八代古今後撰拾遺後拾遺金葉詞花千載新古今百人一首六歌仙三十六歌仙枕詞動詞光る君へ

後撰和歌集のデータベース
後撰和歌集とは
- 二番目の勅撰和歌集であり、村上天皇によって撰集が下命され、撰者は源順、大中臣能宣、清原元輔、坂上望城、紀時文(梨壺の五人と呼ばれた)
- 紀時文は紀貫之の子である。
- 958年に完成。
後撰和歌集の構成
春上 | 春中 | 春下 | 夏 | 秋上 | 秋中 | 秋下 | 冬 | 恋一 | 恋二 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
数 | 46 | 34 | 66 | 70 | 54 | 80 | 92 | 64 | 94 | 99 |
% | 3.2 | 2.3 | 4.6 | 4.9 | 3.7 | 5.6 | 6.4 | 4.4 | 6.5 | 6.9 |
恋三 | 恋四 | 恋五 |
恋六 |
雑一 | 雑二 | 雑三 |
雑四 |
離別 羈旅 |
慶賀 哀傷 |
|
数 | 95 | 96 | 103 | 81 | 50 | 70 | 55 | 54 | 64 | 58 |
% | 6.6 | 6.7 | 7.2 | 5.6 | 3.5 | 4.9 | 3.8 | 3.7 | 4.4 | 4 |
- 巻二十から成り、全1425首
後撰和歌集 言の葉データベース
「かな」は原文と同様に濁点を付けておりませんので、例えば「郭公(ほととぎす)」を検索したいときは、「ほとときす」と入力してください。
歌番号 | 歌 | よみ人 | 巻 | 種 |
---|---|---|---|---|
1 | ふる雪のみのしろ衣うちきつつ春きにけりとおとろかれぬる ふるゆきの みのしろころも うちきつつ はるきにけりと おとろかれぬる | 藤原敏行朝臣 | 一 | 春上 |
2 | 春立つとききつるからにかすか山消えあへぬ雪の花とみゆらむ はるたつと ききつるからに かすかやま きえあへぬゆきの はなとみゆらむ | 凡河内躬恒 | 一 | 春上 |
3 | けふよりは荻のやけ原かきわけて若菜つみにと誰をさそはん けふよりは をきのやけはら かきわけて わかなつみにと たれをさそはむ | 兼盛王 | 一 | 春上 |
4 | 白雲のうへしるけふそ春雨のふるにかひある身とはしりぬる しらくもの うへしるけふそ はるさめの ふるにかひある みとはしりぬる | 読人知らず | 一 | 春上 |
5 | 松もひきわかなもつます成りぬるをいつしか桜はやもさかなむ まつもひき わかなもつます なりぬるを いつしかさくら はやもさかなむ | 左太臣(実頼) | 一 | 春上 |
6 | 松にくる人しなけれは春の野のわかなも何もかひなかりけり まつにくる ひとしなけれは はるののの わかなもなにも かひなかりけり | 朱雀院 | 一 | 春上 |
7 | 君のみや野辺に小松を引きにゆく我もかたみにつまんわかなを きみのみや のへにこまつを ひきにゆく われもかたみに つまむわかなを | 読人知らず | 一 | 春上 |
8 | 霞立つかすかののへのわかなにもなり見てしかな人もつむやと かすみたつ かすかののへの わかなにも なりみてしかな ひともつむやと | 読人知らず | 一 | 春上 |
9 | 春ののに心をたにもやらぬ身はわかなはつまて年をこそつめ はるののに こころをたにも やらぬみは わかなはつまて としをこそつめ | 躬恒 | 一 | 春上 |
10 | ふるさとののへ見にゆくといふめるをいさもろともにわかなつみてん ふるさとの のへみにゆくと いふめるを いさもろともに わかなつみてむ | 行明規王 | 一 | 春上 |
11 | 水のおもにあや吹きみたる春風や池の氷をけふはとくらむ みつのおもに あやふきみたる はるかせや いけのこほりを けふはとくらむ | 紀友則 | 一 | 春上 |
12 | 吹く風や春たちきぬとつけつらん枝にこもれる花さきにけり ふくかせや はるたちきぬと つけつらむ えたにこもれる はなさきにけり | 読人知らず | 一 | 春上 |
13 | かすかのにおふるわかなを見てしより心をつねに思ひやるかな かすかのに おふるわかなを みてしより こころをつねに おもひやるかな | 躬恒 | 一 | 春上 |
14 | もえいつるこのめを見てもねをそなくかれにし枝の春をしらねは もえいつる このめをみても ねをそなく かれにしえたの はるをしらねは | 兼覧王女 | 一 | 春上 |
15 | いつのまに霞立つらんかすかのの雪たにとけぬ冬とみしまに いつのまに かすみたつらむ かすかのの ゆきたにとけぬ ふゆとみしまに | 読人知らず | 一 | 春上 |
16 | なほさりに折りつるものを梅花こきかに我や衣そめてむ なほさりに をりつるものを うめのはな こきかにわれや ころもそめてむ | 閑院左大臣 | 一 | 春上 |
17 | やとちかくうつしてうゑしかひもなくまちとほにのみにほふ花かな やとちかく うつしてうゑし かひもなく まちとほにのみ にほふはなかな | 藤原兼輔朝臣 | 一 | 春上 |
18 | 春霞たなひきにけり久方の月の桂も花やさくらむ はるかすみ たなひきにけり ひさかたの つきのかつらも はなやさくらむ | 紀貫之 | 一 | 春上 |
19 | いつことも春のひかりはわかなくにまたみよしのの山は雪ふる いつことも はなのひかりは わかなくに またみよしのの やまはゆきふる | 躬恒 | 一 | 春上 |
20 | 白玉をつつむ袖のみなかるるは春は涙もさえぬなりけり しらたまを つつむそてのみ なかるるは はるはなみたも さえぬなりけり | 伊勢 | 一 | 春上 |
21 | 春立ちてわか身ふりぬるなかめには人の心の花もちりけり はるたちて わかみふりぬる なかめには ひとのこころの はなもちりけり | 読人知らず | 一 | 春上 |
22 | わかせこに見せむと思ひし梅花それとも見えす雪のふれれは わかせこに みせむとおもひし うめのはな それともみえす ゆきのふれれは | 読人知らず | 一 | 春上 |
23 | きて見へき人もあらしなわかやとの梅のはつ花をりつくしてむ きてみへき ひともあらしな わかやとの うめのはつはな をりつくしてむ | 読人知らず | 一 | 春上 |
24 | ことならは折りつくしてむ梅花わかまつ人のきても見なくに ことならは をりつくしてむ うめのはな わかまつひとの きてもみなくに | 読人知らず | 一 | 春上 |
25 | 吹く風にちらすもあらなんむめの花わか狩衣ひとよやとさむ ふくかせに ちらすもあらなむ うめのはな わかかりころも ひとよやとさむ | 読人知らず | 一 | 春上 |
26 | わかやとの梅のはつ花ひるは雪よるは月とも見えまかふかな わかやとの うめのはつはな ひるはゆき よるはつきとも みえまかふかな | 読人知らず | 一 | 春上 |
27 | 梅花よそなから見むわきもこかとかむはかりのかにもこそしめ うめのはな よそなからみむ わきもこか とかむはかりの かにもこそしめ | 読人知らず | 一 | 春上 |
28 | むめの花をれはこほれぬわか袖ににほひかうつせ家つとにせん うめのはな をれはこほれぬ わかそてに にほひかうつせ いへつとにせむ | 素性法師 | 一 | 春上 |
29 | 心もてをるかはあやな梅花かをとめてたにとふ人のなき こころもて をるかはあやな うめのはな かをとめてたに とふひとのなき | 読人知らず | 一 | 春上 |
30 | 人心うさこそまされはるたてはとまらすきゆるゆきかくれなん ひとこころ うさこそまされ はるたては とまらすきゆる ゆきかくれなむ | 読人知らず | 一 | 春上 |
31 | 梅花かをふきかくる春風に心をそめは人やとかめむ うめのはな かをふきかくる はるかせに こころをそめは ひとやとかめむ | 読人知らず | 一 | 春上 |
32 | 春雨のふらはの山にましりなん梅の花かさありといふなり はるさめの ふらはのやまに ましりなむ うめのはなかさ ありといふなり | 読人知らず | 一 | 春上 |
33 | かきくらし雪はふりつつしかすかにわか家のそのに鴬そなく かきくらし ゆきはふりつつ しかすかに わかいへのそのに うくひすそなく | 読人知らず | 一 | 春上 |
34 | 谷さむみいまたすたたぬ鴬のなくこゑわかみ人のすさめぬ たにさむみ いまたすたたぬ うくひすの なくこゑわかみ ひとのすさへぬ | 読人知らず | 一 | 春上 |
35 | 鴬のなきつるこゑにさそはれて花のもとにそ我はきにける うくひすの なきつるこゑに さそはれて はなのもとにそ われはきにける | 読人知らず | 一 | 春上 |
36 | 花たにもまたさかなくに鴬のなくひとこゑを春とおもはむ はなたにも またさかなくに うくひすの なくひとこゑを はるとおもはむ | 読人知らず | 一 | 春上 |
37 | 君かため山田のさはにゑくつむとぬれにし袖は今もかわかす きみかため やまたのさはに ゑくつむと ぬれにしそては いまもかわかす | 読人知らず | 一 | 春上 |
38 | 梅花今はさかりになりぬらんたのめし人のおとつれもせぬ うめのはな いまはさかりに なりぬらむ たのめしひとの おとつれもせぬ | 朱雀院の兵部卿のみこ | 一 | 春上 |
39 | 春雨にいかにそ梅やにほふらんわか見る枝は色もかはらす はるさめに いかにそうめや にほふらむ わかみるえたは いろもかはらす | 紀長谷雄朝臣 | 一 | 春上 |
40 | 梅花ちるてふなへに春雨のふりてつつなくうくひすのこゑ うめのはな ちるてふなへに はるさめの ふりてつつなく うくひすのこゑ | 読人知らず | 一 | 春上 |
41 | いもか家のはひいりにたてるあをやきに今やなくらん鴬の声 いもかいへの はひいりにたてる あをやきに いまやなくらむ うくひすのこゑ | 躬恒 | 一 | 春上 |
42 | ふか緑ときはの松の影にゐてうつろふ花をよそにこそ見れ ふかみとり ときはのまつの かけにゐて うつろふはなを よそにこそみれ | 坂上是則 | 一 | 春上 |
43 | 花の色はちらぬまはかりふるさとにつねには松のみとりなりけり はなのいろは ちらぬまはかり ふるさとに つねにはまつの みとりなりけり | 藤原雅正 | 一 | 春上 |
44 | 紅に色をはかへて梅花かそことことににほはさりける くれなゐに いろをはかへて うめのはな かそことことに にほはさりける | 躬恒 | 一 | 春上 |
45 | ふる雪はかつもけななむ梅花ちるにまとはす折りてかささん ふるゆきは かつもけななむ うめのはな ちるにまとはす をりてかささむ | 紀貫之 | 一 | 春上 |
46 | 春ことにさきまさるへき花なれはことしをもまたあかすとそ見る はることに さきまさるへき はななれは ことしをもまた あかすとそみる | 紀貫之 | 一 | 春上 |
47 | うゑし時花見むとしもおもはぬにさきちる見れはよはひ老いにけり うゑしとき はなみむとしも おもはぬに さきちるみれは よはひおいにけり | 藤原扶幹朝臣 | 二 | 春中 |
48 | 竹ちかくよとこねはせし鴬のなく声きけはあさいせられす たけちかく よとこねはせし うくひすの なくこゑきけは あさいせられす | 藤原伊衡朝臣 | 二 | 春中 |
49 | いその神ふるの山への桜花うゑけむ時をしる人そなき いそのかみ ふるのやまへの さくらはな うゑけむときを しるひとそなき | 僧正遍昭 | 二 | 春中 |
50 | 山守はいははいはなん高砂のをのへの桜折りてかささむ やまもりは いははいはなむ たかさこの をのへのさくら をりてかささむ | 素性法師 | 二 | 春中 |
51 | さくらはな色はひとしき枝なれとかたみに見れはなくさまなくに さくらはな いろはひとしき えたなれと かたみにみれは なくさまなくに | 読人知らず | 二 | 春中 |
52 | 見ぬ人のかたみかてらはをらさりき身になすらへる花にしあらねは みぬひとの かたみかてらは をらさりき みになすらへる はなにしあらねは | 伊勢 | 二 | 春中 |
53 | 吹く風をならしの山の桜花のとけくそ見るちらしとおもへは ふくかせを ならしのやまの さくらはな のとけくそみる ちらしとおもへは | 読人知らず | 二 | 春中 |
54 | 桜花けふよく見てむくれ竹のひとよのほとにちりもこそすれ さくらはな けふよくみてむ くれたけの ひとよのほとに ちりもこそすれ | 坂上是則 | 二 | 春中 |
55 | さくらはなにほふともなく春くれはなとか歎のしけりのみする さくらはな にほふともなく はるくれは なとかなけきの しけりのみする | 読人知らず | 二 | 春中 |
56 | けふ桜しつくにわか身いさぬれむかこめにさそふ風のこぬまに けふさくら しつくにわかみ いさぬれむ かこめにさそふ かせのこぬまに | 河原左大臣(融) | 二 | 春中 |
57 | さくら花ぬしをわすれぬ物ならはふきこむ風に事つてはせよ さくらはな ぬしをわすれぬ ものならは ふきこむかせに ことつてはせよ | 菅原右大臣 | 二 | 春中 |
58 | あをやきのいとよりはへておるはたをいつれの山の鴬かきる あをやきの いとよりはへて おるはたを いつれのやまの うくひすかきる | 伊勢 | 二 | 春中 |
59 | あひおもはてうつろふ色を見るものを花にしられぬなかめするかな あひおもはて うつろふいろを みるものを はなにしられぬ なかめするかな | 凡河内躬恒 | 二 | 春中 |
60 | 帰る雁雲ちにまとふ声すなり霞ふきとけこのめはる風 かへるかり くもちにまとふ こゑすなり かすみふきとけ このめはるかせ | 読人知らず | 二 | 春中 |
61 | さきさかす我になつけそさくら花人つてにやはきかんと思ひし さきさかす われになつけそ さくらはな ひとつてにやは きかむとおもひし | 大将御息所 | 二 | 春中 |
62 | 春くれはこかくれおほきゆふつくよおほつかなしも花かけにして はるくれは こかくれおほき ゆふつくよ おほつかなしも はなかけにして | 読人知らず | 二 | 春中 |
63 | 立渡る霞のみかは山高み見ゆる桜の色もひとつを たちわたる かすみのみかは やまたかみ みゆるさくらの いろもひとつを | 読人知らず | 二 | 春中 |
64 | おほそらにおほふはかりの袖もかな春さく花を風にまかせし おほそらに おほふはかりの そてもかな はるさくはなを かせにまかせし | 読人知らず | 二 | 春中 |
65 | なけきさへ春をしるこそわひしけれもゆとは人に見えぬものから なけきさへ はるをしるこそ わひしけれ もゆとはひとに みえぬものから | 読人知らず | 二 | 春中 |
66 | もえ渡る歎は春のさかなれはおほかたにこそあはれとも見れ もえわたる なけきははるの さかなれは おほかたにこそ あはれともみれ | 読人知らず | 二 | 春中 |
67 | あをやきのいとつれなくもなりゆくかいかなるすちに思ひよらまし あをやきの いとつれなくも なりゆくか いかなるすちに おもひよらまし | 藤原師尹朝臣 | 二 | 春中 |
68 | 山さとにちりなましかは桜花にほふさかりもしられさらまし やまさとに ちりなましかは さくらはな にほふさかりも しられさらまし | 藤原師尹朝臣 | 二 | 春中 |
69 | 匂こき花のかもてそしられけるうゑて見るらんひとの心は にほひこき はなのかもてそ しられける うゑてみるらむ ひとのこころは | 衛門のみやすん所 | 二 | 春中 |
70 | 時しもあれ花のさかりにつらけれはおもはぬ山にいりやしなまし ときしもあれ はなのさかりに つらけれは おもはぬやまに いりやしなまし | 藤原朝忠朝臣 | 二 | 春中 |
71 | わかためにおもはぬ山のおとにのみ花さかりゆく春をうらみむ わかために おもはぬやまの おとにのみ はなさかりゆく はるをうらみむ | 小弐 | 二 | 春中 |
72 | 春の池の玉もに遊ふにほとりのあしのいとなきこひもするかな はるのいけの たまもにあそふ にほとりの あしのいとなき こひもするかな | 宮道高風 | 二 | 春中 |
73 | 山風の花のかかとふふもとには春の霞そほたしなりける やまかせの はなのかかとふ ふもとには はるのかすみそ ほたしなりける | 藤原興風 | 二 | 春中 |
74 | 春さめの世にふりにたる心にも猶あたらしく花をこそおもへ はるさめの よにふりにたる こころにも なほあたらしく はなをこそおもへ | 読人知らず | 二 | 春中 |
75 | はる霞たちてくもゐになりゆくはかりの心のかはるなるへし はるかすみ たちてくもゐに なりゆくは かりのこころの かはるなるへし | 読人知らず | 二 | 春中 |
76 | ねられぬをしひてわかぬる春の夜の夢をうつつになすよしもかな ねられぬを しひてわかぬる はるのよの ゆめをうつつに なすよしもかな | 読人知らず | 二 | 春中 |
77 | わかやとの桜の色はうすくとも花のさかりはきてもをらなむ わかやとの さくらのいろは うすくとも はなのさかりは きてもをらなむ | 読人知らず | 二 | 春中 |
78 | 年をへて花のたよりに事とははいととあたなる名をや立ちなん としをへて はなのたよりに こととはは いととあたなる なをやたちなむ | 兼覧王 | 二 | 春中 |
79 | わかやとの花にななきそ喚子鳥よふかひ有りて君もこなくに わかやとの はなにななきそ よふことり よふかひありて きみもこなくに | 春道列樹 | 二 | 春中 |
80 | ふりぬとていたくなわひそはるさめのたたにやむへき物ならなくに ふりぬとて いたくなわひそ はるさめの たたにやむへき ものならなくに | 紀貫之 | 二 | 春中 |
81 | 鴬のなくなる声は昔にてわか身ひとつのあらすもあるかな うくひすの なくなるこゑは むかしにて わかみひとつの あらすもあるかな | 藤原顕忠朝臣母 | 三 | 春下 |
82 | ひさしかれあたにちるなとさくら花かめにさせれとうつろひにけり ひさしかれ あたにちるなと さくらはな かめにさせれと うつろひにけり | 紀貫之 | 三 | 春下 |
83 | 千世ふへきかめにさせれと桜花とまらん事は常にやはあらぬ ちよふへき かめにさせれと さくらはな とまらむことは つねにやはあらぬ | 中務 | 三 | 春下 |
84 | ちりぬへき花の限はおしなへていつれともなくをしき春かな ちりぬへき はなのかきりは おしなへて いつれともなく をしきはるかな | 読人知らず | 三 | 春下 |
85 | かきこしにちりくる花を見るよりはねこめに風の吹きもこさなん かきこしに ちりくるはなを みるよりは ねこめにかせの ふきもこさなむ | 伊勢 | 三 | 春下 |
86 | 春の日のなかき思ひはわすれしを人の心に秋やたつらむ はるのひの なかきおもひは わすれしを ひとのこころに あきやたつらむ | 読人知らず | 三 | 春下 |
87 | よそにても花見ることにねをそなくわか身にうとき春のつらさに よそにても はなみることに ねをそなく わかみにうとき はるのつらさに | 読人知らず | 三 | 春下 |
88 | 風をたにまちてそ花のちりなまし心つからにうつろふかうさ かせをたに まちてそはなの ちりなまし こころつからに うつろふかうさ | 紀貫之 | 三 | 春下 |
89 | わかやとにすみれの花のおほかれはきやとる人やあるとまつかな わかやとに すみれのはなの おほけれは きやとるひとや あるとまつかな | 読人知らず | 三 | 春下 |
90 | 山高み霞をわけてちる花を雪とやよその人は見るらん やまたかみ かすみをわけて ちるはなを ゆきとやよその ひとはみるらむ | 読人知らず | 三 | 春下 |
91 | 吹く風のさそふ物とはしりなからちりぬる花のしひてこひしき ふくかせの さそふものとは しりなから ちりぬるはなの しひてこひしき | 読人知らず | 三 | 春下 |
92 | うちはへてはるはさはかりのとけきを花の心やなにいそくらん うちはへて はるはさはかり のとけきを はなのこころや なにいそくらむ | 深養父 | 三 | 春下 |
93 | わかやとの歎ははるもしらなくに何にか花をくらへても見む わかやとの なけきははるも しらなくに なににかはなを くらへてもみむ | こわかきみ | 三 | 春下 |
94 | はるの日の影そふ池のかかみには柳のまゆそまつは見えける はるのひの かけそふいけの かかみには やなきのまゆそ まつはみえける | 読人知らず | 三 | 春下 |
95 | かくなからちらて世をやはつくしてぬ花のときはもありと見るへく かくなから ちらてよをやは つくしてぬ はなのときはも ありとみるへく | 読人知らず | 三 | 春下 |
96 | かさせとも老もかくれぬこの春そ花のおもてはふせつへらなる かさせとも おいもかくれぬ このはるそ はなのおもては ふせつへらなる | 凡河内躬恒 | 三 | 春下 |
97 | ひととせにかさなる春のあらはこそふたたひ花を見むとたのまめ ひととせに かさなるはるの あらはこそ ふたたひはなも みむとたのまめ | 読人知らず | 三 | 春下 |
98 | 春くれはさくてふことをぬれきぬにきするはかりの花にそありける はるくれは さくてふことを ぬれきぬに きするはかりの はなにそありける | 紀貫之 | 三 | 春下 |
99 | 春霞たちなから見し花ゆゑにふみとめてけるあとのくやしさ はるかすみ たちなからみし はなゆゑに ふみとめてける あとのくやしさ | 読人知らず | 三 | 春下 |
100 | はる日さす藤のうらはのうらとけて君しおもはは我もたのまん はるひさす ふちのうらはの うらとけて きみしおもはは われもたのまむ | 読人知らず | 三 | 春下 |
101 | 鴬に身をあひかへはちるまてもわか物にして花は見てまし うくひすに みをあひかへは ちるまても わかものにして はなはみてまし | 伊勢 | 三 | 春下 |
102 | 花の色は昔なからに見し人の心のみこそうつろひにけれ はなのいろは むかしなからに みしひとの こころのみこそ うつろひにけれ | 元良親王 | 三 | 春下 |
103 | あたら夜の月と花とをおなしくはあはれしれらん人に見せはや あたらよの つきとはなとを おなしくは こころしれらむ ひとにみせはや | 源信明 | 三 | 春下 |
104 | 宮こ人きてもをらなんかはつなくあかたのゐとの山吹の花 みやこひと きてもをらなむ かはつなく あかたのゐとの やまふきのはな | 橘のきんひらか女 | 三 | 春下 |
105 | 今よりは風にまかせむ桜花ちるこのもとに君とまりけり いまよりは かせにまかせむ さくらはな ちるこのもとに きみとまりけり | 読人知らず | 三 | 春下 |
106 | 風にしも何かまかせんさくら花匂あかぬにちるはうかりき かせにしも なにかまかせむ さくらはな にほひあかぬに ちるはうかりき | 藤原敦忠朝臣 | 三 | 春下 |
107 | 常よりも春へになれはさくら河花の浪こそまなくよすらめ つねよりも はるへになれは さくらかは はなのなみこそ まなくよすらめ | 紀貫之 | 三 | 春下 |
108 | わかきたるひとへ衣は山吹のやへの色にもおとらさりけり わかきたる ひとへころもは やまふきの やへのいろにも おとらさりけり | 兼輔朝臣 | 三 | 春下 |
109 | ひととせにふたたひさかぬ花なれはむへちることを人はいひけり ひととせに ふたたひさかぬ はななれは うへちることを ひとはいひけり | 在原元方 | 三 | 春下 |
110 | 春さめの花の枝より流れこは猶こそぬれめかもやうつると はるさめの はなのえたより なかれこは なほこそぬれめ かもやうつると | 藤原敏行朝臣 | 三 | 春下 |
111 | はる深き色にもあるかな住の江のそこも緑に見ゆるはま松 はるふかき いろにもあるかな すみのえの そこもみとりに みゆるはままつ | 読人知らず | 三 | 春下 |
112 | 春くれは花見にと思ふ心こそのへの霞とともにたちけれ はるくれは はなみにとおもふ こころこそ のへのかすみと ともにたちけれ | 典侍よるかの朝臣 | 三 | 春下 |
113 | 我をこそとふにうからめ春霞花につけてもたちよらぬかな われをこそ とふにうからめ はるかすみ はなにつけても たちよらぬかな | 読人知らず | 三 | 春下 |
114 | たちよらぬ春の霞をたのまれよ花のあたりと見れはなるらん たちよらぬ はるのかすみを たのまれよ はなのあたりと みれはなるらむ | 源清蔭朝臣 | 三 | 春下 |
115 | 君見よと尋ねてをれる山さくらふりにし色と思はさらなん きみみよと たつねてをれる やまさくら ふりにしいろと おもはさらなむ | 伊勢 | 三 | 春下 |
116 | 神さひてふりにし里にすむ人は都ににほふ花をたに見す かみさひて ふりにしさとに すむひとは みやこににほふ はなをたにみす | 読人知らず | 三 | 春下 |
117 | み吉野のよしのの山の桜花白雲とのみ見えまかひつつ みよしのの よしののやまの さくらはな しらくもとのみ みえまかひつつ | 読人知らず | 三 | 春下 |
118 | 山さくらさきぬる時は常よりも峰の白雲たちまさりけり やまさくら さきぬるときは つねよりも みねのしらくも たちまさりけり | 読人知らず | 三 | 春下 |
119 | 白雲と見えつるものをさくら花けふはちるとや色ことになる しらくもと みえつるものを さくらはな けふはちるとや いろことになる | 紀貫之 | 三 | 春下 |
120 | わかやとの影ともたのむ藤の花たちよりくとも浪にをらるな わかやとの かけともたのむ ふちのはな たちよりくとも なみにをらるな | 読人知らず | 三 | 春下 |
121 | 花さかりまたもすきぬに吉野河影にうつろふ岸の山吹 はなさかり またもすきぬに よしのかは かけにうつろふ きしのやまふき | 読人知らず | 三 | 春下 |
122 | しのひかねなきてかはつの惜むをもしらすうつろふ山吹の花 しのひかね なきてかはつの をしむをも しらすうつろふ やまふきのはな | 読人知らず | 三 | 春下 |
123 | 折りつれはたふさにけかるたてなからみよの仏に花たてまつる をりつれは たふさにけかる たてなから みよのほとけに はなたてまつる | 僧正遍昭 | 三 | 春下 |
124 | みなそこの色さへ深き松かえにちとせをかねてさける藤波 みなそこの いろさへふかき まつかえに ちとせをかねて さけるふちなみ | 読人知らず | 三 | 春下 |
125 | 限なき名におふふちの花なれはそこひもしらぬ色のふかさか かきりなき なにおふふちの はななれは そこひもしらぬ いろのふかさか | 三条右大臣(定方) | 三 | 春下 |
126 | 色深くにほひし事は藤浪のたちもかへらて君とまれとか いろふかく にほひしことは ふちなみの たちもかへらて きみとまれとか | 藤原兼輔朝臣 | 三 | 春下 |
127 | さをさせとふかさもしらぬふちなれは色をは人もしらしとそ思ふ さをさせと ふかさもしらぬ ふちなれは いろをはひとも しらしとそおもふ | 紀貫之 | 三 | 春下 |
128 | 昨日見し花のかほとてけさみれはねてこそさらに色まさりけれ きのふみし はなのかほとて けさみれは ねてこそさらに いろまさりけれ | 三条右大臣(定方) | 三 | 春下 |
129 | ひと夜のみねてしかへらは藤の花心とけたる色見せんやは ひとよのみ ねてしかへらは ふちのはな こころとけたる いろみせむやは | 藤原兼輔朝臣 | 三 | 春下 |
130 | あさほらけしたゆく水はあさけれと深くそ花の色は見えける あさほらけ したゆくみつは あさけれと ふかくそはなの いろはみえける | 紀貫之 | 三 | 春下 |
131 | 鴬の糸によるてふ玉柳ふきなみたりそ春の山かせ うくひすの いとによるてふ たまやなき ふきなみたりそ はるのやまかせ | 読人知らず | 三 | 春下 |
132 | いつのまにちりはてぬらん桜花おもかけにのみ色を見せつつ いつのまに ちりはてぬらむ さくらはな おもかけにのみ いろをみせつつ | 躬恒 | 三 | 春下 |
133 | ちることのうきもわすれてあはれてふ事をさくらにやとしつるかな ちることの うきもわすれて あはれてふ ことをさくらに やとしつるかな | 源仲宣朝臣 | 三 | 春下 |
134 | 桜色にきたる衣のふかけれはすくる春日もをしけくもなし さくらいろに きたるころもの ふかけれは すくるはるひも をしけくもなし | 読人知らず | 三 | 春下 |
135 | あまりさへありてゆくへき年たにも春にかならすあふよしもかな あまりさへ ありてゆくへき としたにも はるにかならす あふよしもかな | 紀貫之 | 三 | 春下 |
136 | つねよりものとけかるへき春なれはひかりに人のあはさらめやは つねよりも のとけかるへき はるなれは ひかりにひとの あはさらめやは | 左太臣(実頼) | 三 | 春下 |
137 | 君こすて年はくれにき立ちかへり春さへけふに成りにけるかな きみこすて としはくれにき たちかへり はるさへけふに なりにけるかな | 藤原雅正 | 三 | 春下 |
138 | ともにこそ花をも見めとまつ人のこぬものゆゑにをしきはるかな ともにこそ はなをもみめと まつひとの こぬものゆゑに をしきはるかな | 藤原雅正 | 三 | 春下 |
139 | きみにたにとはれてふれは藤の花たそかれ時もしらすそ有りける きみにたに とはれてふれは ふちのはな たそかれときも しらすそありける | 紀貫之 | 三 | 春下 |
140 | やへむくら心の内にふかけれは花見にゆかんいてたちもせす やへむくら こころのうちに ふかけれは はなみにゆかむ いてたちもせす | 紀貫之 | 三 | 春下 |
141 | をしめとも春の限のけふの又ゆふくれにさへなりにけるかな をしめとも はるのかきりの けふのまた ゆふくれにさへ なりにけるかな | 読人知らず | 三 | 春下 |
142 | ゆくさきををしみし春のあすよりはきにし方にもなりぬへきかな ゆくさきを をしみしはるの あすよりは きにしかたにも なりぬへきかな | 躬恒 | 三 | 春下 |
143 | ゆくさきになりもやするとたのみしを春の限はけふにそ有りける ゆくさきに なりもやすると たのみしを はるのかきりは けふにそありける | 紀貫之 | 三 | 春下 |
144 | 花しあらは何かははるのをしからんくるともけふはなけかさらまし はなしあらは なにかははるの をしからむ くるともけふは なけかさらまし | 読人知らず | 三 | 春下 |
145 | くれて又あすとたになきはるの日を花の影にてけふはくらさむ くれてまた あすとたになき はるのひを はなのかけにて けふはくらさむ | 躬恒 | 三 | 春下 |
146 | 又もこむ時そとおもへとたのまれぬわか身にしあれはをしきはるかな またもこむ ときそとおもへと たのまれぬ わかみにしあれは をしきはるかな | 紀貫之 | 三 | 春下 |
147 | 今日よりは夏の衣に成りぬれときるひとさへはかはらさりけり けふよりは なつのころもに なりぬれと きるひとさへは かはらさりけり | 読人知らず | 四 | 夏 |
148 | 卯花のさけるかきねの月きよみいねすきけとやなくほとときす うのはなの さけるかきねの つききよみ いねすきけとや なくほとときす | 読人知らず | 四 | 夏 |
149 | 郭公きゐるかきねはちかなからまちとほにのみ声のきこえぬ ほとときす きゐるかきねは ちかなから まちとほにのみ こゑのきこえぬ | 読人知らず | 四 | 夏 |
150 | ほとときす声まつほとはとほからてしのひになくをきかぬなるらん ほとときす こゑまつほとは とほからて しのひになくを きかぬなるらむ | 読人知らず | 四 | 夏 |
151 | うらめしき君かかきねの卯花はうしと見つつも猶たのむかな うらめしき きみかかきねの うのはなは うしとみつつも なほたのむかな | 読人知らず | 四 | 夏 |
152 | うき物と思ひしりなは卯花のさけるかきねもたつねさらまし うきものと おもひしりなは うのはなの さけるかきねも たつねさらまし | 読人知らず | 四 | 夏 |
153 | 時わかすふれる雪かと見るまてにかきねもたわにさける卯花 ときわかす ふれるゆきかと みるまてに かきねもたわに さけるうのはな | 読人知らず | 四 | 夏 |
154 | 白妙ににほふかきねの卯花のうくもきてとふ人のなきかな しろたへに にほふかきねの うのはなの うくもきてとふ ひとのなきかな | 読人知らず | 四 | 夏 |
155 | 時わかす月か雪かとみるまてにかきねのままにさける卯花 ときわかす つきかゆきかと みるまてに かきねのままに さけるうのはな | 読人知らず | 四 | 夏 |
156 | 鳴きわひぬいつちかゆかん郭公猶卯花の影ははなれし なきわひぬ いつちかゆかむ ほとときす なほうのはなの かけははなれし | 読人知らず | 四 | 夏 |
157 | あひ見しもまた見ぬこひも郭公月になくよそよににさりける あひみしも またみぬこひも ほとときす つきになくよそ よににさりける | 読人知らず | 四 | 夏 |
158 | 有りとのみおとはの山の郭公ききにきこえてあはすもあるかな ありとのみ おとはのやまの ほとときす ききにきこえて あはすもあるかな | 読人知らず | 四 | 夏 |
159 | こかくれてさ月まつとも郭公はねならはしに枝うつりせよ こかくれて さつきまつとも ほとときす はねならはしに えたうつりせよ | 伊勢 | 四 | 夏 |
160 | いひそめし昔のやとの杜若色はかりこそかたみなりけれ いひそめし むかしのやとの かきつはた いろはかりこそ かたみなりけれ | 良岑義方朝臣 | 四 | 夏 |
161 | ゆきかへるやそうち人の玉かつらかけてそたのむ葵てふ名を ゆきかへる やそうちひとの たまかつら かけてそたのむ あふひてふなを | 読人知らず | 四 | 夏 |
162 | ゆふたすきかけてもいふなあた人の葵てふなはみそきにそせし ゆふたすき かけてもいふな あたひとの あふひてふなは みそきにそせし | 読人知らず | 四 | 夏 |
163 | このころはさみたれちかみ郭公思ひみたれてなかぬ日そなき このころは さみたれちかみ ほとときす おもひみたれて なかぬひそなき | 読人知らず | 四 | 夏 |
164 | まつ人は誰ならなくにほとときす思ひの外になかはうからん まつひとは たれならなくに ほとときす おもひのほかに なかはうからむ | 読人知らず | 四 | 夏 |
165 | にほひつつちりにし花そおもほゆる夏は緑の葉のみしけれは にほひつつ ちりにしはなそ おもほゆる なつはみとりの はのみしけれは | 読人知らず | 四 | 夏 |
166 | さみたれに春の宮人くる時は郭公をやうくひすにせん さみたれに はるのみやひと くるときは ほとときすをや うくひすにせむ | 大春日師範 | 四 | 夏 |
167 | みしか夜のふけゆくままに白妙の峰の松風ふくかとそきく みしかよの ふけゆくままに たかさこの みねのまつかせ ふくかとそきく | 藤原兼輔朝臣 | 四 | 夏 |
168 | 葦引の山した水はゆきかよひことのねにさへなかるへらなり あしひきの やましたみつは ゆきかよひ ことのねにさへ なかるへらなり | 紀貫之 | 四 | 夏 |
169 | 夏の夜はあふ名のみして敷妙のちりはらふまにあけそしにける なつのよは あふなのみして しきたへの ちりはらふまに あけそしにける | 藤原高経朝臣 | 四 | 夏 |
170 | 夢よりもはかなき物は夏の夜の暁かたの別なりけり ゆめよりも はかなきものは なつのよの あかつきかたの わかれなりけり | 壬生忠岑 | 四 | 夏 |
171 | よそなから思ひしよりも夏の夜の見はてぬ夢そはかなかりける よそなから おもひしよりも なつのよの みはてぬゆめそ はかなかりける | 読人知らず | 四 | 夏 |
172 | ふた声と聞くとはなしに郭公夜深くめをもさましつるかな ふたこゑと きくとはなしに ほとときす よふかくめをも さましつるかな | 伊勢 | 四 | 夏 |
173 | あふと見し夢にならひて夏の日のくれかたきをも歎きつるかな あふとみし ゆめにならひて なつのひの くれかたきをも なけきつるかな | 藤原安国 | 四 | 夏 |
174 | うとまるる心しなくは郭公あかぬ別にけさはけなまし うとまるる こころしなくは ほとときす あかぬわかれに けさはけなまし | 読人知らず | 四 | 夏 |
175 | 折りはへてねをのみそなく郭公しけきなけきの枝ことにゐて をりはへて ねをのみそなく ほとときす しけきなけきの えたことにゐて | 読人知らず | 四 | 夏 |
176 | ほとときすきては旅とや鳴渡る我は別のをしき宮こを ほとときす きてはたひとや なきわたる われはわかれの をしきみやこを | 読人知らず | 四 | 夏 |
177 | 独ゐて物思ふ我を郭公ここにしもなく心あるらし ひとりゐて ものおもふわれを ほとときす ここにしもなく こころあるらし | 読人知らず | 四 | 夏 |
178 | 玉匣あけつるほとのほとときすたたふたこゑもなきてこしかな たまくしけ あけつるほとの ほとときす たたふたこゑも なきてこしかな | 読人知らず | 四 | 夏 |
179 | かすならぬわか身山への郭公このはかくれのこゑはきこゆや かすならぬ わかみやまへの ほとときす このはかくれの こゑはきこゆや | 読人知らず | 四 | 夏 |
180 | とこ夏に鳴きてもへなんほとときすしけきみ山になに帰るらむ とこなつに なきてもへなむ ほとときす しけきみやまに なにかへるらむ | 読人知らず | 四 | 夏 |
181 | ふすからにまつそわひしき郭公なきもはてぬにあくるよなれは ふすからに まつそわひしき ほとときす なきもはてぬに あくるよなれは | 読人知らず | 四 | 夏 |
182 | さみたれになかめくらせる月なれはさやにも見えすくもかくれつつ さみたれに なかめくらせる つきなれは さやにもみえす くもかくれつつ | あるしの女 | 四 | 夏 |
183 | ふた葉よりわかしめゆひしなてしこの花のさかりを人にをらすな ふたはより わかしめゆひし なてしこの はなのさかりを ひとにをらすな | 読人知らず | 四 | 夏 |
184 | 葦引の山郭公うちはへて誰かまさるとねをのみそなく あしひきの やまほとときす うちはへて たれかまさると ねをのみそなく | 読人知らず | 四 | 夏 |
185 | つれつれとなかむる空の郭公とふにつけてそねはなかれける つれつれと なかむるそらの ほとときす とふにつけてそ ねはなかれける | 読人知らず | 四 | 夏 |
186 | 色かへぬ花橘に郭公ちよをならせるこゑきこゆなり いろかへぬ はなたちはなに ほとときす ちよをならせる こゑきこゆなり | 読人知らず | 四 | 夏 |
187 | たひねしてつまこひすらし郭公神なひ山にさよふけてなく たひねして つまこひすらし ほとときす かむなひやまに さよふけてなく | 読人知らず | 四 | 夏 |
188 | 夏の夜にこひしき人のかをとめは花橘そしるへなりける なつのよに こひしきひとの かをとめは はなたちはなそ しるへなりける | 読人知らず | 四 | 夏 |
189 | 郭公はつかなるねをききそめてあらぬもそれとおほめかれつつ ほとときす はつかなるねを ききそめて あらぬもそれと おほめかれつつ | 伊勢 | 四 | 夏 |
190 | さみたれのつつける年のなかめには物思ひあへる我そわひしき さみたれの つつけるとしの なかめには ものおもひあへる われそわひしき | 読人知らず | 四 | 夏 |
191 | 郭公ひとこゑにあくる夏の夜の暁かたやあふこなるらむ ほとときす ひとこゑにあくる なつのよの あかつきかたや あふこなるらむ | 読人知らず | 四 | 夏 |
192 | うちはへてねをなきくらす空蝉のむなしきこひも我はするかな うちはへて ねをなきくらす うつせみの むなしきこひも われはするかな | 読人知らず | 四 | 夏 |
193 | 常もなき夏の草はにおくつゆをいのちとたのむせみのはかなさ つねもなき なつのくさはに おくつゆを いのちとたのむ せみのはかなさ | 読人知らず | 四 | 夏 |
194 | やへむくらしけきやとには夏虫の声より外に問ふ人もなし やへむくら しけきやとには なつむしの こゑよりほかに とふひともなし | 読人知らず | 四 | 夏 |
195 | うつせみのこゑきくからに物そ思ふ我も空しき世にしすまへは うつせみの こゑきくからに ものそおもふ われもむなしき よにしすまへは | 読人知らず | 四 | 夏 |
196 | 如何せむをくらの山の郭公おほつかなしとねをのみそなく いかかせむ をくらのやまの ほとときす おほつかなしと ねをのみそなく | 藤原師尹朝臣 | 四 | 夏 |
197 | 郭公暁かたのひとこゑはうき世中をすくすなりけり ほとときす あかつきかたの ひとこゑは うきよのなかを すくすなりけり | 読人知らず | 四 | 夏 |
198 | ひとしれすわかしめしののとこなつは花さきぬへき時そきにける ひとしれす わかしめしのの とこなつは はなさきぬへき ときそきにける | 読人知らず | 四 | 夏 |
199 | わかやとのかきねにうゑしなてしこは花にさかなんよそへつつ見む わかやとの かきねにうゑし なてしこは はなにさかなむ よそへつつみむ | 読人知らず | 四 | 夏 |
200 | 常夏の花をたに見はことなしにすくす月日もみしかかりなん とこなつの はなをたにみは ことなしに すくすつきひも みしかかりなむ | 読人知らず | 四 | 夏 |
201 | 常夏に思ひそめては人しれぬ心の程は色に見えなん とこなつに おもひそめては ひとしれぬ こころのほとは いろにみえなむ | 読人知らず | 四 | 夏 |
202 | 色といへはこきもうすきもたのまれす山となてしこちる世なしやは いろといへは こきもうすきも たのまれす やまとなてしこ ちるよなしやは | 読人知らず | 四 | 夏 |
203 | なてしこはいつれともなくにほへともおくれてさくはあはれなりけり なてしこは いつれともなく にほへとも おくれてさくは あはれなりけり | 太政大臣(忠平) | 四 | 夏 |
204 | なてしこの花ちりかたになりにけりわかまつ秋そちかくなるらし なてしこの はなちりかたに なりにけり わかまつあきそ ちかくなるらし | 読人知らず | 四 | 夏 |
205 | 夜ひなからひるにもあらなん夏なれはまちくらすまのほとなかるへく よひなから ひるにもあらなむ なつなれは まちくらすまの ほとなかるへき | 読人知らず | 四 | 夏 |
206 | 夏の夜の月は程なくあけぬれは朝のまをそかこちよせつる なつのよの つきはほとなく あけぬれは あしたのまをそ かこちよせつる | 読人知らず | 四 | 夏 |
207 | 鵲の峰飛ひこえてなきゆけは夏の夜渡る月そかくるる かささきの みねとひこえて なきゆけは なつのよわたる つきそかくるる | 読人知らず | 四 | 夏 |
208 | 秋ちかみ夏はてゆけは郭公なく声かたき心ちこそすれ あきちかみ なつはてゆけは ほとときす なくこゑかたき ここちこそすれ | 読人知らず | 四 | 夏 |
209 | つつめともかくれぬ物は夏虫の身よりあまれる思ひなりけり つつめとも かくれぬものは なつむしの みよりあまれる おもひなりけり | 読人知らず | 四 | 夏 |
210 | あまの河水まさるらし夏の夜は流るる月のよとむまもなし あまのかは みつまさるらし なつのよは なかるるつきの よとむまもなし | 読人知らず | 四 | 夏 |
211 | 花もちり郭公さへいぬるまて君にもゆかすなりにけるかな はなもちり ほとときすさへ いぬるまて きみにもゆかす なりにけるかな | 紀貫之 | 四 | 夏 |
212 | はな鳥の色をもねをもいたつらに物うかる身はすくすのみなり はなとりの いろをもねをも いたつらに ものうかるみは すくすのみなり | 藤原雅正 | 四 | 夏 |
213 | 夏虫の身をたきすてて玉しあらは我とまねはむ人めもる身そ なつむしの みをたきすてて たましあらは われとまねはむ ひとめもるみそ | 読人知らず | 四 | 夏 |
214 | 今夜かくなかむる袖のつゆけきは月の霜をや秋とみつらん こよひかく なかむるそての つゆけきは つきのしもをや あきとみつらむ | 読人知らず | 四 | 夏 |
215 | かも河のみなそこすみててる月をゆきて見むとや夏はらへする かもかはの みなそこすみて てるつきを ゆきてみむとや なつはらへする | 読人知らず | 四 | 夏 |
216 | たなはたはあまのかはらをななかへりのちのみそかをみそきにはせよ たなはたは あまのかはらを ななかへり のちのみそかを みそきにはせよ | 読人知らず | 四 | 夏 |
217 | にはかにも風のすすしくなりぬるか秋立つ日とはむへもいひけり にはかにも かせのすすしく なりぬるか あきたつひとは うへもいひけり | 読人知らず | 五 | 秋上 |
218 | 打ちつけに物そ悲しきこのはちる秋の始をけふそとおもへは うちつけに ものそかなしき このはちる あきのはしめを けふそとおもへは | 読人知らず | 五 | 秋上 |
219 | たのめこし君はつれなし秋風はけふよりふきぬわか身かなしも たのめこし きみはつれなし あきかせは けふよりふきぬ わかみかなしも | 読人知らず | 五 | 秋上 |
220 | いととしく物思ふやとの荻の葉に秋とつけつる風のわひしさ いととしく ものおもふやとの をきのはに あきとつけつる かせのわひしき | 読人知らず | 五 | 秋上 |
221 | 秋風のうちふきそむるゆふくれはそらに心そわひしかりける あきかせの うちふきそむる ゆふくれは そらにこころそ わひしかりける | 読人知らず | 五 | 秋上 |
222 | 露わけしたもとほすまもなきものをなと秋風のまたきふくらん つゆわけし たもとほすまも なきものを なとあきかせの またきふくらむ | 大江千里 | 五 | 秋上 |
223 | 秋はきを色とる風の吹きぬれはひとの心もうたかはれけり あきはきを いろとるかせの ふきぬれは ひとのこころも うたかはれけり | 読人知らず | 五 | 秋上 |
224 | あき萩を色とる風は吹きぬとも心はかれし草はならねは あきはきを いろとるかせは ふきぬとも こころはかれし くさはならねは | 在原業平朝臣 | 五 | 秋上 |
225 | あふことはたなはたつめにひとしくてたちぬふわさはあへすそありける あふことは たなはたつめに ひとしくて たちぬふわさは あへすそありける | 閑院 | 五 | 秋上 |
226 | 天河渡らむそらもおもほえすたえぬ別と思ふものから あまのかは わたらむそらも おもほえす たえぬわかれと おもふものから | 読人知らず | 五 | 秋上 |
227 | 雨ふりて水まさりけり天河こよひはよそにこひむとやみし あめふりて みつまさりけり あまのかは こよひはよそに こひむとやみし | 源中正 | 五 | 秋上 |
228 | 水まさり浅きせしらすなりぬともあまのと渡る舟もなしやは みつまさり あさきせしらす なりぬとも あまのとわたる ふねもなしやは | 読人知らず | 五 | 秋上 |
229 | 織女もあふよありけり天河この渡にはわたるせもなし たなはたも あふよありけり あまのかは このわたりには わたるせもなし | 藤原兼三 | 五 | 秋上 |
230 | ひこほしのまれにあふよのとこ夏は打ちはらへともつゆけかりけり ひこほしの まれにあふよの とこなつは うちはらへとも つゆけかりけり | 読人知らず | 五 | 秋上 |
231 | こひこひてあはむと思ふゆふくれはたなはたつめもかくそあるらし こひこひて あはむとおもふ ゆふくれは たなはたつめも かくそあるらし | 読人知らず | 五 | 秋上 |
232 | たくひなき物とは我そなりぬへきたなはたつめは人めやはもる たくひなき ものとはわれそ なりぬへき たなはたつめは ひとめやはもる | 読人知らず | 五 | 秋上 |
233 | あまの河流れてこひはうくもそあるあはれと思ふせにはやく見む あまのかは なかれてこひは うくもそある あはれとおもふ せにはやくみむ | 読人知らず | 五 | 秋上 |
234 | 玉蔓たえぬものからあらたまの年の渡はたたひとよのみ たまかつら たえぬものから あらたまの としのわたりは たたひとよのみ | 読人知らず | 五 | 秋上 |
235 | 秋の夜の心もしるくたなはたのあへるこよひはあけすもあらなん あきのよの こころもしるく たなはたの あへるこよひは あけすもあらなむ | 読人知らず | 五 | 秋上 |
236 | 契りけん事のは今は返してむ年のわたりによりぬるものを ちきりけむ ことのはいまは かへしてむ としのわたりに よりぬるものを | 読人知らず | 五 | 秋上 |
237 | 逢ふ事の今夜過きなは織女におとりやしなんこひはまさりて あふことの こよひすきなは たなはたに おとりやしなむ こひはまさりて | 藤原敦忠朝臣 | 五 | 秋上 |
238 | 織女のあまのとわたるこよひさへをち方人のつれなかるらむ たなはたの あまのとわたる こよひさへ をちかちひとの つれなかるらむ | 読人知らず | 五 | 秋上 |
239 | 天河とほき渡はなけれとも君かふなては年にこそまて あまのかは とほきわたりは なけれとも きみかふなては としにこそまて | 読人知らず | 五 | 秋上 |
240 | あまの河いはこす浪のたちゐつつ秋のなぬかのけふをしそまつ あまのかは いはこすなみの たちゐつつ あきのなぬかの けふをしそまつ | 読人知らず | 五 | 秋上 |
241 | けふよりはあまの河原はあせななんそこひともなくたたわたりなん けふよりは あまのかはらは あせななむ そこひともなく たたわたりなむ | 紀友則 | 五 | 秋上 |
242 | 天河流れてこふるたなはたの涙なるらし秋のしらつゆ あまのかは なかれてこふる たなはたの なみたなるらし あきのしらつゆ | 読人知らず | 五 | 秋上 |
243 | あまの河せせの白浪たかけれとたたわたりきぬまつにくるしみ あまのかは せせのしらなみ たかけれと たたわたりきぬ まつにくるしみ | 読人知らず | 五 | 秋上 |
244 | 秋くれは河霧わたる天河かはかみ見つつこふる日のおほき あきくれは かはきりわたる あまのかは かはかみみつつ こふるひのおほき | 読人知らず | 五 | 秋上 |
245 | 天河こひしきせにそ渡りぬるたきつ涙に袖はぬれつつ あまのかは こひしきせにそ わたりぬる たきつなみたに そてはぬれつつ | 読人知らず | 五 | 秋上 |
246 | 織女の年とはいはし天河雲たちわたりいさみたれなん たなはたの としとはいはし あまのかは くもたちわたり いさみたれなむ | 読人知らず | 五 | 秋上 |
247 | 秋の夜のあかぬ別をたなはたはたてぬきにこそ思ふへらなれ あきのよの あかぬわかれを たなはたは たてぬきにこそ おもふへらなれ | 凡河内躬恒 | 五 | 秋上 |
248 | たなはたの帰る朝の天河舟もかよはぬ浪もたたなん たなはたの かへるあしたの あまのかは ふねもかよはぬ なみもたたなむ | 藤原兼輔朝臣 | 五 | 秋上 |
249 | あさとあけてなかめやすらんたなはたはあかぬ別のそらをこひつつ あさとあけて なかめやすらむ たなはたは あかぬわかれの そらをこひつつ | 紀貫之 | 五 | 秋上 |
250 | 秋風のふけはさすかにわひしきは世のことわりと思ふものから あきかせの ふけはさすかに わひしきは よのことわりと おもふものから | 読人知らず | 五 | 秋上 |
251 | 松虫のはつこゑさそふ秋風はおとは山よりふきそめにけり まつむしの はつこゑさそふ あきかせは おとはやまより ふきそめにけり | 読人知らず | 五 | 秋上 |
252 | ゆく蛍雲のうへまていぬへくは秋風ふくと雁につけこせ ゆくほたる くものうへまて いぬへくは あきかせふくと かりにつけこせ | 在原業平朝臣 | 五 | 秋上 |
253 | 秋風の草葉そよきてふくなへにほのかにしつるひくらしのこゑ あきかせの くさはそよきて ふくなへに ほのかにしつる ひくらしのこゑ | 読人知らず | 五 | 秋上 |
254 | ひくらしの声きく山のちかけれやなきつるなへにいり日さすらん ひくらしの こゑきくやまの ちかけれや なきつるなへに いりひさすらむ | 紀貫之 | 五 | 秋上 |
255 | ひくらしのこゑきくからに松虫の名にのみ人を思ふころかな ひくらしの こゑきくからに まつむしの なにのみひとを おもふころかな | 紀貫之 | 五 | 秋上 |
256 | 心有りてなきもしつるかひくらしのいつれももののあきてうけれは こころありて なきもしつるか ひくらしの いつれもものの あきてうけれは | 紀貫之 | 五 | 秋上 |
257 | 秋風の吹きくるよひは蛬草のねことにこゑみたれけり あきかせの ふきくるよひは きりきりす くさのねことに こゑみたれけり | 紀貫之 | 五 | 秋上 |
258 | わかことく物やかなしききりきりす草のやとりにこゑたえすなく わかことく ものやかなしき きりきりす くさのやとりに こゑたえすなく | 紀貫之 | 五 | 秋上 |
259 | こむといひしほとやすきぬる秋ののに誰松虫そこゑのかなしき こむといひし ほとやすきぬる あきののに たれまつむしそ こゑのかなしき | 紀貫之 | 五 | 秋上 |
260 | 秋ののにきやとる人もおもほえすたれを松虫ここらなくらん あきののに きやとるひとも おもほえす たれをまつむし ここらなくらむ | 紀貫之 | 五 | 秋上 |
261 | あき風のややふきしけはのをさむみわひしき声に松虫そ鳴く あきかせの ややふきしけは のをさむみ わひしきこゑに まつむしそなく | 紀貫之 | 五 | 秋上 |
262 | 秋くれは野もせに虫のおりみたるこゑのあやをはたれかきるらん あきくれは のもせにむしの おりみたる こゑのあやをは たれかきるらむ | 藤原元善朝臣 | 五 | 秋上 |
263 | 風さむみなく秋虫の涙こそくさは色とるつゆとおくらめ かせさむみ なくあきむしの なみたこそ くさはいろとる つゆとおくらめ | 読人知らず | 五 | 秋上 |
264 | 秋風の吹きしく松は山なから浪立帰るおとそきこゆる あきかせの ふきしくまつは やまなから なみたちかへる おとそきこゆる | 読人知らず | 五 | 秋上 |
265 | 松のねに風のしらへをまかせては竜田姫こそ秋はひくらし まつのねに かせのしらへを まかせては たつたひめこそ あきはひくらし | 壬生忠岑 | 五 | 秋上 |
266 | 山里の物さひしさは荻のはのなひくことにそ思ひやらるる やまさとの ものさひしきは をきのはの なひくことにそ おもひやらるる | 左太臣(実頼) | 五 | 秋上 |
267 | ほにはいてぬいかにかせまし花すすき身を秋風にすてやはててん ほにはいてぬ いかにかせまし はなすすき みをあきかせに すてやはててむ | 小野道風朝臣 | 五 | 秋上 |
268 | あけくらしまもるたのみをからせつつたもとそほつの身とそ成りぬる あけくらし まもるたのみを からせつつ たもとそほつの みとそなりぬる | 読人知らず | 五 | 秋上 |
269 | 心もておふる山田のひつちほは君まもらねとかる人もなし こころもて おふるやまたの ひつちほは きみまもらねと かるひともなし | 読人知らず | 五 | 秋上 |
270 | 草のいとにぬく白玉と見えつるは秋のむすへるつゆにそ有りける くさのいとに ぬくしらたまと みえつるは あきのむすへる つゆにそありける | 藤原守文 | 五 | 秋上 |
271 | 秋霧の立ちぬる時はくらふ山おほつかなくそ見え渡りける あききりの たちぬるときは くらふやま おほつかなくそ みえわたりける | 紀貫之 | 六 | 秋中 |
272 | 花見にといてにしものを秋の野の霧に迷ひてけふはくらしつ はなみにと いてにしものを あきののの きりにまよひて けふはくらしつ | 紀貫之 | 六 | 秋中 |
273 | 浦ちかくたつ秋きりはもしほやく煙とのみそ見えわたりける うらちかく たつあききりは もしほやく けふりとのみそ みえわたりける | 読人知らず | 六 | 秋中 |
274 | をるからにわかなはたちぬ女郎花いさおなしくははなはなに見む をるからに わかなはたちぬ をみなへし いさおなしくは はなはなにみむ | 藤原興風 | 六 | 秋中 |
275 | 秋の野の露におかるる女郎花はらふ人なみぬれつつやふる あきののの つゆにおかるる をみなへし はらふひとなみ ぬれつつやふる | 読人知らず | 六 | 秋中 |
276 | をみなへし花の心のあたなれは秋にのみこそあひわたりけれ をみなへし はなのこころの あたなれは あきにのみこそ あひわたりけれ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
277 | さみたれにぬれにし袖にいととしくつゆおきそふる秋のわひしさ さみたれに ぬれにしそてに いととしく つゆおきそふる あきのわひしさ | 近江更衣 | 六 | 秋中 |
278 | おほかたも秋はわひしき時なれとつゆけかるらん袖をしそ思ふ おほかたも あきはわひしき ときなれと つゆけかるらむ そてをしそおもふ | 延喜御製 | 六 | 秋中 |
279 | 白露のかはるもなにかをしからんありてののちもややうきものを しらつゆの かはるもなにか をしからむ ありてののちも ややうきものを | 法皇御製 | 六 | 秋中 |
280 | うゑたてて君かしめゆふ花なれは玉と見えてやつゆもおくらん うゑたてて きみかしめゆふ はななれは たまとみえてや つゆもおくらむ | 伊勢 | 六 | 秋中 |
281 | 折りて見る袖さへぬるるをみなへしつゆけき物と今やしるらん をりてみる そてさへぬるる をみなへし つゆけきものと いまやしるらむ | 右大臣(師輔) | 六 | 秋中 |
282 | よろつよにかからんつゆををみなへしなに思ふとかまたきぬるらん よろつよに かからむつゆを をみなへし なにおもふとか またきぬるらむ | 大輔 | 六 | 秋中 |
283 | おきあかすつゆのよなよなへにけれはまたきぬるともおもはさりけり おきあかす つゆのよなよな へにけれは またきぬるとも おもはさりけり | 右大臣(師輔) | 六 | 秋中 |
284 | 今ははや打ちとけぬへき白露の心おくまてよをやへにける いまははや うちとけぬへき しらつゆの こころおくまて よをやへにける | 大輔 | 六 | 秋中 |
285 | 白露のうへはつれなくおきゐつつ萩のしたはの色をこそ見れ しらつゆの うへはつれなく おきゐつつ はきのしたはの いろをこそみれ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
286 | 心なき身はくさはにもあらなくに秋くる風にうたかはるらん こころなき みはくさはにも あらなくに あきくるかせに うたかはるらむ | 伊勢 | 六 | 秋中 |
287 | 人はいさ事そともなきなかめにそ我はつゆけき秋もしらるる ひとはいさ ことそともなき なかめにそ われはつゆけき あきもしらるる | 読人知らず | 六 | 秋中 |
288 | 花すすきほにいつる事もなきやとは昔忍ふの草をこそ見れ はなすすき ほにいつることも なきやとは むかししのふの くさをこそみれ | 中宮宣旨 | 六 | 秋中 |
289 | やともせにうゑなめつつそ我は見るまねくをはなに人やとまると やともせに うゑなへつつそ われはみる まねくをはなに ひとやとまると | 伊勢 | 六 | 秋中 |
290 | 秋の夜をいたつらにのみおきあかす露はわか身のうへにそ有りける あきのよを いたつらにのみ おきあかす つゆはわかみの うへにそありける | 読人知らず | 六 | 秋中 |
291 | おほかたにおく白露も今よりは心してこそみるへかりけれ おほかたに おくしらつゆも いまよりは こころしてこそ みるへかりけれ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
292 | 露ならぬわか身と思へと秋の夜をかくこそあかせおきゐなからに つゆならぬ わかみとおもへと あきのよを かくこそあかせ おきゐなからに | 右大臣(師輔) | 六 | 秋中 |
293 | 白露のおくにあまたの声すれは花の色色有りとしらなん しらつゆの おくにあまたの こゑすれは はなのいろいろ ありとしらなむ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
294 | くれはては月も待つへし女郎花雨やめてとは思はさらなん くれはては つきもまつへし をみなへし あめやめてとは おもはさらなむ | 左太臣(実頼) | 六 | 秋中 |
295 | 秋の田のかりほのやとのにほふまてさける秋はきみれとあかぬかも あきのたの かりほのやとの にほふまて さけるあきはき みれとあかぬかも | 読人知らず | 六 | 秋中 |
296 | 秋のよをまとろますのみあかす身は夢ちとたにそたのまさりける あきのよを まとろますのみ あかすみは ゆめちとたにそ たのまさりける | 読人知らず | 六 | 秋中 |
297 | 時雨ふりふりなは人に見せもあへすちりなはをしみをれる秋はき しくれふり ふりなはひとに みせもあへす ちりなはをしみ をれるあきはき | 読人知らず | 六 | 秋中 |
298 | 往還り折りてかささむあさなあさな鹿立ちならすのへの秋はき ゆきかへり をりてかささむ あさなあさな しかたちならす のへのあきはき | 紀貫之 | 六 | 秋中 |
299 | わかやとの庭の秋はきちりぬめりのちみむ人やくやしと思はむ わかやとの にはのあきはき ちりぬめり のちみむひとや くやしとおもはむ | むねゆきの朝臣 | 六 | 秋中 |
300 | 白露のおかまく惜しき秋萩を折りてはさらに我やかくさん しらつゆの おかまくをしき あきはきを をりてはさらに われやかくさむ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
301 | 秋はきの色つく秋を徒にあまたかそへて老いそしにける あきはきの いろつくあきを いたつらに あまたかそへて おいそしにける | 紀貫之 | 六 | 秋中 |
302 | 秋の田のかりほのいほのとまをあらみわか衣手はつゆにぬれつつ あきのたの かりほのいほの とまをあらみ わかころもては つゆにぬれつつ | 天智天皇御製 | 六 | 秋中 |
303 | わか袖に露そおくなる天河雲のしからみ浪やこすらん わかそてに つゆそおくなる あまのかは くものしからみ なみやこすらむ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
304 | 秋はきの枝もとををになり行くは白露おもくおけはなりけり あきはきの えたもとををに なりゆくは しらつゆおもく おけはなりけり | 読人知らず | 六 | 秋中 |
305 | わかやとのを花かうへの白露をけたすて玉にぬく物にもか わかやとの をはなかうへの しらつゆを けたすてたまに ぬくものにもか | 読人知らず | 六 | 秋中 |
306 | さを鹿の立ちならすをのの秋はきにおける白露我もけぬへし さをしかの たちならすをのの あきはきに おけるしらつゆ われもけぬへし | 紀貫之 | 六 | 秋中 |
307 | 秋の野の草はいととも見えなくにおくしらつゆを玉とぬくらん あきののの くさはいととも みえなくに おくしらつゆを たまとぬくらむ | 紀貫之 | 六 | 秋中 |
308 | 白露に風の吹敷く秋ののはつらぬきとめぬ玉そちりける しらつゆに かせのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまそちりける | 文屋朝康 | 六 | 秋中 |
309 | 秋ののにおく白露をけさ見れは玉やしけるとおとろかれつつ あきののに おくしらつゆを けさみれは たまやしけると おとろかれつつ | 壬生忠岑 | 六 | 秋中 |
310 | おくからにちくさの色になるものを白露とのみ人のいふらん おくからに ちくさのいろに なるものを しらつゆとのみ ひとのいふらむ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
311 | 白玉の秋のこのはにやとれると見ゆるはつゆのはかるなりけり しらたまの あきのこのはに やとれると みゆるはつゆの はかるなりけり | 読人知らず | 六 | 秋中 |
312 | 秋ののにおく白露のきえさらは玉にぬきてもかけてみてまし あきののに おくしらつゆの きえさらは たまにぬきても かけてみてまし | 読人知らず | 六 | 秋中 |
313 | 唐衣袖くつるまておくつゆはわか身を秋ののとや見るらん からころも そてくつるまて おくつゆは わかみをあきの のとやみるらむ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
314 | おほそらにわか袖ひとつあらなくにかなしくつゆやわきておくらん おほそらに わかそてひとつ あらなくに かなしくつゆや わきておくらむ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
315 | あさことにおくつゆそてにうけためて世のうき時の涙にそかる あさことに おくつゆそてに うけためて よのうきときの なみたにそかる | 読人知らず | 六 | 秋中 |
316 | 秋の野の草もわけぬをわか袖の物思ふなへにつゆけかるらん あきののの くさもわけぬを わかそての ものおもふなへに つゆけかるらむ | 紀貫之 | 六 | 秋中 |
317 | いく世へてのちかわすれんちりぬへきのへの秋はきみかく月よを いくよへて のちかわすれむ ちりぬへき のへのあきはき みかくつきよを | 深養父 | 六 | 秋中 |
318 | 秋の夜の月の影こそこのまよりおちは衣と身にうつりけれ あきのよの つきのかけこそ このまより おちはころもと みにうつりけれ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
319 | 袖にうつる月の光は秋ことに今夜かはらぬ影とみえつつ そてにうつる つきのひかりは あきことに こよひかはらぬ かけとみえつつ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
320 | 秋のよの月にかさなる雲はれてひかりさやかに見るよしもかな あきのよの つきにかさなる くもはれて ひかりさやかに みるよしもかな | 読人知らず | 六 | 秋中 |
321 | 秋の池の月のうへにこく船なれは桂の枝にさをやさはらん あきのいけの つきのうへにこく ふねなれは かつらのえたに さをやさはらむ | 小野美材 | 六 | 秋中 |
322 | あきの海にうつれる月を立ちかへり浪はあらへと色もかはらす あきのうみに うつれるつきを たちかへり なみはあらへと いろもかはらす | 深養父 | 六 | 秋中 |
323 | 秋の夜の月の光はきよけれと人の心のくまはてらさす あきのよの つきのひかりは きよけれと ひとのこころの くまはてらさす | 読人知らず | 六 | 秋中 |
324 | あきの月常にかくてる物ならはやみにふる身はましらさらまし あきのつき つねにかくてる ものならは やみにふるみは ましらさらまし | 読人知らず | 六 | 秋中 |
325 | いつとても月見ぬ秋はなきものをわきて今夜のめつらしきかな いつとても つきみぬあきは なきものを わきてこよひの めつらしきかな | 藤原雅正 | 六 | 秋中 |
326 | 月影はおなしひかりの秋のよをわきて見ゆるは心なりけり つきかけは おなしひかりの あきのよを わきてみゆるは こころなりけり | 読人知らず | 六 | 秋中 |
327 | そらとほみ秋やよくらん久方の月のかつらの色もかはらぬ そらとほみ あきやよくらむ ひさかたの つきのかつらの いろもかはらぬ | 紀淑光朝臣 | 六 | 秋中 |
328 | 衣手はさむくもあらねと月影をたまらぬ秋の雪とこそ見れ ころもては さむくもあらねと つきかけを たまらぬあきの ゆきとこそみれ | 紀貫之 | 六 | 秋中 |
329 | あまの河しからみかけてととめなんあかすなかるる月やよとむと あまのかは しからみかけて ととめなむ あかすなかるる つきやよとむと | 読人知らず | 六 | 秋中 |
330 | 秋風に浪やたつらん天河わたるせもなく月のなかるる あきかせに なみやたつらむ あまのかは わたるせもなく つきのなかるる | 読人知らず | 六 | 秋中 |
331 | あきくれは思ふ心そみたれつつまつもみちはとちりまさりける あきくれは おもふこころそ みたれつつ まつもみちはと ちりまさりける | 読人知らず | 六 | 秋中 |
332 | きえかへり物思ふ秋の衣こそ涙の河の紅葉なりけれ きえかへり ものおもふあきの ころもこそ なみたのかはの もみちなりけれ | 深養父 | 六 | 秋中 |
333 | 吹く風に深きたのみのむなしくは秋の心をあさしとおもはむ ふくかせに ふかきたのみの むなしくは あきのこころを あさしとおもはむ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
334 | 秋の夜は人をしつめてつれつれとかきなすことのねにそなきぬる あきのよは ひとをしつめて つれつれと かきなすことの ねにそなきぬる | 読人知らず | 六 | 秋中 |
335 | ぬきとむる秋しなけれは白露のちくさにおける玉もかひなし ぬきとむる あきしなけれは しらつゆの ちくさにおける たまもかひなし | 藤原清正 | 六 | 秋中 |
336 | 秋風にいととふけゆく月影をたちなかくしそあまの河きり あきかせに いととふけゆく つきかけを たちなかくしそ あまのかはきり | 藤原清正 | 六 | 秋中 |
337 | をみなへしにほへる秋のむさしのは常よりも猶むつましきかな をみなへし にほへるあきの むさしのは つねよりもなほ むつましきかな | 紀貫之 | 六 | 秋中 |
338 | 秋霧のはるるはうれしをみなへし立ちよる人やあらんと思へは あききりの はるるはうれし をみなへし たちよるひとや あらむとおもへは | 兼覧王 | 六 | 秋中 |
339 | をみなへし草むらことにむれたつは誰松虫の声に迷ふそ をみなへし くさむらことに むれたつは たれまつむしの こゑにまよふそ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
340 | 女郎花ひる見てましを秋の夜の月の光は雲かくれつつ をみなへし ひるみてましを あきのよの つきのひかりは くもかくれつつ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
341 | をみなへし花のさかりにあき風のふくゆふくれを誰にかたらん をみなへし はなのさかりに あきかせの ふくゆふくれを たれにかたらむ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
342 | 白妙の衣かたしき女郎花さけるのへにそこよひねにける しろたへの ころもかたしき をみなへし さけるのへにそ こよひねにける | 紀貫之 | 六 | 秋中 |
343 | 名にしおへはしひてたのまん女郎花はなの心の秋はうくとも なにしおへは しひてたのまむ をみなへし はなのこころの あきはうくとも | 紀貫之 | 六 | 秋中 |
344 | 織女ににたるものかな女郎花秋よりほかにあふ時もなし たなはたに にたるものかな をみなへし あきよりほかに あふときもなし | 躬恒 | 六 | 秋中 |
345 | 秋の野によるもやねなんをみなへし花の名をのみ思ひかけつつ あきののに よるもやねなむ をみなへし はなのなをのみ おもひかけつつ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
346 | をみなへし色にもあるかな松虫をもとにやとして誰をまつらん をみなへし いろにもあるかな まつむしを もとにやとして たれをまつらむ | 読人知らず | 六 | 秋中 |
347 | 女郎花にほふさかりを見る時そわかおいらくはくやしかりける をみなへし にほふさかりを みるときそ わかおいらくは くやしかりける | 読人知らず | 六 | 秋中 |
348 | をみなへし花のなならぬ物ならは何かは君かかさしにもせん をみなへし はなのなならぬ ものならは なにかはきみか かさしにもせむ | 三条右大臣(定方) | 六 | 秋中 |
349 | 女郎花折りけん袖のふしことにすきにし君を思ひいてやせし をみなへし をりけむそての ふしことに すきにしきみを おもひいてやせし | 枇杷左大臣 | 六 | 秋中 |
350 | をみなへしをりもをらすもいにしへをさらにかくへき物ならなくに をみなへし をりもをらすも いにしへを さらにかくへき ものならなくに | 伊勢 | 六 | 秋中 |
351 | ふち袴きる人なみや立ちなからしくれの雨にぬらしそめつる ふちはかま きるひとなみや たちなから しくれのあめに ぬらしそめつる | 読人知らず | 七 | 秋下 |
352 | 秋風にあひとしあへは花すすきいつれともなくほにそいてける あきかせに あひとしあへは はなすすき いつれともなく ほにそいてける | 読人知らず | 七 | 秋下 |
353 | 花すすきそよともすれは秋風のふくかとそきくひとりぬるよは はなすすき そよともすれは あきかせの ふくかとそきく ひとりぬるよは | 在原棟梁 | 七 | 秋下 |
354 | はなすすきほにいてやすき草なれは身にならんとはたのまれなくに はなすすき ほにいてやすき くさなれは みにならむとは たのまれなくに | 読人知らず | 七 | 秋下 |
355 | 秋風にさそはれわたる雁かねは雲ゐはるかにけふそきこゆる あきかせに さそはれわたる かりかねは くもゐはるかに けふそきこゆる | 読人知らず | 七 | 秋下 |
356 | 秋のよに雁かもなきてわたるなりわか思ふ人の事つてやせし あきのよに かりかもなきて わたるなり わかおもふひとの ことつてやせし | 紀貫之 | 七 | 秋下 |
357 | あき風に雲とひわけてくるかりの千世にかはらぬ声きこゆなり あきかせに きりとひわけて くるかりの ちよにかはらぬ こゑきこゆなり | 紀貫之 | 七 | 秋下 |
358 | 物思ふと月日のゆくもしらさりつかりこそなきて秋とつけつれ ものおもふと つきひのゆくも しらさりつ かりこそなきて あきとつけけれ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
359 | かりかねのなきつるなへに唐衣たつたの山はもみちしにけり かりかねの なきつるなへに からころも たつたのやまは もみちしにけり | 読人知らず | 七 | 秋下 |
360 | 秋風にさそはれ渡るかりかねは物思ふ人のやとをよかなん あきかせに さそはれわたる かりかねは ものおもふひとの やとをよかなむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
361 | 誰きけと鳴く雁金そわかやとのを花か末を過きかてにして たれきけと なくかりかねそ わかやとの をはなかすゑを すきかてにして | 読人知らず | 七 | 秋下 |
362 | 往還りここもかしこも旅なれやくる秋ことにかりかりとなく ゆきかへり ここもかしこも たひなれや くるあきことに かりかりとなく | 読人知らず | 七 | 秋下 |
363 | 秋ことにくれとかへれはたのまぬを声にたてつつかりとのみなく あきことに くれとかへれは たのまぬを こゑにたてつつ かりとのみなく | 読人知らず | 七 | 秋下 |
364 | ひたすらにわかおもはなくにおのれさへかりかりとのみなきわたるらん ひたすらに わかおもはなくに おのれさへ かりかりとのみ なきわたるらむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
365 | 年ことに雲ちまとはぬかりかねは心つからや秋をしるらん としことに くもちまとはぬ かりかねは こころつからや あきをしるらむ | 躬恒 | 七 | 秋下 |
366 | 天河かりそとわたるさほ山のこすゑはむへも色つきにけり あまのかは かりそとわたる さほやまの こすゑはうへも いろつきにけり | 読人知らず | 七 | 秋下 |
367 | 秋きりのたちのの駒をひく時は心にのりて君そこひしき あききりの たちののこまを ひくときは こころにのりて きみそこひしき | 藤原忠房朝臣 | 七 | 秋下 |
368 | いその神ふるのの草も秋は猶色ことにこそあらたまりけれ いそのかみ ふるののくさも あきはなほ いろことにこそ あらたまりけれ | 在原元方 | 七 | 秋下 |
369 | 秋の野の錦のことも見ゆるかな色なきつゆはそめしと思ふに あきののの にしきのことも みゆるかな いろなきつゆは そめしとおもふに | 読人知らず | 七 | 秋下 |
370 | あきののにいかなるつゆのおきつめはちちの草はの色かはるらん あきののに いかなるつゆの おきつめは ちちのくさはの いろかはるらむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
371 | いつれをかわきてしのはん秋ののにうつろはんとて色かはる草 いつれをか わきてしのはむ あきののに うつろはむとて いろかはるくさ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
372 | 声たててなきそしぬへき秋きりに友まとはせるしかにはあらねと こゑたてて なきそしぬへき あききりに ともまとはせる しかにはあらねと | 紀友則 | 七 | 秋下 |
373 | 誰きけと声白妙にさをしかのなかなかしよをひとりなくらん たれきけと こゑたかさこに さをしかの なかなかしよを ひとりなくらむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
374 | 打ちはへて影とそたのむ峰の松色とる秋の風にうつるな うちはへて かけとそたのむ みねのまつ いろとるあきの かせにうつるな | 読人知らず | 七 | 秋下 |
375 | はつしくれふれは山へそおもほゆるいつれの方かまつもみつらん はつしくれ ふれはやまへそ おもほゆる いつれのかたか まつもみつらむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
376 | いもかひもとくとむすふとたつた山今そ紅葉の錦おりける いもかひも とくとむすふと たつたやま いまそもみちの にしきおりける | 読人知らず | 七 | 秋下 |
377 | 雁なきて寒き朝の露ならし竜田の山をもみたす物は かりなきて さむきあしたの つゆならし たつたのやまを もみたすものは | 読人知らず | 七 | 秋下 |
378 | 見ることに秋にもなるかなたつたひめもみちそむとや山もきるらん みることに あきにもなるかな たつたひめ もみちそむとや やまもきるらむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
379 | 梓弓いるさの山は秋きりのあたることにや色まさるらむ あつさゆみ いるさのやまは あききりの あたることにや いろまさるらむ | 源宗于朝臣 | 七 | 秋下 |
380 | 君と我いもせの山も秋くれは色かはりぬる物にそありける きみとわれ いもせのやまも あきくれは いろかはりぬる ものにそありける | 読人知らず | 七 | 秋下 |
381 | おそくとく色つく山のもみちははおくれさきたつつゆやおくらん おそくとく いろつくやまの もみちはは おくれさきたつ つゆやおくらむ | 元方 | 七 | 秋下 |
382 | かくはかりもみつる色のこけれはや錦たつたの山といふらん かくはかり もみつるいろの こけれはや にしきたつたの やまといふらむ | 紀友則 | 七 | 秋下 |
383 | 唐衣たつたの山のもみちはは物思ふ人のたもとなりけり からころも たつたのやまの もみちはは ものおもふひとの たもとなりけり | 読人知らず | 七 | 秋下 |
384 | 葦引の山の山もりもる山も紅葉せさする秋はきにけり あしひきの やまのやまもり もるやまも もみちせさする あきはきにけり | 紀貫之 | 七 | 秋下 |
385 | 唐錦たつたの山も今よりはもみちなからにときはならなん からにしき たつたのやまも いまよりは もみちなからに ときはならなむ | 紀貫之 | 七 | 秋下 |
386 | から衣たつたの山のもみちはははた物もなき錦なりけり からころも たつたのやまの もみちはは はたものもなき にしきなりけり | 紀貫之 | 七 | 秋下 |
387 | いく木ともえこそ見わかね秋山のもみちのにしきよそにたてれは いくきとも えこそみわかね あきやまの もみちのにしき よそにたてれは | 壬生忠岑 | 七 | 秋下 |
388 | 秋風のうち吹くからに山ものもなへて錦におりかへすかな あきかせの うちふくからに やまものも なへてにしきに おりかへすかな | 読人知らず | 七 | 秋下 |
389 | なとさらに秋かととはむからにしきたつたの山の紅葉するよを なとさらに あきかととはむ からにしき たつたのやまの もみちするよを | 読人知らず | 七 | 秋下 |
390 | あたなりと我は見なくにもみちはを色のかはれる秋しなけれは あたなりと われはみなくに もみちはを いろのかはれる あきしなけれは | 読人知らず | 七 | 秋下 |
391 | 玉かつら葛木山のもみちははおもかけにのみみえわたるかな たまかつら かつらきやまの もみちはは おもかけにのみ みえわたるかな | 紀貫之 | 七 | 秋下 |
392 | 秋霧のたちしかくせはもみちははおほつかなくてちりぬへらなり あききりの たちしかくせは もみちはは おほつかなくて ちりぬへらなり | 紀貫之 | 七 | 秋下 |
393 | かかみやま山かきくもりしくるれともみちあかくそ秋は見えける かかみやま やまかきくもり しくるれと もみちあかくそ あきはみえける | 素性法師 | 七 | 秋下 |
394 | かすしらす君かよはひをのはへつつなたたるやとのつゆとならなん かすしらす きみかよはひを のはへつつ なたたるやとの つゆとならなむ | 伊勢 | 七 | 秋下 |
395 | 露たにも名たたるやとの菊ならは花のあるしやいくよなるらん つゆたにも なたたるやとの きくならは はなのあるしや いくよなるらむ | 藤原雅正 | 七 | 秋下 |
396 | 菊のうへにおきゐるへくもあらなくにちとせの身をもつゆになすかな きくのうへに おきゐるへくも あらなくに ちとせのみをも つゆになすかな | 伊勢 | 七 | 秋下 |
397 | きくの花長月ことにさきくれはひさしき心秋やしるらむ きくのはな なかつきことに さきくれは ひさしきこころ あきやしるらむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
398 | 名にしおへはなか月ことに君かためかきねの菊はにほへとそ思ふ なにしおへは なかつきことに きみかため かきねのきくは にほへとそおもふ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
399 | 旧里をわかれてさける菊の花たひなからこそにほふへらなれ ふるさとを わかれてさける きくのはな たひなからこそ にほふへらなれ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
400 | 何に菊色そめかへしにほふらん花もてはやす君もこなくに なににきく いろそめかへし にほふらむ はなもてはやす きみもこなくに | 読人知らず | 七 | 秋下 |
401 | もみちはのちりくる見れは長月のありあけの月の桂なるらし もみちはの ちりくるみれは なかつきの ありあけのつきの かつらなるらし | 読人知らず | 七 | 秋下 |
402 | いくちはたおれはか秋の山ことに風にみたるる鏡なるらむ いくちはた おれはかあきの やまことに かせにみたるる にしきなるらむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
403 | なほさりに秋の山へをこえくれはおらぬ錦をきぬ人そなき なほさりに あきのやまへを こえくれは おらぬにしきを きぬひとそなき | 読人知らず | 七 | 秋下 |
404 | もみちはをわけつつゆけは錦きて家に帰ると人や見るらん もみちはを わけつつゆけは にしききて いへにかへると ひとやみるらむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
405 | うちむれていさわきもこかかかみ山こえてもみちのちらんかけ見む うちむれて いさわきもこか かかみやま こえてもみちの ちらむかけみむ | 紀貫之 | 七 | 秋下 |
406 | 山かせのふきのまにまにもみちははこのもかのもにちりぬへらなり やまかせの ふきのまにまに もみちはは このもかのもに ちりぬへらなり | 読人知らず | 七 | 秋下 |
407 | 秋の夜に雨ときこえてふりつるは風にみたるる紅葉なりけり あきのよに あめときこえて ふりつるは かせにみたるる もみちなりけり | 読人知らず | 七 | 秋下 |
408 | 立ちよりて見るへき人のあれはこそ秋の林ににしきしくらめ たちよりて みるへきひとの あれはこそ あきのはやしに にしきしくらめ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
409 | このもとにおらぬ錦のつもれるは雲の林のもみちなりけり このもとに おらぬにしきの つもれるは くものはやしの もみちなりけり | 読人知らず | 七 | 秋下 |
410 | 秋風にちるもみちははをみなへしやとにおりしく錦なりけり あきかせに ちるもみちはは をみなへし やとにおりしく にしきなりけり | 読人知らず | 七 | 秋下 |
411 | 葦引の山のもみちはちりにけり嵐のさきに見てましものを あしひきの やまのもみちは ちりにけり あらしのさきに みてましものを | 読人知らず | 七 | 秋下 |
412 | もみちはのふりしく秋の山へこそたちてくやしきにしきなりけれ もみちはの ふりしくあきの やまへこそ たちてくやしき にしきなりけれ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
413 | たつた河色紅になりにけり山のもみちそ今はちるらし たつたかは いろくれなゐに なりにけり やまのもみちそ いまはちるらし | 読人知らず | 七 | 秋下 |
414 | 竜田河秋にしなれは山ちかみなかるる水も紅葉しにけり たつたかは あきにしなれは やまちかみ なかるるみつも もみちしにけり | 紀貫之 | 七 | 秋下 |
415 | もみちはのなかるる秋は河ことに錦あらふと人やみるらむ もみちはの なかるるあきは かはことに にしきあらふと ひとやみるらむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
416 | たつた河秋は水なくあせななんあかぬ紅葉のなかるれはをし たつたかは あきはみつなく あせななむ あかぬもみちの なかるれはをし | 読人知らず | 七 | 秋下 |
417 | 浪わけて見るよしもかなわたつみのそこのみるめももみちちるやと なみわけて みるよしもかな わたつみの そこのみるめも もみちちるやと | 文屋朝康 | 七 | 秋下 |
418 | このはちる浦に浪たつ秋なれはもみちに花もさきまかひけり このはちる うらになみたつ あきなれは もみちにはなも さきまかひけり | 藤原興風 | 七 | 秋下 |
419 | わたつみの神にたむくる山姫のぬさをそ人はもみちといひける わたつみの かみにたむくる やまひめの ぬさをそひとは もみちといひける | 読人知らず | 七 | 秋下 |
420 | ひくらしの声もいとなくきこゆるは秋ゆふくれになれはなりけり ひくらしの こゑもいとなく きこゆるは あきゆふくれに なれはなりけり | 紀貫之 | 七 | 秋下 |
421 | 風のおとの限と秋やせめつらんふきくることに声のわひしき かせのおとの かきりとあきや せめつらむ ふきくることに こゑのわひしき | 読人知らず | 七 | 秋下 |
422 | もみちはにたまれるかりのなみたには月の影こそ移るへらなれ もみちはに たまれるかりの なみたには つきのかけこそ うつるへらなれ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
423 | おほかたの秋のそらたにわひしきに物思ひそふる君にもあるかな おほかたの あきのそらたに わひしきに ものおもひそふる きみにもあるかな | 右近 | 七 | 秋下 |
424 | わかことく物思ひけらししらつゆのよをいたつらにおきあかしつつ わかことく ものおもひけらし しらつゆの よをいたつらに おきあかしつつ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
425 | 秋ふかみよそにのみきくしらつゆのたかことのはにかかるなるらん あきふかみ よそにのみきく しらつゆの たかことのはに かかるなるらむ | 平伊望朝臣女 | 七 | 秋下 |
426 | とふことの秋しもまれにきこゆるはかりにや我を人のたのめし とふことの あきしもまれに きこゆるは かりにやわれを ひとのたのめし | むかしの承香殿のあこき | 七 | 秋下 |
427 | 君こふと涙にぬるるわか袖と秋のもみちといつれまされり きみこふと なみたにぬるる わかそてと あきのもみちと いつれまさけり | みなもとのととのふ | 七 | 秋下 |
428 | てる月の秋しもことにさやけきはちるもみちはをよるもみよとか てるつきの あきしもことに さやけきは ちるもみちはを よるもみよとか | 読人知らず | 七 | 秋下 |
429 | なとわか身したはもみちと成りにけんおなしなけきの枝にこそあれ なとわかみ したはもみちと なりにけむ おなしなけきの えたにこそあれ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
430 | あかからは見るへきものをかりかねのいつこはかりになきてゆくらん あかからは みるへきものを かりかねの いつこはかりに なきてゆくらむ | 源わたす | 七 | 秋下 |
431 | 徒に露におかるる花かとて心もしらぬ人やをりけん いたつらに つゆにおかるる はなかとて こころもしらぬ ひとやをりけむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
432 | 枝も葉もうつろふ秋の花みれははてはかけなくなりぬへらなり えたもはも うつろふあきの はなみれは はてはかけなく なりぬへらなり | 藤原忠行 | 七 | 秋下 |
433 | しつくもてよはひのふてふ花なれはちよの秋にそ影はしけらん しつくもて よはひのふてふ はななれは ちよのあきにそ かけはしけらむ | 紀友則 | 七 | 秋下 |
434 | 秋の月ひかりさやけみもみちはのおつる影さへ見えわたるかな あきのつき ひかりさやけみ もみちはの おつるかけさへ みえわたるかな | 紀貫之 | 七 | 秋下 |
435 | 秋ことにつらをはなれぬかりかねは春帰るともかへらさらなん あきことに つらをはなれぬ かりかねは はるかへるとも かへらさらなむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
436 | みな人にをられにけりと菊の花君かためにそつゆはおきける みなひとに をられにけりと きくのはな きみかためにそ つゆはおきける | 読人知らず | 七 | 秋下 |
437 | 吹く風にまかする舟や秋のよの月のうへよりけふはこくらん ふくかせに まかするふねや あきのよの つきのうへより けふはこくらむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
438 | もみちははちるこのもとにとまりけり過行く秋やいつちなるらむ もみちはは ちるこのもとに とまりけり すきゆくあきや いつちなるらむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
439 | 思ひいてて問ふにはあらし秋はつる色の限を見するなるらん おもひいてて とふにはあらし あきはつる いろのかきりを みするなるらむ | 読人知らず | 七 | 秋下 |
440 | 宇治山の紅葉を見すは長月のすきゆくひをもしらすそあらまし うちやまの もみちをみすは なかつきの すきゆくひをも しらすそあらまし | ちかぬかむすめ | 七 | 秋下 |
441 | 長月の在明の月はありなからはかなく秋はすきぬへらなり なかつきの ありあけのつきは ありなから はかなくあきは すきぬへらなり | 紀貫之 | 七 | 秋下 |
442 | いつ方に夜はなりぬらんおほつかなあけぬかきりは秋そとおもはん いつかたに よはなりぬらむ おほつかな あけぬかきりは あきそとおもはむ | 躬恒 | 七 | 秋下 |
443 | はつ時雨ふれは山へそおもほゆるいつれの方かまつもみつらん はつしくれ ふれはやまへそ おもほゆる いつれのかたか まつもみつらむ | 読人知らず | 八 | 冬 |
444 | はつしくれふるほともなくさほ山の梢あまねくうつろひにけり はつしくれ ふるほともなく さほやまの こすゑあまねく うつろひにけり | 読人知らず | 八 | 冬 |
445 | 神な月ふりみふらすみ定なき時雨そ冬の始なりける かみなつき ふりみふらすみ さためなき しくれそふゆの はしめなりける | 読人知らず | 八 | 冬 |
446 | 冬くれはさほの河せにゐるたつもひとりねかたきねをそなくなる ふゆくれは さほのかはせに ゐるたつも ひとりねかたき ねをそなくなる | 読人知らず | 八 | 冬 |
447 | ひとりぬる人のきかくに神な月にはかにもふるはつ時雨かな ひとりぬる ひとのきかくに かみなつき にはかにもふる はつしくれかな | 読人知らず | 八 | 冬 |
448 | 秋はてて時雨ふりぬる我なれはちることのはをなにかうらみむ あきはてて しくれふりぬる われなれは ちることのはを なにかうらみむ | 読人知らず | 八 | 冬 |
449 | 吹く風は色も見えねと冬くれはひとりぬるよの身にそしみける ふくかせは いろもみえねと ふゆくれは ひとりぬるよの みにそしみける | 読人知らず | 八 | 冬 |
450 | 秋はててわか身しくれにふりぬれは事の葉さへにうつろひにけり あきはてて わかみしくれに ふりぬれは ことのはさへに うつろひにけり | 読人知らず | 八 | 冬 |
451 | 神な月時雨とともにかみなひのもりのこのははふりにこそふれ かみなつき しくれとともに かみなひの もりのこのはは ふりにこそふれ | 読人知らず | 八 | 冬 |
452 | たのむ木もかれはてぬれは神な月時雨にのみもぬるるころかな たのむきも かれはてぬれは かみなつき しくれにのみも ぬるるころかな | 読人知らず | 八 | 冬 |
453 | 神な月時雨はかりを身にそへてしらぬ山ちに入るそかなしき かみなつき しくれはかりを みにそへて しらぬやまちに いるそかなしき | 増基法師 | 八 | 冬 |
454 | もみちははをしき錦と見しかとも時雨とともにふりててそこし もみちはは をしきにしきと みしかとも しくれとともに ふりててそこし | 藤原忠房朝臣 | 八 | 冬 |
455 | もみちはも時雨もつらしまれにきてかへらん人をふりやととめぬ もみちはも しくれもつらし まれにきて かへらむひとを ふりやととめぬ | 大江千古 | 八 | 冬 |
456 | 神な月限とや思ふもみちはのやむ時もなくよるさへにふる かみなつき かきりとやおもふ もみちはの やむときもなく よるさへにふる | 読人知らず | 八 | 冬 |
457 | ちはやふる神かき山のさか木はは時雨に色もかはらさりけり ちはやふる かみかきやまの さかきはは しくれにいろも かはらさりけり | 読人知らず | 八 | 冬 |
458 | 人すますあれたるやとをきて見れは今そこのはは錦おりける ひとすます あれたるやとを きてみれは いまそこのはは にしきおりける | 枇杷左大臣 | 八 | 冬 |
459 | 涙さへ時雨にそひてふるさとは紅葉の色もこさまさりけり なみたさへ しくれにそひて ふるさとは もみちのいろも こさまさりけり | 伊勢 | 八 | 冬 |
460 | 冬の池の鴨のうはけにおくしものきえて物思ふころにもあるかな ふゆのいけの かものうはけに おくしもの きえてものおもふ ころにもあるかな | 読人知らず | 八 | 冬 |
461 | 神な月時雨ふるにもくるる日を君まつほとはなかしとそ思ふ かみなつき しくれふるにも くるるひを きみまつほとは なかしとそおもふ | 読人知らず | 八 | 冬 |
462 | 身をわけて霜やおくらむあた人の事のはさへにかれもゆくかな みをわけて しもやおくらむ あたひとの ことのはさへに かれもゆくかな | 読人知らず | 八 | 冬 |
463 | 人しれす君につけてしわか袖のけさしもとけすこほるなるへし ひとしれす きみにつけてし わかそての けさしもとけす こほるなるへし | 読人知らず | 八 | 冬 |
464 | かきくらし霰ふりしけ白玉をしける庭とも人のみるへく かきくらし あられふりしけ しらたまを しけるにはとも ひとのみるへく | 読人知らず | 八 | 冬 |
465 | 神な月しくるる時そみよしのの山のみゆきもふり始めける かみなつき しくるるときそ みよしのの やまのみゆきも ふりはしめける | 読人知らず | 八 | 冬 |
466 | けさの嵐寒くもあるかな葦引の山かきくもり雪そふるらし けさのあらし さむくもあるかな あしひきの やまかきくもり ゆきそふるらし | 読人知らず | 八 | 冬 |
467 | くろかみのしろくなりゆく身にしあれはまつはつ雪をあはれとそみる くろかみの しろくなりゆく みにしあれは まつはつゆきを あはれとそみる | 読人知らず | 八 | 冬 |
468 | 霰ふるみ山のさとのわひしきはきてたはやすくとふ人そなき あられふる みやまのさとの わひしきは きてたはやすく とふひとそなき | 読人知らず | 八 | 冬 |
469 | ちはやふる神な月こそかなしけれわか身時雨にふりぬと思へは ちはやふる かみなつきこそ かなしけれ わかみしくれに ふりぬとおもへは | 読人知らず | 八 | 冬 |
470 | しら山に雪ふりぬれはあとたえて今はこしちに人もかよはす しらやまに ゆきふりぬれは あとたえて いまはこしちに ひともかよはす | 読人知らず | 八 | 冬 |
471 | ふりそめて友まつゆきはむはたまのわかくろかみのかはるなりけり ふりそめて ともまつゆきは うはたまの わかくろかみの かはるなりけり | 紀貫之 | 八 | 冬 |
472 | くろかみの色ふりかふる白雪のまちいつる友はうとくそ有りける くろかみの いろふりかはる しらゆきの まちいつるともは うとくそありける | 藤原兼輔朝臣 | 八 | 冬 |
473 | くろかみと雪とのなかのうきみれはともかかみをもつらしとそ思ふ くろかみと ゆきとのなかの うきみれは ともかかみをも つらしとそおもふ | 紀貫之 | 八 | 冬 |
474 | 年ことにしらかのかすをますかかみ見るにそ雪の友はしりける としことに しらかのかすを ますかかみ みるにそゆきの ともはしりける | 藤原兼輔朝臣 | 八 | 冬 |
475 | 年ふれと色もかはらぬ松かえにかかれる雪を花とこそ見れ としふれと いろもかはらぬ まつかえに かかれるゆきを はなとこそみれ | 読人知らず | 八 | 冬 |
476 | 霜かれの枝となわひそ白雪のきえぬ限は花とこそみれ しもかれの えたとなわひそ しらゆきの きえぬかきりは はなとこそみれ | 読人知らず | 八 | 冬 |
477 | 氷こそ今はすらしもみよしのの山のたきつせこゑもきこえす こほりこそ いまはすらしも みよしのの やまのたきつせ こゑもきこえす | 読人知らず | 八 | 冬 |
478 | 夜をさむみねさめてきけはをしそなく払ひもあへす霜やおくらん よをさむみ ねさめてきけは をしそなく はらひもあへす しもやおくらむ | 読人知らず | 八 | 冬 |
479 | かつきえてそらにみたるるあはゆきは物思ふ人の心なりけり かつきえて そらもみたるる あはゆきは ものおもふひとの こころなりけり | 藤原かけもと | 八 | 冬 |
480 | 白雪のふりはへてこそとはさらめとくるたよりをすくささらなん しらゆきの ふりはへてこそ とはさらめ とくるたよりを すくささらなむ | 読人知らず | 八 | 冬 |
481 | 思ひつつねなくにあくる冬の夜の袖の氷はとけすもあるかな おもひつつ ねなくにあくる ふゆのよの そてのこほりは とけすもあるかな | 読人知らず | 八 | 冬 |
482 | 荒玉の年を渡りてあるかうへにふりつむ雪のたえぬしら山 あらたまの としをわたりて あるかうへに ふりつむゆきの たえぬしらやま | 読人知らず | 八 | 冬 |
483 | まこもかるほり江にうきてぬるかもの今夜の霜にいかにわふらん まこもかる ほりえにうきて ぬるかもの こよひのしもに いかにわふらむ | 読人知らず | 八 | 冬 |
484 | 白雲のおりゐる山とみえつるはふりつむ雪のきえぬなりけり しらくもの おりゐるやまと みえつるは ふりつるゆきの きえぬなりけり | 読人知らず | 八 | 冬 |
485 | ふるさとの雪は花とそふりつもるなかむる我も思ひきえつつ ふるさとの ゆきははなとそ ふりつもる なかむるわれも おもひきえつつ | 読人知らず | 八 | 冬 |
486 | なかれゆく水こほりぬる冬さへや猶うき草のあとはととめぬ なかれゆく みつこほりぬる ふゆさへや なほうきくさの あとはととめぬ | 読人知らず | 八 | 冬 |
487 | 心あてに見はこそわかめ白雪のいつれか花のちるにたかへる こころあてに みはこそわかめ しらゆきの いつれかはなの ちるにたかへる | 読人知らず | 八 | 冬 |
488 | 天河冬は氷にとちたれやいしまにたきつおとたにもせぬ あまのかは ふゆはこほりに とちたれや いしまにたきつ おとたにもせぬ | 読人知らず | 八 | 冬 |
489 | おしなへて雪のふれれはわかやとのすきを尋ねて問ふ人もなし おしなへて ゆきのふれれは わかやとの すきをたつねて とふひともなし | 読人知らず | 八 | 冬 |
490 | 冬の池の水になかるるあしかものうきねなからにいくよへぬらん ふゆのいけの みつになかるる あしかもの うきねなからに いくよへぬらむ | 読人知らず | 八 | 冬 |
491 | 山ちかみめつらしけなくふる雪のしろくやならん年つもりなは やまちかみ めつらしけなく ふるゆきの しろくやならむ としつもりなは | 読人知らず | 八 | 冬 |
492 | 松の葉にかかれる雪のそれをこそ冬の花とはいふへかりけれ まつのはに かかれるゆきの それをこそ ふゆのはなとは いふへかりけれ | 読人知らず | 八 | 冬 |
493 | ふる雪はきえてもしはしとまらなん花ももみちも枝になきころ ふるゆきは きえてもしはし とまらなむ はなももみちも えたになきころ | 読人知らず | 八 | 冬 |
494 | 涙河身なくはかりのふちはあれと氷とけねはゆく方もなし なみたかは みなくはかりの ふちはあれと こほりとけねは ゆくかたもなし | 読人知らず | 八 | 冬 |
495 | ふる雪に物思ふわか身おとらめやつもりつもりてきえぬはかりそ ふるゆきに ものおもふわかみ おとらめや つもりつもりて きえぬはかりそ | 読人知らず | 八 | 冬 |
496 | よるならは月とそみましわかやとの庭白妙にふりつもる雪 よるならは つきとそみまし わかやとの にはしろたへに ふりつもるゆき | 読人知らず | 八 | 冬 |
497 | むめかえにふりおける雪を春ちかみめのうちつけに花かとそ見る うめかえに ふりおけるゆきを はるちかみ めのうちつけに はなかとそみる | 読人知らず | 八 | 冬 |
498 | いつしかと山の桜もわかことく年のこなたにはるをまつらん いつしかと やまのさくらも わかことく としのこなたに はるをまつらむ | 読人知らず | 八 | 冬 |
499 | 年深くふりつむ雪を見る時そこしのしらねにすむ心ちする としふかく ふりつむゆきを みるときそ こしのしらねに すむここちする | 読人知らず | 八 | 冬 |
500 | としくれて春あけかたになりぬれは花のためしにまかふ白雪 としくれて はるあけかたに なりぬれは はなのためしに まかふしらゆき | 読人知らず | 八 | 冬 |
501 | 春ちかくふる白雪はをくら山峰にそ花のさかりなりける はるちかく ふるしらゆきは をくらやま みねにそはなの さかりなりける | 読人知らず | 八 | 冬 |
502 | 冬の池にすむにほ鳥のつれもなくしたにかよはん人にしらすな ふゆのいけに すむにほとりの つれもなく したにかよはむ ひとにしらすな | 読人知らず | 八 | 冬 |
503 | むはたまのよるのみふれる白雪はてる月影のつもるなりけり うはたまの よるのみふれる しらゆきは てるつきかけの つもるなりけり | 読人知らず | 八 | 冬 |
504 | この月の年のあまりにたらさらはうくひすははやなきそしなまし このつきの としのあまりに たらさらは うくひすははや なきそしなまし | 読人知らず | 八 | 冬 |
505 | 関こゆる道とはなしにちかなから年にさはりて春をまつかな せきこゆる みちとはなしに ちかなから としにさはりて はるをまつかな | 読人知らず | 八 | 冬 |
506 | 物思ふとすくる月日もしらぬまにことしはけふにはてぬとかきく ものおもふと すくるつきひも しらぬまに ことしはけふに はてぬとかきく | 藤原敦忠朝臣 | 八 | 冬 |
507 | あつまちのさやの中山中中にあひ見てのちそわひしかりける あつまちの さやのなかやま なかなかに あひみてのちそ わひしかりける | 源宗于朝臣 | 九 | 恋一 |
508 | 暁と何かいひけんわかるれは夜ひもいとこそわひしかりけれ あかつきと なにかいひけむ わかるれは よひもいとこそ わひしかりけれ | 紀貫之 | 九 | 恋一 |
509 | まとろまぬかへにも人を見つるかなまさしからなん春の夜の夢 まとろまぬ かへにもひとを みつるかな まさしからなむ はるのよのゆめ | するか | 九 | 恋一 |
510 | くやくやとまつゆふくれと今はとてかへる朝といつれまされり くやくやと まつゆふくれと いまはとて かへるあしたと いつれまされり | 元良のみこ | 九 | 恋一 |
511 | ゆふくれは松にもかかる白露のおくる朝やきえははつらむ ゆふくれは まつにもかかる しらつゆの おくるあしたや きえははつらむ | 藤原かつみ | 九 | 恋一 |
512 | うち返し君そこひしきやまとなるふるのわさ田の思ひいてつつ うちかへし きみそこひしき やまとなる ふるのわさたの おもひいてつつ | 読人知らず | 九 | 恋一 |
513 | 秋の田のいねてふ事をかけしかは思ひいつるかうれしけもなし あきのたの いねてふことを かけしかは おもひいつるか うれしけもなし | 読人知らず | 九 | 恋一 |
514 | 人こふる心はかりはそれなから我はわれにもあらぬなりけり ひとこふる こころはかりは それなから われはわれにも あらぬなりけり | 読人知らず | 九 | 恋一 |
515 | おもひかはたえすなかるる水のあわのうたかた人にあはてきえめや おもひかは たえすなかるる みつのあわの うたかたひとに あはてきえめや | 伊勢 | 九 | 恋一 |
516 | 思ひやる心はつねにかよへとも相坂の関こえすもあるかな おもひやる こころはつねに かよへとも あふさかのせき こえすもあるかな | 読人知らず | 九 | 恋一 |
517 | きえはててやみぬはかりか年をへて君を思ひのしるしなけれは きえはてて やみぬはかりか としをへて きみをおもひの しるしなけれは | 読人知らず | 九 | 恋一 |
518 | おもひたにしるしなしてふわか身にそあはぬなけきのかすはもえける おもひたに しるしなしてふ わかみにそ あはぬなけきの かすはもえける | 読人知らず | 九 | 恋一 |
519 | ほしかてにぬれぬへきかな唐衣かわくたもとの世世になけれは ほしかてに ぬれぬへきかな からころも かわくたもとの よよになけれは | 読人知らず | 九 | 恋一 |
520 | 世とともにあふくま河のとほけれはそこなる影をみぬそわひしき よとともに あふくまかはの とほけれは そこなるかけを みぬそわひしき | 読人知らず | 九 | 恋一 |
521 | わかことくあひ思ふ人のなき時は深き心もかひなかりけり わかことく あひおもふひとの なきときは ふかきこころも かひなかりけり | 読人知らず | 九 | 恋一 |
522 | いつしかとわか松山に今はとてこゆなる浪にぬるる袖かな いつしかと わかまつやまに いまはとて こゆなるなみに ぬるるそてかな | 読人知らず | 九 | 恋一 |
523 | ひとことはまことなりけりしたひものとけぬにしるき心と思へは ひとことは まことなりけり したひもの とけぬにしるき こころとおもへは | 読人知らず | 九 | 恋一 |
524 | 結ひおきしわかしたひもの今まてにとけぬは人のこひぬなりけり むすひおきし わかしたひもの いままてに とけぬはひとの こひぬなりけり | 読人知らず | 九 | 恋一 |
525 | ほかのせはふかくなるらしあすかかは昨日のふちそわか身なりける ほかのせは ふかくなるらし あすかかは きのふのふちそ わかみなりける | 読人知らず | 九 | 恋一 |
526 | ふちせともいさやしら浪立ちさわくわか身ひとつはよる方もなし ふちせとも いさやしらなみ たちさわく わかみひとつは よるかたもなし | 読人知らず | 九 | 恋一 |
527 | ひかりまつつゆに心をおける身はきえかへりつつ世をそうらむる ひかりまつ つゆにこころを おけるみは きえかへりつつ よをそうらむる | 読人知らず | 九 | 恋一 |
528 | しほみたぬうみときけはや世とともにみるめなくして年のへぬらん しほみたぬ うみときけはや よとともに みるめなくして としのへぬらむ | 読人知らず | 九 | 恋一 |
529 | 唐衣きて帰りにしさよすからあはれと思ふをうらむらんはた からころも きてかへりにし さよすから あはれとおもふを うらむらむはた | 桂のみこ | 九 | 恋一 |
530 | 影たにも見えすなりゆく山の井はあさきより又水やたえにし かけたにも みえすなりゆく やまのゐは あさきよりまた みつやたえにし | きのめのと | 九 | 恋一 |
531 | 浅してふ事をゆゆしみ山の井はほりし濁に影は見えぬそ あさしてふ ことをゆゆしみ やまのゐは ほりしにこりに かけはみえぬそ | 平定文 | 九 | 恋一 |
532 | いくたひかいくたの浦に立帰り浪にわか身を打ちぬらすらん いくたひか いくたのうらに たちかへり なみにわかみを うちぬらすらむ | 読人知らず | 九 | 恋一 |
533 | 立帰りぬれてはひぬるしほなれはいくたの浦のさかとこそ見れ たちかへり ぬれてはひぬる しほなれは いくたのうらの さかとこそみれ | 読人知らず | 九 | 恋一 |
534 | 逢ふ事はいとと雲井のおほそらにたつ名のみしてやみぬはかりか あふことは いととくもゐの おほそらに たつなのみして やみぬはかりか | 読人知らず | 九 | 恋一 |
535 | よそなからやまんともせす逢ふ事は今こそ雲のたえまなるらめ よそなから やまむともせす あふことは いまこそくもの たえまなるらめ | 読人知らず | 九 | 恋一 |
536 | 今のみとたのむなれとも白雲のたえまはいつかあらんとすらん いまのみと たのむなれとも しらくもの たえまはいつか あらむとすらむ | 読人知らず | 九 | 恋一 |
537 | をやみせす雨さへふれは沢水のまさるらんともおもほゆるかな をやみせす あめさへふれは さはみつの まさるらむとも おもほゆるかな | 読人知らず | 九 | 恋一 |
538 | 夢にたに見る事そなき年をへて心のとかにぬるよなけれは ゆめにたに みることそなき としをへて こころのとかに ぬるよなけれは | 読人知らず | 九 | 恋一 |
539 | 見そめすてあらましものを唐衣たつ名のみしてきるよなきかな みそめすて あらましものを からころも たつなのみして きるよなきかな | 読人知らず | 九 | 恋一 |
540 | 枯れはつる花の心はつらからて時すきにける身をそうらむる かれはつる はなのこころは つらからて ときすきにける みをそうらむる | 読人知らず | 九 | 恋一 |
541 | あたにこそちるとみるらめ君にみなうつろひにたる花の心を あたにこそ ちるとみるらめ きみにみな うつろひにたる はなのこころを | 読人知らず | 九 | 恋一 |
542 | こむといひし月日をすくすをはすての山のはつらき物にそ有りける こむといひし つきひをすくす をはすての やまのはつらき ものにそありける | 読人知らず | 九 | 恋一 |
543 | 月日をもかそへけるかな君こふるかすをもしらぬわか身なになり つきひをも かそへけるかな きみこふる かすをもしらぬ わかみなになり | 読人知らず | 九 | 恋一 |
544 | このめはるはるの山田を打返し思ひやみにし人そこひしき このめはる はるのやまたを うちかへし おもひやみにし ひとそこひしき | 読人知らず | 九 | 恋一 |
545 | ころをへてあひ見ぬ時は白玉の涙も春は色まさりけり ころをへて あひみぬときは しらたまの なみたもはるは いろまさりけり | 贈太攻大臣(時平) | 九 | 恋一 |
546 | 人こふる涙は春そぬるみけるたえぬおもひのわかすなるへし ひとこふる なみたははるそ ぬるみける たえぬおもひの わかすなるへし | 伊勢 | 九 | 恋一 |
547 | つらしともいかか怨みむ郭公わかやとちかくなく声はせて つらしとも いかかうらみむ ほとときす わかやとちかく なくこゑはせて | 源たのむかむすめ | 九 | 恋一 |
548 | 里ことに鳴きこそ渡れ郭公すみか定めぬ君たつぬとて さとことに なきこそわたれ ほとときす すみかさためぬ きみたつぬとて | 敦慶親王 | 九 | 恋一 |
549 | かすならぬみ山かくれの郭公人しれぬねをなきつつそふる かすならぬ みやまかくれの ほとときす ひとしれぬねを なきつつそふる | 春道列樹 | 九 | 恋一 |
550 | 逢ふ事のかた糸そとはしりなから玉のをはかり何によりけん あふことの かたいとそとは しりなから たまのをはかり なにによりけむ | これたたのみこ | 九 | 恋一 |
551 | 思ふとはいふものからにともすれはわするる草の花にやはあらぬ おもふとは いふものからに ともすれは わするるくさの はなにやはあらぬ | 読人知らず | 九 | 恋一 |
552 | うゑてみる我はわすれてあたひとにまつわすらるる花にそ有りける うゑてみる われはわすれて あたひとに まつわすらるる はなにそありける | たいふのこといふ人 | 九 | 恋一 |
553 | 浦わかすみるめかるてふあまの身は何かなにはの方へしもゆく うらわかす みるめかるてふ あまのみは なにかなにはの かたへしもゆく | 土左 | 九 | 恋一 |
554 | 君を思ふふかさくらへにつのくにのほり江見にゆく我にやはあらぬ きみをおもふ ふかさくらへに つのくにの ほりえみにゆく われにやはあらぬ | 平定文 | 九 | 恋一 |
555 | いかてかく心ひとつをふたしへにうくもつらくもなしてみすらん いかてかく こころひとつを ふたしへに うくもつらくも なしてみすらむ | 伊勢 | 九 | 恋一 |
556 | ともすれは玉にくらへしますかかみひとのたからと見るそ悲しき ともすれは たまにくらへし ますかかみ ひとのたからと みるそかなしき | 読人知らず | 九 | 恋一 |
557 | いはせ山谷のした水うちしのひ人のみぬまは流れてそふる いはせやま たにのしたみつ うちしのひ ひとのみぬまは なかれてそふる | 読人知らず | 九 | 恋一 |
558 | うれしけに君かたのめし事のははかたみにくめる水にそ有りける うれしけに きみかたのめし ことのはは かたみにくめる みつにそありける | 読人知らず | 九 | 恋一 |
559 | ゆきやらぬ夢ちにまとふたもとにはあまつそらなき露そおきける ゆきやらぬ ゆめちにまとふ たもとには あまつそらなき つゆそおきける | 読人知らず | 九 | 恋一 |
560 | 身ははやくならの宮こと成りにしを恋しきことのまたもふりぬか みははやく ならのみやこと なりにしを こひしきことの またもふりぬか | 読人知らず | 九 | 恋一 |
561 | 住吉の岸の白浪よるよるはあまのよそめに見るそ悲しき すみよしの きしのしらなみ よるよるは あまのよそめに みるそかなしき | 読人知らず | 九 | 恋一 |
562 | 君こふとぬれにし袖のかわかぬは思ひの外にあれはなりけり きみこふと ぬれにしそての かわかぬは おもひのほかに あれはなりけり | 読人知らず | 九 | 恋一 |
563 | あはさりし時いかなりし物とてかたたいまのまも見ねは恋しき あはさりし ときいかなりし ものとてか たたいまのまも みねはこひしき | 読人知らず | 九 | 恋一 |
564 | 世中にしのふるこひのわひしきはあひてののちのあはぬなりけり よのなかに しのふるこひの わひしきは あひてののちの あはぬなりけり | 読人知らず | 九 | 恋一 |
565 | 恋をのみ常にするかの山なれはふしのねにのみなかぬ日はなし こひをのみ つねにするかの やまなれは ふしのねにのみ なかぬひはなし | 読人知らず | 九 | 恋一 |
566 | 君によりわか身そつらき玉たれの見すは恋しとおもはましやは きみにより わかみそつらき たまたれの みすはこひしと おもはましやは | 読人知らず | 九 | 恋一 |
567 | 今そしるあかぬ別の暁は君をこひちにぬるる物とは いまそしる あかぬわかれの あかつきは きみをこひちに ぬるるものとは | 読人知らず | 九 | 恋一 |
568 | よそにふる雨とこそきけおほつかな何をか人のこひちといふらん よそにふる あめとこそきけ おほつかな なにをかひとの こひちといふらむ | 読人知らず | 九 | 恋一 |
569 | たえはつる物とは見つつささかにのいとをたのめる心ほそさよ たえはつる ものとはみつつ ささかにの いとをたのめる こころほそさよ | 読人知らず | 九 | 恋一 |
570 | うちわたし長き心はやつはしのくもてに思ふ事はたえせし うちわたし なかきこころは やつはしの くもてにおもふ ことはたえせし | 読人知らず | 九 | 恋一 |
571 | 思ふ人おもはぬ人の思ふ人おもはさらなん思ひしるへく おもふひと おもはぬひとの おもふひと おもはさらなむ おもひしるへく | 読人知らず | 九 | 恋一 |
572 | こからしのもりのした草風はやみ人のなけきはおひそひにけり こからしの もりのしたくさ かせはやみ ひとのなけきは おひそひにけり | 読人知らず | 九 | 恋一 |
573 | 別をは悲しき物とききしかとうしろやすくもおもほゆるかな わかれをは かなしきものと ききしかと うしろやすくも おもほゆるかな | 読人知らず | 九 | 恋一 |
574 | なきたむるた本こほれるけさみれは心とけても君をおもはす なきたむる たもとこほれる けさみれは こころとけても きみをおもはす | 読人知らず | 九 | 恋一 |
575 | 身をわけてあらまほしくそおもほゆる人はくるしといひけるものを みをわけて あらまほしくそ おもほゆる ひとはくるしと いひけるものを | 読人知らず | 九 | 恋一 |
576 | 雲井にて人をこひしと思ふかな我は葦へのたつならなくに くもゐにて ひとをこひしと おもふかな われはあしへの たつならなくに | 読人知らず | 九 | 恋一 |
577 | あさちふのをののしの原忍ふれとあまりてなとか人のこひしき あさちふの をののしのはら しのふれと あまりてなとか ひとのこひしき | 源ひとしの朝臣 | 九 | 恋一 |
578 | 雨やまぬのきの玉水かすしらす恋しき事のまさるころかな あめやまぬ のきのたまみつ かすしらす こひしきことの まさるころかな | 兼盛王 | 九 | 恋一 |
579 | 伊勢の海にはへてもあまるたくなはの長き心は我そまされる いせのうみに はへてもあまる たくなはの なかきこころは われそまされる | 読人知らず | 九 | 恋一 |
580 | 色にいてて恋すてふ名そたちぬへき涙にそむる袖のこけれは いろにいてて こひすてふなそ たちぬへき なみたにそむる そてのこけれは | 読人知らず | 九 | 恋一 |
581 | かくこふる物としりせはよるはおきてあくれはきゆるつゆならましを かくこふる ものとしりせは よるはおきて あくれはきゆる つゆならましを | 読人知らず | 九 | 恋一 |
582 | あひも見す歎きもそめす有りし時思ふ事こそ身になかりしか あひもみす なけきもそめす ありしとき おもふことこそ みになかりしか | 読人知らず | 九 | 恋一 |
583 | こひのことわりなき物はなかりけりかつむつれつつかつそ恋しき こひのこと わりなきものは なかりけり かつむつれつつ かつそこひしき | 読人知らず | 九 | 恋一 |
584 | わたつ海に深き心のなかりせは何かは君を怨みしもせん わたつうみに ふかきこころの なかりせは なにかはきみを うらみしもせむ | 読人知らず | 九 | 恋一 |
585 | みな神にいのるかひなく涙河うきても人をよそに見るかな みなかみに いのるかひなく なみたかは うきてもひとを よそにみるかな | 読人知らず | 九 | 恋一 |
586 | いのりけるみな神さへそうらめしきけふより外に影の見えねは いのりける みなかみさへそ うらめしき けふよりほかに かけのみえねは | 読人知らず | 九 | 恋一 |
587 | 色深く染めした本のいととしくなみたにさへもこさまさるかな いろふかく そめしたもとの いととしく なみたにさへも こさまさるかな | 右大臣(師輔) | 九 | 恋一 |
588 | 見る時は事そともなく見ぬ時はこと有りかほに恋しきやなそ みるときは ことそともなく みぬときは ことありかほに こひしきやなそ | 読人知らず | 九 | 恋一 |
589 | 山さとのまきのいたともさささりきたのめし人をまちしよひより やまさとの まきのいたとも さささりき たのめしひとを まちしよひより | 読人知らず | 九 | 恋一 |
590 | ゆく方もなくせかれたる山水のいはまほしくもおもほゆるかな ゆくかたも なくせかれたる やまみつの いはまほしくも おもほゆるかな | 読人知らず | 九 | 恋一 |
591 | 人のうへのこととしいへはしらぬかな君も恋する折もこそあれ ひとのうへの こととしいへは しらぬかな きみもこひする をりもこそあれ | 読人知らず | 九 | 恋一 |
592 | つらからはおなし心につらからんつれなき人をこひんともせす つらからは おなしこころに つらからむ つれなきひとを こひむともせす | 読人知らず | 九 | 恋一 |
593 | 人しれす思ふ心はおほしまのなるとはなしになけくころかな ひとしれす おもふこころは おほしまの なるとはなしに なけくころかな | 読人知らず | 九 | 恋一 |
594 | はかなくておなし心になりにしを思ふかことは思ふらんやそ はかなくて おなしこころに なりにしを おもふかことは おもふらむやそ | 中務 | 九 | 恋一 |
595 | わひしさをおなし心ときくからにわか身をすてて君そかなしき わひしさを おなしこころと きくからに わかみをすてて きみそかなしき | 源信明 | 九 | 恋一 |
596 | 定なくあたにちりぬる花よりはときはの松の色をやは見ぬ さためなく あたにちりぬる はなよりは ときはのまつの いろをやはみぬ | 源信明 | 九 | 恋一 |
597 | 住吉のわか身なりせは年ふとも松より外の色を見ましや すみよしの わかみなりせは としふとも まつよりほかの いろをみましや | 読人知らず | 九 | 恋一 |
598 | うつつにもはかなきことのあやしきはねなくにゆめの見ゆるなりけり うつつにも はかなきことの あやしきは ねなくにゆめの みゆるなりけり | 読人知らず | 九 | 恋一 |
599 | 白浪のよるよる岸に立ちよりてねも見しものをすみよしの松 しらなみの よるよるきしに たちよりて ねもみしものを すみよしのまつ | 読人知らず | 九 | 恋一 |
600 | なからへてあらぬまてにも事のはのふかきはいかにあはれなりけり なからへて あらぬまてにも ことのはの ふかきはいかに あはれなりけり | 読人知らず | 九 | 恋一 |
601 | 人を見て思ふおもひもあるものをそらにこふるそはかなかりける ひとをみて おもふおもひも あるものを そらにこふるそ はかなかりける | 藤原忠房朝臣 | 十 | 恋二 |
602 | ひとりのみおもへはくるし如何しておなし心に人ををしへむ ひとりのみ おもへはくるし いかにして おなしこころに ひとををしへむ | 壬生忠岑 | 十 | 恋二 |
603 | わか心いつならひてか見ぬ人を思ひやりつつこひしかるらん わかこころ いつならひてか みぬひとを おもひやりつつ こひしかるらむ | 紀友則 | 十 | 恋二 |
604 | 葉をわかみほにこそいてね花すすきしたの心にむすはさらめや はをわかみ ほにこそいてね はなすすき したのこころに むすはさらめや | 源中正 | 十 | 恋二 |
605 | あしひきの山したしけくはふくすの尋ねてこふる我としらすや あしひきの やましたしけく はふくすの たつねてこふる われとしらすや | 兼覧王 | 十 | 恋二 |
606 | かくれぬに忍ひわひぬるわか身かなゐてのかはつと成りやしなまし かくれぬに しのひわひぬる わかみかな ゐてのかはつと なりやしなまし | 忠房朝臣 | 十 | 恋二 |
607 | あふくまのきりとはなしに終夜立渡りつつ世をもふるかな あふくまの きりとはなしに よもすから たちわたりつつ よをもふるかな | 藤原輔文 | 十 | 恋二 |
608 | あやしくもいとふにはゆる心かないかにしてかは思ひやむへき あやしくも いとふにはゆる こころかな いかにしてかは おもひやむへき | 読人知らず | 十 | 恋二 |
609 | ともかくもいふ事のはの見えぬかないつらはつゆのかかり所は ともかくも いふことのはの みえぬかな いつらはつゆの かかりところは | 本院右京 | 十 | 恋二 |
610 | わひ人のそほつてふなる涙河おりたちてこそぬれ渡りけれ わひひとの そほつてふなる なみたかは おりたちてこそ ぬれわたりけれ | 橘敏仲 | 十 | 恋二 |
611 | ふちせとも心もしらす涙河おりやたつへきそてのぬるるに ふちせとも こころもしらす なみたかは おりやたつへき そてのぬるるに | 大輔 | 十 | 恋二 |
612 | 心みに猶おりたたむなみたかはうれしきせにも流れあふやと こころみに なほおりたたむ なみたかは うれしきせにも なかれあふやと | とし中 | 十 | 恋二 |
613 | かかりける人の心をしらつゆのおける物ともたのみけるかな かかりける ひとのこころを しらつゆの おけるものとも たのみけるかな | 藤原敦忠朝臣 | 十 | 恋二 |
614 | 鴬の雲井にわひてなくこゑを春のさかとそ我はききつる うくひすの くもゐにわひて なくこゑを はるのさかとそ われはききつる | 藤原顕忠朝臣 | 十 | 恋二 |
615 | かくはかり常なき世とはしりなから人をはるかに何たのみけん かくはかり つねなきよとは しりなから ひとをはるかに なにたのみけむ | 平時望朝臣 | 十 | 恋二 |
616 | わかかとのひとむらすすきかりかはん君かてなれのこまもこぬかな わかかとの ひとむらすすき かりかはむ きみかてなれの こまもこぬかな | こまちかあね | 十 | 恋二 |
617 | 世を海のあわときえぬる身にしあれは怨むる事そかすなかりける よをうみの あわときえぬる みにしあれは うらむることそ かすなかりける | 枇杷左太臣 | 十 | 恋二 |
618 | わたつみとたのめし事もあせぬれは我そわか身のうらはうらむる わたつみと たのめしことも あせぬれは われそわかみの うらはうらむる | 伊勢 | 十 | 恋二 |
619 | あつまちのさののふな橋かけてのみ思渡るをしる人のなき あつまちの さののふなはし かけてのみ おもひわたるを しるひとのなさ | 源ひとしの朝臣 | 十 | 恋二 |
620 | ふしてぬる夢ちにたにもあはぬ身は猶あさましきうつつとそ思ふ ふしてぬる ゆめちにたにも あはぬみは なほあさましき うつつとそおもふ | 紀良谷雄朝臣 | 十 | 恋二 |
621 | あまのとをあけぬあけぬといひなしてそらなきしつる鳥のこゑかな あまのとを あけぬあけぬと いひなして そらなきしつる とりのこゑかな | 読人知らず | 十 | 恋二 |
622 | 終夜ぬれてわひつる唐衣相坂山にみちまとひして よもすから ぬれてわひつる からころも あふさかやまに みちまとひして | 読人知らず | 十 | 恋二 |
623 | おもへともあやなしとのみいはるれはよるの錦の心ちこそすれ おもへとも あやなしとのみ いはるれは よるのにしきの ここちこそすれ | 読人知らず | 十 | 恋二 |
624 | おとにのみききこしみわの山よりもすきのかすをは我そ見えにし おとにのみ ききこしみわの やまよりも すきのかすをは われそみえにし | 読人知らず | 十 | 恋二 |
625 | なにはかたかりつむあしのあしつつのひとへも君を我やへたつる なにはかた かりつむあしの あしつつの ひとへもきみを われやへたつる | 藤原兼輔朝臣 | 十 | 恋二 |
626 | わかことや君もこふらん白露のおきてもねてもそてそかわかぬ わかことや きみもこふらむ しらつゆの おきてもねても そてそかわかぬ | 読人知らず | 十 | 恋二 |
627 | つらくともあらんとそ思ふよそにても人やけぬるときかまほしさに つらくとも あらむとそおもふ よそにても ひとやけぬると きかまほしさに | 読人知らず | 十 | 恋二 |
628 | くれぬとてねてゆくへくもあらなくにたとるたとるもかへるまされり くれぬとて ねてゆくへくも あらなくに たとるたとるも かへるまされり | 在原業平朝臣 | 十 | 恋二 |
629 | わりなしといふこそかつはうれしけれおろかならすと見えぬとおもへは わりなしと いふこそかつは うれしけれ おろかならすと みえぬとおもへは | 元良のみこ | 十 | 恋二 |
630 | わかこひをしらんと思ははたこの浦に立つらん浪のかすをかそへよ わかこひを しらむとおもはは たこのうらに たつらむなみの かすをかそへよ | 藤原興風 | 十 | 恋二 |
631 | 色ならは移るはかりも染めてまし思ふ心をえやは見せける いろならは うつるはかりも そめてまし おもふこころを えやはみせける | 紀貫之 | 十 | 恋二 |
632 | 葦引の山ひはすともふみかよふあとをも見ぬはくるしきものを あしひきの やまひはすとも ふみかよふ あとをもみぬは くるしきものを | 大江朝綱朝臣 | 十 | 恋二 |
633 | おほかたはなそやわかなのをしからん昔のつまと人にかたらむ おほかたは なそやわかなの をしからむ むかしのつまと ひとにかたらむ | 貞元のみこ | 十 | 恋二 |
634 | 人はいさ我はなきなのをしけれは昔も今もしらすとをいはん ひとはいさ われはなきなの をしけれは むかしもいまも しらすとをいはむ | おほつふね | 十 | 恋二 |
635 | 跡みれは心なくさのはまちとり今は声こそきかまほしけれ あとみれは こころなくさの はまちとり いまはこゑこそ きかまほしけれ | 読人知らず | 十 | 恋二 |
636 | 河と見てわたらぬ中になかるるはいはて物思ふ涙なりけり かはとみて わたらぬなかに なかるるは いはてものおもふ なみたなりけり | 読人知らず | 十 | 恋二 |
637 | あまくもになきゆく雁のおとにのみきき渡りつつあふよしもなし あまくもに なきゆくかりの おとにのみ ききわたりつつ あふよしもなし | 橘公頼朝臣 | 十 | 恋二 |
638 | 住の江の浪にはあらねとよとともに心を君によせわたるかな すみのえの なみにはあらねと よとともに こころをきみに よせわたるかな | 紀貫之 | 十 | 恋二 |
639 | 見ぬほとに年のかはれはあふことのいやはるはるにおもほゆるかな みぬほとに としのかはれは あふことの いやはるはるに おもほゆるかな | 読人知らず | 十 | 恋二 |
640 | けふすきはしなましものを夢にてもいつこをはかと君かとはまし けふすきは しなましものを ゆめにても いつこをはかと きみかとはまし | 中将更衣 | 十 | 恋二 |
641 | うつつにそとふへかりける夢とのみ迷ひしほとやはるけかりけん うつつにそ とふへかりける ゆめとのみ まよひしほとや はるけかりけむ | 延喜御製 | 十 | 恋二 |
642 | 流れてはゆく方もなし涙河わか身のうらや限なるらむ なかれては ゆくかたもなし なみたかは わかみのうらや かきりなるらむ | 藤原千かぬ | 十 | 恋二 |
643 | わか恋のかすにしとらは白妙のはまのまさこもつきぬへらなり わかこひの かすにしとらは しろたへの はまのまさこも つきぬへらなり | 在原棟梁 | 十 | 恋二 |
644 | 涙にも思ひのきゆる物ならせいとかくむねはこかささらまし なみたにも おもひのきゆる ものならは いとかくむねは こかささらまし | 紀貫之 | 十 | 恋二 |
645 | しるしなき思ひやなそとあしたつのねになくまてにあはすわひしき しるしなき おもひやなそと あしたつの ねになくまてに あはすわひしき | 坂上是則 | 十 | 恋二 |
646 | たまのをのたえてみしかきいのちもて年月なかきこひもするかな たまのをの たえてみしかき いのちもて としつきなかき こひもするかな | 紀貫之 | 十 | 恋二 |
647 | 我のみやもえてきえなんよとともに思ひもならぬふしのねのこと われのみや もえてきえなむ よとともに おもひもならぬ ふしのねのこと | 平定文 | 十 | 恋二 |
648 | ふしのねのもえわたるともいかかせむけちこそしらね水ならぬ身は ふしのねの もえわたるとも いかかせむ けちこそしらね みつならぬみは | きのめのと | 十 | 恋二 |
649 | わひわたるわか身はつゆをおなしくは君かかきねの草にきえなん わひわたる わかみはつゆを おなしくは きみかかきねの くさにきえなむ | 紀貫之 | 十 | 恋二 |
650 | みるめかるなきさやいつこあふこなみ立ちよる方もしらぬわか身は みるめかる なきさやいつこ あふこなみ たちよるかたも しらぬわかみは | 在原元方 | 十 | 恋二 |
651 | なるとよりさしいたされし舟よりも我そよるへもなき心地せし なるとより さしいたされし ふねよりも われそよるへも なきここちせし | 藤原滋幹 | 十 | 恋二 |
652 | 高砂の峰の白雲かかりける人の心をたのみけるかな たかさこの みねのしらくも かかりける ひとのこころを たのみけるかな | 読人知らず | 十 | 恋二 |
653 | よそにのみ松ははかなき住の江のゆきてさへこそ見まくほしけれ よそにのみ まつははかなき すみのえの ゆきてさへこそ みまくほしけれ | 延喜御製 | 十 | 恋二 |
654 | かけろふに見しはかりにやはまちとりゆくへもしらぬ恋にまとはん かけろふに みしはかりにや はまちとり ゆくへもしらぬ こひにまとはむ | 源ひとしの朝臣 | 十 | 恋二 |
655 | わたつみのそこのありかはしりなからかつきていらん浪のまそなき わたつみの そこのありかは しりなから かつきていらむ なみのまそなき | 藤原兼茂朝臣 | 十 | 恋二 |
656 | つらしとも思ひそはてぬ涙河流れて人をたのむ心は つらしとも おもひそはてぬ なみたかは なかれてひとを たのむこころは | 橘実利朝臣 | 十 | 恋二 |
657 | 流れてと何たのむらん涙河影見ゆへくもおもほえなくに なかれてと なにたのむらむ なみたかは かけみゆへくも おもほえなくに | 読人知らず | 十 | 恋二 |
658 | 何事を今はたのまんちはやふる神もたすけぬわか身なりけり なにことを いまはたのまむ ちはやふる かみもたすけぬ わかみなりけり | 平定文 | 十 | 恋二 |
659 | ちはやふる神もみみこそなれぬらしさまさまいのる年もへぬれは ちはやふる かみもみみこそ なれぬらし さまさまいのる としもへぬれは | おほつふね | 十 | 恋二 |
660 | 怨みても身こそつらけれ唐衣きていたつらにかへすとおもへは うらみても みこそつらけれ からころも きていたつらに かへすとおもへは | 紀貫之 | 十 | 恋二 |
661 | 住吉の松にたちよる白浪のかへるをりにやねはなかるらむ すみよしの まつにたちよる しらなみの かへるをりにや ねはなかるらむ | 壬生忠岑 | 十 | 恋二 |
662 | おもはむとたのめし事もあるものをなきなをたててたたにわすれね おもはむと たのめしことも あるものを なきなをたてて たたにわすれね | 読人知らず | 十 | 恋二 |
663 | かすかののとふひののもり見しものをなきなといははつみもこそうれ かすかのの とふひののもり みしものを なきなといはは つみもこそうれ | 読人知らず | 十 | 恋二 |
664 | わすられて思ふなけきのしけるをや身をはつかしのもりといふらん わすられて おもふなけきの しけるをや みをはつかしの もりといふらむ | 読人知らず | 十 | 恋二 |
665 | おもはんとたのめし人は有りときくいひし事のはいつちいにけん おもはむと たのめしひとは ありときく いひしことのは いつちいにけむ | 右近 | 十 | 恋二 |
666 | さても猶まかきの島の有りけれはたちよりぬへくおもほゆるかな さてもなほ まかきのしまの ありけれは たちよりぬへく おもほゆるかな | 源清蔭朝臣 | 十 | 恋二 |
667 | これはかく怨み所もなきものをうしろめたくはおもはさらなん これはかく うらみところも なきものを うしろめたくは おもはさらなむ | 読人知らず | 十 | 恋二 |
668 | 思ひきやあひ見ぬことをいつよりとかそふはかりになさん物とは おもひきや あひみぬことを いつよりと かそふはかりに なさむものとは | 源信明 | 十 | 恋二 |
669 | 世のつねのねをしなかねは逢ふ事の涙の色もことにそありける よのつねの ねをしなかねは あふことの なみたのいろも ことにそありける | 藤原治方 | 十 | 恋二 |
670 | 白浪のよするいそまをこく舟のかちとりあへぬ恋もするかな しらなみの よするいそまを こくふねの かちとりあへぬ こひもするかな | 大伴黒主 | 十 | 恋二 |
671 | こひしさはねぬになくさむともなきにあやしくあはぬめをもみるかな こひしさは ねぬになくさむ ともなきに あやしくあはぬ めをもみるかな | 源うかふ | 十 | 恋二 |
672 | ひさしくも恋ひわたるかなすみのえの岸に年ふる松ならなくに ひさしくも こひわたるかな すみのえの きしにとしふる まつならなくに | 源すくる | 十 | 恋二 |
673 | 逢ふ事の世世をへたつるくれ竹のふしのかすなき恋もするかな あふことの よよをへたつる くれたけの ふしのかすなき こひもするかな | 藤原清正 | 十 | 恋二 |
674 | 今はてふ心つくはの山見れはこすゑよりこそ色かはりけれ いまはてふ こころつくはの やまみれは こすゑよりこそ いろかはりけれ | 読人知らず | 十 | 恋二 |
675 | かへりけんそらもしられすをはすての山よりいてし月を見しまに かへりけむ そらもしられす をはすての やまよりいてし つきをみしまに | 源重光朝臣 | 十 | 恋二 |
676 | ふりとけぬ君かゆきけのしつくゆゑたもとにとけぬ氷しにけり ふりとけぬ きみかゆきけの しつくゆゑ たもとにとけぬ こほりしにけり | きよたたか母 | 十 | 恋二 |
677 | かた時も見ねはこひしき君をおきてあやしやいくよほかにねぬらん かたときも みねはこひしき きみをおきて あやしやいくよ ほかにねぬらむ | 藤原有文朝臣 | 十 | 恋二 |
678 | 思ひやる心にたくふ身なりせはひとひにちたひ君はみてまし おもひやる こころにたくふ みなりせは ひとひにちたひ きみはみてまし | 大江千古 | 十 | 恋二 |
679 | 逢ふ事はとほ山とりのかり衣きてはかひなきねをのみそなく あふことは とほやまとりの かりころも きてはかひなき ねをのみそなく | 元良親王 | 十 | 恋二 |
680 | 深くのみ思ふ心はあしのねのわけても人にあはんとそ思ふ ふかくのみ おもふこころは あしのねの わけてもひとに あはむとそおもふ | 敦慶親王 | 十 | 恋二 |
681 | いさり火のよるはほのかにかくしつつ有りへはこひのしたにけぬへし いさりひの よるはほのかに かくしつつ ありへはこひの したにけぬへし | 藤原忠国 | 十 | 恋二 |
682 | たちよらは影ふむはかりちかけれと誰かなこその関をすゑけん たちよらは かけふむはかり ちかけれと たれかなこその せきをすゑけむ | 小八条御息所 | 十 | 恋二 |
683 | わか袖はなにたつすゑの松山かそらより浪のこえぬ日はなし わかそては なにたつすゑの まつやまか そらよりなみの こえぬひはなし | 土左 | 十 | 恋二 |
684 | ひとりねのわひしきままにおきゐつつ月をあはれといみそかねつる ひとりねの わひしきままに おきゐつつ つきをあはれと いみそかねつる | 読人知らず | 十 | 恋二 |
685 | 唐錦をしきわかなはたちはてて如何せよとか今はつれなき からにしき をしきわかなは たちはてて いかにせよとか いまはつれなき | 読人知らず | 十 | 恋二 |
686 | 人つてにいふ事のはの中よりそ思ひつくはの山は見えける ひとつてに いふことのはの うちよりそ おもひつくはの やまはみえける | 読人知らず | 十 | 恋二 |
687 | たよりにもあらぬ思ひのあやしきは心を人につくるなりけり たよりにも あらぬおもひの あやしきは こころをひとに つくるなりけり | 紀貫之 | 十 | 恋二 |
688 | 人つまに心あやなくかけはしのあやふき道はこひにそ有りける ひとつまに こころあやなく かけはしの あやふきみちは こひにそありける | 読人知らず | 十 | 恋二 |
689 | いはて思ふ心ありそのはま風にたつしら浪のよるそわひしき いはておもふ こころありその はまかせに たつしらなみの よるそわひしき | 読人知らず | 十 | 恋二 |
690 | ひとりのみこふれはくるしよふことりこゑになきいてて君にきかせん ひとりのみ こふれはくるし よふことり こゑになきいてて きみにきかせむ | 読人知らず | 十 | 恋二 |
691 | ふしなくて君かたえにししらいとはよりつきかたき物にそ有りける ふしなくて きみかたえにし しらいとは よりつきかたき ものにそありける | 読人知らず | 十 | 恋二 |
692 | 草枕このたひへつる年月のうきは帰りてうれしからなん くさまくら このたひへつる としつきの うきはかへりて うれしからなむ | 読人知らず | 十 | 恋二 |
693 | いてしより見えすなりにし月影は又山のはに入りやしにけん いてしより みえすなりにし つきかけは またやまのはに いりやしにけむ | 読人知らず | 十 | 恋二 |
694 | あしひきの山におふてふもろかつらもろともにこそいらまほしけれ あしひきの やまにおふてふ もろかつら もろともにこそ いらまほしけれ | 読人知らず | 十 | 恋二 |
695 | はま千鳥たのむをしれとふみそむるあとうちけつな我をこす浪 はまちとり たのむをしれと ふみそむる あとうちけつな われをこすなみ | 平定文 | 十 | 恋二 |
696 | ゆく水のせことにふまんあとゆゑにたのむしるしをいつれとかみん ゆくみつの せことにふまむ あとゆゑに たのむしるしを いつれとかみむ | おほつ舟 | 十 | 恋二 |
697 | つまにおふることなしくさを見るからにたのむ心そかすまさりける つまにおふる ことなしくさを みるからに たのむこころそ かすまさりける | 源もろあきらの朝臣 | 十 | 恋二 |
698 | おくつゆのかかる物とはおもへともかれせぬ物はなてしこのはな おくつゆの かかるものとは おもへとも かれせぬものは なてしこのはな | 源もろあきらの朝臣 | 十 | 恋二 |
699 | かれすともいかかたのまむなてしこの花はときはのいろにしあらねは かれすとも いかかたのまむ なてしこの はなはときはの いろにしあらねは | 源もろあきらの朝臣 | 十 | 恋二 |
700 | 名にしおはは相坂山のさねかつら人にしられてくるよしもかな なにしおはは あふさかやまの さねかつら ひとにしられて くるよしもかな | 三条右大臣(定方) | 十一 | 恋三 |
701 | こひしとは更にもいはししたひものとけむを人はそれとしらなん こひしとは さらにもいはし したひもの とけむをひとは それとしらなむ | 在原元方 | 十一 | 恋三 |
702 | したひものしるしとするもとけなくにかたるかことはあらすもあるかな したひもの しるしとするも とけなくに かたるかことは あらすもあるかな | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
703 | うつつにもはかなき事のわひしきはねなくに夢と思ふなりけり うつつにも はかなきことの わひしきは ねなくにゆめと おもふなりけり | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
704 | たむけせぬ別れする身のわひしきは人めを旅と思ふなりけり たむけせぬ わかれするみの わひしきは ひとめをたひと おもふなりけり | 紀貫之 | 十一 | 恋三 |
705 | やとかへてまつにも見えすなりぬれはつらき所のおほくもあるかな やとかへて まつにもみえす なりぬれは つらきところの おほくもあるかな | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
706 | おもはむとたのめし人はかはらしをとはれぬ我やあらぬなるらん おもはむと たのめしひとは かはらしを とはれぬわれや あらぬなるらむ | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
707 | いたつらにたひたひしぬといふめれはあふには何をかへんとすらん いたつらに たひたひしぬと いふめれは あふにはなにを かへむとすらむ | 中務 | 十一 | 恋三 |
708 | しぬしぬときくきくたにもあひみねはいのちをいつのよにかのこさん しぬしぬと きくきくたにも あひみねは いのちをいつの よにかのこさむ | 源信明 | 十一 | 恋三 |
709 | ゑにかける鳥とも人を見てしかなおなし所をつねにとふへく ゑにかける とりともひとを みてしかな おなしところを つねにとふへく | 本院侍従 | 十一 | 恋三 |
710 | 昔せしわかかね事の悲しきは如何ちきりしなこりなるらん むかしせし わかかねことの かなしきは いかにちきりし なこりなるらむ | 平定文 | 十一 | 恋三 |
711 | うつつにて誰契りけん定なき夢ちに迷ふ我はわれかは うつつにて たれちきりけむ さためなき ゆめちにまよふ われはわれかは | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
712 | くれはとりあやに恋しく有りしかはふたむら山もこえすなりにき くれはとり あやにこひしく ありしかは ふたむらやまも こえすなりにき | 清原諸実 | 十一 | 恋三 |
713 | 唐衣たつををしみし心こそふたむら山のせきとなりけめ からころも たつををしみし こころこそ ふたむらやまの せきとなりけめ | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
714 | 夢かとも思ふへけれとおほつかなねぬにみしかはわきそかねつる ゆめかとも おもふへけれと おほつかな ねぬにみしかは わきそかねつる | きよなりか女 | 十一 | 恋三 |
715 | そらしらぬ雨にもぬるるわか身かなみかさの山をよそにききつつ そらしらぬ あめにもぬるる わかみかな みかさのやまを よそにききつつ | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
716 | もろともにをるともなしに打ちとけて見えにけるかなあさかほの花 もろともに をるともなしに うちとけて みえにけるかな あさかほのはな | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
717 | ももしきはをののえくたす山なれや入りにし人のおとつれもせぬ ももしきは をののえくたす やまなれや いりにしひとの おとつれもせぬ | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
718 | すすか山いせをのあまのすて衣しほなれたりと人やみるらん すすかやま いせをのあまの すてころも しほなれたりと ひとやみるらむ | 藤原伊尹 | 十一 | 恋三 |
719 | いかて我人にもとはん暁のあかぬ別やなにににたりと いかてわれ ひとにもとはむ あかつきの あかぬわかれや なにににたりと | 紀貫之 | 十一 | 恋三 |
720 | 恋しきにきえかへりつつあさつゆのけさはおきゐん心地こそせね こひしきに きえかへりつつ あさつゆの けさはおきゐむ ここちこそせね | 在原行平朝臣 | 十一 | 恋三 |
721 | しののめにあかて別れした本をそつゆやわけしと人はとかむる しののめに あかてわかれし たもとをそ つゆやわけしと ひとはとかむる | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
722 | こひしきも思ひこめつつあるものを人にしらるる涙なになり こひしきも おもひこめつつ あるものを ひとにしらるる なみたなになり | 平中興 | 十一 | 恋三 |
723 | 相坂のこのしたつゆにぬれしよりわか衣手は今もかわかす あふさかの このしたつゆに ぬれしより わかころもては いまもかわかす | 藤原兼輔朝臣 | 十一 | 恋三 |
724 | 君を思ふ心を人にこゆるきのいそのたまもやいまもからまし きみをおもふ こころをひとに こゆるきの いそのたまもや いまもからまし | 躬恒 | 十一 | 恋三 |
725 | なき名そと人にはいひて有りぬへし心のとははいかかこたへん なきなそと ひとにはいひて ありぬへし こころのとはは いかかこたへむ | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
726 | きよけれと玉ならぬ身のわひしきはみかける物にいはぬなりけり きよけれと たまならぬみの わひしきは みかけるものに いはぬなりけり | 伊勢 | 十一 | 恋三 |
727 | 逢ふ事をいさほにいてなんしのすすき忍ひはつへき物ならなくに あふことを いさほにいてなむ しのすすき しのひはつへき ものならなくに | 藤原敦忠朝臣 | 十一 | 恋三 |
728 | あひみてもわかるる事のなかりせはかつかつ物はおもはさらまし あひみても わかるることの なかりせは かつかつものは おもはさらまし | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
729 | いつのまにこひしかるらん唐衣ぬれにし袖のひるまはかりに いつのまに こひしかるらむ からころも ぬれにしそての ひるまはかりに | 閑院左大臣 | 十一 | 恋三 |
730 | 別れつるほともへなくに白浪の立帰りても見まくほしきか わかれつる ほともへなくに しらなみの たちかへりても みまくほしきか | 紀貫之 | 十一 | 恋三 |
731 | 人しれぬ身はいそけとも年をへてなとこえかたき相坂の関 ひとしれぬ みはいそけとも としをへて なとこえかたき あふさかのせき | 藤原伊尹 | 十一 | 恋三 |
732 | あつまちにゆきかふ人にあらぬ身はいつかはこえむ相坂の関 あつまちに ゆきかふひとに あらぬみは いつかはこえむ あふさかのせき | 小野好古朝臣女 | 十一 | 恋三 |
733 | つれもなき人にまけしとせし程に我もあたなは立ちそしにける つれもなき ひとにまけしと せしほとに われもあたなは たちそしにける | 藤原清正 | 十一 | 恋三 |
734 | つらからぬ中にあるこそうとしといへ隔てはててしきぬにやはあらぬ つらからぬ なかにあるこそ うとしといへ へたてはててし きぬにやはあらぬ | 小野遠興かむすめ | 十一 | 恋三 |
735 | ときはなる日かけのかつらけふしこそ心の色にふかく見えけれ ときはなる ひかけのかつら けふしこそ こころのいろに ふかくみえけれ | もろまさの朝臣 | 十一 | 恋三 |
736 | 誰となくかかるおほみにふかからん色をときはにいかかたのまん たれとなく かかるおほみに ふかからむ いろをときはに いかかたのまむ | 閑院のおほい君 | 十一 | 恋三 |
737 | 講となくおほろに見えし月影にわける心を思ひしらなん たれとなく おほろにみえし つきかけに わけるこころを おもひしらなむ | 藤原清正 | 十一 | 恋三 |
738 | 春をたにまたてなきぬる鴬はふるすはかりの心なりけり はるをたに またてなきぬる うくひすは ふるすはかりの こころなりけり | 本院兵衛 | 十一 | 恋三 |
739 | ゆふされはわか身のみこそかなしけれいつれの方に枕さためむ ゆふされは わかみのみこそ かなしけれ いつれのかたに まくらさためむ | かねもちの朝臣女 | 十一 | 恋三 |
740 | 夢にたにまたみえなくにこひしきはいつにならへる心なるらん ゆめにたに またみえなくに こひしきは いつにならへる こころなるらむ | 在原元方 | 十一 | 恋三 |
741 | 思ふてふ事をそねたくふるしける君にのみこそいふへかりけれ おもふてふ ことをそねたく ふるしける きみにのみこそ いふへかりけれ | 壬生忠岑 | 十一 | 恋三 |
742 | あな恋しゆきてや見ましつのくにの今も有りてふ浦のはつ島 あなこひし ゆきてやみまし つのくにの いまもありてふ うらのはつしま | 戒仙法師 | 十一 | 恋三 |
743 | 月かへて君をは見むといひしかと日たにへたてすこひしきものを つきかへて きみをはみむと いひしかと ひたにへたてす こひしきものを | 紀貫之 | 十一 | 恋三 |
744 | 伊勢の海にしほやくあまの藤衣なるとはすれとあはぬ君かな いせのうみに しほやくあまの ふちころも なるとはすれと あはぬきみかな | 躬恒 | 十一 | 恋三 |
745 | わたのそこかつきてしらん君かため思ふ心のふかさくらへに わたのそこ かつきてしらむ きみかため おもふこころの ふかさくらへに | 坂上是則 | 十一 | 恋三 |
746 | 唐衣かけてたのまぬ時そなき人のつまとは思ふものから からころも かけてたのまぬ ときそなき ひとのつまとは おもふものから | 右近 | 十一 | 恋三 |
747 | あらかりし浪の心はつらけれとすこしによせしこゑそこひしき あらかりし なみのこころは つらけれと すこしによせし こゑそこひしき | 藤原守正 | 十一 | 恋三 |
748 | いつ方に立ちかくれつつ見よとてかおもひくまなく人のなりゆく いつかたに たちかくれつつ みよとてか おもひくまなく ひとのなりゆく | 藤原のちかけの朝臣 | 十一 | 恋三 |
749 | つらきをもうきをもよそに見しかともわか身にちかき世にこそ有りけれ つらきをも うきをもよそに みしかとも わかみにちかき よにこそありけれ | 土左 | 十一 | 恋三 |
750 | ふちはせになりかはるてふあすかかは渡り見てこそしるへかりけれ ふちはせに なりかはるてふ あすかかは わたりみてこそ しるへかりけれ | 在原元方 | 十一 | 恋三 |
751 | いとはるる身をうれはしみいつしかとあすか河をもたのむへらなり いとはるる みをうれはしみ いつしかと あすかかはをも たのむへらなり | 伊勢 | 十一 | 恋三 |
752 | あすか河せきてととむる物ならはふちせになると何かいはせん あすかかは せきてととむる ものならは ふちせになると なにかいはせむ | 贈太攻大臣(時平) | 十一 | 恋三 |
753 | 葦たつの沢辺に年はへぬれとも心は雲のうへにのみこそ あしたつの さはへにとしは へぬれとも こころはくもの うへにのみこそ | 右大臣(師輔) | 十一 | 恋三 |
754 | あしたつのくもゐにかかる心あらは世をへてさはにすますそあらまし あしたつの くもゐにかかる こころあらは よをへてさはに すますそあらまし | 女四のみこ | 十一 | 恋三 |
755 | 松山につらきなからも浪こさむ事はさすかに悲しきものを まつやまに つらきなからも なみこさむ ことはさすかに かなしきものを | 贈太攻大臣(時平) | 十一 | 恋三 |
756 | 夜ひのまにはやなくさめよいその神ふりにしとこもうちはらふへく よひのまに はやなくさめよ いそのかみ ふりにしとこも うちはらふへく | 枇杷左大臣 | 十一 | 恋三 |
757 | わたつみとあれにしとこを今更にはらはは袖やあわとうきなん わたつみと あれにしとこを いまさらに はらははそてや あわとうきなむ | 伊勢 | 十一 | 恋三 |
758 | しほのまにあさりするあまもおのか世世かひ有りとこそ思ふへらなれ しほのまに あさりするあまも おのかよよ かひありとこそ おもふへらなれ | 紀長谷雄朝臣 | 十一 | 恋三 |
759 | あちきなくなとか松山浪こさむ事をはさらに思ひはなるる あちきなく なとかまつやま なみこさむ ことをはさらに おもひはなるる | 贈太攻大臣(時平) | 十一 | 恋三 |
760 | 岸もなくしほしみちなは松山をしたにて浪はこさんとそ思ふ きしもなく しほしみちなは まつやまを したにてなみは こさむとそおもふ | 伊勢 | 十一 | 恋三 |
761 | 世とともになけきこりつむ身にしあれはなそやまもりのあるかひもなき よとともに なけきこりつむ みにしあれは なそやまもりの あるかひもなき | 在原業平のむすめいまき | 十一 | 恋三 |
762 | ひとしれぬわか物思ひの涙をは袖につけてそ見すへかりける ひとしれぬ わかものおもひの なみたをは そてにつけてそ みすへかりける | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
763 | 山のはにかかる思ひのたえさらは雲井なからもあはれとおもはん やまのはに かかるおもひの たえさらは くもゐなからも あはれとおもはむ | 藤原真忠かいもうと | 十一 | 恋三 |
764 | なきなかす涙のいととそひぬれははかなきみつも袖ぬらしけり なきなかす なみたのいとと そひぬれは はかなきみつも そてぬらしけり | もろうちの朝臣 | 十一 | 恋三 |
765 | 夢のことはかなき物はなかりけりなにとて人にあふとみつらん ゆめのこと はかなきものは なかりけり なにとてひとに あふとみつらむ | 源たのむ | 十一 | 恋三 |
766 | 思ひねのよなよな夢に逢ふ事をたたかた時のうつつともかな おもひねの よなよなゆめに あふことを たたかたときの うつつともかな | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
767 | 時のまのうつつをしのふ心こそはかなきゆめにまさらさりけれ ときのまの うつつをしのふ こころこそ はかなきゆめに まさらさりけれ | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
768 | 玉津島ふかき入江をこく舟のうきたるこひも我はするかな たまつしま ふかきいりえを こくふねの うきたるこひも われはするかな | 大伴黒主 | 十一 | 恋三 |
769 | つのくにのなにはたたまくをしみこそすくもたくひのしたにこかるれ つのくにの なにはたたまく をしみこそ すくもたくひの したにこかるれ | 紀内親王 | 十一 | 恋三 |
770 | 夢ちにもやとかす人のあらませはねさめにつゆははらはさらまし ゆめちにも やとかすひとの あらませは ねさめにつゆは はらはさらまし | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
771 | 涙河なかすねさめもあるものをはらふはかりのつゆやなになり なみたかは なかすねさめも あるものを はらふはかりの つゆやなになり | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
772 | みるめかる方そあふみになしときく玉もをさへやあまはかつかぬ みるめかる かたそあふみに なしときく たまもをさへや あまはかつかぬ | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
773 | 名のみして逢ふ事浪のしけきまにいつかたまもをあまはかつかん なのみして あふことなみの しけきまに いつかたまもを あまはかつかむ | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
774 | 葛木やくめちのはしにあらはこそ思ふ心をなかそらにせめ かつらきや くめちのはしに あらはこそ おもふこころを なかそらにせめ | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
775 | かくれぬにすむをしとりのこゑたえすなけとかひなき物にそ有りける かくれぬに すむをしとりの こゑたえす なけとかひなき ものにそありける | 右大臣(師輔) | 十一 | 恋三 |
776 | つくはねの峰よりおつるみなの河恋そつもりて淵となりける つくはねの みねよりおつる みなのかは こひそつもりて ふちとなりける | 陽成院御製 | 十一 | 恋三 |
777 | かりかねのくもゐはるかにきこえしは今は限のこゑにそありける かりかねの くもゐはるかに きこえしは いまはかきりの こゑにそありける | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
778 | 今はとて行きかへりぬるこゑならはおひ風にてもきこえましやは いまはとて ゆきかへりぬる こゑならは おひかせにても きこえましやは | 兼覧王 | 十一 | 恋三 |
779 | 心からうきたる舟にのりそめてひと日も浪にぬれぬ日そなき こころから うきたるふねに のりそめて ひとひもなみに ぬれぬひそなき | 小野小町 | 十一 | 恋三 |
780 | 忘れなんと思ふ心のやすからはつれなき人をうらみましやは わすれなむと おもふこころの やすからは つれなきひとを うらみましやは | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
781 | ちはやふる神ひきかけてちかひてしこともゆゆしくあらかふなゆめ ちはやふる かみひきかけて ちかひてし こともゆゆしく あらかふなゆめ | 藤原滋幹 | 十一 | 恋三 |
782 | おもひには我こそいりてまとはるれあやなく君や涼しかるへき おもひには われこそいりて まとはるれ あやなくきみや すすしかるへき | 右大臣(師輔) | 十一 | 恋三 |
783 | あらたまの年もこえぬる松山の浪の心はいかかなるらむ あらたまの としもこえぬる まつやまの なみのこころは いかかなるらむ | 元平のみこのむすめ | 十一 | 恋三 |
784 | わかためはいととあさくやなりぬらん野中のし水ふかさまされは わかためは いととあさくや なりぬらむ のなかのしみつ ふかさまされは | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
785 | あふみちをしるへなくてもみてしかな関のこなたはわひしかりけり あふみちを しるへなくても みてしかな せきのこなたは わひしかりけり | 源中正 | 十一 | 恋三 |
786 | 道しらてやみやはしなぬ相坂の関のあなたは海といふなり みちしらて やみやはしなぬ あふさかの せきのあなたは うみといふなり | しもつけ | 十一 | 恋三 |
787 | つれなきを思ひしのふのさねかつらはてはくるをも厭ふなりけり つれなきを おもひしのふの さねかつら はてはくるをも いとふなりけり | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
788 | 今更に思ひいてしとしのふるをこひしきにこそわすれわひぬれ いまさらに おもひいてしと しのふるを こひしきにこそ わすれわひぬれ | 左太臣(実頼) | 十一 | 恋三 |
789 | わかためは見るかひもなし忘草わするはかりのこひにしあらねは わかためは みるかひもなし わすれくさ わするはかりの こひにしあらねは | 紀長谷雄朝臣 | 十一 | 恋三 |
790 | あひ見てもつつむ思ひのわひしきは人まにのみそねはなかれける あひみても つつむおもひの わひしきは ひとまにのみそ ねはなかれける | 藤原ありよし | 十一 | 恋三 |
791 | を山田のなはしろ水はたえぬとも心の池のいひははなたし をやまたの なはしろみつは たえぬとも こころのいけの いひははなたし | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
792 | 千世へむと契りおきてし姫松のねさしそめてしやとはわすれし ちよへむと ちきりおきてし ひめまつの ねさしそめてし やとはわすれし | 読人知らず | 十一 | 恋三 |
793 | これを見よ人もすさめぬ恋すとてねをなくむしのなれるすかたを これをみよ ひともすさへぬ こひすとて ねをなくむしの なれるすかたを | 源重光朝臣 | 十一 | 恋三 |
794 | あひみてはなくさむやとそ思ひしになこりしもこそこひしかりけれ あひみては なくさむやとそ おもひしに なこりしもこそ こひしかりけれ | 坂上是則 | 十一 | 恋三 |
795 | わか恋のかすをかそへはあまの原くもりふたかりふる雨のこと わかこひの かすをかそへは あまのはら くもりふたかり ふるあめのこと | 藤原敏行朝臣 | 十二 | 恋四 |
796 | 打返し見まくそほしき故郷のやまとなてしこ色やかはれる うちかへし みまくそほしき ふるさとの やまとなてしこ いろやかはれる | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
797 | やまひこのこゑにたてても年はへぬわか物思ひをしらぬ人きけ やまひこの こゑにたてても としはへぬ わかものおもひを しらぬひときけ | 枇杷左大臣 | 十二 | 恋四 |
798 | 玉もかるあまにはあらねとわたつみのそこひもしらす入る心かな たまもかる あまにはあらねと わたつみの そこひもしらす いるこころかな | 紀友則 | 十二 | 恋四 |
799 | みるもなくめもなき海のいそにいててかへるかへるも怨みつるかな みるもなく めもなきうみの いそにいてて かへるかへるも うらみつるかな | 紀友則 | 十二 | 恋四 |
800 | こりすまの浦の白浪立ちいててよるほともなくかへるはかりか こりすまの うらのしらなみ たちいてて よるほともなく かへるはかりか | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
801 | 関こえてあはつのもりのあはすともし水にみえしかけをわするな せきこえて あはつのもりの あはすとも しみつにみえし かけをわするな | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
802 | ちかけれは何かはしるし相坂の関の外そと思ひたえなん ちかけれは なにかはしるし あふさかの せきのほかそと おもひたえなむ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
803 | 今はとてこすゑにかかる空蝉のからを見むとは思はさりしを いまはとて こすゑにかかる うつせみの からをみむとは おもはさりしを | 平なかきかむすめ | 十二 | 恋四 |
804 | わすらるる身をうつせみの唐衣返すはつらき心なりけり わすらるる みをうつせみの からころも かへすはつらき こころなりけり | 源巨城 | 十二 | 恋四 |
805 | 影にたに見えもやするとたのみつるかひなくこひをます鏡かな かけにたに みえもやすると たのみつる かひなくこひを ますかかみかな | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
806 | 葦引の山田のそほつうちわひてひとりかへるのねをそなきぬる あしひきの やまたのそほつ うちわひて ひとりかへるの ねをそなきぬる | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
807 | たねはあれと逢ふ事かたきいはのうへの松にて年をふるはかひなし たねはあれと あふことかたき いはのうへの まつにてとしを ふるはかひなし | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
808 | ひたすらにいとひはてぬる物ならはよしのの山にゆくへしられし ひたすらに いとひはてぬる ものならは よしののやまに ゆくへしられし | 贈太攻大臣(時平) | 十二 | 恋四 |
809 | わかやととたのむ吉野に君しいらはおなしかさしをさしこそはせめ わかやとと たのむよしのに きみしいらは おなしかさしを さしこそはせめ | 伊勢 | 十二 | 恋四 |
810 | 紅に袖をのみこそ染めてけれ君をうらむる涙かかりて くれなゐに そてをのみこそ そめてけれ きみをうらむる なみたかかりて | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
811 | 紅に涙うつるとききしをはなといつはりとわか思ひけん くれなゐに なみたうつると ききしをは なといつはりと われおもひけむ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
812 | くれなゐに涙しこくは緑なる袖も紅葉と見えましものを くれなゐに なみたしこくは みとりなる そてももみちと みえましものを | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
813 | いにしへの野中のし水見るからにさしくむ物は涙なりけり いにしへの のなかのしみつ みるからに さしくむものは なみたなりけり | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
814 | あまくものはるるよもなくふる物は袖のみぬるる涙なりけり あまくもの はるるよもなく ふるものは そてのみぬるる なみたなりけり | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
815 | 逢ふ事のかたふたかりて君こすは思ふ心のたかふはかりそ あふことの かたふたかりて きみこすは おもふこころの たかふはかりそ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
816 | ときはにとたのめし事は松ほとのひさしかるへき名にこそありけれ ときはにと たのめしことは まつほとの ひさしかるへき なにこそありけれ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
817 | こさまさる涙の色もかひそなき見すへき人のこの世ならねは こさまさる なみたのいろも かひそなき みすへきひとの このよならねは | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
818 | 住吉の岸にきよするおきつ浪まなくかけてもおもほゆるかな すみよしの きしにきよする おきつなみ まなくかけても おもほゆるかな | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
819 | すみの江のめにちかからは岸にゐて浪のかすをもよむへきものを すみのえの めにちかからは きしにゐて なみのかすをも よむへきものを | 伊勢 | 十二 | 恋四 |
820 | こひてへむと思ふ心のわりなさはしにてもしれよわすれかたみに こひてへむと おもふこころの わりなさは しにてもしれよ わすれかたみに | 伊勢 | 十二 | 恋四 |
821 | もしもやとあひ見む事をたのますはかくふるほとにまつそけなまし もしもやと あひみむことを たのますは かくふるほとに まつそけなまし | 贈太攻大臣(時平) | 十二 | 恋四 |
822 | あふとたにかたみにみゆる物ならはわするるほともあらましものを あふとたに かたみにみゆる ものならは わするるほとも あらましものを | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
823 | おとにのみ声をきくかなあしひきの山した水にあらぬものから おとにのみ こゑをきくかな あしひきの やましたみつに あらぬものから | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
824 | 秋とてや今は限の立ちぬらんおもひにあへぬ物ならなくに あきとてや いまはかきりの たちぬらむ おもひにあへぬ ものならなくに | 伊勢 | 十二 | 恋四 |
825 | 見し夢の思ひいてらるるよひことにいはぬをしるは涙なりけり みしゆめの おもひいてらるる よひことに いはぬをしるは なみたなりけり | 伊勢 | 十二 | 恋四 |
826 | 白露のおきてあひ見ぬ事よりはきぬ返しつつねなんとそ思ふ しらつゆの おきてあひみぬ ことよりは きぬかへしつつ ねなむとそおもふ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
827 | 事のははなけなる物といひなからおもはぬためは君もしるらん ことのはは なけなるものと いひなから おもはぬためは きみもしるらむ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
828 | 白浪の打ちいつるはまのはまちとり跡やたつぬるしるへなるらん しらなみの うちいつるはまの はまちとり あとやたつぬる しるへなるらむ | 朝忠朝臣 | 十二 | 恋四 |
829 | おほしまに水をはこひしはや舟のはやくも人にあひみてしかな おほしまに みつをはこひし はやふねの はやくもひとに あひみてしかな | 大江朝綱朝臣 | 十二 | 恋四 |
830 | ひたふるに思ひなわひそふるさるる人の心はそれそよのつね ひたふるに おもひなわひそ ふるさるる ひとのこころは それそよのつね | 贈太攻大臣(時平) | 十二 | 恋四 |
831 | 世のつねの人の心をまたみねはなにかこのたひけぬへきものを よのつねの ひとのこころを またみねは なにかこのたひ けぬへきものを | 伊勢 | 十二 | 恋四 |
832 | すみそめのくらまの山にいる人はたとるたとるも帰りきななん すみそめの くらまのやまに いるひとは たとるたとるも かへりきななむ | 平なかきかむすめ | 十二 | 恋四 |
833 | 日をへても影に見ゆるはたまかつらつらきなからもたえぬなりけり ひをへても かけにみゆるは たまかつら つらきなからも たえぬなりけり | 伊勢 | 十二 | 恋四 |
834 | 高砂の松を緑と見し事はしたのもみちをしらぬなりけり たかさこの まつをみとりと みしことは したのもみちを しらぬなりけり | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
835 | 時わかね松の緑も限なきおもひには猶色やもゆらん ときわかぬ まつのみとりも かきりなき おもひにはなほ いろやもゆらむ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
836 | 水鳥のはかなきあとに年をへてかよふはかりのえにこそ有りけれ みつとりの はかなきあとに としをへて かよふはかりの えにこそありけれ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
837 | 浪のうへに跡やは見ゆる水鳥のうきてへぬらん年はかすかは なみのうへに あとやはみゆる みつとりの うきてへぬらむ としはかすかは | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
838 | 流れよるせせの白浪あさけれはとまるいな舟かへるなるへし なかれよる せせのしらなみ あさけれは とまるいなふね かへるなるへし | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
839 | もかみ河ふかきにもあへすいな舟の心かるくも帰るなるかな もかみかは ふかきにもあへす いなふねの こころかろくも かへるなるかな | 三条右大臣(定方) | 十二 | 恋四 |
840 | 花すすきほにいつる事もなきものをまたき吹きぬる秋の風かな はなすすき ほにいつることも なきものを またきふきぬる あきのかせかな | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
841 | またさりし秋はきぬれとみし人の心はよそになりもゆくかな またさりし あきはきぬれと みしひとの こころはよそに なりもゆくかな | なかきかむすめ | 十二 | 恋四 |
842 | 君を思ふ心なかさは秋の夜にいつれまさるとそらにしらなん きみをおもふ こころなかさは あきのよに いつれまさると そらにしらなむ | 源是茂朝臣 | 十二 | 恋四 |
843 | 鏡山あけてきつれは秋きりのけさやたつらんあふみてふなは かかみやま あけてきつれは あききりの けさやたつらむ あふみてふなは | 坂上つねかけ | 十二 | 恋四 |
844 | 枝もなく人にをらるる女郎花ねをたにのこせうゑしわかため えたもなく ひとにをらるる をみなへし ねをたにのこせ うゑしわかため | 平まれよの朝臣 | 十二 | 恋四 |
845 | 秋の田のかりそめふしもしてけるかいたつらいねをなににつままし あきのたの かりそめふしも してけるか いたつらいねを なににつままし | 藤原成国 | 十二 | 恋四 |
846 | 秋風の吹くにつけてもとはぬかな荻の葉ならはおとはしてまし あきかせの ふくにつけても とはぬかな をきのはならは おとはしてまし | 中務 | 十二 | 恋四 |
847 | 君見すていく世へぬらん年月のふるとともにもおつるなみたか きみみすて いくよへぬらむ としつきの ふるとともにも おつるなみたか | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
848 | 中中に思ひかけては唐衣身になれぬをそうらむへらなる なかなかに おもひかけては からころも みになれぬをそ うらむへらなる | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
849 | 怨むともかけてこそみめ唐衣身になれぬれはふりぬとかきく うらむとも かけてこそみめ からころも みになれぬれは ふりぬとかきく | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
850 | なけけともかひなかりけり世中になににくやしく思ひそめけむ なけけとも かひなかりけり よのなかに なににくやしく おもひそめけむ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
851 | こぬ人を松のえにふる白雪のきえこそかへれくゆる思ひに こぬひとを まつのえにふる しらゆきの きえこそかへれ くゆるおもひに | 承香殿中納言 | 十二 | 恋四 |
852 | 菊の花うつる心をおくしもにかへりぬへくもおもほゆるかな きくのはな うつるこころを おくしもに かへりぬへくも おもほゆるかな | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
853 | 今はとてうつりはてにし菊の花かへる色をはたれかみるへき いまはとて うつりはてにし きくのはな かへるいろをは たれかみるへき | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
854 | なかめしてもりもわひぬる人めかないつかくもまのあらんとすらん なかめして もりもわひぬる ひとめかな いつかくもまの あらむとすらむ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
855 | おなしくは君とならひの池にこそ身をなけつとも人にきかせめ おなしくは きみとならひの いけにこそ みをなけつとも ひとにきかせめ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
856 | かけろふのほのめきつれはゆふくれの夢かとのみそ身をたとりつる かけろふの ほのめきつれは ゆふくれの ゆめかとのみそ みをたとりつる | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
857 | ほのみてもめなれにけりときくからにふしかへりこそしなまほしけれ ほのみても めなれにけりと きくからに ふしかへりこそ しなまほしけれ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
858 | あふみてふ方のしるへもえてしかな見るめなきことゆきてうらみん あふみてふ かたのしるへも えてしかな みるめなきこと ゆきてうらみむ | 源よしの朝臣 | 十二 | 恋四 |
859 | 相坂の関ともらるる我なれは近江てふらん方もしられす あふさかの せきともらるる われなれは あふみてふらむ かたもしられす | 春澄善縄朝臣女 | 十二 | 恋四 |
860 | 葦引の山した水のこかくれてたきつ心をせきそかねつる あしひきの やましたみつの こかくれて たきつこころを せきそかねつる | よしの朝臣 | 十二 | 恋四 |
861 | こかくれてたきつ山水いつれかはめにしも見ゆるおとにこそきけ こかくれて たきつやまみつ いつれかは めにしもみゆる おとにこそきけ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
862 | 暁のなからましかは白露のおきてわひしき別せましや あかつきの なからましかは しらつゆの おきてわひしき わかれせましや | 紀貫之 | 十二 | 恋四 |
863 | おきて行く人の心をしらつゆの我こそまつは思ひきえぬれ おきてゆく ひとのこころを しらつゆの われこそまつは おもひきえぬれ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
864 | 高砂の松といひつつ年をへてかはらぬ色ときかはたのまむ たかさこの まつといひつつ としをへて かはらぬいろと きかはたのまむ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
865 | 風をいたみくゆる煙のたちいてても猶こりすまのうらそこひしき かせをいたみ くゆるけふりの たちいてても なほこりすまの うらそこひしき | 紀貫之 | 十二 | 恋四 |
866 | いはねともわか限なき心をは雲ゐにとほき人もしらなん いはねとも わかかきりなき こころをは くもゐにとほき ひともしらなむ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
867 | 君かねにくらふの山の郭公いつれあたなるこゑまさるらん きみかねに くらふのやまの ほとときす いつれあたなる こゑまさるらむ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
868 | こひてぬる夢ちにかよふたましひのなるるかひなくうとききみかな こひてぬる ゆめちにかよふ たましひの なるるかひなく うとききみかな | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
869 | かかり火にあらぬおもひのいかなれは涙の河にうきてもゆらん かかりひに あらぬおもひの いかなれは なみたのかはに うきてもゆらむ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
870 | まちくらす日はすかのねにおもほえてあふよしもなとたまのをならん まちくらす ひはすかのねに おもほえて あふよしもなと たまのをならむ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
871 | はかなかる夢のしるしにはかられてうつつにまくる身とやなりなん はかなかる ゆめのしるしに はかられて うつつにまくる みとやなりなむ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
872 | 思ひねの夢といひてもやみなまし中中なにに有りとしりけん おもひねの ゆめといひても やみなまし なかなかなにに ありとしりけむ | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
873 | いつしかのねになきかへりこしかとものへのあさちは色つきにけり いつしかの ねになきかへり こしかとも のへのあさちは いろつきにけり | 忠房朝臣 | 十二 | 恋四 |
874 | ひきまゆのかくふたこもりせまほしみくはこきたれてなくを見せはや ひきまゆの かくふたこもり せまほしみ くはこきたれて なくをみせはや | 忠房朝臣 | 十二 | 恋四 |
875 | 関山の峰のすきむらすきゆけと近江は猶そはるけかりける せきやまの みねのすきむら すきゆけと あふみはなほそ はるけかりける | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
876 | 思ひいてておとつれしける山ひこのこたへにこりぬ心なになり おもひいてて おとつれしける やまひこの こたへにこりぬ こころなになり | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
877 | まとろまぬものからうたてしかすかにうつつにもあらぬ心地のみする まとろまぬ ものからうたて しかすかに うつつにもあらぬ ここちのみする | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
878 | うつつにもあらぬ心は夢なれや見てもはかなき物を思へは うつつにも あらぬこころは ゆめなれや みてもはかなき ものをおもへは | 読人知らず | 十二 | 恋四 |
879 | 限なく思ひいり日のともにのみ西の山へをなかめやるかな かきりなく おもひいりひの ともにのみ にしのやまへを なかめやるかな | 小野道風朝臣 | 十二 | 恋四 |
880 | 君かなの立つにとかなき身なりせはおほよそ人になしてみましや きみかなの たつにとかなき みなりせは おほよそひとに なしてみましや | 忠房朝臣 | 十二 | 恋四 |
881 | たえぬると見れはあひぬる白雲のいとおほよそにおもはすもかな たえぬると みれはあひぬる しらくもの いとおほよそに おもはすもかな | 女五のみこ | 十二 | 恋四 |
882 | けふそへにくれさらめやはとおもへともたへぬは人の心なりけり けふそへに くれさらめやはと おもへとも たへぬはひとの こころなりけり | 藤原敦忠朝臣 | 十二 | 恋四 |
883 | いとかくてやみぬるよりはいなつまのひかりのまにも君をみてしか いとかくて やみぬるよりは いなつまの ひかりのまにも きみをみてしか | 大輔 | 十二 | 恋四 |
884 | いたつらに立帰りにし白浪のなこりに袖のひる時もなし いたつらに たちかへりにし しらなみの なこりにそての ひるときもなし | 朝忠朝臣 | 十二 | 恋四 |
885 | 何にかは袖のぬるらん白浪のなこり有りけも見えぬ心を なににかは そてのぬるらむ しらなみの なこりありけも みえぬこころを | 大輔 | 十二 | 恋四 |
886 | ちかひても猶思ふにはまけにけりたかためをしきいのちならねは ちかひても なほおもふには まけにけり たかためをしき いのちならねは | 蔵内侍 | 十二 | 恋四 |
887 | なにはめにみつとはなしにあしのねのよのみしかくてあくるわひしさ なにはめに みつとはなしに あしのねの よのみしかくて あくるわひしさ | 道風 | 十二 | 恋四 |
888 | かへるへき方もおほえす涙河いつれかわたるあさせなるらむ かへるへき かたもおほえす なみたかは いつれかわたる あさせなるらむ | 道風 | 十二 | 恋四 |
889 | 涙河いかなるせよりかへりけん見なるるみをもあやしかりしを なみたかは いかなるせより かへりけむ みなるるみをも あやしかりしを | 大輔 | 十二 | 恋四 |
890 | 池水のいひいつる事のかたけれはみこもりなからとしそへにける いけみつの いひいつることの かたけれは みこもりなから としそへにける | 藤原敦忠朝臣 | 十二 | 恋四 |
891 | 伊勢の海に遊ふあまともなりにしか浪かきわけてみるめかつかむ いせのうみに あそふあまとも なりにしか なみかきわけて みるめかつかむ | 在原業平朝臣 | 十三 | 恋五 |
892 | おほろけのあまやはかつくいせの海の浪高き浦におふるみるめは おほろけの あまやはかつく いせのうみの なみたかきうらに おふるみるめは | 伊勢 | 十三 | 恋五 |
893 | つらしとやいひはててまし白露の人に心はおかしと思ふを つらしとや いひはててまし しらつゆの ひとにこころは おかしとおもふを | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
894 | なからへは人の心も見るへきに露の命そ悲しかりける なからへは ひとのこころも みるへきに つゆのいのちそ かなしかりける | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
895 | ひとりぬる時はまたるる鳥のねもまれにあふよはわひしかりけり ひとりぬる ときはまたるる とりのねも まれにあふよは わひしかりけり | 小野小町かあね | 十三 | 恋五 |
896 | 空蝉のむなしくからになるまてもわすれんと思ふ我ならなくに うつせみの むなしきからに なるまても わすれむとおもふ われならなくに | 深養父 | 十三 | 恋五 |
897 | いつまてのはかなき人の事のはか心の秋の風をまつらむ いつまての はかなきひとの ことのはか こころのあきの かせをまつらむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
898 | うたたねの夢はかりなる逢ふ事を秋のよすから思ひつるかな うたたねの ゆめはかりなる あふことを あきのよすから おもひつるかな | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
899 | 秋の夜の草のとさしのわひしきはあくれとあけぬ物にそ有りける あきのよの くさのとさしの わひしきは あくれとあけぬ ものにそありける | 藤原兼輔朝臣 | 十三 | 恋五 |
900 | いふからにつらさそまさる秋のよの草のとさしにさはるへしやは いふからに つらさそまさる あきのよの くさのとさしに さはるへしやは | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
901 | 人しれす物思ふころのわか袖は秋の草はにおとらさりけり ひとしれす ものおもふころの わかそては あきのくさはに おとらさりけり | さたかすのみこ | 十三 | 恋五 |
902 | しつはたに思ひみたれて秋の夜のあくるもしらすなけきつるかな しつはたに おもひみたれて あきのよの あくるもしらす なけきつるかな | 贈太攻大臣(時平) | 十三 | 恋五 |
903 | はちすはのうへはつれなきうらにこそ物あらかひはつくといふなれ はちすはの うへはつれなき うらにこそ ものあらかひは つくといふなれ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
904 | ふりやめはあとたに見えぬうたかたのきえてはかなきよをたのむかな ふりやめは あとたにみえぬ うたかたの きえてはかなき よをたのむかな | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
905 | あはてのみあまたのよをもかへるかな人めのしけき相坂にきて あはてのみ あまたのよをも かへるかな ひとめのしけき あふさかにきて | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
906 | なひく方有りけるものをなよ竹の世にへぬ物と思ひけるかな なひくかた ありけるものを なよたけの よにへぬものと おもひけるかな | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
907 | ねになけは人わらへなりくれ竹の世にへぬをたにかちぬとおもはん ねになけは ひとわらへなり くれたけの よにへぬをたに かちぬとおもはむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
908 | 伊勢のあまと君しなりなはおなしくは恋しきほとにみるめからせよ いせのあまと きみしなりなは おなしくは こひしきほとに みるめからせよ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
909 | こひしくは影をたに見てなくさめよわかうちとけてしのふかほなり こひしくは かけをたにみて なくさめよ わかうちとけて しのふかほなり | 一条 | 十三 | 恋五 |
910 | 影見れはいとと心そまとはるるちかからぬけのうときなりけり かけみれは いととこころそ まとはるる ちかからぬけの うときなりけり | 伊勢 | 十三 | 恋五 |
911 | 人ことのうきをもしらすありかせし昔なからのわか身ともかな ひとことの うきをもしらす ありかせし むかしなからの わかみともかな | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
912 | 郭公なつきそめてしかひもなくこゑをよそにもききわたるかな ほとときす なつきそめてし かひもなく こゑをよそにも ききわたるかな | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
913 | つねよりもおきうかりつる暁はつゆさへかかる物にそ有りける つねよりも おきうかりつる あかつきは つゆさへかかる ものにそありける | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
914 | おく霜の暁おきをおもはすは君かよとのによかれせましや おくしもの あかつきおきを おもはすは きみかよとのに よかれせましや | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
915 | 霜おかぬ春よりのちのなかめにもいつかは君かよかれせさりし しもおかぬ はるよりのちの なかめにも いつかはきみか よかれせさりし | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
916 | 伊勢の海のあまのまてかたいとまなみなからへにける身をそうらむる いせのうみの あまのまてかた いとまなみ なからへにける みをそうらむる | 源英明朝臣 | 十三 | 恋五 |
917 | 逢ふ事のかたのへとてそ我はゆく身をおなしなに思ひなしつつ あふことの かたのへとてそ われはゆく みをおなしなに おもひなしつつ | 藤原ためよ | 十三 | 恋五 |
918 | 君かあたり雲井に見つつ宮ち山うちこえゆかん道もしらなく きみかあたり くもゐにみつつ みやちやま うちこえゆかむ みちもしらなく | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
919 | 思ふてふ事のはいかになつかしなのちうき物とおもはすもかな おもふてふ ことのはいかに なつかしな のちうきものと おもはすもかな | 俊子 | 十三 | 恋五 |
920 | 思ふてふ事こそうけれくれ竹のよにふる人のいはぬなけれは おもふてふ ことこそうけれ くれたけの よにふるひとの いはぬなけれは | 兼茂る朝臣のむすめ | 十三 | 恋五 |
921 | おもはむと我をたのめし事のはは忘草とそ今はなるらし おもはむと われをたのめし ことのはは わすれくさとそ いまはなるらし | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
922 | 今まてもきえて有りつるつゆの身はおくへきやとのあれはなりけり いままても きえてありつる つゆのみは おくへきやとの あれはなりけり | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
923 | 事のはもみな霜かれに成りゆくはつゆのやとりもあらしとそ思ふ ことのはも みなしもかれに なりゆくは つゆのやとりも あらしとそおもふ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
924 | 忘れむといひし事にもあらなくに今は限と思ふものかは わすれむと いひしことにも あらなくに いまはかきりと おもふものかは | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
925 | うつつにはふせとねられすおきかへり昨日の夢をいつかわすれん うつつには ふせとねられす おきかへり きのふのゆめを いつかわすれむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
926 | ささらなみまなくたつめる浦をこそ世にあさしともみつつわすれめ ささらなみ まなくたつめる うらをこそ よにあさしとも みつつわすれめ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
927 | 伊勢の海のちひろのはまにひろふとも今は何てふかひかあるへき いせのうみの ちひろのはまに ひろふとも いまはなにてふ かひかあるへき | 藤原敦忠朝臣 | 十三 | 恋五 |
928 | わすれねといひしにかなふ君なれととはぬはつらき物にそ有りける わすれねと いひしにかなふ きみなれと とはぬはつらき ものにそありける | 本院のくら | 十三 | 恋五 |
929 | 春霞はかなくたちてわかるとも風より外に誰かとふへき はるかすみ はかなくたちて わかるとも かせよりほかに たれかとふへき | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
930 | めにみえぬ風に心をたくへつつやらは霞のわかれこそせめ めにみえぬ かせにこころを たくへつつ やらはかすみの わかれこそせめ | 伊勢 | 十三 | 恋五 |
931 | ふか緑染めけん松のえにしあらはうすき袖にも浪はよせてん ふかみとり そめけむまつの えにしあらは うすきそてにも なみはよせてむ | さたもとのみこ | 十三 | 恋五 |
932 | 松山のすゑこす浪のえにしあらは君か袖にはあともとまらし まつやまの すゑこすなみの えにしあらは きみかそてには あともとまらし | 土左 | 十三 | 恋五 |
933 | 深く思ひそめつといひし事のははいつか秋風ふきてちりぬる ふかくおもひ そめつといひし ことのはは いつかあきかせ ふきてちりぬる | 贈太攻大臣(時平) | 十三 | 恋五 |
934 | 人をのみうらむるよりは心からこれいまさりしつみとおもはん ひとをのみ うらむるよりは こころから これいまさりし つみとおもはむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
935 | 葦引の山したしけくゆく水の流れてかくしとははたのまん あしひきの やましたしけく ゆくみつの なかれてかくし とははたのまむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
936 | わひはつる時さへ物のかなしきはいつこを忍ふ心なるらん わひはつる ときさへものの かなしきは いつこをしのふ こころなるらむ | 伊勢 | 十三 | 恋五 |
937 | いなせともいひはなたれすうき物は身を心ともせぬ世なりけり いなせとも いひはなたれす うきものは みをこころとも せぬよなりけり | 伊勢 | 十三 | 恋五 |
938 | こすやあらんきやせんとのみ河岸の松の心を思ひやらなん こすやあらむ きやせむとのみ かはきしの まつのこころを おもひやらなむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
939 | しひてゆくこまのあしをるはしをたになとわかやとにわたささりけん しひてゆく こまのあしをる はしをたに なとわかやとに わたささりけむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
940 | 年をへていけるかひなきわか身をは何かは人に有りとしられん としをへて いけるかひなき わかみをは なにかはひとに ありとしられむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
941 | あさりする時そわひしき人しれすなにはの浦にすまふわか身は あさりする ときそわひしき ひとしれす なにはのうらに すまふわかみは | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
942 | なかめつつ人まつよひのよふことりいつ方へとか行きかへるらむ なかめつつ ひとまつよひの よふことり いつかたへとか ゆきかへるらむ | 寛湛法師母 | 十三 | 恋五 |
943 | 人ことのたのみかたさはなにはなるあしのうらはのうらみつへしな ひとことの たのみかたさは なにはなる あしのうらはの うらみつへしな | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
944 | 人はかる心のくまはきたなくてきよきなきさをいかてすきけん ひとはかる こころのくまは きたなくて きよきなきさを いかてすきけむ | 少将内侍 | 十三 | 恋五 |
945 | たかためにわれかいのちを長浜の浦にやとりをしつつかはこし たかために われかいのちを なかはまの うらにやとりを しつつかはこし | 藤原兼輔朝臣 | 十三 | 恋五 |
946 | せきもあへす淵にそ迷ふ涙河わたるてふせをしるよしもかな せきもあへす ふちにそまよふ なみたかは わたるてふせを しるよしもかな | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
947 | 淵なから人かよはさし涙河わたらはあさきせをもこそ見れ ふちなから ひとかよはさし なみたかは わたらはあさき せをもこそみれ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
948 | きて帰る名をのみそ立つ唐衣したゆふひもの心とけねは きてかへる なをのみそたつ からころも したゆふひもの こころとけねは | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
949 | たえぬとも何思ひけん涙河流れあふせも有りけるものを たえぬとも なにおもひけむ なみたかは なかれあふせも ありけるものを | 内侍たひらけい子 | 十三 | 恋五 |
950 | 今ははやみ山をいてて郭公けちかきこゑを我にきかせよ いまははや みやまをいてて ほとときす けちかきこゑを われにきかせよ | 左太臣(実頼) | 十三 | 恋五 |
951 | 人はいさみ山かくれの郭公ならはぬさとはすみうかるへし ひとはいさ みやまかくれの ほとときす ならはぬさとは すみうかるへし | 大輔 | 十三 | 恋五 |
952 | 有りしたにうかりしものをあかすとていつこにそふるつらさなるらん ありしたに うかりしものを あかすとて いつこにそふる つらさなるらむ | 中務 | 十三 | 恋五 |
953 | 思ひわひ君かつらきにたちよらは雨も人めももらささらなん おもひわひ きみかつらきに たちよらは あめもひとめも もらささらなむ | 左太臣(実頼) | 十三 | 恋五 |
954 | ふえ竹の本のふるねはかはるともおのかよよにはならすもあらなん ふえたけの もとのふるねは かはるとも おのかよよには ならすもあらなむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
955 | めも見えす涙の雨のしくるれは身のぬれきぬはひるよしもなし めもみえす なみたのあめの しくるれは みのぬれきぬは ひるよしもなし | よしふるの朝臣 | 十三 | 恋五 |
956 | にくからぬ人のきせけんぬれきぬは思ひにあへす今かわきなん にくからぬ ひとのきせけむ ぬれきぬは おもひにあへす いまかわきなむ | 中将内侍 | 十三 | 恋五 |
957 | おほかたはせとたにかけしあまの河ふかき心をふちとたのまん おほかたは せとたにかけし あまのかは ふかきこころを ふちとたのまむ | 小野道風 | 十三 | 恋五 |
958 | 淵とてもたのみやはする天河年にひとたひわたるてふせを ふちとても たのみやはする あまのかは としにひとたひ わたるてふせを | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
959 | 身のならん事をもしらすこく舟は浪の心もつつまさりけり みのならむ ことをもしらす こくふねは なみのこころも つつまさりけり | きよかけの朝臣 | 十三 | 恋五 |
960 | わひぬれは今はたおなしなにはなる身をつくしてもあはんとそ思ふ わひぬれは いまはたおなし なにはなる みをつくしても あはむとそおもふ | 元良親王 | 十三 | 恋五 |
961 | 如何してかく思ふてふ事をたに人つてならて君にかたらん いかにして かくおもふてふ ことをたに ひとつてならて きみにかたらむ | 藤原敦忠朝臣 | 十三 | 恋五 |
962 | もろともにいさといはすはしての山こゆともこさむ物ならなくに もろともに いさといはすは してのやま こゆともこさむ ものならなくに | 朝忠朝臣 | 十三 | 恋五 |
963 | かくはかりふかき色にもうつろふを猶きみきくの花といはなん かくはかり ふかきいろにも うつろふを なほきみきくの はなといはなむ | きよかけの朝臣 | 十三 | 恋五 |
964 | いさやまた人の心も白露のおくにもとにも袖のみそひつ いさやまた ひとのこころも しらつゆの おくにもとにも そてのみそひつ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
965 | よるしほのみちくるそらもおもほえすあふこと浪に帰ると思へは よるしほの みちくるそらも おもほえす あふことなみに かへるとおもへは | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
966 | かすならぬ身は山のはにあらねともおほくの月をすくしつるかな かすならぬ みはやまのはに あらねとも おほくのつきを すくしつるかな | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
967 | たのめつつあはて年ふるいつはりにこりぬ心を人はしらなん たのめつつ あはてとしふる いつはりに こりぬこころを ひとはしらなむ | 在原業平朝臣 | 十三 | 恋五 |
968 | 夏虫のしるしる迷ふおもひをはこりぬかなしとたれかみさらん なつむしの しるしるまよふ おもひをは こりぬかなしと たれかみさらむ | 伊勢 | 十三 | 恋五 |
969 | 打ちわひてよははむ声に山ひこのこたへぬそらはあらしとそ思ふ うちわひて よははむこゑに やまひこの こたへぬやまは あらしとそおもふ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
970 | 山ひこのこゑのまにまにとひゆかはむなしきそらにゆきやかへらん やまひこの こゑのまにまに とひゆかは むなしきそらに ゆきやかへらむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
971 | 荒玉の年の三とせはうつせみのむなしきねをやなきてくらさむ あらたまの としのみとせは うつせみの むなしきねをや なきてくらさむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
972 | 流れいつる涙の河のゆくすゑはつひに近江のうみとたのまん なかれいつる なみたのかはの ゆくすゑは つひにあふみの うみとたのまむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
973 | 雨ふれとふらねとぬるるわか袖のかかるおもひにかわかぬやなそ あめふれと ふらねとぬるる わかそての かかるおもひに かわかぬやなそ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
974 | 露はかりぬるらん袖のかわかぬは君か思ひのほとやすくなき つゆはかり ぬるらむそての かわかぬは きみかおもひの ほとやすくなき | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
975 | 常よりもまとふまとふそ帰りつるあふ道もなきやとにゆきつつ つねよりも まとふまとふそ かへりつる あふみちもなき やとにゆきつつ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
976 | ぬれつつもくると見えしは夏引のてひきにたえぬいとにや有りけん ぬれつつも くるとみえしは なつひきの てひきにたえぬ いとにやありけむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
977 | かすならぬ身はうき草となりななんつれなき人によるへしられし かすならぬ みはうきくさと なりななむ つれなきひとに よるへしられし | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
978 | ゆふやみは道も見えねと旧里は本こし駒にまかせてそくる ゆふやみは みちもみえねと ふるさとは もとこしこまに まかせてそくる | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
979 | 駒にこそまかせたりけれあやなくも心のくると思ひけるかな こまにこそ まかせたりけれ あやなくも こころのくると おもひけるかな | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
980 | いつ方に事つてやりてかりかねのあふことまれに今はなるらん いつかたに ことつてやりて かりかねの あふことまれに いまはなるらむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
981 | 有りとたにきくへきものを相坂の関のあなたそはるけかりける ありとたに きくへきものを あふさかの せきのあなたそ はるけかりける | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
982 | 関もりかあらたまるてふ相坂のゆふつけ鳥はなきつつそゆく せきもりか あらたまるてふ あふさかの ゆふつけとりは なきつつそゆく | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
983 | ゆき帰りきてもきかなん相坂の関にかはれる人も有りやと ゆきかへり きてもきなかむ あふさかの せきにかはれる ひともありやと | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
984 | もる人のあるとはきけと相坂のせきもととめぬわかなみたかな もるひとの あるとはきけと あふさかの せきもととめぬ わかなみたかな | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
985 | 葛木やくめちにわたすいははしの中中にても帰りぬるかな かつらきや くめちにわたす いははしの なかなかにても かへりぬるかな | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
986 | 中たえてくる人もなきかつらきのくめちのはしはいまもあやふし なかたえて くるひともなき かつらきの くめちのはしは いまもあやふし | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
987 | 白雲のみなひとむらに見えしかとたちいてて君を思ひそめてき しらくもの みなひとむらに みえしかと たちいててきみを おもひそめてき | 藤原有好 | 十三 | 恋五 |
988 | よそなれと心はかりはかけたるをなとかおもひにかわかさるらん よそなれと こころはかりは かけたるを なとかおもひに かわかさるらむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
989 | わかこひのきゆるまもなくくるしきはあはぬ歎やもえわたるらん わかこひの きゆるまもなく くるしきは あはぬなけきや もえわたるらむ | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
990 | きえすのみもゆる思ひはとほけれと身もこかれぬる物にそ有りける きえすのみ もゆるおもひは とほけれと みもこかれぬる ものにそありける | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
991 | うへにのみおろかにもゆるかやり火のよにもそこには思ひこかれし うへにのみ おろかにもゆる かやりひの よにもそこには おもひこかれし | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
992 | 河とのみわたるを見るになくさまてくるしきことそいやまさりなる かはとのみ わたるをみるに なくさまて くるしきことそ いやまさりなる | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
993 | 水まさる心地のみしてわかためにうれしきせをは見せしとやする みつまさる ここちのみして わかために うれしきせをは みせしとやする | 読人知らず | 十三 | 恋五 |
994 | 逢ふ事をよとに有りてふみつのもりつらしと君を見つるころかな あふことを よとにありてふ みつのもり つらしときみを みつるころかな | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
995 | みつのもりもるこのころのなかめには怨みもあへすよとの河浪 みつのもり もるこのころの なかめには うらみもあへす よとのかはなみ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
996 | うき世とは思ふものからあまのとのあくるはつらき物にそ有りける うきよとは おもふものから あまのとの あくるはつらき ものにそありける | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
997 | うらむれとこふれと君かよとともにしらすかほにてつれなかるらん うらむれと こふれときみか よとともに しらすかほにて つれなかるらむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
998 | 怨むともこふともいかか雲井よりはるけき人をそらにしるへき うらむとも こふともいかか くもゐより はるけきひとを そらにしるへき | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
999 | しつはたにへつるほとなり白糸のたえぬる身とはおもはさらなん しつはたに へつるほとなり しらいとの たえぬるみとは おもはさらなむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1000 | へつるよりうすくなりにししつはたのいとはたえてもかひやなからん へつるより うすくなりにし しつはたの いとはたえても かひやなからむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1001 | くる事は常ならすともたまかつらたのみはたえしと思ふ心あり くることは つねならすとも たまかつら たのみはたえしと おもふこころあり | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1002 | 玉鬘たのめくる日のかすはあれとたえたえにてはかひなかりけり たまかつら たのめくるひの かすはあれと たえたえにては かひなかりけり | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1003 | いにしへの心はなくや成りにけんたのめしことのたえてとしふる いにしへの こころはなくや なりにけむ たのめしことの たえてとしふる | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1004 | いにしへも今も心のなけれはそうきをもしらて年をのみふる いにしへも いまもこころの なけれはそ うきをもしらて としをのみふる | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1005 | たえたりし昔たに見しうちはしを今はわたるとおとにのみきく たえたりし むかしたにみし うちはしを いまはわたると おとにのみきく | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1006 | わすられて年ふるさとの郭公なににひとこゑなきてゆくらん わすられて としふるさとの ほとときす なににひとこゑ なきてゆくらむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1007 | とふやとてすきなきやとにきにけれとこひしきことそしるへなりける とふやとて すきなきやとに きにけれと こひしきことそ しるへなりける | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1008 | 露のいのちいつともしらぬ世中になとかつらしと思ひおかるる つゆのいのち いつともしらぬ よのなかに なとかつらしと おもひおかるる | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1009 | かり人のたつぬるしかはいなひのにあはてのみこそあらまほしけれ かりひとの たつぬるしかは いなみのに あはてのみこそ あらまほしけれ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1010 | を山田の水ならなくにかくはかり流れそめてはたえんものかは をやまたの みつならなくに かくはかり なかれそめては たえむものかは | 右大臣(師輔) | 十四 | 恋六 |
1011 | 月にたにまつほとおほくすきぬれは雨もよにこしとおもほゆるかな つきにたに まつほとおほく すきぬれは あめもよにこしと おもほゆるかな | 在原業平のむすめいまき | 十四 | 恋六 |
1012 | 思ひつつまたいひそめぬわかこひをおなし心にしらせてしかな おもひつつ またいひそめぬ わかこひを おなしこころに しらせてしかな | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1013 | あすか河心の内になかるれはそこのしからみいつかよとまん あすかかは こころのうちに なかるれは そこのしからみ いつかよとまむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1014 | ふしのねをよそにそききし今はわか思ひにもゆる煙なりけり ふしのねを よそにそききし いまはわか おもひにもゆる けふりなりけり | 朝綱朝臣 | 十四 | 恋六 |
1015 | しるしなき思ひとそきくふしのねもかことはかりの煙なるらん しるしなき おもひとそきく ふしのねも かことはかりの けふりなるらむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1016 | いひさしてととめらるなる池水の波いつかたに思ひよるらん いひさして ととめらるなる いけみつの なみいつかたに おもひよるらむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1017 | しられしなわかひとしれぬ心もて君を思ひのなかにもゆとは しられしな わかひとしれぬ こころもて きみをおもひの なかにもゆとは | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1018 | あふはかりなくてのみふるわかこひを人めにかくる事のわひしさ あふはかり なくてのみふる わかこひを ひとめにかくる ことのわひしさ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1019 | 夏衣身にはなるともわかためにうすき心はかけすもあらなん なつころも みにはなるとも わかために うすきこころは かけすもあらなむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1020 | いかにして事かたらはん郭公歎のしたになけはかひなし いかにして ことかたらはむ ほとときす なけきのしたに なけはかひなし | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1021 | 思ひつつへにける年をしるへにてなれぬる物は心なりけり おもひつつ へにけるとしを しるへにて なれぬるものは こころなりけり | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1022 | 我ならぬ人住の江の岸にいててなにはの方を怨みつるかな われならぬ ひとすみのえの きしにいてて なにはのかたを うらみつるかな | 源ととのふ | 十四 | 恋六 |
1023 | にこりゆく水には影の見えはこそあしまよふえをととめても見め にこりゆく みつにはかけの みえはこそ あしまよふえを ととめてもみめ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1024 | 菅原や伏見の里のあれしよりかよひし人の跡もたえにき すかはらや ふしみのさとの あれしより かよひしひとの あともたえにき | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1025 | ちはやふる神にもあらぬわかなかの雲井遥に成りもゆくかな ちはやふる かみにもあらぬ わかなかの くもゐはるかに なりもゆくかな | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1026 | 千早振神にも何にたとふらんおのれくもゐに人をなしつつ ちはやふる かみにもなにに たとふらむ おのれくもゐに ひとをなしつつ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1027 | うきしつみふちせにさわくにほとりはそこものとかにあらしとそ思ふ うきしつみ ふちせにさわく にほとりは そこものとかに あらしとそおもふ | 敦慶親王 | 十四 | 恋六 |
1028 | 松山に浪たかきおとそきこゆなる我よりこゆる人はあらしを まつやまに なみたかきおとそ きこゆなる われよりこゆる ひとはあらしを | 藤原守文 | 十四 | 恋六 |
1029 | さしてこと思ひしものをみかさ山かひなく雨のもりにけるかな さしてこと おもひしものを みかさやま かひなくあめの もりにけるかな | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1030 | もるめのみあまたみゆれはみかさ山しるしるいかかさしてゆくへき もるめのみ あまたみゆれは みかさやま しるしるいかか さしてゆくへき | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1031 | なくさむることのはにたにかからすは今もけぬへき露の命を なくさむる ことのはにたに かからすは いまもけぬへき つゆのいのちを | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1032 | ひとしれすまつにねられぬ晨明の月にさへこそあさむかれけれ ひとしれす まつにねられぬ ありあけの つきにさへこそ あさむかれけれ | 兵衛 | 十四 | 恋六 |
1033 | 竜田河たちなは君か名ををしみいはせのもりのいはしとそ思ふ たつたかは たちなはきみか なををしみ いはせのもりの いはしとそおもふ | 元方 | 十四 | 恋六 |
1034 | うたののはみみなし山かよふこ鳥よふこゑにたにこたへさるらん うたののは みみなしやまか よふことり よふこゑにたに こたへさるらむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1035 | 耳なしの山ならすともよふことり何かはきかん時ならぬねを みみなしの やまならすとも よふことり なにかはきかむ ときならぬねを | 女五のみこ | 十四 | 恋六 |
1036 | こひわひてしぬてふことはまたなきを世のためしにもなりぬへきかな こひわひて しぬてふことは またなきを よのためしにも なりぬへきかな | 壬生忠岑 | 十四 | 恋六 |
1037 | 影見れはおくへいりける君によりなとか涙のとへはいつらむ かけみれは おくへいりける きみにより なとかなみたの とへはいつらむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1038 | しらさりし時たにこえし相坂をなと今更にわれ迷ふらん しらさりし ときたにこえし あふさかを なといまさらに われまよふらむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1039 | あかすして枕のうへに別れにしゆめちを又もたつねてしかな あかすして まくらのうへに わかれにし ゆめちをまたも たつねてしかな | 藤原かけもと | 十四 | 恋六 |
1040 | おともせすなりもゆくかなすすか山こゆてふなのみたかくたちつつ おともせす なりもゆくかな すすかやま こゆてふなのみ たかくたちつつ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1041 | こえぬてふ名をなうらみそすすか山いととまちかくならんと思ふを こえぬてふ なをなうらみそ すすかやま いととまちかく ならむとおもふを | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1042 | わかためにかつはつらしと見山木のこりともこりぬかかるこひせし わかために かつはつらしと みやまきの こりともこりぬ かかるこひせし | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1043 | あふこなき身とはしるしる恋すとて歎こりつむ人はよきかは あふこなき みとはしるしる こひすとて なけきこりつむ ひとはよきかは | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1044 | あさことに露はおけとも人こふるわか事のはは色もかはらす あさことに つゆはおけとも ひとこふる わかことのはは いろもかはらす | 戒仙法師 | 十四 | 恋六 |
1045 | まちかくてつらきを見るはうけれともうきはものかはこひしきよりは まちかくて つらきをみるは うけれとも うきはものかは こひしきよりは | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1046 | つくしなる思ひそめ河わたりなは水やまさらんよとむ時なく つくしなる おもひそめかは わたりなは みつやまさらむ よとむときなく | 藤原さねたた | 十四 | 恋六 |
1047 | 渡りてはあたになるてふ染河の心つくしになりもこそすれ わたりては あたになるてふ そめかはの こころつくしに なりもこそすれ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1048 | 花さかりすくしし人はつらけれと事のはをさへかくしやはせん はなさかり すくししひとは つらけれと ことのはをさへ かくしやはせむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1049 | とふことをまつに月日はこゆるきのいそにやいてて今はうらみん とふことを まつにつきひは こゆるきの いそにやいてて いまはうらみむ | 右近 | 十四 | 恋六 |
1050 | 忘草名をもゆゆしみかりにてもおふてふやとはゆきてたに見し わすれくさ なをもゆゆしみ かりにても おふてふやとは ゆきてたにみし | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1051 | うきことのしけきやとには忘草うゑてたにみし秋そわひしき うきことの しけきやとには わすれくさ うゑてたにみし あきそわひしき | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1052 | かすしらぬ思ひは君にあるものをおき所なき心地こそすれ かすしらぬ おもひはきみに あるものを おきところなき ここちこそすれ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1053 | おき所なき思ひとしききつれは我にいくらもあらしとそ思ふ おきところ なきおもひとし ききつれは われにいくらも あらしとそおもふ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1054 | わかたちてきるこそうけれ夏衣おほかたとのみ見へきうすさを わかたちて きるこそうけれ なつころも おほかたとのみ みへきうすさを | 南院式部卿のみこのむすめ | 十四 | 恋六 |
1055 | やへむくらさしてし門を今更に何にくやしくあけてまちけん やへむくら さしてしかとを いまさらに なににくやしく あけてまちけむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1056 | さをしかのつまなきこひを高砂のをのへのこ松ききもいれなん さをしかの つまなきこひを たかさこの をのへのこまつ ききもいれなむ | 源庶明朝臣 | 十四 | 恋六 |
1057 | さをしかの声高砂にきこえしはつまなき時のねにこそ有りけれ さをしかの こゑたかさこに きこえしは つまなきときの ねにこそありけれ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1058 | せきもあへす涙の河のせをはやみかからん物と思ひやはせし せきもあへす なみたのかはの せをはやみ かからむものと おもひやはせし | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1059 | せをはやみたえすなかるる水よりもたえせぬ物はこひにそ有りける せをはやみ たえすなかるる みつよりも たえせぬものは こひにそありける | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1060 | こふれともあふよなき身は忘草夢ちにさへやおひしけるらん こふれとも あふよなきみは わすれくさ ゆめちにさへや おひしけるらむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1061 | 世中のうきはなへてもなかりけりたのむ限そ怨みられける よのなかの うきはなへても なかりけり たのむかきりそ うらみられける | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1062 | ゆふされは思ひそしけきまつ人のこむやこしやの定なけれは ゆふされは おもひそしけき まつひとの こむやこしやの さためなけれは | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1063 | いとはれてかへりこしちのしら山はいらぬに迷ふ物にそ有りける いとはれて かへりこしちの しらやまは いらぬにまよふ ものにそありける | 源よしの朝臣 | 十四 | 恋六 |
1064 | 人浪にあらぬわか身はなにはなるあしのねのみそしたになかるる ひとなみに あらぬわかみは なにはなる あしのねのみそ したになかるる | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1065 | 白雲のゆくへき山はさたまらす思ふ方にも風はよせなん しらくもの ゆくへきやまは さたまらす おもふかたにも かせはよせなむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1066 | 世中に猶有あけの月なくてやみに迷ふをとはぬつらしな よのなかに なほありあけの つきなくて やみにまよふを とはぬつらしな | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1067 | あすか河せきてととむる物ならはふちせになるとなとかいはれん あすかかは せきてととむる ものならは ふちせになると なとかいはれむ | 贈太攻大臣(時平) | 十四 | 恋六 |
1068 | 身をつめはあはれとそ思ふはつ雪のふりぬることもたれにいはまし みをつめは あはれとそおもふ はつゆきの ふりぬることも たれにいはまし | 右近 | 十四 | 恋六 |
1069 | 冬なれと君かかきほにさきけれはむへとこ夏にこひしかりけり ふゆなれと きみかかきほに さきけれは うへとこなつに こひしかりけり | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1070 | 白雪のけさはつもれる思ひかなあはてふる夜のほともへなくに しらゆきの けさはつもれる おもひかな あはてふるよの ほともへなくに | 兼輔朝臣 | 十四 | 恋六 |
1071 | しらゆきのつもる思ひもたのまれす春よりのちはあらしとおもへは しらゆきの つもるおもひも たのまれす はるよりのちは あらしとおもへは | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1072 | わかこひし君かあたりをはなれねはふる白雪もそらにきゆらん わかこひし きみかあたりを はなれねは ふるしらゆきも そらにきゆらむ | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1073 | 山かくれきえせぬ雪のわひしきは君まつのはにかかりてそふる やまかくれ きえせぬゆきの わひしきは きみまつのはに かかりてそふる | 読人知らず | 十四 | 恋六 |
1074 | あらたまの年はけふあすこえぬへし相坂山を我やおくれん あらたまの としはけふあす こえぬへし あふさかやまを われやおくれむ | 藤原ときふる | 十四 | 恋六 |
1075 | 嵯峨の山みゆきたえにしせり河の千世のふるみちあとは有りけり さかのやま みゆきたえにし せりかはの ちよのふるみち あとはありけり | 在原行平朝臣 | 十五 | 雑一 |
1076 | おきなさひ人なとかめそ狩衣けふはかりとそたつもなくなる おきなさひ ひとなとかめそ かりころも けふはかりとそ たつもなくなる | 在原行平朝臣 | 十五 | 雑一 |
1077 | 今まてになとかは花のさかすしてよそとせあまり年きりはする いままてに なとかははなの さかすして よそとせあまり としきりはする | 贈太攻大臣(時平) | 十五 | 雑一 |
1078 | はるはるのかすはわすれす有りなから花さかぬ木をなににうゑけん はるはるの かすはわすれす ありなから はなさかぬきを なににうゑけむ | 紀友則 | 十五 | 雑一 |
1079 | 世とともに峰へふもとへおりのほりゆく雲の身は我にそ有りける よとともに みねへふもとへ おりのほり ゆくくものみは われにそありける | 平中興 | 十五 | 雑一 |
1080 | 事しけししはしはたてれよひのまにおけらんつゆはいててはらはん ことしけし しはしはたてれ よひのまに おけらむつゆは いててはらはむ | 嵯峨后 | 十五 | 雑一 |
1081 | てる月をまさ木のつなによりかけてあかすわかるる人をつなかん てるつきを まさきのつなに よりかけて あかすわかるる ひとをつなかむ | 河原左大臣(融) | 十五 | 雑一 |
1082 | 限なきおもひのつなのなくはこそまさきのかつらよりもなやまめ かきりなき おもひのつなの なくはこそ まさきのかつら よりもなやまめ | 在原行平朝臣 | 十五 | 雑一 |
1083 | すみわひぬ今は限と山さとにつまきこるへきやともとめてむ すみわひぬ いまはかきりと やまさとに つまきこるへき やともとめてむ | 在原業平朝臣 | 十五 | 雑一 |
1084 | 葦引の山におひたるしらかしのしらしな人をくち木なりとも あしひきの やまにおひたる しらかしの しらしなひとを くちきなりとも | 躬恒 | 十五 | 雑一 |
1085 | 伊勢の海のつりのうけなるさまなれとふかき心はそこにしつめり いせのうみの つりのうけなる さまなれと ふかきこころは そこにしつめり | 躬恒 | 十五 | 雑一 |
1086 | 白河のたきのいと見まほしけれとみたりに人はよせしものをや しらかはの たきのいとみま ほしけれと みたりにひとは よせしものをや | 中務 | 十五 | 雑一 |
1087 | しらかはのたきのいとなみみたれつつよるをそ人はまつといふなる しらかはの たきのいとなみ みたれつつ よるをそひとは まつといふなる | 太政大臣(忠平) | 十五 | 雑一 |
1088 | はちすはのはひにそ人は思ふらん世にはこひちの中におひつつ はちすはの はひにそひとは おもふらむ よにはこひちの なかにおひつつ | 読人知らず | 十五 | 雑一 |
1089 | これやこのゆくも帰るも別れつつしるもしらぬもあふさかの関 これやこの ゆくもかへるも わかれつつ しるもしらぬも あふさかのせき | 蝉丸 | 十五 | 雑一 |
1090 | あまのすむ浦こく舟のかちをなみ世を海わたる我そ悲しき あまのすむ うらこくふねの かちをなみ よをうみわたる われそかなしき | 小野小町 | 十五 | 雑一 |
1091 | 浜千鳥かひなかりけりつれもなきひとのあたりはなきわたれとも はまちとり かひなかりけり つれもなき ひとのあたりは なきわたれとも | 読人知らず | 十五 | 雑一 |
1092 | このみゆきちとせかへても見てしかなかかる山ふし時にあふへく このみゆき ちとせかへても みてしかな かかるやまふし ときにあふへく | 素性法師 | 十五 | 雑一 |
1093 | おとにきく松かうらしまけふそ見るむへも心あるあまはすみけり おとにきく まつかうらしま けふそみる うへもこころある あまはすみけり | 素性法師 | 十五 | 雑一 |
1094 | 我のみは立ちもかへらぬ暁にわきてもおける袖のつゆかな われのみは たちもかへらぬ あかつきに わきてもおける そてのつゆかな | 右衛門 | 十五 | 雑一 |
1095 | しほといへはなくてもからき世中にいかてあへたるたたみなるらん しほといへは なくてもからき よのなかに いかてあへたる たたみなるらむ | 忠見 | 十五 | 雑一 |
1096 | 住吉の岸ともいはしおきつ浪猶うちかけようらはなくとも すみよしの きしともいはし おきつなみ なほうちかけよ うらはなくとも | 藤原元輔 | 十五 | 雑一 |
1097 | 事のはにたえせぬつゆはおくらんや昔おほゆるまとゐしたれは ことのはに たえせぬつゆは おくらむや むかしおほゆる まとゐしたれは | 七条のきさき | 十五 | 雑一 |
1098 | 海とのみまとゐの中はなりぬめりそなからあらぬかけのみゆれは うみとのみ まとゐのなかは なりぬめり そなからあらぬ かけのみゆれは | 伊勢 | 十五 | 雑一 |
1099 | 何せんにへたのみるめを思ひけんおきつたまもをかつく身にして なにせむに へたのみるめを おもひけむ おきつたまもを かつくみにして | 大伴黒主 | 十五 | 雑一 |
1100 | ひるなれや見そまかへつる月影をけふとやいはむきのふとやいはん ひるなれや みそまかへつる つきかけを けふとやいはむ きのふとやいはむ | 躬恒 | 十五 | 雑一 |
1101 | くやしくそあまつをとめとなりにける雲ちたつぬる人もなきよに くやしくそ あまつをとめと なりにける くもちたつぬる ひともなきよに | 藤原滋包かむすめ | 十五 | 雑一 |
1102 | 人のおやの心はやみにあらねとも子を思ふ道にまとひぬるかな ひとのおやの こころはやみに あらねとも こをおもふみちに まとひぬるかな | 藤原兼輔朝臣 | 十五 | 雑一 |
1103 | なにはかた何にもあらすみをつくしふかき心のしるしはかりそ なにはかた なににもあらす みをつくし ふかきこころの しるしはかりそ | 大江玉淵朝臣女 | 十五 | 雑一 |
1104 | あけてたに何にかは見むみつのえのうらしまのこを思ひやりつつ あけてたに なににかはみむ みつのえの うらしまのこを おもひやりつつ | 中務 | 十五 | 雑一 |
1105 | 年をへてにこりたにせぬさひえには玉も帰りて今そすむへき としをへて にこりたにせぬ さひえには たまもかへりて いまそすむへき | 壬生忠岑 | 十五 | 雑一 |
1106 | 旧里のみかさの山はとほけれと声は昔のうとからぬかな ふるさとの みかさのやまは とほけれと こゑはむかしの うとからぬかな | 藤原兼輔朝臣 | 十五 | 雑一 |
1107 | ひきてうゑし人はむへこそ老いにけれ松のこたかく成りにけるかな ひきうゑし ひとはうへこそ おいにけれ まつのこたかく なりにけるかな | 躬恒 | 十五 | 雑一 |
1108 | を山田のおとろかしにもこさりしをいとひたふるににけしきみかな をやまたの おとろかしにも こさりしを いとひたふるに にけしきみかな | 読人知らず | 十五 | 雑一 |
1109 | いかてかの年きりもせぬたねもかなあれたるやとにうゑて見るへく いかてかの としきりもせぬ たねもかな あれたるやとに うゑてみるへく | むすめの女御 | 十五 | 雑一 |
1110 | 春ことに行きてのみみむ年きりもせすといふたねはおひぬとかきく はることに ゆきてのみみむ としきりも せすといふたねは おひぬとかきく | 斎宮のみこ | 十五 | 雑一 |
1111 | 思ひきや君か衣をぬきかへてこき紫の色をきむとは おもひきや きみかころもを ぬきかへて こきむらさきの いろをきむとは | 右大臣(師輔) | 十五 | 雑一 |
1112 | いにしへも契りてけりなうちはふきとひ立ちぬへしあまのは衣 いにしへも ちきりてけりな うちはふき とひたちぬへし あまのはころも | 庶明朝臣 | 十五 | 雑一 |
1113 | ふるさとのならの宮この始よりなれにけりともみゆる衣か ふるさとの ならのみやこの はしめより なれにけりとも みゆるころもか | 大輔 | 十五 | 雑一 |
1114 | ふりぬとて思ひもすてし唐衣よそへてあやな怨みもそする ふりぬとて おもひもすてし からころも よそへてあやな うらみもそする | 雅正 | 十五 | 雑一 |
1115 | 流れての世をもたのます水のうへのあわにきえぬるうき身とおもへは なかれての よをもたのます みつのうへの あわにきえぬる うきみとおもへは | 大江千里 | 十五 | 雑一 |
1116 | むはたまのこよひはかりそあけ衣あけなは人をよそにこそ見め うはたまの こよひはかりそ あけころも あけなはひとを よそにこそみめ | 藤原兼輔朝臣 | 十五 | 雑一 |
1117 | 人わたす事たになきをなにしかもなからのはしと身のなりぬらん ひとわたす ことたになきを なにしかも なからのはしと みのなりぬらむ | 七条后 | 十五 | 雑一 |
1118 | ふるる身は涙の中にみゆれはやなからのはしにあやまたるらん ふるるみは なみたのうちに みゆれはや なからのはしに あやまたるらむ | 伊勢 | 十五 | 雑一 |
1119 | ひとりのみなかめてとしをふるさとのあれたるさまをいかに見るらむ ひとりのみ なかめてとしを ふるさとの あれたるさまを いかにみるらむ | 敦慶親王 | 十五 | 雑一 |
1120 | まめなれとあたなはたちぬたはれしまよる白浪をぬれきぬにきて まめなれと あたなはたちぬ たはれしま よるしらなみを ぬれきぬにきて | 朝綱朝臣 | 十五 | 雑一 |
1121 | 年をへてたのむかひなしときはなる松のこすゑも色かはりゆく としをへて たのむかひなし ときはなる まつのこすゑも いろかはりゆく | 読人知らず | 十五 | 雑一 |
1122 | へたてける人の心のうきはしをあやふきまてもふみみつるかな へたてける ひとのこころの うきはしを あやふきまても ふみみつるかな | 四条御息所女 | 十五 | 雑一 |
1123 | 玉匣ふたとせあはぬ君かみをあけなからやはあらむと思ひし たまくしけ ふたとせあはぬ きみかみを あけなからやは あらむとおもひし | 源公忠朝臣 | 十五 | 雑一 |
1124 | あけなから年ふることは玉匣身のいたつらになれはなりけり あけなから としふることは たまくしけ みのいたつらに なれはなりけり | 小野好古朝臣 | 十五 | 雑一 |
1125 | たのまれぬうき世中を歎きつつ日かけにおふる身を如何せん たのまれぬ うきよのなかを なけきつつ ひかけにおふる みをいかにせむ | 在原業平朝臣 | 十六 | 雑二 |
1126 | 相坂のゆふつけになく鳥のねをききとかめすそ行きすきにける あふさかの ゆふつけになく とりのねを ききとかめすそ ゆきすきにける | 藤原敏行朝臣 | 十六 | 雑二 |
1127 | み山よりひひききこゆるひくらしの声をこひしみ今もけぬへし みやまより ひひききこゆる ひくらしの こゑをこひしみ いまもけぬへし | 宣旨 | 十六 | 雑二 |
1128 | ひくらしの声を恋しみけぬへくはみ山とほりにはやもきねかし ひくらしの こゑをこひしみ けぬへくは みやまとほりに はやもきねかし | 贈太攻大臣(時平) | 十六 | 雑二 |
1129 | ちかはれしかもの河原に駒とめてしはし水かへ影をたに見む ちかはれし かものかはらに こまとめて しはしみつかへ かけをたにみむ | 朝綱朝臣の母 | 十六 | 雑二 |
1130 | わかのりし事をうしとやきえにけん草はにかかる露の命は わかのりし ことをうしとや きえにけむ くさはにかかる つゆのいのちは | 閑院のこ | 十六 | 雑二 |
1131 | かくてのみやむへきものかちはやふるかもの社のよろつ世を見む かくてのみ やむへきものか ちはやふる かものやしろの よろつよをみむ | 三条右大臣(定方) | 十六 | 雑二 |
1132 | みこしをかいくその世世に年をへてけふのみ行をまちてみつらん みこしをか いくそのよよに としをへて けふのみゆきを まちてみつらむ | 枇杷左大臣 | 十六 | 雑二 |
1133 | いつれをか雨ともわかむ山ふしのおつる涙もふりにこそふれ いつれをか あめともわかむ やまふしの おつるなみたも ふりにこそふれ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1134 | 思ひにはきゆる物そとしりなからけさしもおきてなににきつらん おもひには きゆるものそと しりなから けさしもおきて なににきつらむ | 藤原興風 | 十六 | 雑二 |
1135 | めつらしや昔なからの山の井はしつめる影そくちはてにける めつらしや むかしなからの やまのゐは しつめるかけそ くちはてにける | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1136 | うち河の浪にみなれし君ませは我もあしろによりぬへきかな うちかはの なみにみなれし きみませは われもあしろに よりぬへきかな | 大江興俊 | 十六 | 雑二 |
1137 | 吹きいつるね所たかくきこゆなりはつ秋風はいさてならさし ふきいつる ねところたかく きこゆなり はつあきかせは いさてならさし | 小弐のめのと | 十六 | 雑二 |
1138 | 心してまれに吹きつる秋風を山おろしにはなさしとそ思ふ こころして まれにふきつる あきかせを やまおろしには なさしとそおもふ | 大輔 | 十六 | 雑二 |
1139 | はかなくてたえなんくものいとゆゑに何にかおほくかかんとそ思ふ はかなくて たえなむくもの いとゆゑに なににかおほく かかむとそおもふ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1140 | 昔よりくらまの山といひけるはわかこと人もよるやこえけん むかしより くらまのやまと いひけるは わかことひとも よるやこえけむ | 亭子院にいまあことめしける人 | 十六 | 雑二 |
1141 | 雲井ちのはるけきほとのそら事はいかなる風の吹きてつけけん くもゐちの はるけきほとの そらことは いかなるかせの ふきてつけけむ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1142 | あま雲のうきたることとききしかと猶そ心はそらになりにし あまくもの うきたることと ききしかと なほそこころは そらになりにし | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1143 | やれはをしやらねは人に見えぬへしなくなくも猶かへすまされり やれはをし やらねはひとに みえぬへし なくなくもなほ かへすまされり | 元良親王 | 十六 | 雑二 |
1144 | もち月のこまよりおそくいてつれはたとるたとるそ山はこえつる もちつきの こまよりおそく いてつれは たとるたとるそ やまはこえつる | 素性法師 | 十六 | 雑二 |
1145 | よろつ世を契りし事のいたつらに人わらへにもなりぬへきかな よろつよを ちきりしことの いたつらに ひとわらへにも なりぬへきかな | 藤原敦敏 | 十六 | 雑二 |
1146 | かけていへはゆゆしきものを万代と契りし事やかなはさるへき かけていへは ゆゆしきものを よろつよと ちきりしことや かなはさるへき | 大輔 | 十六 | 雑二 |
1147 | ちると見てそてにうくれとたまらぬはあれたる浪の花にそ有りける ちるとみて そてにうくれと たまらぬは あれたるなみの はなにそありける | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1148 | たちさわく浪まをわけてかつきてしおきのもくつをいつかわすれん たちさわく なみまをわけて かつきてし おきのもくつを いつかわすれむ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1149 | かつきいてしおきのもくつをわすれすはそこのみるめを我にからせよ かつきいてし おきのもくつを わすれすは そこのみるめを われにからせよ | 輔臣朝臣 | 十六 | 雑二 |
1150 | 限なく思ふ心はつくはねのこのもやいかかあらんとすらん かきりなく おもふこころは つくはねの このもやいかか あらむとすらむ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1151 | 思ひいててとふ事のはをたれみまし身の白雲と成りなましかは おもひいてて とふことのはを たれみまし みのしらくもと なりなましかは | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1152 | わすれなんと思ふ心のつくからに事のはさへやいへはゆゆしき わすれなむと おもふこころの つくからに ことのはさへや いへはゆゆしき | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1153 | かくれゐてわかうきさまを水のうへのあわともはやく思ひきえなん かくれゐて わかうきさまを みつのうへの あわともはやく おもひきえなむ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1154 | 人心いさやしら浪たかけれはよらむなきさそかねてかなしき ひとこころ いさやしらなみ たかけれは よらむなきさそ かねてかなしき | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1155 | なほき木にまかれる枝もあるものをけをふききすをいふかわりなさ なほききに まかれるえたも あるものを けをふききすを いふかわりなさ | 高津内親王 | 十六 | 雑二 |
1156 | うつろはぬ心のふかく有りけれはここらちる花春にあへること うつろはぬ こころのふかく ありけれは ここらちるはな はるにあへること | 嵯峨后 | 十六 | 雑二 |
1157 | 玉たれのあみめのまよりふく風のさむくはそへていれん思ひを たまたれの あみめのまより ふくかせの さむくはそへて いれむおもひを | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1158 | 白浪のうちさわかれてたちしかは身をうしほにそ袖はぬれにし しらなみの うちさわかれて たちしかは みをうしほにそ そてはぬれにし | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1159 | とりもあへすたちさわかれしあた浪にあやなく何に袖のぬれけん とりもあへす たちさわかれし あたなみに あやなくなにに そてのぬれけむ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1160 | たたちともたのまさらなん身にちかき衣の関もありといふなり たたちとも たのまさらなむ みにちかき ころものせきも ありといふなり | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1161 | あはぬまに恋しき道もしりにしをなとうれしきに迷ふ心そ あはぬまに こひしきみちも しりにしを なとうれしきに まよふこころそ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1162 | いかなりしふしにかいとのみたれけんしひてくれともとけすみゆるは いかなりし ふしにかいとの みたれけむ しひてくれとも とけすみゆるは | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1163 | 身なくとも人にしられし世中にしられぬ山をしるよしもかな みなくとも ひとにしられし よのなかに しられぬやまを しるよしもかな | 賀朝法師 | 十六 | 雑二 |
1164 | 世中にしられぬ山に身なくとも谷の心やいはておもはむ よのなかに しられぬやまに みなくとも たにのこころや いはておもはむ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1165 | おとにのみききてはやましあさくともいさくみみてん山の井の水 おとにのみ ききてはやまし あさくとも いさくみみてむ やまのゐのみつ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1166 | しての山たとるたとるもこえななてうき世中になにかへりけん してのやま たとるたとるも こえななて うきよのなかに なにかへりけむ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1167 | かすならぬ身をもちににて吉野山高き歎を思ひこりぬる かすならぬ みをもちににて よしのやま たかきなけきを おもひこりぬる | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1168 | 吉野山こえん事こそかたからめこらむ歎のかすはしりなん よしのやま こえむことこそ かたからめ こらむなけきの かすはしりなむ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1169 | かすならぬ身におくよひの白玉は光見えさす物にそ有りける かすならぬ みにおくよひの しらたまは ひかりみえさす ものにそありける | 武蔵 | 十六 | 雑二 |
1170 | なにはかたみきはのあしのおいかよに怨みてそふる人の心を なにはかた みきはのあしの おいかよに うらみてそふる ひとのこころを | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1171 | わするとは怨みさらなんはしたかのとかへる山のしひはもみちす わするとは うらみさらなむ はしたかの とかへるやまの しひはもみちす | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1172 | をちこちの人めまれなる山里に家ゐせんとは思ひきや君 をちこちの ひとめまれなる やまさとに いへゐせむとは おもひきやきみ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1173 | 身をうしと人しれぬ世を尋ねこし雲のやへ立つ山にやはあらぬ みをうしと ひとしれぬよを たつねこし くものやへたつ やまにやはあらぬ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1174 | あさなけに世のうきことをしのひつつなかめせしまに年はへにけり あさなけに よのうきことを しのひつつ なかめせしまに としはへにけり | 土左 | 十六 | 雑二 |
1175 | 春やこし秋やゆきけんおほつかな影の朽木と世をすくす身は はるやこし あきやゆきけむ おほつかな かけのくちきと よをすくすみは | 閑院 | 十六 | 雑二 |
1176 | 世中はうき物なれや人ことのとにもかくにもきこえくるしき よのなかは うきものなれや ひとことの とにもかくにも きこえくるしき | 紀貫之 | 十六 | 雑二 |
1177 | 武蔵野は袖ひつはかりわけしかとわか紫はたつねわひにき むさしのは そてひつはかり わけしかと わかむらさきは たつねわひにき | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1178 | おほあらきのもりの草とやなりにけむかりにたにきてとふ人のなき おほあらきの もりのくさとや なりにけむ かりにたにきて とふひとのなき | 壬生忠岑 | 十六 | 雑二 |
1179 | あはれてふ事こそつねのくちのはにかかるや人を思ふなるらん あはれてふ ことこそつねの くちのはに かかるやひとを おもふなるらむ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1180 | 吹く風のしたのちりにもあらなくにさもたちやすきわかなきなかな ふくかせの したのちりにも あらなくに さもたちやすき わかなきなかな | 伊勢 | 十六 | 雑二 |
1181 | ふるさとのさほの河水けふも猶かくてあふせはうれしかりけり ふるさとの さほのかはみつ けふもなほ かくてあふせは うれしかりけり | 閑院左大臣 | 十六 | 雑二 |
1182 | わかやとをいつならしてかならのはをならしかほにはをりにおこする わかやとを いつならしてか ならのはを ならしかほには をりにおこする | 俊子 | 十六 | 雑二 |
1183 | ならの葉のはもりの神のましけるをしらてそをりしたたりなさるな ならのはの はもりのかみの ましけるを しらてそをりし たたりなさるな | 枇杷左大臣 | 十六 | 雑二 |
1184 | 帰りては声やたかはむふえ竹のつらきひとよのかたみと思へは かへりては こゑやたかはむ ふえたけの つらきひとよの かたみとおもへは | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1185 | ひとふしに怨みなはてそ笛竹のこゑの内にも思ふ心あり ひとふしに うらみなはてそ ふえたけの こゑのうちにも おもふこころあり | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1186 | 人につくたよりたになしおほあらきのもりのしたなる草の身なれは ひとにつく たよりたになし おほあらきの もりのしたなる くさのみなれは | 躬恒 | 十六 | 雑二 |
1187 | 結ひおきしかたみのこたになかりせは何に忍の草をつままし むすひおきし かたみのこたに なかりせは なににしのふの くさをつままし | 兼忠朝臣母のめのと | 十六 | 雑二 |
1188 | うれしきもうきも心はひとつにてわかれぬ物は涙なりけり うれしきも うきもこころは ひとつにて わかれぬものは なみたなりけり | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1189 | をしからてかなしき物は身なりけりうき世そむかん方をしらねは をしからて かなしきものは みなりけり うきよそむかむ かたをしらねは | 紀貫之 | 十六 | 雑二 |
1190 | 思ひいつる時そかなしき世中はそら行く雲のはてをしらねは おもひいつる ときそかなしき よのなかは そらゆくくもの はてをしらねは | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1191 | あはれともうしともいはしかけろふのあるかなきかにけぬるよなれは あはれとも うしともいはし かけろふの あるかなきかに けぬるよなれは | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1192 | あはれてふ事になくさむ世中をなとか昔といひてすくらん あはれてふ ことになくさむ よのなかを なとかむかしと いひてすくらむ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1193 | 物思ふと行きても見ねはたかかたのあまのとまやはくちやしぬらん ものおもふと ゆきてもみねは たかかたの あまのとまやは くちやしぬらむ | 読人知らず | 十六 | 雑二 |
1194 | 夢にたにうれしとも見はうつつにてわひしきよりは猶まさりなん ゆめにたに うれしともみは うつつにて わひしきよりは なほまさりなむ | 躬恒 | 十六 | 雑二 |
1195 | いはのうへに旅ねをすれはいとさむし音の衣を我にかさなん いはのうへに たひねをすれは いとさむし こけのころもを われにかさなむ | 小野小町 | 十七 | 雑三 |
1196 | 世をそむく苔の衣はたたひとへかさねはうとしいさふたりねん よをそむく こけのころもは たたひとへ かさねはうとし いさふたりねむ | 僧正遍昭 | 十七 | 雑三 |
1197 | 逢ふ事の年きりしぬるなけきには身のかすならぬ物にそ有りける あふことの としきりしぬる なけきには みのかすならぬ ものにそありける | せかゐのきみ | 十七 | 雑三 |
1198 | あた人もなきにはあらす有りなからわか身にはまたききそならはぬ あたひとも なきにはあらす ありなから わかみにはまた ききそならはぬ | 左太臣(実頼) | 十七 | 雑三 |
1199 | 宮人とならまほしきを女郎花のへよりきりのたちいててそくる みやひとと ならまほしきを をみなへし のへよりきりの たちいててそくる | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1200 | わか身にもあらぬわか身の悲しきに心もことに成りやしにけん わかみにも あらぬわかみの かなしきに こころもことに なりやしにけむ | 大輔 | 十七 | 雑三 |
1201 | 世中をしらすなからもつのくにのなには立ちぬる物にそ有りける よのなかを しらすなからも つのくにの なにはたちぬる ものにそありける | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1202 | よとともにわかぬれきぬとなる物はわふる涙のきするなりけり よとともに わかぬれきぬと なるものは わふるなみたの きするなりけり | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1203 | うけれとも悲しきものをひたふるに我をや人の思ひすつらん うけれとも かなしきものを ひたふるに われをやひとの おもひすつらむ | 大輔 | 十七 | 雑三 |
1204 | 悲しきもうきもしりにしひとつ名をたれをわくとか思ひすつへき かなしきも うきもしりにし ひとつなを たれをわくとか おもひすつへき | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1205 | 道しらぬ物ならなくにあしひきの山ふみ迷ふ人もありけり みちしらぬ ものならなくに あしひきの やまふみまよふ ひともありけり | 大輔 | 十七 | 雑三 |
1206 | しらかしの雪もきえにし葦引の山ちを誰かふみ迷ふへき しらかしの ゆきもきえにし あしひきの やまちをたれか ふみまよふへき | 藤原敦忠朝臣 | 十七 | 雑三 |
1207 | いふ事のたかはぬ物にあらませは後うき事ときこえさらまし いふことの たかはぬものに あらませは のちうきことと きこえさらまし | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1208 | おも影をあひ見しかすになす時は心のみこそしつめられけれ おもかけを あひみしかすに なすときは こころのみこそ しつめられけれ | 伊勢 | 十七 | 雑三 |
1209 | ぬきとめぬかみのすちもてあやしくもへにける年のかすをしるかな ぬきとめぬ かみのすちもて あやしくも へにけるとしの かすをしるかな | 伊勢 | 十七 | 雑三 |
1210 | 浪かすにあらぬ身なれは住吉の岸にもよらすなりやはてなん なみかすに あらぬみなれは すみよしの きしにもよらす なりやはてなむ | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1211 | つきもせすうき事のはのおほかるをはやく嵐の風もふかなむ つきもせす うきことのはの おほかるを はやくあらしの かせもふかなむ | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1212 | 島かくれ有そにかよふあしたつのふみおく跡は浪もけたなん しまかくれ ありそにかよふ あしたつの ふみおくあとは なみもけたなむ | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1213 | 身ははやくなき物のこと成りにしをきえせぬ物は心なりけり みははやく なきもののこと なりにしを きえせぬものは こころなりけり | 伊勢 | 十七 | 雑三 |
1214 | むつましきいもせの山の中にさへへたつる雲のはれすもあるかな むつましき いもせのやまの なかにさへ へたつるくもの はれすもあるかな | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1215 | わかためにおきにくかりしはしたかの人のてに有りときくはまことか わかために おきにくかりし はしたかの ひとのてにありと きくはまことか | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1216 | 声にたてていはねとしるしくちなしの色はわかためうすきなりけり こゑにたてて いはねとしるし くちなしの いろはわかため うすきなりけり | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1217 | たきつせのはやからぬをそ怨みつる見すともおとにきかんとおもへは たきつせの はやからぬをそ うらみつる みすともおとに きかむとおもへは | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1218 | みな人にふみみせけりなみなせ河その渡こそまつはあさけれ みなひとに ふみみせけりな みなせかは そのわたりこそ まつはあさけれ | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1219 | 年ふれはわかくろかみもしら河のみつはくむまて老いにけるかな としふれは わかくろかみも しらかはの みつはくむまて おいにけるかな | ひかきの嫗 | 十七 | 雑三 |
1220 | かさすともたちとたちなんなきなをは事なし草のかひやなからん かさすとも たちとたちなむ なきなをは ことなしくさの かひやなからむ | 紀貫之 | 十七 | 雑三 |
1221 | 帰りくる道にそけさは迷ふらんこれになすらふ花なきものを かへりくる みちにそけさは まよふらむ これになすらふ はななきものを | 紀貫之 | 十七 | 雑三 |
1222 | おほそらに行きかふ鳥の雲ちをそ人のふみみぬ物といふなる おほそらに ゆきかふとりの くもちをそ ひとのふみみぬ ものといふなる | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1223 | きのくにのなくさのはまは君なれや事のいふかひ有りとききつる きのくにの なくさのはまは きみなれや ことのいふかひ ありとききつる | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1224 | 浪にのみぬれつるものを吹く風のたよりうれしきあまのつり舟 なみにのみ ぬれつるものを ふくかせの たよりうれしき あまのつりふね | 紀貫之 | 十七 | 雑三 |
1225 | 緑なる松ほとすきはいかてかはしたははかりももみちせさらん みとりなる まつほとすきは いかてかは したははかりも もみちせさらむ | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1226 | 思いての煙やまさんなき人のほとけになれるこのみみは君 おもひいての けふりやまさむ なきひとの ほとけになれる このみみはきみ | 真延法師 | 十七 | 雑三 |
1227 | 道なれるこの身尋ねて心さし有りと見るにそねをはましける みちなれる このみたつねて こころさし ありとみるにそ ねをはましける | 右大臣(師輔) | 十七 | 雑三 |
1228 | いつこにも身をははなれぬ影しあれはふすとこことにひとりやはぬる いつこにも みをははなれぬ かけしあれは ふすとこことに ひとりやはぬる | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1229 | 風霜に色も心もかはらねはあるしににたるうゑ木なりけり かせしもに いろもこころも かはらねは あるしににたる うゑきなりけり | 真延法師 | 十七 | 雑三 |
1230 | 山深みあるしににたるうゑ木をは見えぬ色とそいふへかりける やまふかみ あるしににたる うゑきをは みえぬいろとそ いふへかりける | 行明のみこ | 十七 | 雑三 |
1231 | 大井河うかへる舟のかかり火にをくらの山も名のみなりけり おほゐかは うかへるふねの かかりひに をくらのやまも なのみなりけり | 在原業平朝臣 | 十七 | 雑三 |
1232 | 明日香河わか身ひとつのふちせゆゑなへての世をも怨みつるかな あすかかは わかみひとつの ふちせゆゑ なへてのよをも うらみつるかな | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1233 | 世中をいとひかてらにこしかともうき身なからの山にそ有りける よのなかを いとひかてらに こしかとも うきみなからの やまにそありける | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1234 | したにのみはひ渡りつるあしのねのうれしき雨にあらはるるかな したにのみ はひわたりつる あしのねの うれしきあめに あらはるるかな | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1235 | たきつせに誰白玉をみたりけんひろふとせしに袖はひちにき たきつせに たれしらたまを みたりけむ ひろふとせしに そてはひちにき | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1236 | いつのまにふりつもるらんみよしのの山のかひよりくつれおつる雪 いつのまに ふりつもるらむ みよしのの やまのかひより くつれおつるゆき | 源昇朝臣 | 十七 | 雑三 |
1237 | 宮のたきむへも名におひてきこえけりおつるしらあわの玉とひひけは みやのたき うへもなにおひて きこえけり おつるしらあわの たまとひひけは | 法皇御製 | 十七 | 雑三 |
1238 | 今更に我はかへらしたき見つつよへときかすととははこたへよ いまさらに われはかへらし たきみつつ よへときかすと とははこたへよ | 僧正遍昭 | 十七 | 雑三 |
1239 | 滝つせのうつまきことにとめくれと猶尋ねくる世のうきめかな たきつせの うつまきことに とめくれと なほたつねくる よのうきめかな | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1240 | たらちめはかかれとてしもむはたまのわかくろかみをなてすや有りけん たらちめは かかれとてしも うはたまの わかくろかみを なてすやありけむ | 僧正遍昭 | 十七 | 雑三 |
1241 | 栽ゑし時契りやしけんたけくまの松をふたたひあひみつるかな うゑしとき ちきりやしけむ たけくまの まつをふたたひ あひみつるかな | 藤原もとよしの朝臣 | 十七 | 雑三 |
1242 | 菅原や伏見のくれに見わたせは霞にまかふをはつせの山 すかはらや ふしみのくれに みわたせは かすみにまかふ をはつせのやま | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1243 | 事のはもなくてへにける年月にこの春たにも花はさかなん ことのはも なくてへにける としつきに このはるたにも はなはさかなむ | 読人知らず | 十七 | 雑三 |
1244 | なにはつをけふこそみつの浦ことにこれやこの世をうみわたる舟 なにはつを けふこそみつの うらことに これやこのよを うみわたるふね | 在原業平朝臣 | 十七 | 雑三 |
1245 | 白雲のきやとる峰のこ松原枝しけけれや日のひかりみぬ しらくもの きやとるみねの こまつはら えたしけけれや ひのひかりみぬ | 文屋康秀 | 十七 | 雑三 |
1246 | 身にさむくあらぬものからわひしきは人の心の嵐なりけり みにさむく あらぬものから わひしきは ひとのこころの あらしなりけり | 土左 | 十七 | 雑三 |
1247 | なからへは人の心も見るへきをつゆのいのちそかなしかりける なからへは ひとのこころも みるへきを つゆのいのちそ かなしかりける | 土左 | 十七 | 雑三 |
1248 | もろともにいさとはいはてしての山いかてかひとりこえんとはせし もろともに いさとはいはて してのやま いかてかひとり こえむとはせし | 閑院大君 | 十七 | 雑三 |
1249 | おしなへて峰もたひらになりななん山のはなくは月もかくれし おしなへて みねもたひらに なりななむ やまのはなくは つきもかくれし | かむつけのみねを | 十七 | 雑三 |
1250 | わかやとにあひやとりしてすむかはつよるになれはや物は悲しき わかやとに あひやとりして すむかはつ よるになれはや ものはかなしき | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1251 | 玉江こくあしかりを舟さしわけて誰をたれとか我は定めん たまえこく あしかりをふね さしわけて たれをたれとか われはさためむ | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1252 | みちのくのをふちのこまものかふにはあれこそまされなつくものかは みちのくの をふちのこまも のかふには あれこそまされ なつくものかは | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1253 | いつくとて尋ねきつらん玉かつら我は昔の我ならなくに いつくとて たつねきつらむ たまかつら われはむかしの われならなくに | 源善朝臣 | 十八 | 雑四 |
1254 | あさことに見し宮こちのたえぬれは事あやまりにとふ人もなし あさことに みしみやこちの たえぬれは ことあやまりに とふひともなし | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1255 | いつしかとまつちの山の桜花まちてもよそにきくかかなしさ いつしかと まつちのやまの さくらはな まちてもよそに きくかかなしさ | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1256 | いせわたる河は袖よりなかるれととふにとはれぬ身はうせぬめり いせわたる かははそてより なかるれと とふにとはれぬ みはうきぬめり | 伊勢 | 十八 | 雑四 |
1257 | 人めたに見えぬ山ちに立つ雲をたれすみかまの煙といふらん ひとめたに みえぬやまちに たつくもを たれすみかまの けふりといふらむ | 北辺左大臣 | 十八 | 雑四 |
1258 | あすか河淵せにかはる心とはみなかみしもの人もいふめり あすかかは ふちせにかはる こころとは みなかみしもの ひともいふめり | 伊勢 | 十八 | 雑四 |
1259 | 今こむといひしはかりをいのちにてまつにけぬへしさくさめのとし いまこむと いひしはかりを いのちにて まつにけぬへし さくさめのとし | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1260 | かすならぬ身のみ物うくおもほえてまたるるまてもなりにけるかな かすならぬ みのみものうく おもほえて またるるまても なりにけるかな | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1261 | 有りと聞くおとはの山の郭公何かくるらんなくこゑはして ありときく おとはのやまの ほとときす なにかくるらむ なくこゑはして | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1262 | あしのうらのいときたなくも見ゆるかな浪はよりてもあらはさりけり あしのうらの いときたなくも みゆるかな なみはよりても あらはさりけり | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1263 | 人心たとへて見れは白露のきゆるまもなほひさしかりけり ひとこころ たとへてみれは しらつゆの きゆるまもなほ ひさしかりけり | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1264 | 世中といひつるものかかけろふのあるかなきかのほとにそ有りける よのなかと いひつるものか かけろふの あるかなきかの ほとにそありける | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1265 | かくはかり別のやすき世中につねとたのめる我そはかなき かくはかり わかれのやすき よのなかに つねとたのめる われそはかなき | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1266 | ちりに立つわかなきよめんももしきの人の心をまくらともかな ちりにたつ わかなきよめむ ももしきの ひとのこころを まくらともかな | 伊勢 | 十八 | 雑四 |
1267 | うき事をしのふる雨のしたにしてわかぬれきぬはほせとかわかす うきことを しのふるあめの したにして わかぬれきぬは ほせとかわかす | こまちかむまこ | 十八 | 雑四 |
1268 | 逢ふ事のかたみのこゑのたかけれはわかなくねとも人はきかなん あふことの かたみのこゑの たかけれは わかなくねとも ひとはきかなむ | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1269 | 涙のみしる身のうさもかたるへくなけく心をまくらにもかな なみたのみ しるみのうさも かたるへく なけくこころを まくらにもかな | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1270 | あひにあひて物思ふころのわか袖はやとる月さへぬるるかほなる あひにあひて ものおもふころの わかそては やとるつきさへ ぬるるかほなる | 伊勢 | 十八 | 雑四 |
1271 | あはれてふ事にしるしはなけれともいはてはえこそあらぬ物なれ あはれてふ ことにしるしは なけれとも いはてはえこそ あらぬものなれ | 紀貫之 | 十八 | 雑四 |
1272 | うつろはぬなになかれたるかは竹のいつれの世にか秋をしるへき うつろはぬ なになかれたる かはたけの いつれのよにか あきをしるへき | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1273 | ふかき思ひそめつといひし事のははいつか秋風ふきてちりぬる ふかきおもひ そめつといひし ことのはは いつかあきかせ ふきてちりぬる | 贈太攻大臣(時平) | 十八 | 雑四 |
1274 | 心なき身は草木にもあらなくに秋くる風にうたかはるらむ こころなき みはくさきにも あらなくに あきくるかせに うたかはるらむ | 伊勢 | 十八 | 雑四 |
1275 | 身のうきをしれははしたになりぬへみおもひはむねのこかれのみする みのうきを しれははしたに なりぬへみ おもひはむねの こかれのみする | 伊勢 | 十八 | 雑四 |
1276 | 雲ちをもしらぬ我さへもろこゑにけふはかりとそなきかへりぬる くもちをも しらぬわれさへ もろこゑに けふはかりとそ なきかへりぬる | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1277 | またきからおもひこきいろにそめむとやわか紫のねをたつぬらん またきから おもひこきいろに そめむとや わかむらさきの ねをたつぬらむ | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1278 | 見えもせぬ深き心をかたりては人にかちぬと思ふものかは みえもせぬ ふかきこころを かたりては ひとにかちぬと おもふものかは | 伊勢 | 十八 | 雑四 |
1279 | 伊勢の海に年へてすみしあまなれとかかるみるめはかつかさりしを いせのうみに としへてすみし あまなれと かかるみるめは かつかさりしを | 伊勢 | 十八 | 雑四 |
1280 | あしひきの山の山鳥かひもなし峰の白雲たちしよらねは あしひきの やまのやまとり かひもなし みねのしらくも たちしよらねは | 兼輔朝臣 | 十八 | 雑四 |
1281 | 我ならぬ草葉もものは思ひけり袖より外におけるしらつゆ われならぬ くさはもものは おもひけり そてよりほかに おけるしらつゆ | ふちはらのたたくに | 十八 | 雑四 |
1282 | 人心嵐の風のさむけれはこのめも見えす枝そしをるる ひとこころ あらしのかせの さむけれは このめもみえす えたそしをるる | 伊勢 | 十八 | 雑四 |
1283 | うきなから人をわすれん事かたみわか心こそかはらさりけれ うきなから ひとをわすれむ ことかたみ わかこころこそ かはらさりけれ | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1284 | うたたねのとこにとまれる白玉は君かおきけるつゆにやあるらん うたたねの とこにとまれる しらたまは きみかおきける つゆにやあるらむ | 源ひとしの朝臣 | 十八 | 雑四 |
1285 | かひもなき草の枕におくつゆの何にきえなておちとまりけん かひもなき くさのまくらに おくつゆの なににきえなて おちとまりけむ | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1286 | 思ひやる方もしられすくるしきは心まとひのつねにやあるらむ おもひやる かたもしられす くるしきは こころまとひの つねにやあるらむ | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1287 | 鈴虫におとらぬねこそなかれけれ昔の秋を思ひやりつつ すすむしに おとらぬねこそ なかれけれ むかしのあきを おもひやりつつ | 左太臣(実頼) | 十八 | 雑四 |
1288 | ゆふくれのさひしき物は槿の花をたのめるやとにそ有りける ゆふくれの さひしきものは あさかほの はなをたのめる やとにそありける | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1289 | ははそ山峰の嵐の風をいたみふることのはをかきそあつむる ははそやま みねのあらしの かせをいたみ ふることのはを かきそあつむる | 紀貫之 | 十八 | 雑四 |
1290 | 世中をいとひてあまのすむ方もうきめのみこそ見えわたりけれ よのなかを いとひてあまの すむかたも うきめのみこそ みえわたりけれ | こまちかあね | 十八 | 雑四 |
1291 | 山河のおとにのみきくももしきを身をはやなから見るよしもかな やまかはの おとにのみきく ももしきを みをはやなから みるよしもかな | 伊勢 | 十八 | 雑四 |
1292 | 世中はいかにやいかに風のおとをきくにも今は物やかなしき よのなかは いかにやいかに かせのおとを きくにもいまは ものやかなしき | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1293 | よのなかはいさともいさや風のおとは秋に秋そふ心地こそすれ よのなかは いさともいさや かせのおとは あきにあきそふ ここちこそすれ | 伊勢 | 十八 | 雑四 |
1294 | たとへくるつゆとひとしき身にしあらはわか思ひにもきえんとやする たとへくる つゆとひとしき みにしあらは わかおもひにも きえむとやする | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1295 | ささかにのそらにすかけるいとよりも心ほそしやたえぬとおもへは ささかにの そらにすかける いとよりも こころほそしや たえぬとおもへは | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1296 | 風ふけはたえぬと見ゆるくものいも又かきつかてやむとやはきく かせふけは たえぬとみゆる くものいも またかきつかて やむとやはきく | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1297 | 名にたちてふしみのさとといふ事はもみちをとこにしけはなりけり なにたちて ふしみのさとと いふことは もみちをとこに しけはなりけり | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1298 | 我も思ふ人もわするなありそ海の浦吹く風のやむ時もなく われもおもふ ひともわするな ありそうみの うらふくかせの やむときもなく | ひとしきこのみこ | 十八 | 雑四 |
1299 | あしひきの山したとよみなくとりもわかことたえす物思ふらめや あしひきの やましたとよみ なくとりも わかことたえす ものおもふらめや | 山田法師 | 十八 | 雑四 |
1300 | 今はとて秋はてられし身なれともきりたち人をえやはわするる いまはとて あきはてられし みなれとも きりたちひとを えやはわするる | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1301 | 思ひいててきつるもしるくもみちはの色は昔にかはらさりけり おもひいてて きつるもしるく もみちはの いろはむかしに かはらさりけり | 藤原兼輔朝臣 | 十八 | 雑四 |
1302 | 峰高み行きても見へきもみちはをわかゐなからもかさしつるかな みねたかみ ゆきてもみへき もみちはを わかゐなからも かさしつるかな | 坂上是則 | 十八 | 雑四 |
1303 | まつ人はきぬときけともあらたまのとしのみこゆるあふさかのせき まつひとは きぬときけとも あらたまの としのみこゆる あふさかのせき | 読人知らず | 十八 | 雑四 |
1304 | をりをりに打ちてたく火の煙あらは心さすかをしのへとそ思ふ をりをりに うちてたくひの けふりあらは こころさすかを しのへとそおもふ | 紀貫之 | 十九 | 離別羈旅 |
1305 | あた人のたむけにをれるさくら花相坂まてはちらすもあらなん あたひとの たむけにをれる さくらはな あふさかまては ちらすもあらなむ | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1306 | 思ひやる心はかりはさはらしを何へたつらん峰の白雲 おもひやる こころはかりは さはらしを なにへたつらむ みねのしらくも | 橘直幹 | 十九 | 離別羈旅 |
1307 | ふたみ山ともにこえねとますかかみそこなる影をたくへてそやる ふたみやま ともにこえねと ますかかみ そこなるかけを たくへてそやる | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1308 | しなのなるあさまの山ももゆなれはふしのけふりのかひやなからん しなのなる あさまのやまも もゆなれは ふしのけふりの かひやなからむ | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1309 | このたひも我をわすれぬ物ならはうち見むたひに思ひいてなん このたひも われをわすれぬ ものならは うちみむたひに おもひいてなむ | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1310 | 打ちすてて君しいなはのつゆの身はきえぬはかりそ有りとたのむな うちすてて きみしいなはの つゆのみは きえぬはかりそ ありとたのむな | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1311 | をしと思ふ心はなくてこのたひはゆく馬にむちをおほせつるかな をしとおもふ こころはなくて このたひは ゆくうまにむちを おほせつるかな | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1312 | 君か手をかれゆく秋のすゑにしものかひにはなつむまそかなしき きみかてを かれゆくあきの すゑにしも のかひにはなつ うまそかなしき | むま | 十九 | 離別羈旅 |
1313 | 今はとて立帰りゆくふるさとのふはのせきちにみやこわするな いまはとて たちかへりゆく ふるさとの ふはのせきちに みやこわするな | 藤原清正 | 十九 | 離別羈旅 |
1314 | 身をわくる事のかたさにます鏡影はかりをそ君にそへつる みをわくる ことのかたさに ますかかみ かけはかりをそ きみにそへつる | おほくほののりよし | 十九 | 離別羈旅 |
1315 | はつかりの我もそらなるほとなれは君も物うきたひにやあるらん はつかりの われもそらなる ほとなれは きみもものうき たひにやあるらむ | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1316 | いとせめてこひしきたひの唐衣ほとなくかへす人もあらなん いとせめて こひしきたひの からころも ほとなくかへす ひともあらなむ | 源公忠朝臣 | 十九 | 離別羈旅 |
1317 | 唐衣たつ日をよそにきく人はかへすはかりのほともこひしを からころも たつひをよそに きくひとは かへすはかりの ほともこひしを | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1318 | こひしくは事つてもせむかへるさのかりかねはまつわかやとになけ こひしくは ことつてもせむ かへるさの かりかねはまつ わかやとになけ | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1319 | 別れてはいつあひみんと思ふらん限あるよのいのちともなし わかれては いつあひみむと おもふらむ かきりあるよの いのちともなし | 伊勢 | 十九 | 離別羈旅 |
1320 | そむかれぬ松のちとせのほとよりもともともとたにしたはれそせし そむかれぬ まつのちとせの ほとよりも ともともとたに したはれそせし | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1321 | ともともとしたふ涙のそふ水はいかなる色に見えてゆくらん ともともと したふなみたの そふみつは いかなるいろに みえてゆくらむ | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1322 | わかるれとあひもをしまぬももしきを見さらん事やなにかかなしき わかるれと あひもをしまぬ ももしきを みさらむことや なにかかなしき | 伊勢 | 十九 | 離別羈旅 |
1323 | 身ひとつにあらぬはかりをおしなへてゆきめくりてもなとかみさらん みひとつに あらぬはかりを おしなへて ゆきめくりても なとかみさらむ | 亭子のみかと | 十九 | 離別羈旅 |
1324 | 別れゆく道のくもゐになりゆけはとまる心もそらにこそなれ わかれゆく みちのくもゐに なりゆけは とまるこころも そらにこそなれ | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1325 | いかて猶かさとり山に身をなしてつゆけきたひにそはんとそ思ふ いかてなほ かさとりやまに みをなして つゆけきたひに そはむとそおもふ | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1326 | かさとりの山とたのみし君をおきて涙の雨にぬれつつそゆく かさとりの やまとたのみし きみをおきて なみたのあめに ぬれつつそゆく | 宗于朝臣のむすめ | 十九 | 離別羈旅 |
1327 | 君かゆく方に有りてふ涙河まつは袖にそ流るへらなる きみかゆく かたにありてふ なみたかは まつはそてにそ なかるへらなる | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1328 | 袖ぬれて別はすとも唐衣ゆくとないひそきたりとを見む そてぬれて わかれはすとも からころも ゆくとないひそ きたりとをみむ | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1329 | 別ちは心もゆかす唐衣きれは涙そさきにたちける わかれちは こころもゆかす からころも きれはなみたそ さきにたちける | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1330 | そへてやる扇の風し心あらはわか思ふ人の手をなはなれそ そへてやる あふきのかせし こころあらは わかおもふひとの てをなはなれそ | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1331 | 君をのみしのふのさとへゆくものをあひつの山のはるけきやなそ きみをのみ しのふのさとへ ゆくものを あひつのやまの はるけきやなそ | 藤原滋幹かむすめ | 十九 | 離別羈旅 |
1332 | 年をへてあひみる人の別にはをしき物こそいのちなりけれ としをへて あひみるひとの わかれには をしきものこそ いのちなりけれ | 小野好古朝臣 | 十九 | 離別羈旅 |
1333 | ゆくさきをしらぬ涙の悲しきはたためのまへにおつるなりけり ゆくさきを しらぬなみたの かなしきは たためのまへに おつるなりけり | 源のわたる | 十九 | 離別羈旅 |
1334 | わするなといふになかるる涙河うきなをすすくせともならなん わするなと いふになかるる なみたかは うきなをすすく せともならなむ | たかとほかめ | 十九 | 離別羈旅 |
1335 | 我をのみ思ひつるかの浦ならはかへるの山はまとはさらまし われをのみ おもひつるかの うらならは かへるのやまは まとはさらまし | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1336 | 君をのみいつはたと思ひこしなれはゆききの道ははるけからしを きみをのみ いつはたとおもひ こしなれは ゆききのみちは はるけからしを | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1337 | 秋ふかくたひゆく人のたむけにはもみちにまさるぬさなかりけり あきふかく たひゆくひとの たむけには もみちにまさる ぬさなかりけり | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1338 | もみちはをぬさとたむけてちらしつつ秋とともにやゆかんとすらん もみちはを ぬさとたむけて ちらしつつ あきとともにや ゆかむとすらむ | 大輔 | 十九 | 離別羈旅 |
1339 | まちわひてこひしくならはたつぬへくあとなき水のうへならてゆけ まちわひて こひしくならは たつぬへく あとなきみつの うへならてゆけ | 伊勢 | 十九 | 離別羈旅 |
1340 | こむといひてわかるるたにもあるものをしられぬけさのましてわひしさ こむといひて わかるるたにも あるものを しられぬけさの ましてわひしき | 贈太攻大臣(時平) | 十九 | 離別羈旅 |
1341 | さらはよと別れし時にいはませは我も涙におほほれなまし さらはよと わかれしときに いはませは われもなみたに おほほれなまし | 伊勢 | 十九 | 離別羈旅 |
1342 | 春霞はかなくたちてわかるとも風より外にたれかとふへき はるかすみ はかなくたちて わかるとも かせよりほかに たれかとふへき | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1343 | めにみえぬ風に心をたくへつつやらはかすみのわかれこそせめ めにみえぬ かせにこころを たくへつつ やらはかすみの わかれこそせめ | 伊勢 | 十九 | 離別羈旅 |
1344 | 君か世はつるのこほりにあえてきね定なきよのうたかひもなく きみかよは つるのこほりに あえてきね さためなきよの うたかひもなく | 伊勢 | 十九 | 離別羈旅 |
1345 | おくれすそ心にのりてこかるへき浪にもとめよ舟みえすとも おくれすそ こころにのりて こかるへき なみにもとめよ ふねみえすとも | 伊勢 | 十九 | 離別羈旅 |
1346 | 舟なくはあまのかはまてもとめてむこきつつしほのなかにきえすは ふねなくは あまのかはまて もとめてむ こきつつしほの なかにきえすは | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1347 | かねてより涙そ袖をうちぬらすうかへる舟にのらむと思へは かねてより なみたそそてを うちぬらす うかへるふねに のらむとおもへは | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1348 | おさへつつ我は袖にそせきとむる舟こすしほになさしとおもへは おさへつつ われはそてにそ せきとむる ふねこすしほに なさしとおもへは | 伊勢 | 十九 | 離別羈旅 |
1349 | わすれしとことにむすひてわかるれはあひ見むまては思ひみたるな わすれしと ことにむすひて わかるれは あひみむまては おもひみたるな | 紀貫之 | 十九 | 離別羈旅 |
1350 | はつせ河わたるせさへやにこるらん世にすみかたきわか身と思へは はつせかは わたるせさへや にこるらむ よにすみかたき わかみとおもへは | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1351 | 名にしおははあたにそ思ふたはれしま浪のぬれきぬいくよきつらん なにしおはは あたにそおもふ たはれしま なみのぬれきぬ いくよきつらむ | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1352 | いととしくすきゆく方のこひしきにうら山しくも帰る浪かな いととしく すきゆくかたの こひしきに うらやましくも かへるなみかな | 在原業平朝臣 | 十九 | 離別羈旅 |
1353 | 宮こまておとにふりくる白山はゆきつきかたき所なりけり みやこまて おとにふりくる しらやまは ゆきつきかたき ところなりけり | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1354 | 山さとの草はのつゆもしけからんみのしろ衣ぬはすともきよ やまさとの くさはのつゆも しけからむ みのしろころも ぬはすともきよ | 中原宗興 | 十九 | 離別羈旅 |
1355 | 宮こにて山のはに見し月なれと海よりいてて海にこそいれ みやこにて やまのはにみし つきなれと うみよりいてて うみにこそいれ | 紀貫之 | 十九 | 離別羈旅 |
1356 | 水ひきのしらいとはへておるはたは旅の衣にたちやかさねん みつひきの しらいとはへて おるはたは たひのころもに たちやかさねむ | 菅原右大臣 | 十九 | 離別羈旅 |
1357 | ひくらしの山ちをくらみさよふけてこのすゑことにもみちてらせる ひくらしの やまちをくらみ さよふけて このすゑことに もみちてらせる | 菅原右大臣 | 十九 | 離別羈旅 |
1358 | 草枕たひとなりなは山のへにしらくもならぬ我ややとらむ くさまくら たひとなりなは やまのへに しらくもならぬ われややとらむ | 伊勢 | 十九 | 離別羈旅 |
1359 | 水もせにうきぬる時はしからみのうちのとのとも見えぬもみちは みつもせに うきたるときは しからみの うちのとのとも みえぬもみちは | 伊勢 | 十九 | 離別羈旅 |
1360 | 花さきてみならぬ物はわたつうみのかさしにさせるおきつ白浪 はなさきて みならぬものは わたつうみの かさしにさせる おきつしらなみ | 小野小町 | 十九 | 離別羈旅 |
1361 | あしからのせきの山ちをゆく人はしるもしらぬもうとからぬかな あしからの せきのやまちを ゆくひとは しるもしらぬも うとからぬかな | 真静法師 | 十九 | 離別羈旅 |
1362 | 人ことにけふけふとのみこひらるる宮こちかくも成りにけるかな ひとことに けふけふとのみ こひらるる みやこちかくも なりにけるかな | 僧正聖宝 | 十九 | 離別羈旅 |
1363 | てる月のなかるる見れはあまのかはいつるみなとは海にそ有りける てるつきの なかるるみれは あまのかは いつるみなとは うみにそありける | 紀貫之 | 十九 | 離別羈旅 |
1364 | 草枕紅葉むしろにかへたらは心をくたく物ならましや くさまくら もみちむしろに かへたらは こころをくたく ものならましや | 亭子院御製 | 十九 | 離別羈旅 |
1365 | 思ふ人ありてかへれはいつしかのつままつよひのこゑそかなしき おもふひと ありてかへれは いつしかの つままつよひの こゑそかなしき | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1366 | 草枕ゆふてはかりはなになれやつゆもなみたもおきかへりつつ くさまくら ゆふてはかりは なになれや つゆもなみたも おきかへりつつ | 読人知らず | 十九 | 離別羈旅 |
1367 | 秋山にまとふ心をみやたきのたきのしらあわにけちやはててむ あきやまに まとふこころを みやたきの たきのしらあわに けちやはててむ | 素性法師 | 十九 | 離別羈旅 |
1368 | よろつ世の霜にもかれぬ白菊をうしろやすくもかさしつるかな よろつよの しもにもかれぬ しらきくを うしろやすくも かさしつるかな | 藤原伊衡朝臣 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1369 | 雲わくるあまの羽衣うちきては君かちとせにあはさらめやは くもわくる あまのはころも うちきては きみかちとせに あはさらめやは | 典侍あきらけい子 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1370 | ことしよりわかなにそへておいのよにうれしき事をつまむとそ思ふ ことしより わかなにそへて おいのよに うれしきことを つまむとそおもふ | 太政大臣(忠平) | 二十 | 慶賀哀傷 |
1371 | ことのねも竹もちとせのこゑするは人の思ひにかよふなりけり ことのねも たけもちとせの こゑするは ひとのおもひに かよふなりけり | 紀貫之 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1372 | ももとせといはふを我はききなから思ふかためはあかすそ有りける ももとせと いはふをわれは ききなから おもふかためは あかすそありける | 読人知らず | 二十 | 慶賀哀傷 |
1373 | おほはらやをしほの山のこ松原はやこたかかれちよの影みん おほはらや をしほのやまの こまつはら はやこたかかれ ちよのかけみむ | 紀貫之 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1374 | 打ちよする浪の花こそさきにけれちよ松風やはるになるらん うちよする なみのはなこそ さきにけれ ちよまつかせや はるになるらむ | 読人知らず | 二十 | 慶賀哀傷 |
1375 | 君かため松のちとせもつきぬへしこれよりまさん神の世もかな きみかため まつのちとせも つきぬへし これよりまさむ かみのよもかな | 読人知らず | 二十 | 慶賀哀傷 |
1376 | ももとせにやそとせそへていのりくる玉のしるしを君みさらめや ももとせに やそとせそへて いのりくる たまのしるしを きみみさらめや | ゆいせい法師 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1377 | けふそくをおさへてまさへよろつよに花のさかりを心しつかに けふそくを おさへてまさへ よろつよに はなのさかりを こころしつかに | 僧都仁教 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1378 | 君かためいはふ心のふかけれはひしりのみよのあとならへとそ きみかため いはふこころの ふかけれは ひしりのみよの あとならへとそ | 太政大臣(忠平) | 二十 | 慶賀哀傷 |
1379 | をしへおくことたかはすはゆくすゑの道とほくともあとはまとはし をしへおく ことたかはすは ゆくすゑの みちとほくとも あとはまとはし | 村上院御製 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1380 | 山人のこれるたききは君かためおほくの年をつまんとそ思ふ やまひとの これるたききは きみかため おほくのとしを つまむとそおもふ | 太政大臣(忠平) | 二十 | 慶賀哀傷 |
1381 | 年のかすつまんとすなるおもににはいととこつけをこりもそへなん としのかす つまむとすなる おもにには いととこつけを こりもそへなむ | 村上院御製 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1382 | 君かためうつしてううるくれ竹にちよもこもれる心地こそすれ きみかため うつしてううる くれたけに ちよもこもれる ここちこそすれ | 藤原清正 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1383 | をののえのくちむもしらす君か世のつきんかきりはうちこころみよ をののえの くちむもしらす きみかよの つきむかきりは うちこころみよ | 命婦いさきよき子 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1384 | なみたてる松の緑の枝わかすをりつつちよを誰とかは見む なみたてる まつのみとりの えたわかす をりつつちよを たれとかはみむ | 右大臣(師輔) | 二十 | 慶賀哀傷 |
1385 | いはふこと有りとなるへしけふなれと年のこなたにはるもきにけり いはふこと ありとなるへし けふなれと としのこなたに はるもきにけり | 紀貫之 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1386 | またしらぬ人も有りけるあつまちに我も行きてそすむへかりける またしらぬ ひともありけり あつまちに われもゆきてそ すむへかりける | 左太臣(実頼) | 二十 | 慶賀哀傷 |
1387 | 春の夜の夢のなかにも思ひきや君なきやとをゆきてみんとは はるのよの ゆめのなかにも おもひきや きみなきやとを ゆきてみむとは | 太政大臣(忠平) | 二十 | 慶賀哀傷 |
1388 | やと見れはねてもさめてもこひしくて夢うつつともわかれさりけり やとみれは ねてもさめても こひしくて ゆめうつつとも わかれさりけり | 読人知らず | 二十 | 慶賀哀傷 |
1389 | はかなくて世にふるよりは山しなの宮の草木とならましものを はかなくて よにふるよりは やましなの みやのくさきと ならましものを | 三条右大臣(定方) | 二十 | 慶賀哀傷 |
1390 | 山しなの宮の草木と君ならは我はしつくにぬるはかりなり やましなの みやのくさきと きみならは われはしつくに ぬるはかりなり | 藤原兼輔朝臣 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1391 | わかれにしほとをはてともおもほえすこひしきことの限なけれは わかれにし ほとをはてとも おもほえす こひしきことの かきりなけれは | 時望朝臣妻 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1392 | たねもなき花たにちらぬやともあるをなとかかたみのこたになからん たねもなき はなたにちらぬ やともあるを なとかかたみの こたになからむ | 右大臣(師輔) | 二十 | 慶賀哀傷 |
1393 | 結ひおきしたねならねともみるからにいとと忍の草をつむかな むすひおきし たねならねとも みるからに いととしのふの くさをつむかな | 内侍のかみ | 二十 | 慶賀哀傷 |
1394 | ここらよをきくか中にもかなしきは人の涙もつきやしぬらん ここらよを きくかうちにも かなしきは ひとのなみたも つきやしぬらむ | 伊勢 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1395 | 聞く人もあはれてふなる別にはいとと涙そつきせさりける きくひとも あはれてふなる わかれには いととなみたそ つきせさりける | 読人知らず | 二十 | 慶賀哀傷 |
1396 | いたつらにけふやくれなんあたらしき春の始は昔なからに いたつらに けふやくれなむ あたらしき はるのはしめは むかしなからに | 三条右大臣(定方) | 二十 | 慶賀哀傷 |
1397 | なく涙ふりにし年の衣手はあたらしきにもかはらさりけり なくなみた ふりにしとしの ころもては あたらしきにも かはらさりけり | 藤原兼輔朝臣 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1398 | 人の世の思ひにかなふ物ならはわか身は君におくれましやは ひとのよの おもひにかなふ ものならは わかみはきみに おくれましやは | 三条右大臣(定方) | 二十 | 慶賀哀傷 |
1399 | ねぬ夢に昔のかへを見つるよりうつつに物そかなしかりける ねぬゆめに むかしのかへを みつるより うつつにものそ かなしかりける | 藤原兼輔朝臣 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1400 | ゆふされはねにゆくをしのひとりしてつまこひすなるこゑのかなしさ ゆふされは ねになくをしの ひとりして つまこひすなる こゑのかなしさ | 閑院左大臣 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1401 | をみなへしかれにしのへにすむ人はまつさく花をまたてとも見す をみなへし かれにしのへに すむひとは まつさくはなを またてともみす | 太政大臣(忠平) | 二十 | 慶賀哀傷 |
1402 | なき人の影たに見えぬやり水のそこは涙になかしてそこし なきひとの かけたにみえぬ やりみつの そこはなみたに なかしてそこし | 伊勢 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1403 | ひとりゆく事こそうけれふるさとのならのならひてみし人もなみ ひとりゆく ことこそうけれ ふるさとの ならのならひて みしひともなみ | 伊勢 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1404 | すみそめのこきもうすきも見る時はかさねて物そかなしかりける すみそめの こきもうすきも みるときは かさねてものそ かなしかりける | 京極御息所 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1405 | 昨日まてちよとちきりし君をわかしての山ちにたつぬへきかな きのふまて ちよとちきりし きみをわか してのやまちに たつぬへきかな | 右大臣(師輔) | 二十 | 慶賀哀傷 |
1406 | あらたまの年こえくらしつねもなきはつ鴬のねにそなかるる あらたまの としこえくらし つねもなき はつうくひすの ねにそなかるる | はるかみの朝臣のむすめ | 二十 | 慶賀哀傷 |
1407 | ねにたててなかぬ日はなし鴬の昔の春を思ひやりつつ ねにたてて なかぬひはなし うくひすの むかしのはるを おもひやりつつ | 大輔 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1408 | もろともにおきゐし秋のつゆはかりかからん物と思ひかけきや もろともに おきゐしあきの つゆはかり かからむものと おもひかけきや | 玄上朝臣女 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1409 | 世中のかなしき事を菊のうへにおく白露そ涙なりける よのなかの かなしきことを きくのうへに おくしらつゆそ なみたなりける | 藤原守文 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1410 | きくにたにつゆけかるらん人のよをめにみし袖を思ひやらなん きくにたに つゆけかるらむ ひとのよを めにみしそてを おもひやらなむ | 藤原清正 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1411 | ひきうゑしふたはの松は有りなから君かちとせのなきそ悲しき ひきうゑし ふたはのまつは ありなから きみかちとせの なきそかなしき | 紀貫之 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1412 | 君まさて年はへぬれとふるさとにつきせぬ物は涙なりけり きみまさて としはへぬれと ふるさとに つきせぬものは なみたなりけり | 読人知らず | 二十 | 慶賀哀傷 |
1413 | すきにける人を秋しも問ふからに袖はもみちの色にこそなれ すきにける ひとをあきしも とふからに そてはもみちの いろにこそなれ | 戒仙法師 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1414 | 袖かわく時なかりつるわか身にはふるを雨ともおもはさりけり そてかわく ときなかりつる わかみには ふるをあめとも おもはさりけり | 読人知らず | 二十 | 慶賀哀傷 |
1415 | ふるさとに君はいつらとまちとははいつれのそらの霞といはまし ふるさとに きみはいつらと まちとはは いつれのそらの かすみといはまし | 読人知らず | 二十 | 慶賀哀傷 |
1416 | 君かいにし方やいつれそ白雲のぬしなきやとと見るかかなしさ きみかいにし かたやいつれそ しらくもの ぬしなきやとと みるかかなしさ | 藤原清正 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1417 | わひ人のたもとに君かうつりせは藤の花とそ色は見えまし わひひとの たもとにきみか うつりせは ふちのはなとそ いろはみえまし | 読人知らず | 二十 | 慶賀哀傷 |
1418 | よそにをる袖たにひちし藤衣涙に花も見えすそあらまし よそにをる そてたにひちし ふちころも なみたにはなも みえすそあらまし | 読人知らず | 二十 | 慶賀哀傷 |
1419 | ほともなく誰もおくれぬ世なれともとまるはゆくをかなしとそみる ほともなく たれもおくれぬ よなれとも とまるはゆくを かなしとそみる | 伊勢 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1420 | 時のまもなくさめつらんさめぬまは夢にたに見ぬわれそかなしき ときのまも なくさめつらむ さめぬまは ゆめにたにみぬ われそかなしき | 玄上朝臣女 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1421 | かなしさのなくさむへくもあらさりつゆめのうちにも夢とみゆれは かなしさの なくさむへくも あらさりつ ゆめのうちにも ゆめとみゆれは | 大輔 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1422 | かけてたにわか身のうへと思ひきやこむ年春の花をみしとは かけてたに わかみのうへと おもひきや こむとしはるの はなをみしとは | 伊勢 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1423 | なくこゑにそひて涙はのほらねと雲のうへよりあめとふるらん なくこゑに そひてなみたは のほらねと くものうへより あめとふるらむ | 伊勢 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1424 | なき人のともにし帰る年ならはくれゆくけふはうれしからまし なきひとの ともにしかへる としならは くれゆくけふは うれしからまし | 藤原兼輔朝臣 | 二十 | 慶賀哀傷 |
1425 | こふるまに年のくれなはなき人の別やいとととほくなりなん こふるまに としのくれなは なきひとの わかれやいとと とほくなりなむ | 紀貫之 | 二十 | 慶賀哀傷 |
※読人(作者)についてはできる限り正確に整えておりますが、誤りもある可能性があります。ご了承ください。
※作者検索をしたいときは、藤原、源といったいわゆる氏を除いた名のみで検索することをおすすめいたします。
※御製歌は〇〇院としています。〇〇天皇の歌となります。
※濁点につきましては原文通り加えておりません。時間的余裕があれば書き加えてまいります。