「ではみなさん、さういふふうに川だと云はれたり、乳の流れたあとだと云はれたりしてゐた、このぼんやりと白いものが何かご承知ですか。」  先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の圖の、上から下へ白くけぶつた銀河帶のやうなところを指しながら、みんなに問ひをかけました。  カムパネルラが手をあげました。それから四五人手をあげました。ジヨバンニも手をあげようとして、急いでそのままやめました。  たしかにあれがみんな星だと、いつか雜誌で讀んだのでしたが、このごろはジヨバンニはまるで毎日教室でもねむく、本を讀むひまも讀む本もないので、なんだかどんなこともよくわからないといふ氣持がするのでした。  ところが先生は早くもそれを見附けたのでした。 「ジヨバンニさん。あなたはわかつてゐるのでせう。」  ジヨバンニは勢よく立ちあがりましたが、立つて見るともうはつきりとそれを答へることができないのでした。ザネリが前の席から、ふりかへつて、ジヨバンニを見てくすつとわらひました。ジヨバンニはもうどぎまぎしてまつ赤になつてしまひました。  先生がまた云ひました。 「大きな望遠鏡で銀河をよつく調べると銀河は大體何でせう。」  やつぱり星だとジヨバンニは思ひましたが、こんどもすぐに答へることができませんでした。  先生はしばらく困つたやうすでしたが、眼をカムパネルラの方へ向けて、 「ではカムパネルラさん。」と名指しました。銀河鉄道の夜(宮沢賢治)