戦争と平和 登場人物とあらすじ、時代背景を解説! トルストイの名作を読み解く

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“Все приходит к тому, кто умеет ждать.”

「すべては、待つことを知る者のもとにやってくる。」

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戦争と平和の作者と作品について

レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ(Lev Nikolayevich Tolstoy, 1828年~1910年)は、19世紀ロシア文学を代表する作家であり、道徳的、宗教的、哲学的な問題を探求する作品で知られている。彼は貴族の家庭に生まれ、軍隊での経験や自己の内面的な探求を経て、作家としての道を歩み始めた。彼の代表作『戦争と平和』(War and Peace) と『アンナ・カレーニナ』は、壮大なスケールで社会的・個人的なテーマを扱い、ロシア文学の金字塔とされている。トルストイは晩年には宗教的思想を深め、道徳的・倫理的改革を目指す哲学者としても影響力を持った。

『戦争と平和』(War and Peace)は、1805年から1812年にかけてのナポレオン戦争期のロシアを舞台に、戦争と愛、国家と個人の関係を描いた大河小説である。物語は、ロストフ家やボルコンスキー家、ベズーホフ家といった貴族の家庭を中心に、彼らの戦争体験と日常生活を通して、戦争の悲惨さや平和の重要性、そして人間の成長と精神的探求が描かれている。トルストイは、戦争の戦術や戦略だけでなく、戦場での個々の人間の行動や心理にも深く踏み込み、戦争の中における個人の道徳的な選択や運命に焦点を当てている。

発表当時のロシアの状況

『戦争と平和』が発表された1869年のロシアは、社会的・政治的な変革期にあった。1861年、アレクサンドル2世による農奴解放令が出され、長年続いた封建的な農奴制が崩壊し、ロシア社会は急速な変化の中にあった。また、ロシア帝国は、ヨーロッパ全体で進行していたナショナリズムや自由主義の影響を受けており、国家の統合と近代化に向けた努力が行われていた。この時期、トルストイは個人の自由と国家の権威の関係に関心を持ち、これが『戦争と平和』のテーマに深く反映されている。

おすすめする読者層

『戦争と平和』は、歴史小説や戦争文学に興味のある読者に最適である。20代から50代の読者にとって、個人と社会の関係、戦争と平和に対する考察が深く共感を呼び起こすだろう。また、ロシア文学に初めて触れる読者にとっても、トルストイの壮大なストーリーテリングと、哲学的・道徳的なテーマに引き込まれるだろう。特に、歴史的背景に関心がある人々や、人間の成長や自己探求に興味を持つ読者にとって、深く心に残る作品となる。

なぜ名作と言われるか

『戦争と平和』は、その壮大なスケールと細部にわたる人物描写、歴史的背景を生き生きと描き出す点で名作とされている。トルストイは、戦争と平和という対立するテーマを通じて、人間の精神的成長や道徳的選択を探求しており、個人の運命がどのようにして歴史の大きな流れと結びつくかを描いている。物語は、戦場での兵士たちの行動や、家庭生活の中での個人の葛藤を繊細に描き、戦争の悲劇と平和の希望を対比している。トルストイの作品は、歴史の巨大な動きを背景に、個々の人間の心理的、道徳的な葛藤を細やかに描いており、その普遍的なテーマが時代を超えて多くの読者に共感を与えている。

登場人物の紹介

  • ピエール・ベズーホフ: 温厚で理想主義的な青年。莫大な遺産を相続し、人生の目的を模索する。
  • アンドレイ・ボルコンスキー: 誠実で知的な貴族。戦争と家庭生活の間で葛藤する。
  • ナターシャ・ロストワ: 明るく感情豊かな女性。恋愛や失恋を通じて成長する。
  • エレン・クラーギナ: ピエールの美しい妻。冷淡で策略的な性格を持つ。
  • ニコライ・ロストフ: 熱血漢で忠実な軍人。家族を支えるために尽力する。
  • マリア・ボルコンスカヤ: アンドレイの敬虔な妹。内向的だが心優しい女性。
  • ソーニャ: ロストフ家の従姉妹。控えめで献身的だが報われない恋をする。
  • アナトール・クラーギン: エレンの兄。魅力的だが無責任で放蕩な生活を送る。
  • ドロホフ: ピエールの知人で軍人。大胆でギャンブル好きの冒険家。
  • クツーゾフ: ロシア軍の司令官。戦場で冷静な指導力を発揮する。
  • デニソフ: ニコライの陽気な友人で義理堅い軍人。親しみやすい性格。
  • 老ボルコンスキー公: アンドレイとマリアの父。厳格で独裁的な性格を持つ。
  • ナポレオン・ボナパルト: フランス皇帝。ロシアへの侵攻で物語の鍵を握る人物。
  • ビリビン: 外交官で、皮肉やウィットに富んだ会話を好む知識人。
  • マリヤ・ドミトリエヴナ: ロストフ家の友人。強い意志を持つ率直な女性。
  • プラトン・カラターエフ: ピエールが出会う農民。シンプルな人生哲学を体現する。
  • ボリス・ドゥルベツコイ: 野心家の青年。軍での成功を目指し地位を上げていく。
  • ヴェラ・ロストワ: ロストフ家の長女。冷静で控えめだが感情に乏しい。
  • ベルヒーヒ: ピエールの家庭教師。啓蒙思想を持つフランス人。
  • ラストプーチン: ロストフ家の家令。家計を管理し、家族に忠実に仕える。

3分で読めるあらすじ

ネタバレを含むあらすじを読む

『戦争と平和』は、1805年から1812年にかけてのナポレオン戦争の時代を背景に、ロシアの貴族社会を描く壮大な物語である。物語は、若きピエール・ベズーホフが、父親の死後に巨額の財産を相続するところから始まる。ピエールは、社会的地位を得る一方で、自分の人生の意味や道徳的な方向性に疑問を抱き、自己探求の旅に出る。

一方、アンドレイ・ボルコンスキーは、戦争に参加し、名誉と栄光を追い求めるが、戦場での経験を通じて人生に対する厭世感を抱く。彼は戦争の中で愛と失望を経験し、ナターシャ・ロストワとの愛を通じて再び希望を見出す。ナターシャは、無邪気な少女から成熟した女性へと成長していき、ピエールやアンドレイとの関係を通じて、戦争と平和の中での人間関係の複雑さに直面する。

ナポレオンがロシアに侵攻し、ロシア軍とフランス軍の戦いが激化する中で、物語は戦場での壮絶な戦闘シーンと、戦争が人々の生活や精神に与える影響を描写する。ピエールは戦争中に捕虜となり、そこで出会った農民プラトン・カラタエフとの交流を通じて、シンプルで信仰に満ちた生活の重要性に気づく。アンドレイは戦場で致命傷を負い、ナターシャと再会するが、その後まもなく息を引き取る。

最終的に、ナポレオンはロシアから撤退し、戦争は終結する。ピエールは、自己の探求と精神的成長を経て、ナターシャと結婚し、新たな平和の時代を迎える。物語は、戦争の悲劇と人間の成長、そして平和の希求をテーマにし、壮大なスケールで描かれている。

作品を理解する難易度

『戦争と平和』は、膨大な登場人物と複雑なプロットを持ち、歴史的背景や哲学的な問いが重層的に絡み合っているため、理解には時間と集中力を要する作品である。特に、トルストイの戦争に対する哲学的な考察や、個人と歴史の関係に関する議論は、深い読解力を必要とする。また、ロシアの貴族社会やナポレオン戦争に関する歴史的知識があると、作品の理解がさらに深まる。初読ではすべてを理解するのは難しいため、複数回の読書や関連文献の参照が有益である。

後世への影響

『戦争と平和』は、世界文学における最も偉大な小説の一つとされ、後世の文学や歴史学に多大な影響を与えた。特に、戦争と個人の関係、歴史的出来事が個人の運命に与える影響についてのトルストイの洞察は、文学のみならず哲学や歴史学の分野でも重要な議論の対象となっている。また、トルストイのリアルな戦争描写は、後の戦争文学においても大きな影響を与え、戦争の本質についての深い考察を促す作品として評価されている。

読書にかかる時間

『戦争と平和』は長編小説であり、一般的には1000ページ以上に及ぶ大作である。1日1~2時間の読書時間を確保した場合、読了には3~4週間かかることが予想される。内容が非常に深く、哲学的な議論も含まれているため、急ぎ読まずにじっくりと時間をかけて読み進めることが推奨される。複数回の読書を通じて、登場人物の成長やテーマの奥深さをより深く理解することができるだろう。

読者の感想

  • 「壮大なスケールで描かれる物語に圧倒され、戦争と平和というテーマが深く胸に響いた。」
  • 「トルストイの登場人物の心理描写が非常に緻密で、彼らの葛藤や成長に共感できた。」
  • 「歴史小説としてだけでなく、哲学的な考察も楽しめる作品で、何度も読み返す価値がある。」
  • 「ナターシャの成長やピエールの自己探求の旅が特に印象的で、物語の終わりには深い感動を覚えた。」
  • 「長編ながらも、戦争と個人の物語が交錯し、読んでいるうちに時間を忘れるほど引き込まれた。」

作品についての関連情報

『戦争と平和』は、映画や舞台、テレビドラマなど多くのメディアで翻案されている。特に1956年のハリウッド映画『War and Peace』や、1966年のソビエト連邦の映画版が有名である。また、トルストイの他の作品、特に『アンナ・カレーニナ』と併せて読むことで、彼の思想の全体像がより深く理解できる。さらに、トルストイが後年に書いた宗教的・哲学的なエッセイも、彼の文学作品と合わせて読むことで、彼の道徳観や人生観をより深く探ることができる。

作者のその他の作品

  • アンナ・カレーニナ』(Anna Karenina, 1877年): 貴族社会の中で愛と不倫に苦しむアンナの物語。人間の心理と社会的道徳を鋭く描いた作品。
  • 『復活』(Resurrection, 1899年): 貴族出身の主人公が、自らの罪と向き合い、贖罪と道徳的再生を求める姿を描いた作品。
  • 『イワン・イリッチの死』(The Death of Ivan Ilyich, 1886年): 人生の虚しさと死に直面した役人の内面を描く、短編ながら哲学的深みを持つ作品。
  • 『コサック』(The Cossacks, 1863年): トルストイ自身の軍経験を基に描かれた、カフカス地方の自然と人間の対立をテーマにした物語。
  • 『幼年時代』(Childhood, 1852年): トルストイの自伝的要素が強い、少年時代の無邪気さと成長を描いた作品。

戦争と平和と聖書

『戦争と平和』は、聖書と深い関係を持つ作品であり、そのテーマ、登場人物の心理描写、道徳的メッセージの中に、聖書的な影響が顕著に表れています。トルストイはキリスト教思想に基づいて、愛、赦し、自己犠牲、運命、そして神と人間の関係といったテーマを物語全体で探求しています。また、彼は聖書の教えを倫理や道徳の基盤として描きつつも、しばしば教会や組織化された宗教に批判的な視点も示しています。

聖書の教えを単なる宗教的教義としてではなく、人生の根本的な倫理や哲学の基盤として捉え、それを物語の中で実践的に描きました。

主要テーマと聖書的影響

『戦争と平和』の中心には、聖書的なテーマが存在します。

  • 愛と赦し: トルストイは、キリスト教の教えである「隣人愛」や「敵を愛せ」というテーマを、登場人物たちの人間関係や内面的な葛藤を通じて描いています。主人公の一人であるピエール・ベズーホフは、自分を裏切った妻エレーナやライバルであるドロホフに対して、怒りではなく赦しを選びます。この姿勢は、新約聖書における「汝の敵を愛せよ」(マタイによる福音書5:44)の教えに基づいています。

  • 運命と神の意志: 『戦争と平和』では、人間の行動や歴史の流れが神の意志に左右されているという考えが繰り返し語られます。この運命論的な視点は、聖書における「神の計画」の概念に深く結びついています。

  • 善悪の探求: 登場人物たちは、自分の行動が善なのか悪なのかについて深く考え、自己を問い直す場面が多く描かれています。これらの葛藤は、聖書における罪と赦しのテーマと響き合います。

ピエール・ベズーホフと聖書的な変容

ピエール・ベズーホフは、作品全体を通じて霊的な成長と変容を遂げるキャラクターであり、その過程は聖書の教えに強く影響されています。

  • 囚われの身と啓示: ナポレオン戦争の中で囚人となったピエールは、困難な状況の中で人生の意味を探求し始めます。この過程は、聖書における「荒野での試練」や「啓示」のテーマと共鳴します。

  • 信仰と救済: ピエールの霊的覚醒は、個人の信仰が組織化された宗教ではなく、神との直接的なつながりによって深められるというトルストイの信念を反映しています。

ナターシャ・ロストフと聖書的純粋さ

ナターシャ・ロストフは、無邪気さや純粋さの象徴として描かれ、聖書的な「信仰の子ども」のような存在です。

  • 罪と赦し: ナターシャは物語の途中で誘惑に屈してアンドレイとの婚約を破棄しますが、最終的には彼女の純粋さと悔悟によって赦されます。このエピソードは、聖書における罪と悔悟、神の赦しのテーマを反映しています。

  • 信仰と献身: 物語の終盤、家庭に身を置き、母としての役割に集中するナターシャの姿勢は、聖書的な謙虚さと家庭的愛の理想を体現しています。

歴史観と聖書

トルストイの歴史観には、聖書的な神の意志が強く影響しています。

  • ナポレオンと神の計画: トルストイは、ナポレオンのような強大な権力者でさえも、神の意志によって動かされる駒にすぎないと描いています。この考えは、旧約聖書における王や支配者が神によって立てられたり、倒されたりするという描写と一致します。

  • 歴史の流れ: 歴史は人間の意志によるものではなく、神の計画の一部であるというトルストイの視点は、聖書的な運命論と重なります。

聖書の引用と暗示

『戦争と平和』には、直接的な聖書の引用や暗示も見られます。

  • アンドレイ・ボルコンスキーの宗教的体験: アンドレイは、戦争の中で死の危険に直面しながら、星空を見上げて神の存在を感じ取ります。この体験は、詩篇19:1の「天は神の栄光を物語り、大空は御手の業を示す」という言葉を思わせます。

  • カラタエフの言葉: カラタエフがピエールに語る簡素で深い真理は、しばしば聖書の教えを想起させるものです。特に、「神の下ではみな平等である」という思想は、キリスト教の普遍的な教えと一致しています。

トルストイの宗教観と『戦争と平和』

トルストイは、教会の権威を批判し、キリスト教の核心的な教えに立ち返るべきだと主張しました。この宗教観が『戦争と平和』に大きな影響を与えています。

  • 組織宗教への批判: トルストイは教会の形式主義や権威主義を否定し、個々の信仰の重要性を強調しました。『戦争と平和』においても、登場人物たちは個人として神と向き合い、真実の道を探ります。

  • 人間の可能性: トルストイは、聖書の教えを通じて、愛と赦し、自己犠牲が人間性を高める力を持つことを描いています。

書籍案内 どの訳で読む?

工藤精一郎訳は、物語をスムーズに楽しみたい読者や、読みやすい文体を求める方に適しています。望月哲男訳は、現代的で親しみやすい文体が特徴で、初めて『戦争と平和』を読む方や、簡潔な解説を好む方に向いています。藤沼貴訳は、原文の細部まで味わいたい方や、作品の背景や文化について深く知りたい方におすすめです。

新潮文庫版

1970年 工藤精一郎訳

19世紀初頭、ナポレオンのロシア侵入という歴史的大事件に際して発揮されたロシア人の民族性を、貴族社会と民衆のありさまを余すところなく描きつくすことを通して謳いあげた一大叙事詩。1805年アウステルリッツの会戦でフランス軍に打ち破られ、もどってきた平和な暮しのなかにも、きたるべき危機の予感がただようロシア社交界の雰囲気を描きだすところから物語の幕があがる。

光文社古典新訳文庫版

2021年 望月哲男訳

登場人物の“息づかい”まで聞こえるクリアな新訳
世界文学の最高峰、古典新訳文庫でついに登場! 主要登場人物紹介 (系図)のしおり付き!

始まりは1805年夏、ペテルブルグでの夜会。全ヨーロッパ 秩序の再編を狙う独裁者ナポレオンとの戦争(祖国戦争) の時代を舞台に、ロシア貴族の興亡から大地に生きる農民にいたるまで、国難に立ち向かうロシアの人びとの姿を描いたトルストイの代表作。全6巻。

岩波文庫版

2006年 藤沼貴訳

十九世紀初頭,ナポレオンの侵入というロシヤが経験した未曾有の危機の時代を,雄大なスケールで描破した世界文学の最高峰.「歴史をつくるのは少数の英雄や為政者などではない」――巨匠の筆は五百人をこす登場人物ひとりひとりを心にくいまで個性豊かに描きだし,ここに歴史とロマンの一大交響楽が展開する.