生涯
レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ(Lev Nikolaevich Tolstoy, 1828年9月9日 – 1910年11月20日)は、ロシアを代表する作家であり、哲学者、思想家でもある。彼はトゥーラ県(現在のヤスナヤ・ポリャーナ)に貴族の家庭に生まれ、両親を早くに失い、親族に育てられた。
若い頃は軍人として活動したが、クリミア戦争後に退役し、執筆活動に専念するようになる。『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』などの大作で名声を確立。晩年には宗教的な信仰と平和主義に傾倒し、「トルストイ主義」と呼ばれる思想を生み出した。彼は晩年、家族や社会から距離を置き、82歳で亡くなった。
主な作品
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『戦争と平和』(Voyna i Mir, 1869)
ナポレオン戦争を背景に、貴族と平民の生活を描いた壮大な歴史小説。登場人物の数や複雑な構成が特徴。 -
『アンナ・カレーニナ』(Anna Karenina, 1877)
不倫関係に陥る貴族女性アンナと彼女の破滅を描く。一方で、農業改革や家庭生活についても深く考察。 -
『復活』(Voskreseniye, 1899)
貴族のネフリュードフ公爵が、かつて愛した女性を通じて自己を再発見し、道徳的な生き方を求める物語。 -
『幼年時代』『少年時代』『青年時代』(1852-1856)
トルストイの半自伝的小説で、主人公ニコライの成長を通じて人間性を描く。 -
短編『イワン・イリッチの死』(Smert Ivana Ilyicha, 1886)
平凡な役人イワンが死を迎える中で人生の意義を問い直す物語。 -
『クロイツェル・ソナタ』(Kreutzerova Sonata, 1889)
結婚や性道徳をテーマにした作品で、当時大きな議論を巻き起こした。
表現のテーマ
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愛と人間の幸福
『アンナ・カレーニナ』や『戦争と平和』では、愛の形とそれが人間の幸福にどう影響するかを探求。 -
道徳と宗教
晩年の作品には、禁欲主義やキリスト教的な非暴力思想が色濃く反映。 -
社会と階級
ロシア社会の貴族と農民の対立、改革の必要性を描く。 -
戦争と平和の本質
『戦争と平和』では、戦争の無意味さと人間の生存本能の対立を詳細に描写。 -
死と人生の意義
『イワン・イリッチの死』のように、人間が死を直視することで人生の真理を見出すテーマが多い。
文体の特徴
トルストイの文体は、詳細な描写と登場人物の内面的な心理分析が特徴。特に戦争や社会の描写では、細部まで徹底してリアルに描かれる。一方で、宗教的・哲学的な考察を組み込むことで物語に深い意味を持たせている。
トルストイの影響
トルストイは、ロシア文学だけでなく、世界文学においても特別な地位を占める作家である。彼の思想は文学にとどまらず、マハトマ・ガンディーやマーティン・ルーサー・キング・ジュニアといった非暴力主義者にも影響を与えた。