枕詞 「しろたへの」の和歌集 万葉集、古今、後撰、拾遺、後拾遺、金葉、新古今から82首!

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八代古今後撰拾遺後拾遺金葉詞花千載新古今百人一首六歌仙三十六歌仙枕詞動詞光る君へ

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「しろたへの」の歌

「しろたへの」は衣、袖、袂(たもと)、領巾、紐、帯、白、雪、波、浜、木綿、富士などにかかる枕詞。「白妙の」、「白栲の」と書く。

白妙・白栲とは、楮(こうぞ)というクワ科の樹木であり、樹皮から繊維、布が作られ、和紙の原料にもなる。

その白さから、「しろたへ」で白い色をも意味し、雪や雲、波などにもかかる。

「しろたへの」の歌集ごとの数と割合

万葉 古今 後撰 拾遺 後拾 金葉 詞花 千載 新古
59 4 3 4 3 1 0 0 8
1.3 0.4 0.2 0.3 0.2 0.2 0 0 0.4
※上は歌の数、下は割合(パーセント)です
※カウントは枕詞、そのままの意味の両方をカウントしています

百人一首

2番 新古今 175-夏 持統天皇 春すきてなつきにけらししろたへのころもほすてふあまのかく山

4番 新古今 675-冬 山辺赤人 たこの浦にうちいてて見れはしろたへのふしのたかねに雪はふりつつ

万葉集

1巻-28 持統天皇春過ぎて夏来るらし白栲の衣干したり天の香具山

2巻-199 柿本人麻呂かけまくも ゆゆしきかも (ゆゆしけれども) 言はまくも あやに畏き 明日香の 真神の原に ひさかたの 天つ御門を 畏くも 定めたまひて 神さぶと 磐隠ります やすみしし 我が大君の きこしめす 背面の国の 真木立つ 不破山超えて 高麗剣 和射見が原の 仮宮に 天降りいまして 天の下 治めたまひ (掃ひたまひて) 食す国を 定めたまふと 鶏が鳴く 東の国の 御いくさを 召したまひて ちはやぶる 人を和せと 奉ろはぬ 国を治めと (掃へと) 皇子ながら 任したまへば 大御身に 大刀取り佩かし 大御手に 弓取り持たし 御軍士を 率ひたまひ 整ふる 鼓の音は 雷の 声と聞くまで 吹き鳴せる 小角の音も (笛の音は) 敵見たる 虎か吼ゆると 諸人の おびゆるまでに (聞き惑ふまで) ささげたる 幡の靡きは 冬こもり 春さり来れば 野ごとに つきてある火の (冬こもり 春野焼く火の) 風の共 靡くがごとく 取り持てる 弓弭の騒き み雪降る 冬の林に (木綿の林) つむじかも い巻き渡ると 思ふまで 聞きの畏く (諸人の 見惑ふまでに) 引き放つ 矢の繁けく 大雪の 乱れて来れ (霰なす そちより来れば) まつろはず 立ち向ひしも 露霜の 消なば消ぬべく 行く鳥の 争ふはしに (朝霜の 消なば消とふに うつせみと 争ふはしに) 渡会の 斎きの宮ゆ 神風に い吹き惑はし 天雲を 日の目も見せず 常闇に 覆ひ賜ひて 定めてし 瑞穂の国を 神ながら 太敷きまして やすみしし 我が大君の 天の下 申したまへば 万代に しかしもあらむと (かくしもあらむと) 木綿花の 栄ゆる時に 我が大君 皇子の御門を (刺す竹の 皇子の御門を) 神宮に 装ひまつりて 使はしし 御門の人も 白栲の 麻衣着て 埴安の 御門の原に あかねさす 日のことごと 獣じもの い匍ひ伏しつつ ぬばたまの 夕になれば 大殿を 振り放け見つつ 鶉なす い匍ひ廻り 侍へど 侍ひえねば 春鳥の さまよひぬれば 嘆きも いまだ過ぎぬに 思ひも いまだ尽きねば 言さへく 百済の原ゆ 神葬り 葬りいまして あさもよし 城上の宮を 常宮と 高く奉りて 神ながら 鎮まりましぬ しかれども 我が大君の 万代と 思ほしめして 作らしし 香具山の宮 万代に 過ぎむと思へや 天のごと 振り放け見つつ 玉たすき 懸けて偲はむ 畏かれども

2巻-210 柿本人麻呂うつせみと 思ひし時に (うつそみと 思ひし) 取り持ちて 我がふたり見し 走出の 堤に立てる 槻の木の こちごちの枝の 春の葉の 茂きがごとく 思へりし 妹にはあれど 頼めりし 子らにはあれど 世間を 背きしえねば かぎるひの 燃ゆる荒野に 白栲の 天領巾隠り 鳥じもの 朝立ちいまして 入日なす 隠りにしかば 我妹子が 形見に置ける みどり子の 乞ひ泣くごとに 取り与ふ 物しなければ 男じもの 脇ばさみ持ち 我妹子と ふたり我が寝し 枕付く 妻屋のうちに 昼はも うらさび暮らし 夜はも 息づき明かし 嘆けども 為むすべ知らに 恋ふれども 逢ふよしをなみ 大鳥の 羽がひの山に 我が恋ふる 妹はいますと 人の言へば 岩根さくみて なづみ来し よけくもぞなき うつせみと 思ひし妹が 玉かぎる ほのかにだにも 見えなく思へば

2巻-213 柿本人麻呂うつそみと 思ひし時に たづさはり 我がふたり見し 出立の 百枝槻の木 こちごちに 枝させるごと 春の葉の 茂きがごとく 思へりし 妹にはあれど 頼めりし 妹にはあれど 世間を 背きしえねば かぎるひの 燃ゆる荒野に 白栲の 天領巾隠り 鳥じもの 朝立ちい行きて 入日なす 隠りにしかば 我妹子が 形見に置ける みどり子の 乞ひ泣くごとに 取り与ふ 物しなければ 男じもの 脇ばさみ持ち 我妹子と 二人我が寝し 枕付く 妻屋のうちに 昼は うらさび暮らし 夜は 息づき明かし 嘆けども 為むすべ知らに 恋ふれども 逢ふよしをなみ 大鳥の 羽がひの山に 汝が恋ふる 妹はいますと 人の言へば 岩根さくみて なづみ来し よけくもぞなき うつそみと 思ひし妹が 灰にてませば

2巻-230 笠金村梓弓 手に取り持ちて ますらをの さつ矢手挟み 立ち向ふ 高円山に 春野焼く 野火と見るまで 燃ゆる火を 何かと問へば 玉鉾の 道来る人の 泣く涙 こさめに降れば 白栲の 衣ひづちて 立ち留まり 我れに語らく なにしかも もとなとぶらふ 聞けば 哭のみし泣かゆ 語れば 心ぞ痛き 天皇の 神の御子の いでましの 手火の光りぞ ここだ照りたる

3巻-443 大伴三中天雲の 向伏す国の ますらをと 言はれし人は 天皇の 神の御門に 外の重に 立ち侍ひ 内の重に 仕へ奉りて 玉葛 いや遠長く 祖の名も 継ぎ行くものと 母父に 妻に子どもに 語らひて 立ちにし日より たらちねの 母の命は 斎瓮を 前に据ゑ置きて 片手には 木綿取り持ち 片手には 和栲奉り 平けく ま幸くいませと 天地の 神を祈ひ祷み いかにあらむ 年月日にか つつじ花 にほへる君が にほ鳥の なづさひ来むと 立ちて居て 待ちけむ人は 大君の 命畏み おしてる 難波の国に あらたまの 年経るまでに 白栲の 衣も干さず 朝夕に ありつる君は いかさまに 思ひませか うつせみの 惜しきこの世を 露霜の 置きて去にけむ 時にあらずして

3巻-460 坂上郎女栲づのの 新羅の国ゆ 人言を よしと聞かして 問ひ放くる 親族兄弟 なき国に 渡り来まして 大君の 敷きます国に うち日さす 都しみみに 里家は さはにあれども いかさまに 思ひけめかも つれもなき 佐保の山辺に 泣く子なす 慕ひ来まして 敷栲の 家をも作り あらたまの 年の緒長く 住まひつつ いまししものを 生ける者 死ぬといふことに 免れぬ ものにしあれば 頼めりし 人のことごと 草枕 旅なる間に 佐保川を 朝川渡り 春日野を そがひに見つつ あしひきの 山辺をさして 夕闇と 隠りましぬれ 言はむすべ 為むすべ知らに たもとほり ただひとりして 白栲の 衣袖干さず 嘆きつつ 我が泣く涙 有間山 雲居たなびき 雨に降りきや

3巻-481 高橋白栲の 袖さし交へて 靡き寝し 我が黒髪の ま白髪に なりなむ極み 新世に ともにあらむと 玉の緒の 絶えじい妹と 結びてし ことは果たさず 思へりし 心は遂げず 白栲の 手本を別れ にきびにし 家ゆも出でて みどり子の 泣くをも置きて 朝霧の おほになりつつ 山背の 相楽山の 山の際に 行き過ぎぬれば 言はむすべ 為むすべ知らに 我妹子と さ寝し妻屋に 朝には 出で立ち偲ひ 夕には 入り居嘆かひ 脇ばさむ 子の泣くごとに 男じもの 負ひみ抱きみ 朝鳥の 哭のみ泣きつつ 恋ふれども 験をなみと 言とはぬ ものにはあれど 我妹子が 入りにし山を よすかとぞ思ふ

4巻-510 丹比笠麻呂白栲の袖解き交へて帰り来む月日を数みて行きて来ましを

4巻-614 山口女王相思はぬ人をやもとな白栲の袖漬つまでに音のみし泣くも

4巻-645 紀郎女白栲の袖別るべき日を近み心にむせひ音のみし泣かゆ

4巻-708 粟田女娘子またも逢はむよしもあらぬか白栲の我が衣手にいはひ留めむ

5巻-804 山上憶良世間の すべなきものは 年月は 流るるごとし とり続き 追ひ来るものは 百種に 迫め寄り来る 娘子らが 娘子さびすと 唐玉を 手本に巻かし (白妙の 袖振り交はし 紅の 赤裳裾引き) よち子らと 手携はりて 遊びけむ 時の盛りを 留みかね 過ぐしやりつれ 蜷の腸 か黒き髪に いつの間か 霜の降りけむ 紅の (丹のほなす) 面の上に いづくゆか 皺が来りし (常なりし 笑まひ眉引き 咲く花の 移ろひにけり 世間は かくのみならし) ますらをの 男さびすと 剣太刀 腰に取り佩き さつ弓を 手握り持ちて 赤駒に 倭文鞍うち置き 這ひ乗りて 遊び歩きし 世間や 常にありける 娘子らが さ寝す板戸を 押し開き い辿り寄りて 真玉手の 玉手さし交へ さ寝し夜の いくだもあらねば 手束杖 腰にたがねて か行けば 人に厭はえ かく行けば 人に憎まえ 老よし男は かくのみならし たまきはる 命惜しけど 為むすべもなし

5巻-904 世間の 貴び願ふ 七種の 宝も我れは 何せむに 我が中の 生れ出でたる 白玉の 我が子古日は 明星の 明くる朝は 敷栲の 床の辺去らず 立てれども 居れども ともに戯れ 夕星の 夕になれば いざ寝よと 手を携はり 父母も うへはなさがり さきくさの 中にを寝むと 愛しく しが語らへば いつしかも 人と成り出でて 悪しけくも 吉けくも見むと 大船の 思ひ頼むに 思はぬに 邪しま風の にふふかに 覆ひ来れば 為むすべの たどきを知らに 白栲の たすきを掛け まそ鏡 手に取り持ちて 天つ神 仰ぎ祈ひ祷み 国つ神 伏して額つき かからずも かかりも 神のまにまにと 立ちあざり 我れ祈ひ祷めど しましくも 吉けくはなしに やくやくに かたちつくほり 朝な朝な 言ふことやみ たまきはる 命絶えぬれ 立ち躍り 足すり叫び 伏し仰ぎ 胸打ち嘆き 手に持てる 我が子飛ばしつ 世間の道

6巻-957 大伴旅人いざ子ども香椎の潟に白栲の袖さへ濡れて朝菜摘みてむ

7巻-1079 まそ鏡照るべき月を白栲の雲か隠せる天つ霧かも

7巻-1292 柿本人麻呂歌集江林に臥せる獣やも求むるによき白栲の袖巻き上げて獣待つ我が背

8巻-1629 大伴家持ねもころに 物を思へば 言はむすべ 為むすべもなし 妹と我れと 手携さはりて 朝には 庭に出で立ち 夕には 床うち掃ひ 白栲の 袖さし交へて さ寝し夜や 常にありける あしひきの 山鳥こそば 峰向ひに 妻問ひすといへ うつせみの 人なる我れや 何すとか 一日一夜も 離り居て 嘆き恋ふらむ ここ思へば 胸こそ痛き そこ故に 心なぐやと 高円の 山にも野にも うち行きて 遊び歩けど 花のみ にほひてあれば 見るごとに まして偲はゆ いかにして 忘れむものぞ 恋といふものを

9巻-1675 藤白の御坂を越ゆと白栲の我が衣手は濡れにけるかも

9巻-1800 田辺福麻呂歌集小垣内の 麻を引き干し 妹なねが 作り着せけむ 白栲の 紐をも解かず 一重結ふ 帯を三重結ひ 苦しきに 仕へ奉りて 今だにも 国に罷りて 父母も 妻をも見むと 思ひつつ 行きけむ君は 鶏が鳴く 東の国の 畏きや 神の御坂に 和妙の 衣寒らに ぬばたまの 髪は乱れて 国問へど 国をも告らず 家問へど 家をも言はず ますらをの 行きのまにまに ここに臥やせる

10巻-2023 柿本人麻呂歌集さ寝そめていくだもあらねば白栲の帯乞ふべしや恋も過ぎねば

10巻-2321 沫雪は今日はな降りそ白栲の袖まき干さむ人もあらなくに

11巻-2411 柿本人麻呂歌集白栲の袖をはつはつ見しからにかかる恋をも我れはするかも

11巻-2518 我妹子が我れを送ると白栲の袖漬つまでに泣きし思ほゆ

11巻-2608 妹が袖別れし日より白栲の衣片敷き恋ひつつぞ寝る

11巻-2609 白栲の袖はまゆひぬ我妹子が家のあたりをやまず振りしに

11巻-2612 白栲の袖触れてし夜我が背子に我が恋ふらくはやむ時もなし

11巻-2688 待ちかねて内には入らじ白栲の我が衣手に露は置きぬとも

11巻-2690 白栲の我が衣手に露は置き妹は逢はさずたゆたひにして

11巻-2807 明けぬべく千鳥しば鳴く白栲の君が手枕いまだ飽かなくに

11巻-2812 我妹子に恋ひてすべなみ白栲の袖返ししは夢に見えきや

12巻-2846 柿本人麻呂歌集夜も寝ず安くもあらず白栲の衣は脱かじ直に逢ふまでに

12巻-2854 柿本人麻呂歌集白栲の我が紐の緒の絶えぬ間に恋結びせむ逢はむ日までに

12巻-2937 白栲の袖折り返し恋ふればか妹が姿の夢にし見ゆる

12巻-2952 我が命の衰へぬれば白栲の袖のなれにし君をしぞ思ふ

12巻-2953 君に恋ひ我が泣く涙白栲の袖さへ漬ちてせむすべもなし

12巻-2954 今よりは逢はじとすれや白栲の我が衣手の干る時もなき

12巻-2962 白栲の袖離れて寝るぬばたまの今夜は早も明けば明けなむ

12巻-2963 白栲の手本ゆたけく人の寝る味寐は寝ずや恋ひわたりなむ

12巻-3044 白栲の我が衣手に露ぞ置きにける

12巻-3123 ただひとり寝れど寝かねて白栲の袖を笠に着濡れつつぞ来し

12巻-3181 白栲の君が下紐我れさへに今日結びてな逢はむ日のため

12巻-3182 白栲の袖の別れは惜しけども思ひ乱れて許しつるかも

12巻-3215 白栲の袖の別れを難みして荒津の浜に宿りするかも

13巻-3243 娘子らが 麻笥に垂れたる 続麻なす 長門の浦に 朝なぎに 満ち来る潮の 夕なぎに 寄せ来る波の その潮の いやますますに その波の いやしくしくに 我妹子に 恋ひつつ来れば 阿胡の海の 荒礒の上に 浜菜摘む 海人娘子らが うながせる 領布も照るがに 手に巻ける 玉もゆららに 白栲の 袖振る見えつ 相思ふらしも

13巻-3258 あらたまの 年は来ゆきて 玉梓の 使の来ねば 霞立つ 長き春日を 天地に 思ひ足らはし たらちねの 母が飼ふ蚕の 繭隠り 息づきわたり 我が恋ふる 心のうちを 人に言ふ ものにしあらねば 松が根の 待つこと遠み 天伝ふ 日の暮れぬれば 白栲の 我が衣手も 通りて濡れぬ

13巻-3274 為むすべの たづきを知らに 岩が根の こごしき道を 岩床の 根延へる門を 朝には 出で居て嘆き 夕には 入り居て偲ひ 白栲の 我が衣手を 折り返し ひとりし寝れば ぬばたまの 黒髪敷きて 人の寝る 味寐は寝ずて 大船の ゆくらゆくらに 思ひつつ 我が寝る夜らを 数みもあへむかも

14巻-3449 白栲の衣の袖を麻久良我よ海人漕ぎ来見ゆ波立つなゆめ

15巻-3607 白栲の藤江の浦に漁りする海人とや見らむ旅行く我れを

15巻-3625 丹比大夫夕されば 葦辺に騒き 明け来れば 沖になづさふ 鴨すらも 妻とたぐひて 我が尾には 霜な降りそと 白栲の 羽さし交へて うち掃ひ さ寝とふものを 行く水の 帰らぬごとく 吹く風の 見えぬがごとく 跡もなき 世の人にして 別れにし 妹が着せてし なれ衣 袖片敷きて ひとりかも寝む

15巻-3725 狭野弟上娘子我が背子しけだし罷らば白栲の袖を振らさね見つつ偲はむ

15巻-3751 狭野弟上娘子白栲の我が下衣失はず持てれ我が背子直に逢ふまでに

15巻-3778 狭野弟上娘子白栲の我が衣手を取り持ちて斎へ我が背子直に逢ふまでに

17巻-3945 大伴池主秋の夜は暁寒し白栲の妹が衣手着むよしもがも

17巻-3973 大伴池主大君の 命畏み あしひきの 山野さはらず 天離る 鄙も治むる 大夫や なにか物思ふ あをによし 奈良道来通ふ 玉梓の 使絶えめや 隠り恋ひ 息づきわたり 下思に 嘆かふ我が背 いにしへゆ 言ひ継ぎくらし 世間は 数なきものぞ 慰むる こともあらむと 里人の 我れに告ぐらく 山びには 桜花散り 貌鳥の 間なくしば鳴く 春の野に すみれを摘むと 白栲の 袖折り返し 紅の 赤裳裾引き 娘子らは 思ひ乱れて 君待つと うら恋すなり 心ぐし いざ見に行かな ことはたなゆひ

17巻-3993 大伴池主藤波は 咲きて散りにき 卯の花は 今ぞ盛りと あしひきの 山にも野にも 霍公鳥 鳴きし響めば うち靡く 心もしのに そこをしも うら恋しみと 思ふどち 馬打ち群れて 携はり 出で立ち見れば 射水川 港の渚鳥 朝なぎに 潟にあさりし 潮満てば 夫呼び交す 羨しきに 見つつ過ぎ行き 渋谿の 荒礒の崎に 沖つ波 寄せ来る玉藻 片縒りに 蘰に作り 妹がため 手に巻き持ちて うらぐはし 布勢の水海に 海人船に ま楫掻い貫き 白栲の 袖振り返し あどもひて 我が漕ぎ行けば 乎布の崎 花散りまがひ 渚には 葦鴨騒き さざれ波 立ちても居ても 漕ぎ廻り 見れども飽かず 秋さらば 黄葉の時に 春さらば 花の盛りに かもかくも 君がまにまと かくしこそ 見も明らめめ 絶ゆる日あらめや

18巻-4111 大伴家持かけまくも あやに畏し 天皇の 神の大御代に 田道間守 常世に渡り 八桙持ち 参ゐ出来し時 時じくの かくの木の実を 畏くも 残したまへれ 国も狭に 生ひ立ち栄え 春されば 孫枝萌いつつ 霍公鳥 鳴く五月には 初花を 枝に手折りて 娘子らに つとにも遣りみ 白栲の 袖にも扱入れ かぐはしみ 置きて枯らしみ あゆる実は 玉に貫きつつ 手に巻きて 見れども飽かず 秋づけば しぐれの雨降り あしひきの 山の木末は 紅に にほひ散れども 橘の なれるその実は ひた照りに いや見が欲しく み雪降る 冬に至れば 霜置けども その葉も枯れず 常磐なす いやさかはえに しかれこそ 神の御代より よろしなへ この橘を 時じくの かくの木の実と 名付けけらしも

20巻-4331 大伴家持大君の 遠の朝廷と しらぬひ 筑紫の国は 敵守る おさへの城ぞと 聞こし食す 四方の国には 人さはに 満ちてはあれど 鶏が鳴く 東男は 出で向ひ かへり見せずて 勇みたる 猛き軍士と ねぎたまひ 任けのまにまに たらちねの 母が目離れて 若草の 妻をも巻かず あらたまの 月日数みつつ 葦が散る 難波の御津に 大船に ま櫂しじ貫き 朝なぎに 水手ととのへ 夕潮に 楫引き折り 率ひて 漕ぎ行く君は 波の間を い行きさぐくみ ま幸くも 早く至りて 大君の 命のまにま 大夫の 心を持ちて あり廻り 事し終らば つつまはず 帰り来ませと 斎瓮を 床辺に据ゑて 白栲の 袖折り返し ぬばたまの 黒髪敷きて 長き日を 待ちかも恋ひむ 愛しき妻らは

20巻-4408 大伴家持大君の 任けのまにまに 島守に 我が立ち来れば ははそ葉の 母の命は み裳の裾 摘み上げ掻き撫で ちちの実の 父の命は 栲づのの 白髭の上ゆ 涙垂り 嘆きのたばく 鹿子じもの ただ独りして 朝戸出の 愛しき我が子 あらたまの 年の緒長く 相見ずは 恋しくあるべし 今日だにも 言問ひせむと 惜しみつつ 悲しびませば 若草の 妻も子どもも をちこちに さはに囲み居 春鳥の 声のさまよひ 白栲の 袖泣き濡らし たづさはり 別れかてにと 引き留め 慕ひしものを 大君の 命畏み 玉桙の 道に出で立ち 岡の崎 い廻むるごとに 万たび かへり見しつつ はろはろに 別れし来れば 思ふそら 安くもあらず 恋ふるそら 苦しきものを うつせみの 世の人なれば たまきはる 命も知らず 海原の 畏き道を 島伝ひ い漕ぎ渡りて あり廻り 我が来るまでに 平けく 親はいまさね つつみなく 妻は待たせと 住吉の 我が統め神に 幣奉り 祈り申して 難波津に 船を浮け据ゑ 八十楫貫き 水手ととのへて 朝開き 我は漕ぎ出ぬと 家に告げこそ

古今和歌集

22-春上 紀貫之 春日野の 若菜つみにや 白妙の 袖ふりはへて 人のゆくらむ

274-秋下 紀友則 花見つつ 人待つ時は 白妙の 袖かとのみぞ あやまたれける

911-雑上 読人知らず わたつみの かざしにさせる 白妙の 浪もてゆへる 淡路島山

1001-雑体 読人知らず あふことの まれなる色に 思ひそめ 我が身は常に 天雲の 晴るる時なく 富士の嶺の もえつつとはに 思へども あふことかたし 何しかも 人をうらみむ わたつみの 沖を深めて 思ひてし 思ひは今は いたづらに なりぬべらなり ゆく水の 絶ゆる時なく かくなわに 思ひ乱れて 降る雪の けなばけぬべく 思へども えぶの身なれば なほやまず 思ひは深し あしひきの 山下水の 木隠れて たぎつ心を 誰にかも あひかたらはむ 色にいでば 人知りぬべみ 墨染めの 夕べになれば ひとりゐて あはれあはれと なげきあまり せむすべなみに 庭にいでて 立ちやすらへば 白妙の 衣の袖に 置く露の けなばけぬべく 思へども なほなげかれぬ 春霞 よそにも人に あはむと思へば

後撰和歌集

342-秋中 紀貫之 白妙の衣かたしき女郎花さけるのへにそこよひねにける

643-恋二 在原棟梁 わか恋のかすにしとらは白妙のはまのまさこもつきぬへらなり

拾遺和歌集

17-春 紀貫之 白妙のいもか衣にむめの花色をもかをもわきそかねつる

92-夏 紀貫之 かみまつるやとの卯の花白妙のみてくらかとそあやまたれける

93-夏 読人知らず 山かつのかきねにさける卯の花はたか白妙の衣かけしそ

518-雑下 これひら 白妙のしろき月をも紅の色をもなとかあかしといふらん

後拾遺和歌集

224-夏 藤原長家 夏の夜もすずしかりけり月影は庭しろたへの霜とみえつつ

260-秋上 藤原國行 しろたへの衣の袖を霜かとてはらへば月の光なりけり

1164-雑六 藤原長能 白妙のとよみてぐらをとりもちていはひぞ初むる紫の野に

金葉和歌集

16-春 平兼盛 白妙の雪ふりやまぬ梅がえにいまぞ鶯春となくなる

詞花和歌集

なし

千載和歌集

なし

新古今和歌集

175-夏 持統天皇 春すきてなつきにけらししろたへのころもほすてふあまのかく山

181-夏 藤原重家 うの花のさきぬるときはしろたへのなみもてゆへるかきねとそみる

675-冬 山辺赤人 たこの浦にうちいてて見れはしろたへのふしのたかねに雪はふりつつ

710-賀 紀貫之 君かよのとしのかすをはしろたへのはまのまさことたれかしきけん

1336-恋五 藤原定家 しろたへの袖のわかれにつゆおちて身にしむいろの秋風そふく

1359-恋五 読人知らず いもか袖わかれし日よりしろたへの衣かたしきこひつつそぬる

1427-恋五 読人知らず わかよはひおとろへゆけはしろたへの袖のなれにし君をしそ思

1428-恋五 読人知らず いまよりはあはしとすれやしろたへのわか衣手のかはく時なき