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ドストエフスキーの傑作「白痴」
ロシア文学を読む上での障壁となる、人物名を対照表として一覧表示します。しおりとしてご利用いただけます。
「白痴」の舞台:サンクトペテルブルク( Wikipedia | googleMap )
白痴とは
- 「白痴」という小説は、フョードル・ドストエフスキーの代表作であり、1868年に連載された。
- 主人公であるムイシュキン公爵は文句なしの善人であるが、知能が著しく劣っていることから、題名には「白痴」という2つの意味がある。
- ムイシュキンが当時のロシア社会に現れた場合、どのように周囲に波乱を巻き起こすかを描くことが作者の目的だった。
- 彼とロゴージンの対立によって、当時のロシア社会と孤独な男性のコントラストが強調されている。
- 2人はともにナスターシャを追い求めるが、性格は正反対である。
スイスの精神療養所で成人したムイシュキン公爵は、ロシアの現実についで何の知識も持たずに故郷に帰ってくる。純真で無垢な心を持った公爵は、すべての人から愛され、彼らの魂をゆさぶるが、ロシア的因習のなかにある人々は、そのためにかえって混乱し騒動の渦をまき起す。この騒動は、汚辱のなかにあっても誇りを失わない美貌の女性ナスターシャをめぐってさらに深まっていく。 – 新潮文庫
「この小説の意図は,完全に美しい人間を描くことです.この世にこれ以上むずかしいことは,ありません」――素直さと純粋さ,そして深い共感能力と愛の心をもった主人公ムイシュキン公爵は,すべての人々から愛される.さまざまな情念の渦巻く現実の世界にあって,はたして彼は,和をもたらすことができるだろうか.- 岩波文庫
登場人物 人名対照表
本名 | 愛称 | |
---|---|---|
レフ・ニコラエヴィチ・ムイシュキン | ムイシュキン公爵 | 主人公 |
ナスターシヤ・フィリッポヴナ・バラシコーワ | ナスターシャ | ヒロイン |
パルフョーン・セミョーノヴィチ・ロゴージン | ロゴージン、パルフョン | 体格のよい男 |
アファナーシィ・イワーノヴィチ・トーツキイ | トーツキイ | 地主貴族 |
ニコライ・アンドレエヴィチ・パヴリーシチェフ | ムイシュキンの養育者 | |
アンチープ・ブルドフスキー | パヴリーシチェフの隠し子 | |
シュナイダー | ムイシュキンの主治医 | |
イワン・フョードロヴィチ・エパンチン | エパンチン将軍 | 実業家、トーツキイと親密 |
リザヴェータ・プロコフィエヴナ | エリザヴェータ夫人 | エパンチン三姉妹の母 |
アレクサンドラ | エパンチン三姉妹の長女 | |
アデライーダ | エパンチン三姉妹の次女 | |
щ | シチャー | アデライーダの婚約者 |
エヴゲーニィ・パーヴロヴィチ・ラドムスキー | シチャーの親戚 | |
アグラーヤ・イワーノヴナ・エパンチナ | アグラーヤ | エパンチン三姉妹の三女 |
ガヴリーラ・アルダリオノヴィチ・イヴォルギン | ガーニャ | エパンチン家の秘書 |
ワルワーラ・アルダリオノヴナ | ワルワーラ、ワーリャ | ガーニャの妹 |
ニコライ・アルダリオノヴィチ | コーリャ | ガーニャの弟 |
アルダリオン・イヴォルギン | イヴォルギン将軍 | ガーニャの父 |
マルファ・ボリーソヴナ | イヴォルギン将軍の情婦 | |
ニーナ・アレクサンドロヴナ | イヴォルギン夫人 | ガーニャの母 |
フェルディシチェンコ | 夫人の下宿屋の下宿人 | |
イワン・ペトローヴィチ・プチーツィン | プチーツィン | 高利貸し |
ダーリヤ・アレクセーエヴナ | 元女優 | |
レーベジェフ | 役人 | |
ヴェーラ | レーベジェフの娘 | |
ウラジーミル・ドクトレンコ | ドクトレンコ | レーベジェフの甥 |
ロシア人の名前について
名前+親(〇〇の子の意味)+姓が基本形となり、姓については男性と女性で異なり、「○○u」が男性、「○○a」が女性と考えてよい(他には○○ンと○○iナ(トルストイのアンナ・カレーニナなど)、○○スキーと○○スカヤなど)。ニコライ・アンドレエヴィチ・パヴリーシチェフであれば、ニコライ・アンドレイの子・パヴリーシチェフ(男性)となります。
印刷用しおり
印刷のしかた – パソコンの場合
①マウスを右クリックして印刷をクリックします。
②用紙をA4に設定して、カスタムで縮尺を変更して登場人物表の横幅が全体の2分の1以下になるように調整してください。
※プリンターによって設定画面は異なります。下の場合は35%に設定しています。
印刷の仕方 – スマートフォンの場合
①各メーカーのアプリを使用して印刷してください。A4用紙の場合は35%前後に設定をすれば文庫本のしおりサイズとなります。
青空文庫
なし
ロシア語による原文
ロシア語の原文になります。google翻訳などで読むこともできます。下記にリンクを掲載しておりますがロシア語のため文字化けして表示されていることがあります。
白痴と聖書
『白痴』は、聖書と密接な関係を持つ作品であり、主人公ムイシュキン公爵を通じてキリスト教的な「理想的な人間像」を探求しています。聖書のテーマやモチーフが多く用いられ、人間の善と悪、愛と犠牲、そして信仰の本質が描かれています。
ムイシュキン公爵と「キリスト的な人物」
ムイシュキン公爵は、キリスト教における理想的な人物像、すなわち「無垢で純粋な人間」として描かれています。彼の無私の愛、思いやり、そして他者の罪を受け入れる姿勢は、キリストを彷彿とさせます。
-
自己犠牲と愛
ムイシュキンは、自分を犠牲にしてでも他者を救おうとする姿勢を持っています。これは、聖書におけるイエスの自己犠牲的な愛の精神を反映しています。彼が無償の愛を与えようとする一方で、その愛が理解されず、逆に誤解や悲劇を招く点もイエスの受難と重なります。 -
無垢と誤解
ムイシュキンは無垢で純粋なため、周囲の社会から「白痴(愚か者)」と見なされます。この描写は、イエスが当時の権力者や群衆から理解されず、排斥された姿に重なります。
「ラザロの復活」の引用
『白痴』の中で、聖書の「ラザロの復活」(ヨハネによる福音書11章)が重要な役割を果たします。この箇所は、作中でナスターシャ・フィリッポヴナにムイシュキンが読み聞かせる場面で引用されます。
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復活と希望の象徴
ラザロの復活は、絶望的な状況の中でも救済と希望があることを象徴します。このエピソードは、物語全体を通じて繰り返される「救済の可能性」のテーマを暗示しています。 -
ナスターシャの救済
ラザロの物語が引用される場面は、罪深さや絶望に囚われたナスターシャ・フィリッポヴナに向けられています。この引用を通じて、彼女の心の奥底に潜む救済の可能性が示唆されますが、最終的に彼女はその道を選ぶことができません。この結果は、人間が自由意志によって救済を拒絶する可能性をも示しています。
善と悪の葛藤
『白痴』では、善と悪の対立が重要なテーマとして描かれています。
-
ムイシュキンとロゴージンの対比
ムイシュキン公爵とロゴージンの関係は、善と悪の象徴的な対立を表しています。ムイシュキンは純粋な善を、ロゴージンは欲望や嫉妬に支配された人間の悪を体現しています。しかし、ロゴージンもまた完全な悪ではなく、彼の苦悩や迷いは、人間が善と悪の間で揺れ動く存在であることを示しています。 -
原罪と堕落
聖書における「原罪」のテーマが、登場人物たちの堕落した姿や彼らが抱える内面的な葛藤に反映されています。ナスターシャやロゴージンの行動は、罪深さや破滅的な選択の象徴とされています。
人間性と聖書的視点
『白痴』は、人間の弱さや罪深さを描く一方で、救済の可能性を強調しています。
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ムイシュキンの失敗と希望
ムイシュキンの純粋さや善意が、周囲の人々に混乱や悲劇をもたらす点は、善意が必ずしも理解されない人間社会の限界を示しています。しかし、彼の存在そのものが希望と救済の象徴であることには変わりありません。 -
自由意志の重要性
聖書と同様に、『白痴』では自由意志が強調されています。登場人物たちが救済の道を選ぶか否かは、彼ら自身の選択に委ねられています。この点で、物語は人間の自由と責任の重さを示しています。
遠藤周作とドストエフスキーの影響
- 遠藤周作自身、ドストエフスキーの作品や思想に大きな影響を受けたと語っています。特に、『白痴』に描かれるムイシュキン公爵のような「愚かさ」に見えるほどの純粋さを持つ人物に感銘を受け、彼の文学観にも反映されています。
- 遠藤の文学では、そうした「白痴的」な人物像がキリスト教的な価値観に基づく理想の一つとして描かれる一方で、現実の世界ではその理想が受け入れられず、苦しむ姿も合わせて描かれる点が特徴的です。この描写は、キリスト教的な信仰の難しさや、人間の弱さを深く理解した遠藤の視点を反映しています。
- 『おバカさん』 この作品はタイトル自体が示す通り、世間の価値観に逆らう「愚か者」的な存在をテーマとしています。遠藤はこうした人物像「ガストン」を通じて、世間的な成功や知恵よりも、純粋で無私の生き方の価値を問いかけています。「ガストン」は遠藤周作の他の作品にもたびたび登場します。