カンタベリー物語 登場人物とあらすじ、時代背景を解説! ジェフリー・チョーサーの名作を読み解く

スポンサーリンク

“The lyf so short, the craft so long to lerne.”

「人生はあまりに短く、学ぶべきはあまりにも多い。」

スポンサーリンク

カンタベリー物語の作者と作品について

ジェフリー・チョーサー(Geoffrey Chaucer, 1343年頃~1400年)は、イギリスの詩人であり、英文学の「父」とも称される人物です。彼の代表作『カンタベリー物語』(The Canterbury Tales)は、イギリス文学において中世から近代に至るまで非常に重要な作品とされています。チョーサーは英語で作品を執筆することで、当時のフランス語やラテン語に代わり、英語文学の発展に大きく貢献しました。彼は宮廷詩人としても活動し、多くの詩や物語を書き残し、特に『カンタベリー物語』は彼の最高傑作とされています。

『カンタベリー物語』(The Canterbury Tales, 1387年頃)は、イギリス南部のカンタベリー大聖堂への巡礼の旅を共にする一団が、それぞれ順番に物語を語る形式で展開されます。30人以上の登場人物が集まり、彼らは旅の途中で物語を語り合い、最も優れた物語を語った者にはご褒美が与えられるという設定です。物語のジャンルは非常に多岐にわたり、冒険譚、恋愛譚、道徳的な教訓を含む物語、風刺など、さまざまなテーマが含まれています。中でも「騎士の話」や「修道士の話」、「詩人の話」などが有名です。

発表当時のイギリスの状況

『カンタベリー物語』が執筆された14世紀後半のイギリスは、ペスト(黒死病)の影響や社会的な動揺、また教会の権威への批判が高まっていた時期でした。巡礼が重要な宗教行為として行われる一方で、宗教的腐敗も問題視されており、チョーサーの作品にはこうした社会の変化や教会に対する風刺が込められています。特に、作品に登場する多くのキャラクターは、当時の様々な階層や職業を代表しており、それぞれの物語を通じて時代の空気や価値観が反映されています。

おすすめする読者層

『カンタベリー物語』は、英文学や中世の歴史、文化に興味がある読者に特におすすめです。多様なジャンルの物語が収められているため、幅広い文学的関心を持つ人に楽しめる内容となっています。また、チョーサーのユーモアや風刺が織り交ぜられた語り口は、当時の社会や宗教、階級制度を批判的に描いており、そうした社会的テーマに関心がある人にとっても興味深い作品です。英語で原文を読むことができる場合は、古英語の美しさを味わうこともできます。

なぜ名作と言われるか

『カンタベリー物語』が名作とされる理由は、その文学的多様性と洞察力にあります。チョーサーは、物語ごとに異なる語り口やスタイルを使い分け、それぞれのキャラクターが持つ個性を生き生きと描き出しています。また、宗教、道徳、恋愛、社会問題に至るまで、幅広いテーマが扱われており、それらが当時の社会状況を反映している点でも優れた社会的ドキュメントとなっています。さらに、チョーサーは古英語を使って中世イギリスの人々の生活や考え方を細やかに描写し、文学的な表現の豊かさが後の作家たちに多大な影響を与えました。

登場人物の紹介

  • 騎士: 高潔で経験豊富な戦士。名誉と礼儀を重んじる。
  • 騎士の従者: 騎士の息子。若く魅力的で多才な青年。
  • 尼僧院長: 礼儀正しく慈悲深い女性。上品な振る舞いが特徴。
  • 修道僧: 狩猟を好む世俗的な聖職者。伝統的な戒律に縛られない。
  • 托鉢僧: 愛想が良く、裕福な人々と親交を持つ聖職者。
  • 商人: 派手な服装の貿易商。財政状況を隠す。
  • 学僧: オックスフォード出身の貧しい学生。学問に情熱を注ぐ。
  • 法律家: 名声ある弁護士。多忙で知識豊富な人物。
  • 郷士: 裕福な地主。美食家で社交的な性格。
  • 貿易商人: 同業組合の一員。成功した職人であり、裕福。
  • 料理人: 料理の腕前が高いが、衛生面に問題がある。
  • 船長: 経験豊富な船乗り。航海術に長けるが、厳格な性格。
  • 医者: 星占いと医学を組み合わせる。金銭欲が強い。
  • バースの女房: 経験豊富な女性。5度の結婚歴を持つ。
  • 教区司祭: 貧しいが敬虔で勤勉な聖職者。信者に尽くす。
  • 農夫: 教区司祭の兄弟。誠実で勤勉な農民。
  • 粉屋: 力強く、粗野な性格。詐欺的な行為を行う。
  • 家令: 荘園の管理者。主人よりも裕福で狡猾。
  • 召喚吏: 宗教裁判所の使者。腐敗し、賄賂を受け取る。
  • 免罪符売り: 偽の聖遺物を売る詐欺師。説教が上手。
  • ホスト(宿屋の主人): 旅の提案者。陽気で社交的な性格。

3分で読めるあらすじ

ネタバレを含むあらすじを読む

『カンタベリー物語』は、カンタベリー大聖堂への巡礼の旅をする30人以上の登場人物が、退屈を紛らわせるために順番に物語を語り合う形式で進行します。騎士、修道女、商人、農夫、女性、教会の職員など、様々な職業や社会階層の人々が、それぞれの視点から物語を語ります。各物語は、道徳的教訓を含むもの、恋愛や冒険、風刺に満ちたものなど多様です。作品全体としては、当時の社会や宗教、そして人間性を反映しており、ユーモアや風刺が随所に散りばめられています。

作品を理解する難易度

『カンタベリー物語』は、中世イギリスの文化や歴史、宗教的背景についての理解があるとより深く楽しめる作品です。ただし、現代の翻訳であれば比較的読みやすく、多様な物語形式やキャラクターたちが織り成すユーモアを楽しむことができます。古英語での原文は難解な部分もありますが、英語文学を深く探求したい読者にとっては挑戦しがいのある作品です。

後世への影響

『カンタベリー物語』は、後の英文学や世界文学に大きな影響を与えました。シェイクスピアやジョン・ミルトンをはじめ、多くの作家たちがチョーサーの作品から影響を受け、文学的表現を発展させました。また、物語形式や風刺の手法は現代の文学にも引き継がれ、映画や舞台など多くのメディアで再解釈されています。特に、キャラクターそれぞれが自分の物語を語る形式は、今日のフィクションにもよく見られる手法です。

読書にかかる時間

『カンタベリー物語』は、翻訳版で約500~700ページ程度のボリュームがある作品です。1日1~2時間の読書時間を確保すれば、2~3週間で読み終えることができるでしょう。それぞれの物語は独立しているため、部分的に読むことも可能です。

読者の感想

「中世の社会や文化が生き生きと描かれていて、まるでその時代にタイムスリップしたようだった。」
「登場人物たちが多様で、それぞれの視点から物語が語られるので、飽きることがなかった。」
「チョーサーのユーモアと風刺が効いていて、特に教会の腐敗を皮肉る部分が面白かった。」
「物語の中に道徳的な教訓が含まれているが、それが説教臭くなく、エンターテイメントとして楽しめた。」
「古典文学の中でも、意外と読みやすく、現代でも共感できるテーマが多いと感じた。」

作品についての関連情報

『カンタベリー物語』は、数多くの翻訳や注釈が出版されており、特に英語文学の授業や研究で重要な作品として扱われています。また、映画や舞台、テレビドラマなど、多くのメディアで映像化やアダプテーションが行われています。さらに、チョーサーの作品は、文学だけでなく、中世の歴史や文化研究にも重要な資料とされており、現代でも多くの研究がなされています。

作者のその他の作品

  • 『トロイルスとクリセイデ』(Troilus and Criseyde, 1385年頃): トロイ戦争を舞台にした叙事詩で、ギリシャ神話に基づく悲恋の物語です。
  • 『公爵夫人の書』(The Book of the Duchess, 1369年頃): チョーサーの最初期の長編詩で、亡くなった妻を悼む公爵の悲しみを描いた物語です。

カンタベリー物語と聖書

『カンタベリー物語(The Canterbury Tales)』は、14世紀後半のイギリス社会を描いた傑作であり、聖書との深い関係を持つ作品です。この物語は、カトリック教会が強い影響を持っていた中世ヨーロッパを背景に、宗教的テーマや聖書的モチーフを随所に取り入れています。同時に、教会や宗教的な権威に対する風刺や批判も含まれており、聖書を中心とした社会の光と影を描き出しています。

聖書的テーマと影響

『カンタベリー物語』は、聖書的なテーマやモチーフを核にして物語が構成されています。

  • 巡礼: 物語の枠組みそのものが、カンタベリー大聖堂への巡礼という宗教的行為を中心に展開されます。巡礼は聖書的な概念であり、信仰の試練や魂の救済を象徴します。

  • 罪と贖罪: 登場人物たちの物語には、聖書的な罪の概念が頻繁に現れます。姦淫、強欲、虚栄といった七つの大罪が物語の中で描かれる一方で、それらに対する贖罪や赦しの可能性も探求されています。

  • 善と悪の葛藤: 各物語では、善悪の対立が中心となることが多く、聖書的な道徳観が物語の背景を形作っています。

登場人物と聖書的役割

登場人物の多くは、聖書的な象徴や中世の宗教的役割を反映しています。

  • 聖職者たち: 登場する修道士や司祭、僧侶などの聖職者たちは、宗教的役割を担いながらも、教会の腐敗を象徴する存在として描かれることが多いです。彼が語る物語は、「金銭欲が諸悪の根源である」という聖書の教訓をテーマにしています。

  • バースの女房: 自身の人生経験を語る中で、聖書を引用しながら、女性の地位や結婚観について独自の解釈を展開します。彼女の物語には、聖書の価値観と彼女自身の生き方が対立する場面があります。

  • 貴族や農民: 他の巡礼者たちも、それぞれの物語を通じて、聖書的な道徳観や社会的価値観を反映しています。

物語と聖書の関係

各巡礼者が語る物語の中には、直接的に聖書の物語を題材にしたものや、聖書的教訓を含むものが多く存在します。

  • 免罪符売りの話: 死の象徴としての「死神」をテーマにし、「金銭欲が人間を破滅に導く」という教訓を中心に展開します。これは、新約聖書の「金銭を愛することは、あらゆる悪の根である」(テモテへの手紙一 6:10)を暗示しています。

  • バースの女房の話: この話は聖書の教訓というよりも、結婚や女性の自主性に関する彼女自身の解釈が中心です。語りの中で聖書を引用し、自分の多くの結婚を正当化する議論を展開します。

  • 聖僧の話: 物語全体の締めくくりとなるこの話では、悔悟と救済について語られます。これは、聖書の教えに基づいた純粋な道徳的説教であり、他の風刺的な物語とは対照的です。

聖書的象徴と風刺

『カンタベリー物語』は、聖書の教えをただ称賛するだけでなく、それに基づく社会や宗教的慣習を批判する風刺の要素を含んでいます。

  • 教会の腐敗: 物語に登場する聖職者の多くは、聖書の教えを歪め、自分たちの利益のために利用しています。これは、中世ヨーロッパの教会の腐敗に対する批判として読めます。

  • 世俗的な矛盾: 聖書の教えが理想として語られる一方で、登場人物たちの世俗的な行動が矛盾を生み出します。この矛盾は、聖書の倫理が中世社会でどのように受け入れられ、また歪められたかを示しています。

聖書の引用と教訓

『カンタベリー物語』には、直接的に聖書の言葉が引用される場面や、聖書の教訓を暗示する場面が多く含まれています。

  • 引用の例: 「金銭欲が諸悪の根源」(テモテへの手紙一 6:10)や「目には目を」(出エジプト記 21:24)といった聖書のフレーズが、物語の中で直接引用されています。

  • 教訓の活用: 各物語のテーマには、聖書に由来する教訓や道徳が深く関わっています。善悪の行動がどのように報われるか、または罰せられるかが描かれる中で、聖書の倫理観が中心的な役割を果たしています。

書籍案内

岩波文庫版

1995年 桝井迪夫訳

花ほころび,そよ風吹きそめる四月のある日,身分も職業もさまざまな二九人の巡礼がサザークの旅籠に顔を合せた.当時のイギリス社会の縮図というべき顔ぶれが,カンタベリーへの道中,順番に話をすることになって…….中世イギリス最大の詩人チョーサー(一三四〇頃―一四〇〇)の代表作.バーン=ジョーンズの端整な挿画を収載.