枕詞 「ぬばたまの」「うばたまの」の和歌集 万葉集、古今、後撰、拾遺、後拾遺、金葉、新古今から95首!

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「ぬばたまの」の歌

「ぬばたまの」「うばたまの」「むばたまの」は「黒、闇、夜、夢」の枕詞

「うばたまの」は「ぬばたまの」が転じたもので、「鳥羽玉の」と書き、「ぬばたまの」は「射干玉の」と書く。

「射干玉」とはヒオウギというアヤメ科の多年草が実らせる黒くて丸い種子をいう。

「うばたまの」の歌集ごとの数と割合

万葉 古今 後撰 拾遺 後拾 金葉 詞花 千載 新古
80 5 4 4 3 1 0 0 3
1.8 0.5 0.3 0.3 0.2 0.2 0 0 0.2
※上は歌の数、下は割合(パーセント)です
※カウントは枕詞、そのままの意味の両方をカウントしています

百人一首

なし

万葉集

2巻-89 磐姫皇后居明かして君をば待たむぬばたまの我が黒髪に霜は降るとも

2巻-169 柿本人麻呂あかねさす日は照らせれどぬばたまの夜渡る月の隠らく惜しも

2巻-194 柿本人麻呂飛ぶ鳥の 明日香の川の 上つ瀬に 生ふる玉藻は 下つ瀬に 流れ触らばふ 玉藻なす か寄りかく寄り 靡かひし 嬬の命の たたなづく 柔肌すらを 剣太刀 身に添へ寝ねば ぬばたまの 夜床も荒るらむ (荒れなむ) そこ故に 慰めかねて けだしくも 逢ふやと思ひて (君も逢ふやと) 玉垂の 越智の大野の 朝露に 玉藻はひづち 夕霧に 衣は濡れて 草枕 旅寝かもする 逢はぬ君故

2巻-199 柿本人麻呂かけまくも ゆゆしきかも (ゆゆしけれども) 言はまくも あやに畏き 明日香の 真神の原に ひさかたの 天つ御門を 畏くも 定めたまひて 神さぶと 磐隠ります やすみしし 我が大君の きこしめす 背面の国の 真木立つ 不破山超えて 高麗剣 和射見が原の 仮宮に 天降りいまして 天の下 治めたまひ (掃ひたまひて) 食す国を 定めたまふと 鶏が鳴く 東の国の 御いくさを 召したまひて ちはやぶる 人を和せと 奉ろはぬ 国を治めと (掃へと) 皇子ながら 任したまへば 大御身に 大刀取り佩かし 大御手に 弓取り持たし 御軍士を 率ひたまひ 整ふる 鼓の音は 雷の 声と聞くまで 吹き鳴せる 小角の音も (笛の音は) 敵見たる 虎か吼ゆると 諸人の おびゆるまでに (聞き惑ふまで) ささげたる 幡の靡きは 冬こもり 春さり来れば 野ごとに つきてある火の (冬こもり 春野焼く火の) 風の共 靡くがごとく 取り持てる 弓弭の騒き み雪降る 冬の林に (木綿の林) つむじかも い巻き渡ると 思ふまで 聞きの畏く (諸人の 見惑ふまでに) 引き放つ 矢の繁けく 大雪の 乱れて来れ (霰なす そちより来れば) まつろはず 立ち向ひしも 露霜の 消なば消ぬべく 行く鳥の 争ふはしに (朝霜の 消なば消とふに うつせみと 争ふはしに) 渡会の 斎きの宮ゆ 神風に い吹き惑はし 天雲を 日の目も見せず 常闇に 覆ひ賜ひて 定めてし 瑞穂の国を 神ながら 太敷きまして やすみしし 我が大君の 天の下 申したまへば 万代に しかしもあらむと (かくしもあらむと) 木綿花の 栄ゆる時に 我が大君 皇子の御門を (刺す竹の 皇子の御門を) 神宮に 装ひまつりて 使はしし 御門の人も 白栲の 麻衣着て 埴安の 御門の原に あかねさす 日のことごと 獣じもの い匍ひ伏しつつ ぬばたまの 夕になれば 大殿を 振り放け見つつ 鶉なす い匍ひ廻り 侍へど 侍ひえねば 春鳥の さまよひぬれば 嘆きも いまだ過ぎぬに 思ひも いまだ尽きねば 言さへく 百済の原ゆ 神葬り 葬りいまして あさもよし 城上の宮を 常宮と 高く奉りて 神ながら 鎮まりましぬ しかれども 我が大君の 万代と 思ほしめして 作らしし 香具山の宮 万代に 過ぎむと思へや 天のごと 振り放け見つつ 玉たすき 懸けて偲はむ 畏かれども

3巻-302 阿倍広庭子らが家道やや間遠きをぬばたまの夜渡る月に競ひあへむかも

3巻-392 大伴百代ぬばたまのその夜の梅をた忘れて折らず来にけり思ひしものを

4巻-525 坂上郎女佐保川の小石踏み渡りぬばたまの黒馬来る夜は年にもあらぬか

4巻-573 沙弥満誓ぬばたまの黒髪変り白けても痛き恋には逢ふ時ありけり

4巻-619 坂上郎女おしてる 難波の菅の ねもころに 君が聞こして 年深く 長くし言へば まそ鏡 磨ぎし心を ゆるしてし その日の極み 波の共 靡く玉藻の かにかくに 心は持たず 大船の 頼める時に ちはやぶる 神か離くらむ うつせみの 人か障ふらむ 通はしし 君も来まさず 玉梓の 使も見えず なりぬれば いたもすべなみ ぬばたまの 夜はすがらに 赤らひく 日も暮るるまで 嘆けども 験をなみ 思へども たづきを知らに たわや女と 言はくもしるく たわらはの 音のみ泣きつつ た廻り 君が使を 待ちやかねてむ

4巻-639 娘子我が背子がかく恋ふれこそぬばたまの夢に見えつつ寐ねらえずけれ

4巻-702 河内百枝娘子ぬばたまのその夜の月夜今日までに我れは忘れず間なくし思へば

4巻-723 坂上郎女常世にと 我が行かなくに 小金門に もの悲しらに 思へりし 我が子の刀自を ぬばたまの 夜昼といはず 思ふにし 我が身は痩せぬ 嘆くにし 袖さへ濡れぬ かくばかり もとなし恋ひば 故郷に この月ごろも 有りかつましじ

4巻-781 大伴家持ぬばたまの昨夜は帰しつ今夜さへ我れを帰すな道の長手を

5巻-807 大伴旅人うつつには逢ふよしもなしぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ

6巻-925 山部赤人ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く

6巻-982 坂上郎女ぬばたまの夜霧の立ちておほほしく照れる月夜の見れば悲しさ

7巻-1077 ぬばたまの夜渡る月を留めむに西の山辺に関もあらぬかも

7巻-1081 ぬばたまの夜渡る月をおもしろみ我が居る袖に露ぞ置きにける

7巻-1101 柿本人麻呂歌集ぬばたまの夜さり来れば巻向の川音高しもあらしかも疾き

7巻-1116 ぬばたまの我が黒髪に降りなづむ天の露霜取れば消につつ

7巻-1241 古集ぬばたまの黒髪山を朝越えて山下露に濡れにけるかも

8巻-1646 小治田東麻呂ぬばたまの今夜の雪にいざ濡れな明けむ朝に消なば惜しけむ

9巻-1706 柿本人麻呂歌集ぬばたまの夜霧は立ちぬ衣手の高屋の上にたなびくまでに

9巻-1712 天の原雲なき宵にぬばたまの夜渡る月の入らまく惜しも

9巻-1798 柿本人麻呂歌集いにしへに妹と我が見しぬばたまの黒牛潟を見れば寂しも

9巻-1800 田辺福麻呂歌集小垣内の 麻を引き干し 妹なねが 作り着せけむ 白栲の 紐をも解かず 一重結ふ 帯を三重結ひ 苦しきに 仕へ奉りて 今だにも 国に罷りて 父母も 妻をも見むと 思ひつつ 行きけむ君は 鶏が鳴く 東の国の 畏きや 神の御坂に 和妙の 衣寒らに ぬばたまの 髪は乱れて 国問へど 国をも告らず 家問へど 家をも言はず ますらをの 行きのまにまに ここに臥やせる

10巻-2008 柿本人麻呂歌集ぬばたまの夜霧に隠り遠くとも妹が伝へは早く告げこそ

10巻-2035 年にありて今か巻くらむぬばたまの夜霧隠れる遠妻の手を

10巻-2076 天の川瀬を早みかもぬばたまの夜は更けにつつ逢はぬ彦星

10巻-2139 ぬばたまの夜渡る雁はおほほしく幾夜を経てかおのが名を告る

11巻-2389 柿本人麻呂歌集ぬばたまのこの夜な明けそ赤らひく朝行く君を待たば苦しも

11巻-2456 柿本人麻呂歌集ぬばたまの黒髪山の山菅に小雨降りしきしくしく思ほゆ

11巻-2532 おほならば誰が見むとかもぬばたまの我が黒髪を靡けて居らむ

11巻-2564 ぬばたまの妹が黒髪今夜もか我がなき床に靡けて寝らむ

11巻-2569 思ふらむその人なれやぬばたまの夜ごとに君が夢にし見ゆる (或本歌曰 夜昼と言はずあが恋ひわたる)

11巻-2589 相思はず君はあるらしぬばたまの夢にも見えずうけひて寝れど

11巻-2610 ぬばたまの我が黒髪を引きぬらし乱れてさらに恋ひわたるかも

11巻-2631 ぬばたまの黒髪敷きて長き夜を手枕の上に妹待つらむか

11巻-2673 ぬばたまの夜渡る月のゆつりなばさらにや妹に我が恋ひ居らむ

12巻-2849 柿本人麻呂歌集ぬばたまのその夢にだに見え継ぐや袖干る日なく我れは恋ふるを

12巻-2878 ぬばたまの寐ねてし宵の物思ひに裂けにし胸はやむ時もなし

12巻-2890 ぬばたまの夜を長みかも我が背子が夢に夢にし見えかへるらむ

12巻-2931 思ひつつ居れば苦しもぬばたまの夜に至らば我れこそ行かめ

12巻-2956 あらたまの年月かねてぬばたまの夢に見えけり君が姿は

12巻-2962 白栲の袖離れて寝るぬばたまの今夜は早も明けば明けなむ

12巻-3007 ぬばたまの夜渡る月のさやけくはよく見てましを君が姿を

12巻-3108 うつせみの人目繁くはぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ

13巻-3269 帰りにし人を思ふとぬばたまのその夜は我れも寐も寝かねてき

13巻-3270 さし焼かむ 小屋の醜屋に かき棄てむ 破れ薦を敷きて 打ち折らむ 醜の醜手を さし交へて 寝らむ君ゆゑ あかねさす 昼はしみらに ぬばたまの 夜はすがらに この床の ひしと鳴るまで 嘆きつるかも

13巻-3274 為むすべの たづきを知らに 岩が根の こごしき道を 岩床の 根延へる門を 朝には 出で居て嘆き 夕には 入り居て偲ひ 白栲の 我が衣手を 折り返し ひとりし寝れば ぬばたまの 黒髪敷きて 人の寝る 味寐は寝ずて 大船の ゆくらゆくらに 思ひつつ 我が寝る夜らを 数みもあへむかも

13巻-3280 我が背子は 待てど来まさず 天の原 振り放け見れば ぬばたまの 夜も更けにけり さ夜更けて あらしの吹けば 立ち待てる 我が衣手に 降る雪は 凍りわたりぬ 今さらに 君来まさめや さな葛 後も逢はむと 慰むる 心を持ちて ま袖もち 床うち掃ひ うつつには 君には逢はず 夢にだに 逢ふと見えこそ 天の足り夜を

13巻-3281 我が背子は 待てど来まさず 雁が音も 響みて寒し ぬばたまの 夜も更けにけり さ夜更くと あらしの吹けば 立ち待つに 我が衣手に 置く霜も 氷にさえわたり 降る雪も 凍りわたりぬ 今さらに 君来まさめや さな葛 後も逢はむと 大船の 思ひ頼めど うつつには 君には逢はず 夢にだに 逢ふと見えこそ 天の足り夜に

13巻-3297 玉たすき 懸けぬ時なく 我が思ふ 妹にし逢はねば あかねさす 昼はしみらに ぬばたまの 夜はすがらに 寐も寝ずに 妹に恋ふるに 生けるすべなし

13巻-3303 里人の 我れに告ぐらく 汝が恋ふる うつくし夫は 黄葉の 散り乱ひたる 神なびの この山辺から (或本云 その山辺) ぬばたまの 黒馬に乗りて 川の瀬を 七瀬渡りて うらぶれて 夫は逢ひきと 人ぞ告げつる

13巻-3312 隠口の 泊瀬小国に よばひせす 我が天皇よ 奥床に 母は寐ねたり 外床に 父は寐ねたり 起き立たば 母知りぬべし 出でて行かば 父知りぬべし ぬばたまの 夜は明けゆきぬ ここだくも 思ふごとならぬ 隠り妻かも

13巻-3313 川の瀬の石踏み渡りぬばたまの黒馬来る夜は常にあらぬかも

13巻-3329 白雲の たなびく国の 青雲の 向伏す国の 天雲の 下なる人は 我のみかも 君に恋ふらむ 我のみかも 君に恋ふれば 天地に 言を満てて 恋ふれかも 胸の病みたる 思へかも 心の痛き 我が恋ぞ 日に異にまさる いつはしも 恋ひぬ時とは あらねども この九月を 我が背子が 偲ひにせよと 千代にも 偲ひわたれと 万代に 語り継がへと 始めてし この九月の 過ぎまくを いたもすべなみ あらたまの 月の変れば 為むすべの たどきを知らに 岩が根の こごしき道の 岩床の 根延へる門に 朝には 出で居て嘆き 夕には 入り居恋ひつつ ぬばたまの 黒髪敷きて 人の寝る 味寐は寝ずに 大船の ゆくらゆくらに 思ひつつ 我が寝る夜らは 数みもあへぬかも

15巻-3598 ぬばたまの夜は明けぬらし玉の浦にあさりする鶴鳴き渡るなり

15巻-3647 我妹子がいかに思へかぬばたまの一夜もおちず夢にし見ゆる

15巻-3651 ぬばたまの夜渡る月は早も出でぬかも海原の八十島の上ゆ妹があたり見む (旋頭歌也)

15巻-3671 ぬばたまの夜渡る月にあらませば家なる妹に逢ひて来ましを

15巻-3712 ぬばたまの妹が干すべくあらなくに我が衣手を濡れていかにせむ

15巻-3721 ぬばたまの夜明かしも船は漕ぎ行かな御津の浜松待ち恋ひぬらむ

15巻-3732 中臣宅守あかねさす昼は物思ひぬばたまの夜はすがらに音のみし泣かゆ

15巻-3738 中臣宅守思ひつつ寝ればかもとなぬばたまの一夜もおちず夢にし見ゆる

15巻-3769 狭野弟上娘子ぬばたまの夜見し君を明くる朝逢はずまにして今ぞ悔しき

16巻-3805 娘子ぬばたまの黒髪濡れて沫雪の降るにや来ますここだ恋ふれば

16巻-3844 土師水通ぬばたまの斐太の大黒見るごとに巨勢の小黒し思ほゆるかも

17巻-3938 平群女郎かくのみや我が恋ひ居らむぬばたまの夜の紐だに解き放けずして

17巻-3955 土師道良ぬばたまの夜は更けぬらし玉櫛笥二上山に月かたぶきぬ

17巻-3962 大伴家持大君の 任けのまにまに 大夫の 心振り起し あしひきの 山坂越えて 天離る 鄙に下り来 息だにも いまだ休めず 年月も いくらもあらぬに うつせみの 世の人なれば うち靡き 床に臥い伏し 痛けくし 日に異に増さる たらちねの 母の命の 大船の ゆくらゆくらに 下恋に いつかも来むと 待たすらむ 心寂しく はしきよし 妻の命も 明けくれば 門に寄り立ち 衣手を 折り返しつつ 夕されば 床打ち払ひ ぬばたまの 黒髪敷きて いつしかと 嘆かすらむぞ 妹も兄も 若き子どもは をちこちに 騒き泣くらむ 玉桙の 道をた遠み 間使も 遺るよしもなし 思ほしき 言伝て遣らず 恋ふるにし 心は燃えぬ たまきはる 命惜しけど 為むすべの たどきを知らに かくしてや 荒し男すらに 嘆き伏せらむ

17巻-3980 大伴家持ぬばたまの夢にはもとな相見れど直にあらねば恋ひやまずけり

17巻-3988 大伴家持ぬばたまの月に向ひて霍公鳥鳴く音遥けし里遠みかも

18巻-4072 大伴家持ぬばたまの夜渡る月を幾夜経と数みつつ妹は我れ待つらむぞ

18巻-4101 大伴家持珠洲の海人の 沖つ御神に い渡りて 潜き取るといふ 鰒玉 五百箇もがも はしきよし 妻の命の 衣手の 別れし時よ ぬばたまの 夜床片さり 朝寝髪 掻きも梳らず 出でて来し 月日数みつつ 嘆くらむ 心なぐさに 霍公鳥 来鳴く五月の あやめぐさ 花橘に 貫き交へ かづらにせよと 包みて遣らむ

19巻-4160 大伴家持天地の 遠き初めよ 世間は 常なきものと 語り継ぎ 流らへ来たれ 天の原 振り放け見れば 照る月も 満ち欠けしけり あしひきの 山の木末も 春されば 花咲きにほひ 秋づけば 露霜負ひて 風交り もみち散りけり うつせみも かくのみならし 紅の 色もうつろひ ぬばたまの 黒髪変り 朝の笑み 夕変らひ 吹く風の 見えぬがごとく 行く水の 止まらぬごとく 常もなく うつろふ見れば にはたづみ 流るる涙 留めかねつも

19巻-4166 大伴家持時ごとに いやめづらしく 八千種に 草木花咲き 鳴く鳥の 声も変らふ 耳に聞き 目に見るごとに うち嘆き 萎えうらぶれ 偲ひつつ 争ふはしに 木の暗の 四月し立てば 夜隠りに 鳴く霍公鳥 いにしへゆ 語り継ぎつる 鴬の 現し真子かも あやめぐさ 花橘を 娘子らが 玉貫くまでに あかねさす 昼はしめらに あしひきの 八つ峰飛び越え ぬばたまの 夜はすがらに 暁の 月に向ひて 行き帰り 鳴き響むれど なにか飽き足らむ

20巻-4331 大伴家持大君の 遠の朝廷と しらぬひ 筑紫の国は 敵守る おさへの城ぞと 聞こし食す 四方の国には 人さはに 満ちてはあれど 鶏が鳴く 東男は 出で向ひ かへり見せずて 勇みたる 猛き軍士と ねぎたまひ 任けのまにまに たらちねの 母が目離れて 若草の 妻をも巻かず あらたまの 月日数みつつ 葦が散る 難波の御津に 大船に ま櫂しじ貫き 朝なぎに 水手ととのへ 夕潮に 楫引き折り 率ひて 漕ぎ行く君は 波の間を い行きさぐくみ ま幸くも 早く至りて 大君の 命のまにま 大夫の 心を持ちて あり廻り 事し終らば つつまはず 帰り来ませと 斎瓮を 床辺に据ゑて 白栲の 袖折り返し ぬばたまの 黒髪敷きて 長き日を 待ちかも恋ひむ 愛しき妻らは

20巻-4455 橘諸兄(葛城王)あかねさす昼は田賜びてぬばたまの夜のいとまに摘める芹これ

20巻-4489 甘南備伊香うち靡く春を近みかぬばたまの今夜の月夜霞みたるらむ

古今和歌集

449-物名 清原深養父 うばたまの 夢になにかは なぐさまむ うつつにだにも あかぬ心を

460-物名 紀貫之 うばたまの 我が黒髪や かはるらむ 鏡のかげに 降れる白雪

526-恋一 読人知らず 恋ひ死ねと するわざならし むばたまの 夜はすがらに 夢に見えつつ

554-恋二 小野小町 いとせめて 恋しき時は むばたまの 夜の衣を 返してぞきる

647-恋三 読人知らず むばたまの 闇のうつつは さだかなる 夢にいくらも まさらざりけり

後撰和歌集

471-冬 紀貫之 ふりそめて友まつゆきはむはたまのわかくろかみのかはるなりけり

503-冬 読人知らず むはたまのよるのみふれる白雪はてる月影のつもるなりけり

1116-雑一 藤原兼輔 むはたまのこよひはかりそあけ衣あけなは人をよそにこそ見め

1240-雑三 僧正遍昭 たらちめはかかれとてしもむはたまのわかくろかみをなてすや有りけん

拾遺和歌集

521-雑下 凡河内躬恒 むはたまのよるはこひしき人にあひていとをもよれはあふとやは見ぬ

717-恋二 柿本人麻呂(人麿) むはたまのこよひなあけそあけゆかはあさゆく君をまつくるしきに

802-恋三 読人知らず むはたまのいもかくろかみこよひもやわかなきとこになひきいてぬらん

1158-雑秋 紀貫之 むはたまのわかくろかみに年くれてかかみのかけにふれるしらゆき

後拾遺和歌集

422-冬 藤原孝善 むばたまの夜をへて氷る原の池は春とともにや波もたつべき

563-哀傷 藤原定頼母 あだにかくおつとおもひしむば玉の髪こそ長き形見なりけれ

684-恋二 童木 むばたまの夜半のけしきはさもあらばあれ人の心を春日ともがな

金葉和歌集

426-恋下 中務 むばたまの夜の夢だにまさしくは我が思ふことを人に見せばや

詞花和歌集

なし

千載和歌集

なし

新古今和歌集

641-冬 山辺赤人 うはたまのよのふけゆけはひさきおふるきよきかはらにちとりなく也

1157-恋三 藤原興風 あひみてもかひなかりけりうはたまのはかなき夢におとるうつつは

1175-恋三 清慎公 うはたまのよるの衣をたちなからかへる物とはいまそしりぬる