露のうへはつれなくおきゐつつ萩のしたはの色をこそ見れ
しらつゆの うへはつれなく おきゐつつ はきのしたはの いろをこそみれ
読人知らず秋中
2-後撰286心なき身はくさはにもあらなくに秋くる風にうたかはるらん
こころなき みはくさはにも あらなくに あきくるかせに うたかはるらむ
伊勢秋中
2-後撰287人はいさ事そともなきなかめにそ我はつゆけき秋もしらるる
ひとはいさ ことそともなき なかめにそ われはつゆけき あきもしらるる
読人知らず秋中
2-後撰288花すすきほにいつる事もなきやとは昔忍ふの草をこそ見れ
はなすすき ほにいつることも なきやとは むかししのふの くさをこそみれ
中宮宣旨秋中
2-後撰289やともせにうゑなめつつそ我は見るまねくをはなに人やとまると
やともせに うゑなへつつそ われはみる まねくをはなに ひとやとまると
伊勢秋中
2-後撰290秋の夜をいたつらにのみおきあかす露はわか身のうへにそ有りける
あきのよを いたつらにのみ おきあかす つゆはわかみの うへにそありける
読人知らず秋中
2-後撰291おほかたにおく白露も今よりは心してこそみるへかりけれ
おほかたに おくしらつゆも いまよりは こころしてこそ みるへかりけれ
読人知らず秋中
2-後撰292露ならぬわか身と思へと秋の夜をかくこそあかせおきゐなからに
つゆならぬ わかみとおもへと あきのよを かくこそあかせ おきゐなからに
藤原師輔秋中
2-後撰293白露のおくにあまたの声すれは花の色色有りとしらなん
しらつゆの おくにあまたの こゑすれは はなのいろいろ ありとしらなむ
読人知らず秋中
2-後撰294くれはては月も待つへし女郎花雨やめてとは思はさらなん
くれはては つきもまつへし をみなへし あめやめてとは おもはさらなむ
左太臣(実頼)秋中
2-後撰295秋の田のかりほのやとのにほふまてさける秋はきみれとあかぬかも
あきのたの かりほのやとの にほふまて さけるあきはき みれとあかぬかも
読人知らず秋中
2-後撰296秋のよをまとろますのみあかす身は夢ちとたにそたのまさりける
あきのよを まとろますのみ あかすみは ゆめちとたにそ たのまさりける
読人知らず秋中
2-後撰297時雨ふりふりなは人に見せもあへすちりなはをしみをれる秋はき
しくれふり ふりなはひとに みせもあへす ちりなはをしみ をれるあきはき
読人知らず秋中
2-後撰298往還り折りてかささむあさなあさな鹿立ちならすのへの秋はき
ゆきかへり をりてかささむ あさなあさな しかたちならす のへのあきはき
紀貫之秋中
2-後撰299わかやとの庭の秋はきちりぬめりのちみむ人やくやしと思はむ
わかやとの にはのあきはき ちりぬめり のちみむひとや くやしとおもはむ
むねゆきの秋中
2-後撰300白露のおかまく惜しき秋萩を折りてはさらに我やかくさん
しらつゆの おかまくをしき あきはきを をりてはさらに われやかくさむ
読人知らず秋中
2-後撰301秋はきの色つく秋を徒にあまたかそへて老いそしにける
あきはきの いろつくあきを いたつらに あまたかそへて おいそしにける
紀貫之秋中
2-後撰302秋の田のかりほのいほのとまをあらみわか衣手はつゆにぬれつつ
あきのたの かりほのいほの とまをあらみ わかころもては つゆにぬれつつ
天智天皇秋中
2-後撰303わか袖に露そおくなる天河雲のしからみ浪やこすらん
わかそてに つゆそおくなる あまのかは くものしからみ なみやこすらむ
読人知らず秋中
2-後撰304秋はきの枝もとををになり行くは白露おもくおけはなりけり
あきはきの えたもとををに なりゆくは しらつゆおもく おけはなりけり
読人知らず秋中
2-後撰305わかやとのを花かうへの白露をけたすて玉にぬく物にもか
わかやとの をはなかうへの しらつゆを けたすてたまに ぬくものにもか
読人知らず秋中
2-後撰306さを鹿の立ちならすをのの秋はきにおける白露我もけぬへし
さをしかの たちならすをのの あきはきに おけるしらつゆ われもけぬへし
紀貫之秋中
2-後撰307秋の野の草はいととも見えなくにおくしらつゆを玉とぬくらん
あきののの くさはいととも みえなくに おくしらつゆを たまとぬくらむ
紀貫之秋中
2-後撰308白露に風の吹敷く秋ののはつらぬきとめぬ玉そちりける
しらつゆに かせのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまそちりける
文屋朝康秋中
2-後撰309秋ののにおく白露をけさ見れは玉やしけるとおとろかれつつ
あきののに おくしらつゆを けさみれは たまやしけると おとろかれつつ
壬生忠岑秋中
2-後撰310おくからにちくさの色になるものを白露とのみ人のいふらん
おくからに ちくさのいろに なるものを しらつゆとのみ ひとのいふらむ
読人知らず秋中
2-後撰311白玉の秋のこのはにやとれると見ゆるはつゆのはかるなりけり
しらたまの あきのこのはに やとれると みゆるはつゆの はかるなりけり
読人知らず秋中
2-後撰312秋ののにおく白露のきえさらは玉にぬきてもかけてみてまし
あきののに おくしらつゆの きえさらは たまにぬきても かけてみてまし
読人知らず秋中
2-後撰313唐衣袖くつるまておくつゆはわか身を秋ののとや見るらん
からころも そてくつるまて おくつゆは わかみをあきの のとやみるらむ
読人知らず秋中
2-後撰314おほそらにわか袖ひとつあらなくにかなしくつゆやわきておくらん
おほそらに わかそてひとつ あらなくに かなしくつゆや わきておくらむ
読人知らず秋中
2-後撰315あさことにおくつゆそてにうけためて世のうき時の涙にそかる
あさことに おくつゆそてに うけためて よのうきときの なみたにそかる
読人知らず秋中
2-後撰316秋の野の草もわけぬをわか袖の物思ふなへにつゆけかるらん
あきののの くさもわけぬを わかそての ものおもふなへに つゆけかるらむ
紀貫之秋中
2-後撰317いく世へてのちかわすれんちりぬへきのへの秋はきみかく月よを
いくよへて のちかわすれむ ちりぬへき のへのあきはき みかくつきよを
深養父秋中
2-後撰318秋の夜の月の影こそこのまよりおちは衣と身にうつりけれ
あきのよの つきのかけこそ このまより おちはころもと みにうつりけれ
読人知らず秋中
2-後撰319袖にうつる月の光は秋ことに今夜かはらぬ影とみえつつ
そてにうつる つきのひかりは あきことに こよひかはらぬ かけとみえつつ
読人知らず秋中
2-後撰320秋のよの月にかさなる雲はれてひかりさやかに見るよしもかな
あきのよの つきにかさなる くもはれて ひかりさやかに みるよしもかな
読人知らず秋中
2-後撰321秋の池の月のうへにこく船なれは桂の枝にさをやさはらん
あきのいけの つきのうへにこく ふねなれは かつらのえたに さをやさはらむ
小野美材秋中
2-後撰322あきの海にうつれる月を立ちかへり浪はあらへと色もかはらす
あきのうみに うつれるつきを たちかへり なみはあらへと いろもかはらす
深養父秋中
2-後撰323秋の夜の月の光はきよけれと人の心のくまはてらさす
あきのよの つきのひかりは きよけれと ひとのこころの くまはてらさす
読人知らず秋中
2-後撰324あきの月常にかくてる物ならはやみにふる身はましらさらまし
あきのつき つねにかくてる ものならは やみにふるみは ましらさらまし
読人知らず秋中
2-後撰325いつとても月見ぬ秋はなきものをわきて今夜のめつらしきかな
いつとても つきみぬあきは なきものを わきてこよひの めつらしきかな
藤原雅正秋中
2-後撰326月影はおなしひかりの秋のよをわきて見ゆるは心なりけり
つきかけは おなしひかりの あきのよを わきてみゆるは こころなりけり
読人知らず秋中
2-後撰327そらとほみ秋やよくらん久方の月のかつらの色もかはらぬ
そらとほみ あきやよくらむ ひさかたの つきのかつらの いろもかはらぬ
紀淑光秋中
2-後撰328衣手はさむくもあらねと月影をたまらぬ秋の雪とこそ見れ
ころもては さむくもあらねと つきかけを たまらぬあきの ゆきとこそみれ
紀貫之秋中
2-後撰329あまの河しからみかけてととめなんあかすなかるる月やよとむと
あまのかは しからみかけて ととめなむ あかすなかるる つきやよとむと
読人知らず秋中
2-後撰330秋風に浪やたつらん天河わたるせもなく月のなかるる
あきかせに なみやたつらむ あまのかは わたるせもなく つきのなかるる
読人知らず秋中
2-後撰331あきくれは思ふ心そみたれつつまつもみちはとちりまさりける
あきくれは おもふこころそ みたれつつ まつもみちはと ちりまさりける
読人知らず秋中
2-後撰332きえかへり物思ふ秋の衣こそ涙の河の紅葉なりけれ
きえかへり ものおもふあきの ころもこそ なみたのかはの もみちなりけれ
深養父秋中
2-後撰333吹く風に深きたのみのむなしくは秋の心をあさしとおもはむ
ふくかせに ふかきたのみの むなしくは あきのこころを あさしとおもはむ
読人知らず秋中
2-後撰334秋の夜は人をしつめてつれつれとかきなすことのねにそなきぬる
あきのよは ひとをしつめて つれつれと かきなすことの ねにそなきぬる
読人知らず秋中
2-後撰335ぬきとむる秋しなけれは白露のちくさにおける玉もかひなし
ぬきとむる あきしなけれは しらつゆの ちくさにおける たまもかひなし
藤原清正秋中
2-後撰336秋風にいととふけゆく月影をたちなかくしそあまの河きり
あきかせに いととふけゆく つきかけを たちなかくしそ あまのかはきり
藤原清正秋中
2-後撰337をみなへしにほへる秋のむさしのは常よりも猶むつましきかな
をみなへし にほへるあきの むさしのは つねよりもなほ むつましきかな
紀貫之秋中
2-後撰338秋霧のはるるはうれしをみなへし立ちよる人やあらんと思へは
あききりの はるるはうれし をみなへし たちよるひとや あらむとおもへは
兼覧王秋中
2-後撰339をみなへし草むらことにむれたつは誰松虫の声に迷ふそ
をみなへし くさむらことに むれたつは たれまつむしの こゑにまよふそ
読人知らず秋中
2-後撰340女郎花ひる見てましを秋の夜の月の光は雲かくれつつ
をみなへし ひるみてましを あきのよの つきのひかりは くもかくれつつ
読人知らず秋中
2-後撰341をみなへし花のさかりにあき風のふくゆふくれを誰にかたらん
をみなへし はなのさかりに あきかせの ふくゆふくれを たれにかたらむ
読人知らず秋中
2-後撰342白妙の衣かたしき女郎花さけるのへにそこよひねにける
しろたへの ころもかたしき をみなへし さけるのへにそ こよひねにける
紀貫之秋中
2-後撰343名にしおへはしひてたのまん女郎花はなの心の秋はうくとも
なにしおへは しひてたのまむ をみなへし はなのこころの あきはうくとも
紀貫之秋中
2-後撰344織女ににたるものかな女郎花秋よりほかにあふ時もなし
たなはたに にたるものかな をみなへし あきよりほかに あふときもなし
躬恒秋中
2-後撰345秋の野によるもやねなんをみなへし花の名をのみ思ひかけつつ
あきののに よるもやねなむ をみなへし はなのなをのみ おもひかけつつ
読人知らず秋中
2-後撰346をみなへし色にもあるかな松虫をもとにやとして誰をまつらん
をみなへし いろにもあるかな まつむしを もとにやとして たれをまつらむ
読人知らず秋中
2-後撰347女郎花にほふさかりを見る時そわかおいらくはくやしかりける
をみなへし にほふさかりを みるときそ わかおいらくは くやしかりける
読人知らず秋中
2-後撰348をみなへし花のなならぬ物ならは何かは君かかさしにもせん
をみなへし はなのなならぬ ものならは なにかはきみか かさしにもせむ
藤原定方秋中
2-後撰349女郎花折りけん袖のふしことにすきにし君を思ひいてやせし
をみなへし をりけむそての ふしことに すきにしきみを おもひいてやせし
藤原仲平秋中
2-後撰350をみなへしをりもをらすもいにしへをさらにかくへき物ならなくに
をみなへし をりもをらすも いにしへを さらにかくへき ものならなくに
伊勢秋中
2-後撰351ふち袴きる人なみや立ちなからしくれの雨にぬらしそめつる
ふちはかま きるひとなみや たちなから しくれのあめに ぬらしそめつる
読人知らず秋下
2-後撰352秋風にあひとしあへは花すすきいつれともなくほにそいてける
あきかせに あひとしあへは はなすすき いつれともなく ほにそいてける
読人知らず秋下
2-後撰353花すすきそよともすれは秋風のふくかとそきくひとりぬるよは
はなすすき そよともすれは あきかせの ふくかとそきく ひとりぬるよは
在原棟梁秋下
2-後撰354はなすすきほにいてやすき草なれは身にならんとはたのまれなくに
はなすすき ほにいてやすき くさなれは みにならむとは たのまれなくに
読人知らず秋下
2-後撰355秋風にさそはれわたる雁かねは雲ゐはるかにけふそきこゆる
あきかせに さそはれわたる かりかねは くもゐはるかに けふそきこゆる
読人知らず秋下
2-後撰356秋のよに雁かもなきてわたるなりわか思ふ人の事つてやせし
あきのよに かりかもなきて わたるなり わかおもふひとの ことつてやせし
紀貫之秋下
2-後撰357あき風に雲とひわけてくるかりの千世にかはらぬ声きこゆなり
あきかせに きりとひわけて くるかりの ちよにかはらぬ こゑきこゆなり
紀貫之秋下
2-後撰358物思ふと月日のゆくもしらさりつかりこそなきて秋とつけつれ
ものおもふと つきひのゆくも しらさりつ かりこそなきて あきとつけけれ
読人知らず秋下
2-後撰359かりかねのなきつるなへに唐衣たつたの山はもみちしにけり
かりかねの なきつるなへに からころも たつたのやまは もみちしにけり
読人知らず秋下
2-後撰360秋風にさそはれ渡るかりかねは物思ふ人のやとをよかなん
あきかせに さそはれわたる かりかねは ものおもふひとの やとをよかなむ
読人知らず秋下
2-後撰361誰きけと鳴く雁金そわかやとのを花か末を過きかてにして
たれきけと なくかりかねそ わかやとの をはなかすゑを すきかてにして
読人知らず秋下
2-後撰362往還りここもかしこも旅なれやくる秋ことにかりかりとなく
ゆきかへり ここもかしこも たひなれや くるあきことに かりかりとなく
読人知らず秋下
2-後撰363秋ことにくれとかへれはたのまぬを声にたてつつかりとのみなく
あきことに くれとかへれは たのまぬを こゑにたてつつ かりとのみなく
読人知らず秋下
2-後撰364ひたすらにわかおもはなくにおのれさへかりかりとのみなきわたるらん
ひたすらに わかおもはなくに おのれさへ かりかりとのみ なきわたるらむ
読人知らず秋下
2-後撰365年ことに雲ちまとはぬかりかねは心つからや秋をしるらん
としことに くもちまとはぬ かりかねは こころつからや あきをしるらむ
躬恒秋下
2-後撰366天河かりそとわたるさほ山のこすゑはむへも色つきにけり
あまのかは かりそとわたる さほやまの こすゑはうへも いろつきにけり
読人知らず秋下
2-後撰367秋きりのたちのの駒をひく時は心にのりて君そこひしき
あききりの たちののこまを ひくときは こころにのりて きみそこひしき
藤原忠房秋下
2-後撰368いその神ふるのの草も秋は猶色ことにこそあらたまりけれ
いそのかみ ふるののくさも あきはなほ いろことにこそ あらたまりけれ
在原元方秋下
2-後撰369秋の野の錦のことも見ゆるかな色なきつゆはそめしと思ふに
あきののの にしきのことも みゆるかな いろなきつゆは そめしとおもふに
読人知らず秋下
2-後撰370あきののにいかなるつゆのおきつめはちちの草はの色かはるらん
あきののに いかなるつゆの おきつめは ちちのくさはの いろかはるらむ
読人知らず秋下
2-後撰371いつれをかわきてしのはん秋ののにうつろはんとて色かはる草
いつれをか わきてしのはむ あきののに うつろはむとて いろかはるくさ
読人知らず秋下
2-後撰372声たててなきそしぬへき秋きりに友まとはせるしかにはあらねと
こゑたてて なきそしぬへき あききりに ともまとはせる しかにはあらねと
紀友則秋下
2-後撰373誰きけと声白妙にさをしかのなかなかしよをひとりなくらん
たれきけと こゑたかさこに さをしかの なかなかしよを ひとりなくらむ
読人知らず秋下
2-後撰374打ちはへて影とそたのむ峰の松色とる秋の風にうつるな
うちはへて かけとそたのむ みねのまつ いろとるあきの かせにうつるな
読人知らず秋下
2-後撰375はつしくれふれは山へそおもほゆるいつれの方かまつもみつらん
はつしくれ ふれはやまへそ おもほゆる いつれのかたか まつもみつらむ
読人知らず秋下
2-後撰376いもかひもとくとむすふとたつた山今そ紅葉の錦おりける
いもかひも とくとむすふと たつたやま いまそもみちの にしきおりける
読人知らず秋下
2-後撰377雁なきて寒き朝の露ならし竜田の山をもみたす物は
かりなきて さむきあしたの つゆならし たつたのやまを もみたすものは
読人知らず秋下
2-後撰378見ることに秋にもなるかなたつたひめもみちそむとや山もきるらん
みることに あきにもなるかな たつたひめ もみちそむとや やまもきるらむ
読人知らず秋下
2-後撰379梓弓いるさの山は秋きりのあたることにや色まさるらむ
あつさゆみ いるさのやまは あききりの あたることにや いろまさるらむ
源宗于秋下
2-後撰380君と我いもせの山も秋くれは色かはりぬる物にそありける
きみとわれ いもせのやまも あきくれは いろかはりぬる ものにそありける
読人知らず秋下
2-後撰381おそくとく色つく山のもみちははおくれさきたつつゆやおくらん
おそくとく いろつくやまの もみちはは おくれさきたつ つゆやおくらむ
元方秋下
2-後撰382かくはかりもみつる色のこけれはや錦たつたの山といふらん
かくはかり もみつるいろの こけれはや にしきたつたの やまといふらむ
紀友則秋下
2-後撰383唐衣たつたの山のもみちはは物思ふ人のたもとなりけり
からころも たつたのやまの もみちはは ものおもふひとの たもとなりけり
読人知らず秋下
2-後撰384葦引の山の山もりもる山も紅葉せさする秋はきにけり
あしひきの やまのやまもり もるやまも もみちせさする あきはきにけり
紀貫之秋下
2-後撰385唐錦たつたの山も今よりはもみちなからにときはならなん
からにしき たつたのやまも いまよりは もみちなからに ときはならなむ
紀貫之秋下
2-後撰386から衣たつたの山のもみちはははた物もなき錦なりけり
からころも たつたのやまの もみちはは はたものもなき にしきなりけり
紀貫之秋下
2-後撰387いく木ともえこそ見わかね秋山のもみちのにしきよそにたてれは
いくきとも えこそみわかね あきやまの もみちのにしき よそにたてれは
壬生忠岑秋下
2-後撰388秋風のうち吹くからに山ものもなへて錦におりかへすかな
あきかせの うちふくからに やまものも なへてにしきに おりかへすかな
読人知らず秋下
2-後撰389なとさらに秋かととはむからにしきたつたの山の紅葉するよを
なとさらに あきかととはむ からにしき たつたのやまの もみちするよを
読人知らず秋下
2-後撰390あたなりと我は見なくにもみちはを色のかはれる秋しなけれは
あたなりと われはみなくに もみちはを いろのかはれる あきしなけれは
読人知らず秋下
2-後撰391玉かつら葛木山のもみちははおもかけにのみみえわたるかな
たまかつら かつらきやまの もみちはは おもかけにのみ みえわたるかな
紀貫之秋下
2-後撰392秋霧のたちしかくせはもみちははおほつかなくてちりぬへらなり
あききりの たちしかくせは もみちはは おほつかなくて ちりぬへらなり
紀貫之秋下
2-後撰393かかみやま山かきくもりしくるれともみちあかくそ秋は見えける
かかみやま やまかきくもり しくるれと もみちあかくそ あきはみえける
素性法師秋下
2-後撰394かすしらす君かよはひをのはへつつなたたるやとのつゆとならなん
かすしらす きみかよはひを のはへつつ なたたるやとの つゆとならなむ
伊勢秋下
2-後撰395露たにも名たたるやとの菊ならは花のあるしやいくよなるらん
つゆたにも なたたるやとの きくならは はなのあるしや いくよなるらむ
藤原雅正秋下
2-後撰396菊のうへにおきゐるへくもあらなくにちとせの身をもつゆになすかな
きくのうへに おきゐるへくも あらなくに ちとせのみをも つゆになすかな
伊勢秋下
2-後撰397きくの花長月ことにさきくれはひさしき心秋やしるらむ
きくのはな なかつきことに さきくれは ひさしきこころ あきやしるらむ
読人知らず秋下
2-後撰398名にしおへはなか月ことに君かためかきねの菊はにほへとそ思ふ
なにしおへは なかつきことに きみかため かきねのきくは にほへとそおもふ
読人知らず秋下
2-後撰399旧里をわかれてさける菊の花たひなからこそにほふへらなれ
ふるさとを わかれてさける きくのはな たひなからこそ にほふへらなれ
読人知らず秋下
2-後撰400何に菊色そめかへしにほふらん花もてはやす君もこなくに
なににきく いろそめかへし にほふらむ はなもてはやす きみもこなくに
読人知らず秋下
2-後撰401もみちはのちりくる見れは長月のありあけの月の桂なるらし
もみちはの ちりくるみれは なかつきの ありあけのつきの かつらなるらし
読人知らず秋下
2-後撰402いくちはたおれはか秋の山ことに風にみたるる鏡なるらむ
いくちはた おれはかあきの やまことに かせにみたるる にしきなるらむ
読人知らず秋下
2-後撰403なほさりに秋の山へをこえくれはおらぬ錦をきぬ人そなき
なほさりに あきのやまへを こえくれは おらぬにしきを きぬひとそなき
読人知らず秋下
2-後撰404もみちはをわけつつゆけは錦きて家に帰ると人や見るらん
もみちはを わけつつゆけは にしききて いへにかへると ひとやみるらむ
読人知らず秋下
2-後撰405うちむれていさわきもこかかかみ山こえてもみちのちらんかけ見む
うちむれて いさわきもこか かかみやま こえてもみちの ちらむかけみむ
紀貫之秋下
2-後撰406山かせのふきのまにまにもみちははこのもかのもにちりぬへらなり
やまかせの ふきのまにまに もみちはは このもかのもに ちりぬへらなり
読人知らず秋下
2-後撰407秋の夜に雨ときこえてふりつるは風にみたるる紅葉なりけり
あきのよに あめときこえて ふりつるは かせにみたるる もみちなりけり
読人知らず秋下
2-後撰408立ちよりて見るへき人のあれはこそ秋の林ににしきしくらめ
たちよりて みるへきひとの あれはこそ あきのはやしに にしきしくらめ
読人知らず秋下
2-後撰409このもとにおらぬ錦のつもれるは雲の林のもみちなりけり
このもとに おらぬにしきの つもれるは くものはやしの もみちなりけり
読人知らず秋下
2-後撰410秋風にちるもみちははをみなへしやとにおりしく錦なりけり
あきかせに ちるもみちはは をみなへし やとにおりしく にしきなりけり
読人知らず秋下
2-後撰411葦引の山のもみちはちりにけり嵐のさきに見てましものを
あしひきの やまのもみちは ちりにけり あらしのさきに みてましものを
読人知らず秋下
2-後撰412もみちはのふりしく秋の山へこそたちてくやしきにしきなりけれ
もみちはの ふりしくあきの やまへこそ たちてくやしき にしきなりけれ
読人知らず秋下
2-後撰413たつた河色紅になりにけり山のもみちそ今はちるらし
たつたかは いろくれなゐに なりにけり やまのもみちそ いまはちるらし
読人知らず秋下
2-後撰414竜田河秋にしなれは山ちかみなかるる水も紅葉しにけり
たつたかは あきにしなれは やまちかみ なかるるみつも もみちしにけり
紀貫之秋下
2-後撰415もみちはのなかるる秋は河ことに錦あらふと人やみるらむ
もみちはの なかるるあきは かはことに にしきあらふと ひとやみるらむ
読人知らず秋下
2-後撰416たつた河秋は水なくあせななんあかぬ紅葉のなかるれはをし
たつたかは あきはみつなく あせななむ あかぬもみちの なかるれはをし
読人知らず秋下
2-後撰417浪わけて見るよしもかなわたつみのそこのみるめももみちちるやと
なみわけて みるよしもかな わたつみの そこのみるめも もみちちるやと
文屋朝康秋下
2-後撰418このはちる浦に浪たつ秋なれはもみちに花もさきまかひけり
このはちる うらになみたつ あきなれは もみちにはなも さきまかひけり
藤原興風秋下
2-後撰419わたつみの神にたむくる山姫のぬさをそ人はもみちといひける
わたつみの かみにたむくる やまひめの ぬさをそひとは もみちといひける
読人知らず秋下
2-後撰420ひくらしの声もいとなくきこゆるは秋ゆふくれになれはなりけり
ひくらしの こゑもいとなく きこゆるは あきゆふくれに なれはなりけり
紀貫之秋下
2-後撰421風のおとの限と秋やせめつらんふきくることに声のわひしき
かせのおとの かきりとあきや せめつらむ ふきくることに こゑのわひしき
読人知らず秋下
2-後撰422もみちはにたまれるかりのなみたには月の影こそ移るへらなれ
もみちはに たまれるかりの なみたには つきのかけこそ うつるへらなれ
読人知らず秋下
2-後撰423おほかたの秋のそらたにわひしきに物思ひそふる君にもあるかな
おほかたの あきのそらたに わひしきに ものおもひそふる きみにもあるかな
右近秋下
2-後撰424わかことく物思ひけらししらつゆのよをいたつらにおきあかしつつ
わかことく ものおもひけらし しらつゆの よをいたつらに おきあかしつつ
読人知らず秋下
2-後撰425秋ふかみよそにのみきくしらつゆのたかことのはにかかるなるらん
あきふかみ よそにのみきく しらつゆの たかことのはに かかるなるらむ
平伊望女秋下
2-後撰426とふことの秋しもまれにきこゆるはかりにや我を人のたのめし
とふことの あきしもまれに きこゆるは かりにやわれを ひとのたのめし
むかしの承香殿のあこき秋下
2-後撰427君こふと涙にぬるるわか袖と秋のもみちといつれまされり
きみこふと なみたにぬるる わかそてと あきのもみちと いつれまさけり
みなもとのととのふ秋下
2-後撰428てる月の秋しもことにさやけきはちるもみちはをよるもみよとか
てるつきの あきしもことに さやけきは ちるもみちはを よるもみよとか
読人知らず秋下
2-後撰429なとわか身したはもみちと成りにけんおなしなけきの枝にこそあれ
なとわかみ したはもみちと なりにけむ おなしなけきの えたにこそあれ
読人知らず秋下
2-後撰430あかからは見るへきものをかりかねのいつこはかりになきてゆくらん
あかからは みるへきものを かりかねの いつこはかりに なきてゆくらむ
源わたす秋下
2-後撰431徒に露におかるる花かとて心もしらぬ人やをりけん
いたつらに つゆにおかるる はなかとて こころもしらぬ ひとやをりけむ
読人知らず秋下
2-後撰432枝も葉もうつろふ秋の花みれははてはかけなくなりぬへらなり
えたもはも うつろふあきの はなみれは はてはかけなく なりぬへらなり
藤原忠行秋下
2-後撰433しつくもてよはひのふてふ花なれはちよの秋にそ影はしけらん
しつくもて よはひのふてふ はななれは ちよのあきにそ かけはしけらむ
紀友則秋下
2-後撰434秋の月ひかりさやけみもみちはのおつる影さへ見えわたるかな
あきのつき ひかりさやけみ もみちはの おつるかけさへ みえわたるかな
紀貫之秋下
2-後撰435秋ことにつらをはなれぬかりかねは春帰るともかへらさらなん
あきことに つらをはなれぬ かりかねは はるかへるとも かへらさらなむ
読人知らず秋下
2-後撰436みな人にをられにけりと菊の花君かためにそつゆはおきける
みなひとに をられにけりと きくのはな きみかためにそ つゆはおきける
読人知らず秋下
2-後撰437吹く風にまかする舟や秋のよの月のうへよりけふはこくらん
ふくかせに まかするふねや あきのよの つきのうへより けふはこくらむ
読人知らず秋下
2-後撰438もみちははちるこのもとにとまりけり過行く秋やいつちなるらむ
もみちはは ちるこのもとに とまりけり すきゆくあきや いつちなるらむ
読人知らず秋下
2-後撰439思ひいてて問ふにはあらし秋はつる色の限を見するなるらん
おもひいてて とふにはあらし あきはつる いろのかきりを みするなるらむ
読人知らず秋下
2-後撰440宇治山の紅葉を見すは長月のすきゆくひをもしらすそあらまし
うちやまの もみちをみすは なかつきの すきゆくひをも しらすそあらまし
ちかぬかむすめ秋下
2-後撰441長月の在明の月はありなからはかなく秋はすきぬへらなり
なかつきの ありあけのつきは ありなから はかなくあきは すきぬへらなり
紀貫之秋下
2-後撰442いつ方に夜はなりぬらんおほつかなあけぬかきりは秋そとおもはん
いつかたに よはなりぬらむ おほつかな あけぬかきりは あきそとおもはむ
躬恒秋下
2-後撰443はつ時雨ふれは山へそおもほゆるいつれの方かまつもみつらん
はつしくれ ふれはやまへそ おもほゆる いつれのかたか まつもみつらむ
読人知らず
2-後撰444はつしくれふるほともなくさほ山の梢あまねくうつろひにけり
はつしくれ ふるほともなく さほやまの こすゑあまねく うつろひにけり
読人知らず
2-後撰445神な月ふりみふらすみ定なき時雨そ冬の始なりける
かみなつき ふりみふらすみ さためなき しくれそふゆの はしめなりける
読人知らず
2-後撰446冬くれはさほの河せにゐるたつもひとりねかたきねをそなくなる
ふゆくれは さほのかはせに ゐるたつも ひとりねかたき ねをそなくなる
読人知らず
2-後撰447ひとりぬる人のきかくに神な月にはかにもふるはつ時雨かな
ひとりぬる ひとのきかくに かみなつき にはかにもふる はつしくれかな
読人知らず
2-後撰448秋はてて時雨ふりぬる我なれはちることのはをなにかうらみむ
あきはてて しくれふりぬる われなれは ちることのはを なにかうらみむ
読人知らず
2-後撰449吹く風は色も見えねと冬くれはひとりぬるよの身にそしみける
ふくかせは いろもみえねと ふゆくれは ひとりぬるよの みにそしみける
読人知らず
2-後撰450秋はててわか身しくれにふりぬれは事の葉さへにうつろひにけり
あきはてて わかみしくれに ふりぬれは ことのはさへに うつろひにけり
読人知らず
2-後撰451神な月時雨とともにかみなひのもりのこのははふりにこそふれ
かみなつき しくれとともに かみなひの もりのこのはは ふりにこそふれ
読人知らず
2-後撰452たのむ木もかれはてぬれは神な月時雨にのみもぬるるころかな
たのむきも かれはてぬれは かみなつき しくれにのみも ぬるるころかな
読人知らず
2-後撰453神な月時雨はかりを身にそへてしらぬ山ちに入るそかなしき
かみなつき しくれはかりを みにそへて しらぬやまちに いるそかなしき
増基法師
2-後撰454もみちははをしき錦と見しかとも時雨とともにふりててそこし
もみちはは をしきにしきと みしかとも しくれとともに ふりててそこし
藤原忠房
2-後撰455もみちはも時雨もつらしまれにきてかへらん人をふりやととめぬ
もみちはも しくれもつらし まれにきて かへらむひとを ふりやととめぬ
大江千古
2-後撰456神な月限とや思ふもみちはのやむ時もなくよるさへにふる
かみなつき かきりとやおもふ もみちはの やむときもなく よるさへにふる
読人知らず
2-後撰457ちはやふる神かき山のさか木はは時雨に色もかはらさりけり
ちはやふる かみかきやまの さかきはは しくれにいろも かはらさりけり
読人知らず
2-後撰458人すますあれたるやとをきて見れは今そこのはは錦おりける
ひとすます あれたるやとを きてみれは いまそこのはは にしきおりける
藤原仲平
2-後撰459涙さへ時雨にそひてふるさとは紅葉の色もこさまさりけり
なみたさへ しくれにそひて ふるさとは もみちのいろも こさまさりけり
伊勢
2-後撰460冬の池の鴨のうはけにおくしものきえて物思ふころにもあるかな
ふゆのいけの かものうはけに おくしもの きえてものおもふ ころにもあるかな
読人知らず
2-後撰461神な月時雨ふるにもくるる日を君まつほとはなかしとそ思ふ
かみなつき しくれふるにも くるるひを きみまつほとは なかしとそおもふ
読人知らず
2-後撰462身をわけて霜やおくらむあた人の事のはさへにかれもゆくかな
みをわけて しもやおくらむ あたひとの ことのはさへに かれもゆくかな
読人知らず
2-後撰463人しれす君につけてしわか袖のけさしもとけすこほるなるへし
ひとしれす きみにつけてし わかそての けさしもとけす こほるなるへし
読人知らず
2-後撰464かきくらし霰ふりしけ白玉をしける庭とも人のみるへく
かきくらし あられふりしけ しらたまを しけるにはとも ひとのみるへく
読人知らず
2-後撰465神な月しくるる時そみよしのの山のみゆきもふり始めける
かみなつき しくるるときそ みよしのの やまのみゆきも ふりはしめける
読人知らず
2-後撰466けさの嵐寒くもあるかな葦引の山かきくもり雪そふるらし
けさのあらし さむくもあるかな あしひきの やまかきくもり ゆきそふるらし
読人知らず
2-後撰467くろかみのしろくなりゆく身にしあれはまつはつ雪をあはれとそみる
くろかみの しろくなりゆく みにしあれは まつはつゆきを あはれとそみる
読人知らず
2-後撰468霰ふるみ山のさとのわひしきはきてたはやすくとふ人そなき
あられふる みやまのさとの わひしきは きてたはやすく とふひとそなき
読人知らず
2-後撰469ちはやふる神な月こそかなしけれわか身時雨にふりぬと思へは
ちはやふる かみなつきこそ かなしけれ わかみしくれに ふりぬとおもへは
読人知らず
2-後撰470しら山に雪ふりぬれはあとたえて今はこしちに人もかよはす
しらやまに ゆきふりぬれは あとたえて いまはこしちに ひともかよはす
読人知らず
2-後撰471ふりそめて友まつゆきはむはたまのわかくろかみのかはるなりけり
ふりそめて ともまつゆきは うはたまの わかくろかみの かはるなりけり
紀貫之
2-後撰472くろかみの色ふりかふる白雪のまちいつる友はうとくそ有りける
くろかみの いろふりかはる しらゆきの まちいつるともは うとくそありける
藤原兼輔
2-後撰473くろかみと雪とのなかのうきみれはともかかみをもつらしとそ思ふ
くろかみと ゆきとのなかの うきみれは ともかかみをも つらしとそおもふ
紀貫之
2-後撰474年ことにしらかのかすをますかかみ見るにそ雪の友はしりける
としことに しらかのかすを ますかかみ みるにそゆきの ともはしりける
藤原兼輔
2-後撰475年ふれと色もかはらぬ松かえにかかれる雪を花とこそ見れ
としふれと いろもかはらぬ まつかえに かかれるゆきを はなとこそみれ
読人知らず
2-後撰476霜かれの枝となわひそ白雪のきえぬ限は花とこそみれ
しもかれの えたとなわひそ しらゆきの きえぬかきりは はなとこそみれ
読人知らず
2-後撰477氷こそ今はすらしもみよしのの山のたきつせこゑもきこえす
こほりこそ いまはすらしも みよしのの やまのたきつせ こゑもきこえす
読人知らず
2-後撰478夜をさむみねさめてきけはをしそなく払ひもあへす霜やおくらん
よをさむみ ねさめてきけは をしそなく はらひもあへす しもやおくらむ
読人知らず
2-後撰479かつきえてそらにみたるるあはゆきは物思ふ人の心なりけり
かつきえて そらもみたるる あはゆきは ものおもふひとの こころなりけり
藤原かけもと
2-後撰480白雪のふりはへてこそとはさらめとくるたよりをすくささらなん
しらゆきの ふりはへてこそ とはさらめ とくるたよりを すくささらなむ
読人知らず
2-後撰481思ひつつねなくにあくる冬の夜の袖の氷はとけすもあるかな
おもひつつ ねなくにあくる ふゆのよの そてのこほりは とけすもあるかな
読人知らず
2-後撰482荒玉の年を渡りてあるかうへにふりつむ雪のたえぬしら山
あらたまの としをわたりて あるかうへに ふりつむゆきの たえぬしらやま
読人知らず
2-後撰483まこもかるほり江にうきてぬるかもの今夜の霜にいかにわふらん
まこもかる ほりえにうきて ぬるかもの こよひのしもに いかにわふらむ
読人知らず
2-後撰484白雲のおりゐる山とみえつるはふりつむ雪のきえぬなりけり
しらくもの おりゐるやまと みえつるは ふりつるゆきの きえぬなりけり
読人知らず
2-後撰485ふるさとの雪は花とそふりつもるなかむる我も思ひきえつつ
ふるさとの ゆきははなとそ ふりつもる なかむるわれも おもひきえつつ
読人知らず
2-後撰486なかれゆく水こほりぬる冬さへや猶うき草のあとはととめぬ
なかれゆく みつこほりぬる ふゆさへや なほうきくさの あとはととめぬ
読人知らず
2-後撰487心あてに見はこそわかめ白雪のいつれか花のちるにたかへる
こころあてに みはこそわかめ しらゆきの いつれかはなの ちるにたかへる
読人知らず
2-後撰488天河冬は氷にとちたれやいしまにたきつおとたにもせぬ
あまのかは ふゆはこほりに とちたれや いしまにたきつ おとたにもせぬ
読人知らず
2-後撰489おしなへて雪のふれれはわかやとのすきを尋ねて問ふ人もなし
おしなへて ゆきのふれれは わかやとの すきをたつねて とふひともなし
読人知らず
2-後撰490冬の池の水になかるるあしかものうきねなからにいくよへぬらん
ふゆのいけの みつになかるる あしかもの うきねなからに いくよへぬらむ
読人知らず
2-後撰491山ちかみめつらしけなくふる雪のしろくやならん年つもりなは
やまちかみ めつらしけなく ふるゆきの しろくやならむ としつもりなは
読人知らず
2-後撰492松の葉にかかれる雪のそれをこそ冬の花とはいふへかりけれ
まつのはに かかれるゆきの それをこそ ふゆのはなとは いふへかりけれ
読人知らず
2-後撰493ふる雪はきえてもしはしとまらなん花ももみちも枝になきころ
ふるゆきは きえてもしはし とまらなむ はなももみちも えたになきころ
読人知らず
2-後撰494涙河身なくはかりのふちはあれと氷とけねはゆく方もなし
なみたかは みなくはかりの ふちはあれと こほりとけねは ゆくかたもなし
読人知らず
2-後撰495ふる雪に物思ふわか身おとらめやつもりつもりてきえぬはかりそ
ふるゆきに ものおもふわかみ おとらめや つもりつもりて きえぬはかりそ
読人知らず
2-後撰496よるならは月とそみましわかやとの庭白妙にふりつもる雪
よるならは つきとそみまし わかやとの にはしろたへに ふりつもるゆき
読人知らず
2-後撰497むめかえにふりおける雪を春ちかみめのうちつけに花かとそ見る
うめかえに ふりおけるゆきを はるちかみ めのうちつけに はなかとそみる
読人知らず
2-後撰498いつしかと山の桜もわかことく年のこなたにはるをまつらん
いつしかと やまのさくらも わかことく としのこなたに はるをまつらむ
読人知らず
2-後撰499年深くふりつむ雪を見る時そこしのしらねにすむ心ちする
としふかく ふりつむゆきを みるときそ こしのしらねに すむここちする
読人知らず
2-後撰500としくれて春あけかたになりぬれは花のためしにまかふ白雪
としくれて はるあけかたに なりぬれは はなのためしに まかふしらゆき
読人知らず
2-後撰501春ちかくふる白雪はをくら山峰にそ花のさかりなりける
はるちかく ふるしらゆきは をくらやま みねにそはなの さかりなりける
読人知らず
2-後撰502冬の池にすむにほ鳥のつれもなくしたにかよはん人にしらすな
ふゆのいけに すむにほとりの つれもなく したにかよはむ ひとにしらすな
読人知らず
2-後撰503むはたまのよるのみふれる白雪はてる月影のつもるなりけり
うはたまの よるのみふれる しらゆきは てるつきかけの つもるなりけり
読人知らず
2-後撰504この月の年のあまりにたらさらはうくひすははやなきそしなまし
このつきの としのあまりに たらさらは うくひすははや なきそしなまし
読人知らず
2-後撰505関こゆる道とはなしにちかなから年にさはりて春をまつかな
せきこゆる みちとはなしに ちかなから としにさはりて はるをまつかな
読人知らず
2-後撰506物思ふとすくる月日もしらぬまにことしはけふにはてぬとかきく
ものおもふと すくるつきひも しらぬまに ことしはけふに はてぬとかきく
藤原敦忠
2-後撰507あつまちのさやの中山中中にあひ見てのちそわひしかりける
あつまちの さやのなかやま なかなかに あひみてのちそ わひしかりける
源宗于恋一
2-後撰508暁と何かいひけんわかるれは夜ひもいとこそわひしかりけれ
あかつきと なにかいひけむ わかるれは よひもいとこそ わひしかりけれ
紀貫之恋一
2-後撰509まとろまぬかへにも人を見つるかなまさしからなん春の夜の夢
まとろまぬ かへにもひとを みつるかな まさしからなむ はるのよのゆめ
するか恋一
2-後撰510くやくやとまつゆふくれと今はとてかへる朝といつれまされり
くやくやと まつゆふくれと いまはとて かへるあしたと いつれまされり
元良のみこ恋一
2-後撰511ゆふくれは松にもかかる白露のおくる朝やきえははつらむ
ゆふくれは まつにもかかる しらつゆの おくるあしたや きえははつらむ
藤原かつみ恋一
2-後撰512うち返し君そこひしきやまとなるふるのわさ田の思ひいてつつ
うちかへし きみそこひしき やまとなる ふるのわさたの おもひいてつつ
読人知らず恋一
2-後撰513秋の田のいねてふ事をかけしかは思ひいつるかうれしけもなし
あきのたの いねてふことを かけしかは おもひいつるか うれしけもなし
読人知らず恋一
2-後撰514人こふる心はかりはそれなから我はわれにもあらぬなりけり
ひとこふる こころはかりは それなから われはわれにも あらぬなりけり
読人知らず恋一
2-後撰515おもひかはたえすなかるる水のあわのうたかた人にあはてきえめや
おもひかは たえすなかるる みつのあわの うたかたひとに あはてきえめや
伊勢恋一
2-後撰516思ひやる心はつねにかよへとも相坂の関こえすもあるかな
おもひやる こころはつねに かよへとも あふさかのせき こえすもあるかな
読人知らず恋一
2-後撰517きえはててやみぬはかりか年をへて君を思ひのしるしなけれは
きえはてて やみぬはかりか としをへて きみをおもひの しるしなけれは
読人知らず恋一
2-後撰518おもひたにしるしなしてふわか身にそあはぬなけきのかすはもえける
おもひたに しるしなしてふ わかみにそ あはぬなけきの かすはもえける
読人知らず恋一
2-後撰519ほしかてにぬれぬへきかな唐衣かわくたもとの世世になけれは
ほしかてに ぬれぬへきかな からころも かわくたもとの よよになけれは
読人知らず恋一
2-後撰520世とともにあふくま河のとほけれはそこなる影をみぬそわひしき
よとともに あふくまかはの とほけれは そこなるかけを みぬそわひしき
読人知らず恋一
2-後撰521わかことくあひ思ふ人のなき時は深き心もかひなかりけり
わかことく あひおもふひとの なきときは ふかきこころも かひなかりけり
読人知らず恋一
2-後撰522いつしかとわか松山に今はとてこゆなる浪にぬるる袖かな
いつしかと わかまつやまに いまはとて こゆなるなみに ぬるるそてかな
読人知らず恋一
2-後撰523ひとことはまことなりけりしたひものとけぬにしるき心と思へは
ひとことは まことなりけり したひもの とけぬにしるき こころとおもへは
読人知らず恋一
2-後撰524結ひおきしわかしたひもの今まてにとけぬは人のこひぬなりけり
むすひおきし わかしたひもの いままてに とけぬはひとの こひぬなりけり
読人知らず恋一
2-後撰525ほかのせはふかくなるらしあすかかは昨日のふちそわか身なりける
ほかのせは ふかくなるらし あすかかは きのふのふちそ わかみなりける
読人知らず恋一
2-後撰526ふちせともいさやしら浪立ちさわくわか身ひとつはよる方もなし
ふちせとも いさやしらなみ たちさわく わかみひとつは よるかたもなし
読人知らず恋一
2-後撰527ひかりまつつゆに心をおける身はきえかへりつつ世をそうらむる
ひかりまつ つゆにこころを おけるみは きえかへりつつ よをそうらむる
読人知らず恋一
2-後撰528しほみたぬうみときけはや世とともにみるめなくして年のへぬらん
しほみたぬ うみときけはや よとともに みるめなくして としのへぬらむ
読人知らず恋一
2-後撰529唐衣きて帰りにしさよすからあはれと思ふをうらむらんはた
からころも きてかへりにし さよすから あはれとおもふを うらむらむはた
桂のみこ恋一
2-後撰530影たにも見えすなりゆく山の井はあさきより又水やたえにし
かけたにも みえすなりゆく やまのゐは あさきよりまた みつやたえにし
きのめのと恋一
2-後撰531浅してふ事をゆゆしみ山の井はほりし濁に影は見えぬそ
あさしてふ ことをゆゆしみ やまのゐは ほりしにこりに かけはみえぬそ
平定文恋一
2-後撰532いくたひかいくたの浦に立帰り浪にわか身を打ちぬらすらん
いくたひか いくたのうらに たちかへり なみにわかみを うちぬらすらむ
読人知らず恋一
2-後撰533立帰りぬれてはひぬるしほなれはいくたの浦のさかとこそ見れ
たちかへり ぬれてはひぬる しほなれは いくたのうらの さかとこそみれ
読人知らず恋一
2-後撰534逢ふ事はいとと雲井のおほそらにたつ名のみしてやみぬはかりか
あふことは いととくもゐの おほそらに たつなのみして やみぬはかりか
読人知らず恋一
2-後撰535よそなからやまんともせす逢ふ事は今こそ雲のたえまなるらめ
よそなから やまむともせす あふことは いまこそくもの たえまなるらめ
読人知らず恋一
2-後撰536今のみとたのむなれとも白雲のたえまはいつかあらんとすらん
いまのみと たのむなれとも しらくもの たえまはいつか あらむとすらむ
読人知らず恋一
2-後撰537をやみせす雨さへふれは沢水のまさるらんともおもほゆるかな
をやみせす あめさへふれは さはみつの まさるらむとも おもほゆるかな
読人知らず恋一
2-後撰538夢にたに見る事そなき年をへて心のとかにぬるよなけれは
ゆめにたに みることそなき としをへて こころのとかに ぬるよなけれは
読人知らず恋一
2-後撰539見そめすてあらましものを唐衣たつ名のみしてきるよなきかな
みそめすて あらましものを からころも たつなのみして きるよなきかな
読人知らず恋一
2-後撰540枯れはつる花の心はつらからて時すきにける身をそうらむる
かれはつる はなのこころは つらからて ときすきにける みをそうらむる
読人知らず恋一
2-後撰541あたにこそちるとみるらめ君にみなうつろひにたる花の心を
あたにこそ ちるとみるらめ きみにみな うつろひにたる はなのこころを
読人知らず恋一
2-後撰542こむといひし月日をすくすをはすての山のはつらき物にそ有りける
こむといひし つきひをすくす をはすての やまのはつらき ものにそありける
読人知らず恋一
2-後撰543月日をもかそへけるかな君こふるかすをもしらぬわか身なになり
つきひをも かそへけるかな きみこふる かすをもしらぬ わかみなになり
読人知らず恋一
2-後撰544このめはるはるの山田を打返し思ひやみにし人そこひしき
このめはる はるのやまたを うちかへし おもひやみにし ひとそこひしき
読人知らず恋一
2-後撰545ころをへてあひ見ぬ時は白玉の涙も春は色まさりけり
ころをへて あひみぬときは しらたまの なみたもはるは いろまさりけり
藤原時平恋一
2-後撰546人こふる涙は春そぬるみけるたえぬおもひのわかすなるへし
ひとこふる なみたははるそ ぬるみける たえぬおもひの わかすなるへし
伊勢恋一
2-後撰547つらしともいかか怨みむ郭公わかやとちかくなく声はせて
つらしとも いかかうらみむ ほとときす わかやとちかく なくこゑはせて
源たのむかむすめ恋一
2-後撰548里ことに鳴きこそ渡れ郭公すみか定めぬ君たつぬとて
さとことに なきこそわたれ ほとときす すみかさためぬ きみたつぬとて
敦慶親王恋一
2-後撰549かすならぬみ山かくれの郭公人しれぬねをなきつつそふる
かすならぬ みやまかくれの ほとときす ひとしれぬねを なきつつそふる
春道列樹恋一
2-後撰550逢ふ事のかた糸そとはしりなから玉のをはかり何によりけん
あふことの かたいとそとは しりなから たまのをはかり なにによりけむ
これたたのみこ恋一
2-後撰551思ふとはいふものからにともすれはわするる草の花にやはあらぬ
おもふとは いふものからに ともすれは わするるくさの はなにやはあらぬ
読人知らず恋一
2-後撰552うゑてみる我はわすれてあたひとにまつわすらるる花にそ有りける
うゑてみる われはわすれて あたひとに まつわすらるる はなにそありける
たいふのこといふ人恋一
2-後撰553浦わかすみるめかるてふあまの身は何かなにはの方へしもゆく
うらわかす みるめかるてふ あまのみは なにかなにはの かたへしもゆく
土左恋一
2-後撰554君を思ふふかさくらへにつのくにのほり江見にゆく我にやはあらぬ
きみをおもふ ふかさくらへに つのくにの ほりえみにゆく われにやはあらぬ
平定文恋一
2-後撰555いかてかく心ひとつをふたしへにうくもつらくもなしてみすらん
いかてかく こころひとつを ふたしへに うくもつらくも なしてみすらむ
伊勢恋一
2-後撰556ともすれは玉にくらへしますかかみひとのたからと見るそ悲しき
ともすれは たまにくらへし ますかかみ ひとのたからと みるそかなしき
読人知らず恋一
2-後撰557いはせ山谷のした水うちしのひ人のみぬまは流れてそふる
いはせやま たにのしたみつ うちしのひ ひとのみぬまは なかれてそふる
読人知らず恋一
2-後撰558うれしけに君かたのめし事のははかたみにくめる水にそ有りける
うれしけに きみかたのめし ことのはは かたみにくめる みつにそありける
読人知らず恋一
2-後撰559ゆきやらぬ夢ちにまとふたもとにはあまつそらなき露そおきける
ゆきやらぬ ゆめちにまとふ たもとには あまつそらなき つゆそおきける
読人知らず恋一
2-後撰560身ははやくならの宮こと成りにしを恋しきことのまたもふりぬか
みははやく ならのみやこと なりにしを こひしきことの またもふりぬか
読人知らず恋一
2-後撰561住吉の岸の白浪よるよるはあまのよそめに見るそ悲しき
すみよしの きしのしらなみ よるよるは あまのよそめに みるそかなしき
読人知らず恋一
2-後撰562君こふとぬれにし袖のかわかぬは思ひの外にあれはなりけり
きみこふと ぬれにしそての かわかぬは おもひのほかに あれはなりけり
読人知らず恋一
2-後撰563あはさりし時いかなりし物とてかたたいまのまも見ねは恋しき
あはさりし ときいかなりし ものとてか たたいまのまも みねはこひしき
読人知らず恋一
2-後撰564世中にしのふるこひのわひしきはあひてののちのあはぬなりけり
よのなかに しのふるこひの わひしきは あひてののちの あはぬなりけり
読人知らず恋一
2-後撰565恋をのみ常にするかの山なれはふしのねにのみなかぬ日はなし
こひをのみ つねにするかの やまなれは ふしのねにのみ なかぬひはなし
読人知らず恋一
2-後撰566君によりわか身そつらき玉たれの見すは恋しとおもはましやは
きみにより わかみそつらき たまたれの みすはこひしと おもはましやは
読人知らず恋一
2-後撰567今そしるあかぬ別の暁は君をこひちにぬるる物とは
いまそしる あかぬわかれの あかつきは きみをこひちに ぬるるものとは
読人知らず恋一
2-後撰568よそにふる雨とこそきけおほつかな何をか人のこひちといふらん
よそにふる あめとこそきけ おほつかな なにをかひとの こひちといふらむ
読人知らず恋一
2-後撰569たえはつる物とは見つつささかにのいとをたのめる心ほそさよ
たえはつる ものとはみつつ ささかにの いとをたのめる こころほそさよ
読人知らず恋一
2-後撰570うちわたし長き心はやつはしのくもてに思ふ事はたえせし
うちわたし なかきこころは やつはしの くもてにおもふ ことはたえせし
読人知らず恋一
2-後撰571思ふ人おもはぬ人の思ふ人おもはさらなん思ひしるへく
おもふひと おもはぬひとの おもふひと おもはさらなむ おもひしるへく
読人知らず恋一
2-後撰572こからしのもりのした草風はやみ人のなけきはおひそひにけり
こからしの もりのしたくさ かせはやみ ひとのなけきは おひそひにけり
読人知らず恋一
2-後撰573別をは悲しき物とききしかとうしろやすくもおもほゆるかな
わかれをは かなしきものと ききしかと うしろやすくも おもほゆるかな
読人知らず恋一
2-後撰574なきたむるた本こほれるけさみれは心とけても君をおもはす
なきたむる たもとこほれる けさみれは こころとけても きみをおもはす
読人知らず恋一
2-後撰575身をわけてあらまほしくそおもほゆる人はくるしといひけるものを
みをわけて あらまほしくそ おもほゆる ひとはくるしと いひけるものを
読人知らず恋一
2-後撰576雲井にて人をこひしと思ふかな我は葦へのたつならなくに
くもゐにて ひとをこひしと おもふかな われはあしへの たつならなくに
読人知らず恋一
2-後撰577あさちふのをののしの原忍ふれとあまりてなとか人のこひしき
あさちふの をののしのはら しのふれと あまりてなとか ひとのこひしき
源ひとしの恋一
2-後撰578雨やまぬのきの玉水かすしらす恋しき事のまさるころかな
あめやまぬ のきのたまみつ かすしらす こひしきことの まさるころかな
兼盛王恋一
2-後撰579伊勢の海にはへてもあまるたくなはの長き心は我そまされる
いせのうみに はへてもあまる たくなはの なかきこころは われそまされる
読人知らず恋一
2-後撰580色にいてて恋すてふ名そたちぬへき涙にそむる袖のこけれは
いろにいてて こひすてふなそ たちぬへき なみたにそむる そてのこけれは
読人知らず恋一
2-後撰581かくこふる物としりせはよるはおきてあくれはきゆるつゆならましを
かくこふる ものとしりせは よるはおきて あくれはきゆる つゆならましを
読人知らず恋一
2-後撰582あひも見す歎きもそめす有りし時思ふ事こそ身になかりしか
あひもみす なけきもそめす ありしとき おもふことこそ みになかりしか
読人知らず恋一
2-後撰583こひのことわりなき物はなかりけりかつむつれつつかつそ恋しき
こひのこと わりなきものは なかりけり かつむつれつつ かつそこひしき
読人知らず恋一
2-後撰584わたつ海に深き心のなかりせは何かは君を怨みしもせん
わたつうみに ふかきこころの なかりせは なにかはきみを うらみしもせむ
読人知らず恋一
2-後撰585みな神にいのるかひなく涙河うきても人をよそに見るかな
みなかみに いのるかひなく なみたかは うきてもひとを よそにみるかな
読人知らず恋一
2-後撰586いのりけるみな神さへそうらめしきけふより外に影の見えねは
いのりける みなかみさへそ うらめしき けふよりほかに かけのみえねは
読人知らず恋一
2-後撰587色深く染めした本のいととしくなみたにさへもこさまさるかな
いろふかく そめしたもとの いととしく なみたにさへも こさまさるかな
藤原師輔恋一
2-後撰588見る時は事そともなく見ぬ時はこと有りかほに恋しきやなそ
みるときは ことそともなく みぬときは ことありかほに こひしきやなそ
読人知らず恋一
2-後撰589山さとのまきのいたともさささりきたのめし人をまちしよひより
やまさとの まきのいたとも さささりき たのめしひとを まちしよひより
読人知らず恋一
2-後撰590ゆく方もなくせかれたる山水のいはまほしくもおもほゆるかな
ゆくかたも なくせかれたる やまみつの いはまほしくも おもほゆるかな
読人知らず恋一
2-後撰591人のうへのこととしいへはしらぬかな君も恋する折もこそあれ
ひとのうへの こととしいへは しらぬかな きみもこひする をりもこそあれ
読人知らず恋一
2-後撰592つらからはおなし心につらからんつれなき人をこひんともせす
つらからは おなしこころに つらからむ つれなきひとを こひむともせす
読人知らず恋一
2-後撰593人しれす思ふ心はおほしまのなるとはなしになけくころかな
ひとしれす おもふこころは おほしまの なるとはなしに なけくころかな
読人知らず恋一
2-後撰594はかなくておなし心になりにしを思ふかことは思ふらんやそ
はかなくて おなしこころに なりにしを おもふかことは おもふらむやそ
中務恋一
2-後撰595わひしさをおなし心ときくからにわか身をすてて君そかなしき
わひしさを おなしこころと きくからに わかみをすてて きみそかなしき
源信明恋一
2-後撰596定なくあたにちりぬる花よりはときはの松の色をやは見ぬ
さためなく あたにちりぬる はなよりは ときはのまつの いろをやはみぬ
源信明恋一
2-後撰597住吉のわか身なりせは年ふとも松より外の色を見ましや
すみよしの わかみなりせは としふとも まつよりほかの いろをみましや
読人知らず恋一
2-後撰598うつつにもはかなきことのあやしきはねなくにゆめの見ゆるなりけり
うつつにも はかなきことの あやしきは ねなくにゆめの みゆるなりけり
読人知らず恋一
2-後撰599白浪のよるよる岸に立ちよりてねも見しものをすみよしの松
しらなみの よるよるきしに たちよりて ねもみしものを すみよしのまつ
読人知らず恋一
2-後撰600なからへてあらぬまてにも事のはのふかきはいかにあはれなりけり
なからへて あらぬまてにも ことのはの ふかきはいかに あはれなりけり
読人知らず恋一
2-後撰601人を見て思ふおもひもあるものをそらにこふるそはかなかりける
ひとをみて おもふおもひも あるものを そらにこふるそ はかなかりける
藤原忠房恋二
2-後撰602ひとりのみおもへはくるし如何しておなし心に人ををしへむ
ひとりのみ おもへはくるし いかにして おなしこころに ひとををしへむ
壬生忠岑恋二
2-後撰603わか心いつならひてか見ぬ人を思ひやりつつこひしかるらん
わかこころ いつならひてか みぬひとを おもひやりつつ こひしかるらむ
紀友則恋二
2-後撰604葉をわかみほにこそいてね花すすきしたの心にむすはさらめや
はをわかみ ほにこそいてね はなすすき したのこころに むすはさらめや
源中正恋二
2-後撰605あしひきの山したしけくはふくすの尋ねてこふる我としらすや
あしひきの やましたしけく はふくすの たつねてこふる われとしらすや
兼覧王恋二
2-後撰606かくれぬに忍ひわひぬるわか身かなゐてのかはつと成りやしなまし
かくれぬに しのひわひぬる わかみかな ゐてのかはつと なりやしなまし
忠房恋二
2-後撰607あふくまのきりとはなしに終夜立渡りつつ世をもふるかな
あふくまの きりとはなしに よもすから たちわたりつつ よをもふるかな
藤原輔文恋二
2-後撰608あやしくもいとふにはゆる心かないかにしてかは思ひやむへき
あやしくも いとふにはゆる こころかな いかにしてかは おもひやむへき
読人知らず恋二
2-後撰609ともかくもいふ事のはの見えぬかないつらはつゆのかかり所は
ともかくも いふことのはの みえぬかな いつらはつゆの かかりところは
本院右京恋二
2-後撰610わひ人のそほつてふなる涙河おりたちてこそぬれ渡りけれ
わひひとの そほつてふなる なみたかは おりたちてこそ ぬれわたりけれ
橘敏仲恋二
2-後撰611ふちせとも心もしらす涙河おりやたつへきそてのぬるるに
ふちせとも こころもしらす なみたかは おりやたつへき そてのぬるるに
大輔恋二
2-後撰612心みに猶おりたたむなみたかはうれしきせにも流れあふやと
こころみに なほおりたたむ なみたかは うれしきせにも なかれあふやと
とし中恋二
2-後撰613かかりける人の心をしらつゆのおける物ともたのみけるかな
かかりける ひとのこころを しらつゆの おけるものとも たのみけるかな
藤原敦忠恋二
2-後撰614鴬の雲井にわひてなくこゑを春のさかとそ我はききつる
うくひすの くもゐにわひて なくこゑを はるのさかとそ われはききつる
藤原顕忠恋二
2-後撰615かくはかり常なき世とはしりなから人をはるかに何たのみけん
かくはかり つねなきよとは しりなから ひとをはるかに なにたのみけむ
平時望恋二
2-後撰616わかかとのひとむらすすきかりかはん君かてなれのこまもこぬかな
わかかとの ひとむらすすき かりかはむ きみかてなれの こまもこぬかな
こまちかあね恋二
2-後撰617世を海のあわときえぬる身にしあれは怨むる事そかすなかりける
よをうみの あわときえぬる みにしあれは うらむることそ かすなかりける
枇杷左太臣恋二
2-後撰618わたつみとたのめし事もあせぬれは我そわか身のうらはうらむる
わたつみと たのめしことも あせぬれは われそわかみの うらはうらむる
伊勢恋二
2-後撰619あつまちのさののふな橋かけてのみ思渡るをしる人のなき
あつまちの さののふなはし かけてのみ おもひわたるを しるひとのなさ
源ひとしの恋二
2-後撰620ふしてぬる夢ちにたにもあはぬ身は猶あさましきうつつとそ思ふ
ふしてぬる ゆめちにたにも あはぬみは なほあさましき うつつとそおもふ
紀良谷雄恋二
2-後撰621あまのとをあけぬあけぬといひなしてそらなきしつる鳥のこゑかな
あまのとを あけぬあけぬと いひなして そらなきしつる とりのこゑかな
読人知らず恋二
2-後撰622終夜ぬれてわひつる唐衣相坂山にみちまとひして
よもすから ぬれてわひつる からころも あふさかやまに みちまとひして
読人知らず恋二
2-後撰623おもへともあやなしとのみいはるれはよるの錦の心ちこそすれ
おもへとも あやなしとのみ いはるれは よるのにしきの ここちこそすれ
読人知らず恋二
2-後撰624おとにのみききこしみわの山よりもすきのかすをは我そ見えにし
おとにのみ ききこしみわの やまよりも すきのかすをは われそみえにし
読人知らず恋二
2-後撰625なにはかたかりつむあしのあしつつのひとへも君を我やへたつる
なにはかた かりつむあしの あしつつの ひとへもきみを われやへたつる
藤原兼輔恋二
2-後撰626わかことや君もこふらん白露のおきてもねてもそてそかわかぬ
わかことや きみもこふらむ しらつゆの おきてもねても そてそかわかぬ
読人知らず恋二
2-後撰627つらくともあらんとそ思ふよそにても人やけぬるときかまほしさに
つらくとも あらむとそおもふ よそにても ひとやけぬると きかまほしさに
読人知らず恋二
2-後撰628くれぬとてねてゆくへくもあらなくにたとるたとるもかへるまされり
くれぬとて ねてゆくへくも あらなくに たとるたとるも かへるまされり
在原業平恋二
2-後撰629わりなしといふこそかつはうれしけれおろかならすと見えぬとおもへは
わりなしと いふこそかつは うれしけれ おろかならすと みえぬとおもへは
元良のみこ恋二
2-後撰630わかこひをしらんと思ははたこの浦に立つらん浪のかすをかそへよ
わかこひを しらむとおもはは たこのうらに たつらむなみの かすをかそへよ
藤原興風恋二
2-後撰631色ならは移るはかりも染めてまし思ふ心をえやは見せける
いろならは うつるはかりも そめてまし おもふこころを えやはみせける
紀貫之恋二
2-後撰632葦引の山ひはすともふみかよふあとをも見ぬはくるしきものを
あしひきの やまひはすとも ふみかよふ あとをもみぬは くるしきものを
大江朝綱恋二
2-後撰633おほかたはなそやわかなのをしからん昔のつまと人にかたらむ
おほかたは なそやわかなの をしからむ むかしのつまと ひとにかたらむ
貞元のみこ恋二
2-後撰634人はいさ我はなきなのをしけれは昔も今もしらすとをいはん
ひとはいさ われはなきなの をしけれは むかしもいまも しらすとをいはむ
おほつふね恋二
2-後撰635跡みれは心なくさのはまちとり今は声こそきかまほしけれ
あとみれは こころなくさの はまちとり いまはこゑこそ きかまほしけれ
読人知らず恋二
2-後撰636河と見てわたらぬ中になかるるはいはて物思ふ涙なりけり
かはとみて わたらぬなかに なかるるは いはてものおもふ なみたなりけり
読人知らず恋二
2-後撰637あまくもになきゆく雁のおとにのみきき渡りつつあふよしもなし
あまくもに なきゆくかりの おとにのみ ききわたりつつ あふよしもなし
橘公頼恋二
2-後撰638住の江の浪にはあらねとよとともに心を君によせわたるかな
すみのえの なみにはあらねと よとともに こころをきみに よせわたるかな
紀貫之恋二
2-後撰639見ぬほとに年のかはれはあふことのいやはるはるにおもほゆるかな
みぬほとに としのかはれは あふことの いやはるはるに おもほゆるかな
読人知らず恋二
2-後撰640けふすきはしなましものを夢にてもいつこをはかと君かとはまし
けふすきは しなましものを ゆめにても いつこをはかと きみかとはまし
中将更衣恋二
2-後撰641うつつにそとふへかりける夢とのみ迷ひしほとやはるけかりけん
うつつにそ とふへかりける ゆめとのみ まよひしほとや はるけかりけむ
延喜恋二
2-後撰642流れてはゆく方もなし涙河わか身のうらや限なるらむ
なかれては ゆくかたもなし なみたかは わかみのうらや かきりなるらむ
藤原千かぬ恋二
2-後撰643わか恋のかすにしとらは白妙のはまのまさこもつきぬへらなり
わかこひの かすにしとらは しろたへの はまのまさこも つきぬへらなり
在原棟梁恋二
2-後撰644涙にも思ひのきゆる物ならせいとかくむねはこかささらまし
なみたにも おもひのきゆる ものならは いとかくむねは こかささらまし
紀貫之恋二
2-後撰645しるしなき思ひやなそとあしたつのねになくまてにあはすわひしき
しるしなき おもひやなそと あしたつの ねになくまてに あはすわひしき
坂上是則恋二
2-後撰646たまのをのたえてみしかきいのちもて年月なかきこひもするかな
たまのをの たえてみしかき いのちもて としつきなかき こひもするかな
紀貫之恋二
2-後撰647我のみやもえてきえなんよとともに思ひもならぬふしのねのこと
われのみや もえてきえなむ よとともに おもひもならぬ ふしのねのこと
平定文恋二
2-後撰648ふしのねのもえわたるともいかかせむけちこそしらね水ならぬ身は
ふしのねの もえわたるとも いかかせむ けちこそしらね みつならぬみは
きのめのと恋二
2-後撰649わひわたるわか身はつゆをおなしくは君かかきねの草にきえなん
わひわたる わかみはつゆを おなしくは きみかかきねの くさにきえなむ
紀貫之恋二
2-後撰650みるめかるなきさやいつこあふこなみ立ちよる方もしらぬわか身は
みるめかる なきさやいつこ あふこなみ たちよるかたも しらぬわかみは
在原元方恋二
2-後撰651なるとよりさしいたされし舟よりも我そよるへもなき心地せし
なるとより さしいたされし ふねよりも われそよるへも なきここちせし
藤原滋幹恋二
2-後撰652高砂の峰の白雲かかりける人の心をたのみけるかな
たかさこの みねのしらくも かかりける ひとのこころを たのみけるかな
読人知らず恋二
2-後撰653よそにのみ松ははかなき住の江のゆきてさへこそ見まくほしけれ
よそにのみ まつははかなき すみのえの ゆきてさへこそ みまくほしけれ
延喜恋二
2-後撰654かけろふに見しはかりにやはまちとりゆくへもしらぬ恋にまとはん
かけろふに みしはかりにや はまちとり ゆくへもしらぬ こひにまとはむ
源ひとしの恋二
2-後撰655わたつみのそこのありかはしりなからかつきていらん浪のまそなき
わたつみの そこのありかは しりなから かつきていらむ なみのまそなき
藤原兼茂恋二
2-後撰656つらしとも思ひそはてぬ涙河流れて人をたのむ心は
つらしとも おもひそはてぬ なみたかは なかれてひとを たのむこころは
橘実利恋二
2-後撰657流れてと何たのむらん涙河影見ゆへくもおもほえなくに
なかれてと なにたのむらむ なみたかは かけみゆへくも おもほえなくに
読人知らず恋二
2-後撰658何事を今はたのまんちはやふる神もたすけぬわか身なりけり
なにことを いまはたのまむ ちはやふる かみもたすけぬ わかみなりけり
平定文恋二
2-後撰659ちはやふる神もみみこそなれぬらしさまさまいのる年もへぬれは
ちはやふる かみもみみこそ なれぬらし さまさまいのる としもへぬれは
おほつふね恋二
2-後撰660怨みても身こそつらけれ唐衣きていたつらにかへすとおもへは
うらみても みこそつらけれ からころも きていたつらに かへすとおもへは
紀貫之恋二
2-後撰661住吉の松にたちよる白浪のかへるをりにやねはなかるらむ
すみよしの まつにたちよる しらなみの かへるをりにや ねはなかるらむ
壬生忠岑恋二
2-後撰662おもはむとたのめし事もあるものをなきなをたててたたにわすれね
おもはむと たのめしことも あるものを なきなをたてて たたにわすれね
読人知らず恋二
2-後撰663かすかののとふひののもり見しものをなきなといははつみもこそうれ
かすかのの とふひののもり みしものを なきなといはは つみもこそうれ
読人知らず恋二
2-後撰664わすられて思ふなけきのしけるをや身をはつかしのもりといふらん
わすられて おもふなけきの しけるをや みをはつかしの もりといふらむ
読人知らず恋二
2-後撰665おもはんとたのめし人は有りときくいひし事のはいつちいにけん
おもはむと たのめしひとは ありときく いひしことのは いつちいにけむ
右近恋二
2-後撰666さても猶まかきの島の有りけれはたちよりぬへくおもほゆるかな
さてもなほ まかきのしまの ありけれは たちよりぬへく おもほゆるかな
源清蔭恋二
2-後撰667これはかく怨み所もなきものをうしろめたくはおもはさらなん
これはかく うらみところも なきものを うしろめたくは おもはさらなむ
読人知らず恋二
2-後撰668思ひきやあひ見ぬことをいつよりとかそふはかりになさん物とは
おもひきや あひみぬことを いつよりと かそふはかりに なさむものとは
源信明恋二
2-後撰669世のつねのねをしなかねは逢ふ事の涙の色もことにそありける
よのつねの ねをしなかねは あふことの なみたのいろも ことにそありける
藤原治方恋二
2-後撰670白浪のよするいそまをこく舟のかちとりあへぬ恋もするかな
しらなみの よするいそまを こくふねの かちとりあへぬ こひもするかな
大伴黒主恋二
2-後撰671こひしさはねぬになくさむともなきにあやしくあはぬめをもみるかな
こひしさは ねぬになくさむ ともなきに あやしくあはぬ めをもみるかな
源うかふ恋二
2-後撰672ひさしくも恋ひわたるかなすみのえの岸に年ふる松ならなくに
ひさしくも こひわたるかな すみのえの きしにとしふる まつならなくに
源すくる恋二
2-後撰673逢ふ事の世世をへたつるくれ竹のふしのかすなき恋もするかな
あふことの よよをへたつる くれたけの ふしのかすなき こひもするかな
藤原清正恋二
2-後撰674今はてふ心つくはの山見れはこすゑよりこそ色かはりけれ
いまはてふ こころつくはの やまみれは こすゑよりこそ いろかはりけれ
読人知らず恋二
2-後撰675かへりけんそらもしられすをはすての山よりいてし月を見しまに
かへりけむ そらもしられす をはすての やまよりいてし つきをみしまに
源重光恋二
2-後撰676ふりとけぬ君かゆきけのしつくゆゑたもとにとけぬ氷しにけり
ふりとけぬ きみかゆきけの しつくゆゑ たもとにとけぬ こほりしにけり
きよたたか母恋二
2-後撰677かた時も見ねはこひしき君をおきてあやしやいくよほかにねぬらん
かたときも みねはこひしき きみをおきて あやしやいくよ ほかにねぬらむ
藤原有文恋二
2-後撰678思ひやる心にたくふ身なりせはひとひにちたひ君はみてまし
おもひやる こころにたくふ みなりせは ひとひにちたひ きみはみてまし
大江千古恋二
2-後撰679逢ふ事はとほ山とりのかり衣きてはかひなきねをのみそなく
あふことは とほやまとりの かりころも きてはかひなき ねをのみそなく
元良親王恋二
2-後撰680深くのみ思ふ心はあしのねのわけても人にあはんとそ思ふ
ふかくのみ おもふこころは あしのねの わけてもひとに あはむとそおもふ
敦慶親王恋二
2-後撰681いさり火のよるはほのかにかくしつつ有りへはこひのしたにけぬへし
いさりひの よるはほのかに かくしつつ ありへはこひの したにけぬへし
藤原忠国恋二
2-後撰682たちよらは影ふむはかりちかけれと誰かなこその関をすゑけん
たちよらは かけふむはかり ちかけれと たれかなこその せきをすゑけむ
小八条御息所恋二
2-後撰683わか袖はなにたつすゑの松山かそらより浪のこえぬ日はなし
わかそては なにたつすゑの まつやまか そらよりなみの こえぬひはなし
土左恋二
2-後撰684ひとりねのわひしきままにおきゐつつ月をあはれといみそかねつる
ひとりねの わひしきままに おきゐつつ つきをあはれと いみそかねつる
読人知らず恋二
2-後撰685唐錦をしきわかなはたちはてて如何せよとか今はつれなき
からにしき をしきわかなは たちはてて いかにせよとか いまはつれなき
読人知らず恋二
2-後撰686人つてにいふ事のはの中よりそ思ひつくはの山は見えける
ひとつてに いふことのはの うちよりそ おもひつくはの やまはみえける
読人知らず恋二
2-後撰687たよりにもあらぬ思ひのあやしきは心を人につくるなりけり
たよりにも あらぬおもひの あやしきは こころをひとに つくるなりけり
紀貫之恋二
2-後撰688人つまに心あやなくかけはしのあやふき道はこひにそ有りける
ひとつまに こころあやなく かけはしの あやふきみちは こひにそありける
読人知らず恋二
2-後撰689いはて思ふ心ありそのはま風にたつしら浪のよるそわひしき
いはておもふ こころありその はまかせに たつしらなみの よるそわひしき
読人知らず恋二
2-後撰690ひとりのみこふれはくるしよふことりこゑになきいてて君にきかせん
ひとりのみ こふれはくるし よふことり こゑになきいてて きみにきかせむ
読人知らず恋二
2-後撰691ふしなくて君かたえにししらいとはよりつきかたき物にそ有りける
ふしなくて きみかたえにし しらいとは よりつきかたき ものにそありける
読人知らず恋二
2-後撰692草枕このたひへつる年月のうきは帰りてうれしからなん
くさまくら このたひへつる としつきの うきはかへりて うれしからなむ
読人知らず恋二
2-後撰693いてしより見えすなりにし月影は又山のはに入りやしにけん
いてしより みえすなりにし つきかけは またやまのはに いりやしにけむ
読人知らず恋二
2-後撰694あしひきの山におふてふもろかつらもろともにこそいらまほしけれ
あしひきの やまにおふてふ もろかつら もろともにこそ いらまほしけれ
読人知らず恋二
2-後撰695はま千鳥たのむをしれとふみそむるあとうちけつな我をこす浪
はまちとり たのむをしれと ふみそむる あとうちけつな われをこすなみ
平定文恋二
2-後撰696ゆく水のせことにふまんあとゆゑにたのむしるしをいつれとかみん
ゆくみつの せことにふまむ あとゆゑに たのむしるしを いつれとかみむ
おほつ舟恋二
2-後撰697つまにおふることなしくさを見るからにたのむ心そかすまさりける
つまにおふる ことなしくさを みるからに たのむこころそ かすまさりける
源もろあきらの恋二
2-後撰698おくつゆのかかる物とはおもへともかれせぬ物はなてしこのはな
おくつゆの かかるものとは おもへとも かれせぬものは なてしこのはな
源もろあきらの恋二
2-後撰699かれすともいかかたのまむなてしこの花はときはのいろにしあらねは
かれすとも いかかたのまむ なてしこの はなはときはの いろにしあらねは
源もろあきらの恋二
2-後撰700名にしおはは相坂山のさねかつら人にしられてくるよしもかな
なにしおはは あふさかやまの さねかつら ひとにしられて くるよしもかな
藤原定方恋三
2-後撰701こひしとは更にもいはししたひものとけむを人はそれとしらなん
こひしとは さらにもいはし したひもの とけむをひとは それとしらなむ
在原元方恋三
2-後撰702したひものしるしとするもとけなくにかたるかことはあらすもあるかな
したひもの しるしとするも とけなくに かたるかことは あらすもあるかな
読人知らず恋三
2-後撰703うつつにもはかなき事のわひしきはねなくに夢と思ふなりけり
うつつにも はかなきことの わひしきは ねなくにゆめと おもふなりけり
読人知らず恋三
2-後撰704たむけせぬ別れする身のわひしきは人めを旅と思ふなりけり
たむけせぬ わかれするみの わひしきは ひとめをたひと おもふなりけり
紀貫之恋三
2-後撰705やとかへてまつにも見えすなりぬれはつらき所のおほくもあるかな
やとかへて まつにもみえす なりぬれは つらきところの おほくもあるかな
読人知らず恋三
2-後撰706おもはむとたのめし人はかはらしをとはれぬ我やあらぬなるらん
おもはむと たのめしひとは かはらしを とはれぬわれや あらぬなるらむ
読人知らず恋三
2-後撰707いたつらにたひたひしぬといふめれはあふには何をかへんとすらん
いたつらに たひたひしぬと いふめれは あふにはなにを かへむとすらむ
中務恋三
2-後撰708しぬしぬときくきくたにもあひみねはいのちをいつのよにかのこさん
しぬしぬと きくきくたにも あひみねは いのちをいつの よにかのこさむ
源信明恋三
2-後撰709ゑにかける鳥とも人を見てしかなおなし所をつねにとふへく
ゑにかける とりともひとを みてしかな おなしところを つねにとふへく
本院侍従恋三
2-後撰710昔せしわかかね事の悲しきは如何ちきりしなこりなるらん
むかしせし わかかねことの かなしきは いかにちきりし なこりなるらむ
平定文恋三
2-後撰711うつつにて誰契りけん定なき夢ちに迷ふ我はわれかは
うつつにて たれちきりけむ さためなき ゆめちにまよふ われはわれかは
読人知らず恋三
2-後撰712くれはとりあやに恋しく有りしかはふたむら山もこえすなりにき
くれはとり あやにこひしく ありしかは ふたむらやまも こえすなりにき
清原諸実恋三
2-後撰713唐衣たつををしみし心こそふたむら山のせきとなりけめ
からころも たつををしみし こころこそ ふたむらやまの せきとなりけめ
読人知らず恋三
2-後撰714夢かとも思ふへけれとおほつかなねぬにみしかはわきそかねつる
ゆめかとも おもふへけれと おほつかな ねぬにみしかは わきそかねつる
きよなりか女恋三
2-後撰715そらしらぬ雨にもぬるるわか身かなみかさの山をよそにききつつ
そらしらぬ あめにもぬるる わかみかな みかさのやまを よそにききつつ
読人知らず恋三
2-後撰716もろともにをるともなしに打ちとけて見えにけるかなあさかほの花
もろともに をるともなしに うちとけて みえにけるかな あさかほのはな
読人知らず恋三
2-後撰717ももしきはをののえくたす山なれや入りにし人のおとつれもせぬ
ももしきは をののえくたす やまなれや いりにしひとの おとつれもせぬ
読人知らず恋三
2-後撰718すすか山いせをのあまのすて衣しほなれたりと人やみるらん
すすかやま いせをのあまの すてころも しほなれたりと ひとやみるらむ
藤原伊尹恋三
2-後撰719いかて我人にもとはん暁のあかぬ別やなにににたりと
いかてわれ ひとにもとはむ あかつきの あかぬわかれや なにににたりと
紀貫之恋三
2-後撰720恋しきにきえかへりつつあさつゆのけさはおきゐん心地こそせね
こひしきに きえかへりつつ あさつゆの けさはおきゐむ ここちこそせね
在原行平恋三
2-後撰721しののめにあかて別れした本をそつゆやわけしと人はとかむる
しののめに あかてわかれし たもとをそ つゆやわけしと ひとはとかむる
読人知らず恋三
2-後撰722こひしきも思ひこめつつあるものを人にしらるる涙なになり
こひしきも おもひこめつつ あるものを ひとにしらるる なみたなになり
平中興恋三
2-後撰723相坂のこのしたつゆにぬれしよりわか衣手は今もかわかす
あふさかの このしたつゆに ぬれしより わかころもては いまもかわかす
藤原兼輔恋三
2-後撰724君を思ふ心を人にこゆるきのいそのたまもやいまもからまし
きみをおもふ こころをひとに こゆるきの いそのたまもや いまもからまし
躬恒恋三
2-後撰725なき名そと人にはいひて有りぬへし心のとははいかかこたへん
なきなそと ひとにはいひて ありぬへし こころのとはは いかかこたへむ
読人知らず恋三
2-後撰726きよけれと玉ならぬ身のわひしきはみかける物にいはぬなりけり
きよけれと たまならぬみの わひしきは みかけるものに いはぬなりけり
伊勢恋三
2-後撰727逢ふ事をいさほにいてなんしのすすき忍ひはつへき物ならなくに
あふことを いさほにいてなむ しのすすき しのひはつへき ものならなくに
藤原敦忠恋三
2-後撰728あひみてもわかるる事のなかりせはかつかつ物はおもはさらまし
あひみても わかるることの なかりせは かつかつものは おもはさらまし
読人知らず恋三
2-後撰729いつのまにこひしかるらん唐衣ぬれにし袖のひるまはかりに
いつのまに こひしかるらむ からころも ぬれにしそての ひるまはかりに
藤原冬嗣恋三
2-後撰730別れつるほともへなくに白浪の立帰りても見まくほしきか
わかれつる ほともへなくに しらなみの たちかへりても みまくほしきか
紀貫之恋三
2-後撰731人しれぬ身はいそけとも年をへてなとこえかたき相坂の関
ひとしれぬ みはいそけとも としをへて なとこえかたき あふさかのせき
藤原伊尹恋三
2-後撰732あつまちにゆきかふ人にあらぬ身はいつかはこえむ相坂の関
あつまちに ゆきかふひとに あらぬみは いつかはこえむ あふさかのせき
小野好古女恋三
2-後撰733つれもなき人にまけしとせし程に我もあたなは立ちそしにける
つれもなき ひとにまけしと せしほとに われもあたなは たちそしにける
藤原清正恋三
2-後撰734つらからぬ中にあるこそうとしといへ隔てはててしきぬにやはあらぬ
つらからぬ なかにあるこそ うとしといへ へたてはててし きぬにやはあらぬ
小野遠興かむすめ恋三
2-後撰735ときはなる日かけのかつらけふしこそ心の色にふかく見えけれ
ときはなる ひかけのかつら けふしこそ こころのいろに ふかくみえけれ
もろまさの恋三
2-後撰736誰となくかかるおほみにふかからん色をときはにいかかたのまん
たれとなく かかるおほみに ふかからむ いろをときはに いかかたのまむ
閑院のおほい君恋三
2-後撰737講となくおほろに見えし月影にわける心を思ひしらなん
たれとなく おほろにみえし つきかけに わけるこころを おもひしらなむ
藤原清正恋三
2-後撰738春をたにまたてなきぬる鴬はふるすはかりの心なりけり
はるをたに またてなきぬる うくひすは ふるすはかりの こころなりけり
本院兵衛恋三
2-後撰739ゆふされはわか身のみこそかなしけれいつれの方に枕さためむ
ゆふされは わかみのみこそ かなしけれ いつれのかたに まくらさためむ
かねもちの女恋三
2-後撰740夢にたにまたみえなくにこひしきはいつにならへる心なるらん
ゆめにたに またみえなくに こひしきは いつにならへる こころなるらむ
在原元方恋三
2-後撰741思ふてふ事をそねたくふるしける君にのみこそいふへかりけれ
おもふてふ ことをそねたく ふるしける きみにのみこそ いふへかりけれ
壬生忠岑恋三
2-後撰742あな恋しゆきてや見ましつのくにの今も有りてふ浦のはつ島
あなこひし ゆきてやみまし つのくにの いまもありてふ うらのはつしま
戒仙法師恋三
2-後撰743月かへて君をは見むといひしかと日たにへたてすこひしきものを
つきかへて きみをはみむと いひしかと ひたにへたてす こひしきものを
紀貫之恋三
2-後撰744伊勢の海にしほやくあまの藤衣なるとはすれとあはぬ君かな
いせのうみに しほやくあまの ふちころも なるとはすれと あはぬきみかな
躬恒恋三
2-後撰745わたのそこかつきてしらん君かため思ふ心のふかさくらへに
わたのそこ かつきてしらむ きみかため おもふこころの ふかさくらへに
坂上是則恋三
2-後撰746唐衣かけてたのまぬ時そなき人のつまとは思ふものから
からころも かけてたのまぬ ときそなき ひとのつまとは おもふものから
右近恋三
2-後撰747あらかりし浪の心はつらけれとすこしによせしこゑそこひしき
あらかりし なみのこころは つらけれと すこしによせし こゑそこひしき
藤原守正恋三
2-後撰748いつ方に立ちかくれつつ見よとてかおもひくまなく人のなりゆく
いつかたに たちかくれつつ みよとてか おもひくまなく ひとのなりゆく
藤原のちかけの恋三
2-後撰749つらきをもうきをもよそに見しかともわか身にちかき世にこそ有りけれ
つらきをも うきをもよそに みしかとも わかみにちかき よにこそありけれ
土左恋三
2-後撰750ふちはせになりかはるてふあすかかは渡り見てこそしるへかりけれ
ふちはせに なりかはるてふ あすかかは わたりみてこそ しるへかりけれ
在原元方恋三
2-後撰751いとはるる身をうれはしみいつしかとあすか河をもたのむへらなり
いとはるる みをうれはしみ いつしかと あすかかはをも たのむへらなり
伊勢恋三
2-後撰752あすか河せきてととむる物ならはふちせになると何かいはせん
あすかかは せきてととむる ものならは ふちせになると なにかいはせむ
藤原時平恋三
2-後撰753葦たつの沢辺に年はへぬれとも心は雲のうへにのみこそ
あしたつの さはへにとしは へぬれとも こころはくもの うへにのみこそ
藤原師輔恋三
2-後撰754あしたつのくもゐにかかる心あらは世をへてさはにすますそあらまし
あしたつの くもゐにかかる こころあらは よをへてさはに すますそあらまし
女四のみこ恋三
2-後撰755松山につらきなからも浪こさむ事はさすかに悲しきものを
まつやまに つらきなからも なみこさむ ことはさすかに かなしきものを
藤原時平恋三
2-後撰756夜ひのまにはやなくさめよいその神ふりにしとこもうちはらふへく
よひのまに はやなくさめよ いそのかみ ふりにしとこも うちはらふへく
藤原仲平恋三
2-後撰757わたつみとあれにしとこを今更にはらはは袖やあわとうきなん
わたつみと あれにしとこを いまさらに はらははそてや あわとうきなむ
伊勢恋三
2-後撰758しほのまにあさりするあまもおのか世世かひ有りとこそ思ふへらなれ
しほのまに あさりするあまも おのかよよ かひありとこそ おもふへらなれ
紀長谷雄恋三
2-後撰759あちきなくなとか松山浪こさむ事をはさらに思ひはなるる
あちきなく なとかまつやま なみこさむ ことをはさらに おもひはなるる
藤原時平恋三
2-後撰760岸もなくしほしみちなは松山をしたにて浪はこさんとそ思ふ
きしもなく しほしみちなは まつやまを したにてなみは こさむとそおもふ
伊勢恋三
2-後撰761世とともになけきこりつむ身にしあれはなそやまもりのあるかひもなき
よとともに なけきこりつむ みにしあれは なそやまもりの あるかひもなき
在原業平のむすめいまき恋三
2-後撰762ひとしれぬわか物思ひの涙をは袖につけてそ見すへかりける
ひとしれぬ わかものおもひの なみたをは そてにつけてそ みすへかりける
読人知らず恋三
2-後撰763山のはにかかる思ひのたえさらは雲井なからもあはれとおもはん
やまのはに かかるおもひの たえさらは くもゐなからも あはれとおもはむ
藤原真忠かいもうと恋三
2-後撰764なきなかす涙のいととそひぬれははかなきみつも袖ぬらしけり
なきなかす なみたのいとと そひぬれは はかなきみつも そてぬらしけり
もろうちの恋三
2-後撰765夢のことはかなき物はなかりけりなにとて人にあふとみつらん
ゆめのこと はかなきものは なかりけり なにとてひとに あふとみつらむ
源たのむ恋三
2-後撰766思ひねのよなよな夢に逢ふ事をたたかた時のうつつともかな
おもひねの よなよなゆめに あふことを たたかたときの うつつともかな
読人知らず恋三
2-後撰767時のまのうつつをしのふ心こそはかなきゆめにまさらさりけれ
ときのまの うつつをしのふ こころこそ はかなきゆめに まさらさりけれ
読人知らず恋三
2-後撰768玉津島ふかき入江をこく舟のうきたるこひも我はするかな
たまつしま ふかきいりえを こくふねの うきたるこひも われはするかな
大伴黒主恋三
2-後撰769つのくにのなにはたたまくをしみこそすくもたくひのしたにこかるれ
つのくにの なにはたたまく をしみこそ すくもたくひの したにこかるれ
紀内親王恋三
2-後撰770夢ちにもやとかす人のあらませはねさめにつゆははらはさらまし
ゆめちにも やとかすひとの あらませは ねさめにつゆは はらはさらまし
読人知らず恋三
2-後撰771涙河なかすねさめもあるものをはらふはかりのつゆやなになり
なみたかは なかすねさめも あるものを はらふはかりの つゆやなになり
読人知らず恋三
2-後撰772みるめかる方そあふみになしときく玉もをさへやあまはかつかぬ
みるめかる かたそあふみに なしときく たまもをさへや あまはかつかぬ
読人知らず恋三
2-後撰773名のみして逢ふ事浪のしけきまにいつかたまもをあまはかつかん
なのみして あふことなみの しけきまに いつかたまもを あまはかつかむ
読人知らず恋三
2-後撰774葛木やくめちのはしにあらはこそ思ふ心をなかそらにせめ
かつらきや くめちのはしに あらはこそ おもふこころを なかそらにせめ
読人知らず恋三
2-後撰775かくれぬにすむをしとりのこゑたえすなけとかひなき物にそ有りける
かくれぬに すむをしとりの こゑたえす なけとかひなき ものにそありける
藤原師輔恋三
2-後撰776つくはねの峰よりおつるみなの河恋そつもりて淵となりける
つくはねの みねよりおつる みなのかは こひそつもりて ふちとなりける
陽成院恋三
2-後撰777かりかねのくもゐはるかにきこえしは今は限のこゑにそありける
かりかねの くもゐはるかに きこえしは いまはかきりの こゑにそありける
読人知らず恋三
2-後撰778今はとて行きかへりぬるこゑならはおひ風にてもきこえましやは
いまはとて ゆきかへりぬる こゑならは おひかせにても きこえましやは
兼覧王恋三
2-後撰779心からうきたる舟にのりそめてひと日も浪にぬれぬ日そなき
こころから うきたるふねに のりそめて ひとひもなみに ぬれぬひそなき
小野小町恋三
2-後撰780忘れなんと思ふ心のやすからはつれなき人をうらみましやは
わすれなむと おもふこころの やすからは つれなきひとを うらみましやは
読人知らず恋三
2-後撰781ちはやふる神ひきかけてちかひてしこともゆゆしくあらかふなゆめ
ちはやふる かみひきかけて ちかひてし こともゆゆしく あらかふなゆめ
藤原滋幹恋三
2-後撰782おもひには我こそいりてまとはるれあやなく君や涼しかるへき
おもひには われこそいりて まとはるれ あやなくきみや すすしかるへき
藤原師輔恋三
2-後撰783あらたまの年もこえぬる松山の浪の心はいかかなるらむ
あらたまの としもこえぬる まつやまの なみのこころは いかかなるらむ
元平のみこのむすめ恋三
2-後撰784わかためはいととあさくやなりぬらん野中のし水ふかさまされは
わかためは いととあさくや なりぬらむ のなかのしみつ ふかさまされは
読人知らず恋三
2-後撰785あふみちをしるへなくてもみてしかな関のこなたはわひしかりけり
あふみちを しるへなくても みてしかな せきのこなたは わひしかりけり
源中正恋三
2-後撰786道しらてやみやはしなぬ相坂の関のあなたは海といふなり
みちしらて やみやはしなぬ あふさかの せきのあなたは うみといふなり
しもつけ恋三
2-後撰787つれなきを思ひしのふのさねかつらはてはくるをも厭ふなりけり
つれなきを おもひしのふの さねかつら はてはくるをも いとふなりけり
読人知らず恋三
2-後撰788今更に思ひいてしとしのふるをこひしきにこそわすれわひぬれ
いまさらに おもひいてしと しのふるを こひしきにこそ わすれわひぬれ
左太臣(実頼)恋三
2-後撰789わかためは見るかひもなし忘草わするはかりのこひにしあらねは
わかためは みるかひもなし わすれくさ わするはかりの こひにしあらねは
紀長谷雄恋三
2-後撰790あひ見てもつつむ思ひのわひしきは人まにのみそねはなかれける
あひみても つつむおもひの わひしきは ひとまにのみそ ねはなかれける
藤原ありよし恋三
2-後撰791を山田のなはしろ水はたえぬとも心の池のいひははなたし
をやまたの なはしろみつは たえぬとも こころのいけの いひははなたし
読人知らず恋三
2-後撰792千世へむと契りおきてし姫松のねさしそめてしやとはわすれし
ちよへむと ちきりおきてし ひめまつの ねさしそめてし やとはわすれし
読人知らず恋三
2-後撰793これを見よ人もすさめぬ恋すとてねをなくむしのなれるすかたを
これをみよ ひともすさへぬ こひすとて ねをなくむしの なれるすかたを
源重光恋三
2-後撰794あひみてはなくさむやとそ思ひしになこりしもこそこひしかりけれ
あひみては なくさむやとそ おもひしに なこりしもこそ こひしかりけれ
坂上是則恋三
2-後撰795わか恋のかすをかそへはあまの原くもりふたかりふる雨のこと
わかこひの かすをかそへは あまのはら くもりふたかり ふるあめのこと
藤原敏行恋四
2-後撰796打返し見まくそほしき故郷のやまとなてしこ色やかはれる
うちかへし みまくそほしき ふるさとの やまとなてしこ いろやかはれる
読人知らず恋四
2-後撰797やまひこのこゑにたてても年はへぬわか物思ひをしらぬ人きけ
やまひこの こゑにたてても としはへぬ わかものおもひを しらぬひときけ
藤原仲平恋四
2-後撰798玉もかるあまにはあらねとわたつみのそこひもしらす入る心かな
たまもかる あまにはあらねと わたつみの そこひもしらす いるこころかな
紀友則恋四
2-後撰799みるもなくめもなき海のいそにいててかへるかへるも怨みつるかな
みるもなく めもなきうみの いそにいてて かへるかへるも うらみつるかな
紀友則恋四
2-後撰800こりすまの浦の白浪立ちいててよるほともなくかへるはかりか
こりすまの うらのしらなみ たちいてて よるほともなく かへるはかりか
読人知らず恋四
2-後撰801関こえてあはつのもりのあはすともし水にみえしかけをわするな
せきこえて あはつのもりの あはすとも しみつにみえし かけをわするな
読人知らず恋四
2-後撰802ちかけれは何かはしるし相坂の関の外そと思ひたえなん
ちかけれは なにかはしるし あふさかの せきのほかそと おもひたえなむ
読人知らず恋四
2-後撰803今はとてこすゑにかかる空蝉のからを見むとは思はさりしを
いまはとて こすゑにかかる うつせみの からをみむとは おもはさりしを
平なかきかむすめ恋四
2-後撰804わすらるる身をうつせみの唐衣返すはつらき心なりけり
わすらるる みをうつせみの からころも かへすはつらき こころなりけり
源巨城恋四
2-後撰805影にたに見えもやするとたのみつるかひなくこひをます鏡かな
かけにたに みえもやすると たのみつる かひなくこひを ますかかみかな
読人知らず恋四
2-後撰806葦引の山田のそほつうちわひてひとりかへるのねをそなきぬる
あしひきの やまたのそほつ うちわひて ひとりかへるの ねをそなきぬる
読人知らず恋四
2-後撰807たねはあれと逢ふ事かたきいはのうへの松にて年をふるはかひなし
たねはあれと あふことかたき いはのうへの まつにてとしを ふるはかひなし
読人知らず恋四
2-後撰808ひたすらにいとひはてぬる物ならはよしのの山にゆくへしられし
ひたすらに いとひはてぬる ものならは よしののやまに ゆくへしられし
藤原時平恋四
2-後撰809わかやととたのむ吉野に君しいらはおなしかさしをさしこそはせめ
わかやとと たのむよしのに きみしいらは おなしかさしを さしこそはせめ
伊勢恋四
2-後撰810紅に袖をのみこそ染めてけれ君をうらむる涙かかりて
くれなゐに そてをのみこそ そめてけれ きみをうらむる なみたかかりて
読人知らず恋四
2-後撰811紅に涙うつるとききしをはなといつはりとわか思ひけん
くれなゐに なみたうつると ききしをは なといつはりと われおもひけむ
読人知らず恋四
2-後撰812くれなゐに涙しこくは緑なる袖も紅葉と見えましものを
くれなゐに なみたしこくは みとりなる そてももみちと みえましものを
読人知らず恋四
2-後撰813いにしへの野中のし水見るからにさしくむ物は涙なりけり
いにしへの のなかのしみつ みるからに さしくむものは なみたなりけり
読人知らず恋四
2-後撰814あまくものはるるよもなくふる物は袖のみぬるる涙なりけり
あまくもの はるるよもなく ふるものは そてのみぬるる なみたなりけり
読人知らず恋四
2-後撰815逢ふ事のかたふたかりて君こすは思ふ心のたかふはかりそ
あふことの かたふたかりて きみこすは おもふこころの たかふはかりそ
読人知らず恋四
2-後撰816ときはにとたのめし事は松ほとのひさしかるへき名にこそありけれ
ときはにと たのめしことは まつほとの ひさしかるへき なにこそありけれ
読人知らず恋四
2-後撰817こさまさる涙の色もかひそなき見すへき人のこの世ならねは
こさまさる なみたのいろも かひそなき みすへきひとの このよならねは
読人知らず恋四
2-後撰818住吉の岸にきよするおきつ浪まなくかけてもおもほゆるかな
すみよしの きしにきよする おきつなみ まなくかけても おもほゆるかな
読人知らず恋四
2-後撰819すみの江のめにちかからは岸にゐて浪のかすをもよむへきものを
すみのえの めにちかからは きしにゐて なみのかすをも よむへきものを
伊勢恋四
2-後撰820こひてへむと思ふ心のわりなさはしにてもしれよわすれかたみに
こひてへむと おもふこころの わりなさは しにてもしれよ わすれかたみに
伊勢恋四
2-後撰821もしもやとあひ見む事をたのますはかくふるほとにまつそけなまし
もしもやと あひみむことを たのますは かくふるほとに まつそけなまし
藤原時平恋四
2-後撰822あふとたにかたみにみゆる物ならはわするるほともあらましものを
あふとたに かたみにみゆる ものならは わするるほとも あらましものを
読人知らず恋四
2-後撰823おとにのみ声をきくかなあしひきの山した水にあらぬものから
おとにのみ こゑをきくかな あしひきの やましたみつに あらぬものから
読人知らず恋四
2-後撰824秋とてや今は限の立ちぬらんおもひにあへぬ物ならなくに
あきとてや いまはかきりの たちぬらむ おもひにあへぬ ものならなくに
伊勢恋四
2-後撰825見し夢の思ひいてらるるよひことにいはぬをしるは涙なりけり
みしゆめの おもひいてらるる よひことに いはぬをしるは なみたなりけり
伊勢恋四
2-後撰826白露のおきてあひ見ぬ事よりはきぬ返しつつねなんとそ思ふ
しらつゆの おきてあひみぬ ことよりは きぬかへしつつ ねなむとそおもふ
読人知らず恋四
2-後撰827事のははなけなる物といひなからおもはぬためは君もしるらん
ことのはは なけなるものと いひなから おもはぬためは きみもしるらむ
読人知らず恋四
2-後撰828白浪の打ちいつるはまのはまちとり跡やたつぬるしるへなるらん
しらなみの うちいつるはまの はまちとり あとやたつぬる しるへなるらむ
朝忠恋四
2-後撰829おほしまに水をはこひしはや舟のはやくも人にあひみてしかな
おほしまに みつをはこひし はやふねの はやくもひとに あひみてしかな
大江朝綱恋四
2-後撰830ひたふるに思ひなわひそふるさるる人の心はそれそよのつね
ひたふるに おもひなわひそ ふるさるる ひとのこころは それそよのつね
藤原時平恋四
2-後撰831世のつねの人の心をまたみねはなにかこのたひけぬへきものを
よのつねの ひとのこころを またみねは なにかこのたひ けぬへきものを
伊勢恋四
2-後撰832すみそめのくらまの山にいる人はたとるたとるも帰りきななん
すみそめの くらまのやまに いるひとは たとるたとるも かへりきななむ
平なかきかむすめ恋四
2-後撰833日をへても影に見ゆるはたまかつらつらきなからもたえぬなりけり
ひをへても かけにみゆるは たまかつら つらきなからも たえぬなりけり
伊勢恋四
2-後撰834高砂の松を緑と見し事はしたのもみちをしらぬなりけり
たかさこの まつをみとりと みしことは したのもみちを しらぬなりけり
読人知らず恋四
2-後撰835時わかね松の緑も限なきおもひには猶色やもゆらん
ときわかぬ まつのみとりも かきりなき おもひにはなほ いろやもゆらむ
読人知らず恋四
2-後撰836水鳥のはかなきあとに年をへてかよふはかりのえにこそ有りけれ
みつとりの はかなきあとに としをへて かよふはかりの えにこそありけれ
読人知らず恋四
2-後撰837浪のうへに跡やは見ゆる水鳥のうきてへぬらん年はかすかは
なみのうへに あとやはみゆる みつとりの うきてへぬらむ としはかすかは
読人知らず恋四
2-後撰838流れよるせせの白浪あさけれはとまるいな舟かへるなるへし
なかれよる せせのしらなみ あさけれは とまるいなふね かへるなるへし
読人知らず恋四
2-後撰839もかみ河ふかきにもあへすいな舟の心かるくも帰るなるかな
もかみかは ふかきにもあへす いなふねの こころかろくも かへるなるかな
藤原定方恋四
2-後撰840花すすきほにいつる事もなきものをまたき吹きぬる秋の風かな
はなすすき ほにいつることも なきものを またきふきぬる あきのかせかな
読人知らず恋四
2-後撰841またさりし秋はきぬれとみし人の心はよそになりもゆくかな
またさりし あきはきぬれと みしひとの こころはよそに なりもゆくかな
なかきかむすめ恋四
2-後撰842君を思ふ心なかさは秋の夜にいつれまさるとそらにしらなん
きみをおもふ こころなかさは あきのよに いつれまさると そらにしらなむ
源是茂恋四
2-後撰843鏡山あけてきつれは秋きりのけさやたつらんあふみてふなは
かかみやま あけてきつれは あききりの けさやたつらむ あふみてふなは
坂上つねかけ恋四
2-後撰844枝もなく人にをらるる女郎花ねをたにのこせうゑしわかため
えたもなく ひとにをらるる をみなへし ねをたにのこせ うゑしわかため
平まれよの恋四
2-後撰845秋の田のかりそめふしもしてけるかいたつらいねをなににつままし
あきのたの かりそめふしも してけるか いたつらいねを なににつままし
藤原成国恋四
2-後撰846秋風の吹くにつけてもとはぬかな荻の葉ならはおとはしてまし
あきかせの ふくにつけても とはぬかな をきのはならは おとはしてまし
中務恋四
2-後撰847君見すていく世へぬらん年月のふるとともにもおつるなみたか
きみみすて いくよへぬらむ としつきの ふるとともにも おつるなみたか
読人知らず恋四
2-後撰848中中に思ひかけては唐衣身になれぬをそうらむへらなる
なかなかに おもひかけては からころも みになれぬをそ うらむへらなる
読人知らず恋四
2-後撰849怨むともかけてこそみめ唐衣身になれぬれはふりぬとかきく
うらむとも かけてこそみめ からころも みになれぬれは ふりぬとかきく
読人知らず恋四
2-後撰850なけけともかひなかりけり世中になににくやしく思ひそめけむ
なけけとも かひなかりけり よのなかに なににくやしく おもひそめけむ
読人知らず恋四
2-後撰851こぬ人を松のえにふる白雪のきえこそかへれくゆる思ひに
こぬひとを まつのえにふる しらゆきの きえこそかへれ くゆるおもひに
承香殿中納言恋四
2-後撰852菊の花うつる心をおくしもにかへりぬへくもおもほゆるかな
きくのはな うつるこころを おくしもに かへりぬへくも おもほゆるかな
読人知らず恋四
2-後撰853今はとてうつりはてにし菊の花かへる色をはたれかみるへき
いまはとて うつりはてにし きくのはな かへるいろをは たれかみるへき
読人知らず恋四
2-後撰854なかめしてもりもわひぬる人めかないつかくもまのあらんとすらん
なかめして もりもわひぬる ひとめかな いつかくもまの あらむとすらむ
読人知らず恋四
2-後撰855おなしくは君とならひの池にこそ身をなけつとも人にきかせめ
おなしくは きみとならひの いけにこそ みをなけつとも ひとにきかせめ
読人知らず恋四
2-後撰856かけろふのほのめきつれはゆふくれの夢かとのみそ身をたとりつる
かけろふの ほのめきつれは ゆふくれの ゆめかとのみそ みをたとりつる
読人知らず恋四
2-後撰857ほのみてもめなれにけりときくからにふしかへりこそしなまほしけれ
ほのみても めなれにけりと きくからに ふしかへりこそ しなまほしけれ
読人知らず恋四
2-後撰858あふみてふ方のしるへもえてしかな見るめなきことゆきてうらみん
あふみてふ かたのしるへも えてしかな みるめなきこと ゆきてうらみむ
源よしの恋四
2-後撰859相坂の関ともらるる我なれは近江てふらん方もしられす
あふさかの せきともらるる われなれは あふみてふらむ かたもしられす
春澄善縄女恋四
2-後撰860葦引の山した水のこかくれてたきつ心をせきそかねつる
あしひきの やましたみつの こかくれて たきつこころを せきそかねつる
よしの恋四
2-後撰861こかくれてたきつ山水いつれかはめにしも見ゆるおとにこそきけ
こかくれて たきつやまみつ いつれかは めにしもみゆる おとにこそきけ
読人知らず恋四
2-後撰862暁のなからましかは白露のおきてわひしき別せましや
あかつきの なからましかは しらつゆの おきてわひしき わかれせましや
紀貫之恋四
2-後撰863おきて行く人の心をしらつゆの我こそまつは思ひきえぬれ
おきてゆく ひとのこころを しらつゆの われこそまつは おもひきえぬれ
読人知らず恋四
2-後撰864高砂の松といひつつ年をへてかはらぬ色ときかはたのまむ
たかさこの まつといひつつ としをへて かはらぬいろと きかはたのまむ
読人知らず恋四
2-後撰865風をいたみくゆる煙のたちいてても猶こりすまのうらそこひしき
かせをいたみ くゆるけふりの たちいてても なほこりすまの うらそこひしき
紀貫之恋四
2-後撰866いはねともわか限なき心をは雲ゐにとほき人もしらなん
いはねとも わかかきりなき こころをは くもゐにとほき ひともしらなむ
読人知らず恋四
2-後撰867君かねにくらふの山の郭公いつれあたなるこゑまさるらん
きみかねに くらふのやまの ほとときす いつれあたなる こゑまさるらむ
読人知らず恋四
2-後撰868こひてぬる夢ちにかよふたましひのなるるかひなくうとききみかな
こひてぬる ゆめちにかよふ たましひの なるるかひなく うとききみかな
読人知らず恋四
2-後撰869かかり火にあらぬおもひのいかなれは涙の河にうきてもゆらん
かかりひに あらぬおもひの いかなれは なみたのかはに うきてもゆらむ
読人知らず恋四
2-後撰870まちくらす日はすかのねにおもほえてあふよしもなとたまのをならん
まちくらす ひはすかのねに おもほえて あふよしもなと たまのをならむ
読人知らず恋四
2-後撰871はかなかる夢のしるしにはかられてうつつにまくる身とやなりなん
はかなかる ゆめのしるしに はかられて うつつにまくる みとやなりなむ
読人知らず恋四
2-後撰872思ひねの夢といひてもやみなまし中中なにに有りとしりけん
おもひねの ゆめといひても やみなまし なかなかなにに ありとしりけむ
読人知らず恋四
2-後撰873いつしかのねになきかへりこしかとものへのあさちは色つきにけり
いつしかの ねになきかへり こしかとも のへのあさちは いろつきにけり
忠房恋四
2-後撰874ひきまゆのかくふたこもりせまほしみくはこきたれてなくを見せはや
ひきまゆの かくふたこもり せまほしみ くはこきたれて なくをみせはや
忠房恋四
2-後撰875関山の峰のすきむらすきゆけと近江は猶そはるけかりける
せきやまの みねのすきむら すきゆけと あふみはなほそ はるけかりける
読人知らず恋四
2-後撰876思ひいてておとつれしける山ひこのこたへにこりぬ心なになり
おもひいてて おとつれしける やまひこの こたへにこりぬ こころなになり
読人知らず恋四
2-後撰877まとろまぬものからうたてしかすかにうつつにもあらぬ心地のみする
まとろまぬ ものからうたて しかすかに うつつにもあらぬ ここちのみする
読人知らず恋四
2-後撰878うつつにもあらぬ心は夢なれや見てもはかなき物を思へは
うつつにも あらぬこころは ゆめなれや みてもはかなき ものをおもへは
読人知らず恋四
2-後撰879限なく思ひいり日のともにのみ西の山へをなかめやるかな
かきりなく おもひいりひの ともにのみ にしのやまへを なかめやるかな
小野道風恋四
2-後撰880君かなの立つにとかなき身なりせはおほよそ人になしてみましや
きみかなの たつにとかなき みなりせは おほよそひとに なしてみましや
忠房恋四
2-後撰881たえぬると見れはあひぬる白雲のいとおほよそにおもはすもかな
たえぬると みれはあひぬる しらくもの いとおほよそに おもはすもかな
女五のみこ恋四
2-後撰882けふそへにくれさらめやはとおもへともたへぬは人の心なりけり
けふそへに くれさらめやはと おもへとも たへぬはひとの こころなりけり
藤原敦忠恋四
2-後撰883いとかくてやみぬるよりはいなつまのひかりのまにも君をみてしか
いとかくて やみぬるよりは いなつまの ひかりのまにも きみをみてしか
大輔恋四
2-後撰884いたつらに立帰りにし白浪のなこりに袖のひる時もなし
いたつらに たちかへりにし しらなみの なこりにそての ひるときもなし
朝忠恋四
2-後撰885何にかは袖のぬるらん白浪のなこり有りけも見えぬ心を
なににかは そてのぬるらむ しらなみの なこりありけも みえぬこころを
大輔恋四
2-後撰886ちかひても猶思ふにはまけにけりたかためをしきいのちならねは
ちかひても なほおもふには まけにけり たかためをしき いのちならねは
蔵内侍恋四
2-後撰887なにはめにみつとはなしにあしのねのよのみしかくてあくるわひしさ
なにはめに みつとはなしに あしのねの よのみしかくて あくるわひしさ
道風恋四
2-後撰888かへるへき方もおほえす涙河いつれかわたるあさせなるらむ
かへるへき かたもおほえす なみたかは いつれかわたる あさせなるらむ
道風恋四
2-後撰889涙河いかなるせよりかへりけん見なるるみをもあやしかりしを
なみたかは いかなるせより かへりけむ みなるるみをも あやしかりしを
大輔恋四
2-後撰890池水のいひいつる事のかたけれはみこもりなからとしそへにける
いけみつの いひいつることの かたけれは みこもりなから としそへにける
藤原敦忠恋四
2-後撰891伊勢の海に遊ふあまともなりにしか浪かきわけてみるめかつかむ
いせのうみに あそふあまとも なりにしか なみかきわけて みるめかつかむ
在原業平恋五
2-後撰892おほろけのあまやはかつくいせの海の浪高き浦におふるみるめは
おほろけの あまやはかつく いせのうみの なみたかきうらに おふるみるめは
伊勢恋五
2-後撰893つらしとやいひはててまし白露の人に心はおかしと思ふを
つらしとや いひはててまし しらつゆの ひとにこころは おかしとおもふを
読人知らず恋五
2-後撰894なからへは人の心も見るへきに露の命そ悲しかりける
なからへは ひとのこころも みるへきに つゆのいのちそ かなしかりける
読人知らず恋五
2-後撰895ひとりぬる時はまたるる鳥のねもまれにあふよはわひしかりけり
ひとりぬる ときはまたるる とりのねも まれにあふよは わひしかりけり
小野小町かあね恋五
2-後撰896空蝉のむなしくからになるまてもわすれんと思ふ我ならなくに
うつせみの むなしきからに なるまても わすれむとおもふ われならなくに
深養父恋五
2-後撰897いつまてのはかなき人の事のはか心の秋の風をまつらむ
いつまての はかなきひとの ことのはか こころのあきの かせをまつらむ
読人知らず恋五
2-後撰898うたたねの夢はかりなる逢ふ事を秋のよすから思ひつるかな
うたたねの ゆめはかりなる あふことを あきのよすから おもひつるかな
読人知らず恋五
2-後撰899秋の夜の草のとさしのわひしきはあくれとあけぬ物にそ有りける
あきのよの くさのとさしの わひしきは あくれとあけぬ ものにそありける
藤原兼輔恋五
2-後撰900いふからにつらさそまさる秋のよの草のとさしにさはるへしやは
いふからに つらさそまさる あきのよの くさのとさしに さはるへしやは
読人知らず恋五
2-後撰901人しれす物思ふころのわか袖は秋の草はにおとらさりけり
ひとしれす ものおもふころの わかそては あきのくさはに おとらさりけり
さたかすのみこ恋五
2-後撰902しつはたに思ひみたれて秋の夜のあくるもしらすなけきつるかな
しつはたに おもひみたれて あきのよの あくるもしらす なけきつるかな
藤原時平恋五
2-後撰903はちすはのうへはつれなきうらにこそ物あらかひはつくといふなれ
はちすはの うへはつれなき うらにこそ ものあらかひは つくといふなれ
読人知らず恋五
2-後撰904ふりやめはあとたに見えぬうたかたのきえてはかなきよをたのむかな
ふりやめは あとたにみえぬ うたかたの きえてはかなき よをたのむかな
読人知らず恋五
2-後撰905あはてのみあまたのよをもかへるかな人めのしけき相坂にきて
あはてのみ あまたのよをも かへるかな ひとめのしけき あふさかにきて
読人知らず恋五
2-後撰906なひく方有りけるものをなよ竹の世にへぬ物と思ひけるかな
なひくかた ありけるものを なよたけの よにへぬものと おもひけるかな
読人知らず恋五
2-後撰907ねになけは人わらへなりくれ竹の世にへぬをたにかちぬとおもはん
ねになけは ひとわらへなり くれたけの よにへぬをたに かちぬとおもはむ
読人知らず恋五
2-後撰908伊勢のあまと君しなりなはおなしくは恋しきほとにみるめからせよ
いせのあまと きみしなりなは おなしくは こひしきほとに みるめからせよ
読人知らず恋五
2-後撰909こひしくは影をたに見てなくさめよわかうちとけてしのふかほなり
こひしくは かけをたにみて なくさめよ わかうちとけて しのふかほなり
一条恋五
2-後撰910影見れはいとと心そまとはるるちかからぬけのうときなりけり
かけみれは いととこころそ まとはるる ちかからぬけの うときなりけり
伊勢恋五
2-後撰911人ことのうきをもしらすありかせし昔なからのわか身ともかな
ひとことの うきをもしらす ありかせし むかしなからの わかみともかな
読人知らず恋五
2-後撰912郭公なつきそめてしかひもなくこゑをよそにもききわたるかな
ほとときす なつきそめてし かひもなく こゑをよそにも ききわたるかな
読人知らず恋五
2-後撰913つねよりもおきうかりつる暁はつゆさへかかる物にそ有りける
つねよりも おきうかりつる あかつきは つゆさへかかる ものにそありける
読人知らず恋五
2-後撰914おく霜の暁おきをおもはすは君かよとのによかれせましや
おくしもの あかつきおきを おもはすは きみかよとのに よかれせましや
読人知らず恋五
2-後撰915霜おかぬ春よりのちのなかめにもいつかは君かよかれせさりし
しもおかぬ はるよりのちの なかめにも いつかはきみか よかれせさりし
読人知らず恋五
2-後撰916伊勢の海のあまのまてかたいとまなみなからへにける身をそうらむる
いせのうみの あまのまてかた いとまなみ なからへにける みをそうらむる
源英明恋五
2-後撰917逢ふ事のかたのへとてそ我はゆく身をおなしなに思ひなしつつ
あふことの かたのへとてそ われはゆく みをおなしなに おもひなしつつ
藤原ためよ恋五
2-後撰918君かあたり雲井に見つつ宮ち山うちこえゆかん道もしらなく
きみかあたり くもゐにみつつ みやちやま うちこえゆかむ みちもしらなく
読人知らず恋五
2-後撰919思ふてふ事のはいかになつかしなのちうき物とおもはすもかな
おもふてふ ことのはいかに なつかしな のちうきものと おもはすもかな
俊子恋五
2-後撰920思ふてふ事こそうけれくれ竹のよにふる人のいはぬなけれは
おもふてふ ことこそうけれ くれたけの よにふるひとの いはぬなけれは
兼茂るのむすめ恋五
2-後撰921おもはむと我をたのめし事のはは忘草とそ今はなるらし
おもはむと われをたのめし ことのはは わすれくさとそ いまはなるらし
読人知らず恋五
2-後撰922今まてもきえて有りつるつゆの身はおくへきやとのあれはなりけり
いままても きえてありつる つゆのみは おくへきやとの あれはなりけり
読人知らず恋五
2-後撰923事のはもみな霜かれに成りゆくはつゆのやとりもあらしとそ思ふ
ことのはも みなしもかれに なりゆくは つゆのやとりも あらしとそおもふ
読人知らず恋五
2-後撰924忘れむといひし事にもあらなくに今は限と思ふものかは
わすれむと いひしことにも あらなくに いまはかきりと おもふものかは
読人知らず恋五
2-後撰925うつつにはふせとねられすおきかへり昨日の夢をいつかわすれん
うつつには ふせとねられす おきかへり きのふのゆめを いつかわすれむ
読人知らず恋五
2-後撰926ささらなみまなくたつめる浦をこそ世にあさしともみつつわすれめ
ささらなみ まなくたつめる うらをこそ よにあさしとも みつつわすれめ
読人知らず恋五
2-後撰927伊勢の海のちひろのはまにひろふとも今は何てふかひかあるへき
いせのうみの ちひろのはまに ひろふとも いまはなにてふ かひかあるへき
藤原敦忠恋五
2-後撰928わすれねといひしにかなふ君なれととはぬはつらき物にそ有りける
わすれねと いひしにかなふ きみなれと とはぬはつらき ものにそありける
本院のくら恋五
2-後撰929春霞はかなくたちてわかるとも風より外に誰かとふへき
はるかすみ はかなくたちて わかるとも かせよりほかに たれかとふへき
読人知らず恋五
2-後撰930めにみえぬ風に心をたくへつつやらは霞のわかれこそせめ
めにみえぬ かせにこころを たくへつつ やらはかすみの わかれこそせめ
伊勢恋五
2-後撰931ふか緑染めけん松のえにしあらはうすき袖にも浪はよせてん
ふかみとり そめけむまつの えにしあらは うすきそてにも なみはよせてむ
さたもとのみこ恋五
2-後撰932松山のすゑこす浪のえにしあらは君か袖にはあともとまらし
まつやまの すゑこすなみの えにしあらは きみかそてには あともとまらし
土左恋五
2-後撰933深く思ひそめつといひし事のははいつか秋風ふきてちりぬる
ふかくおもひ そめつといひし ことのはは いつかあきかせ ふきてちりぬる
藤原時平恋五
2-後撰934人をのみうらむるよりは心からこれいまさりしつみとおもはん
ひとをのみ うらむるよりは こころから これいまさりし つみとおもはむ
読人知らず恋五
2-後撰935葦引の山したしけくゆく水の流れてかくしとははたのまん
あしひきの やましたしけく ゆくみつの なかれてかくし とははたのまむ
読人知らず恋五
2-後撰936わひはつる時さへ物のかなしきはいつこを忍ふ心なるらん
わひはつる ときさへものの かなしきは いつこをしのふ こころなるらむ
伊勢恋五
2-後撰937いなせともいひはなたれすうき物は身を心ともせぬ世なりけり
いなせとも いひはなたれす うきものは みをこころとも せぬよなりけり
伊勢恋五
2-後撰938こすやあらんきやせんとのみ河岸の松の心を思ひやらなん
こすやあらむ きやせむとのみ かはきしの まつのこころを おもひやらなむ
読人知らず恋五
2-後撰939しひてゆくこまのあしをるはしをたになとわかやとにわたささりけん
しひてゆく こまのあしをる はしをたに なとわかやとに わたささりけむ
読人知らず恋五
2-後撰940年をへていけるかひなきわか身をは何かは人に有りとしられん
としをへて いけるかひなき わかみをは なにかはひとに ありとしられむ
読人知らず恋五
2-後撰941あさりする時そわひしき人しれすなにはの浦にすまふわか身は
あさりする ときそわひしき ひとしれす なにはのうらに すまふわかみは
読人知らず恋五
2-後撰942なかめつつ人まつよひのよふことりいつ方へとか行きかへるらむ
なかめつつ ひとまつよひの よふことり いつかたへとか ゆきかへるらむ
寛湛法師母恋五
2-後撰943人ことのたのみかたさはなにはなるあしのうらはのうらみつへしな
ひとことの たのみかたさは なにはなる あしのうらはの うらみつへしな
読人知らず恋五
2-後撰944人はかる心のくまはきたなくてきよきなきさをいかてすきけん
ひとはかる こころのくまは きたなくて きよきなきさを いかてすきけむ
少将内侍恋五
2-後撰945たかためにわれかいのちを長浜の浦にやとりをしつつかはこし
たかために われかいのちを なかはまの うらにやとりを しつつかはこし
藤原兼輔恋五
2-後撰946せきもあへす淵にそ迷ふ涙河わたるてふせをしるよしもかな
せきもあへす ふちにそまよふ なみたかは わたるてふせを しるよしもかな
読人知らず恋五
2-後撰947淵なから人かよはさし涙河わたらはあさきせをもこそ見れ
ふちなから ひとかよはさし なみたかは わたらはあさき せをもこそみれ
読人知らず恋五
2-後撰948きて帰る名をのみそ立つ唐衣したゆふひもの心とけねは
きてかへる なをのみそたつ からころも したゆふひもの こころとけねは
読人知らず恋五
2-後撰949たえぬとも何思ひけん涙河流れあふせも有りけるものを
たえぬとも なにおもひけむ なみたかは なかれあふせも ありけるものを
内侍たひらけい子恋五
2-後撰950今ははやみ山をいてて郭公けちかきこゑを我にきかせよ
いまははや みやまをいてて ほとときす けちかきこゑを われにきかせよ
左太臣(実頼)恋五
2-後撰951人はいさみ山かくれの郭公ならはぬさとはすみうかるへし
ひとはいさ みやまかくれの ほとときす ならはぬさとは すみうかるへし
大輔恋五
2-後撰952有りしたにうかりしものをあかすとていつこにそふるつらさなるらん
ありしたに うかりしものを あかすとて いつこにそふる つらさなるらむ
中務恋五
2-後撰953思ひわひ君かつらきにたちよらは雨も人めももらささらなん
おもひわひ きみかつらきに たちよらは あめもひとめも もらささらなむ
左太臣(実頼)恋五
2-後撰954ふえ竹の本のふるねはかはるともおのかよよにはならすもあらなん
ふえたけの もとのふるねは かはるとも おのかよよには ならすもあらなむ
読人知らず恋五
2-後撰955めも見えす涙の雨のしくるれは身のぬれきぬはひるよしもなし
めもみえす なみたのあめの しくるれは みのぬれきぬは ひるよしもなし
よしふるの恋五
2-後撰956にくからぬ人のきせけんぬれきぬは思ひにあへす今かわきなん
にくからぬ ひとのきせけむ ぬれきぬは おもひにあへす いまかわきなむ
中将内侍恋五
2-後撰957おほかたはせとたにかけしあまの河ふかき心をふちとたのまん
おほかたは せとたにかけし あまのかは ふかきこころを ふちとたのまむ
小野道風恋五
2-後撰958淵とてもたのみやはする天河年にひとたひわたるてふせを
ふちとても たのみやはする あまのかは としにひとたひ わたるてふせを
読人知らず恋五
2-後撰959身のならん事をもしらすこく舟は浪の心もつつまさりけり
みのならむ ことをもしらす こくふねは なみのこころも つつまさりけり
きよかけの恋五
2-後撰960わひぬれは今はたおなしなにはなる身をつくしてもあはんとそ思ふ
わひぬれは いまはたおなし なにはなる みをつくしても あはむとそおもふ
元良親王恋五
2-後撰961如何してかく思ふてふ事をたに人つてならて君にかたらん
いかにして かくおもふてふ ことをたに ひとつてならて きみにかたらむ
藤原敦忠恋五
2-後撰962もろともにいさといはすはしての山こゆともこさむ物ならなくに
もろともに いさといはすは してのやま こゆともこさむ ものならなくに
朝忠恋五
2-後撰963かくはかりふかき色にもうつろふを猶きみきくの花といはなん
かくはかり ふかきいろにも うつろふを なほきみきくの はなといはなむ
きよかけの恋五
2-後撰964いさやまた人の心も白露のおくにもとにも袖のみそひつ
いさやまた ひとのこころも しらつゆの おくにもとにも そてのみそひつ
読人知らず恋五
2-後撰965よるしほのみちくるそらもおもほえすあふこと浪に帰ると思へは
よるしほの みちくるそらも おもほえす あふことなみに かへるとおもへは
読人知らず恋五
2-後撰966かすならぬ身は山のはにあらねともおほくの月をすくしつるかな
かすならぬ みはやまのはに あらねとも おほくのつきを すくしつるかな
読人知らず恋五
2-後撰967たのめつつあはて年ふるいつはりにこりぬ心を人はしらなん
たのめつつ あはてとしふる いつはりに こりぬこころを ひとはしらなむ
在原業平恋五
2-後撰968夏虫のしるしる迷ふおもひをはこりぬかなしとたれかみさらん
なつむしの しるしるまよふ おもひをは こりぬかなしと たれかみさらむ
伊勢恋五
2-後撰969打ちわひてよははむ声に山ひこのこたへぬそらはあらしとそ思ふ
うちわひて よははむこゑに やまひこの こたへぬやまは あらしとそおもふ
読人知らず恋五
2-後撰970山ひこのこゑのまにまにとひゆかはむなしきそらにゆきやかへらん
やまひこの こゑのまにまに とひゆかは むなしきそらに ゆきやかへらむ
読人知らず恋五
2-後撰971荒玉の年の三とせはうつせみのむなしきねをやなきてくらさむ
あらたまの としのみとせは うつせみの むなしきねをや なきてくらさむ
読人知らず恋五
2-後撰972流れいつる涙の河のゆくすゑはつひに近江のうみとたのまん
なかれいつる なみたのかはの ゆくすゑは つひにあふみの うみとたのまむ
読人知らず恋五
2-後撰973雨ふれとふらねとぬるるわか袖のかかるおもひにかわかぬやなそ
あめふれと ふらねとぬるる わかそての かかるおもひに かわかぬやなそ
読人知らず恋五
2-後撰974露はかりぬるらん袖のかわかぬは君か思ひのほとやすくなき
つゆはかり ぬるらむそての かわかぬは きみかおもひの ほとやすくなき
読人知らず恋五
2-後撰975常よりもまとふまとふそ帰りつるあふ道もなきやとにゆきつつ
つねよりも まとふまとふそ かへりつる あふみちもなき やとにゆきつつ
読人知らず恋五
2-後撰976ぬれつつもくると見えしは夏引のてひきにたえぬいとにや有りけん
ぬれつつも くるとみえしは なつひきの てひきにたえぬ いとにやありけむ
読人知らず恋五
2-後撰977かすならぬ身はうき草となりななんつれなき人によるへしられし
かすならぬ みはうきくさと なりななむ つれなきひとに よるへしられし
読人知らず恋五
2-後撰978ゆふやみは道も見えねと旧里は本こし駒にまかせてそくる
ゆふやみは みちもみえねと ふるさとは もとこしこまに まかせてそくる
読人知らず恋五
2-後撰979駒にこそまかせたりけれあやなくも心のくると思ひけるかな
こまにこそ まかせたりけれ あやなくも こころのくると おもひけるかな
読人知らず恋五
2-後撰980いつ方に事つてやりてかりかねのあふことまれに今はなるらん
いつかたに ことつてやりて かりかねの あふことまれに いまはなるらむ
読人知らず恋五
2-後撰981有りとたにきくへきものを相坂の関のあなたそはるけかりける
ありとたに きくへきものを あふさかの せきのあなたそ はるけかりける
読人知らず恋五
2-後撰982関もりかあらたまるてふ相坂のゆふつけ鳥はなきつつそゆく
せきもりか あらたまるてふ あふさかの ゆふつけとりは なきつつそゆく
読人知らず恋五
2-後撰983ゆき帰りきてもきかなん相坂の関にかはれる人も有りやと
ゆきかへり きてもきなかむ あふさかの せきにかはれる ひともありやと
読人知らず恋五
2-後撰984もる人のあるとはきけと相坂のせきもととめぬわかなみたかな
もるひとの あるとはきけと あふさかの せきもととめぬ わかなみたかな
読人知らず恋五
2-後撰985葛木やくめちにわたすいははしの中中にても帰りぬるかな
かつらきや くめちにわたす いははしの なかなかにても かへりぬるかな
読人知らず恋五
2-後撰986中たえてくる人もなきかつらきのくめちのはしはいまもあやふし
なかたえて くるひともなき かつらきの くめちのはしは いまもあやふし
読人知らず恋五
2-後撰987白雲のみなひとむらに見えしかとたちいてて君を思ひそめてき
しらくもの みなひとむらに みえしかと たちいててきみを おもひそめてき
藤原有好恋五
2-後撰988よそなれと心はかりはかけたるをなとかおもひにかわかさるらん
よそなれと こころはかりは かけたるを なとかおもひに かわかさるらむ
読人知らず恋五
2-後撰989わかこひのきゆるまもなくくるしきはあはぬ歎やもえわたるらん
わかこひの きゆるまもなく くるしきは あはぬなけきや もえわたるらむ
読人知らず恋五
2-後撰990きえすのみもゆる思ひはとほけれと身もこかれぬる物にそ有りける
きえすのみ もゆるおもひは とほけれと みもこかれぬる ものにそありける
読人知らず恋五
2-後撰991うへにのみおろかにもゆるかやり火のよにもそこには思ひこかれし
うへにのみ おろかにもゆる かやりひの よにもそこには おもひこかれし
読人知らず恋五
2-後撰992河とのみわたるを見るになくさまてくるしきことそいやまさりなる
かはとのみ わたるをみるに なくさまて くるしきことそ いやまさりなる
読人知らず恋五
2-後撰993水まさる心地のみしてわかためにうれしきせをは見せしとやする
みつまさる ここちのみして わかために うれしきせをは みせしとやする
読人知らず恋五
2-後撰994逢ふ事をよとに有りてふみつのもりつらしと君を見つるころかな
あふことを よとにありてふ みつのもり つらしときみを みつるころかな
読人知らず恋六
2-後撰995みつのもりもるこのころのなかめには怨みもあへすよとの河浪
みつのもり もるこのころの なかめには うらみもあへす よとのかはなみ
読人知らず恋六
2-後撰996うき世とは思ふものからあまのとのあくるはつらき物にそ有りける
うきよとは おもふものから あまのとの あくるはつらき ものにそありける
読人知らず恋六
2-後撰997うらむれとこふれと君かよとともにしらすかほにてつれなかるらん
うらむれと こふれときみか よとともに しらすかほにて つれなかるらむ
読人知らず恋六
2-後撰998怨むともこふともいかか雲井よりはるけき人をそらにしるへき
うらむとも こふともいかか くもゐより はるけきひとを そらにしるへき
読人知らず恋六
2-後撰999しつはたにへつるほとなり白糸のたえぬる身とはおもはさらなん
しつはたに へつるほとなり しらいとの たえぬるみとは おもはさらなむ
読人知らず恋六
2-後撰1000へつるよりうすくなりにししつはたのいとはたえてもかひやなからん
へつるより うすくなりにし しつはたの いとはたえても かひやなからむ
読人知らず恋六
2-後撰1001くる事は常ならすともたまかつらたのみはたえしと思ふ心あり
くることは つねならすとも たまかつら たのみはたえしと おもふこころあり
読人知らず恋六
2-後撰1002玉鬘たのめくる日のかすはあれとたえたえにてはかひなかりけり
たまかつら たのめくるひの かすはあれと たえたえにては かひなかりけり
読人知らず恋六
2-後撰1003いにしへの心はなくや成りにけんたのめしことのたえてとしふる
いにしへの こころはなくや なりにけむ たのめしことの たえてとしふる
読人知らず恋六
2-後撰1004いにしへも今も心のなけれはそうきをもしらて年をのみふる
いにしへも いまもこころの なけれはそ うきをもしらて としをのみふる
読人知らず恋六
2-後撰1005たえたりし昔たに見しうちはしを今はわたるとおとにのみきく
たえたりし むかしたにみし うちはしを いまはわたると おとにのみきく
読人知らず恋六
2-後撰1006わすられて年ふるさとの郭公なににひとこゑなきてゆくらん
わすられて としふるさとの ほとときす なににひとこゑ なきてゆくらむ
読人知らず恋六
2-後撰1007とふやとてすきなきやとにきにけれとこひしきことそしるへなりける
とふやとて すきなきやとに きにけれと こひしきことそ しるへなりける
読人知らず恋六
2-後撰1008露のいのちいつともしらぬ世中になとかつらしと思ひおかるる
つゆのいのち いつともしらぬ よのなかに なとかつらしと おもひおかるる
読人知らず恋六
2-後撰1009かり人のたつぬるしかはいなひのにあはてのみこそあらまほしけれ
かりひとの たつぬるしかは いなみのに あはてのみこそ あらまほしけれ
読人知らず恋六
2-後撰1010を山田の水ならなくにかくはかり流れそめてはたえんものかは
をやまたの みつならなくに かくはかり なかれそめては たえむものかは
藤原師輔恋六
2-後撰1011月にたにまつほとおほくすきぬれは雨もよにこしとおもほゆるかな
つきにたに まつほとおほく すきぬれは あめもよにこしと おもほゆるかな
在原業平のむすめいまき恋六
2-後撰1012思ひつつまたいひそめぬわかこひをおなし心にしらせてしかな
おもひつつ またいひそめぬ わかこひを おなしこころに しらせてしかな
読人知らず恋六
2-後撰1013あすか河心の内になかるれはそこのしからみいつかよとまん
あすかかは こころのうちに なかるれは そこのしからみ いつかよとまむ
読人知らず恋六
2-後撰1014ふしのねをよそにそききし今はわか思ひにもゆる煙なりけり
ふしのねを よそにそききし いまはわか おもひにもゆる けふりなりけり
朝綱恋六
2-後撰1015しるしなき思ひとそきくふしのねもかことはかりの煙なるらん
しるしなき おもひとそきく ふしのねも かことはかりの けふりなるらむ
読人知らず恋六
2-後撰1016いひさしてととめらるなる池水の波いつかたに思ひよるらん
いひさして ととめらるなる いけみつの なみいつかたに おもひよるらむ
読人知らず恋六
2-後撰1017しられしなわかひとしれぬ心もて君を思ひのなかにもゆとは
しられしな わかひとしれぬ こころもて きみをおもひの なかにもゆとは
読人知らず恋六
2-後撰1018あふはかりなくてのみふるわかこひを人めにかくる事のわひしさ
あふはかり なくてのみふる わかこひを ひとめにかくる ことのわひしさ
読人知らず恋六
2-後撰1019夏衣身にはなるともわかためにうすき心はかけすもあらなん
なつころも みにはなるとも わかために うすきこころは かけすもあらなむ
読人知らず恋六
2-後撰1020いかにして事かたらはん郭公歎のしたになけはかひなし
いかにして ことかたらはむ ほとときす なけきのしたに なけはかひなし
読人知らず恋六
2-後撰1021思ひつつへにける年をしるへにてなれぬる物は心なりけり
おもひつつ へにけるとしを しるへにて なれぬるものは こころなりけり
読人知らず恋六
2-後撰1022我ならぬ人住の江の岸にいててなにはの方を怨みつるかな
われならぬ ひとすみのえの きしにいてて なにはのかたを うらみつるかな
源ととのふ恋六
2-後撰1023にこりゆく水には影の見えはこそあしまよふえをととめても見め
にこりゆく みつにはかけの みえはこそ あしまよふえを ととめてもみめ
読人知らず恋六
2-後撰1024菅原や伏見の里のあれしよりかよひし人の跡もたえにき
すかはらや ふしみのさとの あれしより かよひしひとの あともたえにき
読人知らず恋六
2-後撰1025ちはやふる神にもあらぬわかなかの雲井遥に成りもゆくかな
ちはやふる かみにもあらぬ わかなかの くもゐはるかに なりもゆくかな
読人知らず恋六
2-後撰1026千早振神にも何にたとふらんおのれくもゐに人をなしつつ
ちはやふる かみにもなにに たとふらむ おのれくもゐに ひとをなしつつ
読人知らず恋六
2-後撰1027うきしつみふちせにさわくにほとりはそこものとかにあらしとそ思ふ
うきしつみ ふちせにさわく にほとりは そこものとかに あらしとそおもふ
敦慶親王恋六
2-後撰1028松山に浪たかきおとそきこゆなる我よりこゆる人はあらしを
まつやまに なみたかきおとそ きこゆなる われよりこゆる ひとはあらしを
藤原守文恋六
2-後撰1029さしてこと思ひしものをみかさ山かひなく雨のもりにけるかな
さしてこと おもひしものを みかさやま かひなくあめの もりにけるかな
読人知らず恋六
2-後撰1030もるめのみあまたみゆれはみかさ山しるしるいかかさしてゆくへき
もるめのみ あまたみゆれは みかさやま しるしるいかか さしてゆくへき
読人知らず恋六
2-後撰1031なくさむることのはにたにかからすは今もけぬへき露の命を
なくさむる ことのはにたに かからすは いまもけぬへき つゆのいのちを
読人知らず恋六
2-後撰1032ひとしれすまつにねられぬ晨明の月にさへこそあさむかれけれ
ひとしれす まつにねられぬ ありあけの つきにさへこそ あさむかれけれ
兵衛恋六
2-後撰1033竜田河たちなは君か名ををしみいはせのもりのいはしとそ思ふ
たつたかは たちなはきみか なををしみ いはせのもりの いはしとそおもふ
元方恋六
2-後撰1034うたののはみみなし山かよふこ鳥よふこゑにたにこたへさるらん
うたののは みみなしやまか よふことり よふこゑにたに こたへさるらむ
読人知らず恋六
2-後撰1035耳なしの山ならすともよふことり何かはきかん時ならぬねを
みみなしの やまならすとも よふことり なにかはきかむ ときならぬねを
女五のみこ恋六
2-後撰1036こひわひてしぬてふことはまたなきを世のためしにもなりぬへきかな
こひわひて しぬてふことは またなきを よのためしにも なりぬへきかな
壬生忠岑恋六
2-後撰1037影見れはおくへいりける君によりなとか涙のとへはいつらむ
かけみれは おくへいりける きみにより なとかなみたの とへはいつらむ
読人知らず恋六
2-後撰1038しらさりし時たにこえし相坂をなと今更にわれ迷ふらん
しらさりし ときたにこえし あふさかを なといまさらに われまよふらむ
読人知らず恋六
2-後撰1039あかすして枕のうへに別れにしゆめちを又もたつねてしかな
あかすして まくらのうへに わかれにし ゆめちをまたも たつねてしかな
藤原かけもと恋六
2-後撰1040おともせすなりもゆくかなすすか山こゆてふなのみたかくたちつつ
おともせす なりもゆくかな すすかやま こゆてふなのみ たかくたちつつ
読人知らず恋六
2-後撰1041こえぬてふ名をなうらみそすすか山いととまちかくならんと思ふを
こえぬてふ なをなうらみそ すすかやま いととまちかく ならむとおもふを
読人知らず恋六
2-後撰1042わかためにかつはつらしと見山木のこりともこりぬかかるこひせし
わかために かつはつらしと みやまきの こりともこりぬ かかるこひせし
読人知らず恋六
2-後撰1043あふこなき身とはしるしる恋すとて歎こりつむ人はよきかは
あふこなき みとはしるしる こひすとて なけきこりつむ ひとはよきかは
読人知らず恋六
2-後撰1044あさことに露はおけとも人こふるわか事のはは色もかはらす
あさことに つゆはおけとも ひとこふる わかことのはは いろもかはらす
戒仙法師恋六
2-後撰1045まちかくてつらきを見るはうけれともうきはものかはこひしきよりは
まちかくて つらきをみるは うけれとも うきはものかは こひしきよりは
読人知らず恋六
2-後撰1046つくしなる思ひそめ河わたりなは水やまさらんよとむ時なく
つくしなる おもひそめかは わたりなは みつやまさらむ よとむときなく
藤原さねたた恋六
2-後撰1047渡りてはあたになるてふ染河の心つくしになりもこそすれ
わたりては あたになるてふ そめかはの こころつくしに なりもこそすれ
読人知らず恋六
2-後撰1048花さかりすくしし人はつらけれと事のはをさへかくしやはせん
はなさかり すくししひとは つらけれと ことのはをさへ かくしやはせむ
読人知らず恋六
2-後撰1049とふことをまつに月日はこゆるきのいそにやいてて今はうらみん
とふことを まつにつきひは こゆるきの いそにやいてて いまはうらみむ
右近恋六
2-後撰1050忘草名をもゆゆしみかりにてもおふてふやとはゆきてたに見し
わすれくさ なをもゆゆしみ かりにても おふてふやとは ゆきてたにみし
読人知らず恋六
2-後撰1051うきことのしけきやとには忘草うゑてたにみし秋そわひしき
うきことの しけきやとには わすれくさ うゑてたにみし あきそわひしき
読人知らず恋六
2-後撰1052かすしらぬ思ひは君にあるものをおき所なき心地こそすれ
かすしらぬ おもひはきみに あるものを おきところなき ここちこそすれ
読人知らず恋六
2-後撰1053おき所なき思ひとしききつれは我にいくらもあらしとそ思ふ
おきところ なきおもひとし ききつれは われにいくらも あらしとそおもふ
読人知らず恋六
2-後撰1054わかたちてきるこそうけれ夏衣おほかたとのみ見へきうすさを
わかたちて きるこそうけれ なつころも おほかたとのみ みへきうすさを
貞保親王皇子娘恋六
2-後撰1055やへむくらさしてし門を今更に何にくやしくあけてまちけん
やへむくら さしてしかとを いまさらに なににくやしく あけてまちけむ
読人知らず恋六
2-後撰1056さをしかのつまなきこひを高砂のをのへのこ松ききもいれなん
さをしかの つまなきこひを たかさこの をのへのこまつ ききもいれなむ
源庶明恋六
2-後撰1057さをしかの声高砂にきこえしはつまなき時のねにこそ有りけれ
さをしかの こゑたかさこに きこえしは つまなきときの ねにこそありけれ
読人知らず恋六
2-後撰1058せきもあへす涙の河のせをはやみかからん物と思ひやはせし
せきもあへす なみたのかはの せをはやみ かからむものと おもひやはせし
読人知らず恋六
2-後撰1059せをはやみたえすなかるる水よりもたえせぬ物はこひにそ有りける
せをはやみ たえすなかるる みつよりも たえせぬものは こひにそありける
読人知らず恋六
2-後撰1060こふれともあふよなき身は忘草夢ちにさへやおひしけるらん
こふれとも あふよなきみは わすれくさ ゆめちにさへや おひしけるらむ
読人知らず恋六
2-後撰1061世中のうきはなへてもなかりけりたのむ限そ怨みられける
よのなかの うきはなへても なかりけり たのむかきりそ うらみられける
読人知らず恋六
2-後撰1062ゆふされは思ひそしけきまつ人のこむやこしやの定なけれは
ゆふされは おもひそしけき まつひとの こむやこしやの さためなけれは
読人知らず恋六
2-後撰1063いとはれてかへりこしちのしら山はいらぬに迷ふ物にそ有りける
いとはれて かへりこしちの しらやまは いらぬにまよふ ものにそありける
源よしの恋六
2-後撰1064人浪にあらぬわか身はなにはなるあしのねのみそしたになかるる
ひとなみに あらぬわかみは なにはなる あしのねのみそ したになかるる
読人知らず恋六
2-後撰1065白雲のゆくへき山はさたまらす思ふ方にも風はよせなん
しらくもの ゆくへきやまは さたまらす おもふかたにも かせはよせなむ
読人知らず恋六
2-後撰1066世中に猶有あけの月なくてやみに迷ふをとはぬつらしな
よのなかに なほありあけの つきなくて やみにまよふを とはぬつらしな
読人知らず恋六
2-後撰1067あすか河せきてととむる物ならはふちせになるとなとかいはれん
あすかかは せきてととむる ものならは ふちせになると なとかいはれむ
藤原時平恋六
2-後撰1068身をつめはあはれとそ思ふはつ雪のふりぬることもたれにいはまし
みをつめは あはれとそおもふ はつゆきの ふりぬることも たれにいはまし
右近恋六
2-後撰1069冬なれと君かかきほにさきけれはむへとこ夏にこひしかりけり
ふゆなれと きみかかきほに さきけれは うへとこなつに こひしかりけり
読人知らず恋六
2-後撰1070白雪のけさはつもれる思ひかなあはてふる夜のほともへなくに
しらゆきの けさはつもれる おもひかな あはてふるよの ほともへなくに
兼輔恋六
2-後撰1071しらゆきのつもる思ひもたのまれす春よりのちはあらしとおもへは
しらゆきの つもるおもひも たのまれす はるよりのちは あらしとおもへは
読人知らず恋六
2-後撰1072わかこひし君かあたりをはなれねはふる白雪もそらにきゆらん
わかこひし きみかあたりを はなれねは ふるしらゆきも そらにきゆらむ
読人知らず恋六
2-後撰1073山かくれきえせぬ雪のわひしきは君まつのはにかかりてそふる
やまかくれ きえせぬゆきの わひしきは きみまつのはに かかりてそふる
読人知らず恋六
2-後撰1074あらたまの年はけふあすこえぬへし相坂山を我やおくれん
あらたまの としはけふあす こえぬへし あふさかやまを われやおくれむ
藤原ときふる恋六
2-後撰1075嵯峨の山みゆきたえにしせり河の千世のふるみちあとは有りけり
さかのやま みゆきたえにし せりかはの ちよのふるみち あとはありけり
在原行平雑一
2-後撰1076おきなさひ人なとかめそ狩衣けふはかりとそたつもなくなる
おきなさひ ひとなとかめそ かりころも けふはかりとそ たつもなくなる
在原行平雑一
2-後撰1077今まてになとかは花のさかすしてよそとせあまり年きりはする
いままてに なとかははなの さかすして よそとせあまり としきりはする
藤原時平雑一
2-後撰1078はるはるのかすはわすれす有りなから花さかぬ木をなににうゑけん
はるはるの かすはわすれす ありなから はなさかぬきを なににうゑけむ
紀友則雑一
2-後撰1079世とともに峰へふもとへおりのほりゆく雲の身は我にそ有りける
よとともに みねへふもとへ おりのほり ゆくくものみは われにそありける
平中興雑一
2-後撰1080事しけししはしはたてれよひのまにおけらんつゆはいててはらはん
ことしけし しはしはたてれ よひのまに おけらむつゆは いててはらはむ
嵯峨后雑一
2-後撰1081てる月をまさ木のつなによりかけてあかすわかるる人をつなかん
てるつきを まさきのつなに よりかけて あかすわかるる ひとをつなかむ
源融雑一
2-後撰1082限なきおもひのつなのなくはこそまさきのかつらよりもなやまめ
かきりなき おもひのつなの なくはこそ まさきのかつら よりもなやまめ
在原行平雑一
2-後撰1083すみわひぬ今は限と山さとにつまきこるへきやともとめてむ
すみわひぬ いまはかきりと やまさとに つまきこるへき やともとめてむ
在原業平雑一
2-後撰1084葦引の山におひたるしらかしのしらしな人をくち木なりとも
あしひきの やまにおひたる しらかしの しらしなひとを くちきなりとも
躬恒雑一
2-後撰1085伊勢の海のつりのうけなるさまなれとふかき心はそこにしつめり
いせのうみの つりのうけなる さまなれと ふかきこころは そこにしつめり
躬恒雑一
2-後撰1086白河のたきのいと見まほしけれとみたりに人はよせしものをや
しらかはの たきのいとみま ほしけれと みたりにひとは よせしものをや
中務雑一
2-後撰1087しらかはのたきのいとなみみたれつつよるをそ人はまつといふなる
しらかはの たきのいとなみ みたれつつ よるをそひとは まつといふなる
藤原忠平雑一
2-後撰1088はちすはのはひにそ人は思ふらん世にはこひちの中におひつつ
はちすはの はひにそひとは おもふらむ よにはこひちの なかにおひつつ
読人知らず雑一
2-後撰1089これやこのゆくも帰るも別れつつしるもしらぬもあふさかの関
これやこの ゆくもかへるも わかれつつ しるもしらぬも あふさかのせき
蝉丸雑一
2-後撰1090あまのすむ浦こく舟のかちをなみ世を海わたる我そ悲しき
あまのすむ うらこくふねの かちをなみ よをうみわたる われそかなしき
小野小町雑一
2-後撰1091浜千鳥かひなかりけりつれもなきひとのあたりはなきわたれとも
はまちとり かひなかりけり つれもなき ひとのあたりは なきわたれとも
読人知らず雑一
2-後撰1092このみゆきちとせかへても見てしかなかかる山ふし時にあふへく
このみゆき ちとせかへても みてしかな かかるやまふし ときにあふへく
素性法師雑一
2-後撰1093おとにきく松かうらしまけふそ見るむへも心あるあまはすみけり
おとにきく まつかうらしま けふそみる うへもこころある あまはすみけり
素性法師雑一
2-後撰1094我のみは立ちもかへらぬ暁にわきてもおける袖のつゆかな
われのみは たちもかへらぬ あかつきに わきてもおける そてのつゆかな
右衛門雑一
2-後撰1095しほといへはなくてもからき世中にいかてあへたるたたみなるらん
しほといへは なくてもからき よのなかに いかてあへたる たたみなるらむ
忠見雑一
2-後撰1096住吉の岸ともいはしおきつ浪猶うちかけようらはなくとも
すみよしの きしともいはし おきつなみ なほうちかけよ うらはなくとも
藤原清原元輔雑一
2-後撰1097事のはにたえせぬつゆはおくらんや昔おほゆるまとゐしたれは
ことのはに たえせぬつゆは おくらむや むかしおほゆる まとゐしたれは
七条のきさき雑一
2-後撰1098海とのみまとゐの中はなりぬめりそなからあらぬかけのみゆれは
うみとのみ まとゐのなかは なりぬめり そなからあらぬ かけのみゆれは
伊勢雑一
2-後撰1099何せんにへたのみるめを思ひけんおきつたまもをかつく身にして
なにせむに へたのみるめを おもひけむ おきつたまもを かつくみにして
大伴黒主雑一
2-後撰1100ひるなれや見そまかへつる月影をけふとやいはむきのふとやいはん
ひるなれや みそまかへつる つきかけを けふとやいはむ きのふとやいはむ
躬恒雑一
2-後撰1101くやしくそあまつをとめとなりにける雲ちたつぬる人もなきよに
くやしくそ あまつをとめと なりにける くもちたつぬる ひともなきよに
藤原滋包かむすめ雑一
2-後撰1102人のおやの心はやみにあらねとも子を思ふ道にまとひぬるかな
ひとのおやの こころはやみに あらねとも こをおもふみちに まとひぬるかな
藤原兼輔雑一
2-後撰1103なにはかた何にもあらすみをつくしふかき心のしるしはかりそ
なにはかた なににもあらす みをつくし ふかきこころの しるしはかりそ
大江玉淵女雑一
2-後撰1104あけてたに何にかは見むみつのえのうらしまのこを思ひやりつつ
あけてたに なににかはみむ みつのえの うらしまのこを おもひやりつつ
中務雑一
2-後撰1105年をへてにこりたにせぬさひえには玉も帰りて今そすむへき
としをへて にこりたにせぬ さひえには たまもかへりて いまそすむへき
壬生忠岑雑一
2-後撰1106旧里のみかさの山はとほけれと声は昔のうとからぬかな
ふるさとの みかさのやまは とほけれと こゑはむかしの うとからぬかな
藤原兼輔雑一
2-後撰1107ひきてうゑし人はむへこそ老いにけれ松のこたかく成りにけるかな
ひきうゑし ひとはうへこそ おいにけれ まつのこたかく なりにけるかな
躬恒雑一
2-後撰1108を山田のおとろかしにもこさりしをいとひたふるににけしきみかな
をやまたの おとろかしにも こさりしを いとひたふるに にけしきみかな
読人知らず雑一
2-後撰1109いかてかの年きりもせぬたねもかなあれたるやとにうゑて見るへく
いかてかの としきりもせぬ たねもかな あれたるやとに うゑてみるへく
むすめの女御雑一
2-後撰1110春ことに行きてのみみむ年きりもせすといふたねはおひぬとかきく
はることに ゆきてのみみむ としきりも せすといふたねは おひぬとかきく
斎宮のみこ雑一
2-後撰1111思ひきや君か衣をぬきかへてこき紫の色をきむとは
おもひきや きみかころもを ぬきかへて こきむらさきの いろをきむとは
藤原師輔雑一
2-後撰1112いにしへも契りてけりなうちはふきとひ立ちぬへしあまのは衣
いにしへも ちきりてけりな うちはふき とひたちぬへし あまのはころも
庶明雑一
2-後撰1113ふるさとのならの宮この始よりなれにけりともみゆる衣か
ふるさとの ならのみやこの はしめより なれにけりとも みゆるころもか
大輔雑一
2-後撰1114ふりぬとて思ひもすてし唐衣よそへてあやな怨みもそする
ふりぬとて おもひもすてし からころも よそへてあやな うらみもそする
雅正雑一
2-後撰1115流れての世をもたのます水のうへのあわにきえぬるうき身とおもへは
なかれての よをもたのます みつのうへの あわにきえぬる うきみとおもへは
大江千里雑一
2-後撰1116むはたまのこよひはかりそあけ衣あけなは人をよそにこそ見め
うはたまの こよひはかりそ あけころも あけなはひとを よそにこそみめ
藤原兼輔雑一
2-後撰1117人わたす事たになきをなにしかもなからのはしと身のなりぬらん
ひとわたす ことたになきを なにしかも なからのはしと みのなりぬらむ
七条后雑一
2-後撰1118ふるる身は涙の中にみゆれはやなからのはしにあやまたるらん
ふるるみは なみたのうちに みゆれはや なからのはしに あやまたるらむ
伊勢雑一
2-後撰1119ひとりのみなかめてとしをふるさとのあれたるさまをいかに見るらむ
ひとりのみ なかめてとしを ふるさとの あれたるさまを いかにみるらむ
敦慶親王雑一
2-後撰1120まめなれとあたなはたちぬたはれしまよる白浪をぬれきぬにきて
まめなれと あたなはたちぬ たはれしま よるしらなみを ぬれきぬにきて
朝綱雑一
2-後撰1121年をへてたのむかひなしときはなる松のこすゑも色かはりゆく
としをへて たのむかひなし ときはなる まつのこすゑも いろかはりゆく
読人知らず雑一
2-後撰1122へたてける人の心のうきはしをあやふきまてもふみみつるかな
へたてける ひとのこころの うきはしを あやふきまても ふみみつるかな
四条御息所女雑一
2-後撰1123玉匣ふたとせあはぬ君かみをあけなからやはあらむと思ひし
たまくしけ ふたとせあはぬ きみかみを あけなからやは あらむとおもひし
源公忠雑一
2-後撰1124あけなから年ふることは玉匣身のいたつらになれはなりけり
あけなから としふることは たまくしけ みのいたつらに なれはなりけり
小野好古雑一
2-後撰1125たのまれぬうき世中を歎きつつ日かけにおふる身を如何せん
たのまれぬ うきよのなかを なけきつつ ひかけにおふる みをいかにせむ
在原業平雑二
2-後撰1126相坂のゆふつけになく鳥のねをききとかめすそ行きすきにける
あふさかの ゆふつけになく とりのねを ききとかめすそ ゆきすきにける
藤原敏行雑二
2-後撰1127み山よりひひききこゆるひくらしの声をこひしみ今もけぬへし
みやまより ひひききこゆる ひくらしの こゑをこひしみ いまもけぬへし
宣旨雑二
2-後撰1128ひくらしの声を恋しみけぬへくはみ山とほりにはやもきねかし
ひくらしの こゑをこひしみ けぬへくは みやまとほりに はやもきねかし
藤原時平雑二
2-後撰1129ちかはれしかもの河原に駒とめてしはし水かへ影をたに見む
ちかはれし かものかはらに こまとめて しはしみつかへ かけをたにみむ
朝綱の母雑二
2-後撰1130わかのりし事をうしとやきえにけん草はにかかる露の命は
わかのりし ことをうしとや きえにけむ くさはにかかる つゆのいのちは
閑院のこ雑二
2-後撰1131かくてのみやむへきものかちはやふるかもの社のよろつ世を見む
かくてのみ やむへきものか ちはやふる かものやしろの よろつよをみむ
藤原定方雑二
2-後撰1132みこしをかいくその世世に年をへてけふのみ行をまちてみつらん
みこしをか いくそのよよに としをへて けふのみゆきを まちてみつらむ
藤原仲平雑二
2-後撰1133いつれをか雨ともわかむ山ふしのおつる涙もふりにこそふれ
いつれをか あめともわかむ やまふしの おつるなみたも ふりにこそふれ
読人知らず雑二
2-後撰1134思ひにはきゆる物そとしりなからけさしもおきてなににきつらん
おもひには きゆるものそと しりなから けさしもおきて なににきつらむ
藤原興風雑二
2-後撰1135めつらしや昔なからの山の井はしつめる影そくちはてにける
めつらしや むかしなからの やまのゐは しつめるかけそ くちはてにける
読人知らず雑二
2-後撰1136うち河の浪にみなれし君ませは我もあしろによりぬへきかな
うちかはの なみにみなれし きみませは われもあしろに よりぬへきかな
大江興俊雑二
2-後撰1137吹きいつるね所たかくきこゆなりはつ秋風はいさてならさし
ふきいつる ねところたかく きこゆなり はつあきかせは いさてならさし
小弐のめのと雑二
2-後撰1138心してまれに吹きつる秋風を山おろしにはなさしとそ思ふ
こころして まれにふきつる あきかせを やまおろしには なさしとそおもふ
大輔雑二
2-後撰1139はかなくてたえなんくものいとゆゑに何にかおほくかかんとそ思ふ
はかなくて たえなむくもの いとゆゑに なににかおほく かかむとそおもふ
読人知らず雑二
2-後撰1140昔よりくらまの山といひけるはわかこと人もよるやこえけん
むかしより くらまのやまと いひけるは わかことひとも よるやこえけむ
亭子院にいまあことめしける人雑二
2-後撰1141雲井ちのはるけきほとのそら事はいかなる風の吹きてつけけん
くもゐちの はるけきほとの そらことは いかなるかせの ふきてつけけむ
読人知らず雑二
2-後撰1142あま雲のうきたることとききしかと猶そ心はそらになりにし
あまくもの うきたることと ききしかと なほそこころは そらになりにし
読人知らず雑二
2-後撰1143やれはをしやらねは人に見えぬへしなくなくも猶かへすまされり
やれはをし やらねはひとに みえぬへし なくなくもなほ かへすまされり
元良親王雑二
2-後撰1144もち月のこまよりおそくいてつれはたとるたとるそ山はこえつる
もちつきの こまよりおそく いてつれは たとるたとるそ やまはこえつる
素性法師雑二
2-後撰1145よろつ世を契りし事のいたつらに人わらへにもなりぬへきかな
よろつよを ちきりしことの いたつらに ひとわらへにも なりぬへきかな
藤原敦敏雑二
2-後撰1146かけていへはゆゆしきものを万代と契りし事やかなはさるへき
かけていへは ゆゆしきものを よろつよと ちきりしことや かなはさるへき
大輔雑二
2-後撰1147ちると見てそてにうくれとたまらぬはあれたる浪の花にそ有りける
ちるとみて そてにうくれと たまらぬは あれたるなみの はなにそありける
読人知らず雑二
2-後撰1148たちさわく浪まをわけてかつきてしおきのもくつをいつかわすれん
たちさわく なみまをわけて かつきてし おきのもくつを いつかわすれむ
読人知らず雑二
2-後撰1149かつきいてしおきのもくつをわすれすはそこのみるめを我にからせよ
かつきいてし おきのもくつを わすれすは そこのみるめを われにからせよ
輔臣雑二
2-後撰1150限なく思ふ心はつくはねのこのもやいかかあらんとすらん
かきりなく おもふこころは つくはねの このもやいかか あらむとすらむ
読人知らず雑二
2-後撰1151思ひいててとふ事のはをたれみまし身の白雲と成りなましかは
おもひいてて とふことのはを たれみまし みのしらくもと なりなましかは
読人知らず雑二
2-後撰1152わすれなんと思ふ心のつくからに事のはさへやいへはゆゆしき
わすれなむと おもふこころの つくからに ことのはさへや いへはゆゆしき
読人知らず雑二
2-後撰1153かくれゐてわかうきさまを水のうへのあわともはやく思ひきえなん
かくれゐて わかうきさまを みつのうへの あわともはやく おもひきえなむ
読人知らず雑二
2-後撰1154人心いさやしら浪たかけれはよらむなきさそかねてかなしき
ひとこころ いさやしらなみ たかけれは よらむなきさそ かねてかなしき
読人知らず雑二
2-後撰1155なほき木にまかれる枝もあるものをけをふききすをいふかわりなさ
なほききに まかれるえたも あるものを けをふききすを いふかわりなさ
高津内親王雑二
2-後撰1156うつろはぬ心のふかく有りけれはここらちる花春にあへること
うつろはぬ こころのふかく ありけれは ここらちるはな はるにあへること
嵯峨后雑二
2-後撰1157玉たれのあみめのまよりふく風のさむくはそへていれん思ひを
たまたれの あみめのまより ふくかせの さむくはそへて いれむおもひを
読人知らず雑二
2-後撰1158白浪のうちさわかれてたちしかは身をうしほにそ袖はぬれにし
しらなみの うちさわかれて たちしかは みをうしほにそ そてはぬれにし
読人知らず雑二
2-後撰1159とりもあへすたちさわかれしあた浪にあやなく何に袖のぬれけん
とりもあへす たちさわかれし あたなみに あやなくなにに そてのぬれけむ
読人知らず雑二
2-後撰1160たたちともたのまさらなん身にちかき衣の関もありといふなり
たたちとも たのまさらなむ みにちかき ころものせきも ありといふなり
読人知らず雑二
2-後撰1161あはぬまに恋しき道もしりにしをなとうれしきに迷ふ心そ
あはぬまに こひしきみちも しりにしを なとうれしきに まよふこころそ
読人知らず雑二
2-後撰1162いかなりしふしにかいとのみたれけんしひてくれともとけすみゆるは
いかなりし ふしにかいとの みたれけむ しひてくれとも とけすみゆるは
読人知らず雑二
2-後撰1163身なくとも人にしられし世中にしられぬ山をしるよしもかな
みなくとも ひとにしられし よのなかに しられぬやまを しるよしもかな
賀朝法師雑二
2-後撰1164世中にしられぬ山に身なくとも谷の心やいはておもはむ
よのなかに しられぬやまに みなくとも たにのこころや いはておもはむ
読人知らず雑二
2-後撰1165おとにのみききてはやましあさくともいさくみみてん山の井の水
おとにのみ ききてはやまし あさくとも いさくみみてむ やまのゐのみつ
読人知らず雑二
2-後撰1166しての山たとるたとるもこえななてうき世中になにかへりけん
してのやま たとるたとるも こえななて うきよのなかに なにかへりけむ
読人知らず雑二
2-後撰1167かすならぬ身をもちににて吉野山高き歎を思ひこりぬる
かすならぬ みをもちににて よしのやま たかきなけきを おもひこりぬる
読人知らず雑二
2-後撰1168吉野山こえん事こそかたからめこらむ歎のかすはしりなん
よしのやま こえむことこそ かたからめ こらむなけきの かすはしりなむ
読人知らず雑二
2-後撰1169かすならぬ身におくよひの白玉は光見えさす物にそ有りける
かすならぬ みにおくよひの しらたまは ひかりみえさす ものにそありける
武蔵雑二
2-後撰1170なにはかたみきはのあしのおいかよに怨みてそふる人の心を
なにはかた みきはのあしの おいかよに うらみてそふる ひとのこころを
読人知らず雑二
2-後撰1171わするとは怨みさらなんはしたかのとかへる山のしひはもみちす
わするとは うらみさらなむ はしたかの とかへるやまの しひはもみちす
読人知らず雑二
2-後撰1172をちこちの人めまれなる山里に家ゐせんとは思ひきや君
をちこちの ひとめまれなる やまさとに いへゐせむとは おもひきやきみ
読人知らず雑二
2-後撰1173身をうしと人しれぬ世を尋ねこし雲のやへ立つ山にやはあらぬ
みをうしと ひとしれぬよを たつねこし くものやへたつ やまにやはあらぬ
読人知らず雑二
2-後撰1174あさなけに世のうきことをしのひつつなかめせしまに年はへにけり
あさなけに よのうきことを しのひつつ なかめせしまに としはへにけり
土左雑二
2-後撰1175春やこし秋やゆきけんおほつかな影の朽木と世をすくす身は
はるやこし あきやゆきけむ おほつかな かけのくちきと よをすくすみは
閑院雑二
2-後撰1176世中はうき物なれや人ことのとにもかくにもきこえくるしき
よのなかは うきものなれや ひとことの とにもかくにも きこえくるしき
紀貫之雑二
2-後撰1177武蔵野は袖ひつはかりわけしかとわか紫はたつねわひにき
むさしのは そてひつはかり わけしかと わかむらさきは たつねわひにき
読人知らず雑二
2-後撰1178おほあらきのもりの草とやなりにけむかりにたにきてとふ人のなき
おほあらきの もりのくさとや なりにけむ かりにたにきて とふひとのなき
壬生忠岑雑二
2-後撰1179あはれてふ事こそつねのくちのはにかかるや人を思ふなるらん
あはれてふ ことこそつねの くちのはに かかるやひとを おもふなるらむ
読人知らず雑二
2-後撰1180吹く風のしたのちりにもあらなくにさもたちやすきわかなきなかな
ふくかせの したのちりにも あらなくに さもたちやすき わかなきなかな
伊勢雑二
2-後撰1181ふるさとのさほの河水けふも猶かくてあふせはうれしかりけり
ふるさとの さほのかはみつ けふもなほ かくてあふせは うれしかりけり
藤原冬嗣雑二
2-後撰1182わかやとをいつならしてかならのはをならしかほにはをりにおこする
わかやとを いつならしてか ならのはを ならしかほには をりにおこする
俊子雑二
2-後撰1183ならの葉のはもりの神のましけるをしらてそをりしたたりなさるな
ならのはの はもりのかみの ましけるを しらてそをりし たたりなさるな
藤原仲平雑二
2-後撰1184帰りては声やたかはむふえ竹のつらきひとよのかたみと思へは
かへりては こゑやたかはむ ふえたけの つらきひとよの かたみとおもへは
読人知らず雑二
2-後撰1185ひとふしに怨みなはてそ笛竹のこゑの内にも思ふ心あり
ひとふしに うらみなはてそ ふえたけの こゑのうちにも おもふこころあり
読人知らず雑二
2-後撰1186人につくたよりたになしおほあらきのもりのしたなる草の身なれは
ひとにつく たよりたになし おほあらきの もりのしたなる くさのみなれは
躬恒雑二
2-後撰1187結ひおきしかたみのこたになかりせは何に忍の草をつままし
むすひおきし かたみのこたに なかりせは なににしのふの くさをつままし
兼忠母のめのと雑二
2-後撰1188うれしきもうきも心はひとつにてわかれぬ物は涙なりけり
うれしきも うきもこころは ひとつにて わかれぬものは なみたなりけり
読人知らず雑二
2-後撰1189をしからてかなしき物は身なりけりうき世そむかん方をしらねは
をしからて かなしきものは みなりけり うきよそむかむ かたをしらねは
紀貫之雑二
2-後撰1190思ひいつる時そかなしき世中はそら行く雲のはてをしらねは
おもひいつる ときそかなしき よのなかは そらゆくくもの はてをしらねは
読人知らず雑二
2-後撰1191あはれともうしともいはしかけろふのあるかなきかにけぬるよなれは
あはれとも うしともいはし かけろふの あるかなきかに けぬるよなれは
読人知らず雑二
2-後撰1192あはれてふ事になくさむ世中をなとか昔といひてすくらん
あはれてふ ことになくさむ よのなかを なとかむかしと いひてすくらむ
読人知らず雑二
2-後撰1193物思ふと行きても見ねはたかかたのあまのとまやはくちやしぬらん
ものおもふと ゆきてもみねは たかかたの あまのとまやは くちやしぬらむ
読人知らず雑二
2-後撰1194夢にたにうれしとも見はうつつにてわひしきよりは猶まさりなん
ゆめにたに うれしともみは うつつにて わひしきよりは なほまさりなむ
躬恒雑二
2-後撰1195いはのうへに旅ねをすれはいとさむし音の衣を我にかさなん
いはのうへに たひねをすれは いとさむし こけのころもを われにかさなむ
小野小町雑三
2-後撰1196世をそむく苔の衣はたたひとへかさねはうとしいさふたりねん
よをそむく こけのころもは たたひとへ かさねはうとし いさふたりねむ
僧正遍昭雑三
2-後撰1197逢ふ事の年きりしぬるなけきには身のかすならぬ物にそ有りける
あふことの としきりしぬる なけきには みのかすならぬ ものにそありける
せかゐのきみ雑三
2-後撰1198あた人もなきにはあらす有りなからわか身にはまたききそならはぬ
あたひとも なきにはあらす ありなから わかみにはまた ききそならはぬ
左太臣(実頼)雑三
2-後撰1199宮人とならまほしきを女郎花のへよりきりのたちいててそくる
みやひとと ならまほしきを をみなへし のへよりきりの たちいててそくる
読人知らず雑三
2-後撰1200わか身にもあらぬわか身の悲しきに心もことに成りやしにけん
わかみにも あらぬわかみの かなしきに こころもことに なりやしにけむ
大輔雑三
2-後撰1201世中をしらすなからもつのくにのなには立ちぬる物にそ有りける
よのなかを しらすなからも つのくにの なにはたちぬる ものにそありける
読人知らず雑三
2-後撰1202よとともにわかぬれきぬとなる物はわふる涙のきするなりけり
よとともに わかぬれきぬと なるものは わふるなみたの きするなりけり
読人知らず雑三
2-後撰1203うけれとも悲しきものをひたふるに我をや人の思ひすつらん
うけれとも かなしきものを ひたふるに われをやひとの おもひすつらむ
大輔雑三
2-後撰1204悲しきもうきもしりにしひとつ名をたれをわくとか思ひすつへき
かなしきも うきもしりにし ひとつなを たれをわくとか おもひすつへき
読人知らず雑三
2-後撰1205道しらぬ物ならなくにあしひきの山ふみ迷ふ人もありけり
みちしらぬ ものならなくに あしひきの やまふみまよふ ひともありけり
大輔雑三
2-後撰1206しらかしの雪もきえにし葦引の山ちを誰かふみ迷ふへき
しらかしの ゆきもきえにし あしひきの やまちをたれか ふみまよふへき
藤原敦忠雑三
2-後撰1207いふ事のたかはぬ物にあらませは後うき事ときこえさらまし
いふことの たかはぬものに あらませは のちうきことと きこえさらまし
読人知らず雑三
2-後撰1208おも影をあひ見しかすになす時は心のみこそしつめられけれ
おもかけを あひみしかすに なすときは こころのみこそ しつめられけれ
伊勢雑三
2-後撰1209ぬきとめぬかみのすちもてあやしくもへにける年のかすをしるかな
ぬきとめぬ かみのすちもて あやしくも へにけるとしの かすをしるかな
伊勢雑三
2-後撰1210浪かすにあらぬ身なれは住吉の岸にもよらすなりやはてなん
なみかすに あらぬみなれは すみよしの きしにもよらす なりやはてなむ
読人知らず雑三
2-後撰1211つきもせすうき事のはのおほかるをはやく嵐の風もふかなむ
つきもせす うきことのはの おほかるを はやくあらしの かせもふかなむ
読人知らず雑三
2-後撰1212島かくれ有そにかよふあしたつのふみおく跡は浪もけたなん
しまかくれ ありそにかよふ あしたつの ふみおくあとは なみもけたなむ
読人知らず雑三
2-後撰1213身ははやくなき物のこと成りにしをきえせぬ物は心なりけり
みははやく なきもののこと なりにしを きえせぬものは こころなりけり
伊勢雑三
2-後撰1214むつましきいもせの山の中にさへへたつる雲のはれすもあるかな
むつましき いもせのやまの なかにさへ へたつるくもの はれすもあるかな
読人知らず雑三
2-後撰1215わかためにおきにくかりしはしたかの人のてに有りときくはまことか
わかために おきにくかりし はしたかの ひとのてにありと きくはまことか
読人知らず雑三
2-後撰1216声にたてていはねとしるしくちなしの色はわかためうすきなりけり
こゑにたてて いはねとしるし くちなしの いろはわかため うすきなりけり
読人知らず雑三
2-後撰1217たきつせのはやからぬをそ怨みつる見すともおとにきかんとおもへは
たきつせの はやからぬをそ うらみつる みすともおとに きかむとおもへは
読人知らず雑三
2-後撰1218みな人にふみみせけりなみなせ河その渡こそまつはあさけれ
みなひとに ふみみせけりな みなせかは そのわたりこそ まつはあさけれ
読人知らず雑三
2-後撰1219年ふれはわかくろかみもしら河のみつはくむまて老いにけるかな
としふれは わかくろかみも しらかはの みつはくむまて おいにけるかな
ひかきの嫗雑三
2-後撰1220かさすともたちとたちなんなきなをは事なし草のかひやなからん
かさすとも たちとたちなむ なきなをは ことなしくさの かひやなからむ
紀貫之雑三
2-後撰1221帰りくる道にそけさは迷ふらんこれになすらふ花なきものを
かへりくる みちにそけさは まよふらむ これになすらふ はななきものを
紀貫之雑三
2-後撰1222おほそらに行きかふ鳥の雲ちをそ人のふみみぬ物といふなる
おほそらに ゆきかふとりの くもちをそ ひとのふみみぬ ものといふなる
読人知らず雑三
2-後撰1223きのくにのなくさのはまは君なれや事のいふかひ有りとききつる
きのくにの なくさのはまは きみなれや ことのいふかひ ありとききつる
読人知らず雑三
2-後撰1224浪にのみぬれつるものを吹く風のたよりうれしきあまのつり舟
なみにのみ ぬれつるものを ふくかせの たよりうれしき あまのつりふね
紀貫之雑三
2-後撰1225緑なる松ほとすきはいかてかはしたははかりももみちせさらん
みとりなる まつほとすきは いかてかは したははかりも もみちせさらむ
読人知らず雑三
2-後撰1226思いての煙やまさんなき人のほとけになれるこのみみは君
おもひいての けふりやまさむ なきひとの ほとけになれる このみみはきみ
真延法師雑三
2-後撰1227道なれるこの身尋ねて心さし有りと見るにそねをはましける
みちなれる このみたつねて こころさし ありとみるにそ ねをはましける
藤原師輔雑三
2-後撰1228いつこにも身をははなれぬ影しあれはふすとこことにひとりやはぬる
いつこにも みをははなれぬ かけしあれは ふすとこことに ひとりやはぬる
読人知らず雑三
2-後撰1229風霜に色も心もかはらねはあるしににたるうゑ木なりけり
かせしもに いろもこころも かはらねは あるしににたる うゑきなりけり
真延法師雑三
2-後撰1230山深みあるしににたるうゑ木をは見えぬ色とそいふへかりける
やまふかみ あるしににたる うゑきをは みえぬいろとそ いふへかりける
行明のみこ雑三
2-後撰1231大井河うかへる舟のかかり火にをくらの山も名のみなりけり
おほゐかは うかへるふねの かかりひに をくらのやまも なのみなりけり
在原業平雑三
2-後撰1232明日香河わか身ひとつのふちせゆゑなへての世をも怨みつるかな
あすかかは わかみひとつの ふちせゆゑ なへてのよをも うらみつるかな
読人知らず雑三
2-後撰1233世中をいとひかてらにこしかともうき身なからの山にそ有りける
よのなかを いとひかてらに こしかとも うきみなからの やまにそありける
読人知らず雑三
2-後撰1234したにのみはひ渡りつるあしのねのうれしき雨にあらはるるかな
したにのみ はひわたりつる あしのねの うれしきあめに あらはるるかな
読人知らず雑三
2-後撰1235たきつせに誰白玉をみたりけんひろふとせしに袖はひちにき
たきつせに たれしらたまを みたりけむ ひろふとせしに そてはひちにき
読人知らず雑三
2-後撰1236いつのまにふりつもるらんみよしのの山のかひよりくつれおつる雪
いつのまに ふりつもるらむ みよしのの やまのかひより くつれおつるゆき
源昇雑三
2-後撰1237宮のたきむへも名におひてきこえけりおつるしらあわの玉とひひけは
みやのたき うへもなにおひて きこえけり おつるしらあわの たまとひひけは
法皇雑三
2-後撰1238今更に我はかへらしたき見つつよへときかすととははこたへよ
いまさらに われはかへらし たきみつつ よへときかすと とははこたへよ
僧正遍昭雑三
2-後撰1239滝つせのうつまきことにとめくれと猶尋ねくる世のうきめかな
たきつせの うつまきことに とめくれと なほたつねくる よのうきめかな
読人知らず雑三
2-後撰1240たらちめはかかれとてしもむはたまのわかくろかみをなてすや有りけん
たらちめは かかれとてしも うはたまの わかくろかみを なてすやありけむ
僧正遍昭雑三
2-後撰1241栽ゑし時契りやしけんたけくまの松をふたたひあひみつるかな
うゑしとき ちきりやしけむ たけくまの まつをふたたひ あひみつるかな
藤原もとよしの雑三
2-後撰1242菅原や伏見のくれに見わたせは霞にまかふをはつせの山
すかはらや ふしみのくれに みわたせは かすみにまかふ をはつせのやま
読人知らず雑三
2-後撰1243事のはもなくてへにける年月にこの春たにも花はさかなん
ことのはも なくてへにける としつきに このはるたにも はなはさかなむ
読人知らず雑三
2-後撰1244なにはつをけふこそみつの浦ことにこれやこの世をうみわたる舟
なにはつを けふこそみつの うらことに これやこのよを うみわたるふね
在原業平雑三
2-後撰1245白雲のきやとる峰のこ松原枝しけけれや日のひかりみぬ
しらくもの きやとるみねの こまつはら えたしけけれや ひのひかりみぬ
文屋康秀雑三
2-後撰1246身にさむくあらぬものからわひしきは人の心の嵐なりけり
みにさむく あらぬものから わひしきは ひとのこころの あらしなりけり
土左雑三
2-後撰1247なからへは人の心も見るへきをつゆのいのちそかなしかりける
なからへは ひとのこころも みるへきを つゆのいのちそ かなしかりける
土左雑三
2-後撰1248もろともにいさとはいはてしての山いかてかひとりこえんとはせし
もろともに いさとはいはて してのやま いかてかひとり こえむとはせし
閑院大君雑三
2-後撰1249おしなへて峰もたひらになりななん山のはなくは月もかくれし
おしなへて みねもたひらに なりななむ やまのはなくは つきもかくれし
かむつけのみねを雑三
2-後撰1250わかやとにあひやとりしてすむかはつよるになれはや物は悲しき
わかやとに あひやとりして すむかはつ よるになれはや ものはかなしき
読人知らず雑四
2-後撰1251玉江こくあしかりを舟さしわけて誰をたれとか我は定めん
たまえこく あしかりをふね さしわけて たれをたれとか われはさためむ
読人知らず雑四
2-後撰1252みちのくのをふちのこまものかふにはあれこそまされなつくものかは
みちのくの をふちのこまも のかふには あれこそまされ なつくものかは
読人知らず雑四
2-後撰1253いつくとて尋ねきつらん玉かつら我は昔の我ならなくに
いつくとて たつねきつらむ たまかつら われはむかしの われならなくに
源善雑四
2-後撰1254あさことに見し宮こちのたえぬれは事あやまりにとふ人もなし
あさことに みしみやこちの たえぬれは ことあやまりに とふひともなし
読人知らず雑四
2-後撰1255いつしかとまつちの山の桜花まちてもよそにきくかかなしさ
いつしかと まつちのやまの さくらはな まちてもよそに きくかかなしさ
読人知らず雑四
2-後撰1256いせわたる河は袖よりなかるれととふにとはれぬ身はうせぬめり
いせわたる かははそてより なかるれと とふにとはれぬ みはうきぬめり
伊勢雑四
2-後撰1257人めたに見えぬ山ちに立つ雲をたれすみかまの煙といふらん
ひとめたに みえぬやまちに たつくもを たれすみかまの けふりといふらむ
北辺左大臣雑四
2-後撰1258あすか河淵せにかはる心とはみなかみしもの人もいふめり
あすかかは ふちせにかはる こころとは みなかみしもの ひともいふめり
伊勢雑四
2-後撰1259今こむといひしはかりをいのちにてまつにけぬへしさくさめのとし
いまこむと いひしはかりを いのちにて まつにけぬへし さくさめのとし
読人知らず雑四
2-後撰1260かすならぬ身のみ物うくおもほえてまたるるまてもなりにけるかな
かすならぬ みのみものうく おもほえて またるるまても なりにけるかな
読人知らず雑四
2-後撰1261有りと聞くおとはの山の郭公何かくるらんなくこゑはして
ありときく おとはのやまの ほとときす なにかくるらむ なくこゑはして
読人知らず雑四
2-後撰1262あしのうらのいときたなくも見ゆるかな浪はよりてもあらはさりけり
あしのうらの いときたなくも みゆるかな なみはよりても あらはさりけり
読人知らず雑四
2-後撰1263人心たとへて見れは白露のきゆるまもなほひさしかりけり
ひとこころ たとへてみれは しらつゆの きゆるまもなほ ひさしかりけり
読人知らず雑四
2-後撰1264世中といひつるものかかけろふのあるかなきかのほとにそ有りける
よのなかと いひつるものか かけろふの あるかなきかの ほとにそありける
読人知らず雑四
2-後撰1265かくはかり別のやすき世中につねとたのめる我そはかなき
かくはかり わかれのやすき よのなかに つねとたのめる われそはかなき
読人知らず雑四
2-後撰1266ちりに立つわかなきよめんももしきの人の心をまくらともかな
ちりにたつ わかなきよめむ ももしきの ひとのこころを まくらともかな
伊勢雑四
2-後撰1267うき事をしのふる雨のしたにしてわかぬれきぬはほせとかわかす
うきことを しのふるあめの したにして わかぬれきぬは ほせとかわかす
こまちかむまこ雑四
2-後撰1268逢ふ事のかたみのこゑのたかけれはわかなくねとも人はきかなん
あふことの かたみのこゑの たかけれは わかなくねとも ひとはきかなむ
読人知らず雑四
2-後撰1269涙のみしる身のうさもかたるへくなけく心をまくらにもかな
なみたのみ しるみのうさも かたるへく なけくこころを まくらにもかな
読人知らず雑四
2-後撰1270あひにあひて物思ふころのわか袖はやとる月さへぬるるかほなる
あひにあひて ものおもふころの わかそては やとるつきさへ ぬるるかほなる
伊勢雑四
2-後撰1271あはれてふ事にしるしはなけれともいはてはえこそあらぬ物なれ
あはれてふ ことにしるしは なけれとも いはてはえこそ あらぬものなれ
紀貫之雑四
2-後撰1272うつろはぬなになかれたるかは竹のいつれの世にか秋をしるへき
うつろはぬ なになかれたる かはたけの いつれのよにか あきをしるへき
読人知らず雑四
2-後撰1273ふかき思ひそめつといひし事のははいつか秋風ふきてちりぬる
ふかきおもひ そめつといひし ことのはは いつかあきかせ ふきてちりぬる
藤原時平雑四
2-後撰1274心なき身は草木にもあらなくに秋くる風にうたかはるらむ
こころなき みはくさきにも あらなくに あきくるかせに うたかはるらむ
伊勢雑四
2-後撰1275身のうきをしれははしたになりぬへみおもひはむねのこかれのみする
みのうきを しれははしたに なりぬへみ おもひはむねの こかれのみする
伊勢雑四
2-後撰1276雲ちをもしらぬ我さへもろこゑにけふはかりとそなきかへりぬる
くもちをも しらぬわれさへ もろこゑに けふはかりとそ なきかへりぬる
読人知らず雑四
2-後撰1277またきからおもひこきいろにそめむとやわか紫のねをたつぬらん
またきから おもひこきいろに そめむとや わかむらさきの ねをたつぬらむ
読人知らず雑四
2-後撰1278見えもせぬ深き心をかたりては人にかちぬと思ふものかは
みえもせぬ ふかきこころを かたりては ひとにかちぬと おもふものかは
伊勢雑四
2-後撰1279伊勢の海に年へてすみしあまなれとかかるみるめはかつかさりしを
いせのうみに としへてすみし あまなれと かかるみるめは かつかさりしを
伊勢雑四
2-後撰1280あしひきの山の山鳥かひもなし峰の白雲たちしよらねは
あしひきの やまのやまとり かひもなし みねのしらくも たちしよらねは
兼輔雑四
2-後撰1281我ならぬ草葉もものは思ひけり袖より外におけるしらつゆ
われならぬ くさはもものは おもひけり そてよりほかに おけるしらつゆ
ふちはらのたたくに雑四
2-後撰1282人心嵐の風のさむけれはこのめも見えす枝そしをるる
ひとこころ あらしのかせの さむけれは このめもみえす えたそしをるる
伊勢雑四
2-後撰1283うきなから人をわすれん事かたみわか心こそかはらさりけれ
うきなから ひとをわすれむ ことかたみ わかこころこそ かはらさりけれ
読人知らず雑四
2-後撰1284うたたねのとこにとまれる白玉は君かおきけるつゆにやあるらん
うたたねの とこにとまれる しらたまは きみかおきける つゆにやあるらむ
源ひとしの雑四
2-後撰1285かひもなき草の枕におくつゆの何にきえなておちとまりけん
かひもなき くさのまくらに おくつゆの なににきえなて おちとまりけむ
読人知らず雑四
2-後撰1286思ひやる方もしられすくるしきは心まとひのつねにやあるらむ
おもひやる かたもしられす くるしきは こころまとひの つねにやあるらむ
読人知らず雑四
2-後撰1287鈴虫におとらぬねこそなかれけれ昔の秋を思ひやりつつ
すすむしに おとらぬねこそ なかれけれ むかしのあきを おもひやりつつ
左太臣(実頼)雑四
2-後撰1288ゆふくれのさひしき物は槿の花をたのめるやとにそ有りける
ゆふくれの さひしきものは あさかほの はなをたのめる やとにそありける
読人知らず雑四
2-後撰1289ははそ山峰の嵐の風をいたみふることのはをかきそあつむる
ははそやま みねのあらしの かせをいたみ ふることのはを かきそあつむる
紀貫之雑四
2-後撰1290世中をいとひてあまのすむ方もうきめのみこそ見えわたりけれ
よのなかを いとひてあまの すむかたも うきめのみこそ みえわたりけれ
こまちかあね雑四
2-後撰1291山河のおとにのみきくももしきを身をはやなから見るよしもかな
やまかはの おとにのみきく ももしきを みをはやなから みるよしもかな
伊勢雑四
2-後撰1292世中はいかにやいかに風のおとをきくにも今は物やかなしき
よのなかは いかにやいかに かせのおとを きくにもいまは ものやかなしき
読人知らず雑四
2-後撰1293よのなかはいさともいさや風のおとは秋に秋そふ心地こそすれ
よのなかは いさともいさや かせのおとは あきにあきそふ ここちこそすれ
伊勢雑四
2-後撰1294たとへくるつゆとひとしき身にしあらはわか思ひにもきえんとやする
たとへくる つゆとひとしき みにしあらは わかおもひにも きえむとやする
読人知らず雑四
2-後撰1295ささかにのそらにすかけるいとよりも心ほそしやたえぬとおもへは
ささかにの そらにすかける いとよりも こころほそしや たえぬとおもへは
読人知らず雑四
2-後撰1296風ふけはたえぬと見ゆるくものいも又かきつかてやむとやはきく
かせふけは たえぬとみゆる くものいも またかきつかて やむとやはきく
読人知らず雑四
2-後撰1297名にたちてふしみのさとといふ事はもみちをとこにしけはなりけり
なにたちて ふしみのさとと いふことは もみちをとこに しけはなりけり
読人知らず雑四
2-後撰1298我も思ふ人もわするなありそ海の浦吹く風のやむ時もなく
われもおもふ ひともわするな ありそうみの うらふくかせの やむときもなく
ひとしきこのみこ雑四
2-後撰1299あしひきの山したとよみなくとりもわかことたえす物思ふらめや
あしひきの やましたとよみ なくとりも わかことたえす ものおもふらめや
山田法師雑四
2-後撰1300今はとて秋はてられし身なれともきりたち人をえやはわするる
いまはとて あきはてられし みなれとも きりたちひとを えやはわするる
読人知らず雑四
2-後撰1301思ひいててきつるもしるくもみちはの色は昔にかはらさりけり
おもひいてて きつるもしるく もみちはの いろはむかしに かはらさりけり
藤原兼輔雑四
2-後撰1302峰高み行きても見へきもみちはをわかゐなからもかさしつるかな
みねたかみ ゆきてもみへき もみちはを わかゐなからも かさしつるかな
坂上是則雑四
2-後撰1303まつ人はきぬときけともあらたまのとしのみこゆるあふさかのせき
まつひとは きぬときけとも あらたまの としのみこゆる あふさかのせき
読人知らず雑四
2-後撰1304をりをりに打ちてたく火の煙あらは心さすかをしのへとそ思ふ
をりをりに うちてたくひの けふりあらは こころさすかを しのへとそおもふ
紀貫之離別羈旅
2-後撰1305あた人のたむけにをれるさくら花相坂まてはちらすもあらなん
あたひとの たむけにをれる さくらはな あふさかまては ちらすもあらなむ
読人知らず離別羈旅
2-後撰1306思ひやる心はかりはさはらしを何へたつらん峰の白雲
おもひやる こころはかりは さはらしを なにへたつらむ みねのしらくも
橘直幹離別羈旅
2-後撰1307ふたみ山ともにこえねとますかかみそこなる影をたくへてそやる
ふたみやま ともにこえねと ますかかみ そこなるかけを たくへてそやる
読人知らず離別羈旅
2-後撰1308しなのなるあさまの山ももゆなれはふしのけふりのかひやなからん
しなのなる あさまのやまも もゆなれは ふしのけふりの かひやなからむ
読人知らず離別羈旅
2-後撰1309このたひも我をわすれぬ物ならはうち見むたひに思ひいてなん
このたひも われをわすれぬ ものならは うちみむたひに おもひいてなむ
読人知らず離別羈旅
2-後撰1310打ちすてて君しいなはのつゆの身はきえぬはかりそ有りとたのむな
うちすてて きみしいなはの つゆのみは きえぬはかりそ ありとたのむな
読人知らず離別羈旅
2-後撰1311をしと思ふ心はなくてこのたひはゆく馬にむちをおほせつるかな
をしとおもふ こころはなくて このたひは ゆくうまにむちを おほせつるかな
読人知らず離別羈旅
2-後撰1312君か手をかれゆく秋のすゑにしものかひにはなつむまそかなしき
きみかてを かれゆくあきの すゑにしも のかひにはなつ うまそかなしき
むま離別羈旅
2-後撰1313今はとて立帰りゆくふるさとのふはのせきちにみやこわするな
いまはとて たちかへりゆく ふるさとの ふはのせきちに みやこわするな
藤原清正離別羈旅
2-後撰1314身をわくる事のかたさにます鏡影はかりをそ君にそへつる
みをわくる ことのかたさに ますかかみ かけはかりをそ きみにそへつる
おほくほののりよし離別羈旅
2-後撰1315はつかりの我もそらなるほとなれは君も物うきたひにやあるらん
はつかりの われもそらなる ほとなれは きみもものうき たひにやあるらむ
読人知らず離別羈旅
2-後撰1316いとせめてこひしきたひの唐衣ほとなくかへす人もあらなん
いとせめて こひしきたひの からころも ほとなくかへす ひともあらなむ
源公忠離別羈旅
2-後撰1317唐衣たつ日をよそにきく人はかへすはかりのほともこひしを
からころも たつひをよそに きくひとは かへすはかりの ほともこひしを
読人知らず離別羈旅
2-後撰1318こひしくは事つてもせむかへるさのかりかねはまつわかやとになけ
こひしくは ことつてもせむ かへるさの かりかねはまつ わかやとになけ
読人知らず離別羈旅
2-後撰1319別れてはいつあひみんと思ふらん限あるよのいのちともなし
わかれては いつあひみむと おもふらむ かきりあるよの いのちともなし
伊勢離別羈旅
2-後撰1320そむかれぬ松のちとせのほとよりもともともとたにしたはれそせし
そむかれぬ まつのちとせの ほとよりも ともともとたに したはれそせし
読人知らず離別羈旅
2-後撰1321ともともとしたふ涙のそふ水はいかなる色に見えてゆくらん
ともともと したふなみたの そふみつは いかなるいろに みえてゆくらむ
読人知らず離別羈旅
2-後撰1322わかるれとあひもをしまぬももしきを見さらん事やなにかかなしき
わかるれと あひもをしまぬ ももしきを みさらむことや なにかかなしき
伊勢離別羈旅
2-後撰1323身ひとつにあらぬはかりをおしなへてゆきめくりてもなとかみさらん
みひとつに あらぬはかりを おしなへて ゆきめくりても なとかみさらむ
亭子のみかと離別羈旅
2-後撰1324別れゆく道のくもゐになりゆけはとまる心もそらにこそなれ
わかれゆく みちのくもゐに なりゆけは とまるこころも そらにこそなれ
読人知らず離別羈旅
2-後撰1325いかて猶かさとり山に身をなしてつゆけきたひにそはんとそ思ふ
いかてなほ かさとりやまに みをなして つゆけきたひに そはむとそおもふ
読人知らず離別羈旅
2-後撰1326かさとりの山とたのみし君をおきて涙の雨にぬれつつそゆく
かさとりの やまとたのみし きみをおきて なみたのあめに ぬれつつそゆく
宗于のむすめ離別羈旅
2-後撰1327君かゆく方に有りてふ涙河まつは袖にそ流るへらなる
きみかゆく かたにありてふ なみたかは まつはそてにそ なかるへらなる
読人知らず離別羈旅
2-後撰1328袖ぬれて別はすとも唐衣ゆくとないひそきたりとを見む
そてぬれて わかれはすとも からころも ゆくとないひそ きたりとをみむ
読人知らず離別羈旅
2-後撰1329別ちは心もゆかす唐衣きれは涙そさきにたちける
わかれちは こころもゆかす からころも きれはなみたそ さきにたちける
読人知らず離別羈旅
2-後撰1330そへてやる扇の風し心あらはわか思ふ人の手をなはなれそ
そへてやる あふきのかせし こころあらは わかおもふひとの てをなはなれそ
読人知らず離別羈旅
2-後撰1331君をのみしのふのさとへゆくものをあひつの山のはるけきやなそ
きみをのみ しのふのさとへ ゆくものを あひつのやまの はるけきやなそ
藤原滋幹かむすめ離別羈旅
2-後撰1332年をへてあひみる人の別にはをしき物こそいのちなりけれ
としをへて あひみるひとの わかれには をしきものこそ いのちなりけれ
小野好古離別羈旅
2-後撰1333ゆくさきをしらぬ涙の悲しきはたためのまへにおつるなりけり
ゆくさきを しらぬなみたの かなしきは たためのまへに おつるなりけり
源のわたる離別羈旅
2-後撰1334わするなといふになかるる涙河うきなをすすくせともならなん
わするなと いふになかるる なみたかは うきなをすすく せともならなむ
たかとほかめ離別羈旅
2-後撰1335我をのみ思ひつるかの浦ならはかへるの山はまとはさらまし
われをのみ おもひつるかの うらならは かへるのやまは まとはさらまし
読人知らず離別羈旅
2-後撰1336君をのみいつはたと思ひこしなれはゆききの道ははるけからしを
きみをのみ いつはたとおもひ こしなれは ゆききのみちは はるけからしを
読人知らず離別羈旅
2-後撰1337秋ふかくたひゆく人のたむけにはもみちにまさるぬさなかりけり
あきふかく たひゆくひとの たむけには もみちにまさる ぬさなかりけり
読人知らず離別羈旅
2-後撰1338もみちはをぬさとたむけてちらしつつ秋とともにやゆかんとすらん
もみちはを ぬさとたむけて ちらしつつ あきとともにや ゆかむとすらむ
大輔離別羈旅
2-後撰1339まちわひてこひしくならはたつぬへくあとなき水のうへならてゆけ
まちわひて こひしくならは たつぬへく あとなきみつの うへならてゆけ
伊勢離別羈旅
2-後撰1340こむといひてわかるるたにもあるものをしられぬけさのましてわひしさ
こむといひて わかるるたにも あるものを しられぬけさの ましてわひしき
藤原時平離別羈旅
2-後撰1341さらはよと別れし時にいはませは我も涙におほほれなまし
さらはよと わかれしときに いはませは われもなみたに おほほれなまし
伊勢離別羈旅
2-後撰1342春霞はかなくたちてわかるとも風より外にたれかとふへき
はるかすみ はかなくたちて わかるとも かせよりほかに たれかとふへき
読人知らず離別羈旅
2-後撰1343めにみえぬ風に心をたくへつつやらはかすみのわかれこそせめ
めにみえぬ かせにこころを たくへつつ やらはかすみの わかれこそせめ
伊勢離別羈旅
2-後撰1344君か世はつるのこほりにあえてきね定なきよのうたかひもなく
きみかよは つるのこほりに あえてきね さためなきよの うたかひもなく
伊勢離別羈旅
2-後撰1345おくれすそ心にのりてこかるへき浪にもとめよ舟みえすとも
おくれすそ こころにのりて こかるへき なみにもとめよ ふねみえすとも
伊勢離別羈旅
2-後撰1346舟なくはあまのかはまてもとめてむこきつつしほのなかにきえすは
ふねなくは あまのかはまて もとめてむ こきつつしほの なかにきえすは
読人知らず離別羈旅
2-後撰1347かねてより涙そ袖をうちぬらすうかへる舟にのらむと思へは
かねてより なみたそそてを うちぬらす うかへるふねに のらむとおもへは
読人知らず離別羈旅
2-後撰1348おさへつつ我は袖にそせきとむる舟こすしほになさしとおもへは
おさへつつ われはそてにそ せきとむる ふねこすしほに なさしとおもへは
伊勢離別羈旅
2-後撰1349わすれしとことにむすひてわかるれはあひ見むまては思ひみたるな
わすれしと ことにむすひて わかるれは あひみむまては おもひみたるな
紀貫之離別羈旅
2-後撰1350はつせ河わたるせさへやにこるらん世にすみかたきわか身と思へは
はつせかは わたるせさへや にこるらむ よにすみかたき わかみとおもへは
読人知らず離別羈旅
2-後撰1351名にしおははあたにそ思ふたはれしま浪のぬれきぬいくよきつらん
なにしおはは あたにそおもふ たはれしま なみのぬれきぬ いくよきつらむ
読人知らず離別羈旅
2-後撰1352いととしくすきゆく方のこひしきにうら山しくも帰る浪かな
いととしく すきゆくかたの こひしきに うらやましくも かへるなみかな
在原業平離別羈旅
2-後撰1353宮こまておとにふりくる白山はゆきつきかたき所なりけり
みやこまて おとにふりくる しらやまは ゆきつきかたき ところなりけり
読人知らず離別羈旅
2-後撰1354山さとの草はのつゆもしけからんみのしろ衣ぬはすともきよ
やまさとの くさはのつゆも しけからむ みのしろころも ぬはすともきよ
中原宗興離別羈旅
2-後撰1355宮こにて山のはに見し月なれと海よりいてて海にこそいれ
みやこにて やまのはにみし つきなれと うみよりいてて うみにこそいれ
紀貫之離別羈旅
2-後撰1356水ひきのしらいとはへておるはたは旅の衣にたちやかさねん
みつひきの しらいとはへて おるはたは たひのころもに たちやかさねむ
菅原道真離別羈旅
2-後撰1357ひくらしの山ちをくらみさよふけてこのすゑことにもみちてらせる
ひくらしの やまちをくらみ さよふけて このすゑことに もみちてらせる
菅原道真離別羈旅
2-後撰1358草枕たひとなりなは山のへにしらくもならぬ我ややとらむ
くさまくら たひとなりなは やまのへに しらくもならぬ われややとらむ
伊勢離別羈旅
2-後撰1359水もせにうきぬる時はしからみのうちのとのとも見えぬもみちは
みつもせに うきたるときは しからみの うちのとのとも みえぬもみちは
伊勢離別羈旅
2-後撰1360花さきてみならぬ物はわたつうみのかさしにさせるおきつ白浪
はなさきて みならぬものは わたつうみの かさしにさせる おきつしらなみ
小野小町離別羈旅
2-後撰1361あしからのせきの山ちをゆく人はしるもしらぬもうとからぬかな
あしからの せきのやまちを ゆくひとは しるもしらぬも うとからぬかな
真静法師離別羈旅
2-後撰1362人ことにけふけふとのみこひらるる宮こちかくも成りにけるかな
ひとことに けふけふとのみ こひらるる みやこちかくも なりにけるかな
僧正聖宝離別羈旅
2-後撰1363てる月のなかるる見れはあまのかはいつるみなとは海にそ有りける
てるつきの なかるるみれは あまのかは いつるみなとは うみにそありける
紀貫之離別羈旅
2-後撰1364草枕紅葉むしろにかへたらは心をくたく物ならましや
くさまくら もみちむしろに かへたらは こころをくたく ものならましや
亭子院離別羈旅
2-後撰1365思ふ人ありてかへれはいつしかのつままつよひのこゑそかなしき
おもふひと ありてかへれは いつしかの つままつよひの こゑそかなしき
読人知らず離別羈旅
2-後撰1366草枕ゆふてはかりはなになれやつゆもなみたもおきかへりつつ
くさまくら ゆふてはかりは なになれや つゆもなみたも おきかへりつつ
読人知らず離別羈旅
2-後撰1367秋山にまとふ心をみやたきのたきのしらあわにけちやはててむ
あきやまに まとふこころを みやたきの たきのしらあわに けちやはててむ
素性法師離別羈旅
2-後撰1368よろつ世の霜にもかれぬ白菊をうしろやすくもかさしつるかな
よろつよの しもにもかれぬ しらきくを うしろやすくも かさしつるかな
藤原伊衡慶賀哀傷
2-後撰1369雲わくるあまの羽衣うちきては君かちとせにあはさらめやは
くもわくる あまのはころも うちきては きみかちとせに あはさらめやは
典侍あきらけい子慶賀哀傷
2-後撰1370ことしよりわかなにそへておいのよにうれしき事をつまむとそ思ふ
ことしより わかなにそへて おいのよに うれしきことを つまむとそおもふ
藤原忠平慶賀哀傷
2-後撰1371ことのねも竹もちとせのこゑするは人の思ひにかよふなりけり
ことのねも たけもちとせの こゑするは ひとのおもひに かよふなりけり
紀貫之慶賀哀傷
2-後撰1372ももとせといはふを我はききなから思ふかためはあかすそ有りける
ももとせと いはふをわれは ききなから おもふかためは あかすそありける
読人知らず慶賀哀傷
2-後撰1373おほはらやをしほの山のこ松原はやこたかかれちよの影みん
おほはらや をしほのやまの こまつはら はやこたかかれ ちよのかけみむ
紀貫之慶賀哀傷
2-後撰1374打ちよする浪の花こそさきにけれちよ松風やはるになるらん
うちよする なみのはなこそ さきにけれ ちよまつかせや はるになるらむ
読人知らず慶賀哀傷
2-後撰1375君かため松のちとせもつきぬへしこれよりまさん神の世もかな
きみかため まつのちとせも つきぬへし これよりまさむ かみのよもかな
読人知らず慶賀哀傷
2-後撰1376ももとせにやそとせそへていのりくる玉のしるしを君みさらめや
ももとせに やそとせそへて いのりくる たまのしるしを きみみさらめや
ゆいせい法師慶賀哀傷
2-後撰1377けふそくをおさへてまさへよろつよに花のさかりを心しつかに
けふそくを おさへてまさへ よろつよに はなのさかりを こころしつかに
僧都仁教慶賀哀傷
2-後撰1378君かためいはふ心のふかけれはひしりのみよのあとならへとそ
きみかため いはふこころの ふかけれは ひしりのみよの あとならへとそ
藤原忠平慶賀哀傷
2-後撰1379をしへおくことたかはすはゆくすゑの道とほくともあとはまとはし
をしへおく ことたかはすは ゆくすゑの みちとほくとも あとはまとはし
村上院慶賀哀傷
2-後撰1380山人のこれるたききは君かためおほくの年をつまんとそ思ふ
やまひとの これるたききは きみかため おほくのとしを つまむとそおもふ
藤原忠平慶賀哀傷
2-後撰1381年のかすつまんとすなるおもににはいととこつけをこりもそへなん
としのかす つまむとすなる おもにには いととこつけを こりもそへなむ
村上院慶賀哀傷
2-後撰1382君かためうつしてううるくれ竹にちよもこもれる心地こそすれ
きみかため うつしてううる くれたけに ちよもこもれる ここちこそすれ
藤原清正慶賀哀傷
2-後撰1383をののえのくちむもしらす君か世のつきんかきりはうちこころみよ
をののえの くちむもしらす きみかよの つきむかきりは うちこころみよ
命婦いさきよき子慶賀哀傷
2-後撰1384なみたてる松の緑の枝わかすをりつつちよを誰とかは見む
なみたてる まつのみとりの えたわかす をりつつちよを たれとかはみむ
藤原師輔慶賀哀傷
2-後撰1385いはふこと有りとなるへしけふなれと年のこなたにはるもきにけり
いはふこと ありとなるへし けふなれと としのこなたに はるもきにけり
紀貫之慶賀哀傷
2-後撰1386またしらぬ人も有りけるあつまちに我も行きてそすむへかりける
またしらぬ ひともありけり あつまちに われもゆきてそ すむへかりける
左太臣(実頼)慶賀哀傷
2-後撰1387春の夜の夢のなかにも思ひきや君なきやとをゆきてみんとは
はるのよの ゆめのなかにも おもひきや きみなきやとを ゆきてみむとは
藤原忠平慶賀哀傷
2-後撰1388やと見れはねてもさめてもこひしくて夢うつつともわかれさりけり
やとみれは ねてもさめても こひしくて ゆめうつつとも わかれさりけり
読人知らず慶賀哀傷
2-後撰1389はかなくて世にふるよりは山しなの宮の草木とならましものを
はかなくて よにふるよりは やましなの みやのくさきと ならましものを
藤原定方慶賀哀傷
2-後撰1390山しなの宮の草木と君ならは我はしつくにぬるはかりなり
やましなの みやのくさきと きみならは われはしつくに ぬるはかりなり
藤原兼輔慶賀哀傷
2-後撰1391わかれにしほとをはてともおもほえすこひしきことの限なけれは
わかれにし ほとをはてとも おもほえす こひしきことの かきりなけれは
時望妻慶賀哀傷
2-後撰1392たねもなき花たにちらぬやともあるをなとかかたみのこたになからん
たねもなき はなたにちらぬ やともあるを なとかかたみの こたになからむ
藤原師輔慶賀哀傷
2-後撰1393結ひおきしたねならねともみるからにいとと忍の草をつむかな
むすひおきし たねならねとも みるからに いととしのふの くさをつむかな
内侍のかみ慶賀哀傷
2-後撰1394ここらよをきくか中にもかなしきは人の涙もつきやしぬらん
ここらよを きくかうちにも かなしきは ひとのなみたも つきやしぬらむ
伊勢慶賀哀傷
2-後撰1395聞く人もあはれてふなる別にはいとと涙そつきせさりける
きくひとも あはれてふなる わかれには いととなみたそ つきせさりける
読人知らず慶賀哀傷
2-後撰1396いたつらにけふやくれなんあたらしき春の始は昔なからに
いたつらに けふやくれなむ あたらしき はるのはしめは むかしなからに
藤原定方慶賀哀傷
2-後撰1397なく涙ふりにし年の衣手はあたらしきにもかはらさりけり
なくなみた ふりにしとしの ころもては あたらしきにも かはらさりけり
藤原兼輔慶賀哀傷
2-後撰1398人の世の思ひにかなふ物ならはわか身は君におくれましやは
ひとのよの おもひにかなふ ものならは わかみはきみに おくれましやは
藤原定方慶賀哀傷
2-後撰1399ねぬ夢に昔のかへを見つるよりうつつに物そかなしかりける
ねぬゆめに むかしのかへを みつるより うつつにものそ かなしかりける
藤原兼輔慶賀哀傷
2-後撰1400ゆふされはねにゆくをしのひとりしてつまこひすなるこゑのかなしさ
ゆふされは ねになくをしの ひとりして つまこひすなる こゑのかなしさ
藤原冬嗣慶賀哀傷
2-後撰1401をみなへしかれにしのへにすむ人はまつさく花をまたてとも見す
をみなへし かれにしのへに すむひとは まつさくはなを またてともみす
藤原忠平慶賀哀傷
2-後撰1402なき人の影たに見えぬやり水のそこは涙になかしてそこし
なきひとの かけたにみえぬ やりみつの そこはなみたに なかしてそこし
伊勢慶賀哀傷
2-後撰1403ひとりゆく事こそうけれふるさとのならのならひてみし人もなみ
ひとりゆく ことこそうけれ ふるさとの ならのならひて みしひともなみ
伊勢慶賀哀傷
2-後撰1404すみそめのこきもうすきも見る時はかさねて物そかなしかりける
すみそめの こきもうすきも みるときは かさねてものそ かなしかりける
京極御息所慶賀哀傷
2-後撰1405昨日まてちよとちきりし君をわかしての山ちにたつぬへきかな
きのふまて ちよとちきりし きみをわか してのやまちに たつぬへきかな
藤原師輔慶賀哀傷
2-後撰1406あらたまの年こえくらしつねもなきはつ鴬のねにそなかるる
あらたまの としこえくらし つねもなき はつうくひすの ねにそなかるる
はるかみののむすめ慶賀哀傷
2-後撰1407ねにたててなかぬ日はなし鴬の昔の春を思ひやりつつ
ねにたてて なかぬひはなし うくひすの むかしのはるを おもひやりつつ
大輔慶賀哀傷
2-後撰1408もろともにおきゐし秋のつゆはかりかからん物と思ひかけきや
もろともに おきゐしあきの つゆはかり かからむものと おもひかけきや
玄上女慶賀哀傷
2-後撰1409世中のかなしき事を菊のうへにおく白露そ涙なりける
よのなかの かなしきことを きくのうへに おくしらつゆそ なみたなりける
藤原守文慶賀哀傷
2-後撰1410きくにたにつゆけかるらん人のよをめにみし袖を思ひやらなん
きくにたに つゆけかるらむ ひとのよを めにみしそてを おもひやらなむ
藤原清正慶賀哀傷
2-後撰1411ひきうゑしふたはの松は有りなから君かちとせのなきそ悲しき
ひきうゑし ふたはのまつは ありなから きみかちとせの なきそかなしき
紀貫之慶賀哀傷
2-後撰1412君まさて年はへぬれとふるさとにつきせぬ物は涙なりけり
きみまさて としはへぬれと ふるさとに つきせぬものは なみたなりけり
読人知らず慶賀哀傷
2-後撰1413すきにける人を秋しも問ふからに袖はもみちの色にこそなれ
すきにける ひとをあきしも とふからに そてはもみちの いろにこそなれ
戒仙法師慶賀哀傷
2-後撰1414袖かわく時なかりつるわか身にはふるを雨ともおもはさりけり
そてかわく ときなかりつる わかみには ふるをあめとも おもはさりけり
読人知らず慶賀哀傷
2-後撰1415ふるさとに君はいつらとまちとははいつれのそらの霞といはまし
ふるさとに きみはいつらと まちとはは いつれのそらの かすみといはまし
読人知らず慶賀哀傷
2-後撰1416君かいにし方やいつれそ白雲のぬしなきやとと見るかかなしさ
きみかいにし かたやいつれそ しらくもの ぬしなきやとと みるかかなしさ
藤原清正慶賀哀傷
2-後撰1417わひ人のたもとに君かうつりせは藤の花とそ色は見えまし
わひひとの たもとにきみか うつりせは ふちのはなとそ いろはみえまし
読人知らず慶賀哀傷
2-後撰1418よそにをる袖たにひちし藤衣涙に花も見えすそあらまし
よそにをる そてたにひちし ふちころも なみたにはなも みえすそあらまし
読人知らず慶賀哀傷
2-後撰1419ほともなく誰もおくれぬ世なれともとまるはゆくをかなしとそみる
ほともなく たれもおくれぬ よなれとも とまるはゆくを かなしとそみる
伊勢慶賀哀傷
2-後撰1420時のまもなくさめつらんさめぬまは夢にたに見ぬわれそかなしき
ときのまも なくさめつらむ さめぬまは ゆめにたにみぬ われそかなしき
玄上女慶賀哀傷
2-後撰1421かなしさのなくさむへくもあらさりつゆめのうちにも夢とみゆれは
かなしさの なくさむへくも あらさりつ ゆめのうちにも ゆめとみゆれは
大輔慶賀哀傷
2-後撰1422かけてたにわか身のうへと思ひきやこむ年春の花をみしとは
かけてたに わかみのうへと おもひきや こむとしはるの はなをみしとは
伊勢慶賀哀傷
2-後撰1423なくこゑにそひて涙はのほらねと雲のうへよりあめとふるらん
なくこゑに そひてなみたは のほらねと くものうへより あめとふるらむ
伊勢慶賀哀傷
2-後撰1424なき人のともにし帰る年ならはくれゆくけふはうれしからまし
なきひとの ともにしかへる としならは くれゆくけふは うれしからまし
藤原兼輔慶賀哀傷
2-後撰1425こふるまに年のくれなはなき人の別やいとととほくなりなん
こふるまに としのくれなは なきひとの わかれやいとと とほくなりなむ
紀貫之慶賀哀傷
3-拾遺1はるたつといふはかりにや三吉野の山もかすみてけさは見ゆらん
はるたつと いふはかりにや みよしのの やまもかすみて けさはみゆらむ
壬生忠岑
3-拾遺2春霞たてるを見れは荒玉の年は山よりこゆるなりけり
はるかすみ たてるをみれは あらたまの としはやまより こゆるなりけり
紀文幹
3-拾遺3昨日こそ年はくれしか春霞かすかの山にはやたちにけり
きのふこそ としはくれしか はるかすみ かすかのやまに はやたちにけり
山部赤人
3-拾遺4吉野山峯の白雪いつきえてけさは霞の立ちかはるらん
よしのやま みねのしらゆき いつきえて けさはかすみの たちかはるらむ
源重之
3-拾遺5あらたまの年立帰る朝よりまたるる物はうくひすのこゑ
あらたまの としたちかへる あしたより またるるものは うくひすのこゑ
素性法師
3-拾遺6氷たにとまらぬ春の谷風にまたうちとけぬ鴬の声
こほりたに とまらぬはるの たにかせに またうちとけぬ うくひすのこゑ
源順
3-拾遺7春立ちて朝の原の雪見れはまたふる年の心地こそすれ
はるたちて あしたのはらの ゆきみれは またふるとしの ここちこそすれ
平祐挙
3-拾遺8春立ちて猶ふる宮は梅の花さくほともなくちるかとそ見る
はるたちて なほふるゆきは うめのはな さくほともなく ちるかとそみる
凡河内躬恒
3-拾遺9わかやとの梅にならひてみよしのの山の雪をも花とこそ見れ
わかやとの うめにならひて みよしのの やまのゆきをも はなとこそみれ
読人知らず
3-拾遺10鴬の声なかりせは雪きえぬ山さといかてはるをしらまし
うくひすの こゑなかりせは ゆききえぬ やまさといかて はるをしらまし
藤原朝忠
3-拾遺11うちきらし雪はふりつつしかすかにわか家のそのに鴬そなく
うちきらし ゆきはふりつつ しかすかに わかいへのそのに うくひすそなく
大伴家持
3-拾遺12梅の花それとも見えす久方のあまきるこのなへてふれれは
うめのはな それともみえす ひさかたの あまきるゆきの なへてふれれは
柿本人麻呂(人麿)
3-拾遺13むめかえにふりかかりてそ白雪の花のたよりにをらるへらなる
うめかえに ふりかかりてそ しらゆきの はなのたよりに をらるへらなる
紀貫之
3-拾遺14ふる雪に色はまかひぬ梅の花かにこそにたる物なかりけれ
ふるゆきに いろはまかひぬ うめのはな かにこそにたる ものなかりけれ
凡河内躬恒
3-拾遺15わかやとの梅のたちえや見えつらん思ひの外に君かきませる
わかやとの うめのたちえや みえつらむ おもひのほかに きみかきませる
平兼盛
3-拾遺16かをとめてたれをらさらん梅の花あやなし霞たちなかくしそ
かをとめて たれをらさらむ うめのはな あやなしかすみ たちなかくしそ
凡河内躬恒
3-拾遺17白妙のいもか衣にむめの花色をもかをもわきそかねつる
しろたへの いもかころもに うめのはな いろをもかをも わきそかねつる
紀貫之
3-拾遺18あすからはわかなつまむとかたをかの朝の原はけふそやくめる
あすからは わかなつまむと かたをかの あしたのはらは けふそやくめる
柿本人麻呂(人麿)
3-拾遺19野辺見れはわかなつみけりむへしこそかきねの草もはるめきにけれ
のへみれは わかなつみけり うへしこそ かきねのくさも はるめきにけれ
紀貫之
3-拾遺20かすか野におほくの年はつみつれとおいせぬ物はわかななりけり
かすかのに おほくのとしは つみつれと おいせぬものは わかななりけり
円融院
3-拾遺21春ののにあさるききすのつまこひにおのかありかを人にしれつつ
はるののに あさるききすの つまこひに おのかありかを ひとにしれつつ
大伴家持
3-拾遺22松のうへになく鴬のこゑをこそはつねの日とはいふへかりけれ
まつのうへに なくうくひすの こゑをこそ はつねのひとは いふへかりけれ
宮内
3-拾遺23子の日するのへにこ松のなかりせは千世のためしになにをひかまし
ねのひする のへにこまつの なかりせは ちよのためしに なにをひかまし
壬生忠岑
3-拾遺24ちとせまてかきれる松もけふよりは君にひかれて万代やへむ
ちとせまて かきれるまつも けふよりは きみにひかれて よろつよやへむ
大中臣能宣
3-拾遺25梅の花またちらねともゆく水のそこにうつれるかけそ見えける
うめのはな またちらねとも ゆくみつの そこにうつれる かけそみえける
紀貫之
3-拾遺26つみたむることのかたきは鴬の声するのへのわかななりけり
つみたむる ことのかたきは うくひすの こゑするのへの わかななりけり
読人知らず
3-拾遺27梅の花よそなから見むわきもこかとかむはかりのかにもこそしめ
うめのはな よそなからみむ わきもこか とかむはかりの かにもこそしめ
読人知らず
3-拾遺28袖たれていさわかそのにうくひすのこつたひちらす梅の花見む
そてたれて いさわかそのに うくひすの こつたひちらす うめのはなみむ
読人知らず
3-拾遺29あさまたきおきてそ見つる梅の花夜のまの風のうしろめたさに
あさまたき おきてそみつる うめのはな よのまのかせの うしろめたさに
元良親王
3-拾遺30吹く風をなにいとひけん梅の花ちりくる時そかはまさりける
ふくかせを なにいとひけむ うめのはな ちりくるときそ かはまさりける
凡河内躬恒
3-拾遺31匂をは風にそふとも梅の花色さへあやなあたにちらすな
にほひをは かせにそふとも うめのはな いろさへあやな あたにちらすな
大中臣能宣
3-拾遺32ともすれは風のよるにそ青柳のいとは中中みたれそめける
ともすれは かせのよるにそ あをやきの いとはなかなか みたれそめける
読人知らず
3-拾遺33ちかくてそ色もまされるあをやきの糸はよりてそ見るへかりける
ちかくてそ いろもまされる あをやきの いとはよりてそ みるへかりける
大中臣能宣
3-拾遺34青柳の花田のいとをよりあはせてたえすもなくか鴬のこゑ
あをやきの はなたのいとを よりあはせて たえすもなくか うくひすのこゑ
凡河内躬恒
3-拾遺35花見にはむれてゆけとも青柳の糸のもとにはくる人もなし
はなみには むれてゆけとも あをやきの いとのもとには くるひともなし
読人知らず
3-拾遺36さけはちるさかねはこひし山桜思ひたえせぬ花のうへかな
さけはちる さかねはこひし やまさくら おもひたえせぬ はなのうへかな
中務
3-拾遺37吉野山たえす霞のたなひくは人にしられぬ花やさくらん
よしのやま たえすかすみの たなひくは ひとにしられぬ はなやさくらむ
中務
3-拾遺38さきさかすよそにても見む山さくら峯の白雲たちなかくしそ
さきさかす よそにてもみむ やまさくら みねのしらくも たちなかくしそ
読人知らず
3-拾遺39吹く風にあらそひかねてあしひきの山の桜はほころひにけり
ふくかせに あらそひかねて あしひきの やまのさくらは ほころひにけり
読人知らず
3-拾遺40浅緑のへの霞はつつめともこほれてにほふ花さくらかな
あさみとり のへのかすみは つつめとも こほれてにほふ はなさくらかな
読人知らず
3-拾遺41吉野山きえせぬ雪と見えつるは峯つつきさくさくらなりけり
よしのやま きえせぬゆきと みえつるは みねつつきさく さくらなりけり
読人知らず
3-拾遺42春霞立ちなへたてそ花さかりみてたにあかぬ山のさくらを
はるかすみ たちなへたてそ はなさかり みてたにあかぬ やまのさくらを
清原元輔
3-拾遺43はるは猶我にてしりぬ花さかり心のとけき人はあらしな
はるはなほ われにてしりぬ はなさかり こころのとけき ひとはあらしな
壬生忠岑
3-拾遺44さきそめていく世へぬらんさくら花色をは人にあかす見せつつ
さきそめて いくよへぬらむ さくらはな いろをはひとに あかすみせつつ
藤原千景
3-拾遺45春くれはまつそうち見るいその神めつらしけなき山田なれとも
はるくれは まつそうちみる いそのかみ めつらしけなき やまたなれとも
壬生忠見
3-拾遺46はるくれは山田の氷打ちとけて人の心にまかすへらなり
はるくれは やまたのこほり うちとけて ひとのこころに まかすへらなり
在原元方
3-拾遺47春の田を人にまかせて我はたた花に心をつくるころかな
はるのたを ひとにまかせて われはたた はなにこころを つくるころかな
斎宮内侍
3-拾遺48あたなれとさくらのみこそ旧里の昔なからの物には有りけれ
あたなれと さくらのみこそ ふるさとの むかしなからの ものにはありけれ
紀貫之
3-拾遺49ちりちらすきかまほしきをふるさとの花見て帰る人もあはなん
ちりちらす きかまほしきを ふるさとの はなみてかへる ひともあはなむ
伊勢
3-拾遺50さくらかり雨はふりきぬおなしくはぬるとも花の影にかくれむ
さくらかり あめはふりきぬ おなしくは ぬるともはなの かけにかくれむ
読人知らず
3-拾遺51とふ人もあらしと思ひし山さとに花のたよりに人め見るかな
とふひとも あらしとおもひし やまさとに はなのたよりに ひとめみるかな
清原元輔
3-拾遺52花の木をうゑしもしるく春くれはわかやとすきて行く人そなき
はなのきを うゑしもしるく はるくれは わかやとすきて ゆくひとそなき
平兼盛
3-拾遺53さくら色にわか身は深く成りぬらん心にしめて花ををしめは
さくらいろに わかみはふかく なりぬらむ こころにしめて はなををしめは
読人知らず
3-拾遺54身にかへてあやなく花を惜むかないけらはのちのはるもこそあれ
みにかへて あやなくはなを をしむかな いけらはのちの はるもこそあれ
藤原長能
3-拾遺55見れとあかぬ花のさかりに帰る雁猶ふるさとのはるやこひしき
みれとあかぬ はなのさかりに かへるかり なほふるさとの はるやこひしき
読人知らず
3-拾遺56ふるさとの霞とひわけゆくかりはたひのそらにやはるをくらさむ
ふるさとの かすみとひわけ ゆくかりは たひのそらにや はるをくらさむ
読人知らず
3-拾遺57ちりぬへき花見る時はすかのねのなかきはる日もみしかかりけり
ちりぬへき はなみるときは すかのねの なかきはるひも みしかかりけり
藤原清正
3-拾遺58つけやらんまにもちりなはさくら花いつはり人に我やなりなん
つけやらむ まにもちりなは さくらはな いつはりひとに われやなりなむ
読人知らず
3-拾遺59ちりそむる花を見すててかへらめやおほつかなしといもはまつとも
ちりそむる はなをみすてて かへらめや おほつかなしと いもはまつとも
大中臣能宣
3-拾遺60見もはててゆくとおもへはちる花につけて心のそらになるかな
みもはてて ゆくとおもへは ちるはなに つけてこころの そらになるかな
読人知らず
3-拾遺61あさことにわかはくやとのにはさくら花ちるほとはてもふれて見む
あさことに わかはくやとの にはさくら はなちるほとは てもふれてみむ
読人知らず
3-拾遺62あさちはらぬしなきやとの桜花心やすくや風にちるらん
あさちはら ぬしなきやとの さくらはな こころやすくや かせにちるらむ
恵慶法師
3-拾遺63春ふかくなりぬと思ふをさくら花ちるこのもとはまた雪そふる
はるふかく なりぬとおもふを さくらはな ちるこのもとは またゆきそふる
紀貫之
3-拾遺64さくらちるこのした風はさむからてそらにしられぬゆきそふりける
さくらちる このしたかせは さむからて そらにしられぬ ゆきそふりける
紀貫之
3-拾遺65あしひきの山ちにちれる桜花きえせぬはるの雪かとそ見る
あしひきの やまちにちれる さくらはな きえせぬはるの ゆきかとそみる
読人知らず
3-拾遺66あしひきの山かくれなるさくら花ちりのこれりと風にしらるな
あしひきの やまかくれなる さくらはな ちりのこれりと かせにしらるな
小弐命婦
3-拾遺67いはまをもわけくるたきの水をいかてちりつむ花のせきととむらん
いはまをも わけくるたきの みつをいかて ちりつむはなの せきととむらむ
読人知らず
3-拾遺68春ふかみゐてのかは浪たちかへり見てこそゆかめ山吹の花
はるふかみ ゐてのかはなみ たちかへり みてこそゆかめ やまふきのはな
源順
3-拾遺69山吹の花のさかりにゐてにきてこのさと人になりぬへきかな
やまふきの はなのさかりに ゐてにきて このさとひとに なりぬへきかな
恵慶法師
3-拾遺70物もいはてなかめてそふる山吹の花に心そうつろひぬらん
ものもいはて なかめてそふる やまふきの はなにこころそ うつろひぬらむ
清原元輔
3-拾遺71さは水にかはつなくなり山吹のうつろふ影やそこに見ゆらん
さはみつに かはつなくなり やまふきの うつろふかけや そこにみゆらむ
読人知らず
3-拾遺72わかやとのやへ山吹はひとへたにちりのこらなんはるのかたみに
わかやとの やへやまふきは ひとへたに ちりのこらなむ はるのかたみに
読人知らず
3-拾遺73花の色をうつしととめよ鏡山春よりのちの影や見ゆると
はなのいろを うつしととめよ かかみやま はるよりのちの かけやみゆると
坂上是則
3-拾遺74春霞たちわかれゆく山みちは花こそぬさとちりまかひけれ
はるかすみ たちわかれゆく やまみちは はなこそぬさと ちりまかひけれ
読人知らず
3-拾遺75年の内はみな春なからくれななん花見てたにもうきよすくさん
としのうちは みなはるなから くれななむ はなみてたにも うきよすくさむ
読人知らず
3-拾遺76風ふけは方もさためすちる花をいつ方へゆくはるとかは見む
かせふけは かたもさためす ちるはなを いつかたへゆく はるとかはみむ
紀貫之
3-拾遺77花もみなちりぬるやとは行く春のふるさととこそなりぬへらなれ
はなもみな ちりぬるやとは ゆくはるの ふるさととこそ なりぬへらなれ
紀貫之
3-拾遺78つねよりものとけかりつるはるなれとけふのくるるはあかすそありける
つねよりも のとけかりつる はるなれと けふのくるるは あかすそありける
凡河内躬恒
3-拾遺79なくこゑはまたきかねともせみのはのうすき衣はたちそきてける
なくこゑは またきかねとも せみのはの うすきころもは たちそきてける
大中臣能宣
3-拾遺80わかやとのかきねやはるをへたつらん夏きにけりと見ゆる卯の花
わかやとの かきねやはるを へたつらむ なつきにけりと みゆるうのはな
源順
3-拾遺81花の色にそめしたもとのをしけれは衣かへうきけふにもあるかな
はなのいろに そめしたもとの をしけれは ころもかへうき けふにもあるかな
源重之
3-拾遺82花ちるといとひしものを夏衣たつやおそきと風をまつかな
はなちると いとひしものを なつころも たつやおそきと かせをまつかな
盛明のみこ
3-拾遺83夏にこそさきかかりけれふちの花松にとのみも思ひけるかな
なつにこそ さきかかりけれ ふちのはな まつにとのみも おもひけるかな
源重之
3-拾遺84住吉の岸のふちなみわかやとの松のこすゑに色はまさらし
すみよしの きしのふちなみ わかやとの まつのこすゑに いろはまさらし
平兼盛
3-拾遺85紫のふちさく松のこすゑにはもとのみとりもみえすそありける
むらさきの ふちさくまつの こすゑには もとのみとりも みえすそありける
源順
3-拾遺86うすくこくみたれてさける藤の花ひとしき色はあらしとそ思ふ
うすくこく みたれてさける ふちのはな ひとしきいろは あらしとそおもふ
藤原実頼
3-拾遺87手もふれてをしむかひなく藤の花そこにうつれは浪そをりける
てもふれて をしむかひなく ふちのはな そこにうつれは なみそをりける
凡河内躬恒
3-拾遺88たこの浦のそこさへにほふ藤浪をかさしてゆかん見ぬ人のため
たこのうらの そこさへにほふ ふちなみを かさしてゆかむ みぬひとのため
柿本人麻呂(人麿)
3-拾遺89卯の花をちりにしむめにまかへてや夏のかきねに鴬のなく
うのはなを ちりにしうめに まかへてや なつのかきねに うくひすのなく
平公誠
3-拾遺90うの花のさけるかきねはみちのくのまかきのしまの浪かとそ見る
うのはなの さけるかきねは みちのくの まかきのしまの なみかとそみる
読人知らず
3-拾遺91神まつる卯月にさける卯の花はしろくもきねかしらけたるかな
かみまつる うつきにさける うのはなは しろくもきねか しらけたるかな
凡河内躬恒
3-拾遺92かみまつるやとの卯の花白妙のみてくらかとそあやまたれける
かみまつる やとのうのはな しろたへの みてくらかとそ あやまたれける
紀貫之
3-拾遺93山かつのかきねにさける卯の花はたか白妙の衣かけしそ
やまかつの かきねにさける うのはなは たかしろたへの ころもかけしそ
読人知らず
3-拾遺94時わかすふれる雪かと見るまてにかきねもたわにさける卯の花
ときわかす ふれるゆきかと みるまてに かきねもたわに さけるうのはな
読人知らず
3-拾遺95春かけてきかむともこそ思ひしか山郭公おそくなくらん
はるかけて きかむともこそ おもひしか やまほとときす おそくなくらむ
読人知らず
3-拾遺96はつこゑのきかまほしさに郭公夜深くめをもさましつるかな
はつこゑの きかまほしさに ほとときす よふかくめをも さましつるかな
読人知らず
3-拾遺97家にきてなにをかたらむあしひきの山郭公ひとこゑもかな
いへにきて なにをかたらむ あしひきの やまほとときす ひとこゑもかな
久米広縄
3-拾遺98山さとにしる人もかな郭公なきぬときかはつけにくるかに
やまさとに しるひともかな ほとときす なきぬときかは つけにくるかに
紀貫之
3-拾遺99やまさとにやとらさりせは郭公きく人もなきねをやなかまし
やまさとに やとらさりせは ほとときす きくひともなき ねをやなかまし
読人知らず
3-拾遺100髣髴にそ鳴渡るなる郭公み山をいつるけさのはつ声
ほのかにそ なきわたるなる ほとときす みやまをいつる けさのはつこゑ
坂上望城
3-拾遺101み山いてて夜はにやきつる郭公暁かけてこゑのきこゆる
みやまいてて よはにやきつる ほとときす あかつきかけて こゑのきこゆる
平兼盛
3-拾遺102宮こ人ねてまつらめや郭公今そ山へをなきていつなる
みやこひと ねてまつらめや ほとときす いまそやまへを なきていつなる
藤原道綱母
3-拾遺103山かつと人はいへとも郭公まつはつこゑは我のみそきく
やまかつと ひとはいへとも ほとときす まつはつこゑは われのみそきく
坂上是則
3-拾遺104さ夜ふけてねさめさりせは郭公人つてにこそきくへかりけれ
さよふけて ねさめさりせは ほとときす ひとつてにこそ きくへかりけれ
壬生忠見
3-拾遺105ふたこゑときくとはなしに郭公夜深くめをもさましつるかな
ふたこゑと きくとはなしに ほとときす よふかくめをも さましつるかな
伊勢
3-拾遺106行きやらて山ちくらしつほとときす今ひとこゑのきかまほしさに
ゆきやらて やまちくらしつ ほとときす いまひとこゑの きかまほしさに
源公忠
3-拾遺107このさとにいかなる人かいへゐして山郭公たえすきくらむ
このさとに いかなるひとか いへゐして やまほとときす たえすきくらむ
紀貫之
3-拾遺108さみたれはちかくなるらしよと河のあやめの草もみくさおひにけり
さみたれは ちかくなるらし よとかはの あやめのくさも みくさおひにけり
読人知らず
3-拾遺109昨日まてよそに思ひしあやめ草けふわかやとのつまと見るかな
きのふまて よそにおもひし あやめくさ けふわかやとの つまとみるかな
大中臣能宣
3-拾遺110けふ見れは玉のうてなもなかりけりあやめの草のいほりのみして
けふみれは たまのうてなも なかりけり あやめのくさの いほりのみして
読人知らず
3-拾遺111葦引の山郭公けふとてやあやめの草のねにたててなく
あしひきの やまほとときす けふとてや あやめのくさの ねにたててなく
延喜
3-拾遺112たかそてに思ひよそへて郭公花橘のえたになくらん
たかそてに おもひよそへて ほとときす はなたちはなの えたになくらむ
読人知らず
3-拾遺113いつ方になきてゆくらむ郭公よとのわたりのまたよふかきに
いつかたに なきてゆくらむ ほとときす よとのわたりの またよふかきに
壬生忠見
3-拾遺114しけることまこものおふるよとのにはつゆのやとりを人そかりける
しけること まこものおふる よとのには つゆのやとりを ひとそかりける
壬生忠見
3-拾遺115かの方にはやこきよせよ郭公道になきつと人にかたらん
かのかたに はやこきよせよ ほとときす みちになきつと ひとにかたらむ
紀貫之
3-拾遺116郭公をちかへりなけうなゐこかうちたれかみのさみたれのそら
ほとときす をちかへりなけ うなゐこか うちたれかみの さみたれのそら
凡河内躬恒
3-拾遺117なけやなけたか田の山の郭公このさみたれにこゑなをしみそ
なけやなけ たかたのやまの ほとときす このさみたれに こゑなをしみそ
読人知らず
3-拾遺118さみたれはいこそねられね郭公夜ふかくなかむこゑをまつとて
さみたれは いこそねられね ほとときす よふかくなかむ こゑをまつとて
読人知らず
3-拾遺119うたて人おもはむものをほとときすよるしもなとかわかやとになく
うたてひと おもはむものを ほとときす よるしもなとか わかやとになく
読人知らず
3-拾遺120郭公いたくななきそひとりゐていのねられぬにきけはくるしも
ほとときす いたくななきそ ひとりゐて いのねられぬに きけはくるしも
大伴坂上郎女
3-拾遺121夏の夜の心をしれるほとときすはやもなかなんあけもこそすれ
なつのよの こころをしれる ほとときす はやもなかなむ あけもこそすれ
中務
3-拾遺122なつのよは浦島のこかはこなれやはかなくあけてくやしかるらん
なつのよは うらしまのこか はこなれや はかなくあけて くやしかるらむ
中務
3-拾遺123なつくれは深草山の郭公なくこゑしけくなりまさるなり
なつくれは ふかくさやまの ほとときす なくこゑしけく なりまさるなり
読人知らず
3-拾遺124さ月やみくらはし山の郭公おほつかなくもなきわたるかな
さつきやみ くらはしやまの ほとときす おほつかなくも なきわたるかな
藤原実方
3-拾遺125郭公なくやさ月のみしかよもひとりしぬれはあかしかねつも
ほとときす なくやさつきの みしかよも ひとりしぬれは あかしかねつも
読人知らず
3-拾遺126ほとときす松につけてやともしする人も山へによをあかすらん
ほとときす まつにつけてや ともしする ひともやまへに よをあかすらむ
源順
3-拾遺127さ月山このしたやみにともす火はしかのたちとのしるへなりけり
さつきやま このしたやみに ともすひは しかのたちとの しるへなりけり
紀貫之
3-拾遺128あやしくもしかのたちとの見えぬかなをくらの山に我やきぬらん
あやしくも しかのたちとの みえぬかな をくらのやまに われやきぬらむ
平兼盛
3-拾遺129ゆくすゑはまたとほけれと夏山のこのしたかけそたちうかりける
ゆくすゑは またとほけれと なつやまの このしたかけそ たちうかりける
凡河内躬恒
3-拾遺130夏山の影をしけみやたまほこの道行く人も立ちとまるらん
なつやまの かけをしけみや たまほこの みちゆくひとも たちとまるらむ
紀貫之
3-拾遺131松影のいはゐの水をむすひあけて夏なきとしと思ひけるかな
まつかけの いはゐのみつを むすひあけて なつなきとしと おもひけるかな
恵慶法師
3-拾遺132いつこにもさきはすらめとわかやとの山となてしこたれに見せまし
いつこにも さきはすらめと わかやとの やまとなてしこ たれにみせまし
伊勢
3-拾遺133そこきよみなかるる河のさやかにもはらふることを神はきかなん
そこきよみ なかるるかはの さやかにも はらふることを かみはきかなむ
読人知らず
3-拾遺134さはへなすあらふる神もおしなへてけふはなこしの祓なりけり
さはへなす あらふるかみも おしなへて けふはなこしの はらへなりけり
藤原長能
3-拾遺135もみちせはあかくなりなんをくら山秋まつほとのなにこそありけれ
もみちせは あかくなりなむ をくらやま あきまつほとの なにこそありけれ
読人知らず
3-拾遺136おほあらきのもりのした草しけりあひて深くも夏のなりにけるかな
おほあらきの もりのしたくさ しけりあひて ふかくもなつの なりにけるかな
壬生忠岑
3-拾遺137夏衣またひとへなるうたたねに心してふけ秋のはつ風
なつころも またひとへなる うたたねに こころしてふけ あきのはつかせ
安法法師
3-拾遺138秋はきぬ竜田の山も見てしかなしくれぬさきに色やかはると
あきはきぬ たつたのやまも みてしかな しくれぬさきに いろやかはると
読人知らず
3-拾遺139荻の葉のそよくねとこそ秋風の人にしらるる始なりけれ
をきのはの そよくおとこそ あきかせの ひとにしらるる はしめなりけれ
紀貫之
3-拾遺140やへむくらしけれるやとのさひしきに人こそ見えね秋はきにけり
やへむくら しけれるやとの さひしきに ひとこそみえね あきはきにけり
恵慶法師
3-拾遺141秋立ちていく日もあらねとこのねぬるあさけの風はたもとすすしも
あきたちて いくかもあらねと このねぬる あさけのかせは たもとすすしも
安貴玉
3-拾遺142ひこほしのつままつよひの秋思に我さへあやな人そこひしき
ひこほしの つままつよひの あきかせに われさへあやな ひとそこひしき
凡河内躬恒
3-拾遺143秋風に夜のふけゆけはあまの河かはせに浪のたちゐこそまて
あきかせに よのふけゆけは あまのかは かはせになみの たちゐこそまて
紀貫之
3-拾遺144あまの河とほき渡にあらねとも君かふなては年にこそまて
あまのかは とほきわたりに あらねとも きみかふなては としにこそまて
柿本人麻呂(人麿)
3-拾遺145天の河こその渡のうつろへはあさせふむまに夜そふけにける
あまのかは こそのわたりの うつろへは あさせふむまに よそふけにける
柿本人麻呂(人麿)
3-拾遺146さ夜ふけてあまの河をそいてて見る思ふさまなる雲や渡ると
さよふけて あまのかはをそ いててみる おもふさまなる くもやわたると
読人知らず
3-拾遺147ひこほしの思ひますらん事よりも見る我くるしよのふけゆけは
ひこほしの おもひますらむ ことよりも みるわれくるし よのふけゆけは
湯原玉
3-拾遺148年に有りてひとよいもにあふひこほしも我にまさりて思ふらんやそ
としにありて ひとよいもにあふ ひこほしも われにまさりて おもふらむやそ
柿本人麻呂(人麿)
3-拾遺149たなはたにぬきてかしつる唐衣いとと涙に袖やぬるらん
たなはたに ぬきてかしつる からころも いととなみたに そてやぬるらむ
紀貫之
3-拾遺150ひととせにひとよとおもへとたなはたのあひ見む秋の限なきかな
ひととせに ひとよとおもへと たなはたの あひみむあきの かきりなきかな
紀貫之
3-拾遺151いたつらにすくる月日をたなはたのあふよのかすと思はましかは
いたつらに すくるつきひを たなはたの あふよのかすと おもはましかは
恵慶法師
3-拾遺152いととしくいもねさるらんと思ふかなけふのこよひにあへるたなはた
いととしく いもねさるらむと おもふかな けふのこよひに あへるたなはた
清原元輔
3-拾遺153あひ見てもあはてもなけくたなはたはいつか心ののとけかるへき
あひみても あはてもなけく たなはたは いつかこころの のとけかるへき
読人知らず
3-拾遺154わかいのる事はひとつそ天の河そらにしりてもたかへさらなん
わかいのる ことはひとつそ あまのかは そらにしりても たかへさらなむ
読人知らず
3-拾遺155君こすは誰に見せましわかやとのかきねにさける槿の花
きみこすは たれにみせまし わかやとの かきねにさける あさかほのはな
読人知らず
3-拾遺156女郎花おほかるのへに花すすきいつれをさしてまねくなるらん
をみなへし おほかるのへに はなすすき いつれをさして まねくなるらむ
読人知らず
3-拾遺157手もたゆくうゑしもしるく女郎花色ゆゑ君かやとりぬるかな
てもたゆく うゑしもしるく をみなへし いろゆゑきみか やとりぬるかな
読人知らず
3-拾遺158くちなしの色をそたのむ女郎花はなにめてつと人にかたるな
くちなしの いろをそたのむ をみなへし はなにめてつと ひとにかたるな
藤原実頼
3-拾遺159女郎花にほふあたりにむつるれはあやなくつゆや心おくらん
をみなへし にほふあたりに むつるれは あやなくつゆや こころおくらむ
大中臣能宣
3-拾遺160白露のおくつまにする女郎花あなわつらはし人なてふれそ
しらつゆの おくつまにする をみなへし あなわつらはし ひとなてふれそ
読人知らず
3-拾遺161日くらしに見れともあかぬをみなへしのへにやこよひたひねしなまし
ひくらしに みれともあかぬ をみなへし のへにやこよひ たひねしなまし
藤原長能
3-拾遺162荻の葉もややうちそよくほとなるをなとかりかねのおとなかるらん
をきのはも ややうちそよく ほとなるを なとかりかねの おとなかるらむ
恵慶法師
3-拾遺163かりにとてくへかりけりや秋の野の花見るほとに日もくれぬへし
かりにとて くへかりけりや あきののの はなみるほとに ひもくれぬへし
読人知らず
3-拾遺164秋の野の花のなたてに女郎花かりにのみこむ人にをらるな
あきののの はなのなたてに をみなへし かりにのみこむ ひとにをらるな
読人知らず
3-拾遺165かりにとて我はきつれとをみなへし見るに心そ思ひつきぬる
かりにとて われはきつれと をみなへし みるにこころそ おもひつきぬる
紀貫之
3-拾遺166かりにのみ人の見ゆれはをみなへし花のたもとそつゆけかりける
かりにのみ ひとのみゆれは をみなへし はなのたもとそ つゆけかりける
紀貫之
3-拾遺167栽ゑたてて君かしめゆふ花なれは玉と見えてやつゆもおくらん
うゑたてて きみかしめゆふ はななれは たまとみえてや つゆもおくらむ
伊勢
3-拾遺168こてすくす秋はなけれとはつかりのきくたひことにめつらしきかな
こてすくす あきはなけれと はつかりの きくたひことに めつらしきかな
読人知らず
3-拾遺169相坂の関のいはかとふみならし山たちいつるきりはらのこま
あふさかの せきのいはかと ふみならし やまたちいつる きりはらのこま
大弐高遠
3-拾遺170あふさかの関のし水に影見えて今やひくらんもち月のこま
あふさかの せきのしみつに かけみえて いまやひくらむ もちつきのこま
紀貫之
3-拾遺171水のおもにてる月浪をかそふれはこよひそ秋のもなかなりける
みつのおもに てるつきなみを かそふれは こよひそあきの もなかなりける
源順
3-拾遺172秋の月浪のそこにそいてにけるまつらん山のかひやなからん
あきのつき なみのそこにそ いてにける まつらむやまの かひやなからむ
大中臣能宣
3-拾遺173あきの月西にあるかと見えつるはふけゆくよはの影にそ有りける
あきのつき にしにあるかと みえつるは ふけゆくよはの かけにそありける
源景明
3-拾遺174あかすのみおもほえむをはいかかせんかくこそは見め秋のよの月
あかすのみ おもほえむをは いかかせむ かくこそはみめ あきのよのつき
清原元輔
3-拾遺175ここにたにひかりさやけき秋の月雲のうへこそ思ひやらるれ
ここにたに ひかりさやけき あきのつき くものうへこそ おもひやらるれ
藤原経臣
3-拾遺176いつこにか今夜の月の見えさらんあかぬは人の心なりけり
いつこにか こよひのつきの みえさらむ あかぬはひとの こころなりけり
凡河内躬恒
3-拾遺177終夜見てをあかさむ秋の月こよひのそらにくもなからなん
よもすから みてをあかさむ あきのつき こよひのそらに くもなからなむ
平兼盛
3-拾遺178おほつかないつこなるらん虫のねをたつねは草の露やみたれん
おほつかな いつこなるらむ むしのねを たつねはくさの つゆやみたれむ
藤原為頼
3-拾遺179いつこにも草の枕をすすむしはここをたひとも思はさらなん
いつこにも くさのまくらを すすむしは ここをたひとも おもはさらなむ
伊勢
3-拾遺180秋くれははたおる虫のあるなへに唐錦にも見ゆるのへかな
あきくれは はたおるむしの あるなへに からにしきにも みゆるのへかな
紀貫之
3-拾遺181契りけん程や過きぬる秋ののに人松虫の声のたえせぬ
ちきりけむ ほとやすきぬる あきののに ひとまつむしの こゑのたえせぬ
読人知らず
3-拾遺182露けくてわか衣手はぬれぬとも折りてをゆかん秋はきの花
つゆけくて わかころもては ぬれぬとも をりてをゆかむ あきはきのはな
凡河内躬恒
3-拾遺183うつろはむ事たに惜しき秋萩ををれぬはかりもおける露かな
うつろはむ ことたにをしき あきはきを をれぬはかりも おけるつゆかな
伊勢
3-拾遺184わかやとの菊の白露けふことにいく世つもりて淵となるらん
わかやとの きくのしらつゆ けふことに いくよつもりて ふちとなるらむ
清原元輔
3-拾遺185長月のここぬかことにつむ菊の花もかひなくおいにけるかな
なかつきの ここぬかことに つむきくの はなもかひなく おいにけるかな
凡河内躬恒
3-拾遺186千鳥なくさほの河きり立ちぬらし山のこのはも色かはり行く
ちとりなく さほのかはきり たちぬらし やまのこのはも いろかはりゆく
壬生忠岑
3-拾遺187風さむみわかから衣うつ時そ萩のしたはもいろまさりける
かせさむみ わかからころも うつときそ はきのしたはも いろまさりける
紀貫之
3-拾遺188神なひのみむろの山をけふみれはした草かけて色つきにけり
かみなひの みむろのやまを けふみれは したくさかけて いろつきにけり
曾禰好忠
3-拾遺189紅葉せぬときはの山は吹く風のおとにや秋をききわたるらん
もみちせぬ ときはのやまは ふくかせの おとにやあきを ききわたるらむ
大中臣能宣
3-拾遺190もみちせぬときはの山にすむしかはおのれなきてや秋をしるらん
もみちせぬ ときはのやまに すむしかは おのれなきてや あきをしるらむ
大中臣能宣
3-拾遺191秋風の打吹くことに高砂のをのへのしかのなかぬ日そなき
あきかせの うちふくことに たかさこの をのへのしかの なかぬひそなき
読人知らず
3-拾遺192あきかせをそむくものから花すすきゆく方をなとまねくなるらん
あきかせを そむくものから はなすすき ゆくかたをなと まねくなるらむ
読人知らず
3-拾遺193もみち見にやとれる我としらねはやさほの河きりたちかくすらん
もみちみに やとれるわれと しらねはや さほのかはきり たちかくすらむ
恵慶法師
3-拾遺194もみちはの色をしそへてなかるれはあさくも見えす山河の水
もみちはの いろをしそへて なかるれは あさくもみえす やまかはのみつ
読人知らず
3-拾遺195もみち葉をけふは猶見むくれぬともをくらの山の名にはさはらし
もみちはを けふはなほみむ くれぬとも をくらのやまの なにはさはらし
大中臣能宣
3-拾遺196秋きりのたたまくをしき山ちかなもみちの錦おりつもりつつ
あききりの たたまくをしき やまちかな もみちのにしき おりつもりつつ
読人しらす
3-拾遺197水のあやに紅葉の鏡かさねつつ河せに浪のたたぬ日そなき
みつのあやに もみちのにしき かさねつつ かはせになみの たたぬひそなき
健守法師
3-拾遺198名をきけは昔なからの山なれとしくるる秋は色まさりけり
なをきけは むかしなからの やまなれと しくるるあきは いろまさりけり
源順
3-拾遺199昨日よりけふはまされるもみちはのあすの色をは見てややみなん
きのふより けふはまされる もみちはの あすのいろをは みてややみなむ
恵慶法師
3-拾遺200もみち葉を手ことにをりてかへりなん風の心もうしろめたきに
もみちはを てことにをりて かへりなむ かせのこころも うしろめたきに
源延光
3-拾遺201枝なから見てをかへらんもみちははをらんほとにもちりもこそすれ
えたなから みてをかへらむ もみちはは をらむほとにも ちりもこそすれ
源兼光
3-拾遺202河霧のふもとをこめて立ちぬれはそらにそ秋の山は見えける
かはきりの ふもとをこめて たちぬれは そらにそあきの やまはみえける
深養父
3-拾遺203水うみに秋の山へをうつしてははたはりひろき錦とそ見る
みつうみに あきのやまへを うつしては はたはりひろき にしきとそみる
法橋観教
3-拾遺204今よりは紅葉のもとにやとりせしをしむに旅の日かすへぬへし
いまよりは もみちのもとに やとりせし をしむにたひの ひかすへぬへし
恵慶法師
3-拾遺205とふ人も今はあらしの山かせに人松虫のこゑそかなしき
とふひとも いまはあらしの やまかせに ひとまつむしの こゑそかなしき
読人知らず
3-拾遺206ちりぬへき山の紅葉を秋きりのやすくも見せす立ちかくすらん
ちりぬへき やまのもみちを あききりの やすくもみせす たちかくすらむ
紀貫之
3-拾遺207秋山のあらしのこゑをきく時はこのはならねと物そかなしき
あきやまの あらしのこゑを きくときは このはならねと ものそかなしき
僧正遍昭
3-拾遺208あきの夜に雨ときこえてふる物は風にしたかふ紅葉なりけり
あきのよに あめときこえて ふるものは かせにしたかふ もみちなりけり
紀貫之
3-拾遺209心もてちらんたにこそをしからめなとか紅葉に風の吹くらん
こころもて ちらむたにこそ をしからめ なとかもみちに かせのふくらむ
紀貫之
3-拾遺210あさまたき嵐の山のさむけれは紅葉の錦きぬ人そなき
あさまたき あらしのやまの さむけれは もみちのにしき きぬひとそなき
藤原公任
3-拾遺211秋きりの峯にもをにもたつ山はもみちの錦たまらさりけり
あききりの みねにもをにも たつやまは もみちのにしき たまらさりけり
大中臣能宣
3-拾遺212いろいろのこのはなかるる大井河しもは桂のもみちとや見ん
いろいろの このはなかるる おほゐかは しもはかつらの もみちとやみむ
壬生忠岑
3-拾遺213まねくとて立ちもとまらぬ秋ゆゑにあはれかたよる花すすきかな
まねくとて たちもとまらぬ あきゆゑに あはれかたよる はなすすきかな
曾禰好忠
3-拾遺214くれてゆく秋のかたみにおく物はわかもとゆひのしもにそ有りける
くれてゆく あきのかたみに おくものは わかもとゆひの しもにそありける
平兼盛
3-拾遺215あしひきの山かきくもりしくるれと紅葉はいととてりまさりけり
あしひきの やまかきくもり しくるれと もみちはいとと てりまさりけり
紀貫之
3-拾遺216綱代木にかけつつ洗ふ唐錦日をへてよする紅葉なりけり
あしろきに かけつつあらふ からにしき ひをへてよする もみちなりけり
読人知らず
3-拾遺217かきくらししくるるそらをなかめつつ思ひこそやれ神なひのもり
かきくらし しくるるそらを なかめつつ おもひこそやれ かみなひのもり
紀貫之
3-拾遺218神な月時雨しぬらしくすのはのうらこかるねに鹿もなくなり
かみなつき しくれしぬらし くすのはの うちこかるねに しかもなくなり
読人知らず
3-拾遺219竜田河もみち葉なかる神なひのみむろの山に時雨ふるらし
たつたかは もみちはなかる かみなひの みむろのやまに しくれふるらし
柿本人麻呂(人麿)
3-拾遺220唐錦枝にひとむらのこれるは秋のかたみをたたぬなりけり
からにしき えたにひとむら のこれるは あきのかたみを たたぬなりけり
僧正遍昭
3-拾遺221流れくるもみち葉見れはからにしき滝のいともておれるなりけり
なかれくる もみちはみれは からにしき たきのいともて おれるなりけり
紀貫之
3-拾遺222時雨ゆゑかつくたもとをよそ人はもみちをはらふ袖かとや見ん
しくれゆゑ かつくたもとを よそひとは もみちをはらふ そてかとやみむ
平兼盛
3-拾遺223あしのはにかくれてすみしつのくにのこやもあらはに冬はきにけり
あしのはに かくれてすみし つのくにの こやもあらはに ふゆはきにけり
源重之
3-拾遺224思ひかねいもかりゆけは冬の夜の河風さむみちとりなくなり
おもひかね いもかりゆけは ふゆのよの かはかせさむみ ちとりなくなり
紀貫之
3-拾遺225ひねもすに見れともあかぬもみちははいかなる山の嵐なるらん
ひねもすに みれともあかぬ もみちはは いかなるやまの あらしなるらむ
読人知らず
3-拾遺226夜をさむみねさめてきけはをしとりの浦山しくもみなるなるかな
よをさむみ ねさめてきけは をしとりの うらやましくも みなるなるかな
読人知らず
3-拾遺227水鳥のしたやすからぬ思ひにはあたりの水もこほらさりけり
みつとりの したやすからぬ おもひには あたりのみつも こほらさりけり
読人知らず
3-拾遺228夜をさむみねさめてきけはをしそなく払ひもあへす霜やおくらん
よをさむみ ねさめてきけは をしそなく はらひもあへす しもやおくらむ
読人知らず
3-拾遺229霜のうへにふるはつゆきのあさ氷とけすも物を思ふころかな
しものうへに ふるはつゆきの あさこほり とけすもものを おもふころかな
読人知らず
3-拾遺230しもおかぬ袖たにさゆる冬の夜にかものうはけを思ひこそやれ
しもおかぬ そてたにさゆる ふゆのよに かものうはけを おもひこそやれ
藤原公任
3-拾遺231池水や氷とくらむあしかもの夜ふかくこゑのさわくなるかな
いけみつや こほりとくらむ あしかもの よふかくこゑの さわくなるかな
たちはなのゆきより
3-拾遺232とひかよふをしのはかせのさむけれは池の氷そさえまさりける
とひかよふ をしのはかせの さむけれは いけのこほりそ さえまさりける
紀友則
3-拾遺233水のうへに思ひしものを冬の夜の氷は袖の物にそ有りける
みつのうへに おもひしものを ふゆのよの こほりはそての ものにそありける
読人知らず
3-拾遺234ふしつけしよとの渡をけさ見れはとけんこもなく氷しにけり
ふしつけし よとのわたりを けさみれは とけむこもなく こほりしにけり
平兼盛
3-拾遺235冬さむみこほらぬ水はなけれとも吉野のたきはたゆるよもなし
ふゆさむみ こほらぬみつは なけれとも よしののたきは たゆるよもなし
読人知らず
3-拾遺236ふゆされは嵐のこゑもたかさこの松につけてそきくへかりける
ふゆされは あらしのこゑも たかさこの まつにつけてそ きくへかりける
大中臣能宣
3-拾遺237高砂の松にすむつる冬くれはをのへの霜やおきまさるらん
たかさこの まつにすむつる ふゆくれは をのへのしもや おきまさるらむ
清原元輔
3-拾遺238ゆふされはさほのかはらの河きりに友まとはせる千鳥なくなり
ゆふされは さほのかはらの かはきりに ともまとはせる ちとりなくなり
紀友則
3-拾遺239浦ちかくふりくる雪はしら浪の末の松山こすかとそ見る
うらちかく ふりくるゆきは しらなみの すゑのまつやま こすかとそみる
柿本人麻呂(人麿)
3-拾遺240冬の夜の池の氷のさやけきは月の光のみかくなりけり
ふゆのよの いけのこほりの さやけきは つきのひかりの みかくなりけり
清原元輔
3-拾遺241ふゆの池のうへは氷にとちられていかてか月のそこに入るらん
ふゆのいけの うへはこほりに とちられて いかてかつきの そこにいるらむ
読人知らず
3-拾遺242あまの原そらさへさえや渡るらん氷と見ゆる冬の夜の月
あまのはら そらさへさえや わたるらむ こほりとみゆる ふゆのよのつき
恵慶法師
3-拾遺243宮こにてめつらしと見るはつ雪はよしのの山にふりやしぬらん
みやこにて めつらしとみる はつゆきは よしののやまに ふりやしぬらむ
源景明
3-拾遺244ふるほともはかなく見ゆるあはゆきのうら山しくも打ちとくるかな
ふるほとも はかなくみゆる あはゆきの うらやましくも うちとくるかな
清原元輔
3-拾遺245あしひきの山ゐにふれる白雪はすれる衣の心地こそすれ
あしひきの やまゐにふれる しらゆきは すれるころもの ここちこそすれ
伊勢
3-拾遺246よるならは月とそ見ましわかやとの庭しろたへにふれるしらゆき
よるならは つきとそみまし わかやとの にはしろたへに ふれるしらゆき
紀貫之
3-拾遺247わかやとの雪につけてそふるさとのよしのの山は思ひやらるる
わかやとの ゆきにつけてそ ふるさとの よしののやまは おもひやらるる
大中臣能宣
3-拾遺248我ひとりこしの山ちにこしかとも雪ふりにける跡を見るかな
われひとり こしのやまちに こしかとも ゆきふりにける あとをみるかな
藤原佐忠
3-拾遺249年ふれはこしのしら山おいにけりおほくの冬の雪つもりつつ
としふれは こしのしらやま おいにけり おほくのふゆの ゆきつもりつつ
壬生忠見
3-拾遺250見わたせは松のはしろきよしの山いくよつもれる雪にかあるらん
みわたせは まつのはしろき よしのやま いくよつもれる ゆきにかあるらむ
平兼盛
3-拾遺251山さとは雪ふりつみて道もなしけふこむ人をあはれとは見む
やまさとは ゆきふりつみて みちもなし けふこむひとを あはれとはみむ
平兼盛
3-拾遺252あしひきの山ちもしらすしらかしの枝にもはにも雪のふれれは
あしひきの やまちもしらす しらかしの えたにもはにも ゆきのふれれは
柿本人麻呂(人麿)
3-拾遺253白雪のふりしく時はみよしのの山した風に花そちりける
しらゆきの ふりしくときは みよしのの やましたかせに はなそちりける
紀貫之
3-拾遺254人しれす春をこそまてはらふへき人なきやとにふれるしらゆき
ひとしれす はるをこそまて はらふへき ひとなきやとに ふれるしらゆき
平兼盛
3-拾遺255あたらしきはるさへちかくなりゆけはふりのみまさる年の雪かな
あたらしき はるさへちかく なりゆけは ふりのみまさる としのゆきかな
大中臣能宣
3-拾遺256梅かえにふりつむ雪はひととせにふたたひさける花かとそ見る
うめかえに ふりつむゆきは ひととせに ふたたひさける はなかとそみる
藤原公任
3-拾遺257おきあかす霜とともにやけさはみな冬の夜ふかきつみもけぬらん
おきあかす しもとともにや けさはみな ふゆのよふかき つみもけぬらむ
大中臣能宣
3-拾遺258年の内につもれるつみはかきくらしふる白雪とともにきえなん
としのうちに つもれるつみは かきくらし ふるしらゆきと ともにきえなむ
紀貫之
3-拾遺259雪ふかき山ちになににかへるらん春まつ花のかけにとまらて
ゆきふかき やまちになにに かへるらむ はるまつはなの かけにとまらて
大中臣能宣
3-拾遺260人はいさをかしやすらん冬くれは年のみつもるゆきとこそ見れ
ひとはいさ をかしやすらむ ふゆくれは としのみつもる ゆきとこそみれ
平兼盛
3-拾遺261かそふれはわか身につもる年月を送り迎ふとなにいそくらん
かそふれは わかみにつもる としつきを おくりむかふと なにいそくらむ
平兼盛
3-拾遺262ゆきつもるおのか年をはしらすしてはるをはあすときくそうれしき
ゆきつもる おのかとしをは しらすして はるをはあすと きくそうれしき
源重之
3-拾遺263よろつ世の始とけふをいのりおきて今行末は神そしるらん
よろつよの はしめとけふを いのりおきて いまゆくすゑは かみそしるらむ
藤原朝忠
3-拾遺264ちはやふるひらのの松の枝しけみ千世もやちよも色はかはらし
ちはやふる ひらののまつの えたしけみ ちよもやちよも いろはかはらし
大中臣能宣
3-拾遺265かまふののたまのを山にすむつるの千とせは君かみよのかすなり
かまふのの たまのをやまに すむつるの ちとせはきみか みよのかすなり
読人知らず
3-拾遺266あさまたききりふのをかにたつきしは千世の日つきの始なりけり
あさまたき きりふのをかに たつきしは ちよのひつきの はしめなりけり
清原元輔
3-拾遺267ふたはよりたのもしきかなかすか山こたかき松のたねそとおもへは
ふたはより たのもしきかな かすかやま こたかきまつの たねそとおもへは
大中臣能宣
3-拾遺268君かへむやほよろつ世をかそふれはかつかつけふそなぬかなりける
きみかへむ やほよろつよを かそふれは かつかつけふそ なぬかなりける
大中臣能宣
3-拾遺269ことしおひの松はなぬかになりにけりのこりの程を思ひこそやれ
ことしおひの まつはなぬかに なりにけり のこりのほとを おもひこそやれ
平兼盛
3-拾遺270千とせともかすはさためす世の中に限なき身と人もいふへく
ちとせとも かすはさためす よのなかに かきりなきみと ひともいふへく
大中臣能宣
3-拾遺271老いぬれはおなし事こそせられけれきみはちよませきみはちよませ
おいぬれは おなしことこそ せられけれ きみはちよませ きみはちよませ
源順
3-拾遺272ゆひそむるはつもとゆひのこむらさき衣の色にうつれとそ思ふ
ゆひそむる はつもとゆひの こむらさき ころものいろに うつれとそおもふ
大中臣能宣
3-拾遺273山しなの山のいはねに松をうゑてときはかきはにいのりつるかな
やましなの やまのいはねに まつをうゑて ときはかきはに いのりつるかな
平兼盛
3-拾遺274声たかくみかさの山そよはふなるあめのしたこそたのしかるらし
こゑたかく みかさのやまそ よはふなる あめのしたこそ たのしかるらし
仲算法師
3-拾遺275色かへぬ松と竹とのすゑの世をいつれひさしと君のみそ見む
いろかへぬ まつとたけとの すゑのよを いつれひさしと きみのみそみむ
斎宮内侍
3-拾遺276ひとふしに千世をこめたる杖なれはつくともつきし君かよはひは
ひとふしに ちよをこめたる つゑなれは つくともつきし きみかよはひは
大中臣頼基
3-拾遺277君か世をなににたとへんさされいしのいはほとならんほともあかねは
きみかよを なににたとへむ さされいしの いはほとならむ ほともあかねは
清原元輔
3-拾遺278あをやきの緑の糸をくり返しいくらはかりのはるをへぬらん
あをやきの みとりのいとを くりかへし いくらはかりの はるをへぬらむ
清原元輔
3-拾遺279わかやとにさけるさくらの花さかりちとせ見るともあかしとそ思ふ
わかやとに さけるさくらの はなさかり ちとせみるとも あかしとそおもふ
平兼盛
3-拾遺280君かためけふきる竹の杖なれはまたもつきせぬ世世そこもれる
きみかため けふきるたけの つゑなれは またもつきせぬ よよそこもれる
大中臣能宣
3-拾遺281位山峯まてつける杖なれと今よろつよのさかのためなり
くらゐやま みねまてつける つゑなれと いまよろつよの さかのためなり
大中臣能宣
3-拾遺282吹く風によその紅葉はちりくれと君かときはの影そのとけき
ふくかせに よそのもみちは ちりくれと きみかときはの かけそのとけき
小野好古
3-拾遺283よろつ世も猶こそあかね君かため思ふ心のかきりなけれは
よろつよも なほこそあかね きみかため おもふこころの かきりなけれは
源公忠
3-拾遺284おほそらにむれたるたつのさしなから思ふ心のありけなるかな
おほそらに むれたるたつの さしなから おもふこころの ありけなるかな
伊勢
3-拾遺285春の野のわかなならねときみかため年のかすをもつまんとそ思ふ
はるののの わかなならねと きみかため としのかすをも つまむとそおもふ
伊勢
3-拾遺286さくら花今夜かさしにさしなからかくてちとせの春をこそへめ
さくらはな こよひかさしに さしなから かくてちとせの はるをこそへめ
九条右大臣
3-拾遺287かつ見つつちとせの春をすくすともいつかは花の色にあくへき
かつみつつ ちとせのはるを すくすとも いつかははなの いろにあくへき
読人知らず
3-拾遺288みちとせになるてふもものことしより花さく春にあひにけるかな
みちとせに なるてふももの ことしより はなさくはるに あひにけるかな
凡河内躬恒
3-拾遺289めつらしきちよのはしめの子の日にはまつけふをこそひくへかりけれ
めつらしき ちよのはしめの ねのひには まつけふをこそ ひくへかりけれ
藤原のふかた
3-拾遺290ゆくすゑも子の日の松のためしには君かちとせをひかむとそ思ふ
ゆくすゑも ねのひのまつの ためしには きみかちとせを ひかむとそおもふ
三条太政大臣
3-拾遺291松をのみときはと思ふに世とともになかす泉もみとりなりけり
まつをのみ ときはとおもふに よとともに なかすいつみも みとりなりけり
紀貫之
3-拾遺292みな月のなこしのはらへする人は千とせのいのちのふといふなり
みなつきの なこしのはらへ するひとは ちとせのいのち のふといふなり
読人知らず
3-拾遺293みそきして思ふ事をそ祈りつるやほよろつよの神のまにまに
みそきして おもふことをそ いのりつる やほよろつよの かみのまにまに
藤原伊衡
3-拾遺294よろつ世にかはらぬ花の色なれはいつれの秋かきみか見さらん
よろつよに かはらぬはなの いろなれは いつれのあきか きみかみさらむ
藤原実頼
3-拾遺295ちとせとそ草むらことにきこゆなるこや松虫のこゑにはあるらん
ちとせとそ くさむらことに きこゆなる こやまつむしの こゑにはあるらむ
平兼盛
3-拾遺296たか年のかすとかは見むゆきかへり千鳥なくなるはまのまさこを
たかとしの かすとかはみむ ゆきかへり ちとりなくなる はまのまさこを
紀貫之
3-拾遺297おひそむるねよりそしるきふえ竹のすゑの世なかくならん物とは
おひそむる ねよりそしるき ふえたけの すゑのよなかく ならむものとは
大中臣能宣
3-拾遺298千とせともなにかいのらんうらにすむたつのうへをそ見るへかりける
ちとせとも なにかいのらむ うらにすむ たつのうへをそ みるへかりける
伊勢
3-拾遺299きみか世はあまのは衣まれにきてなつともつきぬいはほならなん
きみかよは あまのはころも まれにきて なつともつきぬ いはほならなむ
読人知らず
3-拾遺300うこきなきいはほのはてもきみそ見むをとめのそてのなてつくすまて
うこきなき いはほのはても きみそみむ をとめのそての なてつくすまて
清原元輔
3-拾遺301春霞たつあか月を見るからに心そそらになりぬへらなる
はるかすみ たつあかつきを みるからに こころそそらに なりぬへらなる
読人知らず
3-拾遺302さくら花つゆにぬれたるかほみれはなきて別れし人そこひしき
さくらはな つゆにぬれたる かほみれは なきてわかれし ひとそこひしき
読人知らず
3-拾遺303ちる花は道見えぬまてうつまなんわかるる人もたちやとまると
ちるはなは みちみえぬまて うつまなむ わかるるひとも たちやとまると
読人知らず
3-拾遺304かりかねの帰るをきけはわかれちは雲井はるかに思ふはかりそ
かりかねの かへるをきけは わかれちは くもゐはるかに おもふはかりそ
曾禰好忠
3-拾遺305夏衣たちわかるへき今夜こそひとへにをしき思ひそひぬれ
なつころも たちわかるへき こよひこそ ひとへにをしき おもひそひぬれ
村上院
3-拾遺306わするなよわかれちにおふるくすのはの秋風ふかは今帰りこむ
わするなよ わかれちにおふる くすのはの あきかせふかは いまかへりこむ
読人知らず
3-拾遺307別てふ事は誰かは始めけんくるしき物としらすやありけん
わかれてふ ことはたれかは はしめけむ くるしきものと しらすやありけむ
読人知らず
3-拾遺308時しもあれ秋しも人のわかるれはいととたもとそつゆけかりける
ときしもあれ あきしもひとの わかるれは いととたもとそ つゆけかりける
読人知らず
3-拾遺309君か世を長月とたにおもはすはいかに別のかなしからまし
きみかよを なかつきとたに おもはすは いかにわかれの かなしからまし
村上院
3-拾遺310露にたにあてしと思ひし人しもそ時雨ふるころたひにゆきける
つゆにたに あてしとおもひし ひとしもそ しくれふるころ たひにゆきける
壬生忠見
3-拾遺311わかれちをへたつる雲のためにこそ扇の風をやらまほしけれ
わかれちを へたつるくもの ためにこそ あふきのかせを やらまほしけれ
大中臣能宣
3-拾遺312別れてはあはむあはしそ定なきこのゆふくれや限なるらん
わかれては あはむあはしそ さためなき このゆふくれや かきりなるらむ
読人知らず
3-拾遺313わかれちはこひしき人のふみなれややらてのみこそ見まくほしけれ
わかれちは こひしきひとの ふみなれや やらてのみこそ みまくほしけれ
読人知らず
3-拾遺314別れゆくけふはまとひぬあふさかは帰りこむ日のなにこそ有りけれ
わかれゆく けふはまとひぬ あふさかは かへりこむひの なにこそありけれ
紀貫之
3-拾遺315ゆくすゑのいのちもしらぬ別ちはけふ相坂やかきりなるらん
ゆくすゑの いのちもしらぬ わかれちは けふあふさかや かきりなるらむ
大中臣能宣
3-拾遺316惜むともなきものゆゑにしかすかの渡ときけはたたならぬかな
をしむとも なきものゆゑに しかすかの わたりときけは たたならぬかな
赤染衛門
3-拾遺317もろともにゆかぬみかはのやつはしはこひしとのみや思ひわたらん
もろともに ゆかぬみかはの やつはしは こひしとのみや おもひわたらむ
源のよしたねの妻
3-拾遺318別ちはわたせるはしもなきものをいかてかつねにこひ渡るへき
わかれちは わたせるはしも なきものを いかてかつねに こひわたるへき
源順
3-拾遺319月影はあかす見るともさらしなの山のふもとになかゐすな君
つきかけは あかすみるとも さらしなの やまのふもとに なかゐすなきみ
紀貫之
3-拾遺320わかるれは心をのみそつくしくしさしてあふへきほとをしらねは
わかるれは こころをのみそ つくしくし さしてあふへき ほとをしらねは
村上院
3-拾遺321ゆく人をととめかたみのから衣たつよりそてのつゆけかるらん
ゆくひとを ととめかたみの からころも たつよりそての つゆけかるらむ
読人知らず
3-拾遺322をしむともかたしやわかれ心なる涙をたにもえやはととむる
をしむとも かたしやわかれ こころなる なみたをたにも えやはととむる
御めのと少納言
3-拾遺323あつまちの草はをわけん人よりもおくるる袖そまつはつゆけき
あつまちの くさはをわけむ ひとよりも おくるるそてそ まつはつゆけき
女蔵人参河
3-拾遺324わかるれはまつ涙こそさきにたていかておくるる袖のぬるらん
わかるれは まつなみたこそ さきにたて いかておくるる そてのぬるらむ
読人知らず
3-拾遺325わかるるををしとそ思ふつる木はの身をよりくたく心ちのみして
わかるるを をしとそおもふ つるきはの みをよりくたく ここちのみして
読人知らず
3-拾遺326旅人の露はらふへき唐衣またきも袖のぬれにけるかな
たひひとの つゆはらふへき からころも またきもそての ぬれにけるかな
三条太皇太后宮
3-拾遺327あまたにはぬひかさねねと唐衣思ふ心はちへにそありける
あまたには ぬひかさねねと からころも おもふこころは ちへにそありける
紀貫之
3-拾遺328とほくゆく人のためにはわかそての涙の玉もをしからなくに
とほくゆく ひとのためには わかそての なみたのたまも をしからなくに
紀貫之
3-拾遺329惜むとてとまる事こそかたからめわか衣手をほしてたにゆけ
をしむとて とまることこそ かたからめ わかころもてを ほしてたにゆけ
読人知らず
3-拾遺330糸による物ならなくにわかれちは心ほそくもおもほゆるかな
いとによる ものならなくに わかれちは こころほそくも おもほゆるかな
紀貫之
3-拾遺331かめ山にいくくすりのみ有りけれはととむる方もなき別かな
かめやまに いくくすりのみ ありけれは ととむるかたも なきわかれかな
戒秀法師
3-拾遺332思ふ人ある方へゆくわかれちを惜む心そかつはわりなき
おもふひと あるかたへゆく わかれちを をしむこころそ かつはわりなき
藤原清正
3-拾遺333いかはかり思ふらむとか思ふらんおいてわかるるとほきわかれを
いかはかり おもふらむとか おもふらむ おいてわかるる とほきわかれを
清原元輔
3-拾遺334君はよし行末とほしとまる身のまつほといかかあらむとすらん
きみはよし ゆくすゑとほし とまるみの まつほといかか あらむとすらむ
源満中
3-拾遺335おくれゐてわかこひをれは白雲のたなひく山をけふやこゆらん
おくれゐて わかこひをれは しらくもの たなひくやまを けふやこゆらむ
読人知らず
3-拾遺336命をそいかならむとは思ひこしいきてわかるる世にこそ有りけれ
いのちをそ いかならむとは おもひこし いきてわかるる よにこそありけれ
右衛門
3-拾遺337昔見しいきの松原事とははわすれぬ人も有りとこたへよ
むかしみし いきのまつはら こととはは わすれぬひとも ありとこたへよ
橘倚平
3-拾遺338たけくまの松を見つつやなくさめん君かちとせの影にならひて
たけくまの まつをみつつや なくさめむ きみかちとせの かけにならひて
藤原為順
3-拾遺339たよりあらはいかて宮こへつけやらむけふ白河の関はこえぬと
たよりあらは いかてみやこへ つけやらむ けふしらかはの せきはこえぬと
平兼盛
3-拾遺340あつまちのこのしたくらくなりゆかは宮この月をこひさらめやは
あつまちの このしたくらく なりゆかは みやこのつきを こひさらめやは
藤原公任
3-拾遺341たひゆかはそてこそぬるれもる山のしつくにのみはおほせさらなん
たひゆかは そてこそぬるれ もるやまの しつくにのみは おほせさらなむ
読人知らず
3-拾遺342しほみてるほとにゆきかふ旅人やはまなのはしとなつけそめけん
しほみてる ほとにゆきかふ たひひとや はまなのはしと なつけそめけむ
平兼盛
3-拾遺343雨によりたみののしまをわけゆけと名にはかくれぬ物にそ有りける
あめにより たみののしまを わけゆけと なにはかくれぬ ものにそありける
紀貫之
3-拾遺344郭公ねくらなからのこゑきけは草の枕そつゆけかりける
ほとときす ねくらなからの こゑきけは くさのまくらそ つゆけかりける
伊勢
3-拾遺345草枕我のみならすかりかねもたひのそらにそなき渡るなる
くさまくら われのみならす かりかねも たひのそらにそ なきわたるなる
大中臣能宣
3-拾遺346君をのみこひつつたひの草枕つゆしけからぬあか月そなき
きみをのみ こひつつたひの くさまくら つゆしけからぬ あかつきそなき
読人知らず
3-拾遺347はるかなるたひのそらにもおくれねはうら山しきは秋のよの月
はるかなる たひのそらにも おくれねは うらやましきは あきのよのつき
平兼盛
3-拾遺348をみなへし我にやとかせいなみののいなといふともここをすきめや
をみなへし われにやとかせ いなみのの いなといふとも ここをすきめや
大中臣能宣
3-拾遺349ふなちには草の枕もむすはねはおきなからこそ夢も見えけれ
ふなちには くさのまくらも むすはねは おきなからこそ ゆめもみえけれ
源重之
3-拾遺350思ひいてもなきふるさとの山なれとかくれゆくはたあはれなりけり
おもひいても なきふるさとの やまなれと かくれゆくはた あはれなりけり
弓削嘉言
3-拾遺351君かすむやとのこすゑのゆくゆくとかくるるまてにかへりみしはや
きみかすむ やとのこすゑの ゆくゆくと かくるるまてに かへりみしはや
贈太政大臣
3-拾遺352浪のうへに見えしこしまのしまかくれゆくそらもなしきみにわかれて
なみのうへに みえしこしまの しまかくれ ゆくそらもなし きみにわかれて
かなをか
3-拾遺353あまとふやかりのつかひにいつしかもならのみやこにことつてやらん
あまとふや かりのつかひに いつしかも ならのみやこに ことつてやらむ
柿本人麻呂(人麿)
3-拾遺354うくひすのすつくる枝を折りつれはこうはいかてかうまむとすらん
うくひすの すつくるえたを をりつれは こをはいかてか うまむとすらむ
読人知らず物名
3-拾遺355花の色をあらはにめてはあためきぬいさくらやみになりてかささむ
はなのいろを あらはにめては あためきぬ いさくらやみに なりてかささむ
読人知らず物名
3-拾遺356たひのいはやなきとこにもねられけり草の枕につゆはおけとも
たひのいは やなきとこにも ねられけり くさのまくらに つゆはおけとも
藤原輔相物名
3-拾遺357なくこゑはあまたすれとも鴬にまさるとりのはなくこそ有りけれ
なくこゑは あまたすれとも うくひすに まさるとりのは なくこそありけれ
藤原輔相物名
3-拾遺358わたつ海のおきなかにひのはなれいててもゆと見ゆるはあまのいさりか
わたつうみの おきなかにひの はなれいてて もゆとみゆるは あまのいさりか
伊勢物名
3-拾遺359こき色かいつはたうすくうつろはむ花に心もつけさらんかも
こきいろか いつはたうすく うつろはむ はなにこころも つけさらむかも
読人知らず物名
3-拾遺360紫の色にはさくなむさしのの草のゆかりと人もこそ見れ
むらさきの いろにはさくな むさしのの くさのゆかりと ひともこそみれ
藤原高光物名
3-拾遺361うゑて見る君たにしらぬ花の名を我しもつけん事のあやしさ
うゑてみる きみたにしらぬ はなのなを われしもつけむ ことのあやしさ
読人知らず物名
3-拾遺362河かみに今よりうたむあしろにはまつもみちはやよらむとすらん
かはかみに いまよりうたむ あしろには まつもみちはや よらむとすらむ
読人知らず物名
3-拾遺363あた人のまかきちかうな花うゑそにほひもあへす折りつくしけり
あたひとの まかきちかうな はなうゑそ にほひもあへす をりつくしけり
読人知らず物名
3-拾遺364わかやとの花の葉にのみぬるてふのいかなるあさかほかよりはくる
わかやとの はなのはにのみ ぬるてふの いかなるあさか ほかよりはくる
読人知らず物名
3-拾遺365忘れにし人のさらにもこひしきかむけにこしとは思ふものから
わすれにし ひとのさらにも こひしきか むけにこしとは おもふものから
読人知らず物名
3-拾遺366秋ののに花てふ花を折りつれはわひしらにこそ虫もなきけれ
あきののに はなてふはなを をりつれは わひしらにこそ むしもなきけれ
読人知らず物名
3-拾遺367白露のかかるかやかてきえさらは草はそたまのくしけならまし
しらつゆの かかるかやかて きえさらは くさはそたまの くしけならまし
壬生忠岑物名
3-拾遺368山河はきのはなかれすあさきせをせけはふちとそ秋はなるらん
やまかはは きのはなかれす あさきせを せけはふちとそ あきはなるらむ
壬生忠岑物名
3-拾遺369たきつせのなかにたまつむしらなみは流るる水ををにそぬきける
たきつせの なかにたまつむ しらなみは なかるるみつを をにそぬきける
壬生忠岑物名
3-拾遺370今こむといひて別れしあしたよりおもひくらしのねをのみそなく
いまこむと いひてわかれし あしたより おもひくらしの ねをのみそなく
壬生忠岑物名
3-拾遺371そま人は宮木ひくらしあしひきの山の山ひこ声とよむなり
そまひとは みやきひくらし あしひきの やまのやまひこ こゑとよむなり
紀貫之物名
3-拾遺372松のねは秋のしらへにきこゆなりたかくせめあけて鳥そひくらし
まつのねは あきのしらへに きこゆなり たかくせめあけて かせそひくらし
紀貫之物名
3-拾遺373あたなりとひともときくるのへしもそ花のあたりをすきかてにする
あたなりと ひともときくる ものしもそ はなのあたりを すきかてにする
藤原輔相物名
3-拾遺374鴬のすはうこけともぬしもなし風にまかせていつちいぬらん
うくひすの すはうこけとも ぬしもなし かせにまかせて いつちいぬらむ
藤原輔相物名
3-拾遺375ふるみちに我やまとはむいにしへの野中の草はしけりあひにけり
ふるみちに われやまとはむ いにしへの のなかのくさは しけりあひにけり
藤原輔相物名
3-拾遺376すみよしのをかの松かささしつれは雨はふるともいなみのはきし
すみよしの をかのまつかさ さしつれは あめはふるとも いなみのはきし
藤原輔相物名
3-拾遺377白浪のうちかくるすのかわかぬにわかたもとこそおとらさりけれ
しらなみの うちかくるすの かわかぬに わかたもとこそ おとらさりけれ
藤原輔相物名
3-拾遺378水もなく舟もかよはぬこのしまにいかてかあまのなまめかるらん
みつもなく ふねもかよはぬ このしまに いかてかあまの なまめかるらむ
藤原輔相物名
3-拾遺379うゑていにし人もみなくに秋はきのたれ見よとかは花のさきけむ
うゑていにし ひともみなくに あきはきの たれみよとかは はなのさきけむ
在原元方物名
3-拾遺380あしひきの山辺にをれは白雲のいかにせよとかはるる時なき
あしひきの やまへにをれは しらくもの いかにせよとか はるるときなき
紀貫之物名
3-拾遺381つくしよりここまてくれとつともなしたちのをかはのはしのみそある
つくしより ここまてくれと つともなし たちのをかはの はしのみそある
在原業平物名
3-拾遺382身をすてて山に入りにし我なれはくまのくらはむこともおほえす
みをすてて やまにいりにし われなれは くまのくらはむ こともおほえす
読人知らず物名
3-拾遺383鳥のこはまたひななからたちていぬかひの見ゆるはすもりなりけり
とりのこは またひななから たちていぬ かひのみゆるは すもりなりけり
読人知らず物名
3-拾遺384くきもはもみな緑なるふかせりはあらふねのみやしろく見ゆらん
くきもはも みなみとりなる ふかせりは あらふねのみや しろくみゆらむ
藤原輔相物名
3-拾遺385あたなりなとりのこほりにおりゐるはしたよりとくる事はしらぬか
あたなりな とりのこほりに おりゐるは したよりとくる ことはしらぬか
源重之物名
3-拾遺386おほつかな雲のかよひち見てしかなとりのみゆけはあとはかもなし
おほつかな くものかよひち みてしかな とりのみゆけは あとはかもなし
平兼盛物名
3-拾遺387あかすしてわかれし人のすむさとはさはこの見ゆる山のあなたか
あかすして わかれしひとの すむさとは さはこのみゆる やまのあなたか
読人知らず物名
3-拾遺388かかり火の所さためす見えつるは流れつつのみたけはなりけり
かかりひの ところさためす みえつるは なかれつつのみ たけはなりけり
紀輔時物名
3-拾遺389神なひのみむろのきしやくつるらん竜田の河の水のにこれる
かみなひの みむろのきしや くつるらむ たつたのかはの みつのにこれる
高向草春物名
3-拾遺390いかりゐのいしをくくみてかみこしはきさのきにこそおとらさりけれ
いかりゐの いしをくくみて かみこしは きさのきにこそ おとらさりけれ
藤原輔相物名
3-拾遺391五月雨にならぬ限は郭公なにかはなかむしのふはかりに
さみたれに ならぬかきりは ほとときす なにかはなかむ しのふはかりに
仙慶法師物名
3-拾遺392心さしふかき時にはそこのももかつきいてぬる物にそ有りける
こころさし ふかきときには そこのもも かつきいてぬる ものにそありける
藤原輔相物名
3-拾遺393おもかけにしはしは見ゆる君なれと恋しき事そ時そともなき
おもかけに しはしはみゆる きみなれと こひしきことそ ときそともなき
読人知らず物名
3-拾遺394いにしへはおこれりしかとわひぬれはとねりかきぬも今はきつへし
いにしへは おこれりしかと わひぬれは とねりかきぬも いまはきつへし
藤原輔相物名
3-拾遺395池をはりこめたる水のおほかれはいひのくちよりあまるなるへし
いけをはり こめたるみつの おほかれは いひのくちより あまるなるへし
藤原輔相物名
3-拾遺396あしひきの山した水にぬれにけりその火まつたけ衣あふらん
あしひきの やましたみつに ぬれにけり そのひまつたけ ころもあふらむ
藤原輔相物名
3-拾遺397いとへともつらきかたみを見る時はまつたけからぬねこそなかるれ
いとへとも つらきかたみを みるときは まつたけからぬ ねこそなかるれ
藤原輔相物名
3-拾遺398山たかみ花の色をも見るへきににくくたちぬる春かすみかな
やまたかみ はなのいろをも みるへきに にくくたちぬる はるかすみかな
藤原輔相物名
3-拾遺399野を見れは春めきにけりあをつつらこにやくまましわかなつむへく
のをみれは はるめきにけり あをつつら こにやくままし わかなつむへく
藤原輔相物名
3-拾遺400いさりせしあまのをしへしいつくそやしまめくるとてありといひしは
いさりせし あまのをしへし いつくそや しまめくるとて ありといひしは
高岳相如物名
3-拾遺401河きしのをとりおるへき所あらはうきにしにせぬ身はなけてまし
かはきしの をとりおるへき ところあらは うきにしにせぬ みはなけてまし
藤原輔相物名
3-拾遺402もみちはに衣の色はしみにけり秋のやまからめくりこしまに
もみちはに ころものいろは しみにけり あきのやまから めくりこしまに
藤原輔相物名
3-拾遺403なにとかやくきのすかたはおもほえてあやしく花の名こそわするれ
なにとかや くきのすかたは おもほえて あやしくはなの なこそわするれ
藤原輔相物名
3-拾遺404わか心あやしくあたに春くれは花につく身となとてなりけん
わかこころ あやしくあたに はるくれは はなにつくみと なとてなりけむ
大伴黒主物名
3-拾遺405さく花に思ひつくみのあちきなさ身にいたつきのいるもしらすて
さくはなに おもひつくみの あちきなさ みにいたつきの いるもしらすて
大伴黒主物名
3-拾遺406なにはつはくらめにのみそ舟はつく朝の風のさためなけれは
なにはつは くらめにのみそ ふねはつく あしたのかせの さためなけれは
藤原輔相物名
3-拾遺407みよしのもわかなつむらんわきもこかひはらかすみて日かすへぬれは
みよしのも わかなつむらむ わきもこか ひはらかすみて ひかすへぬれは
清原元輔物名
3-拾遺408あしきぬはさけからみてそ人はきるひろやたらぬと思ふなるへし
あしきぬは さけからみてそ ひとはきる ひろやたらぬと おもふなるへし
藤原輔相物名
3-拾遺409雲まよひほしのあゆくと見えつるは蛍のそらにとふにそ有りける
くもまよひ ほしのあゆくと みえつるは ほたるのそらに とふにそありける
藤原輔相物名
3-拾遺410はしたかのをきゑにせんとかまへたるおしあゆかすなねすみとるへく
はしたかの をきゑにせむと かまへたる おしあゆかすな ねすみとるへく
藤原輔相物名
3-拾遺411わきもこか身をすてしよりさるさはの池のつつみやきみはこひしき
わきもこか みをすてしより さるさはの いけのつつみや きみはこひしき
藤原輔相物名
3-拾遺412この家はうるかいりても見てしかなあるしなからもかはんとそ思ふ
このいへは うるかいりても みてしかな あるしなからも かはむとそおもふ
源重之物名
3-拾遺413あつまにてやしなはれたる人のこはしたたみてこそ物はいひけれ
あつまにて やしなはれたる ひとのこは したたみてこそ ものはいひけれ
読人知らず物名
3-拾遺414春風のけさはやけれは鴬の花の衣もほころひにけり
はるかせの けさはやけれは うくひすの はなのころもも ほころひにけり
読人知らず物名
3-拾遺415霞わけいまかり帰る物ならは秋くるまてはこひやわたらん
かすみわけ いまかりかへる ものならは あきくるまては こひやわたらむ
読人知らず物名
3-拾遺416思ふとちところもかへすすみへなんたちはなれなはこひしかるへし
おもふとち ところもかへす すみへなむ たちはなれなは こひしかるへし
藤原輔相物名
3-拾遺417あしひきの山のこのはのおちくちはいろのをしきそあはれなりける
あしひきの やまのこのはの おちくちは いろのをしきそ あはれなりける
藤原輔相物名
3-拾遺418つのくにのなにはわたりにつくる田はあしかなへかとえこそ見わかね
つのくにの なにはわたりに つくるたは あしかなへかと えこそみわかね
藤原輔相物名
3-拾遺419たかかひのまたもこなくにつなきいぬのはなれていかむなくるまつほと
たかかひの またもこなくに つなきいぬの はなれてゆかむ なくるまつほと
藤原輔相物名
3-拾遺420ことそともききたにわかすわりなくも人のいかるかにけやしなまし
ことそとも ききたにわかす わりなくも ひとのいかるか にけやしなまし
凡河内躬恒物名
3-拾遺421年をへて君をのみこそねすみつれことはらにやはこをはうむへき
としをへて きみをのみこそ ねすみつれ ことはらにやは こをはうむへき
藤原輔相物名
3-拾遺422久方のつきのきぬをはきたれともひかりはそはぬわか身なりけり
ひさかたの つきのきぬをは きたれとも ひかりはそはぬ わかみなりけり
藤原輔相物名
3-拾遺423世とともにしほやくあまのたえせねはなきさのきのはこかれてそちる
よとともに しほやくあまの たえせねは なきさのきのは こかれてそちる
藤原輔相物名
3-拾遺424鴬のなかむしろには我そなく花のにほひやしはしとまると
うくひすの なかむしろには われそなく はなのにほひや しはしとまると
藤原輔相物名
3-拾遺425そこへうのかは浪わけていりぬるかまつほとすきて見えすもあるかな
そこへうの かはなみわけて いりぬるか まつほとすきて みえすもあるかな
藤原輔相物名
3-拾遺426かのかはのむかはきすきてふかからはわたらてたたにかへるはかりそ
かのかはの むかはきすきて ふかからは わたらてたたに かへるはかりそ
藤原輔相物名
3-拾遺427かのえさる舟まてしはし事とはんおきのしらなみまたたたぬまに
かのえさる ふねまてしはし こととはむ おきのしらなみ またたたぬまに
藤原輔相物名
3-拾遺428さをしかの友まとはせる声すなりつまやこひしき秋の山へに
さをしかの ともまとはせる こゑすなり つまやこひしき あきのやまへに
恵慶法師物名
3-拾遺429ひと夜ねてうしとらこそは思ひけめうきなたつみそわひしかりける
ひとよねて うしとらこそは おもひけめ うきなたつみそ わひしかりける
読人知らず物名
3-拾遺430むまれよりひつしつくれは山にさるひとりいぬるにひとゐていませ
うまれより ひつしつくれは やまにさる ひとりいぬるに ひとゐていませ
読人知らず物名
3-拾遺431秋風のよもの山よりおのかししふくにちりぬるもみちかなしな
あきかせの よものやまより おのかしし ふくにちりぬる もみちかなしな
藤原輔相物名
3-拾遺432世にふるに物思ふとしもなけれとも月にいくたひなかめしつらん
よにふるに ものおもふとしも なけれとも つきにいくたひ なかめしつらむ
具平親王雑上
3-拾遺433思ふ事有りとはなしに久方の月よとなれはねられさりけり
おもふこと ありとはなしに ひさかたの つきよとなれは ねられさりけり
紀貫之雑上
3-拾遺434なかむるに物思ふ事のなくさむは月はうき世の外よりやゆく
なかむるに ものおもふことの なくさむは つきはうきよの ほかよりやゆく
大江為基雑上
3-拾遺435かくはかりへかたく見ゆる世の中にうら山しくもすめる月かな
かくはかり へかたくみゆる よのなかに うらやましくも すめるつきかな
藤原高光雑上
3-拾遺436ありあけの月のひかりをまつほとにわか世のいたくふけにけるかな
ありあけの つきのひかりを まつほとに わかよのいたく ふけにけるかな
藤原仲文雑上
3-拾遺437くもゐにてあひかたらはぬ月たにもわかやとすきてゆく時はなし
くもゐにて あひかたらはぬ つきたにも わかやとすきて ゆくときはなし
伊勢雑上
3-拾遺438もち月のこまよりおそくいてつれはたとるたとるそ山はこえつる
もちつきの こまよりおそく いてつれは たとるたとるそ やまはこえつる
素性法師雑上
3-拾遺439つねよりもてりまさるかな山のはの紅葉をわけていつる月影
つねよりも てりまさるかな やまのはの もみちをわけて いつるつきかけ
紀貫之雑上
3-拾遺440久方のあまつそらなる月なれといつれの水に影やとるらん
ひさかたの あまつそらなる つきなれと いつれのみつに かけやとるらむ
凡河内躬恒雑上
3-拾遺441みなそこにやとる月たにうかへるを沈むやなにのみくつなるらん
みなそこに やとるつきたに うかへるを しつむやなにの みくつなるらむ
藤原済時雑上
3-拾遺442水のおもに月の沈むを見さりせは我ひとりとや思ひはてまし
みつのおもに つきのしつむを みさりせは われひとりとや おもひはてまし
式部大輔文時雑上
3-拾遺443年ことにたえぬ渡やつもりつついととふかくは身をしつむらん
としことに たえぬなみたや つもりつつ いととふかくは みをしつむらむ
清原元輔雑上
3-拾遺444ほともなく泉はかりに沈む身はいかなるつみのふかきなるらん
ほともなく いつみはかりに しつむみは いかなるつみの ふかきなるらむ
源順雑上
3-拾遺445おとは河せきいれておとすたきつせに人の心の見えもするかな
おとはかは せきいれておとす たきつせに ひとのこころの みえもするかな
伊勢雑上
3-拾遺446君かくるやとにたえせぬたきのいとはへて見まほしき物にそ有りける
きみかくる やとにたえせぬ たきのいと はへてみまほしき ものにそありける
中務雑上
3-拾遺447なかれくる滝のしらいとたえすしていくらの玉の緒とかなるらん
なかれくる たきのしらいと たえすして いくらのたまの をとかなるらむ
紀貫之雑上
3-拾遺448流れくるたきのいとこそよわからしぬけとみたれておつる白玉
なかれくる たきのいとこそ よわからし ぬけとみたれて おつるしらたま
紀貫之雑上
3-拾遺449たきの糸はたえてひさしく成りぬれと名こそ流れて猶きこえけれ
たきのいとは たえてひさしく なりぬれと なこそなかれて なほきこえけれ
藤原公任雑上
3-拾遺450おほそらをなかめそくらす吹く風のおとはすれともめにも見えねは
おほそらを なかめそくらす ふくかせの おとはすれとも めにもみえねは
凡河内躬恒雑上
3-拾遺451ことのねに峯の松風かよふらしいつれのをよりしらへそめけん
ことのねに みねのまつかせ かよふらし いつれのをより しらへそめけむ
承香殿女御雑上
3-拾遺452松風のおとにみたるることのねをひけは子の日の心地こそすれ
まつかせの おとにみたるる ことのねを ひけはねのひの ここちこそすれ
承香殿女御雑上
3-拾遺453をのへなる松のこすゑは打ちなひき浪の声にそ風もふきける
をのへなる まつのこすゑは うちなひき なみのこゑにそ かせもふきける
壬生忠見雑上
3-拾遺454雨ふると吹く松風はきこゆれと池のみきははまさらさりけり
あめふると ふくまつかせは きこゆれと いけのみきはは まさらさりけり
紀貫之雑上
3-拾遺455大井河かはへの松に事とはむかかるみゆきやありし昔も
おほゐかは かはへのまつに こととはむ かかるみゆきや ありしむかしも
紀貫之雑上
3-拾遺456おとにのみきき渡りつる住吉の松のちとせをけふ見つるかな
おとにのみ ききわたりつる すみよしの まつのちとせを けふみつるかな
紀貫之雑上
3-拾遺457海にのみひちたる松のふかみとりいくしほとかはしるへかるらん
うみにのみ ひちたるまつの ふかみとり いくしほとかは しるへかるらむ
伊勢雑上
3-拾遺458わたつみの浪にもぬれぬうきしまの松に心をよせてたのまん
わたつみの なみにもぬれぬ うきしまの まつにこころを よせてたのまむ
大中臣能宣雑上
3-拾遺459かこのしま松原こしになくたつのあななかなかしきく人なしに
かこのしま まつはらこしに なくたつの あななかなかし きくひとなしに
読人知らず雑上
3-拾遺460いかて猶わか身にかへてたけくまの松ともならむ行人のため
いかてなほ わかみにかへて たけくまの まつともならむ ゆくひとのため
大中臣能宣雑上
3-拾遺461行末のしるしはかりにのこるへき松さへいたくおいにけるかな
ゆくすゑの しるしはかりに のこるへき まつさへいたく おいにけるかな
源道済雑上
3-拾遺462世の中を住吉としもおもはぬになにをまつとてわか身へぬらん
よのなかを すみよしとしも おもはぬに なにをまつとて わかみへぬらむ
読人知らず雑上
3-拾遺463いたつらに世にふる物と高砂の松も我をや友と見るらん
いたつらに よにふるものと たかさこの まつもわれをや ともとみるらむ
紀貫之雑上
3-拾遺464世とともにあかしの浦の松原は浪をのみこそよるとしるらめ
よとともに あかしのうらの まつはらは なみをのみこそ よるとしるらめ
源為憲雑上
3-拾遺465もかり舟今そなきさにきよすなるみきはのたつのこゑさわくなり
もかりふね いまそなきさに きよすなる みきはのたつの こゑさわくなり
読人知らず雑上
3-拾遺466うちしのひいさすみの江の忘草わすれて人のまたやつまぬと
うちしのひ いさすみのえの わすれくさ わすれてひとの またやつまぬと
読人知らず雑上
3-拾遺467あさほらけひくらしのこゑきこゆなりこやあけくれと人のいふらん
あさほらけ ひくらしのこゑ きこゆなり こやあけくれと ひとのいふらむ
藤原済時雑上
3-拾遺468あしまより見ゆるなからのはしはしら昔のあとのしろへなりけり
あしまより みゆるなからの はしはしら むかしのあとの しるへなりけり
藤原清正雑上
3-拾遺469けふまてと見るに涙のますかかみなれにし影を人にかたるな
けふまてと みるになみたの ますかかみ なれにしかけを ひとにかたるな
読人知らず雑上
3-拾遺470わするなよほとは雲ゐに成りぬともそら行く月の廻りあふまて
わするなよ ほとはくもゐに なりぬとも そらゆくつきの めくりあふまて
読人知らず雑上
3-拾遺471年月は昔にあらす成りゆけとこひしきことはかはらさりけり
としつきは むかしにあらす なりゆけと こひしきことは かはらさりけり
紀貫之雑上
3-拾遺472昔わか折りし桂のかひもなし月の林のめしにいらねは
むかしわか をりしかつらの かひもなし つきのはやしの めしにいらねは
藤原後生雑上
3-拾遺473久方の月の桂もをるはかり家の風をもふかせてしかな
ひさかたの つきのかつらも をるはかり いへのかせをも ふかせてしかな
菅原道真母雑上
3-拾遺474月草に衣はすらんあさつゆにぬれてののちはうつろひぬとも
つきくさに ころもはすらむ あさつゆに ぬれてののちは うつろひぬとも
柿本人麻呂(人麿)雑上
3-拾遺475ちちわくに人はいふともおりてきむわかはた物にしろきあさきぬ
ちちわくに ひとはいふとも おりてきむ わかはたものに しろきあさきぬ
柿本人麻呂(人麿)雑上
3-拾遺476久方のあめにはきぬをあやしくもわか衣手のひる時もなき
ひさかたの あめにはきぬを あやしくも わかころもての ひるときもなき
柿本人麻呂(人麿)雑上
3-拾遺477白浪はたてと衣にかさならすあかしもすまもおのかうらうら
しらなみは たてところもに かさならす あかしもすまも おのかうらうら
柿本人麻呂(人麿)雑上
3-拾遺478ゆふされは衣手さむしわきもこかときあらひ衣行きてはやきむ
ゆふされは ころもてさむし わきもこか ときあらひころも ゆきてはやきむ
柿本人麻呂(人麿)雑上
3-拾遺479あまつほし道もやとりも有りなからそらにうきてもおもほゆるかな
あまつほし みちもやとりも ありなから そらにうきても おもほゆるかな
贈太政大臣雑上
3-拾遺480なかれ木も三とせ有りてはあひ見てん世のうき事そかへらさりける
なかれきも みとせありては あひみてむ よのうきことそ かへらさりける
贈太政大臣雑上
3-拾遺481うき世にはかとさせりとも見えなくになとかわか身のいてかてにする
うきよには かとさせりとも みえなくに なとかわかみの いてかてにする
平定文雑上
3-拾遺482木にもおひすはねもならへてなにしかも浪ちへたてて君をきくらん
きにもおひす はねもならへて なにしかも なみちへたてて きみをきくらむ
伊勢雑上
3-拾遺483ささなみやあふみの宮は名のみして霞たなひき宮きもりなし
ささなみや あふみのみやは なのみして かすみたなひき みやきもりなし
柿本人麻呂(人麿)雑上
3-拾遺484暁のねさめの千鳥たかためかさほのかはらにをちかへりなく
あかつきの ねさめのちとり たかためか さほのかはらに をちかへりなく
大中臣能宣雑上
3-拾遺485あさからぬちきりむすへる心ははたむけの神そしるへかりける
あさからぬ ちきりむすへる こころはは たむけのかみそ しるへかりける
大中臣能宣雑上
3-拾遺486みわの山しるしのすきは有りなからをしへし人はなくていくよそ
みわのやま しるしのすきは ありなから をしへしひとは なくていくよそ
清原元輔雑上
3-拾遺487おきつしま雲井の岸を行きかへりふみかよはさむまはろしもかな
おきつしま くもゐのきしを ゆきかへり ふみかよはさむ まほろしもかな
肥前雑上
3-拾遺488そらの海に雲の浪たち月の舟里の林にこきかくる見ゆ
そらのうみに くものなみたち つきのふね ほしのはやしに こきかくるみゆ
柿本人麻呂(人麿)雑上
3-拾遺489河のせのうつまく見れは玉もかるちりみたれたるかはの舟かも
かはのせの うつまくみれは たまもかる ちりみたれたる かはのふねかも
柿本人麻呂(人麿)雑上
3-拾遺490なる神のおとにのみきくまきもくのひはらの山をけふ見つるかな
なるかみの おとにのみきく まきもくの ひはらのやまを けふみつるかな
柿本人麻呂(人麿)雑上
3-拾遺491いにしへに有りけむ人もわかことやみわのひはらにかさし折りけん
いにしへに ありけむひとも わかことや みわのひはらに かさしをりけむ
柿本人麻呂(人麿)雑上
3-拾遺492人しれすこゆと思ふらしあしひきの山した水にかけは見えつつ
ひとしれす こゆとおもふらし あしひきの やましたみつに かけはみえつつ
紀貫之雑上
3-拾遺493おふの海にふなのりすらんわきもこかあかものすそにしほみつらんか
をふのうみに ふなのりすらむ わきもこか あかものすそに しほみつらむか
柿本人麻呂(人麿)雑上
3-拾遺494思ふ事なるといふなるすすか山こえてうれしきさかひとそきく
おもふこと なるといふなる すすかやま こえてうれしき さかひとそきく
村上院雑上
3-拾遺495世にふれは又もこえけりすすか山昔の今になるにやあるらん
よにふれは またもこえけり すすかやま むかしのいまに なるにやあらむ
承香殿女御雑上
3-拾遺496あすかかはしからみわたしせかませはなかるる水ものとけからまし
あすかかは しからみわたし せかませは なかるるみつも のとけからまし
柿本人麻呂(人麿)雑上
3-拾遺497おくれゐてなくなるよりはあしたつのなとかよはひをゆつらさりけん
おくれゐて なくなるよりは あしたつの なとかよはひを ゆつらさりけむ
藤原実頼雑上
3-拾遺498年をへてたちならしつるあしたつのいかなる方にあとととむらん
としをへて たちならしつる あしたつの いかなるかたに あとととむらむ
愛宮雑上
3-拾遺499ゆくすゑの忍草にも有りやとてつゆのかたみもおかんとそ思ふ
ゆくすゑの しのふくさにも ありやとて つゆのかたみも おかむとそおもふ
清原元輔雑上
3-拾遺500うゑて見る草葉そ世をはしらせけるおきてはきゆるけさの朝露
うゑてみる くさはそよをは しらせける おきてはきゆる けさのあさつゆ
中務雑上
3-拾遺501露のいのちをしとにはあらす君を又見てやと思ふそかなしかりける
つゆのいのち をしとにはあらす きみをまた みてやとおもふそ かなしかりける
弓削嘉言雑上
3-拾遺502をしからぬいのちやさらにのひぬらんをはりの煙しむるのへにて
をしからぬ いのちやさらに のひぬらむ をはりのけふり しむるのへにて
清原元輔雑上
3-拾遺503限なき涙のつゆにむすはれて人のしもとはなるにやあるらん
かきりなき なみたのつゆに むすはれて ひとのしもとは なるにやあるらむ
佐伯清忠雑上
3-拾遺504うき世には行きかくれなてかきくもりふるは思ひのほかにもあるかな
うきよには ゆきかくれなて かきくもり ふるはおもひの ほかにもあるかな
清原元輔雑上
3-拾遺505わひ人はうき世の中にいけらしと思ふ事さへかなはさりけり
わひひとは うきよのなかに いけらしと おもふことさへ かなはさりけり
源景明雑上
3-拾遺506世の中にあらぬ所もえてしかな年ふりにたるかたちかくさむ
よのなかに あらぬところも えてしかな としふりにたる かたちかくさむ
読人知らず雑上
3-拾遺507世の中をかくいひいひのはてはてはいかにやいかにならむとすらん
よのなかを かくいひいひの はてはては いかにやいかに ならむとすらむ
読人知らず雑上
3-拾遺508いにしへのとらのたくひに身をなけはさかとはかりはとはむとそ思ふ
いにしへの とらのたくひに みをなけは さかとはかりは とはむとそおもふ
読人知らず雑上
3-拾遺509春秋に思ひみたれてわきかねつ時につけつつうつる心は
はるあきに おもひみたれて わきかねつ ときにつけつつ うつるこころは
紀貫之雑下
3-拾遺510おほかたの秋に心はよせしかと花見る時はいつれともなし
おほかたの あきにこころは よせしかそ はなみるときは いつれともなし
承香殿のとしこ雑下
3-拾遺511春はたた花のひとへにさくはかり物のあはれは秋そまされる
はるはたた はなのひとへに さくはかり もののあはれは あきそまされる
読人知らず雑下
3-拾遺512折からにいつれともなき鳥のねもいかかさためむ時ならぬ身は
をりからに いつれともなき とりのねも いかかさためむ ときならぬみは
藤原朝光雑下
3-拾遺513白露はうへよりおくをいかなれは萩のしたはのまつもみつらん
しらつゆは うへよりおくを いかなれは はきのしたはの まつもみつらむ
参譲伊衡雑下
3-拾遺514さをしかのしからみふする秋萩はしたはやうへになりかへるらん
さをしかの しからみふする あきはきは したはやうへに なりかへるらむ
凡河内躬恒雑下
3-拾遺515秋はきはまつさすえよりうつろふをつゆのわくとは思はさらなむ
あきはきは まつさすえより うつろふを つゆのわくとは おもはさらなむ
壬生忠岑雑下
3-拾遺516ちとせふる松のしたはのいろつくはたかしたかみにかけてかへすそ
ちとせふる まつのしたはの いろつくは たかしたかみに かけてかへすそ
これひら雑下
3-拾遺517松といへとちとせの秋にあひくれはしのひにおつるしたはなりけり
まつといへと ちとせのあきに あひくれは しのひにおつる したはなりけり
凡河内躬恒雑下
3-拾遺518白妙のしろき月をも紅の色をもなとかあかしといふらん
しろたへの しろきつきをも くれなゐの いろをもなとか あかしといふらむ
これひら雑下
3-拾遺519昔よりいひしきにける事なれは我らはいかか今はさためん
むかしより いひしきにける ことなれは われらはいかか いまはさためむ
凡河内躬恒雑下
3-拾遺520かけ見れはひかりなきをも衣ぬふいとをもなとかよるといふらん
かけみれは ひかりなきをも ころもぬふ いとをもなとか よるといふらむ
これひら雑下
3-拾遺521むはたまのよるはこひしき人にあひていとをもよれはあふとやは見ぬ
うはたまの よるはこひしき ひとにあひて いとをもよれは あふとやはみぬ
凡河内躬恒雑下
3-拾遺522よるひるのかすはみそちにあまらぬをなと長月といひはしめけん
よるひるの かすはみそちに あまらぬを なとなかつきと いひはしめけむ
伊衡雑下
3-拾遺523秋ふかみこひする人のあかしかね夜を長月といふにやあるらん
あきふかみ こひするひとの あかしかね よをなかつきと いふにやあるらむ
凡河内躬恒雑下
3-拾遺524水のあわやたねとなるらんうきくさのまく人なみのうへにおふれは
みつのあわや たねとなるらむ うきくさの まくひとなみの うへにおふれは
読人知らず雑下
3-拾遺525たねなくてなき物草はおひにけりまくてふ事はあらしとそ思ふ
たねなくて なきものくさは おひにけり まくてふことは あらしとそおもふ
恵慶法師雑下
3-拾遺526わか事はえもいはしろの結松ちとせをふともたれかとくへき
わかことは えもいはしろの むすひまつ ちとせをふとも たれかとくへき
曾禰好忠雑下
3-拾遺527あしひきの山のこてらにすむ人はわかいふこともかなはさりけり
あしひきの やまのこてらに すむひとは わかいふことも かなはさりけり
読人知らず雑下
3-拾遺528山ならぬすみかあまたにきく人の野ふしにとくも成りにけるかな
やまならぬ すみかあまたに きくひとの のふしにとくも なりにけるかな
源経房雑下
3-拾遺529やまふしものふしもかくて心みつ今はとねりのねやそゆかしき
やまふしも のふしもかくて こころみつ いまはとねりの ねやそゆかしき
健守法師雑下
3-拾遺530わたつ海はあまの舟こそありときけのりたかへてもこきいてたるかな
わたつうみは あまのふねこそ ありときけ のりたかへても こきいてたるかな
藤原道綱母雑下
3-拾遺531勅なれはいともかしこし鴬のやとはととははいかかこたへむ
ちよくなれは いともかしこし うくひすの やとはととはは いかかこたへむ
読人知らず雑下
3-拾遺532いなをらしつゆにたもとのぬれたらは物思ひけりと人もこそ見れ
いなをらし つゆにたもとの ぬれたらは ものおもひけりと ひともこそみれ
寿玄法師雑下
3-拾遺533あつさゆみはるかに見ゆる山のはをいかてか月のさして入るらん
あつさゆみ はるかにみゆる やまのはを いかてかつきの さしているらむ
大中臣能宣雑下
3-拾遺534そらめをそ君はみたらし河の水あさしやふかしそれは我かは
そらめをそ きみはみたらし かはのみつ あさしやふかし それはわれかは
伊勢雑下
3-拾遺535かをさしてむまといふ人ありけれはかもをもをしと思ふなるへし
かをさして うまといふひと ありけれは かもをもをしと おもふなるへし
藤原仲文雑下
3-拾遺536なしといへはをしむかもとや思ふらんしかやむまとそいふへかりける
なしといへは をしむかもとや おもふらむ しかやうまとそ いふへかりける
大中臣能宣雑下
3-拾遺537なにはえのあしのはなけのましれるはつのくにかひのこまにやあるらん
なにはえの あしのはなけの ましれるは つのくにかひの こまにやあるらむ
恵慶法師雑下
3-拾遺538難波かたしけりあへるはきみかよにあしかるわさをせねはなるへし
なにはかた しけりあへるは きみかよに あしかるわさを せねはなるへし
壬生忠見雑下
3-拾遺539宮こにはすみわひはててつのくにの住吉ときくさとにこそゆけ
みやこには すみわひはてて つのくにの すみよしときく さとにこそゆけ
壬生忠見雑下
3-拾遺540君なくてあしかりけりと思ふにもいととなにはの浦そすみうき
きみなくて あしかりけりと おもふにも いととなにはの うらそすみうき
読人知らず雑下
3-拾遺541あしからしよからむとてそわかれけんなにかなにはの浦はすみうき
あしからし よからむとてそ わかれけむ なにかなにはの うらはすみうき
読人知らず雑下
3-拾遺542なき人のかたみと思ふにあやしきはゑみても袖のぬるるなりけり
なきひとの かたみとおもふに あやしきは ゑみてもそての ぬるるなりけり
麗景殿みやのきみ雑下
3-拾遺543みつせ河渡るみさをもなかりけりなにに衣をぬきてかくらん
みつせかは わたるみさをも なかりけり なににころもを ぬきてかくらむ
菅原道雅女雑下
3-拾遺544かくしこそ春の始はうれしけれつらきは秋のをはりなりけり
かくしこそ はるのはしめは うれしけれ つらきはあきの をはりなりけり
藤原国章雑下
3-拾遺545おやのおやとおもはましかはとひてましわかこのこにはあらぬなるへし
おやのおやと おもはましかは とひてまし わかこのこには あらぬなるへし
源重之の叔母雑下
3-拾遺546山高みゆふ日かくれぬあさち原後見むためにしめゆはましを
やまたかみ ゆふひかくれぬ あさちはら のちみむために しめゆはましを
柿本人麻呂(人麿)雑下
3-拾遺547名のみして山は三笠もなかりけりあさ日ゆふ日のさすをいふかも
なのみして やまはみかさも なかりけり あさひゆふひの さすをいふかも
紀貫之雑下
3-拾遺548なのみしてなれるも見えす梅津河ゐせきの水ももれはなりけり
なのみして なれるもみえす うめつかは ゐせきのみつも もれはなりけり
読人知らず雑下
3-拾遺549名にはいへとくろくも見えすうるし河さすかに渡る水はぬるめり
なにはいへと くろくもみえす うるしかは さすかにわたる みつはぬるめり
読人知らず雑下
3-拾遺550世の中にあやしき物は雨ふれと大原河のひるにそありける
よのなかに あやしきものは あめふれと おほはらかはの ひるにそありける
恵慶法師雑下
3-拾遺551河柳いとはみとりにあるものをいつれかあけの衣なるらん
かはやなき いとはみとりに あるものを いつれかあけの ころもなるらむ
仲文雑下
3-拾遺552しら浪の打ちやかへすとまつほとにはまのまさこのかすそつもれる
しらなみの うちやかへすと まつほとに はまのまさこの かすそつもれる
村上院雑下
3-拾遺553いつしかとあけて見たれははま千鳥跡あることにあとのなきかな
いつしかと あけてみたれは はまちとり あとあることに あとのなきかな
藤原実頼雑下
3-拾遺554ととめてもなににかはせん浜千鳥ふりぬるあとは浪にきえつつ
ととめても なににかはせむ はまちとり ふりぬるあとは なみにきえつつ
藤原実資雑下
3-拾遺555みなそこのわくはかりにやくくるらんよる人もなきたきのしらいと
みなそこの わくはかりにや くくるらむ よるひともなき たきのいらいと
読人知らず雑下
3-拾遺556おとにきくつつみのたきをうち見れはたた山河のなるにそ有りける
おとにきく つつみのたきを うちみれは たたやまかはの なるにそありける
読人知らず雑下
3-拾遺557おとにきくこまの渡のうりつくりとなりかくなりなる心かな
おとにきく こまのわたりの うりつくり となりかくなり なるこころかな
三位国章雑下
3-拾遺558さためなくなるなるうりのつら見てもたちやよりこむこまのすきもの
さためなく なるなるうりの つらみても たちやよりこむ こまのすきもの
藤原朝光雑下
3-拾遺559みちのくのあたちのはらのくろつかにおにこもれりときくはまことか
みちのくの あたちのはらの くろつかに おにこもれりと いふはまことか
平兼盛雑下
3-拾遺560ぬす人のたつたの山に入りにけりおなしかさしの名にやけかれん
ぬすひとの たつたのやまに いりにけり おなしかさしの なにやけかれむ
藤原為順雑下
3-拾遺561なき名のみたつたの山のふもとには世にもあらしの風もふかなん
なきなのみ たつたのやまの ふもとには よにもあらしの かせもふかなむ
藤原為順雑下
3-拾遺562なき名のみたかをの山といひたつる君はあたこの峯にやあるらん
なきなのみ たかをのやまと いひたつる きみはあたこの みねにやあるらむ
八条のおほいきみ雑下
3-拾遺563いにしへものほりやしけんよしの山やまよりたかきよはひなる人
いにしへも のほりやしけむ よしのやま やまよりたかき よはひなるひと
清原元輔雑下
3-拾遺564おいはてて雪の山をはいたたけとしもと見るにそ身はひえにける
おいはてて ゆきのやまをは いたたけと しもとみるにそ みはひえにける
読人知らず雑下
3-拾遺565ますかかみそこなるかけにむかひゐて見る時にこそしらぬおきなにあふ心地すれ
ますかかみ そこなるかけに むかひゐて みるときにこそ しらぬおきなに あふここちすれ
読人知らず雑下
3-拾遺566ますかかみみしかと思ふいもにあはむかもたまのをのたえたるこひのしけきこのころ
ますかかみ みしかとおもふ いもにあはむかも たまのをの たえたるこひの しけきこのころ
柿本人麻呂(人麿)雑下
3-拾遺567かのをかに草かるをのこしかなかりそありつつもきみかきまさむみまくさにせん
かのをかに くさかるをのこ しかなかりそ ありつつも きみかきまさむ みまくさにせむ
柿本人麻呂(人麿)雑下
3-拾遺568あつさゆみおもはすにしていりにしをさもねたくひきととめてそふすへかりける
あつさゆみ おもはすにして いりにしを さもねたく ひきととめてそ ふすへかりける
源かけあきら雑下
3-拾遺569ちはやふるわかおほきみのきこしめすあめのしたなる草の葉もうるひにたりと山河のすめるかうちとみこころをよしののくにの花さかり秋つののへに宮はしらふとしきましてももしきの大宮人は舟ならへあさ河わたりふなくらへゆふかはわたりこの河のたゆる事なくこの山のいやたかからしたま水のたきつの宮こ見れとあかぬかも
ちはやふる わかおほきみの きこしめす あめのしたなる くさのはも うるひにたりと やまかはの すめるかふちと みこころを よしののくにの はなさかり あきつののへに みやはしら ふとしきまして ももしきの おほみやひとは ふねならへ あさかはわたり ふなくらへ ゆふかはわたり このかはの たゆることなく このやまの いやたかからし たまみつの たきつのみやこ みれとあかぬかも
柿本人麻呂(人麿)雑下
3-拾遺570見れとあかぬよしのの河の流れてもたゆる時なく行きかへり見む
みれとあかぬ よしののかはの なかれても たゆるときなく ゆきかへりみむ
柿本人麻呂(人麿)雑下
3-拾遺571あらたまの年のはたちにたらさりし時はの山の山さむみ風もさはらぬふち衣ふたたひたちしあさきりに心もそらにまとひそめみなしこ草になりしより物思ふことの葉をしけみけぬへきつゆのよるはおきて夏はみきはにもえわたるほたるをそてにひろひつつ冬は花かと見えまかひこのもかのもにふりつもる雪をたもとにあつめつつふみみていてし道は猶身のうきにのみ有りけれはここもかしこもあしねはふしたにのみこそしつみけれたれここのつのさは水になくたつのねを久方のくものうへまてかくれなみたかくきこゆるかひありていひなかしけん人は猶かひもなきさにみつしほの世にはからくてすみの江の松はいたつらおいぬれとみとりの衣ぬきすてむはるはいつともしらなみのなみちにいたくゆきかよひゆもとりあへすなりにける舟のわれをしきみしらはあはれいまたにしつめしとあまのつりなはうちはへてひくとしきかは物はおもはし
あらたまの としのはたちに たらさりし ときはのやまの やまさむみ かせもさはらぬ ふちころも ふたたひたちし あさきりに こころもそらに まとひそめ みなしこくさに なりしより ものおもふことの はをしけみ けぬへきつゆの よるはおきて なつはみきはに もえわたる ほたるをそてに ひろひつつ ふゆははなかと みえまかひ このもかのもに ふりつもる ゆきをたもとに あつめつつ ふみみていてし みちはなほ みのうきにのみ ありけれは ここもかしこも あしねはふ したにのみこそ しつみけれ たれここのつの さはみつに なくたつのねを ひさかたの くものうへまて かくれなみ たかくきこゆる かひありて いひなかしけむ ひとはなほ かひもなきさに みつしほの よにはからくて すみのえの まつはいたつら おいぬれと みとりのころも ぬきすてむ はるはいつとも しらなみの なみちにいたく ゆきかよひ ゆもとりあへす なりにける ふねのわれをし きみしらは あはれいまたに しつめしと あまのつりなは うちはへて ひくとしきかは ものはおもはし
源順雑下
3-拾遺572世の中をおもへはくるしわするれはえもわすられすたれもみなおなしみ山の松かえとかるる事なくすへらきのちよもやちよもつかへんとたかきたのみをかくれぬのしたよりねさすあやめくさあやなき身にも人なみにかかる心を思ひつつ世にふるゆきをきみはしも冬はとりつみ夏は又草のほたるをあつめつつひかりさやけき久方の月のかつらををるまてに時雨にそほちつゆにぬれへにけむそてのふかみとりいろあせかたに今はなりかつしたはよりくれなゐにうつろひはてん秋にあははまつひらけなん花よりもこたかきかけとあふかれん物とこそ見ししほかまのうらさひしけになそもかく世をしも思ひなすのゆのたきるゆゑをもかまへつつわか身を人の身になしておもひくらへよももしきにあかしくらしてとこ夏のくもゐはるけきみな人におくれてなひく我もあるらし
よのなかを おもへはくるし わするれは えもわすられす たれもみな おなしみやまの まつかえと かるることなく すめらきの ちよもやちよも つかへむと たかきたのみを かくれぬの したよりねさす あやめくさ あやなきみにも ひとなみに かかるこころを おもひつつ よにふるゆきを きみはしも ふゆはとりつみ なつはまた くさのほたるを あつめつつ ひかりさやけき ひさかたの つきのかつらを をるまてに しくれにそほち つゆにぬれ へにけむそての ふかみとり いろあせかたに いまはなり かつしたはより くれなゐに うつろひはてむ あきにあはは まつひらけなむ はなよりも こたかきかけと あふかれむ ものとこそみし しほかまの うらさひしけに なそもかく よをしもおもひ なすのゆの たきるゆゑをも かまへつつ わかみをひとの みになして おもひくらへよ ももしきに あかしくらして とこなつの くもゐはるけき みなひとに おくれてなひく われもあるらし
大中臣能宣雑下
3-拾遺573今はともいはさりしかとやをとめのたつやかすかのふるさとにかへりやくるとまつち山まつほとすきてかりかねの雲のよそにもきこえねは我はむなしきたまつさをかくてもたゆくむすひおきてつてやる風のたよりたになきさにきゐるゆふちとりうらみはふかくみつしほにそてのみいととぬれつつそあともおもはぬきみによりかひなきこひになにしかも我のみひとりうきふねのこかれてよにはわたるらんとさへそはてはかやり火のくゆる心もつきぬへく思ひなるまておとつれすおほつかなくてかへれともけふみつくきのあとみれはちきりし事は君も又わすれさりけりしかしあらはたれもうきよのあさつゆにひかりまつまの身にしあれはおもはしいかてとこ夏の花のうつろふ秋もなくおなしあたりにすみの江のきしのひめ松ねをむすひ世世をへつつもしもゆきのふるにもぬれぬなかとなりなむ
いまはとも いはさりしかと やをとめの たつやかすかの ふるさとに かへりやくると まつちやま まつほとすきて かりかねの くものよそにも きこえねは われはむなしき たまつさを かくてもたゆく むすひおきて つてやるかせの たよりたに なきさにきゐる ゆふちとり うらみはふかく みつしほに そてのみいとと ぬれつつそ あともおもはぬ きみにより かひなきこひに なにしかも われのみひとり うきふねの こかれてよには わたるらむ とさへそはては かやりひの くゆるこころも つきぬへく おもひなるまて おとつれす おほつかなくて かへれとも けふみつくきの あとみれは ちきりしことは きみもまた わすれさりけり しかしあらは たれもうきよの あさつゆに ひかりまつまの みにしあれは おもはしいかて とこなつの はなのうつろふ あきもなく おなしあたりに すみのえの きしのひめまつ ねをむすひ よよをへつつも しもゆきの ふるにもぬれぬ なかとなりなむ
読人知らず雑下
3-拾遺574あはれわれいつつの宮の宮人とそのかすならぬ身をなしておもひし事はかけまくもかしこけれともたのもしきかけにふたたひおくれたるふたはの草を吹く風のあらき方にはあてしとてせはきたもとをふせきつつちりもすゑしとみかきてはたまのひかりをたれか見むと思ふ心におほけなくかみつえたをはさしこえて花さく春の宮人となりし時ははいかはかりしけきかけとかたのまれしすゑの世まてと思ひつつここのかさねのそのなかにいつきすゑしもことてしもたれならなくにを山田を人にまかせて我はたたたもとそほつに身をなしてふたはるみはるすくしつつその秋冬のあさきりのたえまにたにもと思ひしを峯の白雲よこさまにたちかはりぬと見てしかは身をかきりとはおもひにきいのちあらはとたのみしは人におくるるななりけり思ふもしるし山河のみなしもなりしもろ人もうこかぬきしにまもりあけてしつむみくつのはてはてはかきなかされし神な月うすき氷にとちられてとまれる方もなきわふるなみたしつみてかそふれは冬も三月になりにけりなかきよなよなしきたへのふさすやすますあけくらしおもへとも猶かなしきはやそうち人もあたら世のためしなりとそさわくなるましてかすかのすきむらにいまたかれたる枝はあらし大原野辺のつほすみれつみをかしある物ならはてる日も見よといふことを年のをはりにきよめすはわか身そつひにくちぬへきたにのむもれ木春くともさてややみなむ年の内に春吹く風も心あらはそての氷をとけとふかなむ
あはれわれ いつつのみやの みやひとと そのかすならぬ みをなして おもひしことは かけまくも かしこけれとも たのもしき かけにふたたひ おくれたる ふたはのくさを ふくかせの あらきかたには あてしとて せはきたもとを ふせきつつ ちりもすゑしと みかきては たまのひかりを たれかみむと おもふこころに おほけなく かみつえたをは さしこえて はなさくはるの みやひとと なりしときはは いかはかり しけきかけとか たのまれし すゑのよまてと おもひつつ ここのかさねの そのなかに いつきすゑしも ことてしも たれならなくに をやまたを ひとにまかせて われはたた たもとそほつに みをなして ふたはるみはる すくしつつ そのあきふゆの あさきりの たえまにたにもと おもひしを みねのしらくも よこさまに たちかはりぬと みてしかは みをかきりとは おもひにき いのちあらはと たのみしは ひとにおくるる ななりけり おもふもしるし やまかはの みなしもなりし もろひとも うこかぬきしに まもりあけて しつむみくつの はてはては かきなかされし かみなつき うすきこほりに とちられて とまれるかたも なきわふる なみたしつみて かそふれは ふゆもみつきに なりにけり なかきよなよな しきたへの ふさすやすます あけくらし おもへともなほ かなしきは やそうちひとも あたらよの ためしなりとそ さわくなる ましてかすかの すきむらに いまたかれたる えたはあらし おほはらのへの つほすみれ つみをかしある ものならは てるひもみよと いふことを としのをはりに きよめすは わかみそつひに くちぬへき たにのうもれき はるくとも さてややみなむ としのうちに はるふくかせも こころあらは そてのこほりを とけとふかなむ
東三条太政大臣雑下
3-拾遺575如何せむわか身くたれるいな舟のしはしはかりのいのちたえすは
いかにせむ わかみくたれる いなふねの しはしはかりの いのちたえすは
東三条太政大臣雑下
3-拾遺576さかきはにゆふしてかけてたか世にか神のみまへにいはひそめけん
さかきはに ゆふしてかけて たかよにか かみのみまへに いはひそめけむ
不記神楽歌
3-拾遺577さか木葉のかをかくはしみとめくれはやそうち人そまとゐせりける
さかきはの かをかくはしみ とめくれは やそうちひとそ まとゐせりける
不記神楽歌
3-拾遺578みてくらにならましものをすへ神のみてにとられてなつさはましを
みてくらに ならましものを すめかみの みてにとられて なつさはましを
不記神楽歌
3-拾遺579みてくらはわかにはあらすあめにますとよをかひめの宮のみてくら
みてくらは わかにはあらす あめにます とよをかひめの みやのみてくら
不記神楽歌
3-拾遺580あふさかをけさこえくれは山人のちとせつけとてきれるつゑなり
あふさかを けさこえくれは やまひとの ちとせつけとて きれるつゑなり
不記神楽歌
3-拾遺581よも山の人のたからにするゆみを神のみまへにけふたてまつる
よもやまの ひとのたからに するゆみを かみのみまへに けふたてまつる
不記神楽歌
3-拾遺582いその神ふるやをとこのたちもかなくみのをしてて宮ちかよはむ
いそのかみ ふるやをとこの たちもかな くみのをしてて みやちかよはむ
不記神楽歌
3-拾遺583銀のめぬきのたちをさけはきてならの宮こをねるやたかこそ
しろかねの めぬきのたちを さけはきて ならのみやこを ねるやたかこそ
不記神楽歌
3-拾遺584わか駒ははやくゆかなんあさひこかやへさすをかのたまささのうへに
わかこまは はやくゆかなむ あさひこか やへさすをかの たまささのうへに
不記神楽歌
3-拾遺585さいはりに衣はそめん雨ふれとうつろひかたしふかくそめては
さいはりに ころもはそめむ あめふれと うつろひかたし ふかくそめては
不記神楽歌
3-拾遺586しなかとりゐなのふし原とひわたるしきかはねおとおもしろきかな
しなかとり ゐなのふしはら とひわたる しきかはねおと おもしろきかな
不記神楽歌
3-拾遺587住吉のきしもせさらんものゆゑにねたくや人に松といはれむ
すみよしの きしもせさらむ ものゆゑに ねたくやひとに まつといはれむ
不記神楽歌
3-拾遺588ゆふたすきかくるたもとはわつらはしゆたけにとけてあらむとをしれ
ゆふたすき かくるたもとは わつらはし ゆたけにとけて あらむとをしれ
不記神楽歌
3-拾遺589あまくたるあら人神のあひおひをおもへはひさし住吉の松
あまくたる あらひとかみの あひおひを おもへはひさし すみよしのまつ
安法法師神楽歌
3-拾遺590我とはは神世の事もこたへなん昔をしれるすみよしのまつ
われとはは かみよのことも こたへなむ むかしをしれる すみよしのまつ
恵慶法師神楽歌
3-拾遺591いく世にかかたりつたへむはこさきの松のちとせのひとつならねは
いくよにか かたりつたへむ はこさきの まつのちとせの ひとつならねは
源重之神楽歌
3-拾遺592おひしけれひらのの原のあやすきよこき紫にたちかさぬへく
おひしけれ ひらののはらの あやすきよ こきむらさきに たちかさぬへく
清原元輔神楽歌
3-拾遺593ねきかくるひえの社のゆふたすきくさのかきはもことやめてきけ
ねきかくる ひえのやしろの ゆふたすき くさのかきはも ことやめてきけ
僧都実因神楽歌
3-拾遺594おほよとのみそきいくよになりぬらん神さひにたる浦のひめ松
おほよとの みそきいくよに なりぬらむ かみさひにたる うらのひめまつ
源兼澄神楽歌
3-拾遺595みそきするけふからさきにおろすあみは神のうけひくしるしなりけり
みそきする けふからさきに おろすあみは かみのうけひく しるしなりけり
平祐挙神楽歌
3-拾遺596ちはやふる神のたもてるいのちをはたれかためにか長くと思はん
ちはやふる かみのたもてる いのちをは たれかためにか なかくとおもはむ
柿本人麻呂(人麿)神楽歌
3-拾遺597千早振かみも思ひのあれはこそ年へてふしの山ももゆらめ
ちはやふる かみもおもひの あれはこそ としへてふしの やまももゆらめ
柿本人麻呂(人麿)神楽歌
3-拾遺598君か世のなからの山のかひありとのとけき雲のゐる時そ見る
きみかよの なからのやまの かひありと のとけきくもの ゐるときそみる
大中臣能宣神楽歌
3-拾遺599ささなみのなからの山のなからへてたのしかるへき君かみよかな
ささなみの なからのやまの なからへて たのしかるへき きみかみよかな
大中臣能宣神楽歌
3-拾遺600うこきなきいはくら山にきみかよをはこひおきつつちよをこそつめ
うこきなき いはくらやまに きみかよを はこひおきつつ ちよをこそつめ
読人知らず神楽歌
3-拾遺601ちはやふるみ神の山のさか木ははさかえそまさるすゑの世まてに
ちはやふる みかみのやまの さかきはは さかえそまさる すゑのよまてに
大中臣能宣神楽歌
3-拾遺602万代の色もかはらぬさか木ははみかみの山におふるなりけり
よろつよの いろもかはらぬ さかきはは みかみのやまに おふるなりけり
読人知らず神楽歌
3-拾遺603よろつ世をみかみの山のひひくにはやす河の水すみそあひにける
よろつよを みかみのやまの ひひくには やすかはのみつ すみそあひにける
清原元輔神楽歌
3-拾遺604みつきつむおほくら山はときはにていろもかはらすよろつ世そへむ
みつきつむ おほくらやまは ときはにて いろもかはらす よろつよそへむ
大中臣能宣神楽歌
3-拾遺605たかしまやみをの中山そまたててつくりかさねよちよのなみくら
たかしまや みをのなかやま そまたてて つくりかさねよ ちよのなみくら
読人知らず神楽歌
3-拾遺606みかきける心もしるく鏡山くもりなきよにあふかたのしさ
みかきける こころもしるく かかみやま くもりなきよに あふかたのしさ
大中臣能宣神楽歌
3-拾遺607ちとせふる松かさきにはむれゐつつたつさへあそふ心あるらし
ちとせふる まつかさきには むれゐつつ たつさへあそふ こころあるらし
清原元輔神楽歌
3-拾遺608ととこほる時もあらしな近江なるおもののはまのあまのひつきは
ととこほる ときもあらしな あふみなる おもののはまの あまのひつきは
平兼盛神楽歌
3-拾遺609ことしよりちとせの山はこゑたえす君かみよをそいのるへらなる
ことしより ちとせのやまは こゑたえす きみかみよをそ いのるへらなる
大中臣能宣神楽歌
3-拾遺610近江なるいやたか山のさか木にて君かちよをはいのりかささん
あふみなる いやたかやまの さかきにて きみかちよをは いのりかささむ
平兼盛神楽歌
3-拾遺611いのりくるみかみの山のかひしあれはちとせの影にかくてつかへん
いのりくる みかみのやまの かひしあれは ちとせのかけに かくてつかへむ
大中臣能宣神楽歌
3-拾遺612けふよりはいはくら山に万代をうこきなくのみつまむとそ思ふ
けふよりは いはくらやまに よろつよを うこきなくのみ つまむとそおもふ
大中臣能宣神楽歌
3-拾遺613万代をあきらけく見むかかみ山ちとせのほとはちりもくもらし
よろつよを あきらけくみむ かかみやま ちとせのほとは ちりもくもらし
中務神楽歌
3-拾遺614年もよしこかひもえたりおほくにのさとたのもしくおもほゆるかな
としもよし こかひもえたり おほくにの さとたのもしく おもほゆるかな
平兼盛神楽歌
3-拾遺615名にたてるよしたのさとの杖なれはつくともつきし君かよろつ世
なにたてる よしたのさとの つゑなれは つくともつきし きみかよろつよ
平兼盛神楽歌
3-拾遺616泉河のとけき水のそこ見れはことしはかけそすみまさりける
いつみかは のとけきみつの そこみれは ことしはかけそ すみまさりける
平兼盛神楽歌
3-拾遺617つるのすむ松かさきにはならへたる千世のためしを見するなりけり
つるのすむ まつかさきには ならへたる ちよのためしを みするなりけり
平兼盛神楽歌
3-拾遺618あしひきの山のさかきはときはなるかけにさかゆる神のきねかな
あしひきの やまのさかきは ときはなる かけにさかゆる かみのきねかな
紀貫之神楽歌
3-拾遺619おほなむちすくなみ神のつくれりし妹背の山を見るそうれしき
おほなむち すくなみかみの つくれりし いもせのやまを みるそうれしき
柿本人麻呂(人麿)神楽歌
3-拾遺620めつらしきけふのかすかのやをとめを神もうれしとしのはさらめや
めつらしき けふのかすかの やをとめを かみもうれしと しのはさらめや
藤原忠房神楽歌
3-拾遺621こひすてふわか名はまたき立ちにけり人しれすこそ思ひそめしか
こひすてふ わかなはまたき たちにけり ひとしれすこそ おもひそめしか
壬生忠見恋一
3-拾遺622しのふれと色にいてにけりわか恋は物や思ふと人のとふまて
しのふれと いろにいてにけり わかこひは ものやおもふと ひとのとふまて
平兼盛恋一
3-拾遺623いろならはうつるはかりもそめてまし思ふ心をしる人のなさ
いろならは うつるはかりも そめてまし おもふこころを しるひとのなき
紀貫之恋一
3-拾遺624しのふるも誰ゆゑならぬ物なれは今は何かは君にへたてむ
しのふるも たれゆゑならぬ ものなれは いまはなにかは きみにへたてむ
平公誠恋一
3-拾遺625なけきあまりつひに色にそいてぬへきいはぬを人のしらはこそあらめ
なけきあまり つひにいろにそ いてぬへき いはぬをひとの しらはこそあらめ
読人知らず恋一
3-拾遺626あふことを松にて年のへぬるかな身は住の江におひぬものゆゑ
あふことを まつにてとしの へぬるかな みはすみのえに おひぬものゆゑ
読人知らず恋一
3-拾遺627おとにきく人に心をつくはねのみねとこひしききみにもあるかな
おとにきく ひとにこころを つくはねの みねとこひしき きみにもあるかな
読人知らず恋一
3-拾遺628あまくものやへ雲かくれなる神のおとにのみやはきき渡るへき
あまくもの やへくもかくれ なるかみの おとにのみやは ききわたるへき
柿本人麻呂(人麿)恋一
3-拾遺629見ぬ人のこひしきやなそおほつかな誰とかしらむゆめに見ゆとも
みぬひとの こひしきやなそ おほつかな たれとかしらむ ゆめにみゆとも
読人知らず恋一
3-拾遺630夢よりそ恋しき人を見そめつる今はあはする人もあらなん
ゆめよりそ こひしきひとを みそめつる いまはあはする ひともあらなむ
読人知らず恋一
3-拾遺631かくてのみありその浦の浜千鳥よそになきつつこひやわたらむ
かくてのみ ありそのうらの はまちとり よそになきつつ こひやわたらむ
読人知らず恋一
3-拾遺632よそにのみ見てやはこひむ紅のすゑつむ花のいろにいてすは
よそにのみ みてやはこひむ くれなゐの すゑつむはなの いろにいてすは
読人知らず恋一
3-拾遺633身にしみて思ふ心の年ふれはつひに色にもいてぬへきかな
みにしみて おもふこころの としふれは つひにいろにも いてぬへきかな
藤原敦忠恋一
3-拾遺634いかてかはしらせそむへき人しれす思ふ心のいろにいてすは
いかてかは しらせそむへき ひとしれす おもふこころの いろにいてすは
くにまさ恋一
3-拾遺635いかてかはかく思ふてふ事をたに人つてならてきみにしらせむ
いかてかは かくおもふてふ ことをたに ひとつてならて きみにしらせむ
藤原敦忠恋一
3-拾遺636あなこひしはつかに人をみつのあわのきえかへるともしらせてしかな
あなこひし はつかにひとを みつのあわの きえかへるとも しらせてしかな
藤原実頼恋一
3-拾遺637なかからしと思ふ心は水のあわによそふる人のたのまれぬかな
なかからしと おもふこころは みつのあわに よそふるひとの たのまれぬかな
堤の中納言のみやす所恋一
3-拾遺638みなといつるあまのを舟のいかりなはくるしき物とこひをしりぬる
みなといつる あまのをふねの いかりなは くるしきものと こひをしりぬる
読人知らず恋一
3-拾遺639大井河くたすいかたのみなれさを見なれぬ人もこひしかりけり
おほゐかは くたすいかたの みなれさを みなれぬひとも こひしかりけり
読人知らず恋一
3-拾遺640みなそこにおふるたまものうちなひき心をよせてこふるこのころ
みなそこに おふるたまもの うちなひき こころをよせて こふるこのころ
柿本人麻呂(人麿)恋一
3-拾遺641おとにのみききつるこひを人しれすつれなき人にならひぬるかな
おとにのみ ききつるこひを ひとしれす つれなきひとに ならひぬるかな
読人知らず恋一
3-拾遺642如何せむいのちはかきりあるものをこひはわすれす人はつれなし
いかにせむ いのちはかきり あるものを こひはわすれす ひとはつれなし
読人知らず恋一
3-拾遺643山ひこもこたへぬ山のよふことり我ひとりのみなきやわたらむ
やまひこも こたへぬやまの よふことり われひとりのみ なきやわたらむ
読人知らず恋一
3-拾遺644やまひこは君にもにたる心かな我こゑせねはおとつれもせす
やまひこは きみにもにたる こころかな わかこゑせねは おとつれもせす
読人知らず恋一
3-拾遺645あしひきの山したとよみ行く水の時そともなくこひ渡るかな
あしひきの やましたとよみ ゆくみつの ときそともなく こひわたるかな
読人知らず恋一
3-拾遺646いかにしてしはしわすれんいのちたにあらはあふよのありもこそすれ
いかにして しはしわすれむ いのちたに あらはあふよの ありもこそすれ
読人知らず恋一
3-拾遺647ぬきみたる涙の玉もとまるやとたまのをはかりあはむといはなん
ぬきみたる なみたのたまも とまるやと たまのをはかり あはむといはなむ
読人知らず恋一
3-拾遺648いはのうへにおふるこ松もひきつれと猶ねかたきは君にそ有りける
いはのうへに おふるこまつも ひきつれと なほねかたきは きみにそありける
読人知らず恋一
3-拾遺649たなはたもあふよありけりあまの河この渡にはわたるせもなし
たなはたも あふよありけり あまのかは このわたりには わたるせもなし
読人知らず恋一
3-拾遺650さはにのみ年はへぬれとあしたつの心は雲のうへにのみこそ
さはにのみ としはへぬれと あしたつの こころはくもの うへにのみこそ
九条右大臣恋一
3-拾遺651おほそらはくもらさりけり神な月時雨ここちは我のみそする
おほそらは くもらさりけり かみなつき しくれここちは われのみそする
読人知らず恋一
3-拾遺652しのふれと猶しひてこそおもほゆれ恋といふ物の身をしさらねは
しのふれと なほしひてこそ おもほゆれ こひといふものの みをしさらねは
読人知らず恋一
3-拾遺653あはれともおもはしものをしらゆきのしたにきえつつ猶もふるかな
あはれとも おもはしものを しらゆきの したにきえつつ なほもふるかな
読人知らず恋一
3-拾遺654ほともなくきえぬる雪はかひもなし身をつみてこそあはれとおもはめ
ほともなく きえぬるゆきは かひもなし みをつみてこそ あはれとおもはめ
中務恋一
3-拾遺655よそなからあひ見ぬほとにこひしなは何にかへたるいのちとかいはむ
よそなから あひみぬほとに こひしなは なににかへたる いのちとかいはむ
読人知らず恋一
3-拾遺656いつとてかわかこひやまむちはやふるあさまのたけのけふりたゆとも
いつとてか わかこひやまむ ちはやふる あさまのたけの けふりたゆとも
読人知らず恋一
3-拾遺657おほはらの神もしるらむわかこひはけふ氏人の心やらなむ
おほはらの かみもしるらむ わかこひは けふうちひとの こころやらなむ
一条摂政恋一
3-拾遺658さか木はの春さす枝のあまたあれはとかむる神もあらしとそおもふ
さかきはの はるさすえたの あまたあれは とかむるかみも あらしとそおもふ
読人知らず恋一
3-拾遺659あめつちの神そしるらん君かため思ふ心のかきりなけれは
あめつちの かみそしるらむ きみかため おもふこころの かきりなけれは
読人知らず恋一
3-拾遺660海もあさし山もほとなしわかこひをなにによそへて君にいはまし
うみもあさし やまもほとなし わかこひを なにによそへて きみにいはまし
読人知らず恋一
3-拾遺661おく山のいはかきぬまのみこもりにこひや渡らんあふよしをなみ
おくやまの いはかきぬまの みこもりに こひやわたらむ あふよしをなみ
柿本人麻呂(人麿)恋一
3-拾遺662あまた見しとよのみそきのもろ人の君しも物を思はするかな
あまたみし とよのみそきの もろひとの きみしもものを おもはするかな
寛祐法師恋一
3-拾遺663たますたれいとのたえまに人を見てすける心は思ひかけてき
たますたれ いとのたえまに ひとをみて すけるこころは おもひかけてき
読人知らず恋一
3-拾遺664たまたれのすける心と見てしよりつらしてふ事かけぬ日はなし
たまたれの すけるこころと みてしより つらしてふこと かけぬひはなし
読人知らず恋一
3-拾遺665我こそや見ぬ人こふるやまひすれあふ日ならてはやむくすりなし
われこそや みぬひとこふる やまひすれ あふひならては やむくすりなし
読人知らず恋一
3-拾遺666玉江こくこもかり舟のさしはへて浪まもあらはよらむとそ思ふ
たまえこく こもかりふねの さしはへて なみまもあらは よらむとそおもふ
読人知らず恋一
3-拾遺667みるめかるあまとはなしに君こふるわか衣手のかわく時なき
みるめかる あまとはなしに きみこふる わかころもての かわくときなき
読人知らず恋一
3-拾遺668みくまのの浦のはまゆふももへなる心はおもへとたたにあはぬかも
みくまのの うらのはまゆふ ももへなる こころはおもへと たたにあはぬかも
柿本人麻呂(人麿)恋一
3-拾遺669あさなあさなけつれはつもるおちかみのみたれて物を思ふころかな
あさなあさな けつれはつもる おちかみの みたれてものを おもふころかな
紀貫之恋一
3-拾遺670わかためはたなゐのし水ぬるけれと猶かきやらむさてはすむやと
わかためは たなゐのしみつ ぬるけれと なほかきやらむ さてはすむやと
藤原実方恋一
3-拾遺671かきやらはにこりこそせめあさきせのみくつはたれかすませても見む
かきやらは にこりこそせめ あさきせの みくつはたれか すませてもみむ
読人知らず恋一
3-拾遺672ひとしれぬ心の内を見せたらは今まてつらき人はあらしな
ひとしれぬ こころのうちを みせたらは いままてつらき ひとはあらしな
読人知らず恋一
3-拾遺673人しれぬ思ひは年もへにけれと我のみしるはかひなかりけり
ひとしれぬ おもひはとしも へにけれと われのみしるは かひなかりけり
藤原実頼恋一
3-拾遺674ひとしれぬ涙に袖は朽ちにけりあふよもあらはなににつつまむ
ひとしれぬ なみたにそては くちにけり あふよもあらは なににつつまむ
読人知らず恋一
3-拾遺675君はたた袖はかりをやくたすらん逢ふには身をもかふとこそきけ
きみはたた そてはかりをや くたすらむ あふにはみをも かふとこそきけ
読人知らず恋一
3-拾遺676ひとしれすおつる涙はつのくにのなかすと見えて袖そくちぬる
ひとしれす おつるなみたは つのくにの なかすとみえて そてそくちぬる
読人知らず恋一
3-拾遺677恋といへはおなしなにこそ思ふらめいかてわか身を人にしらせん
こひといへは おなしなにこそ おもふらめ いかてわかみを ひとにしらせむ
読人知らず恋一
3-拾遺678あふ事のたえてしなくは中中に人をも身をも怨みさらまし
あふことの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみさらまし
藤原朝忠恋一
3-拾遺679逢ふ事はかたゐさりするみとりこのたたむ月にもあはしとやする
あふことは かたゐさりする みとりこの たたむつきにも あはしとやする
平兼盛恋一
3-拾遺680あふことを月日にそへてまつ時はけふ行末になりねとそ思ふ
あふことを つきひにそへて まつときは けふゆくすゑに なりねとそおもふ
読人知らず恋一
3-拾遺681あふ事をいつともしらて君かいはむ時はの山の松そくるしき
あふことを いつともしらて きみかいはむ ときはのやまの まつそくるしき
読人知らず恋一
3-拾遺682いのちをは逢ふにかふとかききしかと我やためしにあはぬしにせん
いのちをは あふにかふとか ききしかと われやためしに あはぬしにせむ
読人知らず恋一
3-拾遺683行末はつひにすきつつ道ふウの年月なきそわひしかりける
ゆくすゑは つひにすきつつ あふことの としつきなきそ わひしかりける
紀貫之恋一
3-拾遺684いきたれはこひする事のくるしきを猶いのちをはあふにかへてん
いきたれは こひすることの くるしきを なほいのちをは あふにかへてむ
読人知らず恋一
3-拾遺685こひしなむのちはなにせんいける日のためこそ人の見まくほしけれ
こひしなむ のちはなにせむ いけるひの ためこそひとの みまくほしけれ
大伴百世恋一
3-拾遺686あはれとしきみたにいははこひわひてしなんいのちもをしからなくに
あはれとし きみたにいはは こひわひて しなむいのちも をしからなくに
源経基恋一
3-拾遺687ひとしれす思ふ心をととめつついくたひ君かやとをすくらん
ひとしれす おもふこころを ととめつつ いくたひきみか やとをすくらむ
読人知らず恋一
3-拾遺688しくれにも雨にもあらて君こふる年のふるにも袖はぬれけり
しくれにも あめにもあらて きみこふる としのふるにも そてはぬれけり
読人知らず恋一
3-拾遺689露はかりたのめしほとのすきゆけはきえぬはかりの心地こそすれ
つゆはかり たのめしほとの すきゆけは きえぬはかりの ここちこそすれ
菅原輔昭恋一
3-拾遺690つゆはかりたのむることもなきものをあやしやなにに思ひおきけん
つゆはかり たのむることも なきものを あやしやなにに おもひおきけむ
読人知らず恋一
3-拾遺691流れてとたのむるよりは山河のこひしきせせにわたりやはせぬ
なかれてと たのむるよりは やまかはの こひしきせせに わたりやはせぬ
読人知らず恋一
3-拾遺692あひ見てはしにせぬ身とそなりぬへきたのむるにたにのふるいのちは
あひみては しにせぬみとそ なりぬへき たのむるにたに のふるいのちは
読人知らず恋一
3-拾遺693いかてかと思ふ心のある時はおほめくさへそうれしかりける
いかてかと おもふこころの あるときは おほめくさへそ うれしかりける
読人知らず恋一
3-拾遺694わひつつも昨日はかりはすくしてきけふやわか身のかきりなるらん
わひつつも きのふはかりは すくしてき けふやわかみの かきりなるらむ
読人知らず恋一
3-拾遺695こひつつもけふはくらしつ霞立つあすのはる日をいかてくらさん
こひつつも けふはくらしつ かすみたつ あすのはるひを いかてくらさむ
柿本人麻呂(人麿)恋一
3-拾遺696恋ひつつもけふは有りなんたまくしけあけんあしたをいかてくらさむ
こひつつも けふはありなむ たまくしけ あけむあしたを いかてくらさむ
柿本人麻呂(人麿)恋一
3-拾遺697君をのみ思ひかけこのたまくしけあけたつことにこひぬ日はなし
きみをのみ おもひかけこの たまくしけ あけたつことに こひぬひはなし
読人知らず恋一
3-拾遺698春の野におふるなきなのわひしきは身をつみてたに人のしらぬよ
はるののに おふるなきなの わひしきは みをつみてたに ひとのしらぬよ
読人知らず恋二
3-拾遺699なき名のみたつたの山のあをつつら又くる人も見えぬ所に
なきなのみ たつたのやまの あをつつら またくるひとも みえぬところに
読人知らず恋二
3-拾遺700無き名のみたつの市とはさわけともいさまた人をうるよしもなし
なきなのみ たつのいちとは さわけとも いさまたひとを うるよしもなし
柿本人麻呂(人麿)恋二
3-拾遺701なき事をいはれの池のうきぬなはくるしき物は世にこそ有りけれ
なきことを いはれのいけの うきぬなは くるしきものは よにこそありけれ
読人知らず恋二
3-拾遺702竹の葉におきゐる事のまろひあひてぬるとはなしに立つわかなかな
たけのはに おきゐるつゆの まろひあひて ぬるとはなしに たつわかなかな
柿本人麻呂(人麿)恋二
3-拾遺703あちきなやわかなはたちて唐衣身にもならさてやみぬへきかな
あちきなや わかなはたちて からころも みにもならさて やみぬへきかな
読人知らず恋二
3-拾遺704唐衣我はかたなのふれなくにまつたつ物はなき名なりけり
からころも われはかたなの ふれなくに まつたつものは なきななりけり
読人知らず恋二
3-拾遺705そめ河にやとかる浪のはやけれはなき名立つとも今は怨みし
そめかはに やとかるなみの はやけれは なきなたつとも いまはうらみし
源重之恋二
3-拾遺706こはた河こはたかいひし事のはそなきなすすかむたきつせもなし
こはたかは こはたかいひし ことのはそ なきなすすかむ たきつせもなし
読人知らず恋二
3-拾遺707君か名の立つにとかなき身なりせはおほよそ人になして見ましや
きみかなの たつにとかなき みなりせは おほよそひとに なしてみましや
藤原忠房恋二
3-拾遺708夢かとも思ふへけれとねやはせしなにそ心にわすれかたきは
ゆめかとも おもふへけれと ねやはせし なにそこころに わすれかたきは
読人知らず恋二
3-拾遺709ゆめよゆめこひしき人にあひ見すなさめてののちにわひしかりけり
ゆめよゆめ こひしきひとに あひみすな さめてののちに わひしかりけり
読人知らず恋二
3-拾遺710あひ見てののちの心にくらふれは昔は物もおもはさりけり
あひみての のちのこころに くらふれは むかしはものも おもはさりけり
藤原敦忠恋二
3-拾遺711あひみてはなくさむやとそ思ひしをなこりしもこそこひしかりけれ
あひみては なくさむやとそ おもひしを なこりしもこそ こひしかりけれ
坂上是則恋二
3-拾遺712あひ見てもありにしものをいつのまにならひて人のこひしかるらん
あひみても ありにしものを いつのまに ならひてひとの こひしかるらむ
読人知らず恋二
3-拾遺713わか恋は猶あひ見てもなくさますいやまさりなる心地のみして
わかこひは なほあひみても なくさます いやまさりなる ここちのみして
読人知らず恋二
3-拾遺714逢ふ事をまちし月日のほとよりもけふのくれこそひさしかりけれ
あふことを まちしつきひの ほとよりも けふのくれこそ ひさしかりけれ
大中臣能宣恋二
3-拾遺715暁のなからましかは白露のおきてわひしき別せましや
あかつきの なからましかは しらつゆの おきてわひしき わかれせましや
紀貫之恋二
3-拾遺716あひ見ても猶なくさまぬ心かないくちよねてかこひのさむへき
あひみても なほなくさまぬ こころかな いくちよねてか こひのさむへき
紀貫之恋二
3-拾遺717むはたまのこよひなあけそあけゆかはあさゆく君をまつくるしきに
うはたまの こよひなあけそ あけゆかは あさゆくきみを まつくるしきに
柿本人麻呂(人麿)恋二
3-拾遺718ひとりねし時はまたれし鳥のねもまれにあふよはわひしかりけり
ひとりねし ときはまたれし とりのねも まれにあふよは わひしかりけり
読人知らず恋二
3-拾遺719葛木や我やはくめのはしつくりあけゆくほとは物をこそおもへ
かつらきや われやはくめの はしつくり あけゆくほとは ものをこそおもへ
読人知らず恋二
3-拾遺720あさまたき露わけきつる衣手のひるまはかりにこひしきやなそ
あさまたき つゆわけきつる ころもての ひるまはかりに こひしきやなそ
平行時恋二
3-拾遺721ふたつなき心は君におきつるを又ほともなくこひしきやなそ
ふたつなき こころはきみに おきつるを またほともなく こひしきやなそ
源清蔭恋二
3-拾遺722いつしかとくれをまつまのおほそらはくもるさへこそうれしかりけれ
いつしかと くれをまつまの おほそらは くもるさへこそ うれしかりけれ
読人知らず恋二
3-拾遺723日のうちに物をふたたひ思ふかなとくあけぬるとおそくくるると
ひのうちに ものをふたたひ おもふかな とくあけぬると おそくくるると
大江為基恋二
3-拾遺724ももはかきはねかくしきもわかことく朝わひしきかすはまさらし
ももはかき はねかくしきも わかことく あしたわひしき かすはまさらし
紀貫之恋二
3-拾遺725うつつにも夢にも人によるしあへはくれゆくはかりうれしきはなし
うつつにも ゆめにもひとに よるしあへは くれゆくはかり うれしきはなし
読人知らず恋二
3-拾遺726暁の別の道をおもはすはくれ行くそらはうれしからまし
あかつきの わかれのみちを おもはすは くれゆくそらは うれしからまし
読人知らず恋二
3-拾遺727君こふる涙のこほる冬の夜は心とけたるいやはねらるる
きみこふる なみたのこほる ふゆのよは こころとけたる いやはねらるる
読人知らず恋二
3-拾遺728かからても有りにしものをしらゆきのひとひもふれはまさるわかこひ
かからても ありにしものを しらゆきの ひとひもふれは まさるわかこひ
在原業平恋二
3-拾遺729あさこほりとくるまもなききみによりなとてそほつるたもとなるらん
あさこほり とくるまもなき きみにより なとてそほつる たもとなるらむ
大中臣能宣恋二
3-拾遺730身をつめは露をあはれと思ふかな暁ことにいかておくらん
みをつめは つゆをあはれと おもふかな あかつきことに いかておくらむ
読人知らず恋二
3-拾遺731うしと思ふものから人のこひしきはいつこをしのふ心なるらん
うしとおもふ ものからひとの こひしきは いつこをしのふ こころなるらむ
読人知らず恋二
3-拾遺732よそにても有りにしものを花すすきほのかに見てそ人は恋しき
よそにても ありにしものを はなすすき ほのかにみてそ ひとはこひしき
読人知らず恋二
3-拾遺733夢よりもはかなきものはかけろふのほのかに見えしかけにそありける
ゆめよりも はかなきものは かけろふの ほのかにみえし かけにそありける
読人知らず恋二
3-拾遺734ゆめのことなとかよるしも君を見むくるるまつまもさためなきよを
ゆめのこと なとかよるしも きみをみむ くるるまつまも さためなきよを
壬生忠見恋二
3-拾遺735こひしきを何につけてかなくさめむ夢たに見えすぬる夜なけれは
こひしきを なににつけてか なくさめむ ゆめたにみえす ぬるよなけれは
源順恋二
3-拾遺736あけくれのそらにそ我は迷ひぬる思ふ心のゆかぬまにまに
あけくれの そらにそわれは まよひぬる おもふこころの ゆかぬまにまに
源順恋二
3-拾遺737たまほこのとほ道もこそ人はゆけなと時のまも見ねはこひしき
たまほこの とほみちもこそ ひとはゆけ なとときのまも みぬはこひしき
紀貫之恋二
3-拾遺738身にこひのあまりにしかはしのふれと人のしるらん事そわひしき
みにこひの あまりにしかは しのふれと ひとのしるらむ ことそわひしき
読人知らず恋二
3-拾遺739しのひつつおもへはくるしすみの江の松のねなからあらはれなはや
しのひつつ おもへはくるし すみのえの まつのねなから あらはれなはや
読人知らず恋二
3-拾遺740住吉の松ならねともひさしくも君とねぬよのなりにけるかな
すみよしの まつならねとも ひさしくも きみとねぬよの なりにけるかな
源清蔭恋二
3-拾遺741ひさしくもおもほえねとも住吉の松やふたたひおひかはるらん
ひさしくも おもほえねとも すみよしの まつやふたたひ おひかはるらむ
忠房かむすめ恋二
3-拾遺742なにせむに結ひそめけんいはしろの松はひさしき物としるしる
なにせむに むすひそめけむ いはしろの まつはひさしき ものとしるしる
読人知らず恋二
3-拾遺743かた岸の松のうきねとしのひしはされはよつひにあらはれにけり
かたきしの まつのうきねと しのひしは されはよつひに あらはれにけり
読人知らず恋二
3-拾遺744あひ見てはいくひささにもあらねとも年月のことおもほゆるかな
あひみては いくひささにも あらねとも としつきのこと おもほゆるかな
柿本人麻呂(人麿)恋二
3-拾遺745年をへて思ひ思ひてあひぬれは月日のみこそうれしかりけれ
としをへて おもひおもひて あひぬれは つきひのみこそ うれしかりけれ
柿本人麻呂(人麿)恋二
3-拾遺746すきいたもてふけるいたまのあはさらは如何せんとかわかねそめけん
すきいたもて ふけるいたまの あはさらは いかにせむとか わかねそめけむ
柿本人麻呂(人麿)恋二
3-拾遺747こぬかなとしはしは人におもはせんあはてかへりしよひのねたさに
こぬかなと しはしはひとに おもはせむ あはてかへりし よひのねたさに
読人知らず恋二
3-拾遺748秋霧のはれぬ朝のおほそらを見るかことくも見えぬ君かな
あききりの はれぬあしたの おほそらを みるかことくも みえぬきみかな
読人知らず恋二
3-拾遺749恋ひわひぬねをたになかむ声たてていつこなるらんおとなしのさと
こひわひぬ ねをたになかむ こゑたてて いつこなるらむ おとなしのさと
読人知らず恋二
3-拾遺750おとなしのかはとそつひに流れけるいはて物思ふ人の渡は
おとなしの かはとそつひに なかれける いはてものおもふ ひとのなみたは
清原元輔恋二
3-拾遺751風さむみ声よわり行く虫よりもいはて物思ふ我そまされる
かせさむみ こゑよわりゆく むしよりも いはてものおもふ われそまされる
読人知らず恋二
3-拾遺752しかのあまのつりにともせるいさり火のほのかにいもを見るよしもかな
しかのあまの つりにともせる いさりひの ほのかにいもを みるよしもかな
読人知らず恋二
3-拾遺753恋するはくるしき物としらすへく人をわか身にしはしなさはや
こひするは くるしきものと しらすへく ひとをわかみに しはしなさはや
読人知らず恋二
3-拾遺754しるや君しらすはいかにつらからむわかかくはかり思ふ心を
しるやきみ しらすはいかに つらからむ わかかくはかり おもふこころを
読人知らず恋二
3-拾遺755あすしらぬわか身なりとも怨みおかむこの世にてのみやましと思へは
あすしらぬ わかみなりとも うらみおかむ このよにてのみ やましとおもへは
大中臣能宣恋二
3-拾遺756思ふなと君はいへともあふ事をいつとしりてかわかこひさらん
おもふなと きみはいへとも あふことを いつとしりてか わかこひさらむ
柿本人麻呂(人麿)恋二
3-拾遺757おもふらむ心の内をしらぬ身はしぬはかりにもあらしとそ思ふ
おもふらむ こころのうちを しらぬみは しぬはかりにも あらしとそおもふ
源順恋二
3-拾遺758かくれぬのそこの心そうらめしきいかにせよとてつれなかるらん
かくれぬの そこのこころそ うらめしき いかにせよとて つれなかるらむ
一条摂政恋二
3-拾遺759我なからさももとかしき心かなおもはぬ人はなにかこひしき
われなから さももとかしき こころかな おもはぬひとは なにかこひしき
読人知らず恋二
3-拾遺760草かくれかれにし水はぬるくともむすひしそては今もかわかす
くさかくれ かれにしみつは ぬるくとも むすひしそては いまもかわかす
清原元輔恋二
3-拾遺761わか思ふ人は草葉のつゆなれやかくれは抽のまつそほつらむ
わかおもふ ひとはくさはの つゆなれや かくれはそての まつそほつらむ
読人知らず恋二
3-拾遺762たもとよりおつる涙はみちのくの衣河とそいふへかりける
たもとより おつるなみたは みちのくの ころもかはとそ いふへかりける
読人知らず恋二
3-拾遺763衣をやぬきてやらまし涙のみかかりけりとも人の見るへく
ころもをや ぬきてやらまし なみたのみ かかりけりとも ひとのみるへく
読人知らず恋二
3-拾遺764人めをもつつまぬ物と思ひせは袖の涙のかからましやは
ひとめをも つつまぬものと おもひせは そてのなみたの かからましやは
実方恋二
3-拾遺765礒神ふるとも雨にさはらめやあはむといもにいひてしものを
いそのかみ ふるともあめに さはらめや あはむといもに いひてしものを
大伴方見恋二
3-拾遺766わひぬれは今はたおなしなにはなる身をつくしてもあはむとそ思ふ
わひぬれは いまはたおなし なにはなる みをつくしても あはむとそおもふ
元良親王恋二
3-拾遺767いつかともおもはぬさはのあやめ草たたつくつくとねこそなかるれ
いつかとも おもはぬさはの あやめくさ たたつくつくと ねこそなかるれ
読人知らず恋二
3-拾遺768おふれともこまもすさめぬあやめ草かりにも人のこぬかわひしさ
おふれとも こまもすさへぬ あやめくさ かりにもひとの こぬかわひしさ
凡河内躬恒恋二
3-拾遺769かやり火は物思ふ人の心かも夏のよすからしたにもゆらん
かやりひは ものおもふひとの こころかも なつのよすから したにもゆらむ
大中臣能宣恋二
3-拾遺770しのふれはくるしかりけりしのすすき秋のさかりになりやしなまし
しのふれは くるしかりけり しのすすき あきのさかりに なりやしなまし
勝観法師恋二
3-拾遺771思ひきやわかまつ人はよそなからたなはたつめのあふを見むとは
おもひきや わかまつひとは よそなから たなはたつめの あふをみむとは
読人知らず恋二
3-拾遺772けふさへやよそに見るへきひこほしのたちならすらんあまのかはなみ
けふさへや よそにみるへき ひこほしの たちならすらむ あまのかはなみ
読人知らず恋二
3-拾遺773わひぬれはつねはゆゆしきたなはたもうらやまれぬる物にそ有りける
わひぬれは つねはゆゆしき たなはたも うらやまれぬる ものにそありける
読人知らず恋二
3-拾遺774露たにもなからましかは秋の夜に誰とおきゐて人をまたまし
つゆたにも なからましかは あきのよに たれとおきゐて ひとをまたまし
読人知らず恋二
3-拾遺775今更にとふへき人もおもほえすやへむくらしてかとさせりてへ
いまさらに とふへきひとも おもほえす やへむくらして かとさせりてへ
読人知らず恋二
3-拾遺776秋はわか心のつゆにあらねとも物なけかしきころにもあるかな
あきはわか こころのつゆに あらねとも ものなけかしき ころにもあるかな
読人知らず恋二
3-拾遺777あしひきの山した風もさむけきにこよひも又やわかひとりねん
あしひきの やましたかせも さむけきに こよひもまたや わかひとりねむ
読人知らず恋三
3-拾遺778葦引の山鳥の尾のしたりをのなかなかし夜をひとりかもねむ
あしひきの やまとりのをの したりをの なかなかしよを ひとりかもねむ
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺779あしひきの葛木山にゐる事のたちてもゐても君をこそおもへ
あしひきの かつらきやまに ゐるくもの たちてもゐても きみをこそおもへ
読人知らず恋三
3-拾遺780あしひきの山の山すけやますのみ見ねはこひしききみにもあるかな
あしひきの やまのやますけ やますのみ みねはこひしき きみにもあるかな
読人知らず恋三
3-拾遺781あしひきの山こえくれてやとからはいもたちまちていねさらむかも
あしひきの やまこえくれて やとからは いもたちまちて いねさらむかも
石上乙麿恋三
3-拾遺782あしひきの山よりいつる月まつと人にはいひて君をこそまて
あしひきの やまよりいつる つきまつと ひとにはいひて きみをこそまて
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺783みか月のさやかに見えす雲隠見まくそほしきうたてこのころ
みかつきの さやかにみえす くもかくれ みまくそほしき うたてこのころ
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺784逢ふ事はかたわれ月の雲かくれおほろけにやは人のこひしき
あふことは かたわれつきの くもかくれ おほろけにやは ひとのこひしき
読人知らず恋三
3-拾遺785秋の夜の月かも君はくもかくれしはしも見ねはここらこひしき
あきのよの つきかもきみは くもかくれ しはしもみねは ここらこひしき
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺786秋の夜の月見るとのみおきゐつつ今夜もねてや我はかへらん
あきのよの つきみるとのみ おきゐつつ こよひもねてや われはかへらむ
平兼盛恋三
3-拾遺787こひしさはおなし心にあらすとも今夜の月を君見さらめや
こひしさは おなしこころに あらすとも こよひのつきを きみみさらめや
源信明恋三
3-拾遺788さやかにも見るへき月を我はたた涙にくもるをりそおほかる
さやかにも みるへきつきを われはたた なみたにくもる をりそおほかる
中務恋三
3-拾遺789久方のあまてる月もかくれ行く何によそへてきみをしのはむ
ひさかたの あまてるつきも かくれゆく なにによそへて きみをしのはむ
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺790宮こにて見しにかはらぬ月影をなくさめにてもあかすころかな
みやこにて みしにかはらぬ つきかけを なくさめにても あかすころかな
読人知らず恋三
3-拾遺791てる月も影みなそこにうつりけりにたる物なきこひもするかな
てるつきも かけみなそこに うつりけり にたるものなき こひもするかな
紀貫之恋三
3-拾遺792今夜君いかなるさとの月を見て宮こにたれを思ひいつらむ
こよひきみ いかなるさとの つきをみて みやこにたれを おもひいつらむ
中宮内侍恋三
3-拾遺793月かけをわか身にかふる物ならはおもはぬ人もあはれとや見む
つきかけを わかみにかふる ものならは おもはぬひとも あはれとやみむ
壬生忠岑恋三
3-拾遺794ひとりぬるやとには月の見えさらは恋しき事のかすはまさらし
ひとりぬる やとにはつきの みえさらは こひしきことの かすはまさらし
源順恋三
3-拾遺795長月の在明の月の有りつつも君しきまさは我こひめやも
なかつきの ありあけのつきの ありつつも きみしきまさは わかこひめやも
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺796ことならはやみにそあらまし秋のよのなそ月かけの人たのめなる
ことならは やみにそあらまし あきのよの なそつきかけの ひとたのめなる
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺797ふらぬ夜の心をしらておほそらの雨をつらしと思ひけるかな
ふらぬよの こころをしらて おほそらの あめをつらしと おもひけるかな
春宮左近恋三
3-拾遺798衣たになかに有りしはうとかりきあはぬ夜をさへへたてつるかな
ころもたに なかにありしは うとかりき あはぬよをさへ へたてつるかな
読人知らず恋三
3-拾遺799なかき夜も人をつらしと思ふにはねなくにあくる物にそ有りける
なかきよも ひとをつらしと おもふには ねなくにあくる ものにそありける
読人知らず恋三
3-拾遺800わすれなん今はとはしと思ひつつぬる夜しもこそゆめに見えけれ
わすれなむ いまはとはしと おもひつつ ぬるよしもこそ ゆめにみえけれ
読人知らず恋三
3-拾遺801よるとてもねられさりけり人しれすねさめのこひにおとろかれつつ
よるとても ねられさりけり ひとしれす ねさめのこひに おとろかれつつ
読人知らず恋三
3-拾遺802むはたまのいもかくろかみこよひもやわかなきとこになひきいてぬらん
うはたまの いもかくろかみ こよひもや わかなきとこに なひきいてぬらむ
読人知らず恋三
3-拾遺803わかせこかありかもしらてねたる夜はあか月かたの枕さひしも
わかせこか ありかもしらて ねたるよは あかつきかたの まくらさひしも
読人知らず恋三
3-拾遺804いかなりし時くれ竹のひと夜たにいたつらふしをくるしといふらん
いかなりし ときくれたけの ひとよたに いたつらふしを くるしといふらむ
読人知らず恋三
3-拾遺805いかならんをりふしにかはくれ竹のよるはこひしき人にあひ見む
いかならむ をりふしにかは くれたけの よるはこひしき ひとにあひみむ
読人知らず恋三
3-拾遺806まさしてふやそのちまたにゆふけとふうらまさにせよいもにあふへく
まさしてふ やそのちまたに ゆふけとふ うらまさにせよ いもにあふへく
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺807ゆふけとふうらにもよくありこよひたにこさらむきみをいつかまつへき
ゆふけとふ うらにもよくあり こよひたに こさらむきみを いつかまつへき
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺808夢をたにいかてかたみに見てしかなあはてぬるよのなくさめにせん
ゆめをたに いかてかたみに みてしかな あはてぬるよの なくさめにせむ
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺809うつつにはあふことかたし玉の緒のよるはたえせすゆめに見えなん
うつつには あふことかたし たまのをの よるはたえせす ゆめにみえなむ
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺810いにしへをいかてかとのみ思ふ身に今夜のゆめを春になさはや
いにしへを いかてかとのみ おもふみに こよひのゆめを はるになさはや
ひろはたのみやす所恋三
3-拾遺811わすらるる時しなけれは春の田を返す返すそ人はこひしき
わすらるる ときしなけれは はるのたを かへすかへすそ ひとはこひしき
紀貫之恋三
3-拾遺812あつさゆみ春のあら田をうち返し思ひやみにし人そこひしき
あつさゆみ はるのあらたを うちかへし おもひやみにし ひとそこひしき
読人知らず恋三
3-拾遺813かのをかにはきかるをのこなはをなみねるやねりそのくたけてそ思ふ
かのをかに はきかるをのこ なはをなみ ねるやねりその くたけてそおもふ
凡河内躬恒恋三
3-拾遺814春くれは柳のいともとけにけりむすほほれたるわか心かな
はるくれは やなきのいとも とけにけり むすほほれたる わかこころかな
読人知らず恋三
3-拾遺815いつ方によるとかは見むあをやきのいとさためなき人の心を
いつかたに よるとかはみむ あをやきの いとさためなき ひとのこころを
読人知らず恋三
3-拾遺816まきもくのひはらの霞立返りかくこそは見めあかぬ君かな
まきもくの ひはらのかすみ たちかへり かくこそはみめ あかぬきみかな
読人知らず恋三
3-拾遺817なかめやる山へはいととかすみつつおほつかなさのまさる春かな
なかめやる やまへはいとと かすみつつ おほつかなさの まさるはるかな
藤原清隆娘恋三
3-拾遺818わかせこをきませの山とひとはいへと君もきまさぬ山のなならし
わかせこを きませのやまと ひとはいへと きみもきまさぬ やまのなならし
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺819我か背子をならしの岡のよふことり君よひかへせ夜のふけぬ時
わかせこを ならしのをかの よふことり きみよひかへせ よのふけぬとき
山部赤人恋三
3-拾遺820こぬ人をまつちの山の郭公おなし心にねこそなかるれ
こぬひとを まつちのやまの ほとときす おなしこころに ねこそなかるれ
読人知らず恋三
3-拾遺821しののめになきこそわたれ時鳥物思ふやとはしるくやあるらん
しののめに なきこそわたれ ほとときす ものおもふやとは しるくやあるらむ
読人知らず恋三
3-拾遺822たたくとてやとのつまとをあけたれは人もこすゑのくひななりけり
たたくとて やとのつまとを あけたれは ひともこすゑの くひななりけり
読人知らず恋三
3-拾遺823夏衣うすきなからそたのまるるひとへなるしも身にちかけれは
なつころも うすきなからそ たのまるる ひとへなるしも みにちかけれは
読人知らず恋三
3-拾遺824かりてほすよとのまこもの雨ふれはつかねもあへぬこひもするかな
かりてほす よとのまこもの あめふれは つかぬもあへぬ こひもするかな
読人知らず恋三
3-拾遺825みな月のつちさへさけててる日にもわかそてひめやいもにあはすして
みなつきの つちさへさけて てるひにも わかそてひめや いもにあはすして
読人知らず恋三
3-拾遺826なる神のしはしうこきてそらくもり雨もふらなん君とまるへく
なるかみの しはしうこきて そらくもり あめもふらなむ きみとまるへく
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺827人ことは夏野の草のしけくとも君と我としたつさはりなは
ひとことは なつののくさの しけくとも きみとわれとし たつさはりなは
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺828野も山もしけりあひぬる夏なれと人のつらさは事のはもなし
のもやまも しけりあひぬる なつなれと ひとのつらさは ことのはもなし
読人知らず恋三
3-拾遺829夏草のしけみにおふるまろこすけまろかまろねよいくよへぬらん
なつくさの しけみにおふる まろこすけ まろかまろねよ いくよへぬらむ
読人知らず恋三
3-拾遺830山かつのかきほにおふるなてしこに思ひよそへぬ時のまそなき
やまかつの かきほにおふる なてしこに おもひよそへぬ ときのまそなき
村上院恋三
3-拾遺831思ひしる人に見せはやよもすからわかとこ夏におきゐたるつゆ
おもひしる ひとにみせはや よもすから わかとこなつに おきゐたるつゆ
清原元輔恋三
3-拾遺832秋の野の草葉もわけぬわか袖のつゆけくのみもなりまさるかな
あきののの くさはもわけぬ わかそての つゆけくのみも なりまさるかな
読人知らず恋三
3-拾遺833わかせこかきまさぬよひの秋風はこぬ人よりもうらめしきかな
わかせこか きまさぬよひの あきかせは こぬひとよりも うらめしきかな
曾禰好忠恋三
3-拾遺834うら山しあさひにあたる白露をわか身と今はなすよしもかな
うらやまし あさひにあたる しらつゆを わかみといまは なすよしもかな
読人知らず恋三
3-拾遺835秋の田のほのうへにおけるしらつゆのけぬへく我はおもほゆるかな
あきのたの ほのうへにおける しらつゆの けぬへくわれは おもほゆるかな
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺836住吉の岸を田にほりまきしいねのかるほとまてもあはぬきみかな
すみよしの きしをたにほり まきしいねの かるほとまても あはぬきみかな
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺837こひしくはかたみにせむとわかやとにうゑし秋はき今さかりなり
こひしくは かたみにせむと わかやとに うゑしあきはき いまさかりなり
山部赤人恋三
3-拾遺838秋はきのしたはを見すはわすらるる人の心をいかてしらまし
あきはきの したはをみすは わすらるる ひとのこころを いかてしらまし
広平親王恋三
3-拾遺839しめゆはぬのへの秋はき風ふけはとふしかくふし物をこそ思へ
しめゆはぬ のへのあきはき かせふけは とふしかくふし ものをこそおもへ
読人知らず恋三
3-拾遺840うつろふはしたははかりと見しほとにやかても秋になりにけるかな
うつろふは したははかりと みしほとに やかてもあきに なりにけるかな
中宮内侍恋三
3-拾遺841事の葉も霜にはあへすかれにけりこや秋はつるしるしなるらん
ことのはも しもにはあへす かれにけり こやあきはつる しるしなるらむ
大中臣能宣恋三
3-拾遺842色もなき心を人にそめしよりうつろはむとはわかおもはなくに
いろもなき こころをひとに そめしより うつろはむとは わかおもはなくに
紀貫之恋三
3-拾遺843かすならぬ身をうち河のあしろ木におほくの日をもすくしつるかな
かすならぬ みをうちかはの あしろきに おほくのひをも すくしつるかな
読人知らず恋三
3-拾遺844したもみちするをはしらて松の木のうへの緑をたのみけるかな
したもみち するをはしらて まつのきの うへのみとりを たのみけるかな
読人知らず恋三
3-拾遺845わかせこをわかこひをれはわかやとの草さへ思ひうらかれにけり
わかせこを わかこひをれは わかやとの くささへおもひ うらかれにけり
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺846霜のうへにふるはつ雪のあさ氷とけすも物を思ふころかな
しものうへに ふるはつゆきの あさこほり とけすもものを おもふころかな
読人知らず恋三
3-拾遺847三吉野の雪にこもれる山人もふる道とめてねをやなくらん
みよしのの ゆきにこもれる やまひとも ふるみちとめて ねをやなくらむ
源景明恋三
3-拾遺848たのめつつこぬ夜あまたに成りぬれはまたしと思ふそまつにまされる
たのめつつ こぬよあまたに なりぬれは またしとおもふそ まつにまされる
柿本人麻呂(人麿)恋三
3-拾遺849あさねかみ我はけつらしうつくしき人のた枕ふれてしものを
あさねかみ われはけつらし うつくしき ひとのたまくら ふれてしものを
柿本人麻呂(人麿)恋四
3-拾遺850時のまも心はそらになるものをいかてすくしし昔なるらむ
ときのまも こころはそらに なるものを いかてすくしし むかしなるらむ
藤原実方恋四
3-拾遺851しらなみのうちしきりつつ今夜さへいかてかひとりぬるとかやきみ
しらなみの うちしきりつつ こよひさへ いかてかひとり ぬるとかやきみ
読人知らず恋四
3-拾遺852如何してけふをくらさむこゆるきのいそきいててもかひなかりけり
いかにして けふをくらさむ こゆるきの いそきいてても かひなかりけり
小弐命婦恋四
3-拾遺853みなといりの葦わけを舟さはりおほみわか思ふ人にあはぬころかな
みなといりの あしわけをふね さはりおほみ わかおもふひとに あはぬころかな
柿本人麻呂(人麿)恋四
3-拾遺854いはしろのの中にたてる結松心もとけす昔おもへは
いはしろの のなかにたてる むすひまつ こころもとけす むかしおもへは
柿本人麻呂(人麿)恋四
3-拾遺855わかやとははりまかたにもあらなくにあかしもはてて人のゆくらん
わかやとは はりまかたにも あらなくに あかしもはてて ひとのゆくらむ
読人知らず恋四
3-拾遺856浪まより見ゆるこ舟の浜ひさ木ひさしく成りぬ君にあはすて
なみまより みゆるこしまの はまひさき ひさしくなりぬ きみにあはすて
読人知らず恋四
3-拾遺857ますかかみ手にとりもちてあさなあさな見れともきみにあく時そなき
ますかかみ てにとりもちて あさなあさな みれともきみに あくときそなき
柿本人麻呂(人麿)恋四
3-拾遺858みな人のかさにぬふてふ有ますけありてののちもあはんとそ思ふ
みなひとの かさにぬふてふ ありますけ ありてののちも あはむとそおもふ
柿本人麻呂(人麿)恋四
3-拾遺859いかほのやいかほのぬまのいかにして恋しき人を今ひとめみむ
いかほのや いかほのぬまの いかにして こひしきひとを いまひとめみむ
読人知らず恋四
3-拾遺860玉河にさらすてつくりさらさらに昔の人のこひしきやなそ
たまかはに さらすてつくり さらさらに むかしのひとの こひしきやなそ
読人知らず恋四
3-拾遺861身ははやくならの都になりにしをこひしき事のふりせさるらん
みははやく ならのみやこに なりにしを こひしきことの ふりせさるらむ
読人知らず恋四
3-拾遺862いその神ふりにしこひのかみさひてたたるに我はねきそかねつる
いそのかみ ふりにしこひの かみさひて たたるにわれは ねきそかねつる
藤原忠房恋四
3-拾遺863いかはかり苦しきものそ葛木のくめちのはしの中のたえまは
いかはかり くるしきものそ かつらきの くめちのはしの なかのたえまは
読人知らず恋四
3-拾遺864限なく思ひなからの橋柱思ひなからに中やたえなん
かきりなく おもひなからの はしはしら おもひなからに なかやたえなむ
読人知らず恋四
3-拾遺865中中にいひもはなたてしなのなるきそちのはしのかけたるやなそ
なかなかに いひもはなたて しなのなる きそちのはしの かけたるやなそ
源頼光恋四
3-拾遺866すきたてるやとをそ人はたつねける心の松はかひなかりけり
すきたてる やとをそひとは たつねける こころのまつは かひなかりけり
読人知らず恋四
3-拾遺867いその神ふるの社のゆふたすきかけてのみやはこひむと思ひし
いそのかみ ふるのやしろの ゆふたすき かけてのみやは こひむとおもひし
読人知らず恋四
3-拾遺868我やうき人やつらきとちはやふる神てふ神にとひ見てしかな
われやうき ひとやつらきと ちはやふる かみてふかみに とひみてしかな
読人知らず恋四
3-拾遺869住吉のあら人神にちかひてもわするる君か心とそきく
すみよしの あらひとかみに ちかひても わするるきみか こころとそきく
読人知らず恋四
3-拾遺870わすらるる身をはおもはすちかひてし人のいのちのをしくもあるかな
わすらるる みをはおもはす ちかひてし ひとのいのちの をしくもあるかな
右近恋四
3-拾遺871何せむに命をかけてちかひけんいかはやと思ふをりも有りけり
なにせむに いのちをかけて ちかひけむ いかはやとおもふ をりもありけり
実方恋四
3-拾遺872ちりひちのかすにもあらぬ我ゆゑに思ひわふらんいもかかなしさ
ちりひちの かすにもあらぬ われゆゑに おもひわふらむ いもかかなしさ
読人知らず恋四
3-拾遺873こひこひて後もあはむとなくさむる心しなくはいのちあらめや
こひこひて のちもあはむと なくさむる こころしなくは いのちあらめや
柿本人麻呂(人麿)恋四
3-拾遺874かくはかりこひしき物としらませはよそに見るへくありけるものを
かくはかり こひしきものと しらませは よそにみるへく ありけるものを
柿本人麻呂(人麿)恋四
3-拾遺875涙河のとかにたにもなかれなんこひしき人の影や見ゆると
なみたかは のとかにたにも なかれなむ こひしきひとの かけやみゆると
読人知らず恋四
3-拾遺876涙河おつるみなかみはやけれはせきそかねつるそてのしからみ
なみたかは おつるみなかみ はやけれは せきそかねつる そてのしからみ
紀貫之恋四
3-拾遺877なみた河そこのみくつとなりはててこひしきせせに流れこそすれ
なみたかは そてのみくつと なりはてて こひしきせせに なかれこそすれ
源順恋四
3-拾遺878人しれすおつる涙のつもりつつかすかくはかりなりにけるかな
ひとしれす おつるなみたの つもりつつ かすかくはかり なりにけるかな
藤原惟成恋四
3-拾遺879かつ見つつ影はなれゆく水のおもにかくかすならぬ身をいかにせん
かつみつつ かけはなれゆく みつのおもに かくかすならぬ みをいかにせむ
承香殿女御恋四
3-拾遺880さをしかのつめたにひちぬ山河のあさましきまてとはぬ君かな
さをしかの つめたにひちぬ やまかはの あさましきまて とはぬきみかな
読人知らず恋四
3-拾遺881浅猿やこのしたかけのいはし水いくその人の影を見つらん
あさましや このしたかけの いはしみつ いくそのひとの かけをみつらむ
読人知らず恋四
3-拾遺882行く水のあわならはこそきえかへり人のふちせを流れても見め
ゆくみつの あわならはこそ きえかへり ひとのふちせを なかれてもみめ
読人知らず恋四
3-拾遺883つのくにのほり江のふかく思ふとも我はなにはのなにとたに見す
つのくにの ほりえのふかく おもふとも われはなにはの なにとたにみす
読人知らず恋四
3-拾遺884つのくにのいくたの池のいくたひかつらき心を我に見すらん
つのくにの いくたのいけの いくたひか つらきこころを われにみすらむ
読人知らず恋四
3-拾遺885つのくにのなには渡につくるなるこやといはなんゆきて見るへく
つのくにの なにはわたりに つくるなる こやといはなむ ゆきてみるへく
読人知らず恋四
3-拾遺886たひひとのかやかりおほひつくるてふまろやは人を思ひわするる
たひひとの かやかりおほひ つくるてふ まろやはひとを おもひわするる
読人知らず恋四
3-拾遺887なには人あし火たくやはすすたれとおのかつまこそとこめつらなれ
なにはひと あしひたくやは すすたれと おのかつまこそ とこめつらなれ
柿本人麻呂(人麿)恋四
3-拾遺888住吉の岸におひたる忘草見すやあらましこひはしぬとも
すみよしの きしにおひたる わすれくさ みすやあらまし こひはしぬとも
読人知らず恋四
3-拾遺889やほかゆくはまのまさことわかこひといつれまされりおきつしまもり
やほかゆく はまのまさこと わかこひと いつれまされり おきつしまもり
読人知らず恋四
3-拾遺890さしなから人の心を見くまののうらのはまゆふいくへなるらん
さしなから ひとのこころを みくまのの うらのはまゆふ いくへなるらむ
平兼盛恋四
3-拾遺891世の人のおよはぬ物はふしのねのくもゐにたかき思ひなりけり
よのひとの およはぬものは ふしのねの くもゐにたかき おもひなりけり
村上院恋四
3-拾遺892わかこひのあらはに見ゆる物ならはみやこのふしといはれなましを
わかこひの あらはにみゆる ものならは みやこのふしと いはれなましを
読人知らず恋四
3-拾遺893あしねはふうきはうへこそつれなけれしたはえならす思ふ心を
あしねはふ うきはうへこそ つれなけれ したはえならす おもふこころを
読人知らず恋四
3-拾遺894ねぬなはのくるしかるらん人よりも我そます田のいけるかひなき
ねぬなはの くるしかるらむ ひとよりも われそますたの いけるかひなき
読人知らず恋四
3-拾遺895たらちねのおやのかふこのまゆこもりいふせくもあるかいもにあはすして
たらちねの おやのかふこの まゆこもり いふせくもあるか いもにあはすて
柿本人麻呂(人麿)恋四
3-拾遺896いさやまたこひてふ事もしらなくにこやそなるらんいこそねられね
いさやまた こひてふことも しらなくに こやそなるらむ いこそねられね
読人知らず恋四
3-拾遺897たらちねのおやのいさめしうたたねは物思ふ時のわさにそ有りける
たらちねの おやのいさめし うたたねは おもおもふときの わさにそありける
読人知らず恋四
3-拾遺898うちとなくなれもしなまし玉すたれたれ年月をへたてそめけん
うちとなく なれもしなまし たまたれの たれとしつきを へたてそめけむ
中務恋四
3-拾遺899うかりけるふしをはすててしらいとの今くる人と思ひなさなん
うかりける ふしをはすてて しらいとの いまくるひとと おもひなさなむ
紀貫之恋四
3-拾遺900思ふとていとこそ人になれさらめしかならひてそ見ねはこひしき
おもふとて いとこそひとに なれさらめ しかならひてそ みねはこひしき
読人知らず恋四
3-拾遺901た枕のすきまの風もさむかりき身はならはしの物にそ有りける
たまくらの すきまのかせも さむかりき みはならはしの ものにそありける
読人知らず恋四
3-拾遺902吹く風に雲のはたてはととむともいかかたのまん人の心は
ふくかせに くものはたては ととむとも いかかたのまむ ひとのこころは
読人知らず恋四
3-拾遺903わか草にととめもあへぬこまよりもなつけわひぬる人の心か
わかくさに ととめもあへぬ こまよりも なつけわひぬる ひとのこころか
読人知らず恋四
3-拾遺904あふことのかたかひしたるみちのくのこまほしくのみおもほゆるかな
あふことの かたかひしたる みちのくの こまほしくのみ おもほゆるかな
読人知らず恋四
3-拾遺905みちのくのあたちの原のしらまゆみ心こはくも見ゆるきみかな
みちのくの あたちのはらの しらまゆみ こころこはくも みゆるきみかな
読人知らず恋四
3-拾遺906年月の行くらん方もおもほえす秋のはつかに人の見ゆれは
としつきの ゆくらむかたも おもほえす あきのはつかに ひとのみゆれは
伊勢恋四
3-拾遺907思ひきやあひ見ぬほとの年月をかそふはかりにならん物とは
おもひきや あひみぬほとの としつきを かそふはかりに ならむものとは
伊勢恋四
3-拾遺908遥なる程にもかよふ心かなさりとて人のしらぬものゆゑ
はるかなる ほとにもかよふ こころかな さりとてひとの しらぬものゆゑ
伊勢恋四
3-拾遺909雲井なる人を遥に思ふにはわか心さへそらにこそなれ
くもゐなる ひとをはるかに おもふには わかこころさへ そらにこそなれ
源経基恋四
3-拾遺910よそに有りてくもゐに見ゆるいもか家に早くいたらむあゆめくろこま
よそにありて くもゐにみゆる いもかいへに はやくいたらむ あゆめくろこま
柿本人麻呂(人麿)恋四
3-拾遺911わかかへるみちのくろこま心あらは君はこすともおのれいななけ
わかかへる みちのくろこま こころあらは きみはこすとも おのれいななけ
読人知らず恋四
3-拾遺912歎きつつ独ぬる夜のあくるまはいかにひさしき物とかはしる
なけきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる
藤原道綱母恋四
3-拾遺913なけ木こる人いる山のをののえのほとほとしくもなりにけるかな
なけきこる ひといるやまの をののえの ほとほとしくも なりにけるかな
読人知らず恋四
3-拾遺914ひとにたにしらせていりしおく山に恋しさいかてたつねきつらん
ひとにたに しらせていりし おくやまに こひしさいかて たつねきつらむ
読人知らず恋四
3-拾遺915影たえておほつかなさのますかかみ見すはわか身のうさもしられし
かけたえて おほつかなさの ますかかみ みすはわかみの うさもしられし
くにもち恋四
3-拾遺916思ひます人しなけれはますかかみうつれる影とねをのみそなく
おもひます ひとしなけれは ますかかみ うつれるかけと ねをのみそなく
読人知らず恋四
3-拾遺917わか袖のぬるるを人のとかめすはねをたにやすくなくへきものを
わかそての ぬるるをひとの とかめすは ねをたにやすく なくへきものを
読人知らず恋四
3-拾遺918かすならぬ身はたたにたにおもほえていかにせよとかなかめらるらん
かすならぬ みはたたにたに おもほえて いかにせよとか なかめらるらむ
こまの命婦恋四
3-拾遺919夢にさへ人のつれなく見えつれはねてもさめても物をこそおもへ
ゆめにさへ ひとのつれなく みえつれは ねてもさめても ものをこそおもへ
読人知らず恋四
3-拾遺920見る夢のうつつになるはよのつねそうつつのゆめになるそかなしき
みるゆめの うつつになるは よのつねそ うつつのゆめに なるそかなしき
読人知らず恋四
3-拾遺921逢ふ事は夢の中にもうれしくてねさめのこひそわひしかりける
あふことは ゆめのうちにも うれしくて ねさめのこひそ わひしかりける
読人知らず恋四
3-拾遺922わすれしよゆめとちきりし事のははうつつにつらき心なりけり
わすれしよ ゆめとちきりし ことのはは うつつにつらき こころなりけり
読人知らず恋四
3-拾遺923あたらしと何にいのちを思ひけんわすれはふるくなりぬへき身を
あたらしと なににいのちを おもひけむ わすれはふるく なりぬへきみを
読人知らず恋四
3-拾遺924ちはやふる神のいかきもこえぬへし今はわか身のをしけくもなし
ちはやふる かみのいかきも こえぬへし いまはわかみの をしけくもなし
柿本人麻呂(人麿)恋四
3-拾遺925なく涙世はみな海となりななんおなしなきさに流れよるへく
なくなみた よはみなうみと なりななむ おなしなきさに なかれよるへく
善祐法師母恋五
3-拾遺926住吉の岸にむかへるあはち島あはれと君をいはぬ日そなき
すみよしの きしにむかへる あはちしま あはれときみを いはぬひそなき
柿本人麻呂(人麿)恋五
3-拾遺927すてはてむいのちを今はたのまれよあふへきことのこの世ならねは
すてはてむ いのちをいまは たのまれよ あふへきことの このよならねは
読人知らず恋五
3-拾遺928いきしなん事の心にかなひせはふたたひ物はおもはさらまし
いきしなむ ことのこころに かなひせは ふたたひものは おもはさらまし
読人知らず恋五
3-拾遺929もえはててはひとなりなん時にこそ人を思ひのやまむこにせめ
もえはてて はひとなりなむ ときにこそ ひとをおもひの やまむこにせめ
読人知らず恋五
3-拾遺930いつ方にゆきかくれなん世の中に身のあれはこそ人もつらけれ
いつかたに ゆきかくれなむ よのなかに みのあれはこそ ひともつらけれ
読人知らず恋五
3-拾遺931有りへむと思ひもかけぬ世の中はなかなか身をそなけかさりける
ありへむと おもひもかけぬ よのなかは なかなかみをそ なけかさりける
読人知らず恋五
3-拾遺932いつはりと思ふものから今さらにたかまことをか我はたのまむ
いつはりと おもふものから いまさらに たかまことをか われはたのまむ
読人知らず恋五
3-拾遺933世の中のうきもつらきもしのふれは思ひしらすと人や見るらん
よのなかの うきもつらきも しのふれは おもひしらすと ひとやみるらむ
読人知らず恋五
3-拾遺934ひたふるにしなはなにかはさもあらはあれいきてかひなき物思ふ身は
ひたふるに しなはなにかは さもあらはあれ いきてかひなき ものおもふみは
読人知らず恋五
3-拾遺935恋するにしにする物にあらませはちたひそ我はしにかへらまし
こひするに しにするものに あらませは ちたひそわれは しにかへらまし
柿本人麻呂(人麿)恋五
3-拾遺936こひてしねこひてしねとやわきもこかわか家の門をすきてゆくらん
こひてしね こひてしねとや わきもこか わかいへのかとを すきてゆくらむ
柿本人麻呂(人麿)恋五
3-拾遺937こひしなはこひもしねとや玉桙の道ゆき人に事つてもなき
こひしなは こひもしねとや たまほこの みちゆきひとに ことつてもなき
柿本人麻呂(人麿)恋五
3-拾遺938恋しきをなくさめかねてすかはらや伏見にきてもねられさりけり
こひしきを なくさめかねて すかはらや ふしみにきても ねられさりけり
源重之恋五
3-拾遺939こひしきは色にいてても見えなくにいかなる時かむねにしむらん
こひしきは いろにいてても みえなくに いかなるときか むねにしむらむ
読人しらす恋五
3-拾遺940しのはむにしのはれぬへきこひならはつらきにつけてやみもしなまし
しのはむに しのはれぬへき こひならは つらきにつけて やみもしなまし
読人しらす恋五
3-拾遺941いかていかてこふる心をなくさめてのちの世まての物をおもはし
いかていかて こふるこころを なくさめて のちのよまての ものをおもはし
大中臣能宣恋五
3-拾遺942限なく思ふ心のふかけれはつらきもしらぬものにそありける
かきりなく おもふこころの ふかけれは つらきもしらぬ ものにそありける
読人知らず恋五
3-拾遺943わりなしやしひてもたのむ心かなつらしとかつは思ふものから
わりなしや しひてもたのむ こころかな つらしとかつは おもふものから
読人知らず恋五
3-拾遺944うしと思ふものから人のこひしきはいつこをしのふ心なるらん
うしとおもふ ものからひとの こひしきは いつこをしのふ こころなるらむ
読人知らず恋五
3-拾遺945身のうきを人のつらきと思ふこそ我ともいはしわりなかりけれ
みのうきを ひとのつらきと おもふこそ われともいはし わりなかりけれ
読人知らず恋五
3-拾遺946つらしとは思ふものからこひしきは我にかなはぬ心なりけり
つらしとは おもふものから こひしきは われにかなはぬ こころなりけり
読人知らず恋五
3-拾遺947つらきをも思ひしるやはわかためにつらき人しも我をうらむる
つらきをも おもひしるやは わかために つらきひとしも われをうらむる
読人知らず恋五
3-拾遺948心をはつらき物そといひおきてかはらしと思ふかほそこひしき
こころをは つらきものそと いひおきて かはらしとおもふ かほそこひしき
読人知らず恋五
3-拾遺949あさましや見しかとたにもおもはぬにかはらぬかほそ心ならまし
あさましや みしかとたにも おもはぬに かはらぬかほそ こころならまし
読人知らず恋五
3-拾遺950あはれともいふへき人はおもほえて身のいたつらに成りぬへきかな
あはれとも いふへきひとは おもほえて みのいたつらに なりぬへきかな
一条摂政恋五
3-拾遺951さもこそはあひ見むことのかたからめわすれすとたにいふ人のなき
さもこそは あひみむことの かたからめ わすれすとたに いふひとのなき
伊勢恋五
3-拾遺952あふことのなけきの本をたつぬれはひとりねよりそおひはしめける
あふことの なけきのもとを たつぬれは ひとりねよりそ おひはしめける
藤原有時恋五
3-拾遺953おほかたのわか身ひとつのうきからになへての世をも怨みつるかな
おほかたの わかみひとつの うきからに なへてのよをも うらみつるかな
紀貫之恋五
3-拾遺954あらちをのかるやのさきに立つしかもいと我はかり物はおもはし
あらちをの かるやのさきに たつしかも いとわれはかり ものはおもはし
柿本人麻呂(人麿)恋五
3-拾遺955荒磯の外ゆく浪の外心我はおもはしこひはしぬとも
あらいその ほかゆくなみの ほかこころ われはおもはし こひはしぬとも
柿本人麻呂(人麿)恋五
3-拾遺956かきくもり雨ふる河のささらなみまなくも人のこひらるるかな
かきくもり あめふるかはの ささらなみ まなくもひとの こひらるるかな
柿本人麻呂(人麿)恋五
3-拾遺957わかことや雲の中にも思ふらむ雨もなみたもふりにこそふれ
わかことや くものうちにも おもふらむ あめもなみたも ふりにこそふれ
柿本人麻呂(人麿)恋五
3-拾遺958ふる雨にいててもぬれぬわかそてのかけにゐなからひちまさるかな
ふるあめに いててもぬれぬ わかそての かけにゐなから ひちまさるかな
紀貫之恋五
3-拾遺959これをたにかきそわつらふ雨とふる涙をのこふいとまなけれは
これをたに かきそわつらふ あめとふる なみたをぬくふ いとまなけれは
読人知らず恋五
3-拾遺960君こふる我もひさしくなりぬれは袖に涙もふりぬへらなり
きみこふる われもひさしく なりぬれは そてになみたも ふりぬへらなり
読人知らず恋五
3-拾遺961きみこふる涙のかかる袖のうらはいはほなりともくちそしぬへき
きみこふる なみたのかかる そてのうらは いはほなりとも くちそしぬへき
読人知らず恋五
3-拾遺962またしらぬおもひにもゆるわか身かなさるはなみたの河の中にて
またしらぬ おもひにもゆる わかみかな さるはなみたの かはのうちにて
読人知らず恋五
3-拾遺963風をいたみおもはぬ方にとまりするあまのを舟もかくやわふらん
かせをいたみ おもはぬかたに とまりする あまのをふねも かくやわふらむ
源景明恋五
3-拾遺964せをはやみたえすなかるる水よりもつきせぬ物は涙なりけり
せをはやみ たえすなかるる みつよりも つきせぬものは なみたなりけり
読人知らず恋五
3-拾遺965わかことく物思ふ人はいにしへも今ゆくすゑもあらしとそ思ふ
わかことく ものおもふひとは いにしへも いまゆくすゑも あらしとそおもふ
読人知らず恋五
3-拾遺966くろかみにしろかみましりおふるまてかかるこひにはいまたあはさるに
くろかみに しろかみましり おふるまて かかるこひには いまたあはさるに
大伴坂上郎女恋五
3-拾遺967しほみては入りぬるいその草なれや見らくすくなくこふらくのおほき
しほみては いりぬるいその くさなれや みらくすくなく こふらくのおほき
大伴坂上郎女恋五
3-拾遺968しかのあまのつりにともせるいさり火のほのかに人を見るよしもかな
しかのあまの つりにともせる いさりひの ほのかにひとを みるよしもかな
大伴坂上郎女恋五
3-拾遺969いはねふみかさなる山はなけれともあはぬ日かすをこひやわたらん
いはねふみ かさなるやまは なけれとも あはぬひかすを こひやわたらむ
大伴坂上郎女恋五
3-拾遺970なけ木こる山ちは人もしらなくにわか心のみつねにゆくらん
なけきこる やまちはひとも しらなくに わかこころのみ つねにゆくらむ
藤原有時恋五
3-拾遺971限なき思ひのそらにみちぬれはいくその煙雲となるらん
かきりなき おもひのそらに みちぬれは いくそのけふり くもとなるらむ
円融院恋五
3-拾遺972そらにみつ思ひの煙雲ならはなかむる人のめにそ見えまし
そらにみつ おもひのけふり くもならは なかむるひとの めにそみえまし
少将更衣恋五
3-拾遺973おもはすはつれなき事もつらからしたのめは人を怨みつるかな
おもはすは つれなきことも つらからし たのめはひとを うらみつるかな
読人知らず恋五
3-拾遺974つらけれとうらむる限ありけれは物はいはれてねこそなかるれ
つらけれと うらむるかきり ありけれは ものはいはれて ねこそなかるれ
読人知らず恋五
3-拾遺975紅のやしほの衣かくしあらは思ひそめすそあるへかりける
くれなゐの やしほのころも かくしあらは おもひそめすそ あるへかりける
読人知らず恋五
3-拾遺976ほのかにも我をみしまのあくた火のあくとや人のおとつれもせぬ
ほのかにも われをみしまの あくたひの あくとやひとの おとつれもせぬ
読人知らず恋五
3-拾遺977人をとくあくた河てふつのくにの名にはたかはぬ物にそ有りける
ひとをとく あくたかはてふ つのくにの なにはたかはぬ ものにそありける
承香殿中納言恋五
3-拾遺978限なく思ひそめてし紅の人をあくにそかへらさりける
かきりなく おもひそめてし くれなゐの ひとをあくにそ かへらさりける
読人知らず恋五
3-拾遺979ありそ海の浦とたのめしなこり浪うちよせてけるわすれかひかな
ありそうみの うらとたのめし なこりなみ うちよせてける わすれかひかな
読人知らず恋五
3-拾遺980つらけれと人にはいはすいはみかた怨そふかき心ひとつに
つらけれと ひとにはいはす いはみかた うらみそふかき こころひとつに
読人知らず恋五
3-拾遺981怨みぬもうたかはしくそおもほゆるたのむ心のなきかとおもへは
うらみぬも うたかはしくそ おもほゆる たのむこころの なきかとおもへは
読人知らず恋五
3-拾遺982近江なる打出のはまのうちいてつつ怨みやせまし人の心を
あふみなる うちてのはまの うちいてつつ うらみやせまし ひとのこころを
読人知らず恋五
3-拾遺983渡つ海のふかき心は有りなからうらみられぬる物にそ有りける
わたつうみの ふかきこころは ありなから うらみられぬる ものにそありける
読人知らず恋五
3-拾遺984かすならぬ身は心たになからなん思ひしらすは怨みさるへく
かすならぬ みはこころたに なからなむ おもひしらすは うらみさるへく
読人知らず恋五
3-拾遺985怨みてののちさへ人のつらからはいかにいひてかねをもなかまし
うらみての のちさへひとの つらからは いかにいひてか ねをもなかまし
読人知らず恋五
3-拾遺986きみを猶怨みつるかなあまのかるもにすむむしの名を忘れつつ
きみをなほ うらみつるかな あまのかる もにすむむしの なをわすれつつ
閑院大君恋五
3-拾遺987あまのかるもにすむむしのなはきけとたた我からのつらきなりけり
あまのかる もにすむむしの なはきけと たたわれからの つらきなりけり
読人知らず恋五
3-拾遺988こひわひぬかなしき事もなくさめんいつれなかすのはまへなるらん
こひわひぬ かなしきことも なくさめむ いつれなかすの はまへなるらむ
読人知らず恋五
3-拾遺989かくはかりうしと思ふにこひしきは我さへ心ふたつ有りけり
かくはかり うしとおもふに こひしきは われさへこころ ふたつありけり
読人知らず恋五
3-拾遺990とにかくに物はおもはすひたたくみうつすみなはのたたひとすちに
とにかくに ものはおもはす ひたたくみ うつすみなはの たたひとすちに
柿本人麻呂(人麿)恋五
3-拾遺991いにしへをさらにかけしと思へともあやしくめにもみつなみたかな
いにしへを さらにかけしと おもへとも あやしくめにも みつなみたかな
村上院恋五
3-拾遺992逢ふ事は心にもあらてほとふともさやは契りし忘れはてねと
あふことは こころにもあらて ほとふとも さやはちきりし わすれはてねと
平忠依恋五
3-拾遺993わするるかいささは我も忘れなん人にしたかふ心とならは
わするるか いささはわれも わすれなむ ひとにしたかふ こころとならは
読人知らず恋五
3-拾遺994わすれぬる君は中中つらからていままていける身をそ怨むる
わすれぬる きみはなかなか つらからて いままていける みをそうらむる
読人知らず恋五
3-拾遺995我はかり我をおもはむ人もかなさてもやうきと世を心みん
われはかり われをおもはむ ひともかな さてもやうきと よをこころみむ
読人知らず恋五
3-拾遺996あやしくも厭ふにはゆる心かないかにしてかは思ひたゆへき
あやしくも いとふにはゆる こころかな いかにしてかは おもひたゆへき
読人知らず恋五
3-拾遺997おもふ事なすこそ神のかたからめしはしわするる心つけなん
おもふこと なすこそかみの かたからめ しはしわするる こころつけなむ
読人知らず恋五
3-拾遺998高砂にわかなくこゑは成りにけり宮この人はききやつくらん
たかさこに わかなくこゑは なりにけり みやこのひとは ききやつくらむ
読人知らず恋五
3-拾遺999かしまなるつくまの神のつくつくとわか身ひとつにこひをつみつる
かしまなる つくまのかみの つくつくと わかみひとつに こひをつみつる
読人知らず恋五
3-拾遺1000春立つと思ふ心はうれしくて今ひととせのおいそそひける
はるたつと おもふこころは うれしくて いまひととせの おいそそひける
凡河内躬恒雑春
3-拾遺1001あたらしき年はくれともいたつらにわか身のみこそふりまさりけれ
あたらしき としはくれとも いたつらに わかみのみこそ ふりまさりけれ
読人知らず雑春
3-拾遺1002あたらしきとしにはあれとも鴬のなくねさへにはかはらさりけり
あたらしき としにはあれとも うくひすの なくねさへには かはらさりけり
読人知らず雑春
3-拾遺1003年月のゆくへもしらぬ山かつはたきのおとにやはるをしるらん
としつきの ゆくへもしらぬ やまかつは たきのおとにや はるをしるらむ
右近雑春
3-拾遺1004春くれは滝のしらいといかなれやむすへとも猶あわに見ゆらん
はるくれは たきのしらいと いかなれや むすへともなほ あわにみゆらむ
紀貫之雑春
3-拾遺1005あかさりし君かにほひのこひしさに梅の花をそけさは折りつる
あかさりし きみかにほひの こひしさに うめのはなをそ けさはをりつる
具平親王雑春
3-拾遺1006こちふかはにほひおこせよ梅の花あるしなしとて春をわするな
こちふかは にほひおこせよ うめのはな あるしなしとて はるをわするな
贈太政大臣雑春
3-拾遺1007梅の花雪よりさきにさきしかと見る人まれに雪のふりつつ
うめのはな はるよりさきに さきしかと みるひとまれに ゆきのふりつつ
読人知らず雑春
3-拾遺1008いにし年ねこしてうゑしわかやとのわか木の梅は花さきにけり
いにしとし ねこしてうゑし わかやとの わかきのうめは はなさきにけり
安倍広庭雑春
3-拾遺1009花の色はあかす見るとも鴬のねくらの枝に手ななふれそも
はなのいろは あかすみるとも うくひすの ねくらのえたに てななふれそも
一条摂政雑春
3-拾遺1010折りて見るかひもあるかな梅の花けふここのへのにほひまさりて
をりてみる かひもあるかな うめのはな けふここのへの にほひまさりて
源寛信雑春
3-拾遺1011かさしてはしらかにまかふ梅の花今はいつれをぬかむとすらん
かさしては しらかにまかふ うめのはな いまはいつれを ぬかむとすらむ
藤原伊衡雑春
3-拾遺1012かそふれとおほつかなきをわかやとの梅こそ春のかすをしるらめ
かそふれと おほつかなきを わかやとの うめこそはるの かすをしるらめ
紀貫之雑春
3-拾遺1013年ことにさきはかはれと梅の花あはれなるかはうせすそありける
としことに さきはかはれと うめのはな あはれなるかは うせすそありける
読人知らず雑春
3-拾遺1014梅かえをかりにきてをる人やあるとのへの霞はたちかくすかも
うめかえを かりにきてをる ひとやあると のへのかすみは たちかくすかも
源順雑春
3-拾遺1015春きてそ人もとひける山さとは花こそやとのあるしなりけれ
はるきてそ ひともとひける やまさとは はなこそやとの あるしなりけれ
藤原公任雑春
3-拾遺1016おほつかなくらまの山の道しらて霞の中にまとふけふかな
おほつかな くらまのやまの みちしらて かすみのうちに まとふけふかな
安法法師雑春
3-拾遺1017思ふ事ありてこそゆけはるかすみ道さまたけにたちなかくしそ
おもふこと ありてこそゆけ はるかすみ みちさまたけに たちなかくしそ
紀貫之雑春
3-拾遺1018たこの浦に霞のふかく見ゆるかなもしほのけふりたちやそふらん
たこのうらに かすみのふかく みゆるかな もしほのけふり たちやそふらむ
大中臣能宣雑春
3-拾遺1019思ふ事いはてやみなん春霞山ちもちかしたちもこそきけ
おもふこと いはてやみなむ はるかすみ やまちもちかし たちもこそきけ
読人知らず雑春
3-拾遺1020かすかののをきのやけはらあさるとも見えぬなきなをおほすなるかな
かすかのの をきのやけはら あさるとも みえぬなきなを おほすなるかな
中宮内侍雑春
3-拾遺1021雪をうすみかきねにつめるからなつななつさはまくのほしききみかな
ゆきをうすみ かきねにつめる からなつな なつさはまくの ほしききみかな
藤原長能雑春
3-拾遺1022たれにより松をもひかん鴬のはつねかひなきけふにもあるかな
たれにより まつをもひかむ うくひすの はつねかひなき けふにもあるかな
藤原公任雑春
3-拾遺1023ひきて見る子の日の松はほとなきをいかてこもれるちよにかあるらん
ひきてみる ねのひのまつは ほとなきを いかてこもれる ちよにかあるらむ
恵慶法師雑春
3-拾遺1024しめてこそちとせの春はきつつ見め松をてたゆくなにかひくへき
しめてこそ ちとせのはるは きつつみめ まつをてたゆく なにかひくへき
読人知らず雑春
3-拾遺1025ひともとの松のちとせもひさしきにいつきの宮そ思ひやらるる
ひともとの まつのちとせも ひさしきに いつきのみやそ おもひやらるる
源順雑春
3-拾遺1026おいの世にかかるみゆきは有りきやとこたかき峯の松にとははや
おいのよに かかるみゆきは ありきやと こたかきみねの まつにとははや
清原元輔雑春
3-拾遺1027松ならは引く人けふは有りなまし袖の緑そかひなかりける
まつならは ひくひとけふは ありなまし そてのみとりそ かひなかりける
大中臣能宣雑春
3-拾遺1028引く人もなくてやみぬるみよしのの松は子の日をよそにこそきけ
ひくひとも なくてやみぬる みよしのの まつはねのひを よそにこそきけ
清原元輔雑春
3-拾遺1029ひく人もなしと思ひしあつさゆみ今そうれしきもろやしつれは
ひくひとも なしとおもひし あつさゆみ いまそうれしき もろやしつれは
源順雑春
3-拾遺1030さきし時猶こそ見しかももの花ちれはをしくそ思ひなりぬる
さきしとき なほこそみしか もものはな ちれはをしくそ おもひなりぬる
読人知らず雑春
3-拾遺1031山さとの家ゐは霞こめたれとかきねの柳すゑはとに見ゆ
やまさとの いへゐはかすみ こめたれと かきねのやなき すゑはとにみゆ
弓削嘉言雑春
3-拾遺1032はるののにところもとむといふなるはふたりぬはかりみてたりやきみ
はるののに ところもとむと いふなるは ふたりぬはかり みてたりやきみ
賀朝法師雑春
3-拾遺1033春ののにほるほる見れとなかりけり世に所せき人のためには
はるののに ほるほるみれと なかりけり よにところせき ひとのためには
読人知らず雑春
3-拾遺1034かきくらし雪もふらなん桜花またさかぬまはよそへても見む
かきくらし ゆきもふらなむ さくらはな またさかぬまは よそへてもみむ
読人知らず雑春
3-拾遺1035はる風は花のなきまにふきはてねさきなは思ひなくて見るへく
はるかせは はなのなきまに ふきはてね さきなはおもひ なくてみるへく
読人知らず雑春
3-拾遺1036さかさらむ物とはなしにさくら花おもかけにのみまたき見ゆらん
さかさらむ ものとはなしに さくらはな おもかけにのみ またきみゆらむ
凡河内躬恒雑春
3-拾遺1037いつこにかこのころ花のさかさらむ所からこそたつねられけれ
いつこにか このころはなの さかさらむ こころからこそ たつねられけれ
読人知らず雑春
3-拾遺1038さくら花わかやとにのみ有りと見はなき物くさはおもはさらまし
さくらはな わかやとにのみ ありとみは なきものくさは おもはさらまし
凡河内躬恒雑春
3-拾遺1039もろともにをりしはるのみこひしくてひとり見まうき花さかりかな
もろともに をりしはるのみ こひしくて ひとりみまうき はなさかりかな
読人知らず雑春
3-拾遺1040もろともに我しをらねは桜花思ひやりてやはるをくらさん
もろともに われしをらねは さくらはな おもひやりてや はるをくらさむ
壬生忠見雑春
3-拾遺1041霞立つ山のあなたの桜花思ひやりてやはるをくらさむ
かすみたつ やまのあなたの さくらはな おもひやりてや はるをくらさむ
御導師浄蔵雑春
3-拾遺1042をち方の花も見るへく白浪のともにや我もたちわたらまし
をちかたの はなもみるへく しらなみの ともにやわれも たちわたらまし
紀貫之雑春
3-拾遺1043まてといははいともかしこし花山にしはしとなかん鳥のねもかな
まてといはは いともかしこし はなやまに しはしとなかむ とりのねもかな
僧正遍昭雑春
3-拾遺1044鴬のなきつるなへにかすかののけふのみゆきを花とこそ見れ
うくひすの なきつるなへに かすかのの けふのみゆきを はなとこそみれ
藤原忠房雑春
3-拾遺1045ふるさとにさくとわひつるさくら花ことしそ君に見えぬへらなる
ふるさとに さくとわひつる さくらはな ことしそきみに みえぬへらなる
藤原忠房雑春
3-拾遺1046春霞かすかののへに立ちわたりみちても見ゆるみやこ人かな
はるかすみ かすかののへに たちわたり みちてもみゆる みやこひとかな
藤原忠房雑春
3-拾遺1047世の中にうれしき物は思ふとち花見てすくす心なりけり
よのなかに うれしきものは おもふとち はなみてすくす こころなりけり
平兼盛雑春
3-拾遺1048さくら花そこなるかけそをしまるるしつめる人のはるとおもへは
さくらはな そこなるかけそ をしまるる しつめるひとの はるとおもへは
清原元輔雑春
3-拾遺1049あつまちののちの雪まをわけてきてあはれ宮この花を見るかな
あつまちの のちのゆきまを わけてきて あはれみやこの はなをみるかな
藤原長能雑春
3-拾遺1050ひのもとにさけるさくらの色見れは人のくににもあらしとそ思ふ
ひのもとに さけるさくらの はなみれは ひとのくににも あらしとそおもふ
兼盛弟雑春
3-拾遺1051み山木のふたはみつはにもゆるまてきえせぬ雪と見えもするかな
みやまきの ふたはみつはに もゆるまて きえせぬゆきと みえもするかな
平きむさね雑春
3-拾遺1052かた山にはたやくをのこかの見ゆるみ山さくらはよきてはたやけ
かたやまに はたやくをのこ かのみゆる みやまさくらは よきてはたやけ
藤原長能雑春
3-拾遺1053うしろめたいかてかへらん山さくらあかぬにほひを風にまかせて
うしろめた いかてかへらむ やまさくら あかぬにほひを かせにまかせて
読人知らず雑春
3-拾遺1054ひさしかれあたにちるなとさくら花かめにさせれとうつろひにけり
ひさしかれ あたにちるなと さくらはな かめにさせれと うつろひにけり
紀貫之雑春
3-拾遺1055とのもりのとものみやつこ心あらはこの巻はかりあさきよめすな
とのもりの とものみやつこ こころあらは このはるはかり あさきよめすな
源公忠雑春
3-拾遺1056さくら花みかさの山のかけしあれは雪とふれともぬれしとそ思ふ
さくらはな みかさのやまの かけしあれは ゆきとふれとも ぬれしとそおもふ
読人知らず雑春
3-拾遺1057年ことに春のなかめはせしかとも身さへふるともおもはさりしを
としことに はるのなかめは せしかとも みさへふるとも おもはさりしを
読人知らず雑春
3-拾遺1058としことに春はくれとも池水におふるぬなははたえすそ有りける
としことに はるはくれとも いけみつに おふるぬなはは たえすそありける
源順雑春
3-拾遺1059春風はのとけかるへしやへよりもかさねてにほへ山吹の花
はるかせは のとけかるへし やへよりも かさねてにほへ やまふきのはな
菅原輔昭雑春
3-拾遺1060浦人はかすみをあみにむすへはや浪の花をもとめてひくらん
うらひとは かすみをあみに むすへはや なみのはなをも とめてひくらむ
菅原輔昭雑春
3-拾遺1061やな見れは河風いたくふく時そ浪の花さへおちまさりける
やなみれは かはかせいたく ふくときそ なみのはなさへ おちまさりける
紀貫之雑春
3-拾遺1062このまよりちりくる花をあつさゆみえやはととめぬはるのかたみに
このまより ちりくるはなを あつさゆみ えやはととめぬ はるのかたみに
一条のきみ雑春
3-拾遺1063春すきてちりはてにける梅の花たたかはかりそ枝にのこれる
はるすきて ちりはてにける うめのはな たたかはかりそ えたにのこれる
藤原高光雑春
3-拾遺1064谷の戸をとちやはてつる鴬のまつにおとせてはるもすきぬる
たにのとを とちやはてつる うくひすの まつにおとせて はるもすきぬる
藤原道長雑春
3-拾遺1065ゆきかへる春をもしらす花さかぬみ山かくれのうくひすのこゑ
ゆきかへる はるをもしらす はなさかぬ みやまかくれの うくひすのこゑ
藤原公任雑春
3-拾遺1066春はをし郭公はたきかまほし思ひわつらふしつ心かな
はるはをし ほとときすはた きかまほし おもひわつらふ しつこころかな
清原元輔雑春
3-拾遺1067松風のふかむ限はうちはへてたゆへくもあらすさけるふちなみ
まつかせの ふかむかきりは うちはへて たゆへくもあらす さけるふちなみ
紀貫之雑春
3-拾遺1068ふちの花宮の内には紫のくもかとのみそあやまたれける
ふちのはな みやのうちには むらさきの くもかとのみそ あやまたれける
藤原国章雑春
3-拾遺1069紫の雲とそ見ゆる藤の花いかなるやとのしるしなるらん
むらさきの くもとそみゆる ふちのはな いかなるやとの しるしなるらむ
藤原公任雑春
3-拾遺1070むらさきの色しこけれはふちの花松のみとりもうつろひにけり
むらさきの いろしこけれは ふちのはな まつのみとりも うつろひにけり
読人しらす雑春
3-拾遺1071郭公かよふかきねの卯の花のうきことあれや君かきまさぬ
ほとときす かよふかきねの うのはなの うきことあれや きみかきまさぬ
柿本人麻呂(人麿)雑春
3-拾遺1072卯の花のさけるかきねにやとりせしねぬにあけぬとおとろかれけり
うのはなの さけるかきねに やとりせし ねぬにあけぬと おとろかれけり
源重之雑春
3-拾遺1073年をへてみ山かくれの郭公きく人もなきねをのみそなく
としをへて みやまかくれの ほとときす きくひともなき ねをのみそなく
実方雑春
3-拾遺1074声たててなくといふとも郭公たもとはぬれしそらねなりけり
こゑたてて なくといふとも ほとときす たもとはぬれし そらねなりけり
読人知らず雑春
3-拾遺1075かくはかりまつとしらはや郭公こすゑたかくもなきわたるかな
かくはかり まつとしらはや ほとときす こすゑたかくも なきわたるかな
清原元輔雑春
3-拾遺1076あしひきの山郭公さとなれてたそかれ時になのりすらしも
あしひきの やまほとときす さとなれて たそかれときに なのりすらしも
大中臣輔親雑春
3-拾遺1077ふるさとのならしのをかに郭公事つてやりきいかにつけきや
ふるさとの ならしのをかに ほとときす ことつてやりき いかにつけきや
大伴像見雑春
3-拾遺1078終夜もゆるほたるをけさ見れは草のはことにつゆそおきける
よもすから もゆるほたるを けさみれは くさのはことに つゆそおきける
健守法師雑春
3-拾遺1079とこ夏の花をし見れはうちはへてすくる月日のかすもしられす
とこなつの はなをしみれは うちはへて すくるつきひの かすもしられす
紀貫之雑春
3-拾遺1080しはしたにかけにかくれぬ時は猶うなたれぬへきなてしこの花
しはしたに かけにかくれぬ ときはなほ うなたれぬへき なてしこのはな
贈皇后宮雑春
3-拾遺1081いたつらにおいぬへらなりおほあらきのもりのしたなる草葉ならねと
いたつらに おいぬへらなり おほあらきの もりのしたなる くさはならねと
凡河内躬恒雑春
3-拾遺1082たなはたはそらにしるらんささかにのいとかくはかりまつる心を
たなはたは そらにしるらむ ささかにの いとかくはかり まつるこころを
源したかふ雑秋
3-拾遺1083たなはたのあかぬ別もゆゆしきをけふしもなとか君かきませる
たなはたの あかぬわかれも ゆゆしきを けふしもなとか きみかきませる
平兼盛雑秋
3-拾遺1084あさとあけてなかめやすらん織女のあかぬ別のそらをこひつつ
あさとあけて なかめやすらむ たなはたの あかぬわかれの そらをこひつつ
紀貫之雑秋
3-拾遺1085わたしもりはや舟かくせひととせにふたたひきます君ならなくに
わたしもり はやふねかくせ ひととせに ふたたひきます きみならなくに
柿本人麻呂(人麿)雑秋
3-拾遺1086織女のうらやましきに天の河こよひはかりはおりやたたまし
たなはたの うらやましきに あまのかは こよひはかりは おりやたたまし
村上院雑秋
3-拾遺1087世をうみてわかかすいとはたなはたの涙の玉のをとやなるらん
よをうみて わかかすいとは たなはたの なみたのたまの をとやなるらむ
読人知らず雑秋
3-拾遺1088あまの河河辺すすしきたなはたに扇の風を猶やかさまし
あまのかは かはへすすしき たなはたに あふきのかせを なほやかさまし
中務雑秋
3-拾遺1089天の河扇の風にきりはれてそらすみわたる鵲のはし
あまのかは あふきのかせに きりはれて そらすみわたる かささきのはし
清原元輔雑秋
3-拾遺1090ことのねはなそやかひなきたなはたのあかぬ別をひきしとめねは
ことのねは なそやかひなき たなはたの あかぬわかれを ひきしとめねは
源順雑秋
3-拾遺1091水のあやをおりたちてきむぬきちらしたなはたつめに衣かすよは
みつのあやを おりたちてきむ ぬきちらし たなはたつめに ころもかすよは
平定文雑秋
3-拾遺1092秋風よたなはたつめに事とはんいかなる世にかあはんとすらん
あきかせよ たなはたつめに こととはむ いかなるよにか あはむとすらむ
藤原義孝雑秋
3-拾遺1093天の河のちのけふたにはるけきをいつともしらぬふなてかなしな
あまのかは のちのけふたに はるけきを いつともしらぬ ふなてかなしな
藤原公任雑秋
3-拾遺1094あひ見すてひとひも君にならはねはたなはたよりも我そまされる
あひみすて ひとひもきみに ならはねは たなはたよりも われそまされる
紀貫之雑秋
3-拾遺1095むつましきいもせの山としらねはやはつ秋きりの立ちへたつらん
むつましき いもせのやまと しらねはや はつあききりの たちへたつらむ
読人知らず雑秋
3-拾遺1096もしほやく煙になるるすまのあまは秋立つ霧もわかすやあるらん
もしほやく けふりになるる すまのあまは あきたつきりも わかすやあるらむ
読人知らず雑秋
3-拾遺1097ゆく水の岸ににほへる女郎花しのひに浪や思ひかくらん
ゆくみつの きしににほへる をみなへし しのひになみや おもひかくらむ
源重之雑秋
3-拾遺1098ここにしも何にほふらんをみなへし人の物いひさかにくきよに
ここにしも なににほふらむ をみなへし ひとのものいひ さかにくきよに
僧正遍昭雑秋
3-拾遺1099秋の野の花の色色とりすゑてわか衣手にうつしてしかな
あきののの はなのいろいろ とりすゑて わかころもてに うつしてしかな
読人知らず雑秋
3-拾遺1100ふなをかのの中にたてるをみなへしわたさぬ人はあらしとそ思ふ
ふなをかの のなかにたてる をみなへし わたさぬひとは あらしとそおもふ
読人知らず雑秋
3-拾遺1101家つとにあまたの花もをるへきにねたくもたかをすゑてけるかな
いへつとに あまたのはなも をるへきに ねたくもたかを すゑてけるかな
平兼盛雑秋
3-拾遺1102をくら山みね立ちならしなくしかのへにける秋をしる人のなき
をくらやま みねたちならし なくしかの へにけるあきを しるひとそなき
紀貫之雑秋
3-拾遺1103こてふにもにたる物かな花すすきこひしき人に見すへかりけり
こてふにも にたるものかな はなすすき こひしきひとに みすへかりけり
紀貫之雑秋
3-拾遺1104帰りにし雁そなくなるむへ人はうき世の中をそむきかぬらん
かへりにし かりそなくなる うへひとは うきよのなかを そむきかぬらむ
大中臣能宣雑秋
3-拾遺1105九重の内たにあかき月影にあれたるやとを思ひこそやれ
ここのへの うちたにあかき つきかけに あれたるやとを おもひこそやれ
善滋為政雑秋
3-拾遺1106ももしきの大宮なからやそしまを見る心地する秋のよの月
ももしきの おほみやなから やそしまを みるここちする あきのよのつき
読人知らず雑秋
3-拾遺1107水のおもにやとれる月ののとけきはなみゐて人のねぬよなれはか
みつのおもに やとれるつきの のとけきは なみゐてひとの ねぬよなれはか
源順雑秋
3-拾遺1108はしり井のほとをしらはや相坂の関ひきこゆるゆふかけのこま
はしりゐの ほとをしらはや あふさかの せきひきこゆる ゆふかけのこま
清原元輔雑秋
3-拾遺1109虫ならぬ人もおとせぬわかやとに秋ののへとて君はきにけり
むしならぬ ひともおとせぬ わかやとに あきののへとて きみはきにけり
曾禰好忠雑秋
3-拾遺1110庭草にむらさめふりてひくらしのなくこゑきけは秋はきにけり
にはくさに むらさめふりて ひくらしの なくこゑきけは あきはきにけり
柿本人麻呂(人麿)雑秋
3-拾遺1111秋風は吹きなやふりそわかやとのあはらかくせるくものすかきを
あきかせは ふきなやふりそ わかやとの あはらかくせる くものすかきを
曾禰好忠雑秋
3-拾遺1112住の江の松を秋風ふくからに声うちそふるおきつしら浪
すみのえの まつをあきかせ ふくからに こゑうちそふる おきつしらなみ
凡河内躬恒雑秋
3-拾遺1113秋風のさむくふくなるわかやとのあさちかもとにひくらしもなく
あきかせの さむくふくなる わかやとの あさちかもとに ひくらしもなく
柿本人麻呂(人麿)雑秋
3-拾遺1114あき風し日ことにふけはわかやとのをかのこのはは色つきにけり
あきかせし ひことにふけは わかやとの をかのこのはは いろつきにけり
柿本人麻呂(人麿)雑秋
3-拾遺1115秋きりのたなひくをのの萩の花今やちるらんいまたあかなくに
あききりの たなひくをのの はきのはな いまやちるらむ いまたあかなくに
柿本人麻呂(人麿)雑秋
3-拾遺1116秋はきのしたはにつけてめにちかくよそなる人の心をそみる
あきはきの したはにつけて めにちかく よそなるひとの こころをそみる
雑秋
3-拾遺1117世の中の人に心をそめしかは草葉にいろも見えしとそ思ふ
よのなかの ひとにこころを そめしかは くさはにいろも みえしとそおもふ
紀貫之雑秋
3-拾遺1118このころのあか月つゆにわかやとの萩のしたはは色つきにけり
このころの あかつきつゆに わかやとの はきのしたはは いろつきにけり
柿本人麻呂(人麿)雑秋
3-拾遺1119夜をさむみ衣かりかねなくなへにはきのしたはは色つきにけり
よをさむみ ころもかりかね なくなへに はきのしたはは いろつきにけり
柿本人麻呂(人麿)雑秋
3-拾遺1120かの見ゆる池辺にたてるそかきくのしけみさえたの色のてこらさ
かのみゆる いけへにたてる そかきくの しけみさえたの いろのてこらさ
読人知らず雑秋
3-拾遺1121吹く風にちる物ならは菊の花くもゐなりとも色は見てまし
ふくかせに ちるものならは きくのはな くもゐなりとも いろはみてまし
壬生忠見雑秋
3-拾遺1122おいか世にうき事きかぬ菊たにもうつろふ色は有りけりと見よ
おいかよに うきこときかぬ きくたにも うつろふいろは ありけりとみよ
読人知らず雑秋
3-拾遺1123わきもこかあかもぬらしてうゑし田をかりてをさめむくらなしのはま
わきもこか あかもぬらして うゑしたを かりてをさめむ くらなしのはま
柿本人麻呂(人麿)雑秋
3-拾遺1124秋ことにかりつるいねはつみつれと老いにける身そおき所なき
あきことに かりつるいねは つみつれと おいにけるみそ おきところなき
壬生忠見雑秋
3-拾遺1125かりてほす山田の稲をほしわひてまもるかりいほにいくよへぬらん
かりてほす やまたのいねを ほしわひて まもるかりいほに いくよへぬらむ
凡河内躬恒雑秋
3-拾遺1126おく山にたてらましかはなきさこくふな木も今は紅葉しなまし
おくやまに たてらましかは なきさこく ふなきもいまは もみちしなまし
恵慶法師雑秋
3-拾遺1127久方の月をさやけみもみちはのこさもうすさもわきつへらなり
ひさかたの つきをさやけみ もみちはの こさもうすさも わきつへらなり
読人知らず雑秋
3-拾遺1128小倉山峯のもみちは心あらは今ひとたひのみゆきまたなん
をくらやま みねのもみちは こころあらは いまひとたひの みゆきまたなむ
小一条太政大臣雑秋
3-拾遺1129ふるさとにかへると見てやたつたひめ紅葉の錦そらにきすらん
ふるさとに かへるとみてや たつたひめ もみちのにしき そらにきすらむ
大中臣能宣雑秋
3-拾遺1130白浪はふるさとなれやもみちはのにしきをきつつ立帰るらん
しらなみは ふるさとなれや もみちはの にしきをきつつ たちかへるらむ
読人知らず雑秋
3-拾遺1131もみちはのなかるる時はたけ河のふちのみとりも色かはるらむ
もみちはの なかるるときは たけかはの ふちのみとりも いろかはるらむ
凡河内躬恒雑秋
3-拾遺1132水のおもの深く浅くも見ゆるかな紅葉の色やふちせなるらん
みつのおもの ふかくあさくも みゆるかな もみちのいろや ふちせなるらむ
凡河内躬恒雑秋
3-拾遺1133月影のたなかみ河にきよけれは綱代にひをのよるも見えけり
つきかけの たなかみかはに きよけれは あしろにひをの よるもみえけり
清原元輔雑秋
3-拾遺1134いかて猶あしろのひをに事とはむなにによりてか我をとはぬと
いかてなほ あしろのひをに こととはむ なにによりてか われをとはぬと
修理雑秋
3-拾遺1135はふりこかいはふ社のもみちはもしめをはこえてちるといふものを
はふりこか いはふやしろの もみちはも しめをはこえて ちるといふものを
読人知らず雑秋
3-拾遺1136いかなれはもみちにもまたあかなくに秋はてぬとはけふをいふらん
いかなれは もみちにもまた あかなくに あきはてぬとは けふをいふらむ
源順雑秋
3-拾遺1137秋もまたとほくもあらぬにいかて猶たちかへれともつけにやらまし
あきもまた とほくもあらぬに いかてなほ たちかへれとも つけにやらまし
清原元輔雑秋
3-拾遺1138そま山にたつけふりこそ神な月時雨をくたすくもとなりけれ
そまやまに たつけふりこそ かみなつき しくれをくたす くもとなりけれ
大中臣能宣雑秋
3-拾遺1139名をきけは昔なからの山なれとしくるるころは色かはりけり
なをきけは むかしなからの やまなれと しくるるころは いろかはりけり
源順雑秋
3-拾遺1140もみちはやたもとなるらん神な月しくるることに色のまされは
もみちはや たもとなるらむ かみなつき しくるることに いろのまされは
凡河内躬恒雑秋
3-拾遺1141しくれつつふりにしやとの言の葉はかきあつむれととまらさりけり
しくれつつ ふりにしやとの ことのはは かきあつむれと とまらさりけり
中務雑秋
3-拾遺1142昔より名たかきやとの事のははこの本にこそおちつもるてへ
むかしより なたかきやとの ことのはは このもとにこそ おちつもるてへ
村上院雑秋
3-拾遺1143山かつのかきほわたりをいかにそとしもかれかれにとふ人もなし
やまかつの かきほわたりを いかにそと しもかれかれに とふひともなし
権中納言義懐娘雑秋
3-拾遺1144み山木をあさなゆふなにこりつめてさむさをこふるをののすみやき
みやまきを あさなゆふなに こりつめて さむさをこふる をののすみやき
曾禰好忠雑秋
3-拾遺1145にほとりの氷の関にとちられて玉ものやとをかれやしぬらん
にほとりの こほりのせきに とちられて たまものやとを かれやしぬらむ
曾禰好忠雑秋
3-拾遺1146いさかくてをりあかしてん冬の月春の花にもおとらさりけり
いさかくて をりあかしてむ ふゆのつき はるのはなにも おとらさりけり
清原元輔雑秋
3-拾遺1147限なくとくとはすれと葦引の山井の水は猶そこほれる
かきりなく とくとはすれと あしひきの やまゐのみつは なほそこほれる
東宮女蔵人左近雑秋
3-拾遺1148ありあけの心地こそすれ杯に日かけもそひていてぬとおもへは
ありあけの ここちこそすれ さかつきに ひかけもそひて いてぬとおもへは
大中臣能宣雑秋
3-拾遺1149あしひきの山ゐにすれる衣をは神につかふるしるしとそ思ふ
あしひきの やまゐにすれる ころもをは かみにつかふる しるしとそおもふ
紀貫之雑秋
3-拾遺1150ちはやふる神のいかきに事ふりてそらよりかかるゆふにそありける
ちはやふる かみのいかきに ゆきふりて そらよりかかる ゆふにそありける
読人知らず雑秋
3-拾遺1151ひとりねはくるしき物とこりよとや旅なる夜しも雪のふるらん
ひとりねは くるしきものと こりよとや たひなるよしも ゆきのふるらむ
紀貫之雑秋
3-拾遺1152わたつみもゆきけの水はまさりけりをちのしましま見えすなりゆく
わたつみも ゆきけのみつは まさりけり をちのしましま みえすなりゆく
具平親王雑秋
3-拾遺1153もとゆひにふりそふ雪のしつくには枕のしたに浪そたちける
もとゆひに ふりそふゆきの しつくには まくらのしたに なみそたちける
具平親王雑秋
3-拾遺1154さわらひやしたにもゆらんしもかれののはらの煙春めきにけり
さわらひや したにもゆらむ しもかれの のはらのけふり はるめきにけり
藤原通頼雑秋
3-拾遺1155霜かれに見えこし梅はさきにけり春にはわか身あはむとはすや
しもかれに みえこしうめは さきにけり はるにはわかみ あはむとはすや
紀貫之雑秋
3-拾遺1156梅の花匂の深く見えつるは春の隣のちかきなりけり
うめのはな にほひのふかく みえつるは はるのとなりの ちかきなりけり
三統元夏雑秋
3-拾遺1157むめもみな春ちかしとてさくものをまつ時もなき我やなになる
うめもみな はるちかしとて さくものを まつときもなき われやなになる
紀貫之雑秋
3-拾遺1158むはたまのわかくろかみに年くれてかかみのかけにふれるしらゆき
うはたまの わかくろかみに としくれて かかみのかけに ふれるしらゆき
紀貫之雑秋
3-拾遺1159昨日よりをちをはしらすももとせの春の始はけふにそ有りける
きのふより をちをはしらす ももとせの はるのはしめは けふにそありけ
紀貫之雑賀
3-拾遺1160はるはると雲井をさして行く舟の行末とほくおもほゆるかな
はるはると くもゐをさして ゆくふねの ゆくすゑとほく おもほゆるかな
伊勢雑賀
3-拾遺1161花の色もときはならなんなよ竹のなかきよにおくつゆしかからは
はなのいろも ときはならなむ なよたけの なかきよにおく つゆしかからは
清原元輔雑賀
3-拾遺1162よろつ世をかそへむ物はきのくにのちひろのはまのまさこなりけり
よろつよを かそへむものは きのくにの ちひろのはまの まさこなりけり
清原元輔雑賀
3-拾遺1163こけむさはひろひもかへむさされいしのかすをみなとるよはひいくよそ
こけむさは ひろひもかへむ さされいしの かすをみなとる よはひいくよそ
読人知らず雑賀
3-拾遺1164松のねにいつる泉の水なれはおなしき物をたえしとそ思ふ
まつのねに いつるいつみの みつなれは おなしきものを たえしとそおもふ
紀貫之雑賀
3-拾遺1165いはのうへの松にたとへむきみきみは世にまれらなるたねそとおもへは
いはのうへの まつにたとへむ きみきみは よにまれらなる たねそとおもへは
藤原道長雑賀
3-拾遺1166松かえのかよへる枝をとくらにてすたてらるへきつるのひなかな
まつかえの かよへるえたを とくらにて すたてらるへき つるのひなかな
清原元輔雑賀
3-拾遺1167まつの苔ちとせをかねておひしけれつるのかひこのすとも見るへく
まつのこけ ちとせをかねて おひしけれ つるのかひこの すともみるへく
清原元輔雑賀
3-拾遺1168我のみやこもたるてへは高砂のをのへにたてる松もこもたり
われのみや こもたるてへは たかさこの をのへにたてる まつもこもたり
読人知らず雑賀
3-拾遺1169いく世へしいそへの松そ昔よりたちよる浪やかすはしるらん
いくよへし いそへのまつそ むかしより たちよるなみや かすはしるらむ
紀貫之雑賀
3-拾遺1170こ紫たなひく事をしるへにて位の山の峯をたつねん
こむらさき たなひくくもを しるへにて くらゐのやまの みねをたつねむ
清原元輔雑賀
3-拾遺1171ももしきにちとせの事はおほかれとけふの君はためつらしきかな
ももしきに ちとせのことは おほかれと けふのきみはた めつらしきかな
小野好古雑賀
3-拾遺1172心さしふかきみきはにかるこもはちとせのさ月いつかわすれん
こころさし ふかきみきはに かるこもは ちとせのさつき いつかわすれむ
藤原道綱母雑賀
3-拾遺1173ちとせへん君しいまさはすへらきのあめのしたこそうしろやすけれ
ちとせへむ きみしいまさは すめらきの あめのしたこそ うしろやすけれ
清原元輔雑賀
3-拾遺1174きみか世に今いくたひかかくしつつうれしき事にあはんとすらん
きみかよに いまいくたひか かくしつつ うれしきことに あはむとすらむ
藤原公任雑賀
3-拾遺1175すみそむるすゑの心の見ゆるかなみきはの松のかけをうつせは
すみそむる すゑのこころの みゆるかな みきはのまつの かけをうつせは
藤原公任雑賀
3-拾遺1176ちとせふる霜のつるをはおきなからひさしき物は君にそありける
ちとせふる しものつるをは おきなから ひさしきものは きみにそありける
藤原敦忠雑賀
3-拾遺1177しらゆきはふりかくせともちよまてに竹のみとりはかはらさりけり
しらゆきは ふりかくせとも ちよまてに たけのみとりは かはらさりけり
紀貫之雑賀
3-拾遺1178世の中にことなる事はあらすともとみはたしてむいのちなかくは
よのなかに ことなることは あらすとも とみはたしてむ いのちなかくは
清原元輔雑賀
3-拾遺1179流俗のいろにはあらす梅の花 珍重すへき物とこそ見れ
りうそくの いろにはあらす うめのはな ちむちようすへき ものとこそみれ
藤原実資雑賀
3-拾遺1180春はもえ秋はこかるるかまと山 かすみもきりもけふりとそ見る
はるはもえ あきはこかるる かまとやま かすみもきりも けふりとそみる
清原元輔雑賀
3-拾遺1181思ひたちぬるけふにもあるかな かからてもありにしものをはるかすみ
おもひたちぬる けふにもあるかな かからても ありにしものを はるかすみ
藤原忠君娘雑賀
3-拾遺1182くらすへしやはいままてにきみ とふやとそ我もまちつるはるの日を
くらすへしやは いままてにきみ とふやとそ われもまちつる はるのひを
源計子雑賀
3-拾遺1183さ夜ふけて今はねふたくなりにけり 夢にあふへき人やまつらん
さよふけて いまはねふたく なりにけり ゆめにあふへき ひとやまつらむ
村上院雑賀
3-拾遺1184人心うしみついまはたのましよ 夢に見ゆやとねそすきにける
ひとこころ うしみついまは たのましよ ゆめにみゆやと ねそすきにける
女 良岑宗貞雑賀
3-拾遺1185ひきよせはたたにはよらて春こまの綱引するそなはたつときく
ひきよせは たたにはよらて はるこまの つなひきするそ なはたつときく
平定文雑賀
3-拾遺1186花の木はまかきちかくはうゑて見しうつろふ色に人ならひけり
はなのきは まかきちかくは うゑてみし うつろふいろに ひとならひけり
読人知らず雑賀
3-拾遺1187夏は扇冬は火をけに身をなしてつれなき人によりもつかはや
なつはあふき ふゆはひをけに みをなして つれなきひとに よりもつかはや
読人知らず雑賀
3-拾遺1188こひするに仏になるといはませは我そ浄土のあるしならまし
こひするに ほとけになると いはませは われそしやうとの あるしならまし
読人知らず雑賀
3-拾遺1189唐衣たつよりおつる水ならてわか袖ぬらす物やなになる
からころも たつよりおつる みつならて わかそてぬらす ものやなになる
読人知らず雑賀
3-拾遺1190つらからは人にかたらむしきたへの枕かはしてひとよねにきと
つらからは ひとにかたらむ しきたへの まくらかはして ひとよねにきと
藤原義孝雑賀
3-拾遺1191あやしくもわかぬれきぬをきたるかなみかさの山を人にかられて
あやしくも われぬれきぬを きたるかな みかさのやまを ひとにかられて
藤原義孝雑賀
3-拾遺1192かくれみのかくれかさをもえてしかなきたりと人にしられさるへく
かくれみの かくれかさをも えてしかな きたりとひとに しられさるへく
平公誠雑賀
3-拾遺1193心ありてとふにはあらす世の中にありやなしやのきかまほしきそ
こころありて とふにはあらす よのなかに ありやなしやの きかまほしきそ
読人知らず雑賀
3-拾遺1194きみとはていくよへぬらん色かへぬ竹のふるねのおひかはるまて
きみとはて いくよへぬらむ いろかへぬ たけのふるねの おひかはるまて
読人知らず雑賀
3-拾遺1195こぬ人をしたにまちつつ久方の月をあはれといはぬよそなき
こぬひとを したにまちつつ ひさかたの つきをあはれと いはぬよそなき
紀貫之雑賀
3-拾遺1196あつさゆみひきみひかすみこすはこすこはこそをなそよそにこそ見め
あつさゆみ ひきみひかすみ こすはこす こはこそをなそ よそにこそみめ
柿本人麻呂(人麿)雑賀
3-拾遺1197くれはとく行きてかたらむあふ時のとをちのさとのすみうかりしも
くれはとく ゆきてかたらむ あふことの とをちのさとの すみうかりしも
一条摂政雑賀
3-拾遺1198おろかにもおもはましかはあつまちのふせやといひしのへにねなまし
おろかにも おもはましかは あつまちの ふせやといひし のへにねなまし
読人知らず雑賀
3-拾遺1199あともなきかつら木山をふみみれはわかわたしこしかたはしかもし
あともなき かつらきやまを ふみみれは わかわたしこし かたはしかもし
読人知らず雑賀
3-拾遺1200かきつくる心見えなるあとなれと見てもしのはむ人やあるとて
かきつくる こころみえなる あとなれと みてもしのはむ ひとやあるとて
読人知らず雑賀
3-拾遺1201いははしのよるの契もたえぬへしあくるわひしき葛木の神
いははしの よるのちきりも たえぬへし あくるわひしき かつらきのかみ
春宮女蔵人左近雑賀
3-拾遺1202うたかはしほかにわたせるふみみれは我やとたえにならむとすらん
うたかはし ほかにわたせる ふみみれは われやとたえに ならむとすらむ
藤原道綱母雑賀
3-拾遺1203いかてかはたつねきつらん蓬ふの人もかよはぬわかやとのみち
いかてかは たつねきつらむ よもきふの ひともかよはぬ わかやとのみち
読人知らず雑賀
3-拾遺1204雨ならてもる人もなきわかやとをあさちかはらと見るそかなしき
あめならて もるひともなき わかやとを あさちかはらと みるそかなしき
承香殿女御雑賀
3-拾遺1205いにしへはたかふるさとそおほつかなやともる雨にとひてしらはや
いにしへは たかふるさとそ おほつかな やともるあめに とひてしらはや
藤原朝光雑賀
3-拾遺1206夢とのみ思ひなりにし世の中をなに今更におとろかすらん
ゆめとのみ おもひなりにし よのなかを なにいまさらに おとろかすらむ
高階成忠女雑賀
3-拾遺1207人も見ぬ所に昔きみとわかせぬわさわさをせしそこひしき
ひともみぬ ところにむかし きみとわか せぬわさわさを せしそこひしき
源公忠雑賀
3-拾遺1208けふまてはいきの松原いきたれとわか身のうさになけきてそふる
けふまては いきのまつはら いきたれと わかみのうさに なけきてそふる
藤原後生か女雑賀
3-拾遺1209いきたるかしぬるかいかにおもほえす身よりほかなるたまくしけかな
いきたるか しぬるかいかに おもほえす みよりほかなる たまくしけかな
則忠女雑賀
3-拾遺1210をとめこか袖ふる山のみつかきのひさしきよより思ひそめてき
をとめこか そてふるやまの みつかきの ひさしきよより おもひそめてき
柿本人麻呂(人麿)雑恋
3-拾遺1211いなり山社のかすを人とははつれなき人をみつとこたへむ
いなりやま やしろのかすを ひととはは つれなきひとを みつとこたへむ
平定文雑恋
3-拾遺1212みしま江の玉江のあしをしめしよりおのかとそ思ふいまたからねと
みしまえの たまえのあしを しめしより おのかとそおもふ いまたからねと
柿本人麻呂(人麿)雑恋
3-拾遺1213あたなりとあたにはいかかさたむらん人の心を人はしるやは
あたなりと あたにはいかか さたむらむ ひとのこころを ひとはしるやは
大中臣能宣雑恋
3-拾遺1214すくろくのいちはにたてるひとつまのあはてやみなん物にやはあらぬ
すくろくの いちはにたてる ひとつまの あはてやみなむ ものにやはあらぬ
読人知らず雑恋
3-拾遺1215ぬれきぬをいかかきさらん世の人はあめのしたにしすまんかきりは
ぬれきぬを いかかきさらむ よのひとは あめのしたにし すまむかきりは
読人知らず雑恋
3-拾遺1216あめのしたのかるる人のなけれはやきてしぬれきぬひるよしもなき
あめのした のかるるひとの なけれはや きてしぬれきぬ ひるよしもなし
贈太政大臣雑恋
3-拾遺1217いつくとも所定めぬ白雲のかからぬ山はあらしとそ思ふ
いつくとも ところさためぬ しらくもの かからぬやまは あらしとそおもふ
読人知らず雑恋
3-拾遺1218白雲のかかるそら事する人を山のふもとによせてけるかな
しらくもの かかるそらこと するひとを やまのふもとに よせてけるかな
読人知らず雑恋
3-拾遺1219いつしかもつくまのまつりはやせなんつれなき人のなへのかす見む
いつしかも つくまのまつり はやせなむ つれなきひとの なへのかすみむ
読人知らず雑恋
3-拾遺1220人しれぬ人まちかほに見ゆめるはたかたのめたるこよひなるらん
ひとしれぬ ひとまちかほに みゆめるは たかたのめたる こよひなるらむ
藤原実頼雑恋
3-拾遺1221池水のそこにあらてはねぬなはのくる人もなしまつ人もなし
いけみつの そこにあらては ねぬなはの くるひともなし まつひともなし
明日香采女雑恋
3-拾遺1222人しれすたのめし事は柏木のもりやしにけむ世にふりにけり
ひとしれす たのめしことは かしはきの もりやしにけむ よにふりにけり
右近雑恋
3-拾遺1223秋はきの花もうゑおかぬやとなれはしかたちよらむ所たになし
あきはきの はなもうゑおかぬ やとなれは しかたちよらむ ところたになし
読人知らず雑恋
3-拾遺1224こゆるきのいそきてきつるかひもなくまたこそたてれおきつしらなみ
こゆるきの いそきてきつる かひもなく またこそたてれ おきつしらなみ
読人知らず雑恋
3-拾遺1225しのひつつよるこそきしか唐衣ひとや見むとはおもはさりしを
しのひつつ よるこそきしか からころも ひとやみむとは おもはさりしを
読人知らず雑恋
3-拾遺1226宮つくるひたのたくみのてをのおとほとほとしかるめをも見しかな
みやつくる ひたのたくみの てをのおと ほとほとしかる めをもみしかな
くにもち雑恋
3-拾遺1227有りとてもいく世かはふるからくにのとらふすのへに身をもなけてん
ありとても いくよかはふる からくにの とらふすのへに みをもなけてむ
読人知らず雑恋
3-拾遺1228むすふ手のしつくににこる山の井のあかても人に別れぬるかな
むすふての しつくににこる やまのゐの あかてもひとに わかれぬるかな
紀貫之雑恋
3-拾遺1229家なからわかるる時は山の井のにこりしよりもわひしかりけり
いへなから わかるるときは やまのゐの にこりしよりも わひしかりけり
紀貫之雑恋
3-拾遺1230はしたかのとかへる山のしひしはのはかへはすともきみはかへせし
はしたかの とかへるやまの しひしはの はかへはすとも きみはかへせし
読人知らず雑恋
3-拾遺1231あやまちのあるかなきかをしらぬ身はいとふににたる心ちこそすれ
あやまちの あるかなきかを しらぬみは いとふににたる ここちこそすれ
読人知らず雑恋
3-拾遺1232ゆく水のあわならはこそきえかへり人のふちせを流れても見め
ゆくみつの あわならはこそ きえかへり ひとのふちせを なかれてもみめ
読人知らず雑恋
3-拾遺1233ともかくもいひはなたれよ池水のふかさあささをたれかしるへき
ともかくも いひはなたれよ いけみつの ふかさあささを たれかしるへき
読人知らず雑恋
3-拾遺1234そめ河をわたらん人のいかてかは色になるてふ事のなからん
そめかはを わたらむひとの いかてかは いろになるてふ ことのなからむ
在原業平雑恋
3-拾遺1235ちはやふるかもの河辺のふちなみはかけてわするる時のなきかな
ちはやふる かものかはへの ふちなみは かけてわするる ときのなきかな
兵衛雑恋
3-拾遺1236世の中はいかかはせまししけ山のあをはのすきのしるしたになし
よのなかは いかかはせまし しけやまの あをはのすきの しるしたになし
読人知らず雑恋
3-拾遺1237むもれ木は中むしはむといふめれはくめちのはしは心してゆけ
うもれきは なかむしはむと いふめれは くめちのはしは こころしてゆけ
読人知らず雑恋
3-拾遺1238世の中はいさともいさや風のおとは秋に秋そふ心地こそすれ
よのなかは いさともいさや かせのおとは あきにあきそふ ここちこそすれ
読人知らず雑恋
3-拾遺1239いはみなるたかまの山のこのまよりわかふるそてをいも見けんかも
いはみなる たかまのやまの このまより わかふるそてを いもみけむかも
柿本人麻呂(人麿)雑恋
3-拾遺1240おきつ浪たかしのはまのはま松のなにこそきみをまちわたりつれ
おきつなみ たかしのはまの はままつの なにこそきみを まちわたりつれ
紀貫之雑恋
3-拾遺1241君をのみ思ひやりつつ神よりも心のそらになりしよひかな
きみをのみ おもひやりつつ かみよりも こころのそらに なりしよひかな
村上院雑恋
3-拾遺1242思ひやるこしのしら山しらねともひと夜も夢にこえぬ日そなき
おもひやる こしのしらやま しらねとも ひとよもゆめに こえぬひそなき
紀貫之雑恋
3-拾遺1243山しなのこはたの里に馬はあれとかちよりそくる君を思へは
やましなの こはたのさとに うまはあれと かちよりそくる きみをおもへは
柿本人麻呂(人麿)雑恋
3-拾遺1244春日山雲井かくれてとほけれと家はおもはす君をこそおもへ
かすかやま くもゐかくれて とほけれと いへはおもはす きみをこそおもへ
柿本人麻呂(人麿)雑恋
3-拾遺1245わかせこをこふるもくるしいとまあらはひろひてゆかむ恋忘かひ
わかせこを こふるもくるし いとまあらは ひろひてゆかむ こひわすれかひ
大伴坂上郎女雑恋
3-拾遺1246旧里をこふるたもともかわかぬに又しほたるるあまも有りけり
ふるさとを こふるたもとも かわかぬに またしほたるる あまもありけり
恵慶法師雑恋
3-拾遺1247しほたるる身は我とのみ思へともよそなるたつもねをそなくなる
しほたるる みはわれのみと おもへとも よそなるたつも ねをそなくなる
大中臣頼基雑恋
3-拾遺1248つれつれと思へはうきにおふるあしのはかなき世をはいかかたのまむ
つれつれと おもへはうきに おふるあしの はかなきよをは いかかたのまむ
読人知らず雑恋
3-拾遺1249定なき人の心にくらふれはたたうきしまは名のみなりけり
さためなき ひとのこころに くらふれは たたうきしまは なのみなりけり
源順雑恋
3-拾遺1250ひとりのみ年へけるにもおとらしをかすならぬ身のあるはあるかは
ひとりのみ としへけるにも おとらしを かすならぬみの あるはあるかは
清原元輔雑恋
3-拾遺1251風はやみ峯のくすはのともすれはあやかりやすき人のこころか
かせはやみ みねのくすはの ともすれは あやかりやすき ひとのこころか
読人知らず雑恋
3-拾遺1252久方のあめのふるひをたたひとり山へにをれはむもれたりけり
ひさかたの あめのふるひを たたひとり やまへにをれは うもれたりけり
大伴家持雑恋
3-拾遺1253雨ふりて庭にたまれるにこり水たかすまはかはかけの見ゆへき
あめふりて にはにたまれる にこりみつ たかすまはかは かけのみゆへき
読人知らず雑恋
3-拾遺1254世とともに雨ふるやとの庭たつみすまぬに影は見ゆるものかは
よとともに あめふるやとの にはたつみ すまぬにかけは みゆるものかは
読人知らず雑恋
3-拾遺1255あふ事のかくてやつひにやみの夜の思ひもいてぬ人のためには
あふことの かくてやつひに やみのよの おもひもいてぬ ひとのためには
太皇太后宮雑恋
3-拾遺1256いはしろの野中にたてるむすひ松心もとけす昔おもへは
いはしろの のなかにたてる むすひまつ こころもとけす むかしおもへは
柿本人麻呂(人麿)雑恋
3-拾遺1257けふかともあすともしらぬ白菊のしらすいく世をふへきわか身そ
けふかとも あすともしらぬ しらきくの しらすいくよを ふへきわかみそ
読人知らず雑恋
3-拾遺1258涙河水まされはやしきたへの枕のうきてとまらさるらん
なみたかは みつまされはや しきたへの まくらのうきて とまらさるらむ
まさのふ雑恋
3-拾遺1259世の中を常なき物とききしかとつらきことこそひさしかりけれ
よのなかを つねなきものと ききしかと つらきことこそ ひさしかりけれ
按察のみやす所雑恋
3-拾遺1260つらきをはつねなき物と思ひつつひさしき事をたのみやはせぬ
つらきをは つねなきものと おもひつつ ひさしきことを たのみやはせぬ
延喜雑恋
3-拾遺1261我こそはにくくもあらめわかやとの花見にたにも君かきまさぬ
われこそは にくくもあらめ わかやとの はなみにたにも きみかきまさぬ
伊勢雑恋
3-拾遺1262いはみかたなにかはつらきつらからは怨みかてらにきても見よかし
いはみかた なにかはつらき つらからは うらみかてらに きてもみよかし
読人知らず雑恋
3-拾遺1263それならぬ事もありしをわすれねといひしはかりをみみにとめけん
それならぬ こともありしを わすれねと いひしはかりを みみにとめけむ
本院侍従雑恋
3-拾遺1264みかりするこまのつまつくあをつつら君こそ我はほたしなりけれ
みかりする こまのつまつく あをつつら きみこそわれは ほたしなりけれ
読人知らず雑恋
3-拾遺1265君見れはむすふの神そうらめしきつれなき人をなにつくりけん
きみみれは むすふのかみそ うらめしき つれなきひとを なにつくりけむ
読人知らず雑恋
3-拾遺1266いつれをかしるしとおもはむみわの山有りとしあるはすきにそありける
いつれをか しるしとおもはむ みわのやま ありとしあるは すきにそありける
紀貫之雑恋
3-拾遺1267我といへはいなりの神もつらきかな人のためとはいのらさりしを
われといへは いなりのかみも つらきかな ひとのためとは いのらさりしを
藤原長能雑恋
3-拾遺1268滝の水かへりてすまはいなり山なぬかのほれるしるしとおもはん
たきのみつ かへりてすまは いなりやま なぬかのほれる しるしとおもはむ
読人知らず雑恋
3-拾遺1269思ひいててとふにはあらす秋はつる色の限を見するなりけり
おもひいてて とふにはあらす あきはつる いろのかきりを みするなりけり
読人知らず雑恋
3-拾遺1270ゆゆしとていむとも今はかひもあらしうきをは風につけてやみなん
ゆゆしとて いむともいまは かひもあらし うきをはかせに つけてやみなむ
読人知らず雑恋
3-拾遺1271ひとりして世をしつくさは高砂の松のときはもかひなかりけり
ひとりして よをしつくさは たかさこの まつのときはも かひなかりけり
紀貫之雑恋
3-拾遺1272玉もかるあまのゆき方さすさをの長くや人を怨渡らん
たまもかる あまのゆきかた さすさをの なかくやひとを うらみわたらむ
紀貫之雑恋
3-拾遺1273たのめつつ別れし人をまつほとに年さへせめてうらめしきかな
たのめつつ わかれしひとを まつほとに としさへせめて うらめしきかな
紀貫之雑恋
3-拾遺1274さくら花のとけかりけりなき人をこふる涙そまつはおちける
さくらはな のとけかりけり なきひとを こふるなみたそ まつはおちける
藤原実頼哀傷
3-拾遺1275おもかけに色のみのこる桜花いく世の春をこひむとすらん
おもかけに いろのみのこる さくらはな いくよのはるを こひむとすらむ
平兼盛哀傷
3-拾遺1276花の色もやとも昔のそれなからかはれる物は露にそ有りける
はなのいろも やともむかしの それなから かはれるものは つゆにそありける
清原元輔哀傷
3-拾遺1277桜花にほふものから露けきはこのめも物を思ふなるへし
さくらはな にほふものから つゆけきは このめもものを おもふなるへし
大中臣能宣哀傷
3-拾遺1278君まさはまつそをらまし桜花風のたよりにきくそかなしき
きみまさは まつそをらまし さくらはな かせのたよりに きくそかなしき
源延光哀傷
3-拾遺1279いにしへはちるをや人の惜みけん花こそ今は昔こふらし
いにしへは ちるをやひとの をしみけむ はなこそいまは むかしこふらし
一条摂改哀傷
3-拾遺1280さ月きてなかめまされはあやめ草思ひたえにしねこそなかるれ
さつききて なかめまされは あやめくさ おもひたえにし ねこそなかるれ
女蔵人兵庫哀傷
3-拾遺1281しのへとやあやめもしらぬ心にもなかからぬよのうきにうゑけん
しのへとや あやめもしらぬ こころにも なかからぬよの うきにうゑけむ
粟田右大臣哀傷
3-拾遺1282ここにたにつれつれになく郭公ましてここひのもりはいかにそ
ここにたに つれつれになく ほとときす ましてここひの もりはいかにそ
右大臣哀傷
3-拾遺1283あさかほを何はかなしと思ひけん人をも花はさこそ見るらめ
あさかほを なにはかなしと おもひけむ ひとをもはなは さこそみるらめ
藤原道信哀傷
3-拾遺1284時ならてははその紅葉ちりにけりいかにこのもとさひしかるらん
ときならて ははそのもみち ちりにけり いかにこのもと さひしかるらむ
村上院哀傷
3-拾遺1285思ひきや秋のよ風のさむけきにいもなきとこにひとりねむとは
おもひきや あきのよかせの さむけきに いもなきとこに ひとりねむとは
大弐国章哀傷
3-拾遺1286秋風になひく草葉のつゆよりもきえにし人をなににたとへん
あきかせに なひくくさはの つゆよりも きえにしひとを なににたとへむ
村上院哀傷
3-拾遺1287こそ見てし秋の月夜はてらせともあひ見しいもはいやとほさかり
こそみてし あきのつきよは てらせとも あひみしいもは いやとほさかり
柿本人麻呂(人麿)哀傷
3-拾遺1288君なくて立つあさきりは麻衣池さへきるそかなしかりける
きみなくて たつあさきりは ふちころも いけさへきるそ かなしかりける
藤原敦忠哀傷
3-拾遺1289わきもこかねくたれかみをさるさはの池のたまもと見るそかなしき
わきもこか ねくたれかみを さるさはの いけのたまもと みるそかなしき
柿本人麻呂(人麿)哀傷
3-拾遺1290心にもあらぬうき世にすみそめの衣の袖のぬれぬ日そなき
こころにも あらぬうきよに すみそめの ころものそての ぬれぬひそなき
読人知らず哀傷
3-拾遺1291ふち衣はらへてすつる涙河きしにもまさる水そなかるる
ふちころも はらへてすつる なみたかは きしにもまさる みつそなかるる
読人知らず哀傷
3-拾遺1292藤衣はつるるいとはきみこふる涙の玉のをとやなるらん
ふちころも はつるるいとは きみこふる なみたのたまの をとやなるらむ
読人知らず哀傷
3-拾遺1293限あれはけふぬきすてつ藤衣はてなき物は涙なりけり
かきりあれは けふぬきすてつ ふちころも はてなきものは なみたなりけり
藤原道信哀傷
3-拾遺1294人なししむねのちふさをほむらにてやくすみそめの衣きよきみ
ひとなしし むねのちふさを ほむらにて やくすみそめの ころもきよきみ
としのふの母哀傷
3-拾遺1295藤衣あひ見るへしと思ひせはまつにかかりてなくさめてまし
ふちころも あひみるへしと おもひせは まつにかかりて なくさめてまし
大江為基哀傷
3-拾遺1296年ふれといかなる人かとこふりてあひ思ふ人にわかれさるらん
としふれと いかなるひとか とこふりて あひおもふひとに わかれさるらむ
大江為基哀傷
3-拾遺1297墨染の衣の袖は雲なれや涙の雨のたえすふるらん
すみそめの ころものそては くもなれや なみたのあめの たえすふるらむ
読人知らず哀傷
3-拾遺1298あまといへといかなるあまの身なれはか世ににぬしほをたれわたるらん
あまといへと いかなるあまの みなれはか よににぬしほを たれわたるらむ
読人知らず哀傷
3-拾遺1299世の中にあらましかはと思ふ人なきかおほくも成りにけるかな
よのなかに あらましかはと おもふひと なきかおほくも なりにけるかな
藤原為頼哀傷
3-拾遺1300常ならぬ世はうき身こそかなしけれそのかすにたにいらしとおもへは
つねならぬ よはうきみこそ かなしけれ そのかすにたに いらしとおもへは
藤原公任哀傷
3-拾遺1301なき人もあるかつらきを思ふにも色わかれぬは涙なりけり
なきひとも あるかつらきを おもふにも いろわかれぬは なみたなりけり
伊勢哀傷
3-拾遺1302うつくしと思ひしいもを夢に見ておきてさくるになきそかなしき
うつくしと おもひしいもを ゆめにみて おきてさくるに なきそかなしき
読人知らず哀傷
3-拾遺1303思ひやるここひのもりのしつくにはよそなる人の袖もぬれけり
おもひやる ここひのもりの しつくには よそなるひとの そてもぬれけり
清原元輔哀傷
3-拾遺1304なよ竹のわかこの世をはしらすしておほしたてつと思ひけるかな
なよたけの わかこのよをは しらすして おほしたてつと おもひけるかな
平兼盛哀傷
3-拾遺1305我のみやこの世はうきとおもへとも君もなけくと聞くそかなしき
われのみや このよはうきと おもへとも きみもなけくと きくそかなしき
藤原共政妻哀傷
3-拾遺1306うき世にはある身もうしとなけきつつ涙のみこそふるここちすれ
うきよには あるみもうしと なけきつつ なみたのみこそ ふるここちすれ
藤原朝光哀傷
3-拾遺1307しての山こえてきつらん郭公こひしき人のうへかたらなん
してのやま こえてきつらむ ほとときす こひしきひとの うへかたらなむ
伊勢哀傷
3-拾遺1308思ふよりいふはおろかに成りぬれはたとへていはん事のはそなき
おもふより いふはおろかに なりぬれは たとへていはむ ことのはそなき
平定文哀傷
3-拾遺1309こふるまに年のくれなはなき人の別やいとととほくなりなん
こふるまに としのくれなは なきひとの わかれやいとと とほくなりなむ
紀貫之哀傷
3-拾遺1310如何せん忍の草もつみわひぬかたみと見えしこたになけれは
いかにせむ しのふのくさも つみわひぬ かたみとみえし こたになけれは
読人知らず哀傷
3-拾遺1311春は花秋は紅葉とちりはててたちかくるへきこのもともなし
はるははな あきはもみちと ちりはてて たちかくるへき このもともなし
読人知らず哀傷
3-拾遺1312わすられてしはしまとろむほともかないつかはきみをゆめならて見ん
わすられて しはしまとろむ ほともかな いつかはきみを ゆめならてみむ
中務哀傷
3-拾遺1313うきなからきえせぬ物は身なりけりうら山しきは水のあわかな
うきなから きえせぬものは みなりけり うらやましきは みつのあわかな
中務哀傷
3-拾遺1314世の中をかくいひいひのはてはてはいかにやいかにならむとすらん
よのなかを かくいひいひの はてはては いかにやいかに ならむとすらむ
読人知らず哀傷
3-拾遺1315ささなみのしかのてこらかまかりにし河せの道を見れはかなしも
ささなみの しかのてこらか まかりにし かはせのみちを みれはかなしも
柿本人麻呂(人麿)哀傷
3-拾遺1316おきつ浪よるあらいそをしきたへの枕とまきてなれる君かも
おきつなみ よるあらいそを しきたへの まくらとまきて なれるきみかも
柿本人麻呂(人麿)哀傷
3-拾遺1317あすしらぬわか身とおもへとくれぬまのけふは人こそかなしかりけれ
あすしらぬ わかみとおもへと くれぬまの けふはひとこそ かなしかりけれ
紀貫之哀傷
3-拾遺1318夢とこそいふへかりけれ世の中はうつつある物と思ひけるかな
ゆめとこそ いふへかりけれ よのなかは うつつあるものと おもひけるかな
紀貫之哀傷
3-拾遺1319家にいきてわかやを見れはたまささのほかにおきけるいもかこまくら
いへにゆきて わかやをみれは たまささの ほかにおきける いもかこまくら
柿本人麻呂(人麿)哀傷
3-拾遺1320まきもくの山へひひきてゆく水のみなわのことによをはわか見る
まきもくの やまへひひきて ゆくみつの みなわのことに よをはわかみる
柿本人麻呂(人麿)哀傷
3-拾遺1321いも山のいはねにおける我をかもしらすていもかまちつつあらん
いもやまの いはねにおける われをかも しらすていもか まちつつあらむ
柿本人麻呂(人麿)哀傷
3-拾遺1322手に結ふ水にやとれる月影のあるかなきかの世にこそありけれ
てにむすふ みつにやとれる つきかけの あるかなきかの よにこそありけれ
紀貫之哀傷
3-拾遺1323くれ竹のわか世はことに成りぬともねはたえせすもなかるへきかな
くれたけの わかよはことに なりぬとも ねはたえせすも なかるへきかな
哀傷
3-拾遺1324とりへ山たににけふりのもえたたははかなく見えし我としらなん
とりへやま たににけふりの もえたたは はかなくみえし われとしらなむ
読人知らず哀傷
3-拾遺1325みな人のいのちをつゆにたとふるは草むらことにおけはなりけり
みなひとの いのちをつゆに たとふるは くさむらことに おけはなりけり
すけきよ哀傷
3-拾遺1326草枕人はたれとかいひおきしつひのすみかはの山とそ見る
くさまくら ひとはたれとか いひおきし つひのすみかは のやまとそみる
源順哀傷
3-拾遺1327世の中をなににたとへむあさほらけこきゆく舟のあとのしら浪
よのなかを なににたとへむ あさほらけ こきゆくふねの あとのしらなみ
沙弥満誓哀傷
3-拾遺1328契あれはかはねなれともあひぬるを我をはたれかとはんとすらん
ちきりあれは かはねなれとも あひぬるを われをはたれか とはむとすらむ
源相方哀傷
3-拾遺1329山寺の入あひのかねのこゑことにけふもくれぬときくそかなしき
やまてらの いりあひのかねの こゑことに けふもくれぬと きくそかなしき
読人知らず哀傷
3-拾遺1330うき世をはそむかはけふもそむきなんあすもありとはたのむへき身か
うきよをは そむかはけふも そむきなむ あすもありとは たのむへきみか
慶滋保胤哀傷
3-拾遺1331世の中に牛の車のなかりせは思ひの家をいかていてまし
よのなかに うしのくるまの なかりせは おもひのいへを いかていてまし
読人知らず哀傷
3-拾遺1332世の中にふるそはかなき白雪のかつはきえぬる物としるしる
よのなかに ふるそはかなき しらゆきの かつはきえぬる ものとしるしる
藤原高光哀傷
3-拾遺1333すみそめの色は我のみと思ひしをうき世をそむく人もあるとか
すみそめの いろはわれのみと おもひしを うきよをそむく ひともあるとか
大中臣能宣哀傷
3-拾遺1334すみそめの衣と見れはよそなからもろともにきる色にそ有りける
すみそめの ころもとみれは よそなから もろともにきる いろにそありける
読人知らず哀傷
3-拾遺1335思ひしる人も有りける世の中をいつをいつとてすくすなるらん
おもひしる ひともありける よのなかを いつをいつとて すくすなるらむ
藤原公任哀傷
3-拾遺1336ささなみやしかのうら風いかはかり心の内の源しかるらん
ささなみや しかのうらかせ いかはかり こころのうちの すすしかるらむ
藤原公任哀傷
3-拾遺1337こふつくすみたらし河のかめなれはのりのうききにあはぬなりけり
こふつくす みたらしかはの かめなれは のりのうききに あはぬなりけり
斎院哀傷
3-拾遺1338いつしかと君にと思ひしわかなをはのりの道にそけふはつみつる
いつしかと きみにとおもひし わかなをは のりのみちにそ けふはつみつる
村上院哀傷
3-拾遺1339たき木こる事は昨日につきにしをいさをののえはここにくたさん
たききこる ことはきのふに つきにしを いさをののえは ここにくたさむ
藤原道綱母哀傷
3-拾遺1340けふよりは露のいのちもをしからす蓮のうへのたまとちきれは
けふよりは つゆのいのちも をしからす はちすのうへの たまとちきれは
実方哀傷
3-拾遺1341あさことにはらふちりたにあるものをいまいくよとてたゆむなるらん
あさことに はらふちりたに あるものを いまいくよとて たゆむなるらむ
夢想歌哀傷
3-拾遺1342暗きより暗き道にそ入りぬへき遥に照せ山のはの月
くらきより くらきみちにそ いりぬへき はるかにてらせ やまのはのつき
雅致女式部哀傷
3-拾遺1343極楽ははるけきほととききしかとつとめていたるところなりけり
こくらくは はるけきほとと ききしかと つとめていたる ところなりけり
仙慶法師哀傷
3-拾遺1344ひとたひも南無阿弥陀仏といふ人の蓮の上にのほらぬはなし
ひとたひも なむあみたふつと いふひとの はちすのうへに のほらぬはなし
空也上人哀傷
3-拾遺1345みそちあまりふたつのすかたそなへたるむかしの人のふめるあとそこれ
みそちあまり ふたつのすかた そなへたる むかしのひとの ふめるあとそこれ
光明皇后哀傷
3-拾遺1346法華経をわかえし事はたき木こりなつみ水くみつかへてそえし
ほけきやうを わかえしことは たききこり なつみみつくみ つかへてそえし
大僧正行基哀傷
3-拾遺1347ももくさにやそくさそへてたまひてしちふさのむくいけふそわかする
ももくさに やそくさそへて たまひてし ちふさのむくひ けふそわかする
大僧正行基哀傷
3-拾遺1348霊山の釈迦のみまへにちきりてし真如くちせすあひ見つるかな
りやうせむの しやかのみまへに ちきりてし しむによくちせす あひみつるかな
大僧正行基哀傷
3-拾遺1349かひらゑにともにちきりしかひありて文殊のみかほあひ見つるかな
かひらゑに ともにちきりし かひありて もむしゆのみかほ あひみつるかな
婆羅門僧正哀傷
3-拾遺1350しなてるやかたをか山にいひにうゑてふせるたひ人あはれおやなし
しなてるや かたをかやまに いひにうゑて ふせるたひひと あはれおやなし
聖徳太子哀傷
3-拾遺1351いかるかやとみのを河のたえはこそわかおほきみのみなをわすれめ
いかるかや とみのをかはの たえはこそ わかおほきみの みなをわすれめ
読人知らず哀傷
3-拾遺1352我はあすはのみやつまむさはのせり水はこほりてくきし見えねは
われはあす はのみやつまむ さはのせり みつはこほりて くきしみえねは
藤原輔相異本歌
3-拾遺1353むまよりはひつしはかりはあるものをとりにいぬるかかゐてきぬらむ
うまよりは ひつしはかりは あるものを とりにいぬるか かひてきぬらむ
読人知らず異本歌
3-拾遺1354うしと思ふ心をしはしなくさめむ後によひとをあはれと思はむ
うしとおもふ こころをしはし なくさめむ のちによひとを あはれとおもはむ
読人知らず異本歌
3-拾遺1355かも山のいはねしまきてあるわれをしらぬかいもかまちつつあらむ
かもやまの いはねしまきて あるわれを しらぬかいもか まちつつあらむ
柿本人麻呂(人麿)異本歌
3-拾遺1356日くるれはまつ人もきぬからいともよるをはあふといふはかりなり
ひくるれは まつひともきぬ からいとも よるをはあふと いふはかりなり
式部異本歌
3-拾遺1357よもやまのまほりにたのむあつさゆみ神のたからにいましつるかな
よのなかの まもりにたのむ あつさゆみ かみのたからに いましつるかな
不記異本歌
3-拾遺1358わかくさのいもものりたりわれものりふねかたふくなふなかせふくな
わかくさの いもものりたり われものり ふねかたふくな ふなかせふくな
不記異本歌
3-拾遺1359このこにて心をさなくとはすともおやのおやにてうらむへしやは
このこにて こころをさなく とはすとも おやのおやにて うらむへしやは
源重之異本歌
3-拾遺1360夢のうちの花に心をつけてこそこのよのなかはおもひしらるれ
ゆめのうちの はなにこころを つけてこそ このよのなかは おもひしらるれ
読人知らず異本歌
4-後拾1いかにねておくるあしたにいふことぞ昨日をこぞと今日を今年と
いかにねておくるあしたにいふことそきのふをこそとけふをことしと
小大君春上
4-後拾2いでてみよ今は霞も立ちぬらむ春はこれよりあくとこそきけ
いててみよいまはかすみもたちぬらむはるはこれよりすくとこそきけ
光朝法師母春上
4-後拾3東路は勿来の関もあるものをいかでか春のこえてきつらむ
あつまちはなこそのせきもあるものをいかてかはるのこえてきつらむ
源師賢春上
4-後拾4あふさかの関をや春もこえつらむ音羽の山のけさはかすめる
あふさかのせきをやはるもこえつらむおとはのやまのけさはかすめる
橘俊綱春上
4-後拾5春のくる道のしるべはみ吉野の山にたなびく霞なりけり
はるのくるみちのしるへはみよしののやまにたなひくかすみなりけり
能宣春上
4-後拾6人しれずいりぬとおもひしかひもなく年も山路をこゆるなりけり
ひとしれすいりぬとおもひしかひもなくとしもやまちをこゆるなりけり
能宣春上
4-後拾7雪ふりて道ふみまどふ山里にいかにしてかは春のきつらむ
ゆきふりてみちふみまとふやまさとにいかにしてかははるのきつらむ
兼盛春上
4-後拾8新しき春はくれども身にとまる年はかへらぬものにぞありける
あたらしきはるはくれともみにとまるとしはかへらぬものにそありける
加賀左衛門春上
4-後拾9たづのすむ澤べの蘆のしたねとけ汀もえいづる春はきにけり
たつのすむさはへのあしのしたねとけみきはもえいつるはるはきにけり
能宣春上
4-後拾10み吉野は春のけしきにかすめどもむすぼほれたる雪の下草
みよしのははるのけしきにかすめともむすほほれたるゆきのしたくさ
紫式部春上
4-後拾11谷川の氷もいまだきえあへぬに峯の霞はたなびきにけり
たにかはのこほりもいまたきえあへぬにみねのかすみはたなひきにけり
藤原長能春上
4-後拾12春ごとに野辺のけしきの変わらぬはおなじ霞やたちかへるらむ
はることにのへのけしきのかはらぬはおなしかすみやたちかへるらむ
藤原隆経春上
4-後拾13春霞たつやおそきと山川の岩間をくぐる音きこゆなり
はるかすみたつやおそきとやまかはのいはまをくくるおときこゆなり
和泉式部春上
4-後拾14むらさきの袖をつらねてきたるかな春たつことはこれぞうれしき
むらさきのそてをつらねてきたるかなはるたつことはこれそうれしき
赤染衛門春上
4-後拾15むれてくる大宮人は春をへてかはらずながらめづらしきかな
むれてくるおほみやひとははるをへてかはらすなからめつらしきかな
小弁春上
4-後拾16むらさきもあけもみどりもうれしきは春のはじめにきたるなりけり
むらさきもあけもみとりもうれしきははるのはしめにきたるなりけり
藤原輔伊春上
4-後拾17君ませとやりつる使きにけらし野辺の雉子はとりやしつらむ
きみませとやりつるつかひきにけらしのへのききすはとりやしつらむ
藤原道長春上
4-後拾18春たちてふる白雪を鶯の花ちりぬとやいそぎいづらむ
はるたちてふるしらゆきをうくひすのはなちりぬとやいそきいつらむ
読人知らず春上
4-後拾19山たかみ雪ふるすより鶯の出づるはつねはけふぞ聞きつる
やまたかみゆきふるすよりうくひすのいつるはつねはけふそなくなる
能宣春上
4-後拾20ふるさとへ行く人あらばことづてむけふ鶯の初音ききつと
ふるさとへゆくひとあらはことつてむけふうくひすのはつねききつと
源兼澄春上
4-後拾21ふりつもる雪きえがたき山里に春をしらする鶯のこゑ
ふりつもるゆききえかたきやまさとにはるをしらするうくひすのこゑ
読人知らず春上
4-後拾22鶯のなくねばかりぞきこえける春のいたらぬ人のやどにも
うくひすのなくねはかりそきこえけるはるのいたらぬひとのやとにも
清原元輔春上
4-後拾23たづねつる宿は霞にうづもれて谷のうぐひす一こゑぞする
たつねつるやとはかすみにうつもれてたにのうくひすひとこゑそする
藤原範永春上
4-後拾24千歳へむやどの子の日の松をこそほかのためしにひかむとすらめ
ちとせへむやとのねのひのまつをこそほかのためしにひかむとすらめ
清原元輔春上
4-後拾25ひきつれてけふは子の日の松にまたいま千歳をぞ野べにいでつる
ひきつれてけふはねのひのまつにまたいまちとせをそのへにいてつる
和泉式部春上
4-後拾26春の野にいでぬ子の日はもろ人の心ばかりをやるにぞありける
はるののにいてぬねのひはもろひとのこころはかりをやるにそありける
読人知らず春上
4-後拾27けふは君いかなる野辺に子の日て人のまつをばしらぬなるらむ
けふはきみいかなるのへにねのひしてひとのまつをはしらぬなるらむ
賀茂成助春上
4-後拾28袖かけてひきぞやられぬ小松原いづれともなきちよのけしきに
そてかけてひきそやられぬこまつはらいつれともなきちよのけしきに
右大臣北方春上
4-後拾29とまりにし子の日の松をけふよりはひかぬためしにひかるべきかな
とまりにしねのひのまつをけふよりはひかぬためしにひかるへきかな
藤原頼宗春上
4-後拾30あさみどり野辺の霞のたなびくにけふの小松をまかせつるかな
あさみとりのへのかすみのたなひくにけふのこまつをまかせつるかな
源経信春上
4-後拾31君が代にひきくらぶれば子の日する松の千歳もかずならぬかな
きみかよにひきくらふれはねのひするまつのちとせもかすならぬかな
左近中将公実春上
4-後拾32人はみな野辺の小松を引きにゆくけふの若菜は雪やつむらむ
ひとはみなのへのこまつをひきにゆくけさのわかなはゆきやつむらむ
伊勢大輔春上
4-後拾33卯づゑつきつままほしきは玉さかに君が飛火の若菜なりけり
うつゑつきつままほしきはたまさかにきみかとふひのわかななりけり
伊勢大輔春上
4-後拾34白雪のまだふるさとの春日野にいざうちはらひ若菜つみみむ
しらゆきのまたふるさとのかすかのにいさうちはらひわかなつみてむ
能宣春上
4-後拾35春日野は雪のみつむとみしかどもおひいづるものは若菜なりけり
かすかのはゆきのみつむとみしかともおひいつるものはわかななりけり
和泉式部春上
4-後拾36摘みにくる人はたれともなかりけりわがしめし野の若菜なれども
つみにくるひとはたれともなかりけりわかしめしののわかななれとも
中原頼成妻春上
4-後拾37かずしらずかさなるとしを鶯の聲する方のわかなともがな
かすしらすかさなるとしをうくひすのこゑするかたのわかなともかな
藤三位春上
4-後拾38山たかみ都の春をみわたせばただ一むらの霞なりけり
やまたかみみやこのはるをみわたせはたたひとむらのかすみなりけり
大江正言春上
4-後拾39よそにては霞たなびくふるさとの都の春はみるべかりける
よそにてそかすみたなひくふるさとのみやこのはるはみるへかりける
能因法師春上
4-後拾40春はまづ霞にまがふ山里をたちよりてとふ人のなきかな
はるはまつかすみにまかふやまさとをたちよりてとふひとのなきかな
選子内親王春上
4-後拾41はるばるとやへのしほぢにおく網をたなびくものは霞なりけり
はるはるとやへのしほちにおくあみをたなひくものはかすみなりけり
藤原節信春上
4-後拾42三島江につのぐみわたる蘆のねの一夜のほどに春めきにけり
みしまえにつのくみわたるあしのねのひとよのほとにはるめきにけり
曾禰好忠春上
4-後拾43心あらむ人にみせばや津の国の難波わたりの春のけしきを
こころあらむひとにみせはやつのくにのなにはわたりのはるのけしきを
能因法師春上
4-後拾44難波潟うら吹く風に浪たてばつのぐむ蘆のみえみみえずみ
なにはかたうらふくかせになみたてはつのくむあしのみえみみえすみ
読人知らず春上
4-後拾45あはづののすぐろの薄つのぐめば冬たちなづむ駒ぞいばゆる
あはつののすくろのすすきつのくめはふゆたちなつむこまそいはゆる
権僧正静圓春上
4-後拾46たちはなれ沢辺になるる春駒はおのがかげをや友とみるらむ
たちはなれさはへになるるはるこまはおのかかけをやともとみるらむ
源兼長春上
4-後拾47狩にこば行きてもみまし片岡のあしたの原にきぎす鳴くなり
かりにこはゆきてもみましかたをかのあしたのはらにききすなくなり
藤原長能春上
4-後拾48秋までの命もしらず春の野に萩のふるえをやくときくかな
あきまてのあはれもしらすはるののにはきのふるねをやくとやくかな
和泉式部春上
4-後拾49花ならでをらまほしきは難波江の蘆のわかばにふれる白雪
はなならてをらまほしきはなにはえのあしのわかはにふれるしらゆき
藤原範永春上
4-後拾50梅が香をたよりの風や吹きつらむ春めづらしく君がきませる
うめかかをたよりのかせやふきつらむはるめつらしくきみかきませる
平兼盛春上
4-後拾51梅の花にほふあたりの夕暮はあやなく人にあやまたれつつ
うめのはなにほふあたりのゆふくれはあやなくひとにあやまたれつつ
大中臣能宣春上
4-後拾52春の夜のやみにしなれば匂ひくる梅よりほかの花なかりけり
はるのよのやみにしあれはにほひくるうめよりほかのはななかりけり
藤原公任春上
4-後拾53梅の香をよはの嵐の吹きためてまきの板戸のあくるまちけり
うめのかをよはのあらしのふきためてまきのいたとのあくるまちけり
大江嘉言春上
4-後拾54梅の花かはことどとに匂はねど薄く濃くこそ色は咲きけれ
うめのはなかはことことににほはねとうすくこくこそいろはさきけれ
清原元輔春上
4-後拾55わかやどの垣根の梅のうつり香にひとりねもせぬ心地こそすれ
わかやとのかきねのうめのうつりかにひとりねもせぬここちこそすれ
読人知らず春上
4-後拾56わかやどの梅のさかりにくる人はどとろくばかり袖ぞにほへる
わかやとのうめのさかりにくるひとはおとろくはかりそてそにほへる
藤原公任春上
4-後拾57春はただ我が宿にのみ梅さかばかれにし人もみにときなまし
はるはたたわかやとにのみうめさかはかれにしひともみにときなまし
和泉式部春上
4-後拾58梅の花かきねににほふ山里は行きかふ人の心をぞみる
うめのはなかきねににほふやまさとはゆきかふひとのこころをそみる
賀茂成助春上
4-後拾59梅の花かばかりにほふ春の夜のやみは風こそうれしかりけれ
うめのはなかはかりにほふはるのよのやみはかせこそうれしかりけれ
藤原顕綱春上
4-後拾60梅が枝を折ればつづれる衣手に思ひもかけぬ移り香ぞする
うめかえををれはつつれるころもてにおもひもかけぬうつりかそする
素意法師春上
4-後拾61かばかりのにほひなりとも梅の花しづの垣根を思ひわするな
かはかりのにほひなりともうめのはなしつのかきねをおもひわするな
弁乳母春上
4-後拾62わがやどにうゑぬばかりぞ梅の花あるじなりともかばかりぞみむ
わかやとにうゑぬはかりそうめのはなあるしなりともかはかりそみむ
大江嘉言春上
4-後拾63風ふけばをちの垣根の梅の花かはわがやどの物にぞありける
かせふけはをちのかきねのうめのはなかはわかやとのものにそありける
清基法師春上
4-後拾64たづねくる人にもみせむ梅の花ちるとも水にながれざらなむ
たつねくるひとにもみせむうめのはなちるともみつになかれさらなむ
藤原経衡春上
4-後拾65すゑむすぶ人のてさへや匂ふらむ梅のした行く水のながれは
すゑむすふひとのてさへやにほふらむうめのしたゆくみつのなかれは
平経章春上
4-後拾66おもひやれ霞こめたる山里に花まつほどの春のつれづれ
おもひやれかすみこめたるやまさとのはなまつほとのはるのつれつれ
上東門院中将春上
4-後拾67ほにいでて秋とみしまに小山田をまたうちかへす春もきにけり
ほにいててあきとみしまにをやまたをまたうちかへすはるもきにけり
小弁春上
4-後拾68かへるかり雲井はるかになりぬなりまたこむ秋も遠しとおもふに
かへるかりくもゐはるかになりぬなりまたこむあきもとほしとおもふに
赤染衛門春上
4-後拾69行き帰る旅に年ふるかりがねはいくその春をよそにみるらむ
ゆきかへるたひにとしふるかりかねはいくそのはるをよそにみるらむ
藤原道信春上
4-後拾70とどまらぬ心ぞ見えむ帰るかり花のさかりを人にかたるな
ととまらぬこころそみえむかへるかりはなのさかりをひとにかたるな
馬内侍春上
4-後拾71うすずみにかく玉づさと見ゆるかな霞める空にかへるかりがね
うすすみにかくたまつさとみゆるかなかすめるそらにかへるかりかね
津守国基春上
4-後拾72をりしもあれいかにちぎりてかりがねの花の盛りに帰りそめけむ
をりしもあれいかにちきりてかりかねのはなのさかりにかへりそめけむ
弁乳母春上
4-後拾73かりがねぞけふ帰るなる小山田の苗代水のひきもとめなむ
かりかねそけふかへるなるをやまたのなはしろみつのひきもとめなむ
能宣春上
4-後拾74あらたまの年をへつつも青柳の糸はいづれのはるかたゆべき
あらたまのとしをへつつもあをやきのいとはいつれのはるかたゆへき
坂上望城春上
4-後拾75池水のみくさもとらで青柳のはらふしづえにまかせてぞみる
いけみつのみくさもとらてあをやきのはらふしつえにまかせてそみる
藤原経衡春上
4-後拾76あさみどりみだれてなびく青柳の色にぞ春の風もみえける
あさみとりみたれてなひくあをやきのいろにそはるのかせもみえける
藤原元真春上
4-後拾77春霞へだつる山の麓までおもひもしらずゆく心かな
はるかすみへたつるやまのふもとまておもひしらすもゆくこころかな
藤原孝善春上
4-後拾78山ざくら見に行く道をへだつれば人の心ぞかすみなりける
やまさくらみにゆくみちをへたつれはひとのこころそかすみなりける
藤原隆経春上
4-後拾79うらやましいる身ともがな梓弓ふしみの里の花のまどゐに
うらやましいるみともかなあつさゆみふしみのさとのはなのまとゐに
皇后宮美作春上
4-後拾80小萩さく秋まであらば思ひいでむ嵯峨野をやきし春はその日と
こはきさくあきまてあらはおもひいてむさかのをやきしはるはそのひと
賀茂成助春上
4-後拾81桜花さかばちりなむとおもふよりかねても風のいとはしきかな
さくらはなさかはちりなむとおもふよりかねてもかせのいとはしきかな
永源法師春上
4-後拾82梅が香を桜の花ににほはせて柳がえだにさかせてしがな
うめかかをさくらのはなににほはせてやなきかえたにさかせてしかな
中原致時春上
4-後拾83明けばまづたづねにゆかむ山櫻こればかりだに人に遅れじ
あけはまつたつねにゆかむやまさくらこれはかりたにひとにおくれし
橘元任春上
4-後拾84折らばをし折らではいかが山櫻けふをすぐさず君にみすべき
をらはをしをらてはいかかやまさくらけふをすくさすきみにみすへき
源雅通春上
4-後拾85をらでただかたりにかたれ山櫻風にちるだにをしきにほひを
をらてたたかたりにかたれやまさくらかせにちるたにをしきにほひを
盛少将春上
4-後拾86思ひやる心ばかりはさくら花たづぬる人におくれやはする
おもひやるこころはかりはさくらはなたつぬるひとにおくれやはする
一宮駿河春上
4-後拾87あくがるる心ばかりは山桜たづぬる人にたぐへてぞやる
あくかるるこころはかりはやまさくらたつぬるひとにたくへてそやる
右大臣北方春上
4-後拾88今こむとちぎりし人のおなじくは花の盛りをすぐさざらなむ
いまこむとちきりしひとのおなしくははなのさかりをすくささらなむ
源兼澄春上
4-後拾89いづれをかわきてをらまし山桜こころうつらぬえだしなければ
いつれをかわきてをらましやまさくらこころうつらぬえたしなけれは
祭主輔親春上
4-後拾90行きとまる所ぞ春はなかりける花に心のあかぬかぎりは
ゆきとまるところそはるはなかりけるはなにこころのあかぬかきりは
菅原為言春上
4-後拾91やまざくら心のままにたづねきてかへさぞ道のほどはしらるる
やまさくらこころのままにたつねきてかへさそみちのほとはしらるる
小弁春上
4-後拾92にほふらむ花のみやこのこひしくてをるにものうき山ざくらかな
にほふらむはなのみやこのこひしくてをるにものうきやまさくらかな
上東門院中将春上
4-後拾93東路の人にとはばや白川の関にもかくや花はにほふと
あつまちのひとにとははやしらかはのせきにもかくやはなはにほふと
藤原長家春上
4-後拾94見るからに花の名だての身なれども心は雲のうへまでそゆく
みるからにはなのなたてのみなれともこころはくものうへまてそゆく
高岳頼言春上
4-後拾95春ごとに見るとはすれど桜花あかでもとしのつもりぬるかな
はることにみるとはすれとさくらはなあかてもとしのつもりぬるかな
大貮實政春上
4-後拾96さくら花にほふなごりに大かたの春さへをしくおもほゆるかな
さくらはなにほふなこりにおほかたのはるさへをしくおもほゆるかな
能宣春上
4-後拾97道とほみ行きてはみねどさくら花こころをやりてけふはかへりぬ
みちとほみゆきてはみねとさくらはなこころをやりてけふはくらしつ
平兼盛春上
4-後拾98さくら咲く春はよるだになかりせば夢にもものは思はざらまし
さくらさくはるはよるたになかりせはゆめにもものはおもはさらまし
能因法師春上
4-後拾99うゑおきし人なき宿の桜花にほひばかりぞかはらざりける
うゑおきしひとなきやとのさくらはなにほひはかりそかはらさりける
読人知らず春上
4-後拾100みやこ人いかにととはば見せもせむかの山ざくら一枝もがな
みやこひといかかととははみせもせむこのやまさくらひとえたもかな
和泉式部春上
4-後拾101人も見ぬ宿に桜をうゑたれば花もてやつす身とぞなりぬる
ひともみぬやとにさくらをうゑたれははなもてやつすみとそなりぬる
和泉式部春上
4-後拾102わかやどの桜はかひもなかりけりあるじからこそ人も見にくれ
わかやとのさくらはかひもなかりけりあるしからこそひともみにくれ
和泉式部春上
4-後拾103花見にと人は山べに入りはてて春はみやこぞさびしかりける
はなみにとひとはやまへにいりはててはるはみやこそさひしかりける
道命法師春上
4-後拾104世の中をなになげかまし山ざくら花見るほどの心なりせば
よのなかをなになけかましやまさくらはなみるほとのこころなりせは
紫式部春上
4-後拾105花みてぞ身うきことも忘らるる春はかぎりのなからましかば
はなみてそみのうきこともわすらるるはるはかきりのなからましかは
西園寺公経春上
4-後拾106わがやどの梢ばかりとみしほどに四方の山べに春はきにけり
わかやとのこすゑはかりとみしほとによものやまへにはるはきにけり
源顕基春上
4-後拾107おもひつつ夢にぞ見つる桜花春はねざめのなからましかば
おもひつつゆめにそみつるさくらはなはるはねさめのなからましかは
藤原元真春上
4-後拾108春のうちはちらぬ桜とみてしがなさてもや風のうしろめたきに
はるのうちはちらぬさくらとみてしかなさてもやかせのうしろめたなき
右大弁通俊春上
4-後拾109花みると家路におそく帰るかな待ちどきすぐと妹やいふらむ
はなみるといへちにおそくかへるかなまちときすくといもやいふらむ
平兼盛春上
4-後拾110ひととせにふたたびもこぬ春なればいとなくけふは花をこそみれ
ひととせにふたたひもこぬはるなれはいとなくけふははなをこそみれ
平兼盛春上
4-後拾111うらやまし春の宮人うちむれておのがものとや花を見るらむ
うらやましはるのみやひとうちむれておのかものとやはなをみるらむ
良暹法師春上
4-後拾112山ざくら白雲にのみまがへばや春の心の空になるらむ
やまさくらしらくもにのみまかへはやはるのこころのそらになるらむ
源縁法師春上
4-後拾113いにしへの花みし人はたづねしを老は春にもしられざりけり
いにしへのはなみしひとはたつねしをおいははるにもしられさりけり
藤原齊信春上
4-後拾114桜花さかりになればふるさとのむぐらのかどもさされざりけり
さくらはなさかりになれはふるさとのむくらのかともさされさりけり
藤原定頼春上
4-後拾115よそながらをしきさくらのにほひかな誰わがやどの花とみるらむ
よそなからをしきさくらのにほひかなたれわかやとのはなとみるらむ
坂上定成春上
4-後拾116春ごとにみれどもあかず山櫻年にや花の咲きまさるらむ
はることにみれともあかすやまさくらとしにやはなのさきまさるらむ
源縁法師春上
4-後拾117世の中を思ひすててし身なれども心よわしと花にみえける
よのなかをおもひすててしみなれともこころよわしとはなにみえける
能因法師春上
4-後拾118よよふとも我わすれめや桜花苔のたもとにちりてかかりし
よよふともわれわすれめやさくらはなこけのたもとにちりてかかりし
能因法師春上
4-後拾119なにごとを春のかたみに思はましけふ白川の花見ざりせば
なにことをはるのかたみにおもはましけふしらかはのはなみさりせは
伊賀少将春上
4-後拾120高砂の尾上の桜さきにけり外山のかすみたたずもあらなむ
たかさこのをのへのさくらさきにけりとやまのかすみたたすもあらなむ
大江匡房春上
4-後拾121吉野山八重たつ峯の白雲にかさねてみゆる花ざくらかな
よしのやまやへたつみねのしらくもにかさねてみゆるはなさくらかな
藤原清家春上
4-後拾122おもひおくことなからまし庭桜ちりての後の舟出なりせば
おもひおくことなからましにはさくらちりてののちのふなてなりせは
藤原通宗春上
4-後拾123とふ人も宿にはあらじ山ざくらちらでかへりし春しなければ
とふひともやとにはあらしやまさくらちらてかへりしはるしなけれは
良暹法師春上
4-後拾124ちるまでは旅寝をせなむ木のもとに帰らば花のなだてなるべし
ちるまてはたひねをせなむこのもとにかへらははなのなたてなるへし
加賀左衛門春上
4-後拾125ちりはてて後やかへらむふるさとも忘られぬべき山ざくらかな
ちりはててのちやかへらむふるさともわすられぬへきやまさくらかな
源道済春上
4-後拾126わが宿に咲きみちにけり桜花ほかには春もあらじとぞおもふ
わかやとにさきみちにけりさくらはなほかにははるもあらしとそおもふ
源道済春上
4-後拾127花もみなちりなむのちは我が宿になににつけてか人をまつべき
はなもみなちりなむのちはわかやとになににつけてかひとをまつへき
具平親王春上
4-後拾128みちよへてなりけるものをなどてかは桃としもはた名づけそめけむ
みちよへてなりけるものをなとてかはももとしもはたなつけそめけむ
花山院春下
4-後拾129あかざらばちよまでかざせ桃の花はなもかはらじ春もたえねば
あかさらはちよまてかさせもものはなはなもかはらしはるもたえねは
清原元輔春下
4-後拾130ふるさとの花のものいふ世なりせばいかに昔のことをとはまし
ふるさとのはなのものいふよなりせはいかにむかしのことをとはまし
出羽弁春下
4-後拾131桜花あかぬあまりに思ふかな散らずば人や惜しまざらまし
さくらはなあかぬあまりにおもふかなちらすはひとやをしまさらまし
藤原頼宗春下
4-後拾132惜しめども散りもとまらぬ花ゆゑに春は山辺をすみかにぞする
をしめともちりもとまらぬはなゆゑにはるはやまへをすみかにそする
内大臣春下
4-後拾133ももとせに散らずもあらなむ桜花あかぬ心はいつかたゆべき
よとともにちらすもあらなむさくらはなあかぬこころはいつかたゆへき
平兼盛春下
4-後拾134桜花まだきな散りそ何により春をば人の惜しむとか知る
さくらはなまたきなちりそなにによりはるをはひとのをしむならぬに
大中臣能宣春下
4-後拾135山里に散りはてぬべき花ゆゑに誰とはなくて人ぞまたるる
やまさとにちりはてぬへきはなゆゑにたれとはなくてひとそまたるる
源道済春下
4-後拾136しめゆひしそのかみならば桜花をしまれつつやけふはちらまし
しめゆひしそのかみならはさくらはなをしまれつつやけふはちらまし
右大弁通俊春下
4-後拾137桜花道みえぬまで散りにけりいかがはすべき志賀の山ごえ
さくらはなみちみえぬまてちりにけりいかかはすへきしかのやまこえ
橘成元春下
4-後拾138桜ちるとなりにいとふ春風は花なき宿ぞうれしかりける
さくらちるとなりにいとふはるかせははななきやとそうれしかりける
坂上定成春下
4-後拾139花のかげたたまくをしきこよひかな錦をさらす庭とみえつつ
はなのかけたたまくをしきこよひかなにしきをさらすにはとみえつつ
清原元輔春下
4-後拾140をしむにはちりもとまらで桜花あかぬ心ぞときはなりける
をしむにはちりもとまらてさくらはなあかぬこころそときはなりける
藤原通宗春下
4-後拾141心らものをこそおもへ山ざくら尋ねざりせば散るを見ましや
こころからものをこそおもへやまさくらたつねさりせはちるをみましや
永源法師春下
4-後拾142うらやましいかなる花か散りにけむ物おもふ身しもよには残りて
うらやましいかなるはなかちりにけむものおもふみしもよにはのこりて
土御門御匣殿春下
4-後拾143ふく風ぞおもへばつらき桜花こころとちれる春しなければ
ふくかせそおもへはつらきさくらはなこころとちれるはるしなけれは
大貮三位春下
4-後拾144年をへて花に心をくだくかな惜しむにとまる春はなけれど
としをへてはなにこころをくたくかなをしむにとまるはるはなけれと
藤原定頼春下
4-後拾145ここにこぬ人もみよとて桜花水の心にまかせてぞやる
ここにこぬひともみよとてさくらはなみつのこころにまかせてそやる
大江嘉言春下
4-後拾146行く末もせきとどめばや白川の水とともにぞ春もゆきける
ゆくすゑをせきととめはやしらかはのみつとともにそはるもゆきける
源師房春下
4-後拾147おくれても咲くべき花は咲きにけり身をかぎりともおもひけるかな
おくれてもさくへきはなはさきにけりみをかきりともおもひけるかな
藤原為時春下
4-後拾148風だにもふきはらはずば庭桜ちるとも春のうちはみてまし
かせたにもふきはらはすはにはさくらちるともはるのほとはみてまし
和泉式部春下
4-後拾149野辺みれば弥生の月のはつるまでまだうら若きさいたづまかな
のへみれはやよひのつきのはつかまてまたうらわかきさいたつまかな
藤原義孝春下
4-後拾150岩つつじ折りもてぞ見るせこがきし紅染めの色ににたれば
いはつつしをりもてそみるせこかきしくれなゐそめのいろににたれは
和泉式部春下
4-後拾151わぎもこが紅染めの色とみてなづさはれぬる岩つつじかな
わきもこかくれなゐそめのいろとみてなつさはれぬるいはつつしかな
藤原義孝春下
4-後拾152藤の花さかりとなれば庭の面におもひもかけぬ浪ぞたちける
ふちのはなさかりとなれはにはのおもにおもひもかけぬなみそたちける
大中臣能宣春下
4-後拾153むらさきにやしほそめたる藤の花池にはひさすものにぞありける
むらさきにやしほそめたるふちのはないけにはひさすものにそありける
斎宮女御春下
4-後拾154藤の花をりてかざせばこむらさき我がもとゆひの色やそふらむ
ふちのはなをりてかさせはこむらさきわかもとゆひのいろやそふらむ
源為善春下
4-後拾155水底もむらさきふかくみゆるかな岸のいはねにかかるふぢなみ
みなそこもむらさきふかくみゆるかなきしのいはねにかかるふちなみ
大納言實季春下
4-後拾156すみの江の松のみどりもむらさきの色にぞかくる岸の藤なみ
すみのえのまつのみとりもむらさきのいろにそかくるきしのふちなみ
読人知らず春下
4-後拾157道とほし井手へもゆかじこの里も八重やはさかぬ山吹の花
みちとほみゐてへもゆかしこのさともやへやはさかぬやまふきのはな
藤原伊家春下
4-後拾158沼水にかはづなくなりむべしこそ岸の山吹さかりなりけれ
ぬまみつにかはつなくなりうへしこそきしのやまふきさかりなりけれ
大貮高遠春下
4-後拾159みがくれてすだくかはづのもろ聲にさわぎぞわたる井手のうき草
みかくれてすたくかはつのもろこゑにさわきそわたるゐてのかはなみ
良暹法師春下
4-後拾160聲たえずさへづれのべの百千鳥のこりすくなき春にやはあらぬ
こゑたえすさへつれのへのももちとりのこりすくなきはるにやはあらぬ
藤原長能春下
4-後拾161われひとりきくものならばよぶこ鳥ふた聲まではなかせざらまし
われひとりきくものならはよふことりふたこゑまてはなかせさらまし
法圓法師春下
4-後拾162ほととぎすおもひもかけぬ春なけばことしぞまたで初音ききつる
ほとときすおもひもかけぬはるなけはことしそまたてはつねききつる
藤原定頼春下
4-後拾163ほととぎすなかずばなかずいかにして暮れ行く春をまたもくはへむ
ほとときすなかすはなかすいかにしてくれゆくはるをまたもくはへむ
大中臣能宣春下
4-後拾164おもひいづる事のみしげき野辺にきてまた春にさへ別れぬるかな
おもひいつることのみしけきのへにきてまたはるにさへわかれぬるかな
永胤法師春下
4-後拾165桜色に染めし衣をぬぎかへて山ほととぎすけふよりぞまつ
さくらいろにそめしころもをぬきかへてやまほとときすけふよりそまつ
和泉式部
4-後拾166きのふまでをしみし花は忘られてけふはまたるるほととぎすかな
きのふまてをしみしはなもわすられてけふはまたるるほとときすかな
藤原明衡
4-後拾167わがやどの梢の夏になるときは生駒の山ぞみえずなりける
わかやとのこすゑのなつになるときはいこまのやまそみえすなりぬる
能因法師
4-後拾168夏草はむすぶばかりになりにけり野かひし駒やあくがれぬらむ
なつくさはむすふはかりになりにけりのかひしこまやあくかれぬらむ
源重之
4-後拾169さかきとる卯月になれば神山の楢のはがしはもとつはもなし
さかきとるうつきになれはかみやまのならのはかしはもとつはもなし
曾禰好忠
4-後拾170八重しげるむぐらの門のいぶせきにさらずや何をたたく水鶏ぞ
やへしけるむくらのかとのいふせさにささすやなにをたたくくひなそ
大中臣輔弘
4-後拾171あとたえてくる人もなき山里に我のみみよとさける卯の花
あとたえてとふひともなきやまさとにわれのみみよとさけるうのはな
藤原通宗
4-後拾172白浪の音せでたつとみえつるは卯の花さける垣根なりけり
しらなみのおとせてたつとみえつるはうのはなさけるかきねなりけり
読人知らず
4-後拾173月影を色にてさける卯の花はあけばありあけのここちこそせめ
つきかけをいろにてさけるうのはなはあけはありあけのここちこそせめ
読人知らず
4-後拾174卯の花のさけるあたりは時ならぬ雪ふる里の垣根とぞみる
うのはなのさけるあたりはときならぬゆきふるさとのかきねとそみる
大中臣能宣
4-後拾175みわたせばなみのしがらみかけてけり卯の花さける玉川の里
みわたせはなみのしからみかけてけりうのはなさけるたまかはのさと
相模
4-後拾176卯の花のさけるかきねは白浪の立田の川のゐせきとぞみる
うのはなのさけるさかりはしらなみのたつたのかはのゐせきとそみる
伊勢大輔
4-後拾177雪とのみあやまたれつつ卯の花に冬ごもれりとみゆる山里
ゆきとのみあやまたれつつうのはなにふゆこもれりとみゆるやまさと
源道済
4-後拾178わがやどのかきねなすぎそほととぎすいづれの里もおなじ卯の花
わかやとのかきねなすきそほとときすいつれのさともおなしうのはな
元慶法師
4-後拾179ほととぎすわれはまたでぞこころみるおもふことのみたがふ身なれば
ほとときすわれはまたてそこころみるおもふことのみたかふみなれは
慶範法師
4-後拾180ほととぎすたづぬばかりのなのみしてきかずばさてや宿にかへらむ
ほとときすたつぬはかりのなのみしてきかすはさてややとにかへらむ
藤原頼宗
4-後拾181ここにわがきかまほしきをあしひきの山ほととぎすいかになくらむ
ここにわかきかまほしきをあしひきのやまほとときすいかになくらむ
藤原尚忠
4-後拾182あしひきの山ほととぎすのみならずおほかた鳥のこゑもきこえず
あしひきのやまほとときすのみならすおほかたとりのこゑもきこえす
道命法師
4-後拾183きかばやなその神山のほととぎすありし昔のおなじこゑかと
きかはやなそのかみやまのほとときすありしむかしのおなしこゑかと
皇后宮美作
4-後拾184ほととぎすなのりしてこそしらるなれたづねぬ人につげややらまし
ほとときすなのりしてこそしらるなれたつねぬひとにつけややらまし
備前典侍
4-後拾185ききすてて君が来にけむほととぎすたづねにわれは山路こえみむ
ききすててきみかきにけむほとときすたつねにわれはやまちこえみむ
大中臣能宣
4-後拾186このころはねてのみぞまつほととぎすしばしみやこのものがたりせよ
このころはねてのみそまつほとときすしはしみやこのものかたりせよ
増基法師
4-後拾187宵のまはまどろみなましほととぎす明けてきなくとかねてしりせば
よひのまはまとろみなましほとときすあけてきなくとかねてしりせは
橘資成
4-後拾188ききつともきかずともなくほととぎす心まどはす小夜のひとこゑ
ききつともきかすともなくほとときすこころまとはすさよのひとこゑ
伊勢大輔
4-後拾189夜だにあけば尋ねてきかむほととぎす信太の杜のかたになくなり
よたにあけはたつねてきかむほとときすしのたのもりのかたになくなり
能因法師
4-後拾190夏の夜はさてもやなくとほととぎすふたこゑきける人にとはばや
なつのよはさてもやねぬとほとときすふたこゑきけるひとにとははや
藤原兼房
4-後拾191ねぬよこそ數つもりぬれほととぎすきくほどもなきひとこゑにより
ねぬよこそかすつもりぬれほとときすきくほともなきひとこゑにより
小弁
4-後拾192ありあけの月だにあれや郭公ただひとこゑのゆくかたもみむ
ありあけのつきたにあれやほとときすたたひとこゑのゆくかたもみむ
藤原頼通
4-後拾193なかぬ夜もなく夜も更にほととぎすまつとてやすくいやはねらるる
なかぬよもなくよもさらにほとときすまつとてやすくいやはねらるる
赤染衛門
4-後拾194夜もすがら待ちつるものをほととぎすまただになかで過ぎぬなるかな
よもすからまちつるものをほとときすまたたになかてすきぬなるかな
赤染衛門
4-後拾195東路おもひいでにせむほととぎすおいそのもりの夜半の一聲
あつまちのおもひいてにせむほとときすおいそのもりのよはのひとこゑ
大江公資
4-後拾196ききつるや初音なるらむほととぎす老いはねざめぞうれしかりける
ききつるやはつねなるらむほとときすおいはねさめそうれしかりける
法橋忠命
4-後拾197いづかたとききだにわかずほととぎすただひとこゑのこころまよひに
いつかたとききたにわかすほとときすたたひとこゑのこころまとひに
大江嘉言
4-後拾198ほととぎす待つ程とこそ思ひつれききての後もねられざりけり
ほとときすまつほととこそおもひつれききてののちもねられさりけり
道命法師
4-後拾199ほととぎす夜ふかき聲をきくのみぞ物思ふ人のとり所なる
ほとときすよふかきこゑをきくのみそものおもふひとのとりところなる
道命法師
4-後拾200一こゑもききがたかりしほととぎすともになく身となりにけるかな
ひとこゑもききかたかりしほとときすともになくみとなりにけるかな
律師長済
4-後拾201ほととぎす来鳴かぬよひのしるからば寝る夜もひとよあらましものを
ほとときすきなかぬよひのしるからはぬるよもひとよあらましものを
能因法師
4-後拾202またぬ夜もまつ夜も聞きつほととぎす花たちばなの匂ふあたりは
またぬよもまつよもききつほとときすはなたちはなのにほふあたりは
大弐三位
4-後拾203ねてのみや人はまつらむほととぎす物思ふやどは聞かぬ夜ぞなき
ねてのみやひとはまつらむほとときすものおもふやとはきかぬよそなき
小弁
4-後拾204御田屋守けふはさつきになりにけりいそげや早苗おいもこそすれ
みたやもりけふはさつきになりにけりいそけやさなへおいもこそすれ
曾禰好忠
4-後拾205五月雨に日も暮れぬめり道遠み山田の早苗とりもはてぬに
さみたれにひもくれぬめりみちとほみやまたのさなへとりもはてぬに
藤原隆資
4-後拾206五月雨はみづのみまきのまこも草かりほすひまもあらじとぞおもふ
さみたれはみつのみまきのまこもくさかりほすひまもあらしとそおもふ
相模
4-後拾207さみだれはみえしをざさの原もなし浅香の沼の心地のみして
さみたれはみえしをささのはらもなしあさかのぬまのここちのみして
藤原範永
4-後拾208つれづれと音たえせぬは五月雨の軒のあやめの雫なりけり
つれつれとおとたえせぬはさみたれののきのあやめのしつくなりけり
橘俊綱
4-後拾209五月雨のをやむけしきの見えぬかなにはたづみのみ數まさりつつ
さみたれのをやむけしきのみえぬかなにはたつみのみかすまさりつつ
叡覺法師
4-後拾210香をとめてとふ人あるをあやめ草あやしく駒のすさめざりけり
かをとめてとふひとあるをあやめくさあやしくこまのすさへさりける
恵慶法師
4-後拾211つくま江の底の深さをよそながらひけるあやめのねにてしるかな
つくまえのそこのふかさをよそなからひけるあやめのねにてしるかな
良暹法師
4-後拾212ねやの上に根ざしとどめよあやめ草たづねてひくも同じよどのを
ねやのうへにねさしととめよあやめくさたつねてひくもおなしよとのを
大中臣輔弘
4-後拾213けふもけふあやめもあやめ変らぬに宿こそありし宿とおぼえね
けふもけふあやめもあやめかはらぬにやとこそありしやととおほえね
伊勢大輔
4-後拾214さみだれの空なつかしく匂ふかな花たちばなに風や吹くらむ
さみたれのそらなつかしくにほふかなはなたちはなにかせやふくらむ
相模
4-後拾215昔をば花たちばなのなかりせばなににつけてか思ひいでまし
むかしをははなたちはなのなかりせはなににつけてかおもひいてまし
大貮高遠
4-後拾216おともせで思ひにもゆる蛍こそ鳴く虫よりも哀れなりけれ
おともせておもひにもゆるほたるこそなくむしよりもあはれなりけれ
源重之
4-後拾217澤水に空なる星の映るかと見ゆるは夜半の蛍なりけり
さはみつにそらなるほしのうつるかとみゆるはよはのほたるなりけり
藤原良経
4-後拾218ひとへなる蝉のはごろも夏はなほうすしといへどあつくぞありける
ひとへなるせみのはころもなつはなほうすしといへとあつくそありける
能因法師
4-後拾219夏刈りの玉江のあしをふみしだき群れゐる鳥のたつ空ぞなき
なつかりのたまえのあしをふみしたきむれゐるとりのたつそらそなき
源重之
4-後拾220なつごろも立田河原の柳かげ涼みにきつつならすころかな
なつころもたつたかはらのやなきかけすすみにきつつならすころかな
曾禰好忠
4-後拾221夏の日になるまできえぬ冬こほり春立つ風やよきて吹くらむ
なつのひになるまてきえぬふゆこほりはるたつかせやよきてふきけむ
源頼實
4-後拾222夏の夜の月はほどなくいりぬともやどれる水に影はとめなむ
なつのよのつきはほとなくいりぬともやとれるみつにかけをとめなむ
源師房
4-後拾223何をかはあくるしるしと思ふべきひるもかはらぬ夏の夜の月
なにをかはあくるしるしとおもふへきひるにかはらぬなつのよのつき
大貮資通
4-後拾224夏の夜もすずしかりけり月影は庭しろたへの霜とみえつつ
なつのよもすすしかりけりつきかけはにはしろたへのしもとみえつつ
藤原長家
4-後拾225とこなつの匂へる庭はから國におれる錦もしかじとぞ見る
とこなつのにほへるにははからくににおれるにしきもしかしとそおもふ
藤原定頼
4-後拾226いかならむこよひの雨にとこなつの今朝だに露のおもげなりる
いかならむこよひのあめにとこなつのけさたにつゆのおもけなりつる
能因法師
4-後拾227きてみよと妹が家路につげやらむわれひとりぬるとこなつの花
きてみよといもかいへちにつけやらむわかひとりぬるとこなつのはな
曾禰好忠
4-後拾228夏ふかくなりぞしにける大荒木の杜の下草なべて人かる
なつふかくなりそしにけるおほあらきのもりのしたくさなへてひとかる
平兼盛
4-後拾229ほどもなく夏の涼しくなりぬるは人にしられで秋やきぬらむ
ほともなくなつのすすしくなりぬるはひとにしられてあきやきぬらむ
藤原頼宗
4-後拾230夏の夜のありあけの月をみるほどに秋をもまたで風ぞすずしき
なつのよのありあけのつきをみるほとにあきをもまたてかせそすすしき
内大臣師通
4-後拾231夏山のならのはそよぐ夕暮れはことしも秋のここちこそすれ
なつやまのならのはそよくゆふくれはことしもあきのここちこそすれ
源頼綱
4-後拾232紅葉せばあかくなりなむ小倉山秋まつほどのなにこそありけれ
もみちせはあかくなりなむをくらやまあきまつほとのなにこそありけれ
大中臣能宣
4-後拾233小夜ふかき岩井の水の音きけばむすばぬ袖もすずしかりけり
さよふかきいつみのみつのおときけはむすはぬそてもすすしかりけり
源師賢
4-後拾234みなかみもあらぶる心あらじかし浪もなごしのみそぎしつれば
みなかみもあらふるこころあらしかしなみもなこしのはらへしつれは
伊勢大輔
4-後拾235うちつけにたもとすずしくおぼゆるは衣に秋はきたるなりけり
うちつけにたもとすすしくおほゆるはころもにあきはきたるなりけり
読人知らず秋上
4-後拾236あさぢはら玉まく葛のうら風のうらがなしかる秋は来にけり
あさちはらたままくくすのうらかせのうらかなしかるあきはきにけり
恵慶法師秋上
4-後拾237おほかたの秋くるからに身に近くならすあふぎの風ぞすずしき
おほかたのあきくるからにみにちかくならすあふきのかせそすすしき
藤原為頼秋上
4-後拾238ひととせの過ぎつるよりも七夕のこよひをいかにあかしかぬらむ
ひととせのすきつるよりもたなはたのこよひをいかにあかしかぬらむ
小弁秋上
4-後拾239いとどしく露けかるらむたなばたのねぬ夜にあへる天の羽衣
いととしくつゆけかるらむたなはたのねぬよにあへるあまのはころも
大江佐経秋上
4-後拾240たなばたはあさひくいとのみだれつつとくとやけふの暮をまつらむ
たなはたはあさひくいとのみたれつつとくとやけふのくれをまつらむ
小左近秋上
4-後拾241たなばたは雲の衣を引きかさねかへさでぬるやこよひなるらむ
たなはたはくものころもをひきかさねかへさてぬるやこよひなるらむ
藤原頼宗秋上
4-後拾242天の河とわたる舟のかぢのはにおもふことをもかきつくるかな
あまのかはとわたるふねのかちのはにおもふことをもかきつくるかな
上總乳母秋上
4-後拾243秋の夜を長きものとは星合の影みぬ人のいふにぞありける
あきのよをなかきものとはほしあひのかけみぬひとのいふにそありける
能因法師秋上
4-後拾244七夕のあふ夜の數のわびつつも来る月ごとの七日なりせば
たなはたのあふよのかすのわひつつもくるつきことのなぬかなりせは
橘元任秋上
4-後拾245待ちえたる一夜ばかりを七夕のあひ見ぬほどと思はましかば
まちえたるひとよはかりをたなはたのあひみぬよはとおもはましかは
藤原通房秋上
4-後拾246忘れにし人にみせばや天の河いまれしほしの心ながさを
わすれにしひとにみせはやあまのかはいまれしほしのこころなかさを
新左衛門秋上
4-後拾247たまさかにあふことよりも七夕はけふまつるをやめづらしとみる
たまさかにあふことよりもたなはたはけふまつるをやめつらしとみる
小弁秋上
4-後拾248いそぎつつ我こそきつれ山里にいつよりすめる秋の月ぞも
いそきつつわれこそきつれやまさとにいつよりすめるあきのつきそも
藤原家経秋上
4-後拾249忘れにし人もとひけり秋の夜は月いでばとこそ待つべかりけれ
わすれにしひともとひけりあきのよはつきいてはとこそまつへかりけれ
左近中将公実秋上
4-後拾250秋の夜の月みにいでて夜は更けぬ我も有明のいらであかさむ
あきのよのつきみにいててよはふけぬわれもありあけのいらてあかさむ
大弐高遠秋上
4-後拾251にごりなく千世をかぞへてすむ水に光をそふる秋の夜の月
にこりなくちよをかそへてすむみつにひかりをそふるあきのよのつき
平兼盛秋上
4-後拾252大空の月の光しあかければまきの板戸も秋はさされず
おほそらのつきのひかりしあかけれはまきのいたともあきはさされす
源為善秋上
4-後拾253すだきけむ昔の人もなきやどにただかげするは秋の夜の月
すたきけむむかしのひともなきやとにたたかけするはあきのよのつき
恵慶法師秋上
4-後拾254身をつめばいるもをしまじ秋の月やまのあなたの人もまつらむ
みをつめはいるもをしましあきのつきやまのあなたのひともまつらむ
永源法師秋上
4-後拾255よそなりし雲の上にて見る時も秋の月にはあかずぞありける
よそなりしくものうへにてみるときもあきのつきにはあかすそありける
源道済秋上
4-後拾256いつもみる月ぞと思へど秋の夜はいかなる影をそふるなるらん
いつもみるつきそとおもへとあきのよはいかなるかけをそふるなるらむ
藤原長能秋上
4-後拾257すむとても幾夜もあらじ世の中にくもりがちなる秋の夜の月
すむとてもいくよもすましよのなかにくもりかちなるあきのよのつき
藤原公任秋上
4-後拾258すむ人もなき山里の秋の夜は月のひかりもさびしかりけり
すむひともなきやまさとのあきのよはつきのひかりもさひしかりけり
藤原範永秋上
4-後拾259とふ人も暮るればかへる山里にもろともにすむ秋の夜の月
とふひともくるれはかへるやまさとにもろともにすむあきのよのつき
素意法師秋上
4-後拾260しろたへの衣の袖を霜かとてはらへば月の光なりけり
しろたへのころものそてをしもかとてはらへはつきのひかりなりけり
藤原國行秋上
4-後拾261いにしへの月かかりせば葛城の神はよるともちぎらざらまし
いにしへのつきかかりせはかつらきのかみはよるともちきらさらまし
惟宗為経秋上
4-後拾262夜もすがら空すむ月を眺むれば秋は明くるも知られざりけり
よもすからそらすむつきをなかむれはあきはあくるもしられさりけり
藤原頼宗秋上
4-後拾263うきままに厭ひし身こそ惜しまるれ有ればぞ見ける秋の夜の月
うきままにいとひしみこそをしまるれあれはそみけるあきのよのつき
藤原隆成秋上
4-後拾264こよひこそよにある人はゆかしけれいづこもかくや月を見るらん
こよひこそよにあるひとはゆかしけれいつこもかくやつきをみるらむ
赤染衛門秋上
4-後拾265秋もあきこよひもこよひ月もつき所もところみる君もきみ
あきもあきこよひもこよひつきもつきところもところみるきみもきみ
読人知らず秋上
4-後拾266いろいろの花のひもとく夕暮に千世松むしのこゑぞきこゆる
いろいろのはなのひもとくゆふくれにちよまつむしのこゑそきこゆる
清原元輔秋上
4-後拾267とやかへりわがてならししはし鷹のくるときこゆる鈴虫の聲
とやかへりわかてならししはしたかのくるときこゆるすすむしのこゑ
大江公資秋上
4-後拾268年へぬる秋にもあかず鈴虫のふり行くままに聲のまされば
としへぬるあきにもあかすすすむしのふりゆくままにこゑのまされは
藤原公任秋上
4-後拾269たづねくる人もあらなん年をへてわがふるさとのすずむしの聲
たつねくるひともあらなむとしをへてわかふるさとのすすむしのこゑ
四條中宮秋上
4-後拾270ふるさとは浅茅が原と荒れ果てて夜すがら虫の音をのみぞなく
ふるさとはあさちかはらとあれはててよすからむしのねをのみそなく
道命法師秋上
4-後拾271あさぢふの秋の夕暮なくむしは我がごとしたにものや悲しき
あさちふのあきのゆふくれなくむしはわかことしたにものやかなしき
平兼盛秋上
4-後拾272秋風に聲よわり行く鈴虫のつひにはいかがならんとすらん
あきかせにこゑよわりゆくすすむしのつひにはいかかならむとすらむ
大江匡衡秋上
4-後拾273なけやなけ蓬が袖のきりぎりす過ぎ行く秋はげにぞかなしき
なけやなけよもきかそまのきりきりすすきゆくあきはけにそかなしき
曾禰好忠秋上
4-後拾274わぎもこがかけてまつらん玉づさをかきつらねたる初雁の聲
わきもこかかけてまつらむたまつさをかきつらねたるはつかりのこゑ
藤原長能秋上
4-後拾275おきもゐぬわがとこよこそ悲しけれ春かへりにし雁も鳴くなり
おきもゐぬわかとこよこそかなしけれはるかへりにしかりもなくなり
赤染衛門秋上
4-後拾276さよふかく旅の空にてなくかりはおのが羽風や夜寒なるらん
さよふかくたひのそらにてなくかりはおのかはかせやよさむなるらむ
伊勢大輔秋上
4-後拾277さして行く道も忘れてかりがねのきこゆるかたに心をぞやる
さしてゆくみちもわすれてかりかねのきこゆるかたにこころをそやる
白河院秋上
4-後拾278あふさかの関の杉むら引くほどはをぶちにみゆる望月の駒
あふさかのせきのすきむらひくほとはをふちにみゆるもちつきのこま
良暹法師秋上
4-後拾279みちのくのあだちの駒はなづめどもけふ逢坂の関まではきぬ
みちのくのあたちのこまはなつめともけふあふさかのせきまてはきぬ
源縁法師秋上
4-後拾280望月の駒引く時はあふさかの木の下やみも見えずぞありける
もちつきのこまひくときはあふさかのこのしたやみもみえすそありける
惠慶法師秋上
4-後拾281暮れゆけば浅茅が原の虫の音もをのへの鹿も聲たてつなり
くれゆけはあさちかはらのむしのねもをのへのしかもこゑたてつなり
源頼家秋上
4-後拾282鹿の音に秋をしるかな高砂のをのへの松はみどりなれども
しかのねにあきをしるかなたかさこのをのへのまつはみとりなれとも
秋上
4-後拾283かひもなき心地こそすれさを鹿のたつ聲もせぬ萩のにしきは
かひもなきここちこそすれさをしかのたつこゑもせぬはきのにしきは
白河院秋上
4-後拾284秋はぎのさくにしもなど鹿の鳴くうつろふ花はおのが妻かも
あきはきのさくにしもなとしかのなくうつろふはなはおのかつまかも
大中臣能宣秋上
4-後拾285秋萩をしがらみふする鹿の音をねたきものからまづぞききつる
あきはきをしからみふするしかのねをねたきものからまつそききつる
源為善秋上
4-後拾286籬なる萩の下葉の色を見て思ひやりつつ鹿ぞ鳴くなる
まかきなるはきのしたはのもみちみておもひやりつるしかそなくなる
安法法師秋上
4-後拾287秋はなほ我が身ならねど高砂のをのへの鹿の妻ぞこふらし
あきはなほわかみならねとたかさこのをのへのしかもつまそこふらし
能因法師秋上
4-後拾288こよひこそ鹿のね近くきこゆなれやがて垣根は秋の野なれば
こよひこそしかのねちかくきこゆなれやかてかきほはあきののなれは
叡覚法師秋上
4-後拾289宮城野に妻とふ鹿ぞさけぶなる本あらの萩に露やさむけき
みやきのにつまよふしかそさけふなるもとあらのはきにつゆやさむけき
藤原長能秋上
4-後拾290秋霧の晴れせぬみねに立つ鹿は聲ばかりこそ人にしらるれ
あききりのはれせぬみねにたつしかはこゑはかりこそひとにしらるれ
大弐三位秋上
4-後拾291鹿の音ぞ寝覚めの床にきこゆなるをのの草臥露や置くらん
しかのねそねさめのとこにかよふなるをののくさふしつゆやおくらむ
藤原家経秋上
4-後拾292小倉山たちどもみえぬ夕霧に妻まどはせる鹿ぞなくなる
をくらやまたちともみえぬゆふきりにつままとはせるしかそなくなる
江侍従秋上
4-後拾293晴れずのみ物ぞ悲しき秋霧は心のうちに立つにやあるらん
はれすのみものそかなしきあききりはこころのうちにたつにやあるらむ
和泉式部秋上
4-後拾294のこりなき命を惜しと思ふかな宿の秋はぎ散りはつるまで
のこりなきいのちををしとおもふかなやとのあきはきちりはつるまて
天台座主源心秋上
4-後拾295おきあかし見つつながむる萩の上の露ふきみだる秋の夜の風
おきあかしみつつなかむるはきのうへのつゆふきみたるあきのよのかせ
伊勢大輔秋上
4-後拾296思ふことなけれどぬれぬ我が袖はうたたある野邊の萩の露かな
おもふことなけれとぬれぬわかそてはうたたあるのへのはきのつゆかな
能因法師秋上
4-後拾297まだ宵にねたる萩かなおなじえにやがて置きゐる露もこそあれ
またよひにねたるはきかなおなしえにやかておきゐるつゆもこそあれ
新左衛門秋上
4-後拾298人しれず物をや思ふ秋萩のねたるかほにて露ぞこぼるる
ひとしれすものをやおもふあきはきのねたるかほにてつゆそこほるる
中納言女王秋上
4-後拾299かぎりあらん仲ははかなくなりぬとも露けき萩の上をだにとへ
かきりあらむなかははかなくなりぬともつゆけきはきのうへをたにとへ
和泉式部秋上
4-後拾300白露も心おきてや思ふらんぬしもたづねぬ宿の秋萩
しらつゆもこころおきてやおもふらむぬしもたつねぬやとのあきはき
筑前乳母秋上
4-後拾301おく露にたわむ枝だにあるものをいかでか折らん宿の秋萩
おくつゆにたわむえたたにあるものをいかてかをらむやとのあきはき
橘則長秋上
4-後拾302君なくて荒れたる宿の浅茅生に鶉なくなり秋の夕暮
きみなくてあれたるやとのあさちふにうつらなくなりあきのゆふくれ
源時綱秋上
4-後拾303秋風にしたばや寒くなりぬらん小萩が原に鶉なくなり
あきかせにしたはやさむくなりぬらむこはきかはらにうつらなくなり
藤原通宗秋上
4-後拾304けさきつる野原の露に我ぬれぬうつりやしぬる萩が花ずり
けさきつるのはらのつゆにわれぬれぬうつりやしぬるはきかはなすり
藤原範永秋上
4-後拾305いはれ野の萩のあさ露分け行けば恋せし袖の心地こそすれ
いはれののはきのあさつゆわけゆけはこひせしそてのここちこそすれ
素意法師秋上
4-後拾306ささがにのすがく浅茅の末ごとに乱れてぬける白露の玉
ささかにのすかくあさちのすゑことにみたれてぬけるしらつゆのたま
藤原長能秋上
4-後拾307いかにして玉にもぬかん夕されば荻の葉分けにむすぶ白露
いかにしてたまにもぬかむゆふされはをきのはわきにむすふしらつゆ
橘為義秋上
4-後拾308袖ふれば露こぼれけり秋の野はまくりでにてぞ行くべかりける
そてふれはつゆこほれけりあきののはまくりてにてそゆくへかりける
良暹法師秋上
4-後拾309秋の野は折るべき花もなかりけりこぼれて消えん露の惜しさに
あきののはをるへきはなもなかりけりこほれてきえむつゆのをしさに
源親範秋上
4-後拾310草の上におきてぞあかす秋の夜の露ことならぬ我が身と思へば
くさのうへにおきてそあかすあきのののつゆことならぬわかみとおもへは
大中臣能宣秋上
4-後拾311をみなへしかげをうつせば心なき水も色なる物にぞありける
をみなへしかけをうつせはこころなきみつもいろなるものにそありける
藤原頼宗秋上
4-後拾312女郎花多かるのべにけふしもあれうしろめたくも思ひやるかな
をみなへしおほかるのへにけふしまれうしろめたくもおもひやるかな
橘則長秋上
4-後拾313秋風に折れじとすまふ女郎花いくたび野邊におきふしぬらん
あきかせにをれしとすまふをみなへしいくたひのへにおきふしぬらむ
前律師慶暹秋上
4-後拾314秋の野に狩ぞ暮れぬる女郎花こよひばかりは宿もかさなん
あきののにかりそくれぬるをみなへしこよひはかりのやともかさなむ
清原元輔秋上
4-後拾315宿ごとにおなじのべをやうつすらんおもがはりせぬ女郎花かな
やとことにおなしのへをやうつすらむおもかはりせぬをみなへしかな
白河院秋上
4-後拾316よそにのみ見つつはゆかじ女郎花をらむ袂は露にぬるとも
よそにのみみつつはゆかしをみなへしをらむたもとはつゆにぬるとも
源道済秋上
4-後拾317ありとても頼むべきかは世の中をしらするものはあさがほの花
ありとてもたのむへきかはよのなかをしらするものはあさかほのはな
和泉式部秋上
4-後拾318いとどしくなぐさめがたき夕暮に秋とおぼゆる風ぞ吹くなる
いととしくなくさめかたきゆふくれにあきとおほゆるかせそふくなる
源道済秋上
4-後拾319さらでだにあやしきほどの夕暮に荻ふく風の音ぞきこゆる
さらてたにあやしきほとのゆふくれにをきふくかせのおとそきこゆる
斎宮女御秋上
4-後拾320荻のはに吹き過ぎて行く秋風のまたたが里におどろかすらん
をきのはにふきすきてゆくあきかせのまたたかさとをおとろかすらむ
読人知らず秋上
4-後拾321さりともと思ひし人は音もせで荻のうはばに風ぞ吹くなる
さりともとおもひしひとはおともせてをきのうははにかせそふくなる
三條小右近秋上
4-後拾322荻のはに人頼めなる風の音を我が身にしめてあかしつるかな
をきのはにひとたのめなるかせのおとをわかみにしめてあかしつるかな
僧都實誓秋上
4-後拾323をぎ風もやや吹きそむるこゑすなりあはれ秋こそふかくなるらし
をきのかせもややふきそむるこゑすなりあはれあきこそふかくなるらし
藤原長能秋上
4-後拾324明けぬるか川瀬の霧のたえだえに遠ち方人の袖のみゆるは
あけぬるかかはせのきりのたえまよりをちかたひとのそてのみゆるは
源経信母秋上
4-後拾325さだめなき風のふかずば花すすき心となびく方はみてまし
さためなきかせのふかすははなすすきこころとなひくかたはみてまし
藤原経衡秋上
4-後拾326さらでだに心のとまる秋の野にいとどもまねく花すすきかな
さらてたにこころのとまるあきののにいとともまねくはなすすきかな
源師賢秋上
4-後拾327ことしよりうゑはじめたるわが宿の花はいづれの秋か見ざらん
ことしよりうゑはしめつるわかやとのはなはいつれのあきかみさらむ
清原元輔秋上
4-後拾328水のいろに花の匂ひをけふそへて千年の秋のためしとぞみる
みつのいろにはなのにほひをけふそへてちとせのあきのためしとそみる
大中臣能宣秋上
4-後拾329我が宿に秋ののべをばうつせりと花見にゆかむ人につげばや
わかやとにあきののへをはうつせりとはなみにゆかむひとにつけはや
藤原師実秋上
4-後拾330あさゆふに思ふ心は露なれやかからぬ花のうへしなければ
あさゆふにおもふこころはつゆなれやかからぬはなのうへしなけれは
良暹法師秋上
4-後拾331我が宿に千草の花をうゑつれば鹿の音のみや野邊にのこらん
わかやとにちくさのはなをうゑつれはしかのねのみやのへにのこらむ
源頼家秋上
4-後拾332わがやどに花をのこさずうつし植ゑて鹿の音きかぬ野邊となしつる
わかやとにはなをのこさすうつしうゑてしかのねきかぬのへとなしつる
源頼実秋上
4-後拾333寂しさに宿を立ち出でてながむればいづくもおなじ秋の夕暮
さひしさにやとをたちいててなかむれはいつくもおなしあきのゆふくれ
良暹法師秋上
4-後拾334なにしかは人もきてみんいとどしく物思ひまさる秋の山里
なにしかはひともきてみむいととしくものおもひまさるあきのやまさと
和泉式部秋上
4-後拾335唐衣ながきよすがらうつ聲に我さへねでも明かしつるかな
からころもなかきよすからうつこゑにわれさへねてもあかしつるかな
源資綱秋下
4-後拾336小夜更けてこころしてうつ聲きけば急がぬ人もねられざりけり
さよふけてころもしてうつこゑきけはいそかぬひともねられさりけり
伊勢大輔秋下
4-後拾337うたたねに夜や更けぬらん唐衣うつ聲たかくなりまさるなり
うたたねによやふけぬらむからころもうつこゑたかくなりまさるなり
藤原兼房秋下
4-後拾338菅のねのながながしてふ秋の夜は月みぬ人のいふにぞありける
すかのねのなかなかしといふあきのよはつきみぬひとのいふにそありける
藤原長能秋下
4-後拾339月はよしはげしき風の音さへぞ身にしむばかり秋はかなしき
つきはよしはけしきかせのおとさへそみにしむはかりあきはかなしき
斎院中務秋下
4-後拾340山里のしづの松垣ひまをあらみいたくな吹きそこがらしの風
やまさとのしつのまつかきひまをあらみいたくなふきそこからしのかせ
大宮越前秋下
4-後拾341見渡せば紅葉しにけり山里はねたくぞけふはひとりきにける
みわたせはもみちしにけりやまさとにねたくそけふはひとりきにける
源道済秋下
4-後拾342いかなればおなじ時雨に紅葉するははその杜の薄くこからん
いかなれはおなししくれにもみちするははそのもりのうすくこからむ
藤原頼宗秋下
4-後拾343日をへつつ深くなり行くもみぢばの色にぞ秋のほどはしらるる
ひをへつつふかくなりゆくもみちはのいろにそあきのほとはしりぬる
藤原経衡秋下
4-後拾344このころは木々の梢に紅葉して鹿こそはなけ秋の山里
このころはききのこすゑにもみちしてしかこそはなけあきのやまさと
上東門院中将秋下
4-後拾345ふるさとはまだ遠けれどもみぢばの色に心のとまりぬるかな
ふるさとはまたとほけれともみちはのいろにこころのとまりぬるかな
藤原兼房秋下
4-後拾346いかなれば船木の山のもみぢばの秋はすぐれどこがれざるらん
いかなれはふなきのやまのもみちはのあきはすくれとこかれさるらむ
右大辨通俊秋下
4-後拾347うゑおきしあるじはなくて菊の花おのれひとりぞ露けかりける
うゑおきしあるしはなくてきくのはなおのれひとりそつゆけかりける
惠慶法師秋下
4-後拾348つらからん方こそあらめ君ならでたれにか見せん白菊の花
つらからむかたこそあらめきみならてたれにかみせむしらきくのはな
大弐三位秋下
4-後拾349めもかれず見つつくらさん白菊の花より後の花しなければ
めもかれすみつつくらさむしらきくのはなよりのちのはなしなけれは
伊勢大輔秋下
4-後拾350むらさきにやしほそめたる菊の花うつろふ色と誰かいひけん
むらさきにやしほそめたるきくのはなうつろふいろとたれかいひけむ
藤原義忠秋下
4-後拾351あさまだき八重さく菊の九重にみゆるは霜のおけるなりけり
あさまたきやへさくきくのここのへにみゆるはしものおけはなりけり
藤原長房秋下
4-後拾352きくにだに心は移る花の色を見に行く人はかへりしもせじ
きくにたにこころはうつるはなのいろをみにゆくひとはかへりしもせし
赤染衛門秋下
4-後拾353うすくこく色ぞ見えける菊の花露や心のわきて置くらん
うすくこくいろそみえけるきくのはなつゆやこころをわきておくらむ
清原元輔秋下
4-後拾354狩に来ん人に折らるな菊の花うつろひはてむ末までもみん
かりにこむひとにをらるなきくのはなうつろひはてむすゑまてもみむ
大中臣能宣秋下
4-後拾355白菊のうつろひ行くぞあはれなるかくしつつこそ人も枯れしか
しらきくのうつろひゆくそあはれなるかくしつつこそひともかれしか
良暹法師秋下
4-後拾356植ゑおきし人の心は白菊の花よりさきにうつろひにけり
うゑおきしひとのこころはしらきくのはなよりさきにうつろひにけり
藤原経衡秋下
4-後拾357我のみやかかると思へばふるさとの籬の菊もうつろひにけり
われのみやかかるとおもへはふるさとのまかきにきくもうつろひにけり
藤原定頼秋下
4-後拾358むらさきにうつろひにひしを置く露のなほ白菊とみするなりけり
むらさきにうつろひにしをおくしものなほしらきくとみするなりけり
源資綱秋下
4-後拾359山里の紅葉見にとや思ふらん散りはててこそとふべかりけれ
やまさとのもみちみにとやおもふらむちりはててこそとふへかりけれ
藤原公任秋下
4-後拾360からにしき色見えまがふもみぢばの散る木のもとは立ち憂かりけり
からにしきいろみえまかふもみちはのちるこのもとはたちうかりけり
平兼盛秋下
4-後拾361紅葉ちるころなりけりな山里のことぞともなく袖のぬるるは
もみちちるころなりけりなやまさとのことそともなくそてのぬるるは
清原元輔秋下
4-後拾362もみぢばの雨とふるなる木の間よりあやなく月の影ぞもりくる
もみちはのあめとふるなるこのまよりあやなくつきのかけそもりくる
白河院秋下
4-後拾363もみぢちる秋の山邊はしらかしの下ばかりこそ道はみえけれ
もみちちるあきのやまへはしらかしのしたはかりこそみちはみえけれ
法印清成秋下
4-後拾364水上にもみぢながれて大井河むらごにみゆる瀧の白絲
みなかみにもみちなかれておほゐかはむらこにみゆるたきのしらいと
藤原頼宗秋下
4-後拾365水もなく見えこそわたれ大井河きしのもみぢば雨とふれども
みつもなくみえこそわたれおほゐかはきしのもみちはあめとふれとも
藤原定頼秋下
4-後拾366嵐吹く三室の山のもみぢばは立田の川のにしきなりけり
あらしふくみむろのやまのもみちははたつたのかはのにしきなりけり
能因法師秋下
4-後拾367見しよりも荒れぞしにける磯の上秋は時雨のふりまさりつつ
みしよりもあれそしにけるいそのかみあきはしくれのふりまさりつつ
藤原範永秋下
4-後拾368秋の夜は山田のいほに稲妻の光のみこそもりあかしけれ
あきのよはやまたのいほにいなつまのひかりのみこそもりあかしけれ
伊勢大輔秋下
4-後拾369宿近き山田のひたにてもかけで吹く秋風にまかせてぞみる
やとちかきやまたのひたにてもかけてふくあきかせにまかせてそみる
源頼家秋下
4-後拾370秋の田になみよる稲は山川の水ひきかけし早苗なりけり
あきのたになみよるいねはやまかはのみつひきうゑしさなへなりけり
相模秋下
4-後拾371夕日さす裾野のすすき方よりにまねくや秋を送るなるらん
ゆふひさすすそののすすきかたよりにまねくやあきをおくるなるらむ
源頼綱秋下
4-後拾372あすよりはいとど時雨やふりそはん暮れ行く秋を惜しむ袂に
あすよりはいととしくれやふりそはむくれゆくあきををしむたもとに
藤原範永秋下
4-後拾373明けはてば野邊をまづ見ん花薄まねくけしきは秋にかはらじ
あけはてはのへをまつみむはなすすきまねくけしきはあきにかはらし
藤原範永秋下
4-後拾374秋はただけふばかりぞとながむれば夕暮れにさへなりにけるかな
あきはたたけふはかりそとなかむれはゆふくれにさへなりにけるかな
法眼源賢秋下
4-後拾375としつもる人こそいとど惜しまるれ今日なかりなる秋の夕暮
としつもるひとこそいととをしまるれけふはかりなるあきのゆふくれ
大貮資通秋下
4-後拾376夜もすがら眺めてだにもなぐさまん明けてみるべき秋の空かは
よもすからなかめてたにもなくさめむあけてみるへきあきのそらかは
源兼長秋下
4-後拾377おちつもる紅葉をみれば大井川ゐぜきに秋もとまるなりけり
おちつもるもみちをみれはおほゐかはゐせきにあきもとまるなりけり
藤原公任
4-後拾378たむけにもすべきもみぢの錦こそ神無月にはかひなかりけれ
たむけにもすへきもみちのにしきこそかみなつきにはかひなかりけれ
大僧正深覚
4-後拾379大井川ふるきながれを尋ねきてあらしの山のもみぢをぞみる
おほゐかはふるきなかれをたつねきてあらしのやまのもみちをそみる
白河院
4-後拾380あはれにもたえず音する時雨かなとふべき人もとはぬすみかを
あはれにもたえすおとするしくれかなとふへきひともとはぬすみかに
藤原兼房
4-後拾381神無月ふかくなりゆくこずゑよりしぐれてわたるみやまべの里
かみなつきふかくなりゆくこすゑよりしくれてわたるみやまへのさと
永胤法師
4-後拾382木の葉ちる宿はききわくことぞなき時雨する夜も時雨せぬよも
このはちるやとはききわくことそなきしくれするよもしくれせぬよも
源頼実
4-後拾383もみぢちる音は時雨のここちしてこずゑの空はくもらざりけり
もみちちるおとはしくれのここちしてこすゑのそらはくもらさりけり
藤原家経
4-後拾384かみなづきねざめにきけば山里のあらしのこゑは木の葉なりけり
かみなつきねさめにきけはやまさとのあらしのこゑはこのはなりけり
能因法師
4-後拾385網代木に紅葉こきまぜよる氷魚は錦をあらふ心地こそすれ
あしろきにもみちこきませよるひをはにしきをあらふここちこそすれ
橘義通
4-後拾386宇治河の早く網代はなかりけりなにによりてか日をば暮さむ
うちかはのはやくあしろはなかりけりなにによりてかひをはくらさむ
中宮内侍
4-後拾387霧はれぬあやの河べになく千鳥こゑにや友の行くかたをしる
きりはれぬあやのかはへになくちとりこゑにやとものゆくかたをしる
藤原孝善
4-後拾388佐保河のきりのあなたになく千鳥こゑはへだてぬものにぞありける
さほかはのきりのあなたになくちとりこゑはへたてぬものにそありける
藤原頼宗
4-後拾389なにはがたあさみつしほにたつ千鳥浦づたひする声きこゆなり
なにはかたあさみつしほにたつちとりうらつたひするこゑきこゆなり
相模
4-後拾390さびしさに煙をだにもたたじとて柴をりくぶる冬の山里
さひしさにけふりをたにもたたしとてしはをりくふるふゆのやまさと
和泉式部
4-後拾391山の端はなのみなりけり見る人の心にぞいる冬の夜の月
やまのははなのみなりけりみるひとのこころにそいるふゆのよのつき
大弐三位
4-後拾392冬の夜にいくたびばかりねざめして物おもふやどのひましらむらむ
ふゆのよにいくたひはかりねさめしてものおもふやとのひましらむらむ
増基法師
4-後拾393とやかへるしらふの鷹のこゐをなみ雪げの空にあはせつるかな
とやかへるしらふのたかのこゐをなみゆきけのそらにあはせつるかな
藤原長家
4-後拾394打ち拂ふ雪もやまなむみ狩野のすすきのあともたづぬばかりに
うちはらふゆきもやまなむみかりののききすのあともたつぬはかりに
能因法師
4-後拾395萩原も霜枯れにけりみ狩野はあさるきぎすのかくれなきまで
はきはらもしもかれにけりみかりのはあさるききすのかくれなきまて
律師長濟
4-後拾396霜枯れの草のとざしはあだなれどなべての人をいるるものかは
しもかれのくさのとさしはあたなれとなへてのひとをいるるものかは
能宣
4-後拾397霜がれは一つ色にぞなりにける千種にみえし野邊にはあらずや
しもかれはひとついろにそなりにけるちくさにみえしのへにあらすや
少輔
4-後拾398おちつもる庭の木の葉を夜のほどに拂ひてけりと見する朝霜
おちつもるにはのこのはをよのほとにはらひてけりとみするあさしも
読人知らず
4-後拾399杉の板をまばらにふける閨の上におどろくばかり霰ふるらし
すきのいたをまはらにふけるねやのうへにおとろくはかりあられふるらし
大江公資
4-後拾400とふ人もなぎ蘆ぶきの我が宿は降る霰さへ音せざりけり
とふひともなきあしふきのわかやとはふるあられさへおとせさりけり
橘俊綱
4-後拾401都にも初雪ふれば小野山のまきの炭がま焼きまさるらん
みやこにもはつゆきふれはをのやまのまきのすみかまたきまさるらむ
相模
4-後拾402埋火のあたりは春の心地して散りくる雪を花とこそみれ
うつみひのあたりははるのここちしてちりくるゆきをはなとこそみれ
素意法師
4-後拾403淡雪も松の上にし降りぬれば久しく消えぬものにぞありける
あはゆきもまつのうへにしふりぬれはひさしくきえぬものにそありける
藤原國行
4-後拾404いづ方と甲斐の白根はしらねども雪ふるごとに思ひこそやれ
いつかたとかひのしらねはしらねともゆきふることにおもひこそやれ
紀伊式部
4-後拾405もみぢゆゑ心の中にしめゆひし山の高嶺は雪ふりにけり
もみちゆゑこころのうちにしめゆひしやまのたかねはゆきふりにけり
能因法師
4-後拾406あさぼらけ雪ふる空を見渡せば山の端ごとに月ぞのこれる
あさほらけゆきふるそらをみわたせはやまのはことにつきそのこれる
源道済
4-後拾407こし道も見えず雪こそ降りにけれ今や解くると人やまつらん
こしみちもみえすゆきこそふりにけれいまやとくるとひとはまつらむ
慶尋法師
4-後拾408いかばかり降る雪なればしなが鳥ゐなのしば山道まどふらん
いかはかりふるゆきなれはしなかとりゐなのしはやまみちまとふらむ
藤原國房
4-後拾409ひとりぬる草の枕は冴ゆれども降り積む雪を拂はでぞみる
ひとりぬるくさのまくらはさゆれともふりつむゆきをはらはてそみる
津守國基
4-後拾410春やくる人やとふとも待たれけりけさ山里の雪をながめて
はるやくるひとやとふともまたれけりけさやまさとのゆきをなかめて
赤染衛門
4-後拾411雪ふかき道にぞしるき山里は我よりさきに人こざりけり
ゆきふかきみちにそしるきやまさとはわれよりさきにひとこさりけり
藤原経衡
4-後拾412山里は雪こそ深くなりにけれ訪はでも年の暮れにけるかな
やまさとはゆきこそふかくなりにけれとはてもとしのくれにけるかな
源頼家
4-後拾413おもひやれ雪も山路も深くして跡たえにける人のすみかを
おもひやれゆきもやまちもふかくしてあとたえにけるひとのすみかを
信寂法師
4-後拾414こりつみてまきのすみやくけをぬるみ大原山の雪のむらぎえ
こりつめてまきのすみやくけをぬるみおほはらやまのゆきのむらきえ
和泉式部
4-後拾415我が宿に降りしく雪を春よまだ年越えぬ間の花とこそみれ
わかやとにふりしくゆきをはるにまたとしこえぬまのはなとこそみれ
清原元輔
4-後拾416同じくぞ雪つもるらんと思へども君ふる里はまづぞとはるる
おなしくそゆきつもるらむとおもへともきみふるさとはまつそとはるる
藤原道長
4-後拾417ふる雪は年とともにぞ積もりけるいづれか高くなりまさるらん
ふるゆきはとしとともにそつもりけるいつれかたかくなりまさるらむ
藤原公任
4-後拾418さむしろはむべ冴えけらし隠れ沼の蘆間の氷ひとへしにけり
さむしろはうへさえけらしかくれぬのあしまのこほりひとへしにけり
頼慶法師
4-後拾419小夜更くるままに汀や氷るらん遠ざかり行く志賀の浦浪
さよふくるままにみきはやこほるらむとほさかりゆくしかのうらなみ
快覚法師
4-後拾420鴎こそよがれにけらし猪名野なる昆陽の池水うは氷りせり
かもめこそよかれにけらしゐなのなるこやのいけみつうはこほりせり
僧都長算
4-後拾421岩間には氷のくさび打ちてけり玉ゐし水も今はもりこず
いはまにはこほりのくさひうちてけりたまゐしみつもいまはもりこす
曾禰好忠
4-後拾422むばたまの夜をへて氷る原の池は春とともにや波もたつべき
うはたまのよをへてこほるはらのいけははるとともにやなみもたつへき
藤原孝善
4-後拾423白妙にかしらのかみはなりにけり我が身に年の雪つもりつつ
しろたへにかしらのかみはなりにけりわかみにとしのゆきつもりつつ
藤原明衡
4-後拾424都へは年とともにぞ帰るべきやがて春をもむかへがてらに
みやこへはとしとともにそかへるへきやかてはるをもむかへかてらに
源為善
4-後拾425けふとくる氷にかへて結ぶらし千歳の春にあはむちぎりを
けふとくるこほりにかへてむすふらしちとせのはるにあはむちきりを
4-後拾426朽ちもせぬ長柄の橋のはし柱ひさしきことの見えもするかな
くちもせぬなからのはしのはしはしらひさしきほとのみえもするかな
兼盛
4-後拾427武蔵野を霧の晴れ間に見渡せば行く末とほき心地こそすれ
むさしのをきりのたえまにみわたせはゆくすゑとほきここちこそすれ
兼盛
4-後拾428霞さへたなびく野辺の松なれば空にぞ君が千代しらるる
かすみさへたなひくのへのまつなれはそらにそきみかちよはしらるる
源兼澄
4-後拾429君をいのる年の久しくなりぬれば老いの坂ゆく杖ぞうれしき
きみをいのるとしのひさしくなりぬれはおいのさかゆくつゑそうれしき
前律師慶暹
4-後拾430春秋もしらで年ふる我が身かな松と鶴との年をかぞへて
はるもあきもしらてとしふるわかみかなまつとつるとのとしをかそへて
兼盛
4-後拾431ひともとの松のしるしぞたのもしきふた心なき千世とみつれば
ひともとのまつのしるしそたのもしきふたこころなきちよとみつれは
源兼澄
4-後拾432君が代をなににたとへむときはなる松の緑も千代をこそふれ
きみかよをなににたとへむときはなるまつのみとりもちよをこそふれ
読人知らず
4-後拾433めづらしき光さしそふさかづきはもちながらこそ千世もめぐらめ
めつらしきひかりさしそふさかつきはもちなからこそちよもめくらめ
紫式部
4-後拾434いとけなき衣の袖はせばくとも劫のいしをばなでつくしてむ
いとけなきころものそてはせはくともこふのうへをはなてつくしてむ
藤原公任
4-後拾435君が代はかぎりもあらじ浜椿ふたたび色はあらたまるとも
きみかよはかきりもあらしはまつはきふたたひいろはあらたまるとも
読人知らず
4-後拾436これもまた千代のけしきのしるきかな生ひそふ松の双葉ながらに
これもまたちよのけしきのしるきかなおひそふまつのふたはなからに
源顕房
4-後拾437ひめこまつ大原山のたねなればちとせはここにまかせてをみむ
ひめこまつおほはらやまのたねなれはちとせはたたにまかせてをみむ
清原元輔
4-後拾438雲の上に昇らむまでもみてしがな鶴の毛ごろも年ふとならば
くものうへにのほらむまてもみてしかなつるのけころもとしふとならは
赤染衛門
4-後拾439千代をいのる心のうちのすずしきはたえせぬ家の風にぞありける
ちよをいのるこころのうちのすすしきはたえせぬいへのかせにそありける
赤染衛門
4-後拾440ちとせふる双葉の松にかけてこそ藤のわかえもはるひ栄えめ
ちとせふるふたはのまつにかけてこそふちのわかえもはるひさかえめ
源顕房
4-後拾441おもふこといまはなきかな撫子の花さくばかりなりぬとおもへば
おもふこといまはなきかななてしこのはなさくはかりなりぬとおもへは
花山院
4-後拾442君みればちりもくもらでよろづ代のよはひをのみもます鏡かな
きみみれはちりもくもらてよろつよのよはひをのみもますかかみかな
伊勢大輔
4-後拾443くもりなき鏡の光ますますも照さむ影にかくれざらめや
くもりなきかかみのひかりますますもてらさむかけにかくれさらめや
藤原能信
4-後拾444おもひやれまだ鶴のこのおひさきを千世もとなづる袖のせばさを
おもひやれまたつるのこのおひさきをちよもとなつるそてのせはさを
藤三位
4-後拾445よろづよをかぞへむものは紀の國のちひろのはまの真砂なりけり
よろつよをかそへむものはきのくにのちひろのはまのまさこなりけり
清原元輔
4-後拾446住吉の浦の玉藻をむすびあげて渚の松の影をこそみめ
すみよしのうらのたまもをむすひあけてなきさのまつのかけをこそみめ
清原元輔
4-後拾447いろいろにあまた千歳のみゆるかな小松が原にたづやむれゐる
いろいろにあまたちとせのみゆるかなこまつかはらにたつやむれゐる
源重之
4-後拾448かたがたの親の親どち祝ふめり子のこの千代を思ひこそやれ
かたかたのおやのおやとちいはふめりこのこのちよをおもひこそやれ
藤原保昌
4-後拾449君が代は千代にひとたびゐるちりの白雲かかる山となるまで
きみかよはちよにひとたひゐるちりのしらくもかかるやまとなるまて
大江嘉言
4-後拾450君が代はつきじとぞおもふ神風やみもすそ河のすまむかぎりは
きみかよはつきしとそおもふかみかせやみもすそかはのすまむかきりは
源経信
4-後拾451思ひやれやそうぢ人の君が為ひとつ心にいのるいのりを
おもひやれやそうちひとのきみかためひとつこころにいのるいのりを
藤原為盛女
4-後拾452かすが山いはねの松は君がためちとせのみかはよろづよぞへむ
かすかやまいはねのまつはきみかためちとせのみかはよろつよそへむ
能因法師
4-後拾453君が代はしらたま椿八千代ともなににかぞへむ限りなければ
きみかよはしらたまつはきやちよともなににかそへむかきりなけれは
式部大輔資業
4-後拾454岩くぐる瀧の白糸たえせでぞ久しくよよにへつつみるべき
いはくくるたきのしらいとたえせてそひさしくよよにへつつみるへき
後冷泉院
4-後拾455君すめばにごれる水もなかりけり汀のたづも心してゐよ
きみすめはにこれるみつもなかりけりみきはのたつもこころしてゐよ
小大君
4-後拾456ことしだに鏡と見ゆる池水の千代へてすまむ影ぞゆかしき
ことしたにかかみとみゆるいけみつのちよへてすまむかけそゆかしき
藤原範永
4-後拾457ちよをへむ君がかざせる藤の花松にかかれる心地こそすれ
ちとせへむきみかかさせるふちのはなまつにかかれるここちこそすれ
良暹法師
4-後拾458よろつよに千代のかさねてみゆるかな亀のをかなる松のみどりは
よろつよにちよのかさねてみゆるかなかめのをかなるまつのみとりは
式部大輔資業
4-後拾459動きなき大倉山をたてたればをさまれるよぞ久しかるべき
うこきなきおほくらやまをたてたれはをさまれるよそひさしかるへき
式部大輔資業
4-後拾460紫の雲のよそなる身なれどもたつときくこそうれしかりけれ
むらさきのくものよそなるみなれともたつときくこそうれしかりけれ
江侍従
4-後拾461もみぢ見む残りの秋もすくなきに君ながゐせば誰とをらまし
もみちみむのこりのあきもすくなきにきみなかゐせはたれとをらまし
恵慶法師
4-後拾462をしむべき都の紅葉まだちらぬ秋のうちにはかへらざらめや
をしむへきみやこのもみちまたちらぬあきのうちにはかへらさらめや
祭主輔親
4-後拾463つねならばあはでかへるも歎かじをみやこいづとか人のつげける
つねならはあはてかへるもなけかしをみやこいつとかひとのつけける
源道済
4-後拾464みやこ出づるけさばかりだにはつかにもあひみて人を別れましかば
みやこいつるけさはかりたにはつかにもあひみてひとをわかれましかは
増基法師
4-後拾465別れての四年の春の春ごとに花のみやこを思ひおこせよ
わかれてのよとせのはるのはることにはなのみやこをおもひおこせよ
藤原道信
4-後拾466あふさかの関うちこゆる程もなくけさはみやこの人ぞこひしき
あふさかのせきうちこゆるほともなくけさはみやこのひとそこひしき
藤原惟規
4-後拾467よのつねにおもふ別れの旅ならば心見えなる手向けせましや
よのつねにおもふわかれのたひならはこころみえなるたまけせましや
藤原長能
4-後拾468行く春とともにたちぬるふな道を祈りかけたる藤なみの花
ゆくはるとともにたちぬるふなみちをいのりかけたるふちなみのはな
選子内親王
4-後拾469祈りつつちよをかけたる藤なみにいきの松こそ思ひやらるれ
いのりつつちよをかけたるふちなみにいきのまつこそおもひやらるれ
筑後守藤原為正
4-後拾470たれがよもわがよもしらぬ世の中にまつほどいかがあらむとすらむ
たれかよもわかよもしらぬよのなかにまつほといかかあらむとすらむ
藤原道信
4-後拾471君をのみたのむたひなる心には行く末とほくおもほゆるかな
きみをのみたのむたひなるこころにはゆくすゑとほくおもほゆるかな
藤原倫寧
4-後拾472我をのみたのむといはば行く末の松のちよをも君こそはみめ
われをのみたのむといははゆくすゑのまつのちよをもきみこそはみめ
入道摂政
4-後拾473山のはに月かげみえば思ひ出でよ秋風ふかば我も忘れじ
やまのはにつきかけみえはおもひいてよあきかせふかはわれもわすれし
堪圓法師
4-後拾474たびたびのちよをはるかに君やへむ末の松よりいきの松まて
たひたひのちよをはるかにきみやみむすゑのまつよりいきのまつまて
相模
4-後拾475いとはしきわが命さへゆく人のかへらむまでとをしくなりぬる
いとはしきわかいのちさへゆくひとのかへらむまてとをしくなりぬる
相模
4-後拾476命あらば今かへりこむ津の国の難波ほり江の蘆のうら葉に
いのちあらはいまかへりこむつのくにのなにはほりえのあしのうらはに
大江嘉言
4-後拾477かりそめの別れとおもへど白河のせきとどめぬは涙なりけり
かりそめのわかれとおもへとしらかはのせきととめぬはなみたなりけり
藤原定頼
4-後拾478別れ路にたつけふよりもかへるさを哀れくもゐにきかむとすらむ
わかれちにたつけふよりもかへるさをあはれくもゐにきかむとすらむ
橘則長
4-後拾479誰よりも我ぞかなしきめぐりみむ程をまつべき命ならねば
ゆくよりもわれそかなしきめくりあはむほとをまつへきいのちならねは
慶範法師
4-後拾480別るべきなかとしるしる睦まじくならひにけるぞけふはくやしき
わかるへきなかとしるしるむつましくならひにけるそけふはくやしき
読人知らず
4-後拾481名残ある命と思はば友綱の又もやくるとまたましものを
なこりあるいのちとおもははともつなのまたもやくるとまたましものを
良勢法師
4-後拾482春は花秋は月にとちぎりつつけふを別れとおもはざりける
はるははなあきはつきにとちきりつつけふをわかれとおもはさりける
藤原家経
4-後拾483思へただたのめていにし春だにも花の盛りはいかがまたまし
おもへたたたのめていにしはるたにもはなのさかりはいかかまたれし
源兼長
4-後拾484おもひいでよ道は遙かになりぬとも心のうちは山もへだてじし
おもひいてよみちははるかになりぬともこころのうちはやまもへたてし
源道済
4-後拾485とまるべき道にはあらず中々にあはでぞけふはあるべかりける
とまるへきみちにはあらすなかなかにあはてそけふはあるへかりける
源道済
4-後拾486松山の松のうら風吹きよせばひろひてしのべこひわすれ貝
まつやまのまつのうらかせふきよせはひろひてしのへこひわすれかひ
藤原定頼
4-後拾487たたぬよりしぼりもあへぬ衣手にまだきなかけそ松がうらなみ
たたぬよりしほりもあへぬころもてにまたきなかけそまつかうらなみ
源光成
4-後拾488かくしつつ多くの人はをしみきぬ我をおくらむ事はいつぞも
かくしつつおほくのひとはをしみきぬわれをおくらむことはいつそは
源兼澄
4-後拾489暮れて行く年とともにぞ別れぬる道にや春はあはむとすらむ
くれてゆくとしとともにそわかれぬるみちにやはるはあはむとすらむ
源為善
4-後拾490あふさかの関ぢこゆともみやこなる人に心のかよはざらめや
あふさかのせきちこゆともみやこなるひとにこころのかよはさらめや
祭主輔親
4-後拾491行く人もとまるもいかにおもふらむ別れてのちの又の別れを
ゆくひともとまるもいかにおもふらむわかれてのちのまたのわかれを
赤染衛門
4-後拾492いづちともしらぬ別れのたびなれどいかで涙のさきにたつらむ
いつちともしらぬわかれのたひなれといかてなみたのさきにたつらむ
中原頼成
4-後拾493あふことは雲井はるかにへだつとも心かよはぬ程はあらじを
あふことはくもゐはるかにへたつともこころかよはぬほとはあらしを
祭主輔親
4-後拾494帰りては誰を見むとかおもふらむ老いて久しき人はありやは
かへりてはたれをみむとかおもふらむおいてひさしきひとはありやは
藤原節信
4-後拾495筑紫舟まだともづなもとかなくにさしいづるものは涙なりけり
つくしふねまたともつなもとかなくにさしいつるものはなみたなりけり
連敏法師
4-後拾496ふるさとの花のみやこに住み侘びて八雲たつてふ出雲へぞ行く
ふるさとのはなのみやこにすみわひてやくもたつてふいつもへそゆく
大江正言
4-後拾497天の河のちのけふだにはるけきをいつともしらぬ舟出かなしな
あまのかはのちのけふたにはるけきをいつともしらぬふなてかなしな
藤原公任
4-後拾498そのほどとちぎれる旅の別れだに逢ふ事まれにありとこそきけ
そのほととちきれるたひのわかれたにあふことまれにありとこそきけ
寂昭法師
4-後拾499いかばかり空をあふぎてなげくらむいく雲井ともしらぬ別れを
いかはかりそらをあふきてなけくらむいくくもゐともしらぬわかれを
読人知らず
4-後拾500逢坂の関とはきけどはしり井の水をばえこそとどめざりけれ
あふさかのせきとはきけとはしりゐのみつをはえこそととめさりけれ
藤原兼通羈旅
4-後拾501ゆく道の紅葉の色も見るべきを霧とともにやいそぎたつべき
ゆくみちのもみちのいろもみるへきをきりとともにやいそきたつへき
藤原公任羈旅
4-後拾502霧わけていそぎたちなむ紅葉ばの色にみえなば道もゆかれじ
きりわけていそきたちなむもみちはのいろしみえなはみちもゆかれし
藤原定頼羈旅
4-後拾503たびの空よはの煙とのぼりなばあまのもしほ火たくかとやみむ
たひのそらよはのけふりとのほりなはあまのもしほひたくかとやみむ
花山院羈旅
4-後拾504みやこにてふきあげの浜を人とはばけふ見るばかりいかがかたらむ
みやこにてふきあけのはまをひととははけふみるはかりいかかかたらむ
懐圓法師羈旅
4-後拾505山のはにさはるかとこそ思ひしか峯にてもなほ月ぞまたるる
やまのはにさはるかとこそおもひしかみねにてもなほつきそまたるる
少輔羈旅
4-後拾506すぎがてにおぼゆるものは蘆間かな堀江のほどは綱手ゆるめよ
すきかてにおほゆるものはあしまかなほりえのほとはつなてゆるめよ
藤原國行羈旅
4-後拾507蘆の屋のこやの渡りに日は暮れぬいづちゆくらむ駒にまかせて
あしのやのこやのわたりにひはくれぬいつちゆくらむこまにまかせて
能因法師羈旅
4-後拾508みやこのみかへり見られて東路をこまの心にまかせてぞ行く
みやこのみかへりみられてあつまちをこまのこころにまかせてそゆく
増基法師羈旅
4-後拾509こととはばありのまにまに都鳥みやこのことを我にきかせよ
こととははありのまにまにみやことりみやこのことをわれにきかせよ
和泉式部羈旅
4-後拾510鏡山こゆるけふしも春雨のかきくもりやはふるべかりける
かかみやまこゆるけふしもはるさめのかきくもりやはふるへかりける
恵慶法師羈旅
4-後拾511こえはてば都も遠くなりぬべし関の夕風しばしすずまむ
こえはてはみやこもとほくなりぬへしせきのゆふかせしはしすすまむ
赤染衛門羈旅
4-後拾512けふばかり霞まざらなむあかで行くみやこの山はそれとだにみむ
けふはかりかすまさらなむあかてゆくみやこのやまはそれとたにみむ
増基法師羈旅
4-後拾513わたのべや大江のきしにやどりして雲井にみゆる生駒山かな
わたのへやおほえのきしにやとりしてくもゐにみゆるいこまやまかな
良暹法師羈旅
4-後拾514しらくものうへよりみゆるあしひきの山のたかねやみさかなるらむ
しらくものうへよりみゆるあしひきのやまのたかねやみさかなるらむ
能因法師羈旅
4-後拾515東路にここをうるまといふことは ゆきかふ人のあればなりけり
あつまちにここをうるまといふことはゆきかふひとのあれはなりけり
源重之羈旅
4-後拾516あつまぢの浜名の橋をきてみれは昔こひしきわたりなりけり
あつまちのはまなのはしをきてみれはむかしこひしきわたりなりけり
大江廣経羈旅
4-後拾517おもふ人ありとなけれどふるさとはしかすがにこそ恋しかりけれ
おもふひとありとなけれとふるさとはしかすかにこそこひしかりけれ
能因法師羈旅
4-後拾518みやこをば霞とともに立ちしかど秋風ぞふく白川の関
みやこをはかすみとともにたちしかとあきかせそふくしらかはのせき
能因法師羈旅
4-後拾519世の中はかくてもへけりきさがたのあまの苫屋を我が宿にして
よのなかはかくてもへけりきさかたのあまのとまやをわかやとにして
能因法師羈旅
4-後拾520須磨の浦をけふすぎ行くときし方へ帰る浪にやことをつてまし
すまのうらをけふすきゆくとこしかたへかへるなみにやことをつてまし
大中臣能宣羈旅
4-後拾521風ふけば藻塩の煙うちなびき我もおもはぬかたにこそゆけ
かせふけはもしほのけふりうちなひきわれもおもはぬかたにこそゆけ
大貮高遠羈旅
4-後拾522月影はたびの空とてかはらねどなほみやこのみこひしきやなぞ
つきかけはたひのそらとてかはらねとなほみやこのみこひしきやなそ
花山院羈旅
4-後拾523おぼつかなみやこの空やいかならむこよひあかしの月をみるにも
おほつかなみやこのそらやいかならむこよひあかしのつきをみるにも
源資綱羈旅
4-後拾524ながむらむあかしのうらのけしきにて都の月を空にしらなむ
なかむらむあかしのうらのけしきにてみやこのつきはそらにしらなむ
繪式部羈旅
4-後拾525月はかく雲井なれども見るものをあはれみやこのかからましかば
つきはかくくもゐなれともみるものをあはれみやこのかからましかは
康資王母羈旅
4-後拾526都にて山のはに見し月影をこよひはなみのうへにこそまて
みやこにてやまのはにみしつきかけをこよひはなみのうへにこそまて
橘為義羈旅
4-後拾527都いでて雲井はるかにきたれども猶にしにこそ月は入りけれ
みやこいててくもゐはるかにきたれともなほにしにこそつきはいりけれ
藤原國行羈旅
4-後拾528なぬかにもあまりにけりな便りあらばかぞへきかせよ沖の嶋守
なぬかにもあまりにけりなたよりあらはかそへきかせよおきのしまもり
源高明羈旅
4-後拾529ものをおもふ心のやみしくらければあかしの浦もかひなかりけり
ものをおもふこころのやみしくらけれはあかしのうらもかひなかりけり
帥前内大臣羈旅
4-後拾530さもこそは都のほかにやどりせめうたて露けき草枕かな
さもこそはみやこのほかにやとりせめうたてつゆけきくさまくらかな
藤原隆家羈旅
4-後拾531いそぎつつ舟出ぞしつる年の内に花のみやこの春にあふべく
いそきつつふなてそしつるとしのうちにはなのみやこのはるにあふへく
式部大輔資業羈旅
4-後拾532あなし吹くせとのしほあひに舟出して早くぞ過ぐるさやかた山を
あなしふくせとのしほあひにふなてしてはやくそすくるさやかたやまを
右大弁通俊羈旅
4-後拾533これやこの月見るたびに思ひやる姨捨山のふもとなりけり
これやこのつきみるたひにおもひやるをはすてやまのふもとなりける
橘為伸羈旅
4-後拾534見わたせばみやこは近くなりぬらむ過ぎぬる山は霞へだてつ
みわたせはみやこはちかくなりぬらむすきぬるやまはかすみへたてつ
源道済羈旅
4-後拾535さよ更けて嶺のあらしやいかならむ汀の浪の聲まさるなり
さよふけてみねのあらしやいかならむみきはのなみのこゑまさるなり
源道済哀傷
4-後拾536夜もすがら契りしことを忘れずばこひむ涙のいろぞゆかしき
よもすからちきりしことをわすれすはこひむなみたのいろそゆかしき
読人知らず哀傷
4-後拾537しる人もなき別れ路に今はとて心ぼそくもいそぎたつかな
しるひともなきわかれちにいまはとてこころほそくもいそきたつかな
読人知らず哀傷
4-後拾538ありしこそ限りなりけれあふことをなどのちのよと契らざりけむ
ありしこそかきりなりけれあふことをなとのちのよとちきらさりけむ
源兼長哀傷
4-後拾539たちのぼるけぶりにつけておもふかないつまたわれを人のかくみむ
たちのほるけふりにつけておもふかないつまたわれをひとのかくみむ
和泉式部哀傷
4-後拾540などてかく雲がくるらむかくばかりのどかにすめる月もあるよに
なとてかくくもかくれけむかくはかりのとかにすめるつきもあるよに
命婦乳母哀傷
4-後拾541むらさきの雲のかけても思ひきや春の霞になしてみむとは
むらさきのくものかけてもおもひきやはるのかすみになしてみむとは
藤原朝光哀傷
4-後拾542おくれじと常のみゆきは急ぎしを煙にそはぬたびのかなしさ
おくれしとつねのみゆきはいそきしをけふりにそはぬたひのかなしさ
大納言行成哀傷
4-後拾543のべまでに心一つは通へどもわがみゆきとはしらずやありけむ
のへまてにこころひとつはかよへともわかみゆきとはしらすやあるらむ
一條院哀傷
4-後拾544たきぎつき雪ふりしけるとりべ野はつるの林の心地こそすれ
たききつきゆきふりしけるとりへのはつるのはやしのここちこそすれ
法橋忠命哀傷
4-後拾545はれずこそかなしかりけれ鳥部山たちかへりつるけさの霞は
はれすこそかなしかりけれとりへやまたちかへりつるけさのかすみは
小侍従命婦哀傷
4-後拾546いにしへの薪もけふの君がよもつきはてぬるを見るぞ悲しき
いにしへのたききもけふのきみかよもつきはてぬるをみるそかなしき
小侍従命婦哀傷
4-後拾547時しもあれ春のなかばにあやまたぬよはの煙はうたがひもなし
ときしもあれはるのなかはにあやまたぬよはのけふりはうたかひもなし
相模哀傷
4-後拾548そなはれし玉のをぐしをさしながら哀れかなしき秋にあひぬる
そなはれしたまのをくしをさしなからあはれかなしきあきにあひぬる
山田中務哀傷
4-後拾549とはばやと思ひやるだに露けきをいかにぞ君が袖はくちぬや
とははやとおもひやるたにつゆけきをいかにそきみかそてはくちぬや
相模哀傷
4-後拾550涙河ながるるみをとしらねばや袖ばかりをば人のとふらむ
なみたかはなかるるみをとしらねはやそてはかりをはひとのとふらむ
大和宣旨哀傷
4-後拾551いかばかり君なげくらむ數ならぬ身だにしぐれし秋のあはれを
いかはかりきみなけくらむかすならぬみたにしくれしあきのあはれを
前中宮出雲哀傷
4-後拾552よそにきく袖も露けき柏木のもとのしづくを思ひこそやれ
よそにきくそてもつゆけきかしはきのもとのしつくをおもひこそやれ
小左近哀傷
4-後拾553主なしとこたふる人はなけれども宿の気色ぞいふにまされる
ぬしなしとこたふるひとはなけれともやとのけしきそいふにまされる
能因法師哀傷
4-後拾554いかばかりさびしかるらむ木枯しの吹きにし宿の秋のゆふぐれ
いかはかりさひしかるらむこからしのふきにしやとのあきのゆふくれ
右大臣北方哀傷
4-後拾555山ざとのははその紅葉散り木のもといかに寂しかるらむ
やまてらのははそのもみちちりにけりこのもといかにさひしかるらむ
読人知らず哀傷
4-後拾556おもふらむ別れし人の悲しさはけふまでふべき心地やはせし
おもふらむわかれしひとのかなしさはけふまてふへきここちやはせし
源隆国哀傷
4-後拾557かなしさのたぐひになにを思はまし別れをしれる君なかりせば
かなしさのたくひになにをおもはましわかれをしれるきみなかりせは
出羽辨哀傷
4-後拾558をしまるる人なくなどてなりにけむ捨てたる身だにあればあるよに
をしまるるひとなくなとてなりにけむすてたるみたにあれはあるよに
中宮内侍哀傷
4-後拾559宵のまの空の煙となりにきとあまのはらからなどかつげこぬ
よひのまのそらのけふりとなりにきとあまのはらからなとかつけこぬ
源順哀傷
4-後拾560思ひいづや思ひいづるに悲しきは別れながらのわかれなりけり
おもひいつやおもひいつるにかなしきはわかれなからのわかれなりけり
橘季通哀傷
4-後拾561思ひやれかねて別れしくやしさにそへてかなしき心づくしを
おもひやれかねてわかれしくやしさにそへてかなしきこころつくしを
式部命婦哀傷
4-後拾562五月雨にあらぬけふさへ晴れせねば空も悲しき事やしるらむ
さみたれにあらぬけふさへはれせぬはそらもかなしきことやしるらむ
周防内侍哀傷
4-後拾563あだにかくおつとおもひしむば玉の髪こそ長き形見なりけれ
あたにかくおつとおもひしうはたまのかみこそなかきかたみなりけれ
藤原定頼母哀傷
4-後拾564うたたねのこのよの夢のはかなきにさめぬやがての命ともがな
うたたねのこのよのゆめのはかなきにさめぬやかてのいのちともかな
藤原実方哀傷
4-後拾565夢みずとなげきし人をほどもなく又わが夢にみぬぞかなしき
ゆめみすとなけきしひとをほともなくまたわかゆめにみぬそかなしき
藤原相如女哀傷
4-後拾566契りありてこのよに又もうまるとも面がはりしてみもや忘れむ
ちきりありてこのよにまたはうまるともおもかはりしてみもやわすれむ
藤原実方哀傷
4-後拾567今はとてとびわかるめるむら鳥の古巣にひとりながむべきかな
いまはとてとひわかるめるむらとりのふるすにひとりなかむへきかな
藤原義孝哀傷
4-後拾568とどめおきて誰をあはれとおもふらむこはまさるらむこはまさりけり
ととめおきてたれをあはれとおもふらむこはまさるらむこはまさりけり
和泉式部哀傷
4-後拾569見るままに露ぞこぼるる遅れにし心もしらぬ撫子の花
みるままにつゆそこほるるおくれにしこころもしらぬなてしこのはな
上東門院哀傷
4-後拾570見むといひし人ははかなく消えにしを独り露けき秋の花かな
みむといひしひとははかなくきえにしをひとりつゆけきあきのはなかな
藤原実方哀傷
4-後拾571別れにしそのさみだれの空よりも雪ふればこそ恋しかりけれ
わかれにしそのさみたれのそらよりもゆきふれはこそこひしかりけれ
大江匡房哀傷
4-後拾572なにしかは今はいそがむ都には待つべき人もなくなりにけり
なにしにかいまはいそかむみやこにはまつへきひともなくなりにけり
大江嘉言哀傷
4-後拾573今はただそよその事と思ひいでて忘るばかりの憂き事もがな
いまはたたそよそのこととおもひいててわするはかりのうきこともかな
和泉式部哀傷
4-後拾574捨てはてむと思ふさへこそ悲しけれ君になれにし我が身と思へば
すてはてむとおもふさへこそかなしけれきみになれにしわかみとおもへは
和泉式部哀傷
4-後拾575なき人のくるよときけど君もなし我がすむやどやたまなきの里
なきひとのくるよときけときみもなしわかすむやとやたまなきのさと
和泉式部哀傷
4-後拾576別れにし人は来べくもあらなくにいかに振舞ふささがにぞこは
わかれにしひとはくへきもあらなくにいかにふるまふささかにそこは
源師房女哀傷
4-後拾577こひしさにぬる夜なけれど世の中のはかなき時は夢とこそみれ
こひしさにぬるよなけれとよのなかのはかなきときはゆめとこそみれ
大貮高遠哀傷
4-後拾578ゆゆしさに包めどあまる涙かなかけじとおもふ旅のころもに
ゆゆしさにつつめとあまるなみたかなかけしとおもふたひのころもに
源道成哀傷
4-後拾579のりのためつみける花を数々に今はこのよのかたみとぞおもふ
のりのためつみけるはなをかすかすにいまはこのよのかたみとそおもふ
選子内親王哀傷
4-後拾580ふかさこそ藤のたもとはまさるらめ涙はおなじ色にこそしめ
ふかさこそふちのたもとはまさるらめなみたはおなしいろにこそしめ
伊勢大輔哀傷
4-後拾581君のみや花のいろにもたちかへで袂の露はおなじ秋なる
きみのみやはなのいろにもたちかへてたもとのつゆはおなしあきなる
康資王母哀傷
4-後拾582墨染の袂はいとどこひぢにてあやめの草のねやしげるらむ
すみそめのたもとはいととこひちにてあやめのくさのねやしけるらむ
美作三位哀傷
4-後拾583これをだに形見とおもふを都には葉がへやしつるしひしばの袖
これをたにかたみとおもふをみやこにははかへやしつるしひしはのそて
一條院哀傷
4-後拾584こぞよりも色こそこけれ萩の花なみだの雨のかかる秋には
こそよりもいろこそこけれはきのはななみたのあめのかかるあきには
麗景殿前女御哀傷
4-後拾585別れにしその日ばかりは巡りきて生きもかへらぬ人ぞこひしき
わかれにしそのひはかりはめくりきていきもかへらぬひとそかなしき
伊勢大輔哀傷
4-後拾586年をへてなれたる人も別れにしこぞは今年のけふにぞありける
としをへてなれたるひともわかれにしこそはことしのけふにそありける
紀時文哀傷
4-後拾587わかれけむ心をくみて涙川おもひやるかなこぞのけふをも
わかれけむこころをくみてなみたかはおもひやるかなこそのけふをも
清原元輔哀傷
4-後拾588我が身には悲しきことの尽きせねば昨日をはてと思はざりけり
わかみにはかなしきことのつきせねはきのふをはてとおもはさりけり
江侍従哀傷
4-後拾589おもひかねかたみにそめし墨染の衣にさへも別れぬるかな
おもひかねかたみにそめしすみそめのころもにさへもわかれぬるかな
平棟仲哀傷
4-後拾590うすくこく衣のいろはかはれどもおなじ涙のかかる袖かな
うすくこくころものいろはかはれともおなしなみたのかかるそてかな
平教成哀傷
4-後拾591うきながらかたみにみつる藤衣はては涙にながしつるかな
うきなからかたみにみつるふちころもはてはなみたになかしつるかな
藤原定輔女哀傷
4-後拾592きえにける衛士のたく火の跡をみて煙となりし君ぞかなしき
きえにけるゑしのたくひのあとをみてけふりとなりしきみそかなしき
赤染衛門哀傷
4-後拾593いかにしてうつしとめけむ雲井にてあかずかくれし月の光を
いかにしてうつしとめけむくもゐにてあかすわかれしつきのひかりを
出羽辨哀傷
4-後拾594ひとりこそあれ行くとこは歎きつれ主なき宿はまたもありけり
ひとりこそあれゆくとこはなけきつれぬしなきやとはまたもありけり
赤染衛門哀傷
4-後拾595いにしへになにはの事はかはらねど涙のかかる旅はなかりき
いにしへになにはのことはかはらねとなみたのかかるたひはなかりき
源信宗哀傷
4-後拾596思ひやるあはれなにはのうらさびて蘆の浮き寝はさぞながれけむ
おもひやるあはれなにはのうらさひてあしのうきねはさそなかれけむ
伊勢大輔哀傷
4-後拾597年ごとにむかしは遠くなりゆけど憂かりし秋は又もきにけり
としことにむかしはとほくなりゆけとうかりしあきはまたもきにけり
源重之哀傷
4-後拾598しかばかり契りしものをわたり川かへるほどには忘るべしやは
しかはかりちきりしものをわたりかはかへるほとにはわするへしやは
藤原義孝哀傷
4-後拾599時雨とは千草の花ぞ散りまがふなにふるさとに袖ぬらすらむ
しくれとはちくさのはなそちりまかふなにふるさとのそてぬらすらむ
藤原義孝哀傷
4-後拾600着てなれし衣の袖もかわかぬに別れし秋になりにけるかな
きてなれしころものそてもかわかぬにわかれしあきになりにけるかな
藤原義孝哀傷
4-後拾601あふことをみな暮ごとにいでたてど夢路ならではかひなかりけり
あふことをみなくれことにいてたてとゆめちならてはかひなかりけり
読人知らず哀傷
4-後拾602なくなくも君にはつげつなき人のまたかへり事いかがいはまし
なくなくもきみにはつけつなきひとのまたかへりこといかかいはまし
読人知らず哀傷
4-後拾603さきにたつ涙を道のしるべにて我こそ行きていはまほしけれ
さきにたつなみたをみちのしるへにてわれこそゆきていはまほしけれ
読人知らず哀傷
4-後拾604ほのかにもしらせてしがな春霞かすみのうちにおもふ心を
ほのかにもしらせてしかなはるかすみかすみのうちにおもふこころを
後朱雀院恋一
4-後拾605木の葉ちる山の下水うづもれて流れもやらぬものをこそおもへ
このはちるやまのしたみつうつもれてなかれもやらぬものをこそおもへ
叡覚法師恋一
4-後拾606いかなればしらぬに生ふるうきぬなは苦しやこころ人しれずのみ
いかなれはしらぬにおふるうきぬなはくるしやこころひとしれすのみ
馬内侍恋一
4-後拾607かくなむとあまの漁火ほのめかせ磯辺の浪のをりもよからば
かくなむとあまのいさりひほのめかせいそへのなみのをりもよからは
源頼光恋一
4-後拾608おきつ浪うちいでむことぞつつましき思ひよるべき汀ならねば
おきつなみうちいてむことそつつましきおもひよるへきみきはならねは
源頼家母恋一
4-後拾609霜がれの冬野にたてるむらすすきほのめかさばや思ふこころを
しもかれのふゆのにたてるむらすすきほのめかさはやおもふこころを
平経章恋一
4-後拾610しのびつつやみなむよりは思ふことありけるとだに人にしらせむ
しのひつつやみなむよりはおもふことありけるとたにひとにしらせむ
大江嘉言恋一
4-後拾611おぼめくなたれともなくて宵々に夢にみえけむ我ぞそのひと
おほめくなたれともなくてよひよひにゆめにみえけむわれそそのひと
和泉式部恋一
4-後拾612かくとだにえやは伊吹のさしも草さしもしらじなもゆるおもひを
かくとたにえやはいふきのさしもくささしもしらしなもゆるおもひを
藤原実方恋一
4-後拾613なき名たつ人だに世にはあるものを君恋ふる身としられぬぞ憂き
なきなたつひとたによにはあるものをきみこふるみとしられぬそうき
實源法師恋一
4-後拾614年もへぬながつきの夜の月影の有明がたの空をこひつつ
としもへぬなかつきのよのつきかけのありあけかたのそらをこひつつ
源則成恋一
4-後拾615汲みてしる人もあらなむ夏山の木のした水は草かくれつつ
くみてしるひともあらなむなつやまのこのしたみつはくさかくれつつ
藤原長能恋一
4-後拾616小舟さしわたのはらからしるべせよいづれかあまの玉藻刈る浦
をふねさしわたのはらからしるへせよいつれかあまのたまもかるうら
読人知らず恋一
4-後拾617ひとりしてながむる宿のつまに生ふる忍ぶとだにもしらせてしかな
ひとりしてなかむるやとのつまにおふるしのふとたにもしらせてしかな
藤原通頼恋一
4-後拾618おもひあまりいひいづる程に數ならぬ身をさへ人にしられぬるかな
おもひあまりいひいつるほとにかすならぬみをさへひとにしられぬるかな
道命法師恋一
4-後拾619しのすすき忍びもあへぬ心にて今日はほにいづる秋としらなむ
しのすすきしのひもあへぬこころにてけふはほにいつるあきとしらなむ
祭主輔親恋一
4-後拾620いはぬまはまだしらじかし限りなく我がおもふべき人はわれとも
いはぬまはまたしらしかしかきりなくわかおもふへきひとはわれとも
藤原兼房恋一
4-後拾621わぎもこが袖ふりかけし移り香の今朝は身にしむものをこそおもへ
わきもこかそてふりかけしうつりかのけさはみにしむものをこそおもへ
源兼澄恋一
4-後拾622雲の上にさばかりさしし日影にも君がつららはとけずなりにき
くものうへにさはかりさししひかりにもきみかつららはとけすなりにき
藤原公成恋一
4-後拾623年へつる山した水のうすこほりけふ春風にうちもとけなむ
としへつるやましたみつのうすこほりけふはるかせにうちもとけなむ
藤原良通恋一
4-後拾624氷とも人の心を思はばやけふ立つ春の風ぞとくやと
こほりともひとのこころをおもははやけさたつはるのかせにとくへく
能因法師恋一
4-後拾625みつしほのひるまだになき浦なれやかよふ千鳥の跡もみえぬは
みつしほのひるまたになきうらなれやかよふちとりのあともみえぬは
祭主輔親恋一
4-後拾626しほたるるわが身のかたはつれなくてこと浦にこそ煙たつなれ
しほたるるわかみのかたはつれなくてことうらにこそけふりたちけれ
道命法師恋一
4-後拾627おもひわび昨日やまべに入りしかどふみみぬ道はゆかれざりけり
おもひわひきのふやまへにいりしかとふみみぬみちはゆかれさりけり
道命法師恋一
4-後拾628雲井にて契りし中はたなばたをうらやむばかりなりにけるかな
くもゐにてちきりしなかはたなはたをうらやむはかりなりにけるかな
藤原公任恋一
4-後拾629あふことのいつとなきには織女の別るるさへぞうらやまれける
あふことのいつとなきにはたなはたのわかるるさへそうらやまれける
藤原隆資恋一
4-後拾630逢ふことのとどこほるまはいかばかり身にさへしみて歎くとかしる
あふことのととこほるまはいかはかりみにさへしみてなけくとかしる
馬内侍恋一
4-後拾631鴫のふす刈田にたてる稲茎の否とは人のいはずもあらなん
しきのふすかりたにたてるいなくきのいなとはひとのいはすもあらなむ
藤原顕季恋一
4-後拾632あふさかの名をも頼まじ恋すればせきの清水に袖もぬれけり
あふさかのなをもたのましこひすれはせきのしみつにそてもぬれけり
白河院恋一
4-後拾633逢ふことはさもこそ人めかたからめ心ばかりはとけてみえなん
あふことはさもこそひとめかたからめこころはかりはとけてみえなむ
道命法師恋一
4-後拾634思ふらんしるしだになき下紐に心ばかりのなにかとくべき
おもふらむしるしたになきしたひもにこころはかりのなにかとくへき
読人知らず恋一
4-後拾635下きゆる雪間の草のめづらしく我が思ふ人に逢ひ見てしがな
したきゆるゆきまのくさのめつらしくわかおもふひとにあひみてしかな
和泉式部恋一
4-後拾636奥山のまきの葉しろく降る雪のいつとくべしとみえぬ君かな
おくやまのまきのはしのきふるゆきのいつとくへしとみえぬきみかな
源頼綱恋一
4-後拾637うれしきを忘るる人もあるものを辛きをこふる我や何なる
うれしきをわするるひともあるものをつらきをこふるわれやなになり
源政成恋一
4-後拾638恋ひそめし心をのみぞ恨みつる人のつらさをわれになしつつ
こひそめしこころをのみそうらみつるひとのつらさをわれになしつつ
平兼盛恋一
4-後拾639いかにせんかけても今はたのまじと思ふにいとどぬるる袂を
いかにせむかけてもいまはたのましとおもふにいととぬるるたもとを
藤原為時恋一
4-後拾640あふことのなきよりかねてつらければさてもあらましぬるる袖かな
あふことのなきよりかねてつらけれはさもあらましにぬるるそてかな
相模恋一
4-後拾641まてといひし秋もなかばになりぬるを頼めかおきし露はいかにぞ
まてといひしあきもなかはになりぬるをたのめかおきしつゆはいかにそ
大中臣能宣恋一
4-後拾642逢ふまでとせめて命の惜しければ恋こそ人の命なりけれ
あふまてとせめていのちのをしけれはこひこそひとのいのりなりけれ
藤原頼宗恋一
4-後拾643つきもせず恋に涙をながすかなこやななくりの出湯なるらん
つきもせすこひになみたをわかすかなこやななくりのいてゆなるらむ
相模恋一
4-後拾644あふみにかありといふなるみくりくる人苦しめのつくま江の沼
あふみにかありといふなるみくりくるひとくるしめのつくまえのぬま
藤原道信恋一
4-後拾645こひしてふことをしらでややみなましつれなき人のなき世なりせば
こひしてふことをしらてややみなましつれなきひとのなきよなりせは
永源法師恋一
4-後拾646つれもなき人もあはれといひてまし恋する程を知らせだにせば
つれもなきひともあはれといひてましこひするほとをしらせたにせは
赤染衛門恋一
4-後拾647身をすてて深き淵にも入りぬべし底の心の知らまほしさに
みをすててふかきふちにもいりぬへしそこのこころのしらまほしさに
源道済恋一
4-後拾648こひこひてあふとも夢にみつる夜はいとど寝覚めぞわびしかりける
こひこひてあふともゆめにみつるよはいととねさめそわひしかりける
大中臣能宣恋一
4-後拾649唐衣むすびしひもはさしながら袂ははやく朽ちにしものを
からころもむすひしひもはさしなからたもとははやくくちにしものを
大中臣能宣恋一
4-後拾650朽ちにける袖のしるしは下紐のとくるになどか知らせざりけん
くちにけるそてのしるしはしたひものとくるになとかしらせさりけむ
読人知らず恋一
4-後拾651錦木はたてながらこそ朽ちにけれけふのほそ布胸あはじとや
にしききはたてなからこそくちにけれけふのほそぬのむねあはしとや
能因法師恋一
4-後拾652須磨の蜑の浦こぐ船の跡もなく見ぬ人こふる我やなになり
すまのあまのうらこくふねのあともなくみぬひとこふるわれやなになり
源高明恋一
4-後拾653さりともと思ふ心にひかされて今まで世にもふるわが身かな
さりともとおもふこころにひかされていままてよにもふるわかみかな
源高明恋一
4-後拾654たのむるに命ののぶる物ならば千年もかくてあらんとや思ふ
たのむるにいのちののふるものならはちとせもかくてあらむとやおもふ
藤原実頼女恋一
4-後拾655思ひしる人もこそあれあぢきなくつれなき恋に身をやかへてん
おもひしるひともこそあれあちきなくつれなきこひにみをやかへてむ
小辨恋一
4-後拾656人しれず逢ふをまつまに恋ひ死なば何にかへたる命とかいはん
ひとしれすあふをまつまにこひしなはなににかへたるいのちとかいはむ
平兼盛恋一
4-後拾657恋ひ死なん命はことのかずならでつれなき人の果ぞゆかしき
こひしなむいのちはことのかすならてつれなきひとのはてそゆかしき
永成法師恋一
4-後拾658つれなくてやみぬる人に今はただ恋ひ死ぬとだにきかせてしがな
つれなくてやみぬるひとにいまはたたこひしぬとたにきかせてしかな
中原政義恋一
4-後拾659あさねがみ乱れて恋ぞしどろなる逢ふ由もがな元結にせん
あさねかみみたれてこひそしとろなるあふよしもかなもとゆひにせむ
良暹法師恋一
4-後拾660唐衣そでしの浦のうつせ貝むなしき恋に年のへぬらむ
からころもそてしのうらのうつせかひむなしきこひにとしのへぬらむ
藤原國房恋一
4-後拾661われが身はと帰る鷹となりにけり年はふれどももとは忘れず
われかみはとかへるたかとなりにけりとしはふれともこひはわすれす
左大臣俊房恋一
4-後拾662年を経て葉がへぬ山の椎柴やつれなき人の心なるらん
としをへてはかへぬやまのしひしはやつれなきひとのこころなるらむ
源顕房恋一
4-後拾663嬉しとも思ふべかりし今日しもぞいとど歎きのそふ心地する
うれしともおもふへかりしけふしもそいととなけきのそふここちする
道命法師恋一
4-後拾664ほどもなく恋ふる心は何なれや知らでだにこそ年は経にしか
ほともなくこふるこころはなになれやしらてたにこそとしはへにしか
祭主輔親恋二
4-後拾665いにしへの人さへ今朝はつらきかな明くればなどか帰りそめけん
いにしへのひとさへけさはつらきかなあくれはなとかかへりそめけむ
源頼綱恋二
4-後拾666夜をこめてかへる空こそなかりけれうらやましきは有明の月
よをこめてかへるそらこそなかりつれうらやましきはありあけのつき
永源法師恋二
4-後拾667暮るる間は千歳を過ぐす心地して待つはまことに久しかりけり
くるるまのちとせをすくすここちしてまつはまことにひさしかりけり
藤原隆方恋二
4-後拾668けふよりはとく呉竹の節ごとに夜はながかれと思ほゆるかな
けふよりはとくくれたけのふしことによはなかかれとおもほゆるかな
源定季恋二
4-後拾669君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな
きみかためをしからさりしいのちさへなかくもかなとおもひけるかな
藤原義孝恋二
4-後拾670けふくるる程待つだにも久しきにいかで心をかけてすぎけん
けふくるるほとまつたにもひさしきにいかてこころをかけてすきけむ
伊勢大輔恋二
4-後拾671かへるさの道やはかはる変らねど解くるにまどふ今朝の淡雪
かへるさのみちやはかはるかはらねととくるにまとふけさのあはゆき
藤原道信恋二
4-後拾672明けぬれば暮るる物とは知りながら猶恨めしき朝ぼらけかな
あけぬれはくるるものとはしりなからなほうらめしきあさほらけかな
藤原道信恋二
4-後拾673千賀の浦に浪よせかくる心地してひるまなくてもくらしつるかな
ちかのうらになみよせまさるここちしてひるまなくてもくらしつるかな
藤原道信恋二
4-後拾674逢ひ見ての後こそ恋はまさりけれつれなき人をいまは恨みじ
あひみてののちこそこひはまさりけれつれなきひとをいまはうらみし
永源法師恋二
4-後拾675うつつにて夢ばかりなる逢ふ事をうつつばかりの夢になさばや
うつつにてゆめはかりなるあふことをうつつはかりのゆめになさはや
源高明恋二
4-後拾676たまさかにゆき逢坂の関守は夜をとほさぬぞ侘しかりける
たまさかにゆきあふさかのせきもりはよをとほさぬそわひしかりける
藤原道信恋二
4-後拾677知る人もなくてやみぬる逢ふことをいかでなみだの袖にもるらん
しるひともなくてやみぬるあふことをいかてなみたのそてにもるらむ
清原元輔恋二
4-後拾678頼むるを頼むべきにはあらねども待つとはなくて待たれもやせん
たのむるにたのむへきにはあらねともまつとはなくてまたれもやせむ
相模恋二
4-後拾679眺めつつ事ありがほに暮しても必ず夢にみえばこそあらめ
なかめつつことありかほにくらしてもかならすゆめにみえはこそあらめ
相模恋二
4-後拾680やすらはで寝なましものを小夜更けてかたぶくまでの月をみしかな
やすらはてねなましものをさよふけてかたふくまてのつきをみしかな
赤染衛門恋二
4-後拾681おきながらあかしつるかなともねせぬ鴨の上毛の霜ならなくに
おきなからあかしつるかなともねせぬかものうはけのしもならなくに
和泉式部恋二
4-後拾682夕露を浅茅が上とみしものを袖におきても明かしつるかな
ゆふつゆをあさちかうへとみしものをそてにおきてもあかしつるかな
大輔命婦恋二
4-後拾683いかにせんあなあやにくの春の日や夜半のけしきのかからましかば
いかにせむあなあやにくのはるのひやよはのけしきのかからましかは
藤原隆経恋二
4-後拾684むばたまの夜半のけしきはさもあらばあれ人の心を春日ともがな
うはたまのよはのけしきはさもあらはあれひとのこころのはるひともかな
童木恋二
4-後拾685淀野へとみまくさ刈りに行く人も暮れにはただに帰るものかは
よとのへとみまくさかりにゆくひともくれにはたたにかへるものかは
源重之恋二
4-後拾686帰りしは我が身ひとつと思ひしを涙さへこそとまらざりけれ
かへりしはわかみひとつとおもひしをなみたさへこそとまらさりしか
源師賢恋二
4-後拾687あま雲のかへるばかりのむら雨に所せきまで濡れし袖かな
あまくものかへるはかりのむらさめにところせきまてぬれしそてかな
読人知らず恋二
4-後拾688わが恋は天の原なる月なれや暮るれば出づる影をのみみる
わかこひはあまのはらなるつきなれやくるれはいつるかけをのみみる
一宮紀伊恋二
4-後拾689過ぎて行く月をもなにか恨むべき待つわが身こそあはれなりけり
すきてゆくつきをもなにかうらむへきまつわかみこそあはれなりけれ
読人知らず恋二
4-後拾690杉たてる門ならませば訪ひてまし心のまつはいかがしるべき
すきたてるかとならませはとひてましこころのまつはいかかしるへき
大貮高遠恋二
4-後拾691津の國のこやとも人をいふべきにひまこそなけれ蘆の八重葺き
つのくにのこやともひとをいふへきにひまこそなけれあしのやへふき
和泉式部恋二
4-後拾692人目のみしげき深山の青つづら苦しき世をも思ひ侘びぬる
ひとめのみしけきみやまのあをつつらくるしきよをそおもひわひぬる
高階章行女恋二
4-後拾693来ぬも憂く来るも苦しき靑つづらいかなる方に思ひ絶えなん
こぬもうくくるもくるしきあをつつらいかなるかたにおもひたえなむ
読人知らず恋二
4-後拾694しるらめや身こそ人目をはばかりの関に涙はとまらざりけり
しるらめやみこそひとめをははかりのせきになみたはとまらさりけり
読人知らず恋二
4-後拾695もろともにいつかとくべきあふことのかた結びなる夜半の下紐
もろともにいつかとくへきあふことのかたむすひなるよはのしたひも
相模恋二
4-後拾696淵やさは瀬にはなりける明日香川浅きを深くなす世なりせば
ふちやさはせにはなりけるあすかかはあさきをふかくなすよなりせは
赤染衛門恋二
4-後拾697あひみではありぬべしやとこころみる程は苦しきものにぞありける
あひみてはありぬへしやとこころみるほとはくるしきものにそありける
読人知らず恋二
4-後拾698わが心こころにもあらでつらからば夜がれん床の形見ともせよ
わかこころこころにもあらてつらからはよかれむとこのかたみともせよ
源顕房恋二
4-後拾699来ぬまでも待たましものを中々に頼む方なきこの夕占かな
こぬまてもまたましものをなかなかにたのむかたなきこのゆふけかな
読人知らず恋二
4-後拾700きえ返り露もまだひぬ袖の上に今朝はしぐるる空もわりなし
きえかへりつゆもまたひぬそてのうへにけさはしくるるそらもわりなし
藤原道綱母恋二
4-後拾701あかつきの露は枕に置きけるを草葉のうへとなに思ひけん
あかつきのつゆはまくらにおきけるをくさはのうへとなにおもひけむ
高内侍恋二
4-後拾702きのふけふ歎くばかりの心地せば明日に我が身や逢はじとすらん
きのふけふなけくはかりのここちせはあすにわかみやあはしとすらむ
相模恋二
4-後拾703見し人に忘れられてふる袖ににこそ身をしる雨はいつもをやまね
みしひとにわすられてふるそてにこそみをしるあめはいつもをやまね
和泉式部恋二
4-後拾704忘らるる身をしる雨はふらねども袖ばかりこそ乾かざりけれ
わすらるるみをしるあめはふらねともそてはかりこそかわかさりけれ
読人知らず恋二
4-後拾705こえにける浪をばしらで末の松ちよまでとのみ頼みけるかな
こえにけるなみをはしらてすゑのまつちよまてとのみたのみけるかな
藤原能通恋二
4-後拾706浦風になびきにけりな里のあまの焚く藻のけぶり心よわさは
うらかせになひきにけりなさとのあまのたくものけふりこころよわさは
藤原實方恋二
4-後拾707忘れずよまた忘れずよかはらやの下焚くけぶり下むせびつつ
わすれすよまたわすれすよかはらやのしたたくけふりしたむせひつつ
藤原實方恋二
4-後拾708風の音の身にしむばかり聞ゆるは我が身に秋や近くなるらん
かせのおとのみにしむはかりきこゆるはわかみにあきやちかくなるらむ
読人知らず恋二
4-後拾709ありま山ゐなの篠原風ふけばいでそよ人を忘れやはする
ありまやまゐなのささはらかせふけはいてそよひとをわすれやはする
大貮三位恋二
4-後拾710恨むとも今はみえじと思ふこそせめてつらさのあまりなりけれ
うらむともいまはみえしとおもふこそせめてつらさのあまりなりけれ
赤染衛門恋二
4-後拾711今宵さへあらばかくこそ思ほえめ今日暮れぬまの命ともがな
こよひさへあらはかくこそおもほえめけふくれぬまのいのちともかな
和泉式部恋二
4-後拾712あすならば忘らるる身になりぬべし今日をすぐさぬ命ともがな
あすならはわすらるるみになりぬへしけふをすくさぬいのちともかな
赤染衛門恋二
4-後拾713いとふとは知らぬにあらず知りながら心にもあらぬ心なりけり
いとふとはしらぬにあらすしりなからこころにもあらぬこころなりけり
藤原長能恋二
4-後拾714あふことは七夕つめにかしつれど渡らまほしきかささぎの橋
あふことはたなはたつめにかしつれとわたらまほしきかささきのはし
後冷泉院恋二
4-後拾715あやめ草かけしたもとのねを絶えて更に恋路にまよふころかな
あやめくさかけしたもとのねをたえてさらにこひちにまとふころかな
後朱雀院恋三
4-後拾716藤衣はつるる袖の絲よわみたえてあひみぬほどぞわりなき
ふちころもはつるるそてのいとよわみたえてあひみぬほとそわりなき
清原元輔恋三
4-後拾717みるめこそ近江のうみにかたからめ吹きだに通へ志賀の浦風
みるめこそあふみのうみにかたからめふきたにかよへしかのうらかせ
伊勢大輔恋三
4-後拾718秋風になびきながらも葛の葉のうらめしくのみなどかみゆらん
あきかせになひきなからもくすのはのうらめしくのみなとかみゆらむ
叡覺法師恋三
4-後拾719こひしきになにはのこともおもほえずたれ住吉の松といひけん
こひしきになにはのこともおもほえすたれすみよしのまつといひけむ
大江匡衡恋三
4-後拾720わが思ふ都の花の遠さゆゑ君もしづえのしづ心あらじ
わかおもふみやこのはなのとふさゆゑきみもしつえのしつこころあらし
祭主輔親恋三
4-後拾721かたしきの衣のすそは氷りつついかですぐさむ解くる春まで
かたしきのころものそてはこほりつついかてすくさむとくるはるまて
光朝法師母恋三
4-後拾722恋しさは思ひやるだになぐさむを心におとる身こそつらけれ
こひしさはおもひやるたになくさむをこころにおとるみこそつらけれ
藤原國房恋三
4-後拾723いづ方をわれながめましたまさかにゆき逢坂の関なかりせば
いつかたをわれなかめましたまさかにゆきあふさかのせきなかりせは
大中臣能宣恋三
4-後拾724ゆきかへり後にあふともこの度はこれより越ゆる物思ひぞなき
ゆきかへりのちにあふともこのたひはこれよりこゆるものおもひそなき
読人知らず恋三
4-後拾725東路の旅の空をぞおもひやるそなたにいづる月をながめて
あつまちのたひのそらをそおもひやるそなたにいつるつきをなかめて
源経信恋三
4-後拾726思ひやれしらぬ雲路も入る方の月よりほかのながめやはある
おもひやれしらぬくもちもいるかたのつきよりほかのなかめやはする
康資王母恋三
4-後拾727帰るべき程をかぞへて待つ人は過ぐる月日ぞうれしかりける
かへるへきほとをかそへてまつひとはすくるつきひそうれしかりける
源隆綱恋三
4-後拾728あづまやの茅が下にし乱るればいさや月日の行くもしられず
あつまやのかやかしたにしみたるれはいさやつきひのゆくもしられす
康資王母恋三
4-後拾729霜枯れの茅が下をれとにかくに思ひみだれて過ぐすころかな
しもかれのかやかしたをれとにかくにおもひみたれてすくすころかな
藤原惟規恋三
4-後拾730かひなきは猶人知れず逢ふことの遙かなるみのうらみなりけり
かひなきはなほひとしれすあふことのはるかなるみのうらみなりけり
増基法師恋三
4-後拾731思ひやる心の空にゆきかへりおぼつかなさをかたらましかば
おもひやるこころのそらにゆきかへりおほつかなさをかたらましかは
右大辨通俊恋三
4-後拾732心をば生田のもりにかくれども恋しきにこそしぬべかりけれ
こころをはいくたのもりにかくれともこひしきにこそしぬへかりけれ
読人知らず恋三
4-後拾733頼めしを待つに日數の過ぎぬれば玉の緒よわみたえぬべきかな
たのめしをまつにひころのすきぬれはたまのをよわみたえぬへきかな
律師慶意恋三
4-後拾734あさましや見しは夢かととふ程に驚かすにもなりぬべきかな
あさましやみしはゆめかととふほとにおとろかすにもなりぬへきかな
読人知らず恋三
4-後拾735はるばると野中に見ゆる忘れ水絶えま絶えまを歎くころかな
はるはるとのなかにみゆるわすれみつたえまたえまをなけくころかな
大和宣旨恋三
4-後拾736いかばかり嬉しからまし面影に見ゆるばかりの逢ふ夜なりせば
いかはかりうれしからましおもかけにみゆるはかりのあふよなりせは
藤原忠家恋三
4-後拾737わがやどの軒のしのぶにことよせてやがてもしげる忘れ草かな
わかやとののきのしのふにことよせてやかてもしけるわすれくさかな
読人知らず恋三
4-後拾738逢ふことを今はかぎりと三輪の山杉の過ぎにし方ぞこひしき
あふことをいまはかきりとみわのやますきのすきにしかたそこひしき
皇太后宮陸奥恋三
4-後拾739杉村といひてしるしもなかりけり人のたづねぬ三輪の山もと
すきむらといひてしるしもなかりけりひともたつねぬみわのやまもと
読人知らず恋三
4-後拾740住吉の岸ならねども人知れぬ心のうちの松ぞ侘しき
すみよしのきしならねともひとしれぬこころのうちのまつそわひしき
相模恋三
4-後拾741逢坂の関の清水や濁るらん入りにし人のかげもみえぬは
あふさかのせきのしみつやにこるらむいりにしひとのかけのみえぬは
僧都遍救恋三
4-後拾742なみだやはまたもあふべきつまならん泣くよりほかの慰めぞなき
なみたやはまたもあふへきつまならむなくよりほかのなくさめそなき
藤原道雅恋三
4-後拾743よそ人になりはてぬとや思ふらん恨むるからに忘れやはする
よそひとになりはてぬとやおもふらむうらむるからにわすれやはする
前律師慶暹恋三
4-後拾744つらしとも思ひしらでぞやみなまし我もはてなき心なりせば
つらしともおもひしらてそやみなましわれもはてなきこころなりせは
大中臣輔弘恋三
4-後拾745なかなかに憂かりしままにやみにせば忘るる程になりもしなまし
なかなかにうかりしままにやみにせはわするるほとになりもしなまし
和泉式部恋三
4-後拾746憂き世をもまたたれにかはなぐさめん思ひしらずもとはぬ君かな
うきよをもまたたれにかはなくさめむおもひしらすもとはぬきみかな
和泉式部恋三
4-後拾747あふまでや限りなるらんと思ひしを恋はつきせぬものにぞありける
あふまてやかきりなるらむとおもひしをこひはつきせぬものにそありける
源政成恋三
4-後拾748逢坂は東路とこそききしかど心づくしのせきにぞありける
あふさかはあつまちとこそききしかとこころつくしのせきにそありける
藤原道雅恋三
4-後拾749榊葉やゆふしでかけしそのかみにおしかへしても渡るころかな
さかきはのゆふしてかけしそのかみにおしかへしてもにたるころかな
藤原道雅恋三
4-後拾750今はただ思ひたえなんとばかりを人づてならでいふ由もがな
いまはたたおもひたえなむとはかりをひとつてならていふよしもかな
藤原道雅恋三
4-後拾751みちのくの緒絶の橋やこれならん踏みみ踏まずみ心まどはす
みちのくのをたえのはしやこれならむふみみふますみこころまとはす
藤原道雅恋三
4-後拾752恋ひしさも忘れやはするなかなかに心さわがす志賀の浦浪
こひしさもわすれやはするなかなかにこころさわかすしかのうらなみ
藤原経輔恋三
4-後拾753来じとだにいはで絶えなば憂かりける人のまことをいかでしらまし
こしとたにいはてたえなはうかりけるひとのまことをいかてしらまし
相模恋三
4-後拾754ただ袖に君かさぬらん唐衣夜な夜なわれにかたしかせつつ
たかそてにきみかさぬらむからころもよなよなわれにかたしかせつつ
相模恋三
4-後拾755黒髪の乱れてしらずうちふせばまづかきやりし人ぞ恋しき
くろかみのみたれもしらすうちふせはまつかきやりしひとそこひしき
和泉式部恋三
4-後拾756移り香の薄くなりゆく薫物のくゆる思ひに消えぬべきかな
うつりかのうすくなりゆくたきもののくゆるおもひにきえぬへきかな
清原元輔恋三
4-後拾757なきながす涙にたへでたえぬればはなだの帯の心地こそすれ
なきなかすなみたにたへてたえぬれははなたのおひのここちこそすれ
和泉式部恋三
4-後拾758なかたゆるかづらき山の岩ばしはふみみることもかたくぞありける
なかたゆるかつらきやまのいははしはふみみることもかたくそありける
相模恋三
4-後拾759忘れなんと思ふさへこそ思ふこと叶はぬ身には叶はざりけれ
わすれなむとおもふさへこそおもふことかなはぬみにはかなはさりけれ
大貮良基恋三
4-後拾760忘れなんと思ふに濡るる袂かな心ながきは涙なりけり
わすれなむとおもふにぬるるたもとかなこころなかきはなみたなりけり
高橋良成恋三
4-後拾761いかばかり覚束なさを歎かましこの世のつねと思ひなさずば
いかはかりおほつかなさをなけかましこのよのつねとおもひなさすは
藤原忠家母恋三
4-後拾762あふことのただひたぶるの夢ならばおなじ枕にまたもねなまし
あふことのたたひたふるのゆめならはおなしまくらにまたもねなまし
權僧正静圓恋三
4-後拾763あらざらむこの世のほかのおもひでに今ひとたびの逢ふこともがな
あらさらむこのよのほかのおもひいてにいまひとたひのあふこともかな
和泉式部恋三
4-後拾764都にも恋しきことのおほかれば猶このたびはいかんとぞ思ふ
みやこにもこひしきひとのおほかれはなほこのたひはいかむとそおもふ
藤原惟規恋三
4-後拾765契りしにあらぬつらさも逢ふことの無きにはえこそ恨みざりけれ
ちきりしにあらぬつらさもあふことのなきにはえこそうらみさりけれ
周防内侍恋三
4-後拾766忘れなんそれも恨みず思ふらん恋ふらんとだに思ひおこせよ
わすれなむそれもうらみすおもふらむこふらむとたにおもひおこせは
源高明恋三
4-後拾767年の内に逢はぬためしの名を立ててわれ七夕にいまるべきかな
としのうちにあはぬためしのなをたててわれたなはたにいまるへきかな
藤原道信恋三
4-後拾768七夕をもどかしとのみ我が見しも果ては逢ひ見ぬためしとぞなる
たなはたをもとかしとみしわかみしもはてはあひみぬためしにそなる
増基法師恋三
4-後拾769蜘蛛手さへかきたえにけるささがにの命を今は何にかけまし
くもてさへかきたえにけるささかにのいのちをいまはなににかけまし
馬内侍恋三
4-後拾770契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山浪こさじとは
ちきりきなかたみにそてをしほりつつすゑのまつやまなみこさしとは
清原元輔恋四
4-後拾771蘆のねのうき身の程と知りぬれば恨みぬ袖も波は立ちけり
あしのねのうきみのほととしりぬれはうらみぬそてもなみはたちけり
公圓法師母恋四
4-後拾772逢ひ見しを嬉しきことと思ひしは帰りて後の歎きなりけり
あひみしをうれしきこととおもひしはかへりてのちのなけきなりけり
道命法師恋四
4-後拾773深山木のこりやしぬらんと思ふ間にいとど思ひの燃えまさるかな
みやまきのこりやしぬらむとおもふまにいととおもひのもえまさるかな
藤原元眞恋四
4-後拾774岩代の杜のいはじと思へども雫に濡るる身をいかにせん
いはしろのもりのいはしとおもへともしつくにぬるるみをいかにせむ
惠慶法師恋四
4-後拾775あぢきなし我が身にまさる物やあると恋せし人をもどきしものを
あちきなしわかみにまさるものやあるとこひせしひとをもときしものを
曾禰好忠恋四
4-後拾776われといかにつれなくなりて試みんつらき人こそ忘れがたけれ
われといかてつれなくなりてこころみむつらきひとこそわすれかたけれ
和泉式部恋四
4-後拾777怪しくもあらはれぬべき袂かな忍びねにのみ濡らすと思へば
あやしくもあらはれぬへきたもとかなしのひねにのみなくとおもふを
相模恋四
4-後拾778うちしのびなくとせしかど君こふる涙はいろにいでにけるかな
うちしのひなくとせしかときみこふるなみたはいろにいてにけるかな
源高明恋四
4-後拾779こひすとも涙の色のなかりせばしばしは人に知られざらまし
こひすともなみたのいろのなかりせはしはしはひとにしられさらまし
辨乳母恋四
4-後拾780人知れぬ恋にし死なばおほかたの世のはかなきと人や思はん
ひとしれぬこひにししなはおほかたのよのはかなきとひとやおもはむ
源道済恋四
4-後拾781人知れずかほには袖をおほいつつ泣くばかりをぞ慰めにする
ひとしれすかほにはそてをおほひつつなくはかりをそなくさめにする
藤原頼宗恋四
4-後拾782思ひ侘び返す衣の袂より散るや涙の氷なるらん
おもひわひかへすころものたもとよりちるやなみたのこほりなるらむ
藤原國房恋四
4-後拾783なぐさむる心はなくて夜もすがら返す衣のうらぞぬれける
なくさむるこころはなくてよもすからかへすころものうらそぬれつる
清原元輔恋四
4-後拾784世の中にあらばぞ人のつらからんと思ふにしもぞものは悲しき
よのなかにあらはそひとのつらからむとおもふにしもそものはかなしき
読人知らず恋四
4-後拾785夜な夜なは目のみ覚めつつ思ひやる心やゆきて驚かすらん
よなよなはめのみさめつつおもひやるこころやゆきておとろかすらむ
道命法師恋四
4-後拾786思ふてふことはいはでも思ひけり辛きも今は辛しと思はじ
おもふてふことはいはてもおもひけりつらきもいまはつらしとおもはし
平兼盛恋四
4-後拾787おもひやる方なきままに忘れ行く人の心ぞうらやまれける
おもひやるかたなきままにわすれゆくひとのこころそうらやまれける
中原頼成妻恋四
4-後拾788閨ちかき梅の匂ひに朝な朝なあやしくこひのまさるころかな
ねやちかきうめのにほひにあさなあさなあやしくこひのまさるころかな
能因法師恋四
4-後拾789あやうしと見ゆるとだえのまろ橋のまろなどかかる物おもふらん
あやふしとみゆるとたえのまろはしのまろなとかかるものおもふらむ
相模恋四
4-後拾790世の中に恋てふ色はなけれども深く身にしむ物にぞありける
よのなかにこひてふいろはなけれともふかくみにしむものにそありける
和泉式部恋四
4-後拾791ささがにのいづくに人はありとだに心細くも知らでふるかな
ささかにのいつこにひとをありとたにこころほそくもしらてふるかな
清原元輔恋四
4-後拾792こひしさの憂きにまぎるる物ならば又ふたたびと君を見ましや
こひしさのうきにまきるるものならはまたふたたひときみをみましや
大貮三位恋四
4-後拾793あればこそ人もつらけれあやしきは命もがなと頼むなりけり
あれはこそひともつらけれあやしきはいのちもかなとたのむなりけり
藤原有親恋四
4-後拾794庭のおもの萩のうへにて知りぬらん物思ふ人の夜半の袂は
にはのおものはきのうへにてしりぬらむものおもふひとのよはのたもとは
源道済恋四
4-後拾795我が袖を秋の草葉にくらべばやいづれか露のおきはまさると
わかそてをあきのくさはにくらへはやいつれかつゆのおきはまさると
相模恋四
4-後拾796ありそうみの濱の真砂をみなもがなひとりぬる夜の數にとるべく
ありそうみのはまのまさこをみなもかなひとりぬるよのかすにとるへく
相模恋四
4-後拾797かぞふれば空なる星もしるものを何をつらさの數にとらまし
かそふれはそらなるほしもしるものをなにをつらさのかすにおかまし
藤原長能恋四
4-後拾798つれづれと思へば長き春の日に頼むこととはながめをぞする
つれつれとおもへはなかきはるのひにたのむこととはなかめをそする
藤原道信恋四
4-後拾799ひたすらに軒のあやめのつくづくと思へばねのみかかる袖かな
ひたすらにのきのあやめのつくつくとおもへはねのみかかるそてかな
和泉式部恋四
4-後拾800たぐひなき憂き身なりけり思ひしる人だにあらばとひこそはせめ
たくひなくうきみなりけりおもひしるひとたにあらはとひこそはせめ
和泉式部恋四
4-後拾801君こふる心はちぢに砕くれど一つもうせぬものにぞありける
きみこふるこころはちちにくたくれとひとつもうせぬものにそありける
和泉式部恋四
4-後拾802なみだ川おなじ身よりは流るれど恋をば消たぬものにぞありける
なみたかはおなしみよりはなかるれとこひをはけたぬものにそありける
和泉式部恋四
4-後拾803わが恋はます田の池のうきぬなは苦しくてのみ年をふるかな
わかこひはますたのいけのうきぬなはくるしくてのみとしをふるかな
小辨恋四
4-後拾804おほかたにふるとぞみえし五月雨は物思ふ袖の名にこそありけれ
おほかたにふるとそみえしさみたれはものおもふそてのなにこそありけれ
源道済恋四
4-後拾805よそにふる人は雨とや思ふらん我が目に近き袖のしづくを
よそにふるひとはあめとやおもふらむわかめにちかきそてのしつくを
源高明恋四
4-後拾806日にそへて憂きことのみも増るかな暮れてはやがて明けずもあらなん
ひにそへてうきことのみもまさるかなくれてはやかてあけすもあらなむ
源高明恋四
4-後拾807君こふと且は消えつつ程ふるをかくてもいける身とやみるらん
きみこふとかつはきえつつふるほとをかくてもいけるみとやみるらむ
藤原元眞恋四
4-後拾808恋しさの忘られぬべき物ならば何にかいける身をも恨みん
こひしさのわすられぬへきものならはなににかいけるみをもうらみむ
藤原元眞恋四
4-後拾809恋しさを忍びもあへずうつせみのうつし心も無くなりにけり
こひしさをしのひもあへぬうつせみのうつしこころもなくなりにけり
大和宣旨恋四
4-後拾810君がため落つる涙の玉ならば貫きかけてみせましものを
きみかためおつるなみたのたまならはつらぬきかけてみせましものを
源経信恋四
4-後拾811契りあらば思ふがごとぞ思はまし怪しや何のむくいなるらん
ちきりあらはおもふかことそおもはましあやしやなにのむくひなるらむ
源高明恋四
4-後拾812けふしなばあすまで物は思はじと思ふにだにもかなはぬぞ憂き
けふしなはあすまてものはおもはしとおもふにたにもかなはぬそうき
源高明恋四
4-後拾813思ひには露の命ぞ消えぬべき言の葉にだにかけよかし君
おもひにはつゆのいのちそきえぬへきことのはにたにかけよかしきみ
藤原兼家恋四
4-後拾814やくとのみ枕の下にしほたれてけぶりたえせぬとこの浦かな
やくとのみまくらのうへにしほたれてけふりたえせぬとこのうらかな
相模恋四
4-後拾815恨み侘び干さぬ袖だにあるものを恋に朽ちなん名こそ惜しけれ
うらみわひほさぬそてたにあるものをこひにくちなむなこそをしけれ
相模恋四
4-後拾816かみなづき夜半の時雨にことよせて片しく袖を干しぞわづらふ
かみなつきよはのしくれにことよせてかたしくそてをほしそわつらふ
相模恋四
4-後拾817さまざまに思ふ心はあるものをおしひたすらに濡るる袖かな
さまさまにおもふこころはあるものをおしひたすらにぬるるそてかな
和泉式部恋四
4-後拾818わが心かはらんものかかはらやの下たくけぶりわきかへりつつ
わかこころかはらむものかかはらやのしたたくけふりわきかへりつつ
藤原長能恋四
4-後拾819うちはへてくゆるも苦しいかでなほ世にすみがまの煙たゆらん
うちはへてくゆるもくるしいかてなほよにすみかまのけふりたえなむ
藤原範永女恋四
4-後拾820人の身も恋ひはかへつ夏蟲のあらはにもゆとみえぬばかりぞ
ひとのみもこひにはかへつなつむしのあらはにもゆとみえぬはかりそ
和泉式部恋四
4-後拾821かるもかき臥す猪の床のいを安みさこそねざらめかからずもがな
かるもかきふすゐのとこのいをやすみさこそねさらめかからすもかな
和泉式部恋四
4-後拾822わが恋は春の山邊につけてしをもえても君が目にもみえなん
わかこひははるのやまへにつけてしをもえいててきみかめにもみえなむ
藤原兼家恋四
4-後拾823春の野につくる思ひのあまたあればいづれを君がもゆるとかみん
はるののにつくるおもひのあまたあれはいつれをきみかもゆとかはみむ
藤原道綱母恋四
4-後拾824春日野は名のみなりけり我が身こそ飛火ならねどもえ渡りけれ
かすかのはなのみなりけりわかみこそとふひならねともえわたりけれ
藤原兼家恋四
4-後拾825いつとなく心空なる我が恋や富士のたかねにかかる白雲
いつとなくこころそらなるわかこひやふしのたかねにかかるしらくも
相模恋四
4-後拾826うしとても更に思ひぞかへされぬ恋はうらなきものにぞありける
うしとてもさらにおもひそかへされぬこひはうらなきものにそありける
藤原頼宗恋四
4-後拾827松嶋や雄島の磯にあさりせしあまの袖こそかくは濡れしか
まつしまやをしまのいそにあさりせしあまのそてこそかくはぬれしか
源重之恋四
4-後拾828かぎりぞと思ふにつきぬ涙かなおさふる袖も朽ちにばかりに
かきりそとおもふにつきぬなみたかなおさふるそてもくちぬはかりに
盛少将恋四
4-後拾829かきくらし雲間もみえぬ五月雨はたえず物思ふ我が身なりけり
かきくらしくもまもみえぬさみたれはたえすものおもふわかみなりけり
藤原長能恋四
4-後拾830涙こそあふみの海となりにけれ見るめなしてふながめせしまに
なみたこそあふみのうみとなりにけれみるめなしてふなかめせしまに
相模恋四
4-後拾831白露も夢もこの世もまぼろしもたとへていはば久しかりけり
しらつゆもゆめもこのよもまほろしもたとへていへはひさしかりけり
和泉式部恋四
4-後拾832年ふればあれのみまさる宿のうちに心ながくもすめる月かな
としふれはあれのみまさるやとのうちにこころなかくもすめるつきかな
善滋為政雑一
4-後拾833月影のいるを惜しむもくるしきに西には山のなからましかば
つきかけのいるををしむもくるしきににしにはやまのなからましかは
宇治忠信女雑一
4-後拾834われひとりながむとおもひし山里に思ふことなき月もすみけり
われひとりなかむとおもひしやまさとにおもふことなきつきもすみけり
藤原為時雑一
4-後拾835みなれさをとらでぞくだす高瀬舟月の光のさすにまかせて
みなれさをとらてそくたすたかせふねつきのひかりのさすにまかせて
源師賢雑一
4-後拾836月影のかたぶくままに池水をにしへながると思ひけるかな
つきかけのかたふくままにいけみつをにしへなかるとおもひけるかな
良暹法師雑一
4-後拾837月影は山のはいづるよひよりも更け行く空ぞてりまさりける
つきかけはやまのはいつるよひよりもふけゆくそらそてりまさりける
藤原長房雑一
4-後拾838しきたへのまくらの塵やつもるらむ月のさかりはいこそねられね
しきたへのまくらのちりやつもるらむつきのさかりはいこそねられね
源頼家雑一
4-後拾839池水はあまの川にやかよふらむ空なる月のそこにみゆるは
いけみつはあまのかはにやかよふらむそらなるつきのそこにみゆるは
懐圓法師雑一
4-後拾840いづかたへ行くとも月のみえぬかなたなびく雲の空になければ
いつかたへゆくともつきのみえぬかなたなひくくものそらになけれは
永胤法師雑一
4-後拾841いつよりも曇りなきよの月なればみる人さへに入りがたきかな
いつよりもくもりなきよのつきなれはみるひとさへにいりかたきかな
江侍従雑一
4-後拾842山のはのかからましかば池水に入れども月はかくれざりけり
やまのはのかからましかはいけみつにいれともつきはかくれさりけり
藤原頼宗雑一
4-後拾843やどごとにかはらぬものは山のはの月まつほどのこころなりけり
やとことにかはらぬものはやまのはのつきまつほとのこころなりけり
加賀左衛門雑一
4-後拾844我ひとり眺めてのみやあかさまし今宵の月のおぼろなりせば
われひとりなかめてのみやあかさましこよひのつきのおほろなりせは
永源法師雑一
4-後拾845岩間よりながるる水ははやけれどうつれる月の影ぞのどけき
いはまよりなかるるみつははやけれとうつれるつきのかけそのとけき
後冷泉院雑一
4-後拾846板間あらみあれたる宿の寂しきは心にもあらぬ月をみるかな
いたまあらみあれたるやとのさひしきはこころにもあらぬつきをみるかな
弾正尹清仁親王雑一
4-後拾847雨ふれば閨の板間もふきつらむもりくる月はうれしかりしを
あめふれはねやのいたまもふきつらむもりくるつきはうれしかりしを
藤原定頼雑一
4-後拾848月みてはたれもこころぞなぐさまぬ姨捨山のふもとならねど
つきみてはたれもこころそなくさまぬをはすてやまのふもとならねと
藤原範永雑一
4-後拾849かくばかり隈なき月をおなじくは心のはれて見るよしもがな
かくはかりくまなきつきをおなしくはこころもはれてみるよしもかな
賀茂成助雑一
4-後拾850すみなるる都の月のさやけきになにか鞍馬の山は恋しき
すみなるるみやこのつきのさやけきになにかくらまのやまはこひしき
齋院中務雑一
4-後拾851もろともに山のは出でし月なれば都ながらも忘れやはする
もろともにやまのはいてしつきなれはみやこなからもわすれやはする
齋院中将雑一
4-後拾852天の原月はかはらぬ空ながらありしむかしの世をやこふらむ
あまのはらつきはかはらぬそらなからありしむかしのよをやこふらむ
清原元輔雑一
4-後拾853いつとても変らぬ秋の月みればただいにしへの空ぞ恋しき
いつとてもかはらぬあきのつきみれはたたいにしへのそらそこひしき
藤原實綱雑一
4-後拾854つねよりもさやけき秋の月をみてあはれ恋しき雲のうへかな
つねよりもさやけきあきのつきをみてあはれこひしきくものうへかな
源師光雑一
4-後拾855もろともに眺めし人も我もなき宿にはひとり月やすむらむ
もろともになかめしひともわれもなきやとにはつきやひとりすむらむ
藤原長家雑一
4-後拾856月みれば山のはたかくなりにけりいでばといひし人にみせばや
つきみれはやまのはたかくなりにけりいてはといひしひとにみせはや
江侍従雑一
4-後拾857山のはに入りぬる月のわれならば憂き世の中にまたはいでじを
やまのはにいりぬるつきのわれならはうきよのなかにまたはいてしを
源為善雑一
4-後拾858むかし見し月の影にもにたるかな我とともにや山をいでけむ
むかしみしつきのかけにもにたるかなわれとともにややまをいてけむ
聖梵法師雑一
4-後拾859いりぬとて人のいそぎし月影は出でての後も久しくぞみし
いりぬとてひとのいそきしつきかけはいててののちもひさしくそみし
赤染衛門雑一
4-後拾860心にもあらでうき世にながらへば恋しかるべき夜半の月かな
こころにもあらてうきよになからへはこひしかるへきよはのつきかな
三條院雑一
4-後拾861いまはただ雲ゐの月をながめつつめぐりあふべき程もしられず
いまはたたくもゐのつきをなかめつつめくりあふへきほともしられす
陽明門院雑一
4-後拾862なほざりの空だのめせで哀れにもまつにかならずいづる月かな
なほさりのそらたのめせてあはれにもまつにかならすいつるつきかな
小弁雑一
4-後拾863頼めずば待たでぬる夜ぞかさねましたれゆゑか見る有明の月
たのめすはまたてぬるよそかさねましたれゆゑかみるありあけのつき
小式部内侍雑一
4-後拾864たれとてかあれたる宿といひながら月よりほかの人をいるべき
たれとてかあれたるやとといひなからつきよりほかのひとをいるへき
読人知らず雑一
4-後拾865よしさらばまたれぬ身をばおきながら月みぬ君は名こそをしけれ
よしさらはまたれぬみをはおきなからつきみぬきみかなこそをしけれ
藤原隆方雑一
4-後拾866ながむれば月かたぶきぬ哀れわがこの世のほどもかばかりぞかし
なかむれはつきかたふきぬあはれわかこのよのほともかはかりそかし
僧正深覚雑一
4-後拾867山のはに隠れな果てそ秋の月このよをだにも闇にまどはじ
やまのはにかくれなはてそあきのつきこのよをたにもやみにまとはし
藤原範永雑一
4-後拾868もろともにおなじうき世にすむ月のうらやましくも西へ行くかな
もろともにおなしうきよにすむつきのうらやましくもにしへゆくかな
中原長國妻雑一
4-後拾869いかがせむ山のはにだにとどまらで心の空にいづる月をば
いかかせむやまのはにたにととまらてこころのそらにいつるつきをは
藤原道綱母雑一
4-後拾870曇る夜の月とわが身の行く末とおばつかなさはいづれまされり
くもるよのつきとわかみのゆくすゑとおほつかなさはいつれまされり
藤原道綱母雑一
4-後拾871隠れ沼に生ふる菖蒲のうきねして果はつれなくなる心かな
かくれぬにおふるあやめのうきねしてはてはつれなくなるこころかな
斎宮女御雑一
4-後拾872川かみやあらふの池のうきぬなはうきことあれやくる人もなし
かはかみやあちふのいけのうきぬなはうきことあれやくるひともなし
曾禰好忠雑一
4-後拾873あらはれて恨みやせまし隠れ沼の汀によせし浪のこころを
あらはれてうらみやせましかくれぬのみきはによせしなみのこころを
小式部内侍雑一
4-後拾874岸とほみただよふ浪はなかぞらによる方もなきなげきをぞせし
きしとほみたたよふなみはなかそらによるかたもなきなけきをそせし
小弁雑一
4-後拾875ひきすつる岩かきぬまのあやめ草思ひしらずもけふにあふかな
ひきすつるいはかきぬまのあやめくさおもひしらすもけふにあふかな
小弁雑一
4-後拾876ゆかばこそあはずもあらめ帚木のありとばかりはおとづれよかし
ゆかはこそあはてもあらめははききのありとはかりはおとつれよかし
馬内侍雑一
4-後拾877おもひいでてとふ言の葉をたれみましつらきに堪へぬ命なりせば
おもひいててとふことのはをたれみましつらきにたへぬいのちなりせは
読人知らず雑一
4-後拾878山里をたづねてとふと思ひしはつらき心をみするなりけり
やまさとをたつねてとふとおもひしはつらきこころをみするなりけり
中務典侍雑一
4-後拾879夢のごとおぼめかれゆく世の中にいつとはむとかおとづれもせぬ
ゆめのことおほめかれゆくよのなかにいつとはむとかおとつれもせぬ
斎宮女御雑一
4-後拾880ふみみてもものおもふ身とぞなりにける眞野の継橋とだえのみして
ふみみてもものおもふみとそなりにけるまののつきはしとたえのみして
相模雑一
4-後拾881野飼はねどあれゆく駒をいかがせむ森の下草さかりならねば
のかはねとあれゆくこまをいかかせむもりのしたくささかりならねは
相模雑一
4-後拾882いたづらに身はなりぬともつらからぬ人ゆゑとだに思はましかば
いたつらにみはなりぬともつらからぬひとゆゑとたにおもはましかは
読人知らず雑一
4-後拾883あるが上に又ぬぎかくる唐衣いかがみさをもつくりあふべき
あるかうへにまたぬきかくるからころもいかかみさをもつくりあふへき
大江匡衡雑一
4-後拾884わりなしや心にかなふ涙だに身のうき時はとまりやはする
わりなしやこころにかなふなみたたにみのうきときはとまりやはする
源雅通女雑一
4-後拾885わするなよわするときかばみ熊野の浦の浜木綿恨みかさねむ
わするなよわするときかはみくまののうらのはまゆふうらみかさねむ
道命法師雑一
4-後拾886忘れじといひつる中は忘れけり忘れむとこそいふべかりけれ
わすれしといひつるなかはわすれけりわすれむとこそいふへかりけれ
道命法師雑一
4-後拾887ものいはで人の心をみるほどにやがてとはれでやみぬべきかな
ものいはてひとのこころをみるからにやかてとはれてやみぬへきかな
道命法師雑一
4-後拾888天の河おなじながれとききながらわたらむことのなほぞ悲しき
あまのかはおなしなかれとききなからわたらむことのなほそかなしき
周防内侍雑一
4-後拾889この頃の夜半のねざめは思ひやるいかなる鴛鴦か霜はらふらむ
このころのよはのねさめはおもひやるいかなるをしかしもははらはむ
小大君雑一
4-後拾890おもひきや秋の夜風の寒けきにいもなき床にひとりねむとは
おもひきやあきのよかせのさむけきにいもなきとこにひとりねむとは
清原元輔雑一
4-後拾891いかなれば花のにほひもかはらぬを過ぎにし春の恋しかるらむ
いかなれやはなのにほひもかはらぬをすきにしはるのこひしかるらむ
具平親王雑一
4-後拾892すみぞめにあけの衣をかさねきて涙のいろのふたへなるかな
すみそめにあけのころもをかさねきてなみたのいろのふたへなるかな
祭主輔親雑一
4-後拾893浅茅原あれたるやどはむかし見し人をしのぶのわたりなりけり
あさちはらあれたるやとはむかしみしひとをしのふのわたりなりけり
能因法師雑一
4-後拾894なき人はおとづれもせで琴の緒をたちし月日ぞかへり来にける
なきひとはおとつれもせてことのををたちしつきひそかへりきにける
藤原道綱母雑一
4-後拾895しぐるれどかひなかりけり埋もれ木は色づく方ぞ人もとひける
しくるれとかひなかりけりうもれきはいろつくかたそひともとひける
源経隆雑一
4-後拾896人しれずおつる涙の音をせば夜半の時雨におとらざらまし
ひとしれすおつるなみたのおとをせはよはのしくれにおとらさらまし
少将井尼雑一
4-後拾897こぞのけふ別れし星も逢ひぬめりなどたぐひなきわが身なるらむ
こそのけふわかれしほしもあひぬめりなとたくひなきわかみなるらむ
後朱雀院雑一
4-後拾898はかなさによそへてみれば桜花をりしらぬにやならむとすらむ
はかなさによそへてみれとさくらはなをりしらぬにやならむとすらむ
小左近雑一
4-後拾899形見ぞと思はで花を見しだにも風をいとはぬ春はなかりき
かたみそとおもはてはなをみしにたにかせをいとはぬはるはなかりき
辨乳母雑一
4-後拾900かずならぬ身のうきことは世の中になきうちにだにいらぬなりけり
かすならぬみのうきことはよのなかになきうちにたにいらぬなりけり
小辨雑一
4-後拾901かれはつる浅茅がうへの霜よりもけぬべき程を今かとぞ待つ
かれはつるあさちかうへのしもよりもけぬへきほとをいまかとそまつ
斎宮女御雑一
4-後拾902いにしへをこふる寝覚めやまさるらむききもならはぬ峰の嵐に
いにしへをこふるねさめやまさるらむききもならはぬみねのあらしに
藤原範永雑一
4-後拾903かしは木の杜の下草くれごとに猶たのめとやもるをみるみる
かしはきのもりのしたくさくれことになほたのめとやもるをみるみる
藤原道綱母雑二
4-後拾904まつ程のすぎのみゆけば大井川たのむる暮もいかがとぞ思ふ
まつほとのすきのみゆけはおほゐかはたのむるくれをいかかとそおもふ
馬内侍雑二
4-後拾905浅き瀬をこす筏士の綱よわみ猶この暮もあやうかりけり
あさきせをこすいかたしのつなよわみなほこのくれもあやふかりけり
読人知らず雑二
4-後拾906ひとりぬる人やしるらむ秋の夜を長しとたれか君に告げつる
ひとりぬるひとやしるらむあきのよをなかしとたれかきみにつけつる
高内侍雑二
4-後拾907春霞たちいでむこともおもほえず浅みどりなる空のけしきに
はるかすみたちいてむこともおもほえすあさみとりなるそらのけしきに
新左衛門雑二
4-後拾908その色の草ともみえずかれにしをいかにいひてかけふはかくべき
そのいろのくさともみえすかれにしをいかにいひてかけふはかくへき
小馬命婦雑二
4-後拾909ふしにけりさしも思はば笛竹のおとをぞせまし夜更けたりとも
ふしにけりさしもおもはてふえたけのおとをそせましよふけたりとも
和泉式部雑二
4-後拾910やすらはでたつにたてうき真木の戸をさしも思はぬ人もありけり
やすらはてたつにたてうきまきのとをさしもおもはぬひともありけり
和泉式部雑二
4-後拾911人しらでねたさもねたしむらさきのねずりの衣うはぎにもせむ
ひとしらてねたさもねたしむらさきのねすりのころもうはきにをきむ
藤原頼宗雑二
4-後拾912ぬれぎぬと人にはいはむ紫のねずりの衣うはぎなりとも
ぬれきぬとひとにはいはむむらさきのねすりのころもうはきなりとも
和泉式部雑二
4-後拾913秋霧はたち隠せども萩原に鹿ふしけりと今朝みつるかな
あききりはたちかくせともはきはらにしかふしけりとけさみつるかな
兵衛内侍雑二
4-後拾914朝な朝なおきつつみれば白菊の霜にぞいたくうつろひにける
あさなあさなおきつつみれはしらきくのしもにそいたくうつろひにける
左兵衛督公信雑二
4-後拾915逢坂の関に心はかよはねど見し東路は猶ぞこひしき
あふさかのせきにこころはかよはねとみしあつまちはなほそこひしき
相模雑二
4-後拾916ねぬ縄のねぬ名のいたく立ちぬればなほ大澤のいけらしやよに
ねぬなはのねぬなのおほくたちぬれはなほおほさはのいけらしやよに
読人知らず雑二
4-後拾917すむ人のかれ行くやどは時わかず草木も秋の色にぞありける
すむひとのかれゆくやとはときわかすくさきもあきのいろにそありける
藤原兼平母雑二
4-後拾918あかつきの鐘のこゑこそきこゆなれこれを入あひと思はましかば
あかつきのかねのこゑこそきこゆなれこれをいりあひとおもはましかは
小一條院雑二
4-後拾919いづくにかきても隠れむ隔てつる心の隈のあらばこそあらめ
いつくにかきてもかくれむへたてたるこころのくまのあらはこそあらめ
和泉式部雑二
4-後拾920やすらひにまきの戸こそはささざらめいかに明けぬる冬の夜ならむ
やすらひにまきのとこそはさささらめいかにあけつるふゆのよならむ
和泉式部雑二
4-後拾921青柳のいとになき名ぞたちにけるよるくる人は我ならねども
あをやきのいとになきなそたちにけるよるくるひとはわれならねとも
藤原顕綱雑二
4-後拾922まだ咲かぬまがきの菊もあるものをいかなる宿にうつろひぬらむ
またさかぬまかきのきくもあるものをいかなるやとにうつろひにけむ
後三條院雑二
4-後拾923たまくしげ身はよそよそになりぬともふたり契りしことな忘れそ
たまくしけみはよそよそになりぬともふたりちきりしことなわすれそ
馬内侍雑二
4-後拾924いづかたに行くとばかりはつげてましとふべき人のある身と思はば
いつかたへゆくとはかりはつけてましとふへきひとのあるみとおもはは
和泉式部雑二
4-後拾925かくばかり忍ぶる雨を人とはばなににぬれたる袖といふらむ
かはかりにしのふるあめをひととははなににぬれたるそてといふらむ
和泉式部雑二
4-後拾926空になる人の心はささがにのいかにけふ又かくてくらさむ
そらになるひとのこころにささかにのいかにけふまたかくてくらさむ
和泉式部雑二
4-後拾927三笠山さしはなれぬとききしかど雨もよにとは思ひしものを
みかさやまさしはなれぬといひしかとあめもよにとはおもひしものを
和泉式部雑二
4-後拾928歎かじなつひにすまじき別れかはこはある世にと思ふばかりを
なけかしなつひにすましきわかれかはこれはあるよにとおもふはかりそ
読人知らず雑二
4-後拾929いにしへのきならし衣いまさらにそのものごしのとけずしもあらじ
いにしへのきならしころもいまさらにそのものこしのとけすしもあらし
藤原定頼雑二
4-後拾930まことにや空になき名のふりぬらむあまてる神のくもりなきよに
まことにやそらになきなのふりぬらむあまてるかみのくもりなきよに
相模雑二
4-後拾931こりぬらむ仇なる人に忘られてわれならはさむ思ふためしは
こりぬらむあたなるひとにわすられてわれならはさむおもふためしは
藤原長能雑二
4-後拾932春雨のふるめかしくもつぐるかなはや柏木のもりにしものを
はるさめのふるめかしくもつくるかなはやかしはきのもりにしものを
馬内侍雑二
4-後拾933いにしへの常世の國やかはりにしもろこしばかり遠くみゆるは
いにしへのとこよのくにやかはりにしもろこしはかりとほくみゆるは
清原元輔雑二
4-後拾934わたの原たつ白浪のいかなれば名残ひさしく見ゆるなるらむ
わたのはらたつしらなみのいかなれはなこりひさしくみゆるなるらむ
右兵衛督朝任雑二
4-後拾935風はただ思はぬかたに吹きしかどわたの原たつ浪はなかりき
かせはたたおもはぬかたにふきしかとわたのはらたつなみもなかりき
赤染衛門雑二
4-後拾936人しれず心ながくや時雨るらむ更けゆく秋の夜半の寝覚めに
ひとしれすこころなからやしくるらむふけゆくあきのよはのねさめに
相模雑二
4-後拾937逢坂の関のあなたもまだみねば東のこともしられざりけり
あふさかのせきのあなたもまたみねはあつまのこともしられさりけり
大江匡衡雑二
4-後拾938かきくもれ時雨るとならば神無月こころそらなる人やとまると
かきくもれしくるとならはかみなつきけしきそらなるひとやとまると
馬内侍雑二
4-後拾939夜をこめて鳥の空音ははかるともよに逢坂の関はゆるさじ
よをこめてとりのそらねにはかるともよにあふさかのせきはゆるさし
清少納言雑二
4-後拾940ふるさとの三輪の山辺を尋ぬれど杉まの月の影だにもなし
ふるさとのみわのやまへをたつぬれとすきまのつきのかけたにもなし
素意法師雑二
4-後拾941東路のそのはらからはきたりとも逢坂まではこさじとぞおもふ
あつまちのそのはらからはきたりともあふさかまてはこさしとそおもふ
相模雑二
4-後拾942ちらさじと思ふあまりに桜花ことのはをさへ惜しみつるかな
ちらさしとおもふあまりにさくらはなことのはをさへをしみつるかな
兵衛姫君雑二
4-後拾943さらでだに岩間の水はもるものを氷とけなば名こそながれめ
さらてたにいはまのみつはもるものをこほりとけなはなこそなかれめ
下野雑二
4-後拾944祈りけむ事は夢にて限りてよさても逢ふてふ名こそ惜しけれ
いのりけむことはゆめにてかきりてよさてもあふてふなこそをしけれ
四條宰相雑二
4-後拾945近きだにきかぬ禊をなにかそのから神まではとほくいのらむ
ちかきたにきかぬみそきをなにかそのからかみまてはとほくいのらむ
少将内侍雑二
4-後拾946忘るるも苦しくもあらずねぬなはのねたくと思ふ事しなければ
わするるもくるしくもあらすねぬなはのねたくもとおもふことしなけれは
伊賀少将雑二
4-後拾947ならされぬみそののうりとしりながらよひあかつきとたつぞ露けき
ならされぬみそののうりとしりなからよひあかつきとたつそつゆけき
藤原義孝雑二
4-後拾948おひたつをまつと頼めしかひもなく浪こすべしときくはまことか
おひたつをまつとたのめしかひもなくなみこすへしときくはまことか
藤原朝光雑二
4-後拾949いつしかとまちしかひなく秋風にそよとばかりもをぎの音せぬ
いつしかとまちしかひなくあきかせにそよとはかりもをきのおとせぬ
源道済雑二
4-後拾950君はまだしらざりけりな秋の夜のこのまの月ははつかにぞみる
きみはまたしらさりけりなあきのよのこのまのつきははつかにそみる
和泉式部雑二
4-後拾951さもこそは心くらべにまけざらめ早くもみえし駒のあしかな
さもこそはこころくらへにまけさらめはやくもみえしこまのあしかな
相模雑二
4-後拾952おのづからわが忘るるになりにけり人の心をこころ見しまに
おのつからわかわするるになりにけりひとのこころをこころみしまに
中原長國雑二
4-後拾953恨みずばいかでか人にとはれましうきもうれしきものにぞありける
うらみすはいかてかひとにとはれましうきもうれしきものにそありける
律師朝範雑二
4-後拾954綱たえてはなれはてにしみちのくのをぶちの駒をきのふみしかな
つなたえてはなれはてにしみちのくのをふちのこまをきのふみしかな
相模雑二
4-後拾955言の葉につけてもなどかとはざらむ蓬の宿もわかぬあらしを
ことのはにつけてもなとかとはさらむよもきのやともわかぬあらしを
相模雑二
4-後拾956八重ぶきのひまだにあらば蘆のやにおとせぬ風はあらじとをしれ
やへふきのひまたにあらはあしのやにおとせぬかせはあらしとをしれ
藤原定頼雑二
4-後拾957わりなしや身はここのへのうちながらとへとは人の恨むべしやは
わりなしやみはここのへのうちなからとへとはひとのうらむへしやは
藤原実方雑二
4-後拾958しばしこそ思ひもいでめ津の國のながらへゆかば今わすれなむ
しはしこそおもひもいてめつのくにのなからへゆかはいまわすれなむ
中宮内侍雑二
4-後拾959これもさはあしかりけりな津の國のこやことづくるはじめなるらむ
これもさはあしかりけりやつのくにのこやことつくるはしめなるらむ
上總大輔雑二
4-後拾960心えつあまのたくなはうちはへてくるをくるしと思ふなるべし
こころえつあまのたくなはうちはへてくるをくるしとおもふなるへし
土御門御くしげどの雑二
4-後拾961かずならぬ人をのがひの心にはうしともものをおもはざらなむ
かすならぬひとをのかひのこころにはうしともものをおもはさらなむ
祭主輔親雑二
4-後拾962磯なるる人はあまたに聞こゆるを誰がなのりそをかりて答へむ
いそなるるひとはあまたにきこゆるをたかなのりそをかりてこたへむ
大貮成章雑二
4-後拾963とへとしも思はぬ八重の山吹をゆるすといはばをりにこむとや
とへとしもおもはぬやへのやまふきをゆるすといははをりにこむとや
和泉式部雑二
4-後拾964あぢきなく思ひこそやれつれづれとひとりやゐでの山吹の花
あちきなくおもひこそやれつれつれとひとりやゐてのやまふきのはな
和泉式部雑二
4-後拾965ねぬ縄の苦しきほどのたえまかとたゆるをしらで思ひけるかな
ねぬなはのくるしきほとのたえまかとたゆるをしらておもひけるかな
少将内侍雑二
4-後拾966行く末を流れてなににたのみけむ絶えけるものを中河の水
ゆくすゑをなかれてなににたのみけむたえけるものをなかかはのみつ
式部命婦雑二
4-後拾967長しとて明けずやはあらむ秋の夜はまてかし真木のとばかりをだに
なかしとてあけすやはあらむあきのよはまてかしまきのとはかりをたに
和泉式部雑二
4-後拾968天の原はるかに渡る月だにもいづるは人にしらせこそすれ
あまのはらはるかにわたるつきたにもいつるはひとにしらせこそすれ
藤原道信雑二
4-後拾969うきこともまだ白雲の山のはにかかるやつらきこころなるらむ
うきこともまたしらくものやまのはにかかるやつらきこころなるらむ
藤原元真雑二
4-後拾970ふく風になびく浅茅は我なれや人のこころのあきをしらする
かせふくになひくあさちはわれなれやひとのこころのあきをしらする
斎宮女御雑二
4-後拾971たれかまた年へぬる身をふりすてて吉備の中山こえむとすらむ
たれかまたとしへぬるみをふりすててきひのなかやまこえむとすらむ
清原元輔雑三
4-後拾972春ごとにわすられにける埋もれ木は花の都をおもひこそやれ
はることにわすられにけるうもれきははなのみやこをおもひこそやれ
源重之雑三
4-後拾973河舟にのりて心の行くときはしづめる身ともおもほえぬかな
かはふねにのりてこころのゆくときはしつめるみともおもほえぬかな
大江匡衡雑三
4-後拾974よのなかをきくにたもとのぬるるかな涙はよそのものにぞありける
よのなかをきくにたもとのぬるるかななみたはよそのものにそありける
大江為基雑三
4-後拾975いたづらになりぬる人のまたもあらばいひあはせてぞねをばなかまし
いたつらになりぬるひとのまたもあらはいひあはせてそねをはなかまし
藤原國行雑三
4-後拾976みちのくのあだちのま弓ひくやとて君にわが身をまかせつるかな
みちのくのあたちのまゆみひくやとてきみにわかみをまかせつるかな
源重之雑三
4-後拾977雲の上にひかりかくれしゆふべより幾夜といふに月を見つらむ
くものうへにひかりかくれしゆふへよりいくよといふにつきをみるらむ
天台座主明快雑三
4-後拾978かぎりあればあまの羽衣ぬぎかへておりぞわづらふ雲のかけはし
かきりあれはあまのはころもぬきかへておりそわつらふくものかけはし
源経任雑三
4-後拾979うれしといふことはなべてになりぬればいはで思ふに程ぞへにける
うれしといふことはなへてになりぬれはいはておもふにほとそへにける
周防内侍雑三
4-後拾980澤水におりゐるたづはとしふともなれし雲井ぞこひしかるべき
さはみつにおりゐるたつはとしふともなれしくもゐそこひしかるへき
橘為伸雑三
4-後拾981思ひきや衣の色はみどりにてみよまで竹をかざすべしとは
おもひきやころものいろをみとりにてみよまてたけをかさすへしとは
橘俊宗雑三
4-後拾982おしなべてさく白菊はやへやへの花の霜とぞみえわたりける
おしなへてさくしらきくはやへやへのはなのしもとそみえわたりける
藤原公任雑三
4-後拾983まつことのあるとや人の思ふらむ心にもあらでながらふる身を
まつことのあるとやひとのおもふらむこころにもあらてなからふるみを
藤原兼綱雑三
4-後拾984君をだにうかべてしがな涙川しづむなかにもふちせありやと
きみをたにうかへてしかななみたかはしつむなかにもふちせありやと
藤原元真雑三
4-後拾985我のみと思ひしかども高砂のをのへの松もまだたてりけり
われのみとおもひこしかとたかさこのをのへのまつもまたたてりけり
藤原義定雑三
4-後拾986世の中を今はかぎりと思ふには君こひしくやならむとすらむ
よのなかをいまはかきりとおもふにはきみこひしくやならむとすらむ
平兼盛雑三
4-後拾987もみぢするかつらの中に住吉の松のみひとりみどりなるかな
もみちするかつらのなかにすみよしのまつのみひとりみとりなるかな
津守國基雑三
4-後拾988われ舟のしづみぬる身の悲しきは渚によする浪さへぞなき
われふねのしつみぬるみのかなしきはなきさによするなみさへそなき
藤原基長雑三
4-後拾989たづねつる雪のあしたのはなれ駒きみばかりこそ跡をしるらめ
たつねつるゆきのあしたのはなれこまきみはかりこそあとをしるらめ
源兼俊母雑三
4-後拾990雲居までたちのぼるべき煙かと見えし思ひのほかにもあるかな
くもゐまてたちのほるへきけふりかとみしはおもひのほかにもあるかな
堀河女御雑三
4-後拾991松風は色やみどりにふきつらむもの思ふ人の身にぞしみぬる
まつかせはいろやみとりにふきつらむものおもふひとのみにそしみける
堀河女御雑三
4-後拾992世の中を思ひ乱れてつくづくと眺むる宿に松風ぞ吹く
よのなかをおもひみたれてつくつくとなかむるやとにまつかせそふく
源道済雑三
4-後拾993心には月見むとしも思はねどうきには空ぞながめられける
こころにはつきみむとしもおもはねとうきにはそらそなかめられける
藤原為任雑三
4-後拾994世の中のうきにおひたるあやめ草けふは袂にねぞかかりける
よのなかのうきにおひたるあやめくさけふはたもとにねそかかりける
藤原隆家雑三
4-後拾995けふとてもあやめしられぬ袂にはひきたがへたるねをやかくらむ
けふまてもあやめしられぬたもとにはひきたかへたるねをやかくらむ
小弁雑三
4-後拾996五月闇ここひのもりのほととぎす人しれずのみなきゐたるかな
さつきやみここひのもりのほとときすひとしれすのみなきわたるかな
藤原兼房雑三
4-後拾997ほととぎすここひの森に啼く聲はきくよぞ人の袖もぬれけり
ほとときすここひのもりになくこゑはきくよそひとのそてもぬれけり
大弐三位雑三
4-後拾998すめらぎもあらひとかみもなごむまでなきけるもりのほととぎすかな
すめらきもあらひとかみもなこむまてなきけるもりのほとときすかな
素意法師雑三
4-後拾999ことわりやいかでか鹿のなかざらむこよひばかりの命とおもへば
ことわりやいかてかしかのなかさらむこよひはかりのいのちとおもへは
和泉式部雑三
4-後拾1000松風も岸うつ浪ももろともにむかしにあらぬ聲のするかな
まつかせもきしうつなみももろともにむかしにあらぬおとのするかな
恵慶法師雑三
4-後拾1001しぬばかり歎きにこそは歎きしか生きてとふべき身にしあらねば
しぬはかりなけきにこそはなけきしかいきてとふへきみにしあらねは
小式部内侍雑三
4-後拾1002大空に風まつほどのくものいの心ぼそさを思ひやらなむ
おほそらにかせまつほとのくものいのこころほそさをおもひやらなむ
斎宮女御雑三
4-後拾1003思ひやるわが衣手はささがにのくもらぬ空に雨のみぞふる
おもひやるわかころもてはささかにのくもらぬそらにあめのみそふる
東三條院雑三
4-後拾1004なきかずにおもひなしてやとはざらむまだ有明の月まつものを
なきかすにおもひなしてやとはさらむまたありあけのつきまつものを
伊勢大輔雑三
4-後拾1005ちるをこそあはれとみしか梅の花はなや今年は人をしのばむ
ちるをこそあはれとみしかうめのはなはなやことしはひとをしのはむ
小大君雑三
4-後拾1006とへかしな幾夜もあらじ露の身をしばしも言のはにやかかると
とへかしないくよもあらしつゆのみをしはしもことのはにやかかると
読人知らず雑三
4-後拾1007ものをのみ思ひしほどにはかなくて浅茅が末によはなりにけり
ものをのみおもひしほとにはかなくてあさちかすゑによはなりにけり
和泉式部雑三
4-後拾1008しのぶべき人もなき身はあるをりにあはれあはれといひやおかまし
しのふへきひともなきみはあるをりにあはれあはれといひやおかまし
和泉式部雑三
4-後拾1009いかなれば同じ色にておつれども涙はめにもとまらざるらむ
いかなれはおなしいろにておつれともなみたはめにもとまらさるらむ
和泉式部雑三
4-後拾1010常よりもはかなきころの夕暮れになくなる人ぞかぞへられける
つねよりもはかなきころのゆふくれはなくなるひとそかそへられける
藤原頼宗雑三
4-後拾1011草の葉におかぬばかりの露の身はいつその數にいらむとすらむ
くさのはにおかぬはかりのつゆのみはいつそのかすにいらむとすらむ
藤原定頼雑三
4-後拾1012消えもあへずはかなきほどの露ばかりありやなしやと人のとへかし
きえもあへすはかなきころのつゆはかりありやなしやとひとのとへかし
赤染衛門雑三
4-後拾1013世の中をなににたとへむ秋の田をほのかにてらすよひのいなづま
よのなかをなににたとへむあきのたをほのかにてらすよひのいなつま
源順雑三
4-後拾1014明けぬなり賀茂の河瀬に千鳥鳴くけふもはかなく暮れむとすらむ
あけぬなりかものかはせにちとりなくけふもはかなくくれむとすらむ
圓松法師雑三
4-後拾1015恋しくば夢にも人をみるべきに窓うつ雨にめをさましつつ
こひしくはゆめにもひとをみるへきをまとうつあめにめをさましつつ
大貮高遠雑三
4-後拾1016なげきこしみちの露にもまさりけりなれにし里をこふる涙は
なけきこしみちのつゆにもまさりけりなれにしさとをこふるなみたは
赤染衛門雑三
4-後拾1017思ひきや古き都をたちはなれ胡の國人にならむものとは
おもひきやふるきみやこをたちはなれこのくにひとにならむものとは
僧都懐壽雑三
4-後拾1018みる度に鏡の影のつらきかなかからざりせばかからましやは
みるからにかかみのかけのつらきかなかからさりせはかからましやは
懐圓法師雑三
4-後拾1019いにしへはつらくきこえし鳥のねのうれしきさへぞものは悲しき
いにしへはつらくきこえしとりのねのうれしきさへそものはかなしき
ゐでのあま雑三
4-後拾1020ともすれば四方の山辺にあくがれし心に身をもまかせつるかな
ともすれはよものやまへにあくかれしこころにみをもまかせつるかな
増基法師雑三
4-後拾1021しかすがにかなしきものは世の中をうきたつほどの心なりけり
しかすかにかなしきものはよのなかをうきたつほとのこころなりけり
馬内侍雑三
4-後拾1022なにかその身のいろにしもたけからむ心を深き山にすませよ
なにかそのみのいるにしもたけからむこころをふかきやまにすませよ
藤原長能雑三
4-後拾1023まことにや同じ道には入りにけるひとりは西へゆかじと思ふに
まことにやおなしみちにはいりにけるひとりはにしへゆかしとおもふに
律師長濟雑三
4-後拾1024いかでかく花の袂をたちかへてうらなる玉をわすれざりけむ
いかてかくはなのたもとをたちかへてうらなるたまをわすれさりけむ
加賀左衛門雑三
4-後拾1025かけてだに衣のうらに玉ありとしらで過ぎけむ方ぞくやしき
かけてたにころものうらにたまありとしらてすきけむかたそくやしき
中宮内侍雑三
4-後拾1026きみすらもまことの道に入りぬなりひとりや長きやみにまどはむ
きみすらもまことのみちにいりぬなりひとりやなかきやみにまとはむ
選子内親王雑三
4-後拾1027けふとしも思ひやはせし麻衣なみだの玉のかかるべしとは
けふとしもおもひやはせしあさころもなみたのたまのかかるへしとは
読人知らず雑三
4-後拾1028思ふにもいふにもあまる事なれや衣の玉のあらはるる日は
おもふにもいふにもあまることなれやころものたまのあらはるるひは
伊勢大輔雑三
4-後拾1029世を捨てて宿を出でにし身なれどもなほ恋しきは昔なりけり
よをすててやとをいてにしみなれともなほこひしきはむかしなりけり
源顕基雑三
4-後拾1030ときのまも恋しきことの慰まば世はふたたびもそむかざらまし
ときのまもこひしきことのなくさまはよはふたたひもそむかさらまし
上東門院雑三
4-後拾1031思ひしる人もありける世の中をいつをいつとてすぐすなるらむ
おもひしるひともありけるよのなかをいつをいつとてすくすなるらむ
藤原公任雑三
4-後拾1032君に人なれなならひそ奥山に入りての後はわびしかりけり
きみにひとなれなならひそおくやまにいりてののちはわひしかりけり
藤原統理雑三
4-後拾1033忘られず思ひいでつつ山人をしかぞこひしくわれも眺むる
わすられすおもひいてつつやまひとをしかそこひしくわれもなかむる
御三条院雑三
4-後拾1034見し人もわすれのみ行くふるさとに心ながくもきたる春かな
みしひともわすれのみゆくふるさとにこころなかくもきたるはるかな
藤原義懐雑三
4-後拾1035谷風になれずといかが思ふらむ心ははやくすみにしものを
たにかせになれすといかかおもふらむこころははやくすみにしものを
藤原公任雑三
4-後拾1036水草ゐしおぼろの清水底すみて心に月の影はうかぶや
みくさゐしおほろのしみつそこすみてこころにつきのかけはうかふや
素意法師雑三
4-後拾1037程へてや月もうかばむ大原やおぼろの清水すむなばかりに
ほとへてやつきもうかはむおほはらやおほろのしみつすむなはかりそ
良暹法師雑三
4-後拾1038思ひやる心さへこそさびしけれ大原山のあきのゆふぐれ
おもひやるこころさへこそさひしけれおほはらやまのあきのゆふくれ
藤原國房雑三
4-後拾1039思はずにいるとはみえき梓弓かへらばかへれ人のためかは
おもはすにいるとはみえきあつさゆみかへらはかへれひとのためかは
律師朝範雑三
4-後拾1040思ひやれとふ人もなき山里のかけひの水のこころぼそさを
おもひやれとふひともなきやまさとのかけひのみつのこころほそさを
上東門院中将雑三
4-後拾1041武隈の松はふたきを都人いかがととはばみきとこたへむ
たけくまのまつはふたきをみやこひといかかととははみきとこたへむ
橘季通雑四
4-後拾1042武隈の松はこのたび跡もなしちとせをへてや我はきつらむ
たけくまのまつはこのたひあともなしちとせをへてやわれはきつらむ
能因法師雑四
4-後拾1043里人のくむだに今はなかるべし岩井の清水みくさゐにけり
さとひとのくむたにいまはなかるへしいはゐのしみつみくさゐにけり
大江嘉言雑四
4-後拾1044年へたる松だになくば浅茅原なにかむかしのしるしならまし
としへたるまつたになくはあさちはらなにかむかしのしるしならまし
江侍従雑四
4-後拾1045年をへてみる人もなきふるさとにかはらぬ松ぞあるじならまし
としをへてみるひともなきふるさとにかはらぬまつそあるしならまし
左衛門督北方雑四
4-後拾1046君がうゑし松ばかりこそ残りけれいづれの春の子の日なりけむ
きみかうゑしまつはかりこそのこりけれいつれのはるのねのひなりけむ
源為善雑四
4-後拾1047誰をけふまつとはいはむかくばかり忘るるなかのねたげなるよに
たれをけふまつとはいはむかくはかりわするるなかのねたけなるよに
馬内侍雑四
4-後拾1048みどりにて色もかはらぬ呉竹はよのながきをや秋としるらむ
みとりにていろもかはらぬくれたけはよのなかきをやあきとしるらむ
藤原師経雑四
4-後拾1049いはしろのをのへの風に年ふれど松のみどりはかはらざりけり
いはしろのをのへのかせにとしふれとまつのみとりはかはらさりけり
前太宰帥資仲雑四
4-後拾1050よろづよの秋をもしらですぎきたる葉がへぬ谷の岩根松かな
よろつよのあきをもしらてすききたるはかへぬたにのいはねまつかな
白河院雑四
4-後拾1051み山木をねりぞもてゆふしづのをは猶こりずまの心とぞみる
みやまきをねりそもてゆふしつのをはなほこりすまのこころとそみる
藤原義孝雑四
4-後拾1052旅寝する宿はみ山にとぢられて正木のかづらくる人もなし
たひねするやとはみやまにとちられてまさきのかつらくるひともなし
源経信雑四
4-後拾1053鳥もゐで幾代へぬらむ勝間田の池にはいゐのあとだにもなし
とりもゐていくよへぬらむかつまたのいけにはいひのあとたにもなし
藤原範永雑四
4-後拾1054たちのぼるもしほの煙たえせねば空にもしるき須磨の浦かな
たちのほるもしほのけふりたえせねはそらにもしるきすまのうらかな
藤原経衡雑四
4-後拾1055くる人もなき奥山の瀧の絲は水のわくにぞまかせたりける
くるひともなきおくやまのたきのいとはみつのわくにそまかせたりける
藤原定頼雑四
4-後拾1056ものいはばとふべきものを桃の花いくよかへたる瀧の白絲
ものいははとふへきものをもものはないくよかへたるたきのしらいと
辨乳母雑四
4-後拾1057せきれたるなこそ流れてとまるともたえずみるべき瀧の絲かは
せきれたるなこそなかれてとまるらむたえすみるへきたきのいとかは
藤原兼房雑四
4-後拾1058あせにける今だにかかる瀧つ瀬の早くぞ人はみるべかりける
あせにけるいまたにかかりたきつせのはやくそひとはみるへかりける
赤染衛門雑四
4-後拾1059年毎にせくとはすれど大井川むかしのなこそ猶ながれけれ
としことにせくとはすれとおほゐかはむかしのなこそなほなかれけれ
源道済雑四
4-後拾1060さきの日に桂の宿を見しゆゑはけふ月の輪にくべきなりけり
さきのひにかつらのやとをみしゆゑはけふつきのわにくへきなりけり
祭主輔親雑四
4-後拾1061いづるゆのわくにかかれる白絲はくる人たえぬものにぞありける
いつるゆのわくにかかれるしらいとはくるひとたえぬものにそありける
源重之雑四
4-後拾1062住吉の神はあはれと思ふらむむなしき舟をさしてきたれば
すみよしのかみはあはれとおもふらむむなしきふねをさしてきたれは
後三條院雑四
4-後拾1063おきつ風吹きにけらしな住吉の松のしづえをあらふ白浪
おきつかせふきにけらしなすみよしのまつのしつえをあらふしらなみ
源経信雑四
4-後拾1064住吉の浦風いたく吹きぬらし岸うつ浪の聲しきるなり
すみよしのうらかせいたくふきぬらしきしうつなみのこゑしきるなり
惠慶法師雑四
4-後拾1065松みればたちうきものを住の江のいかなる浪かしづ心なき
まつみれはたちうきものをすみのえのいかなるなみかしつこころなき
藤原為長雑四
4-後拾1066忘れ草つみてかへらむ住吉のきし方のよは思ひでもなし
わすれくさつみてかへらむすみよしのきしかたのよはおもひいてもなし
平棟伸雑四
4-後拾1067おもふこと神はしるらむ住吉の岸の白浪たが世なりとも
おもふことかみはしるらむすみよしのきしのしらなみたよせなりとも
源頼實雑四
4-後拾1068ときかけつ衣の玉は住吉の神さびにける松のこずゑに
ときかけつころものたまはすみのえのかみさひにけるまつのこすゑに
増基法師雑四
4-後拾1069たのみては久しくなりぬ住吉のまづこのたびのしるしみせなむ
たのみてはひさしくなりぬすみよしのまつこのたひのしるしみせなむ
赤染衛門雑四
4-後拾1070都いでて秋より冬になりぬれば久しき旅の心地こそすれ
みやこいててあきよりふゆになりぬれはひさしきたひのここちこそすれ
上東門院新宰相雑四
4-後拾1071よろづよをすめる亀井の水やさはとみの小川の流れなるらむ
よろつよをすめるかめゐのみつはさはとみのをかはのなかれなるらむ
辨乳母雑四
4-後拾1072橋柱なからましかば流れての名をこそきかめあとをみましや
はしはしらなからましかはなかれてのなをこそきかめあとをみましや
藤原公任雑四
4-後拾1073わればかり長柄の橋は朽ちにけり難波の事もふるる悲しさ
われはかりなからのはしはくちにけりなにはのこともふるるかなしさ
赤染衛門雑四
4-後拾1074いにしへにふり行く身こそ哀れなれ昔ながらの橋をみるにも
いにしへにふりゆくみこそあはれなれむかしなからのはしをみるにも
伊勢大輔雑四
4-後拾1075名に高き錦の浦をきてみればかづかぬあまはすくなかりけり
なにたかきにしきのうらをきてみれはかつかぬあまはすくなかりけり
道命法師雑四
4-後拾1076山がらすかしらもしろくなりにけり我が帰るべき時やきぬらむ
やまからすかしらもしろくなりにけりわかかへるへきときやきぬらむ
増基法師雑四
4-後拾1077わかれ行く舟は綱手にまかすれど心は君がかたにこそひけ
わかれゆくふねはつなてにまかすれとこころはきみかかたにこそひけ
藤原孝善雑四
4-後拾1078道すがらおちぬばかりにふる袖の袂に何をつつむなるらむ
みちすからおちぬはかりにふるそてのたもとになにをつつむなるらむ
読人知らず雑四
4-後拾1079ゆふだすき袂にかけて祈りこし神のしるしをけふみつるかな
ゆふたすきたもとにかけていのりこしかみのしるしをけふみつるかな
読人知らず雑四
4-後拾1080ととのへし賀茂の社のゆふだすき帰るあしたぞ乱れたりける
ととのへしかものやしろのゆふたすきかへるあしたそみたれたりける
安法法師雑四
4-後拾1081あけぬよの心地ながらにやみにしをあさくらといひし聲はきききや
あけぬよのここちなからにやみにしをあさくらといひしこゑはきききや
読人知らず雑四
4-後拾1082ひとりのみきのまろどのにあらませばなのらで闇にまよはましやは
ひとりのみきのまろとのにあらませはなのらてやみにかへらましやは
藤原実方雑四
4-後拾1083なのりせば人しりぬべしなのらずばきのまろ殿をいかで過ぎまし
なのりせはひとしりぬへしなのらすはきのまろとのをいかてすきまし
赤染衛門雑四
4-後拾1084ひと巻にちぢの黄金をこめたれば人こそなけれ聲は残れり
ひとまきにちちのこかねをこめたれはひとこそなけれこゑはのこれり
恵慶法師雑四
4-後拾1085いにしへのちぢの黄金はかぎりあるをあふばかりなき君が玉章
いにしへのちちのこかねはかきりあるをあふはかりなききみかたまつさ
紀時文雑四
4-後拾1086かへしけむ昔の人の玉章をききてぞそそぐ老の涙は
かへしけむむかしのひとのたまつさをききてそそそくおいのなみたは
清原元輔雑四
4-後拾1087花のしべ紅葉の下葉かきつめて木のもとよりやちらむとすらむ
はなのしへもみちのしたはかきつめてこのもとよりやちらむとすらむ
祭主輔親雑四
4-後拾1088尋ねずばかきやる方やなからまし昔のながれみくさつもりて
たつねすはかきやるかたやなからましむかしのなかれみくさつもりて
康資王母雑四
4-後拾1089いにしへの家の風こそうれしけれかかる言の葉ちりくと思へば
いにしへのいへのかせこそうれしけれかかることのはちりくとおもへは
後三條院越前雑四
4-後拾1090秋風にあふ言の葉やちりぬらむその夜の月のもりにけるかな
あきかせにあふことのはやちりにけむそのよのつきのもりにけるかな
後三條院雑四
4-後拾1091まことにや姨捨山の月はみるよも更級と思ふわたりを
まことにやをはすてやまのつきはみるよにさらしなとおもふわたりを
赤染衛門雑四
4-後拾1092たえやせむいのちぞしらぬ水無瀬川よしながれても心みよ君
たえやせむいのちそしらぬみなせかはよしなかれてもこころみよきみ
読人知らず雑四
4-後拾1093いはぬまをつつみしほどにくちなしの色にやみえし山吹の花
いはぬまはつつみしほとにくちなしのいろにやみえしやまふきのはな
規子内親王雑四
4-後拾1094うれしさをけふは何にか包むらむ朽ち果てにきとみえし袂を
うれしさをけふはなににかつつむらむくちはてにきとみえしたもとを
藤原孝善雑四
4-後拾1095かたらへばなぐさむこともあるものを忘れやしなむ恋のまぎれに
かたらへはなくさむこともあるものをわすれやしなむこひのまきれに
和泉式部雑四
4-後拾1096忍び音をききこそわたれほととぎす通ふ垣根のかくれなければ
しのひねをききこそわたれほとときすかよふかきねのかくれなけれは
六院齋院宣旨雑四
4-後拾1097うかりけるみのふの浦のうつせ貝むなしき名のみたつはきききや
うかりけるみのふのうらのうつせかひむなしきなのみたつはきききや
馬内侍雑四
4-後拾1098おぼつかなつくまの神のためならばいくつかなべの數はいるべき
おほつかなつくまのかみのためならはいくつかなへのかすはいるへき
藤原顕綱雑四
4-後拾1099春ごとの子の日は多くすぎつれどかかる二葉の松はみざりき
はることのねのひはおほくすきつれとかかるふたはのまつはみさりき
出羽辨雑五
4-後拾1100しのびねの涙なかけそかくばかりせばしと思ふころの袂に
しのひねのなみたなかけそかくはかりせはしとおもふころのたもとに
大弐三位雑五
4-後拾1101春の日に帰らざりせばいにしへの袂ながらや朽ち果てなまし
はるのひにかへらさりせはいにしへのたもとなからやくちはてなまし
出羽辨雑五
4-後拾1102花盛り春の山辺のあけぼのに思ひわするなあきのゆふぐれ
はなさかりはるのみやまのあけほのにおもひわするなあきのゆふくれ
源為善雑五
4-後拾1103よろづよを君がまもりと祈りつつ太刀つくりえのしるしとをみよ
よろつよをきみかまもりといのりつつたちつくりえのしるしとをみよ
藤原道長雑五
4-後拾1104いにしへのちかきまもりをこふるまにこれはしのぶるしるしなりけり
いにしへのちかきまもりをこふるまにこれはしのふるしるしなりけり
御三条院雑五
4-後拾1105ちちにつけ思ひぞいづる昔をばのどけかれとも君ぞいはまし
ちちにつけおもひそいつるむかしをはのとけかれともきみそいはまし
藤原為光雑五
4-後拾1106高砂と高くないひそ昔きくをのへのしらべまづぞ恋しき
たかさこのたかくないひそむかしきくをのへのしらへまつそこひしき
源相方雑五
4-後拾1107ひかりいづる葵の影をみてしかば年へにけるもうれしかりけり
ひかりいつるあふひのかけをみてしかはとしへにけるもうれしかりけり
選子内親王雑五
4-後拾1108もろかづら二葉ながらも君にかく葵や神のしるしなるらむ
もろかつらふたはなからもきみにかくあふひやかみのしるしなるらむ
藤原道長雑五
4-後拾1109みゆきせし賀茂の川波かへるさにたちやよるとてまちあかしつる
みゆきせしかものかはなみかへるさにたちやよるとそまちあかしつる
選子内親王雑五
4-後拾1110みゆきとか世にはふらせて今はただこずゑの桜ちらすなりけり
みゆきとかよにはふらせていまはたたこすゑのさくらちらすなりけり
上東門院中将雑五
4-後拾1111ゆふしでや繁き木の間をもる月のおぼろげならでみえし影かは
ゆふしてやしけきこのまをもるつきのおほろけならてみえしかけかは
六條齋院宣旨雑五
4-後拾1112わかなつむ春日の原に雪ふれば心づかひをけふさへぞやる
わかなつむかすかのはらにゆきふれはこころつかひをけふさへそやる
藤原道長雑五
4-後拾1113身をつみておぼつかなきは雪やまぬ春日の野辺の若菜なりけり
みをつみておほつかなきはゆきやまぬかすかののへのわかななりけり
藤原公任雑五
4-後拾1114三笠山春日の原の朝霧にかへりたつらむ今朝をこそまて
みかさやまかすかのはらのあさきりにかへりたつらむけさをこそまて
藤原公任雑五
4-後拾1115年つもるかしらの雪は大空のひかりにあたるけふぞうれしき
としつもるかしらのゆきはおほそらのひかりにあたるけふそうれしき
伊勢大輔雑五
4-後拾1116年をへてすめる清水に影みればみづはくむまで老いぞしにける
としをへてすめるしみつにかけみれはみつはくむまておいそしにける
源重之雑五
4-後拾1117春来れどきえせぬものは年をへてかしらにつもる雪にぞありける
はるくれときえせぬものはとしをへてかしらにつもるゆきにそありける
花山院雑五
4-後拾1118よにとよむ豊の禊をよそにして小鹽の山のみゆきをや見し
よにとよむとよのみそきをよそにしてをしほのやまのみゆきをやみし
伊勢大輔雑五
4-後拾1119小鹽山こずゑもみえず降りつみしそやすべらぎのみゆきなるらむ
をしほやまこすゑもみえすふりつみしそやすめらきのみゆきなるらむ
少将井尼雑五
4-後拾1120早く見し山井の水のうす氷うちとけざまはかはらざりけり
はやくみしやまゐのみつのうすこほりうちとけさまはかはらさりけり
伊勢大輔雑五
4-後拾1121多かりし豊の宮人さしわけてしるき日影をあはれとぞみし
おほかりしとよのみやひとさしわけてしるきひかけをあはれとそみし
読人知らず雑五
4-後拾1122ひかげ草かがやく影やまがひけむますみの鏡くもらぬものを
ひかけくさかかやくかけやまかひけむますみのかかみくもらぬものを
藤原長能雑五
4-後拾1123神代よりすれる衣といひながら又かさねても珍しきかな
かみよよりすれるころもといひなからまたかさねてもめつらしきかな
選子内親王雑五
4-後拾1124あしひきの山井の水は氷れるをいかなる紐のとくるなるらむ
あしひきのやまゐのみつはこほれるをいかなるひものとくるなるらむ
藤原実方雑五
4-後拾1125まことにやあまた重ねしをみ衣豊のあかりのかくれなきよに
まことにやあまたかさねしをみころもとよのあかりのかくれなきよに
源頼家雑五
4-後拾1126思ひきやわがしめゆひし撫子を人のまがきの花とみむとは
おもひきやわかしめゆひしなてしこをひとのまかきのはなとみむとは
法眼源賢雑五
4-後拾1127信濃なるその原にこそあらねどもわが帚木と今はたのまむ
しなのなるそのはらにこそあらねともわかははききといまはたのまむ
平正家雑五
4-後拾1128都へといきの松原いきかへり君がちとせにあはむとすらむ
みやこへといきのまつはらゆきかへりきみかちとせにあはむとすらむ
源重之雑五
4-後拾1129そのかみの人は残らじ箱崎の松ばかりこそわれをしるらめ
そのかみのひとはのこらしはこさきのまつはかりこそわれをしるらめ
中将尼雑五
4-後拾1130こつかみの浦に年へてよる浪もおなじ所にかへるなりけり
こつかみのうらにとしへてよるなみもおなしところにかへるなりけり
藤原基房雑五
4-後拾1131老いの波よせじと人はいとふともまつらむものをわかの浦には
おいのなみよせしとひとはいとふともまつらむものをわかのうらには
連敏法師雑五
4-後拾1132うちむれし駒もおとせぬ秋の野は草かれゆけど見る人もなし
うちむれしこまもおとせぬあきののはくさかれゆけとみるひともなし
源兼長雑五
4-後拾1133にほひきや都の花は東路の東風のかへしの風につけしは
にほひきやみやこのはなはあつまちのこちのかへしのかせにつけしは
源兼俊母雑五
4-後拾1134吹き返す東風の返しは身にしみき都の花のしるべとおもふに
ふきかへすこちのかへしはみにしみきみやこのはなのしるへとおもふに
康資王母雑五
4-後拾1135とりわきて我が身に露や置きつらむ花よりさきにまづぞうつろふ
とりわきてわかみにつゆやおきつらむはなよりさきにまつそうつろふ
大貮高遠雑五
4-後拾1136やすらはで思ひたちにし東路にありけるものかはらからの関
やすらはておもひたちにしあつまちにありけるものかははかりのせき
藤原実方雑五
4-後拾1137みちのくの安達の真弓君にこそ思ひためたる事はかたらめ
みちのくのあたちのまゆみきみにこそおもひためたることはかたらめ
藤原実方雑五
4-後拾1138都にはたれをか君は思ひいづる都の人はきみをこふめり
みやこにはたれをかきみはおもひいつるみやこのひとはきみをこふめり
大江匡衡雑五
4-後拾1139忘られぬ人の中には忘れぬをまつらむ人のなかにまつやは
わすられぬひとのなかにはわすれぬをまつらむひとのなかにまつやは
藤原実方雑五
4-後拾1140ありてやはおとせざるべき津の国の今ぞ生田の杜といひしは
ありてやはおとせさるへきつのくにのいまそいくたのもりといひしは
赤染衛門雑五
4-後拾1141きのふまで神に心をかけしかどけふこそ法にあふひなりけれ
きのふまてかみにこころをかけしかとけふこそのりにあふひなりけれ
相模雑五
4-後拾1142帰るさをまち心みよかくながらよもただにては山しなの里
かへるさをまちこころみよかくなからよもたたにてはやましなのさと
和泉式部雑五
4-後拾1143ふかき海のちかひはしらず三笠山こころたかくもみえしきみかな
ふかきうみのちかひはしらすみかさやまこころたかくもみえしきみかな
藤原頼宗雑五
4-後拾1144こも枕かりの旅寝にあかさばや入江の蘆の一夜ばかりを
こもまくらかりのたひねにあかさはやいりえのあしのひとよはかりを
伊勢大輔雑五
4-後拾1145日も暮れぬ人も帰りぬ山里はみねの嵐のおとばかりして
ひもくれぬひともかへりぬやまさとはみねのあらしのおとはかりして
源頼實雑五
4-後拾1146みやこ人くるれば帰る今よりは伏見の里の名をもたのまじ
みやこひとくるれはかへるいまよりはふしみのさとのなをもたのまし
橘俊綱雑五
4-後拾1147杉もすぎ宿もむかしの宿ながらかはるは人の心なりけり
すきもすきやともむかしのやとなからかはるはひとのこころなりけり
読人知らず雑五
4-後拾1148思ひきやふるさと人に身をなして花のたよりに山を見むとは
おもひきやふるさとひとにみをなしてはなのたよりにやまをみむとは
蓮仲法師雑五
4-後拾1149たえにける僅かなるねを繰り返しかつらのをこそきかまほしけれ
たえにけるはつかなるねをくりかへしかつらのをこそきかまほしけれ
大中臣能宣雑五
4-後拾1150いつかまたこちくなるべき鶯のさへづりそめし夜半の笛竹
いつかまたこちくなるへきうくひすのさへつりそめしよはのふえたけ
相模雑五
4-後拾1151を鹿ふすしげみにはへる葛の葉のうらさびしげにみゆる山里
をしかふすしけみにはへるくすのはのうらさひしけにみゆるやまさと
大中臣能宣雑五
4-後拾1152つねならぬ山の桜にこころいりて池のはちすをいひなはなちそ
つねならぬやまのさくらにこころいりていけのはちすをいひなはなちそ
源重之雑五
4-後拾1153もちながらちよも巡らむさか月の清き光はさしもかけなむ
もちなからちよもめくらむさかつきのきよきひかりはさしもかけなむ
藤原為頼雑五
4-後拾1154七重八重花はさけども山吹のみの一つだになきぞかなしき
ななへやへはなはさけともやまふきのみのひとつたになきそあやしき
兼明親王雑五
4-後拾1155かづきするあまのあり家をそこなりと夢いふなとやめをくはせけむ
かつきするあまのありかをそこなりとゆめいふなとやめをくはせけむ
清少納言雑五
4-後拾1156たらちねははかなくてこそやみにしかこはいづことてたちとまるらむ
たらちねははかなくてこそやみにしかこはいつことてたちとまるらむ
源頼俊雑五
4-後拾1157思へどもいかにならひし道なればしらぬ境にまどふなるらむ
おもへともいかにならひしみちなれはしらぬさかひにまとふなるらむ
慶範法師雑五
4-後拾1158浅茅生にあれにけれどもふるさとの松はこだかくなりにけるかな
あさちふにあれにけれともふるさとのまつはこたかくなりにけるかな
帥前内大臣雑五
4-後拾1159いにしへのまゆとしめにもあらねども君はみま草とりてかふとか
いにしへのまゆとしめにもあらねともきみはみまくさとりてかふとか
天台座主教圓雑五
4-後拾1160盃にさやけき影のみえぬれば塵のおこりはあらじとをしれ
さかつきにさやけきかけのみえぬれはちりのおそりはあらしとをしれ
読人知らず雑六
4-後拾1161おほぢ父うまご輔親三代までにいただきまつるすめらおほむかみ
おほちちちうまこすけちかみよまてにいたたきまつるすめらおほむかみ
祭主輔親雑六
4-後拾1162ものおもへば澤の蛍をわが身よりあくがれいづる玉かとぞみる
ものおもへはさはのほたるをわかみよりあくかれにけるたまかとそみる
和泉式部雑六
4-後拾1163奥山にたきぎておつる瀧つ瀬に玉ちるばかりものな思ひそ
おくやまにたきりておつるたきつせにたまちるはかりものなおもひそ
御返し雑六
4-後拾1164白妙のとよみてぐらをとりもちていはひぞ初むる紫の野に
しろたへのとよみてくらをとりもちていはひそそむるむらさきののに
藤原長能雑六
4-後拾1165今よりはあらぶる心ましますな花の都にやしろさだめつ
いまよりはあらふるこころましますなはなのみやこにやしろさためつ
藤原長能雑六
4-後拾1166いなり山みづの玉垣うちたたきわかねぎ事を神もこたへよ
いなりやまみつのたまかきうちたたきわかねきことをかみもこたへよ
恵慶法師雑六
4-後拾1167住吉の松さへかはるものならばなにか昔のしるしならまし
すみよしのまつさへかはるものならはなにかむかしのしるしならまし
山口重如雑六
4-後拾1168ちはやふる松のをやまの影みればけふぞちとせのはじめなりける
ちはやふるまつのをやまのかけみれはけふそちとせのはしめなりける
源兼澄雑六
4-後拾1169あきらけき日吉の御神君がため山のかひあるよろづ代やへむ
あきらけきひよしのみかみきみかためやまのかひあるよろつよやへむ
大貮實政雑六
4-後拾1170ちはやふる神のそのなる姫小松よろづよふべきはじめなりけり
ちはやふるかみのそのなるひめこまつよろつよふへきはしめなりけり
藤原経衡雑六
4-後拾1171榊葉にふる白雪はきえぬめり神の心も今やとくらむ
さかきはにふるしらゆきはきえぬめりかみのこころはいまやとくらむ
藤原伊房雑六
4-後拾1172有度浜にあまの羽衣むかしきてふりけむ袖やけふのはふりこ
うとはまにあまのはころもむかしきてふりけむそてやけふのはふりこ
能因法師雑六
4-後拾1173天の下はぐくむ神のみぞなればゆたけにぞたつみづの広前
あめのしたはくくむかみのみそなれはゆたけにそたつみつのひろまへ
読人知らず雑六
4-後拾1174ここにしもわきて出でけむ岩清水神の心を汲みもしらばや
ここにしもわきていてけむいはしみつかみのこころをくみてしらはや
増基法師雑六
4-後拾1175住吉の松のしづえに神さびてみどりにみゆるあけの玉垣
すみよしのまつのしつえにかみさひてみとりにみゆるあけのたまかき
蓮仲法師雑六
4-後拾1176さもこそは宿はかはらめ住吉の松さへ椙になりにけるかな
さもこそはやとはかはらめすみよしのまつさへすきになりにけるかな
読人知らず雑六
4-後拾1177おもふことなるかはかみにあとたれてきふねは人を渡すなりけり
おもふことなるかはかみにあとたれてきふねはひとをわたすなりけり
藤原時房雑六
4-後拾1178けふ祭る三笠の山の神ませばあめのしたには君ぞさかえむ
けふまつるみかさのやまのかみませはあめのしたにはきみそさかえむ
藤原範永雑六
4-後拾1179いにしへの別れの庭にあへりともけふの涙ぞなみだならまし
いにしへのわかれのにはにあへりともけふのなみたそなみたならまし
光源法師雑六
4-後拾1180つねよりもけふの霞ぞあはれなる薪つきにし煙とおもへば
つねよりもけふのかすみそあはれなるたききつきにしけふりとおもへは
前律師慶暹雑六
4-後拾1181いかなれば今宵の月のさ夜中に照らしもはてで入りしなるらむ
いかなれはこよひのつきのさよなかにてらしもはてていりしなるらむ
慶範法師雑六
4-後拾1182世をてらす月かくれにしさ夜中は哀れやみにや皆まどひけむ
よをてらすつきかくれにしさよなかはあはれやみにやみなまとひけむ
伊勢大輔雑六
4-後拾1183山のはに入りにし夜半の月なれど名残りはまだにさやけかりけり
やまのはにいりにしよはのつきなれとなこりはまたにさやけかりけり
読人知らず雑六
4-後拾1184つもるらむ塵をもいかではらはまし法にあふぎの風のうれしさ
つもるらむちりをもいかてはらはましのりにあふきのかせのうれしさ
伊勢大輔雑六
4-後拾1185八重菊に蓮の露をおきそへて九しなまでうつろはしつる
やへきくにはちすのつゆをおきそへてここのしなまてうつろはしつる
弁乳母雑六
4-後拾1186さきがたき御法の花におく露ややがて衣の玉となるらむ
さきかたきみのりのはなにおくつゆややかてころものたまとなるらむ
康資王母雑六
4-後拾1187もろともに三つの車にのりしかどわれは一味の雨にぬれにき
もろともにみつのくるまにのりしかとわれはいちみのあめにぬれにき
読人知らず雑六
4-後拾1188月のわに心をかけしゆふべよりよろづのことを夢とみるかな
つきのわにこころをかけしゆふへよりよろつのことをゆめとみるかな
僧都覚超雑六
4-後拾1189風ふけばまづ破れぬる草の葉によそふるからに袖ぞ露けき
かせふけはまつやふれぬるくさのはによそふるからにそてそつゆけき
藤原公任雑六
4-後拾1190つねならぬ我が身は水の月なれば世にすみとけむ事もおぼえず
つねならぬわかみはみつのつきなれはよにすみとけむこともおもはす
小弁雑六
4-後拾1191ちる花を惜しまばとまれ世の中は心のほかのものとやはきく
ちるはなををしまはとまれよのなかはこころのほかのものとやはきく
伊勢大輔雑六
4-後拾1192こしらへてかりのやどりにやすめずばまことの道をいかでしらまし
こしらへてかりのやとりにやすめすはまことのみちをいかてしらまし
赤染衛門雑六
4-後拾1193道とほみ中空にてやかへらまし思へばかりの宿ぞうれしき
みちとほみなかそらにてやかへらましおもへはかりのやとそうれしき
康資王母雑六
4-後拾1194衣なる玉ともかけてしらざりきゑひさめてこそ嬉しかりけれ
ころもなるたまともかけてしらさりきゑひさめてこそうれしかりけれ
赤染衛門雑六
4-後拾1195鷲の山へだつる雲やふかからむ常にすむなる月を見ぬかな
わしのやまへたつるくもやふかからむつねにすむなるつきをみぬかな
康資王母雑六
4-後拾1196世を救ふうちにはたれかいらざらむ普き門は人しささねば
よをすくふうちにはたれかいらさらむあまねきかとはひとしささねは
藤原公任雑六
4-後拾1197津の国の難波のことか法ならぬ遊びたはぶれまてとこそきけ
つのくにのなにはのことかのりならぬあそひたはふれまてとこそきけ
遊女宮木雑六
4-後拾1198笛のねの春おもしろく聞ゆるは花ちりたりと吹けばなりけり
ふえのねのはるおもしろくきこゆるははなちりたりとふけはなりけり
読人知らず雑六
4-後拾1199武隈の松はふた木をみ木といふはよくよめるにはあらぬなるべし
たけくまのまつはふたきをみきといふはよくよめるにはあらぬなるへし
僧正深覚雑六
4-後拾1200さかざらば桜を人の折らましや桜のあだは桜なりけり
さかさらはさくらをひとのをらましやさくらのあたはさくらなりけり
源道済雑六
4-後拾1201まだちらぬ花もやあると尋ねみむあなかま暫し風にしらすな
またちらぬはなもやあるとたつねみむあなかましはしかせにしらすな
藤原実方雑六
4-後拾1202桃の花宿にたてれはあるじさへすけるものとや人のみるらむ
もものはなやとにたてれはあるしさへすけるものとやひとのみるらむ
大江嘉言雑六
4-後拾1203みかの夜のもちひはくはじわづらはしきけば淀野にははこつむなり
みかのよのもちひはくはしわつらはしきけはよとのにははこつむなり
藤原実方雑六
4-後拾1204思ふ事みなつきねとて麻のはをきりにきりても祓へつるかな
おもふことみなつきねとてあさのはをきりにきりてもはらへつるかな
和泉式部雑六
4-後拾1205君がかす夜の衣をたなばたは返しやしつるひるくさしとて
きみかかすよるのころもをたなはたはかへしやしつるひるくさしとて
皇太后宮陸奥雑六
4-後拾1206もみぢばは錦とみゆとききしかどめもあやにこそけふはなりぬれ
もみちははにしきとみゆとききしかとめもあやにこそけふはちりぬれ
藤原頼宗雑六
4-後拾1207おちつもる庭をだにとてみるものをうたて嵐のはきにはくかな
おちつもるにはをたにとてみるものをうたてあらしのはきにはくかな
増基法師雑六
4-後拾1208こころざし大原山の炭ならば思ひをそへておこすばかりぞ
こころさしおほはらやまのすみならはおもひをそへておこすはかりそ
読人知らず雑六
4-後拾1209雲井にていかであふぎと思ひしにてかくばかりもなりにけるかな
くもゐにていかてあふきとおもひしにてかくはかりもなりにけるかな
天台座主源心雑六
4-後拾1210はかなくも忘られにける扇かなおちたりけりと人もこそみれ
はかなくもわすられにけるあふきかなおちたりけりとひともこそみれ
和泉式部雑六
4-後拾1211さなくてもねられぬものをいとどしくつき驚かす鐘の音かな
さならてもねられぬものをいととしくつきおとろかすかねのおとかな
和泉式部雑六
4-後拾1212忘れてもあるべきものをこの頃の月夜よいたく人なすかせそ
わすれてもあるへきものをこのころのつきよよいたくひとなすかせそ
藤原義孝雑六
4-後拾1213道芝やおどろの髪にならされて移れる香こそ草枕なれ
みちしはやおとろのかみにならされてうつれるかこそくさまくらなれ
小大君雑六
4-後拾1214まけかたのはづかしげなる朝顔を鏡草にもみせてけるかな
まけかたのはつかしけなるあさかほをかかみくさにもみせてけるかな
読人知らず雑六
4-後拾1215思ひいづることもあらじとみえつれどやといふにこそ驚かれぬれ
おもひいつることもあらしとみえつれとやといふにこそおとろかれぬれ
藤原道綱母雑六
4-後拾1216白浪のたちながらだに長門なる豊浦の里のとよられよかし
しらなみのたちなからたになかとなるとよらのさとのとよられよかし
能因法師雑六
4-後拾1217はかなくも思ひけるかな乳もなくて博士の家の乳母せむとは
はかなくもおもひけるかなちもなくてはかせのいへのめのとせむとは
大江匡衡雑六
4-後拾1218さもあらばあれ大和心しかしこくば細ちにつけてあらすばかりぞ
さもあらはあれやまとこころしかしこくはほそちにつけてあらすはかりそ
赤染衛門雑六
5-金葉1吉野山みねの白雪いつ消えてけさは霞のたちかはるらむ
よしのやまみねのしらゆきいつきえてけさはかすみのたちかはるらむ
源重之
5-金葉2うちなびき春はきにけり山河の岩間の氷けふやとくらむ
うちなひきはるはきにけりやまかはのいはまのこほりけふやとくらむ
藤原顕季
5-金葉3倉橋の山のかひより春がすみ年つみてや立ちわたるらむ
くらはしのやまのかひよりはるかすみとしをつみてやたちわたるらむ
藤原朝忠
5-金葉4ふるさとは春めきにけりみ吉野のみかきの原も霞こめたり
ふるさとははるめきにけりみよしののみかきのはらもかすみこめたり
平兼盛
5-金葉5浅緑かすめる空のけしきにや常磐の山は春をしるらむ
あさみとりかすめるそらのけしきにやときはのやまははるをしるらむ
少将公教母
5-金葉6年ごとにかはらぬものは春霞たつたの山のけしきなりけり
としことにかはらぬものははるかすみたつたのやまのけしきなりけり
藤原顕輔
5-金葉7あらたまの年のはじめに降りしけば初雪とこそいふべかるらむ
あらたまのとしのはしめにふりしけははつゆきとこそいふへかるらむ
藤原顕季
5-金葉8朝戸あけて春のこずゑの雪みれば初花ともやいふべかるらむ
あさとあけてはるのこすゑのゆきみれははつはなともやいふへかるらむ
藤原公実
5-金葉9雪消えばゑぐの若菜もつむべきに春さへはれぬ山邊の里
ゆききえはゑくのわかなもつむへきにはるさへはれぬみやまへのさと
曾禰好忠
5-金葉10氷だにとまらぬ春の谷風にまだうちとけぬ鶯のこゑ
こほりたにとまらぬはるのたにかせにまたうちとけぬうくひすのこゑ
源順
5-金葉11わが宿に鶯いたく鳴くなるは庭もはだらに花や散るらむ
わかやとにうくひすいたくなくなるはにはもはたらにはなやちるらむ
平兼盛
5-金葉12今日よりや梅のたちえに鶯の聲さとなるるはじめなるらむ
けふよりやうめのたちえにうくひすのこゑさとなるるはしめなるらむ
藤原公実
5-金葉13鶯のなくにつけてや眞金吹く吉備の中山はるをしるらむ
うくひすのなくにつけてやまかねふくきひのなかやまはるをしるらむ
藤原顕季
5-金葉14今日やさは雪うちとけて鶯の都へいづる初音なるらむ
けふやさはゆきうちとけてうくひすのみやこへいつるはつねなるらむ
藤原顕輔
5-金葉15わが宿の梅がえになく鶯は風のたよりに香をやとめこし
わかやとのうめかえになくうくひすはかせのたよりにかをやとめこし
藤原朝忠
5-金葉16白妙の雪ふりやまぬ梅がえにいまぞ鶯春となくなる
しろたへのゆきふりやまぬうめかえにいまそうくひすはるとなくなる
平兼盛
5-金葉17わが宿の柳の糸は細くともくる鶯のたえずもあらなむ
わかやとのやなきのいとはほそくともくるうくひすのたえすもあらなむ
藤原道綱母
5-金葉18梅の花匂ふあたりはよきてこそ急ぐ道をば行くべかりけれ
うめのはなにほふあたりはよきてこそいそくみちをはゆくへかりけれ
良暹法師
5-金葉19梅がえに風やふくらむ春の夜は折らぬ袖さへ匂ひぬるかな
うめかえにかせやふくらむはるのよはをらぬそてさへにほひぬるかな
前太宰大弐長房
5-金葉20今日ここに見にこざりせば梅の花ひとりや春の風にちらまし
けふここにみにこさりせはうめのはなひとりやはるのかせにちらまし
源経信
5-金葉21限りありて散りははつとも梅のはな香をばこずゑに残せとぞ思ふ
かきりありてちりははつともうめのはなかをはこすゑにのこせとそおもふ
源忠季
5-金葉22散りかかる影は見ゆれど梅の花水には香こそうつらざりけれ
ちりかかるかけはみゆれとうめのはなみつにはかこそうつらさりけれ
藤原兼房
5-金葉23よろづよのためしに君が引かるれば子の日の松もうらやみやせむ
よろつよのためしにきみかひかるれはねのひのまつもうらやみやせむ
赤染衛門
5-金葉24九重のみかきが原の小松原ちよをばほかのものとやは見る
ここのへのみかきかはらのこまつはらちよをはほかのものとやはみる
源経信
5-金葉25春日野の子の日の松は引かでこそ神さびゆかむかげにかくれめ
かすかののねのひのまつはひかてこそかみさひゆかむかけにかくれめ
大中臣公長
5-金葉26春霞立ちかくせども姫小松ひくまの野邊に我は来にけり
はるかすみたちかくせともひめこまつひくまののへにわれはきにけり
大江匡房
5-金葉27姫小松おほかる野邊に子の日してちよを心にまかせつるかな
ひめこまつおほかるのへにねのひしてちよをこころにまかせつるかな
源道済
5-金葉28風吹けば柳の糸のかたよりになびくにつけて過ぐる春かな
かせふけはやなきのいとのかたよりになひくにつけてすくるはるかな
白河院
5-金葉29朝まだき吹き来る風にまかすればかたよりしげき青柳の糸
あさまたきふきくるかせにまかすれはかてよりしけきあをやきのいと
藤原公実
5-金葉30風ふけば波のあやおる池水に糸ひきそふる岸の青柳
かせふけはなみのあやおるいけみつにいとひきそふるきしのあをやき
源雅兼
5-金葉31さほひめの糸そめかくる青柳を吹きなみだりそ春の山風
さほひめのいとそめかくるあをやきをふきなみたりそはるのやまかせ
平兼盛
5-金葉32ふるさとのみかきの柳はるばると誰がそめかけし浅緑ぞも
ふるさとのみかきのやなきはるはるとたかそめかけしあさみとりそも
源道済
5-金葉33糸鹿山くる人もなき夕暮に心ぼそくも呼子鳥かな
いとかやまくるひともなきゆふくれにこころほそくもよふことりかな
前齋院尾張
5-金葉34今はとて越路に帰る雁がねは羽もたゆくや行きかへるらむ
いまはとてこしちにかへるかりかねははねもたゆくやゆきかへるらむ
藤原経通
5-金葉35聲せずはいかで知らまし春霞へだつる空に帰る雁がね
こゑせすはいかてしらましはるかすみへたつるそらにかへるかりかね
藤原成通
5-金葉36吉野山みねの櫻や咲きぬらむ麓の里に匂ふ春風
よしのやまみねのさくらやさきぬらむふもとのさとににほふはるかせ
藤原忠通
5-金葉37尋ねつる我をや花も待ちつらむ今ぞさやかに匂ひましける
たつねつるわれをやはなもまちつらむいまそさやかににほひましける
鳥羽院
5-金葉38白河の流れひさしき宿なれば花の匂ひものどけかりけり
しらかはのなかれひさしきやとなれははなのにほひものとけかりけり
源雅実
5-金葉39吹く風も花のあたりはこころせよ今日をばつねの春とやは見る
ふくかせもはなのあたりはこころせよけふをはつねのはるとやはみる
藤原長実
5-金葉40年ごとに咲きそふ宿の櫻花なほゆくすゑの春ぞゆかしき
としことにさきそふやとのさくらはななほゆくすゑのはるそゆかしき
源雅兼
5-金葉41春霞たち帰るべき空ぞなき花の匂ひに心とまりて
はるかすみたちかへるへきそらそなきはなのにほひにこころとまりて
白河院
5-金葉42白雲と遠ちの高嶺に見えつるは心まどはす櫻なりけり
しらくもとをちのたかねにみえつるはこころまとはすさくらなりけり
藤原公実
5-金葉43わが宿の櫻なれども散るときは心にえこそまかせざりけれ
わかやとのさくらなれともちるときはこころにえこそまかせさりけれ
花山院
5-金葉44春の来ぬところはなきを白河のわたりにのみや花は咲くらむ
はるのこぬところはなきをしらかはのわたりにのみやはなはさくらむ
小式部内侍
5-金葉45山櫻さきそめしより久方の雲ゐに見ゆる瀧の白糸
やまさくらさきそめしよりひさかたのくもゐにみゆるたきのしらいと
源俊頼
5-金葉46白雲にまがふ櫻のこずゑにて千歳の春を空にしるかな
しらくもにまかふさくらのこすゑにてちとせのはるをそらにしるかな
待賢門院中納言
5-金葉47櫻花さきぬるときは吉野山たちものぼらぬ峰の白雲
さくらはなさきぬるときはよしのやまたちものほらぬみねのしらくも
藤原顕季
5-金葉48斧の柄は木のもとにてや朽ちなまし春をかぎらぬ櫻なりせば
をののえはこのもとにてやくちなましはるをかきらぬさくらなりせは
大中臣公長
5-金葉49木のもとをすみかとすればおのづから花見る人になりぬべきかな
このもとをすみかとすれはおのつからはなみるひとになりぬへきかな
花山院
5-金葉50初瀬山くもゐに花の咲きぬれば天の川波たつとこそみれ
はつせやまくもゐにはなのさきぬれはあまのかはなみたつとこそみれ
大江匡房
5-金葉51こずゑには吹くとも見えぬ櫻花かをるぞ風のしるしなりける
こすゑにはふくともみえぬさくらはなかをるそかせのしるしなりける
源俊頼
5-金葉52春ごとにあかぬ匂ひを櫻花いかなる風の惜しまざるらむ
はることにあかぬにほひをさくらはないかなるかせのをしまさるらむ
前斎宮筑前乳母
5-金葉53よそにては惜しみに来つる山櫻折らではえこそ帰るまじけれ
よそにてはをしみにきつるやまさくらをらてはえこそかへるましけれ
僧正行尊
5-金葉54春雨に濡れて尋ねむ山櫻雲のかへしの嵐もぞ吹く
はるさめにぬれてたつねむやまさくらくものかへしのあらしもそふく
藤原頼宗
5-金葉55月影に花見る夜半の浮雲は風のつらさにおとらざりけり
つきかけにはなみるよはのうきくもはかせのつらさにおとらさりけり
大江匡房
5-金葉56花さそふ嵐や峰をわたるらむ櫻なみよる谷川の水
はなさそふあらしやみねをわたるらむさくらなみよるたにかはのみつ
源雅兼
5-金葉57山櫻手ごとに折りて帰るをば春の行くとや人はみるらむ
やまさくらてことにをりてかへるをははるのゆくとやひとはみるらむ
藤原登平
5-金葉58いにしへの奈良の都の八重櫻けふここのへに匂ひぬるかな
いにしへのならのみやこのやへさくらけふここのへににほひぬるかな
伊勢大輔
5-金葉59けさ見れば夜半の嵐に散りはてて庭こそ花のさかりなりけれ
けさみれはよはのあらしにちりはててにはこそはなのさかりなりけれ
左兵衛督実能
5-金葉60おのれかつ散るを雪とや思ふらむ身のしろごろも花も着てけり
おのれかつちるをゆきとやおもふらむみのしろころもはなもきてけり
源俊頼
5-金葉61春ごとにおなじ櫻の花なれば惜しむ心もかはらざりけり
はることにおなしさくらのはななれはをしむこころもかはらさりけり
藤原長実母
5-金葉62水上に花やちりつむ山川の井杭にいとどかかる白波
みなかみにはなやちりつむやまかはのいくひにいととかかるしらなみ
源経信
5-金葉63散りかかるけしきは雪のここちして花には袖の濡れぬなりけり
ちりかかるけしきはゆきのここちしてはなにはそてのぬれぬなりけり
藤原永実
5-金葉64櫻花雲かかるまでかきつめて吉野の山とけふは見るかな
さくらはなくもかかるまてかきつめてよしののやまとけふはみるかな
御匣殿
5-金葉65庭の花もとのこずゑに吹き返せ散らすのみやは心なるべき
にはのはなもとのこすゑにふきかへせちらすのみやはこころなるへき
郁芳門院安芸
5-金葉66櫻花風にし散らぬものならば思ふことなき春にぞあらまし
さくらはなかせにしちらぬものならはおもふことなきはるにそあらまし
大中臣能宣
5-金葉67身にかへて惜しむにとまる花ならば今日や我が身の限りならまし
みにかへてをしむにとまるはなならはけふやわかみのかきりならまし
源俊頼
5-金葉68衣手に晝はちりつる櫻花夜は心にかかるなりけり
ころもてにひるはちりつるさくらはなよるはこころにかかるなりけり
隆源法師
5-金葉69櫻咲く山田をつくる賤の男はかへすがへすや花を見るらむ
さくらさくやまたをつくるしつのをはかへすかへすやはなをみるらむ
高階経成
5-金葉70櫻花また見むこともさだめなきよはひぞ風よ心して吹け
さくらはなまたみむこともさためなきよはひそかせよこころしてふけ
藤原隆頼
5-金葉71長き夜の月の光のなかりせば雲居の花をいかで折らまし
なかきよのつきのひかりのなかりせはくもゐのはなをいかてをらまし
下野
5-金葉72散りはてぬ花のあたりを知らすれば厭ひし風ぞ今日はうれしき
ちりはてぬはなのあたりをしらすれはいとひしかせそけふはうれしき
源雅定
5-金葉73東路のかほやが沼のかきつばた春をこめても咲きにけるかな
あつまちのかほやかぬまのかきつはたはるをこめてもさきにけるかな
藤原顕季
5-金葉74山がつの園生にたてる桃の花すけるなこれを植ゑて見けるも
やまかつのそのふにたてるもものはなすけるなこれをうゑてみけるも
経信卿母
5-金葉75あら小田に細谷川をまかすれば引くしめなはにもりつつぞゆく
あらをたにほそたにかはをまかすれはひくしめなはにもりつつそゆく
源経信
5-金葉76鴫のゐる野澤の小田をうちかへし種まきてけりしめはへて見ゆ
しきのゐるのさはのをたをうちかへしたねまきてけりしめはへてみゆ
津守国基
5-金葉77山里の外面の小田の苗代に岩間の水をせかぬ日ぞなき
やまさとのそとものをたのなはしろにいはまのみつをせかぬひそなき
藤原隆資
5-金葉78一重だにあかぬ心をいとどしく八重かさなれる山吹の花
ひとへたにあかぬこころをいととしくやへかさなれるやまふきのはな
藤原長能
5-金葉79かはづ鳴く井手のわたりに駒なべてゆくてにも見む山吹の花
かはつなくゐてのわたりにこまなへてゆくてにもみむやまふきのはな
藤原惟成
5-金葉80限りありて散るだに惜しき山吹をいたくな折りそ井手の川波
かきりありてちるたにをしきやまふきをいたくなをりそゐてのかはなみ
藤原忠通
5-金葉81八重さけるかひこそなけれ山吹の散らば一重もあらじと思へば
やへさけるかひこそなけれやまふきのちらはひとへもあらしとおもへは
読人知らず
5-金葉82たれかこの數は定めし我はただとへとぞ思ふ山吹の花
たれかこのかすはさためしわれはたたとへとそおもふやまふきのはな
藤原道綱母
5-金葉83入日さすゆふくれなゐの色みえて山下てらす岩つつじかな
いりひさすゆふくれなゐのいろみえてやましたてらすいはつつしかな
摂政家参河
5-金葉84紫の雲とぞ見ゆる藤の花いかなる宿のしるしなるらむ
むらさきのくもとそみゆるふちのはないかなるやとのしるしなるらむ
藤原公任
5-金葉85色かへぬ松によそへて東路の常磐の橋にかかる藤波
いろかへぬまつによそへてあつまちのときはのはしにかかるふちなみ
大夫典侍
5-金葉86来る人もなき我が宿の藤の花たれをまつとて咲きかかるらむ
くるひともなきわかやとのふちのはなたれをまつとてさきかかるらむ
權律師増覚
5-金葉87松風の音せざりせば藤波を何にかかれる花と知らまし
まつかせのおとせさりせはふちなみをなににかかれるはなとしらまし
良暹法師
5-金葉88池にひつ松のはひ枝に紫の波をりかくる藤さきにけり
いけにひつまつのはひえにむらさきのなみをりかくるふちさきにけり
源経信
5-金葉89住吉の松にかかれる藤のはな風のたよりに波や折るらむ
すみよしのまつにかかれるふちのはなかせのたよりになみやをるらむ
藤原顕季
5-金葉90濡るるさへ嬉しかりけり春雨に色ます藤の雫と思へば
ぬるるさへうれしかりけりはるさめにいろますふちのしつくとおもへは
神祇伯源顕仲
5-金葉91春の来る道にきむかへ郭公かたらふ聲に立ちやとまると
はるのくるみちにきむかへほとときすかたらふこゑにたちやとまると
僧都証観
5-金葉92残りなく暮れぬる春を惜しむまに心をさへも尽しつるかな
のこりなくくれぬるはるををしむまにこころをさへもつくしつるかな
源雅兼
5-金葉93春は惜し人はこよひとたのむれば思ひわづらふ今日の暮かな
はるはをしひとはこよひとたのむれはおもひわつらふけふのくれかな
源有仁
5-金葉94いくかへり今日に我が身のあひぬらむ惜しむは春の過ぐるのみかは
いくかへりけふにわかみのあひぬらむをしむははるのすくるのみかは
藤原定成
5-金葉95花だにも散らで別るる春ならばいとかく今日を惜しまざらまし
はなたにもちらてわかるるはるならはいとかくけふををしまさらまし
藤原朝忠
5-金葉96かへる春卯月の忌にさしこめてしばし御阿礼のほどだにもみむ
かへるはるうつきのいみにさしこめてしはしみあれのほとたにもみむ
源俊頼
5-金葉97夏衣たちきる今日は花櫻かたみの色をぬぎやかふらむ
なつころもたちきるけふははなさくらかたみのいろをぬきやかふらむ
中務
5-金葉98我のみぞ急ぎたたれぬ夏衣ひとへに春を惜しむ身なれば
われのみそいそきたたれぬなつころもひとへにはるををしむみなれは
源師賢
5-金葉99夏山の青葉まじりの遅櫻はつ花よりもめづらしきかな
なつやまのあをはましりのおそさくらはつはなよりもめつらしきかな
藤原盛房
5-金葉100おしなべてこずゑ青葉になりぬれば松の緑もわかれざりけり
おしなへてこすゑあをはになりぬれはまつのみとりもわかれさりけり
白河院
5-金葉101玉かしは庭も葉広になりぬればこやゆふしでて神まつる頃
たまかしはにはもはひろになりぬれはこやゆふしててかみまつるころ
源経信
5-金葉102やかつ神まつれる宿のしるしには楢の廣葉のやひらでぞ散る
やかつかみまつれるやとのしるしにはならのひろはのやひらてそちる
永成法師
5-金葉103雪の色をうばひて咲ける卯の花に小野の里人冬ごもりすな
ゆきのいろをうはひてさけるうのはなにをののさとひとふゆこもりすな
藤原公実
5-金葉104いづれをか分きてとはまし山里の垣根つづきに咲ける卯の花
いつれをかわきてとはましやまさとのかきねつつきにさけるうのはな
大江匡房
5-金葉105年をへてかよひなれにし山里の門とふばかり咲ける卯の花
としをへてかよひなれにしやまさとのかととふはかりさけるうのはな
源相方
5-金葉106雪としもまがひもはてじ卯の花は暮るれば月の影かとも見ゆ
ゆきとしもまかひもはてしうのはなはくるれはつきのかけかともみゆ
江侍従
5-金葉107卯の花の咲かぬ垣根はなけれども名に流れたる玉川の里
うのはなのさかぬかきねはなけれともなになかれたるたまかはのさと
藤原忠通
5-金葉108神山のふもとに咲ける卯の花は誰がしめ結ひし垣根なるらむ
かみやまのふもとにさけるうのはなはたかしめゆひしかきねなるらむ
權藤原実行
5-金葉109賤のめが葦火たく屋も卯の花の咲きしかかればやつれざりけり
しつのめかあしひたくやもうのはなのさきしかかれはやつれさりけり
源経信
5-金葉110み山いでてまだ里なれぬほととぎす旅の空なるねをや鳴くらむ
みやまいててまたさとなれぬほとときすたひのそらなるねをやなくらむ
藤原顕季
5-金葉111今日もまた尋ねくらしつ郭公いかで聞くべき初音なるらむ
けふもまたたつねくらしつほとときすいかてきくへきはつねなるらむ
藤原節信
5-金葉112郭公すがたは水にやどれども聲はうつらぬ物にぞありける
ほとときすすかたはみつにやとれともこゑはうつらぬものにそありける
藤原忠通
5-金葉113年ごとに聞くとはすれど郭公こゑはふりせぬ物にぞありける
としことにきくとはすれとほとときすこゑはふりせぬものにそありける
藤原経忠
5-金葉114郭公こころも空にあくがれて夜がれがちなるみ山邊の里
ほとときすこころもそらにあくかれてよかれかちなるみやまへのさと
藤原顕輔
5-金葉115郭公あかで過ぎぬる聲によりあとなき空を眺めつるかな
ほとときすあかてすきぬるこゑによりあとなきそらをなかめつるかな
藤原孝善
5-金葉116聞くたびにめづらしければ郭公いつも初音の心地こそすれ
きくたひにめつらしけれはほとときすいつもはつねのここちこそすれ
權僧正永縁
5-金葉117ほのかにぞ鳴きわたるなる郭公み山を出づる夜半の初聲
ほのかにそなきわたるなるほとときすみやまをいつるよはのはつこゑ
坂上望城
5-金葉118郭公まつにかかりてあかすかな藤の花とや人は見つらむ
ほとときすまつにかかりてあかすかなふちのはなとやひとはみつらむ
白河院
5-金葉119郭公ほのめく聲をいづかたと聞きまどはしつ曙の空
ほとときすほのめくこゑをいつかたとききまとはしつあけほののそら
中納言女王
5-金葉120宿近くしばしかたらへほととぎす待つ夜の數の積もるしるしに
やとちかくしはしかたらへほとときすまつよのかすのつもるしるしに
前齋院六條
5-金葉121音せぬは待つ人からか郭公たれ教へけむ數ならぬ身と
おとせぬはまつひとからかほとときすたれをしへけむかすならぬみと
源俊頼
5-金葉122山ちかく浦こぐ舟は郭公なくわたりこそとまりなりけれ
やまちかくうらこくふねはほとときすなくわたりこそとまりなりけれ
康資王母
5-金葉123ほととぎす雲の玉江にもる月の影ほのかにも鳴きわたるかな
ほとときすくものたえまにもるつきのかけほのかにもなきわたるかな
皇后宮式部
5-金葉124わぎもこに逢坂山のほととぎす明くればかへる空に鳴くなり
わきもこにあふさかやまのほとときすあくれはかへるそらになくなり
源定信
5-金葉125ほととぎす雲路にまよふ聲すなりをやみだにせよ五月雨の空
ほとときすくもちにまよふこゑすなりをやみたにせよさみたれのそら
源経信
5-金葉126宿ちかく花たちばなはほり植ゑじ昔を恋ふるつまとなりけり
やとちかくはなたちはなはほりうゑしむかしをこふるつまとなりけり
花山院
5-金葉127よろづよにかはらぬものは五月雨の雫に薫るあやめなりけり
よろつよにかはらぬものはさみたれのしつくにかをるあやめなりけり
源経信
5-金葉128あやめ草引くてもたゆく長き根のいかであさかの沼に生ふらむ
あやめくさひくてもたゆくなかきねのいかてあさかのぬまにおふらむ
藤原孝善
5-金葉129あやめ草わが身のうきにひきかへてなべてならぬに思ひいでなむ
あやめくさわかみのうきにひきかへてなへてならぬにおもひいてなむ
權僧正永縁母
5-金葉130長しとも知らずやねのみなかれつつ心のうちに生ふるあやめは
なかしともしらすやねのみなかれつつこころのうちにおふるあやめは
高松上
5-金葉131おなじくはととのへて葺けあやめ草さみだれたらばもりもこそすれ
おなしくはととのへてふけあやめくささみたれたらはもりもこそすれ
左近衛府生秦兼久
5-金葉132五月雨はひかずへにけり東屋の萱が軒端の下朽つるまで
さみたれはひかすへにけりあつまやのかやかのきはのしたくつるまて
藤原定通
5-金葉133五月雨に玉江の水やまさるらむ蘆の下葉の隠れゆくかな
さみたれにたまえのみつやまさるらむあしのしたはのかくれゆくかな
源経信
5-金葉134五月雨に水まさるらし澤田川まきの継橋うきぬばかりに
さみたれにみつまさるらしさはたかはまきのつきはしうきぬはかりに
藤原顕仲
5-金葉135五月雨に入江の橋のうきぬればおろす筏の心地こそすれ
さみたれにいりえのはしのうきぬれはおろすいかたのここちこそすれ
三宮顕仁親王
5-金葉136夏の夜の庭にふりしく白雪は月の入るこそ消ゆるなりけれ
なつのよのにはにふりしくしらゆきはつきのいるこそきゆるなりけれ
神祇伯源顕仲
5-金葉137里ごとに叩く水鶏の音すなり心のとまる宿やなからむ
さとことにたたくくひなのおとすなりこころのとまるやとやなからむ
藤原顕綱
5-金葉138夜もすがらはかなくたたく水鶏かな鎖せる戸もなき柴のかりやを
よもすからはかなくたたくくひなかなさせるともなきしはのかりやを
源雅光
5-金葉139夏衣すそ野の草を吹く風に思ひもあへず鹿やなくらむ
なつころもすそののくさをふくかせにおもひもあへすしかやなくらむ
藤原顕季
5-金葉140ともしして箱根の山に明けにけりふたよりみよりあふとせしまに
ともししてはこねのやまにあけにけりふたよりみよりあふとせしまに
橘俊綱
5-金葉141澤水にほぐしの影のうつれるをふたともしとや鹿は見るらむ
さはみつにほくしのかけのうつれるをふたともしとやしかはみるらむ
源仲正
5-金葉142夏草のなかを露けみかきわけて刈る人なしに茂る野邊かな
なつくさのなかをつゆけみかきわけてかるひとなしにしけるのへかな
壬生忠見
5-金葉143たまくしげ二上山の雲間よりいづれば明くる夏の夜の月
たまくしけふたかみやまのくもまよりいつれはあくるなつのよのつき
源親房
5-金葉144杣川の筏の床のうきまくら夏は涼しきふしどなりけり
そまかはのいかたのとこのうきまくらなつはすすしきふしとなりけり
曾禰好忠
5-金葉145この里も夕立しけり浅茅生に露のすがらぬ草のはもなし
このさともゆふたちしけりあさちふにつゆのすからぬくさのはもなし
源俊頼
5-金葉146水無月の照る日の影はさしながら風のみ秋のけしきなるかな
みなつきのてるひのかけはさしなからかせのみあきのけしきなるかな
藤原忠通
5-金葉147禊する川瀬にたてる井杭さへすがぬきかけて見ゆる今日かな
みそきするかはせにたてるいくひさへすかぬきかけてみゆるけふかな
源有政
5-金葉148君すまばとはましものを津の國の生田のもりの秋の初風
きみすまはとはましものをつのくにのいくたのもりのあきのはつかせ
僧都清胤
5-金葉149とことはに吹くゆふぐれの風なれど秋立つ日こそ涼しかりけれ
とことはにふくゆふくれのかせなれとあきたつひこそすすしかりけれ
藤原公実
5-金葉150まくずはふあだの大野の白露を吹きな乱りそ秋の初風
まくすはふあたのおほののしらつゆをふきなみたりそあきのはつかせ
藤原長実
5-金葉151よろづよに君ぞ見るべき七夕の行きあひの空を雲のうへにて
よろつよにきみそみるへきたなはたのゆきあひのそらをくものうへにて
土佐内侍
5-金葉152七夕の苔の衣をいとはずは人なみなみにとひもしてまし
たなはたのこけのころもをいとはすはひとなみなみにとひもしてまし
能因法師
5-金葉153藤衣いみもやすると七夕にかさぬにつけて濡るる袖かな
ふちころもいみもやするとたなはたにかさぬにつけてぬるるそてかな
橘元任
5-金葉154こひこひてこよひばかりや七夕の枕に塵のつもらざるらむ
こひこひてこよひはかりやたなはたのまくらにちりのつもらさるらむ
前斎宮河内
5-金葉155天の川わかれに胸のこがるれば帰さの舟は梶もとられず
あまのかはわかれにむねのこかるれはかへさのふねはかちもとられす
三宮輔仁親王
5-金葉156七夕にかせる衣の露けさにあかぬけしきを空に知るかな
たなはたにかせるころものつゆけさにあかぬけしきをそらにしるかな
權源国信
5-金葉157七夕にかしつと思ひし逢ふことをその夜なき名の立ちにけるかな
たなはたにかしつとおもひしあふことをそのよなきなのたちにけるかな
小大君
5-金葉158七夕のあかぬ別れの涙にや花のかつらも露けかるらむ
たなはたのあかぬわかれのなみたにやはなのかつらもつゆけかるらむ
源師時
5-金葉159天の川かへさの舟に波かけよ乗りわづらはば程もふばかり
あまのかはかへさのふねになみかけよのりわつらははほともふはかり
内大臣家越後
5-金葉160引く水もけふ七夕にかしてけり天の川瀬に舟ゐすなとて
ひくみつもけふたなはたにかしてけりあまのかはせにふなゐすなとて
菅野為言
5-金葉161ちぎりけむ程は知らねど七夕のたえせぬ今日のあまの川風
ちきりけむほとはしらねとたなはたのたえせぬけふのあまのかはかせ
藤原頼通
5-金葉162まれにあふわれ七夕の身なりせば今日の別れをいきてせましや
まれにあふわれたなはたのみなりせはけふのわかれをいきてせましや
高階俊平
5-金葉163咲きにけりくちなし色の女郎花いはねどしるし秋のけしきは
さきにけりくちなしいろのをみなへしいはねとしるしあきのけしきは
源縁法師
5-金葉164夕されば門田の稲葉おとづれて蘆のまろやに秋風ぞ吹く
ゆふされはかとたのいなはおとつれてあしのまろやにあきかせそふく
源経信
5-金葉165思ひかね別れし野邊を来てみれば浅茅が原に秋風ぞ吹く
おもひかねわかれしのへをきてみれはあさちかはらにあきかせそふく
源道済
5-金葉166山のはにあかず入りぬる夕月夜いつ有明にならむとすらむ
やまのはにあかすいりぬるゆふつくよいつありあけにならむとすらむ
大江公資
5-金葉167すむ人もなき山里の秋の夜は月の光もさびしかりけり
すむひともなきやまさとのあきのよはつきのひかりもさひしかりけり
藤原範永
5-金葉168秋の夜の月に心はあくがれて雲ゐに物を思ふころかな
あきのよのつきにこころはあくかれてくもゐにものをおもふころかな
花山院
5-金葉169月にこそ昔のことはおぼえけれ我を忘るる人に見せばや
つきにこそむかしのことはおほえけれわれをわするるひとにみせはや
中原長国
5-金葉170もろともに草葉の露のおきゐずはひとりや見まし秋の夜の月
もろともにくさはのつゆのおきゐすはひとりやみましあきのよのつき
源顕仲女
5-金葉171池水にこよひの月をうつしても心のままにわがものと見る
いけみつにこよひのつきをうつしてもこころのままにわかものとみる
白河院
5-金葉172照る月の岩間の水にやどらずは玉ゐる數をいかで知らまし
てるつきのいはまのみつにやとらすはたまゐるかすをいかてしらまし
源経信
5-金葉173秋はまだ過ぎぬるばかりあるものを月はこよひを君と見るかな
あきはまたすきぬるはかりあるものをつきはこよひをきみとみるかな
高階俊平
5-金葉174いづくにもこよひの月を見る人の心やおなじ空にすむらむ
いつくにもこよひのつきをみるひとのこころやおなしそらにすむらむ
藤原忠教
5-金葉175ひく駒の數よりほかに見えつるは関の清水の影にぞありける
ひくこまのかすよりほかにみえつるはせきのしみつのかけにそありける
藤原隆経
5-金葉176人もこえ駒もとまらぬ逢坂の関は清水のもる名なりけり
ひともこえこまもとまらぬあふさかのせきはしみつのもるななりけり
小式部内侍
5-金葉177東路をはるかに出づる望月の駒にこよひや逢坂の関
あつまちをはるかにいつるもちつきのこまにこよひやあふさかのせき
源仲正
5-金葉178さやけさは思ひなしかと月影をこよひと知らぬ人にとはばや
さやけさはおもひなしかとつきかけをこよひとしらぬひとにとははや
源親房
5-金葉179こがらしの雲ふきはらふ高嶺よりさえても月のすみのぼるかな
こからしのくもふきはらふたかねよりさえてもつきのすみのほるかな
源俊頼
5-金葉180秋はなほ残りおほかる年なれどこよひの月の名こそ惜しけれ
あきはなほのこりおほかるとしなれとこよひのつきのなこそをしけれ
藤原公実
5-金葉181九重のうちさへ照らす月影に荒れたる宿を思ひこそやれ
ここのへのうちさへてらすつきかけにあれたるやとをおもひこそやれ
大江為政
5-金葉182こころみにほかの月をも見てしがな我が宿からのあはれなるかと
こころみにほかのつきをもみてしかなわかやとからのあはれなるかと
花山院
5-金葉183雲の波かからぬ小夜の月影を清瀧川にやどしてぞ見る
くものなみかからぬさよのつきかけをきよたきかはにやとしてそみる
前齋院六條
5-金葉184月を見て思ふ心のままならば行方も知らずあくがれなまし
つきをみておもふこころのままならはゆくへもしらすあくかれなまし
皇后宮肥後
5-金葉185いかにしてしがらみかけむ天の川流るる月やしばしよどむと
いかにしてしからみかけむあまのかはなかるるつきやしはしよとむと
源師俊
5-金葉186こよひわが桂の里の月を見て思ひ残せることのなきかな
こよひわかかつらのさとのつきをみておもひのこせることのなきかな
源経信
5-金葉187くもりなき影をとどめば山川に入るとも月を惜しまざらまし
くもりなきかけをととめはやまかはにいるともつきををしまさらまし
藤原公実
5-金葉188照る月の光さえゆく宿なれば秋の水にもつららゐにけり
てるつきのひかりさえゆくやとなれはあきのみつにもつららゐにけり
皇后宮摂津
5-金葉189山の端に雲の衣をぬぎすててひとりも月の立ちのぼるかな
やまのはにくものころもをぬきすててひとりもつきのたちのほるかな
源俊頼
5-金葉190あし根はひかつみもしげき沼水にわりなくやどる夜半の月かな
あしねはひかつみもしけきぬまみつにわりなくやとるよはのつきかな
藤原忠通
5-金葉191かがみやま峰より出づる月なれば曇る夜もなき影をこそみれ
かかみやまみねよりいつるつきなれはくもるよもなきかけをこそみれ
祐子内親王家紀伊
5-金葉192いにしへの難波のことを思ひ出でて高津の宮に月のすむらむ
いにしへのなにはのことをおもひいててたかつのみやにつきのすむらむ
源師頼
5-金葉193なごりなく夜半の嵐に雲はれて心のままにすめる月かな
なこりなくよはのあらしにくもはれてこころのままにすめるつきかな
源行宗
5-金葉194三笠山ひかりをさして出でしより曇らで明けぬ秋の夜の月
みかさやまひかりをさしていてしよりくもらてあけぬあきのよのつき
平師季
5-金葉195宿からぞ月の光もまさりけるよの曇りなくすめばなりけり
やとからそつきのひかりもまさりけるよのくもりなくすめはなりけり
赤染衛門
5-金葉196三笠山みねより出づる月影は佐保の川瀬のこほりなりけり
みかさやまみねよりいつるつきかけはさほのかはせのこほりなりけり
源経信
5-金葉197思ひ出でもなくてや我が身やみなまし姨捨山の月見ざりせば
おもひいてもなくてやわかみやみなましをはすてやまのつきみさりせは
權律師済慶
5-金葉198くまもなき鏡とみゆる月影に心うつらぬ人はあらじな
くまもなきかかみとみゆるつきかけにこころうつらぬひとはあらしな
藤原長実
5-金葉199むらくもや月のくまをば拂ふらむ晴れゆくたびに照りまさるかな
むらくもやつきのくまをははらふらむはれゆくたひにてりまさるかな
源俊頼
5-金葉200とだえして人も通はぬ棚橋に月ばかりこそすみわたりけれ
とたえしてひともかよはぬたなはしにつきはかりこそすみわたりけれ
三宮輔仁親王
5-金葉201月影のさすにまかせて行く舟は明石の浦やとまりなるらむ
つきかけのさすにまかせてゆくふねはあかしのうらやとまりなるらむ
藤原実光
5-金葉202おほかたにさやけからぬか月影は涙くもらぬ人にとはばや
おほかたにさやけからぬかつきかけはなみたくもらぬひとにとははや
承香殿女御
5-金葉203さらぬだに玉にまがひて置く露をいとどみがける秋の夜の月
さらぬたにたまにまかひておくつゆをいととみかけるあきのよのつき
藤原長実
5-金葉204すみのぼる心や空をはらふらむ雲の塵ゐぬ秋の夜の月
すみのほるこころやそらをはらふらむくものちりゐぬあきのよのつき
源俊頼
5-金葉205夜とともにくもらぬ雲の上なれば思ふことなく月を見るかな
よとともにくもらぬくものうへなれはおもふことなくつきをみるかな
藤原家経
5-金葉206うらめしく帰りけるかな月夜には来ぬ人をだに待つとこそきけ
うらめしくかへりけるかなつきよにはこぬひとをたにまつとこそきけ
中務宮
5-金葉207もろともに出づとはなしに有明の月のみ送る山路をぞゆく
もろともにいつとはなしにありあけのつきのみおくるやまちをそゆく
權僧正永縁
5-金葉208有明の月待つほどのうたたねは山の端のみぞ夢に見えける
ありあけのつきまつほとのうたたねはやまのはのみそゆめにみえける
源師房
5-金葉209有明の月見ずひさに起きて行く人の名残をながめしものを
ありあけのつきみすさひにおきてゆくひとのなこりをなかめしものを
和泉式部
5-金葉210山里の門田の稲のほのぼのと明くるも知らず月を見るかな
やまさとのかとたのいねのほのほのとあくるもしらすつきをみるかな
藤原顕隆
5-金葉211有明の月も清水に宿りけりこよひはこえじ逢坂の関
ありあけのつきもしみつにやとりけりこよひはこえしあふさかのせき
藤原範永
5-金葉212有明の月もあかしの浦風に波ばかりこそよると見えしか
ありあけのつきもあかしのうらかせになみはかりこそよるとみえしか
平忠盛
5-金葉213有明の月は袂になかれつつ悲しき頃の蟲の聲かな
ありあけのつきはたもとになかれつつかなしきころのむしのこゑかな
赤染衛門
5-金葉214露しげき野邊にならひてきりぎりす我が手枕の下に鳴くなり
つゆしけきのへにならひてきりきりすわかたまくらのしたになくなり
前齋院六條
5-金葉215ささがにの糸引きかくる草むらにはたおる蟲の聲きこゆなり
ささかにのいとひきかくるくさむらにはたおるむしのこゑきこゆなり
源顕仲女
5-金葉216おぼつかないづくなるらむ蟲の音をたづねば花の露やこぼれむ
おほつかないつくなるらむむしのねをたつねははなのつゆやこほれむ
藤原長能
5-金葉217たまづさはかけて来つれど雁がねの上の空にも見えわたるかな
たまつさはかけてきつれとかりかねのうはのそらにもみえわたるかな
読人知らず
5-金葉218妹背山みねの嵐や寒からむ衣かりがね空に鳴くなり
いもせやまみねのあらしやさむからむころもかりかねそらになくなり
藤原公実
5-金葉219妻こふる鹿ぞなくなるひとりねの鳥籠の山風身にやしむらむ
つまこふるしかそなくなるひとりねのとこのやまかせみにやしむらむ
三宮大進
5-金葉220高砂の尾上にたてる鹿の音にことのほかにも濡るる袖かな
たかさこのをのへにたてるしかのねにことのほかにもぬるるそてかな
恵慶法師
5-金葉221思ふこと有明がたの月影にあはれをそふるさを鹿のこゑ
おもふことありあけかたのつきかけにあはれをそふるさをしかのこゑ
皇后宮右衛門佐
5-金葉222夜半に鳴く聲に心ぞあくがるる我が身は鹿の妻とならねど
よはになくこゑにこころそあくかるるわかみはしかのつまとならねと
内大臣家越後
5-金葉223さもこそは都こひしき旅ならめ鹿の音にさへ濡るる袖かな
さもこそはみやここひしきたひならめしかのねにさへぬるるそてかな
源雅光
5-金葉224秋萩を草の枕にむすぶ夜は近くも鹿の聲をきくかな
あきはきをくさのまくらにむすふよはちかくもしかのこゑをきくかな
藤原伊家
5-金葉225さを鹿の鳴く音は野邊に聞こゆれど涙はとこの物にざりける
さをしかのなくねはのへにきこゆれとなみたはとこのものにさりける
源俊頼
5-金葉226世の中をあきはてぬとやさを鹿の今はあらしの山に鳴くらむ
よのなかをあきはてぬとやさをしかのいまはあらしのやまになくらむ
藤原顕仲
5-金葉227しらすげの眞野の萩原露ながら折りつる袖ぞ人な咎めそ
しらすけのまののはきはらつゆなからをりつるそてそひとなとかめそ
藤原長実
5-金葉228白露をたまくらにして女郎花のはらの風に折れやふすらむ
しらつゆをたまくらにしてをみなへしのはらのかせにをれやふすらむ
權藤原俊忠
5-金葉229心ゆゑ心おくらむ女郎花いろめく野邊に人かよふとて
こころゆゑこころおくらむをみなへしいろめくのへにひとかよふとて
藤原顕輔
5-金葉230佐保川のみぎはに咲ける藤袴なみの折りてやかけむとすらむ
さほかはのみきはにさけるふちはかまなみのおりてやかけむとすらむ
源忠季
5-金葉231かりにくる人も着よとや藤袴あきの野ごとに鹿のたつらむ
かりにくるひともきよとやふちはかまあきののことにしかのたつらむ
右兵衛督伊通
5-金葉232ささがにの糸のとぢめやあだならむほころびわたる藤袴かな
ささかにのいとのとちめやあたならむほころひわたるふちはかまかな
源顕仲
5-金葉233鶉なく眞野の入江の濱風にをばななみよる秋の夕ぐれ
うつらなくまののいりえのはまかせにをはななみよるあきのゆふくれ
源俊頼
5-金葉234あだし野の露ふきみだる秋風になびきもあへぬ女郎花かな
あたしののつゆふきみたるあきかせになひきもあへぬをみなへしかな
藤原公実
5-金葉235何ならむと思ふ思ふぞほりうゑし女郎花とは今日ぞしりぬる
なにならむとおもふおもふそほりうゑしをみなへしとはけふそしりぬる
明圓聖人
5-金葉236ぬれぬれも明けばまづ見む宮城野のもとあらの小萩しをれしぬらむ
ぬれぬれもあけはまつみむみやきののもとあらのこはきしをれしぬらむ
藤原長能
5-金葉237うつろふは下葉ばかりと見し程にやがて秋にもなりにけるかな
うつろふはしたははかりとみしほとにやかてあきにもなりにけるかな
馬内侍
5-金葉238とりつなげ美豆野の原のはなれ駒淀の川霧秋ははれせじ
とりつなけみつののはらのはなれこまよとのかはきりあきははれせし
藤原長能
5-金葉239宇治川の川瀬も見えぬ夕霧に槙の島人ふねよばふなり
うちかはのかはせもみえぬゆふきりにまきのしまひとふねよはふなり
藤原基光
5-金葉240川霧のたちこめつれば高瀬舟わけ行く棹の音のみぞする
かはきりのたちこめつれはたかせふねわけゆくさをのおとのみそする
藤原行家
5-金葉241さかりなる籬の菊をけさ見ればまだ空さえぬ雪ぞつもれる
さかりなるまかきのきくをけさみれはまたそらさえぬゆきそつもれる
藤原通俊
5-金葉242ちとせまで君がつむべき菊なれば露もあだには置かじとぞ思ふ
ちとせまてきみかつむへききくなれはつゆもあたにはおかしとそおもふ
藤原顕季
5-金葉243もずのゐるはじの立ち枝のうす紅葉たれ我が宿の物と見るらむ
もすのゐるはしのたちえのうすもみちたれわかやとのものとみるらむ
藤原仲実
5-金葉244関こゆる人にとはばや陸奥の安達の真弓もみぢしにきや
せきこゆるひとにとははやみちのくのあたちのまゆみもみちしにきや
藤原頼宗
5-金葉245いくらとも見えぬ紅葉の錦かな誰ふたむらの山といひけむ
いくらともみえぬもみちのにしきかなたれふたむらのやまといひけむ
橘能元
5-金葉246山守よ斧の音高く聞こゆなり峰の紅葉はよきてきらせよ
やまもりよをののおとたかくきこゆなりみねのもみちはよきてきらせよ
源経信
5-金葉247みづうみに秋の山邊をうつしてははたばり広き錦とや見む
みつうみにあきのやまへをうつしてははたはりひろきにしきとやみむ
權大僧都観教
5-金葉248もみぢばをたづぬる旅にあらねども錦をのみもみちきたるかな
もみちはをたつぬるたひにあらねともにしきをのみもみちきたるかな
江侍従
5-金葉249谷川にしがらみかけよ竜田姫みねの紅葉に嵐ふくなり
たにかはにしからみかけよたつたひめみねのもみちにあらしふくなり
藤原伊家
5-金葉250ははそ散る岩間をかづく鴨鳥はおのが青羽も紅葉しにけり
ははそちるいはまをかつくかもとりはおのかあをはももみちしにけり
藤原伊家
5-金葉251山里の秋のけしきも見ぬ人に来てだに語れ露もおとさず
やまさとのあきのけしきもみぬひとにきてたにかたれつゆもおとさす
前皇后宮美作
5-金葉252いづくにか駒をとどめむ紅葉ばの色なるものは心なりけり
いつくにかこまをととめむもみちはのいろなるものはこころなりけり
藤原長能
5-金葉253大井川いはなみたかし筏士よ岸の紅葉にあから目なせそ
おほゐかはいはなみたかしいかたしよきしのもみちにあからめなせそ
源経信
5-金葉254小倉山みねの嵐の吹くからに谷のかけはし紅葉しにけり
をくらやまみねのあらしのふくからにたにのかけはしもみちしにけり
藤原顕季
5-金葉255音羽山もみぢちるらし逢坂の関の小川に錦おりかく
おとはやまもみちちるらしあふさかのせきのをかはににしきおりかく
源俊頼
5-金葉256明日よりは四方の山邊に秋霧の面影にのみたたむとすらむ
あすよりはよものやまへにあききりのおもかけにのみたたむとすらむ
中原経則
5-金葉257草の葉にはかなく消ゆる露霜をかたみに置きて秋のゆくらむ
くさのはにはかなくきゆるつゆしもをかたみにおきてあきのゆくらむ
源師俊
5-金葉258いづかたに秋のゆくらむ我が宿に今宵ばかりの雨宿りせよ
いつかたにあきのゆくらむわかやとにこよひはかりのあまやとりせよ
藤原公任
5-金葉259神無月しぐるるままにくらぶ山した照るばかり紅葉しにけり
かみなつきしくるるままにくらふやましたてるはかりもみちしにけり
源師賢
5-金葉260しぐれつつかつ散る山のもみぢ葉をいかに吹く夜の嵐なるらむ
しくれつつかつちるやまのもみちはをいかにふくよのあらしなるらむ
藤原顕季
5-金葉261立田川しがらみかけて神なびのみむろの山の紅葉をぞ見る
たつたかはしからみかけてかみなひのみむろのやまのもみちをそみる
源俊頼
5-金葉262神無月しぐれの雨の降るからにいろいろになる鈴鹿山かな
かみなつきしくれのあめのふるからにいろいろになるすすかやまかな
摂政家参河
5-金葉263もろともに山めぐりする時雨かなふるにかひなき身とは知らずや
もろともにやまめくりするしくれかなふるにかひなきみとはしらすや
藤原道雅
5-金葉264山深み落ちてつもれる紅葉ばのかわける上にしぐれ降るなり
やまふかみおちてつもれるもみちはのかわけるうへにしくれふるなり
大江嘉言
5-金葉265ひぐらしに山路のきのふしぐれしは富士の高嶺の雪にぞありける
ひくらしにやまちのきのふしくれしはふしのたかねのゆきにそありける
大江嘉言
5-金葉266紅葉ちる宿はあきぎり晴れせねば立田の河のながれをぞ見る
もみちちるやとはあききりはれせねはたつたのかはのなかれをそみる
藤原資仲
5-金葉267なよ竹の音にぞ袖をかづきつる濡れぬにこそは風と知りぬれ
なよたけのおとにそそてをかつきつるぬれぬにこそはかせとしりぬれ
藤原基長
5-金葉268氷魚のよる川瀬にたてる網代木は立つ白波のうつにやあるらむ
ひをのよるかはせにたてるあしろきはたつしらなみのうつにやあるらむ
京極関白家肥後
5-金葉269月清み瀬々の網代による氷魚は玉藻にさゆる氷なりけり
つきよよみせせのあしろによるひをはたまもにさゆるこほりなりけり
源経信
5-金葉270寒からば夜はきて寝よみ山鳥いまは木の葉も嵐吹くなり
さむからはよるはきてねよみやまとりいまはこのはもあらしふくなり
源重之
5-金葉271淡路島かよふ千鳥のなくこゑに幾夜ねざめぬ須磨の関守
あはちしまかよふちとりのなくこゑにいくよねさめぬすまのせきもり
源兼昌
5-金葉272川霧は汀をこめて立ちにけりいづくなるらむ千鳥なくなり
かはきりはみきはをこめてたちにけりいつくなるらむちとりなくなり
藤原長能
5-金葉273高瀬舟さをの音にぞ知られぬる蘆間の氷ひとへしにけり
たかせふねさをのおとにそしられぬるあしまのこほりひとへしにけり
藤原隆経
5-金葉274谷川のよどみを結ぶ氷こそ見る人はなき鏡なりけれ
たにかはのよとみをむすふこほりこそみるひとはなきかかみなりけれ
源有仁
5-金葉275水鳥は氷のせきに閉ぢられて玉藻の宿をかれやしぬらむ
みつとりはこほりのせきにとちられてたまものやとをかれやしぬらむ
曾禰好忠
5-金葉276しながどり猪名の伏原風さえて昆陽の池水こほりしにけり
しなかとりゐなのふしはらかせさえてこやのいけみつこほりしにけり
藤原仲実
5-金葉277つながねど流れもやらず高瀬舟むすふ氷のとけぬかぎりは
つなかねとなかれもやらすたかせふねむすふこほりのとけぬかきりは
三宮顕仁親王
5-金葉278水鳥のつららの枕ひまもなしむべしみけらし十ふの菅菰
みつとりのつららのまくらひまもなしうへしみけらしとふのすかこも
源経信
5-金葉279冬寒み空にこほれる月影は宿にもるこそ解くるなりけれ
ふゆさむみそらにこほれるつきかけはやとにもるこそとくるなりけれ
神祇伯源顕仲
5-金葉280年をへて吉野の山に見なれたる目にもふりせぬ今朝の初雪
としをへてよしののやまにみなれたるめにもふりせぬけさのはつゆき
藤原義忠
5-金葉281ころもでに余呉の浦風さえさえてこだかみ山に雪降りにけり
ころもてによこのうらかせさえさえてこたかみやまにゆきふりにけり
源頼綱
5-金葉282白波の立ちわたるかと見ゆるかな濱名の橋に降れる白雪
しらなみのたちわたるかとみゆるかなはまなのはしにふれるしらゆき
前齋院尾張
5-金葉283いかにせむ末の松山波こさば峯の初雪きえもこそすれ
いかにせむすゑのまつやまなみこさはみねのはつゆききえもこそすれ
大江匡房
5-金葉284初雪は松の葉白く降りにけりこや小野山の冬のさびしさ
はつゆきはまつのはしろくふりにけりこやをのやまのふゆのさひしさ
源経信
5-金葉285待つ人の今も来たらばいかがせむ踏ままく惜しき庭の雪かな
まつひとのいまもきたらはいかかせむふままくをしきにはのゆきかな
和泉式部
5-金葉286降る雪に杉の青葉も埋もれてしるしも見えず三輪の山もと
ふるゆきにすきのあをはもうつもれてしるしもみえすみわのやまもと
皇后宮摂津
5-金葉287磐代の結べる松に降る雪は春も解けずやあらむとすらむ
いはしろのむすへるまつにふるゆきははるもとけすやあらむとすらむ
中納言女王
5-金葉288濱風に我が苔衣ほころびて身にふりつもる夜半の雪かな
はまかせにわかこけころもほころひてみにふりつもるよはのゆきかな
増基法師
5-金葉289雪ふれば弥高山のこずゑにはまだ冬ながら花咲きにけり
ゆきふれはいやたかやまのこすゑにはまたふゆなからはなさきにけり
藤原行盛
5-金葉290朝ごとの鏡の影に面なれて雪見にとしもいそがれぬかな
あさことのかかみのかけにおもなれてゆきみにとしもいそかれぬかな
源顕房
5-金葉291炭竃に立つ煙さへ小野山は雪げの雲と見ゆるなりけり
すみかまにたつけふりさへをのやまはゆきけのくもとみゆるなりけり
源師時
5-金葉292深山木を朝な夕なにこりつみて寒さをこふる小野の炭焼き
みやまきをあさなゆふなにこりつみてさむさをこふるをののすみやき
曾禰好忠
5-金葉293袖ひちて植ゑし春より守る田を誰にしられて狩に立つらむ
そてひちてうゑしはるよりまもるたをたれにしられてかりにたつらむ
中務
5-金葉294濡れぬれもなほ狩りゆかむ嘴鷹のうは羽の雪をうち拂ひつつ
ぬれぬれもなほかりゆかむはしたかのうははのゆきをうちはらひつつ
源道済
5-金葉295霰ふる交野のみのの狩衣ぬれぬ宿かす人しなければ
あられふるかたののみののかりころもぬれぬやとかすひとしなけれは
藤原長能
5-金葉296み狩する末野にたてる一つ松とがへる鷹の木居にかもせむ
みかりするすゑのにたてるひとつまつとかへるたかのこゐにかもせむ
藤原長能
5-金葉297ことわりや交野の小野に鳴くきぎすさこそは狩の人はつらけれ
ことわりやかたののをのになくききすさこそはかりのひとはつらけれ
内大臣家越後
5-金葉298はし鷹をとりかふ澤に影見れば我が身もともにとやがへりせり
はしたかをとりかふさはにかけみれはわかみもともにとやかへりせり
源俊頼
5-金葉299神まつる御室の山に霜ふればゆふしでかけぬ榊葉ぞなき
かみまつるみむろのやまにしもふれはゆふしてかけぬさかきはそなき
源師時
5-金葉300榊葉や立ちまふ袖の追風になびかぬ神もあらじとぞ思ふ
さかきはやたちまふそてのおひかせになひかぬかみもあらしとそおもふ
康資王母
5-金葉301旅寝する夜床さえつつ明けぬらしとかたぞ鐘の聲きこゆなり
たひねするよとこさえつつあけぬらしとかたそかねのこゑきこゆなり
源経信
5-金葉302なかなかに霜のうはぎを重ねてや鴛鴦の毛衣さえまさるらむ
なかなかにしものうはきをかさねてやをしのけころもさえまさるらむ
前齋院六條
5-金葉303さむしろに思ひこそやれ笹の葉にさゆる霜夜の鴛鴦のひとり寝
さむしろにおもひこそやれささのはにさゆるしもよのをしのひとりね
藤原顕季
5-金葉304ふぢふ野に柴刈る民の手もたゆみつかねもあへず冬の寒さに
ふちふのにしはかるたみのてもたゆみつかねもあへすふゆのさむさに
曾禰好忠
5-金葉305なにとなく年の暮るるは惜しければ花のゆかりに春を待つかな
なにとなくとしのくるるはをしけれははなのゆかりにはるをまつかな
源有仁
5-金葉306人しれず年の暮るるを惜しむ間に春いとふ名の立ちぬべきかな
ひとしれすとしのくるるををしむまにはるいとふなのたちぬへきかな
藤原成通
5-金葉307數ふるに残り少なき身にしあればせめても惜しき年の暮かな
かそふるにのこりすくなきみにしあれはせめてもをしきとしのくれかな
藤原永実
5-金葉308いかにせむ暮れ行く年をしるべにて身をたづねつつ老は来にけり
いかにせむくれゆくとしをしるへにてみをたつねつつおいはきにけり
三宮輔仁親王
5-金葉309年暮れぬとばかりをこそ聞かましか我が身の上に積らざりせば
としくれぬとはかりをこそきかましかわかみのうへにつもらさりせは
中原長国
5-金葉310年ふれど面変りせぬ呉竹は流れての世のためしなりけり
としふれとおもかはりせぬくれたけはなかれてのよのためしなりけり
堀河院
5-金葉311君が代にあふくま河の底きよみ代々を重ねてすまむとぞ思ふ
きみかよにあふくまかはのそこきよみよよをかさねてすまむとそおもふ
藤原頼通
5-金葉312水の面に松のしづえのひちぬれば千歳は池の心なりけり
みつのおもにまつのしつえのひちぬれはちとせはいけのこころなりけり
權中納言俊実
5-金葉313君が代のためしに立てる松蔭にいくたび水のすまむとすらむ
きみかよのためしにたてるまつかけにいくたひみつのすまむとすらむ
大江嘉言
5-金葉314たれにかと池の心も思ふらむ底に宿れる松のちとせを
たれにかといけのこころもおもふらむそこにやとれるまつのちとせを
恵慶法師
5-金葉315九重に久しくにほへ八重櫻のどけき春の風としらずや
ここのへにひさしくにほへやへさくらのとけきはるのかせとしらすや
權藤原実行
5-金葉316おのづから我が身さへこそ祝はるれ誰か千代にもあはまほしさに
おのつからわかみさへこそいははるれたれかちよにもあはまほしさに
藤原国行
5-金葉317君が代の程をばしらで住吉の松を久しと思ひけるかな
きみかよのほとをはしらてすみよしのまつをひさしとおもひけるかな
源経信
5-金葉318水上にさだめてければ君が代にふたたびすめる堀河の水
みなかみにさためてけれはきみかよにふたたひすめるほりかはのみつ
曾禰好忠
5-金葉319君が代は末の松山はるばると越す白波の數もしられず
きみかよはすゑのまつやまはるはるとこすしらなみのかすもしられす
永成法師
5-金葉320池水の底さへにほふ花櫻みるともあかじ千代の春まで
いけみつのそこさへにほふはなさくらみるともあかしちよのはるまて
堀河院
5-金葉321音高きつづみの山のうちはへてたのしき御代となるぞ嬉しき
おとたかきつつみのやまのうちはへてたのしきみよとなるそうれしき
藤原行盛
5-金葉322曇りなき豊のあかりにあふみなる朝日のさとの光さしそふ
くもりなきとよのあかりにあふみなるあさひのさとのひかりさしそふ
藤原敦光
5-金葉323松風のをごとのさとに通ふにぞ治まれる世の聲は聞こゆる
まつかせのをことのさとにかよふにそをさまれるよのこゑはきこゆる
藤原敦光
5-金葉324みつぎもの運ぶよほろを數ふればにまのさとびと數そひにけり
みつきものはこふよほろをかそふれはにまのさとひとかすそひにけり
藤原家経
5-金葉325苗代の水は稲井にまかせたり民やすげなる君が御代かな
なはしろのみつはいなゐにまかせたりたみやすけなるきみかみよかな
高階明頼
5-金葉326花もみな君が千歳をまつなればいづれの春か色もかはらむ
はなもみなきみかちとせをまつなれはいつれのはるかいろもかはらむ
藤原長実
5-金葉327いかばかり神もあはれと三笠山二葉の松の千代のけしきを
いかはかりかみもあはれとみかさやまふたはのまつのちよのけしきを
周防内侍
5-金葉328君が代はいくよろづ代か重ぬべきいつぬき河の鶴の毛衣
きみかよはいくよろつよかかさぬへきいつぬきかはのつるのけころも
藤原道経
5-金葉329君が代はあまのこやねのみことより祝ひぞそめし久しかれとは
きみかよはあまのこやねのみことよりいはひそそめしひさしかれとは
藤原通俊
5-金葉330君が代はかぎりもあらじ三笠山みねに朝日のささむかぎりは
きみかよはかきりもあらしみかさやまみねにあさひのささむかきりは
大江匡房
5-金葉331藤波は君がちとせの松にこそかけて久しく見るべかりけれ
ふちなみはきみかちとせのまつにこそかけてひさしくみるへかりけれ
大夫典侍
5-金葉332みつがきの久しかるべき君が代を天照る神や空に知るらむ
みつかきのひさしかるへききみかよをあまてるかみやそらにしるらむ
藤原為忠
5-金葉333ゆきつもる年のしるしにいとどしく千歳の松の花咲くぞ見る
ゆきつもるとしのしるしにいととしくちとせのまつのはなさくそみる
藤原頼通
5-金葉334つもるべしゆきつもるべし君が代は松の花咲く千たび見るまで
つもるへしゆきつもるへしきみかよはまつのはなさくちたひみるまて
源顕房
5-金葉335長浜の真砂の數も何ならず尽きせず見ゆる君が御代かな
なかはまのまさこのかすもなにならすつきせすみゆるきみかみよかな
後冷泉院
5-金葉336よろづよのためしと見ゆる松の上に雪さへつもる年にもあるかな
よろつよのためしとみゆるまつのうへにゆきさへつもるとしにもあるかな
源頼家
5-金葉337君うしや花の都の花を見で苗代水に急ぐ心を
きみうしやはなのみやこのはなをみてなはしろみつにいそくこころを
大納言経長
5-金葉338よそに見し苗代水にあはれわが下り立つ名をも流しつるかな
よそにみしなはしろみつにあはれわかおりたつなをもなかしつるかな
藤原兼房
5-金葉339この頃は宮城野にこそまじりけれ君を牡鹿の角もとむとて
このころはみやきのにこそましりつれきみををしかのつのもとむとて
源重之
5-金葉340もろともに立たましものをみちのくの衣の関をよそに聞くかな
もろともにたたましものをみちのくのころものせきをよそにきくかな
和泉式部
5-金葉341長き夜の闇にまよへる我をおきて雲隠れぬる空の月かな
なかきよのやみにまよへるわれをおきてくもかくれぬるそらのつきかな
小大君
5-金葉342帰るべき旅の別れとなぐさむる心にたぐふ涙なりけり
かへるへきたひのわかれとなくさむるこころにたくふなみたなりけり
藤原頼宗
5-金葉343別れ路を隔つる雲の上にこそ扇の風はやらまほしけれ
わかれちをへたつるくものうへにこそあふきのかせはやらまほしけれ
能宣
5-金葉344とどまらむとどまらじとも思ほえずいづくもつひのすみかならねば
ととまらむととまらしともおもほえすいつくもつひのすみかならねは
参河入道
5-金葉345とまりゐて待つべき身こそ老いにけれあはれ別れは人のためかは
とまりゐてまつへきみこそおいにけれあはれわかれはひとのためかは
菅原資忠
5-金葉346かたしきの袖にひとりは明かせども落つる涙ぞ夜をかさねける
かたしきのそてにひとりはあかせともおつるなみたそよをかさねける
前太宰大弐長房
5-金葉347別れ路をげにいかばかり思ふらむ聞く人さへぞ袖はぬれける
わかれちをけにいかはかりおもふらむきくひとさへそそてはぬれける
上東門院
5-金葉348はるかなる旅の空にもおくれねばうらやましきは秋の夜の月
はるかなるたひのそらにもおくれねはうらやましきはあきのよのつき
源為成
5-金葉349都にておぼつかなさをならはずは旅寝をいかに思ひやらまし
みやこにておほつかなさをならはすはたひねをいかにおもひやらまし
民部内侍
5-金葉350人知れずものおもふことはならひにき花に別れぬ春しなければ
ひとしれすものおもふことはならひにきはなにわかれぬはるしなけれは
和泉式部
5-金葉351あかねさす日に向ひても思ひいでよ都はしのぶながめすらむと
あかねさすひにむかひてもおもひいてよみやこはしのふなかめすらむと
皇后宮
5-金葉352おきつしま雲ゐの岸をゆきかへり文かよはさむ幻もがな
おきつしまくもゐのきしをゆきかへりふみかよはさむまほろしもかな
友政妻
5-金葉353伊勢の海のをののふるえにくちはてで都のかたへ帰れとぞ思ふ
いせのうみのをののふるえにくちはててみやこのかたへかへれとそおもふ
源師頼
5-金葉354待ちつけむ我が身なりせば帰るべき程をいくたび君にとはまし
まちつけむわかみなりせはかへるへきほとをいくたひきみにとはまし
源行宗
5-金葉355今日はさは立ち別るともたよりあらばありやなしやの情わするな
けふはさはたちわかるともたよりあらはありやなしやのなさけわするな
權源国信
5-金葉356東路の木の下くらくなりゆかば都の月をこひざらめやは
あつまちのこのしたくらくなりゆかはみやこのつきをこひさらめやは
藤原公任
5-金葉357人はいさわが身は末になりぬればまた逢坂もいかが待つべき
ひとはいさわかみはすゑになりぬれはまたあふさかもいかかまつへき
藤原実綱
5-金葉358恋しさはその人かずにあらずとも都をしのぶ數に入れなむ
こひしさはそのひとかすにあらすともみやこをしのふかすにいれなむ
藤原有貞
5-金葉359さしのぼる朝日に君を思ひいでむかたぶく月に我を忘るな
さしのほるあさひにきみをおもひいてむかたふくつきにわれをわするな
藤原通俊
5-金葉360我ひとり急ぐと思ひし東路に垣根の梅はさきだちにけり
われひとりいそくとおもひしあつまちにかきねのうめはさきたちにけり
橘則光
5-金葉361いかでなほわが身にかへて武隈の松ともならむ行く末のため
いかてなほわかみにかへてたけくまのまつともならむゆくすゑのため
能宣
5-金葉362知らざりつ袖のみ濡れてあやめ草かかるこひぢに生ひむものとは
しらさりつそてのみぬれてあやめくさかかるこひちにおひむものとは
小一條院恋上
5-金葉363君こふる心は空に天の原かひなくてゆく月日なりけり
きみこふるこころはそらにあまのはらかひなくてゆくつきひなりけり
中務恋上
5-金葉364しのすすき上葉にすがくささがにのいかさまにせば人なびきなむ
しのすすきうははにすかくささかにのいかさまにせはひとなひきなむ
大江公資恋上
5-金葉365さりともと思ふかぎりはしのばれて鳥とともにぞねはなかれける
さりともとおもふかきりはしのはれてとりとともにそねはなかれける
神祇伯源顕仲恋上
5-金葉366七夕はまた来む秋もたのむらむ逢ふよもしらぬ身をいかにせむ
たなはたはまたこむあきもたのむらむあふよもしらぬみをいかにせむ
少将公教母恋上
5-金葉367七夕にけさ引く糸の露おもみたわむけしきを見でややみなむ
たなはたにけさひくいとのつゆおもみたわむけしきをみてややみなむ
藤原道綱恋上
5-金葉368嬉しきはいかばかりかは思ふらむ憂きは身にしむ物にぞありける
うれしきはいかはかりかはおもふらむうきはみにしむものにそありける
藤原道信恋上
5-金葉369これにしく思ひはなきを草まくら旅にかへすはいな莚とや
これにしくおもひはなきをくさまくらたひにかへすはいなむしろとや
藤原公実恋上
5-金葉370夜とともに玉散るとこの菅まくら見せばや人に夜半のけしきを
よとともにたまちるとこのすかまくらみせはやひとによはのけしきを
俊頼恋上
5-金葉371逢ふと見てうつつのかひはなけれどもはかなき夢ぞ命なりける
あふとみてうつつのかひはなけれともはかなきゆめそいのちなりける
藤原顕輔恋上
5-金葉372逢ふまでは思ひもよらず夏引きのいとほしとだに言ふと聞かばや
あふまてはおもひもよらすなつひきのいとほしとたにいふときかはや
源雅光恋上
5-金葉373思ひやれ須磨のうらみて寝たる夜のかたしく袖にかかる涙を
おもひやれすまのうらみてねたるよのかたしくそてにかかるなみたを
藤原長実恋上
5-金葉374いまはただ寝られぬいをぞ友とする恋しき人のゆかりと思へば
いまはたたねられぬいをそともとするこひしきひとのゆかりとおもへは
宣源法師恋上
5-金葉375夕暮は待たれしものを今はただ行くらむかたを思ひこそやれ
ゆふくれはまたれしものをいまはたたゆくらむかたをおもひこそやれ
相模恋上
5-金葉376恋すてふ名をだに流せ涙川つれなき人も聞きやわたると
こひすてふなをたになかせなみたかはつれなきひともききやわたると
読人知らず恋上
5-金葉377何せむに思ひかけけむ唐ごろも恋することのみさをならぬに
なにせむにおもひかけけむからころもこひすることのみさをならぬに
読人知らず恋上
5-金葉378いかでかは思ひありとは知らすべき室の八島の煙ならでは
いかてかはおもひありとはしらすへきむろのやしまのけふりならては
藤原実方恋上
5-金葉379思ひ出づやありしその夜の呉竹はあさましかりしふし所かな
おもひいつやありしそのよのくれたけはあさましかりしふしところかな
藤原公実恋上
5-金葉380白雲のかかる山路をふみみてぞいとど心は空になりける
しらくものかかるやまちをふみみてそいととこころはそらになりける
藤原顕隆恋上
5-金葉381水鳥の羽風にさわぐさざ波のあやしきまでも濡るる袖かな
みつとりのはかせにさわくささなみのあやしきまてもぬるるそてかな
源師俊恋上
5-金葉382逢ひ見むと頼むればこそくれは鳥あやしやいかがたち帰るべき
あひみむとたのむれはこそくれはとりあやしやいかかたちかへるへき
源顕国恋上
5-金葉383人知れず逢ふを待つまに恋ひ死なば何にかへつる命とかいはむ
ひとしれすあふをまつまにこひしなはなににかへつるいのちとかいはむ
本院侍従恋上
5-金葉384谷川の上は木の葉に埋もれて下に流ると君見るらめや
たにかはのうへはこのはにうつもれてしたになかるときみみるらめや
權藤原実行恋上
5-金葉385ながむれば恋しき人の恋しきにくもらばくもれ秋の夜の月
なかむれはこひしきひとのこひしきにくもらはくもれあきのよのつき
藤原基光恋上
5-金葉386つらしともおろかなるにぞ言はれけるいかに恨むと人に知られむ
つらしともおろかなるにそいはれけるいかにうらむとひとにしられむ
読人知らず恋上
5-金葉387おもかげは數ならぬ身に恋ひられて雲居の月をたれと見るらむ
おもかけはかすならぬみにこひられてくもゐのつきをたれとみるらむ
藤原知房恋上
5-金葉388逢ふことの今はかた野にはむ駒は忘れ草にぞなつかざりける
あふことのいまはかたのにはむこまはわすれくさにそなつかさりける
交野女恋上
5-金葉389わぎもこが袖ふりかけし移り香のけさは身にしむ物をこそ思へ
わきもこかそてふりかけしうつりかのけさはみにしむものをこそおもへ
源兼澄恋上
5-金葉390ふみそめて思かへりしくれなゐの筆のすさびをいかで見せけむ
ふみそめておもひかへりしくれなゐのふてのすさひをいかてみせけむ
内大臣家小大進恋上
5-金葉391知るらめや淀の継橋よとともにつれなき人を恋ひわたるとは
しるらめやよとのつきはしよとともにつれなきひとをこひわたるとは
藤原長実母恋上
5-金葉392恋ひわびておさふる袖や流れ出づる涙の河の井堰なるらむ
こひわひておさふるそてやなかれいつるなみたのかはのゐせきなるらむ
藤原道経恋上
5-金葉393流れての名にぞ立ちぬる涙川ひとめつつみをせきしあへねば
なかれてのなにそたちぬるなみたかはひとめつつみをせきしあへねは
少将公教母恋上
5-金葉394涙川そでの井堰も朽ちはてて澱むかたなき恋もするかな
なみたかはそてのゐせきもくちはててよとむかたなきこひもするかな
皇后宮右衛門佐恋上
5-金葉395忘れ草しげれる宿を来て見れば思ひのきより生ふるなりけり
わすれくさしけれるやとをきてみれはおもひのきよりおふるなりけり
源俊頼恋上
5-金葉396かくとだにまだいはしろの結び松むすぼほれたる我が心かな
かくとたにまたいはしろのむすひまつむすほほれたるわかこころかな
源顕国恋上
5-金葉397胸はふじ袖は清見が関なれや煙も波も立たぬ日ぞなき
むねはふしそてはきよみかせきなれやけふりもなみもたたぬひそなき
平祐挙恋上
5-金葉398つらかりし心ならひに逢ひ見てもなほ夢かとぞうたがはれける
つらかりしこころならひにあひみてもなほゆめかとそうたかはれける
源行宗恋上
5-金葉399年ふれど人もすさへぬ我が恋や朽木の杣の谷の埋もれ木
としふれとひともすさへぬわかこひやくちきのそまのたにのうもれき
藤原顕輔恋上
5-金葉400いかにせむ數ならぬ身にしたがはでつつむ袖より落つる涙を
いかにせむかすならぬみにしたかはてつつむそてよりおつるなみたを
読人知らず恋上
5-金葉401あらかりし風ののちより絶えにしは蜘蛛手にすがく糸にやあるらむ
あらかりしかせののちよりたえにしはくもてにすかくいとにやあるらむ
相模恋上
5-金葉402君まつと山の端いでて山の端に入るまで月をながめつるかな
きみまつとやまのはいててやまのはにいるまてつきをなかめつるかな
橘為義恋上
5-金葉403なかなかにいひもはなたで信濃なる木曽路の橋にかけたるやなぞ
なかなかにいひもはなたてしなのなるきそちのはしにかけたるやなそ
源頼光恋上
5-金葉404菖蒲にもあらぬ真菰をひきかけしかりのよどのの忘られぬかな
あやめにもあらぬまこもをひきかけしかりのよとののわすられぬかな
相模恋上
5-金葉405なぞもかくこひぢに立ちて菖蒲草あまりながびくさつきなるらむ
なそもかくこひちにたちてあやめくさあまりなかひくさつきなるらむ
橘季通恋上
5-金葉406おのづから夜がるる程のさむしろは涙のうきになると知らずや
おのつからよかるるほとのさむしろはなみたのうきになるとしらすや
神祇伯源顕仲恋上
5-金葉407池にすむ我が名ををしのとりかへす物にもがなや人を恨みむ
いけにすむわかなををしのとりかへすものにもかなやひとをうらみむ
藤原惟規恋上
5-金葉408秋風に吹き返されて葛の葉のいかにうらみしものとかは知る
あきかせにふきかへされてくすのはのいかにうらみしものとかはしる
藤原正家恋上
5-金葉409ひと夜とはいつか契りしかは竹の流れてとこそ思ひそめしか
ひとよとはいつかちきりしかはたけのなかれてとこそおもひそめしか
藤原経忠恋上
5-金葉410逢ひ見ての後つらからば夜々をへてこれよりまさる恋にまどはむ
あひみてののちつらからはよよをへてこれよりまさるこひにまとはむ
皇后宮式部恋上
5-金葉411世の常の秋風ならば荻の葉にそよとばかりの音はしてまし
よのつねのあきかせならはをきのはにそよとはかりのおとはしてまし
安法法師女恋上
5-金葉412しのぶれば涙ぞしるきくれなゐに物思ふ袖は染むべかりけり
しのふれはなみたそしるきくれなゐにものおもふそてはそむへかりけり
源道済恋上
5-金葉413待ちし夜の更けしをなにに嘆きけむ思ひ絶えても過ぐしける身を
まちしよのふけしをなにになけきけむおもひたえてもすくしけるみを
白河女御越中恋上
5-金葉414命をしかけて契りし仲なれば絶ゆるは死ぬる心地こそすれ
いのちをしかけてちきりしなかなれはたゆるはしぬるここちこそすれ
律師実源恋上
5-金葉415思ひやれとはで日をふる五月雨にひとり宿もる袖の雫を
おもひやれとはてひをふるさみたれにひとりやともるそてのしつくを
皇后宮肥後恋上
5-金葉416なぞもかく身にかふばかり思ふらむ逢ひ見むことも人のためかは
なそもかくみにかふはかりおもふらむあひみむこともひとのためかは
三宮大進恋上
5-金葉417うたたねに逢ふと見つるをうつつにてつらきを夢と思はましかば
うたたねにあふとみつるをうつつにてつらきをゆめとおもはましかは
藤原公教恋上
5-金葉418蘆根はふ水の上とぞ思ひしをうきは我が身にありけるものを
あしねはふみつのうへとそおもひしをうきはわかみにありけるものを
藤原公実恋上
5-金葉419忍ぶるも苦しかりけり數ならぬ人は涙のなからましかば
しのふるもくるしかりけりかすならぬひとはなみたのなからましかは
出羽辨恋上
5-金葉420頼めおく言の葉だにもなきものを何にかかれる露の命ぞ
たのめおくことのはたにもなきものをなににかかれるつゆのいのちそ
皇后宮別当恋上
5-金葉421わづらはしほかにわたせる文見ればここや途絶えにならむとすらむ
わつらはしほかにわたせるふみみれはここやとたえにならむとすらむ
読人知らず恋上
5-金葉422かすめては思ふ心を知るやとて春の空にもまかせつるかな
かすめてはおもふこころをしるやとてはるのそらにもまかせつるかな
良暹法師恋下
5-金葉423よしさらばつらさは我にならひけり頼めて来ぬは誰かをしへし
よしさらはつらさはわれにならひけりたのめてこぬはたれかをしへし
清少納言恋下
5-金葉424恋ひわたる人に見せばや松の葉もした紅葉する天の橋立
こひわたるひとにみせはやまつのはもしたもみちするあまのはしたて
藤原範永恋下
5-金葉425しののめの明けゆく空も帰るには涙にくるるものにぞありける
しののめのあけゆくそらもかへるにはなみたにくるるものにそありける
源師俊恋下
5-金葉426むばたまの夜の夢だにまさしくは我が思ふことを人に見せばや
うはたまのよるのゆめたにまさしくはわかおもふことをひとにみせはや
中務恋下
5-金葉427恋ひわびて寝ぬ夜つもれば敷妙の枕さへこそうとくなりけれ
こひわひてねぬよつもれはしきたへのまくらさへこそうとくなりけれ
藤原顕輔恋下
5-金葉428夜とともに袖の乾かぬ我が恋はとしまが磯によする白波
よとともにそてのかわかぬわかこひはとしまかいそによするしらなみ
藤原仲実恋下
5-金葉429逢ふことをなにに祈らむ神無月をりわびしくも別れぬるかな
あふことをなににいのらむかみなつきをりわひしくもわかれぬるかな
藤原則長恋下
5-金葉430夢とのみ思ひなりにし世の中を何いまさらに驚かすらむ
ゆめとのみおもひなりにしよのなかをなにいまさらにおとろかすらむ
高階成忠女恋下
5-金葉431逢ふことや涙の玉の緒なるらむしばし絶ゆれば落ちて乱るる
あふことやなみたのたまのをなるらむしはしたゆれはおちてみたるる
公誠恋下
5-金葉432人心あさ澤水の根芹こそこるばかりにも摘ままほしけれ
ひとこころあささはみつのねせりこそこるはかりにもつままほしけれ
前斎宮越後恋下
5-金葉433我が思ふことのしげさにくらぶれば信太の森の千枝はものかは
わかおもふことのしけさにくらふれはしのたのもりのちえはものかは
増基法師恋下
5-金葉434ことわりや思ひくらぶの山櫻にほひまされる花をめづるも
ひとわりやおもひくらふのやまさくらにほひまされるはなをめつるも
読人知らず恋下
5-金葉435恋ひわびてながむる空のうき雲や我が下もえの煙なるらむ
こひわひてなかむるそらのうきくもやわかしたもえのけふりなるらむ
周防内侍恋下
5-金葉436住吉の細江にさせるみをつくし深きにまけぬ人はあらじな
すみよしのほそえにさせるみをつくしふかきにまけぬひとはあらしな
相模恋下
5-金葉437逢ふことのひさしに葺ける菖蒲草ただかりそめのつまとこそみれ
あふことのひさしにふけるあやめくさたたかりそめのつまとこそみれ
前斎宮河内恋下
5-金葉438我が宿のまつはしるしもなかりけり杉むらならば尋ね来なまし
わかやとのまつはしるしもなかりけりすきむらならはたつねきなまし
赤染衛門恋下
5-金葉439さきの世の契りを知らではかなくも人をつらしと思ひけるかな
さきのよのちきりをしらてはかなくもひとをつらしとおもひけるかな
前中宮上総恋下
5-金葉440思ひきや逢ひ見し夜半の嬉しさに後のつらさのまさるべしとは
おもひきやあひみしよはのうれしさにのちのつらさのまさるへしとは
左兵衛督実能恋下
5-金葉441よとともに恋はすれども天の川逢ふをば雲のよそにこそ見れ
よとともにこひはすれともあまのかはあふせはくものよそにこそみれ
源雅光恋下
5-金葉442する墨も落つる涙にあらはれて恋ひしとだにもえこそ書かれね
するすみもおつるなみたにあらはれてこひしとたにもえこそかかれね
藤原永実恋下
5-金葉443色見えぬ心ばかりは沈むれど涙はえこそしのばざりけれ
いろみえぬこころはかりはしつむれとなみたはえこそしのはさりけれ
源国信恋下
5-金葉444逢ふことは夢ばかりにてやみにしをさこそ見しかと人に語るな
あふことはゆめはかりにてやみにしをさこそみしかとひとにかたるな
読人知らず恋下
5-金葉445おさふれどあまる涙はもる山の嘆きに落つる雫なりけり
おさふれとあまるなみたはもるやまのなけきにおつるしつくなりけり
藤原忠隆恋下
5-金葉446忘れなば越路の雪の跡絶えて消ゆるためしになりぬばかりぞ
わすれなはこしちのゆきのあとたえてきゆるためしになりぬはかりそ
馬内侍恋下
5-金葉447かやぶきのこや忘らるるつまならむ久しく人の訪れもせぬ
かやふきのこやわすらるるつまならむひさしくひとのおとつれもせぬ
前齋院肥前恋下
5-金葉448ほととぎす雲井のよそになりしかば我ぞなごりの空になかれし
ほとときすくもゐのよそになりしかはわれそなこりのそらになかれし
藤原公実恋下
5-金葉449水のおもに降る白雪のかたもなく消えやしなまし人のつらさに
みつのおもにふるしらゆきのかたもなくきえやしなましひとのつらさに
藤原成通恋下
5-金葉450あやしくも我がみやま木の燃ゆるかな思ひは人につげてしものを
あやしくもわかみやまきのもゆるかなおもひはひとにつけてしものを
藤原忠通恋下
5-金葉451かづきけむ袂は雨にいかがせし濡るるはさても思ひ知れかし
かつきけむたもとはあめにいかかせしぬるるはさてもおもひしれかし
江侍従恋下
5-金葉452さのみやは我が身のうさになしはてて人のつらさを恨みざるべき
さのみやはわかみのうさになしはててひとのつらさをうらみさるへき
藤原盛経母恋下
5-金葉453いま人の心を三輪の山見てぞ過ぎにしかたは思ひしらるる
いまひとのこころをみわのやまみてそすきにしかたはおもひしらるる
前斎宮甲斐恋下
5-金葉454恋しさはつらさにかへてやみにしを何の名残にかくは悲しき
こひしさはつらさにかへてやみにしをなにのなこりにかくはかなしき
辨乳母恋下
5-金葉455ものをこそしのべばいはね磐代の杜にのみもる我が涙かな
ものをこそしのへはいはねいはしろのもりにのみもるわかなみたかな
源親房恋下
5-金葉456四方の海の浦々ごとにあされどもあやしく見えぬいけるかひかな
よものうみのうらうらことにあされともあやしくみえぬいけるかひかな
藤原資仲恋下
5-金葉457たまさかに波のたちよる浦々は何のみるめのかひかあるべき
たまさかになみのたちよるうらうらはなにのみるめのかひかあるへき
伊賀少将恋下
5-金葉458つれづれと思ひぞ出づる見し人を逢はで幾月ながめしつらむ
つれつれとおもひそいつるみしひとをあはていくつきなかめしつらむ
橘俊宗母恋下
5-金葉459あさましく涙にうかぶ我が身かな心かろくは思はざりしを
あさましくなみたにうかふわかみかなこころかろくはおもはさりしを
上総侍従恋下
5-金葉460名聞くよりかねても移る心かないかにしてかは逢ふべかるらむ
なきくよりかねてもうつるこころかないかにしてかはあふへかるらむ
源縁法師恋下
5-金葉461恋ひわびて絶えぬ思ひの煙もやむなしき空の雲となるらむ
こひわひてたえぬおもひのけふりもやむなしきそらのくもとなるらむ
藤原忠教恋下
5-金葉462さりともと思ふ心にはかされて死なれぬものは命なりけり
さりともとおもふこころにはかされてしなれぬものはいのちなりけり
大中臣能宣恋下
5-金葉463人知れず思ひありその浦風に波のよるこそ言はまほしけれ
ひとしれすおもひありそのうらかせになみのよるこそいはまほしけれ
藤原俊忠恋下
5-金葉464音に聞く高師の浦のあだ波はかけじや袖の濡れもこそすれ
おとにきくたかしのうらのあたなみはかけしやそてのぬれもこそすれ
祐子内親王家紀伊恋下
5-金葉465契りおきし人もこずゑの木の間より頼めし月の影ぞもりくる
ちきりおきしひともこすゑのこのまよりたのめしつきのかけそもりくる
摂政家堀河恋下
5-金葉466目のまへに変る心を涙川ながれてもやと頼みけるかな
めのまへにかはるこころをなみたかはなかれてもやとたのみけるかな
江侍従恋下
5-金葉467送りては帰れと思ひし魂のゆきさすらひて今朝はなきかな
おくりてはかへれとおもひしたましひのゆきさすらひてけさはなきかな
出羽辨恋下
5-金葉468冬の夜の雪げの空に出でしかば影よりほかに送りやはせし
ふゆのよのゆきけのそらにいてしかはかけよりほかにおくりやはせし
源経信恋下
5-金葉469人はいさありもやすらむ忘られて訪はれぬ身こそなき心地すれ
ひとはいさありもやすらむわすられてとはれぬみこそなきここちすれ
読人知らず恋下
5-金葉470早くより浅き心と見てしかば思ひ絶えにき山川の水
はやくよりあさきこころとみてしかはおもひたえにきやまかはのみつ
読人知らず恋下
5-金葉471もらさばや細谷川の忘れ水かげだに見えぬ恋に沈むと
もらさはやほそたにかはのわすれみつかけたにみえぬこひにしつむと
読人知らず恋下
5-金葉472行方なくかきこもるにぞ引きまゆのいとふ心の程は知らるる
ゆくへなくかきこもるにそひきまゆのいとふこころのほとはしらるる
前齋院六條恋下
5-金葉473いつとなく恋にこがるる我が身より立つや浅間の煙なるらむ
いつとなくこひにこかるるわかみよりたつやあさまのけふりなるらむ
源俊頼恋下
5-金葉474君こそは一夜めぐりの神と聞けなに逢ふことの方違ふらむ
きみこそはひとよめくりのかみときけなにあふことのかたたかふらむ
読人知らず恋下
5-金葉475三日月のおぼろげならぬ恋しさにわれてぞ出づる雲の上より
みかつきのおほろけならぬこひしさにわれてそいつるくものうへより
藤原永実恋下
5-金葉476逢はぬ夜はまどろむことのあらばこそ夢にも見きと人に語らめ
あはぬよはまとろむことのあらはこそゆめにもみきとひとにかたらめ
源信宗恋下
5-金葉477人知れずなき名はたてど唐衣かさねぬ袖はなほぞ露けき
ひとしれすなきなはたてとからころもかさねぬそてはなほそつゆけき
藤原経忠恋下
5-金葉478あぢきなく過ぐる月日ぞうらめしき逢ひ見し程を隔つと思へば
あちきなくすくるつきひそうらめしきあひみしほとをへたつとおもへは
大中臣輔弘女恋下
5-金葉479いかにして靡くけしきもなき人に心ゆるぎの森を知らせむ
いかにしてなひくけしきもなきひとにこころゆるきのもりをしらせむ
源経兼恋下
5-金葉480つらしとも思はむ人は思ひなむ我なればこそ身をば恨むれ
つらしともおもはむひとはおもひなむわれなれはこそみをはうらむれ
僧都公圓恋下
5-金葉481五月雨の空だのめのみひまなくて忘らるる名ぞ世にふりぬべき
さみたれのそらたのめのみひまなくてわすらるるなそよにふりぬへき
読人知らず恋下
5-金葉482忘られむ名は世にふらじ五月雨もいかでかしばしを止まざるべき
わすられむなはよにふらしさみたれもいかてかしはしをやまさるへき
左兵衛督実能恋下
5-金葉483逢ふことをとふ石神のつれなさに我が心のみ動きぬるかな
あふことをとふいしかみのつれなさにわかこころのみうこきぬるかな
前齋院六條恋下
5-金葉484數ならぬ身をうぢ川のはしばしと言はれながらも恋ひわたるかな
かすならぬみをうちかはのはしはしといはれなからもこひわたるかな
源雅光恋下
5-金葉485玉つ島岸うつ波のたちかへりせないでましぬ名残こひしも
たまつしまきしうつなみのたちかへりせないてましぬなこりこひしも
藤原顕季恋下
5-金葉486心からつきなき恋をせざりせば逢はで闇には惑はましやは
こころからつきなきこひをせさりせはあはてやみにはまとはましやは
源顕仲女恋下
5-金葉487かくばかり恋のやまひは重けれど目にかけ下げて逢はぬ君かな
かくはかりこひのやまひはおもけれとめにかけさけてあはぬきみかな
内大臣家小大進恋下
5-金葉488我が恋は賤のしげ糸すぢ弱み絶え間は多くくるは少なし
わかこひはしつのしけいとすちよわみたえまはおほくくるはすくなし
源顕国恋下
5-金葉489あま雲の返しの風の音せぬはおもはれじとの心なりけり
あまくものかへしのかせのおとせぬはおもはれしとのこころなりけり
読人知らず恋下
5-金葉490あしひきの山のまにまに倒れたるからきは一人ふせるなりけり
あしひきのやまのまにまにたふれたるからきはひとりふせるなりけり
読人知らず恋下
5-金葉491津の国のまろ屋は人をあくたがは君こそつらき瀬々は見せしか
つのくにのまろやはひとをあくたかはきみこそつらきせせはみせしか
読人知らず恋下
5-金葉492あふみてふ名はたかしまに聞こゆれどいづらはここにくるもとの里
あふみてふなはたかしまにきこゆれといつらはここにくるもとのさと
読人知らず恋下
5-金葉493笠取の山に世をふる身にしあれば炭焼もをる我が心かな
かさとりのやまによをふるみにしあれはすみやきもをるわかこころかな
読人知らず恋下
5-金葉494み熊野に駒のつまづく靑つづら君こそまろがほだしなりけれ
みくまのにこまのつまつくあをつつらきみこそまろかほたしなりけれ
読人知らず恋下
5-金葉495こりつめるなげきをいかにせよとてよ君にあふごの一すぢもなき
こりつめるなけきをいかにせよとてよきみにあふこのひとすちもなき
読人知らず恋下
5-金葉496はかるめる事のよきのみ多かれば空なげきをばこるにやあるらむ
はかるめることのよきのみおほかれはそらなけきをはこるにやあるらむ
読人知らず恋下
5-金葉497逢ふことのいまはかたみの目をあらみもりて流れむ名こそ惜しけれ
あふことのいまはかたみのめをあらみもりてなかれむなこそをしけれ
読人知らず恋下
5-金葉498逢ふことはかたねぶりなるいそひたひひねりふすともかひやなからむ
あふことはかたねふりなるいそひたひひねりふすともかひやなからむ
読人知らず恋下
5-金葉499逢ふことのかた野にいまはなりぬれば思ふがりのみ行くにやあるらむ
あふことのかたのにいまはなりぬれはおもふかりのみゆくにやあるらむ
読人知らず恋下
5-金葉500あふみにかありと言ふなるかれひ山君は越えけり人と寝ぐさし
あふみにかありといふなるかれひやまきみはこえけりひととねくさし
読人知らず恋下
5-金葉501逢ふことなからふるやの板じとみさすがにかけて年の経ぬらむ
あふことはなからふるやのいたしとみさすかにかけてとしのへぬらむ
読人知らず恋下
5-金葉502かしかまし山の下行くさざれ水あなかま我も思ふ心あり
かしかましやまのしたゆくさされみつあなかまわれもおもふこころあり
読人知らず恋下
5-金葉503盗人といふもことわり小夜中に人の心をとりに来たれば
ぬすひとといふもことわりさよなかにひとのこころをとりにきたれは
読人知らず恋下
5-金葉504花うるしこやぬる人のなかりけるあな腹黒の君が心や
はなうるしこやぬるひとのなかりけるあなはらくろのきみかこころや
読人知らず恋下
5-金葉505神垣にむかしわが見し梅の花ともに老い木になりにけるかな
かみかきにむかしわかみしうめのはなともにおいきになりにけるかな
源経信雑上
5-金葉506山里もうき世の中をはなれねば谷の鶯ねをのみぞ鳴く
やまさともうきよのなかをはなれねはたにのうくひすねをのみそなく
藤原忠通雑上
5-金葉507植ゑ置きし君もなき世に年へたる花はわが身のここちこそすれ
うゑおきしきみもなきよにとしへたるはなはわかみのここちこそすれ
三宮輔仁親王雑上
5-金葉508谷の戸を閉ぢやはてつる鶯のまつに音せで春の暮れぬる
たにのとをとちやはてつるうくひすのまつにおとせてはるのくれぬる
藤原頼通雑上
5-金葉509降る雨のあしとも落つる涙かなこまかにものを思ひくだけば
ふるあめのあしともおつるなみたかなこまかにものをおもひくたけは
藤原道綱母雑上
5-金葉510ゆくすゑのためしと今日を思ふともいまいくとせか人に語らむ
ゆくすゑのためしとけふをおもふともいまいくとせかひとにかたらむ
權僧正永縁雑上
5-金葉511いく千代も君ぞ語らむつもりゐておもしろかりし花のみゆきを
いくちよもきみそかたらむつもりゐておもしろかりしはなのみゆきを
内侍雑上
5-金葉512もろともに哀れと思へ山櫻はなよりほかに知る人もなし
もろともにあはれとおもへやまさくらはなよりほかにしるひともなし
僧正行尊雑上
5-金葉513いくとせに我なりぬらむ諸人の花見る春をよそに聞きつつ
いくとせにわれなりぬらむもろひとのはなみるはるをよそにききつつ
源行宗雑上
5-金葉514みな人は吉野の山の櫻花をりしらぬ身や谷の埋もれ木
みなひとはよしののやまのさくらはなをりしらぬみやたにのうもれき
源定信雑上
5-金葉515思ふことなくてや見まし与謝の海の天の橋立みやこなりせば
おもふことなくてやみましよさのうみのあまのはしたてみやこなりせは
馬内侍雑上
5-金葉516山吹もおなじかざしの花なれど雲居の櫻なほぞ恋しき
やまふきもおなしかさしのはななれとくもゐのさくらなほそこひしき
藤原惟信雑上
5-金葉517こぞ見しに色も変らで咲きにけり花こそものは思はざりけれ
こそみしにいろもかはらてさきにけりはなこそものはおもはさりけれ
左近将曹秦兼方雑上
5-金葉518年ふれど春に知られぬ埋もれ木は花の都にすむかひぞなき
としふれとはるにしられぬうもれきははなのみやこにすむかひそなき
藤原顕仲雑上
5-金葉519みそぎする賀茂の川波たちかへり早くみとせに袖はぬれきや
みそきするかものかはなみたちかへりはやくみとせにそてはぬれきや
読人知らず雑上
5-金葉520ふるさとの花の都に住みわびて八雲たつてふ出雲へぞゆく
ふるさとのはなのみやこにすみわひてやくもたつてふいつもへそゆく
大江正言雑上
5-金葉521風越の峰の上にて見るときは雲は麓のものにぞありける
かさこしのみねのうへにてみるときはくもはふもとのものにそありける
藤原家経雑上
5-金葉522ちはやふる香椎の宮の杉の葉をふたたびかざす君ぞわが君
ちはやふるかしひのみやのすきのはをふたたひかさすきみそわかきみ
神主大膳武忠雑上
5-金葉523年をへて通ふ山路は変らねど今日はさかゆく心地こそすれ
としをへてかよふやまちはかはらねとけふはさかゆくここちこそすれ
良暹法師雑上
5-金葉524春日山みねつづき照る月影に知られぬ谷の松もありけり
かすかやまみねつつきてるつきかけにしられぬたにのまつもありけり
源雅光雑上
5-金葉525にごりなき亀井の水をむすびあげて心の塵をすすぎつるかな
にこりなきかめゐのみつをむすひあけてこころのちりをすすきつるかな
上東門院雑上
5-金葉526うらやまし憂き世をいでていかばかりくまなき峰の月を見るらむ
うらやましうきよをいてていかはかりくまなきみねのつきをみるらむ
橘能元雑上
5-金葉527もろともに西へや行くと月影のくまなき峰をたづねてぞ来し
もろともににしへやゆくとつきかけのくまなきみねをたつねてそこし
僧都頼基雑上
5-金葉528思ひ出でもなきふるさとの山なれど隠れゆくはた哀れなりけり
おもひいてもなきふるさとのやまなれとかくれゆくはたあはれなりけり
大江正言雑上
5-金葉529まことにや人のくるには絶えにけむ生野の里の夏引きの糸
まことにやひとのくるにはたえにけむいくののさとのなつひきのいと
藤原兼房雑上
5-金葉530行く末のしるしばかりに残るべき松さへいたく老いにけるかな
ゆくすゑのしるしはかりにのこるへきまつさへいたくおいにけるかな
源道済雑上
5-金葉531住吉の松のしづ枝を昔よりいくしほそめつ沖つ白波
すみよしのまつのしつえをむかしよりいくしほそめつおきつしらなみ
藤原長実雑上
5-金葉532いくかへり花咲きぬらむ住吉の松も神代のものとこそ聞け
いくかへりはなさきぬらむすみよしのまつもかみよのものとこそきけ
源俊頼雑上
5-金葉533早くより頼みわたりし鈴鹿川おもふことなる音ぞきこゆる
はやくよりたのみわたりしすすかかはおもふことなるおとそきこゆる
源顕房北方雑上
5-金葉534琴の音や松吹く風にかよふらむ千代のためしにひきつべきかな
ことのねやまつふくかせにかよふらむちよのためしにひきつへきかな
摂津雑上
5-金葉535うれしくも秋のみやまの松風にうひ琴の音のかよひぬるかな
うれしくもあきのみやまのまつかせにうひことのねのかよひぬるかな
美濃雑上
5-金葉536琴の音は月の影にもかよへばや空にしらべのすみのぼるらむ
ことのねはつきのかけにもかよへはやそらにしらへのすみのほるらむ
内大臣家越後雑上
5-金葉537たまくしげ二見の浦のかひしげみまきゑに見ゆる松のむらだち
たまくしけふたみのうらのかひしけみまきゑにみゆるまつのむらたち
大中臣顕弘雑上
5-金葉538白雲とよそに見つればあしひきの山もとどろき落つる瀧つせ
しらくもとよそにみつれはあしひきのやまもととろきおつるたきつせ
源経信雑上
5-金葉539天の川これや流れの末ならむ空よりおつる布引の瀧
あまのかはこれやなかれのすゑならむそらよりおつるぬのひきのたき
読人知らず雑上
5-金葉540神垣は木のまろどのにあらねども名乗をせねば人とがめけり
かみかきはきのまろとのにあらねともなのりをせねはひととかめけり
藤原惟規雑上
5-金葉541神垣のあたりと思ふにゆふだすき思ひもかけぬ鐘のこゑかな
かみかきのあたりとおもふにゆふたすきおもひもかけぬかねのこゑかな
源顕房北方雑上
5-金葉542返さじとかねて知りにき唐ごろも恋しかるべき我が身ならねば
かへさしとかねてしりにきからころもこひしかるへきわかみならねは
内侍雑上
5-金葉543大江山いく野の道の遠ければまだふみも見ず天の橋立
おほえやまいくののみちのとほけれはまたふみもみすあまのはしたて
小式部内侍雑上
5-金葉544家の風吹かぬものゆゑはづかしの森の木の葉を散らしつるかな
いへのかせふかぬものゆゑはつかしのもりのこのはをちらしつるかな
藤原顕輔雑上
5-金葉545須磨の浦にしほ焼くかまの煙こそ春にしられぬ霞なりけれ
すまのうらにしほやくかまのけふりこそはるにしられぬかすみなりけれ
源俊頼雑上
5-金葉546鷺のゐる松原いかに騒ぐらむしらげはうたて里とよみけり
さきのゐるまつはらいかにさわくらむしらけはうたてさととよみけり
和泉式部雑上
5-金葉547梓弓さこそはそりの高からめ張る程もなく返るべしやは
あつさゆみさこそはそりのたかからめはるほともなくかへるへしやは
藤原時房雑上
5-金葉548なき名にぞ人のつらさは知られける忘られしには身をぞ恨みし
なきなにそひとのつらさはしられけるわすられしにはみをそうらみし
藤原公実雑上
5-金葉549いかにせむ山田にかこふ垣柴のしばしの間だに隠れなき世を
いかにせむやまたにかこふかきしはのしはしのまたにかくれなきよを
相模雑上
5-金葉550忘られて嘆く袂を見るからにさもあらぬ袖のそばちぬるかな
わすられてなけくたもとをみるからにさもあらぬそてのそほちぬるかな
堀河院雑上
5-金葉551早き瀬に立たぬばかりぞ水車われも憂き世にめぐるとを知れ
はやきせにたたぬはかりそみつくるまわれもうきよにめくるとをしれ
僧正行尊雑上
5-金葉552つかへつるこの身の程を數ふれば哀れこずゑになりにけるかな
つかへつるこのみのほとをかそふれはあはれこすゑになりにけるかな
藤原頼宗雑上
5-金葉553すぎきつる月日の程も知られつつこの身を見るも哀れなるかな
すききつるつきひのほともしられつつこのみをみるもあはれなるかな
御上東門院雑上
5-金葉554草枕さこそは仮のとこならめ今朝しも置きて帰るべしやは
くさまくらさこそはかりのとこならめけさしもおきてかへるへしやは
藤原宗通雑上
5-金葉555軒端うつましろの鷹の餌袋にをきゑを置きて返しつるかな
のきはうつましろのたかのゑふくろにをきゑをおきてかへしつるかな
桜井尼雑上
5-金葉556たぐひなく世におもしろき鳥なればゆかしからすと誰か思はむ
たくひなくよにおもしろきとりなれはゆかしからすとたれかおもはむ
少将内侍雑上
5-金葉557鳥の子のまだかひながらあらませばをばといふものは生ひ出でざらまし
とりのこのまたかひなからあらませはをはといふものはおひいてさらまし
読人知らず雑上
5-金葉558ひぐらしの聲ばかりする柴の戸は入日のさすにまかせてぞ見る
ひくらしのこゑはかりするしはのとはいりひのさすにまかせてそみる
藤原顕季雑上
5-金葉559年ふれば我がいただきに置く霜を草の上とも思ひけるかな
としふれはわかいたたきにおくしもをくさのうへともおもひけるかな
藤原仲実雑上
5-金葉560うらやまし雲のかけはし立ちかへりふたたびのぼる道を知らばや
うらやましくものかけはしたちかへりふたたひのほるみちをしらはや
源行宗雑上
5-金葉561思ひきや雲ゐの月をよそに見て心の闇にまよふべしとは
おもひきやくもゐのつきをよそにみてこころのやみにまとふへしとは
平忠盛雑上
5-金葉562身のうさも問ふ人もじにせかれつつ心つくしの道はとまりぬ
みのうさもとふひともしにせかれつつこころつくしのみちはとまりぬ
内大臣家小大進雑上
5-金葉563寝ぬる夜のかべ騒がしくありしかど我が違ふればことなかりけり
ねぬるよのかへさわかしくありしかとわかちかふれはことなかりけり
読人知らず雑上
5-金葉564ひかげにはなき名立ちけり小忌衣きてみよとこそ言ふべかりけれ
こかけにはなきなたちけりをみころもきてみよとこそいふへかりけれ
源光綱母雑上
5-金葉565なきかげにかけける太刀もあるものをさやつかの間に忘るべしやは
なきかけにかけけるたちもあるものをさやつかのまにわするへしやは
源俊頼雑上
5-金葉566見し人はひとり我が身にそはねどもおくれぬものは涙なりけり
みしひとはひとりわかみにそはねともおくれぬものはなみたなりけり
僧正行尊雑上
5-金葉567葉隠れてつはると見えし程もなくこはうみ梅になりにけるかな
はかくれてつはるとみえしほともなくこはうみうめになりにけるかな
読人知らず雑上
5-金葉568人なみに心ばかりは立ちそひて誘はぬ和歌のうらみをぞする
ひとなみにこころはかりはたちそひてさそはぬわかのうらみをそする
前中宮甲斐雑上
5-金葉569ことわりや曇ればこそはます鏡うつりし影も見えずなるらめ
ことわりやくもれはこそはますかかみうつりしかけもみえすなるらめ
藤原実信母雑上
5-金葉570西へゆく心はわれもあるものをひとりな入りそ秋の夜の月
にしへゆくこころはわれもあるものをひとりないりそあきのよのつき
源師賢雑上
5-金葉571待つ我はあはれ八十路になりぬるをあぶくま川の遠ざかりぬる
まつわれはあはれやそちになりぬるをあふくまかはのとほさかりぬる
藤原隆資雑上
5-金葉572三笠山神のしるしのいちしろくしかありけりと聞くぞ嬉しき
みかさやまかみのしるしのいちしろくしかありけりときくそうれしき
藤原実光雑上
5-金葉573行く人も立ちぞわづらふしかすがの渡りや旅の泊なるらむ
ゆくひともたちそわつらふしかすかのわたりやたひのとまりなるらむ
藤原家経雑上
5-金葉574身の憂さを思ひしとけば冬の夜もとどこほらぬは涙なりけり
みのうさをおもひしとけはふゆのよもととこほらぬはなみたなりけり
読人知らず雑上
5-金葉575昔にもあらぬ姿になりゆけど嘆きのみこそ面がはりせね
むかしにもあらぬすかたになりゆけとなけきのみこそおもかはりせね
源雅光雑上
5-金葉576さりともとかく眉墨のいたづらに心細くもなりにけるかな
さりともとかくまゆすみのいたつらにこころほそくもなりにけるかな
源俊頼雑上
5-金葉577心こそ世をば捨てしか幻のすがたも人に忘られにけり
こころこそよをはすてしかまほろしのすかたもひとにわすられにけり
僧正行尊雑上
5-金葉578草の葉のなびくも知らず露の身の置き所なく嘆くころかな
くさのはのなひくもしらすつゆのみのおきところなくなけくころかな
大中臣顕弘雑上
5-金葉579千歳まですまむ泉のそこによも影ならべむと思ひしもせじ
ちとせまてすまむいつみのそこによもかけならへむとおもひしもせし
顕雅卿母雑上
5-金葉580宇治川のそこの水屑となりながらなほ雲かかる山ぞ恋しき
うちかはのそこのみくつとなりなからなほくもかかるやまそこひしき
忠快法師雑上
5-金葉581住みわびて我さへ軒の忍草しのぶかたがた茂き宿かな
すみわひてわれさへのきのしのふくさしのふかたかたしけきやとかな
周防内侍雑上
5-金葉582聞きわたる御手洗川の水清みそこの心をけふぞ見るべき
ききわたるみたらしかはのみつきよみそこのこころをけふそみるへき
津守国基雑上
5-金葉583石だたみありける庭を君にまたしくものなしと思ひけるかな
いしたたみありけるにはをきみにまたしくものなしとおもひけるかな
皇后宮大弐雑上
5-金葉584あはれまむと思ふ心は廣けれどはぐくむ袖のせばくもあるかな
あはむまむとおもふこころはひろけれとはくくむそてのせはくもあるかな
天台座主仁覚雑上
5-金葉585世の中は憂き身にそへる影なれや思ひ捨つれど離れざりけり
よのなかはうきみにそへるかけなれやおもひすつれとはなれさりけり
源俊頼雑上
5-金葉586うち頼む人の心はあらち山越路くやしき旅にもあるかな
うちたのむひとのこころはあらちやまこしちくやしきたひにもあるかな
読人知らず雑上
5-金葉587思ひやる心さへこそ苦しけれあらちの山の冬のけしきは
おもひやるこころさへこそくるしけれあらちのやまのふゆのけしきは
おや雑上
5-金葉588いたづらに過ぐす月日を數ふれば昔をしのぶねぞ泣かれける
いたつらにすくすつきひをかそふれはむかしをしのふねそなかれける
源師頼雑上
5-金葉589かはり行くかがみの影を見るからに老蘇の森の嘆きをぞする
かはりゆくかかみのかけをみるからにおいそのもりのなけきをそする
源師賢雑上
5-金葉590こゆるぎのいそぎて逢ひしかひもなく波たち来ずと聞くはまことか
こゆるきのいそきてあひしかひもなくなみたちこすときくはまことか
源顕国雑上
5-金葉591雲の上になれにしものを葦鶴の逢ふことかたにおりゐぬるかな
くものうへになれにしものをあしたつのあふことかたにおりゐぬるかな
藤原公教雑上
5-金葉592日の光あまねき空のけしきにも我が身ひとつは雲隠れつつ
ひのひかりあまねきそらのけしきにもわかみひとつはくもかくれつつ
源俊頼雑上
5-金葉593なにか思ふ春のあらしに雲晴れてさやけき影は君のみぞ見む
なにかおもふはるのあらしにくもはれてさやけきかけはきみのみそみむ
周防内侍雑上
5-金葉594昔見しあるじ顔にて梅が枝の花だに我に物がたりせよ
むかしみしあるしかほにてうめかえのはなたにわれにものかたりせよ
藤原基俊雑下
5-金葉595根にかへる花のすがたの恋しくはただこのもとを形見ともみよ
ねにかへるはなのすかたのこひしくはたたこのもとをかたみともみよ
藤原実行雑下
5-金葉596櫻ゆゑいとひし風の身にしみて花よりさきに散りぬべきかな
さくらゆゑいとひしかせのみにしみてはなよりさきにちりぬへきかな
平基綱雑下
5-金葉597あやめ草ねをのみかくる世の中に折りたがへたる櫻花かな
あやめくさねをのみかくるよのなかにをりたかへたるさくらはなかな
藤原有佐雑下
5-金葉598難波江の葦のわかねのしげければ心もゆかぬ船出をぞする
なにはえのあしのわかねのしけけれはこころもゆかぬふなてをそする
源顕房雑下
5-金葉599憂かりしに秋はつきぬと思ひしを今年も蟲の音こそなかるれ
うかりしにあきはつきぬとおもひしをことしもむしのねこそなかるれ
康資王母雑下
5-金葉600せきもあへぬ涙のの川は早けれど身のうき草は流れざりけり
せきもあへぬなみたのかはははやけれとみのうきくさはなかれさりけり
源俊頼雑下
5-金葉601玉くしげかけごに塵も据ゑざりしふた親ながらなき身とを知れ
たまくしけかけこにちりもすゑさりしふたおやなからなきみとをしれ
読人知らず雑下
5-金葉602今朝こそはあけても見つれ玉くしげふたよりみより涙流して
けさこそはあけてもみつれたまくしけふたよりみよりなみたなかして
律師実源雑下
5-金葉603身にまさるものなかりけりみどり児はやらむ方なく悲しけれども
みにまさるものなかりけりみとりこはやらむかたなくかなしけれとも
律師実源雑下
5-金葉604流れても逢ふ瀬ありけり涙川きえにし泡を何にたとへむ
なかれてもあふせありけりなみたかはきえにしあわをなににたとへむ
藤原知綱母雑下
5-金葉605呉竹のふし沈みぬる露の身もとふ言の葉におきぞゐらるる
くれたけのふししつみぬるつゆのみもとふことのはにおきそゐらるる
読人知らず雑下
5-金葉606よそなから世をそむきぬと聞くからに越路の空はうちしぐれつつ
よそなからよをそむきぬときくからにこしちのそらはうちしくれつつ
藤原通宗雑下
5-金葉607たらちめの嘆きをつみて我がかく思ひのしたになるぞ悲しき
たらちめのなけきをつみてわれかかくおもひのしたになるそかなしき
読人知らず雑下
5-金葉608その夢をとはば嘆きやまさるとて驚かさでも過ぎにけるかな
そのゆめをとははなけきやまさるとておとろかさてもすきにけるかな
大江匡房雑下
5-金葉609いにしへは月をのみこそ眺めしか今は日を待つ我が身なりけり
いにしへはつきをのみこそなかめしかいまはひをまつわかみなりけり
大弐三位雑下
5-金葉610夢にのみ昔の人を逢ひ見れば覚るほどこそ別れなりけれ
ゆめにのみむかしのひとをあひみれはさむるほとこそわかれなりけれ
權僧正永縁雑下
5-金葉611露のみの消えもはてなば夏草のははいかにしてあらむとすらむ
つゆのみのきえもはてなはなつくさのははいかにしてあらむとすらむ
読人知らず雑下
5-金葉612もろともに苔の下には朽ちずして埋まれぬ名を聞くぞ悲しき
もろともにこけのしたにはくちすしてうつまれぬなをきくそかなしき
和泉式部雑下
5-金葉613今ぞ知る思ひのはては世の中のうき雲にのみまじるものとは
いまそしるおもひのはてはよのなかのうきくもにのみましるものとは
平忠盛雑下
5-金葉614さだめなき世をうき雲ぞあはれなる頼みし君が煙と思へば
さためなきよをうきくもそあはれなるたのみしきみかけふりとおもへは
藤原資信雑下
5-金葉615草木まで嘆きけりとも見ゆるかな松さへ藤の衣着てけり
くさきまてなけきけりともみゆるかなまつさへふちのころもきてけり
僧正行尊雑下
5-金葉616悲しさのその夕暮のままならばありへて人にとはれましやは
かなしさのそのゆふくれのままならはありへてひとにとはれましやは
橘元任雑下
5-金葉617天の川苗代水にせきくだせあまくだります神ならば神
あまのかはなはしろみつにせきくたせあまくたりますかみならはかみ
能因法師雑下
5-金葉618色も香もむなしと説ける法なれば祈るしるしはありとこそ聞け
いろもかもむなしととけるのりなれはいのるしるしはありとこそきけ
藤原忠通雑下
5-金葉619見しままに我はさとりを得てしかな知らせでとると知らざらめやは
みしままにわれはさとりをえてしかなしらせてとるとしらさらめやは
三宮輔仁親王雑下
5-金葉620いさぎよき空のけしきを頼むかな我まどはすな秋の夜の月
いさきよきそらのけしきをたのむかなわれまとはすなあきのよのつき
行尊僧正雑下
5-金葉621心にはいとひ果てつと思ふらむ哀れいづくもおなじ憂き世を
こころにはいとひはてつとおもふらむあはれいつくもおなしうきよを
静巌法師雑下
5-金葉622あみたぶと唱ふる聲に夢さめて西へ流るる月をこそ見れ
あみたふととなふるこゑにゆめさめてにしへなかるるつきをこそみれ
選子内親王雑下
5-金葉623教へおきて入りにし月のなかりせばいかで心を西にかけまし
をしへおきていりにしつきのなかりせはいかてこころをにしにかけまし
皇后宮肥後雑下
5-金葉624かくばかり東風てふ風の吹くを見てちりのうたがひおこさずもがな
かくはかりこちてふかせのふくをみてちりのうたかひおこさすもかな
清海聖人雑下
5-金葉625命をも罪をも露にたとへけり消えばともにや消えむとすらむ
いのちをもつみをもつゆにたとへけりきえはともにやきえむとすらむ
覚樹法師雑下
5-金葉626吹き返す鷲の山風なかりせば衣の裏の玉を見ましや
ふきかへすわしのやまかせなかりせはころものうらのたまをみましや
僧正静圓雑下
5-金葉627法のため荷ふ薪にことよせてやがてこの世をこりぞ果てぬる
のりのためになふたききにことよせてやかてこのよをこりそはてぬる
瞻西聖人雑下
5-金葉628けふぞ知る鷲の高嶺に照る月を谷川くみし人のかげとは
けふそしるわしのたかねにてるつきをたにかはくみしひとのかけとは
源師時雑下
5-金葉629あひがたき法をひろめし聖こそうち見し人もみちびかれけれ
あひかたきのりをひろめしひしりこそうちみしひともみちひかれけれ
權僧正永縁雑下
5-金葉630たらちねは黒髪ながらいかなればこの眉白き糸となりけむ
たらちねはくろかみなからいかなれはこのまゆしろきいととなりけむ
權僧正永縁雑下
5-金葉631憂き世をしわたすと聞けばあまを舟のりに心をかけぬ日ぞなき
うきよをしわたすときけはあまをふねのりにこころをかけぬひそなき
懐尋法師雑下
5-金葉632いかにして衣の珠を知りぬらむ思ひもかけぬ人もある世に
いかにしてころものたまをしりぬらむおもひもかけぬひともあるよに
權僧正永縁雑下
5-金葉633いつをいつと思ひたゆみてかげろふのかげろふ程の世を過ぐすらむ
いつをいつとおもひたゆみてかけろふのかけろふほとのよをすくすらむ
懐尋法師雑下
5-金葉634夜とともに心のうちに住む月をありと知るこそはるるなりけれ
よとともにこころのうちにすむつきをありとしるこそはるるなりけれ
証成法師雑下
5-金葉635今日もなほ惜しみやせまし法のため散らす花ぞと思ひなさずは
けふもなほをしみやせましのりのためちらすはなそとおもひなさすは
珍海法師母雑下
5-金葉636あさましや剣の枝のたわむまでいかなる罪のなれるなるらむ
あさましやつるきのえたのたわむまていかなるつみのなれるなるらむ
和泉式部雑下
5-金葉637草の葉にかどではしたりほととぎす死出の山路もかくや露けき
くさのはにかとてはしたりほとときすしてのやまちもかくやつゆけき
田口重如雑下
5-金葉638たゆみなく心をかくる彌陀ほとけ人やりならぬ誓たがふな
たゆみなくこころをかくるみたほとけひとやりならぬちかひたかふな
田口重如雑下
5-金葉639阿弥陀仏と唱ふる聲を舵にてや苦しき海を漕ぎ離るらむ
あみたふととなふるこゑをかちにてやくるしきうみをこきはなるらむ
源俊頼雑下
5-金葉640あづま人の声こそきたに聞こゆなれ陸奥によりこしにやあるらむ
あつまうとのこゑこそきたにきこゆなれみちのくによりこしにやあるらむ
永成法師 律師慶範雑下
5-金葉641桃そのの桃の花こそ咲きにけれ梅津の梅はちりやしぬらむ
ももそののもものはなこそさきにけれうめつのうめはちりやしぬらむ
藤原頼経 大江公資雑下
5-金葉642標の内に杵の音こそ聞こゆなれいかなるかみのつくにかあるらむ
しめのうちにきねのおとこそきこゆなれいかなるかみのつくにかあるらむ
神主成助 行重雑下
5-金葉643春の田にすきいりぬへきおきなかなかのみなくちに水をいれはや
はるのたにすきいりぬへきおきなかなかのみなくちにみつをいれはや
僧正源覚 宇治西園寺公経雑下
5-金葉644日の入るはくれなゐにこそ似たりけれあかねさすとも思ひけるかな
ひのいるはくれなゐにこそにたりけれあかねさすともおもひけるかな
観暹法師 平為成雑下
5-金葉645田にはむ駒はくろにさりけりなはしろの水にはかけと見えつれと
たにはむこまはくろにさりけりなはしろのみつにはかけとみえつれと
永源法師 永成法師雑下
5-金葉646かはらやの板ふきにても見ゆるかなつちくれしてや作りそめけむ
かはらやのいたふきにてもみゆるかなつちくれしてやつくりそめけむ
読人知らず 助成雑下
5-金葉647つれなく立てるしかの島かなゆみはりの月のいるにもおとろかて
つれなくたてるしかのしまかなゆみはりのつきのいるにもおとろかて
為助 國忠雑下
5-金葉648かも川をつるはきにてもわたるかなかりはかまをはをしとおもひて
かもかはをつるはきにてもわたるかなかりはかまをはをしとおもひて
頼綱 信綱雑下
5-金葉649なににあゆるを鮎といふらむ鵜舟にはとりいれし物をおほつかな
なににあゆるをあゆといふらむうふねにはとりいれしものをおほつかな
読人知らず 国房卿妹雑下
5-金葉650ちはやぶるかみをば足に巻くものかこれをぞしものやしろとはいふ
ちはやふるかみをはあしにまくものかこれをそしものやしろとはいふ
和泉式部雑下
6-詞花1こほりゐし志賀の唐崎うちとけてさざ波よする春風ぞふく
こほりゐししかのからさきうちとけてささなみよするはるかせそふく
大江匡房
6-詞花2きのふかも霰ふりしは信楽の外山のかすみ春めきにけり
きのふかもあられふりしはしからきのとやまのかすみはるめきにけり
藤原惟成
6-詞花3ふるさとは春めきにけりみ吉野の御垣が原をかすみこめたり
ふるさとははるめきにけりみよしののみかきかはらをかすみこめたり
平兼盛
6-詞花4たまさかにわが待ちえたるうぐひすの初音をあやな人やきくらむ
たまさかにわかまちえたるうくひすのはつねをあやなひとやきくらむ
道命法師
6-詞花5雪きえばゑぐの若菜もつむべきに春さへはれぬ深山辺の里
ゆききえはゑくのわかなもつむへきにはるさへはれぬみやまへのさと
曾禰好忠
6-詞花6春日野に朝なく雉のはねおとは雪のきえまに若菜つめとや
かすかのにあさなくきしのはねおとはゆきのきえまにわかなつめとや
源重之
6-詞花7よろづよのためしに君が引かるれば子の日の松もうらやみやせむ
よろつよのためしにきみかひかるれはねのひのまつもうらやみやせむ
赤染衛門
6-詞花8子の日すと春の野ごとにたづぬれば松にひかるるここちこそすれ
ねのひすとはるののことにたつぬれはまつにひかるるここちこそすれ
崇徳院
6-詞花9吹きくれば香をなつかしみ梅の花ちらさぬほどの春風もがな
ふきくれはかをなつかしみうめのはなちらさぬほとのはるかせもかな
源時綱
6-詞花10梅の花にほひを道のしるべにてあるじもしらぬ宿にきにけり
うめのはなにほひをみちのしるへにてあるしもしらぬやとにきにけり
三条公行
6-詞花11とりつなぐ人もなき野の春駒はかすみにのみやたなびかるらむ
とりつなくひともなきののはるこまはかすみにのみやたなひかるらむ
藤原盛経
6-詞花12真菰草つのぐみわたる澤邊にはつながぬ駒もはなれざりけり
まこもくさつのくみわたるさはへにはつなかぬこまもはなれさりけり
俊恵法師
6-詞花13萌えいづる草葉のみかは小笠原駒のけしきも春めきにけり
もえいつるくさはのみかはをかさはらこまのけしきもはるめきにけり
僧都覚雅
6-詞花14佐保姫の糸そめかくる青柳をふきなみだりそ春のやまかぜ
さほひめのいとそめかくるあをやきをふきなみたりそはるのやまかせ
平兼盛
6-詞花15いかなればこほりはとくる春風に結ぼほるらむ青柳の糸
いかなれはこほりはとくるはるかせにむすほほるらむあをやきのいと
源季遠
6-詞花16ふるさとの御垣の柳はるばるとたが染めかけし浅緑ぞも
ふるさとのみかきのやなきはるはるとたかそめかけしあさみとりそも
源道済
6-詞花17深山木のそのこずゑとも見えざりし櫻は花にあらはれにけり
みやまきのそのこすゑともみえさりしさくらははなにあらはれにけり
源頼政
6-詞花18くれなゐの薄花櫻にほはずはみな白雲とみてや過ぎまし
くれなゐのうすはなさくらにほはすはみなしらくもとみてやすきまし
康資王母
6-詞花19白雲はたちへだつれどくれなゐの薄花櫻こころにぞ染む
しらくもはたちへたつれとくれなゐのうすはなさくらこころにそそむ
藤原師実
6-詞花20白雲はさも立たばたてくれなゐのいまひとしほを君し染むれば
しらくもはさもたたはたてくれなゐのいまひとしほをきみしそむれは
康資王母
6-詞花21朝まだき霞なこめそ山櫻たづねゆくまのよそめにもみむ
あさまたきかすみなこめそやまさくらたつねゆくまのよそめにもみむ
祐子内親王家紀伊
6-詞花22白雲とみゆるにしるしみ吉野の吉野の山の花ざかりかも
しらくもとみゆるにしるしみよしののよしののやまのはなさかりかも
大江匡房
6-詞花23山櫻をしむにとまるものならは花は春ともかぎらざらまし
やまさくらをしむにとまるものならははなははるともかきらさらまし
藤原公実
6-詞花24九重に立つ白雲と見えつるは大内山の櫻なりけり
ここのへにたつしらくもとみえつるはおほうちやまのさくらなりけり
前斎院出雲
6-詞花25春ごとに心をそらになすものは雲ゐにみゆるさくらなりけり
はることにこころをそらになすものはくもゐにみゆるさくらなりけり
戒秀法師
6-詞花26白河の春のこずゑをみわたせば松こそ花の絶え間なりけれ
しらかはのはるのこすゑをみわたせはまつこそはなのたえまなりけれ
源俊頼
6-詞花27春くれば花のこずゑに誘はれていたらぬ里のなかりつるかな
はるくれははなのこすゑにさそはれていたらぬさとのなかりつるかな
白河院
6-詞花28池水のみぎはならずはさくらばな影をも波にをられましやは
いけみつのみきはならすはさくらはなかけをもなみにをられましやは
源師賢
6-詞花29いにしへの奈良のみやこの八重ざくらけふ九重ににほひぬるかな
いにしへのならのみやこのやへさくらけふここのへににほひぬるかな
伊勢大輔
6-詞花30ふるさとにとふ人あらば山ざくら散りなむのちを待てとこたへよ
ふるさとにとふひとあらはやまさくらちりなむのちをまてとこたへよ
藤原教長
6-詞花31さくら花てごとにをりて帰るをば春のゆくとや人はみるらむ
さくらはなてことにをりてかへるをははるのゆくとやひとはみるらむ
源登平
6-詞花32春ごとに見る花なれど今年より咲きはじめたる心地こそすれ
はることにみるはななれとことしよりさきはしめたるここちこそすれ
道命法師
6-詞花33ふるさとの花のにほひやまさるらむしづ心なく帰る雁かな
ふるさとのはなのにほひやまさるらむしつこころなくかへるかりかな
藤原長実
6-詞花34なかなかに散るをみじとや思ふらむ花のさかりに帰る雁がね
なかなかにちるをみしとやおもふらむはなのさかりにかへるかりかね
源忠季
6-詞花35さくら花ちらさでちよも見てしがなあかぬこころはさてもありやと
さくらはなちらさてちよもみてしかなあかぬこころはさてもありやと
藤原元真
6-詞花36さくら花かぜにし散らぬものならば思ふことなき春にぞあらまし
さくらはなかせにしちらぬものならはおもふことなきはるにそあらまし
大中臣能宣
6-詞花37さくら花ちりしく庭をはらはねば消えせぬ雪となりにけるかな
さくらはなちりしくにはをはらはねはきえせぬゆきとなりにけるかな
摂津
6-詞花38掃く人もなきふるさとの庭の面は花ちりてこそみるべかりけれ
はくひともなきふるさとのにはのおもははなちりてこそみるへかりけれ
源俊頼
6-詞花39さくらさく木の下水は浅けれど散りしく花の淵とこそなれ
さくらさくこのしたみつはあさけれとちりしくはなのふちとこそなれ
源師賢
6-詞花40散る花もあはれとみずや石の上ふりはつるまで惜しむこころを
ちるはなもあはれとみすやいそのかみふりはつるまてをしむこころを
藤原範永
6-詞花41我が宿の櫻なれども散るときは心にえこそまかせざりけれ
わかやとのさくらなれともちるときはこころにえこそまかせさりけれ
花山院
6-詞花42身にかへて惜しむにとまる花ならば今日や我が世の限りならまし
みにかへてをしむにとまるはなならはけふやわかよのかきりならまし
源俊頼
6-詞花43庭もせに積もれる雪と見えながら香るぞ花のしるしなりける
にはもせにつもれるゆきとみえなからかをるそはなのしるしなりける
源有仁
6-詞花44散る花にせきとめらるる山川の深くも春のなりにけるかな
ちるはなにせきとめらるるやまかはのふかくもはるのなりにけるかな
大中臣能宣
6-詞花45一重だにあかぬ匂ひをいとどしく八重かさなれる山吹のはな
ひとへたにあかぬにほひをいととしくやへかさなれるやまふきのはな
藤原長能
6-詞花46八重さけるかひこそなけれ山吹の散らば一重もあらじとおもへは
やへさけるかひこそなけれやまふきのちらはひとへもあらしとおもへは
読人知らず
6-詞花47こぬ人をまちかね山の呼子鳥おなじこころにあはれとぞきく
こぬひとをまちかねやまのよふことりおなしこころにあはれとそきく
太皇太后宮家肥後
6-詞花48咲きしより散りはつるまで見しほどに花のもとにて二十日へにけり
さきしよりちりはつるまてみしほとにはなのもとにてはつかへにけり
藤原忠通
6-詞花49老いてこそ春の惜しさはまさりけれ今いくたびも逢はじと思へば
おいてこそはるのをしさはまさりけれいまいくたひもあはしとおもへは
橘俊成
6-詞花50惜しむとてこよひかきおく言の葉やあやなく春のかたみなるべき
をしむとてこよひかきおくことのはやあやなくはるのかたみなるへき
崇徳院
6-詞花51けふよりはたつ夏衣うすくともあつしとのみやおもひわたらむ
けふよりはたつなつころもうすくともあつしとのみやおもひわたらむ
増基法師
6-詞花52雪の色をぬすみて咲ける卯の花はさえでや人にうたがはるらむ
ゆきのいろをぬすみてさけるうのはなはさえてやひとにうたかはるらむ
源俊頼
6-詞花53年をへてかけし葵はかはらねど今日のかざしはめづらしきかな
としをへてかけしあふひはかはらねとけふのかさしはめつらしきかな
藤原長房
6-詞花54榊とる夏の山路やとほからむゆふかけてのみまつる神かな
さかきとるなつのやまちやとほからむゆふかけてのみまつるかみかな
源兼昌
6-詞花55むかしにもあらぬわが身にほととぎす待つこころこそ変らざりけれ
むかしにもあらぬわかみにほとときすまつこころこそかはらさりけれ
周防内侍
6-詞花56ほととぎす鳴く音ならでは世の中に待つこともなきわが身なりけり
ほとときすなくねならてはよのなかにまつこともなきわかみなりけり
藤原忠兼
6-詞花57今年だにまつ初こゑをほととぎす世にはふるさで我にきかせよ
ことしたにまつはつこゑをほとときすよにはふるさてわれにきかせよ
花山院
6-詞花58山里のかひこそなけれほととぎす都の人もかくや待つらむ
やまさとのかひこそなけれほとときすみやこのひともかくやまつらむ
道命法師
6-詞花59山彦のこたふる山のほととぎす一こゑなけは二こゑぞきく
やまひこのこたふるやまのほとときすひとこゑなけはふたこゑそきく
能因法師
6-詞花60ほととぎすあかつきかけて鳴くこゑを待たぬ寝覚の人やきくらむ
ほとときすあかつきかけてなくこゑをまたぬねさめのひとやきくらむ
藤原伊家
6-詞花61待つ人は寝る夜もなきをほととぎす鳴く音は夢のここちこそすれ
まつひとはぬるよもなきをほとときすなくねはゆめのここちこそすれ
藤原実綱
6-詞花62鳴きつとも誰にかいはむほととぎす影よりほかに人しなければ
なきつともたれにかいはむほとときすかけよりほかにひとしなけれは
源俊頼
6-詞花63昆陽の池におふるあやめのながき根はひく白糸の心地こそすれ
こやのいけにおふるあやめのなかきねはひくしらいとのここちこそすれ
待賢門院堀河
6-詞花64よもすがらたたく水鶏は天の戸をあけてのちこそ音せざりけれ
よもすからたたくくひなはあまのとをあけてのちこそおとせさりけれ
源頼家
6-詞花65さみだれの日をふるままに鈴鹿川八十瀬の波ぞこゑまさるなる
さみたれのひをふるままにすすかかはやそせのなみそこゑまさるなる
皇嘉門院治部卿源盛子
6-詞花66わぎもこが昆陽の篠屋のさみだれにいかでほすらむ夏引の糸
わきもこかこやのしのやのさみたれにいかてほすらむなつひきのいと
大江匡房
6-詞花67さみだれに難波堀江のみをつくしみえぬや水のまさるなるらむ
さみたれになにはほりえのみをつくしみえぬやみつのまさるなるらむ
源忠季
6-詞花68藻鹽やく須磨の浦人うちたえていとひやすらむさみだれの空
もしほやくすまのうらひとうちたえていとひやすらむさみたれのそら
藤原通俊
6-詞花69さつきやみ花たちばなに吹く風はたが里までかにほひゆくらむ
さつきやみはなたちはなにふくかせはたかさとまてかにほひゆくらむ
良暹法師
6-詞花70宿ちかく花たちばなはほりうゑじむかしをしのぶつまとなりけり
やとちかくはなたちはなはほりうゑしむかしをしのふつまとなりけり
花山院
6-詞花71うすくこく垣ほににほふ撫子の花のいろにぞ露も置きける
うすくこくかきほににほふなてしこのはなのいろにそつゆもおきける
藤原経衡
6-詞花72種まきし我が撫子の花ざかりいく朝露の置きてみつらむ
たねまきしわかなてしこのはなさかりいくあさつゆのおきてみつらむ
藤原顕季
6-詞花73なくこゑもきこえぬもののかなしきは忍びに燃ゆる蛍なりけり
なくこゑもきこえぬもののかなしきはしのひにもゆるほたるなりけり
大弐高遠
6-詞花74さつきやみ鵜川にともす篝火の數ますものは蛍なりけり
さつきやみうかはにともすかかりひのかすますものはほたるなりけり
読人知らず
6-詞花75風ふけば川邊すずしく寄る波のたちかへるべき心地こそせね
かせふけはかはへすすしくよるなみのたちかへるへきここちこそせね
藤原家経
6-詞花76杣川の筏の床のうきまくら夏は涼しきふしどなりけり
そまかはのいかたのとこのうきまくらなつはすすしきふしとなりけり
曾禰好忠
6-詞花77待つほどに夏の夜いたく更けぬれば惜しみもあへぬ山の端の月
まつほとになつのよいたくふけぬれはをしみもあへぬやまのはのつき
源道済
6-詞花78川上に夕立すらし水屑せく梁瀬のさ波たちさはぐなり
かはかみにゆふたちすらしみくつせくやなせのさなみたちさわくなり
曾禰好忠
6-詞花79つねよりも嘆きやすらむたなばたは逢はまし暮をよそにながめて
つねよりもなけきやすらむたなはたはあはましくれをよそになかめて
太皇大后宮大弐
6-詞花80したもみぢひと葉づつ散る木のしたに秋とおぼゆる蝉のこゑかな
したもみちひとはつつちるこのしたにあきとおほゆるせみのこゑかな
相模
6-詞花81蟲の音もまだうちとけぬ草むらに秋をかねても結ぶ露かな
むしのねもまたうちとけぬくさむらにあきをかねてもむすふつゆかな
曾禰好忠
6-詞花82山城の鳥羽田の面をみわたせばほのかに今朝ぞ秋風はふく
やましろのとはたのおもをみわたせはほのかにけさそあきかせはふく
曾禰好忠
6-詞花83君すまばとはましものを津の國の生田の森の秋のはつかぜ
きみすまはとはましものをつのくにのいくたのもりのあきのはつかせ
僧都清胤
6-詞花84おぎの葉にすがく糸をもささがにはたなばたにとやけさは引くらむ
はきのはにすかくいとをもささかにはたなはたにとやけさはひくらむ
橘元任
6-詞花85たなばたに衣もぬぎてかすべきにゆゆしとやみむ墨染の袖
たなはたにころももぬきてかすへきにゆゆしとやみむすみそめのそて
花山院
6-詞花86たなはたに心は貸すと思はねど暮れゆく空はうれしかりけり
たなはたにこころはかすとおもはねとくれゆくそらはうれしかりけり
藤原顕綱
6-詞花87いかなればとだえめけむ天の川あふ瀬にわたすかささぎの橋
いかなれはとたえそめけむあまのかはあふせにわたすかささきのはし
加賀左衛門
6-詞花88天の川よこぎる雲やたなはたのそらだきもののけぶりなるらむ
あまのかはよこきるくもやたなはたのそらたきもののけふりなるらむ
藤原顕輔
6-詞花89おぼつかなかはりやしにし天の川年にひとたびわたる瀬なれば
おほつかなかはりやしにしあまのかはとしにひとたひわたるせなれは
大中臣能宣
6-詞花90天の川玉橋いそぎわたさなむ浅瀬たどるも夜のふけゆくに
あまのかはたまはしいそきわたさなむあさせたとるもよのふけゆくに
藤原顕季
6-詞花91逢ふ夜とは誰かはしらぬたなばたのあくる空をもつつまざらなむ
あふよとはたれかはしらぬたなはたのあくるそらをもつつまさらなむ
良暹法師
6-詞花92たなばたの待ちつるほどの苦しさもあかぬ別れといづれまされり
たなはたのまちつるほとのくるしさもあかぬわかれといつれまされり
藤原顕綱
6-詞花93天の川かへらぬ水をたなばたはうらやましとや今朝は見るらむ
あまのかはかへらぬみつをたなはたはうらやましとやけさはみるらむ
祝部成仲
6-詞花94水きよみやどれる秋の月さへや千代まで君とすまむとすらむ
みつきよみやとれるあきのつきさへやちよまてきみとすまむとすらむ
源順
6-詞花95いかなればおなじ空なる月影の秋しもことに照りまさるらむ
いかなれはおなしそらなるつきかけのあきしもことにてりまさるらむ
源雅定
6-詞花96春夏は空やはかはる秋の夜の月しもいかで照りまさるらむ
はるなつはそらやはかはるあきのよのつきしもいかててりまさるらむ
藤原家成
6-詞花97秋にまたあはむあはじも知らぬ身はこよひばかりの月をだにみむ
あきにまたあはむあはしもしらぬみはこよひはかりのつきをたにみむ
三条院
6-詞花98ありしにもあらずなりゆく世の中にかはらぬものは秋の夜の月
ありしにもあらすなりゆくよのなかにかはらぬものはあきのよのつき
天台座主明快
6-詞花99秋の夜の月のひかりのもる山は木の下かげもさやけかりけり
あきのよのつきのひかりのもるやまはこのしたかけもさやけかりけり
藤原重基
6-詞花100天つ風雲ふきはらふ高嶺にて入るまでみつる秋の夜の月
あまつかせくもふきはらふたかねにているまてみつるあきのよのつき
良暹法師
6-詞花101秋の夜は月に心のひまぞなき出づるを待つと入るを惜しむと
あきのよはつきにこころのひまそなきいつるをまつといるををしむと
源頼綱
6-詞花102引く駒にかげをならべて逢坂の関路よりこそ月はいでけれ
ひくこまにかけをならへてあふさかのせきちよりこそつきはいてけれ
藤原朝隆
6-詞花103秋の夜の露もくもらぬ月をみて置きどころなきわがこころかな
あきのよのつゆもくもらぬつきをみておきところなきわかこころかな
隆縁法師
6-詞花104秋の夜の月まちかねておもひやる心いくたび山をこゆらむ
あきのよのつきまちかねておもひやるこころいくたひやまをこゆらむ
大江嘉言
6-詞花105秋山の清水はくまじにごりなばやどれる月のくもりもぞする
あきやまのしみつはくましにこりなはやとれるつきのくもりもそする
藤原忠兼
6-詞花106秋の夜の月にこころのあくがれて雲ゐにものを思ふころかな
あきのよのつきにこころのあくかれてくもゐにものをおもふころかな
花山院
6-詞花107ひとりゐてながむるやどの荻の葉に風こそわたれ秋のゆふぐれ
ひとりゐてなかむるやとのをきのはにかせこそわたれあきのゆふくれ
源道済
6-詞花108荻の葉にそそや秋風ふきぬなりこぼれやしぬる露のしらたま
をきのはにそそやあきかせふきぬなりこほれやしぬるつゆのしらたま
大江嘉言
6-詞花109秋ふくはいかなる色の風なれば身にしむばかりあはれなるらむ
あきふくはいかなるいろのかせなれはみにしむはかりあはれなるらむ
和泉式部
6-詞花110み吉野の象山かげにたてる松いく秋風にそなれきぬらむ
みよしののきさやまかけにたてるまついくあきかせにそなれきぬらむ
曾禰好忠
6-詞花111荻の葉に露ふきむすぶこがらしの音ぞ夜寒になりまさるなる
をきのはにつゆふきむすふこからしのおとそよさむになりまさるなる
藤原顕綱
6-詞花112夕霧にこずゑもみえずはつせ山いりあひの鐘の音ばかりして
ゆふきりにこすゑもみえすはつせやまいりあひのかねのおとはかりして
源兼昌
6-詞花113秋の野の花みるほどの心をばゆくとやいはむとまるとやいはむ
あきのののはなみるほとのこころをはゆくとやいはむとまるとやいはむ
赤染衛門
6-詞花114神垣にかかるとならば朝顔もゆふかくるまでにほはざらめや
かみかきにかかるとならはあさかほもゆふかくるまてにほはさらめや
六條齋院
6-詞花115ぬしやたれ知る人なしに藤袴みれば野ごとに綻びにけり
ぬしやたれきるひとなしにふちはかまみれはのことにほころひにけり
隆源法師
6-詞花116朝な朝な露おもげなる萩が枝に心をさへもかけてみるかな
あさなあさなつゆおもけなるはきかえにこころをさへもかけてみるかな
周防内侍
6-詞花117荻の葉に言とふ人もなきものを来る秋ごとにそよとこたふる
をきのはにこととふひともなきものをくるあきことにそよとこたふる
敦輔王
6-詞花118秋の野のくさむらごとに置く露は夜なく蟲のなみだなるべし
あきのののくさむらことにおくつゆはよるなくむしのなみたなるへし
曾禰好忠
6-詞花119八重葎しげれる宿は夜もすがら蟲の音きくぞとりどころなる
やへむくらしけれるやとはよもすからむしのねきくそとりところなる
永源法師
6-詞花120なく蟲のひとつ聲にも聞こえぬはこころごころにものやかなしき
なくむしのひとつこゑにもきこえぬはこころこころにものやかなしき
和泉式部
6-詞花121ふるさとにかはらざりけり鈴虫の鳴海の野邊のゆふぐれのこゑ
ふるさとにかはらさりけりすすむしのなるみののへのゆふくれのこゑ
橘為仲
6-詞花122秋風に露をなみだとなく蟲のおもふこころをたれにとはまし
あきかせにつゆをなみたとなくむしのおもふこころをたれにとはまし
橘正通
6-詞花123逢坂の杉間の月のなかりせばいくきの駒といかでしらまし
あふさかのすきまのつきのなかりせはいくきのこまといかてしらまし
大江匡房
6-詞花124きく人のなどやすからぬ鹿の音はわがつまをこそ恋ひてなくらめ
きくひとのなとやすからぬしかのねはわかつまをこそこひてなくらめ
出羽辨
6-詞花125秋萩を草の枕に結ぶ夜は近くも鹿のこゑをきくかな
あきはきをくさのまくらにむすふよはちかくもしかのこゑをきくかな
藤原伊家
6-詞花126秋ふかみ花には菊の関なれば下葉に月ももりあかしけり
あきふかみはなにはきくのせきなれはしたはにつきももりあかしけり
崇徳院
6-詞花127霜枯るるはじめとみずは白菊のうつろふ色をなげかざらまし
しもかるるはしめとみすはしらきくのうつろふいろをなけかさらまし
源雅光
6-詞花128今年また咲くべき花のあらばこそうつろふ菊にめかれをもせめ
ことしまたさくへきはなのあらはこそうつろふきくにめかれをもせめ
道命法師
6-詞花129草枯れの冬までみよと露霜の置きて残せる白菊の花
くさかれのふゆまてみよとつゆしものおきてのこせるしらきくのはな
曾禰好忠
6-詞花130関こゆる人にとはばやみちのくの安達のまゆみもみぢしにきや
せきこゆるひとにとははやみちのくのあたちのまゆみもみちしにきや
藤原頼宗
6-詞花131いくらとも見えぬ紅葉の錦かな誰ふたむらの山といひけむ
いくらともみえぬもみちのにしきかなたれふたむらのやまといひけむ
橘能元
6-詞花132夕されば何か急がむもみぢ葉のしたてる山は夜もこえなむ
ゆふされはなにかいそかむもみちはのしたてるやまはよるもこえなむ
大江匡房
6-詞花133山里はゆききの道の見えぬまで秋の木の葉に埋もれにけり
やまさとはゆききのみちのみえぬまてあきのこのはにうつもれにけり
曾禰好忠
6-詞花134春雨の綾おりかけし水の面に秋は紅葉の錦をぞ敷く
はるさめのあやおりかけしみつのおもにあきはもみちのにしきをそしく
道命法師
6-詞花135なごりなく時雨の空ははれぬれどまだ降るものは木の葉なりけり
なこりなくしくれのそらははれぬれとまたふるものはこのはなりけり
源俊頼
6-詞花136荒れはてて月もとまらぬ我が宿に秋の木の葉を風ぞふきける
あれはててつきもとまらぬわかやとにあきのこのはをかせそふきける
平兼盛
6-詞花137秋ふかみ紅葉おちしく網代木は氷魚のよるさへあかくみえけり
あきふかみもみちおちしくあしろきはひをのよるさへあかくみえけり
藤原惟成
6-詞花138初霜も置きにけらしな今朝みれば野邊の浅茅も色づきにけり
はつしももおきにけらしなけさみれはのへのあさちもいろつきにけり
大中臣能宣
6-詞花139いづかたに秋のゆくらむ我が宿に今宵ばかりは雨宿りせで
いつかたにあきのゆくらむわかやとにこよひはかりはあまやとりせて
藤原公任
6-詞花140なにごともゆきて祈らむと思ひしに神無月にもなりにけるかな
なにこともゆきていのらむとおもひしにかみなつきにもなりにけるかな
曾禰好忠
6-詞花141ひさぎおふる澤邊の茅原冬くればひばりの床ぞあらはれにける
ひさきおふるさはへのちはらふゆくれはひはりのとこそあらはれにける
曾禰好忠
6-詞花142こずゑにてあかざりしかばもみぢ葉のちりしく庭をはらはでぞみる
こすゑにてあかさりしかはもみちはのちりしくにはをはらはてそみる
大弐資通
6-詞花143いろいろにそむる時雨にもみぢ葉はあらそひかねて散りはてにけり
いろいろにそむるしくれにもみちははあらそひかねてちりはてにけり
藤原家成
6-詞花144山ふかみ落ちてつもれるもみぢ葉のかはけるうへに時雨ふるなり
やまふかみおちてつもれるもみちはのかわけるうへにしくれふるなり
大江嘉言
6-詞花145いまさらにをのがすみかを立たじとて木の葉の下にをしぞなくなる
いまさらにおのかすみかをたたしとてこのはのしたにをしそなくなる
惟宗隆頼
6-詞花146風ふけは楢のうら葉のそよそよといひあはせつついづち散るらむ
かせふけはならのうらはのそよそよといひあはせつついつちちるらむ
惟宗隆頼
6-詞花147外山なる柴の立枝に吹く風の音きくをりぞ冬はものうき
とやまなるしはのたちえにふくかせのおときくをりそふゆはものうき
曾禰好忠
6-詞花148秋はなほ木の下かげも暗かりき月は冬こそみるべかりけれ
あきはなほこのしたかけもくらかりきつきはふゆこそみるへかりけれ
読人知らず
6-詞花149もろともに山めぐりする時雨かなふるにかひなき身とはしらずや
もろともにやまめくりするしくれかなふるにかひなきみとはしらすや
藤原道雅
6-詞花150いほりさす楢の木かげにもる月のくもるとみれば時雨ふるなり
いほりさすならのこかけにもるつきのくもるとみれはしくれふるなり
瞻西法師
6-詞花151深山にはあらしやいたく吹きぬらむ網代もたわに紅葉つもれり
みやまにはあらしやいたくふきぬらむあしろもたわにもみちつもれり
平兼盛
6-詞花152あられふる交野の御野の狩ころも濡れぬ宿かす人しなければ
あられふるかたののみののかりころもぬれぬやとかすひとしなけれは
藤原長能
6-詞花153山ふかみ焼く炭竃の煙こそやがて雪げの雲となりけれ
やまふかみやくすみかまのけふりこそやかてゆきけのくもとなりけれ
大江匡房
6-詞花154年をへて吉野の山にみなれたる目にめづらしき今朝の初雪
としをへてよしののやまにみなれたるめにめつらしきけさのはつゆき
藤原義忠
6-詞花155ひぐらしに山路のきのふしぐれしは富士の高嶺の雪にぞありける
ひくらしにやまちのきのふしくれしはふしのたかねのゆきにそありける
大江嘉言
6-詞花156奥山の岩垣もみぢ散りはてて朽ち葉がうへに雪ぞつもれる
おくやまのいはかきもみちちりはててくちはかうへにゆきそつもれる
大江匡房
6-詞花157くれなゐに見えしこずゑも雪ふれば白木綿かくる神無備の森
くれなゐにみえしこすゑもゆきふれはしらゆふかくるかみなひのもり
藤原忠通
6-詞花158まつ人の今もきたらばいかがせむ踏ままく惜しき庭の雪かな
まつひとのいまもきたらはいかかせむふままくをしきにはのゆきかな
和泉式部
6-詞花159かずならぬ身にさへ年のつもるかな老は人をもきらはざりけり
かすならぬみにさへとしのつもるかなおいはひとをもきらはさりけり
成尋法師
6-詞花160魂まつる年のをはりになりにけり今日にやまたもあはむとすらむ
たままつるとしのをはりになりにけりけふにやまたもあはむとすらむ
曾禰好忠
6-詞花161君が世にあふくま川のそこきよみ千歳をへつつすまむとぞおもふ
きみかよにあふくまかはのそこきよみちとせをへつつすまむとそおもふ
藤原道長
6-詞花162めづらしくけふたちそむる鶴の子は千代のむつきをかさぬべきかな
めつらしくけふたちそむるつるのこはちよのむつきをかさぬへきかな
伊勢大輔
6-詞花163すぎきにしほどをばすてつ今年より千代のかずつむ住吉の松
すききにしほとをはすてつことしよりちよのかすつむすみよしのまつ
大中臣能宣
6-詞花164君が世は白雲かかる筑波嶺のみねのつづきの海となるまで
きみかよはしらくもかかるつくはねのみねのつつきのうみとなるまて
能因法師
6-詞花165さかき葉を手にとりもちて祈りつる神の代よりも久しからなむ
さかきはをてにとりもちていのりつるかみのよよりもひさしからなむ
赤染衛門
6-詞花166あかでのみ帰るとおもへば櫻花をるべき春ぞ尽きせざりける
あかてのみかへるとおもへはさくらはなをるへきはるそつきせさりける
中務
6-詞花167松嶋の磯にむれゐる葦鶴のをのがさまざま見えし千代かな
まつしまのいそにむれゐるあしたつのおのかさまさまみえしちよかな
清原元輔
6-詞花168ひととせを暮れぬとなにか惜しむべき尽きせぬ千代の春をまつには
ひととせをくれぬとなにかをしむへきつきせぬちよのはるをまつには
藤原公任
6-詞花169たれにとか池のこころも思ふらむ底にやどれる松の千歳は
たれにとかいけのこころもおもふらむそこにやとれるまつのちとせは
恵慶法師
6-詞花170君が代の久しかるべきためしにや神もうゑけむ住吉の松
きみかよのひさしかるへきためしにやかみもうゑけむすみよしのまつ
読人知らず
6-詞花171住吉のあらひと神の久しさに松もいくたび生ひかはるらむ
すみよしのあらひとかみのひさしさにまつもいくたひおひかはるらむ
源経信
6-詞花172みやこにておぼつかなさをならはずは旅寝をいかにおもひやらまし
みやこにておほつかなさをならはすはたひねをいかにおもひやらまし
民部内侍
6-詞花173もろともにたたましものをみちのくの衣の関をよそにきくかな
もろともにたたましものをみちのくのころものせきをよそにきくかな
和泉式部
6-詞花174よろこびをくはへにいそぐ旅なれば思へどえこそとどめざりけれ
よろこひをくはへにいそくたひなれはおもへとえこそととめさりけれ
源俊頼
6-詞花175とまりゐて待つべき身こそ老いにけれ哀れわかれは人のためかは
とまりゐてまつへきみこそおいにけれあはれわかれはひとのためかは
藤原輔尹
6-詞花176かへりこむほどをば知らず悲しきはよを長月の別れなりけり
かへりこむほとをもしらすかなしきはよをなかつきのわかれなりけり
藤原道経
6-詞花177六年にぞ君はきまさむ住吉のまつべき身こそいたく老いぬれ
むとせにそきみはきまさむすみよしのまつへきみこそいたくおいぬれ
津守国基
6-詞花178あかねさす日に向ひても思ひいでよ都は晴れぬながめすらむと
あかねさすひにむかひてもおもひいてよみやこははれぬなかめすらむと
一條院皇后宮
6-詞花179別れ路の草葉をわけむ旅衣たつよりかねて濡るる袖かな
わかれちのくさはをわけむたひころもたつよりかねてぬるるそてかな
法橋有禅
6-詞花180またこむと誰にもえこそ言ひ置かね心にかなふ命ならねば
またこむとたれにもえこそいひおかねこころにかなふいのちならねは
玄範法師
6-詞花181留まらむ留まらじともおもほえずいづくもつゐのすみかならねば
ととまらむととまらしともおもほえすいつくもつひのすみかならねは
寂昭法師
6-詞花182ふたつなき心を君にとどめ置きて我さへわれに別れぬるかな
ふたつなきこころをきみにととめおきてわれさへわれにわかれぬるかな
僧都清因
6-詞花183暮れはまづそなたをのみぞ眺むべき出でむ日ごとに思ひをこせよ
くれはまつそなたをのみそなかむへきいてむひことにおもひおこせよ
太皇太后宮甲斐
6-詞花184東路のはるけき道を行きかへりいつかとくべきしたひもの関
あつまちのはるけきみちをゆきめくりいつかとくへきしたひものせき
読人知らず
6-詞花185たち別れ遙かにいきの松なれば恋しかるべき千代のかげかな
たちわかれはるかにいきのまつなれはこひしかるへきちよのかけかな
權僧正永縁
6-詞花186はかなくも今朝の別れの惜しきかないつかは人をながらへてみし
はかなくもけさのわかれのをしきかないつかはひとをなからへてみし
名曳
6-詞花187あやしくもわがみやま木のもゆるかな思ひは人につけてしものを
あやしくもわかみやまきのもゆるかなおもひはひとにつけてしものを
藤原忠通恋上
6-詞花188いかでかは思ひありとも知らすべき室の八島のけぶりならでは
いかてかはおもひありともしらすへきむろのやしまのけふりならては
藤原実方恋上
6-詞花189かくとだに言はではかなく恋ひ死なばやがてしられぬ身とやなりなむ
かくとたにいはてはかなくこひしなはやかてしられぬみとやなりなむ
隆惠法師恋上
6-詞花190思ひかね今日たてそむる錦木の千束もまたで逢ふよしもがな
おもひかねけふたてそむるにしききのちつかもまたてあふよしもかな
大江匡房恋上
6-詞花191谷川の岩間をわけて行く水の音にのみやは聞かむと思ひし
たにかはのいはまをわけてゆくみつのおとにのみやはきかむとおもひし
平兼盛恋上
6-詞花192よとともに恋ひつつすぐる年月は変れど変るここちこそせね
よとともにこひつつすくるとしつきはかはれとかはるここちこそせね
一條院恋上
6-詞花193わか恋は夢路にのみぞ慰むるつれなき人も逢ふとみゆれば
わかこひはゆめちにのみそなくさむるつれなきひともあふとみゆれは
藤原伊家恋上
6-詞花194慰むる方もなくてややみなまし夢にも人のつれなかりせば
なくさむるかたもなくてややみなましゆめにもひとのつれなかりせは
徳大寺公能恋上
6-詞花195命あらばあふ世もあらむ世の中になど死ぬばかり思ふこころぞ
いのちあらはあふよもあらむよのなかになとしぬはかりおもふこころそ
藤原惟成恋上
6-詞花196よそながらあはれと言はむことよりも人づてならでいとへとぞ思ふ
よそなからあはれといはむことよりもひとつてならていとへとそおもふ
藤原成通恋上
6-詞花197恋ひ死なば君はあはれといはずともなかなかよその人やしのばむ
こひしなはきみはあはれといはすともなかなかよそのひとやしのはむ
覚念法師恋上
6-詞花198いかばかり人のつらさを恨みまし憂き身の咎と思ひなさずは
いかはかりひとのつらさをうらみましうきみのとかとおもひなさすは
賀茂成助恋上
6-詞花199いかならむ言の葉にてか靡くべき恋しといふはかひなかりけり
いかならむことのはにてかなひくへきこひしといふはかひなかりけり
藤原頼保恋上
6-詞花200わがためにつらき人をばをきながら何の罪なき世をやうらみむ
わかためにつらきひとをはおきなからなにのつみなきよをやうらみむ
浄蔵法師恋上
6-詞花201忘るやとながらへゆけど身にそひて恋しきことは遅れざりけり
わするやとなからへゆけとみにそひてこひしきことはおくれさりけり
平兼盛恋上
6-詞花202年をへて燃ゆてふ富士の山よりも逢はぬ思ひは我ぞまされる
としをへてもゆてふふしのやまよりもあはぬおもひはわれそまされる
読人知らず恋上
6-詞花203わびぬればしゐて忘れむと思へども心弱くも落つるなみだか
わひぬれはしひてわすれむとおもへともこころよわくもおつるなみたか
読人知らず恋上
6-詞花204思はじと思へばいとど恋しきはいづちか我が心なるらむ
おもはしとおもへはいととこひしきはいつちかわれかこころなるらむ
読人知らず恋上
6-詞花205こころさへむすぶの神やつくりけむ解くるけしきも見えぬ君かな
こころさへむすふのかみやつくりけむとくるけしきもみえぬきみかな
能因法師恋上
6-詞花206ひとかたに思ひ絶えにし世の中をいかがはすべきしづのをだまき
ひとかたにおもひたえにしよのなかをいかかはすへきしつのをたまき
藤原公任恋上
6-詞花207かげみえぬ君は雨夜の月なれや出でても人に知られざりけり
かけみえぬきみはあまよのつきなれやいててもひとにしられさりけり
僧都覚雅恋上
6-詞花208たなばたに今朝引く糸の露をおもみ撓むけしきを見でややみなむ
たなはたにけさひくいとのつゆをおもみたわむけしきをみてややみなむ
藤原成通恋上
6-詞花209身のほどを思ひ知りぬることのみやつれなき人のなさけなるらむ
みのほとをおもひしりぬることのみやつれなきひとのなさけなるらむ
隆縁法師恋上
6-詞花210わびつつもおなじ都はなぐさめき旅寝ぞ恋のかぎりなりける
わひつつもおなしみやこはなくさめきたひねそこひのかきりなりける
藤原家成恋上
6-詞花211風をいたみ岩うつ波のおのれのみ砕けてものを思ふころかな
かせをいたみいはうつなみのおのれのみくたけてものをおもふころかな
源重之恋上
6-詞花212わが恋は吉野の山の奥なれや思ひいれども逢ふ人もなし
わかこひはよしののやまのおくなれやおもひいれともあふひともなし
藤原顕季恋上
6-詞花213胸は富士袖は清見が関なれや煙も波も立たぬ日ぞなき
むねはふしそてはきよみかせきなれやけふりもなみもたたぬひそなき
平祐挙恋上
6-詞花214いたづらに千束朽ちにし錦木を猶こりづまにおもひたつかな
いたつらにちつかくちにしにしききをなほこりつまにおもひたつかな
藤原永実恋上
6-詞花215山櫻つひに咲くべきものならば人の心をつくさざらなむ
やまさくらつひにさくへきものならはひとのこころをつくささらなむ
道命法師恋上
6-詞花216霜置かぬ人の心はうつろひて面がはりせぬ白菊の花
しもおかぬひとのこころはうつろひておもかはりせぬしらきくのはな
源家時恋上
6-詞花217白菊のかはらぬいろも頼まれずうつろはでやむ秋しなければ
しらきくのかはらぬいろもたのまれすうつろはてやむあきしなけれは
藤原公実恋上
6-詞花218くれなゐの濃染の衣うへにきむ恋の涙の色隠るやと
くれなゐのこそめのころもうへにきむこひのなみたのいろかくるやと
藤原顕綱恋上
6-詞花219しのぶれど涙ぞしるきくれなゐに物思ふ袖は染むべかりけり
しのふれとなみたそしるきくれなゐにものおもふそてはそむへかりけり
源道済恋上
6-詞花220くれなゐに涙の色もなりにけり変るは人の心のみかは
くれなゐになみたのいろもなりにけりかはるはひとのこころのみかは
源雅光恋上
6-詞花221恋ひ死なむ身こそおもへば惜しからね憂きも辛きも人の咎かは
こひしなむみこそおもへはをしからねうきもつらきもひとのとかかは
平実重恋上
6-詞花222辛さをば君にならひて知りぬるを嬉しきことを誰にとはまし
つらさをはきみにならひてしりぬるをうれしきことをたれにとはまし
道命法師恋上
6-詞花223嬉しきはいかばかりかは思ふらむ憂きは身にしむものにぞありける
うれしきはいかはかりかはおもふらむうきはみにしむものにそありける
藤原道信恋上
6-詞花224恋すれば憂き身さへこそ惜しまるれおなじ世にだに住まむとおもへば
こひすれはうきみさへこそをしまるれおなしよにたにすまむとおもへは
心覚法師恋上
6-詞花225みかきもり衛士の焚く火の夜は燃え昼は消えつつものをこそおもへ
みかきもりゑしのたくひのよるはもえひるはきえつつものをこそおもへ
大中臣能宣恋上
6-詞花226わが恋やふたみかはれる玉くしげいかにすれども逢ふかたもなき
わかこひやふたみかはれるたまくしけいかにすれともあふかたもなき
読人知らず恋上
6-詞花227こほりして音はせねども山川の下は流るるものと知らずや
こほりしておとはせねともやまかはのしたになかるるものとしらすや
藤原範永恋上
6-詞花228風ふけば藻鹽の煙かたよりに靡くを人の心ともがな
かせふけはもしほのけふりかたよりになひくをひとのこころともかな
藤原親隆恋上
6-詞花229瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれてもすゑにあはむとぞ思ふ
せをはやみいはにせかるるたきかはのわれてもすゑにあはむとそおもふ
崇徳院恋上
6-詞花230播磨なる飾磨に染むるあながちに人を恋ひしと思ふころかな
はりまなるしかまにそむるあなかちにひとをこひしとおもふころかな
曾禰好忠恋上
6-詞花231ほどもなく暮るると思ひし冬の日のこころもとなき折もありけり
ほともなくくるるとおもひしふゆのひのこころもとなきをりもありけり
道命法師恋上
6-詞花232恋ひわびてひとり伏せ屋に夜もすがら落つる涙や音無の瀧
こひわひてひとりふせやによもすからおつるなみたやおとなしのたき
藤原俊忠恋上
6-詞花233君をわが思ふこころは大原やいつしかとのみすみやかれつつ
きみをわかおもふこころはおほはらやいつしかとのみすみやかれつつ
藤原相如恋下
6-詞花234わか恋はあひそめてこそまさりけれ飾磨の褐の色ならねども
わかこひはあひそめてこそまさりけれしかまのかちのいろならねとも
藤原道経恋下
6-詞花235夜をふかみ帰りし空もなかりしをいづくより置く露にぬれけむ
よをふかみかへりしそらもなかりしをいつくよりおくつゆにぬれけむ
清原元輔恋下
6-詞花236こころをば留めてこそは帰りつれあやしや何の暮をまつらむ
こころをはととめてこそはかへりつれあやしやなにのくれをまつらむ
藤原顕広恋下
6-詞花237竹の葉に玉ぬく露にあらねどもまだ夜をこめて置きにけるかな
たけのはにたまぬくつゆにあらねともまたよをこめておきにけるかな
藤原実方恋下
6-詞花238みな人の惜しむ日なれど我はただ遅く暮れゆく嘆きをぞする
みなひとのをしむひなれとわれはたたおそくくれゆくなけきをそする
読人知らず恋下
6-詞花239住吉の浅澤小野の忘れ水たえだえならであふよしもがな
すみよしのあささはをののわすれみつたえたえならてあふよしもかな
藤原範綱恋下
6-詞花240我のみや思ひおこせむあぢきなく人はゆくへも知らぬものゆゑ
われのみやおもひおこせむあちきなくひとはゆくへもしらぬものゆゑ
和泉式部恋下
6-詞花241思ふことなくて過ぎつる世の中につひにこころをとどめつるかな
おもふことなくてすきつるよのなかにつひにこころをととめつるかな
大江為基恋下
6-詞花242つねよりも露けかりける今宵かなこれや秋立つはじめなるらむ
つねよりもつゆけかりけるこよひかなこれやあきたつはしめなるらむ
祐子内親王家紀伊恋下
6-詞花243せきとむる岩間の水もおのづから下には通ふものとこそきけ
せきとむるいはまのみつもおのつからしたにはかよふものとこそきけ
坂上明兼恋下
6-詞花244あふことはまばらにあめる伊予すだれいよいよ我をわびさするかな
あふことはまはらにあめるいよすたれいよいよわれをわひさするかな
恵慶法師恋下
6-詞花245いづくをも夜がるることのわりなきに二つに分くる我が身ともがな
いつくをもよかるることのわりなきにふたつにわくるわかみともかな
源雅定恋下
6-詞花246もろともにおきゐる露のなかりせば誰とか秋の夜をあかさまし
もろともにおきゐるつゆのなかりせはたれとかあきのよをあかさまし
赤染衛門恋下
6-詞花247来たりとも寝るまもあらじ夏の夜の有明月もかたぶきにけり
きたりともぬるまもあらしなつのよのありあけつきもかたふきにけり
曾禰好忠恋下
6-詞花248こぬ人をうらみもはてじ契り置きしその言の葉もなさけならずや
こぬひとをうらみもはてしちきりおきしそのことのはもなさけならすや
藤原忠通恋下
6-詞花249夕暮に物思ふことはまさるやと我ならざらむ人にとはばや
ゆふくれにものおもふことはまさるやとわれならさらむひとにとははや
和泉式部恋下
6-詞花250なみださへいでにしかたをながめつつ心にもあらぬ月をみしかな
なみたさへいてにしかたをなかめつつこころにもあらぬつきをみしかな
和泉式部恋下
6-詞花251つらしとて我さへ人を忘れなばさりとて仲の絶えやはつべき
つらしとてわれさへひとをわすれなはさりとてなかのたえやはつへき
読人知らず恋下
6-詞花252あふことや涙の玉の緒なるらむしばし絶ゆれば落ちてみだるる
あふことやなみたのたまのをなるらむしはしたゆれはおちてみたるる
平公誠恋下
6-詞花253御狩野のしばしのこひはさもあらばあれ背りはてぬるか矢形尾の鷹
みかりののしはしのこひはさもあらはあれそりはてぬるかやかたをのたか
最厳法師恋下
6-詞花254竹の葉にあられふるなりさらさらにひとりは寝べき心地こそせね
たけのはにあられふるなりさらさらにひとりはぬへきここちこそせね
和泉式部恋下
6-詞花255ありふるも苦しかりけりながらへぬ人の心を命ともがな
ありふるもくるしかりけりなからへぬひとのこころをいのちともかな
相模恋下
6-詞花256うきながらさすがにものの悲しきは今は限りと思ふなりけり
うきなからさすかにもののかなしきはいまはかきりとおもふなりけり
清原元輔恋下
6-詞花257とはぬまをうらむらさきにさく藤の何とてまつにかかりそめけむ
とはぬまをうらむらさきにさくふちのなにとてまつにかかりそめけむ
俊子内親王大進恋下
6-詞花258思ひやれかけひの水の絶え絶えになりゆくほどの心細さを
おもひやれかけひのみつのたえたえになりゆくほとのこころほそさを
高階章行女恋下
6-詞花259うぐひすは木つたふ花の枝にても谷の古巣をおもひわするな
うくひすはこつたふはなのえたにてもたにのふるすをおもひわするな
律師仁祐恋下
6-詞花260うぐひすは花のみやこも旅なれば谷の古巣を忘れやはする
うくひすははなのみやこもたひなれはたにのふるすをわすれやはする
行尊恋下
6-詞花261夜をかさね霜とともにしおきゐればありしばかりの夢だにもみず
よをかさねしもとともにしおきゐれはありしはかりのゆめたにもみす
皇嘉門院出雲恋下
6-詞花262逢ふことも我が心よりありしかば恋は死ぬとも人は恨みじ
あふこともわかこころよりありしかはこひはしぬともひとはうらみし
源国信恋下
6-詞花263汲みみてし心ひとつをしるべにて野中の清水わすれやはする
くみみてしこころひとつをしるへにてのなかのしみつわすれやはする
藤原仲実恋下
6-詞花264浅茅生にけさ置く露の寒けくにかれにし人のなぞやこひしき
あさちふにけさおくつゆのさむけくにかれにしひとのなそやこひしき
藤原基俊恋下
6-詞花265忘らるる身はことわりと知りながら思ひあへぬは涙なりけり
わすらるるみはことわりとしりなからおもひあへぬはなみたなりけり
清少納言恋下
6-詞花266いまよりは訪へともいはじ我ぞただ仁を忘るることをしるべき
いまよりはとへともいはしわれそたたひとをわするることをしるへき
読人知らず恋下
6-詞花267さりとては誰にかいはむ今はただ人を忘るるこころ教へよ
さりとてはたれにかいはむいまはたたひとをわするるこころをしへよ
読人知らず恋下
6-詞花268まだ知らぬことをばいかが教ふべき人を忘るる身にしあらねば
またしらぬことをはいかかをしふへきひとをわするるみにしあらねは
藤原通俊恋下
6-詞花269いくかへりつらしと人をみくまののうらめしながら恋しかるらむ
いくかへりつらしとひとをみくまののうらめしなからこひしかるらむ
和泉式部恋下
6-詞花270夕暮は待たれしものを今はただ行くらむかたを思ひこそやれ
ゆふくれはまたれしものをいまはたたゆくらむかたをおもひこそやれ
相模恋下
6-詞花271わすらるる人目ばかりを嘆きにて恋しきことのなからましかば
わすらるるひとめはかりをなけきにてこひしきことのなからましかは
読人知らず恋下
6-詞花272春霞かすめるかたや津の国のほのみしま江のわたりなるらむ
はるかすみかすめるかたやつのくにのほのみしまえのわたりなるらむ
源頼家雑上
6-詞花273須磨の浦に焼く塩釜のけぶりこそ春にしられぬ霞なりけれ
すまのうらにやくしほかまのけふりこそはるにしられぬかすみなりけれ
源俊頼雑上
6-詞花274なみたてる松のしづ枝をくもでにて霞わたれる天の橋立
なみたてるまつのしつえをくもてにてかすみわたれるあまのはしたて
源俊頼雑上
6-詞花275ながゐすな都の花も咲きぬらむ我もなにゆゑ急ぐ綱手ぞ
なかゐすなみやこのはなもさきぬらむわれもなにゆゑいそくつなてそ
平忠盛雑上
6-詞花276木のもとをすみかとすればをのづから花見る人となりぬべきかな
このもとをすみかとすれはおのつからはなみるひととなりぬへきかな
花山院雑上
6-詞花277散らぬまに今ひとたびも見てしがな花にさきだつ身ともこそなれ
ちらぬまにいまひとたひもみてしかなはなにさきたつみともこそなれ
天台座主源心雑上
6-詞花278春くればあぢか潟のみひとかたに浮くてふ魚の名こそ惜しけれ
はるくれはあちかたたのみひとかたにうくてふうをのなこそをしけれ
大江匡房雑上
6-詞花279身をしらで人をうらむる心こそ散る花よりもはかなかりけれ
みをしらてひとをうらむるこころこそちるはなよりもはかなかりけれ
藤原頼宗雑上
6-詞花280春の来ぬところはなきを白河のわたりにのみや花はさくらむ
はるのこぬところはなきをしらかはのわたりにのみやはなはさくらむ
小式部内侍雑上
6-詞花281たれかこの數はさだめし我はただとへとぞおもふ山吹のはな
たれかこのかすはさためしわれはたたとへとそおもふやまふきのはな
藤原道綱母雑上
6-詞花282春日山北の藤波咲きしよりさかゆべしとはかねてしりにき
かすかやまきたのふちなみさきしよりさかゆへしとはかねてしりにき
源師頼雑上
6-詞花283美作や久米のさら山とおもへどもわかの浦とぞいふべかりける
みまさかやくめのさらやまとおもへともわかのうらとそいふへかりける
読人知らず雑上
6-詞花284和歌の浦といふにてしりぬ風ふかば波のたちことおもふなるべし
わかのうらといふにてしりぬかせふかはなみのたちことおもふなるへし
藤原長実雑上
6-詞花285くもゐよりつらぬきかくる白玉をたれぬのひきの瀧といひけむ
くもゐよりつらぬきかくるしらたまをたれぬのひきのたきといひけむ
藤原隆季雑上
6-詞花286難波江のしげき蘆間をこぐ舟はさをのおとにぞ行くかたをしる
なにはえのしけきあしまをこくふねはさをのおとにそゆくかたをしる
源行宗雑上
6-詞花287思ひいでもなくてやわが身やみなましをばすて山の月みざりせは
おもひいてもなくてやわかみやみなましをはすてやまのつきみさりせは
律師済慶雑上
6-詞花288名にたかきをばすて山も見しかどもこよひばかりの月はなかりき
なにたかきをはすてやまもみしかともこよひはかりのつきはなかりき
藤原為実雑上
6-詞花289月は入り人はいでなばとまりゐてひとりや我が空をながめむ
つきはいりひとはいてなはとまりゐてひとりやわれかそらをなかめむ
大中臣能宣雑上
6-詞花290池水にやどれる月はそれながらながむる人のかげぞ変れる
いけみつにやとれるつきはそれなからなかむるひとのかけそかはれる
小一條院雑上
6-詞花291世の中をおもひないりそ三笠山さしいづる月のすまむかぎりは
よのなかをおもひないりそみかさやまさしいつるつきのすまむかきりは
読人知らず雑上
6-詞花292月きよみ田中にたてる仮庵のかげばかりこそくもりなりけれ
つききよみたなかにたてるかりいほのかけはかりこそくもりなりけれ
崇徳院雑上
6-詞花293澄みのぼる月のひかりにさそはれて雲の上までゆくこころかな
すみのほるつきのひかりにさそはれてくものうへまてゆくこころかな
三条実行雑上
6-詞花294板間より月のもるをも見つるかな宿は荒して住むべかりけり
いたまよりつきのもるをもみつるかなやとはあらしてすむへかりけり
良暹法師雑上
6-詞花295くまもなく信太の森の下晴れて千枝のかずさへ見ゆる月かな
くまもなくしのたのもりのしたはれてちえのかすさへみゆるつきかけ
徳大寺実能雑上
6-詞花296さびしさに家出しぬべき山里を今宵の月におもひとまりぬ
さひしさにいへてしぬへきやまさとをこよひのつきにおもひとまりぬ
源道済雑上
6-詞花297ゆく人も天のとわたる心地して雲の波路に月を見るかな
ゆくひともあまのとわたるここちしてくものなみちにつきをみるかな
平忠盛雑上
6-詞花298君まつと山の端いでて山の端に入るまで月を眺めつるかな
きみまつとやまのはいててやまのはにいるまてつきをなかめつるかな
橘為義雑上
6-詞花299いかなれば待つにはいづる月なれど入るを心にまかせざるらむ
いかなれはまつにはいつるつきなれといるをこころにまかせさるらむ
藤原公実雑上
6-詞花300こころみにほかの月をも見てしがな我が宿からのあはれなるかと
こころみにほかのつきをもみてしかなわかやとからのあはれなるかと
花山院雑上
6-詞花301うらめしく帰りけるかな月夜には来ぬ人をだに待つとこそきけ
うらめしくかへりけるかなつきよにはこぬひとをたにまつとこそきけ
具平親王雑上
6-詞花302かご山の白雲かかる峰にてもおなじたかさぞ月はみえける
かこやまのしらくもかかるみねにてもおなしたかさそつきはみえける
大江嘉言雑上
6-詞花303よもすがら富士の高嶺に雲きえて清見が関にすめる月かな
よもすからふしのたかねにくもきえてきよみかせきにすめるつきかな
藤原顕輔雑上
6-詞花304山城の石田の森のいはずともこころのうちを照らせ月影
やましろのいはたのもりのいはすともこころのうちをてらせつきかけ
藤原輔尹雑上
6-詞花305月にこそむかしのことはおぼえけれ我を忘るる人にみせばや
つきにこそむかしのことはおほえけれわれをわするるひとにみせはや
中原長国雑上
6-詞花306ながらへば思ひいでにせむ思ひいでよ君とみかさの山の端の月
なからへはおもひいてにせむおもひいてよきみとみかさのやまのはのつき
琳賢法師雑上
6-詞花307逢坂の関の杉原下晴れて月のもるにぞまかせたりける
あふさかのせきのすきはらしたはれてつきのもるにそまかせたりける
大江匡房雑上
6-詞花308つれづれと荒れたる宿を眺むれば月ばかりこそ昔なりけれ
つれつれとあれたるやとをなかむれはつきはかりこそむかしなりけれ
藤原伊周雑上
6-詞花309深くいりて住まばやと思ふ山の端をいかなる月のいづるなるらむ
ふかくいりてすまはやとおもふやまのはをいかなるつきのいつるなるらむ
高松上雑上
6-詞花310をのが身のをのが心にかなはぬを思はばものは思ひ知りなむ
おのかみのおのかこころにかなはぬをおもははものはおもひしりなむ
和泉式部雑上
6-詞花311あやめ草かりにも来らむものゆゑに閨の妻とや人のみつらむ
あやめくさかりにもくらむものゆゑにねやのつまとやひとのみるらむ
和泉式部雑上
6-詞花312人しれずもの思ふことはならひにき花にわかれぬ春しなければ
ひとしれすものおもふことはならひにきはなにわかれぬはるしなけれは
和泉式部雑上
6-詞花313おもはれぬ空のけしきを見るからに我もしぐるる神無月かな
おもはれぬそらのけしきをみるからにわれもしくるるかみなつきかな
読人知らず雑上
6-詞花314あだ人はしぐるる夜半の月なれやすむとてえこそ頼むまじけれ
あたひとはしくるるよはのつきなれやすむとてえこそたのむましけれ
待賢門院堀河雑上
6-詞花315誰が里にかたらひかねてほととぎす帰る山路のたよりなるらむ
たかさとにかたらひかねてほとときすかへるやまちのたよりなるらむ
読人知らず雑上
6-詞花316よしさらばつらさは我にならひけり頼めてこぬは誰かをしへし
よしさらはつらさはわれにならひけりたのめてこぬはたれかをしへし
清少納言雑上
6-詞花317かづきけむ袂は雨にいかがせし濡るるはさてもおもひしれかし
かつきけむたもとはあめにいかかせしぬるるはさてもおもひしれかし
江侍従雑上
6-詞花318深くしも頼まざらなむ君ゆゑに雪ふみわけて夜な夜なぞゆく
ふかくしもたのまさらなむきみゆゑにゆきふみわけてよなよなそゆく
曾禰好忠雑上
6-詞花319よの人のまだしらぬまの薄ごほり見わかぬほどに消えねとぞ思ふ
よのひとのまたしらぬまのうすこほりみわかぬほとにきえねとそおもふ
赤染衛門雑上
6-詞花320秋はみな思ふことなき荻の葉も末たわむまで露は置くめり
あきはみなおもふことなきをきのはもすゑたわむまてつゆはおくめり
和泉式部雑上
6-詞花321いかなればおなじ流れの水にしもさのみは月のうつるなるらむ
いかなれはおなしなかれのみつにしもさのみはつきのうつるなるらむ
藤原忠清雑上
6-詞花322住吉の細江にさせるみをつくし深きにまけぬ人はあらじな
すみよしのほそえにさせるみをつくしふかきにまけぬひとはあらしな
相模雑上
6-詞花323ふる雨のあしともおつる涙かなこまかにものを思ひくだけば
ふるあめのあしともおつるなみたかなこまかにものをおもひくたけは
藤原道綱母雑上
6-詞花324神無月ありあけの空のしぐるるをまた我ならぬ人やみるらむ
かみなつきありあけのそらのしくるるをまたわれならぬひとやみるらむ
赤染衛門雑上
6-詞花325忍ぶるも苦しかりけり數ならぬ身には涙のなからましかば
しのふるもくるしかりけりかすならぬみにはなみたのなからましかは
出羽辨雑上
6-詞花326音せぬは苦しきものを身にちかくなるとていとふ人もありけり
おとせぬはくるしきものをみにちかくなるとていとふひともありけり
和泉式部雑上
6-詞花327ひとの世にふたたび死ぬるものならばしのびけりやと心みてまし
ひとのよにふたたひしぬるものならはしのひけりやとこころみてまし
大弐三位雑上
6-詞花328夕霧に佐野の舟橋おとすなり手馴れの駒の帰りくるかも
ゆふきりにさののふなはしおとすなりてなれのこまのかへりくるかも
源俊雅母雑上
6-詞花329住吉の波にひたれる松よりも神のしるしぞあらはれにける
すみよしのなみにひたれるまつよりもかみのしるしそあらはれにける
藤原資業雑上
6-詞花330いかでかくねををしむらむあやめ草うきには聲もたてつべき世を
いかてかくねををしむらむあやめくさうきにはこゑもたてつへきよを
周防内侍雑上
6-詞花331世の中にふるかひもなき竹のこはわがつむ年をたてまつるなり
よのなかにふるかひもなきたけのこはわかつむとしをたてまつるなり
花山院雑上
6-詞花332年へぬる竹のよはひを返しても子のよをながくなさむとぞ思ふ
としへぬるたけのよはひをかへしてもこのよをなかくなさむとそおもふ
冷泉院雑上
6-詞花333あしかれとおもはぬ山の峰にだに生ふなるものを人のなげきは
あしかれとおもはぬやまのみねにたにおふなるものをひとのなけきは
和泉式部雑上
6-詞花334ひたぶるに山田もる身となりぬれば我のみ人をおどろかすかな
ひたふるにやまたもるみとなりぬれはわれのみひとをおとろかすかな
能因法師雑上
6-詞花335三笠山さすがに蔭にかくろへてふるかひもなきあめのしたかな
みかさやまさすかにかけにかくろへてふるかひもなきあめのしたかな
源仲正雑上
6-詞花336君引かずなりなましかばあやめ草いかなるねをか今日はかけまし
きみひかすなりなましかはあやめくさいかなるねをかけふはかけまし
平致経雑上
6-詞花337おもひかね別れし野邊を来てみれば浅茅が原に秋風ぞふく
おもひかねわかれしのへをきてみれはあさちかはらにあきかせそふく
源道済雑上
6-詞花338ふるさとへ我はかへりぬ武隈のまつとは誰につげよとかおもふ
ふるさとへわれはかへりぬたけくまのまつとはたれにつけよとかおもふ
橘為仲雑上
6-詞花339枯れはつる藤の末葉の悲しきはただ春の日をたのむばかりぞ
かれはつるふちのすゑはのかなしきはたたはるのひをたのむはかりそ
藤原顕輔雑上
6-詞花340夜の鶴みやこのうちにはなたれて子を恋ひつつもなきあかすかな
よるのつるみやこのうちにはなたれてこをこひつつもなきあかすかな
高内侍雑上
6-詞花341身のうさは過ぎぬるかたを思ふにもいまゆくすゑのことぞかなしき
みのうさはすきぬるかたをおもふにもいまゆくすゑのことそかなしき
源師頼雑上
6-詞花342埋れ木の下は朽つれぞいにしへの花の心は忘れざりけり
うもれきのしたはくつれといにしへのはなのこころはわすれさりけり
大江匡房雑上
6-詞花343今はただ昔ぞつねに恋ひらるる残りありしを思ひ出にして
いまはたたむかしそつねにこひらるるのこりありしをおもひてにして
藤原伊通雑上
6-詞花344老いてのち昔をしのぶ涙こそここら人目をしのばざりけれ
おいてのちむかしをしのふなみたこそここらひとめをしのはさりけれ
清原元輔雑上
6-詞花345ゆくすゑのいにしへばかり恋しくは過ぐる月日も歎かざらまし
ゆくすゑのいにしへはかりこひしくはすくるつきひもなけかさらまし
賀茂政平雑上
6-詞花346厭ひてもなほ惜しまるる我が身かなふたたび来べきこの世ならねば
いとひてもなほをしまるるわかみかなふたたひくへきこのよならねは
藤原季通雑上
6-詞花347難波江の蘆間にやどる月みれば我が身ひとつはしづまざりけり
なにはえのあしまにやとるつきみれはわかみひとつもしつまさりけり
藤原顕輔雑上
6-詞花348蘆火たくやまのすみかは世の中をあくがれいづる門出なりけり
あしひたくまやのすみかはよのなかをあくかれいつるかとてなりけり
源俊頼雑下
6-詞花349賤の女がゑぐつむ澤の薄氷いつまでふべき我が身なるらむ
しつのめかゑくつむさはのうすこほりいつまてふへきわかみなるらむ
源俊頼雑下
6-詞花350むかしみし雲ゐをこひて蘆鶴の澤邊に鳴くや我が身なるらむ
むかしみしくもゐをこひてあしたつのさはへになくやわかみなるらむ
藤原公重雑下
6-詞花351三日月のまた有明になりぬるや憂き世をめぐるためしなるらむ
みかつきのまたありあけになりぬるやうきよをめくるためしなるらむ
藤原教長雑下
6-詞花352ちる花にまたもや逢はむおぼつかなその春までと知らぬ身なれば
ちるはなにまたもやあはむおほつかなそのはるまてとしらぬみなれは
藤原実方雑下
6-詞花353朝な朝な鹿のしがらむ萩の枝の末葉の露のありがたの世や
あさなあさなしかのしからむはきかえのすゑはのつゆのありかたのよや
増基法師雑下
6-詞花354花薄まねかばここにとまりなむいづれの野邊もつひのすみかぞ
はなすすきまねかはここにとまりなむいつれののへもつひのすみかそ
源親元雑下
6-詞花355よそにみし尾花がすゑの白露はあるかなきかの我が身なりけり
よそにみしをはなかすゑのしらつゆはあるかなきかのわかみなりけり
四條中宮雑下
6-詞花356かくしつつ今はとならむ時にこそ悔しきことのかひもなからめ
かくしつついまはとならむときにこそくやしきことのかひもなからめ
花山院雑下
6-詞花357夕暮はものぞかなしき鐘の音をあすもきくべき身とし知らねば
ゆふくれはものそかなしきかねのおとをあすもきくへきみとししらねは
和泉式部雑下
6-詞花358うぐひすの鳴くになみだの落つるかなまたもや春にあはむとすらむ
うくひすのなくになみたのおつるかなまたもやはるにあはむとすらむ
藤原教良母雑下
6-詞花359みな人のむかしがたりになりゆくをいつまでよそに聞かむとすらむ
みなひとのむかしかたりになりゆくをいつまてよそにきかむとすらむ
法橋清昭雑下
6-詞花360この世だに月まつほどはくるしきにあはれいかなる闇にまどはむ
このよたにつきまつほとはくるしきにあはれいかなるやみにまとはむ
源顕仲女雑下
6-詞花361おぼつかなまだみぬ道を死出の山雪ふみわけて越えむとすらむ
おほつかなまたみぬみちをしてのやまゆきふみわけてこえむとすらむ
良暹法師雑下
6-詞花362代らむと祈るいのちは惜しからでさても別れむことぞ悲しき
かはらむといのるいのちはをしからてさてもわかれむことそかなしき
赤染衛門雑下
6-詞花363この世にはまたもあふまじ梅の花ちりぢりならむことぞかなしき
このよにはまたもあふましうめのはなちりちりならむことそかなしき
行尊雑下
6-詞花364この身をばむなしきものと知りぬれば罪えむこともあらじとぞ思ふ
このみをはむなしきものとしりぬれはつみえむこともあらしとそおもふ
読人知らず雑下
6-詞花365わが思ふことのしげさにくらぶれば信太の森の千枝はかずかは
わかおもふことのしけさにくらふれはしのたのもりのちえはかすかは
増基法師雑下
6-詞花366網代にはしづむ水屑もなかりけり宇治のわたりに我やすままし
あしろにはしつむみくつもなかりけりうちのわたりにわれやすままし
大江以言雑下
6-詞花367大原やまだすみがまもならはねばわが宿のみぞけぶりたえたる
おほはらやまたすみかまもならはねはわかやとのみそけふりたえたる
良暹法師雑下
6-詞花368なみだ河その水上をたづぬれば世のうきめよりいづるなりけり
なみたかはそのみなかみをたつぬれはよのうきめよりいつるなりけり
賢智法師雑下
6-詞花369思ひやれこころの水のあさければかき流すべき言の葉もなし
おもひやれこころのみつのあさけれはかきなかすへきことのはもなし
三条実行雑下
6-詞花370かりそめのうきよのやみをかきわけてうらやましくもいづる月かな
かりそめのうきよのやみをかきわけてうらやましくもいつるつきかな
大江匡房雑下
6-詞花371帰る雁西へゆきせばたまづさにおもふことをばかきつけてまし
かへるかりにしへゆきせはたまつさにおもふことをはかきつけてまし
沙弥蓮寂雑下
6-詞花372身をすつる人はまことにすつるかはすてぬ人こそすつるなりけれ
みをすつるひとはまことにすつるかはすてぬひとこそすつるなりけれ
読人知らず雑下
6-詞花373筑波山ふかくうれしと思ふかな濱名の橋にわたす心を
つくはやまふかくうれしとおもふかなはまなのはしにわたすこころを
太皇大后宮肥後雑下
6-詞花374年を経て星をいただく黒髪のひとよりしもになりにけるかな
としをへてほしをいたたくくろかみのひとよりしもになりにけるかな
大中臣能宣雑下
6-詞花375雲の上は月こそさやにさえわたれまだとどこほるものや何なり
くものうへはつきこそさやにさえわたれまたととこほるものやなになり
津守国基雑下
6-詞花376とどこほることはなけれど住吉のまつ心にやひさしかるらむ
ととこほることはなけれとすみよしのまつこころにやひさしかるらむ
藤原顕季雑下
6-詞花377白河の流れをたのむこころをば誰かはそらにくみてしるべき
しらかはのなかれをたのむこころをはたれかはそらにくみてしるへき
藤原成通雑下
6-詞花378ももとせは花にやどりてすぐしてきこの世は蝶の夢にざりける
ももとせのはなにやとりてすくしてきこのよはてふのゆめにさりける
大江匡房雑下
6-詞花379ひさかたの天の香具山いづる日もわが方にこそひかりさすらめ
ひさかたのあまのかくやまいつるひもわかかたにこそひかりさすらめ
崇徳院雑下
6-詞花380このもとにかきあつめつる言の葉をははその森のかたみとはみよ
このもとにかきあつめつることのはをははそのもりのかたみとはみよ
源義国妻雑下
6-詞花381思ひかねそなたの空をながむればただ山の端にかかる白雲
おもひかねそなたのそらをなかむれはたたやまのはにかかるしらくも
藤原忠通雑下
6-詞花382わたのはら漕ぎいでてみればひさかたの雲ゐにまがふ沖つ白波
わたのはらこきいててみれはひさかたのくもゐにまかふおきつしらなみ
藤原忠通雑下
6-詞花383うちむれて高倉山につむ花はあらたなき代の富草のはな
うちむれてたかくらやまにつむものはあらたなきよのとみくさのはな
藤原家経雑下
6-詞花384板倉の山田につめる稲をみてをさまれる代のほどをしるかな
いたくらのやまたにつめるいねをみてをさまれるよのほとをしるかな
藤原顕輔雑下
6-詞花385水上をさだめてければ君が代にふたたびすめる堀河の水
みなかみをさためてけれはきみかよにふたたひすめるほりかはのみつ
曾禰好忠雑下
6-詞花386いさやまだつづきもしらぬ高嶺にてまづくる人にみやこをぞとふ
いさやまたつつきもしらぬたかねにてまつくるひとにみやこをそとふ
藤原頼通雑下
6-詞花387みやこにてながめし月のもろともに旅の空にもいでにけるかな
みやこにてなかめしつきのもろともにたひのそらにもいてにけるかな
道命法師雑下
6-詞花388みやこにてながめし月をみるときは旅の空ともおぼえざりけり
みやこにてなかめしつきをみるときはたひのそらともおほえさりけり
藤原伊周雑下
6-詞花389風越の峰のうへにてみる時は雲はふもとのものにぞありける
かさこしのみねのうへにてみるときはくもはふもとのものにそありける
藤原家経雑下
6-詞花390むかしみし垂井の水はかはらねどうつれる影ぞ年をへにける
むかしみしたるゐのみつはかはらねとうつれるかけそとしをへにける
藤原隆経雑下
6-詞花391思ひいでもなきふるさとの山なれど隠れゆくはたあはれなりけり
おもひいてもなきふるさとのやまなれとかくれゆくはたあはれなりけり
大江正言雑下
6-詞花392いにしへを恋ふるなみだにくらされておぼろにみゆる秋の夜の月
いにしへをこふるなみたにくらされておほろにみゆるあきのよのつき
藤原公任雑下
6-詞花393そのことと思はぬだにもあるものをなに心地して月をみるらむ
そのこととおもはぬたにもあるものをなにここちしてつきをみるらむ
藤原頼宗雑下
6-詞花394夢ならでまたもあふべき君ならばねられぬいをもなげかざらまし
ゆめならてまたもあふへききみならはねられぬいをもなけかさらまし
藤原相如雑下
6-詞花395思ひかねながめしかども鳥辺山はてはけぶりもみえずなりにき
おもひかねなかめしかともとりへやまはてはけふりもみえすなりにき
円融院雑下
6-詞花396ゆふまぐれ木繁き庭をながめつつ木の葉とともにおつるなみだか
ゆふまくれこしけきにはをなかめつつこのはとともにおつるなみたか
少将義孝雑下
6-詞花397人しれずもの思ふこともありしかど子のことばかりかなしきはなし
ひとしれすものおもふこともありしかとこのことはかりかなしきはなし
待賢門院安芸雑下
6-詞花398生ひたたで枯れぬとききしこのもとのいかでなげきの森となるらむ
おひたたてかれぬとききしこのもとのいかてなけきのもりとなるらむ
清原元輔雑下
6-詞花399けふよりは天の河霧たちわかれいかなる空にあはむとすらむ
けふよりはあまのかはきりたちわかれいかなるそらにあはむとすらむ
清原元輔雑下
6-詞花400たなはたは後のけふをも頼むらむこころぼそきは我が身なりけり
たなはたはのちのけふをもたのむらむこころほそきはわかみなりけり
読人知らず雑下
6-詞花401あさましや君に着すべき墨染のころもの袖をわが濡らすかな
あさましやきみにきすへきすみそめのころものそてをわかぬらすかな
神祇伯源顕仲雑下
6-詞花402こぞの春ちりにし花もさきにけりあはれ別れのかからましかは
こそのはるちりにしはなもさきにけりあはれわかれのかからましかは
赤染衛門雑下
6-詞花403いづる息のいるを待つまもかたき世を思ひしるらむ袖はいかにそ
いつるいきのいるをまつまもかたきよをおもひしるらむそてはいかにそ
崇徳院雑下
6-詞花404涙のみ袂にかかる世の中に身さへ朽ちぬることぞかなしき
なみたのみたもとにかかるよのなかにみさへくちぬることそかなしき
藤原有信雑下
6-詞花405をりをりのつらさを何になげきけむやがてなき世もあはれありけり
をりをりのつらさをなにになけきけむやかてなきよもあはれありけり
読人知らず雑下
6-詞花406人をとふ鐘のこゑこそあはれなれいつか我が身にならむとすらむ
ひとをとふかねのこゑこそあはれなれいつかわかみにならむとすらむ
読人知らず雑下
6-詞花407悔しくも見そめけるかななべて世のあはれとばかり聞かましものを
くやしくもみそめけるかななへてよのあはれとはかりきかましものを
四條中宮雑下
6-詞花408かくてのみ世にありあけの月ならば雲かくしてよ天くだる神
かくてのみよにありあけのつきならはくもかくしてよあまくたるかみ
読人知らず雑下
6-詞花409長き夜のくるしきことを思へかしなになげくらむ仮のやどりに
なかきよのくるしきことをおもへかしなになけくらむかりのやとりに
読人知らず雑下
6-詞花410思へども忌むとていはぬことなればそなたにむきて音をのみぞ泣く
おもへともいむとていはぬことなれはそなたにむきてねをのみそなく
選子内親王雑下
6-詞花411あくがるる身のはかなさはももとせのなかばすぎてぞ思ひしらるる
あくかるるみのはかなさはももとせのなかはすきてそおもひしらるる
源顕仲雑下
6-詞花412露の身のきえてほとけになることはつとめてのちぞ知るべかりける
つゆのみのきえてほとけになることはつとめてのちそしるへかりける
読人知らず雑下
6-詞花413よそになど佛の道をたづぬらむわが心こそしるべなりけれ
よそになとほとけのみちをたつぬらむわかこころこそしるへなりけれ
藤原忠通雑下
6-詞花414いかで我こころの月をあらはして闇にまどへる人を照らさむ
いかてわれこころのつきをあらはしてやみにまとへるひとをてらさむ
藤原顕輔雑下
6-詞花415世の中の人のこころのうき雲にそらがくれする有明の月
よのなかのひとのこころのうきくもにそらかくれするありあけのつき
登蓮法師雑下
7-千載1はるのくるあしたのはらをみわたせは霞もけふそたちはしめける
はるのくる あしたのはらを みわたせは かすみもけふそ たちはしめける
源俊頼春上
7-千載2みむろ山たににや春のたちぬらむ雪のした水いはたたくなり
みむろやま たににやはるの たちぬらむ ゆきのしたみつ いはたたくなり
源国信春上
7-千載3雪ふかきいはのかけ道あとたゆるよし野の里も春はきにけり
ゆきふかき いはのかけみち あとたゆる よしののさとも はるはきにけり
待賢門院堀河春上
7-千載4みちたゆといとひしものを山さとにきゆるはをしきこその雪かな
みちたゆと いとひしものを やまさとに きゆるはをしき こそのゆきかな
大江匡房春上
7-千載5春たては雪のした水うちとけて谷のうくひすいまそ鳴くなる
はるたては ゆきのしたみつ うちとけて たにのうくひす いまそなくなる
藤原顕綱春上
7-千載6山さとのかきねに春やしるからんかすまぬさきに鴬のなく
やまさとの かきねにはるや しるからむ かすまぬさきに うくひすのなく
大納言隆国春上
7-千載7煙かとむろのやしまをみしほとにやかても空のかすみぬるかな
けふりかと むろのやしまを みしほとに やかてもそらの かすみぬるかな
源俊頼春上
7-千載8かすみしく春のしほちをみわたせはみとりをわくるおきつしら浪
かすみしく はるのしほちを みわたせは みとりをわくる おきつしらなみ
九条兼実春上
7-千載9わきも子か袖ふるやまも春きてそ霞のころもたちわたりける
わきもこか そてふるやまも はるきてそ かすみのころも たちわたりける
大江匡房春上
7-千載10春くれはすきのしるしもみえぬかな霞そたてるみわの山もと
はるくれは すきのしるしも みえぬかな かすみそたてる みわのやまもと
難波頼輔春上
7-千載11みわたせはそことしるしの杉もなし霞のうちやみわの山もと
みわたせは そことしるしの すきもなし かすみのうちや みわのやまもと
左兵衛督隆房春上
7-千載12ときはなる松もや春をしりぬらんはつねをいはふ人にひかれて
ときはなる まつもやはるを しりぬらむ はつねをいはふ ひとにひかれて
待賢門院堀河春上
7-千載13うらやまし雪のした草かきわけてたれをとふひのわかななるらん
うらやまし ゆきのしたくさ かきわけて たれをとふひの わかななるらむ
藤原通俊春上
7-千載14かすか野の雪をわかなにつみそへてけふさへ袖のしほれぬるかな
かすかのの ゆきをわかなに つみそへて けふさへそての しをれぬるかな
源俊頼春上
7-千載15さきそむる梅のたちえにふる雪のかさなるかすをとへとこそおもへ
さきそむる うめのたちえに ふるゆきの かさなるかすを とへとこそおもへ
藤原俊忠春上
7-千載16むめかえに心もゆきてかさなるをしらてや人のとへといふらん
うめかえに こころもゆきて かさなるを しらてやひとの とへといふらむ
源俊頼春上
7-千載17むめかえにふりつむ雪は鴬のはかせにちるも花かとそみる
うめかえに ふりつむゆきは うくひすの はかせにちるも はなかとそみる
藤原顕輔春上
7-千載18かをる香のたえせぬ春はむめの花ふきくる風やのとけかるらん
かをるかの たえせぬはるは うめのはな ふきくるかせや のとけかるらむ
久我前太政大臣春上
7-千載19いまよりはむめさくやとは心せんまたぬにきます人も有りけり
いまよりは うめさくやとは こころせむ またぬにきます ひともありけり
源師頼春上
7-千載20にほひもてわかはそわかむ梅のはなそれともみえぬ春のよの月
にほひもて わかはそわかむ うめのはな それともみえぬ はるのよのつき
大江匡房春上
7-千載21むめの花をりてかさしにさしつれは衣におつる雪かとそみる
うめのはな をりてかさしに さしつれは ころもにおつる ゆきかとそみる
徳大寺公能春上
7-千載22むめかかにおとろかれつつ春のよのやみこそ人はあくからしけれ
うめかかに おとろかれつつ はるのよの やみこそひとは あくからしけれ
和泉式部春上
7-千載23さ夜ふけて風やふくらん花のかのにほふここちのそらにするかな
さよふけて かせやふくらむ はなのかの にほふここちの そらにするかな
藤原道信春上
7-千載24はるの夜はのきはのむめをもる月のひかりもかをる心ちこそすれ
はるのよは のきはのうめを もるつきの ひかりもかをる ここちこそすれ
藤原俊成春上
7-千載25春のよはふきまふ風のうつり香を木ことにむめとおもひけるかな
はるのよは ふきまふかせの うつりかを きことにうめと おもひけるかな
崇徳院春上
7-千載26むめかかはおのかかきねをあくかれてまやのあたりにひまもとむなり
うめかかは おのかかきねを あくかれて まやのあたりに ひまもとむなり
源俊頼春上
7-千載27むめかかにこゑうつりせは鴬のなく一えたはをらましものを
うめかかに こゑうつりせは うくひすの なくひとえたは をらましものを
右大臣春上
7-千載28梅かえの花にこつたふうくひすのこゑさへにほふ春の曙
うめかえの はなにこつたふ うくひすの こゑさへにほふ はるのあけほの
守覚法親王春上
7-千載29風わたるのきはのむめに鴬のなきてこつたふ春のあけほの
かせわたる のきはのうめに うくひすの なきてこつたふ はるのあけほの
藤原実家春上
7-千載30むかしよりちららむやとのむめの花わくる心は色にみゆらん
むかしより ちらさぬやとの うめのはな わくるこころは いろにみゆらむ
源定房春上
7-千載31よも山にこのめ春さめふりぬれはかそいろはとや花のたのまん
よもやまに このめはるさめ ふりぬれは かそいろはとや はなのたのまむ
大江匡房春上
7-千載32はるさめのふりそめしよりかたをかのすそ野の原そあさみとりなる
はるさめの ふりそめしより かたをかの すそののはらそ あさみとりなる
藤原基俊春上
7-千載33つれつれとふれは涙の南なるを春の物とや人はみるらん
つれつれと ふれはなみたの あめなるを はるのものとや ひとはみるらむ
和泉式部春上
7-千載34み山木のかけののしたの下わらひもえいつれともしる人もなし
みやまきの かけののしたの したわらひ もえいつれとも しるひともなし
藤原基俊春上
7-千載35みこもりにあしのわかはやもえぬらん玉江のぬまをあさる春こま
みこもりに あしのわかはや もえぬらむ たまえのぬまを あさるはるこま
藤原清輔春上
7-千載36春くれはたのむのかりもいまはとてかへる雲ちにおもひたつなり
はるくれは たのむのかりも いまはとて かへるくもちに おもひたつなり
源俊頼春上
7-千載37なかむれはかすめるそらのうき雲とひとつになりぬかへるかりかね
なかむれは かすめるそらの うきくもと ひとつになりぬ かへるかりかね
九条良経春上
7-千載38あまつそらひとつにみゆるこしの海の浪をわけてもかへる雁かね
あまつそら ひとつにみゆる こしのうみの なみをわけても かへるかりかね
源頼政春上
7-千載39かへるかりいく雲ゐともしらねとも心はかりをたくへてそやる
かへるかり いくくもゐとも しらねとも こころはかりを たくへてそやる
祝部宿禰成仲春上
7-千載40春はなほはなのにほひもさもあらはあれたた身にしむは曙のそら
はるはなほ はなのにほひも さもあらはあれ たたみにしむは あけほののそら
藤原季通春上
7-千載41あさゆふに花まつころはおもひねの夢のうちにそさきはしめける
あさゆふに はなまつころは おもひねの ゆめのうちにそ さきはしめける
崇徳院春上
7-千載42いつかたに花さきぬらんとおもふよりよもの山辺にちる心かな
いつかたに はなさきぬらむと おもふより よものやまへに ちるこころかな
待賢門院堀川春上
7-千載43山さくらたつぬときくにさそはれぬ老のこころのあくかるるかな
やまさくら たつぬときくに さそはれぬ おいのこころの あくかるるかな
京極前太政大臣春上
7-千載44かけきよき花のかかみとみゆるかなのとかにすめるしら川の水
かけきよき はなのかかみと みゆるかな のとかにすめる しらかはのみつ
花園左おほいまうちきみ春上
7-千載45よろつ代の花のためしやけふならんむかしもかかる春しなけれは
よろつよの はなのためしや けふならむ むかしもかかる はるしなけれは
徳大寺左大臣(于時左兵衛督)春上
7-千載46たつねつる花のあたりになりにけりにほふにしるし春の山かせ
たつねつる はなのあたりに なりにけり にほふにしるし はるのやまかせ
崇徳院春上
7-千載47かへるさをいそかぬほとの道ならはのとかにみねの花はみてまし
かへるさを いそかぬほとの みちならは のとかにみねの はなはみてまし
西園寺公経春上
7-千載48山さくらにほふあたりの春かすみ風をはよそにたちへたてなん
やまさくら にほふあたりの はるかすみ かせをはよそに たちへたてなむ
中納言女王春上
7-千載49花ゆゑにかからぬ山そなかりける心ははるのかすみならねと
はなゆゑに かからぬやまそ なかりける こころははるの かすみならねと
藤原顕綱春上
7-千載50さくら花おほくの春にあひぬれと昨日けふをやためしにはせん
さくらはな おほくのはるに あひぬれと きのふけふをや ためしにはせむ
京極前太政大臣春上
7-千載51はなさかりはるの山へをみわたせはそらさヘにほふ心ちこそすれ
はなさかり はるのやまへを みわたせは そらさへにほふ ここちこそすれ
後藤原師通春上
7-千載52さきにほふ花のあたりは春なからたえせぬやとのみゆきとそみる
さきにほふ はなのあたりは はるなから たえせぬやとの みゆきとそみる
右衛門督基忠春上
7-千載53たつねきてたをるさくらのあキふに花のたもとのぬれぬ日そなき
たつねきて たをるさくらの あさつゆに はなのたもとの ぬれぬひそなき
中院右のおほいまうちきみ春上
7-千載54かりにたにいとふ心やなからましちらぬ花さくこの世なりせは
かりにたに いとふこころや なからまし ちらぬはなさく このよなりせは
右大臣春上
7-千載55みな人の心にそむるさくら花いくしほ年にいろまさるらん
みなひとの こころにそむる さくらはな いくしほとしに いろまさるらむ
前左衛門督公光春上
7-千載56かつらきやたかまの山のさくら花雲井のよそにみてや過きなん
かつらきや たかまのやまの さくらはな くもゐのよそに みてやすきなむ
藤原顕輔春上
7-千載57山さくらかすみこめたるありかをはつらきものから風そしらする
やまさくら かすみこめたる ありかをは つらきものから かせそしらする
藤原教長春上
7-千載58神かきのみむろの山は春きてそ花のしらゆふかけてみえける
かみかきの みむろのやまは はるきてそ はなのしらゆふ かけてみえける
藤原清輔春上
7-千載59よもすから花のにほひをおもひやる心やみねにたひねしつらん
よもすから はなのにほひを おもひやる こころやみねに たひねしつらむ
覚性入道親王春上
7-千載60さきぬやとしらぬ山ちにたつねいるわれをは花のしをるなりけり
さきぬやと しらぬやまちに たつねいる われをははなの しをるなりけり
九条兼実春上
7-千載61くれはてぬかへさはおくれ山さくらたかためにきてまとふとかしる
くれはてぬ かへさはおくれ やまさくら たかためにきて まとふとかしる
源俊頼春上
7-千載62花ゆゑにしらぬ山路はなけれともまとふは春の心なりけり
はなゆゑに しらぬやまちは なけれとも まとふははるの こころなりけり
道因法師俗名(敦頼)春上
7-千載63としをへておなしさくらの花の色をそめます物は心なりけり
としをへて おなしさくらの はなのいろを そめますものは こころなりけり
藤原公時春上
7-千載64花さかりよもの山へにあくかれて春は心のみにそはぬかな
はなさかり よものやまへに あくかれて はるはこころの みにそはぬかな
藤原公衡春上
7-千載65よし野川みかさはさしもまさらしをあをねをこすや花のしら浪
よしのかは みかさはさしも まさらしを あをねをこすや はなのしらなみ
顕昭法師春上
7-千載66ささ浪やしかのみやこはあれにしをむかしなからの山さくらかな
ささなみや しかのみやこは あれにしを むかしなからの やまさくらかな
よみ人しらす春上
7-千載67ささ浪や志賀の花そのみるたひにむかしの人の心をそしる
ささなみや しかのはなその みるたひに むかしのひとの こころをそしる
祝部宿禰成仲春上
7-千載68たかさこのをのへの桜さきぬれはこすゑにかくるおきつ白浪
たかさこの をのへのさくら さきぬれは こすゑにかくる おきつしらなみ
賀茂成保春上
7-千載69おしなへて花のさかりに成りにけり山のはことにかかるしら雲
おしなへて はなのさかりに なりにけり やまのはことに かかるしらくも
西行法師春上
7-千載70芳野やまはなのさかりになりぬれはたたぬ時なきみねのしら雲
よしのやま はなのさかりに なりぬれは たたぬときなき みねのしらくも
藤原為業(法名寂念)春上
7-千載71春をへてにほひをそふる山さくら花はおいこそさかりなりけれ
はるをへて にほひをそふる やまさくら はなはおいこそ さかりなりけれ
源仲正春上
7-千載72しら雲とみねのさくらはみゆれとも月のひかりはへたてさりけり
しらくもと みねのさくらは みゆれとも つきのひかりは へたてさりけり
待賢門院堀河春上
7-千載73花の色にひかりさしそふはるの夜そこのまの月はみるへかりける
はなのいろに ひかりさしそふ はるのよそ このまのつきは みるへかりける
上西門院兵衛春上
7-千載74をはつせの花のさかりをみわたせは霞にまかふみねのしら雲
をはつせの はなのさかりを みわたせは かすみにまかふ みねのしらくも
太宰大弐重家春上
7-千載75ささ浪やなからの山のみねつつきみせはや人に花のさかりを
ささなみや なからのやまの みねつつき みせはやひとに はなのさかりを
藤原範綱春上
7-千載76御よしのの花のさかりをけふみれはこしのしらねに春かせそふく
みよしのの はなのさかりを けふみれは こしのしらねに はるかせそふく
藤原俊成(法名釈河)春上
7-千載77さきしよりちるまてみれは木のもとに花も日かすもつもりぬるかな
さきしより ちるまてみれは このもとに はなもひかすも つもりぬるかな
白河院春下
7-千載78いけ水にみきはのさくらちりしきて浪の花こそさかりなりけれ
いけみつに みきはのさくら ちりしきて なみのはなこそ さかりなりけれ
春下
7-千載79しら雲とみねにはみえてさくら花ちれはふもとの雪にそ有りける
しらくもと みねにはみえて さくらはな ちれはふもとの ゆきにそありける
大宮前のおほきおほいまうちきみ春下
7-千載80よし野やま花はなかはにちりにけりたえたえのこるみねのしら雲
よしのやま はなはなかはに ちりにけり たえたえのこる みねのしらくも
藤原季通春下
7-千載81山さくらをしむこころのいくたひかちる木のもとにゆきかかるらん
やまさくら をしむこころの いくたひか ちるこのもとに ゆきかかるらむ
内侍周防春下
7-千載82はるさめにちる花みれはかきくらしみそれし空の心ちこそすれ
はるさめに ちるはなみれは かきくらし みそれしそらの ここちこそすれ
藤原長家春下
7-千載83ふめはをしふまてはゆかんかたもなし心つくしの山さくらかな
ふめはをし ふまてはゆかむ かたもなし こころつくしの やまさくらかな
上東門院赤染衛門春下
7-千載84山さくらちちに心のくたくるはちる花ことにそふにや有るらん
やまさくら ちちにこころの くたくるは ちるはなことに そふにやあるらむ
大江匡房春下
7-千載85はなのちる木のしたかけはおのつからそめぬさくらの衣をそきる
はなのちる このしたかけは おのつから そめぬさくらの ころもをそきる
藤原仲実春下
7-千載86春をへて花ちらましやおく山のかせをさくらの心とおもはは
はるをへて はなちらましや おくやまの かせをさくらの こころとおもはは
藤原基俊春下
7-千載87あらしふくしかの山辺のさくら花ちれは雲井にささ浪そたつ
あらしふく しかのやまへの さくらはな ちれはくもゐに ささなみそたつ
右兵衛督公行春下
7-千載88春かせに志賀の山こえ花ちれはみねにそうらの浪はたちける
はるかせに しかのやまこえ はなちれは みねにそうらの なみはたちける
藤原親隆春下
7-千載89さくらさくひらの山かせ吹くままに花になりゆくしかのうら浪
さくらさく ひらのやまかせ ふくままに はなになりゆく しかのうらなみ
九条良経春下
7-千載90ちりかかる花のにしきはきたれともかへらむことそわすられにける
ちりかかる はなのにしきは きたれとも かへらむことそ わすられにける
藤原実房春下
7-千載91あかなくに袖につつめはちる花をうれしとおもふになりぬへきかな
あかなくに そてにつつめは ちるはなを うれしとおもふに なりぬへきかな
滋野井実国春下
7-千載92さくら花うき身にかふるためしあらはいきてちるをはをしまさらまし
さくらはな うきみにかふる ためしあらは いきてちるをは をしまさらまし
源通親春下
7-千載93みよしのの山した風やはらふらむこすゑにかへる花のしら雪
みよしのの やましたかせや はらふらむ こすゑにかへる はなのしらゆき
俊恵法師春下
7-千載94ひとえたはをりてかへらむ山さくら風にのみやはちらしはつへき
ひとえたは をりてかへらむ やまさくら かせにのみやは ちらしはつへき
源有房春下
7-千載95ちる花を身にかふはかりおもへともかなはてとしの老いにけるかな
ちるはなを みにかふはかり おもへとも かなはてとしの おいにけるかな
遣因法師春下
7-千載96あかなくにちりぬる花のおもかけや風にしられぬさくらなるらん
あかなくに ちりぬるはなの おもかけや かせにしられぬ さくらなるらむ
賀盛法師春下
7-千載97山さくらちるをみてこそおもひしれたつねぬ人は心ありけり
やまさくら ちるをみてこそ おもひしれ たつねぬひとは こころありけり
源仲綱春下
7-千載98よそにてそきくへかりけるさくら花めのまへにてもちらしつるかな
よそにてそ きくへかりける さくらはな めのまへにても ちらしつるかな
道命法師春下
7-千載99さくらちる水のおもにはせきとむる花のしからみかくへかりけり
さくらちる みつのおもには せきとむる はなのしからみ かくへかりけり
能因法師春下
7-千載100山かせにちりつむ花のなかれすはいかてしらまし谷のした水
やまかせに ちりつむはなの なかれすは いかてしらまし たにのしたみつ
源有仁春下
7-千載101花のみなちりてののちそ山さとのはらはぬ庭はみるへかりける
はなのみな ちりてののちそ やまさとの はらはぬにはは みるへかりける
源俊実春下
7-千載102ふるさとは花こそいととしのはるれちりぬるのちはとふ人もなし
ふるさとは はなこそいとと しのはるれ ちりぬるのちは とふひともなし
藤原基俊春下
7-千載103吹くかせをなこそのせきとおもへともみちもせにちる山桜かな
ふくかせを なこそのせきと おもへとも みちもせにちる やまさくらかな
源義家春下
7-千載104したさゆるひむろの山のおそさくらきえのこりける雪かとそみる
したさゆる ひむろのやまの おそさくら きえのこりける ゆきかとそみる
源仲正春下
7-千載105かかみ山ひかりは花のみせけれはちりつみてこそさひしかりけれ
かかみやま ひかりははなの みせけれは ちりつみてこそ さひしかりけれ
藤原親隆春下
7-千載106心なきわか身なれとも津の国のなにはの春にたへすも有るかな
こころなき わかみなれとも つのくにの なにはのはるに たへすもあるかな
藤原季通春下
7-千載107おもふことちえにやしけきよふこ鳥しのたのもりのかたに鳴くなり
おもふこと ちえにやしけき よふことり しのたのもりの かたになくなり
大江匡房春下
7-千載108こよひねてつみてかへらむすみれ草をののしはふは露しけくとも
こよひねて つみてかへらむ すみれくさ をののしはふは つゆしけくとも
源国信春下
7-千載109ききすなくいはたのをののつほすみれしめさすはかり成りにけるかな
ききすなく いはたのをのの つほすみれ しめさすはかり なりにけるかな
藤原顕季春下
7-千載110道とほみいる野の原のつほすみれ春のかたみにつみてかへらん
みちとほみ いるののはらの つほすみれ はるのかたみに つみてかへらむ
源顕国春下
7-千載111はるふかみ井ての河水かけそははいくへかみえむ山ふきのはな
はるふかみ ゐてのかはみつ かけそはは いくへかみえむ やまふきのはな
大江匡房春下
7-千載112山ふきのはなさきにけりかはつなくゐてのさと人いまや問はまし
やまふきの はなさきにけり かはつなく ゐてのさとひと いまやとはまし
藤原基俊春下
7-千載113ここのへにやへ山ふきをうつしてはゐてのかはつの心をそくむ
ここのへに やへやまふきを うつしては ゐてのかはつの こころをそくむ
二条太皇大后宮肥後春下
7-千載114よし野川きしのやまふきさきぬれはそこにそふかき色はみえける
よしのかは きしのやまふき さきぬれは そこにそふかき いろはみえける
藤原範綱春下
7-千載115くちなしの色にそすめる山ふきの花のしたゆくゐ手のかはみつ
くちなしの いろにそすめる やまふきの はなのしたゆく ゐてのかはみつ
藤原定経春下
7-千載116いかなれは春をかさねてみつれともやへにのみさく山吹のはな
いかなれは はるをかさねて みつれとも やへにのみさく やまふきのはな
惟宗広言春下
7-千載117やまふきの花のつまとはきかねともうつろふなへに鳴くかはつかな
やまふきの はなのつまとは きかねとも うつろふなへに なくかはつかな
藤原清輔春下
7-千載118いつかたににほひますらむふちの花はると夏とのきしをへたてて
いつかたに にほひますらむ ふちのはな はるとなつとの きしをへたてて
康資王母春下
7-千載119ここのへにさけるをみれはふちの花こきむらさきの雲そたちける
ここのへに さけるをみれは ふちのはな こきむらさきの くもそたちける
中納言祐家春下
7-千載120としふれとかはらぬ松をたのみてやかかりそめけんいけの藤なみ
としふれと かはらぬまつを たのみてや かかりそめけむ いけのふちなみ
徳大寺公能春下
7-千載121われもまた春とともにやかへらましあすはかりをはここにくらして
われもまた はるとともにや かへらまし あすはかりをは ここにくらして
二条院春下
7-千載122花はねに鳥はふるすにかへるなり春のとまりをしる人そなき
はなはねに とりはふるすに かへるなり はるのとまりを しるひとそなき
崇徳院春下
7-千載123いのちあらは又もあひなむ春なれとしのひかたくてくらすけふかな
いのちあらは またもあひみむ はるなれと しのひかたくて くらすけふかな
具平親王みこ春下
7-千載124なかむれはおもひやるへきかたそなき春のかきりの夕くれのそら
なかむれは おもひやるへき かたそなき はるのかきりの ゆふくれのそら
式子内親王春下
7-千載125くれてゆく春はのこりもなきものををしむ心のつきせさるらん
くれてゆく はるはのこりも なきものを をしむこころの つきせさるらむ
藤原隆季春下
7-千載126いり日さす山のはさヘそうらめしきくれすは春のかへらましやは
いりひさす やまのはさへそ うらめしき くれすははるの かへらましやは
久我内のおほいまうちきみ春下
7-千載127いくかへりけふにわか身のあひぬらんをしきは春のすくるのみかは
いくかへり けふにわかみの あひぬらむ をしきははるの すくるのみかは
藤原定成春下
7-千載128身のうさも花みしほとはわすられき春のわかれをなけくのみかは
みのうさも はなみしほとは わすられき はるのわかれを なけくのみかは
源仲綱春下
7-千載129いつかたと春のゆくへはしらねともをしむ心のさきにたつらん
いつかたと はるのゆくへは しらねとも をしむこころの さきにたつらむ
藤原経家春下
7-千載130もろともにおなしみやこは出てしかとつひには春にわかれぬるかな
もろともに おなしみやこは いてしかと つひにははるに わかれぬるかな
琳賢法師春下
7-千載131花はみなよものあらしにさそはれてひとりや春のけふはゆくらん
はなはみな よものあらしに さそはれて ひとりやはるの けふはゆくらむ
法印静賢春下
7-千載132はなのはるかさなるかひそなかりけるちらぬ日かすのそははこそあらめ
はなのはる かさなるかひそ なかりける ちらぬひかすの そははこそあらめ
権大僧都範玄春下
7-千載133をしめともかひもなきさに春くれて浪とともにそたちわかれぬる
をしめとも かひもなきさに はるくれて なみとともにそ たちわかれぬる
前大僧正覚忠春下
7-千載134つねよりもけふのくるるををしむかないまいくたひの春としらねは
つねよりも けふのくるるを をしむかな いまいくたひの はるとしらねは
大江匡房春下
7-千載135けふくれぬはなのちりしもかくそありし二たひ春は物をおもふよ
けふくれぬ はなのちりしも かくそありし ふたたひはるは ものをおもふよ
河内春下
7-千載136夏ころもはなのたもとにぬきかへて春のかたみもとまらさりけり
なつころも はなのたもとに ぬきかへて はるのかたみも とまらさりけり
大江匡房
7-千載137けふかふるせみの羽ころもきてみれはたもとに夏はたつにそ有りける
けふかふる せみのはころも きてみれは たもとになつは たつにそありける
藤原基俊
7-千載138あかてゆく春のわかれにいにしへの人やうつきといひはしめけん
あかてゆく はるのわかれに いにしへの ひとやうつきと いひはしめけむ
藤原実清
7-千載139むらむらにさけるかきねの卯のはなはこのまの月の心ちこそすれ
むらむらに さけるかきねの うのはなは このまのつきの ここちこそすれ
藤原顕輔
7-千載140ゆふつくよほのめく影もうの花のさけるわたりはさやけかりけり
ゆふつくよ ほのめくかけも うのはなの さけるわたりは さやけかりけり
藤原実房
7-千載141玉川とおとにききしは卯花を露のかきれる名にこそ有りけれ
たまかはと おとにききしは うのはなを つゆのかされる なにこそありけれ
覚性入道親王
7-千載142みてすくる人しなけれは卯のはなのさけるかきねや白川の関
みてすくる ひとしなけれは うのはなの さけるかきねや しらかはのせき
藤原季通
7-千載143卯のはなのよそめなりけり山さとのかきねはかりにふれるしら雪
うのはなの よそめなりけり やまさとの かきねはかりに ふれるしらゆき
賀茂政平
7-千載144うの花のかきねとのみやおもはまししつのふせやに煙たたすは
うのはなの かきねとのみや おもはまし しつのふせやに けふりたたすは
藤原敦経
7-千載145やきすてしふるののを野のまくすはら玉まくはかり成りにけるかな
やきすてし ふるののをのの まくすはら たままくはかり なりにけるかな
藤原定通
7-千載146あふひ草てる日は神のこころかはかけさすかたにまつなひくらん
あふひくさ てるひはかみの こころかは かけさすかたに まつなひくらむ
藤原基俊
7-千載147神山のふもとになれしあふひ草ひきわかれても年そへにける
かみやまの ふもとになれし あふひくさ ひきわかれても としそへにける
前斎院式子内親王
7-千載148ほとときすまつはひさしき夏のよをねぬにあけぬと誰かいひけん
ほとときす まつはひさしき なつのよを ねぬにあけぬと たれかいひけむ
按察使公通
7-千載149ふたこゑときかてややまむ時鳥まつにねぬ夜のかすはつもりて
ふたこゑと きかてややまむ ほとときす まつにねぬよの かすはつもりて
藤原道経
7-千載150ほとときすしのふるころは山ひこのこたふる声もほのかにそする
ほとときす しのふるころは やまひこの こたふるこゑも ほのかにそする
賀茂重保
7-千載151あやしきはまつ人からかほとときすなかぬにさへもぬるる袖かな
あやしきは まつひとからか ほとときす なかぬにさへも ぬるるそてかな
道命法師
7-千載152ねさめするたよりにきけは郭公つらき人をも待つへかりけり
ねさめする たよりにきけは ほとときす つらきひとをも まつへかりけり
康資王母
7-千載153ほとときす又もやなくとまたれつつきく夜しもこそねられさりけれ
ほとときす またもやなくと またれつつ きくよしもこそ ねられさりけれ
難波頼輔母
7-千載154またてきく人にとははや郭公さてもはつねやうれしかるらん
またてきく ひとにとははや ほとときす さてもはつねや うれしかるらむ
覚盛法師
7-千載155たつねてもきくへきものを時鳥人たのめなる夜はの一声
たつねても きくへきものを ほとときす ひとたのめなる よはのひとこゑ
藤原教長
7-千載156おもひやる心もつきぬほとときす雲のいくへの外になくらん
おもひやる こころもつきぬ ほとときす くものいくへの ほかになくらむ
藤原実家
7-千載157ほとときすなほはつこゑをしのふ山ゆふゐる雲のそこに鳴くなり
ほとときす なほはつこゑを しのふやま ゆふゐるくもの そこになくなり
守覚法親王
7-千載158かさこしをゆふこえくれはほとときすふもとの雲のそこに鳴くなり
かさこしを ゆふこえくれは ほとときす ふもとのくもの そこになくなり
藤原清輔
7-千載159ひとこゑはさやかに鳴きてほとときす雲ちはるかにとほさかるなり
ひとこゑは さやかになきて ほとときす くもちはるかに とほさかるなり
源頼政
7-千載160おもふことなき身なりせはほとときす夢にきく夜もあらましものを
おもふこと なきみなりせは ほとときす ゆめにきくよも あらましものを
九条兼実
7-千載161ほとときす鳴きつるかたをなかむれはたたあり明の月そのこれる
ほとときす なきつるかたを なかむれは たたありあけの つきそのこれる
右のおほいまうちきみ
7-千載162なこりなくすきぬなるかなほとときすこそかたらひしやととしらすや
なこりなく すきぬなるかな ほとときす こそかたらひし やととしらすや
滋野井実国
7-千載163夕つくよいるさの山のこかくれにほのかにもなくほとときすかな
ゆふつくよ いるさのやまの こかくれに ほのかにもなく ほとときすかな
藤原宗家
7-千載164ほとときすききもわかれぬ一こゑによものそらをもなかめつるかな
ほとときす ききもわかれぬ ひとこゑに よものそらをも なかめつるかな
前左衡門督公光
7-千載165すきぬるか夜はのねさめの時鳥こゑはまくらにある心ちして
すきぬるか よはのねさめの ほとときす こゑはまくらに あるここちして
藤原俊成
7-千載166よをかさねねぬよりほかにほとときすいかに待ちてか二こゑはきく
よをかさね ねぬよりほかに ほとときす いかにまちてか ひとこゑはきく
道因法師
7-千載167心をそつくしはてつるほとときすほのめくよひの村雨のそら
こころをそ つくしはてつる ほとときす ほのめくよひの むらさめのそら
藤原長方
7-千載168みやこ人ひきなつくしそあやめ草たひねのとこの枕はかりは
みやこひと ひきなつくしそ あやめくさ たひねのとこの まくらはかりは
源雅頼
7-千載169さみたれにぬれぬれひかむあやめ草ぬまのいはかき浪もこそこせ
さみたれに ぬれぬれひかむ あやめくさ ぬまのいはかき なみもこそこせ
九条兼実
7-千載170のきちかくけふしもきなく郭公ねをやあやめにそへてふくらん
のきちかく けふしもきなく ほとときす ねをやあやめに そへてふくらむ
内大臣
7-千載171たたならぬ花たちはなのにほひかなよそふる袖はたれとなけれと
たたならぬ はなたちはなの にほひかな よそふるそては たれとなけれと
枇杷殿皇太后宮五節
7-千載172風にちるはなたちはなに袖しめてわかおもふいもか手枕にせん
かせにちる はなたちはなに そてしめて わかおもふいもか たまくらにせむ
藤原基俊
7-千載173うき雲のいさよふよひの村雨におひ風しるくにほふたちはな
うきくもの いさよふよひの むらさめに おひかせしるく にほふたちはな
藤原家基
7-千載174わかやとの花たちはなにふく風をたか里よりとたれなかむらん
わかやとの はなたちはなに ふくかせを たかさとよりと たれなかむらむ
左大弁親宗
7-千載175をりしもあれ花たちはなのかをるかなむかしをみつる夢の枕に
をりしもあれ はなたちはなの かをるかな むかしをみつる ゆめのまくらに
藤原公衡
7-千載176五月雨にはなたちはなのかをる夜は月すむ秋もさもあらはあれ
さみたれに はなたちはなの かをるよは つきすむあきも さもあらはあれ
崇徳院
7-千載177さみたれにおもひこそやれいにしへの草のいほりの夜はのさひしさ
さみたれに おもひこそやれ いにしへの くさのいほりの よはのさひしさ
延久三親王輔仁
7-千載178いととしくしつのいほりのいふせきに卯のはなくたし五月雨そする
いととしく しつのいほりの いふせきに うのはなくたし さみたれそふる
藤原基俊
7-千載179おほつかないつかはるへきわひ人のおもふ心やさみたれの空
おほつかな いつかはるへき わひひとの おもふこころや さみたれのそら
源俊頼
7-千載180五月雨にあささはぬまの花かつみかつみるままにかくれゆくかな
さみたれに あささはぬまの はなかつみ かつみるままに かくれゆくかな
藤原顕仲
7-千載181さみたれの日かすへぬれはかりつみししつやのこすけくちやしぬらん
さみたれの ひかすへぬれは かりつみし しつやのこすけ くちやしぬらむ
藤原顕輔
7-千載182五月雨にみつのみつかさまさるらしみをのしるしもみえすなりゆく
さみたれに みつのみつかさ まさるらし みをのしるしも みえすなりゆく
藤原親隆
7-千載183さみたれはたくもの煙うちしめりしほたれまさるすまのうら人
さみたれは たくものけふり うちしめり しほたれまさる すまのうらひと
藤原俊成
7-千載184時しもあれ水のみこもをかりあけてほさてくたしつ五月雨のそら
ときしもあれ みつのみこもを かりあけて ほさてくたしつ さみたれのそら
藤原清輔
7-千載185さみたれはあまのもしほ木くちにけりうらへに煙たえてほとへぬ
さみたれは あまのもしほき くちにけり うらへにけふり たえてほとへぬ
待賢門院安芸
7-千載186五月雨にむろの八島をみわたせは煙はなみのうへよりそたつ
さみたれに むろのやしまを みわたせは けふりはなみの うへよりそたつ
源行頼
7-千載187さみたれはとまのしつくに袖ぬれてあなしほとけの浪のうきねや
さみたれは とまのしつくに そてぬれて あなしほとけの なみのうきねや
源仲正
7-千載188五月雨の雲のはれまに月さえて山ほとときす空に鳴くなり
さみたれの くものはれまに つきさえて やまほとときす そらになくなり
賀茂成保
7-千載189をちかへりぬるともきなけ郭公いまいくかかはさみたれのそら
をちかへり ぬるともきなけ ほとときす いまいくかかは さみたれのそら
按察使資賢
7-千載190あふさかの山ほとときすなのるなりせきもる神やそらにとふらん
あふさかの やまほとときす なのるなり せきもるかみや そらにとふらむ
中納言師時
7-千載191いにしへを恋ひつつひとりこえくれはなきあふ山のほとときすかな
いにしへを こひつつひとり こえくれは なきあふやまの ほとときすかな
律師慶暹
7-千載192なとてかくおもひそめけん時鳥ゆきのみやまの法のすゑかは
なとてかく おもひそめけむ ほとときす ゆきのみやまの のりのすゑかは
源俊頼
7-千載193五月やみふたむら山のほとときす嶺つつきなくこゑをきくかな
さつきやみ ふたむらやまの ほとときす みねつつきなく こゑをきくかな
藤原俊忠
7-千載194ともしするみやきか原のした露にしのふもちすりかわくよそなき
ともしする みやきかはらの したつゆに しのふもちすり かわくよそなき
大江匡房
7-千載195五月やみさやまの嶺にともす火は雲のたえまのほしかとそみる
さつきやみ さやまのみねに ともすひは くものたえまの ほしかとそみる
藤原顕季
7-千載196さつきやみしけきは山にたつしかはともしにのみそ人にしらるる
さつきやみ しけきはやまに たつしかは ともしにのみそ ひとにしらるる
藤原顕綱
7-千載197ともしするほくしの松もきえなくにと山の雲のあけわたるらん
ともしする ほくしのまつも きえなくに とやまのくもの あけわたるらむ
源行宗
7-千載198ともしするほくしの松ももえつきてかへるにまよふしもつやみかな
ともしする ほくしのまつも もえつきて かへるにまよふ しもつやみかな
源仲正
7-千載199山ふかみほくしのまつはつきぬれとしかにおもひをなほかくるかな
やまふかみ ほくしのまつは つきぬれと しかにおもひを なほかくるかな
よみ人しらす
7-千載200ともしするほくしをまつとおもへはやあひみてしかの身をはかふらん
ともしする ほくしをまつと おもへはや あひみてしかの みをはかふらむ
賀茂重保
7-千載201むかしわかあつめしものをおもひいててみなれかほにもくる蛍かな
むかしわか あつめしものを おもひいてて みなれかほにも くるほたるかな
藤原季通
7-千載202あはれにもみさをにもゆる蛍かなこゑたてつへきこの世とおもふに
あはれにも みさをにもゆる ほたるかな こゑたてつへき このよとおもふに
源俊頼
7-千載203あさりせし水のみさひにとちられてひしのうきはにかはつなくなり
あさりせし みつのみさひに とちられて ひしのうきはに かはつなくなり
源俊頼
7-千載204夏ふかみ玉えにしけるあしの葉のそよくや船のかよふなるらん
なつふかみ たまえにしける あしのはの そよくやふねの かよふなるらむ
西園寺公経
7-千載205はやせ川みをさかのはるうかひ舟まつこの世にもいかかくるしき
はやせかは みをさかのほる うかひふね まつこのよにも いかかくるしき
崇徳院
7-千載206みるかなほこの世の物とおほえぬはからなてしこの花にそ有りける
みるかなほ このよのものと おほえぬは からなてしこの はなにそありける
和泉式部
7-千載207とこ夏のはなもわすれて秋かせを松のかけにてけふは暮れぬる
とこなつの はなもわすれて あきかせを まつのかけにて けふはくれぬる
具平親王
7-千載208春あきものちのかたみはなきものをひむろそ冬のなこりなりける
はるあきも のちのかたみは なきものを ひむろそふゆの なこりなりける
覚性入道親王
7-千載209あたりさへすすしかりけりひむろ山まかせし水のこほるのみかは
あたりさへ すすしかりけり ひむろやま まかせしみつの こほるのみかは
徳大寺公能
7-千載210山かけやいはもるし水おとさえて夏のほかなるひくらしのこゑ
やまかけや いはもるしみつ おとさへて なつのほかなる ひくらしのこゑ
慈円
7-千載211夕されは玉ゐるかすもみえねともせきのを川のおとそすすしき
ゆふされは たまゐるかすも みえねとも せきのをかはの おとそすすしき
藤原道経
7-千載212いはまもるし水をやとにせきとめてほかより夏をすくしつるかな
いはまもる しみつをやとに せきとめて ほかよりなつを すくしつるかな
俊恵法師
7-千載213さらぬたにひかりすすしき夏の夜の月をし水にやとしてそみる
さらぬたに ひかりすすしき なつのよの つきをしみつに やとしてそみる
顕昭法師
7-千載214せきとむる山した水にみかくれてすみけるものを秋のけしきは
せきとむる やましたみつに みかくれて すみけるものを あきのけしきは
法眼実快
7-千載215われなからほとなき夜はやをしからむなほ山のはにあり明の月
われなから ほとなきよはや をしからむ なほやまのはに ありあけのつき
藤原経家
7-千載216夏のよの月のひかりはさしなからいかにあけぬるあまの戸ならん
なつのよの つきのひかりは さしなから いかにあけぬる あまのとならむ
祝部宿禰成仲
7-千載217夕たちのまたはれやらぬ雲まよりおなし空ともみえぬ月かな
ゆふたちの またはれやらぬ くもまより おなしそらとも みえぬつきかな
俊恵法師
7-千載218小萩はらまた花さかぬみやきののしかやこよひの月になくらん
こはきはら またはなさかぬ みやきのの しかやこよひの つきになくらむ
藤原敦仲
7-千載219夏ころもすそのの原をわけゆけはおりたかへたる萩か花すり
なつころも すそののはらを わけゆけは をりたかへたる はきかはなすり
顕昭法師
7-千載220あきかせは浪とともにやこえぬらんまたきすすしきすゑの松山
あきかせは なみとともにや こえぬらむ またきすすしき すゑのまつやま
藤原親盛
7-千載221いはたたく谷の水のみおとつれて夏にしられぬみ山へのさと
いはたたく たにのみつのみ おとつれて なつにしられぬ みやまへのさと
藤原教長
7-千載222いはまよりおちくるたきのしら糸はむすはてみるもすすしかりけり
いはまより おちくるたきの しらいとは むすはてみるも すすしかりけり
藤原盛方
7-千載223けふくれはあさのたちえにゆふかけて夏みな月のみそきをそする
けふくれは あさのたちえに ゆふかけて なつみなつきの みそきをそする
藤原季通
7-千載224いつとてもをしくやはあらぬとし月をみそきにすつる夏のくれかな
いつとても をしくやはあらぬ としつきを みそきにすつる なつのくれかな
藤原俊成
7-千載225みそきする川せにさよやふけぬらんかへるたもとに秋かせそふく
みそきする かはせにさよや ふけぬらむ かへるたもとに あきかせそふく
よみ人しらす
7-千載226あききぬとききつるからにわかやとの荻のはかせの吹きかはるらん
あききぬと ききつるからに わかやとの をきのはかせの ふきかはるらむ
侍従乳母秋上
7-千載227あさちふの露けくもあるか秋きぬとめにはさやかにみえけるものを
あさちふの つゆけくもあるか あききぬと めにはさやかに みえけるものを
守覚法親王秋上
7-千載228秋のくるけしきのもりのした風にたちそふ物はあはれなりけり
あきのくる けしきのもりの したかせに たちそふものは あはれなりけり
待賢門院堀川秋上
7-千載229やへむくらさしこもりにしよもきふにいかてか秋のわけてきつらん
やへむくら さしこもりにし よもきふに いかてかあきの わけてきつらむ
藤原俊成秋上
7-千載230秋はきぬとしもなかはにすきぬとや荻ふくかせのおとろかすらん
あきはきぬ としもなかはに すきぬとや をきふくかせの おとろかすらむ
寂然法師秋上
7-千載231この葉たに色つくほとはあるものを秋かせふけはちる涙かな
このはたに いろつくほとは あるものを あきかせふけは ちるなみたかな
よみ人しらす秋上
7-千載232神山の松ふくかせもけふよりは色はかはらておとそ身にしむ
かみやまの まつふくかせも けふよりは いろはかはらて おとそみにしむ
賀茂重政秋上
7-千載233物ことにあきのけしきはしるけれとまつ身にしむは荻のうは風
ものことに あきのけしきは しるけれと まつみにしむは をきのうはかせ
源行宗秋上
7-千載234あきかせや涙もよほすつまならむおとつれしより袖のかわかぬ
あきかせや なみたもよほす つまならむ おとつれしより そてのかわかぬ
源俊頼秋上
7-千載235たなはたの心のうちやいかならむまちこしけふの夕くれのそら
たなはたの こころのうちや いかならむ まちこしけふの ゆふくれのそら
九条兼実秋上
7-千載236たなはたのあまつひれふく秋かせにやそのふなつをみふねいつらし
たなはたの あまつひれふく あきかせに やそのふなつを みふねいつらし
藤原隆季秋上
7-千載237たなはたのあまのはころもかさねてもあかぬ契やなほむすふらん
たなはたの あまのはころも かさねても あかぬちきりや なほむすふらむ
二条太皇太后宮肥後秋上
7-千載238こひこひてこよひはかりやたなはたの枕にちりのつもらさるらん
こひこひて こよひはかりや たなはたの まくらにちりの つもらさるらむ
河内秋上
7-千載239七夕のあまのかはらのいはまくらかはしもはてすあけぬこの夜は
たなはたの あまのかはらの いはまくら かはしもはてす あけぬこのよは
源俊頼秋上
7-千載240たなはたに花そめころもぬきかせはあか月露のかへすなりけり
たなはたに はなそめころも ぬきかせは あかつきつゆの かくすなりけり
崇徳院秋上
7-千載241あまの川心をくみておもふにも袖こそぬるれ暁のそら
あまのかは こころをくみて おもふにも そてこそぬるれ あかつきのそら
土御門右のおほいまうちきみ秋上
7-千載242秋くれはおもひみたるるかるかやのした葉や人の心なるらん
あきくれは おもひみたるる かるかやの したはやひとの こころなるらむ
源師頼秋上
7-千載243おしなへて草はのうへをふく風にまつしたをるる野へのかるかや
おしなへて くさはのうへを ふくかせに まつしたをるる のへのかるかや
延久三親王家甲斐秋上
7-千載244ふみしたきあさゆくしかやすきつらむしとろにみゆる野ちのかるかや
ふみしたき あさゆくしかや すきつらむ しとろにみゆる のちのかるかや
藤原道経秋上
7-千載245秋きぬとかせもつけてし山さとになほほのめかす花すすきかな
あききぬと かせもつけてし やまさとに なほほのめかす はなすすきかな
法印静賢秋上
7-千載246いかなれはうははをわたる秋かせにしたをれすらむ野へのかるかや
いかなれは うははをわたる あきかせに したをれすらむ のへのかるかや
よみ人しらす秋上
7-千載247人もかなみせもきかせも萩の花さく夕かけのひくらしのこゑ
ひともかな みせもきかせも はきのはな さくゆふかけの ひくらしのこゑ
和泉式部秋上
7-千載248あき山のふもとをこむる家ゐにはすそ野のはきそまかきなりける
あきやまの ふもとをこむる いへゐには すそののはきそ まかきなりける
藤原伊家秋上
7-千載249宮城ののはきやをしかのつまならん花さきしより声の色なる
みやきのの はきやをしかの つまならむ はなさきしより こゑのいろなる
藤原基俊秋上
7-千載250心をはちくさの色にそむれとも袖にうつるは萩かはなすり
こころをは ちくさのいろに そむれとも そてにうつるは はきかはなすり
長覚法師秋上
7-千載251露しけきあしたのはらのをみなへしひとえたをらん袖はぬるとも
つゆしけき あしたのはらの をみなへし ひとえたをらむ そてはぬるとも
大納言師順秋上
7-千載252をみなへしなひくをみれは秋かせの吹きくるすゑもなつかしきかな
をみなへし なひくをみれは あきかせの ふきくるすゑも なつかしきかな
源雅兼秋上
7-千載253女郎花涙に露やおきそふるたをれはいとと袖のしをるる
をみなへし なみたにつゆや おきそふる たをれはいとと そてのしをるる
前左衛門督公光秋上
7-千載254ふく風にをれふしぬれはをみなへしまかきそ花の枕なりける
ふくかせに をれふしぬれは をみなへし まかきそはなの まくらなりける
藤原行家秋上
7-千載255夕されはかやかしけみになきかはすむしのねをさへわけつつそ行く
ゆふされは かやかしけみに なきかはす むしのねをさへ わけつつそゆく
藤原盛方秋上
7-千載256さまさまに心そとまるみやき野の花のいろいろむしのこゑこゑ
さまさまに こころそとまる みやきのの はなのいろいろ むしのこゑこゑ
源俊頼秋上
7-千載257秋くれはやとにとまるをたひねにて野へこそつねのすみかなりけれ
あきくれは やとにとまるを たひねにて のへこそつねの すみかなりけれ
源俊頼秋上
7-千載258野わきするのへのけしきをみる時は心なき人あらしとそおもふ
のわきする のへのけしきを みるときは こころなきひと あらしとそおもふ
藤原季通秋上
7-千載259夕されは野へのあきかせ身にしみてうつら鳴くなりふか草のさと
ゆふされは のへのあきかせ みにしみて うつらなくなり ふかくさのさと
藤原俊成秋上
7-千載260なにとなく物そかなしきすかはらやふしみのさとの秋の夕くれ
なにとなく ものそかなしき すかはらや ふしみのさとの あきのゆふくれ
源俊頼秋上
7-千載261さまさまの花をはやとにうつしうゑつしかのねさそへ野への秋風
さまさまの はなをはやとに うつしうゑつ しかのねさそへ のへのあきかせ
九条兼実秋上
7-千載262秋のののちくさの色にうつろへは花そかへりて露をそめける
あきののの ちくさのいろに うつろへは はなそかへりて つゆをそめける
守覚法親王秋上
7-千載263草木まて秋のあはれをしのへはや野にも山にもつゆこはるらん
くさきまて あきのあはれを しのへはや のにもやまにも つゆこほるらむ
慈円秋上
7-千載264はかなさをわか身のうへによそふれはたもとにかかる秋の夕露
はかなさを わかみのうへに よそふれは たもとにかかる あきのゆふつゆ
待賢門院堀河秋上
7-千載265たつたひめかさしの玉のををよわみみたれにけりとみゆるしら露
たつたひめ かさしのたまの ををよわみ みたれにけりと みゆるしらつゆ
藤原清輔秋上
7-千載266夕まくれをきふくかせのおときけはたもとよりこそ露はこはるれ
ゆふまくれ をきふくかせの おときけは たもとよりこそ つゆはこほるれ
藤原季経秋上
7-千載267おほかたの露にはなにのなるならむたもとにおくは涙なりけり
おほかたの つゆにはなにの なるならむ たもとにおくは なみたなりけり
西行法師秋上
7-千載268花すすきまねくはさかとしりなからととまる物は心なりけり
はなすすき まねくはさかと しりなから ととまるものは こころなりけり
道命法師秋上
7-千載269時しもあれ秋ふるさとにきてみれは庭は野へともなりにけるかな
ときしもあれ あきふるさとに きてみれは にははのへとも なりにけるかな
藤原公任秋上
7-千載270やとかれていくかもあらぬにしかのなく秋ののへともなりにけるかな
やとかれて いくかもあらぬに しかのなく あきののへとも なりにけるかな
小弁秋上
7-千載271いまはしもほにいてぬらむ東路のいはたのをののしののをすすき
いまはしも ほにいてぬらむ あつまちの いはたのをのの しののをすすき
藤原伊家秋上
7-千載272夕されはをののあさちふ玉ちりて心くたくる風のおとかな
ゆふされは をののあさちふ たまちりて こころくたくる かせのおとかな
九条兼実秋上
7-千載273ときはなるあをはの山も秋くれは色こそかへねさひしかりけり
ときはなる あをはのやまも あきくれは いろこそかへね さひしかりけり
前大僧正覚忠秋上
7-千載274秋のよの心をつくすはしめとてほのかにみゆる夕つくよかな
あきのよの こころをつくす はしめとて ほのかにみゆる ゆふつくよかな
藤原実家秋上
7-千載275あきの月たかねの雲のあなたにてはれゆく空のくるるまちけり
あきのつき たかねのくもの あなたにて はれゆくそらの くるるまちけり
西園寺公経秋上
7-千載276こからしの雲ふきはらふたかねよりさえても月のすみのほるかな
こからしの くもふきはらふ たかねより さえてもつきの すみのほるかな
源俊頼秋上
7-千載277いつこにも月はわかしをいかなれはさやけかるらむさらしなのやま
いつこにも つきはわかしを いかなれは さやけかるらむ さらしなのやま
隆源法師秋上
7-千載278出てぬより月みよとこそさえにけれをはすて山のゆふくれの空
いてぬより つきみよとこそ さえにけれ をはすてやまの ゆふくれのそら
藤原隆信秋上
7-千載279くまもなきみそらに秋の月すめは庭には冬のこほりをそしく
くまもなき みそらにあきの つきすめは にはにはふゆの こほりをそしく
源雅頼秋上
7-千載280月みれははるかにおもふさらしなの山も心のうちにそありける
つきみれは はるかにおもふ さらしなの やまもこころの うちにそありける
右のおほいまうちきみ秋上
7-千載281あすもこむ野ちの玉川はきこえて色なる浪に月やとりけり
あすもこむ のちのたまかは はきこえて いろなるなみに つきやとりけり
源俊頼秋上
7-千載282玉よするうらわの風にそらはれてひかりをかはす秋のよの月
たまよする うらわのかせに そらはれて ひかりをかはす あきのよのつき
崇徳院秋上
7-千載283さよふけてふしのたかねにすむ月は煙はかりやくもりなるへき
さよふけて ふしのたかねに すむつきは けふりはかりや くもりなるへき
徳大寺公能秋上
7-千載284石はしるみつのしら玉かすみえてきよたき川にすめる月影
いしはしる みつのしらたま かすみえて きよたきかはに すめるつきかけ
藤原俊成秋上
7-千載285しほかまのうらふくかせに霧はれてやそ島かけてすめる月かけ
しほかまの うらふくかせに きりはれて やそしまかけて すめるつきかけ
藤原清輔秋上
7-千載286おもひくまなくてもとしのへぬるかなものいひかはせ秋のよの月
おもひくま なくてもとしの へぬるかな ものいひかはせ あきのよのつき
源俊頼秋上
7-千載287山のはにますみのかかみかけたりとみゆるは月のいつるなりけり
やまのはに ますみのかかみ かけたりと みゆるはつきの いつるなりけり
藤原基俊秋上
7-千載288秋のよやあまのかはせはこほるらむ月のひかりのさえまさるかな
あきのよや あまのかはせは こほるらむ つきのひかりの さえまさるかな
藤原道経秋上
7-千載289とほさかるおとはせねとも月きよみ氷とみゆるしかのうら浪
とほさかる おとはせねとも つききよみ こほりとみゆる しかのうらなみ
太宰大弐重家秋上
7-千載290つねよりも身にそしみける秋の野に月すむ夜はの荻のうはかせ
つねよりも みにそしみける あきののに つきすむよはの をきのうはかせ
右衛門督頼実秋上
7-千載291なかめやる心のはてそなかりけるあかしのおきにすめる月影
なかめやる こころのはてそ なかりける あかしのおきに すめるつきかけ
俊恵法師秋上
7-千載292やほかゆくはまのまさこをしきかへて玉になしつる秋のよの月
やほかゆく はまのまさこを しきかへて たまになしつる あきのよのつき
藤原長方秋上
7-千載293いしまゆくみたらし川のおとさえて月やむすはぬこほりなるらん
いしまゆく みたらしかはの おとさえて つきやむすはぬ こほりなるらむ
藤原公時秋上
7-千載294月かけはきえぬこほりとみえなからささ浪よするしかのからさき
つきかけは きえぬこほりと みえなから ささなみよする しかのからさき
藤原顕家秋上
7-千載295てる月のかけさえぬれはあさちはら雪のしたにもむしはなきけり
てるつきの かけさえぬれは あさちはら ゆきのしたにも むしはなきけり
頼円法師秋上
7-千載296あさちはらはすゑにむすふ露ことにひかりをわけてやとる月かけ
あさちはら はすゑにむすふ つゆことに ひかりをわけて やとるつきかけ
藤原親盛秋上
7-千載297ふけにけるわかよの秋そあはれなるかたふく月は又もいてなん
ふけにける わかよのあきそ あはれなる かたふくつきは またもいてなむ
藤原清輔秋上
7-千載298身のうさの秋はわするる物ならはなみたくもらて月はみてまし
みのうさの あきはわするる ものならは なみたくもらて つきはみてまし
難波頼輔秋上
7-千載299おほかたの秋のあはれをおもひやれ月に心はあくかれぬとも
おほかたの あきのあはれを おもひやれ つきにこころは あくかれぬとも
紫式部秋上
7-千載300たくひなくつらしとそおもふ秋のよの月をのこしてあくるしののめ
たくひなく つらしとそおもふ あきのよの つきをのこして あくるしののめ
藤原成通秋上
7-千載301てる月のたひねのとこやしもとゆふかつらき山のたに川のみつ
てるつきの たひねのとこや しもとゆふ かつらきやまの たにかはのみつ
源俊頼秋上
7-千載302はるかなるもろこしまてもゆく物は秋のねさめの心なりけり
はるかなる もろこしまても ゆくものは あきのねさめの こころなりけり
大弐三位秋下
7-千載303山さとはさひしかりけりこからしのふく夕くれのひくらしのこゑ
やまさとは さひしかりけり こからしの ふくゆふくれの ひくらしのこゑ
藤原仲実秋下
7-千載304秋のよは松をはらはぬ風たにもかなしきことのねをたてすやは
あきのよは まつをはらはぬ かせたにも かなしきことの ねをたてすやは
藤原季通秋下
7-千載305露さむみうらかれもてく秋ののにさひしくもある風のおとかな
つゆさむみ うらかれもてく あきののに さひしくもある かせのおとかな
藤原時昌秋下
7-千載306夕くれはをのの萩はらふく風にさひしくもあるか鹿のなくなる
ゆふされは をののはきはら ふくかせに さひしくもあるか しかのなくなる
藤原正家秋下
7-千載307みむろやまおろすあらしのさひしきにつまよふしかの声たくふなり
みむろやま おろすあらしの さひしきに つまとふしかの こゑたくふなり
二条太皇大后宮肥後秋下
7-千載308そまかたにみちやまとへるさをしかのつまとふ声のしけくも有るかな
そまかたに みちやまとへる さをしかの つまとふこゑの しけくもあるかな
藤原公実秋下
7-千載309秋のよはおなしをのへになくしかのふけゆくままにちかくなるかな
あきのよは おなしをのへに なくしかの ふけゆくままに ちかくなるかな
輔仁のみこ秋下
7-千載310さをしかのなくねは野へにきこゆれとなみたはとこの物にそ有りける
さをしかの なくねはのへに きこゆれと なみたはとこの ものにそありける
源俊頼秋下
7-千載311さらぬたにゆふへさひしき山里の露のまかきにをしか鳴くなり
さらぬたに ゆふへさひしき やまさとの きりのまかきに をしかなくなり
待賢門院堀河秋下
7-千載312みなと川うきねのとこにきこゆなりいく田のおくのさをしかのこゑ
みなとかは うきねのとこに きこゆなり いくたのおくの さをしかのこゑ
藤原範兼秋下
7-千載313うきねするゐなのみなとにきこゆなりしかのねおろすみねの松かせ
うきねする ゐなのみなとに きこゆなり しかのねおろす みねのまつかせ
藤原隆信秋下
7-千載314夜をこめてあかしのせとをこきいつれははるかにおくるさをしかのこゑ
よをこめて あかしのせとを こきいつれは はるかにおくる さをしかのこゑ
俊恵法師秋下
7-千載315みなと川夜ふねこきいつるおひかせに鹿のこゑさへせとわたるなり
みなとかは よふねこきいつる おひかせに しかのこゑさへ せとわたるなり
道因法師秋下
7-千載316宮城ののこはきかはらをゆくほとは鹿のねをさへわけてきくかな
みやきのの こはきかはらを ゆくほとは しかのねをさへ わけてきくかな
覚延法師秋下
7-千載317さをしかのつまよふこゑもいかなれや夕はわきてかなしかるらん
さをしかの つまよふこゑも いかなれや ゆふへはわきて かなしかるらむ
左京大夫修範秋下
7-千載318きくままにかたしく袖のぬるるかなしかのこゑには露やそふらん
きくままに かたしくそての ぬるるかな しかのこゑには つゆやそふらむ
藤原季能秋下
7-千載319山さとのあかつきかたのしかのねは夜はのあはれのかきりなりけり
やまさとの あかつきかたの しかのねは よはのあはれの かきりなりけり
慈円秋下
7-千載320よそにたに身にしむくれのしかのねにいかなる妻かつれなかるらん
よそにたに みにしむくれの しかのねを いかなるつまか つれなかるらむ
俊恵法師秋下
7-千載321夕まくれさてもや秋はかなしきと鹿のねきかぬ人にとははや
ゆふまくれ さてもやあきは かなしきと しかのねきかぬ ひとにとははや
道因法師秋下
7-千載322つねよりも秋のゆふへをあはれとはしかのねにてやおもひそめけん
つねよりも あきのゆふへを あはれとは しかのねにてや おもひそめけむ
賀茂政平秋下
7-千載323さひしさをなににたとへんをしかなくみ山のさとのあけかたのそら
さひしさを なににたとへむ をしかなく みやまのさとの あけかたのそら
惟宗広言秋下
7-千載324いかはかり露けかるらんさをしかのつまこひかぬるをのの草ふし
いかはかり つゆけかるらむ さをしかの つまこひかぬる をののくさふし
長覚法師秋下
7-千載325をのへより門田にかよふ秋かせにいなはをわたるさをしかのこゑ
をのへより かとたにかよふ あきかせに いなはをわたる さをしかのこゑ
寂蓮法師秋下
7-千載326おとろかすおとこそよるのを山田は人なきよりもさひしかりけれ
おとろかす おとこそよるの をやまたは ひとなきよりも さひしかりけれ
よみ人しらす秋下
7-千載327わか門のおくてのひたにおとろきてむろのかり田にしきそたつなる
わかかとの おくてのひたに おとろきて むろのかりたに しきそたつなる
源兼昌秋下
7-千載328むしのねはあさちかもとにうつもれて秋はすゑはの色にそ有りける
むしのねは あさちかもとに うつもれて あきはすゑはの いろにそありける
寂蓮法師秋下
7-千載329秋のよのあはれはたれもしるものをわれのみとなくきりきりすかな
あきのよの あはれはたれも しるものを われのみとなく きりきりすかな
藤原兼宗秋下
7-千載330さまさまのあさちかはらのむしのねをあはれひとつにききそなしつる
さまさまの あさちかはらの むしのねを あはれひとつに ききそなしつる
九条良経秋下
7-千載331夜をかさねこゑよわりゆくむしのねに秋のくれぬるほとをしるかな
よをかさね こゑよわりゆく むしのねに あきのくれぬる ほとをしるかな
徳大寺公能秋下
7-千載332秋ふかくなりにけらしなきりきりすゆかのあたりにこゑきこゆなり
あきふかく なりにけらしな きりきりす ゆかのあたりに こゑきこゆなり
花山院秋下
7-千載333さりともとおもふこころもむしのねもよわりはてぬる秋のくれかな
さりともと おもふこころも むしのねも よわりはてぬる あきのくれかな
藤原俊成秋下
7-千載334むしのねもまれになりゆくあたし野にひとり秋なる月のかけかな
むしのねも まれになりゆく あたしのに ひとりあきなる つきのかけかな
道性法親王秋下
7-千載335草も木もあきのすゑははみえゆくに月こそ色もかはらさりけれ
くさもきも あきのすゑはは みえゆくに つきこそいろも かはらさりけれ
式子内親王秋下
7-千載336すむ水にさやけき影のうつれはやこよひの月の名になかるらん
すむみつに さやけきかけの うつれはや こよひのつきの なになかるらむ
大宮右大臣秋下
7-千載337秋の月ちちに心をくたききてこよひ一よにたへすも有るかな
あきのつき ちちにこころを くたききて こよひひとよに たへすもあるかな
よみ人しらす秋下
7-千載338さよふけてきぬたのおとそたゆむなる月をみつつや衣うつらん
さよふけて きぬたのおとそ たゆむなる つきをみつつや ころもうつらむ
覚性入道親王秋下
7-千載339恋ひつつやいもかうつらむから衣きぬたのおとのそらになるまて
こひつつや いもかうつらむ からころも きぬたのおとの そらになるまて
藤原公実秋下
7-千載340松かせのおとたに秋はさひしきに衣うつなり玉川のさと
まつかせの おとたにあきは さひしきに ころもうつなり たまかはのさと
源俊頼秋下
7-千載341たかためにいかにうてはかから衣ちたひやちたひ声のうらむる
たかために いかにうてはか からころも ちたひやちたひ こゑのうらむる
藤原基俊秋下
7-千載342衣うつおとをきくにそしられぬる里とほからぬ草枕とは
ころもうつ おとをきくにそ しられぬる さととほからぬ くさまくらとは
俊盛法師秋下
7-千載343夕きりや秋のあはれをこめつらむわけいる袖に露のおきそふ
ゆふきりや あきのあはれを こめつらむ わけいるそてに つゆのおきそふ
法橋宗円秋下
7-千載344秋ふかみたそかれ時のふちはかまにほふはなのる心ちこそすれ
あきふかみ たそかれときの ふちはかま にほふはなのる ここちこそすれ
崇徳院秋下
7-千載345いかにしていはまもみえぬ夕暮にとなせのいかたおちてきつらん
いかにして いはまもみえぬ ゆふきりに となせのいかた おちてきつらむ
前参犠親隆秋下
7-千載346けさみれはさなから霜をいたたきておきなさひゆく白菊の花
けさみれは さなからしもを いたたきて おきなさひゆく しらきくのはな
藤原基俊秋下
7-千載347しら菊のはにおく露にやとらすは花とそみましてらす月影
しらきくの はにおくつゆに やとらすは はなとそみまし てらすつきかけ
内のおほいまうちきみ秋下
7-千載348雪ならはまかきにのみはつもらしとおもひとくにそ白菊の花
ゆきならは まかきにのみは つもらしと おもひとくにそ しらきくのはな
行慶秋下
7-千載349朝な朝な籬のきくのうつろへは露さへ色のかはり行くかな
あさなあさな まかきのきくの うつろへは つゆさへいろの かはりゆくかな
祐盛法師秋下
7-千載350さえわたる光を霜にまかへてや月にうつろふ白きくのはな
さえわたる ひかりをしもに まかへてや つきにうつろふ しらきくのはな
藤原家隆秋下
7-千載351ことことにかなしかりけりむへしこそ秋の心をうれへといひけれ
ことことに かなしかりけり うへしこそ あきのこころを うれへといひけれ
藤原季通秋下
7-千載352秋にあへすさこそはくすの色つかめあなうらめしの風のけしきや
あきにあへす さこそはくすの いろつかめ あなうらめしの かせのけしきや
藤原基俊秋下
7-千載353はつ時雨ふるほともなくしもとゆふかつらき山は色つきにけり
はつしくれ ふるほともなく しもとゆふ かつらきやまは いろつきにけり
覚性入道親王秋下
7-千載354むら雲の時雨れてそむる紅葉ははうすくこくこそ色にみえけれ
むらくもの しくれてそむる もみちはは うすくこくこそ いろにみえけれ
覚延法師秋下
7-千載355しくれ行くよものこすゑの色よりも秋は夕のかはるなりけり
しくれゆく よものこすゑの いろよりも あきはゆふへの かはるなりけり
藤原定家秋下
7-千載356おほろけの色とや人のおもふらむをくらの山をてらす紅葉は
おほろけの いろとやひとの おもふらむ をくらのやまを てらすもみちは
道命法師秋下
7-千載357君みんと心やしけんたつたひめ紅葉の錦いろをつくせり
きみみむと こころやしけむ たつたひめ もみちのにしき いろをつくせり
小弁秋下
7-千載358故郷にとふ人あらはもみちはのちりなん後をまてとこたへよ
ふるさとに とふひとあらは もみちはの ちりなむのちを まてとこたへよ
素意法師秋下
7-千載359山ひめにちへのにしきをたむけてもちる紅葉はをいかてととめん
やまひめに ちへのにしきを たむけても ちるもみちはを いかてととめむ
藤原顕輔秋下
7-千載360紅葉はに月の光をさしそへてこれやあかちの錦なるらん
もみちはに つきのひかりを さしそへて これやあかちの にしきなるらむ
秋下
7-千載361山おろしにうらつたひする紅葉かないかかはすへきすまのせきもり
やまおろしに うらつたひする もみちかな いかかはすへき すまのせきもり
右大臣秋下
7-千載362清見かた関にとまらてゆく船は嵐のさそふこのはなりけり
きよみかた せきにとまらて ゆくふねは あらしのさそふ このはなりけり
藤原実房秋下
7-千載363もみちはをせきもる神にたむけおきてあふ坂山をすくる木からし
もみちはを せきもるかみに たむけおきて あふさかやまを すくるこからし
権中納言実守秋下
7-千載364紅葉はのみなくれなゐにちりしけは名のみなりけり白川の関
もみちはの みなくれなゐに ちりしけは なのみなりけり しらかはのせき
左大弁親宗秋下
7-千載365みやこにはまた青葉にてみしかとももみちちりしく白川のせき
みやこには またあをはにて みしかとも もみちちりしく しらかはのせき
源頼政秋下
7-千載366ささ波やひらのたかねの山おろしもみちをうみの物となしつる
ささなみや ひらのたかねの やまおろし もみちをうみの ものとなしつる
藤原範兼秋下
7-千載367たつた山松のむらたちなかりせはいつくかのこるみとりならまし
たつたやま まつのむらたち なかりせは いつくかのこる みとりならまし
藤原清輔秋下
7-千載368秋といへはいはたのをののははそ原時雨もまたす紅葉しにけり
あきといへは いはたのをのの ははそはら しくれもまたす もみちしにけり
覚盛法師秋下
7-千載369庭のおもにちりてつもれる紅葉はは九重にしく錦なりけり
にはのおもに ちりてつもれる もみちはは ここのへにしく にしきなりけり
藤原公重秋下
7-千載370けふみれは嵐の山はおほゐ川もみち吹きおろす名にこそ有りけれ
けふみれは あらしのやまは おほゐかは もみちふきおろす なにこそありけれ
俊恵法師秋下
7-千載371おほゐかはなかれておつる紅葉かなさそふは峰の嵐のみかは
おほゐかは なかれておつる もみちかな さそふはみねの あらしのみかは
道因法師秋下
7-千載372今そしる手向の山はもみち葉のぬさとちりかふ名こそ有りけれ
いまそしる たむけのやまは もみちはの ぬさとちりかふ なにこそありけれ
藤原清輔秋下
7-千載373たつた山ふもとの里はとほけれと嵐のつてに紅葉をそみる
たつたやま ふもとのさとは とほけれと あらしのつてに もみちをそみる
祝部成仲秋下
7-千載374吹きみたるははそか原をみわたせは色なき風も紅葉しにけり
ふきみたる ははそかはらを みわたせは いろなきかせも もみちしにけり
賀茂成保秋下
7-千載375色かへぬ松ふく風のおとはしてちるはははそのもみちなりけり
いろかへぬ まつふくかせの おとはして ちるはははその もみちなりけり
藤原朝仲秋下
7-千載376ふるさとの庭はこのはに色かへてかはらの松そみとりなりける
ふるさとの にははこのはに いろかへて かはらぬまつそ みとりなりける
惟宗広言秋下
7-千載377ちりつもる木のはも風にさそはれて庭にも秋のくれにけるかな
ちりつもる このはもかせに さそはれて にはにもあきの くれにけるかな
法橋慈弁秋下
7-千載378秋の田にもみちちりける山さとをこともおろかにおもひけるかな
あきのたに もみちちりける やまさとを こともおろかに おもひけるかな
源俊頼秋下
7-千載379ちりかかる谷のを川の色つくはこのはや水の時雨なるらん
ちりかかる たにのをかはの いろつくは このはやみつの しくれなるらむ
九条兼実秋下
7-千載380くれてゆく秋をは水やさそふらむ紅葉なかれぬ山河そなき
くれてゆく あきをはみつや さそふらむ もみちなかれぬ やまかはそなき
後三条内大臣秋下
7-千載381紅葉はのちり行くかたをたつぬれは秋も嵐のこゑのみそする
もみちはの ちりゆくかたを たつぬれは あきもあらしの こゑのみそする
崇徳院秋下
7-千載382さらぬたに心ほそきを山さとのかねさへ秋のくれをつくなり
さらぬたに こころほそきを やまさとの かねさへあきの くれをつくなり
前大僧正覚忠秋下
7-千載383からにしきぬさにたちもて行く秋もけふやたむけの山ちこゆらん
からにしき ぬさにたちもて ゆくあきも けふやたむけの やまちこゆらむ
瞻西上人秋下
7-千載384あけぬともなほ秋風はおとつれて野へのけしきよおもかはりすな
あけぬとも なほあきかせは おとつれて のへのけしきよ おもかはりすな
源俊頼秋下
7-千載385たつた山ちるもみちはをきてみれは秋はふもとにかへるなりけり
たつたやま ちるもみちはを きてみれは あきはふもとに かへるなりけり
大江匡房秋下
7-千載386こよひまて秋はかきれとさためける神代もさらにうらめしきかな
こよひまて あきはかきれと さためける かみよもさらに うらめしきかな
源有仁家小大進秋下
7-千載387昨日こそ秋はくれしかいつのまにいはまの水のうすこほるらん
きのふこそ あきはくれしか いつのまに いはまのみつの うすこほるらむ
藤原公実
7-千載388いかはかりあきのなこりをなかめましけさはこのはに嵐ふかすは
いかはかり あきのなこりを なかめまし けさはこのはに あらしふかすは
源俊頼
7-千載389いつみ川水のみわたのふしつけにしはまのこほる冬はきにけり
いつみかは みつのみわたの ふしつけに しはまもこほる ふゆはきにけり
藤原仲実
7-千載390ひまもなくちるもみちはにうつもれて庭のけしきも冬こもりけり
ひまもなく ちるもみちはに うつもれて にはのけしきも ふゆこもりけり
崇徳院
7-千載391さまさまの草葉もいまは霜かれぬ野へより冬やたちてきつらん
さまさまの くさはもいまは しもかれぬ のへよりふゆや たちてきつらむ
徳大寺公能
7-千載392すむ水を心なしとはたれかいふこほりそ冬のはしめをもしる
すむみつを こころなしとは たれかいふ こほりそふゆの はしめをもしる
藤原隆季
7-千載393秋のうちはあはれしらせし風のおとのはけしさそふる冬はきにけり
あきのうちは あはれしらせし かせのおとの はけしさそふる ふゆはきにけり
藤原教長
7-千載394わきも子かうはものすそのみつなみにけさこそ冬はたちはしめけれ
わきもこか うはものすその みつなみに けさこそふゆは たちはしめけれ
源有仁家小大進
7-千載395いつのまにかけひの水のこほるらむさこそ嵐のおとのかはらめ
いつのまに かけひのみつの こほるらむ さこそあらしの おとのかはらめ
藤原孝善
7-千載396と山ふく貴のかせのおときけはまたきに冬のおくそしらるる
とやまふく あらしのかせの おときけは またきにふゆの おくそしらるる
和泉式部
7-千載397はつ霜やおきはしむらん暁のかねのおとこそほのきこゆなれ
はつしもや おきはしむらむ あかつきの かねのおとこそ ほのきこゆなれ
徳大寺公能
7-千載398たかさこのをのへのかねのおとすなり暁かけて霜やおくらん
たかさこの をのへのかねの おとすなり あかつきかけて しもやおくらむ
大江匡房
7-千載399ひさきおふるをののあさちにおく霜のしろきをみれは夜やふけぬらん
ひさきおふる をののあさちに おくしもの しろきをみれは よやふけぬらむ
藤原基俊
7-千載400冬きては一よふたよを玉ささのはわけの霜のところせきまて
ふゆきては ひとよふたよを たまささの はわけのしもの ところせきまて
藤原定家
7-千載401霜さえてかれ行くをののをかへなるならのひろはに時雨ふるなり
しもさえて かれゆくをのの をかへなる ならのひろはに しくれふるなり
藤原基俊
7-千載402ねさめしてたれかきくらん此ころのこのはにかかる夜半のしくれを
ねさめして たれかきくらむ このころの このはにかかる よはのしくれを
馬内侍
7-千載403おとにさへたもとをぬらす時雨かなまきのいたやの夜はのねさめに
おとにさへ たもとをぬらす しくれかな まきのいたやの よはのねさめに
源定信(法名道舜)
7-千載404まはらなるまきのいたやにおとはしてもらぬ時雨やこのはなるらん
まはらなる まきのいたやに おとはして もらぬしくれや このはなるらむ
藤原俊成
7-千載405木葉ちるとはかりききてやみなましもらて時雨の山めくりせは
このはちる とはかりききて やみなまし もらてしくれの やまめくりせは
覚性入道親王
7-千載406ひとりねの涙やそらにかよふらむ時雨にくもるあり明の月
ひとりねの なみたやそらに かよふらむ しくれにくもる ありあけのつき
九条兼実
7-千載407うたたねは夢やうつつにかよふらむさめてもおなし時雨をそきく
うたたねは ゆめやうつつに かよふらむ さめてもおなし しくれをそきく
藤原隆信
7-千載408山めくる雲のしたにや成りぬらんすそ野の原にしくれすくなり
やまめくる くものしたにや なりぬらむ すそののはらに しくれすくなり
源頼政
7-千載409時雨れゆくをちのと山のみねつつきうつりもあへす雲かくるらん
しくれゆく をちのとやまの みねつつき うつりもあへす くもかくるらむ
源師光
7-千載410あらしふくひらのたかねのねわたしにあはれしくるる神無月かな
あらしふく ひらのたかねの ねわたしに あはれしくるる かみなつきかな
道因法師
7-千載411み山辺の時雨れてわたるかすことにかことかましき玉かしはかな
みやまへの しくれてわたる かすことに かことかましき たまかしはかな
源国信
7-千載412このはのみちるかとおもひし時雨には涙もたへぬ物にそ有りける
このはのみ ちるかとおもひし しくれには なみたもたへぬ ものにそありける
源俊頼
7-千載413ふりはへて人もとひこぬ山さとは時雨はかりそすきかてにする
ふりはへて ひともとひこぬ やまさとは しくれはかりそ すきかてにする
二条太皇大后宮肥後
7-千載414時雨れつるまやののきはのほとなきにやかてさしいる月のかけかな
しくれつる まやののきはの ほとなきに やかてさしいる つきのかけかな
藤原定家
7-千載415玉つさに涙のかかる心ちしてしくるるそらに雁のなくなる
たまつさに なみたのかかる ここちして しくるるそらに かりのなくなる
読人しらす
7-千載416みねこえにならのはつたひおとつれてやかて軒はに時雨きにけり
みねこえに ならのはつたひ おとつれて やかてのきはに しくれきにけり
源仲頼
7-千載417暁のねさめにすくる時雨こそもらても人の袖ぬらしけれ
あかつきの ねさめにすくる しくれこそ もらてもひとの そてぬらしけれ
紀康宗
7-千載418ちりはててのちさへ風をいとふかなもみちをふけるみ山へのさと
ちりはてて のちさへかせを いとふかな もみちをふける みやまへのさと
藤原盛雅
7-千載419都たにさひしさまさる木からしにみねの松かせおもひこそやれ
みやこたに さひしさまさる こからしに みねのまつかせ おもひこそやれ
藤原定頼女
7-千載420あさほらけうちの河霧たえたえにあらはれわたるせせの網代木
あさほらけ うちのかはきり たえたえに あらはれわたる せせのあしろき
藤原定頼
7-千載421やかたをのましろのたかを引きすゑてうたのとたちをかりくらしつる
やかたをの ましろのたかを ひきすゑて うたのとたちを かりくらしつる
藤原仲実
7-千載422ふる雪にゆくへも見えすはし鷹のをふさのすすのおとはかりして
ふるゆきに ゆくへもみえす はしたかの をふさのすすの おとはかりして
隆源法師
7-千載423夕まくれ山かたつきてたつ鳥のはおとにたかをあはせつるかな
ゆふまくれ やまかたつきて たつとりの はおとにたかを あはせつるかな
源俊頼
7-千載424いもかりとさほの川へをわかゆけはさよかふけぬる千鳥なくなり
いもかりと さほのかはへを わかゆけは さよかふけぬる ちとりなくなり
藤原長能
7-千載425すまのせき有明のそらになく千鳥かたふく月はなれもかなしき
すまのせき ありあけのそらに なくちとり かたふくつきは なれもかなしき
藤原俊成
7-千載426いはこゆるあら磯なみにたつ千とり心ならてやうらつたふらん
いはこゆる あらいそなみに たつちとり こころならすや うらつたふらむ
道因法師
7-千載427霜さえてさ夜もなかゐのうらさむみ明けやらすとや千鳥鳴くらん
しもさえて さよもなかゐの うらさむみ あけやらすとや ちとりなくらむ
法印静賢
7-千載428しもかれのなにはのあしのほのほのとあくる湊に千とり鳴くなり
しもかれの なにはのあしの ほのほのと あくるみなとに ちとりなくなり
賀茂成保
7-千載429かたみにやうはけの霜をはらふらむともねのをしのもろこゑになく
かたみにや うはけのしもを はらふらむ ともねのをしの もろこゑになく
源親房
7-千載430水鳥をみつのうへとやよそにみむ我もうきたる世をすくしつつ
みつとりを みつのうへとや よそにみむ われもうきたる よをすくしつつ
紫式部
7-千載431みつ鳥の玉ものとこのうき枕ふかきおもひはたれかまされる
みつとりの たまものとこの うきまくら ふかきおもひは たれかまされる
大江匡房
7-千載432このころのをしのうきねそあはれなるうはけの霜よ下のこほりよ
このころの をしのうきねそ あはれなる うはけのしもよ したのこほりよ
崇徳院
7-千載433なにはかたいりえをめくるあしかもの玉ものふねにうきねすらしも
なにはかた いりえをめくる あしかもの たまものふねに うきねすらしも
藤原顕輔
7-千載434をし鳥のうきねのとこやあれぬらんつららゐにけりこやの池水
をしとりの うきねのとこや あれぬらむ つららゐにけり こやのいけみつ
源経房
7-千載435かものゐるいりえのあしは霜かれておのれのみこそあをはなりけれ
かものゐる いりえのあしは しもかれて おのれのみこそ あをはなりけれ
道因法師
7-千載436おく霜をはらひかねてやしをれふすかつみかしたにをしのなくらん
おくしもを はらひかねてや しをれふす かつみかしたに をしのなくらむ
賀茂重保
7-千載437あしかものすたく入えの月かけはこほりそ浪のかすにくたくる
あしかもの すたくいりえの つきかけは こほりそなみの かすにくたくる
前左衛門督公光
7-千載438夜をかさねむすふ氷のしたにさヘ心ふかくもやとる月かな
よをかさね むすふこほりの したにさへ こころふかくも やとるつきかな
平実重
7-千載439いつくにか月はひかりをととむらんやとりし水も氷ゐにけり
いつくにか つきはひかりを ととむらむ やとりしみつも こほりゐにけり
左大弁親宗
7-千載440冬くれはゆくてに人はくまねともこほりそむすふ山の井の水
ふゆくれは ゆくてにひとは くまねとも こほりそむすふ やまのゐのみつ
藤原成家
7-千載441月のすむそらには雲もなかりけりうつりし水はこほりへたてて
つきのすむ そらにはくもも なかりけり うつりしみつは こほりへたてて
道因法師
7-千載442つららゐてみかける影のみゆるかなまことにいまや玉川の水
つららゐて みかけるかけの みゆるかな まことにいまや たまかはのみつ
崇徳院
7-千載443月さゆる氷のうへにあられふり心くたくる玉川のさと
つきさゆる こほりのうへに あられふり こころくたくる たまかはのさと
藤原俊成
7-千載444さゆる夜のまきのいたやのひとりねに心くたけと霰ふるなり
さゆるよの まきのいたやの ひとりねに こころくたけと あられふるなり
九条良経
7-千載445朝戸あけてみるそさひしきかた岡のならのひろはにふれるしらゆき
あさとあけて みるそさひしき かたをかの ならのひろはに ふれるしらゆき
源経信
7-千載446夜をこめて谷の戸ほそに風さむみかねてそしるきみねのはつ雪
よをこめて たにのとほそに かせさむみ かねてそしるき みねのはつゆき
崇徳院
7-千載447さえわたるよはのけしきにみやまへの雪のふかさを空にしるかな
さえわたる よはのけしきに みやまへの ゆきのふかさを そらにしるかな
藤原季通
7-千載448きゆるをや都の人はをしむらんけさ山さとにはらふしら雪
きゆるをや みやこのひとは をしむらむ けさやまさとに はらふしらゆき
藤原清輔
7-千載449霜かれのまかきのうちの雪みれはきくよりのちの花も有りけり
しもかれの まかきのうちの ゆきみれは きくよりのちの はなもありけり
藤原資隆
7-千載450たとへてもいはむかたなし月かけにうす雲かけてふれるしら雪
たとへても いはむかたなし つきかけに うすくもかけて ふれるしらゆき
覚性入道親王
7-千載451み山ちはかつふる雪にうつもれていかてかこまのあとをたつねん
みやまちは かつふるゆきに うつもれて いかてかこまの あとをたつねむ
藤原教長
7-千載452おしなへて山のしら雪つもれともしるきはこしのたかねなりけり
おしなへて やまのしらゆき つもれとも しるきはこしの たかねなりけり
藤原通俊
7-千載453と山にはしはのしたはもちりはててをちのたかねに雪ふりにけり
とやまには しはのしたはも ちりはてて をちのたかねに ゆきふりにけり
藤原顕綱
7-千載454雪ふれは谷のかけはしうつもれて梢そ冬の山ちなりける
ゆきふれは たにのかけはし うつもれて こすゑそふゆの やまちなりける
源俊頼
7-千載455雪つもるみねにふふきやわたるらむこしのみそらにまよふしら雲
ゆきつもる みねにふふきや わたるらむ こしのみそらに まよふしらくも
二条院
7-千載456浪かけはみきはの雪もきえなまし心ありてもこほる池かな
なみかけは みきはのゆきも きえなまし こころありても こほるいけかな
守覚法親王
7-千載457山さとのかきねは雪にうつもれて野へとひとつに成りにけるかな
やまさとの かきねはゆきに うつもれて のへとひとつに なりにけるかな
右のおほいまうちきみ
7-千載458あともたえしをりも雪にうつもれてかへる山ちにまとひぬるかな
あともたえ しをりもゆきに うつもれて かへるやまちに まとひぬるかな
藤原実房
7-千載459こえかねていまそこし路をかへる山雪ふる時の名にこそ有りけれ
こえかねて いまそこしちを かへるやま ゆきふるときの なにこそありけれ
源頼政
7-千載460浪まよりみえしけしきそかはりぬる雪ふりにけり松かうら島
なみまより みえしけしきそ かはりぬる ゆきふりにけり まつかうらしま
顕昭法師
7-千載461ふふきするなからの山をみわたせはをのへをこゆるしかのうらなみ
ふふきする なからのやまを みわたせは をのへをこゆる しかのうらなみ
藤原良清
7-千載462ふる雪にのきはの竹もうつもれて友こそなけれ冬の山さと
ふるゆきに のきはのたけも うつもれて ともこそなけれ ふゆのやまさと
読人不知
7-千載463こまのあとはかつふる雪にうつもれておくるる人や道まとふらん
こまのあとは かつふるゆきに うつもれて おくるるひとや みちまとふらむ
西住法師
7-千載464くれ竹のをれふすおとのなかりせは夜ふかき雪をいかてしらまし
くれたけの をれふすおとの なかりせは よふかきゆきを いかてしらまし
坂上明兼
7-千載465ましはかるをののほそ道あとたえてふかくも雪のなりにけるかな
ましはかる をののほそみち あとたえて ふかくもゆきの なりにけるかな
藤原為季
7-千載466雪ふれは木木のこすゑにさきそむるえたよりほかの花もちりけり
ゆきふれは ききのこすゑに さきそむる えたよりほかの はなもちりけり
俊恵法師
7-千載467ふるままに跡たえぬれはすすか山雪こそせきのとさしなりけれ
ふるままに あとたえぬれは すすかやま ゆきこそせきの とさしなりけれ
内大臣
7-千載468山さとのかきねの梅はさきにけりかはかりこそは春もにほはめ
やまさとの かきねのうめは さきにけり かはかりこそは はるもにほはめ
天台座主明快
7-千載469かきくらしこし路もみえすふる雪にいかてかとしのかへり行くらん
かきくらし こしちもみえす ふるゆきに いかてかとしの かへりゆくらむ
藤原長実
7-千載470さりともとなけきなけきてすくしつるとしもこよひにくれはてにけり
さりともと なけきなけきて すくしつる としもこよひに くれはてにけり
前左衛門督公光
7-千載471あはれにもくれゆくとしのひかすかなかへらむことは夜のまとおもふに
あはれにも くれゆくとしの ひかすかな かへらむことは よのまとおもふに
相模
7-千載472かすならぬ身にはつもらぬとしならはけふのくれをもなけかさらまし
かすならぬ みにはつもらぬ としならは けふのくれをも なけかさらまし
惟宗広言
7-千載473をしめともはかなくくれてゆく年のしのふむかしにかへらましかは
をしめとも はかなくくれて ゆくとしの しのふむかしに かへらましかは
源光行
7-千載474一とせははかなき夢のここちしてくれぬるけふそおとろかれける
ひととせは はかなきゆめの ここちして くれぬるけふそ おとろかれける
前律師俊宗
7-千載475みやこにておくりむかふといそきしをしらてや年のけふはくれなん
みやこにて おくりむかふと いそきしを しりてやとしの けふはくれなむ
平親範
7-千載476むかしみし心はかりをしるへにておもひそおくるいきの松原
むかしみし こころはかりを しるへにて おもひそおくる いきのまつはら
藤原実方離別
7-千載477わかれよりまさりてをしき命かなきみに二たひあはむとおもへは
わかれより まさりてをしき いのちかな きみにふたたひ あはむとおもへは
藤原公任離別
7-千載478なきよわるまかきの虫もとめかたき秋のわかれやかなしかるらん
なきよわる まかきのむしも とめかたき あきのわかれや かなしかるらむ
紫式部離別
7-千載479かへりこむほともさためぬわかれちは都のてふりおもひいてにせよ
かへりこむ ほともさためぬ わかれちは みやこのてふり おもひいてにせよ
藤原公実離別
7-千載480行すゑをまつへき身こそおいにけれ別はみちのとほきのみかは
ゆくすゑを まつへきみこそ おいにけれ わかれはみちの とほきのみかは
大江匡房離別
7-千載481わするなよかへる山ちにあとたえて日かすは雪のふりつもるとも
わするなよ かへるやまちに あとたえて ひかすはゆきの ふりつもるとも
源俊頼離別
7-千載482かへりこむほとをはいつといひおかし定なき身は人たのめなり
かへりこむ ほとをはいつと いひおかし さためなきみは ひとたのめなり
行尊離別
7-千載483たのむれと心かはりてかへりこはこれそやかての別なるへき
たのむれと こころかはりて かへりこは これそやかての わかれなるへき
藤原顕輔離別
7-千載484かきりあらむ道こそあらめこの世にて別るへしとはおもはさりしを
かきりあらむ みちこそあらめ このよにて わかるへしとは おもはさりしを
上西門院兵衛離別
7-千載485行くきみをととめまほしくおもふかな我も恋しき都なれとも
ゆくきみを ととめまほしく おもふかな われもこひしき みやこなれとも
藤原経衡離別
7-千載486年へたる人の心をおもひやれ君たにこふる花の都を
としへたる ひとのこころを おもひやれ きみたにこふる はなのみやこを
太宰大弐資通離別
7-千載487もろともに行人もなき別ちに涙はかりそとまらさりける
もろともに ゆくひともなき わかれちに なみたはかりそ とまらさりける
道命法師離別
7-千載488なからへてあるへき身としおもはねはわするなとたにえこそちきらね
なからへて あるへきみとし おもはねは わするなとたに えこそちきらね
天台座主源心離別
7-千載489あはれとしおもはむ人は別れしを心は身よりほかのものかは
あはれとし おもはむひとは わかれしを こころはみより ほかのものかは
読人不知離別
7-千載490別れてもおなしみやこにありしかはいとこのたひの心ちやはせし
わかれても おなしみやこに ありしかは いとこのたひの ここちやはせし
和泉式部離別
7-千載491しのへともこのわかれちをおもふにはから紅の涙こそふれ
しのへとも このわかれちを おもふには からくれなゐの なみたこそふれ
成尋法師母離別
7-千載492心をもきみをもやとにととめおきて涙とともにいつるたひかな
こころをも きみをもやとに ととめおきて なみたとともに いつるたひかな
僧都覚雅離別
7-千載493まてといひてたのめし秋もすきぬれは帰る山ちの名そかひもなき
まてといひて たのめしあきも すきぬれは かへるやまちの なそかひもなき
西住法師離別
7-千載494をしへおくかたみをふかくしのはなん身はあを海の浪になかれぬ
をしへおく かたみをふかく しのはなむ みはあをうみの なみになかれぬ
西園寺公経離別
7-千載495あらすのみなりゆくたひの別ちにてなれしことのねこそかはらね
あらすのみ なりゆくたひの わかれちに てなれしことの ねこそかはらね
右大臣離別
7-千載496わするなよをはすて山の月みても都をいつるあり明のそら
わするなよ をはすてやまの つきみても みやこをいつる ありあけのそら
右衛門督頼実離別
7-千載497わかれても心へたつなたひころもいくへかさなる山ちなりとも
わかれても こころへたつな たひころも いくへかさなる やまちなりとも
藤原定家離別
7-千載498有明の月もしみつにやとりけりこよひはこえしあふ坂のせき
ありあけの つきもしみつに やとりけり こよひはこえし あふさかのせき
藤原範永羈旅
7-千載499はりまちやすまのせきやのいたひさし月もれとてやまはらなるらん
はりまちや すまのせきやの いたひさし つきもれとてや まはらなるらむ
源師俊羈旅
7-千載500あたら夜をいせのはま荻をりしきていも恋しらにみつる月かな
あたらよを いせのはまをき をりしきて いもこひしらに みつるつきかな
藤原基俊羈旅
7-千載501浪のうへにあり明の月をみましやはすまのせきやにとまらさりせは
なみのうへに ありあけのつきを みましやは すまのせきやに とまらさりせは
源国信羈旅
7-千載502よなよなのたひねのとこに風さえてはつ雪ふれるさやの中山
よなよなの たひねのとこに かせさえて はつゆきふれる さやのなかやま
三条実行羈旅
7-千載503水のうへにうきねをしてそおもひしるかかれはをしも鳴くにそ有りける
みつのうへに うきねをしてそ おもひしる かかれはをしも なくにそありける
和泉式部羈旅
7-千載504おもふことなくてそみましよさの海のあまのはしたて都なりせは
おもふこと なくてそみまし よさのうみの あまのはしたて みやこなりせは
赤染衛門羈旅
7-千載505宮木ひくあつさの杣をかきわけてなにはのうらをとほさかりぬる
みやきひく あつさのそまを かきわけて なにはのうらを とほさかりぬる
能因法師羈旅
7-千載506すみのえにまつらむとのみなけきつつ心つくしにとしをふるかな
すみのえに まつらむとのみ なけきつつ こころつくしに としをふるかな
津守有基羈旅
7-千載507わかれゆく都のかたの恋しきにいさむすひみむ忘井の水
わかれゆく みやこのかたの こひしきに いさむすひみむ わすれゐのみつ
斎宮甲斐羈旅
7-千載508さ夜ふかき雲ゐに雁もおとすなりわれひとりやは旅の空なる
さよふかき くもゐのかりも おとすなり われひとりやは たひのそらなる
源雅光羈旅
7-千載509かり衣そての涙にやとる夜は月もたひねの心ちこそすれ
かりころも そてのなみたに やとるよは つきもたひねの ここちこそすれ
崇徳院羈旅
7-千載510松かねの枕もなにかあたならむ玉のゆかとてつねのとこかは
まつかねの まくらもなにか あたならむ たまのゆかとて つねのとこかは
崇徳院羈旅
7-千載511花さきし野へのけしきも,かれぬこれにてそしる旅の日かすは
はなさきし のへのけしきも しもかれぬ これにてそしる たひのひかすは
徳大寺公能羈旅
7-千載512さらしなやをはすて山に月みると都にたれかわれをしるらん
さらしなや をはすてやまに つきみると みやこにたれか われをしるらむ
藤原季通羈旅
7-千載513道すから心もそらになかめやるみやこの山の雲かくれぬる
みちすから こころもそらに なかめやる みやこのやまの くもかくれぬる
待賢門院堀川羈旅
7-千載514ささのはをゆふ暮なからをりしけは玉ちるたひのくさ枕かな
ささのはを ゆふつゆなから をりしけは たまちるたひの くさまくらかな
同院安芸羈旅
7-千載515うらつたふいそのとまやのかち枕ききもならはぬ浪のおとかな
うらつたふ いそのとまやの かちまくら ききもならはぬ なみのおとかな
藤原俊成羈旅
7-千載516わたのはらはるかに浪をへたてきて都にいてし月をみるかな
わたのはら はるかになみを へたてきて みやこにいてし つきをみるかな
西行法師羈旅
7-千載517さためなきうき世の中としりぬれはいつこも旅の心ちこそすれ
さためなき うきよのなかと しりぬれは いつこもたひの ここちこそすれ
覚法法親王羈旅
7-千載518おほつかないかになるみのはてならむ行へもしらぬたひのかなしさ
おほつかな いかになるみの はてならむ ゆくへもしらぬ たひのかなしさ
源師仲羈旅
7-千載519日をへつつゆくにはるけき道なれとすゑをみやことおもはましかは
ひをへつつ ゆくにはるけき みちなれと すゑをみやこと おもはましかは
左京大夫修範羈旅
7-千載520かくはかりあはれならしをしくるとも磯の松かねまくらならすは
かくはかり あはれならしを しくるとも いそのまつかね まくらならすは
読人不知羈旅
7-千載521月みれはまつ都こそこひしけれまつらんとおもふ人はなけれと
つきみれは まつみやここそ こひしけれ まつらむとおもふ ひとはなけれと
道因法師羈旅
7-千載522あふさかの関には人もなかりけりいはまの水のもるにまかせて
あふさかの せきにはひとも なかりけり いはまのみつの もるにまかせて
祝部成仲羈旅
7-千載523こえて行くともやなからむあふ坂のせきのし水のかけはなれなは
こえてゆく ともやなからむ あふさかの せきのしみつの かけはなれなは
源定房羈旅
7-千載524たひ衣あさたつをのの露しけみしほりもあへすしのふもちすり
たひころも あさたつをのの つゆしけみ しほりもあへす しのふもちすり
前大僧正覚忠羈旅
7-千載525風のおとにわきそかねまし松かねのまくらにもらぬ時雨なりせは
かせのおとに わきそかねまし まつかねの まくらにもらぬ しくれなりせは
藤原実房羈旅
7-千載526もしほ草しきつのうらのねさめには時雨にのみや袖はぬれける
もしほくさ しきつのうらの ねさめには しくれにのみや そてはぬれける
俊恵法師羈旅
7-千載527玉もふくいそやかしたにもる時雨たひねのそてもしほたれよとや
たまもふく いそやかしたに もるしくれ たひねのそても しほたれよとや
源仲綱羈旅
7-千載528草枕おなしたひねの袖にまた夜はのしくれもやとはかりけり
くさまくら おなしたひねの そてにまた よはのしくれも やとはかりけり
太皇太后宮小侍従羈旅
7-千載529はるはるとつもりのおきをこきゆけはきしの松かせとほさかるなり
はるはると つもりのおきを こきゆけは きしのまつかせ とほさかるなり
九条兼実羈旅
7-千載530わたのはらしほちはるかにみわたせは雲と浪とはひとつなりけり
わたのはら しほちはるかに みわたせは くもとなみとは ひとつなりけり
難波頼輔羈旅
7-千載531あはれなる野しまかさきのいほりかな露おく袖に浪もかけけり
あはれなる のしまかさきの いほりかな つゆおくそてに なみもかけけり
藤原俊成羈旅
7-千載532よしさらは磯のとまやに旅ねせん浪かけすとてぬれぬ袖かは
よしさらは いそのとまやに たひねせむ なみかけすとて ぬれぬそてかは
守覚法親王羈旅
7-千載533たひのよに又たひねして草まくらゆめのうちにも夢をみるかな
たひのよに またたひねして くさまくら ゆめのうちにも ゆめをみるかな
慈円羈旅
7-千載534草まくらかりねの夢にいくたひかなれし都にゆきかへるらん
くさまくら かりねのゆめに いくたひか なれしみやこに ゆきかへるらむ
左兵衛督隆房羈旅
7-千載535いつもかく有あけの月のあけかたは物やかなしきすまの関守
いつもかく ありあけのつきの あけかたは ものやかなしき すまのせきもり
法眼兼覚羈旅
7-千載536たひねするすまのうらちのさよ千とりこゑこそ袖の浪はかけけれ
たひねする すまのうらちの さよちとり こゑこそそての なみはかけけれ
藤原家隆羈旅
7-千載537かくしつつつひにとまらむよもきふのおもひしらるる草枕かな
かくしつつ つひにとまらむ よもきふの おもひしらるる くさまくらかな
円玄法師羈旅
7-千載538たひねするこのした露の袖にまた時雨ふるなりさよの中山
たひねする このしたつゆの そてにまた しくれふるなり さよのなかやま
律師覚弁羈旅
7-千載539たひねするいほりをすくるむら時雨なこりまてこそ袖はぬれけれ
たひねする いほりをすくる むらしくれ なこりまてこそ そてはぬれけれ
藤原資忠羈旅
7-千載540あられもるふはのせきやにたひねして夢をもえこそとほささりけれ
あられもる ふはのせきやに たひねして ゆめをもえこそ とほささりけれ
大中臣親守羈旅
7-千載541かくはかりうき身のほともわすられて猶恋しきは都なりけり
かくはかり うきみのほとも わすられて なほこひしきは みやこなりけり
平康頼羈旅
7-千載542さつまかたおきの小島にわれありとおやにはつけよやへのしほかせ
さつまかた おきのこしまに われありと おやにはつけよ やへのしほかせ
平康頼羈旅
7-千載543あつまちも年もすゑにや成りぬらん雪ふりにけり白川のせき
あつまちも としもすゑにや なりぬらむ ゆきふりにけり しらかはのせき
僧都印性羈旅
7-千載544いはねふみ嶺のしひしはをりしきて雲にやとかるゆふくれのそら
いはねふみ みねのしひしは をりしきて くもにやとかる ゆふくれのそら
寂蓮法師羈旅
7-千載545春くれはちりにし花もさきにけりあはれ別のかからましかは
はるくれは ちりにしはなも さきにけり あはれわかれの かからましかは
具平親王哀傷
7-千載546行きかへり春やあはれとおもふらん契りし人の又もあはねは
ゆきかへり はるやあはれと おもふらむ ちりにしひとの またもあはねは
藤原公任哀傷
7-千載547うゑおきし人のかたみとみぬたにもやとのさくらをたれかをしまぬ
うゑおきし ひとのかたみと みぬたにも やとのさくらを たれかをしまぬ
藤原範永哀傷
7-千載548をしきかなかたみにきたるふち衣たた此ころにくちはてぬへし
をしきかな かたみにきたる ふちころも たたこのころに くちはてぬへし
和泉式部哀傷
7-千載549くちなしのそのにやわか身入りにけんおもふことをもいはてやみぬる
くちなしの そのにやわかみ いりにけむ おもふことをも いはてやみぬる
藤原道信哀傷
7-千載550おもひかねきのふのそらをなかむれはそれかとみゆる雲たにもなし
おもひかね きのふのそらを なかむれは それかとみゆる くもたにもなし
藤原頼孝哀傷
7-千載551うつつとも夢ともえこそわきはてねいつれの時をいつれとかせん
うつつとも ゆめともえこそ わきはてね いつれのときを いつれとかせむ
花山院哀傷
7-千載552さくら花みるにもかなし中中にことしの春はさかすそあらまし
さくらはな みるにもかなし なかなかに ことしのはるは さかすそあらまし
源道済哀傷
7-千載553おくれしとおもへとしなぬわかみかなひとりやしらぬ道をゆくらん
おくれしと おもへとしなぬ わかみかな ひとりやしらぬ みちをゆくらむ
道命法師哀傷
7-千載554おいらくの命のあまりなかくして君に二たひわかれぬるかな
おいらくの いのちのあまり なかくして きみにふたたひ わかれぬるかな
藤原長能哀傷
7-千載555一こゑも君につけなんほとときすこの五月雨はやみにまとふと
ひとこゑも きみにつけなむ ほとときす このさみたれは やみにまとふと
上東門院哀傷
7-千載556あやめ草なみたの玉にぬきかへてをりならぬねを猶そかけつる
あやめくさ なみたのたまに ぬきかへて をりならぬねを なほそかけつる
弁乳母哀傷
7-千載557玉ぬきしあやめのくさはありなからよとのはあれん物とやはみし
たまぬきし あやめのくさは ありなから よとのはあれむ ものとやはみし
江侍従哀傷
7-千載558かなしさをかつはおもひもなくさめよたれもつひにはとまるへきかは
かなしさを かつはおもひも なくさめよ たれもつひには とまるへきかは
大弐三位哀傷
7-千載559たれもみなとまるへきにはあらねともおくるるほとは猶そかなしき
たれもみな とまるへきには あらねとも おくるるほとは なほそかなしき
藤原長家哀傷
7-千載560おほかたにさやけからぬか月かけは涙くもらぬ人にみせはや
おほかたに さやけからぬか つきかけは なみたくもらぬ ひとにみせはや
承香殿女御哀傷
7-千載561かなしさにそへても物のかなしきはわかれのうちの別なりけり
かなしさに そへてもものの かなしきは わかれのうちの わかれなりけり
小弁命帰哀傷
7-千載562うきもののさすかにをしきことしかなとほさかりなん君か別に
うきものの さすかにをしき ことしかな とほさかりなむ きみかわかれに
前中宮宣旨哀傷
7-千載563かなしさはいととそまさる別れにしことしもけふをかき、りとおもへは
かなしさは いととそまさる わかれにし ことしもけふを かきりとおもへは
藤原長家哀傷
7-千載564いつかたの雲ちとしらはたつねましつらはなれけん雁かゆくへを
いつかたの くもちとしらは たつねまし つらはなれけむ かりかゆくへを
紫式部哀傷
7-千載565としをへて君かみなれしますかかみむかしの影はとまらさりけり
としをへて きみかみなれし ますかかみ むかしのかけは とまらさりけり
藤原道信哀傷
7-千載566つねよりもまたぬれそひしたもとかなむかしをかけておちし涙に
つねよりも またぬれそひし たもとかな むかしをかけて おちしなみたに
赤染衛門哀傷
7-千載567うつつともおもひわかれてすくるまにみしよの夢をなにかたりけん
うつつとも おもひわかれて すくるまに みしよのゆめを なにかたりけむ
上東門院哀傷
7-千載568みやこへとおもふにつけてかなしきはたれかはいまは我をまつらん
みやこへと おもふにつけて かなしきは たれかはいまは われをまつらむ
源実基哀傷
7-千載569もろともに春の花をはみしものを人におくるる秋そかなしき
もろともに はるのはなをは みしものを ひとにおくるる あきそかなしき
平雅康哀傷
7-千載570花とみし人はほとなくちりにけりわかみも風をまつとしらなん
はなとみし ひとはほとなく ちりにけり わかみもかせを まつとしらなむ
大江匡房哀傷
7-千載571かわくまもなきすみそめのたもとかなくちなはなにをかたみにもせん
かわくよも なきすみそめの たもとかな くちなはなにを かたみにもせむ
藤原顕綱哀傷
7-千載572すみそめのたもとにかかるねをみれはあやめもしらぬ涙なりけり
すみそめの たもとにかかる ねをみれは あやめもしらぬ なみたなりけり
藤原俊忠哀傷
7-千載573あやめ草うきねをみても涙のみかくらん袖をおもひこそやれ
あやめくさ うきねをみても なみたのみ かからむそてを おもひこそやれ
源国信哀傷
7-千載574おもひやれむなしきとこをうちはらひむかしをしのふ袖のしつくを
おもひやれ むなしきとこを うちはらひ むかしをしのふ そてのしつくを
藤原基俊哀傷
7-千載575むねにみつおもひをたにもはるかさて煙とならむことそかなしき
むねにみつ おもひをたにも はるかさて けふりとならむ ことそかなしき
贈皇太后子哀傷
7-千載576もろともに有明の月をみしものをいかなるやみに君まとふらん
もろともに ありあけのつきを みしものを いかなるやみに きみまとふらむ
藤原有信哀傷
7-千載577うちならすかねのおとにやなかき夜もあけぬなりとはおもひしるらん
うちならす かねのおとにや なかきよも あけぬなりとは おもひしるらむ
慶範法師哀傷
7-千載578かきりありて人はかたかたわかるとも涙をたにもととめてしかな
かきりありて ひとはかたかた わかるとも なみたをたにも ととめてしかな
崇徳院哀傷
7-千載579ちりちりにわかるるけふのかなしさに涙しもこそとまらさりけれ
ちりちりに わかるるけふの かなしさに なみたしもこそ とまらさりけれ
上西門院兵衛哀傷
7-千載580かなしさをこれよりけにやおもはましかねてならはぬ別なりせは
かなしさを これよりけにや おもはまし かねてならはぬ わかれなりせは
静厳法師哀傷
7-千載581すみ染の色はいつれもかはらぬをぬれぬや君か衣なるらん
すみそめの いろはいつれも かはらぬを ぬれぬやきみか ころもなるらむ
天台座主勝範哀傷
7-千載582つねよりもむつましきかなほとときすしての山ちのともとおもへは
つねよりも むつましきかな ほとときす してのやまちの ともとおもへは
鳥羽院哀傷
7-千載583心さしふかくそめてしふちころもきつる日かすのあさくもあるかな
こころさし ふかくそめてし ふちころも きつるひかすの あさくもあるかな
久我内のおほいまうちきみ哀傷
7-千載584たくひなくうきことみえしやとなれとそもわかるるはかなしかりけり
たくひなく うきことみえし やとなれと そもわかるるは かなしかりけり
大宮前おほきおほいまうち君哀傷
7-千載585かそふれはむかしかたりに成りにけり別はいまの心ちすれとも
かそふれは むかしかたりに なりにけり わかれはいまの ここちすれとも
源有仁の室哀傷
7-千載586たなはたにことしはかさぬしひしはの袖しもことに露けかりけり
たなはたに ことしはかさぬ しひしはの そてしもことに つゆけかりけり
藤原実家哀傷
7-千載587しひしはの露けき袖は七夕もかさぬにつけてあはれとやみん
しひしはの つゆけきそては たなはたも かさぬにつけて あはれとやみむ
三位(右大臣母)哀傷
7-千載588故郷にけふこさりせはほとときすたれかむかしを恋ひてなかまし
ふるさとに けふこさりせは ほとときす たれとむかしを こひてなかまし
覚性入道親王哀傷
7-千載589つねにみし君かみゆきをけふとへはかへらぬたひときくそかなしき
つねにみし きみかみゆきを けふとへは かへらぬたひと きくそかなしき
法印澄憲哀傷
7-千載590をしへおくそのことのはをみるたひに又とふかたのなきそかなしき
をしへおく そのことのはを みるたひに またとふかたの なきそかなしき
右大臣哀傷
7-千載591とりへ山おもひやるこそかなしけれひとりやこけの下にくちなん
とりへやま おもひやるこそ かなしけれ ひとりやこけの したにくちなむ
藤原成範哀傷
7-千載592かきり有りて二重はきねはふち衣なみたはかりをかさねつるかな
かきりありて ふたへはきねは ふちころも なみたはかりを かさねつるかな
藤原貞憲哀傷
7-千載593三とせまてなれしは夢の心ちしてけふそうつつの別なりける
みとせまて なれしはゆめの ここちして けふそうつつの わかれなりける
藤原季能哀傷
7-千載594いりぬるかあかぬ別のかなしさをおもひしれとや山のはの月
いりぬるか あかぬわかれの かなしさを おもひしれとや やまのはのつき
僧都印性哀傷
7-千載595野へみれはむかしのあとやたれならむその世もしらぬ苔のしたかな
のへみれは むかしのあとや たれならむ そのよもしらぬ こけのしたかな
左京大夫修範哀傷
7-千載596なにことのふかき思ひにいつみ川そこの玉もとしつみはてけん
なにことの ふかきおもひに いつみかは そこのたまもと しつみはてけむ
僧都範玄哀傷
7-千載597おもひきやけふうちならすかねのおとにつたへしふえのねをそへんとは
おもひきや けふうちならす かねのおとに つたへしふえの ねをそへむとは
法印成清哀傷
7-千載598さきたたむことをうしとそおもひしにおくれても又かなしかりけり
さきたたむ ことをうしとそ おもひしに おくれてもまた かなしかりけり
静縁法師哀傷
7-千載599まつらむとおもははいかにいそかましあとをみにたにまとふ心を
まつらむと おもははいかに いそかまし あとをみにたに まとふこころを
藤原親盛哀傷
7-千載600山のはにたなひく雲やゆくへなくなりし煙のかたみなるらん
やまのはに たなひくくもや ゆくへなく なりしけふりの かたみなるらむ
覚蓮法師(俗名隆行)哀傷
7-千載601年をへてむかしをしのふ心のみうきにつけてもふかくさのさと
としをへて むかしをしのふ こころのみ うきにつけても ふかくさのさと
法眼長真哀傷
7-千載602たらちめやとまりて我ををしまましかはるにかはる命なりせは
たらちめや とまりてわれを をしままし かはるにかはる いのちなりせは
顕昭法師哀傷
7-千載603もろともになかめなかめて秋の月ひとりにならむことそかなしき
もろともに なかめなかめて あきのつき ひとりにならむ ことそかなしき
西行法師哀傷
7-千載604みたれすとをはりきくこそうれしけれさても別はなくさまねとも
みたれすと をはりきくこそ うれしけれ さてもわかれは なくさまねとも
寂然法師哀傷
7-千載605この世にて又あふましきかなしさにすすめし人そ心みたれし
このよにて またあふましき かなしさに すすめしひとそ こころみたれし
西行法師哀傷
7-千載606いく千代とかきらさりけるくれ竹や君かよはひのたくひなるらん
いくちよと かきらさりける くれたけや きみかよはひの たくひなるらむ
7-千載607うゑてみる籬の竹のふしことにこもれる千代は君そかそへん
うゑてみる まかきのたけの ふしことに こもれるちよは きみそかそへむ
後三条内大臣
7-千載608わか友と君かみかきのくれ竹は千代にいく世のかけをそふらん
わかともと きみかみかきの くれたけは ちよにいくよの かけをそふらむ
藤原俊成
7-千載609君か代はあまのかこ山いつる日のてらむかきりはつきしとそ思ふ
きみかよは あまのかこやま いつるひの てらむかきりは つきしとそおもふ
藤原伊通
7-千載610君かためみたらし川を若水にむすふや千代のはしめなるらん
きみかため みたらしかはを わかみつに むすふやちよの はしめなるらむ
源俊頼
7-千載611千とせまてをりてみるへきさくら花こすゑはるかにさきそめにけり
ちとせまて をりてみるへき さくらはな こすゑはるかに さきそめにけり
堀河院
7-千載612ほりうゑしわかきのむめにさく花は年もかきらぬにほひなりけり
ほりうゑし わかきのうめに さくはなは としもかきらぬ にほひなりけり
藤原忠教
7-千載613千とせすむ池のみきはのやへさくらかけさヘそこにかさねてそみる
ちとせすむ いけのみきはの やへさくら かけさへそこに かさねてそみる
藤原俊忠
7-千載614神代よりひさしかれとやうこきなきいはねに松のたねをまきけん
かみよより ひさしかれとや うこきなき いはねにまつの たねをまきけむ
源俊頼
7-千載615おちたきつやそうち川のはやきせにいはこす浪は千代の数かも
おちたきつ やそうちかはの はやきせに いはこすなみは ちよのかすかも
源俊頼
7-千載616ちはやふるいつきの宮のありす川松とともにそかけはすむへき
ちはやふる いつきのみやの ありすかは まつとともにそ かけはすむへき
京極前太政大臣
7-千載617行すゑをまつそひさしき君かへん千よのはしめの子日とおもへは
ゆくすゑを まつそひさしき きみかへむ ちよのはしめの ねのひとおもへは
二条太皇大后宮肥後
7-千載618おく山のやつをのつはき君か代にいくたひかけをかへんとすらん
おくやまの やつをのつはき きみかよに いくたひかけを かへむとすらむ
藤原基俊
7-千載619君か代をなか月にしもしら菊のさくや千とせのしるしなるらん
きみかよを なかつきにしも しらきくの さくやちとせの しるしなるらむ
西園寺公経
7-千載620やへきくのにほふにしるし君か代は千とせの秋をかさぬへしとは
やへきくの にほひにしるし きみかよは ちとせのあきを かさぬへしとは
源有仁
7-千載621ちはやふる神代のことも人ならは問はましものをしらきくのはな
ちはやふる かみよのことも ひとならは とはましものを しらきくのはな
三条実行
7-千載622ふく風も木木のえたをはならさねと山はやちよのこゑそきこゆる
ふくかせも ききのえたをは ならさねと やまはやちよの こゑそきこゆる
崇徳院
7-千載623千代ふへきはしめの春としりかほにけしきことなる花さくらかな
ちよふへき はしめのはると しりかほに けしきことなる はなさくらかな
左大臣
7-千載624しら雲にはねうちつけてとふたつのはるかに千代のおもほゆるかな
しらくもに はねうちつけて とふたつの はるかにちよの おもほゆるかな
二条院
7-千載625うこきなくなほ万代そたのむへきはこやの山のみねの松かけ
うこきなく なほよろつよそ たのむへき はこやのやまの みねのまつかけ
式子内親王
7-千載626ももちたひうらしまの子はかへるともはこやの山はときはなるへし
ももちたひ うらしまのこは かへるとも はこやのやまは ときはなるへし
藤原俊成
7-千載627いく千代とかきらぬたつのこゑすなり雲井のちかきやとのしるしに
いくちよと かきらぬたつの こゑすなり くもゐのちかき やとのしるしに
徳大寺公能
7-千載628千とせふるをのへの小松うつしうゑて万代まてのともとこそみめ
ちとせふる をのへのこまつ うつしうゑて よろつよまての ともとこそみめ
藤原忠通
7-千載629万代もすむへきやとにうゑつれは松こそ君かかけをたのまめ
よろつよも すむへきやとに うゑつれは まつこそきみか かけをたのまめ
源通能
7-千載630ふえのねの万代まてときこえしを山もこたふる心ちせしかな
ふえのねの よろつよまてと きこえしを やまもこたふる ここちせしかな
右おほいまうちきみ
7-千載631むれてゐるたつのけしきにしるきかな千とせすむへきやとの池水
むれてゐる たつのけしきに しるきかな ちとせすむへき やとのいけみつ
藤原顕季
7-千載632みつかきのかつらをうつすやとなれは月みむことそひさしかるへき
みつかきの かつらをうつす やとなれは つきみむことそ ひさしかるへき
賀茂成助
7-千載633君か代にくらへていはは松山のまつのはかすはすくなかりけり
きみかよに くらへていはは まつやまの まつのはかすは すくなかりけり
藤原孝善
7-千載634千代とのみおなしことをそしらふなるなかたの山のみねの松かせ
ちよとのみ おなしことをそ しらふなる なかたのやまの みねのまつかせ
善滋為政
7-千載635ちはやふる神田のさとのいねなれは月日とともにひさしかるへし
ちはやふる かみたのさとの いねなれは つきひとともに ひさしかるへし
大江匡房
7-千載636すへらきのすゑさかゆへきしるしにはこたかくそなるわか松のもり
すめらきの すゑさかゆへき しるしには こたかくそなる わかまつのもり
藤原永範
7-千載637君か代のかすにはしかしかきりなきちさかのうらのまさこなりとも
きみかよの かすにはしかし かきりなき ちさかのうらの まさこなりとも
藤原俊憲
7-千載638あめつちのきはめもしらぬ御代なれは雲田のむらのいねをこそつけ
あめつちの きはめもしらぬ みよなれは くもたのむらの いねをこそつけ
藤原範兼
7-千載639霜ふれとさかえこそませ君か代にあふさか山のせきの杉もり
しもふれと さかえこそませ きみかよに あふさかやまの せきのすきもり
藤原永範
7-千載640ときはなるみかみの山のすきむらややほ万代のしるしなるらん
ときはなる みかみのやまの すきむらや やほよろつよの しるしなるらむ
藤原季経
7-千載641なにはえのもにうつもるる玉かしはあらはれてたに人をこひはや
なにはえの もにうつもるる たまかしは あらはれてたに ひとをこひはや
源俊頼恋一
7-千載642またしらぬ人をはしめてこふるかなおもふ心よみちしるへせよ
またしらぬ ひとをはしめて こふるかな おもぬこころよ みちしるへせよ
前太后宮肥後恋一
7-千載643わりなしやおもふ心の色ならはこれそそれともいはましものを
わりなしや おもふこころの いろならは これそそれとも いはましものを
河内恋一
7-千載644おもふよりいつしかぬるるたもとかな涙そ恋のしるへなりける
おもふより いつしかぬるる たもとかな なみたそこひの しるへなりける
後二条関白家筑前恋一
7-千載645もくつ火のいそまをわくるいさり船ほのかなりしにおもひそめてき
もくつひの いそまをわくる いさりふね ほのかなりしに おもひそめてき
藤原長能恋一
7-千載646いかにせんおもひを人にそめなから色に出てしとしのふ心を
いかにせむ おもひをひとに そめなから いろにいてしと しのふこころを
延久三親王(輔仁)恋一
7-千載647ひとめみし人はたれともしら雲のうはのそらなる恋もするかな
ひとめみし ひとはたれとも しらくもの うはのそらなる こひもするかな
徳大寺左大臣恋一
7-千載648つつめとも涙にそてのあらはれて恋すと人にしられぬるかな
つつめとも なみたにそての あらはれて こひすとひとに しられぬるかな
源雅定恋一
7-千載649つつめともたへぬ思ひになりぬれは問はすかたりのせまほしきかな
つつめとも たへぬおもひに なりぬれは とはすかたりの せまほしきかな
藤原成通恋一
7-千載650おほかたの恋する人にききなれてよのつねのとや君おもふらん
おほかたの こひするひとに ききなれて よのつねのとや きみおもふらむ
徳大寺公能恋一
7-千載651思へともいはての山に年をへてくちやはてなん谷の埋木
おもへとも いはてのやまに としをへて くちやはてなむ たにのうもれき
藤原顕輔恋一
7-千載652たかさこのをのへの松にふくかせのおとにのみやはききわたるへき
たかさこの をのへのまつに ふくかせの おとにのみやは ききわたるへき
藤原顕輔恋一
7-千載653あらいそのいはにくたくる浪なれやつれなき人にかくる心は
あらいその いはにくたくる なみなれや つれなきひとに かくるこころは
待賢門院堀河恋一
7-千載654いはまゆく山のした水せきわひてもらす心のほとをしらなん
いはまゆく やましたみつを せきわひて もらすこころの ほとをしらなむ
上西門院兵衛恋一
7-千載655みこもりにいはてふるやのしのふ草しのふとたにもしらせてしかな
みこもりに いはてふるやの しのふくさ しのふとたにも しらせてしかな
藤原基俊恋一
7-千載656おもふこといはまにまきし松のたね千代とちきらむ今はねさせよ
おもふこと いはまにまきし まつのたね ちよとちきらむ いまはねさせよ
藤原長能恋一
7-千載657おほつかなうるまの島の人なれやわかことのはをしらぬかほなる
おほつかな うるまのしまの ひとなれや わかことのはを しらぬかほなる
藤原公任恋一
7-千載658人しれす物おもふころの袖みれは雨も涙もわかれさりけり
ひとしれす ものおもふころの そてみれは あめもなみたも わかれさりけり
藤原頼宗恋一
7-千載659たちしよりはれすも物を思ふかななき名や野への霞なるらん
たちしより はれすもものを おもふかな なきなやのへの かすみなるらむ
源俊頼恋一
7-千載660なけきあまりしらせそめつることのはも思ふはかりはいはれさりけり
なけきあまり しらせそめつる ことのはも おもふはかりは いはれさりけり
源明賢恋一
7-千載661人しれぬこのはのしたのむもれ水おもふ心をかきなかさはや
ひとしれぬ このはのしたの うもれみつ おもふこころを かきなかさはや
右のおほいまうちきみ恋一
7-千載662恋しともいはぬにぬるるたもとかな心をしるは涙なりけり
こひしとも いはぬにぬるる たもとかな こころをしるは なみたなりけり
久我内大臣恋一
7-千載663おもへともいはてしのふのすり衣こころのうちにみたれぬるかな
おもへとも いはてしのふの すりころも こころのうちに みたれぬるかな
源頼政恋一
7-千載664みちのくのしのふもちすりしのひつつ色には出てしみたれもそする
みちのくの しのふもちすり しのひつつ いろにはいてし みたれもそする
寂然法師恋一
7-千載665なにはめのすくもたく火のしたこかれうへはつれなきわかみなりけり
なにはめの すくもたくひの したこかれ うへはつれなき わかみなりけり
藤原清輔恋一
7-千載666こひしなは世のはかなきにいひおきてなきあとまても人にしられし
こひしなは よのはかなきに いひおきて なきあとまても ひとにしられし
難波頼輔恋一
7-千載667人しれぬ涙の川のみなかみやいはての山の谷のした水
ひとしれぬ なみたのかはの みなかみや いはてのやまの たにのしたみつ
顕昭法師恋一
7-千載668いかにせむみかきかはらにつむせりのねにのみなけとしる人のなき
いかにせむ みかきかはらに つむせりの ねにのみなけと しるひとのなき
よみひとしらす恋一
7-千載669つれもなき人の心やあふさかのせきちへたつるかすみなるらん
つれもなき ひとのこころや あふさかの せきちへたつる かすみなるらむ
賀茂重保恋一
7-千載670涙川うきねのとりとなりぬれと人にはえこそみなれさりけれ
なみたかは うきねのとりと なりぬれと ひとにはえこそ みなれさりけれ
藤原清輔恋一
7-千載671わか恋はをはな吹きこす秋かせのおとにはたてしみにはしむとも
わかこひは をはなふきこす あきかせの おとにはたてし みにはしむとも
源通能恋一
7-千載672世をいとふはしとおもひしかよひちにあやなく人を恋ひわたるかな
よをいとふ はしとおもひし かよひちに あやなくひとを こひわたるかな
仁昭法師恋一
7-千載673たよりあらはあまのつり舟ことつてむ人をみるめにもとめわひぬる
たよりあらは あまのつりふね ことつてむ ひとをみるめに もとめわひぬる
源有仁恋一
7-千載674またもなくたたひとすちに君思ふ恋ちにまとふ我やなになる
またもなく たたひとすちに きみおもふ こひちにまとふ われやなになる
藤原伊通恋一
7-千載675君こふるみはおほそらにあらねとも月日をおほくすくしつるかな
きみこふる みはおほそらに あらねとも つきひをおほく すくしつるかな
藤原伊房恋一
7-千載676ことのねにかよひそめぬる心かな松ふく風にあらぬ身なれと
ことのねに かよひそめぬる こころかな まつふくかせに あらぬみなれと
二条院恋一
7-千載677はかなしや枕さためぬうたたねにほのかにまよふ夢のかよひち
はかなしや まくらさためぬ うたたねに ほのかにまよふ ゆめのかよひち
式子内親王恋一
7-千載678さきにたつ涙とならは人しれす恋ちにまとふ道しるへせよ
さきにたつ なみたとならは ひとしれす こひちにまとふ みちしるへせよ
右大臣恋一
7-千載679なからへはつらき心もかはるやとさためなき世をたのむはかりそ
なからへは つらきこころも かはるやと さためなきよを たのむはかりそ
難波頼輔恋一
7-千載680もらさはやしのひはつへき涙かは袖のしからみかくとはかりも
もらさはや しのひはつへき なみたかは そてのしからみ かくとはかりは
源有房恋一
7-千載681恋しさをうきみなりとてつつみしはいつまてありし心なるらん
こひしさを うきみなりとて つつみしは いつまてありし こころなるらむ
源師光恋一
7-千載682たのめとやいなとやいかにいな舟のしはしとまちしほともへにけり
たのめとや いなとやいかに いなふねの しはしとまちし ほともへにけり
藤原惟規恋一
7-千載683かくはかり色に出てしとしのへともみゆらむものをたへぬけしきは
かくはかり いろにいてしと しのへとも みゆらむものを たへぬけしきは
賢智法師恋一
7-千載684人しれすおもふこころはふかみくさ花さきてこそ色にいてけれ
ひとしれす おもふこころは ふかみくさ はなさきてこそ いろにいてけれ
賀茂重保恋一
7-千載685ひをへつつしけさはまさるおもひ草あふことのはのなとなかるらん
ひをへつつ しけさはまさる おもひくさ あふことのはの なとなかるらむ
津守国光恋一
7-千載686おつれとものきにしられぬ玉水は恋のなかめのしつくなりけり
おつれとも のきにしられぬ たまみつは こひのなかめの しつくなりけり
大中臣清文恋一
7-千載687人しれすおもひそめてし心こそいまは涙の色となりけれ
ひとしれす おもひそめてし こころこそ いまはなみたの いろとなりけれ
源季貞恋一
7-千載688色見えぬ心のほとをしらするはたもとをそむる涙なりけり
いろみえぬ こころのほとを しらするは たもとをそむる なみたなりけり
祐盛法師恋一
7-千載689わかとこはしのふのおくのますけはら露かかりてもしる人のなき
わかとこは しのふのおくの ますけはら つゆかかりても しるひとのなき
大中臣定雅恋一
7-千載690君こふる涙しくれとふりぬれはしのふの山も色つきにけり
きみこふる なみたしくれと ふりぬれは しのふのやまも いろつきにけり
祝部宿禰成仲恋一
7-千載691いかにせむしのふの山のしたもみちしくるるままに色のまさるを
いかにせむ しのふのやまの したもみち しくるるままに いろのまさるを
二条院前皇后宮常陸恋一
7-千載692いつしかと袖にしくれのそそくかなおもひは冬のはしめならねと
いつしかと そてにしくれの そそくかな おもひはふゆの はしめならねと
賀茂重延恋一
7-千載693あさましやおさふる袖のしたくくる涙のすゑを人やみつらん
あさましや おさふるそての したくくる なみたのすゑを ひとやみつらむ
源頼政恋一
7-千載694しのひねのたもとは色にいてにけり心にもにぬわか涙かな
しのひねの たもとはいろに いてにけり こころにもにぬ わかなみたかな
皇嘉門院別当恋一
7-千載695おなしくはかさねてしほれぬれ衣さてもほすへきなき名ならしを
おなしくは かさねてしほれ ぬれころも さてもほすへき なきなならしを
左兵衛督隆房恋一
7-千載696なかれてもすすきやするとぬれ衣人はきすともみにはならさし
なかれても すすきやすると ぬれころも ひとはきすとも みにはならさし
よみ人しらす恋一
7-千載697人めをはつつむとおもふにせきかねて袖にあまるは涙なりけり
ひとめをは つつむとおもふに せきかねて そてにあまるは なみたなりけり
藤原宗家恋一
7-千載698つれなさにいはてたえなんと思ふこそあひみぬさきの別なりけれ
つれなさに いはてたえなむと おもふこそ あひみぬさきの わかれなりけれ
藤原季能恋一
7-千載699よそ人にとはれぬるかな君にこそみせはやと思ふ袖のしつくを
よそひとに とはれぬるかな きみにこそ みせはやとおもふ そてのしつくを
法眼実快恋一
7-千載700つれなくそ夢にもみゆるさよ衣うらみんとては返しやはせし
つれなくそ ゆめにもみゆる さよころも うらみむとては かへしやはせし
藤原伊綱恋一
7-千載701おもひいつるそのなくさめもありなましあひみて後のつらさなりせは
おもひいつる そのなくさめも ありなまし あひみてのちの つらさなりせは
藤原季経恋一
7-千載702ともしするは山かすそのした露やいるより袖はかくしをるらん
ともしする はやまかすその したつゆや いるよりそては かくしをるらむ
藤原俊成恋一
7-千載703いかにせんむろのや島にやともかな恋のけふりをそらにまかへん
いかにせむ むろのやしまに やともかな こひのけふりを そらにまかへむ
藤原俊成恋一
7-千載704おもひあまり人にとははやみなせ川むすはぬ水に袖はぬるやと
おもひあまり ひとにとははや みなせかは むすはぬみつに そてはぬるやと
藤原公実恋二
7-千載705はかなくも人に心をつくすかなみのためにこそ思ひそめしか
はかなくも ひとにこころを つくすかな みのためにこそ おもひそめしか
源有仁恋二
7-千載706恋ひそめし人はかくこそつれなけれわか涙しも色かはるらん
こひそめし ひとはかくこそ つれなけれ わかなみたしも いろかはるらむ
二条太皇太后宮大弐恋二
7-千載707かかりける涙と人もみるはかりしはらし袖よくちはてねたた
かかりける なみたとひとも みるはかり しほらしそてよ くちはてねたた
源雅兼恋二
7-千載708うかりける人をはつせの山おろしよはけしかれとはいのらぬものを
うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はけしかれとは いのらぬものを
源俊頼恋二
7-千載709うれしくはのちの心を神もきけひくしめなはのたえしとそおもふ
うれしくは のちのこころを かみもきけ ひくしめなはの たえしとそおもふ
藤原顕季恋二
7-千載710むすひおくふしみのさとの草枕とけてやみぬるたひにも有るかな
むすひおく ふしみのさとの くさまくら とけてやみぬる たひにもあるかな
藤原顕仲恋二
7-千載711こひこひてかひもなきさにおきつ浪よせてはやかて立ちかへれとや
こひこひて かひもなきさに おきつなみ よせてはやかて たちかへれとや
藤原俊忠恋二
7-千載712いかてわれつれなき人に身をかへて恋しきほとを思ひしらせん
いかてわれ つれなきひとに みをかへて こひしきほとを おもひしらせむ
徳大寺左大臣恋二
7-千載713玉もかるのしまの浦のあまたにもいとかく袖はぬるるものかは
たまもかる のしまのうらの あまたにも いとかくそては ぬるるものかは
源雅光恋二
7-千載714あふことをその年月とちきらねは命や恋のかきりなるらん
あふことを そのとしつきと ちきらねは いのちやこひの かきりなるらむ
藤原重基恋二
7-千載715恋ひわたる涙の川にみをなけんこの世ならてもあふせありやと
こひわたる なみたのかはに みをなけむ このよならても あふせありやと
藤原宗兼恋二
7-千載716みちのくのとつなのはしにくるつなのたえすも人にいひわたるかな
みちのくの とつなのはしに くるつなの たえすもひとに いひわたるかな
藤原親隆恋二
7-千載717こひわたるけふの涙にくらふれはきのふの袖はぬれしものかは
こひわたる けふのなみたに くらふれは きのふのそては ぬれしものかは
恋二
7-千載718あさまたき露をさなからささめかるしつか袖たにかくはぬれしを
あさまたき つゆをさなから ささめかる しつかそてたに かくはぬれしを
右おほいまうちきみ恋二
7-千載719しほたるるいせをのあまやわれならんさらはみるめをかるよしもかな
しほたるる いせをのあまや われならむ さらはみるめを かるよしもかな
滋野井実国恋二
7-千載720よしさらはあふとみつるになくさまんさむるうつつも夢ならぬかは
よしさらは あふとみつるに なくさまむ さむるうつつも ゆめならぬかは
藤原実家恋二
7-千載721いかはかりおもふとしりてつらからんあはれ涙の色をみせはや
いかはかり おもふとしりて つらからむ あはれなみたの いろをみせはや
右衛門督頼実恋二
7-千載722恋ひしなん命を誰にゆつりおきてつれなき人のはてをみせまし
こひしなむ いのちをたれに ゆつりおきて つれなきひとの はてをみせまし
俊恵法師恋二
7-千載723せきかぬる涙の川のはやきせはあふよりほかのしからみそなき
せきかぬる なみたのかはの はやきせは あふよりほかの しからみそなき
源頼政恋二
7-千載724わか恋はとしふるかひもなかりけりうらやましきはうちのはし守
わかこひは としふるかひも なかりけり うらやましきは うちのはしもり
藤原顕方恋二
7-千載725なれてのちしなん別のかなしきに命にかへぬあふこともかな
なれてのち しなむわかれの かなしきに いのちにかへぬ あふこともかな
道因法師恋二
7-千載726にしききの千つかにかきりなかりせは猶こりすまにたてましものを
にしききの ちつかにかきり なかりせは なほこりすまに たてましものを
賀茂重保恋二
7-千載727いかはかり恋ちはとほき物なれはとしはゆけともあふよなからん
いかはかり こひちはとほき ものなれは としはゆけとも あふよなからむ
藤原教長恋二
7-千載728なれてのちつらからましにくらふれはなき名はことのかすならぬかな
なれてのち つらからましに くらふれは なきなはことの かすならぬかな
三宮家越後恋二
7-千載729あひみむとおもひなよりそしら浪のたちけん名たにをしきみきはを
あひみむと おもひなよりそ しらなみの たちけむなたに をしきみきはを
西園寺公経家参川恋二
7-千載730恋ひしなんみはをしからすあふことにかへんほとまてと思ふはかりそ
こひしなむ みはをしからす あふことに かへむほとまてと おもふはかりそ
道因法師恋二
7-千載731いまはさはあひみむまてはかたくとも命とならむことのはもかな
いまはさは あひみむまては かたくとも いのちとならむ ことのはもかな
藤原顕輔恋二
7-千載732一かたになひくもしほの煙かなつれなき人のかからましかは
ひとかたに なひくもしほの けふりかな つれなきひとの かからましかは
平忠盛恋二
7-千載733恋ひわひぬちぬのますらをならなくにいくたの川にみをやなけまし
こひわひぬ ちぬのますらを ならなくに いくたのかはに みをやなけまし
藤原道経恋二
7-千載734命をはあふにかへんとおもひしを恋ひしぬとたにしらせてしかな
いのちをは あふにかへむと おもひしを こひしぬとたに しらせてしかな
寂超法師恋二
7-千載735こひしとも又つらしともおもひやる心いつれかさきにたつらん
こひしとも またつらしとも おもひやる こころいつれか さきにたつらむ
源師光恋二
7-千載736あふならぬ恋なくさめのあらはこそつれなしとてもおもひたえなめ
あふならぬ こひなくさめの あらはこそ つれなしとても おもひたえなめ
道因法師恋二
7-千載737つれなさにいまは思ひもたえなましこの世ひとつの契なりせは
つれなさに いまはおもひも たえなまし このよひとつの ちきりなりせは
顕昭法師恋二
7-千載738うたたねの夢にあひみて後よりは人もたのめぬくれそまたるる
うたたねの ゆめにあひみて のちよりは ひともたのめぬ くれそまたるる
源慶法師恋二
7-千載739あはれとも枕はかりやおもふらむ涙たえせぬよはのけしきを
あはれとも まくらはかりや おもふらむ なみたたえせぬ よはのけしきを
朝恵法師恋二
7-千載740衣手におつる涙の色なくは露とも人にいはましものを
ころもてに おつるなみたの いろなくは つゆともひとに いはましものを
二条院内侍参川恋二
7-千載741おもふことしのふにいととそふ物はかすならぬみのなけきなりけり
おもふこと しのふにいとと そふものは かすならぬみの なけきなりけり
殷富門院大輔恋二
7-千載742行きかへる心に人のなるれはやあひみぬさきに恋しかるらん
ゆきかへる こころにひとの なるれはや あひみぬさきに こひしかるらむ
九条兼実恋二
7-千載743あふことをさりともとのみおもふかなふしみのさとの名をたのみつつ
あふことを さりともとのみ おもふかな ふしみのさとの なをたのみつつ
藤原家通恋二
7-千載744なとやかくさもくれかたきおほそらそわかまつことはありとしらすや
なとやかく さもくれかたき おほそらそ わかまつことは ありとしらすや
二条院恋二
7-千載745袖の色は人のとふまてなりもせよふかきおもひを君したのまは
そてのいろは ひとのとふまて なりもせよ ふかきおもひを きみしたのまは
式子内親王恋二
7-千載746秋はをし契はまたるとにかくに心にかかるくれのそらかな
あきはをし ちきりはまたる とにかくに こころにかかる くれのそらかな
九条良経恋二
7-千載747恋をのみしくるる空のうき雲はくもりもあへす袖ぬらしけり
こひをのみ しくるるそらの うきくもは くもりもあへす そてぬらしけり
藤原成家恋二
7-千載748いそかくれかきはやれとももしほ草たちくる浪にあらはれやせん
いそかくれ かきはやれとも もしほくさ たちくるなみに あらはれやせむ
藤原家実恋二
7-千載749くれにともちきりてたれかかへるらんおもひたえたる曙の空
くれにとも ちきりてたれか かへるらむ おもひたえたる あけほののそら
藤原家隆恋二
7-千載750契りおくそのことのはにみをかへてのちの世にたにあひみてしかな
ちきりおく そのことのはに みをかへて のちのよにたに あひみてしかな
読人しらす恋二
7-千載751誰ゆゑかあくかれにけん雲まよりみし月かけはひとりならしを
たれゆゑか あくかれにけむ くもまより みしつきかけは ひとりならしを
殷富門院尾張恋二
7-千載752こえやらて恋ちにまよふあふ坂や世を出てはてぬせきとなるらん
こえやらて こひちにまよふ あふさかや よをいてはてぬ せきとなるらむ
藤原家基恋二
7-千載753たまくらのうへにみたるるあさねかみしたにとけすと人はしらしな
たまくらの うへにみたるる あさねかみ したにとけすと ひとはしらしな
西住法師恋二
7-千載754わか袖のしほのみちひるうらならは涙のよらぬをりもあらまし
わかそての しほのみちひる うらならは なみたのよらぬ をりもあらまし
源頼政恋二
7-千載755しほたるる袖のひるまはありやともあはてのうらのあまにとははや
しほたるる そてのひるまは ありやとも あはてのうらの あまにとははや
法印静賢恋二
7-千載756おもひきや夢を此世のちきりにてさむる別をなけくへしとは
おもひきや ゆめをこのよの ちきりにて さむるわかれを なけくへしとは
俊恵法師恋二
7-千載757われゆゑの涙とこれをよそにみはあはれなるへき袖のうへかな
われゆゑの なみたとこれを よそにみは あはれなるへき そてのうへかな
藤原隆信恋二
7-千載758あふことのかくかたけれはつれもなき人の心やいは木なるらん
あふことの かくかたけれは つれもなき ひとのこころや いはきなるらむ
賀茂政平恋二
7-千載759恋ひしなん涙のはてやわたり川ふかきなかれとならんとすらん
こひしなむ なみたのはてや わたりかは ふかきなかれと ならむとすらむ
源光行恋二
7-千載760わか袖はしほひにみえぬおきの石の人こそしらねかわくまそなき
わかそては しほひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまそなき
二条院讃岐恋二
7-千載761かかりけるなけきはなにのむくいそとしる人あらはとはましものを
かかりける なけきはなにの むくひそと しるひとあらは とはましものを
藤原成範恋二
7-千載762恋ひしなんことそはかなきわたり河あふせありとはきかぬものゆゑ
こひしなむ ことそはかなき わたりかは あふせありとは きかぬものゆゑ
藤原重家恋二
7-千載763いもかあたりなかるる川のせによらはあわとなりてもきえんとそ思ふ
いもかあたり なかるるかはの せによらは あわとなりても きえむとそおもふ
藤原範兼恋二
7-千載764(ツネフ)
はかなしな心つくしに年をへていつともしらぬあふの松原
源経房恋二
7-千載765おもひねの夢たにみえてあけぬれはあはても鳥のねこそつらけれ
おもひねの ゆめたにみえて あけぬれは あはてもとりの ねこそつらけれ
寂蓮法師恋二
7-千載766よもすから物思ふころはあけやらぬねやのひまさへつれなかりけり
よもすから ものおもふころは あけやらぬ ねやのひまさへ つれなかりけり
俊恵法師恋二
7-千載767いたつらにしをるる袖をあさ露にかへるたもととおもはましかは
いたつらに しをるるそてを あさつゆに かへるたもとと おもはましかは
俊恵法師恋二
7-千載768恋ゆゑはさもあらぬ人そうらめしきわれよそならはとはましものを
こひゆゑは さもあらぬひとそ うらめしき われよそならは とはましものを
菅原是忠恋二
7-千載769おもひせく心のうちのしからみもたへすなりゆく涙川かな
おもひせく こころのうちの しからみも たへすなりゆく なみたかはかな
藤原親盛恋二
7-千載770おのつからつらき心もかはるやとまちみむほとの命ともかな
おのつから つらきこころも かはるやと まちみむほとの いのちともかな
静縁法師恋二
7-千載771わすらるるうき名はさても立ちにけり心のうちはおもひわけとも
わすらるる うきなはさても たちにけり こころのうちは おもひわけとも
大江維順女恋二
7-千載772よとともにつれなき人を恋くさの露こほれます秋のゆふかせ
よとともに つれなきひとを こひくさの つゆこほれます あきのゆふかせ
藤原顕家恋二
7-千載773恋しさをいかかはすへきおもへともみはかすならす人はつれなし
こひしさを いかかはすへき おもへとも みはかすならす ひとはつれなし
源師光恋二
7-千載774こひしなは我ゆゑとたにおもひ出てよさこそはつらき心なりとも
こひしなは われゆゑとたに おもひいてよ さこそはつらき こころなりとも
滋野井実国恋二
7-千載775ひたすらにうらみしもせしさきの世にあふまてこそはちきらさりけめ
ひたすらに うらみしもせし さきのよに あふまてこそは ちきらさりけめ
藤原家通恋二
7-千載776ますかかみ心もうつるものならはさりともいまはあはれとやみん
ますかかみ こころもうつる ものならは さりともいまは あはれとやみむ
藤原公衡恋二
7-千載777いましはしそらたのめにもなくさめておもひたえぬるよひの玉つさ
いましはし そらたのめにも なくさめて おもひたえぬる よひのたまつさ
源通親恋二
7-千載778そま川のあさからすこそ契りしかなとこのくれをひきたかふらん
そまかはの あさからすこそ ちきりしか なとこのくれを ひきたかふらむ
藤原盛方恋二
7-千載779おもひきやしちのはしかきかきつめてもも夜もおなしまろねせんとは
おもひきや しちのはしかき かきつめて ももよもおなし まろねせむとは
藤原俊成恋二
7-千載780ちきりこしことのたかふそたのもしきつらさもかくやかはるとおもへは
ちきりこし ことのたかふそ たのもしき つらさもかくや かはるとおもへは
藤原実方恋三
7-千載781しらしかしおもひも出てぬ心にはかくわすられすわれなけくとも
しらしかし おもひもいてぬ こころには かくわすられす われなけくとも
相模恋三
7-千載782つれもなくなりぬる人の玉つさをうき思出のかたみともせし
つれもなく なりぬるひとの たまつさを うきおもひての かたみともせし
藤原長能恋三
7-千載783やはらかにぬる夜もなくて別れぬるよよの手枕いつかわすれん
やはらかに ぬるよもなくて わかれぬる よよのたまくら いつかわすれむ
藤原長能恋三
7-千載784たなはたにかしつとおもひしあふことをそのよなき名のたちにけるかな
たなはたに かしつとおもひし あふことを そのよなきなの たちにけるかな
小大君恋三
7-千載785うらめしやむすほほれたる下ひものとけぬやなにの心なるらん
うらめしや むすほほれたる したひもの とけぬやなにの こころなるらむ
藤原頼通恋三
7-千載786したひもは人のこふるにとくなれはたかつらきにかむすほほるらん
したひもは ひとのこふるに とくなれは たかつらきにか むすほほるらむ
弁乳母恋三
7-千載787ひとりぬるわれにてしりぬ池水につかはぬをしのおもふ心を
ひとりぬる われにてしりぬ いけみつに つかはぬをしの おもふこころを
太納言公実恋三
7-千載788恋をのみしつのをたまきくるしきはあはて年ふる思ひなりけり
こひをのみ しつのをたまき くるしきは あはてとしふる おもひなりけり
中納言師時恋三
7-千載789あさてほすあつまをとめのかやむしろしきしのひてもすくすころかな
あさてほす あつまをとめの かやむしろ しきしのひても すくすころかな
源俊頼恋三
7-千載790よとともに行かたもなき心かな恋はみちなき物にそ有りける
よとともに ゆくかたもなき こころかな こひはみちなき ものにそありける
藤原顕季恋三
7-千載791旅衣涙のいろのしるけれは露にもえこそかこたさりけり
たひころも なみたのいろの しるけれは つゆにもえこそ かこたさりけり
僧都覚雅恋三
7-千載792みつしほにすゑはをあらふなかれあしの君をそおもふうきみしつみみ
みつしほに すゑはをあらふ なかれあしの きみをそおもふ うきみしつみみ
藤原公実恋三
7-千載793わか恋はあまのかるもにみたれつつかわく時なき浪のしたくさ
わかこひは あまのかるもに みたれつつ かわくときなき なみのしたくさ
藤原俊忠恋三
7-千載794なほさりにみわの杉とはをしへおきてたつぬる時はあはぬ君かな
なほさりに みわのすきとは をしへおきて たつぬるときは あはぬきみかな
藤原時昌恋三
7-千載795たのめこし野へのみちしは夏ふかしいつくなるらんもすの草くき
たのめこし のへのみちしは なつふかし いつくなるらむ もすのくさくき
藤原俊成恋三
7-千載796冬の日を春よりなかくなす物はこひつつくらす心なりけり
ふゆのひを はるよりなかく なすものは こひつつくらす こころなりけり
西園寺公経恋三
7-千載797よろつ代をちきりそめつるしるしにはかつかつけふのくれそひさしき
よろつよを ちきりそめつる しるしには かつかつけふの くれそひさしき
恋三
7-千載798けさとはぬつらさに物はおもひしれわれもさこそはうらみかねしか
けさとはぬ つらさにものは おもひしれ われもさこそは うらみかねしか
恋三
7-千載799かねてよりおもひしことそふししはのこるはかりなるなけきせんとは
かねてより おもひしことそ ふししはの こるはかりなる なけきせむとは
待賢門院加賀恋三
7-千載800恋しさはあふをかきりとききしかとさてしもいととおもひそひけり
こひしさは あふをかきりと ききしかと さてしもいとと おもひそひけり
藤原教長恋三
7-千載801よそにしてもときし人にいつしかと袖のしつくをとはるへきかな
よそにして もときしひとに いつしかと そてのしつくを とはるへきかな
藤原顕輔恋三
7-千載802なかからむ心もしらすくろかみのみたれてけさは物をこそおもへ
なかからむ こころもしらす くろかみの みたれてけさは ものをこそおもへ
待賢門院堀川恋三
7-千載803よひのまもまつに心やなくさむといまこんとたにたのめおかなん
よひのまも まつにこころや なくさむと いまこむとたに たのめおかなむ
上西門院兵衛恋三
7-千載804そなれ木のそなれそなれてふす苔のまほならすともあひみてしかな
そなれきの そなれそなれて ふすこけの まほならすとも あひみてしかな
待賢門院のあき恋三
7-千載805人はいさあかぬよとこにととめつるわか心こそわれをまつらめ
ひとはいさ あかぬよとこに ととめつる わかこころこそ われをまつらめ
源頼政恋三
7-千載806おもへたたいりやらさりしあり明の月よりさきにいてし心を
おもへたた いりやらさりし ありあけの つきよりさきに いてしこころを
源通親恋三
7-千載807なにはえのあしのかりねの一よゆゑみをつくしてや恋ひわたるへき
なにはえの あしのかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや こひわたるへき
皇嘉門院別当恋三
7-千載808こひこひてあふうれしさをつつむへき袖は涙にくちはてにけり
こひこひて あふうれしさを つつむへき そてはなみたに くちはてにけり
藤原公衡恋三
7-千載809君やそれありしつらさはたれなれはうらみけるさへ今はくやしき
きみやそれ ありしつらさは たれなれは うらみけるさへ いまはくやしき
藤原隆信恋三
7-千載810すかたこそねさめのとこにみえすとも契りしことのうつつなりせは
すかたこそ ねさめのとこに みえすとも ちきりしことの うつつなりせは
藤原俊憲恋三
7-千載811あつまやのあさ木のはしらわれなからいつふしなれて恋しかるらん
あつまやの あさきのはしら われなから いつふしなれて こひしかるらむ
前斎院新肥前恋三
7-千載812つつめともまくらは恋をしりぬらん涙かからぬ夜はしなけれは
つつめとも まくらはこひを しりぬらむ なみたかからぬ よはしなけれは
久我内大臣恋三
7-千載813恋すれはもゆるほたるもなくせみもわかみの外の物とやはみる
こひすれは もゆるほたるも なくせみも わかみのほかの ものとやはみる
源雅頼恋三
7-千載814ひきかけて涙を人につつむまにうらやくちなん夜はの衣は
ひきかけて なみたをひとに つつむまに うらやくちなむ よはのころもは
右大臣恋三
7-千載815しほたるるいせをのあまの袖たにもほすなるひまはありとこそきけ
しほたるる いせをのあまの そてたにも ほすなるひまは ありとこそきけ
藤原親隆恋三
7-千載816しはしこそぬるるたもともしほりしか涙にいまはまかせてそみる
しはしこそ ぬるるたもとも しほりしか なみたにいまは まかせてそみる
藤原清輔恋三
7-千載817よしさらは涙にくちねから衣ほすも人めをしのふかきりそ
よしさらは なみたにくちね からころも ほすもひとめを しのふかきりそ
顕昭法師恋三
7-千載818おもひわひさても命はあるものをうきにたへぬは涙なりけり
おもひわひ さてもいのちは あるものを うきにたへぬは なみたなりけり
道因法師恋三
7-千載819かすならぬみにも心のありかほにひとりも月をなかめつるかな
かすならぬ みにもこころの ありかほに ひとりもつきを なかめつるかな
遊女戸戸恋三
7-千載820涙にやくちはてなましから衣袖のひるまとたのめさりせは
なみたにや くちはてなまし からころも そてのひるまと たのめさりせは
中原清重恋三
7-千載821かれはつるをささかふしをおもふにもすくなかりけるよよのかすかな
かれはつる をささかふしを おもふにも すくなかりける よよのかすかな
藤原成親恋三
7-千載822わけきつるをささか露のしけけれはあふ道にさへぬるる袖かな
わけきつる をささかつゆの しけけれは あふみちにさへ ぬるるそてかな
藤原伊経恋三
7-千載823おきてゆく涙のかかる草まくら露しけしとや人のあやめん
おきてゆく なみたのかかる くさまくら つゆしけしとや ひとのあやめむ
よみ人しらす恋三
7-千載824涙をもしのふるころのわか袖にあやなく月のやとりぬるかな
なみたをも しのふるころの わかそてに あやなくつきの やとりぬるかな
よみ人しらす恋三
7-千載825しのひかねいまは我とや名のらまし思ひすつへきけしきならねは
しのひかね いまはわれとや なのらまし おもひすつへき けしきならねは
内大臣恋三
7-千載826しられてもいとはれぬへきみならすは名をさへ人につつむへしやは
しられても いとはれぬへき みならすは なをさへひとに つつむへしやは
九条良経恋三
7-千載827いつくよりふきくるかせのちらしけんたれもしのふのもりのことのは
いつくより ふきくるかせの ちらしけむ たれもしのふの もりのことのは
左兵衛督隆房恋三
7-千載828おもひかね夢にみゆやとかへさすはうらさへ袖はぬらささらまし
おもひかね ゆめにみゆやと かへさすは うらさへそては ぬらささらまし
源頼政恋三
7-千載829くり返しくやしき物は君にしもおもひよりけんしつのをたまき
くりかへし くやしきものは きみにしも おもひよりけむ しつのをたまき
源師光恋三
7-千載830いとはるるみをうしとてや心さへわれをはなれて君にそふらん
いとはるる みをうしとてや こころさへ われをはなれて きみにそふらむ
藤原隆親恋三
7-千載831あちきなくいはて心をつくすかなつつむ人めも人のためかは
あちきなく いはてこころを つくすかな つつむひとめも ひとのためかは
源光行恋三
7-千載832くれなゐにしをれし袖もくちはてぬあらはや人に色もみすへき
くれなゐに しをれしそても くちはてぬ あらはやひとに いろもみすへき
皇太后宮若水恋三
7-千載833命こそおのかものからうかりけれあれはそ人をつらしともみる
いのちこそ おのかものから うかりけれ あれはそひとを つらしともみる
皇嘉門院尾張恋三
7-千載834なにとかやしのふにはあらてふるさとの軒はにしける草の名そうき
なにとかや しのふにはあらて ふるさとの のきはにしける くさのなそうき
藤原忠良恋三
7-千載835みし夢のさめぬやかてのうつつにてけふとたのめしくれをまたはや
みしゆめの さめぬやかての うつつにて けふとたのめし くれをまたはや
太皇太后宮小侍従恋三
7-千載836しるらめやおつる涙の露ともにわかれのとこにきえてこふとは
しるらめや おつるなみたの つゆともに わかれのとこに きえてこふとは
二条院恋三
7-千載837またしらぬ露おく袖をおもひやれかことはかりのとこの涙に
またしらぬ つゆおくそてを おもひやれ かことはかりの とこのなみたに
よみ人しらす恋三
7-千載838かへりつるなこりのそらをなかむれはなくさめかたき有明の月
かへりつる なこりのそらを なかむれは なくさめかたき ありあけのつき
九条兼実恋三
7-千載839わするなよよよの契をすかはらやふしみのさとの有明の空
わするなよ よよのちきりを すかはらや ふしみのさとの ありあけのそら
藤原俊成恋三
7-千載840いかにしてよるの心をなくさめむひるはなかめにさてもくらしつ
いかにして よるのこころを なくさめむ ひるはなかめに さてもくらしつ
和泉式部恋四
7-千載841これもみなさそなむかしの契そとおもふものからあさましきかな
これもみな さそなむかしの ちきりそと おもふものから あさましきかな
和泉式部恋四
7-千載842よそにては中中さてもありにしをうたて物おもふ昨日けふかな
よそにては なかなかさても ありにしを うたてものおもふ きのふけふかな
花山院恋四
7-千載843おもひいててたれをか人のたつねましうきにたへたる命ならすは
おもひいてて たれをかひとの たつねまし うきにたへたる いのちならすは
小式部恋四
7-千載844まつとてもかはかりこそはあらましかおもひもかけぬ秋の夕くれ
まつとても かはかりこそは あらましか おもひもかけぬ あきのゆふくれ
和泉式部恋四
7-千載845ほとふれは人はわすれてやみぬらん契りしことをなほたのむかな
ほとふれは ひとはわすれて やみぬらむ ちきりしことを なほたのむかな
和泉式部恋四
7-千載846たけのはに玉ぬく露にあらねともまた夜をこめておきにけるかな
たけのはに たまぬくつゆに あらねとも またよをこめて おきにけるかな
藤原実方恋四
7-千載847このまよりひれふる袖をよそにみていかかはすへきまつらさよ姫
このまより ひれふるそてを よそにみて いかかはすへき まつらさよひめ
藤原基俊恋四
7-千載848まふしさすしつをのみにもたへかねてはとふく秋のこゑたてつなり
まふしさす しつをのみにも たへかねて はとふくあきの こゑたてつなり
藤原仲実恋四
7-千載849吹く風にたへぬこすゑの花よりもととめかたきは涙なりけり
ふくかせに たへぬこすゑの はなよりも ととめかたきは なみたなりけり
源雅光恋四
7-千載850あひみむといひわたりしは行すゑの物おもふことのはしにそ有りける
あひみむと いひわたりしは ゆくすゑの ものおもふことの はしにそありける
藤原成通恋四
7-千載851恋ひわひてあはれとはかりうちなけくことよりほかのなくさめそなき
こひわひて あはれとはかり うちなけく ことよりほかの なくさめそなき
伊与三位(藤原敦兼母)恋四
7-千載852たちかへる人をもなにかうらみまし恋しさをたにととめさりせは
たちかへる ひとをもなにか うらみまし こひしさをたに ととめさりせは
源師時恋四
7-千載853うつらなくしつやにおふる玉こすけかりにのみきてかへる君かな
うつらなく しつやにおふる たまこすけ かりにのみきて かへるきみかな
藤原道経恋四
7-千載854わかれてはかたみなりける玉つさをなくさむはかりかきもおかせて
わかれては かたみなりける たまつさを なくさむはかり かきもおかせて
久我内大臣恋四
7-千載855我かそての涙やにほの海ならんかりにも人をみるめなけれは
わかそての なみたやにほの うみならむ かりにもひとを みるめなけれは
上西門院兵衛恋四
7-千載856あつまやのをかやの軒のしのふ草しのひもあへすしける思ひに
あつまやの をかやののきの しのふくさ しのひもあへす しけるおもひに
藤原親隆恋四
7-千載857恋をのみしかまのいちにたつ民のたえぬおもひにみをやかへてん
こひをのみ しかまのいちに たつたみの たえぬおもひに みをやかへてむ
藤原俊成恋四
7-千載858こひをのみすかたの池にみ草ゐてすまてやみなん名こそをしけれ
こひをのみ すかたのいけに みくさゐて すまてやみなむ なこそをしけれ
待賢門院安芸恋四
7-千載859露ふかきあさまののらにをかやかるしつのたもともかくはぬれしを
つゆふかき あさまののらに をかやかる しつのたもとも かくはぬれしを
藤原清輔恋四
7-千載860あふことはいなさほそえのみをつくしふかきしるしもなきよなりけり
あふことは いなさほそえの みをつくし ふかきしるしも なきよなりけり
藤原清輔恋四
7-千載861人つてはさしもやはともおもふらむみせはや君になれるすかたを
ひとつては さしもやはとも おもふらむ みせはやきみに なれるすかたを
顕昭法師恋四
7-千載862あさましやさのみはいかにしなのなるきそちのはしのかけわたるらん
あさましや さのみはいかに しなのなる きそちのはしの かけわたるらむ
平実重恋四
7-千載863人のうへとおもははいかにもとかましつらきもしらすこふる心を
ひとのうへと おもははいかに もとかまし つらきもしらす こふるこころを
平実重恋四
7-千載864契りしももろともにこそちきりしかわすれはわれもわすれましかは
ちきりしも もろともにこそ ちきりしか わすれはわれも わすれましかは
藤原為通恋四
7-千載865君にのみしたのおもひはかはしまの水の心はあさからなくに
きみにのみ したのおもひは かはしまの みつのこころは あさからなくに
従三位季行恋四
7-千載866おもひきやとしのつもるはわすられて恋にいのちのたへん物とは
おもひきや としのつもるは わすられて こひにいのちの たへむものとは
恋四
7-千載867なけきあまりうきみそいまはなつかしき君ゆゑ物をおもふと思へは
なけきあまり うきみそいまは なつかしき きみゆゑものを おもふとおもへは
藤原季通恋四
7-千載868水くきはこれをかきりとかきつめてせきあへぬ物は涙なりけり
みつくきは これをかきりと かきつめて せきあへぬものは なみたなりけり
源頼政恋四
7-千載869たれもよもまたききそめし鴬の君にのみこそおとしはしむれ
たれもよも またききそめし うくひすの きみにのみこそ おとしはしむれ
二条院恋四
7-千載870鴬はなへてみやこになれぬらんふるすにねをはわれのみそなく
うくひすは なへてみやこに なれぬらむ ふるすにねをは われのみそなく
よみひとしらす恋四
7-千載871みせはやなつゆのゆかりの玉かつら心にかけてしのふけしきを
みせはやな つゆのゆかりの たまかつら こころにかけて しのふけしきを
よみひとしらす恋四
7-千載872あふさかの名をわすれにし中なれとせきやられぬは涙なりけり
あふさかの なをわすれにし なかなれと せきやられぬは なみたなりけり
よみひとしらす恋四
7-千載873月まつと人にはいひてなかむれはなくさめかたき夕くれのそら
つきまつと ひとにはいひて なかむれは なくさめかたき ゆふくれのそら
藤原範兼恋四
7-千載874あしのやのかりそめふしは津国のなからへゆけとわすれさりけり
あしのやの かりそめふしは つのくにの なからへゆけと わすれさりけり
藤原為真恋四
7-千載875しらさりき雲ゐのよそにみし月のかけをたもとにやとすへしとは
しらさりき くもゐのよそに みしつきの かけをたもとに やとすへしとは
西行法師恋四
7-千載876あふとみしその夜の夢のさめてあれななかきねふりはうかるへけれと
あふとみし そのよのゆめの さめてあれな なかきねふりは うかるへけれと
西行法師恋四
7-千載877秋かせのうき人よりもつらきかな恋せよとてはふかさらめとも
あきかせの うきひとよりも つらきかな こひせよとては ふかさらめとも
空人法師恋四
7-千載878心さへわれにもあらすなりにけり恋はすかたのかはるのみかは
こころさへ われにもあらす なりにけり こひはすかたの かはるのみかは
源仲綱恋四
7-千載879まちかねてさよもふけひのうらかせにたのめぬ浪のおとのみそする
まちかねて さよもふけひの うらかせに たのめぬなみの おとのみそする
二条院内侍参河恋四
7-千載880ひとよとてよかれし床のさむしろにやかてもちりのつもりぬるかな
ひとよとて よかれしとこの さむしろに やかてもちりの つもりぬるかな
さぬき恋四
7-千載881なからへてかはる心をみるよりもあふに命をかへてましかは
なからへて かはるこころを みるよりも あふにいのちを かへてましかは
九条兼実恋四
7-千載882あふ事のありしところしかはらすは心をたにもやらましものを
あふことの ありしところし かはらすは こころをたにも やらましものを
源雅頼恋四
7-千載883うつりかになにしみにけんさよころもわすれぬつまとなりけるものを
うつりかに なにしみにけむ さよころも わすれぬつまと なりけるものを
源経房恋四
7-千載884わすれぬやしのふやいかにあはぬまのかたみとききしあけくれの空
わすれぬや しのふやいかに あはぬまの かたみとききし あけくれのそら
藤原忠良恋四
7-千載885おもひかねなほ恋ちにそかへりぬるうらみはすゑもとほらさりけり
おもひかね なほこひちにそ かへりぬる うらみはすゑも とほらさりけり
俊恵法師恋四
7-千載886みせはやなをしまのあまの袖たにもぬれにそぬれし色はかはらす
みせはやな をしまのあまの そてたにも ぬれにそぬれし いろはかはらす
殷富門院大輔恋四
7-千載887山しろのみつののさとにいもをおきていくたひよとに舟よはふらん
やましろの みつののさとに いもをおきて いくたひよとに ふねよはふらむ
源頼政恋四
7-千載888人しれすむすひそめてし若草のはなのさかりもすきやしぬらん
ひとしれす むすひそめてし わかくさの はなのさかりも すきやしぬらむ
藤原隆信恋四
7-千載889いかなれはなかれはたえぬ中川にあふせのかすのすくなかるらん
いかなれは なかれはたえぬ なかかはに あふせのかすの すくなかるらむ
藤原顕家恋四
7-千載890すみなれしさのの中川せたえしてなかれかはるは涙なりけり
すみなれし さののなかかは せたえして なかれかはるは なみたなりけり
源仲綱恋四
7-千載891いまさらに恋しといふもたのまれすこれも心のかはるとおもへは
いまさらに こひしといふも たのまれす これもこころの かはるとおもへは
二条院讃岐恋四
7-千載892こひそめし心の色のなになれはおもひかへすにかへらさるらん
こひそめし こころのいろの なになれは おもひかへすに かへらさるらむ
太皇太后宮小侍従恋四
7-千載893伊勢しまやいちしのうらのあまたにもかつかぬ袖はぬるるものかは
いせしまや いちしのうらの あまたにも かつかぬそては ぬるるものかは
道因法師恋四
7-千載894おもひきやうかりし夜はの鳥のねをまつことにしてあかすへしとは
おもひきや うかりしよはの とりのねを まつことにして あかすへしとは
俊恵法師恋四
7-千載895から衣かへしてはねし夏のよはゆめにもあかて人わかれけり
からころも かへしてはねし なつのよは ゆめにもあかて ひとわかれけり
俊恵法師恋四
7-千載896みのうさをおもひしらてややみなましあひみぬさきのつらさなりせは
みのうさを おもひしらてや やみなまし あひみぬさきの つらさなりせは
法印静賢恋四
7-千載897あふことはみをかへてともまつへきをよよをへたてんほとそかなしき
あふことは みをかへてとも まつへきを よよをへたてむ ほとそかなしき
藤原俊成恋四
7-千載898おもひねの夢になくさむ恋なれはあはねとくれのそらそまたるる
おもひねの ゆめになくさむ こひなれは あはねとくれの そらそまたるる
摂政家丹後恋四
7-千載899恋ひわひてうちぬるよひの夢にたにあふとは人のみえはこそあらめ
こひわひて うちぬるよひの ゆめにたに あふとはひとの みえはこそあらめ
藤原成範恋四
7-千載900わひつつはなれたに君にとこなれよかはさぬ夜はの枕なりとも
わひつつは なれたにきみに とこなれよ かはさぬよはの まくらなりとも
藤原実家恋四
7-千載901なけきつつかはさぬ夜はのつもるには枕もうとくならぬものかは
なけきつつ かはさぬよはの つもるには まくらもうとく ならぬものかは
よみ人しらす恋四
7-千載902これはみなおもひしことそなれしよりあはれなこりをいかにせんとは
これはみな おもひしことそ なれしより あはれなこりを いかにせむとは
藤原忠良恋四
7-千載903しぬとても心をわくる物ならは君にのこしてなほや恋ひまし
しぬとても こころをわくる ものならは きみにのこして なほやこひまし
源通親恋四
7-千載904うたたねにはかなくさめし夢をたに此世に又はみてややみなん
うたたねに はかなくさめし ゆめをたに このよにまたは みてややみなむ
相模恋五
7-千載905ねをなけは袖はくちてもうせぬめりなほうきことそつきせさりける
ねをなけは そてはくちても うせぬめり なほうきことそ つきせさりける
和泉式部恋五
7-千載906ともかくもいははなへてになりぬへしねになきてこそみすへかりけれ
ともかくも いははなへてに なりぬへし ねになきてこそ みすへかりけれ
和泉式部恋五
7-千載907あり明の月見すひまにおきていにし人のなこりをなかめしものを
ありあけの つきみすひまに おきていにし ひとのなこりを なかめしものを
和泉式部恋五
7-千載908わするるはうきよのつねとおもふにもみをやるかたのなきそわひぬる
わするるは うきよのつねと おもふにも みをやるかたの なきそわひぬる
紫式部恋五
7-千載909ちはやふるかものやしろの神もきけ君わすれすはわれもわすれし
ちはやふる かものやしろの かみもきけ きみわすれすは われもわすれし
馬内侍恋五
7-千載910うたかひし命はかりはありなからちきりし中のたえぬへきかな
うたかひし いのちはかりは ありなから ちきりしなかの たえぬへきかな
大弐三位恋五
7-千載911かり人はとかめもやせん草しけみあやしき鳥のあとのみたれを
かりひとは とかめもやせむ くさしけみ あやしきとりの あとのみたれを
相模恋五
7-千載912山よりもふかきところをたつねみはわか心にそ人はいるへき
やまよりも ふかきところを たつねみは わかこころにそ ひとはいるへき
藤原斉信恋五
7-千載913いにしへもこえみてしかはあふさかはふみたかふへき中の道かは
いにしへも こえみてしかは あふさかは ふみたかふへき なかのみちかは
藤原経衡恋五
7-千載914かりにそといはぬさきよりたのまれすたちとまるへき心ならねは
かりにそと いはぬさきより たのまれす たちとまるへき こころならねは
赤染衛門恋五
7-千載915人こころなにをたのみてみなせ川せきのふるくひくちはてぬらん
ひとこころ なにをたのみて みなせかは せせのふるくひ くちはてぬらむ
藤原基俊恋五
7-千載916うらみすはわすれぬ人もありなましおもひしらてそあるへかりける
うらみすは わすれぬひとも ありなまし おもひしらてそ あるへかりける
隆源法師恋五
7-千載917まことにやみとせもまたてやましろのふしみの里ににひ枕する
まことにや みとせもまたて やましろの ふしみのさとに にひまくらする
源雅定恋五
7-千載918うき人をしのふへしとはおもひきやわか心さへなとかはるらん
うきひとを しのふへしとは おもひきや わかこころさへ なとかはるらむ
待賢門院堀河恋五
7-千載919うかりけるよよの契を思ふにもつらきはいまのこころのみかは
うかりける よよのちきりを おもふにも つらきはいまの こころのみかは
上西門院兵衛恋五
7-千載920しるなれはいかに枕のおもふらんちりのみつもるとこのけしきを
しるなれは いかにまくらの おもふらむ ちりのみつもる とこのけしきを
藤原親隆恋五
7-千載921はかなくもこむよをかねて契るかなふたたひおなし身ともならしを
はかなくも こむよをかねて ちきるかな ふたたひおなし みともならしを
右大臣恋五
7-千載922おもひいてよ夕の雲もたなひかはこれやなけきにたへぬ煙と
おもひいてよ ゆふへのくもも たなひかは これやなけきに たへぬけふりと
藤原忠良恋五
7-千載923恋ひしなはうかれん玉よしはしたにわかおもふ人のつまにととまれ
こひしなは うかれむたまよ しはしたに わかおもふひとの つまにととまれ
左兵衛督隆房恋五
7-千載924君こふとうきぬる玉のさ夜ふけていかなるつまにむすはれぬらん
きみこふと うきぬるたまの さよふけて いかなるつまに むすはれぬらむ
太皇大后宮小侍従恋五
7-千載925きみこふる心のやみをわひつつは此世はかりとおもはましかは
きみこふる こころのやみを わひつつは このよはかりと おもはましかは
二条院讃岐恋五
7-千載926かはりゆくけしきをみてもいける身の命をあたにおもひけるかか
かはりゆく けしきをみても いけるみの いのちをあたに おもひけるかな
殷富門院大輔恋五
7-千載927君やあらぬわか身やあらぬおほつかなたのめしことのみなかはりぬる
きみやあらぬ わかみやあらぬ おほつかな たのめしことの みなかはりぬる
俊恵法師恋五
7-千載928物おもへともかからぬ人もあるものをあはれなりける身のちきりかな
ものおもへとも かからぬひとも あるものを あはれなりける みのちきりかな
西行法師恋五
7-千載929なけけとて月やは物をおもはするかこちかほなるわか涙かな
なけけとて つきやはものを おもはする かこちかほなる わかなみたかな
西行法師恋五
7-千載930久かたの月ゆゑにやは恋ひそめしなかむれはまつぬるるそてかな
ひさかたの つきゆゑにやは こひそめし なかむれはまつ ぬるるそてかな
寂超法師恋五
7-千載931つらしともうらむるかたそなかりけるうきをいとふは君ひとりかは
つらしとも うらむるかたそ なかりける うきをいとふは きみひとりかは
祐盛法師恋五
7-千載932おもひしる心のなきをなけくかなうき身ゆゑこそ人もつらけれ
おもひしる こころのなきを なけくかな うきみゆゑこそ ひともつらけれ
藤原隆親恋五
7-千載933思ふをもわするる人はさもあらはあれうきをしのはぬ心ともかな
おもふをも わするるひとは さもあらはあれ うきをしのはぬ こころともかな
源有房恋五
7-千載934はかなくそ後のよまてとちきりけるまたきにたにもかはる心を
はかなくそ のちのよまてと ちきりける またきにたにも かはるこころを
惟宗広言恋五
7-千載935いとはるるそのゆかりにていかなれは恋はわか身をはなれさるらん
いとはるる そのゆかりにて いかなれは こひはわかみを はなれさるらむ
源仲頼恋五
7-千載936おもひあまりうちぬるよひのまほろしも浪ちをわけてゆきかよひけり
おもひあまり うちぬるよひの まほろしも なみちをわけて ゆきかよひけり
鴨長明恋五
7-千載937としふれとうき身はさらにかはらしをつらさもおなしつらさなるらん
としふれと うきみはさらに かはらしを つらさもおなし つらさなるらむ
土御門前斎院中将恋五
7-千載938なけくまにかかみの影もおとろへぬ契りしことのかはるのみかは
なけくまに かかみのかけも おとろへぬ ちきりしことの かはるのみかは
崇徳院恋五
7-千載939としふれとあはれにたへぬ涙かな恋しき人のかからましかは
としふれと あはれにたへぬ なみたかな こひしきひとの かからましかは
藤原顕輔恋五
7-千載940いまはたたおさふる袖もくちはてて心のままにおつるなみたか
いまはたた おさふるそても くちはてて こころのままに おつるなみたか
藤原季通恋五
7-千載941おく山のいはかきぬまのうきぬなはふかき恋ちになにみたれけん
おくやまの いはかきぬまの うきぬなは ふかきこひちに なにみたれけむ
藤原俊成恋五
7-千載942しきしのふとこたにたへぬ涙にも恋はくちせぬ物にそ有りける
しきしのふ とこたにたへぬ なみたにも こひはくちせぬ ものにそありける
藤原俊成恋五
7-千載943あさゆふにみるめをかつくあまたにもうらみはたえぬ物とこそきけ
あさゆふに みるめをかつく あまたにも うらみはたえぬ ものとこそきけ
藤原清輔恋五
7-千載944なにせんにそらたのめとてうらみけんおもひたえたる暮もありけり
なにせむに そらたのめとて うらみけむ おもひたえたる くれもありけり
上西門院兵衛恋五
7-千載945なほさりのそらたのめとてまちし夜のくるしかりしそいまは恋しき
なほさりの そらたのめとて まちしよの くるしかりしそ いまはこひしき
殷富門院大輔恋五
7-千載946をしみかねけにいひしらぬ別かな月もいまはのあり明のそら
をしみかね けにしひしらぬ わかれかな つきもいまはの ありあけのそら
九条兼実恋五
7-千載947恋ひわふる心はそらにうきぬれと涙のそこに身はしつむかな
こひわふる こころはそらに うきぬれと なみたのそこに みはしつむかな
藤原実房恋五
7-千載948おもひかねこゆるせきちに夜をふかみやこゑの鳥にねをそそへつる
おもひかね こゆるせきちに よをふかみ やこゑのとりに ねをそそへつる
源雅頼恋五
7-千載949世にしらぬ秋の別にうちそへて人やりならす物そかなしき
よにしらぬ あきのわかれに うちそへて ひとやりならす ものそかなしき
源通親恋五
7-千載950契りしにあらすなるとのはまちとりあとたにみせぬうらみをそする
ちきりしに あらすなるとの はまちとり あとたにみせぬ うらみをそする
藤原経家恋五
7-千載951しかはかり契りし中もかはりけるこのよに人をたのみけるかな
しかはかり ちきりしなかも かはりける このよにひとを たのみけるかな
藤原定家恋五
7-千載952秋の夜を物おもふことのかきりとはひとりねさめの枕にそしる
あきのよを ものおもふことの かきりとは ひとりねさめの まくらにそしる
顕昭法師恋五
7-千載953よしさらは君に心はつくしてん又も恋しき人もこそあれ
よしさらは きみにこころは つくしてむ またもこひしき ひともこそあれ
藤原教長恋五
7-千載954なき人をおもひ出てたる夕くれはうらみしことそくやしかりける
なきひとを おもひいてたる ゆふくれは うらみしことそ くやしかりける
覚性入道親王恋五
7-千載955これをみよむつ田のよとにさてさしてしをれししつのあさ衣かは
これをみよ むつたのよとに さてさして しをれししつの あさころもかは
源俊頼恋五
7-千載956ささめかるあれ田のさはにたつたみも身のためにこそ袖はぬるらめ
ささめかる あれたのさはに たつたみも みのためにこそ そてもぬるらめ
源俊頼恋五
7-千載957ささのはにあられふる夜のさむけきにひとりはねなん物とやはおもふ
ささのはに あられふるよの さむけきに ひとりはねなむ ものとやはおもふ
馬内侍恋五
7-千載958うらむへき心はかりはあるものをなきになしてもとはぬ君かな
うらむへき こころはかりは あるものを なきになしても とはぬきみかな
和泉式部恋五
7-千載959かそへしる人なかりせはおく山のたにの松とやとしをつままし
かそへしる ひとなかりせは おくやまの たにのまつとや としをつままし
西園寺公経雑上
7-千載960ふえ竹のよふかきこゑそきこゆなるきしの松かせふきやそふらん
ふえたけの よふかきこゑそ きこゆなる みねのまつかせ ふきやそふらむ
藤原斉信雑上
7-千載961うはこほりあはにむすへるひもなれはかさす日かけにゆるふはかりを
うはこほり あはにむすへる ひもなれは かさすひかけに ゆるむはかりそ
皇后宮清少納言雑上
7-千載962たかさとの春のたよりにうくひすの霞にとつるやとをとふらん
たかさとの はるのたよりに うくひすの かすみにとつる やとをとふらむ
上東門院紫式部雑上
7-千載963いもとねておきゆくあさの道よりも中中もののおもはしきかな
いもとねて おきゆくあさの みちよりも なかなかものの おもはしきかな
藤原道信雑上
7-千載964春のよの夕はかりなるたまくらにかひなくたたん名こそをしけれ
はるのよの ゆめはかりなる たまくらに かひなくたたむ なこそをしけれ
周防内侍雑上
7-千載965契ありてはるの夜ふかきたまくらをいかかかひなき夢になすへき
ちきりありて はるのよふかき たまくらを いかかかひなき ゆめになすへき
藤原忠家雑上
7-千載966いかにしてすきにしかたをすくしけんくらしわつらふ昨日けふかな
いかにして すきにしかたを すくしけむ くらしわつらふ きのふけふかな
皇后宮定子雑上
7-千載967雲のうへもくらしかねける春の日をところからともなかめつるかな
くものうへも くらしかねける はるのひを ところからとも なかめつるかな
清少納言雑上
7-千載968あひみむとおもひしことをたかふれはつらきかたにもさためつるかな
あひみむと おもひしことを たかふれは つらきかたにも さためつるかな
選子内親王雑上
7-千載969みそきせしかもの川なみたちかへりはやくみしせに袖はぬれきや
みそきせし かものかはなみ たちかへり はやくみしせに そてはぬれきや
大斎院中将雑上
7-千載970ちはやふるいつきの宮のたひねにはあふひそ草の枕なりけり
ちはやふる いつきのみやの たひねには あふひそくさの まくらなりけり
藤原実方雑上
7-千載971かをるかによそふるよりはほとときすきかはやおなしこゑやしたると
かをるかに よそふるよりは ほとときす きかはやおなし こゑやしたると
和泉式部雑上
7-千載972昨日まてみたらし河にせしみそきしかのうら浪たちそかはれる
きのふまて みたらしかはに せしみそき しかのうらなみ たちそかはれる
三条実行雑上
7-千載973みたらしやかけたえはつる心ちしてしかの浪ちに袖そぬれこし
みたらしや かけたえはつる ここちして しかのなみちに そてそぬれこし
式子内親王雑上
7-千載974やとせまて手ならしたりしあつさ弓かへるをみるにねそなかれける
やとせまて てならしたりし あつさゆみ かへるをみるに ねそなかれける
藤原伊通雑上
7-千載975なにかそれおもひすつへきあつさ弓又ひきかへす時もありなん
なにかそれ おもひすつへき あつさゆみ またひきかへす ときもありなむ
源雅定雑上
7-千載976きのふみししのふもちすりたれならん心のほとそかきりしられぬ
きのふみし しのふもちすり たれならむ こころのほとそ かきりしられぬ
藤原顕輔雑上
7-千載977露しけきよもきかなかの虫のねをおほろけにてや人のたつねん
つゆしけき よもきかなかの むしのねを おほろけにてや ひとのたつねむ
紫式部雑上
7-千載978人しれぬおほうち山のやまもりはこかくれてのみ月をみるかな
ひとしれぬ おほうちやまの やまもりは こかくれてのみ つきをみるかな
源頼政雑上
7-千載979秋をへて光をませとおもひしにおもはぬ月のかけにもあるかな
あきをへて ひかりをませと おもひしに おもはぬつきの かけにもあるかな
藤原実綱雑上
7-千載980とふ人におもひよそへてみる月のくもるはかへる心ちこそすれ
とふひとに おもひよそへて みるつきの くもるはかへる ここちこそすれ
覚性入道親王雑上
7-千載981ささ浪やくにつみかみのうらさひてふるき都に月ひとりすむ
ささなみや くにつみかみの うらさひて ふるきみやこに つきひとりすむ
西園寺公経雑上
7-千載982あまの川空ゆく月はひとつにてやとらぬ水のいかてなからん
あまのかは そらゆくつきは ひとつにて やとらぬみつの いかてなからむ
西園寺公経雑上
7-千載983ひとりゐて月をなかむる秋のよはなにことをかはおもひのこさん
ひとりゐて つきをなかむる あきのよは なにことをかは おもひのこさむ
具平親王雑上
7-千載984物おもはぬ人もやこよひなかむらんねられぬままに月をみるかな
ものおもはぬ ひともやこよひ なかむらむ ねられぬままに つきをみるかな
赤染衛門雑上
7-千載985なかめつつむかしも月はみしものをかくやは袖のひまなかるへき
なかめつつ むかしもつきは みしものを かくやはそての ひまなかるへき
相模雑上
7-千載986ひとりのみあはれなるかと我ならぬ人にこよひの月をみせはや
ひとりのみ あはれなるかと われならぬ ひとにこよひの つきをみせはや
和泉式部雑上
7-千載987かくはかりうき世の中のおもひ出てにみよともすめる夜はの月かな
かくはかり うきよのなかの おもひいてに みよともすめる よはのつきかな
久我内大臣雑上
7-千載988すみわひて身をかくすへき山さとにあまりくまなき夜はの月かな
すみわひて みをかくすへき やまさとに あまりくまなき よはのつきかな
藤原俊成雑上
7-千載989はりまかたすまの月夜めそらさえてゑしまかさきに雪ふりにけり
はりまかた すまのつきよめ そらさえて ゑしまかさきに ゆきふりにけり
藤原親隆雑上
7-千載990さよちとりふけひのうらにおとつれてゑしまかいそに月かたふきぬ
さよちとり ふけひのうらに おとつれて ゑしまかいそに つきかたふきぬ
藤原家基雑上
7-千載991いかたおろすきよたき川にすむ月はさをにさはらぬ氷なりけり
いかたおろす きよたきかはに すむつきは さをにさはらぬ こほりなりけり
俊恵法師雑上
7-千載992あまのはらすめるけしきはのとかにてはやくも月の西へゆくかな
あまのはら すめるけしきは のとかにて はやくもつきの にしへゆくかな
賀茂成保雑上
7-千載993さひしさにあはれもいととまさりけりひとりそ月はみるへかりける
さひしさに あはれもいとと まさりけり ひとりそつきは みるへかりける
顕昭法師雑上
7-千載994いまよりはふけ行くまてに月はみしそのこととなく涙おちけり
いまよりは ふけゆくまてに つきはみし そのこととなく なみたおちけり
藤原清輔雑上
7-千載995もろともにみし人いかになりにけん月はむかしにかはらさりけり
もろともに みしひといかに なりにけむ つきはむかしに かはらさりけり
登蓮法師雑上
7-千載996あかなくに又もこのよにめくりこはおもかはりすな山のはの月
あかなくに またもこのよに めくりこは おもかはりすな やまのはのつき
法印静賢雑上
7-千載997はかなくもわかよのふけをしらすしていさよふ月をまちわたるかな
はかなくも わかよのふけを しらすして いさよふつきを まちわたるかな
源仲正雑上
7-千載998さきたちし人はやみにやまよふらんいつまて我も月をなかめん
さきたちし ひとはやみにや まよふらむ いつまてわれも つきをなかめむ
源仲綱雑上
7-千載999のこりなくわかよふけぬとおもふにもかたふく月にすむ心かな
のこりなく わかよふけぬと おもふにも かたふくつきに すむこころかな
待賢門院堀河雑上
7-千載1000うき雲のかかるほとたにあるものをかくれなはてそあり明の月
うきくもの かかるほとたに あるものを かくれなはてそ ありあけのつき
近衛院雑上
7-千載1001このまもるあり明の月のおくらすはひとりや山のみねを出てまし
このまもる ありあけのつきの おくらすは ひとりややまの みねをいてまし
覚性入道親王雑上
7-千載1002ことのねを雪にしらふときこゆなり月さゆる夜のみねの松かせ
ことのねを ゆきにしらふと きこゆなり つきさゆるよの みねのまつかせ
道性法親王雑上
7-千載1003あかていらんなこりをいととおもへとやかたふくままにすめる月かな
あかていらむ なこりをいとと おもへとや かたふくままに すめるつきかな
藤原長方雑上
7-千載1004いかにせんさらてうきよはなくさますたのみし月も涙おちけり
いかにせむ さらてうきよは なくさます たのみしつきも なみたおちけり
藤原定家雑上
7-千載1005山ふかき松のあらしを身にしめてたれかねさめに月をみるらん
やまふかき まつのあらしを みにしめて たれかねさめに つきをみるらむ
藤原家隆雑上
7-千載1006まつほとはいとと心そなくさまぬをはすて山のあり明の月
まつほとは いととこころそ なくさまぬ をはすてやまの ありあけのつき
八条院六条雑上
7-千載1007よをいとふ心は月をしたへはや山のはにのみおもひいるらん
よをいとふ こころはつきを したへはや やまのはにのみ おもひいるらむ
法印実修雑上
7-千載1008さひしさも月みるほとはなくさみぬいりなんのちをとふ人もかな
さひしさも つきみるほとは なくさみぬ いりなむのちを とふひともかな
藤原隆親雑上
7-千載1009霜さゆるにはのこのはをふみわけて月はみるやととふ人もかな
しもさゆる にはのこのはを ふみわけて つきはみるやと とふひともかな
西行法師雑上
7-千載1010すみなれしやとをはいてて西へゆく月をしたひて山にこそいれ
すみなれし やとをはいてて にしへゆく つきをしたひて やまにこそいれ
平実重雑上
7-千載1011ふるさとのいたゐのし水みくさゐて月さへすます成りにけるかな
ふるさとの いたゐのしみつ みくさゐて つきさへすます なりにけるかな
俊恵法師雑上
7-千載1012さもこそはかけととむへき世ならねとあとなき水にやとる月かな
さもこそは かけととむへき よならねと あとなきみつに やとるつきかな
藤原家基雑上
7-千載1013なにとなくなかむるそてのかわかぬは月のかつらの露やおくらん
なにとなく なかむるそての かわかぬは つきのかつらの つゆやおくらむ
藤原親盛雑上
7-千載1014ましはふくやとのあられに夢さめてあり明かたの月をみるかな
ましはふく やとのあられに ゆめさめて ありあけかたの つきをみるかな
大江公景雑上
7-千載1015あし曳の山のはちかくすむとてもまたてやはみるあり明の月
あしひきの やまのはちかく すむとても またてやはみる ありあけのつき
静蓮法師雑上
7-千載1016もろともに秋をやしのふ霜かれのをきのうははをてらす月かけ
もろともに あきをやしのふ しもかれの をきのうははを てらすつきかけ
紀康宗雑上
7-千載1017ますけおふる山した水にやとる夜は月さへ草のいほりをそさす
ますけおふる やましたみつに やとるよは つきさへくさの いほりをそさす
法眼長真雑上
7-千載1018ふかきよの露ふきむすふこからしにそらさえのほる山のはの月
ふかきよの つゆふきむすふ こからしに そらさえのほる やまのはのつき
藤原為忠雑上
7-千載1019山かせにまやのあしふきあれにけり枕にやとる夜はの月影
やまかせに まやのあしふき あれにけり まくらにやとる よはのつきかけ
覚延法師雑上
7-千載1020やまふかみたれ又かかるすまひしてま木のはわくる月をみるらん
やまふかみ たれまたかかる すまひして まきのはわくる つきをみるらむ
慈円雑上
7-千載1021月影のいりぬるあとにおもふかなまよはむやみのゆくすゑの空
つきかけの いりぬるあとに おもふかな まよはむやみの ゆくすゑのそら
慈円雑上
7-千載1022此世にて六そちはなれぬ秋の月しての山ちもおもかはりすな
このよにて むそちはなれぬ あきのつき してのやまちも おもかはりすな
俊恵法師雑上
7-千載1023こむよには心のうちにあらはさんあかてやみぬる月のひかりを
こむよには こころのうちに あらはさむ あかてやみぬる つきのひかりを
西行法師雑上
7-千載1024いかなれはしつみなからにとしをへてよよの雲ゐの月をみつらん
いかなれは しつみなからに としをへて よよのくもゐの つきをみつらむ
藤原俊成雑上
7-千載1025からくににしつみし人もわかことくみよまてあはぬなけきをそせし
からくにに しつみしひとも わかことく みよまてあはぬ なけきをそせし
藤原基優雑上
7-千載1026契りおきしさせもか露をいのちにてあはれことしの秋もいぬめり
ちきりおきし させもかつゆを いのちにて あはれことしの あきもいぬめり
藤原基優雑上
7-千載1027よのなかのありしにもあらすなりゆけは涙さへこそ色かはりけれ
よのなかの ありしにもあらす なりゆけは なみたさへこそ いろかはりけれ
源俊頼雑上
7-千載1028すききにし四そちの春のゆめのよはうきよりほかのおもひいてそなき
すききにし よそちのはるの ゆめのよは うきよりほかの おもひいてそなき
覚審法師雑上
7-千載1029はかなしなうき身なからもすきぬへき此世をさヘもしのひかぬらん
はかなしな うきみなからも すきぬへき このよをさへも しのひかぬらむ
経因法師雑上
7-千載1030ゆくすゑをおもへはかなしつの国のなからのはしも名はのこりけり
ゆくすゑを おもへはかなし つのくにの なからのはしも なはのこりけり
源俊頼雑上
7-千載1031なにこともかはりゆくめる世の中にむかしなからのはしはしらかな
なにことも かはりゆくめる よのなかに むかしなからの はしはしらかな
道命法師雑上
7-千載1032けふみれはなからのはしはあともなしむかしありきとききわたれとも
けふみれは なからのはしは あともなし むかしありきと ききわたれとも
道因法師雑上
7-千載1033人こころあらすなれともすみよしの松のけしきはかはらさりけり
ひとこころ あらすなれとも すみよしの まつのけしきは かはらさりけり
津守景基雑上
7-千載1034しら雲にまかひやせましよしの山おちくるたきのおとせさりせは
しらくもに まかひやせまし よしのやま おちくるたきの おとせさりせは
中納言経忠雑上
7-千載1035たきのおとはたえてひさしく成りぬれとなこそなかれて猶きこえけれ
たきのおとは たえてひさしく なりぬれと なこそなかれて なほきこえけれ
藤原公任雑上
7-千載1036ぬけはちるぬかねはみたるあし引の山よりおつるたきのしら玉
ぬけはちる ぬかねはみたる あしひきの やまよりおつる たきのしらたま
藤原長能雑上
7-千載1037水の色のたたしら雲とみゆるかなたれさらしけんぬのひきのたき
みつのいろの たたしらくもと みゆるかな たれさらしけむ ぬのひきのたき
源顕房雑上
7-千載1038あしたつにのりてかよへるやとなれはあとたに人はみえぬなりけり
あしたつに のりてかよへる やとなれは あとたにひとは みえぬなりけり
能因法師雑上
7-千載1039山人のむかしのあとをきてみれはむなしきゆかをはらふ谷かせ
やまひとの むかしのあとを きてみれは むなしきゆかを はらふたにかせ
藤原清輔雑上
7-千載1040おとにのみききしはことのかすならて名よりもたかきぬのひきの滝
おとにのみ ききしはことの かすならて なよりもたかき ぬのひきのたき
藤原良清雑上
7-千載1041たえすたつむろのやしまの煙かないかにつきせぬおもひなるらん
たえすたつ むろのやしまの けふりかな いかにつきせぬ おもひなるらむ
藤原顕方雑上
7-千載1042かつらきやわたしもはてぬものゆゑにくめのいははしこけおひにけり
かつらきや わたしもはてぬ ものゆゑに くめのいははし こけおひにけり
源師頼雑上
7-千載1043いはおろすかたこそなけれいせの海のしほせにかかるあまのつり舟
いはおろす かたこそなけれ いせのうみの しほせにかかる あまのつりふね
藤原俊忠雑上
7-千載1044玉もかるいらこかさきのいはねまついく代まてにかとしのへぬらん
たまもかる いらこかさきの いはねまつ いくよまてにか としのへぬらむ
藤原顕季雑上
7-千載1045しほみては野しまかさきのさゆりはに浪こすかせのふかぬ日そなき
しほみては のしまかさきの さゆりはに なみこすかせの ふかぬひそなき
源俊頼雑上
7-千載1046けふこそはみやこのかたの山のはもみえすなるをのおきに出てぬれ
けふこそは みやこのかたの やまのはも みえすなるをの おきにいてぬれ
藤原実家雑上
7-千載1047はりまかたすまのはれまにみわたせは浪は雲ゐのものにそありける
はりまかた すまのはれまに みわたせは なみはくもゐの ものにそありける
藤原実宗雑上
7-千載1048はるはるとおまへのおきをみわたせはくもゐにまかふあまのつり舟
はるはると おまへのおきを みわたせは くもゐにまかふ あまのつりふね
右衛門督頼実雑上
7-千載1049なにはかたしほちはるかにみわたせは霞にうかふおきのつり舟
なにはかた しほちはるかに みわたせは かすみにうかふ おきのつりふね
円玄法師雑上
7-千載1050春かすみゑしまかさきをこめつれは浪のかくともみえぬけさかな
はるかすみ ゑしまかさきを こめつれは なみのかくとも みえぬけさかな
藤原重綱雑上
7-千載1051ゆくとしは浪とともにやかへるらんおもかはりせぬわかの浦かな
ゆくとしは なみとともにや かへるらむ おもかはりせぬ わかのうらかな
祝部宿禰成仲雑上
7-千載1052心あらはにほひをそへよさくら花のちの春をはいつかみるへき
こころあらは にほひをそへよ さくらはな のちのはるをは いつかみるへき
鳥羽院雑中
7-千載1053はかなさをうらみもはてしさくら花うき世はたれも心ならねは
はかなさを うらみもはてし さくらはな うきよはたれも こころならねは
覚性入道親王雑中
7-千載1054やともやとはなもむかしににほへともぬしなき色はさひしかりけり
やともやと はなもむかしに にほへとも ぬしなきいろは さひしかりけり
僧正尋範雑中
7-千載1055いにしへにかはらさりけり山さくら花は我をはいかかみるらん
いにしへに かはらさりけり やまさくら はなはわれをは いかかみるらむ
藤原基長雑中
7-千載1056雲のうへの春こそさらにわすられね花はかすにもおもひ出てしを
くものうへの はるこそさらに わすられね はなはかすにも おもひいてしを
藤原俊成雑中
7-千載1057あまたたひゆきあふさかのせき水に今はかきりのかけそかなしき
あまたたひ ゆきあふさかの せきみつに いまはかきりの かけそかなしき
東三条院雑中
7-千載1058いまはとていりなん後そおもほゆる山ちをふかみとふ人もなし
いまはとて いりなむのちそ おもほゆる やまちをふかみ とふひともなし
藤原公任雑中
7-千載1059うき世をはみねのかすみやへたつらんなほ山さとはすみよかりけり
うきよをは みねのかすみや へたつらむ なほやまさとは すみよかりけり
藤原公任雑中
7-千載1060花さかぬたにのそこにもすまなくにふかくも物をおもふ春かな
はなさかぬ たにのそこにも すまなくに ふかくもものを おもふはるかな
和泉式部雑中
7-千載1061たにのとをとちやはてつる鴬のまつにおとせて春のくれぬる
たにのとを とちやはてつる うくひすの まつにおとせて はるのくれぬる
西園寺公経雑中
7-千載1062かくてたになほあはれなるおく山に君こぬよよをおもひしらなん
かくてたに なほあはれなる おくやまに きみこぬよよを おもひしらなむ
道命法師雑中
7-千載1063としことに涙の川にうかへともみはなけられぬ物にそありける
としことに なみたのかはに うかへとも みはなけられぬ ものにそありける
大江公資雑中
7-千載1064おもふことなくてや春をすくさましうき世へたつるかすみなりせは
おもふこと なくてやはるを すくさまし うきよへたつる かすみなりせは
源仲正雑中
7-千載1065ちるをみてかへる心やさくら花むかしにかはるしるしなるらん
ちるをみて かへるこころや さくらはな むかしにかはる しるしなるらむ
西行法師雑中
7-千載1066はなにそむ心のいかてのこりけんすてはててきとおもふわか身に
はなにそむ こころのいかて のこりけむ すてはててきと おもふわかみに
西行法師雑中
7-千載1067ほとけにはさくらの花をたてまつれわかのちのよを人とふらはは
ほとけには さくらのはなを たてまつれ わかのちのよを ひととふらはは
西行法師雑中
7-千載1068この春そおもひはかへすさくら花むなしき色にそめしこころを
このはるそ おもひはかへす さくらはな むなしきいろに そめしこころを
寂然法師雑中
7-千載1069よのなかをつねなき物とおもはすはいかてか花のちるにたへまし
よのなかを つねなきものと おもはすは いかてかはなの ちるにたへまし
寂然法師雑中
7-千載1070かくはかりうき世のすゑにいかにしてはるはさくらのなほにほふらん
かくはかり うきよのすゑに いかにして はるはさくらの なほにほふらむ
読人不知雑中
7-千載1071ふりにけりむかしをしらはさくら花ちりのすゑをもあはれとはみよ
ふりにけり むかしをしらは さくらはな ちりのすゑをも あはれとはみよ
藤原俊成雑中
7-千載1072山さくら花をあるしとおもはすは人をまつへきしはのいほかは
やまさくら はなをあるしと おもはすは ひとをまつへき しはのいほかは
源定宗雑中
7-千載1073いつくにてかせをも世をもうらみましよしののおくも花はちるなり
いつくにて かせをもよをも うらみまし よしののおくも はなはちるなり
藤原定家雑中
7-千載1074ふかくおもふことしかなははこむ世にも花みる身とやならんとすらん
ふかくおもふ ことしかなはは こむよにも はなみるみとや ならむとすらむ
源季広雑中
7-千載1075老かよにやとにさくらをうつしうゑてなほこころみに花をまつかな
おいかよに やとにさくらを うつしうゑて なほこころみに はなをまつかな
源師教雑中
7-千載1076くらゐ山はなをまつこそひさしけれはるの宮こにとしはへしかと
くらゐやま はなをまつこそ ひさしけれ はるのみやこに としはへしかと
権中納言実守雑中
7-千載1077かすか山まつにたのみをかくるかなふちのすゑはのかすならねとも
かすかやま まつにたのみを かくるかな ふちのすゑはの かすならねとも
右兵衛督公行雑中
7-千載1078物おもふ心や身にもさきたちてうき世をいてんしるへなるへき
ものおもふ こころやみにも さきたちて うきよをいてむ しるへなるへき
前左衛門督公光雑中
7-千載1079かすならてとしへぬる身はいまさらに世をうしとたにおもはさりけり
かすならて としへぬるみは いまさらに よをうしとたに おもはさりけり
俊恵法師雑中
7-千載1080いつとても身のうきことはかはらねとむかしはおいをなけきやはせし
いつとても みのうきことは かはらねと むかしはおいを なけきやはせし
道因法師雑中
7-千載1081いにしへもそこにしつみし身なれともなほ恋しきはしら川のみつ
いにしへも そこにしつみし みなれとも なほこひしきは しらかはのみつ
藤原家基(法名素覚)雑中
7-千載1082あはれてふ人もなき身をうしとてもわれさへいかかいとひはつへき
あはれてふ ひともなきみを うしとても われさへいかか いとひはつへき
藤原盛方雑中
7-千載1083かすならぬ身をうき雲のはれぬかなさすかに家のかせはふけとも
かすならぬ みをうきくもの はれぬかな さすかにいへの かせはふけとも
中原師尚雑中
7-千載1084おもひやれとよにあまれるともし火のかかけかねたる心ほそさを
おもひやれ とよにあまれる ともしひの かかけかねたる こころほそさを
大江匡範雑中
7-千載1085よのうさをおもひしのふと人もみよかくてふるやの軒のけしきを
よのうさを おもひしのふと ひともみよ かくてふるやの のきのけしきを
藤原公重雑中
7-千載1086ひく人もなくてすてたるあつさ弓心つよきもかひなかりけり
ひくひとも なくてすてたる あつさゆみ こころつよきも かひなかりけり
菅原是忠雑中
7-千載1087いかてわれひまゆくこまを引きとめてむかしにかへる道をたつねん
いかてわれ ひまゆくこまを ひきとめて むかしにかへる みちをたつねむ
二条院参川内侍雑中
7-千載1088今はたたいけらぬ物にみをなしてうまれぬのちの世にもふるかな
いまはたた いけらぬものに みをなして うまれぬのちの よにもふるかな
源師光雑中
7-千載1089いかにせむいせのはまをきみかくれておもはぬいその浪にくちなは
いかにせむ いせのはまをき みかくれて おもはぬいその なみにくちなは
源俊重雑中
7-千載1090ま木のとをみ山おろしにたたかれてとふにつけてもぬるる袖かな
まきのとを みやまおろしに たたかれて とふにつけても ぬるるそてかな
源俊頼雑中
7-千載1091をやま国のいほにたくひのありなしにたつ煙もや雲となるらん
をやまたの いほにたくひの ありなしに たつけふりもや くもとなるらむ
橘盛長雑中
7-千載1092山さとのしはをりをりにたつ煙人まれなりとそらにしるかな
やまさとの しはをりをりに たつけふり ひとまれなりと そらにしるかな
二条太皇大后宮肥後雑中
7-千載1093秋はつるかれののむしのこゑたえはありやなしやを人のとへかし
あきはつる かれののむしの こゑたえは ありやなしやを ひとのとへかし
藤原基俊雑中
7-千載1094この世にはすむへきほとやつきぬらんよのつねならす物のかなしき
このよには すむへきほとや つきぬらむ よのつねならす もののかなしき
藤原道信雑中
7-千載1095いのちあらはいかさまにせんよをしらぬむしたに秋はなきにこそなけ
いのちあらは いかさまにせむ よをしらぬ むしたにあきは なきにこそなけ
和泉式部雑中
7-千載1096かすならて心に身をはまかせねと身にしたかふは心なりけり
かすならて こころにみをは まかせねと みにしたかふは こころなりけり
紫式部雑中
7-千載1097あはれともたれかはわれをおもひいてむある世にたにもとふ人もなし
あはれとも たれかはわれを おもひいてむ あるよにたにも とふひともなし
藤原兼房雑中
7-千載1098ふるさとのいたまのかせにねさめしてたにのあらしをおもひこそやれ
ふるさとの いたまのかせに ねさめして たにのあらしを おもひこそやれ
藤原定頼雑中
7-千載1099たにかせの身にしむことに古郷のこのもとをこそおもひやりつれ
たにかせの みにしむことに ふるさとの このもとをこそ おもひやりつれ
藤原公任雑中
7-千載1100いにしへはおもひかけきやとりかはしかくきん物とのりの衣を
いにしへは おもひかけきや とりかはし かくきむものと のりのころもを
西園寺公経雑中
7-千載1101おなしとし契しあれは君かきるのりの衣をたちおくれめや
おなしとし ちきりしあれは きみかきる のりのころもを たちおくれめや
入道藤原公任雑中
7-千載1102むかしみし松のこすゑはそれなからむくらのかとをさしてけるかな
むかしみし まつのこすゑは それなから むくらのかとを さしてけるかな
弁乳母雑中
7-千載1103山さとのかけひの水のこほれるはおときくよりもさひしかりけり
やまさとの かけひのみつの こほれるは おときくよりも さひしかりけり
輔仁のみこ雑中
7-千載1104やまさとのさひしきやとのすみかにもかけひの水のとくるをそまつ
やまさとの さひしきやとの すみかにも かけひのみつの とくるをそまつ
聡子内親王雑中
7-千載1105このもとにかきあつめたることのはをわかれし秋のかたみとそみる
このもとに かきあつめたる ことのはを わかれしあきの かたみとそみる
太皇大后宮雑中
7-千載1106このもとはかくことのはをみるたひにたのみしかけのなきそかなしき
このもとは かくことのはを みるたひに たのみしかけの なきそかなしき
藤原実家雑中
7-千載1107あとたえてよをのかるへき道なれやいはさへこけの衣きてけり
あとたえて よをのかるへき みちなれや いはさへこけの ころもきてけり
守覚法親王雑中
7-千載1108思ひいてのあらは心もとまりなんいとひやすきはうき世なりけり
おもひいての あらはこころも とまりなむ いとひやすきは うきよなりけり
守覚法親王雑中
7-千載1109やとりするいはやのとこのこけむしろいくよになりぬねこそいられね
やとりする いはやのとこの こけむしろ いくよになりぬ ねこそいられね
前大僧正覚忠雑中
7-千載1110身のほとをしらすと人やおもふらんかくうきなからとしをへぬれは
みのほとを しらすとひとや おもふらむ かくうきなから としをへぬれは
大納言宗家雑中
7-千載1111そむかはやまことの道はしらすともうき世をいとふしるしはかりに
そむかはや まことのみちは しらすとも うきよをいとふ しるしはかりに
藤原忠良雑中
7-千載1112そま川におろすいかたのうきなからすきゆく物は我か身なりけり
そまかはに おろすいかたの うきなから すきゆくものは わかみなりけり
二条太皇太后宮別当雑中
7-千載1113おのつからあれはあるよになからへてをしむと人にみえぬへきかな
おのつから あれはあるよに なからへて をしむとひとに みえぬへきかな
藤原定家雑中
7-千載1114うしとてもいとひもはてぬよのなかを中中なににおもひしりけん
うしとても いとひもはてぬ よのなかを なかなかなにに おもひしりけむ
摂政家丹後雑中
7-千載1115のほるへき道にそまとふくらゐ山これよりおくのしるへなけれは
のほるへき みちにそまとふ くらゐやま これよりおくの しるへなけれは
法印倫円雑中
7-千載1116もろ人の花さくはるをよそにみてなほしくるるはしひしはのそて
もろひとの はなさくはるを よそにみて なほしくるるは しひしはのそて
中納言長方雑中
7-千載1117うきせにもうれしきせにもさきにたつ涙はおなし涙なりけり
うきせにも うれしきせにも さきにたつ なみたはおなし なみたなりけり
藤原顕方雑中
7-千載1118このせにもしつむときくは涙川なかれしよりもなほまさりけり
このせにも しつむときけは なみたかは なかれしよりも なほまさりけり
藤原惟方雑中
7-千載1119かくはかりうき身なれともすてはてむとおもふになれはかなしかりけり
かくはかり うきみなれとも すてはてむと おもふになれは かなしかりけり
空人法師雑中
7-千載1120おもひきやしかのうら浪たちかへり又あふ身ともならむものとは
おもひきや しかのうらなみ たちかへり またあふみとも ならむものとは
平康頼雑中
7-千載1121かくはかりうきよのなかをしのひてもまつへきことのすゑにあるかは
かくはかり うきよのなかを しのひても まつへきことの すゑにあるかは
登蓮法師雑中
7-千載1122おもひかねあくかれいててゆくみちはあゆく草はに露そこほるる
おもひかね あくかれいてて ゆくみちは あゆくくさはに つゆそこほるる
覚禅法師雑中
7-千載1123夢とのみこの世のことのみゆるかなさむへきほとはいつとなけれと
ゆめとのみ このよのことの みゆるかな さむへきほとは いつとなけれと
権僧正永縁雑中
7-千載1124この世をは雲のはやしにかとてして煙とならん夕をそまつ
このよをは くものはやしに かとてして けふりとならむ ゆふへをそまつ
良暹法師雑中
7-千載1125うきことのまとろむほとはわすられてさむれは夢の心ちこそすれ
うきことの まとろむほとは わすられて さむれはゆめの ここちこそすれ
よみ人しらす雑中
7-千載1126いつくとも身をやるかたのしられねはうしとみつつもなからふるかな
いつくとも みをやるかたの しられねは うしとみつつも なからふるかな
紫式部雑中
7-千載1127うき夢はなこりまてこそかなしけれ此世ののちもなほやなけかん
うきゆめは なこりまてこそ かなしけれ このよののちも なほやなけかむ
藤原俊成雑中
7-千載1128うつつをもうつつといかかさたむへき夢にも夢をみすはこそあらめ
うつつをも うつつといかか さたむへき ゆめにもゆめを みすはこそあらめ
藤原季通雑中
7-千載1129いとひてもなほしのはるるわか身かな二たひくへき此世ならねは
いとひても なほしのはるる わかみかな ふたたひくへき このよならねは
藤原季通雑中
7-千載1130これや夢いつれかうつつはかなさをおもひわかてもすきぬへきかな
これやゆめ いつれかうつつ はかなさを おもひわかても すきぬへきかな
上西門院兵衛雑中
7-千載1131あすしらぬみむろのきしのねなし草なにあたし世におひはしめけん
あすしらぬ みむろのきしの ねなしくさ なにあたしよに おひはしめけむ
源有仁家小大進雑中
7-千載1132をしからぬ命そさらにをしまるる君かみやこにかへりくるまて
をしからぬ いのちそさらに をしまるる きみかみやこに かへりくるまて
藤原成通雑中
7-千載1133うき世をはすてて入りにし山なれときみかとふにやいてんとすらん
うきよをは すてていりにし やまなれと きみかとふにや いてむとすらむ
前大僧正覚忠雑中
7-千載1134いはそそく水よりほかにおとせねは心ひとつをすましてそきく
いはそそく みつよりほかに おとせねは こころひとつに すましてそきく
守覚法親王雑中
7-千載1135たれもみな露の身そかしとおもふにも心とまりし草のいほかな
たれもみな つゆのみそかしと おもふにも こころとまりし くさのいほかな
滋野井実国雑中
7-千載1136なほさりにかへるたもとはかはらねと心はかりそすみそめのそて
なほさりに かへるたもとは かはらねと こころはかりそ すみそめのそて
藤原公衡雑中
7-千載1137おほけなくうき世のたみにおほふかなわかたつそまにすみそめのそて
おほけなく うきよのたみに おほふかな わかたつそまに すみそめのそて
慈円雑中
7-千載1138さひしさをうきよにかへてしのはすはひとりきくへき松のかせかは
さひしさを うきよにかへて しのはすは ひとりきくへき まつのかせかは
寂蓮法師雑中
7-千載1139つくつくとおもへはかなしあかつきのねさめも夢をみるにそ有りける
つくつくと おもへはかなし あかつきの ねさめもゆめを みるにそありける
殷富門院大輔雑中
7-千載1140まとろみてさてもやみなはいかかせんねさめそあらぬ命なりける
まとろみて さてもやみなは いかかせむ ねさめそあらぬ いのちなりける
西住法師雑中
7-千載1141さきたつをみるはなほこそかなしけれおくれはつへきこのよならねと
さきたつを みるはなほこそ かなしけれ おくれはつへき このよならねと
六条院宣旨雑中
7-千載1142いまはとてかきなすことのはてのをに心ほそくもなりまさるかな
いまはとて かきなすことの はてのをの こころほそくも なりまさるかな
二条太皇大后宮式部雑中
7-千載1143おほゐ川となせのたきに身をなけてはやくと人にいはせてしかな
おほゐかは となせのたきに みをなけて はやくとひとに いはせてしかな
空人法師雑中
7-千載1144とりへ山きみたつぬともくちはててこけのしたにはこたへさらまし
とりへやま きみたつぬとも くちはてて こけのしたには こたへさらまし
大江公景雑中
7-千載1145わけわひていとひし庭のよもきふもかれぬとおもふはあはれなりけり
わけわひて いとひしにはの よもきふも かれぬとおもふは あはれなりけり
法眼兼覚雑中
7-千載1146世のなかのうきはいまこそうれしけれおもひしらすはいとはましやは
よのなかの うきはいまこそ うれしけれ おもひしらすは いとはましやは
寂蓮法師雑中
7-千載1147よをそむき草のいほりにすみ染のころもの色はかへるものかは
よをそむき くさのいほりに すみそめの ころものいろは かへるものかは
覚俊上人雑中
7-千載1148おもひやれならはぬ山にすみ染の袖につゆおく秋のけしきを
おもひやれ ならはぬやまに すみそめの そてにつゆおく あきのけしきを
源通清雑中
7-千載1149あかつきのあらしにたくふかねのおとを心のそこにこたへてそきく
あかつきの あらしにたくふ かねのおとを こころのそこに こたへてそきく
西行法師雑中
7-千載1150いつくにか身をかくさましいとひいててうきよにふかき山なかりせは
いつくにか みをかくさまし いとひいてて うきよにふかき やまなかりせは
西行法師雑中
7-千載1151世のなかよみちこそなけれおもひいる山のおくにもしかそなくなる
よのなかよ みちこそなけれ おもひいる やまのおくにも しかそなくなる
藤原俊成雑中
7-千載1152おもふことあり明かたのしかのねはなほ山ふかく家ゐせよとや
おもふこと ありあけかたの しかのねは なほやまふかく いへゐせよとや
藤原良清雑中
7-千載1153みる夢のすきにしかたをさそひきてさむる枕もむかしなりせは
みるゆめの すきにしかたを さそひきて さむるまくらも むかしなりせは
藤原宗隆雑中
7-千載1154はつせ山いりあひのかねをきくたひに昔のとほくなるそかなしき
はつせやま いりあひのかねを きくたひに むかしのとほく なるそかなしき
藤原有家雑中
7-千載1155ちりつもるこけのしたにもさくら花をしむ心やなほのこるらん
ちりつもる こけのしたにも さくらはな をしむこころや なほのこるらむ
源通親雑中
7-千載1156うれしさをかへすかへすもつつむへきこけのたもとのせはくも有るかな
うれしさを かへすかへすも つつむへき こけのたもとの せはくもあるかな
入道源雅兼雑中
7-千載1157うれしさをよその袖まてつつむかなたちかへりぬるあまのはころも
うれしさを よそのそてまて つつむかな たちかへりぬる あまのはころも
藤原季経雑中
7-千載1158あしたつの雲ちまよひしとしくれて霞をさへやへたてはつへき
あしたつの くもちまよひし としくれて かすみをさへや へたてはつへき
藤原俊成雑中
7-千載1159あしたつはかすみをわけてかへるなりまよひし雲ちけふやはるらん
あしたつは かすみをわけて かへるなり まよひしくもち けふやはるらむ
藤原定長雑中
7-千載1160もかみ川せせのいはかとわきかへりおもふこころはおほかれと行かたもなくせかれつつそこのみくつとなることはもにすむ虫のわれからとおもひしらすはなけれともいはてはえこそなきさなるかたわれ舟のうつもれてひく人もなきなけきすと浪のたちゐにあふけともむなしき空はみとりにていふこともなきかなしさにねをのみなけはからころもおさふる袖もくちはてぬなにことにかはあはれともおもはん人にあふみなるうちいてのはまのうちいてつついふともたれかささかにのいかさまにてもかきつかんことをはのきにふくかせのはけしきころとしりなからうはの空にもをしふへきあつさのそまにみや木ひきみかきかはらにせりつみしむかしをよそにききしかとわか身のうへになりはてぬさすかに御代のはしめより雲のうへにはかよへともなにはのことも久かたの月のかつらしをられねはうけらか花のさきなからひらけぬことのいふせさによもの山へにあくかれてこのもかのもにたちましりうつふしそめのあさころも花のたもとにぬきかへて後のよをたにとおもへともおもふ人人ほたしにてゆくへきかたもまとはれぬかかるうき身のつれもなくへにける年をかそふれはいつつのとをになりにけりいま行すゑはいなつまのひかりのまにもさためなしたとへはひとりなからへてすきにしはかりすくすとも夢にゆめみる心ちしてひまゆく駒にことならしさらにもいはしふゆかれのをはなかすゑの露なれはあらしをたにもまたすしてもとのしつくとなりはてんほとをはいつとしりてかはくれにとたにもしつむへきかくのみつねにあらそひてなほふるさとにすみのえのしほにたたよふうつせかひうつし心もうせはててあるにもあらぬよのなかに又なにことをみくまののうらのはまゆふかさねつつうきにたヘたるためしにはなるをの松のつれつれといたつらことをかきつめてあはれしれらん行すゑの人のためにはおのつからしのはれぬへき身なれともはかなきことも雲とりのあやにかなはぬくせなれはこれもさこそはみなしくりくち葉かしたにうつもれめそれにつけてもつのくにのいく田のもりのいくたひかあまのたくなはくり返し心にそはぬ身をうらむらん
もかみかは せせのいはかと わきかへり おもふこころは おほかれと ゆくかたもなく せかれつつ そこのみくつと なることは もにすむむしの われからと おもひしらすは なけれとも いはてはえこそ なきさなる かたわれふねの うつもれて ひくひともなき なけきすと なみのたちゐに あふけとも むなしきそらは みとりにて いふこともなき かなしさに ねをのみなけは からころも おさふるそても くちはてぬ なにことにかは あはれとも おもはむひとに あふみなる うちいてのはまの うちいてつつ いふともたれか ささかにの いかさまにても かきつかむ ことをはのきに ふくかせの はけしきころと しりなから うはのそらにも をしふへき あつさのそまに みやきひき みかきかはらに せりつみし むかしをよそに ききしかと わかみのうへに なりはてぬ さかすにみよの はしめより くものうへには かよへとも なにはのことも ひさかたの つきのかつらし をられねは うけらかはなの さきなから ひらけぬことの いふせさに よものやまへに あくかれて このもかのもに たちましり うつふしそめの あさころも はなのたもとに ぬきかへて のちのよをたにと おもへとも おもふひとひと ほたしにて ゆくへきかたも まとはれぬ かかるうきみの つれもなく へにけるとしを かそふれは いつつのとをに なりにけり いまゆくすゑは いなつまの ひかりのまにも さためなし たとへはひとり なからへて すきにしはかり すくすとも ゆめにゆめみる ここちして ひまゆくこまに ことならし さらにもいはし ふゆかれの をはなかすゑの つゆなれは あらしをたにも またすして もとのしつくと なりはてむ ほとをはいつと しりてかは くれにとたにも しつむへき かくのみつねに あらそひて なほふるさとに すみのえの しほにたたよふ うつせかひ うつしこころも うせはてて あるにもあらぬ よのなかに またなにことを みくまのの うらのはまゆふ かさねつつ うきにたへたる ためしには なるをのまつの つれつれと いたつらことを かきつめて あはれしれらむ ゆくすゑの ひとのためには おのつから しのはれぬへき みなれとも はかなきことも くもとりの あやにかなはぬ くせなれは これもさこそは みなしくり くちはかしたに うつもれめ それにつけても つのくにの いくたのもりの いくたひか あまのたくなは くりかへし こころにそはぬ みをうらむらむ
源俊頼雑下
7-千載1161よのなかはうき身にそへるかけなれやおもひすつれとはなれさりけり
よのなかは うきみにそへる かけなれや おもひすつれと はなれさりけり
源俊頼雑下
7-千載1162しきしまや大和のうたのつたはりをきけははるかに久かたのあまつ神世にはしまりてみそもしあまりひともしはいつもの宮のや雲よりおこりけるとそしるすなるそれより後はもも草のことのはしけくちりちりに風につけつつきこゆれとちかきためしにほりかはのなかれをくみてささ浪のよりくる人にあつらへてつたなきことははまちとりあとをすゑまてととめしとおもひなからもつのくにのなにはのうらのなにとなくふねのさすかに此ことをしのひならひしなこりにてよの人ききははつかしのもりもやせんとおもへともこころにもあらすかきつらねつる
しきしまや やまとのうたの つたはりを きけははるかに ひさかたの あまつかみよに はしまりて みそもしあまり ひともしは いつものみやの やくもより おこりけるとそ しるすなる それよりのちは ももくさの ことのはしけく ちりちりに かせにつけつつ きこゆれと ちかきためしに ほりかはの なかれをくみて ささなみの よりくるひとに あつらへて つたなきことは はまちとり あとをすゑまて ととめしと おもひなからも つのくにの なにはのうらの なにとなく ふねのさすかに このことを しのひならひし なこりにて よのひとききは はつかしの もりもやせむと おもへとも こころにもあらす かきつらねつる
崇徳院雑下
7-千載1163ときしらぬ谷のむもれ木くちはててむかしの春の恋しさになにのあやめもわかすのみかはらぬ月のかけみてもしくれにぬるる袖のうらにしほたれまさるあまころもあはれをかけてとふ人もなみにたたよふつり舟のこきはなれにし世なれとも君に心をかけしよりしけきうれへもわすれくさわすれかほにてすみのえの松のちとせのはるはるとこすゑはるかにさかゆへきときはのかけをたのむにもなくさのはまのなくさみてふるのやしろのそのかみに色ふかからてわすれにしもみちのしたはのこるやとおいその杜にたつぬれといまはあらしにたくひつつしもかれかれにおとろへてかきあつめたる水くきにあさき心のかくれなくなかれての名ををし鳥のうきためしにやならんとすらん
ときしらぬ たにのうもれき くちはてて むかしのはるの こひしさに なにのあやめも わかすのみ かはらぬつきの かけみても しくれにぬるる そてのうらに しほたれまさる あまころも あはれをかけて とふひとも なみにたたよふ つりふねの こきはなれにし よなれとも きみにこころを かけしより しけきうれへも わすれくさ わすれかほにて すみのえの まつのちとせの はるはると こすゑはるかに さかゆへき ときはのかけを たのむにも なくさのはまの なくさみて ふるのやしろの そのかみに いろふかからて わすれにし もみちのしたは のこるやと おいそのもりに たつぬれと いまはあらしに たくひつつ しもかれかれに おとろへて かきあつめたる みつくきに あさきこころの かくれなく なかれてのなを をしとりの うきためしにや ならむとすらむ
待賢門院堀河雑下
7-千載1164あつまちのやへの霞をわけきてもきみにあはねはなほへたてたる心ちこそすれ
あつまちの やへのかすみを わけきても きみにあはねは なほへたてたる ここちこそすれ
源仲正雑下
7-千載1165かきたえしままのつきはしふみみれはへたてたるかすみもはれてむかへるかこと
かきたえし ままのつきはし ふみみれは へたてたる かすみもはれて むかへるかこと
源俊頼雑下
7-千載1166あつまちののしまかさきのはまかせに我かひもゆひしいもかかほのみおもかけにみゆ
あつまちの のしまかさきの はまかせに わかひもゆひし いもかかほのみ おもかけにみゆ
藤原顕輔雑下
7-千載1167こまなめていさみにゆかんたつた川しら浪よするきしのあたりを
こまなへて いさみにゆかむ たつたかは しらなみよする きしのあたりを
源雅重雑下
7-千載1168なにとなく物そかなしきあきかせのみにしむよはのたひのねさめは
なにとなく ものそかなしき あきかせの みにしむよはの たひのねさめは
仁上法師雑下
7-千載1169夜のほとにかりそめ人やきたりけんよとのみこものけさみたれたる
よのほとに かりそめひとや きたりけむ よとのみこもの けさみたれたる
いつみしきふ雑下
7-千載1170あとたえてとふへき人もおもほえすたれかはけさの雪をわけこん
あとたえて とふへきひとも おもほえす たれかはけさの ゆきをわけこむ
藤原定頼雑下
7-千載1171さかきははもみちもせしを神かきのからくれなゐにみえわたるかな
さかきはは もみちもせしを かみかきの からくれなゐに みえわたるかな
大弐三位雑下
7-千載1172いけもふりつつみくつれて水もなしむへかつまたに鳥のゐさらん
いけもふり つつみくつれて みつもなし うへかつまたに とりもゐさらむ
二条太皇大后宮肥後雑下
7-千載1173わかこまをしはしとかるかやましろのこはたのさとにありとこたへよ
わかこまを しはしとかるか やましろの こはたのさとに ありとこたへよ
源俊頼雑下
7-千載1174みくら山ま木のやたててすむたみはとしをつむともくちしとそ思ふ
みくらやま まきのやたてて すむたみは としをつむとも くちしとそおもふ
源俊頼雑下
7-千載1175よとともに心をかけてたのめともわれからかみのかたきしるしか
よとともに こころをかけて たのめとも われからかみの かたきしるしか
源俊頼雑下
7-千載1176秋ののにたれをさそはむ行きかへりひとりははきをみるかひもなし
あきののに たれをさそはむ ゆきかへり ひとりははきを みるかひもなし
難波頼輔母雑下
7-千載1177あきは霧きりすきぬれは雪ふりてはるるまもなきみ山へのさと
あきはきり きりすきぬれは ゆきふりて はるるまもなき みやまへのさと
待賢門院堀川雑下
7-千載1178いなり山しるしのすきの年ふりてみつのみやしろ神さひにけり
いなりやま しるしのすきの としふりて みつのみやしろ かみさひにけり
僧都有慶雑下
7-千載1179名にしおははつねはゆるきのもりにしもいかてかさきのいはやすくぬる
なにしおはは つねはゆるきの もりにしも いかてかさきの いはやすくぬる
登蓮法師雑下
7-千載1180あやしくも花のあたりにふせるかなをらはとかむる人やあるとて
あやしくも はなのあたりに ふせるかな をらはとかめむ ひとやあるとて
道命法師雑下
7-千載1181うの花よいてことことしかけしまの浪もさこそはいはをこえしか
うのはなよ いてことことし かけしまの なみもさこそは いはをこえしか
源俊頼雑下
7-千載1182けふかくるたもとにねさせあやめ草うきはわか身にありとしらすや
けふかくる たもとにねさせ あやめくさ うきはわかみに ありとしらすや
道因法師雑下
7-千載1183ともししてはこねの山にあけにけりふたよりみよりあふとせしまに
ともしして はこねのやまに あけにけり ふたよりみより あふとせしまに
橘俊綱雑下
7-千載1184夏のうちははたかくれてもあらすしておりたちにけるむしのこゑかな
なつのうちは はたかくれても あらすして おりたちにける むしのこゑかな
江侍従雑下
7-千載1185あきくれは秋のけしきもみえけるは時ならぬ身となににいふらん
あきくれは あきのけしきも みえけるは ときならぬみと なににいふらむ
輔仁のみこ雑下
7-千載1186あさ露を日たけてみれはあともなしはきのうらはに物やとはまし
あさつゆを ひたけてみれは あともなし はきのうらはに ものやとはまし
藤原為頼雑下
7-千載1187つはなおひしをののしはふのあさ露をぬきちらしける玉かとそみる
つはなおひし をののしはふの あさつゆを ぬきちらしける たまかとそみる
源有仁家小大進雑下
7-千載1188おちにきとかたらはかたれをみなへしこよひは花のかけにやとらん
おちにきと かたらはかたれ をみなへし こよひははなの かけにやとらむ
僧都範玄雑下
7-千載1189くれの秋ことにさやけき月かけはとよにあまりてみよとなりけり
くれのあき ことにさやけき つきかけは とよにあまりて みよとなりけり
賀茂政平雑下
7-千載1190いたひさしさすやかややの時雨こそおとしおとせぬかたはわくなれ
いたひさし さすやかややの しくれこそ おとしおとせぬ かたはわくなれ
顕昭法師雑下
7-千載1191ふえ竹のあなあさましのよの中やありしやふしのかきりなるらん
ふえたけの あなあさましの よのなかや ありしやふしの かきりなるらむ
藤原基俊雑下
7-千載1192したひくる恋のやつこのたひにても身のくせなれやゆふととろきは
したひくる こひのやつこの たひにても みのくせなれや ゆふととろきは
源俊頼雑下
7-千載1193あふことのなけきのつもるくるしさをおへかし人のこりはつるまて
あふことの なけきのつもる くるしさを おへかしひとの こりはつるまて
待賢門院堀河雑下
7-千載1194人のあしをつむにてしりぬわかかたへふみおこせよとおもふなるへし
ひとのあしを つむにてしりぬ わかかたへ ふみおこせよと おもふなるへし
良喜法師雑下
7-千載1195おそろしやきそのかけちのまろ木はしふみみるたひにおちぬへきかな
おそろしや きそのかけちの まろきはし ふみみるたひに おちぬへきかな
空人法師雑下
7-千載1196ふえ竹のこちくとなににおもひけんとなりにおとはせしにそ有りける
ふえたけの こちくとなにに おもひけむ となりにおとは せしにそありける
心覚法師雑下
7-千載1197やつはしのわたりにけふもとまるかなここにすむへきみかはとおもへと
やつはしの わたりにけふも とまるかな ここにすむへき みかはとおもへと
道因法師雑下
7-千載1198つらしとてさてはよもわれ山からすかしらはしろくなる世なりとも
つらしとて さてはよもわれ やまからす かしらはしろく なるよなりとも
安性法師(俗名時元)雑下
7-千載1199かみにおけるもしはまことのもしなれはうたもよみちをたすけさらめや
かみにおける もしはまことの もしなれは うたもよみちを たすけさらめや
源俊頼雑下
7-千載1200けふも又むまのかひこそふきつなれひつしのあゆみちかつきぬらん
けふもまた うまのかひこそ ふきつなれ ひつしのあゆみ ちかつきぬらむ
赤染衛門雑下
7-千載1201こくらくははるけきほととききしかとつとめていたるところなりけり
こくらくは はるけきほとと ききしかと つとめていたる ところなりけり
空也上人雑下
7-千載1202ここにきえかしこにむすふ水のあわのうきよにめくる身にこそ有りけれ
ここにきえ かしこにむすふ みつのあわの うきよにめくる みにこそありけれ
藤原公任釈教
7-千載1203さためなき身はうき雲によそへつつはてはそれにそなりはてぬへき
さためなき みはうきくもに よそへつつ はてはそれにそ なりはてぬへき
藤原公任釈教
7-千載1204世の中はみなほとけなりおしなへていつれのものとわくそはかなき
よのなかは みなほとけなり おしなへて いつれのものと わくそはかなき
花山院釈教
7-千載1205おほそらの雨はわきてもそそかねとうるふ草木はおのかしなしな
おほそらの あめはわきても そそかねと うるふくさきは おのかしなしな
僧都源信釈教
7-千載1206もとめてもかかるはちすの露をおきてうきよに又はかへるものかは
もとめても かかるはちすの つゆをおきて うきよにまたは かへるものかは
清少納言釈教
7-千載1207月かけのつねにすむなる山のはをへたつる雲のなからましかは
つきかけの つねにすむなる やまのはを へたつるくもの なからましかは
藤原国房釈教
7-千載1208いる月をみるとや人はおもふらん心をかけてにしにむかへは
いるつきを みるとやひとは おもふらむ こころをかけて にしにむかへは
堀川藤原実房釈教
7-千載1209たききつき煙もすみてさりにけんこれやなこりとみるそかなしき
たききつき けふりもすみて さりにけむ これやなこりと みるそかなしき
瞻西上人釈教
7-千載1210夢さめんその暁をまつほとのやみをもてらせのりのともし火
ゆめさめむ そのあかつきを まつほとの やみをもてらせ のりのともしひ
藤原敦家釈教
7-千載1211よをてらすほとけのしるしありけれはまたともし火もきえぬなりけり
よをてらす ほとけのしるし ありけれは またともしひも きえぬなりけり
前大僧正覚忠釈教
7-千載1212みるままに涙そおつるかきりなき命にかはるすかたとおもへは
みるままに なみたそおつる かきりなき いのちにかはる すかたとおもへは
前大僧正覚忠釈教
7-千載1213ちとせまてむすひし水も露はかりわか身のためとおもひやはせし
ちとせまて むすひしみつも つゆはかり わかみのためと おもひやはせし
僧都覚雅釈教
7-千載1214うれしくそ名をたもつたにあたならぬみのりの花にみをむすひける
うれしくそ なをたもつたに あたならぬ みのりのはなに みをむすひける
前大僧正快修釈教
7-千載1215わひ人の心のうちをよそなからしるやさとりのひかりなるらん
わひひとの こころのうちを よそなから しるやさとりの ひかりなるらむ
源俊頼釈教
7-千載1216ちかひをはちひろのうみにたとふなり露もたのまはかすにいりなん
ちかひをは ちひろのうみに たとふなり つゆもたのまは かすにいりなむ
崇徳院釈教
7-千載1217はかなくそみよのほとけとおもひけるわかみひとつにありとしらすて
はかなくそ みよのほとけと おもひける わかみひとつに ありとしらすて
藤原教長釈教
7-千載1218てる月の心の水にすみぬれはやかてこの身にひかりをそさす
てるつきの こころのみつに すみぬれは やかてこのみに ひかりをそさす
藤原教長釈教
7-千載1219かへりてもいりそわつらふまきのとをまとひいてにし心ならひに
かへりても いりそわつらふ まきのとを まとひいてにし こころならひに
前大僧正覚忠釈教
7-千載1220ふる雪はたにのとほそをうつむともみよのほとけのひやてらすらん
ふるゆきは たにのとほそを うつむとも みよのほとけの ひやてらすらむ
崇徳院釈教
7-千載1221てらすなるみよのほとけのあさひにはふる雪よりもつみやきゆらん
てらすなる みよのほとけの あさひには ふるゆきよりも つみやきゆらむ
覚性入道親王釈教
7-千載1222ふるさとをひとりわかるるゆふへにもおくるは月のかけとこそきけ
ふるさとを ひとりわかるる ゆふへにも おくるはつきの かけとこそきけ
式子内親王釈教
7-千載1223人ことにかはるはゆめのまとひにてさむれはおなしこころなりけり
ひとことに かはるはゆめの まとひにて さむれはおなし こころなりけり
九条兼実釈教
7-千載1224すめはみゆにこれはかくるさためなきこのみや水にやとる月かけ
すめはみゆ にこれはかくる さためなき このみやみつに やとるつきかけ
藤原永範釈教
7-千載1225いととしくむかしのあとやたえなんとおもふもかなしけさのしら雪
いととしく むかしのあとや たえなむと おみふもかなし けさのしらゆき
慈円釈教
7-千載1226君か名そなほあらはれんふる雪にむかしのあとはうつもれぬとも
きみかなそ なほあらはれむ ふるゆきに むかしのあとは うつもれぬとも
尊円法師釈教
7-千載1227ひとりのみくるしきうみをわたるとやそこをさとらぬ人はみるらん
ひとりのみ くるしきうみを わたるとや そこをさとらぬ ひとはみるらむ
九条良経釈教
7-千載1228くれ竹のむなしととけることのははみよの仏のははとこそきけ
くれたけの むなしととける ことのはは みよのほとけの ははとこそきけ
藤原隆信釈教
7-千載1229むなしきも色なるものとさとれとやはるのみそらのみとりなるらん
むなしきも いろなるものと さとれとや はるのみそらの みとりなるらむ
摂政家丹後釈教
7-千載1230なかき夜もむなしき物としりぬれははやくあけぬる心ちこそすれ
なかきよも むなしきものと しりぬれは はやくあけぬる ここちこそすれ
源師仲釈教
7-千載1231わしの山月をいりぬとみる人はくらきにまよふ心なりけり
わしのやま つきをいりぬと みるひとは くらきにまよふ こころなりけり
西行法師釈教
7-千載1232いさきよきいけにかけこそうかひぬれしつみやせんとおもふわかみを
いさきよき いけにかけこそ うかひぬれ しつみやせむと おもふわかみを
源顕仲釈教
7-千載1233くちはつる袖にはいかかつつまましむなしととけるみのりならすは
くちはつる そてにはいかか つつままし むなしととける みのりならすは
寂超法師釈教
7-千載1234みるほとはゆめも夢ともしられねはうつつもいまはうつつとおもはし
みるほとは ゆめもゆめとも しられねは うつつもいまは うつつとおもはし
藤原資隆釈教
7-千載1235おとろかぬわか心こそうかりけれはかなき世をは夢とみなから
おとろかぬ わかこころこそ うかりけれ はかなきよをは ゆめとみなから
登蓮法師釈教
7-千載1236暁をたかのの山にまつほとやこけのしたにもあり明の月
あかつきを たかののやまに まつほとや こけのしたにも ありあけのつき
寂蓮法師釈教
7-千載1237おもひとくこころひとつになりぬれはこほりも水もへたてさりけり
おもひとく こころひとつに なりぬれは こほりもみつも へたてさりけり
式子内親王家中将釈教
7-千載1238たのもしきちかひは春にあらねともかれにしえたも花そさきける
たのもしき ちかひははるに あらねとも かれにしえたも はなそさきける
平時忠釈教
7-千載1239春ことになけきしものをのりのにはちるかうれしき花もありけり
はることに なけきしものを のりのには ちるかうれしき はなもありけり
藤原伊綱釈教
7-千載1240みくさのみしけきにこりとみしかともさても月すむえにこそ有りけれ
みくさのみ しけきにこりと みしかとも さてもつきすむ えにこそありけれ
藤原季能釈教
7-千載1241むさしののほりかねの井もあるものをうれしく水のちかつきにける
むさしのの ほりかねのゐも あるものを うれしくみつの ちかつきにける
藤原俊成釈教
7-千載1242たに水をむすへはうつるかけのみやちとせをおくる友となりけん
たにみつを むすへはうつる かけのみや ちとせをおくる ともとなりけむ
顕昭法師釈教
7-千載1243くちはててあやふくみえしをはたたのいたたのはしもいまわたすなり
くちはてて あやふくみえし をはたたの いたたのはしも いまわたすなり
法橋泰覚釈教
7-千載1244うらみけるけしきやそらにみえつらんをはすて山をてらす月かけ
うらみける けしきやそらに みえつらむ をはすてやまを てらすつきかけ
藤原敦仲釈教
7-千載1245日のひかり月のかけとそてらしけるくらき心のやみはれよとて
ひのひかり つきのかけとそ てらしける くらきこころの やみはれよとて
蓮上法師(俗名成実)釈教
7-千載1246さらにまた花そふりしくわしの山のりのむしろのくれかたのそら
さらにまた はなそふりしく わしのやま のりのむしろの くれかたのそら
藤原俊成釈教
7-千載1247まちいてていかにうれしくおもほえんはつかあまりの山のはの月
まちいてて いかにうれしく おもほえむ はつかあまりの やまのはのつき
中原有安釈教
7-千載1248あさまたきみのりのにはにふる雪はそらより花のちるかとそみる
あさまたき みのりのにはに ふるゆきは そらよりはなの ちるかとそみる
中原清重釈教
7-千載1249もち月の雲かくれけんいにしへのあはれをけふのそらにしるかな
もちつきの くもかくれけむ いにしへの あはれをけふの そらにしるかな
恵章法師釈教
7-千載1250きよくすむ心のそこをかかみにてやかてそうつる色もすかたも
きよくすむ こころのそこを かかみにて やかてそうつる いろもすかたも
俊秀法師釈教
7-千載1251けふりたにしはしたなひけ鳥へ山たちわかれにしかたみともみん
けふりたに しはしたなひけ とりへやま たちわかれにし かたみともみむ
寂然法師釈教
7-千載1252とりのねも浪のおとにそかよふなるおなし御のりをとけはなりけり
とりのねも なみのおとにそ かよふなる おなしみのりを きけはなりけり
平康頼釈教
7-千載1253よをすくふあとはむかしにかはらねとはしめたてけん時をしそ思ふ
よをすくふ あとはむかしに かはらねと はしめたてけむ ときをしそおもふ
藤原定長釈教
7-千載1254つねならぬためしは夜はのけふりにてきえぬなこりをみるそうれしき
つねならぬ ためしはよはの けふりにて きえぬなこりを みるそうれしき
天台座主明雲釈教
7-千載1255みな人をわたさむとおもふ心こそ極楽へゆくしるへなりけれ
みなひとを わたさむとおもふ こころこそ こくらくへゆく しるへなりけれ
律師永観釈教
7-千載1256みかさ山さしてきにけりいそのかみふるきみゆきのあとをたつねて
みかさやま さしてきにけり いそのかみ ふるきみゆきの あとをたつねて
上東門院神祇
7-千載1257すみよしのなみも心をよせけれはむへそみきはにたちまさりける
すみよしの なみもこころを よせけれは うへそみきはに たちまさりける
大納言経輔神祇
7-千載1258おもふことくみてかなふる神なれはしほやにあとをたるるなりけり
おもふこと くみてかなふる かみなれは しほやにあとを たるるなりけり
後三条内大臣神祇
7-千載1259みちのへのちりに光をやはらけて神もほとけのなのるなりけり
みちのへの ちりにひかりを やはらけて かみもほとけの なのるなりけり
崇徳院神祇
7-千載1260あめのしたのとけかれとやさかきはをみかさの山にさしはしめけん
あめのした のとけかれとや さかきはを みかさのやまに さしはしめけむ
藤原清輔神祇
7-千載1261神世よりつもりのうらにみやゐしてへぬらんとしのかきりしらすも
かみよより つもりのうらに みやゐして へぬらむとしの かきりしらすも
藤原隆季神祇
7-千載1262かそふれはやとせへにけりあはれわかしつみしことはきのふと思ふに
かそふれは やとせへにけり あはれわか しつみしことは きのふとおもふに
右おほいまうちきみ神祇
7-千載1263いたつらにふりぬる身をもすみよしの松はさりともあはれしるらん
いたつらに ふりぬるみをも すみよしの まつはさりとも あはれしるらむ
藤原俊成神祇
7-千載1264ふりにける松ものいははとひてましむかしもかくやすみのえの月
ふりにける まつものいはは とひてまし むかしもかくや すみのえのつき
右大臣神祇
7-千載1265すみよしのまつのゆきあひのひまよりも月さえぬれは霜はおきけり
すみよしの まつのゆきあひの ひまよりも つきさえぬれは しもはおきけり
俊恵法師神祇
7-千載1266おしなへて雪のしらゆふかけてけりいつれさか木のこすゑなるらん
おしなへて ゆきのしらゆふ かけてけり いつれさかきの こすゑなるらむ
滋野井実国神祇
7-千載1267めつらしくみゆきをみわの神ならはしるしありまのいてゆなるへし
めつらしく みゆきをみわの かみならは しるしありまの いてゆなるへし
按察使資賢神祇
7-千載1268うれしくも神のちかひをしるへにて心をおこす門にいりぬる
うれしくも かみのちかひを しるへにて こころをおこす かとにいりぬる
源経房神祇
7-千載1269すきかえをかすみこむれとみわの山神のしるしはかくれさりけり
すきかえを かすみこむれと みわのやま かみのしるしは かくれさりけり
僧都範玄神祇
7-千載1270いままてになとしつむらんきふねかはかはかりはやき神をたのむを
いままてに なとしつむらむ きふねかは かはかりはやき かみをたのむを
平実重神祇
7-千載1271さりともとたのみそかくるゆふたすきわかかたをかの神と思へは
さりともと たのみそかくる ゆふたすき わかかたをかの かみとおもへは
賀茂政平神祇
7-千載1272さりともとたのむ心は神さひてひさしくなりぬかものみつかき
さりともと たのむこころは かみさひて ひさしくなりぬ かものみつかき
式子内親王神祇
7-千載1273君をいのるねかひをそらにみてたまへわけいかつちの神ならはかみ
きみをいのる ねかひをそらに みてたまへ わけいかつちの かみならはかみ
賀茂重保神祇
7-千載1274きふね川たまちるせせのいは浪に氷をくたく秋のよの月
きふねかは たまちるせせの いはなみに こほりをくたく あきのよのつき
藤原俊成神祇
7-千載1275わかたのむ日よしのかけはおく山のしはの戸まてもさささらめやは
わかたのむ ひよしのかけは おくやまの しはのとまても さささらめやは
慈円神祇
7-千載1276いつとなくわしのたかねにすむ月のひかりをやとすしかのからさき
いつとなく わしのたかねに すむつきの ひかりをやとす しかのからさき
法橋性憲神祇
7-千載1277みゆきするたかねのかたに雲はれてそらにひよしのしるしをそみる
みゆきする たかねのかたに くもはれて そらにひよしの しるしをそみる
中原師尚神祇
7-千載1278ふかくいりて神ちのおくをたつぬれは又うへもなきみねの松かせ
ふかくいりて かみちのおくを たつぬれは またうへもなき みねのまつかせ
西行法師神祇
7-千載1279月よみの神してらさはあた雲のかかるうきよもはれさらめやは
つきよみの かみしてらさは あたくもの かかるうきよも はれさらめやは
大中臣為定神祇
7-千載1280いはし水きよきなかれのたえせねはやとる月さへくまなかりけり
いはしみつ きよきなかれの たえせねは やとるつきさへ くまなかりけり
能蓮法師神祇
7-千載1281ときはなる神なひ山のさかきはをさしてそいのるよろつよのため
ときはなる かみなひやまの さかきはを さしてそいのる よろつよのため
藤原義忠神祇
7-千載1282うこきなく千代をそいのるいはや山とるさか木はの色かへすして
うこきなく ちよをそいのる いはややま とるさかきはの いろかへすして
藤原経衡神祇
7-千載1283いにしへの神の御代よりもろかみのいのるいはひはきみかよのため
いにしへの かみのみよより もろかみの いのるいはひは きみかよのため
大江匡房神祇
7-千載1284神うくるとよのあかりにゆふそののひかけかつらそはへまさりける
かみうくる とよのあかりに ゆふそのの ひかけかつらそ はへまさりける
藤原永範神祇
7-千載1285すへらきをやほよろつよの神もみなときはにまもる山の名そこれ
すめらきを やほよろつよの かみもみな ときはにまもる やまのなそこれ
藤原永範神祇
7-千載1286みしめゆふかたにとりかけ神なひの山のさかきをかさしにそする
みしまゆふ かたにとりかけ かみなひの やまのさかきを かさしにそする
藤原兼光神祇
7-千載1287もろ神の心にいまそかなふらし君をやちよといのるよことは
もろかみの こころにいまそ かなふらし きみをやちよと いのるよことは
藤原季経神祇
7-千載1288千とせ山神のよませるさかきはのさかえまさるはきみかためとか
ちとせやま かみのよませる さかきはの さかえまさるは きみかためとか
藤原光範神祇
7-千載1289暁になりやしぬらん月影のきよきかはらにちとりなくなり
あかつきに なりやしぬらむ つきかけの きよきかはらに ちとりなくなり
右大臣異本歌
7-千載1290君すめはここも雲ゐの月なれとなほ恋しきは宮こなりけり
きみすめは ここもくもゐの つきなれと なほこひしきは みやこなりけり
左馬頭行盛異本歌
8-新古1みよしのは山もかすみてしらゆきのふりにしさとに春はきにけり
みよしのは やまもかすみて しらゆきの ふりにしさとに はるはきにけり
九条良経春上
8-新古2ほのほのとはるこそそらにきにけらしあまのかく山かすみたなひく
ほのほのと はるこそそらに きにけらし あまのかくやま かすみたなひく
太上天皇春上
8-新古3山ふかみ春ともしらぬ松のとにたえたえかかる雪のたまみつ
やまふかみ はるともしらぬ まつのとに たえたえかかる ゆきのたまみつ
式子内親王春上
8-新古4かきくらしなをふるさとのゆきのうちにあとこそ見えね春はきにけり
かきくらし なほふるさとの ゆきのうちに あとこそみえね はるはきにけり
宮内卿春上
8-新古5けふといへはもろこしまてもゆく春をみやこにのみとおもひけるかな
けふといへは もろこしまても ゆくはるを みやこにのみと おもひけるかな
藤原俊成春上
8-新古6春といへはかすみにけりなきのふまてなみまに見えしあはちしま山
はるといへは かすみにけりな きのふまて なみまにみえし あはちしまやま
俊恵法師春上
8-新古7いはまとちしこほりもけさはとけそめてこけのしたみつみちもとむらん
いはまとちし こほりもけさは とけそめて こけのしたみつ みちもとむらむ
西行法師春上
8-新古8風ませに雪はふりつつしかすかに霞たなひき春はきにけり
かせませに ゆきはふりつつ しかすかに かすみたなひき はるはきにけり
読人知らず春上
8-新古9ときはいま春になりぬとみゆきふるとをき山へにかすみたなひく
ときはいま はるになりぬと みゆきふる とほきやまへに かすみたなひく
読人知らず春上
8-新古10かすかののしたもえわたるくさのうへにつれなくみゆる春のあは雪
かすかのの したもえわたる くさのうへに つれなくみゆる はるのあはゆき
源国信春上
8-新古11あすからはわかなつまむとしめしのにきのふもけふも雪はふりつつ
あすからは わかなつまむと しめしのに きのふもけふも ゆきはふりつつ
山辺赤人春上
8-新古12かすかののくさはみとりになりにけりわかなつまむとたれかしめけん
かすかのの くさはみとりに なりにけり わかなつまむと たれかしめけむ
壬生忠見春上
8-新古13わかなつむそてとそ見ゆるかすかののとふひののへの雪のむらきえ
わかなつむ そてとそみゆる かすかのの とふひののへの ゆきのむらきえ
藤原教長春上
8-新古14ゆきて見ぬ人もしのへとはるの野のかたみにつめるわかななりけり
ゆきてみぬ ひともしのへと はるののの かたみにつめる わかななりけり
紀貫之春上
8-新古15さはにおふるわかなならねといたつらにとしをつむにもそてはぬれけり
さはにおふる わかなならねと いたつらに としをつむにも そてはぬれけり
藤原俊成春上
8-新古16ささなみやしかのはままつふりにけりたかよにひけるねの日なるらん
ささなみや しかのはままつ ふりにけり たかよにひける ねのひなるらむ
読人知らず春上
8-新古17たにかはのうちいつるなみもこゑたてつ鴬さそへはるの山かせ
たにかはの うちいつるなみも こゑたてつ うくひすさそへ はるのやまかせ
藤原家隆春上
8-新古18鴬のなけともいまたふるゆきにすきの葉しろきあふさかの山
うくひすの なけともいまた ふるゆきに すきのはしろき あふさかのやま
太上天皇春上
8-新古19春きては花とも見よとかたをかの松のうは葉にあは雪そふる
はるきては はなともみよと かたをかの まつのうははに あはゆきそふる
藤原仲実春上
8-新古20まきもくのひはらのいまたくもらねはこまつかはらにあは雪そふる
まきもくの ひはらのいまた くもらねは こまつかはらに あはゆきそふる
大伴家持春上
8-新古21いまさらにゆきふらめやもかけろふのもゆるはるひとなりにしものを
いまさらに ゆきふらめやも かけろふの もゆるはるひと なりにしものを
読人知らず春上
8-新古22いつれをか花とはわかむふるさとのかすかのはらにまたきえぬ雪
いつれをか はなともわかむ ふるさとの かすかのはらに またきえぬゆき
凡河内躬恒春上
8-新古23そらはなをかすみもやらす風さえて雪けにくもる春のよの月
そらはなほ かすみもやらす かせさえて ゆきけにくもる はるのよのつき
九条良経春上
8-新古24やまふかみなをかけさむし春の月そらかきくもり雪はふりつつ
やまふかみ なほかけさむし はるのつき そらかきくもり ゆきはふりつつ
越前春上
8-新古25みしまえやしももまたひぬあしの葉につのくむほとの春風そ吹
みしまえや しももまたひぬ あしのはに つのくむほとの はるかせそふく
久我通光春上
8-新古26ゆふつくよしほみちくらしなにはえのあしのわか葉にこゆるしらなみ
ゆふつくよ しほみちくらし なにはえの あしのわかはに こゆるしらなみ
藤原秀能春上
8-新古27ふりつみしたかねのみゆきとけにけりきよたき河の水のしらなみ
ふりつみし たかねのみゆき とけにけり きよたきかはの みつのしらなみ
西行法師春上
8-新古28むめかえにものうきほとにちるゆきを花ともいはし春のなたてに
うめかえに ものうきほとに ちるゆきを はなともいはし はるのなたてに
源重之春上
8-新古29あつさゆみはる山ちかくいゑゐしてたえすききつる鴬のこゑ
あつさゆみ はるやまちかく いへゐして たえすききつる うくひすのこゑ
山辺赤人春上
8-新古30むめかえになきてうつろふうくひすのはねしろたへにあはゆきそふる
うめかえに なきてうつろふ うくひすの はねしろたへに あはゆきそふる
読人知らず春上
8-新古31鴬のなみたのつららうちとけてふるすなからや春をしるらん
うくひすの なみたのつらら うちとけて ふるすなからや はるをしるらむ
惟明親王春上
8-新古32いはそそくたるみのうへのさわらひのもえいつる春になりにけるかな
いはそそく たるみのうへの さわらひの もえいつるはるに なりにけるかな
志貴皇子春上
8-新古33あまのはらふしのけふりの春の色のかすみになひくあけほののそら
あまのはら ふしのけふりの はるのいろの かすみになひく あけほののそら
慈円春上
8-新古34あさかすみふかく見ゆるやけふりたつむろのやしまのわたりなるらん
あさかすみ ふかくみゆるや けふりたつ むろのやしまの わたりなるらむ
藤原清輔春上
8-新古35なこのうみのかすみのまよりなかむれはいる日をあらふおきつしらなみ
なこのうみの かすみのまより なかむれは いりひをあらふ おきつしらなみ
徳大寺実定春上
8-新古36見わたせは山もとかすむみなせかはゆふへはあきとなにおもひけん
みわたせは やまもとかすむ みなせかは ゆふへはあきと なにおもひけむ
太上天皇春上
8-新古37かすみたつすゑの松山ほのほのとなみにはなるるよこ雲のそら
かすみたつ すゑのまつやま ほのほのと なみにはなるる よこくものそら
藤原家隆春上
8-新古38春のよの夢のうきはしとたえしてみねにわかるるよこ雲のそら
はるのよの ゆめのうきはし とたえして みねにわかるる よこくものそら
藤原定家春上
8-新古39しるらめやかすみのそらをなかめつつ花もにほはぬ春をなけくと
しるらめや かすみのそらを なかめつつ はなもにほはぬ はるをなけくと
中務春上
8-新古40おほそらはむめのにほひにかすみつつくもりもはてぬ春のよの月
おほそらは うめのにほひに かすみつつ くもりもはてぬ はるのよのつき
藤原定家春上
8-新古41おられけりくれなゐにほふむめのはなけさしろたへに雪はふれれと
をられけり くれなゐにほふ うめのはな けさしろたへに ゆきはふりつつ
藤原頼通春上
8-新古42あるしをはたれともわかす春はたたかきねのむめをたつねてそみる
あるしをは たれともわかす はるはたた かきねのうめを たつねてそみる
藤原敦家春上
8-新古43心あらはとはましものをむめかかにたか袖よりかにほひきつらん
こころあらは とはましものを うめかかに たかさとよりか にほひきつらむ
源俊頼春上
8-新古44むめの花にほひをうつす袖のうへにのきもる月のかけそあらそふ
うめのはな にほひをうつす そてのうへに のきもるつきの かけそあらそふ
藤原定家春上
8-新古45むめかかにむかしをとへは春の月こたへぬかけそ袖にうつれる
うめかかに むかしをとへは はるのつき こたへぬかけそ そてにうつれる
藤原家隆春上
8-新古46むめの花たか袖ふれしにほひそと春やむかしの月にとははや
うめのはな たかそてふれし にほひそと はるやむかしの つきにとははや
堀川通具春上
8-新古47むめの花あかぬ色香もむかしにておなしかたみの春のよの月
うめのはな あかぬいろかも むかしにて おなしかたみの はるのよのつき
藤原俊成女春上
8-新古48見ぬ人によそへて見つるむめの花ちりなんのちのなくさめそなき
みぬひとに よそへてみつる うめのはな ちりなむのちの なくさめそなき
藤原定頼春上
8-新古49春ことに心をしむる花のえにたかなをさりの袖かふれつる
はることに こころをしむる はなのえに たかなほさりの そてかふれつる
大弐三位春上
8-新古50むめちらす風もこえてやふきつらんかほれる雪のそてにみたるる
うめちらす かせもこえてや ふきつらむ かをれるゆきの そてにみたるる
康資王母春上
8-新古51とめこかしむめさかりなるわかやとをうときも人はおりにこそよれ
とめこかし うめさかりなる わかやとを うときもひとは をりにこそよれ
西行法師春上
8-新古52なかめつるけふはむかしになりぬとものきはのむめはわれをわするな
なかめつる けふはむかしに なりぬとも のきはのうめは われをわするな
式子内親王春上
8-新古53ちりぬれはにほひはかりをむめの花ありとや袖に春風のふく
ちりぬれは にほひはかりを うめのはな ありとやそてに はるかせのふく
藤原有家春上
8-新古54ひとりのみなかめてちりぬむめの花しるはかりなる人はとひこす
ひとりのみ なかめてちりぬ うめのはな しるはかりなる ひとはとひこす
八条院高倉春上
8-新古55てりもせすくもりもはてぬはるのよのおほろ月よにしく物そなき
てりもせす くもりもはてぬ はるのよの おほろつきよに しくものそなき
大江千里春上
8-新古56あさみとり花もひとつにかすみつつおほろに見ゆる春のよの月
あさみとり はなもひとつに かすみつつ おほろにみゆる はるのよのつき
菅原孝標女春上
8-新古57なにはかたかすまぬなみもかすみけりうつるもくもるおほろ月よに
なにはかた かすまぬなみも かすみけり うつるもくもる おほろつきよに
源具親春上
8-新古58いまはとてたのむのかりもうちわひぬおほろ月よのあけほののそら
いまはとて たのむのかりも うちわひぬ おほろつきよの あけほののそら
寂蓮法師春上
8-新古59きく人そなみたはおつるかへるかりなきてゆくなるあけほののそら
きくひとそ なみたはおつる かへるかり なきてゆくなる あけほののそら
藤原俊成春上
8-新古60ふるさとにかへるかりかねさよふけて雲ちにまよふ声きこゆなり
ふるさとに かへるかりかね さよふけて くもちにまよふ こえきこゆなり
読人知らず春上
8-新古61わするなよたのむのさはをたつかりもいな葉の風の秋のゆふくれ
わするなよ たのむのさはを たつかりも いなはのかせの あきのゆふくれ
九条良経春上
8-新古62かへるかりいまはの心ありあけに月と花との名こそおしけれ
かへるかり いまはのこころ ありあけに つきとはなとの なこそをしけれ
読人知らず春上
8-新古63しもまよふそらにしほれしかりかねのかへるつはさに春雨そふる
しもまよふ そらにしをれし かりかねの かへるつはさに はるさめそふる
藤原定家春上
8-新古64つくつくと春のなかめのさひしきはしのふにつたふのきの玉水
つくつくと はるのなかめの さひしきは しのふにつたふ のきのたまみつ
行慶春上
8-新古65水のおもにあやをりみたる春雨や山のみとりをなへてそむらん
みつのおもに あやおりみたる はるさめや やまのみとりを なへてそむらむ
伊勢春上
8-新古66ときはなる山のいはねにむすこけのそめぬみとりに春雨そふる
ときはなる やまのいはねに むすこけの そめぬみとりに はるさめそふる
九条良経春上
8-新古67雨ふれはを田のますらをいとまあれやなはしろ水をそらにまかせて
あめふれは をたのますらを いとまあれや なはしろみつを そらにまかせて
勝命法師春上
8-新古68春さめのふりそめしよりあをやきのいとのみとりそ色まさりける
はるさめの ふりそめしより あをやきの いとのみとりそ いろまさりける
凡河内躬恒春上
8-新古69うちなひき春はきにけりあをやきのかけふむみちに人のやすらふ
うちなひき はるはきにけり あをやきの かけふむみちそ ひとのやすらふ
藤原高遠春上
8-新古70みよしののおほかはのへのふるやなきかけこそ見えね春めきにけり
みよしのの おほかはのへの ふるやなき かけこそみえね はるめきにけり
輔仁親王春上
8-新古71あらしふくきしのやなきのいなむしろおりしくなみにまかせてそみる
あらしふく きしのやなきの いなむしろ おりしくなみに まかせてそみる
崇徳院春上
8-新古72たかせさすむつたのよとのやなきはらみとりもふかくかすむ春かな
たかせさす むつたのよとの やなきはら みとりもふかく かすむはるかな
西園寺公経春上
8-新古73春風のかすみふきとくたえまよりみたれてなひくあをやきのいと
はるかせの かすみふきとく たえまより みたれてなひく あをやきのいと
殷富門院大輔春上
8-新古74しらくものたえまになひくあをやきのかつらき山に春風そふく
しらくもの たえまになひく あをやきの かつらきやまに はるかせそふく
飛鳥井雅経春上
8-新古75あをやきのいとにたまぬく白つゆのしらすいくよの春かへぬらん
あをやきの いとにたまぬく しらつゆの しらすいくよの はるかへぬらむ
藤原有家春上
8-新古76うすくこき野辺のみとりのわかくさにあとまて見ゆる雪のむらきえ
うすくこき のへのみとりの わかくさに あとまてみゆる ゆきのむらきえ
宮内卿春上
8-新古77あらを田のこそのふるあとのふるよもきいまは春へとひこはへにけり
あらをたの こそのふるあとの ふるよもき いまははるへと ひこはえにけり
曽祢好忠春上
8-新古78やかすともくさはもえなんかすか野をたた春の日にまかせたらなん
やかすとも くさはもえなむ かすかのを たたはるのひに まかせたらなむ
壬生忠見春上
8-新古79よしの山さくらかえたにゆきちりて花をそけなるとしにもあるかな
よしのやま さくらかえたに ゆきちりて はなおそけなる としにもあるかな
西行法師春上
8-新古80桜花さかはまつ見んとおもふまに日かすへにけり春の山さと
さくらはな さかはまつみむと おもふまに ひかすへにけり はるのやまさと
藤原隆時春上
8-新古81わかこころ春の山へにあくかれてなかなかし日をけふもくらしつ
わかこころ はるのやまへに あくかれて なかなかしひを けふもくらしつ
紀貫之春上
8-新古82おもふとちそこともしらすゆきくれぬ花のやとかせ野への鴬
おもふとち そこともしらす ゆきくれぬ はなのやとかせ のへのうくひす
藤原家隆春上
8-新古83いまさくらさきぬと見えてうすくもり春にかすめるよのけしきかな
いまさくら さきぬとみえて うすくもり はるにかすめる よのけしきかな
式子内親王春上
8-新古84ふしておもひおきてなかむる春雨に花のしたひもいかにとくらん
ふしておもひ おきてなかむる はるさめに はなのしたひも いかにとくらむ
読人知らず春上
8-新古85ゆかむ人こん人しのへ春かすみたつたの山のはつさくら花
ゆかむひと こむひとしのへ はるかすみ たつたのやまの はつさくらはな
大伴家持春上
8-新古86よしの山こそのしほりのみちかへてまた見ぬかたの花をたつねん
よしのやま こそのしをりの みちかへて またみぬかたの はなをたつねむ
西行法師春上
8-新古87かつらきやたかまの桜さきにけりたつたのおくにかかる白雲
かつらきや たかまのさくら さきにけり たつたのおくに かかるしらくも
寂蓮法師春上
8-新古88いその神ふるき宮こをきてみれはむかしかさしし花さきにけり
いそのかみ ふるきみやこを きてみれは むかしかさしし はなさきにけり
読人知らず春上
8-新古89春にのみとしはあらなんあらを田をかへすかへすも花をみるへく
はるにのみ としはあらなむ あらをたを かへすかへすも はなをみるへく
源公忠春上
8-新古90白雲のたつたの山のやへ桜いつれを花とわきておりけん
しらくもの たつたのやまの やへさくら いつれをはなと わきてをりけむ
道命法師春上
8-新古91しらくもの春はかさねてたつた山をくらのみねに花にほふらし
しらくもの はるはかさねて たつたやま をくらのみねに はなにほふらし
藤原定家春上
8-新古92よしの山花やさかりににほふらんふるさとさえぬ峰の白雪
よしのやま はなやさかりに にほふらむ ふるさとさえぬ みねのしらゆき
藤原家衡春上
8-新古93いはねふみかさなる山をわけすてて花もいくへのあとのしら雲
いはねふみ かさなるやまを わけすてて はなもいくへの あとのしらくも
飛鳥井雅経春上
8-新古94たつねきて花にくらせるこのまよりまつとしもなき山の葉の月
たつねきて はなにくらせる このまより まつとしもなき やまのはのつき
読人知らず春上
8-新古95ちりちらす人もたつねぬふるさとのつゆけき花に春風そふく
ちりちらす ひともたつねぬ ふるさとの つゆけきはなに はるかせそふく
慈円春上
8-新古96いその神ふるののさくらたれうへて春はわすれぬかたみなるらん
いそのかみ ふるののさくら たれうゑて はるはわすれぬ かたみなるらむ
堀川通具春上
8-新古97花そ見るみちのしはくさふみわけてよしのの宮の春のあけほの
はなそみる みちのしはくさ ふみわけて よしののみやの はるのあけほの
藤原季能春上
8-新古98あさ日かけにほへる山のさくら花つれなくきえぬ雪かとそ見る
あさひかけ にほへるやまの さくらはな つれなくきえぬ ゆきかとそみる
藤原有家春上
8-新古99さくらさくとを山とりのしたりおのなかなかし日もあかぬ色かな
さくらさく とほやまとりの したりをの なかなかしひも あかぬいろかな
太上天皇春下
8-新古100いくとせの春に心をつくしきぬあはれとおもへみよしのの花
いくとせの はるにこころを つくしきぬ あはれとおもへ みよしののはな
藤原俊成春下
8-新古101はかなくてすきにしかたをかそふれは花にものおもふ春そへにける
はかなくて すきにしかたを かそふれは はなにものおもふ はるそへにける
式子内親王春下
8-新古102白雲のたなひく山のやま桜いつれを花とゆきておらまし
しらくもの たなひくやまの やへさくら いつれをはなと ゆきてをらまし
藤原師実春下
8-新古103はなの色にあまきるかすみたちまよひそらさへにほふ山桜かな
はなのいろに あまきるかすみ たちまよひ そらさへにほふ やまさくらかな
藤原長家春下
8-新古104ももしきの大宮人はいとまあれやさくらかさしてけふもくらしつ
ももしきの おほみやひとは いとまあれや さくらかさして けふもくらしつ
山辺赤人春下
8-新古105花にあかぬなけきはいつもせしかともけふのこよひににる時はなし
はなにあかぬ なけきはいつも せしかとも けふのこよひに にるときはなし
在原業平春下
8-新古106いもやすくねられさりけり春の夜は花のちるのみ夢に見えつつ
いもやすく ねられさりけり はるのよは はなのちるのみ ゆめにみえつつ
凡河内躬恒春下
8-新古107山さくらちりてみゆきにまかひなはいつれか花と春にとはなん
やまさくら ちりてみゆきに まかひなは いつれかはなと はるにとはなむ
伊勢春下
8-新古108わかやとのものなりなから桜はなちるをはえこそととめさりけれ
わかやとの ものなりなから さくらはな ちるをはえこそ ととめさりけれ
紀貫之春下
8-新古109かすみたつ春の山へにさくらはなあかすちるとや鴬のなく
かすみたつ はるのやまへに さくらはな あかすちるとや うくひすのなく
読人知らず春下
8-新古110春雨はいたくなふりそ桜花また見ぬ人にちらまくもおし
はるさめは いたくなふりそ さくらはな またみぬひとに ちらまくもをし
山辺赤人春下
8-新古111花のかにころもはふかくなりにけりこのしたかけの風のまにまに
はなのかに ころもはふかく なりにけり このしたかけの かせのまにまに
紀貫之春下
8-新古112風かよふねさめの袖の花のかにかほるまくらの春のよの夢
かせかよふ ねさめのそての はなのかに かをるまくらの はるのよのゆめ
藤原俊成女春下
8-新古113このほとはしるもしらぬもたまほこのゆきかふ袖は花のかそする
このほとは しるもしらぬも たまほこの ゆきかふそては はなのかそする
藤原家隆春下
8-新古114またや見んかたののみのの桜かり花の雪ちる春のあけほの
またやみむ かたののみのの さくらかり はなのゆきちる はるのあけほの
藤原俊成春下
8-新古115ちりちらすおほつかなきは春かすみたなひく山の桜なりけり
ちりちらす おほつかなきは はるかすみ たなひくやまの さくらなりけり
祝部成仲春下
8-新古116やまさとの春のゆふくれきてみれはいりあひのかねに花そちりける
やまさとの はるのゆふくれ きてみれは いりあひのかねに はなそちりける
能因法師春下
8-新古117さくらちる春の山へはうかりけりよをのかれにとこしかひもなく
さくらちる はるのやまへは うかりけり よをのかれにと こしかひもなく
恵慶法師春下
8-新古118山さくら花のした風ふきにけりこのもとことの雪のむらきえ
やまさくら はなのしたかせ ふきにけり このもとことの ゆきのむらきえ
康資王母春下
8-新古119はるさめのそほふるそらのをやみせすおつる涙に花そちりける
はるさめの そほふるそらの をやみせす おつるなみたに はなそちりける
源重之春下
8-新古120かりかねのかへるは風やさそふらんすきゆく峯の花ものこらぬ
かりかねの かへるはかせや さそふらむ すきゆくみねの はなものこらぬ
読人知らず春下
8-新古121時しもあれたのむのかりのわかれさへ花ちるころのみよしののさと
ときしもあれ たのむのかりの わかれさへ はなちるころの みよしののさと
源具親春下
8-新古122山ふかみすきのむらたちみえぬまておのへの風に花のちるかな
やまふかみ すきのむらたち みえぬまて をのへのかせに はなのちるかな
源経信春下
8-新古123このしたのこけのみとりもみえぬまてやへちりしける山桜かな
このしたの こけのみとりも みえぬまて やへちりしける やまさくらかな
源師頼春下
8-新古124ふもとまておのへの桜ちりこすはたなひく雲とみてやすきまし
ふもとまて をのへのさくら ちりこすは たなひくくもと みてやすきまし
藤原顕輔春下
8-新古125はなちれはとふ人まれになりはてていとひし風のをとのみそする
はなちれは とふひとまれに なりはてて いとひしかせの おとのみそする
藤原範兼春下
8-新古126なかむとて花にもいたくなれぬれはちるわかれこそかなしかりけれ
なかむとて はなにもいたく なれぬれは ちるわかれこそ かなしかりけれ
西行法師春下
8-新古127山さとのにはよりほかのみちもかな花ちりぬやと人もこそとへ
やまさとの にはよりほかの みちもかな はなちりぬやと ひともこそとへ
越前春下
8-新古128花さそふひらの山風ふきにけりこきゆくふねのあとみゆるまて
はなさそふ ひらのやまかせ ふきにけり こきゆくふねの あとみゆるまて
宮内卿春下
8-新古129あふさかやこすゑのはなをふくからにあらしそかすむせきのすき村
あふさかや こすゑのはなを ふくからに あらしそかすむ せきのすきむら
読人知らず春下
8-新古130山たかみ峯のあらしにちる花の月にあまきるあけかたのそら
やまたかみ みねのあらしに ちるはなの つきにあまきる あけかたのそら
二条院讃岐春下
8-新古131やまたかみいはねの桜ちるときはあまのはころもなつるとそみる
やまたかみ いはねのさくら ちるときは あまのはころも なつるとそみる
崇徳院春下
8-新古132ちりまかふはなのよそめはよしの山あらしにさはくみねの白雲
ちりまかふ はなのよそめは よしのやま あらしにさわく みねのしらくも
難波頼輔春下
8-新古133みよしののたかねの桜ちりにけりあらしもしろき春のあけほの
みよしのの たかねのさくら ちりにけり あらしもしろき はるのあけほの
太上天皇春下
8-新古134さくら色の庭のはる風あともなしとははそ人の雪とたにみん
さくらいろの にはのはるかせ あともなし とははそひとの ゆきとたにみむ
藤原定家春下
8-新古135けふたにも庭をさかりとうつる花きえすはありとも雪かともみよ
けふたにも にはをさかりと うつるはな きえすはありとも ゆきかともみよ
太上天皇春下
8-新古136さそはれぬ人のためとやのこりけんあすよりさきの花の白雪
さそはれぬ ひとのためとや のこりけむ あすよりさきの はなのしらゆき
九条良経春下
8-新古137やへにほふのきはのさくらうつろひぬ風よりさきにとふ人もかな
やへにほふ のきはのさくら うつろひぬ かせよりさきに とふひともかな
式子内親王春下
8-新古138つらきかなうつろふまてにやへさくらとへともいはてすくる心は
つらきかな うつろふまてに やへさくら とへともいはて すくるこころは
惟明親王春下
8-新古139さくら花夢かうつつか白雲のたえてつねなきみねの春風
さくらはな ゆめかうつつか しらくもの たえてつねなき みねのはるかせ
藤原家隆春下
8-新古140うらみすやうきよを花のいとひつつさそふ風あらはとおもひけるをは
うらみすや うきよをはなの いとひつつ さそふかせあらはと おもひけるをは
藤原俊成女春下
8-新古141はかなさをほかにもいはし桜花さきてはちりぬあはれよの中
はかなさを ほかにもいはし さくらはな さきてはちりぬ あはれよのなか
徳大寺実定春下
8-新古142なかむへきのこりの春をかそふれは花とともにもちる涙かな
なかむへき のこりのはるを かそふれは はなとともにも ちるなみたかな
俊恵法師春下
8-新古143花もまたわかれん春はおもひいてよさきちるたひの心つくしを
はなもまた わかれむはるは おもひいてよ さきちるたひの こころつくしを
殷富門院大輔春下
8-新古144ちる花のわすれかたみのみねの雲そをたにのこせ春の山風
ちるはなの わすれかたみの みねのくも そをたにのこせ はるのやまかせ
左近中将良平春下
8-新古145はなさそふなこりを雲にふきとめてしはしはにほへ春の山かせ
はなさそふ なこりをくもに ふきとめて しはしはにほへ はるのやまかせ
飛鳥井雅経春下
8-新古146おしめともちりはてぬれは桜花いまはこすゑをなかむはかりそ
をしめとも ちりはてぬれは さくらはな いまはこすゑを なかむはかりそ
後白河院春下
8-新古147よしの山はなのふるさとあとたえてむなしきえたに春風そふく
よしのやま はなのふるさと あとたえて むなしきえたに はるかせそふく
九条良経春下
8-新古148ふるさとのはなのさかりはすきぬれとおもかけさらぬ春のそらかな
ふるさとの はなのさかりは すきぬれと おもかけさらぬ はるのそらかな
源経信春下
8-新古149花はちりその色となくなかむれはむなしきそらに春雨そふる
はなはちり そのいろとなく なかむれは むなしきそらに はるさめそふる
式子内親王春下
8-新古150たかたにかあすはのこさん山さくらこほれてにほへけふのかたみに
たかたにか あすはのこさむ やまさくら こほれてにほへ けふのかたみに
清原元輔春下
8-新古151から人のふねをうかへてあそふてふけふそわかせこ花かつらせよ
からひとの ふねをうかへて あそふてふ けふそわかせこ はなかつらせよ
大伴家持春下
8-新古152花なかすせをもみるへきみか月のわれていりぬる山のをちかた
はななかす せをもみるへき みかつきの われていりぬる やまのをちかた
坂上是則春下
8-新古153たつねつるはなもわか身もおとろへてのちの春ともえこそちきらね
たつねつる はなもわかみも おとろへて のちのはるとも えこそちきらね
良暹法師春下
8-新古154おもひたつとりはふるすもたのむらんなれぬる花のあとのゆふくれ
おもひたつ とりはふるすも たのむらむ なれぬるはなの あとのゆふくれ
寂蓮法師春下
8-新古155ちりにけりあはれうらみのたれなれは花のあととふ春の山風
ちりにけり あはれうらみの たれなれは はなのあととふ はるのやまかせ
読人知らず春下
8-新古156春ふかくたつねいるさの山の葉にほの見し雲の色そのこれる
はるふかく たつねいるさの やまのはに ほのみしくもの いろそのこれる
西園寺公経春下
8-新古157はつせ山うつろふ花に春くれてまかひし雲そみねにのこれる
はつせやま うつろふはなに はるくれて まかひしくもそ みねにのこれる
九条良経春下
8-新古158よしのかはきしの山ふきさきにけりみねのさくらはちりはてぬらん
よしのかは きしのやまふき さきにけり みねのさくらは ちりはてぬらむ
藤原家隆春下
8-新古159こまとめてなを水かはんやまふきの花のつゆそふ井ての玉河
こまとめて なほみつかはむ やまふきの はなのつゆそふ ゐてのたまかは
藤原俊成春下
8-新古160いはねこすきよたき河のはやけれはなみおりかくるきしの山ふき
いはねこす きよたきかはの はやけれは なみをりかくる きしのやまふき
源国信春下
8-新古161かはつなくかみなひかはにかけみえていまか(か=や)さくらん山ふきの花
かはつなく かみなひかはに かけみえて いまかさくらむ やまふきのはな
厚見王春下
8-新古162あしひきの山ふきの花ちりにけり井てのかはつはいまやなくらん
あしひきの やまふきのはな ちりにけり ゐてのかはつは いまやなくらむ
藤原興風春下
8-新古163かくてこそ見まくほしけれよろつよをかけてにほへるふちなみの花
かくてこそ みまくほしけれ よろつよを かけてにほへる ふちなみのはな
延喜春下
8-新古164まとゐして見れともあかぬふちなみのたたまくおしきけふにもあるかな
まとゐして みれともあかぬ ふちなみの たたまくをしき けふにもあるかな
天暦春下
8-新古165くれぬとはおもふものからふちなみのさけるやとには春そひさしき
くれぬとは おもふものから ふちのはな さけるやとには はるそひさしき
紀貫之春下
8-新古166みとりなる松にかかれるふちなれとをのかころとそ花はさきける
みとりなる まつにかかれる ふちなれと おのかころとそ はなはさきける
読人知らず春下
8-新古167ちりのこる花もやあるとうちむれてみ山かくれをたつねてしかな
ちりのこる はなもやあると うちむれて みやまかくれを たつねてしかな
藤原道信春下
8-新古168このもとのすみかもいまはあれぬへし春しくれなはたれかとひこん
このもとの すみかもいまは あれぬへし はるしくれなは たれかとひこむ
行尊春下
8-新古169くれてゆく春のみなとはしらねともかすみにおつるうちのしはふね
くれてゆく はるのみなとは しらねとも かすみにおつる うちのしはふね
寂蓮法師春下
8-新古170こぬまても花ゆへ人のまたれつる春もくれぬるみ山辺のさと
こぬまても はなゆゑひとの またれつる はるもくれぬる みやまへのさと
藤原伊綱春下
8-新古171いその神ふるのわさたをうちかへしうらみかねたる春のくれかな
いそのかみ ふるのわさたを うちかへし うらみかねたる はるのくれかな
藤原俊成女春下
8-新古172まてといふにとまらぬものとしりなからしひてそおしき春のわかれは
まてといふに とまらぬものと しりなから しひてそをしき はるのわかれは
読人知らず春下
8-新古173しはのとにさすや日かけのなこりなく春くれかかる山の葉の雲
しはのとを さすやひかけの なこりなく はるくれかかる やまのはのくも
宮内卿春下
8-新古174あすよりはしかの花そのまれにたにたれかはとはん春のふるさと
あすよりは しかのはなその まれにたに たれかはとはむ はるのふるさと
九条良経春下
8-新古175春すきてなつきにけらししろたへのころもほすてふあまのかく山
はるすきて なつきにけらし しろたへの ころもほすてふ あまのかくやま
持統天皇
8-新古176おしめともとまらぬはるもあるものをいはぬにきたる夏衣かな
をしめとも とまらぬはるも あるものを いはぬにきたる なつころもかな
素性法師
8-新古177ちりはてて花のかけなきこのもとにたつことやすきなつころもかな
ちりはてて はなのかけなき このもとに たつことやすき なつころもかな
慈円
8-新古178なつころもきていくかにかなりぬらんのこれる花はけふもちりつつ
なつころも きていくかにか なりぬらむ のこれるはなは けふもちりつつ
源道済
8-新古179おりふしもうつれはかへつよのなかの人の心の花そめのそて
をりふしも うつれはかへつ よのなかの ひとのこころの はなそめのそて
藤原俊成女
8-新古180うの花のむらむらさけるかきねをは雲まの月のかけかとそみる
うのはなの むらむらさける かきねをは くもまのつきの かけかとそみる
白河院
8-新古181うの花のさきぬるときはしろたへのなみもてゆへるかきねとそみる
うのはなの さきぬるときは しろたへの なみもてゆへる かきねとそみる
藤原重家
8-新古182わすれめやあふひをくさにひきむすひかりねののへのつゆのあけほの
わすれめや あふひをくさに ひきむすひ かりねののへの つゆのあけほの
式子内親王
8-新古183いかなれはそのかみ山のあふひくさとしはふれともふた葉なるらん
いかなれは そのかみやまの あふひくさ としはふれとも ふたはなるらむ
小侍従
8-新古184のへはいまたあさかのぬまにかるくさのかつ見るままにしけるころかな
のへはいまた あさかのぬまに かるくさの かつみるままに しけるころかな
飛鳥井雅経
8-新古185さくらあさのをふのしたくさしけれたたあかてわかれし花の名なれは
さくらあさの をふのしたくさ しけれたた あかてわかれし はなのななれは
待賢門院安芸
8-新古186花ちりし庭のこの葉もしけりあひてあまてる月のかけそまれなる
はなちりし にはのこのはも しけりあひて あまてるつきの かけそまれなる
曽祢好忠
8-新古187かりにくとうらみし人のたえにしをくさ葉につけてしのふころかな
かりにくと うらみしひとの たえにしを くさはにつけて しのふころかな
読人知らず
8-新古188なつくさはしけりにけりなたまほこのみちゆき人もむすふはかりに
なつくさは しけりにけりな たまほこの みちゆくひとも むすふはかりに
藤原元真
8-新古189夏草はしけりにけれとほとときすなとわかやとに一声もせぬ
なつくさは しけりにけれと ほとときす なとわかやとに ひとこゑもせぬ
延喜
8-新古190なくこゑをえやはしのはぬほとときすはつうの花のかけにかくれて
なくこゑを えやはしのはぬ ほとときす はつうのはなの かけにかくれて
柿本人麿
8-新古191ほとときす声まつほとはかたをかのもりのしつくにたちやぬれまし
ほとときす こゑまつほとは かたをかの もりのしつくに たちやぬれまし
紫式部
8-新古192ほとときすみ山いつなるはつこゑをいつれのやとのたれかきくらん
ほとときす みやまいつなる はつこゑを いつれのやとの たれかきくらむ
弁乳母
8-新古193さ月山うの花月よほとときすきけともあかす又なかんかも
さつきやま うのはなつきよ ほとときす きけともあかす またなかむかも
読人知らず
8-新古194をのかつまこひつつなくやさ月やみ神なひ山のやま郭公
おのかつま こひつつなくや さつきやみ かみなひやまの やまほとときす
読人知らず
8-新古195ほとときす一声なきていぬるよはいかてか人のいをやすくぬる
ほとときす ひとこゑなきて いぬるよは いかてかひとの いをやすくぬる
大伴家持
8-新古196ほとときすなきつついつるあしひきの山となてしこさきにけらしも
ほとときす なきつついつる あしひきの やまとなてしこ さきにけらしも
大中臣能宣
8-新古197ふた声となきつときかはほとときすころもかたしきうたたねはせん
ふたこゑと なきつときかは ほとときす ころもかたしき うたたねはせむ
源経信
8-新古198郭公またうちとけぬしのひねはこぬ人をまつわれのみそきく
ほとときす またうちとけぬ しのひねは こぬひとをまつ われのみそきく
白河院
8-新古199ききてしもなをそねられぬほとときすまちしよころ(ろ+の)心ならひに
ききてしも なほそねられぬ ほとときす まちしよころの こころならひに
源有仁
8-新古200うの花のかきねならねとほとときす月のかつらのかけになくなり
うのはなの かきねならねと ほとときす つきのかつらの かけになくなり
大江匡房
8-新古201むかしおもふくさのいほりのよるの雨になみたなそへそ山郭公
むかしおもふ くさのいほりの よるのあめに なみたなそへそ やまほとときす
藤原俊成
8-新古202雨そそくはなたち花に風すきて山郭公雲になくなり
あめそそく はなたちはなに かせすきて やまほとときす くもになくなり
読人知らず
8-新古203きかてたたねなましものを郭公中々なりやよはの一声
きかてたた ねなましものを ほとときす なかなかなりや よはのひとこゑ
相模
8-新古204たかさともとひもやくるとほとときす心のかきりまちそわひにし
たかさとに とひもやくると ほとときす こころのかきり まちそわひにし
紫式部
8-新古205よをかさねまちかね山の郭公くもゐのよそに一こゑそきく
よをかさね まちかねやまの ほとときす くもゐのよそに ひとこゑそきく
周防内侍
8-新古206ふた声ときかすはいてしほとときすいくよあかしのとまりなりとも
ふたこゑと きかすはいてし ほとときす いくよあかしの とまりなりとも
按察使公通
8-新古207ほとときすなを一声はおもひいてよおいそのもりのよはのむかしを
ほとときす なほひとこゑは おもひいてよ おいそのもりの よはのむかしを
藤原範光
8-新古208一声はおもひそあへぬほとときすたそかれ時の雲のまよひに
ひとこゑは おもひそあへぬ ほとときす たそかれときの くものまよひに
八条院高倉
8-新古209ありあけのつれなくみえし月はいてぬ山ほとときすまつよなからに
ありあけの つれなくみえし つきはいてぬ やまほとときす まつよなからに
九条良経
8-新古210わか心いかにせよとてほとときす雲まの月のかけになくらん
わかこころ いかにせよとて ほとときす くもまのつきの かけになくらむ
藤原俊成
8-新古211ほとときすなきているさの山の葉は月ゆへよりもうらめしきかな
ほとときす なきているさの やまのはは つきゆゑよりも うらめしきかな
前太政大臣
8-新古212ありあけの月はまたぬにいてぬれとなを山ふかきほとときすかな
ありあけの つきはまたぬに いてぬれと なほやまふかき ほとときすかな
平親宗
8-新古213すきにけりしのたのもりのほとときすたえぬしつくを袖にのこして
すきにけり しのたのもりの ほとときす たえぬしつくを そてにのこして
藤原保季
8-新古214いかにせんこぬよあまたのほとときすまたしとおもへはむらさめのそら
いかにせむ こぬよあまたの ほとときす またしとおもへは むらさめのそら
藤原家隆
8-新古215こゑはしてくもちにむせふほとときす涙やそそくよゐのむらさめ
こゑはして くもちにむせふ ほとときす なみたやそそく よひのむらさめ
式子内親王
8-新古216ほとときすなをうとまれぬ心かななかなくさとのよそのゆふくれ
ほとときす なほうとまれぬ こころかな なかなくさとの よそのゆふくれ
西園寺公経
8-新古217きかすともここをせにせんほとときす山田のはらのすきのむらたち
きかすとも ここをせにせむ ほとときす やまたのはらの すきのむらたち
西行法師
8-新古218郭公ふかきみねよりいてにけりと山のすそに声のおちくる
ほとときす ふかきみねより いてにけり とやまのすそに こゑのおちくる
読人知らず
8-新古219をささふくしつのまろやのかりのとをあけかたになく郭公かな
をささふく しつのまろやの かりのとを あけかたになく ほとときすかな
徳大寺実定
8-新古220うちしめりあやめそかほるほとときすなくやさ月の雨のゆふくれ
うちしめり あやめそかをる ほとときす なくやさつきの あめのゆふくれ
九条良経
8-新古221けふは又あやめのねさへかけそへてみたれそまさる袖の白玉
けふはまた あやめのねさへ かけそへて みたれそまさる そてのしらたま
藤原俊成
8-新古222あかなくにちりにし花のいろいろはのこりにけりな君かたもとに
あかなくに ちりにしはなの いろいろは のこりにけりな きみかたもとに
源経信
8-新古223なへてよのうきになかるるあやめくさけふまてかかるねはいかかみる
なへてよの うきになかるる あやめくさ けふまてかかる ねはいかかみる
上東門院小少将
8-新古224なにこととあやめはわかてけふもなをたもとにあまるねこそたえせね
なにことと あやめはわかて けふもなほ たもとにあまる ねこそたえせね
紫式部
8-新古225さなへとる山田のかけひもりにけりひくしめなわにつゆそこほるる
さなへとる やまたのかけひ もりにけり ひくしめなはに つゆそこほるる
源経信
8-新古226を山たにひくしめなわのうちはへてくちやしぬらんさみたれの比
をやまたに ひくしめなはの うちはへて くちやしぬらむ さみたれのころ
九条良経
8-新古227いかはかりたこのもすそもそほつらんくもまも見えぬころのさみたれ
いかはかり たこのもすそも そほつらむ くもまもみえぬ ころのさみたれ
伊勢大輔
8-新古228みしまえのいりえのまこも雨ふれはいととしほれてかる人もなし
みしまえの いりえのまこも あめふれは いととしをれて かるひともなし
源経信
8-新古229まこもかるよとのさは水ふかけれとそこまて月のかけはすみけり
まこもかる よとのさはみつ ふかけれと そこまてつきの かけはすみけり
大江匡房
8-新古230たまかしはしけりにけりなさみたれに葉もりの神のしめはふるまて
たまかしは しけりにけりな さみたれに はもりのかみの しめはふるまて
藤原基俊
8-新古231さみたれはおふのかはらのまこもくさからてやなみのしたにくちなん
さみたれは おふのかはらの まこもくさ からてやなみの したにくちなむ
藤原忠通
8-新古232たまほこのみちゆき人のことつてもたえてほとふるさみたれの空
たまほこの みちゆくひとの ことつても たえてほとふる さみたれのそら
藤原定家
8-新古233さみたれの雲のたえまをなかめつつまとよりにしに月をまつかな
さみたれの くものたえまを なかめつつ まとよりにしに つきをまつかな
荒木田氏良
8-新古234あふちさくそともの木かけつゆをちてさみたれはるる風わたるなり
あふちさく そとものこかけ つゆおちて さみたれはるる かせわたるなり
藤原忠良
8-新古235さみたれの月はつれなきみ山よりひとりもいつるほとときすかな
さみたれの つきはつれなき みやまより ひとりもいつる ほとときすかな
藤原定家
8-新古236ほとときす雲井のよそにすきぬなりはれぬおもひのさみたれの比
ほとときす くもゐのよそに すきぬなり はれぬおもひの さみたれのころ
太上天皇
8-新古237五月雨の雲まの月のはれゆくをしはしまちけるほとときすかな
さみたれの くもまのつきの はれゆくを しはしまちける ほとときすかな
二条院讃岐
8-新古238たれかまたはなたちはなにおもひいてんわれもむかしの人となりなは
たれかまた はなたちはなに おもひいてむ われもむかしの ひととなりなは
藤原俊成
8-新古239ゆくすゑをたれしのへとてゆふ風にちきりかをかんやとのたち花
ゆくすゑを たれしのへとて ゆふかせに ちきりかおかむ やとのたちはな
堀川通具
8-新古240かへりこぬむかしをいまとおもひねの夢の枕ににほふたちはな
かへりこぬ むかしをいまと おもひねの ゆめのまくらに にほふたちはな
式子内親王
8-新古241たちはなの花ちるのきのしのふ草むかしをかけてつゆそこほるる
たちはなの はなちるのきの しのふくさ むかしをかけて つゆそこほるる
藤原忠良
8-新古242さ月やみみしかきよはのうたたねにはなたち花の袖にすすしき
さつきやみ みしかきよはの うたたねに はなたちはなの そてにすすしき
慈円
8-新古243たつぬへき人はのきはのふるさとにそれかとかほるにはのたちはな
たつぬへき ひとはのきはの ふるさとに それかとかをる にはのたちはな
読人知らず
8-新古244ほとときすはなたちはなのかをとめてなくはむかしの人やこひしき
ほとときす はなたちはなの かをとめて なくはむかしの ひとやこひしき
読人知らず
8-新古245たちはなのにほふあたりのうたたねは夢もむかしの袖のかそする
たちはなの にほふあたりの うたたねは ゆめもむかしの そてのかそする
藤原俊成女
8-新古246ことしより花さきそむるたちはなのいかてむかしの香ににほふらん
ことしより はなさきそむる たちはなの いかてむかしの かににほふらむ
藤原家隆
8-新古247ゆふくれはいつれの雲のなこりとてはなたち花に風のふくらん
ゆふくれは いつれのくもの なこりとて はなたちはなに かせのふくらむ
藤原定家
8-新古248ほとときすさ月みな月わきかねてやすらふ声そそらにきこゆる
ほとときす さつきみなつき わきかねて やすらふこゑそ そらにきこゆる
源国信
8-新古249庭のおもは月もらぬまてなりにけりこすゑに夏のかけしけりつつ
にはのおもは つきもらぬまて なりにけり こすゑになつの かけしけりつつ
白河院
8-新古250わかやとのそともにたてるならの葉のしけみにすすむ夏はきにけり
わかやとの そともにたてる ならのはの しけみにすすむ なつはきにけり
恵慶法師
8-新古251うかひふねあはれとそおもふもののふのやそうちかはのゆふやみのそら
うかひふね あはれとそみる もののふの やそうちかはの ゆふやみのそら
慈円
8-新古252うかひ舟たかせさしこすほとなれやむすほほれゆくかかりひのかけ
うかひふね たかせさしこす ほとなれや むすほほれゆく かかりひのかけ
寂蓮法師
8-新古253おほ井かはかかりさしゆくうかひ舟いくせに夏のよをあかすらん
おほゐかは かかりさしゆく うかひふね いくせになつの よをあかすらむ
藤原俊成
8-新古254ひさかたの中なる河のうかひ舟いかにちきりてやみをまつらん
ひさかたの なかなるかはの うかひふね いかにちきりて やみをまつらむ
藤原定家
8-新古255いさりひのむかしのひかりほのみえてあしやのさとにとふ蛍かな
いさりひの むかしのひかり ほのみえて あしやのさとに とふほたるかな
九条良経
8-新古256まとちかき竹の葉すさふ風のをとにいととみしかきうたたねの夢
まとちかき たけのはすさふ かせのおとに いととみしかき うたたねのゆめ
式子内親王
8-新古257まとちかきいささむらたけ風ふけは秋におとろく夏のよの夢
まとちかき いささむらたけ かせふけは あきにおとろく なつのよのゆめ
徳大寺公継
8-新古258むすふてにかけみたれゆく山の井のあかても月のかたふきにける
むすふてに かけみたれゆく やまのゐの あかてもつきの かたふきにける
慈円
8-新古259きよみかた月はつれなきあまのとをまたてもしらむ浪のうへかな
きよみかた つきはつれなき あまのとを またてもしらむ なみのうへかな
久我通光
8-新古260かさねてもすすしかりけり夏ころもうすきたもとにやとる月かけ
かさねても すすしかりけり なつころも うすきたもとに やとるつきかけ
九条良経
8-新古261すすしさは秋やかへりてはつせかはふるかはのへのすきのしたかけ
すすしさは あきやかへりて はつせかは ふるかはのへの すきのしたかけ
藤原有家
8-新古262みちのへにしみつなかるるやなきかけしはしとてこそたちとまりつれ
みちのへに しみつなかるる やなきかけ しはしとてこそ たちとまりつれ
西行法師
8-新古263よられつるのもせの草のかけろひてすすしくくもる夕立の空
よられつる のもせのくさの かけろひて すすしくくもる ゆふたちのそら
読人知らず
8-新古264をのつからすすしくもあるか夏衣日もゆふくれの雨のなこりに
おのつから すすしくもあるか なつころも ひもゆふくれの あめのなこりに
藤原清輔
8-新古265つゆすかる庭のたまささうちなひきひとむらすきぬゆふたちの雲
つゆすかる にはのたまささ うちなひき ひとむらすきぬ ゆふたちのくも
西園寺公経
8-新古266とをちにはゆふたちすらしひさかたのあまのかく山くもかくれゆく
とほちには ゆふたちすらし ひさかたの あまのかくやま くもかくれゆく
源俊頼
8-新古267にはのおもはまたかはかぬにゆふたちのそらさりけなくすめる月かな
にはのおもは またかわかぬに ゆふたちの そらさりけなく すめるつきかな
源頼政
8-新古268ゆふたちの雲もとまらぬ夏の日のかたふく山にひくらしのこゑ
ゆふたちの くももとまらぬ なつのひの かたふくやまに ひくらしのこゑ
式子内親王
8-新古269ゆふつくひさすやいほりのしはのとにさひしくもあるかひくらしのこゑ
ゆふつくひ さすやいほりの しはのとに さひしくもあるか ひくらしのこゑ
藤原忠良
8-新古270秋ちかきけしきのもりになくせみの涙のつゆや下葉そむらん
あきちかき けしきのもりに なくせみの なみたのつゆや したはそむらむ
九条良経
8-新古271なくせみのこゑもすすしきゆふくれに秋をかけたるもりの下露
なくせみの こゑもすすしき ゆふくれに あきをかけたる もりのしたつゆ
二条院讃岐
8-新古272いつちとかよるは蛍ののほるらんゆくかたしらぬ草の枕に
いつちとか よるはほたるの のほるらむ ゆくかたしらぬ くさのまくらに
壬生忠見
8-新古273ほたるとふ野沢にしけるあしのねのよなよなしたにかよふ秋風
ほたるとふ のさはにしける あしのねの よなよなしたに かよふあきかせ
九条良経
8-新古274ひさきおふるかた山かけにしのひつつふきけるものを秋のゆふかせ
ひさきおふる かたやまかけに しのひつつ ふきけるものを あきのゆふかせ
俊恵法師
8-新古275しらつゆのたまもてゆへるませのうちにひかりさへそふとこ夏の花
しらつゆの たまもてゆへる ませのうちに ひかりさへそふ とこなつのはな
高倉院
8-新古276白露のなさけをきけることの葉やほのほの見えしゆふかほの花
しらつゆの なさけおきける ことのはや ほのほのみえし ゆふかほのはな
前太政大臣
8-新古277たそかれののきはのおきにともすれはほにいてぬ秋そしたにこととふ
たそかれの のきはのをきに ともすれは ほにいてぬあきそ したにこととふ
式子内親王
8-新古278雲まよふゆふへに秋をこめなから風もほにいてぬおきのうへかな
くもまよふ ゆふへにあきを こめなから かせもほにいてぬ をきのうへかな
慈円
8-新古279山さとのみねのあまくもとたえしてゆふへすすしきまきのしたつゆ
やまさとの みねのあまくも とたえして ゆふへすすしき まきのしたつゆ
太上天皇
8-新古280いは井くむあたりのをささたまこえてかつかつむすふ秋のゆふつゆ
いはゐくむ あたりのをささ たまこえて かつかつむすふ あきのゆふつゆ
藤原忠通
8-新古281かたえさすおふのうらなしはつ秋になりもならすも風そ身にしむ
かたえさす をふのうらなし はつあきに なりもならすも かせそみにしむ
宮内卿
8-新古282夏ころもかたへすすしくなりぬなりよやふけぬらんゆきあひのそら
なつころも かたへすすしく なりぬなり よやふけぬらむ ゆきあひのそら
慈円
8-新古283なつはつるあふきと秋のしらつゆといつれかまつはをかんとすらん
なつはつる あふきとあきの しらつゆと いつれかまつは おかむとすらむ
壬生忠峯
8-新古284みそきする河のせみれはからころも日もゆふくれに浪そたちける
みそきする かはのせみれは からころも ひもゆふくれに なみそたちける
紀貫之
8-新古285神なひのみむろの山のくすかつらうらふきかへす秋はきにけり
かみなひの みむろのやまの くすかつら うらふきかへす あきはきにけり
大伴家持秋上
8-新古286いつしかとおきの葉むけのかたよりにそそや秋とそ風もきこゆる
いつしかと をきのはむけの かたよりに そらやあきとそ かせもきこゆる
崇徳院秋上
8-新古287このねぬるよのまに秋はきにけらしあさけの風のきのふにもにぬ
このねぬる よのまにあきは きにけらし あさけのかせの きのふにもにぬ
藤原季通秋上
8-新古288いつもきくふもとのさととおもへともきのふにかはる山おろしの風
いつもきく ふもとのさとと おもへとも きのふにかはる やまおろしのかせ
徳大寺実定秋上
8-新古289きのふたにとはんとおもひしつのくにのいく田のもりに秋はきにけり
きのふたに とはむとおもひし つのくにの いくたのもりに あきはきにけり
藤原家隆秋上
8-新古290ふく風の色こそ見えねたかさこのおのへの松に秋はきにけり
ふくかせの いろこそみえね たかさこの をのへのまつに あきはきにけり
藤原秀能秋上
8-新古291ふしみ山松のかけより見わたせはあくる田のもに秋風そふく
ふしみやま まつのかけより みわたせは あくるたのもに あきかせそふく
藤原俊成秋上
8-新古292あけぬるか衣手さむしすかはらやふしみのさとの秋のはつ風
あけぬるか ころもてさむし すかはらや ふしみのさとの あきのはつかせ
藤原家隆秋上
8-新古293ふかくさのつゆのよすかを契にてさとをはかれす秋はきにけり
ふかくさの つゆのよすかを ちきりにて さとをはかれす あきはきにけり
九条良経秋上
8-新古294あはれまたいかにしのはん袖のつゆ野はらの風に秋はきにけり
あはれまた いかにしのはむ そてのつゆ のはらのかせに あきはきにけり
堀川通具秋上
8-新古295しきたへの枕のうへにすきぬなりつゆをたつぬる秋のはつ風
しきたへの まくらのうへに すきぬなり つゆをたつぬる あきのはつかせ
源具親秋上
8-新古296みつくきのをかのくす葉もいろつきてけさうらかなし秋のはつ風
みつくきの をかのくすはも いろつきて けさうらかなし あきのはつかせ
顕昭法師秋上
8-新古297秋はたた心よりをくゆふつゆを袖のほかともおもひけるかな
あきはたた こころよりおく ゆふつゆを そてのほかとも おもひけるかな
越前秋上
8-新古298きのふまてよそにしのひししたおきのすゑ葉のつゆに秋風そ吹
きのふまて よそにしのひし したをきの すゑはのつゆに あきかせそふく
飛鳥井雅経秋上
8-新古299をしなへてものをおもはぬ人にさへ心をつくる秋のはつ風
おしなへて ものをおもはぬ ひとにさへ こころをつくる あきのはつかせ
西行法師秋上
8-新古300あはれいかに草葉のつゆのこほるらん秋風たちぬみやきののはら
あはれいかに くさはのつゆの こほるらむ あきかせたちぬ みやきののはら
読人知らず秋上
8-新古301みしふつきうへし山田にひたはへて又袖ぬらす秋はきにけり
みしふつき うゑしやまたに ひたはへて またそてぬらす あきはきにけり
藤原俊成秋上
8-新古302あさきりやたつたの山のさとならて秋きにけりとたれかしらまし
あさきりや たつたのやまの さとならて あききにけりと たれかしらまし
藤原忠通秋上
8-新古303ゆふくれはおきふく風のをとまさるいまはたいかにねさめせられん
ゆふくれは をきふくかせの おとまさる いまはたいかに ねさめせられむ
具平親王秋上
8-新古304ゆふされはおきの葉むけをふくかせにことそともなく涙おちけり
ゆふくれは をきのはむけを ふくかせに ことそともなく なみたおちけり
徳大寺実定秋上
8-新古305おきの葉も契ありてや秋風のをとつれそむるつまとなりけん
をきのはも ちきりありてや あきかせの おとつれそむる つまとなりけむ
藤原俊成秋上
8-新古306秋きぬと松ふく風もしらせけりかならすおきのうは葉ならねと
あききぬと まつふくかせも しらせけり かならすをきの うははならねと
七条院権大夫秋上
8-新古307日をへつつをとこそまされいつみなるしのたのもりのちえの秋風
ひをへつつ おとこそまされ いつみなる しのたのもりの ちえのあきかせ
藤原経衡秋上
8-新古308うたたねのあさけのそてにかはるなりならすあふきの秋のはつ風
うたたねの あさけのそてに かはるなり ならすあふきの あきのはつかせ
式子内親王秋上
8-新古309てもたゆくならすあふきのをきところわするはかりに秋風そふく
てもたゆく ならすあふきの おきところ わするはかりに あきかせそふく
相模秋上
8-新古310秋風はふきむすへともしらつゆのみたれてをかぬ草の葉そなき
あきかせは ふきむすへとも しらつゆの みたれておかぬ くさのはそなき
大弐三位秋上
8-新古311あさほらけおきのうは葉のつゆみれはややはたさむし秋のはつ風
あさほらけ をきのうははの つゆみれは ややはたさむし あきのはつかせ
曽祢好忠秋上
8-新古312ふきむすふ風はむかしの秋なからありしにもにぬ袖のつゆかな
ふきむすふ かせはむかしの あきなから ありしにもにぬ そてのつゆかな
小野小町秋上
8-新古313おほそらをわれもなかめてひこほしのつままつよさへひとりかもねん
おほそらを われもなかめて ひこほしの つままつよさへ ひとりかもねむ
紀貫之秋上
8-新古314このゆふへふりつる雨はひこほしのとわたるふねのかいのしつくか
このゆふへ ふりつるあめは ひこほしの とわたるふねの かいのしつくか
山辺赤人秋上
8-新古315としをへてすむへきやとのいけみつはほしあひのかけもおもなれやせん
としをへて すむへきやとの いけみつは ほしあひのかけも おもなれやせむ
藤原長家秋上
8-新古316袖ひちてわかてにむすふ水のおもにあまつほしあひのそらをみるかな
そてひちて わかてにむすふ みつのおもに あまつほしあひの そらをみるかな
藤原長能秋上
8-新古317雲間よりほしあひのそらを見わたせはしつ心なきあまの河なみ
くもまより ほしあひのそらを みわたせは しつこころなき あまのかはなみ
祭主輔親秋上
8-新古318たなはたのあまのは衣うちかさねぬるよすすしき秋風そふく
たなはたの あまのはころも うちかさね ぬるよすすしき あきかせそふく
藤原高遠秋上
8-新古319たなはたの衣のつまは心してふきなかへしそ秋のはつ風
たなはたの ころものつまは こころして ふきなかへしそ あきのはつかせ
小弁秋上
8-新古320たなはたのとわたる舟のかちの葉にいく秋かきつ露の玉つさ
たなはたの とわたるふねの かちのはに いくあきかきつ つゆのたまつさ
藤原俊成秋上
8-新古321なかむれは衣手すすしひさかたのあまのかはらの秋のゆふくれ
なかむれは ころもてすすし ひさかたの あまのかはらの あきのゆふくれ
式子内親王秋上
8-新古322いかはかり身にしみぬらんたなはたのつままつよゐのあまの河風
いかはかり みにしみぬらむ たなはたの つままつよひの あまのかはかせ
藤原忠通秋上
8-新古323ほしあひのゆふへすすしきあまのかはもみちのはしをわたる秋風
ほしあひの ゆふへすすしき あまのかは もみちのはしを わたるあきかせ
西園寺公経秋上
8-新古324たなはたのあふせたえせぬあまのかはいかなる秋かわたりそめけん
たなはたの あふせたえせぬ あまのかは いかなるあきか わたりそめけむ
待賢門院堀河秋上
8-新古325わくらはにあまの河なみよるなからあくるそらにはまかせすもかな
わくらはに あまのかはなみ よるなから あくるそらには まかせすもかな
女御徽子女王秋上
8-新古326いととしく思ひけぬへしたなはたのわかれの袖にをけるしらつゆ
いととしく おもひけぬへし たなはたの わかれのそてに おけるしらつゆ
大中臣能宣秋上
8-新古327たなはたはいまやわかるるあまのかは河きりたちてちとりなくなり
たなはたは いまやわかるる あまのかは かはきりたちて ちとりなくなり
紀貫之秋上
8-新古328河水に鹿のしからみかけてけりうきてなかれぬ秋はきの花
かはみつに しかのしからみ かけてけり うきてなかれぬ あきはきのはな
大江匡房秋上
8-新古329かり衣われとはすらしつゆふかき野はらのはきの花にまかせて
かりころも われとはすらし つゆしけき のはらのはきの はなにまかせて
源頼政秋上
8-新古330秋はきをおらてはすきしつき草の花すり衣つゆにぬるとも
あきはきを をらてはすきし つきくさの はなすりころも つゆにぬるとも
権僧正永縁秋上
8-新古331はきか花ま袖にかけてたかまとのおのへの宮にひれふるやたれ
はきかはな まそてにかけて たかまとの をのへのみやに ひれふるやたれ
顕昭法師秋上
8-新古332をくつゆもしつ心なく秋風にみたれてさけるまののはきはら
おくつゆも しつこころなく あきかせに みたれてさける まののはきはら
祐子内親王家紀伊秋上
8-新古333秋はきのさきちる野辺のゆふつゆにぬれつつきませよはふけぬとも
あきはきの さきちるのへの ゆふつゆに ぬれつつきませ よはふけぬとも
柿本人麿秋上
8-新古334さをしかのあさたつ野辺の秋はきにたまとみるまてをけるしらつゆ
さをしかの あさたつのへの あきはきに たまとみるまて おけるしらつゆ
大伴家持秋上
8-新古335秋の野をわけゆくつゆにうつりつつわか衣手は花のかそする
あきののを わけゆくつゆに うつりつつ わかころもては はなのかそする
凡河内躬恒秋上
8-新古336たれをかもまつちの山のをみなへし秋とちきれる人そあるらし
たれをかも まつちのやまの をみなへし あきとちきれる ひとそあるらし
小野小町秋上
8-新古337をみなへし野辺のふるさとおもひいててやとりし虫の声やこひしき
をみなへし のへのふるさと おもひいてて やとりしむしの こゑやこひしき
藤原元真秋上
8-新古338ゆふされは玉ちるのへのをみなへしまくらさためぬ秋風そふく
ゆふされは たまちるのへの をみなへし まくらさためぬ あきかせそふく
左近中将良平秋上
8-新古339ふちはかまぬしはたれともしらつゆのこほれてにほふ野辺の秋風
ふちはかま ぬしはたれとも しらつゆの こほれてにほふ のへのあきかせ
公猷法師秋上
8-新古340うすきりのまかきの花のあさしめり秋はゆふへとたれかいひけん
うすきりの まかきのはなの あさしめり あきはゆふへと たれかいひけむ
藤原清輔秋上
8-新古341いとかくや袖はしほれし野辺にいててむかしも秋の花はみしかと
いとかくや そてはしをれし のへにいてて むかしもあきの はなはみしかと
藤原俊成秋上
8-新古342花見にと人やりならぬのへにきて心のかきりつくしつるかな
はなみにと ひとやりならぬ のへにきて こころのかきり つくしつるかな
源経信秋上
8-新古343をきて見んとおもひしほとにかれにけりつゆよりけなるあさかほの花
おきてみむと おもひしほとに かれにけり つゆよりけなる あさかほのはな
曽祢好忠秋上
8-新古344山かつのかきほにさけるあさかほはしののめならてあふよしもなし
やまかつの かきほにさける あさかほは しののめならて あふよしもなし
紀貫之秋上
8-新古345うらかるるあさちかはらのかるかやのみたれてものをおもふころかな
うらかるる あさちかはらの かるかやの みたれてものを おもふころかな
坂上是則秋上
8-新古346さをしかのいるののすすきはつお花いつしかいもかたまくらにせん
さをしかの いるののすすき はつをはな いつしかいもか たまくらにせむ
柿本人麿秋上
8-新古347をくら山ふもとののへの花すすきほのかに見ゆる秋の夕くれ
をくらやま ふもとののへの はなすすき ほのかにみゆる あきのゆふくれ
読人知らず秋上
8-新古348ほのかにも風はふかなん花すすきむすほほれつつつゆにぬるとも
ほのかにも かせはふかなむ はなすすき むすほほれつつ つゆにぬるとも
女御徽子女王秋上
8-新古349花すすき又つゆふかしほにいててなかめしとおもふ秋のさかりを
はなすすき またつゆふかし ほにいてては なかめしとおもふ あきのさかりを
式子内親王秋上
8-新古350野辺ことにをとつれわたるあき風をあたにもなひく花すすき哉
のへことに おとつれわたる あきかせを あたにもなひく はなすすきかな
八条院六条秋上
8-新古351あけぬとて野辺より山にいる鹿のあとふきをくる萩の下風
あけぬとて のへよりやまに いるしかの あとふきおくる はきのしたかせ
久我通光秋上
8-新古352身にとまるおもひをおきのうははにてこの比かなし夕くれの空
みにとまる おもひををきの うははにて このころかなし ゆふくれのそら
慈円秋上
8-新古353身のほとをおもひつつくるゆふくれのおきのうははに風わたるなり
みのほとを おもひつつくる ゆふくれの をきのうははに かせわたるなり
源行宗秋上
8-新古354秋はたたものをこそおもへつゆかかるおきのうへふく風につけても
あきはたた ものをこそおもへ つゆかかる をきのうへふく かせにつけても
源重之女秋上
8-新古355秋風のややはたさむくふくなへにおきのうは葉のをとそかなしき
あきかせの ややはたさむく ふくなへに をきのうははの おとそかなしき
藤原基俊秋上
8-新古356おきの葉にふけはあらしの秋なるをまちけるよはのさを鹿の声
をきのはに ふけはあらしの あきなるを まちけるよはの さをしかのこゑ
九条良経秋上
8-新古357をしなへておもひしことのかすかすになを色まさる秋のゆふくれ
おしなへて おもひしことの かすかすに なほいろまさる あきのゆふくれ
読人知らず秋上
8-新古358くれかかるむなしきそらの秋をみておほえすたまる袖のつゆかな
くれかかる むなしきそらの あきをみて おほえすたまる そてのつゆかな
読人知らず秋上
8-新古359ものおもはてかかるつゆやは袖にをくなかめてけりな秋のゆふくれ
ものおもはて かかるつゆやは そてにおく なかめてけりな あきのゆふくれ
読人知らず秋上
8-新古360み山ちやいつより秋の色ならん見さりし雲のゆふくれのそら
みやまちや いつよりあきの いろならむ みさりしくもの ゆふくれのそら
慈円秋上
8-新古361さひしさはその色としもなかりけりま木たつ山の秋のゆふくれ
さひしさは そのいろとしも なかりけり まきたつやまの あきのゆふくれ
寂蓮法師秋上
8-新古362こころなき身にも哀はしられけりしきたつさはの秋のゆふくれ
こころなき みにもあはれは しられけり しきたつさはの あきのゆふくれ
西行法師秋上
8-新古363見わたせは花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋のゆふくれ
みわたせは はなももみちも なかりけり うらのとまやの あきのゆふくれ
藤原定家秋上
8-新古364たへてやはおもひありともいかかせんむくらのやとの秋のゆふくれ
たへてやは おもひありとも いかかせむ むくらのやとの あきのゆふくれ
飛鳥井雅経秋上
8-新古365おもふことさしてそれとはなきものを秋のゆふへを心にそとふ
おもふこと さしてそれとは なきものを あきのゆふへを こころにそとふ
宮内卿秋上
8-新古366秋風のいたりいたらぬ袖はあらしたたわれからのつゆのゆふくれ
あきかせの いたりいたらぬ そてはあらし たたわれからの つゆのゆふくれ
鴨長明秋上
8-新古367おほつかな秋はいかなるゆへのあれはすすろにもののかなしかるらん
おほつかな あきはいかなる ゆゑのあれは すすろにものの かなしかるらむ
西行法師秋上
8-新古368それなからむかしにもあらぬ秋風にいととなかめをしつのをたまき
それなから むかしにもあらぬ あきかせに いととなかめを しつのをたまき
式子内親王秋上
8-新古369ひくらしのなくゆふくれそうかりけるいつもつきせぬ思なれとも
ひくらしの なくゆふくれそ うかりける いつもつきせぬ おもひなれとも
藤原長能秋上
8-新古370秋くれはときはの山の松風もうつるはかりに身にそしみける
あきくれは ときはのやまの まつかせも うつるはかりに みにそしみける
和泉式部秋上
8-新古371秋風のよそにふきくるをとは山なにの草木かのとけかるへき
あきかせの よもにふきくる おとはやま なにのくさきか のとけかるへき
曽祢好忠秋上
8-新古372暁のつゆはなみたもととまらてうらむる風の声そのこれる
あかつきの つゆはなみたも ととまらて うらむるかせの こゑそのこれる
相模秋上
8-新古373たかまとののちのしのはらすゑさはきそそやこからしけふふきぬなり
たかまとの のちのしのはら すゑさわき そそやこからし けふふきぬなり
藤原基俊秋上
8-新古374ふかくさのさとの月かけさひしさもすみこしままののへの秋風
ふかくさの さとのつきかけ さひしさも すみこしままの のへのあきかせ
堀川通具秋上
8-新古375おほあらきのもりの木のまをもりかねて人たのめなる秋のよの月
おほあらきの もりのこのまを もりかねて ひとたのめなる あきのよのつき
藤原俊成女秋上
8-新古376ありあけの月まつやとは(は=の)袖のうへに人たのめなるよゐのいなつま
ありあけの つきまつやとの そてのうへに ひとたのめなる よひのいなつま
藤原家隆秋上
8-新古377風わたるあさちかすゑのつゆにたにやとりもはてぬよゐのいなつま
かせわたる あさちかすゑの つゆにたに やとりもはてぬ よひのいなつま
藤原有家秋上
8-新古378むさし野やゆけとも秋のはてそなきいかなる風かすゑにふくらん
むさしのや ゆけともあきの はてそなき いかなるかせか すゑにふくらむ
久我通光秋上
8-新古379いつまてかなみたくもらて月は見し秋まちえても秋そこひしき
いつまてか なみたくもらて つきはみし あきまちえても あきそこひしき
慈円秋上
8-新古380なかめわひぬ秋よりほかのやともかな野にも山にも月やすむらん
なかめわひぬ あきよりほかの やともかな のにもやまにも つきやすむらむ
式子内親王秋上
8-新古381月かけのはつ秋風とふけゆけは心つくしにものをこそおもへ
つきかけの はつあきかせと ふけゆけは こころつくしに ものをこそおもへ
円融院秋上
8-新古382あしひきの山のあなたにすむ人はまたてや秋の月をみるらん
あしひきの やまのあなたに すむひとは またてやあきの つきをみるらむ
三条院秋上
8-新古383しきしまやたかまと山のくもまより光さしそふゆみはりの月
しきしまや たかまとやまの くもまより ひかりさしそふ ゆみはりのつき
堀河院秋上
8-新古384人よりも心のかきりなかめつる月はたれともわかしものゆへ
ひとよりも こころのかきり なかめつる つきはたれとも わかしものゆゑ
藤原頼宗秋上
8-新古385あやなくもくもらぬよゐをいとふかなしのふのさとの秋のよの月
あやなくも くもらぬよひを いとふかな しのふのさとの あきのよのつき
橘為仲秋上
8-新古386風ふけはたまちるはきのしたつゆにはかなくやとる野辺の月かな
かせふけは たまちるはきの したつゆに はかなくやとる のへのつきかな
藤原忠通秋上
8-新古387こよひたれすすふく風を身にしめてよしののたけの月をみるらん
こよひたれ すすふくかせを みにしめて よしののたけに つきをみるらむ
源頼政秋上
8-新古388月みれはおもひそあへぬ山たかみいつれのとしの雪にかあるらん
つきみれは おもひそあへぬ やまたかみ いつれのとしの ゆきにかあるらむ
藤原重家秋上
8-新古389にほのうみや月の光のうつろへはなみの花にも秋はみえけり
にほのうみや つきのひかりの うつろへは なみのはなにも あきはみえけり
藤原家隆秋上
8-新古390ふけゆかはけふりもあらししほかまのうらみなはてそ秋のよの月
ふけゆかは けふりもあらし しほかまの うらみなはてそ あきのよのつき
慈円秋上
8-新古391ことはりの秋にはあへぬなみたかな月のかつらもかはるひかりに
ことわりの あきにはあへぬ なみたかな つきのかつらも かはるひかりに
藤原俊成女秋上
8-新古392なかめつつおもふもさひしひさかたの月のみやこのあけかたのそら
なかめつつ おもふもさひし ひさかたの つきのみやこの あけかたのそら
藤原家隆秋上
8-新古393ふるさとのもとあらのこはきさきしより夜な夜な庭の月そうつろふ
ふるさとの もとあらのこはき さきしより よなよなにはの つきそうつろふ
九条良経秋上
8-新古394時しもあれふるさと人はをともせてみやまの月に秋風そふく
ときしもあれ ふるさとひとは おともせて みやまのつきに あきかせそふく
読人知らず秋上
8-新古395ふかからぬとやまのいほのねさめたにさそな木のまの月はさひしき
ふかからぬ とやまのいほの ねさめたに さそなこのまの つきはさひしき
読人知らず秋上
8-新古396月はなをもらぬこのまもすみよしの松をつくして秋風そふく
つきはなほ もらぬこのまも すみよしの まつをつくして あきかせそふく
寂蓮法師秋上
8-新古397なかむれはちちにものおもふ月に又わか身ひとつの峯の松風
なかむれは ちちにものおもふ つきにまた わかみひとつの みねのまつかせ
鴨長明秋上
8-新古398あしひきの山ちのこけのつゆのうへにねさめ夜ふかき月をみるかな
あしひきの やまちのこけの つゆのうへに ねさめよふかき つきをみるかな
藤原秀能秋上
8-新古399心あるをしまのあまのたもとかな月やとれとはぬれぬものから
こころある をしまのあまの たもとかな つきやとれとは ぬれぬものから
宮内卿秋上
8-新古400わすれしななにはの秋のよはのそらことうらにすむ月はみるとも
わすれしな なにはのあきの よはのそら ことうらにすむ つきはみるとも
宜秋門院丹後秋上
8-新古401松しまやしほくむあまの秋のそて月はものおもふならひのみかは
まつしまや しほくむあまの あきのそて つきはものおもふ ならひのみかは
鴨長明秋上
8-新古402こととはんのしまかさきのあま衣なみと月とにいかかしほるる
こととはむ のしまかさきの あまころも なみとつきとに いかかしをるる
七条院大納言秋上
8-新古403秋のよの月やをしまのあまのはらあけかたちかきおきのつり舟
あきのよの つきやをしまの あまのはら あけかたちかき おきのつりふね
藤原家隆秋上
8-新古404うき身にはなかむるかひもなかりけり心にくもる秋のよの月
うきみには なかむるかひも なかりけり こころにくもる あきのよのつき
慈円秋上
8-新古405いつくにかこよひの月のくもるへきをくらの山もなをやかふらん
いつくにか こよひのつきの くもるへき をくらのやまも なをやかふらむ
大江千里秋上
8-新古406こころこそあくかれにけれ秋のよの夜ふかき月をひとりみしより
こころこそ あくかれにけれ あきのよの よふかきつきを ひとりみしより
源道済秋上
8-新古407かはらしなしるもしらぬも秋のよの月まつほとの心はかりは
かはらしな しるもしらぬも あきのよの つきまつほとの こころはかりは
上東門院小少将秋上
8-新古408たのめたる人はなけれと秋のよは月見てぬへき心ちこそせね
たのめたる ひとはなけれと あきのよは つきみてぬへき ここちこそせね
和泉式部秋上
8-新古409見る人の袖をそしほる秋の夜は月にいかなるかけかそふらん
みるひとの そてをそしほる あきのよは つきにいかなる かけかそふらむ
藤原範永秋上
8-新古410身にそへるかけとこそみれ秋の月袖にうつらぬおりしなけれは
みにそへる かけとこそみれ あきのつき そてにうつらぬ をりしなけれは
相模秋上
8-新古411月かけのすみわたるかなあまのはら雲ふきはらふよはのあらしに
つきかけの すみわたるかな あまのはら くもふきはらふ よはのあらしに
源経信秋上
8-新古412たつた山よはにあらしの松ふけは雲にはうときみねの月かけ
たつたやま よはにあらしの まつふけは くもにはうとき みねのつきかけ
久我通光秋上
8-新古413秋風にたなひく雲のたえまよりもれいつる月のかけのさやけさ
あきかせに たなひくくもの たえまより もれいつるつきの かけのさやけさ
藤原顕輔秋上
8-新古414山の葉に雲のよこきるよゐのまはいてても月そなをまたれける
やまのはに くものよこきる よひのまは いててもつきそ なほまたれける
道因法師秋上
8-新古415なかめつつおもふにぬるるたもとかないくよかはみん秋のよの月
なかめつつ おもふもぬるる たもとかな いくよかはみむ あきのよのつき
殷富門院大輔秋上
8-新古416よゐのまにさてもねぬへき月ならは山の葉ちかきものはおもはし
よひのまに さてもねぬへき つきならは やまのはちかき ものはおもはし
式子内親王秋上
8-新古417ふくるまてなかむれはこそかなしけれおもひもいれし秋のよの月
ふくるまて なかむれはこそ かなしけれ おもひもいれし あきのよのつき
読人知らず秋上
8-新古418雲はみなはらひはてたる秋風を松にのこして月をみるかな
くもはみな はらひはてたる あきかせを まつにのこして つきをみるかな
九条良経秋上
8-新古419月たにもなくさめかたき秋のよの心もしらぬ松の風かな
つきたにも なくさめかたき あきのよの こころもしらぬ まつのかせかな
読人知らず秋上
8-新古420さむしろやまつよの秋の風ふけて月をかたしくうちのはしひめ
さむしろや まつよのあきの かせふけて つきをかたしく うちのはしひめ
藤原定家秋上
8-新古421秋のよのなかきかひこそなかりけれまつにふけぬるありあけの月
あきのよの なかきかひこそ なかりけれ まつにふけぬる ありあけのつき
花山院忠経秋上
8-新古422ゆくすゑはそらもひとつのむさし野にくさのはらよりいつる月かけ
ゆくすゑは そらもひとつの むさしのに くさのはらより いつるつきかけ
九条良経秋上
8-新古423月をなをまつらんものかむらさめのはれゆく雲のすゑのさと人
つきをなほ まつらむものか むらさめの はれゆくくもの すゑのさとひと
宮内卿秋上
8-新古424秋のよはやとかる月もつゆなから袖にふきこすおきのうは風
あきのよは やとかるつきも つゆなから そてにふきこす をきのうはかせ
堀川通具秋上
8-新古425秋の月しのにやとかるかけたけてをささかはらにつゆふけにけり
あきのつき しのにやとかる かけたけて をささかはらに つゆふけにけり
源家長秋上
8-新古426風わたる山田のいほをもる月やほなみにむすふこほりなるらん
かせわたる やまたのいほを もるつきや ほなみにむすふ こほりなるらむ
前太政大臣秋上
8-新古427かりのくるふしみのをたに夢さめてねぬよのいほに月をみるかな
かりのくる ふしみのをたに ゆめさめて ねぬよのいほに つきをみるかな
慈円秋上
8-新古428いな葉ふく風にまかせてすむいほは月そまことにもりあかしける
いなはふく かせにまかせて すむいほは つきそまことに もりあかしける
藤原俊成女秋上
8-新古429あくかれてねぬよのちりのつもるまて月にはらはぬとこのさむしろ
あくかれて ねぬよのちりの つもるまて つきにはらはぬ とこのさむしろ
読人知らず秋上
8-新古430秋の田のかりねのとこのいなむしろ月やとれともしけるつゆかな
あきのたの かりねのとこの いなむしろ つきやとれとも しけるつゆかな
大中臣定雅秋上
8-新古431あきの田にいほさすしつのとまをあらみ月とともにやもりあかすらん
あきのたに いほさすしつの とまをあらみ つきとともにや もりあかすらむ
藤原顕輔秋上
8-新古432秋の色はまかきにうとくなりゆけとたまくらなるるねやの月かけ
あきのいろは まかきにうとく なりゆけと たまくらなるる ねやのつきかけ
式子内親王秋上
8-新古433あきのつゆやたもとにいたくむすふらんなかきよあかすやとる月かな
あきのつゆや たもとにいたく むすふらむ なかきよあかす やとるつきかな
太上天皇秋上
8-新古434さらにまたくれをたのめとあけにけり月はつれなき秋のよの空
さらにまた くれをたのめと あけにけり つきはつれなき あきのよのそら
久我通光秋上
8-新古435おほかたに秋のねさめのつゆけくはまたたか袖にありあけの月
おほかたに あきのねさめの つゆけくは またたかそてに ありあけのつき
二条院讃岐秋上
8-新古436はらひかねさこそはつゆのしけからめやとるか月の袖のせはきに
はらひかね さこそはつゆの しけからめ やとるかつきの そてのせはきに
飛鳥井雅経秋上
8-新古437したもみちかつちる山のゆふしくれぬれてやひとり鹿のなくらん
したもみち かつちるやまの ゆふしくれ ぬれてやひとり しかのなくらむ
藤原家隆秋下
8-新古438山おろしに鹿のねたかくきこゆなりおのへの月にさよやふけぬる
やまおろしに しかのねたかく きこゆなり をのへのつきに さよやふけぬる
藤原実房秋下
8-新古439野わきせしをののくさふしあれはててみ山にふかきさをしかの声
のわきせし をののくさふし あれはてて みやまにふかき さをしかのこゑ
寂蓮法師秋下
8-新古440あらしふくまくすかはらになくしかはうらみてのみやつまをこふらん
あらしふく まくすかはらに なくしかは うらみてのみや つまをこふらむ
俊恵法師秋下
8-新古441つまこふる鹿のたちとをたつぬれはさ山かすそに秋風そふく
つまこふる しかのたちとを たつぬれは さやまかすそに あきかせそふく
大江匡房秋下
8-新古442み山への松のこすゑをわたるなりあらしにやとすさをしかの声
みやまへの まつのこすゑを わたるなり あらしにやとす さをしかのこゑ
惟明親王秋下
8-新古443われならぬ人もあはれやまさるらん鹿なく山の秋の夕くれ
われならぬ ひともあはれや まさるらむ しかなくやまの あきのゆふくれ
源通親秋下
8-新古444たくへくる松のあらしやたゆむらんおのへにかへるさを鹿のこゑ
たくへくる まつのあらしや たゆむらむ をのへにかへる さをしかのこゑ
九条良経秋下
8-新古445なくしかのこゑにめさめてしのふかな見はてぬ夢の秋の思を
なくしかの こゑにめさめて しのふかな みはてぬゆめの あきのおもひを
慈円秋下
8-新古446よもすからつまとふ鹿のなくなへにこはきかはらのつゆそこほるる
よもすから つまとふしかの なくなへに こはきかはらの つゆそこほるる
藤原俊忠秋下
8-新古447ねさめしてひさしくなりぬ秋の夜はあけやしぬらん鹿そなくなる
ねさめして ひさしくなりぬ あきのよは あけやしぬらむ しかそなくなる
源道済秋下
8-新古448を山たのいほちかくなくしかのねにおとろかされておとろかすかな
をやまたの いほちかくなく しかのねに おとろかされて おとろかすかな
西行法師秋下
8-新古449山さとのいな葉の風にねさめしてよふかく鹿のこゑをきくかな
やまさとの いなはのかせに ねさめして よふかくしかの こゑをきくかな
源師忠秋下
8-新古450ひとりねやいととさひしきさをしかのあさふすをののくすのうら風
ひとりねや いととさひしき さをしかの あさふすをのの くすのうらかせ
藤原顕綱秋下
8-新古451たつた山こすゑまはらになるままにふかくもしかのそよくなるかな
たつたやま こすゑまはらに なるままに ふかくもしかの そよくなるかな
俊恵法師秋下
8-新古452すきてゆく秋のかたみにさをしかのをのかなくねもおしくやあるらん
すきてゆく あきのかたみに さをしかの おのかなくねも をしくやあるらむ
藤原長家秋下
8-新古453わきてなといほもる袖のしほるらんいな葉にかきる秋の風かは
わきてなと いほもるそての しをるらむ いなはにかきる あきのかせかは
慈円秋下
8-新古454秋田もるかりいほつくりわかをれは衣手さむしつゆそをきける
あきたもる かりいほつくり わかをれは ころもてさむし つゆそおきける
読人知らず秋下
8-新古455秋くれはあさけの風の手をさむみ山田のひたをまかせてそきく
あきくれは あさけのかせの てをさむみ やまたのひたを まかせてそきく
大江匡房秋下
8-新古456ほとときすなくさみたれにうへし田をかりかねさむみ秋そくれぬる
ほとときす なくさみたれに うゑしたを かりかねさむみ あきそくれぬる
善滋為政秋下
8-新古457いまよりは秋風さむくなりぬへしいかてかひとりなかきよをねん
いまよりは あきかせさむく なりぬへし いかてかひとり なかきよをねむ
大伴家持秋下
8-新古458秋されは雁のは風にしもふりてさむきよなよなしくれさへふる
あきされは かりのはかせに しもふりて さむきよなよな しくれさへふる
柿本人麿秋下
8-新古459さをしかのつまとふ山のをかへなるわさ田はからししもはをくとも
さをしかの つまとふやまの をかへなる わさたはからし しもはおくとも
読人知らず秋下
8-新古460かりてほす山田のいねは袖ひちてうへしさなへとみえすもあるかな
かりてほす やまたのいねは そてひちて うゑしさなへと みえすもあるかな
紀貫之秋下
8-新古461草葉にはたまとみえつつわひ人の袖の涙の秋のしらつゆ
くさはには たまとみえつつ わひひとの そてのなみたの あきのしらつゆ
菅贈太政大臣秋下
8-新古462わかやとのおはなかすゑにしらつゆのをきし日よりそ秋風もふく
わかやとの をはなかすゑに しらつゆの おきしひよりそ あきかせもふく
大伴家持秋下
8-新古463秋といへは契をきてやむすふらんあさちかはらのけさのしらつゆ
あきといへは ちきりおきてや むすふらむ あさちかはらの けさのしらつゆ
恵慶法師秋下
8-新古464秋されはをくしらつゆにわかやとのあさちかうは葉色つきにけり
あきされは おくしらつゆに わかやとの あさちかうはは いろつきにけり
柿本人麿秋下
8-新古465おほつかな野にも山にもしらつゆのなにことをかはおもひをくらん
おほつかな のにもやまにも しらつゆの なにことをかは おもひおくらむ
天暦秋下
8-新古466つゆしけみ野辺をわけつつから衣ぬれてそかへる花のしつくに
つゆしけみ のへをわけつつ からころも ぬれてそかへる はなのしつくに
藤原頼宗秋下
8-新古467庭のおもにしけるよもきにことよせて心のままにをけるつゆかな
にはのおもに しけるよもきに ことよせて こころのままに おけるつゆかな
藤原基俊秋下
8-新古468秋の野のくさ葉をしなみをくつゆにぬれてや人のたつねゆくらん
あきののの くさはおしなひ おくつゆに ぬれてやひとの たつねゆくらむ
藤原長実秋下
8-新古469ものおもふ袖よりつゆやならひけん秋風ふけはたへぬ物とは
ものおもふ そてよりつゆや ならひけむ あきかせふけは たへぬものとは
寂蓮法師秋下
8-新古470つゆは袖にものおもふころはさそなをくかならす秋のならひならねと
つゆはそてに ものおもふころは さそなおく かならすあきの ならひならねと
太上天皇秋下
8-新古471野はらよりつゆのゆかりをたつねきてわか衣手に秋風そふく
のはらより つゆのゆかりを たつねきて わかころもてに あきかせそふく
読人知らず秋下
8-新古472きりきりすよさむに秋のなるままによはるか声のとをさかりゆく
きりきりす よさむにあきの なるままに よわるかこゑの とほさかりゆく
西行法師秋下
8-新古473むしのねもなかきよあかぬふるさとになをおもひそふ松風そふく
むしのねも なかきよあかぬ ふるさとに なほおもひそふ まつかせそふく
藤原家隆秋下
8-新古474あともなき庭のあさちにむすほほれつゆのそこなる松むしのこゑ
あともなき にはのあさちに むすほほれ つゆのそこなる まつむしのこゑ
式子内親王秋下
8-新古475秋風は身にしむはかりふきにけりいまやうつらんいもかさ衣
あきかせは みにしむはかり ふきにけり いまやうつらむ いもかさころも
藤原輔尹秋下
8-新古476衣うつをとはまくらにすかはらやふしみの夢をいくよのこしつ
ころもうつ おとはまくらに すかはらや ふしみのゆめを いくよのこしつ
慈円秋下
8-新古477ころもうつね山のいほのしはしはもしらぬ夢ちにむすふたまくら
ころもうつ ねやまのいほの しはしはも しらぬゆめちに むすふたまくら
西園寺公経秋下
8-新古478さとはあれて月やあらぬとうらみてもたれあさちふに衣うつらん
さとはあれて つきやあらぬと うらみても たれあさちふに ころもうつらむ
九条良経秋下
8-新古479まとろまてなかめよとてのすさひかなあさのさ衣月にうつこゑ
まとろまて なかめよとての すさひかな あさのさころも つきにうつこゑ
宮内卿秋下
8-新古480秋とたにわすれんとおもふ月かけをさもあやにくにうつ衣かな
あきとたに わすれむとおもふ つきかけを さもあやにくに うつころもかな
藤原定家秋下
8-新古481ふるさとに衣うつとはゆくかりやたひのそらにもなきてつくらん
ふるさとに ころもうつとは ゆくかりや たひのそらにも なきてつくらむ
源経信秋下
8-新古482雁なきてふく風さむみから衣君まちかてにうたぬよそなき
かりなきて ふくかせさむみ からころも きみまちかてに うたぬよそなき
紀貫之秋下
8-新古483みよしのの山の秋風さよふけてふるさとさむく衣うつなり
みよしのの やまのあきかせ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり
飛鳥井雅経秋下
8-新古484ちたひうつきぬたのをとに夢さめてものおもふ袖のつゆそくたくる
ちたひうつ きぬたのおとに ゆめさめて ものおもふそての つゆそくたくる
式子内親王秋下
8-新古485ふけにけり山のはちかく月さえてとをちのさとに衣うつ声
ふけにけり やまのはちかく つきさえて とをちのさとに ころもうつこゑ
読人知らず秋下
8-新古486秋はつるさよふけかたの月みれは袖ものこらすつゆそをきける
あきはつる さよふけかたの つきみれは そてものこらす つゆそおきける
藤原道信秋下
8-新古487ひとりぬる山とりのおのしたりおにしもをきまよふとこの月かけ
ひとりぬる やまとりのをの したりをに しもおきまよふ とこのつきかけ
藤原定家秋下
8-新古488ひとめ見し野辺のけしきはうらかれてつゆのよすかにやとる月かな
ひとめみし のへのけしきは うらかれて つゆのよすかに やとるつきかな
寂蓮法師秋下
8-新古489秋の夜は衣さむしろかさねても月の光にしく物そなき
あきのよは ころもさむしろ かさねても つきのひかりに しくものそなき
源経信秋下
8-新古490あきのよははや長月になりにけりことはりなりやねさめせらるる
あきのよは はやなかつきに なりにけり ことわりなりや ねさめせらるる
華山院秋下
8-新古491むらさめのつゆもまたひぬまきの葉にきりたちのほる秋の夕くれ
むらさめの つゆもまたひぬ まきのはに きりたちのほる あきのゆふくれ
寂蓮法師秋下
8-新古492さひしさはみやまの秋のあさくもりきりにしほるるまきのしたつゆ
さひしさは みやまのあきの あさくもり きりにしをるる まきのしたつゆ
太上天皇秋下
8-新古493あけほのや河せのなみのたかせ舟くたすか人の袖の秋きり
あけほのや かはせのなみの たかせふね くたすかひとの そてのあききり
久我通光秋下
8-新古494ふもとをはうちの河きりたちこめて雲井に見ゆる朝日山かな
ふもとをは うちのかはきり たちこめて くもゐにみゆる あさひやまかな
権藤原公実秋下
8-新古495山さとにきりのまかきのへたてすはをちかた人の袖もみてまし
やまさとに きりのまかきの へたてすは をちかたひとの そてもみてまし
曽祢好忠秋下
8-新古496なくかりのねをのみそきくをくら山きりたちはるる時しなけれは
なくかりの ねをのみそきく をくらやま きりたちはるる ときしなけれは
清原深養父秋下
8-新古497かきほなるおきの葉そよき秋風のふくなるなへに雁そなくなる
かきほなる をきのはそよき あきかせの ふくなるなへに かりそなくなる
柿本人麿秋下
8-新古498秋風に山とひこゆるかりかねのいやとをさかり雲かくれつつ
あきかせに やまとひこゆる かりかねの いやとほさかり くもかくれつつ
読人知らず秋下
8-新古499はつかりのは風すすしくなるなへにたれかたひねの衣かへさぬ
はつかりの はかせすすしく なるなへに たれかたひねの ころもかへさぬ
凡河内躬恒秋下
8-新古500かりかねは風にきおひてすくれともわかまつ人のことつてもなし
かりかねは かせにきほひて すくれとも わかまつひとの ことつてもなし
読人知らず秋下
8-新古501よこ雲の風にわかるるしののめに山とひこゆるはつかりの声
よこくもの かせにわかるる しののめに やまとひこゆる はつかりのこゑ
西行法師秋下
8-新古502白雲をつはさにかけてゆくかりのかと田のおものともしたふなる
しらくもを つはさにかけて ゆくかりの かとたのおもの ともしたふなり
読人知らず秋下
8-新古503おほえ山かたふく月のかけさえてとは田のおもにおつるかりかね
おほえやま かたふくつきの かけさえて とはたのおもに おつるかりかね
慈円秋下
8-新古504むら雲や雁のはかせにはれぬらん声きくそらにすめる月かけ
むらくもや かりのはかせに はれぬらむ こゑきくそらに すめるつきかけ
朝恵法師秋下
8-新古505ふきまよふ雲井をわたるはつかりのつはさにならすよもの秋風
ふきまよふ くもゐをわたる はつかりの つはさにならす よものあきかせ
藤原俊成女秋下
8-新古506秋風の袖にふきまく峯の雲をつはさにかけて雁もなくなり
あきかせの そてにふきまく みねのくもを つはさにかけて かりもなくなり
藤原家隆秋下
8-新古507霜をまつまかきのきくのよゐのまにをきまよふ色は山の葉の月
しもをまつ まかきのきくの よひのまに おきまよふいろは やまのはのつき
宮内卿秋下
8-新古508ここのへにうつろひぬともきくの花もとのまかきをおもひわするな
ここのへに うつろひぬとも きくのはな もとのまかきを おもひわするな
源有仁室秋下
8-新古509いまよりは又さくはなもなきものをいたくなをきそきくのうへのつゆ
いまよりは またさくはなも なきものを いたくなおきそ きくのうへのつゆ
藤原定頼秋下
8-新古510秋風にしほるる野への花よりもむしのねいたくかれにけるかな
あきかせに しをるるのへの はなよりも むしのねいたく かれにけるかな
具平親王秋下
8-新古511ねさめする袖さへさむく秋のよのあらしふくなり松むしのこゑ
ねさめする そてさへさむく あきのよの あらしふくなり まつむしのこゑ
大江嘉言秋下
8-新古512秋をへてあはれもつゆもふかくさのさととふものはうつらなりけり
あきをへて あはれもつゆも ふかくさの さととふものは うつらなりけり
慈円秋下
8-新古513いり日さすふもとのおはなうちなひきたか秋風にうつらなくらん
いりひさす ふもとのをはな うちなひき たかあきかせに うつらなくらむ
久我通光秋下
8-新古514あたにちるつゆのまくらにふしわひてうつらなくなりとこの山風
あたにちる つゆのまくらに ふしわひて うつらなくなり とこのやまかせ
藤原俊成女秋下
8-新古515とふ人もあらしふきそふ秋はきてこの葉にうつむやとのみちしは
とふひとも あらしふきそふ あきはきて このはにうつむ やとのみちしは
読人知らず秋下
8-新古516色かはるつゆをは袖にをきまよひうらかれてゆく野辺の秋かな
いろかはる つゆをはそてに おきまよひ うらかれてゆく のへのあきかせ
読人知らず秋下
8-新古517あきふけぬなけやしもよのきりきりすややかけさむしよもきふの月
あきふけぬ なけやしもよの きりきりす ややかけさむし よもきふのつき
太上天皇秋下
8-新古518きりきりすなくやしもよのさむしろに衣かたしきひとりかもねん
きりきりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねむ
九条良経秋下
8-新古519ねさめする長月のよのとこさむみけさふく風にしもやをくらん
ねさめする なかつきのよの とこさむみ けさふくかせに しもやおくらむ
徳大寺公継秋下
8-新古520秋ふかきあはちの嶋のありあけにかたふく月ををくる浦風
あきふかき あはちのしまの ありあけに かたふくつきを おくるうらかせ
慈円秋下
8-新古521なか月もいくありあけになりぬらんあさちの月のいととさひゆく
なかつきも いくありあけに なりぬらむ あさちのつきの いととさひゆく
読人知らず秋下
8-新古522かささきの雲のかけはし秋くれて夜半には霜やさえわたるらん
かささきの くものかけはし あきくれて よはにはしもや さえわたるらむ
寂蓮法師秋下
8-新古523いつのまにもみちしぬらん山桜きのふか花のちるをおしみし
いつのまに もみちしぬらむ やまさくら きのふかはなの ちるををしみし
具平親王秋下
8-新古524うすきりのたちまふ山のもみちははさやかならねとそれとみえけり
うすきりの たちまふやまの もみちはは さやかならねと それとみえけり
高倉院秋下
8-新古525神なひのみむろのこすゑいかならんなへての山もしくれする比
かみなひの みむろのこすゑ いかならむ なへてのやまも しくれするころ
八条院高倉秋下
8-新古526すすか河ふかき木の葉に日かすへて山田のはらの時雨をそきく
すすかかは ふかきこのはに ひかすへて やまたのはらの しくれをそきく
太上天皇秋下
8-新古527心とやもみちはすらんたつた山松はしくれにぬれぬものかは
こころとや もみちはすらむ たつたやま まつはしくれに ぬれぬものかは
藤原俊成秋下
8-新古528おもふことなくてそ見ましもみちはをあらしの山のふもとならすは
おもふこと なくてやみまし もみちはを あらしのやまの ふもとならすは
藤原輔尹秋下
8-新古529いり日さすさほの山へのははそはらくもらぬ雨とこの葉ふりつつ
いりひさす さほのやまへの ははそはら くもらぬあめと このはふりつつ
曽祢好忠秋下
8-新古530たつた山あらしや峯によはるらんわたらぬ水もにしきたえけり
たつたやま あらしやみねに よわるらむ わたらぬみつも にしきたえけり
宮内卿秋下
8-新古531ははそはらしつくも色やかはるらんもりのした草秋ふけにけり
ははそはら しつくもいろや かはるらむ もりのしたくさ あきふけにけり
九条良経秋下
8-新古532時わかぬなみさへ色にいつみかはははそのもりに嵐ふくらし
ときわかぬ なみさへいろに いつみかは ははそのもりに あらしふくらし
藤原定家秋下
8-新古533ふるさとはちるもみち葉にうつもれてのきのしのふに秋風そふく
ふるさとは ちるもみちはに うつもれて のきのしのふに あきかせそふく
源俊頼秋下
8-新古534きりの葉もふみわけかたくなりにけりかならす人をまつとなけれと
きりのはも ふみわけかたく なりにけり かならすひとを まつとなけれと
式子内親王秋下
8-新古535人はこす風にこのははちりはててよなよなむしはこゑよはるなり
ひとはこす かせにこのはは ちりはてて よなよなむしは こゑよわるなり
曽祢好忠秋下
8-新古536もみちはのいろにまかせてときは木も風にうつろふ秋の山かな
もみちはの いろにまかせて ときはきも かせにうつろふ あきのやまかな
徳大寺公継秋下
8-新古537つゆ時雨もる山かけのしたもみちぬるともおらん秋のかたみに
つゆしくれ もるやまかけの したもみち ぬるともをらむ あきのかたみに
藤原家隆秋下
8-新古538松にはふまさのはかつらちりにけりと山の秋は風すさふらん
まつにはふ まさきのかつら ちりにけり とやまのあきは かせすさふらむ
西行法師秋下
8-新古539うつらなくかた野にたてるはしもみちちりぬはかりに秋風そふく
うつらなく かたのにたてる はしもみち ちらぬはかりに あきかせそふく
藤原親隆秋下
8-新古540ちりかかるもみちの色はふかけれとわたれはにこる山かはの水
ちりかかる もみちのいろは ふかけれと わたれはにこる やまかはのみつ
二条院讃岐秋下
8-新古541あすか河もみちはなかるかつらきの山の秋風ふきそしくらし
あすかかは もみちはなかる かつらきの やまのあきかせ ふきそしくらし
柿本人麿秋下
8-新古542あすか河せせになみよるくれなゐやかつらき山のこからしの風
あすかかは せせになみよる くれなゐや かつらきやまの こからしのかせ
藤原長方秋下
8-新古543もみちはをさこそあらしのはらふらめこの山本も雨とふるなり
もみちはを さこそあらしの はらふらめ このやまもとも あめとふるなり
西園寺公経秋下
8-新古544たつたひめいまはのころのあき風に時雨をいそく人の袖かな
たつたひめ いまはのころの あきかせに しくれをいそく ひとのそてかな
九条良経秋下
8-新古545ゆく秋のかたみなるへきもみちははあすはしくれとふりやまかはん
ゆくあきの かたみなるへき もみちはも あすはしくれと ふりやまかはむ
中山兼宗秋下
8-新古546うちむれてちるもみちはをたつぬれは山ちよりこそ秋はゆきけれ
うちむれて ちるもみちはを たつぬれは やまちよりこそ あきはゆきけれ
藤原公任秋下
8-新古547夏草のかりそめにとてこしやともなにはの浦に秋そくれぬる
なつくさの かりそめにとて こしやとも なにはのうらに あきそくれぬる
能因法師秋下
8-新古548かくしつつくれぬる秋とおいぬれとしかすかになを物そかなしき
かくしつつ くれぬるあきと おいぬれと しかすかになほ ものそかなしき
読人知らず秋下
8-新古549身にかへていささは秋をおしみみんさらてももろきつゆのいのちを
みにかへて いささはあきを をしみみむ さらてももろき つゆのいのちを
守覚法親王秋下
8-新古550なへてよのおしさにそへておしむかな秋より後の秋のかきりを
なへてよの をしさにそへて をしむかな あきよりのちの あきのかきりを
前太政大臣秋下
8-新古551をきあかす秋のわかれのそてのつゆ霜こそむすへ冬やきぬらん
おきあかす あきのわかれの そてのつゆ しもこそむすへ ふゆやきぬらむ
藤原俊成
8-新古552神な月風にもみちのちるときはそこはかとなく物そかなしき
かみなつき かせにもみちの ちるときは そこはかとなく ものそかなしき
藤原高光
8-新古553なとりかはやなせの浪そさはくなるもみちやいととよりてせくらん
なとりかは やなせのなみそ さわくなる もみちやいとと よりてせくらむ
源重之
8-新古554いかたしよまてこととはんみなかみはいかはかりふく山のあらしそ
いかたしよ まてこととはむ みなかみは いかはかりふく やまのあらしそ
藤原資宗
8-新古555ちりかかるもみちなかれぬ大井かはいつれ井せきの水のしからみ
ちりかかる もみちなかれぬ おほゐかは いつれゐせきの みつのしからみ
源経信
8-新古556たかせ舟しふくはかりにもみちはのなかれてくたる大井河かな
たかせふね しふくはかりに もみちはの なかれてくたる おほゐかはかな
藤原家経
8-新古557日くるれはあふ人もなしまさきちる峯のあらしのをとはかりして
ひくるれは あふひともなし まさきちる みねのあらしの おとはかりして
源俊頼
8-新古558をのつからをとする物は庭のおもにこの葉ふきまく谷のゆふ風
おのつから おとするものは にはのおもに このはふりしく たにのゆふかせ
藤原清輔
8-新古559木の葉ちるやとにかたしく袖の色をありともしらてゆく嵐かな
このはちる やとにかたしく そてのいろを ありともしらて ゆくあらしかな
慈円
8-新古560このはちるしくれやまかふわか袖にもろき涙のいろとみるまて
このはちる しくれやまかふ わかそてに もろきなみたの いろとみるまて
堀川通具
8-新古561うつりゆく雲に嵐のこゑすなりちるかまさ木のかつらきの山
うつりゆく くもにあらしの こゑすなり ちるかまさきの かつらきのやま
飛鳥井雅経
8-新古562はつ時雨しのふの山のもみちはをあらしふけとはそめすや有けん
はつしくれ しのふのやまの もみちはを あらしふけとは そめすやありけむ
七条院大納言
8-新古563しくれつつ袖もほしあへすあしひきの山のこの葉に嵐ふく比
しくれつつ そてもほしあへす あしひきの やまのこのはに あらしふくころ
信濃
8-新古564山さとの風すさましきゆふくれに木の葉みたれて物そかなしき
やまさとの かせすさましき ゆふくれに このはみたれて ものそかなしき
藤原秀能
8-新古565冬のきて山もあらはに木のはふりのこる松さへ峯にさひしき
ふゆのきて やまもあらはに このはふり のこるまつさへ みねにさひしき
祝部成茂
8-新古566からにしき秋のかたみやたつた山ちりあへぬえたに嵐ふくなり
からにしき あきのかたみや たつたやま ちりあへぬえたに あらしふくなり
宮内卿
8-新古567時雨かときけはこの葉のふる物をそれにもぬるるわかたもとかな
しくれかと きけはこのはの ふるものを それともぬるる わかたもとかな
藤原資隆
8-新古568時しもあれ冬ははもりの神な月まはらになりぬもりのかしは木
ときしもあれ ふゆははもりの かみなつき まはらになりぬ もりのかしはき
法眼慶算
8-新古569いつのまにそらのけしきのかはるらんはけしきけさのこからしの風
いつのまに そらのけしきの かはるらむ はけしきけさの こからしのかせ
津守国基
8-新古570月をまつたかねの雲ははれにけり心あるへきはつしくれかな
つきをまつ たかねのくもは はれにけり こころあるへき はつしくれかな
西行法師
8-新古571神な月木々のこの葉はちりはてて庭にそ風のをとはきこゆる
かみなつき ききのこのはは ちりはてて にはにそかせの おとはきこゆる
前大僧正覚忠
8-新古572しはのとにいり日のかけはさしなからいかにしくるる山辺なるらん
しはのとに いりひのかけは さしなから いかにしくるる やまへなるらむ
藤原清輔
8-新古573雲はれてのちもしくるるしはのとや山風はらふ松のした露
くもはれて のちもしくるる しはのとや やまかせはらふ まつのしたつゆ
藤原隆信
8-新古574神無月しくれふるらしさほ山のまさきのかつら色まさりゆく
かみなつき しくれふるらし さほやまの まさきのかつら いろまさりゆく
読人知らず
8-新古575こからしのをとに時雨をききわかてもみちにぬるるたもととそ見る
こからしの おとにしくれを ききわかて もみちにぬるる たもととそみる
具平親王
8-新古576しくれふるをとはすれともくれたけのなとよとともにいろもかはらぬ
しくれふる おとはすれとも くれたけの なとよとともに いろもかはらぬ
藤原兼輔
8-新古577しくれの雨そめかねてけり山しろのときはのもりのまきの下葉は
しくれのあめ そめかねてけり やましろの ときはのもりの まきのしたはは
能因法師
8-新古578冬をあさみまたくしくれと思しをたえさりけりな老の涙も
ふゆをあさみ またきしくれを おもひしを たえさりけりな おいのなみたも
清原元輔
8-新古579まはらなるしはのいほりにたひねして時雨にぬるるさよ衣かな
まはらなる しはのいほりに たひねして しくれにぬるる さよころもかな
後白河院
8-新古580やよしくれ物思袖のなかりせはこの葉の後になにをそめまし
やよしくれ ものおもふそての なかりせは このはののちに なにをそめまし
慈円
8-新古581ふかみとりあらそひかねていかならんまなく時雨のふるの神すき
ふかみとり あらそひかねて いかならむ まなくしくれの ふるのかみすき
太上天皇
8-新古582しくれの雨まなくしふれはま木の葉もあらそひかねて色つきにけり
しくれのあめ まなくしふれは まきのはも あらそひかねて いろつきにけり
柿本人麿
8-新古583世中になをもふるかなしくれつつ雲間の月のいてやとおもへと
よのなかに なほもふるかな しくれつつ くもまのつきの いてやとおもへは
和泉式部
8-新古584おりこそあれなかめにかかるうき雲の袖もひとつにうちしくれつつ
をりこそあれ なかめにかかる うきくもの そてもひとつに うちしくれつつ
二条院讃岐
8-新古585あきしのやと山のさとやしくるらんいこまのたけに雲のかかれる
あきしのや とやまのさとや しくるらむ いこまのたけに くものかかれる
西行法師
8-新古586はれくもり時雨はさためなき物をふりはてぬるはわか身なりけり
はれくもり しくれはさため なきものを ふりはてぬるは わかみなりけり
道因法師
8-新古587いまは又ちらてもまかふ時雨かなひとりふりゆく庭の松風
いまはまた ちらてもまかふ しくれかな ひとりふりゆく にはのまつかせ
源具親
8-新古588みよしのの山かきくもり雪ふれはふもとのさとはうちしくれつつ
みよしのの やまかきくもり ゆきふれは ふもとのさとは うちしくれつつ
俊恵法師
8-新古589まきのやに時雨のをとのかはるかなもみちやふかくちりつもるらん
まきのやに しくれのおとの かはるかな もみちやふかく ちりつもるらむ
藤原実房
8-新古590世にふるはくるしき物をま木のやにやすくもすくるはつ時雨かな
よにふるは くるしきものを まきのやに やすくもすくる はつしくれかな
二条院讃岐
8-新古591ほの/\とありあけの月の月かけにもみちふきおろす山おろしの風
ほのほのと ありあけのつきの つきかけに もみちふきおろす やまおろしのかせ
源信明
8-新古592もみち葉をなにおしみけん木のまよりもりくる月はこよひこそみれ
もみちはを なにをしみけむ このまより もりくるつきは こよひこそみれ
具平親王
8-新古593ふきはらふあらしののちのたかねよりこの葉くもらて月やいつらん
ふきはらふ あらしののちの たかねより このはくもらて つきやいつらむ
宜秋門院丹後
8-新古594霜こほる袖にもかけはのこりけりつゆよりなれしありあけの月
しもこほる そてにもかけは のこりけり つゆよりなれし ありあけのつき
堀川通具
8-新古595なかめつついくたひ袖にくもるらん時雨にふくる有あけの月
なかめつつ いくたひそてに くもるらむ しくれにふくる ありあけのつき
藤原家隆
8-新古596さためなくしくるるそらのむら雲にいくたひおなし月をまつらん
さためなく しくるるそらの むらくもに いくたひおなし つきをまつらむ
源泰光
8-新古597いまよりは木の葉かくれもなけれともしくれにのこるむら雲の月
いまよりは このはかくれも なけれとも しくれにのこる むらくものつき
源具親
8-新古598はれくもるかけをみやこにさきたててしくるとつくる山の葉の月
はれくもる かけをみやこに さきたてて しくるとつくる やまのはのつき
読人知らず
8-新古599たえ/\にさとわく月のひかりかなしくれををくる夜はのむらくも
たえたえに さとわくつきの ひかりかな しくれをかくる よはのむらくも
寂蓮法師
8-新古600いまはとてねなまし物をしくれつるそらとも見えすすめる月かな
いまはとて ねなましものを しくれつる そらともみえす すめるつきかな
良暹法師
8-新古601つゆしものよはにおきゐて冬のよの月みるほとに袖はこほりぬ
つゆしもの よはにおきゐて ふゆのよの つきみるほとに そてはこほりぬ
曽祢好忠
8-新古602もみちははをのかそめたる色そかしよそけにをけるけさの霜かな
もみちはは おのかそめたる いろそかし よそけにおける けさのしもかな
慈円
8-新古603をくら山ふもとのさとにこの葉ちれはこすゑにはるる月をみるかな
をくらやま ふもとのさとに このはちれは こすゑにはるる つきをみるかな
西行法師
8-新古604秋の色をはらひはててやひさかたの月のかつらにこからしの風
あきのいろを はらひはててや ひさかたの つきのかつらに こからしのかせ
飛鳥井雅経
8-新古605風さむみ木の葉はれゆくよな/\にのこるくまなき庭の月かけ
かせさむみ このははれゆく よなよなに のこるくまなき にはのつきかけ
式子内親王
8-新古606わかかとのかり田のねやにふすしきのとこあらはなる冬のよの月
わかかとの かりたのねやに ふすしきの とこあらはなる ふゆのよのつき
殷富門院大輔
8-新古607冬かれのもりのくち葉の霜のうへにおちたる月のかけのさむけさ
ふゆかれの もりのくちはの しものうへに おちたるつきの かけのさむけさ
藤原清輔
8-新古608さえわひてさむるまくらにかけみれは霜ふかきよの有あけの月
さえわひて さむるまくらに かけみれは しもふかきよの ありあけのつき
藤原俊成女
8-新古609霜むすふ袖のかたしきうちとけてねぬよの月のかけそさむけき
しもむすふ そてのかたしき うちとけて ねぬよのつきの かけそさむけき
堀川通具
8-新古610かけとめしつゆのやとりを思いてて霜にあととふあさちふの月
かけとめし つゆのやとりを おもひいてて しもにあととふ あさちふのつき
飛鳥井雅経
8-新古611かたしきの袖をや霜にかさぬらん月によかるるうちのはしひめ
かたしきの そてをやしもに かさぬらむ つきによかるる うちのはしひめ
法印幸清
8-新古612なつかりのおきのふるえはかれにけりむれゐし鳥はそらにやあるらん
なつかりの をきのふるえは かれにけり むれゐしとりは そらにやあるらむ
源重之
8-新古613さよふけて声さへさむきあしたつはいくへの霜かをきまさるらん
さよふけて こゑさへさむき あしたつは いくへのしもか おきまさるらむ
藤原道信
8-新古614冬のよのなかきををくる袖ぬれぬ暁かたのよものあらしに
ふゆのよの なかきをおくる そてぬれぬ あかつきかたの よものあらしに
太上天皇
8-新古615ささの葉はみ山もさやにうちそよきこほれる霜を吹嵐かな
ささのはは みやまもさやに うちそよき こほれるしもを ふくあらしかな
九条良経
8-新古616君こすはひとりやねなんささの葉のみ山もそよにさやく霜よを
きみこすは ひとりやねなむ ささのはの みやまもそよに さやくしもよを
藤原清輔
8-新古617霜かれはそこともみえぬ草のはらたれにとはまし秋のなこりを
しもかれは そこともみえぬ くさのはら たれにとはまし あきのなこりを
藤原俊成女
8-新古618しもさゆる山田のくろのむらすすきかる人なしみのこるころかな
しもさゆる やまたのくろの むらすすき かるひとなしに のこるころかな
慈円
8-新古619くさのうへにここら玉ゐし白露をした葉の霜とむすふ冬かな
くさのうへに ここらたまゐし しらつゆを したはのしもと むすふふゆかな
曽祢好忠
8-新古620かささきのわたせるはしにをくしものしろきを見れはよそふけにける
かささきの わたせるはしに おくしもの しろきをみれは よそふけにける
大伴家持
8-新古621しくれつつかれゆく野辺の花なれは霜のまかきににほふいろかな
しくれつつ かれゆくのへの はななれは しものまかきに にほふいろかな
延喜
8-新古622菊の花たおりては見しはつ霜のをきなからこそ色まさりけれ
きくのはな たをりてはみし はつしもの おきなからこそ いろまさりけれ
藤原兼輔
8-新古623かけさへにいまはと菊のうつろふは浪の底にも霜やをくらん
かけさへに いまはときくの うつろふは なみのそこにも しもやおくらむ
坂上是則
8-新古624野辺見れはお花かもとのおもひ草かれゆく冬になりそしにける
のへみれは をはなかもとの おもひくさ かれゆくふゆに なりそしにける
和泉式部
8-新古625つのくにのなにはの春は夢なれやあしのかれ葉に風わたる也
つのくにの なにはのはるは ゆめなれや あしのかれはに かせわたるなり
西行法師
8-新古626冬ふかくなりにけらしななにはえのあお葉ましらぬあしの村立
ふゆふかく なりにけらしな なにはえの あをはましらぬ あしのむらたち
藤原成通
8-新古627さひしさにたへたる人の又もあれないほりならへん冬の山さと
さひしさに たへたるひとの またもあれな いほりならへむ ふゆのやまさと
西行法師
8-新古628あつまちのみちの冬くさしけりあひてあとたに見えぬ忘水かな
あつまちの みちのふゆくさ しけりあひて あとたにみえぬ わすれみつかな
康資王母
8-新古629むかしおもふさよのねさめのとこさえて涙もこほる袖の上かな
むかしおもふ さよのねさめの とこさえて なみたもこほる そてのうへかな
守覚法親王
8-新古630たちぬるる山のしつくもをとたえてま木のした葉にたるひしにけり
たちぬるる やまのしつくも おとたえて まきのしたはに たるひしにけり
読人知らず
8-新古631かつこほりかつはくたくる山かはのいはまにむせふ暁の声
かつこほり かつはくたくる やまかはの いはまにむすふ あかつきのこゑ
藤原俊成
8-新古632きえかへりいはまにまよふ水のあはのしはしやとかるうす氷かな
きえかへり いはまにまよふ みつのあわの しはしやとかる うすこほりかな
九条良経
8-新古633まくらにも袖にもなみたつららゐてむすはぬ夢をとふ嵐かな
まくらにも そてにもなみた つららゐて むすはぬゆめを とふあらしかな
読人知らず
8-新古634みなかみやたえ/\こほるいはまよりきよたき河にのこる白浪
みなかみや たえたえこほる いはまより きよたきかはに のこるしらなみ
読人知らず
8-新古635かたしきの袖の氷もむすほほれとけてねぬよの夢そみしかき
かたしきの そてのこほりも むすほほれ とけてねぬよの ゆめそみしかき
読人知らず
8-新古636はしひめのかたしき衣さむしろにまつよむなしきうちのあけほの
はしひめの かたしきころも さむしろに まつよむなしき うちのあけほの
太上天皇
8-新古637あしろ木にいさよふ浪のをとふけてひとりやねぬるうちのはしひめ
あしろきに いさよふなみの おとふけて ひとりやねぬる うちのはしひめ
慈円
8-新古638見るままに冬はきにけりかものゐるいりえのみきはうすこほりつつ
みるままに ふゆはきにけり かものゐる いりえのみきは うすこほりつつ
式子内親王
8-新古639しかのうらやとをさかりゆく浪間よりこほりていつる有あけの月
しかのうらや とほさかりゆく なみまより こほりていつる ありあけのつき
藤原家隆
8-新古640ひとり見るいけの氷にすむ月のやかてそてにもうつりぬるかな
ひとりみる いけのこほりに すむつきの やかてそてにも うつりぬるかな
藤原俊成
8-新古641うはたまのよのふけゆけはひさきおふるきよきかはらにちとりなく也
うはたまの よのふけゆけは ひさきおふる きよきかはらに ちとりなくなり
山辺赤人
8-新古642ゆくさきはさよふけぬれとちとりなくさほのかはらはすきうかりけり
ゆくさきは さよふけぬれと ちとりなく さほのかはらは すきうかりけり
伊勢大輔
8-新古643ゆふされはしほ風こしてみちのくののたの玉河ちとりなくなり
ゆふされは しほかせこして みちのくの のたのたまかは ちとりなくなり
能因法師
8-新古644白浪にはねうちかはしはまちとりかなしき声はよるの一声
しらなみに はねうちかはし はまちとり かなしきものは よはのひとこゑ
源重之
8-新古645ゆふなきにとわたるちとりなみまより見ゆるこ嶋の雲にきえぬる
ゆふなきに とわたるちとり なみまより みゆるこしまの くもにきえぬる
徳大寺実定
8-新古646浦風にふきあけのはまのはまちとり浪たちくらし夜はになくなり
うらかせに ふきあけのはまの はまちとり なみたちくらし よはになくなり
祐子内親王家紀伊
8-新古647月そすむたれかはここにきのくにやふきあけのちとりひとりなく也
つきそすむ たれかはここに きのくにや ふきあけのちとり ひとりなくなり
九条良経
8-新古648さよちとり声こそちかくなるみかたかたふく月にしほやみつらん
さよちとり こゑこそちかく なるみかた かたふくつきに しほやみつらむ
藤原季能
8-新古649風ふけはよそになるみのかたおもひおもはぬ浪になくちとりかな
かせふけは よそになるみの かたおもひ おもはぬなみに なくちとりかな
藤原秀能
8-新古650浦人の日もゆふくれになるみかたかへる袖よりちとりなくなり
うらひとの ひもゆふくれに なるみかた かへるそてより ちとりなくなり
久我通光
8-新古651風さゆるとしまかいそのむらちとりたちゐは浪の心なりけり
かせさゆる をしまかいその むらちとり たちゐはなみの こころなりけり
藤原季経
8-新古652はかなしやさてもいくよかゆく水にかすかきわふるをしのひとりね
はかなしや さてもいくよか ゆくみつに かすかきわふる をしのひとりね
飛鳥井雅経
8-新古653水鳥のかものうきねのうきなから浪のまくらにいくよねぬらん
みつとりの かものうきねの うきなから なみのまくらに いくよへぬらむ
河内
8-新古654よしのなるなつみの河のかはよとにかもそなくなる山かけにして
よしのなる なつみのかはの かはよとに かもそなくなる やまかけにして
湯原王
8-新古655ねやのうへにかたえさしおほひそともなる葉ひろかしはに霰ふる也
ねやのうへに かたえさしおほひ そともなる はひろかしはに あられふるなり
能因法師
8-新古656ささなみやしかのからさき風さえてひらのたかねにあられふる也
ささなみや しかのからさき かせさえて ひらのたかねに あられふるなり
藤原忠通
8-新古657やたののにあさちいろつくあらち山みねのあは雪さむくそあるらし
やたののに あさちいろつく あらちやま みねのあはゆき さむくあるらし
柿本人麿
8-新古658つねよりもしのやののきそうつもるるけふは宮こにはつ雪やふる
つねよりも しのやののきそ うつもるる けふはみやこに はつゆきやふる
瞻西聖人
8-新古659ふる雪にまことにしのやいかならんけふはみやこにあとたにもなし
ふるゆきに まことにしのや いかならむ けふはみやこに あとたにもなし
藤原基俊
8-新古660はつ雪のふるの神すきうつもれてしめゆふ野辺は冬こもりせり
はつゆきの ふるのかみすき うつもれて しめゆふのへは ふゆこもりせり
藤原長方
8-新古661ふれはかくうさのみまさる世をしらてあれたる庭につもるはつ雪
ふれはかく うさのみまさる よをしらて あれたるにはに つもるはつゆき
紫式部
8-新古662さむしろのよはの衣手さえ/\てはつ雪しろしをかのへの松
さむしろの よはのころもて さえさえて はつゆきしろし をかのへのまつ
式子内親王
8-新古663ふりそむるけさたに人のまたれつるみ山のさとの雪の夕くれ
ふりそむる けさたにひとの またれつる みやまのさとの ゆきのゆふくれ
寂蓮法師
8-新古664けふはもし君もやとふとなかむれとまたあともなき庭の雪哉
けふはもし きみもやとふと なかむれと またあともなき にはのゆきかな
藤原俊成
8-新古665いまそきく心はあともなかりけり雪かきわけておもひやれとも
いまそきく こころはあとも なかりけり ゆきかきわけて おもひやれとも
徳大寺実定
8-新古666白山にとしふる雪やつもるらんよはにかたしくたもとさゆなり
しらやまも としふるゆきや つもるらむ よはにかたしく たもとさゆなり
藤原公任
8-新古667あけやらぬねさめのとこにきこゆなりまかきの竹の雪のしたおれ
あけやらぬ ねさめのとこに きこゆなり まかきのたけの ゆきのしたをれ
藤原範兼
8-新古668をとは山さやかに見ゆる白雪をあけぬとつくるとりのこゑかな
おとはやま さやかにみする しらゆきを あけぬとつくる とりのこゑかな
高倉院
8-新古669山さとはみちもやみえすなりぬらんもみちとともに雪のふりぬる
やまさとは みちもやみえす なりぬらむ もみちとともに ゆきのふりぬる
藤原家経
8-新古670さひしさをいかにせよとてをかへなるならの葉したり雪のふるらん
さひしさを いかにせよとて をかへなる ならのはしたり ゆきのふるらむ
藤原国房
8-新古671こまとめて袖うちはらふかけもなしさののわたりの雪のゆふくれ
こまとめて そてうちはらふ かけもなし さののわたりの ゆきのゆふくれ
藤原定家
8-新古672まつ人のふもとのみちはたえぬらんのきはのすきに雪をもるなり
まつひとの ふもとのみちは たえぬらむ のきはのすきに ゆきおもるなり
読人知らず
8-新古673夢かよふみちさへたえぬくれ竹のふしみのさとの雪のしたをれ
ゆめかよふ みちさへたえぬ くれたけの ふしみのさとの ゆきのしたをれ
藤原有家
8-新古674ふる雪にたくものけふりかきたえてさひしくもあるかしほかまのうら
ふるゆきに たくものけむり かききえて さひしくもあるか しほかまのうら
藤原忠通
8-新古675たこの浦にうちいてて見れはしろたへのふしのたかねに雪はふりつつ
たこのうらに うちいててみれは しろたへの ふしのたかねに ゆきはふりつつ
山辺赤人
8-新古676雪のみやふりぬとおもふ山さとにわれもおほくのとしそつもれる
ゆきのみや ふりぬとはおもふ やまさとに われもおほくの としそつもれる
紀貫之
8-新古677雪ふれはみねのまさかきうつもれて月にみかけるあまのかく山
ゆきふれは みねのまさかき うつもれて つきにみかける あまのかくやま
藤原俊成
8-新古678かきくもりあまきる雪のふるさとをつもらぬさきにとふ人もかな
かきくもり あまきるゆきの ふるさとを つもらぬさきに とふひともかな
小侍従
8-新古679庭の雪にわかあとつけていてつるをとはれにけりと人やみるらん
にはのゆきに わかあとつけて いてつるを とはれにけりと ひとやみるらむ
慈円
8-新古680なかむれはわか山のはに雪しろし宮この人よ哀とも見よ
なかむれは わかやまのはに ゆきしろし みやこのひとよ あはれともみよ
読人知らず
8-新古681冬くさのかれにし人のいまさらに雪ふみわけて見えん物かは
ふゆくさの かれにしひとの いまさらに ゆきふみわけて みえむものかは
曽祢好忠
8-新古682たつねきてみちわけわふる人もあらしいくへもつもれ庭の白雪
たつねきて みちわけわふる ひともあらし いくへもつもれ にはのしらゆき
寂然法師
8-新古683このころは花も紅葉もえたになししはしなきえそ松のしらゆき
このころは はなももみちも えたになし しはしなきえそ まつのしらゆき
太上天皇
8-新古684草も木もふりまかへたる雪もよに春まつむめの花のかそする
くさもきも ふりまかへたる ゆきもよに はるまつうめの はなのかそする
堀川通具
8-新古685みかりするかた野のみのにふるあられあなかままたき鳥もこそたて
みかりする かたののみのに ふるあられ あなかままたき とりもこそたて
崇徳院
8-新古686みかりすととたちのはらをあさりつつかたのの野辺にけふもくらしつ
みかりすと とたちのはらを あさりつつ かたのののへに けふもくらしつ
藤原忠通
8-新古687みかり野はかつふる雪にうつもれてとたちもみえす草かくれつつ
みかりのは かつふるゆきに うつもれて とたちもみえす くさかくれつつ
大江匡房
8-新古688かりくらしかたののましはおりしきてよとの河せの月をみるかな
かりくらし かたののましは をりしきて よとのかはせの つきをみるかな
藤原公衡
8-新古689中/\にきえはきえなてうつみ火のいきてかひなき世にもある哉
なかなかに きえはきえなて うつみひの いきてかひなき よにもふるかな
権僧正永縁
8-新古690ひかすふる雪けにまさるすみかまのけふりもさむし大原のさと
ひかすふる ゆきけにまさる すみかまの けふりもさむし おほはらのさと
式子内親王
8-新古691をのつからいはぬをしたふ人やあるとやすらふほとにとしのくれぬる
おのつから いはぬをしたふ ひとやあると やすらふほとに としのくれぬる
西行法師
8-新古692かへりては身にそふ物としりなからくれゆくとしをなにしたふらん
かへりては みにそふものと しりなから くれゆくとしを なにしたふらむ
上西門院兵衛
8-新古693へたてゆくよよのおもかけかきくらし雪とふりぬるとしのくれかな
へたてゆく よよのおもかけ かきくらし ゆきにふりぬる としのくれかな
藤原俊成女
8-新古694あたらしきとしやわか身をとめくらんひまゆくこまにみちをまかせて
あたらしき としやわかみを とめくらむ ひまゆくこまに みちをまかせて
藤原隆季
8-新古695なけきつつことしもくれぬつゆのいのちいけるはかりを思いてにして
なけきつつ ことしもくれぬ つゆのいのち いけるはかりを おもひいてにして
俊恵法師
8-新古696おもひやれやそちのとしのくれなれはいかはかりかは物はかなしき
おもひやれ やそちのとしの くれなれは いかはかりかは ものはかなしき
小侍従
8-新古697むかしおもふ庭にうき木をつみをきて見しよにもにぬとしのくれかな
むかしおもふ にはにうききを つみおきて みしにもあらぬ としのくれかな
西行法師
8-新古698いその神ふる野のをささしもをへてひとよはかりにのこるとしかな
いそのかみ ふるののをささ しもをへて ひとよはかりに のこるとしかな
九条良経
8-新古699としのあけてうきよの夢のさむへくはくるともけふはいとはさらまし
としのあけて うきよのゆめの さむへくは くるともけふは いとはさらまし
慈円
8-新古700あさことのあか井の水にとしくれてわかよのほとのくまれぬるかな
あさことの あかゐのみつに としくれて わかよのほとの くまれぬるかな
権律師隆聖
8-新古701いそかれぬとしのくれこそあはれなれむかしはよそにききし春かは
いそかれぬ としのくれこそ あはれなれ むかしはよそに ききしはるかは
藤原実房
8-新古702かそふれはとしののこりもなかりけりおいぬるはかりかなしきはなし
かそふれは としののこりも なかりけり おいぬるはかり かなしきはなし
和泉式部
8-新古703いしはしるはつせのかはのなみまくらはやくもとしのくれにけるかな
いしはしる はつせのかはの なみまくら はやくもとしの くれにけるかな
徳大寺実定
8-新古704ゆくとしををしまのあまのぬれ衣かさねて袖になみやかくらん
ゆくとしを をしまのあまの ぬれころも かさねてそてに なみやかくらむ
藤原有家
8-新古705おいのなみこえける身こそあはれなれことしも今はすゑの松山
おいのなみ こえけるみこそ あはれなれ ことしもいまは すゑのまつやま
寂蓮法師
8-新古706けふことにけふやかきりとおしめとも又もことしにあひにけるかな
けふことに けふやかきりと をしめとも またもことしに あひにけるかな
藤原俊成
8-新古707たかきやにのほりて見れはけふりたつたみのかまとはにきはひにけり
たかきやに のほりてみれは けふりたつ たみのかまとは にきはひにけり
仁徳天皇
8-新古708はつ春のはつねのけふのたまははきてにとるからにゆらく玉のを
はつはるの はつねのけふの たまははき てにとるからに ゆらくたまのを
読人知らず
8-新古709ねのひしてしめつるのへのひめこ松ひかてやちよのかけをまたまし
ねのひして しめつるのへの ひめこまつ ひかてやちよの かけをまたまし
藤原清正
8-新古710君かよのとしのかすをはしろたへのはまのまさことたれかしきけん
きみかよの としのかすをは しろたへの はまのまさこと たれかしきけむ
紀貫之
8-新古711わかなおふるのへといふのへを君かためよろつよしめてつまんとそ思
わかなおふる のへといふのへを きみかため よろつよしめて つまむとそおもふ
読人知らず
8-新古712ゆふたすきちとせをかけてあしひきの山あゐのいろはかはらさりけり
ゆふたすき ちとせをかけて あしひきの やまあゐのいろは かはらさりけり
読人知らず
8-新古713君かよにあふへき春のおほけれはちるとも桜あくまてそみん
きみかよに あふへきはるの おほけれと ちるともさくら あくまてそみむ
源師房
8-新古714すみの江のはまのまさこをふむたつはひさしきあとをとむるなりけり
すみのえの はまのまさこを ふむたつは ひさしきあとを とむるなりけり
伊勢
8-新古715としことにおいそふ竹のよよをへてかはらぬいろをたれとかはみん
としことに おひそふたけの よよをへて かはらぬいろを たれとかはみむ
紀貫之
8-新古716ちとせふるおのへの松は秋風の声こそかはれいろはかはらす
ちとせふる をのへのまつは あきかせの こゑこそかはれ いろはかはらす
凡河内躬恒
8-新古717山河の菊のしたみついかなれはなかれて人の老をせくらん
やまかはの きくのしたみつ いかなれは なかれてひとの おいをせくらむ
藤原興風
8-新古718いのりつつなを長月のきくの花いつれの秋かうへてみさらん
いのりつつ なほなかつきの きくのはな いつれのあきか うゑてみさらむ
紀貫之
8-新古719山人のおるそてにほふきくのつゆうちはらふにもちよはへぬへし
やまひとの をるそてにほふ きくのつゆ うちはらふにも ちよはへぬへし
藤原俊成
8-新古720神な月もみちもしらぬときは木によろつよかかれ峯の白雲
かみなつき もみちもしらぬ ときはきに よろつよかかれ みねのしらくも
清原元輔
8-新古721山風はふけとふかねと白浪のよするいはねはひさしかりけり
やまかせは ふけとふかねと しらなみの よするいはねは ひさしかりけり
伊勢
8-新古722くもりなくちとせにすめる水のおもにやとれる月のかけものとけし
くもりなく ちとせにすめる みつのおもに やとれるつきの かけものとけし
紫式部
8-新古723池水のよよにひさしくすみぬれは底の玉もも光みえけり
いけみつの よよにひさしく すみぬれは そこのたまもも ひかりみえけり
伊勢大輔
8-新古724きみかよのちとせのかすもかくれなくくもらぬそらの光にそ見る
きみかよの ちとせのかすも かくれなく くもらぬそらの ひかりにそみる
源顕房
8-新古725すみの江においそふ松のえたことにきみかちとせのかすそこもれる
すみのえに おひそふまつの えたことに きみかちとせの かすそこもれる
源隆国
8-新古726よろつよを松のを山のかけしけみ君をそいのるときはかきはに
よろつよを まつのをやまの かけしけみ きみをそいのる ときはかきはに
康資王母
8-新古727あひをひのをしほの山のこ松はらいまよりちよのかけをまたなん
あひおひの をしほのやまの こまつはら いまよりちよの かけをまたなむ
大弐三位
8-新古728ねの日するみかきのうちのこ松はらちよをはほかの物とやはみる
ねのひする みかきのうちの こまつはら ちよをはほかの ものとやはみる
源経信
8-新古729ねの日する野辺のこ松をうつしうへてとしのをなかく君そひくへき
ねのひする のへのこまつを うつしうゑて としのをなかく きみそひくへき
藤原通俊
8-新古730君かよはひさしかるへしわたらひやいすすのかはのなかれたえせて
きみかよは ひさしかるへし わたらひや いすすのかはの なかれたえせて
大江匡房
8-新古731とき葉なる松にかかれるこけなれは年のをなかきしるへとそ思
ときはなる まつにかかれる こけなれは としのをなかき しるへとそおもふ
読人知らず
8-新古732きみかよにあへるはたれもうれしきを花はいろにもいてにけるかな
きみかよに あへるはたれも うれしきを はなはいろにも いてにけるかな
藤原範兼
8-新古733身にかへて花もおしまし君かよにみるへき春のかきりなけれは
みにかへて はなもをしまし きみかよに みるへきはるの かきりなけれは
参河内侍
8-新古734あめのしためくむくさ木のめもはるにかきりもしらぬみよのすゑすゑ
あめのした めくむくさきの めもはるに かきりもしらぬ みよのすゑすゑ
式子内親王
8-新古735をしなへてこのめも春のあさみとり松にそちよの色はこもれる
おしなへて このめもはるの あさみとり まつにそちよの いろもこもれる
九条良経
8-新古736しき嶋ややまとしまねも神よより君かためとやかためをきけん
しきしまや やまとしまねも かみよより きみかためとや かためおきけむ
読人知らず
8-新古737ぬれてほすたまくしのはのつゆしもにあまてるひかりいくよへぬらん
ぬれてほす たまくしのはの つゆしもに あまてるひかり いくよへぬらむ
読人知らず
8-新古738きみかよはちよともささしあまのとやいつる月日のかきりなけれは
きみかよは ちよともささし あまのとや いつるつきひの かきりなけれは
藤原俊成
8-新古739わかみちをまもらはきみをまもるらんよはひはゆつれすみよしの松
わかみちを まもらはきみを まもるらむ よはひはゆつれ すみよしのまつ
藤原定家
8-新古740たかさこの松もむかしになりぬへしなをゆくすゑは秋のよの月
たかさこの まつもむかしに なりぬへし なほゆくすゑは あきのよのつき
寂蓮法師
8-新古741もしほくさかくともつきしきみかよのかすによみをくわかの浦浪
もしほくさ かくともつきし きみかよの かすによみおく わかのうらなみ
源家長
8-新古742うれしさやかたしく袖につつむらんけふまちえたるうちのはしひめ
うれしさや かたしくそてに つつむらむ けふまちえたる うちのはしひめ
藤原隆房
8-新古743としへたるうちのはしもりこととはんいくよになりぬ水のみなかみ
としへたる うちのはしもり こととはむ いくよになりぬ みつのみなかみ
藤原清輔
8-新古744ななそちにみつのはままつおいぬれとちよののこりは猶そはるけき
ななそちに みつのはままつ おいぬれは ちよののこりは なほそはるけき
読人知らず
8-新古745やをかゆくはまのまさこを君かよのかすにとらなんおきつ嶋もり
やほかゆく はまのまさこを きみかよの かすにとらなむ おきつしまもり
徳大寺実定
8-新古746かすか山宮このみなみしかそおもふきたのふちなみ春にあへとは
かすかやま みやこのみなみ しかそおもふ きたのふちなみ はるにあへとは
九条良経
8-新古747ときはなるきひの中山をしなへてちとせを松のふかきいろかな
ときはなる きひのなかやま おしなへて ちとせをまつの ふかきいろかな
読人知らず
8-新古748あかねさすあさひのさとのひかけ草とよのあかりのかさしなるへし
あかねさす あさひのさとの ひかけくさ とよのあかりの かさしなるへし
祭主輔親
8-新古749すへらきをときはかきはにもる山の山人ならし山かつらせり
すめらきを ときはかきはに もるやまの やまひとならし やまかつらせり
式部大輔資業
8-新古750とやかへるたかのを山のたまつはきしもをはふともいろはかはらし
とやかへる たかのをやまの たまつはき しもをはふとも いろはかはらし
大江匡房
8-新古751くもりなきかかみの山の月をみてあきらけきよをそらにしる哉
くもりなき かかみのやまの つきをみて あきらけきよを そらにしるかな
藤原永範
8-新古752おほえ山こえていくののすゑとをみみちある世にもあひにけるかな
おほえやま こえていくのの すゑとほみ みちあるよにも あひにけるかな
藤原範兼
8-新古753あふみのやさかたのいねをかけつみてみちあるみよのはしめにそつく
あふみのや さかたのいねを かけつみて みちあるみよの はしめにそつく
藤原俊成
8-新古754神世世りけふのためとややつかほになかたのいねのしなひそめけん
かみよより けふのためとや やつかほに なかたのいねの しなひそめけむ
藤原兼光
8-新古755たちよれはすすしかりけり水鳥のあおはの山の松のゆふ風
たちよれは すすしかりけり みつとりの あをはのやまの まつのゆふかせ
式部大輔光範
8-新古756ときはなる松井の水をむすふてのしつくことにそちよはみえける
ときはなる まつゐのみつを むすふての しつくことにそ ちよはみえける
日野資実
8-新古757すえのつゆもとのしつくやよの中のをくれさきたつためしなるらん
すゑのつゆ もとのしつくや よのなかの おくれさきたつ ためしなるらむ
僧正遍昭哀傷
8-新古758あはれなりわか身のはてやあさみとりつゐには野辺のかすみとおもへは
あはれなり わかみのはてや あさみとり つひにはのへの かすみとおもへは
小野小町哀傷
8-新古759さくらちる春のすゑにはなりにけりあままもしらぬなかめせしまに
さくらちる はるのすゑには なりにけり あままもしらぬ なかめせしまに
藤原兼輔哀傷
8-新古760すみそめのころもうきよの花さかりおりわすれてもおりてけるかな
すみそめの ころもうきよの はなさかり をりわすれても をりてけるかな
藤原実方哀傷
8-新古761あかさりし花をや春もこひつらんありし昔を思ひいてつつ
あかさりし はなをやはるも こひつらむ ありしむかしを おもひいてつつ
藤原道信哀傷
8-新古762花さくらまたさかりにてちりにけんなけきのもとを思こそやれ
はなさくら またさかりにて ちりにけむ なけきのもとを おもひこそやれ
成尋法師哀傷
8-新古763花見んとうへけん人もなきやとのさくらはこその春そさかまし
はなみむと うゑけむひとも なきやとの さくらはこその はるそさかまし
大江嘉言哀傷
8-新古764たれもみな花の宮こにちりはててひとりしくるる秋の山さと
たれもみな はなのみやこに ちりはてて ひとりしくるる あきのやまさと
藤原顕輔哀傷
8-新古765花見てはいとといゑちそいそかれぬまつらんと思人しなけれは
はなみては いとといへちそ いそかれぬ まつらむとおもふ ひとしなけれは
徳大寺実定哀傷
8-新古766春霞かすみしそらのなこりさへけふをかきりのわかれなりけり
はるかすみ かすみしそらの なこりさへ けふをかきりの わかれなりけり
九条良経哀傷
8-新古767たちのほるけふりをたにも見るへきにかすみにまかふ春のあけほの
たちのほる けふりをたにも みるへきに かすみにまかふ はるのあけほの
藤原惟方哀傷
8-新古768かたみとて見れはなけきのふかみ草なに中々のにほひなるらん
かたみとて みれはなけきの ふかみくさ なになかなかの にほひなるらむ
藤原重家哀傷
8-新古769あやめくさたれしのへとかうへをきてよもきかもとのつゆときえけん
あやめくさ たれしのへとか うゑおきて よもきかもとの つゆときえけむ
高陽院木綿四手哀傷
8-新古770けふくれとあやめもしらぬたもとかなむかしをこふるねのみかかりて
けふくれと あやめもしらぬ たもとかな むかしをこふる ねのみかかりて
上西門院兵衛哀傷
8-新古771あやめ草ひきたかへたるたもとにはむかしをこふるねそかかりける
あやめくさ ひきたかへたる たもとには むかしをこふる ねそかかりける
九条院哀傷
8-新古772さもこそはおなしたもとのいろならめかはらぬねをもかけてける哉
さもこそは おなしたもとの いろならめ かはらぬねをも かけてけるかな
皇嘉門院哀傷
8-新古773よそなれとおなし心そかよふへきたれも思ひのひとつならねは
よそなれと おなしこころそ かよふへき たれもおもひの ひとつならねは
藤原実資哀傷
8-新古774ひとりにもあらぬ思はなき人もたひのそらにやかなしかるらん
ひとりにも あらぬおもひは なきひとも たひのそらにや かなしかるらむ
藤原為頼哀傷
8-新古775をくと見しつゆもありけりはかなくてきえにし人をなににたとへん
おくとみし つゆもありけり はかなくて きえにしひとを なににたとへむ
和泉式部哀傷
8-新古776おもひきやはかなくをきし袖のうへのつゆをかたみにかけん物とは
おもひきや はかなくおきし そてのうへの つゆをかたみに かけむものとは
上東門院哀傷
8-新古777あさちはらはかなくきえし草のうへのつゆをかたみと思かけきや
あさちはら はかなくおきし くさのうへの つゆをかたみと おもひかけきや
周防内侍哀傷
8-新古778袖にさへ秋のゆふへはしられけりきえしあさちかつゆをかけつつ
そてにさへ あきのゆふへは しられけり きえしあさちか つゆをかけつつ
女御徽子女王哀傷
8-新古779秋風のつゆのやとりに君ををきてちりをいてぬることそかなしき
あきかせの つゆのやとりに きみをおきて ちりをいてぬる ことそかなしき
一条院哀傷
8-新古780わかれけんなこりの袖もかはかぬにをきやそふらん秋のゆふつゆ
わかれけむ なこりのつゆも かわかぬに おきやそふらむ あきのゆふつゆ
大弐三位哀傷
8-新古781をきそふるつゆとともにはきえもせてなみたにのみもうきしつむかな
おきそふる つゆとともには きえもせて なみたにのみも うきしつむかな
読人知らず哀傷
8-新古782をみなへしみるに心はなくさまていととむかしの秋そこひしき
をみなへし みるにこころは なくさまて いととむかしの あきそこひしき
清慎公哀傷
8-新古783ねさめする身をふきとおす風のをとをむかしは袖のよそにききけん
ねさめする みをふきとほす かせのおとに むかしはそての よそにききけむ
和泉式部哀傷
8-新古784袖ぬらす萩のうははのつゆはかりむかしわすれぬむしのねそする
そてぬらす はきのうははの つゆはかり むかしわすれぬ むしのねそする
藤原忠通哀傷
8-新古785さらてたにつゆけきさかののへにきてむかしのあとにしほれぬるかな
さらてたに つゆけきさかの のへにきて むかしのあとに しをれぬるかな
藤原俊忠哀傷
8-新古786かなしさは秋のさか野のきりきりすなをふるさとにねをやなくらん
かなしさは あきのさかのの きりきりす なほふるさとに ねをやなくらむ
徳大寺実定哀傷
8-新古787今はさはうきよのさかののへをこそつゆきえはてしあととしのはめ
いまはさは うきよのさかの のへをこそ つゆきえはてし あととしのはめ
藤原俊成女哀傷
8-新古788たまゆらのつゆも涙もととまらすなき人こふるやとの秋風
たまゆらの つゆもなみたも ととまらす なきひとこふる やとのあきかせ
藤原定家哀傷
8-新古789つゆをたにいまはかたみのふちころもあたにも袖をふくあらしかな
つゆをたに いまはかたみの ふちころも あたにもそてを ふくあらしかな
藤原秀能哀傷
8-新古790秋ふかきねさめにいかかおもひいつるはかなく見えし春のよの夢
あきふかき ねさめにいかか おもひいつる はかなくみえし はるのよのゆめ
殷富門院大輔哀傷
8-新古791見し夢をわするる時はなけれとも秋のねさめはけにそかなしき
みしゆめを わするるときは なけれとも あきのねさめは けにそかなしき
源通親哀傷
8-新古792なれし秋のふけしよとこはそれなから心のそこの夢そかなしき
なれしあきの ふけしよとこは それなから こころのそこの ゆめそかなしき
藤原実家哀傷
8-新古793くちもせぬその名はかりをととめをきてかれ野のすすきかたみとそみる
くちもせぬ そのなはかりを ととめおきて かれののすすき かたみにそみる
西行法師哀傷
8-新古794ふるさとをこふる涙やひとりゆくともなき山のみちしはのつゆ
ふるさとを こふるなみたや ひとりゆく ともなきやまの みちしはのつゆ
慈円哀傷
8-新古795うきよにはいまはあらしの山かせにこれやなれゆくはしめなるらん
うきよには いまはあらしの やまかせに これやなれゆく はしめなるらむ
藤原俊成哀傷
8-新古796まれにくる夜はもかなしき松風をたえすやこけのしたにきくらん
まれにくる よはもかなしき まつかせを たえすやこけの したにきくらむ
読人知らず哀傷
8-新古797ものおもへはいろなき風もなかりけり身にしむ秋の心ならひに
ものおもへは いろなきかせも なかりけり みにしむあきの こころならひに
久我太政大臣哀傷
8-新古798ふるさとをわかれし秋をかそふれはやとせになりぬありあけの月
ふるさとを わかれしあきを かそふれは やとせになりぬ ありあけのつき
読人知らず哀傷
8-新古799いのちあれはことしの秋も月はみつわかれし人にあふよなきかな
いのちあれは ことしのあきも つきはみつ わかれしひとに あふよなきかな
能因法師哀傷
8-新古800けふこすはみてややままし山さとのもみちも人もつねならぬよに
けふこすは みてややままし やまさとの もみちもひとも つねならぬよに
藤原公任哀傷
8-新古801おもひいつるおりたくしはのゆふけふりむせふもうれし忘かたみに
おもひいつる をりたくしはの ゆふけふり むせふもうれし わすれかたみに
太上天皇哀傷
8-新古802おもひいつるおりたくしはときくからにたくひしられぬゆふけふりかな
おもひいつる をりたくしはと きくからに たくひしられぬ ゆふけふりかな
慈円哀傷
8-新古803なき人のかたみの雲やしほ(ほ=く)るらんゆふへの雨にいろはみえねと
なきひとの かたみのくもや しをるらむ ゆふへのあめに いろはみえねと
太上天皇哀傷
8-新古804神な月しくるるころもいかなれやそらにすきにし秋の宮人
かみなつき しくるるころも いかなれや そらにすきにし あきのみやひと
相模哀傷
8-新古805てすさひのはかなきあとと見しかとも長かたみになりにけるかな
てすさひの はかなきあとと みしかとも なかきかたみに なりにけるかな
源師房女哀傷
8-新古806たつねてもあとはかくてもみつくきのゆくゑもしらぬ昔なりけり
たつねても あとはかくても みつくきの ゆくへもしらぬ むかしなりけり
馬内侍哀傷
8-新古807いにしへのなきになかるる水くきのあとこそ袖のうらによりけれ
いにしへの なきになかるる みつくきは あとこそそての うらによりけれ
女御徽子女王哀傷
8-新古808ほしもあへぬころものやみにくらされて月ともいはすまとひぬるかな
ほしもあへぬ ころものやみに くらされて つきともいはす まとひぬるかな
藤原道信哀傷
8-新古809みなそこにちちのひかりはうつれともむかしのかけはみえすそ有ける
みなそこに ちちのひかりは うつれとも むかしのかけは みえすそありける
東三条院哀傷
8-新古810ものをのみおもひねさめのまくらにはなみたかからぬ暁そなき
ものをのみ おもひねさめの まくらには なみたかからぬ あかつきそなき
源信明哀傷
8-新古811あふこともいまはなきねの夢ならていつかは君を又はみるへき
あふことも いまはなきねの ゆめならて いつかはきみを またはみるへき
上東門院哀傷
8-新古812うしとてはいてにしいゑをいてぬなりなとふるさとにわか帰けん
うしとては いてにしいへを いてぬなり なとふるさとに わかかへりけむ
女御藤原生子哀傷
8-新古813はかなしといふにもいととなみたのみかかるこのよをたのみけるかな
はかなしと いふにもいとと なみたのみ かかるこのよを たのみけるかな
源道済哀傷
8-新古814ふるさとにゆく人もかなつけやらんしらぬ山ちにひとりまとふと
ふるさとに ゆくひともかな つけやらむ しらぬやまちに ひとりまとふと
読人知らず哀傷
8-新古815たまのをの長ためしにひく人もきゆれはつゆにことならぬかな
たまのをの なかきためしに ひくひとも きゆれはつゆに ことならぬかな
藤原長家哀傷
8-新古816こひわふとききにたにきけかねのをとにうちわすらるる時のまそなき
こひわふと ききにたにきけ かねのおとに うちわすらるる ときのまそなき
和泉式部哀傷
8-新古817たれかよになからへて見んかきとめしあとはきえせぬかたみなれとも
たれかよに なからへてみむ かきとめし あとはきえせぬ かたみなれとも
紫式部哀傷
8-新古818なき人をしのふることもいつまてそけふの哀はあすのわか身を
なきひとを しのふることも いつまてそ けふのあはれは あすのわかみを
加賀少納言哀傷
8-新古819なき人のあとをたにとてきてみれはあらぬさとにもなりにけるかな
なきひとの あとをたにとて きてみれは あらぬさとにも なりにけるかな
律師慶暹哀傷
8-新古820見し人のけふりになりしゆふへより名そむつましきしほかまのうら
みしひとの けふりになりし ゆふへより なそむつましき しほかまのうら
紫式部哀傷
8-新古821あはれきみいかなる野辺のけふりにてむなしきそらの雲と成けん
あはれきみ いかなるのへの けふりにて むなしきそらの くもとなりけむ
弁乳母哀傷
8-新古822おもへきみもえしけふりにまかひなてたちをくれたる春のかすみを
おもへきみ もえしけふりに まかひなて たちおくれたる はるのかすみを
源三位哀傷
8-新古823あはれ人けふのいのちをしらませはなにはのあしにちきらさらまし
あはれひと けふのいのちを しらませは なにはのあしに ちきらさらまし
能因法師哀傷
8-新古824よもすからむかしのことをみつるかなかたるやうつつありしよや夢
よもすから むかしのことを みつるかな かたるやうつつ ありしよやゆめ
大江匡衡哀傷
8-新古825うつりけんむかしのかけやのこるとて見るにおもひのますかかみかな
うつりけむ むかしのかけや のこるとて みるにおもひの ますかかみかな
新少将哀傷
8-新古826かきとむることの葉のみそ水くきのなかれてとまるかたみなりける
かきとむる ことのはのみそ みつくきの なかれてとまる かたみなりける
按察使公通哀傷
8-新古827ありすかはおなしなかれはかはらねと見しやむかしのかけそわすれぬ
ありすかは おなしなかれは かはらねと みしやむかしの かけそわすれぬ
源雅定哀傷
8-新古828かきりなき思のほとの夢のうちはおとろかさしとなけきこしかな
かきりなき おもひのほかの ゆめのうちは おとろかさしと なけきこしかな
藤原俊成哀傷
8-新古829見し夢にやかてまきれぬわか身こそとはるるけふもまつかなしけれ
みしゆめに やかてまきれぬ わかみこそ とはるるけふも まつかなしけれ
九条良経哀傷
8-新古830世中は見しもききしもはかなくてむなしきそらのけふりなりけり
よのなかは みしもききしも はかなくて むなしきそらは けふりなりけり
藤原清輔哀傷
8-新古831いつなけきいつおもふへきことなれはのちのよしらて人のすむ(む=く)らん
いつなけき いつおもふへき ことなれは のちのよしらて ひとのすくらむ
西行法師哀傷
8-新古832みな人のしりかほにしてしらぬかなかならすしぬるならひありとは
みなひとの しりかほにして しらぬかな かならすしぬる ならひありとは
慈円哀傷
8-新古833きのふみし人はいかにとおとろけとなを長よの夢にそ有ける
きのふみし ひとはいかにと おとろけと なほなかきよの ゆめにそありける
読人知らず哀傷
8-新古834よもきふにいつかをくへきつゆの身はけふのゆふくれあすのあけほの
よもきふに いつかおくへき つゆのみは けふのゆふくれ あすのあけほの
読人知らず哀傷
8-新古835われもいつそあらましかはと見し人をしのふとすれはいととそひゆく
われもいつそ あらましかはと みしひとを しのふとすれと いととそひゆく
読人知らず哀傷
8-新古836たつねきていかにあはれとなかむらんあとなき山の峯のしら雲
たつねきて いかにあはれと なかむらむ あとなきやまの みねのしらくも
寂蓮法師哀傷
8-新古837なきあとのおもかけをのみ身にそへてさこそは人のこひしかるらめ
なきあとの おもかけをのみ みにそへて さこそはひとの こひしかるらめ
西行法師哀傷
8-新古838哀ともこころにおもふほとはかりいはれぬへくはとひこそはせめ
あはれとも こころにおもふ ほとはかり いはれぬへくは とひこそはせめ
読人知らず哀傷
8-新古839つくつくとおもへはかなしいつまてか人のあはれをよそにきくへき
つくつくと おもへはかなし いつまてか ひとのあはれを よそにきくへき
藤原実房哀傷
8-新古840をくれゐてみるそかなしきはかなさをうき身のあととなにたのみけむ
おくれゐて みるそかなしき はかなさを うきみのあとと なにたのみけむ
源通親哀傷
8-新古841そこはかと思つつけて来てみれはことしのけふも袖はぬれけり
そこはかと おもひつつけて きてみれは ことしのけふも そてはぬれけり
慈円哀傷
8-新古842たれもみな涙のあめにせきかねぬそらもいかかはつれなかるへき
たれもみな なみたのあめに せきかねぬ そらもいかかは つれなかるへき
花山院忠経哀傷
8-新古843見し人はよにもなきさのもしほ草かきをくたひに袖そしほるる
みしひとは よにもなきさの もしほくさ かきおくたひに そてそしをるる
法橋行遍哀傷
8-新古844あらさらんのちしのへとや袖のかをはなたちはなにととめをきけん
あらさらむ のちしのへとや そてのかを はなたちはなに ととめおきけむ
祝部成仲哀傷
8-新古845ありしよにしはしも見てはなかりしを哀とはかりいひてやみぬる
ありしよに しはしもみては なかりしを あはれとはかり いひてやみぬる
藤原兼房哀傷
8-新古846とへかしなかたしくふちの衣手になみたのかかる秋のねさめを
とへかしな かたしくふちの ころもてに なみたのかかる あきのねさめを
藤原通俊哀傷
8-新古847君なくてよるかたもなきあをやきのいととうきよそ思みたるる
きみなくて よるかたもなき あをやきの いととうきよそ おもひみたるる
源国信哀傷
8-新古848いつのまに身を山かつになしはてて宮こをたひと思ふなるらん
いつのまに みをやまかつに なしはてて みやこをたひと おもふなるらむ
藤原顕輔哀傷
8-新古849ひさかたのあめにしほるる君ゆへに月日もしらてこひわたるらん
ひさかたの あめにしをるる きみゆゑに つきひもしらて こひわたるらむ
柿本人麿哀傷
8-新古850あるはなくなきはかすそふ世中にあはれいつれの日まてなけかん
あるはなく なきはかすそふ よのなかに あはれいつれの ひまてなけかむ
小野小町哀傷
8-新古851白玉かなにそと人のとひし時つゆとこたへてけなまし物を
しらたまか なにそとひとの とひしとき つゆとこたへて けなましものを
在原業平哀傷
8-新古852としふれはかくもありけりすみそめのこはおもふてふそれかあらぬか
としふれは かくもありけり すみそめの こはおもふてふ それかあらぬか
延喜哀傷
8-新古853なき人をしのひかねては忘草おほかるやとにやとりをそする
なきひとを しのひかねては わすれくさ おほかるやとに やとりをそする
藤原兼輔哀傷
8-新古854くやしくそのちにあはんと契けるけふをかきりといはまし物を
くやしくそ のちにあはむと ちきりける けふをかきりと いはましものを
藤原季縄哀傷
8-新古855すみそめのそてはそらにもかさなくにしほりもあへすつゆそこほるる
すみそめの そてはそらにも かさなくに しほりもあへす つゆそこほるる
具平親王哀傷
8-新古856くれぬまの身をはおもはて人のよのあはれをしるそかつははかなき
くれぬまの みをはおもはて ひとのよの あはれをしるそ かつははかなき
紫式部哀傷
8-新古857たまほこのみちの山風さむからはかたみかてらにきなんとそおもふ
たまほこの みちのやまかせ さむからは かたみかてらに きなむとそおもふ
紀貫之離別
8-新古858わすれなん世にもこしちのかへる山いつはた人にあはむとすらん
わすれなむ よにもこしちの かへるやま いつはたひとに あはむとすらむ
伊勢離別
8-新古859きたへゆく雁のつはさにことつてよ雲のうはかきかきたえすして
きたへゆく かりのつはさに ことつてよ くものうはかき かきたえすして
紫式部離別
8-新古860秋きりのたつたひころもをきて見よつゆはかりなるかたみなりとも
あききりの たつたひころも おきてみよ つゆはかりなる かたみなりとも
大中臣能宣離別
8-新古861見てたにもあかぬ心をたまほこのみちのおくまて人のゆくらん
みてたにも あかぬこころを たまほこの みちのおくまて ひとのゆくらむ
紀貫之離別
8-新古862あふさかの関にわかやとなかりせはわかるる人はたのまさらまし
あふさかの せきにわかやと なかりせは わかるるひとは たのまさらまし
藤原兼輔離別
8-新古863きならせと思しものをたひころもたつ日をしらすなりにける哉
きならせと おもひしものを たひころも たつひをしらす なりにけるかな
読人知らず離別
8-新古864これやさは雲のはたてにをるときくたつことしらぬあまのは衣
これやさは くものはたてに おるときく たつことしらぬ あまのはころも
寂昭法師離別
8-新古865衣河見なれし人のわかれにはたもとまてこそ浪はたちけれ
ころもかは みなれしひとの わかれには たもとまてこそ なみはたちけれ
源重之離別
8-新古866ゆくすゑにあふくま河のなかりせはいかにかせましけふのわかれを
ゆくすゑに あふくまかはの なかりせは いかにかせまし けふのわかれを
高階経重離別
8-新古867君に又あふくま河をまつへきにのこりすくなきわれそかなしき
きみにまた あふくまかはを まつへきに のこりすくなき われそかなしき
藤原範永離別
8-新古868すすしさはいきの松はらまさるともそふるあふきの風なわすれそ
すすしさは いきのまつはら まさるとも そふるあふきの かせなわすれそ
枇杷皇太后宮離別
8-新古869神な月まれのみゆきにさそはれてけふわかれなはいつかあひみん
かみなつき まれのみゆきに さそはれて けふわかれなは いつかあひみむ
一条右大臣恒佐離別
8-新古870わかれてののちもあひみんとおもへともこれをいつれの時とかはしる
わかれての のちもあひみむと おもへとも これをいつれの ときとかはしる
大江千里離別
8-新古871もろこしもあめのしたにそありときくてる日のもとをわすれさらなん
もろこしも あめのしたにそ ありときく てるひのもとを わすれさらなむ
読人知らず離別
8-新古872わかれちはこれやかきりのたひならんさらにいくへき心ちこそせね
わかれちは これやかきりの たひならむ さらにいくへき ここちこそせね
道命法師離別
8-新古873あまのかはそらにきえにしふなてにはわれそまさりてけさはかなしき
あまのかは そらにきこえし ふなてには われそまさりて けさはかなしき
加賀左衛門離別
8-新古874わかれちはいつもなけきのたえせぬにいととかなしき秋のゆふくれ
わかれちは いつもなけきの たえせぬに いととかなしき あきのゆふくれ
藤原隆家離別
8-新古875ととまらんことは心にかなへともいかにかせまし秋のさそふを
ととまらむ ことはこころに かなへとも いかにかせまし あきのさそふを
藤原実方離別
8-新古876宮こをは秋とともにそたちそめしよとの河きりいくよへたてつ
みやこをは あきとともにそ たちそめし よとのかはきり いくよへたてつ
大江匡房離別
8-新古877思いてはおなしそらとは月をみよほとは雲井にめくりあふまて
おもひいてて おなしそらとは つきをみよ ほとはくもゐに めくりあふまて
後三条院離別
8-新古878かへりこんほとおもふにもたけくまのまつわか身こそいたくおいぬれ
かへりこむ ほとおもふにも たけくまの まつわかみこそ いたくおいぬれ
藤原基俊離別
8-新古879おもへともさためなきよのはかなさにいつをまてともえこそたのめね
おもへとも さためなきよの はかなさに いつをまてとも えこそたのめね
行尊離別
8-新古880契をくことこそさらになかりしかかねて思しわかれならねは
ちきりおく ことこそさらに なかりしか かねておもひし わかれならねは
読人知らず離別
8-新古881かりそめのわかれとけふをおもへともいさやまことのたひにもあるらん
かりそめの わかれとけふを おもへとも いさやまことの たひにもあるらむ
俊恵法師離別
8-新古882かへりこんほとをや人にちきらまししのはれぬへきわか身なりせは
かへりこむ ほとをやひとに ちきらまし しのはれぬへき わかみなりせは
登蓮法師離別
8-新古883たれとしもしらぬわかれのかなしきはまつらのおきをいつるふな人
たれとしも しらぬわかれの かなしきは まつらのおきを いつるふなひと
藤原隆信離別
8-新古884はるはると君かわくへきしらなみをあやしやとまる袖にかけつる
はるはると きみかわくへき しらなみを あやしやとまる そてにかけつる
俊恵法師離別
8-新古885君いなは月まつとてもなかめやらんあつまのかたのゆふくれの空
きみいなは つきまつとても なかめやらむ あつまのかたの ゆふくれのそら
西行法師離別
8-新古886たのめをかん君もこころやなくさむとかへらん事はいつとなくとも
たのめおかむ きみもこころや なくさむと かへらむことは いつとなくとも
読人知らず離別
8-新古887さりともとなをあふことをたのむかなしての山ちをこえぬわかれは
さりともと なほあふことも たのむかな してのやまちを こえぬわかれは
読人知らず離別
8-新古888かへりこんほとをちきらむとおもへともおいぬる身こそさためかたけれ
かへりこむ ほとをちきらむと おもへとも おいぬるみこそ さためかたけれ
道因法師離別
8-新古889かりそめのたひのわかれとしのふれとおいは涙もえこそととめね
かりそめの たひのわかれと しのふれと おいはなみたも えこそととめね
藤原俊成離別
8-新古890わかれにし人はまたもやみわの山すきにしかたを今になさはや
わかれにし ひとはまたもや みわのやま すきにしかたを いまになさはや
祝部成仲離別
8-新古891わするなよやとるたもとはかはるともかたみにしほるよはの月かけ
わするなよ やとるたもとは かはるとも かたみにしほる よはのつきかけ
藤原定家離別
8-新古892なこりおもふたもとにかねてしられけりわかるるたひのゆくすゑのつゆ
なこりおもふ たもとにかねて しられけり わかるるたひの ゆくすゑのつゆ
惟明親王離別
8-新古893宮こをは心をそらにいてぬとも月みんたひに思をこせよ
みやこをは こころのそらに いてぬとも つきみむたひに おもひおこせよ
読人知らず離別
8-新古894わかれちは雲井のよそになりぬともそなたの風のたよりすくすな
わかれちは くもゐのよそに なりぬとも そなたのかせの たよりすくすな
源行宗離別
8-新古895いろふかくそめたるたひのかり衣かへらんまてのかたみともみよ
いろふかく そめたるたひの かりころも かへらむまての かたみともみよ
藤原顕綱離別
8-新古896とふとりのあすかのさとををきていなは君かあたりはみえすかもあらん
とふとりの あすかのさとを おきていなは きみかあたりは みえすかもあらむ
元明天皇羈旅
8-新古897いもにこひわかの松はらみわたせはしほひのかたにたつなきわたる
いもにこひ わかのまつはら みわたせは しほひのかたに たつなきわたる
聖武天皇羈旅
8-新古898いさこともはや日のもとへおほとものみつのはま松まちこひぬらん
いさことも はやひのもとへ おほともの みつのはままつ まちこひぬらむ
山上憶良羈旅
8-新古899あまさかるひなのなかちをこきくれはあかしのとより山としまみゆ
あまさかる ひなのなかちを こきくれは あかしのとより やまとしまみゆ
柿本人麿羈旅
8-新古900ささの葉は(は=のイ)み山もそよにみたるな(な=めイ)りわれはいもおもふわかれきぬれは
ささのはは みやまもそよに みたるなり われはいもおもふ わかれきぬれは
読人知らず羈旅
8-新古901ここにありてつくしやいつこ白雲のたなひく山のにしにあるらし
ここにありて つくしやいつこ しらくもの たなひくやまの にしにあるらし
大伴旅人羈旅
8-新古902あさきりにぬれにし衣ほさすしてひとりや君か山ちこゆらん
あさきりに ぬれにしころも ほさすして ひとりやきみか やまちこゆらむ
読人知らず羈旅
8-新古903しなのなるあさまのたけに立けふりをちこち人のみやはとかめね
しなのなる あさまのたけに たつけふり をちこちひとの みやはとかめぬ
在原業平羈旅
8-新古904するかなるうつの山辺のうつつにも夢にも人にあはぬなりけり
するかなる うつのやまへの うつつにも ゆめにもひとに あはぬなりけり
読人知らず羈旅
8-新古905草まくらゆふ風さむくなりにけり衣うつなるやとやからまし
くさまくら ゆふかせさむく なりにけり ころもうつなる やとやからまし
紀貫之羈旅
8-新古906白雲のたなひきわたるあしひきの山のかけはしけふやこえなん
しらくもの たなひきわたる あしひきの やまのかけはし けふやこえなむ
読人知らず羈旅
8-新古907あつまちのさやのなか山さやかにも見えぬ雲ゐによをやつくさん
あつまちや さやのなかやま さやかにも みえぬくもゐに よをやつくさむ
壬生忠峯羈旅
8-新古908人をなをうらみつへしや宮こ鳥ありやとたにもとふをきかねは
ひとをなほ うらみつへしや みやことり ありやとたにも とふをきかねは
女御徽子女王羈旅
8-新古909またしらぬふるさと人はけふまてにこんとたのめしわれをまつらん
またしらぬ ふるさとひとは けふまてに こむとたのめし われをまつらむ
菅原輔昭羈旅
8-新古910しなかとりゐな野をゆけはありま山ゆふきりたちぬやとはなくして
しなかとり ゐなのをゆけは ありまやま ゆふきりたちぬ やとはなくして
読人知らず羈旅
8-新古911神風のいせのはまおきおりふせ(ふせ=しきイ)てたひねやすらんあらきはまへに
かみかせや いせのはまをき をりふせて たひねやすらむ あらきはまへに
読人知らず羈旅
8-新古912ふるさとのたひねの夢にみえつるはうらみやすらんまたととはねは
ふるさとの たひねのゆめに みえつるは うらみやすらむ またととはねは
橘良利羈旅
8-新古913たちなからこよひはあけぬそのはらやふせやといふもかひなかりけり
たちなから こよひはあけぬ そのはらや ふせやといふも かひなかりけり
藤原輔尹羈旅
8-新古914宮こにてこしちのそらをなかめつつ雲井といひしほとにきにけり
みやこにて こしちのそらを なかめつつ くもゐといひし ほとにきにけり
御形宣旨羈旅
8-新古915たひ衣たちゆくなみちとをけれはいさしら雲のほともしられす
たひころも たちゆくなみち とほけれは いさしらくもの ほともしられす
法橋(大+周)然羈旅
8-新古916ふねなからこよひはかりはたひねせんしきつの浪に夢はさむとも
ふねなから こよひはかりは たひねせむ しきつのなみに ゆめはさむとも
藤原実方羈旅
8-新古917わかことくわれをたつねはあまを舟人もなきさのあととこたへよ
わかことく われをたつねは あまをふね ひともなきさの あととこたえよ
行尊羈旅
8-新古918かきくもりゆふたつ浪のあらけれはうきたる舟そしつ心なき
かきくもり ゆふたつなみの あらけれは うきたるふねそ しつこころなき
紫式部羈旅
8-新古919さよふけてあしのすゑこす浦風にあはれうちそふ浪のをとかな
さよふけて あしのすゑこす うらかせに あはれうちそふ なみのおとかな
肥後羈旅
8-新古920たひねして暁かたの鹿のねにいな葉をしなみ秋風そふく
たひねして あかつきかたの しかのねに いなはおしなひ あきかせそふく
源経信羈旅
8-新古921わきもこかたひねの衣うすきほとよきてふかなんよはの山風
わきもこか たひねのころも うすきほと よきてふかなむ よはのやまかせ
恵慶法師羈旅
8-新古922あしの葉をかりふくしつの山さとに衣かたしきたひねをそする
あしのはを かりふくしつの やまさとに ころもかたしき たひねをそする
源隆綱羈旅
8-新古923ありしよのたひはたひともあらさりきひとりつゆけき草枕かな
ありしよの たひはたひとも あらさりき ひとりつゆけき くさまくらかな
赤染衛門羈旅
8-新古924山ちにてそをちにけりなしらつゆのあか月をきの木々のしつくに
やまちにて そほちにけりな しらつゆの あかつきおきの ききのしつくに
源国信羈旅
8-新古925草枕たひねの人は心せよありあけの月もかたふきにけり
くさまくら たひねのひとは こころせよ ありあけのつきも かたふきにけり
源師頼羈旅
8-新古926いそなれぬ心そたへぬたひねするあしのまろやにかかる白浪
いそなれぬ こころそたへぬ たひねする あしのまろやに かかるしらなみ
源師賢羈旅
8-新古927たひねするあしのまろやのさむけれはつま木こりつむ舟いそく也
たひねする あしのまろやの さむけれは つまきこりつむ ふねいそくなり
源経信羈旅
8-新古928みやまちにけさやいてつるたひ人のかさしろたへに雪つもりつつ
みやまちに けさやいてつる たひひとの かさしろたへに ゆきつもりつつ
読人知らず羈旅
8-新古929松かねにお花かりしきよもすからかたしく袖に雪はふりつつ
まつかねに をはなかりしき よもすから かたしくそてに ゆきはふりつつ
藤原顕季羈旅
8-新古930見し人もとふの浦風をとせぬにつれなくすめる秋のよの月
みしひとも とふのうらかせ おとせぬに つれなくすめる あきのよのつき
橘為仲羈旅
8-新古931草枕ほとそへにける宮こいてていくよかたひの月にねぬらん
くさまくら ほとそへにける みやこいてて いくよかたひの つきにねぬらむ
大江嘉言羈旅
8-新古932なつかりのあしのかりねもあはれなりたまえの月のあけかたの空
なつかりの あしのかりねも あはれなり たまえのつきの あけかたのそら
藤原俊成羈旅
8-新古933たちかへり又もきて見ん松嶋やをしまのとまや浪にあらすな
たちかへり またもきてみむ まつしまや をしまのとまや なみにあらすな
読人知らず羈旅
8-新古934こととへよ思おきつのはまちとりなくなくいてしあとの月かけ
こととへよ おもひおきつの はまちとり なくなくいてし あとのつきかけ
藤原定家羈旅
8-新古935野辺のつゆ浦わのなみをかこちてもゆくゑもしらぬ袖の月かけ
のへのつゆ うらわのなみを かこちても ゆくへもしらぬ そてのつきかけ
藤原家隆羈旅
8-新古936もろともにいてしそらこそわすられね宮この山のありあけの月
もろともに いてしそらこそ わすられね みやこのやまの ありあけのつき
九条良経羈旅
8-新古937宮こにて月をあはれとおもひしはかすにもあらぬすさひなりけり
みやこにて つきをあはれと おもひしは かすにもあらぬ すさひなりけり
西行法師羈旅
8-新古938月見はと契をきてしふるさとの人もやこよひ袖ぬらすらん
つきみはと ちきりていてし ふるさとの ひともやこよひ そてぬらすらむ
読人知らず羈旅
8-新古939あけは又こゆへき山のみねなれやそらゆく月のすゑの白雲
あけはまた こゆへきやまの みねなれや そらゆくつきの すゑのしらくも
藤原家隆羈旅
8-新古940ふるさとのけふのおもかけさそひこと月にそちきるさよのなか山
ふるさとの けふのおもかけ さそひこと つきにそちきる さよのなかやま
飛鳥井雅経羈旅
8-新古941わすれしとちきりていてしおもかけは見ゆらん物をふるさとの月
わすれしと ちきりていてし おもかけは みゆらむものを ふるさとのつき
九条良経羈旅
8-新古942あつまちのよはのなかめをかたらなん宮この山にかかる月かけ
あつまちの よはのなかめを かたらなむ みやこのやまに かかるつきかけ
慈円羈旅
8-新古943いくよかは月を哀となかめきてなみにおりしくいせのはまおき
いくよかは つきをあはれと なかめきて なみにをりしく いせのはまをき
越前羈旅
8-新古944しらさりしやそせの浪をわけすきてかたしく物はいせのはまおき
しらさりし やそせのなみを わけすきて かたしくものは いせのはまをき
宜秋門院丹後羈旅
8-新古945風すさみいせのはまおきわけゆけは衣かりかね浪になくなり
かせさむみ いせのはまをき わけゆけは ころもかりかね なみになくなり
大江匡房羈旅
8-新古946いそなれて心もとけぬこもまくらあらくなかけそ水のしら浪
いそなれて こころもとけぬ こもまくら あらくなかけそ みつのしらなみ
藤原定頼羈旅
8-新古947ゆくすゑはいまいくよとかいはしろのをかのかやねにまくらむすはん
ゆくすゑは いまいくよとか いはしろの をかのかやねに まくらむすはむ
式子内親王羈旅
8-新古948松かねのをしまかいそのさよまくらいたくなぬれそあまの袖かは
まつかねの をしまかいその さよまくら いたくなぬれそ あまのそてかは
読人知らず羈旅
8-新古949かくしてもあかせはいくよすきぬらん山ちの苔のつゆのむしろに
かくしても あかせはいくよ すきぬらむ やまちのこけの つゆのむしろに
藤原俊成女羈旅
8-新古950白雲のかかるたひねもならはぬにふかき山路に日はくれにけり
しらくもの かかるたひねも ならはぬに ふかきやまちに ひはくれにけり
権僧正永縁羈旅
8-新古951ゆふ日さすあさちかはらのたひ人はあはれいつくにやとをとるらん
ゆふひさす あさちかはらの たひひとは あはれいくよに やとをかるらむ
源経信羈旅
8-新古952いつくにかこよひはやとをかり衣ひもゆふくれのみねのあらしに
いつくにか こよひはやとを かりころも ひもゆふくれの みねのあらしに
藤原定家羈旅
8-新古953たひ人の袖ふきかへす秋風にゆふひさひしき山のかけはし
たひひとの そてふきかへす あきかせに ゆふひさひしき やまのかけはし
読人知らず羈旅
8-新古954ふるさとにききしあらしの声もにすわすれね人をさやの中山
ふるさとに ききしあらしの こゑもにす わすれぬひとを さやのなかやま
藤原家隆羈旅
8-新古955しら雲のいくへのみねをこえぬらむなれぬ嵐に袖をまかせて
しらくもの いくへのみねを こえぬらむ なれぬあらしに そてをまかせて
飛鳥井雅経羈旅
8-新古956けふは又しらぬのはらにゆきくれぬいつれの山か月はいつらむ
けふはまた しらぬのはらに ゆきくれぬ いつれのやまか つきはいつらむ
源家長羈旅
8-新古957ふるさともあきはゆふへをかたみにてかせのみをくるをののしのはら
ふるさとも あきはゆふへを かたみとて かせのみおくる をののしのはら
藤原俊成女羈旅
8-新古958いたつらにたつやあさまのゆふけふりさととひかぬるをちこちの山
いたつらに たつやあさまの ゆふけふり さととひかぬる をちこちのやま
飛鳥井雅経羈旅
8-新古959みやこをはあまつそらともきかさりきなになかむらん雲のはたてを
みやこをは あまつそらとも きかさりき なになかむらむ くものはたてを
宜秋門院丹後羈旅
8-新古960くさまくらゆふへのそらを人とははなきてもつけよはつかりのこゑ
くさまくら ゆふへのそらを ひととはは なきてもつけよ はつかりのこゑ
藤原秀能羈旅
8-新古961ふしわひぬしののをささのかりまくらはかなの露やひと夜はかりに
ふしわひぬ しののをささの かりまくら はかなのつゆや ひとよはかりに
藤原有家羈旅
8-新古962岩かねのとこに嵐をかたしきてひとりやねなんさよの中山
いはかねの とこにあらしを かたしきて ひとりやねなむ さよのなかやま
読人知らず羈旅
8-新古963たれとなきやとの夕を契にてかはるあるしをいく夜とふらむ
たれとなき やとのゆふへを ちきりにて かはるあるしを いくよとふらむ
藤原業清羈旅
8-新古964まくらとていつれの草にちきるらんゆくをかきりの野辺の夕暮
まくらとて いつれのくさに ちきるらむ ゆくをかきりの のへのゆふくれ
鴨長明羈旅
8-新古965道のへの草のあを葉に駒とめてなを故郷をかへりみるかな
みちのへの くさのあをはに こまとめて なほふるさとを かへりみるかな
藤原成範羈旅
8-新古966はつせやまゆふこえくれて宿とへはみわのひはらに秋かせそ吹
はつせやま ゆふこえくれて やととへは みわのひはらに あきかせそふく
禅性法師羈旅
8-新古967さらぬ(ぬ=てイ)たに秋のたひねはかなしきに松にふくなりとこの山風
さらぬたに あきのたひねは かなしきに まつにふくなり とこのやまかせ
藤原秀能羈旅
8-新古968わすれなむまつとなつけそ中々にいなはの山のみねのあきかせ
わすれなむ まつとなつけそ なかなかに いなはのやまの みねのあきかせ
藤原定家羈旅
8-新古969ちきらねとひと夜はすきぬきよみかた浪にわかるるあかつきのくも
ちきらねと ひとよはすきぬ きよみかた なみにわかるる あかつきのくも
藤原家隆羈旅
8-新古970ふるさとにたのめし人もすゑの松まつらむ袖に浪やこすらむ
ふるさとに たのめしひとも すゑのまつ まつらむそてに なみやこすらむ
読人知らず羈旅
8-新古971日をへつつ都しのふの浦さひて浪よりほかのおとつれもなし
ひをへつつ みやこしのふの うらさひて なみよりほかの おとつれもなし
藤原忠通羈旅
8-新古972さすらふる我身にしあれはきさかたやあまのとま屋にあまたたひねぬ
さすらふる わかみにしあれは きさかたや あまのとまやに あまたたひねぬ
藤原顕仲羈旅
8-新古973難波人あし火たく屋に宿かりてすすろに袖のしほたるるかな
なにはひと あしひたくやに やとかりて すすろにそての しほたるるかな
藤原俊成羈旅
8-新古974又こえむ人もとまらはあはれしれわか折しける峯の椎柴
またこえむ ひともとまらは あはれしれ わかをりしける みねのしひしは
僧正雅縁羈旅
8-新古975道すから富士の煙もわかさりきはるるまもなき空のけしきに
みちすから ふしのけふりも わかさりき はるるまもなき そらのけしきに
源頼朝羈旅
8-新古976世中はうきふししけししの原や旅にしあれはいも夢にみゆ
よのなかは うきふししけし しのはらや たひにしあれは いもゆめにみゆ
読人知らず羈旅
8-新古977おほつかな都にすまぬみやこ鳥こととふ人にいかかこたへし
おほつかな みやこにすまぬ みやことり こととふひとに いかかこたへし
宜秋門院丹後羈旅
8-新古978世中をいとふまてこそかたからめかりのやとりをおしむ君かな
よのなかを いとふまてこそ かたからめ かりのやとりをも をしむきみかな
西行法師羈旅
8-新古979よをいとふ人としきけはかりの宿に心とむなと思ふはかりそ
よをいとふ ひととしきけは かりのやとに こころとむなと おもふはかりそ
遊女妙羈旅
8-新古980袖にふけさそな旅ねの夢も見し思ふ方よりかよふうら風
そてにふけ さそなたひねの ゆめはみし おもふかたより かよふうらかせ
藤原定家羈旅
8-新古981旅ねする夢路はゆるせうつの山関とはきかすもる人もなし
たひねする ゆめちはゆるせ うつのやま せきとはきかす もるひともなし
藤原家隆羈旅
8-新古982都にもいまや衣をうつの山夕霜はらふつたのしたみち
みやこにも いまやころもを うつのやま ゆふしもはらふ つたのしたみち
藤原定家羈旅
8-新古983袖にしも月かかれとは契をかす涙はしるやうつの山こえ
そてにしも つきかかれとは ちきりおかす なみたはしるや うつのやまこえ
鴨長明羈旅
8-新古984立田山秋ゆく人の袖を見よ木木の梢はしくれさりけり
たつたやま あきゆくひとの そてをみよ ききのこすゑは しくれさりけり
慈円羈旅
8-新古985さとりゆくまことのみちに入ぬれは恋しかるへきふるさともなし
さとりゆく まことのみちに いりぬれは こひしかるへき ふるさともなし
読人知らず羈旅
8-新古986故郷にかへらむことはあすか川わたらぬさきに淵瀬たかふな
ふるさとへ かへらむことは あすかかは わたらぬさきに ふちせたかふな
素覚法師羈旅
8-新古987年たけて又こゆへしと思きや命なりけりさやの中山
としたけて またこゆへしと おもひきや いのちなりけり さやのなかやま
西行法師羈旅
8-新古988思ひをく人の心にしたはれて露わくる袖のかへりぬるかな
おもひおく ひとのこころに したはれて つゆわくるそての かへりぬるかな
読人知らず羈旅
8-新古989見るままに山風あらくしくるめり都もいまや夜さむなるらむ
みるままに やまかせあらく しくるめり みやこもいまは よさむなるらむ
太上天皇羈旅
8-新古990よそにのみ見てややみなんかつらきやたかまの山のみねの白雲
よそにのみ みてややみなむ かつらきや たかまのやまの みねのしらくも
読人知らず恋一
8-新古991をとにのみありとききこしみよしのの瀧はけふこそ袖におちけれ
おとにのみ ありとききこし みよしのの たきはけふこそ そてにおちけれ
読人知らず恋一
8-新古992あしひきの山田もるいほにをくか火のしたこかれつつわかこふらくは
あしひきの やまたもるいほに おくかひの したこかれつつ わかこふらくは
柿本人麿恋一
8-新古993いその神ふるのわさ田のほにはいてす心のうちにこひやわたらん
いそのかみ ふるのわさたの ほにはいてす こころのうちに こひやわたらむ
読人知らず恋一
8-新古994かすか野のわかむらさきのすり衣しのふのみたれかきりしられす
かすかのの わかむらさきの すりころも しのふのみたれ かきりしられす
在原業平恋一
8-新古995むらさきの色にこころはあらねともふかくそ人をおもひそめつる
むらさきの いろにこころは あらねとも ふかくそひとを おもひそめつる
延喜恋一
8-新古996みかのはらわきてなかるるいつみかはいつみきとてかこひしかるらん
みかのはら わきてなかるる いつみかは いつみきとてか こひしかるらむ
藤原兼輔恋一
8-新古997そのはらやふせやにおふるははききのありとは見えてあはぬきみかな
そのはらや ふせやにおふる ははききの ありとはみえて あはぬきみかな
坂上是則恋一
8-新古998としをへておもふ心のしるしにそそらもたよりの風はふきける
としをへて おもふこころの しるしにそ そらもたよりの かせはふきける
藤原高光恋一
8-新古999とし月はわか身にそへてすきぬれと思ふこころのゆかすもあるかな
としつきは わかみにそへて すきぬれと おもふこころの ゆかすもあるかな
源高明恋一
8-新古1000もろともにあはれといはす人しれぬとはすかたりをわれのみやせん
もろともに あはれといはすは ひとしれぬ とはすかたりを われのみやせむ
源俊賢母恋一
8-新古1001人つてにしらせてしかなかくれぬのみこもりにのみこひやわたらん
ひとつてに しらせてしかな かくれぬの みこもりにのみ こひやわたらむ
藤原朝忠恋一
8-新古1002みこもりのぬまのいはかきつつめともいかなるひまにぬるるたもとそ
みこもりの ぬまのいはかき つつめとも いかなるひまに ぬるるたもとそ
藤原高遠恋一
8-新古1003から衣袖に人めはつつめともこほるるものは涙なりけり
からころも そてにひとめは つつめとも こほるるものは なみたなりけり
謙徳公恋一
8-新古1004あまつそらとよのあかりに見し人のなをおもかけのしひてこひしき
あまつそら とよのあかりに みしひとの なほおもかけの しひてこひしき
藤原公任恋一
8-新古1005あらたまのとしにまかせて見るよりはわれこそこえめあふさかの関
あらたまの としにまかせて みるよりは われこそこえめ あふさかのせき
謙徳公恋一
8-新古1006わかやとはそこともなにかをしふへきいはてこそ見めたつねけりやと
わかやとは そこともなにか をしふへき いはてこそみめ たつねけりやと
本院侍従恋一
8-新古1007わかおもひそらのけふりとなりぬれは雲井なからもなをたつねてん
わかおもひ そらのけふりと なりぬれは くもゐなからも なほたつねてむ
忠義公恋一
8-新古1008しるしなきけふりを雲にまかへつつ夜をへてふしの山ともえなん
しるしなき けふりをくもに まかへつつ よをへてふしの やまともえなむ
紀貫之恋一
8-新古1009けふりたつおもひならねと人しれすわひてはふしのねをのみそなく
けふりたつ おもひならねと ひとしれす わひてはふしの ねをのみそなく
深養父恋一
8-新古1010風ふけはむろのやしまのゆふけふり心のそらにたちにけるかな
かせふけは むろのやしまの ゆふけふり こころのそらに たちにけるかな
藤原惟成恋一
8-新古1011白雲のみねにしもなとかよふらんおなしみかさの山のふもとを
しらくもの みねにしもなと かよふらむ おなしみかさの やまのふもとを
藤原義孝恋一
8-新古1012けふもまたかくやいふきのさしもくささらはわれのみもえやわたらん
けふもまた かくやいふきの さしもくさ さらはわれのみ もえやわたらむ
和泉式部恋一
8-新古1013つくは山は山しけ山しけけれとおもひいるにはさはらさりけり
つくはやま はやましけやま しけけれと おもひいるには さはらさりけり
源重之恋一
8-新古1014われならぬ人に心をつくは山したにかよはんみちたにやなき
われならぬ ひとにこころを つくはやま したにかよはむ みちたにやなき
大中臣能宣恋一
8-新古1015人しれすおもふ心はあしひきの山した水のわきやかへらん
ひとしれす おもふこころは あしひきの やましたみつの わきやかへらむ
大江匡衡恋一
8-新古1016にほふらんかすみのうちの桜花おもひやりてもおしき春かな
にほふらむ かすみのうちの さくらはな おもひやりても をしきはるかな
清原元輔恋一
8-新古1017いくかへりさきちる花をなかめつつものおもひくらす春にあふらん
いくかへり さきちるはなを なかめつつ ものおもひくらす はるにあふらむ
大中臣能宣恋一
8-新古1018おく山のみねとひこゆるはつかりのはつかにたにも見てややみなん
おくやまの みねとひこゆる はつかりの はつかにたにも みてややみなむ
凡河内躬恒恋一
8-新古1019おほそらをわたる春日のかけなれやよそにのみしてのとけかるらん
おほそらを わたるはるひの かけなれや よそにのみして のとけかるらむ
亭子院恋一
8-新古1020春風のふくにもまさるなみたかなわかみなかみも氷とくらし
はるかせの ふくにもまさる なみたかな わかみなかみに こほりとくらし
謙徳公恋一
8-新古1021水のうへにうきたるとりのあともなくおほつかなさをおもふ比かな
みつのうへに うきたるとりの あともなく おほつかなさを おもふころかな
読人知らず恋一
8-新古1022かたをかの雪まにねさすわか草のほのかに見てし人そこひしき
かたをかの ゆきまにねさす わかくさの ほのかにみてし ひとそこひしき
曽祢好忠恋一
8-新古1023あとをたに草のはつかに見てしかなむすふはかりのほとならすとも
あとをたに くさのはつかに みてしかな むすふはかりの ほとならすとも
和泉式部恋一
8-新古1024しものうへにあとふみつくるはまちとりゆくゑもなしとねをのみそなく
しものうへに あとふみつくる はまちとり ゆくへもなしと ねをのみそなく
藤原興風恋一
8-新古1025秋はきのえたもとををにをくつゆのけさきえぬとも色にいてめや
あきはきの えたもとををに おくつゆの けさきえぬとも いろにいてめや
大伴家持恋一
8-新古1026あき風にみたれてものはおもへともはきのした葉のいろはかはらす
あきかせに みたれてものは おもへとも はきのしたはの いろはかはらす
藤原高光恋一
8-新古1027わかこひもいまはいろにやいてなましのきのしのふももみちしにけり
わかこひも いまはいろにや いてなまし のきのしのふも もみちしにけり
源有仁恋一
8-新古1028いその神ふるの神すきふりぬれといろにはいてすつゆも時雨も
いそのかみ ふるのかみすき ふりぬれと いろにはいてす つゆもしくれも
九条良経恋一
8-新古1029わかこひはまきのした葉にもるしくれぬるとも袖のいろにいてめや
わかこひは まきのしたはに もるしくれ ぬるともそての いろにいてめや
太上天皇恋一
8-新古1030わかこひは松をしくれのそめかねてまくすかはらに風さはくなり
わかこひは まつをしくれの そめかねて まくすかはらに かせさわくなり
慈円恋一
8-新古1031うつせみのなくねやよそにもりのつゆほしあへぬ袖を人のとふまて
うつせみの なくねやよそに もりのつゆ ほしあへぬそてを ひとのとふまて
九条良経恋一
8-新古1032おもひあれは袖にほたるをつつみてもいははや物をとふ人はなし
おもひあれは そてにほたるを つつみても いははやものを とふひとはなし
寂蓮法師恋一
8-新古1033思つつへにけるとしのかひやなきたたあらましのゆふくれの空
おもひつつ へにけるとしの かひやなき たたあらましの ゆふくれのそら
太上天皇恋一
8-新古1034たまのをよたえなはたえねなからへはしのふることのよはりもそする
たまのをよ たえなはたえね なからへは しのふることの よわりもそする
式子内親王恋一
8-新古1035わすれてはうちなけかるるゆふへかなわれのみしりてすくる月日を
わすれては うちなけかるる ゆふへかな われのみしりて すくるつきひを
読人知らず恋一
8-新古1036わかこひはしる人もなしせくとこの涙もらすなつけのを枕
わかこひは しるひともなし せくとこの なみたもらすな つけのをまくら
読人知らず恋一
8-新古1037しのふるに心のひまはなけれともなをもる物はなみたなりけり
しのふるに こころのひまは なけれとも なほもるものは なみたなりけり
藤原忠通恋一
8-新古1038つらけれとうらみんとはたおもほえすなをゆくさきをたのむ心に
つらけれと うらみむとはた おもほえす なほゆくさきを たのむこころに
謙徳公恋一
8-新古1039雨もこそはたのまはもらめたのますはおもはぬ人と見てをやみなん
あめこそは たのまはもらめ たのますは おもはぬひとと みてをやみなむ
読人知らず恋一
8-新古1040風ふけはとはになみこすいそなれやわか衣手のかはく時なき
かせふけは とはになみこす いそなれや わかころもての かわくときなき
紀貫之恋一
8-新古1041すまのあまのなみかけ衣よそにのみきくはわか身になりにけるかな
すまのあまの なみかけころも よそにのみ きくはわかみに なりにけるかな
藤原道信恋一
8-新古1042ぬまことに袖そぬれぬるあやめくさ心ににたるねをもとむとて
ぬまことに そてそぬれぬる あやめくさ こころににたる ねをもとむとて
三条院女蔵人左近恋一
8-新古1043ほとときすいつかとまちしあやめくさけふはいかなるねにかなくへき
ほとときす いつかとまちし あやめくさ けふはいかなる ねにかなくへき
藤原公任恋一
8-新古1044さみたれはそらおほれするほとときすときになくねは人もとかめす
さみたれは そらおほれする ほとときす ときになくねは ひともとかめす
馬内侍恋一
8-新古1045ほとときす声をきけと花のえにまたふみなれぬ物をこそおもへ
ほとときす こゑをはきけと はなのえに またふみなれぬ ものをこそおもへ
藤原道長恋一
8-新古1046ほとときすしのふるものをかしは木のもりても声のきこえける哉
ほとときす しのふるものを かしはきの もりてもこゑの きこえけるかな
馬内侍恋一
8-新古1047こころのみそらになりつつほとときす人たのめなるねこそなかるれ
こころのみ そらになりつつ ほとときす ひとたのめなる ねこそなかるれ
読人知らず恋一
8-新古1048みくまのの浦よりをちにこく舟のわれをはよそにへたてつるかな
みくまのの うらよりをちに こくふねの われをはよそに へたてつるかな
伊勢恋一
8-新古1049なにはかたみしかきあしのふしのまもあはてこのよをすくしてよとや
なにはかた みしかきあしの ふしのまも あはてこのよを すくしてよとや
読人知らず恋一
8-新古1050みかりするかりはのをののならしはのなれはまさらてこひそまされる
みかりする かりはのをのの ならしはの なれはまさらて こひそまされる
柿本人麿恋一
8-新古1051うとはまのうとくのみやはよをはへんなみのよるよるあひ見てしかな
うとはまの うとくのみやは よをはへむ なみのよるよる あひみてしかな
読人知らず恋一
8-新古1052あつまちのみちのはてなるひたちおひのかことはかりもあはんとそ思
あつまちの みちのはてなる ひたちおひの かことはかりも あはむとそおもふ
読人知らず恋一
8-新古1053にこりえのすまんことこそかたからめいかてほのかにかけをみせまし
にこりえの すまむことこそ かたからめ いかてほのかに かけをみせまし
読人知らず恋一
8-新古1054しくれふる冬のこの葉のかはかすそものおもふ人の袖はありける
しくれふる ふゆのこのはの かわかすそ ものおもふひとの そてはありける
読人知らず恋一
8-新古1055ありとのみをとにききつつをとは河わたらは袖にかけもみえなん
ありとのみ おとにききつつ おとはかは わたらはそてに かけもみえなむ
読人知らず恋一
8-新古1056水くきのをかの木の葉をふきかへしたれかは君をこひんと思し
みつくきの をかのこのはを ふきかへし たれかはきみを こひむとおもひし
読人知らず恋一
8-新古1057わか袖にあとふみつけよはまちとりあふことかたし見てもしのはん
わかそてに あとふみつけよ はまちとり あふことかたし みてもしのはむ
読人知らず恋一
8-新古1058冬のよのなみたにこほるわか袖の心とけすも見ゆるきみかな
ふゆのよの なみたにこほる わかそての こころとけすも みゆるきみかな
藤原兼輔恋一
8-新古1059しも氷心もとけぬ冬のいけによふけてそなくをしの一声
しもこほり こころもとけぬ ふゆのいけに よふけてそなく をしのひとこゑ
藤原元真恋一
8-新古1060なみたかは身もうくはかりなかるれときえぬは人の思なりけり
なみたかは みもうくはかり なかるれと きえぬはひとの おもひなりけり
読人知らず恋一
8-新古1061いかにせんくめちのはしのなかそらにわたしもはてぬ身とやなりなん
いかにせむ くめちのはしの なかそらに わたしもはてぬ みとやなりなむ
藤原実方恋一
8-新古1062たれそこのみわのひはらもしらなくに心のすきのわれをたつぬる
たれそこの みわのひはらも しらなくに こころのすきの われをたつぬる
読人知らず恋一
8-新古1063わかこひはいはぬはかりそなにはなるあしのしのやのしたにこそたけ
わかこひは いはぬはかりそ なにはなる あしのしのやの したにこそたけ
小弁恋一
8-新古1064わかこひはありそのうみの風をいたみしきりによするなみのまもなし
わかこひは ありそのうみの かせをいたみ しきりによする なみのまもなし
伊勢恋一
8-新古1065すまのうらにあまのこりつむもしほ木のからくもしたにもえわたる哉
すまのうらに あまのこりつむ もしほきの からくもしたに もえわたるかな
藤原清正恋一
8-新古1066あるかひもなきさによする白浪のまなくものおもふわか身なりけり
あるかひも なきさによする しらなみの まなくものおもふ わかみなりけり
源景明恋一
8-新古1067あしひきの山したたきついはなみの心くたけて人そこひしき
あしひきの やましたたきつ いはなみの こころくたけて ひとそこひしき
紀貫之恋一
8-新古1068あしひきのやましたしけき夏草のふかくも君をおもふ比かな
あしひきの やましたしけき なつくさの ふかくもきみを おもふころかな
読人知らず恋一
8-新古1069をしかふす夏野のくさのみちをなみしけきこひちにまとふ比かな
をしかふす なつののくさの みちをなみ しけきこひちに まとふころかな
坂上是則恋一
8-新古1070かやり火のさよふけかたのしたこかれくるしやわか身人しれすのみ
かやりひの さよふけかたの したこかれ くるしやわかみ ひとしれすのみ
曽祢好忠恋一
8-新古1071ゆらのとをわたるふな人かちをたえゆくゑもしらぬ恋のみちかも
ゆらのとを わたるふなひと かちをたえ ゆくへもしらぬ こひのみちかも
読人知らず恋一
8-新古1072おひ風にやへのしほちをゆくふねのほのかにたにもあひみてしかな
おひかせに やへのしほちを ゆくふねの ほのかにたにも あひみてしかな
源師時恋一
8-新古1073かちをたえゆらのみなとによる舟のたよりもしらぬおきつしほ風
かちをたえ ゆらのみなとに よるふねの たよりもしらぬ おきつしほかせ
九条良経恋一
8-新古1074しるへせよあとなきなみにこく舟のゆくゑもしらぬやへのしほ風
しるへせよ あとなきなみに こくふねの ゆくへもしらぬ やへのしほかせ
式子内親王恋一
8-新古1075きのくにやゆらのみなとにひろふてふたまさかにたにあひみてしかな
きのくにや ゆらのみなとに ひろふてふ たまさかにたに あひみてしかな
藤原長方恋一
8-新古1076つれもなき人の心のうきにはふあしのしたねのねをこそはなけ
つれもなき ひとのこころの うきにはふ あしのしたねの ねをこそはなけ
源師俊恋一
8-新古1077なには人いかなるえにかくちはてんあふことなみに身をつくしつつ
なにはひと いかなるえにか くちはてむ あふことなみに みをつくしつつ
九条良経恋一
8-新古1078あまのかるみるめをなみにまかへつつなくさのはまをたつねわひぬる
あまのかる みるめをなみに まかへつつ なくさのはまを たつねわひぬる
藤原俊成恋一
8-新古1079あふまてのみるめかるへきかたそなきまたなみなれぬいそのあま人
あふまての みるめかるへき かたそなき またなみなれぬ いそのあまひと
相模恋一
8-新古1080みるめかるかたやいつくそさほさしてわれにをしへよあまのつり舟
みるめかる かたやいつくそ さをさして われにをしへよ あまのつりふね
在原業平恋一
8-新古1081したもえにおもひきえなんけふりたにあとなき雲のはてそかなしき
したもえに おもひきえなむ けふりたに あとなきくもの はてそかなしき
藤原俊成女恋二
8-新古1082なひかしなあまのもしほひたきそめてけふりはそらにくゆりわふとも
なひかしな あまのもしほひ たきそめて けふりはそらに くゆりわふとも
藤原定家恋二
8-新古1083こひをのみすまのうら人もしほたれほしあへぬ袖のはてをしらはや
こひをのみ すまのうらひと もしほたれ ほしあへぬそての はてをしらはや
九条良経恋二
8-新古1084みるめこそいりぬるいその草ならめ袖さへなみのしたにくちぬる
みるめこそ いりぬるいその くさならめ そてさへなみの したにくちぬる
二条院讃岐恋二
8-新古1085君こふとなるみのうらのはまひさきしほれてのみもとしをふるかな
きみこふと なるみのうらの はまひさき しをれてのみも としをふるかな
源俊頼恋二
8-新古1086しるらめや木の葉ふりしくたに水のいはまにもらすしたの心を
しるらめや このはふりしく たにみつの いはまにもらす したのこころを
前太政大臣恋二
8-新古1087もらすなよ雲ゐるみねのはつ時雨この葉はしたにいろかはるとも
もらすなよ くもゐるみねの はつしくれ このははしたに いろかはるとも
九条良経恋二
8-新古1088かくとたにおもふ心をいはせ山したゆく水の草かくれつつ
かくとたに おもふこころを いはせやま したゆくみつの くさかくれつつ
徳大寺実定恋二
8-新古1089もらさはやおもふ心をさてのみはえそ山しろの井てのしからみ
もらさはや おもふこころを さてのみは えそやましろの ゐてのしからみ
殷富門院大輔恋二
8-新古1090こひしともいははこころのゆくへきにくるしや人めつつむおもひは
こひしとも いははこころの ゆくへきに くるしやひとめ つつむおもひは
近衛院恋二
8-新古1091人しれぬこひにわか身はしつめともみるめにうくは涙なりけり
ひとしれぬ こひにわかみは しつめとも みるめにうくは なみたなりけり
源有仁恋二
8-新古1092ものおもふといはぬはかりはしのふともいかかはすへき袖のしつくを
ものおもふと いはぬはかりは しのふとも いかかはすへき そてのしつくを
源顕仲恋二
8-新古1093人しれすくるしき物はしのふ山したはふくすのうらみなりけり
ひとしれす くるしきものは しのふやま したはふくすの うらみなりけり
藤原清輔恋二
8-新古1094きえねたたしのふの山のみねの雲かかる心のあともなきまて
きえねたた しのふのやまの みねのくも かかるこころの あともなきまて
飛鳥井雅経恋二
8-新古1095かきりあれはしのふの山のふもとにもおち葉かうへのつゆそいろつく
かきりあれは しのふのやまの ふもとにも おちはかうへの つゆそいろつく
久我通光恋二
8-新古1096うちはへてくるしきものは人めのみしのふの浦のあまのたくなは
うちはへて くるしきものは ひとめのみ しのふのうらの あまのたくなは
二条院讃岐恋二
8-新古1097しのはしよいしまつたひのたにかはもせをせくにこそ水まさりけれ
しのはしよ いしまつたひの たにかはも せをせくにこそ みつまさりけれ
徳大寺公継恋二
8-新古1098人もまたふみみぬ山のいはかくれなかるる水を袖にせくかな
ひともまた ふみみぬやまの いはかくれ なかるるみつを そてにせくかな
信濃恋二
8-新古1099はるかなるいはのはさまにひとりゐて人めおもはて物おもははや
はるかなる いはのはさまに ひとりゐて ひとめおもはて ものおもははや
西行法師恋二
8-新古1100かすならぬ心のとかになしはてししらせてこそは身をもうらみめ
かすならぬ こころのとかに なしはてし しらせてこそは みをもうらみめ
読人知らず恋二
8-新古1101草ふかきなつ野わけゆくさをしかのねをこそたてねつゆそこほるる
くさふかき なつのわけゆく さをしかの ねをこそたてね つゆそこほるる
九条良経恋二
8-新古1102のちのよをなけく涙といひなしてしほりやせましすみそめの袖
のちのよを なけくなみたと いひなして しほりやせまし すみそめのそて
藤原重家恋二
8-新古1103たまつさのかよふはかりになくさめて後のよまてのうらみのこすな
たまつさの かよふはかりに なくさめて のちのよまての うらみのこすな
読人知らず恋二
8-新古1104ためしあれはなかめはそれとしりなからおほつかなきは心なりけり
ためしあれは なかめはそれと しりなから おほつかなきは こころなりけり
読人知らず恋二
8-新古1105いはぬより心やゆきてしるへするなかむるかたを人のとふまて
いはぬより こころやゆきて しるへする なかむるかたを ひとのとふまて
藤原隆房恋二
8-新古1106なかめわひそれとはなしに物そおもふ雲のはたての夕くれの空
なかめわひ それとはなしに ものそおもふ くものはたての ゆふくれのそら
久我通光恋二
8-新古1107おもひあまりそなたのそらをなかむれはかすみをわけて春雨そふる
おもひあまり そなたのそらを なかむれは かすみをわけて はるさめそふる
藤原俊成恋二
8-新古1108山かつのあさのさ衣おさをあらみあはて月日やすきふけるいほ
やまかつの あさのさころも をさをあらみ あはてつきひや すきふけるいほ
九条良経恋二
8-新古1109おもへともいはて月日はすきのかとさすかにいかかしのひはつへき
おもへとも いはてつきひは すきのかと さすかにいかか しのひはつへき
藤原忠定恋二
8-新古1110あふことはかた野の里のささのいほしのに露ちるよはのとこかな
あふことは かたののさとの ささのいほ しのにつゆちる よはのとこかな
藤原俊成恋二
8-新古1111ちらすなよしのの葉くさのかりにてもつゆかかるへき袖のうへかは
ちらすなよ しののはくさの かりにても つゆかるるへき そてのうへかは
読人知らず恋二
8-新古1112白玉かつゆかととはん人もかなものおもふ袖をさしてこたへん
しらたまか つゆかととはむ ひともかな ものおもふそてを さしてこたへむ
藤原元真恋二
8-新古1113いつまてもいのちもしらぬ世中につらきなけきのやますもあるかな
いつまての いのちもしらぬ よのなかに つらきなけきの やますもあるかな
藤原義孝恋二
8-新古1114わかこひはちきのかたそきかたくのみゆきあはてとしのつもりぬるかな
わかこひは ちきのかたそき かたくのみ ゆきあはてとしの つもりぬるかな
徳大寺公能恋二
8-新古1115いつとなくしほやくあまのとまひさしひさしくなりぬあはぬ思は
いつとなく しほやくあまの とまひさし ひさしくなりぬ あはぬおもひは
藤原基輔恋二
8-新古1116もしほやくあまのいそやのゆふけふりたつなもくるし思たえなて
もしほやく あまのいそやの ゆふけふり たつなもくるし おもひたえなて
藤原秀能恋二
8-新古1117すまのあまの袖にふきこすしほ風のなるとはすれとてにもたまらす
すまのあまの そてにふきこす しほかせの なるとはすれと てにもたまらす
藤原定家恋二
8-新古1118ありとてもあはぬためしのなとりかはくちたにはてねせせのむもれ木
ありとても あはぬためしの なとりかは くちたにはてね せせのうもれき
寂蓮法師恋二
8-新古1119なけかすよいまはたおなしなとりかはせせのむもれ木くちはてぬとも
なけかすよ いまはたおなし なとりかは せせのうもれき くちはてぬとも
九条良経恋二
8-新古1120なみたかはたきつ心のはやきせをしからみかけてせく袖そなき
なみたかは たきつこころの はやきせを しからみかけて せくそてそなき
二条院讃岐恋二
8-新古1121よそなからあやしとたにもおもへかしこひせぬ人の袖のいろかは
よそなから あやしとたにも おもへかし こひせぬひとの そてのいろかは
高松院右衛門佐恋二
8-新古1122しのひあまりおつる涙をせきかへしをさふる袖ようきなもらすな
しのひあまり おつるなみたを せきかへし おさふるそてよ うきなもらすな
読人知らず恋二
8-新古1123くれなゐに涙のいろのなりゆくをいくしほまてと君にとははや
くれなゐに なみたのいろの なりゆくを いくしほまてと われにとははや
道因法師恋二
8-新古1124夢にても見ゆらんものをなけきつつうちぬるよゐの袖のけしきは
ゆめにても みゆらむものを なけきつつ うちぬるよひの そてのけしきは
式子内親王恋二
8-新古1125さめてのち夢なりけりとおもふにもあふはなこりのをしくやはあらぬ
さめてのち ゆめなりけりと おもふにも あふはなこりの をしくやはあらぬ
徳大寺実定恋二
8-新古1126身にそへるそのおもかけのきえななん夢なりけりとわするはかりに
みにそへる そのおもかけも きえななむ ゆめなりけりと わするはかりに
九条良経恋二
8-新古1127夢のうちにあふとみえつるねさめこそつれなきよりも袖はぬれけれ
ゆめのうちに あふとみえつる ねさめこそ つれなきよりも そてはぬれけれ
藤原実宗恋二
8-新古1128たのめをきしあさちかつゆに秋かけてこの葉ふりしくやとのかよひち
たのめおきし あさちかつゆに あきかけて このはふりしく やとのかよひち
藤原忠良恋二
8-新古1129しのひあまりあまのかはせにことよせんせめては秋をわすれたにすな
しのひあまり あまのかはせに ことよせむ せめてはあきを わすれたにすな
藤原経家恋二
8-新古1130たのめてもはるけかるへきかへる山いくへの雲のうちにまつらん
たのめても はるけかるへき かへるやま いくへのくもの したにまつらむ
賀茂重政恋二
8-新古1131あふことはいつといふきのみねにおふるさしもたえせぬ思なりけり
あふことは いつといふきの みねにおふる さしもたえせぬ おもひなりけり
藤原家房恋二
8-新古1132ふしのねのけふりもなをそたちのほるうへなきものはおもひなりけり
ふしのねの けふりもなほそ たちのほる うへなきものは おもひなりけり
藤原家隆恋二
8-新古1133なき名のみたつたの山にたつ雲のゆくゑもしらぬなかめをそする
なきなのみ たつたのやまに たつくもの ゆくへもしらぬ なかめをそする
藤原俊忠恋二
8-新古1134あふことのむなしきそらのうき雲は身をしる雨のたよりなりけり
あふことの むなしきそらの うきくもは みをしるあめの たよりなりけり
惟明親王恋二
8-新古1135わかこひはあふをかきりのたのみたにゆくゑもしらぬそらのうき雲
わかこひは あふをかきりの たのみたに ゆくへもしらぬ そらのうきくも
堀川通具恋二
8-新古1136おもかけのかすめる月そやとりける春やむかしの袖のなみたに
おもかけの かすめるつきそ やとりける はるやむかしの そてのなみたに
藤原俊成女恋二
8-新古1137とこのしもまくらの氷きえわひぬむすひもをかぬ人の契に
とこのしも まくらのこほり きえわひぬ むすひもおかぬ ひとのちきりに
藤原定家恋二
8-新古1138つれなさのたくひまてやはつらからぬ月をもめてしありあけの空
つれなさの たくひまてやは つらからぬ つきをもめてし ありあけのそら
藤原有家恋二
8-新古1139袖のうへにたれゆへ月はやとるそとよそになしても人のとへかし
そてのうへに たれゆゑつきは やとるそと よそになしても ひとのとへかし
藤原秀能恋二
8-新古1140夏引のてひきのいとのとしへてもたえぬ思にむすほほれつつ
なつひきの てひきのいとの としへても たえぬおもひに むすほほれつつ
越前恋二
8-新古1141いく夜われ浪にしほれてきふねかはそてに玉ちる物おもふらん
いくよわれ なみにしをれて きふねかは そてにたまちる ものおもふらむ
九条良経恋二
8-新古1142としもへぬいのる契ははつせ山おのへのかねのよその夕くれ
としもへぬ いのるちきりは はつせやま をのへのかねの よそのゆふくれ
藤原定家恋二
8-新古1143うき身をはわれたにいとふいとへたたそをたにおなし心とおもはん
うきみをは われたにいとふ いとへたた そをたにおなし こころとおもはむ
藤原俊成恋二
8-新古1144こひしなんおなしうき名をいかにしてあふにかへつと人にいはれん
こひしなむ おなしうきなを いかにして あふにかへつと ひとにいはれむ
藤原長方恋二
8-新古1145あすしらぬいのちをそおもふをのつからあらはあふよをまつにつけても
あすしらぬ いのちをそおもふ おのつから あらはあふよを まつにつけても
殷富門院大輔恋二
8-新古1146つれもなき人の心はうつせみのむなしきこひに身をやかへてん
つれもなき ひとのこころは うつせみの むなしきこひに みをやかへてむ
八条院高倉恋二
8-新古1147なにとなくさすかにおしきいのちかなありへは人や思しるとて
なにとなく さすかにをしき いのちかな ありへはひとや おもひしるとて
西行法師恋二
8-新古1148おもひしる人ありけりのよなりせはつきせす身をはうらみさらまし
おもひしる ひとありあけの よなりせは つきせぬみをは うらみさらまし
読人知らず恋二
8-新古1149わすれしのゆくすゑまてはかたけれはけふをかきりのいのちともかな
わすれしの ゆくすゑまては かたけれは けふをかきりの いのちともかな
儀同三司母恋三
8-新古1150かきりなくむすひをきつる草枕いつこのたひをおもひわすれん
かきりなく むすひおきつる くさまくら いつこのたひを おもひわすれむ
謙徳公恋三
8-新古1151おもふにはしのふることそまけにけるあふにしかへはさもあらはあれ
おもふには しのふることそ まけにける あふにしかへは さもあらはあれ
在原業平恋三
8-新古1152昨日まてあふにしかへはと思しをけふはいのちのおしくもあるかな
きのふまて あふにしかへはと おもひしを けふはいのちの をしくもあるかな
廉義公恋三
8-新古1153あふことをけふまつかえのたむけ草いくよしほるるそてとかはしる
あふことを けふまつかえの たむけくさ いくよしをるる そてとかはしる
式子内親王恋三
8-新古1154こひしさにけふそたつぬるおく山の日かけのつゆに袖はぬれつつ
こひしさに けふそたつぬる おくやまの ひかけのつゆに そてはぬれつつ
源正清恋三
8-新古1155あふまてのいのちもかなとおもひしはくやしかりけるわか心かな
あすまての いのちもかなと おもひしは くやしかりける わかこころかな
西行法師恋三
8-新古1156人心うす花そめのかり衣さてたにあらて(て=はイ)色やかはらん
ひとこころ うすはなそめの かりころも さてたにあらて いろやかはらむ
三条院女蔵人左近恋三
8-新古1157あひみてもかひなかりけりうはたまのはかなき夢におとるうつつは
あひみても かひなかりけり うはたまの はかなきゆめに おとるうつつは
藤原興風恋三
8-新古1158なかなかのものおもひそめてねぬるよははかなき夢もえやはみえける
なかなかに ものおもひそめて ねぬるよは はかなきゆめも えやはみえける
藤原実方恋三
8-新古1159夢とても人にかたるなしるといへはたまくらならぬ枕たにせす
ゆめとても ひとにかたるな しるといへは たまくらならぬ まくらたにせす
伊勢恋三
8-新古1160まくらたにしらねはいはし見しままに君かたるなよ春のよの夢
まくらたに しらねはいはし みしままに きみかたるなよ はるのよのゆめ
和泉式部恋三
8-新古1161わすれても人にかたるなうたたねのゆめみてのちもなかからしよを
わすれても ひとにかたるな うたたねの ゆめみてのちも なからへしよを
馬内侍恋三
8-新古1162つらかりしおほくのとしはわすられてひとよの夢をあはれとそみし
つらかりし おほくのとしは わすられて ひとよのゆめを あはれとそみし
藤原範永恋三
8-新古1163けさよりはいととおもひをたきましてなけきこりつむあふさかの山
けさよりは いととおもひを たきまして なけきこりつむ あふさかのやま
高倉院恋三
8-新古1164あしのやのしつはたおひのかたむすひ心やすくもうちとくるかな
あしのやの しつはたおひの かたむすひ こころやすくも うちとくるかな
源俊頼恋三
8-新古1165かりそめにふしみののへの草枕つゆかかりきと人にかたるな
かりそめに ふしみののへの くさまくら つゆけかりきと ひとにかたるな
読人知らず恋三
8-新古1166いかにせんくすのうらふく秋風にした葉のつゆのかくれなき身を
いかにせむ くすのうらふく あきかせに したはのつゆの かくれなきみを
相模恋三
8-新古1167あけかたきふたみのうらによるなみのそてのみぬれておきつしま人
あけかたき ふたみのうらに よるなみの そてのみぬれて おきつしまひと
藤原実方恋三
8-新古1168あふことのあけぬよなからあけぬれはわれこそかへれ心やはゆく
あふことの あけぬよなから あけぬれは われこそかへれ こころやはゆく
伊勢恋三
8-新古1169秋のよのありあけの月のいるまてにやすらひかねてかへりにしかな
あきのよの ありあけのつきの いるまてに やすらひかねて かへりにしかな
大宰帥敦道親王恋三
8-新古1170心にもあらぬわか身のゆきかへりみちのそらにてきえぬへき哉
こころにも あらぬわかみの ゆきかへり みちのそらにて きえぬへきかな
藤原道信恋三
8-新古1171はかなくもあけにけるかなあさつゆのおきての後そきえまさりける
はかなくも あけにけるかな あさつゆの おきてののちそ きえまさりける
延喜恋三
8-新古1172あさつゆのおきつるそらもおもほえすきえかへりつる心まとひに
あさつゆの おきつるそらも おもほえす きえかへりつる こころまとひに
更衣源周子恋三
8-新古1173をきそふるつゆやいかなるつゆならんいまはきえねとおもふわか身を
おきそふる つゆやいかなる つゆならむ いまはきえねと おもふわかみを
円融院恋三
8-新古1174おもひいてていまはけぬへしよもすからおきうかりつるきくのうへの露
おもひいてて いまはけぬへし よもすから おきうかりつる きくのうへのつゆ
謙徳公恋三
8-新古1175うはたまのよるの衣をたちなからかへる物とはいまそしりぬる
うはたまの よるのころもを たちなから かへるものとは いまそしりぬる
清慎公恋三
8-新古1176みしかよののこりすくなくふけゆけはかねて物うきあかつきの空
みしかよの のこりすくなく ふけゆけは かねてものうき あかつきのそら
藤原清正恋三
8-新古1177あくといへはしつ心なきはるのよの夢とや君をよるのみはみん
あくといへは しつこころなき はるのよの ゆめとやきみを よるのみはみむ
源清蔭恋三
8-新古1178けさはしもなけきもすらんいたつらに春のよひとよ夢をたにみて
けさはしも なけきもすらむ いたつらに はるのよひとよ ゆめをたにみて
和泉式部恋三
8-新古1179心からしはしとつつむものからにしきのはねかきつらきけさかな
こころから しはしとつつむ ものからに しきのはねかき つらきけさかな
赤染衛門恋三
8-新古1180わひつつも君か心にかなふとてけさもたもとをほしそわつらふ
わひつつも きみかこころに かなふとて けさもたもとを ほしそわつらふ
九条兼実恋三
8-新古1181たまくらにかせるたもとのつゆけきはあけぬとつくる涙なりけり
たまくらに かせるたもとの つゆけきは あけぬとつくる なみたなりけり
亭子院恋三
8-新古1182しはしまてまた夜はふかしなか月のありあけの月は人まとふ也
しはしまて またよはふかし なかつきの ありあけのつきは ひとまとふなり
藤原惟成恋三
8-新古1183おきて見は袖のみぬれていととしく草葉の玉のかすやまさらん
おきてみは そてのみぬれて いととしく くさはのたまの かすやまさらむ
藤原実方恋三
8-新古1184あけぬれとまたきぬきぬになりやらて人の袖をもぬらしつるかな
あけぬれと またきぬきぬに なりやらて ひとのそてをも ぬらしつるかな
二条院讃岐恋三
8-新古1185おもかけのわするましきわかれかななこりを人の月にととめて
おもかけの わすらるましき わかれかな なこりをひとの つきにととめて
西行法師恋三
8-新古1186またもこん秋をたのむのかりたにもなきてそかへる春のあけほの
またもこむ あきをたのむの かりたにも なきてそかへる はるのあけほの
九条良経恋三
8-新古1187たれゆきて君につけましみちしはのつゆもろともにきえなましかは
たれゆきて きみにつけまし みちしはの つゆもろともに きえなましかは
賀茂成助恋三
8-新古1188きえかへりあるかなきかのわか身かなうらみてかへるみちしはのつゆ
きえかへり あるかなきかの わかみかな うらみてかへる みちしはのつゆ
藤原朝光恋三
8-新古1189あさほらけおきつるしものきえかへりくれまつほとの袖をみせはや
あさほらけ おきつるしもの きえかへり くれまつほとの そてをみせはや
華山院恋三
8-新古1190庭におふるゆふかけ草のしたつゆやくれをまつまの涙なるらん
にはにおふる ゆふかけくさの したつゆや くれをまつまの なみたなるらむ
藤原道経恋三
8-新古1191まつよゐにふけゆくかねのこゑきけはあかぬわかれのとりは物かは
まつよひの ふけゆくかねの こゑきけは あかぬわかれの とりはものかは
小侍従恋三
8-新古1192これも又なかきわかれになりやせんくれをまつへきいのちならねは
これもまた なかきわかれに なりやせむ くれをまつへき いのちならねは
藤原知家恋三
8-新古1193ありあけはおもひいてあれやよこ雲のたたよはれつるしののめのそら
ありあけは おもひいてあれや よこくもの たたよはれつる しののめのそら
西行法師恋三
8-新古1194大井かは井せきの水のわくらはにけふはたのめしくれにやはあらぬ
おほゐかは ゐせきのみつの わくらはに けふはたのめし くれにやはあらぬ
清原元輔恋三
8-新古1195ゆふくれにいのちかけたるかけろふのありやあらすやとふもはかなし
ゆふくれに いのちかけたる かけろふの ありやあらすや とふもはかなし
読人知らず恋三
8-新古1196あちきなくつらきあらしの声もうしなとゆふくれにまちならひけん
あちきなく つらきあらしの こゑもうし なとゆふくれに まちならひけむ
藤原定家恋三
8-新古1197たのめすは人はまつちの山なりとねなまし物をいさよひの月
たのめすは ひとをまつちの やまなりと ねなましものを いさよひのつき
太上天皇恋三
8-新古1198なにゆへと思もいれぬゆふへたにまちいてし物を山のはの月
なにゆゑと おもひもいれぬ ゆふへたに まちいてしものを やまのはのつき
九条良経恋三
8-新古1199きくやいかにうはのそらなる風たにもまつにおとするならひありとは
きくやいかに うはのそらなる かせたにも まつにおとする ならひありとは
宮内卿恋三
8-新古1200人はこて風のけしきもふけぬるにあはれに雁のをとつれてゆく
ひとはこて かせのけしきも ふけぬるに あはれにかりの おとつれてゆく
西行法師恋三
8-新古1201いかかふく身にしむ色のかはるかなたのむるくれの松風の声
いかかふく みにしむいろの かはるかな たのむるくれの まつかせのこゑ
八条院高倉恋三
8-新古1202たのめをく人もなからの山にたにさよふけぬれは松風の声
たのめおく ひともなからの やまにたに さよふけぬれは まつかせのこゑ
鴨長明恋三
8-新古1203いまこんとたのめしことをわすれすはこのゆふくれの月やまつらん
いまこむと たのめしことを わすれすは このゆふくれの つきやまつらむ
藤原秀能恋三
8-新古1204君まつとねやへもいらぬまきのとにいたくなふけそ山の葉の月
きみまつと ねやへもいらぬ まきのとに いたくなふけそ やまのはのつき
式子内親王恋三
8-新古1205たのめぬに君くやとまつよゐのまのふけゆかてたたあけなましかは
たのめぬに きみくやとまつ よひのまの ふけゆかてたた あけなましかは
西行法師恋三
8-新古1206かへるさの物とや人のなかむらんまつよなからのありあけの月
かへるさの ものとやひとの なかむらむ まつよなからの ありあけのつき
藤原定家恋三
8-新古1207きみこんといひしよことにすきぬれはたのまぬもののこひつつそふる
きみこむと いひしよことに すきぬれは たのまぬものの こひつつそふる
読人知らず恋三
8-新古1208衣手に山おろしふきてさむき夜を君きまさすはひとりかもねん
ころもてに やまおろしふきて さむきよを きみきまさすは ひとりかもねむ
柿本人麿恋三
8-新古1209あふことはこれやかきりのたひならん草の枕も霜かれにけり
あふことは これやかきりの たひならむ くさのまくらも しもかれにけり
馬内侍恋三
8-新古1210なれゆくはうき世なれはやすまのあまのしほやき衣まとをなるらん
なれゆくは うきよなれはや すまのあまの しほやきころも まとほなるらむ
女御徽子女王恋三
8-新古1211きりふかき秋の野中のわすれ水たえまかちなる比にもあるかな
きりふかき あきののなかの わすれみつ たえまかちなる ころにもあるかな
坂上是則恋三
8-新古1212世のつねの秋風ならはおきの葉にそよとはかりのをとはしてまし
よのつねの あきかせならは をきのはに そよとはかりの おとはしてまし
安法々師女恋三
8-新古1213あしひきの山のかけ草むすひをきてこひやわたらんあふよしをなみ
あしひきの やまのかけくさ むすひおきて こひやわたらむ あふよしをなみ
大伴家持恋三
8-新古1214あつまちにかるてふかやのみたれつつつかのまもなくこひやわたらん
あつまちに かるてふかやの みたれつつ つかのまもなく こひやわたらむ
延喜恋三
8-新古1215むすひをきしたもとたに見ぬ花すすきかるともかれしきみしとかすは
むすひおきし たもとたにみぬ はなすすき かるともかれし きみしとかすは
藤原敦忠恋三
8-新古1216霜のうへにけさふる雪のさむけれはかさねて人をつらしとそ思
しものうへに けさふるゆきの さむけれは かさねてひとを つらしとそおもふ
源重之恋三
8-新古1217ひとりふすあれたるやとのとこのうへにあはれいくよのねさめしつらん
ひとりふす あれたるやとの とこのうへに あはれいくよの ねさめしつらむ
安法々師女恋三
8-新古1218やましろのよとのわかこもかりにきて袖ぬれぬとはかこたさらなん
やましろの よとのわかこも かりにきて そてぬれぬとは かこたさらなむ
源重之恋三
8-新古1219かけておもふ人もなけれとゆふされはおもかけたえぬ玉かつらかな
かけておもふ ひともなけれと ゆふされは おもかけたえぬ たまかつらかな
紀貫之恋三
8-新古1220いつはりをたたすのもりのゆふたすきかけつつちかへわれをおもはは
いつはりを たたすのもりの ゆふたすき かけつつちかへ われをおもはは
平定文恋三
8-新古1221いかはかりうれしからましもろともにこひらるる身もくるしかりせは
いかはかり うれしからまし もろともに こひらるるみも くるしかりせは
鳥羽院恋三
8-新古1222われはかりつらきをしのふ人やあるといまよにあらは思ひあはせよ
われはかり つらきをしのふ ひとやあると いまよにあらは おもひあはせむ
藤原忠通恋三
8-新古1223たたたのめたとへは人のいつはりをかさねてこそは又もうらみめ
たたたのめ たとへはひとの いつはりを かさねてこそは またもうらみめ
慈円恋三
8-新古1224つらしとはおもふ物からふししはのしはしもこりぬ心なりけり
つらしとは おもふものから ふししはの しはしもこりぬ こころなりけり
藤原家通恋三
8-新古1225たのめこしことの葉はかりととめをきてあさちかつゆときえなましかは
たのめこし ことのははかり ととめおきて あさちかつゆと きえなましかは
読人知らず恋三
8-新古1226あはれにもたれかはつゆもおもはましきえのこるへきわか身ならねは
あはれにも たれかはつゆも おもはまし きえのこるへき わかみならねは
久我内大臣恋三
8-新古1227つらきをもうらみぬわれにならふなようき身をしらぬ人もこそあれ
つらきをも うらみぬわれに ならふなよ うきみをしらぬ ひともこそあれ
小侍従恋三
8-新古1228なにかいとふよもなからへしさのみやはうきにたへたるいのちなるへき
なにかいとふ よもなからへし さのみやは うきにたへたる いのちなるへき
殷富門院大輔恋三
8-新古1229こひしなんいのちは猶もおしきかなおなしよにあるかひはなけれと
こひしなむ いのちはなほも をしきかな おなしよにある かひはなけれと
難波頼輔恋三
8-新古1230あはれとて人の心のなさけあれなかすならぬにはよらぬなけきを
あはれとて ひとのこころの なさけあれは かすならぬには よらぬなけきを
西行法師恋三
8-新古1231身をしれは人のとかとはおもはぬにうらみかほにもぬるる袖かな
みをしれは ひとのとかとは おもはぬに うらみかほにも ぬるるそてかな
読人知らず恋三
8-新古1232よしさらはのちのよとたにたのめをけつらさにたへぬ身ともこそなれ
よしさらは のちのよとたに たのめおけ つらさにたへぬ みともこそなれ
藤原俊成恋三
8-新古1233たのめをかんたたさはかりを契にてうきよの中の夢になしてよ
たのめおかむ たたさはかりを ちきりにて うきよのなかの ゆめになしてよ
藤原定家母恋三
8-新古1234よゐよゐにきみをあはれとおもひつつ人にはいはてねをのみそなく
よひよひに きみをあはれと おもひつつ ひとにはいはて ねをのみそなく
清慎公恋四
8-新古1235君たにもおもひいてけるよゐよゐをまつはいかなる心ちかはする
きみたにも おもひいてける よひよひを まつはいかなる ここちかはする
読人知らず恋四
8-新古1236こひしさにしぬるいのちを思いててとふ人あらはなしとこたへよ
こひしさに しぬるいのちを おもひいてて とふひとあらは なしとこたへよ
読人知らず恋四
8-新古1237わかれては昨日けふこそへたてつれちよをへたる心ちのみする
わかれては きのふけふこそ へたてつれ ちよしもへたる ここちのみする
謙徳公恋四
8-新古1238きのふともけふともしらす今はとてわかれしほとの心まとひに
きのふとも けふともしらす いまはとて わかれしほとの こころまよひに
恵子女王恋四
8-新古1239たえぬるかかけたに見えはとふへきにかたみの水はみくさゐにけり
たえぬるか かけたにみえは とふへきを かたみのみつは みくさゐにけり
藤原道綱母恋四
8-新古1240かたかたにひきわかれつつあやめくさあらぬねをやはかけんとおもひし
かたかたに ひきわかれつつ あやめくさ あらぬねをやは かけむとおもひし
陽明門院恋四
8-新古1241ことの葉のうつろふたにもあるものをいとと時雨のふりまさるらん
ことのはの うつろふたにも あるものを いととしくれの ふりまさるらむ
伊勢恋四
8-新古1242ふく風につけてもとはんささかにのかよひしみちはそらにたゆとも
ふくかせに つけてもとはむ ささかにの かよひしみちは そらにたゆとも
藤原道綱母恋四
8-新古1243くすの葉にあらぬわか身も秋風のふくにつけつつうらみつる哉
くすのはに あらぬわかみも あきかせの ふくにつけつつ うらみつるかな
天暦恋四
8-新古1244霜さやく野辺のくさはにあらねともなとか人めのかれまさるらん
しもさやく のへのくさはに あらねとも なとかひとめの かれまさるらむ
延喜恋四
8-新古1245あさちおふる野へやかるらん山かつのかきほのくさは色もかはらす
あさちおふる のへやかるらむ やまかつの かきほのくさは いろもかはらす
読人知らず恋四
8-新古1246かすむらんほとをもしらすしくれつつすきにし秋のもみちをそみる
かすむらむ ほとをもしらす しくれつつ すきにしあきの もみちをそみる
女御徽子女王恋四
8-新古1247いまこんとたのめつつふることの葉そときはに見ゆるもみちなりける
いまこむと たのめつつふる ことのはそ ときはにみゆる もみちなりける
天暦恋四
8-新古1248たまほこのみちははるかにあらねともうたて雲井にまとふ比かな
たまほこの みちははるかに あらねとも うたてくもゐに まとふころかな
朱雀院恋四
8-新古1249思ひやる心はそらにあるものをなとか雲ゐにあひみさるらん
おもひやる こころはそらに あるものを なとかくもゐに あひみさるらむ
女御熈子女王恋四
8-新古1250春雨のふりしく比かあをやきのいととみたれて人そこひしき
はるさめの ふりしくころか あをやきの いとみたれつつ ひとそこひしき
後朱雀院恋四
8-新古1251あをやきのいとみたれたるこのころは一すちにしも思よられし
あをやきの いとみたれたる このころは ひとすちにしも おもひよられし
女御藤原生子恋四
8-新古1252あをやきのいとはかたかたなひくともおもひそめてん色はかはらし
あをやきの いとはかたかた なひくとも おもひそめてむ いろそかはらし
後朱雀院恋四
8-新古1253あさみとりふかくもあらぬあをやきはいろかはらしといかかたのまん
あさみとり ふかくもあらぬ あをやきは いろかはらしと いかかたのまむ
女御生子恋四
8-新古1254いにしへのあふひと人はとかむともなをそのかみのけふそわすれぬ
いにしへの あふひとひとは とかむとも なほそのかみの けふそわすれぬ
藤原実方恋四
8-新古1255かれにけるあふひのみこそかなしけれ哀と見すやかものみつかき
かれにける あふひのみこそ かなしけれ あはれとみすや かものみつかき
読人知らず恋四
8-新古1256あふことをはつかに見えし月かけのおほろけにやはあはれとはおもふ
あふことを はつかにみえし つきかけの おほろけにやは あはれともおもふ
天暦恋四
8-新古1257さらしなやをはすて山のありあけのつきすもものを思ふ比かな
さらしなや をはすてやまの ありあけの つきすもものを おもふころかな
伊勢恋四
8-新古1258いつとても哀とおもふをねぬるよの月はおほろけなくなくそみし
いつとても あはれとおもふを ねぬるよの つきはおほろけ なくなくそみし
中務恋四
8-新古1259さらしなの山よりほかにてる月もなくさめかねつこのころの空
さらしなの やまよりほかに てるつきも なくさめかねつ このころのそら
凡河内躬恒恋四
8-新古1260あまのとををしあけかたの月みれはうき人しもそこひしかりける
あまのとを おしあけかたの つきみれは うきひとしもそ こひしかりける
読人知らず恋四
8-新古1261ほの見えし月をこひしとかへるさの雲ちの浪にぬれてこしかな
ほのみえし つきをこひしと かへるさの くもちのなみに ぬれてこしかな
読人知らず恋四
8-新古1262いるかたはさやかなりける月かけをうはのそらにもまちしよゐかな
いるかたは さやかなりける つきかけを うはのそらにも まちしよひかな
紫式部恋四
8-新古1263さしてゆく山の葉もみなかきくもり心のそらにきえし月かけ
さしてゆく やまのはもみな かきくもり こころのそらに きえしつきかけ
読人知らず恋四
8-新古1264いまはとてわかれしほとの月をたになみたにくれてなかめやはせし
いまはとて わかれしほとの つきをたに なみたにくれて なかめやはせし
藤原経衡恋四
8-新古1265おもかけのわすれぬ人によそへつついるをそしたふ秋のよの月
おもかけの わすれぬひとに よそへつつ いるをそしたふ あきのよのつき
肥後恋四
8-新古1266うき人の月はなにそのゆかりそとおもひなからもうちなかめつつ
うきひとの つきはなにその ゆかりそと おもひなからも うちなかめつつ
徳大寺実定恋四
8-新古1267月のみやうわのそらなるかたみにておもひもいては心かよはん
つきのみや うはのそらなる かたみにて おもひもいては こころかよはむ
西行法師恋四
8-新古1268くまもなきおりしも人を思いてて心と月をやつしつるかな
くまもなき をりしもひとを おもひいてて こころとつきを やつしつるかな
読人知らず恋四
8-新古1269ものおもひてなかむるころの月のいろにいかはかりなる哀そむらん
ものおもひて なかむるころの つきのいろに いかはかりなる あはれそむらむ
読人知らず恋四
8-新古1270くもれかしなかむるからにかなしきは月におほゆる人のおもかけ
くもれかし なかむるからに かなしきは つきにおほゆる ひとのおもかけ
八条院高倉恋四
8-新古1271わすらるる身をしる袖のむら雨につれなく山の月はいてけり
わすらるる みをしるそての むらさめに つれなくやまの つきはいてけり
太上天皇恋四
8-新古1272めくりあはんかきりはいつとしらねとも月なへたてそよそのうき雲
めくりあはむ かきりはいつと しらねとも つきなへたてそ よそのうきくも
九条良経恋四
8-新古1273わかなみたもとめて袖にやとれ月さりとて人のかけは見ねとも
わかなみた もとめてそてに やとれつき さりとてひとの かけはみえねと
読人知らず恋四
8-新古1274こひわふる涙やそらにくもるらんひかりもかはるねやの月かけ
こひわたる なみたやそらに くもるらむ ひかりもかはる ねやのつきかけ
西園寺公経恋四
8-新古1275いくめくりそらゆく月もへたてきぬ契し中はよそのうき雲
いくめくり そらゆくつきも へたてきぬ ちきりしなかは よそのうきくも
久我通光恋四
8-新古1276いまこんと契しことは夢なから見しよににたる有あけの月
いまこむと ちきりしことは ゆめなから みしよににたる ありあけのつき
堀川通具恋四
8-新古1277わすれしといひしはかりのなこりとてそのよの月はめくりきにけり
わすれしと いひしはかりの なこりとて そのよのつきは めくりきにけり
藤原有家恋四
8-新古1278おもひいててよなよな月にたつねすはまてとちきりし中やたえなん
おもひいてて よなよなつきに たつねすは まてとちきりし なかやたえなむ
九条良経恋四
8-新古1279わするなよいまは心のかはるともなれしそのよの有明の月
わするなよ いまはこころの かはるとも なれしそのよの ありあけのつき
藤原家隆恋四
8-新古1280そのままに松の嵐もかはらぬをわすれやしぬるふけしよの月
そのままに まつのあらしも かはらぬを わすれやしぬる ふけしよのつき
法眼宗円恋四
8-新古1281人そうきたのめぬ月はめくりきてむかしわすれぬよもきふのやと
ひとそうき たのめぬつきは めくりきて むかしわすれぬ よもきふのやと
藤原秀能恋四
8-新古1282わくらはにまちつるよゐもふけにけりさやは契し山のはの月
わくらはに まちつるよひも ふけにけり さやはちきりし やまのはのつき
九条良経恋四
8-新古1283こぬ人をまつとはなくてまつよゐのふけゆくそらの月もうらめし
こぬひとを まつとはなくて まつよひの ふけゆくそらの つきもうらめし
藤原有家恋四
8-新古1284松山と契し人はつれなくて袖こすなみにのこる月かけ
まつやまと ちきりしひとは つれなくて そてこすなみに のこるつきかけ
藤原定家恋四
8-新古1285ならひこしたかいつはりもまたしらてまつとせしまの庭のよもきふ
ならひこし たかいつはりも またしらて まつとせしまの にはのよもきふ
藤原俊成女恋四
8-新古1286あとたえてあさちかすゑになりにけりたのめしやとのにはのしら露
あとたえて あさちかすゑに なりにけり たのめしやとの にはのしらつゆ
二条院讃岐恋四
8-新古1287こぬ人をおもひたえたる庭のおものよもきかすゑそまつにまされる
こぬひとを おもひたえたる にはのおもの よもきかすゑそ まつにまされる
寂蓮法師恋四
8-新古1288たつねても袖にかくへきかたそなきふかきよもきの露のかことを
たつねても そてにかくへき かたそなき ふかきよもきの つゆのかことを
久我通光恋四
8-新古1289かたみとてほのふみわけしあともなしこしはむかしの庭のおきはら
かたみとて ほのふみわけし あともなし こしはむかしの にはのをきはら
藤原保季恋四
8-新古1290なこりをは庭のあさちにととめをきてたれゆへ君かすみうかれけん
なこりをは にはのあさちに ととめおきて たれゆゑきみか すみうかれけむ
法橋行遍恋四
8-新古1291わすれすはなれし袖もやこほるらんねぬよのとこのしものさむしろ
わすれすは なれしそてもや こほるらむ ねぬよのとこの しものさむしろ
藤原定家恋四
8-新古1292風ふかはみねにわかれん雲をたにありしなこりのかたみともみよ
かせふかは みねにわかれむ くもをたに ありしなこりの かたみともみよ
藤原家隆恋四
8-新古1293いはさりきいまこんまてのそらの雲月日へたてて物おもへとは
いはさりき いまこむまての そらのくも つきひへたてて ものおもへとは
九条良経恋四
8-新古1294おもひいてよたかかねことのすゑならんきのふの雲のあとの山風
おもひいてよ たかかねことの すゑならむ きのふのくもの あとのやまかせ
藤原家隆恋四
8-新古1295わすれゆく人ゆへそらをなかむれはたえたえにこそ雲もみえけれ
わすれゆく ひとゆゑそらを なかむれは たえたえにこそ くももみえけれ
藤原範兼恋四
8-新古1296わすれなはいけらん物かとおもひしにそれもかなはぬこの世なりけり
わすれなは いけらむものかと おもひしに それもかなはぬ このよなりけり
殷富門院大輔恋四
8-新古1297〈墨〉°うとくなる人をなにとてうらむらんしられすしらぬおりもありしに
うとくなる ひとをなにとて うらむらむ しられすしらぬ をりもありしに
西行法師恋四
8-新古1298〈墨〉°今そしるおもひいてよと契しはわすれんとてのなさけなりけり
いまそしる おもひいてよと ちきりしは わすれむとての なさけなりけり
読人知らず恋四
8-新古1299あひ見しはむかしかたりのうつつにてそのかねことを夢になせとや
あひみしは むかしかたりの うつつにて そのかねことを ゆめになせとや
源通親恋四
8-新古1300あはれなる心のやみのゆかりとも見しよの夢をたれかさためん
あはれなそ こころのやみの ゆかりとも みしよのゆめを たれかさためむ
西園寺公経恋四
8-新古1301ちきりきやあかぬわかれに露をきし暁はかりかたみなれとは
ちきりきや あかぬわかれに つゆおきし あかつきはかり かたみなれとは
堀川通具恋四
8-新古1302うらみわひまたしいまはの身なれともおもひなれにし夕くれの空
うらみわひ またしいまはの みなれとも おもひなれにし ゆふくれのそら
寂蓮法師恋四
8-新古1303わすれしのことの葉いかになりにけんたのめしくれは秋風そふく
わすれしの ことのはいかに なりにけむ たのめしくれは あきかせそふく
宜秋門院丹後恋四
8-新古1304おもひかねうちぬるよゐもありなましふきたにすさへ庭の松風
おもひかね うちぬるよひも ありなまし ふきたにすさへ にはのまつかせ
九条良経恋四
8-新古1305さらてたにうらみんとおもふわきもこか衣のすそに秋風そふく
さらてたに うらみむとおもふ わきもこか ころものすそに あきかせそふく
藤原有家恋四
8-新古1306心にはいつもあきなるねさめかな身にしむ風のいくよともなく
こころには いつもあきなる ねさめかな みにしむかせの いくよともなく
読人知らず恋四
8-新古1307あはれとてとふ人のなとなかるらんものおもふやとのおきのうは風
あはれとて とふひとのなと なかるらむ ものおもふやとの をきのうはかせ
西行法師恋四
8-新古1308わかこひは今をかきりとゆふまくれおきふく風のをとつれてゆく
わかこひは いまをかきりと ゆふまくれ をきふくかせの おとつれてゆく
俊恵法師恋四
8-新古1309いまはたた心のほかにきく物をしらすかほなるおきのうは風
いまはたた こころのほかに きくものを しらすかほなる をきのうはかせ
式子内親王恋四
8-新古1310いつもきく物とや人の思らんこぬゆふくれの秋風のこゑ
いつもきく ものとやひとの おもふらむ こぬゆふくれの あきかせのこゑ
九条良経恋四
8-新古1311心あらはふかすもあらなんよゐよゐに人まつやとの庭の松風
こころあらは ふかすもあらなむ よひよひに ひとまつやとの にはのまつかせ
慈円恋四
8-新古1312さとはあれぬ(ぬ=て)むなしきとこのあたりまて身はならはしの秋風そ吹
さとはあれぬ むなしきとこの あたりまて みはならはしの あきかせそふく
寂蓮法師恋四
8-新古1313さとはあれぬおのへの宮のをのつからまちこしよゐも昔なりけり
さとはあれぬ をのへのみやの おのつから まちこしよひも むかしなりけり
太上天皇恋四
8-新古1314ものおもはてたたおほかたのつゆにたにぬるれはぬるる秋のたもとを
ものおもはて たたおほかたの つゆにたに ぬるれはぬるる あきのたもとを
藤原有家恋四
8-新古1315草枕むすひさためんかたしらすならはぬ野への夢のかよひち
くさまくら むすひさためむ かたしらす ならはぬのへの ゆめのかよひち
飛鳥井雅経恋四
8-新古1316さてもなをとはれぬ秋のゆふは山雲ふく風もみねにみゆらん
さてもなほ とはれぬあきの ゆふはやま くもふくかせの みねにみゆらむ
藤原家隆恋四
8-新古1317おもひいるふかき心のたよりまて見しはそれともなき山ち哉
おもひいる ふかきこころの たよりまて みしはそれとも なきやまちかな
藤原秀能恋四
8-新古1318なかめても哀とおもへおほかたのそらたにかなし秋の夕くれ
なかめても あはれとおもへ おほかたの そらたにかなし あきのゆふくれ
鴨長明恋四
8-新古1319ことの葉のうつりし秋もすきぬれはわか身時雨とふる涙かな
ことのはの うつりしあきも すきぬれは わかみしくれと ふるなみたかな
堀川通具恋四
8-新古1320きえわひぬうつろふ人の秋のいろに身をこからしのもりの白露
きえわひぬ うつろふひとの あきのいろに みをこからしの もりのしたつゆ
藤原定家恋四
8-新古1321こぬ人を秋のけしきやふけぬらんうらみによはる松むしのこゑ
こぬひとを あきのけしきや ふけぬらむ うらみによわる まつむしのこゑ
寂蓮法師恋四
8-新古1322わかこひは庭のむら萩うらかれて人をも身をも秋の夕くれ
わかこひは にはのむらはき うらかれて ひとをもみをも あきのゆふくれ
慈円恋四
8-新古1323袖のつゆもあらぬ色にそきえかへるうつれはかはるなけきせしまに
そてのつゆも あらぬいろにそ きえかへる うつれはかはる なけきせしまに
太上天皇恋四
8-新古1324むせふともしらしな心かはらやにわれのみけたぬしたのけふりは
むせふとも しらしなこころ かはらやに われのみけたぬ したのけふりは
藤原定家恋四
8-新古1325しられしなおなし袖にはかよふともたか夕くれとたのむ秋風
しられしな おなしそてには かよふとも たかゆふくれと たのむあきかせ
藤原家隆恋四
8-新古1326つゆはらふねさめは秋のむかしにて見はてぬ夢にのこるおもかけ
つゆはらふ ねさめはあきの むかしにて みはてぬゆめに のこるおもかけ
藤原俊成女恋四
8-新古1327心こそゆくゑもしらねみわの山すきの木すゑの夕くれの空
こころこそ ゆくへもしらね みわのやま すきのこすゑの ゆふくれのそら
慈円恋四
8-新古1328さりともとまちし月日そうつりゆく心の花の色にまかせて
さりともと まちしつきひそ うつりゆく こころのはなの いろにまかせて
式子内親王恋四
8-新古1329いきてよもあすまて人もつらからしこの夕くれをとははとへかし
いきてよも あすまてひとは つらからし このゆふくれを とははとへかし
読人知らず恋四
8-新古1330暁のなみたやそらにたくふらん袖におちくるかねのおと哉
あかつきの なみたやそらに たくふらむ そてにおちくる かねのおとかな
慈円恋四
8-新古1331つくつくとおもひあかしのうらちとりなみのまくらになくなくそきく
つくつくと おもひあかしの うらちとり なみのまくらに なくなくそきく
西園寺公経恋四
8-新古1332たつねみるつらき心のおくのうみよしほひのかたのいふかひもなし
たつねみる つらきこころの おくのうみよ しほひのかたの いふかひもなし
藤原定家恋四
8-新古1333見し人のおもかけとめよきよみかた袖にせきもる浪のかよひち
みしひとの おもかけとめよ きよみかた そてにせきもる なみのかよひち
飛鳥井雅経恋四
8-新古1334ふりにけり時雨は袖に秋かけていひしはかりをまつとせしまに
ふりにけり しくれはそてに あきかけて いひしはかりを まつとせしまに
藤原俊成女恋四
8-新古1335かよひこしやとのみちしはかれかれにあとなき霜のむすほほれつつ
かよひこし やとのみちしは かれかれに あとなきしもの むすほほれつつ
読人知らず恋四
8-新古1336しろたへの袖のわかれにつゆおちて身にしむいろの秋風そふく
しろたへの そてのわかれに つゆおちて みにしむいろの あきかせそふく
藤原定家恋五
8-新古1337思いる身はふかくさのあきのつゆたのめしすゑやこからしの風
おもひいる みはふかくさの あきのつゆ たのめしすゑや こからしのかせ
藤原家隆恋五
8-新古1338野辺のつゆはいろもなくてやこほれつるそてよりすくるおきのうは風
のへのつゆは いろもなくてや こほれつる そてよりすくる をきのうはかせ
慈円恋五
8-新古1339こひわひて野辺のつゆとはきえぬともたれか草葉を哀とはみん
こひわひて のへのつゆとは きえぬとも たれかくさはを あはれとはみむ
藤原公衡恋五
8-新古1340とへかしなお花かもとのおもひくさしほるる野辺のつゆはいかにと
とへかしな をはなかもとの おもひくさ しをるるのへの つゆはいかにと
堀川通具恋五
8-新古1341よのまにもきゆへき物をつゆしものいかにしのへとたのめをくらん
よのまにも きゆへきものを つゆしもの いかにしのへと たのめおくらむ
藤原俊忠恋五
8-新古1342あたなりとおもひしかとも君よりはものわすれせぬ袖のうはつゆ
あたなりと おもひしかとも きみよりは ものわすれせぬ そてのうはつゆ
藤原道信恋五
8-新古1343おなしくはわか身もつゆときえななんきえなはつらきことの葉も見し〈朱〉/
おなしくは わかみもつゆと きえななむ きえなはつらき ことのはもみし
藤原元真恋五
8-新古1344いまこんといふことの葉もかれゆくによな〳〵つゆのなににをくらん
いまこむと いふことのはも かれゆくに よなよなつゆの なににおくらむ
和泉式部恋五
8-新古1345あたことのはにをくつゆのきえにしをある物とてや人のとふらん
あたことの はにおくつゆの きえにしを あるものとてや ひとのとふらむ
藤原長能恋五
8-新古1346うちはへていやはねらるる宮木ののこはきかした葉いろにいてしより
うちはへて いやはねらるる みやきのの こはきかしたは いろにいてしより
読人知らず恋五
8-新古1347はきの葉やつゆのけしきもうちつけにもとよりかはる心ある物を
はきのはや つゆのけしきも うちつけに もとよりかはる こころあるものを
藤原惟成恋五
8-新古1348よもすからきえかへりつるわか身かななみたのつゆにむすほほれつつ
よもすから きえかへりつる わかみかな なみたのつゆに むすほほれつつ
華山院恋五
8-新古1349君かせぬわかたまくらは草なれやなみたのつゆのよな〳〵そをく
きみかせぬ わかたまくらは くさなれや なみたのつゆの よなよなそおく
光孝天皇恋五
8-新古1350つゆはかりをくらん袖はたのまれすなみたの河のたきつせなれは
つゆはかり おくらむそては たのまれす なみたのかはの たきつせなれは
読人知らず恋五
8-新古1351思ひやるよそのむら雲しくれつつあたちのはらにもみちしぬらん
おもひやる よそのむらくも しくれつつ あたちのはらに もみちしぬらむ
源重之恋五
8-新古1352身にちかくきにけるものを色かはる秋をはよそにおもひしかとも
みにちかく きにけるものを いろかはる あきをはよそに おもひしかとも
源顕房室恋五
8-新古1353色かはるはきのした葉を見てもまつ人の心の秋そしらるる
いろかはる はきのしたはを みてもまつ ひとのこころの あきそしらるる
相模恋五
8-新古1354いなつまはてらさぬよゐもなかりけりいつらほのかにみえしかけろふ
いなつまは てらさぬよひも なかりけり いつらほのかに みえしかけろふ
読人知らず恋五
8-新古1355人しれぬねさめの涙ふりみちてさもしくれつるよはのそらかな
ひとしれぬ ねさめのなみた ふりみちて さもしくれつる よはのそらかな
謙徳公恋五
8-新古1356なみたのみうきいつるあまのつりさほのなかきよすからこひつつそぬる
なみたのみ うきいつるあまの つりさをの なかきよすから こひつつそぬる
光孝天皇恋五
8-新古1357まくらのみうくとおもひしなみたかはいまはわか身のしつむなりけり
まくらのみ うくとおもひし なみたかは いまはわかみの しつむなりけり
坂上是則恋五
8-新古1358おもほえす袖にみなとのさはくかなもろこし舟のよりしはかりに
おもほえす そてにみなとの さわくかな もろこしふねの よりしはかりに
読人知らず恋五
8-新古1359いもか袖わかれし日よりしろたへの衣かたしきこひつつそぬる
いもかそて わかれしひより しろたへの ころもかたしき こひつつそぬる
読人知らず恋五
8-新古1360あふことのなみのした草みかくれてしつ(つ+心歟)なくねこそなかるれ
あふことの なみのしたくさ みかくれて しつこころなく ねこそなかるれ
読人知らず恋五
8-新古1361うらにたくもしほの煙なひかめやよものかたより風(風+は歟)ふくとも
うらにたく もしほのけふり なひかめや よものかたより かせはふくとも
読人知らず恋五
8-新古1362わするらんとおもふ心のうたかひにありしよりけに物そかなしき
わするらむと おもふこころの うたかひに ありしよりけに ものそかなしき
読人知らず恋五
8-新古1363うきなから人をはえしもわすれねはかつうらみつつなをそこひしき
うきなから ひとをはえしも わすれねは かつうらみつつ なほそこひしき
読人知らず恋五
8-新古1364いのちをはあたなるものとききしかとつらきかためは長もあるかな
いのちをは あたなるものと ききしかと つらきかためは なかくもあるかな
読人知らず恋五
8-新古1365いつかたにゆきかくれなんよの中に身のあれはこそ人もつらけれ
いつかたに ゆきかくれなむ よのなかに みのあれはこそ ひともつらけれ
読人知らず恋五
8-新古1366いままてにわすれぬ人はよにもあらしをのかさま〳〵としのへぬれは
いままてに わすれぬひとは よにもあらし おのかさまさま としのへぬれは
読人知らず恋五
8-新古1367たま水をてにむすひてもこころみんぬるくはいしの中もたのまし
たまみつを てにむすひても こころみむ ぬるくはいしの なかもたのまし
読人知らず恋五
8-新古1368山しろの井ての玉水てにくみてたのみしかひもなきよなりけり
やましろの ゐてのたまみつ てにくみて たのみしかひも なきよなりけり
読人知らず恋五
8-新古1369君かあたり見つつををらんいこま山雲なかくしそ雨はふるとも
きみかあたり みつつををらむ いこまやま くもなかくしそ あめはふるとも
読人知らず恋五
8-新古1370なかそらに立ゐる雲のあともなく身のはかなくもなりぬへきかな
なかそらに たちゐるくもの あともなく みのはかなくも なりぬへきかな
読人知らず恋五
8-新古1371雲のゐるとを山とりのよそにてもありとしきけはわひつつそぬる
くものゐる とほやまとりの よそにても ありとしきけは わひつつそぬる
読人知らず恋五
8-新古1372ひるはきてよるはわかるる山とりのかけ見る時そねはなかれける
ひるはきて よるはわかるる やまとりの かけみるときそ ねはなかれける
読人知らず恋五
8-新古1373われもしかなきてそ人にこひられしいまこそよそに声をのみきけ
われもしか なきてそひとに こひられし いまこそよそに こゑをのみきけ
読人知らず恋五
8-新古1374夏野ゆくをしかのつののつかのまもわすれすおもへいもか心を
なつのゆく をしかのつのの つかのまも わすれすおもへ いもかこころを
柿本人麿恋五
8-新古1375夏草のつゆわけ衣きもせぬになとわか袖のかはく時なき
なつくさの つゆわけころも きもせぬに なとわかそての かわくときなき
読人知らず恋五
8-新古1376みそきするならのをかはの河風にいのりそわたるしたにたえしと
みそきする ならのをかはの かはかせに いのりそわたる したにたえしと
八代女王恋五
8-新古1377うらみつつぬるよの袖のかはかぬはまくらのしたにしほやみつらん
うらみつつ ぬるよのそての かわかぬは まくらのしたに しほやみつらむ
清原深養父恋五
8-新古1378あし辺よりみちくるしほのいやましにおもふか君をわすれかねつる
あしへより みちくるしほの いやましに おもふかきみか わすれかねつる
山口女王恋五
8-新古1379しほかまのまへにうきたるうきしまのうきておもひのあるよなりけり
しほかまの まへにうきたる うきしまの うきておもひの あるよなりけり
読人知らず恋五
8-新古1380いかにねて見えしなるらんうたたねの夢より後は物をこそおもへ
いかにねて みえしなるらむ うたたねの ゆめよりのちは ものをこそおもへ
赤染衛門恋五
8-新古1381うちとけてねぬものゆへに夢を見てものおもひまさる比にもあるかな
うちとけて ねぬものゆゑに ゆめをみて ものおもひまさる こころにもあるかな
小野篁恋五
8-新古1382春のよの夢にありつと見えつれはおもひたえにし人そまたるる
はるのよの ゆめにあひつと みえつれは おもひたえにし ひとそまたるる
伊勢恋五
8-新古1383はるのよの夢のしるしはつらくとも見しはかりたにあらはたのまん
はるのよの ゆめのしなしは つらくとも みしはかりたに あらはたのまむ
盛明親王恋五
8-新古1384ぬる夢にうつつのうさもわすられておもひなくさむほとそはかなき
ぬるゆめに うつつのうさも わすられて おもひなくさむ ほとそはかなき
女御徽子女王恋五
8-新古1385かくはかりねてあかしつる春のよにいかに見えつる夢にかあるらん
かくはかり ねてあかしつる はるのよに いかにみえつる ゆめにかあるらむ
大中臣能宣恋五
8-新古1386なみたかは身もうきぬへきねさめかなはかなき夢のなこりはかりに
なみたかは みもうきぬへき ねさめかな はかなきゆめの なこりはかりに
寂蓮法師恋五
8-新古1387あふと見てことそともなくあけぬなりはかなの夢の忘かたみや
あふとみて ことそともなく あけぬなり はかなのゆめの わすれかたみや
藤原家隆恋五
8-新古1388ゆかちかしあなかまよはのきり〳〵す夢にも人のみえもこそすれ
ゆかちかし あなかまよはの きりきりす ゆめにもひとの みえもこそすれ
藤原基俊恋五
8-新古1389あはれなりうたたねにのみ見しゆめの長きおもひにむすほほれなん
あはれなり うたたねにのみ みしゆめの なかきおもひに むすほほれなむ
藤原俊成恋五
8-新古1390かきやりしそのくろかみのすちことにうちふすほとはおもかけそたつ
かきやりし そのくろかみの すちことに うちふすほとは おもかけそたつ
藤原定家恋五
8-新古1391夢かとよ見しおもかけもちきりしもわすれすなからうつつならねは
ゆめかとよ みしおもかけも ちきりしも わすれすなから うつつならねは
藤原俊成女恋五
8-新古1392はかなくそしらぬいのちをなけきこしわかかねことのかかりけるよに
はかなくそ しらぬいのちを なけきこし わかかねことの かかりけるよに
式子内親王恋五
8-新古1393すきにけるよよの契もわすられていとふうき身のはてそはかなき
すきにける よよのちきりも わすられて いとふうきみの はてそはかなき
恋五
8-新古1394おもひわひ見しおもかけはさてをきてこひせさりけんおりそこひしき
おもひわひ みしおもかけは さておきて こひせさりけむ をりそこひしき
藤原俊成恋五
8-新古1395なかれいてんうき名にしはしよとむかなもとめぬ袖のふちはあれとも
なかれいてむ うきなにしはし よとむかな もとめぬそての ふちはあれとも
相模恋五
8-新古1396つらからはこひしきことはわすれなてそへてはなとかしつ心なき
つらからは こひしきことは わすれなて そへてはなとか しつこころなき
馬内侍恋五
8-新古1397きみしまれみちのゆききをさたむらんすきにし人をかつ忘つつ
きみしまれ みちのゆききを さたむらむ すきにしひとを かつわすれつつ
読人知らず恋五
8-新古1398花さかぬくち木のそまのそま人のいかなるくれに思ひいつらん
はなさかぬ くちきのそまの そまひとの いかなるくれに おもひいつらむ
藤原仲文恋五
8-新古1399をのつからさこそはあれとおもふまにまことに人のとはすなりぬる
おのつから さこそはあれと おもふまに まことにひとの とはすなりぬる
源経信母恋五
8-新古1400ならはねは人のとはぬもつらからてくやしきにこそ袖はぬれけれ
ならはねは ひとのとはぬも つらからて くやしきにこそ そてはぬれけれ
平教盛母恋五
8-新古1401なけかしなおもへは人につらかりしこのよなからのむくひなりけり
なけかしな おもへはひとに つらかりし このよなからの むくひなりけり
皇嘉門院尾張恋五
8-新古1402いかにしていかにこのよにありへはかしはしもものをおもはさるへき
いかにして いかにこのよに ありへはか しはしもものを おもはさるへき
和泉式部恋五
8-新古1403うれしくはわするることもありなましつらきそなかきかたみなりける
うれしくは わするることも ありなまし つらきそなかき かたみなりける
深養父恋五
8-新古1404あふことのかたみをたにも見(見=え歟)てしかな人はたゆともみつつしのはん
あふことの かたみをたにも みてしかな ひとはたゆとも みつつしのはむ
素性法師恋五
8-新古1405わか身こそあらぬかとのみたとらるれとふへき人にわすられしより
わかみこそ あらぬかとのみ たとらるれ とふへきひとに わすられしより
小野小町恋五
8-新古1406かつらきやくめちにわたすいははしのたえにし中となりやはてなん
かつらきや くめちにわたす いははしの たえにしなかと なりやはてなむ
大中臣能宣恋五
8-新古1407今はともおもひなたえそ野中なる水のなかれはゆきてたつねん
いまはとも おもひなたえそ のなかなる みつのなかれは ゆきてたつねむ
祭主輔親恋五
8-新古1408おもひいつやみののを山のひとつ松契しことはいつもわすれす
おもひいつや みののをやまの ひとつまつ ちきりしことは いつもわすれす
伊勢恋五
8-新古1409いてていにしあとたにいまたかはらぬにたかかよひちと今はなるらん
いてていにし あとたにいまた かはらぬに たかかよひちと いまはなるらむ
在原業平恋五
8-新古1410むめの花かをのみ袖にととめをきてわかおもふ人はをとつれもせぬ
うめのはな かをのみそてに ととめおきて わかおもふひとは おとつれもせぬ
読人知らず恋五
8-新古1411あまのはらそこともしらぬおほそらにおほつかなさをなけきつるかな
あまのはら そこともしらぬ おほそらに おほつかなさを なけきつるかな
天暦恋五
8-新古1412なけくらん心をそらに見てしかなたつあさきりに身をやなさまし
なけくらむ こころをそらに みてしかな たつあさきりに みをやなさまし
女御徽子女王恋五
8-新古1413あはすしてふるころをひのあまたあれははるけきそらになかめをそする
あはすして ふるころほひの あまたあれは はるけきそらに なかめをそする
光孝天皇恋五
8-新古1414おもひやる心もそらに白雲のいてたつかたをしらせやはせぬ
おもひやる こころもそらに しらくもの いてたつかたを しらせやはせぬ
致平親王恋五
8-新古1415雲井よりとを山とりのなきてゆく声ほのかなるこひもするかな
くもゐより とほやまとりの なきてゆく こゑほのかなる こひもするかな
凡河内躬恒恋五
8-新古1416雲ゐなる雁たになきてくる秋になとかは人のをとつれもせぬ
くもゐなる かりたになきて くるあきに なとかはひとの おとつれもせぬ
延喜恋五
8-新古1417春ゆきて秋まてとやはおもひけんかりにはあらす契し物を
はるゆきて あきまてとやは おもひけむ かりにはあらす ちきりしものを
天暦恋五
8-新古1418はつかりのはつかにききしことつても雲ちにたえてわふる比かな
はつかりの はつかにききし ことつても くもちにたえて わふるころかな
源高明恋五
8-新古1419をみころもこそはかりこそなれさらめけふの日かけのかけてたにとへ
をみころも こそはかりこそ なれさらめ けふのひかけの かけてたにとへ
藤原惟成恋五
8-新古1420すみよしのこひわすれ草たねたえてなきよにあへるわれそかなしき
すみよしの こひわすれくさ たねたえて なきよにあへる われそかなしき
藤原元真恋五
8-新古1421水のうへのはかなきかすもおもほえすふかき心しそこにとまれは〈朱〉/
みつのうへの はかなきかすも おもほえす ふかきこころし そこにとまれは
天暦恋五
8-新古1422なかきよのつきぬなけきのたえさらはなににいのちをかへてわすれん
なかきよの つきぬなけきの たえさらは なににいのちを かへてわすれむ
謙徳公恋五
8-新古1423心にもまかせさりけるいのちもてたのめもをかしつねならぬよを
こころにも まかせさりける いのちもて たのめもおかし つねならぬよを
藤原敦忠恋五
8-新古1424世のうきも人のつらきもしのふるにこひしきにこそ思ひわひぬれ
よのうきも ひとのつらきも しのふるに こひしきにこそ おもひわひぬれ
藤原元真恋五
8-新古1425かすならはかからましやはよの中にいとかなしきはしつのをたまき
かすならは かからましやは よのなかに いとかなしきは しつのをたまき
小野篁恋五
8-新古1426人ならはおもふ心をいひてましよしやさこそはしつのをたまき
ひとならは おもふこころを いひてまし よしやさこそは しつのをたまき
藤原惟成恋五
8-新古1427わかよはひおとろへゆけはしろたへの袖のなれにし君をしそ思
わかよはひ おとろへゆけは しろたへの そてのなれにし きみをしそおもふ
読人知らず恋五
8-新古1428いまよりはあはしとすれやしろたへのわか衣手のかはく時なき
いまよりは あはしとすれや しろたへの わかころもての かわくときなき
読人知らず恋五
8-新古1429たまくしけあけまくおしきあたら夜を衣てかれてひとりかもねん
たまくしけ あけまくをしき あたらよを ころもてかれて ひとりかもねむ
読人知らず恋五
8-新古1430あふことをおほつかなくてすくすかな草葉のつゆのをきかはるまて
あふことを おほつかなくて すくすかな くさはのつゆの おきかはるまて
読人知らず恋五
8-新古1431秋の田のほむけの風のかたよりにわれは物おもふつれなきものを
あきのたの ほむけのかせの かたよりに われはものおもふ つれなきものを
読人知らず恋五
8-新古1432はしたかの野もりのかかみえてしかなおもひおもはすよそなからみん
はしたかの のもりのかかみ えてしかな おもひおもはす よそなからみむ
読人知らず恋五
8-新古1433おほよとの松はつらくもあらなくにうらみてのみもかへるなみかな
おほよとの まつはつらくも あらなくに うらみてのみも かへるなみかな
読人知らず恋五
8-新古1434白浪はたちさはくともこりすまのうらのみるめはからんとそおもふ
しらなみは たちさわくとも こりすまの うらのみるめは からむとそおもふ
読人知らず恋五
8-新古1435さしてゆくかたはみなとのうらたかみうらみてかへるあまのつりふね
さしてゆく かたはみなとの うらたかみ うらみてかへる あまのつりふね
読人知らず恋五
8-新古1436としくれしなみたのつららとけにけりこけの袖にも春やたつらん
としくれし なみたのつらら とけにけり こけのそてにも はるやたつらむ
藤原俊成雑上
8-新古1437山かけやさらては庭にあともなし春そきにける雪のむらきえ
やまかけや さらてはにはに あともなし はるそきにける ゆきのむらきえ
藤原有家雑上
8-新古1438あはれなりむかしの人をおもふにはきのふの野へにみゆきせましや
あはれなり むかしのひとを おもふには きのふののへに みゆきせましや
一条左大臣雑上
8-新古1439ひきかへて野辺のけしきは見えしかとむかしをこふる松はなかりき
ひきかへて のへのけしきは みえしかと むかしをこふる まつはなかりき
円融院雑上
8-新古1440春くれは袖の氷もとけにけりもりくる月のやとるはかりに
はるくれは そてのこほりも とけにけり もりくるつきの やとるはかりに
行尊雑上
8-新古1441たにふかみ春のひかりのをそけれは雪につつめる鴬の声
たにふかみ はるのひかりの おそけれは ゆきにつつめる うくひすのこゑ
菅贈太政大臣雑上
8-新古1442ふるゆきにいろまとはせるむめの花うくひすのみやわきてしのはん
ふるゆきに いろまとはせる うめのはな うくひすのみや わきてしのはむ
読人知らず雑上
8-新古1443をそくとくつゐにさきぬるむめの花たかうへをきしたねにかあるらん
おそくとく つひにさきぬる うめのはな たかうゑおきし たねにかあるらむ
貞信公雑上
8-新古1444ももしきにかはらぬものは梅の花おりてかさせるにほひなりけり
ももしきに かはらぬものは うめのはな をりてかさせる にほひなりけり
源公忠雑上
8-新古1445いろかをはおもひもいれすむめの花つねならぬよによそへてそみる
いろかをは おもひもいれす うめのはな つねならぬよに よそへてそみる
華山院雑上
8-新古1446むめの花なににほふらんみる人のいろをもかをもわすれぬるよに
うめのはな なににほふらむ みるひとの いろをもかをも わすれぬるよに
大弐三位雑上
8-新古1447はるかすみたなひきわたるおりにこそかかる山辺のかひもありけれ
はるかすみ たなひきわたる をりにこそ かかるやまへは かひもありけれ
藤原兼家雑上
8-新古1448むらさきの雲にもあらて春かすみたなひく山のかひはなにそも
むらさきの くもにもあらて はるかすみ たなひくやまの かひはなにそも
円融院雑上
8-新古1449みちのへのくち木の柳春くれはあはれむかしとしのはれそする
みちのへの くちきのやなき はるくれは あはれむかしと しのはれそする
菅贈太政大臣雑上
8-新古1450むかし見し春はむかしの春なからわか身ひとつのあらすもあるかな
むかしみし はるはむかしの はるなから わかみひとつの あらすもあるかな
深養父雑上
8-新古1451かきこしに見るあた人のいへさくら花ちりはかりゆきておらはや
かきこしに みるあたひとの いへさくら はなちるはかり ゆきてをらはや
円融院雑上
8-新古1452おりにことおもひやすらん花さくらありしみゆきの春をこひつつ
をりにこと おもひやすらむ はなさくら ありしみゆきの はるをこひつつ
藤原朝光雑上
8-新古1453よろつよをふるにかひあるやとなれはみゆきと見えて花そちりける
よろつよを ふるにかひある やとなれや みゆきとみえて はなそちりくる
肥後雑上
8-新古1454えたことのすゑまてにほふ花なれはちるもみゆきとみゆるなるらん
えたことの すゑまてにほふ はななれは ちるもみゆきと みゆるなるらむ
藤原師通雑上
8-新古1455春をへてみゆきになるる花のかけふりゆく身をもあはれとや思
はるをへて みゆきになるる はなのかけ ふりゆくみをも あはれとやおもふ
藤原定家雑上
8-新古1456なれ〳〵て見しはなこりの春そともなとしらかはの花のしたかけ
なれなれて みしはなこりの はるそとも なとしらかはの はなのしたかけ
飛鳥井雅経雑上
8-新古1457ふるさととおもひなはてそ花さくらかかるみゆきにあふよありけり
ふるさとと おもひなはてそ はなさくら かかるみゆきに あふよありけり
読人知らず雑上
8-新古1458いさやまた月日のゆくもしらぬ身は花の春ともけふこそは見れ
いさやまた つきひのゆくも しらぬみは はなのはるとも けふこそはみれ
源師光雑上
8-新古1459おる人のそれなるからにあちきなく見しわかやとの花のかそする
をるひとの それなるからに あちきなく みしわかやとの はなのかそする
和泉式部雑上
8-新古1460見ても又またも見まくのほしかりし花のさかりはすきやしぬらん
みてもまた またもみまくの ほしかりし はなのさかりは すきやしぬらむ
藤原高光雑上
8-新古1461おいにけるしらかも花ももろともにけふのみゆきにゆきとみえけり
おいにける しらかもはなも もろともに けふのみゆきに ゆきとみえけり
堀河左大臣雑上
8-新古1462さくら花おりてみしにもかはらぬにちらぬはかりそしるしなりける
さくらはな をりてみしにも かはらぬに ちらぬはかりそ しるしなりける
藤原忠家雑上
8-新古1463さもあらはあれくれゆく春も雲のうへにちることしらぬ花しにほはは
さもあらはあれ くれゆくはるも くものうへに ちることしらぬ はなしにほはは
源経信雑上
8-新古1464桜花すきゆく春のともとてや風のをとせぬよにもちるらん
さくらはな すきゆくはるの ともとてや かせのおとせぬ よるもちるらむ
藤原忠教雑上
8-新古1465おしめともつねならぬよの花なれはいまはこの身をにしにもとめん
をしめとも つねならぬよの はななれは いまはこのみを にしにもとめむ
鳥羽院雑上
8-新古1466いまはわれよしのの山の花をこそやとの物とも見るへかりけれ
いまはわれ よしののやまの はなをこそ やとのものとも みるへかりけれ
藤原俊成雑上
8-新古1467春くれはなをこのよこそしのはるれいつかはかかる花をみるへき
はるくれは なほこのよこそ しのはるれ いつかはかかる はなをみるへき
読人知らず雑上
8-新古1468てる月も雲のよそにそゆきめくる花そこのよのひかりなりける
てるつきも くものよそにそ ゆきめくる はなそこのよの ひかりなりける
読人知らず雑上
8-新古1469見せはやなしかのからさきふもとなるなからの山の春のけしきを
みせはやな しかのからさき ふもとなる なからのやまの はるのけしきを
慈円雑上
8-新古1470しはのとににほはん花はさもあらはあれなかめてけりなうらめしの身や
しはのとに にほはむはなは さもあらはあれ なかめてけりな うらめしのみや
読人知らず雑上
8-新古1471世中をおもへはなへてちる花のわか身をさてもいつちかもせん
よのなかを おもへはなへて ちるはなの わかみをさても いつちかもせむ
西行法師雑上
8-新古1472身はとめつ心はをくる山さくら風のたよりにおもひをこせよ
みはとめつ こころはおくる やまさくら かせのたよりに おもひおこせよ
安法々師雑上
8-新古1473さくらあさのおふのうらなみたちかへり見れともあかす山なしの花
さくらあさの をふのうらなみ たちかへり みれともあかす やまなしのはな
源俊頼雑上
8-新古1474白浪のこゆらんすゑの松山は花とや見ゆる春のよの月
しらなみの こゆらむすゑの まつやまは はなとやみゆる はるのよのつき
加賀左衛門雑上
8-新古1475おほつかなかすみたつらんたけくまの松のくまもるはるのよの月
おほつかな かすみたつらむ たけくまの まつのくまもる はるのよのつき
読人知らず雑上
8-新古1476世をいとふよしののおくのよふこ鳥ふかき心のほとやしるらん
よをいとふ よしののおくの よふことり ふかきこころの ほとやしるらむ
法印幸清雑上
8-新古1477おりにあへはこれもさすかにあはれなりおたのかはつのゆふくれの声
をりにあへは これもさすかに あはれなり をたのかはつの ゆふくれのこゑ
藤原忠良雑上
8-新古1478春の雨のあまねきみよをたのむかな霜にかれゆく草葉もらすな
はるのあめの あまねきみよを たのむかな しもにかれゆく くさはもらすな
藤原有家雑上
8-新古1479すへらきのこたかきかけにかくれてもなを春雨にぬれんとそおもふ
すめらきの こたかきかけに かくれても なほはるさめに ぬれむとそおもふ
三条実行雑上
8-新古1480やへなからいろもかはらぬ山ふきのなとここのへにさかすなりにし
やへなから いろもかはらぬ やまふきの なとここのへに さかすなりにし
藤原実方雑上
8-新古1481ここのへにあらてやへさく山ふきのいはぬいろをはしる人もなし
ここのへに あらてやへさく やまふきの いはぬいろをは しるひともなし
円融院雑上
8-新古1482をのかなみにおなしすゑ葉そしほれぬるふちさくたこのうらめしの身や
おのかなみに おなしすゑはそ しをれぬる ふちさくたこの うらめしのみや
慈円雑上
8-新古1483から衣花のたもとにぬきかへよわれこそ春のいろはたちつれ
からころも はなのたもとに ぬきかへよ われこそはるの いろはたちつれ
藤原道長雑上
8-新古1484唐衣たちかはりぬる春のよにいかてか花のいろをみるへき
からころも たちかはりぬる はるのよに いかてかはなの いろをみるへき
上東門院雑上
8-新古1485神世にはありもやしけんさくら花けふのかさしにおれるためしは
かみよには ありもやしけむ さくらはな けふのかさしに をれるためしは
紫式部雑上
8-新古1486ほとときすそのかみ山のたひ枕ほのかたらひしそらそわすれぬ
ほとときす そのかみやまの たひまくら ほのかたらひし そらそわすれぬ
式子内親王雑上
8-新古1487たちいつるなこり有明の月かけにいととかたらふほとときすかな
たちいつる なこりありあけの つきかけに いととかたらふ ほとときすかな
読人知らず雑上
8-新古1488いくちよとかきらぬ君かみよなれとなをおしまるるけさのあけほの
いくちよと かきらぬきみか みよなれは なほをしまるる けさのあけほの
藤原家通雑上
8-新古1489むめかえにおりたかへたるほとときす声のあやめもたれかわくへき
うめかえに をりたかへたる ほとときす こゑのあやめも たれかわくへき
三条院女蔵人左近雑上
8-新古1490うちわたすをちかた人にこととへとこたへぬからにしるき花かな
うちわたす をちかたひとに こととへと こたへぬからに しるきはなかな
小弁雑上
8-新古1491五月雨のそらたにすめる月かけになみたの雨ははるるまもなし
さみたれの そらたにすめる つきかけに なみたのあめは はるるまもなし
赤染衛門雑上
8-新古1492さみたれはまやののきはのあまそそきあまりなるまてぬるる袖かな
さみたれは まやののきはの あまそそき あまりなるまて ぬるるそてかな
藤原俊成雑上
8-新古1493ひとりぬるやとのとこなつあさな〳〵なみたのつゆにぬれぬ日そなき
ひとりぬる やとのとこなつ あさなあさな なみたのつゆに ぬれぬひそなき
華山院雑上
8-新古1494よそへつつ見れとつゆたになくさますいかにかすへきなてしこの花
よそへつつ みれとつゆたに なくさます いかにかすへき なてしこのはな
恵子女王雑上
8-新古1495おもひあらはこよひのそらはとひてまし見えしや月のひかりなりけん
おもひあらは こよひのそらは とひてまし みえしやつきの ひかりなりけむ
和泉式部雑上
8-新古1496おもひあれはつゆはたもとにまかふとも秋のはしめをたれにとはまし
おもひあれは つゆはたもとに まかふかと あきのはしめを たれにとはまし
七条院大納言雑上
8-新古1497袖のうらのなみふきかへす秋風に雲のうへまてすすしからなん
そてのうらの なみふきかへす あきかせに くものうへまて すすしからなむ
中務雑上
8-新古1498秋やくるつゆやまかふとおもふまてあるはなみたのふるにそ有ける
あきやくる つゆやまかふと おもふまて あるはなみたの ふるにそありける
紀有常雑上
8-新古1499めくりあひて見しやそれともわかぬまに雲かくれにしよはの月かけ
めくりあひて みしやそれとも わかぬまに くもかくれにし よはのつきかけ
紫式部雑上
8-新古1500月かけの山の葉わけてかくれなはそむくうきよをわれやなかめん
つきかけの やまのはわけて かくれなは そむくうきよを われやなかめむ
三条院雑上
8-新古1501山のはをいてかてにする月まつとねぬよのいたくふけにける哉
やまのはを いてかてにする つきまつと ねぬよのいたく ふけにけるかな
藤原為時雑上
8-新古1502うき雲はたちかくせともひまもりてそらゆく月のみえもするかな
うきくもは たちかくせとも ひまもりて そらゆくつきの みえもするかな
伊勢大輔雑上
8-新古1503うきくもにかくれてとこそおもひしかねたくも月のひまもりにける
うきくもに かくれてとこそ おもひしか ねたくもつきの ひまもりにける
藤原正光雑上
8-新古1504月をなとまたれのみすとおもひけんけに山の葉はいてうかりけり
つきをなと またれのみすと おもひけむ けにやまのはは いてうかりけり
藤原範兼雑上
8-新古1505おもひいつる人もあらしの山の葉にひとりそいりし在曙の月
おもひいつる ひともあらしの やまのはに ひとりそいりし ありあけのつき
法印静賢雑上
8-新古1506わかのうらにいゑの風こそなけれともなみふくいろは月にみえけり
わかのうらに いへのかせこそ なけれとも なみふくいろは つきにみえけり
藤原範光雑上
8-新古1507よもすから浦こく舟はあともなし月そのこれるしかのからさき
よもすから うらこくふねは あともなし つきそのこれる しかのからさき
宜秋門院丹後雑上
8-新古1508山のはにおもひもいらしよのなかはとてもかくてもありあけの月
やまのはに おもひもいらし よのなかは とてもかくても ありあけのつき
藤原盛方雑上
8-新古1509わすれしよわするなとたにいひてまし雲井の月の心ありせは
わすれしよ わするなとたに いひてまし くもゐのつきの こころありせは
藤原俊成雑上
8-新古1510いかにして袖にひかりのやとるらん雲井の月はへたててし身を
いかにして そてにひかりの やとるらむ くもゐのつきは へたてこしみを
読人知らず雑上
8-新古1511心にはわするる時もなかりけりみよのむかしの雲のうへの月
こころには わするるときも なかりけり みよのむかしの くものうへのつき
藤原公衡雑上
8-新古1512むかし見しくも井をめくる秋の月いまいくとせか袖にやとさん
むかしみし くもゐをめくる あきのつき いまいくとせか そてにやとさむ
二条院讃岐雑上
8-新古1513うき身よになからへはなをおもひいてよたもとにちきるありあけの月
うきみよに なからへはなほ おもひいてよ たもとにちきる ありあけのつき
藤原経通雑上
8-新古1514宮こにも人やまつらんいし山のみねにのこれる秋のよの月
みやこにも ひとやまつらむ いしやまの みねにのこれる あきのよのつき
藤原長能雑上
8-新古1515あはちにてあはとはるかに見し月のちかきこよひは所からかも
あはちにて あはとはるかに みしつきの ちかきこよひは こころからかも
凡河内躬恒雑上
8-新古1516いたつらにねてはあかせともろともに君かこぬよの月は見さりき
いたつらに ねてはあかせと もろともに きみかこぬよの つきはみさりき
源道済雑上
8-新古1517あまのはらはるかにひとりなかむれはたもとに月のいてにけるかな
あまのはら はるかにひとり なかむれは たもとにつきの いてにけるかな
増基法師雑上
8-新古1518たのめこし人をまつちの山かせにさよふけしかは月も入にき
たのめこし ひとをまつちの やまかせに さよふけしかは つきもいりにき
読人知らず雑上
8-新古1519月見はといひしはかりの人はこてまきのとたたく庭の松風
つきみはと いひしはかりの ひとはこて まきのとたたく にはのまつかせ
九条良経雑上
8-新古1520山さとに月はみるやと人はこすそらゆく風そこの葉をもとふ
やまさとに つきはみるやと ひとはこす そらゆくかせそ このはをもとふ
慈円雑上
8-新古1521在あけの月のゆくゑをなかめてそ野寺のかねはきくへかりける
ありあけの つきのゆくへを なかめてそ のてらのかねは きくへかりける
読人知らず雑上
8-新古1522山の葉をいてても松のこのまより心つくしのありあけの月
やまのはを いててもまつの このまより こころつくしの ありあけのつき
藤原業清雑上
8-新古1523よもすからひとりみ山のまきの葉にくもるもすめるありあけの月
よもすから ひとりみやまの まきのはに くもるもすめる ありあけのつき
鴨長明雑上
8-新古1524おく山のこの葉のおつる秋風にたえ〳〵みねの雲そのこれる
おくやまの このはのおつる あきかせに たえたえみねの くもそのこれる
藤原秀能雑上
8-新古1525月すめはよものうき雲そらにきえてみ山かくれにゆくあらしかな
つきすめは よものうきくも そらにきえて みやまかくれに ゆくあらしかな
読人知らず雑上
8-新古1526なかめわひぬしはのあみとのあけかたに山のはちかくのこる月かけ
なかめわひぬ しはのあみとの あけかたに やまのはちかく のこるつきかけ
猷円法師雑上
8-新古1527あかつきの月みんとしもおもはねと見し人ゆへになかめられつつ
あかつきの つきみむとしも おもはねと みしひとゆゑに なかめられつつ
華山院雑上
8-新古1528ありあけの月はかりこそかよひけれくる人なしのやとの庭にも
ありあけの つきはかりこそ かよひけれ くるひとなしの やとのにはにも
伊勢大輔雑上
8-新古1529すみなれし人かけもせぬわかやとに在曙の月のいくよともなく
すみなれし ひとかけもせぬ わかやとに ありあけのつきの いくよともなく
和泉式部雑上
8-新古1530すむ人もあるかなきかのやとならしあしまの月のもるにまかせて
すむひとも あるかなきかの やとならし あしまのつきの もるにまかせて
源経信雑上
8-新古1531おもひきやわかれし秋にめくりあひて又もこのよの月をみんとは
おもひきや わかれしあきに めくりあひて またもこのよの つきをみむとは
藤原俊成雑上
8-新古1532月を見て心うかれしいにしへの秋にもさらにめくりあひぬる
つきをみて こころうかれし いにしへの あきにもさらに めくりあひぬる
西行法師雑上
8-新古1533よもすから月こそそてにやとりけれむかしの秋をおもひいつれは
よもすから つきこそそてに やとりけれ むかしのあきを おもひいつれは
読人知らず雑上
8-新古1534月のいろに心をきよくそめましや宮こをいてぬわか身なりせは
つきのいろに こころをきよく そめましや みやこをいてぬ わかみなりせは
読人知らず雑上
8-新古1535すつとならはうきよをいとふしるしあらんわれみはくもれ秋のよの月
すつとならは うきよをいとふ しるしあらむ われみはくもる あきのよのつき
読人知らず雑上
8-新古1536ふけにけるわか身のかけをおもふまにはるかに月のかたふきにける
ふけにける わかみのかけを おもふまに はるかにつきの かたふきにける
読人知らず雑上
8-新古1537なかめしてすきにしかたをおもふまに峯よりみねに月はうつりぬ
なかめして すきにしかたを おもふまに みねよりみねに つきはうつりぬ
覚性入道親王雑上
8-新古1538あきのよの月に心をなくさめてうきよにとしのつもりぬるかな
あきのよの つきにこころを なくさめて うきよにとしの つもりぬるかな
藤原道経雑上
8-新古1539秋をへて月をなかむる身となれりいそちのやみをなになけくらん
あきをへて つきをなかめむ みとなれり いそちのやみを なになけくらむ
慈円雑上
8-新古1540なかめてもむそちの秋はすきにけりおもへはかなし山の葉の月
なかめても むそちのあきは すきにけり おもへはかなし やまのはのつき
藤原隆信雑上
8-新古1541心ある人のみあきの月をみはなにをうき身のおもひいてにせん
こころある ひとのみあきの つきをみは なにをうきみの おもひいてにせむ
源光行雑上
8-新古1542身のうさを月やあらぬとなかむれはむかしなからのかけそもりくる
みのうさを つきやあらぬと なかむれは むかしなからの かけそもりくる
二条院讃岐雑上
8-新古1543ありあけの月よりほかはたれをかは山ちのともと契をくへき
ありあけの つきよりほかに たれをかは やまちのともと ちきりおくへき
寂超法師雑上
8-新古1544宮こなるあれたるやとにむなしくや月にたつぬる人かへるらん
みやこなる あれたるやとに むなしくや つきにたつぬる ひとかへるらむ
大江嘉言雑上
8-新古1545おもひやれなにをしのふとなけれともみやこおほゆるありあけの月
おもひやれ なにをしのふと なけれとも みやこおほゆる ありあけのつき
惟明親王雑上
8-新古1546ありあけのおなしなかめはきみもとへみやこのほかも秋の山さと
ありあけの おなしなかめは きみもとへ みやこのほかも あきのやまさと
式子内親王雑上
8-新古1547あまのとををしあけかたの雲間より神よの月のかけそのこれる
あまのとを おしあけかたの くもまより かみよのつきの かけそのこれる
九条良経雑上
8-新古1548雲をのみつらきものとてあかすよの月よこすゑにをちかたの山
くもをのみ つらきものとて あかすよの つきよこすゑに をちかたのやま
花山院忠経雑上
8-新古1549いりやらて夜をおしむ月のやすらひにほのほのあくる山のはそうき
いりやらて よををしむつきの やすらひに ほのほのあくる やまのはそうき
藤原保季雑上
8-新古1550あやしくそかへさは月のくもりにしむかしかたりによやふけにけん
あやしくそ かへさはつきの くもりにし むかしかたりに よやふけにけむ
法橋行遍雑上
8-新古1551ふるさとのやともる月にこととはんわれをはしるやむかしすみきと
ふるさとの やともるつきに こととはむ われをはしるや むかしすみきと
寂超法師雑上
8-新古1552すたきけんむかしの人はかけたえてやともるものはありあけの月
すたきけむ むかしのひとは かけたえて やともるものは ありあけのつき
平忠盛雑上
8-新古1553やへむくらしけれるやとは人もなしまはらに月のかけそすみける
やへむくら しけれるやとは ひともなし まはらにつきの かけそすみける
大江匡房雑上
8-新古1554かもめゐるふちえのうらのおきつすによふねいさよふ月のさやけさ
かもめゐる ふちえのうらの おきつすに よふねいさよふ つきのさやけさ
源顕仲雑上
8-新古1555なにはかたしほひにあさるあしたつも月かたふけは声のうらむる
なにはかた しほひにあさる あしたつも つきかたふけは こゑのうらむる
俊恵法師雑上
8-新古1556わかのうらに月のいてしほのさすままによるなくつるの声そかなしき
わかのうらに つきのてしほの さすままに よるなくつるの こゑそかなしき
慈円雑上
8-新古1557もしほくむ袖の月かけをのつからよそにあかさぬすまのうら人
もしほくむ そてのつきかけ おのつから よそにあかさぬ すまのうらひと
藤原定家雑上
8-新古1558あかしかた色なき人の袖を見よすすろに月もやとる物かは
あかしかた いろなきひとの そてをみよ すすろにつきも やとるものかは
藤原秀能雑上
8-新古1559なかめよとおもはてしもやかへるらん月まつなみのあまのつり舟
なかめよと おもはてしもや かへるらむ つきまつなみの あまのつりふね
具親雑上
8-新古1560しめをきていまやとおもふ秋山のよもきかもとにまつむしのなく
しめおきて いまやとおもふ あきやまの よもきかもとに まつむしのなく
藤原俊成雑上
8-新古1561あれわたる秋の庭こそあはれなれましてきえなん露のゆふくれ
あれわたる あきのにはこそ あはれなれ ましてきえなむ つゆのゆふくれ
読人知らず雑上
8-新古1562雲かかるとを山はたの秋されはおもひやるたにかなしき物を
くもかかる とほやまはたの あきされは おもひやるたに かなしきものを
西行法師雑上
8-新古1563風そよくしののをささのかりのよをおもふねさめにつゆそこほるる
かせそよく しののをささの かりのよを おもふねさめに つゆそこほるる
守覚法親王雑上
8-新古1564あさちふや袖にくちにし秋の霜わすれぬ夢をふく嵐かな
あさちふや そてにくちにし あきのしも わすれぬゆめを ふくあらしかな
久我通光雑上
8-新古1565くすの葉にうらみにかへる夢のよをわすれかたみの野への秋風
くすのはの うらみにかへる ゆめのよを わすれかたみの のへのあきかせ
藤原俊成女雑上
8-新古1566しら露はをきにけらしな宮木ののもとあらのこはきすゑたわむまて
しらつゆは おきにけらしな みやきのの もとあらのはきの すゑたわむまて
祝部允仲雑上
8-新古1567をみなへしさかりの色をみるからにつゆのわきける身こそしらるれ
をみなへし さかりのいろを みるからに つゆのわきける みこそしらるれ
紫式部雑上
8-新古1568白露はわきてもをかしをみなへし心からにや色のそむらん
しらつゆは わきてもおかし をみなへし こころからにや いろのそむらむ
藤原道長雑上
8-新古1569山さとにくすはひかかる松かきのひまなく物は秋そかなしき
やまさとに くすはひかかる まつかきの ひまなくものは あきそかなしき
曽祢好忠雑上
8-新古1570ももとせの秋のあらしはすくしきぬいつれのくれの露ときえなん
ももとせの あきのあらしは すくしきぬ いつれのくれの つゆときえなむ
安法々師雑上
8-新古1571秋はつるはつかの山のさひしきに在あけの月をたれとみるらん
あきはつる はつかのやまの さひしきに ありあけのつきを たれとみるらむ
大江匡房雑上
8-新古1572花すすき秋のすゑ葉になりぬれはことそともなくつゆそこほるる
はなすすき あきのすゑはに なりぬれは ことそともなく つゆそこほるる
源行宗雑上
8-新古1573夜はにふくあらしにつけておもふかな宮こもかくや秋はさひしき
よはにふく あらしにつけて おもふかな みやこもかくや あきはさひしき
徳大寺実定雑上
8-新古1574世中にあきはてぬれは宮こにもいまはあらしのをとのみそする
よのなかに あきはてぬれは みやこにも いまはあらしの おとのみそする
藤原顕長雑上
8-新古1575うつろふは心のほかのあきなれはいまはよそにそきくのうへのつゆ
うつろふは こころのほかの あきなれは いまはよそにそ きくのうへのつゆ
冷泉院雑上
8-新古1576たのもしなのの宮人のうふる花しくるる月にあへすなるとも
たのもしな ののみやひとの ううるはな しくるるつきに あへすなるとも
源順雑上
8-新古1577山かはのいはゆく水もこほりしてひとりくたくる峯のまつ風
やまかはの いはゆくみつも こほりして ひとりくたくる みねのまつかせ
読人知らず雑上
8-新古1578あさことにみきはのこほりふみわけて君につかふるみちそかしこき
あさことに みきはのこほり ふみわけて きみにつかふる みちそかしこき
源通親雑上
8-新古1579君かよにあふくまかはのむもれ木もこほりのしたに春をまちけり
きみかよに あふくまかはの うもれきも こほりのしたに はるをまちけり
藤原家隆雑上
8-新古1580あともなく雪ふるさとはあれにけりいつれむかしのかきねなるらん
あともなく ゆきふるさとは あれにけり いつれむかしの かきねなるらむ
赤染衛門雑上
8-新古1581つゆのいのちきえなましかはかくはかりふる白雪をなかめましやは
つゆのいのち きえなましかは かくはかり ふるしらゆきを なかめましやは
後白河院雑上
8-新古1582そま山やこすゑにをもるゆきをれにたえぬなけきの身をくたくらん
そまやまの こすゑにおもる ゆきをれに たえぬなけきの みをくたくらむ
藤原俊成雑上
8-新古1583時すきてしもにきえにし花なれとけふはむかしの心ちこそすれ
ときすきて しもにきえにし はななれと けふはむかしの ここちこそすれ
朱雀院雑上
8-新古1584ほともなくさめぬる夢の中なれとそのよににたる花の色かな
ほともなく さめぬるゆめの うちなれと そのよににたる はなのいろかな
藤原公任雑上
8-新古1585見し夢をいつれのよそとおもふまにおりをわすれぬ花のかなしさ
みしゆめを いつれのよそと おもふまに をりをわすれぬ はなのかなしさ
御形宣旨雑上
8-新古1586おいぬとも又もあはんとゆくとしになみたのたまをたむけつるかな
おいぬとも またもあはむと ゆくとしに なみたのたまを たむけつるかな
藤原俊成雑上
8-新古1587おほかたにすくる月日となかめしはわか身にとしのつもるなりけり
おほかたに すくるつきひを なかめしは わかみにとしの つもるなりけり
慈覚大師雑上
8-新古1588白なみのはま松かえのたむけくさいくよまてにかとしのへぬらん
しらなみの はままつかえの たむけくさ いくよまてにか としのへぬらむ
河島皇子雑中
8-新古1589山しろのいは田のをののははそはら見つつや君か山ちこゆらん
やましろの いはたのをのの ははそはら みつつやきみか やまちこゆらむ
式部卿宇合雑中
8-新古1590あしのやのなたのしほやきいとまなみつけのをくしもささすきにけり
あしのやの なたのしほやき いとまなみ つけのをくしも ささすきにけり
在原業平雑中
8-新古1591はるるよのはしかかはへの蛍かもわかすむかたのあまのたくひか
はるるよの ほしかかはへの ほたるかも わかすむかたに あまのたくひか
読人知らず雑中
8-新古1592しかのあまのしほやくけふり風をいたみたちはのほらて山にたなひく
しかのあまの しほやくけふり かせをいたみ たちはのほらて やまにたなひく
読人知らず雑中
8-新古1593なにはめの衣ほすとてかりてたくあしひのけふりたたぬ日そなき
なにはめの ころもほすとて かりてたく あしひのけふり たたぬひそなき
紀貫之雑中
8-新古1594としふれはくちこそまされはしはしらむかしなからの名たにかはらて
としふれは くちこそまされ はしはしら むかしなからの なたにかはらて
忠岑雑中
8-新古1595春の日のなからのはまに舟とめていつれかはしととへとこたへぬ
はるのひの なからのはまに ふねとめて いつれかはしと とへとこたへぬ
恵慶法師雑中
8-新古1596くちにけるなからのはしをきてみれはあしのかれ葉に秋風そ吹
くちにける なからのはしを きてみれは あしのかれはに あきかせそふく
徳大寺実定雑中
8-新古1597おきつ風よはにふくらしなにはかたあか月かけてなみそよすなる
おきつかせ よはにふくらし なにはかた あかつきかけて なみそよすなる
藤原定頼雑中
8-新古1598すまの浦のなきたるあさはめもはるにかすみにまかふあまのつり舟
すまのうらの なきたるあさは めもはるに かすみにまかふ あまのつりふね
藤原孝善雑中
8-新古1599秋風のせきふきこゆるたひことに声うちそふるすまのうら浪
あきかせの せきふきこゆる たひことに こゑうちそふる すまのうらなみ
壬生忠見雑中
8-新古1600すまの関夢をとおさぬなみのをとをおもひもよらてやとをかりける
すまのせき ゆめをとほさぬ なみのおとを おもひもよらて やとをかりけり
慈円雑中
8-新古1601人すまぬふわのせきやのいたひさしあれにしのちはたた秋の風
ひとすまぬ ふはのせきやの いたひさし あれにしのちは たたあきのかせ
九条良経雑中
8-新古1602あまを舟とまふきかへす浦風にひとりあかしの月をこそ見れ
あまをふね とまふきかへす うらかせに ひとりあかしの つきをこそみれ
源俊頼雑中
8-新古1603わかのうらを松の葉こしになかむれはこすゑによするあまのつり舟
わかのうらを まつのはこしに なかむれは こすゑによする あまのつりふね
寂蓮法師雑中
8-新古1604みつのえのよしのの宮は神さひてよはひたけたる浦の松風
みつのえの よしののみやは かみさひて よはひたけたる うらのまつかせ
藤原季能雑中
8-新古1605いまさらにすみうしとてもいかかせんなたのしほやのゆふくれの空
いまさらに すみうしとても いかならむ なたのしほやの ゆふくれのそら
藤原秀能雑中
8-新古1606おほよとのうらにたつなみかへらすは松のかはらぬいろをみましや
おほよとの うらにたつなみ かへらすは まつのかはらぬ いろをみましや
女御徽子女王雑中
8-新古1607まつ人は心ゆくともすみよしのさとにとのみはおもはさらなん
まつひとは こころゆくとも すみよしの さとにとのみは おもはさらなむ
後冷泉院雑中
8-新古1608すみよしの松はまつともおもほえて君かちとせのかけそこひしき
すみよしの まつはまつとも おもほえて きみかちとせの かけそこひしき
大弐三位雑中
8-新古1609うちよする浪のこゑにてしるきかなふきあけのはまの秋のはつ風
うちよする なみのこゑにて しるきかな ふきあけのはまの あきのはつかせ
祝部成仲雑中
8-新古1610おきつかせ夜さむになれやたこのうらのあまのもしほ火たきまさるらん
おきつかせ よさむになれや たこのうら あまのもしほひ たきすさふらむ
越前雑中
8-新古1611見わたせはかすみのうちもかすみけりけふりたなひくしほかまのうら
みわたせは かすみのうちも かすみけり けふりたなひく しほかまのうら
藤原家隆雑中
8-新古1612けふとてやいそなつむらんいせしまやいちしのうらのあまのをとめこ
けふとてや いそなつむらむ いせしまや いちしのうらの あまのをとめこ
藤原俊成雑中
8-新古1613すすか山うきよをよそにふりすてていかになりゆくわか身なるらん
すすかやま うきよをよそに ふりすてて いかになりゆく わかみなるらむ
西行法師雑中
8-新古1614世中をこころたかくもいとふかなふしのけふりを身のおもひにて
よのなかを こころたかくも いとふかな ふしのけふりを みのおもひにて
慈円雑中
8-新古1615風になひくふしのけふりのそらにきえてゆくゑもしらぬわか思哉
かせになひく ふしのけふりの そらにきえて ゆくへもしらぬ わかこころかな
西行法師雑中
8-新古1616時しらぬ山はふしのねいつとてかかのこまたらに雪のふるらん
ときしらぬ やまはふしのね いつとてか かのこまたらに ゆきのふるらむ
在原業平雑中
8-新古1617春秋もしらぬときはの山さとはすむ人さへやおもかはりせぬ
はるあきも しらぬときはの やまさとは すむひとさへや おもかはりせぬ
在原元方雑中
8-新古1618花ならてたたしはのとをさして思こころのおくもみよしのの山
はなならて たたしはのとを さしておもふ こころのおくも みよしののやま
慈円雑中
8-新古1619よしの山やかていてしとおもふ身を花ちりなはと人やまつらん
よしのやま やかていてしと おもふみを はなちりなはと ひとやまつらむ
西行法師雑中
8-新古1620いとひてもなをいとはしきよなりけりよしののおくの秋の夕くれ
いとひても なほいとはしき よなりけり よしののおくの あきのゆふくれ
藤原家衡雑中
8-新古1621ひとすちになれなはさてもすきのいほによなよなかはる風のをとかな
ひとすちに なれなはさても すきのいほに よなよなかはる かせのおとかな
堀川通具雑中
8-新古1622たれかはとおもひたえてもまつにのみをとつれてゆく風はうらめし
たれかはと おもひたえても まつにのみ おとつれてゆく かせはうらめし
藤原有家雑中
8-新古1623山さとはよのうきよりはすみわひぬことのほかなる峯の嵐に
やまさとは よのうきよりも すみわひぬ ことのほかなる みねのあらしに
宜秋門院丹後雑中
8-新古1624滝のをと松のあらしもなれぬれはうちぬるほとの夢はみせけり
たきのおと まつのあらしも なれぬれは うちぬるほとの ゆめはみてまし
藤原家隆雑中
8-新古1625ことしけきよをのかれにしみ山へにあらしの風も心してふけ
ことしけき よをのかれにし みやまへに あらしのかせも こころしてふけ
寂然法師雑中
8-新古1626おく山のこけの衣にくらへ見よいつれかつゆのをきまさるとも
おくやまの こけのころもに くらへみよ いつれかつゆの おきまさるとも
藤原師氏雑中
8-新古1627白つゆのあしたゆふへにおく山のこけの衣は風もさはらす
しらつゆの あしたゆふへに おくやまの こけのころもは かせもさはらす
如覚雑中
8-新古1628世中をそむきにとてはこしかともなをうきことはおほはらのさと
よのなかを そむきにとては こしかとも なほうきことは おほはらのさと
読人知らず雑中
8-新古1629身をはかつをしほの山とおもひつついかにさためて人のいりけん
みをはかつ をしほのやまと おもひつつ いかにさためて ひとのいりけむ
大中臣能宣雑中
8-新古1630こけのいほりさしてきつれと君まさてかへるみ山のみちのつゆけさ
こけのいほり さしてきつれと きみまさて かへるみやまの みちのつゆけさ
恵慶法師雑中
8-新古1631あれはてて風もさはらぬこけのいほにわれはなくともつゆはもりけん
あれはてて かせもさはらぬ こけのいほに われはなくとも つゆはもりけむ
読人知らず雑中
8-新古1632山ふかくさこそ心はかよふともすまてあはれをしらんものかは
やまふかく さこそこころは かよふとも すまてあはれを しらむものかは
西行法師雑中
8-新古1633やまかけにすまぬこころはいかなれやおしまれている月もあるよに
やまかけに すまぬこころは いかなれや をしまれている つきもあるよに
読人知らず雑中
8-新古1634たちいててつま木おりこしかたをかのふかき山ちとなりにけるかな
たちいてて つまきをりこし かたをかの ふかきやまちと なりにけるかな
寂蓮法師雑中
8-新古1635おく山のをとろかしたもふみわけてみちあるよそと人にしらせん
おくやまの おとろかしたも ふみわけて みちあるよそと ひとにしらせむ
太上天皇雑中
8-新古1636なからへて猶きみかよを松山のまつとせしまにとしそへにける
なからへて なほきみかよを まつやまの まつとせしまに としそへにける
二条院讃岐雑中
8-新古1637いまはとてつま木こるへきやとの松ちよをは君と猶いのる哉
いまはとて つまきこるへき やとのまつ ちよをはきみと なほいのるかな
藤原俊成雑中
8-新古1638われなからおもふかものをとはかりに袖にしくるる庭の松風
われなから おもふかものを とはかりに そてにしくるる にはのまつかせ
藤原有家雑中
8-新古1639世をそむくところとかきくおく山はものおもひにそいるへかりける
よをそむく ところとかきく おくやまは ものおもひにそ いるへかりける
道命法師雑中
8-新古1640世をそむくかたはいつくにありぬへしおほはら山はすみよかりきや
よをそむく かたはいつくに ありぬへし おほはらやまは すみよかりきや
和泉式部雑中
8-新古1641おもふことおほはら山のすみかまはいととなけきのかすをこそつめ
おもふこと おほはらやまの すみかまは いととなけきの かすをこそつめ
少将井尼雑中
8-新古1642たれすみて哀しるらん山さとの雨ふりすさむゆふくれの空
たれすみて あはれしるらむ やまさとの あめふりすさふ ゆふくれのそら
西行法師雑中
8-新古1643しほりせてなを山ふかくわけいらんうきこときかぬ所ありやと
しをりせて なほやまふかく わけいらむ うきこときかぬ ところありやと
読人知らず雑中
8-新古1644かさしおるみわのしけ山かきわけてあはれとそおもふすきたてるかと
かさしをる みわのしけやま かきわけて あはれとそおもふ すきたてるかと
殷富門院大輔雑中
8-新古1645いつとなきをくらの山のかけをみてくれぬと人のいそくなる哉
いつとなく をくらのやまの かけをみて くれぬとひとの いそくなるかな
道命法師雑中
8-新古1646さかの山ちよのふるみちあととめてまたつゆわくるもち月のこま
さかのやま ちよのふるみち あととめて またつゆわくる もちつきのこま
藤原定家雑中
8-新古1647さほかはのなかれひさしき身なれともうきせにあひてしつみぬる哉
さほかはの なかれひさしき みなれとも うきせにあひて しつみぬるかな
藤原忠通雑中
8-新古1648かかるせもありけるものをうちかはのたえぬはかりもなけきけるかな
かはるせも ありけるものを うちかはの たえぬはかりも なけきけるかな
藤原兼家雑中
8-新古1649むかしよりたえせぬ河のすゑなれはよとむはかりをなになけくらん
むかしより たえせぬかはの すゑなれは よとむはかりを なになけくらむ
円融院雑中
8-新古1650もののふのやそ氏かはのあしろ木にいさよふ浪のゆくゑしらすも
もののふの やそうちかはの あしろきに いさよふなみの ゆくへしらすも
柿本人麿雑中
8-新古1651わかよをはけふかあすかとまつかひのなみたの瀧といつれたかけん
わかよをは けふかあすかと まつかひの なみたのたきと いつれたかけむ
在原行平雑中
8-新古1652みなかみのそらにみゆるは白雲のたつにまかへるぬのひきの瀧
みなかみの そらにみゆるは しらくもの たつにまかへる ぬのひきのたき
藤原師通雑中
8-新古1653ひさかたのあまつをとめか夏衣くも井にさらすぬのひきのたき
ひさかたの あまつをとめか なつころも くもゐにさらす ぬのひきのたき
藤原有家雑中
8-新古1654むかしきくあまのかはらをたつねきてあとなきみつをなかむはかりそ
むかしきく あまのかはらを たつねきて あとなきみつを なかむはかりそ
九条良経雑中
8-新古1655あまのかはかよふうききにこととはんもみちのはしはちるやちらすや
あまのかは かよふうききに こととはむ もみちのはしは ちるやちらすや
藤原実方雑中
8-新古1656ま木のいたもこけむすはかりなりにけりいくよへぬらんせたのなかはし
まきのいたも こけむすはかり なりにけり いくよへぬらむ せたのなかはし
大江匡房雑中
8-新古1657さためなき名にはたてれとあすかかははやくわたりしせにこそ有けれ
さためなき なにはたてれと あすかかは はやくわたりし せにこそありけれ
中務雑中
8-新古1658山さとにひとりなかめておもふかなよにすむ人の心つよさを
やまさとに ひとりなかめて おもふかな よにすむひとの こころつよさを
慈円雑中
8-新古1659やまさとにうきよいとはんとももかなくやしくすきし昔かたらん
やまさとに うきよいとはむ とももかな くやしくすきし むかしかたらむ
西行法師雑中
8-新古1660山さとは人こさせしとおもはねととはるることそうとくなりゆく
やまさとは ひとこさせしと おもはねと とはるることそ うとくなりゆく
読人知らず雑中
8-新古1661草のいほをいとひても又いかかせんつゆのいのちのかかるかきりは
くさのいほを いとひてもまた いかかせむ つゆのいのちの かかるかきりは
慈円雑中
8-新古1662わくらはになとかは人のとはさらんをとなし河にすむ身なりとも
わくらはに なとかはひとの とはさらむ おとなしかはに すむみなりとも
行尊雑中
8-新古1663世をそむく山のみなみの松風にこけのころもやよさむなるらん
よをそむく やまのみなみの まつかせに こけのころもや よさむなるらむ
安法々師雑中
8-新古1664いつかわれこけのたもとにつゆをきてしらぬ山ちの月をみるへき
いつかわれ こけのたもとに つゆおきて しらぬやまちの つきをみるへき
藤原家隆雑中
8-新古1665いまはわれ松のはしらのすきのいほにとつへき物をこけふかき袖
いまはわれ まつのはしらの すきのいほに とつへきものを こけふかきそて
式子内親王雑中
8-新古1666しきみつむ山ちのつゆにぬれにけり暁おきのすみ染のそて
しきみつむ やまちのつゆに ぬれにけり あかつきおきの すみそめのそて
小侍従雑中
8-新古1667わすれしの人たにとはぬ山ちかな桜は雪にふりかはれとも
わすれしの ひとたにとはぬ やまちかな さくらはゆきに ふりかはれとも
九条良経雑中
8-新古1668かけやとすつゆのみしけくなりはてて草にやつるるふるさとの月
かけやとす つゆのみしけく なりはてて くさにやつるる ふるさとのつき
飛鳥井雅経雑中
8-新古1669けふりたえてやく人もなきすみかまのあとのなけきをたれかこるらん
けふりたえて やくひともなき すみかまの あとのなけきを たれかこるらむ
賀茂重保雑中
8-新古1670やそちあまりにしのむかへをまちかねてすみあらしたるしはのいほりそ
やそちあまり にしのむかへを まちかねて すみあらしたる しはのいほりそ
西日法師雑中
8-新古1671山さとにとひくる人のことくさはこのすまゐこそうらやましけれ
やまさとに とひくるひとの ことくさは このすまひこそ うらやましけれ
慈円雑中
8-新古1672おののえのくちしむかしはとをけれとありしにもあらぬよをもふる哉
をののえの くちしむかしは とほけれと ありしにあらぬ よをもふるかな
式子内親王雑中
8-新古1673いかにせんしつかそのふのおくのたけかきこもるとも世中そかし
いかにせむ しつかそのふの おくのたけ かきこもるとも よのなかそかし
藤原俊成雑中
8-新古1674あけくれはむかしをのみそしのふくさ葉すゑのつゆに袖ぬらしつつ
あけくれは むかしをのみそ しのふくさ はすゑのつゆに そてぬらしつつ
祝部成仲雑中
8-新古1675をかの辺のさとのあるしをたつぬれは人はこたへす山をろしの風
をかのへの さとのあるしを たつぬれは ひとはこたへす やまおろしのかせ
慈円雑中
8-新古1676ふるはたのそはのたつきにゐるはとのともよふ声のすこきゆふくれ
ふるはたの そはのたつきに ゐるはとの ともよふこゑの すこきゆふくれ
西行法師雑中
8-新古1677山かつのかたをかかけてしむる野のさかひにたてる玉のを柳
やまかつの かたをかかけて しむるのの さかひにたてる たまのをやなき
読人知らず雑中
8-新古1678しけきのをいくひとむらにわけなしてさらにむかしをしのひかへさん
しけきのを いくひとむらに わけなして さらにむかしを しのひかへさむ
読人知らず雑中
8-新古1679むかし見し庭のこ松にとしふりて嵐のをとをこすゑにそきく
むかしみし にはのこまつに としふりて あらしのおとを こすゑにそきく
読人知らず雑中
8-新古1680すみなれしわかふるさとはこのころやあさちかはらにうつらなくらん
すみなれし わかふるさとは このころや あさちかはらに うつらなくらむ
行尊雑中
8-新古1681ふるさとはあさちかすゑになりはてて月にのこれる人のおもかけ
ふるさとは あさちかすゑに なりはてて つきにのこれる ひとのおもかけ
九条良経雑中
8-新古1682これや見しむかしすみけんあとならんよもきかつゆに月のかかれる
これやみし むかしすみけむ あとならむ よもきかつゆに つきのかかれる
西行法師雑中
8-新古1683かけにとてたちかくるれはから衣ぬれぬ雨ふる松のこゑかな
かけにとて たちかくるれは からころも ぬれぬあめふる まつのこゑかな
紀貫之雑中
8-新古1684いそのかみふりにし人をたつぬれはあれたるやとにすみれつみけり
いそのかみ ふりにしひとを たつぬれは あれたるやとに すみれつみけり
能因法師雑中
8-新古1685いにしへをおもひやりてそこひわたるあれたるやとのこけのいしはし
いにしへを おもひやりてそ こひわたる あれたるやとの こけのいしはし
恵慶法師雑中
8-新古1686わくらはにとはれし人もむかしにてそれより庭のあとはたえにき
わくらはに とはれしひとも むかしにて それよりにはの あとはたえにき
藤原定家雑中
8-新古1687なけきこる身は山なからすくせかしうきよの中になにかへるらん
なけきこる みはやまなから すくせかし うきよのなかに なにかへるらむ
赤染衛門雑中
8-新古1688秋されはかり人こゆるたつた山たちてもゐてもものをしそおもふ
あきされは かりひとこゆる たつたやま たちてもゐても ものをしそおもふ
柿本人麿雑中
8-新古1689あさくらやきのまろとのにわかをれはなのりをしつつゆくはたかこそ
あさくらや きのまろとのに わかをれは なのりをしつつ ゆくはたかこそ
天智天皇雑中
8-新古1690あしひきのこなたかなたにみちはあれと宮こへいさといふ人そなき
あしひきの こなたかなたに みちはあれと みやこへいさと いふひとそなき
菅贈太政大臣雑中
8-新古1691あまのはらあかねさしいつるひかりにはいつれのぬまかさえのこるへき
あまのはら あかねさしいつる ひかりには いつれのぬまか さえのこるへき
読人知らず雑下
8-新古1692つきことになかるとおもひしますかかみにしのうみにもとまらさりけり
つきことに なかるとおもひし ますかかみ にしのそらにも とまらさりけり
読人知らず雑下
8-新古1693山わかれとひゆく雲のかへりくるかけみる時は猶たのまれぬ
やまわかれ とひゆくくもの かへりくる かけみるときは なほたのまれぬ
読人知らず雑下
8-新古1694きりたちててる日の本はみえすとも身はまとはれしよるへありやと
きりたちて てるひのもとは みえすとも みはまとはれし よるへありやと
読人知らず雑下
8-新古1695花とちり玉と見えつつあさむけは雪ふるさとそ夢に見えける
はなとちり たまとみえつつ あさむけは ゆきふるさとそ ゆめにみえける
読人知らず雑下
8-新古1696おいぬとて松はみとりそまさりけるわかくろかみの雪のさむさに
おいぬとて まつはみとりそ まさりける わかくろかみの ゆきのさむさに
読人知らず雑下
8-新古1697つくしにも紫おふる野辺はあれとなき名かなしふ人そきこえぬ
つくしにも むらさきおふる のへはあれと なきなかなしむ ひとそきこえぬ
読人知らず雑下
8-新古1698かるかやの関もりにのみ見えつるは人もゆるさぬ道へなりけり
かるかやの せきもりにのみ みえつるは ひともゆるさぬ みちへなりけり
読人知らず雑下
8-新古1699うみならすたたへる水の底まてにきよき心は月そてらさん
うみならす たたへるみつの そこまてに きよきこころは つきそてらさむ
読人知らず雑下
8-新古1700ひこほしのゆきあひをまつかささきのとわたるはしを我にかさなん
ひこほしの ゆきあひをまつ かささきの わたせるはしを われにかさなむ
読人知らず雑下
8-新古1701なかれ木とたつ白浪とやくしほといつれかからきわたつみのそこ
なかれきと たつしらなみと やくしほと いつれかからき わたつみのそこ
読人知らず雑下
8-新古1702ささなみのひら山風のうみふけはつりするあまの袖かへるみゆ
ささなみの ひらやまかせの うみふけは つりするあまの そてかへるみゆ
読人知らず雑下
8-新古1703白浪のよするなきさによをつくすあまのこなれはやともさためす
しらなみの よするなきさに よをつくす あまのこなれは やともさためす
読人知らず雑下
8-新古1704舟のうち浪のうへにそ老にけるあまのしわさもいとまなのよや
ふねのうち なみのしたにそ おいにける あまのしわさも いとまなのよや
九条良経雑下
8-新古1705さすらふる身はさためたるかたもなしうきたる舟のなみにまかせて
さすらふる みはさためたる かたもなし うきたるふねの なみにまかせて
大江匡房雑下
8-新古1706いかにせん身をうきふねのにををもみつゐのとまりやいつこなるらん
いかにせむ みをうきふねの にをおもみ つひのとまりや いつくなるらむ
増賀上人雑下
8-新古1707あしかものさはくいり江の水のえのよにすみかたきわか身なりけり
あしかもの さわくいりえの みつのえの よにすみかたき わかみなりけり
柿本人麿雑下
8-新古1708あしかものは風になひくうき草のさためなきよをたれかたのまん
あしかもの はかせになひく うきくさの さためなきよを たれかたのまむ
大中臣能宣雑下
8-新古1709おいにけるなきさの松のふかみとりしつめるかけをよそにやはみる
おいにける なきさのまつの ふかみとり しつめるかけを よそにやはみる
雑下
8-新古1710葦引の山した水にかけみれはまゆしろたへにわれ老にけり
あしひきの やましたみつに かけみれは まゆしろたへに われおいにけり
能因法師雑下
8-新古1711なれ見てし花のたもとをうちかへしのりの衣をたちそかへつる
なれみてし はなのたもとを うちかへし のりのころもを たちそかへつる
藤原道長雑下
8-新古1712そのかみの玉のかつらをうちかへしいまは衣のうらをたのまん
そのかみの たまのかさしを うちかへし いまはころもの うらをたのまむ
東三条院雑下
8-新古1713つきもせぬひかりのまにもまきれなておいてかへれるかみのつれなさ
つきもせぬ ひかりのまにも まきれなて おいてかへれる かみのつれなさ
冷泉院太皇太后宮雑下
8-新古1714かはるらん衣のいろをおもひやるなみたやうらの玉にまかはん
かはるらむ ころものいろを おもひやる なみたやうらの たまにまかはむ
枇杷皇太后宮雑下
8-新古1715まかふらんころものたまにみたれつつなをまたさめぬ心ちこそすれ
まかふらむ ころものたまに みたれつつ なほまたさめぬ ここちこそすれ
上東門院雑下
8-新古1716しほのまによものうらうらたつぬれといまはわか身のいふかひもなし
しほのまに よものうらうら たつぬれと いまはわかみの いふかひもなし
和泉式部雑下
8-新古1717いにしへのあまやけふりとなりぬらん人めも見えぬしほかまのうら
いにしへの あまやけふりと なりぬらむ ひとめもみえぬ しほかまのうら
一条院皇后宮雑下
8-新古1718宮こより雲のやへたつおく山のよかはの水はすみよかるらん
みやこより くものやへたつ おくやまの よかはのみつは すみよかるらむ
天暦雑下
8-新古1719ももしきのうちのみつねにこひしくて雲のやへたつ山はすみうし
ももしきの うちのみつねに こひしくて くものやへたつ やまはすみうし
如覚雑下
8-新古1720夢かともなにかおもはんうきよをはそむかさりけんほとそくやしき
ゆめかとも なにかおもはむ うきよをは そむかさりけむ ほとそくやしき
惟喬親王雑下
8-新古1721雲井とふ雁のねちかきすまゐにもなをたまつさはかけすやありけん
くもゐとふ かりのねちかき すまひにも なほたまつさは かけすやありけむ
女御徽子女王雑下
8-新古1722白露はをきてかはれとももしきのうつろふ秋は物そかなしき
しらつゆは おきてかはれと ももしきの うつろふあきは ものそかなしき
伊勢雑下
8-新古1723あまつ風ふけゐのうらにゐるたつのなとか雲井にかへらさるへき
あまつかせ ふけひのうらに ゐるたつの なとかくもゐに かへらさるへき
藤原清正雑下
8-新古1724いにしへのなれし雲井をしのふとやかすみをわけて君たつねけん
いにしへの なれしくもゐを しのふとや かすみをわけて きみたつねけむ
読人知らず雑下
8-新古1725おほよとのうらにかりほすみるめたにかすみにたへてかへるかりかね
おほよとの うらにかりほす みるめたに かすみにたえて かへるかりかね
藤原定家雑下
8-新古1726はまちとりふみをくあとのつもりなはかひあるうらにあはさらめやは
はまちとり ふみおくあとの つもりなは かひあるうらに あはさらめやは
後白河院雑下
8-新古1727瀧つせに人の心を見ることはむかしにいまもかはらさりけり
たきつせに ひとのこころを みることは むかしにいまも かはらさりけり
後朱雀院雑下
8-新古1728あさからぬ心そみゆるをとはかはせきいれし水のなかれならねと
あさからぬ こころそみゆる おとはかは せきいれしみつの なかれならねと
周防内侍雑下
8-新古1729ことの葉の中をなくなくたつぬれはむかしの人にあひみつる哉
ことのはの なかをなくなく たつぬれは むかしのひとに あひみつるかな
壬生忠見雑下
8-新古1730ひとりねのこよひもあけぬたれとしもたのまはこそはこぬもうらみめ
ひとりねの こよひもあけぬ たれとしも たのまはこそは こぬもうらみめ
藤原為忠雑下
8-新古1731くさわけてたちゐるそてのうれしさにたへすなみたのつゆそこほるる
くさわけて たちゐるそての うれしさに たえすなみたの つゆそこほるる
赤染衛門雑下
8-新古1732うれしさはわすれやはするしのふくさしのふる物を秋の夕くれ
うれしさは わすれやはする しのふくさ しのふるものを あきのゆふくれ
伊勢大輔雑下
8-新古1733秋風のをとせさりせは白露ののきのしのふにかからましやは
あきかせの おとせさりせは しらつゆの のきのしのふに かからましやは
源経信雑下
8-新古1734しのふくさいかなるつゆかをきつらんけさはねもみなあらはれにけり
しのふくさ いかなるつゆか おきつらむ けさはねもみな あらはれにけり
藤原済時雑下
8-新古1735あさちふをたつねさりせはしのふくさおもひをきけんつゆを見ましや
あさちふを たつねさりせは しのふくさ おもひおきけむ つゆをみましや
藤原朝光雑下
8-新古1736なからへんとしもおもはぬつゆの身のさすかにきえんことをこそおもへ
なからへむ としもおもはぬ つゆのみの さすかにきえむ ことをこそおもへ
読人知らず雑下
8-新古1737つゆの身のきえはわれこそさきたためをくれん物かもりの下草
つゆのみの きえはわれこそ さきたため おくれむものか もりのしたくさ
小馬命婦雑下
8-新古1738いのちさへあらは見つへき身のはてをしのはん人のなきそかなしき
いのちさへ あらはみつへき みのはてを しのはむひとの なきそかなしき
和泉式部雑下
8-新古1739さためなきむかしかたりをかそふれはわか身もかすにいりぬへき哉
さためなき むかしかたりを かそふれは わかみもかすに いりぬへきかな
行尊雑下
8-新古1740世中のはれゆくそらにふる霜のうき身はかりそをき所なき
よのなかの はれゆくそらに ふるしもの うきみはかりそ おきところなき
慈円雑下
8-新古1741たのみこしわかふるてらのこけのしたにいつしかくちん名こそおしけれ
たのみこし わかふるてらの こけのしたに いつかくちなむ なこそをしけれ
読人知らず雑下
8-新古1742くりかへしわか身のとかをもとむれは君もなきよにめくるなりけり
くりかへし わかみのとかを もとむれは きみもなきよに めくるなりけり
行尊雑下
8-新古1743うしといひてよをひたふるにそむかねは物おもひしらぬ身とやなりなん
うしといひて よをひたふるに そむかねは ものおもひしらぬ みとやなりなむ
清原元輔雑下
8-新古1744そむけともあめのしたをしはなれねはいつくにもふる涙なりけり
そむけとも あめのしたをし はなれねは いつくにもふる なみたなりけり
読人知らず雑下
8-新古1745おほそらにてる日のいろをいさめてもあめのしたにはたれかすむへき
おほそらに てるひのいろを いさめても あめのしたには たれかすむへき
女蔵人内匠雑下
8-新古1746かくしつつゆふへの雲となりもせは哀かけてもたれかしのはん
かくしつつ ゆふへのくもと なりもせは あはれかけても たれかしのはむ
周防内侍雑下
8-新古1747おもはねとよをそむかんといふ人のおなしかすにやわれもなるらん
おもはねと よをそむかむと いふひとの おなしかすにや われもなりなむ
慈円雑下
8-新古1748かすならぬ身をも心のもちかほにうかれては又かへりきにけり
かすならぬ みをもこころの もちかほに うかれてはまた かへりきにけり
西行法師雑下
8-新古1749をろかなる心のひくにまかせてもさてさはいかにつゐのおもひは
おろかなる こころのひくに まかせても さてさはいかに つひのおもひは
読人知らず雑下
8-新古1750とし月をいかてわか身にをくりけん昨日の人もけふはなきよに
としつきを いかてわかみに おくりけむ きのふのひとも けふはなきよに
読人知らず雑下
8-新古1751うけかたき人のすかたにうかひいててこりすやたれも又しつむへき
うけかたき ひとのすかたに うかひいてて こりすやたれも またしつむへき
読人知らず雑下
8-新古1752そむきてもなをうき物はよなりけり身をはなれたる心ならねは
そむきても なほうきものは よなりけり みをはなれたる こころならねは
寂蓮法師雑下
8-新古1753身のうさをおもひしらすはいかかせんいとひなからも猶すくす哉
みのうさを おもひしらすは いかかせむ いとひなからも なほすくすかな
読人知らず雑下
8-新古1754なにことをおもふ人そと人とははこたへぬさきに袖そぬるへき
なにことを おもふひとそと ひととはは こたへぬさきに そてそぬるへき
慈円雑下
8-新古1755いたつらにすきにしことやなけかれんうけかたき身の夕暮のそら
いたつらに すきにしことや なけかれむ うけかたきみの ゆふくれのそら
読人知らず雑下
8-新古1756うちたえてよにふる身にはあらねともあらぬすちにもつみそかなしき
うちたえて よにふるみには あらねとも あらぬすちにも つみそかなしき
読人知らず雑下
8-新古1757山さとに契しいほやあれぬらんまたれんとたにおもはさりしを
やまさとに ちきりしいほや あれぬらむ またれむとたに おもはさりしを
読人知らず雑下
8-新古1758袖にをく露をはつゆとしのへともなれゆく月やいろをしるらん
そてにおく つゆをはつゆと しのへとも なれゆくつきや いろをしるらむ
堀川通具雑下
8-新古1759君かよにあはすはなにを玉のをのなかくとまてはおしまれし身を
きみかよに あはすはなにを たまのをの なかくとまては をしまれしみを
藤原定家雑下
8-新古1760おほかたの秋のねさめのなかき夜も君をそいのる身をおもふとて
おほかたの あきのねさめの なかきよも きみをそいのる みをおもふとて
藤原家隆雑下
8-新古1761わかのうらやおきつしほあひにうかひいつるあはれわか身のよるへしらせよ
わかのうらや おきつしほあひに うかひいつる あはれわかみの よるへしらせよ
読人知らず雑下
8-新古1762その山とちきらぬ月も秋風もすすむる袖につゆこほれつつ
そのやまと ちきらぬつきも あきかせも すすむるそてに つゆこほれつつ
読人知らず雑下
8-新古1763君かよにあへるはかりの道はあれと身をはたのますゆくすゑの空
きみかよに あへるはかりの みちはあれと みをはたのます ゆくすゑのそら
飛鳥井雅経雑下
8-新古1764おしむともなみたに月も心からなれぬる袖に秋をうらみて
をしむとも なみたにつきも こころから なれぬるそてに あきをうらみて
藤原俊成女雑下
8-新古1765うきしつみこんよはさてもいかにそと心にとひてこたへかねぬる
うきしつみ こむよはさても いかにそと こころにとひて こたへかねぬる
九条良経雑下
8-新古1766われなから心のはてをしらぬかなすてられぬよの又いとはしき
われなから こころのはてを しらぬかな すてられぬよの またいとはしき
読人知らず雑下
8-新古1767をしかへし物をおもふはくるしきにしらすかほにてよをやすきまし
おしかへし ものをおもふは くるしきに しらすかほにて よをやすきまし
読人知らず雑下
8-新古1768なからへてよにすむかひはなけれともうきにかへたる命なりけり
なからへて よにすむかひは なけれとも うきにかへたる いのちなりけり
守覚法親王雑下
8-新古1769世をすつる心はなをそなかりけるうきをうしとはおもひしれとも
よをすつる こころはなほそ なかりける うきをうしとは おもひしれとも
中山兼宗雑下
8-新古1770すてやらぬわか身そつらきさりともとおもふ心にみちをまかせて
すてやらぬ わかみそつらき さりともと おもふこころに みちをまかせて
藤原公衡雑下
8-新古1771うきなからあれはあるよにふるさとの夢をうつつにさましかねても
うきなから あれはあるよに ふるさとの ゆめをうつつに さましかねても
読人知らず雑下
8-新古1772うきなから猶おしまるるいのちかな後のよとてもたのみなけれは
うきなから なほをしまるる いのちかな のちのよとても たのみなけれは
源師光雑下
8-新古1773さりともとたのむ心のゆくすゑもおもへはしらぬよにまかすらん
さりともと たのむこころの ゆくすゑも おもへはしらぬ よにまかすらむ
賀茂重保雑下
8-新古1774つくつくとおもへはやすきよの中を心となけくわか身なりけり
つくつくと おもへはやすき よのなかを こころとなけく わかみなりけり
荒木田長延雑下
8-新古1775河舟ののほりわつらふつなてなわくるしくてのみよをわたる哉
かはふねの のほりわつらふ つなてなは くるしくてのみ よをわたるかな
難波頼輔雑下
8-新古1776おいらくの月日はいととはやせかはかへらぬなみにぬるる袖かな
おいらくの つきひはいとと はやせかは かへらぬなみに ぬるるそてかな
大僧都覚弁雑下
8-新古1777かきなかすことの葉をたにしつむなよ身こそかくても山河の水
かきなかす ことのはをたに しつむなよ みこそかくても やまかはのみつ
藤原行能雑下
8-新古1778見れはまついとと涙そもろかつらいかに契てかけはなれけん
みれはまつ いととなみたそ もろかつら いかにちきりて かけはなれけむ
鴨長明雑下
8-新古1779おなしくはあれないにしへおもひいてのなけれはとてもしのはすもなし
おなしくは あれないにしへ おもひいての なけれはとても しのはすもなし
源季景雑下
8-新古1780いつくにもすまれすはたたすまてあらんしはのいほりのしはしなるよに
いつくにも すまれすはたた すまてあらむ しはのいほりの しはしなるよに
西行法師雑下
8-新古1781月のゆく山に心ををくりいれてやみなるあとの身をいかにせん
つきのゆく やまにこころを おくりいれて やみなるあとの みをいかにせむ
読人知らず雑下
8-新古1782おもふことなととふ人のなかるらんあふけはそらに月そさやけき
おもふことを なととふひとの なかるらむ あふけはそらに つきそさやけき
慈円雑下
8-新古1783いかにしていままてよには在曙のつきせぬ物をいとふ心は
いかにして いままてよには ありあけの つきせぬものを いとふこころは
読人知らず雑下
8-新古1784うきよいてし月日のかけのめくりきてかはらぬ道を又てらすらん
うきよいてし つきひのかけの めくりきて かはらぬみちを またてらすらむ
読人知らず雑下
8-新古1785人しれすそなたをしのふ心をはかたふく月にたくへてそやる
ひとしれす そなたをしのふ こころをは かたふくつきに たくへてそやる
承仁法親王雑下
8-新古1786みちのくのいはてしのふはえそしらぬかきつくしてよつほのいしふみ
みちのくの いはてしのふは えそしらぬ かきつくしてよ つほのいしふみ
源頼朝雑下
8-新古1787けふまては人をなけきてくれにけりいつ身のうへにならんとすらん
けふまては ひとをなけきて くれにけり いつみのうへに ならむとすらむ
大江嘉言雑下
8-新古1788みちしはのつゆにあらそふわか身かないつれかまつはきえんとすらん
みちしはの つゆにあらそふ わかみかな いつれかまつは きえむとすらむ
清慎公雑下
8-新古1789なにとかやかへにおふなる草のなよそれにもたくふわか身なりけり
なにとかや かへにおふなる くさのなよ それにもたくふ わかみなりけり
皇嘉門院雑下
8-新古1790こしかたをさなから夢になしつれはさむるうつつのなきそかなしき
こしかたを さなからゆめに なしつれは さむるうつつの なきそかなしき
日野資実雑下
8-新古1791ちとせふる松たにくつるよの中にけふともしらてたてるわれかな
ちとせふる まつたにくつる よのなかに けふともしらて たてるわれかな
性空上人雑下
8-新古1792かすならてよにすみの江のみをつくしいつをまつともなき身なりけり
かすならて よにすみのえの みをつくし いつをまつとも なきみなりけり
後頼雑下
8-新古1793うきなからひさしくそよをすきにける哀やかけしすみよしの松
うきなから ひさしくそよを すきにける あはれやかけし すみよしのまつ
藤原俊成雑下
8-新古1794かすか山たにのむもれ木くちぬとも君につけこせみねの松風
かすかやま たにのうもれき くちぬとも きみにつけこせ みねのまつかせ
藤原家隆雑下
8-新古1795なにとなくきけは涙そこほれぬるこけのたもとにかよふ松風
なにとなく きけはなみたそ こほれぬる こけのたもとに かよふまつかせ
宜秋門院丹後雑下
8-新古1796みな人のそむきはてぬるよの中にふるのやしろの身をいかにせん
みなひとの そむきはてぬる よのなかに ふるのやしろの みをいかにせむ
女御徽子女王雑下
8-新古1797衣ての山井の水にかけみえし猶そのかみの春そこひしき
ころもての やまゐのみつに かけみえし なほそのかみの はるそこひしき
藤原実方雑下
8-新古1798いにしへの山井の衣なかりせはわすらるる身となりやしなまし
いにしへの やまゐのころも なかりせは わすらるるみと なりやしなまし
藤原道信雑下
8-新古1799たちなからきてたに見せよをみ衣あかぬむかしの忘かたみに
たちなから きてたにみせよ をみころも あかぬむかしの わすれかたみに
加賀雑下
8-新古1800秋の夜のあか月かたのきりきりすひとつてならてきかまし物を
あきのよの あかつきかたの きりきりす ひとつてならて きかましものを
天暦雑下
8-新古1801なかめつつわかおもふことはひくらしにのきのしつくのたゆるよもなし
なかめつつ わかおもふことは ひくらしに のきのしつくの たゆるまもなし
具平親王雑下
8-新古1802こからしの風にもみちて人しれすうきことの葉のつもる比かな
こからしの かせにもみちて ひとしれす うきことのはの つもるころかな
小野小町雑下
8-新古1803嵐ふくみねのもみちの日にそへてもろくなりゆくわか涙哉
あらしふく みねのもみちの ひにそへて もろくなりゆく わかなみたかな
藤原俊成雑下
8-新古1804うたたねはおきふく風におとろけとなかき夢ちそさむる時なき
うたたねは をきふくかせに おとろけと なかきゆめちそ さむるときなき
崇徳院雑下
8-新古1805竹の葉に風ふきよはるゆふくれのものの哀は秋としもなし
たけのはに かせふきよわる ゆふくれの もののあはれは あきとしもなし
宮内卿雑下
8-新古1806ゆふくれは雲のけしきをみるからになかめしとおもふ心こそつけ
ゆふくれは くものけしきを みるからに なかめしとおもふ こころこそつけ
和泉式部雑下
8-新古1807くれぬめりいくかをかくてすきぬらん入あひのかねのつくつくとして
くれぬなり いくかをかくて すきぬらむ いりあひのかねの つくつくとして
読人知らず雑下
8-新古1808またれつる入あひのかねのをとすなりあすもやあらはきかんとすらん
またれつる いりあひのかねの おとすなり あすもやあらは きかむとすらむ
西行法師雑下
8-新古1809あか月とつけの枕をそはたててきくもかなしき鐘のをと哉
あかつきと つけのまくらを そはたてて きくもかなしき かねのおとかな
藤原俊成雑下
8-新古1810あか月のゆふつけとりそ哀なるなかきねふりをおもふ枕に
あかつきの ゆふつけとりそ あはれなる なかきねふりを おもふまくらに
式子内親王雑下
8-新古1811かくはかりうきをしのひてなからへはこれよりまさる物もこそおもへ
かくはかり うきをしのひて なからへは これよりまさる ものをこそおもへ
和泉式部雑下
8-新古1812たらちねのいさめし物をつれつれとなかむるをたにとふ人もなし
たらちねの いさめしものを つれつれと なかむるをたに とふひともなし
読人知らず雑下
8-新古1813あはれとてはくくみたてしいにしへはよをそむけともおもはさりけん
あはれとて はくくみたてし いにしへは よをそむけとも おもはさりけむ
行尊雑下
8-新古1814くらゐ山あとをたつねてのほれともこをおもふみちに猶まよひぬる
くらゐやま あとをたつねて のほれとも こをおもふみちに なほまよひぬる
源通親雑下
8-新古1815むかしたにむかしとおもひしたらちねのなをこひしきそはかなかりける
むかしたに むかしとおもひし たらちねの なほこひしきそ はかなかりける
藤原俊成雑下
8-新古1816ささかにのいとかかりける身のほとをおもへは夢の心ちこそすれ
ささかにの いとかかりける みのほとを おもへはゆめの ここちこそすれ
源俊頼雑下
8-新古1817ささかにのそらにすかくもおなしことまたきやとにもいくよかはへん
ささかにの そらにすかくも おなしこと またきやとりも いくよかはへむ
僧正遍昭雑下
8-新古1818ひかりまつえたにかかれるつゆのいのちきえはてねとやはるのつれなき
ひかりまつ えたにかかれる つゆのいのち きえはてねとや はるのつれなき
源高明雑下
8-新古1819あらくふく風はいかにと宮木ののこはきかうへを人のとへかし
あらくふく かせはいかにと みやきのの こはきかうへを ひとのとへかし
赤染衛門雑下
8-新古1820うつろはてしはししのたのもりをみよかへりもそするくすのうら風
うつろはて しはししのたの もりをみよ かへりもそする くすのうらかせ
読人知らず雑下
8-新古1821秋風はすこくふけともくすの葉のうらみかほには見えしとそおもふ
あきかせは すこくふくとも くすのはの うらみかほには みえしとそおもふ
和泉式部雑下
8-新古1822をささはら風まつ露のきえやらすこのひとふしをおもひをくかな
をささはら かせまつつゆの きえやらす このひとふしを おもひおくかな
藤原俊成雑下
8-新古1823世中をいまはの心つくからにすきにしかたそいととこひしき
よのなかを いまはのこころ つくからに すきにしかたそ いととこひしき
慈円雑下
8-新古1824よをいとふ心のふかくなるままにすくる月日をうちかそへつつ
よをいとふ こころのふかく なるままに すくるつきひを うちかそへつつ
読人知らず雑下
8-新古1825ひとかたにおもひとりにし心にはなをそむかるる身をいかにせん
ひとかたに おもひとりにし こころには なほそむかるる みをいかにせむ
読人知らず雑下
8-新古1826なにゆへにこのよをふかくいとふそと人のとへかしやすくこたへん
なにゆゑに このよをふかく いとふそと ひとのとへかし やすくこたへむ
読人知らず雑下
8-新古1827おもふへきわか後のよはあるかなきかなけれはこそはこのよにはすめ
おもふへき わかのちのよは あるかなきか なけれはこそは このよにはすめ
読人知らず雑下
8-新古1828世をいとふ名をたにもさはととめをきてかすならぬ身のおもひいてにせん
よをいとふ なをたにもさは ととめおきて かすならぬみの おもひいてにせむ
西行法師雑下
8-新古1829身のうさをおもひしらてややみなましそむくならひのなきよなりせは
みのうさを おもひしらてや やみなまし そむくならひの なきよなりせは
読人知らず雑下
8-新古1830いかかすへきよにあらはやはよをもすててあなうのよやとさらにおもはん
いかかすへき よにあらはやは よをもすてて あなうのよやと さらにおもはむ
読人知らず雑下
8-新古1831なに事にとまる心のありけれはさらにしも又よのいとはしき
なにことに とまるこころの ありけれは さらにしもまた よのいとはしき
読人知らず雑下
8-新古1832むかしよりはなれかたきはうきよかなかたみにしのふ中ならねとも
むかしより はなれかたきは うきよかな かたみにしのふ なかならねとも
藤原忠通雑下
8-新古1833おもひいててもしもたつぬる人もあらはありとないひそさためなきよに
おもひいてて もしもたつぬる ひともあらは ありとないひそ さためなきよに
行尊雑下
8-新古1834かすならぬ身をなにゆへにうらみけんとてもかくてもすくしけるよを
かすならぬ みをなにゆゑに うらみけむ とてもかくても すくしけるよを
読人知らず雑下
8-新古1835いつかわれみ山のさとのさひしきにあるしとなりて人にとはれん
いつかわれ みやまのさとの さひしきに あるしとなりて ひとにとはれむ
慈円雑下
8-新古1836うき身には山田のをしねをしこめてよをひたすらにうらみわひぬる
うきみには やまたのおしね おしこめて よをひたすらに うらみわひぬる
源俊頼雑下
8-新古1837しつのをのあさなあさなにこりつむるしはしのほともありかたのよや
しつのをの あさなあさなに こりつむる しはしのほとも ありかたのよや
山田法師雑下
8-新古1838かすならぬ身はなき物になしはてつたかためにかはよをもうらみん
かすならぬ みはなきものに なしはてつ たかためにかは よをもうらみむ
寂蓮法師雑下
8-新古1839たのみありて今ゆくすゑをまつ人やすくる月日をなけかさるらん
たのみありて いまゆくすゑを まつひとや すくるつきひを なけかさるらむ
法橋行遍雑下
8-新古1840なからへていけるをいかにもとかましうき身のほとをよそにおもはは
なからへて いけるをいかに もとかまし うきみのほとを よそにおもはは
源師光雑下
8-新古1841うきよをはいつる日ことにいとへともいつかは月のいるかたを見ん
うきよをは いつるひことに いとへとも いつかはつきの いるかたをみむ
八条院高倉雑下
8-新古1842なさけありしむかしのみ猶しのはれてなからへまうき世にもふるかな
なさけありし むかしのみなほ しのはれて なからへまうき よにもふるかな
西行法師雑下
8-新古1843なからへは又このころやしのはれんうしと見しよそ今はこひしき
なからへは またこのころや しのはれむ うしとみしよそ いまはこひしき
藤原清輔雑下
8-新古1844すゑのよもこのなさけのみかはらすと見し夢なくはよそにきかまし
すゑのよも このなさけのみ かはらすと みしゆめなくは よそにきかまし
西行法師雑下
8-新古1845ゆくすゑはわれをもしのふ人やあらんむかしをおもふ心ならひに
ゆくすゑは われをもしのふ ひとやあらむ むかしをおもふ こころならひに
藤原俊成雑下
8-新古1846世中をおもひつらねてなかむれはむなしきそらにきゆる白雲
よのなかを おもひつらねて なかむれは むなしきそらに きゆるしらくも
藤原俊成雑下
8-新古1847くるるまもまつへきよかはあたしののすゑはのつゆに嵐たつ也
くるるまも まつへきよかは あたしのの すゑはのつゆに あらしたつなり
式子内親王雑下
8-新古1848つのくにのなからふへくもあらぬかなみしかきあしのよにこそ有けれ
つのくにの なからふへくも あらぬかな みしかきあしの よにこそありけれ
華山院雑下
8-新古1849風はやみおきの葉ことにをくつゆのをくれさきたつほとのはかなさ
かせはやみ をきのはことに おくつゆの おくれさきたつ ほとのはかなさ
具平親王雑下
8-新古1850秋風になひくあさちのすゑことにをく白露のあはれ世中
あきかせに なひくあさちの すゑことに おくしらつゆの あはれよのなか
蝉丸雑下
8-新古1851よの中はとてもかくてもおなしことみやもわらやもはてしなけれは
よのなかは とてもかくても おなしこと みやもわらやも はてしなけれは
読人知らず雑下
8-新古1852しるらめやけふのねの日のひめこ松おひんすゑまてさかゆへしとは
しるらめや けふのねのひの ひめこまつ おひむすゑまて さかゆへしとは
読人知らず神祇
8-新古1853なさけなくおる人つらしわかやとのあるしわすれぬ梅のたちえを
なさけなく をるひとつらし わかやとの あるしわすれぬ うめのたちえを
読人知らず神祇
8-新古1854ふたらくのみなみのきしにたうたてていまそさかえんきたのふちなみ
ふたらくの みなみのきしに たうたてて いまそさかえむ きたのふちなみ
読人知らず神祇
8-新古1855夜やさむき衣やうすきかたそきのゆきあひのまより霜やをくらん
よやさむき ころもやうすき かたそきの ゆきあひのまより しもやおくらむ
読人知らず神祇
8-新古1856いかはかりとしはへねともすみの江の松そふたたひおひかはりぬる
いかはかり としはへねとも すみのえの まつそふたたひ おひかはりぬる
読人知らず神祇
8-新古1857むつましと君はしらなみみつかきのひさしきよよりいはひそめてき
むつましと きみはしらなみ みつかきの ひさしきよより いはひそめてき
読人知らず神祇
8-新古1858人しれすいまやいまやとちはやふる神さふるまて君をこそまて
ひとしれす いまやいまやと ちはやふる かみさふるまて きみをこそまて
読人知らず神祇
8-新古1859みちとをしほともはるかにへたたれりおもひをこせよわれもわすれし
みちとほし ほともはるかに へたたれり おもひおこせよ われもわすれし
読人知らず神祇
8-新古1860おもふこと身にあまるまてなる瀧のしはしよとむをなにうらむらん
おもふこと みにあまるまて なるたきの しはしよとむを なにうらむらむ
読人知らず神祇
8-新古1861われたのむ人いたつらになしはては又雲わけてのほるはかりそ
われたのむ ひといたつらに なしはては またくもわけて のほるはかりそ
読人知らず神祇
8-新古1862かかみにもかけみたらしの水のおもにうつるはかりの心とをしれ
かかみにも かけみたらしの みつのおもに うつるはかりの こころとをしれ
読人知らず神祇
8-新古1863ありきつつきつつ見れともいさきよき人の心をわれわすれめや
ありきつつ きつつみれとも いさきよき ひとのこころを われわすれめや
読人知らず神祇
8-新古1864にしのうみたつ白浪のうへにしてなにすくすらんかりのこのよを
にしのうみ たつしらなみの うへにして なにすくすらむ かりのこのよを
読人知らず神祇
8-新古1865しらなみにたまよりひめのこしことはなきさやつゐにとまりなりけん
しらなみに たまよりひめの こしことは なきさやつひの とまりなりけむ
大江千古神祇
8-新古1866ひさかたのあめのやへ雲ふりわけてくたりし君をわれそむかへし
ひさかたの あめのやへくも ふりわけて くたりしきみを われそむかへし
紀淑望神祇
8-新古1867とひかけるあまのいはふねたつねてそあきつしまには宮はしめける
とひかける あまのいはふね たつねてそ あきつしまには みやはしめける
三統理平神祇
8-新古1868やまとかもうみにあらしのにしふかはいつれのうらにみ舟つなかん
やまとかも うみにあらしの にしふかは いつれのうらに みふねつなかむ
読人知らず神祇
8-新古1869をく霜にいろもかはらぬさかき葉のかをやは人のとめてきつらん
おくしもに いろもかはらぬ さかきはの かをやはひとの とめてきつらむ
紀貫之神祇
8-新古1870宮人のすれるころもにゆふたすきかけて心をたれによすらん
みやひとの すれるころもに ゆふたすき かけてこころを たれによすらむ
読人知らず神祇
8-新古1871神風やみもすそ河のそのかみに契しことのすゑをたかふな
かみかせや みもすそかはの そのかみよ ちきりしことの すゑをたかふな
九条良経神祇
8-新古1872契ありてけふみやかはのゆふかつらなかきよまてもかけてたのまん
ちきりありて けふみやかはの ゆふかつら なかきよまても かけてたのまむ
藤原定家神祇
8-新古1873うれしさも哀もいかにこたへましふるさと人にとはれましかは
うれしさも あはれもいかに こたへまし ふるさとひとに とはれましかは
読人知らず神祇
8-新古1874神風やいすす河浪かすしらすすむへきみよに又かへりこん
かみかせや いすすかはなみ かすしらす すむへきみよに またかへりこむ
徳大寺公継神祇
8-新古1875なかめはや神ちの山に雲きえてゆふへのそらをいてん月かけ
なかめはや かみちのやまに くもきえて ゆふへのそらを いてむつきかけ
太上天皇神祇
8-新古1876神かせやとよみてくらになひくしてかけてあふくといふもかしこし
かみかせや とよみてくらに なひくして かけてあふくと いふもかしこし
読人知らず神祇
8-新古1877宮はしらしたついはねにしきたててつゆもくもらぬ日のみかけ哉
みやはしら したついはねに しきたてて つゆもくもらぬ ひのみかけかな
西行法師神祇
8-新古1878神ち山月さやかなるちかひありてあめのしたをはてらすなりけり
かみちやま つきさやかなる ちかひありて あめのしたをは てらすなりけり
読人知らず神祇
8-新古1879さやかなるわしのたかねの雲井よりかけやはらくる月よみのもり
さやかなる わしのたかねの くもゐより かけやはらくる つきよみのもり
読人知らず神祇
8-新古1880やはらくるひかりにあまるかけなれやいすすかはらの秋のよの月
やはらくる ひかりにあまる かけなれや いすすかはらの あきのよのつき
慈円神祇
8-新古1881たちかへり又も見まくのほしきかなみもすそかはのせせの白浪
たちかへり またもみまくの ほしきかな みもすそかはの せせのしらなみ
源雅定神祇
8-新古1882神風やいすすのかはの宮はしらいくちよすめとたちはしめけん
かみかせや いすすのかはの みやはしら いくちよすめと たてはしめけむ
藤原俊成神祇
8-新古1883神風やたまくしの葉をとりかさしうちとの宮に君をこそいのれ
かみかせや たまくしのはを とりかはし うちとのみやに きみをこそいのれ
俊恵法師神祇
8-新古1884神かせや山田のはらのさかき葉に心のしめをかけぬ日そなき
かみかせや やまたのはらの さかきはに こころのしめを かけぬひそなき
越前神祇
8-新古1885いすす河そらやまたきに秋の声したついはねの松の夕風
いすすかは そらやまたきに あきのこゑ したついはねの まつのゆふかせ
大中臣明親神祇
8-新古1886ちはやふるかしゐの宮のあやすきは神のみそきにたてるなりけり
ちはやふる かしひのみやの あやすきは かみのみそきに たてるなりけり
読人知らず神祇
8-新古1887さかき葉にそのいふかひはなけれとも神に心をかけぬまそなき
さかきはに そのゆふかひは なけれとも かみにこころを かけぬまそなき
法印成清神祇
8-新古1888としをへてうきかけをのみみたらしのかはるよもなき身をいかにせん
としをへて うきかけをのみ みたらしの かはるよもなき みをいかにせむ
周防内侍神祇
8-新古1889月さゆるみたらし河にかけみえてこほりにすれる山あゐの袖
つきさゆる みたらしかはに かけみえて こほりにすれる やまあゐのそて
藤原俊成神祇
8-新古1890ゆふしての風にみたるるをとさえて庭しろたへに雪そつもれる
ゆふしての かせにみたるる おとさえて にはしろたへに ゆきそつもれる
按察使公通神祇
8-新古1891君をいのる心のいろを人とははたたすの宮のあけの玉かき
きみをいのる こころのいろを ひととはは たたすのみやの あけのたまかき
慈円神祇
8-新古1892あとたれし神にあふひのなかりせはなににたのみをかけてすきまし
あとたれし かみにあふひの なかりせは なににたのみを かけてすきまし
賀茂重保神祇
8-新古1893おほみ田のうるおふはかりせきかけて井せきにおとせかはかみの神
おほみたの うるほふはかり せきかけて ゐせきにおとせ かはかみのかみ
賀茂幸平神祇
8-新古1894いしかはのせみのをかはのきよけれは月もなかれをたつねてそすむ
いしかはや せみのをかはの きよけれは つきもなかれを たつねてそすむ
鴨長明神祇
8-新古1895よろつよをいのりそかくるゆふたすきかすかの山の峯の嵐に
よろつよを いのりそかくる ゆふたすき かすかのやまの みねのあらしに
藤原資仲神祇
8-新古1896けふまつる神の心やなひくらんしてに浪たつさほのかは風
けふまつる かみのこころや なひくらむ してになみたつ さほのかはかせ
藤原忠通神祇
8-新古1897あめのしたみかさの山のかけならてたのむかたなき身とはしらすや
あめのした みかさのやまの かけならて たのむかたなき みとはしらすや
読人知らず神祇
8-新古1898かすか野のをとろのみちのむもれ水すゑたに神のしるしあらはせ
かすかのの おとろのみちの うもれみつ すゑたにかみの しるしあらはせ
読人知らず神祇
8-新古1899ちよまても心してふけもみちはを神もをしほの山おろしの風
ちよまても こころしてふけ もみちはを かみもをしほの やまおろしのかせ
藤原伊家神祇
8-新古1900をしほ山神のしるしを松の葉にちきりしいろはかへる物かは
をしほやま かみのしるしを まつのはに ちきりしはるは かへるものかは
慈円神祇
8-新古1901やはらくるかけそふもとにくもりなきもとの光はみねにすめとも
やはらくる かけそふもとに くもりなき もとのひかりは みねにすめとも
読人知らず神祇
8-新古1902わかたのむななのやしろのゆふたすきかけてもむつの道にかへすな
わかたのむ ななのやしろの ゆふたすき かけてもむつの みちにかへすな
読人知らず神祇
8-新古1903をしなへて日よしのかけはくもらぬになみたあやしき昨日けふかな
おしなへて ひよしのかけは くもらぬに なみたあやしき きのふけふかな
読人知らず神祇
8-新古1904もろ人のねかひをみつのはま風に心すすしきしてのをとかな
もろともの ねかひをみつの はまかせに こころすすしき してのおとかな
読人知らず神祇
8-新古1905さめぬれはおもひあはせてねをそなく心つくしの古の夢
さめぬれは おもひあはせて ねをそなく こころつくしの いにしへのゆめ
読人知らず神祇
8-新古1906さきにほふ花のけしきをみるからに神の心そそらにしらるる
さきにほふ はなのけしきを みるからに かみのこころそ そらにしらるる
白河院神祇
8-新古1907いはにむすこけふみならすみくまのの山のかひあるゆくすゑもかな
いはにむす こけふみならす みくまのの やまのかひある ゆくすゑもかな
太上天皇神祇
8-新古1908くまのかはくたすはやせのみなれさほさすかみなれぬ浪のかよひち
くまのかは くたすはやせの みなれさを さすかみなれぬ なみのかよひち
読人知らず神祇
8-新古1909たちのほるしほやのけふりうら風になひくを神の心とも哉
たちのほる しほやのけふり うらかせに なひくをかみの こころともかな
徳大寺左大臣神祇
8-新古1910いはしろの神はしるらんしるへせよたのむうきよの夢のゆくすゑ
いはしろの かみはしるらむ しるへせよ たのむうきよの ゆめのゆくすゑ
読人知らず神祇
8-新古1911契あれはうれしきかかるおりにあひぬわするな神もゆくすゑの空
ちきりあれは うれしきかかる をりにあひぬ わするなかみも ゆくすゑのそら
太上天皇神祇
8-新古1912としふともこしの白山わすれすはかしらの雪を哀とも見よ
としふとも こしのしらやま わすれすは かしらのゆきを あはれともみよ
藤原顕輔神祇
8-新古1913すみよしのはま松かえに風ふけはなみのしらゆふかけぬまそなき
すみよしの はままつかえに かせふけは なみのしらゆふ かけぬまそなき
藤原道経神祇
8-新古1914さかき葉の霜うちはらひかれすのみすめとそいのる神のみまへに
さかきはの しもうちはらひ かれすのみ すめともいのる かみのみまへに
大中臣能宣神祇
8-新古1915河やしろしのにおりはへほす衣いかにほせはかなぬかひさらん
かはやしろ しのにをりはへ ほすころも いかにほせはか なぬかひさらむ
紀貫之神祇
8-新古1916なをたのめしめちかはらのさせも草わかよの中にあらんかきりは
なほたのめ しめちかはらの させもくさ わかよのなかに あらむかきりは
読人知らず釈教
8-新古1917なにかおもふなにをかなけく世中はたたあさかほの花のうへの露
なにかおもふ なにとかなけく よのなかは たたあさかほの はなのうへのつゆ
読人知らず釈教
8-新古1918山ふかくとしふるわれもあるものをいつちか月のいててゆくらん
やまふかく としふるわれも あるものを いつちかつきの いててゆくらむ
読人知らず釈教
8-新古1919あしそよくしほせの浪のいつまてかうきよの中にうかひわたらん
あしそよく しほせのなみの いつまてか うきよのなかに うかひわたらむ
行基菩薩釈教
8-新古1920阿耨多羅三藐三菩提のほとけたちわかたつそまに冥加あらせたまへ
あのくたら さみやさほたの ほとけたち わかたつそまに みやうかあらせたまへ
伝教大師釈教
8-新古1921のりの舟さしてゆく身そもろもろの神もほとけもわれをみそなへ
のりのふね さしてゆくみそ もろもろの かみもほとけも われをみそなへ
智証大師釈教
8-新古1922しるへある時にたにゆけこくらくのみちにまとへる世中の人
しるへある ときにたにゆけ こくらくの みちにまとへる よのなかのひと
読人知らず釈教
8-新古1923寂寞のこけのいはと(と=屋イ)のしつけきになみたの雨のふらぬ日そなき
しやくまくの こけのいはとの しつけきに なみたのあめの ふらぬひそなき
日蔵上人釈教
8-新古1924南無阿弥陀ほとけのみてにかくるいとのをはりみたれぬ心ともかな
なむあみた ほとけのみてに かくるいとの をはりみたれぬ こころともかな
法円上人釈教
8-新古1925われたにもまつこくらくにむまなれはしるもしらぬもみなむかへてん
われたにも まつこくらくに うまれなは しるもしらぬも みなむかへてむ
僧都源信釈教
8-新古1926にこりなきかめ井の水をむすひあけて心のちりをすすきつる哉
にこりなき かめゐのみつを むすひあけて こころのちりを すすきつるかな
上東門院釈教
8-新古1927わたつうみのそこよりきつるほともなくこの身なからに身をそきはむる
わたつうみの そこよりきつる ほともなく このみなからに みをそきはむる
藤原道長釈教
8-新古1928かすならぬいのちはなにかおしからんのりとくほとをしのふはかりそ
かすならぬ いのちはなにか をしからむ のりとくほとを しのふはかりそ
藤原斉信釈教
8-新古1929紫の雲のはやしを見わたせはのりにあふちの花さきにけり
むらさきの くものはやしを みわたせは のりにあふちの はなさきにけり
肥後釈教
8-新古1930たにかはのなかれしきよくすみぬれはくまなき月のかけもうかひぬ
たにかはの なかれしきよく すみぬれは くまなきつきの かけもうかひぬ
読人知らず釈教
8-新古1931ねかはくはしはしやみちにやすらひてかかけやせまし法のともし火
ねかはくは しはしやみちに やすらひて かかけやせまし のりのともしひ
慈円釈教
8-新古1932とくみのきくのしらつゆよるはをきてつとめてきえんことをしそおもふ
とくみのり きくのしらつゆ よるはおきて つとめてきえむ ことをしそおもふ
読人知らず釈教
8-新古1933極楽へまたわか心ゆきつかすひつしのあゆみしはしととまれ
こくらくへ またわかこころ ゆきつかす ひつしのあゆみ しはしととまれ
読人知らず釈教
8-新古1934わか心なをはれやらぬ秋きりにほのかに見ゆる在曙の月
わかこころ なほはれやらぬ あききりに ほのかにみゆる ありあけのつき
権僧正公胤釈教
8-新古1935おく山にひとりうきよはさとりにきつねなきいろを風になかめて
おくやまに ひとりうきよは さとりにき つねなきいろを かせになかめて
九条良経釈教
8-新古1936いろにのみそめし心のくやしきをむなしととけるのりのうれしさ
いろにのみ そめしこころの くやしきは むなしととける のりのうれしさ
小侍従釈教
8-新古1937むらさきの雲ちにさそふことのねにうきよをはらふ峯の松風
むらさきの くもちにさそふ ことのねに うきよをはらふ みねのまつかせ
寂蓮法師釈教
8-新古1938これやこのうきよのほかの春ならん花のとほそのあけほのの空
これやこの うきよのほかの はるならむ はなのとほその あけほののそら
読人知らず釈教
8-新古1939春秋にかきらぬ花にをくつゆはをくれさきたつうらみやはある
はるあきも かきらぬはなに おくつゆは おくれさきたつ うらみやはある
読人知らず釈教
8-新古1940たちかへりくるしきうみにをくあみもふかきえにこそ心ひくらめ
たちかへり くるしきうみに おくあみも ふかきえにこそ こころひくらめ
読人知らず釈教
8-新古1941いつくにもわかのりならぬのりやあるとそらふく風にとへとこたへぬ
いつくにも わかのりならぬ のりやあると そらふくかせに とへとこたへぬ
慈円釈教
8-新古1942おもふなようきよの中をいてはててやとるおくにもやとは有けり
おもふなよ うきよのなかを いてはてて やとるおくにも やとはありけり
読人知らず釈教
8-新古1943わしの山けふきくのりのみちならてかへらぬやとにゆく人そなき
わしのやま けふきくのりの みちならて かへらぬやとに ゆくひとそなき
読人知らず釈教
8-新古1944をしなへてむなしきそらとおもひしにふちさきぬれは紫の雲
おしなへて むなしきそらと おもひしに ふちさきぬれは むらさきのくも
読人知らず釈教
8-新古1945をしなへてうき身はさこそなるみかたみちひるしほのかはるのみかは
おしなへて うきみはさこそ なるみかた みちひるしほの かはるのみかは
崇徳院釈教
8-新古1946あさ日さすみねのつつきはめくめともまた霜ふかしたにのかけ草
あさひさす みねのつつきは めくめとも またしもふかし たにのかけくさ
読人知らず釈教
8-新古1947そこきよく心の水をすまさすはいかかさとりのはちすをもみん
そこきよく こころのみつを すまさすは いかかさとりの はちすをもみむ
藤原忠通釈教
8-新古1948さらすとていくよもあらしいさやさはのりにかへつる命とおもはん
さらすとて いくよもあらし いさやさは のりにかへつる いのちとおもはむ
藤原経家釈教
8-新古1949ふかきよのまとうつ雨にをとせぬはうきよをのきのしのふなりけり
ふかきよの まとうつあめに おとせぬは うきよをのきの しのふなりけり
寂蓮法師釈教
8-新古1950いにしへの鹿なく野辺のいほりにも心の月はくもらさりけん
いにしへの しかなくのへの いほりにも こころのつきは くもらさりけむ
慈円釈教
8-新古1951みちのへのほたるはかりをしるへにてひとりそいつる夕やみの空
みちのへの ほたるはかりを しるへにて ひとりそいつる ゆふやみのそら
寂然法師釈教
8-新古1952雲はれてむなしきそらにすみなからうきよの中をめくる月哉
くもはれて むなしきそらに すみなから うきよのなかを めくるつきかな
読人知らず釈教
8-新古1953ふく風にはなたち花やにほふらんむかしおほゆるけふの庭哉
ふくかせに はなたちはなや にほふらむ むかしおほゆる けふのにはかな
読人知らず釈教
8-新古1954やみふかきこのもとことに契をきてあさたつきりのあとのつゆけさ
やみふかき このもとことに ちきりおきて あさたつきりの あとのつゆけさ
読人知らず釈教
8-新古1955けふすきぬいのちもしかとおとろかす入あひのかねの声そかなしき
けふすきぬ いのちもしかと おとろかす いりあひのかねの こゑそかなしき
読人知らず釈教
8-新古1956草ふかきかりはのをのをたちいててともまとはせる鹿そなくなる
くさふかき かりはのをのを たちいてて ともまとはせる しかそなくなる
素覚法師釈教
8-新古1957そむかすはいつれのよにかめくりあひておもひけりとも人にしられん
そむかすは いつれのよにか めくりあひて おもひけりとも ひとにしられむ
寂然法師釈教
8-新古1958あひみてもみねにわかるる白雲のかかるこのよのいとはしき哉
あひみても みねにわかるる しらくもの かかるこのよの いとはしきかな
源季広釈教
8-新古1959をとにきく君かりいつかいきの松まつらんものを心つくしに
おとにきく きみかりいつか いきのまつ まつらむものを こころつくしに
寂然法師釈教
8-新古1960わかれにしそのおもかけのこひしき夢にも見えよ山の葉の月
わかれにし そのおもかけの こひしきに ゆめにもみえよ やまのはのつき
読人知らず釈教
8-新古1961わたつうみのふかきにしつむいさりせてたもつかひあるのりをもとめよ
わたつうみの ふかきにしつむ いさりせて たもつかひある のりをもとめよ
読人知らず釈教
8-新古1962うきくさのひとはなりともいそかくれおもひなかけそおきつ白浪
うきくさの ひとはなりとも いそかくれ おもひなかけそ おきつしらなみ
読人知らず釈教
8-新古1963さらぬたにをもきかうへにさよころもわかつまならぬつまなかさねそ
さらぬたに おもきかうへの さよころも わかつまならぬ つまなかさねそ
読人知らず釈教
8-新古1964はなのもとつゆのなさけはほともあらしゑいなすすめそ春の山風
はなのもと つゆのなさけは ほともあらし ゑひなすすめそ はるのやまかせ
読人知らず釈教
8-新古1965うきをなをむかしのゆへとおもはすはいかにこのよをうらみはてまし
うきもなほ むかしのゆゑと おもはすは いかにこのよを うらみはてまし
二条院讃岐釈教
8-新古1966わたすへきかすもかきらぬはしはしらいかにたてけるちかひなるらん
わたすへき かすもかきらぬ はしはしら いかにたてける ちかひなるらむ
藤原俊成釈教
8-新古1967いまそこれいり日を見てもおもひこしみたのみくにの夕くれの空
いまそこれ いりひをみても おもひこし みたのみくにの ゆふくれのそら
読人知らず釈教
8-新古1968いにしへのおのへのかねににたるかなきしうつ浪の暁の声
いにしへの をのへのかねに にたるかな きしうつなみの あかつきのこゑ
読人知らず釈教
8-新古1969しつかなるあか月ことに見わたせはまたふかきよの夢そかなしき
しつかなる あかつきことに みわたせは またふかきよの ゆめそかなしき
式子内親王釈教
8-新古1970あふことをいつくにとてかちきるへきうき身のゆかんかたをしらねは
あふことを いつくにてとか ちきるへき うきみのゆかむ かたをしらねは
選子内親王釈教
8-新古1971玉かけし衣のうらをかへしてそをろかなりける心をはしる
たまかけし ころものうらを かへしてそ おろかなりける こころをはしる
僧都源信釈教
8-新古1972夢やゆめうつつや夢とわかぬかないかなるよにかさめんとすらん
ゆめやゆめ うつつやゆめと わかぬかな いかなるよにか さめむとすらむ
赤染衛門釈教
8-新古1973つねよりもけふのけふりのたよりにやにしをはるかにおもひやるらん
つねよりも けふのけふりの たよりにや にしをはるかに おもひやるらむ
相模釈教
8-新古1974けふはいととなみたにくれぬにしの山おもひいり日のかけをなかめて
けふはいとと なみたにくれぬ にしのやま おもひいりひの かけをなかめて
伊勢大輔釈教
8-新古1975にしへゆくしるへとおもふ月かけのそらたのめこそかひなかりけれ
にしへゆく しるへとおもふ つきかけの そらたのめこそ かひなかりけれ
待賢門院堀河釈教
8-新古1976たちいらて雲まをわけし月かけはまたぬけしきやそらにみえけん
たちいらて くもまをわけし つきかけは またぬけしきや そらにみえけむ
西行法師釈教
8-新古1977むかし見し月のひかりをしるへにてこよひや君かにしへゆくらん
むかしみし つきのひかりを しるへにて こよひやきみか にしへゆくらむ
瞻西上人釈教
8-新古1978やみはれて心のそらにすむ月はにしの山へやちかくなるらん
やみはれて こころのそらに すむつきは にしのやまへや ちかくなるらむ
西行法師釈教

※読人(作者)についてはできる限り正確に整えておりますが、誤りもある可能性があります。ご了承ください。できる限り官位ではなく本名で掲載しています。

※作者検索をしたいときは、藤原、源といったいわゆる氏を除いた名のみで検索することをおすすめいたします。

※濁点につきましては原文通り加えておりません。時間的余裕があれば書き加えてまいります。