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拾遺和歌集のデータベース
拾遺和歌集とは
- 拾遺和歌集は古今、後撰に次ぐ三番目の勅撰和歌集であり、一条天皇の代(1005~1009年頃)に編纂された。
拾遺和歌集の構成
春 | 夏 | 秋 | 冬 | 賀 | 別 | 物名 | 雑上 | 雑下 |
神楽歌 |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
数 | 78 | 59 | 77 | 48 | 38 | 53 | 78 | 77 | 67 | 45 |
% | 5.7 | 4.3 | 5.6 | 3.5 | 2.7 | 3.8 | 5.7 | 5.6 | 4.9 | 3.3 |
恋一 | 恋二 | 恋三 | 恋四 | 恋五 | 雑春 | 雑秋 | 雑賀 | 雑恋 |
哀傷 |
|
数 | 77 | 79 | 72 | 76 | 75 | 82 | 77 | 51 | 64 | 78 |
% | 5.6 | 5.8 | 5.2 | 5.5 | 5.5 | 6 | 5.6 | 3.7 | 4.7 | 5.7 |
- 巻二十の全1351首(異本9歌を掲載)
拾遺和歌集 言の葉データベース
「かな」は原文と同様に濁点を付けておりませんので、例えば「郭公(ほととぎす)」を検索したいときは、「ほとときす」と入力してください。
歌番号 | 歌 | よみ人 | 巻 | 種 |
---|---|---|---|---|
1 | はるたつといふはかりにや三吉野の山もかすみてけさは見ゆらん はるたつと いふはかりにや みよしのの やまもかすみて けさはみゆらむ | 壬生忠岑 | 一 | 春 |
2 | 春霞たてるを見れは荒玉の年は山よりこゆるなりけり はるかすみ たてるをみれは あらたまの としはやまより こゆるなりけり | 紀文幹 | 一 | 春 |
3 | 昨日こそ年はくれしか春霞かすかの山にはやたちにけり きのふこそ としはくれしか はるかすみ かすかのやまに はやたちにけり | 山部赤人 | 一 | 春 |
4 | 吉野山峯の白雪いつきえてけさは霞の立ちかはるらん よしのやま みねのしらゆき いつきえて けさはかすみの たちかはるらむ | 源重之 | 一 | 春 |
5 | あらたまの年立帰る朝よりまたるる物はうくひすのこゑ あらたまの としたちかへる あしたより またるるものは うくひすのこゑ | 素性法師 | 一 | 春 |
6 | 氷たにとまらぬ春の谷風にまたうちとけぬ鴬の声 こほりたに とまらぬはるの たにかせに またうちとけぬ うくひすのこゑ | 源順 | 一 | 春 |
7 | 春立ちて朝の原の雪見れはまたふる年の心地こそすれ はるたちて あしたのはらの ゆきみれは またふるとしの ここちこそすれ | 平祐挙 | 一 | 春 |
8 | 春立ちて猶ふる宮は梅の花さくほともなくちるかとそ見る はるたちて なほふるゆきは うめのはな さくほともなく ちるかとそみる | 凡河内躬恒 | 一 | 春 |
9 | わかやとの梅にならひてみよしのの山の雪をも花とこそ見れ わかやとの うめにならひて みよしのの やまのゆきをも はなとこそみれ | 読人知らず | 一 | 春 |
10 | 鴬の声なかりせは雪きえぬ山さといかてはるをしらまし うくひすの こゑなかりせは ゆききえぬ やまさといかて はるをしらまし | 中納言朝忠 | 一 | 春 |
11 | うちきらし雪はふりつつしかすかにわか家のそのに鴬そなく うちきらし ゆきはふりつつ しかすかに わかいへのそのに うくひすそなく | 大伴家持 | 一 | 春 |
12 | 梅の花それとも見えす久方のあまきるこのなへてふれれは うめのはな それともみえす ひさかたの あまきるゆきの なへてふれれは | 柿本人麻呂(人麿) | 一 | 春 |
13 | むめかえにふりかかりてそ白雪の花のたよりにをらるへらなる うめかえに ふりかかりてそ しらゆきの はなのたよりに をらるへらなる | 紀貫之 | 一 | 春 |
14 | ふる雪に色はまかひぬ梅の花かにこそにたる物なかりけれ ふるゆきに いろはまかひぬ うめのはな かにこそにたる ものなかりけれ | 凡河内躬恒 | 一 | 春 |
15 | わかやとの梅のたちえや見えつらん思ひの外に君かきませる わかやとの うめのたちえや みえつらむ おもひのほかに きみかきませる | 平兼盛 | 一 | 春 |
16 | かをとめてたれをらさらん梅の花あやなし霞たちなかくしそ かをとめて たれをらさらむ うめのはな あやなしかすみ たちなかくしそ | 凡河内躬恒 | 一 | 春 |
17 | 白妙のいもか衣にむめの花色をもかをもわきそかねつる しろたへの いもかころもに うめのはな いろをもかをも わきそかねつる | 紀貫之 | 一 | 春 |
18 | あすからはわかなつまむとかたをかの朝の原はけふそやくめる あすからは わかなつまむと かたをかの あしたのはらは けふそやくめる | 柿本人麻呂(人麿) | 一 | 春 |
19 | 野辺見れはわかなつみけりむへしこそかきねの草もはるめきにけれ のへみれは わかなつみけり うへしこそ かきねのくさも はるめきにけれ | 紀貫之 | 一 | 春 |
20 | かすか野におほくの年はつみつれとおいせぬ物はわかななりけり かすかのに おほくのとしは つみつれと おいせぬものは わかななりけり | 円融院御製 | 一 | 春 |
21 | 春ののにあさるききすのつまこひにおのかありかを人にしれつつ はるののに あさるききすの つまこひに おのかありかを ひとにしれつつ | 大伴家持 | 一 | 春 |
22 | 松のうへになく鴬のこゑをこそはつねの日とはいふへかりけれ まつのうへに なくうくひすの こゑをこそ はつねのひとは いふへかりけれ | 宮内 | 一 | 春 |
23 | 子の日するのへにこ松のなかりせは千世のためしになにをひかまし ねのひする のへにこまつの なかりせは ちよのためしに なにをひかまし | 壬生忠岑 | 一 | 春 |
24 | ちとせまてかきれる松もけふよりは君にひかれて万代やへむ ちとせまて かきれるまつも けふよりは きみにひかれて よろつよやへむ | 大中臣能宣 | 一 | 春 |
25 | 梅の花またちらねともゆく水のそこにうつれるかけそ見えける うめのはな またちらねとも ゆくみつの そこにうつれる かけそみえける | 紀貫之 | 一 | 春 |
26 | つみたむることのかたきは鴬の声するのへのわかななりけり つみたむる ことのかたきは うくひすの こゑするのへの わかななりけり | 読人知らず | 一 | 春 |
27 | 梅の花よそなから見むわきもこかとかむはかりのかにもこそしめ うめのはな よそなからみむ わきもこか とかむはかりの かにもこそしめ | 読人知らず | 一 | 春 |
28 | 袖たれていさわかそのにうくひすのこつたひちらす梅の花見む そてたれて いさわかそのに うくひすの こつたひちらす うめのはなみむ | 読人知らず | 一 | 春 |
29 | あさまたきおきてそ見つる梅の花夜のまの風のうしろめたさに あさまたき おきてそみつる うめのはな よのまのかせの うしろめたさに | 兵部卿元良親王 | 一 | 春 |
30 | 吹く風をなにいとひけん梅の花ちりくる時そかはまさりける ふくかせを なにいとひけむ うめのはな ちりくるときそ かはまさりける | 凡河内躬恒 | 一 | 春 |
31 | 匂をは風にそふとも梅の花色さへあやなあたにちらすな にほひをは かせにそふとも うめのはな いろさへあやな あたにちらすな | 大中臣能宣 | 一 | 春 |
32 | ともすれは風のよるにそ青柳のいとは中中みたれそめける ともすれは かせのよるにそ あをやきの いとはなかなか みたれそめける | 読人知らず | 一 | 春 |
33 | ちかくてそ色もまされるあをやきの糸はよりてそ見るへかりける ちかくてそ いろもまされる あをやきの いとはよりてそ みるへかりける | 大中臣能宣 | 一 | 春 |
34 | 青柳の花田のいとをよりあはせてたえすもなくか鴬のこゑ あをやきの はなたのいとを よりあはせて たえすもなくか うくひすのこゑ | 凡河内躬恒 | 一 | 春 |
35 | 花見にはむれてゆけとも青柳の糸のもとにはくる人もなし はなみには むれてゆけとも あをやきの いとのもとには くるひともなし | 読人知らず | 一 | 春 |
36 | さけはちるさかねはこひし山桜思ひたえせぬ花のうへかな さけはちる さかねはこひし やまさくら おもひたえせぬ はなのうへかな | 中務 | 一 | 春 |
37 | 吉野山たえす霞のたなひくは人にしられぬ花やさくらん よしのやま たえすかすみの たなひくは ひとにしられぬ はなやさくらむ | 中務 | 一 | 春 |
38 | さきさかすよそにても見む山さくら峯の白雲たちなかくしそ さきさかす よそにてもみむ やまさくら みねのしらくも たちなかくしそ | 読人知らず | 一 | 春 |
39 | 吹く風にあらそひかねてあしひきの山の桜はほころひにけり ふくかせに あらそひかねて あしひきの やまのさくらは ほころひにけり | 読人知らず | 一 | 春 |
40 | 浅緑のへの霞はつつめともこほれてにほふ花さくらかな あさみとり のへのかすみは つつめとも こほれてにほふ はなさくらかな | 読人知らず | 一 | 春 |
41 | 吉野山きえせぬ雪と見えつるは峯つつきさくさくらなりけり よしのやま きえせぬゆきと みえつるは みねつつきさく さくらなりけり | 読人知らず | 一 | 春 |
42 | 春霞立ちなへたてそ花さかりみてたにあかぬ山のさくらを はるかすみ たちなへたてそ はなさかり みてたにあかぬ やまのさくらを | 清原元輔 | 一 | 春 |
43 | はるは猶我にてしりぬ花さかり心のとけき人はあらしな はるはなほ われにてしりぬ はなさかり こころのとけき ひとはあらしな | 壬生忠岑 | 一 | 春 |
44 | さきそめていく世へぬらんさくら花色をは人にあかす見せつつ さきそめて いくよへぬらむ さくらはな いろをはひとに あかすみせつつ | 藤原千景 | 一 | 春 |
45 | 春くれはまつそうち見るいその神めつらしけなき山田なれとも はるくれは まつそうちみる いそのかみ めつらしけなき やまたなれとも | 壬生忠見 | 一 | 春 |
46 | はるくれは山田の氷打ちとけて人の心にまかすへらなり はるくれは やまたのこほり うちとけて ひとのこころに まかすへらなり | 在原元方 | 一 | 春 |
47 | 春の田を人にまかせて我はたた花に心をつくるころかな はるのたを ひとにまかせて われはたた はなにこころを つくるころかな | 斎宮内侍 | 一 | 春 |
48 | あたなれとさくらのみこそ旧里の昔なからの物には有りけれ あたなれと さくらのみこそ ふるさとの むかしなからの ものにはありけれ | 紀貫之 | 一 | 春 |
49 | ちりちらすきかまほしきをふるさとの花見て帰る人もあはなん ちりちらす きかまほしきを ふるさとの はなみてかへる ひともあはなむ | 伊勢 | 一 | 春 |
50 | さくらかり雨はふりきぬおなしくはぬるとも花の影にかくれむ さくらかり あめはふりきぬ おなしくは ぬるともはなの かけにかくれむ | 読人知らず | 一 | 春 |
51 | とふ人もあらしと思ひし山さとに花のたよりに人め見るかな とふひとも あらしとおもひし やまさとに はなのたよりに ひとめみるかな | 清原元輔 | 一 | 春 |
52 | 花の木をうゑしもしるく春くれはわかやとすきて行く人そなき はなのきを うゑしもしるく はるくれは わかやとすきて ゆくひとそなき | 平兼盛 | 一 | 春 |
53 | さくら色にわか身は深く成りぬらん心にしめて花ををしめは さくらいろに わかみはふかく なりぬらむ こころにしめて はなををしめは | 読人知らず | 一 | 春 |
54 | 身にかへてあやなく花を惜むかないけらはのちのはるもこそあれ みにかへて あやなくはなを をしむかな いけらはのちの はるもこそあれ | 藤原長能 | 一 | 春 |
55 | 見れとあかぬ花のさかりに帰る雁猶ふるさとのはるやこひしき みれとあかぬ はなのさかりに かへるかり なほふるさとの はるやこひしき | 読人知らず | 一 | 春 |
56 | ふるさとの霞とひわけゆくかりはたひのそらにやはるをくらさむ ふるさとの かすみとひわけ ゆくかりは たひのそらにや はるをくらさむ | 読人知らず | 一 | 春 |
57 | ちりぬへき花見る時はすかのねのなかきはる日もみしかかりけり ちりぬへき はなみるときは すかのねの なかきはるひも みしかかりけり | 藤原清正 | 一 | 春 |
58 | つけやらんまにもちりなはさくら花いつはり人に我やなりなん つけやらむ まにもちりなは さくらはな いつはりひとに われやなりなむ | 読人知らず | 一 | 春 |
59 | ちりそむる花を見すててかへらめやおほつかなしといもはまつとも ちりそむる はなをみすてて かへらめや おほつかなしと いもはまつとも | 大中臣能宣 | 一 | 春 |
60 | 見もはててゆくとおもへはちる花につけて心のそらになるかな みもはてて ゆくとおもへは ちるはなに つけてこころの そらになるかな | 読人知らず | 一 | 春 |
61 | あさことにわかはくやとのにはさくら花ちるほとはてもふれて見む あさことに わかはくやとの にはさくら はなちるほとは てもふれてみむ | 読人知らず | 一 | 春 |
62 | あさちはらぬしなきやとの桜花心やすくや風にちるらん あさちはら ぬしなきやとの さくらはな こころやすくや かせにちるらむ | 恵慶法師 | 一 | 春 |
63 | 春ふかくなりぬと思ふをさくら花ちるこのもとはまた雪そふる はるふかく なりぬとおもふを さくらはな ちるこのもとは またゆきそふる | 紀貫之 | 一 | 春 |
64 | さくらちるこのした風はさむからてそらにしられぬゆきそふりける さくらちる このしたかせは さむからて そらにしられぬ ゆきそふりける | 紀貫之 | 一 | 春 |
65 | あしひきの山ちにちれる桜花きえせぬはるの雪かとそ見る あしひきの やまちにちれる さくらはな きえせぬはるの ゆきかとそみる | 読人知らず | 一 | 春 |
66 | あしひきの山かくれなるさくら花ちりのこれりと風にしらるな あしひきの やまかくれなる さくらはな ちりのこれりと かせにしらるな | 小弐命婦 | 一 | 春 |
67 | いはまをもわけくるたきの水をいかてちりつむ花のせきととむらん いはまをも わけくるたきの みつをいかて ちりつむはなの せきととむらむ | 読人知らず | 一 | 春 |
68 | 春ふかみゐてのかは浪たちかへり見てこそゆかめ山吹の花 はるふかみ ゐてのかはなみ たちかへり みてこそゆかめ やまふきのはな | 源順 | 一 | 春 |
69 | 山吹の花のさかりにゐてにきてこのさと人になりぬへきかな やまふきの はなのさかりに ゐてにきて このさとひとに なりぬへきかな | 恵慶法師 | 一 | 春 |
70 | 物もいはてなかめてそふる山吹の花に心そうつろひぬらん ものもいはて なかめてそふる やまふきの はなにこころそ うつろひぬらむ | 清原元輔 | 一 | 春 |
71 | さは水にかはつなくなり山吹のうつろふ影やそこに見ゆらん さはみつに かはつなくなり やまふきの うつろふかけや そこにみゆらむ | 読人知らず | 一 | 春 |
72 | わかやとのやへ山吹はひとへたにちりのこらなんはるのかたみに わかやとの やへやまふきは ひとへたに ちりのこらなむ はるのかたみに | 読人知らず | 一 | 春 |
73 | 花の色をうつしととめよ鏡山春よりのちの影や見ゆると はなのいろを うつしととめよ かかみやま はるよりのちの かけやみゆると | 坂上是則 | 一 | 春 |
74 | 春霞たちわかれゆく山みちは花こそぬさとちりまかひけれ はるかすみ たちわかれゆく やまみちは はなこそぬさと ちりまかひけれ | 読人知らず | 一 | 春 |
75 | 年の内はみな春なからくれななん花見てたにもうきよすくさん としのうちは みなはるなから くれななむ はなみてたにも うきよすくさむ | 読人知らず | 一 | 春 |
76 | 風ふけは方もさためすちる花をいつ方へゆくはるとかは見む かせふけは かたもさためす ちるはなを いつかたへゆく はるとかはみむ | 紀貫之 | 一 | 春 |
77 | 花もみなちりぬるやとは行く春のふるさととこそなりぬへらなれ はなもみな ちりぬるやとは ゆくはるの ふるさととこそ なりぬへらなれ | 紀貫之 | 一 | 春 |
78 | つねよりものとけかりつるはるなれとけふのくるるはあかすそありける つねよりも のとけかりつる はるなれと けふのくるるは あかすそありける | 凡河内躬恒 | 一 | 春 |
79 | なくこゑはまたきかねともせみのはのうすき衣はたちそきてける なくこゑは またきかねとも せみのはの うすきころもは たちそきてける | 大中臣能宣 | 二 | 夏 |
80 | わかやとのかきねやはるをへたつらん夏きにけりと見ゆる卯の花 わかやとの かきねやはるを へたつらむ なつきにけりと みゆるうのはな | 源順 | 二 | 夏 |
81 | 花の色にそめしたもとのをしけれは衣かへうきけふにもあるかな はなのいろに そめしたもとの をしけれは ころもかへうき けふにもあるかな | 源重之 | 二 | 夏 |
82 | 花ちるといとひしものを夏衣たつやおそきと風をまつかな はなちると いとひしものを なつころも たつやおそきと かせをまつかな | 盛明のみこ | 二 | 夏 |
83 | 夏にこそさきかかりけれふちの花松にとのみも思ひけるかな なつにこそ さきかかりけれ ふちのはな まつにとのみも おもひけるかな | 源重之 | 二 | 夏 |
84 | 住吉の岸のふちなみわかやとの松のこすゑに色はまさらし すみよしの きしのふちなみ わかやとの まつのこすゑに いろはまさらし | 平兼盛 | 二 | 夏 |
85 | 紫のふちさく松のこすゑにはもとのみとりもみえすそありける むらさきの ふちさくまつの こすゑには もとのみとりも みえすそありける | 源順 | 二 | 夏 |
86 | うすくこくみたれてさける藤の花ひとしき色はあらしとそ思ふ うすくこく みたれてさける ふちのはな ひとしきいろは あらしとそおもふ | 小野宮太政大臣 | 二 | 夏 |
87 | 手もふれてをしむかひなく藤の花そこにうつれは浪そをりける てもふれて をしむかひなく ふちのはな そこにうつれは なみそをりける | 凡河内躬恒 | 二 | 夏 |
88 | たこの浦のそこさへにほふ藤浪をかさしてゆかん見ぬ人のため たこのうらの そこさへにほふ ふちなみを かさしてゆかむ みぬひとのため | 柿本人麻呂(人麿) | 二 | 夏 |
89 | 卯の花をちりにしむめにまかへてや夏のかきねに鴬のなく うのはなを ちりにしうめに まかへてや なつのかきねに うくひすのなく | 平公誠 | 二 | 夏 |
90 | うの花のさけるかきねはみちのくのまかきのしまの浪かとそ見る うのはなの さけるかきねは みちのくの まかきのしまの なみかとそみる | 読人知らず | 二 | 夏 |
91 | 神まつる卯月にさける卯の花はしろくもきねかしらけたるかな かみまつる うつきにさける うのはなは しろくもきねか しらけたるかな | 凡河内躬恒 | 二 | 夏 |
92 | かみまつるやとの卯の花白妙のみてくらかとそあやまたれける かみまつる やとのうのはな しろたへの みてくらかとそ あやまたれける | 紀貫之 | 二 | 夏 |
93 | 山かつのかきねにさける卯の花はたか白妙の衣かけしそ やまかつの かきねにさける うのはなは たかしろたへの ころもかけしそ | 読人知らず | 二 | 夏 |
94 | 時わかすふれる雪かと見るまてにかきねもたわにさける卯の花 ときわかす ふれるゆきかと みるまてに かきねもたわに さけるうのはな | 読人知らず | 二 | 夏 |
95 | 春かけてきかむともこそ思ひしか山郭公おそくなくらん はるかけて きかむともこそ おもひしか やまほとときす おそくなくらむ | 読人知らず | 二 | 夏 |
96 | はつこゑのきかまほしさに郭公夜深くめをもさましつるかな はつこゑの きかまほしさに ほとときす よふかくめをも さましつるかな | 読人知らず | 二 | 夏 |
97 | 家にきてなにをかたらむあしひきの山郭公ひとこゑもかな いへにきて なにをかたらむ あしひきの やまほとときす ひとこゑもかな | 久米広縄 | 二 | 夏 |
98 | 山さとにしる人もかな郭公なきぬときかはつけにくるかに やまさとに しるひともかな ほとときす なきぬときかは つけにくるかに | 紀貫之 | 二 | 夏 |
99 | やまさとにやとらさりせは郭公きく人もなきねをやなかまし やまさとに やとらさりせは ほとときす きくひともなき ねをやなかまし | 読人知らず | 二 | 夏 |
100 | 髣髴にそ鳴渡るなる郭公み山をいつるけさのはつ声 ほのかにそ なきわたるなる ほとときす みやまをいつる けさのはつこゑ | 坂上望城 | 二 | 夏 |
101 | み山いてて夜はにやきつる郭公暁かけてこゑのきこゆる みやまいてて よはにやきつる ほとときす あかつきかけて こゑのきこゆる | 平兼盛 | 二 | 夏 |
102 | 宮こ人ねてまつらめや郭公今そ山へをなきていつなる みやこひと ねてまつらめや ほとときす いまそやまへを なきていつなる | 藤原道綱母 | 二 | 夏 |
103 | 山かつと人はいへとも郭公まつはつこゑは我のみそきく やまかつと ひとはいへとも ほとときす まつはつこゑは われのみそきく | 坂上是則 | 二 | 夏 |
104 | さ夜ふけてねさめさりせは郭公人つてにこそきくへかりけれ さよふけて ねさめさりせは ほとときす ひとつてにこそ きくへかりけれ | 壬生忠見 | 二 | 夏 |
105 | ふたこゑときくとはなしに郭公夜深くめをもさましつるかな ふたこゑと きくとはなしに ほとときす よふかくめをも さましつるかな | 伊勢 | 二 | 夏 |
106 | 行きやらて山ちくらしつほとときす今ひとこゑのきかまほしさに ゆきやらて やまちくらしつ ほとときす いまひとこゑの きかまほしさに | 源公忠朝臣 | 二 | 夏 |
107 | このさとにいかなる人かいへゐして山郭公たえすきくらむ このさとに いかなるひとか いへゐして やまほとときす たえすきくらむ | 紀貫之 | 二 | 夏 |
108 | さみたれはちかくなるらしよと河のあやめの草もみくさおひにけり さみたれは ちかくなるらし よとかはの あやめのくさも みくさおひにけり | 読人知らず | 二 | 夏 |
109 | 昨日まてよそに思ひしあやめ草けふわかやとのつまと見るかな きのふまて よそにおもひし あやめくさ けふわかやとの つまとみるかな | 大中臣能宣 | 二 | 夏 |
110 | けふ見れは玉のうてなもなかりけりあやめの草のいほりのみして けふみれは たまのうてなも なかりけり あやめのくさの いほりのみして | 読人知らず | 二 | 夏 |
111 | 葦引の山郭公けふとてやあやめの草のねにたててなく あしひきの やまほとときす けふとてや あやめのくさの ねにたててなく | 延喜御製 | 二 | 夏 |
112 | たかそてに思ひよそへて郭公花橘のえたになくらん たかそてに おもひよそへて ほとときす はなたちはなの えたになくらむ | 読人知らず | 二 | 夏 |
113 | いつ方になきてゆくらむ郭公よとのわたりのまたよふかきに いつかたに なきてゆくらむ ほとときす よとのわたりの またよふかきに | 壬生忠見 | 二 | 夏 |
114 | しけることまこものおふるよとのにはつゆのやとりを人そかりける しけること まこものおふる よとのには つゆのやとりを ひとそかりける | 壬生忠見 | 二 | 夏 |
115 | かの方にはやこきよせよ郭公道になきつと人にかたらん かのかたに はやこきよせよ ほとときす みちになきつと ひとにかたらむ | 紀貫之 | 二 | 夏 |
116 | 郭公をちかへりなけうなゐこかうちたれかみのさみたれのそら ほとときす をちかへりなけ うなゐこか うちたれかみの さみたれのそら | 凡河内躬恒 | 二 | 夏 |
117 | なけやなけたか田の山の郭公このさみたれにこゑなをしみそ なけやなけ たかたのやまの ほとときす このさみたれに こゑなをしみそ | 読人知らず | 二 | 夏 |
118 | さみたれはいこそねられね郭公夜ふかくなかむこゑをまつとて さみたれは いこそねられね ほとときす よふかくなかむ こゑをまつとて | 読人知らず | 二 | 夏 |
119 | うたて人おもはむものをほとときすよるしもなとかわかやとになく うたてひと おもはむものを ほとときす よるしもなとか わかやとになく | 読人知らず | 二 | 夏 |
120 | 郭公いたくななきそひとりゐていのねられぬにきけはくるしも ほとときす いたくななきそ ひとりゐて いのねられぬに きけはくるしも | 大伴坂上郎女 | 二 | 夏 |
121 | 夏の夜の心をしれるほとときすはやもなかなんあけもこそすれ なつのよの こころをしれる ほとときす はやもなかなむ あけもこそすれ | 中務 | 二 | 夏 |
122 | なつのよは浦島のこかはこなれやはかなくあけてくやしかるらん なつのよは うらしまのこか はこなれや はかなくあけて くやしかるらむ | 中務 | 二 | 夏 |
123 | なつくれは深草山の郭公なくこゑしけくなりまさるなり なつくれは ふかくさやまの ほとときす なくこゑしけく なりまさるなり | 読人知らず | 二 | 夏 |
124 | さ月やみくらはし山の郭公おほつかなくもなきわたるかな さつきやみ くらはしやまの ほとときす おほつかなくも なきわたるかな | 藤原実方朝臣 | 二 | 夏 |
125 | 郭公なくやさ月のみしかよもひとりしぬれはあかしかねつも ほとときす なくやさつきの みしかよも ひとりしぬれは あかしかねつも | 読人知らず | 二 | 夏 |
126 | ほとときす松につけてやともしする人も山へによをあかすらん ほとときす まつにつけてや ともしする ひともやまへに よをあかすらむ | 源順 | 二 | 夏 |
127 | さ月山このしたやみにともす火はしかのたちとのしるへなりけり さつきやま このしたやみに ともすひは しかのたちとの しるへなりけり | 紀貫之 | 二 | 夏 |
128 | あやしくもしかのたちとの見えぬかなをくらの山に我やきぬらん あやしくも しかのたちとの みえぬかな をくらのやまに われやきぬらむ | 平兼盛 | 二 | 夏 |
129 | ゆくすゑはまたとほけれと夏山のこのしたかけそたちうかりける ゆくすゑは またとほけれと なつやまの このしたかけそ たちうかりける | 凡河内躬恒 | 二 | 夏 |
130 | 夏山の影をしけみやたまほこの道行く人も立ちとまるらん なつやまの かけをしけみや たまほこの みちゆくひとも たちとまるらむ | 紀貫之 | 二 | 夏 |
131 | 松影のいはゐの水をむすひあけて夏なきとしと思ひけるかな まつかけの いはゐのみつを むすひあけて なつなきとしと おもひけるかな | 恵慶法師 | 二 | 夏 |
132 | いつこにもさきはすらめとわかやとの山となてしこたれに見せまし いつこにも さきはすらめと わかやとの やまとなてしこ たれにみせまし | 伊勢 | 二 | 夏 |
133 | そこきよみなかるる河のさやかにもはらふることを神はきかなん そこきよみ なかるるかはの さやかにも はらふることを かみはきかなむ | 読人知らず | 二 | 夏 |
134 | さはへなすあらふる神もおしなへてけふはなこしの祓なりけり さはへなす あらふるかみも おしなへて けふはなこしの はらへなりけり | 藤原長能 | 二 | 夏 |
135 | もみちせはあかくなりなんをくら山秋まつほとのなにこそありけれ もみちせは あかくなりなむ をくらやま あきまつほとの なにこそありけれ | 読人知らず | 二 | 夏 |
136 | おほあらきのもりのした草しけりあひて深くも夏のなりにけるかな おほあらきの もりのしたくさ しけりあひて ふかくもなつの なりにけるかな | 壬生忠岑 | 二 | 夏 |
137 | 夏衣またひとへなるうたたねに心してふけ秋のはつ風 なつころも またひとへなる うたたねに こころしてふけ あきのはつかせ | 安法法師 | 二 | 夏 |
138 | 秋はきぬ竜田の山も見てしかなしくれぬさきに色やかはると あきはきぬ たつたのやまも みてしかな しくれぬさきに いろやかはると | 読人知らず | 三 | 秋 |
139 | 荻の葉のそよくねとこそ秋風の人にしらるる始なりけれ をきのはの そよくおとこそ あきかせの ひとにしらるる はしめなりけれ | 紀貫之 | 三 | 秋 |
140 | やへむくらしけれるやとのさひしきに人こそ見えね秋はきにけり やへむくら しけれるやとの さひしきに ひとこそみえね あきはきにけり #百人一首 | 恵慶法師 | 三 | 秋 |
141 | 秋立ちていく日もあらねとこのねぬるあさけの風はたもとすすしも あきたちて いくかもあらねと このねぬる あさけのかせは たもとすすしも | 安貴玉 | 三 | 秋 |
142 | ひこほしのつままつよひの秋思に我さへあやな人そこひしき ひこほしの つままつよひの あきかせに われさへあやな ひとそこひしき | 凡河内躬恒 | 三 | 秋 |
143 | 秋風に夜のふけゆけはあまの河かはせに浪のたちゐこそまて あきかせに よのふけゆけは あまのかは かはせになみの たちゐこそまて | 紀貫之 | 三 | 秋 |
144 | あまの河とほき渡にあらねとも君かふなては年にこそまて あまのかは とほきわたりに あらねとも きみかふなては としにこそまて | 柿本人麻呂(人麿) | 三 | 秋 |
145 | 天の河こその渡のうつろへはあさせふむまに夜そふけにける あまのかは こそのわたりの うつろへは あさせふむまに よそふけにける | 柿本人麻呂(人麿) | 三 | 秋 |
146 | さ夜ふけてあまの河をそいてて見る思ふさまなる雲や渡ると さよふけて あまのかはをそ いててみる おもふさまなる くもやわたると | 読人知らず | 三 | 秋 |
147 | ひこほしの思ひますらん事よりも見る我くるしよのふけゆけは ひこほしの おもひますらむ ことよりも みるわれくるし よのふけゆけは | 湯原玉 | 三 | 秋 |
148 | 年に有りてひとよいもにあふひこほしも我にまさりて思ふらんやそ としにありて ひとよいもにあふ ひこほしも われにまさりて おもふらむやそ | 柿本人麻呂(人麿) | 三 | 秋 |
149 | たなはたにぬきてかしつる唐衣いとと涙に袖やぬるらん たなはたに ぬきてかしつる からころも いととなみたに そてやぬるらむ | 紀貫之 | 三 | 秋 |
150 | ひととせにひとよとおもへとたなはたのあひ見む秋の限なきかな ひととせに ひとよとおもへと たなはたの あひみむあきの かきりなきかな | 紀貫之 | 三 | 秋 |
151 | いたつらにすくる月日をたなはたのあふよのかすと思はましかは いたつらに すくるつきひを たなはたの あふよのかすと おもはましかは | 恵慶法師 | 三 | 秋 |
152 | いととしくいもねさるらんと思ふかなけふのこよひにあへるたなはた いととしく いもねさるらむと おもふかな けふのこよひに あへるたなはた | 清原元輔 | 三 | 秋 |
153 | あひ見てもあはてもなけくたなはたはいつか心ののとけかるへき あひみても あはてもなけく たなはたは いつかこころの のとけかるへき | 読人知らず | 三 | 秋 |
154 | わかいのる事はひとつそ天の河そらにしりてもたかへさらなん わかいのる ことはひとつそ あまのかは そらにしりても たかへさらなむ | 読人知らず | 三 | 秋 |
155 | 君こすは誰に見せましわかやとのかきねにさける槿の花 きみこすは たれにみせまし わかやとの かきねにさける あさかほのはな | 読人知らず | 三 | 秋 |
156 | 女郎花おほかるのへに花すすきいつれをさしてまねくなるらん をみなへし おほかるのへに はなすすき いつれをさして まねくなるらむ | 読人知らず | 三 | 秋 |
157 | 手もたゆくうゑしもしるく女郎花色ゆゑ君かやとりぬるかな てもたゆく うゑしもしるく をみなへし いろゆゑきみか やとりぬるかな | 読人知らず | 三 | 秋 |
158 | くちなしの色をそたのむ女郎花はなにめてつと人にかたるな くちなしの いろをそたのむ をみなへし はなにめてつと ひとにかたるな | 小野宮太政大臣 | 三 | 秋 |
159 | 女郎花にほふあたりにむつるれはあやなくつゆや心おくらん をみなへし にほふあたりに むつるれは あやなくつゆや こころおくらむ | 大中臣能宣 | 三 | 秋 |
160 | 白露のおくつまにする女郎花あなわつらはし人なてふれそ しらつゆの おくつまにする をみなへし あなわつらはし ひとなてふれそ | 読人知らず | 三 | 秋 |
161 | 日くらしに見れともあかぬをみなへしのへにやこよひたひねしなまし ひくらしに みれともあかぬ をみなへし のへにやこよひ たひねしなまし | 藤原長能 | 三 | 秋 |
162 | 荻の葉もややうちそよくほとなるをなとかりかねのおとなかるらん をきのはも ややうちそよく ほとなるを なとかりかねの おとなかるらむ | 恵慶法師 | 三 | 秋 |
163 | かりにとてくへかりけりや秋の野の花見るほとに日もくれぬへし かりにとて くへかりけりや あきののの はなみるほとに ひもくれぬへし | 読人知らず | 三 | 秋 |
164 | 秋の野の花のなたてに女郎花かりにのみこむ人にをらるな あきののの はなのなたてに をみなへし かりにのみこむ ひとにをらるな | 読人知らず | 三 | 秋 |
165 | かりにとて我はきつれとをみなへし見るに心そ思ひつきぬる かりにとて われはきつれと をみなへし みるにこころそ おもひつきぬる | 紀貫之 | 三 | 秋 |
166 | かりにのみ人の見ゆれはをみなへし花のたもとそつゆけかりける かりにのみ ひとのみゆれは をみなへし はなのたもとそ つゆけかりける | 紀貫之 | 三 | 秋 |
167 | 栽ゑたてて君かしめゆふ花なれは玉と見えてやつゆもおくらん うゑたてて きみかしめゆふ はななれは たまとみえてや つゆもおくらむ | 伊勢 | 三 | 秋 |
168 | こてすくす秋はなけれとはつかりのきくたひことにめつらしきかな こてすくす あきはなけれと はつかりの きくたひことに めつらしきかな | 読人知らず | 三 | 秋 |
169 | 相坂の関のいはかとふみならし山たちいつるきりはらのこま あふさかの せきのいはかと ふみならし やまたちいつる きりはらのこま | 大弐高遠 | 三 | 秋 |
170 | あふさかの関のし水に影見えて今やひくらんもち月のこま あふさかの せきのしみつに かけみえて いまやひくらむ もちつきのこま | 紀貫之 | 三 | 秋 |
171 | 水のおもにてる月浪をかそふれはこよひそ秋のもなかなりける みつのおもに てるつきなみを かそふれは こよひそあきの もなかなりける | 源順 | 三 | 秋 |
172 | 秋の月浪のそこにそいてにけるまつらん山のかひやなからん あきのつき なみのそこにそ いてにける まつらむやまの かひやなからむ | 大中臣能宣 | 三 | 秋 |
173 | あきの月西にあるかと見えつるはふけゆくよはの影にそ有りける あきのつき にしにあるかと みえつるは ふけゆくよはの かけにそありける | 源景明 | 三 | 秋 |
174 | あかすのみおもほえむをはいかかせんかくこそは見め秋のよの月 あかすのみ おもほえむをは いかかせむ かくこそはみめ あきのよのつき | 清原元輔 | 三 | 秋 |
175 | ここにたにひかりさやけき秋の月雲のうへこそ思ひやらるれ ここにたに ひかりさやけき あきのつき くものうへこそ おもひやらるれ | 藤原経臣 | 三 | 秋 |
176 | いつこにか今夜の月の見えさらんあかぬは人の心なりけり いつこにか こよひのつきの みえさらむ あかぬはひとの こころなりけり | 凡河内躬恒 | 三 | 秋 |
177 | 終夜見てをあかさむ秋の月こよひのそらにくもなからなん よもすから みてをあかさむ あきのつき こよひのそらに くもなからなむ | 平兼盛 | 三 | 秋 |
178 | おほつかないつこなるらん虫のねをたつねは草の露やみたれん おほつかな いつこなるらむ むしのねを たつねはくさの つゆやみたれむ | 藤原為頼 | 三 | 秋 |
179 | いつこにも草の枕をすすむしはここをたひとも思はさらなん いつこにも くさのまくらを すすむしは ここをたひとも おもはさらなむ | 伊勢 | 三 | 秋 |
180 | 秋くれははたおる虫のあるなへに唐錦にも見ゆるのへかな あきくれは はたおるむしの あるなへに からにしきにも みゆるのへかな | 紀貫之 | 三 | 秋 |
181 | 契りけん程や過きぬる秋ののに人松虫の声のたえせぬ ちきりけむ ほとやすきぬる あきののに ひとまつむしの こゑのたえせぬ | 読人知らず | 三 | 秋 |
182 | 露けくてわか衣手はぬれぬとも折りてをゆかん秋はきの花 つゆけくて わかころもては ぬれぬとも をりてをゆかむ あきはきのはな | 凡河内躬恒 | 三 | 秋 |
183 | うつろはむ事たに惜しき秋萩ををれぬはかりもおける露かな うつろはむ ことたにをしき あきはきを をれぬはかりも おけるつゆかな | 伊勢 | 三 | 秋 |
184 | わかやとの菊の白露けふことにいく世つもりて淵となるらん わかやとの きくのしらつゆ けふことに いくよつもりて ふちとなるらむ | 清原元輔 | 三 | 秋 |
185 | 長月のここぬかことにつむ菊の花もかひなくおいにけるかな なかつきの ここぬかことに つむきくの はなもかひなく おいにけるかな | 凡河内躬恒 | 三 | 秋 |
186 | 千鳥なくさほの河きり立ちぬらし山のこのはも色かはり行く ちとりなく さほのかはきり たちぬらし やまのこのはも いろかはりゆく | 壬生忠岑 | 三 | 秋 |
187 | 風さむみわかから衣うつ時そ萩のしたはもいろまさりける かせさむみ わかからころも うつときそ はきのしたはも いろまさりける | 紀貫之 | 三 | 秋 |
188 | 神なひのみむろの山をけふみれはした草かけて色つきにけり かみなひの みむろのやまを けふみれは したくさかけて いろつきにけり | 曾禰好忠 | 三 | 秋 |
189 | 紅葉せぬときはの山は吹く風のおとにや秋をききわたるらん もみちせぬ ときはのやまは ふくかせの おとにやあきを ききわたるらむ | 大中臣能宣 | 三 | 秋 |
190 | もみちせぬときはの山にすむしかはおのれなきてや秋をしるらん もみちせぬ ときはのやまに すむしかは おのれなきてや あきをしるらむ | 大中臣能宣 | 三 | 秋 |
191 | 秋風の打吹くことに高砂のをのへのしかのなかぬ日そなき あきかせの うちふくことに たかさこの をのへのしかの なかぬひそなき | 読人知らず | 三 | 秋 |
192 | あきかせをそむくものから花すすきゆく方をなとまねくなるらん あきかせを そむくものから はなすすき ゆくかたをなと まねくなるらむ | 読人知らず | 三 | 秋 |
193 | もみち見にやとれる我としらねはやさほの河きりたちかくすらん もみちみに やとれるわれと しらねはや さほのかはきり たちかくすらむ | 恵慶法師 | 三 | 秋 |
194 | もみちはの色をしそへてなかるれはあさくも見えす山河の水 もみちはの いろをしそへて なかるれは あさくもみえす やまかはのみつ | 読人知らず | 三 | 秋 |
195 | もみち葉をけふは猶見むくれぬともをくらの山の名にはさはらし もみちはを けふはなほみむ くれぬとも をくらのやまの なにはさはらし | 大中臣能宣 | 三 | 秋 |
196 | 秋きりのたたまくをしき山ちかなもみちの錦おりつもりつつ あききりの たたまくをしき やまちかな もみちのにしき おりつもりつつ | 読人しらす | 三 | 秋 |
197 | 水のあやに紅葉の鏡かさねつつ河せに浪のたたぬ日そなき みつのあやに もみちのにしき かさねつつ かはせになみの たたぬひそなき | 健守法師 | 三 | 秋 |
198 | 名をきけは昔なからの山なれとしくるる秋は色まさりけり なをきけは むかしなからの やまなれと しくるるあきは いろまさりけり | 源順 | 三 | 秋 |
199 | 昨日よりけふはまされるもみちはのあすの色をは見てややみなん きのふより けふはまされる もみちはの あすのいろをは みてややみなむ | 恵慶法師 | 三 | 秋 |
200 | もみち葉を手ことにをりてかへりなん風の心もうしろめたきに もみちはを てことにをりて かへりなむ かせのこころも うしろめたきに | 源延光朝臣 | 三 | 秋 |
201 | 枝なから見てをかへらんもみちははをらんほとにもちりもこそすれ えたなから みてをかへらむ もみちはは をらむほとにも ちりもこそすれ | 源兼光 | 三 | 秋 |
202 | 河霧のふもとをこめて立ちぬれはそらにそ秋の山は見えける かはきりの ふもとをこめて たちぬれは そらにそあきの やまはみえける | 深養父 | 三 | 秋 |
203 | 水うみに秋の山へをうつしてははたはりひろき錦とそ見る みつうみに あきのやまへを うつしては はたはりひろき にしきとそみる | 法橋観教 | 三 | 秋 |
204 | 今よりは紅葉のもとにやとりせしをしむに旅の日かすへぬへし いまよりは もみちのもとに やとりせし をしむにたひの ひかすへぬへし | 恵慶法師 | 三 | 秋 |
205 | とふ人も今はあらしの山かせに人松虫のこゑそかなしき とふひとも いまはあらしの やまかせに ひとまつむしの こゑそかなしき | 読人知らず | 三 | 秋 |
206 | ちりぬへき山の紅葉を秋きりのやすくも見せす立ちかくすらん ちりぬへき やまのもみちを あききりの やすくもみせす たちかくすらむ | 紀貫之 | 三 | 秋 |
207 | 秋山のあらしのこゑをきく時はこのはならねと物そかなしき あきやまの あらしのこゑを きくときは このはならねと ものそかなしき | 僧正遍昭 | 三 | 秋 |
208 | あきの夜に雨ときこえてふる物は風にしたかふ紅葉なりけり あきのよに あめときこえて ふるものは かせにしたかふ もみちなりけり | 紀貫之 | 三 | 秋 |
209 | 心もてちらんたにこそをしからめなとか紅葉に風の吹くらん こころもて ちらむたにこそ をしからめ なとかもみちに かせのふくらむ | 紀貫之 | 三 | 秋 |
210 | あさまたき嵐の山のさむけれは紅葉の錦きぬ人そなき あさまたき あらしのやまの さむけれは もみちのにしき きぬひとそなき | 右衛門督公任 | 三 | 秋 |
211 | 秋きりの峯にもをにもたつ山はもみちの錦たまらさりけり あききりの みねにもをにも たつやまは もみちのにしき たまらさりけり | 大中臣能宣 | 三 | 秋 |
212 | いろいろのこのはなかるる大井河しもは桂のもみちとや見ん いろいろの このはなかるる おほゐかは しもはかつらの もみちとやみむ | 壬生忠岑 | 三 | 秋 |
213 | まねくとて立ちもとまらぬ秋ゆゑにあはれかたよる花すすきかな まねくとて たちもとまらぬ あきゆゑに あはれかたよる はなすすきかな | 曾禰好忠 | 三 | 秋 |
214 | くれてゆく秋のかたみにおく物はわかもとゆひのしもにそ有りける くれてゆく あきのかたみに おくものは わかもとゆひの しもにそありける | 平兼盛 | 三 | 秋 |
215 | あしひきの山かきくもりしくるれと紅葉はいととてりまさりけり あしひきの やまかきくもり しくるれと もみちはいとと てりまさりけり | 紀貫之 | 四 | 冬 |
216 | 綱代木にかけつつ洗ふ唐錦日をへてよする紅葉なりけり あしろきに かけつつあらふ からにしき ひをへてよする もみちなりけり | 読人知らず | 四 | 冬 |
217 | かきくらししくるるそらをなかめつつ思ひこそやれ神なひのもり かきくらし しくるるそらを なかめつつ おもひこそやれ かみなひのもり | 紀貫之 | 四 | 冬 |
218 | 神な月時雨しぬらしくすのはのうらこかるねに鹿もなくなり かみなつき しくれしぬらし くすのはの うちこかるねに しかもなくなり | 読人知らず | 四 | 冬 |
219 | 竜田河もみち葉なかる神なひのみむろの山に時雨ふるらし たつたかは もみちはなかる かみなひの みむろのやまに しくれふるらし | 柿本人麻呂(人麿) | 四 | 冬 |
220 | 唐錦枝にひとむらのこれるは秋のかたみをたたぬなりけり からにしき えたにひとむら のこれるは あきのかたみを たたぬなりけり | 僧正遍昭 | 四 | 冬 |
221 | 流れくるもみち葉見れはからにしき滝のいともておれるなりけり なかれくる もみちはみれは からにしき たきのいともて おれるなりけり | 紀貫之 | 四 | 冬 |
222 | 時雨ゆゑかつくたもとをよそ人はもみちをはらふ袖かとや見ん しくれゆゑ かつくたもとを よそひとは もみちをはらふ そてかとやみむ | 平兼盛 | 四 | 冬 |
223 | あしのはにかくれてすみしつのくにのこやもあらはに冬はきにけり あしのはに かくれてすみし つのくにの こやもあらはに ふゆはきにけり | 源重之 | 四 | 冬 |
224 | 思ひかねいもかりゆけは冬の夜の河風さむみちとりなくなり おもひかね いもかりゆけは ふゆのよの かはかせさむみ ちとりなくなり | 紀貫之 | 四 | 冬 |
225 | ひねもすに見れともあかぬもみちははいかなる山の嵐なるらん ひねもすに みれともあかぬ もみちはは いかなるやまの あらしなるらむ | 読人知らず | 四 | 冬 |
226 | 夜をさむみねさめてきけはをしとりの浦山しくもみなるなるかな よをさむみ ねさめてきけは をしとりの うらやましくも みなるなるかな | 読人知らず | 四 | 冬 |
227 | 水鳥のしたやすからぬ思ひにはあたりの水もこほらさりけり みつとりの したやすからぬ おもひには あたりのみつも こほらさりけり | 読人知らず | 四 | 冬 |
228 | 夜をさむみねさめてきけはをしそなく払ひもあへす霜やおくらん よをさむみ ねさめてきけは をしそなく はらひもあへす しもやおくらむ | 読人知らず | 四 | 冬 |
229 | 霜のうへにふるはつゆきのあさ氷とけすも物を思ふころかな しものうへに ふるはつゆきの あさこほり とけすもものを おもふころかな | 読人知らず | 四 | 冬 |
230 | しもおかぬ袖たにさゆる冬の夜にかものうはけを思ひこそやれ しもおかぬ そてたにさゆる ふゆのよに かものうはけを おもひこそやれ | 右衛門督公任 | 四 | 冬 |
231 | 池水や氷とくらむあしかもの夜ふかくこゑのさわくなるかな いけみつや こほりとくらむ あしかもの よふかくこゑの さわくなるかな | たちはなのゆきより | 四 | 冬 |
232 | とひかよふをしのはかせのさむけれは池の氷そさえまさりける とひかよふ をしのはかせの さむけれは いけのこほりそ さえまさりける | 紀友則 | 四 | 冬 |
233 | 水のうへに思ひしものを冬の夜の氷は袖の物にそ有りける みつのうへに おもひしものを ふゆのよの こほりはそての ものにそありける | 読人知らず | 四 | 冬 |
234 | ふしつけしよとの渡をけさ見れはとけんこもなく氷しにけり ふしつけし よとのわたりを けさみれは とけむこもなく こほりしにけり | 平兼盛 | 四 | 冬 |
235 | 冬さむみこほらぬ水はなけれとも吉野のたきはたゆるよもなし ふゆさむみ こほらぬみつは なけれとも よしののたきは たゆるよもなし | 読人知らず | 四 | 冬 |
236 | ふゆされは嵐のこゑもたかさこの松につけてそきくへかりける ふゆされは あらしのこゑも たかさこの まつにつけてそ きくへかりける | 大中臣能宣 | 四 | 冬 |
237 | 高砂の松にすむつる冬くれはをのへの霜やおきまさるらん たかさこの まつにすむつる ふゆくれは をのへのしもや おきまさるらむ | 清原元輔 | 四 | 冬 |
238 | ゆふされはさほのかはらの河きりに友まとはせる千鳥なくなり ゆふされは さほのかはらの かはきりに ともまとはせる ちとりなくなり | 紀友則 | 四 | 冬 |
239 | 浦ちかくふりくる雪はしら浪の末の松山こすかとそ見る うらちかく ふりくるゆきは しらなみの すゑのまつやま こすかとそみる | 柿本人麻呂(人麿) | 四 | 冬 |
240 | 冬の夜の池の氷のさやけきは月の光のみかくなりけり ふゆのよの いけのこほりの さやけきは つきのひかりの みかくなりけり | 清原元輔 | 四 | 冬 |
241 | ふゆの池のうへは氷にとちられていかてか月のそこに入るらん ふゆのいけの うへはこほりに とちられて いかてかつきの そこにいるらむ | 読人知らず | 四 | 冬 |
242 | あまの原そらさへさえや渡るらん氷と見ゆる冬の夜の月 あまのはら そらさへさえや わたるらむ こほりとみゆる ふゆのよのつき | 恵慶法師 | 四 | 冬 |
243 | 宮こにてめつらしと見るはつ雪はよしのの山にふりやしぬらん みやこにて めつらしとみる はつゆきは よしののやまに ふりやしぬらむ | 源景明 | 四 | 冬 |
244 | ふるほともはかなく見ゆるあはゆきのうら山しくも打ちとくるかな ふるほとも はかなくみゆる あはゆきの うらやましくも うちとくるかな | 清原元輔 | 四 | 冬 |
245 | あしひきの山ゐにふれる白雪はすれる衣の心地こそすれ あしひきの やまゐにふれる しらゆきは すれるころもの ここちこそすれ | 伊勢 | 四 | 冬 |
246 | よるならは月とそ見ましわかやとの庭しろたへにふれるしらゆき よるならは つきとそみまし わかやとの にはしろたへに ふれるしらゆき | 紀貫之 | 四 | 冬 |
247 | わかやとの雪につけてそふるさとのよしのの山は思ひやらるる わかやとの ゆきにつけてそ ふるさとの よしののやまは おもひやらるる | 大中臣能宣 | 四 | 冬 |
248 | 我ひとりこしの山ちにこしかとも雪ふりにける跡を見るかな われひとり こしのやまちに こしかとも ゆきふりにける あとをみるかな | 藤原佐忠朝臣 | 四 | 冬 |
249 | 年ふれはこしのしら山おいにけりおほくの冬の雪つもりつつ としふれは こしのしらやま おいにけり おほくのふゆの ゆきつもりつつ | 壬生忠見 | 四 | 冬 |
250 | 見わたせは松のはしろきよしの山いくよつもれる雪にかあるらん みわたせは まつのはしろき よしのやま いくよつもれる ゆきにかあるらむ | 平兼盛 | 四 | 冬 |
251 | 山さとは雪ふりつみて道もなしけふこむ人をあはれとは見む やまさとは ゆきふりつみて みちもなし けふこむひとを あはれとはみむ | 平兼盛 | 四 | 冬 |
252 | あしひきの山ちもしらすしらかしの枝にもはにも雪のふれれは あしひきの やまちもしらす しらかしの えたにもはにも ゆきのふれれは | 柿本人麻呂(人麿) | 四 | 冬 |
253 | 白雪のふりしく時はみよしのの山した風に花そちりける しらゆきの ふりしくときは みよしのの やましたかせに はなそちりける | 紀貫之 | 四 | 冬 |
254 | 人しれす春をこそまてはらふへき人なきやとにふれるしらゆき ひとしれす はるをこそまて はらふへき ひとなきやとに ふれるしらゆき | 平兼盛 | 四 | 冬 |
255 | あたらしきはるさへちかくなりゆけはふりのみまさる年の雪かな あたらしき はるさへちかく なりゆけは ふりのみまさる としのゆきかな | 大中臣能宣 | 四 | 冬 |
256 | 梅かえにふりつむ雪はひととせにふたたひさける花かとそ見る うめかえに ふりつむゆきは ひととせに ふたたひさける はなかとそみる | 右衛門督公任 | 四 | 冬 |
257 | おきあかす霜とともにやけさはみな冬の夜ふかきつみもけぬらん おきあかす しもとともにや けさはみな ふゆのよふかき つみもけぬらむ | 大中臣能宣 | 四 | 冬 |
258 | 年の内につもれるつみはかきくらしふる白雪とともにきえなん としのうちに つもれるつみは かきくらし ふるしらゆきと ともにきえなむ | 紀貫之 | 四 | 冬 |
259 | 雪ふかき山ちになににかへるらん春まつ花のかけにとまらて ゆきふかき やまちになにに かへるらむ はるまつはなの かけにとまらて | 大中臣能宣 | 四 | 冬 |
260 | 人はいさをかしやすらん冬くれは年のみつもるゆきとこそ見れ ひとはいさ をかしやすらむ ふゆくれは としのみつもる ゆきとこそみれ | 平兼盛 | 四 | 冬 |
261 | かそふれはわか身につもる年月を送り迎ふとなにいそくらん かそふれは わかみにつもる としつきを おくりむかふと なにいそくらむ | 平兼盛 | 四 | 冬 |
262 | ゆきつもるおのか年をはしらすしてはるをはあすときくそうれしき ゆきつもる おのかとしをは しらすして はるをはあすと きくそうれしき | 源重之 | 四 | 冬 |
263 | よろつ世の始とけふをいのりおきて今行末は神そしるらん よろつよの はしめとけふを いのりおきて いまゆくすゑは かみそしるらむ | 中納言朝忠 | 五 | 賀 |
264 | ちはやふるひらのの松の枝しけみ千世もやちよも色はかはらし ちはやふる ひらののまつの えたしけみ ちよもやちよも いろはかはらし | 大中臣能宣 | 五 | 賀 |
265 | かまふののたまのを山にすむつるの千とせは君かみよのかすなり かまふのの たまのをやまに すむつるの ちとせはきみか みよのかすなり | 読人知らず | 五 | 賀 |
266 | あさまたききりふのをかにたつきしは千世の日つきの始なりけり あさまたき きりふのをかに たつきしは ちよのひつきの はしめなりけり | 清原元輔 | 五 | 賀 |
267 | ふたはよりたのもしきかなかすか山こたかき松のたねそとおもへは ふたはより たのもしきかな かすかやま こたかきまつの たねそとおもへは | 大中臣能宣 | 五 | 賀 |
268 | 君かへむやほよろつ世をかそふれはかつかつけふそなぬかなりける きみかへむ やほよろつよを かそふれは かつかつけふそ なぬかなりける | 大中臣能宣 | 五 | 賀 |
269 | ことしおひの松はなぬかになりにけりのこりの程を思ひこそやれ ことしおひの まつはなぬかに なりにけり のこりのほとを おもひこそやれ | 平兼盛 | 五 | 賀 |
270 | 千とせともかすはさためす世の中に限なき身と人もいふへく ちとせとも かすはさためす よのなかに かきりなきみと ひともいふへく | 大中臣能宣 | 五 | 賀 |
271 | 老いぬれはおなし事こそせられけれきみはちよませきみはちよませ おいぬれは おなしことこそ せられけれ きみはちよませ きみはちよませ | 源順 | 五 | 賀 |
272 | ゆひそむるはつもとゆひのこむらさき衣の色にうつれとそ思ふ ゆひそむる はつもとゆひの こむらさき ころものいろに うつれとそおもふ | 大中臣能宣 | 五 | 賀 |
273 | 山しなの山のいはねに松をうゑてときはかきはにいのりつるかな やましなの やまのいはねに まつをうゑて ときはかきはに いのりつるかな | 平兼盛 | 五 | 賀 |
274 | 声たかくみかさの山そよはふなるあめのしたこそたのしかるらし こゑたかく みかさのやまそ よはふなる あめのしたこそ たのしかるらし | 仲算法師 | 五 | 賀 |
275 | 色かへぬ松と竹とのすゑの世をいつれひさしと君のみそ見む いろかへぬ まつとたけとの すゑのよを いつれひさしと きみのみそみむ | 斎宮内侍 | 五 | 賀 |
276 | ひとふしに千世をこめたる杖なれはつくともつきし君かよはひは ひとふしに ちよをこめたる つゑなれは つくともつきし きみかよはひは | 大中臣頼基 | 五 | 賀 |
277 | 君か世をなににたとへんさされいしのいはほとならんほともあかねは きみかよを なににたとへむ さされいしの いはほとならむ ほともあかねは | 清原元輔 | 五 | 賀 |
278 | あをやきの緑の糸をくり返しいくらはかりのはるをへぬらん あをやきの みとりのいとを くりかへし いくらはかりの はるをへぬらむ | 清原元輔 | 五 | 賀 |
279 | わかやとにさけるさくらの花さかりちとせ見るともあかしとそ思ふ わかやとに さけるさくらの はなさかり ちとせみるとも あかしとそおもふ | 平兼盛 | 五 | 賀 |
280 | 君かためけふきる竹の杖なれはまたもつきせぬ世世そこもれる きみかため けふきるたけの つゑなれは またもつきせぬ よよそこもれる | 大中臣能宣 | 五 | 賀 |
281 | 位山峯まてつける杖なれと今よろつよのさかのためなり くらゐやま みねまてつける つゑなれと いまよろつよの さかのためなり | 大中臣能宣 | 五 | 賀 |
282 | 吹く風によその紅葉はちりくれと君かときはの影そのとけき ふくかせに よそのもみちは ちりくれと きみかときはの かけそのとけき | 小野好古朝臣 | 五 | 賀 |
283 | よろつ世も猶こそあかね君かため思ふ心のかきりなけれは よろつよも なほこそあかね きみかため おもふこころの かきりなけれは | 源公忠朝臣 | 五 | 賀 |
284 | おほそらにむれたるたつのさしなから思ふ心のありけなるかな おほそらに むれたるたつの さしなから おもふこころの ありけなるかな | 伊勢 | 五 | 賀 |
285 | 春の野のわかなならねときみかため年のかすをもつまんとそ思ふ はるののの わかなならねと きみかため としのかすをも つまむとそおもふ | 伊勢 | 五 | 賀 |
286 | さくら花今夜かさしにさしなからかくてちとせの春をこそへめ さくらはな こよひかさしに さしなから かくてちとせの はるをこそへめ | 九条右大臣 | 五 | 賀 |
287 | かつ見つつちとせの春をすくすともいつかは花の色にあくへき かつみつつ ちとせのはるを すくすとも いつかははなの いろにあくへき | 読人知らず | 五 | 賀 |
288 | みちとせになるてふもものことしより花さく春にあひにけるかな みちとせに なるてふももの ことしより はなさくはるに あひにけるかな | 凡河内躬恒 | 五 | 賀 |
289 | めつらしきちよのはしめの子の日にはまつけふをこそひくへかりけれ めつらしき ちよのはしめの ねのひには まつけふをこそ ひくへかりけれ | 藤原のふかた | 五 | 賀 |
290 | ゆくすゑも子の日の松のためしには君かちとせをひかむとそ思ふ ゆくすゑも ねのひのまつの ためしには きみかちとせを ひかむとそおもふ | 三条太政大臣 | 五 | 賀 |
291 | 松をのみときはと思ふに世とともになかす泉もみとりなりけり まつをのみ ときはとおもふに よとともに なかすいつみも みとりなりけり | 紀貫之 | 五 | 賀 |
292 | みな月のなこしのはらへする人は千とせのいのちのふといふなり みなつきの なこしのはらへ するひとは ちとせのいのち のふといふなり | 読人知らず | 五 | 賀 |
293 | みそきして思ふ事をそ祈りつるやほよろつよの神のまにまに みそきして おもふことをそ いのりつる やほよろつよの かみのまにまに | 参議伊衡 | 五 | 賀 |
294 | よろつ世にかはらぬ花の色なれはいつれの秋かきみか見さらん よろつよに かはらぬはなの いろなれは いつれのあきか きみかみさらむ | 小野宮太政大臣 | 五 | 賀 |
295 | ちとせとそ草むらことにきこゆなるこや松虫のこゑにはあるらん ちとせとそ くさむらことに きこゆなる こやまつむしの こゑにはあるらむ | 平兼盛 | 五 | 賀 |
296 | たか年のかすとかは見むゆきかへり千鳥なくなるはまのまさこを たかとしの かすとかはみむ ゆきかへり ちとりなくなる はまのまさこを | 紀貫之 | 五 | 賀 |
297 | おひそむるねよりそしるきふえ竹のすゑの世なかくならん物とは おひそむる ねよりそしるき ふえたけの すゑのよなかく ならむものとは | 大中臣能宣 | 五 | 賀 |
298 | 千とせともなにかいのらんうらにすむたつのうへをそ見るへかりける ちとせとも なにかいのらむ うらにすむ たつのうへをそ みるへかりける | 伊勢 | 五 | 賀 |
299 | きみか世はあまのは衣まれにきてなつともつきぬいはほならなん きみかよは あまのはころも まれにきて なつともつきぬ いはほならなむ | 読人知らず | 五 | 賀 |
300 | うこきなきいはほのはてもきみそ見むをとめのそてのなてつくすまて うこきなき いはほのはても きみそみむ をとめのそての なてつくすまて | 清原元輔 | 五 | 賀 |
301 | 春霞たつあか月を見るからに心そそらになりぬへらなる はるかすみ たつあかつきを みるからに こころそそらに なりぬへらなる | 読人知らず | 六 | 別 |
302 | さくら花つゆにぬれたるかほみれはなきて別れし人そこひしき さくらはな つゆにぬれたる かほみれは なきてわかれし ひとそこひしき | 読人知らず | 六 | 別 |
303 | ちる花は道見えぬまてうつまなんわかるる人もたちやとまると ちるはなは みちみえぬまて うつまなむ わかるるひとも たちやとまると | 読人知らず | 六 | 別 |
304 | かりかねの帰るをきけはわかれちは雲井はるかに思ふはかりそ かりかねの かへるをきけは わかれちは くもゐはるかに おもふはかりそ | 曾禰好忠 | 六 | 別 |
305 | 夏衣たちわかるへき今夜こそひとへにをしき思ひそひぬれ なつころも たちわかるへき こよひこそ ひとへにをしき おもひそひぬれ | 村上院御製 | 六 | 別 |
306 | わするなよわかれちにおふるくすのはの秋風ふかは今帰りこむ わするなよ わかれちにおふる くすのはの あきかせふかは いまかへりこむ | 読人知らず | 六 | 別 |
307 | 別てふ事は誰かは始めけんくるしき物としらすやありけん わかれてふ ことはたれかは はしめけむ くるしきものと しらすやありけむ | 読人知らず | 六 | 別 |
308 | 時しもあれ秋しも人のわかるれはいととたもとそつゆけかりける ときしもあれ あきしもひとの わかるれは いととたもとそ つゆけかりける | 読人知らず | 六 | 別 |
309 | 君か世を長月とたにおもはすはいかに別のかなしからまし きみかよを なかつきとたに おもはすは いかにわかれの かなしからまし | 村上院御製 | 六 | 別 |
310 | 露にたにあてしと思ひし人しもそ時雨ふるころたひにゆきける つゆにたに あてしとおもひし ひとしもそ しくれふるころ たひにゆきける | 壬生忠見 | 六 | 別 |
311 | わかれちをへたつる雲のためにこそ扇の風をやらまほしけれ わかれちを へたつるくもの ためにこそ あふきのかせを やらまほしけれ | 大中臣能宣 | 六 | 別 |
312 | 別れてはあはむあはしそ定なきこのゆふくれや限なるらん わかれては あはむあはしそ さためなき このゆふくれや かきりなるらむ | 読人知らず | 六 | 別 |
313 | わかれちはこひしき人のふみなれややらてのみこそ見まくほしけれ わかれちは こひしきひとの ふみなれや やらてのみこそ みまくほしけれ | 読人知らず | 六 | 別 |
314 | 別れゆくけふはまとひぬあふさかは帰りこむ日のなにこそ有りけれ わかれゆく けふはまとひぬ あふさかは かへりこむひの なにこそありけれ | 紀貫之 | 六 | 別 |
315 | ゆくすゑのいのちもしらぬ別ちはけふ相坂やかきりなるらん ゆくすゑの いのちもしらぬ わかれちは けふあふさかや かきりなるらむ | 大中臣能宣 | 六 | 別 |
316 | 惜むともなきものゆゑにしかすかの渡ときけはたたならぬかな をしむとも なきものゆゑに しかすかの わたりときけは たたならぬかな | 赤染衛門 | 六 | 別 |
317 | もろともにゆかぬみかはのやつはしはこひしとのみや思ひわたらん もろともに ゆかぬみかはの やつはしは こひしとのみや おもひわたらむ | 源のよしたねの妻 | 六 | 別 |
318 | 別ちはわたせるはしもなきものをいかてかつねにこひ渡るへき わかれちは わたせるはしも なきものを いかてかつねに こひわたるへき | 源順 | 六 | 別 |
319 | 月影はあかす見るともさらしなの山のふもとになかゐすな君 つきかけは あかすみるとも さらしなの やまのふもとに なかゐすなきみ | 紀貫之 | 六 | 別 |
320 | わかるれは心をのみそつくしくしさしてあふへきほとをしらねは わかるれは こころをのみそ つくしくし さしてあふへき ほとをしらねは | 村上院御製 | 六 | 別 |
321 | ゆく人をととめかたみのから衣たつよりそてのつゆけかるらん ゆくひとを ととめかたみの からころも たつよりそての つゆけかるらむ | 読人知らず | 六 | 別 |
322 | をしむともかたしやわかれ心なる涙をたにもえやはととむる をしむとも かたしやわかれ こころなる なみたをたにも えやはととむる | 御めのと少納言 | 六 | 別 |
323 | あつまちの草はをわけん人よりもおくるる袖そまつはつゆけき あつまちの くさはをわけむ ひとよりも おくるるそてそ まつはつゆけき | 女蔵人参河 | 六 | 別 |
324 | わかるれはまつ涙こそさきにたていかておくるる袖のぬるらん わかるれは まつなみたこそ さきにたて いかておくるる そてのぬるらむ | 読人知らず | 六 | 別 |
325 | わかるるををしとそ思ふつる木はの身をよりくたく心ちのみして わかるるを をしとそおもふ つるきはの みをよりくたく ここちのみして | 読人知らず | 六 | 別 |
326 | 旅人の露はらふへき唐衣またきも袖のぬれにけるかな たひひとの つゆはらふへき からころも またきもそての ぬれにけるかな | 三条太皇太后宮 | 六 | 別 |
327 | あまたにはぬひかさねねと唐衣思ふ心はちへにそありける あまたには ぬひかさねねと からころも おもふこころは ちへにそありける | 紀貫之 | 六 | 別 |
328 | とほくゆく人のためにはわかそての涙の玉もをしからなくに とほくゆく ひとのためには わかそての なみたのたまも をしからなくに | 紀貫之 | 六 | 別 |
329 | 惜むとてとまる事こそかたからめわか衣手をほしてたにゆけ をしむとて とまることこそ かたからめ わかころもてを ほしてたにゆけ | 読人知らず | 六 | 別 |
330 | 糸による物ならなくにわかれちは心ほそくもおもほゆるかな いとによる ものならなくに わかれちは こころほそくも おもほゆるかな | 紀貫之 | 六 | 別 |
331 | かめ山にいくくすりのみ有りけれはととむる方もなき別かな かめやまに いくくすりのみ ありけれは ととむるかたも なきわかれかな | 戒秀法師 | 六 | 別 |
332 | 思ふ人ある方へゆくわかれちを惜む心そかつはわりなき おもふひと あるかたへゆく わかれちを をしむこころそ かつはわりなき | 藤原清正 | 六 | 別 |
333 | いかはかり思ふらむとか思ふらんおいてわかるるとほきわかれを いかはかり おもふらむとか おもふらむ おいてわかるる とほきわかれを | 清原元輔 | 六 | 別 |
334 | 君はよし行末とほしとまる身のまつほといかかあらむとすらん きみはよし ゆくすゑとほし とまるみの まつほといかか あらむとすらむ | 源満中朝臣 | 六 | 別 |
335 | おくれゐてわかこひをれは白雲のたなひく山をけふやこゆらん おくれゐて わかこひをれは しらくもの たなひくやまを けふやこゆらむ | 読人知らず | 六 | 別 |
336 | 命をそいかならむとは思ひこしいきてわかるる世にこそ有りけれ いのちをそ いかならむとは おもひこし いきてわかるる よにこそありけれ | 右衛門 | 六 | 別 |
337 | 昔見しいきの松原事とははわすれぬ人も有りとこたへよ むかしみし いきのまつはら こととはは わすれぬひとも ありとこたへよ | 橘倚平 | 六 | 別 |
338 | たけくまの松を見つつやなくさめん君かちとせの影にならひて たけくまの まつをみつつや なくさめむ きみかちとせの かけにならひて | 藤原為順 | 六 | 別 |
339 | たよりあらはいかて宮こへつけやらむけふ白河の関はこえぬと たよりあらは いかてみやこへ つけやらむ けふしらかはの せきはこえぬと | 平兼盛 | 六 | 別 |
340 | あつまちのこのしたくらくなりゆかは宮この月をこひさらめやは あつまちの このしたくらく なりゆかは みやこのつきを こひさらめやは | 右衛門督公任 | 六 | 別 |
341 | たひゆかはそてこそぬるれもる山のしつくにのみはおほせさらなん たひゆかは そてこそぬるれ もるやまの しつくにのみは おほせさらなむ | 読人知らず | 六 | 別 |
342 | しほみてるほとにゆきかふ旅人やはまなのはしとなつけそめけん しほみてる ほとにゆきかふ たひひとや はまなのはしと なつけそめけむ | 平兼盛 | 六 | 別 |
343 | 雨によりたみののしまをわけゆけと名にはかくれぬ物にそ有りける あめにより たみののしまを わけゆけと なにはかくれぬ ものにそありける | 紀貫之 | 六 | 別 |
344 | 郭公ねくらなからのこゑきけは草の枕そつゆけかりける ほとときす ねくらなからの こゑきけは くさのまくらそ つゆけかりける | 伊勢 | 六 | 別 |
345 | 草枕我のみならすかりかねもたひのそらにそなき渡るなる くさまくら われのみならす かりかねも たひのそらにそ なきわたるなる | 大中臣能宣 | 六 | 別 |
346 | 君をのみこひつつたひの草枕つゆしけからぬあか月そなき きみをのみ こひつつたひの くさまくら つゆしけからぬ あかつきそなき | 読人知らず | 六 | 別 |
347 | はるかなるたひのそらにもおくれねはうら山しきは秋のよの月 はるかなる たひのそらにも おくれねは うらやましきは あきのよのつき | 平兼盛 | 六 | 別 |
348 | をみなへし我にやとかせいなみののいなといふともここをすきめや をみなへし われにやとかせ いなみのの いなといふとも ここをすきめや | 大中臣能宣 | 六 | 別 |
349 | ふなちには草の枕もむすはねはおきなからこそ夢も見えけれ ふなちには くさのまくらも むすはねは おきなからこそ ゆめもみえけれ | 源重之 | 六 | 別 |
350 | 思ひいてもなきふるさとの山なれとかくれゆくはたあはれなりけり おもひいても なきふるさとの やまなれと かくれゆくはた あはれなりけり | 弓削嘉言 | 六 | 別 |
351 | 君かすむやとのこすゑのゆくゆくとかくるるまてにかへりみしはや きみかすむ やとのこすゑの ゆくゆくと かくるるまてに かへりみしはや | 贈太政大臣 | 六 | 別 |
352 | 浪のうへに見えしこしまのしまかくれゆくそらもなしきみにわかれて なみのうへに みえしこしまの しまかくれ ゆくそらもなし きみにわかれて | かなをか | 六 | 別 |
353 | あまとふやかりのつかひにいつしかもならのみやこにことつてやらん あまとふや かりのつかひに いつしかも ならのみやこに ことつてやらむ | 柿本人麻呂(人麿) | 六 | 別 |
354 | うくひすのすつくる枝を折りつれはこうはいかてかうまむとすらん うくひすの すつくるえたを をりつれは こをはいかてか うまむとすらむ | 読人知らず | 七 | 物名 |
355 | 花の色をあらはにめてはあためきぬいさくらやみになりてかささむ はなのいろを あらはにめては あためきぬ いさくらやみに なりてかささむ | 読人知らず | 七 | 物名 |
356 | たひのいはやなきとこにもねられけり草の枕につゆはおけとも たひのいは やなきとこにも ねられけり くさのまくらに つゆはおけとも | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
357 | なくこゑはあまたすれとも鴬にまさるとりのはなくこそ有りけれ なくこゑは あまたすれとも うくひすに まさるとりのは なくこそありけれ | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
358 | わたつ海のおきなかにひのはなれいててもゆと見ゆるはあまのいさりか わたつうみの おきなかにひの はなれいてて もゆとみゆるは あまのいさりか | 伊勢 | 七 | 物名 |
359 | こき色かいつはたうすくうつろはむ花に心もつけさらんかも こきいろか いつはたうすく うつろはむ はなにこころも つけさらむかも | 読人知らず | 七 | 物名 |
360 | 紫の色にはさくなむさしのの草のゆかりと人もこそ見れ むらさきの いろにはさくな むさしのの くさのゆかりと ひともこそみれ | 藤原高光 | 七 | 物名 |
361 | うゑて見る君たにしらぬ花の名を我しもつけん事のあやしさ うゑてみる きみたにしらぬ はなのなを われしもつけむ ことのあやしさ | 読人知らず | 七 | 物名 |
362 | 河かみに今よりうたむあしろにはまつもみちはやよらむとすらん かはかみに いまよりうたむ あしろには まつもみちはや よらむとすらむ | 読人知らず | 七 | 物名 |
363 | あた人のまかきちかうな花うゑそにほひもあへす折りつくしけり あたひとの まかきちかうな はなうゑそ にほひもあへす をりつくしけり | 読人知らず | 七 | 物名 |
364 | わかやとの花の葉にのみぬるてふのいかなるあさかほかよりはくる わかやとの はなのはにのみ ぬるてふの いかなるあさか ほかよりはくる | 読人知らず | 七 | 物名 |
365 | 忘れにし人のさらにもこひしきかむけにこしとは思ふものから わすれにし ひとのさらにも こひしきか むけにこしとは おもふものから | 読人知らず | 七 | 物名 |
366 | 秋ののに花てふ花を折りつれはわひしらにこそ虫もなきけれ あきののに はなてふはなを をりつれは わひしらにこそ むしもなきけれ | 読人知らず | 七 | 物名 |
367 | 白露のかかるかやかてきえさらは草はそたまのくしけならまし しらつゆの かかるかやかて きえさらは くさはそたまの くしけならまし | 壬生忠岑 | 七 | 物名 |
368 | 山河はきのはなかれすあさきせをせけはふちとそ秋はなるらん やまかはは きのはなかれす あさきせを せけはふちとそ あきはなるらむ | 壬生忠岑 | 七 | 物名 |
369 | たきつせのなかにたまつむしらなみは流るる水ををにそぬきける たきつせの なかにたまつむ しらなみは なかるるみつを をにそぬきける | 壬生忠岑 | 七 | 物名 |
370 | 今こむといひて別れしあしたよりおもひくらしのねをのみそなく いまこむと いひてわかれし あしたより おもひくらしの ねをのみそなく | 壬生忠岑 | 七 | 物名 |
371 | そま人は宮木ひくらしあしひきの山の山ひこ声とよむなり そまひとは みやきひくらし あしひきの やまのやまひこ こゑとよむなり | 紀貫之 | 七 | 物名 |
372 | 松のねは秋のしらへにきこゆなりたかくせめあけて鳥そひくらし まつのねは あきのしらへに きこゆなり たかくせめあけて かせそひくらし | 紀貫之 | 七 | 物名 |
373 | あたなりとひともときくるのへしもそ花のあたりをすきかてにする あたなりと ひともときくる ものしもそ はなのあたりを すきかてにする | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
374 | 鴬のすはうこけともぬしもなし風にまかせていつちいぬらん うくひすの すはうこけとも ぬしもなし かせにまかせて いつちいぬらむ | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
375 | ふるみちに我やまとはむいにしへの野中の草はしけりあひにけり ふるみちに われやまとはむ いにしへの のなかのくさは しけりあひにけり | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
376 | すみよしのをかの松かささしつれは雨はふるともいなみのはきし すみよしの をかのまつかさ さしつれは あめはふるとも いなみのはきし | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
377 | 白浪のうちかくるすのかわかぬにわかたもとこそおとらさりけれ しらなみの うちかくるすの かわかぬに わかたもとこそ おとらさりけれ | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
378 | 水もなく舟もかよはぬこのしまにいかてかあまのなまめかるらん みつもなく ふねもかよはぬ このしまに いかてかあまの なまめかるらむ | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
379 | うゑていにし人もみなくに秋はきのたれ見よとかは花のさきけむ うゑていにし ひともみなくに あきはきの たれみよとかは はなのさきけむ | 在原元方 | 七 | 物名 |
380 | あしひきの山辺にをれは白雲のいかにせよとかはるる時なき あしひきの やまへにをれは しらくもの いかにせよとか はるるときなき | 紀貫之 | 七 | 物名 |
381 | つくしよりここまてくれとつともなしたちのをかはのはしのみそある つくしより ここまてくれと つともなし たちのをかはの はしのみそある | 在原業平朝臣 | 七 | 物名 |
382 | 身をすてて山に入りにし我なれはくまのくらはむこともおほえす みをすてて やまにいりにし われなれは くまのくらはむ こともおほえす | 読人知らず | 七 | 物名 |
383 | 鳥のこはまたひななからたちていぬかひの見ゆるはすもりなりけり とりのこは またひななから たちていぬ かひのみゆるは すもりなりけり | 読人知らず | 七 | 物名 |
384 | くきもはもみな緑なるふかせりはあらふねのみやしろく見ゆらん くきもはも みなみとりなる ふかせりは あらふねのみや しろくみゆらむ | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
385 | あたなりなとりのこほりにおりゐるはしたよりとくる事はしらぬか あたなりな とりのこほりに おりゐるは したよりとくる ことはしらぬか | 源重之 | 七 | 物名 |
386 | おほつかな雲のかよひち見てしかなとりのみゆけはあとはかもなし おほつかな くものかよひち みてしかな とりのみゆけは あとはかもなし | 平兼盛 | 七 | 物名 |
387 | あかすしてわかれし人のすむさとはさはこの見ゆる山のあなたか あかすして わかれしひとの すむさとは さはこのみゆる やまのあなたか | 読人知らず | 七 | 物名 |
388 | かかり火の所さためす見えつるは流れつつのみたけはなりけり かかりひの ところさためす みえつるは なかれつつのみ たけはなりけり | 紀輔時 | 七 | 物名 |
389 | 神なひのみむろのきしやくつるらん竜田の河の水のにこれる かみなひの みむろのきしや くつるらむ たつたのかはの みつのにこれる | 高向草春 | 七 | 物名 |
390 | いかりゐのいしをくくみてかみこしはきさのきにこそおとらさりけれ いかりゐの いしをくくみて かみこしは きさのきにこそ おとらさりけれ | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
391 | 五月雨にならぬ限は郭公なにかはなかむしのふはかりに さみたれに ならぬかきりは ほとときす なにかはなかむ しのふはかりに | 仙慶法師 | 七 | 物名 |
392 | 心さしふかき時にはそこのももかつきいてぬる物にそ有りける こころさし ふかきときには そこのもも かつきいてぬる ものにそありける | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
393 | おもかけにしはしは見ゆる君なれと恋しき事そ時そともなき おもかけに しはしはみゆる きみなれと こひしきことそ ときそともなき | 読人知らず | 七 | 物名 |
394 | いにしへはおこれりしかとわひぬれはとねりかきぬも今はきつへし いにしへは おこれりしかと わひぬれは とねりかきぬも いまはきつへし | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
395 | 池をはりこめたる水のおほかれはいひのくちよりあまるなるへし いけをはり こめたるみつの おほかれは いひのくちより あまるなるへし | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
396 | あしひきの山した水にぬれにけりその火まつたけ衣あふらん あしひきの やましたみつに ぬれにけり そのひまつたけ ころもあふらむ | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
397 | いとへともつらきかたみを見る時はまつたけからぬねこそなかるれ いとへとも つらきかたみを みるときは まつたけからぬ ねこそなかるれ | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
398 | 山たかみ花の色をも見るへきににくくたちぬる春かすみかな やまたかみ はなのいろをも みるへきに にくくたちぬる はるかすみかな | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
399 | 野を見れは春めきにけりあをつつらこにやくまましわかなつむへく のをみれは はるめきにけり あをつつら こにやくままし わかなつむへく | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
400 | いさりせしあまのをしへしいつくそやしまめくるとてありといひしは いさりせし あまのをしへし いつくそや しまめくるとて ありといひしは | 高岳相如 | 七 | 物名 |
401 | 河きしのをとりおるへき所あらはうきにしにせぬ身はなけてまし かはきしの をとりおるへき ところあらは うきにしにせぬ みはなけてまし | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
402 | もみちはに衣の色はしみにけり秋のやまからめくりこしまに もみちはに ころものいろは しみにけり あきのやまから めくりこしまに | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
403 | なにとかやくきのすかたはおもほえてあやしく花の名こそわするれ なにとかや くきのすかたは おもほえて あやしくはなの なこそわするれ | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
404 | わか心あやしくあたに春くれは花につく身となとてなりけん わかこころ あやしくあたに はるくれは はなにつくみと なとてなりけむ | 大伴黒主 | 七 | 物名 |
405 | さく花に思ひつくみのあちきなさ身にいたつきのいるもしらすて さくはなに おもひつくみの あちきなさ みにいたつきの いるもしらすて | 大伴黒主 | 七 | 物名 |
406 | なにはつはくらめにのみそ舟はつく朝の風のさためなけれは なにはつは くらめにのみそ ふねはつく あしたのかせの さためなけれは | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
407 | みよしのもわかなつむらんわきもこかひはらかすみて日かすへぬれは みよしのも わかなつむらむ わきもこか ひはらかすみて ひかすへぬれは | 清原元輔 | 七 | 物名 |
408 | あしきぬはさけからみてそ人はきるひろやたらぬと思ふなるへし あしきぬは さけからみてそ ひとはきる ひろやたらぬと おもふなるへし | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
409 | 雲まよひほしのあゆくと見えつるは蛍のそらにとふにそ有りける くもまよひ ほしのあゆくと みえつるは ほたるのそらに とふにそありける | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
410 | はしたかのをきゑにせんとかまへたるおしあゆかすなねすみとるへく はしたかの をきゑにせむと かまへたる おしあゆかすな ねすみとるへく | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
411 | わきもこか身をすてしよりさるさはの池のつつみやきみはこひしき わきもこか みをすてしより さるさはの いけのつつみや きみはこひしき | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
412 | この家はうるかいりても見てしかなあるしなからもかはんとそ思ふ このいへは うるかいりても みてしかな あるしなからも かはむとそおもふ | 源重之 | 七 | 物名 |
413 | あつまにてやしなはれたる人のこはしたたみてこそ物はいひけれ あつまにて やしなはれたる ひとのこは したたみてこそ ものはいひけれ | 読人知らず | 七 | 物名 |
414 | 春風のけさはやけれは鴬の花の衣もほころひにけり はるかせの けさはやけれは うくひすの はなのころもも ほころひにけり | 読人知らず | 七 | 物名 |
415 | 霞わけいまかり帰る物ならは秋くるまてはこひやわたらん かすみわけ いまかりかへる ものならは あきくるまては こひやわたらむ | 読人知らず | 七 | 物名 |
416 | 思ふとちところもかへすすみへなんたちはなれなはこひしかるへし おもふとち ところもかへす すみへなむ たちはなれなは こひしかるへし | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
417 | あしひきの山のこのはのおちくちはいろのをしきそあはれなりける あしひきの やまのこのはの おちくちは いろのをしきそ あはれなりける | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
418 | つのくにのなにはわたりにつくる田はあしかなへかとえこそ見わかね つのくにの なにはわたりに つくるたは あしかなへかと えこそみわかね | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
419 | たかかひのまたもこなくにつなきいぬのはなれていかむなくるまつほと たかかひの またもこなくに つなきいぬの はなれてゆかむ なくるまつほと | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
420 | ことそともききたにわかすわりなくも人のいかるかにけやしなまし ことそとも ききたにわかす わりなくも ひとのいかるか にけやしなまし | 凡河内躬恒 | 七 | 物名 |
421 | 年をへて君をのみこそねすみつれことはらにやはこをはうむへき としをへて きみをのみこそ ねすみつれ ことはらにやは こをはうむへき | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
422 | 久方のつきのきぬをはきたれともひかりはそはぬわか身なりけり ひさかたの つきのきぬをは きたれとも ひかりはそはぬ わかみなりけり | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
423 | 世とともにしほやくあまのたえせねはなきさのきのはこかれてそちる よとともに しほやくあまの たえせねは なきさのきのは こかれてそちる | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
424 | 鴬のなかむしろには我そなく花のにほひやしはしとまると うくひすの なかむしろには われそなく はなのにほひや しはしとまると | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
425 | そこへうのかは浪わけていりぬるかまつほとすきて見えすもあるかな そこへうの かはなみわけて いりぬるか まつほとすきて みえすもあるかな | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
426 | かのかはのむかはきすきてふかからはわたらてたたにかへるはかりそ かのかはの むかはきすきて ふかからは わたらてたたに かへるはかりそ | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
427 | かのえさる舟まてしはし事とはんおきのしらなみまたたたぬまに かのえさる ふねまてしはし こととはむ おきのしらなみ またたたぬまに | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
428 | さをしかの友まとはせる声すなりつまやこひしき秋の山へに さをしかの ともまとはせる こゑすなり つまやこひしき あきのやまへに | 恵慶法師 | 七 | 物名 |
429 | ひと夜ねてうしとらこそは思ひけめうきなたつみそわひしかりける ひとよねて うしとらこそは おもひけめ うきなたつみそ わひしかりける | 読人知らず | 七 | 物名 |
430 | むまれよりひつしつくれは山にさるひとりいぬるにひとゐていませ うまれより ひつしつくれは やまにさる ひとりいぬるに ひとゐていませ | 読人知らず | 七 | 物名 |
431 | 秋風のよもの山よりおのかししふくにちりぬるもみちかなしな あきかせの よものやまより おのかしし ふくにちりぬる もみちかなしな | 藤原輔相 | 七 | 物名 |
432 | 世にふるに物思ふとしもなけれとも月にいくたひなかめしつらん よにふるに ものおもふとしも なけれとも つきにいくたひ なかめしつらむ | 中務卿具平親王 | 八 | 雑上 |
433 | 思ふ事有りとはなしに久方の月よとなれはねられさりけり おもふこと ありとはなしに ひさかたの つきよとなれは ねられさりけり | 紀貫之 | 八 | 雑上 |
434 | なかむるに物思ふ事のなくさむは月はうき世の外よりやゆく なかむるに ものおもふことの なくさむは つきはうきよの ほかよりやゆく | 大江為基 | 八 | 雑上 |
435 | かくはかりへかたく見ゆる世の中にうら山しくもすめる月かな かくはかり へかたくみゆる よのなかに うらやましくも すめるつきかな | 藤原高光 | 八 | 雑上 |
436 | ありあけの月のひかりをまつほとにわか世のいたくふけにけるかな ありあけの つきのひかりを まつほとに わかよのいたく ふけにけるかな | 藤原仲文 | 八 | 雑上 |
437 | くもゐにてあひかたらはぬ月たにもわかやとすきてゆく時はなし くもゐにて あひかたらはぬ つきたにも わかやとすきて ゆくときはなし | 伊勢 | 八 | 雑上 |
438 | もち月のこまよりおそくいてつれはたとるたとるそ山はこえつる もちつきの こまよりおそく いてつれは たとるたとるそ やまはこえつる | 素性法師 | 八 | 雑上 |
439 | つねよりもてりまさるかな山のはの紅葉をわけていつる月影 つねよりも てりまさるかな やまのはの もみちをわけて いつるつきかけ | 紀貫之 | 八 | 雑上 |
440 | 久方のあまつそらなる月なれといつれの水に影やとるらん ひさかたの あまつそらなる つきなれと いつれのみつに かけやとるらむ | 凡河内躬恒 | 八 | 雑上 |
441 | みなそこにやとる月たにうかへるを沈むやなにのみくつなるらん みなそこに やとるつきたに うかへるを しつむやなにの みくつなるらむ | 左大将済時 | 八 | 雑上 |
442 | 水のおもに月の沈むを見さりせは我ひとりとや思ひはてまし みつのおもに つきのしつむを みさりせは われひとりとや おもひはてまし | 式部大輔文時 | 八 | 雑上 |
443 | 年ことにたえぬ渡やつもりつついととふかくは身をしつむらん としことに たえぬなみたや つもりつつ いととふかくは みをしつむらむ | 清原元輔 | 八 | 雑上 |
444 | ほともなく泉はかりに沈む身はいかなるつみのふかきなるらん ほともなく いつみはかりに しつむみは いかなるつみの ふかきなるらむ | 源順 | 八 | 雑上 |
445 | おとは河せきいれておとすたきつせに人の心の見えもするかな おとはかは せきいれておとす たきつせに ひとのこころの みえもするかな | 伊勢 | 八 | 雑上 |
446 | 君かくるやとにたえせぬたきのいとはへて見まほしき物にそ有りける きみかくる やとにたえせぬ たきのいと はへてみまほしき ものにそありける | 中務 | 八 | 雑上 |
447 | なかれくる滝のしらいとたえすしていくらの玉の緒とかなるらん なかれくる たきのしらいと たえすして いくらのたまの をとかなるらむ | 紀貫之 | 八 | 雑上 |
448 | 流れくるたきのいとこそよわからしぬけとみたれておつる白玉 なかれくる たきのいとこそ よわからし ぬけとみたれて おつるしらたま | 紀貫之 | 八 | 雑上 |
449 | たきの糸はたえてひさしく成りぬれと名こそ流れて猶きこえけれ たきのいとは たえてひさしく なりぬれと なこそなかれて なほきこえけれ | 右衛門督公任 | 八 | 雑上 |
450 | おほそらをなかめそくらす吹く風のおとはすれともめにも見えねは おほそらを なかめそくらす ふくかせの おとはすれとも めにもみえねは | 凡河内躬恒 | 八 | 雑上 |
451 | ことのねに峯の松風かよふらしいつれのをよりしらへそめけん ことのねに みねのまつかせ かよふらし いつれのをより しらへそめけむ | 承香殿女御 | 八 | 雑上 |
452 | 松風のおとにみたるることのねをひけは子の日の心地こそすれ まつかせの おとにみたるる ことのねを ひけはねのひの ここちこそすれ | 承香殿女御 | 八 | 雑上 |
453 | をのへなる松のこすゑは打ちなひき浪の声にそ風もふきける をのへなる まつのこすゑは うちなひき なみのこゑにそ かせもふきける | 壬生忠見 | 八 | 雑上 |
454 | 雨ふると吹く松風はきこゆれと池のみきははまさらさりけり あめふると ふくまつかせは きこゆれと いけのみきはは まさらさりけり | 紀貫之 | 八 | 雑上 |
455 | 大井河かはへの松に事とはむかかるみゆきやありし昔も おほゐかは かはへのまつに こととはむ かかるみゆきや ありしむかしも | 紀貫之 | 八 | 雑上 |
456 | おとにのみきき渡りつる住吉の松のちとせをけふ見つるかな おとにのみ ききわたりつる すみよしの まつのちとせを けふみつるかな | 紀貫之 | 八 | 雑上 |
457 | 海にのみひちたる松のふかみとりいくしほとかはしるへかるらん うみにのみ ひちたるまつの ふかみとり いくしほとかは しるへかるらむ | 伊勢 | 八 | 雑上 |
458 | わたつみの浪にもぬれぬうきしまの松に心をよせてたのまん わたつみの なみにもぬれぬ うきしまの まつにこころを よせてたのまむ | 大中臣能宣 | 八 | 雑上 |
459 | かこのしま松原こしになくたつのあななかなかしきく人なしに かこのしま まつはらこしに なくたつの あななかなかし きくひとなしに | 読人知らず | 八 | 雑上 |
460 | いかて猶わか身にかへてたけくまの松ともならむ行人のため いかてなほ わかみにかへて たけくまの まつともならむ ゆくひとのため | 大中臣能宣 | 八 | 雑上 |
461 | 行末のしるしはかりにのこるへき松さへいたくおいにけるかな ゆくすゑの しるしはかりに のこるへき まつさへいたく おいにけるかな | 源道済 | 八 | 雑上 |
462 | 世の中を住吉としもおもはぬになにをまつとてわか身へぬらん よのなかを すみよしとしも おもはぬに なにをまつとて わかみへぬらむ | 読人知らず | 八 | 雑上 |
463 | いたつらに世にふる物と高砂の松も我をや友と見るらん いたつらに よにふるものと たかさこの まつもわれをや ともとみるらむ | 紀貫之 | 八 | 雑上 |
464 | 世とともにあかしの浦の松原は浪をのみこそよるとしるらめ よとともに あかしのうらの まつはらは なみをのみこそ よるとしるらめ | 源為憲 | 八 | 雑上 |
465 | もかり舟今そなきさにきよすなるみきはのたつのこゑさわくなり もかりふね いまそなきさに きよすなる みきはのたつの こゑさわくなり | 読人知らず | 八 | 雑上 |
466 | うちしのひいさすみの江の忘草わすれて人のまたやつまぬと うちしのひ いさすみのえの わすれくさ わすれてひとの またやつまぬと | 読人知らず | 八 | 雑上 |
467 | あさほらけひくらしのこゑきこゆなりこやあけくれと人のいふらん あさほらけ ひくらしのこゑ きこゆなり こやあけくれと ひとのいふらむ | 左大将済時 | 八 | 雑上 |
468 | あしまより見ゆるなからのはしはしら昔のあとのしろへなりけり あしまより みゆるなからの はしはしら むかしのあとの しるへなりけり | 藤原清正 | 八 | 雑上 |
469 | けふまてと見るに涙のますかかみなれにし影を人にかたるな けふまてと みるになみたの ますかかみ なれにしかけを ひとにかたるな | 読人知らず | 八 | 雑上 |
470 | わするなよほとは雲ゐに成りぬともそら行く月の廻りあふまて わするなよ ほとはくもゐに なりぬとも そらゆくつきの めくりあふまて | 読人知らず | 八 | 雑上 |
471 | 年月は昔にあらす成りゆけとこひしきことはかはらさりけり としつきは むかしにあらす なりゆけと こひしきことは かはらさりけり | 紀貫之 | 八 | 雑上 |
472 | 昔わか折りし桂のかひもなし月の林のめしにいらねは むかしわか をりしかつらの かひもなし つきのはやしの めしにいらねは | 藤原後生 | 八 | 雑上 |
473 | 久方の月の桂もをるはかり家の風をもふかせてしかな ひさかたの つきのかつらも をるはかり いへのかせをも ふかせてしかな | 菅原道真母 | 八 | 雑上 |
474 | 月草に衣はすらんあさつゆにぬれてののちはうつろひぬとも つきくさに ころもはすらむ あさつゆに ぬれてののちは うつろひぬとも | 柿本人麻呂(人麿) | 八 | 雑上 |
475 | ちちわくに人はいふともおりてきむわかはた物にしろきあさきぬ ちちわくに ひとはいふとも おりてきむ わかはたものに しろきあさきぬ | 柿本人麻呂(人麿) | 八 | 雑上 |
476 | 久方のあめにはきぬをあやしくもわか衣手のひる時もなき ひさかたの あめにはきぬを あやしくも わかころもての ひるときもなき | 柿本人麻呂(人麿) | 八 | 雑上 |
477 | 白浪はたてと衣にかさならすあかしもすまもおのかうらうら しらなみは たてところもに かさならす あかしもすまも おのかうらうら | 柿本人麻呂(人麿) | 八 | 雑上 |
478 | ゆふされは衣手さむしわきもこかときあらひ衣行きてはやきむ ゆふされは ころもてさむし わきもこか ときあらひころも ゆきてはやきむ | 柿本人麻呂(人麿) | 八 | 雑上 |
479 | あまつほし道もやとりも有りなからそらにうきてもおもほゆるかな あまつほし みちもやとりも ありなから そらにうきても おもほゆるかな | 贈太政大臣 | 八 | 雑上 |
480 | なかれ木も三とせ有りてはあひ見てん世のうき事そかへらさりける なかれきも みとせありては あひみてむ よのうきことそ かへらさりける | 贈太政大臣 | 八 | 雑上 |
481 | うき世にはかとさせりとも見えなくになとかわか身のいてかてにする うきよには かとさせりとも みえなくに なとかわかみの いてかてにする | 平定文 | 八 | 雑上 |
482 | 木にもおひすはねもならへてなにしかも浪ちへたてて君をきくらん きにもおひす はねもならへて なにしかも なみちへたてて きみをきくらむ | 伊勢 | 八 | 雑上 |
483 | ささなみやあふみの宮は名のみして霞たなひき宮きもりなし ささなみや あふみのみやは なのみして かすみたなひき みやきもりなし | 柿本人麻呂(人麿) | 八 | 雑上 |
484 | 暁のねさめの千鳥たかためかさほのかはらにをちかへりなく あかつきの ねさめのちとり たかためか さほのかはらに をちかへりなく | 大中臣能宣 | 八 | 雑上 |
485 | あさからぬちきりむすへる心ははたむけの神そしるへかりける あさからぬ ちきりむすへる こころはは たむけのかみそ しるへかりける | 大中臣能宣 | 八 | 雑上 |
486 | みわの山しるしのすきは有りなからをしへし人はなくていくよそ みわのやま しるしのすきは ありなから をしへしひとは なくていくよそ | 清原元輔 | 八 | 雑上 |
487 | おきつしま雲井の岸を行きかへりふみかよはさむまはろしもかな おきつしま くもゐのきしを ゆきかへり ふみかよはさむ まほろしもかな | 肥前 | 八 | 雑上 |
488 | そらの海に雲の浪たち月の舟里の林にこきかくる見ゆ そらのうみに くものなみたち つきのふね ほしのはやしに こきかくるみゆ | 柿本人麻呂(人麿) | 八 | 雑上 |
489 | 河のせのうつまく見れは玉もかるちりみたれたるかはの舟かも かはのせの うつまくみれは たまもかる ちりみたれたる かはのふねかも | 柿本人麻呂(人麿) | 八 | 雑上 |
490 | なる神のおとにのみきくまきもくのひはらの山をけふ見つるかな なるかみの おとにのみきく まきもくの ひはらのやまを けふみつるかな | 柿本人麻呂(人麿) | 八 | 雑上 |
491 | いにしへに有りけむ人もわかことやみわのひはらにかさし折りけん いにしへに ありけむひとも わかことや みわのひはらに かさしをりけむ | 柿本人麻呂(人麿) | 八 | 雑上 |
492 | 人しれすこゆと思ふらしあしひきの山した水にかけは見えつつ ひとしれす こゆとおもふらし あしひきの やましたみつに かけはみえつつ | 紀貫之 | 八 | 雑上 |
493 | おふの海にふなのりすらんわきもこかあかものすそにしほみつらんか をふのうみに ふなのりすらむ わきもこか あかものすそに しほみつらむか | 柿本人麻呂(人麿) | 八 | 雑上 |
494 | 思ふ事なるといふなるすすか山こえてうれしきさかひとそきく おもふこと なるといふなる すすかやま こえてうれしき さかひとそきく | 村上院御製 | 八 | 雑上 |
495 | 世にふれは又もこえけりすすか山昔の今になるにやあるらん よにふれは またもこえけり すすかやま むかしのいまに なるにやあらむ | 承香殿女御 | 八 | 雑上 |
496 | あすかかはしからみわたしせかませはなかるる水ものとけからまし あすかかは しからみわたし せかませは なかるるみつも のとけからまし | 柿本人麻呂(人麿) | 八 | 雑上 |
497 | おくれゐてなくなるよりはあしたつのなとかよはひをゆつらさりけん おくれゐて なくなるよりは あしたつの なとかよはひを ゆつらさりけむ | 小野宮太政大臣 | 八 | 雑上 |
498 | 年をへてたちならしつるあしたつのいかなる方にあとととむらん としをへて たちならしつる あしたつの いかなるかたに あとととむらむ | 愛宮 | 八 | 雑上 |
499 | ゆくすゑの忍草にも有りやとてつゆのかたみもおかんとそ思ふ ゆくすゑの しのふくさにも ありやとて つゆのかたみも おかむとそおもふ | 清原元輔 | 八 | 雑上 |
500 | うゑて見る草葉そ世をはしらせけるおきてはきゆるけさの朝露 うゑてみる くさはそよをは しらせける おきてはきゆる けさのあさつゆ | 中務 | 八 | 雑上 |
501 | 露のいのちをしとにはあらす君を又見てやと思ふそかなしかりける つゆのいのち をしとにはあらす きみをまた みてやとおもふそ かなしかりける | 弓削嘉言 | 八 | 雑上 |
502 | をしからぬいのちやさらにのひぬらんをはりの煙しむるのへにて をしからぬ いのちやさらに のひぬらむ をはりのけふり しむるのへにて | 清原元輔 | 八 | 雑上 |
503 | 限なき涙のつゆにむすはれて人のしもとはなるにやあるらん かきりなき なみたのつゆに むすはれて ひとのしもとは なるにやあるらむ | 佐伯清忠 | 八 | 雑上 |
504 | うき世には行きかくれなてかきくもりふるは思ひのほかにもあるかな うきよには ゆきかくれなて かきくもり ふるはおもひの ほかにもあるかな | 清原元輔 | 八 | 雑上 |
505 | わひ人はうき世の中にいけらしと思ふ事さへかなはさりけり わひひとは うきよのなかに いけらしと おもふことさへ かなはさりけり | 源景明 | 八 | 雑上 |
506 | 世の中にあらぬ所もえてしかな年ふりにたるかたちかくさむ よのなかに あらぬところも えてしかな としふりにたる かたちかくさむ | 読人知らず | 八 | 雑上 |
507 | 世の中をかくいひいひのはてはてはいかにやいかにならむとすらん よのなかを かくいひいひの はてはては いかにやいかに ならむとすらむ | 読人知らず | 八 | 雑上 |
508 | いにしへのとらのたくひに身をなけはさかとはかりはとはむとそ思ふ いにしへの とらのたくひに みをなけは さかとはかりは とはむとそおもふ | 読人知らず | 八 | 雑上 |
509 | 春秋に思ひみたれてわきかねつ時につけつつうつる心は はるあきに おもひみたれて わきかねつ ときにつけつつ うつるこころは | 紀貫之 | 九 | 雑下 |
510 | おほかたの秋に心はよせしかと花見る時はいつれともなし おほかたの あきにこころは よせしかそ はなみるときは いつれともなし | 承香殿のとしこ | 九 | 雑下 |
511 | 春はたた花のひとへにさくはかり物のあはれは秋そまされる はるはたた はなのひとへに さくはかり もののあはれは あきそまされる | 読人知らず | 九 | 雑下 |
512 | 折からにいつれともなき鳥のねもいかかさためむ時ならぬ身は をりからに いつれともなき とりのねも いかかさためむ ときならぬみは | 大納言朝光 | 九 | 雑下 |
513 | 白露はうへよりおくをいかなれは萩のしたはのまつもみつらん しらつゆは うへよりおくを いかなれは はきのしたはの まつもみつらむ | 参譲伊衡 | 九 | 雑下 |
514 | さをしかのしからみふする秋萩はしたはやうへになりかへるらん さをしかの しからみふする あきはきは したはやうへに なりかへるらむ | 凡河内躬恒 | 九 | 雑下 |
515 | 秋はきはまつさすえよりうつろふをつゆのわくとは思はさらなむ あきはきは まつさすえより うつろふを つゆのわくとは おもはさらなむ | 壬生忠岑 | 九 | 雑下 |
516 | ちとせふる松のしたはのいろつくはたかしたかみにかけてかへすそ ちとせふる まつのしたはの いろつくは たかしたかみに かけてかへすそ | これひら | 九 | 雑下 |
517 | 松といへとちとせの秋にあひくれはしのひにおつるしたはなりけり まつといへと ちとせのあきに あひくれは しのひにおつる したはなりけり | 凡河内躬恒 | 九 | 雑下 |
518 | 白妙のしろき月をも紅の色をもなとかあかしといふらん しろたへの しろきつきをも くれなゐの いろをもなとか あかしといふらむ | これひら | 九 | 雑下 |
519 | 昔よりいひしきにける事なれは我らはいかか今はさためん むかしより いひしきにける ことなれは われらはいかか いまはさためむ | 凡河内躬恒 | 九 | 雑下 |
520 | かけ見れはひかりなきをも衣ぬふいとをもなとかよるといふらん かけみれは ひかりなきをも ころもぬふ いとをもなとか よるといふらむ | これひら | 九 | 雑下 |
521 | むはたまのよるはこひしき人にあひていとをもよれはあふとやは見ぬ うはたまの よるはこひしき ひとにあひて いとをもよれは あふとやはみぬ | 凡河内躬恒 | 九 | 雑下 |
522 | よるひるのかすはみそちにあまらぬをなと長月といひはしめけん よるひるの かすはみそちに あまらぬを なとなかつきと いひはしめけむ | 伊衡 | 九 | 雑下 |
523 | 秋ふかみこひする人のあかしかね夜を長月といふにやあるらん あきふかみ こひするひとの あかしかね よをなかつきと いふにやあるらむ | 凡河内躬恒 | 九 | 雑下 |
524 | 水のあわやたねとなるらんうきくさのまく人なみのうへにおふれは みつのあわや たねとなるらむ うきくさの まくひとなみの うへにおふれは | 読人知らず | 九 | 雑下 |
525 | たねなくてなき物草はおひにけりまくてふ事はあらしとそ思ふ たねなくて なきものくさは おひにけり まくてふことは あらしとそおもふ | 恵慶法師 | 九 | 雑下 |
526 | わか事はえもいはしろの結松ちとせをふともたれかとくへき わかことは えもいはしろの むすひまつ ちとせをふとも たれかとくへき | 曾禰好忠 | 九 | 雑下 |
527 | あしひきの山のこてらにすむ人はわかいふこともかなはさりけり あしひきの やまのこてらに すむひとは わかいふことも かなはさりけり | 読人知らず | 九 | 雑下 |
528 | 山ならぬすみかあまたにきく人の野ふしにとくも成りにけるかな やまならぬ すみかあまたに きくひとの のふしにとくも なりにけるかな | 源経房朝臣 | 九 | 雑下 |
529 | やまふしものふしもかくて心みつ今はとねりのねやそゆかしき やまふしも のふしもかくて こころみつ いまはとねりの ねやそゆかしき | 健守法師 | 九 | 雑下 |
530 | わたつ海はあまの舟こそありときけのりたかへてもこきいてたるかな わたつうみは あまのふねこそ ありときけ のりたかへても こきいてたるかな | 藤原道綱母 | 九 | 雑下 |
531 | 勅なれはいともかしこし鴬のやとはととははいかかこたへむ ちよくなれは いともかしこし うくひすの やとはととはは いかかこたへむ | 読人知らず | 九 | 雑下 |
532 | いなをらしつゆにたもとのぬれたらは物思ひけりと人もこそ見れ いなをらし つゆにたもとの ぬれたらは ものおもひけりと ひともこそみれ | 寿玄法師 | 九 | 雑下 |
533 | あつさゆみはるかに見ゆる山のはをいかてか月のさして入るらん あつさゆみ はるかにみゆる やまのはを いかてかつきの さしているらむ | 大中臣能宣 | 九 | 雑下 |
534 | そらめをそ君はみたらし河の水あさしやふかしそれは我かは そらめをそ きみはみたらし かはのみつ あさしやふかし それはわれかは | 伊勢 | 九 | 雑下 |
535 | かをさしてむまといふ人ありけれはかもをもをしと思ふなるへし かをさして うまといふひと ありけれは かもをもをしと おもふなるへし | 藤原仲文 | 九 | 雑下 |
536 | なしといへはをしむかもとや思ふらんしかやむまとそいふへかりける なしといへは をしむかもとや おもふらむ しかやうまとそ いふへかりける | 大中臣能宣 | 九 | 雑下 |
537 | なにはえのあしのはなけのましれるはつのくにかひのこまにやあるらん なにはえの あしのはなけの ましれるは つのくにかひの こまにやあるらむ | 恵慶法師 | 九 | 雑下 |
538 | 難波かたしけりあへるはきみかよにあしかるわさをせねはなるへし なにはかた しけりあへるは きみかよに あしかるわさを せねはなるへし | 壬生忠見 | 九 | 雑下 |
539 | 宮こにはすみわひはててつのくにの住吉ときくさとにこそゆけ みやこには すみわひはてて つのくにの すみよしときく さとにこそゆけ | 壬生忠見 | 九 | 雑下 |
540 | 君なくてあしかりけりと思ふにもいととなにはの浦そすみうき きみなくて あしかりけりと おもふにも いととなにはの うらそすみうき | 読人知らず | 九 | 雑下 |
541 | あしからしよからむとてそわかれけんなにかなにはの浦はすみうき あしからし よからむとてそ わかれけむ なにかなにはの うらはすみうき | 読人知らず | 九 | 雑下 |
542 | なき人のかたみと思ふにあやしきはゑみても袖のぬるるなりけり なきひとの かたみとおもふに あやしきは ゑみてもそての ぬるるなりけり | 麗景殿みやのきみ | 九 | 雑下 |
543 | みつせ河渡るみさをもなかりけりなにに衣をぬきてかくらん みつせかは わたるみさをも なかりけり なににころもを ぬきてかくらむ | 菅原道雅女 | 九 | 雑下 |
544 | かくしこそ春の始はうれしけれつらきは秋のをはりなりけり かくしこそ はるのはしめは うれしけれ つらきはあきの をはりなりけり | 皇太后宮権大夫国章 | 九 | 雑下 |
545 | おやのおやとおもはましかはとひてましわかこのこにはあらぬなるへし おやのおやと おもはましかは とひてまし わかこのこには あらぬなるへし | 源重之の叔母 | 九 | 雑下 |
546 | 山高みゆふ日かくれぬあさち原後見むためにしめゆはましを やまたかみ ゆふひかくれぬ あさちはら のちみむために しめゆはましを | 柿本人麻呂(人麿) | 九 | 雑下 |
547 | 名のみして山は三笠もなかりけりあさ日ゆふ日のさすをいふかも なのみして やまはみかさも なかりけり あさひゆふひの さすをいふかも | 紀貫之 | 九 | 雑下 |
548 | なのみしてなれるも見えす梅津河ゐせきの水ももれはなりけり なのみして なれるもみえす うめつかは ゐせきのみつも もれはなりけり | 読人知らず | 九 | 雑下 |
549 | 名にはいへとくろくも見えすうるし河さすかに渡る水はぬるめり なにはいへと くろくもみえす うるしかは さすかにわたる みつはぬるめり | 読人知らず | 九 | 雑下 |
550 | 世の中にあやしき物は雨ふれと大原河のひるにそありける よのなかに あやしきものは あめふれと おほはらかはの ひるにそありける | 恵慶法師 | 九 | 雑下 |
551 | 河柳いとはみとりにあるものをいつれかあけの衣なるらん かはやなき いとはみとりに あるものを いつれかあけの ころもなるらむ | 仲文 | 九 | 雑下 |
552 | しら浪の打ちやかへすとまつほとにはまのまさこのかすそつもれる しらなみの うちやかへすと まつほとに はまのまさこの かすそつもれる | 村上院御製 | 九 | 雑下 |
553 | いつしかとあけて見たれははま千鳥跡あることにあとのなきかな いつしかと あけてみたれは はまちとり あとあることに あとのなきかな | 小野宮太政大臣 | 九 | 雑下 |
554 | ととめてもなににかはせん浜千鳥ふりぬるあとは浪にきえつつ ととめても なににかはせむ はまちとり ふりぬるあとは なみにきえつつ | 右大将実資 | 九 | 雑下 |
555 | みなそこのわくはかりにやくくるらんよる人もなきたきのしらいと みなそこの わくはかりにや くくるらむ よるひともなき たきのいらいと | 読人知らず | 九 | 雑下 |
556 | おとにきくつつみのたきをうち見れはたた山河のなるにそ有りける おとにきく つつみのたきを うちみれは たたやまかはの なるにそありける | 読人知らず | 九 | 雑下 |
557 | おとにきくこまの渡のうりつくりとなりかくなりなる心かな おとにきく こまのわたりの うりつくり となりかくなり なるこころかな | 三位国章 | 九 | 雑下 |
558 | さためなくなるなるうりのつら見てもたちやよりこむこまのすきもの さためなく なるなるうりの つらみても たちやよりこむ こまのすきもの | 大納言朝光 | 九 | 雑下 |
559 | みちのくのあたちのはらのくろつかにおにこもれりときくはまことか みちのくの あたちのはらの くろつかに おにこもれりと いふはまことか | 平兼盛 | 九 | 雑下 |
560 | ぬす人のたつたの山に入りにけりおなしかさしの名にやけかれん ぬすひとの たつたのやまに いりにけり おなしかさしの なにやけかれむ | 藤原為順 | 九 | 雑下 |
561 | なき名のみたつたの山のふもとには世にもあらしの風もふかなん なきなのみ たつたのやまの ふもとには よにもあらしの かせもふかなむ | 藤原為順 | 九 | 雑下 |
562 | なき名のみたかをの山といひたつる君はあたこの峯にやあるらん なきなのみ たかをのやまと いひたつる きみはあたこの みねにやあるらむ | 八条のおほいきみ | 九 | 雑下 |
563 | いにしへものほりやしけんよしの山やまよりたかきよはひなる人 いにしへも のほりやしけむ よしのやま やまよりたかき よはひなるひと | 清原元輔 | 九 | 雑下 |
564 | おいはてて雪の山をはいたたけとしもと見るにそ身はひえにける おいはてて ゆきのやまをは いたたけと しもとみるにそ みはひえにける | 読人知らず | 九 | 雑下 |
565 | ますかかみそこなるかけにむかひゐて見る時にこそしらぬおきなにあふ心地すれ ますかかみ そこなるかけに むかひゐて みるときにこそ しらぬおきなに あふここちすれ | 読人知らず | 九 | 雑下 |
566 | ますかかみみしかと思ふいもにあはむかもたまのをのたえたるこひのしけきこのころ ますかかみ みしかとおもふ いもにあはむかも たまのをの たえたるこひの しけきこのころ | 柿本人麻呂(人麿) | 九 | 雑下 |
567 | かのをかに草かるをのこしかなかりそありつつもきみかきまさむみまくさにせん かのをかに くさかるをのこ しかなかりそ ありつつも きみかきまさむ みまくさにせむ | 柿本人麻呂(人麿) | 九 | 雑下 |
568 | あつさゆみおもはすにしていりにしをさもねたくひきととめてそふすへかりける あつさゆみ おもはすにして いりにしを さもねたく ひきととめてそ ふすへかりける | 源かけあきら | 九 | 雑下 |
569 | ちはやふるわかおほきみのきこしめすあめのしたなる草の葉もうるひにたりと山河のすめるかうちとみこころをよしののくにの花さかり秋つののへに宮はしらふとしきましてももしきの大宮人は舟ならへあさ河わたりふなくらへゆふかはわたりこの河のたゆる事なくこの山のいやたかからしたま水のたきつの宮こ見れとあかぬかも ちはやふる わかおほきみの きこしめす あめのしたなる くさのはも うるひにたりと やまかはの すめるかふちと みこころを よしののくにの はなさかり あきつののへに みやはしら ふとしきまして ももしきの おほみやひとは ふねならへ あさかはわたり ふなくらへ ゆふかはわたり このかはの たゆることなく このやまの いやたかからし たまみつの たきつのみやこ みれとあかぬかも | 柿本人麻呂(人麿) | 九 | 雑下 |
570 | 見れとあかぬよしのの河の流れてもたゆる時なく行きかへり見む みれとあかぬ よしののかはの なかれても たゆるときなく ゆきかへりみむ | 柿本人麻呂(人麿) | 九 | 雑下 |
571 | あらたまの年のはたちにたらさりし時はの山の山さむみ風もさはらぬふち衣ふたたひたちしあさきりに心もそらにまとひそめみなしこ草になりしより物思ふことの葉をしけみけぬへきつゆのよるはおきて夏はみきはにもえわたるほたるをそてにひろひつつ冬は花かと見えまかひこのもかのもにふりつもる雪をたもとにあつめつつふみみていてし道は猶身のうきにのみ有りけれはここもかしこもあしねはふしたにのみこそしつみけれたれここのつのさは水になくたつのねを久方のくものうへまてかくれなみたかくきこゆるかひありていひなかしけん人は猶かひもなきさにみつしほの世にはからくてすみの江の松はいたつらおいぬれとみとりの衣ぬきすてむはるはいつともしらなみのなみちにいたくゆきかよひゆもとりあへすなりにける舟のわれをしきみしらはあはれいまたにしつめしとあまのつりなはうちはへてひくとしきかは物はおもはし あらたまの としのはたちに たらさりし ときはのやまの やまさむみ かせもさはらぬ ふちころも ふたたひたちし あさきりに こころもそらに まとひそめ みなしこくさに なりしより ものおもふことの はをしけみ けぬへきつゆの よるはおきて なつはみきはに もえわたる ほたるをそてに ひろひつつ ふゆははなかと みえまかひ このもかのもに ふりつもる ゆきをたもとに あつめつつ ふみみていてし みちはなほ みのうきにのみ ありけれは ここもかしこも あしねはふ したにのみこそ しつみけれ たれここのつの さはみつに なくたつのねを ひさかたの くものうへまて かくれなみ たかくきこゆる かひありて いひなかしけむ ひとはなほ かひもなきさに みつしほの よにはからくて すみのえの まつはいたつら おいぬれと みとりのころも ぬきすてむ はるはいつとも しらなみの なみちにいたく ゆきかよひ ゆもとりあへす なりにける ふねのわれをし きみしらは あはれいまたに しつめしと あまのつりなは うちはへて ひくとしきかは ものはおもはし | 源順 | 九 | 雑下 |
572 | 世の中をおもへはくるしわするれはえもわすられすたれもみなおなしみ山の松かえとかるる事なくすへらきのちよもやちよもつかへんとたかきたのみをかくれぬのしたよりねさすあやめくさあやなき身にも人なみにかかる心を思ひつつ世にふるゆきをきみはしも冬はとりつみ夏は又草のほたるをあつめつつひかりさやけき久方の月のかつらををるまてに時雨にそほちつゆにぬれへにけむそてのふかみとりいろあせかたに今はなりかつしたはよりくれなゐにうつろひはてん秋にあははまつひらけなん花よりもこたかきかけとあふかれん物とこそ見ししほかまのうらさひしけになそもかく世をしも思ひなすのゆのたきるゆゑをもかまへつつわか身を人の身になしておもひくらへよももしきにあかしくらしてとこ夏のくもゐはるけきみな人におくれてなひく我もあるらし よのなかを おもへはくるし わするれは えもわすられす たれもみな おなしみやまの まつかえと かるることなく すめらきの ちよもやちよも つかへむと たかきたのみを かくれぬの したよりねさす あやめくさ あやなきみにも ひとなみに かかるこころを おもひつつ よにふるゆきを きみはしも ふゆはとりつみ なつはまた くさのほたるを あつめつつ ひかりさやけき ひさかたの つきのかつらを をるまてに しくれにそほち つゆにぬれ へにけむそての ふかみとり いろあせかたに いまはなり かつしたはより くれなゐに うつろひはてむ あきにあはは まつひらけなむ はなよりも こたかきかけと あふかれむ ものとこそみし しほかまの うらさひしけに なそもかく よをしもおもひ なすのゆの たきるゆゑをも かまへつつ わかみをひとの みになして おもひくらへよ ももしきに あかしくらして とこなつの くもゐはるけき みなひとに おくれてなひく われもあるらし | 大中臣能宣 | 九 | 雑下 |
573 | 今はともいはさりしかとやをとめのたつやかすかのふるさとにかへりやくるとまつち山まつほとすきてかりかねの雲のよそにもきこえねは我はむなしきたまつさをかくてもたゆくむすひおきてつてやる風のたよりたになきさにきゐるゆふちとりうらみはふかくみつしほにそてのみいととぬれつつそあともおもはぬきみによりかひなきこひになにしかも我のみひとりうきふねのこかれてよにはわたるらんとさへそはてはかやり火のくゆる心もつきぬへく思ひなるまておとつれすおほつかなくてかへれともけふみつくきのあとみれはちきりし事は君も又わすれさりけりしかしあらはたれもうきよのあさつゆにひかりまつまの身にしあれはおもはしいかてとこ夏の花のうつろふ秋もなくおなしあたりにすみの江のきしのひめ松ねをむすひ世世をへつつもしもゆきのふるにもぬれぬなかとなりなむ いまはとも いはさりしかと やをとめの たつやかすかの ふるさとに かへりやくると まつちやま まつほとすきて かりかねの くものよそにも きこえねは われはむなしき たまつさを かくてもたゆく むすひおきて つてやるかせの たよりたに なきさにきゐる ゆふちとり うらみはふかく みつしほに そてのみいとと ぬれつつそ あともおもはぬ きみにより かひなきこひに なにしかも われのみひとり うきふねの こかれてよには わたるらむ とさへそはては かやりひの くゆるこころも つきぬへく おもひなるまて おとつれす おほつかなくて かへれとも けふみつくきの あとみれは ちきりしことは きみもまた わすれさりけり しかしあらは たれもうきよの あさつゆに ひかりまつまの みにしあれは おもはしいかて とこなつの はなのうつろふ あきもなく おなしあたりに すみのえの きしのひめまつ ねをむすひ よよをへつつも しもゆきの ふるにもぬれぬ なかとなりなむ | 読人知らず | 九 | 雑下 |
574 | あはれわれいつつの宮の宮人とそのかすならぬ身をなしておもひし事はかけまくもかしこけれともたのもしきかけにふたたひおくれたるふたはの草を吹く風のあらき方にはあてしとてせはきたもとをふせきつつちりもすゑしとみかきてはたまのひかりをたれか見むと思ふ心におほけなくかみつえたをはさしこえて花さく春の宮人となりし時ははいかはかりしけきかけとかたのまれしすゑの世まてと思ひつつここのかさねのそのなかにいつきすゑしもことてしもたれならなくにを山田を人にまかせて我はたたたもとそほつに身をなしてふたはるみはるすくしつつその秋冬のあさきりのたえまにたにもと思ひしを峯の白雲よこさまにたちかはりぬと見てしかは身をかきりとはおもひにきいのちあらはとたのみしは人におくるるななりけり思ふもしるし山河のみなしもなりしもろ人もうこかぬきしにまもりあけてしつむみくつのはてはてはかきなかされし神な月うすき氷にとちられてとまれる方もなきわふるなみたしつみてかそふれは冬も三月になりにけりなかきよなよなしきたへのふさすやすますあけくらしおもへとも猶かなしきはやそうち人もあたら世のためしなりとそさわくなるましてかすかのすきむらにいまたかれたる枝はあらし大原野辺のつほすみれつみをかしある物ならはてる日も見よといふことを年のをはりにきよめすはわか身そつひにくちぬへきたにのむもれ木春くともさてややみなむ年の内に春吹く風も心あらはそての氷をとけとふかなむ あはれわれ いつつのみやの みやひとと そのかすならぬ みをなして おもひしことは かけまくも かしこけれとも たのもしき かけにふたたひ おくれたる ふたはのくさを ふくかせの あらきかたには あてしとて せはきたもとを ふせきつつ ちりもすゑしと みかきては たまのひかりを たれかみむと おもふこころに おほけなく かみつえたをは さしこえて はなさくはるの みやひとと なりしときはは いかはかり しけきかけとか たのまれし すゑのよまてと おもひつつ ここのかさねの そのなかに いつきすゑしも ことてしも たれならなくに をやまたを ひとにまかせて われはたた たもとそほつに みをなして ふたはるみはる すくしつつ そのあきふゆの あさきりの たえまにたにもと おもひしを みねのしらくも よこさまに たちかはりぬと みてしかは みをかきりとは おもひにき いのちあらはと たのみしは ひとにおくるる ななりけり おもふもしるし やまかはの みなしもなりし もろひとも うこかぬきしに まもりあけて しつむみくつの はてはては かきなかされし かみなつき うすきこほりに とちられて とまれるかたも なきわふる なみたしつみて かそふれは ふゆもみつきに なりにけり なかきよなよな しきたへの ふさすやすます あけくらし おもへともなほ かなしきは やそうちひとも あたらよの ためしなりとそ さわくなる ましてかすかの すきむらに いまたかれたる えたはあらし おほはらのへの つほすみれ つみをかしある ものならは てるひもみよと いふことを としのをはりに きよめすは わかみそつひに くちぬへき たにのうもれき はるくとも さてややみなむ としのうちに はるふくかせも こころあらは そてのこほりを とけとふかなむ | 東三条太政大臣 | 九 | 雑下 |
575 | 如何せむわか身くたれるいな舟のしはしはかりのいのちたえすは いかにせむ わかみくたれる いなふねの しはしはかりの いのちたえすは | 東三条太政大臣 | 九 | 雑下 |
576 | さかきはにゆふしてかけてたか世にか神のみまへにいはひそめけん さかきはに ゆふしてかけて たかよにか かみのみまへに いはひそめけむ | 不記 | 十 | 神楽歌 |
577 | さか木葉のかをかくはしみとめくれはやそうち人そまとゐせりける さかきはの かをかくはしみ とめくれは やそうちひとそ まとゐせりける | 不記 | 十 | 神楽歌 |
578 | みてくらにならましものをすへ神のみてにとられてなつさはましを みてくらに ならましものを すめかみの みてにとられて なつさはましを | 不記 | 十 | 神楽歌 |
579 | みてくらはわかにはあらすあめにますとよをかひめの宮のみてくら みてくらは わかにはあらす あめにます とよをかひめの みやのみてくら | 不記 | 十 | 神楽歌 |
580 | あふさかをけさこえくれは山人のちとせつけとてきれるつゑなり あふさかを けさこえくれは やまひとの ちとせつけとて きれるつゑなり | 不記 | 十 | 神楽歌 |
581 | よも山の人のたからにするゆみを神のみまへにけふたてまつる よもやまの ひとのたからに するゆみを かみのみまへに けふたてまつる | 不記 | 十 | 神楽歌 |
582 | いその神ふるやをとこのたちもかなくみのをしてて宮ちかよはむ いそのかみ ふるやをとこの たちもかな くみのをしてて みやちかよはむ | 不記 | 十 | 神楽歌 |
583 | 銀のめぬきのたちをさけはきてならの宮こをねるやたかこそ しろかねの めぬきのたちを さけはきて ならのみやこを ねるやたかこそ | 不記 | 十 | 神楽歌 |
584 | わか駒ははやくゆかなんあさひこかやへさすをかのたまささのうへに わかこまは はやくゆかなむ あさひこか やへさすをかの たまささのうへに | 不記 | 十 | 神楽歌 |
585 | さいはりに衣はそめん雨ふれとうつろひかたしふかくそめては さいはりに ころもはそめむ あめふれと うつろひかたし ふかくそめては | 不記 | 十 | 神楽歌 |
586 | しなかとりゐなのふし原とひわたるしきかはねおとおもしろきかな しなかとり ゐなのふしはら とひわたる しきかはねおと おもしろきかな | 不記 | 十 | 神楽歌 |
587 | 住吉のきしもせさらんものゆゑにねたくや人に松といはれむ すみよしの きしもせさらむ ものゆゑに ねたくやひとに まつといはれむ | 不記 | 十 | 神楽歌 |
588 | ゆふたすきかくるたもとはわつらはしゆたけにとけてあらむとをしれ ゆふたすき かくるたもとは わつらはし ゆたけにとけて あらむとをしれ | 不記 | 十 | 神楽歌 |
589 | あまくたるあら人神のあひおひをおもへはひさし住吉の松 あまくたる あらひとかみの あひおひを おもへはひさし すみよしのまつ | 安法法師 | 十 | 神楽歌 |
590 | 我とはは神世の事もこたへなん昔をしれるすみよしのまつ われとはは かみよのことも こたへなむ むかしをしれる すみよしのまつ | 恵慶法師 | 十 | 神楽歌 |
591 | いく世にかかたりつたへむはこさきの松のちとせのひとつならねは いくよにか かたりつたへむ はこさきの まつのちとせの ひとつならねは | 源重之 | 十 | 神楽歌 |
592 | おひしけれひらのの原のあやすきよこき紫にたちかさぬへく おひしけれ ひらののはらの あやすきよ こきむらさきに たちかさぬへく | 清原元輔 | 十 | 神楽歌 |
593 | ねきかくるひえの社のゆふたすきくさのかきはもことやめてきけ ねきかくる ひえのやしろの ゆふたすき くさのかきはも ことやめてきけ | 僧都実因 | 十 | 神楽歌 |
594 | おほよとのみそきいくよになりぬらん神さひにたる浦のひめ松 おほよとの みそきいくよに なりぬらむ かみさひにたる うらのひめまつ | 源兼澄 | 十 | 神楽歌 |
595 | みそきするけふからさきにおろすあみは神のうけひくしるしなりけり みそきする けふからさきに おろすあみは かみのうけひく しるしなりけり | 平祐挙 | 十 | 神楽歌 |
596 | ちはやふる神のたもてるいのちをはたれかためにか長くと思はん ちはやふる かみのたもてる いのちをは たれかためにか なかくとおもはむ | 柿本人麻呂(人麿) | 十 | 神楽歌 |
597 | 千早振かみも思ひのあれはこそ年へてふしの山ももゆらめ ちはやふる かみもおもひの あれはこそ としへてふしの やまももゆらめ | 柿本人麻呂(人麿) | 十 | 神楽歌 |
598 | 君か世のなからの山のかひありとのとけき雲のゐる時そ見る きみかよの なからのやまの かひありと のとけきくもの ゐるときそみる | 大中臣能宣 | 十 | 神楽歌 |
599 | ささなみのなからの山のなからへてたのしかるへき君かみよかな ささなみの なからのやまの なからへて たのしかるへき きみかみよかな | 大中臣能宣 | 十 | 神楽歌 |
600 | うこきなきいはくら山にきみかよをはこひおきつつちよをこそつめ うこきなき いはくらやまに きみかよを はこひおきつつ ちよをこそつめ | 読人知らず | 十 | 神楽歌 |
601 | ちはやふるみ神の山のさか木ははさかえそまさるすゑの世まてに ちはやふる みかみのやまの さかきはは さかえそまさる すゑのよまてに | 大中臣能宣 | 十 | 神楽歌 |
602 | 万代の色もかはらぬさか木ははみかみの山におふるなりけり よろつよの いろもかはらぬ さかきはは みかみのやまに おふるなりけり | 読人知らず | 十 | 神楽歌 |
603 | よろつ世をみかみの山のひひくにはやす河の水すみそあひにける よろつよを みかみのやまの ひひくには やすかはのみつ すみそあひにける | 清原元輔 | 十 | 神楽歌 |
604 | みつきつむおほくら山はときはにていろもかはらすよろつ世そへむ みつきつむ おほくらやまは ときはにて いろもかはらす よろつよそへむ | 大中臣能宣 | 十 | 神楽歌 |
605 | たかしまやみをの中山そまたててつくりかさねよちよのなみくら たかしまや みをのなかやま そまたてて つくりかさねよ ちよのなみくら | 読人知らず | 十 | 神楽歌 |
606 | みかきける心もしるく鏡山くもりなきよにあふかたのしさ みかきける こころもしるく かかみやま くもりなきよに あふかたのしさ | 大中臣能宣 | 十 | 神楽歌 |
607 | ちとせふる松かさきにはむれゐつつたつさへあそふ心あるらし ちとせふる まつかさきには むれゐつつ たつさへあそふ こころあるらし | 清原元輔 | 十 | 神楽歌 |
608 | ととこほる時もあらしな近江なるおもののはまのあまのひつきは ととこほる ときもあらしな あふみなる おもののはまの あまのひつきは | 平兼盛 | 十 | 神楽歌 |
609 | ことしよりちとせの山はこゑたえす君かみよをそいのるへらなる ことしより ちとせのやまは こゑたえす きみかみよをそ いのるへらなる | 大中臣能宣 | 十 | 神楽歌 |
610 | 近江なるいやたか山のさか木にて君かちよをはいのりかささん あふみなる いやたかやまの さかきにて きみかちよをは いのりかささむ | 平兼盛 | 十 | 神楽歌 |
611 | いのりくるみかみの山のかひしあれはちとせの影にかくてつかへん いのりくる みかみのやまの かひしあれは ちとせのかけに かくてつかへむ | 大中臣能宣 | 十 | 神楽歌 |
612 | けふよりはいはくら山に万代をうこきなくのみつまむとそ思ふ けふよりは いはくらやまに よろつよを うこきなくのみ つまむとそおもふ | 大中臣能宣 | 十 | 神楽歌 |
613 | 万代をあきらけく見むかかみ山ちとせのほとはちりもくもらし よろつよを あきらけくみむ かかみやま ちとせのほとは ちりもくもらし | 中務 | 十 | 神楽歌 |
614 | 年もよしこかひもえたりおほくにのさとたのもしくおもほゆるかな としもよし こかひもえたり おほくにの さとたのもしく おもほゆるかな | 平兼盛 | 十 | 神楽歌 |
615 | 名にたてるよしたのさとの杖なれはつくともつきし君かよろつ世 なにたてる よしたのさとの つゑなれは つくともつきし きみかよろつよ | 平兼盛 | 十 | 神楽歌 |
616 | 泉河のとけき水のそこ見れはことしはかけそすみまさりける いつみかは のとけきみつの そこみれは ことしはかけそ すみまさりける | 平兼盛 | 十 | 神楽歌 |
617 | つるのすむ松かさきにはならへたる千世のためしを見するなりけり つるのすむ まつかさきには ならへたる ちよのためしを みするなりけり | 平兼盛 | 十 | 神楽歌 |
618 | あしひきの山のさかきはときはなるかけにさかゆる神のきねかな あしひきの やまのさかきは ときはなる かけにさかゆる かみのきねかな | 紀貫之 | 十 | 神楽歌 |
619 | おほなむちすくなみ神のつくれりし妹背の山を見るそうれしき おほなむち すくなみかみの つくれりし いもせのやまを みるそうれしき | 柿本人麻呂(人麿) | 十 | 神楽歌 |
620 | めつらしきけふのかすかのやをとめを神もうれしとしのはさらめや めつらしき けふのかすかの やをとめを かみもうれしと しのはさらめや | 藤原忠房 | 十 | 神楽歌 |
621 | こひすてふわか名はまたき立ちにけり人しれすこそ思ひそめしか こひすてふ わかなはまたき たちにけり ひとしれすこそ おもひそめしか #百人一首 | 壬生忠見 | 十一 | 恋一 |
622 | しのふれと色にいてにけりわか恋は物や思ふと人のとふまて しのふれと いろにいてにけり わかこひは ものやおもふと ひとのとふまて #百人一首 | 平兼盛 | 十一 | 恋一 |
623 | いろならはうつるはかりもそめてまし思ふ心をしる人のなさ いろならは うつるはかりも そめてまし おもふこころを しるひとのなき | 紀貫之 | 十一 | 恋一 |
624 | しのふるも誰ゆゑならぬ物なれは今は何かは君にへたてむ しのふるも たれゆゑならぬ ものなれは いまはなにかは きみにへたてむ | 平公誠 | 十一 | 恋一 |
625 | なけきあまりつひに色にそいてぬへきいはぬを人のしらはこそあらめ なけきあまり つひにいろにそ いてぬへき いはぬをひとの しらはこそあらめ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
626 | あふことを松にて年のへぬるかな身は住の江におひぬものゆゑ あふことを まつにてとしの へぬるかな みはすみのえに おひぬものゆゑ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
627 | おとにきく人に心をつくはねのみねとこひしききみにもあるかな おとにきく ひとにこころを つくはねの みねとこひしき きみにもあるかな | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
628 | あまくものやへ雲かくれなる神のおとにのみやはきき渡るへき あまくもの やへくもかくれ なるかみの おとにのみやは ききわたるへき | 柿本人麻呂(人麿) | 十一 | 恋一 |
629 | 見ぬ人のこひしきやなそおほつかな誰とかしらむゆめに見ゆとも みぬひとの こひしきやなそ おほつかな たれとかしらむ ゆめにみゆとも | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
630 | 夢よりそ恋しき人を見そめつる今はあはする人もあらなん ゆめよりそ こひしきひとを みそめつる いまはあはする ひともあらなむ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
631 | かくてのみありその浦の浜千鳥よそになきつつこひやわたらむ かくてのみ ありそのうらの はまちとり よそになきつつ こひやわたらむ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
632 | よそにのみ見てやはこひむ紅のすゑつむ花のいろにいてすは よそにのみ みてやはこひむ くれなゐの すゑつむはなの いろにいてすは | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
633 | 身にしみて思ふ心の年ふれはつひに色にもいてぬへきかな みにしみて おもふこころの としふれは つひにいろにも いてぬへきかな | 権中納言敦忠 | 十一 | 恋一 |
634 | いかてかはしらせそむへき人しれす思ふ心のいろにいてすは いかてかは しらせそむへき ひとしれす おもふこころの いろにいてすは | くにまさ | 十一 | 恋一 |
635 | いかてかはかく思ふてふ事をたに人つてならてきみにしらせむ いかてかは かくおもふてふ ことをたに ひとつてならて きみにしらせむ | 権中納言敦忠 | 十一 | 恋一 |
636 | あなこひしはつかに人をみつのあわのきえかへるともしらせてしかな あなこひし はつかにひとを みつのあわの きえかへるとも しらせてしかな | 小野宮太政大臣 | 十一 | 恋一 |
637 | なかからしと思ふ心は水のあわによそふる人のたのまれぬかな なかからしと おもふこころは みつのあわに よそふるひとの たのまれぬかな | つつみの中納言のみやす所 | 十一 | 恋一 |
638 | みなといつるあまのを舟のいかりなはくるしき物とこひをしりぬる みなといつる あまのをふねの いかりなは くるしきものと こひをしりぬる | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
639 | 大井河くたすいかたのみなれさを見なれぬ人もこひしかりけり おほゐかは くたすいかたの みなれさを みなれぬひとも こひしかりけり | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
640 | みなそこにおふるたまものうちなひき心をよせてこふるこのころ みなそこに おふるたまもの うちなひき こころをよせて こふるこのころ | 柿本人麻呂(人麿) | 十一 | 恋一 |
641 | おとにのみききつるこひを人しれすつれなき人にならひぬるかな おとにのみ ききつるこひを ひとしれす つれなきひとに ならひぬるかな | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
642 | 如何せむいのちはかきりあるものをこひはわすれす人はつれなし いかにせむ いのちはかきり あるものを こひはわすれす ひとはつれなし | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
643 | 山ひこもこたへぬ山のよふことり我ひとりのみなきやわたらむ やまひこも こたへぬやまの よふことり われひとりのみ なきやわたらむ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
644 | やまひこは君にもにたる心かな我こゑせねはおとつれもせす やまひこは きみにもにたる こころかな わかこゑせねは おとつれもせす | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
645 | あしひきの山したとよみ行く水の時そともなくこひ渡るかな あしひきの やましたとよみ ゆくみつの ときそともなく こひわたるかな | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
646 | いかにしてしはしわすれんいのちたにあらはあふよのありもこそすれ いかにして しはしわすれむ いのちたに あらはあふよの ありもこそすれ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
647 | ぬきみたる涙の玉もとまるやとたまのをはかりあはむといはなん ぬきみたる なみたのたまも とまるやと たまのをはかり あはむといはなむ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
648 | いはのうへにおふるこ松もひきつれと猶ねかたきは君にそ有りける いはのうへに おふるこまつも ひきつれと なほねかたきは きみにそありける | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
649 | たなはたもあふよありけりあまの河この渡にはわたるせもなし たなはたも あふよありけり あまのかは このわたりには わたるせもなし | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
650 | さはにのみ年はへぬれとあしたつの心は雲のうへにのみこそ さはにのみ としはへぬれと あしたつの こころはくもの うへにのみこそ | 九条右大臣 | 十一 | 恋一 |
651 | おほそらはくもらさりけり神な月時雨ここちは我のみそする おほそらは くもらさりけり かみなつき しくれここちは われのみそする | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
652 | しのふれと猶しひてこそおもほゆれ恋といふ物の身をしさらねは しのふれと なほしひてこそ おもほゆれ こひといふものの みをしさらねは | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
653 | あはれともおもはしものをしらゆきのしたにきえつつ猶もふるかな あはれとも おもはしものを しらゆきの したにきえつつ なほもふるかな | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
654 | ほともなくきえぬる雪はかひもなし身をつみてこそあはれとおもはめ ほともなく きえぬるゆきは かひもなし みをつみてこそ あはれとおもはめ | 中務 | 十一 | 恋一 |
655 | よそなからあひ見ぬほとにこひしなは何にかへたるいのちとかいはむ よそなから あひみぬほとに こひしなは なににかへたる いのちとかいはむ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
656 | いつとてかわかこひやまむちはやふるあさまのたけのけふりたゆとも いつとてか わかこひやまむ ちはやふる あさまのたけの けふりたゆとも | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
657 | おほはらの神もしるらむわかこひはけふ氏人の心やらなむ おほはらの かみもしるらむ わかこひは けふうちひとの こころやらなむ | 一条摂政 | 十一 | 恋一 |
658 | さか木はの春さす枝のあまたあれはとかむる神もあらしとそおもふ さかきはの はるさすえたの あまたあれは とかむるかみも あらしとそおもふ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
659 | あめつちの神そしるらん君かため思ふ心のかきりなけれは あめつちの かみそしるらむ きみかため おもふこころの かきりなけれは | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
660 | 海もあさし山もほとなしわかこひをなにによそへて君にいはまし うみもあさし やまもほとなし わかこひを なにによそへて きみにいはまし | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
661 | おく山のいはかきぬまのみこもりにこひや渡らんあふよしをなみ おくやまの いはかきぬまの みこもりに こひやわたらむ あふよしをなみ | 柿本人麻呂(人麿) | 十一 | 恋一 |
662 | あまた見しとよのみそきのもろ人の君しも物を思はするかな あまたみし とよのみそきの もろひとの きみしもものを おもはするかな | 寛祐法師 | 十一 | 恋一 |
663 | たますたれいとのたえまに人を見てすける心は思ひかけてき たますたれ いとのたえまに ひとをみて すけるこころは おもひかけてき | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
664 | たまたれのすける心と見てしよりつらしてふ事かけぬ日はなし たまたれの すけるこころと みてしより つらしてふこと かけぬひはなし | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
665 | 我こそや見ぬ人こふるやまひすれあふ日ならてはやむくすりなし われこそや みぬひとこふる やまひすれ あふひならては やむくすりなし | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
666 | 玉江こくこもかり舟のさしはへて浪まもあらはよらむとそ思ふ たまえこく こもかりふねの さしはへて なみまもあらは よらむとそおもふ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
667 | みるめかるあまとはなしに君こふるわか衣手のかわく時なき みるめかる あまとはなしに きみこふる わかころもての かわくときなき | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
668 | みくまのの浦のはまゆふももへなる心はおもへとたたにあはぬかも みくまのの うらのはまゆふ ももへなる こころはおもへと たたにあはぬかも | 柿本人麻呂(人麿) | 十一 | 恋一 |
669 | あさなあさなけつれはつもるおちかみのみたれて物を思ふころかな あさなあさな けつれはつもる おちかみの みたれてものを おもふころかな | 紀貫之 | 十一 | 恋一 |
670 | わかためはたなゐのし水ぬるけれと猶かきやらむさてはすむやと わかためは たなゐのしみつ ぬるけれと なほかきやらむ さてはすむやと | 藤原実方朝臣 | 十一 | 恋一 |
671 | かきやらはにこりこそせめあさきせのみくつはたれかすませても見む かきやらは にこりこそせめ あさきせの みくつはたれか すませてもみむ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
672 | ひとしれぬ心の内を見せたらは今まてつらき人はあらしな ひとしれぬ こころのうちを みせたらは いままてつらき ひとはあらしな | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
673 | 人しれぬ思ひは年もへにけれと我のみしるはかひなかりけり ひとしれぬ おもひはとしも へにけれと われのみしるは かひなかりけり | 小野宮太政大臣 | 十一 | 恋一 |
674 | ひとしれぬ涙に袖は朽ちにけりあふよもあらはなににつつまむ ひとしれぬ なみたにそては くちにけり あふよもあらは なににつつまむ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
675 | 君はたた袖はかりをやくたすらん逢ふには身をもかふとこそきけ きみはたた そてはかりをや くたすらむ あふにはみをも かふとこそきけ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
676 | ひとしれすおつる涙はつのくにのなかすと見えて袖そくちぬる ひとしれす おつるなみたは つのくにの なかすとみえて そてそくちぬる | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
677 | 恋といへはおなしなにこそ思ふらめいかてわか身を人にしらせん こひといへは おなしなにこそ おもふらめ いかてわかみを ひとにしらせむ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
678 | あふ事のたえてしなくは中中に人をも身をも怨みさらまし あふことの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみさらまし #百人一首 | 中納言朝忠 | 十一 | 恋一 |
679 | 逢ふ事はかたゐさりするみとりこのたたむ月にもあはしとやする あふことは かたゐさりする みとりこの たたむつきにも あはしとやする | 平兼盛 | 十一 | 恋一 |
680 | あふことを月日にそへてまつ時はけふ行末になりねとそ思ふ あふことを つきひにそへて まつときは けふゆくすゑに なりねとそおもふ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
681 | あふ事をいつともしらて君かいはむ時はの山の松そくるしき あふことを いつともしらて きみかいはむ ときはのやまの まつそくるしき | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
682 | いのちをは逢ふにかふとかききしかと我やためしにあはぬしにせん いのちをは あふにかふとか ききしかと われやためしに あはぬしにせむ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
683 | 行末はつひにすきつつ道ふウの年月なきそわひしかりける ゆくすゑは つひにすきつつ あふことの としつきなきそ わひしかりける | 紀貫之 | 十一 | 恋一 |
684 | いきたれはこひする事のくるしきを猶いのちをはあふにかへてん いきたれは こひすることの くるしきを なほいのちをは あふにかへてむ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
685 | こひしなむのちはなにせんいける日のためこそ人の見まくほしけれ こひしなむ のちはなにせむ いけるひの ためこそひとの みまくほしけれ | 大伴百世 | 十一 | 恋一 |
686 | あはれとしきみたにいははこひわひてしなんいのちもをしからなくに あはれとし きみたにいはは こひわひて しなむいのちも をしからなくに | 源経基 | 十一 | 恋一 |
687 | ひとしれす思ふ心をととめつついくたひ君かやとをすくらん ひとしれす おもふこころを ととめつつ いくたひきみか やとをすくらむ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
688 | しくれにも雨にもあらて君こふる年のふるにも袖はぬれけり しくれにも あめにもあらて きみこふる としのふるにも そてはぬれけり | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
689 | 露はかりたのめしほとのすきゆけはきえぬはかりの心地こそすれ つゆはかり たのめしほとの すきゆけは きえぬはかりの ここちこそすれ | 菅原輔昭 | 十一 | 恋一 |
690 | つゆはかりたのむることもなきものをあやしやなにに思ひおきけん つゆはかり たのむることも なきものを あやしやなにに おもひおきけむ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
691 | 流れてとたのむるよりは山河のこひしきせせにわたりやはせぬ なかれてと たのむるよりは やまかはの こひしきせせに わたりやはせぬ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
692 | あひ見てはしにせぬ身とそなりぬへきたのむるにたにのふるいのちは あひみては しにせぬみとそ なりぬへき たのむるにたに のふるいのちは | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
693 | いかてかと思ふ心のある時はおほめくさへそうれしかりける いかてかと おもふこころの あるときは おほめくさへそ うれしかりける | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
694 | わひつつも昨日はかりはすくしてきけふやわか身のかきりなるらん わひつつも きのふはかりは すくしてき けふやわかみの かきりなるらむ | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
695 | こひつつもけふはくらしつ霞立つあすのはる日をいかてくらさん こひつつも けふはくらしつ かすみたつ あすのはるひを いかてくらさむ | 柿本人麻呂(人麿) | 十一 | 恋一 |
696 | 恋ひつつもけふは有りなんたまくしけあけんあしたをいかてくらさむ こひつつも けふはありなむ たまくしけ あけむあしたを いかてくらさむ | 柿本人麻呂(人麿) | 十一 | 恋一 |
697 | 君をのみ思ひかけこのたまくしけあけたつことにこひぬ日はなし きみをのみ おもひかけこの たまくしけ あけたつことに こひぬひはなし | 読人知らず | 十一 | 恋一 |
698 | 春の野におふるなきなのわひしきは身をつみてたに人のしらぬよ はるののに おふるなきなの わひしきは みをつみてたに ひとのしらぬよ | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
699 | なき名のみたつたの山のあをつつら又くる人も見えぬ所に なきなのみ たつたのやまの あをつつら またくるひとも みえぬところに | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
700 | 無き名のみたつの市とはさわけともいさまた人をうるよしもなし なきなのみ たつのいちとは さわけとも いさまたひとを うるよしもなし | 柿本人麻呂(人麿) | 十二 | 恋二 |
701 | なき事をいはれの池のうきぬなはくるしき物は世にこそ有りけれ なきことを いはれのいけの うきぬなは くるしきものは よにこそありけれ | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
702 | 竹の葉におきゐる事のまろひあひてぬるとはなしに立つわかなかな たけのはに おきゐるつゆの まろひあひて ぬるとはなしに たつわかなかな | 柿本人麻呂(人麿) | 十二 | 恋二 |
703 | あちきなやわかなはたちて唐衣身にもならさてやみぬへきかな あちきなや わかなはたちて からころも みにもならさて やみぬへきかな | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
704 | 唐衣我はかたなのふれなくにまつたつ物はなき名なりけり からころも われはかたなの ふれなくに まつたつものは なきななりけり | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
705 | そめ河にやとかる浪のはやけれはなき名立つとも今は怨みし そめかはに やとかるなみの はやけれは なきなたつとも いまはうらみし | 源重之 | 十二 | 恋二 |
706 | こはた河こはたかいひし事のはそなきなすすかむたきつせもなし こはたかは こはたかいひし ことのはそ なきなすすかむ たきつせもなし | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
707 | 君か名の立つにとかなき身なりせはおほよそ人になして見ましや きみかなの たつにとかなき みなりせは おほよそひとに なしてみましや | 藤原忠房朝臣 | 十二 | 恋二 |
708 | 夢かとも思ふへけれとねやはせしなにそ心にわすれかたきは ゆめかとも おもふへけれと ねやはせし なにそこころに わすれかたきは | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
709 | ゆめよゆめこひしき人にあひ見すなさめてののちにわひしかりけり ゆめよゆめ こひしきひとに あひみすな さめてののちに わひしかりけり | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
710 | あひ見てののちの心にくらふれは昔は物もおもはさりけり あひみての のちのこころに くらふれは むかしはものも おもはさりけり #百人一首 | 権中納言敦忠 | 十二 | 恋二 |
711 | あひみてはなくさむやとそ思ひしをなこりしもこそこひしかりけれ あひみては なくさむやとそ おもひしを なこりしもこそ こひしかりけれ | 坂上是則 | 十二 | 恋二 |
712 | あひ見てもありにしものをいつのまにならひて人のこひしかるらん あひみても ありにしものを いつのまに ならひてひとの こひしかるらむ | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
713 | わか恋は猶あひ見てもなくさますいやまさりなる心地のみして わかこひは なほあひみても なくさます いやまさりなる ここちのみして | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
714 | 逢ふ事をまちし月日のほとよりもけふのくれこそひさしかりけれ あふことを まちしつきひの ほとよりも けふのくれこそ ひさしかりけれ | 大中臣能宣 | 十二 | 恋二 |
715 | 暁のなからましかは白露のおきてわひしき別せましや あかつきの なからましかは しらつゆの おきてわひしき わかれせましや | 紀貫之 | 十二 | 恋二 |
716 | あひ見ても猶なくさまぬ心かないくちよねてかこひのさむへき あひみても なほなくさまぬ こころかな いくちよねてか こひのさむへき | 紀貫之 | 十二 | 恋二 |
717 | むはたまのこよひなあけそあけゆかはあさゆく君をまつくるしきに うはたまの こよひなあけそ あけゆかは あさゆくきみを まつくるしきに | 柿本人麻呂(人麿) | 十二 | 恋二 |
718 | ひとりねし時はまたれし鳥のねもまれにあふよはわひしかりけり ひとりねし ときはまたれし とりのねも まれにあふよは わひしかりけり | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
719 | 葛木や我やはくめのはしつくりあけゆくほとは物をこそおもへ かつらきや われやはくめの はしつくり あけゆくほとは ものをこそおもへ | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
720 | あさまたき露わけきつる衣手のひるまはかりにこひしきやなそ あさまたき つゆわけきつる ころもての ひるまはかりに こひしきやなそ | 平行時 | 十二 | 恋二 |
721 | ふたつなき心は君におきつるを又ほともなくこひしきやなそ ふたつなき こころはきみに おきつるを またほともなく こひしきやなそ | 大納言源きよかけ | 十二 | 恋二 |
722 | いつしかとくれをまつまのおほそらはくもるさへこそうれしかりけれ いつしかと くれをまつまの おほそらは くもるさへこそ うれしかりけれ | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
723 | 日のうちに物をふたたひ思ふかなとくあけぬるとおそくくるると ひのうちに ものをふたたひ おもふかな とくあけぬると おそくくるると | 大江為基 | 十二 | 恋二 |
724 | ももはかきはねかくしきもわかことく朝わひしきかすはまさらし ももはかき はねかくしきも わかことく あしたわひしき かすはまさらし | 紀貫之 | 十二 | 恋二 |
725 | うつつにも夢にも人によるしあへはくれゆくはかりうれしきはなし うつつにも ゆめにもひとに よるしあへは くれゆくはかり うれしきはなし | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
726 | 暁の別の道をおもはすはくれ行くそらはうれしからまし あかつきの わかれのみちを おもはすは くれゆくそらは うれしからまし | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
727 | 君こふる涙のこほる冬の夜は心とけたるいやはねらるる きみこふる なみたのこほる ふゆのよは こころとけたる いやはねらるる | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
728 | かからても有りにしものをしらゆきのひとひもふれはまさるわかこひ かからても ありにしものを しらゆきの ひとひもふれは まさるわかこひ | 在原業平朝臣 | 十二 | 恋二 |
729 | あさこほりとくるまもなききみによりなとてそほつるたもとなるらん あさこほり とくるまもなき きみにより なとてそほつる たもとなるらむ | 大中臣能宣 | 十二 | 恋二 |
730 | 身をつめは露をあはれと思ふかな暁ことにいかておくらん みをつめは つゆをあはれと おもふかな あかつきことに いかておくらむ | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
731 | うしと思ふものから人のこひしきはいつこをしのふ心なるらん うしとおもふ ものからひとの こひしきは いつこをしのふ こころなるらむ | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
732 | よそにても有りにしものを花すすきほのかに見てそ人は恋しき よそにても ありにしものを はなすすき ほのかにみてそ ひとはこひしき | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
733 | 夢よりもはかなきものはかけろふのほのかに見えしかけにそありける ゆめよりも はかなきものは かけろふの ほのかにみえし かけにそありける | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
734 | ゆめのことなとかよるしも君を見むくるるまつまもさためなきよを ゆめのこと なとかよるしも きみをみむ くるるまつまも さためなきよを | 壬生忠見 | 十二 | 恋二 |
735 | こひしきを何につけてかなくさめむ夢たに見えすぬる夜なけれは こひしきを なににつけてか なくさめむ ゆめたにみえす ぬるよなけれは | 源順 | 十二 | 恋二 |
736 | あけくれのそらにそ我は迷ひぬる思ふ心のゆかぬまにまに あけくれの そらにそわれは まよひぬる おもふこころの ゆかぬまにまに | 源順 | 十二 | 恋二 |
737 | たまほこのとほ道もこそ人はゆけなと時のまも見ねはこひしき たまほこの とほみちもこそ ひとはゆけ なとときのまも みぬはこひしき | 紀貫之 | 十二 | 恋二 |
738 | 身にこひのあまりにしかはしのふれと人のしるらん事そわひしき みにこひの あまりにしかは しのふれと ひとのしるらむ ことそわひしき | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
739 | しのひつつおもへはくるしすみの江の松のねなからあらはれなはや しのひつつ おもへはくるし すみのえの まつのねなから あらはれなはや | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
740 | 住吉の松ならねともひさしくも君とねぬよのなりにけるかな すみよしの まつならねとも ひさしくも きみとねぬよの なりにけるかな | 大納言きよかけ | 十二 | 恋二 |
741 | ひさしくもおもほえねとも住吉の松やふたたひおひかはるらん ひさしくも おもほえねとも すみよしの まつやふたたひ おひかはるらむ | 忠房かむすめ | 十二 | 恋二 |
742 | なにせむに結ひそめけんいはしろの松はひさしき物としるしる なにせむに むすひそめけむ いはしろの まつはひさしき ものとしるしる | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
743 | かた岸の松のうきねとしのひしはされはよつひにあらはれにけり かたきしの まつのうきねと しのひしは されはよつひに あらはれにけり | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
744 | あひ見てはいくひささにもあらねとも年月のことおもほゆるかな あひみては いくひささにも あらねとも としつきのこと おもほゆるかな | 柿本人麻呂(人麿) | 十二 | 恋二 |
745 | 年をへて思ひ思ひてあひぬれは月日のみこそうれしかりけれ としをへて おもひおもひて あひぬれは つきひのみこそ うれしかりけれ | 柿本人麻呂(人麿) | 十二 | 恋二 |
746 | すきいたもてふけるいたまのあはさらは如何せんとかわかねそめけん すきいたもて ふけるいたまの あはさらは いかにせむとか わかねそめけむ | 柿本人麻呂(人麿) | 十二 | 恋二 |
747 | こぬかなとしはしは人におもはせんあはてかへりしよひのねたさに こぬかなと しはしはひとに おもはせむ あはてかへりし よひのねたさに | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
748 | 秋霧のはれぬ朝のおほそらを見るかことくも見えぬ君かな あききりの はれぬあしたの おほそらを みるかことくも みえぬきみかな | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
749 | 恋ひわひぬねをたになかむ声たてていつこなるらんおとなしのさと こひわひぬ ねをたになかむ こゑたてて いつこなるらむ おとなしのさと | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
750 | おとなしのかはとそつひに流れけるいはて物思ふ人の渡は おとなしの かはとそつひに なかれける いはてものおもふ ひとのなみたは | 清原元輔 | 十二 | 恋二 |
751 | 風さむみ声よわり行く虫よりもいはて物思ふ我そまされる かせさむみ こゑよわりゆく むしよりも いはてものおもふ われそまされる | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
752 | しかのあまのつりにともせるいさり火のほのかにいもを見るよしもかな しかのあまの つりにともせる いさりひの ほのかにいもを みるよしもかな | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
753 | 恋するはくるしき物としらすへく人をわか身にしはしなさはや こひするは くるしきものと しらすへく ひとをわかみに しはしなさはや | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
754 | しるや君しらすはいかにつらからむわかかくはかり思ふ心を しるやきみ しらすはいかに つらからむ わかかくはかり おもふこころを | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
755 | あすしらぬわか身なりとも怨みおかむこの世にてのみやましと思へは あすしらぬ わかみなりとも うらみおかむ このよにてのみ やましとおもへは | 大中臣能宣 | 十二 | 恋二 |
756 | 思ふなと君はいへともあふ事をいつとしりてかわかこひさらん おもふなと きみはいへとも あふことを いつとしりてか わかこひさらむ | 柿本人麻呂(人麿) | 十二 | 恋二 |
757 | おもふらむ心の内をしらぬ身はしぬはかりにもあらしとそ思ふ おもふらむ こころのうちを しらぬみは しぬはかりにも あらしとそおもふ | 源順 | 十二 | 恋二 |
758 | かくれぬのそこの心そうらめしきいかにせよとてつれなかるらん かくれぬの そこのこころそ うらめしき いかにせよとて つれなかるらむ | 一条摂政 | 十二 | 恋二 |
759 | 我なからさももとかしき心かなおもはぬ人はなにかこひしき われなから さももとかしき こころかな おもはぬひとは なにかこひしき | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
760 | 草かくれかれにし水はぬるくともむすひしそては今もかわかす くさかくれ かれにしみつは ぬるくとも むすひしそては いまもかわかす | 清原元輔 | 十二 | 恋二 |
761 | わか思ふ人は草葉のつゆなれやかくれは抽のまつそほつらむ わかおもふ ひとはくさはの つゆなれや かくれはそての まつそほつらむ | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
762 | たもとよりおつる涙はみちのくの衣河とそいふへかりける たもとより おつるなみたは みちのくの ころもかはとそ いふへかりける | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
763 | 衣をやぬきてやらまし涙のみかかりけりとも人の見るへく ころもをや ぬきてやらまし なみたのみ かかりけりとも ひとのみるへく | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
764 | 人めをもつつまぬ物と思ひせは袖の涙のかからましやは ひとめをも つつまぬものと おもひせは そてのなみたの かからましやは | 実方朝臣 | 十二 | 恋二 |
765 | 礒神ふるとも雨にさはらめやあはむといもにいひてしものを いそのかみ ふるともあめに さはらめや あはむといもに いひてしものを | 大伴方見 | 十二 | 恋二 |
766 | わひぬれは今はたおなしなにはなる身をつくしてもあはむとそ思ふ わひぬれは いまはたおなし なにはなる みをつくしても あはむとそおもふ | 兵部卿元良親王 | 十二 | 恋二 |
767 | いつかともおもはぬさはのあやめ草たたつくつくとねこそなかるれ いつかとも おもはぬさはの あやめくさ たたつくつくと ねこそなかるれ | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
768 | おふれともこまもすさめぬあやめ草かりにも人のこぬかわひしさ おふれとも こまもすさへぬ あやめくさ かりにもひとの こぬかわひしさ | 凡河内躬恒 | 十二 | 恋二 |
769 | かやり火は物思ふ人の心かも夏のよすからしたにもゆらん かやりひは ものおもふひとの こころかも なつのよすから したにもゆらむ | 大中臣能宣 | 十二 | 恋二 |
770 | しのふれはくるしかりけりしのすすき秋のさかりになりやしなまし しのふれは くるしかりけり しのすすき あきのさかりに なりやしなまし | 勝観法師 | 十二 | 恋二 |
771 | 思ひきやわかまつ人はよそなからたなはたつめのあふを見むとは おもひきや わかまつひとは よそなから たなはたつめの あふをみむとは | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
772 | けふさへやよそに見るへきひこほしのたちならすらんあまのかはなみ けふさへや よそにみるへき ひこほしの たちならすらむ あまのかはなみ | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
773 | わひぬれはつねはゆゆしきたなはたもうらやまれぬる物にそ有りける わひぬれは つねはゆゆしき たなはたも うらやまれぬる ものにそありける | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
774 | 露たにもなからましかは秋の夜に誰とおきゐて人をまたまし つゆたにも なからましかは あきのよに たれとおきゐて ひとをまたまし | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
775 | 今更にとふへき人もおもほえすやへむくらしてかとさせりてへ いまさらに とふへきひとも おもほえす やへむくらして かとさせりてへ | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
776 | 秋はわか心のつゆにあらねとも物なけかしきころにもあるかな あきはわか こころのつゆに あらねとも ものなけかしき ころにもあるかな | 読人知らず | 十二 | 恋二 |
777 | あしひきの山した風もさむけきにこよひも又やわかひとりねん あしひきの やましたかせも さむけきに こよひもまたや わかひとりねむ | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
778 | 葦引の山鳥の尾のしたりをのなかなかし夜をひとりかもねむ あしひきの やまとりのをの したりをの なかなかしよを ひとりかもねむ #百人一首 | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
779 | あしひきの葛木山にゐる事のたちてもゐても君をこそおもへ あしひきの かつらきやまに ゐるくもの たちてもゐても きみをこそおもへ | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
780 | あしひきの山の山すけやますのみ見ねはこひしききみにもあるかな あしひきの やまのやますけ やますのみ みねはこひしき きみにもあるかな | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
781 | あしひきの山こえくれてやとからはいもたちまちていねさらむかも あしひきの やまこえくれて やとからは いもたちまちて いねさらむかも | 石上乙麿 | 一三 | 恋三 |
782 | あしひきの山よりいつる月まつと人にはいひて君をこそまて あしひきの やまよりいつる つきまつと ひとにはいひて きみをこそまて | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
783 | みか月のさやかに見えす雲隠見まくそほしきうたてこのころ みかつきの さやかにみえす くもかくれ みまくそほしき うたてこのころ | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
784 | 逢ふ事はかたわれ月の雲かくれおほろけにやは人のこひしき あふことは かたわれつきの くもかくれ おほろけにやは ひとのこひしき | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
785 | 秋の夜の月かも君はくもかくれしはしも見ねはここらこひしき あきのよの つきかもきみは くもかくれ しはしもみねは ここらこひしき | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
786 | 秋の夜の月見るとのみおきゐつつ今夜もねてや我はかへらん あきのよの つきみるとのみ おきゐつつ こよひもねてや われはかへらむ | 平兼盛 | 一三 | 恋三 |
787 | こひしさはおなし心にあらすとも今夜の月を君見さらめや こひしさは おなしこころに あらすとも こよひのつきを きみみさらめや | 源信明 | 一三 | 恋三 |
788 | さやかにも見るへき月を我はたた涙にくもるをりそおほかる さやかにも みるへきつきを われはたた なみたにくもる をりそおほかる | 中務 | 一三 | 恋三 |
789 | 久方のあまてる月もかくれ行く何によそへてきみをしのはむ ひさかたの あまてるつきも かくれゆく なにによそへて きみをしのはむ | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
790 | 宮こにて見しにかはらぬ月影をなくさめにてもあかすころかな みやこにて みしにかはらぬ つきかけを なくさめにても あかすころかな | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
791 | てる月も影みなそこにうつりけりにたる物なきこひもするかな てるつきも かけみなそこに うつりけり にたるものなき こひもするかな | 紀貫之 | 一三 | 恋三 |
792 | 今夜君いかなるさとの月を見て宮こにたれを思ひいつらむ こよひきみ いかなるさとの つきをみて みやこにたれを おもひいつらむ | 中宮内侍 | 一三 | 恋三 |
793 | 月かけをわか身にかふる物ならはおもはぬ人もあはれとや見む つきかけを わかみにかふる ものならは おもはぬひとも あはれとやみむ | 壬生忠岑 | 一三 | 恋三 |
794 | ひとりぬるやとには月の見えさらは恋しき事のかすはまさらし ひとりぬる やとにはつきの みえさらは こひしきことの かすはまさらし | 源順 | 一三 | 恋三 |
795 | 長月の在明の月の有りつつも君しきまさは我こひめやも なかつきの ありあけのつきの ありつつも きみしきまさは わかこひめやも | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
796 | ことならはやみにそあらまし秋のよのなそ月かけの人たのめなる ことならは やみにそあらまし あきのよの なそつきかけの ひとたのめなる | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
797 | ふらぬ夜の心をしらておほそらの雨をつらしと思ひけるかな ふらぬよの こころをしらて おほそらの あめをつらしと おもひけるかな | 春宮左近 | 一三 | 恋三 |
798 | 衣たになかに有りしはうとかりきあはぬ夜をさへへたてつるかな ころもたに なかにありしは うとかりき あはぬよをさへ へたてつるかな | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
799 | なかき夜も人をつらしと思ふにはねなくにあくる物にそ有りける なかきよも ひとをつらしと おもふには ねなくにあくる ものにそありける | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
800 | わすれなん今はとはしと思ひつつぬる夜しもこそゆめに見えけれ わすれなむ いまはとはしと おもひつつ ぬるよしもこそ ゆめにみえけれ | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
801 | よるとてもねられさりけり人しれすねさめのこひにおとろかれつつ よるとても ねられさりけり ひとしれす ねさめのこひに おとろかれつつ | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
802 | むはたまのいもかくろかみこよひもやわかなきとこになひきいてぬらん うはたまの いもかくろかみ こよひもや わかなきとこに なひきいてぬらむ | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
803 | わかせこかありかもしらてねたる夜はあか月かたの枕さひしも わかせこか ありかもしらて ねたるよは あかつきかたの まくらさひしも | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
804 | いかなりし時くれ竹のひと夜たにいたつらふしをくるしといふらん いかなりし ときくれたけの ひとよたに いたつらふしを くるしといふらむ | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
805 | いかならんをりふしにかはくれ竹のよるはこひしき人にあひ見む いかならむ をりふしにかは くれたけの よるはこひしき ひとにあひみむ | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
806 | まさしてふやそのちまたにゆふけとふうらまさにせよいもにあふへく まさしてふ やそのちまたに ゆふけとふ うらまさにせよ いもにあふへく | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
807 | ゆふけとふうらにもよくありこよひたにこさらむきみをいつかまつへき ゆふけとふ うらにもよくあり こよひたに こさらむきみを いつかまつへき | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
808 | 夢をたにいかてかたみに見てしかなあはてぬるよのなくさめにせん ゆめをたに いかてかたみに みてしかな あはてぬるよの なくさめにせむ | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
809 | うつつにはあふことかたし玉の緒のよるはたえせすゆめに見えなん うつつには あふことかたし たまのをの よるはたえせす ゆめにみえなむ | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
810 | いにしへをいかてかとのみ思ふ身に今夜のゆめを春になさはや いにしへを いかてかとのみ おもふみに こよひのゆめを はるになさはや | ひろはたのみやす所 | 一三 | 恋三 |
811 | わすらるる時しなけれは春の田を返す返すそ人はこひしき わすらるる ときしなけれは はるのたを かへすかへすそ ひとはこひしき | 紀貫之 | 一三 | 恋三 |
812 | あつさゆみ春のあら田をうち返し思ひやみにし人そこひしき あつさゆみ はるのあらたを うちかへし おもひやみにし ひとそこひしき | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
813 | かのをかにはきかるをのこなはをなみねるやねりそのくたけてそ思ふ かのをかに はきかるをのこ なはをなみ ねるやねりその くたけてそおもふ | 凡河内躬恒 | 一三 | 恋三 |
814 | 春くれは柳のいともとけにけりむすほほれたるわか心かな はるくれは やなきのいとも とけにけり むすほほれたる わかこころかな | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
815 | いつ方によるとかは見むあをやきのいとさためなき人の心を いつかたに よるとかはみむ あをやきの いとさためなき ひとのこころを | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
816 | まきもくのひはらの霞立返りかくこそは見めあかぬ君かな まきもくの ひはらのかすみ たちかへり かくこそはみめ あかぬきみかな | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
817 | なかめやる山へはいととかすみつつおほつかなさのまさる春かな なかめやる やまへはいとと かすみつつ おほつかなさの まさるはるかな | 藤原清隆娘 | 一三 | 恋三 |
818 | わかせこをきませの山とひとはいへと君もきまさぬ山のなならし わかせこを きませのやまと ひとはいへと きみもきまさぬ やまのなならし | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
819 | 我か背子をならしの岡のよふことり君よひかへせ夜のふけぬ時 わかせこを ならしのをかの よふことり きみよひかへせ よのふけぬとき | 山部赤人 | 一三 | 恋三 |
820 | こぬ人をまつちの山の郭公おなし心にねこそなかるれ こぬひとを まつちのやまの ほとときす おなしこころに ねこそなかるれ | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
821 | しののめになきこそわたれ時鳥物思ふやとはしるくやあるらん しののめに なきこそわたれ ほとときす ものおもふやとは しるくやあるらむ | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
822 | たたくとてやとのつまとをあけたれは人もこすゑのくひななりけり たたくとて やとのつまとを あけたれは ひともこすゑの くひななりけり | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
823 | 夏衣うすきなからそたのまるるひとへなるしも身にちかけれは なつころも うすきなからそ たのまるる ひとへなるしも みにちかけれは | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
824 | かりてほすよとのまこもの雨ふれはつかねもあへぬこひもするかな かりてほす よとのまこもの あめふれは つかぬもあへぬ こひもするかな | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
825 | みな月のつちさへさけててる日にもわかそてひめやいもにあはすして みなつきの つちさへさけて てるひにも わかそてひめや いもにあはすして | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
826 | なる神のしはしうこきてそらくもり雨もふらなん君とまるへく なるかみの しはしうこきて そらくもり あめもふらなむ きみとまるへく | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
827 | 人ことは夏野の草のしけくとも君と我としたつさはりなは ひとことは なつののくさの しけくとも きみとわれとし たつさはりなは | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
828 | 野も山もしけりあひぬる夏なれと人のつらさは事のはもなし のもやまも しけりあひぬる なつなれと ひとのつらさは ことのはもなし | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
829 | 夏草のしけみにおふるまろこすけまろかまろねよいくよへぬらん なつくさの しけみにおふる まろこすけ まろかまろねよ いくよへぬらむ | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
830 | 山かつのかきほにおふるなてしこに思ひよそへぬ時のまそなき やまかつの かきほにおふる なてしこに おもひよそへぬ ときのまそなき | 村上院御製 | 一三 | 恋三 |
831 | 思ひしる人に見せはやよもすからわかとこ夏におきゐたるつゆ おもひしる ひとにみせはや よもすから わかとこなつに おきゐたるつゆ | 清原元輔 | 一三 | 恋三 |
832 | 秋の野の草葉もわけぬわか袖のつゆけくのみもなりまさるかな あきののの くさはもわけぬ わかそての つゆけくのみも なりまさるかな | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
833 | わかせこかきまさぬよひの秋風はこぬ人よりもうらめしきかな わかせこか きまさぬよひの あきかせは こぬひとよりも うらめしきかな | 曾禰好忠 | 一三 | 恋三 |
834 | うら山しあさひにあたる白露をわか身と今はなすよしもかな うらやまし あさひにあたる しらつゆを わかみといまは なすよしもかな | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
835 | 秋の田のほのうへにおけるしらつゆのけぬへく我はおもほゆるかな あきのたの ほのうへにおける しらつゆの けぬへくわれは おもほゆるかな | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
836 | 住吉の岸を田にほりまきしいねのかるほとまてもあはぬきみかな すみよしの きしをたにほり まきしいねの かるほとまても あはぬきみかな | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
837 | こひしくはかたみにせむとわかやとにうゑし秋はき今さかりなり こひしくは かたみにせむと わかやとに うゑしあきはき いまさかりなり | 山部赤人 | 一三 | 恋三 |
838 | 秋はきのしたはを見すはわすらるる人の心をいかてしらまし あきはきの したはをみすは わすらるる ひとのこころを いかてしらまし | 広平親王 | 一三 | 恋三 |
839 | しめゆはぬのへの秋はき風ふけはとふしかくふし物をこそ思へ しめゆはぬ のへのあきはき かせふけは とふしかくふし ものをこそおもへ | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
840 | うつろふはしたははかりと見しほとにやかても秋になりにけるかな うつろふは したははかりと みしほとに やかてもあきに なりにけるかな | 中宮内侍 | 一三 | 恋三 |
841 | 事の葉も霜にはあへすかれにけりこや秋はつるしるしなるらん ことのはも しもにはあへす かれにけり こやあきはつる しるしなるらむ | 大中臣能宣 | 一三 | 恋三 |
842 | 色もなき心を人にそめしよりうつろはむとはわかおもはなくに いろもなき こころをひとに そめしより うつろはむとは わかおもはなくに | 紀貫之 | 一三 | 恋三 |
843 | かすならぬ身をうち河のあしろ木におほくの日をもすくしつるかな かすならぬ みをうちかはの あしろきに おほくのひをも すくしつるかな | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
844 | したもみちするをはしらて松の木のうへの緑をたのみけるかな したもみち するをはしらて まつのきの うへのみとりを たのみけるかな | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
845 | わかせこをわかこひをれはわかやとの草さへ思ひうらかれにけり わかせこを わかこひをれは わかやとの くささへおもひ うらかれにけり | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
846 | 霜のうへにふるはつ雪のあさ氷とけすも物を思ふころかな しものうへに ふるはつゆきの あさこほり とけすもものを おもふころかな | 読人知らず | 一三 | 恋三 |
847 | 三吉野の雪にこもれる山人もふる道とめてねをやなくらん みよしのの ゆきにこもれる やまひとも ふるみちとめて ねをやなくらむ | 源景明 | 一三 | 恋三 |
848 | たのめつつこぬ夜あまたに成りぬれはまたしと思ふそまつにまされる たのめつつ こぬよあまたに なりぬれは またしとおもふそ まつにまされる | 柿本人麻呂(人麿) | 一三 | 恋三 |
849 | あさねかみ我はけつらしうつくしき人のた枕ふれてしものを あさねかみ われはけつらし うつくしき ひとのたまくら ふれてしものを | 柿本人麻呂(人麿) | 一四 | 恋四 |
850 | 時のまも心はそらになるものをいかてすくしし昔なるらむ ときのまも こころはそらに なるものを いかてすくしし むかしなるらむ | 藤原実方朝臣 | 一四 | 恋四 |
851 | しらなみのうちしきりつつ今夜さへいかてかひとりぬるとかやきみ しらなみの うちしきりつつ こよひさへ いかてかひとり ぬるとかやきみ | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
852 | 如何してけふをくらさむこゆるきのいそきいててもかひなかりけり いかにして けふをくらさむ こゆるきの いそきいてても かひなかりけり | 小弐命婦 | 一四 | 恋四 |
853 | みなといりの葦わけを舟さはりおほみわか思ふ人にあはぬころかな みなといりの あしわけをふね さはりおほみ わかおもふひとに あはぬころかな | 柿本人麻呂(人麿) | 一四 | 恋四 |
854 | いはしろのの中にたてる結松心もとけす昔おもへは いはしろの のなかにたてる むすひまつ こころもとけす むかしおもへは | 柿本人麻呂(人麿) | 一四 | 恋四 |
855 | わかやとははりまかたにもあらなくにあかしもはてて人のゆくらん わかやとは はりまかたにも あらなくに あかしもはてて ひとのゆくらむ | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
856 | 浪まより見ゆるこ舟の浜ひさ木ひさしく成りぬ君にあはすて なみまより みゆるこしまの はまひさき ひさしくなりぬ きみにあはすて | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
857 | ますかかみ手にとりもちてあさなあさな見れともきみにあく時そなき ますかかみ てにとりもちて あさなあさな みれともきみに あくときそなき | 柿本人麻呂(人麿) | 一四 | 恋四 |
858 | みな人のかさにぬふてふ有ますけありてののちもあはんとそ思ふ みなひとの かさにぬふてふ ありますけ ありてののちも あはむとそおもふ | 柿本人麻呂(人麿) | 一四 | 恋四 |
859 | いかほのやいかほのぬまのいかにして恋しき人を今ひとめみむ いかほのや いかほのぬまの いかにして こひしきひとを いまひとめみむ | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
860 | 玉河にさらすてつくりさらさらに昔の人のこひしきやなそ たまかはに さらすてつくり さらさらに むかしのひとの こひしきやなそ | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
861 | 身ははやくならの都になりにしをこひしき事のふりせさるらん みははやく ならのみやこに なりにしを こひしきことの ふりせさるらむ | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
862 | いその神ふりにしこひのかみさひてたたるに我はねきそかねつる いそのかみ ふりにしこひの かみさひて たたるにわれは ねきそかねつる | 藤原忠房朝臣 | 一四 | 恋四 |
863 | いかはかり苦しきものそ葛木のくめちのはしの中のたえまは いかはかり くるしきものそ かつらきの くめちのはしの なかのたえまは | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
864 | 限なく思ひなからの橋柱思ひなからに中やたえなん かきりなく おもひなからの はしはしら おもひなからに なかやたえなむ | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
865 | 中中にいひもはなたてしなのなるきそちのはしのかけたるやなそ なかなかに いひもはなたて しなのなる きそちのはしの かけたるやなそ | 源頼光 | 一四 | 恋四 |
866 | すきたてるやとをそ人はたつねける心の松はかひなかりけり すきたてる やとをそひとは たつねける こころのまつは かひなかりけり | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
867 | いその神ふるの社のゆふたすきかけてのみやはこひむと思ひし いそのかみ ふるのやしろの ゆふたすき かけてのみやは こひむとおもひし | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
868 | 我やうき人やつらきとちはやふる神てふ神にとひ見てしかな われやうき ひとやつらきと ちはやふる かみてふかみに とひみてしかな | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
869 | 住吉のあら人神にちかひてもわするる君か心とそきく すみよしの あらひとかみに ちかひても わするるきみか こころとそきく | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
870 | わすらるる身をはおもはすちかひてし人のいのちのをしくもあるかな わすらるる みをはおもはす ちかひてし ひとのいのちの をしくもあるかな #百人一首 | 右近 | 一四 | 恋四 |
871 | 何せむに命をかけてちかひけんいかはやと思ふをりも有りけり なにせむに いのちをかけて ちかひけむ いかはやとおもふ をりもありけり | 実方朝臣 | 一四 | 恋四 |
872 | ちりひちのかすにもあらぬ我ゆゑに思ひわふらんいもかかなしさ ちりひちの かすにもあらぬ われゆゑに おもひわふらむ いもかかなしさ | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
873 | こひこひて後もあはむとなくさむる心しなくはいのちあらめや こひこひて のちもあはむと なくさむる こころしなくは いのちあらめや | 柿本人麻呂(人麿) | 一四 | 恋四 |
874 | かくはかりこひしき物としらませはよそに見るへくありけるものを かくはかり こひしきものと しらませは よそにみるへく ありけるものを | 柿本人麻呂(人麿) | 一四 | 恋四 |
875 | 涙河のとかにたにもなかれなんこひしき人の影や見ゆると なみたかは のとかにたにも なかれなむ こひしきひとの かけやみゆると | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
876 | 涙河おつるみなかみはやけれはせきそかねつるそてのしからみ なみたかは おつるみなかみ はやけれは せきそかねつる そてのしからみ | 紀貫之 | 一四 | 恋四 |
877 | なみた河そこのみくつとなりはててこひしきせせに流れこそすれ なみたかは そてのみくつと なりはてて こひしきせせに なかれこそすれ | 源順 | 一四 | 恋四 |
878 | 人しれすおつる涙のつもりつつかすかくはかりなりにけるかな ひとしれす おつるなみたの つもりつつ かすかくはかり なりにけるかな | 藤原惟成 | 一四 | 恋四 |
879 | かつ見つつ影はなれゆく水のおもにかくかすならぬ身をいかにせん かつみつつ かけはなれゆく みつのおもに かくかすならぬ みをいかにせむ | 承香殿女御 | 一四 | 恋四 |
880 | さをしかのつめたにひちぬ山河のあさましきまてとはぬ君かな さをしかの つめたにひちぬ やまかはの あさましきまて とはぬきみかな | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
881 | 浅猿やこのしたかけのいはし水いくその人の影を見つらん あさましや このしたかけの いはしみつ いくそのひとの かけをみつらむ | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
882 | 行く水のあわならはこそきえかへり人のふちせを流れても見め ゆくみつの あわならはこそ きえかへり ひとのふちせを なかれてもみめ | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
883 | つのくにのほり江のふかく思ふとも我はなにはのなにとたに見す つのくにの ほりえのふかく おもふとも われはなにはの なにとたにみす | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
884 | つのくにのいくたの池のいくたひかつらき心を我に見すらん つのくにの いくたのいけの いくたひか つらきこころを われにみすらむ | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
885 | つのくにのなには渡につくるなるこやといはなんゆきて見るへく つのくにの なにはわたりに つくるなる こやといはなむ ゆきてみるへく | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
886 | たひひとのかやかりおほひつくるてふまろやは人を思ひわするる たひひとの かやかりおほひ つくるてふ まろやはひとを おもひわするる | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
887 | なには人あし火たくやはすすたれとおのかつまこそとこめつらなれ なにはひと あしひたくやは すすたれと おのかつまこそ とこめつらなれ | 柿本人麻呂(人麿) | 一四 | 恋四 |
888 | 住吉の岸におひたる忘草見すやあらましこひはしぬとも すみよしの きしにおひたる わすれくさ みすやあらまし こひはしぬとも | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
889 | やほかゆくはまのまさことわかこひといつれまされりおきつしまもり やほかゆく はまのまさこと わかこひと いつれまされり おきつしまもり | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
890 | さしなから人の心を見くまののうらのはまゆふいくへなるらん さしなから ひとのこころを みくまのの うらのはまゆふ いくへなるらむ | 平兼盛 | 一四 | 恋四 |
891 | 世の人のおよはぬ物はふしのねのくもゐにたかき思ひなりけり よのひとの およはぬものは ふしのねの くもゐにたかき おもひなりけり | 村上院御製 | 一四 | 恋四 |
892 | わかこひのあらはに見ゆる物ならはみやこのふしといはれなましを わかこひの あらはにみゆる ものならは みやこのふしと いはれなましを | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
893 | あしねはふうきはうへこそつれなけれしたはえならす思ふ心を あしねはふ うきはうへこそ つれなけれ したはえならす おもふこころを | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
894 | ねぬなはのくるしかるらん人よりも我そます田のいけるかひなき ねぬなはの くるしかるらむ ひとよりも われそますたの いけるかひなき | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
895 | たらちねのおやのかふこのまゆこもりいふせくもあるかいもにあはすして たらちねの おやのかふこの まゆこもり いふせくもあるか いもにあはすて | 柿本人麻呂(人麿) | 一四 | 恋四 |
896 | いさやまたこひてふ事もしらなくにこやそなるらんいこそねられね いさやまた こひてふことも しらなくに こやそなるらむ いこそねられね | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
897 | たらちねのおやのいさめしうたたねは物思ふ時のわさにそ有りける たらちねの おやのいさめし うたたねは おもおもふときの わさにそありける | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
898 | うちとなくなれもしなまし玉すたれたれ年月をへたてそめけん うちとなく なれもしなまし たまたれの たれとしつきを へたてそめけむ | 中務 | 一四 | 恋四 |
899 | うかりけるふしをはすててしらいとの今くる人と思ひなさなん うかりける ふしをはすてて しらいとの いまくるひとと おもひなさなむ | 紀貫之 | 一四 | 恋四 |
900 | 思ふとていとこそ人になれさらめしかならひてそ見ねはこひしき おもふとて いとこそひとに なれさらめ しかならひてそ みねはこひしき | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
901 | た枕のすきまの風もさむかりき身はならはしの物にそ有りける たまくらの すきまのかせも さむかりき みはならはしの ものにそありける | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
902 | 吹く風に雲のはたてはととむともいかかたのまん人の心は ふくかせに くものはたては ととむとも いかかたのまむ ひとのこころは | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
903 | わか草にととめもあへぬこまよりもなつけわひぬる人の心か わかくさに ととめもあへぬ こまよりも なつけわひぬる ひとのこころか | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
904 | あふことのかたかひしたるみちのくのこまほしくのみおもほゆるかな あふことの かたかひしたる みちのくの こまほしくのみ おもほゆるかな | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
905 | みちのくのあたちの原のしらまゆみ心こはくも見ゆるきみかな みちのくの あたちのはらの しらまゆみ こころこはくも みゆるきみかな | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
906 | 年月の行くらん方もおもほえす秋のはつかに人の見ゆれは としつきの ゆくらむかたも おもほえす あきのはつかに ひとのみゆれは | 伊勢 | 一四 | 恋四 |
907 | 思ひきやあひ見ぬほとの年月をかそふはかりにならん物とは おもひきや あひみぬほとの としつきを かそふはかりに ならむものとは | 伊勢 | 一四 | 恋四 |
908 | 遥なる程にもかよふ心かなさりとて人のしらぬものゆゑ はるかなる ほとにもかよふ こころかな さりとてひとの しらぬものゆゑ | 伊勢 | 一四 | 恋四 |
909 | 雲井なる人を遥に思ふにはわか心さへそらにこそなれ くもゐなる ひとをはるかに おもふには わかこころさへ そらにこそなれ | 源経基 | 一四 | 恋四 |
910 | よそに有りてくもゐに見ゆるいもか家に早くいたらむあゆめくろこま よそにありて くもゐにみゆる いもかいへに はやくいたらむ あゆめくろこま | 柿本人麻呂(人麿) | 一四 | 恋四 |
911 | わかかへるみちのくろこま心あらは君はこすともおのれいななけ わかかへる みちのくろこま こころあらは きみはこすとも おのれいななけ | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
912 | 歎きつつ独ぬる夜のあくるまはいかにひさしき物とかはしる なけきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる #百人一首 | 藤原道綱母 | 一四 | 恋四 |
913 | なけ木こる人いる山のをののえのほとほとしくもなりにけるかな なけきこる ひといるやまの をののえの ほとほとしくも なりにけるかな | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
914 | ひとにたにしらせていりしおく山に恋しさいかてたつねきつらん ひとにたに しらせていりし おくやまに こひしさいかて たつねきつらむ | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
915 | 影たえておほつかなさのますかかみ見すはわか身のうさもしられし かけたえて おほつかなさの ますかかみ みすはわかみの うさもしられし | くにもち | 一四 | 恋四 |
916 | 思ひます人しなけれはますかかみうつれる影とねをのみそなく おもひます ひとしなけれは ますかかみ うつれるかけと ねをのみそなく | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
917 | わか袖のぬるるを人のとかめすはねをたにやすくなくへきものを わかそての ぬるるをひとの とかめすは ねをたにやすく なくへきものを | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
918 | かすならぬ身はたたにたにおもほえていかにせよとかなかめらるらん かすならぬ みはたたにたに おもほえて いかにせよとか なかめらるらむ | こまの命婦 | 一四 | 恋四 |
919 | 夢にさへ人のつれなく見えつれはねてもさめても物をこそおもへ ゆめにさへ ひとのつれなく みえつれは ねてもさめても ものをこそおもへ | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
920 | 見る夢のうつつになるはよのつねそうつつのゆめになるそかなしき みるゆめの うつつになるは よのつねそ うつつのゆめに なるそかなしき | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
921 | 逢ふ事は夢の中にもうれしくてねさめのこひそわひしかりける あふことは ゆめのうちにも うれしくて ねさめのこひそ わひしかりける | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
922 | わすれしよゆめとちきりし事のははうつつにつらき心なりけり わすれしよ ゆめとちきりし ことのはは うつつにつらき こころなりけり | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
923 | あたらしと何にいのちを思ひけんわすれはふるくなりぬへき身を あたらしと なににいのちを おもひけむ わすれはふるく なりぬへきみを | 読人知らず | 一四 | 恋四 |
924 | ちはやふる神のいかきもこえぬへし今はわか身のをしけくもなし ちはやふる かみのいかきも こえぬへし いまはわかみの をしけくもなし | 柿本人麻呂(人麿) | 一四 | 恋四 |
925 | なく涙世はみな海となりななんおなしなきさに流れよるへく なくなみた よはみなうみと なりななむ おなしなきさに なかれよるへく | 善祐法師母 | 一五 | 恋五 |
926 | 住吉の岸にむかへるあはち島あはれと君をいはぬ日そなき すみよしの きしにむかへる あはちしま あはれときみを いはぬひそなき | 柿本人麻呂(人麿) | 一五 | 恋五 |
927 | すてはてむいのちを今はたのまれよあふへきことのこの世ならねは すてはてむ いのちをいまは たのまれよ あふへきことの このよならねは | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
928 | いきしなん事の心にかなひせはふたたひ物はおもはさらまし いきしなむ ことのこころに かなひせは ふたたひものは おもはさらまし | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
929 | もえはててはひとなりなん時にこそ人を思ひのやまむこにせめ もえはてて はひとなりなむ ときにこそ ひとをおもひの やまむこにせめ | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
930 | いつ方にゆきかくれなん世の中に身のあれはこそ人もつらけれ いつかたに ゆきかくれなむ よのなかに みのあれはこそ ひともつらけれ | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
931 | 有りへむと思ひもかけぬ世の中はなかなか身をそなけかさりける ありへむと おもひもかけぬ よのなかは なかなかみをそ なけかさりける | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
932 | いつはりと思ふものから今さらにたかまことをか我はたのまむ いつはりと おもふものから いまさらに たかまことをか われはたのまむ | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
933 | 世の中のうきもつらきもしのふれは思ひしらすと人や見るらん よのなかの うきもつらきも しのふれは おもひしらすと ひとやみるらむ | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
934 | ひたふるにしなはなにかはさもあらはあれいきてかひなき物思ふ身は ひたふるに しなはなにかは さもあらはあれ いきてかひなき ものおもふみは | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
935 | 恋するにしにする物にあらませはちたひそ我はしにかへらまし こひするに しにするものに あらませは ちたひそわれは しにかへらまし | 柿本人麻呂(人麿) | 一五 | 恋五 |
936 | こひてしねこひてしねとやわきもこかわか家の門をすきてゆくらん こひてしね こひてしねとや わきもこか わかいへのかとを すきてゆくらむ | 柿本人麻呂(人麿) | 一五 | 恋五 |
937 | こひしなはこひもしねとや玉桙の道ゆき人に事つてもなき こひしなは こひもしねとや たまほこの みちゆきひとに ことつてもなき | 柿本人麻呂(人麿) | 一五 | 恋五 |
938 | 恋しきをなくさめかねてすかはらや伏見にきてもねられさりけり こひしきを なくさめかねて すかはらや ふしみにきても ねられさりけり | 源重之 | 一五 | 恋五 |
939 | こひしきは色にいてても見えなくにいかなる時かむねにしむらん こひしきは いろにいてても みえなくに いかなるときか むねにしむらむ | 読人しらす | 一五 | 恋五 |
940 | しのはむにしのはれぬへきこひならはつらきにつけてやみもしなまし しのはむに しのはれぬへき こひならは つらきにつけて やみもしなまし | 読人しらす | 一五 | 恋五 |
941 | いかていかてこふる心をなくさめてのちの世まての物をおもはし いかていかて こふるこころを なくさめて のちのよまての ものをおもはし | 大中臣能宣 | 一五 | 恋五 |
942 | 限なく思ふ心のふかけれはつらきもしらぬものにそありける かきりなく おもふこころの ふかけれは つらきもしらぬ ものにそありける | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
943 | わりなしやしひてもたのむ心かなつらしとかつは思ふものから わりなしや しひてもたのむ こころかな つらしとかつは おもふものから | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
944 | うしと思ふものから人のこひしきはいつこをしのふ心なるらん うしとおもふ ものからひとの こひしきは いつこをしのふ こころなるらむ | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
945 | 身のうきを人のつらきと思ふこそ我ともいはしわりなかりけれ みのうきを ひとのつらきと おもふこそ われともいはし わりなかりけれ | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
946 | つらしとは思ふものからこひしきは我にかなはぬ心なりけり つらしとは おもふものから こひしきは われにかなはぬ こころなりけり | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
947 | つらきをも思ひしるやはわかためにつらき人しも我をうらむる つらきをも おもひしるやは わかために つらきひとしも われをうらむる | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
948 | 心をはつらき物そといひおきてかはらしと思ふかほそこひしき こころをは つらきものそと いひおきて かはらしとおもふ かほそこひしき | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
949 | あさましや見しかとたにもおもはぬにかはらぬかほそ心ならまし あさましや みしかとたにも おもはぬに かはらぬかほそ こころならまし | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
950 | あはれともいふへき人はおもほえて身のいたつらに成りぬへきかな あはれとも いふへきひとは おもほえて みのいたつらに なりぬへきかな #百人一首 | 一条摂政 | 一五 | 恋五 |
951 | さもこそはあひ見むことのかたからめわすれすとたにいふ人のなき さもこそは あひみむことの かたからめ わすれすとたに いふひとのなき | 伊勢 | 一五 | 恋五 |
952 | あふことのなけきの本をたつぬれはひとりねよりそおひはしめける あふことの なけきのもとを たつぬれは ひとりねよりそ おひはしめける | 藤原有時 | 一五 | 恋五 |
953 | おほかたのわか身ひとつのうきからになへての世をも怨みつるかな おほかたの わかみひとつの うきからに なへてのよをも うらみつるかな | 紀貫之 | 一五 | 恋五 |
954 | あらちをのかるやのさきに立つしかもいと我はかり物はおもはし あらちをの かるやのさきに たつしかも いとわれはかり ものはおもはし | 柿本人麻呂(人麿) | 一五 | 恋五 |
955 | 荒磯の外ゆく浪の外心我はおもはしこひはしぬとも あらいその ほかゆくなみの ほかこころ われはおもはし こひはしぬとも | 柿本人麻呂(人麿) | 一五 | 恋五 |
956 | かきくもり雨ふる河のささらなみまなくも人のこひらるるかな かきくもり あめふるかはの ささらなみ まなくもひとの こひらるるかな | 柿本人麻呂(人麿) | 一五 | 恋五 |
957 | わかことや雲の中にも思ふらむ雨もなみたもふりにこそふれ わかことや くものうちにも おもふらむ あめもなみたも ふりにこそふれ | 柿本人麻呂(人麿) | 一五 | 恋五 |
958 | ふる雨にいててもぬれぬわかそてのかけにゐなからひちまさるかな ふるあめに いててもぬれぬ わかそての かけにゐなから ひちまさるかな | 紀貫之 | 一五 | 恋五 |
959 | これをたにかきそわつらふ雨とふる涙をのこふいとまなけれは これをたに かきそわつらふ あめとふる なみたをぬくふ いとまなけれは | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
960 | 君こふる我もひさしくなりぬれは袖に涙もふりぬへらなり きみこふる われもひさしく なりぬれは そてになみたも ふりぬへらなり | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
961 | きみこふる涙のかかる袖のうらはいはほなりともくちそしぬへき きみこふる なみたのかかる そてのうらは いはほなりとも くちそしぬへき | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
962 | またしらぬおもひにもゆるわか身かなさるはなみたの河の中にて またしらぬ おもひにもゆる わかみかな さるはなみたの かはのうちにて | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
963 | 風をいたみおもはぬ方にとまりするあまのを舟もかくやわふらん かせをいたみ おもはぬかたに とまりする あまのをふねも かくやわふらむ | 源景明 | 一五 | 恋五 |
964 | せをはやみたえすなかるる水よりもつきせぬ物は涙なりけり せをはやみ たえすなかるる みつよりも つきせぬものは なみたなりけり | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
965 | わかことく物思ふ人はいにしへも今ゆくすゑもあらしとそ思ふ わかことく ものおもふひとは いにしへも いまゆくすゑも あらしとそおもふ | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
966 | くろかみにしろかみましりおふるまてかかるこひにはいまたあはさるに くろかみに しろかみましり おふるまて かかるこひには いまたあはさるに | 大伴坂上郎女 | 一五 | 恋五 |
967 | しほみては入りぬるいその草なれや見らくすくなくこふらくのおほき しほみては いりぬるいその くさなれや みらくすくなく こふらくのおほき | 大伴坂上郎女 | 一五 | 恋五 |
968 | しかのあまのつりにともせるいさり火のほのかに人を見るよしもかな しかのあまの つりにともせる いさりひの ほのかにひとを みるよしもかな | 大伴坂上郎女 | 一五 | 恋五 |
969 | いはねふみかさなる山はなけれともあはぬ日かすをこひやわたらん いはねふみ かさなるやまは なけれとも あはぬひかすを こひやわたらむ | 大伴坂上郎女 | 一五 | 恋五 |
970 | なけ木こる山ちは人もしらなくにわか心のみつねにゆくらん なけきこる やまちはひとも しらなくに わかこころのみ つねにゆくらむ | 藤原有時 | 一五 | 恋五 |
971 | 限なき思ひのそらにみちぬれはいくその煙雲となるらん かきりなき おもひのそらに みちぬれは いくそのけふり くもとなるらむ | 円融院 | 一五 | 恋五 |
972 | そらにみつ思ひの煙雲ならはなかむる人のめにそ見えまし そらにみつ おもひのけふり くもならは なかむるひとの めにそみえまし | 少将更衣 | 一五 | 恋五 |
973 | おもはすはつれなき事もつらからしたのめは人を怨みつるかな おもはすは つれなきことも つらからし たのめはひとを うらみつるかな | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
974 | つらけれとうらむる限ありけれは物はいはれてねこそなかるれ つらけれと うらむるかきり ありけれは ものはいはれて ねこそなかるれ | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
975 | 紅のやしほの衣かくしあらは思ひそめすそあるへかりける くれなゐの やしほのころも かくしあらは おもひそめすそ あるへかりける | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
976 | ほのかにも我をみしまのあくた火のあくとや人のおとつれもせぬ ほのかにも われをみしまの あくたひの あくとやひとの おとつれもせぬ | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
977 | 人をとくあくた河てふつのくにの名にはたかはぬ物にそ有りける ひとをとく あくたかはてふ つのくにの なにはたかはぬ ものにそありける | 承香殿中納言 | 一五 | 恋五 |
978 | 限なく思ひそめてし紅の人をあくにそかへらさりける かきりなく おもひそめてし くれなゐの ひとをあくにそ かへらさりける | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
979 | ありそ海の浦とたのめしなこり浪うちよせてけるわすれかひかな ありそうみの うらとたのめし なこりなみ うちよせてける わすれかひかな | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
980 | つらけれと人にはいはすいはみかた怨そふかき心ひとつに つらけれと ひとにはいはす いはみかた うらみそふかき こころひとつに | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
981 | 怨みぬもうたかはしくそおもほゆるたのむ心のなきかとおもへは うらみぬも うたかはしくそ おもほゆる たのむこころの なきかとおもへは | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
982 | 近江なる打出のはまのうちいてつつ怨みやせまし人の心を あふみなる うちてのはまの うちいてつつ うらみやせまし ひとのこころを | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
983 | 渡つ海のふかき心は有りなからうらみられぬる物にそ有りける わたつうみの ふかきこころは ありなから うらみられぬる ものにそありける | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
984 | かすならぬ身は心たになからなん思ひしらすは怨みさるへく かすならぬ みはこころたに なからなむ おもひしらすは うらみさるへく | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
985 | 怨みてののちさへ人のつらからはいかにいひてかねをもなかまし うらみての のちさへひとの つらからは いかにいひてか ねをもなかまし | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
986 | きみを猶怨みつるかなあまのかるもにすむむしの名を忘れつつ きみをなほ うらみつるかな あまのかる もにすむむしの なをわすれつつ | 閑院大君 | 一五 | 恋五 |
987 | あまのかるもにすむむしのなはきけとたた我からのつらきなりけり あまのかる もにすむむしの なはきけと たたわれからの つらきなりけり | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
988 | こひわひぬかなしき事もなくさめんいつれなかすのはまへなるらん こひわひぬ かなしきことも なくさめむ いつれなかすの はまへなるらむ | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
989 | かくはかりうしと思ふにこひしきは我さへ心ふたつ有りけり かくはかり うしとおもふに こひしきは われさへこころ ふたつありけり | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
990 | とにかくに物はおもはすひたたくみうつすみなはのたたひとすちに とにかくに ものはおもはす ひたたくみ うつすみなはの たたひとすちに | 柿本人麻呂(人麿) | 一五 | 恋五 |
991 | いにしへをさらにかけしと思へともあやしくめにもみつなみたかな いにしへを さらにかけしと おもへとも あやしくめにも みつなみたかな | 村上院御製 | 一五 | 恋五 |
992 | 逢ふ事は心にもあらてほとふともさやは契りし忘れはてねと あふことは こころにもあらて ほとふとも さやはちきりし わすれはてねと | 平忠依 | 一五 | 恋五 |
993 | わするるかいささは我も忘れなん人にしたかふ心とならは わするるか いささはわれも わすれなむ ひとにしたかふ こころとならは | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
994 | わすれぬる君は中中つらからていままていける身をそ怨むる わすれぬる きみはなかなか つらからて いままていける みをそうらむる | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
995 | 我はかり我をおもはむ人もかなさてもやうきと世を心みん われはかり われをおもはむ ひともかな さてもやうきと よをこころみむ | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
996 | あやしくも厭ふにはゆる心かないかにしてかは思ひたゆへき あやしくも いとふにはゆる こころかな いかにしてかは おもひたゆへき | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
997 | おもふ事なすこそ神のかたからめしはしわするる心つけなん おもふこと なすこそかみの かたからめ しはしわするる こころつけなむ | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
998 | 高砂にわかなくこゑは成りにけり宮この人はききやつくらん たかさこに わかなくこゑは なりにけり みやこのひとは ききやつくらむ | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
999 | かしまなるつくまの神のつくつくとわか身ひとつにこひをつみつる かしまなる つくまのかみの つくつくと わかみひとつに こひをつみつる | 読人知らず | 一五 | 恋五 |
1000 | 春立つと思ふ心はうれしくて今ひととせのおいそそひける はるたつと おもふこころは うれしくて いまひととせの おいそそひける | 凡河内躬恒 | 一六 | 雑春 |
1001 | あたらしき年はくれともいたつらにわか身のみこそふりまさりけれ あたらしき としはくれとも いたつらに わかみのみこそ ふりまさりけれ | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1002 | あたらしきとしにはあれとも鴬のなくねさへにはかはらさりけり あたらしき としにはあれとも うくひすの なくねさへには かはらさりけり | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1003 | 年月のゆくへもしらぬ山かつはたきのおとにやはるをしるらん としつきの ゆくへもしらぬ やまかつは たきのおとにや はるをしるらむ | 右近 | 一六 | 雑春 |
1004 | 春くれは滝のしらいといかなれやむすへとも猶あわに見ゆらん はるくれは たきのしらいと いかなれや むすへともなほ あわにみゆらむ | 紀貫之 | 一六 | 雑春 |
1005 | あかさりし君かにほひのこひしさに梅の花をそけさは折りつる あかさりし きみかにほひの こひしさに うめのはなをそ けさはをりつる | 中務卿具平親王 | 一六 | 雑春 |
1006 | こちふかはにほひおこせよ梅の花あるしなしとて春をわするな こちふかは にほひおこせよ うめのはな あるしなしとて はるをわするな | 贈太政大臣 | 一六 | 雑春 |
1007 | 梅の花雪よりさきにさきしかと見る人まれに雪のふりつつ うめのはな はるよりさきに さきしかと みるひとまれに ゆきのふりつつ | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1008 | いにし年ねこしてうゑしわかやとのわか木の梅は花さきにけり いにしとし ねこしてうゑし わかやとの わかきのうめは はなさきにけり | 安倍広庭 | 一六 | 雑春 |
1009 | 花の色はあかす見るとも鴬のねくらの枝に手ななふれそも はなのいろは あかすみるとも うくひすの ねくらのえたに てななふれそも | 一条摂政 | 一六 | 雑春 |
1010 | 折りて見るかひもあるかな梅の花けふここのへのにほひまさりて をりてみる かひもあるかな うめのはな けふここのへの にほひまさりて | 源寛信朝臣 | 一六 | 雑春 |
1011 | かさしてはしらかにまかふ梅の花今はいつれをぬかむとすらん かさしては しらかにまかふ うめのはな いまはいつれを ぬかむとすらむ | 参議伊衡 | 一六 | 雑春 |
1012 | かそふれとおほつかなきをわかやとの梅こそ春のかすをしるらめ かそふれと おほつかなきを わかやとの うめこそはるの かすをしるらめ | 紀貫之 | 一六 | 雑春 |
1013 | 年ことにさきはかはれと梅の花あはれなるかはうせすそありける としことに さきはかはれと うめのはな あはれなるかは うせすそありける | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1014 | 梅かえをかりにきてをる人やあるとのへの霞はたちかくすかも うめかえを かりにきてをる ひとやあると のへのかすみは たちかくすかも | 源順 | 一六 | 雑春 |
1015 | 春きてそ人もとひける山さとは花こそやとのあるしなりけれ はるきてそ ひともとひける やまさとは はなこそやとの あるしなりけれ | 右衛門督公任 | 一六 | 雑春 |
1016 | おほつかなくらまの山の道しらて霞の中にまとふけふかな おほつかな くらまのやまの みちしらて かすみのうちに まとふけふかな | 安法法師 | 一六 | 雑春 |
1017 | 思ふ事ありてこそゆけはるかすみ道さまたけにたちなかくしそ おもふこと ありてこそゆけ はるかすみ みちさまたけに たちなかくしそ | 紀貫之 | 一六 | 雑春 |
1018 | たこの浦に霞のふかく見ゆるかなもしほのけふりたちやそふらん たこのうらに かすみのふかく みゆるかな もしほのけふり たちやそふらむ | 大中臣能宣 | 一六 | 雑春 |
1019 | 思ふ事いはてやみなん春霞山ちもちかしたちもこそきけ おもふこと いはてやみなむ はるかすみ やまちもちかし たちもこそきけ | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1020 | かすかののをきのやけはらあさるとも見えぬなきなをおほすなるかな かすかのの をきのやけはら あさるとも みえぬなきなを おほすなるかな | 中宮内侍 | 一六 | 雑春 |
1021 | 雪をうすみかきねにつめるからなつななつさはまくのほしききみかな ゆきをうすみ かきねにつめる からなつな なつさはまくの ほしききみかな | 藤原長能 | 一六 | 雑春 |
1022 | たれにより松をもひかん鴬のはつねかひなきけふにもあるかな たれにより まつをもひかむ うくひすの はつねかひなき けふにもあるかな | 右衛門督公任 | 一六 | 雑春 |
1023 | ひきて見る子の日の松はほとなきをいかてこもれるちよにかあるらん ひきてみる ねのひのまつは ほとなきを いかてこもれる ちよにかあるらむ | 恵慶法師 | 一六 | 雑春 |
1024 | しめてこそちとせの春はきつつ見め松をてたゆくなにかひくへき しめてこそ ちとせのはるは きつつみめ まつをてたゆく なにかひくへき | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1025 | ひともとの松のちとせもひさしきにいつきの宮そ思ひやらるる ひともとの まつのちとせも ひさしきに いつきのみやそ おもひやらるる | 源順 | 一六 | 雑春 |
1026 | おいの世にかかるみゆきは有りきやとこたかき峯の松にとははや おいのよに かかるみゆきは ありきやと こたかきみねの まつにとははや | 清原元輔 | 一六 | 雑春 |
1027 | 松ならは引く人けふは有りなまし袖の緑そかひなかりける まつならは ひくひとけふは ありなまし そてのみとりそ かひなかりける | 大中臣能宣 | 一六 | 雑春 |
1028 | 引く人もなくてやみぬるみよしのの松は子の日をよそにこそきけ ひくひとも なくてやみぬる みよしのの まつはねのひを よそにこそきけ | 清原元輔 | 一六 | 雑春 |
1029 | ひく人もなしと思ひしあつさゆみ今そうれしきもろやしつれは ひくひとも なしとおもひし あつさゆみ いまそうれしき もろやしつれは | 源順 | 一六 | 雑春 |
1030 | さきし時猶こそ見しかももの花ちれはをしくそ思ひなりぬる さきしとき なほこそみしか もものはな ちれはをしくそ おもひなりぬる | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1031 | 山さとの家ゐは霞こめたれとかきねの柳すゑはとに見ゆ やまさとの いへゐはかすみ こめたれと かきねのやなき すゑはとにみゆ | 弓削嘉言 | 一六 | 雑春 |
1032 | はるののにところもとむといふなるはふたりぬはかりみてたりやきみ はるののに ところもとむと いふなるは ふたりぬはかり みてたりやきみ | 賀朝法師 | 一六 | 雑春 |
1033 | 春ののにほるほる見れとなかりけり世に所せき人のためには はるののに ほるほるみれと なかりけり よにところせき ひとのためには | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1034 | かきくらし雪もふらなん桜花またさかぬまはよそへても見む かきくらし ゆきもふらなむ さくらはな またさかぬまは よそへてもみむ | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1035 | はる風は花のなきまにふきはてねさきなは思ひなくて見るへく はるかせは はなのなきまに ふきはてね さきなはおもひ なくてみるへく | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1036 | さかさらむ物とはなしにさくら花おもかけにのみまたき見ゆらん さかさらむ ものとはなしに さくらはな おもかけにのみ またきみゆらむ | 凡河内躬恒 | 一六 | 雑春 |
1037 | いつこにかこのころ花のさかさらむ所からこそたつねられけれ いつこにか このころはなの さかさらむ こころからこそ たつねられけれ | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1038 | さくら花わかやとにのみ有りと見はなき物くさはおもはさらまし さくらはな わかやとにのみ ありとみは なきものくさは おもはさらまし | 凡河内躬恒 | 一六 | 雑春 |
1039 | もろともにをりしはるのみこひしくてひとり見まうき花さかりかな もろともに をりしはるのみ こひしくて ひとりみまうき はなさかりかな | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1040 | もろともに我しをらねは桜花思ひやりてやはるをくらさん もろともに われしをらねは さくらはな おもひやりてや はるをくらさむ | 壬生忠見 | 一六 | 雑春 |
1041 | 霞立つ山のあなたの桜花思ひやりてやはるをくらさむ かすみたつ やまのあなたの さくらはな おもひやりてや はるをくらさむ | 御導師浄蔵 | 一六 | 雑春 |
1042 | をち方の花も見るへく白浪のともにや我もたちわたらまし をちかたの はなもみるへく しらなみの ともにやわれも たちわたらまし | 紀貫之 | 一六 | 雑春 |
1043 | まてといははいともかしこし花山にしはしとなかん鳥のねもかな まてといはは いともかしこし はなやまに しはしとなかむ とりのねもかな | 僧正遍昭 | 一六 | 雑春 |
1044 | 鴬のなきつるなへにかすかののけふのみゆきを花とこそ見れ うくひすの なきつるなへに かすかのの けふのみゆきを はなとこそみれ | 藤原忠房朝臣 | 一六 | 雑春 |
1045 | ふるさとにさくとわひつるさくら花ことしそ君に見えぬへらなる ふるさとに さくとわひつる さくらはな ことしそきみに みえぬへらなる | 藤原忠房朝臣 | 一六 | 雑春 |
1046 | 春霞かすかののへに立ちわたりみちても見ゆるみやこ人かな はるかすみ かすかののへに たちわたり みちてもみゆる みやこひとかな | 藤原忠房朝臣 | 一六 | 雑春 |
1047 | 世の中にうれしき物は思ふとち花見てすくす心なりけり よのなかに うれしきものは おもふとち はなみてすくす こころなりけり | 平兼盛 | 一六 | 雑春 |
1048 | さくら花そこなるかけそをしまるるしつめる人のはるとおもへは さくらはな そこなるかけそ をしまるる しつめるひとの はるとおもへは | 清原元輔 | 一六 | 雑春 |
1049 | あつまちののちの雪まをわけてきてあはれ宮この花を見るかな あつまちの のちのゆきまを わけてきて あはれみやこの はなをみるかな | 藤原長能 | 一六 | 雑春 |
1050 | ひのもとにさけるさくらの色見れは人のくににもあらしとそ思ふ ひのもとに さけるさくらの はなみれは ひとのくににも あらしとそおもふ | 兼盛弟 | 一六 | 雑春 |
1051 | み山木のふたはみつはにもゆるまてきえせぬ雪と見えもするかな みやまきの ふたはみつはに もゆるまて きえせぬゆきと みえもするかな | 平きむさね | 一六 | 雑春 |
1052 | かた山にはたやくをのこかの見ゆるみ山さくらはよきてはたやけ かたやまに はたやくをのこ かのみゆる みやまさくらは よきてはたやけ | 藤原長能 | 一六 | 雑春 |
1053 | うしろめたいかてかへらん山さくらあかぬにほひを風にまかせて うしろめた いかてかへらむ やまさくら あかぬにほひを かせにまかせて | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1054 | ひさしかれあたにちるなとさくら花かめにさせれとうつろひにけり ひさしかれ あたにちるなと さくらはな かめにさせれと うつろひにけり | 紀貫之 | 一六 | 雑春 |
1055 | とのもりのとものみやつこ心あらはこの巻はかりあさきよめすな とのもりの とものみやつこ こころあらは このはるはかり あさきよめすな | 源公忠朝臣 | 一六 | 雑春 |
1056 | さくら花みかさの山のかけしあれは雪とふれともぬれしとそ思ふ さくらはな みかさのやまの かけしあれは ゆきとふれとも ぬれしとそおもふ | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1057 | 年ことに春のなかめはせしかとも身さへふるともおもはさりしを としことに はるのなかめは せしかとも みさへふるとも おもはさりしを | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1058 | としことに春はくれとも池水におふるぬなははたえすそ有りける としことに はるはくれとも いけみつに おふるぬなはは たえすそありける | 源順 | 一六 | 雑春 |
1059 | 春風はのとけかるへしやへよりもかさねてにほへ山吹の花 はるかせは のとけかるへし やへよりも かさねてにほへ やまふきのはな | 菅原輔昭 | 一六 | 雑春 |
1060 | 浦人はかすみをあみにむすへはや浪の花をもとめてひくらん うらひとは かすみをあみに むすへはや なみのはなをも とめてひくらむ | 菅原輔昭 | 一六 | 雑春 |
1061 | やな見れは河風いたくふく時そ浪の花さへおちまさりける やなみれは かはかせいたく ふくときそ なみのはなさへ おちまさりける | 紀貫之 | 一六 | 雑春 |
1062 | このまよりちりくる花をあつさゆみえやはととめぬはるのかたみに このまより ちりくるはなを あつさゆみ えやはととめぬ はるのかたみに | 一条のきみ | 一六 | 雑春 |
1063 | 春すきてちりはてにける梅の花たたかはかりそ枝にのこれる はるすきて ちりはてにける うめのはな たたかはかりそ えたにのこれる | 藤原高光 | 一六 | 雑春 |
1064 | 谷の戸をとちやはてつる鴬のまつにおとせてはるもすきぬる たにのとを とちやはてつる うくひすの まつにおとせて はるもすきぬる | 藤原道長 | 一六 | 雑春 |
1065 | ゆきかへる春をもしらす花さかぬみ山かくれのうくひすのこゑ ゆきかへる はるをもしらす はなさかぬ みやまかくれの うくひすのこゑ | 右衛門督公任 | 一六 | 雑春 |
1066 | 春はをし郭公はたきかまほし思ひわつらふしつ心かな はるはをし ほとときすはた きかまほし おもひわつらふ しつこころかな | 清原元輔 | 一六 | 雑春 |
1067 | 松風のふかむ限はうちはへてたゆへくもあらすさけるふちなみ まつかせの ふかむかきりは うちはへて たゆへくもあらす さけるふちなみ | 紀貫之 | 一六 | 雑春 |
1068 | ふちの花宮の内には紫のくもかとのみそあやまたれける ふちのはな みやのうちには むらさきの くもかとのみそ あやまたれける | 皇太后宮権大夫国章 | 一六 | 雑春 |
1069 | 紫の雲とそ見ゆる藤の花いかなるやとのしるしなるらん むらさきの くもとそみゆる ふちのはな いかなるやとの しるしなるらむ | 右衛門督公任 | 一六 | 雑春 |
1070 | むらさきの色しこけれはふちの花松のみとりもうつろひにけり むらさきの いろしこけれは ふちのはな まつのみとりも うつろひにけり | 読人しらす | 一六 | 雑春 |
1071 | 郭公かよふかきねの卯の花のうきことあれや君かきまさぬ ほとときす かよふかきねの うのはなの うきことあれや きみかきまさぬ | 柿本人麻呂(人麿) | 一六 | 雑春 |
1072 | 卯の花のさけるかきねにやとりせしねぬにあけぬとおとろかれけり うのはなの さけるかきねに やとりせし ねぬにあけぬと おとろかれけり | 源重之 | 一六 | 雑春 |
1073 | 年をへてみ山かくれの郭公きく人もなきねをのみそなく としをへて みやまかくれの ほとときす きくひともなき ねをのみそなく | 実方朝臣 | 一六 | 雑春 |
1074 | 声たててなくといふとも郭公たもとはぬれしそらねなりけり こゑたてて なくといふとも ほとときす たもとはぬれし そらねなりけり | 読人知らず | 一六 | 雑春 |
1075 | かくはかりまつとしらはや郭公こすゑたかくもなきわたるかな かくはかり まつとしらはや ほとときす こすゑたかくも なきわたるかな | 清原元輔 | 一六 | 雑春 |
1076 | あしひきの山郭公さとなれてたそかれ時になのりすらしも あしひきの やまほとときす さとなれて たそかれときに なのりすらしも | 大中臣輔親 | 一六 | 雑春 |
1077 | ふるさとのならしのをかに郭公事つてやりきいかにつけきや ふるさとの ならしのをかに ほとときす ことつてやりき いかにつけきや | 大伴像見 | 一六 | 雑春 |
1078 | 終夜もゆるほたるをけさ見れは草のはことにつゆそおきける よもすから もゆるほたるを けさみれは くさのはことに つゆそおきける | 健守法師 | 一六 | 雑春 |
1079 | とこ夏の花をし見れはうちはへてすくる月日のかすもしられす とこなつの はなをしみれは うちはへて すくるつきひの かすもしられす | 紀貫之 | 一六 | 雑春 |
1080 | しはしたにかけにかくれぬ時は猶うなたれぬへきなてしこの花 しはしたに かけにかくれぬ ときはなほ うなたれぬへき なてしこのはな | 贈皇后宮 | 一六 | 雑春 |
1081 | いたつらにおいぬへらなりおほあらきのもりのしたなる草葉ならねと いたつらに おいぬへらなり おほあらきの もりのしたなる くさはならねと | 凡河内躬恒 | 一六 | 雑春 |
1082 | たなはたはそらにしるらんささかにのいとかくはかりまつる心を たなはたは そらにしるらむ ささかにの いとかくはかり まつるこころを | 源したかふ | 一七 | 雑秋 |
1083 | たなはたのあかぬ別もゆゆしきをけふしもなとか君かきませる たなはたの あかぬわかれも ゆゆしきを けふしもなとか きみかきませる | 平兼盛 | 一七 | 雑秋 |
1084 | あさとあけてなかめやすらん織女のあかぬ別のそらをこひつつ あさとあけて なかめやすらむ たなはたの あかぬわかれの そらをこひつつ | 紀貫之 | 一七 | 雑秋 |
1085 | わたしもりはや舟かくせひととせにふたたひきます君ならなくに わたしもり はやふねかくせ ひととせに ふたたひきます きみならなくに | 柿本人麻呂(人麿) | 一七 | 雑秋 |
1086 | 織女のうらやましきに天の河こよひはかりはおりやたたまし たなはたの うらやましきに あまのかは こよひはかりは おりやたたまし | 村上院御製 | 一七 | 雑秋 |
1087 | 世をうみてわかかすいとはたなはたの涙の玉のをとやなるらん よをうみて わかかすいとは たなはたの なみたのたまの をとやなるらむ | 読人知らず | 一七 | 雑秋 |
1088 | あまの河河辺すすしきたなはたに扇の風を猶やかさまし あまのかは かはへすすしき たなはたに あふきのかせを なほやかさまし | 中務 | 一七 | 雑秋 |
1089 | 天の河扇の風にきりはれてそらすみわたる鵲のはし あまのかは あふきのかせに きりはれて そらすみわたる かささきのはし | 清原元輔 | 一七 | 雑秋 |
1090 | ことのねはなそやかひなきたなはたのあかぬ別をひきしとめねは ことのねは なそやかひなき たなはたの あかぬわかれを ひきしとめねは | 源順 | 一七 | 雑秋 |
1091 | 水のあやをおりたちてきむぬきちらしたなはたつめに衣かすよは みつのあやを おりたちてきむ ぬきちらし たなはたつめに ころもかすよは | 平定文 | 一七 | 雑秋 |
1092 | 秋風よたなはたつめに事とはんいかなる世にかあはんとすらん あきかせよ たなはたつめに こととはむ いかなるよにか あはむとすらむ | 藤原義孝 | 一七 | 雑秋 |
1093 | 天の河のちのけふたにはるけきをいつともしらぬふなてかなしな あまのかは のちのけふたに はるけきを いつともしらぬ ふなてかなしな | 右衛門督公任 | 一七 | 雑秋 |
1094 | あひ見すてひとひも君にならはねはたなはたよりも我そまされる あひみすて ひとひもきみに ならはねは たなはたよりも われそまされる | 紀貫之 | 一七 | 雑秋 |
1095 | むつましきいもせの山としらねはやはつ秋きりの立ちへたつらん むつましき いもせのやまと しらねはや はつあききりの たちへたつらむ | 読人知らず | 一七 | 雑秋 |
1096 | もしほやく煙になるるすまのあまは秋立つ霧もわかすやあるらん もしほやく けふりになるる すまのあまは あきたつきりも わかすやあるらむ | 読人知らず | 一七 | 雑秋 |
1097 | ゆく水の岸ににほへる女郎花しのひに浪や思ひかくらん ゆくみつの きしににほへる をみなへし しのひになみや おもひかくらむ | 源重之 | 一七 | 雑秋 |
1098 | ここにしも何にほふらんをみなへし人の物いひさかにくきよに ここにしも なににほふらむ をみなへし ひとのものいひ さかにくきよに | 僧正遍昭 | 一七 | 雑秋 |
1099 | 秋の野の花の色色とりすゑてわか衣手にうつしてしかな あきののの はなのいろいろ とりすゑて わかころもてに うつしてしかな | 読人知らず | 一七 | 雑秋 |
1100 | ふなをかのの中にたてるをみなへしわたさぬ人はあらしとそ思ふ ふなをかの のなかにたてる をみなへし わたさぬひとは あらしとそおもふ | 読人知らず | 一七 | 雑秋 |
1101 | 家つとにあまたの花もをるへきにねたくもたかをすゑてけるかな いへつとに あまたのはなも をるへきに ねたくもたかを すゑてけるかな | 平兼盛 | 一七 | 雑秋 |
1102 | をくら山みね立ちならしなくしかのへにける秋をしる人のなき をくらやま みねたちならし なくしかの へにけるあきを しるひとそなき | 紀貫之 | 一七 | 雑秋 |
1103 | こてふにもにたる物かな花すすきこひしき人に見すへかりけり こてふにも にたるものかな はなすすき こひしきひとに みすへかりけり | 紀貫之 | 一七 | 雑秋 |
1104 | 帰りにし雁そなくなるむへ人はうき世の中をそむきかぬらん かへりにし かりそなくなる うへひとは うきよのなかを そむきかぬらむ | 大中臣能宣 | 一七 | 雑秋 |
1105 | 九重の内たにあかき月影にあれたるやとを思ひこそやれ ここのへの うちたにあかき つきかけに あれたるやとを おもひこそやれ | 善滋為政 | 一七 | 雑秋 |
1106 | ももしきの大宮なからやそしまを見る心地する秋のよの月 ももしきの おほみやなから やそしまを みるここちする あきのよのつき | 読人知らず | 一七 | 雑秋 |
1107 | 水のおもにやとれる月ののとけきはなみゐて人のねぬよなれはか みつのおもに やとれるつきの のとけきは なみゐてひとの ねぬよなれはか | 源順 | 一七 | 雑秋 |
1108 | はしり井のほとをしらはや相坂の関ひきこゆるゆふかけのこま はしりゐの ほとをしらはや あふさかの せきひきこゆる ゆふかけのこま | 清原元輔 | 一七 | 雑秋 |
1109 | 虫ならぬ人もおとせぬわかやとに秋ののへとて君はきにけり むしならぬ ひともおとせぬ わかやとに あきののへとて きみはきにけり | 曾禰好忠 | 一七 | 雑秋 |
1110 | 庭草にむらさめふりてひくらしのなくこゑきけは秋はきにけり にはくさに むらさめふりて ひくらしの なくこゑきけは あきはきにけり | 柿本人麻呂(人麿) | 一七 | 雑秋 |
1111 | 秋風は吹きなやふりそわかやとのあはらかくせるくものすかきを あきかせは ふきなやふりそ わかやとの あはらかくせる くものすかきを | 曾禰好忠 | 一七 | 雑秋 |
1112 | 住の江の松を秋風ふくからに声うちそふるおきつしら浪 すみのえの まつをあきかせ ふくからに こゑうちそふる おきつしらなみ | 凡河内躬恒 | 一七 | 雑秋 |
1113 | 秋風のさむくふくなるわかやとのあさちかもとにひくらしもなく あきかせの さむくふくなる わかやとの あさちかもとに ひくらしもなく | 柿本人麻呂(人麿) | 一七 | 雑秋 |
1114 | あき風し日ことにふけはわかやとのをかのこのはは色つきにけり あきかせし ひことにふけは わかやとの をかのこのはは いろつきにけり | 柿本人麻呂(人麿) | 一七 | 雑秋 |
1115 | 秋きりのたなひくをのの萩の花今やちるらんいまたあかなくに あききりの たなひくをのの はきのはな いまやちるらむ いまたあかなくに | 柿本人麻呂(人麿) | 一七 | 雑秋 |
1116 | 秋はきのしたはにつけてめにちかくよそなる人の心をそみる あきはきの したはにつけて めにちかく よそなるひとの こころをそみる | 女 | 一七 | 雑秋 |
1117 | 世の中の人に心をそめしかは草葉にいろも見えしとそ思ふ よのなかの ひとにこころを そめしかは くさはにいろも みえしとそおもふ | 紀貫之 | 一七 | 雑秋 |
1118 | このころのあか月つゆにわかやとの萩のしたはは色つきにけり このころの あかつきつゆに わかやとの はきのしたはは いろつきにけり | 柿本人麻呂(人麿) | 一七 | 雑秋 |
1119 | 夜をさむみ衣かりかねなくなへにはきのしたはは色つきにけり よをさむみ ころもかりかね なくなへに はきのしたはは いろつきにけり | 柿本人麻呂(人麿) | 一七 | 雑秋 |
1120 | かの見ゆる池辺にたてるそかきくのしけみさえたの色のてこらさ かのみゆる いけへにたてる そかきくの しけみさえたの いろのてこらさ | 読人知らず | 一七 | 雑秋 |
1121 | 吹く風にちる物ならは菊の花くもゐなりとも色は見てまし ふくかせに ちるものならは きくのはな くもゐなりとも いろはみてまし | 壬生忠見 | 一七 | 雑秋 |
1122 | おいか世にうき事きかぬ菊たにもうつろふ色は有りけりと見よ おいかよに うきこときかぬ きくたにも うつろふいろは ありけりとみよ | 読人知らず | 一七 | 雑秋 |
1123 | わきもこかあかもぬらしてうゑし田をかりてをさめむくらなしのはま わきもこか あかもぬらして うゑしたを かりてをさめむ くらなしのはま | 柿本人麻呂(人麿) | 一七 | 雑秋 |
1124 | 秋ことにかりつるいねはつみつれと老いにける身そおき所なき あきことに かりつるいねは つみつれと おいにけるみそ おきところなき | 壬生忠見 | 一七 | 雑秋 |
1125 | かりてほす山田の稲をほしわひてまもるかりいほにいくよへぬらん かりてほす やまたのいねを ほしわひて まもるかりいほに いくよへぬらむ | 凡河内躬恒 | 一七 | 雑秋 |
1126 | おく山にたてらましかはなきさこくふな木も今は紅葉しなまし おくやまに たてらましかは なきさこく ふなきもいまは もみちしなまし | 恵慶法師 | 一七 | 雑秋 |
1127 | 久方の月をさやけみもみちはのこさもうすさもわきつへらなり ひさかたの つきをさやけみ もみちはの こさもうすさも わきつへらなり | 読人知らず | 一七 | 雑秋 |
1128 | 小倉山峯のもみちは心あらは今ひとたひのみゆきまたなん をくらやま みねのもみちは こころあらは いまひとたひの みゆきまたなむ #百人一首 | 小一条太政大臣 | 一七 | 雑秋 |
1129 | ふるさとにかへると見てやたつたひめ紅葉の錦そらにきすらん ふるさとに かへるとみてや たつたひめ もみちのにしき そらにきすらむ | 大中臣能宣 | 一七 | 雑秋 |
1130 | 白浪はふるさとなれやもみちはのにしきをきつつ立帰るらん しらなみは ふるさとなれや もみちはの にしきをきつつ たちかへるらむ | 読人知らず | 一七 | 雑秋 |
1131 | もみちはのなかるる時はたけ河のふちのみとりも色かはるらむ もみちはの なかるるときは たけかはの ふちのみとりも いろかはるらむ | 凡河内躬恒 | 一七 | 雑秋 |
1132 | 水のおもの深く浅くも見ゆるかな紅葉の色やふちせなるらん みつのおもの ふかくあさくも みゆるかな もみちのいろや ふちせなるらむ | 凡河内躬恒 | 一七 | 雑秋 |
1133 | 月影のたなかみ河にきよけれは綱代にひをのよるも見えけり つきかけの たなかみかはに きよけれは あしろにひをの よるもみえけり | 清原元輔 | 一七 | 雑秋 |
1134 | いかて猶あしろのひをに事とはむなにによりてか我をとはぬと いかてなほ あしろのひをに こととはむ なにによりてか われをとはぬと | 修理 | 一七 | 雑秋 |
1135 | はふりこかいはふ社のもみちはもしめをはこえてちるといふものを はふりこか いはふやしろの もみちはも しめをはこえて ちるといふものを | 読人知らず | 一七 | 雑秋 |
1136 | いかなれはもみちにもまたあかなくに秋はてぬとはけふをいふらん いかなれは もみちにもまた あかなくに あきはてぬとは けふをいふらむ | 源順 | 一七 | 雑秋 |
1137 | 秋もまたとほくもあらぬにいかて猶たちかへれともつけにやらまし あきもまた とほくもあらぬに いかてなほ たちかへれとも つけにやらまし | 清原元輔 | 一七 | 雑秋 |
1138 | そま山にたつけふりこそ神な月時雨をくたすくもとなりけれ そまやまに たつけふりこそ かみなつき しくれをくたす くもとなりけれ | 大中臣能宣 | 一七 | 雑秋 |
1139 | 名をきけは昔なからの山なれとしくるるころは色かはりけり なをきけは むかしなからの やまなれと しくるるころは いろかはりけり | 源順 | 一七 | 雑秋 |
1140 | もみちはやたもとなるらん神な月しくるることに色のまされは もみちはや たもとなるらむ かみなつき しくるることに いろのまされは | 凡河内躬恒 | 一七 | 雑秋 |
1141 | しくれつつふりにしやとの言の葉はかきあつむれととまらさりけり しくれつつ ふりにしやとの ことのはは かきあつむれと とまらさりけり | 中務 | 一七 | 雑秋 |
1142 | 昔より名たかきやとの事のははこの本にこそおちつもるてへ むかしより なたかきやとの ことのはは このもとにこそ おちつもるてへ | 村上院御製 | 一七 | 雑秋 |
1143 | 山かつのかきほわたりをいかにそとしもかれかれにとふ人もなし やまかつの かきほわたりを いかにそと しもかれかれに とふひともなし | 権中納言義懐娘 | 一七 | 雑秋 |
1144 | み山木をあさなゆふなにこりつめてさむさをこふるをののすみやき みやまきを あさなゆふなに こりつめて さむさをこふる をののすみやき | 曾禰好忠 | 一七 | 雑秋 |
1145 | にほとりの氷の関にとちられて玉ものやとをかれやしぬらん にほとりの こほりのせきに とちられて たまものやとを かれやしぬらむ | 曾禰好忠 | 一七 | 雑秋 |
1146 | いさかくてをりあかしてん冬の月春の花にもおとらさりけり いさかくて をりあかしてむ ふゆのつき はるのはなにも おとらさりけり | 清原元輔 | 一七 | 雑秋 |
1147 | 限なくとくとはすれと葦引の山井の水は猶そこほれる かきりなく とくとはすれと あしひきの やまゐのみつは なほそこほれる | 東宮女蔵人左近 | 一七 | 雑秋 |
1148 | ありあけの心地こそすれ杯に日かけもそひていてぬとおもへは ありあけの ここちこそすれ さかつきに ひかけもそひて いてぬとおもへは | 大中臣能宣 | 一七 | 雑秋 |
1149 | あしひきの山ゐにすれる衣をは神につかふるしるしとそ思ふ あしひきの やまゐにすれる ころもをは かみにつかふる しるしとそおもふ | 紀貫之 | 一七 | 雑秋 |
1150 | ちはやふる神のいかきに事ふりてそらよりかかるゆふにそありける ちはやふる かみのいかきに ゆきふりて そらよりかかる ゆふにそありける | 読人知らず | 一七 | 雑秋 |
1151 | ひとりねはくるしき物とこりよとや旅なる夜しも雪のふるらん ひとりねは くるしきものと こりよとや たひなるよしも ゆきのふるらむ | 紀貫之 | 一七 | 雑秋 |
1152 | わたつみもゆきけの水はまさりけりをちのしましま見えすなりゆく わたつみも ゆきけのみつは まさりけり をちのしましま みえすなりゆく | 中務卿具平親王 | 一七 | 雑秋 |
1153 | もとゆひにふりそふ雪のしつくには枕のしたに浪そたちける もとゆひに ふりそふゆきの しつくには まくらのしたに なみそたちける | 中務卿具平親王 | 一七 | 雑秋 |
1154 | さわらひやしたにもゆらんしもかれののはらの煙春めきにけり さわらひや したにもゆらむ しもかれの のはらのけふり はるめきにけり | 藤原通頼 | 一七 | 雑秋 |
1155 | 霜かれに見えこし梅はさきにけり春にはわか身あはむとはすや しもかれに みえこしうめは さきにけり はるにはわかみ あはむとはすや | 紀貫之 | 一七 | 雑秋 |
1156 | 梅の花匂の深く見えつるは春の隣のちかきなりけり うめのはな にほひのふかく みえつるは はるのとなりの ちかきなりけり | 三統元夏 | 一七 | 雑秋 |
1157 | むめもみな春ちかしとてさくものをまつ時もなき我やなになる うめもみな はるちかしとて さくものを まつときもなき われやなになる | 紀貫之 | 一七 | 雑秋 |
1158 | むはたまのわかくろかみに年くれてかかみのかけにふれるしらゆき うはたまの わかくろかみに としくれて かかみのかけに ふれるしらゆき | 紀貫之 | 一七 | 雑秋 |
1159 | 昨日よりをちをはしらすももとせの春の始はけふにそ有りける きのふより をちをはしらす ももとせの はるのはしめは けふにそありけ | 紀貫之 | 一八 | 雑賀 |
1160 | はるはると雲井をさして行く舟の行末とほくおもほゆるかな はるはると くもゐをさして ゆくふねの ゆくすゑとほく おもほゆるかな | 伊勢 | 一八 | 雑賀 |
1161 | 花の色もときはならなんなよ竹のなかきよにおくつゆしかからは はなのいろも ときはならなむ なよたけの なかきよにおく つゆしかからは | 清原元輔 | 一八 | 雑賀 |
1162 | よろつ世をかそへむ物はきのくにのちひろのはまのまさこなりけり よろつよを かそへむものは きのくにの ちひろのはまの まさこなりけり | 清原元輔 | 一八 | 雑賀 |
1163 | こけむさはひろひもかへむさされいしのかすをみなとるよはひいくよそ こけむさは ひろひもかへむ さされいしの かすをみなとる よはひいくよそ | 読人知らず | 一八 | 雑賀 |
1164 | 松のねにいつる泉の水なれはおなしき物をたえしとそ思ふ まつのねに いつるいつみの みつなれは おなしきものを たえしとそおもふ | 紀貫之 | 一八 | 雑賀 |
1165 | いはのうへの松にたとへむきみきみは世にまれらなるたねそとおもへは いはのうへの まつにたとへむ きみきみは よにまれらなる たねそとおもへは | 藤原道長 | 一八 | 雑賀 |
1166 | 松かえのかよへる枝をとくらにてすたてらるへきつるのひなかな まつかえの かよへるえたを とくらにて すたてらるへき つるのひなかな | 清原元輔 | 一八 | 雑賀 |
1167 | まつの苔ちとせをかねておひしけれつるのかひこのすとも見るへく まつのこけ ちとせをかねて おひしけれ つるのかひこの すともみるへく | 清原元輔 | 一八 | 雑賀 |
1168 | 我のみやこもたるてへは高砂のをのへにたてる松もこもたり われのみや こもたるてへは たかさこの をのへにたてる まつもこもたり | 読人知らず | 一八 | 雑賀 |
1169 | いく世へしいそへの松そ昔よりたちよる浪やかすはしるらん いくよへし いそへのまつそ むかしより たちよるなみや かすはしるらむ | 紀貫之 | 一八 | 雑賀 |
1170 | こ紫たなひく事をしるへにて位の山の峯をたつねん こむらさき たなひくくもを しるへにて くらゐのやまの みねをたつねむ | 清原元輔 | 一八 | 雑賀 |
1171 | ももしきにちとせの事はおほかれとけふの君はためつらしきかな ももしきに ちとせのことは おほかれと けふのきみはた めつらしきかな | 参議好古 | 一八 | 雑賀 |
1172 | 心さしふかきみきはにかるこもはちとせのさ月いつかわすれん こころさし ふかきみきはに かるこもは ちとせのさつき いつかわすれむ | 藤原道綱母 | 一八 | 雑賀 |
1173 | ちとせへん君しいまさはすへらきのあめのしたこそうしろやすけれ ちとせへむ きみしいまさは すめらきの あめのしたこそ うしろやすけれ | 清原元輔 | 一八 | 雑賀 |
1174 | きみか世に今いくたひかかくしつつうれしき事にあはんとすらん きみかよに いまいくたひか かくしつつ うれしきことに あはむとすらむ | 右衛門督公任 | 一八 | 雑賀 |
1175 | すみそむるすゑの心の見ゆるかなみきはの松のかけをうつせは すみそむる すゑのこころの みゆるかな みきはのまつの かけをうつせは | 右衛門督公任 | 一八 | 雑賀 |
1176 | ちとせふる霜のつるをはおきなからひさしき物は君にそありける ちとせふる しものつるをは おきなから ひさしきものは きみにそありける | 権中納言敦忠 | 一八 | 雑賀 |
1177 | しらゆきはふりかくせともちよまてに竹のみとりはかはらさりけり しらゆきは ふりかくせとも ちよまてに たけのみとりは かはらさりけり | 紀貫之 | 一八 | 雑賀 |
1178 | 世の中にことなる事はあらすともとみはたしてむいのちなかくは よのなかに ことなることは あらすとも とみはたしてむ いのちなかくは | 清原元輔 | 一八 | 雑賀 |
1179 | 流俗のいろにはあらす梅の花 珍重すへき物とこそ見れ りうそくの いろにはあらす うめのはな ちむちようすへき ものとこそみれ | 右大将実資 むねかたの朝臣 | 一八 | 雑賀 |
1180 | 春はもえ秋はこかるるかまと山 かすみもきりもけふりとそ見る はるはもえ あきはこかるる かまとやま かすみもきりも けふりとそみる | 清原元輔 | 一八 | 雑賀 |
1181 | 思ひたちぬるけふにもあるかな かからてもありにしものをはるかすみ おもひたちぬる けふにもあるかな かからても ありにしものを はるかすみ | 藤原忠君朝臣娘 | 一八 | 雑賀 |
1182 | くらすへしやはいままてにきみ とふやとそ我もまちつるはるの日を くらすへしやは いままてにきみ とふやとそ われもまちつる はるのひを | 源計子 | 一八 | 雑賀 |
1183 | さ夜ふけて今はねふたくなりにけり 夢にあふへき人やまつらん さよふけて いまはねふたく なりにけり ゆめにあふへき ひとやまつらむ | 村上院御製 | 一八 | 雑賀 |
1184 | 人心うしみついまはたのましよ 夢に見ゆやとねそすきにける ひとこころ うしみついまは たのましよ ゆめにみゆやと ねそすきにける | 女 良岑宗貞 | 一八 | 雑賀 |
1185 | ひきよせはたたにはよらて春こまの綱引するそなはたつときく ひきよせは たたにはよらて はるこまの つなひきするそ なはたつときく | 平定文 | 一八 | 雑賀 |
1186 | 花の木はまかきちかくはうゑて見しうつろふ色に人ならひけり はなのきは まかきちかくは うゑてみし うつろふいろに ひとならひけり | 読人知らず | 一八 | 雑賀 |
1187 | 夏は扇冬は火をけに身をなしてつれなき人によりもつかはや なつはあふき ふゆはひをけに みをなして つれなきひとに よりもつかはや | 読人知らず | 一八 | 雑賀 |
1188 | こひするに仏になるといはませは我そ浄土のあるしならまし こひするに ほとけになると いはませは われそしやうとの あるしならまし | 読人知らず | 一八 | 雑賀 |
1189 | 唐衣たつよりおつる水ならてわか袖ぬらす物やなになる からころも たつよりおつる みつならて わかそてぬらす ものやなになる | 読人知らず | 一八 | 雑賀 |
1190 | つらからは人にかたらむしきたへの枕かはしてひとよねにきと つらからは ひとにかたらむ しきたへの まくらかはして ひとよねにきと | 藤原義孝 | 一八 | 雑賀 |
1191 | あやしくもわかぬれきぬをきたるかなみかさの山を人にかられて あやしくも われぬれきぬを きたるかな みかさのやまを ひとにかられて | 藤原義孝 | 一八 | 雑賀 |
1192 | かくれみのかくれかさをもえてしかなきたりと人にしられさるへく かくれみの かくれかさをも えてしかな きたりとひとに しられさるへく | 平公誠 | 一八 | 雑賀 |
1193 | 心ありてとふにはあらす世の中にありやなしやのきかまほしきそ こころありて とふにはあらす よのなかに ありやなしやの きかまほしきそ | 読人知らず | 一八 | 雑賀 |
1194 | きみとはていくよへぬらん色かへぬ竹のふるねのおひかはるまて きみとはて いくよへぬらむ いろかへぬ たけのふるねの おひかはるまて | 読人知らず | 一八 | 雑賀 |
1195 | こぬ人をしたにまちつつ久方の月をあはれといはぬよそなき こぬひとを したにまちつつ ひさかたの つきをあはれと いはぬよそなき | 紀貫之 | 一八 | 雑賀 |
1196 | あつさゆみひきみひかすみこすはこすこはこそをなそよそにこそ見め あつさゆみ ひきみひかすみ こすはこす こはこそをなそ よそにこそみめ | 柿本人麻呂(人麿) | 一八 | 雑賀 |
1197 | くれはとく行きてかたらむあふ時のとをちのさとのすみうかりしも くれはとく ゆきてかたらむ あふことの とをちのさとの すみうかりしも | 一条摂政 | 一八 | 雑賀 |
1198 | おろかにもおもはましかはあつまちのふせやといひしのへにねなまし おろかにも おもはましかは あつまちの ふせやといひし のへにねなまし | 読人知らず | 一八 | 雑賀 |
1199 | あともなきかつら木山をふみみれはわかわたしこしかたはしかもし あともなき かつらきやまを ふみみれは わかわたしこし かたはしかもし | 読人知らず | 一八 | 雑賀 |
1200 | かきつくる心見えなるあとなれと見てもしのはむ人やあるとて かきつくる こころみえなる あとなれと みてもしのはむ ひとやあるとて | 読人知らず | 一八 | 雑賀 |
1201 | いははしのよるの契もたえぬへしあくるわひしき葛木の神 いははしの よるのちきりも たえぬへし あくるわひしき かつらきのかみ | 春宮女蔵人左近 | 一八 | 雑賀 |
1202 | うたかはしほかにわたせるふみみれは我やとたえにならむとすらん うたかはし ほかにわたせる ふみみれは われやとたえに ならむとすらむ | 藤原道綱母 | 一八 | 雑賀 |
1203 | いかてかはたつねきつらん蓬ふの人もかよはぬわかやとのみち いかてかは たつねきつらむ よもきふの ひともかよはぬ わかやとのみち | 読人知らず | 一八 | 雑賀 |
1204 | 雨ならてもる人もなきわかやとをあさちかはらと見るそかなしき あめならて もるひともなき わかやとを あさちかはらと みるそかなしき | 承香殿女御 | 一八 | 雑賀 |
1205 | いにしへはたかふるさとそおほつかなやともる雨にとひてしらはや いにしへは たかふるさとそ おほつかな やともるあめに とひてしらはや | 大納言朝光 | 一八 | 雑賀 |
1206 | 夢とのみ思ひなりにし世の中をなに今更におとろかすらん ゆめとのみ おもひなりにし よのなかを なにいまさらに おとろかすらむ | 高階成忠女 | 一八 | 雑賀 |
1207 | 人も見ぬ所に昔きみとわかせぬわさわさをせしそこひしき ひともみぬ ところにむかし きみとわか せぬわさわさを せしそこひしき | 源公忠朝臣 | 一八 | 雑賀 |
1208 | けふまてはいきの松原いきたれとわか身のうさになけきてそふる けふまては いきのまつはら いきたれと わかみのうさに なけきてそふる | 藤原後生か女 | 一八 | 雑賀 |
1209 | いきたるかしぬるかいかにおもほえす身よりほかなるたまくしけかな いきたるか しぬるかいかに おもほえす みよりほかなる たまくしけかな | 則忠朝臣女 | 一八 | 雑賀 |
1210 | をとめこか袖ふる山のみつかきのひさしきよより思ひそめてき をとめこか そてふるやまの みつかきの ひさしきよより おもひそめてき | 柿本人麻呂(人麿) | 一九 | 雑恋 |
1211 | いなり山社のかすを人とははつれなき人をみつとこたへむ いなりやま やしろのかすを ひととはは つれなきひとを みつとこたへむ | 平定文 | 一九 | 雑恋 |
1212 | みしま江の玉江のあしをしめしよりおのかとそ思ふいまたからねと みしまえの たまえのあしを しめしより おのかとそおもふ いまたからねと | 柿本人麻呂(人麿) | 一九 | 雑恋 |
1213 | あたなりとあたにはいかかさたむらん人の心を人はしるやは あたなりと あたにはいかか さたむらむ ひとのこころを ひとはしるやは | 大中臣能宣 | 一九 | 雑恋 |
1214 | すくろくのいちはにたてるひとつまのあはてやみなん物にやはあらぬ すくろくの いちはにたてる ひとつまの あはてやみなむ ものにやはあらぬ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1215 | ぬれきぬをいかかきさらん世の人はあめのしたにしすまんかきりは ぬれきぬを いかかきさらむ よのひとは あめのしたにし すまむかきりは | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1216 | あめのしたのかるる人のなけれはやきてしぬれきぬひるよしもなき あめのした のかるるひとの なけれはや きてしぬれきぬ ひるよしもなし | 贈太政大臣 | 一九 | 雑恋 |
1217 | いつくとも所定めぬ白雲のかからぬ山はあらしとそ思ふ いつくとも ところさためぬ しらくもの かからぬやまは あらしとそおもふ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1218 | 白雲のかかるそら事する人を山のふもとによせてけるかな しらくもの かかるそらこと するひとを やまのふもとに よせてけるかな | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1219 | いつしかもつくまのまつりはやせなんつれなき人のなへのかす見む いつしかも つくまのまつり はやせなむ つれなきひとの なへのかすみむ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1220 | 人しれぬ人まちかほに見ゆめるはたかたのめたるこよひなるらん ひとしれぬ ひとまちかほに みゆめるは たかたのめたる こよひなるらむ | 小野宮太政大臣 | 一九 | 雑恋 |
1221 | 池水のそこにあらてはねぬなはのくる人もなしまつ人もなし いけみつの そこにあらては ねぬなはの くるひともなし まつひともなし | 明日香采女 | 一九 | 雑恋 |
1222 | 人しれすたのめし事は柏木のもりやしにけむ世にふりにけり ひとしれす たのめしことは かしはきの もりやしにけむ よにふりにけり | 右近 | 一九 | 雑恋 |
1223 | 秋はきの花もうゑおかぬやとなれはしかたちよらむ所たになし あきはきの はなもうゑおかぬ やとなれは しかたちよらむ ところたになし | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1224 | こゆるきのいそきてきつるかひもなくまたこそたてれおきつしらなみ こゆるきの いそきてきつる かひもなく またこそたてれ おきつしらなみ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1225 | しのひつつよるこそきしか唐衣ひとや見むとはおもはさりしを しのひつつ よるこそきしか からころも ひとやみむとは おもはさりしを | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1226 | 宮つくるひたのたくみのてをのおとほとほとしかるめをも見しかな みやつくる ひたのたくみの てをのおと ほとほとしかる めをもみしかな | くにもち | 一九 | 雑恋 |
1227 | 有りとてもいく世かはふるからくにのとらふすのへに身をもなけてん ありとても いくよかはふる からくにの とらふすのへに みをもなけてむ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1228 | むすふ手のしつくににこる山の井のあかても人に別れぬるかな むすふての しつくににこる やまのゐの あかてもひとに わかれぬるかな | 紀貫之 | 一九 | 雑恋 |
1229 | 家なからわかるる時は山の井のにこりしよりもわひしかりけり いへなから わかるるときは やまのゐの にこりしよりも わひしかりけり | 紀貫之 | 一九 | 雑恋 |
1230 | はしたかのとかへる山のしひしはのはかへはすともきみはかへせし はしたかの とかへるやまの しひしはの はかへはすとも きみはかへせし | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1231 | あやまちのあるかなきかをしらぬ身はいとふににたる心ちこそすれ あやまちの あるかなきかを しらぬみは いとふににたる ここちこそすれ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1232 | ゆく水のあわならはこそきえかへり人のふちせを流れても見め ゆくみつの あわならはこそ きえかへり ひとのふちせを なかれてもみめ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1233 | ともかくもいひはなたれよ池水のふかさあささをたれかしるへき ともかくも いひはなたれよ いけみつの ふかさあささを たれかしるへき | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1234 | そめ河をわたらん人のいかてかは色になるてふ事のなからん そめかはを わたらむひとの いかてかは いろになるてふ ことのなからむ | 在原業平朝臣 | 一九 | 雑恋 |
1235 | ちはやふるかもの河辺のふちなみはかけてわするる時のなきかな ちはやふる かものかはへの ふちなみは かけてわするる ときのなきかな | 兵衛 | 一九 | 雑恋 |
1236 | 世の中はいかかはせまししけ山のあをはのすきのしるしたになし よのなかは いかかはせまし しけやまの あをはのすきの しるしたになし | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1237 | むもれ木は中むしはむといふめれはくめちのはしは心してゆけ うもれきは なかむしはむと いふめれは くめちのはしは こころしてゆけ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1238 | 世の中はいさともいさや風のおとは秋に秋そふ心地こそすれ よのなかは いさともいさや かせのおとは あきにあきそふ ここちこそすれ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1239 | いはみなるたかまの山のこのまよりわかふるそてをいも見けんかも いはみなる たかまのやまの このまより わかふるそてを いもみけむかも | 柿本人麻呂(人麿) | 一九 | 雑恋 |
1240 | おきつ浪たかしのはまのはま松のなにこそきみをまちわたりつれ おきつなみ たかしのはまの はままつの なにこそきみを まちわたりつれ | 紀貫之 | 一九 | 雑恋 |
1241 | 君をのみ思ひやりつつ神よりも心のそらになりしよひかな きみをのみ おもひやりつつ かみよりも こころのそらに なりしよひかな | 村上院御製 | 一九 | 雑恋 |
1242 | 思ひやるこしのしら山しらねともひと夜も夢にこえぬ日そなき おもひやる こしのしらやま しらねとも ひとよもゆめに こえぬひそなき | 紀貫之 | 一九 | 雑恋 |
1243 | 山しなのこはたの里に馬はあれとかちよりそくる君を思へは やましなの こはたのさとに うまはあれと かちよりそくる きみをおもへは | 柿本人麻呂(人麿) | 一九 | 雑恋 |
1244 | 春日山雲井かくれてとほけれと家はおもはす君をこそおもへ かすかやま くもゐかくれて とほけれと いへはおもはす きみをこそおもへ | 柿本人麻呂(人麿) | 一九 | 雑恋 |
1245 | わかせこをこふるもくるしいとまあらはひろひてゆかむ恋忘かひ わかせこを こふるもくるし いとまあらは ひろひてゆかむ こひわすれかひ | 大伴坂上郎女 | 一九 | 雑恋 |
1246 | 旧里をこふるたもともかわかぬに又しほたるるあまも有りけり ふるさとを こふるたもとも かわかぬに またしほたるる あまもありけり | 恵慶法師 | 一九 | 雑恋 |
1247 | しほたるる身は我とのみ思へともよそなるたつもねをそなくなる しほたるる みはわれのみと おもへとも よそなるたつも ねをそなくなる | 大中臣頼基 | 一九 | 雑恋 |
1248 | つれつれと思へはうきにおふるあしのはかなき世をはいかかたのまむ つれつれと おもへはうきに おふるあしの はかなきよをは いかかたのまむ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1249 | 定なき人の心にくらふれはたたうきしまは名のみなりけり さためなき ひとのこころに くらふれは たたうきしまは なのみなりけり | 源順 | 一九 | 雑恋 |
1250 | ひとりのみ年へけるにもおとらしをかすならぬ身のあるはあるかは ひとりのみ としへけるにも おとらしを かすならぬみの あるはあるかは | 清原元輔 | 一九 | 雑恋 |
1251 | 風はやみ峯のくすはのともすれはあやかりやすき人のこころか かせはやみ みねのくすはの ともすれは あやかりやすき ひとのこころか | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1252 | 久方のあめのふるひをたたひとり山へにをれはむもれたりけり ひさかたの あめのふるひを たたひとり やまへにをれは うもれたりけり | 中納言家持 | 一九 | 雑恋 |
1253 | 雨ふりて庭にたまれるにこり水たかすまはかはかけの見ゆへき あめふりて にはにたまれる にこりみつ たかすまはかは かけのみゆへき | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1254 | 世とともに雨ふるやとの庭たつみすまぬに影は見ゆるものかは よとともに あめふるやとの にはたつみ すまぬにかけは みゆるものかは | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1255 | あふ事のかくてやつひにやみの夜の思ひもいてぬ人のためには あふことの かくてやつひに やみのよの おもひもいてぬ ひとのためには | 太皇太后宮 | 一九 | 雑恋 |
1256 | いはしろの野中にたてるむすひ松心もとけす昔おもへは いはしろの のなかにたてる むすひまつ こころもとけす むかしおもへは | 柿本人麻呂(人麿) | 一九 | 雑恋 |
1257 | けふかともあすともしらぬ白菊のしらすいく世をふへきわか身そ けふかとも あすともしらぬ しらきくの しらすいくよを ふへきわかみそ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1258 | 涙河水まされはやしきたへの枕のうきてとまらさるらん なみたかは みつまされはや しきたへの まくらのうきて とまらさるらむ | まさのふ | 一九 | 雑恋 |
1259 | 世の中を常なき物とききしかとつらきことこそひさしかりけれ よのなかを つねなきものと ききしかと つらきことこそ ひさしかりけれ | 按察のみやす所 | 一九 | 雑恋 |
1260 | つらきをはつねなき物と思ひつつひさしき事をたのみやはせぬ つらきをは つねなきものと おもひつつ ひさしきことを たのみやはせぬ | 延喜御製 | 一九 | 雑恋 |
1261 | 我こそはにくくもあらめわかやとの花見にたにも君かきまさぬ われこそは にくくもあらめ わかやとの はなみにたにも きみかきまさぬ | 伊勢 | 一九 | 雑恋 |
1262 | いはみかたなにかはつらきつらからは怨みかてらにきても見よかし いはみかた なにかはつらき つらからは うらみかてらに きてもみよかし | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1263 | それならぬ事もありしをわすれねといひしはかりをみみにとめけん それならぬ こともありしを わすれねと いひしはかりを みみにとめけむ | 本院侍従 | 一九 | 雑恋 |
1264 | みかりするこまのつまつくあをつつら君こそ我はほたしなりけれ みかりする こまのつまつく あをつつら きみこそわれは ほたしなりけれ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1265 | 君見れはむすふの神そうらめしきつれなき人をなにつくりけん きみみれは むすふのかみそ うらめしき つれなきひとを なにつくりけむ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1266 | いつれをかしるしとおもはむみわの山有りとしあるはすきにそありける いつれをか しるしとおもはむ みわのやま ありとしあるは すきにそありける | 紀貫之 | 一九 | 雑恋 |
1267 | 我といへはいなりの神もつらきかな人のためとはいのらさりしを われといへは いなりのかみも つらきかな ひとのためとは いのらさりしを | 藤原長能 | 一九 | 雑恋 |
1268 | 滝の水かへりてすまはいなり山なぬかのほれるしるしとおもはん たきのみつ かへりてすまは いなりやま なぬかのほれる しるしとおもはむ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1269 | 思ひいててとふにはあらす秋はつる色の限を見するなりけり おもひいてて とふにはあらす あきはつる いろのかきりを みするなりけり | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1270 | ゆゆしとていむとも今はかひもあらしうきをは風につけてやみなん ゆゆしとて いむともいまは かひもあらし うきをはかせに つけてやみなむ | 読人知らず | 一九 | 雑恋 |
1271 | ひとりして世をしつくさは高砂の松のときはもかひなかりけり ひとりして よをしつくさは たかさこの まつのときはも かひなかりけり | 紀貫之 | 一九 | 雑恋 |
1272 | 玉もかるあまのゆき方さすさをの長くや人を怨渡らん たまもかる あまのゆきかた さすさをの なかくやひとを うらみわたらむ | 紀貫之 | 一九 | 雑恋 |
1273 | たのめつつ別れし人をまつほとに年さへせめてうらめしきかな たのめつつ わかれしひとを まつほとに としさへせめて うらめしきかな | 紀貫之 | 一九 | 雑恋 |
1274 | さくら花のとけかりけりなき人をこふる涙そまつはおちける さくらはな のとけかりけり なきひとを こふるなみたそ まつはおちける | 小野宮太政大臣 | 二十 | 哀傷 |
1275 | おもかけに色のみのこる桜花いく世の春をこひむとすらん おもかけに いろのみのこる さくらはな いくよのはるを こひむとすらむ | 平兼盛 | 二十 | 哀傷 |
1276 | 花の色もやとも昔のそれなからかはれる物は露にそ有りける はなのいろも やともむかしの それなから かはれるものは つゆにそありける | 清原元輔 | 二十 | 哀傷 |
1277 | 桜花にほふものから露けきはこのめも物を思ふなるへし さくらはな にほふものから つゆけきは このめもものを おもふなるへし | 大中臣能宣 | 二十 | 哀傷 |
1278 | 君まさはまつそをらまし桜花風のたよりにきくそかなしき きみまさは まつそをらまし さくらはな かせのたよりに きくそかなしき | 大納言延光 | 二十 | 哀傷 |
1279 | いにしへはちるをや人の惜みけん花こそ今は昔こふらし いにしへは ちるをやひとの をしみけむ はなこそいまは むかしこふらし | 一条摂改 | 二十 | 哀傷 |
1280 | さ月きてなかめまされはあやめ草思ひたえにしねこそなかるれ さつききて なかめまされは あやめくさ おもひたえにし ねこそなかるれ | 女蔵人兵庫 | 二十 | 哀傷 |
1281 | しのへとやあやめもしらぬ心にもなかからぬよのうきにうゑけん しのへとや あやめもしらぬ こころにも なかからぬよの うきにうゑけむ | 粟田右大臣 | 二十 | 哀傷 |
1282 | ここにたにつれつれになく郭公ましてここひのもりはいかにそ ここにたに つれつれになく ほとときす ましてここひの もりはいかにそ | 右大臣 | 二十 | 哀傷 |
1283 | あさかほを何はかなしと思ひけん人をも花はさこそ見るらめ あさかほを なにはかなしと おもひけむ ひとをもはなは さこそみるらめ | 藤原道信朝臣 | 二十 | 哀傷 |
1284 | 時ならてははその紅葉ちりにけりいかにこのもとさひしかるらん ときならて ははそのもみち ちりにけり いかにこのもと さひしかるらむ | 村上院御製 | 二十 | 哀傷 |
1285 | 思ひきや秋のよ風のさむけきにいもなきとこにひとりねむとは おもひきや あきのよかせの さむけきに いもなきとこに ひとりねむとは | 大弐国章 | 二十 | 哀傷 |
1286 | 秋風になひく草葉のつゆよりもきえにし人をなににたとへん あきかせに なひくくさはの つゆよりも きえにしひとを なににたとへむ | 村上院御製 | 二十 | 哀傷 |
1287 | こそ見てし秋の月夜はてらせともあひ見しいもはいやとほさかり こそみてし あきのつきよは てらせとも あひみしいもは いやとほさかり | 柿本人麻呂(人麿) | 二十 | 哀傷 |
1288 | 君なくて立つあさきりは麻衣池さへきるそかなしかりける きみなくて たつあさきりは ふちころも いけさへきるそ かなしかりける | 権中納言敦忠 | 二十 | 哀傷 |
1289 | わきもこかねくたれかみをさるさはの池のたまもと見るそかなしき わきもこか ねくたれかみを さるさはの いけのたまもと みるそかなしき | 柿本人麻呂(人麿) | 二十 | 哀傷 |
1290 | 心にもあらぬうき世にすみそめの衣の袖のぬれぬ日そなき こころにも あらぬうきよに すみそめの ころものそての ぬれぬひそなき | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1291 | ふち衣はらへてすつる涙河きしにもまさる水そなかるる ふちころも はらへてすつる なみたかは きしにもまさる みつそなかるる | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1292 | 藤衣はつるるいとはきみこふる涙の玉のをとやなるらん ふちころも はつるるいとは きみこふる なみたのたまの をとやなるらむ | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1293 | 限あれはけふぬきすてつ藤衣はてなき物は涙なりけり かきりあれは けふぬきすてつ ふちころも はてなきものは なみたなりけり | 藤原道信朝臣 | 二十 | 哀傷 |
1294 | 人なししむねのちふさをほむらにてやくすみそめの衣きよきみ ひとなしし むねのちふさを ほむらにて やくすみそめの ころもきよきみ | としのふの母 | 二十 | 哀傷 |
1295 | 藤衣あひ見るへしと思ひせはまつにかかりてなくさめてまし ふちころも あひみるへしと おもひせは まつにかかりて なくさめてまし | 大江為基 | 二十 | 哀傷 |
1296 | 年ふれといかなる人かとこふりてあひ思ふ人にわかれさるらん としふれと いかなるひとか とこふりて あひおもふひとに わかれさるらむ | 大江為基 | 二十 | 哀傷 |
1297 | 墨染の衣の袖は雲なれや涙の雨のたえすふるらん すみそめの ころものそては くもなれや なみたのあめの たえすふるらむ | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1298 | あまといへといかなるあまの身なれはか世ににぬしほをたれわたるらん あまといへと いかなるあまの みなれはか よににぬしほを たれわたるらむ | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1299 | 世の中にあらましかはと思ふ人なきかおほくも成りにけるかな よのなかに あらましかはと おもふひと なきかおほくも なりにけるかな | 藤原為頼 | 二十 | 哀傷 |
1300 | 常ならぬ世はうき身こそかなしけれそのかすにたにいらしとおもへは つねならぬ よはうきみこそ かなしけれ そのかすにたに いらしとおもへは | 右衛門督公任 | 二十 | 哀傷 |
1301 | なき人もあるかつらきを思ふにも色わかれぬは涙なりけり なきひとも あるかつらきを おもふにも いろわかれぬは なみたなりけり | 伊勢 | 二十 | 哀傷 |
1302 | うつくしと思ひしいもを夢に見ておきてさくるになきそかなしき うつくしと おもひしいもを ゆめにみて おきてさくるに なきそかなしき | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1303 | 思ひやるここひのもりのしつくにはよそなる人の袖もぬれけり おもひやる ここひのもりの しつくには よそなるひとの そてもぬれけり | 清原元輔 | 二十 | 哀傷 |
1304 | なよ竹のわかこの世をはしらすしておほしたてつと思ひけるかな なよたけの わかこのよをは しらすして おほしたてつと おもひけるかな | 平兼盛 | 二十 | 哀傷 |
1305 | 我のみやこの世はうきとおもへとも君もなけくと聞くそかなしき われのみや このよはうきと おもへとも きみもなけくと きくそかなしき | 藤原共政朝臣妻 | 二十 | 哀傷 |
1306 | うき世にはある身もうしとなけきつつ涙のみこそふるここちすれ うきよには あるみもうしと なけきつつ なみたのみこそ ふるここちすれ | 大納言朝光 | 二十 | 哀傷 |
1307 | しての山こえてきつらん郭公こひしき人のうへかたらなん してのやま こえてきつらむ ほとときす こひしきひとの うへかたらなむ | 伊勢 | 二十 | 哀傷 |
1308 | 思ふよりいふはおろかに成りぬれはたとへていはん事のはそなき おもふより いふはおろかに なりぬれは たとへていはむ ことのはそなき | 平定文 | 二十 | 哀傷 |
1309 | こふるまに年のくれなはなき人の別やいとととほくなりなん こふるまに としのくれなは なきひとの わかれやいとと とほくなりなむ | 紀貫之 | 二十 | 哀傷 |
1310 | 如何せん忍の草もつみわひぬかたみと見えしこたになけれは いかにせむ しのふのくさも つみわひぬ かたみとみえし こたになけれは | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1311 | 春は花秋は紅葉とちりはててたちかくるへきこのもともなし はるははな あきはもみちと ちりはてて たちかくるへき このもともなし | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1312 | わすられてしはしまとろむほともかないつかはきみをゆめならて見ん わすられて しはしまとろむ ほともかな いつかはきみを ゆめならてみむ | 中務 | 二十 | 哀傷 |
1313 | うきなからきえせぬ物は身なりけりうら山しきは水のあわかな うきなから きえせぬものは みなりけり うらやましきは みつのあわかな | 中務 | 二十 | 哀傷 |
1314 | 世の中をかくいひいひのはてはてはいかにやいかにならむとすらん よのなかを かくいひいひの はてはては いかにやいかに ならむとすらむ | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1315 | ささなみのしかのてこらかまかりにし河せの道を見れはかなしも ささなみの しかのてこらか まかりにし かはせのみちを みれはかなしも | 柿本人麻呂(人麿) | 二十 | 哀傷 |
1316 | おきつ浪よるあらいそをしきたへの枕とまきてなれる君かも おきつなみ よるあらいそを しきたへの まくらとまきて なれるきみかも | 柿本人麻呂(人麿) | 二十 | 哀傷 |
1317 | あすしらぬわか身とおもへとくれぬまのけふは人こそかなしかりけれ あすしらぬ わかみとおもへと くれぬまの けふはひとこそ かなしかりけれ | 紀貫之 | 二十 | 哀傷 |
1318 | 夢とこそいふへかりけれ世の中はうつつある物と思ひけるかな ゆめとこそ いふへかりけれ よのなかは うつつあるものと おもひけるかな | 紀貫之 | 二十 | 哀傷 |
1319 | 家にいきてわかやを見れはたまささのほかにおきけるいもかこまくら いへにゆきて わかやをみれは たまささの ほかにおきける いもかこまくら | 柿本人麻呂(人麿) | 二十 | 哀傷 |
1320 | まきもくの山へひひきてゆく水のみなわのことによをはわか見る まきもくの やまへひひきて ゆくみつの みなわのことに よをはわかみる | 柿本人麻呂(人麿) | 二十 | 哀傷 |
1321 | いも山のいはねにおける我をかもしらすていもかまちつつあらん いもやまの いはねにおける われをかも しらすていもか まちつつあらむ | 柿本人麻呂(人麿) | 二十 | 哀傷 |
1322 | 手に結ふ水にやとれる月影のあるかなきかの世にこそありけれ てにむすふ みつにやとれる つきかけの あるかなきかの よにこそありけれ | 紀貫之 | 二十 | 哀傷 |
1323 | くれ竹のわか世はことに成りぬともねはたえせすもなかるへきかな くれたけの わかよはことに なりぬとも ねはたえせすも なかるへきかな | 御製 | 二十 | 哀傷 |
1324 | とりへ山たににけふりのもえたたははかなく見えし我としらなん とりへやま たににけふりの もえたたは はかなくみえし われとしらなむ | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1325 | みな人のいのちをつゆにたとふるは草むらことにおけはなりけり みなひとの いのちをつゆに たとふるは くさむらことに おけはなりけり | すけきよ | 二十 | 哀傷 |
1326 | 草枕人はたれとかいひおきしつひのすみかはの山とそ見る くさまくら ひとはたれとか いひおきし つひのすみかは のやまとそみる | 源順 | 二十 | 哀傷 |
1327 | 世の中をなににたとへむあさほらけこきゆく舟のあとのしら浪 よのなかを なににたとへむ あさほらけ こきゆくふねの あとのしらなみ | 沙弥満誓 | 二十 | 哀傷 |
1328 | 契あれはかはねなれともあひぬるを我をはたれかとはんとすらん ちきりあれは かはねなれとも あひぬるを われをはたれか とはむとすらむ | 源相方朝臣 | 二十 | 哀傷 |
1329 | 山寺の入あひのかねのこゑことにけふもくれぬときくそかなしき やまてらの いりあひのかねの こゑことに けふもくれぬと きくそかなしき | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1330 | うき世をはそむかはけふもそむきなんあすもありとはたのむへき身か うきよをは そむかはけふも そむきなむ あすもありとは たのむへきみか | 慶滋保胤 | 二十 | 哀傷 |
1331 | 世の中に牛の車のなかりせは思ひの家をいかていてまし よのなかに うしのくるまの なかりせは おもひのいへを いかていてまし | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1332 | 世の中にふるそはかなき白雪のかつはきえぬる物としるしる よのなかに ふるそはかなき しらゆきの かつはきえぬる ものとしるしる | 藤原高光 | 二十 | 哀傷 |
1333 | すみそめの色は我のみと思ひしをうき世をそむく人もあるとか すみそめの いろはわれのみと おもひしを うきよをそむく ひともあるとか | 大中臣能宣 | 二十 | 哀傷 |
1334 | すみそめの衣と見れはよそなからもろともにきる色にそ有りける すみそめの ころもとみれは よそなから もろともにきる いろにそありける | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1335 | 思ひしる人も有りける世の中をいつをいつとてすくすなるらん おもひしる ひともありける よのなかを いつをいつとて すくすなるらむ | 右衛門督公任 | 二十 | 哀傷 |
1336 | ささなみやしかのうら風いかはかり心の内の源しかるらん ささなみや しかのうらかせ いかはかり こころのうちの すすしかるらむ | 右衛門督公任 | 二十 | 哀傷 |
1337 | こふつくすみたらし河のかめなれはのりのうききにあはぬなりけり こふつくす みたらしかはの かめなれは のりのうききに あはぬなりけり | 斎院 | 二十 | 哀傷 |
1338 | いつしかと君にと思ひしわかなをはのりの道にそけふはつみつる いつしかと きみにとおもひし わかなをは のりのみちにそ けふはつみつる | 村上院御製 | 二十 | 哀傷 |
1339 | たき木こる事は昨日につきにしをいさをののえはここにくたさん たききこる ことはきのふに つきにしを いさをののえは ここにくたさむ | 藤原道綱母 | 二十 | 哀傷 |
1340 | けふよりは露のいのちもをしからす蓮のうへのたまとちきれは けふよりは つゆのいのちも をしからす はちすのうへの たまとちきれは | 実方朝臣 | 二十 | 哀傷 |
1341 | あさことにはらふちりたにあるものをいまいくよとてたゆむなるらん あさことに はらふちりたに あるものを いまいくよとて たゆむなるらむ | 夢想歌 | 二十 | 哀傷 |
1342 | 暗きより暗き道にそ入りぬへき遥に照せ山のはの月 くらきより くらきみちにそ いりぬへき はるかにてらせ やまのはのつき | 雅致女式部 | 二十 | 哀傷 |
1343 | 極楽ははるけきほととききしかとつとめていたるところなりけり こくらくは はるけきほとと ききしかと つとめていたる ところなりけり | 仙慶法師 | 二十 | 哀傷 |
1344 | ひとたひも南無阿弥陀仏といふ人の蓮の上にのほらぬはなし ひとたひも なむあみたふつと いふひとの はちすのうへに のほらぬはなし | 空也上人 | 二十 | 哀傷 |
1345 | みそちあまりふたつのすかたそなへたるむかしの人のふめるあとそこれ みそちあまり ふたつのすかた そなへたる むかしのひとの ふめるあとそこれ | 光明皇后 | 二十 | 哀傷 |
1346 | 法華経をわかえし事はたき木こりなつみ水くみつかへてそえし ほけきやうを わかえしことは たききこり なつみみつくみ つかへてそえし | 大僧正行基 | 二十 | 哀傷 |
1347 | ももくさにやそくさそへてたまひてしちふさのむくいけふそわかする ももくさに やそくさそへて たまひてし ちふさのむくひ けふそわかする | 大僧正行基 | 二十 | 哀傷 |
1348 | 霊山の釈迦のみまへにちきりてし真如くちせすあひ見つるかな りやうせむの しやかのみまへに ちきりてし しむによくちせす あひみつるかな | 大僧正行基 | 二十 | 哀傷 |
1349 | かひらゑにともにちきりしかひありて文殊のみかほあひ見つるかな かひらゑに ともにちきりし かひありて もむしゆのみかほ あひみつるかな | 婆羅門僧正 | 二十 | 哀傷 |
1350 | しなてるやかたをか山にいひにうゑてふせるたひ人あはれおやなし しなてるや かたをかやまに いひにうゑて ふせるたひひと あはれおやなし | 聖徳太子 | 二十 | 哀傷 |
1351 | いかるかやとみのを河のたえはこそわかおほきみのみなをわすれめ いかるかや とみのをかはの たえはこそ わかおほきみの みなをわすれめ | 読人知らず | 二十 | 哀傷 |
1352 | 我はあすはのみやつまむさはのせり水はこほりてくきし見えねは われはあす はのみやつまむ さはのせり みつはこほりて くきしみえねは | 藤原輔相 | 他巻 | 異本歌 |
1353 | むまよりはひつしはかりはあるものをとりにいぬるかかゐてきぬらむ うまよりは ひつしはかりは あるものを とりにいぬるか かひてきぬらむ | 読人知らず | 他巻 | 異本歌 |
1354 | うしと思ふ心をしはしなくさめむ後によひとをあはれと思はむ うしとおもふ こころをしはし なくさめむ のちによひとを あはれとおもはむ | 読人知らず | 他巻 | 異本歌 |
1355 | かも山のいはねしまきてあるわれをしらぬかいもかまちつつあらむ かもやまの いはねしまきて あるわれを しらぬかいもか まちつつあらむ | 柿本人麻呂(人麿) | 他巻 | 異本歌 |
1356 | 日くるれはまつ人もきぬからいともよるをはあふといふはかりなり ひくるれは まつひともきぬ からいとも よるをはあふと いふはかりなり | 式部 | 他巻 | 異本歌 |
1357 | よもやまのまほりにたのむあつさゆみ神のたからにいましつるかな よのなかの まもりにたのむ あつさゆみ かみのたからに いましつるかな | 不記 | 他巻 | 異本歌 |
1358 | わかくさのいもものりたりわれものりふねかたふくなふなかせふくな わかくさの いもものりたり われものり ふねかたふくな ふなかせふくな | 不記 | 他巻 | 異本歌 |
1359 | このこにて心をさなくとはすともおやのおやにてうらむへしやは このこにて こころをさなく とはすとも おやのおやにて うらむへしやは | 源重之 | 他巻 | 異本歌 |
1360 | 夢のうちの花に心をつけてこそこのよのなかはおもひしらるれ ゆめのうちの はなにこころを つけてこそ このよのなかは おもひしらるれ | 読人知らず | 他巻 | 異本歌 |
※読人(作者)についてはできる限り正確に整えておりますが、誤りもある可能性があります。ご了承ください。
※御製歌は〇〇院としています。〇〇天皇の歌となります。
※作者検索をしたいときは、藤原、源といったいわゆる氏を除いた名のみで検索することをおすすめいたします。
※人麿は柿本人麻呂(人麿)としています。
※濁点につきましては原文通り加えておりません。時間的余裕があれば書き加えてまいります。