モバイルバッテリーが発火する理由と防ぐ方法――カバンの中から充電中まで
持ち運びに便利なモバイルバッテリーですが、まれに「発火した」「煙が出た」というニュースに触れることがあります。
発火の最終段階は電池そのものの熱暴走ですが、そこに至るまでにはいくつかの“きっかけ”があります。
現実に起こりやすい状況と、その背景、そして今日からできる予防策をまとめました。
充電中に起きること
充電中は、バッテリー内部でエネルギーが蓄えられていく時間帯です。
設計通りであれば安全に止まりますが、粗悪品や故障品では制御が乱れて過剰に充電してしまうことがあります。
さらに、規格外の充電器や劣化したケーブルを使うと、想定より大きな電流が流れて温度が上がりやすくなります。
夏場の室温上昇や、布団・ソファーの下など熱がこもる置き方が重なると、内部温度は一気に上がって危険域に近づきます。
スマホ等へ給電しているときに起きること
給電中は、外に大きな電流を取り出す局面です。
古くなったバッテリーは内部の抵抗が増えており、同じ電流でもより熱を持ちます。
ゲームや動画視聴など端末側の消費が大きいと、バッテリー・ケーブル・端子のいずれかに“ホットスポット”ができ、そこを起点に温度が上がっていきます。
見落とされがちなのはケーブルの先端や根元の傷みで、わずかな断線やぐらつきがあるだけでも、接触部分が局所的に高温になります。
持ち運び・保管中に起きること
最も身近で危険なのが、カバンの中の短絡(ショート)です。
USB端子に鍵や小銭などの金属が触れると、プラスとマイナスが直接つながってしまい、瞬間的に非常に大きな電流が流れます。

NITE(製品評価技術基盤機構)の事故報告や米国CPSCリコール情報でも、カバンの中で金属接触によるショート発火が繰り返し報告されています。
保護機能が働く前に端子周辺が急激に発熱し、内部にまでダメージが及ぶことがあります。
USBモバイルバッテリーケースや端子のキャップなどを使用することもよいでしょう。
もう一つの典型は圧迫や落下などの物理的ダメージです。
書籍やノートPCの重みで押しつぶされたり、カバンごと落とした衝撃が後から効いて、内部の仕切りが傷つき、時間差でトラブルに発展することがあります。
加えて、夏の車内や直射日光の当たる場所は簡単に高温になり、劣化した電池には致命的です。
充電しながら給電の危険性
便利そうに見える「充電しながらスマホへ給電」という使い方ですが、モバイルバッテリーにとって大きな負担になります。
内部では充電と放電が同時に進み、回路や電池セルが常に高い負荷を受けるため発熱が増し、寿命も短くなってしまうのです。
大手メーカーが公式にパススルー充電対応をうたう製品なら一定の安全性は確保されていますが、安価な製品では制御が不十分なことも多く、過熱や劣化のリスクは無視できません。
基本的には「充電しながら給電」は避け、バッテリーを充電する時間とスマホへ給電する時間を分けて使う方が安全で長持ちにつながります。
「危ないサイン」はこう表れます
- 膨らみ:バッテリー内部で電解液の分解によりガス(酸素・二酸化炭素など)が発生
- 甘いような匂い:電解液が漏出、あるいは分解して揮発性有機ガスが出ている。
- 使用中でなくても触ると熱い:内部で微小短絡や副反応が継続し、自己発熱している。
- 充電がやけに遅い・早い:電極の劣化やリチウム析出で反応効率が落ち、充放電特性が崩れている。
- 残量表示が不自然に上下する:セルのバランス不良や劣化で電圧が安定せず、残量検知回路が正しく働かない。
迷わず使用を中止し、金属や可燃物から離して保管し、自治体や販売店の指示に従って処分しましょう。
水に浸ける、針で穴を開けるなどの自己流対処は厳禁です。
今日からできる予防策
最も効果が高いのは、信頼できる製品を選ぶことです。
聞いたことのないブランドや極端に安い製品は避け、販売元・サポート体制・製品レビューの実在性を確認しましょう
日本国内で流通する製品はPSEの対象ですが、マークが本物かどうかは販売者情報やパッケージの整合性で見極めるのが無難です。
使い方では、就寝中や外出中に充電しっぱなしにしない、直射日光や車内などの高温を避ける、ケーブルや充電器も規格準拠のものを使う、といった基本が効きます。
持ち運ぶときは、端子を覆うキャップや専用ポーチを活用し、鍵や小銭と一緒に入れないこと。
重い荷物の下敷きにしない、落とさない、といった“物理的なやさしさ”も安全に直結します。
満充電と空に近い状態を何度も行き来させると劣化が早まるため、普段使いではおおよそ40~80%の範囲を目安にできると理想的です。
PSEマークの信頼性

モバイルバッテリーを選ぶ際に多くの人が安心材料とするのがPSEマークですが、残念ながらこれだけで安全を保証するものではありません。
PSEは事業者自身の自己宣言であり、実際に安全試験を経ているかどうかは事業者の姿勢次第です。
つまり、PSEマークの有無は最低限のチェックポイントに過ぎず、販売元の信頼性やサポート体制をあわせて確認することが、本当の意味での安心につながります。
購入前のチェックポイント
販売者・メーカーの実体、保証の有無、PSEマークと表示の整合、取扱説明書の具体性(高温時の扱い、保管温度の記載、処分方法の明記など)、ケーブルや充電器との組み合わせに関する注意喚起の有無――このあたりが丁寧に書かれている製品は、総じて設計・検品も丁寧です。
逆に、肝心な注意が曖昧な製品は、運用面も自己責任に寄せがちです。
ネット通販よりも、信頼できる大型有名店に出向いて直接購入することも有効かもしれません。
よくある誤解と正しい理解
「PSEがあれば絶対安全」ではありません。
PSEは法的要件であって、製造ロットのばらつきや輸送・保管の状態、ユーザーの使い方までは保証しません。
また、「容量が大きいほど危険」という単純な話でもありません。
大容量でも保護設計がしっかりしていれば安全性は高く、小容量でも粗悪設計ならリスクが上がります。
要は“設計と品質、そして使い方”の三点セットです。
まとめ
モバイルバッテリーの発火は、充電中の制御不良、給電中の過度な発熱、持ち運び中の短絡や衝撃、高温放置や経年劣化など、身近なきっかけから起こります。
信頼できる製品を選び、高温・金属接触・圧迫を避け、充電の放置をやめる――この基本を守るだけで、現実的なリスクはぐっと下がります。日々の小さな配慮が、もしもの事態を遠ざけます。
- PSEマークは義務表示だが、自己宣言にすぎず安全性を完全に保証するものではない
- 安価な製品や無名輸入業者品は、PSEがあっても信頼性が低い場合がある
- 直射日光や高温環境、カバン内での金属接触や圧迫は発火リスクを高める
- 「充電しながら給電」はバッテリーに負担をかけるため、基本的に避けるのが望ましい
- 信頼できるメーカー製品を選び、使用方法と保管環境に注意することが最も重要
参考・保護回路は安全のブレーキ役
モバイルバッテリーの内部には、電池を危険から守るための「保護回路」が組み込まれています。
これは小さな基板で電池の状態を見張り、異常があれば自動的に電流を止める仕組みです。
役割は大きく3つ。過充電を防ぐ、過放電を防ぐ、過大な電流やショートを防ぐことです。
これがあることで、発火や破裂のリスクは大幅に減ります。
逆に、安価な製品ではこの回路が不十分なこともあり、それが事故につながる原因になります。