リアリズム文学は、19世紀中頃にヨーロッパで始まった文学運動で、現実をありのままに描くことを目指しました。それまでのロマン主義が感情や想像力を重視していたのに対し、リアリズムは日常生活や社会の現実を冷静かつ客観的に描写することを重視しました。産業革命や科学の進歩、都市化による社会の変化がリアリズムの誕生の背景にあり、登場人物の心理や行動を細部まで描写する特徴があります。主題には社会階層や家庭、労働、貧困などがよく扱われました。
フランスのリアリズム
リアリズム文学はフランスで最初に確立され、後に世界各国へ広がりました。スタンダールは『赤と黒』『パルムの僧院』で登場人物の心理と社会環境を描きました。オノレ・ド・バルザックの『人間喜劇』は、フランス社会の多様な階層や職業を詳細に描写し、特に『ゴリオ爺さん』や『従妹ベット』は貪欲や道徳の崩壊を主題としています。ギュスターヴ・フローベールの『ボヴァリー夫人』は、夢と現実の落差を冷徹に描き、感情移入を避けた客観性が際立つ作品です。
ロシアのリアリズム
ロシアでもリアリズム文学が盛んに展開されました。レフ・トルストイの『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』は、ロシア社会を背景に個人の選択と道徳的葛藤を描きました。フョードル・ドストエフスキーは『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』で心理描写を極限まで掘り下げ、哲学的要素を加えました。イワン・ツルゲーネフの『父と子』は、世代間の対立と社会の変化を描いた作品です。
イギリスのリアリズム
イギリスではヴィクトリア朝時代にリアリズム文学が発展し、社会問題を扱う作品が多く生まれました。チャールズ・ディケンズの『オリヴァー・ツイスト』『デイヴィッド・コパーフィールド』は、労働者階級や貧困問題を感動的に描きました。ジョージ・エリオット(本名:メアリー・アン・エヴァンス)の『ミドルマーチ』は地方社会を舞台に心理描写と人物相関の緻密さが光る作品です。
アメリカのリアリズム
アメリカでは南北戦争後にリアリズム文学が台頭しました。マーク・トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』は、少年の視点から南部社会の不平等や偏見を描きました。ウィリアム・ディーン・ハウエルズは『彼女の罪』で市民生活の現実を描写しました。
日本のリアリズム
日本では19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパの影響を受けた自然主義が登場しました。坪内逍遥の『小説神髄』は写実的な文学を提唱し、島崎藤村の『破戒』や『家』は社会的タブーや家族関係の問題を描きました。
リアリズム文学の特長
リアリズム文学は現実の忠実な描写、社会問題の反映、複雑な登場人物、物語の因果律が特徴です。理想化や誇張を避け、客観的な視点から現実を描こうとする点が特徴的です。また、登場人物は一面的ではなく、現実の人間のように複雑な性格や動機を持ち、ストーリー展開も偶然や神秘的な力ではなく現実的な因果関係に基づいています。
まとめ
リアリズム文学は『ボヴァリー夫人』『戦争と平和』『オリヴァー・ツイスト』などの名作を生み出し、現代文学にも大きな影響を与えています。現実の社会構造や人々の生活を反映したリアリズム文学は、人間と社会を深く理解するための重要な手がかりを提供し続けています。