月と六ペンス 登場人物とあらすじ、時代背景を解説! サマセット・モームの名作を読み解く

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“The tragedy of love is indifference.”

「恋の悲劇は、無関心である。」

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月と六ペンスの作者と作品について

サマセット・モーム(William Somerset Maugham, 1874年~1965年)は、イギリスの小説家、劇作家、そして短編作家であり、20世紀初頭の英文学において非常に影響力のある人物です。彼は自分の作家としての才能を独自の視点から形作り、多くの読者を惹きつけました。彼の作品は、シンプルで明快な文章と、鋭い観察力に基づいた人間の性格描写で知られています。代表作には、『人間の絆』や短編小説『雨』があり、彼の名声を不動のものにしました。『月と六ペンス』(The Moon and Sixpence, 1919年)は、ポール・ゴーギャンをモデルにした主人公の芸術と人生の探求を描いた作品で、モームの中でも特に評価の高い小説の一つです。

『月と六ペンス』(The Moon and Sixpence, 1919年)は、芸術のためにすべてを捨てた一人の男、チャールズ・ストリックランドを中心に展開される物語です。彼はロンドンでの安定した生活を放棄し、突如として画家になるために家族と社会から離れていきます。ストリックランドは、人間関係や道徳を無視し、自分の芸術にすべてを捧げる孤高の人物として描かれます。彼はパリで貧しい生活を送りながら絵を描き続け、最終的にはタヒチへと移り住み、その地で彼の芸術が花開くことになります。

モームは、ストリックランドを通じて、芸術家の内的葛藤や、創作活動における犠牲の大きさを描き出しています。物語のタイトル『月と六ペンス』は、月(夢や理想)と六ペンス(現実の生活)という二つの対立する価値観を象徴しています。

発表当時のイギリスの状況

『月と六ペンス』が発表された1919年は、第一次世界大戦後の時期であり、ヨーロッパ全体が大きな変革期にありました。戦争を経て人々の価値観が変化し、芸術や文化に対する新たなアプローチが模索されていた時代です。モームの描くストリックランドのような孤独で反社会的な芸術家は、この時代において非常に象徴的であり、戦争を背景に新しい生き方を追求する人々に共感を呼びました。また、この作品は、芸術と生活のバランスをどのように取るべきかという普遍的な問いを投げかけています。

おすすめする読者層

『月と六ペンス』は、芸術やクリエイティブな表現に対する情熱や、そのために何を犠牲にするかというテーマに関心がある読者におすすめです。芸術家の生き様や、理想と現実の対立に興味がある人にとって、この作品は非常に魅力的です。また、サマセット・モームの独特な観察力と簡潔な文章に魅了される文学ファンにも適しています。さらに、人間のエゴイズムや社会との関わり方をテーマにした物語を楽しむ読者にも、強い印象を与えることでしょう。

なぜ名作と言われるか

『月と六ペンス』は、芸術家の内面世界を鋭く描写した作品として評価されています。モームは、主人公ストリックランドの行動を通じて、社会的規範に縛られない生き方や、芸術のためにすべてを捨てる姿勢を描き、芸術の持つ力とその裏に潜む自己中心的な一面を浮き彫りにしました。特に、ポール・ゴーギャンをモデルにしたこの物語は、実際の芸術家の人生と作品の関係を探る視点も含んでおり、多くの読者にとって刺激的なものとなっています。また、モームの文章はシンプルでありながら深い洞察力を持ち、ストリックランドのような破天荒なキャラクターを現実的に描写することに成功しています。この独特のスタイルが、今も多くの人々に愛される理由です。

登場人物の紹介

  • チャールズ・ストリックランド: ロンドンの株式仲買人から画家に転身した主人公。
  • ナレーター(語り手): 作家であり、ストリックランドの生涯を追う観察者。
  • ブランチ・ストリックランド: ストリックランドの妻。夫の突然の離別に苦しむ。
  • ディルク・ストルーヴ: オランダ人画家。ストリックランドの才能を評価し、支援する。
  • ブランチ・ストルーヴ: ディルクの妻。ストリックランドと複雑な関係を持つ。
  • ティアレ: タヒチの宿屋の女主人。ストリックランドの生活を助ける。
  • アタ: タヒチでストリックランドと共に暮らす現地の女性。
  • クートラ医師: タヒチの医師。ストリックランドの晩年を見守る。
  • ニコルズ船長: ストリックランドと共に航海した船長。彼の過去を語る。
  • コーエン: タヒチの貿易商。ストリックランドを雇用する。
  • ブリュノ船長: ストリックランドの家を訪れた船長。彼の生活を伝える。

3分で読めるあらすじ

ネタバレを含むあらすじを読む

『月と六ペンス』は、ロンドンで平凡な生活を送っていたチャールズ・ストリックランドが、突然すべてを捨てて画家になるためにパリへ渡るところから始まります。彼は家族や友人を顧みず、孤独に生き、貧困の中で自らの芸術に没頭します。ストリックランドは他人に対して無関心で、自己中心的な性格を持ちながらも、その絵画に対する情熱は揺るぎません。彼は最終的にタヒチに移り住み、そこで自分の理想を追求しながら創作活動を続け、晩年を過ごします。物語は、芸術家としての成功を求めて人生を捨てた一人の男の姿を描きながら、芸術と生き方の間の葛藤を浮き彫りにします。

作品を理解する難易度

『月と六ペンス』は、モームのシンプルで読みやすい文章によって、比較的理解しやすい作品ですが、ストリックランドの内面世界や芸術に対する情熱を完全に理解するには、ある程度の深い読解力が必要です。彼の行動は、しばしば倫理的に疑問を抱かせるものですが、その動機や彼が何を追い求めているのかを理解することで、物語の深さを感じ取ることができます。芸術や哲学に興味がある読者にとって、この作品は挑戦しがいのある読み物となります。

後世への影響

『月と六ペンス』は、芸術家の人生や、自己犠牲的な生き方に対する深い洞察を含んでおり、その後の文学や芸術作品に大きな影響を与えました。ポール・ゴーギャンをモデルにした主人公の人生は、芸術と人生の間の葛藤をテーマにした多くの作家や映画制作者にインスピレーションを与えています。さらに、この作品は、芸術が持つ力と、そのために払われる代償についての議論を喚起し、現代でも多くの読者に深い思索を促しています。

読書にかかる時間

『月と六ペンス』は約300~400ページほどの長さで、1日1~2時間の読書時間を確保すれば、1~2週間で読み終えることができるでしょう。物語のテンポは良く、モームの簡潔なスタイルのおかげで、比較的早く読み進めることができますが、芸術に対するテーマや深いメッセージをじっくりと考えながら読むと、さらに豊かな読書体験が得られるでしょう。

読者の感想

「ストリックランドの行動は理解しがたいが、その芸術への情熱に共感した。」
「芸術のためにすべてを犠牲にする生き方が痛烈に描かれていて、読み応えがあった。」
「モームの文章は簡潔で鋭く、ストリックランドの冷酷さがリアルに伝わってきた。」
「読後感は重かったが、芸術とは何かについて深く考えさせられた。」
「ポール・ゴーギャンの生涯を知っていると、より一層この物語の深さが理解できた。」

作品についての関連情報

『月と六ペンス』は、ポール・ゴーギャンをモデルにしていると言われていますが、モームはフィクションとして描いており、ゴーギャンの人生とは一部異なる点も多くあります。また、この作品は映画やテレビドラマとしても度々映像化されており、1942年には映画化されました。

作者のその他の作品

  • 『人間の絆』(Of Human Bondage, 1915年): サマセット・モームの代表作の一つで、主人公フィリップ・ケアリの成長と自己探求を描いた半自伝的な小説。モームの複雑な人間描写と社会に対する洞察力が際立つ作品です。

  • 『雨』(Rain, 1921年): モームの有名な短編小説で、南太平洋の島で繰り広げられる宣教師と堕落した女性の対立を描いた作品。人間の善悪や道徳に対する深い考察が特徴です。

  • 『劇場』(Theatre, 1937年): 女優ジュリア・ランバートを中心に、彼女の舞台生活と恋愛関係を描いた物語。成功と失敗、愛と裏切りをテーマにした軽やかな風刺的作品です。

  • 『アシェンデン』(Ashenden, 1928年): 第一次世界大戦中にスパイとして活動した経験をもとにした、モームのスパイ小説。緻密なストーリーと、冷静な語り口が特徴のサスペンス作品です。

  • 『刀の刃』(The Razor’s Edge, 1944年): 精神的な成長と自己探求をテーマにした作品で、戦後のアメリカを舞台に、主人公が自己の真理を追い求めて旅する姿が描かれています。