八代古今後撰拾遺後拾遺金葉詞花千載新古今百人一首六歌仙三十六歌仙枕詞動詞光る君へ
「あしびきの/あしひきの」の歌
「あしびきの」は年山、峰、尾の上(をのへ)、岩、木などにかかる枕詞。「足引きの」と書くが、葦引き、あし曳などとと書くことも。
万葉集では「あしびきの」と読まれ、後に「あしひきの」と読まれるようになった。
枕詞としてよく詠まれ、数も多く、万葉112、八代82を数える。
「あしびきの/あしひきの」の歌集ごとの数と割合
万葉 | 古今 | 後撰 | 拾遺 | 後拾 | 金葉 | 詞花 | 千載 | 新古 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
112 | 18 | 17 | 25 | 4 | 2 | 0 | 2 | 14 |
2.5 | 1.6 | 1.2 | 1.9 | 0.3 | 0.3 | 0 | 0.2 | 0.7 |
百人一首
3番 778-恋三 柿本人麻呂(人麿) あしひきの山鳥の尾のしたりをのなかなかし夜をひとりかもねむ
万葉集
2巻-107 大津皇子あしひきの山のしづくに妹待つと我れ立ち濡れぬ山のしづくに
2巻-108 石川郎女我を待つと君が濡れけむあしひきの山のしづくにならましものを
3巻-267 志貴皇子むささびは木末求むとあしひきの山のさつ男にあひにけるかも
3巻-414 大伴家持あしひきの岩根こごしみ菅の根を引かばかたみと標のみぞ結ふ
3巻-460 坂上郎女栲づのの 新羅の国ゆ 人言を よしと聞かして 問ひ放くる 親族兄弟 なき国に 渡り来まして 大君の 敷きます国に うち日さす 都しみみに 里家は さはにあれども いかさまに 思ひけめかも つれもなき 佐保の山辺に 泣く子なす 慕ひ来まして 敷栲の 家をも作り あらたまの 年の緒長く 住まひつつ いまししものを 生ける者 死ぬといふことに 免れぬ ものにしあれば 頼めりし 人のことごと 草枕 旅なる間に 佐保川を 朝川渡り 春日野を そがひに見つつ あしひきの 山辺をさして 夕闇と 隠りましぬれ 言はむすべ 為むすべ知らに たもとほり ただひとりして 白栲の 衣袖干さず 嘆きつつ 我が泣く涙 有間山 雲居たなびき 雨に降りきや
3巻-466 大伴家持我がやどに 花ぞ咲きたる そを見れど 心もゆかず はしきやし 妹がありせば 水鴨なす ふたり並び居 手折りても 見せましものを うつせみの 借れる身なれば 露霜の 消ぬるがごとく あしひきの 山道をさして 入日なす 隠りにしかば そこ思ふに 胸こそ痛き 言ひもえず 名づけも知らず 跡もなき 世間にあれば 為むすべもなし
3巻-477 大伴家持あしひきの山さへ光り咲く花の散りぬるごとき我が大君かも
4巻-580 余明軍あしひきの山に生ひたる菅の根のねもころ見まく欲しき君かも
4巻-669 春日王あしひきの山橘の色に出でよ語らひ継ぎて逢ふこともあらむ
4巻-670 湯原王月読の光りに来ませあしひきの山きへなりて遠からなくに
4巻-721 坂上郎女あしひきの山にしをれば風流なみ我がするわざをとがめたまふな
6巻-920 笠金村あしひきの み山もさやに 落ちたぎつ 吉野の川の 川の瀬の 清きを見れば 上辺には 千鳥しば鳴く 下辺には かはづ妻呼ぶ ももしきの 大宮人も をちこちに 繁にしあれば 見るごとに あやに乏しみ 玉葛 絶ゆることなく 万代に かくしもがもと 天地の 神をぞ祈る 畏くあれども
6巻-927 山部赤人あしひきの山にも野にも御狩人さつ矢手挾み騒きてあり見ゆ
7巻-1088 柿本人麻呂歌集あしひきの山川の瀬の鳴るなへに弓月が岳に雲立ちわたる
7巻-1242 古集あしひきの山行き暮らし宿借らば妹立ち待ちてやど貸さむかも
7巻-1262 古歌集あしひきの山椿咲く八つ峰越え鹿待つ君が斎ひ妻かも
7巻-1340 紫の糸をぞ我が搓るあしひきの山橘を貫かむと思ひて
7巻-1415 玉梓の妹は玉かもあしひきの清き山辺に撒けば散りぬる
7巻-1416 玉梓の妹は花かもあしひきのこの山蔭に撒けば失せぬる
8巻-1425 山部赤人あしひきの山桜花日並べてかく咲きたらばいたく恋ひめやも
8巻-1469 沙弥あしひきの山霍公鳥汝が鳴けば家なる妹し常に偲はゆ
8巻-1495 大伴家持あしひきの木の間立ち潜く霍公鳥かく聞きそめて後恋ひむかも
8巻-1587 大伴書持あしひきの山の黄葉今夜もか浮かび行くらむ山川の瀬に
8巻-1603 大伴家持このころの朝明に聞けばあしひきの山呼び響めさを鹿鳴くも
8巻-1611 笠縫女王あしひきの山下響め鳴く鹿の言ともしかも我が心夫
8巻-1629 大伴家持ねもころに 物を思へば 言はむすべ 為むすべもなし 妹と我れと 手携さはりて 朝には 庭に出で立ち 夕には 床うち掃ひ 白栲の 袖さし交へて さ寝し夜や 常にありける あしひきの 山鳥こそば 峰向ひに 妻問ひすといへ うつせみの 人なる我れや 何すとか 一日一夜も 離り居て 嘆き恋ふらむ ここ思へば 胸こそ痛き そこ故に 心なぐやと 高円の 山にも野にも うち行きて 遊び歩けど 花のみ にほひてあれば 見るごとに まして偲はゆ いかにして 忘れむものぞ 恋といふものを
8巻-1632 大伴家持あしひきの山辺に居りて秋風の日に異に吹けば妹をしぞ思ふ
9巻-1761 柿本人麻呂三諸の 神奈備山に たち向ふ 御垣の山に 秋萩の 妻をまかむと 朝月夜 明けまく惜しみ あしひきの 山彦響め 呼びたて鳴くも
9巻-1762 柿本人麻呂明日の宵逢はざらめやもあしひきの山彦響め呼びたて鳴くも
9巻-1806 田辺福麻呂歌集あしひきの荒山中に送り置きて帰らふ見れば心苦しも
10巻-1824 冬こもり春さり来ればあしひきの山にも野にも鴬鳴くも
10巻-1842 雪をおきて梅をな恋ひそあしひきの山片付きて家居せる君
10巻-1864 あしひきの山の際照らす桜花この春雨に散りゆかむかも
10巻-1940 朝霞たなびく野辺にあしひきの山霍公鳥いつか来鳴かむ
10巻-2148 あしひきの山より来せばさを鹿の妻呼ぶ声を聞かましものを
10巻-2156 あしひきの山の常蔭に鳴く鹿の声聞かすやも山田守らす子
10巻-2200 九月の白露負ひてあしひきの山のもみたむ見まくしもよし
10巻-2219 あしひきの山田作る子秀でずとも縄だに延へよ守ると知るがね
10巻-2296 あしひきの山さな葛もみつまで妹に逢はずや我が恋ひ居らむ
10巻-2313 柿本人麻呂歌集あしひきの山かも高き巻向の崖の小松にみ雪降りくる
10巻-2315 柿本人麻呂歌集あしひきの山道も知らず白橿の枝もとををに雪の降れれば (或云 枝もたわたわ)
10巻-2324 あしひきの山に白きは我が宿に昨日の夕降りし雪かも
10巻-2350 あしひきの山のあらしは吹かねども君なき宵はかねて寒しも
11巻-2477 柿本人麻呂歌集あしひきの名負ふ山菅押し伏せて君し結ばば逢はずあらめやも
11巻-2617 あしひきの山桜戸を開け置きて我が待つ君を誰れか留むる
11巻-2649 あしひきの山田守る翁が置く鹿火の下焦れのみ我が恋ひ居らむ
11巻-2679 窓越しに月おし照りてあしひきのあらし吹く夜は君をしぞ思ふ
11巻-2694 あしひきの山鳥の尾の一峰越え一目見し子に恋ふべきものか
11巻-2704 あしひきの山下響み行く水の時ともなくも恋ひわたるかも
11巻-2760 あしひきの山沢ゑぐを摘みに行かむ日だにも逢はせ母は責むとも
11巻-2767 あしひきの山橘の色に出でて我は恋なむを人目難みすな
11巻-2802 思へども思ひもかねつあしひきの山鳥の尾の長きこの夜を
11巻-2802 あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む
12巻-3002 あしひきの山より出づる月待つと人には言ひて妹待つ我れを
12巻-3008 あしひきの山を木高み夕月をいつかと君を待つが苦しさ
12巻-3017 あしひきの山川水の音に出でず人の子ゆゑに恋ひわたるかも
12巻-3051 あしひきの山菅の根のねもころに我れはぞ恋ふる君が姿を
12巻-3053 あしひきの山菅の根のねもころにやまず思はば妹に逢はむかも
12巻-3189 あしひきの山は百重に隠すとも妹は忘れじ直に逢ふまでに (隠せども君を思はくやむ時もなし)
12巻-3210 あしひきの片山雉立ち行かむ君に後れてうつしけめやも
13巻-3276 百足らず 山田の道を 波雲の 愛し妻と 語らはず 別れし来れば 早川の 行きも知らず 衣手の 帰りも知らず 馬じもの 立ちてつまづき 為むすべの たづきを知らに もののふの 八十の心を 天地に 思ひ足らはし 魂合はば 君来ますやと 我が嘆く 八尺の嘆き 玉桙の 道来る人の 立ち留まり いかにと問はば 答へ遣る たづきを知らに さ丹つらふ 君が名言はば 色に出でて 人知りぬべみ あしひきの 山より出づる 月待つと 人には言ひて 君待つ我れを
13巻-3291 み吉野の 真木立つ山に 青く生ふる 山菅の根の ねもころに 我が思ふ君は 大君の 任けのまにまに (或本云 大君の 命かしこみ) 鄙離る 国治めにと (或本云 天離る 鄙治めにと) 群鳥の 朝立ち去なば 後れたる 我れか恋ひむな 旅ならば 君か偲はむ 言はむすべ 為むすべ知らに (或書有 あしひきの 山の木末に 句也) 延ふ蔦の 行きの (或本無歸之句也) 別れのあまた 惜しきものかも
13巻-3335 玉桙の 道行く人は あしひきの 山行き野行き にはたづみ 川行き渡り 鯨魚取り 海道に出でて 畏きや 神の渡りは 吹く風も のどには吹かず 立つ波も おほには立たず とゐ波の 塞ふる道を 誰が心 いたはしとかも 直渡りけむ 直渡りけむ
13巻-3338 あしひきの山道は行かむ風吹けば波の塞ふる海道は行かじ
13巻-3339 玉桙の 道に出で立ち あしひきの 野行き山行き にはたづみ 川行き渡り 鯨魚取り 海道に出でて 吹く風も おほには吹かず 立つ波も のどには立たぬ 畏きや 神の渡りの しき波の 寄する浜辺に 高山を 隔てに置きて 浦ぶちを 枕に巻きて うらもなく こやせる君は 母父が 愛子にもあらむ 若草の 妻もあらむと 家問へど 家道も言はず 名を問へど 名だにも告らず 誰が言を いたはしとかも とゐ波の 畏き海を 直渡りけむ
14巻-3462 あしひきの山沢人の人さはにまなと言ふ子があやに愛しさ
14巻-3573 あしひきの山かづらかげましばにも得がたきかげを置きや枯らさむ
15巻-3655 今よりは秋づきぬらしあしひきの山松蔭にひぐらし鳴きぬ
15巻-3680 夜を長み寐の寝らえぬにあしひきの山彦響めさを鹿鳴くも
15巻-3687 あしひきの山飛び越ゆる鴈がねは都に行かば妹に逢ひて来ね
15巻-3700 阿倍継麻呂あしひきの山下光る黄葉の散りの乱ひは今日にもあるかも
15巻-3723 狭野弟上娘子あしひきの山道越えむとする君を心に持ちて安けくもなし
16巻-3789 あしひきの山縵の子今日行くと我れに告げせば帰り来ましを (二)
16巻-3790 あしひきの玉縵の子今日のごといづれの隈を見つつ来にけむ (三)
16巻-3885 乞食者いとこ 汝背の君 居り居りて 物にい行くとは 韓国の 虎といふ神を 生け捕りに 八つ捕り持ち来 その皮を 畳に刺し 八重畳 平群の山に 四月と 五月との間に 薬猟 仕ふる時に あしひきの この片山に 二つ立つ 櫟が本に 梓弓 八つ手挟み ひめ鏑 八つ手挟み 獣待つと 我が居る時に さを鹿の 来立ち嘆かく たちまちに 我れは死ぬべし 大君に 我れは仕へむ 我が角は み笠のはやし 我が耳は み墨の坩 我が目らは ますみの鏡 我が爪は み弓の弓弭 我が毛らは み筆はやし 我が皮は み箱の皮に 我が肉は み膾はやし 我が肝も み膾はやし 我がみげは み塩のはやし 老いたる奴 我が身一つに 七重花咲く 八重花咲くと 申しはやさね 申しはやさね
16巻-3886 乞食者おしてるや 難波の小江に 廬作り 隠りて居る 葦蟹を 大君召すと 何せむに 我を召すらめや 明けく 我が知ることを 歌人と 我を召すらめや 笛吹きと 我を召すらめや 琴弾きと 我を召すらめや かもかくも 命受けむと 今日今日と 飛鳥に至り 置くとも 置勿に至り つかねども 都久野に至り 東の 中の御門ゆ 参入り来て 命受くれば 馬にこそ ふもだしかくもの 牛にこそ 鼻縄はくれ あしひきの この片山の もむ楡を 五百枝剥き垂り 天照るや 日の異に干し さひづるや 韓臼に搗き 庭に立つ 手臼に搗き おしてるや 難波の小江の 初垂りを からく垂り来て 陶人の 作れる瓶を 今日行きて 明日取り持ち来 我が目らに 塩塗りたまひ きたひはやすも きたひはやすも
17巻-3911 大伴家持あしひきの山辺に居れば霍公鳥木の間立ち潜き鳴かぬ日はなし
17巻-3915 山部赤人あしひきの山谷越えて野づかさに今は鳴くらむ鴬の声
17巻-3957 大伴家持天離る 鄙治めにと 大君の 任けのまにまに 出でて来し 我れを送ると あをによし 奈良山過ぎて 泉川 清き河原に 馬留め 別れし時に ま幸くて 我れ帰り来む 平らけく 斎ひて待てと 語らひて 来し日の極み 玉桙の 道をた遠み 山川の 隔りてあれば 恋しけく 日長きものを 見まく欲り 思ふ間に 玉梓の 使の来れば 嬉しみと 我が待ち問ふに およづれの たはこととかも はしきよし 汝弟の命 なにしかも 時しはあらむを はだすすき 穂に出づる秋の 萩の花 にほへる宿を (言斯人為性好愛花草花樹而多<植>於寝院之庭 故謂之花薫庭也) 朝庭に 出で立ち平し 夕庭に 踏み平げず 佐保の内の 里を行き過ぎ あしひきの 山の木末に 白雲に 立ちたなびくと 我れに告げつる (佐保山火葬 故謂之佐保の内の里を行き過ぎ)
17巻-3962 大伴家持大君の 任けのまにまに 大夫の 心振り起し あしひきの 山坂越えて 天離る 鄙に下り来 息だにも いまだ休めず 年月も いくらもあらぬに うつせみの 世の人なれば うち靡き 床に臥い伏し 痛けくし 日に異に増さる たらちねの 母の命の 大船の ゆくらゆくらに 下恋に いつかも来むと 待たすらむ 心寂しく はしきよし 妻の命も 明けくれば 門に寄り立ち 衣手を 折り返しつつ 夕されば 床打ち払ひ ぬばたまの 黒髪敷きて いつしかと 嘆かすらむぞ 妹も兄も 若き子どもは をちこちに 騒き泣くらむ 玉桙の 道をた遠み 間使も 遺るよしもなし 思ほしき 言伝て遣らず 恋ふるにし 心は燃えぬ たまきはる 命惜しけど 為むすべの たどきを知らに かくしてや 荒し男すらに 嘆き伏せらむ
17巻-3969 大伴家持大君の 任けのまにまに しなざかる 越を治めに 出でて来し ますら我れすら 世間の 常しなければ うち靡き 床に臥い伏し 痛けくの 日に異に増せば 悲しけく ここに思ひ出 いらなけく そこに思ひ出 嘆くそら 安けなくに 思ふそら 苦しきものを あしひきの 山きへなりて 玉桙の 道の遠けば 間使も 遣るよしもなみ 思ほしき 言も通はず たまきはる 命惜しけど せむすべの たどきを知らに 隠り居て 思ひ嘆かひ 慰むる 心はなしに 春花の 咲ける盛りに 思ふどち 手折りかざさず 春の野の 茂み飛び潜く 鴬の 声だに聞かず 娘子らが 春菜摘ますと 紅の 赤裳の裾の 春雨に にほひひづちて 通ふらむ 時の盛りを いたづらに 過ぐし遣りつれ 偲はせる 君が心を うるはしみ この夜すがらに 寐も寝ずに 今日もしめらに 恋ひつつぞ居る
17巻-3970 大伴家持あしひきの山桜花一目だに君とし見てば我れ恋ひめやも
17巻-3973 大伴池主大君の 命畏み あしひきの 山野さはらず 天離る 鄙も治むる 大夫や なにか物思ふ あをによし 奈良道来通ふ 玉梓の 使絶えめや 隠り恋ひ 息づきわたり 下思に 嘆かふ我が背 いにしへゆ 言ひ継ぎくらし 世間は 数なきものぞ 慰むる こともあらむと 里人の 我れに告ぐらく 山びには 桜花散り 貌鳥の 間なくしば鳴く 春の野に すみれを摘むと 白栲の 袖折り返し 紅の 赤裳裾引き 娘子らは 思ひ乱れて 君待つと うら恋すなり 心ぐし いざ見に行かな ことはたなゆひ
17巻-3978 大伴家持妹も我れも 心は同じ たぐへれど いやなつかしく 相見れば 常初花に 心ぐし めぐしもなしに はしけやし 我が奥妻 大君の 命畏み あしひきの 山越え野行き 天離る 鄙治めにと 別れ来し その日の極み あらたまの 年行き返り 春花の うつろふまでに 相見ねば いたもすべなみ 敷栲の 袖返しつつ 寝る夜おちず 夢には見れど うつつにし 直にあらねば 恋しけく 千重に積もりぬ 近くあらば 帰りにだにも うち行きて 妹が手枕 さし交へて 寝ても来ましを 玉桙の 道はし遠く 関さへに へなりてあれこそ よしゑやし よしはあらむぞ 霍公鳥 来鳴かむ月に いつしかも 早くなりなむ 卯の花の にほへる山を よそのみも 振り放け見つつ 近江道に い行き乗り立ち あをによし 奈良の我家に ぬえ鳥の うら泣けしつつ 下恋に 思ひうらぶれ 門に立ち 夕占問ひつつ 我を待つと 寝すらむ妹を 逢ひてはや見む
17巻-3981 大伴家持あしひきの山きへなりて遠けども心し行けば夢に見えけり
17巻-3983 大伴家持あしひきの山も近きを霍公鳥月立つまでに何か来鳴かぬ
17巻-3993 大伴池主藤波は 咲きて散りにき 卯の花は 今ぞ盛りと あしひきの 山にも野にも 霍公鳥 鳴きし響めば うち靡く 心もしのに そこをしも うら恋しみと 思ふどち 馬打ち群れて 携はり 出で立ち見れば 射水川 港の渚鳥 朝なぎに 潟にあさりし 潮満てば 夫呼び交す 羨しきに 見つつ過ぎ行き 渋谿の 荒礒の崎に 沖つ波 寄せ来る玉藻 片縒りに 蘰に作り 妹がため 手に巻き持ちて うらぐはし 布勢の水海に 海人船に ま楫掻い貫き 白栲の 袖振り返し あどもひて 我が漕ぎ行けば 乎布の崎 花散りまがひ 渚には 葦鴨騒き さざれ波 立ちても居ても 漕ぎ廻り 見れども飽かず 秋さらば 黄葉の時に 春さらば 花の盛りに かもかくも 君がまにまと かくしこそ 見も明らめめ 絶ゆる日あらめや
17巻-4011 大伴家持大君の 遠の朝廷ぞ み雪降る 越と名に追へる 天離る 鄙にしあれば 山高み 川とほしろし 野を広み 草こそ茂き 鮎走る 夏の盛りと 島つ鳥 鵜養が伴は 行く川の 清き瀬ごとに 篝さし なづさひ上る 露霜の 秋に至れば 野も多に 鳥すだけりと 大夫の 友誘ひて 鷹はしも あまたあれども 矢形尾の 我が大黒に (大黒者蒼鷹之名也) 白塗の 鈴取り付けて 朝猟に 五百つ鳥立て 夕猟に 千鳥踏み立て 追ふ毎に 許すことなく 手放れも をちもかやすき これをおきて またはありがたし さ慣らへる 鷹はなけむと 心には 思ひほこりて 笑まひつつ 渡る間に 狂れたる 醜つ翁の 言だにも 我れには告げず との曇り 雨の降る日を 鳥猟すと 名のみを告りて 三島野を そがひに見つつ 二上の 山飛び越えて 雲隠り 翔り去にきと 帰り来て しはぶれ告ぐれ 招くよしの そこになければ 言ふすべの たどきを知らに 心には 火さへ燃えつつ 思ひ恋ひ 息づきあまり けだしくも 逢ふことありやと あしひきの をてもこのもに 鳥網張り 守部を据ゑて ちはやぶる 神の社に 照る鏡 倭文に取り添へ 祈ひ祷みて 我が待つ時に 娘子らが 夢に告ぐらく 汝が恋ふる その秀つ鷹は 松田江の 浜行き暮らし つなし捕る 氷見の江過ぎて 多古の島 飛びた廻り 葦鴨の すだく古江に 一昨日も 昨日もありつ 近くあらば いま二日だみ 遠くあらば 七日のをちは 過ぎめやも 来なむ我が背子 ねもころに な恋ひそよとぞ いまに告げつる
18巻-4076 大伴家持あしひきの山はなくもが月見れば同じき里を心隔てつ
18巻-4111 大伴家持かけまくも あやに畏し 天皇の 神の大御代に 田道間守 常世に渡り 八桙持ち 参ゐ出来し時 時じくの かくの木の実を 畏くも 残したまへれ 国も狭に 生ひ立ち栄え 春されば 孫枝萌いつつ 霍公鳥 鳴く五月には 初花を 枝に手折りて 娘子らに つとにも遣りみ 白栲の 袖にも扱入れ かぐはしみ 置きて枯らしみ あゆる実は 玉に貫きつつ 手に巻きて 見れども飽かず 秋づけば しぐれの雨降り あしひきの 山の木末は 紅に にほひ散れども 橘の なれるその実は ひた照りに いや見が欲しく み雪降る 冬に至れば 霜置けども その葉も枯れず 常磐なす いやさかはえに しかれこそ 神の御代より よろしなへ この橘を 時じくの かくの木の実と 名付けけらしも
18巻-4122 大伴家持天皇の 敷きます国の 天の下 四方の道には 馬の爪 い尽くす極み 舟舳の い果つるまでに いにしへよ 今のをつづに 万調 奉るつかさと 作りたる その生業を 雨降らず 日の重なれば 植ゑし田も 蒔きし畑も 朝ごとに しぼみ枯れゆく そを見れば 心を痛み みどり子の 乳乞ふがごとく 天つ水 仰ぎてぞ待つ あしひきの 山のたをりに この見ゆる 天の白雲 海神の 沖つ宮辺に 立ちわたり との曇りあひて 雨も賜はね
18巻-4136 大伴家持あしひきの山の木末のほよ取りてかざしつらくは千年寿くとぞ
19巻-4149 大伴家持あしひきの八つ峰の雉鳴き響む朝明の霞見れば悲しも
19巻-4151 大伴家持今日のためと思ひて標しあしひきの峰の上の桜かく咲きにけり
19巻-4154 大伴家持あしひきの 山坂越えて 行きかはる 年の緒長く しなざかる 越にし住めば 大君の 敷きます国は 都をも ここも同じと 心には 思ふものから 語り放け 見放くる人目 乏しみと 思ひし繁し そこゆゑに 心なぐやと 秋づけば 萩咲きにほふ 石瀬野に 馬だき行きて をちこちに 鳥踏み立て 白塗りの 小鈴もゆらに あはせ遣り 振り放け見つつ いきどほる 心のうちを 思ひ延べ 嬉しびながら 枕付く 妻屋のうちに 鳥座結ひ 据えてぞ我が飼ふ 真白斑の鷹
19巻-4156 大伴家持あらたまの 年行きかはり 春されば 花のみにほふ あしひきの 山下響み 落ち激ち 流る辟田の 川の瀬に 鮎子さ走る 島つ鳥 鵜養伴なへ 篝さし なづさひ行けば 我妹子が 形見がてらと 紅の 八しほに染めて おこせたる 衣の裾も 通りて濡れぬ
19巻-4160 大伴家持天地の 遠き初めよ 世間は 常なきものと 語り継ぎ 流らへ来たれ 天の原 振り放け見れば 照る月も 満ち欠けしけり あしひきの 山の木末も 春されば 花咲きにほひ 秋づけば 露霜負ひて 風交り もみち散りけり うつせみも かくのみならし 紅の 色もうつろひ ぬばたまの 黒髪変り 朝の笑み 夕変らひ 吹く風の 見えぬがごとく 行く水の 止まらぬごとく 常もなく うつろふ見れば にはたづみ 流るる涙 留めかねつも
19巻-4164 大伴家持ちちの実の 父の命 ははそ葉の 母の命 おほろかに 心尽して 思ふらむ その子なれやも 大夫や 空しくあるべき 梓弓 末振り起し 投矢持ち 千尋射わたし 剣大刀 腰に取り佩き あしひきの 八つ峰踏み越え さしまくる 心障らず 後の世の 語り継ぐべく 名を立つべしも
19巻-4166 大伴家持時ごとに いやめづらしく 八千種に 草木花咲き 鳴く鳥の 声も変らふ 耳に聞き 目に見るごとに うち嘆き 萎えうらぶれ 偲ひつつ 争ふはしに 木の暗の 四月し立てば 夜隠りに 鳴く霍公鳥 いにしへゆ 語り継ぎつる 鴬の 現し真子かも あやめぐさ 花橘を 娘子らが 玉貫くまでに あかねさす 昼はしめらに あしひきの 八つ峰飛び越え ぬばたまの 夜はすがらに 暁の 月に向ひて 行き帰り 鳴き響むれど なにか飽き足らむ
19巻-4169 大伴家持霍公鳥 来鳴く五月に 咲きにほふ 花橘の かぐはしき 親の御言 朝夕に 聞かぬ日まねく 天離る 鄙にし居れば あしひきの 山のたをりに 立つ雲を よそのみ見つつ 嘆くそら 安けなくに 思ふそら 苦しきものを 奈呉の海人の 潜き取るといふ 白玉の 見が欲し御面 直向ひ 見む時までは 松柏の 栄えいまさね 貴き我が君 (御面謂之美於毛和)
19巻-4180 大伴家持春過ぎて 夏来向へば あしひきの 山呼び響め さ夜中に 鳴く霍公鳥 初声を 聞けばなつかし あやめぐさ 花橘を 貫き交へ かづらくまでに 里響め 鳴き渡れども なほし偲はゆ
19巻-4203 久米広縄家に行きて何を語らむあしひきの山霍公鳥一声も鳴け
19巻-4210 久米広縄藤波の茂りは過ぎぬあしひきの山霍公鳥などか来鳴かぬ
19巻-4214 大伴家持天地の 初めの時ゆ うつそみの 八十伴の男は 大君に まつろふものと 定まれる 官にしあれば 大君の 命畏み 鄙離る 国を治むと あしひきの 山川へだて 風雲に 言は通へど 直に逢はず 日の重なれば 思ひ恋ひ 息づき居るに 玉桙の 道来る人の 伝て言に 我れに語らく はしきよし 君はこのころ うらさびて 嘆かひいます 世間の 憂けく辛けく 咲く花も 時にうつろふ うつせみも 常なくありけり たらちねの 御母の命 何しかも 時しはあらむを まそ鏡 見れども飽かず 玉の緒の 惜しき盛りに 立つ霧の 失せぬるごとく 置く露の 消ぬるがごとく 玉藻なす 靡き臥い伏し 行く水の 留めかねつと たはことか 人の言ひつる およづれか 人の告げつる 梓弓 爪引く夜音の 遠音にも 聞けば悲しみ にはたづみ 流るる涙 留めかねつも
19巻-4225 大伴家持あしひきの山の黄葉にしづくあひて散らむ山道を君が越えまく
19巻-4266 大伴家持あしひきの 八つ峰の上の 栂の木の いや継ぎ継ぎに 松が根の 絶ゆることなく あをによし 奈良の都に 万代に 国知らさむと やすみしし 我が大君の 神ながら 思ほしめして 豊の宴 見す今日の日は もののふの 八十伴の男の 島山に 赤る橘 うずに刺し 紐解き放けて 千年寿き 寿き響もし ゑらゑらに 仕へまつるを 見るが貴さ
19巻-4278 大伴家持あしひきの山下ひかげかづらける上にやさらに梅をしのはむ
20巻-4293 元正天皇あしひきの山行きしかば山人の我れに得しめし山づとぞこれ
20巻-4294 舎人親王あしひきの山に行きけむ山人の心も知らず山人や誰れ
20巻-4471 大伴家持消残りの雪にあへ照るあしひきの山橘をつとに摘み来な
20巻-4481 大伴家持あしひきの八つ峰の椿つらつらに見とも飽かめや植ゑてける君
20巻-4484 大伴家持咲く花は移ろふ時ありあしひきの山菅の根し長くはありけり
古今和歌集
59-春上 紀貫之 桜花 さきにけらしな あしひきの 山のかひより 見ゆる白雲
140-夏 読人知らず いつの間に 五月来ぬらむ あしひきの 山郭公 今ぞ鳴くなる
150-夏 読人知らず あしひきの 山郭公 をりはへて 誰かまさると 音をのみぞ鳴く
216-秋上 読人知らず 秋萩に うらびれをれば あしひきの 山下とよみ 鹿の鳴くらむ
319-冬 読人知らず 降る雪は かつぞけぬらし あしひきの 山のたぎつ瀬 音まさるなり
430-物名 小野滋蔭 あしひきの 山たちはなれ 行く雲の 宿りさだめぬ 世にこそありけれ
461-物名 紀貫之 あしひきの 山辺にをれば 白雲の いかにせよとか 晴るる時なき
491-恋一 読人知らず あしひきの 山下水の 木隠れて たぎつ心を せきぞかねつる
499-恋一 読人知らず あしひきの 山郭公 我がごとや 君に恋ひつつ いねがてにする
633-恋三 紀貫之 しのぶれど 恋しき時は あしひきの 山より月の いでてこそくれ
668-恋三 紀友則 我が恋を しのびかねては あしひきの 山橘の 色にいでぬべし
844-哀傷 読人知らず あしひきの 山辺に今は 墨染めの 衣の袖は ひる時もなし
877-雑上 読人知らず 遅くいづる 月にもあるかな あしひきの 山のあなたも 惜しむべらなり
953-雑下 読人知らず あしひきの 山のまにまに 隠れなむ うき世の中は あるかひもなし
1001-雑体 読人知らず あふことの まれなる色に 思ひそめ 我が身は常に 天雲の 晴るる時なく 富士の嶺の もえつつとはに 思へども あふことかたし 何しかも 人をうらみむ わたつみの 沖を深めて 思ひてし 思ひは今は いたづらに なりぬべらなり ゆく水の 絶ゆる時なく かくなわに 思ひ乱れて 降る雪の けなばけぬべく 思へども えぶの身なれば なほやまず 思ひは深し あしひきの 山下水の 木隠れて たぎつ心を 誰にかも あひかたらはむ 色にいでば 人知りぬべみ 墨染めの 夕べになれば ひとりゐて あはれあはれと なげきあまり せむすべなみに 庭にいでて 立ちやすらへば 白妙の 衣の袖に 置く露の けなばけぬべく 思へども なほなげかれぬ 春霞 よそにも人に あはむと思へば
1027-雑体 読人知らず あしひきの 山田のそほづ おのれさへ 我をほしてふ うれはしきこと
1057-雑体 読人知らず なげきをば こりのみつみて あしひきの 山のかひなく なりぬべらなり
1067-雑体 凡河内躬恒 わびしらに ましらな鳴きそ あしひきの 山のかひある 今日にやはあらぬ
後撰和歌集
168-夏 紀貫之 あしひきの山した水はゆきかよひことのねにさへなかるへらなり
184-夏 読人知らず あしひきの山郭公うちはへて誰かまさるとねをのみそなく
384-秋下 紀貫之 あしひきの山の山もりもる山も紅葉せさする秋はきにけり
411-秋下 読人知らず あしひきの山のもみちはちりにけり嵐のさきに見てましものを
466-冬 読人知らず けさの嵐寒くもあるかなあしひきの山かきくもり雪そふるらし
605-恋二 兼覧王 あしひきの山したしけくはふくすの尋ねてこふる我としらすや
632-恋二 大江朝綱 あしひきの山ひはすともふみかよふあとをも見ぬはくるしきものを
694-恋二 読人知らず あしひきの山におふてふもろかつらもろともにこそいらまほしけれ
806-恋四 読人知らず あしひきの山田のそほつうちわひてひとりかへるのねをそなきぬる
823-恋四 読人知らず おとにのみ声をきくかなあしひきの山した水にあらぬものから
860-恋四 よしの あしひきの山した水のこかくれてたきつ心をせきそかねつる
935-恋五 読人知らず あしひきの山したしけくゆく水の流れてかくしとははたのまん
1084-雑一 躬恒 あしひきの山におひたるしらかしのしらしな人をくち木なりとも
1205-雑三 大輔 道しらぬ物ならなくにあしひきの山ふみ迷ふ人もありけり
1206-雑三 藤原敦忠 しらかしの雪もきえにしあしひきの山ちを誰かふみ迷ふへき
1280-雑四 兼輔 あしひきの山の山鳥かひもなし峰の白雲たちしよらねは
1299-雑四 山田法師 あしひきの山したとよみなくとりもわかことたえす物思ふらめや
拾遺和歌集
39-春 読人知らず 吹く風にあらそひかねてあしひきの山の桜はほころひにけり
65-春 読人知らず あしひきの山ちにちれる桜花きえせぬはるの雪かとそ見る
66-春 小弐命婦 あしひきの山かくれなるさくら花ちりのこれりと風にしらるな
97-夏 久米広縄 家にきてなにをかたらむあしひきの山郭公ひとこゑもかな
111-夏 延喜 あしひきの山郭公けふとてやあやめの草のねにたててなく
215-冬 紀貫之 あしひきの山かきくもりしくるれと紅葉はいととてりまさりけり
245-冬 伊勢 あしひきの山ゐにふれる白雪はすれる衣の心地こそすれ
252-冬 柿本人麻呂(人麿) あしひきの山ちもしらすしらかしの枝にもはにも雪のふれれは
371-物名 紀貫之 そま人は宮木ひくらしあしひきの山の山ひこ声とよむなり
380-物名 紀貫之 あしひきの山辺にをれは白雲のいかにせよとかはるる時なき
396-物名 藤原輔相 あしひきの山した水にぬれにけりその火まつたけ衣あふらん
417-物名 藤原輔相 あしひきの山のこのはのおちくちはいろのをしきそあはれなりける
492-雑上 紀貫之 人しれすこゆと思ふらしあしひきの山した水にかけは見えつつ
527-雑下 読人知らず あしひきの山のこてらにすむ人はわかいふこともかなはさりけり
618-神楽歌 紀貫之 あしひきの山のさかきはときはなるかけにさかゆる神のきねかな
645-恋一 読人知らず あしひきの山したとよみ行く水の時そともなくこひ渡るかな
777-恋三 読人知らず あしひきの山した風もさむけきにこよひも又やわかひとりねん
778-恋三 柿本人麻呂(人麿) あしひきの山鳥の尾のしたりをのなかなかし夜をひとりかもねむ
779-恋三 読人知らず あしひきの葛木山にゐる事のたちてもゐても君をこそおもへ
780-恋三 読人知らず あしひきの山の山すけやますのみ見ねはこひしききみにもあるかな
781-恋三 石上乙麿 あしひきの山こえくれてやとからはいもたちまちていねさらむかも
782-恋三 柿本人麻呂(人麿) あしひきの山よりいつる月まつと人にはいひて君をこそまて
1076-雑春 大中臣輔親 あしひきの山郭公さとなれてたそかれ時になのりすらしも
1147-雑秋 東宮女蔵人左近 限なくとくとはすれとあしひきの山井の水は猶そこほれる
1149-雑秋 紀貫之 あしひきの山ゐにすれる衣をは神につかふるしるしとそ思ふ
後拾遺和歌集
181-夏 藤原尚忠 ここにわがきかまほしきをあしひきの山ほととぎすいかになくらむ
182-夏 道命法師 あしひきの山ほととぎすのみならずおほかた鳥のこゑもきこえず
514-羈旅 能因法師 しらくものうへよりみゆるあしひきの山のたかねやみさかなるらむ
1124-雑五 藤原実方 あしひきの山井の水は氷れるをいかなる紐のとくるなるらむ
金葉和歌集
490-恋下 読人知らず あしひきの山のまにまに倒れたるからきは一人ふせるなりけり
538-雑上 源経信 白雲とよそに見つればあしひきの山もとどろき落つる瀧つせ
詞花和歌集
なし
千載和歌集
1015-雑上 静蓮法師 あしひきの山のはちかくすむとてもまたてやはみるあり明の月
1036-雑上 藤原長能 ぬけはちるぬかねはみたるあしひきの山よりおつるたきのしら玉
新古今和歌集
162-春下 藤原興風 あしひきの山ふきの花ちりにけり井てのかはつはいまやなくらん
196-夏 大中臣能宣 ほとときすなきつついつるあしひきの山となてしこさきにけらしも
382-秋上 三条院 あしひきの山のあなたにすむ人はまたてや秋の月をみるらん
398-秋上 藤原秀能 あしひきの山ちのこけのつゆのうへにねさめ夜ふかき月をみるかな
563-冬 信濃 しくれつつ袖もほしあへすあしひきの山のこの葉に嵐ふく比
712-賀 読人知らず ゆふたすきちとせをかけてあしひきの山あゐのいろはかはらさりけり
906-羈旅 読人知らず 白雲のたなひきわたるあしひきの山のかけはしけふやこえなん
992-恋一 柿本人麿 あしひきの山田もるいほにをくか火のしたこかれつつわかこふらくは
1015-恋一 大江匡衡 人しれすおもふ心はあしひきの山した水のわきやかへらん
1067-恋一 紀貫之 あしひきの山したたきついはなみの心くたけて人そこひしき
1068-恋一 読人知らず あしひきのやましたしけき夏草のふかくも君をおもふ比かな
1213-恋三 大伴家持 あしひきの山のかけ草むすひをきてこひやわたらんあふよしをなみ
1690-雑中 菅贈太政大臣 あしひきのこなたかなたにみちはあれと宮こへいさといふ人そなき
1710-雑下 能因法師 あしひきの山した水にかけみれはまゆしろたへにわれ老にけり