“Même la nuit la plus sombre prendra fin et le soleil se lèvera.”
「どんなに暗い夜でも、いつか終わり、太陽が昇る。」
レ・ミゼラブルの作者と作品について
ヴィクトル・ユーゴー(Victor Hugo, 1802年~1885年)は、フランスの小説家、詩人、劇作家であり、19世紀フランス文学の巨匠である。彼はフランス・ロマン主義運動の中心人物であり、その社会的・政治的メッセージや情熱的な表現で知られている。ユーゴーは、政治的活動にも深く関わり、第二共和政期やパリ・コミューンの時代には自由と平等を唱えた。彼の作品は、社会の不正、貧困、愛、赦し、革命といったテーマを扱い、今もなお広く読まれている。代表作『ノートルダム・ド・パリ』や『レ・ミゼラブル』(Les Misérables, 1862年)は、彼の文学生涯の頂点を象徴する作品であり、特に『レ・ミゼラブル』は、フランス文学史上最大の傑作の一つとされている。
『レ・ミゼラブル』(Les Misérables)は、19世紀のフランス社会を背景に、貧困や社会的不正に立ち向かう人々の姿を描いた壮大な物語である。主人公ジャン・ヴァルジャンは、パンを盗んだ罪で19年間投獄された後、仮釈放される。彼は出所後も社会から差別されるが、司教からの寛大な行為によって改心し、新しい人生を歩もうとする。しかし、彼の過去は常に彼を追い続け、警官ジャヴェールとの対決が続く。物語には他にも多くの登場人物が登場し、貧困や苦難、愛と赦しの物語が展開される。ファンティーヌという貧しい女性が娘のコゼットを守るために犠牲を払う姿や、コゼットがジャン・ヴァルジャンによって救われ育てられる過程、そして青年マリウスとの愛の物語も描かれる。フランス革命期のパリでの市民蜂起や、フランス社会の貧困層に対するユーゴーの鋭い批判が全編にわたり展開され、社会的・政治的なメッセージが強く打ち出されている。
発表当時のフランスの状況
『レ・ミゼラブル』が発表された1862年は、フランス第二帝政時代であり、ナポレオン3世による統治が続いていた時期であった。この時代、フランス社会は急速な工業化と都市化に伴い、貧富の差が拡大し、労働者階級の生活は非常に困難なものとなっていた。ユーゴーは、社会の不平等や貧困に対して深い問題意識を抱いており、『レ・ミゼラブル』はその強い社会批判を反映している。彼はこの作品を通じて、貧困層や社会的に疎外された人々の声を代弁し、同時にキリスト教的な赦しと道徳的な再生をテーマとして掲げた。
おすすめする読者層
『レ・ミゼラブル』は、社会的正義や道徳、革命といったテーマに興味がある読者に特におすすめである。また、壮大な物語や感情的に訴えかける人間ドラマを楽しみたい読者にも向いている。ユーゴーの描くフランス革命期のパリや貧困層の生活、そして愛と赦しのテーマは、現代の社会問題とも共鳴する要素が多く、学生から大人まで幅広い層に訴えかける作品である。長編小説であるため、じっくりと時間をかけて読み進めたい読者におすすめだが、感動的なエピソードや強力なキャラクター描写により、飽きることなく読み進めることができるだろう。
なぜ名作と言われるか
『レ・ミゼラブル』が名作とされる理由は、その壮大なスケール、深い人間理解、そして強烈な社会批判にある。ユーゴーは、登場人物一人一人の内面を丁寧に描き出し、彼らの苦悩や葛藤、愛と罪の物語を通じて、人間の本質的な善と悪を探求している。また、ジャン・ヴァルジャンをはじめとする登場人物たちは、道徳的に複雑な状況に置かれながらも、それぞれが自己の救済と他者への赦しを求めて生きる姿を描く。
さらに、物語全体にわたる社会的・政治的テーマが、貧困層の苦しみや革命の必要性といった現実の問題を反映している点も名作とされる理由である。フランス社会における不平等や人々の苦悩を描きながらも、人間の強さと希望を称え、読者に深い感動と考察を促す作品であることが、『レ・ミゼラブル』を文学史に残る名作たらしめている。
登場人物の紹介
- ジャン・ヴァルジャン: 主人公。過去の罪から改心し、新たな人生を歩むことを決意する。
- ジャヴェール: 法律を厳格に守る警官。ジャン・ヴァルジャンを執拗に追跡する。
- ファンティーヌ: 貧困に苦しむ女性。娘コゼットのために自己犠牲的な行動を取る。
- コゼット: ファンティーヌの娘。幼少期に苦難を経験し、後にジャン・ヴァルジャンに救われる。
- マリウス・ポンメルシー: 革命思想を持つ青年。コゼットと恋に落ち、運命が交錯する。
- エポニーヌ: テナルディエの娘。マリウスに密かに想いを寄せるが、報われない。
- テナルディエ: 悪徳な宿屋の主人。自己中心的で、他者を利用することを厭わない。
- マダム・テナルディエ: テナルディエの妻。夫と共に詐欺的な行為を繰り返す。
- ガヴローシュ: パリの街頭で生きる少年。革命運動に参加し、勇敢な行動を見せる。
- アンジョルラス: 革命のリーダー。強い信念とカリスマ性で仲間を導く。
- ビクトル・ユーゴー: 作者自身。物語の背景や社会情勢を詳細に描写する。
- ミリエル司教: ジャン・ヴァルジャンに慈悲を示し、彼の人生を変えるきっかけを作る。
- アゼルマ: テナルディエの娘で、エポニーヌの妹。家族と共に詐欺行為に加担する。
- フイイ: 革命家の一人。詩人であり、理想主義的な思想を持つ。
- クールフェラック: マリウスの友人で、陽気で社交的な性格。革命運動に積極的に参加する。
- ジョリ: 医学生で、革命家の一員。健康に関する知識が豊富で、仲間を支える。
- グランテール: 皮肉屋で酒好きな革命家。アンジョルラスに深い敬意を抱く。
- バホレル: 革命家の一人。法律を学ぶ学生で、自由奔放な性格。
- レグル: 革命家の一員。数学に精通し、冷静な判断力を持つ。
- プルーベール: 革命家の一人。文学と哲学に興味を持ち、知的な議論を好む。
3分で読めるあらすじ
作品を理解する難易度
『レ・ミゼラブル』は、非常に長大な作品であり、複数の人物の運命や社会的・政治的テーマが絡み合っているため、理解には一定の読解力が必要である。物語は感情的でドラマティックな場面が多く、壮大な物語として楽しむことができるが、19世紀フランスの歴史や社会問題についての知識があると、より深く理解できるだろう。また、ユーゴーは作品の中でしばしば哲学的な議論や歴史的な背景説明を挿入しており、こうした部分を理解するには根気が求められる。
後世への影響
『レ・ミゼラブル』は、フランス文学においても世界文学においても重要な位置を占めている。特に、社会的正義や貧困の問題を扱った作品として、多くの文学者や政治家に影響を与え続けている。さらに、現代においても舞台や映画、ミュージカルとして繰り返し映像化されており、世界中で愛され続けている。特に、1980年にフランスで初演されたミュージカル版『レ・ミゼラブル』は国際的に成功を収め、現在でも多くの国で上演されている。
読書にかかる時間
『レ・ミゼラブル』は非常に長編であり、全編を読み終えるには時間がかかる。一般的に1日1~2時間の読書時間を確保した場合、1ヶ月から2ヶ月ほどで読了できる。物語は複雑で、感情的にも深い場面が多いため、じっくりと時間をかけて読み進めることが推奨される。
読者の感想
- 「人間の愛と赦し、そして社会の不正に対するユーゴーの洞察が深く心に響いた。」
- 「ジャン・ヴァルジャンの苦悩と成長の物語は、時代を超えて共感できる普遍的なテーマ。」
- 「物語全体を通じて、フランス社会の不平等が鮮明に描かれ、現代にも通じるメッセージがある。」
- 「感動的で力強い物語。ミュージカル版と合わせて読むと、さらに作品の魅力が増す。」
- 「歴史的背景を知らなくても、登場人物たちの人間ドラマに引き込まれ、圧倒された。」
作品についての関連情報
『レ・ミゼラブル』は、映画、ミュージカル、テレビドラマとして何度も映像化されている。特に1980年にフランスで初演されたミュージカル版『レ・ミゼラブル』は、国際的に成功を収め、現在でも多くの国で上演されている。2012年には、トム・フーパー監督によるミュージカル映画版が公開され、世界的なヒットとなった。また、ユーゴーの他の作品や詩、政治活動も多くの文学研究者にとって重要なテーマとなっている。
作者のその他の作品
- 『ノートルダム・ド・パリ』(Notre-Dame de Paris, 1831年): パリのノートルダム大聖堂を舞台に、クアジモードやエスメラルダといったキャラクターを通じて、愛と悲劇を描く。
- 『労働者たちの海』(Les Travailleurs de la Mer, 1866年): ガーンジー島を舞台に、自然と人間との闘いを描いた小説。
- 『笑う男』(L’Homme qui rit, 1869年): 顔に永遠の笑みを刻まれた男の悲劇を描いた作品で、フランス社会における階級問題に鋭く迫る。
レ・ミゼラブルと聖書
『レ・ミゼラブル(Les Misérables)』は、聖書との深い関連を持つ文学作品です。物語全体を通じて、罪、贖罪、慈悲、そして救済といった聖書的なテーマが織り込まれています。主人公ジャン・ヴァルジャンを中心とした物語は、キリスト教的価値観に基づいて構築されており、新約聖書の精神が随所に反映されています。
ジャン・ヴァルジャンの物語は、キリスト教的な「悔い改めと新たな人生」の物語を体現しており、司教ミリエルやコゼットといったキャラクターを通じて、聖書の核心的なメッセージである「愛と赦し」が強調されています。
ジャン・ヴァルジャンと聖書的な贖罪のテーマ
ジャン・ヴァルジャンの人生は、罪と赦し、そして贖罪を象徴しています。
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罪と赦しの物語: ヴァルジャンは、パンを盗んだ罪で投獄され、その後も社会から偏見を受け続ける「罪人」として描かれます。しかし、司教ミリエルの慈悲深い行為によって新たな人生を歩む決意をします。この場面は、新約聖書における「罪人を赦す」教えを象徴しています(ヨハネによる福音書8:11:「私もあなたを罪に定めない」)。ヴァルジャンがその後の人生を他者への奉仕と善行に捧げる姿は、聖書における「悔い改めた罪人が新たな道を歩む」テーマを体現しています。
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自己犠牲: ヴァルジャンは、他者を救うために何度も自己犠牲を選びます。特に、コゼットやマリウスを守るための行動は、キリストの自己犠牲と重ねられる部分があります(ヨハネによる福音書15:13:「友のために命を捨てること、これ以上の愛はない」)。
司教ミリエルとキリスト教の慈悲
司教ミリエルの行動は、物語全体にわたって聖書的な慈悲と愛の精神を体現しています。
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無条件の愛: ミリエル司教が、ヴァルジャンが銀の燭台を盗んだ後も彼を非難せず、それを与える行為は、聖書の「敵を愛せよ」「右の頬を打たれたら左の頬をも向けなさい」(マタイによる福音書5:39-44)という教えを反映しています。この行為がジャン・ヴァルジャンの心に決定的な変化をもたらす点で、司教は物語の中でキリスト的な存在として描かれています。
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他者への奉仕: ミリエルの慈悲深い行動は、イエスの「最も小さな者にしたことは私にしたこと」(マタイによる福音書25:40)という言葉を具現化したものです。
コゼットと救済の象徴
コゼットは、ジャン・ヴァルジャンにとって救済の象徴的存在として描かれています。
- 純粋さと希望: コゼットの純粋な愛と存在そのものが、ヴァルジャンの人生を救い、彼が善行を続ける原動力となります。この描写は、新約聖書における「子どものような純粋さ」(マタイによる福音書18:3)の重要性を思い起こさせます。
ジャベールと律法主義の対立
警官ジャベールは、旧約聖書的な律法主義を体現したキャラクターとして描かれています。
- 正義と慈悲の葛藤: ジャベールは、神の律法に従う正義の執行者として、ヴァルジャンを追い続けますが、その過程でヴァルジャンの慈悲深い行動に直面し、自身の信念に疑問を抱きます。彼の最終的な自殺は、律法と愛の間で葛藤し、愛と赦しを受け入れられなかった人物としての象徴です。この葛藤は、旧約聖書の律法と新約聖書の赦しの精神の対立を反映しています。
パリの社会と聖書的救済
物語の背景であるパリの社会は、聖書における「罪に満ちた世界」を象徴しており、その中で個々のキャラクターが善悪を選びながら生きています。
- 下層社会の救済: ユーゴーは、物語を通じて貧困や不正義に苦しむ人々への同情と、彼らが神の愛によって救済され得ることを示しています。この考えは、イエスが貧者や弱者に寄り添った姿勢(ルカによる福音書4:18)と一致します。
聖書の引用と象徴
『レ・ミゼラブル』には直接的な聖書の引用や暗示的な象徴が多く含まれています。
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銀の燭台: ミリエル司教がヴァルジャンに与えた銀の燭台は、光と導きを象徴しています。この光は聖書における「世の光」(ヨハネによる福音書8:12)を想起させます。
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十字架の象徴: ヴァルジャンの自己犠牲や重荷を背負う姿は、イエスが十字架を背負う姿を象徴しています(ルカによる福音書23:26)。
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善と悪の選択: 登場人物がそれぞれの行動を通じて善と悪を選ぶ物語の構造は、聖書全体に通じるテーマです。
ヴィクトル・ユーゴーの宗教観
ユーゴーは、キリスト教の影響を受けつつも、教会の形式主義や権威主義に批判的でした。そのため、『レ・ミゼラブル』では、組織化された宗教よりも個人の信仰と道徳の力が強調されています。
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愛と慈悲の優位性: ユーゴーは、律法よりも愛と慈悲を優先する聖書のメッセージを物語全体で伝えています。
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宗教的救済の普遍性: 物語では、特定の宗教儀式ではなく、行動を通じた救済が描かれています。この点で、ユーゴーの宗教観は普遍的なキリスト教の価値観を反映しています。
書籍案内 どの訳で読む?
豊島与志雄訳は、古典的で重厚な文体と挿絵の収録が特徴で、作品の深みを味わいたい読者に適しています。永山篤一訳は、平易な言葉遣いで読みやすく、手軽に物語を楽しみたい読者に向いています。佐藤朔訳は、平易な日本語で書かれており、手に入りやすく、価格も手頃で読みやすい定番のバージョンです。
岩波文庫版
197年 豊島与志雄訳
あまりにも名高いこの不朽の名作の表題レ・ミゼラブルとは「悲惨な人々」という意味.ユーゴーは主人公ジャン・ヴァルジャンの波瀾の一生を描きつつ,貧しい民衆に寄せる限りなき愛情,そして人類社会の進歩へのゆるがぬ確信を表現したのである.三百枚に及ぶ原書挿絵を収録.
角川文庫版(抄訳)
2012年 永山篤一訳
貧しさにたえかねて一片のパンを盗み、19年を牢獄ですごさねばならなかったジャン・ヴァルジャン。出獄した彼は、ミリエル司教の館から銀の食器を盗み出すが、慈悲ぶかい司教の温情が、彼を目ざめさせる。
新潮文庫版
1967年 佐藤朔訳
わずか一片のパンを盗んだために、19年間の監獄生活を送ることになった男、ジャン・ヴァルジャンの生涯。19世紀前半、革命と政変で動揺するフランス社会と民衆の生活を背景に、キリスト教的な真実の愛を描いた叙事詩的な大長編小説。本書はその第一部「ファンチーヌ」。ある司教の教えのもとに改心したジャンは、マドレーヌと名のって巨富と名声を得、市長にまで登りつめたが……。
10歳までに読みたい世界名作版
2021年 岡田好恵訳
★★小学生に読まれてシリーズ累計215万部突破★★
お子さんに、お孫さんに、入学やお誕生日のプレゼントに!
[はじめて読む「レ・ミゼラブル」としておすすめ]
意地悪な夫婦のもとで一生懸命はたらく少女・コゼットをすくいだしたのは、元囚人のジャン・ヴァルジャン。希望に向かって生きる2人に、数々の困難が立ちはだかります。さくさく読める世界名作シリーズ第29弾。
岩波少年文庫版
2001年 豊島与志雄訳
ひときれのパンを盗んだために,19年間もの監獄生活を送ることになったジャン・ヴァルジャンの物語.19世紀前半のフランス社会に生きる人々の群像を描く大パノラマ『レ・ミゼラブル』の少年少女版.